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ロスト・スペラー 17
- 1 :2017/09/20 〜 最終レス :2018/01/30
- やっぱり容量制限は512KBから変わっていませんでした。
表示が実際と違うみたいです。
過去スレ
ロスト・スペラー 16
http://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
ロスト・スペラー 15
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
ロスト・スペラー 14
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
ロスト・スペラー 13
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
ロスト・スペラー 12
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
ロスト・スペラー 11
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
ロスト・スペラー 10
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
ロスト・スペラー 9
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
ロスト・スペラー 8
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
ロスト・スペラー 7
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
ロスト・スペラー 6
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
ロスト・スペラー 5
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
ロスト・スペラー 4
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
ロスト・スペラー 3
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
ロスト・スペラー 2
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
ロスト・スペラー
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1290782611/
- 2 :
- このスレは容量一杯まで、設定を作りながら話を作ったりする、設定スレの延長です。
時には無かった事にしたい設定も出て来ますが、少しずつ矛盾を無くして行きたいと思います。
前スレが切りの悪い所で終わってしまったので、早目に立てました。
- 3 :
- 前スレで途切れた部分
ファイセアルスがある宇宙とは異なる宇宙デーモテール。
そこには法則が異なる幾つもの世界があり、その一つに「エティー」と言う小世界がある。
ファイセアルスからエティーに飛んだサティ・クゥワーヴァは、そこで管理主を任される事になった。
一時は荒廃していたエティーも安定した事で、サティはエティーを離れ、他世界を巡って旅を始める。
偶々訪れた「名も無き沈み行く世界」で、蟹の様な姿をした住民と出会った彼女は、
住民達を保護しようと、エティーに連れて帰ろうとした。
移住に賛成した10体を連れてエティーに帰還したサティは、蟹の様な姿をした物達に、
自分の名前を決める様に言ったのだが……。
- 4 :
- サティの発言に対して、1体が恐る恐る鋏を挙げた。
「あの……。
名前って?」
「個体識別の為の名称です。
名前が無いと呼ぶ時に不便でしょう?」
「は、はぁ……。
でも、勝手が分からないので、そちらで付けて貰えませんか?」
その蟹は仲間を見回して、異議が無い事を確認する。
誰も反対意見を述べる物は無く、サティが皆の名前を付ける事になった。
「……では、貴方は鋏が大きいので『ビシズ』。
貴方は脚が長いので『グレッグ』。
貴方は右の鋏が大きいから『フィドラブ』。
貴方は甲羅が青味掛かっているから『ブルシェ』。
貴方は甲羅が真っ赤だから『レッシェ』。
貴方は甲羅が大きいから『ラージェ』。
えーと、未だ6つか……。
貴方は小さいから『ミニマン』。
貴方は目が大きいから『ステア』。
貴方は……何と無く普通だから『ノーマ』。
貴方で最後、『アンテ』!」
彼女は適当に名付けたので、不満が出る事を覚悟していたが、名前の意味まで考えない蟹達は、
全く気にしていなかった。
「分かりました。
私達の為に考えて下さった名前、有り難く使わせて頂きます」
そう畏まられては、サティの方が申し訳無い気持ちになる。
- 5 :
- 前スレまだ482じゃねーかよ
責任持って使い切れ
- 6 :
- >>1
いつの間にか容量オーバーでしたか
スレ立て乙です!
- 7 :
- 2ちゃんねるのスレッドには512KBの容量制限があり、それ以上は書き込めないのです。
これはレス数とは関係無く、書き込みの量で決まります。
試しに前スレに書き込んでみて下さい。
今まで書き込んだ文章量からの推測ですが、スレッド右下に表示されている容量は、
実際の容量とは差異が生じていると思います。
- 8 :
- それってずっと落ちないままか
なるべく小分けにして書き込めばよくね?
- 9 :
- いいえ、その内dat落ちするので、安心して下さい。
一週間後には一覧から消えていると思います。
- 10 :
- なるほど、回答ありがとう
- 11 :
- >>4の続きから
蟹達はサティの先導で、続々とエティーに入った。
「どうですか?
具合が悪くなったりしませんか?
息苦しさは?」
サティが気遣いの言葉を掛けると、脚の長いグレッグが暫し遠くを見詰めた後に言う。
「水場はありませんか?」
「海、海が見たいです」
小さなミニマンも鋏を振り上げて懸命に意見した。
元々海辺で暮らしていた物だから、海が恋しくなるのだろう。
しかし、エティーの海が肌……甲羅(?)に合うかは不明だ。
サティは心配しながら、蟹達をエティーのロフ側の海に案内する。
蟹達は銘々にエティーの海水に触れたり、浸かったりして、感想を口にした。
「ウーム、悪くは無いのですが……」
フィドラブに続いて、ステアが言う。
「他の所も見させて下さい」
何が不満なのか、サティは聞き出そうとする。
「一体何が気に入らないんですか?」
蟹達は俄かに畏まった。
「いえ、そう言う事ではなく!」
「我が儘を言って済みませんでした!」
レッシェとブルシェが皆を代表して謝罪する。
どうも蟹達は、サティを恩人だと思っているのか、それとも恐ろしい存在だと思っているのか、
或いは身分を気にしているのか、怯えた様に身を低くして卑屈な態度を取る。
- 12 :
- サティは優しい声で蟹達を宥めた。
「怒っている訳ではありませんよ。
どこの海も似た様な物ですが……、メトルラの海に行ってみましょう」
蟹達は未だ安心し切ってはいない。
「何が気に入らないのか」と言った時の口調が、余程不機嫌に聞こえてしまった様だ。
サティは異空に於いては、公爵級や侯爵級にこそ及ばない物の、それでも上位の実力者である。
些細な行動や言動で、余計な忖度や配慮をさせない様に、或いは、脅威と受け取られない様に、
気を付けねばならない。
それを忘れていた訳では無かったが、改めて振る舞いには注意しなければならないと実感した。
蟹達の様に、畏れを素直に表現する存在は、寧ろ有り難いかも知れない。
「配慮」で何事も無かったかの様に装われると、敬遠されていると自覚した時には、
手遅れと言う事になり兼ねない。
既に畏れられてしまっている蟹達の事は、もう仕方が無いとして、彼女はエティーのバコーにある、
メトルラの海へと徒歩で向かう。
バニェスも暇だからと言って付いて来た。
蟹達は姿こそ蟹に似ているが、横歩きをしなければならない訳では無い様だ。
長い6本の脚の内、前と中の4本だけを移動に使う。
4足歩行と変わり無い。
後ろの2本は立ち止まる時の休憩用か、転覆しない為の止め具の様な物と思われる。
他の脚と比較して短小で、移動の際にも動いてはいるが、その働きは従属的だ。
両の鋏も同じく、移動の際には地を突いている物の、バランスを取るのに利用しているだけで、
体を運んでいる訳では無い。
見た目は似ていても、やはりファイセアルスの生き物とは違うのだなと、サティは妙に感心していた。
歩幅の為か、蟹達の移動速度は脚の動きに見合わず速く、途中でサティとバニェスは、
飛行する事になる。
- 13 :
- 暫くして、一行はバコーにあるメトルラの海に着く。
それなりの長距離移動だったが、蟹達が弱っている様子は無い。
エティーの空気が極端に合わないと言う事は無さそうだ。
「ここがメトルラの海です」
サティが両手を広げて言うと、蟹達は銘々に海水に浸かりに行った。
「どうでしょう?
ロフの海と、どちらが良さそうですか?」
サティの問い掛けに、鋏の大きなビシズは余り満足していない様子で答える。
「あちらよりは、こちらです」
赤い甲羅のレッシェが続けた。
「やはり生まれの海とは違います……。
でも、仕方が無い事です」
贅沢を言えない身分だと自覚しているのか、蟹達の反応は控え目だ。
この話は片付いた物として、サティは続けて問う。
「食事の方は大丈夫ですか?」
それを聞いてグレッグが答える。
「私達は何もしなければ、暫くは何も食べなくても良い様に出来ています。
無理をして動き回らなければ、餓死する事はありません。
私達の背中には海草の種が付いています。
これが上手く増えれば、何の心配もありません」
考え無しに移住した訳では無いのだなと、サティは感心した。
- 14 :
- それからメトルラの海に住み着いたグランキ一族は、本当に死んだ様に動かなかった。
その内、潮に流されて、10体は方々に散り散りになってしまった。
サティは時々体調を窺いに赴いたが、仮死状態で体力を使わない様にしているのに、
一々声を掛けられると妨げになると言われたので、遠くから眺めているだけにした。
そして、30日後……。
グランキ一族の海草は終に増えなかった。
在来の海草や海藻との生存競争に勝てなかったのだ。
グランキ一族が目覚めたのは、更に20日後。
海草が育たなかったので、グランキ一族は仕方無く、メトルラに自生している海草や海藻、或いは、
魚介類を食べ始めた。
その又20日後には、ビシズ、グレッグ、フィドラブ、レッシェ、ラージェ、ステアの6体が、
立て続けに死亡した。
サティは衰弱して行く6体を見ていたが、生まれた世界が違うので治療する事も出来なかった。
この時には既にグランキ一族の故郷も消滅しており、打つ手が無かった。
だが、残りの4体は幸運にも、メトルラの環境に適合して生き残った。
「良かった、貴方達は何とか生き延びられそうで。
御免なさい、ビシズ達を助けられなくて」
生存した1体、最後に名前を付けたアンテに、サティは謝罪する。
アンテは平然と答えた。
「何を謝る必要が?
サティさんが私達をエティーに連れて来て下さらなければ、私達は全滅していました。
仕方が無い事だったんです。
死んだ皆も故郷よりは長生き出来ました。
これで良かったんです」
6体の死骸は、生き残りが食べた。
そう言う習慣なのではなく、仲間の死骸はエティーでの貴重な食料だったのだ。
結果、4体が何とか適合する時間を稼げて生き延る事が出来た。
これからグランキ一族は4体だけで、メトルラの海の一員として生きて行く。
既に亡んだ故郷と仲間を想いながら。
- 15 :
- 今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。
魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。
『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。
ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。
- 16 :
- 魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。
今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。
- 17 :
- 時は魔法暦520年。
共通魔法を中心とした現在の魔法秩序の破壊を目論む、外道魔法使いの集団が現れる。
その名は『反逆同盟<レバルズ・クラン>』。
種族流派門閥血統を問わず、共通魔法社会に反逆する者の集まり。
同盟を率いるは「マトラ」と名乗る謎の女。
彼女は再び魔法大戦を引き起こそうと言うのか……。
魔法秩序の番人である「魔導師会」、その最高指導者である「八導師」は反逆同盟の存在を、
早期に認知して、社会不安を抑える為、極秘裏に親衛隊に特命を下した。
「反逆同盟を止めよ」
人知れず闇で繰り広げられる魔導師会と反逆同盟の戦い。
共通魔法使い側にも、外道魔法使い側にも、それぞれに敵、味方、そして中立の存在がある。
共通魔法使いでありながら、反逆同盟に加担する者があれば、その逆も亦然り。
斯くして戦乱の予感は益々深まるのであった。
- 18 :
- 反逆同盟と戦う者は、3つに分けられる。
1つは、八導師親衛隊や執行者、処刑人、その他、魔導師会に所属する魔導師達。
もう1つは、魔導師会に協力する外道魔法使い達。
そして最後の1つは、魔導師会を頼らず、独自に戦う者達。
旅商の男ワーロック・アイスロンと、その養娘リベラ・エルバ・アイスロンも、失踪した家族――
ワーロックの息子にして、リベラの義弟、ラントロック・アイスロンの行方を追う内に、
反逆同盟との戦いに巻き込まれて行く。
- 19 :
- new short story is...
- 20 :
- 力が欲しい
若き旅商リベラ・エルバ・アイスロンは悩んでいた。
自分は『反逆同盟<レバルズ・クラン>』と戦う力が無いのではないかと……。
レバルズ・クランの外道魔法使い達は、何れも強力な能力の持ち主。
対して、リベラは普通の共通魔法使いだ。
飛び抜けて魔法資質が高い訳ではないし、特別な能力を持っている訳でもないし、
魔導師程の魔法知識も持っていない。
彼女は義弟ラントロックを説得出来るのは、自分だけだと思っている。
だが、外道魔法使い達の脅威に立ち向かうには、余りに無力。
レバルズ・クランと戦う養父や仲間達の足手纏いにはなりたくなかった。
今のリベラには外道魔法にも対抗出来る、新しい力が必要なのだ。
- 21 :
- 第一に彼女が相談したのは、精霊魔法使いのコバルトゥスだった。
「コバルトゥスさん、強くなる為には、どうしたら良いんでしょう?」
「どうしたの、リベラちゃん?」
コバルトゥスは半笑いで心配そうに尋ねる。
リベラは真剣に胸中を告白した。
「今の儘だと、私は皆の足手纏いになると思うんです。
だから――」
「ああ、そう言う事……。
気にしなくても良いよ。
俺が君を守るから」
コバルトゥスが格好付けて強気に宣言しても、彼女は不満気に眉を顰める。
「そう言う事じゃなくって……。
はぁ、もう良いです」
呆れて去ろうとするリベラを、コバルトゥスは慌てて呼び止めた。
「えぇっ、待ってくれ!!
お、俺じゃ頼り無いって言うのかい?」
動揺を露にする彼に、リベラは足を止めて振り返り、苦笑いして見せる。
「……はは」
肯定も否定もされなかったので、コバルトゥスは益々焦った。
- 22 :
- コバルトゥスはリベラを逃がすまいと、彼女の行く手を体で遮り、話を続ける。
「確かに、今まで俺は頼り無かった。
その点は深く反省している。
二度と君を囮に使ったりしない」
リベラは眉を顰めて、首を横に振った。
「そうじゃないんです。
相談する人を間違えました。
御免なさい」
踵を返そうとする彼女の肩を掴み、コバルトゥスは必死に取り縋る。
「ま、待って待って!
解るよ、詰まり、アレだろ?
守られてばかりじゃ行けないって言う」
リベラは再度足を止めて振り返った。
コバルトゥスは思案しながら、彼女に問い掛ける。
「何時も誰かに助けて貰ってる事に、申し訳無いって気持ちがあるんだね?」
「はい、まぁ、そうです」
リベラが小さく頷くと、コバルトゥスは大きく頷き返した。
「そう言う所、お父さんと似てるよ。
先輩も気を遣う人だったから。
俺は別に気にしなくても良いと思うんだけど」
やはり解っていないと、リベラは語気を強める。
「私は自分一人でも戦える力が欲しいんです」
「ははぁ、そう来るか……」
予想外の言葉に、コバルトゥスは低く唸った。
「守られてばかりでは悪い」と思われているなら、それなりの見返りを求めれば良い。
「give and take」で片側の負い目は減らせる。
しかし、リベラが求めているのは、そこから踏み出した関係だった。
彼女は「give each other」でありたいのだ。
これまでのリベラとの旅を、コバルトゥスは思い返す。
確かに、コバルトゥスがリベラを助けた例は多いが、逆は少ない。
後方からの支援や補助ではなく、並び立って戦う為の力を、彼女は求めているのだ。
- 23 :
- コバルトゥスは敢えて、意地の悪い惚けた答を言った。
「んー、でも、君には精霊石を預けてあるじゃないか」
彼はリベラに万一の事があっても良い様に、精霊の力を込めた魔力石を持たせている。
既に一人でも戦える様に力を添えているのだ。
「そ、それは……。
役に立ってない訳じゃないんですけど、もっと強い力が欲しいんです!」
「欲張りだなぁ」
コバルトゥスが苦笑いすると、リベラは恥じらった。
「我が儘な話だと自分でも思います。
虫の好い事を言っていると思います。
でも、切実なんです。
ラントを助けられるのは、私しか居ません。
私も戦わないと。
徒(ただ)、待っているなんて出来ません」
彼女の熱意に圧され、コバルトゥスは暫し沈黙した。
そして、一つ提案する。
「リベラちゃん、精霊魔法使いになってみないかい?」
「えっ」
リベラは一瞬固まった後、訝しみながらコバルトゥスに問う。
「……なれる物なんですか?」
精霊魔法使いとは、血統によってなる物だと、彼女は思い込んでいた。
実際、コバルトゥスの両親は精霊魔法使いだった。
現代では精霊魔法使いは少なく、共通魔法の元になった「精霊魔法」に就いては知っていても、
「精霊魔法使い」の事を知っている者は稀。
- 24 :
- コバルトゥスはリベラに優しく言う。
「少し修行すれば、誰でもなれるさ」
「……それで強くなれますか?」
核心を突く彼女の質問に、コバルトゥスは苦笑した。
「はは、強くはなれないかな。
魔法資質は成長しないって、解ってるだろう?」
「じゃあ精霊魔法使いになる意味って……」
無意味ではないかと疑うリベラを、コバルトゥスは穏やかな口調で諭す。
「精霊魔法には、精霊魔法の良さがある。
精霊魔法は共通魔法みたいに、厳密な命令をしない。
だから、細かい指定は無理だし、出来る事も限られる。
だけど、その代わりに融通が利くんだ。
精霊と心を通わせさえすれば、共通魔法には不可能な速度で、複雑な魔法を発動させられる。
精霊達の協力があれば、自分の魔法資質を遙かに超えた魔法を使う事も出来る」
利点を並べられたリベラは思案し、彼に尋ねた。
「修行って、どの位の期間で終わりますか?」
「精霊に好かれていれば直ぐだし、逆に精霊が解らなければ何年経っても終わらない。
言ってしまえば、『才能』だ」
「私には、その才能がある――と?」
「どうかな、今のリベラちゃんには無理かも」
予想外に冷淡なコバルトゥスの発言に、リベラは怪訝な顔付きになる。
「無理なんですか……?」
- 25 :
- 彼女は今までのコバルトゥスの口振りから、多少は才能があるので、精霊魔法使いにならないかと、
誘い掛けられたのだと思っていた。
呆気に取られるリベラを見て、コバルトゥスは小さく笑う。
「『今の』君にはね。
力を求めて焦っている。
精霊の声に耳を傾ける余裕は無さそうだ」
揶揄っているのかと剥れるリベラに、彼は忠告した。
「所詮、個人に出来る事なんて限られているんだ。
俺だって無敵って訳じゃない。
その為の『仲間』だろう?」
上手く逸らかされた気がしてリベラは不満だったが、これ以上の助言をコバルトゥスに求める事は、
出来ないだろうと諦めた。
去り行くリベラを見送りながら、コバルトゥスは小さく息を吐く。
彼はリベラが不満を抱えていると解っていたが、敢えて止めなかった。
言葉で諭し、頭で理解させた所で、心まで納得させられるかと言うと、それは難しい。
若者が可能性を探るのは悪い事ではない。
最終的には、落ち着く所に落ち着くだろうと、コバルトゥスは成り行きを見守る姿勢だった。
- 26 :
- 次にリベラはビシャラバンガに相談した。
「強さ」に就いては、彼が最も詳しいだろうと判断したのだ。
「強くなりたいのか?」
「はい」
しかし、強さを求めるリベラに対して、ビシャラバンガの反応は冷淡だった。
「では、こんな所で何をしている?
人が強くなる為に出来る事は限られていよう」
「出来る事……?」
「修練に励め。
お前の肉体は限界まで鍛え上げられているとは言い難い。
共通魔法の知識も完全では無いだろう。
強くなる余地は幾らでもある」
彼の答は単純明快。
だが、リベラは頷けなかった。
「でも、レバルズ・クランの魔法使い達に対抗するには――」
常人が努力で得られる強さは、高が知れている。
幾ら鍛練や研鑚を積み重ねた所で、初見殺しの体現とも言える数多の外道魔法使いと、
対等に渡り合える程にはなれない。
- 27 :
- ビシャラバンガは抗弁する彼女を睨み、詰問する。
「では、どうする?
邪法に手を染めるか?」
リベラは養父や仲間達の事を思い、頷かなかった。
そんな彼女を、ビシャラバンガは鼻で笑う。
彼と彼女では、「強さ」や「力」に対する姿勢に、根本的な差がある。
「その程度の志で、強さを語るな。
『力』とは焦がれる程に追い求め、身を焼き尽くし、魂まで捧げても、未だ至らぬ物なのだ」
そう言うと、ビシャラバンガは肩に掛けた大きな巾着袋から、重りを仕込んだバンドを取り出し、
リベラに投げて寄越した。
ウェイト・バンドは鈍い音と共にリベラの足元に落ちる。
「これを使え。
一朝一夕で身に付く能力等、碌な物ではない。
少しずつでも確実に自分の足で進め。
先ずは、その貧弱な体を鍛える事からな」
全くの正論で、リベラは何も言い返せなかった。
悄然としてウェイト・バンドを拾い上げた彼女は、その重さに目を見張る。
「大した効果は得られないが、何もしないよりは増しだろう。
肉体を鍛えて無手の強さを得る事は、精神の余裕に繋がる。
強い武器を欲する心は解るが、武器で強さを得た者は無手の状態を恐れるが故に、
武器だけを求める事は愚かだ。
武器が無ければ何も出来ない者にはなりたくなかろう」
ビシャラバンガは彼にしては珍しく、長々と語り始めた。
「奇手への対抗策は、先ず落ち着く事。
如何なる時も、平静さを失ってはならぬ。
不意打ちを避ける『先読み』の極意は、予兆を捉える事にある。
剛直さの中にも撓やかさを忘れず、体術と同時に観察眼も研くのだ」
「あ、有り難う御座います……」
最初の辛辣さとは裏腹の、意外に真っ当で親切な助言に、リベラは戸惑いながらも感謝した。
- 28 :
- 彼女は素直に、ウェイト・バンドを四肢に巻き付けて過ごした。
事情を知らないワーロックは、変わったファッションだなと思って尋ねる。
「リベラ、そのバンドは?」
「これ?
ビシャラバンガさんに貰ったの」
「へー、あのビシャラバンガ君が……」
人に物を贈る様になったのかと驚嘆の息を吐くワーロックに、リベラは誤解が無い様に言い添えた。
「私も少しは戦える様にならないと……と思って」
「あぁ、それで……」
ワーロックは納得した後、小さく苦笑する。
「いや、それにしても……地道な訓練だなぁ」
外道魔法使いに対抗するにしては、余りに心許無く、故に健気だ。
リベラが少し表情を曇らせたのに気付き、彼は慌てて言い直した。
「ム……、その、何と言うか、ビシャラバンガ君らしいと言うか、正道だな。
良い事だと思うよ」
リベラは俯いて、小さな溜め息を吐く。
「私にも、お養父さんの様な魔法が使えれば……」
「それは無理だ。
お前の人生は、お前の物。
お前は私ではないし、私にはなれないのだから」
ワーロックは優しく微笑んで断言した。
- 29 :
- 「魔法」と言う物を、リベラは未だ完全には理解していない。
理解する必要は無いと、ワーロックは思っている。
彼は養娘のリベラが危険に飛び込む事には、反対だった。
リベラは俯いた儘で、ワーロックに言った。
「私も『私の魔法』が欲しい……」
「どんな魔法?」
「どんなって言われても……。
だから、お養父さんみたいな?」
ワーロックは彼女や仲間達の窮地を何度と無く、その不思議な魔法で救って来た。
奇跡を起こす『素敵魔法<フェイブル・マジック>』。
それがワーロックの魔法。
「私が思う私の魔法と、お前が思う私の魔法は、多分違うよ」
難解な答に、リベラは眉間に皺を寄せる。
「えーー……、それは詰まり、お養父さんの魔法は、私が思ってる様な魔法じゃないよって、
そう言いたいの?」
「大事なのは、何の為に魔法を使うか……。
『私の様な』ではなく、自分の言葉で、自分の考えで、魔法を選ぶんだ」
「それで、『お養父さんみたいな』魔法使いになれる?」
ワーロックは困惑を露にし、呆れ混じりの笑みを見せた。
- 30 :
- 養父に失望されたと、リベラは感じた。
焦りを露に何とか言い繕おうとする彼女を、ワーロックは優しい眼差しで制する。
「私やラントとは違い、お前の未来には無限の可能性がある。
今から生き方を決め付ける事は無い。
目先の戦いに備えるなら、今は体を鍛えて、少しでも堅実に立ち回る事を覚えた方が……。
しかし、体術の基礎は既に教えているしな……」
ワーロックは暫し思案すると、思い定めて徐に面(おもて)を上げた。
「一つ聞くが、お前は私の魔法を、どんな物だと思っているんだ?」
養父の問いに、リベラは殆ど迷わずに答える。
「何でも出来る、奇跡の魔法」
それを聞いたワーロックは、一瞬だけ呆れの笑みを見せた後、直ぐに表情を引き締めて否定した。
「違う、見せ掛けに囚われるな。
本当に『私の魔法』を使いたいと言うなら……。
魔法とは基本的には魔力を使う物で、どの魔法でも変わらないと言う事は解っているな?」
養父が「魔法」の事を教えてくれる気になったのかと、リベラは希望を持ち、張り切って頷く。
「はい!」
分かり易い子だと、ワーロックは内心でリベラを可愛く思うも、面には出さずに語り始めた。
「各魔法の違いは、言語の違いの様な物なんだ。
言語は単語や文法が違っても、人に自分の思いや考えを伝える為の物と言う根幹は一緒。
魔法も魔力に働き掛けて、現象を引き起こすと言う根幹は同じ。
魔力への働き掛け方には様々な方法があって、その違いによって『何とか魔法』と、
区別されているに過ぎない」
「はい」
リベラは彼の話に真剣に聞き入っている。
「魔力の発動には『合図』が必要だ。
共通魔法で言う『発動詩』に相当する様式が、どの魔法にもある。
そこを押さえる事で、あらゆる魔法の発動を妨害出来る」
ワーロックの話を理解する事が難しくなり、彼女は一度質問する為に手を上げた。
「はい、お養父さん、質問!」
「何だ?」
「どうやって押さえるの?」
- 31 :
- リベラの素直な疑問に、ワーロックは頷いて答える。
「私の魔法は『解る』事だ。
魔力の行使には目的があり、意図がある。
どんなに強い力を持っていても、それだけでは何の意味も持たない。
その力で何をするのか、それを解る事が重要だ」
「解れば、どうにかなる?」
「ああ、妨害だけじゃない。
言い方は悪いが、魔法を横取りしたり、乗っ取ったりも出来る。
究極的には、相手の魔法資質を利用する。
リベラ、お前は既に、その技術を知っている。
相手の精神に働き掛ける共通魔法だ」
「私にも出来るの……?」
その魔法はワーロックが口で言う程、簡単に出来るとはリベラには思えなかった。
彼女の不安とは裏腹に、ワーロックは養娘への信頼に満ちた力強い表情で頷く。
「相手を操る共通魔法で、自分より強い者を操れば、自分の力以上の魔法を使える。
大雑把に言ってしまえば、それと同じ事だよ」
「理屈では、そうだけど……。
『操る』って禁呪なんじゃ……。
それに自分より強い人って、簡単には操れないんじゃないの?」
「精神に働き掛けると言っても、意思を奪う訳じゃない。
例えば、こうして私が語る事でも、お前の心に影響は与えられているだろう?
そうした小さな事、言葉の一つ一つ、動作の一つ一つ、何もしていなくても、相手と自分が居て、
お互いを認識している事、全てが自分と相手に影響する」
今のリベラにワーロックの言葉は難し過ぎる。
どう言う物か頭で理解する所か、朧気なイメージを掴む事すら出来ない。
- 32 :
- 何とか解り易く伝えようと、ワーロックは苦心した。
「例えば、発動の合図が音や声であれば、同じく音や声で干渉出来る。
動作であれば、同じく動作で干渉出来る。
イメージするだけで発動する様な、途んでも無い魔法でも、相手にイメージさせれば干渉出来る。
それは『観察』すれば判る事だろう?」
「……はい」
リベラは難しい事だと思いながら頷く。
「相手の魔法が、何を切っ掛けに発動するのか、即座に見極めるのは難しい。
僅かな動作も見逃さず、微かな物音も聞き逃さず、集中力を保たなくてはならない。
だが、一度理解すれば、対処は易しくなる。
先ずは発動を見切って、相手の魔法に干渉する事。
これが『第一段階』だ」
養父の説明を聞いても、彼女は全く出来る気がしなかった。
第一段階と言う事は、より難度の高い第二、第三段階があると言う事。
「『第一段階』をクリア出来たら、次を教えよう」
次に到達出来る自信が無く、リベラは俯いてしまう。
それを見たワーロックは慌てて言い繕う。
「今の説明は『私の魔法』の物だ。
無理して私の魔法に付き合わなくても、お前は違う魔法を選ぶ事が出来る。
色々試してみれば良いさ。
直ぐに使える力が欲しいなら、ビシャラバンガ君の言う様に、体を鍛える事だ。
それが最も確実だろう」
力と言う物は、そう都合好く手に入らないのだと、リベラは自分を納得させた。
彼女の苦悩は暫く続く。
- 33 :
- a breather
- 34 :
- 「所で、ビシャラバンガさん。これって新品……ですよね?」
「ああ」
「……もし違っていたら恥ずかしいんですけど、いえ、可能性としては低いと思うんですが――」
「回り諄い言い方は止めろ」
「あの、もしかして、私の為に?」
「違う。『鍛錬は日常生活から』と言う宣伝文句が面白かったので、買ってみたのだ。
効果は期待外れだったがな。己には軽過ぎる」
(ビシャラバンガさんも衝動買いするんだ……)
「共通魔法を利用すれば、より性能の良い道具が出来ると思うのだが……」
「そこまでして筋肉を付けたいと思う人は、こんな物は買わないんじゃないんでしょうか?
今時、体を太くしたいって人は少ないですし……」
「確かに、腕力だけでは何にもならんからな。心技体、そして魔法が調和しなければ」
「ビシャラバンガさんは、未だ強くなりたいんですか?」
「強さを求めれば限が無い。心技体、魔法、何れを取っても、己は未熟だ。足りない物が多過ぎる」
- 35 :
- 「体(たい)は十分だと思うんですけど……」
「大きくなるばかりが体ではない。何事も調和が重要なのだ。己は体重を落とさずに、
機敏さと柔軟さを向上させる方法を追求している。現状では体重超過の向きが強い」
「は、はぁ、そうですか……」
「単に筋肉を付けるだけならば、もっと大きくなれるのだ。しかし、それでは機敏さを損なう。
グラバゴスの伝説を知っているか?」
「グラバゴス?」
「想像上の怪獣だ。無限に成長を続ける生物で、地上最大の巨躯と無双の怪力を誇ったが、
それでも成長は止まらず、体が重くなり過ぎて、自分の力では動けなくなった。
やがて大地もグラバゴスを支え切れなくなり、徐々に地中に埋まって行く。
多くの物がグラバゴスを助けようとしたが……、終に引き上げる事は敵わなかった。
今でもグラバゴスは星の中心に向かって、沈み続けていると言う」
「そんな伝説があるんですね」
「己はグラバゴスにはなりたくない」
「どこで、そんな話を?」
「師から聞いた。古い伝説だと。大地の震えはグラバゴスの嘆きだと言う」
「信じているんですか? グラバゴスの伝説」
「所詮は伝説だ」
「す、済みません……」
「謝るな」
「は、はい」
- 36 :
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- 37 :
- 離反の勧め
所在地不明 反逆同盟の拠点にて
魅了の魔法使いラントロックは、反逆同盟の将来に不安を感じて、離反の意志を固めていた。
ある日、彼は暗黒魔法使いのビュードリュオンに借りていた医学書の一冊を返却する序でに、
それと無く尋ねてみる。
「ビュードリュオンさん、反逆同盟は今の儘で大丈夫だと思う?」
行き成りの問い掛けに、魔術所を黙読していたビュードリュオンは少し戸惑いを見せたが、
直ぐに冷静に答えた。
「知らんな」
その反応にラントロックは離反に誘うか迷った物の、鎌を掛けて様子を見る。
「……俺は正直、長くはないと思ってる」
「何故そう思う?」
ビュードリュオンはラントロックを直視せず、興味の無い風を装っている。
「少しずつ同盟のメンバーが減っている事に気付いてないのか?」
「……他人の事には興味が無い」
ビュードリュオンは僅かな動揺を見せた。
他人の事に興味が無いと言うのは本当で、メンバーが減っている事にも気付いていなかった。
「この儘だと、俺達も何時か……」
不安を煽るラントロックに、ビュードリュオンは心の騒(ざわ)めきを抑えて問う。
「それで?
どうすると言うんだ?」
- 38 :
- ここからが話の肝だ。
ラントロックは決意して提案した。
「逃げないか?」
「逃げて、どうする?」
「どこか誰の手も届かない所で、静かに暮らす訳には行かないのか」
ビュードリュオンは本を手にした儘、沈黙した。
その目は魔術書の一点を見詰め、その手は完全に止まっている。
明らかに「読んでいない」と判る。
「研究に没頭出来るなら、どこでも構わない。
だが、その環境をお前は用意出来るのか?
誰にも邪魔されず、脅かされる事も無く、静かに研究を続けられる環境を」
ビュードリュオンは初めて、ラントロックに目を遣った。
「暗黒魔法は外道中の外道。
邪術とも呼ばれ、忌避されて来た魔法だ。
何をしても口煩く咎められる事が無い、今の環境に不満は無い」
彼の部屋には暗黒儀式に用いる道具が、其処彼処に置かれている。
処刑道具の様な器具に、動物の外皮や臓物、切り落とされた頭や手足等の部位。
何に使うのか門外漢のラントロックには判らないが、「良識的な」他者の目に触れれば、
「研究」を止めろと介入される事になるのは、想像に難くない。
ラントロックも出来れば残酷な儀式は止めて欲しいと思う。
ビュードリュオンは最後に自嘲気味に零した。
「所詮、人の社会では生きられないんだ」
それは「共通魔法社会」に限らず、他者の理解を得られないと言う、諦めの言葉だった。
- 39 :
- ラントロックはビュードリュオンに尋ねる。
「どうして、そこまで暗黒魔法に拘るんだ?」
生まれ付いての暗黒魔法使い、或いは代々受け継いで来たなら、仕方の無い事だと思う一方で、
そうでないとしたら何故拘るのか、彼には理解し難い。
ラントロックの見立てでは、ビュードリュオンは生まれ付きの暗黒魔法使いでは無い。
魔法の使い方で判るのだ。
使い慣れてこそいる物の、どこか違和感がある。
彼の魂は暗黒魔法に馴染んでいないと、魔法資質が感じ取っているのだ。
ビュードリュオンは短い沈黙の後、逆にラントロックに質問した。
「……私は何歳(いくつ)に見える?」
「えっ、30か40……」
ビュードリュオンの年齢は、外見からは正確な所は判らない。
20代と言われれば、そうとも思えるし、40代でも違和感は無い。
態度からして若くはないが、50まで行かないのではとラントロックは思う。
しかし、ビュードリュオンの答は……。
「もう90近い。
私は若い頃、内臓が腐る原因不明の病に冒されていた。
苦痛と絶望の只中にあった、当時の私の救いになったのが、暗黒魔法だった。
共通魔法も近代医学も無力だった中で、唯一の救いだったのだ。
私は外道と知りながら、命惜しさに飛び付いた」
彼は漆黒のローブを捲り、「胴体」を見せ付けた。
腹の一部は浅黒く、一部は白く、一部は青紫、毛深さや肉付きも区々で、歪に縫合されている。
「先ず不老不死になり、そして病を克服する方法を探した。
しかし、未だに完全な治療法は見付かっていない。
内臓を腐り落ちる側から補い、騙し騙し体を繋いで、70年以上になる。
苦痛は今も続いている。
もう十分だと常人なら思うのだろうが、生憎と私は往生際が悪い。
何とか健康体を取り戻したい」
ラントロックが言葉を失って唖然としている事に気付き、ビュードリュオンは自嘲気味に笑った。
「詰まらない話をしたな。
帰れ」
ラントロックは何も言えず、悄々(すごすご)と退散する。
- 40 :
- 次に、ラントロックはニージェルクロームの元を訪ねた。
ビュードリュオンに断られた事はショックだったが、同盟の中では若く比較的年齢が近い、
ニージェルクロームには未だ幾らか話が通じると思った。
「ニージェルクロームさん、反逆同盟は大丈夫だと思う?」
「どう言う意味だ?」
警戒心を持たず、純粋に疑問を持つニージェルクロームに、ラントロックは少し安心する。
「魔導師会に負けるんじゃないかって」
「ハハッ、俺が居る限り、それは無い」
所が、ニージェルクロームの返答は強気だった。
「俺は竜の力の一部を使い熟せる様になった。
見せてやるよ」
力を試す機会を待っていたかの様に、彼は意気揚々と竜の力を披露する。
「古の竜アマントサングインよ、我が呼び掛けに応え、その力の片鱗を顕し給え」
自らの手の平から腕に掛けて、血管に沿う様な文様を描き、奇妙な呪文を唱えた彼は、
明確に魔法資質が増大している。
特に、文様を描いた腕に纏っている魔力が、尋常ではない。
「これを俺は『竜の爪』と呼んでいる」
そう得意気にニージェルクロームは語った。
成る程、彼の腕を覆う魔力は恰も、巨大な鋭い爪の様な形を取っている。
- 41 :
- 膨大な魔力に恍惚としながら、ニージェルクロームはラントロックに警告した。
「少し下がってな」
彼は破壊衝動の儘に、「下」に向けて力を発散する。
軽く石床に手を突いただけなのに、「爪」が深々と床に食い込んで、罅だらけにしてしまう。
同時に地震が起きた様に、建物全体が一度だけ大きく揺れた。
「どうだ、素晴らしいだろう」
ニージェルクロームは完全に自惚れていた。
ラントロックは竜の力の大きさに戦慄しながらも、改めて問う。
「それで魔導師会に……?」
対抗出来るのか、勝てるのかと、彼は言いたかった。
ニージェルクロームは過剰な程の自信を以って答える。
「未だ竜の力の1割……否、1厘しか引き出していない。
誰だろうと敵じゃないさ。
何も心配は要らない。
同盟に仇為す存在は、俺が蹴散らしてやる」
彼は駄目だとラントロックは見切りを付けた。
力に耽溺し、冷静に物事を考えられる状態ではない。
その驕傲自大振りが叩き折られるまでは、何を言っても無駄だ。
「御免、少し不安になっていたんだ。
有り難う、それじゃ」
ラントロックはニージェルクロームに口だけの礼と別れを告げて立ち去る。
- 42 :
- その次に彼が訪ねたのは、石の魔法使いバレネス・リタの元。
リタは石の仮面を装着して、ラントロックと相対した。
彼女の瞳には石化の魔性がある。
仮面は無闇に人を石化させない為の配慮だ。
「何か用?
……あ、先(さっき)の揺れの原因、判る?
強い魔力を感じた。
地震とは違う」
リタは第一に、建物が揺れた事を気にしていた。
原因を知るラントロックは素直に話す。
「ニージェルクロームさんだよ。
竜の力を引き出したんだ」
「竜……、あれが……」
リタは表情を引き締めて静かに驚愕した後に、ラントロックに改めて尋ねた。
「それで、貴方の用事は?」
少し話をした事で、幾らかリタの態度は和らいでいる。
ラントロックは先の2人に言った様に、同盟の将来に関して抱いている不安を告げる。
「反逆同盟の現状に就いて、どう思う?」
彼は真剣である事を示す為に、石化する覚悟でリタの仮面の瞳を直視した。
その勢いにリタは内心では驚きつつも、怯んだ様子は見せず冷静に言う。
「最近少し停滞気味か……。
その内、大きな作戦があると思う」
「大きな作戦?」
それは何かと訝るラントロックに、彼女は隠し事をせず答えた。
「マトラ、フェレトリ、クリティア、それにジャヴァニとヴァールハイト……否、ゲヴェールトだったな。
揃って何かを企んでいるらしい。
碌でも無い事だとは思うが、少なくとも同盟の現状打破に繋がる事だろう」
ラントロックは細い自信の無さそうな声で尋ねる。
「上手く行くと思う?」
「あれだけの面子が揃って、失敗する事は中々考えられない。
……何時でも『想定外』は起こり得る物だけど」
リタは「大きな作戦」に、それなりの信頼を置いている様だ。
今直ぐ同盟を離脱する考えは無いだろう。
- 43 :
- ラントロックは一つ気になって、リタに問うた。
「リタさんは同盟の活動を、どう思ってる?」
「『どう』とは?」
「人を苦しめたり、殺したりする事に就いて、何とも思わないのか」
リタはラントロックを鋭い目付きで睨んだ。
仮面を着けていても明確に判る程の殺意があった。
気圧され掛けたラントロックだが、直ぐに心を強く持って逆に睨み返す。
石化の魔性と、魅了の魔性が、正面から打付かり合って、互いに無効化される。
ラントロックが石化しない事に、リタは少し驚いたが、強い言葉を吐いて誤魔化した。
「言葉には気を付けろ」
「どうして、そんなに怒るんだ?
……やっぱり同盟の遣り方は間違ってると思ってるのか?」
それでもラントロックは躊躇わず踏み込んだ発言をする。
リタは冷静な、しかし、隠し切れない怒りが滲んだ声で答えた。
「『石女<バレネス>』の意味が解らぬ訳ではあるまい。
子を宿せぬ女は、実を結ばぬ『不毛<バレン>』の女と言う事だ。
そう言う女達の無念から、私は石の魔法を得た。
私自身も石女だったので受容された」
彼女は石の様に冷たい指で、ラントロックの頬に触れる。
その爪だけは赤く染められており、丸で紅を塗った白磁の如き。
「石女は旧暦から差別の対象だった。
当然、私も同じく。
人は劣った者を見下し、自らの優位を保とうとする。
それが本能に由来するならば、人と言う生き物に救いはあるのか」
- 44 :
- filler
- 45 :
- ラントロックは愕然として尋ねる。
「……貴女は共通魔法社会じゃなくて、人間その物を憎んでいるのか?」
それにリタは答えず、全く関係の無い事を言った。
「不妊と言うだけで、私が愛した者、私を愛した者が、全て敵に変わった。
この能力(ちから)は復讐の為に得た。
私を罵り、苦しめて来た者達への復讐に……。
だが、復讐を果たした後に残った物は、Rない石の体と、虚しさだけだった。
人が死のうが生きようが、私の知った事では無い」
ラントロックはリタの腕を掴み、頬を撫でる指を離させる。
「同盟は、どうでも良いのか」
真剣に問い詰める彼に、リタは目を伏せた。
「フェミサイドやチカとは仲良くなれそうだったが……。
向こうに、その気が無いのではな」
フェミサイドもチカも「人間」に恨みを持っていたが、皆根源が違う。
フェミサイドは「女」、チカは「社会」、リタは「家庭」と、微妙に噛み合わない。
それぞれ近い部分はあるのだが、当人達の意識では、少しの差が大きな違いなのだ。
反逆同盟の中で、目的が一致している者は誰も居ないのではと、ラントロックは感じた。
共通魔法社会から食み出した者、弾かれた者ではあるが、その事情は様々で故に協調出来ない。
反社会的性格を持った者が集まり、単に同じ場所に身を置いているだけの事。
それでは良くないとラントロックは危機感を持っている。
だから、魔導師会との戦いで貴重な人員を失う破目になるのだ。
やはり同盟は長くないと改めて彼は思う。
- 46 :
- ラントロックはリタに対して最後に1つ質問をした。
「リタさん、もし反逆同盟じゃなくて……。
新しい居場所があったら、そこに行く?」
リタは静かに首を横に振る。
「どこに居場所があると言うんだ?
平穏な暮らしを得て、私に何をしろと言うんだ?
もう帰ってくれ」
彼女は悲し気にラントロックに背を向けると、机の上に置いてある石の赤子を抱き上げて、
愛(あや)し始めた。
優しい子守唄を歌いながら……。
「眠れ、眠れ、静かに眠れ。
可愛い坊やが寝ている間に、悪い物は過ぎ去って行く。
眠れ、眠れ、何時でも母が傍に居る。
安心して眠れ……」
石人形を抱いて愛した所で、泣きも笑いもしないと言うのに。
リタは母性愛を注ぐ相手に飢えているのだ。
そして、それは何をしても癒される事が無い。
平穏な中では、子を得られない苦痛が益々大きくなる。
そこまで「我が子」に固執する事は無いだろうと思う人も居るかも知れないが、彼女にとっては、
我が子を持つ事は永遠の憧れであり、呪縛なのだ。
石の体では乳は出ないし、子を抱いて温めてやる事も出来ない。
その虚しさの穴埋めに、魔法で造った石の赤子を抱いて、子育ての真似事をしている。
リタの行動に狂気を感じたラントロックは、説得を断念して撤退した。
- 47 :
- 結局、反逆同盟から離反しようと言う者は居なかった。
自分の誘い方が悪かったかも知れないと、ラントロックは反省する。
最後の最後に、彼はジャヴァニの元を訪れた。
ジャヴァニはマスター・ノートで未来を予知している。
もしかしたら、ラントロックが離反する事も、彼女の中では「既知の事実」かも知れない。
それを覚悟でラントロックは敢えて、ジャヴァニと対面する。
離心を知られているなら隠そうとしても無駄。
自ら働き掛ける事で、反応を見ようとしたのだ。
「ジャヴァニさん」
彼が部屋の戸を叩いて名を呼ぶと、直ぐにジャヴァニは出て来た。
しかし、何時もの澄ました顔とは違い、深刻な悩みを抱えている様な、陰鬱さと重苦しさがある。
「トロウィヤウィッチ……。
話は解っています」
「それなら答えてくれ。
同盟の将来に就いて」
ラントロックは単刀直入に問うたが、ジャヴァニは首を横に振る。
「今の時点では、確定的な事は申し上げられません」
ラントロックは目付きを険しくした。
「何の為の予知魔法なんだ?」
ジャヴァニは申し訳無さそうに目を伏せて、弱々しい声で応える。
「今、同盟の未来は大きな分岐点に差し掛かっています。
岐路の片方は安泰の道、もう片方は苦難の道」
「その分岐点ってのは、例の『作戦』か?」
ラントロックはリタが言った「大きな作戦」を持ち出して、鎌を掛けてみた。
- 48 :
- 彼自身は作戦の内容を知らないが、事情通の振りをして、情報を引き出そうしていた。
ジャヴァニは驚いた顔をして、マスター・ノートを捲る。
ラントロックは余裕を見せる為に、声を抑えて小さく笑い、彼女を揶揄した。
「ノートには書いてなかったか?」
「……誰から、その話を?」
「誰と言う事は無いけど。
何人か集まって、裏で窃々(こそこそ)やってるみたいだからさ」
一時は動揺を露にしたジャヴァニだが、ラントロックの言葉を聞いた途端に落ち着きを取り戻す。
「そうですか……。
同盟の現状に御不満や御不安が、お有りかも知れませんが、今少し時をお待ち下さい。
その結果次第で、『確実な』話をしましょう」
彼女の態度の変化は、一体何が原因なのかとラントロックは戸惑った。
他人と駆け引きをするには、今の自分は若過ぎるのかとも思った。
詳細を語らずに誤魔化した事で、逆に大した情報を持っていないと見破られてしまい、
相手に安心感を与えてしまったのかも知れない。
或いは、ラントロックの反応が予知通りであったか……。
「それでは」
ジャヴァニは柔和に微笑んで、戸を閉めてしまった。
だが、ラントロックには得る物があった時間だった。
彼は収穫を冷静に分析する。
- 49 :
- 最初のジャヴァニの憔悴振りや慌て振りが演技でないならば、やはり同盟の現状は余り良くない。
何時決行されるのかは不明だが、今度の「大きな作戦」とやらが、同盟の将来を左右するのは、
先ず間違い無い。
それが成功すれば、同盟は安泰。
失敗すれば、窮地に陥る。
ジャヴァニの反応からして、成功率は五分五分か、少々分が悪い位。
彼女が予知の不確定要素を重く見ているなら、6割以上――7、8割の高い成功率でも、
あの様な反応を示す可能性がある。
殆ど10割に近い、略(ほぼ)確実と言える状況なら、あの様な姿を見せる事は無い。
演技をする理由も特に思い浮かばない。
強いて挙げるなら、ラントロックの反応を引き出す狙いかも知れないが……。
予知で全て分かっているなら、仲間を不安にさせて良い事は無い。
(ジャヴァニさんの言う通り、もう少し様子を見てみるか……)
離脱を諦めた訳ではないので、準備だけは進めるが、「大きな作戦」の全貌が判明してからでも、
遅くは無いだろうとラントロックは考えた。
作戦の失敗は同盟の凋落を意味し、愈々組織の崩壊が進行するだろう。
失敗せずとも作戦が悪逆非道な物であれば、同盟に留まっていても良い事は無い。
何時その非道が自分達に向くかも分からないのだから。
この場合は大きな作戦に集中している内に、密かに離脱する。
どちらでも無い時の事を、ラントロックは考えていなかった。
必ず、凶悪で非道な作戦を実行するか、そうでなければ作戦は失敗すると決め付けていた。
根拠は明言出来ないが、そんな確信があるのだ。
- 50 :
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- 51 :
- 美しさとは
第四魔法都市ティナー中央区 繁華街 アーバンハイトビル3階 L&RCにて
ある時、旅商の男ラビゾーは、L&RC(※)の女社長であるイリス・バーティに尋ねられた。
「私って綺麗?
美人だと思う?」
行き成りの事に彼は戸惑い、返答に詰まって、目を白黒させる。
イリス・バーティの本名はバーティフューラー・トロウィヤウィッチ・カローディア。
魅了の力を持つ舞踊魔法使いである。
イリスとは彼女が共通魔法社会で生きて行く為の、偽名の1つに過ぎない。
イリス事バーティフューラーとラビゾーの関係は、正に友達以上恋人未満と言う表現が適切だ。
互いに悪からず思っている物の、そこから踏み込めないでいる。
その原因は主にラビゾーの側にあり、その事を度々バーティフューラーは冗談めかしつつも、
遠回しに責める。
ラビゾーは先の問い掛けを、バーティフューラーが彼を困らせる為に言う何時もの冗談と疑ったが、
彼女の眼差しは真剣その物。
女としての自信が揺らぐ様な事でもあったのかと、ラビゾーは眉を顰めた。
「何があったんです?
誰かに何か言われたんですか?
それとも誰かに振られたとか、冷たくされたとか?」
「そんな訳無いじゃない。
良いから答えて」
強い口調で回答を迫られ、彼は困り顔で答える。
「一般的な評価で言えば、『美人』の部類に入るんじゃないでしょうか?
好みは人それぞれですけど、少なくとも醜いと言う人は居ないでしょう。
本心からじゃなくて、憎まれ口や悪口で、そう言う人は居るかも知れませんが……」
バーティフューラーの表情が少し険しくなった。
「何で『一般的な評価』が出て来るの?」
「何に『美』を見出すかは、個人的な感覚の問題ですから……」
ラビゾーの答を聞いた彼女は、聞こえよがしに大きな溜め息を吐き、失望を露にする。
「そう、そうね。
模範解答、御苦労様。
アンタの言う通り、美しさに『絶対』は無いわ。
このアタシと言う例外を除いてはね!」
※:L&RC=恋愛相談室。
主に女性向けの恋愛関係、交友関係、夫婦関係の相談を受け付けている。
有名と言う訳ではないが、そこそこ評判は良い。
- 52 :
- filler
- 53 :
- それは魅了の魔法を使うと言う、舞踊魔法使いとしての誇りだろう。
バーティフューラーは「美しい」と言う評価を、他人に譲らない。
彼女から離れて行く男は、彼女を「諦める」のであり、他の女の美貌が彼女に勝るのではない。
そうでなければ、「美」以外の価値を他の女に見出すのだ。
「人が物を好きになる心理を教えて上げよっか?
人は初めて強い印象を受けた物を、『好き』だと誤解するの。
世の中に、本当の『好き』なんて無いのよ」
唐突に始まった説教に、これ以上機嫌を損ねられない様に、ラビゾーは同意する。
「どこかで聞いた事があります。
『初めて』が忘れられないのは、その所為だとか」
「そう、『恐怖』や『緊張』、『期待』から来る悸々(ドキドキ)と、好意の区別を人は付けられない。
好きだから緊張するのか、緊張するから好きなのか、お馬鹿な人類には判らないの。
怒りも憎しみも悲しみも、愛に摩り替わってしまうのよ。
良いも悪いも無くて、そこには唯、悸々があるだけ。
それだけなら未だしも、より強い悸々を求めて、明後日の方向に捻じ曲がって行っちゃう。
こんなの欠陥だわ」
ラビゾーには彼女が何を言いたいのか、皆目見当が付かなかった。
そんな彼を放置して、バーティフューラーは続ける。
「だから、『初めて』は人の一生を左右するの。
上書きしたければ、もっと強い悸々で塗り潰すしか無い」
ここでラビゾーは「初恋」の事を言っているのかなと察した。
彼が今一つバーティフューラーの誘惑に乗り切れないのは、恋人の記憶に未練があるから。
名前を奪われた所為で、過去の記憶が薄れているラビゾー自身には、そんな積もりは無いのだが、
そうに違い無いとバーティフューラーは言う。
言い切られると、そうかも知れないと言う気になって来るのが、彼の仕様も無い所だ。
- 54 :
- 地雷を踏まない様に、ラビゾーは密かに話題を他の方向へ誘導した。
「バーティフューラーさんは、こんな話を知っていますか?
『初めて』が忘れられないのは、過ちを認められないからと言うのも、あるらしいですよ」
「フーン、そうなんだ?」
バーティフューラーは滅多に自分から物を語らないラビゾーの話に、興味を惹かれた様子。
聞き手に回って、彼の次の言葉を待っている。
「例えば、恋人が浮気をした時。
恋人じゃなくて浮気相手を責める心理が、そうだと言います。
浮気をするのは『誘惑する人が居るから』と。
これは『惚れた側』に多い心理だそうで。
惚れた弱味とは昔から言いますが……。
別れ話を切り出されても、相手を責めるより、自分を責めてしまう。
自分が選んだ人は素晴らしい人なんだと、信じたい気持ちがあるそうです」
「どこで聞いたの?」
しかし、余り信じていない様子で、バーティフューラーは冷たい言葉を放った。
どこだったかと、ラビゾーは懸命に思い返す。
「どっかの偉い心理学の先生が書いた本だったと思います。
本の名前までは憶えていませんが……。
大分前に、市内の図書館だったかな。
暇潰しに読んでいて、妙に納得した覚えがあります。
……色恋には疎いので、そう言う物だと思い込んだだけかも知れませんが」
一瞬の奇妙な沈黙。
会話の主導権をバーティフューラーに渡すまいと、ラビゾーは逸早く次の言葉を口にする。
「何も色恋だけじゃなくて、他の物でも同じらしいですよ。
例えば、音楽や物語でも、誰かの二番煎じが、その人にとっては初めての場合。
盗作だ何だと言われようと、懸命に擁護するとか。
自分の『感動』が間違った物だと認めたくないから、そうした行動に出る……。
実際、間違ってはいないんでしょう。
感動したのは事実なんですから。
我慢ならないのは、それに怪事(ケチ)を付けられる事の方で。
顔に泥を塗られる、誇りを傷付けられる、馬鹿にされる、それが耐えられない。
料理でも本場物と偽って安物を掴まされた時に、似た様な反応をする人が居るそうです。
自分を騙していた人より、真実を暴いた人を恨んでしまう。
人間、自分が可愛い物なんです」
彼が話終えると、又も沈黙が訪れた。
「それで終わり?」
バーティフューラーが何の感動も得られなかったかの様に言うので、ラビゾーは頷く他に無い。
「え、ええ、はい」
- 55 :
- 3度目の気不味い間。
バーティフューラーは眉間に指を押し当て、ラビゾーが先の心理学的知識を披露した意図を、
探り当てようとしていた。
「詰まり……。
アンタは自分に、それ程価値が無いって言いたい訳?」
「えぇ……、そんな事は一言も言ってないですけど……」
どうして、その結論に至ったのか、ラビゾーは理解出来ずに困惑する。
彼は決して自信を持って「自分に価値がある」とは断言出来ないが、卑下した積もりは無かった。
バーティフューラーは慌てて発言を撤回する。
「今のは無し、聞かなかった事にして」
「無し」と言われて、本当に無かった事にしてしまうのが、ラビゾーの情け無い所だ。
深く追及すれば、面倒な話になると理解している。
他方、バーティフューラーは先の発言を誤魔化す為に、必死に次の話題を探している。
「えーと、何の話だったかしら……。
そうそう、『初めて』の話だったよね。
『初めて』は特別な物で、だから忘れられない」
結局そこに帰って来てしまうのかと、ラビゾーは肩を落とした。
2人の関係に触れそうな話題を避けようと言う、彼の誘導は徒労に終わった。
「どんなに下らなくても、それが初めてなら、仕様が無いのかな……」
悩まし気に暈(ぼ)やくバーティフューラーに、「何の事ですか?」とラビゾーは聞けなかった。
- 56 :
- その代わりに再び無駄な知識を披露する事で、懲りずに話題の回避を試みる。
「喜劇に感銘を受けた人は、進んで喜劇を鑑賞する様になり、悲劇に感銘を受けた人は、
進んで悲劇を鑑賞する様になる。
旧暦の劇作家アグノバクルムの言葉だったでしょうか……。
人は真に面白い物を求めているのではなく、過去に面白いと感じた物の追体験を求めている。
自分が学んで来た事だけが、唯一の正義であり、真実であると言う呪縛から逃れられない。
故に、世の中に『本当の物』は唯の一つも無く、人は過去の奴隷に過ぎない」
彼の発言に、バーティフューラーは目を丸くしていた。
「『虚無主義者<ニヒリスト>』なの?」
「苦労が多いと、達観する事も多くなって来ます。
基本、個人は無力な物ですから。
それでも何も彼もを諦める程、老け込んではいない積もりですが」
「アンタ、無駄に苦労してそうだ物ね。
要領が悪いし、融通が利かないから」
バーティフューラーは苦笑しながら言う。
彼女のラビゾーに対する発言は容赦が無い。
しかも的確だから、ラビゾーは何も言い返せない。
少し間が空いて、バーティフューラーは真剣に尋ねた。
「……本当に『世の中に本当の物は一つも無い』って思ってるの?」
急に声色を変えた彼女に、ラビゾーは悸(どき)りとして、息を呑んだ。
そして、心を落ち着かせながら、自分の意見を述べる。
「残念ながら、万人に通じる普遍の真理なんて物は存在しないんでしょう……。
それでも僕は僕の……」
「信念を貫きたい」と言い掛けて、彼は口を噤んだ。
「これが自分の信念だ」と言い切れる程、大層な物は持っていないのだ。
- 57 :
- 今一つ自信を持てないラビゾー。
一方で、バーティフューラーは彼の秘めた「信念」を知っている。
それに救われた者が、自分を含めて決して少なくないと言う事も。
だから、彼女は。
「アタシにとって、アンタは初めての人だった」
唐突な告白をしたバーティフューラーに、ラビゾーは慌てて発言の修正を求める。
「それは誤解を招く表現ですよ!」
「ここにはアタシとアンタしか居ないのに?」
2人が居る場所は、L&RCの応接室。
実は、L&RCの従業員の一人(ファアル)が無作法にも聞き耳を立てているのだが、
そんな事は知る由も無い。
バーティフューラーは感慨深く続ける。
「多分、同じ『外の人』でも、アタシが出会ったのがアンタじゃなかったら。
アタシは今ここに居なかった……かも知れない」
バーティフューラーは呪われた一族。
男を虜にするから、村外れで暮らす他に無かった。
そこへ宛がわれたのが、外者である「ラヴィゾール」。
しかし、彼は過去への未練から、バーティフューラーの誘惑を振り切って、村を出て行った。
それを追う様に、バーティフューラーも村を出て……。
「だから、アタシは探してるの。
アンタの存在を上書き出来る様な悸々を」
「……見付かると良いですね」
ラビゾーは心にも無い事を言う。
バーティフューラーの口からは、失望の溜息が漏れる。
- 58 :
- >>56
「追体験」ではなく「再体験」が正しいようです。
追体験はドイツ語「Nacherleben」の和訳であり、「或る体験を自分の物とする事」だそうです。
(広辞苑より)
「Nacherleben」は「nacher(後から)」+「leben(生きる)」の意味。
英語ではreliveで、どちらでも再体験と追体験の区別はしない様です。
- 59 :
- (屹度、無理だわ)
彼女は内心で、恐らくラビゾーを超える男には出会えないであろう事を悟っていた。
ここは何千万もの人間が集まる、大都会ティナー市。
ラビゾーより容姿が良い男は、山と居る。
ラビゾーより力強く、頼りになる男も、山と居る。
その両方を兼ね備えた男も、山と居る。
それでも彼女の中の一番はラビゾーの儘で、不動の地位を占めているのだ。
何故かと自問しても、全く解らないから尚困る。
気紛れに他の男と付き合っていても、ラビゾーの事が散ら付いてしまう。
彼の方から振ってくれれば良いのにと思わないでも無いが、やはり『自尊心<プライド>』が許さない。
どんな男でも魅了の魔法に引っ掛かる時点で、バーティフューラーの中では「格」が落ちてしまう。
相手が熱を上げれば上げる程、逆に彼女は冷めて行く。
中には魅了の魔法が効き難い男も居たが、女に興味を持っていないか、既に意中の人が居た。
彼等を強引に魅了して服従させた所で、後に残るのは虚しさだけ。
ラビゾーが想いに応えてくれない理由を、バーティフューラーは知っている。
彼は記憶を取り戻して一人前の魔法使いになるまで、色恋に溺れている暇は無いのだ。
バーティフューラーには彼が自分を好いてくれていると言う確信があるが、2人が両想いになるには、
ラビゾーの男性的な理想像に対する『感情複合<コンプレックス>』を解消させる必要がある。
これは女を抱けば吹っ切れると言う様な単純な物ではなく、安易な方法では寧ろ問題は複雑化する。
彼女が幾らラビゾーが自信を持てる様に、彼の男を立たせようとしても、彼の心は動かない。
下手をすると、ラビゾーは世話を焼いて貰っていると自覚して、逆に凹んでしまう。
追い詰め過ぎると、ラビゾーはバーティフューラーから離れて行く。
自分は彼女に相応しい男ではないと、愚かな謙虚さを発揮して、身を引いてしまうのだ。
魅了で誰でも言い成りに出来る筈のバーティフューラーが、唯一思い通りに出来ない男、
それが「ラヴィゾール」。
面倒臭い。
余りにも面倒臭過ぎて、バーティフューラーは彼を放り投げたくなる。
そして実際に放って置くと、どうだろう。
ラビゾーは疲れた顔で、変わらない毎日を過ごし始めるのだ。
- 60 :
- それはバーティフューラーの主観で、本当はラビゾーは疲れた顔をしている積もりは、
少しも無いのかも知れない。
だが、「彼女には」、そう見えて放って置けなくなる。
共通魔法使いが暮らす中に独り、自分の魔法を求めて彷徨う彼を、自分と重ねずには居られない。
嘗て、絶胤の女として隔離されて暮らさざるを得なかったバーティフューラーが、最初に出会った男、
ラヴィゾール。
彼は彼女の孤独を癒した最初の男であり、彼女の誘惑を振り切った最初の男でもある。
忘れろと言う方が無理なのだ。
もしラビゾーが永遠に未熟な儘で、バーティフューラーと夫婦になる将来が訪れなくとも、
彼女は今の彼との関係を続けるだろうと言う、奇妙な確信がある。
ラビゾーが別の『伴侶<パートナー>』を選ばない限りは、彼女も新たな伴侶を得られない。
その事を言ってしまうと、やはり彼を追い詰めてしまうので、決して口にはしないのだが……。
バーティフューラーは自分自身への呆れから溜め息を漏らし、諸事の根源であるラビゾーに対して、
当て付けの嫌味を言った。
「そう言うアンタは見付かりそうなの?
自分の魔法」
ラビゾーは苦笑いして俯く。
未だ未だ、その日は遠い。
情け無い男だとバーティフューラーは思うが、彼を嫌いになり切れない。
俯くのは恥を知っているから。
想いに応えられない事を申し訳無く思っているから。
「理想に現実が追い付かない気分は如何?」
「苦しいです……が、人生そんな物なんじゃないかとも思います。
本当に理想を叶えられる人は、限られているんじゃないでしょうか」
「アタシとしては、それじゃ困るんだけど」
「はい、何時かは、必ず」
- 61 :
- filler
- 62 :
- ラビゾーは何時の間にか、自分の魔法を「必ず見付ける」と言う様になった。
少し前までは、気不味い顔で含羞むばかりだったのに。
決意の表れなのか、何等かの目処が立っているのか、それとも苦し紛れの言い逃れなのか、
何と無く3番目の様な気がして、バーティフューラーは釘を刺す。
「『必ず』?」
「はい」
どうやら真実は1番目だった様で、ラビゾーの眼差しは真剣だ。
しかし、決意だけでは、どうにもならないのが現実。
「何時かって?」
「魔法を見付ける、その時まで」
「永遠に?」
「……流石に、そんなには待てま――」
「良いわ、その決意が本物なら」
自分で問い詰めておきながら、バーティフューラーはラビゾーの言葉を遮る。
その先は聞きたくなかった。
これで話は終わりとばかりに、彼女は席を立って片付けを始める。
「じゃあ、この話は終わりと言う事で。
さ、帰った、帰った」
結局何の話だったんだろうと、ラビゾーは疑問に思ったが、これも薮蛇になるだろうと感じて、
やはり追究はしない事にした。
「それでは、失礼します」
ラビゾーは追い立てられて退室し、機会を逸して渡し損ねていた『時計花<ダイアル・フラワー>』の、
『薬用茶葉<ハーバル・ティー・リーヴズ>』が入った小包を、従業員のファアルに預けて帰った。
- 63 :
- ラビゾーが帰った後、待合室でファアルは社長のイリス事バーティフューラーに小包を渡す。
「社長、あの人が渡してくれと」
「只今、戻りました!」
そこへ丁度、もう一人の従業員リェルベリーが外出から戻って来た。
3人は一瞬動きを止めて、互いの顔を見合う。
最初に口を開いたのは、リェルベリー。
「た、只今……」
それに対してバーティフューラーは小包を受け取りながら、穏やかな声で応える。
「お帰りなさい」
彼女は小包の手触りから中の物を確信すると、手近にあった台の上に置いた。
小包に関心を持ったリェルベリーは、子供の様にバーティフューラーに問う。
「それ、何なんです?」
横からファアルが意地の悪い笑みを浮かべて答えた。
「男の人からの『贈り物<プレゼント>』」
リェルベリーは驚いた猫の様に目を見開き、興味津々でバーティフューラーに伺いを立てる。
「……開けて見ても良いですか?」
バーティフューラーは幼い子供を見る様な眼差しで、彼女に答えた。
「何時もの、『アレ』よ」
「あれ?」
「そんなに中身を知りたければ、どうぞ」
許可を得たリェルベリーは早速、包みを開いた。
出て来たのは、瓶に詰められた茶葉。
紙のラベルには手書きの文字で「ダイヤルフラワー」と書かれている。
「あぁ、ハーブティーの茶葉ですか」
落胆した様なリェルベリーの声に、バーティフューラーは小さく笑う。
「何だと思ってたの?」
「それは……。
男の人が社長に持って来る様なプレゼントですから……。
『宝石類<ジュエラリー>』とか『装飾品<アクセサリー>』とか、その辺の物だと……」
- 64 :
- 彼女の素直な回答に、バーティフューラーは溜め息を吐いて、力無く笑った。
「そう言う気の利いた事が出来る様な人じゃないから。
それに、お金に余裕がある人でもないし。
お金で買える物なら、自分で買うわ」
何故そんな下らない男と付き合っているのか、リェルベリーには不思議でならない。
直接ラビゾーと対面していない彼女は、欠点を補って余り有る程、容姿や性格が良い男かと思う。
一方で、ファアルはバーティフューラーの言葉の重要な点を聞き逃さなかった。
「その茶葉、お金では買えない物なんですか?」
バーティフューラーは俯き加減で含羞む。
「……まあね。
そこらの店の物よりは、効き目が良いの」
「毎回あの人は、ハーブ類を持って来ますよね。
お茶用だったり、アロマ用だったり。
聞いた事も無い名前の植物を持って来た事もありましたけど、全部非売品だったんですか?」
ファアルの続けての問いに、バーティフューラーは意図を測り兼ねて、訝し気な顔をしながらも頷く。
「非売品って言うか、彼が旅先から仕入れて、持って来る物だから……。
纏めて売れる程、数が手に入らないって言ってたし、他では扱ってないんじゃない?」
「希少品なんですね」
「そうとも言えるかしら」
「それを他には売らずに、社長に渡していると」
「どんな高級品でも、数が揃わないと売り物にならないって、よくある話だと思うけど」
「しかも、只で」
「お、お土産みたいな物だし……」
「旧暦の一頃には、希少な香辛料には銀と同じ位の価値があったそうですよ」
「それは関係無いでしょう?」
詰る様なファアルの口調に、バーティフューラーは気圧されていた。
- 65 :
- NGワードに引っ掛かってしまいました。
- 66 :
- 何がNGワードだったのか分からないので、残りの文章は↓に置いておきます。
お手数をお掛けして済みません。
https://u6.getuploader.com/sousaku/download/936
- 67 :
- 悸々(どきどき)、悸(どき)り、悸(どき)
動悸の「悸」です。
恐れや驚きで心臓がドキドキする事、少しの事で驚く事。
僅かながら、使用例があります。
訓読みは、「おそれる」。
「いきどおる」に当てられた事もありますが、これは「いきだわし」の事と考えられます。
意味は「息が詰まる」、「胸が苦しい」であり、語源は「息労(いきいたわ)し」とされています。
走った後で息切れした時にも言いますし、心理的な意味でも言います。
余談ではありますが、万葉仮名で「いきどほる」には「伊伎騰保流」、「悒」が当てられています。
元々は「怒る」と言う意味は無く、「気が塞ぐ」、「憂う」であり、後に現在の「憤る」になりました。
「いきどほる」の語源は残念ながら不明です。
「息遠る」説や「息(意気)通る」説がありますが、確定的な物ではありません。
「いきどおる(いきどほる)」と「いきだわし(いきだはし)」は混同される事がある様です。
それと言うのも、「いきだわし」は「いきどうし」に音便変化する為です。
関西の方言に残っているらしいので、「いきだわしい」を聞いた事は無くても、「いきどおしい」、
「いきどしい」なら聞いた事があると、言う人も居るのではないでしょうか?
(私は両方聞いた事がありませんが……)
因みに、「いきだはし」は平安時代から見られるので、古さは「いきどほる」と変わりません。
「いきだはし」と「いきどほる」は意味も似ており、混同も仕方が無いのでしょう。
動詞と形容詞と言う違いこそあれど、もしかしたら元は更に古く共通した物だったかも知れません。
そうじゃなくて全然意味の違う別物だったかも知れません。
- 68 :
- 茶葉(ちゃば/ちゃよう)
「ちゃよう」が本来の読み方と知って驚きました。
確かに、元は中国語でしょうから、音読みで合わせるなら、そうなります。
「茶」の読み方、「チャ」、「サ」、「ヂャ」は全て音読みです。
しかし、茶色(ちゃいろ)、茶店(ちゃみせ)、茶屋(ちゃや)、茶釜(ちゃがま)、茶壷(ちゃつぼ)、
茶畑(ちゃばたけ)と、「茶」には重箱読みも多くあるので、それに引き摺られたのだと思います。
現在は殆ど「ちゃば」で通じている様です。
「茶葉」と同じく音訓両方ある物には、「茶花(ちゃか/ちゃばな)」があります。
斯く言う自分は、「茶葉(ちゃば)」、「お茶っ葉(ぱ)」と言って来た人間です。
- 69 :
- 粗々(ざらざら)
ざらざらしている事を表す漢字が、これしかありませんでした。
「米」偏に「造」で「ソウ」と言う漢字もありますが、残念ながら表示出来ません。
「あらあら」や「ほぼほぼ」とも読めるのが難点です。
心底/底根/卒根/属懇(ぞっこん)
底根(そここん)が語源だとされていますが、湯桶読みなのが気になります。
しかし、重箱読みと同じく湯桶読みも幾らでもあるので、その1つなのでしょう。
「心底(しんそこ)」も音訓交じりの重箱読みですし。
語源から採るなら「底根」、意味から採るなら「心底」、音から採るなら「属懇」が良いでしょう。
- 70 :
- next short story is...
- 71 :
- 予知を継ぐ者
第一魔法都市グラマー中央区 魔導師会本部にて
偽造されたMG貨幣が流通していた贋金事件に関して、魔導師会が調査を進めた結果、
ある一人の元造幣局職員に疑惑が向いた。
どうやって、この元職員が捜査線上に浮上したのか?
造幣局で働いていた人間は限られている。
法務執行部は早々に統合刑事部に出動を命じ、特に疑わしくなくとも可能性のある者には、
虱潰しに「聞き取り」調査を行った。
通常、執行者と言えど無闇に愚者の魔法を用いて、強制的に自白させる事は許されない。
ある程度、容疑者と事件との客観的な関連性を検証可能な形で公開して、魔法の使用には、
正当性がある事を示さなければならない。
魔法に関する法律を守る立場の者が、その権利を濫用して、自ら法を破る訳には行かない為だ。
だが、今回ばかりは違った。
魔導師会内部の犯行が疑われる場合、執行者は魔導師に対して、民間より緩い条件で、
厳しい調査を行える。
法務執行部が他の部署から独立している証として、又、身内に甘い対応はしないと言う証として、
そうした正式な「協定」があるのだ。
それにしても、元職員が浮上するのは早かった。
確かに、彼は怪しかった。
現役時代は優秀な技術者だったが、退職後に暫くして連絡を絶ち、行方不明になっていた。
しかし、連絡が取れなくなった、或いは取り難くなった元職員は他にも居た。
彼だけを狙った様に、重点的に優先した捜索を行う理由とは?
法務執行部の広報は表向きには、「順番の問題」と答えていた。
元々虱潰しに捜査を行う予定であり、偶々初期に調査対象だった彼が、引っ掛かっただけの事だと。
- 72 :
- 日頃から内部調査を行っている親衛隊員でさえ、容疑者の「絞り込み」は困難だった。
統合刑事部が造幣局の元職員に通常の「聞き取り」を行う事は、何も不自然では無いが、
個人を特定して捜索を始めた事には、親衛隊員も驚いた。
真実は到底発表出来ないだろう。
それは5つの予言である。
造幣技術の流出元は元造幣局職員であるソラート・ハンフォール・レクター・レルマン。
事件の背後にはティナー地方の地下組織シュードがある。
この組織は既に解散している。
重要な関係者は発見されず、事件を完全に解決する事は不可能である。
裏に外道魔法使いの影や巨大な陰謀は無く、これは単純な「古い」出来事である。
予言の通りに捜査は進められた。
ソラートは行方不明になってから十年以上が経過していたので、その足取りは追えなかった。
一方で地下組織シュードの元構成員との接触には成功し、そこから本格的な「聞き取り」によって、
ソラートがシュードに協力していた事実を突き止めた。
シュードの元構成員は何人か捕まえられたが、主犯格の幹部級の者は何れも行方知れずで、
それはソラートも同様だった。
予言の通りに、事件の完全な解明は出来なかった。
統合刑事部の人間とて、予言通りの結末に落ち着く事に甘んじていた訳ではない。
予言を知らされていた者は、上層部の限られた数人だけだったし、当の彼等も予言を覆してやると、
奮起していたにも拘らず、この結末を迎えたのだ。
- 73 :
- しかし、1つだけ予言を覆せそうな事実があった。
それは「外道魔法使いの関与」である。
拘束したシュードの元構成員に対して、執行者が退行催眠から心測法を試みた結果、
「未来」が予言されていたと言うのだ。
その予言を元に、シュードは自主的にMGの偽造を小規模に抑え、早期に解散した。
奇妙な事に、「未来」を知っていたのはソラートだった。
ソラートは魔導師であり、外道魔法使いではない。
身内に外道魔法使いの血筋も確認されていない。
彼が語った予言は、伝聞の形であった。
「どんなに小額でも、贋金作りを続けていたら、執行者に捕まる。
僅かな証拠も残しては行けない。
活動期間は4週以内に止めろ。
それ以上は危険だと、私の『知り合い』が忠告してくれた」
この「知り合い」を探すのに、統合刑事部は血眼になった。
予言をしたのは、予知魔法使いか、それとも別の魔法使いか……。
もしかしたらソラートが良心に目覚め、贋金作りを続ける事を拒んだのかも知れない。
「知り合い」は実在せず、贋金作りを中止させる為の口実だった可能性がある。
それでも事件を解決すべく、少しでも真実に近付くべく、執行者は駆け回った。
シュードは「偽物」を意味するが、贋金作りを目的として結成された組織だったのではない。
設立から長らく詐欺の「親」をしていた。
ティナー地方の地下組織の中では、決して大組織とも古株とも言えないが、新参と言う程でもない、
「中堅寄りの小規模組織」が、行き成り贋金作りに手を出して解散するだろうか?
身の丈に合わない馬鹿な夢を見た後で、急に冷静になって怖くなった?
ソラートだけではなく、シュードの動きにも不自然な点が多い。
- 74 :
- 結局ソラートも彼の知り合いも見付からず、統合刑事部の捜査は打ち切りとなった。
ソラートはシュードの幹部に始末されたのかも知れないと、元構成員達は予想していた。
真実は闇の中である。
捜査が打ち切りとなった翌日、親衛隊内部調査班の班長であるリン・シャンリーが自殺した。
死体第一発見者の魔導師によれば、魔導師会本部の休憩室で、居眠りする様に伏せていたと言う。
懐には遺書があり、そこには以下の様に書かれていた。
――誓約に従い、命を絶つ。
突然の訃報に彼女の班に所属していた親衛隊達の動揺は大きかった。
シャンリー班の班員の一人、ジラ・アルベラ・レバルトは特に大きな衝撃を受けた。
シャンリーの自殺には事件性があるのではと、法務執行部の執行者が調査に乗り出した。
しかし、班内の誰も、シャンリーが悩みを抱えていた様子は無く、自殺の原因にも遠因にも、
心当たりは無いと答えた。
それに嘘は無く、執行者の調査は直ぐに終わった。
意外にも、親衛隊自体は内部調査を行わなかった。
その事をジラは不審に思った。
親衛隊内部の不祥事で、ここまで身内に甘い事があるだろうか?
形式だけでも調査をしないのか?
ジラは親衛隊の副隊長であるアクアンダ・バージブンを直接訪ねて質問した。
「アクアンダ副隊長、シャンリー班長の件で質問があります」
- 75 :
- アクアンダは驚きを表す事無く、淡々と応じる。
「何ですか?
私に答えられる事なら、答えましょう」
「シャンリー班長の自殺の原因を御存知ですか?」
「それには答えられません」
ジラの問いに対して、「知らない」ではなく、「答えられない」と彼女は回答した。
しかも視線を合わせず。
「御存知なんですね?」
「答えられないと言っています」
アクアンダの態度は何時もの柔和な物ではなく、感情を殺した顔と冷淡な声。
隠し事があるのは明白だ。
「一般の隊員には教えられないと言う事ですか?」
食い下がるジラに、彼女は少し眉を顰め、小さく息を吐いた。
そして一瞥を呉れると、ジラが全く予想もしなかった言葉を口にする。
「貴女には心当たりがあるでしょう」
「……何の話でしょうか……?」
「何も思い付きませんか?
それなら、それで構いませんが」
アクアンダは再び視線を逸らし、デスクワークに戻る。
- 76 :
- 「心当たり」とは何かをジラは問おうとするも、アクアンダは先を制して言った。
「私は何も答えられません。
『魔導師会』も『親衛隊』も、今回の件に関して、貴女の好奇心による私的な追究に、
反応する事はありません。
これ以上、この場に留まって執拗(しつこ)く私から話を聞きだそうとするなら、
私は業務の妨げになるとして、貴女に注意を与えなければなりません」
冷たい言葉の様に思えるが、これは暗に調査の許可を与えたと言う事だ。
独力で調査をする分には、止めはしないと。
ジラは一礼をして感謝の意を表した。
「有り難う御座います」
相談員の仕事を終えた後、彼女は早速シャンリーの自宅だったアパートの一室に向かう。
シャンリーはボルガ地方出身で、親衛隊に選ばれて独りグラマーで暮らし始めた。
それはジラも似た様な物。
彼女はブリンガー魔導師会本部の法務執行部治安維持部生活安全課に就職して執行者となり、
後に魔導師会本部グラマー南部支部の同警備課へ異動。
そして親衛隊に選ばれた。
親衛隊に限らず、魔導師会本部は大陸全土から優秀な人材を集めている。
そこで寮や『社宅<コンドミニアム>』が用意されているのだが、寮は若い魔導師、社宅は家族連れと、
対象者が決まっている。
ある程度生活資金に余裕のある者は、寮から出て行くと言う暗黙の了解がある。
- 77 :
- ジラとシャンリーは、それなりに親しい仲だった。
シャンリーはジラにクァイーダの後継となる事を期待していた。
その為か、シャンリーは頻繁にジラと接触し、世間話をしたり、昼食を共にしたり、
時には自宅に招きもした。
ジラが見ていた範囲に限るが、シャンリーに死を予感させる様な素振りは無かった。
何故自殺しなければならなかったのか、その理由は分からない。
真面な遺書でもあれば、話は違って来るのだが……。
――誓約に従い、命を絶つ。
「誓約」とは何なのか、不祥事でも起こしたのか、遺書は謎を深めるだけの物だった。
シャンリーが住んでいた「シャックァ・ターマ」と言う名のアパートは、優良な物件である。
そこそこ敷金が高い分、快適性と安全性が保たれており、住人の質も良い。
ジラがシャックァ・ターマの管理人室を訪ねようとしていた所、30歳位の髭面の男が現れた。
男は彼女を睨んで問う。
「ここの住人か?」
男はジラを怪しんでいる様だが、ジラにとっても彼は怪しい人物。
「いいえ。
そう言う貴方は?」
「執行者だ」
問い返したジラに男は堂々と答えたが、執行者の証である青い魔導師のローブは着用しておらず、
手帳の提示も無い。
その癖、豪く尊大な態度で接して来る。
「住人でも無いのに、何の用だ?」
「何故、貴方に答える必要が?」
ジラは反感を覚えて身構えた。
- 78 :
- 執行者と名乗った男は、顔を顰めて口を閉ざした。
この反応からジラは、彼は本物の執行者ではあるが、「仕事」で来ている訳では無いと直感する。
執行者は職務に関わる事以外で、その身分を徒に誇示したり、利用したりは出来ないのだ。
しかし、執行者と名乗ったと言う事は、確実にジラを警戒している。
男がアパートの住人でない事は、先の質問から既に明らかだが、何故ジラを疑ったのか?
普通の思考をしていれば、初対面で猜疑心を露にして他人に物を尋ねたりはしない。
その答をジラは察していた。
彼女は沈黙している「執行者」に、自ら口を利く。
「私の知り合いが自殺したと聞いて来たの」
男は驚愕に目を見張った。
「知り合い……?」
「ええ。
でも、彼女が自Rるとは思えなくて」
ジラの言葉に、男は興味を持って尋ねる。
「殺されたと思っているのか?」
「そこまでは……。
どうして彼女が死ななければならなかったのか、それが知りたくて」
- 79 :
- 男は暫し沈黙してジラを睨んでいたが、やがて自ら名乗った。
「私はエアドル・ブリドル。
刑事部の執行者だ。
貴女は?」
「私はジラ・アルベラ・レバルト。
魔導師です」
「魔導師?
所属は?」
「本部で相談員をしています」
「あっ、本部の……」
本部勤務と聞いて、エアドルは俄かに畏まる。
エアドルは刑事部の執行者とは言え、支部勤務だ。
所属している組織こそ、運営部と法務執行部で異なれど、魔導師会本部勤務に相当するのは、
統合刑事部所属。
地方支部の刑事部所属、それも役職の無い一執行者では格が落ちる。
彼は気不味く思いながらも、話を続けた。
「えぇと、リン・シャンリーさんとは普段どんな付き合いを?」
「親友と言える程、親しかった訳じゃないけど、世間話をしたり、家に上がらせて貰ったり。
部署は違うけど先輩後輩みたいな関係かな……」
自分が親衛隊であるとは軽々に明かせず、ジラはシャンリーとの関係を暈かす。
エアドルは特に気にせず尋ねた。
「貴女は相談員だ。
最近、彼女の相談に乗ったとか、何か彼女が困っていたとかは?」
「無かった。
だから、納得出来なくて」
ジラの答に彼は頷く。
「そう、彼女には自Rる理由が無い。
それなのに『上』は大した捜査もせず、自殺で片付けた。
これは奇怪(おか)しい」
- 80 :
- エアドルが刑事部の内情を明かした事に、ジラは驚いた。
彼は相手が同じ魔導師と言う事で、何も隠す必要は無いと考えたのか?
それにしても憶測で物を言えば、無用な問題を引き起こす事になるとは考えないのか?
困惑する彼女に、エアドルは告げる。
「確信があるんだ。
『上』は何かを隠している。
貴女も感付いているだろうが、ここに俺が居るのは独断、私的な行動だ。
その事を了解して貰った上で頼みたい。
『真実を解き明かす為』、俺に協力してくれないか」
ジラは迷った。
真相の解明に、「執行者」エアドルと言う協力者が得られる事は有り難い。
一方で、彼の執行者と言う立場は、逆に不利にも働く。
エアドルの行動で彼自身の将来が危うくなる可能性は低くない。
それは当人も承知しているだろうが、序でにジラも執行者にマークされるかも知れない。
彼女は職務上、自分が親衛隊だとは明かせないので、余り目立つ行動は避けたい。
「勝手な事をして大丈夫なの?」
ジラは一応、エアドルが自分の置かれている状況を認識しているか尋ねた。
それに対する彼の答は――、
「俺が執行者になったのは、長い物に巻かれる為じゃない。
それを良しとするなら、執行者にはならなかったさ」
真面目その物。
正義の為なら首を切られても惜しくないと言う、若い正義感を暴走させているエアドルを、
ジラは悩ましく思った。
(好い年なんだから、相応の落ち着きを持って貰いたい所だけど……。
それとも私が打算的過ぎるのかな……)
- 81 :
- 面倒事に巻き込まれたくない彼女は、自ら提案する。
「私は執行者に目を付けられたくないの。
協力しても良いけど、貴方と私は無関係と言う事にして頂戴」
「無関係『と言う事』に?」
「嫌なら良いけど」
「あ、あぁ、解った。
こちらとしても貴女に迷惑を掛けるのは、本意じゃない」
エアドルは了解して頷いた。
頷く他に無かったと言うべきだろう。
何故、彼がアパートの入り口で立ち往生していたのかを考えれば……。
ジラはエアドルに言う。
「私がシャンリーさんの部屋に入って、何か遺されていないか調べるから。
エアドルさんは、どこか余所で時間を潰して」
「いや、しかし……」
彼はジラだけに捜査を任せる事に不安を感じていたが、ジラは強気に押し切った。
「貴方は部屋に入れないんでしょう?
こんな所で突っ立って待ってる積もり?
傍から見れば怪しい人だよ」
「わ、分かった」
エアドルは渋々と言った様子で引き下がる。
- 82 :
- グラマー地方では男女の別が確りしているので、男が女の部屋に上がるには、余程の理由が要る。
幾ら「正当な理由」があっても、それだけでは中々認められないのが、グラマー地方なのだ。
当然、エアドルが執行者を名乗っても、独りでは女の部屋には上がらせて貰えない。
職務としての捜査でさえ、必ず女性執行者の同行が必要になる。
その点、同性のジラなら「友人」を名乗れば、部屋に上がらせて貰える。
「今日は、管理人さんは居ますか?」
ジラは先ずアパートの管理人に話を聞こうとした。
管理人の小母さんは見知らぬ人物の来訪に、少し戸惑っている。
「誰ですか、貴女は?」
「先日亡くなられた、リン・シャンリーさんの知人です。
彼女の所に預けていた私物を取りに来ました」
「私物?」
「ええ、何度かシャンリーさんの所には、お邪魔させて貰っていたので……。
正可(まさか)、急に亡くなられるなんて……」
ジラが俯いて声を落とすと、管理人は怪訝な顔をした。
「自殺って話、聞いていない?」
「……そうらしいんですけど、私には信じられなくて」
彼女はジラに同調して、慰める様に相槌を打つ。
「そうよね、そうよね。
私も正可って思った物。
だって、魔導師さんでしょう?
元気が無かったとか、落ち込んでたとか、そんな事は全然無かったし」
- 83 :
- 魔導師、それも本部勤務となれば、相当な名誉だ。
収入は安定しているし、社会的信用もある。
何故、自殺しなくてはならないのか……。
管理人の小母さんも、信じられないと言った様子。
ジラは話を仕切り直し、管理人に尋ねた。
「シャンリーさんの部屋に上がらせて貰えますか?」
「ええ、もう本人は居ないし、執行者さんの捜査も終わったそうだし、良いわよ。
御家族は居ないって聞いてたし、遺品を引き取る人も来そうにないから、何でも持って行って。
こっちで処分するのも手間だし」
管理人の小母さんは勝手な事を言って、浅りと「元」シャンリーの部屋の鍵を渡す。
鍵には205と数字が書かれたタグが付いている。
シャンリーには身内が居なかった。
彼女はボルガ地方の出身だが、児童擁護施設の育ちで、両親の事は記憶に無いと言っていた。
金銭的な余裕が無い中、奨学金制度を利用し、苦労して魔導師になったと。
ジラは俄かに物悲しい気持ちになり、重い足取りで205号室に向かう。
彼女がシャンリーの部屋に時々お邪魔していたのは本当だが、「私物を預けていた」と言うのは嘘。
シャンリーが自殺した理由を探る為の出任せ。
必ず手掛かりを見付けると言う覚悟で、ジラは元シャンリーの部屋に踏み入った。
- 84 :
- 鍵を開けて中に入ると、短い廊下の先にリビング兼ダイニングルームが見える。
「お邪魔します」
ジラは無人の空間に小声で断りを入れ、静かにリビングルームに出た。
リビングルームからはキッチンが見える他、それぞれベッドルームとバスルームに繋がる戸がある。
執行者が徹底的な捜査をした筈だが、一見した所、室内は意外と綺麗に片付いていた。
或いは、物は証拠品として全て持ち出された後なのか……。
特に探し物をする様な所は無く、ジラはベッドルームに向かう。
「失礼します」
ベッドルームには大き目のベッドの他に、化粧台と箪笥、『作業机<ワーク・デスク>』が置いてある。
ジラは真っ先に作業机を調べた。
机の上にはメモ・ホルダーが置いてあるが、全て白紙だ。
引き出しの中には何も無い。
執行者が持って行ったのか、それとも自Rる前に自分で処分したのか……。
ジラは作業机から離れて、化粧台に向かう。
化粧品は置いた儘で、残量が多い物もあり、自殺は前以って計画された物では無いと、
彼女は確信する。
一応、箪笥も開けて見たが、特に変わった物は無かった。
一通りベッドルームを調べたジラは、大きな収穫が無かった事に落胆の溜め息を漏らし、
再び作業机に近付く。
目星い物は執行者が持ち去った後だろう。
それでも彼女は作業机が気になっていた。
何かあるなら、ここだと直感が訴えている。
- 85 :
- ジラは暫し作業机の上を凝視した後、メモ・ホルダーに挟まれた白いメモ紙の表面に、
僅かな陰影が出来ている事に気付いた。
角度を変えつつ凝視すると、それは文章だと判る。
ペンで何かを書いた跡だと直感した彼女は、着色魔法で文字を浮かび上がらせようと試みた。
小声で呪文を唱えながら、指で軽く紙の表面を擬ると、接触部分だけが濃い青色に変じ、
白紙のメモ紙に文字が現れる。
(造幣局、ソラート・レルマン。
ティナー地方、地下組織、シュード。
行方不明、解散済み。
解決不能。
陰謀無し。
最終試験)
断片的な文章でも、彼女には何に関係している物か判った。
贋金事件だ。
(執行者と同じく、私達親衛隊も贋金事件を追っていた。
ソラート、シュード、全部聞き覚えがある。
シャンリーさんは執行者の調査を追っていた?
監視役だった?)
引っ掛かったのは、「解決不能」と「陰謀無し」。
解決不能と判るのは、執行者が調査を諦めた時だが、堂々と解決不能を宣言したりはしない。
実際は調査を打ち切っても、「引き続き情報を集めている」と言い続ける物だ。
贋金事件に関しても同様だった。
捜査本部の解散で大凡の事情は判るとしても、解決不能とまで結論付けたのは何故か?
「陰謀無し」も事件が未解決の状態では、断言出来る物では無い。
そして、「最終試験」とは?
- 86 :
- 真剣に考えながらメモ紙を凝視していたジラは、ある事が気になった。
「造幣局」、「ティナー」、「行方不明」、「解決不能」の頭に、「V」が書かれている。
そして、「陰謀無し」と「最終試験」の頭には、「X」が……。
手書きの崩れた字なので、本当に「V」と「X」なのかは判らない。
これは何だろうと奇妙に思った数極後、彼女は閃いた。
「V」は『正解<コレクト>』、「X」は『不正解<インコレクト>』。
文字を浮き上がらせたメモ紙を、その下の真っ白なメモ紙数枚と一緒に抜き取ったジラは、
それをローブのポケットに押し込んだ。
彼女は興奮を抑えて、念の為に未だ調べていない他の場所も調べてみる。
リビングルームとバスルームでは何も新しい発見は無かった。
しかし、それで落胆はしない。
重要な手掛かりを得たのだ。
元シャンリーの部屋から出たジラは、直ぐ管理人に鍵を返してアパートを去った。
途中、エアドルが声を掛ける。
「何か見付かったか?」
「いいえ、何も。
重要そうな物は執行者が全部取って行った後だったみたい」
ジラはエアドルに一瞥も呉れず、早足で移動する。
エアドルも早足で彼女に付いて歩き、話を続ける。
「嘘を吐かないでくれ。
雰囲気で分かる。
何か見付けたんだろう?
誤魔化す積もりなら、もっと上手く――」
「今日の事は忘れて」
「え?」
「全部解ったの」
ジラの頭の中では、全ての結論が出ていた。
彼女はエアドルを振り切り、独りでランダーラ地区に向かった。
- 87 :
- filler
- 88 :
- グラマー市ランダーラ地区ランダーラ魔法刑務所にて
もう日が落ちようと言う時間になって、ジラはランダーラ魔法刑務所に着いた。
ここの地下に囚われている、予知魔法使いのマキリニテアトーと会う為だ。
しかし、当然ながら日中の業務は終了しており、夜間の面会には特別な許可が要る。
そもそもマキリニテアトーとの面会にも特別な許可が必要で、直ぐに会いたいと言って、
気安く会える様な人物ではない。
全てを承知で、ジラは刑務所の地下に向かった。
仮令徒労に終わろうとも、何もしない儘で夜を迎えて眠れる気がしなかったのだ。
階段を下りて刑務所の地下階に出たジラを、クァイーダが待ち構えていた。
「こんな時間に何の用?」
クァイーダはジラを警戒していない。
『予約<アポイントメント>』も無しに訪れる者には驚く筈だが、丸で「全て知っていた」かの様だ。
「マキリニテアトーに会わせて下さい」
断られる事を覚悟して、ジラは頼んでみた。
クァイーダは暫し彼女を見詰めた後に問う。
「具体的な用件を言って頂戴」
奇妙な事に、クァイーダは許可や予約の有無を尋ねない。
「シャンリー班長の自殺に就いて聞きたい事があります。
マキリニテアトーが関与していますね?」
ジラは包み隠さず、目的を明かした。
その眼は真っ直ぐ、クァイーダの瞳を見詰めている。
- 89 :
- filler
- 90 :
- クァイーダは一つ溜め息を吐き、ジラの真意を確かめるべく質問する。
「マキリニテアトーがシャンリーを殺したと言いたいの?」
「いいえ……と言いたい所ですが、正直、怪しんでいます」
「仮に彼がシャンリーを殺したとして、貴女は何をする積もり?
彼は既に牢の中。
これ以上、彼を罰する術は無いのに」
「罰を与えようと言うのではありません。
復讐したい訳でもありません。
私は真実が知りたい、それだけです」
ジラの答を聞いたクァイーダは、満足気に頷いて小さく笑った。
「流石、副隊長やシャンリーが見込んだ人。
覚悟が出来ているなら、入りなさい。
解っていると思うけど、ここでの話は他言無用よ」
そう言って彼女はジラを、マキリニテアトーが居る地下牢に通す。
厳重な魔法封印を解いて、鉄扉を開くと、長い廊下が続く。
道中、ジラはクァイーダに尋ねた。
「クァイーダさんはシャンリー班長の死の真相を知っているんですか?」
「見当は付いてる」
「確かめようとは思わないんですか?」
「それは私の仕事じゃないから」
「そうですか……」
彼女の冷淡な答に、ジラは嘗て感じた「寂しさ」を思い出す。
クァイーダなりの魔導師会に対する忠誠であり、任務に対する忠実さなのだろうとは思うが、
中々割り切れない。
シャンリーの死にマキリニテアトーが関わっていると予感していながら、今の所は何の復讐心も、
義憤の心も抱かない自分も、大分毒されているのではと疑うジラだが……。
- 91 :
- マキリニテアトーが囚われている地下牢は、牢と言うより豪華なアパートの一室だ。
自由に外に出る事は不可能だが、平屋一戸建て位の広さは優にある。
クァイーダとジラが応接間に入ると、既にマキリニテアトーが待ち構えていた。
彼は神妙な面持ちで、独り読書をしている。
本の題は「解悟の書」――旧暦の思想書を現代語訳した物だ。
一般的には虚無思想の本だと思われている。
クァイーダとジラが席に着くと、マキリニテアトーは自ら語り始めた。
「落ち込んだ気分になった時は、この本を読む事にしている。
人は何故に生き、そして死すのか……。
この本には何も書いていない。
只一切は空虚であり、そこに真を見出す事、その物が生であると言う。
だが、その真も空に見る幻であり、人は霞を食らって生きているのだそうだ。
霞を霞と知って食らう者と、霞を霞とも知らず貪る者、幸福なのは後者だが、
故に苦難を味わうのも後者だと言う」
ジラは彼の語りを戯れ言と切り捨て、話を始めた。
「シャンリー班長が死にました」
マキリニテアトーは本を閉じて頷く。
「知っている。
残念だ。
一般的には『遺憾に思う』と表現するのかな」
「遺憾?」
「ああ、とても残念で、悲しい」
何故マキリニテアトーが悲しい等と言うのか?
- 92 :
- ジラは不信感を露にして、彼を問い詰めた。
「どうして貴方が悲しむんですか?
貴方とシャンリー班長は、どんな関係だったと言うんですか?」
「彼女は魔法使いに成り切れなかった」
「話を逸らさないで下さい」
徐々に口調が強くなっているのをジラは自覚した。
先から懸命に抑えようとしているのだが、自然に気持ちが昂ってしまう。
感情的に喚くだけでは、話し合いにならない。
取り乱しては行けないと、一度深呼吸をした後で、彼女はマキリニテアトーの言葉に、
聞き過ごしてはならない重要な部分があった事に気付く。
「待って……魔法使い?
シャンリー班長は何の魔法使いに成ろうとしていたんですか?」
マキリニテアトーはクァイーダを一瞥してから答えた。
「予知魔法使いだ」
ジラは目を見開く。
彼女も全く予想していない訳では無かった。
シャンリーは魔導師でありながら、マキリニテアトーの力を借りる事に抵抗を持たず、
自らも「予想」をして、彼に正誤を確かめさせていた。
それが「予知魔法使いになる為だった」としたら……。
- 93 :
- シャンリーが予知魔法使いになれば、マキリニテアトーの手を借りずとも、予知を魔導師会の為、
共通魔法社会の為に活かす事が出来る。
魔導師会が認めるのかと言う問題は残るが、シャンリーが予知魔法に高い関心を持っていた事は、
否定出来ない。
ジラはクァイーダを顧みた。
「知っていたんですね?」
クァイーダは無言で頷く。
彼女とシャンリーとの付き合いは、ジラよりも長い。
シャンリーとマキリニテアトーの関係に就いても、知っていて当然。
否、知っていなければならない立場だ。
「シャンリー班長が予知魔法使いに成っていたら……。
魔導師会は、それを良しとしたんですか?」
ジラの問い掛けに、クァイーダは俯き加減で呟く様に言う。
「シャンリーは成れなかった」
「それは結果です」
もし予知魔法使いになっていたら、どうする積もりだったのか?
「成れなかった」と言う結果だけを以って、何も問題は無かったとは言えない。
睨み付けて来るジラに対して、クァイーダは俯いた儘で答える。
「最初から無理だったの。
全てを承知で、彼女は予知魔法使いに成ろうとしていた」
「それって、どう言う意味ですか?
『最初から無理だった』って」
クァイーダは両目を閉ざし、何も答えない。
- 94 :
- ジラは再びマキリニテアトーに目を向けると、ローブのポケットに収めたメモ紙を取り出して、
彼に見せ付け、残る疑問を打付けた。
「ここにある『最終試験』とは何ですか?
どうしてシャンリー班長は死ななければならなかったのですか?」
マキリニテアトーは表情を変えずに答える。
「文字通りの『最終試験』だ。
これより後は無い」
「だから、シャンリー班長は死んだと?」
信じられないと眉を顰めるジラに、彼は無言で頷くのみ。
ジラは激昂した。
「そんな馬鹿気た理由でっ!」
「魔法使いとは、そう言う物だ」
怒る彼女をマキリニテアトーは強い言葉で制する。
その勢いにジラは圧されて、思わず口を閉ざした。
マキリニテアトーは静かな、しかし、迫力に満ちた声で語る。
「予知魔法使いになるからには、予知を外してはならない。
外れる予知に意味は無いのだ。
それは最早、予知とは呼べない」
「だからって、死ななくても!
予知魔法使いに成れなかった位で!」
ジラは正論を吐く。
予知魔法使いに成れない事と、自Rる事には全く繋がりが無い。
- 95 :
- filler
- 96 :
- マキリニテアトーは彼女を小馬鹿にする様に、小さく笑った。
「予知魔法使いは本来長い時間を掛けて、『未来を見る目』を養う物だ。
気の遠くなる様な観察と考察の果てに、漸く僅かに未来を予感出来る様になる。
だが、リン・シャンリーが目指していた予知魔法使いは、そんな生易しい物ではない。
彼女は私を超越しようとしていた」
「超越!?」
驚愕するジラを睨み付けて、彼は続ける。
「予知魔法の究極は、未来を己が思う儘に導く。
そこで2人の予知魔法使いが搗ち合い、同時には適えられない相反する予言をしたら、
どうなると思う?」
ジラは数極思案して答えた。
「……どちらかは外れる……」
「そうだ。
何れかは敗れ、予知魔法使いの資格を失う。
予知の出来なくなった予知魔法使いは、死す他に無い」
「何故……?」
高が予知を外した位で、どうして死ななければならないのか、ジラには解らない。
「共通魔法使いには解らないか?
翼を失った鳥、脚を折った馬、牙を抜かれた虎の定めだ。
その命は魔法と共にあり、魔法失くして生きては行けない。
それが真の魔法使いなのだ」
マキリニテアトーの言葉を聞いても、彼女は納得出来なかったが、これ以上理由を問うても、
同じ事を言われるだけで無駄だろうと察した。
- 97 :
- 彼女は「魔法使い」とは、「そう言う物」だと仮定して、会話を続ける。
「シャンリー班長は『負けた』と言うんですか?」
マキリニテアトーは頷いた。
「そうだ」
「……誰に?」
「私に」
予想通りの答を返され、ジラは落ち込んだ気分になった。
シャンリーがマキリニテアトーを超越しようとしていたと聞いた時点で、そうだろうと思っていた。
シャンリーは全てを承知で、最終試験に臨んだのだ。
「貴方がシャンリー班長を殺した……」
「彼女は私を上回れなかった」
「貴方は何を予知したんですか?」
「私は『彼女は予知魔法使いに成れない』と予知した」
ジラは沈黙した。
マキリニテアトーの予知通り、シャンリーは予知魔法使いに成れずに死した。
シャンリーは予知魔法の有用性を認めていたが、それは命に代えても求める様な物だったのか、
そこまでの価値を彼女は見出していたのか、ジラには何も解らない。
- 98 :
- マキリニテアトーは弁解する様に、ジラに告げる。
「もし、彼女が見事に予知を成功させていたら、死んでいたのは私の方だった」
予知を外す予知魔法使いは、最早予知魔法使いではない。
それは彼も同じ事。
だが、本当に死ぬ積もりがあったのかと、ジラは疑った。
「その時は自殺でもする積もりだったんですか?」
シャンリーの様に。
「魔法を失い、存在価値が無くなれば、消えてしまう。
真の魔法使いとは、『魔法の使い』なのだ。
その命は魔法と共に在り、魔法失くして生きては行けない。
それが私達『旧い魔法使い<オールド・ウィザーズ>』」
同じ言葉を繰り返され、ジラは不快になって沈黙する。
彼女は未だ、「真の魔法使い」を知らない。
マキリニテアトーは両目を閉じ、溜め息を吐く。
「リン・シャンリーには期待していた。
私の魔法を継いで、この命を終わらせてくれる者だと。
ここは退屈で堪らない。
外れない予知も」
そして皆、口を閉ざしてしまう。
気不味い沈黙を破ったのは、クァイーダ。
「話は終わった?
それなら帰りましょう」
彼女はジラに呼び掛けて、退出を促した。
- 99 :
- それに応じて徐に立ち上がったジラに、マキリニテアトーは言う。
「ジラ・アルベラ・レバルト。
予知魔法使いになる気は無いか?」
不意の問い掛けに、ジラは驚くと同時に激しい怒りを覚え、射R様な眼で彼を睨んだ。
シャンリーを死なせただけでは飽き足らず、新たな予知の犠牲者を求めているのかと。
しかし、マキリニテアトーは動揺しない。
「君は将来、組織内の重要な地位に就くだろう。
そして必ず、予知魔法を頼る。
それに応じるかは、私の機嫌次第だ。
どうだ、予知魔法使いにならないか?
そうすれば――」
「行きましょう、クァイーダさん」
ジラは彼の話を聞き終えない内に、クァイーダと共に退出した。
だが、ジラの心には確りと先の言葉が刻まれた。
――君は将来、組織内の重要な地位に就くだろう。
――そして必ず、予知魔法を頼る。
マキリニテアトーの予知は外れない。
魔導師会にとっては、利用価値があるだろう。
シャンリーの様に彼の予知を有効活用すれば、重大な危機を未然に防げるかも知れない。
それでもジラは彼を頼りにはしないと決めた。
一時の感情で意地になるのは良くないと思いながらも、今は予知通りになって堪るかと言う、
反抗心の方が勝った。
後に心変わりするかも知れないが、今は感情の儘に振る舞いたかった。
- 100 :
- 沈黙して険しい顔をしているジラに、クァイーダは謝罪する。
「……御免なさい」
「何で謝るんです?
何を謝る事がありますか?
何か『私に』謝らなければならない事があるんですか?」
ジラは酷く不機嫌で、苛立った口調でクァイーダを責めた。
親衛隊の先輩後輩と言う間柄を弁えない、無礼な振る舞いと承知で、敢えて怒りを露にしていた。
クァイーダは静かに弁明する。
「シャンリーの事……。
私なら彼女を止められたかも知れない。
……止めていたとしても、止められなかったかも知れないんだけど」
「でも、シャンリー班長が自分で決めた事なんでしょう?
クァイーダさんはシャンリー班長とは、私より長い付き合いで、だから……」
全てを理解して、シャンリーの行動を止めなかったのではないのかと、ジラは言いたかった。
それならば、謝る必要は無い。
気分の悪い思いをさせたと言う事で謝っているなら、それは筋違いだと。
所が、クァイーダは意外な言葉を口にする。
「私は彼女の友人として、十分な役目を果たせなかったかも知れない。
シャンリーは外道魔法使いのマキリニテアトーに頼るより、自分が予知魔法使いになった方が、
確実だって言ってた。
彼の機嫌を伺って、気紛れに振り回される事も無くなるって。
私は当然、それを上に報告した……けど、回答は無かった……。
肯定も否定もされなかったと言う事は、『関知しない』と言う事。
私は私の判断で、彼女を止めなかった。
止めても良かったのに、そうしなかった」
今更そんな懺悔をされても困ると、ジラは首を横に振る。
「私に言われても……」
「御免なさい、どうしても告白せずには居られなかった」
クァイーダは俯いて黙り込む。
シャンリーが自殺した謎は解けたが、ジラの心には大きな痼が残る事となった。
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