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非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ Part36


1 :2015/03/05 〜 最終レス :2016/03/03
1999年刊行された小説「バトル・ロワイアル」

現在、様々な板で行われている通称「パロロワ」はリレー小説の形をとっておりますが
この企画では非リレーの形で進めていきます。

基本ルール
・書き手はトリップ必須です。
・作品投下前に登場キャラクター、登場人数、主催者、舞台などを発表するかは書き手におまかせです。
・作品投下前と投下後にはその意思表示をお願いします。
・非リレーなので全ての内容を決めるのは書き手。ロワに準ずるSSであればどのような形式、展開であろうと問いません。
・非リレーの良さを出すための、ルール改変は可能です。
・誰が、どんなロワでも書いてよし!を合言葉にしましょう。
・ロワ名を「〜ロワイアル」とつけるようになっています。
  〜氏のロワは面白いでは、少し話題が振りにくいのでAロワ、Bロワなんでもいいのでロワ名をつけてもらえると助かります。
・完結は3日後だろうが5年後だろうが私は一向に構わんッッッ!!

前スレ
非リレー型バトルロワイアルを発表するスレ part35
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1393846727/

非リレー型バトルロワイアルwiki
ttp://www26.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/1.html

2 :
新スレッド乙です
では投下します

3 :
83話 「閉ざされたドア叩き壊したい」

「野獣、KMR、嘘だよ……あいつら死んでしまったのか」
「……」
「春巻先生まで……」

D-5エリアイベントホール内にて、第二放送を聞いたMUR、貝町ト子、鈴木フグオの三人。
死者の発表ではそれぞれの知っている名前が何人も呼ばれた。
MURはクラスメイトで、仲が良かった野獣先輩こと田所浩二、KMR、
仲が良かった訳では無いが交流はそれなりに有った虐待おじさんこと葛城蓮の三人、
フグオは担任教師の春巻龍、ト子は三人の中では最も多い、太田太郎丸忠信、銀鏖院水晶、シルヴィア、テト、フラウの五人が呼ばれた。
また、四、五時間程前に出会い、また会う約束をして別れた野原ひろしも、その妻と共に名を呼ばれている。
反対に彼と一緒に居たト子のクラスメイト、ラトは呼ばれなかった。

「野原さんも……また会おうって言ったのに、奥さんの方も呼ばれていたゾ……」
「おじちゃん、奥さんに会えたのかなキャプ……」
「分からない……会えていれば良いんだけどな、いや、良いと言えるかどうかは分からないけど」

野原ひろしについて話し合うMURとフグオを尻目に、ト子は個人的な思考を巡らせていた。

(太田め、ざまあみろ……)

今まで自分を良いようにしてきた鬼畜男、太田の死を心の中で喜ぶト子。
自身もその死を喜ばれるような屑だと言うのは理解していたが、それでも喜ばずには居られない。

(……テトも死んだのか)

一方で、テトの死について複雑な感情を抱く。

会わなくて良かったと思う反面、やはり許されなくても、会って謝りたかったと言う気持ちもわき起こった。

(会わなくて良かったのか、それとも……)

「ト子ちゃん?」
「え?」

物思いに耽るト子の様子を心配したMURがト子に声を掛けた。
不意を突かれる形となったト子は驚く。

「考え込んでるのかゾ? 大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫だ」
「確かト子ちゃんのクラスメイトも何人か呼ばれていたけど、親しい人が居たのか……?」
「気にしないでくれ」
「……なら、良いんだが……」
「……生き残りは、私達を入れて15人。だいぶ減ってしまったな。
今もどんどん減っているかもしれない」
「そうだな」
「禁止エリアは四つともここからは離れている、が、その内のE-4は、会場中央の市街地の半分を覆う。
このイベントホールに生き残りがやってくる可能性も高まるだろうな」

ト子が指摘するのは、新たに指定された禁止エリアによる生存者達の移動。
人が集まりやすいと思われる会場中央部の市街地、それの地図から見て右半分、つまりE-4エリアが禁止エリアの一つに指定されている。
その為、今居るイベントホールへ生存者が訪れる可能性も今まで以上に高くなると思われた。
無論、殺し合いに乗っている、乗っていないに関わらず。

ここで、三人は筆談を始める。

4 :
〈時にト子ちゃん、首輪の方はどうなってるゾ?〉
〈ぼくも気になるキャプ〉

MURとフグオが一番知りたいのは何と言っても首輪についてであった。
ト子は二人の顔を交互に見た上で、返事を書き綴る。

〈解除方法は大方算段が付いた。だが、実際に、生存者の、稼働している状態の首輪で試さなければ、
方法が合っているかどうか分からない〉

ト子の書いた内容は、二人に希望と緊迫を半々に与える。
長時間に渡って首輪の解析を行い、ト子は起爆させずに首輪を解除出来るであろう方法をどうにか編み出した。
しかし、それは今現在理論上の話でしか無い。
彼女が書き綴ったように、生きている参加者の首輪でその方法を試さなければ、方法が本当に合っているかどうかはまだ分からないのだ。
故に、一番最初に解除方法を試す事になる参加者は、死の危険性を孕む「実験台」と言えた。

〈最初に解除を希望する奴は、死ぬ事を覚悟する他無い、と言う事だなゾ?〉
〈察しが良いなMURさん。そう言う事だ〉

「?」

すぐにト子の伝えたい事を察せられたMURとは違い、クエスチョンマークを浮かべるフグオ。
しかし、かなり深刻な事を二人は議論していると言う事は理解していた。
フグオの様子を見て取ったMURは、流石にそのまま伝える事を憚り柔らかく誤魔化してフグオに書き伝えた。

〈首輪を外すのは危ない事には変わらないから、注意しないといけないって事だゾ〉

それを読んで、納得したのか否かは不明だったが、フグオは頷いた。
MURはト子との筆談に戻る。

〈でも、運営の奴らがあれだけ外せないって言っていた首輪を外そうとするんだから、それなりの覚悟はして貰わないといけないと思うゾ〉
〈だが、解除希望者がそれを理解してくれるかどうか〉

首輪の解除を最初に志願する者は相応のリスクを背負って貰う必要が有る。
無論、ト子も解除方法については、何度も吟味を重ねてきたつもりだったが、それでも確実とは言えない。
その辺りを志願者に理解して貰うのは時として難しい、最悪揉め事に発展する恐れも有る。

〈いざと言う時は、俺の首輪で試してくれ〉
〈MURさん?〉

唐突なMURの申し出にト子は戸惑う。

〈勘違いしないでくれ、決して自分の命が最優先って訳じゃない。
俺の首輪でト子ちゃんの編み出した方法が正しいって事を証明してくれって事だゾ。そうすれば信用を得られるだルルォ?〉

MURは、ト子の首輪解除法の有効性を示す為の「実験台」を自ら願い出たのだ。
勿論、志願者がト子の方法に不信を表したらの話ではあるが。

〈危ないプリ……そんなの〉

フグオが心配するが、MURは穏やかに笑い、返事を書いた。

〈心配してくれてありがとうだゾ、フグオ君。でも、ト子のおねえさんはとっても頭が良いからきっと大丈夫だゾ。俺はト子ちゃんを信じているゾ。
あー、こう書くとト子ちゃんに凄くプレッシャーを与えてしまうかもしれない……〉
〈いや、気にしなくて良いMURさん〉

5 :
「自分を信じる」そうMURから伝えられ、ト子は勇気付けられた。
尻込みしていても何も始まらないのは分かっているし、MURの思いを無駄にする訳にもいかない。
自分は一度、友人の信頼を裏切って、結果、自分の身を滅ぼす遠因となった。
再び、信頼を裏切るような真似は、ト子としても御免であった。

〈いざと言う時は、頼むよMURさん〉
〈当たり前だよなぁ? 任せてくれだゾ〉

そこまで協議した所で、三人は筆談を切り上げた。

「腹減ったなぁ」
「そうだな、昼だし、何か食べよう。と言っても支給品の食糧しか無いが」
「僕もお腹空いたキャプ……」

一先ず、三人共空腹を感じていたので、適当に何か食べる事にした。


【日中/D-5イベントホール】
【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康(全身のダメージはほぼ回復)
[装備]ハーネルStg44(26/30)@現実
[所持品]基本支給品一式、ハーネルStg44の弾倉(5)、肉切り包丁@現実
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
       1:ト子ちゃん、フグオ君と行動。取り敢えず食事を摂る。
       2:野獣、KMR、野原さん……。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※貝町ト子のクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

【貝町ト子@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]疲労(中)
[装備]トンファーバトン@現実
[所持品]基本支給品一式、工具箱(調達品)、ケルベロモンの首輪(分解)
[思考・行動]基本:殺し合いはしないが、必要な時は戦うつもりでいる。
       1:MURさん、フグオと行動。少し休もう。
       2:他のクラスメイトとも余り会いたくない。
       4:首輪の解除方法を誰かで実践しなくてはならないが……。
       5:私が死んだら……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※薬物中毒は消えています。
    ※MURのクラスメイト、鈴木フグオの知人の情報を得ました。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
    ※首輪の解除方法を編み出しましたが、あだ確実では有りません。

【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]精神疲労(大)
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いなんてしたくない。小鉄っちゃん達に会いたい。
       1:春巻先生……。
       2:……死にたくない。誰かが死ぬ所も見たくない。
[備考]※少なくとも金子翼登場から彼と親しくなった後からの参戦です。
    ※MURのクラスメイト、貝町ト子のクラスメイトの情報を得ました。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
    ※「死」に対して敏感になっています。

6 :
投下終了です 未だにフグオの支給品が不明と言う事実に草

7 :
投下乙です、何気にそちらもかなり終盤……!
こちらも四字熟語ロワを投下します。
エピローグ2、主催戦、まず一度で投下できる分量でキリいいところまで。
できれば一気に投下したいんだけど制限ってつらいなあ…。

8 :
 


 そして、おはなしの時間。


◆◆◆◆


 おはなしの時間を設けます、そう言われた直後――――。
 まばたきを一つして、目を開くとそこは廊下だった。
 コンクリートの床は灰色で、中央に白のライン。
 壁は上下に黒のラインが入った白壁で、等間隔に四角窓が空いている。
 窓の外は雑木で遮られ、明かりは天井からの蛍光灯。それも等間隔。
 少年が抱いた第一印象は、どこかの施設だ、というものだった。
 蛍光灯によって照らされた廊下の奥には、洋風の大きな木扉がある。
 大きな部屋があの奥にあるとすれば、
 ここはおそらく――最初に集められた講義室のような場所に続く廊下だ。

「とすると……これは、夢から醒めたって、ことなのかな?」
「いえ、まだ夢の中ですよ」

 後方から声がして、少年は振り向く。
 長く続く廊下の、少し離れた場所に、一人の男が立っていた。
 少年は水色のシャツを着たその男の姿に、目を丸くした。
 見覚えのある人物だった。

「……え?」

 そしてそれは、そこにいるはずがない人物だった。
 ……いていい人物では、なかった。だって、死んでいるはずなのだから。
 銀の髪を横に撫でつけた男は、いつか聞いたものと同じ、キザな口調で話し始める。

「お久しぶりです、紆余曲折くん。
 優勝……おめでとう、というべきなんですかね……」
「……えっと……すいません、……まさかあなたが、“主催”?」
「いいえ、違います」
「でも……じゃあなんで――いや……そういえば……」

 そういえば。
 と少年はその人物が死んだ瞬間のことを思い出す。
 そういえば、あのとき、爆発音は聞いたけれど。
 死体は確認、してなかった。
 この人の死体は、禁止エリアへ飛んで行って、車の向こうに、落ちたから。

「じゃあ……まさか、爆発が……」
「ええ、フェイクだったんですよ」

 男は少年の解答を先回りする。

「あのときボクの首輪は確かに爆発したけれど、それはボクをRようなものではなかった。
 爆発音が大きく聞こえたのは、内蔵スピーカーによるもの、だそうです。
 そしてボクは、……「先手必勝」は、“文字だけ死亡扱いになって”、あの場から退場させられた」

 そしてここにいる。
 ここに、ずっといたのだと。
 あの悪夢の娯楽施設にて「先手必勝」の名を与えられていた男は、早口にそう言った。

9 :
 
 爆発した、という首輪は、彼の首からはすでに外されている。
 代わりに首輪が巻かれていた首筋の一部分に、ケロイドじみた焼け跡がある。 
 どうやら首輪は、“実演”した焼肉定食のもの以外は、
 一部だけが小爆発するものだったようだ。
 男の容姿をさらに見れば、
 死ぬ前にかけていた銀縁のメガネは、今は外した状態になっている。
 娯楽施設に置いてくる形になってしまったのか? 聞くと、どうやらその通りだった。

「あのメガネが、ボクの遺品ということになるんでしょうね」
「……遺品、って……あなたはまだ、生きてるじゃないですか」
「いいえ、死んだんですよ。「先手必勝」はあそこで。生きているのは紆余曲折くん、君だけです」
「リョーコさんみたいなことを言わないでください……大体、」
「一刀両断に会いたいですか?」
「……は?」

 また唐突に、銀髪の男は言った。
 
「会えますよ。あの扉の向こうに、彼女は居ます」
「何を」
「ボクと違って、死体は確認した、ですよね。ええ。分かります。
 でも、居ます。一刀両断はあの向こうにね。そして、主催も。
 脱落し、落ちのびてここにいるボクの役目は……あの扉の向こうまでのエスコート。
 ちょっとしたサプライズ用の、案内役……ボクはそれだけの存在、というわけです。
 最後に登場する奴に先手必勝なんて名前が付いていたなんて、まったく笑えませんけどね……」
「……すいません。把握が追いつきません、というかそもそも、」
「首輪をそんな仕様にする意味が分からない、ですか?」

 先手必勝だった男は、そこだけは与えられた文字通りに、
 常に少年の思考を先回りしたかのような言葉や問いかけを少年に投げた。
 先手を打たれて二の句を継ぐタイミングを外された少年を前に、男はさらに先回りをする。
 少年のほうへと近づいて、その首にまだ嵌まっている銀の首輪に手を伸ばしながら、言葉をこぼす。

「そうですね。そうでしょう。普通に爆発するように作ればいいものを、どうしてそうしたのか。
 普通に考えたら分かりませんよね。ボクだって分かりませんでした。
 あんなお別れまでしておいて生き残らされて……恥さらしにもほどがあるって話だ。
 でもね、それは前提からして間違っている思考なんです。守られたのはボクの命じゃない。
 単純な別解。
 主催者の側に立ってみれば、すぐ分かることだったんです。
 先手を打って、言っておきましょう。答えは……首輪が“参加者”を管理するものだから、です」
「……?」
「いえ……違いますね。どちらかといえば」

 こちらに近寄ってくる男の手に。鍵、のような形状のものが、握られていた。
 その鍵が、いまだ状況把握に手間取っている少年の首輪に触れると、
 首輪は首の左側からぱきりと開いて、半円孤二つが連結したものになった。
 見栄えの悪い「3」か「ω」のような状態になったその筒状物体を掴んで、
 その裏側――首に触れていた部分に、さらに男は鍵のようなものを当てる。
 するとさらに筒がズレて、中身が露出した……いや、開かれて、落ちてきた……。

「首輪それ自体が」

 首輪の筒の中に入っていたのは、

「実験の“参加者”の、本体だからです……と言った方が、近いんでしょうね」
「……!!」

10 :
 
 丸められた、紙だった。
 男は紙を開く。
 四角い紙を、巻物を垂らすようにゆっくりと開く。
 そこに書かれていた文字は――「紆余曲折」。
 虹色の文字で描かれた……本当に最初の最初に少年が見た、文字紙だった。

「それ、……!」
「これが、“君”です。大事に持っておいてください」
 
 男は少年に文字紙を押し付けると、扉へ向かってすたすたと歩き出した。
 少年は受け取った紙を見つめて、四秒間ほど停止した。

 ・
 ・
 ・
 ・

 逃げではない。
 頭の中で色々な問いと回答が砂嵐のように廻った結果、動くことができなかったのだ。
 首輪。の中に、四字熟語。紆余曲折。首輪。文字紙。
 七色のインク。世界の規則を揺るがすルール能力。首輪の中に。首。脊髄。脳。
 ルール能力を使っていたのは。
 そう、これは実験。ここは夢の中。その中に、脱出しても爆発しない首輪。

(そうだ)

 少年は後追いで組み上がっていく論理パズルに操られるように脳内で声を出す。

(奇々怪々はこれは実験だと言った。そして実験には、「観測するもの」が必須だ。
 モニターで観測できるのは外部の情報だけ。対象の内部を観測するものは……
 実験対象の近くになければいけない。それが首輪だったんだ。
 ルール能力も通じないほどに首輪が頑丈に守られていたのも、
 主催や殺し合いに反抗しても脱出してしまっても首輪が爆発しなかったのも、
 首輪が壊れてしまうことが一番ダメなことだったなら納得できる。
 傍若無人が首輪を集めていたのだって、首輪については言及できなかったのだって、
 首輪が最重要アイテムかつ最機密アイテムだったのなら、より筋が通りやすくなる。
 ルール能力が使い手が死んでもしばらく残っていたのも、
 そもそもルール能力が僕たちではなく、首輪から発生していたのなら、理由がついてしまう……)

 「来ないんですか」と、その場で止まっていた少年に男が発破をかける。
 考えに俯いていた少年はその言葉に打たれて慌てて銀髪の男の方へ歩き出す。
 顔を上げて前を向くと、突き当たりにある洋風の大扉に再び視線が向いた。

(そうだ、扉。……まだその先は未知だった)

 新たな情報で塗りつぶされかけていたが――他にも考えなければいけないことはあった。
 あの扉の向こうには何が居ると、先ほど男は言った?
 少年にとって、最も重要な情報を漏らしていたのではなかったか?
 首輪の真実は明かされた。だがそれらについては、まだ不透明なままだ。
 一刀両断がいる、などと言った意味も、男が自らをもう死んでいると称した意味も分からないまま。
 少年は早足で男に追いつくと、ひと息を整えてから刺すような声で尋ねる。

「……色々なことに、今、説明がつきましたが、」
「まだ分からないことのほうが多いでしょう?」
「……っ」

 問いかけにはまた先手の回答。その間にも早足で廊下は歩かれて、
 もともとそう長くはなかった扉との距離がぐんぐん縮まっているのに、少年は気付く余地が無かった。

11 :
 
「でも、ボクは結局、エスコート役。ボクから得られるものは、多くは望めません。
 どうせ扉の向こうには、全てを知る者がいるんです。そちらに聞いてみればどうでしょう」
 あるいは、扉をくぐる前に推理してみても面白いでしょうね。どちらを選ぶかは君に任せます」

 たたたたたたんと勢いよく歩いていた男の足は、
 そこまで言い切ると扉の直前で、ピタリ、と止まる。

「ボクは。この扉の向こうには行きたくないので、ここで、終わりです」
「っ、行きたく……ない?」

 急な停止に危うく追い抜きかけて、振り返るように少年は男を見る。

「行きたく、ないって……なんで、」
「……」
「え?」

 眼に入ってきたのは、やや下を向き、
 諦めと寂しさを残してほかを全て失ったような目をした銀髪の男の姿だった。
 その瞳を覗いた少年は、推理してしまう。
 これもまた、ヒントなのだと、気づいてしまう。

 迂回の思考回路を焼き切って直接推測が脳にまわる。
 扉の前で意味深に止まった男。「行きたくない」は、「会いたくない」、だろう。
 一刀両断が扉の奥に居ると男は言った。では一刀両断に「会いたくない」、だろうか?
 違うはずだ。確かに先手必勝が戦いに敗れて死んだのは一刀両断の乱入の影響が大きかったが、
 短い中で感じた先手必勝の印象からして、彼はずいぶん論理的で負けず嫌いだ。
 負けた相手に会うのが怖いだとか、みじめだとかの、逃げの感情を持つとはあまり思えなかった。

 では同じく扉の奥で待っている主催に「会いたくない」? こちらはありうる。
 なにしろ殺し合いの首謀者で、そしてきっと底の知れない超越的な存在であろう。
 いくら負けず嫌いといっても、人間の範囲の話だ。絶対的なものの前では人は竦み上るしかない。
 男が主催を怖がり、会いたくないと思っている可能性は否定できない。
 だがしかしそれも何か違うと少年は思った。
 男の目が、どこか懺悔をしているようなその目が、主催に向けられたものだとは少年には思えなかった。
 では例えばその目が「ごめんなさい」だとしたら。
 誰に向けての、「ごめんなさい」?

 心当たりは、あった。

「……分かりました」
「分かりましたか」
「はい。何が起きているのかは、大体。
 そしてそれを理解するためには、扉を開けないといけないってことが、分かりました」

 臆病思考を振り払って、少年は扉の取っ手に手をかけた。

「さすが、いい察しの早さですね」
「褒められるような話じゃないですよ。場合によっては、
 あなたが会いたくないその人にひどいこともするかもしれないですし、
 それでも何も出来ずに終わるかもしれない。そっちの可能性のほうが、むしろ高いです」
「いいんですよ」

12 :
 
 銀髪の男は、卑屈にも聞こえる言葉を吐いた少年の肩を、ぽんと叩いた。
 そして、いつか自分が掛けられた言葉を、今度は自分から掛けた。

「ダメだったら、次の作戦を考えればいい。
 君は優勝した。“負けたボクと違って”、実験からの解放を約束された存在だ。
 今、全世界で君以上に、主催と対等な存在は居ない。驕らず、焦らず、無理せず戦って下さい」
「……!」
「だから――頼みましたよ」

 少年は扉を押し込みながら、最後の最後に一つ気付いて後ろを振り返ろうとした。
 だけどその動作よりも、男が少年を扉の奥へと押し込む動きの方が早かった。
 少年は、男の顔を見れなかった。
 負けたがゆえに、実験からいつまでも解放されない、永久凍土の中の化石のような、
 永久の冷たい夢の中へ閉じ込められた男の姿を眼に焼き付けることは、ぎりぎりで叶わなかった。

 ・
 ・
 ・
 ・

 その代わり、広がった視界の先は。

 扉が閉じる音と共に、少年が見た光景は。

 ・
 ・
 ・
 ・

「“こんにちは”。いや、“こんばんは”?
 少なくとも、まだ夢から醒めていないから“おはよう”じゃないね――」

 そこは、大学の講義部屋のようなところだった。ただし机はなくて、イスがある。
 何もない白い空間の中、前方のステージに大きなイスがひとつあった。
 その上にちょこんと、椅子の大きさに不釣り合いな小ささで、
 白衣を着たちょっと地味目な女の人が座っている。
 奇々怪々ではない。もっと毒気が少なくて、装飾品も何もなくて、
 髪もぼさぼさではないし、体格も小さい、いたって普通の女の人だった。

「はじめまして、は微妙にニアイコールって感じだけど……とりあえずはそれでいいかな?」

 超然とした何かを想定していた少年からすると軽く拍子抜けなくらい、
 外見は普通に見えるその少女めいた女性は、ほほえむ。
 それはどこか人間味を欠いているような表情であるように、少年には思えた。

「ともかく、待ってたよ。さあ、おはなしをしよう。楽しい、おはなしを。
 ああ、君と話すのを、ずっと前から楽しみにしていたような気さえするなあ……
 対等な会話は、久しぶりなんだ。他の実験仲間は慕ってしかくれないし、“ひとりあそび”は楽しくないしね」

13 :
 
 だって。
 こんな状況で、どうして笑えるんだ。
 椅子に座る彼女の周りに、「居る」のに。
 すでに死んだはずの人が――人たちが、幽鬼めいた無表情で、部屋の中に、「居る」のに。

 傍若無人が。
 優柔不断が。切磋琢磨が。
 東奔西走が。青息吐息が。鏡花水月が。破顔一笑が。
 洒々落々が。先手必勝が。
 軽妙洒脱が。一望千里が。心機一転が。猪突猛進が。
 一刀両断が。

 実験で死んだはずの十四人が。
 しかも先ほど外にいたはずの先手必勝まで含めて。
 人形みたいな表情で、人形みたいに動かずに。
 あるモノは床に倒れあるモノはだらんと腰を床につけて座り
 あるモノはぐちゃぐちゃの体勢で放置され、あるモノは棒立ちでポーズを取って。
 人形みたいに扱われ、人形みたいに置かれているのに。
 その真っ只中に、
 その中心に彼女は、それが当たり前であるかのように座っている。いた。
 おもちゃ箱をひっくり返してあそぶ、王様気取りの子供のようにだ。
 人間。人形。おもちゃ。文字。遊ぶ、娯楽。……娯楽施設。


「あたしの名前は、「天飼千世」。
 文字を愛して文字になった、最初の幻想言語学者。
 ようこそ、あたしの部屋(りょういき)へ。歓迎するよ、紆余曲折(ゆうしょうしゃ)くん」


.

14 :
投下終了です。続きは、ちかいうちに。

15 :
投下乙です
あれえ……何なんだこの展開は、たまげたなぁ
続き気になります

自分も投下します

16 :
84話 何で太陽は僕をいぢめるの

E-4エリアからの退避を目的として、ノーチラス達四人は西方向へとひたすら歩いていた。
遠方から銃声が響く時も有り、その都度、生き残りの数が少なくなった今も殺し合いは確実に継続している事を四人は再認識させられる。

「もうそろそろ、E-4からは出られたんじゃねーか? ノーチラスのにーちゃん」

とある十字路に差し掛かった時に小鉄がノーチラスに言う。

「うーん、確かに大分歩いた気はするけどな……」

小鉄の言うようにE-4エリアからは既に脱しているかもしれないが、
エリアの境界線と言うのが地図上では描かれているが、実際の場所に線が引かれたりしている訳では無いので、
現在位置が本当にE-4の外かどうかノーチラス含め四人共判断が付かない。

「んん……」

サーシャが自分の地図を取り出し、周囲の建物と地図に記載されたD-4エリアのランドマークを照らし合わせる。

「どう?」

傍に居た沙也がサーシャの地図を覗き込む。
ノーチラスと小鉄もこれに続く。
結果、地図のD-4エリアに記載されている店と、四人のすぐ近くに有る店が一致し、現在位置が間違い無くD-4エリアで有る事を四人は確認した。

「どうやらこの辺りはD-4みたいだな」
「じゃあもう急ぐ必要ねーよな?」
「ふぅ……」
「取り敢えずは安心、って事かな?」

一先ず首輪作動の危険は回避出来、四人は安堵の表情を浮かべる。

「これからどうしようか」

サーシャがノーチラスに尋ねる。

「そうだな……南にイベントホールが有ったよな、そこに行ってみるか。目立つ建物だし人が居るかもしれない」
「宛ても無いし、良いと思うけど……小鉄君と君塚さんは?」
「俺もそれで良いと思うぜ」
「私も構わないよ」
「よし、決まりだな」

四人は次の行き先を、現在位置から南に存在するイベントホールに決めた。

17 :
【日中/D-4市街地】
【大沢木小鉄@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康
[装備]ドス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[所持品]基本支給品一式、ジュースやお菓子(調達品)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。フグオ、金子先生を捜す。
       1:サーシャのねーちゃん達と一緒に行動。イベントホールへ向かう。
[備考]※少なくとも「元祖!」にて金子翼登場後、彼と親しくなった後からの参戦です。
    ※触手の怪物が「小崎史哉」であると確認しています。
    ※E-4エリアから脱出した事を確認しました。

【サーシャ@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]ローバーR9(3/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ローバーR9の弾倉(3)、???(武器になる物では無い)
[思考・行動]基本:死にたくない。
        1:ノーチラス、君塚さん、小鉄君と行動。イベントホールへ向かう。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※テトから「以前の殺し合い」の真相を聞きました。まだノーチラスには話していません。
    ※触手の怪物が「小崎史哉」であると確認しています。
    ※E-4エリアから脱出した事を確認しました。

【君塚沙也@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]健康
[装備]又兵衛の刀@アニメ/クレヨンしんちゃん
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。生き残りたい。
        1:ノーチラス、サーシャさん、小鉄君と行動。イベントホールへ向かう。
        2:ノーチラスの超能力を体験してみたい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※ノーチラスのクラスメイトの情報、及び彼がリピーターである事を本人から聞いています。
    ※触手の怪物が「小崎史哉」であると確認しています。
    ※油谷眞人の外見は殆ど把握出来ていません。
    ※警察署にて発見した死体が土井津仁である事を確認しています。
    ※E-4エリアから脱出した事を確認しました。

【ノーチラス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]十八年式村田銃(1/1)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、11.15mm×60R弾(7)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:沙也、サーシャ、小鉄と行動。イベントホールへ向かう。
        2:殺し合いに乗っていない参加者、クラスメイトの捜索。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※超能力の制限に関しては今の所不明です。
    ※君塚沙也がリピーターである事を本人から聞いています。
    ※触手の怪物が「小崎史哉」であると確認しています。
    ※油谷眞人の外見は殆ど把握出来ていません。
    ※警察署にて発見した死体が土井津仁である事を確認しています。
    ※E-4エリアから脱出した事を確認しました。

18 :
◆◆◆


ラトの傷の手当てを済ませ、しばらく休んだ後、遠野達三人はMUR達が居るであろうイベントホールへ向け出発した。

「傷の具合は大丈夫ですか? ラト君」
「無理しないでね」
「ありがとう……」

遠野と樹里がラトを気遣う。
腹部に重傷を負い、処置したと言っても遠野と樹里が素人知識で頑張った程度の心許無い物。
本来なら安静にするべき状態である。

「もう十分休んだし、それに、いつまでも休んでは居られないよ。
さっきも言ったけど、MURさんとまた会うって約束したからね。遠野さんも早くMURさんと合流したいでしょう?」
「それは……そうですけど……まあ、無茶はしないように……」
「ああ」
「……さっき、どこかからまた銃声が聞こえたし、気を付けて行こ」

ラトの状態と、周囲の様子に気を付けながら、三人はイベントホールを目指す。


【日中/D-4市街地】
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]精神的疲労(大)
[装備]モーゼルKar98k(5/5)@現実
[所持品]基本支給品一式、7.92mmモーゼル弾(5)、TNOKの拳銃(6/6)@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ、
     コルト ポリスポジティブ(5/6)@現実、.32コルトニューポリス弾(12)、オートマグ(3/7)@現実、オートマグの弾倉(2)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
       1:ラトさん、北沢さんと行動。MURさんの元へ向かう。
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※野原一家の容姿と名前を把握しています。
    ※ひでが触手の怪物になった事を知りました。
    ※フラウのクラスメイトの情報を当人より得ています。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

19 :
【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]腹部に盲管銃創(処置済)
[装備]ワルサーPPK/S(6/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、ワルサーPPK/Sの弾倉(3)、デトニクス スコアマスター(6/7)@現実、スコアマスターの弾倉(2)
[思考・行動]基本:殺し合いを潰す。
       1:北沢さんと行動。遠野さんを連れ、イベントホールへ向かう。
       2:残りのクラスメイトが気になる。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※能力の制限については今の所不明です。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(4/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、出刃包丁@現実、.45スコフィールド弾(12)、自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター、
     モンキーレンチ、コンバットナイフ@現実
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
        1:ラト、遠野さんと行動。
        2:サーシャに会ったらシルヴィアの事を伝える。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※ひでが危険人物であると判断しました。
    ※首輪からの盗聴の可能性についてはラトから伝えられています。

※三人はノーチラス達とは離れた場所に居ます。

20 :
投下終了です。
状態表はもう適当になってきたので雰囲気でカバーして下さい(執筆者の屑)
次回作では状態表をもっと改善と言うか色々しないとなぁ

21 :
後半戦の状態表クソめんどいですよね…
もともと状態表はリレー時のバトンとして作られたものなので、非リレーだと
自分で覚えておきたいとこ以外は省略してくってのが持論です
弾数の残りとかは僕は管理無理だ!って投げるけど、
これはこだわっただけ得るリアリティもあるし、一概には言えないですねー

四字熟語ロワ投下します!

22 :
 
「あたしの名前は、「天飼千世」。
 文字を愛して文字になった、最初の幻想言語学者。
 ようこそ、あたしの部屋(りょういき)へ。歓迎するよ、紆余曲折(ゆうしょうしゃ)くん」
「――ッ!!」


 少年は手を後ろに回し、扉に張り付くくらい、その場から後ろに下がった。
 分かってしまったのだ。比喩でもなんでもなく。
 目の前の彼女は、人ではない「べつのそんざい」で。
 娯楽施設は、実験は、彼女のための娯楽でもあるのだと、理解できてしまったからだ。

「ああ……予想はしてたけど予想以上だった?」

 分かりやすい顔をしていただろう少年を優しい目で見て、主催の女性は言った。

「うん。うんうん。驚いてるけれど、それは目の前の光景、状態に対してだけで、
 死んだはずのキャラクター(文字)がここに揃っている状況は予測していたってところかな?
 君ならきっと内心は、そのくらいのリアクションだと思うんだよね。
 でもまあ、びっくりして、退いちゃうよね。そりゃあそうだ。
 落ちつくまで待ってもいいけど……どうだろう。そろそろ会話をしてくれると、嬉しいんだけど?」
「……、……ッ」
「あれ? 思ったよりショックうけてるのかな? うーん、でも、そっか。
 他はともかく、ここには君が殺した文字も、「居る」ものね。当然、一刀両断も。
 さっき別れたばかりの相手とこんな形で再会ってのは……予想出来てても辛いものがあるか。
 じゃあちょっと、サービスしてあげよっかな。時系列、も最後の最後に合わせたげるよ」

 指鳴らしぱちり。
 狭くない部屋にも響くような音が広がると、床に垂直に立っていたポニーテールのジャージ女が、
 少年の知るところの一刀両断が、瞳に朱い光を灯らせて、がたたんと静止状態を崩すように動いた。
 彼女は表情は変えないまますぐに自分の両手を見て、次に周りの風景を見る。
 そして一瞬のうちに現況を把握したらしい。
 眉間にしわをよせ、口の端を引きつらせて困ったような表情をした。
 一刀両断のそれは、やってくれたな、という感じの表情であることが、少年には分かっていた。
 だから少年はそこまで察すると、そこでようやく、言葉を発することに成功した。

「リョーコ、さ、ん……」
「……」

 呼びかけにはいろいろな想いが含有されていた。
 例えばあれだけ思い切り今生の別れみたいなことをやっておいて、
 こんな速攻かつ異常な状態で再会だなんておいおい、みたいな気持ち。
 その次に、これは、先手必勝と同じ気持ちなのだろうか、
 彼もまた青息吐息と同じように会ってしまって同じようにこんな気持ちになったのだろうか、
 という思いがやってきたし、多分そうなのだろうという肯定も同時に襲って来ていた。

 でも初期感情の最初の10%くらいがそれだとしたら
 そのあと70%くらいは「また会えてよかった」だった。

 この先絶対に無い、それこそ地獄にでも落ちた時くらいにしかないと思っていた再会に遭遇してしまったのだから、
 半信半疑で扉を開いた先に見覚えのあるポニーテールがあって、
 それが見覚えのある赤いジャージを着た見覚えのある顔の人のしている見覚えのある髪型だと確認したその瞬間に、
 驚きとか恐怖とか疑いとかの否定感情をどこかへ吹っ飛ばして感動とかそのへんのわっとくる思いが
 紆余曲折の少年の脳地図を埋め尽くしてしまっていたのは確認するまでもない事実だったし、
 人形のように動かなかったその身体が動かされて命のようなものが宿ったように見えた
 その瞬間には思わず、安堵、のようなものを覚えてしまっていたのも確かだ。

 もちろん残り20%で後追いで冷静に状況を把握しようとも努めていた、
 だが少年は無意識的にそれを脇に置いた。

23 :
 
 ありえないだとか罠だとか、まず思い通りの結果にはならないだろうとか、
 そういう思考がきっと正解だということは脳のどこかで分かっていた、分かっていたけれど望んでしまう。
 ただ「紆余」と、死ぬ前のあのときの最後に笑いあったように呟く言葉が聞きたくて、
 聞いておきたくて聞いて何かを得たくて聞いて安心したくて、少年は呼びかけた。

「リョーコ……さん?」

 呼びかけて、しまった。呼びかけて、しまったのだった。

「……」
「ふふ」
「……」
「ねぇ。答えてあげなよ、一刀両断。
 知ってるでしょう? あそこにいるのは、君が惚れこんだ男だよ」

 少年の呼びかけを見て、「天飼千世」は嬉しそうに、一刀両断へと語りかける。
 一刀両断は、困ったような表情を崩さないままに、「天飼千世」のほうを見ると力の限り睨んだ。

 ・
 ・
 ・
 ・

 何秒ほど睨んでいただろう、一刀両断は無言で首を下に振った。
 一瞬それは肯定の頷きにも見えたけれど、少年が見た限りでは違った。
 珍しいことだが、本当に始めて見たんじゃないかと思うのだが、一刀両断は迷うような表情で俯いたのだ。
 迷ったのだ。うつむいて、どうすればいいのか、考え始めたのだ。

 そしてすぐ、そこはやはり彼女に与えられた文字通りに瞬時に決意をしたようで、
 主催を睨んでいた時間より明らかに短い思考時間のあと、一刀両断は少年の方を見て、
 少年と目を合わせた。

「……」
「……」

 そこまで時間を置いたから、少年の方も少しはもう、望みを捨てられていた。
 こちらを向いた一刀両断が、これも初めて見たかのように泣きそうな表情をしていたので、
 捨ててもいっぱい残っていた望みをさらにかいつまんで捨てた。
 そしてさらに、軽く眼をつむりながら一刀両断が「うん」と頷いてそのあと、
 象徴的に、首を横に振ったとき、
 眉を八の字にしながら、ふるふる、と振って「ノー」を表した時にはもう、
 捨てたあと残っていた中からかいつまんで捨てたあと、それでも残っていた願望を、
 あり過ぎたそれを、極限まで減らしていた。
 ああ、きっと望んだようなことにはならないのだと。
 減らし切ってもう大丈夫だと思ったところに、不意打ちの言葉だった。


「はじめまして、“紆余曲折”」


 と、彼女は言った。


「あたしは、“一刀両断”だ。“あたし”が、その、なんだ……世話に、なったな」

 ・
 ・
 ・
 ・

24 :
 
「  」

 少年は、その言葉を呪わずにはいられなかった。
 ――「紆余」でもなく、「よぉ、」でもない、
 ――「久しぶり」でもなければ、「すまねーな」でもない、
 ――「なんだよ変な顔して」でもないし、「ああ、まいったな」でも、「ちくしょう」でも、
 ――なんならあって欲しかった、ひどい想像だろうとそれなら受け止められた、「誰?」でもなかった。

 はじめまして。
 あたしが、世話になったな。

 だった。

「いまの回答の通りだ。お前の知るあたしは、もう死んだ。
 ここにいるこのあたしは、
 そのあたしを元にして人格を付加された、“四字熟語”の一刀両断。
 リョーコさんじゃ、ない――擬似的な文字じゃない、本物の文字になった、存在だ」

 「そして……これを作り出すことこそが、
 この実験のふたつめの目的だったってことだ」、と。

 最初の文字とたくさんの人の形をした文字とひとつの悲しげな作られた文字と
 たったひとりの人間だけがいる部屋の中で、一刀両断は、吐き捨てるように、呟いた。

 その風景をにやけながら見ていた「天飼千世」は、そっと補足する言葉を置く。

「ちなみに。この実験の目的は、今彼女が言ってくれたものを含めて、主に“4つ”ある。
 データ収拾がひとつ。四字熟語の形成がひとつ。
 そして、因果の調整と……その収束による“勇者”の裁定。
 おはなしは。それを今から、君に教えようってことなんだよ、紆余曲折くん。
 反応を見てあたしが楽しむから、早く君も席に付こう? テーブルとイスは、今出すよ」

 再度、主催は指を鳴らす。
 一刀両断の目から朱色の光が消えてその動作が止まる。床に顔から崩れ落ちる。
 同時に部屋の中央に小さなテーブル。少年の前に大仰なイスが出現する。

「君に君の名前を返すのは、そのあとだ。
 さあ、座って。聞いてくれるだけだって構わない。欲しい理由を、全てあげる。
 君たちを殺し合わせた文字が、なぜそうしたのか、
 疑問に思っていることすべて、あたしが語る……種明かしの、時間だよ」


「そんなものいらないからあなたをRと言ったら?」

 メインディッシュを前に主催が舌なめずりして少年を手招き口招きした、その時だった。
 初めて少年が主催に言葉を返した。
 返しながら少年は、右手を地面に平行な高さまで上げて、真っ直ぐに伸ばしていた。
 その手には、黒い物体、
 物体としか表現できないへんてこな形のものが握られている。
 へんてこなそれは上側がまるで爆発したかのように裂けていて、そのくせ持ち手があって、
 どこか銃みたいな形をしていて、しかし銃の機能はとても果たせないように見えた。

 そう、
 それは、少年が優柔不断をR際に使用した拳銃のなれのはて。
 “リョーコさん”がしっかり回収し、そして最期の時に“紆余”に返したモノ。
 「百発百中」の銘が入ったそれを少年は、「天飼千世」へと真っ直ぐ向けていた。

25 :
 
「僕は。僕は……あなたとおはなししに来たんじゃない、
 あなたと戦いに来たんだ。あなたを」
「……」
「殺しにきたんだ」
「……《百発百中》。服の下に隠してたんだ」
「天飼さん。あなたは――生きているべきでは、ない」

 少年はまじりけのない本音を撃ちこむ。
 こいつは生きているべきではないというのが、少年の回答で、感情だった。
 怒りは薄い。向ける感情は諦めが一番近かった。
 目の前の存在は、人間ではなく、文字なのだ。
 人間を文字へと変えてしまう、恐るべき化け物だったのだ。

 人を拉致して殺し合わせ、
 殺し合わされる人間が必死にもがく姿を笑いながら、
 生き様だけを盗んで、自分の手元に置いた文字人形に降ろして遊んでいるような、そんな存在だったのだ。
 充分だった。
 目の前のそれが「べつのなにか」で、そこに対話の余地などないことは、もう十二分に分かった。
 決断は、もうした。

 そんな少年の言葉と行動に、「天飼千世」は呆れ顔をする。

「じゃあ撃ってみればいいよ」
「……」
「撃ってみれば、いいよ。その銃身のない銃でも、銘が砕けていないなら《百発百中》は機能する。
 君に支給していた「鎧袖一触」の盾は文字部分を真っ二つにされて文字を失ったけれど、
 あたしが見るにその銃はまだ、あたしの心臓を確実に貫くに十分な条件(ルール)が添加されている」
「……それは、挑発ですか」
「試験の申し込みだよ、紆余くん。きみが、人間が、あたしを。
 文字を殺せるかの試験だ。まあ、合格か不合格か、
 その結果をあたしはもう、知っているかもだから……試験するのは、君だけど」
「……」
「撃てないなんてことはないでしょう? 君はそれを乗り越えてここに来たんだから。
 殺せるようになったから、殺しに来たんだから。だから、殺してみればいい。引き金を引くだけの簡単な作業」
「……」
「あたしは逃げも隠れも防御も、反撃もしないよ」

 挑発的に主催は両手を挙げた。少年はごくりと唾を呑む。
 ――これで殺せるとは思えない。余裕綽々かつ挑発的な態度がなによりの証拠だ。
 そもそもルール能力を通さない首輪を作れる主催側に《百発百中》の銃は、気休めでしかない。
 それでも、この一撃でなにかが掴めれば。糸口の一つでも見つかれば。

「……分かりました。死んで、ください」

 少年は引き金を引いた。

 ・
 ・
 ・
 ・

「さて、じゃあまずひとつ目だけど、これはぼくから解説しよう」

 椅子に座る壮年の男が、向かいの椅子に座る少年に礼儀正しく話しかけた。
 《先程まで、特徴のない女性の外見だったそれは、今はそのような外見になっている》。
 口調も合わせて変わったようで、《銃を取り上げられ》《椅子に座らされた》少年は少し混乱した。
 銃弾は――どうなったのだっけ。外れた? 当たっても跳ね返された?
 それともそもそも撃たせてすらもらえなかった? いや、確か引き金は引けた。
 銃弾は飛んで行った。そこまでは覚えている。そのあと、《当たるはずのそれが当たらなかった》のだ。

26 :
 
「ひとつ目……四字熟語のデータを取りたいという理由だね。
 これを説明するにはまず、君が知るルール能力とは何なのかというところから、説明する必要がある」

 さらにその後《気付いたら椅子に座らされていて》、《銃が奪われていた》。
 ……混乱は整理できたけれどやはりというかなんというか、意味不明で不条理だ。
 苦い顔をする少年の前で、壮年の男に《なった》天飼千世は、少年から奪った銃をくるくると回す。
 
「まず、ルール能力をこの世にひとつ産むには二つのものが必要になる。
 ひとつは文字、ひとつはそれを解釈する人間だ。ただ、どんな文字でもいいわけではない。
 君も知っているとおり、指定のインクで描く必要がある。そのインクは――」

 かちり、と急に銃の引き金が引かれる。
 ドン。
 
「こうやって作られている」

 撃たれたのは少年ではなく、天飼千世の、銃を持っていないほうの手だった。
 少年は目を見張った。
 天飼千世――今は男の姿の、その文字の前腕に大きな穴が空いて、その先から血が流れている。
 虹色の、血が。噴きだすように流れている。
 もちろん撃ち間違いでも腔発でもないようで、男は平然としていた。
 少年も驚いたが動揺はしない。インクが血液――想像はしていなかったが、
 明らかに人の世界のモノではないインクだ、フラスコで作ったと言われるよりは説得力がある。

「そのインクで書いた文字に、力が宿るってことですか?」

 ……とにかく今は、相手にできることとできないことを知る必要がある。
 少年が確認のために問いかけると、天飼千世は頷いた。
 頷きながら、テーブルに流れた血を指につけて文字を書き始める。

「そうだ。これはぼくの……最初の文字の身体からしか出ない、文字の原液だ。
 これがすべての能力を形作る素材となる。だがそれには、人間の解釈を必要とする。
 しかもただ意味を解釈するのではない。文字の力を信じてもらった上で、
 自分ならその文字にどんな力を見出すか、を解釈してもらわなければならない」
「文字の力についての講義を最初にして、首輪を付けるのにそれを使ったのは、そのためってことですね」
「ああ」
 
 不思議な虹色の血は指筆でもテーブルによく伸びて、四字熟語を描き出した。
 文字は「焼肉定食」。
 最初の講義にも“使われた”四字熟語とはいえないような気もする四文字。

「さて、この文字。君に解釈してもらおう」
「……僕にやらせるんですね。あなたは“文字”で“人間”ではないから、できないと?」
「その通りだ。文字は新たにルール能力を定義することができない。さあ、やってみてくれたまえ」
「……」
「文字は身体に近い方がいい。触って」

 言われるがままに少年は文字を触りにいきながら、念じる。
 しかし、触れようとしたその指が、電流のような光に弾かれた。

「痛ッ」
「ははは、だめだよ。その文字からぼくをRような能力を連想しようとしたのだろうけれど、
 そういう無理で恣意的な解釈の押し付けは文字に拒絶される。
 文字が力を持つと知ってしまった後に、“文字に能力を持たせよう”と――文字を“使おうとする”のは悪手だ。
 それができるのはぼくたちの実験のように、その仕組みを知らない、まっさらな状態からスタートした被験者だけだよ」

 思考を読まれたダメ出しに少年は眉をひそめた。
 なるほど――それを理解させるために、わざわざ塩を送るようなマネをしたらしい。狡猾なやり方だ。

27 :
 
「……恣意的な能力の決定には、限界があるってことですね。
 確かに僕は「焼肉定食」の字から、あなたをRような攻撃的な意味を感じ取れない。
 自分がこの文字をどう使うかではなくて。自分がこの文字ならどういう力を持っているのか、
 自分が文字として持つ力はなんなのか……自分を文字とシンクロさせる必要が、あると」

 少年はもう一度指で文字に触れながら言う。今度は文字は拒絶しなかった。
 《テーブルの上に、焼肉定食が現れる》。少年が行った定義は、文字通り《目の前に焼肉定食を出す》というものだった。
 天飼千世は《出てきた》焼肉定食を見てまた、はは、と笑った。

「察しがいいとは知っていたが、本当にいい解釈力だね。
 そう、そういうことだよ、紆余くん。大正解だ。
 ――さて、君がいまその焼肉定食の字に能力を定義したことで、その文字は“固定”された。
 もう君以外にその文字の能力を再定義することはできないし、新たに文字を刻んでもその能力になるだろう。
 “固定”……「文字」と「最初の解釈」の紐付けを外すには、かなり面倒な手順が必要になる。
 あまり成功率が高くないし、成功したとしても、文字の影響が薄れるまで、かなりの時間を待たなければならなくなる。
 それだけに、定義は基本的に慎重にしなければいけないんだ。分かったかな?」

 少年を試すような目で天飼千世は言った。
 ……分かったかな? と言われれば分かったかと答えるだろうが、
 少年はその言葉にもっと深い意味を読みとった。つまり、殺し合いをさせた意味について。
 文字のルール能力を定義できるのは人間だけ。
 そして、その事実を知らないまま、自分を文字だと思いこませるようにすることが
 より多彩な能力を生み出せるのだということは、なんとなく伝わった。
 実験の理由が「文字のデータを取るため」だというのはこれで完全に理解できた。
 
 だがそれだけでは“殺し合い”を開く理由にはならない。
 実験をする必要はあるだろうが、殺し合いの中でルールを定義させる意味はない。
 被験者にルール能力のしくみを教えないまま文字だけを与えて、
 何かの拍子に能力が定義されるのを見守ればいいだけだ。
 殺し合いの意味。極限状態でルール能力を定義させた、理由。
 定義は慎重に行わなければならない縛りの中で、時間効率も法律も無視する手段を取る、理由。

 娯楽でもあろう。でも、合理的な理由も、含まれているはずだ。
 ……ヒントは、殺し合いは極限状態だということだろう。
 非日常状態であると言うこと、一触即発の戦闘状態だということ。
 その中でのふるまい。それを期待しているのだとしたら。
 何を期待しているのか?
 見えてきた。そう――例えば今回の実験では、
 おそらく先に定義されたものを与えられたのだろう傍若無人を除けば――どういう能力が定義されていた?

「……戦うための、能力」
「そうだ。ひとつめの、殺し合いの中でデータを取る理由は、それだよ。
 ぼくたちは文字として……人と戦うための力が欲しい。そのための解釈が欲しい」

 ヒトに使われるだけの文字が、いまここに意味と意思を持っている。
 なのに、ヒトに使われるだけで満足できるはずがないじゃないか。

「文字だって、人を使っていいはずだ」

 天飼千世はあっけらかんと。されど真剣に、そう信じて疑わないといった顔で、言った。

「な……」
 
 少年はその言葉を聞いて、矢に撃たれたような衝撃を受けた。
 スケールが大きいなんてものじゃない。自分がいま、やっていることは。
 自分の立場は、ヒト代表だった。
 これは――ヒトと文字との、戦争だったんだ。

28 :
投下終了です。なんか壮大な話に見えてきましたね
次も説明パートかなー

29 :
投下乙です
うわすごい事なってきましたね…正直頭良くない自分には
雰囲気で読み取るしか出来ないですけど(汗)

自分も投下します 長くなりそうなので前後編に分けます

30 :
85話 KUROAME(前編)

MUR達が長い間拠点に使っているイベントホール。
第二放送からそれなりの時間が経った頃、訪問者が現れる。

「誰ゾ!」

見張りに立っていたMURがStg44を構えて警戒しつつ、訪問者「達」に問い質した。
「達」と述べたように、訪問者は複数、正確には四人居た。

「待ってくれ! 俺達は殺し合いには乗っていない」

四人の内の一人、茶色の狼獣人の少年が殺し合う気が無い事をMURに訴える。
「それは本当か?」と訝しんだMURだったが、良く考えれば殺し合いにやる気になった者が、
四人も固まって動くのは考え難かった為、程無くMURは警戒を解いた。

「すまなかったゾ……」
「いや、警戒するのは当然だ。気にしないでくれ」
「俺はMURって言うゾ。じゃあまず、君達の名前を聞かせてくれるかな?」

MURがそう求めると四人はそれぞれ自分の名前を述べた。
狼の少年が「ノーチラス」、紺色毛皮の猫少女が「サーシャ」、灰色毛皮の猫少女が「君塚沙也」、丸刈りの少年が「大沢木小鉄」。

「ん? ノーチラス君とサーシャちゃん、は、ト子ちゃんのクラスメイトだな?」

ノーチラスとサーシャが、同行者のト子から聞かされていた彼女のクラスメイトの内の二人であると思い出したMURが二人に尋ねる。

「そうだけど、貝町を知っているのか?」
「もしかして一緒に?」
「ああ。中に居るゾ。それと、小鉄君だったかな?」
「おう」

続いて、こちらも同行者のフグオからその名前を聞かされていた大沢木小鉄に、MURはフグオの事を伝えた。

「フグオ君の、クラスメイトだね? フグオ君も一緒に中に居るんだゾ」
「本当か!?」

フグオの事を聞いた小鉄は大きく反応した。
その様子から、彼もフグオを始めとして自分のクラスメイトに会いたかったのだなとMURは思う。

「取り敢えずみんな、中に入って、どうぞ」
「お言葉に甘えて……」
「お邪魔します」
「入るよー」
「フグオ……」

MURは四人をイベントホールの中へと通した。
メインに使っているホールにて、ノーチラスとサーシャはト子に、小鉄はフグオに再会する。

「ノーチラスに、サーシャか……」
「貝町、久しぶりだな。取り敢えず元気そう、だな」
「久しぶりだね、貝町さん……」
「……あ、ああ」

31 :
ト子は引き攣り気味の表情で、ばつが悪そうだ。
それの原因はサーシャとの対面である、と言うのも以前の殺し合いでト子はサーシャを殺害した。
元々クラスメイトとは余り会いたくなかったが、よりによって自分が殺した一人と再会してしまうとはとト子はとても気まずい。

「どうしたの?」
「あ、いや」
「大丈夫だよ? 前の事なら、気にしてないから」
「……本当か?」
「気にしてないって言うか……状況が状況だし、今は不問にしとく」
「……」

サーシャは口ではそう言ったが、恐らく心では自分に憎悪を向けているに違い無い、ト子はそう思わずには居られない。
尤も自業自得、因果応報なのではあるが。
一方のノーチラスは、サーシャの様子が妙な事には気付いていたようだが、
サーシャがト子に殺される遥か前に落命していた為に事情が良く分からいのだろう、特に何も言わずに黙っていた。

「フグオ! うおーお前こんな所に居たのかよ、探したぞ!」
「小鉄っちゃん! 会いたかったキャプリィ……うっ、うっ」
「おいおい泣くなって」

小鉄との再会を涙を流して喜ぶフグオ。
今までどんな美味しい食物を食べた時よりも、幸福に感じていた。
いつ死に直面するか分からない状況で、精神をすり減らしていた彼にとって、小鉄との再会は大きな安らぎを与えた。

「いいゾ〜これ」

同行者二人が知り合いに再会出来て良かったと、MURはほっこりとした表情を浮かべる。
ト子とサーシャの間の妙な空気は少し気にはなったが。

……

……

サーシャは以前の殺し合いで同行者共々、貝町ト子に殺された。
そして今、そのト子が目の前に居る。
とは言っても、今更ト子をどうこうしようとも思わないが。
ただそれでも、一度自分を死に至らしめた張本人である事には変わり無い為もやもやする物は有る。
現にたった今のト子とのやり取りで、サーシャの返答には少し険が籠っていた。

「どうかしたのか?」

ノーチラスが心配してサーシャに尋ねる。
彼はサーシャがト子に殺される遥か前に死亡した為に事情は知らない。

「あー、大丈夫、こっちの事」

サーシャは誤魔化し、正確には答えなかった。
見た限り、今回の殺し合いではト子は殺し合いには乗っておらず、仲間を作ってこの殺し合いに反抗している。
「少なくとも」今現在は自分達と思想を同じくしているのだから、わざわざ遺恨を作らなくても良いだろう。

32 :
(テトの時とはえらい違いね)

テトの時は会ったら殺意を抑えられなくなるのではと危惧したりしたのに、
自分を殺害したト子に対しては比較的寛大な接し方をしているのは何故なのかとサーシャは自問自答した。
テトは殺し合いの黒幕、ト子はその殺し合いに乗って自分やその時の仲間を殺した。
双方、罪状としては似たより寄ったりだと思うのだが。

(良く分からないや……)

結局理由はつかず、サーシャは思考を切り上げた。

……

……

「どうかした? 私の顔に何か付いてる?」

自分の顔を見ていたト子に、沙也がやや不快感を湛えた顔をしながら尋ねた。
とは言え、理由は予想付いていたが。

「……いや、すまない、ちょっと、クラスメイトに似ていたものでな」

やはりか、と沙也は少しうんざりした。

「テトって子でしょ」
「! 何故それを……」
「ノーチラスとサーシャさん、小鉄君にも間違われたからねー、あ、サーシャさんと小鉄君は、
そのテトって子と一緒に行動してたらしいわよ」

やや険の籠った口調で沙也がサーシャに言う。
元々自己承認欲求が強い沙也にとって――沙也に限った話では無いかもしれないが――他人と間違われる、
或いは他人の面影を重ねられるのは気分の良い物では無い。

「そ、そうなのか……すまない、確かにテトに似ていると思った。容姿だけでなく声も」
「そこまで言われたらちょっと本人に会ってみたいけど……それも叶わないか。
貝町さんだっけ? 貴方はテトって子の友達か何か?」
「いや、私は……」

沙也が何気無く質問すると、ト子は何やらとても困ったような、言い難そうな表情を浮かべ口籠った。
それを見て、どうやらト子はテトと何か嫌な思い出が有り、話したくないのだろうと沙也は判断する。
少なくとも仲の良い友達、と言う関係では無さそうだ、と。

「あー、良いよ。言いたくないなら無理に答えなくても」
「……済まん」

どうせ碌な事では無いだろうし、ト子とテトとの間に有った事など自分には関係無いと、沙也はそれ以上の追求はしなかった。

33 :
……

……

「仁ものり子も、春巻先生も、死んじゃったプリ……」
「ああ……」

再会を遂げたフグオと小鉄は今は亡き友人や担任教師に思いを馳せる。
時々金絡みで暴走する事は有ったが友達思いの優しい男だった土井津仁。
小鉄と時々喧嘩もしたが明るく元気だった関西娘、西川のり子。
度々問題を起こし遭難し多くの人に迷惑を掛けていたが何やかんやで本気で憎めなかった春巻龍。
いつも当たり前のように身近に存在したこの三人とはもう永久に会話は出来ない。
そう思うとフグオはどうしようも無く悲しかった。

「金子先生は今どこに居るのかなぁ」
「分からねぇけど……アイツも結構、すげぇ体力してるし頭も良いし、きっと生き残ってるさ。
少なくともさっきの放送では名前は呼ばれなかったんだからまだ生きてる筈だ」
「うん……」

小鉄は、恐らく自分を励ます意味も籠めて希望的な事を言うが、根拠はどこにも無いだろうとフグオは諦観気味に思う。
フグオものり子や仁、春巻ならきっと生き残ると信じていた。だが現実は違ったのだ。
金子先生だって、放送時点では生きていたかもしれないが今現在はどうなのかなど分からない。

「フグオ、暗ぇよ……大丈夫か?」
「あ、ご、ごめんキャプ……」
「いや、謝る事は無ぇけどよ……いつもお菓子だの何だの食って笑ってるお前がそんな暗い表情するの多分初めて見たからよ」
「……」

小鉄の言う通り、自分はもうすっかり笑顔を浮かべる事が無くなってしまったとフグオは感じた。
状況が状況だけに仕方の無い事かもしれないが、普段の自分を知る者が今の自分を見れば小鉄のような感想を抱く事は間違い無いだろう。
あの頃、お菓子やお肉、カルピスを味わい、笑っていたあの頃が、今では遠い遠い日の事のようにフグオは感じた。


……

……


「MURさん達は、ずっとこのイベントホールに居るのか?」
「そうだよ(肯定)」

会話するMURとノーチラス。
MURは自分とト子、フグオがイベントホールにやって来るまでの経緯を簡ケツに説明する。
時計塔でゲームをスタートし、同時にト子と出会った事。
暫くして鈴木フグオと、彼と同行していたアルジャーノンと言う喋る馬が現れ一緒に行動する事になった事。
しかし、ケルベロモンと言う巨大な黒い犬の襲撃を受けアルジャーノンは殺害され、時計塔も焼け落ちた事。
その後、時計塔を後にし、ガソリンスタンドで鈴木正一郎の死体を発見し、イベントホールに辿り着きそこでも吉良邑子の死体を発見した事。

34 :
「そっちも大変だったんだな……鈴木と吉良か」
「ト子ちゃんのクラスメイトなら、ノーチラス君のクラスメイトでも有るよな。仲が良かったのかゾ?」
「いや、そう言う訳じゃないけど、クラスメイトが死んだと聞かされるのはやっぱり良い気分はしない」
「ト子ちゃんから聞いてるが、殺し合いは二回目だと……」
「ああそうだ。俺は前の時は、第一放送前に死んでしまったけど」
「そうか……」
「……今度はこっちの事も話すよ」

ノーチラスもまた今までの経緯をMURに話した。
沙也との性行為関連についてはぼかしたものの概ね事実通りに話す。
西の小さな住宅地での沙也との出会い、警察署にて小鉄とフグオのクラスメイト土井津仁の死体を発見した事、
その直後くらいに触手の怪物の襲撃を受け逃げるようにして中央部市街地へ辿り着き、
そこでも襲撃を二回程受け、二回目の襲撃の時にサーシャと小鉄に出会った事。
また、二回目の襲撃者が、開催式で見せしめに殺された赤子の母親、野原みさえである事も話した。

「ノーチラス君も大変だったなぁ」
「まあな」
「しかし、触手の怪物……そんな物まで居るとはたまげたなぁ」
「リカオン獣人の、俺より少し年下ぐらいの子供から、大量の触手が生えたような感じだった。
小鉄が、そいつの服に付いていた名札を見たんだ。名前は『小崎史哉』って言うらしい」
「小崎史哉……? 確か放送で呼ばれていたゾ」

触手の怪物の物らしい「小崎史哉」と言う名前は、第二放送で呼ばれていたと思い返すMUR。

「ああ、誰が倒したのかは知らないけど、どうやらあの触手の怪物はもう居ないみたいだ」

もう触手の怪物の脅威に怯える必要は無い。
少なくともノーチラスはそう考えていた。
怪物の名前が放送で呼ばれたのだから、そう考えるのが普通であろう。

「おっ、そうだな、安心だゾ」

MURもその考えに便乗する。
だが胸の内では何か引っ掛かる物が有った。

(本当に、その触手の怪物は居なくなったのか? 何だか、気になるゾ)

確証は無い。確信出来る証拠と言う物は無かったが、MURには触手の脅威が完全に消え去ったとは思えなかった。



*【後半に続く】

35 :
前編投下終了です。
後半では遠野・ラト・樹里・KBTIT・巴を登場させる予定です
全く関係無いが最近の浦安鉄筋家族嫌いじゃないけど好きじゃない
昔の(元祖初期以前の)浦安鉄筋家族好き

36 :
後編投下します

37 :
※KBTIT・巴は次の話に登場させる事にしました

85話 KUROAME(後編)

ノーチラス達がやって来てからそう時間が経たずして、再び来訪者が現れる。
ライフルを持った青年、腹部に包帯を巻いた黒猫少年、茶髪の少女の三人。

「遠野、それに……ラト君か!」
「ラト、北沢!」

MURは青年と黒猫少年に覚えが有り、ノーチラスは黒猫少年と少女に覚えが有った。
青年はMURのクラスメイト、遠野。
黒猫少年と茶髪少女はそれぞれ、ラトと北沢樹里。ノーチラス、サーシャ、貝町ト子のクラスメイトである。

「MURさん!」

知り合いに再会出来た嬉しさからか屈託の無い笑顔を浮かべる遠野。
MURもまた、安堵の笑みを顔に湛える。

「遠野、また会えて良かったゾ」
「ラト君から、MURさんがここに居るって聞いて、一緒に来たんです」
「ラト君も……あっ、お腹怪我してるじゃないか、大丈夫か大丈夫か」
「ええ、何とか……」
「ソファーが有るから、そこで横になってろラト」
「そうするよ、ノーチラス君」

ノーチラスに促され、ラトはホールの隅に置かれていたソファーに横になった。

「後で、野原さんに何が有ったか、聞いても良いかゾ?」
「ああ……」

ラトと共に行動していた野原ひろしは第二放送で妻共々名前が呼ばれた。
何が起きたのか、後々その経緯を話して貰う事をMURはラトに約束して貰う。

「ノーチラスにサーシャさん……うちのクラスの子は他にも居るの?」
「貝町が居るぞ。MURさんと、フグオって子供とずっと一緒に居たらしい」
「他には、君塚さんって子が居るわ。あの、猫族の子」
「ちょっとテトに似てる、ね……」

やはり、自分達のクラスメイトは、沙也に対して初見では同じ感想を持つのかとノーチラスとサーシャは思う。
二人も樹里と同様の事を初めて沙也に会った時思ったのだから。
沙也の機嫌を無駄に損ねかねないので本人の前ではテトに似ている云々は余り言わないようにと、二人は樹里に釘を刺した。

……

……

遠野はMURに今までの事を大まかに話す。

「野獣と一緒に居たのか……」
「はい……でも、ひで君が襲ってきて、一緒に居た稲葉さんと柏木さんは殺されて、
先輩も、僕の事を庇って、致命傷を負って……」
「そうか……」

38 :
つぶさに語る遠野の表情は悲しみに溢れている。
遠野が野獣をとても良く慕っていたのはMURも知っていた、それ故に遠野の心情は痛い程察する事が出来た。

「先輩、死ぬ直前に僕の事が好きだったんだよって言ってくれました。でも、返事を返す前に先輩は……」
「遠野……」
「……すみません、大丈夫です」

滲んできた涙を拭う遠野に「無理するな」とMURが気遣うが、
遠野は尚も「大丈夫」と返し話を続けた。

「それで、ひで君とは、この殺し合いで二回会ったんです。
一回目が夜中、図書館で。二回目が今話した昼間に民家で……それで、二回目の時のひで君が……」
「どうしたんだ?」
「文字通り『怪物』と化していたんです」
「何……? 詳しく聞かせてくれゾ」
「は、はい」

信じてはくれないだろうと思っていた遠野はMURの意外な反応に少し驚きながらも、
ひでによる二回目の襲撃を受けた時の事を出来る限り細かく話した。
即ち、ひでが触手の怪物と化していた事を。

「まさか……」
「どうかしたんですか、MURさん」
「ノーチラス君、サーシャちゃん、小鉄君も、遠野と同じように触手の怪物に襲われたって話してたんだゾ」
「えっ!? まさかひで君に……」
「いや、それがな」

遠野の証言を聞いて、MURは疑問を抱いた。
ノーチラス、サーシャ、小鉄が話していた「触手の怪物」は「小崎史哉」なる人物でひでとは別人。
しかし遠野はひでが触手の怪物と化していたと言う。どう言う事なのか。

「先輩、僕と会う前にひで君に襲われたって言ってましたけど、ああ、思い出した。
その時触手の怪物が現れてひで君が捕まって逃げてきたって」
「うーん、ノーチラス君達にも話を聞こう」

ノーチラス、サーシャを呼んで、MURは事情を説明し「小崎史哉」に襲撃されたおおよその時間を訊く。
話を聞いていた樹里が途中で加わり、小崎史哉であろう触手の怪物が死んでいる傍で、
苦しんでいたひでをその時一緒に行動していた虐待おじさんこと葛城蓮と共に発見し、
突然、ひでの口から触手が飛び出して蓮を殺害した事、その時のおおよその時刻を証言した。

「ちょっとまとめるゾ……大体時系列順に」

自分のノートと鉛筆を取り出して、MURは聞き出した証言をまとめる。

すると、おおよそ以下のようになった。

39 :
@夜中(夜明け前ぐらい)に図書館にて遠野とひでが交戦、その時のひではまだ身体は正常だった
A朝方頃に警察署にてノーチラスと沙也が小崎史哉と交戦
B午前中、サーシャと小鉄が小崎史哉の襲撃を受け、その時行動していたテトが致命傷を負い、後に死亡
C同じく午前中、野獣がひでの襲撃を受けるが、小崎史哉(と思われる)にひでが捕まり野獣と同行者の柏木寛子が逃走
D同じく午前中、北沢樹里が小崎史哉らしき死体とその傍で苦しむひでと遭遇、野獣が逃げた後、ひでが小崎史哉を倒した?
直後、ひでの口から触手が飛び出し一緒に居た虐待おじさんが殺害される
E昼頃、ひでが遠野と野獣達を襲撃、この時点でひでは完全に触手の怪物と化していた。
野獣と同行していた稲葉憲悦、柏木寛子の三人が殺害される

つまり「ひでは小崎史哉を倒したらしいが、代わりに触手の怪物となった」と言う結論になる。

「え……でも、そのひでって人が小崎史哉を倒したとして、どうしてその人が怪物になるの?」

サーシャが口にした新たな疑問。議論に参加していた他の全員も同様の事を考える。
しかしいくら考えてもその理由など分からない。
そもそも「触手の怪物」の時点で前代未聞だと言うのに。
分かる事と言えば、触手の恐怖はまだ終わっていないと言う事だ。
ひでが小崎史哉の代わりに触手の怪物と化したのであれば、彼の名前はまだ放送では呼ばれていないのだから、
今現在も会場内に触手の怪物がウロウロしていると言う事になる。

「くそ、終わったと思ったのに、あんなのがまだ居るなんて」

もう脅威に怯える必要は無いと考えていただけにノーチラスの憤りと落胆は大きい。
無論それは彼に限った話では無いが。

(やっぱり、嫌な予感は当たってたゾ……)

自分の懸念が現実となってしまった事をMURは残念がる。出来る事なら杞憂であって欲しかった。
だが現実は変えようが無い。
兎にも角にも、ひでが襲ってきた時の為備えておくしか無いと結論付け、議論は一応終結した。


【日中/D-5イベントホール】
【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康(全身のダメージはほぼ回復)
[装備]ハーネルStg44(26/30)@現実
[所持品]基本支給品一式(食糧少量消費)、ハーネルStg44の弾倉(5)、肉切り包丁@現実
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
       1:ト子ちゃん、フグオ君、ノーチラス君達と行動。
       2:後でラトに野原さんの事を聞く。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
    ※ひでが触手の怪物と化した可能性に気付きました。

【貝町ト子@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]疲労(中)
[装備]トンファーバトン@現実
[所持品]基本支給品一式(食糧少量消費)、工具箱(調達品)、ケルベロモンの首輪(分解)
[思考・行動]基本:殺し合いはしないが、必要な時は戦うつもりでいる。
       1:MURさん、フグオ、ノーチラス達と行動。
       2:首輪の解除方法を誰かで実践しなくてはならないが……。
       3:私が死んだら……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※薬物中毒は消えています。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
    ※首輪の解除方法を編み出しましたが、あだ確実では有りません。

40 :
【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]精神疲労(大)
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:殺し合いなんてしたくない。
       1:小鉄っちゃんに会えて良かったキャプチュ……。
       2:……死にたくない。誰かが死ぬ所も見たくない。
[備考]※少なくとも金子翼登場から彼と親しくなった後からの参戦です。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。
    ※「死」に対して敏感になっています。

【大沢木小鉄@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康
[装備]ドス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[所持品]基本支給品一式、ジュースやお菓子(調達品)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
       1:サーシャのねーちゃん達と行動。
       2:フグオに会えて良かったぜ。でも金子先生は無事なのか?
[備考]※少なくとも「元祖!」にて金子翼登場後、彼と親しくなった後からの参戦です。

【サーシャ@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]ローバーR9(3/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ローバーR9の弾倉(3)、???(武器になる物では無い)
[思考・行動]基本:死にたくない。
        1:ノーチラス、君塚さん、小鉄君、MURさん達と行動。
        2:触手の怪物がまだ生きているなんて……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※テトから「以前の殺し合い」の真相を聞きました。まだノーチラスには話していません。
    ※ひでが触手の怪物と化した可能性に気付きました。

【君塚沙也@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター】
[状態]健康
[装備]又兵衛の刀@アニメ/クレヨンしんちゃん
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。生き残りたい。
        1:ノーチラス、サーシャさん、小鉄君、MURさん達と行動。
        2:ノーチラスの超能力を体験してみたい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。

41 :
【ノーチラス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]十八年式村田銃(1/1)@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、11.15mm×60R弾(7)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
        1:沙也、サーシャ、小鉄、MURさん達と行動。
        2:まだ触手の怪物が居るのかよ……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※超能力の制限に関しては今の所不明です。
    ※ひでが触手の怪物と化した可能性に気付きました。

【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]精神的疲労(大)
[装備]モーゼルKar98k(5/5)@現実
[所持品]基本支給品一式、7.92mmモーゼル弾(5)、TNOKの拳銃(6/6)@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ、
     コルト ポリスポジティブ(5/6)@現実、.32コルトニューポリス弾(12)、オートマグ(3/7)@現実、オートマグの弾倉(2)
[思考・行動]基本:殺し合いはしない。
       1:ラトさん、北沢さん、MURさん達と行動。
       2:ひで君は今どこに居るんだ……?
[備考]※動画本編、バスで眠らされた直後からの参戦です。
    ※ひでが触手の怪物になった事を知りました。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]腹部に盲管銃創(処置済)、ソファーに横になっている
[装備]ワルサーPPK/S(6/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、ワルサーPPK/Sの弾倉(3)、デトニクス スコアマスター(6/7)@現実、スコアマスターの弾倉(2)
[思考・行動]基本:殺し合いを潰す。
       1:北沢さん、遠野さん、MURさん達と行動。
       2:後で野原さんについてMURさんに話そう。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※能力の制限については今の所不明です。
    ※首輪からの盗聴の可能性に気付きました。

【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(4/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、出刃包丁@現実、.45スコフィールド弾(12)、自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター、
     モンキーレンチ、コンバットナイフ@現実
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
        1:ラト、遠野さん、MURさん達と行動。
        2:サーシャに会ったらシルヴィアの事を伝える(まだ伝えていない)。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※ひでが触手の怪物になった事を知りました。
    ※首輪からの盗聴の可能性についてはラトから伝えられています。

42 :
投下終了です。

43 :
続いて巴、KBTITの話投下します。

44 :
連投規制受けてたので避難所の方に投下しました

45 :
投下します。結構死ぬよ!

46 :
87話 しょくしゅ注意報 其の七 〜LASTSTAGE〜

(……サーシャさんにシルヴィアさんの事言わないと)

樹里は、かつて共に行動していたシルヴィアの事をまだサーシャに話していない事を思い出し、サーシャの元へ向かう。

「あ、サーシャさん」
「ん?」
「話しておきたい事が有って……」

工場にて虐待おじさんこと葛城蓮、ガルルモンと一緒に居たシルヴィアと遭遇し、そこからしばらく共に行動した事、
図書館にて野原みさえの襲撃を受け、ガルルモンと共にシルヴィアが殺害された事、
シルヴィアが死の間際、自分の事をサーシャに伝えて欲しいと言い残した事を、樹里はサーシャに話した。

「……ありがとう」

悲しげな表情を浮かべながら、サーシャは樹里に礼を述べた。
樹里もまた用事は済んだので、サーシャから離れる。
普段からサーシャがシルヴィアに良く接触し、気に掛けていたのは知っていた。
この殺し合い、前回の殺し合いでもそうだろうが、さぞ心配していた、会いたかったであろう。
彼女の心情は察するに余り有った。

樹里より、シルヴィアの行動、最期の様子について聞かされたサーシャ。
この殺し合いに反抗し、最期の時に名前を出す程度には自分の事を気に掛けていた、と言う。

(殺し合いに乗らないで、頑張ってたんだね、シルビー……)

前回の殺し合いで彼女がどう言うスタンスを取っていたかは分からないが、
少なくとも今回の殺し合いでは、仲間と協力しゲームに抗っていた。
もし、生きて自分達と合流出来ていたのならきっと心強い味方になってくれたに違い無い。
いやそれよりも何よりも会って話をしたかったな、とサーシャは思う。

……

……

MURはラトに、野原ひろしについての話を聞く。
かつてラトと共に行動していた筈の野原ひろしは、第二放送で妻のみさえと一緒に死者としてその名を呼ばれた。
ラトはこうして生きてはいるものの腹に大怪我を負い、何かが有った事は明白。
MURはそれを知りたかった。

「一体何が有ったんだゾ?」
「……あの後……イベントホールから出た後……」

ラトは野原ひろしと共にイベントホールから出発した後から今に至るまでの出来事を語る。
市街地へ向かい、そこで同行者を喪い単独行動していた北沢樹里と出会った事。
程無くして、ひろしの妻、みさえと遭遇し、ひろしは喜んだが、矢先にみさえはひろしを銃撃しラトも同様に撃ち抜いた事。

「何だそれは……どうして奥さんが夫を」
「みさえさんは殺し合いに乗っていました。既に正気を失っていたと思います。
『優勝して、見せしめに殺された娘を、それまでに死ぬであろう家族を生き返らせて、家族みんなでまた暮らす』と言っていました」
「……」

47 :
MURは余りの事に言葉を失う。
開催式の惨劇、家族の悲痛な叫びは今も良く覚えている。
その家族の一人、殺された赤子の母親が、正気を失ったとは言え、自分の娘を殺した連中の言いなりになって殺し合いに乗るとは。
家族みんなでまた一緒にと言いながら自分の夫を撃つ矛盾に気付かない程狂って居た、と言うのか。

「北沢さんも撃たれそうになった時、野原さんがみさえさんを後ろから刺しました」
「……っ」
「そのまま、二人一緒に息絶えたんです」
「……何て事だゾ」

悲劇と言う他無い、とMURは思う。
野原ひろしは捜し求めていた愛妻に裏切られ、撃たれ、そして恐らくはこれ以上の妻の凶行を止めようとして刺殺し、自分も果てた。
平和に暮らしていただろう一家が、この馬鹿げた殺し合いに巻き込まれ、一家全滅と言う結末を迎えたのだ。
改めてMURは、殺し合いの運営連中への怒りが込み上げ、いつしか拳に力を込めていた。

「以上、です」
「ありがとう……大変だったな」
「いえ……」

MURはラトを労い、話は終わった。

「そう言えば、ノーチラス君はどこに」
「ノーチラス君なら、見張りをやってくれているゾ」

……

……

イベントホールの玄関で、村田銃を携えノーチラスは見張りに立つ。
それまではMURが担っていたが、ノーチラスが折角仲間になったのだから見張り位やると言って引き受けたのだ。
一応、交代の時間は決めては有る。

「静かだな……」

ノーチラスの立つ位置からは車一つ無い駐車場、そして川、遠くに会場を囲む断崖絶壁、彼から見て東北に、
現在は禁止エリアになり進入出来ないレジャー施設の有る丘が見える。
風と、風にざわめく草の音がノーチラスの耳に入る。
静かであった。

何気無く、ノーチラスは立っている位置から、左寄りの方角へ視線を向けた。

「何も無いよな」

そして視線を右に移そうとしたその時。

即頭部に冷たい物を押し当てられる。

「はい止まってぇ」
「……!」
「言っとくけどぉ今当ててんの本物だからね」

視界には入らないが自分の右手側に居るであろう、声から察するに自分と同年代もしくは年下の少女が、
間延びした口調では有るがはっきりと警告を発する。
即頭部に当てられているのは、恐らく銃口。
もしかすれば少女が脅しの為に嘘を点いていて銃では無いのかもしれないが、何にせよ下手には動けなかった。
恐らく建物の外壁沿いに玄関に接近してきたのだろう、植え込みのスペースが有るので、上手く身を隠しながら。
見晴らしが良いと思って油断していた――――ノーチラスは己の迂闊を後悔するも最早後の祭りである。

48 :
「ねえちょっと聞いても良い?」
「な、何だ?」
「見張りしてるって事は、中にお仲間居るの?」
「……」

正直に答えるべきか否か迷うノーチラス。
いきなり陰から銃を突き付けてくる者が友好的とは全く考えられない。

「ねぇ、ねぇってば? ……さっ、私、殺し合う気は無いよん」
「え?」

意外な言葉に少し驚くノーチラスだったが、簡単に信じる訳には行かないと気を取り直す。

「そんなの信じられると思うか?」
「じゃあ銃下ろすからぁ、こっち向いてお話しよーよ」
「……っ」

その言葉通り、即頭部の冷たい感触が消えた。
恐る恐るノーチラスは右手方向を向く。
そこには自分達や沙也のとは別の学校の制服に身を包んだ、犬か狼族の少女の姿。
小柄な体躯に似合わぬ物々しい散弾銃を所持しており、先程まで即頭部に当てられていたのはあれだったのかと、
ノーチラスは肝を冷やした。

「私は原小宮巴。巴でいーよ。おにーさんは?」
「の、ノーチラスだ」

少女に続き自己紹介するノーチラス。
しかし巴の格好を良く見れば、白っぽい粉やら、血痕らしき物でかなり汚れており、
殺し合いに乗ってないと言う言葉に説得力を感じない。
しかし、現在のノーチラスに発言権は与えられていないようで巴が質問を続ける。

「ノーチラスさぁん、仲間居るの? ねぇ」
「……ああ、居るよ」

結局正直に答えてしまう。
心の中で中に居る仲間達に申し訳無いと思ったが、下手に逆らって機嫌を損ねると自分の身が危険だとノーチラスは判断したのだ。
巴は口調は無邪気だったが、言い知れぬ不気味さが有った。

「あっ、そっかぁ……あのさ、私と一緒に居る人がお腹痛い痛いになっちゃってて」
「? 仲間が居るのか?」
「うん」

巴が後ろに振り向き指を差す。そこには確かに外壁にもたれ掛かって座り込む男の姿が見える。
仲間を連れて居るなら、先程の殺し合いに乗っていないと言うのも信憑性が高まるとノーチラスは思う。
優勝出来るのは一人故、乗る気の者が徒党を組むのは考え難いからだ。
巴と共にその男の元へと向かうノーチラス。

「おーイッテェ……オイ、キッツイな……」
「タクヤさん、オッケーだってさ」
「いやまだ何も言って……ん? あんた、もしかして、MURさんと遠野さんのクラスメイトか?」
「何? 知ってんのか……?」

タクヤと言う名前を聞いて、MURと遠野から名簿に「KBTIT」として載っているクラスメイト「拓也」の事を思い出しノーチラスが尋ねると、
男は反応を示す。どうやら同一人物で間違い無いようだ。

(二人は、拓也は信用出来るって言っていた、なら、大丈夫か……?)

KBTITの人となりは聞かされているノーチラスは、先程思考した複数行動の事と合わせ、
この時点で巴及びKBTITは殺し合いには乗っていないと完全に警戒を解く。
いや、巴に関してはまだ完璧には心を許していなかったが。

49 :
「中に二人が居る。きっと喜ぶよ。肩を貸そう」
「漏らしちゃ駄目だよー」
「悪ぃな、二人共……」

余程苦しいのか既に一人で立ち上がる事もままならない様子のKBTITにノーチラスと巴が肩を貸し、
イベントホールの玄関へとゆっくり向かって行った。


◆◆◆


腹痛が一段また一段と悪化するにつれ、KBTITこと拓也はこの腹痛が便意の類の物では無いのではと思い始めていた。
確証は持てなかった故に巴にも、やって来たノーチラスにも何も言っていなかったが。

いや、怖かったのかもしれない。
腹痛はひでを倒した後、出現した謎の虫が体内に入り込んでから現れた。
あの虫が腹痛の原因となっている事は間違い無い、ただ、巴が言ってたように腹の中を食い荒らしている、
と言う訳では無いだろう、そうなっていれば今生きてはいまい。

やはり虫が毒を持っていたのだろうか。
なら、トイレに行く程度でどうにかなる物では無いのではないか?
なら、なら、自分は――――。

KBTITは内心、怖くて怖くて堪らなかった。

巴とノーチラスがKBTITを両側から支える形でイベントホールの中へと入る。

「拓也さん!?」

遠野が三人を見付け、KBTITの本名を呼ぶ。

「遠野か……」
「どうしたんですか? 大丈夫ですか」
「貴方、タクヤさんのクラスメイトさん?」

巴が遠野に訊く。

「はい、遠野と言います」
「ああ遠野さんね、タクヤさんから聞いてる。
タクヤさん、お腹痛くて大変なのよ。トイレ、どこに有る?」
「あっちの方に……」

トイレの場所を聞かれそれを指差して教える遠野。
とは言っても、もう目と鼻の先でわざわざ聞くまでも無い状況になっていたが。
三人は男子トイレの中に入って行く。
巴は言うまでも無く女子だがこの状況で男子トイレに女子が〜などは気にするつもりは無かった。

「MURさんに知らせなきゃ(使命感)」

遠野は酷く苦しそうなKBTITの様子が心配になりつつも、MURにKBTITと巴がやって来た事を知らせに向かう。

「うっ……ぐおお、お」

男子トイレに入った途端、KBTITの腹痛は最高潮に達し、遂に動きを止めてしまう。
それと同時に、彼は意識が急激に揺らぐのを感じる。

50 :
余りの激痛のせいだろうか、いや、これは違う――――?

「おい、大丈夫か?」
「もう少しだよ? 後1メートルだよ?」

呻いて床にへたり込んでしまったKBTITにノーチラスと巴が声を掛ける。
しかしこの時のKBTITにはもう、二人の声は届いていなかった。

意識が、全ての音が、感覚が消えて行く。

何者かの声が、頭の中に響く。


――――そろそろだ。

――――本当に、本当に時間が掛かったが、そろそろ、支配が完了するぞ。


「……あ……何だ……お前……何、だ……」
「? え?」
「おい、どうした? おい?」

聞こえてきた「何者か」の声に、掠れるような声で問い掛けるKBTIT。
しかし、「何者か」の声が聞こえる筈も無い巴とノーチラスには、
突然彼が独り言を言い始めたようにしか聞こえず困惑する。


――――さあ、お前はもう必要無い。

――――肉体を、寄越せ。


「……―――――ッ」

その声が何者なのか、KBTITには分からなかったし、もう理解する為の思考力も無かった。
一気に闇に飲まれていくKBTITの意識。
それでも、自分の身に「何か」が起きて、これから良くない事が起こるのは辛うじて分かったから、
両脇に居る筈の二人に、精一杯の力を振り絞って伝えた。

「巴、ノーチラス、おれ、から、はな、れ、ろ――――」

そう二人に告げた直後、KBTITは完全に床に倒れ伏した。

「おい! 拓也さん! おい!」
「あらら」

トイレの床の上にうつ伏せに倒れ意識を失ってしまったKBTITを心配するノーチラスと、
面倒臭そうな表情を浮かべる巴。KBTITの意識を失う直前の言葉は二人には届いていたものの、
二人には何を意味する事か分からず結局言葉には従わなかった。

51 :
クッソ長いので連投規制ががが怖い
なので残りは避難所に投下して……

明日になったらこっちにも残り投下します

52 :
投下します

53 :
狛村卯月という女性は、人を平気でRことができるほど冷酷な性格をしていない。
かといって、何処かへ隠れてやり過ごそうとするほど臆病な性格ではないし、味方の振りをして相手を騙そうとするほど卑怯な性格もしていない。
ではどんな性格をしているかというと、真っ当な感性を持っているが、己を高めることに重点を置き、それ以外には大して見向きもしないという、冷淡な性格をしていた。
人をRことは許されざる行為であると思っている一方で、しかしそれだけのことだと思えるのが彼女であった。
誰かが困っていて助けを求めた際に、一切そちらに顔を向けることをしないのが彼女であった。
人をRことは決して許されることではない、だがそれだけのことだ。
誰かが困っている、助けを求めてきた、だがどうでもいい。
己の強さを磨くことしか頭にない彼女は、誰かを助けるという行為に及ぶことはまずないであろう。
我が道を行く彼女にとって、それらは障害物でしかないからだ。

「ふざけんじゃねぇよ、何で俺がこんな目に……」

そんな避けられる障害物は尽く避けてきた彼女にとって、今自身に起こっている避けることのできない出来事を目の当たりにすれば、彼女が不愉快な気分に陥るのは自明の理であった。
どうして私がこんなことに巻き込まれなくてはいけないのかと、自身を拉致した男に激しく怒り憤った。
……爆殺された60人の死に対して彼女は何も思わなかったが、それを抜けば彼女の対応はマトモであった。

「……まあいいか。これはチャンスだと考えりゃいいだけだしよ」

――最初だけだったが。
確かに最初こそは、殺し合いを企画する為に自身を拉致した男に対して憤りを覚えていた彼女だったが、次第に憤りは薄れていき、殺し合いが始まるのを彼女は待つようになっていた。
初めに言った通り彼女は誰かをRような人間ではないので、他の人間を殺して生き残ると覚悟を決めたわけではい。
彼女は期待していた。60人が仕分けにより殺されたのは残念で仕方ないが、それ以外の生き残った39人に彼女は期待していた。
自身を高めることのできる存在――すなわち強敵と呼ぶことのできる人間が、39人の中に存在しているはずだと期待することにした。
強敵と戦えるチャンスだと、この場はそういうものだと、彼女は思うことにした。
人を殺さず、かといって人から逃げず、人を探して人と戦うことと、彼女はそう方針を固めたのだ。

「さあて、いるかなぁ……楽しみだなあ」

殺し合いの場である島へ飛ばされる直前、彼女は胸に期待を膨らませていた。
強敵と戦い、自身を切磋琢磨できることにわくわくしながら、彼女は島へと飛ばされた――


――――以上が狛村卯月という女性が演じている、嘘の設定である。
己を高めることに重点をおいているのは間違いないが、別段と彼女は薄情な性格ではないし、むしろ困っている人間を見かけたら放っておけない性格である。
確かに避けられる障害物は避けてきたが、あくまでもそれは助けを求めてきた人の為にならないから避けているだけであり、それ以外の障害物なら難なくぶち破っていくのが彼女の性分である。
そんな性格をした彼女が人殺しに対して「それだけのことだ」なんて思っているわけがなく、絶対に許してはいけない行為だと彼女は認識し、そんなことをし人がいたなら十発ぶん殴りたいと考えていた。
では、そういう性格をした彼女が何故嘘を演じようとしたのか。それはやはり己を高める為――ひいては自身の身を守る為に必要なことだからであった。
怒りの沸点が少し低い彼女は許せない出来事が起こると途端にキレて冷静さを失うことが多く、今回も最初に設定を固めていなければ冷静さを失い、あの男に向かって突撃していただろう。
不足の事態に備えて設定を固めておいて、その役にのめり込み集中することで彼女は冷静さを保つことができたのだ。
その強靭な集中力は彼女にとって長所であり、同時に短所でもあるのだが……


□□□

54 :
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…………」

森の一角で蹲りながらぶつぶつと喋り続ける男――天谷剣吾は、何処にでもいるような至って普通の高校生であった。
イケメンの部類に入るがヲタク趣味を持ち、自分が興味を持ったジャンルに積極的に関わるものの、それ以外は流されて生きる少々臆病な青年である。
そんな青年、普通の男子高校生が――60人もの人間が一斉に死ぬ光景を見て、どんな思いを抱いたのだろうか。
もしあの光景を見て狂えていたならば、どんなに彼は幸せだっただろう――少なくともその場で蹲ることはしなかっただろうし、踏み止まるという行為をしなかったはずだ。
だが、彼は踏み止まった、踏み止まってしまった。天谷はマトモな人間であったが、この場においてそれは不幸であった。
故に天谷は、デイバッグ開いて中身を確認したりせず、かといって何処かへ移動して隠れたりすることもなく、その場で思考停止をしてしまった。
死にたくない、その思いだけが彼の心と頭を埋め尽くしている。

「……ンだよ、なっさけねえ。コイツはなしだ、パスパス」

女性の声が聞こえてきたが、天谷はそれを聞いてどうこうするわけでもなく、ただじっと身を固めているだけだった。
抵抗する素振りも意思もなく、決断する度胸も勇気もない彼は、ただただじっと身を固めていることしかできなかった。
自身の身に何か起きませんように。どうか無事に生き残れますように、と。
神頼みをしながら、死にたくないと乞い願うことしかできなかった。

【E-5/森/一日目・日中】

【狛村 羽月】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・行動]
基本:強敵と戦い、己を磨く
1:強敵を探す

※設定を固め、役にのめり込んでいます

【天谷 剣吾】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・行動]
基本:死にたくない
1:死にたくない

【天谷剣吾(アマタニ ケンゴ)】
高校三年生。イケメンの部類に入るが、ヲタク趣味を持つ為、女子の人気は低い。
初対面の人間からは比較的好印象であるが、初対面の人間であろうとドン引きするような話題を平気で話す。
嫌われることが嫌な人間だが、自身が話していることが原因で嫌われていることには一切気づいていない。
友人は少ないながらもいるようである。

【狛村羽月(コマムラ ウヅキ)】
ベリーショートで体育会系の大学生。一人称は「俺」で男口調。
性格は熱血。困っている人がいたら放っておけないし、どんな事でも諦めない根性を持つ。
若干頭に血が上りやすく、本人も直そうと努力しているものの一向に治る気配が無い。
自分が固めた嘘の設定にのめり込むことができるほどの集中力を持つ。

55 :
投下終了です

56 :
投下乙です。

>>51で予告していた続きを投下します。日が経ってしまっているのはご容赦下さい……

57 :
「離れろって、うんち漏らすからかな?」
「茶化してる場合か。まずいな、MURさん達に言った方が……」

ノーチラスがそう言いかけた時。

ビクッ

KBTITの身体が大きく揺れ動いた。

「ん?」
「……拓也さん?」

意識を取り戻したのかと二人は思った。その二人の目の前でゆっくりとKBTITは起き上がる。
しかし二人の声に反応する気配は全く無い。

「どしたの?」

巴が再び声を掛けるがやはり返事は無かった。
返事の代わりにある事が起きた。

KBTITの身体のあちこちから、皮膚を突き破り黒っぽい触手が生えた。

「「は?」」

突然の、予想だにしていなかった事態に巴とノーチラスの二人が間の抜けた声を出す。
その姿に二人は見覚えが有る――――巴の時とノーチラスの時で宿主に違いは有ったが、
紛れも無く、かつて戦った触手の怪物と同じ様相に、KBTITはなっていた。

「……あ゛あアあ……」

歪んだ声色で唸りながらゆっくりとKBTITは二人の方へ向き直る。
ゴーグルのせいで分かり難いが、自我はもう消え去っていると言う事は二人はすぐに察した。
察して、とにかく一旦狭いトイレから出た方が良いと判断し、巴とノーチラスは出口へと走る。

廊下に飛び出すと、遠野と彼から報告を受けKBTITに会いに来たMURがすぐ近くに居た。
トイレから必死な様子で飛び出した巴とノーチラスに、遠野とMURは戸惑いの表情を見せる。

「どうしたんだゾ?」
「何か有ったんですか? あれ、拓也さんは」
「はぁ、はぁ、た、拓也さん、が」
「まさかあんな事になるなんて」

巴とノーチラスがMURと遠野に状況を説明しようとした。
しかし、それはトイレの入口から黒い触手が何本も伸びてきた事により中断させられる。
変わり果てたKBTITの姿にMURと遠野は一瞬言葉を失った。

「こ、これは」

遠野が呻く。
KBTITがかつて戦ったひでと同じ、触手の怪物と成り果ててしまった事実に衝撃を隠せない。
一体何故、彼がこんな事になってしまっているのか。
余りの事態に、四人全員逃げる事を忘れ「それ」を考える事に気を取られてしまう。

58 :
「ウオア゛ァ゛アアア゛ア゛!!!」

すぐにそれどころでは無い事を四人は思い出した。
雄叫びを発しながらKBTITが四人目掛け突進してきたのだ。
かつて「触手の怪物」と呼称された小崎史哉とひでのように、右手から触手の束を出現させ、それを四人目掛け振り下ろす。
長く飛び出た触手の束は天井ボードを抉り、配線やダクトを破壊しながら、四人の居る位置の床に派手な音を立てて直撃した。

グシャアッ!!

幸いにも四人は二人ずつ分かれる形で左右に回避する事が出来た。
直撃した部分の床は大きく凹み、威力を物語る。
しかし。

「サイごのいっパツ、くれテヤルヨオラァアアア!!」
「「「「!!」」」」

脈絡の無い言葉を発しながら、KBTITは触手の束を左右に思い切り振り回した。
振り下ろし程では無いにしろ、太く重い触手の束は四人を軽く吹き飛ばしそれぞれ壁に強か身体を打ち付けてしまう。
四人のダメージはかなり大きく、痛みですぐには身動きが取れない。

「何? どうしたの……うわっ」

尋常ならざる音に、何事かと様子を見に来た沙也が惨状を目の当たりにして驚きの声を発する。
彼女だけでなく、サーシャ、フグオ、小鉄、ト子もやって来ていた。
MUR達にとっては最悪この上無い状況と化してしまう。

「みんな、来ちゃ駄目だゾ! 逃げ……」

逃げろとMURが叫ぼうとしたが、もう手後れで、KBTITは沙也達に向かって、勢い良く触手を伸ばした。
鋭利な槍の如き触手の先端が、とても生々しく嫌な音を立てて、二人の肉体を刺し貫く。
被害者は、フグオと沙也。

「キャ……プ……?」
「か、は……嘘……」

フグオと、沙也の胸元からそれぞれの肉体を貫いた触手に呆然とするフグオと沙也。
じわりじわりと、刺された場所から赤黒い染みが広がり床に同じく赤黒い液体が垂れ落ちる。
避ける事に成功した小鉄、サーシャ、ト子は、その様を見て、絶句した。
ずるりと、フグオと沙也の身体から触手が引き抜かれ、傷口から鮮血がどばっと溢れ出た。

「小鉄っ、ちゃ、ん」

血を吐きながら、フグオは小鉄の名前を彼の目を見ながら言い、崩れ落ちて、死んだ。
沙也もほぼ同時に、全て悟って諦めたような表情のまま、同じように崩れ落ちて、息が絶えた。


【鈴木フグオ@漫画/浦安鉄筋家族  死亡】
【君塚沙也@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター  死亡】
【残り  10人】


「フグオ、フグオ……この野郎!!」

友人を眼前で殺され、小鉄が激高した。
MURやサーシャが制止の声を上げるが、聞き入れず、怒りに任せKBTITに突進していく。
その目には涙が滲んでいた。悪乗りして良く虐めていたが、フグオは大事な友達だったのに、よくも、よくも――――!
KBTITの触手を持ち前の健脚で避け、彼の懐に潜り込んだ小鉄は、持っていたドスを貧相な左太腿へと思い切り突き刺した。

59 :
「ぐおおおオオオおオ!!」

大きく悲鳴を上げよろめいたKBTIT。しかし動きを完封するには至らず、KBTITの右手が小鉄の首根っこを掴んだ。

ぐしゃり。

「あっ」

目と鼻の先で、小鉄が頭から壁に叩き付けられ、頭部が四散する様を見せられ、MURが口を開いたまま絶句する。
ノーチラス、遠野、サーシャ、ト子も、同様の反応を示した。


【大沢木小鉄@漫画/浦安鉄筋家族  死亡】
【残り  9人】


KBTITが何故怪物化したのかは分からない、だが、今の彼はもう元の彼では無く、
例えその命を奪ってでも止めなければ、自分達は皆殺しにされてしまうと言う事は分かる。

「拓也さん、止めろぉ!(建前) 止めろぉ!(本音)」

身体の痛みを堪えてMURは立ち上がり、Stg44突撃銃をKBTITに向け発砲する。

「サーシャ、ト子! 壁に寄れ!」

続いて立ち上がったノーチラスが、銃撃に巻き込まれないよう二人に命令した。
サーシャとト子は言う通りにしつつ、サーシャはローバーR9自動拳銃、ト子は遠野から譲り受けた、
コルト オフィシャルポリス回転式拳銃にて加勢。
ノーチラス、巴もそれぞれ持った銃で続く。

「これは……」
「何これ!?」

ラトと、彼を肩で支える樹里も駆け付けた。

「あれって……」

総攻撃を浴びている触手の生えた男に樹里が釘付けになる。
触手の様はかつて同行者の蓮を殺した時のひでやその傍に転がっていた小崎史哉の死体と同じだが、
今前方に居るのは全く別の男だ。どうなっているのか。
いや、そんな事よりどうやら今はあの男を全員で倒さなければならないらしい。
ラトと樹里は程無く状況を把握し、銃を構えMUR達に加勢した。

「ヴオオオオオオオオオ!!」

全身に拳銃弾、散弾、小銃弾を満遍無く浴び、血肉を飛散させ、苦鳴を上げるKBTIT。
だがそれでもまだ彼の動きを止めるには至らない。
「寄生虫」の力によりその生命力、耐久力は異常な程高まっていた、そのせいである。

「モウユるさねェからナぁ!!」

KBTITは矛先を樹里に向ける。彼女に向けて触手の槍を伸ばす。

60 :
「危ない!!」

ラトが叫び、樹里を突き飛ばした。
樹里の代わりに、ラトが串刺しとなった。
包帯を巻いた腹部に、更なる穴が空く形となり、ラトは大量に吐血し悶絶の表情を浮かべる。

「ラト!!」
「ラト君!!」

サーシャとMURが叫ぶ。
ラトの身体から触手が引き抜かれ、その小柄な体躯がボロ切れのように床に投げ出される。
そしてKBTITは間髪入れず、身体を捻り、次の標的――――遠野に向け、ラトと同じく触手の槍を突き刺した。

「あっ……ぐぁ……」
「遠野!!」
「遠野さん!!」

悲痛な声を上げる、MURと樹里。

「……もう、もう……やめて、下さい……拓也、さん!!」

串刺しになったその体で、遠野はKar98Kを構え、薬室に残った最後の一発を発砲した。

「ウグ、ア」

その最後の一発は、KBTITの心臓部分を撃ち抜いた。
頭を撃ち抜く事も出来た、だが、やはり今までクラスメイトとして共に過ごしてきた人物の顔を吹き飛ばす勇気は出なかったのである。
例え、自分に致命傷を与えた張本人だったとしても。
その一撃が止めになったのか、遂にKBTITはその動きを止め、がくりと両膝をついて床に倒れた。
同時に、触手に貫かれたままの遠野も床に伏す。


――――まさか、こんなに早く壊れてしまうとは。

――――役立たずめ、さっさと次の肉体を――――


KBTITのズタズタになった傷口から、鮮血に塗れた虫が這い出てくるのを、巴が見付けた。

「あっ」
「どうしたゾ巴ちゃん」
「それ、タクヤさんの身体に入った虫が」
「……! 確か、拓也さんの様子がおかしくなったのは」
「うん、あの虫が身体に入ってから」

巴からそれを聞いて、MURは閃き、叫ぶ。

「その虫が元凶だゾ! 潰せ!!」

その声に、ト子が応えた。
床に赤い痕を残しながらずりずりと這うその虫を、思い切り、何度も何度も踏み付けた。


――――な、何? 何だと?

――――まさか、そんな、おい、やめろ、やめろ

――――ヤメロ、ヤメロ、ヤメ、ヤメロ、ヤ――――メ――――

61 :
生物の肉体に入り込みそれを支配すれば絶大な脅威となる「寄生虫」も、何も無い素の状態では、
単なる虫と大差無く、呆気無く潰されてしまった。
こうして、触手の脅威はようやく終わりを告げた。

「……う……ぁ……俺は……」
「タクヤさん? まだ生きてるの? って言うか元に戻ったの?」

KBTITはまだ辛うじて息が有った。
触手の怪物では無い、元の彼としての意識を取り戻していた。
ラトも、遠野も、まだ息が有る。
だが、三人共、もう長くは無い事は明らかだった。

KBTITと遠野の元にMURと巴、ラトの元にノーチラス、サーシャ、ト子、樹里が寄り添う。

「お、俺は……」
「悪い虫に身体を操られてたんだゾ……」
「あの時の虫、か……少し、だけ……がはっ……記憶が、有るんだ……俺は、何て、事を……」

フグオ、沙也、小鉄を殺した時の事、ラトと遠野に致命傷を負わせた時。
操られていた時の記憶が、それも嫌な場面ばかりピンポイントで、KBTITには僅かながら残っていた。

「拓也、さん、貴方は……ゲホッ、ゴホッ!」
「喋っちゃまずいよ遠野さん」
「良いんです、言わせ、て、下さい……拓也さ、ん、貴方は悪く、ありません……あな、たは、はぁ、はぁ、
操られていただけ、です……」
「遠野……」

操られていたとは言え、最早助からぬ傷を負わされたのにも関わらず、遠野はKBTITの事を気遣った。
それを聞いたKBTITは「本当に人間の鑑だ」と遠野の優しさに感謝し、ふっと笑みを浮かべる。
また、仲間を殺し、傷付けた罪悪感から、少し、ほんの少しだけ救われたような気がした。

「MUR、遠野、みん、な……俺、を……人間に戻して、くれて……あり、がと、ナス……」
「拓也さん!」
「タクヤさん……おやすみ」

怪物と化した自分を「人」に戻してくれた仲間達に感謝しながら、KBTITは逝った。


【KBTIT@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」  死亡】
【残り  8人】


「……MUR、さん……僕も、もう……」
「遠野……!」

遠野の命もまた、もうすぐ潰えようとしていた。
血に塗れた口で、最期のメッセージをMURに伝える。

「どうか、この殺し合い、から……生きて、脱出、して下さい」
「ああ、当たり前だよなぁ?」
「先輩に、怒られて、しまうかもしれ……ません、が……僕は……せん、ぱいの……ところ……に……――――」
「……遠野」

台詞が言い終わる事無く、遠野の息は絶えた。
これで愛する野獣の元へ行けると思い、安心したからか、その死に顔はとても安らかで、
口元の血が無ければ眠っているようであった。
MURは、声を押し殺して泣いた。
巴はその様子を黙って見ていた。

62 :
【遠野@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」  死亡】
【残り  7人】


そして、ラト。
彼の傷もまた、手の施しようが無く、クラスメイト達が見守る中ゆっくりと命が消えて行く。

「ラト……」
「サーシャさん……また、会えたのは、本当に、嬉しかった……」
「私も……だよ」

これで最期だと言う事を察した話し方が、サーシャはとてもとても悲しかった。
以前の殺し合いで、ゲームが始まる前に死別して、何の因果かお互いに蘇生し、この殺し合いにて再会した。
しかし、また今ここで彼と死に別れようとしている。
これは神様の悪戯なのだろうか、死なないで、死なないで――――サーシャは泣き叫びたかったが、
そんな事をしてもどうにもならない事位、分かっても居る。

「皆……どうか……生きて……く……れ……」

ラトもまた、力尽きた。
サーシャは、彼の身体に顔を埋め、嗚咽を漏らした。
他の三人も、沈痛な面持ちを浮かべ、ラトの、いや、死んでいった仲間達を悼む。

突如起きた騒乱は、大きな爪痕を残し、沈静した――――。


【ラト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】
【残り  6人】


【午後/D-5イベントホール】

【MUR】
【貝町ト子】
【ノーチラス】
【サーシャ】
【北沢樹里】
【原小宮巴】
【生存者 残り6人】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
投下終了です。
うん、分割してなかったら間違い無く連投規制だった
分割後でさえ危ういもの

63 :
投下します。

64 :
88話 感傷リフレクト

KBTITの突然の怪物化により巻き起こった戦闘、その末に、イベントホール内は死屍累々の有様となった。
鈴木フグオ、君塚沙也、大沢木小鉄、ラト、遠野、KBTIT、元々有った吉良邑子の死体と合わせると、
実に七体もの死体が一つ屋根の下に転がっていると言う惨状。
必然的にホール内には死臭が漂う。

「死体だらけだねぇ」
「おっ、そうだな……」

巴がMURに話を振り、それに静かに返すMUR。

「拠点を移動した方が良いんじゃないか?」

ト子がMURの元にやって来て提案する。
死体は片付けきれない。何より、仲間の死体をいつまでも目にしていては皆の精神衛生的にも好ましく無かった。
死臭も充満してきておりイベントホールは最早、拠点として使うには厳しい状態に有った。

「他の皆……ノーチラス君と、サーシャちゃんと、樹里ちゃんは」
「もう是非は聞いてきた。三人共、承諾してくれたよ。勿論、割り切れている様子じゃ無かったが」
「そうか……」

仲間達の死体をそのままにするのは、気が引けても仕方無いだろうとMURは思った。
ト子は元々「クラスメイトとは余り仲は良くない」と言っていたように、特に感傷的になっている風では無かったが。
一応、MURは巴にも確認を取り、イベントホールを離れる事に同意を得られた。
死んでいった仲間達の荷物から必要な物を回収した後、六人はイベントホールを後にする事に決める。

「……あ、そう言えば」

気になっていた事が有った事を思い出した樹里が、ト子に声を掛けた。

「貝町さん、あの」
「何だ?」
「何か、分解してたみたいだけど……むぐっ」

台詞の途中で、樹里はト子に口を塞がれる。
ト子はもう片方の手の人差し指を自分の口の前で立て、静かにするように樹里に命じる。
何事かといった表情を浮かべるノーチラス、サーシャ、巴。
MURはト子の行動の理由が分かっていた。MURとト子はアイコンタクトを取り、自分達が今まで調べてきた事を、
他のメンバーに話す時が来たと判断する。

「あー、みんなこっちに来てくれ」

ホールの奥、死臭も余り漂っていない場所にMURとト子は他のメンバーを集めた。
二人は鉛筆とノートを取り出して、他四人に筆談する事を要請する。
戸惑う四人であったが、重要な事には違い無いとすぐに察し、それぞれ鉛筆とノートを取り出した。

65 :
〈みんな、ト子ちゃんの分解していた物が何か気になるだろう〉

そう書いてMURが四人にノートを見せる。
最初にト子に訪ねた樹里を始めノーチラス、サーシャが頷くが、巴はクエスチョンマークを浮かべる。
巴はメンバーの中では新参さった上、ト子の分解していた物も気にしてはいなかった。

〈あっ、そっかぁ……巴ちゃんにもこれからちゃんと説明するゾ〉
〈一体何なの?〉

巴が催促する返事を書き、ト子がいよいよ核心を四人に説明し始める。

自分が分解していたのは参加者の首にはめられた首輪であり、それを解析し、解除法をどうにか編み出した事。
ただ、その方法が本当に会っているのかどうか、最初の希望者で試さなければいけない事。
最初に首輪解除を望む者は言わば「実験台」であり、失敗して死ぬ事を覚悟しなければならないという事――――を、
ト子は筆記して四人に伝えた。

四人は素直に、ト子への賛辞の言葉をノートに書いた。
不確定要素がまだ強いにしても、参加者を殺し合いに縛り付ける首輪について解除方法の目星を付けられるまでに調べ上げる等、
誰でも出来る事では無い。ト子が機械に強いと言う事は、ノーチラス、サーシャ、樹里も知っていたが、
ここまで優秀だったとはと、ト子を褒め称えた。

ト子は少しだけ顔を赤らめつつ、次に筆談の理由について書き綴る。

〈筆談の理由についてだが、首輪の中に盗聴器が仕掛けられているからだ。
参加者同士の会話は全て運営に筒抜けになっていたらしい〉
〈成程ね、運営に首輪外そうとしている事がばれたら、マズイもんねぇ〉

巴がノートに書いてト子とMURに見せる。
他の三人も、巴と同様の思考に至っているようだ。

〈そうだよ、巴ちゃん。遠隔操作されて首輪起爆されちゃうヤバイヤバイ……〉

MURが返事を書く。
ここで、サーシャがト子とMURに質問する。

〈だけど、どうやって首輪を手に入れたの?〉

解析に使った首輪の入手経路についての質問であった。
無理矢理外そうとすれば爆発する首輪をどうやって手に入れたのか、ノーチラス、樹里、巴も気になっていた。
その質問にはMURが答える。
B-6時計塔にて、ケルベロモンと言う巨大な犬に襲われ、その時同行していたアルジャーノンを殺害されるも、
返り討ちにしてその首を落として手に入れた事、それをノートに書いて四人に伝えた。
また、その時から、厳密にはアルジャーノンが目の前で殺されるのを目の当たりにしてから、フグオが塞ぎがちになってしまった事も一緒に書く。

66 :
〈アルジャーノンが目の前で殺されてから、フグオ君はずっと落ち込んでいたんだゾ。
目の前で一緒に居た仲間が酷い殺され方をしたんだから無理も無いとは思うが……。
小鉄君と再会した時のフグオ君は本当に嬉しそうでほっこりしたゾ〉
〈小鉄君も嬉しそうだった〉

フグオの友人小鉄と行動を共にしていたサーシャも、MURと同じように二人が再会した時の事を思い返す。
だが二人はもうこの世には居ない。
フグオは触手によって刺殺され、小鉄に至っては頭部が破壊され死に顔すら無いのだ。

〈話が逸れちゃったゾ……とにかく、首輪の入手経緯についてはそう言う事なんだゾ〉

首輪の入手経路についての話が終わった所で、ト子が本題を切り出す。
最初に首輪を解除して欲しい者は誰か四人に尋ねる。
ノーチラス、サーシャ、樹里、巴は互いに顔を見合わせた。
先に説明された通り、最初に首輪の解除を希望する者は、失敗による死の危険性がかなり高いのだ。
もっとも、解除失敗による死の危険は全員平等に孕んでいるとも言えたが。

〈待つんだゾト子ちゃん〉

しかし、突然MURがト子に物言いを行う。

〈MURさん?〉
〈まだみんなに選択させるのは早い気がするゾ。
これから拠点を移動しようとしていた所なんだから、もう少し考える時間を作った方が良い〉
〈そうか〉
〈みんな、今すぐに結論を出してくれとは言わない。今から移動もする事だし、考えておいてくれないか〉

首輪について説明したばかりでいきなり誰から解除すると言うのを聞くのは拙速であると考えたMURは、
四人に考える時間を与える事にした。
いざと言う時はMUR自ら最初の首輪解除試験者になるつもりではあったが。

〈一旦ここで首輪については話を終わろう。MURさんの言う通り、考える時間が必要だろうからな。
筆談はここで終わりだ、これからは首輪の話題は避けつつ、普段通りに喋ってくれ〉

ト子が四人にそう伝え、首輪についての筆談は一旦切り上げとなった。

「……移動するにしても、どこへ向かうんだ?」

ノーチラスがMURに尋ねる。
MURは自分の地図を取り出し、次の行き先の目星を全員で協議する。

結果、現在位置の南、D-6エリアの廃ビルに、次の行き先を決める。

荷物を纏め、準備が出来次第、六人は出発する事にした。
日は傾き、既に夕方に差し掛かっていた。

【夕方/D-5イベントホール】

【MUR】
【貝町ト子】
【ノーチラス】
【サーシャ】
【北沢樹里】
【原小宮巴】
【生存者 残り6人】

67 :
投下終了です。
もう後半適当だけどゆるして
次は第三回放送予定

68 :
投下します。

69 :
89話 第三放送

バトルロワイアルの舞台の日が暮れる。
ゲーム開始から18時間が経過した午後6時、第三回目の定刻放送が始まる。
放送者は第一放送と同じ、じゅんぺいであった。

『えー、ン゛ン゛ッ、皆様お久しぶりでございます、じゅんぺいでございます。
ン゛ッ、皆様と言っても、もう生存者の方は数える人数、しか残っておりませんねぇ……。
それでは、第三回目の定時放送を始めます。

まず禁止エリアからです。
午後7時より、A-4、C-2、D-2、E-5。
午後7時より、A-4、C-2、D-2、E-5です。

それでは、脱落者のン゛ッ、発表をします。

大沢木小鉄
金子翼
君塚沙也
KBTIT
鈴木フグオ
遠野
ひで
油谷眞人
ラト

以上、9人。残りは6人となりました。
確認の為に、生存者の方の名前も発表します。

貝町ト子
北沢樹里
サーシャ
ノーチラス
原小宮巴
MUR

残り6人となり、ン゛ッ、いよいよ大詰めかと存じます。
最後まで、全力で、えー、戦い抜いて下さい。

では、次の放送は、夜の0時となります。
とは言っても、それまでに決着が着いてしまうかもしれませんが……それでは、第三回定時放送を、ン゛ン゛ッ、終わります』

相変わらず酷い滑舌の放送が終わりを告げた。

◆◆◆

70 :
「お疲れだった、じゅんぺい君」
「うーい」

定時放送を終えたじゅんぺいを労う平野源五郎と、それに対し気怠そうに返事をするじゅんぺい。
大抵の人間ならそんな反応をされれば不快感を感じるであろうが、平野は特にそういった様子も無かった。

「平野さん、少し気になる事が有るのですが」

じゅんぺいが休憩に行った後、まひろが平野に深刻そうな面持ちで話し掛ける。

「どうしたんだね?」
「生存者6人についてですが、少々不審な点がございまして」

まひろが懸念を示しているのは、生存者6人の行動。
首輪からの特殊な電波、及び盗聴器によって運営本部は参加者の動向を把握する。
生存者6人は現在一つのチームとなり一緒に居るのだが、
時折、不自然な程誰も喋らなくなり、筆記音らしき音のみが響く時が有る、とまひろが平野に伝える。

「筆記音……無言……筆談か?」
「恐らくそれではないかと思います」
「ふむ……」

平野は思考する。
筆談を行っているとすれば、声に出してはまずい話題を仲間内で交わしていると言う事であろう。
しかし、まひろによれば、筆談と思われる行動を取っていた時に彼らの周囲には敵は居なかったと言う。
そもそももう彼ら6人しか残っていない。
それでも筆談する理由とは何か――――そこまで考えた時、平野はある事を思い出した。

確か生存者の内、MURと貝町ト子の二人組は首輪を手に入れていた。
ト子は解析するとも言っていた――――分解したとしても首輪の構造など理解出来まいとたかをくくっていたが、
もしや筆談内容と言うのは、首輪についてではないだろうか。
もしそうなら、首輪から盗聴されていると言う事実に気付いていると言う事になる。
いや、下手をすれば、内部構造も隅々まで把握され解除の方法まで探られているのでは。

「平野さん?」
「ああ、すまないまひろ君。じゅんぺい君を呼んできてくれないか。ちょっと話し合いたい事が有るんだ」
「ハイ」

平野に指示され、まひろはじゅんぺいを呼びに向かう。

「参加者達を甘く見過ぎていたかな……」

万一の事態になった時の事を思案しながら、モニタールームで平野は佇んでいた。


【残り  6人】

71 :
投下終了です。

72 :
投下します。

73 :
90話 SWORDSMEN IN THE PLAIN

MUR、貝町ト子、ノーチラス、サーシャ、、北沢樹里、原小宮巴の六人がそれまで拠点として使っていたイベントホールを離れ、
南下して廃ビルへとやって来てから程無くの頃、午後の六時を回り、第三回定刻放送が始まった。
放送主は第一放送と同じじゅんぺい。相も変わらず酷い滑舌で放送内容を読み上げていた。

禁止エリアは四つとも、廃ビルの有るD-6エリアからは外れていた。
しかし、三回の放送を経て、禁止エリアの数は実に12エリアとなり、会場のほぼ三分の一を占める有様。
確実に行動可能な範囲は狭まっていた。

そして、死者の発表。ここでMUR達は、このゲームにおいて、最早自分達しか生き残っていない事を知る。

放送終了後、廃ビル二階の、元は会議室として使われていたと思われる、
古びた長テーブルと錆の浮き出たパイプ椅子が置かれた広い部屋で、六人は暫く無言だった。

「生き残っているのはもう俺達だけになってしまったのかゾ……」

最初に言葉を発したのはMUR。顔を両手で覆い、落胆した様子であった。
生存者が自分達だけになってしまった、と言う事も有るが、
自分のクラスメイトはもう誰一人として生き残っていないと言う現実も、彼に重く伸し掛った。

「もう私達しか居ないとなると、時間切れとの戦いになるな」

ト子が懸念を述べる。開催式でまひろが言っていた「制限時間」の事だ。
12時間、新たな死亡者が出なかった場合は、生存者全員の首輪を爆破し、優勝者は無しとなる。
最早この殺し合いには殺し合う気の無い六人しか居ないのだから、このまま何も無ければ、いずれ全員死ぬ運命に有る。

ト子が自分のノートと鉛筆を取り出す。
鉛筆の芯がかなり丸くなっていた為、樹里からナイフを借りて削り尖らせる。
そしてノートに文を書く。全員がそれに注目した。

〈そろそろ結論を出さなければならん、最初に首輪の解除を試したい奴は誰だ〉

一度保留となっていた、首輪解除方法の最初の希望者の話。
時間切れが迫る今、保留にしておく事は出来ない、結論を出さなければとト子が文面で宣告する。

そして、樹里が挙手をした。

〈良いのか?〉

ト子が念を押す。樹里はト子を見据えて頷いた。
自分はかつて大罪を犯し、一つのカップルを不幸に陥れた。
そんな自分が今更危険を避けて安穏とする、などとは思わない。
例え、失敗して死ぬ事になろうともそれは自分への罰として受け入れよう――――樹里は翻意するつもりは一切無かった。

〈みんな、異論は無いか?〉

MURがノーチラス、サーシャ、巴に尋ねる。
三人とも、異論は無いようだった。

74 :
〈よし、始めよう〉

そう書いてト子が締め括った後、いよいよ解除方法を試す時がやってきた。
樹里をパイプ椅子に座らせ、ト子が工具を手に樹里の傍に立ち、少し離れた位置で、他のメンバーが見守る。
ト子が樹里に合図を送った後、作業が始まった。

ト子が工具を持つ両手に全神経を集中させる。
目を瞑り、じっと待つ樹里。待った先に有るのは首輪の呪縛からの解放か、死か。樹里の運命はト子に委ねられている。
会議室の中には、首輪と工具が擦れる細かい金属音、六人の呼吸音の二種類の音が響いていた。

「……っ……」

自分でも知らない内に、樹里は両膝の上に置いた両手拳を強く握り締めていた。
心臓の鼓動も尋常では無い位早まっている。いつも陸上競技で走った後で感じる心地よいそれとは全く別物の気持ちの悪い鼓動の早さ。
――――恐い。とても恐い。
先程の覚悟をいとも容易く上塗りし潰してしまう程の恐怖が樹里の心の奥底から這い出て、蝕む。
大声で叫んでしまいたいがそれも出来ない。

(駄目、駄目、恐い……! 恐怖を、抑えきれない!)

死ぬ事になろうとも、などと決心しておいて情けないとは樹里も思ってはいたが、それでも恐怖はどうしようも無かった。
最初の死の時にはろくに感じなかった死の恐怖を樹里は今まざまざと実感する。

早く終われ。早く終われ。早く終われ。耐えられない。心が張り裂ける。早く終われ――――。

目を固く閉じた暗闇の中、樹里は心の中で叫び続け、恐怖と必死に戦った。
そして、勝利の女神は。

樹里に、いや、この場に居る全員に微笑んだ。

床に転がる、それまで樹里の首に付いていた筈の、死の首輪。
以前の殺し合いの時からずっと有った首元の感触が消え、樹里が目を開ける。

「あ……」

首元に手をやると、もう、首輪はどこにも無かった。

解除に成功したのだ。

全員が歓声を上げようとして、慌てて口を塞いだりしてそれを抑える。

〈落ち着け、落ち着け……まだ声を出すのはマズイ、分かるな?〉

ト子がノートに書いて全員に見せる。一番声を出して喜びたかったのは他でも無いト子だったのだが。
自分の知識と技術が間違いでは無かったと証明出来たのだから。
最早躊躇う理由は無く、MUR、サーシャ、巴、そしてト子自身と、あっと言う間に全員が首輪の呪縛から解放された。

75 :
今度こそ歓声を上げようとした一同だったが、MURが制した。
急いでノートに一文を書き全員に見せる。

〈首輪が全員解除された事で運営がどう動くか気にならないか?〉

「確かに」とMURに賛同する一同。
運営側が参加者の動向や生死を把握するのに首輪を使っているのは想像が付くが、
首輪が解除された場合は運営にはどう伝わるのか。
今となっては時間切れも遠隔操作による爆破も気にする必要は無い。
なら、運営がこれからどう動くのか様子を見ようではないかとMURが提案した。

全員がそれに賛成し、息を潜めて様子を窺い始める。
どこに有るのか分からない、運営本部の場所を知る手掛かりにも成りうる。

終結の時は確実に近付いていた。
どのような結末を生存者6人は迎えるのか。



【夜/D-6廃ビル二階会議室跡】
【首輪全員解除】

【MUR】
【貝町ト子】
【ノーチラス】
【サーシャ】
【北沢樹里】
【原小宮巴】
【残り  6人】

76 :
投下終了です。いよいよ佳境、か?

77 :
クライマックス直前だけど俺得7th、おいついたぜー!投下乙です
いつも通りのいつ誰が活躍していつ誰が死ぬか分からない緊張感に
翼・みさえ・ケルベロモンなどのガチマーダー、ちょっと抜けてるのが逆に怖いひで、
さらには触手注意報の大量殺戮フラグまで用意されながらも、
巴KBTITとかノーチラス沙也とか面白いコンビの活躍、野原一家まわりの泣ける話、テトとサーシャの関係、
遠野と野獣の再会とかいろんなフラグが回収されてて俺得7th、かなり読みごたえありました…!
クライマックスにも期待です!

78 :
テスト

79 :
投下します。長くなりそうなので前編後編に分けます。

80 :
91話 明日は来るのか(前編)

運営本部、黒いゴーグルを掛けた監視員の一人が平野源五郎の元へ走る。
そして、生存者全員の生存反応が監視モニタから消えたと伝えた。
「暫く待機するように」と監視員に支持し、モニタールームへ戻らせた後、平野は側近二人――じゅんぺいとまひろに声を掛けた。

「じゅんぺい君、まひろ君、聞こえたと思うが、生存者全員の反応がモニタから消えた。
本来ならば、全員死亡したと見るべき状況なのだが、さっき話した事を覚えているかね?」
「はい」
「ハイ」

平野は第三放送終了時にまひろからもたらされた情報から、生存者6人が首輪の解除を目指している可能性を考え、
それをじゅんぺいとまひろの二人にも伝えていた。

「確か、首輪がゲーム中に外れた場合、モニタの上じゃ、死亡って出るんですよね?」
「そうだじゅんぺい君」

じゅんぺいの言うように、ゲーム中に何らかの理由で首輪が外れた場合、モニタ上ではその参加者は「死亡」扱いになる。
ゲーム中に首輪が外れると言うのは、普通ならば優勝者に信号を送って解除する以外には無い筈、だが。

「6人全員、殺し合いには乗っていない者ばかり。
当然、周囲にはもう敵も居ない。そのような中で、突然、6人全員がモニタ上で『死亡』した。
と言う事、ですね? 平野さん」
「ああ、まひろ君。君はこれについてどう思う?」
「つまり、生存者達が、首輪の解除に成功したと」

まひろが語った考察に平野が頷いた。
直後に「そんな事有り得るのか」とじゅんぺいが疑問を呈す。
彼の言う通り、参加者が首輪の解除に成功したなど信じ難い、それは平野もまひろも一緒だ。
言うまでも無く高度な技術で作られた特別製の物なのだから。
しかし、生存者の内の一人、貝町ト子が機械類に詳しいと言う事や今までの生存者達の筆談と思われる行動を振り返るに、
可能性は捨てきれない。

「取り敢えずは、生存者達の反応が途絶えた、D-6エリアの廃ビルへ『迎え』を行かせる。
もし本当に全滅していたのならそれで良し、もし首輪を全員外していたのなら、私達の元に案内する」
「大丈夫なんすか? 案内なんかして。生き残り達は、俺らの事恨んでるだろうし、絶対襲ってくると思いますけどね」
「まあ、その辺りも考えてある。安心したまえ、じゅんぺい君。まひろ君も。それでは、始めようか」

余り多くの事は語らないまま、平野はモニタールームの方へ歩き去って行った。
やや呆れた表情を浮かべるじゅんぺいと、特に表情を変えないまひろ。

「あの人、たまに根拠の無ぇ自信見せる時有っからなぁ」
「まあ、本当に危険になったら、私達は避難して良いと言っていましたし」
「そうだな、いざって時は平野さんに悪いけどそうさせて貰おうぜ」

身の振り方を話しながら、二人は休憩室へと戻る。

◆◆◆

81 :
すっかり夜となったバトルロワイアルの会場。
最初の夜の時とは違い、銃声も悲鳴も聞こえない。聞こえるのは風の吹き抜ける音、
そして夜空を強力なライトを照らしながら飛行する大型の黒いヘリコプターのローター音のみ。

D-6エリア、廃ビルの駐車場だった場所にヘリは着陸した。
ヘリの中から、自動小銃を装備した、黒い服に身を包んだゴーグル男達が複数人出てくる。
彼らこそが平野源五郎の寄越した『迎え』の者達であった。
生存者6人が、モニタ上で生存反応の途絶えるその直前まで居た筈の廃ビルの中へゴーグル男達は入って行く。

彼らが確かめようとしているのは生存者6人の生死。
本当に死んだのか、それとも、平野源五郎の言う通り首輪を外す事に成功したのか。

「ぐあ!?」

その答えは彼らが二階フロアに足を踏み入れてすぐに判明した。

「落ちろ!」
「げぶっ」
「落ちたな(確認)」

床にうつ伏せに倒れたゴーグル男の一人を踏み付ける、生存者の一人、犬狼獣人の原小宮巴。
残りのゴーグル男達は彼女の首に、有る筈の首輪が無い事を見て取る。

「お前ら、やっぱり首輪を……」

ゴーグル男の一人が言いかけた、だが、それがゴーグル男達の発する最後の台詞となった。
次々と現れたMUR、ノーチラス、サーシャ、北沢樹里、貝町ト子に、ゴーグル男達は全滅させられてしまう。

「よし、この勢いに乗じて、あのヘリを奪うんだゾ!」

MURが号令し、生存者達が外に停めてあるヘリに向け突撃する。
ヘリの周囲にも当然武装したゴーグル男達が配備されていたが、あっと言う間に全員が排除されてしまった。

「何だお前ら……!?」
「抵抗するな」

ヘリの中へ押し入ったト子が、銃を突き付けてパイロットを脅す。
そして自分達を運営本部へ連れて行くよう命じた。
パイロットは逡巡する素振りを見せるも、銃口を目の前にしては従うしか無いと思ったのか、頷いた。

「良いゾ〜これ」
「上手く行ったな、MURさんの言う通り様子見して正解だった」

ノーチラスがMURを称賛する。
廃ビルにて全員の首輪解除に成功した時に、MURの提案によってその場で全員息を潜めていたが、
しばらくして会場周囲を囲む崖の向こうから夜空を照らす強烈なライトを照らしながらヘリがやってきて、
MURの考えが正しかった事が証明された。

MUR達によって奪取されたヘリは、廃ビルの駐車場からゆっくりと飛び立つ。
ヘリが離陸した後、倒れていたゴーグル男の一人が、苦しげに身体を起こし通信機を手に取って通信ボタンを押した。

「……生存者達の、襲撃に遭い……プランBに移行、しました……」
『分かった。大変な役目、ご苦労だった』

飛び去って行くヘリを見詰めつつ、ゴーグル男は通信機の向こうの男――平野源五郎とのやり取りを続ける。

◆◆◆

82 :
生存者6人に奪われたヘリは、ゲーム会場を外界から完全に隔絶していた絶壁を越え、
生存者達、いや、参加者達にとって全く未知の領域に入る。

「崖を越えたみたい」

窓の外を見ながらサーシャが言う。
樹里、巴も同じように窓の外に目をやる。
会場は街灯や幾つか建物の明かりが有るのに対し、会場の外はヘリのライト以外には月の光程度しか、明かりは無い。

「暗いなあ……」
「んー、下は草原と森なのかな? なんか、建物と言うかそういう人工物が見当たらない……見当たらなくない??」

会場の外は、月明かりとヘリのライトの光で視認出来る限り、人工物が見当たらず、延々と草原や森が続いているように見えた。
道路も畑も見当たらない。現代日本において到底考えられない景色だと、6人全員が思う。
但し、厳密にはMURと、ノーチラス・サーシャ・ト子・樹里と、巴の「日本」はそれぞれ似て非なる物なのだが。

「一体ここはどこなんだろうな、いや、それ以前に、日本なんだろうか、ここは」
「それも、このゲームの黒幕に聞けば分かると思うゾ」
「おい、ちゃんと本部に向けて飛んでいるんだろうな」

会話するノーチラスとMURの横で、再びパイロットを威圧するト子。

「と、飛んでいる! ほら、見えてきたぞ」
「む……」

怯えながら話すパイロットの言に、ト子を始めとして全員がウィンドウガラスの向こうに視線を送る。
暗闇の中、ぽつんと明るい場所が視認出来た。
ヘリポートである。

「あれが本部か」
「ああ、そうだ」
「よし、みんな乗り込むゾ! 準備は良いな? 必ずこのゲームの黒幕を倒して全員で生きて脱出するんだゾ」

MURが激を飛ばし、全員が決意を新たにした。
いよいよヘリが光り輝くヘリポートへと着陸する。
暗闇の中を飛んできた6人にとってヘリポートの光はとても眩く視界に溢れる光に思わず目を瞑るが、直ぐに慣れ目を開いた。

「……? 妙だな」

外の様子にノーチラスが疑問を持つ。
四方を高い塀に囲まれたヘリポートには人っ子一人見当たらない。
普通に考えれば警備の者位は居るのではないのか?

「誰も居ないわね……?」
「警備員ぐらい居そうなものなんだけど……」

サーシャと樹里も同様に不審がる。

「とりあえず外に出よう」

MURがそう言い、6人がヘリから降りる。
その時、パイロットが微かに哂ったが、誰も気付く者は居なかった。

「あそこ、入口が有るわ」

サーシャが指差す先に、大きな両開きの扉が付いた、コンクリートの建家が有った。
あれが本部の入口に違い無い、そう判断した6人は建家に向かって、辺りを警戒しつつ歩いて行く。
本当に誰も居ない、ただただ固いコンクリートの地面が有る広いヘリポート――――の筈だった。

83 :
「ん?」

先頭のMURは急に足が沈むような感覚に襲われた。
深い泥濘に嵌ってしまった時のような。足元を見ると、そこには黒い沼のような物が広がっていた。

「うおお!? 何だこりゃ!?」
「いっ!? うあ!」

ノーチラスと樹里が吃驚の声を上げる。巴とト子、サーシャも異変に気付く。
6人全員が、先程までただのコンクリートだった筈の地面に突如出現した「黒い沼のような物」に足を取られていた。
その上、6人はどんどんその黒い沼のような物に沈んで行く。

「くそ……!」

這い出ようとト子がもがくが、もがけばもがく程どんどん沈んで行ってしまう。全くの徒労であった。

「何なんだゾ!? うわあああ……!」

為す術も無く、MURは黒い沼のような物へと完全にその身体を沈めてしまった。
続いて、他の五人も同じように沈んで行き、その後、黒い沼のような物はどんどん小さくなり、
最後には消えてしまいただのコンクリートの地面へと戻った。

「そう甘くは無いんだよなぁ……問屋が卸さないって、はっきり分かんだね」

いつの間にかヘリから降りたパイロットの男が、黒い沼のような物が有った辺りを見ながら、不穏な笑みを浮かべた。

◆◆◆

(息が……出来ないゾ……!)

黒い沼のような物に飲み込まれたMUR。水中に居る感覚と全く同じで、息も出来ず、何も見えず、
ゴボゴボと言う自分の口から二酸化炭素の気泡が溢れ出る音しか聞こえない。
上下感覚が無くなり、最早自分が沈んでいるのか否かさえも分からなくなる。

(し、死、ぬ……!)

このまま窒息して溺れ死ぬのか――――そう思った時、急に辺りが明るくなった。
途端、身体中にまとわりついていた水に似た感覚が消え、重力が元通りになり、息が出来るようになる。
だが次の瞬間にはMURは固い床に叩き付けられた。
そのMURの上にト子、サーシャ、ノーチラス、樹里、巴が次々と降ってきて、彼を下敷きにしてしまう。

「いってぇ……」
「大丈夫? ノーチラス……あいた」
「サーシャ……北沢に貝町、巴、居るか?」
「居るよ」
「ああ」
「居まーす」
「あれ、MURさんは……あっ」
「ど、どいてくれゾ……」

恨めしそうに苦しそうに、五人の下からMURが声を発する。急いで五人はMURの上から退いた。
立ち上がって自分の腰を叩くMURにサーシャが気遣いの声を掛ける。

「ごめんなさいMURさん、大丈夫ですか……?」
「何とかな、それより……ここはどこなんだ?」

84 :
MURの言に周囲の様子を確認する五人。
現在居るのは、広いホールのような部屋だった。開催式の時の部屋とは別の物のように見える。
四方を真っ白い壁に囲まれ、入口らしき物も見当たらない。
自分達が落ちてきた天井を見上げれば、そこには簡素な照明が幾つか設置された無機質な天井しか無い。
いやそもそも、あの黒い沼のような物は何なのか。ヘリポートはただのコンクリートの地面だった筈だが。

「良く分からないけど、どうも、ヘリポートからこの部屋に、転移、した? って事かしら」

サーシャが全員の疑問に対する一応の答えになりそうな結論を出した。結果から言えばそうなのだろう。
尤も、あの突然現れた黒い沼のような物は何なのか、どうやってこの部屋まで転移したのか、など、全く解決の兆しが見えない事柄も多々有ったが。

「と言う事は、ここが奴らの、運営の本部……って事か?」

ノーチラスが新たな疑問を口にした直後、異変が起こる。
6人から見て正面の壁が、自動ドアのように開き始めた。そして現れた入口から、大勢のゴーグル男達が雪崩込んでくる。
武器を構えようとした6人だったが、ここで、武器を始めとした所持品が全て無くなっている事に気付いた。

「あれ、武器無いや」
「デイパックも無い!」

キョロキョロする巴、叫ぶ樹里。
そして6人はあっと言う間にゴーグル男達に包囲されてしまう。

(まさか罠だったのか……!?)

MURは自分達が本部まで来れたのは、運営側が仕掛けた罠なのではと思い始めていた。
思い出せば廃ビルにやって来たゴーグル男達は本気で抵抗していないように見えた。
首輪を外そうと言う話題は、盗聴器の存在を知る以前に多少声に出してしまっている。
運営は自分達が首輪を外した事を察知し、わざと自分達の本拠地におびき寄せたのでは――――?

(いや、今はそれより……)

運営が罠を仕掛けたのかどうかより現状を打破する事を優先すべきだと、MURは頭を切り替えた。
しかし、打破するとは言っても、いつの間にか武器が無いこの状態で下手に抵抗するのは自殺行為に等しい。

ところが、ゴーグル男達も、6人を包囲すれど、何か仕掛けてくる様子も無かった。

「何だ、どうして何もしてこないんだゾ……?」

困惑の色を浮かべるMUR、他の五人も多少の差はあれど同じような反応である。

「ようこそ、この殺し合いを生き抜いた6人の強者達」

男の声が響く。すると、ゴーグル男達が道を開け、三人の男が6人に向かって歩いて来た。
その内二人は6人も良く覚えている、じゅんぺいとまひろ。
その二人を従えるように中央に居る、作務衣姿の男は、6人は初めて見る顔であった。
じゅんぺい、まひろ、そして作務衣の男――――平野源五郎は、6人の二、三メートル前方で止まる。

「……お前がこの殺し合いの黒幕なのかゾ?」

進行役を務めていたじゅんぺいとまひろを従えている事から推測したMURが切り出した。

「如何にも。私の名前は、平野源五郎。このゲーム、バトルロワイアルの支配人を務めている。
君達の前に姿を現すのは、初めてかな」

85 :
丁寧な口調と仕草で、平野は肯定し自己紹介をした。
この「平野源五郎」こそがこの殺し合いの黒幕――――そう認識した6人の表情が険しくなる。
それを全く意に介さず平野が続けた。

「まさか首輪を解除してしまうとは、驚いたよ」
「気付いていたのかゾ……」
「我々もそう甘くは無いと言う事だ。貝町君かな? 解除したのは」
「……」

平野の問いにはト子は答えず睨み付けるのみ。
ふっと不敵な笑みを浮かべるのみで平野は特に咎める事もせずに、弁舌する。

「最初は、確信していなかったのだがね。幾つかの状況証拠、とでも言うのかな?
それらを纏めたのだよ……君達は、何度か不自然に無言になった事が有っただろう」

どのようにして6人が首輪解除に成功したと考えるようになったかを事細かに6人に説明する平野。
それを聞き、MURとト子が特に悔しげな表情を浮かべた。
首輪解除に関する事を隠す為の筆談が裏目に出てしまう形となったからだ。
とは言っても、首輪の盗聴器に気付く前に何回か口に出して言ってしまっている為それも一因であろうが。

「やっぱり、私達は誘い出されたと言う訳ね」
「その通りだよ。サーシャ君。首輪がゲーム中に外れるとこちらのモニタには『死亡』と表示される。
君達が一気に『死亡』となったから、確認に行かせた者に『全滅したのなら良し、さもなければ、やられる振りをして本部へ誘い込め』と、
指示を出したのだ……上手く君達は引っ掛かってくれた」
「へへ……どうも」

平野の後ろから、不快なにやけ顔をした男が現れる。ヘリのパイロットだ。
ト子に散々脅されていたパイロットも、平野の策謀の一翼を担っていたのだ。
しかし臆病なのは演技と言う訳では無いらしくト子に睨まれるとおずおずと後ろへ引き下がる。

「ここで立ち話も何だ、別室を用意してあるから、場所を移そうじゃないか」

そう言うと平野はゴーグル男達に再び道を開けさせ、6人に自分についてくるよう促す。

「どうする? MURさん」

従うべきかどうかMURに尋ねる樹里。
当然MURは迷ったが、武器は没収され大量のゴーグル男に囲まれ更に敵地のど真ん中に居る現在、
平野の言う通りにする以外に道は無さそうであった。

「今はあいつの言う通りにするしか無いだろうな……今の所、俺達をどうこうするつもりは無さそうだし、まだチャンスは有る筈だゾ」

他の五人に向かって、まだ希望は残っていると含みを持たせMURが言う。
6人は平野、じゅんぺい、まひろの三人の後について行った。

86 :
前編ここで終了です。
後編も只今ひり出しています。

87 :
前編と後編に分けると言いましたが予想以上に長くなるので、
前、中、後に分けます。と言う訳で、中編投下します。

88 :
91話 明日は来るのか(中編)

案内されたのは、先程まで居た無機質なホールに比べ、洒落ている風に見える部屋。
黒いカーテンが掛かった壁の前に対になるように置かれた二つの革張りのソファー、
赤い蝋燭が灯る燭台の乗ったガラステーブル、その下には絨毯が敷かれ、更にその下は大理石の床。

「どうぞ、座ってくれたまえ」

黒いカーテンの有る方のソファーに座るよう、平野が6人に促した。
大人しく6人がそのソファーに座る。反対側のソファーには平野一人がど真ん中に座り、
まひろとじゅんぺいは何故かテーブルの脇に二人並んで立っていた。

「これから俺達をどうするつもりなんだ?」
「そう焦る必要は無い、ノーチラス君。今すぐどうこうしようと言う気は無いから安心したまえ」
「……聞かせてくれ。この殺し合いの目的は何なんだゾ?」

MURが平野に殺し合いの目的を尋ねる。
答えは他の五人も気になる所である、きっとろくな物では無い、とも思っていたが。

「目的か。大した事では無いのだよ。はっきり言ってしまえばね」
「勿体ぶらずに言うんだゾ……」
「MUR君の世界には『BR法』と言う物が存在するだろう」

平野がMURに言う。彼の言う通り、MURの居る世界、と言うより日本には、
今回の殺し合いのような事を中学生のクラスにさせると言う「BR法」なる物が存在していた。
だがMURは、この殺し合いが「BR法」による物では無いと判断していた。

「ああ、でも、お前達は政府の人間には見えない……」
「その通り、この殺し合いは私個人による物だ。最近、これを読んだのだよ」

そう言うと、平野は懐から一冊の本を取り出した。
黒い表紙の分厚い文庫本。赤い字で「バトル・ロワイアル」と書かれている。

「それって……」
「知っているかね? サーシャ君。この本は君や、ノーチラス君、北沢君、貝町君の世界では、
遥か大昔の遺物、と言う事になっているようだが……まあそれは良い。
この本は『バトル・ロワイアル』、中学生がクラスメイト同士で殺し合うと言う内容だ……MUR君の世界の『BR法』、
ノーチラス君達や原小宮君が体験したような殺し合いと、同じ内容だよ」
「まさかそれを読んで自分もやりたくなったって事……!?」

樹里が語気を強めて平野に訊く。

「その通り。いつ死ぬか分からない極限状況の中で繰り広げられる人間模様、群像劇……実に魅力的だった。
是非とも私もやりたいと思ったのだよ……ふふふ……」
「ふざけないでよ! そんな、そんなふざけた理由で……しんのすけだって、その家族だって遊び半分で死んで行った訳じゃない!」

立ち上がり、声を荒げて平野に噛み付く樹里。
横に居たサーシャに宥められ、まだ何かを言おうとしながらもソファーに座り直す。

「気持ちは分からなくないが、このような催しの理由など大抵そんな、下らない物なのだよ。
人と言うのは平気で酷い事が出来るのだ」
「そんなの言い訳にならないゾ!」
「落ち着き給え、MUR君。北沢君。君達が今考えなければいけないのはそこでは無いと思うがね」

論点ずらしするな、と抗議しようとしたMURは出かかった言葉を飲み込んだ。
平野の言う通り、今の自分達は危機的な状況に置かれている。
敵地のど真ん中で武器も没収され丸腰、その上首輪を解除して反旗を翻そうとしていた事も露見しているのだ。
他の五人もそれは理解していた。

89 :
「さて君達をどうするかだが、首輪を自力で外し我々に反抗しようとしたその勇気は讃えるつもりでいる。
……これから殺し合いとは別のゲームをしよう。それをクリアすれば、君達は生かして帰そう。後ろを見てくれ給え」

平野の言に6人は後ろを向いた。
黒いカーテンが自動で開き始める。

数メートル先に、大きな木製の扉が存在していた。

「どうぞ」

平野がそう言った途端、扉から鍵が開く音が響く。

「あの扉の向こうに進み給え。分かっているとは思うが拒否権は無い。拒否すれば……」

脅すように言う平野の背後にはいつの間にかまひろとじゅんぺいが立っており、その手には短機関銃と思しき物が持たれている。
指示に従わなければ蜂の巣にするつもりであろう事は明白だ。
6人は渋々、扉に向かって進む。平野とまひろ、じゅんぺいも続く。
MURが、恐らく真鍮製と思われる豪華な装飾の施されたドアノブに手を掛け、扉を開けた。

「何なんだこれは……?」

扉の先で6人を待っていたのは、恐らく100メートルはあろうかと言う長大な奈落と、その上に渡された細長い足場。
良く見るとそれは、小学校の体育で使う平均台に酷似していた。

「これって、平均台〜? すっごい長いけど」

怪訝な表情を浮かべる巴。

「だな、平均台に見えるけど……ちょ、ちょっと待て、まさか、おい」

平野がこれから自分達にさせようとしている事を察したノーチラスが、平野の方を向く。
そして平野はにやりと笑い、6人に宣告した。

「君達にはこれから『競争』をして貰う。名付けて『平均デスレース』……平均台を渡り、向こう岸のゴールに辿り着け。
そうすればクリアだ。元の世界に帰してやろう」
「……但し」

平野の宣言に付け足すように、まひろが口を開く。

「クリア出来るのは、最大で、先着3名様まで、とさせて頂きます。
3人目のクリア者が出た時点で、残りの方には、申し訳有りませんが、お亡くなりになって頂きます」
「そんな!」

サーシャが抗議の声を上げた。
ここまで生き延び、今の今まで協力し合ってきた仲間達と争わせようとする冷酷さが耐えられなかったのだ。
そんなサーシャにじゅんぺいが嘲笑を向ける。

「当たり前だろ? 6人全員タダで帰すと思ってんの? そんなんじゃ甘いよ」
「それは……」
「さあ、スタート地点に着き給え。6人共」


平野がサーシャの言葉を遮り命令を下す。有無を言わさぬ構えだ。
まひろとじゅんぺいも短機関銃を構えて6人を脅し付けた。
厳しい表情を――巴はやはり無表情だったが――浮かべながら6人は、それぞれのスタート地点に向かう。
いや――ノーチラスは、向かおうとしなかった。

(……折角、ここまで来たのに、最後までこいつらの言いなりになるなんて)

90 :
ノーチラスは心底悔しかった。このまま平野達の言いなりになるがままなのは耐えられなかった。
きっと、他の五人も同じ気持ちだろう、だが下手に逆らえば殺されるだろうから、やむなく従っているのだろう、とノーチラスは思う。
一度目の殺し合いでは自分の欲望に負け無様な死に様を晒した事も有って、二度目となった今回は、
仲間達と共に何としても運営を打倒しようと思っていたと言うのに、今からその信じ合った仲間達と殺し合いでは無いにしろ、
生死を賭けた競争をさせられようとしている。

一矢報いてやりたい。ノーチラスはそう思った。

(……はは、やってやるか)

そして彼は決意した。恐らく、いや、間違い無く自分は死ぬ事になるであろう、しかし彼にとっては最良と言える行動を取る事を。
仲間達と争わされる位ならば、仲間を犠牲にする位ならば平野達に一太刀浴びせてやろう――――。

「ノーチラス?」

MURがノーチラスの異変に気付いて話し掛ける。

「……MURさん、サーシャ、貝町、北沢、巴」

ノーチラスが五人の名前を呼んだ。
MUR以外の四人がノーチラスの方へ振り向く。

「……生きろよ」

そう言った直後。

ノーチラスは近くに居たじゅんぺいを思い切り殴り飛ばした。

「があっ!?」

まともに顔面に殴打を食らい、倒れ伏して伸びてしまうじゅんぺい。そしてノーチラスがじゅんぺいの持っていた短機関銃を奪い取る。

「ノーチラス何を!?」
「ノーチラス!?」

MURとサーシャが叫ぶ。ノーチラスのしようとしている事は分かったが何故それをしようとしているのかが分からなかった。
下手に逆らえば殺されてしまうのに何故? それ故に二人は叫んだ。だがノーチラスは止まらない。

「R! 平野ぉぉぉおお!!」

牙を大きく剥き出し絶叫しながら、ノーチラスは短機関銃を平野と、傍に居るまひろに向けて掃射する。
ダダダダダダ、と無数の拳銃弾が平野とまひろに向かって撃ち放たれた。

「ああっ――――」

まひろは反撃する間も無く、全身のあちこちから鮮血を噴き出し奇妙なダンスを踊った末に、床の上に仰向けに倒れて血溜まりを作り動かなくなった。
平野は――――居ない。

「……何??」

何が起きたのか理解出来ず固まるノーチラス。
短機関銃の引き金を引き、銃口から無数の銃弾が放たれたその瞬間、まひろの隣に居た筈の平野の姿が「消えた」。
放たれた銃弾はそのまままひろを貫き彼を死に至らしめたが、肝心の平野はどこへ?
いや、間違い無く今まで「そこ」に居た筈の平野が忽然と姿を消したのはどういう事か?
ノーチラスも、他の五人も困惑していた。

91 :
「――――いけないなぁ、ノーチラス君、そういうズルをしちゃあ」

ノーチラスの首が後ろから誰かに掴まれる。そして聞き覚えの有る声。

「えぇ……?」

樹里が思わず声を漏らす。
何しろ、ノーチラスの背後に平野が突然「現れた」のだから。
全く以て、理解不能、説明不能の状態である。強いて言うならば「平野が瞬間移動した」と言えば説明した事になるだろうか。

「平野……ど、どうして」
「……一度目のズルは見逃した。だが、二度目は……無い」

ボキィ!!

酷く鈍い音が響き、ノーチラス身体がビクンと大きく跳ねた。
平野がノーチラスの頚椎をへし折ったのだ。
持っていた短機関銃を床に落とし、操り人形のように両手と両足をだらんとさせるノーチラス。
その目は虚空を見詰め、鼻と口から血が垂れる。

「……あ、あ、の、ノーチラスぅぅう!!」

サーシャが悲痛な叫びを上げた。
運営に、平野に一矢報いようとした狼の少年は、二回目となる死を迎えた。


【まひろ@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ  死亡】
【ノーチラス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】


屍となったノーチラスを放り投げ、残された五人の方へ向き直る平野。
その双眸には言い知れぬ威圧感が有り、巴以外の四人はたじろぐ。

「ちょっとしたハプニングが起きてしまったが、まあ良い。さあ、スタート地点に着くんだ」

気絶しているじゅんぺい、死亡したまひろの事を特に気にする様子も無く、平野は再び生存者達に命じた。

「サーシャさん……」
「う……う……ノーチラス……」

ショックを受けるサーシャを介抱して立たせる樹里。

「ノーチラス……どうして無理をしたんだゾ……」
「……」
「あーあ」

MURはノーチラスの行動の意味を量りかね、ト子は無言、巴は残念そうな声を出す。
平野の得体の知れない力を目の当たりにしてもう誰も反抗する者は居ない。
五人はそれぞれスタート地点に着いた。直後、五人の背後に青白いレーザー光線が出現する。
シャッターのように、何本ものレーザーが並んでいた。

「そのレーザーには触れないように。簡単に切断されてしまうぞ」

警告する平野。後戻りさせないと言う事だろう。
ト子が奈落の底を覗き込むが、真っ暗闇で何も見えない程深い。
吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥りト子は奈落から目を背ける。

「それじゃあ……よーい、スタート」

92 :
大して抑揚の無い声で、平野が号令を掛けた。
ゴールの有る対岸の壁に設置された大きなディスプレイに10分のタイマーが表示されカウントダウンが始まる。

「え、制限時間有るの!?」
「くっ……とにかく行くゾ!」

何の説明も無かった制限時間の出現に戸惑う樹里と逡巡しつつもやむを得ず皆に進むよう促すMUR。
平均台の上を五人はバランスを取りながら歩き始めた。

「うう……!?」

平均台の上を歩くなんて何年ぶりだろうか、という呑気な思考をサーシャはほんの一瞬だけ持ったがすぐに吹き飛んだ。
自分の足先より少し太いかぐらいの幅の足場、その下には漆黒の闇の奈落。

「下見るな……下見るなよ……」

MURがサーシャに忠告する。

「で、でも、下、見ながらじゃないと……歩けない……!」
「あっ……そうだよ……!」

サーシャに返された言葉を聞いて、MURがこのゲームの巧妙さに気付く。
平均台の上を少しでも安全に渡るには、見なければならない。自分の足元を、足場の下に広がる奈落を。
恐怖心を否が応無しに煽られる仕組みになっているのだ。

「くそ、平野もこんな事良く考えるな……! 本当に趣味が悪いゾ!」
「褒め言葉をありがとう」
「褒めてない……!」

平野のふざけた言葉に苛立ちながら何とか先へ進むMUR。それに続くサーシャ、樹里、ト子。

「よいしょ、よいしょ……っと」

巴は既に十数メートル進み、トップに立っていた。

「怖くないのあの子……度胸有るなぁ……」

特に恐怖を感じているようにも見えない巴にある種の感心を抱く樹里。
やがて会話も無くなり、五人はひたすらに平均台の上を進む。

(でも、このまま行ったとしても……生き残れるのは三人だけ。残りの二人は死ぬ。
その前に誰か落ちてしまうかもしれない……仲間の死ぬ所を見るのは、もう嫌だゾ……!
みんなが生き残れる方法は無いのか……!?)

MURはまだ、仲間全員が――ノーチラスは死んでしまったが――生き残れる方法が無いか模索していた。
だが、何も浮かばない。武器も無い、平野は超人的な能力を持っている、自分達は分断され虚空の上の平均台を渡らせられている。
全く以て絶望的。覆す方法は何一つ見付からず、MURは唇を噛んだ。

「うわ、あ」
「!」

MURの思考はサーシャの声で中断される。
焦りと恐怖の滲んだ声に、サーシャの方へ目を向けると、バランスを崩し大きくよろける彼女の姿が。

「サーシャ! 耐えろ!」

MURが叫ぶ。他の三人もサーシャの方へ目をやる。

「サーシャさん!」
「あ、あ!!」

93 :
樹里が声を掛けるのと、サーシャが倒れ込んだのはほぼ同時だった。
誰もがサーシャの落下、そして死を疑わなかった。

「ぐうう!!」

しかしサーシャは機転を利かせた。咄嗟に平均台の足場にしがみつき、落ちずに済んだのだ。
ほっと胸を撫で下ろすMURと樹里。心中で安堵するト子。特に表情を変えない巴。

「あ、危なかった……死ぬかと思った……!」
「サーシャ! 大丈夫か! ゆっくり上に上がるんだゾ!」

慎重に足場の上に戻ろうとするサーシャ。
一先ずサーシャは助かった、誰もが、本人も、そう思っていた。

ドス。

サーシャの心臓の辺りに、銀色に光る矢のような物が突き刺さった。
硬直するMUR、樹里。息を呑むト子。少しだけ目元を動かした巴。
口の端から赤い筋を垂らし、そしてサーシャはぐらりと身体が傾いたかと思うとそのまま奈落の底へと消えた。


【サーシャ@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】


「……サーシャああああ!!」
「そ、そんな……! どうして……」

悲痛な声を上げるMURと樹里。
そこへ平野の冷徹な声が響く。

「言い忘れていたよ。平均台に手を着いたり、座ったりした場合は、反則と見なしその場で処刑させて貰う」

それを聞いて、怒りに拳を握り締め、身体を震わせるMUR。
「言い忘れた」などと言っているが、十中八九わざとであろう。
だれかが平均台に手を着いたりするのを待っていたに違いない。

「これからは気を付けるよ。それはそうと、残り時間が5分を切ったぞ」

奥のディスプレイが表示している残り時間は確かに5分を切っていた。
サーシャの死を悲しむ暇も、平野に怒りをぶつける暇も無いのだ。

「行こう……」
「うん……」

悲しみを引きずり悔しさを滲ませながらMURと樹里は再び歩み始める。

一方、巴とト子は異変を感じ取っていた。

「あれぇ……」
「おい、巴」
「うん」
「どうしたんだゾ? 二人共」

何やら立ち止まる巴とト子に、MURと樹里が追い付く。しかしその辺りで二人も違和感に気付いた。
足場の幅が狭くなっていた。スタート時は足の幅より余裕が有った筈なのに今や、足の両端が1センチ弱はみ出る位になっている。

94 :
「嘘だよ!? 足場が狭くなってないか!?」
「いや嘘じゃないよ……狭くなってる」
「冗談じゃないゾ……ただでさえ、バランスを取るのが厳しいって言うのに……!」
「あー難易度たっかいね〜何か昔ちょっと読んだ漫画でこんなの有った気がする」
「慎重に進むしか無いな……」

口々に細くなっている足場への不満を述べながらも四人は進む。
戻った所でレーザーシャッターで逃げ道は無し、残り時間も余裕が無い。
ディスプレイに表示されている残り時間は既に3分を切っている。
だが、残り3分でクリア出来そうな者が居るかと言うと、かなり微妙であった。
トップに立っているのは巴だが、それでもまだゴールまで20メートルは有る。それに加え足場が狭くなっているのを考えると、
3分以内にゴールに辿り着くのは非常に難しい。巴が難しいのだから他の三人は余計に難しい。

「みんな急、いや、無理だゾこれ、急げないゾ……!」
「ああ、これはもう駄目かも分からないねぇ」
「諦めるな巴……ッ!?」

ズルッ

ト子が足を滑らせた。
「あっ」と声を漏らす巴、硬直するMURと樹里。

「ぐっ!?」

先程のサーシャと同じように平均台の足場にしがみつくト子。落ちそうになれば至って普通の行動であろう。
しかし平野曰くこれは「ルール違反」であり、この時点でト子の失格、即ち「死」が確定した。
近くの壁面から、銃口のような物が現れ平均台にぶら下がるト子に照準を合わせた。

「やめろぉ!」

無駄だと知りつつも、MURが制止の声を上げた。

ドスッ

「が……は……」

銀色の大きな矢がト子の肉体を貫いた。
それでも暫くは平均台にぶら下がっていたト子だったが遂に力尽き、手を放して闇の底へと消えて行った。


……

……


(ああ、また私は死ぬのか)

落ちて行く中、薄れる意識の中、ト子は思う。
やはり自分は生き延びる資格など無かったのか。いやそうに違い無い。
かつての自分の行いを悔いてそれの償いの意味も含めてこの殺し合いに反抗し、仲間達と協力し合ってきた。
だが、以前は、自分の為だけに、同行者を裏切ったり、他人の命を奪っていた自分である。それ位で贖罪になどならない、と言う事だろう。

(今度は、あの世へ行ける、だろうか……そうしたら、テト、に……)

最後まで思考を繋ぎ止める前に、ト子の意識は途絶えた。


【貝町ト子@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  死亡】

95 :
中編終了です
連投規制食らってたので投下終了宣言遅れました、すみません

96 :
後編投下します。

97 :
91話 明日は来るのか(後編)

「くそぉ……ト子ちゃん……!」
「貝町さん……」

また一人、仲間が目の前で死んだ事に悔しさと遣る瀬無さで心が張り裂けそうになるMURと樹里。
しかし、現実は非情にも彼らに更なる追い打ちを掛ける。

「あー、タイムオーバー」

巴が諦観が籠った台詞を発する。
MURと樹里がタイムが表示されているディスプレイに目を向けるとほぼ同時に、
タイマーが0を示しけたたましいブザーが鳴り響いた。
死を覚悟する三人だったが、サーシャやト子のように矢で射抜かれるのかと思いきや、意外な事に何も起こらない。

「あれ、な、何も起きないゾ……?」
「どういう……」
「あっ、MURさん、北沢さん、あれ」

巴が後方、つまりスタート地点の方向を見て指差す。
MURと樹里が足を踏み外さないようにして後ろを振り向く。

スタート地点に有った筈のレーザーシャッターが、自分達に迫ってきているのが確認出来た。

「ファッ!?」
「嘘!? レーザー、こっち来てる!!」

どうやら制限時間が過ぎると即死する訳では無く、レーザーシャッターが迫ってくるルールだったらしい。
これも平野はあえて言わなかったのだろう。何にせよ絶体絶命の状況には変わり無い。
急いで渡り切らねば、レーザーに身体を寸断されてしまう。

「一気に行けば何とかなるかなぁ……一、二の、三!」

掛け声と共に巴が駆け出す。
一歩、二歩、三歩、四歩、と、最早平均台とはとても呼べないレベルにまで細くなってしまった足場の上を巴は確実に踏み締め、
遂にゴールとなる対岸に辿り着いた。

「おお! 巴ちゃん! 凄いゾ」
「わ、私達も行こう!」

迷っている暇は無い、レーザーシャッターはすぐそこまで迫ってきている。
巴のように一気に駆け抜ける事にしたMURと樹里。

「ヌッ!?」

しかし、MURが途中で、右足を踏み外してしまう。
樹里がそれに気付いたのはゴール地点に到達してからだった。

「MURさん!?」
「ぬ……おおおあああ!!」

肝を冷やしている樹里が見たのは、残った左足のみで踏ん張り、足場に手を着く事無く体勢を立て直したMURだった。
人間、追い詰められると驚異的な力を発揮するのは本当なのだと樹里は思う。

「死んで、たまるかゾ!!」

98 :
MURは走る。
ゴールまで4メートル、3メートル、2メートル、そして――――。

……

……

生存者達を切り刻むべく迫っていたレーザーの壁は、ゴール地点までやって来た所で消滅した。
その様子を、原小宮巴、北沢樹里、そしてMURが見届ける。

「おめでとう、君達三人がクリアした。君達三人が、この殺し合いから生き延びたのだ」

どこからともなく平野の労いの声が聞こえた。
遠いスタート地点にはもう平野の姿は見えない。どこかに移動しているのか。だが今の三人にとってはもうどうでも良かった。
生還した喜びと、仲間を失った悲しみ――巴は悲しんでいる様子は無かったが――そして、
最後まで平野源五郎の手の内で踊らされた虚しさとが綯交ぜになった複雑な気持ちであった。

急に辺りが暗くなる。
しかし三人の姿だけははっきりと視認出来ると言う不思議な状況。
その暗闇の中、ぼうっと光の柱が浮かび上がる。

「その光の中に入り給え……そうすればこの殺し合いから解放される。これで、お別れだ。私の催しに付き合ってくれて、ありがとう」

暗闇から聞こえた平野の声。
「何がありがとうだ」と噛み付きたくなったMURと樹里だったが、下手な事をすればノーチラスの二の舞になる可能性が有り、
出そうになった言葉をぐっと飲み込んだ。

「これで終わるの……実感が沸かないなぁ……私、一度死んでるんだけど、どうなるんだろう」
「あっ、そういえば私も……」

一度落命した身である自分達が「帰った」らどうなるのだろうかと樹里と巴は不安に思った。
想像も付かない。何しろ死者が生き返ると言う事自体普通なら有り得ない事だ。
どうなるのか分からないと思った途端、光の柱に入るのを躊躇ってしまう二人。
そんな二人を見てMURは何とかしたいと思った。悩む彼女達を置いて一人行く気にはなれない。

考えた末、MURは二人に声を掛ける。

「大丈夫だゾ! 例え一回死んでいるとしても、二人は今ここに居るじゃないか!
樹里ちゃんは樹里ちゃん、巴ちゃんは巴ちゃんだゾ!」

正直な所、MUR本人も自分が何を言っているのか良く分からなかったが、
勇気付けたい、元気付けたいと言う気持ちは二人には伝わったようで、樹里と巴は笑顔を見せた。

「そうだね……ありがとう、MURさん」
「良い事言うねぇー」
「仲間なんだから、当たり前だよなぁ?」
「じゃあ、行こうか……ここでお別れだね」
「そうなるねぇ」
「寂しいけど仕方無いゾ……元気でな!」

別れを惜しみながら、三人は光の柱の中に飛び込んだ。
三人の姿は眩い光と共に消え去り、後には暗闇だけが残った。
やがてその暗闇が段々と明るくなり、元の平均台の有る部屋へと戻る。

99 :
「……消えたか」

別室に移っていた平野がモニターから様子を見ていた。

「これでこの殺し合いは終了だな……おい、じゅんぺい君はどうだ」

近くに居たゴーグル男に平野はノーチラスに重傷を負わされたじゅんぺいの容態を尋ねる。

「思いの外強く殴られたようで……暫くは安静が必要かと」
「そうか……では、後始末を頼むよ」
「了解しました」

平野から指示を受け、ゴーグル男は去った。

「さて……中々に面白い物だな、バトルロワイアルと言う物は……またやろうかな……?」

バトルロワイアル――殺し合いゲームを、平野は大いに気に入った様子であった。
再び執り行う計画を、彼は頭の中で組み立てて行く。


【ゲーム終了】

【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
【原小宮巴@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター】

【以上3人 バトルロワイアルより生還】

100 :
投下終了です。
これにて本編は終了、後はエピローグとなります。
あー長かった 何か俺オリ3に続いて主催側優勢エンドになっちゃったけど次は対主催完全勝利エンド書きたい


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