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幻想入りの話しを書くスレ


1 :2014/03/16 〜 最終レス :2018/10/17
ここではいわゆる東方二次創作という奴の一つ、「幻想入り」の話しを
考えたり書いたりするスレです。ほかの人とネタが被ったり
スレ内が文章でとっちらかっても気にしない

2 :
降って沸いた妄想
仲魔達が幻想入り
広大無辺なるアマラ宇宙、その中に、ある小さな歪みが生まれた。
それは、次々に他の世界へと飛び散り、楔となってアマラの渦を堰止めた。
ある時はボルテクス界に、ある時は魔界に、ある時は荒廃した未来に……
渦の中にいる者はこれを知ることはなく、止めることもできない。やがて、
堰止めたられた渦の中から、弾き出される者たちが現れた。
これは、その弾き出された者達が、アマラの堰を切るまでの、大きくも儚い物語
 サブタイトルは『真・女神転生外伝』か『東方交差天』
シナリオ
1 仲魔達がそれぞれの世界のエンディングから飛ばされてくるシーン
2 幻想郷パート、ここで見慣れぬ仲魔達と幻想郷民の邂逅
3 舞台裏 紫にぼっちゃんもしくはダークおじさんから過去が説明が入る※1
4 元の世界に帰りたい仲魔達が博麗神社に駆け込む
5 紫から異変を解決すると帰れると伝える、仲魔達「コンゴトモヨロシク」※2
6 以下最後の一人まで続く。
7 最後の仲魔とラスボスが戦闘※3
8 異変解決、そして誰もいなくなる
9 いつものように、壮大に何もなかった! となる
※1 過去が改竄されたことで確定していた未来の存在だった仲魔達が「なかったこと」にされる。
そのまま消えるはずだったところを、なんやかんやで幻想入りする。
※2 一つの世界の異変を解決すると仲魔が一人消える『ぼくらの』方式
※3ぶっちゃけスティーブンとアキラな。
 出演する仲魔達(予定)
真・女神転生Vノクターンから 妖鬼 オニ
デビルサマナー ソウルハッカーズから 造魔 ジード
真・女神転生ifから 魔人 アキラ
真・女神転生から 魔獣 ケルベロス(パスカル)
メガテンシリーズのどれかにヒーホーズ
他メガテン以外で仲魔モンスターがいるゲームから好みでいくつか
 むしゃくしゃしてやった。書くかは未定。誰か書いてもいいのよ。

3 :
もちろん【実話】
最初の5ページまで読めばわかる
逆にそれ以外は読まなくていい
http://estar.jp/.pc/work/novel/22797121/

4 :
※書き手の知識不足やオリ設定があります。ご容赦ください。

プロローグ
 ―フフフ、なあんだ。始めからこうすれば良かったんじゃないか―
 薄暗い、いや、一つの灯りを除いて何もない暗室の中で、男が呟いた。
―そもそも悪魔なんか“いない”のが普通なんだから。
手元のキーボードを病的な速度でタイプしていく男は、やはり病的な風貌をしていた。
痩せ細った体を真っ赤なタキシードで包み、髪は脱色している訳ではない白髪、
顔は若いような、老いているような、判断しかねる造りをしている。
安楽椅子に座り長くも短くもない足を組みながら、どこか虚ろな両目は眼鏡越しに正面のモニターへと注がれている。
様々な幾何学模様や魔法陣の中に、タイプに合わせてどの国の言葉でもない文字や記号が入力されていく。
―これで文字通り、この世から悪魔なんてモノは存在しなくなる。思ったよりもずっと簡単だったな。
弛緩したようなだらしなく空いた口から、もう一度笑い声が漏れる。
―悪魔消滅プログラム、スタートっと
エンターキーを軽く叩く音がすると、彼の後ろにあったリンガと仏壇が一体化したような怪しげな物体の表面に、
モニター内を走り回る文字と同じ物が点灯した。
 ―いいぞ、成功だ……!
 静かな内に、微かな恍惚を滲ませて彼はモニターと自作の“輪転機”を交互に見やる。
速度がある一定に留まると、今度は発行し、放電するようになる。
 一体どのような原理でそうなっているのか、彼以外に分かる者がいるのかはさて置き、
輪転機は少しだけ宙に浮いた。そして最後に激しく明滅したかと思うと、
空を裂くような甲高い音を残して、彼の目の前から消滅した。
―これでおしまい。ふう、面白かったけど、ミロク教典もあまり大したことなかったな。
達成と余裕と、僅かな倦怠感を含んだ呟きは、他に聴く者もいない部屋の中に霧散した。
―あーあ、また何か面白いこと、ないかなあ。
足を組み替えながら彼、スティーブンはそう一人呟いたのだった。

5 :
一章「飛沫」
一つの世界があった。
生きとし生ける者全てが、己の我が儘を他人に強いることに全てをかける世界が。
名はボルテクス界
一つの戦いがあった。
生きとし生ける者全てが、己の我が儘を他人に強いるための戦いが。
一言では到底収まるはずのない、しかし一言で現す他にない戦いが。
後に『背理のコトワリ』と名付けられしその戦いを制したのは、皮肉にも、
押し付けられた我が儘にただ反発しただけの、一匹の自由な悪魔と
その仲魔達であった。
この世界から飛沫が弾き出されまでの顛末は、ボルテクス界終焉の後先にまで遡る。

「愚かな……コトワリ無く我が力を解放したとて、何の救いがあろうか。
おまえはまた、新たな苦しみの国を生み出すのだ……
おお……悪魔よ………ヒトよ…………」
 コトワリを生み出すための存在、大いなる光が、命を失おうとしている。
眩い光が辺りに満ち、カグツチ塔が震える。
「……終わった、のか……」
仲魔の誰かが言った。崩れ去る煌天を前に、全ての全てを賭けた戦いの後に。
「ざまあ見やがれってんだ、クソお天道様がよ!」
疲れきり天を仰ぐ者、勝利を叫ぶ者、喝采を上げる者、安堵する者、嘆く者、
倒れ伏す者、自失に暮れる者、今まさに多くの者が生まれ、消えようとしていた。
天の怒りに触れながら、その威光に膝を付かなかった者達は、
今まさに最後の刻に立ち会っていた。
塔は吹き飛びこそしなかったが、皆知っていた。
これは小康状態ですぐに次が来ることを、その時が本当の最後であると。
「………………………………………………………………」
 彼は沈黙を貫いたまま、意思の光が宿る瞳を、いずこかへと注いでいる。
其の名は「人修羅」かつて人の身でありながら、
悪魔の戯れによって悪魔へと生まれ変わった存在であった。

6 :
多くの者がそうであるように、人修羅もまた静かに感慨に浸っていた。
その人修羅に声をかける一匹の仲魔がいた。
「なあ、本当に良かったのかよ」
 オニだ。他に言い様がないほどオニだった。それほどまでに目の前の存在はオニである。
全身真っ赤な色をした巨躯に、いつ見ても窮屈そうな、
これから祭りにでも行くかのような法被を纏っている。
「なんつーかよ。その、まさか勝てるとは思ってなかったんだよ、本当は、オレ」
「………………………………………………………………」
 人修羅が仲間に向き直る。オニは格の高い悪魔ではない。
本来ならばこの戦いに付いてこれるほどの力は無かった。だが、
良くも悪くも人間臭く、良く言えば地に足のついた、悪く言えばスケールの小さい
この仲魔は、他の仲魔同様奇しくも人修羅の人間としての心を支え続けてきた。
 オニは、気落ちしているようだった。いつになく弱気だった。
率直な表現をすれば、寂しそうだった。
「なあ!今からよ、コトワリ、創っちまったらどうだ!?」
「何を言ってるんだお前は」
 横から口を挟んだのはクラマテングである。オニと並び、
コッパテング時代から人修羅と旅をしてきた古株である。
叩き上げで幻魔にまで上り詰めた後は、その類まれな魔道で多くの窮地を退けてきた。
「戦いは終わったし、コイツの気持ちも変わらんし、オレも一緒じゃなかったのかよ。
それとも何か?この期に及んで怖気づいたのかよ」
 仲魔の間でだけ変わりないフランクな口調で、クラマテングは問うた。
「ばっ、そ、そんなんじゃねえよ、そんなんじゃねえけど……」
「オニちゃん、寂しいんでしょ」
「ば!」
 いきなり核心を突いたのはクイーンメイプだ。仲魔の中では一番始めに
人修羅の仲魔に「なってくれた」悪魔である。
実に多芸で幾度となく人修羅を助けたが、一番の助けとなったのは、
ピクシーの頃から何も変わらない性格だったろう。

7 :
あたしもね、寂しいよ。ちょっとだけ」
 臆面もない彼女に、オニは頭が上がらない。意地を張っても意味がないから、
何かあるといつもオニのほうが先に折れるのだ。
「……ああ」
「ああそうだよ!寂しいよ!もっと戦って!旅して!冒険して!
もうひと暴れしてえよ!ずっとそうしていてえ!
オレら全員でずっとそうしていてえ!」
 オニが真っ赤な顔を更に赤くして白状する。他の仲魔達も寂しそうな笑みを浮かべる。
「いいじゃねえかよ!オレだけでもよ!別の世界に行っちまって、
そこでよろしくやってもよ!世界のことなんか分かんねえし、
そこまで関わり合いにならなくってもいいじゃねえか!」
 オニは半泣きだ!
「お前なあ……」
 クラマテングは舌打ちすると、頭をかいてそっぽを向いてしまった。
「お前らは違うのかよ!パールバティ!クーフーリン!サル!ヒーホー!
リリス!パズス!ワンコ!ランダ!」
 オニは仲魔の名を呼ぶ。しかし皆オニを見て、肯定も否定もしなかった。
「チクショウ……」
 オニは項垂れた。皆の気持ちも、自分の我が儘も分かっているのだ。
しょげかえる彼の頭をクラマテングが法螺貝で殴った。会心の響きが木霊する。
「痛え!」
「勝って終わりならそれが一番いいじゃねえか!男らしくねえぞ!じたばたすんな!」
「でもよう……」
 なおも食い下がるオニの肩を、人修羅が叩く。この少年はいつも何も言わない。
あってせいぜいウンとかスンくらいだ。
 そんな人修羅の、ついさっきまで引き締まっていた眉間の辺りが伸びていた。
いつものどこかのっぺりとした野面に戻っていた。
「お、おめえ……」
 オニは知っている。

8 :
こういうときの人修羅はなんだかんだで喜んでくれているということを。
同時に思い出す。絶対に自分の前言を撤回するような悪魔でもないことを。
 人修羅は、オニをじっと見つめた後、力強く頷いた。
安心させるような意味がきっと含まれているのだろう。
もしかしたら侘びの気持ちもちょっとくらいはあるかも知れない。
 何にせよ、オニは観念した。
「こ、心の友よ〜!!!」
 自分よりもずっと小柄な人修羅に抱きつくと、オニはわあわあと泣き出した。
皆その光景を見てそれぞれの反応を返す。
 万感の想いを胸に、今度こそ世界は、再び光に包まれた。

9 :
メールが届いています
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」・・・・・・・」
 文字化けしてしまっているようだ。

「これでよし」
ボルテクス界が消え、世界は元通り自由な日々を取り戻した。
あの日戦った仲魔達も散り散りになり、それぞれの道をまた歩み始めた。
オニもまた然りである。伝手を頼って人修羅のパソコンのメールアドレスを
突き止めた彼は、挨拶のメールを出した。
今度は別の悪魔召喚士にスカウトされ、そこでもうひと暴れすることになったこと。
もしよければ、今度は人修羅もデビルサマナーになってみないかということ。
そういった色々な事柄が順序も何も無くごちゃまぜになった文章を、
オニは慣れない携帯電話に悪戦苦闘しながら作成し、送信した。
壊れないよう小さすぎるボタンを押し続けた指先が痛かったが、彼は満足そうだった。
「オレもハイテクって奴に慣れないと戦えなくっちまうからな。
差し当たっては、今度ガン反射でも覚えてみるとすっか!」
 そう意気込む彼の足元に、突如として妖鬼召喚用の魔法陣が浮かび上がる。
「お、そろそろか。さて今度はどうなるかな、
いきなり合体材料ってのは流石に勘弁だけども……んん?」
 青い光の文字の中に吸い込まれながら、オニは違和感を覚えた。
魔法陣の中に溶け込むのではない、まるでどこかに引きずり込まれているような
この不吉な感触に、彼は心当たりがあった。魔法陣の文字の色が毒々しい赤に変わる。
「おい……!こいつは……まさかっ!アマラ経ら」
 言い終わる前に、オニは召喚用魔方陣の中に引きずり込まれ、この世界から姿を消した。
彼は、彼の元に送り返されてきたメールのことを、まだ知らない。

10 :
一人の女性がいた。ある大いなる者の「死」として生を受けた女性が。
意外にセクシーな彼女は、一人の少女と、一人のデビルサマナー、
そしてその仲魔と仲間達と共に、退化した人々の精神を守るため、
或いは大いなる者を眠らせるために戦った。
戦いの舞台となった場所は「天海市」と呼ばれた人工島。
あまりにも短い時間に、あまりにも多くのことがあった場所。
あまりにも多くの人が、あまりにも自分の精神が弱くなってしまったことに
気づかないまま、いつしか過ぎ去っていった。
いつからか、ずっと現代と呼ばれ続ける時代の一つ。
この世界の「飛沫」は、彼女の歌が鳴りやんだ、その少し後に生まれた……

「今日来たのはそれが理由か、だが本当に良いのかね?」
 そう問いかけるのはこの豪華客船、水上ホテル「業魔殿」の船長ヴィクトルその人だ。
 屍人のように白い肌に白い髪、中世ヨーロッパの船長を思わせる服装と言動、
 瞳は赤く爛々と輝いている。傍から見ればホテルの
 計らいの一つと思われるだろう。しかしこの船長は至って本気である。
 そして彼にはもう一つの顔がある。悪魔同士が行う合体についての研究者という顔が。
そして二人が今いる場所は、業魔殿の地下にある悪魔合体施設だった。
出航を間近に控えた業魔殿は、新月の晩から静寂を受け入れていた。
「…………」
 ヴィクトルと話しているのは一人のデビルサマナーだ。緑色のジャケットと
 微妙なサングラスが特徴的な青年で、ハッカー集団スプーキーズの一員でもある。
彼はつい先日まで新米だったが、今では天海市に起きた人々の魂、
「ソウル」を巡る奇妙な事件の数々を解決した歴戦の勇である。彼は頷いた。
「確かに造魔に関して扱える施設はそう多くない。
君のCOMPにインストールされているソフトをもってしても、
不測の事態に対応出来る訳ではない。しかし、かの人形もまた、
君と共に戦ってきた仲魔だと思うのだが……」
「COMP」とは、デビルサマナーが扱う悪魔召喚プログラムが
インストールされた携帯型コンピューター端末のことである。

11 :
ヴィクトルは不服そうだ。無理もない、彼の言う「造魔」とは
科学と魔道によって、人工的に生み出された謂われなき悪魔である。
最近の彼の研究対象であり、成果でもある。それが自分に
預けられるというのだから。能力に不満がある訳ではなく、
彼は旅に出る際に身一つで挑んでみたいと仲間に別れを告げているらしかった。
「決意は固い、か。分かった。一先ずジードは私が与ろう。
しかし忘れるな、君がサマナーで、ジードの主である以上
君の呼ぶ声に、此奴は必ず答えることだろう」
「…………」
彼は深々と頭を下げると、自らの悪魔召喚プログラムがインストールされた
銃型コンピューター「GUMP」をヴィクトルに手渡した。
「COMPを自作してみる、と?」
目の前の青年がハッカーでもあることを思い出し、ヴィクトルは苦笑した。
「それにも挑戦してみるというのか。よかろう、若かりし日の挑戦は
 何物にも代え難い。やってみるがいい」
 彼はこの数ヶ月の間に、あまりにも急激に成長しすぎた。過程で
 飛ばして来たものを、確かめる意味合いもあるのだろう。
 人生で何よりも早く過ぎる時期を、そのように使おうと決めた
 このサマナーの精神は、魂と共に大きく、強くなっていた。
「もう行くのか?」
 彼はまた頷いた。今の彼は丸腰だ。COMPも仲魔も、
相棒であった黒き魔女もいない。それでも新たな一歩を踏み出していく、
その背中のなんと雄々しいことか。
「……ああ、そうだ。行く前にメアリにも声をかけてやってくれ。
 たぶんだが、「君達」が来るのを、待っているだろうから」
 彼は頷くとヴィクトルの前から、この昏い一室から、
華やいだ夜の中へと去っていった。
 いつも隣にいた女性の姿がなかったが、そこには不思議と
寂しさを感じるようなことはなかった。

12 :
「ボン・ボヤージュ。デビルサマナー」
ヴィクトルは青年の背中にそう声をかけると、手近なテーブルに腰掛け、
受け取ったGUMPをチェス盤のような物の上に翳した。
COMP専用の解析機で、これとヴィクトルの私室にある機材とで
COMPの改造、修理を行うことも出来る。
「そしてお前は今一度、眠りにつくがいい」
 ヴィクトルはチェス盤の台座の部分にあるボタンを一つ押した。
 データが吸い出され、中に入っていた造魔ジードは悪魔合体用の
 試験管内へと召喚された。
「――――――――――」
 人間の良く似た、しかし人間ではない悪魔、首輪と鎖に繋がれたジードは
 何も言わずにヴィクトルを見つめた。試験管内に液体が満たされていき、
 眩しく光ったかと思えば、次の瞬間にはジードの姿は既になかった。
 代わりに、中の液体が揮発して外へと排出された後には、
 人形がひとつ残されていた。
 血通わぬ土くれにして命の息吹を秘める異形の人形、
 ドリー・カドモンが。

13 :
 そこに行けばどんな夢もかなうというよ 誰もみな 行きたがるが
 遥かな世界 何処かにあるユートピア、素晴らしいユートピア
 生きることの苦しみさえ消えるというよ。どうしたら行けるのだろう、
 旅立った人はいるが あまりにも遠い 心の中に生きる幻なのか
「アウトだホ!」
「グワーッ!」
 振り回した拳が危険な賛美歌を考案した同族の顔面を強かに穿つ!
「た、タイトルは、ヒホダーラだホ……」
「余計ダメだホ!」
「グワーッ!」
 振り回した拳が危険なタイトルを考案した同族の顔面を強かに穿つ!
 ここはどこか、広大にして茫漠たるアマラ宇宙のどこか。ある者は
 妖精郷の一つだと言う。違う。ある者は何処かの施設を間借りしているではと
 疑う。違う。ここは厳然として存在する世界、しかし何がと断定も
 言及もしにくい、大いなる存在でさえ手をつけかねる混沌の世界であった。
「宇宙と異世界進出まで果たしておきながらなんという体たらくだホ!」
 同族にツッコミを入れた、可愛らしい帽子を被った雪だるま、
 妖精ジャックフロストは怒りも顕にぷりぷりしていた。
 そう、ここはヒーホー界(仮)。その名の通り「ヒーホー」という
 特徴を備えた悪魔達の世界である。
 全体的に狭い。歩いて行けばどこまでも行けるのだが、景色は子供が
 クレヨンで書きなぐった絵のようで、しかも『近すぎる』のだ。
 雑なセットのような空間が、とてもそうは見えないが、どこまでも
 広がっている。ちなみに足元の緑色は芝生で、残りの大部分は
 空とか地平線らしい。遠くにお城が一つだけ建っている。

14 :
「アレを見るホ!」
 ジャックフロストが天を指差す。頭上にはオレンジ色の太陽らしき
 落書きが浮かんでいる。殴られた悪魔、マントにトンガリ帽子を装備した
 カボチャのヒーホー、ジャックランタンが顔を抑えて呻く。
「前が見えないホ……」
「心の目でもいいホ!」
 ジャックフロストの無茶な言い分に、渋々といった様子でジャックランタンは
 上を見た。フロストのつぶらな黒目はキラキラと輝いている。
「メディアに露出して今やオイラ達は押しも押されぬ悪魔界のアイドルだホ!
 プリクラ、漫画、アニメ、トレカ、ボードゲーム、ドラマに劇場版!
 チョイ役だって立派な出演だホ!オイラ達は日々各界で活躍してるホ!」
(ドラマはオイラ達出てなかったと思うし、劇場版P3だってオファー
 あったかホ?いや、言わないホ。余計なこと言うとまた
 打たれるホ。ていうか太陽関係ないホ……)
 ランタンはフロストに辟易していた。彼の言い分は分かるし、
 自分もハロウィンしか出番がないとはいえ、逆を言えばハロウィンに
 出られるヒーホーは彼だけだった。あまりに多忙で他のフロスト達も
 デビューさせたら、仕事を取られるどころか倍増の嬉しい悲鳴を上げたこともある。
「そんなオイラ達に足りないものはなんだホ!言ってみるホ!」
「キャラソンだホ!」
 ランタンは即答した。そこは彼も同意見だったからだ。
 フロストは満足げに頷いた。
「そうだホ!ここまで来て黒歴史モノのキャラクターソングやエンディングテーマ
 の一つもないのはまずいホ!だからこうして持ち込み用の歌を考えているホ!」
「でも上手くいかないホ……そもそもルシPは喋っても声の露出は控えろって
 言うし、どっちかというと公募の企画でも通さないと、
 流石にオイラ達だけじゃ厳しいってもんだホ」

15 :
「話しは聞かせてもらったホ……」
「あ!噂をすればホ!」
「ルシP!」
 ランタンとフロストが指さした先、クレヨンの太陽から金髪のカツラ、
もしかしたら自毛だろうか、とにかく髪の生えた雪だるまが降臨した。
その名もルシファフロスト。ジャックフロスト達の神であり、
アマラ宇宙中にヒーホーを手配する、ヒーホー界(仮)の創造主でもある、
 敏腕プロデューサーだ。
「そろそろ封印が解けられてもいい頃だとはルーシーも思っていたホ」
「本当かホ!?」
 フロストががっぷり組み付く。一回り大きいルシファフロストもまた
 フロストの腰を掴み、相撲を始める。
「ノコッタ!ノコッタホ!」
 ランタンが行司に回る。
「声優の力を借りれば更なる飛躍も、恥ずかしい歴史も思いのままだホ。
 キングとも協議の結果、今度の仕事の結果次第では歌の手配をしてやるホ!」
 キングとはフロスト達の王様であるキングフロストのことである。
 ヒーホー界のヒエラルキーはルシファフロスト、キングフロスト、以下団子と
 なっている。中には独立した者もいる。
「本当かホ!?」
 寄り切りを拒んだフロストは敢えて体勢を崩すことでルーシーを
 転ばせようとする。ルーシーはそこで組合いを解いて
 フロストに激しいうっちゃりを浴びせた。
「グワーッ!」
 フロストは倒されてしまった。息も絶え絶えである。
「ルシPの勝ち!」
「ホー!」
 ランタンが勝者であるルーシーの手を取る。

16 :
「神の力でオーディションも開いてやると約束するホ!それで文句ないかホ?」
『ホホー!』
 平伏するランタンとフロスト。彼らの目にはメディア展開からの
 マスコットのスピンオフ、主人公作品までの道筋が見えていた。
「さあ、事務所で準備を整えたらさっさとロケに行って来るホ!
 キングがお腹を丸くして待っているホ!」
『ホホー!』
 二人はお城へと駆け出した。

「よく来たホ、お前たち!」
 果たして、お城では彼らの王様、魔王キングフロストが玉座の間で待っていた。
 ルーシーのような金髪、金庫にしか見えない体、立派な杖に赤いマントに大きな体、
 いかにも大物感漂う彼の前には何故かマボガニー製の机が置かれていた。
「王様!早く次のロケに送ってくれホ!」
「ご所望なら世界だって救って見せるホ!」
 功名に逸る二人を諌めるようにキングは言った。
「がっつきすぎホ!まずは今回のミッションを伝えるホ!」
『ごくり』
 生唾を飲む二人。
「今回の仕事は今まで通り世界を救うことだホ」
「ヒホ!ということはまず今回のヒーローと仲間になるホ!」
 経験上一番の安全策である他力本願を悪びれることなく言い放つランタン。
「いや、今回人間のヒーローはいないホ。お前らだけでやるんだホ」
「え?」
 フロストが凍りつく。元々凍っているが、動きが止まる。
 彼らははっきり言って弱い。強い同族も数多いが、彼ら自身は
 強くもなんともない。
「今後のスピンオフが張れるかどうかのテストと思って頑張るがいいホ」
 そう言うと、おもむろにキングの体の金庫が開いた。中にはいつも大量に
 入っているはずの他のフロストがおらず、よくわからない空間が広がっていた。

17 :
「無理だホ!オイラ達だけでクリアとか無理ゲーすぎるホ!」
 抗弁するフロストに頷くランタン。
「安心するホ、これをやるホ」
 キングは雪の結晶を模した自分の首飾りを外すと、それをフロストへと投げた。
「それで他のヒーホーを呼ぶことが出来るホ!安心して主人公になって来るホ!」
「そ、そういうことなら、まあ」
「大丈夫かホ?」
 自分が主人公、仲魔を呼べるということに多大な安心感を覚えた二人が
 胸を撫で下ろした矢先、唐突に辺りが暗くなる。
 見上げればキングが空高く飛び上がり、ボディプレスを繰り出していた。
「さあ、とっとと行って!ちゃっちゃと帰ってくるホー!」
「ま、まつホ!まだロケ先のこととか聞きたいことがメチャメチャあるホ!」
「そんなことは行けば分かるホー!」
「ヒーーーーーーホーーーーーー!!!」
「ジャ、ジャックフロスト〜〜〜〜〜〜!!」
 ギリギリの所で回避していたランタンが叫ぶ。かくして、
 キングの腹へと吸い込まれてしまった妖精ジャックフロストの
 新たなる冒険の旅が始まった。
 彼の未来への展望が蜃気楼と消えるか否か、それはまだ、誰も知らない。

18 :
 オレ、何やってるんだろう。
「大将、餅巾着二つね!」
「ハイヨロコンデー」
 あ、お客さん待ってるな。小皿に餅巾着二つっと。
「ヘイお待ち」
 確かオレは三か月前に召喚事故に遭って、ここに飛ばされてきたんだよ。
 それで、テングのお嬢ちゃんにここを紹介してもらって。
「へへ、キタキタ!」
「お客さん、餅巾着好きっすね」
 最初に常連になってくれたこのお嬢さんは土蜘蛛の娘さんだ。この子の
 クチコミのおかげでなんとか屋台も軌道に乗った。
 何でもここは幻想郷っていう、東京のどこかにある妖怪達の隠れ里らしい。
 アマラ経絡に飛ばされたオレはテングの縄張りだとかいう山に落っこちた後、
 鬼はこの地下に来る決まりだって言われて。
「おやっさん、ゆで卵三つ!」
「お嬢ちゃん本当ゆで卵好きだねえ」
 八咫烏のお嬢ちゃんにゆで卵をよそって出す。タッパ※はあるが中身は子供だ。
 地獄鴉だけど八咫烏でもあるとか良く分からないことを言っていたが、
 ひょっとしたらどっちかがイケニエに使われたのかもな。
 ……そうだ。この地下に隔離されてこの旧地獄街道に来たんだ。
 そして、食い扶持を稼ごうと思って地下の、というか幻想郷の食文化の
 貧しさに活路を見出したオレはこうして飯屋の屋台を始めたんだった。
「ごちそうさん!お代置いとくよ!」
「まいだりー!」
 お勘定をさっと片付けてカウンターを拭く。ここでお題は二の次で仕事第一って
 態度が誠実さを前に出すんだ。へへへ。そう、オレは、

 おでん屋のオヤジになっていた……

19 :
 店を仕舞ってからは、昼でも夜でも薄暗い地下を屋台と共に歩く。
 この幻想郷の中でも取り分け危険だったり、他の妖怪といざこざを
 起こしすぎた奴らがここ、つまり地下に来るらしい。鬼もその一つみたいだ。
 
 幻想郷の歴史は明治辺りで止まってるようで、ここはその貧民窟って訳だ。
 住めば都と言ったって、いい場所な訳がねえ。だからオレは酒が主食でなおかつ
 女性率の高い幻想郷で需要の見込めるおでん屋を始めた訳だ。
 無論苦労はあった。元手は無いし、屋台は自作だし、おでん槽だってカッパを
 紹介して貰うまでの道のりは長かった。何より幻想郷には海がないってんで、
 具材、特にカツオと昆布を手に入れるまで何度嫌な汗をかいたか分からねえ。
 しかしその甲斐あって、今じゃなんとかやって行けてる。
 さあ、今月の上がりを納めて今日は終わりだ。仕込みもあるから、
 早いとこ済ませちまおう。
 オレの前にはでっかいお屋敷が一つ、でーんとそびえ立っていた。東京の高層ビルほどじゃないが、それでも随分ご立派だ。ここは地霊殿。旧地獄一帯の顔役らしい
 さとりっていう妖怪がここにいる。さっきのお客で来た鴉のお嬢ちゃんもここの
 務めだっていうんだから、世間って狭いよな。
「すいませーん!」
 オレが大声を上げると、正面の大きな扉が開いた。身成のよさそうな黒猫が
 一匹顔を出す。
「これ、今月のみかじめっす。よろしく頼んます」
「にゃー!」
 差し出された茶封筒をくわえると、猫はさっと中へと引っ込んでしまった。
 これで今日の仕事は終わりだ。
 昼でも夜でも薄暗い地下を屋台と共に歩く。後は仕込みをして、次の営業時間まで
 寝るだけだ。オレは自分が借りている長屋へと急いだ。
 残った具材のいくらかを処分して、新しい具材を足して、出汁も多少入れ替える。
 具材の在庫を思い出しながら歩いてると、不意に誰かから呼び止められた。

20 :
「すいません、まだやってますかホー?」
「おっと、丁度さっき終わっちましてね。あまりで良けりゃお出ししますが」
「お、お願いしますホ!ありがとうございますホ!」
 なんか懐かしい口調だな。まあヒーホーの一人くらい幻想入りしてたって
 不思議じゃないかもしんねえが。そんなことより椅子出さねえと。
「助かったホ、見知らぬ土地で食いっぱぐれるところだったホ……」
「大変でしたねえ」
 ってことはオレと同じく新参か?まあ余所者はどこだってしんどいよなあ。
「ってあー!」
「なんだよ、脅かすないって、お、おめえは!」
 忘れもしねえつぶらな瞳、その実沢山の複眼!変な帽子に八重歯にほぼ二頭身!
「オニだホ!」
「ヒーホーじゃねえか!」
 なんだ、ついこないだまでパーティ組んで一緒に世界を救った仲魔じゃねえか。
 こいつも幻想入りってのをしちまったのか?けっこう知名度あったと
 思ったんだけどな。
「こんなとこでどうしたホ!でっかい段平はどこに置いてきたホ!
それにその格好!何ちゃんと袴なんか穿いてるホ!頭に白い帽子被んなホ!
微妙にしっくりキテルのがなんかムカつくほ!」
「おめえこそ、どうしたんだよ。ここって隠れ里らしいけどよ。あれか?
 おめえも召喚事故にでも遭ったのか?」
 オレ達はお互いの現状について情報交換した。
「なるほど今度はこっちで仕事か、こんな隠れ里にまで来るたあお前も
 営業熱心だなあ。ほれ、ハンペン」
「ごっつぁんだホ。おいらこっち来てまだ一ヶ月だけど、
肝心の異変ってのが全然起きないホ。物語が始まらないと解決も出来ないホ」
熱々のハンペンを頬張りながらヒーホーの奴が愚痴り出す。
以前大丈夫なのかと聞いたら「オフの時は」とかいう理不尽な返事をもらった
ことがある。

21 :
「なんとか草の根妖怪ネットワークっていうのを頼ってそれっぽい
 場所を教えてもらったけど、どこも起こした異変は解決済みで
 ここが最後だったけど、アテが外れて東方、いや、途方にくれていたホ……」
 煮崩れ気味の大根と入れ替え予定のこんにゃくをよそってやる。
 ついでに「魔王」って酒の残りも注いでやるか。
「まあ飲めや」
「ごっつぁんだホ」
「そうかあ、でもよ、オレみたいに妙なことになってる訳じゃねえんだ。
 待ってりゃその内に異変ってのも起きるだろ。で?どこ回って来たんだよ?」
 仕事の一環とはいえ、異変のあった場所に行って来るとはこいつも
 変なところでタフだ。ボルテクス界でも口八丁と逃げ足で結局最後まで
 付いてきたし。
「まず紅魔館だホ。門番の人にアポを取って聞いたけどかなり前に解決されてたホ」
「ああ、あそこな。赤すぎて目に痛いんだよな」
「知ってるのかホ?」
「仕入れ先だよ」
 
 買い付けは主に昆布とモルジブフィッシュだ。これのおかげで
 オレは屋台をやれている、いわば生命線だ。なんでも敷地内に海を作ったらしいが、
 そこで海産物の養殖に手をつけて交易の品目にしているんだそうだ。
「そうかホ。次に冥界だホ」
「空の上にあるって聞いたけど、おめえ飛べたっけ?」
 ブレス打つとき手をパタパタさせて宙に浮くが、それだけだしなあ。
「関係者のかたが人里に買い出しに来ていて聞いたホ、あんまり申し訳
 なさそうにしてたから、ちょっと気の毒したホ」
「お、そうだ永遠亭行ったか?オレあの辺で竹炭貰って来るんだけどよ」
「いったホ、コミュ障の因幡の白兎から聞いたけどそこももう終わってたホ……」
 コップに入った魔王をぐいと飲み干すヒーホー、見た目に反して
 飲みっぷりはいいんだよな。こいつは。

22 :
「妖怪の山は?オレあそこの畑からも仕入れてるだけどよ」
 芋と大根、蓮根、といった根菜類だ。野良の動物が捕れることもある。
「なんか人から聞くたびに悪役がコロコロ変わって話にならなかったホ。
とっくに解決してたし、しきりに自分達をやっつけた人をディスってたホ」
 ゆで卵と、牛スジの代わりに鹿を使った鹿スジを出したやる。
「ごっつぁんだホ」
「命蓮寺行ったか?噂じゃ寺が変形して宝船になるそうだぜ」
「お台場じゃねえんだ!って鵺の子から追い返されたホ」
 そこも解決済みだったらしい。暖簾の先に吊るされた白熱電球の明かりに
 照らし出されたヒーホーの顔は余計がっかりしてた。
「あ、あと神霊廟にも行ったホ。とは言っても観光用のコース内だけど」
「あそこなんか邪教の館っぽいよな」
 御霊が奥でうろちょろしているらしい。もしそうならサマナーからすれば、
 いや、サマナーでなくても独り占めした場所だろう。何にせよ解決済み。
「空飛ぶ城はよ?」
「紅魔館に帰りに人魚さんから聞いたホ。まあそれも人伝てだけど、
 どっちみちまた空振りホ!ジャガイモとがんも欲しいホ!」
「ほいよ」
 よそってやるとムキになって口に放り込む。まんだらメロンやお菓子の
 長靴があれば喜んだろうなあ。
「ここもダメで心当たりは全滅、もうクタクタだホ……」
 酒に酔って弱音を漏らしたヒーホーがカウンターに突っ伏す。
「まあ焦っても仕方がねえわな。気長に人里辺りで待ってたらどうだい」
「うう、また振り出しかホ、ていうかオイラ住むとこないホ」
「情けない声出すんじゃねえよ。男だろ?よし、じゃあこうしようぜ
 オレも今度は地上にで屋台をやるから、おめえはそれ手伝えよ」
「いいのかホ!?」
 勢いよく跳ね起きるヒーホー、現金な奴だ。
「その代わり、しっかり客引きすんだぞ?
「任せて欲しいホ!」
 くるりと一回転して右手を上げる。これがこいつの決めポーズだ。

23 :
 皿を片付けた後、オレ達は二人で長屋へと向かった。色々と身支度も
 しなきゃいかんし、まず寝ようってことになった。
「でもオニはすごいホー。まさか地上にまで拠点を持ってるとは思わなかったホー
 カタギにはオイラ達みたいなアイドルにはないパワーがあるホ!」
 ヒーホーが上機嫌な様子で騒ぐ。旧地獄の町並みは明治というよ江戸の城下町って
 風情だった。夜通し飲み明かす連中も少なくないから、明かりはまだそこかしこに
 あった。
「何勘違いしているんだ」
「ホ?」
 ヒーホーが首を傾げる。大事なことだから、覚悟を持って貰わないとな。
「オレは地上に家なんか持ってねーぜ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ヒーホーがオレを見つめる。酔いが覚めたのか顔色が白い。
「それってやっぱり野宿ってことじゃないかホー!」 ホー! ホー!
 ヒーホーの絶叫が、夜の地底に木霊した。

24 :
「なんとか無事、地上に出れたなあ」
「お、おま、おまえの体力、お、おかしいホ……!」
 野原に大の字で横たわり息も絶え絶えなジャックフロストがオニを批難する。
 ここは間欠泉地下センター傍の洞穴、から少し出た場所である。
 今は木々の枝葉も色を落とし、鈴虫の羽音が聞こえ始める季節。
 出会ってから後、長屋に戻った彼らは次の日に地霊殿の主こと古明地さとりに
 地上へ移る旨の書類を提出すると、数日かけて長屋を片付けてから
 屋台と共に地上へと戻った。
「なんだよ、あれっぱかしの縦穴登っただけでもう息が上がったのかよ」
「活線コンプの耐カンストと一緒にすんなホ!この脳筋!」
 無理からぬことである。本来地底までは、空を飛んで移動することが前提
 の深さだ。一応飛べない妖怪の為の道もあることはあるが、それでも
 勾配の険しい螺旋状の穴である。太陽の光が届かないこともあった、
 フロストは己の精神のうめき声をこの数時間、ヘビーローテーションで
 聞く羽目になったのだ。
「まあそう言うなよ。おまえのおかげすぐにでも商売が始められるんだからよ」
「さ、流石に休ませてくれホ……」
 フロストが凍らせたおかげで出汁は溢れることなく地上まで運ぶことが出来た。
 在庫の野菜や他の具材を積んだ新品の台車はフロストが引いたのだが、余程
 堪えたのだろう、体からは二リットルほど水分が失われていた。
「ほら、水分補給」
「い、いきかえるホ〜!」
 渡された竹の水筒から水を浴びるように飲み干すフロスト。
 それから深呼吸をして息を整えると、オニへと向き直る。
「でも、こんなにあっさりと行き来しちゃって良かったホ?」
 フロストは心配だった。地底の妖怪は地上に出てはいけない掟があるらしく、
 余所者とはいえ地底の妖怪に含まれるオニが、こうして出てきたことで
 何がしかの危険を呼び寄せはしないかと。

25 :
「大丈夫じゃねえか?オレ達は元々外から来たんだし。最近じゃその線引きも
 随分といい加減らしいぜ?」
 オニは知らないが、地底に封印されていた妖怪は長い間封印されていたことで、
 地上の人妖からだいぶ忘れられていることもあり、けっこうな数が地上に出ていた。
「でも、手続きだって書類一枚で済んじゃったし」
 地霊殿はさとり妖怪こと古明地さとりの住居であるが、地底の怨霊、
 旧地獄にあった灼熱地獄、そして地上まで溢れ出た間欠泉地下センターの管理を
 請け負っている(人材を抱えている)重要施設でもある。
 閻魔からの依頼もあったとかなかったとかいう由緒もあり、人間で言うなら
 地霊殿とその主は大地主であり、暗黒街の受付窓口であり、公務員の宿舎という
 混沌としていながら、その実大層恐ろしい場所なのだ。
 そんな場所に対して紙切れ一枚の報告でよいのか?社会人としての面子という
 ものにも理解があるオニとフロストは不安になったものだが、使いの黒猫は逆に
「さとり様は忙しいんだよ。皆そういう決まりを作っても全然守らないからさ。
 逆に手順を踏んでくれたほうがありがたいと思うよ。いやまあ、
 こっちだって顔も見ないで『もう行っていいよ』っていうのは心苦しいんだけどね」
 と言われる始末。
「お役所が良いって言うんだから良いんだろ。心配すんなって。おめえの
 台詞を借りるなら、オレ達は今、主人公なんだぜ?」
 日は既に西の空へと沈もうとしている。夕日に目を細めつつオニが答える。
「確かにお互いそれっぽい経緯があったホ。でも主人公になったってことは、
 鼻血も出ないような大事に巻き込まれるってことだホ。オイラ達には
 ボウケンシャーみたいな目標がないからそれしか残されてないホ!」
 半ば確信めいた口調でフロストが断言する。
「つってもおめえ、それが最初の目標なんだろうが」
「そうだけどホ……」
「そう悩んでも仕方あんめえ、ここは一つ、屋台の知名度をあげて、
 一日も早くその異変とやらに巻き込まれるよう頑張ろうぜ」

26 :
「……そうだホね。このまま何もしないでとりあえず五年待つような
 エンディングはまっぴらごめんだホ!」
 オニの言葉に、フロストは勢い良く跳ね起きると台車から具材を下ろしにかかる。
「ってか、本当にもう店開くのかホ?せめてビラの一つも配ってからとか、
 疲れたから明日に延期とかでいいんじゃないかホ〜!」
「馬鹿言え、こうしてる間にも材料の鮮度は落ちてんだ。ほれ、このまま
 準備しながら人里まで行くぜ!」
「ヒ〜ホ〜」
 オニ達は屋台を押しながら人里へ向かう。途中で魔法の森の近くで倉庫ないしは
 空家じみた家屋に差し掛かる。この店の名前は香霖堂。幻想郷の骨董品店である。
「あれ?店主さん留守だな」
「ここがどうかしたのかホ?」
「いや、ここってジャンクショップみたいなんだけどよ、オレの段平とおでん槽を
 物々交換してもらったんだよ。挨拶の一つもしたかったんだが」
「ホー!」
「グワーッ!」
 怒りのこもったフロストの拳が会心の響きを伴って鬼の顔面を穿つ!
「お前自分の獲物をなんちゅうもんと交換してるホ!!鉄火場を共に駆け抜けた
 一振りを!暗夜剣使えないホ!お前格闘系のスキル何か持ってるのかホ!?」
「そんな怒るなよ、まあ聞けって。人間の言葉にこういうのがある」
 目が釣り上がり顔を真っ赤にして怒るフロストをオニはなだめようとする。
 そして次のように言った。
「武器よさらば……てな」
「ホー!」
「グワーッ!」
 怒りのこもったフロストの拳が会心の響きを伴って鬼の顔面を穿つ!
「謝るホ!名著に謝るホ!」
「分かった悪かった!でもそのおかげで今に至るんだから勘弁してくれよ……」
 オニは顔を摩りながら謝る。しかし

27 :
「あったまくんなあ。なんかあったまくんなあ・・・!
 フロストはやる気だ!
「もうこうなったらお店を繁盛させてとっとと買い戻すホ!
 早く人里に乗り込むホ!」
「お、おう。ちょっと待てって……これでよしっと」
 オニは代金を書き留めておくためのメモ帳に走り書きで簡単な挨拶文を書くと、
 以前店主が座っていた机に貼り付ける。
「オッケーよし行こう!」
「働きすぎて泣いたり笑ったりできなくしてやるホー!」
 そして二人は意気込みも新たに人里へ向かい歩みを進めた。
そしてまた一週間が過ぎた
 ある秋の日、天気 晴れ 気温 日差しが強く暖か 風 強くとも涼しくない
 そんな日。
「号外!号外!号外ですよー!」
 蠅のように五月蝿いゴシップ記者が薪の代を方々に撒き散らす。
 昔は邪魔だと思ったものだが、今では冬を凌ぐ大事な燃料だ。
 月日と現実は人の思考を容赦なく変えていくものだと彼女はしみじみ思った。
「境内じゃなくてせめて郵便受けにでも投げなさいよね、ないけど」
 上空のカラステングが勝手に押し付けていった新聞、『文々。新聞』を拾いながら
 彼女、博麗霊夢は呟いた。全体的に紅白の出で立ちにリボン、何故か脇を出している。
「どれどれっと」
 以前は読みもしなかったものだが、こういうときは知り合いが
 見たか聞いたかとやって来るので、一応見出しにだけは目を通すようになった。
 たまに累が及ぶような記事か書かれていることもあるのが厄介だ。
『人里にオニ襲来!新たなる異変の兆しか!?』
 一面の写真には屋台でべろべろに酔っ払って突っ伏した鬼の少女が写っている。
「あんの糞馬鹿ぁ!」
 まだ夏の名残が感じられる中秋、博麗神社の巫女、霊夢は幻想郷の空へと飛び出した。

28 :
 草木も眠る丑三つ時、月明かりの下、自前の白熱電球が屋台の軒先に吊るされて、
 辺りを微かに照らし出す。立ち上る湯気と具の煮える匂いが、近づく者を魅了する。
「うへへへ〜。オヤジぃ、まんさくもう一本!」
「え、一杯じゃなくって!?」
 オニが驚きながらももう一人の鬼の少女に酒を出す。彼女の名は伊吹萃香。
 幻想郷に長いこと住んでいる鬼だそうで、地底にも行かず風来坊を気取っている。
 この屋台を嗅ぎつけて来た日にオニを見た途端、やたらと嬉しがっていたものだ。
「いやー、まさかここでも同族に会うとは思いもしなかったっすよ」
「私も私も、まさかこんな馬鹿げた話があるとは考えもしなかったよ!」
『ガハハハハハハ』
 そんな彼女はここ数日間、オニ達の屋台に入り浸っていた。
「ありがたいですけど姐さん、流石に飲みすぎじゃありやせんかい?
 なにせ朝寝て夜起きたらもうウチ来るって生活がもう何日も続いてますぜ」
「いいんだ!黙って酌しな!」
「まあこれも名物だと思えばいいホ、こう連日終わりまでいられるのは困るけホ」
 ジャックフロストがとくに気にせずに言う。屋台は人間の里のすぐ外、魔法の森側の
 出口に横付けしてある。まさに目と鼻の先に人間の住処がある。
 問題がないのか言われれば大有りなのだが、中には入っていないので
 その線で言い張りながら営業を続けるほかない。
「オニのおでん屋だから客もオニっていうのは説得力があっていいホ。
 それにオイラも呼び込み以外の時間も持てるようになったし」
 仕入れた蓮根の本数を数えながらフロスト楽観的なことを口にする。
 妖怪お断りという人間の里に、少なからぬ緊張を持っていたのは
 つい先日のこと。
 かなりの数の妖怪が人間になりすまし、中には座敷童のように公然と
 街中を歩いている者もいる始末。そしてその座敷童に頼んで里の中での
 買い出しを頼むのがフロストの新たな役目だ、本人曰く仕入れ部長と呼べとのことだ。

29 :
「昨日もテングが来て取材していってくれたホ!宣伝効果もばっちりだし
 なんのかんので怖いもの見たさで来てくれるお客さんも出てきたし、
 後は異変が起きるのを待つだけだホ!」
「あんたたちさ〜昨日もそう言ってたけどぉ、悪いことは言わないから、
 とっとと帰ったほうがいいよ。あのテングはとんだインチキ記者だからね。
 今頃どんな書かれ方してるかわかんないよー」
 コップに注がずに瓶から酒を一気に飲み干した萃香が、緩やかな警告を発した。
「テングは教えたがりの知りたがり、でもちゃんと人に教える誠実さってのとは
 無縁だからねえ。早けりゃ今日にも良からぬ輩が来て営業停止になっちまう」
「え、それマジなのかホ!?」
 首を360度回転させたフロストが上ずった声を出す。
「姐さん、それ本当ですかい」
「マジマジ。だからこうして食いだめしてるんじゃん」
 二人の焦りをよそに、外見だけ子鬼が箸を弄びながら頷く。
「いやー、同胞に会うのも久しぶりならおでんを食べるのも久しぶりだったからね。
 つい嬉しくなって長居しちゃったよ。たぶんもう二度とないだろうし」
「そ、そんな、オイラ達、ここのところ随分真っ当な商売しかしてないのにホ……」
「いったいどうしてこんなことに……」
 オニは若干青ざめながら、先日のテングとのやりとりを回想した。

「ごめんくださーい!おでんもらえますかー?って、あやややや!
 もしかして、いやもしかしなくても鬼のかたですか!?それにこちらは妖精、
 随分と個性的な組み合わせですね、え、あれ?ここっておでん屋台ですよね?」

 暖簾をくぐったカラステング(♀)は、二人を見るなりけたたましくまくし立てた。
 白シャツ黒スカートに下駄に頭巾、モダンな雰囲気漂うテングで新聞記者だと
 自己紹介してきた彼女の名は射命丸文。山のテングの中間管理職でもあるらしい。
 人間の里の、初日の開店直前、日が沈む前に彼女はやってきた。

30 :
「あ、はい!そうですホ!おでん屋ですホ!ご丁寧にどうもですホ!オイラは
 こういう者ですホ!」
 フロストは頭の帽子の中から名刺を取り出して文に渡した。『フロスト芸能事務所』
 と達筆で印刷されたカタイ印象を与えるしっかりとした名刺だった。
「あ、これはどうも。ええ、と……。と、とりあえずビールを一杯お願いします」
『ハイカシコマリー!』
 そうして文におでんを供しながら、彼女からのインタビューに答えたのだ。
「ええと、店主さんはオニ、ですよね」
「はい、そうです!自分ここじゃ新参なんでコンゴトモヨロシクお願いします!」
 オニは勢いよく、体育会系のノリで答えた。これはフロストとの事前の打ち合わせ
 の結果決まったことであった。接客業をするに当たり、接客態度のレクチュアを
 徹底的に叩き込まれたのだ。
 現状これが一番の安全策だと力強く宣言したフロストは断言した。
「それがまた、どうしておでん屋台を地上でやろうと?あ、ありがとうございます」
 厚揚げと竹輪を盛り付けた皿を渡しながら、オニは言った。
「へい、元々地底でおでん屋をやってたんすよ。皆食いたいって言ってたけど、
 やってるとこが全然なかったもんで、『よし!それじゃオレが!』ってなもんで」
 おでん槽の下部の引き出しを開けて薪と炭を追加する。余談だが、この為に彼らは
 予め道中で柴刈りをしており、炭もそのときに作っていた。
「地上に来たのはこいつの探し物を手伝うことになったからで」
「オイラ、異変を探してるんだホ!」
「ほうほう、異変を。あ、お酒とジャガイモ追加で」
『ハイヨロコンデー!』
「異変って、またなんでそんなものを?」
 異変とは妖怪が幻想郷に起こすものである。解決は幻想郷独自のルールに則って
 成されるが、始まりはそれとは別になんの関係もない。
「オイラ、これから起こる異変を解決するのが今回のお仕事なんだホ!
 これが終わらないと歌手デビューさせてもらえないホ!」

31 :
「まあこいつには借りもあるし、ちょっとくらいなら付き合ってやっても
 バチは当たらないと思いやしてね。ほら、義理とか付き合いって大事ですから」
「なるほどなるほど」
 いつのまにか取り出したのか、黒革の手帖にメモをとりながら文は頷いた。
 それと同時に目の前の妖精が騙されているのだとも思った。それもそのはず、
 物語の勇者が魔王を倒すのと同様に、幻想郷の異変は巫女が解決するものと
 決まっているのだ。
「いやあ、いいお話が聞けましたよ。おでんも化かしの類じゃなかったし。
 久々にちゃんとしたものを食べさせていただきました」
 一通り食べ終えた文は上機嫌だった。手帖の軽くめくりながら、何やら考え込む。
「うーむ、ここを記事にしちゃうと流行ってしまいそうですねえ」
「ぜひ!ぜひそうしてくださいホ!そしたらお代もおまけしちゃうホ!」
「あ、こら勝手に!」
 その時、文の目が獲物を見つけた猛禽のようになったことにオニは一抹の不安を
覚えた。結論からいうとそれは正しかった。
「本当ですか!?書きます書きます!書かせていただきます!いやー今日は
 本当にツイてます! ご安心を、すぐに人が集まるようにしてみせましょう!」
「ホホー!」
 平伏して感謝したフロストを見て文は益々機嫌を良くしたようだ。何やら頷くと
 とても満足そうに空を飛んで帰っていった。
 その日の客は文一人だけだったが、次の日から四人、八人、一六人と倍々に増えて、
 オニは杞憂かとお思い、また文に感謝もしたのだが。
「これが今日の新聞だよ」
 萃香から本日の号外を渡されて、意識が今に呼び戻される。読んで二人の目が飛び出す。
「ど!どどどどどどどどどどどど、どうしてこうなるホ!」
「お、おおおおおおおおおおおお、おち、おっ、落ち着け!」
 二人が狼狽える様子を面白そうに見ながら、萃香は大根をかじる。

32 :
「オニ襲来って、オイラ達ナマモノとコラボはしてもチュンソフトとはまだ何も……!」
「え、ていうか写真にオレ達写ってねえじゃん!構図的に姐さんしか写ってねえじゃん!」
 理不尽に浮き足立つ二人、そこで萃香がおもむろに立ち上がった。
「まあ、つまり、あれだよ、お勘定」
『アッハイ』
 払いを済ませた萃香は、頭の角を自分の術で消すと、里の入口をくぐる。

「じゃ、私はお暇するから。お前らも早く逃げるんだよ、いいね」
『アリガトウゴザイマシター!』
 そのまま姿が見えなくなったのを確認してから、彼らは改めて慌てふためいた。
「こここ、これってどういうことだホ?どういうことだホ!?」
「いやたぶんコレ、姐さんのとばっちりじゃねえか」
「そんなんわかってるホー!」
 
 慌てつつ二人は店を片付けにかかる。出て行けと言われるだけならいいが、
 店の備品や材料、出汁に何かあっては目も当てられない。会話が成立しない相手からの
 不意打ちほどキツイものはないことは、オニもフロストも経験済みだ。
「とりあえず屋台だけでも避難させるホ!場合によっては戦闘も辞さないホ!」
「……どうやら遅かったみてえだ。ヒーホー、おめえは先に行け!
 デカイ気がまっすぐ近づいてくる!」
「ホ!?」
 まるで少年誌のような台詞を吐くと、オニは天を見上げた。月の輝く夜空を、
 小柄な物体が高速で飛来してくる。ソレは、屋台を挟んで反対方向へと降り立った。
「見つけたわよ萃香!出てきなさい!」
(全然見つけてないホ!怖いホ!)
「いるのは分かってるのよ!往生しなさい!って……ん?」
 ゆっくりとこちらに向かって歩いて来たのは、紅白の巫女服に身を包んだ少女だった。
 しかし二人はこの少女からアリスのような恐ろしさを肌で感じていた。
 

33 :
 霊夢は返事がないので機嫌を悪くすると、萃香の足取りを探るべく、
 暖簾をくぐった。そして、彼らと目が合った。
「………………………………………………………………………………」
『………………………………………………………………………………』
沈黙、そして。
「出たわね妖怪!覚悟しなさい!」
 人間 博麗霊夢 が 一匹 出現 した!!

34 :
(たぶん、良からぬ輩ってのはこいつのこと、だよな……)
(アナライズしたらレベルがカンストしてるホ、怖いホ……)
 一足で飛び退いた霊夢は裾から御札を数枚取り出すと、油断なく二人を睨む。
 オニとフロストの脳裏では魔人戦の音楽が早くも流れ始めていた。
「しょ、少々お待ちくださいホ……」
 フロストはそう言うと、オニと共に屋台を片付け始める。
 椅子を畳み、窓口の珊の部分に戸板を嵌め、火を消し、明かりを落とし、
 少し遠い所に移動させる。
 そのまま逃げずに二人は戻る。目の前の人間は彼らが何度か見た、
 ニュートラルな存在に見えたからだ。カオスよりもダークよりもライトよりも
 ロウよりもある種ずっと危険な人種、皆殺しの風来坊に。
(あの凶悪な顔を見るホ。残酷な目だホ、レベルのために蠱毒皿でテングを
 乱獲する輩の目だホ)
(魔人だってもうちょっと余裕があったぞ。露骨に殺気丸出しじゃねえか)
 ヒソヒソと内緒話をしながら相手の出方を伺うフロスト達。霊夢は依然として
 厳しい表情で彼らを見ている。
(どうするよ?客商売やってる以上オレたちゃ戦えねーぜ!)
(オイラに任せるホ、交渉スキルには自信があるホ!)
 意を決したフロストが霊夢の前へと進み出る。
 
 どうする?
 フロスト>TALK ○ 霊夢
『……アタシになんかよう?』
 フロスト>ほほえむ
「ギャハハハハ!絵に書いたようなバカ!」
 霊夢は機嫌を損ねたようだ・・・

35 :
一方でフロストは、オニにしか見えない後頭部に凄まじい青筋を浮かべていた。
因果応報めいた罵声がトラウマを刺激しアイドルの、マスコットの自負を
粉々に踏みにじる。オニが慌てて駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?代わるか!?」
「ま、まだやれるホ……!」
 フロストはヤル気だ!
どうする?
フロスト>TALK ○ 霊夢
『あんたって妖怪でしょ? こんなところでいったい何してんの?』
>修行のためだ
>ナンパしてる
>わからない
>おでん屋をやってる
「おでん屋をやっているホ!」
「ギャハハハハ!絵に書いたようなバカ!」

「コロス……コッローース……!」
 因果応報めいた罵声がトラウマを刺激する!フロストはヤル気だ!
しかしフロスト達のターンはこれで終了である。
霊夢
龍の眼光
「イヤーッ!」
「ああ、やばいぞ!雄叫びくらい使っとけばよかグワーッ!」
 霊夢の瞳が妖しく光ると、手に持った御札がバンテージのように拳に巻かれる。
 そしてそのまま稲妻の如き勢いでオニに痛烈なボディブローを食らわせた!

36 :
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
龍の眼光
霊夢の光が妖しく光る!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
「グワーッ!グワーッ!グワーッ!グワーッ!」
あまりにも激しい連打!連打!連打!いかに物理に特化して打たれ強いオニといえど、
 何度も攻撃されては堪らない!しかも攻撃の一つ一つが会心の手応えなのだ!
 月明かりの下に浮かび上がる形相たるや、どちらか悪魔か皆目検討がつかぬ!
「た、耐えるホ!頑張って耐えるホ!」
 霊夢に無視されたフロストがオニにエールを送る。彼女は見るからに前衛と思しき
 オニを真っ先に潰すと決めた。フロストは戦いの役に立たぬと踏んだのだ。
 その読みはだいたい正しい。
 一度のラッシュで倒しきれなかったことに舌打ちをすると、彼女は一旦距離を
 取る。膝をついたオニにフロストが駆け寄る。
「魔石だホ!しっかりするホ!」
 帽子から取り出した回復用品を口に放り込みながら、力の入らなくなった足を
 バシンバシン叩く。拳闘式のリカバリー術である。
「おう、スマネエ……」
「流石に頑丈ね。イライラするわ。よく見たらあんた達、ここらじゃ見ない顔ね。
 どうせ外から来た新顔なんでしょう」
「ど、どうして分かったホ!」
 フロストの問いに霊夢はようやく笑った。もっとも感情面ではその反対であったが。
「やっぱりね。こちとら最近あんたらみたいなのが増えてから、やたらと駆り出されて
 面倒くさいったらないのよォ!」
「理不尽だ!」
「オイラ達、真っ当な商売してるホ!」
「うるさい!ここじゃ妖怪は人間の敵なの!取り入ろうとかされると迷惑なの!」

37 :
龍の眼光×2
「あ、ずるいホ!次のこっちの番のはずだホ!」
「うっさい!とっとと消えてなくなりなさい!」
「待った!屋台は、屋台だけは勘弁してくれ!」
ボム×8
『グワーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!』

悪魔の悲鳴が夜の静寂をズタズタに引き裂くと、一つの影が空へと上り去っていく。
後には仲良くボロ雑巾のようになったオニとフロストが横たわっていた

「生きてるか……」
「食いしばり持っててよかったホ……」
 際どいところで生き残った彼らは、痛む体を摩りながら起き上がる。
「ひでえ目に遭ったぜ……」
「けど、屋台は無事だし、得るものもあったホ」
「得るもの?」
 頭に疑問符を浮かべるオニに対し、焦げてジャアクな色合いになったフロストが
 答える。
「あんチクショウめ、さっきこう言ってたホ『あんたらみたいなのが増えた』って」
「だから?」
「つまり、これが異変だホ!オイラ達みたいなのが来てるってことだホ!
導かれし者たちだホ!」
 熱を帯びた口調でフロストがはしゃぐ。いくらなんでも話が飛躍しすぎだと
 オニは思ったが、これで意外と馬鹿にならない正解率を誇るのがヒーホーの戯言だった。
「探すホ!仲魔を!そして伝説へ至るホ!オイラの勘だと108人くらい集まれば
 何かが始まるホ!こうしちゃいられないホ!」
「探すったって、どこ探すんだよ」
「幻想郷全部だホ!」

38 :
 無茶苦茶な言い分だったが、一度スイッチが入ったフロストを止められる者はいない。
 オニは溜息を吐くと、切れて血が滲む口元を拭った。
「……しょうがねえな。そろそろおでんの仕入れにも行かねえといけねえしな」
「ホ!?」
 傷だらけの顔が月の光に照らされる。今夜は綺麗な三日月であった。愚鈍と獰猛と友愛
 を行ったり来たりしている男が、ニヤリと笑った。
「もうひと頑張りすっか!」
「あ、ありがとうだホー!」
 両手をブンブンと振り回すと、フロストは感謝の言葉をオニへ送った。
 そして、そんな二人のことを見つめる影が二つあることを、彼らは気づかずにいた……

39 :
 翌朝、痛む体に鞭打って、オニとフロストは屋台を押しながら、一路紅魔館への道を
 歩いていた。登る朝日は柔らかく、行き過ぎる風はたおやかである。
「あ〜、やっぱり魔石1個じゃあんまり回復しないホ……」
「こんなときにピクシーやパールバティがいればなあ」
 現状で彼らの体力は、最大値のおよそ三分の一だ。護衛対象のある旅で早くも
傷だらけの二人、なんとも心細いものである。人里からいくらか離れた辺りで、
バックアタックに注意しながら進む彼らは前方に佇む人影に気がついた。
「あいや待たれよ、そこ行くお二人さん!」
 その人物は先に口を開くと、歌舞伎のように片手を力強く前へと突き出して
 見栄を切った。
「な、なんだホ!?敵かホ!?オイラ今度こそはやってやるホ!自社パロでも
 なんでもやってやるってんだホ!」
「落ち着け、まずはトークでマークの確認とアナライズが先だろ」
「落ち着けはこっちの台詞じゃ、まあ無理もないことじゃがな」
 その女性はポーズを解くと、メガネをかけ直してから大仰に首を振った。外見は
 一見して若い女性、萌黄色をした厚手の着物に身を包み、チェックのマフラーを
 巻いた姿は少女というには些か過ぎた風格を醸し出している。
「お主たち、昨夜博麗の巫女にボコボコにされた二人組じゃろ?しっかと見ておったぞ」
「そ、それがなんだホ!」
 狼狽するフロストをちらりと見た後、女性はオニを見る。とくに何も考えていない、
 見る者の毒気を抜く邪気の欠片もない顔がそこにはあった。
「噂を便りに来てみれば、なるほど中々に面白そうな連中じゃのう」
「噂?」
 オニが首を傾げる。文々。新聞のことを踏まえて、現在どんな風評被害に
 巻き込まれているのか、考えたくなかった。
「うむ。曰く、幻想郷を駆ける韋駄天が出た、台頭する新しい屋台、良いほうの赤鬼。
 ざっとこんなものじゃが」
「オイラは?オイラはないのかホ!?」

40 :
「お主は確か、溶けない雪だるま、とか雪だるまっぽい奴とか、そんなじゃったが」
「が、がっかりだホ〜」
 悄気返るフロストを横目に、女性は人差し指を伸ばして説明を始めた。
「まあ、幻想郷じゃオニは珍しい上に危険という意味で知名度も高い。それに加え、
 お主はこの短期間にめぼしい場所を巡り、仕入れ先を獲得、そして人里で商いを
 したとなれば、いやでも注目されるじゃろう」
「いや、生活のためにしただけで、仕入れ先だってたまたま運が良かっただけだぜ」
 そう言って手を振り答えるオニを、今度は値踏みするように、女性は視線を這わせた。
「幸運の一言に尽きたとしても、結果が残っておれば、そこばかり見てしまうのが
人のサガというもんじゃよ」
「それは分かったけどホ.それでオイラ達になんの用だホ、おばちゃん」
 ころころと笑っていた女性の頬が、気分を損ねたフロストの一言によって引きつる。
「お姉さんじゃぞ?坊主、長生きしたかったら、女子にかける言葉には気を配らぬと」
「オイラこどもだからわかんないことにしとくホ!おばちゃん!」
「ほっほっほっほ……この糞餓鬼めが!」
 女性は怒気と共に、隠していた本性を現した。獣の耳と牙と、爪とそして大きな、
 とても大きな狸の尻尾であった。
「あ、こいつ魔獣だホ!」
「む、し、しまった!」
 フロストに指摘され、彼女は慌てて頭と尻尾を押さえた。しばしばつの悪そうな顔を
 すると、やがて観念したのか、溜息を一つ吐いた。
「あー、まあなんじゃ、見ての通り、わしはしがない狸の化生じゃ。実のところ、
 わしも幻想郷じゃ新参でな。会ってみたかったというのが、まあ半分じゃ」
 彼女は後頭部をぽりぽりと掻く。苛立たしげな物言いには何かを失敗した
 という雰囲気が滲んでいる。
「もう半分はなんだホ?仙狸のおばちゃん」
「仙狸?よしとくれ、わしはアレよりはもう少し恥じらいというものがある!」
 狸の女性は大仰に腕を組み、やれやれと首を振る。
 いかにも『一緒にして欲しくはない』といった感じだ。

41 :
「確かに女の妖怪としちゃ実に正当かつ伝統的じゃ。けどわしはそれとは別の方法で
 ちゃーーーんと、今日まで上り詰めて来たんじゃ!」
 ころころと表情の変わる様子は全体に芝居がかっており、オニとフロストは
 どこか捉えどころと落ち着きのない言動に早くも思考が止まりつつあった。
「別の方法ってなあ、なんだい?まさかまともに修行してとか、高名な坊さんの
 下で逆に妖怪退治したりとかかい?」
「コレよ、コ・レ!」
 オニの質問に対して声を潜めると、彼女は掌を裏返し、人差し指と親指で
輪っかを作る。お金である。
「もう一つの磐石な煩悩に目をつけて、わしは金貸しとして今日まで来たんじゃ」
「つまり男漁りの分、もう一段階パワーアップの手段を残しているって訳だホ!」
「ちゃんと修行して御霊合体を考えるとV段階じゃねーかな」
 ちなみに二人は御霊合体まで終了している。見た目とカーストの位置に反して
 高い力を有しているが、物の考え方は低カーストから抜け出せていない。
「それでよう、話しを戻すがよう、オレ達に何の用なんだい、狸のお嬢さんよう」
「おじょ、お、コホン!ま、まあ、アレじゃ、新参のわしは、ここでまた一旗
 上げようと思ってな、色々な妖怪に声をかけておるのじゃ」
 お嬢さん呼ばわりに女性の機嫌が露骨によくなる。お世辞に弱いようだ。
 オニとフロストは彼女のいいたいことが分かったが、遮ってバトルになったら
 嫌なので、皆まで言わせることにした。
「そして最近注目株であるお主らと行動を共にすることで、幻想郷内の
 他の勢力と、そのう、関係を持ちたいと、こういう訳じゃ」
『え?』
 二人は顔を見合わせる。そして女性を見る。
「傘下に参加しろって話しじゃないのかホ?」
「そんなスケールの小さいことではいかんのう坊主」
 ダジャレにまったく取り合われなかったフロストは悔しそうに歯噛みする。
 挑発の意図があったようだが流石にあからさま過ぎたのだろう。

42 :
「お主らだけならたった二人じゃが、お主らの人脈とならば話しはもっと大きくなる。
しかも商いが地盤とくれば、わしの得意分野。食を通じて益々大勢の胃袋、ひいては気持ちも
がっちり掴める!これがどれほどの好機かお分かりか?」
どうやらコネ欲しさにいっちょ噛みしたいということらしかった。実に正直である。
「勿論、お主らにも悪い話ではない。わしもわしで子飼いの者達を通じて
幾らかの情報筋を持っておる。探し物となれば、役に立てるやもしれんぞ?」
喋っている内にヒートアップする人がいるが、彼女もそうらしい。
自分の売り込みの口上唱えている内に乗ってきたようだ。
二人はもう一度顔を見合わせた。
「要は仲魔になりたいってんだろ?別に構やしねえぜ」
「話しが長いホ」
「く、こ、これだから短絡的な男はいやじゃ、風情がないわい」
 自分のペースがまったく通じないことが面白くないようで、彼女は
 またすぐに不機嫌になってしまった。
いいわいいいわい。それなら勝手についていかせてもらうとするわい!」
 そう言うと、彼女は屋台の傍まで来ると、改めて二人とともに歩き出した。
「そういやあよ、おめえ、いつになったら名乗ってくれんだ?」
「え?あ、あ!」
 オニ言われて漸く気がついたのか、彼女は口に手を当てて盛大に目を見開いた。
「これは確かに不躾じゃった、あいすまぬ!」
 そこでまたも芝居がかった動きで飛び退ると、右掌を下手に出して、
 左手を腰へと回し、カッと正面に見栄を切る。
「言われて名乗るも烏滸がましいが、あ!どちらさんもどうぞお控えなすって!」
 右手を引いて腰に付け、今度は左手を前へと突き出し、首をぐるりと回す。
 一回転と同時に左足を上げて一歩踏み込む!
「不肖、魔獣二ッ岩マミゾウ!今後とも、あ!ヨロシクお頼み申す!」
『ヨ!日本一!』
 二人の相の手に彼女、二ッ岩マミゾウは爽やかな片瞬きを返す。
 魔獣 二ッ岩マミゾウが仲間になった。

43 :
 三人組となったオニ、ジャックフロスト、マミゾウは仲良く秋の陽の下を歩く。
 先ほどのやりとりから、日は既に一番高いところへ登り、これから緩やかに
 沈んでいくことだろう。
「それで、お主らはどこへ行こうとしていたんじゃ?」
 居住まいを正しならマミゾウが尋ねる。今は耳も尻尾も出しっ放しだ。
「紅魔館だよ。そこで屋台に必要な海産物を仕入れがてら聞き込みをするんだ」
「おお、あの赤い悪魔の屋敷へか!?」
 オニの素っ気ない返答に驚くマミゾウ。紅魔館とは幻想郷にある霧に湖と呼ばれる
 場所の畔にある、目に悪いほど赤い屋敷だ。館というよりも城の様相を呈しており、
 住民も人間はほぼいないので、悪魔城の別名さえある危険区域である。
「先にカッパに会って屋台を見てもらおうかとも思ったんだけどよ。まあ近いから」
「カッパって、お主カッパとも面識があるのか?」
「そりゃお前、このおでん槽が使えるのもあいつらのおかげだしな」
 オニは気遣わしげな視線を屋台に向ける。霊夢のボムから庇いきれなかった分が
 容赦なく屋台を痛めつけたのだ。故障箇所はまだないが、心配であった。
 それとは別に、フロストの脳裏にあることが引っかかった。
「お前コレ物流ショップで交換してもらったって言ってなかったかホ?」
「そのままじゃ動かせなかったから、修理はそっちを紹介してもらって頼んだんだ」
「ほほう、カッパはおでん槽の修理もできる、と」
 二人の会話を聞いて、マミゾウが腰に吊るした台帳の一枚にメモをとる。
「しかし、よもや幻想郷で昆布とはのう。海はないというから色々と
 諦めたものもあったが、いやはや、中々どうして」
 顎に手を当てて唸るマミゾウ、急に表情が引き締まり、どこか遠くを見つめ始める。
 どこかとは?商いという神も悪魔も降り立たぬ荒野へ。
「でもお前、なんだって紅魔館に行くことになったんだホ?」
「そうじゃのう、おでん屋台を始められた経緯も気になるぞ」
「ああそれはな、話せば長くなるんだが……」
 少し湿った風が、妖怪の山々から紅葉を運んでくる。オニは3ヶ月前のことを回想した。

44 :
「はい!これで水中に沈んでも問題なく使えるようになりましたよ!」
「いやあスマネエ助かったぜ」
 オレは例のジャンクショップで手に入れたおでん槽をカッパに直してもらってたんだ。
 本当にオカッパ頭だったんでちょっとだけ驚いたな。
「よし、これでようやくタネのほうに移れるぜ」
「修理の他に、改造もしたくなったら、また来てくださいね!」
 そしてオレは使い物になった屋台を引いて山を降りた。夏の信仰争奪戦とかいう
 祭りがあって、人里に妖怪が出入りしてたのがラッキーだったな。
 そこで出店と客層をそれとなくリサーチしたり、幻想郷のことを知ったんだ。
 工場なんかないから、屋台をやるなら全部自前じゃないとダメってのが地味に
 辛かった。
「私も無縁塚に行ってみようかなあ」
「君子危うきに近寄らず、やめとけって」
 無縁塚ってのは幻想郷の端っこで、外から色々な物が流れついて、
 簡単に言やあ、淵とか溝ってところらしい。
 で、この幻想郷ってのは妖怪の他にも、外で忘れ去られた物もやってくるって
 話しでよ。それを聞いて屋台の残骸でもないかって出発したんだ。
 まあ結果から言うと、あのジャンクショップでいきなり見つけて
 段平と交換してもらったんだよ。
「号外!号外!今日の試合結果の速報だよー!」
「いよいよ大詰めみたいですね」
「宗教戦争ねえ、本当、好きだよなあ」
 
 いよいよベスト4が出揃ったとかなんとか書かれていたが、オレは興味がなかった。
 ガイア教徒とメシア教徒の抗争とかコトワリの件とか、いい加減腹いっぱいだろ?
「オレにはこっちのチラシ広告のほうがよっぽど大事だ……て、んん?」
「どうかしたんですか?きゅうりの特売とかあると嬉しいですけど」
 オレはチラシの隅の一コマに目が行ったんだ。そこにはこう書いてあった。

45 :
『幻想郷に海の幸!紅魔海運始まる!電話一本でお望みの海産物取り寄せます!』
「お問い合わせは紅魔館海運営業部まで」
「コレ、いかにも胡散臭いですよね〜」
 オレには藁にもすがる思いでそれを見た。割高だろうがなんだろうが、
 一当たりしてみる価値はあると思ったんだ。もしもアズミやフォルネウスあたりが
 出てきたらとか考えないでもなかったが。
「よし、次の目的地が決まったぜ」
「お店、開けたらいいですね」
「おう、ありがとうよ!」
 そしてオレは山を降りて霧の湖へと向かったんだ。中身の入ってない屋台は
 めちゃめちゃ軽かったから抱えて走るのもそんなに疲れなかったな。
 そんな訳で、途中で妖精にからまれて難儀してる職漁師の爺さんを助けたり、
 ホブゴブリンと妖精の小競り合いを仲裁してるうちにオレは紅魔館に着いた。
 この間がだいたい2,3週間くらいのことだったかな。
 で、件の館に付いたら庭いじりしてた受付嬢にチラシを見せてアポとってよ、
 中に通された後、サキュバスの娘さんから相談をさせてもらってだ、
 昆布とカツオ手に入りませんかって聞いたんだよ。そしたら
「現在『紅魔海』、紅魔館で作った海では赤い海産物を中心に取り扱っておりまして、
 お客様のご注文の品はまだ当社ではまだ取り扱っておりません」
「ああ、そうですか」
「まことに、申し訳ございません」
 正直がっかりってほどでもなかったな。まあカニとエビとタコとタイは
 あるってのは意外だったがな。しょうがないからおでん屋を止めて
 ちゃんぽん屋台にしようかと思ってたその時だ。
「話は聞かせてもらった!その注文、なんとかしよう!」
「あ、あんたは……!?」
 おじょうが現れたのは。
「我が名は夜魔 レミリア=スカーレット 以後お見知りおきを……」

46 :
 てるてる坊主がドアノブカバーを被ってるような可愛いお嬢ちゃんが出てきてよ、
 なんでも吸血鬼の娘さんで外の世界と幻想郷とで交易をやってるって
自己紹介されてな、これがそのとき渡された名刺だ。
『スカーレット・トレーディングス 代表取締役 レミリア=スカーレット』
と書かれた名刺をオニは二人に見せた。
「かっちりしてるホ……」
「オオ、これはワシも営業用の名刺を出せるようにしておかんといかんな」
話題のスポットへの道すがら、幾分くたびれた名刺をフロストとマミゾウは
 矯めつ眇めつして名刺を弄ぶ。
「話しを戻すぞ」
やたら広くて対戦ステージにでも使われるんじゃねーかっていう会議室の
扉を勢いよく開けて入ってきたお嬢はよ、つかつかと歩いてきたんだ。
歩幅が小さくてやたら時間がかかったけど。
「私服で失礼、着替えの時間が惜しかったもので。早速だが、
今の話のことでお聞きしたいことがある」
 
 正直ちょっとだけ気圧されてよ。かなり強いようなんだが、カタギとしての
 雰囲気っつーか、そういうのもあってよ。
「は、ハイ!なんでやしょう?」
「季節はまだ残暑、それなのにおでん屋をやるのかしら?」
「いや、開くのは冬の予定でして、開店のためにこうして仕入れ先を求めて
 当たってる最中なんでさ」
「ということは、最悪冬までに用意できればいいってことかしら?」
「そうっすね。つってもあと3ヶ月ちょいですから、無理がありまさあ。
 自分でも駄目元だったから、そこまでお願いする気は」
「一月だ」
「へ?」
「一月で用意してみせよう、他に何か入用な海産物はあるか?」
「え、あ、いやないですが、その、マジで?」

47 :
 オレも正直ハッタリかって思ったよ。でもこんな下手な打ちかたも
 ねえだろ?だからよ、ついつい頼んじゃったの。そしたら本当に用意してくれてな。
「いやなに、此度の祭りのおかげで折角の宣伝が無駄になりそうだったんだ。
 ならここが一つの勝負所だと考えたのだ。それに、私も久しぶりにおでんを
 食べたくなったのよ」
「あ、ありがとうございます!」
 いやあ、オレもう感動してよう。お嬢も和食派だっていうからおでんのレシピの写しを
 前金替わりに受け取ってもらって、一ヶ月半かけて残りの具材を集めてよ。
 でひと月半前に何とか開店まで漕ぎ着けたって訳よ。おでん槽だけに。
「……相変わらず狂ったバイタリティしてるホ……」
「涙ぐましい話じゃのう。で?その後はどうだったんじゃ?」
 オニの回想が終わり、二人はそれぞれの反応をする。
「おう、色んなとこから力を借りて創業した訳だからな。下手は打てねえ。
 オレが地底に行くまでのラスト数日は紅魔館で料理の修行をみっちり
 仕込み直してもらってよ。社長が最後の味見をしてくれた日のことは
 今も覚えてるぜ」
「なんて言われたホ?」
「『まだまだ素材の味に助けられているな。だがそれでいいんだ。続けろ。
 出汁が素材を飲み干す日まで。精進しなさいって』」
「聞けば聞くほど大人物じゃのう、会うのが楽しみになって来たわい」
 その日のうちに彼らは紅魔館の手前、妖精飛び交う霧の湖へと到着した。
 残った具材で出汁の手入れをするオニ、近くの妖精に挨拶回りをするフロスト、
 それを眺めるマミゾウ、月のない晩を、少しの間だけ、赤提灯が照らし出す。
「バタバタしっ通しだな、そろそろ二ヶ月か、緊張するような懐かしいような」
「ちゃんとオイラの仕事のことも忘れないで欲しいホ!」
「わしのこともちゃんと紹介して欲しいもんじゃのう」
 
「わかったわかった!」
 二人に言われて、オニは参ったと両手を上げる。目と鼻の先にはオニが世話になった
 悪魔の館が、夜闇の中に薄らとそびえ立っていた。

48 :
「おでん屋台、なくなってしまったんですか。残念です」
 地霊殿の主たる少女は、自分の桃色の髪をいじりながら小さく溜息を吐いた。
「んもー!だから言ったじゃないですかー!」
 隣で頬を膨らまして怒っているのは彼女のペット、とは言っても倍近い身長差がある、
 地獄鴉の霊烏路空だ。胸元の第三の目も少し吊り上がっている。
 オニのおでん屋台が正規の手続きをとって地底を去ったその次の日、
 地獄の多目的行政施設こと地霊殿での一幕である。心もとない明かりの数々が、
 獣臭いこの屋敷の輪郭を、昼なお暗い地底に浮かび上がらせる。
「さとり様、ここんとこお仕事ばっかりじゃないですか!せっかくおいしい
 お店も出来たのに!お燐も誘ったのに来ないし!」
 空はむくれていた。このところ地底に頻発している事件への対応に追われ、
 さとりと、空と同じくさとりのペットである妖怪猫の火焔猫燐は忙殺されていたのだ。
 なんとか息抜きでもと思ったのだが、日々の仕事に流されていくうちに
 その機会も失われてしまった。それが無性にやるせなかったのだ。
 殺風景な和風の執務室に誂えられた大きな文壇。机上に届かない分を座布団で
 相当数水増しして座るのは、誰あろう先ほどの少女、古明地さとりである。
「ごめんなさいね、お空。でもね、ようやく例の件も落ち着いてきたのよ」
「例の件?なんでしたっけ?」
 さとりの言葉に空は首を傾げる。空は鴉の割にあまり頭が良くなく、
 精神的にも持っている力に対してかなり遅れている。
「最近、地底に見たことのない動物たちが沢山現れるようになったでしょう?」
「はい!それでみんながうちにその動物たちを連れて来て困ってます!」
「それよ」
「それですか!」
 勢いよく頷く空、しかし「それ」が今の話に繋がっているかは怪しい。
 良くも悪くも頭が空っぽなのだが、さとりもそれを承知で飼っているので
 今更気分を害した様子もない。

49 :
 近頃、地底には奇妙な動物たちが数多く出没するようになった。地上から
 来たとは考え難く、となれば地底のどこかで幻想郷の結界に穴が空き、そこ
から外の世界の動物達が迷い込んでしまったと考えるべきというのが
彼女の結論であった。
「その動物たちに対して詳しい人たちが幻想入りしていたようでね、丁度良いから
 スカウトしたのよ。だからささやかながら彼らの就任祝いをしたかったのだけれど」
「さとり様、それってつまり新しい子ってことですよね!?どんな子なんですか?
 私の後輩ってことですよね、早く教えてくださいよう!」
 スカウトという言葉に反応し、空は身を乗り出してさとりに質問する。
大きな机に座る小さなさとりに迫る大きな空、圧迫感がひどいが
主人は慣れているようで、気にせずに軽く手を叩いた。
「お呼びですか、さとり様?」
 器用に襖を開けて現れた黒猫は、火車と呼ばれる死体攫いの妖怪であり、
空と同じくさとりのペットである化け猫、火焔猫燐であった。
「お燐、二人を呼んできて頂戴」
「クーキンとオノマンですね、分かりました少々お待ちを」
 黒猫は廊下に出ていくと、しばらくして二人を連れて帰ってきた。
「紹介するわお空、しばらくうちで新しく動物たちの世話を頼むことになった
 オークのクーキンと殺人鬼のオノマンよ。仲良くして」
「うわああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 拒否反応を起こした空が一切の躊躇い無く右腕のバスターから熱線を放つ!
 少女が空を飛び弾幕ごっこができるほど広い地霊殿の一室を爆炎が埋め尽くす。
 
「お空!あなた新入りの人になんてことを!」
「さとり様!不審者です!侵入者です!危険人物です!」
 お空の反応は無理からぬものである。たった今炎に包まれたのは、
 方や灰色熊の主クラスに相当するほどの威容を誇る猪型の獣人、そして
 もう片方はパンツ一丁に覆面の男である。他の言い方はない。
 パンツ一丁に覆面の男である。

50 :
二人が並ぶことで圧迫感と重量感もさることながら、諸々への危機感が
 視覚を通じて見る者を強く煽るのだ。
「妖怪や死体だって見慣れているでしょう。何がそんなに怖かったの?」
「さとりさまはおかしい!って、あ、しまった!お燐!」
 空はそこでようやく友達をまとめて吹っ飛ばしたことに気づく。廊下の
 向こうで赤々と輝く炎、死体運びが死体になる。
 二人はそんなことをつい想像してしまったが、しかし!
『トーウ!』
 炎を突き破り高くジャンプして、クーキンとオノマンは飛び出した!
 空中で一回転!そしてもう一度跳ねると今度は伸身の姿勢で空とさとりの
 前にきれいに着地した。
「な、なんだってー!」
「勇儀さんから聞いてはいたけど、ここまでとは」
 二人は火傷一つ負っていない。それどころか、フレンドリーファイアされた
 お燐を庇い、救出までしたいのだ。
オノマンがお燐を空に渡す。目を回したのか気を失っている。
「先程はこの子が失礼したわ、後でちゃんと躾ておくから。勘弁して頂戴」
「え、私!?私が悪いんですかさとり様!?」
「当然でしょう。初対面の相手、それも敵対していない人に危害を
 加えてはいけません、いいわねお空?」
「う、うにゅう〜〜〜〜〜」
納得いかないのか、空は口惜しそうにオノマン達を睨む。
「ほら、そんなに警戒しねいで、お互いに自己紹介して」
 さとりに促され、空は渋々といった様子で、オノマンたちは反論をするでも
 なく、顔の前で両手を合わせお辞儀した。
「ドーモ、お二人さん。『霊烏路 空』こ、今後共よろしく」
空が挨拶をすると、それを契機にクーキンとオノマンは厳かに返礼した。
「ドーモ、オークキングのクーキンです。コンゴトモよろしくお願いします」
「ドーモ、デスストーカーのオノマンです。コンゴトモよろしくお願いします」

51 :
 二人の外来者が野太い声で厳かに一礼する。
彼らは仲間なりたそうにうつほを見つめていた。

52 :
「さとり様、こいつら信用できるんですか?何考えてるかすごい気になるんですけど」
「それがねえ、外国の方らしくって。心の声が日本語じゃないから私もちょっと……」
「『ちょっと』ってさとり様―!」
古明地さとりは「さとり」言われる心を読む妖怪である。そのために
隠し事の類は彼女には通用せず、方々から忌み嫌われる存在であったのだが、
目の前の異形共は彼女が知らない言語で考えているので、読めないのと
大差ない状態になっていた。
「ていうか外国の妖怪って、なんだってそんなのがここに来るんですか」
「あらお空、地上では最近ホブゴブリンが来てるらしいわよ。これはもしかすると、
 幻想郷にもグローバル化の波が来てしまったのかも知れないわ」
 現在ホブゴブリンは紅魔館で丁稚同然の生活を送っている。
「あれ?でもさっき日本語で挨拶しましたよ?」
「なんとか私とお燐で最低限の会話ができるよう教えたのよ。見た目よりもずっと
 『かしこさ』が高いから助かったわ」
 言われて豚男とパンツマスクが胸を張る。褒められていることは既に分かるようだ。
「えうう、な、納得いかないぃ〜」
「納得しなさい」
 お空が目の前の不審人物たちを睨む。小学生のような外見のさとりがそれを嗜める。
「そもそもなんで外国の妖怪が地底にいるんですか?こっちに来るような種類とも
 思えないんですけど」
「それは彼らから直接聞きなさい」
 さとりが顎をしゃくると、オノマンたちは頷いて、ぽつぽつと語り始めた。
 薄暗い室内に車座で座る四人の顔が、ささやかな明かりに照らされて
ぼんやりと浮かび上がる。
「オレ達、グランバニア、マツリ、イクトキ、ダッタ」
 オノマンの言葉に合わせて覆面の下部がもごもごと動く。
「ワレラ、アベル王トノ交誼アリ、魔王タオシタ、記念日ダタ」
 クーキンが後を継ぐ。この中ではクーキンの知能がさとりに次いで高い。

53 :
「オレ達、グランバニア行ノ扉二入っタ」
「ダガ、着イタノハココダタ」
 推測するに、旅の扉とは地上への直通エレベーターか、巫女が使っていた
けったいな瞬間移動用の結界のようなものだろうとさとりは考えた。
空間の拡張や変質は妖怪の十八番である。
(魔王は、本当に魔王って訳じゃないわよね、たぶん)
「ふんふんそれでそれで?」
空はやたら頷いているが、恐らく分かっていない。
「オレ達、喋ル、ダメ、困ル。トホホ」
「ダガ、運良クオーガノ戦士、イタ。我ラ助カタ」
このオーガの戦士とは地底の民の一人であり、鬼の国の四天王の
一角であった星熊勇儀という鬼であった。
「勇儀さんが意外に器用な方で私も助かりました。筆談といっていいのか、
 パラパラポンチ絵で意思疎通を図るとは思いませんでしたが」
パラパラポンチ絵とはパラパラ漫画のことである。適当な巻物に鉛筆で
簡単な絵を書きあうことでかろうじて対話に漕ぎ着けることができた。
この段階を踏まえていなければ彼らに身振り手振りを交えた
語学研修に至るまで、どれほど時間がかかったか分からない。
「勇儀さんのあの変な絵、私も好き〜」
「それは置いといて、とにかく二人が元の国に帰れる算段がつくまでは、
 ここで働いてもらうことになったのよ。わかったわね?お空」
「う、はぁーい……」
 さとりの連れない返事に空がまた肩を落とす。ここのところ主人が
 あまり構ってくれないので、彼女の機嫌は益々悪くなる一方であった。
「あれ?でもこういうときってすぐに何とかできるところってありません
 でしたっけさとり様?」
「あったらとっくに引き渡しています。さ、自己紹介も済んだことだし、お空。
 二人をお部屋に案内して頂戴。お燐が目を覚ますまでは、あなたがお燐の分も
 頑張らないといけないわ。分かる?」
「う〜!」

54 :
 空はハイとは答えず半ば自棄のように彼らを連れて執務室から出て行った。
(博麗神社なら、帰そうと思えば恐らくすぐにでも帰せるでしょうけど、
 せっかくだから少しの間役に立ってもらいましょう」
 焼け焦げた廊下を見ながら、さとりは眉間の揉んだ。
(まったく、動物のことといえばうちだなんて、一体誰が言ったのかしら)
 人の心は読めても、噂の出処に心当たりはなかった。
 地底の住民曰く『地底の動物王国』。いつからか定着したその言葉を
 鵜呑みした者達が、連日異国の珍獣を連れてくることがここ最近の
 彼女の頭痛の種だった。
「私も、外国語の勉強をしないとダメかしら」
 よもやこんな形で自分の読心が破れるとは思っても見なかった。
 動物たちのためにも、さとりは密かに決心する。
「それにしても、勇儀さんはあの二人が動物たちの言葉が分かると言っていたけど
 本当なのかしら……」
 彼らを紹介した偉丈婦のことを思い出し、さとりは渋面を作る。
 人手が欲しかったのは事実だし、勇儀の言葉が本当なら願ってもいないことだ。
 しかし、鬼は嘘を吐かない代わりに、ひどくいい加減である。年中酒の臭いを
 させている上、早合点や思い込みも多い。
(根はいい人なんだけど、それだけなのよね……)
 面倒な有権者の顔を思い出して、さとりはまた小さく溜め息を吐く。それに
 合わせるかのように地霊殿のどこからか、聞きなれない動物たちの鳴き声が木霊した。

55 :
「コレ、アルミラージ、コレ、ガスミンク、コレ、ファーラット」
「へえ、この子たちの名前が分かるんだ?」
 空に案内されて、地霊殿の裏に急造された厩舎へと足を運んだクーキンと
 オノマンは、見覚えのある珍獣たちを見つけると、その名前を彼女に
 教え始めた。余談だが、現在の時刻は昼休みが終わったあたりである。
「じゃあこの子は!?」
「そいつスカルガルー、アッチ、ケンタラウス、アイツ、ア!」
 厩舎の隅に蹲る一匹を発見してオノマンが駆け寄る。
「ブラウン!」
「ナニ!?」
「もが?」
 名前を呼ばれて毛むくじゃらの丸々とした小人が振り向く。間違いない、
 かつて彼らと共闘した魔物の一体だ。
「もが!?もがもが!もがあも!」
 驚き、次に喜び、嘆いたりを身振り手振りを交えて話すブラウン。
 それを聞いて頷く二人、時折日本語ではない言葉で二、三会話をして
 お互いの近況を報告した。
「え、なに友達?」
 空の問いに、彼らは頷いた。途端に彼女の表情がパッと明るくなる。
「コレ、ブラウン、仲魔!」
「よかったね!友達に会えて!」
 先ほどの不機嫌もどこへ行ったのか、彼女は心から3人を祝福した。
 単純だが大切なことはしっかりと躾られており、条件反射で反応するのだ。
 
「じゃあ、その子は動物じゃないんだね。後でさとり様に言わなくちゃ」
「もが!」
 ブラウンは深々とお辞儀をした。しかし彼がここから出るのは今言ったことを
 忘れた空が思い出すまで、もう少し先のことであった。

56 :
「全部で67匹、ですか……」
「はい!他にもあの二人みたいなのも数匹、数人?いました!」
その日の夜、動物たちについて報告を受けると、さとりは目を瞑った。
 眉間に寄ったシワが深まる。
「改めて厩舎を建てねばならないかも知れませんね」
 手にした紙束を机に置いて、そう呟く。オノマンが似顔絵を書き、
 クーキンの知識をお燐がまとめた簡易なモンスター図鑑の存在が、
 動物たち、否、モンスターたちを同じ入れ物に詰め込んでおくことは
 危険であることを彼女に教えていた。
(不幸中の幸いか……)
 さとりは現在、地霊殿に集められ、そしてこれからも増える可能性が高い
 モンスター達を収容するための場所を作ろうとしていた。
 何故かと聞けば、異変でもないのなら彼らを外の世界に返す理由がないからだ。
 個人が帰りたいというのならまだしも、動物達が幻想入りしたとて、
 それは幻想郷に動物が増えたというそれだけのことなのである。
(もっとも、預かった以上は管理しないといけないのだけれど)
「さとり様、元気ないですね……」
 空が心配して声をかける。単純な動物の思考と心理は、さとりに
 安心感を与えてきたが、気遣われることに心労を覚えるという
 誤算もあった。
「そうね、みんなのご飯を考えると、ちょっとね……」
「え、みんな放して、他の動物みたいに狩ったり食べたらいいじゃないですか?」
 空の屈託のない表情は心の底からそう思っていることを告げていた。
 大自然のコトワリに根ざした考えであったが、彼女の主人は首を横に振る。
「野生のものはそうでしょう。でもねお空、中には人様のペットも含まれている
 かも知れないの。あなただって、お燐が食べられたら嫌でしょう?」
「嫌です!」
オウム返しを繰り出す地獄鴉を見て、さとりは首肯する。
つまるところ、自分たち地霊殿の者では紛れ込んだモンスター達が、他人の
ペットか否かの判断がつかないことが問題だったのである。

57 :
「食べられちゃったら食べた相手にやり返すでしょう?」
「やってやります!」
「だから、ペットの子だけを預かって、残りは順次野に帰していくことにするの。
 わかった、お空?」
「え……?」
「……オノマン達にペットの子だけを分けて、残りは逃がすよう言って頂戴」
「分かりました!」
 元気よく返事をすると、お空は部屋を駆け出していった。
 屋内で走らないよう常々言っているが、これは覚えられないようだ。
 とくに怒ることもなくさとりは目を閉じた。聞き分けの良い子だが、
 鴉にしては思慮が足りないのがお空の欠点である。
 だからこそ、外から来た下品な神々に良いように騙されてしまったり、
 異変を起こしたりもした。
(あまり地獄で厄介事は起きないで欲しい物だわ。元、だけど)
 さとりは内心でそう呟きながら、机の引き出しからアメを取り出し、
 口に含んだ。まろやかな乳の甘味が口内に広がる。
(こいしは、いつもどおり捕まらないし、お燐もこのところ働き詰め。
 お空は元気だけどそれだけ、新人二人の今後も考えないといけないし、
 地底の運営にもそろそろまた手を入れないといけないし、まだまだ
 休めそうもないわ……」
 気がつけば、舌の上のアメを転がすことも忘れて、さとりは微睡み始めた。
妖怪といえど体力のあるほうではない彼女は、しかしながら他に
机仕事のできる者の少ない地底の切り盛りのために仕事一筋の暮らしに
追われていた。
何時頃からかと聞かれれば、閻魔に任されたときからだ。
(やっぱり、やめとけば良かったかしら。他に道はなかったかしら。疲れたわ……)
 もう一度だけ口内のアメ玉を転がすと、さとりは昔を思い出しながら、意図せぬ
 眠りへと落ちていった。

58 :
場所は戻って紅魔館。オニ一行は湖を回って吸血鬼の屋敷を訪れていた。
未だ朝靄晴れぬ妖館を前に、ジャックフロストが息を呑む。
「えっ、ここ?間違いじゃないかホ?」
「いや、どっちかってーと、場違いのほうだろ」
「いやはや目に優しくないのう」
 遠巻きから口々に言いながら彼らは歩いていく。建物は高い柵で覆われており、
入口は正門一つきりだからだ。もっとも、空を飛べる幻想郷住民からすれば
あまり意味のあるものではないが。
「ん……あれ?」
「どうかしたかの、オニ殿」
「いや、アレ……」
 オニが指さした先には大きな門と、そこに鎮座する魔物が一匹。一見獅子のようだが
 体格は大型のそれよりも一回りも大きく、全身の真白の毛並みと理性的な瞳が
 一介の猛獣とは一線を画していることを告げている。
「はーこりゃあご立派じゃあ……」
「ケルベロスが番犬してるホ、なんか感慨深いホー」
「いや、そうじゃなくてな」
オニは、ここの門番は妖怪の少女が務めていたことを二人に話した。
「面識ねえ相手だなあ、そもそも話しが通じるかな、アポとれんのか?」
「こういう時は、オイラの出番だホ!」
 フロストが一回転してから手を挙げる。交渉事には自信があるようだが、
 マミゾウは不安そうな目で眼科の「おこさま」を見る。
「大丈夫かのう?」
「任せるホ!無茶ぶりされても沈黙しないことがアイドルの必要条件だホ!」
「言ってる意味は分からんがとにかくすごい自信だ!」
 勢い込んでフロストはそのまま門の前まで駆けていくと、それに気づいた
 ケルベロスが身構える。しかし、フロストの姿を視認すると、地獄の番犬は
 驚愕の声を上げた。
「キ、キサマは二階堂!?>

59 :
「ホ!?」
 突然の呼びかけにフロストは急ブレーキをかける。ケルベロスは
 目の前の雪だるまをしげしげと見て、小さく頷く。
「やはり、二階堂マイケルだな。久しいな、我を覚えておらぬか?」
 晴れ空の下、名前を呼ばれたフロストの内心に雷が落ちた。あまり嬉しくないのか
 冷や汗が顔中に流れ出す。
「お、オイラの本名を知っているケルベロスっていうことは……!」
「うむ、最後に供をしたのは天海以来か……」
「オマエ、パスカルかホ!?」
 狼狽しながら問う妖精に、魔獣は趣向する。
「いかにも。数奇なこともあるものよ」
 警戒を解いて歩み寄るケルベロス。普通に起き上がるだけで既にフロストの
 2倍は大きい。
「どうしたヒーホー。やっぱダメだったか?」
 後方で様子を伺っていたオニ達が屋台を押しながらやってくる。
 特殊会話が発生したような空気を察したのだ。
「む、こやつらが今の仲魔か?」
 ケルベロスが値踏みするように二人を見る。オニは真っ向から見返し、
 マミゾウは何故か頬を赤らめる。
「あー、そうだホ。この二人がオイラの今のパーティのオニとマミゾウ、で、
 こっちが首が一つしかないけどケルベロスだホ。昔組んでた仲魔だホ」
 フロストは両方にお互いのことを掻い摘んで説明した。
 穏やかな秋の日差しを受けて、魑魅魍魎が昔馴染みと歓談する。そんな
 奇妙な光景が、真っ赤な館の玄関口に広がる。
「かくかくしかじかホ」
『なーるほーどなー』
 フロストの説明が終わると、三匹の仲魔が頷く。
「悪魔も色々大変だ」

60 :
ケルベロスが感慨深そうに目を細めて言う。
「それで、今日は館の主に謁見を求めてきたとな」
「そうだホ」
「分かった、とくにそういうことに約束事はないからな、案内しよう」
 そう言うと、ケルベロスが狼のような遠吠えを一つする。
 すると、正面の門が左右へと静かに開いていく。
「あ、その前に、ちょっと聞きたいんだけどよ」
「む?なんだ?」
「前にここで門番してた娘がいたろ?あのお嬢ちゃんはどうしたんだい」
「あの娘なら、いやそれも主、レミリア殿から聞くと良いだろう」
 言いよどむケルベロスに、オニは一瞬怪訝な表情を浮かべるが、
ここで気にしてもしょうがないと思ったのか、黙って後をついていく。
門の内側には、手入れの行き届いた庭木と花壇の数々が来客を出迎える。
「の、のう、ケルベロス殿」
 それまで沈黙を保っていたマミゾウが、控えめに声をかける。
 オニやフロストには絶対示さないしおらしさであった。
「む?なんだ」
「ケルベロス殿は、そのう、どうして幻想郷にいらしたのじゃ?」
(なんかおばちゃんが急に少女し始めたホ……)
 態度の違いに歯が浮きそうになるのを堪えるフロストの隣で、マミゾウは
 モロ好み(死語)の魔獣へのアプローチを開始した。余談だが屋台は門を
 潜ってすぐのところに駐車してきている。
「ふうむ。どこから話したものかな……」
「なんなら生い立ちからでも……」
「いくらなんでも時間かかり過ぎるホ……」
 
「いや、この中は見かけよりもずっと広い。議事堂並だから案外いけるかも」
以前来たことがあるオニがそんなことを告げる。一同が玄関に着くと扉が
自動で開く。

61 :
少女が空を飛ぶことが前提の広さとでも言おうか。とにかく広いのだ。
真っ直ぐ最上階を目指してもかなりの距離がある。
「我は昔、一匹の犬だったのだ。元はシベリアンハスキーの雌だったのだが、
 飼い主が悪魔を使役し合体させる術を手にしたことで、その材料に使われてな。
 それで今の我になったのだ」
「え、ほ、ほう……」
 いきなりのカミングアウトとその内容にマミゾウが引く。
「つまり、長生きしたり人を襲って妖怪化したんじゃなくて、邪教の儀式によって
 化物になったってことだよ」
 よく分かるようにオニがフォローを入れる。フロストが眉間の押さえて俯く。
「左様。だが中身は不思議なことに我の、パスカルのままだった。我は
 変わらず外道に落ちた主を助けるべく旅を共にしていたのだが、ある日
 転送事故とでもいうべき事態に遭遇し、主と離れ離れになってしまった」
「転送事故ってのは、簡単に言うとだな。術師が式神の召喚や口寄せに
失敗したみたいなもんだ」
オニのフォロー。
「で、当時オイラが通っていた軽子坂って高校に出たんだホ」
 懐かしむフロストを他所に、マミゾウがの表情が引き締まる。
「……確か原因不明の爆発で生徒の大半が蒸発したとかいう事件のあった学校じゃな」
「その軽子坂だホ」
「いじめられっ子でクラスに馴染めない子が邪教に手を出して学校の体育館で
 儀式を行った結果、校舎が魔界に閉じ込められたんだホ」
「なんだそのギャグ漫画みたいな話」
 オニが横合いからツッコミを入れてくれるも悲しいかな事実である。
「そして我らは魔界から脱出するために他の仲魔と手を組み、首謀者を
 打倒したのだ。我はそこからまた主の下へ戻り」
「オイラは束の間の高校生活へ帰ったんだホ」
 足元に広がる赤絨毯と入り組んだ廊下を歩き、フロストは確かに議事堂だと思った。

62 :
切り返しの多い廊下に妙に多い部屋数、上下の感覚を認識しづらい構造、
 時折すれ違う妖精メイドに挨拶しながらフロスト達は進んだ。
「その後は、どうしたんだったか……」
「次に会ったのはオイラがキャンパスライフを送っていたときだったホ」
「お前大学行ってたのか!?」
 知人が意外に高学歴なことに驚愕するオニ。廊下に彼の大声が虚しく響き渡る。
「そうだホ、平崎市の北山大学だホ」
「人は見かけによらんのう……」
 何故か急に態度の戻ったマミゾウが小さく唸る。
 フロストの略歴は簡単にまとめると以下の通りである。
 魔界に生まれてしばらく家族と共に暮らす。
 その後救世主の男女と共にオニや他の仲魔たちと共に世界の命運を賭けた旅に出る。
 旅が終わってからしばらくして「元通り」になった人間界へ行く。
199X年 軽子坂高校入学。相撲部に入部。全国高等選抜出場、一回戦敗退。
卒業後 平崎氏内の北山大学文学部を受験、無事入学、学生生活満喫中
ダークサマナーとの戦いに巻き込まれた人間に巻き込まれる。
 大学卒業後、ご先祖様に倣って私立探偵を開業、売り出しも兼ねてモデル都市
 『天海市』に事務所を構え、独自に事件を追う(平崎氏で得た伝手に情報を
 売り払うため)。
 天海市閉鎖後、廃業。魔界へ帰郷した際にルシファフロスト開催のアイドル
 オーディションを受けて当選、現在まで活動中。
「そこでオイラは新米サマナーをレクチュアしながら、街の怪事件を解決してたホ。
 で、あるときその新米が悪魔合体をしたら事故ってコイツが出たんだホ」
「サマナーってのは悪魔召喚士のことで、さっき言ってた邪教の術師のことな」
 階段に差し掛かると前列ケルベロス、後列フロスト達の隊形で上がっていく。
「で、その事件も無事にクリアした後、オイラ達はまたそれぞれの道を歩み始めたホ」
「とは言ってもしばらくの間は生活を共にしていたがな」
 階段の窓から見える外では妖精メイド達が鬼ごっこをしているのが見える。

63 :
「今度は私立探偵として事務所を開業したホ!」
「1年で畳んだがな」
「節操ねえなー」
 オニが眉間を揉む。フロストは以前レーサーになるといって自分そっくりの
 ゴーカートをどこからか拵えたことがあったが、つくづく多彩な芸歴である。
「話しが進まんのう、その経歴ってあとどのくらい続くんじゃ?」
 少し疲れたようにマミゾウが聞く。フロストだけなら話半分なのだが、水先案内を
 務める番犬は嘘を吐くようには見えない。つまり『盛ってる』としても
 大筋は合っているということだ。
(思ったよりも面倒臭い奴らと絡んでしもうたかのう……)
 ただの妖精とはぐれ物の鬼、彼女の目には最初はそのように映っていたが、
 人間に比べて妖怪はどうにも値踏みがしにくい。
(それに、まさか雌とはのう、もっと早くに気づくべきじゃった)
 好みの牡かと思えば雌。確かによく見ればふぐりがない。狸に比べて他の
 動物のものは小さいのでそういうものだと思い気にしなかったのだが、
 性別の時点で間違っていたことでマミゾウは少なからずがっかりした。
「で、おいらはここ数年の間はアイドル業に専念して地方巡業してたホ」
「我は此奴の故郷というのが気になってな、再び魔界に行っていたのだ」
 階段を延々と上がり続けながら会話は続く、外からみればだいたい二、三回建てくらい
 にしか見えない紅魔館の内部は、まさに悪魔の業とでもいうべき広がりを見せていた。
「そして、数日前に我は魔界から現世へと帰還するはずであったのだが……」
「ここに流れ着いていたと」
 オニの問いかけにケルベロスがうむ、と肯定する。
「これで三度目だ、我は召喚や転送とはつくづく相性が悪いようだな」
「なるべく一緒のタイミングで出入りしたくないホっと」
 歩き疲れたのかフロストが番犬の背に乗る。ケルベロスも慣れたもので
 嫌がる素振りも見せない。
「で、門番募集のチラシが風に流れて来たのでな、足を向けたところ妙に
 気に入ってもらい、採用してもらい今に至るとこういう顛末だ」

64 :
NHK提携シークレットサロン
NHK提携シークレットサロン
NHK提携シークレットサロン

65 :
そこまで話し終えると、階段の踊り場から扉を開けて廊下に戻る。
 かれこれ六階程度の高さまで上がっただろうか。
「ここだ」
 ケルベロスが一室の前で止まる。ドアに付いたプレートには「会議室」の文字。
「たかが三階まで上るのにえれえ時間がかかったホ」
「途中にもう少し階を増やそうぜ。律儀すぎだろ」
 延々とビルや塔の階段を上り続けたこともある彼らだが、それは途中の階に
 用がなかったり入れなかったりするからであって、あまり長くなるようなら
 やはり小休止を挟みたいのが本音だった。
「柱と床があるだけで部屋も何もないからな、入れるようにするとサボリに
 来る者も増えるし」
「世知辛いのう……」
 あまり現実的でない長い廊下、それに合わせたカーペット。内側の縮尺だけが
 雑に引き延ばされており、特に目的もないならあまり歩きたくない。
 オニとマミゾウはそんな感想を抱いた。
「で、本当に入って大丈夫なのか、ここ会議室だぞ。応接室とかじゃなく」
「問題ない。お前たちが来たことは前日、レミリア殿から聞いていた。
 来たら案内するようにともな。二階堂までいたのは予想外だったが」
「流石吸血鬼、耳が早いのう」
「え、ここの主人って吸血鬼なのかホ!?」
「あれ、言ってなかったっけ」
 フロストの顔から水が滴る。汗ではない。人間ならばきっと血相も変わっていたに
 違いない。
「オイラ極道の吸血鬼と一戦交えてから正直苦手なんだホ」
「安心しろ、レミリア殿は外道の法や毒の光は使わん」
「それなら安心だホ」
 
 ホッと胸を撫で下ろしたフロストがドアをノックする。
「どうぞ」

66 :
中から声がした。少女の声だ。やや高めだが細くはない、
辺りに響き渡るのではなく、遠くまで真っ直ぐに届く、そういう類の声だった。
「客人をお連れしました」
「ありがとうケルベロス、下がっていいぞ。そして久しいな店主」
「へえ、その説は」
 
 雇い主の言葉を受けて、ケルベロスが静かに退出する。
 オニが畏まって頭を下げた先にいたのは、少女だ。
 会議用の大机の前に立っているが、辛うじて肩から上が見えている。

 衣装はといえば、赤いスーツに身を包み、右に単眼鏡をかけた出で立ち。無造作風の銀髪は美しく、薄暗い室内で逆に存在感を高めている。
 彼女こそがこの紅魔館の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットその人。
 今日まで外の世界で生き残り、弱冠500歳にして交易と妖怪稼業で生計を立て、
 多数の配下兼従業員を囲う経営者でもある。
「タネなら用意してある。後で届けさせよう。しかし今日は随分と賑やかだな」
「へえ、実は今日、用事があるのはこいつらのほうでして」
「ほう?」
 オニが手招きすると、フロストとマミゾウはそれぞれ自分の名刺を持って
 レミリアの前へ進み出る。名刺を受け取る紅い双眸がすっと細まる。
「有限会社二ッ岩ファイナンス代表取締役 二ッ岩マミゾウ殿。この時世に
 よく有限でいられましたね。新規は元より株式に転向せずにいることも
 難しいでしょう」
「いやいや、うちみたいなローカルにはそういう話がこないだけでして……」
 真っ赤な嘘である。幻想郷の外で確固たる地盤を築いている彼女はそこから
 堅実な手法で地道に勢力を伸ばしている。主に全国の荒れ寺や廃神社、休眠
 している宗教法人等をいち早く買収し、節税と金融業の二足の草鞋を履き、
 更に今は幻想郷で付喪神の育成と勧誘に精を出している。

67 :
「ご謙遜を。それでこちらは……タレントさん?」
「新人のジャックフロストですホ。今は企画モノの飛び込みの最中ですホ」
「はあ、それはまた、ご苦労様です」
 今一つどう反応していいか分からないらしく、レミリアは眉根を寄せる。
「今オレ達、異変を追っているんですよ」
「異変を?」
 レミリアの表情が好奇心をくすぐられたような、あどけないものに変わる。
「ここ最近、新しい悪魔や妖怪が増えて来ているのは異変のせいだホ!
 それが、どこから来て、誰が、何の目的でやっているのかを突き止めて、
 解決するのが今回の企画だホ!」
「また随分と困難な企画で……、まあでも確かに、うちにも随分と従業員が増えたわね」
 思い当たる節があるのか、レミリアは顎に細い指を当てて目を閉じる。
「ホフゴブリンを雇い始めてから、次第に他の獣人が増え始めたのよね。
素のゴブリンとか、コボルトとか」
(マカカジャ以外はだいたい揃ってそうだな)
 オニはぼんやりとそんなことを考えた。
「ぜひその人達から話しを聞かせてもらいたいホ!シャチョーさん!」
 奇妙なイントネーションで言われてレミリアが苦笑する。
「構わない。彼らは裏の牧場か表の養殖場、それと地下図書館の海のいずれかに
 いるわ。そこで話しを聞くといいでしょう」
「長引くようなら2,3日泊まっていくといい。最近はまた平和になってしまったからな」
 内心では面白そうだと思いながらも、今は年の暮れに向けて忙しい。
 目の前の雪だるまを、レミリアは少しだけ羨ましそうな目で見た。
だが、まるでその言葉が引き金だったかのように、突如、館全体が大きく揺れた。
「なんじゃ、地震か!?」
「いや、こいつはもっと物騒な予感がするぜ」
「来た!ついにイベント発生だホ!オイラの勘は間違ってなかったホ!」
 それぞれがそれぞれの反応を示す中、室内に誰かが飛び込んできた。
 赤い紙にフォーマルなスーツ姿、コウモリの羽と同様の髪飾り、いかにも悪魔の尻尾。

68 :
息せき切って現れた新たな少女は、レミリアの姿を認めると、切羽詰まった様子で
 次のように叫んだ。
「た、大変です!図書館で!パチュリー様が!」

69 :
紅魔館の内部には、外見以上に広大な空間が広がっている。それは結界や妖術の類を
駆使して設けられたのだが、その大半を使用している場所がある。
それが『図書館』である。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの知己であり、
知識と日陰の少女の二つ名を持つ魔法使い、パチュリー・ノーレッジの住処でもある。
どこから集めてきたのか、下手な建造物よりも背の高い本棚が所狭しと並び、
それでも収まりきれない蔵書は地べたへ無造作に散乱している。
しかしながら、在りし日の姿、日常の光景といったものが、今は失われていた。
書架という書架は薙ぎ倒され、床のあちこちは砕かれ、妖精メイド達と、
図書館の主、パチュリーは緊張した面持ちである一点を凝視していた。
「報告」
ふっくらとした質感の、主に白と赤と紫を基調としたパジャマのような服に身を
包んだパチュリーは、ソレから目を離さずに言った。
「妖精メイドが数名負傷、奥の禁書類に異常なし、各施設への影響は今のところ
ありません」
レミレア達の元へ向かったのとは異なる、髪の短いほうの小悪魔が被害状況を
素早く報告する。
「そう、では全員上空へ退避、警戒を維持しつつ別名があるまで待機。いいわね?」
「は!」
小悪魔が他の妖精メイド達へ目と手と声で、たった今受けた指示を伝えると
速やかに避難する。
「……ずいぶんと、良からぬモノが出たわね」
視線の先にある物体を見つめて、そう呟く。明らかに非生物であることを告げる
白と灰色で彩られた金属の体。直立した威容は5メートルを超える。
マシンだ。
「うるるぃ〜〜〜!根拠!コ、コンキョ!、かがく、てき、てきるぃ〜!」
 頭部と覚しき部位から不気味な声が轟く。目の前のマシンは頭の天辺からつま先まで
「人間の入る余地のない」完全な機械だった。
「アクシデントにしても、こんなものが出てくる可能性はなかったはずだけど……」

70 :
「パチェ!何事なの!?」
不意に彼女の背後から別の声が響く。髪の長いほうの小悪魔から報告を受けて
駆け付けたのだ。背後には知らない魔物がぞろぞろとくっ付いてきている。
「直通のワープポイントがあって助かったホ!」
「なんじゃあこりゃあ!」
 眼前にそびえる巨大ロボットにオニが度肝を抜かれる。物理的に巨大な敵と戦うことは
 少なくなかったが、ここまで大型のマシンを見たことはなかった。
「随分とお客が多いじゃない、レミィ、事業が順調そうで何よりだわ」
 友人の到着に際し、そこでようやくパチュリーは視線を外した。
「赤い海産物を増やしたいっていうから、ヒトデでも呼ぼうかと思ったのだけれど、
 召喚用の魔法陣を起動した途端に、こいつが何処からか無理やり割り込んで来た
 のよ」
 肩を竦める魔法少女に、レミリアは厳しい表情だった。
「パチェ、渡しておいた制服があったでしょ……イメチェンしたんだから、
着替えておいてくれないと……」
「え、そこ?」
「しっかし、こりゃまた随分立派な機械じゃのう」
「オイラ、こいつに見覚えがあるホ」
「我もだ」
 マミゾウ達もまたロボットを見上げる。フロストとケルベロスは渋面を顔いっぱいに
 浮かべている。
「ナイ!ナイ!コンキョ!カガク!テキ!ナイ!ぷ、ぷ、ぷ、プラズマ―!」
「前は人間の頭が残ってたホ。それで『ああ、次は頭が完全になくなっちゃうんだな』
 と思ったもんだホ。結局次が無かったんだけれどホ」
「よもやこっちに続いてくるとは」
「マッドだな」
「あるべき姿に還ったって気がするホ」
「じゃが、これどうするんじゃ?」
 
 巨人は意味不明なことを喚きながらも、動く様子はない。

71 :
しばらくの間様子を見るも、動き出す気配もない。すると焦れたのか、
 レミリアがパチュリーに今度は着替えて置くように言うと、巨人の目の前まで
 飛んで行った。
「ちょっとあなた!ここは私有地よ!今すぐ出ていきなさい!」
「うい?」
 マシンはややご立派なモノを思い起こさせる頭部に付いているモノアイに
 少女を映す。
「ニョホホホホホ」
 でれでれと脂下がったような嬌声を上げる。
 舐めるように上下するアイカメラの動きにレミリアは顔をしかめた。
「言葉が通じないようね。商売に集中してからカリスマも戻ってきたっていうのに……!」
 そこまで言うと、彼女は片手を頭上へとかざす。すると、赤い光が溢れ出し、
 次の瞬間には一本の槍状に収束する。
「もう一度だけ言うわ、出て行きなさい」
「正直あの図体でどうやって出て行ったらいいのかのう」
「シッ!余計なこと言わない!」
 マミゾウの疑問をオニが注意した。ここで話しを脱線されてはかなわない。
「うるるぃ、オマエぇ、持ってる。ウマそう……」
「あらそう」
 マシンの物騒な呟きに、赤い悪魔は素っ気なく呟くと槍を投げ放った。
「オグ!?」
 カメラに突き刺さった槍に巨体が仰け反る。
「いきなり目え行ったホ!」
「中々実践的じゃのう」
(やっぱ獣って殺伐してるなあ)
 呑気な雰囲気を纏って笑う化け狸の隣で、オニはしみじみと思った。
だがそんな弛緩しつつあった空気が再び引き締められる。誰かの驚愕の声が上がり、
見ればマシンの目に突き立てられた槍が、急速にその身を失っていったからだ。

72 :
「グングニルを、食べてる!?」
 レミリアは狼狽した。瞳の中へと吸い込まれていった槍を味わうかのように、
相手のカメラのレンズが赤く、妖しく光る。
「ういぃ〜〜。そ、ソウル、マ、マガツヒ、マグネッタイトおうおうおぅ〜〜!」
 興奮した様子で勢いよくマシンが立ち上がる、外見よりも遥かに俊敏な動きだ。
「食いてえ!もっと食いてえ!コンキョ、オレ元気、なる科学的、コンキョ!」
 大きく両手を伸ばしてレミリアに掴みかかる。
「なんだ!急に元気になったぞ!?」
「今の吸収でなんかのスイッチが入ったんだホ!」
 言い終えるより前にフロストが駆け出した。他のメンバーも逡巡を挟まずに続く。
「く、こいつ!」
 レミリアが再度、『グングニル』を投げる。カメラ以外の場所に当てるつもりだった。
 しかしマシンは意地汚くも自ら倒れこみ、またもグングニルをカメラに当てて吸収。
「ウイーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「っ!パチェ!手伝って!」
 堪らず叫んだ友人に、古い魔法使いは頷いた。既に分厚い魔道書を開いている。
「食いてえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 その時である。マシンのカメラが外れたかと思うと、中から鳥とも虫ともつかない
 異形が図書館内に大量に放たれた!それらは一斉に小悪魔達へと殺到する。
「チ、銀符『シルバードラゴン』!」
 銀色の光線が、異形の群れをなぎ払う。それでも撃ち漏らした一匹が小悪魔
の腕に取り付いた。
「いやあ!は、離れなさい!この!うぐ!」
 異形の空洞しかない瞳に見つめられて、小悪魔は全身から力が抜けていく感覚に
 襲われる。何もかもを内側から連れ去られるような、悍ましさ。
「ホー!」
 何かが完全に抜き出されそうになる直前、下から放たれた魔力の込められた氷塊が、
 電子的な悪霊を吹き飛ばした。

73 :
「あれは……」
 レミリアが見た方向、そこでは芸能事務所所属の雪だるまが真上へと
腕を突き上げていた。
「総員速やかに避難するホ!こいつはやばいホ!」
 フロストの警告に、パニック状態になった妖精メイドが我先にと逃げ出す。
 残った小悪魔は、無事なほうに支えられていたが、パチュリーが視線で促すと、
 速やかに退出した。
「あ、おま、おまうぇ!邪魔、邪魔っしぃーたーななな!」
「あいつ、MAG抜きすんのか!?」
 捕食黒衣を妨害されて怒る機械にオニは動揺したが、すぐさまフロストの前へと
 躍り出る。
「全員集合!整列するホ!陣形を整えるホ!」
 フロストの招集に、ケルベロスとマミゾウも目配せの後に駆けつける。
「あなた達、あいつに心当たりがあるの」
 レミリアがパチュリーを伴って合流する。
「説明したいけど、長くなるから後にするホ!プランは簡単、みんながんばれホ!」
「吸収されるから攻撃する際の種類と部位には注意だ、オレはあいつの足元に張り付く。
 もう一人来てくれ」
「我が行こう」
「女子は外から削りにかかるのが良さそうじゃな」
「逃げられる準備はしておきましょう」
 
 訓練をした訳でもなく、全員は行動の指針を決めると、次のように隊列を組んだ。
     ケルベロス ジャックフロスト オニ
     マミゾウ  パチュリー    レミリア
「コロス……コッローース……!」
「来るホ!」
 マシンは立ち上がると、フロスト達へ向かい猛然と突進してきた。
     マシン オオツキ が一体出現!!

74 :
行動順 レミリア ケルベロス マミゾウ フロスト  オオツキ オニ パチュリー
「吸収できないよう削るしかないか!」
 レミリアは通常弾幕で攻撃。次々にオオツキに着弾するが、ダメージは浅いようだ。
「様子を見よう」
 ケルベロスの雄叫びを上げて威嚇する。聞いているのかは分からないが、それも
 判断材料になると踏んでのことだった。
「どれ、どういう輩か見ておこう」
 マミゾウは懐から望遠鏡らしきものを取り出すと、それでオオツキを覗き込む。
マシン オオツキ 
物理に強い 破魔呪殺無効 電撃・精神に弱い
「そういうことらしいぞい、生憎とこの場に雷様はおらんようじゃがの」
「お、オイラの出番……」
 アナライズをしておくはずだったフロストがショックを受ける。以前はCOMPのソフト
 に取られ、ボルテクス界では他の仲魔に取られ、今回はアイテムを使う狸に解説の
 出番を奪われてしまった。説明役の椅子は競争率が高いのだ。
「ま、まだだホ!オイラにはまだカジャがあるホ!」
 フロストは何やら必死に呪文を唱え、最後にジャンプしながら横に一回転する。
 するとどうだろう、速さそのものは変わっていないにも関わらず、皆の動きが
 軽くなったではないか
「補助をガン積みしていくホ!」
 彼の出番が今日まで腐らなかったのは、ひとえに地道な補助系魔法を習得してきた
 ことにほかならない。
(補助と回復枠は必ず貰い手があるホ!あとはサマナーの好みと自分のコミュ力次第!)
 アイドル業と称してドサ回りと飛び込み(鉄火場)を繰り返してきたフロストには
 他の仲魔との役割競争は問題にならない。
 全く戦闘と関係のないことで一人嫌な汗をかいて体積を微減させた雪だるまをよそに、
 眼前の機械巨人ことオオツキが動き次始める。
「ソウル、マガツヒ、プラズマ、欲しいーーーーーーーーーーーー!」

75 :
 頭部のモノアイに妖しい光りが灯り、辺り一面をなぎ払う!
 生体MAG抜き(全体)
「オワーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
オニを含めた全員が即死ものの怪光線を避ける!
「なんだアイツ!いきなりとんでもねえことしやがったぞ!」
「落ち着くホ!似たような修羅場ならこれまでいくらでもあったホ!」
「そ、そういえば!」
 鬼は議事堂でのモトとの戦いを思い出していた。
 いきなりマカカジャを前回で溜めた後のメギドラオンの連発で建物内部が大きく
 吹き飛んだ。オニ自身も吹き飛んだ。
 フロストは獲物の欲望の度合いによって力を増す妖狐との戦いを思い出していた。
 はっきりいって無理な気がしたが、今も自分は生きている。
「諦観を織り込みつつ頑張れば良いということだな」
「なんだそうか、いつもどおりだな!」
「お主ら……」
 マミゾウが眉間を押さえる。
「じゃあオレもって、そういや今は剣がないんだった」
「ソードナイトの餞別だってのに……」
 フロストのこめかみ青筋が浮かぶ。
「じゃあどっそい!!」
「うるぃ!?」
 オニが場当たり的に繰り出した体当たりが、やや前かがみでも倍は体格のある器物の
足へと命中し、全身を揺るがせる。
「いいとこ当たったな、次も気合いれるぜ!」
「そのまま、押さえておいて頂戴」
 
 そして最後にパチュリーが動く。開かれた魔道書は紙面から眩い光を放っている。
「目の前の粗大ゴミを、消極的に黙らせるには」
 言葉に答えるかのように、ページが独りでに進む。

76 :
「…………アクションでもシューティングでもロボットのボスって煩くなるわね」
「パチェ!今そういうのはいいから!」
 レミリアのツッコミにパチュリーは溜め息を吐いた。
「思考停止はしたくないけど、そうね、じゃあ『火符「アグニシャイン」』!」
 魔女の掛け声により、彼女の周りに赤い可憐な花びら状の炎が無数に生まれる。
「ちょ、熱い!熱いホ!」
「機械は熱に対して意外に弱いのはカッパの発明で実験済みよ」
 味方への被害を気にも留めずにパチュリーは魔法を放つ。炎が次々とオオツキに着弾!
「アツぅイ!アツイーーー!」
 オオツキは炎を拳で払い、ときにレーザーで対抗するが、鈍重な体では殆ど効果がない。
「考えてみれば、元々頭がおかしいんだから、これいじょう機能が低下することは
 なかったわね……」
「パチェ!」
 レミリアの叱責!パチュリーは肩を竦めた。急かされたことが原因とでも言いたげだ。
「しかし当然といえば当然だけど、全然応えてないわね」
「タフネス相手のコツは死ぬまで止めないことだホ!気にせず攻めるホ!」
フロストの指示に少女社長は頷く。元よりそのつもりだった。
「まさに削り作業ね、うんざりするわ」
そしてまた弾幕を放つ、今度はコウモリを模したようなどこか可愛らしい弾幕だ。
しかし当たった箇所からは強く鉄を殴るような音がするので、外見し可愛くないこと
が分かる。
それを無数に浴びせかけてオオツキの体を打ち続ける。
その光景を見てオニは感心した。幻想郷に来て日の浅い彼だが、それでも少女たちの
弾幕決闘の光景を何度か目撃している。
至近距離の撃ち合い、泥臭い殴り合い、女性特有の攻撃性、上位の参加者になるほど肝が
据わってくることは知っていたが、この場においてもレミリアが一切恐れを抱いていない。
非常に戦い慣れていることが見て取れた。

77 :
「ほらほらこっちよ!Hey-Hey-Hey!」
 挑発しながらオオツキの裏に回り込み弾幕を浴びせる。直線的で速い球が多いが、
 時に大玉も交えて緩急を付けている。
「うぎぎぎぎぎ〜〜〜〜!」
 怒りに任せて鋼の腕が伸びる。しかしレミリアにして見れば、もしかしたら幻想郷の
女の子全員かもしれないが、見てから逃げられるほどに速度に差がある。
加えて空も飛べるので上下の移動だけでも追う方のオオツキは大勢をいちいち
変えなければならず、完全に翻弄されていた。そして。
「ヴォウ!」
 巨体の目の前で猛然と炎が上がる。足元のケルベロスの放つ地獄の業火が、
 視界を埋め尽くして目標を見失わせる。
「どれ、ここはひとつ、こいつを使ってみるとするかの」
 懐から取り出したアイテムをマミゾウが投げる。それはオオツキに当たると粉々に
砕け散る。とくに外見上の変化は見られないが、フロストが驚きの声を上げる。
「デカジャストーンって、そんなんどっから持ってきたんだホ……」
 デカジャとは相手の能力上昇系のスキルを無効にする魔法であり、デカジャストーンは
 その力が宿った魔石である。
「企業秘密じゃ」
 魔獣は胸元から扇子を取り出して優雅に仰いだ。表面には「勢力拡大」、
裏には「日々之精進」の文字。
(あれ、オイラもしかしてこのおばちゃんとの相性最悪?)
そんなふうなことを考えながらフロストはまたもスクカジャをかける。
相手が全体即死を使える上に長期戦が必至となればこれが最善と考えてのことだ。
「ぐぬ、ぐ、ぐぬぬぬぬ!お、おのレ。冷静に状況を分析すれば、貴様らが
わたしに勝てる科学的な根拠はひとつもないのだ!」
頭に血が上り切ったオオツキが苛立たしげに言う。しかし口調は今までと違い、
格段に知能が上がっている。

78 :
「コロス、コッロース、クウ!」
「黙れ、薄汚い悪魔めが!出ていけ、私の中から!」
「ウイ!?ヤ、ヤメ、オワワワワワワワ――――!」
「なんだ、何が起こってる!」
足にしがみ付いていたオニは、急に暴れ出した機体に危険を察知して離れた。
直後、盛大に爆発起きる。
―邪霊蜂起―
機体の頭部から足元に向けて、汚い黄色の人魂が大量に吐き出された。
その内のいくつかが爆発し、幾つか、否、六匹の人魂が残った。
人魂の中心にはしょっぱい醤油顔が浮かんでいる。
「ア、アレ?アレアレ?ナンデ」
「貴様はもう用済みだ!この場で他の連中諸共に始末してくれる。そして私は
 魔界へ帰り、憎きあ奴らを今度こそ科学的に抹殺してやるのだ!」
「どうやら、あの機械に取り付いていた悪霊同士で仲間割れが起きたみたいね」
 冷静に見たままを述べるのはパチュリーだ。気が付けば魔道書の頁が変わっている。
「グレムリンか、それとも誰かの式神なのか。とにかくあれだけ大きなマシンを
 一つの霊で動かせるわけはないと思っていたけど、相性が悪かったみたいね」
(実際に1人分の霊で動かしてたんだけど、余計なことは言わないでおくホ)
「ウォレ、ウォマエヲ、拾って、ヤッタ、ノニ・・・」
 黄色い人魂は悲しそうに呟いたが、見上げた先の巨人は無慈悲に言い放った。
「貴様なぞ、動力となるマグネタイトの代替エネルギーの集積装置に過ぎん!
 そのための回路も既に別のプログラムにより構築済だ、この科学的根拠により
 お前はもう必要ない!あとはお前をエネルギーに変換して吸収してくれるわ!
 この絞りカスめが!」
「チ、チックショォォォォォォォォォォッッッ!!」
「げ、外道だホ」
 図書館内での戦闘は新たな局面を迎えた。しかしその光景を異次元の向こうから
 観察する不穏な影があることを、この場の誰も、知る由もなかった。

79 :
場所 ―???− 
上も下も、右も左もない。光さえ差し込まぬ闇の空間に、三人の人物、
少なくとも見かけだけは、は紅魔館の戦いを見ていた。
「アレが、そうなのですか?」
問いかけるのは、導師の服にフリルを備え付けた和様、というよりも
中様折衷といった格好をした、金髪の少女。名は八雲紫。
幻想郷の創始者の一人に名を連ねる大妖怪であり、同時に幻想郷の管理を担う
一角でもあった。その大妖怪は今、己よりも遥かに各上の、神とも悪魔とも
つかぬ存在と対峙していた。
「ええ。アレはアマラの外に弾き出された者達のなれの果て。それが此度のうねりに
飲まれてここへ流れ着いた。もっとも、あのようなことになることは稀ですが」
 喪服に身を包んだ老婆が眼下の機械巨人を見ながら、つまらなそうに言う。
 その隣にいる、同じく礼服に身を包んだ少年、のようなものは、老婆の袖を
 引っ張った。
「…………」
 耳打ちした声がどんなものか、それはありとあらゆる手段を尽くしても分からない。
「左様でございますか」
 老婆が頷く。恐らくこの老婆も、少年のようなこの存在の一部に過ぎないのだろう。
 紫はそう感じた。
「畏れ多くも坊ちゃまはこの者達でもよいと仰せです」
変わらぬ語調で老婆が告げる。隣にいる少年は、彼らの足元に開いた「隙間」
から見える景色を覗き込むばかりだ。
「当事者であり、くだらぬ人間に卑しくもしがみ付く悪魔達こそが、この問題を
 解決するに相応しいと考えておいでです」
顔を隠す薄布の向こうに、本当に顔があるのかさえ疑わしい、老婆の言葉は一つ
一つが警戒心と不快感を煽る。
紫は問い質す意味で、もう一度、彼らから聞かされた危難を繰り返した。

80 :
「疑う訳ではないのですが、本当に、世界から悪魔や妖怪が消滅すると……?」
 いざ自分で口にしてみると、あまりにも荒唐無稽だ。胡散臭いすぎる。
現代に生きる人間ならば『今』がまさにそうであり、逆に悪魔達と接点のある
存在からすれば、規模が大きすぎる。
 質問の意図をどのように受け取ったのか、少年はそこで顔を上げる。
 紫のほうを見ているが、瞳には彼女の姿は映っていない。恐らく、この場にいる
 誰もがお互いにそうだろう。
「そう」
 今度は確かに聞こえた。その声は子どもの声だった。
「誰とも出会わなくなって、人間の傍から、神も、悪魔も、その時間の中に
 あった、全ての時間が消えていく」
 それだけを告げて、少年はまた紅魔館の観戦へと戻る。
「事の発端は、ある一人の科学者でした」
 老婆が説明を引き継ぐ。
「その男は異端、天才と言われるほどの才があり、術師としての能力もありました」
 紫は少年に倣い、知人の様子を見ながらしかし、耳から入る情報に全神経を傾けた。
「それだけならばどこにでも居る、取るに足らないヒトですが、この男は群を抜いて
 異質でした。多くのヒトが悪魔を科学で否定し、遠ざけることとは逆に、科学的な
見地から悪魔への干渉を可能にし、そこからより貪欲に知識を求めたのです、
善と悪のコトワリ、ガイアとミロク、神と悪魔、光と闇、それぞれの本質を知りながら、
何にも頓着することなく」
 抑揚の乏しい淡々とした言葉が、紫には不思議と、どこかしら怒りを滲ませている
 ように思えた。気のせいか、確かめるつもりはない。
「そして、件の刻が訪れたのです。男は知る作業を終えると何を目的としたのか、
それまでに得たアマラの御仕方、悪魔の知識、魔術の数々と科学の力を用いて
悪魔の抹消を始めたのです。先ほども坊ちゃまが仰ったとおり、ヒトと悪魔の接点を
消すという形で」
 
「接点とは?」
 視線を老婆の首筋のあたりで止めてから、少女が聞いた

81 :
「これまでにも、ヒトと悪魔の接点は腐るほどありましたが、この男はその中でも、
 後世に繋がる接点を消すように手を打ったのです。例えば……」
 そこで一度言葉が途切れて、老婆は皺だらけの手を広げて、指折り数え始めた。
悪魔が、ある一人の少年の親を食い殺さなかったり
またはある子どもがいじめられず、裕福な幼年時代を過ごしたり
ある技術者が先住民達のソウルが鎮護していた存在に接触しなかったり
あるいはミロクとガイアの男女が人類に絶望せずに済んだり
はたまた、ある男が仲間と共に悪魔の囁きに耳を貸さずに外へ出なかったり
一人の青年が、友人たちの夢を見なかったり……
「ヒトが悪魔を求める、または己自身が悪魔となる。斯様な出来事の中でも
 特に大きな事柄は後にも先にも大きな流れを創り出しているものです。しかし、
 その起こりはいずれも些末なもの。故にヒトと悪魔が触れ合うことを阻止すれば、
 自ずと人間の傍から悪魔達は消えていくのです」
「しかし、それならば何故彼らは幻想郷に?」
 質問を投げかける紫の下で、オニがオオツキに鷲掴みにされているところだった。
 オニは必死になって自分の召喚と維持にかかるマグネタイトの量を正直に申告した。
 オオツキはその少なさに対し不快感も露わに彼を壁へと叩きつける。
「ここもまた異端なのです。隠れ里でありながら、人を囲っている。本来ならば、
 接点が消された過去、未来の中の悪魔達はその存在を失い、すぐにでも消えて
 おかしくはないのです。しかし、外の世界で幻想となったモノが流れ着くという
 この幻想郷は、偶然にもクッションの役目を果たしたのです」
老婆が頷いた。基本的に険のある言い方をする相手だが、今は角が立っていない。
「消滅の一歩手前、存在しなくなった世界は空想や妄想、幻想となります。
そして幻想となった悪魔達の何割かは、この幻想郷へ来るのでしょう。……ですが
それも一時しのぎ、この小さな場所では到底全てを納めることなど不可能です。
ここに悪魔達が来ている間に、アマラの因果を正さねばなりません。
それが出来なければそのときは、この幻想郷諸共、全ての悪魔がこの世界から
消えることになるでしょう」
老婆の説明はそこで終わった。紫は無表情に、袖で自分の口元を覆い隠した。
その少しの間、隠された彼女の唇は、堪え難い強い怒りに小さく震えていた。

82 :
八雲紫は幻想郷の創造に携わる一人であり、そして今は管理者である。
八雲紫の幻想郷愛は偏執狂染みたものが有り、幻想郷に固執する一方で、
その中に暮らす者達のことは割とどうでもいいという極端な温度差がある。
砕けた言い方をするなら、彼女の執着は自分の開発したプラットフォームを溺愛する
サーバー管理者のソレであり、故に現状を脅かす異物やウイルス的な存在に対しては
いつも割と容赦のない制裁を加えてきた。
それ程までに拘る世界に今、本人が絶対に受け入れられない事態が差し迫っている。
「それで、私はどうすればよろしいのでしょう」
 紫は平生そのものといった声で先を促した。突如現れた大きすぎる存在が
頭ごなしに自分を使おうとしている。それは気に入らないことではあったが、
言い換えればそれは、こちらを気にも留めなかった雲上人が、慌てて
飛びつかなければならないような、重大な案件が発生したことを意味している。
裏もあるだろうが、今日、正確にはこの場が『今日』であるかは甚だ疑問だが、
自分の前に現れ、ろくに前置きもなしに用件を切り出してきたことから、
猶予がないことだけは間違いなさそうだった。つまり、少なくとも、
異変の内容だけは真実。
「幻想となった悪魔達は、元の世界で人間達と強い絆を築いた者達です。彼らを
導き、アマラの因果を正せば、この異変は解決できるでしょう」
「……つまり?」
 紫は敢えて明確な答えを求めた。ある程度予想はついたが、指示という形で
 言質をとっておきたかったのだ。妖にとって口約束ほど重たいものはないからだ。
「幻想郷に来る悪魔達を連れて、彼らの仲間である人間に会うんだ。そうすれば、
 あとは相手のほうからやってくる」
意外にも答えたのは少年のほうだった。闇の中でさえ良く見える、死人とはまた違った
白い顔と瞳が、いつの間にか紫へと注がれている。
「それができるのは、君だけだ」
 無表情には変わりないが、天恵の如き力強さが、その言葉にはあった。
 八雲紫の能力、『境界を操る程度の能力』という力。二つの事象の間を弄る能力で
 悪魔達を幻想ではなく、現実の存在へと変えて目的の人間と会え、ということか。

83 :
「できますでしょうか?」
 自分が、ではない。このどことも知れぬ空間から覗いている紅魔館の戦い、
 そこで駆け回る悪魔達が、である。
「……どちらにせよ、それを拒むことはできないでしょうね」
 老婆ではない。気が付けば、そこには老婆と同じ喪服を着た、妙齢の淑女が佇んでいる。
 その隣には、子どもではなく、子どもが年老いたかのような、車椅子に座る老人がいた。
 手にはステッキを握っており、白いスーツが抜群の白々しさを演出する。
「ここのルールに則って言わせてもらうのならば……」
 老人は手にしたステッキを握り直し、静かに目を伏せた。

―幻想郷はすべてを受け入れるのだから―

不意に、紫が用意した空間が光によって埋め尽くされ、破裂した。
後に残っているのは紫だけだ。周りには畳み敷きの広々とした居間、
彼女の家の中の景色が広がっていた。
「冬眠前だっていうのに、不味いことになったものね……」
 紫は忌々しげに呟くと、その場に立ち上がり従者の名を呼んだ。
八雲藍は狐の妖怪で「天狐」の位置に当たる大妖怪でもある。
「藍!来て頂戴!今回は真面目な話があるわ!」
 しかし誰も来ない。おかしい。まだ日も高いから買い出しには行っていないはず。
「藍!藍!いないの?」
 不審に思い彼女は台所へ行くと、流し台の傍に一枚の書置きを見つける。
 そこにはこう書いてあった。
『橙と一緒に予防接種を受けてきます。帰りは遅くなるかもしれません。
 ごはんは作っておきましたので先に食べていてください。藍より』
「………………………………………………………………………………………………」
 八雲紫は、虚空に隙間を開くと、何も言わずにそのまま飛び込んだ。

84 :
一方その頃、紅魔館の戦いは既に14ターン目を迎えようとしていた。
依然としてオオツキは健在だったが度重なる攻撃により装甲の端々が割れ、
黒煙が上がり、露出したケーブルからは火花を散っている。
 対してフロスト達の陣営は全くの健在。オニが何度か殴られたがそれでも大した
 ダメージを受けていない。
「けっこう弱ってきたじゃないの」
 無数に飛び交う蝙蝠が一つに姿へと集約する。レミリアだ。ここまでかすり傷一つない。
「泥仕合は負けパターンの一つだホ。最初から勝ち確のペースを保てないと、ボス戦と
いう名の長期戦は乗り越えられないホ!」
「そうね、後は奥の手とか悪あがきに注意しておかないと」
 フロストの言葉にパチュリーが付け足す。意外にもこの少女、動作自体は緩慢なのだが
 妙に回避力が高い。彼女は運と知力が相当高いのだろうとフロストは思った。
 ここまでの戦いは一方的であった。補助魔法をひたすらかけ続けたことで、
オオツキは攻撃をあてられず、物理主体であったために効果的な対策も打てなかった。
加えて。
「うぅ〜るるるるるるるるぃぃぃぃ〜〜!」
 黄色い人魂、外道スペクターという、が猛烈な勢いで襲い掛かっているのだ。
 怒りに駆られた彼はどこからともなく分身のようなものを呼び出すと、それを
 次々に特攻、自爆させるという一人弾幕を繰り出す。
 現状で一番火力が高く対処も難しい。オオツキに取り込まれていたときに
 これを使われていたらひとたまりもなかっただろう。
 オオツキもダメージの脅威への優先順位からか、はたまたよほどスペクターが
 気に入らないのか、攻撃をスペクターに集中しつづけた。
 皆が蚊帳の外へ追いやられたものの、それでもこの鉄巨人を倒すことには変わりが
 ないので好都合ではあったが。
「しかし、派手にやらかしたもんじゃのう」
 マミゾウが周囲を見渡して呟く。巨体が暴れ、爆発が起き、弾幕が飛び交った
 図書館内の光景は悲惨であった。倒壊した本棚と散乱した書物、敗れた敷物に
 砕け散った床。破損した箇所はいずれも黒焦げである。

85 :
「まあ、盗みに入られるよりはずっとマシだけど」
「いいのか……?」
 オニが不可解そうに首を捻る。オオツキからの攻撃で唯一直撃を受けているのだが、
 随分と余裕がある。単純に物理に関しては打たれ強いのだ。
「畳み掛けるわよ!」
 レミリアの号令に再開する戦闘。彼女はケルベロスに跨り巨人の足元へと
疾駆する。そして手にした紅槍と魔獣の爪とで同時に深く切り裂いた。
『ィ良し!』
 会心の手応えに声を唱和させる二匹の悪魔。その獰猛な笑みが向けられた先、
鋼の脚部がぐらつき、オオツキが片膝をついた。
「次に送るぞい」
「アメちゃんおいしいホ」
 マミゾウが行動を見合わせフロストが魔力を回復させるために帽子から飴を出して
 食べる。チャクラドロップというこの不思議な飴は、悪魔の交渉に使われるくらいには
 重要な品である。
「お、おのれ……!この私が追いつめられる科学的根拠など……!」
 割れたアイカメラで睨みつけながらオオツキが呻く。
「この私が敗北する科学的根拠など、どこにも無いのだあぁーーーーー!」
オオツキ突撃してきたスペクター一体を踏み潰して立ち上がり、猛然と走り出す。
「悪あがき、くるわよ!」
 魔法使いの忠告とほぼ同時、巨体が連続で行動を繰り出した。
「戦闘プログラム 読ミ込ミ開始」 アイコンが4つ増える!
「ファースト・リード メギドラ」
「セカンド・リード メギドラ」
「ラスト・リード メギドラ」
『デジャビュ!』

86 :
不吉な文言の繰り返しを受けてフロストとケルベロスとオニが悲鳴を上げる。
「全体大魔法“3回”!」
 フロストが今までにないほど危機感を表す。空気が張り詰め、全員に緊張が走る。
「セット完了・・・起動エリア確保・・・目標 全員 実行する!」
『おわああああああああああああああああ!!』
 瞬間、図書館内がくまなく閃光に包まれた。本棚が消し飛び、炎でもない熱、空気では
無い圧力により全員が吹き飛ばされ、否、吹き飛ばされない!
「あれ?」
「紅符 不夜城レッド!」
「霊撃 ファイブシーズン!」
 
パチュリーとレミリアがカードを翳し、記されたスペルを宣言すると
空中に鮮血のように紅い光の柱と、重なり合う五つの色とりどりの輪が出現し、
迫りくる白い魔力の奔流を迎え撃つ。
「あぶね!」
 それでも相殺しきれなかった分を、フロスト達は当たる直前で回避した。
「レミィのボムは持続が短いから、格闘用のほうを持ってきなさいよ」
「わ、悪かったわね、そっちだって余計なショットが三つもあるくせに!」
「むきゅ!」
 第一波を逃れたことで緊張が解けたのか、二人の少女が軽口をたたき合う。
「おばちゃんはないのかホ?」
「一応自機にはなったんじゃがのう……よよよ」
「気を抜くな!また来るぞ!」
ケルベロスの警告に一同が振り向けば、オオツキの姿は未だそこにある。
「戦闘プログラム 読ミ込ミ開始」 アイコンが4つ増える!
「おいお前今なんつった」
 不吉な予感にオニがぼう然と呟く。

87 :
「ファースト・リード メギドラ」
「セカンド・リード メギドラ」
「ラスト・リード メギドラ」
『デジャビュ!』
今度は全員が叫んだ。

88 :
「どうするよ!?」
「もうさっきのヤツないのかホ!?」
 焦る二人に対して、先ほどボムを放った二人も浮かない顔をしている。
「実はさっきのが最後の一枚よ」
「この前の異変のときに咲夜の分のボムを新調するのをケチって余ってた分を渡したのがこんなかたちで裏目に出るなんて」
「それ裏目っていうんじゃなくて自業自得ってんだホー」
 
 レミリアはこの一件で経費削減の皺寄せを防犯に回してはいけないことを学んだ。それを横目にマミゾウがずいと前に出る。
「フム、仕方がないのう。今度はわしがとっておきを見せてやろう」
 敢えて待機していた魔獣が眼鏡を指でくいっと上げる。そして何故か眼鏡が光る。
「おばちゃん! でもさっきはボムないって」
「おねえさんじゃ! もうおぬしだけ庇わんからな!」
「ごめんなさいホ! おねえさん大好きだホ!」
 フロストが瞬間的に大地に這いつくばったのを見てマミゾウが満足げに頷く。
「もしものときは、我が守ろう」
「嬉しいのうお前様……安心おしよ」
 ケルベロスの献身的な言葉に大狸の顔が少女のように華やぐ。
 放っておけば荒れて燃え始めたこの図書館でラブロマンスの一つも始めそうな雰囲気だ。
「なんかよく分からないけど、できるのね?」
 パチュリーの問いに彼女は頷く。その姿が他の少女たちの中でも一際大きく見えるのは、何も着物のせいばかりではないだろう。
「無論じゃ。さあお時間も一杯のようじゃし、皆々様よご覧じろ!」
 そう言うや否や、マミゾウは懐に手を突っ込むと勢いよく何かを上へと放り投げた。
「なんだ、葉っぱ!?」
 オニの見上げた先には無数の木の葉が舞い踊っている。マミゾウは手を休めることなく
 更に木の葉を投げ続けている。
「セット完了・・・起動エリア確保・・・目標 全員 実行する!」

89 :
オオツキの二度目の処刑宣言の直前に、空を飛び交う木の葉に変化が起きる。
「いざ来ませい!これぞ奥の手!とくとご照覧あれ!」
 口元に右手を添え、左手で宙に印を刻んでいく。
「大勝負!『二ッ岩大増殖!』」
 
 掛け声と共に空中へ撒かれた木の葉が一斉に小爆発を起こし、煙に包まれる。そして
 次の瞬間、煙の中から躍り出たのは……
「分身の術か!」
 驚き役のオニの言うとおり。現れたのは無数の小さな二ッ岩マミゾウである。
「そうれ全員、尻尾をまわせーーい!」
 分身と本体のマミゾウがメギドラに背を向けて同時に尻尾を左右に振る。
「あれは、フリフリウォール!」
「あれ、あんな技だったっけ、確か前は……」
「ホー!」
「グワー!」
 余計なことを言おうとしたオニにフロストが制裁を加える。
光が接触し、あわやマミゾウの背はかちかち山めいて燃えてしまうのではと
危ぶまれたがしかし、放たれた万能魔法は数多の尻尾に弾かれて、来た道を戻って
いくではないか。
「なにこれ、どうなっているの……!」
「反射、しかも撥ね帰した魔法が次の魔法を相殺せずに素通りしていく、見た目に反して
 かなり高度な妖術よアレ……!」
 瞠目するレミリアに驚愕するパチュリー。
「な!?」
 そしてそれ以上にショックを受けているのは他でもないオオツキだ。
 続けざまに己が科学的に放った魔法を3連続で直に受けることになったのだ。
「おぐ、ば、ばか、な……こ、こんな……こんな……ことが……」
 これまでいくら攻撃しても目立った損傷を見せなかった装甲が、見る見るうちに
 すり減り、溶け、砕け散っていく。やがてオオツキは膝をつき、巨体が崩れ落ちる。
「おのれ……この、わたしが、貴様らごときに、負けるなど……そんな」

90 :
「そんな、科学的根拠は……ない、はずだ……ま、魔人皇……さま……」
 最後に拳を振り上げようとして、そこでオオツキは完全に沈黙した。
 アイカメラの光は失せ、ヒューズも完全に飛んだようだった。そして
「ひょーっほっほっほっほ!ざまみろ!ざまあみろ!うひっ!うひほ!うひゃー
 はっはっはっはっは。にょほほほほほ!!」
 力尽きたオオツキの足元で、自分を追い出した相手の最後を見たスペクターが
 調子に乗ってウロチョロしている。
 足に何度も体当たりを繰り返す。
「……なんじゃ、その、折角格好よくキメようとしとったんじゃがのう」
 いつの間にか淡路島が描かれた扇子を広げていたマミゾウはがっくりと肩を落とした。
「生きてるだけで丸儲けってことにしとくホ」
 フロストが慰めていると、不意にオオツキの体から火花が盛大に出始めた。
「お約束としては爆発オチよね……」
「ちょっとここ私のうちなんだけど……」
 パチュリーの呟きにレミリアが眉間を抑える。
「とりあえず一旦非難だ非難!」
 オニが指示を出し、皆入口付近まで退避した、が、スペクターだけがいつまでも
 オオツキの足を攻撃し続けている。
「オイ!何やってんだ!オマエもこっちこい!」
「うるい!うるるい!どうだ!ざまみろ!どうだ!ざまみろ!むひょひょ!」
「完全に意識が向こうにいっちゃってるホ」
 スペクターがなおも攻撃を続けていると、やがてオオツキの首のあたりから
 火花が散り、赤い煙のような、名状し難いエネルギーが漏れ出ていく。
「うるい!うるい!どうだ!ざまみろ!どうだ!ざまみろ……うい?」
 そこでようやく異変に気付いたのか、黄色い人魂が上を見る。フロストとオニは
 そこに既視感を覚えた、どこかで見た構図だ。そこで示し合わせたかのように
爆発が起きた。丁度巨人の首の部分だった。
「あ!」

91 :
「うい?」
 誰かの声が上がり、オオツキの首が吹き飛び、でかい顔が足元に落ちる。
 足元に落ちたでかい顔が、黄色い汚らしい人魂を下敷きにして、飛沫が辺りに
 飛び散った。
『…………………………』
 しばらくの間、誰も口を開かなかった。この闖入者達は、今日突然この図書館に
 姿を現したと思ったら、さんざん暴れた後、その運命を終えた。何一つ明らかに
 しないうちに。
「レミイ、あなた分かってたんじゃないの?」
「いや、ここで終わりにするつもりだったけど、まさかこんなふうになるとは」
 運命を操る程度の能力を持つ赤い悪魔が後頭部をかく。
「あーあー、これで大ピンチになってたらオイラも奥の手使ってたのにホー」
 戦いの終わりを確認し、フロストがため息をついた。
「しっかし、あいつら結局なんだったんだろうな」
 オニも首を傾げる。自分達から首を突っ込んでいくと、物事はある程度分かるものだが
巻き込まれただけだと何も内容が把握できず、不安になる。きっと主人公ってこういう
気持ちなのだろうと彼は思った。
「まあ、ともあれ、こうしていても仕方ない。まずは片付けをしようか。レミリア殿、
 逃げた娘たちを呼んでくれぬか」
「そうね、本当ひどい散らかりようだわ。これじゃいつもと変わってないみたいじゃない」
「失礼ね。本が随分と失われてしまったじゃないの。大して価値のあるものじゃないけど」
 
 図書館内の照明は割れ、床は砕け、本棚も倒れ、散乱していた本は燃え尽きていた。
 しかし、巨大ロボットとの戦闘が終わったばかりにも関わらず、全員は既に平静を
取り戻していた。レミリアが部屋を出ていき、パチュリーが被害を確かめるべく奥へと
飛んで行った。後に残されたフロスト達はそれぞれにまた話し始める。
「それにしてもマミゾウ殿、おみごとでしたな」
「いやあなになに、単に最後で出番が回ってきただけのこと。大したことは何も
 しとらんよ」
 マミゾウが手を伸ばすと、ケルベロスが頭を差し出す。小さな手が白い毛並を
 ゆっくりと撫でる。それなりの信頼関係が結べたようでマミゾウは嬉しそうだ。

92 :
「これでまだ伸び白があるんだから凄いというか勿体ないというか」
 聖獣、いや神獣ほどの格は有しているように見えるが、神格持ちの狸はあまりに稀少だ。彼でもそらでいえるほど少なく、そして有名である。
 そんな大妖怪がこんな一介の鬼と妖精の凸凹コンビの旅に付き合っているとも思えない。
 オニが腕を組み、まじまじとマミゾウを見つめた。
「え、そうかの?自分ではもうけっこういい歳だし、けっこう極まってると思うんじゃが」
「とりあえず4レベル分くらいあげたらいいホ。そしたらきっとフィーバーできるホ」
 フロストは昔の知り合いを思い出していた。クラブで燻っていたが一緒に旅をする
 うちに力を増し、良くも悪くも豹変した彼女は最後にはトンネル堀りに精を出して
 満足して昇天した。
「マミゾウ殿からはオスの匂いがほとんどせぬ。人に化けるのにやむを得ないのかも
 知れないが、牡を誑かして力を得られるのは女妖怪の特権だ。それをせんで
 力を増さないのはあまりも惜しいぞ」
「い、いや、そ、それはそのう、そう!わしが小さい頃はそれも下手での!先に腕っぷし
と頭を鍛えていたら今度はわしより強い牡がおらぬようになっていての、それで機会
がなくなってしもうたという訳じゃ!いやー残念残念!」
 何故かマミゾウは顔を赤らめ手をばたばたと振る。男の子の悪魔3匹は力への上昇志向
 もそこそこ高く、それだけに割かし真面目にマミゾウを憐み心配した。彼女の誤算は
 そんな恥じらいも何もない彼らの親切心だったと言わざる得ない。
「魔獣の精集めって人間じゃないといけないんだっけ?」
「別にそんなことないホ。あーゆーのは要するに格下が格上のを集めることに意味が
 あるんだホ。猫や蝙蝠が人間のを集めるという、つまり大物食いだホね」
「そうじゃろ!つまりわしくらい力をつけてしまうともう相手探しが難しうてな!
 いうなればあれは弱い妖怪が力を付けるための手段なんじゃよ!」
 そこでフロストがおもむろに旧い携帯電話のような物体を帽子から取り出した。
 それは三面鏡のように開き、キーボードとディスプレイを形成する。COMPだった。
 電源を入れて立ち上がった画面は一般のパソコン同様で、画面にはいくつもの
アイコンがあるが、その中のフォルダファイルの一つをクリックする。
『獣系悪魔全書』と書かれているそれを開くと中には聖獣や魔獣、神獣の名と
写真の添付データが入っていた。

93 :
「こんなこともあろうかと作っておいてよかったホ」
「な、なんじゃそれは!」
 マミゾウが仰天する。物体の素性を問うているのではない。何故そんなことを
 するのかという批難である。
「パソコンだほ。ネット繋がんないけど保管してるファイルくらい見られるホ。
 えーと、マミゾウばあちゃんがアナライズしたときレベルが49だったから……」
「魔獣にしちゃかなり高いな」
 
 フロストが慣れた手つきでコンソールを触りキーを叩く。ファイルの並びをレベル順
 で整理し直すと、同じ名前の魔物の中でも上下があることが一目でわかる。
「お、こいつなんか良さげじゃねえか。44レベルのライジュウ」
「うむ、マミゾウ殿のほうが上だが力を吸えるだろう、ダークなのが気になるところだが」
「満月なら誰だって一緒だホ」
 三匹が頬をくっつけて画面を食い入るように見つめている。これでは悪魔ではなく
 単なる見合い婆である。マミゾウも好奇心からかしっかりとみている。
「ま、まあわしは化けられるから一応人型でも大丈夫じゃが、やはり、そのう」
「分かってるホ、オイラそういうとこちゃんとわかるホ。誰だって自分とこの
 種族のほうが勝手が分かって安心するってのはあるホ。だからまずここから」
「い、いやそういうことでは……」
 
 最後の蚊の鳴くような呟きは誰の耳にも届かない。外からレミリアがメイド妖精を
率いて帰ってきた。テキパキと指示を出すとこちらによって来て混ざる。
「なにをしているの?」
「見合い相手の検索」
「詳しく」
「あう〜」
 
 その後聖獣や神獣の項目を見ていく。オニが神獣の項目に目を留めた。
「お、こいついいじゃん、スRニル」
「却下だホ」
「え、なんで?」

94 :
「お前ちょっと常識で考えろ……」
 ケルベロスがディスペアーっぽい目でオニを見る。彼らはひとまず部屋の片隅へと移動
 していた。視界の端で妖精メイドたちが辺りの破片やらゴミとなった紙を掃除を始める。
「馬並とはいうが本当に馬のをいれるのはのう……」
 マミゾウが顔を赤らめる。
「あ、そうか!」「ホー!」「グワー!」 いつものやりとりが発生。
「お前そんなんだから大正時代まで童貞だったんだホ!」
「いいだろ、別にそこは!」
 
 しかもそれが道を通せんぼしていた際に探偵のサマナーが連れていた悪魔に誘惑を
 して頂いたというのだから鬼としてはなんとも情けない。
「神獣や聖獣のレベルが低いのってなんか変ね」
「武闘派じゃない、恵みを与える、真っ当な神様は暴力控えめだから、力が信仰心一本に
 なりがちなんだホ。その分外れの要素は少ないからいつも人気だホね」
「お、このレベル51のヌエとか」
「すまんが知り合いにヌエの娘がいるのでちょっと」
「京都生まれだから性格もアレだし人間関係が潰れるから駄目だホ。そんな奴紹介できないホ。おいらにもメンツがあるホ」
 などと紛糾しながら見ていた名簿を皆で見ていたのだが、次第にマミゾウ自身も
 乗り気になってきたのか、自分から細かい条件やセッティングの注文をつけるように
 なってきた。
「まず、さっきのライジュウじゃろ。次にこのシーサーを頼む。このマカミも、
 まあ念のため。イナバノシロウサギも試してみようかのう。ヤツフサさんちも
 出とるのか!これはご挨拶せんとのう」
 
半ば自棄のようになりながら、マミゾウは次々に目ぼしい獣に唾をつけていく。
「相手にも都合があるけど、一応おばちゃんの写メとっとくホ」
 フロストが高校生の使いそうな携帯電話でマミゾウを撮る。
「皮算用にならねばいいのう」
 どこか浮ついたような様子でマミゾウが言う。実を言うと相手がいないという

95 :
部分は本当だったので、これはこれで好都合であったのだ。
 (他人の縁談をまとめることはあっても自分のほうを疎かにしておったからのう。
 その手の武勇伝をせびられるとツライものがあったもんじゃが)
「今まではあくまで商いとしての一家じゃったが、自分の血筋を分けてみるのも面白い
 かもしれんのう」
 恥じらいがあるという言葉がどこへ行ったのか、オニはマミゾウに大正時代の
無頼漢気取りだった自分に似たものを感じた。
「あとは電波の届くところにいって呼びつけるだけだホ。サブイベントの準備をするホ」
 一方でフロストの頭には『マーミースタリオン』というタイトルが浮かんだ。
「いやー良かった良かった」
そんな三者の考えなどまるで気付かずケルベロスは安どの表情を浮かべた。
「どうやら話しはまとまったようね」
「……なんの話しよ」
 戻ってきたパチュリーが遅まきに会話に加わってきた。
「何って、このお客人の縁談の段取りがよ」
 言われて魔法使いの少女がマミゾウを見る。ばつがわるそうにしており、
 羞恥に頬は染まっているが、最早引っ込みがつかないようだ。それから
 ケルベロスを見る。そして指をさしながら
「…………この子じゃダメなわけ?」
 と言い放った。
『!?』
 マミゾウ、オニ、フロストに衝撃と電流と冷や汗が走る。
(よし!よく言った!よくぞ言ってくれた小娘!)
(こ、こいつ!よりにもよって一番薦めにくい知人をあっさりと!この空気の読めなさ!
魔女!魔女めが!)
(この話しの終わりに、さもついでの態を装ってケルベロスを押す作戦が、この馬鹿と
一緒にここまで築いてきた流れが!どうする!?どうするホ!?)
 
 別々に慌て、焦りながらしかし一歩も動けない、真空地帯を生み出す一撃に
 真っ先に持ち直したのは誰有ろう二ッ岩マミゾウである。

96 :
「ざ、残念じゃが、ケルベロス殿は雌じゃろ?その、わしも決して嫌ではないのじゃが
 こればっかりは……」
「オスよ、その子」
「え?」
 
 横から上がるレミリアの声にマミゾウの目が丸くなる。ここで彼女の思考そろそろ
 いっぱいいっぱいだった。
「じゃ、じゃがケルベロス殿は前は雌じゃったと」
「元はそうだが、我は今はオスだ」
「じゃ、じゃがふぐりは」
「しまってあるだけだ。人前で晒すのもはしたないと思われて」
「え、じゃ、じゃあ……」
 そこから先の言葉が出てこない。つい今しがたまで他の牡とくんずほぐれつする予定を
 立てていたばかりなのだ。それも傷心からくる勢いで。こんなところに芽があったのに
 よもや自分から今の無しとはとても言い出せるものではなかった。
「あ、じゃあついでにこいつもどうだホ?おばちゃん慣れてないからこいつに
 この業界とシステムのこととその他のことを教わったり練習したらいいホ!」
 フロストの起死回生を賭けた便乗!
「じゃが、その、よいのか……?わしみたいないかず後家、しかもケルベロス殿から見て
 わしはかなり格下じゃし。」
「我は相手が嫌でなければ、誰であれお相手を務めさせて頂く所存だ」
「じゃ、決まりだな」
 オニの渾身の締切!彼は名簿を操作して登録してあるケルベロスの項目にも
 チェックを入れた。
「え、あ、いやそんな勝手に」
「嫌か?」
「そんなことは、むしろ最初からずっと……ごにょごにょ」
「では頼む」
 そんなやり取りをする二匹を残して、他の者達は作業の手伝いに向かう。
 やがてそれもひと段落したころには日も落ちて、オニたちは紅魔館に泊まることになった。

97 :
 各員を妖精メイドに部屋へ案内させる際、レミリアは友人の魔法使いにこうこぼした。「運命を操るって、実際面倒くさいわ……」
「他人の恋路なんて見るからにやり難そうなものに手を出すから」
「ああいや、他の連中も含めてよ」
 手をぱたぱたと振りながらレミリアは答えた、その姿は既に仕事着から
 いつもの子供服に変わっている。
「そう、それで?具体的にはどうしたの」
「別に、とくに何の影響もない邪魔な枝葉をとっただけよ。あんまり多いものだから」
 こともなげに言うが、それが虚勢の類でないことをパチュリーは知っている。
 いい加減ではあるのだが。
「でもよかったの?レミイ」
「何が?」
「部屋が一つ獣臭くなるわよ。それともイカ臭くなるのかしら……」
「いいのよ、私が掃除するわけじゃないんだし」
 
 パチュリーは肩を竦めると廊下から図書館へ向けて歩き出す。
「どうでもいいけど、結局アレどうするの。邪魔なんだけど」
「後で河童にでもくれてやるわ。こんなときフランがいれば話しは早かったんだけど」
 レミリアはため息を吐くと、現在自分の従者とともに外の世界へ仕事の研修に
 向かわせた妹のことを思い浮かべた。
「ああ、また博麗神社に遊びに行きたいわあ」
「たまには傘ぐらい自分でさしたらいいじゃない」
 などと軽口を叩きつつ、二人もまた自室へと引き上げていった。
こうして紅魔館で起きた奇妙で物騒な一日は終わった。謎と残骸を残したオオツキを
残し、魔物達はそれぞれの部屋で、それぞれのやり方で幕を下ろしたのだった。
オニはおでんのつゆを調整、出来る限り具を入れ替えたようだ。
レミリアは今日の出来事を誰かと連絡して報告したようだ。
パチュリーは自分の召喚について見直しをしたようだ、
マミゾウとケルベロス滅茶苦茶しっぽりしたようだ。
そして――

98 :
「起きなさい」
「むー」
「起きなさい、小さく、そして大きな妖精よ」
「ぐー」
「目覚めるのです。世界に危機が迫っています」
「はっ!」
 フロストは目を覚ました。しかしベッドから跳ね起きたつもりだったが、見れば
 周囲には暗黒が広がるばかり、いや、星々の明かりが無数に明滅している。
 まるで宇宙のような場所だった。
「よく聞きなさい。妖精ジャックフロスト」
「こ、これは、夢!?ということは俗にいう夢のお告げかホ! じゃあやっぱり
オイラ今回主人公なんだホ!」
「聞きなさい、あなたがたが戦いの後にぐずぐずグダグダと話すから私が出そびれて
 このような形での接触を図る羽目になったのですよ。主人公ならボス戦の後に
 新キャラの介入があってもいいように段取りを組んで空気を維持しなさい」
 聞こえていた女性の声は心なしか怒っているようだった。
「あ、はい。ごめんなさいホ」
 はしゃぎ過ぎたことをフロストは素直に謝った。芸人としてはちゃんとしてないと
 干されるからだ。ポジションが安定していないことが他人の出番を食っていい理由
 にはならないのだ。
「そ、それでどのようなご用件でしょうかホ」
「いいですか。今言ったように、世界に危機が迫っているのです。ある男により
 この世界は今、大規模な改竄を受けています。男の名はスティーブン。元は
 名のある技術者にして腕利きの魔術師でもありました」
 フロストは以前に何度か見たことのある車椅子に座った倦怠感丸出しの赤衣の男を
 思い出した。ダークおじさんやルイ・サイファーばりに如何わしい人間だった。
「彼が作動させた悪魔消滅プログラムは、現在、過去、そして未来に渡り人と悪魔の
接点を消失させているのです」

99 :
「それってつまりオイラたちの旅が無かったことにされちゃうってことかホ?」
「それだけではありません。悪魔と人とが関わり合いにならねば、悪魔という敵を失った
多くの神もまた、その力を大きく減じ、やがて存在其の物を失ってしまうでしょう」
そこで声は一度区切り、一泊の間を設ける。フロストの反応を待っているらしい。
年季の入った雪だるまは、顎に手を当てて沈思黙考する。複眼に移る星々の光が
万華鏡の如く互いを照らし合う。
「それとおいら達やあのロボットが幻想郷に来たことって、たぶん何か関係あるホ?」
 文字にならない漠然とした疑いの気持ちだったが、フロストは率直にぶつけた。
 途端に、周囲の闇が和らいだかのような印象を彼は受けた。
「そうです。人に知られぬ悪魔はその存在を空想や妄想、ひいては幻想へとやつして
 行きます。故に、消える前の悪魔達は皆、この幻想郷へと流れ着くのです。あなた達が
戦ったあの機械巨人は、ここに至る過程で既に己の存在を保てなくなったがために、
あのような歪な交わり方をしてしまったのでしょう。存在を失うということは、彼我の境さえ失うということ。事態が進行すれば、あなた方もあの者と同じ末路を辿るやも」
「それってつまりオイラ達も今まさに死の宣告秒読みってことじゃねえかホ……」
仮初めの宇宙は沈黙したが、それが否定ではなく肯定であることは何となく想像できた。
「でもどうやってだホ? 逐一悪魔の関与を阻止なんかできないホ。すべての敵を
鏖にするなんてそれこそ夢物語だホ」
宇宙は沈黙していたが、間違いなく笑っていた。その雰囲気の中でフロストは
あることに思い至る。どうも自分の夢、というか精神は相手の精神の内に取り
込まれているのではないかと。
(なんとなく金剛神界を思い出すホ……)
 
 彼女は答えた。
「闇には光が必要です。人と悪魔の、光と闇の物語。それは本来終わりなきもの……
ですが、それもあくまで語り継がれてこそ続くのです。一度途切れてしまえば、
文明の進んだ今、心の弱りきった人間の世界に、再び悪魔の存在を齎すことは不可能
です。語り継がれるべき刻を塗りつぶしてしまえば、全ては白紙に戻るのです」
 物語の始まり、つまり悪魔との接触を回避してしまえば、本来起きるはずの事件も、
悪魔達の記憶も全て、残らず失われてしまう。

100 :
「それを阻止することで、歴史の流れをもとに戻すのがオイラ達の役目って訳だホね」
「その通りです」
「でも……」
「何か気になることでも……?」
 ジャックフロストは言い澱んだ。疑問ではない。物語を動かすために『なくては
 ならない必然』を、守ることが何をいみするのか、彼は気付いていた。
 
「それってつまり、今度はオイラ達の手で、皆をもっかいひどい目に遭わせろって
 ことだホ……」
 子どもの悲痛な呟きに、闇は、彼女は、今度こそ悪魔的な笑みでもって、
 喝采をジャックフロストに浴びせた。星の光が一斉に消え失せ、眩いほどの黒が、
少年の夢を塗りつぶす。
「博麗神社にいきなさい。もしもあなたが、彼らの幸福と引き換えにしてでも
 失いたくない何かがあるのなら……」
 初めて彼女が優しい声で、フロストに次の行先を告げた。
「……忙しく、なるホ」
 悪魔の魂を持つ雪だるまは、そう呟いて静かに目を閉じた。

 ――そして夜が明けた――


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