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ロスト・スペラー 20


1 :2018/12/07 〜 最終レス :2019/11/01
未だ終わらない


過去スレ

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2 :
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。
魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。

『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。


ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。

3 :
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。

4 :
……と、こんな感じで容量一杯まで、設定を作りながら話を作ったりする、設定スレの延長です。

5 :
ハッケヨイは白鵬ガンダムに乗り込むと近所のパトロールを始めた。
「本日も異常なしでごわすな」

6 :
現地時間11月30日午前3時30分ごろ、ダップンシティ上空をモビルスーツが240マイルの速度で飛行していた。
それをスカイパトロールが追いかけ、コックピットを見るとそこには衝撃的な光景があった。
パイロットは酔っ払った上で爆睡していたという。
モビルスーツは自動操縦モードで運行されていた模様。

7 :
乙です!

8 :
重要なワード


悪魔


ファイセアルスのある宇宙(第二宇宙)とは別の宇宙デーモテール(魔界)の存在。
神聖魔法と元始精霊魔法を除く全ての魔法は悪魔によって地上に齎された物であり、
元々地上には存在していなかった。
悪魔と第二宇宙との関わりは第二宇宙の前に存在していた宇宙(第一宇宙)の頃からあり、
第一宇宙は神の子の争いと悪魔の乱入によって荒廃した為に廃棄された。
悪魔とは即ち魔法使いであり、人に魔法を教えた存在である。
寿命の無い存在であり、肉体を失っても精霊体で生き続けられるが故に、多くは退屈している。
不死身の様だが、肉体を失った精霊は地上では弱く、太陽に曝される等すれば少しずつ弱って行く。
神が地上に関わる事を止めた魔法暦以後を、地上を支配する絶好の機会と思っている。
デーモテールは無慈悲にして修羅の世界であり、より強い者が世界を支配する事は、
至極当然と考えられている。
しかしながら、地上で長い時間を生きた悪魔の中には、人間に感化され、人間の習慣に馴染んでいる、
人間臭い悪魔も居る。





宇宙を創造した全知全能の神。
第一宇宙を自らの過干渉で荒廃させてしまった後は、第二宇宙を作り直して時々人間に代理を認め、
その力を貸してやる事しかしなくなった。
人と神と悪魔の代理戦争とも言える魔法大戦の後は、人に神の力を貸す事も殆どしなくなった。
それでも人間を愛してはいるが、その愛の形は人の物とは大きく異なる。
人は魔法暦になって、漸く神の御許を離れて立ち上がり始めた。
神は人の行く末を只静かに見守っている。

9 :
魔法


悪魔によって地上に齎された奇跡の技。
魔法を使う為の魔力とは即ち混沌の力で、本来は悪魔だけが魔力を扱えた。
悪魔の数だけ魔法があり、それぞれ原理が異なる。
悪魔は戯れに人間に力を与えて魔法を使えるようにしたが、それは一部の者に限られた。
これ等を系統立てて科学的に解明し、誰でも使えるようにしたのが共通魔法である。
そもそも混沌の力を引き出す事は地上では難しく、悪魔が時空を歪めて魔界に通じる穴を開け、
魔力を供給してやらなければ、魔法を使う事は出来なかった。
多くの悪魔が勝手に宇宙の壁を越えて地上に現れ、魔法を使った事で地上は徐々に魔力で溢れ、
汚染されて行った。
その結果、力の弱い悪魔までも地上に蔓延る様になり、益々魔法は増えて行った。


魔法使い


魔法使いには4つの系統に分けられる。
1つは血統によって魔法を使うリニージ。
1つは学習によって魔法を使うリタレット。
1つは他者や道具の力を借りて魔法を使うエイデッド。
1つは呪われた事で魔法使いになるエンカースト。
リニージの魔法使いは悪魔その物か、悪魔の子孫である。
リタレットの魔法使いは弟子を取って魔法を受け継がせる。
エイデッドの魔法使いは直接悪魔の力を借りているか、悪魔の力を宿した道具を使う。
エンカーストの魔法使いはエイデッドに似るが、その力は基本的に本人の望まない形で現れる。
リニージは魔法暦では外道魔法使いと言われる。
リタレットは共通魔法使いを含め、魔法を他者に「教える」又は「教わる」全ての魔法使いを含める。
エイデッドは魔法暦では姿を消したが、魔法道具を使う者が、これに該当するかも知れない。
エンカーストは魔法暦でも生き残っているが、その性質上、人から離れて暮らしている事が多い。
系統は明確に分けられる訳では無く、リニージのリタレットや、リニージのエイデッド、
リニージのエンカースト、リタレットのエイデッド等と言った、複数の系統に跨る物が普通に居る。
しかし、共通魔法使いは純粋なリタレットであり、原則的に、そして哲学的に他の要素を含まない。

10 :
人間


ファイセアルスに生きる多くの者は魔法資質を持つが、本来の人間は魔法資質を持たない。
何故ならば、元々魔法の無い世界に生まれた神の子だからである。
何故ファイセアルスの人々が魔法資質を持つのかと言えば、それは純粋な人間では無い為だ。
悪魔の魂に人の精神を宿して、それに肉体を与えた物が、ファイセアルス人「サイカント」である。
「サイカント」は「サイカントロプス(シーヒャントロポス)」の略であり、サイカンス、
シーヒャント等とも呼ばれる。
これは旧暦の人類「アルカント」とは亜種の関係にあるが、肉体的には非常に近しい種でありながら、
根本的には全くの別種と言う複雑な関係になっている。
普通の動物と霊獣や妖獣の関係も、これと同じと言って良い。
魔法大戦によってアルカントは絶滅の危機に瀕し、種の維持と存続の為にサイカントが生み出された。
サイカントは魔法暦以後の社会に適した人類ではあるが、適応進化によって誕生したのではない。
その誕生は偶然では無く、人為的な物である。
サイカントが悪魔の力を借りて人工的に造られた種だと知る者の中には、魔法を使うサイカントを、
悪魔の子、『悪魔擬き<デモノイド>』と呼んで蔑む者も居る。


魔導師会


共通魔法使いのエキスパートである魔導師の集団。
魔法大戦後の魔法秩序を維持する為に創設された。
旧暦は数多の魔法使いが、それぞれの魔法を使って人を囲い込み、割拠していたが、それを打ち破り、
人々に魔法を開放したのが、共通魔法使い達の祖である。
人は魔法を得て神と決別した為に、その後の秩序は自分達で維持して行かなければならなかった。
表向きには旧暦と魔法暦で人類種が入れ替わった事は秘密にされているが、魔導師会の中でも、
八導師と呼ばれる最高指導者は、旧暦や魔法大戦の隠された事実を知っている。

11 :
竜に焦がれて


所在地不明 反逆同盟の拠点にて


反逆同盟の一員ニージェルクローム・カペロドラークォは、毎晩所では無く、眠りに落ちる度に、
竜の夢を見る様になっていた。
夢の中で彼は巨大な竜になり、都市を襲って逃げ惑う人々を蹂躙する。
口から吐くブレスは全ての物を崩壊させ、大地をも溶かして泥の海に変える。
昂る力の儘に天に吠えれば、雷鳴が轟き嵐を呼ぶ。
後に残るのは毒の沼。

 (見よ、愚かなる人の有り様を!
  斯様に脆弱で卑小な存在でありながら、同属で憎み合い、敵対して優劣を競い争い合う。
  畜生と変わらぬ物なのだ!)

夢の中でニージェルクロームの心は竜と同調している。
竜の心が己の意思の様に感じられる。
自分が卑小な人間だと言う意識は無い。

 (天よ、父よ、母よ、答えられよ!
  それでも尚、人を愛されるか!
  その愛を以って、我等を阻まれるか!
  遥か天上より篤と御覧あれ、地上は我等竜の物!)

そんな夢を何度も何度も見させられていれば、彼で無くとも気が変になる。

12 :
ニージェルクロームは目覚める度に、己の体を確認した。
手足に鱗が浮き出ている様な錯覚が偶にあるのだ。
夢が実は正夢で、自分が眠っている間に、どこかの都市を襲撃したのではと時々思う。
心做しか日毎にアマントサングインの様に肌が赤黒く、瞳が赤くなっている様な気がして来る。
輝く太陽を仰げば、自然に気が昂り、咆哮を放ちたくなる。
ここに至って漸くニージェルクローム――否、ハイロン・レン・ワイルンは何故竜に憧れたのか、
自問する様になった。
ボルガ地方生まれの彼にとって、竜とは支配の象徴だった。
古代の伝説では超自然の存在である竜が人を認めて選ぶ事で、人は王となる。
その神聖な竜の力を得て、人は王に変わるのだ。

 (俺は王になりたかったのか……?
  違うな、竜と言う人智を超えた存在、その力に憧れたんだ)

彼は王よりも、王を選ぶと言う竜に興味があった。

 (そして竜の力を得て何をしようと考えていた……?
  多分、何も考えてなかった。
  俺は凡人にはなりたくなかった。
  だから、特別な存在の竜に自分を重ねた)

下らない自尊心と自己顕示欲が、彼を誤らせてしまったのだ。
しかし、目覚めるのが遅過ぎた。
彼は竜と一体化しつつある。
それも取り返しの付かない程。
こうやって冷静に自己を省みる事が出来る時点で……。
彼の心は人間的な執着心から解放されていた。

13 :
ニージェルクロームは同盟に加わったばかりの頃、同盟の長であるマトラを不気味に思っていたが、
次第に慣れて何とも思わなくなった。
だが、アマントサングインが覚醒して以降は、見るだけでも嫌悪感を催す様になっていた。
今は彼女に話し掛けられても無視して構わない、寧ろ、相手にするべきでは無いと思う。
マトラに限らず、この同盟に存在する者は、誰も相手にする価値が無い。
フェレトリもサタナルキクリティアもディスクリムも人間では無い。
ゲヴェールトとリタは人間を辞めている。
ビュードリュオンも何れ人間を辞める。
奇妙な話だが、アマントサングインと同化しつつあるニージェルクロームは悪魔を脅威とは捉えず、
「人間では無い事」、「人間から離れつつある事」を理由に無価値な存在だと取り上げなかった。
逆に言えば、もし「人間」であれば、興味を持って取り上げたと言う事だ。
アマントサングインは竜の本能として、善良な人間を探していた。
それこそが竜の守るべき存在。
自身は竜であるからして、人との共存等、望むべくも無い。
竜は人の敵なのだ。
その竜が「善人を守る」とは、どう言う事なのか?
今も尚、竜の使命に殉じるアマントサングインは夢を見ている。
嘗ての聖君の様に、何時か善の心を以って、己に立ち向かう勇者が現れる事を……。
勇猛果敢な人間は幾らでも居るが、勇気の正体が怒りや憎しみであってはならない。
怒りに身を任せ、憎悪に身を窶した人間には、戦禍竜であるアマントサングインは倒せない。
その血と涙、恨みと憎しみが力を持った存在こそが、アマントサングインなのだから。
魔導師会も善の存在とは認め難い。
あれは組織の理論で行動しているに過ぎない。
善性は個々の人間が持つ物であり、命令の実行に善性が伴うとは限らない。
自発的に行われる善こそが、竜の認める真の善なのだ。
命令者の善も真の善とは言い難い。
他人に良い事をしろ、善人になれと言うのは簡単だが、自ら為す事は難しい。
そして権威の下に善を命じ、命じられる儘に善が為される事は、悪を命じて悪が為される事と、
何等変わりが無い。

14 :
高い理想の元にアマントサングインの目指す世界は、小群落で人が慎ましく暮らす世界だ。
人の国は大国になればなる程、大きく発展するが、一度暴走すれば手が付けられなくなる。
どんなに優秀で賢い者も、集団化して組織化されると、忽ち凡俗になり、時に愚劣になる。
そうした意識は凡人である事を嫌うハイロンの意識に、抵抗無く受け容れられて同化した。
初めはアマントサングインとの同調を否定していた彼だったが、少なからず共鳴する部分あった事で、
徐々に竜と自分の意識の境界を失って行った。
ハイロンは今や、生き残るべき人間を選別する立場にあるのだ。
ある夜、彼は夢遊病の様に独り反逆同盟の拠点から出て行く。
彼の意識は明瞭で無く、竜が体を操って誘導していた。
竜を監視する目的で、ハイロンの影にディスクリムが取り憑く。
ディスクリムは何時竜が離反しても良い様に、昼も夜も無く彼を警戒していた。

15 :
カターナ地方ガラス市にて


道無き道を歩き、大通りに出てからも更に歩き、ハイロンが辿り着いたのはガラス市。
大都市と言う程では無いが、決して小さいとは言えない、人口50万人規模の中都市だ。
既に夜は明けて、太陽が天に高く明るく輝いている。
ハイロンは都市の繁華街で人込みに揉まれながら天を仰ぐと、その場で竜の幻影を纏った。
初めは見世物の類だと思って、余り動揺しなかった市民だが、竜が建物を破壊し始めると、
流石に異常だと気付いて逃げ出し始める。
恐慌は伝染して人々は竜から距離を取ろうと逃げ惑う。
ある程度、人が逃げた所で、アマントサングインは腐蝕ガスを吐いて、防御を固めた。

 (手加減しているのか……?)

影に宿っているディスクリムは、その行動に違和感を覚える。
とても人を殺そうとしているとは思えない。
人込みの中で凶悪な腐蝕ガスを撒き散らせば、一度に大量の人間を殺せるだろうに。
それは竜にとって殺人が目的では無い事を意味している。
やがて地元の執行者が駆け付けるが、腐蝕ガスに守られたアマントサングインに手が出せない。
この腐蝕ガスは魔力を遮り、魔法を無効化するのだ。
数針も経てばガラス市の繁華街からは人の姿が消え、本部から執行者の大軍が派遣される。
新たに到着した部長級の執行者の指揮官は、それまで現場を指揮していた課長級の執行者に尋ねた。

 「逃げ遅れた市民は居ないか?」

 「殆どは退避させましたが、全員かは分かりません。
  このガスが魔力を遮っとりまして、探知魔法が使えんのです」

 「……統合刑事部が到着するまで、未だ時間がある。
  偵察の序でに何人か捜索に向かわせよう」

指揮官は腕利きの執行者を集めて、竜の様子を観察すると同時に、取り残された市民が居ないか、
捜索する様に命じた。

16 :
アマントサングインは千里眼でガスの中を前進して来る執行者を認識して、ハイロンに呼び掛ける。

 (来たぞ。
  あれが魔導師会の執行者だな)

 (ああ、何をしに来たんだろう?
  偵察かな?)

 (それと残留者の確認だな。
  よく訓練されている……が、果たして)

 (何をする気なんだ?)

 (ここには10人余りの残留者が居る。
  気配を感じるか?)

アマントサングインの問い掛けに、ハイロンは頷いた。
今、彼と竜の感覚は同調しており、普段魔力を読み取る様に、生命の気配を感じられる。
ハイロンは驚いた。

 (この腐蝕ガスの中で生きてるのか……)

 (『腐敗の吐息<ロトン・ブレス>』は我が血と混じる事で、我が意の儘になる。
  詰まり、残留者を生かすもRも私の意思一つだ)

 (……殺さないのか?)

 (私が何故残留者を殺さないのか、『同調者<シンパサイザー>』ならば解る筈だ)

古の邪悪な竜が財宝を守るが如く、アマントサングインは取り残された人間を守っている。
この宝を命懸けで奪いに来る者を待っているのだ。

17 :
数人の執行者が魔力の壁で自らを覆い、腐蝕ガスの漂う空間に進入する。
絶対に無理はしない様に、不測の事態が起きたら撤退する様にと、強く念を押された執行者達は、
分散してガスの中を捜索した。
普通、こう言う時は魔力通信で連絡を取り合うのだが、濃度の高いガスの中では魔力が阻害され、
真面に通信が出来ない。
建物は溶解しており、どれが何の建物だったのか区別する事も困難で、下手をすると迷子になる。
濃霧の中の様に、本の数身先も見えないのだ。
執行者達は恐る恐る慎重に進まざるを得なかった。
それをアマントサングインは嘲笑する。

 (ハイロン、見よ。
  人の心が手に取る様に解るだろう)

そうハイロンに呼び掛けると、竜は一人を狙って遠距離から腐蝕ガスを吹き掛けた。

 「うわっ……!!」

竜に攻撃されたと理解した執行者は、慌ててガスの外に後退する。
ハイロンは落胆した。

 (……情け無い。
  あんなのが、この世界を守っているのか)

市民に畏怖され、或いは尊敬され、信頼されていた魔導師も、竜を前にしては個人では、
何も出来ずに狼狽えるだけの存在なのだ。
竜を退治する所か、逃げ遅れた市民を発見する事も出来ない。

18 :
アマントサングインも退屈して、その場に座り込む。

 (中々取り残された生存者に気付かないな……。
  私が見たいのは、こんな物では無いぞ)

 (勇敢な人間を探しているのか?)

ハイロンの問にアマントサングインは内心で肯く。

 (強大な物に対して恐れを抱くのは、生物として当然だ。
  しかし、他人の為に自らの命を危険に晒す事が出来る者は少ない。
  兵士は命令だから、それが出来る。
  その様に訓練されている。
  魔導師も似た様な物だろう。
  だが、それでは不十分だ。
  真の勇気、勇敢さとは何かを考えた事はあるか?)

 (いや……)

急に聞かれても、ハイロンには答えられなかった。
勇気にも種類があり、色々と言わるが、その区別は明確では無い。
多くは事の成否、結果を以って、勇気だの無謀だのと言うに過ぎない。
それでもアマントサングインは確信を持って言う。

 (それは抗う事だ。
  易きに流れる心と戦う事だ。
  如何に勇猛と称えられようと、恐怖や迷いと戦わぬ者は臆病と変わらぬ。
  臆病者が振り絞る僅かな勇気こそが真の勇気。
  それは改心した悪人こそが真の善人と言うに似る。
  人は私情と私欲に駆られ、容易く悪の道を往く。
  一度悪人と見做されると、善の道には戻り難い。
  一方で過ちを恐れて何も為さねば、善も悪も無い。
  多くの者は、そうして逸脱しない事を善と誤解している。
  それに勇気は要らない。
  真の善の道は険しい)

19 :
アマントサングインは執行者が残留者を発見するのを静かに待った。
何人かは竜の観察に寄って来たが、巨体で目立つ竜とは違い、瓦礫の中の残留者には気付かない。
執行者達は賢明にも指示を忠実に守って、竜には手を出そうとしない。

 (真の勇気、真の善とは、他者には評価出来ない独り善がりな物だ。
  故に、尊く、侵し難い。
  竜と言う脅威の前に、数人の人命は些細な事なのか……。
  どれ、試してやろう)

待ち草臥れたアマントサングインはガスを操り、瓦礫の下に取り残されている市民の声を、
近くの執行者に届かせた。

 「助けて……、誰か……」

微かな声を聞いた執行者は動揺して、辺りを見る。

 「誰か居るのか……?」

 「うぅ……、早く見付けて……」

救助を求める声は弱々しく、執行者に呼び掛けていると言うよりは、小声で呻いている様子。
執行者は判断に迷った。
今、自分は竜を観察している。
上司に許可を取ろうにも、ここは魔力の通じないガスの中だ。
独自の判断で行動するしか無い。
竜は静かに、この執行者の決断を見守った。

 (さて、どうする?
  お前の善性が試されているぞ)

正体の判らない一人を助けるのか、それとも観察を続けるのか……。

20 :
執行者は迷いに迷った末、自らの心に従った。
ここで市民を見殺しにしたとあれば、執行者の恥だと思った。
竜は動かないと信じ、彼は声のする方向へ向かう。

 (これで良いのか?)

彼を善人と認めるのかとのハイロンの問に、アマントサングインは厳しい調子で答える。

 (否、これは入口に過ぎない。
  善性の関門は厳しいぞ)

アマントサングインは巨体を動かし、この執行者を追い始めた。
執行者は救助を諦めざるを得ない。
竜に襲われては、自分も要救助者も一溜まりも無い。

 (あっ、逃げた……)

 (賢明な判断だ。
  恐らく仲間を連れて戻って来るだろう。
  だが、どこまで本気で救助出来るかな?)

魔力を通さない腐蝕ガスの中では、執行者であろうとも無能の人間と変わらない。
加えて、腐蝕ガスの中で長時間行動出来る者も稀なので、人海戦術が取れない。

 (非力なる者の嘆きを聞くが良い)

アマントサングインはガスの中に取り残された者達の苦しみの声を、拡大して木霊させた。

 「助けてくれ!
  体が焼ける、死にそうだ!」

 「ここに居るぞー!」

 「誰か早く来てくれ!」

それは執行者に全ての生存者の存在を知らせる。
焦りは判断力を鈍らせ、勇気と無謀の区別さえ付かなくさせる。

21 :
執行者達は自分の近くに居る残留者を一斉に救助しに動いた。
それを竜は巨体とブレスで妨害する。
だが、単独では全員の妨害は出来ず、何人かは救助された。

 (もう助けさせて良いのか?)

 (後で分かる)

10人余り居た残留者は、執行者によって救助され、残り3人となる。
全ての残留者が判明し、その何人かを救助したと言う事実は、全員を助けられるかも知れないと言う、
大きな希望に繋がるが、ここからが難しい。

22 :
一旦引き揚げた執行者達から残留者の話を聞いた指揮官は、決断を迫られる。

 「取り残された者が、後3人……。
  しかし、近くに竜が居て救助が難しいと」

 「はい、どうにか出来ないでしょうか……?」

 「囮作戦を試してみよう。
  注意を引いて誘い出し、その内に救助するんだ」

魔導師会本部に竜の存在を報告した時、本部からは統合本部隊の到着まで、可能な限り被害を抑えて、
時間を稼ぐ様に命じられ、同時に竜の力を見誤って本格的な攻撃を仕掛けない様にとも釘を刺された。
囮作戦は魔導師会本部の指示に明確に反するとまでは言えないが、少なくとも指示通りでは無い。
執行者達は5つの小部隊に分かれ、内3つは残留者の救助に向かい、2つは竜の注意を引く囮となる。
腐蝕ガスは魔力を遮るだけでなく、複数のガスの混合で、中には可燃性のガスも含まれている。
よって攻撃手段は限られている。
最も有効と思われる攻撃は、腐蝕ガスを掻き分けて、接近してからの攻撃。
遠距離攻撃は腐食ガスに阻まれ、威力が落ちる。
囮部隊が役目を果たす為には、危険な接近戦を挑まなければならない。

23 :
アマントサングインは周辺の状況を俯瞰していた。
当然、執行者達の目論見も看破している。

 (フム、そう来るだろうと思っていたぞ)

 (どうするんだ?)

 (先ずは乗ってやろうでは無いか!)

自らに向かって来る囮部隊をアマントサングインは、その場で迎撃した。
執行者達は魔力の障壁で腐蝕ガスを受けない様にし、至近距離からニードルガンを打ち込む。
しかし、幻影のアマントサングインに物質的な攻撃は通用しない。
無情にも射出された金属の針は竜の体を貫通して、ガスの向こうに消えて行く。
逆にアマントサングインの方からはハイロンを介して攻撃が出来る。
ハイロンが腕を振るえば、その軌跡に沿って幻影の竜の腕が動き、溶け行く大地に爪痕を残す。
執行者達は作戦が思う様に行かないので狼狽した。

 「ど、どうすれば良い?
  全く攻撃が当たらない!」

 「これでは竜を退かす所の話じゃないぞ」

 「時間が無い、一時撤退しなければ!」

魔力が遮られている中で、魔力の障壁を維持しながら戦うには、魔力石が不可欠だ。
そして魔力石に込められた魔力が尽きた途端に、腐蝕ガスを防ぐ手立てが無くなる。
それはエア・パックを背負って水中で活動するのと同じだ。
活動時間には限りがある。

24 :
執行者達が撤退を考え始めた時の事である。
ここでアマントサングインは残留者の一人が居る瓦礫の上に右の前足を乗せ、大きく吠えた。
咆哮は大地を揺るがし、崩れ落ちた瓦礫が残留者達を圧迫する。

 「うわーーーーっ!!」

 「痛い、苦しい!!」

 「つ、潰されるっ!!」

残留者の悲鳴に、執行者達は一時撤退を躊躇う。
アマントサングインは執行者達に思念を送り、善性を問う。

 (いざ、いざ、如何に!
  退けば皆死ぬぞ!!)

25 :
それは「R」との宣言だ。

 (本当にRのか?)

無抵抗の者を殺める事にはハイロンも動揺したが、アマントサングインは撥ね除けた。

 (これまで私は数万、数十万の命を屠って来た。
  今更数人殺した所で何だと言うのか……。
  それに人質が何時までも生きていると思う等、どうかしている。
  助けるには『今しか無い』、そう言う状況は概して不意に訪れる物だ。
  さて、執行者とやらは、どう出るかな?)

無理をしてでも助けるのか、それとも自らの安全を優先して撤退するのか……。
竜は静かに執行者達を睨め下ろしていた。

26 :
執行者達は先ず、竜がテレパシーを送って来た事に驚いていた。
巨大な怪獣だと思っていた物が、意思を持って人に問い掛けて来るのだ。
執行者達は自分では判断が出来ず、部隊を率いる隊長の判断を仰ぐ。

 「た、隊長……」

その決定は重大だ。
隊長とて判断に迷う。
ここで撤退を指示すれば、確実に3人の残留者は死ぬ。
しかし、残って作戦を続けた所で、光明は見えない。
魔法が使えない状況では、執行者と言えど無力だ。
迷っている間にも時は過ぎて行く。
何も決められない儘、愚図愚図しているのが最も悪い。
アマントサングインは慈悲深くも決断を待った。

 (ハイロン、よく覚えておくが良い。
  こう言う時は打算が働くのだ。
  10人余りの内3人が取り残されている状況は、逆に言えば、7割は救出したと言う事だ。
  手を尽くしたが、及ばなかったと言っても、言い訳は立つ。
  それに唯3人の為に、その5倍の執行者を失えるか?)

既に結論は出ているも同然だ。
冷静に考えれば、それしか選べない。
隊長は結局、無難な選択をする。
それが正しい、そうするべきだし、そうするしか無い。

 「撤退しろ、責は私が追う。
  早く戻れ!」

苦渋の決断と言葉で言うのは簡単だが、その証明は難しい。
世の評価は行動と結果が全てなのだ。

27 :
執行者は全員撤退して、アマントサングインは少し落胆した。
それがハイロンには有り有りと感じられた。

 (どうして落ち込むんだ?)

 (勇気と無謀に違いは無い。
  人は事の成否を以って、それを語るに過ぎない。
  時には賢く立ち回るより、愚かしくも直向きに進む方が、道を拓く事がある。
  執行者には、それが出来なかった……。
  組織は何時でも責任と戦っている。
  大きく長く続いた組織程、保守的になり、責任の回避に専心する。
  魔導師会とて同じ事なのだ)

アマントサングインは残留者をRと決意した。
その決意はハイロンに伝わり、彼に行動を起こさせる。
ハイロンが片腕を高く掲げると、竜の腕も同調して高く掲げられる。
彼が腕を振り下ろすと、竜の爪が残留者の居る瓦礫の上に突き立った。

 (……断末魔の叫びが聞こえない。
  他の苦しみの声も聞こえなくなっている……?
  生命の反応が感じられない)

アマントサングインは訝る。
残留者は苦しみに耐え切れず死亡したのか……。

 (何か奇怪しい……)

どうしても違和感があったアマントサングインは、死体を確認すべく、爪の先で瓦礫を掘り返した。
しかし、酸に溶かされた訳でも無いのに、死体が見当たらない。
地中には奇妙な穴が開いている……。

28 :
その頃、ガスに覆われた空間の外では、ポイキロサームズが3人の残留者を運び出していた。
人が通れる程の穴を昆虫人ヘリオクロスが掘り、蜥蜴人間アジリア、蛇人間ヤクトス、
蛙人間ヴェロヴェロの3人が負傷した残留者を運び、亀人間のコラルが殿を務める。
こうして5人の連携で、残留者は無事に救出された。
幸いと言うべきか、残留者達は極限状態で意識が朦朧としており、異様な姿をした者達を恐れ、
抵抗する様な事は無かった。
魔楽器演奏家のレノック・ダッバーディーが5人を称える。

 「よくやってくれた。
  君達で無ければ、出来ない事だった」

ポイキロサームズの面々は余り表情の変化こそ無いが、心の中では嬉しかった。
レノックと共に行動している男女一組の八導師親衛隊員も、救出された残留者達の手当てをしつつ、
感謝の言葉を述べる。

 「有り難う御座いました。
  何物にも代え難い市民の命を救って下さった事に、魔導師会の魔導師として、又、
  共通魔法社会に生きる市民として、お礼申し上げます」

それが気に入らず、アジリアは外方(そっぽ)を向いて言った。

 「何だい、その言い方は?
  私達は当然の事をしたまでさ。
  大袈裟過ぎるよ」

正か反発されるとは思わず、親衛隊の2人は言葉を失う。

29 :
レノックは2人に小声で言った。

 「彼女の言う通りだよ。
  今の言い方は良くなかった。
  ポイキロサームズと名乗ってはいるけど、皆自分の事を本当は人間だと思っているんだ。
  君達の台詞は、丸で『外側の者』に対する言い方だった」

ポイキロサームズは外道魔法使いとは違う。
見た目こそ人間から離れているが、元は人間であり、その意識は人間の儘だ。
容貌からして人とは違うと言う自覚こそある物の、最初から人外の存在として生まれた訳では無い。
親衛隊の2人はポイキロサームズに謝罪する。

 「済みません、大変失礼しました」

 「いや、良いんですよ。
  こんな姿ですから……誤解されるのも仕方が無いって言うか……」

蛇人間のヤクトスが間を取り成そうとするも、蛙人間のヴェロヴェロは2人に告げる。

 「それより、救助した3人を早く病院に運んだ方が良いですぜ。
  こんな所で目を覚まして俺等の姿を見たら、卒倒するか、最悪心臓が止まるかも」

自虐的な彼の言葉に、親衛隊の2人は居た堪れなくなり、救出した3人を運ぶ為に、
魔力通信で救援を呼んだ。
亀人間のコラルが言う。

 「それじゃ、今の内に退散しましょうか……」

ポイキロサームズは静かに頷いて、その場を離れた。
外道魔法使い達と同様に、執行者がポイキロサームズを受け容れるには時間が掛かるが、
理解を待っている余裕は無い。
故に、ポイキロサームズの活動は魔導師会でも本の一部の者達と、影で協力するだけに留まる。
ここで執行者と顔を合わせても、面倒事が増えるだけなのだ。

30 :
レノックは冗談交じりにポイキロサームズの5人を慰める。

 「事が終わったら、魔導師会に頼んで人間の姿にして貰おう。
  仮に元の姿が判らなくても良いさ。
  美男美女にして貰って、皆で『芸能人<エンターテイナー>』にでもなろう。
  僕がプロデュースしても良いよ」

ヤクトスは苦笑いした。

 「中々そうは思い切れませんよ。
  それに日陰者が行き成り芸能人って言うのも……」

余り乗り気では無い彼とは対照的に、ヴェロヴェロは上機嫌に喉を鳴らす。

 「俺は良いと思うぜ。
  どうせ人間に戻っても、真面な生活は出来やしないんだ。
  それなら派手に生きるのも悪かない」

 「お気楽な物だね、私は未だ先の事は考えられないよ。
  そもそも私達は同じ境遇ってだけで、友人でも何でも無いんだから。
  それが芸能人になるって言っても……」

アジリアは冷淡で、コラルは弱気だ。

 「こう言うのって、死亡フラグって言うんじゃないですか……?」

生まれた時から「人では無い姿」で、「人としての意識」があるポイキロサームズ。
その未来が良い物である事をレノックは心の底から願った。

31 :
一方アマントサングインは巧々(まんま)と出し抜かれたと悟り、心の中で悔しがる。

 (グヌヌッ、してやられたと言うのか!)

竜は瓦礫の山を叩き潰し、苛立ちを打付けるが、ハイロンは彼の心に喜びを見ていた。

 (嬉しいのか……?)

彼の問にアマントサングインは小さく笑う。

 (フフフ、人間も中々やるでは無いか!
  確かに地下深くまでは我が『吐息<ブレス>』も及ばぬ。
  だが、執行者にも真実を伝えず決行するとは……。
  敵を欺くには先ず味方からと言うが、小賢しい事を!)

 (愚直な勇気とは違うけど、良いのか?)

 (フン、物事は所詮結果だ。
  奴等は知恵を尽くして、我が手に捕らわれていた者を奪い返した。
  結構な事では無いか)

もう用は済んだとばかりに、アマントサングインの幻影は3枚の翼を羽搏かせ、飛翔した。
腐蝕ガスの靄を突き抜け、天高く飛び上がる竜を執行者達は警戒するも、上空からの攻撃は無く、
竜は彼方へと飛び去って行く。

 (次は、どこへ行くんだ?)

ハイロンが尋ねると、アマントサングインは小さく呟いた。

 (暫くは姿を隠して様子見だ。
  この後、悪魔共が如何な行動に出るかも気になる)

32 :
アルアンガレリアの子は聖君によって生み出された物であるが故に、悪魔を敵視している。
共通魔法使いを試す事に変わりは無いが、だからと言って悪魔を利する気は無かった。
アマントサングインは段々と高度を上げて行き、成層圏から地上を見下ろす。

 (見よ、ハイロン。
  海に浮かぶ唯一の大陸の何と寂し気な事か……。
  嘗ての陸地は全て海に沈み、これが代わりに浮上した)

 (共通魔法使いの所為で?)

 (否、全ては人の業だ。
  共通魔法使いの出現は、時流の宿命に過ぎぬ。
  人は自ら神の御許を離れ、苦難の道を選んだ)

33 :
この時のアマントサングインの心境を、ハイロンは測り兼ねていた。

 (恨んでいるのか?)

 (何を恨む事がある?
  それは誰にも逆らい得ぬ、『大理法<アーク・ロー>』の如き大きな定め。
  過去の歴史は全て天意なのだ)

 (そんな馬鹿な)

神を信じない時代に生まれた彼には、竜の言葉に今一つ共感出来ない。
その使命や役割を理解出来ても、こればかりは……。

 (信じられぬか?
  やはり見えも聞こえも触れもしない物を信じる事は難しかろうな)

34 :
竜は少し高度を下げて、唯一大陸を縁取る様に上空の対流圏を大きく緩りと旋回した。

 (この地上が全て理法に基づいて生み出された物だと言う事は、至極当然の事ではあるが、
  同時に驚くべき事だ。
  ここに天地万物の創造主、神を感じずには居られない……。
  しかし、嘗て地上は悲しみに満ちていた。
  人は互いに争い合い、人の世は殺戮、飢餓、暴虐、不信、略奪、痛苦、あらゆる困難に支配され、
  そこら中に死臭を漂わせながら、尚も争いが収まる気配は無かった。
  私は戦禍が生み落とした物。
  我が体は戦死者の血と骨と皮と肉と臓腑、その新鮮な物と腐敗した物が混ざり合って出来ていた。
  私は人の絶望その物だった)

 (悲しいのか?)

アマントサングインは自らの生まれを嘆いていた。
それは決して幸福の為に生み出された物では無いのだ。

 (私は崇高な使命の下に生まれた。
  悲しみ等と言う感情は持ち合わせていない。
  『人の世も捨てた物では無い』、それだけが判れば良い。
  私は竜の使命とは、人に代わって地上を支配する事だと思っていた。
  母アルアンガレリアが人間に与する理由も解らなかった。
  ……今は違う。
  大父ディケンドロスが本当に望んでいた物は何だったのか、何の為に我等が母を生み出したのか、
  今なら解る……。
  兄も解っていたのか、私だけが何も解らぬ儘、戦いを続けていたのか……)

 (何の為なんだ?)

 (絶望の中で輝く物を見付ける為だ。
  それが人の希望となり、人を導く。
  魔導師会が、それに値するかは未だ判らないが……)

アマントサングインは唯一大陸を眺め下ろしながら、風に吹かれる儘に旋回を続けた。

35 :
そしてハイロンに問い掛ける。

 (卑小なる者ハイロンよ、人と悪魔――否、『悪魔擬き<デモノイド>』と悪魔との戦いを見届けた後、
  私は再び深い眠りに就く。
  お前は、どうする?)

 (どうって言われても……。
  俺、実は何も考えてなかったんだ。
  凡人にはなりたくなくて、凄い力を手に入れれば、何か変わると思ってた。
  ……実際、色々変わったけどさ。
  反逆同盟に加わって、それなりに楽しかったけど、何か違ったんだよな)

 (仕様も無い奴だ)

アマントサングインは丸で考え無しの彼に呆れた。
ハイロンは困り顔で竜に相談する。

 (現実的になるべきなのか?
  俺には凡人として生きる事しか出来ないのか……)

 (嫌なのか?)

 (『嫌』とは少し違う。
  俺は偉人にはなれないって言う宿命みたいな物を感じるんだ。
  どう足掻いても、凡人は凡人って言うか……。
  それは幸せな事かも知れないと、今では思う。
  『力の解放』の知識を活かして、民間療法の修行でも始めようかなぁ)

 (お前の人生だ、好きにするが良い)

アマントサングインはボルガ地方の火山に降下した。

36 :
統合刑事部のガラス市到着は惜しくも間に合わず、竜を仕留めるには至らなかった。
しかし、破壊するばかりが執行者では無い。
竜が去った後のガラス市では、執行者を含めた魔導師会が総出で復旧作業に当たった。
家や会社が破壊されても、魔導師会が責任を持って回復する事で、市民は心置き無く、
自衛に努められる。
怪我の治療に関しても、一切の負担は免除される。
こうした太っ腹な「政策」は、魔法道具協会による厳格なMGの管理の下に成り立つ。
魔導師会は益々市民の支持を得て、盤石な組織となる。
しかし、産業が受ける打撃は小さくない。
土地や箱物を建て直し、生産体制を元通りにしても、失われた製品までは戻せない。
そこまでの面倒は魔導師会でも見切れない。
今の所は被害が「市」単位で収まっているが、これが「地方」単位になってしまうと、
物資の不足からインフレーションが進行する可能性が高まる。
そうなれば市民は逆に魔導師会に反発する様になるだろう。
何時までも竜を野放しには出来ない。
同じく不安要因である反逆同盟も早急に片付ける必要がある。
これは魔導師会の総意だった。

37 :
反逆同盟は遠隔地に瞬時に移動する、所謂『瞬間移動<テレポーテーション>』の技術を持っており、
この為に魔導師会は常に対応が後手に回っていた。
だが、魔導師会も無能では無い。
瞬間移動を利用した後には、それなりの魔力の痕跡が残る。
移動距離が長ければ長い程、移動させる物が大きければ大きい程、使う魔力は大きくなる。
D級禁断共通魔法の研究者リャド・クライグ博士の協力で、その性質から拠点の絞り込みを行い、
それはカターナ地方の深い森林の中だろうと言う事までは判った。
半端に手を出して、反逆同盟を刺激したり、取り逃したりしては行けないと、拠点の捜索は、
臆病過ぎる程の慎重さを以って実行された。
その甲斐あって、魔導師会は遂に拠点を突き止める事に成功したのである……。


――熱帯森林戦に続く

38 :
digression

39 :
エア・パック


酸素ボンベに相当する英語。
エア・タンク、オキシゲン・パック等とも言います。
酸素ボンベのボンベは語源不明らしいです。
ドイツ語の「爆弾」が由来とも言われていますが、ボンベには爆弾の意味しか無いのです。
タンクの形状が爆弾に似ているからとか、そんな理由なのでしょうか?
それとも引火して爆発すると危ないからとか?
謎が多い名称です。

40 :
穴が開く


「穴が開く」は「穴が空く」が正しいと言われますが、それは本当でしょうか?
「空く」は「空にする」、「時間的・空間的な余裕を作る」と言う場合に使われます。
「ビンを開ける」と「ビンを空ける」では、前者は蓋を開ける、後者は中身を空にするとなり、
「部屋を開ける」と「部屋を空ける」では、前者は開放する、後者は留守にするとなります。
「開(あ)く」の方は「開(ひら)く」と、「空(あ)く」の方は「空(す)く」と、
置き換えられますが、それで全てが表せる訳ではありません。。
「穴」の場合は「開孔」や「開通」の様に、「開く」が使われる場合もあります。
又、「開(ひら)きがある」の意味で、「差が開(あ)く」も普通に使われます。
「閉める」には「開く」、「埋める」には「空く」と言いますが、これが全てに適用出来るかも、
疑問が残ります。
「穴」は「塞ぐ」とも言い、この「塞ぐ」には他に「口を塞ぐ」、「目を塞ぐ」等がありますが、
「口を空ける」、「目を空ける」とは書きません。
逆に、「手一杯」と言う意味の「手が塞がる」は「手が開く」とは言わず、「手透きになる」、
「手が空く」となります。
「開ける」と「空ける」の使い分けは、前者が具体的な物や動きに対して、後者は空間や時間等の、
非物質的な事を指す場合が多いです。
では、「穴」は何なのかと言われると、どちらとも言えるのが困った所です。
個人的には「穴を空ける」と言う表記には違和感があります。
どうしても「空く」には「空きを作る」、「中身を取り出す」と言うイメージが強いので……。
「穴を掘る」や「穴が出来る」と言う表現もあるので、「開く」や「空く」が気になるのであれば、
そちらを使うのもありだと思います。

41 :
済みません、年末多忙で暫くスレを放置していました。
来年の2週間目からは何時も通りの投稿ペースに戻せると思います。
一足早いですが、良いお年を。

42 :
乙です
また来年も期待!

43 :
明けまして、お目出度う御座います。
心を新たに頑張って行きたいと思います。

44 :
next story is...

45 :
童話「運命の子」シリーズA 奇跡の者


『悪魔退治<デモンバスター>』編


ある冬の日、アーク国王はクローテルを城に呼んで、こう依頼しました。

 「聖騎士クローテルよ、南西の国の公爵領で奇みょうなうわさが立っておる。
  何でも夜な夜な領民をいけにえにささげておるのだとか……。
  使者を送ったが、未だ何の情報も無い。
  とらわれたか、始末されてしまったか……。
  公爵が邪教を崇拝しているとなれば、由々しき事だ。
  クローテル、そなたに公爵の様子を探って欲しい。
  もし邪教に関わっているようであれば、ただちに報告せよ」

南西の国は大陸の隅にあり、大きな国ではありませんが、国主のオッカ公爵はアーク国王と、
主従の関係を結んでいます。
オッカ公爵領で起きた出来事は、アーク国王が責任を持って片付けなければなりません。
その他の国が手を出せば、戦争になってしまいます。
クローテルは国王の頼みを受ける前に許しを求めました。

 「いざと言う時に、我が身を守る事をお許しいただけますか?」

アーク国王は許します。

 「そこまで余も無体ではない。
  やむを得ぬ場合は認めよう」

クローテルは続けて許しを求めます。

 「民を守るために力を振るう事は、お許しいただけますか?」

アーク国王は少しなやみましたが、もうクローテルを止める事はできないと思っていました。

 「許さん……と言っても、そなたは聞くまい。
  認めよう。
  聖書にもある。
  勇ましさの下に表れる正しさは幻であり、真しな愛の下に正しい心は表れると。
  行くが良い」

こうしてクローテルは一人、南西の国へと向かう事になりました。

46 :
クローテルは西の国を通って、南西の国に入ります。
西の国を出て南西の国に入るまでの国境で、彼は身なりの良い若い男に呼び止められました。

 「クローテル殿、久しぶりだな!」

それはルクル国のマルコ王子でした。
王子は多くの家来を従えて、国境の道ばたに並ばせていました。

 「マルコ王子、この様な所で何を?」

驚くクローテルにマルコ王子は言います。

 「オッカ公爵領の怪しいうわさは我がルクル国にも届いている。
  余りにアーク国王の対応が遅いので、少しせつかせてもらった。
  そうしたら案の定、クローテル殿が派けんされて来たという訳だ」

 「私が通りかかるのをお待ちになっておられたのですか?」

 「……そうなるな。
  何、気にする事は無い」

 「何の為にですか?」

クローテルが疑問に思った事を正直に聞くと、マルコ王子は不敵に笑いました。

 「あなたの怪物退治のうで前をこの目で見るためだ」

 「怪物?」

 「ああ、オッカ公爵は夜な夜な怪物に変身して、領民を食らっているとのうわさだ」

 「うわさはうわさでしょう」

 「果たして、どうかな?
  一緒に確かめようではないか!」

マルコ王子はクローテルと行動を共にする気です。

47 :
クローテルは王子の後ろの家来たちを見て、遠回しに断ろうとしました。

 「しかし、マルコ王子、みんな一緒には無理です。
  それにあなたは外国の王子です。
  事前に断りも無く入国を許されるか……」

 「試してみれば良いではないか」

マルコ王子は構わず、ぞろぞろと家来を引き連れて、オッカ公爵領の門に向かいます。

 「もっと慎重に行動された方が……」

王子と言う身分にもかかわらず、軽はずみなマルコ王子に、クローテルは忠告しようとしましたが、
聞いてもらえません。

 「平気さ、私には神器がある」

そう答える王子の手には、白い布に包まれた神旗マスタリー・フラグがありました。

 「神器を国外に持ち出してよろしいのですか?」

 「逆だ、逆。
  私が国外に出るのだから、神器が必要なのだ。
  何があろうと神器が私を守る」

マルコ王子の側には十騎士のレタート、ドクトル、フィデリートもいます。
さらに兵士も大勢連れており、まるで戦争をしかけるかの様でした。
クローテルが心配した通り、マルコ王子は国境の番兵に入国を断られます。

 「高貴な方をお迎えするには準備が必要です。
  お話も通されず、いきなり入国させろとは、国際的な礼儀に反します」

 「では、王子を追い返して野宿させるのは、礼儀にかなった行動なのか?」

マルコ王子は難くせをつけて、番兵をなじりました。

48 :
番兵は困ってしまい、隊長を呼んで指示を仰ぎました。
隊長は王子たちを見て深々(ふかぶか)と頭を下げます。

 「大変失礼いたしました。
  高貴な方をいつまでも、この様な場所にとどめおくわけには参りません。
  お話は後ほどおうかがいするとして、とりあえずは、お城にお越しください。
  すでに、お部屋を手配してあります。
  お供の方がたも、どうぞ遠りょなさらず」

急に対応が変わったので、みんな怪しみましたが、マルコ王子は気にしませんでした。

 「ウム、それではありがたく、お言葉に甘えるとしよう。
  どうした、みなの者?」

軍師のドクトルが、みなの気持ちを代表して忠告します。

 「王子、どう考えても怪しいですよ」

 「分かっている、何か裏があるのだろう。
  それをこれから暴こうというのだ。
  怖いなら帰って良いぞ」

 「王子を置いて帰るなど、できようはずもございません」

 「そうであろうな。
  家臣とは難ぎなものよ……。
  では、命じよう。
  さすがに大所帯が過ぎるので、供は十人までとする。
  先方にも迷わくであろうからな」

49 :
マルコ王子の命令で、十騎士の3人と兵士4人と召し使い3人が残り、それ以外は帰国しました。
隊長は残念がります。

 「私どもは全員お迎えしても構いませんでしたが……」

 「そなたは良くとも、下々(しもじも)の者が大変であろう」

 「未来の国王となられる方の思りょ深さには感服するばかりです」

 「世辞は良い、早く案内してくれないか?」

 「失礼いたしました。
  かように高貴な方と、お話をする機会はなかなかありませんので、つい興ふんしてしまい……」

隊長に案内されて、王子の一行は領内に入りました。
クローテルは、おまけの様なあつかいで、王子について入城します。
お城に着いた一行ですが、オッカ公爵には会えず、その代わりに公爵の家令があいさつをしました。

 「まことに申しわけございません。
  公爵は気分が優れず床にふしており、みな様の前で万に一つも粗相があってはならないとの事で、
  筆頭家令の私が代理としてみな様をおもてなしいたします。
  どうか、お許しください」

マルコ王子は不服そうに言います。

 「いや、ならぬ。
  私たちは旅行に来たわけではない。
  奇みょうなうわさの真偽を確かめに来たのだ」

 「うわさとは何でございましょう?」

とぼける筆頭家令に王子は正直に答えました。

 「毎夜、領民が怪物におそわれているという」

50 :
筆頭家令は困った顔をして言います。

 「一体だれが、その様なうわさを……。
  事実無根でございます。
  さような事がございましたら、今ごろ領内は荒れ果て、領民は逃げ出しておりましょう」

マルコ王子は彼の言葉を信じず、とにかくオッカ公爵との面会を求めました。

 「お前では話にならん。
  オッカ公爵は、どこだ?
  具合が悪いと言うなら、この私が見まってやろう。
  さすれば病の気も飛ぶであろうよ」

あわてて筆頭家令が王子を止めます。

 「いけません、いけません!
  ただのかぜか、重い病か、医者に見せても分からないのです。
  もしも病気が移るような事があっては……」

病気が移ると聞いては、王子も引き下がらざるを得ませんでした。
筆頭家令は自信を持って王子に言います。

 「本当に夜に怪物が現れるか、一晩おとまりになれば、お分かりいただけるはずです。
  はるばるルクル国から旅をなされて、おつかれでしょう。
  今日のところは、お休みください。
  明日になれば、公爵の具合も快方に向かっているかも知れません。
  お話は、その時にでも……」

そう説得された一行は、一晩お城で休む事になりました。

51 :
マルコ王子の一行には、それぞれ別の部屋があてがわれました。
夕さんの時間にも公爵は姿を見せませんでしたが、ごう華な食事が用意されました。
旅でつかれていた王子たちは、食事に毒がない事を確認すると、遠りょなく食べはじめます。
全ての料理がおいしく、王子たちは満足して部屋に戻り、眠りにつきました。
しかし、クローテルだけは夜遅くなっても眠らず、城のまどから外の様子をながめていました。

 (あれは何だろうか?)

クローテルは城の庭に気になるものを見つけました。
黒い服を着たなぞの者たちが、水のかれた庭のふん水に集まっています。
黒い服の者たちは一人二人とふん水の真ん中に立つ建つ像の中に消えて行きます。
気になったクローテルは剣を手に持つと、まどから飛び降りて、後を追ってみました。
像の中には地下へと続く秘密の階段があります。
クローテルは明かりも持たずに、暗い中を進んで行きました。
彼の目は暗闇でも利きます。
階段は緩やかな下り坂になっており、真っすぐ城の方に伸びていました。
坂を下りきったクローテルは、そこで恐ろしい物を目にします。

52 :
彼が着いたのは、お城の広間ほどもある空間でした。
その真ん中には祭だんがあって、多くの黒い服を着た者たちが、恐ろしい呪文を唱えています。

 「かん大な魔神様、かん大な魔神様、どうか我らに奇跡をお与えください。
  偉大な魔神様、偉大な魔神様、どうか我らの敵に死をお与えください。
  信じる者には恵みを、信じない者には罰を……」

空間には吐き気をもよおすような甘い臭いが満ちていますが、黒い服の者たちは気にしていません。
みんな同じように地面にふせて、頭を大きく上げたり下げたりしながら、何度も何度も拝んでいます。

 (邪教すう拝か!)

クローテルは儀式の様子をじっと見ていました。
やがて祭だんの上に、2人の幼い子を連れた大人が上がります。

 「おお、すばらしき悪魔公爵様、いけにえをお受け取りください!
  あわれな子らをあなた様の愛で満たし、祝福をお与えください」

幼子はうつろな目をしていて、何の抵抗もしません。
大人は黒いナイフのような、えい利な刃物を取り出して、高くかかげました。
幼子だけでなく、みんな正気ではないのです。

 (止めさせなくては!)

クローテルは居ても立ってもいられなくなり、かがやく剣を抜いて飛び出しました。

 「お前たち、おろかなまねは止めろ!
  いけにえをささげて何になる!」

53 :
それまで地面にふせていた黒い服の者たちは、あわてて立ち上がって振り向きました。

 「神聖な儀式の邪魔をさせてはならんぞ!!」

祭だんの上の者がさけぶと、黒い服の者たちは一斉にクローテルに向かって行きます。

 「どけぇっ!!」

クローテルは向かって来る者は容しゃせずに、投げ飛ばしました。
剣を振るうまでもなく、一人を片手で持ち上げて、集団に向かって放り投げるだけで、
おもしろいように倒れて行きます。
クローテルは倒れた人びとを飛び越えて、一気に祭だんの上に立ちました。

 「幼子をいけにえにささげるとは、何という外道!
  今まで何人をぎせいにして来たのか!」

 「うるさい!
  それが何だと言うのだ!」

怒る彼にひるまず、祭だんの上の黒い服の者は刃物を投げつけます。
それをクローテルは受け止めて、強い力で刃をにぎりつぶしてしまいました。
刃物は粉々になって祭だんに落ちます。
クローテルは人を邪悪にさそう何かが、この空間にはあると感じました。

 「そこかっ!!」

彼はかがやく剣を振るい、祭だんの上の怪しい臭いを振りまいている香ろを次つぎと壊しました。
さらに彼は上に向かって剣で十字を切って、空間の天井をつらぬきます。

 「邪悪な気よ、去れ!!」

クローテルがさけぶと、地下なのに強い風が吹いて、おかしな臭いを消し去ります。

54 :
黒い服を着た者たちは、みな正気に返りました。

 「ここは、どこだ?」

 「今まで何を?」

うろたえる人びとの中で、一人だけクローテルをにらんでいる者がいました。
それは祭だんの上で幼子をいけにえにささげようとしていた者です。
彼は黒い衣をはぎ捨てると、いまいましさをあらわに言いました。

 「おのれ、貴様は何者だ!
  ルクル国の間者か!?
  ここはわしの国だ、勝手な事はさせんぞ!」

彼の正体はオッカ公爵でした。
クローテルは堂々と名乗ります。

 「あなたがオッカ公爵!?
  私は聖騎士クローテル、国王陛下の命により、ご領の視察に参りました。
  オッカ公爵、人はみな神の愛し子。
  いかに領主でも好きにして良い道理はありません」

 「聖騎士?
  何だ、そのふざけた号(よびな)は!
  この国で領主たる公爵のわしに指図できる者はおらん!
  たとえ王でもな!」

そん大なオッカ公爵にクローテルは呆れます。
これほどごう岸な人物を彼は見た事がありませんでした。
アーク国王でも、こうまでろ骨に乱暴な言い方はしません。

55 :
オッカ公爵はだんだん怒りを抑えられないようになって、地たんだをふみます。

 「ああ、思い出したぞ、クローテル!
  最近何かとうわさの若ぞうか!
  調子に乗りおって、子爵の分際でえらそうな事を言うな!
  この下級貴族が!
  お前ごときに、お前、お前、お前えええ!!」

正気に返った人びとも公爵の様子が変だと気づきはじめました。
公爵はますます怒りをつのらせます。

 「何だ、この下民ども!!
  わしをだれだと思うておる!
  わしは神のごとき力を手にしたのだぞ!
  見よ、魔神様よりたまわりし偉大な力を!」

公爵の体は見る見るふくらんで、巨大なみにくいカエルのような姿になりました。

 「ゲッゲッゲッ、わしは公爵であるぞ!
  いや、もはやそのような枠には収まらぬ!
  わしは魔神様の加護により、わい小なる人間とは違うものに進化したのだ!
  だれよりも偉大で強大な、このわしこそが世界を支配するのにふさわしい……」

クローテルはかがやく剣を公爵に向けて問います。

 「あなたは神を恐れないのですか?」

 「神が何だ、王が何だ、教会が何だ、騎士団が何だ!!
  しょせん世界は力がすべて!!
  その力をくれるなら、神だろうが悪魔だろうが何でも良いわ!!
  王の犬め、ザコどもとともに生き埋めになるが良い!!」

56 :
巨大なオッカ公爵が両手で祭だんを叩くと、天井がくずれ落ちます。
クローテルは剣を収め、両手に幼子を抱えると、人びとを出口に導きました。
ふん水のある中庭に出ると、公爵の城はおどろおどろしいとりでに変ぼうしていました。
さらに恐ろしい事に、とりでの上からコウモリのようなつばさを持った魔物が飛んで来ます。
人びとは散り散りに城の敷地から出て、家に逃げ帰りました。
クローテルは人びとを守るために、地上からかがやく剣をふるい、つばさを持った魔物を攻撃して、
次つぎと打ち落とします。
地面に落ちた魔物は、黒いきりとなって消えました。

 (まともな生き物ではないな)

魔物はとりでから次つぎと現れて、きりがありません。
公爵の領内は、あっと言う間に魔物に占領されてしまいます。

 (大元を叩くしかない!)

クローテルは公爵の城だったとりでを見上げて、決意しました。
彼は固く閉ざされた門を打ち破り、正面からとりでに乗りこみます。

 (マルコ王子たちも助けなければ……)

とりでの中に入ったクローテルは、気を集中して聖なる気配を探しました。
邪悪な気配が支配するとりでの中で、ただ一点だけ3階の一室に優しい明かりに照らし出された様に、
清らかな場所が感じられます。
そこに向かって、クローテルは階段をかけ上がりました。

57 :
2階では悪魔と化した筆頭家令が、クローテルを待ち構えていました。
背中には大きなカラスのようなつばさが生え、顔面はそう白で生気がありません。

 「まぬけな王子より貴様を警かいすべきだったか、聖騎士クローテル!」

 「どけ!
  さもなければ、ここで果てるか!」

クローテルは筆頭家令をおどしましたが、まったく通じませんでした。

 「勇ましい事ですな。
  それが口先だけでなければ良いのですが……。
  私は公爵かっ下のしもべとして不死身の体をいただきました。
  あなたに関する数々のばかげたうわさが、仮にすべて本当だとしても……、
  不死身の者をR事はできないでしょう」

筆頭家令は悪魔の本性を表して、けだものの姿になりました。
口は犬のようにさけて突き出し、頭にはねじくれた3本の角が生え、はだは黒い毛におおわれて、
うでや足がのび、つめはとがり、まったく化け物です。

 「どうですか、この力強い肉体を目にした感想は!
  すばらしいでしょう、美しいでしょう!
  じゅ命や病とは無えん!
  私はぜい弱な人間を超えつしたのです!
  神が存在するのであれば、何とおろかなのでしょう!
  老いさらばえ、病に苦しむ運命を人に背負わせるから、私のような背教者が生まれるのです!」

クローテルは得意になってほえる筆頭家令の言葉を無視して、静かにかがやく剣を抜きました。

58 :
かがやく剣を見た筆頭家令はおどろきます。

 「な、何ですか、その武器は!?
  私たちの知らない神器があったとでも……」

 「本当に不死身なのか、身をもってしょう明してみせるが良い」

クローテルが剣を振るうと、悪魔の角が折れて飛びました。
筆頭家令はふるえて縮み上がります。

 「て、鉄より硬い私の角が……」

 「そこをどけ。
  命まで落とす事は無いだろう。
  三度は言わない」

 「お、お許しください、私がおろかでございました!
  公爵かっ下にさそわれるまま、邪悪にさそわれてしまい、今は後かいしております」

クローテルに忠告された公爵の筆頭家令は平あやまりして許しをこいました。
クローテルはしかたないという風にため息をつき、かがやく剣を収めます。
それを見た筆頭家令はすかさず攻撃をしかけました。

 「ばかですねぇ!!
  その剣さえ無ければ何もできないでしょう!」

悪魔のつめがのびて、クローテルの体に突きささります。
しかし、クローテルは少しもひるみませんでした。
彼はつめを叩き折ると、体から引き抜いて、筆頭家令に向けて投げつけます。

59 :
クローテルの怪力で投げつけられたつめは、ものすごい速さで飛んで行き、筆頭家令の目玉に、
真っすぐ突きささりました。

 「ギャーーーーッ!!」

彼は両目を押さえてうずくまり、つめを引き抜きます。

 「こざかしいまねを……!
  この程度のきず、すぐに治りますよ!
  魔神様にいただいた体は不死身なのです!」

その言葉通りに筆頭家令は治った目で前を見ますが、そこにクローテルの姿はありませんでした。

 「どこへ行ったのですか!?」

彼が辺りを見回すと、もうクローテルは3階への階段を上っています。
筆頭家令はあせって追いかけようとしました。

 「行かせません!
  魔神様、私にさらなる力を!」

その時、彼の頭が床に落ちます。

 「ば、ばかなっ!
  首が……」

続いて手も足もどう体も、すべてがばらばらになってくずれて行きました。
クローテルは一しゅんの内に、筆頭家令の体をみじん切りにしたのです。

 「お、恐るべし……」

筆頭家令は復活もならず、そのまま力つきました。

60 :
3階には多くの魔物たちがひしめいていました。
その中で一室だけ魔物たちが近づけない部屋があります。
そこに聖なる旗を持ったマルコ王子たちが居るとクローテルは確信しました。
彼は片っぱしから魔物を切りふせて行き、部屋に突入します。

 「マルコ王子、ご無事ですか!?」

中ではマルコ王子が旗を床に突き立てて、10人の供を守っていました。

 「クローテル殿!
  なかなか来ないので、やられてしまったのかと思ったぞ。
  それにしても、とんでもない事になってしまったな」

悪魔をすう拝しているどころか、公爵が悪魔になってしまうとは思いもよらず、王子は困っています。
クローテルは王子にたずねました。

 「これから、どうなさいますか?」

 「どうも、こうも……。
  何か出来る事があると言うのか?
  この状きょうで……」

逆に王子に聞き返されたクローテルは、力強く答えます。

 「オッカ公爵を倒します」

 「確かに、公爵を止められれば……。
  だが、外は魔物でいっぱいだ」

本物の悪魔が現れるという、想定外の事態にマルコ王子は、いつに無く弱気でした。

61 :
何を恐れる事があるのかと、クローテルは王子をはげまします。

 「しょせん相手は悪魔です。
  ベル・オーメンの力で追い払えませんか?」

そう言われたマルコ王子は、ベルリンガーのレタートに目をやりました。
しかし、レタートはベルを抱えて座りこみ、ふるえているだけです。
王子はクローテルに言いました。

 「年少のレタートには、しげきが強かった様だ」

よく見れば、兵士の中で3人は手足に包帯を巻いています。
マルコ王子はクローテルに向かって、小さく首を横に振りました。

 「けが人を置いては行けない。
  マスタリー・フラグを持つ私が去れば、ここに魔物たちがなだれこんで来るだろう」

クローテルは無言で、けがをした兵士たちに近づきます。
そして一人の兵士の傷ついたうでに手をそえました。
何をするのかと王子は疑問に思って、たずねます。

 「クローテル殿、何を?」

 「私にはふしぎな力がある様なのです。
  こうすれば……」

それまで苦しそうな顔でうつむいていた兵士は、ゆっくり立ち上がりました。
彼は自分の足を触って言います。

 「痛みが消えた!
  傷も治っている!」

62 :
>そして一人の兵士の傷ついたうでに手をそえました。
「うで」じゃなくて「足」ですね。
腕を触って足が治っても、まあ良いとは思いますけど……。
直感的なイメージを優先するなら、やっぱり足です。

63 :
クローテルは残る2人の兵士の傷も治しました。
兵士たちは本来は彼に礼を言うべきところでしたが、それよりも恐れが先に立ちました。

 「あ、あなたは一体……」

マルコ王子も彼を怪しみます。

 「クローテル殿、あなたは本当に人間なのか……?
  こうもきせきを見せつけられると、あなたを聖君や神王と呼ぶ事さえおそれ多い様に思う」

 「大げさですよ……。
  とにかく今は出来る事をしましょう。
  この城は危険です、王子はみなさんを連れて脱出を。
  私が道を開きます」

 「分かった。
  だが、公爵は放っておくのか?」

 「みなさんを安全なところまで送り届けるのが先です」

とにかく今は頼れるのがクローテルだけなので、王子は反対しませんでした。

 「みなの者、クローテル殿に続け!
  ……レタート、何をしている!
  それでも十騎士の後継者か!」

マルコ王子の一行は脱出を決めましたが、レタートだけは正気に返りません。
クローテルは怒るマルコ王子を抑えて、レタートに歩みよりました。

 「レタート殿、ベルをお借りします」

レタートが抱えているベルにクローテルが触れると、ひとりでにベルがゆれて鳴り出します。

64 :
それを聞いたレタートは正気に返りました。

 「クローテル殿……?」

 「レタート、正気に返ったか!
  だが、ベルをあつかえる者はベルリンガーだけのはず……。
  やはりクローテル殿は……」

マルコ王子はクローテルが何者なのか、少しずつ確信を持って行きます。
神器ベル・オーメンは資格の無い者には鳴らせません。
どんなにゆらそうとも、音がひびかないのです。
クローテルはレタートに頼みました。

 「レータト殿、ベルを鳴らして邪悪を振り払ってください」

 「それは……」

レタートには自信がありませんでした。
いくらベルの力でも、悪魔を追い払う事が出来るのか怪しんでいたのです。
もし悪魔を追い払えなければ、みなが危険にさらされてしまいます。
クローテルは力強く言いました。

 「あなた自身とベルの力を信じるのです。
  私が道を開きましょう」

かがやく剣を抜いて高くかかげる彼に、レタートは神聖な物を見ていました。

 「分かりました。
  クローテル殿、あなたにしたがいます」

レタートは彼を信じる事にしました。
その気持ちは、まるで主に仕えるようでした。

65 :
クローテルたちは部屋から飛び出す決意をします。

 「みなさん、良いですか?
  行きますよ!」

クローテルは合図をして、自らが先頭に立ち、部屋の前で待ち構えている魔物たちに突撃しました。
彼がかがやく剣を振れば、魔物たちは切りさかれて、道を開けます。
レタートの鳴らすベルは、魔物たちの動きを止めます。
マルコ王子が旗をかかげれば、魔物たちは近づけません。
一行は安全に城から出て行けました。
しかし、城の外も魔物だらけです。
クローテルはマルコ王子に言いました。

 「みなさんは教会へひ難してください。
  ベルと旗があれば、魔物は手出し出来ないでしょう。
  私は公爵をうちに行きます」

王子はおどろいて彼にたずねます。

 「たった一人でか?」

 「はい。
  王子は人びとを守ってください」

だれもクローテルを止める事は出来ませんでした。
クローテルは一人で魔物だらけの中を走ります。
どんな魔物であっても、かがやく剣を振るう彼を止める事は出来ません。

66 :
悪魔のとりでと化した公爵の城に戻って来たクローテルは、再び正面から乗りこみます。
1階の大広間では2体の悪魔の騎士が待ち構えていました。

 「お前が筆頭家令殿を倒したのか!
  そのまま、逃げおおせておれば良かった物を!
  わざわざ死にに戻って来るとは!」

 「調子に乗るなよ!
  筆頭家令殿は戦いに不なれだった。
  しょせんは使用人頭、戦士ではない!
  だが、我われは違うぞ!」

しっ黒のよろいに身を固めた悪魔の騎士は、剣を抜いて盾を構えます。
そして先にクローテルにしかけました。
その動きはふつうの人間とは比べ物にならない位に速く、また連けいも取れています。
それでもクローテルの敵ではありませんでした。
クローテルは一人の騎士に向けて、全力でかがやく剣を振り下ろします。
騎士はしっ黒の盾で受け止めようとしましたが、盾とよろいごと真っ二つになってしまいます。

 「おお、相ぼう!
  何という事だ!」

あっさり片われが倒された事に、もう一人の悪魔の騎士はおどろきました。
一しゅんのすきにクローテルは、もう一人の悪魔の騎士も切りふせます。
後には中身の無い黒いよろいだけが残りました。
先を急ごうとするクローテルでしたが、中身の無いよろいが勝手に動いて立ち上がります。

 「戦士のたましいは不めつだ!
  敵をみな殺しにするまで、この命のともし火は消えはしない!」

67 :
クローテルはおどろきもせず、かがやく剣を振ってよろいのこてが握っている剣を折りました。
そうすると黒いよろいは再びくずれ落ちて、完全に動かなくなります。

 「戦士のたましいは剣か……」

正体に気づかれた、もう一体の悪魔の騎士は、剣を構えながら下がりました。
クローテルはおじ気づいたような騎士をかっ破します。

 「勇ましいのは口だけか!」

騎士がひるむと剣は勝手に折れて、よろいは動かなくなりました。
おく病さが戦士のたましいを殺したのです。
クローテルは再び階段をかけ上がり、群がる魔物を切りふせて、悪魔のとりでの屋上に出ました。
真夜中の屋上は地上にも増して真っ暗です。
しかし、クローテルはやみの中でも、しっかりと公爵の姿を見ていました。
みにくく太った見上げるほどの巨体は、もう人間の物ではありません。

 「フッフッフ、よく来たな。
  お前の戦いは見ていたぞ。
  まずはかがやく剣を捨ててもらおう」

オッカ公爵の目が赤く光ると、クローテルの持っていた剣が熱くなります。
それでもクローテルは剣から手を放しませんでした。

 「皮ふが焼けつくぞ」

 「どうと言う事はありません」

平然としている彼を見て、公爵は小さくうなります。

 「フムフム、やはり貴様はただ者ではない様だ」

68 :
クローテルの手からは黒いけむりが上がりますが、その内に剣の熱は収まって行きます。
彼はオッカ公爵にたずねました。

 「どうして、あなたは悪魔すう拝を始めたのですか?」

 「人の無力を思い知ったのだ。
  我が国は、いつも大国におびやかされていた。
  アーク国もルクル国も、我が国を対等に見ようとはしない。
  わしは死ぬまで王の下の公爵という身分なのかと思うと、たえられなかった。
  かつては我が国も独立した一国であり、わしも王だったと言うのに……。
  大国の国いと教会には敵わなかったのだ」

公爵は天をあおいで、大きくほえます。

 「王や教会と戦うのに、神を信じて、どうなると言うのだ!
  やつらに権いを与えているのが、その他ならぬ神であるのに!」

 「しかし、あなたは公爵でしょう。
  自らの領地を治めるのに、かなりの裁量が認められているはず……。
  なぜ、あえて王や教会と敵対するのですか?」

 「かなりの裁量だと!?
  いちいち王や教会の裁下をあおがねばならぬ事が、どれほどのくつじょくか!
  わしの国では、わしが全てを決める!
  だれにも口出しはさせぬぞ!
  生まれついて王や教会に飼いなさられ、何の疑問も抱かぬ無知な小僧には分かるまいが!」

公爵が怒ると天がひらめき、雷が鳴りひびきました。

69 :
公爵は高笑いして言います。

 「これが魔神様の力だ!
  我が怒りを受けて、天もふるえておるわ!」

クローテルはまじめに問いかけました。

 「その力で、あなたは何を成すのですか?」

 「この手に世界を収める!
  だれもわしに逆らえない様に!
  わしこそが、この世で最も偉大な者、この世界の王なのだ!」

オッカ公爵の返答にクローテルは悲し気な顔をします。
公爵は再び怒りをあらわにして、彼をにらみつけました。

 「何だ、その目は!」
 「確かに、あなたは強くなったでしょう。
  その力ならば、騎士団も相手にはなりません。
  しかし、力で世界を平らげて王になった、その後は何をするのですか?」

 「知るか!
  わしはわしの思うままに生きるのだ!
  わしをさえぎる物があってはならぬ!
  小僧、貴様もだーー!!」

怪物となった公爵はとりでの屋上に雷を降り注がせました。
はげしい落雷でとりではくずれ、クローテルと公爵は地上に投げ出されます。

70 :
悪魔のとりでの残がいから、人型の巨像が現れました。
オッカ公爵は、それを見上げて言います。

 「見よ、あれが魔神様だ!」

巨像の足元からは黒いもやが吹き出し、その中から無数の魔物たちが飛び立って行きます。
あれが悪魔を生み出しているのだと知ったクローテルは、かがやく剣を振るって魔物を切りふせ、
魔神像に向かって突撃しました。
その前に公爵が立ちはだかります。

 「貴様ごときに魔神様をきずつけさせるわけには行かぬ!
  下がれ、下郎め!」

オッカ公爵はやみをまとって黒い剣とよろいを身に着けました。
そして大きな体にふさわしい大きな剣で、地面をなぎ払います。
クローテルは剣をとんでよけ、あっと言う間に公爵に近づいて、かがやく剣を叩きつけました。
しかし、剣は黒いよろいに弾かれてしまいます。

 「フハハハハ、バカめ!!
  どんなに力を持っていようが、やみの力に敵う物か!!
  R、R、Rぇい!!」

公爵は剣を振り回して、クローテルを切り刻もうとします。
クローテルは公爵の攻撃をよけながら、弱点を探していました。

71 :
なかなか攻撃が当たらないことに、公爵は怒りをつのらせて雷を落としますが、これも当たりません。
クローテルと公爵は、お互いにつかれを知らないままに戦い続けました。
このままではらちが明かないと思ったクローテルは、魔神像をこわそうとします。
あれこそが公爵の力を支えている源だと感じたのです。
ところが、公爵はクローテルの意図を分かっていました。

 「魔神様をねらっているな?
  そうはさせぬぞ!!」

公爵はクローテルを突き飛ばすと、わずかにひるんだすきに無数の魔物におそわせます。
クローテルが魔物を振り払うのに苦労していると、そこへ黒い雷を落としました。

 「どうだ、やみの雷は!
  そのままくたばれぇ!!」

公爵は雷を落とし続けて、魔物もろともにクローテルを攻撃します。
魔物どもは黒こげになって死んでしまい、クローテルも剣を地面に落としてしまいました。

 「やっと死んだか!
  しつこいやつだったが、このわしの敵ではなかったな!」

公爵は高笑いします。
雷に打たれ続けてクローテルも真っ黒にこげていましたが、まだ死んではいませんでした。
暗やみの中でクローテルの白い目が光ります。
それにオッカ公爵は恐れを感じて、身ぶるいしました。

 「な、何だ、お前……。
  お前の様な者が……。
  ええい、R、死なぬかぁ!」

72 :
公爵は黒い大剣をクローテルの頭に振り下ろしました。
それをクローテルは片手で受け止めます。

 「化け物め!
  魔神様、さらなる力を私に!」

公爵がさけぶと、魔神像に雷が降り注ぎ、同時に黒いもやがあふれます。
もやは公爵をおおって、その姿を一層まがまがしい物に変えました。
体はさらに巨大化して、手足が4本ずつ増え、もう何の生き物にも例え難い物になります。
力を得た公爵ですが、クローテルを押し切ることは出来ませんでした。
それ所か、逆に押し返されます。

 「こ、こんな事が……。
  魔神様!!」

クローテルは素手のまま、目にも留まらぬ速さで、公爵を殴りつけました。
分厚いよろいでも全く関係無く、公爵は吹っ飛ばされて地面に転がります。
それから魔神像に向けてゆうゆうと歩き出すクローテルを見て、公爵はあわてて立ち上がり、
やみを集めた4本の剣を持って、クローテルにおそいかかりました。

 「止めろっ、魔神様に手を出すな!」

公爵は巨体に似合わない速さでクローテルにせまり、4本の剣で同時に切りつけます。
クローテルは3本の剣をよけて、残る1本を抱え止め、体をひねって魔神像に投げつけました。

 「こんなバカなぁーっ!」

公爵は魔神像に叩きつけられ、またも地面に転がります。

73 :
公爵がぶつかった勢いで魔神像がかたむきはじめました。
公爵はすかさず立ち上がると、大きな体で魔神像を支えます。

 「ま、魔神様に何と言う事を!
  貴様、万死に値するぞ!」

構わず前進を続けるクローテルにあせった公爵は魔物を呼び集めました。

 「ええい、魔物どもめ!
  暴れるだけが能ではあるまい、しっかり魔神様をお守りせぬか!」

領地をおおっていた魔物は魔神像に集まって、巨大な悪魔になります。
それを見上げて公爵は感動しました。

 「おお、これが魔神様の真の姿……!
  どうだ、小僧!
  お前の様な者でも、この偉大さが分かろう!」

魔神像は動き出して、天地をゆるがしました。
魔神像が両手を高くかかげると、領地に雷が降り注ぎ、辺りを火の海に変えます。

 「す、すばらしい……!
  燃えろ、燃えろ、すべて燃えてしまえ!
  魔神様、その炎で世界を焼きつくしてくだされ!」

もう公爵は正気を失ってさく乱していました。
クローテルは低い声でつぶやきます。

 「こんな物の何がすばらしいのか……」

74 :
公爵は彼の言葉を聞きのがさず、怒りくるいます。

 「何だと!?
  貴様、魔神様に対して何と無礼な!
  恐れを知らぬと見える!
  魔神様、魔神様、この小僧に魔神様の偉大さを思い知らせてくだされ!」

それに応じて魔神像が両手を高く上げ、地鳴りの様な怪しい呪文を唱えると、天から光の柱が、
クローテルを目がけて落ちてきます。
光の柱が落ちる様は雷のごとく物すごい速さでしたが、クローテルが腕を振り払うと、
光の柱は弾かれて魔神像の胸に直撃しました。
魔神像はゆれて大きくかたむきます。

 「何と……!」

公爵は魔神像を支えようとしましたが、魔神像は自力でふみ止まりました。

 「おお、さすがは魔神様!」

公爵が安心したのも束の間、クローテルが大地を叩くと魔神像の足元がくずれて落ちこみ、
魔神像にひざをつかせます。
クローテルは全力で走り、再びかがやく剣を手に取ると、高く飛びはねました。
魔神像を頭から叩き割ろうとしているのだと、公爵はさとりました。

 「止めろーー!!」

公爵はクローテルを目がけて、やみの雷を落とします。
魔神像の指からも光線が放たれました。
クローテルは公爵の雷を剣で受け止め、さらに魔神像に向かって剣を投げました。

75 :
やみの雷をまとったかがやく剣は、光線を突き破って魔神像の心臓にささります。
魔神像はあふれる力を受け切れず、内側からばく発して粉々になりました。

 「魔神様ーーーー!!
  小僧、貴様、何と言う事を!!
  魔神様、魔神様、この私めがかたきをうちますぞーー!!」

公爵はひるむ所か、一層の憎悪を燃やして、クローテルをにらみます。
公爵の体はますます大きくなって、残った魔物をも吸収し、さらなる力を得ます。
それはよろいを着て剣を持った、大むかでの様でした。
クローテルはかがやく剣でよろいを突きますが、つらぬいただけで手応えがありません。

 「バカめっ!!
  お前の攻撃はすべて見たぞ!
  お前はしょせん力まかせに切るか打つだけしか芸が無いのだ!
  もう、お前の攻撃は効かぬ!
  わしの体をいくら切ろうが、いくら打とうがムダだっ!!」

公爵の口からはあらゆる物を溶かす緑色の液体がふん射されます。
液体を浴びたクローテルのはだは真っ赤にただれました。

 「こうなれば貴様もただがんじょうなだけのデクよ!
  じわじわとなぶり殺してくれる!
  魔神様とわしに歯向かった事を後かいするが良い!」

クローテルはかがやく剣で公爵を切り刻みますが、むかでの体はばらばらにされても、
元通りにつながって復活します。

 「ワハハハハハ!!
  痛くもかゆくもないわ!!
  炎と雷の攻めを受けろ!!」

落雷が何度もクローテルをおそう上に、公爵の口からは火炎がはき出されます。

76 :
クローテルは雷をよけながら、剣を振り回して風を起こし、炎を返しました。

 「うわ熱つつつ!!」

公爵は火にあぶられて、のたうち回ります。

 「炎は止めだ、雷を受けろ!」

炎の攻撃を止めて、雷を落とそうとする公爵に対して、クローテルは高く剣をかかげました。
雷は彼の剣を目がけて落ちて来ます。
直撃のしゅん間に、クローテルは剣を公爵に向けました。
雷はまるで弾かれたように公爵目がけて飛んで行きます。
雷の矢を受けた公爵は体がしびれて動きが止まります。

 「グワアアアア!!
  小しゃくなっ!
  ならば、これでも食らえ!」

それでもひるまず、今度は口から毒のきりをはきました。
毒のきりは地面にただよい、草木をくさらせて行きます。
クローテルがとんでよけようとすると、公爵は足をふみ鳴らして地しんを起こしました。

 「にがすか!!
  毒を浴びてくさってしまえ!!」

クローテルは足元がゆれてとべず、毒のきりに飲まれてしまいます。

77 :
毒の中では息もできず、クローテルは少しずつ弱って行きました。

 「ハハハハ、ようやくおとなしくなったか!
  手こずらせおって!
  そのまま己の無力をかみしめながらR!!」

公爵は地面をゆらしながら、毒のきりをはき続けます。
さしものクローテルも打つ手が無く、毒のきりの中にしずんでしまいました。
しかし、運命はクローテルを見放しはしませんでした。
遠くからかねの音がカランカランと鳴りひびきます。

 「クローテル殿ーーーー!!」

旗を高くかかげて、マルコ王子一行がかけつけました。
マスタリー・フラグの聖なる力が、毒のきりをしりぞかせ、ベル・オーメンのかねの音が、
黒雲(くろくも)をさいて、空を明るませます。
戦いが長引いて、もう夜明けが近いのです。
朝日のまぶしさに、オッカ公爵は目をつぶりました。

 「オオ、もう朝か!!
  まぶしい、目が見えぬ!
  ええい、ガンガンうるさいぞ!!
  雲が戻らぬ、頭が割れそうだ!
  これがベル・オーメンの力……!」

 「邪悪な力よ、去れ!!」  

レタートの鳴らすかねの音が、黒い夢にしずんだオッカ公爵を目覚めさせます。

78 :
マスタリー・フラグをかかげたマルコ王子は、毒のきりの中でうずくまっているクローテルに、
かけよりました。

 「クローテル殿、生きているか!」

 「助かりました、マルコ王子」

お礼を言うクローテルに、王子は首を横に振ります。

 「いやいや、魔物どもが居なくなったので、こうして出て来られたのだ。
  それもクローテル殿の働きであろう?」

公爵は怒りくるって暴れ出しました。

 「どいつも、こいつも、わしの邪魔をする!!
  ほろびよ、わしの敵はみなほろびよ!!」

公爵は地面をふみあらしますが、マスタリー・フラグの結界を破る事は出来ません。
クローテルは毒から立ち直り、マルコ王子に言いました。

 「王子、旗を貸してください」

 「あれを倒す手があるのだな?
  良かろう、クローテル殿。
  邪悪な公爵を打ち倒してくれ!」

王子はためらいもなく聖なる旗をクローテルに渡します。
クローテルは旗を持つと一度大きく振り回して高くかかげ、天高くとびました。

79 :
彼は朝日を背に負って、魔物と化したオッカ公爵の頭に、マスタリー・フラグを突き立てます。

 「う、うわっ、わしが死ぬのか……!
  このわしが……」

またたく間に公爵の体はくずれ、朝日にさらされて灰となりました。
立派な公爵の城のあとには、がれきしか残っていません。
クローテルはマスタリー・フラグをマルコ王子に返しました。

 「ありがとうございました、マルコ王子」

ひざをついて旗を差し出す彼に、マルコ王子は言います。

 「礼を言わねばならないのは、私の方だ。
  クローテル殿が居なければ、今ごろ私たちは、どうなっていた事か……。
  あなたが、あなたこそが新しい聖君なのだ。
  ベルを鳴らし、旗をかかげる、そんな事が出来る人物は他に居ない」

王子は旗を受け取ると、クローテルの前でひざをつきました。

 「お立ちください、クローテル殿。
  いつかあなたは運命のみちびきによって、アーク国の君主、真の聖君、神王となられるでしょう。
  その時に私はルクル国の王子として、神器マスタリー・フラグを持つ者として、改めて、
  あなたに忠せいをちかいます」

 「止してください、マルコ王子。
  私は神王ではありません」

 「ええ、今は未だ。
  しかし、私は真の王となる方を見ました。
  あなたの存在は私にフラグレイザーとしてのほこりを思い出させました。
  神を信じる敬けんさも」

マルコ王子は立ち上がり、旗をたたむと、白布に包みます。

80 :
マルコ王子はドクトル、レタート、フィデリートと4人の兵士、3人の召し使いを連れて、
オッカ公爵領を後にしました。
一人残されたクローテルは深いため息をつきます。

 「これをどうすれば良いのでしょうか……」

オッカ公爵は倒れ、その家臣たちも消え去り、領地を守る者も統治する者もだれも居ません。

 「とりあえず、王に使いを送りましょう」

クローテルはアーク国王とりん国のディボー公に助けを求めるため、領民の中でも地位のある、
町長を一人選んで使者にしました。
そして魔物が荒らした領地を元に戻すために、クローテル自身も復興を手伝いました。
3日後に西の国とアーク国からえん助が来るまで、クローテルはオッカ公爵領に留まり、
領民といっしょに働きました。
アーク国に戻ったクローテルはアーク国王に事の次第を説明します。

 「うわさは本当でした。
  オッカ公爵は悪魔に取りつかれ、人びとをいけにえにささげていました。
  私はルクル国のマルコ王子の協力で、何とかオッカ公爵を打ち倒しました。
  オッカ公爵領には新しい公爵が必要です」

 「ルクル国だと?
  そなたは外国の者を頼ったと言うのか?」

アーク国王のきつ問にクローテルは素直に答えます。

 「はい。
  成り行きではありますが、そうしなければ公爵のたくらみをくじけませんでした」

81 :
アーク国王は、ろ骨に不満と警かいを顔に表していました。

 「マルコ王子は何か言わなかったか?
  オッカ公爵領の明け渡しや割じょうを求めたりだとか……」

 「いいえ」

 「では、しゃ礼やほうしょう金を求めたか?」

 「いいえ」

 「それでは、ばいしょう金や支えん金を求めたか?」

 「その様な事は全くありませんでした」

 「ウーム、ますます怪しいぞ」

マルコ王子は何も求めなかったと言うクローテルに、疑い深いアーク国王は計略があるのではと、
心配しました。
そんな王にクローテルは言います。

 「マルコ王子にたくらみは無いと思います」

アーク国王は彼の目を真っすぐ見つめると、小さくため息をつきました。

 「……そなたが言うのであれば、信じよう」

その場では納得した王でしたが、心の中では、いつかクローテルが王位をねらうのではないかと、
そんな予感がしてならないのでした。

82 :
解説


『悪魔退治<デモンバスター>』編は、運命の子シリーズ第2部の8つの小編の7つ目である。
この後はクローテルがアーク国の王となる最終編の『王位禅譲<スローン・インヘリタンス>』編に続く。
原典に於ける、この編の重要な部分はルクルバッカ王国のマルコデロス王子にクロトクウォースが、
神王として認められる所にある。
邪悪な公爵が何の彼のと言うのは、実の所どうでも良い……と言っては語弊があるが、
少なくとも大きな問題では無い。
本編に於いても、大きな改変は無く、クローテルはマルコ王子に認められて、主要な人物の中では、
彼を真の聖君、神王であると認めない者は居なくなった。
オッカ公爵領は原典ではオカシオン、又はオッカションとなっている。
地理的には西の国(ディボーパリョーン公爵領)の南西、ルクルバッカ王国の北西に位置する。
大陸の端に位置しているが、この国を経由しなければ行けない国は無く、辺境の小国と言う扱い。
オッカ公爵は原典ではセルヴァン・コン・オカシオンであり、先祖代々オカシオンを治めていた。
オカシオンは嘗ては小国ながら独立していた様だが、当時はアークレスタルト法国に服属して、
「王」では無く「公爵」を名乗らされていた。
どうもオッカ公爵は、この辺りに大きな不満を抱えていた様で、それが悪魔の力を頼った、
主要な原因の様である。
しかしながら、特に事前に何等かの大きな事件があった風でも無く、少々唐突に感じられる。
小さな不満が少しずつ鬱積し、それを晴らそうとしたと見るのが自然だが、もしかしたら、
史実のアークレスタルト法国側に直接の原因となる瑕疵があった物の、当時の政治的な事情で、
伏せられたのかも知れない。

83 :
物語中、クローテルはアーク国王に命じられてオッカ公爵領に派遣されているが、この頃になると、
アーク国王は開き直って、クローテルを便利に使おうと考えている。
最後には王位を追われるのではと恐れるが、その心境は王位禅譲編では少し変化している。
これに関しては王位禅譲編で言及する。
史実のオッカ公爵が実際に何を企んでいたのかは不明だ。
邪教崇拝、悪魔崇拝を始めたとされているが、どの様な悪魔なのかも明らかになっていない。
作中でも原作でも、悪魔に関連する物は『使役される悪魔<レッサー・デーモン>』と魔神像のみである。
公爵を傀儡として操る様な悪魔の黒幕と言った物は登場しない。
独立心を持っていた為に、因縁を付けられて滅ぼされたのかも知れない。
武装蜂起しようとしていたのではないかと疑う説もあるが、他国を攻めたと言う明確な史料は無い。
武装蜂起説では、領民の減少は徴兵に因る物と考えられている。
即ち、領民(農民その他の余剰人口)を徴兵しながらも、それを宗主国に報告しなかったばかりに、
見掛け上は領民が減ったと言う物である。
勿論、この説も裏付けとなる史料は無い。

84 :
オッカ公爵領をマルコ王子が訪れたが、これは当時としては危うい行動である。
如何に公爵で一定の独立した権限があるとは言え、宗主国の断り無しに他国の貴族を受け入れる事は、
宗主国への裏切りや敵対行為と見做され兼ねない。
オッカ公爵領は飽くまでアーク国の権勢の及ぶ範囲内であり、国内の問題は国内で解決せねばならず、
マルコ王子の介入は余計な世話でしか無い。
それをマルコ王子も承知しており、態々アーク国王にオッカ公爵領での異変を伝えている。
これは「貴国が動かなければ我が国が解決する」と言う暗黙の脅しであり、その儘反応が無ければ、
ルクル国がオッカ公爵領を制圧して、自国領に加えていた。
実際、ルクル国の方が首都がオッカ公爵領に近く、よりオッカ公爵領を制圧し易い。
オッカ公爵としては、近いルクル国に服属するよりも、遠いアーク国に服属する事で、
少しでも独立した政治を行える様にしたかったのだろう。
しかし、マルコ王子に侵略の意図があった訳では無く、彼はクローテルが派遣される事を見越して、
国境に陣取っていた様である。
国境は誰の土地でも無いが、それ故に勝手に軍を展開する事は許されない。
マルコ王子一行は軍勢と言うには心許無いが、無視出来る規模でも無い。
もしクローテルが現れなかった場合、マルコ王子は少しずつ兵隊を集めて、何時でもオッカ公爵領を、
制圧出来る様に準備していた事だろう。

85 :
マルコ王子がクローテルを待ち構えて駐留していたのは、東の国境の砦前である。
マルコ王子がオッカ公爵領に入るには、南の国境の砦を通った方が早いし、妨害も受けないが、
それではクローテルに会えないので意味が無いのだろう。
当時の都市は復興期の様に殆どが城塞都市で、周囲を城壁に囲まれており、その周辺に小村落がある。
そして、それぞれの領地の境にも砦と塁壁が築かれており、国境を守る砦の塁壁より外は、
どこの土地でも無い。
勿論、国境を全て塁壁で囲う事は現実的では無い。
整備された道や、その周辺の平らで移動し易い所に塁壁を築き、それ以外は進入が困難な山林や、
河川、沼地になる様にしておくのが普通だった。
人工的に丘陵を築いたり、態と荒れた山林を残しておいたりもするのも、国境を守る為である。
オッカ公爵領の東の国境は、西の国(ディボー公領)に通じており、慣例的に言うのであれば、
ここも一応はアーク国の領地である。
勝手に軍隊が駐留すれば、戦争準備と見做され兼ねない。
先述した様にマルコ王子一行は「軍勢」とは言えないが、疑われても仕方の無い状況ではある。
西の国やアーク国から軍隊を派遣される可能性もあった。
だが、仮に軍を派遣する場合でも先ず話し合うのが常識であり、国境沿いに軍隊、又は、
それに準ずる武装集団を発見しても、行き成り攻撃を仕掛けるのは、当時では非常識だった。
戦争の前段階として、「意思の確認」と「(最後通告を含む)警告」があり、同時に迎撃態勢を整え、
最後に「宣戦布告」があって、正式な戦争となった。
これを経ない戦争行為は、国際社会の非難の対象となる。
原典を見ても、マルコ王子の行動を非難する様な部分は無く、アーク国側が軍を動かした事も無い。
よって、マルコ王子一行は脅威とは見做されなかったのであろう。

86 :
マルコ王子はクローテルと共に領内への進入許可を貰ったが、これが実際に有り得るかと言うと、
時と場合に依る。
一国の王子を、その国の服属国でも無い国が独断で招き入れる事は、本来は好ましくない。
正式に自国の王の許可を取るべきであろう。
しかしながら、王族の扱いと言う物は難しく、多少の非礼なら呑むのが一般的な対応である。
これをどこまで呑めるかは、当人の度量次第だが、王族相手であれば、一般人なら怒る所でも、
堪えようとするだろう。
もしかしたら、自国の王には報告しないと言う、事勿れ主義的な回答も有り得るかも知れない。
受け入れるも非礼、追い返すも非礼となれば、どちらの顔を立てるべきかと言う話になる。
オッカ公爵領はルクル国に近いので、脅威度で言えば実はルクル国の方が高い。
領民もルクル国民と交易をしており、関係は浅くない。
オッカ公爵領を巡って、アーク国とルクル国は戦争こそしていないが、過去に何度も、
武力を伴わない小競り合いを繰り返して来た。
クローテルはマルコ王子の付き人の様な扱いだったが、これも相手が王族と言う事を考慮すれば、
仕方の無い事と言える。
旧暦の王族の中でも、マルコ王子はヴィルト王子と並び、神器を受け継ぐ正統な代理聖君の血統だ。
神器を持つ王族や貴族は、神器を持たない王族や貴族よりも上の扱いなのである。
同じ王国でもグリースとルクルでは重みが違う。
逆に、盾を継承するオリン国の国主は公爵だが、同じく神器を持つ王と殆ど同等の扱いになる。

87 :
オッカ公爵領に対して領土的野心を持っておらずとも、マルコ王子が派兵の準備を進めていた裏には、
邪教崇拝への警戒感がある。
西方に於いて、邪教崇拝は禁忌である。
表向きには、「現世利益を唱える宗教は人を堕落させる邪教である」として、こうした者達が、
「世界を良くない方向へ導く」とされている。
これ自体には一理ある。
そもそも現世利益を唱える宗教を信じた所で、実際に利益がある訳では無い。
確実な利益が約束されるならば、それは最早宗教では無くなる。
神頼みをする位なら、現実を確り見ろと言う意味の、「天を仰いで石に躓く」と言う諺もある。
即ち、現世利益ばかりを謳う宗教は、私利を求める人の心を利用した悪辣な詐欺であり、
故に邪教と言っても良い。
邪教は現世利益の有無を信心の有無や信仰の軽重に置き換え、より多くの奉仕を求めて、
搾取しようとする。
邪教の信徒は奴隷であり、搾取される事に喜びを見出してしまう。
では、当時の教会は詐欺では無いのかと言う問題になってしまうが、一応の理屈で言えば、
現世での利益ばかりを求める事に熱心な者は、利益の追求こそが幸福と錯誤する愚者であり、
人が求める利益には際限が無く、故に永遠に充足を得られず苦しむ事になるらしい。
現世利益の嘘は暴けるが、死後の事までは観測しようが無いので、どうとでも言えると言う、
小狡い面もある。

88 :
説教臭い話は横に置くとして、どうして為政者にとって邪教が良くないかと言うと、王の権威が、
教会に支えられている為である。
王とは人々を従えて国を統治する役目を神から認められた者なので、そこに他の神が居ては困るし、
人々が自分の利益の為に邪教を崇拝する様になっては、王の権威が揺らぐのだ。
旧暦の教会にとって、神とは良き王を定める他に、人の魂を救済する存在であり、更には、
人類が苦境に陥った際の救世主でもある。
「神を信じていれば良い事がある」のでは無く、「神が居るからこそ今がある」と言う考えで、
良い事も悪い事も神の定めた法の上の事であり、教会は神を信じる者の集まりとして、
教えを広めると共に、神に倣い寛大な慈愛の心を持って、多くの人を救う事を目的としている。
……飽くまで、表向きにではあるが……。
貧民を救済するのも教会の役目であり、教会関係者は贅沢を戒め、弱者に施しをする事になっている。
これによって、教会は「神に見放された者」を減らし、信徒が絶えない様にしている。
ともかく、こうした国を支える『体系<システム>』を破壊するのが邪教なのである。

89 :
以後は、オッカ公爵が邪教を崇拝していた物として語る。
オッカ公爵が邪教を崇拝していた理由も、作中で語られた通りとする。
邪教崇拝、悪魔崇拝は、当時としては禁忌だが、実際は時々あった様である。
王族も貴族も平民も奴隷も、誰でも邪教を崇拝した。
その多くは悪魔崇拝であり、人は神では無く悪魔の力を借りたがった。
何故なら、神は選ばれた者にしか力を与えないが、悪魔は誰にでも力を貸した為だ。
正確に言うと「誰にでも」では無いのだが、神よりは余程選定の基準は緩かった。
神が人に力を与えるのは、善人に限り、しかも相当の窮地にある事が前提だ。
生きるか死ぬか、或いは大多数の人間、例えば人類自体の存亡が懸かっている様な状況。
それに比べれば、気に入った者に力を貸す、或いは召喚に応じると言う悪魔の何と気安い事か……。
そう言う訳で、邪な願望を持つ者は誰でも邪教、或いは、それを司る悪魔を崇拝した。
日常の小さな願いや、清く正しい願いであれば、悪魔に祈る事はしない。
精々その辺の精霊信仰や聖人信仰に留まる。
悪魔を頼ると言う事は、その禁忌、背徳感から、相応の大きな願い、どうしても叶えたい、
必死の願い、野望、欲望になる。

90 :
オッカ公爵は自国の独立を保ちたかった。
そして何者にも侵されない権威を欲した。
旧暦では国家の独立を保つ事は困難だ。
どんな立場にあっても、隣国や大国の干渉は免れない。
小国であれば尚の事。
他国からの干渉を確実に排除しようと思えば、それは修羅の道になる。
即ち、覇権主義に陥らざるを得ない。
オッカ公爵は悪魔の力を借りて、覇権国家の国主になろうとした……と見る事も出来るが、
それが実現したかは疑わしい。
飽くまで、公爵領内の事だから人々を従わせられただけで、対外戦争を始めたら、国力は落ちて、
如何に悪魔の力があろうと、国民は逃亡し、周辺国から袋叩きにあって、早晩滅亡しただろう。
悪魔の力の維持には生け贄が必要で、領民の生け贄が尽きたら、他国から攫って来るのだろうか?
そうして出来上がるのは、果たして人間の国だろうか……。
公爵に深い考えは無く、肥大化した自意識を利用されて悪魔に操られていたと見る事も出来る。
悪魔が登場した時点で何でもありなのだから。

91 :
マルコ王子一行とクローテルは公爵の城に案内されたが、これは結構な距離を移動している。
大体にして、公爵ともなれば領主の城は領地の境から離れた所に置かれる物だ。
物語中、余り重要な事では無いので省かれたのだろう。
原典でも領内の様子に変わった所は無いとされている。
領内で領民が生け贄にされていると言う重大事件にも関わらず、領内の様子は変わっていない事から、
領民も悪魔に洗脳されていた可能性がある。
城の地下での儀式に参加していた者に、洗脳されていた様な描写があるので、その他の場面でも、
完全な支配が行き渡っていた可能性は高い。
原典ではオッカ公爵領内に関する不穏な噂は、異変を察知して領地から逃げ出した領民や、
領地を訪れた旅人や商人から伝わったとされている。
その過程で尾鰭が付き、大袈裟で不確定な噂となって行ったのだろう。

92 :
オッカ公爵の城は正式名称を「ヴェッテン城」と言うが、ヴェッテンはオカシオンの別称である。
原典では一貫してヴェッテン城であり、悪魔の砦となった後も、その呼称が使われている。
因みに、戦いが終わって崩落し、再建した後もヴェッテン城である。
旧暦当時の家は、身分の高い者に限らず、平民であっても裕福な者は、家に客間を設けて、
更に余裕があれば、来客が寝泊まり出来る部屋を作った。
この「客を迎える」と言うのが、それなりに名誉な事だった様で、何時何時(いつなんどき)、
来客があっても良い様にしておくのが、一種の礼儀と言うか、常識だった。
多数の使用人を抱える貴族の家であれば、使用人の寝泊まりする場所も合わせて、ホテルの如く、
何十も部屋があり、更に別宅や別荘がある所も珍しくは無かったと言う。
作中では公爵の城の広さに関して、詳しい描写は無く、原典でも省略されているのだが、
当時の高位貴族の城は、現在で言う都市の大きな学校並みで、公爵の城も相応だったと思われる。
この城と言うのが、当時の貴族達の権威を示す物だったらしく、見栄を張る為に身の丈に合わない、
立派過ぎる城を建て、財政難に陥って領民に反乱されると言う、仕様も無い事件もあった。
一応オッカ公爵は、領地の収入に見合わない生活をしていたと言う、当時の評価がある。

93 :
領地内の者の内、誰が公爵の真意を知っていたのかは曖昧だが、取り敢えず、城の中で公爵に、
直接仕えていた者達は、全て共犯関係にあったと見られている。
中には無理遣り悪魔の力で協力させられた者も居るだろうが……。
城の地下では悪魔崇拝の儀式が行われていたが、これは当時の有り勝ちなイメージである。
人目に付かない様に夜中に地下で行われる物と相場が決まっているのだ。
トランス状態になる為に、酒を飲む、麻薬を焚く等して、正常な判断力を失わせると言う事も、
よく行われていた為に、国や教会の取り締まりは一層厳しくなったと言う。
城の中の人物は殆どが悪魔化していたが、下級の召し使い達だけは原典でも描写が無い。
作中では省かれているが、原典では城の兵士は全員悪魔化して、クローテルに退治されている。
原典では公爵が退治された後、城の中は蛻の空になっており、そこで全滅したかの様に思われるが、
実は後の描写があり、そこでは公爵の城で働いていた者が戻って来ている。
どうやら地下の儀式に参加していた一部の召し使いは、領民達と共に城の外に抜け出していた様だ。

94 :
悪魔が領内に溢れた後、教会が避難所となった。
原典では、この時に教会には多数の領民が避難していたとある。
戦争でも教会は重要な避難場所であり、ここを攻撃する事は教会への敵対行為と見做された。
「何かあれば教会へ」と言うのが、当時の常識だったのだ。
しかしながら、如何に教会でも全ての領民を収容する事は困難である。
実際、教会に避難していたのは領民の一部で、その他は家の中に篭もっていた。
原典の描写によると悪魔が家を壊したり燃やしたりしているので、家の中でも無事とは言えず、
領民の半分は犠牲になったと書かれている。
旧暦の戦争に於いては、街に火を放つ事も有効な戦術としてあった事を付記しておく。
火攻めは攻城戦でも用いられたが、教会が機能する様になってからは余り使われなくなった。
これは火の勢いで教会まで焼いていしまう事例があった為で、無差別な攻撃を行えば、
戦争に勝利しても教会から背教者認定された。

95 :
作中でクローテルは神器であるベルを鳴らし、旗を突き立てているが、これは原典でも同じである。
神器を扱える者は、基本的には神器を受け継ぐ者だけであり、それも1つの血統が1つの神器と、
厳格に定められてた。
詰まり、ベルリンガーが旗を持つ事は出来ないし、フラグレイザーが鐘を鳴らす事は出来ないのだ。
クローテルが神器を扱えたと言う事は、彼こそが真の聖君と言う証である。
一方で、聖君以外でも神器を扱えたと言う話もあるにはある。
例えば、神槍コー・シアーを聖君でも何でも無い一般人が振るった記録があり、それによると、
村落が魔物の群れに襲われ窮地に陥った、その時、魔物に立ち向かう一瞬だけ槍が軽くなって、
魔物の群れを薙ぎ払ったと言う。
その後、槍は重くなって振り回せなくなっており、窮地に神が力を貸したとされている。
この様に非常事態であれば、一般人でも神器を使えたので、クローテルが真の聖君と言えるかは、
実は怪しい。
神器は神聖な物であり、持ち出せるのは非常時と決まっているので、文句を付けようと思えば、
どこからでも付けられるのだ。
クローテルを認めない者達は、その後の話で登場する。

96 :
公爵が崇拝していた悪魔の正体は謎である。
原典でも「悪魔公爵」となっているが、どこの何と言う種類の悪魔かは明記されていない。
オッカ公爵を「悪魔公爵」と言っているのかも知れないし、本当に悪魔の公爵なのかも知れない。
オッカ公爵自身は「魔神様」と言っているのも、混乱の元である。
悪魔が引き起こした数々の不可思議な現象に関しては、何も言えない。
本当に、話の中にある様な事を起こせるのだとしたら、強大な悪魔だったのだろう。
魔法使いにしては魔法の規模が大き過ぎる上に、出来る事も多過ぎる。
悪魔の仕業だとしても、ここまで出たら目な物は記録に無いので、大袈裟に表現した可能性もある。
雷と炎の攻撃は当時の神威の表れか?
旧暦の史料自体が少ないので、もしかしたら他にも例がある様な事だったかも知れないが……。
原典と合わせて考えると、どうやら魔神像こそが悪魔の本体であり、それが破壊された後は、
悪魔が公爵に乗り移った様である。
訳の分からない神器の中でも「訳の分からない物」と言われるマスタリー・フラグだが、
この話ではフラグを、怪物となった公爵に突き立てた事で、悪魔を完全に消し去り、勝利した。
この事からマスタリー・フラグには、魔除けの効果があると推測される。
「敵地に立てれば勝利が確定する」と言う意味不明な解説は、それを拡大解釈した物と思われる。

97 :
さて、この話にはクローテルが苦戦する場面もある。
これの意味する所は、クローテルも無敵の神の子では無く、所詮は人間で、神器の力を借りなければ、
強大な悪に対抗する事は出来ないと言う事を示したのだろう。
神器の継承者達の面目を保つ意味もあるのかも知れない。
振り返ってみれば、クローテルは割と窮地に陥っている。
大火竜バルカンレギナにはコー・シアーが無ければ立ち向かえなかっただろうし、北海の魔竜も、
素手で追い詰めてはいたが、輝く剣が無ければ止めは刺せなかった。
巨人相手には力負けもしている。
人間相手には無敗で、化け物とも互角に戦えるが、巨大で強大な物には何か武器が無ければ、
及ばないと言うのが、共通した設定の様だ。
クローテルに関する話は「神王ジャッジャス」を忠実に描写した(とされる)伝説の通りであり、
大筋は原典から改変されていない。
魔法大戦に於いては、神聖魔法使いは傀儡魔法使いのエニトリューグに敗北した。
エニトリューグは神器を持つ十騎士を各個撃破する事で、神の力を封じたとされている。
共通魔法使いは神聖魔法使いを含む他の全勢力を下して、魔法大戦の勝者となったのだが、
仮にジャッジャスが原典の通りの実力を持っていたとしても、神器の不可思議な力が無ければ、
そう苦戦はしなかったと思われる。

98 :
統治者が居なくなった後のオッカ公爵領の復興は結構な難事だった様だ。
オッカ公爵には子供が居らず、妻1人と公妾4人が居た他に、その他の妾が10人程度居た。
しかし、妻も公妾も他の妾も行方不明になっており、原典では生け贄に捧げられたと見られている。
他に3親等以内の血縁は無く、アーク国側も後継者探しに苦労していた様だ。
オッカ公爵領は半ば独立国の様な扱いだったので、領民は公爵を尊崇するとまでは言わないが、
それなりの敬意を持っており、他国から統治者が派遣される事を望まなかった。
緊急手段でディボー公がオッカ公も兼務する事になっていたが、実際に統治はしていない。
オッカ公爵から最も近い血縁者である、又従弟の子を呼び寄せて公爵の地位を与えようともしたが、
これは領民の反発で頓挫した。
新しい領主は血統よりもオッカ公爵領に所縁のある者でなければ、領民は納得しなかった。
しかし、これと言う者は居らず……。
アーク国側が領主候補を提案しては、領民が難色を示す事を繰り返した。
不幸な事に、領民側も特に誰を領主として迎えたいと言う、具体的な人物を指名出来なかった。
オッカ公爵は1つの家系で代々長らく統治して来たので、他に候補が居ないのだ。
最終手段として、ヴィルト王子の直轄地にする案もあったが、領民の反応は肯定的では無かった。

99 :
この事態を解決したのは、ディボー公だった。
現実主義的な武闘派の彼は領主不在の期間が長引くと良くないと言う事で、市長や町長を集めて、
その中から公爵領を統治する者を選ばせる事にした。
だが、誰も平民にしては立派な暮らしをしている物の、貴族の生活を知らなかった。
悪い事に、公爵家の使用人の中で、領地を経営する手腕を持った、上級の使用人は全滅していた。
ディボー公はアーク国王に1つの進言をした。
それはオッカ公爵領には貴族を置かずに、アーク国の監督地と言う事にしておいて、
各領地から使用人を送り、政治は市長や町長の合議によって進めると言う物である。
これを受けてアーク国王は監督者にヴィルト王子を任命し、王子自身は直接の統治をしない物の、
市長や町長の合議よりは上の立場から、政治に助言が出来る事にした。
以後、オッカ公爵領は「公爵領」では無くなり、疑似的な共和制を採る事になったのである。
公爵を廃した後のオッカ公爵領の正式名称は、「オカシオン合議統治領」。
実際の統治の様子は史料が少ないので、よく分かっていないが、大きな問題無く機能した様である。
但し、後に先述したオッカ公爵の又従弟の子が、領地の継承権が自分にある事を主張して、
地位確認を求めた訴えを起こし、小規模な戦争に発展する。
この事は第3シリーズにて語られる。

100 :
ともかく、オッカ公爵領の騒動で、クローテルはマルコ王子にも認められた。
もう彼の栄光への道を阻む物は無くなり、最終編の王位禅譲編に突入する。
一地方領主に過ぎないクローテルが、如何にして王となるのかは、多分に政治的な要素を含む為に、
飽くまで「童話」と言う体で、原典とは少し異なる解釈の話運びになる事は断っておく。


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