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ストライクウィッチーズワールドSS総合スレ


1 :2011/03/01 〜 最終レス :2018/10/17
ストライクウィッチーズワールド(原作:島田フミカネ&Projekt Kagonish(プロイエクト カーゴニッシュ))
をベースにしたオリ設定や二次創作のSS総合スレです。

過度の百合などは専用スレがありますのでそちらでどうぞ
ストライクウィッチーズでレズ百合萌えpart32
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1288876593/

2 :
一九四×年六月、スオムス首都ヘルシンキ、間近にスオムス湾を臨むこの都市は冬戦争でネウロイに主な爆撃目標とされた。市内には高射砲が物々しく設置され、
破壊された建造物は未だ修復されず戦争の再来を予感させる。
白夜の中、ひと時の再会を喜んでいる母娘がいた。
「戦闘航空ウィッチの選抜試験を受けることになりました、合格したらそのままスオムス空軍の戦闘航空ウィッチ隊に配属になります」
「そう…。父さんから手紙きているのよ、カレリヤでは防衛主眼の陣地造成が行われているって。その代わりニッカみたいな若いウィッチが主戦力として前線に送られていくのね…」恨めしそうに言う母。
「母さん私ね、航空歩兵になれるのが楽しみなんだよ。一緒に試験受ける訓練校の友達もいるし、各国から派遣されてスオムスの為に戦ってくれているウィッチもいるんだもの、私も頑張らなくちゃ」
「スオムスはスオムス人が守らないといけないわね、早く平和が戻って親子で暮らせる日が来ればいいのに」
 ニッカはそっと母に抱きしめられた。
(震えている…?私がもう少し大きかったら安心させてあげられるのに)
 十×歳のニッカは母を抱きしめ返した。少しだけ母の震えが治まった気がした。
「…心配しないで、母さん。私もう行かなくちゃ。軍の車に送ってもらってるんだ」
 笑顔を見せてでていくニッカ。

3 :
 ヘルシンキから北へ八十km、スオムス空軍ヴェシベヘマー飛行場基地。
スオムス空軍第24戦闘航空ウィッチ隊(24LeLV)長マグヌッソン少佐は、指揮下の第三中隊長カルフネン中尉と陸戦ウィッチからなる支援陸戦ウィッチ中隊長アウロラ大尉を呼び寄せた。
マ「よく集まってくれた、承知の通り第3中隊に配属予定の下士官ウィッチが今夕から夜にかけて到着し始める。今回の航空ウィッチの選抜には名ばかりではあるが実技試験を設けてある。
勿論彼女らは航空ウィッチに成る類まれな才能があり、スオムス次期国防を担うエースの卵だ。が、急遽その才を見出され、訓練飛行時間が短いものも多い、単純に本気と技量を見定めるのが目的だ。
試験内容はバッファローによる飛行実技、これから細かい打ち合わせをしたい、それと今後の作戦内容についても話がある」
カ「早速バッファローとはえらく奮発しましたね、リベリオンの払い下げとはいえ旋回性能は申し分なく操縦性も良好。スオムスにとっては貴重なストライカーなのに」
マ「カールスラントからMe109を配備できるまではバッファローが主力ストライカーになるだろう、いつネウロイが再侵攻してくるかわからぬ情勢だ。早く慣れてもらうのがいい。
それに今回の大動員でしばらくウィッチの有望株は見込めない。他国の援助がない場合この三個中隊三十名弱でいざという時打って出ていかねばならない。脱落者を出せない戦いだ、
よく肝に銘じて大切なうら若きウィッチたちを導いてほしい」
ア「共同作戦バルバロッサはどうなったんだ?」
地図を示すマグヌッソン。
マ「ペテルブルクは現在小康状態だ、計画としてはオラーシャカールス混成軍がラドガ湖南岸を東進するのに合わせてスオムス軍は北岸を移動しオロネツ地峡を制圧する。
スヴィル川でオラーシャの戦闘航空ウィッチ隊と合流した後、オネガ湖北のネウロイを撃滅、必要があったら西に進み東カレリヤの掃討も行う」
ア「…そう上手くいくのかね、で可愛い新人たちのプロフィールは?あるんだろ?」
カ「私も自分の部下が気になります」
マ「落ち着きたまえ、今書類出すから…、ほら」
一通り二人で見るカルフネンとアウロラ。
カ「ニッカ伍長飛行百二十七時間か、矢張り全体的に錬度に不安が残りますね」
ア「備考に超再生魔法能力アリと書いてあるナ」

4 :
>>1
スレ立て乙です
アニメ版しか知りませんが楽しみにしております

5 :
基地に続く道を眺める三人組、エイラとラプラ(ニッシネン)とオイッパ(オイヴァ)。軍用車がくる。
ラ「配属予定の最後の下士官が来たんじゃないかしら?」
オ「そのようだ、宿舎にいる新入り3人は私が司令部に連れて行こう」
エ「じゃ今来た奴は私が案内するよ、ラプラは先にいって伝えてくれ」
立ち去るラプラとオイッパ。エイラの目の前に止まる車。降りてくるニパ。軽く運転士に挨拶するエイラとニパ。
エ「ようこそ第24戦闘航空ウィッチ隊第3中隊ヘ。カタヤイネンであってるかな」
ニ「はい、態々出迎えて頂いてすみません!」
エ「うん、夏でよかった。細かい自己紹介は後でいいよ、皆待ってる、早く行こうぜ」
 歩き出す二人。エイラはニパをじろじろ見て
エ「何歳?」ニ「1×です」エ「そっか、私と同い年だな」
ニ(同じ歳なのに凄く落ち着き払って見える…)
ニ「あ、あの、もうネウロイと会戦したことがあるんですよね」
エ「ああ、話聞きたいか?」うなずくニパ。
エ「そうだな、空は大好きだし、空戦もコツが掴めそうな感じで面白くなってきた、バッファローは使いやすい事この上ない良い機体だよ。後はうーん、湿っぽい事は忘れる。それが出来れば楽しいもんさ」
ニ「…あって間もないのに色々教えてくださってありがとうございます」(辛い事がなかったわけじゃないんだろうに、不思議な人)
エ「ほらあそこが司令部だ、司令部といっても戦隊長の居住も兼ねてるんだけど」

6 :
>>4
ありがとうございます、力の続く限り頑張って見ます

7 :
エ「入ります」エイラに続けて入り深呼吸するニパ。
ニ「遅くなりまして申し訳ありません!辞令通りニッカ・エドワーディン・カタヤイネン到着しました!」
破顔するマグヌッソン。
マ「これはまた元気なお嬢さんですね。丁度いいから早速自己紹介を始めましょうか。第24戦闘航空ウィッチ隊隊長、マグヌッソンです。明日の試験は戦闘用ストライカーバッファローに乗ってもらいます。健闘を祈ります」
ヨ「諸君ら第3中隊を受け持つカルフネンだ、馴染みには「ヨッペ」と呼ばれている、好きなように呼んでくれ。明日の試験官も担当する、どの程度の実力か拝見させてもらおう」
コ「副官のコッコです、カルフネンのサポートをしているわ」
ア「支援陸戦ウィッチ中隊、隊長アウロラ・エドワーディン・ユーティライネンだ、ヨロシクナ。明日は事故がおきた場合にそなえて隊員を配置しておくよ、精一杯頑張って欲しい。
ああちなみにそこの銀髪ロングはうちの妹だ、いつもマイペースでいたずら好き協調性は今一だが仲良くしてやってくれ」エ「うるせーぞ、ねーちゃん」
続いて士官の挨拶が始まる。サロヴァーラ中尉、パスティネン少尉。続き古株の下士官、「オイッパ」トゥオミネン、「ラプラ」ニッシネン、「イッル」ユーティライネンと続き、新入りの下士官に続く。ヴェサ、フオタリ、アホカス。
マ「今日来た君達4人は訓練校では友達だったのかね?」「はい」まちまちに答える4人。
マ「そうですか、共に祖国のために戦えるよう期待しています。オイッパ、ラプラ、イッル彼女らと共に下士官宿舎に、今日は早く寝るように。明日は忙しいですよ」

8 :
見てるぞ

9 :
操縦者向け下士官宿舎へ入る7人。
オ「いいか4人とも、飛行場を変えながら転戦していくから、私物を持ち込む余裕は殆どない。それと他の中隊が使うこともあるから出来るだけ寝台は同じ隊のメンバーと固まって使うこと、
ここヴェジベヘマーは4人部屋だから丁度二つに分かれよう」
エ「ヨッペは怒ると怖いからあまり羽目外さないようにナ」オ「イッルが悪さしすぎるんだよ」
エ「他にも何かあったような…、そうだ軍で名前被る事多いから、スオムスの航空ウィッチは識別にニックネームつけてもいいんだ、お前達の分は考えておいてやるよ」
ラ「真面目に考えましょうね」エ「分かってるって」ラ「それじゃおやすみなさい」
 去り際に声をかけるラプラ。立ち去る古株下士官三人組。賑やかに同じ部屋へ向かう新人下士官四人組。
簡素な木製のベッドに横になってニパはゆっくり目を閉じた。
ニ(ドキドキする、眠れるかな…)
“不安はあったがその後に待ち受けるだろう戦いへの恐怖は余り感じなかった、多分出遭った人たちの明るさと優しさが包み込んでくれたのだろう。残った情景を思い浮かべながら私はそっと眠りに就いた…。”

10 :
翌朝、格納庫ではカルフネン中隊長、コッコ中尉、パスティネン少尉、「サルック」サロヴァーラ少尉なども手伝って、綿密に使用機材、バッファローの整備点検が行われていた。
カ「しっかり頼むぞ!試験で事故死とか洒落にならんからな!」
 そこに訪れる下士官7人組。
エ「ヨッペいつになく張り切ってるな」
オ「初めて受け持つ中隊に新人の部下だからな、緊張してるんだろうさ」
エ「ついこの間までは「エイッカ」に頭が上がらなかったのにな」
ラ「でも羨ましいわ、私も新人を育ててみたい」
エ「そうか?下士官の方が気楽でいいと思うんだけどナ」
ラプラは新人4人組に耳打ちする。
ラ「知ってるでしょう?「エイッカ」ことルーッカネン少佐率いる第1中隊、別名L戦隊。スオムス選りすぐりの古参エースが集められているのよ。
それに比べて第2第3中隊は新人が多いの。ヨッペも「エイッカ」みたくエースを率いたいのね」
エ「私がエースになってやるよ、大船に乗ったつもりで任せてくれればいいのにナ」
カ「その言葉が真実になる日を心待ちにしていようイッル、3人とも外で眺めていろ」移動する古株下士官三人組。
カ「おはよう、諸君。昨夜はしっかり眠れたかな?試験の説明をしよう、内容は至極簡単、基本中の基本二機編隊を私と組んでもらおう。
合図をした時点の間隔を維持したまま飛行追尾せよ。当然私は上昇下降旋回緩急つける、離されないようにネウロイだと思って噛り付け!さて誰からはじめる」
 大きく手を上げるニパ「はい!」
カルフネンは用意してあったインカムを身に着けた。
カ「アウロラ、其方の用意は」ア「疾うに配置完了だ、待ちくたびれたぜ」
カ「よし、ではカタヤイネンからはじめよう、インカムを忘れるな。何か異常があったらすぐ報せるように」
 バッファローに乗り込み発進する二人、滑走路に出る。
カ「行くぞ!」離陸にはいる二人。
ニパは右足のストライカーの接地が安定しない事に気がつく。
ニ(どうしよう、右のシールド増幅装置がおかしいのかな?)
ニ(まぁ戦闘にいくわけじゃないし片足のシールドぐらい不安定だってどうって事は無いはず!)
 カルフネンに続きそのまま加速、離陸していくニパ。
オ「おいイッル、今のカタヤイネンの離陸、軸が傾いてなかったか?」
エ「え?見てなかった」

11 :
>>10
ちょっと替える、駄目だ

12 :
翌朝、格納庫ではカルフネン中隊長、コッコ中尉、パスティネン少尉、「サルック」サロヴァーラ少尉なども手伝って、綿密に使用機材、バッファローの整備点検が行われていた。
カ「しっかり頼むぞ!払い下げばかりの中古。試験で墜落とか洒落にならんからな!」
 そこに訪れる下士官7人組。
エ「ヨッペいつになく張り切ってるな」
オ「初めて受け持つ中隊に新人の部下だからな、緊張してるんだろうさ」
エ「ついこの間までは「エイッカ」に頭が上がらなかったのにな」
ラ「でも私も部下を育ててみたいかな、羨ましいわ」
エ「そうか?下士官の方が気楽でいいと思うんだけど」
オイッパは新人4人組にひそひそと話しかける。
ラ「知ってるだろう?「エイッカ」ことルーッカネン少佐率いる第1中隊、別名L戦隊にはスオムス選りすぐりの古豪エースが集められているんだよ。
第2第3中隊はそれに比べて新人が多い。ヨッペも「エイッカ」みたくエースを率いたいのさ」
エ「私がエースになってやるっていうのに。大船に乗ったつもりでいて欲しいぜー」
カ「その言葉が真実になる日を心待ちにしていようイッル、もうすぐ始めるから3人とも外で眺めていろ」移動する古株下士官三人組。
カ「おはよう、諸君。昨夜はしっかり眠れたかな?試験の説明をしよう、内容は基本中の基本二機編隊を私と組んでもらう。並んで滑走し離陸、当然私は上昇下降旋回緩急つけるが、
常に平行を維持するよう心がけて欲しい、ではだれからはじめようか?」
 大きく手を上げるニパ「はい!」
カルフネンは用意してあったインカムを身に着けた。
カ「アウロラ、其方の用意は」ア「疾うに配置完了だ、待ちくたびれたぜ」
カ「よし、ではカタヤイネンからはじめよう、インカムを忘れるな。何か異常があったらすぐ報せるように」ニ「了解!」
 バッファローに乗り込み発進する二人、滑走路に出る。
カ「行くぞ!」並走して加速、離陸にはいる二人。
ニ(どうも加速が重たい気がする。このバッファローは本当に良い機体なの?…いけないカルフネン大尉についていかないと!)
 どうにかカルフネンと平行して航行していく。
ニ(…駄目だ、右足が重い)
 突如魔導エンジンが嫌な音とともに焼ききれる。煙を吐き出す右脚のストライカー。シールドが弱まりニパは風に煽られて大きくバランスを崩す。
ニ「カルフネン大尉、ストライカーが故障を!」
 残る片足で懸命にバランスを取るニパ。
カ「片方は無事なんだな!基地の方に向きを変えなさい、無理に重力に逆らわず徐々に低速に移行、必要なら旋回して減速しぎりぎりで突入しなさい」
カ「アウロラ、聞いたとおりだ!」ア「応よ」
 ニパは飛行場に片足で着陸、コマのように回転しながら尻餅をつく。脱げるストライカー、アウロラに抱きかかえられる。
ニ「あの…一人で歩けます…」ア「いいから、ゆっくりしてナ」
次いで着陸するカルフネン。
カルフネンの方を向くアウロラ「使い古しの魔導エンジンでイカレれちまったんだな」
カ「無事なようでほっとしたぞ、カタヤイネン。全く貧乏空軍ですまんな、宿舎で休んでなさい」
ニ「…はい。その大尉、試験は!」
カ「ああ、そうだすまなかった。お前の技量は充分見せてもらった。当然合格、ナイスガッツだ。これからよろしくなカタヤイネン伍長」
ニ「は、はい。ありがとうございます!」
ア「じゃ、ベッドまで連れていくよ」ニ「もう本当に大丈夫ですから…」ア「そう言わずにさ」

13 :
 アウロラはニパを宿舎の寝台に下ろした。
ニ「ありがとうございます、アウロラ中尉」
ア「いやー不運だったな。よし、それじゃ私は持ち場に戻るから」
部屋に入ってくるエイラ「
エ「大丈夫かお前。急にバランス崩して吃驚したぜ。けどその後は上手かったな、すぐ減速下降しながら安定とってさ。片足着陸とはやるじゃん。それにしても凄かったなーいきなりぶっ壊すとは!」
ニ「訂正させてもらえるなら、ぶっ壊したんじゃなくてぶっ壊れたんです!」
ア「後は任せたぞイッル、二人で親交を温めナ」エ「うん」
エイラの肩をポンと叩いて出て行くアウロラ。
エ「ヨッペの泡食ったような取り乱し方も久々に見れて面白かったなー」
ニ「カルフネン中尉に心配かけてしまったかな…、お礼を言っておいた方がいいでしょうか」
エ「ヨッペが引きずるタマかよ、それよりさお前の渾名考えておいてやったぜ、「ニパ」でどうだろうな」
ニ「ニパ?それでもう決まりなんでしょうか?」
エ「嫌か?いいだろ、いいよな?」
ニ「…別にいいですけど、どういう時に使うんですそれ?普段それで呼び合えばいいんでしょうか」
エ「普段もそうだけどさ、友軍と出会った時にさ。無線で「こちら24戦隊第3中隊のユーティライネンだ」、「こちらエイラ・イルマタル・ユーティライネンだ」じゃ長ったらしいだろ。
階級なんてすぐ変わるしさ。そこで渾名があれば「こちらイッル・ユーティライネンだ」で何処の誰か一発で分かる上にカッコイイ訳よ!」
ニ「カッコイイ?カッコイイかなぁ?カッコイイ気はするけど…」エ「何か不満か?」
ニ「「こちらニパ・カタヤイネンです」か、なんか恥ずかしいような…」
エ「決まりだな、ニパ!」
ニ「…うん、まぁいっか!よろしくねイッル!」
“その日私は正式に第24戦隊第3中隊に配属となった、そしてニパという渾名で呼ばれることになった”

14 :
 翌日、第3中隊の十一人は編隊訓練の為、格納庫前に集まった。
ヨ「昨日は4人とも見事な腕前を見せてもらった!まだ疲れが残ってるだろうが早速大規模編隊の訓練に入る、何分ネウロイの再侵攻が迫るかわからぬ情勢だ、実戦の前に可能な限り錬度を上げて備えておきたい。
当然ながら私も諸君らの中から犠牲を出したくない。甘っちょろい願望に過ぎんのは分かってる、どうにも回避できぬ場合もあるだろうが、出来うる限りの予防策をとるつもりだ。
厳しいスケジュールになるだろうがついてきて欲しい、以上!それともう一つあった、バッファローの魔導エンジンだがリベリオンから新品が届く事になった、それまでは騙し騙し使ってくれ」
エ「最初っからエンジンくらいは新品にして貰えよ」ヨ「うむ…、ニパはかなり使い込んだのに当たったようだな」
各自自分のストライカーに乗り込んでいく。ニパは自分のストライカーのペイントを眺めていく。
ニ(機体ナンバー368と大きく直線に引かれた「オレンジの1」、これが私に割り当てられたストライカーかな。飛び掛ろうとする山猫が戦隊のマークでしょ、小さくて猫みたいだけど)
ニパは最後にスオムス空軍のシンボル、白地の円の上に左右対称に開いたスカイブルーの扇に目をやる。
ニ(そしてこれがスオムス空軍のシンボル、この青い蝶々みたいのは、元はバルトランド、ローゼン家の紋章で幸運をあらわしているんだっけ。これからネウロイと戦争になってもどうか人々と祖国に幸運を!)

15 :
オイッパやっぱり手持ち無沙汰になるから削った、SkyDriveに修正したのはあげていく。自分でいうのもなんだが大分良くなってると思う。
http://cid-65a64b635cc50ba1.skydrive.live.com/redir.aspx?resid=65A64B635CC50BA1!116

16 :
読んでる人居る?

17 :
見てますよー

18 :
>>17
気になるところがあったら言ってくださいね
そろそろエイラと濃密に百合百合フラグ立てていきたい

19 :
>>18
第3中隊のころはよく知らないけど、ハッセはまだいないんですか?
楽しみにしています、頑張ってください

20 :
>>19
ハッセも勿論だすつもりですけど、もうちょっと待ってくださいね
ルーッカネンの秘蔵っ子っていう感じで第1から第3に移動させようかと
ちょっとワードのファイルがぶっ壊れてしまって復旧に時間がかかりそうです

21 :
他のパソコンからだと編集できるから辞書ツールがおかしくなったのかも
OS再インスコしなおしますのでもうちょっと待っていてくださいね
それと次二手でオラーシャで戦っているアレクマさんのシーン挿入します
やっぱり期待感を煽らないとね

22 :
見てます。頑張って

23 :
色々考えてますのでちょっと待ってね
スオムス湾に水棲ネウロイでも出そうかと
そうすればムルマン鉄道を守るという作戦もできるし
サフォーノフ出せるんだよね

24 :
レッツオレガイン

25 :
でも枢軸はないから
よく考えたらりべやブリから物資運ぶにはバルトランドで揚陸して鉄道でスオムスに運ぶのがいいのかな
ただ東部戦線は人が越境できないだろうからオラーシャ内陸との連絡線にベロモルスクから延びる鉄道はやっぱり重要だよね
いっそのこと元ネタ通りケミヤルヴィ〜カンダラクシャ間の鉄道開通させるか


26 :
ちょっとバルバロッサ作戦の説明変えた
やっぱり他国の安全のため大兵力かけられる国はないよね
先はもう少し待ってね

27 :
気晴らしにラスト落とし所のほう作ってみた、結構いいんじゃないかと思う

28 :
フォーメーションばっさり削った、解り難いし
所で見てる人いるかね

29 :
アレクマさんは部下思いだけど一途な激情家としてかくつもり
スオムスのウィッチは極力死人出さない、負傷退場くらいで
オラーシャは出す、ここで充分悲壮感出せるだろう
その方がきつくなり過ぎず
ニパがアレクマさんを守りたいと決意するのにカタルシスもあっていいかなと
サフォーノフとか「皇帝陛下の為に!」ってかっこよく散華させたい
どこまで書けるか解らないけど

30 :
ちょっとアウロラさんのキャラをギャップを狙ってきゃぴるん系にかえてみる
指揮官はどうしてもさばさば系が多くなるから

31 :
ニパーシャもう少し早くラヴに持っていけそう
そうしたらラスト部分もう少し親密な感じに変える

32 :
支援
楽しみにしてるよ〜

33 :
ちょっと展開丸解りかも
でも別にひねりが必要な話でもないしその辺は王道で

34 :
やっぱりツァーリズムとボリシェビズムは違うから
オラーシャ皇帝はかなり薄めて普通に失政した皇帝としてかくのがいいのかなぁ
赤い皇帝は複雑すぎて手を出せないわ

35 :
NHK-BSの北欧特集見てる
面白い
上手く活かせるといいんだけど

36 :
ts

37 :
ts

38 :
ここ、ちょっと使わせて貰っていいのかな
亜流の二次創作だけど

39 :
>>38
どうぞどうぞ

40 :
有り難うございます
少し加筆もしたいのでお時間下さい SCとします

41 :
マルセイユ?黄の14番かい?
知ってるよ、この辺の奴なら誰だって知ってる。俺たちがエジプトで商売できるのは
あのお嬢さんのお蔭なんだからな。大した人気だぜ、俺も儲けさせてもらったよ。
あのお嬢さんの写真は高く売れるんだ。焼回したボロの写真だがこれで昼飯代くらい
にはなるもんだ。誰が撮ってるかって?知らねぇよそんなこと。
俺みたいに雑貨屋をしていると仕入れ先が持ってくるんだ。
ここだけの話仕入れ値は10枚で5ギネーだ、高いって?
わかってねえな兄ちゃん、客にはもっと高く売れるぜ。
空を飛んでる写真は一枚3ギネーだ。そんでこれが……ホラ、色っぺーだろ?
特別価格12ギネーだぜ。どうだ、中々お目にかかれないぜ?
何、俺たちが女の肌を見てもいいのかって?
偉大なる神は寛大なんですぜ、兄ちゃん。
俺たちの所では空を飛ぶウィッチは天使の加護があることになっていて、
普通の女みたいに脚やら顔やらを隠す必要が無いんだ。
ずっと昔からそうなんだぜ?知らなかったのか?
なんでも400年前に十字軍の奴らがやって来て俺たちが滅びそうになった時も
ギリギリのところで助けてくれたのがウィッチなんだとよ。
だから俺たちはウィッチを大切にするぜ?
その証に見てみろよ、この絵を。大した物だろ?
ウィッチの似顔絵もよく売られてるんだ。兄ちゃんみたいなエジプト旅行者が
よく買っていくからな。こいつは出来が良いから一枚1ギネーと75セントで売ってやる。
ああ?そうだよ、似ている方が高いんだ。仕入れの時に俺がよく見てるからよ、
俺の店で売ってるポスターは粒ぞろいだぜ。疑ってやがるな、本当だぜ。
ホラ、コッチの絵、ひっでえだろ?これでいいって言うなら75セントで譲ってやらない
こともないけどよ。俺たちの大切なウィッチだぜ、良い絵を買って欲しいもんだ。
写真より安いだろう?何だ、要らねえのか?
ケチな客だなあ、兄ちゃんよお。
何?客じゃない?記者?新聞の?
初めからそう言ってくれよ、商売の邪魔じゃねえか。なんだよ紛らわしい……。
兄ちゃんがでっかい包帯巻いてるから国に帰る軍人かと思ったぜ。
軍人は金を持ってるからな。土産物をよく買ってくれるんだ……、違うならさっさと
行きな。俺の商売の邪魔をしないでくれ。
……話を聞きたい?マルセイユの?
話して欲しいならそれなりの……おう、そうだよ。わかってるじゃねえの。
もっと出さないのか?良い話を持ってるぜ……良し良し、商談成立だ。

42 :
マルセイユの噂は良く聞くよ、皆あのウィッチの話をするのが好きなんだ。
一晩でワインを一樽飲み干しただの、マルセイユが敵を撃つ度に夜空の星が増えるだの。
だけどそんなのはデマばっかりだな。皆知っている噂だが、誰が言い始めたのかは
誰も知らねえ。そんな話を誰が信じる?
俺の知ってる話は本当にマルセイユを見た奴から直接聞いたんだ。
その上まだ誰にも話してねえ。運がいいな兄ちゃん。
これは家具商人のところで働いてる俺の従弟から聞いた話なんだがな、
ブリタニア製のテーブルを運べって言われて軍の基地に行ったらしいんだ。
そいつの乗ったトラックは基地の奥深くまで入って行ってよ、
こりゃあウィッチの住んでる場所だぜってわかったらしいんだ。
テントのモノからして違うらしいぜ。サバンナの王族みてぇなテントを建ててるんだとよ。
えらい所に入りこんだもんだって従弟が思っていたら……トラックはまだ
奥へ進まされたんだ。やっと止まったら……でっけぇ、城みてぇな
テントがあってよ。そこが、そうだ。一目見て判るんだってよ。
あのハンナ・ユスティーナ・マルセイユが住む城だとな。
従弟は肝が小せェから、すっかり腰がひけちまって、トラックから降りれなかったそうだ。
すると驚いたことにマルセイユ本人がテントから出てきたんだ。
「おい、何をしてるんだ。テーブルを運んでくれ」と言ってな。
運ばねえ訳にはいかねえからトラックを降りてテントに入ったんだ。
中には……いや、やめておくか。何、俺の従弟が寝ぼけたことを言うんだよ。
テントの中に生きたライオンがいたってよ。馬鹿な話だろう?
俺か?信じてねえよ、大体エジプトにライオンはいねえんだ。
いるのはもっと南の方だよ。大方剥製をテントに置いてたんだろうな。
そうさ、他にもテントにはいろいろあったらしいぜ?
ブリタニア式の家具が一揃えに、両手に持てないくらいのワインの壜と、
南の部族が使うでっかい仮面、何を入れるのか白く光る壺だのそんな妙な物が
所狭しと並んでいたって言うからな。ライオンの剥製くらい置いていても不思議じゃねえ。
狩った動物の剥製を作ったりするのは欧州の人間のやることだぜ。
マルセイユも欧州から来たんじゃねえか。
そもそもあいつだって、俺の従弟だっても最初は生きたライオンだとは
思っていなかったんだ。剥製だよ、剥製。そう思っていれば良いものを……
馬鹿だねえ野郎は。何?どうして生きてるって思ったのか?
なんだよ兄ちゃん信じるのか?
下らねえ話を聞きたがるねェ……。
従弟がテーブルを持ってテントに入った時だよ。
テントの中でマルセイユは良く喋ったらしい。
羨ましいよなあ、ウィッチに、しかもあのマルセイユに直接声を掛けてもらえるんだから。
で、従弟がビビりながらヘコヘコしていたんだがな。妙だったんだ。
何が妙だって言うと、マルセイユが何を言っているか全然分からねえんだ。
よく聴くと、どうやら北のカールスラントの言葉を喋っていたんだ。
おかしくねえか?最初にマルセイユは従弟に声をかけたじゃねえか。
「おい、何をしてるんだ。テーブルを運んでくれ」ってな。
その時はちゃんとこっちの言葉だった。
どうしてテントに入ってからはカールスラント語を使ってるんだ、なんて思った従弟は
マルセイユの顔を見たんだ。
二度とは無い機会なんだ、初めっから拝ませてもらえばいいものをよ。
そうすると、マルセイユの顔は従弟とは明後日の方を向いてるんだ。
で、マルセイユがカールスラント語で喋ってる方を見るとな、
あのライオンの剥製が座っていて、
こちらに向けて牙を剥いたんだとよ――。
馬鹿な話だろ?ライオンを飼うなんて正気じゃないぜ。
……何?その話はもう知っている?
何だよ情報が早いね兄ちゃん。この話は俺と従弟しか知らねえと思っていたぜ。
新聞記者ってのは耳の早い奴なんだな。
ところで、
新聞記者には腕に包帯巻く破目になる仕事があるのかい?

43 :
ちょうどマルさんの誕生日だった

44 :
ageとこ

45 :
加筆訂正が終わりましたので、投下させて貰います
アイディアは「ペチコート作戦」という50年代?の米国映画から
ページ数が多いので、行空けは省きます。会話文の頭に識別は付けません
今夜中には終わらないと思いますが、ご勘弁ください

46 :
『501、こちら防空司令部。貴飛行隊と回収艦艇のランデブー予定海域を伝達する。北緯……、経度……。セクター8
だ。繰り返せ』
「司令部、501。セクター8で艦艇? 確認を、どうぞ!」
『501、司令部。そうだ、間違いない』
「司令部、501。其処まで飛べません! 我々の残存飛行時間はあと三十分程度です。減退の激しい隊員はもっと
早い! 出撃前の打ち合わせはどうしたのですか? 送れ!」
『501、司令部。無理なのか? どうぞ』
「司令部、501。不可能、指定ランデブーポイントまでの飛行は不可能! 回収飛行艇の手配は? どうぞ!」
 本来の守備範囲から逸脱した北海上空で、501統合戦闘航空団のヴィルケ中佐は強くインカムを収めた耳を掌で
抑えた。緩やかなサークルを描いて飛行する編隊の眼下は鈍く波が光っている。ブリタニアのハリファクスを出航し、
バルト海からスオスム等に援護物資を運ぶ大輸送船団が航行していたが、今は炎と煙、そしてうつ伏せで浮く死体
だけが海上にあるだけだ。船団はネウロイに襲撃され、全滅した。
救援に赴いた501飛行隊は元凶を破壊した。輸送船団15隻、護送艦隊8隻の合計23隻は、海上に燃え盛る重油の輪
と立ち上る黒煙に存在を変えてしまった。隊員全てが暗い面持ちで海面を見つめている。普段温厚な隊長だが、今は
額に汗を浮き出させ、性急な通信をロンドンの防空司令部と交わしている。その隊長と密に編隊を組んだ十人の隊員
の表情も重く、そして固い。眼下では鉛色の波がうねっている。
『501コム、司令部。至近に支援可能部隊無し。あと十三時間、頑張れるか? どうぞ』
 編隊を組んだ11人が大きくよろめいた。見合わせた顔に絶望が浮かぶ。
「馬鹿を言わないで! 戦闘をしたら引き返せない、ぎりぎりな距離だと解っていて命令を出したのは誰ですか! 
ストライカーユニットは海水に浸かったら機能を停止します! 春の北海で十三時間も持つわけがないでしょう! 
今まで何をしていたの? どうぞ!」
『501コム、コン。当初予定されていたカタリナ飛行艇はネウロイに撃墜されてしまった。その任を継いだ二式大艇も
撃墜された。F68補給船団の救命ボートに移乗されたし』
「司令部、501。ネガティブ。救命ボートは確認できない。公式に抗議を表明する! 指揮官は誰か!? 交替せよ!」
『501、スタンバイ』

47 :
 隊長のふくよかな唇が一本の線となった。空を仰ぐ。誰も言葉を発しない。皆の距離が一層狭められた。何人かが
手を繋ぐ。刀を背負った少女が、真っ青な顔をした二人の頭を両手で抱きかかえた。静かに囁く少女に、二人が小さく
頷いた。
「な、宮藤、リーネ。私達がお前達を死なせるか! 皆で、全員で帰るんだ! いいな、 解ったか? 隊長や私を信じ
ろ! 解ったな?」
 二人が再度、大きく頷いた。少女がポケットから包みを取り出し、その銀紙を手早く開く。チョコレートだ。一列ずつ
折り取って、二人の口に突っ込んで微笑んだ。周囲の皆をも手招いて、それぞれの口に突っ込んで笑ってみせる。
悪戯っぽく、指先についた融けたチョコレートを舐めて笑う少女の姿を見て、皆の強張った頬に血色が戻りはじめた。
『501、ドゥーリットル中将だ。何か浮遊物は? 何か探してくれ! 何かあるだろう?』
「中将、ヴィルケです。全て炎上、何も……我々は、ブリタニアへの帰還コースを取り飛行のうえ、飛行不能となった
時点で不時着水し、海上で待機します」
 チョコレートと励ましで落ち着きを取り戻した皆が、それぞれ携帯している非常食を取り出して交換を始めていた。
サルミアッキを取り出した少女は、一人以外は手を出さないので頬を膨らませる。スッと彼女に寄り添った青い制服
の少女が、微笑をうかべて手を差し出した。
「ありがとナ……ツンツン眼鏡」
「眠気覚ましには……よいお味ですわね」
『501、ドゥーリットル。貴官の抗議を受領した。可能な限り接近してほしい。飛行方位を伝える。支援艦艇への直線
方位だ。方位2-3-9、どうぞ』
「中将、501。ベクトル2-3-9了解。不時着水位置を決めましたら、司令部に報告します」
『ブレイク、ブレイク! こちらUSLシーキャット。501、聞こえるか、送れ』
 弱い無線が二人の交信に割り込んだ。傍受していた皆が顔を見合わせる。
『防空司令部より、誰だ? 出力を上げてくれ!』
「シーキャット、501ヴィルケ。明瞭に聞こえます。司令部、待機願います。どうぞ」
『防空司令部、待機する!』
『501、こちらリベリオン大西洋艦隊所属USL387シーキャット。周波数の占有を宣言する。貴飛隊の正確な位置
を知らせ。支援の可能性あり。どうぞ!』

48 :
「USLシーキャット、501。現在北海上空、おおよその座標はセクター17、レッド8、パープル1。如何?」
『501、シーキャット。レーダーで捕捉したい。密集隊形を取られたし』
「シーキャット、スタンバイ」
 ミーナの合図で密に編隊を組む。ややあって無線が届いた。
『シーキャット、501。位置を特定した。そちらに向かい、中途で浮上航走する。三十分後、貴部隊を収容する。
会合進路、貴隊の現在位置より4-8に飛行せよ。どうぞ』
「シーキャット、501。ベアリング4-8了解」
『501、シーキャット。了解。不時着する隊員は、少しでも当方に接近せよ。なお、我が艦は緊急用通信機で発信中。
出力が足りないので、貴官がロンドンに説明をしてください。USL 387シーキャット、スオスムへの輸送任務の帰途。
艦長グランド。どうぞ』
「501了解。これより変針する。通信終わり」
「ミーナ、助かったな」
 背中に刀を背負った少女が、安堵の表情を浮かべて隊長に微笑んだ。それに頷いて答えながら、司令部に送信する
隊長の顔から影が幾分か消えた。更に近づいた彼女は、残っていたチョコレートを隊長の口に突っ込んで笑って見せた。
「有り難う、美緒。あなたの分は?」
「あ、忘れていた。私はこれで充分さ! ハッハッハ!」
 指先のチョコレートを舐めた少女が豪快に笑ってみせる。その笑顔を見詰めたミーナの目に涙が浮かんだ。
『501、防空司令部。状況了解。387については艦隊本部に問い合わせる。頑張れ!』
 目を瞬いて涙を消した隊長が、無線を開いた。
「ロンドンコントロール、501。追って報告します、待機願います」
 通信を終えた隊長に、小柄な少女が声をかけた。サルミアッキに真っ先に手を出した子だ。
「隊長、方位4-7の海上に突出した物体を探知……距離、約四十キロ」
 隊員がその方角を見つめた。刀を背負った将校が、片目を覆った眼帯を剥がして注視する。直ぐに頷いた。
「ええ……皆、聞いて。潜水艦が来てくれます。もう、限界だという人は申告を……了解、頑張って飛びましょう。
なお、武器はすべて投棄します。魔法力の温存に努めてください。優先順は、皆さんの命が最優先、ストライカー
ユニットは最後です。少しでも長く飛ぶの! 気力に限界を感じたら、直ぐに申告してね。黙っていては駄目よ?」
 坂本が躊躇無く刀と機関砲を投げ捨てた。隊員も一斉に武装を投げ捨て始めた。使い残しの予備弾薬も投棄する。

49 :
 最後に甲板に下りたミーナは、坂本とバルクホルンに始末を任せた。脚立を使ってユニットを脱いだ隊員には毛布が
渡され、なおかつ命綱を握るように丁重にお願いされている。素足に濡れた甲板が冷たい。脇に立つ下士官に艦長の
所在を尋ねると、甲板から突き立った司令塔の先端を指差された。
 冷たく濡れた甲板が足を滑らせる。乗員が底にフェルトを張ったスリップオンの靴を着用していることにミーナは気付
いた。肩にかけられた毛布を礼と共に彼に渡し、司令塔脇の梯子を上る。甲板で見たときより露天艦橋が高いことと、
その高さが艦の揺れを大きく増幅させて、途中からミーナの足が竦む。塗料で滑る梯子を必死に握り締めて登り続けた。
双眼鏡で対空監視していた水兵が、丁重に手助けしてくれた。停止した潜水艦の露天ブリッジを吹き抜ける海風が
彼女の髪をそよがせる。塩の吹いたコート、同じく塩の吹いた制帽を被った男がキッチリと敬礼をした。二十代後半か。
若い顔に浮んだ疲労と苦悩がはっきりと読み取れた。
「シーキャット艦長グラント少佐です」
「501統合戦闘航空団ヴィルケ中佐。救援有難うございます」
「皆さんの乗艦を歓迎します」
 答礼を終えたミーナが腕を下ろした。右手を下ろしはじめた艦長に、甲板から怒鳴り声が掛けられる。
「飛行要員及び機材の搬入完了します、サー!」
 甲板で収容作業を監督していた将校がブリッジに怒鳴りあげた。露天ブリッジの縁から身を乗り出した艦長が、素早く
甲板を見下ろした。ユニットを外した少女達は既に艦内に降りている。魚雷搬入用の大型ハッチが閉鎖された。その脇に
立って親指を突き立ててみせる甲板長に、艦長が頷いてから振り返る。通話機に怒鳴り込んだ。
「よし、トンズラするぞ。副長、潜行用意!」
『アイアイ! 潜行準備! 各部、員数確認せよ』
 足元で口を開けるハッチから、艦内で鳴り響くブザーの音が漏れてきた。対空見張り員が素早くハッチから艦内に
落ちる。その肩を叩いて員数確認をしていた掌帆長がそれに続く。その肩を叩いた艦長が怒鳴った。
「掌帆長! 先に入って中佐を支えろ!」
「アイ、合法ですね? 憧れのウィッチ様を抱き締める光栄を――」
 足をハッチに突っ込んだ掌帆長が、微笑みながら艦長を見上げて尋ねた。
「中佐から非礼の訴えを聞いたらな、軍法会議を省いて発射管から放射するぞ」
「わかっとりますよ。中佐殿、私が下で待機します! 焦らずにラッタルを使って降りてください。腕はあまり伸ばさずに、
脇も締めてくださいよ! そうしないと頭をハッチの縁にぶつけますから」

50 :
「解りました。ありが――あら?」
 不安そうにハッチを覗き込む中佐に明るく告げた掌帆長が、返事を待たずに落ちた。ハッチから立ち上る異臭が鼻を突く。
ミーナは意識して無視した。
「さ、中佐。焦らず、怖がらずに降りてください」
 中佐の片手を優しく取って、艦長がいざなう。促されたミーナが、恐る恐る鋼鉄の梯子に足を掛けた。床に溜まっていた
海水でズボンが濡れた。足先で梯子を探りながら降りるが、直ぐにペースが上がる。発令所後部でチューブを見上げて
いた乗組員は、白い素足、続いて濡れたエンジのズボンに包まれた尻を見て、音を出さずに口笛を吹く真似をした。
下から突き刺さる視線を感じて、ミーナが頬を染める。艦長を睨もうと見上げたミーナは、制帽を取って洋上に黙祷する
若い艦長の姿を見た。
「あと三段ですよ、中佐殿!」
 掌帆長が彼女の腰をやんわりと両手で押さえてリードしてくれた。足が床についたのと同時に、梯子から引き剥がされる。
「失礼、中佐殿。艦長、ラッタル、クリア!」
 艦長が何事も無かったような顔でラッタルを滑り落ちた。待機していた乗組員がラッタルを駆け上り、下で待機していた
者がハッチに繋がれたロープを引っ張る。ハッチを閉鎖した乗組員が直ぐに落ちてくる。滑らかなその動きにミーナは舌
を巻いた。暖かい艦内に心が解される。その彼女に目もくれず、艦長が矢継ぎ早に指令を下していく。
「メインタンク注水開始! 深度3-0-0フィート! コース、ポーツマスに戻せ! 速度1-5」
「3-0-0、1-5。コース戻ぉーせー!」
「300、15、アイ。コース、ポーツマス。アイ!」
 様々な音が続けざまに起きる。乗組員がテキパキと呼応しながら操作する姿を、ミーナは戸惑いと安堵の入り混じった
気持ちで見守った。坂本とバルクホルン、そしてイェーガーが司令塔に案内されてやってきた。裸足で傾斜していく床を
踏み締めるようにして、ミーナの横に三人が並んだ。さり気無く、触っても問題が無いと思われる部位を掴んで身体を支え
る。この潜水艦が目指す深度をメートル換算した彼女の胸中に恐怖が沸いた。
「艦長、紹介します。戦闘指揮官、扶桑海軍坂本少佐。カールスラント空軍バルクホルン大尉、リベリオン陸軍飛行隊
イェーガー大尉」
 きちんと敬礼した三人の背中から大声が掛かった。
「2-0-0、異常なーし」
「よし、続けよ。さてと。リベリオン海軍グランド少佐です。シーキャットへようこそ。まずは皆さんに暖かいココアと衣服、
そして居場所をご提供します。副長!」

51 :
「アイ、艦長?」
 海図テーブルで航海長らしい士官と二人で、定規とディバイダを振り回していた大尉が歩み寄る。航海長が進路指示を
怒鳴り、復唱が戻る。
「彼が副長のウィラード大尉。副長、501隊11名の寝場所を用意してくれ。それと乾いた衣服もだ。私以下、士官は洗濯済み
のシャツとズボンを提供する」
「アイ。もう考えてあります。中佐殿は艦長の私室へ。少佐殿とバルクホルン大尉は私と航海長の私室へ。軍医と機関長の
私室も同様に使えます。これで五人。残り六人は、ブリタニア陸軍のウィッチーズが使っていたブースが四人分ですから、
ここを空けます。これでプライバシーは保てます。完璧でしょう?」
 それを聞いたミーナと少佐、そしてバルクホルンの三人が顔を見合わせた。イェーガーだけが首を傾げた。彼女達の反応に、
艦長の無精ひげが目立つ顔が強張った。艦長と対照的にヒゲを綺麗に当たった副長の顔には疑問符が浮かぶ。
「副長!!」
「はい、艦長?」
「君達の部屋にはバンク(寝床)が二つだが、私の処は一つしかない。それにだな、女性を男と同じ部屋で同時に寝かすわけ
にもいかん。馬鹿も休み休み言え!」
 言葉の端に意味を含ませた艦長の指摘を聞いて、副長の目におもしろがっている光が一瞬浮かんだ。が、口調は真面目
そのもので平静に応える。
「艦長、お言葉ですが。連邦海軍規則に照らして、ウィッチ隊を一般乗組員と一緒にする事は出来ません。規則違反で
あります。士官も同様ですが、指揮官同士の同室を禁じる文面は見当たりませんでした。501隊は11名。内四名が上級将校
です。我々の三交代勤務にウィッチ隊が合わせて貰えば、限られたバンクでも問題なく休息が可能です。私はその辺で寝ます。
艦長はヴィルケ中佐と交代でお休みいただく。規則に照らして全うです」
「副長、それはちょっとどうかと思うぞ? 相手は若い独身女性だ」
「いえ、連邦海軍は規則第一です。太平洋艦隊は、まあ、いい加減のようですが。我々は大西洋艦隊所属です!」
 忌々しげに首を振る艦長に、ミーナが微笑みかけた。シャーリーは、上級将校のやり取りを興味深げに聞いている発令所
要員に、寝床の幅などを聞いて肩を竦めた。気取らないその仕草を見た発令所要員の顔が緩む。
「助けていただけただけで、私達は充分です。交代で休みますので、ウィッチが使った場所をお願いできますか」
 坂本とバルクホルンが頷いた。
「休息できるだけで有り難いですよ。助けて貰えなければ今頃は……同じ海中でも、ここでは暖かい空気を吸える。それで
十分ですよ、艦長殿」

52 :
「一つの寝床で二人が一度に寝てもいい。時間差で寝るなら、四人分でも充分。本来の乗員に負担を掛けるのは、カール
スラント軍人として遠慮します」
「駄目です!」
 艦長と副長の声が重なった。ミーナ達が呆気に取られて二人を見つめる。シャーリーだけが密かに笑った。
「中佐殿、こうしましょう。大尉のアイディアを拝借します。私の部屋、そして副長と航海長の部屋も空けさせます。もう一つ
二つ寝台があれば問題ないですね。この二部屋を専用として下さい。申し訳ないのですが、寝る時間をずらして貰います。
ご希望とあらば、同乗している海兵隊員を武装の上でドアの横に立たせます。副長以下は航海長と軍医の部屋に押し込み
ます。私は公務以外では部屋に足を踏み入れません。君達もそれでいいな?」
 副長と航海長がなんの表情も見せずに頷いた。軍医と機関長もインターコムで了承が得られた。軍医から一基の折りたたみ
コットの存在を教えて貰えた。それを艦長室に押し込む手配をする。ミーナ中佐が意見する間もなく、迅速に事が運ばれて
いった。中佐の顔に諦めが浮かぶ。
「シーキャットの誇りにかけて、501の皆さんに安心して航海を楽しんでいただきます。掌帆長! すまないが、バンクの寝具
を全て清潔な物と替える手配を。糊のビシッと利いた清潔な奴だ。毛布と枕も未使用の物を。先客が忘れていった寝袋が
あったはずだ。あれを司令塔に持ってきてくれ。私が使う」
「アイアイ、艦長! 枕も忘れずに持ってきまっさ! ウィッチ寝袋、ガメようと思っていたのに」
 副長と掌帆長が素早く打ち合わせをし、艦長に向き直る。副長が口を開いた。
「艦長、掌帆長は『引越し』を監督します。その間私が指揮を執りますので、艦長が艦内の案内をしていただけると助かりますが」
「解った、頼む」
「アイ、サー!」
 掌帆長が防水扉から出て行く。艦長が副長に声を掛けた。
「ストライカーユニットは、潮を被らなかったのか?」
「かなり濡れました。魚雷班が整備しています。ダメージは最小限にとどめられるでしょう。ただ、飛行は無理だと坂本少佐が
判断しておられます」
「ああ、彼等なら適任だな。よし、一回りしてくる。副長、指揮を執れ」
「アイ、指揮を執ります」
「艦長、失礼?」
 ようやく口を挟めたミーナに、何事もなかったかのように艦長が頷いた。

53 :
「オリエンテーションがてら食堂に案内します。501隊全員で付いて来てください。紹介の手間も省けますから。終点は専用
コンパートメントです。入り用な物があったら随時言って下さい。女性専用下着以外は大体揃います。あ、先ずは履き物が
必要か。副長、手配を」
 頷いた副長が、聴取した靴のサイズを手早くメモし始めた。男サイズが合わない事がすぐに判明した。艦長は踵を潰して
スリッパのように使うよう、ミーナに指示を出す。床の塗装のささくれやバリなどが有るので素足では歩かないように、という
のが理由だ。少しでも足に合うように、と厚手の靴下の手配も決まった。呼ばれた伍長と副長が慌ただしくやりとりするのを
横目に、ミーナが手を上げた。
「艦長。武装海兵隊員の手配は無用かと」
「そうですか? 連中、やっと仕事が出来ると制服にアイロン掛けていましたけど」
「あら……でも、通常任務も忙しいでしょうし」
「本人達の希望で、普段は厨房勤務です。包丁裁きが上手いので」
「何となくイメージできますね」
 全艦放送用にコムを切り替えた副長が密やかに笑い、マイクを握った。
「達する、こちら副長。間もなく艦長が501統合戦闘団の皆さんに艦内を案内して回る。総員、直ちに身だしなみを整えよ。はじめ!」
 歓声が隔壁を貫いて耳に届いた。シャーリーとミーナ、そして坂本が小首を傾げて笑う。バルクホルンだけがムスッとしていた。
「狭い艦なので、どこにいても最新情報は必ず耳にするんですよ。その辺が陸軍と大きく違う部分です。行動理由が解るほうが、
勤務にも真剣に取り組めますしね。大目に見てやって下さい」
 艦長の溜息交じりの説明を聞いて、バルクホルンも苦笑いした。戻ってきた伍長が、キャンバスシューズを手渡し始めた。
まっさらの新品だ。早速靴紐を締め始めた彼女達から、艦長以下慌てて目を逸らした。
 艦長の後ろに十一人が続く。狭い通路ですれ違う乗員は壁に身体を押しつけ、敬礼して見送った。律儀に答礼する隊員に、
早速坂本のの指導が入った。脇を広げた普通の答礼を返すと通行が不可能になる。脇を締めて小さく答礼すれば通路を
塞がず、前進したままでこなせる由。物珍しさと賞賛の眼を注がれる彼女達の表情は微妙だ。小柄な少女に至っては、
傍らの少女の背中に顔を押しつけてしまった。最後尾付近を歩く二人だけが気楽に歩いている。陸軍と海軍の差はあっても、
同じ祖国。黒髪の少女は違うが、答礼というよりも笑顔と共に手を振る。手を下ろして見送る皆の顔には、本物の笑みが
浮かんでいた。

54 :
 艦長はシャワー室に足を踏み入れた。中が狭いと知った彼女達は通路から覗き込み、ミーナだけが艦長とともに室内に入った。
「ここがシャワー室。五人同時に使え、温水が出ます」
「お湯が使えるのですね。助かります。着替えは何所で?」
「男所帯なので、乗員はタオルを巻いただけで移動しますがね。皆さんはそうも行かない。反対側の壁につけられたラックに
着替えやタオルを置いて下さい。誰も使っていませんが、ほら」
 艦長が手でラックの上部を撫で、その掌をミーナに見せた。埃も汚れも全く付いていない。その意味を察したミーナが安堵
の笑みを浮かべた。
「使用中は誰か一人がドアの外で立って下さい。知らずにドアを開けた乗員を拘束するハメになると困るので」
 艦長の軽口に皆が微笑んだ。いや、バルクホルン大尉だけは真剣な顔で頷いていた。
「艦長。居候の分際で言えることでは無いのですが。我々がいる間は、乗員の皆さんに一言言っていただけませんか。その、
シャワーの際はバスタオルでの移動は、その、ここに来るまで洗面所が無かったようですので、つまり……」
 頬を染めた大尉の言葉が弱くなって途切れた。艦長が頷く。
「確かにそうだね。了解、徹底させます」
 男のバスタオル巻きくらいで何を五月蠅いことを、と金髪の小柄な中尉が茶々を入れる。苦笑いするものが殆どだが、大尉
だけは顔が真っ赤になった。
「使用法を説明します。塩水は使い放題。真水は10秒だけです。塩水コックはこれ。真水コックはこれです。間違えないで
ください。真水を使うには専用のコインをこのスロットに入れます。一日一回、一週間分を後で中佐に渡します」
「真水、たったの十秒だけ?」
「そうだよ、ええと……ハルトマン中尉。真水は大事でね。まず、塩水で身体を濡らす。そこにあるソープで身体と頭を洗う。
塩水で泡を流してから、仕上げに一気に真水で洗い流して終わり! 間違えても、やり直しが利かないから気をつけて」
 狭いシャワールームの扉から覗きこむ十個の頭が真剣に頷いた。
「歯磨きと洗顔に使う真水はコップ一杯の建前ですが、女性には足りないでしょう。部屋には洗面台がある。帰港も間もなく
だから大目に見ます。でも、小まめに栓は――」
通路に向って説明を続ける艦長を横に、ミーナも頷きながらコックを捻った。間髪を入れずシャワーヘッドから海水が噴出した。
小さな悲鳴を上げた彼女が素早く横に逃げる。艦長只独りがずぶ濡れになった。両手で口を押さえたミーナが何か言おうと
するが、艦長は屈託無く大笑いをしてコックを閉め、ポケットから取り出した清潔なハンカチを彼女に手渡した。
「ごめんなさい、艦長……」

55 :
「いやいや、気になさらず。ついやっちまうのが人間です。このソープは海水でも泡立つ。ほらね。塩水だと髪の毛がべとつくから、
すすぎの真水は髪の毛に集中した方がいいですよ。皮膚に塩分が残っても、軍医曰く『皮膚が強くなるので病気を防げる』そう
ですから」
 ゆうゆうと説明しつつ髪の毛を洗う艦長。真っ赤になったミーナの更なる謝罪は、通路から沸きあがった大笑いにかき消された。
「ここがトイ……失礼、化粧室。鍵は無いので、ここもシャワールームと同様に。さて、用を足したら蓋を確り閉める。そしてこの
レバーを右から左に操作する。途中で一回引っかかる様な手応えがあります。これは水洗を作動させるバルブが開く手応えだから、
そこで止めずに一杯に左に動かして下さい。閉鎖は逆。操作時間は五秒以上置くこと。実演しますから、よく見ていて」
 濡れ鼠のまま、レバー操作してみせる艦長に頷きながら、皆がミーナを見た。困ったようにミーナが頬を掻く。水滴を滴らせて歩く
艦長を目を丸くして見た乗員が、どこからともなくモップを持ち出して一行の後を掃除しながら歩いてきたのだ。
「もう、むやみに触らないわよ」
 ミーナの呟きに皆が笑った。ミーナの顔の赤みが増す。
「五秒置かないとどうなるんダ?」
「次に入った、えーとユーティライネン少尉、君が蓋を開くと残った排泄物と感激のご対面となる」
「き、汚いナー!」
「溜めておいて、海中に直接排出するんだ。掃除も一日三回。オールステンレス製、世界一清潔な水洗トイレだよ」
「何処が、だヨ?」
「溜めたままより清潔だよ。。さてと。用を足す前に、必ずこの計器を見てくれ。この指針が赤いゾーンにあるときは、決して使用
しないこと。タンクが一杯になっているから、レバーを操作した瞬間にえらい事になる」
「操作すると、どうなるんですの」
「即座に排泄物が溢れ出してこの部屋を満たす。気をつけてね、ええ……クロステルマン中尉」
 それぞれが想像したらしく、皆の顔が変化した。汚物に溺れるのは……。
「逆流しちゃうわけですね」
「ご名答、ビショップ軍曹」
 迷い無く名前を呼ばれたリーネの顔が微かに綻んだ。
「おぞましい……」

56 :
「計器が赤い位置にあった時は、どうすればいいんですかぁ?」
「乗組員に声を掛けてくれ。汚水タンクを圧縮空気で排出する事はここからも出来るが、そのときの水深も絡むからね。君達には、
その判断が難しいかもしれない。誰でもいいから乗員を呼んでくれ。わすれないでくれよ、ええ……みやふち軍曹」
「はい! あ、みやふじです。呼びにくかったらヨシカとお呼び下さい。ええと……呼びに行く余裕が無い時は、どうすれば?」
「じゃあ、ヨシカ君で。その時はこれを使う」
 蓋付きのブリキバケツを指し示した艦長が悪意無く笑って見せた。それを見た11人の顔が歪む。艦長が屈託の無い笑い声で応えた。
 艦長の後に続いてぞろぞろと入ってきた皆が、興味深げに室内を見渡す。ボルト止めされた椅子とテーブルが目を引いた。
テーブルの縁は一段高くなっている。
「ここが士官食堂件士官休憩所。皆さんはここで食事を摂って貰います。食事時間は、基本リベリオン東部標準時で考えますので、
皆さんの腕時計を壁時計に合わせて下さい。朝食、昼食、夕食の区別は出来ません。一日三回の食事に夜食ね。味は……
まあ、余り期待しないで」
 ソースの染みがついたエプロン姿の厨房員が、テーブルに皿を素早く置いていく。続けて湯気の立つマグカップを置いて出て行った。
「さ、座って食べて下さい。食事時間以外は、非番の将校が暇つぶしをしていますから、皆さんも参加して寛いでもらって結構です。
食べながらで結構ですので、なにか質問や提案があればどうぞ」
 中佐が座るのを待って、皆が一斉に椅子に滑り込んだ。ホットサンドに手を伸ばすのも中佐の後。艦長が微笑みながらその様を見守った。
「あの、艦長。私も食事作り、手伝います。ね、リーネちゃん」
「うん! お願いします、艦長」
「そうして貰えると助かるが……中佐、宜しいのですか」
「お手伝いできる事は言ってください。彼女達の料理『も』とても美味しいですよ」
「有難うございます。では、皆さんが食べ終わったら厨房に案内しましょう。私は着替えてきます。ごゆっくり」
 和やかに手を振って室外に出る艦長の後ろ姿を、ミーナの謝罪に満ちた目が追った。

57 :
 士官食堂から出た艦長が、二つ先のカーテンをはぐって中に入った。皆もぞろぞろと続く。調理していた水兵が一斉に敬礼した。
手早くミーナが隊員を紹介していく。
「潜水艦ですから、酸素を消費しないように直火は使いません。すべて電気調理具です」
「へえー! 魚を焼くことは出来るんですか? 炊飯器は何処ですか?」
 きょろきょろと見回した宮藤に、厨房要員でもある水雷担当がニコリと微笑んだ。
「みやふぎ軍曹、このグリルで出来ますよ。火力調整もお手のもんでさあ。炊飯器ってなんですか?」
 二度目の珍妙な呼び方に、芳佳が妙な顔をした。
「えーと、ヨシカでいいです。御米をご飯に炊く調理器ですけど?」
「炊く? 米は煮るもんです!」
「ええーーーーっ!」
「あの、艦長……赤カブはありますか?」
「蕪? 一寸待って、リト……リトビャク中尉。赤カブは積んだっけ、パッカード曹長」
「有ったような気がします。見てきますので一寸待って下さい」
「サーニャちゃん、何を作るの?」
「ボルシチよ。私も皆さんにお礼したいの」
 興味深げにサーニャと芳佳のやり取りを聞いていた艦長は、二の腕を軽く突かれて振り向いた。イェーガー大尉がにんまりと笑いかけた。
「艦長。次、機関室を見せてくれないかな。私、動力系統に興味があって」
「ああ、ご希望とあれば。イェーガー大尉。蓄電池室と魚雷室は遠慮して貰うけど」
「お願いしますっ! あと、シャーリーと呼んでほしいんだけど。堅苦しいのが苦手だし、私は下級だし……」
「解ったよ、シャーリー君」
「そう呼んでくれると、すごく気が楽だよ」
「私ねえ、ルッキーニでいいよ、艦長のおじさん! みんなも宜しくねー!」
「少尉、やめんか! 済みません、艦長」
 雷を落としたバルクホルンに、艦長が眼で笑いかけた。
「狭い艦内、ついでに言えば死ぬ時は一緒だからね、乗組員は家族みたいなものだよ。君は堅苦しい方がいいかな、
バルクホルン大尉?」
 バルクホルンの顔は平静だが、ミーナは当惑顔だ。
「艦長のお考えと、この潜水艦の気風は理解しました。隊の責任者としては、男性と密な接触は避けさせたいのです。
ご好意はありがたいのですが、出入りする必要のない場所には、その……」
 ふむ、と艦長が首を傾げた。

58 :
「それもそうですね。了解。オリエンテーションはここまでとしましょう。魚雷室と機関室は出入りは禁止。発令所と無線室ソナー室
は許可を得てから入って下さい。基本、いかなる装置も操作は禁止。化粧室とシャワールームは除外しますが。火気厳禁が基本
です。火災が船には最悪だと考えて下さい。不遜な行動をするものが居たら、直ぐに私に言ってください。乗組員の階級と氏名は、
シャツの背中にステンシルで印刷されています」
 厨房に居る皆の顔から、表情が消えた。シャーリーは特に残念そうだ。
「シャーリー君には、機関長自ら案内させるよ」
「ご配慮に感謝します。私も同行します。皆も、乗組員との不必要な会話は慎んでくださいね?」
 嬉しさと当惑の混じった顔でシャーリーが頷いた。他のみなは諦め顔だ。頷いた艦長が、インターカムで機関長を呼んだ。礼を
失しない程度に砕けた返事が戻る。戻ってきたパッカードの返事を聞いたサーニャが微笑む。一瞬にして厨房員がデレた。
*******
 USLシーキャットが救難者の一団を拾い上げた直後は多少の混乱があったが、なんとか通常の艦内生活になりつつある。一番の
混乱は、非番の乗員が用も無いのに中央通路をうろつくようになったことだ。彼等の目的は、公式には伝達、用足しそして運動だが、
非公式な目的が『運良く』ウィッチのご尊顔を拝し奉ることにあるのは明白だった。不心得者予備軍には、入浴前後の姿を拝めるかも
という不埒な願いもあったかもしれぬ。艦の通常運航上、往来を禁ずることも出来ぬ。
 その他の軽いトラブルは部屋を提供した士官に降りかかる。
「何かご用ですか、艦長」
 ノックした後、待たされること無く開いたドアの隙間から、小柄な金髪の少女が顔を覗かせた。頭部がタオルで覆われた彼女の眼鏡が、
通路の照明に光る。少しの警戒感を滲ませた青い眼が艦長を見上げる。
「ええと……クロステルマン中尉だよね」
「はい。間違いございません」
「間違えないでよかった。挨拶したときと雰囲気が違ったもので。貴隊の指揮官達はこの部屋にいるかね?」
「いえ、おられません」
「ああ、そう……困ったな」
「何かご用ですか?」
「航海日誌を書きたいんだが、誰も部屋にいないようでね。寝ているのかもしれないが、起こすのも悪いし、勝手に入る訳にもいかないし」
「士官食堂におられませんか?」
「先に見てきた。それでは先に艦内巡視するか。その間に誰か戻ってくるかもしれないし。邪魔したね、有り難う」

59 :
 片手を気軽にあげて背中を向けた艦長。その姿を見送りながら、戸惑いを覚えたペリーヌはドアを静かに閉めた。発令所で申告
したときは、もっとびしっとしていたのに。
「誰?」
 カーテンを閉めたバンクの中から、眠気に満ちた声が彼女に掛けられた。
「艦長でした。ミーナ隊長をお捜しのようでしたが」
「トイレじゃないの? ご飯の後だしさ〜」
「ト?……化粧室、でございましょう?」
「どっちも同じじゃん。ってか、あそこには鏡がないよ。化粧室なら鏡が――」
「レディなら、鏡の有無で判断される機能から結論を出すよりも! 艦長も化粧室とお呼びになっておられたのを忘れたのですか!」
「落ち着けヨ、ツンツン眼鏡」
 カーテンを開いたバンクに収まった二人の少女。カードを捲ってぶつぶつ言っていた片割れが目も向けずに口を開いた。
「その呼び方、お止めになって!」
「んじゃ、ねがめンツンツ。これなら親しみやすいだロ?」
「は? なんですの、そのねが……ええと?」
「逆さ読み、ツンツン眼鏡の」
「ちょっと、エイラさん! 失礼にも程がありましょう!」
 はらはらしながら二人のやりとりを見ていた芳佳とリーネ。何度か口を挟もうとしていたが、そのチャンスが無い。エイラの向こう
にいた物静かな少女がバンクから出てきた。エイラがカードから目を離し、その行方を追う。サーニャは無言で棚から乾いたタオル
を取り出した。激昂していたペリーヌを、背もたれの無い椅子に座らせる。戸惑ったペリーヌが口を開く前に彼女の湿ったタオルを
外して、乾いたタオルで優しく髪の毛を揉み擦り始めた。飛び起きたエイラが、上のバンクに頭をぶつけた派手な音が部屋に響く。
「ドライヤーがないけど……こうすれば……エイラの髪もさっき……」
 あっけにとられていた皆の目がエイラに向く。少し湿ってはいるようだが、いつも通りの綺麗な髪がエイラの背中と肩に流れていた。
そのエイラの眼は潤んでいる。頭をぶつけた痛みの涙か、はたまた……。
「サァニャ〜。私だけにしてくれたんじゃ無いのかヨー」
「ペリーヌさんの髪の毛も長いから……綺麗……」
 頬を染めたペリーヌが目を閉じた。素早く動いた芳佳もリーネの髪の毛に新しいタオルを被せ、両手でもみ始める。
「ありが……とう」
 小さな呟きがペリーヌの唇から零れた。枕に顔を埋め、足をばたつかせる騒音源だけが取り残される。

60 :
『達する。これより浮上、充電に入る。艦内換気用意』
 艦内スピーカーが囁いた。二つある二十四時間時計の内、現地時間と表記がされたものは夜を示している。潜望鏡から目を離した
艦長が、ハンドルを折畳んだ。それを確認した発令所要員がスイッチを操作し、油圧で潜望鏡を収納する。制帽を被り直した彼が
首を左右に振った。堅い音が周囲に響く。それを聞いた発令所要員が横目で艦長をみた。過労だ。発令所に持ち込んだ寝袋で
休息を取り、一日の殆どをここで過ごしている。副長がバンクで休息を取るように説得しても、首を縦に振らない。異常な程までの
集中力で勤務している彼を見て、皆はその理由について首を傾げていた。
「艦長、浮上完了!」
「よし、ディーゼル始動に備え、ハッチ開放!」
「アイ! 機関室、待機!」
 副長の合図を受けた四人の対空監視担当がラッタルを駆け上った。一瞬の間を置いて若干の海水が上から迸る。防水防寒
ジャケットを着込み始めた艦長が其れを浴びるが、全く気にせずに続けての指示を出した。
「見張りの確認後、エンジン始動に備えて前部ハッチを開け。ハッチ部分、夜間照明に切り替えよ」
『上空確認! 天頂を含め、敵機無し!』
「前部ハッチ二基、開放を確認!」
「よし。機関長、動力切り替え始め!」
『アイ! ディーゼル始動します』
 艦尾から轟音が伝わってきたのと同時に、露天ブリッジに繋がるハッチから新鮮な海風が吹き込んできた。皆が無意識に深呼吸
を繰り返す。何気なく吸っていた空気が汚れていたことを実感しつつ、ジャケットに腕を通した。毛布を確り巻き付ける者もいる。
すぐに寒くなる。
『前部甲板、ガイドライン準備せよ。用意が出来たら、交代で出てよし。前甲板は喫煙を許可する。無線室へ、短波放送受信許可』
 スピーカーから少し歪んだ艦長の声が飛び出した。
「無線室より艦長。今夜のご希望は?」
『男の演説でなけりゃ何でもいいぞ。任せる』
「アイ、サー!」
 ややあって艦内スピーカーからシャンソンの調べが流れ出た。

61 :
「今晩は、艦長」
 見張り員と共に双眼鏡を構えて、周囲を確認していた艦長が振り向いた。足下のハッチから上体を出した人影。星明りに照らされた
中佐が微笑んでいた。眼が暗闇に慣れたので、彼女の歯が白くはっきりみえる。艦長が差し出した手を握った彼女が感謝の言葉を続けた。
「静かな夜ですよ。中佐もタバコですか?」
「いえ、喉に悪いのでやりません。艦長は何時休まれるのですか?」
「気が向いたとき、ですね。この位置に移動して貰えますか。風上です。失敬、一服させてください」
 揺らめいた炎にミーナの白い顔が照らし出された。かちんとジッポが閉じられ、闇が戻る。眼を瞬いた。見張り員は一本の煙草を
回しのみしている。そうすれば、ライターの着火頻度も落ちるから幻惑されにくい。艦首でひときわ輝くウミボタルの光跡を見ている中佐。
夜目にも白い足が目に付く。気付いて分厚いコートを脱ぎ、彼女の肩に掛ける。
「ありがとう……艦長室を使わせていただいて有難うございます。坂本少佐とも相談したのですが、艦長もベッドでお休みください。
寝袋で床に寝ていては、疲れが取れないでしょう?」
「いや、気にせんで下さい。床で寝ていたほうが、直ぐに反応できていいですよ」
「でも……私達が来るまでは、ベッドで寝ておられたわけですし」
「気にしないで。辛い戦いをされている皆さんが休むべきです。乗組員一同、そう思っています」
 艦長の囁きに、見張り員たちが静かに頷いた。
「でも、皆さんも戦っておられます」
「嫌だな、そんな改まって。なあ、お前達も同じだろ?」
「ええ、お袋に自慢してやりまさあ。統合航空戦闘団のウィッチを手助けできたぜ、って。一生、誇って過ごせますよ」
 見張りの一人が双眼鏡を覗いたままで元気に答えた。周囲から同意の声が上がる。若い水兵の背中をミーナが見つめた。
ゲロップゴロップ、とディーゼルが異様な排気音を立てた。首を傾げたミーナに艦長が微笑む。ドカン、という爆発音とともに艦尾から
火花と共に黒煙が盛大に噴出された。ビクリとしたミーナの肩を軽く叩いて安心させる。
「ポーツマスでネウロイに沈められたんです。テスト艦なので本国が騒ぎましてね。設計要求値は公試で確認できましたが、それ
以外は実際に任務について時間を掛けないと解らない。ナンバー艦も建造が始まっているので、モデファイするなら一日でも早く
情報が欲しい、と艦隊本部は考えるわけで」
 艦長の言葉の意味を理解したミーナが真剣な目で彼を見詰めた。最新鋭テスト艦を任される艦長とその乗員ならばエリートだ。
寄せ集めだったはずだが、艦内の雰囲気は和んでいるのに規律正しい。つまり、この艦長の手腕は……

62 :
「ただ正規の部品を手配する時間が無かった。新規格の部品がブリタニアに有るわけも無いのでね。創意工夫でやっつけました
が、燃料ポンプだけに問題が出ました。タイミングが取れないんですよ。機関長もお手上げです」
「正規部品を待ったほうが、長い目で見たらよかったのでは?」
「最新鋭艦がエンコしていては、艦隊本部が発狂しちまいますよ。係留中にやられたんですが、お偉方はネウロイに責任がある
とは考えません。部品を待っている間、延々と罵られるよりも出航しちまった方が気が楽です。というわけで使える部品を掻き集め
て改造して組み立てました。洗面所のパイプとか、司令官室の壁も焼ききってかっぱらいました。あとはリベリオン海軍補給廠から
盗んで改造。乗員の創意工夫で、なんとか出航にこぎつけたわけです」
「ぬ、盗んだ?」
 ミーナの素っ頓狂な声を聞いた見張り員一同が肩を震わせた。艦長も小さく笑う。
「ええ。副長がその筋に才能を持っていましてね。電線、電子部品、ディーゼル機関の部品、蓄電池。まあ、政府の物品をその政府
の艦に使うんですから収支は合いますよ。でもあいつ、軍にいなかったら泥棒で名を馳せただろうなあ。連邦刑務所で寿命が尽きるか、大富豪かのどっちだろう」
 我慢していた見張りが吹き出した。すぐに爆笑になる。
「鼻が利くんです。補修パーツの山に紛れ込んでいたブランデーを見つけて、部品と一緒にかっぱらってきたこともありました」
「あら。どうしたんですか、そのお酒は」
「その箱を抱えて渡り板を渡りきった瞬間確保しまして、全て兵員に分配しました。航海中は禁酒ですが、ドックに居ましたからね。
副長には勲章の代わりに一本。後生大事に隠していますよ」
「隠し場所をご存じみたい。そうまでして出撃したのですか。それが発覚したら、艦長も……」
「ま、泥棒はよくないことです。でも、我々は兵士です。戦うことが第一。椅子に座って戦争しているお偉方に罵られるのは気に食い
ません。後はどうでもいいですよ。私が責任を負うだけです」
 見張り員が朗らかに笑い声をあげた。ミーナもそれに和す。
「港まであと八日です。欺瞞航路をとっているし、そもそもドンガメで。まあ、のんびりしてください」
「居心地のよい船で助かります。話が変わりますが、燃料ポンプの不調を直せるかも、とイェーガー大尉が先程言っていました。
大尉は手を貸したがっておりますが?」
 タイミングよく、ディーゼルが一際激しく咳き込んだ。露天ブリッジの皆が肩を竦める。
「うちの機関長は、正規部品でないと無理だ、とお手上げです」
「彼女は機械に詳しいのです。艦長と機関長がよろしければ、その……」
「いいですよ。機関長は真面目な男です。彼に事前に説明し、了承を得たら好きにしていただいて結構です」
「有難うございます、艦長」

63 :
 ミーナが身を乗り出し、前甲板で蠢く黒い人影の群に声を掛けた。端で体操していた二つの影が答え、速やかにハッチに消えた。
それを見届けたミーナが振り返ろうとしたとき、一つの影が甲板で転倒したのを見た。一瞬後、苦痛の呻きが海風を貫いて耳に届く。
急に心臓が痛みを覚えた。人影が集まってきた。事故。艦長に――
「おい、どうした? 大丈夫か?」
 ミーナの右横に寄り添うようにして、艦長が甲板に声を掛けた。いつの間に来たのだろう、と一瞬不思議に思う。不用意に近づく男性
を苦手としている彼女は、第六感の様な案配でそれを察知していた。それ以上に接近を試みる男は手厳しく拒否していたのだ。艦長が
自分の二の腕に接しているゼロ距離なのに嫌悪感を感じない。
「艦長、ニールセンが転んで手首を痛めたようです。折れたかもしれません! 指が動かせないと言っています」
「手伝って医務室へ運んでくれ! 二次事故に気をつけるんだぞ。懐中電灯、使用してよし!」
「有り難うございます! ほら、確りしろ……」
 ほっとして振り向く。艦長が通話機に落ち着いた声で指示を出していた。いい響きだ、と感じた。安堵が胸に満ちる。誰も言葉を発しない。
無言で双眼鏡を構えて見張りを続けている。秩序ある艦にいることも実感した。
「ソナー員が手首を痛めたとなると……困ったな。二交代に……」
 その呟きを聞いて我に返った。
「艦長。隊員の一人に治癒魔法の使い手がいます。治療のお手伝いをさせましょう」
 軍医の外科的治療よりも迅速かつ確実なのだが、軍医の立場を考えて軟らかい表現で提案する。
「おお、それは助かります。お願いできますか」
 艦長の顔はよく見えないが、その声の調子で彼が安堵したことを感じ取った。勤務のこともあるだろうが、それ以上に部下の身を
案じていることも直感でわかる。指揮官同士なら解ることだ。それが無性に嬉しく感じる。
「ええ。では手配……あ……」
「どうしました、中佐。なにか問題ですか」
 声に若干の恐れを感じ取った。ミーナの心臓も急激に鼓動を増す。
「すみません、艦長。医務室は何所でしょうか」
「失敬、案内していませんね。では、私が案内します。お先にどうぞ」
「お願いします」
 促されてラッタルを下りるミーナは、内心で首を傾げた。なぜ急に胸が苦しくなったのだろう。一気に消えたのだから、心臓の不調
というわけでも無いだろうけども。床に足を付けてから気付いた。コートを借りっぱなしだ。脱いだコートを続いて下りてきた彼に渡す。
照れくさい思いが頬に出た。

64 :
 医務室の治療台に『座らされ』たニールセン軍曹は冷や汗を流していた。右手首は派手に腫れている。治療の準備をしていた軍医
が艦長に呼ばれて出て行った。通路で何か話している。軍曹は聞き耳を立てる元気も無かった。手首だけで無く腕全体がもげそうに
痛む。それから意識を逸らそうと罵り続けているが、ドクのいうところのショック症状がでてきて妙に気分が悪い。モルフィンでも注射
してくれないか、とはかない望みを掛けた。固定する前に整え無ければならない。その時に痛む、と予告された。下士官に高価な痛み
止めを出してくれるとは思えない。泣き喚いたりしたら仲間に馬鹿にされる。くそ。昔見た映画を思い出した。傷口から銃弾を掘り出す
為に焼けたナイフを突っ込む。その時、寄って集って手足を押さえつけられ、舌をかみ切らないよう棒を咥えさせられて……今の俺が
そうなるわけだ。くそ!
「軍曹、よかったな」 
 戻ってきた軍医が開口一番、大口を開けて笑いながら告げた。何がいいものか、と無性にむかっ腹が立つ。毎週一度の健康診断
では、人当たりの優しい士官と思ったのだが間違いだったようだ。サディスト! いや、もしかしてモルフィンを……
「お客様の中に治癒魔法の使い手が居るので、君の治療をしてくれるそうだ。事後の痛みはすぐに引くらしいぞ。すぐに勤務に戻れる
らしいし。いや、よかったなあ」
 魔法と聞いた軍曹が眼を瞬いた。冷や汗の粒が浮いた顔に、ゆっくりと笑みが広がる。軍医が二度頷いた。
「宮藤軍曹、入ってくれ」
 カーテンの向こうから、返事と共に一人の小柄な少女が入ってきた。癖毛と大きな瞳に軍曹の目が吸い寄せられる。救いの天使、と
呟いた。続いて髪の毛をお下げに結わえた少女も一人。あれ、二人? あ、お下げの子は大尉の階級章を付けているな。だれ、この人。
「こんばんは、ニールセンさん。すぐによくなりますからね! 私が約束しますから」
「よろしくお願いします。とにもかくにも、痛いんで」
 こんなに可愛い子が苦痛から解放してくれるとは。ありがたや! 早くして。お願い。
「ただな、軍曹。さすがにずれちまった骨を元の位置に移動して修復するのは無理だそうだ。そのままだと指が満足に動かなくなる。
それでは今後君が困るだろう? というわけで助っ人がこちら」
 困ったような顔をして話しかけた軍医が、お下げの子に頷いた。硬い表情、でも眼には労りの色を浮かべた少女が頷き、目を閉じる。
この子は何を? おお、耳が頭から! すげぇ、本当にウィッチさんだよ、ママ! おお、しっぽ! きっとずれた骨をこの子が魔法で――
「バルクホルン大尉だ。君を押さえてくれる。こんな美人さんに拘束される名誉を喜びながら我慢しろ。レントゲン装置も欲しいんだが、
その魔法に類する……」
 軍曹の目が大きく見開かれた。何か言おうとするが、素早く大尉がニールセンを横に寝かせる。腕に走った激痛にうめき声を上げる
のが精一杯だ。苦悶していたが、息が続かなくなって口を開けた。その瞬間、何かを口に押し込まれる。暴れようとした軍曹は、既に
大尉が右手肘と左肩をがっちり押さえつけていたのを知った。真剣な眼が軍曹を見下ろしている。その眼に燃える義務感を見た瞬間、
これから起こる事態が理解出来た。映画。トイレに行かせてくれ!

65 :
「まあ、なんとかするさ。じたばたするな。やりにくい。モルフィンがある筈なんだが、無いんだよ。私のチェックミスだ。勘弁しろ」
 仲間に笑われるのも嫌だが、なぜにこんな美少女達に醜態を晒さなけりゃいかんのじゃ! 納得出来ん! 呪ってやる、補給部
の馬鹿ちん共が! もげろ!
「男なら目の前のべっぴんさんに笑われないように、歯を食いしばれ、ほれ! 軍曹、顎を押さえておいてくれるかな。引っ張り上げる
ようにしてくれれば窒息しないしね」
 そっと、しかし断固と小さな掌が顎を引っ張る。自然と宮藤と紹介された軍曹の顔が視界に入った。真剣な顔で軍曹を見下ろして
いる。彼女の唇が小さく動いた。その動きを読んだニールセンは暴れるのを止め、大きく深呼吸した。二人の掌が温かい。助けてくれ
るんだ。覚悟を決めよう。彼女達に笑われるのは嫌だ……。
 兵員室のバンクから様子をうかがっていた連中が首を竦めた。皆、身体を捩って耳に飛び込む喘ぎ声に耐える。間もなく苦痛の
喘ぎが途絶えた。変わって落ち着いた会話が聞こえてくる。一斉に溜息が漏れる。
「おいおい、マジかよ。凄いな……」
「まったくだ。俺、奥歯が痛いんだけど、見て貰えるかな」
「聞いてみろ。おい、ハンクス! お前のインキンも治して貰えよ」
 折しも寝転がったままで股間に手を突っ込んでいた男に、皆の目が集中した。
「……遠慮しとく。笑われたら一生使い物にならない、そんな悪い予感がする」
 抑えた笑いが兵員室に満ちた。
 発令所から上の見張りに声が掛かった。双眼鏡を握る二人が下に応じる。すぐにロープが投げ上げられた。二人でそれを引っ張ると、
籠が持ち上げられた。中に入っていた蓋付きのマグカップと紙包みが皆に手渡される。
「艦長、夜食です。今夜はホットドッグですって」
「有り難う、グリアム兵長。熱いうちに皆も食べろ」
「はい。おい、皆両手を出して……あれ?」
 疑問の言葉に続き、赤いフィルターを付けた懐中電灯が点灯した。ホットドッグに齧り付いた艦長も籠の中を覗き込む。カップだけ三つ多い。
「皆、ワンセットずつ受け取りましたよ」
「だよな。なにやっとんだ、下の連中。数も数えられなくなったのか?」
 悪態を吐いた兵長がハッチに怒鳴り込んだ罵声は、ワンフレーズも完了しないうちに途絶えた。仰け反った兵長を、最後の一切れを
口に押し込んだ艦長が面白そうに見る。
「どうした? 背中でも攣ったか?」
 返事の代わりに人差し指がラッタルを指さした。皆が注目する中、赤い夜間照明のスポットを下から浴びた女性がゆっくりと姿を現した。

66 :
「中佐じゃないですか。どうしました?」
「怪我をしたニールセン軍曹の手当が終わった報告と、もう一つ隊員から提案がありまして」
 またコートを脱いだ艦長が中佐にそれを羽織らせ、兵長が納得顔でマグカップを握らせる。
「寒いですからどうぞ。それで、もう完治したのですか?」
「あと一回か二回の予定です。魔法力の極端な集中が必要なのですが、隊員がそれに耐えられません。インターバルを置く必要が
あります。軍曹は薬無しで眠っています。大丈夫ですよ」
 抑え気味の口笛が吹かれた。
「薬無しで……すごい」
 艦長の呟きに中佐が微笑んだ。
「お役に立ててよかった。その延長でもう一つ。隊員にレーダーのような魔法を使える者がいます。この艦にもレーダーがあると思う
のですが、電波を放出すると有効レンジの外からも逆探知されるとか」
「ええ、そういう物ですね」
「彼女は電波を用いません。ですので逆探知も出来ないわけです」
「ふむ、論理的にそうなりますね。一番の問題は有効レンジですが。電波式レーダーと……魔法レーダーですか、比べると?」
「本人から説明させますね」
 中佐がハッチに声を掛けた。すぐに登ってきた二人が、海風に身体を縮ませる。艦長が何か言う前に、見張りが二人に自分のコート
を差し出した。
「リトビャク中尉が件の探知能力者です。ユーティライネン少尉は補佐役」
 慌ただしい会話の後、サーニャが能力を発現させた。抑えめだが、皆の唇から驚怖の呟きが漏れる。目を閉じ、ゆっくりと身体を回転
させる中尉の身体をエイラが支えた。魔道針の青白い光に照らされる少女の顔を無言で皆が見詰めた。
「海面からの高度が低いので、上空で位置した場合と比べて制限されますが……電波地平線より上ならば問題有りません。潜水艦の
進路の右二十八度方向、仰角五度距離三十七万メートルを飛行する貨物機を探知出来ました。確認できませんか?」
 一瞬戸惑った艦長が頷いた。通話機で指示を出す。ややあってサーニャが顔を顰め、魔道針が消えた。レーダーが一時的に最大
出力を出した為、その影響を受けたのだとエイラが説明する。すぐに顔が平静に戻った。通話機が着信音を立てた。
『レーダーより艦長。不鮮明ですが指示のあった空間に物体を感知。詳細は不明です。限界を超えています。機器が焼ける前に通常
出力に戻しました。以上』
 艦長が礼を言って通話機をおいた。
「凄い能力ですね……見張りを手伝っていただける?」
「夜間哨戒が主任務だったので……慣れています。その他探知はありません」

67 :
 頷いたサーニャは魔道針を再展開し、周囲をくまなく走査している。艦長が考え込む。見張り員は任務を忘れてサーニャとエイラの
横顔を見詰めている。
「解りました。お願いしましょう。でもここは寒い。風邪をこじらせて肺炎にでもなったら……治癒魔法で治るにせよ、辛い思いはする
必要がありませんからね、一定時間で艦内に戻り、身体を温めて下さい。その格好もなんとかしないと……」
 考え込んだ艦長が背中を向け、通話機を取り上げる。
「厚手の毛布を五枚、乾いたバスタオルを三枚、ワッチ帽三つ。以上を至急用意してくれ」
 艦長が向き直る。見張り員がようやく仕事を思い出したようだ。三人がコーヒーを啜るうちに、荷物が届けられた。
「まずお前達。この毛布を羽織れ。ありがとう」
 毛布を渡された見張り員が、それをきつく身体に巻き付けた。男気でコートを渡したが、既に身体が冷え切ってしまった二人が安堵の
溜息をつく。が、すぐに腕が動かせないので双眼鏡を持てないことに気付いた。ああでもないこうでもないと工夫を始めた二人を横目に、
艦長がミーナを手招く。
「中佐、失礼。カップを少尉に預けて、こっちに来て下さい」
 間近に寄ったミーナの頭に帽子を被せる。毛糸で織られたそれで耳まで覆われた。転倒したとき頭部を保護する目的もあるから、と
説明を受ける。続けてバスタオルをベールのように頭に掛け、首回りでそれを巻き付ける。羽織らせたコートを一旦脱がせ、袖を通させて
からしっかり首回りのホックを留めた。腹部に毛布を巻き付けてから、残ったコートのホックを留める。中佐も手伝おうとするが、揺れに
対抗するために片手はハンガー、もう片手は艦長の肩に預けているので何も出来ない。もごもごと礼を言うだけだ。立てた襟も止められた。
 続いて中尉。エイラが率先して手伝う。全て中佐と同様にした艦長が当惑の呟きを漏らした。
「リトビャク中尉。今気付いたんだが、帽子やら被っても問題ないのかな?」
 それまで黙っていたサーニャが小さく笑って応えた。
「大丈夫です。お尻も……有り難うございます」
 微かに首を傾げた艦長が頷いた。続けてエイラ。揺れに対抗できず、すぐに艦長の両肩に手を預けた。こちらも問題なく終了。
 作業を終えた艦長が、少し下に行くとだけ言ってラッタルを滑り降りていった。間もなく戻った艦長が、皆に小さい紙包みを配る。薄手の
ジャンパーのポケットから取り出したそれが皆に行き渡った。
「蒸かしたジャガイモ。ポケットの中に入れておくと暖かい」
 それだけ説明し、警戒対象を流木に限定する命令を下した。自らも双眼鏡を目に当てる。
 一時間半ほど経過して、ミーナ達は下に戻った。本来のレーダーに対空監視がゆだねられたわけだ。居合わせた乗員にコートを渡そう
とすると断られる。艦長の指示がありました、とだけ言われた。首を傾げつつ艦長室に戻る。美緒もトゥルーデも寝ていた。コートをハンガー
に掛けるが、巻きスカート状になった毛布はそのままとした。思い出してコートのポケットからジャガイモを取り出した。椅子に座って皮を
むき、囓る。表面は冷えていたが、中には温もりが残っていた。

68 :
 ぼんやりしていたミーナが控えめなノックの音で我に返った。慌ててタオルで口を拭く。ドアを開けると、掌帆長が三つの荷物を抱えて
立っていた。
「艦長の指示でこれをお持ちしました。湯たんぽとセーターそして毛糸の靴下です。お疲れ様でした」
 抱えていた荷物の束を一つ差し出し、『では失礼します』といって横の部屋に向かった。そこでもドアをノックする。タオルからはじんわり
と温もりが放たれていた。ドアを閉めて微笑む。湯たんぽ、ね。何年ぶりかしら。
 非番となった副長のウィラードは、ぶらぶらと士官食堂に足を運んだ。食事まで時間がある。シャワーを浴びてもよかったが、今は
お客様達が入っているようだ。カールスラントの大尉がドア番をしていた。ポーカーでもやって時間を潰し、飯を済ませたら寝ちまおう。
目覚めてからシャワーを浴びればスッキリ度合いも増すというものだ。
 ひょいと足を踏み入れた食堂には、先客がいた。扶桑の少佐だ。椅子に腰掛け、何も無いテーブルを見詰めて考え込んでいる。
よほど集中しているようで、ウィラードに気付かない。どうみてもポーカーに興じる雰囲気には見えない。
 暫く様子を見ていたが、身動きもしない少佐に軽く肩を竦めてからコーヒーを二つのカップに注いだ。ソーサーに乗せ、テーブルに
静かに歩む。少佐の前に一つを置いた。
「あ……副長、申し訳ない」
 明らかに慌てた声。眼帯をしているから、有効視界が狭められているのだろうな。
「いえ、私はここで静かにしています。続けて下さい」
 一番遠い場所に腰掛け、自分のコーヒーを啜る。少佐が自分に視線を向けずに探っているのを感じた。さりげなく席を立ち、本棚から
背表紙も見ずに一冊抜き取る。静かに腰を下ろして表紙を開いた。次の瞬間、声に出さずに罵りまくる。『スポック博士の育児書』 
何所の馬鹿がこんな本を持ち込んだ! もう一度本棚に向かうのは躊躇われた。目次を流し読みし、一番おもしろそうな章を選ぶ。
何時かは役に立つかもしれない。
 思ったより面白かった。一章を読み終えて本を閉じる。面白かったが、通して読む必要は今は無い。結婚どころか相手もいない。
冷えたコーヒーを流し込んだとき、例の少佐が俺を見ているのに気付いた。
「その本、面白いのかな」
 あちらは少佐だが副長待遇、そしてこの艦の乗員では無い。俺はまごうことなき副長。階級は別だが、まあ同格と見なせないことも
無い。礼を失しない程度に気軽に行くか。
「あ、これですか。そうですね、今まで興味すら持っていなかった分野なので、最初は戸惑いました。でも、退屈はしませんでしたね」
「なんという本ですか?」
 立ち上がり、彼女の前に本を置いた。口に出すのもはばかられる。

69 :
そのままコーヒーポットを取りに戻り、彼女のカップに継ぎ足した。自分のにも入れる。
「育児書とは驚きました。ご結婚を?」
「独身ですよ。予定もありません」
 言いながら苦笑してしまった。婚約者に逃げられた男だよ。それ以来、どうにも女が苦手になった臆病者だよ。ええ、忌々しい。
悪気が無いのは解るけれども……
「それなのに、勉強するわけは?」
「あー、育児を通して女性の心理が解るかも、と思いまして。結果、乳幼児の心理に詳しくなれました。女性心理は謎にしておけ、
ということでしょうか」
 少佐が吹き出した。つられて俺も笑ってしまう。笑うと結構キュートな人だ。実家のリビングに置かれた扶桑の藤人形を思い出した。
髪の毛を下ろして眼帯を取ったらそっくりじゃないのかな。子供の頃は、こんな綺麗な人が現実にいるわけが無いと思っていたのだが。
なんでか胸が痛む。なんだってんだ。
「少佐も読んでおかれるとよろしいかもしれませんね。では、私はそろそろ」
「お忙しいですか、よろしければ一寸意見を聞きたいことが」
「かまいませんよ。私で解ることでしたら、喜んで」
 大尉が少佐に『形式的』にでも頼まれて断れるかよ、くそ。
「手短に話します。先日の戦闘後、私は刀を捨てた。刀は扶桑では侍の魂として大事にされるものでね。その時は深く考えなかった
のだが、今にして恥じる行為だったと……」
 カタナ? ああ、肉切り包丁の超弩級。ほお、サムライの魂なのか? そんな物が何故家にあるんだろう……生活に貧すれば、
ってやつか。
「私は扶桑の軍人として誇りを持って戦ってきた。その誇りの象徴が刀だったと、今にして気付いてね」
「ええと。少し確認させて下さい。そのカタナは支給品ですか、それとも私物?」
「基本は私物扱いだよ。自分で購入する者もいるし、家に代々伝わる刀を持つ者もいる」
「お話の感じだと、少佐のカタナは由緒あるもののようですね」
 少佐が苦しそうに頷いた。先輩から与えられた物を一番大事にしているが、普段使いしていたカタナも制作者の名前の入った
よい物だそうだ。リベリオンとは文化が違うことを痛感した。歴史があるというのも難しいものだ。俺達は道具には左程執着しない。
まあ、この艦は別物だけど。
「戦闘後に捨てた、というのは?」
「飛行限界が近づいていて、重量物を捨てて身軽になる必要があったんだ。だから機銃も刀も捨てて……捨ててしまった」

70 :
 苦悩に満ちた顔。心が痛む。俺は艦長ほど人生経験も人徳もないけれど、なんとか軟着陸させられそうだ。彼女は仲間に相談出来ない
のかもしれない。さて、どうしよう。そろそろ食事に出向いてくる奴が……腕時計をちらりと見る。彼女がその意味を理解するように。
「少佐、場所を変えましょう。そろそろ食堂に人が来ます。でも二人っきりというのは不味いな……艦長私室に誰か居ませんか。
居てくれれば、そこで話が出来るかと」
「隊長が寝ている。まあ、中佐になら聞かれても恥ではないが」
 なら中佐に相談すればいいような気もするが? まあ、頼られて悪い気はしない。気持ちのいい少佐だしな。
「では、そこでお願いできますか」
 寝ていても同室者だ。胡乱なことを俺がするなら、同室者が居るときに行くわけが無いと艦長も解ってくれるさ。多分。
 少佐が先に入り、少し待ってから招かれる。バンクにはカーテンが引かれていた。中身が気になる。さて、何所に座ればいいかな。
椅子は一つだけだ。
「副長、椅子に座ってくれ。私は簡易ベッドでいい」
 頷いて壁ぎりぎりに椅子を置いた。万が一に備えて距離を置いた方がいい。バルクホルン君が乱入してきそうな予感がする。
何時かはあの大尉を口説く男がいるのだろうが、大変だろうな。さて、真面目に応えないと。
「もう一寸質問します。少佐のお国では、カタナは戦いの道具だった。合っていますか」
 少佐が小さく、しかし断固として頷いた。よし。
「戦いの相手は人だった。人間を斬り殺した。これは?」
 一瞬の躊躇いの後、また頷きが戻る。ここまではいいぞ、多分。
「少佐は人殺しの道具を崇め奉ったのですか?」
「……違う。それは違うよ」
「戦闘員、誇りを持って戦う戦闘員の名誉。その象徴がカタナ?」
 間髪を入れずに頷きが戻った。二重の意味で安堵する。
「大事な物を護る為に戦うのがサムライ。決して血に飢えた殺戮者ではない」
 まあ、俺達のイメージはそれだ。でも、彼女の嘆きを見ているとそれが違うような気がするんだ。異文化の奥底を理解するのは
難しいってことか。どこかの大学教授にこのネタ、売りつけてやろう。あ、艦長が適任だ。論文を書けば、海軍大学に転属できる
足がかりになるんじゃないかな。
「違う。侍は主君に仕える。主君は民衆を護る為に……だから結果として民衆を護る。今の軍隊と根本は同じだと思って欲しい」
「解りました。カタナはその戦闘専門、今で言う職業軍人の代名詞となった。多分、我々が着る制服のような存在なのでしょう。
では、質問を変えます。あなたは人を切る為にカタナを持っていたわけでは無い。相手も違えば目的も違う。今あなたがカタナを
携帯するのは、人を護る為、生かす為。違う?」

71 :
「……それで合っている」
「あなたが今回、武装と共にカタナを投棄したのは何の為ですか」
「仲間を護る為だ。でも、結果として刀まで捨てなくても!」
 顔をうつむけた少佐の膝に水滴が滴った。嗚咽と共に肩が震える。
「一寸失礼。少佐に薬を作ります」
 彼女の答えを待たずに椅子から立ち上がった。ストッパーの付いた戸棚から靴箱を引っ張り出す。その中に隠していたブランデーの
封を切った。記念の品だが、こういうときこそ使わないと。それをコップに少量注ぎ、洗面所の水で割って彼女に押しつけた。
「さ、少しこれを飲んで。苦悩軽減の薬です」
 返事を待たずに背を向け、瓶をしまって棚に戻した。
「これは酒のようだが。いいのか?」
 臭いを嗅いだ少佐がきつい目で俺を睨む。手をひらひら振って応えた。
「違反ですよ。でも、薬が必要になるときもあるんでね。絶対酔えないほどに薄めたから、どうぞ。ただし、この一杯だけですよ」
 艦長が絶対に開けない場所に隠しているから安全で、と説明すると少佐が苦笑した。遠慮がちに少し口に含んだ。そう、今は飲んだ
方がいい。46度の酒を三十倍に薄めたんだ。小学生でも大丈夫さ。
「あなたが少佐にまで昇進したのは、ウィッチとしての能力が高いからです。戦場歴が長くとも、少佐に成れる人は少ない。つまり私の
ような万年大尉とかとは格が違うわけ。一方、経験の少ない弱者がいる。あなたは弱者が飛行不能になることを畏れ、その時に少し
でも手助けできるように身軽になった。違いますか? 思い出して下さい。きっと少佐はそれだけしか考えていなかった」
 反応は無し。両手で握りしめた安物のグラスを見詰めて俯いている。
「これからは私の回想です。子供の頃、親父に連れられて森に鹿撃ちに行きました。で、私は崖から転落しちまってね。大怪我は
しなかったんですけど。その時、親父が自慢していたライフルを放りだして私を助けに来てくれたんです。ご自慢のライフルは傷だらけ
になっちまいました。スコープも壊れてね……頑固で無口な親父でした。可愛がられた記憶は無いな……でも、今にして解るんですよ」
 くそ、全く反応が無い。見当違いだったのか。
「少佐も同じ事をしたんですよ。大事な仲間を護る。それしか頭に無かった。だから躊躇無く投げ出した……自分にとって、もっと
大事な物が解っていたから」
 おい、なにかリアクションしてくれ。もう突っ走るしかないけど。
「まあ、結果オーライとなると迷いがでるのが人間です。今の少佐がそれ。敢えて言います。気にしない。きっとそのカタナを作った
人も解ってくれます。喜んでくれるでしょう。道具は使う人次第ですよ」
「副長、本当にそう思うのか」

72 :
 面を上げた少佐が真っ直ぐに俺を見詰める。赤くなった眼が不憫だ。
「私は嘘は……苦手なんですよ。騙すのも騙されるのも嫌だ」
 また、昔の記憶が甦った。裏切られるのは嫌だ、と言いたいところだ。
「有り難う、副長」
「ダニー。そう呼んでくれると肩が凝りません。出来たらそう呼んでください」
「有り難う、ダニー。私はミオ」
「オケ、ミオ……ミオ、か。素敵な響きだ。扶桑の言葉だからかな」
 返事が無い。なんぞ、とよく見ると、彼女は壁にもたれて寝息を立てていた。顔が真っ赤だ。あんな代物で酔えたのか? 経済的
な人だ。あっけにとられて只見詰める。可愛い寝顔だ。眼帯を外したら、もっともっと可愛いだろう……
「ウィラードさん、グラスを取って、彼女を寝かせてやって下さい」
 飛び上がりそうになった。そうだ、中佐が居たんだった。横を見ると、カーテンが少し開いていた。恥ずかしそうな中佐の顔だけが
覗いている。この人も美人だが、個人的にはミオだな。頷いて立ち上がり、ミオのグラスをそっと外した。床にグラスを置いて、ミオを
横たえる。忘れようとしていた記憶が、彼女の軽いが暖かい身体の手応えで甦る。一生、忘れることが出来ないのだろうか。上書き
するしか道が無いのかもしれないが、女と交際する気力は尽きた。わがままは女の本性、などと知ったような口を利く連中は、俺には
異星人としか思えない。互いにわかり合えないなら、そんな伴侶はいらねえ。
 毛布を掛けて振り向くと、強張った顔のバルクホルン大尉と目が合った。ノックも無しに入るとは。ああ、ここは彼女達の部屋になって――
「説明してくれるか? 大尉どの」
「『よろず人生悩み相談』だよ。中佐が証言してくれる」
 同格なので気が楽だ。それに気も立っている。おざなりにバンクに手を振ると大尉の目がそっちに向いた。
「トゥルーデ、間違い無いわ。落ち着きなさい。とても大事なことを話していたの」
 トゥルーデってなんだ? この石頭のように過ごせば、心をかき乱されることも無いのだろう。堅物になろうか――
「ダニーボーイ、ここで何をしているのかね」
 飛び上がって直立不動。波状攻撃かよ、おい。艦長に気付かれないように、爪先でグラスをコットの下に押し込めば……くそ、
見つかった。それを取り上げた艦長が、臭いを嗅ぐ。終わった。
「全く」
 洗面台にぶちまけてくれた。無言で戸棚から秘蔵の品を取り出し、それも洗面台に注ぎはじめる。嗚呼、くそ! 知っていたのかよ! 
ご丁寧に振らないでいいから! 一滴くらい残してくれ!

73 :
「少佐を泣かしたのは貴様だな。紳士ならハンカチで顔を拭いて、彼女の目を濡らしたタオルで冷やしてやれ。それとだ……」
 空き瓶を俺に押しつけた艦長が、別の戸棚からボトルを取り出して俺に押しつけた。
「ノンアルコールのワインだ。ブドウジュースともいう。レディにこの艦内で振る舞うのは、これだけにしろ。上陸後は好きにしろ」
 そう言い放った艦長は、机の引き出しから書類フォルダーを取り出して黙って去った。中佐と大尉の溜息が重なった。俺も止めて
いた息を盛大に吐き出したが。お、眼帯外して冷やしてやらにゃ。艦長命令は絶対ですとも。
 鼾と歓談の声が入り交じった兵員室に副長が顔を出した。皆が一斉に注目する。
「諸君、傾注。起きている者は身なりを整えろ。寝ている奴には毛布を掛けろ。医療ウィッチご一行のお越しだ。掛かれ!」
 一瞬静まりかえった兵員室に嵐が吹き荒れる。
 大慌てでピンナップ雑誌を隠す者。
 慌てて作業ズボンに手を伸ばす者。
 掌につばを吐きかけて髪の毛をセットしようと試みる者。
 周囲の喧噪で目が覚めた連中は、上官の査察と勘違いして慌てる度合いが激しい。
 一分ほどで騒ぎは止んだ。皆、直立不動で互い違いに整列している。面白そうに見ていた副長が、満足げに頷いた。
「五十秒だな、ご苦労。では、全員バンクに戻れ。姿勢は楽にしてよし」
「あの、副長。寝っ転がっていいんですか? その、失礼では?」
「お前達が内心期待していることなんぞお見通しだ。間近でご尊顔を拝したい、運がよければ目が合うかも。図々しい奴は偶然手が
触れるかも、とか期待している事をな。鼻をひくつかせている奴も居るじゃないか。甘い考えは捨てろ!」
 落胆の声が渦巻いた。副長の顔が引き攣る。怒りでは無く、笑いを堪えているためだ。
「というのは冗談だ。狭い通路に突っ立っていられると邪魔なんだ。ほれ、バンクに収まれ! 声を掛けられたなら。万が一にしても
皆無ではないぞ、その時は聞かれたことにのみ返答を許可する。艦長と501司令との間で合意が為された。ただし、お前達から
積極的に会話を試みることは禁じる。これに文句がある奴が居るなら、魚雷の代わりに射出してくれる。不満のある者は挙手! 
無い奴は寝ろ!」
 一斉に皆がバンクに飛び込んだ。仰向けで無く、横に寝て肘を突いて視界を確保しているのは共通の姿勢だ。通路が綺麗に
空いたのを確認した副長が後ろに声を掛けた。彼の肩が邪魔して見えないが、何人か居るようだ。副長を先頭として、一人ずつ
兵員室のハッチをくぐり始める。隊列は副長を含めて五人だった。最後尾には、鋭い目で辺りを見回す一人の大尉。彼女だけが
名乗る。
「カールスラント、バルクホルン大尉。特技、徒手格闘全般」
 落ち着いた声が兵員室に響いた。が、すぐに前を歩く金髪の少女が口を開く。

74 :
「特別サービスで補足説明。カールスラント軍随一の石頭! 冗談が通じないから気をつけ――」
 鈍い音が響いた。歩いていた者は足を止めて振り返り、自分が殴られたかのように顔を顰めて肩をすくめた。兵員室の連中は唖然と
して、頭を押さえて屈み込んだ少女と、顔を真っ赤にして拳を握りしめた大尉を見詰める。背後で起きたことを見ることも出来ず、予備
知識もない副長だけがあっけにとられた顔をしていた。
「医療ウィッチが配属された理由がわかった! あの中尉に必要だからだ!」
 誰かの呟きというには大きすぎる独り言が皆の耳にはっきり聞こえた。すかさず、誰かが応じる。
「気の毒に。ああ、同士討ちでもパープルハートが貰えるのかな、カールスラントでは?」
 一斉に笑い声が起きる。一番大きな笑いは、頭を押さえていた少女だった。
 ニールセン軍曹の追加治療が始まると少女達も飽きたのか、周囲の人と会話を始める。初めのうちは慎重に言葉を選んでいた
乗組員も、やがて開けっぴろげに話し始めた。勇敢にも石頭大尉を会話に巻き込む剛の者も居る。礼儀正しく返されるので、大尉
も無視できないようだ。
 治療が終わって戻る際、彼女達は両手に一杯のプレゼントを抱えていた。高価な物では無い。衣服でも装飾品でも無い。只の
シャンプー、ちょっと高価な石鹸。それに化粧品。艦で不自由していないか、と心配された彼女達が一寸漏らした不満は、石鹸で
髪の毛を洗うが故に、髪の毛が軋みがちになるというもの。それに対する皆の気遣いがプレゼント。家族や恋人への土産に、と
買い込んだ物を我勝ちに提供した。暇なら本やゲームを貸すという申し出も相次いだ。帰り道、また最後尾を選んだ大尉がハッチの
前で足を止めた。頬を染めて皆に礼を言う。それに対する応えは、皆の優しい微笑みだった。慌てて回れ右をしてハッチをくぐり、
通路を早足で歩く。
「あんな妹、欲しいよなあ」
 微かに耳に届いた誰かの声を聞いて、大尉の頬が更に染まった。

 元艦長室にミーナ、坂本、バルクホルンそしてシャーリーが集まっている。事務机の上にはシャンプーの他に化粧水等の化粧品、
そしてクッキーの缶などが山積みだ。
「受け取っていいものかしら」
 椅子に腰掛けたミーナが首を傾げた。背もたれに背中を預けること無く、背筋を伸ばして浅く座っている。他の三人は思い思いに
バンクとコットに腰掛けていた。
「私が睨みを利かせても、治療とは関係の無いことを喋ってしまう。私の働きが足りなかったかもしれないが、やはり許可は出す
べきでは無かったかと思う」

75 :
「助けて貰った恩がある。友好関係は大事だろう」
 バルクホルンに坂本が返す。
「別に問題ないと思うけど。それより、わたし達も部屋と食堂そしてシャワールームだけの生活は限界が見えてきたと思わない? 
寝るのも飽きているのが現実だし。青空が恋しいよ。ああ、思いっきり飛びたいなあ」
 シャーリーがさらっと言う。三人が渋々頷いた。副長と航海長の部屋で過ごす隊員皆が退屈に苦しんでいる。貸して貰った
トランプゲームをやり尽くしたそうだ。大体、あのハルトマンが寝るのに飽きたと騒いでいることが危険信号だろう。艦長室の
住人も似たり寄ったりだ。部屋で寝るのと、部屋で過ごすのとでは全然違う。
「でも、男性兵士との交流は問題があります。私にはあれが最大限の譲歩よ」
「私的交流できない現実。いいんじゃない?」
「どういう意味かしら、シャーリーさん?」
「一対一でこそこそ、とかは無理でしょ。ここじゃ何所でも誰かの目があるんだし。警戒しすぎる必要もないよ。もっと気楽にやらない?」
「まあ、それもそうだな。トイレでさえ複座で鍵も無い。鍵つきは携帯兵器ロッカーだけだろう。密会には全く適さないな」
「少佐! そんな甘い事は!」
「大尉、我々はお客様だ。この艦の厚意で救助してもらった立場だ。その部外者が余り高慢な態度を示すと、住人が面白い
わけも無いだろう」
「リベリオンの基本は『フレンドリー』だからさ。差し伸べられた手を握るか、ふりほどいて孤立するか。どっちがいい結果になるか
は、考えるまでも無く答えが出るんじゃ無いの」
「それはそうだけど……私達だけが女性なのも事実よ、シャーリーさん」
「一人っきりじゃないよ。それに乗員の雰囲気は荒んでいないでしょ。難しく考えずにさ、一蓮托生の家族だと思えばいいじゃない」
 シャーリー以外が考え込んだその時、ドアがノックされた。皆の目がドアに向く。ミーナが応答した。
「はい?」
「副長です。掌帆長を連れてきました。兵員室を代表して、皆さんにお渡ししたい物があるとか。入室してよろしいですか?」
「はい。どうぞ」
 いいざまに椅子から立ち上がる。三人も立った。ドアから入った副長と掌帆長がミーナに敬礼する。答礼を貰って右手を下ろした。
副長から頷かれた掌帆長が中空を見つつ口を開く。
「負傷者を治療していただき、有り難うございました。皆、感謝しております。その気持ちをお渡ししたく。お受け取りいただけると
幸いであります、サー」

76 :
 ズボンの尻ポケットから布袋を取り出した。それを受け取った坂本が見た目より重量のある袋に驚きながらミーナに渡す。彼女は
それを机の上に置いた。袋の中には真水シャワー用のコインがぎっしり入っていた。
「女性の皆さんには、十秒では塩をすすぐのは無理かと。塩が残ると髪の毛が痛むそうです。本当は花束とチョコレートと考えた
のですが、あいにく在庫がございません。この程度しか出来ないことが残念です」
「有り難う、曹長。でも、こんなにいただいては、皆さんの分が……」
「我々は海水で十分であります。どうぞお使い下さい、サー」
「中佐、私からもお願いします。皆の感謝の気持ちです」
 黙っていた副長が口を挟んだ。ミーナが真剣に考え込む。やがて、面を上げた。
「ありがとう。有り難く頂戴します。皆さんにもよろしくお伝え下さい」
 嬉しげに笑った二人がドアからでた。やがて、閉まったドアの向こうから歓声が聞こえた。
「こんなに気遣って貰って……」
 袋に掌をおいたミーナが呟く。
「いい連中だろ? とりあえずさ、私達もお返ししようよ」
 皆がシャーリーを見た。
「芳佳と相談してね。料理を私達で作って、皆に食べて貰おうよ。隊長から艦長に材料を少し使わせて貰う許可、とってくれないかな」
「ええ、いいですけれど……私達も手伝えるかしら」
「いや、キッチン狭いから。芳佳とリーネそれに私でやるよ。とりあえず、材料はと」
 メモ帳にすらすらと書き始めた。皆が興味深げにそれを見る。
「こんなものかな。夜間、浮上航走中にやりたいんだ。煙が出るからね」
「ええ、艦長にお願いしてくるわ。それで、何を作るつもりなの?」
「ミートグラインダーが有ったからさ、冷凍牛肉を挽いて、牛肉百パーセントのハンバーガーを作ろうと思うんだ!」
 三人が微かに頭を傾げた。
「ふうん、楽しみね。私達は全く手伝えないの?」
「配膳をお願い。流れ作業でばんばん作るから! もうすぐ浮上かな。そのまえに肉を解凍したいから、許可は早めに貰いたいんだけど」
「解ったわ。じゃあ、私は艦橋――じゃなかった、発令所に行ってきます。何人いるかも正確に聞いてくるわ」
 ドアが閉まってから一瞬おいて、バルクホルンがシャーリーに向き直った。
「なし崩しを狙っているな、リベリアン?」

77 :
「そんなことは無いよ。アレをごらんよ。高価な物じゃ無い。でも気持ちがこもったプレゼントだ。贈り物をしてくれる理由は? 
私達を受け入れてくれたからさ。なら、仲間同士で楽しくやった方がいいじゃ無いか」
 屈託無く笑ったシャーリーに、坂本は悪戯っぽく微笑んだ。
「油の臭いが髪の毛に付くから、私達は調理を終えてからシャワー浴びる。順番、先に譲るよ。で、どのシャンプー使う? 
早い者勝ちでいいのかな」
「待て。チャンスは若い者からだ。大尉、皆を呼んできてくれるか?」
 頷いてバルクホルンが部屋から出て行った。坂本がシャーリーに小声で言う。
「うまく乗員と隊員の交流を図る作戦を立ててくれるか、シャーリー。怠惰な生活は士気を落とす。こういうことは君が適任だ。
お祭り騒ぎは困るがな。私も援護する」
「ん、案は既にあるから心配しないで。私が隊長に提案するとき、隊長が反論する前に絶賛してくれればそれでいいよ。少佐の
意見を聞いた後では、隊長も自説を曲げるさ」
「そして、バルクホルンはミーナの判断に従うと。だろう?」
 頷き合う二人の笑みは多少違う。一人は満足げに、もう一人は少し黒い笑み。
「許可が出たわよ。材料もキッチンも自由に使っていいって。あら?」
 戻ってきたミーナは用件を言ってから、机の上の変事に気付いた。山となっていた物品の多くが消えている。
「そのシャンプーと化粧水はミーナ用に。一番最初に皆で選んだ。後は若い者から選ばせた。菓子も同様に分配したが、それでいいだろう?」
「サーニャとリーネがそれが絶対にいいと勧めたんだ。私も同感だ。香りが素敵でね」
「有り難う……あ、バラの香り!」
 蓋を開けて香りを確かめたミーナが明るく微笑んだ。
「綺麗だ。紅い薔薇みたいだよ」
 ミーナが真っ赤になる。
「黄色い薔薇と少佐が言えば、黄色くなったのかな」
 シャーリーの呟きに、それでは黄疸だとバルクホルンが応えた。
 おぼつかない足取りで歩いていた艦長が、ドアを貫いて聞こえた笑い声に足を止めた。一瞬浮かんだ微笑みはすぐに消えた。
退屈はしていないようだな、と無表情に呟いてまた歩き始める。
 どこかにハンモックはないものか。鉄板の上で寝るより、背中には優しいだろう。コーヒーを飲んでから、耐えられる限界の熱い
海水シャワーを浴びるか。背中が少しは解れるかも……肩を叩かれて我に返った。振り向くと軍医が微笑んでいる。そのまま、
医務室に連れ込まれた。

78 :
「皆起きてる? 作戦会議始めるよ」 
 元副長/航海長室に飛び込んだシャーリーが高らかに告げた。あっけにとられた眼が一斉に彼女に向けられる。タロット占いを
していたもの、其れを興味深げに見ていた者、寝転がって漫画を読みつつクッキーを頬張っていた者、二人で仲良く別々の本を
読んでいた者。入手したドライヤーとヘアブラシで暴れる髪の毛の鎮圧に励んでいた者。寝くたれていたのも一人。
「出撃? ストライカーの整備出来たの、この船で?」
 黒髪の少女が漫画を放りだしてぴょんと立ち上がった。唇の周りにはクッキーの滓がへばりついている。
「いや、戦闘任務じゃない。我らがナンバー2からの指令だよ。乗員と節度ある健全な共同生活を楽しもう、ってね」
 三人だけが顔を強張らせたが、他は興味深げにシャーリーを見た。いや、エイラも傍らの少女の反応を見てそちらに回ったので
四人か。勢力はほぼ拮抗。
「何するんだヨ。サーニャが怖がることは駄目だゾ」
「サーニャは何もしないでいいよ。エイラの側にくっついていればいい。さて、エイラ。君がキーパーソンだ! 特殊技能持ちとして
私が決めた!」
 人差し指を突きつけられたエイラが、思わず手にしたタロットカードをぶちまけた。構わずシャーリーが続ける。
「エイラの特技、タロット占いで親睦を図る。ただし、人の生死だけは決して占うなよ! 他の人だけど、その周りで適当にやって
いればいい。のみこめたよね。質問ある?」
 唖然として聞いていたエイラが、傍らの少女に目を向けた。すぐに頭を振る。
「駄目だッテ! サーニャが怖がる! 駄目ダメだめ!」
 ふふん、とシャーリーが鼻で笑う。
「エイラ、タロット占いが当たらないことを心配して逃げるんだろ、サーニャを理由にしてさ? そりゃちょっとフェアじゃ――」
 エイラの顔が一気に赤くなった。眉毛が山の形となる。
「そんなんじゃないヨ! サーニャが男に怯えるって言っているんダ!」
「エイラが横にいればサーニャだって大丈夫さ。要は当たらないと噂になるのが怖いんだ。じゃ、別の人……快活で、思慮深くて……
いや、皆その点は問題ないんだ。そう、人気者になれる特技というか特性……」
 考え込むシャーリーが、エイラを完全に無視して他の人を順繰りに眺めていく。見られた人は思いきり拒否の反応を示すが、
ハルトマンとルッキーニだけはうずうずしている。シャーリーの目が二人を素通りした。ハルトマンが首を傾げたその瞬間、
「わたしの占いを馬鹿にすんなーーーーーーー! やる! 私の実力見せてやる!」
「はい、決まった! サーニャ、アシストしてやってな〜」
 鼻息荒く頷いたエイラの袖をサーニャが強く引っ張った。

79 :
「エイラ……ばか」
 愕然とするエイラとあきれ顔の飼い主を放置して、シャーリーが続けた。
「次の作戦。これは直ちに決行される。題して『救助してくれてアリガトさん』だ!」
「長いですわよ、その作戦名。締まりも無いし」
「そう? んじゃ『救アリ』で。料理を作ることにした。艦長の許可も得たからさ、リーネと宮藤、手伝ってくれよ! 先ずは肉を解凍
する。私が機関室から帰ったら、調理開始」
 指名された二人が安堵の顔で頷いた。
「先の話は少佐を交えて私が隊長とするから、今は沈黙して。特に石頭には言っちゃだめ。話がややこしくなるからね。んじゃ、
ちょっと着替えるか」
 皆の面前で服を脱ぐシャーリー。あっけにとられた皆に、彼女が平然と微笑んだ。そのままズボンまでも脱ぐ。宮藤の目が
怪しく輝いた。それに気付かないのか、シャーリーは、棚から作業服の上下を取り出す。士官以外の乗員が着用している服
そのものだ。
「失礼〜。なあ、ハルトマン。ズボン貸してくれ!」
「いいよ〜」
 あっけらかんと応えた彼女もぱっぱと脱いだ。其れを渡されたシャーリーが二つのズボンを片手ににんまりと笑う。
「これでよし。とりあえず洗っとく?」
「シャーリー、わたしの着替えは?」
「ごめん、後で持って来るからさ、毛布巻いて我慢してて! 宮藤とリーネ、肉の解凍任したよ!」
*************
 長ズボンを履き、ダンガリーシャツのボタンが弾けそうになっている胸元を無視したシャーリーは、満足げに足下の装置が
作動する様を眺めていた。怪我をするから手伝いたいならこれを着ろ、と押しつけられた作業服は油に塗れている。顔もだ。
「ほら、機関長。ゲップが五分に一度から、十分以上ゲップ無しになったよ」
 周囲に響くディーゼル機関の雄叫びに抗って叫ぶ彼女に、反対側に立つ男が親指を突き立てた。
「たいしたもんだ! よく思いついたな!」
 にんまりとシャーリーが笑う。二人揃って少し静かな場所、つまり艦首側に移動した。その背後で女物のズボンが二つ、時
たま作動するアームに連結されていた。伸びて縮んでまた伸びる。滑らかに作動している。
「へへっ、魔法繊維の特性が鍵となりました。他に何か不調な装置、ある?」

80 :
「いやいや、今のところ、あの燃料ポンプだけが駄々を捏ねていたんだ。ありがとうよ」
「礼なんていいって。頭の体操ができたってものさ。あ、そうだ。もし可能なら……その、さ」
「ん? なんだい、シャーリー」
 ちょっと躊躇していた彼女が、照れくさそうに口を開いた。
「えっとさ、この作業ズボンの予備があったら八本、くれないかな」
「八本? まあ、そのくらい用意できるが。何に使うんだい?」
「いやぁー、深いようで浅い理由なんだけどね。あまり説明したくないかなー」
 考え込んだ機関長の顔に、困惑をかくすかのような苦笑いが浮かぶ。
「あー、やっぱりあのズボン、シャーリーのか! なる程、二人だけ作業ズボンにするとバレバレだ。だから、御五月蠅い士官達以外に
履かせて煙に巻くわけだな。で、もう一人は誰だよ」
「さぁね?」
「助けて貰って詮索するのも野暮ってもんか。というより、女物のズボンがありゃ一番だろ?」
「え、あるの?」
「おう、まかしとけ。下士官連中に声を掛けりゃ、大概の物は出てくるってもんだ。あんたらが使うような小難しい仕掛けは無いけどよ」
「わーお、助かるよ!」
「彼女へのプレゼントって奴さ。だから、どういう物が集まるか責任は持たないぜ」
「お? というとさ、もしかして前がチョウチョとか!」
「お前さん、結構オヤジ趣味だな。バタフライもどきなら俺も持ってるぜ。彼女へのプレゼントだけどよ、今困っている人の方が
大事だからな」
「お、試してみたい!」
「あげてもいいけど、それを付けたところを見せてくれよ?」
「ダーメ! 想像して我慢しなよ。ってか、彼女に失礼だろ、おい!」
「ダハハ! 冗談だよ。婚約者なんだわ。おい、コーヒーにしようぜ」
「ありゃ? なあ! 写真見せてくれよ、大尉さんってば!」
 二人の声が遠ざかったのを確認した機関兵が装置に群がった。騒音に混じって口笛が連続して響く。
 三十分後、着替えとコーヒーを済ませて戻ってきた機関長が爆笑する。燃料ポンプ周囲には、立ち入り禁止のロープが幾重にも
設置され、さらに絞首刑のロープが括り付けられていた。
「傑作だ!」

81 :
 艦長私室に遠慮がちなノックの音が響いた。濡髪をタオルで拭いていたミーナが、シャツのボタンを留めて胸元を隠す。艦長から
提供された士官用シャツだ。着替えが無いので止む無く長ズボンとともに着用しているが、上下ともだぶだぶ。シャワーの際に
『洗濯』したズボンやシャツを防寒コートで隠す。
「済みません、グランドです。航海日誌をつけたいのですが」
「どうぞ、こんな格好で失礼」
 ドアから顔を覗かせた艦長が、一礼して部屋に入りドアを閉めた。引き出した椅子に腰掛けて、棚から分厚いフォルダを取り出した。
万年筆のキャップを外す。澱みなくすべるペンの音を聞きながら、ミーナは静かに髪をタオルで擦った。集中してペンを走らせる男の
横顔をじっと見る。無精ひげが目立つ顔には疲労の影が濃い。そっと立ち上がったミーナは、食堂からコーヒーを二カップ持ってきた。
テーブルの端に置く。
「有難う、中佐。カフェインが燃料なので、助かりますよ」
 一切目を向けること無く礼を述べる艦長の背中にミーナは微笑んだ。目を周囲に向けないよう、自制しているのがはっきり解る。
三十代になるかならないかの青年士官なのに堅い人だ。まあ、そうで無ければ昇進の階段から蹴り落とされていただろうが。
実績そして私生活の両方が評価対象。カールスラントと扶桑では血筋というのもそれに加わるけど、リベリオンでは違うと聞いた。
 ややあって、万年筆のキャップを締めた艦長がソーサーに手を伸ばした。静かに啜った艦長が、微かな溜息を漏らす。
「クリームと砂糖入りか……久しぶりだ」
 微笑んだ艦長に、ミーナも微笑む。ようやく艦長がミーナに目を向けた。顔以外に視線を向けないようにしている。急に髪の毛が
気になった。さりげなく手櫛で整える。その仕草が汚らわしい様な気が急にした。慌てて手を下ろす。
「お砂糖とミルクを入れないと、胃を悪くしますよ?」
「眠気覚ましが優先になってしまうんですよ。これを飲んだら美味いという言葉を思い出した」
「私は砂糖とクリームを入れただけですけど。でも、コーヒーに塩を入れるというのは吃驚しました」
 二人が声を合わせて笑った。最初はその味に戸惑っていた彼女達も今は慣れてしまった。紅茶が無いのだから、リベリオン海軍式
コーヒーに慣れるしか無かった。塩をポットに一つまみの三分の一程度入れるだけなのだが、味が劇的に変わる。
「海軍には長いのですか?」
 言ったとたんに馬鹿な質問をしたことに気付く。若いこの士官は叩き上げだ。艦長は気にせずに応えてくれた。
「ダイナモ作戦以前からです。そのころは駆逐艦でしたが、今と同じで戦局には全く役に……中佐も長いのでしょう?」
 馬鹿な私を庇ってくれた……悪い気はしない。それにネウロイ相手ではどうにもならないことだ。男に子供を産めというのに
等しい。でも、だからといってこの人は納得していない。急に名前を知りたくなった。

82 :
C

83 :
「ミーナと呼んで下さい。私も貴方を名前で呼ばせて貰いたいの。いいでしょう?」
「上級者の優しい言葉には従いますよ、ミーナさん。ケリーです」
「素直な人は好きですよ、ケリーさん。ええ、ずっと……事の起こりも忘れてしまいそう」
「きついですよね、実際。ま、頑張り続けりゃ先が見えますよ、きっと」
「その日が来るかしら……」
「……大学で教わった事を思い出した」
「大学で?」
 アナポリスかと思っていたミーナが怪訝な顔になった。海軍大学も有ると聞くが、そこに行くのはある程度昇進した提督予備軍だとか。
なら、ケリーは違うと思うのだが。それに気付いた艦長が笑う。アナポリス出は副長達で、自分は奨学金目当てで訓練を受けた動機の
不純な不良士官だ、と説明する。
「NROTC上がりなんです。八年間の勤務で終えるつもりでしたが、戦争ですから。歴史……考古学か、その教授がこういっていた。
『いくつもの文明が芽生え、栄え、そして滅んだ。その試練を耐え、生き延びたからこそ未来を人類は掴めた。これからもそうだろう、
諦めた時には種の滅ぶときだ』ってね」
「試練、ねえ……」
「言葉にすると軽いですね。でも、後世の歴史家には小競り合い程度でも、その場に居る俺達にはギリギリ、そして辛過ぎる……」
 電気モーターの推進音と、空調のファンの音だけが二人の間に響いている。二人はその音を遮るのを恐れるかのように口を
閉ざした。電動操舵機の作動音が艦長の物思いを中断した。
「ミーナさんも最初から職業軍人希望で無かったわけですね。ミーナさんの夢、教えてくれますか?」
「今は……生き残る事。仲間も、自分も。昔は……忘れてしまいました」
 言いよどみ、結局逃げた自分を悲しく思う。もう、歌を学ぶことは――
「今を乗り越えれば、また夢を追って……夢が実現する時が来るよ……その為に、みんなで歯を食い縛って頑張っているんだから」
 殴られたような気分になった。奥歯をかみしめて涙を堪える。その日が本当に来るのか。
「ドリーム・カム・トルゥ……そうなるといいのですが。艦長の夢は?」
「ケリー?」
 小首を傾げて謝るミーナの笑顔を艦長が見つめた。その目が自分を見ていないことに気付いたミーナは内心戸惑う。すぐに艦長が戻ってきた。
「歴史を教える教師……考古学もやりたい。真の姿を知りたい」
 質問は聞こえていたけれど、彼の脳裏に浮かんだ何かがそれよりも大きな事だったのか、と内心呟いた。なにか私が鍵になる
言葉を言ってしまったのかもしれない。私が涙を堪えた事とは違うだろう……。

84 :
「真の姿?」
「人の営み……文明の程度は違っても、きっと――昔の人も変わらなかっただろうって。そう思うんだよね。何かの縁で出会った
男女が、家族になって、子孫に次代を繋いで。まあ、細部まで知ることは出来ないだろうけれど……互いを愛する気持ちがずっと、
ずっと続いて今に至って、これからも続くって。文化文明はその余録」
「何処まで続くのかしら?」
「……空間と距離を超越する時まで。あ、笑わないでくださいよ、ミーナさん」
「ううん、違うの。ごめんなさい……ええとね、貴方の話を聞いたら、すっと軽くなったの。私の心がね。私は近視眼的に考えすぎて
いるって解ったの。空間と距離を超越ってもしかして、他の太陽系?」
「……うん。人類が諦めなければ、他の恒星系にいけるのかなってね」
「そうなるの?」
「多分……一つだけ、絶対的な条件があると思うけれど」
「条件?」
「国籍や民族に囚われない、広い心を持てること」
「広い心、ね……難しいものですよね」
「アメージングストーリーを読みすぎた、空想好きの馬鹿が言う事だと思ってください。現実には難し――」
 認めて欲しくない。彼の言葉を遮った。私の隊では上手くやっている。
「いいと思う……いつか、きっとそうなるわよ。いえ、そうなって欲しい」
「うん……僕らの曾孫の世代かな」
「それでも、繋がる。未来に……ね、俺さん。貴方のご家族は?」
「両親は健在。早く恋人に会わせろと騒いでるよ。あと、妹が二人」
 微かな笑みが艦長の顔に浮かぶ。それにめざとく気付いたミーナも微笑んだ。
「あら、妹さんが好きなのね。妹さんが気になるの?」
 ミーナの微笑みに釣られた艦長が声を出して笑う。
「いやいや、幸せになってくれれば、それでいい。もうすぐかな」
「もうすぐ?」
「ボーイフレンドが出来たとか、手紙で教えて貰ったんですよ。いい奴だといいんだが」
「あらあら、妹さんが選んだ相手だもの、大丈夫よ。ケリーには?」
 顔を強張らせた彼が床を見詰めた。失敗に気付いたミーナが口を開く前に、静かに艦長が口を開いた。

85 :
「ダートマス空襲で……いや、恋人じゃない……付き合っても居なかった。手紙を交わす間柄でも無い。彼女にとっては、大勢の
中の一人ですよ。顔を覚えて貰えたのかも怪しい」
 苦笑いで終えた艦長に、ミーナの居心地が更に悪くなる。
「……ごめんなさい」
「いや、もう……素敵な人でした。笑顔が好きだった……」
「……私も同じ……恋人じゃなかったのかもしれない。でも、大事な人だった」
 無意識に出た言葉に自分自身が驚いた。別に傷口を舐め合いたいとは思わない。なんでだろう。
「そう思えるなら、そういうこと。そうでないなら、忘却してしまうでしょう」
「ええ……忘れることは出来ません」
「それがいい……その人はそれを望んでいる、私はそう思う」
「ええ。その人ね、私がウィッチ隊に志願した時、自分も戦うって」
「……彼も君と戦いたかったんだよ」
「その気持ちを忘れたくない。私達だけじゃない、みんなで戦う、戦って抜く、そして……そうしていれば……」
「……すぐの未来が、遙かな未来に繋がる」
 小さく頷いた。すぐの未来。ネウロイ戦への勝利。でも、死んでしまった人は決して生き返らない。その時、私は何を目的に生きれば
いいの……ケリーは何を言いたいの……大学に行けなかった私には解らない。私の世界は広いようで狭い。
 静かにカップを乗せたソーサーを机に置いた艦長が立ち上がる。
「長居してしまった。コーヒー、有り難――」
「あの、もうちょっと……お話しません? 忙しいですか?」
「まあ、二十四時間うろうろ体制だから……ちょっと待ってくれるかな」
 ミーナの頷きをうけた俺が、インターカムで司令塔に自分の居場所を告げるのを見て安堵した。もうちょっと話をしたい。返答に
割り込んだ軍医が、休息しないなら飯に薬を盛るぞ、と騒ぐのを無視してスイッチを切ったケリー。思わず笑ってしまう。
「有難う、ケリーさん。その人のこと、話してくれる?」
 静かに頷いた艦長が、ポツリポツリと話し始めた。
「彼女に初めて会ったのは、地元の方々との交流パーティで……ピアノでアベマリアを……あれはグノーかな。音楽に疎い私でも
聴き惚れた。歌を聴いて泣いたのは初めてでした……歌い終わったとき、恥ずかしげに会釈されて……」
 真剣に話を聞く彼女は自然と自分の話も挟む。徐々に話しが深いところに行くが、抵抗なく話を続けた。話すことが心地よい、
とミーナは気付いた。この人は理解してくれる。この人も自分と同じ囚われ人。

86 :
 二時間後、副長が艦長室に顔を出した。バンクでミーナ中佐の肩にもたれて寝ている艦長の姿に仰天する。無精ひげの生えた頬に
涙の痕がはっきり判った。ミーナはそっと艦長の肩を撫で続け、副長に眼で囁いた。頷いた副長は静かにドアを閉めようとしたが躊躇する。
副長がおずおずとミーナを見る。その様を見ていたミーナが小さく頷いた。
 畏まって椅子に座った副長がつっかえつっかえ、話し始めた。暫くして坂本がドアを開けたが、話し込む二人と寝ている艦長の姿に
足を止める。顔を赤くした副長が入るように促した。頬を赤らめて副長の肩に手を置いた坂本が、毅然とミーナを見つめる。二人を
交互にみたミーナの眼に驚きと喜び、そして微かな落胆の色が浮かんだ。

 501指揮官と艦長がいい感じ、と噂を聞いた乗員の多くは内心で応援している。いい意味でシーキャットの兄貴だ。赴任直後に
乗員全員の名前だけで無く家族構成をも覚えた。怒鳴りもせず権威を笠に着たことも無い。理想の艦長像そのもので怖いくらいだ。
ただ、仕事に励みすぎる点だけが心配されている。身体を壊すのが落ちだ、と賭の対象になっていたがそれも止んだ。現在無休記録
更新中だ。賭にならぬ。胴元は艦長に恋人が出来るかどうかをネタに暗躍しはじめたが、皆の意向が一極集中なので成立しそうもない。
 副長もなにやら蠢いているらしい。この副長も己の立場をわきまえず、乗員と組んで盗みまくった過去が大きく評価されている。
一番の大物は艦載蓄電池だった。それを盗んできたトラックに満載して堂々と工場から出てきた。そしてくそ重いバッテリーを艦長共々
汗みずくになって据え付けたのだ。副長も艦長同様女癖が悪いわけでもないので、乗組員は気にしない。不真面目な奴なら決して
許さないが。こちらは賭の対象となった。相手が誰なのかという単純な掛けだ。盗みが上手いからなのか、ヒントも漏らさない。
 乗員の殆どはウィッチーズと何気ない日常の会話を交わせる様になったことに満足している。病気にかかったものは治癒魔法の
使い手に治療を受け、彼女の笑顔に心を蕩かせている。ただし、余りに突っ込んだ会話を試みるチャレンジャーは、カールスラントの
美少女将校に蹴散らされている。一方、その毅然とした態度を好む連中の他、その妹分のちゃらんぽらんな性格を好む連中は
秘蔵の嗜好品を持ち寄って目立たないように楽しんでいる。占い好きの連中はスオスムの美少女に占いを申し込んで楽しんでいる。
占いは楽しみが二倍になる。オラーシャの美少女が横で微笑んでくれているからだ。オラーシャ美少女が音楽を好むと聞いた連中は、
レコード盤を持ち寄ってミニコンサートを開いている。ガリアの美少女は一見とっつき難そうでありながら、その実細やかな神経の
持ち主である事が高評価となり、崇拝者を集めている。リベリオン・ロマーニャそしてブリタニアの美少女は妹を欲する乗員にとって女神だ。

87 :
「婚約者!? おい、それは一体どういうことだ!」
 深夜、浮上航走中の前甲板で話し込んでいた二つの黒い人影。その一つが急に声を荒げた。
「ウィラード副長。私を騙していたのか? 嘘を吐いていたのか!」
 激昂した声の後、乾いた音が一瞬響く。踵を返した一つの人影がハッチに飛び込んだ。残された人影はたたずんだままだ。
周囲には誰もいない。艦橋には見張りがいるが、海風がじゃまして声は届かなかったようだ。
 どれくらいそうしていたか。ハッチを登ってくる声に副長は我に返った。深呼吸して頭をスッキリさせる。頬が熱いが、それは
無視した。どうせ暗いのだ。上がってきた三人に、他に甲板には誰もいないことを申し送ってからラッタルを下る。一旦下層に下り、
電池室のチェックをする振りをして司令塔をやり過ごした。誰にも見られたくない。半泣きの顔なんぞ! シャツの袖で顔を乱暴に
擦った。俺は平静だ。ここなら誰も来ない。少し落ち着こう。平静になれ。
 メンテナンスハッチを左腕で押し上げる。その重量が途中で急に消えた。顔を上げると、シャーリーの心配げな顔が覗き込んでいた。 
「大丈夫? わたしに着いてきて。隊長が呼んでいるんだよ」
 なぜここに、と問いたいが黙って従うことにした。なぜここに、よりも何故解ったのかの方が大事だろう。いや、もう終わってしまったのかもしれないが。
 案内されたのは医務室だった。カーテンを捲られて中に押し込まれる。中にはミーナ中佐が待っていた。椅子を指し示されたので、
素直に従う。大尉は入ってこなかった。
「少佐と何かあったの? 教えて下さい」
 言いたく無い。が、中佐は彼女の上官だ。それに、先に二人のことを話して了解して貰った立場もある。
「彼女を怒らせてしまいました。自分の過去を洗いざらい説明しておこうと思ったのです。ですが、説明の途中で……その……」
 頷いた彼女が黙って治療台に腰掛けた。そのまま黙っているので、概略をつっかえながら説明する。少佐に説明する決意をした
ときより、言葉が続けて出ることに内心驚いた。ミオと違うからか。そうだな、所詮第三者。赤の他人。上級者であっても、ずっと
一緒に勤務するわけでも無い赤の他人だ。
「婚約者……婚約を破棄されたのは、あなたが理由。世間一般ではそうなるわけね」
 無言で頷く。
「でも、あなたには納得できない。だから傷となって残っている」
「ええ……私が彼女に会ったとき、私は既に海軍士官で……仕事です、海上任務は。家庭を理由に……退役するか、軍務を
取るかを……既に戦争中なのに……式の直前彼女にそう迫られて、私の気持ちは冷めました」
「そうよね……騙されるのは嫌だ、というのはそれだったのね。少佐にはどこまで?」
「婚約者が、とまで。いたんだ、と言葉が繋がらず、その、言葉が出なくなってしまって……」
 微かな溜息が聞こえたような気がする。

88 :
「解ったわ。有り難う」
 中佐が立ち上がった。戸惑いながら自分も椅子から立つ。
「副長。私は事情を知りました。少佐とあなたの間の事柄ですので、仲介も仲裁も出来ないの。あなたたちが解決することです。でもね……」
 何を言いたいのだろう、と中佐を見詰めた。
「少佐には、初めての恋だとおもうのよ。だから、彼女の気持ちも汲んでやって欲しいの。あなたが彼女に真剣な気持ちを抱いているなら、
あなたには其れが出来るはず。あなたは立派な人よ」
 小さく頷いた。解決案は全く解らないが。それに、好きな人を泣かせた奴が立派なわけも無いだろうに。でも、有り難い。
「では、話はお仕舞い。来てくれて有り難う、ウィラードさん」
 頷きを返事に替えて通路に出た。敬礼が必要な場面でも無かろう。少し離れたところでシャーリーが壁により掛かっていた。心配げに
俺を見詰めている。俺には頷くことしか出来ない。疲れた。疲れたが……顔を洗ったら発令所に戻ろう。その方がいい。
「隊長、どうだった?」
 医務室に入ったシャーリーが尋ねた。困惑を露わにしたミーナが溜息をつく。
「少佐の勘違いね。副長は恥じる行為はしていない。過去のことも副長が悪いとは思えない。引きずっていた過去を馬鹿正直に話そうと
したのが原因よ。最後まで聞かない少佐も悪いと思うけれど、免疫というのかな、其れが無い彼女だから仕方が無いわ」
「ふうん」
「二人とも真面目だから。でも、私達には何も出来ないの。そっとしておいてあげることしか出来ない」
「解った。でも、さすが隊長だね。私はそっちは苦手でさ」
「あら、私だって恋ぐらいするわよ。あなたも知っていると思ったけど?」
 一瞬黙ったシャーリーが小さく頷いた。先に戻るよ、と告げて部屋を出る。
「過去形ならよーく解るんだけど?」

 艦内時間の夜、また艦長が部屋を訪れた。きっちりとシャツの第一ボタンを留めたミーナがドアを開く。
「少佐が就寝中です」
「静かに済ませます」
 囁き声とはいえぬ小声で二人が会話を交わした。部屋の中にもう一人。バルクホルン大尉が本を読んでいる。目を上げた彼女も
艦長に目礼した。すぐに椅子に座り、航海日誌を開く。暫く万年筆の滑る音だけが部屋に流れた。其れが済むと持ち込んだ別の
フォルダーを開く。素早く目を通し、署名していく。書類を捲る音の後、ややあってペンが滑る。

89 :
 ふとバルクホルンが目を上げた。バンクに腰掛けたミーナは、何をするでも無く艦長の後ろ姿を見詰めている。穏やかなその表情から
目を離せなくなった。段々と自分が邪魔者のような気がしてくる。落ち着かない。本に栞を挟み、立ち上がった。ミーナと目が合う。
食堂でコーヒーを飲んでくる、と小声で告げると頷きが返った。
 ドアを静かに閉め、寄りかかる。ミーナが何を考えているのかは解らないが、彼女がこの時間を大事にしていることは感じ取れた。
じゃまをする者が来ないよう、暫くここにいよう。二人が会話を始めたら、食堂に行けば立ち聞きにならないし。
 黙然と寄りかかっていた大尉がふと気付いた。坂本少佐、なにか塞ぎ込んでいる。どうしたのだろう。少し前まで、ちょくちょく部下
の顔を見に行っていたが、最近はベッドに潜り込んでいることが殆どだ。ミーナが心配していないので気付くのが遅れたが。ミーナは
何か気付いているのか。そうだ、それしか無い。ミーナは私とは違う。私が口を挟まない方がいいのだろう。

「ペリーヌさん、それでお話とは?」
 ここではなんですのでシャワールームにと要請したペリーヌ。その目が坂本が寝ているはずのバンクに注がれたのを見て、ミーナは
頷いて同行した。
「有り難うございます。坂本少佐の事です。何かご存じなのでは?」
 真剣な目がミーナを見る。心配そして何かに対する畏れが読み取れた。
「あなたが気付いてくれて、ある意味ほっとしているの」
「おっしゃることがよくわかりません。少佐はご病気なのですか?」
「そうね……ある意味、病気よ。でも、心配しなくても大丈夫。美緒は自分で答えを出すでしょう。そういう病気なの」
「おっしゃることが全然解りません!」
「ペリーヌさん。あなた、恋をしたことは?」
「いえ、わたくしはその……まさか!」
「ええ。そう。少佐は初恋で悩んでいるのよ」
「誰ですか、その相手は!」
「私の口からは言えないの。でもね、美緒が真剣に悩める相手、それが彼女の相手。その人も真剣に考えているわ。だから、
心配はしなくていい」
「隊長だって少佐のことを! 違うのですか?!」
 半分叫ぶように言う彼女を、ミーナは静かに見詰めた。
「ええ、美緒が好きよ。あなたが美緒を思う気持ちに負けないくらい好き」

90 :
「何故そんなに落ち着いておられるのですか!」
「好きという気持ちにもいろいろあることが解ったの。ねえ、ペリーヌさん。あなたのご両親のことを思い出しながら考えてみて。
お父様とお母様、どちらが好きと断言できる? 好きという気持ちに順番はあるのかしら?」
「そ、それは……意味が違うと思うのですけれど」
「そうね。でも、その対象があなたの好物料理だったら? これはその時の気分で簡単に決められるでしょう?」
「はい。それは対象が人間か料理かですから、比べることは出来ないと思うのです」
「そうよ。人間だと簡単に優劣を決められなくなる。好きな人、愛している人が対象ならばそうなるの。私が美緒を好きな気持ちは
事実よ。でもね、別の人を好きになることもあるのよ」
「それは浮気です!」
「浮気になるかどうかは、その本人次第でしょうね。あなたも私に気持ちを晒してくれたのだから、私もあなたに心を見せるわ。
私はあなたも大好きだから構わない。美緒を好きな同士だから、ともいえるけれど」
 混乱がペリーヌの顔に浮かび上がった。意外だという気持ちも一緒に。
「うまく説明できるといいのだけれど……私は美緒もあなたも好きよ。正直に言って、501の皆が好き。姉妹のような間柄というの
かな……分け隔て無く好きなの。私があなたを見て思う気持ちは、妹を見る様な気持ち。美緒を見て思うのは、頼れる双子の姉を
見るような気持ち……美緒は私達を妹として愛してくれている。大事な家族なのよ。だから皆が幸せになるように祈るし、不幸に
なると思ったら決して握った手を離さない。護りたいの。美緒は私を護ってくれる。そう解るから信頼して全てを任せることが出来るの。
あなたは私を信じてくれる。だから信頼できるし、それに全力で応えたい」
「でも、美緒が私以外の人を好きになることもある。正直淋しいわ。でも、彼女がそれを望むなら、私は黙って見守る……多分、
美緒には初恋なの。初恋が実るかどうかは解らないけれど、一つだけ解ることがある。相手が真剣なら、邪魔はしちゃ駄目だって。
美緒も真剣に悩んでいる。だからこの恋が実らなくても、彼女の未来には大事なことなの。彼女が決めることだから手出しが
出来ない。それは残念だけれど、彼女がそれを決める。私達は少し離れたところで黙って見守るしか無い。もし彼女が傷ついて
一人震えるようなことになったら、私達二人が中心になって美緒を抱き締めて暖めてあげましょう。大事な姉妹ですもの」
「わたくしには……正直解り……解りたくありません! ずっと坂本様のお側にいたい、それだけを願って!」
「あなたがそう望むなら、それは可能よ。でも、あなたが美緒の側にいる人を選別することは出来ないの。美緒が側にいて欲しい
と望む相手だけが、美緒とともにこれからを過ごすことが出来る」
「でも……でも……」
 声に出さないよう必死に耐えているペリーヌの目から、涙が堰を切ったように滴り始めた。震える細い肩をミーナが抱きしめ、背中を繰り返し擦る。

91 :
C

92 :
「あのね、私もある男性に惹かれているの。相手の人は気付いていない。それでいいの。両思いになったらその時は嬉しいと思う
だろうけれど、後で苦しいこともあるでしょう……片思いでいいの……そんな私だから、美緒の恋を見守っていたいの」
「隊長の思い人はグランド少佐、でしょう?」
 抱きしめられたペリーヌが呟いた。一瞬ミーナが背中を強張らせ、すぐに力を緩める。
「気付いていたのね……ええ、あの人よ」
 必死に堪えていたペリーヌの泣き声が徐々に大きくなる。大きく震える身体をミーナは黙って抱きしめた。彼女の目にも涙が溢れる。
 シャワールーム前で立っていたシャーリーとルッキーニが目を見合わせて頷き合う。黙って左右に散った。少し離れた場所で
立ち止まる。隊長達がでてくるまで誰も通さない。

「艦長?」
「ん?」
「そろそろ、浮上航走の時間です」
「そうだったな。私は後ろで見ている。副長が指揮を執れ」
「アイ、サー! 潜望鏡深度へ!」
 急に慌ただしくなった発令所。後ろに置かれた海図台/射撃方位プロット板に寄りかかった艦長は静かに溜息をついた。制帽を
とり、頭をかきむしる。疲れた。そろそろ、大きな失敗をする前に退役する頃合いじゃないのか。自分の集中力と勘に自信が持てなく
なってきた。潜水艦の艦長は決して失敗を許されない。部下を失う訳にはいかない。部下も彼女達も! 彼女達は決して失うことの
出来ない重要な人々だ。その一人は特に。必ず陸に無事に届けなければならない。
 でも、その時はお別れだ。否、お別れが無事に出来るならそれは幸せなことだ。水死体になった彼女の姿など見たくない! 
でも、陸に戻れば彼女達は戦場に戻る。彼女達に頼らねばならない現実を呪った。急に胃が痛み始めた。目立たないように腹部を
押さえる。コーヒーを飲み過ぎたか? でも、軍医が制酸剤を無理矢理飲ませてくれている。おかしい。なに、すぐに痛みは消える
だろう。我慢だ。汗は出しても声は出すな。艦長は毅然としていなくてはだめだ。部下に不安を与えてはだめだ。しっかりしろ、痛み
は生きている証だ。しっかりしろ!

93 :
 艦の後部で轟音が轟くのと同時に、ハッチから新鮮な空気がなだれ込む。コートを取ろうと振り向いた副長は、海図台の基部に
凭れるようにしている艦長をみた。寝ちまったよと一瞬思ったが、シャツの胸が赤く染まっているのに気付いて肝が冷えた。
艦内インターカムに飛びつき、夢中でスピーカー兼マイクに怒鳴り込む。
「軍医、至急発令所へ! 艦長が倒れた、急げ!」
 発令所要員も艦長に気付いた。手空きのものが走りより、艦長をそっと床に横たえた。真っ先に走り込んできたミーナ中佐が屈み込み、
すぐにシャツの首元とズボンのベルトを緩める。続いて飛び込んできた軍医がミーナを押しのけた。通路に収納された担架を持って来る
ように指示が飛ぶ。血に染まった両手にも気付かず、祈るような格好で艦長を案じる中佐に誰も声を掛けられない。
 運ばれていく担架を唇をかみしめた副長が見送った。呆然としていたミーナの肩に手を掛けて真っ正面から覗き込む。蒼白な彼女の
目に脅えが見えた。
「中佐、私は指揮を執らなくてはならない。艦長を頼みます!」
 いいざまに彼女の身体の向きを変え、医務室に押しやった。つんのめった彼女がすぐに自分で走り出す。それを見届けること無く副長は
ラッタルに飛びつき、罵りながら駆け上った。艦を揺らしてはだめだ。でも、最低限の充電と蓄気をしなくては!

 艦長がうっすらと目を開けた。彼を覆っていた青白い光輝が萎んで消える。
額に汗を浮かべた芳佳が一瞬よろめいた。素早くリーネが支える。
「宮藤さん、ご苦労様。部屋で休んで……」
 何か言おうとした芳佳の唇に人差し指を当ててミーナが首を横に振る。
「とうにあなたの限界は超えていたわ。だから今は休んで……有り難うね」
 ミーナの後ろから歩み出たバルクホルンが芳佳を横抱きにした。ミーナに頷き、部屋を出る。リーネも後を追った。
「艦長、聞こえますか?」
 目を瞬いた艦長が頷くが、見下ろすミーナの顔を不思議そうに見詰めた。混乱しているようだ。
「おい、死に損ない。聞こえているはずだ。医者として言うぞ。休養が必要だ」
 制服の上に白衣を羽織った軍医が乱暴な口調で告げる。一瞬後、艦長の目がかっと見開かれた。
「駄目だ。帰港するまでは――」
 どこか舌足らずな返事に軍医がせせら笑った。
「アホ抜かせ! 言い張るなら海軍規則に則ってお前の指揮権を剥奪する。軍医の俺には、それを宣言する資格があるんだぞ?
大人しく養生して任務に戻るか、それとも海兵隊員の監視が付いた方がいいか。さ、選べ!」

94 :
 ミーナが艦長の胸に手を当てて首を横に振る。
「胃潰瘍ですって。無理をしては駄目です。あなたは指揮官です。責任がある。無理をして判断を誤ったら、乗員の命でそれを贖う
ことになるのですよ。私も軍医の意見に賛成です」
「……解りました。おい、藪医者。一日で治せ」
「たわけ! これが何か解るか? あ?」
 鼻で笑った軍医は、スタンドに吊られたパックを指さした。輸血パックが連結してぶら下がっている。
「どれだけ出血したと思っているんだ。最低二日は動いちゃ駄目だ。宮藤軍曹のおかげで出血は止まった。でも、無理をしたら治療が
無駄になる。いいか、不調を隠していた馬鹿者のせいで大事になったんだ。誰が悪い? お・ま・え・だ! ここから出て行けないよう、
鎮静剤もぶち込んでいる。諦めが付いたか、くたばり損い」
「くそったれ。戻ったらケツを蹴っ飛ばして追い出してやる」
「けっ。とりあえず、艦の風紀を守る為にだな」
 軍医が輸血パックから分岐した白い液体が入ったガラス瓶に手を伸ばす。点滴間隔調整具を弄った。滴の間隔が短くなる。
「海軍士官が暴言を吐くのは見過ごせねえ。薬漬けにしてやらあ。騒げるものなら騒いでみろ」
 薬の効能はすぐに判明した。罵りまくっていた艦長がうつらうつらし始める。溜息をついた軍医がミーナの肩を叩く。
「中佐。職務上聞くんだが、この馬鹿のことはどう思うかね。好きかな」
「え? ええと……あの」
 不意を突かれたミーナが言いよどんだ。微笑んだ軍医がミーナにいう。ストレスが原因なので、目を覚ましているときはそれから
気を逸らして貰いたい。でも仕事馬鹿なので、インターカムを切ることも出来ない。なので、側にいて雑談しながらストレスを発散
してやって欲しい、と。
「ええ、解りま――」
 ミーナの返事をサイレンが遮った。ディーゼルノイズを凌いで怒号が飛び交う。緊急潜行だね、と軍医が呟いた。ディーゼルの
轟音が止むのと同時に風が止まった。艦が急激に傾く。
 慌てたミーナが軍医を見るが、彼は平静そのものだ。鈍感なのか、と呆れたミーナが手首を強く握られて艦長を見た。薬の効果
を義務意識が押さえ込んだようだ。
「状況を」
 頷いたミーナが手をふりほどき、発令所に走った。ずぶ濡れになったサーニャ達に出くわす。てきぱきと報告が為される。中型の
ネウロイを探知。その直後、ネウロイが進路をこのシーキャットに向けた、と。謝意を述べ、着替えるように二人に促す。二人の先に
立って医務室へ走った。

95 :
「空襲警報です。中型ネウロイ一機を探知、当艦に接近中。周辺に艦船や航空機無し。目標は我々でしょう」
「ネウロイか。連中の武装は?」
「我々には大口径のビーム兵器で対抗してきます」
「……君達はスクリーンというか、バリアみたいな物でそれを遮るんだよな」
「ええ、シールドです。でも、艦内ではそれは使えないの!」
「だろうね……熱性か、それとも分子破壊的なものか、解る?」
「高熱を感じるわ。海面にビームが当たると水蒸気爆発を起こすし。でも、シールドで食い止めるとショックも受ける。分子を破壊する
ものなら、海面に穴が空くだけよね?」
 考え込んだ艦長が、インターカムに手を伸ばした。ミーナがそれに先んじる。発令所を呼んだ。
「副長、敵の攻撃手段は、収束されたインパルス熱線兵器だと思う。艦を深度七百五十フィートに。下げ舵及び速度最大。繰り返す、
三十ノットだ」
『え? あの艦ち――』
「軍機なんぞ無視してぶっ飛ばせ。彼女達は仲間だ。最大深度となったら速度そのままでZ字運動開始。変針タイミングはずらして
読まれるなよ。同時に海水の温度をワッチしろ。なお、上昇水流が出来る可能性が大。深度の維持を最優先し、温度が上がったら
教えてくれ。回避指示を出す」
 艦長の話す間に、急激に床が傾いた。軍医とミーナが二人がかりで艦長が転げ落ちないように支える。意識は別として、身体に力が入らないようだ。
『アイ、サー。命令を遂行中。あの、よろしければ理由を教えて貰えますか』
「収束ビームであるからには、高密度対象を通過すれば減衰する。大気よりも海水のほうが密度が高い。だから、深度を取れば
取るほどビームは威力を急激に失う。最大深度でビームに炙られても、その威力は激減するはずだ。ならば最大速度で航行した
ほうが艦体へのダメージも少なくなるだろう。推測ばかりだが、物理的に間違いじゃ無いはずだが、アメージングストーリーの
ネタパクリなのが正直なところだ。間違いだったらあの世で詫びる」
『なる程。そういうことですか。敵機、推定到着時刻を十秒経過。現在深度六百を通過。オーバー予防に速度と角度を下げます。
速度二十ノットに減、当て舵プラス!』
『アイアイ』
 ギシッと艦体が軋む。現在百八十メートル。目標深度は……二百二十? 暗算したミーナの背筋が寒くなった。でも、抱き留めて
いる艦長は心配していない。だから大丈夫。大丈夫。
『副長、おかしいです。沈降率が安定しません!』
 傾きが水平に近づいた。艦長の身体に抱きつくようにして押さえていたミーナがほっとする。ほら、大丈夫よ。でももう一寸押さえて
いよう。その方が私は怖くない。

96 :
C

97 :
「副長、上昇水流だ。ビーム兵器で海中が煮えたぎっているんだ。下げ舵を当てて安定させろ。多少深度がオーバーしても大丈夫だ。
設計チームは必ず安全マージンを見込むからな」
『アイ、サー。茹でられるのも真っ平です。魚には気の毒ですな』
「茹でた鱈は生臭くて苦手だよ、Z字運動中止。速度そのままで取り舵にて円運動開始。熱湯を盾にしろ。この海域を離れるな」
 茹で鱈ね……お母様もよく作って下さった。私が最初に覚えた魚料理。でもケリーは嫌いなのか。あ、でも生臭さは消せるわよ。
私が作ったら食べてくれるかしら。
『アイ、艦長。私は茹で鱈好物ですよ。探知されませんかね』
 あなたは美緒に作って貰いなさい。仲直りできるといいけど。
「さあな。磁気探知か温度探知か、はたまた質量探知か。光線兵器を使う連中だ、重力波異常でも検知しているかもな。まあ、
煮えたぎった海面が邪魔してくれることを祈ろう」
『敵も永遠に飛べるわけも無いでしょうし』
「まさかと思うが。ソナー手、海面に注意。万が一激突音がしたら副長に知らせろ。副長、その時は尻に帆を掛けて逃げちまえ。
しつこい相手は袖にするに限る」
『ああ、だから出航直前にダッシュで艦に逃げ込むんだ。って、艦長は全然もてないじゃ無いですか! 嘘はいけませんよ』
 大勢が爆笑する声がインターカムから流れ出した。ミーナも笑う。やられた、と気付いた。一連の会話は乗組員の負担を減らす
為の心理戦だったんだ。腹を抱えて笑っていた軍医が、コーヒー飲んでくると言って出て行った。
「藪医者が。サボってばかりだ」
 ミーナが苦笑した。結構口が悪いんですね、と言われた艦長も弱々しく笑う。
「男所帯ですから勘弁して下さい。ああ、中佐。リトビャク中尉達によろしく伝えて下さい。助かりました」
「はい、必ず」
「一つ質問していいかな」
「一つと言わず、なんでも……」
 ミーナの囁くような答えに、血の気を失っていた艦長の顔色が若干よくなった。彼女がじっと待つ。
「中尉が言っていた『尻尾も大丈夫』という意味がよく解らないんだ。失礼なことをしてしまったのかな」
 ああ、と微笑んだミーナが立ち上がる。見て、と呟いた彼女を燐光が包んだ。耳が現れる。続いて長ズボンのベルトを緩め、後ろ
をずらす。尻の直上から尻尾が滑らかに飛び出した。変ですよね、と囁くと耳と尻尾も動いた。恥ずかしげに艦長を見る。
「……とても可愛いし、とても綺麗だ」
 艦長の呟きを聞いたミーナが固まった。首から上が真っ赤に染まる。暫くして目を開いた彼女が微笑んだ。ベッドの端に腰掛け、寝込んだ艦長の汗をハンカチでそっと押さえる。
 報告しようとやってきたペリーヌがビタリと足を止めた。微かな歌声が聞こえる。グノーのアヴェマリア……。

98 :
「艦長、無線復旧できません。非常用無線機から移植した電源部も死にました。どうにも……」
 潜望鏡から離れた艦長が、帽子を直しながら毒づいた。連続勤務の禁止を条件に医務室からの脱走を遂げた。
「拙いな、そりゃ」
「艦長、ウィッチーズのインカムを使わせてもらっては?」
「バッテリー切れだそうだ。分解も出来ない。駄目だな。目的地を前にしているのに、さて、どうしたものか」
「ハイドロフォンには遠すぎますし。あの連中、どうします?」
 副長の言うあの連中とは、港の沖で遊弋している警戒艦隊の一群だ。至近にいるのに連絡の手段が無い。潜行したままで通過
することは認められていないし、すぐに浅瀬となる。
「撃沈しちまう……わけにもいかないか」
「……艦長、やけくそっておられませんか?」
「上官を侮辱するのかね、コー?」
 ササッと一歩退いた副長は、静かに命令を待った。考え込む艦長の瞼は微かに痙攣している。いくら神経が太い艦長でもな、と
内心で溜息をついた。指揮官としての重責、間もなくいなくなってしまう愛しの中佐さん。ダブルの重圧。きっと彼女に未練がましい
と思われたくなくて、でも未練があるから……この人も人の子なんだ。俺も人のことは言えないけれど。結局ミオと関係改善は――
手紙書いてみようか。言葉よりその方がよかったのかも。
「浮上後速やかに警戒艦隊に発光信号、そして入港だ。真っ昼間に寝ぼけている見張りはいないさ。ウィッチを降ろして、さっさと
次の任務に就こう。上昇率一フィート毎秒にて浮上開始」
「アイアイ、浮上開始! メインタンク、ブロー! 塩分濃度が低いぞ、トリムに気をつけろ!」
 浮上後、オーティス発光信号機に手を伸ばしたのが先か、はたまた警戒艦隊のコルベットが放った砲弾が至近で炸裂したのが
先か。いや、発砲に気付かなかったのだから、奴等の手の方が早かったと言うことだ。カーティス副長は頭から飛沫を浴びて
ずぶぬれになった。続けざまに挟撃される。やばい、距離を掴まれた。
「撃たれています!!」
「緊急潜行!! 全速前進下げ舵一杯! くそったれ共が!」
 ラッタルから海水が百リットル単位で雪崩れ込んだ。サイレンがようやくやむ。
「艦隊の馬鹿たれ! ボンクラの戦闘童貞共! ハイドロフォン用意! ボンクラをシバキ上げてやる! 各部、被害報告!
舵水平と為せ!面舵一杯、回頭後全速!」
 怒り狂った艦長の言葉に、素直に頷いた兵曹長がボタンを押し込んだ。しばらくたって、真っ青な顔で振り向く。
「艦長! ハイドロフォン故障!」

99 :
 一瞬唖然とした艦長と副長は、周囲で轟きだした爆雷の衝撃で転んだ。司令塔要員も椅子に座っていたものも含めて床に突っ伏す。
周囲に剥げたペンキの破片が雪のように舞い散り、照明が消える。一瞬置いて、非常照明が引き攣った一同の顔を照らし出した。
操舵手が慌ててハーネスを締めて椅子に身体を固定する。
「底なしの馬鹿野郎共が! 海中にネウロイがいた前例があるか! 現在位置の水深知らせ!」
「浅瀬です! 海底まで三百フィート! 現在深度二百二十!」
 罵り声が艦長の唇から飛び出した。シーキャットの性能で逃げることが出来ないという事だ。前回より強い衝撃が真下から襲った。
皆、天井近くに放り上げられ、次の瞬間床にたたきつけられる。悲鳴と苦痛の叫びが沸く。航海長の足が折れた。損害報告の合間
を縫って、軍医を呼ぶ声が響く。
 爆雷攻撃が始まって三十分が過ぎた。コルベットは一向に攻撃を止めない。海中をのたうち回るように回避機動を続けている
シーキャットは水漏れするぼろ樽になっていた。蓄電池室に漏水被害が出、バイパス回路で対処しているが残存電力が三割を切った
ことが最大被害だ。蓄気タンクもいつまで持つか。
「深度百に!」
「浅すぎませんか、艦長!」
「深く潜ると思い込むさ! 敵も爆雷でソナーは使えない。百フィート! 急げ!」
「アイアイ!」
 続けざまの猛烈な爆発に艦体が軋む。漏水箇所を補修する要員は大童だ。唇をかみしめた艦長が問うた。
「ソナー、敵艦は四隻だったな?」
「アイ、艦長! 四隻です!」
「現在も測的できるか?」
「はい、スクリューと機関音がばかでかいですから!」
「雷撃測的開始せよ! 砲雷長、プロット開始!」
 司令塔にいる全員の視線が艦長に向いた。ミーナそして坂本達の顔もある。皆、真っ青だ。微かに震える声のやりとりがソナー手と
砲雷長の間で交わされる。
「魚雷室へ、イチからヨン番まで魚雷装填用意! 調定、速度最大、常時直進。雷走深度設定無し。信管調定、接触起爆。艦首を
限界一杯にあげて発射する。各員、備えよ」
 誰もが沈黙した。遠ざかった爆雷の破裂音だけが艦体を叩く。ややあって、副長の引き攣った声が響いた。
「艦長! 奴等はくそったれですが友軍ですよ!」
「ウィッチを傷つける奴は敵だ! 責任は私が取る! どうせ連中は全速航走だ。狙って撃った方があたらない。当たったら仕方が無い! 装填、急げ!」

100 :
 応答が返った。爆雷の切れ間ない炸裂音と頭上を疾駆するコルベットの轟轟たるスクリュー音が耳朶を打つ。
「ソナー、連中の航跡から攻撃パターンを推測しろ。データーを私に!」
「アイ! 現在四時方向から接近中。数は二。挟撃するコースです。クローバーリーフでしょう!」
「取り舵六十! ソナー、敵進路が六時となったら教えよ。魚雷調定まだか!」
「調定ヨシ、魚雷四本装填完了!」
 ヘッドフォンを装着した副長が振り向きざまに報告した。顔色が悪い。
「発射管扉、開け!」
「……開きます」
「コン、ソナー! 六時! 直上まで四分!」
「舵戻せ!」
「アイ! 直進、ヨーソロー!」
「総員傾聴。こちら艦長。これより、垂直状態となって魚雷を発射する。総員、確り何かに掴まれ。連中は自分が攻撃している相手が
何者か気づくはずだ! 緊急浮上がその後に続く」
「ケリー、止めて! 相手は味方よ!」
 脅えた囁きが静寂を貫いた。どうにかこうにか発令所に辿り着いた一団の代表者だ。上陸に備えて制服を着ている。
振り向きもせずに艦長が吐き捨てた。
「君達を殺そうとする相手は、誰であろうと敵だ! 部屋に戻れ!」
「駄目! 止めて! 何か手段はあるはずよ!」
 艦長の右腕を握ったミーナが懇願する。渋々の態で艦長が脇を見た。赤い非常灯に照らされた二人の視線が絡み合う。
ゆっくりと艦長の首が振られた。
「時間が無い!」
 腕を振り払われたミーナが呆然と立ち尽くした。泣きそうな顔で頭を振る。
「艦長。連中、私達を新型のネウロイだと思い込んでいるんだよナ?」
 割り込んだ独特のイントネーションの持ち主を、艦長の鋭い視線が捉えた。
「占うまでも無いな、ユーティライネン少尉!」
「ニンゲンだと解ったら?」
「止めるだろうさ、だから魚雷で馬鹿連中の間抜けケツを蹴飛ばす。当たらなくていい。海上に飛び出した魚雷を見りゃ、幾ら連中が
救いようのない馬鹿でも理解出来るだろう。馬鹿相手だから確約は出来ないが」
「でも、命中したら被害が出るわ」


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