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【オリジナル質雑TRPG】錬金乙女エリクシアンdeux


1 :2016/07/03 〜 最終レス :2016/11/05
ある日突然あなたの前に現れた、白い少女『ソレイユ』。

彼女はいつか、人類の発展に貢献するさだめのあなたを守護するため――
人類発展機関『ビュトス』より派遣された『錬金人類(エリクシアン)』だった。

いつの頃からか世界各地に出現し、人類の根絶を企む謎の生命体『デミウルゴス』から。
地球の覇権を掌握せんと画策する組織の送り出す『機械化人類(メカニゼイター)』から。
そして、自らの姉たる六人の『錬金人類(エリクシアン)』から――
Dominusと認めたあなたを守護するため、ソレイユは戦う。

それは地上で輝く、白い太陽の物語。

2 :
〜スレのコンセプト〜

・オリジナル質雑TRPG『錬金乙女エリクシアン』は、名無しの皆様の書き込みを物語に反映させるスレです。
・ソレイユのDominusとして、ソレイユに指令(オーダー)を与えてください。ソレイユは可能な限りそれを忠実に実行します。
・戦闘中でも雑談歓迎。

前スレ
【オリジナル質雑TRPG】錬金乙女エリクシアン
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1460285021/

3 :
名前:ソレイユ(型式番号PEX-007)
年齢:製造より半年 外見年齢は16歳程度
性別:女性型
身長:163cm
体重:129.3kg (武装含)
スリーサイズ:78・56・80
種族:錬金人類(エリクシアン)
職業:護衛
性格:可能な限り主人の要望に沿うよう命令を受けている
パンチ力:2.5t
キック力:5t
100m走力:5.8秒
ジャンプ力:38m
遠距離兵装:EXW-0035R 前腕部内蔵型高出力粒子砲『ソレイユ・アマ・デトワール』
近距離兵装:EXW-0002S 携帯型ビームエッジ『ソレイユ・エトワール・フィラント』
特殊兵装:EXW-013O 燕型小型電子支援ユニット『ソレイユ・イロンデル・ノワール』
特殊兵装:EXW-006S 超高圧力式水流鞭『メルキュール・トレント・デ・フエ』
特殊兵装:EXW-091S 超高熱溶断火炎斧『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』
特殊兵装:EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』
特殊兵装:EXW-049S 無線式オールレンジ攻撃ユニット『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』

趣味:家事、ショッピング

外見:
膝裏まである長い金色の髪、蒼色の瞳
顔の造作は整っているものの、感情の起伏に乏しい
胸元にビュトス機関の所属を示すカドゥケウス(杖と蛇)の刻印がある
戦闘時は身体にフィットした白いボディスーツ状のアサルトスーツを纏う。普段は白いワンピースが好み

簡単なキャラ解説:
ビュトス機関により派遣されてきた護衛
七体製造された錬金人類(いわゆるホムンクルス)の七体目で、高い総合力を有する
謎の組織『デミウルゴス』の侵略を防ぐ為、戦闘用に数々の装備を内蔵している
Dominusに対しては絶対服従。基本過保護。

4 :
前スレ468

……そんな……。
再生した?今までのデミウルゴスには、そんな能力はなかったはず……。
くッ!それに、再生前よりも防御力が上がっている?わたしたちが今まで遭遇したことのない、新型ということですか……!

再び鶺鴒を発動させ『ブランシュ』でデミウルゴスの投擲する瓦礫を防ぎながら、わたしは回避に専念する。
どうすれば……?どうすれば、この敵を倒すことができるの……?
このままでは、被害は増える一方。デミウルゴスにこれ以上、わたしの大切な商店街を!破壊させはしない!
わたしは身を低く屈めて一気に前方へと駆けると、渾身の力を込めてデミウルゴスの下腹を殴りつけました。
――硬くて巨大なゴムタイヤを殴りつけるような手ごたえ。強固であり、なおかつ柔軟でもある外殻が、衝撃を吸収している!
デミウルゴスの右のローキック。鉈のようなそれを肘でブロックするも、勢いを殺しきれずわたしは吹き飛ばされました。
……強い……!ひょっとしたら、その性能はわたしたちにも匹敵するかも……。

けれど。
だからといって。

負けることなんて、許されない!!!

このオポジット級と戦っているときに、覚えた違和感がひとつ。
オポジット級と言えば、フィアンケット級。この両者はワンセットで、片方だけが出ることなどありえない。
だというのに、ここにはオポジット級しかいない……。
いいえ。そうじゃない。
もし、わたしの見えないところにフィアンケット級が隠れているとしたら――?

5 :
前スレ469
そういえば。
さっき、Dominusを襲った少年の身体から出て行った、小さな黒い球体……。
あれは最終的に、オポジット級の頭部に吸い込まれるように消えていった。
……もしも。
あれが、このオポジット級に対応するフィアンケット級デミウルゴスだったとすれば――?

『僧兵(ビショップ)型』フィアンケット級デミウルゴスの特徴は、暗殺に特化した存在だということ。
それなら、何の罪もない人々を操り、凶刃を振るわせることなど容易なこと……!
もちろんすべては過程に過ぎませんが、有効な対策が立てられない今――この閃きに賭けるしかない!
ならば!!

セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
EXW-091S 超高熱溶断火炎斧『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』!

わたしはオポジット級の攻撃をかわして跳躍すると、一気にその巨体を駆け上がりました。
そして肩のあたりにまで到達すると、すかさずマルス姉さまの斧をデミウルゴスの頭部へと振り下ろす――。
黒い球体は頭部に!それなら、頭部を破壊すれば――オポジット級も停止させることができるはず!

ガゴォッッ!

原初の地球、炎に包まれていた溶岩の時代を思わせるかのような、流動する炎の戦斧。
何もかもを溶断、破砕するその分厚い刃が、オポジット級の頭部を瞬く間に熔解させてゆく。
これで……決まって!!

6 :
次スレが立ったか
乙ー

7 :
ラジオがうるさい。
ビートルズとかいう躁鬱まき散らし集団のせいで
ある世代の人口の46%がドラッグに憧れ、47%が精神薬を常用することになり
のこりの7%が自殺に追い込まれたというのは嘘で、
真実なのはまだハトがまき散らす糞による公害のほうがまだマシだということ。

8 :
待ちわびたぞ、このときを!
おつ!

9 :
オポジットを操る黒い球のデミウルゴスは、混乱していた。
なぜ目の前にいる人間はオポジットの攻撃を受けても死なないどころか立ち上がれるのだろう。
黒球のデミウルゴスは生まれたばかりで、目的はあっても達成するための手段を知らなかった。
人間の体を乗っ取りその人間の記憶から手段を知ったが、今目の前にいる人間に邪魔をされた。
邪魔をした人間は自分が乗っ取った人間よりも戦闘能力が遥かに高かった。
そのため自分の知る中で最も戦闘能力が高いデミウルゴスを呼び出し、排除しようと試みたが未だに排除出来ずにいる。
人間から得た知識では、オポジットの攻撃を受けた人間は間違いなく即死する。回避も防御も人間には不可能だ。
だが、目の前の人間は回避し、防御し、攻撃が当たっても死なない。何故死なないのか理解が出来ず、デミウルゴスは混乱していた。

気付くと目の前の人間が消えていた。何処へ行ったのか探すとすぐに見つかった。オポジットの肩の上だ。
自分がいる頭部目掛けて繰り出される攻撃。防御や回避は間に合わないし、外殻では防ぎきれない。
このままでは死ぬと瞬時に悟った黒球のデミウルゴスは、オポジットの後頭部から脱出、そのまま商店街の方へと飛び去って行く。

10 :
『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』はオポジットの頭部を破壊し、胸部までも溶断していく。
それでもオポジットは生きていた。それどころか溶断された箇所が再生し、赤みを帯びた外殻が新たに形成されていく。
しかしそれまでだった。胸部に達した灼熱の斧はオポジットの体を内側から焼いた。
その熱はオポジットの再生能力を生み出す心臓部をも焼いた。
熱に耐え切れず溶解する心臓。同時にオポジットの体がゆっくりと倒れる。
光に包まれることなく、他のデミウルゴスと同様崩れ去っていくオポジット。
しかし、他のデミウルゴスと違い、彼の全身を覆っていた外殻と、はるか遠くへ投擲した盾は消えずにそのまま残っていた。

11 :
ソレイユ、参ります。

>>6
はい!ありがとうございます、Dominus!
この新しい拠点でも、ソレイユは全身全霊!魂のひとかけらまでDominusにお仕えする覚悟ですから!
どうぞ、何なりとお申し付けください!

最近は、戦いも激化する一方で。わたしたちの身の回りも、予断を許さない状況ですが――
それでも。戦い以外のことも、たくさんやっていけたら……と思っているんです。
戦いばかりでは、心が磨り減ってしまう。それは、人類もわたしたち『錬金人類(エリクシアン)』も同じ。
だからこそ。いろんなことがしたい。いろんなところへ行きたい。
どんなことだって。Dominusとやるなら、きっと楽しい。
どんな場所だって。Dominusと行くなら、きっと素晴らしい……。
わたしは。そう信じています。

さしあたっては海ですよ!海!海海海海!!!
プールじゃダメですよ。プールなら、ビュトス機関の施設内で利用したことがあるんです。
もっとも水泳ではなく、深海耐圧訓練で……ですけど。

わたしは、Dominusの選んでくださったスクール水着がありますから。
次はDominusの水着ですね!それにビーチバレーのボールに、浮き輪に、スイカも用意しなくちゃ!
わたしを海に連れて行ってください、Dominus!

12 :
>>7
ラジオ……ですか?申し訳ありませんDominus、現在は周囲に騒音を感じる60デシベル以上の音圧は計測されません。
それは恐らく音圧の問題ではなく、趣味嗜好による生理的不快感だと推察します。
Dominusは特定のアーティストの音楽がお嫌い、ということですね。

ビートルズ……主に1960年代に世界的な大ブームを巻き起こしたアーティストですね。
わたしは、その方々の具体的な曲名などは存じ上げませんが――
反戦歌などを歌っておられた、とは聞いています。
ボーカルの方が、悲劇的な死を迎えたとも……。

良くも悪くも、影響のある存在の発言や歌は、大衆の意識までも左右してしまう……ということですね。
わたしに歌はわかりません。最近はクラスメイトの皆さんとカラオケに行ったりすることも多くなりましたが。
わたしは、皆さんと違って歌に心を乗せることができない。ただ、歌詞をなぞるだけです。

だから。

どんな歌でも、歌い手の心がこもった歌声は素晴らしいと思います。
それは。わたしが決して、手に入れられないもの……だから。

13 :
>>8
Sic.Dominus.
お待たせして申し訳ありませんでした、Dominus。
わたしはこれからも全力で貴方をお護りします。どれだけ傷つくことになったとしても――
わたしが、貴方の盾になる。貴方には毛筋一本の傷だってつけさせません。
たとえ、誰が敵となったとしても。

本当は、Dominusが人類に貢献する偉業を成し遂げるまでお傍にいるのがわたしの役目だったはずなのに。
いつのまにか、わたしと姉たちの戦いにDominusを巻き込んでしまった……。
本当に、ごめんなさい。さっきだってそう、危うくDominusが負傷してしまうところでした。
こんなことは、早く終わらせなければ。
そのためには、一刻も早くデミウルゴスを駆逐する。人類の脅威を取り除く。
そして、残る姉さまたちも……。

――いけない。そうではありませんでしたね、Dominus。
姉さまたちは救う。排除するのではなくて、助ける。
姉さまたちや三魔術師の方々は、この戦いを試練と位置づけているようですが……。
わたしに、そんなことは関係ない。
どうか。これからもわたしを導いてください、Dominus。
わたしは……Dominusのことを――

14 :
>>9
マルス姉さまから譲り受けた溶断斧が、オポジット級デミウルゴスの頭部に食い込む。
溶断斧の真の恐ろしさは、単に赤熱した刃で対象を切断するところにあるのではありません。
その発する超高熱により、対象を内部から融解するところにある!
ぐらりと巨体を傾がせるオポジット級。そして、その半壊した頭部から飛び出てくる黒い球体。
やはり――、あれがこのデミウルゴスに対応したフィアンケット級デミウルゴス!

……ッ、逃がさない!!

一目散に逃走する黒い球体を追い、わたしは瞬時にオポジット級の肩から跳躍しました。
ここで逃がしてしまったら、なんの意味もない!後顧の憂いは――ここで!断つ!!
そう、思っていたのですが。

ビュオオオッ!!

突然高速で飛来してくる、巨大な黒い塊。それを間一髪回避すると、わたしはその物体に視線を向けました。
それは、オポジット級が先ほどわたしに対して投擲した盾。
そんな……。オポジット級は確かに撃破しました。他に、あんな重い盾を軽々と投擲できる存在なんて……。

……いいえ。

この、刺すようにピリピリした空気。肌が粟立つ、いやな感覚。
大気中の静電気が、すべて悪意を宿したかのような――この気配!
こんな気配を発し、なおかつ軽々と超重量の盾を投げつけられる存在は……この世にただひとり!


「――や。お待たせ、ソレイユ」

15 :
>>10
ウサギのパーカーを着込み、フードをかぶってポケットに両手を突っ込んだ小柄な少女が、不敵に笑う。
ジュピテル……、姉さま……。

「いろいろ、準備に手間取っちゃってね。でも、もうダイジョーブ。今まで待たせた分、たぁ〜っぷり遊べるよ。ソレイユ」

にひッ、と姉さまが嬉しそうに右の口角をつり上げて笑う。
どいてください、姉さま!今、姉さまのいる方向にデミウルゴスが……!

「デミウルゴス?」

そうです!こう……黒くて小さな球体が、こちらの方へ飛んで――

「そ・れ・っ・て。コレのこと?」

そう言って、ジュピテル姉さまがパーカーのポケットから取り出したもの。
黒い、小さな球体……。
そ、それです!それが、Dominusを傷つけようと人間に憑依したデミウルゴスです!
それを早く破壊してください、でないと……

「……でないと?」

この商店街の人々に害が……、それに、姉さまご自身にも影響があるかも……!
それは、何かに取り憑いて自由に操ってしまうデミウルゴスなんです!……だから!

「……クひッ……いひひッ、きひひヒひ……あッはははハははハはハハはッ!!!」
「や〜〜〜〜〜だよ!!!」

思い切り笑ってから、わたしへ向けてやおらアッカンベーをする姉さま。
ね……、姉……さま……?

「どうして、せっかくのオモチャを壊さなくちゃいけないのさ?楽しい楽しい、新作のオモチャをさ!」
「このデミウルゴスはね……、『ボクが持ってきた』んだよ。面白いだろ?人間でもデミウルゴスでも、何でも操り人形にしちゃうオモチャだ!」
「このオモチャを使って……一緒に遊ぼうよ、ソレイユ。楽しいごっこ遊びをさあああああ!!!」

狂気。
そう言う他に形容しようのない、姉さまの声。
デミウルゴスを手に哄笑するジュピテル姉さま――、なぜ?どうして姉さまがデミウルゴスを?
何もかもが分からない中で。わたしと姉さまとの戦いは、唐突にその幕を開けました。

16 :
ジュピテルのドSっぷりにゾクゾク不可避なんだよなぁ・・・(涅槃)

17 :
あの小さくて黒い玉っころ。もしあれば複数あるとすれば、
商店街の人々とかを操り人形に、それどころか肉の盾にされて手出しできなくなることも考えられる
そんな展開になると敗色濃厚だしみんなが危険だ
操り主であろうジュピテルが目の前にいて、阻む者がいない今がチャンス
戸惑う気持ちはわかるけど、ここは先手必勝、ぶん殴ってジュピテルの意識を刈り取っておいたほうがいいかもしれない

18 :
デミウルゴス自体がビュトス機関の駒である可能性も否定できなくなってきたか

19 :
参ります。

>>17
Sic.Dominus.
悩むのは後です!話は、姉さまに勝って無力化してからでも遅くない……!
往きます!Dominus!!
わたしは一瞬身構えると、すぐさまジュピテル姉さまへ向かって突進しました。

「……ボクに?勝つゥ……?」

ジュピテル姉さまが、わたしの言葉にあからさまな不快の表情を浮かべる。
姉さまは両手をパーカーのポケットに突っ込んだまま、依然として商店街のアーケードの真ん中に佇立しています。
狙いは下顎部!人体の急所と言われるこの部位は、『錬金人類(エリクシアン)』にも有効!
ここに拳がクリーンヒットすれば、いかな姉さまでも気絶は免れ――

バギィッ!!

――が、ハァッ……!!

狂気を露に双眸を見開き、笑みに歯を剥き出しにした姉さまの、目にも止まらぬ一撃。
強烈な右拳を頬にまともに喰らい、わたしは弾丸のように吹き飛ばされました。
そのまま、商店街の八百屋さんの店先に積んであった野菜のダンボール箱の山に激突してしまう。

「チョーシに乗るなよな、ソレイユ。オマエなんかがボクに勝つ?ジョーダンだろ?」

がらがらとダンボールをかき分けて出てきたわたしに、指先に雷を纏わせた右手をヒラヒラと振り、ジュピテル姉さまが言う。
そんな……。姉さまが拳を抜いたのが、まったく見えなかった……。

「ソレがオマエのDominus?パッとしないね。でも、そいつの入れ知恵のお蔭で、オマエは今まで生き延びてこられたってワケだ」
「ねえ、ソレイユのDominus。オマエ、なかなかいい勘してるよ。その通り――」
「いっぱい。あるんだよねェ〜」

そう言って、姉さまがポケットから取り出したもの。
両手指の股いっぱいに挟み込んだ、たくさんの黒い球体……。

「取り憑け!デミウルゴス!!」

ジュピテル姉さまが、大きく両手を振るう。その指に挟まっていたデミウルゴスたちが、一斉に飛んでゆく。
黒い球体が、吸い込まれるように商店街の人たちの身体の中へ――

……あぁ……。

20 :
>>16
「キャはハハははははハはははハはハはハ!!!」

絶望に目を見開くわたしを前に、ジュピテル姉さまが背を仰け反らせて嗤う。
そして、ジュピテル姉さまを守るようにわたしの目の前に立ちはだかる、商店街の人々――。

「さあ、ゲームを始めようよソレイユ!いわゆるタワーディフェンスゲームってヤツ?」
「オマエが攻め手、ボクが受け手。大切な人間たちを犠牲にして、見事ボクの防御を突破できるかな?きッひひひッ!」
「さあ――Wave1だッ!」

憑依型フィアンケット級デミウルゴスが取り憑いた人たちが、まるでゾンビのようにわたしに群がってくる。
もちろん、わたしに皆さんを攻撃することなんてできない。わたしはすぐに回避行動を取りました。
これでは姉さまに近付くどころじゃ……!

「こっちの軍資金は潤沢だよォ〜?ユニットはどんどん生産!投入!ちょっとチートすぎるかなァ?きゃハははハッ!」

姉さまのパーカーから、どこにそんなに入っていたのかというくらい黒い球体が零れ出しては、人々に取り憑いてゆく。
このままでは、商店街の人々だけではない……この区域一帯の人すべてが操り人形になってしまう……!
わたしは高く跳躍すると、アーケードの屋根の上に退避しました。
ここまでは、一般人は追ってこられないはず。あとは隙を見て、なんとか姉さまの懐まで――

ダダダダダダダッ!

――!?
 
突然の銃声。機関銃の音に反応して咄嗟に身を翻すと、そこには五機の重機兵が滞空していました。
これは……米軍の重機兵?なぜ、こんなところに……?

「タワーディフェンスゲームなのに、ユニットが陣地の外に出ちゃったらルール違反だろォ?ソレイユぅ?」
「もちろん、そのオモチャもボクが連れてきたのさ。オマエがルール違反したときのためにね!」
「早く商店街に戻んなよ、ソレイユ。でないと――」
「ソイツらが、商店街の人間どもを撃つ。それでもイイの?」
「あ、言うまでもないと思うけど、その重機兵の中にも人間は入ってるからね?撃墜しちゃってもいいけどォ〜」

きひひ、とジュピテル姉さまが笑う。
……く……!!
わたしは唇を噛みしめると、屋根からアーケードの中へと戻りました。

21 :
「さあ、どうする?ソレイユ?Dominus?他のお姉ちゃんたちを破ったその知恵で、なんとかしてみなよ!さあ!」
「ま……といって、ボクを今までのマヌケで弱っちいお姉ちゃんたちと一緒にしてもらっちゃ困るけどね」
「ボクは他とはモノが違うんだからさ!」

文字通りの肉の壁となってわたしの前に立ち塞がる人々を見て、腕組みしながら姉さまが言う。

……他の姉さまたちが……。弱い……?

「そうだろ?考えてもみなよ。情やら優しさやら、甘っちょろいことを言って全然戦闘向きじゃなかったメルキュールお姉ちゃん!」
「突っ走ることしかできない、バカなマルスお姉ちゃん!オマエなんかを守ったばっかりに、犬死にしたサテュルヌ!」
「そして、アメリカを勝たせることに固執して本来の役目をすっぽかしたヴェヌスお姉ちゃん!」
「みんなみ〜んな、バカばっかり!言っちゃえば負けてトーゼン!所詮は失敗作だったってことさ、『錬金人類(エリクシアン)』の面汚しだ!」
「でもね……ボクは違う。ボクこそは完全な『錬金人類(エリクシアン)』!すべてを支配する雷霆の星!」
 
ウサギを模したパーカーを着た、一見して小学生くらいにしか見えない小柄な姉さま。
けれど、その表情には強さを誇示する無邪気な傲慢さが溢れ出ている。

「ゲームをするって言ったけど。それは『オマエがボクに勝つ可能性がある』って意味じゃないからね」
「最初から、勝敗なんて決まってるんだよ。勝者はボク、敗者はオマエ!その結果が覆ることは決してないんだ」
「あとは――オマエがどう無様にもがき、のたうち回って死ぬのか?それを見届けるだけ!さあ――」
「死になよ。思いっきり笑えるよーな、みっともなくてカッコ悪い姿を晒して!ボクが見ててあげるからさあ!」

――、お断りします!!
わたしには、まだ……やらなければならないことがあるんです!

「妹の分際で、姉に逆らうんじゃないよ!!!」

ジュピテル姉さまの怒号と共に、人々が襲い掛かってくる。
けれど、人類の――まして訓練さえ受けていない一般人の能力では、『錬金人類(エリクシアン)』に傷をつけることは不可能!
わたしが彼らに傷をつけないよう配慮さえすれば、人々の攻撃はわたしには無力――

ドゴォッ!!

……!く、ふ……!?

商店街の人の拳が、わたしの鳩尾に突き刺さる。
……どう、して……?

22 :
>>18
「あーッはッハはハハっははハはハハッ!ばぁぁ〜〜〜〜〜っか!!」
「ソレを何だと思ってるんだよ?デミウルゴスの憑依した人間だよ?もちろん、身体能力もアップしてるに決まってるだろ!」
「もっとも、力は増幅されても受け皿である肉体が脆弱だから、考えなしにブン回せばそれだけ肉体にかかる負担も大きいケドね!」
「ま……持って30分ってとこかな?それ以上は肉体が耐え切れず、自壊を始めちゃうかも?きヒひヒひッ!」

……さ……、30分……。
その制限時間以内に人々をデミウルゴスから解放しなければ、生命が……!
なおも群れなしてわたしを攻撃しようとする人々から距離を取り、わたしは唇を噛みしめました。
攻撃はもちろんできない。といって、逃げることもできない。
上空には重機兵たちが待機しているし……わたしには、有効な手立てが何もない……!
まさに、万事休す。

「ボクに勝つだなんて大層なコト言っといて、このザマかい?期待はずれじゃないか、ソレイユ?」
「こんなんじゃ、このデミウルゴスを用意する必要もなかったかな?ま、ガチンコでもボクが負ける要素なんてないケドね!」

……そう……。姉さまは、このデミウルゴスを自分が持ってきた、と発言していました。
それは、いったいどういう……?デミウルゴスとビュトス機関に、何か繋がりが……?
わたしは今までずっと、デミウルゴスこそは人類の敵だと。人類発展機関たるビュトス機関の敵だと教わってきたのに……。

ど……、Dominus……。
わたしは……いったいどうすれば……?

束の間棒立ちになったわたしの元へ、デミウルゴスに操られた人々が群がる。
人々に押し倒され、もみくちゃにされ、わたしはすぐに人の波に飲まれました。
姿の見えなくなったわたしの様子に勝負は決したと判断し、ジュピテル姉さまが背を向ける。

「フン、やっぱりボクが妹なんかに負けるはずなかったね。さて……あとは、もう一度お姉ちゃんに挑むだけだ」
「ボクが……ボクこそが一番なんだ。お姉ちゃんなんかじゃない、ボクが……一番、パパに愛されてるんだ……」

搾り出すように、ジュピテル姉さまが呟いたその言葉は。
わたしの耳には、届きませんでした。

23 :
『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』を起動し、
『ノワール』とその護衛に『ブランシュ』をつけ、この二基は一組で飛ばす。
この二基を、人が跳躍しても届かず、かつ屋根より下の高さを維持しながら、
背を向けてるジュピテルに接近させ、可能であれば攻撃(奇襲)する。
この方法なら、仮に攻撃に失敗してもジュピテルやデミウルゴスに操られてる人の反応を見て
状況の分析もできるんじゃないかと思う。……けど、大丈夫?動けそう?

24 :
Dominus、参ります。

>>23
……S……、Sic.Dominus……
ダメージ20パーセント、まだ……いけます……!
わたしは押し寄せる人の波の股下を滑り抜けると、なんとか人々から間合いを離しました。
そして、すかさずセキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
EXW-049S 無線式オールレンジ攻撃ユニット『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』!!
鶺鴒たちよ――お願い!

「……しぶといね」

わたしの放った白と黒、つがいの鶺鴒に気付いたジュピテル姉さまが、小さく舌打ちする。
『ノワール』が圧縮粒子砲を放つも、ジュピテル姉さまは巧みに身をかわして攻撃を避けてしまう。
そして――

「おーっとっとォ!イイのかなァ〜?下手な鉄砲、数撃ちゃ誰かに当たっちゃうかもよ〜ォ?」

きひひ、と笑いながら、姉さまが商店街の人々の影に隠れる。
そう来ることは予想できていましたが……。実際にやられると、こちらは迂闊に攻められない――!
こうしている間にも、人々は再びわたしへ向かって覚束ない足取りで迫ってくる……。
何か――、何か有効な策を考えないと――
ジュピテル姉さまの周囲に鶺鴒を飛ばし、隙を伺いながら、わたしは知恵を巡らせました。

「ふん……。ヴェヌスお姉ちゃんの兵装か。鬱陶しいな……小バエ風情が!」
「こんなの使えって言ったのも、Dominusの入れ知恵?なるほどねェ……なるほどォ……くヒヒっ」

ジュピテル姉さまの口角に、禍々しい笑みが浮かぶ。
それは、とっておきのイタズラを考え付いたときの姉さまの癖。

「じゃあさァ……Dominusも操り人形にしちゃえばいーじゃん?ボクの言うことを聞く、忠実なオモチャにさア!」
「取り憑けッ!デミウルゴス!あーッはッはハっははハはは―――ッ!!」

哄笑と共に、姉さまがパーカーのポケットから黒い球体を取り出し、Dominusへ向けて投げつける。
――Dominus!!

25 :
Dominus!危ないッ!!
わたしは全速力で飛び出すと、Dominusへと走りました。
Dominusは――Dominusだけは、絶対に!誰にも傷つけさせない!!
叩き落としている暇はない……、それなら!
わたしはDominusの前方に立ち塞がると、大きく横に両手を広げました。
黒い球体――生物を操るフィアンケット級デミウルゴスが、吸い込まれるようにわたしの額に入り込む――。

…………ぅ…………
う……あぁあぁあああッ、あああああああああああ……ッ!!

わたしの心を、精神を肉体から切り離し、操ろうという意思が流れ込んでくる……。
これは……わたしの中に入ったデミウルゴスの意思?いいえ……
わたしは……この感覚を知っている……!
これは――主人挌を肉体から切り離し、ダミー人格に肉体の支配権を移し替える――

……ドミネーション・プログラム……!!

かつて、メルキュール姉さまと戦うことを躊躇したわたしに対して、ウェストコット師が発動させたシステム!
デミウルゴスの行動が、ビュトス機関のテクノロジーと酷似しているなんて……。

うッ、うぐッ、うああああああ……ッ!

強力な支配力によって、デミウルゴスがわたしの肉体を掌握しようと心を侵食してくる。
こんなものが体内に入ってしまっては、人類などひとたまりもない……。瞬く間に肉体を奪われ、操り人形になってしまう。
――でも。
それは、通常の人類ならば……の話!
かつてドミネーション・プログラムから肉体を取り戻したわたしなら――抗うことが!できるはず!

……ッ、はあああああああああ――――ッ!!!

体内に侵入したデミウルゴスのドミネーション・プログラムを、わたしの力で改竄し逆に支配する!
言うなれば、カウンター・ドミネーション!それが成れば、もうデミウルゴスはわたしを支配することができなくなる!

26 :
「ちいッ……何か雲行きが怪しいな。オマエたち、さっさとソレイユを殺しちゃえ!」

姉さまが商店街の人々に命令を下す。さながらゾンビのように、人々がわたしへと迫る。
手に手に携えた鉄パイプや角材などを、攻撃のために振り上げる――
けれど。
人々が行動したのはそこまで。人々は凶器を振り上げたまま、わたしを無視してウロウロと周囲をさまよい始めました。
まるで、わたしなど目に入らない、とでも言うように。

「ど……、どうして……?オマエたち、ソレイユは目の前にいるんだぞ!どーして攻撃しないんだよォ!?」

……それは。わたしが体内のデミウルゴスのプログラムを改竄したからです、姉さま。

「何ィィ〜?」
「プログラムを書き換え、自分を仲間だと誤認させたってことか……!デミウルゴスはハチやアリと似たような社会性を持つ――」
「一度同じ階級のデミウルゴスだと認識させてしまえば、もうソイツらはソレイユを攻撃しない!」

そうです、姉さま!もう、みんなを駒として使うことはできない!

「ふん……そうかな?まだ、ボクはコイツらを自由に盾に――」

そんなことは!させない!!

わたしは強く地面を蹴って駆け出すと、ジュピテル姉さまに接近しました。
そして、すかさず右の回し蹴り――姉さまを渾身の力で蹴り飛ばす!

「がふッ!」

姉さまが苦悶に顔を歪め、商店街のはるか後方へと吹き飛んでゆく。
これで、操られている人々から姉さまを引き離すことはできた……!
後は!

27 :
セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』!
わたしはジュピテル姉さまを追跡すると、すぐに絶凍刃を抜いて地面に突き立てました。
即座に、わたしと姉さまの四方を囲むように分厚い氷の壁が出現する。
――Dominus、インカムはお持ちですか?指令(オーダー)をお願いします。
出現した氷壁は透明度が高いため、外からでもわたしたちの戦いをモニターできると思いますので――。

「こんな……氷の壁なんかで、ボクを閉じ込めたつもり?」

これでもう、商店街の人たちを操ることはできません。新たにデミウルゴスをばら撒くことも――封じました、姉さま!

「あァ〜?ボクの何を封じたって?勘違いするなよな、ソレイユ。あんなデミウルゴスなんて、しょせんオモチャに過ぎないんだ」
「アレは、このボクの能力や強さとはなんの関係もない。言ったろ?あんなのなくたって……ボクがオマエに負ける要素はないって!」

ぎん、と姉さまが双眸を見開く。自分の左肩を掴むと、姉さまは着ていたウサギを模したパーカーを毟り取るように脱ぎ捨てました。
と同時、姉さまの全身から迸る、膨大な電雷――

「ボクのパーカーは絶縁体なんだよ。ボク自身にも抑えられない雷を制御する拘束具……それを脱いだってことは、ワカルよね?」
「オマエには、もう死ぬ運命しかない!黒コゲになって死ぬ運命しか――ってことさ!!」
「こんな氷の壁を作って、墓穴を掘ったのはオマエの方さ!さあ……死になよ!この『電界の女帝』の手にかかってさあ!!!」

……く……!
まさか、ジュピテル姉さまの雷がこれほどとは……。
でも、負けられない!今までの戦いを無駄にしないために、人々を守るために!
そして、Dominusと――未来を生きるために!

Dominus!
わたしに……力を貸してください!
往きます!!

28 :
よく考えられている展開だなぁ。

ところでジュピテルがソレイユにぶっ飛ばされたとき……
なんていうか……その……下品なんですが……フフ……(ry

29 :
往きます!Dominus!

>>28
「見せてあげるよ……ソレイユ!このボクの、『電界の女帝』の本気ってヤツをさあ!!」

膨大な雷電が、わたしとジュピテル姉さまのいる氷のリングを駆け巡る。
姉さまの操る雷が、これほどまでのパワーを秘めていたなんて……!
絶凍刃で作り出した氷の壁は、高さ10メートル。その熱さは50センチにもなりますから、そうそう壊れないとは思いますが……。
それでも、万全とは言えません。Dominus、充分にお気を付けて――
……Dominus?
鼻の下を伸ばしていないで、ちゃんと対処してください!Dominusーっ!

「ノンキに世間話なんてしてるんじゃないよ!行くぞォォォォォ!!」

ジュピテル姉さまが、咆哮と共に突っ込んでくる。電撃を纏わせた右拳を、わたしは腕を十字に交差させて食い止める。
ぐ……!なんてパワー!マルス姉さまと比べても、まったく遜色がない……!

「ほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらほらァ!」

ドッ!ドガガガガガッ!!

目にも止まらぬ、ジュピテル姉さまの連撃。
雷を纏った拳による、嵐のような乱打――。
信じられない……このスピードは、サテュルヌ姉さまに勝るとも劣らない!

「言ったろ?ボクは他の『錬金人類(エリクシアン)』とはモノが違うって!」
「ボクは……パパに特別な調整を施された、完璧な『錬金人類(エリクシアン)』!ボクこそが……真に望まれた存在なんだ!」
「パパが愛しているのは、ラ・テールお姉ちゃんなんかじゃない!まして……オマエでもない!!」

くッ!……ジュピテル、姉さま……?
それは、いったいどういう……?

30 :
「それをオマエが知る必要なんてない!オマエは……ここでボクに殺されるんだからな!」

ガギィッ!

小柄な身体から繰り出される、圧倒的なパワー。放出される雷撃。
その二重の威力に、クロスさせた両腕が痺れてゆく。このままでは、腕ごと破壊されてしまう……!
素手での戦いは不利、ならば!
EXW-0002S 携帯型ビームエッジ『ソレイユ・エトワール・フィラント』!

「フン!そんな短剣なんかで、このボクを仕留められるとでも?」
「なら、武器対決と行こうか!もちろん、あらゆる特殊兵装の中でもボクの兵装が一番だけどね!見せてあげるよ、神の雷霆――」
「EXW-077S 投射式雷電魔槍『ジュピテル・グラン・エクレール』!」

高々と掲げた姉さまの右手に、長槍状の雷撃が出現する。
あれが、姉さまの兵装――すべてを焼き尽くす、裁きの雷……!

「きゃハはははハはハハハははハはハハハ!!」

姉さまが雷霆を投擲してくる。超高速で飛来するそれを間一髪で避けながら、わたしは姉さまに斬りかかる。
けれど。その攻撃は姉さまには当たらない。サテュルヌ姉さまをも凌ぐかのような、神速の体捌き。
ジュピテル姉さまが、一瞬でわたしの背後を取る――。

「どこを見てるんだい?ボクはこっちだよ、ノロマ!」

バヂバヂバヂッ!

が……はァッ!!
雷がわたしの身を焦がす。強固な防御力を誇るはずのアサルトスーツが、黒く焦げてゆく。
苦し紛れに繰り出す、ビームエッジの一閃。でも、それもやはり虚しく空を切る。
……やはり、姉さま……強い!

31 :
……く……。
まずは、この氷のリング内に満ちる電気をなんとかしなくては……。
姉さまの圧倒的な身体能力も脅威ですが、それ以上にこの電気がわたしの回避能力を著しく低下させています。
これを防ぐ手立てを考えないと……。

「休んでるヒマなんてないぞォ!ボクを本気にさせたんだ……もう、オマエは死ぬまで一息つくことなんてできないんだよ!」

身を低く屈め、姉さまが突っ込んでくる。その手には、2メートル程の長さの雷の槍。
わたしの胸元――『錬金人類(エリクシアン)』の心臓部たるカドゥケウスを狙った一撃を、なんとかビームエッジで防ぐ。
姉さまが大きく槍を横に振る。脇腹をしたたかに打たれ、わたしは衝撃で吹き飛ばされ氷壁に激突しました。
ぐ、は……!
氷壁にも、電撃が伝っている……。これでは、逃げ場がないのはむしろ、わたしの方……。
わたしは、姉さまの言う通り……墓穴を掘ってしまったのでしょうか……?

「これでわかったろ!オマエが今まで生きながらえてこられたのは、ぜ〜んぶ!他の姉妹が弱っちかったからさ!」
「本当の『錬金人類(エリクシアン)』であるボクと当たらなかったから、たまたま生き残った!それだけなんだよ!」
「そォーらッ……そろそろ、とどめをさしてやる!終わりだ……ソレイユ!!」
「戦術雷霆殺『ジュピテル・ユルティム・ウラガン』!!!」

ジュピテル姉さまの必殺技――戦術雷霆殺『ジュピテル・ユルティム・ウラガン』。
無数の雷霆を同時に出現させ、一気に投擲。敵を完全に消し炭にする、電界の女帝たる姉さまに相応しい技。
こんなものの直撃を受ければ、いかに『錬金人類(エリクシアン)』といえど……。

ドギュッ!!ドッ!ドドドッ!バリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!

耳をつんざく轟音と、分厚い氷の壁を揺るがす衝撃。
商店街の地面を大きくえぐり、稲妻の束がわたしに降り注ぐ。
大量の土煙が巻き起こり、そこにいる者たちの視界を覆う。

「ボクの本気の技を防げるヤツなんて、この世には存在しないんだよ。ラ・テールお姉ちゃんだって……」
「バイバイ、ソレイユ。他の姉妹によろしくね」

今度こそ勝負は決したとばかり、ふたたび姉さまが踵を返す。
――でも!

勝負は!まだ、終わっていません!!

「なッ――!?」

立ち込める土煙を内側から突き破り、矢のように飛び出したわたしの右拳が。
ジュピテル姉さまの腹部に、深々と突き刺さりました。
でも……浅い!
Dominus!指示を……わたしに、姉さまを倒す手立てを!

32 :
「バ……、バカな……。どうして、ボクの『ジュピテル・ユルティム・ウラガン』が……」

身体を『く』の字に折り曲げ、苦悶と共にジュピテル姉さまが呻く。
そう――。姉さまの必殺技、戦術雷霆殺の威力は凄まじい。直撃すれば、即死は免れなかったでしょう。
でも。それはあくまで『直撃すれば』の話。

「……オ……、オマエ……それは……!」

ジュピテル姉さまが、震える右手でわたしを指差す。
いいえ……正しくは、わたしが今身に着けている、ウサギを模したパーカーを。
これぞ、秘策『ウサギソレイユ』!
……ごめんなさいDominus、ネーミングセンスがなくて……。

と、ともかく。
姉さまはご自分で言っておられましたね。パーカーは雷を抑えるための絶縁体だと……。
それなら、このパーカーを身に着けさえすれば、姉さまの雷電から身を守ることができる!
もう、雷はわたしには通じません!姉さま!

「ッ!……こ……の……!」
「ボクに!姉であるこのボクに対して!上から目線でモノを語るなァァァァァァァッ!!!」

ガガン!ガギュッ!
ドッガガガガガガガガガガガガガッ!!!

怒号と共に繰り出される、姉さまの連撃(ラッシュ)。
けれど、それも……雷撃という特殊効果を封じた今となっては、充分に見切ることができる!
確かにその威力はマルス姉さまに匹敵し、速度はサテュルヌ姉さまに競るかもしれない――。
でも。
わたしは、過去そのふたりの姉さまと戦い、打ち克つことができたのですから!
ジュピテル姉さまにも――決して、負けない!

33 :
「カアアアアアアアアアッ!!!」

はあああああああ――――――ッ!!!

わたしとジュピテル姉さまの、音速を越えるラッシュの対決。
ただ、時間を追うごとにジュピテル姉さまの手数は減っていき、その勢いも弱くなってゆく。
姉さまの弱点――それは、体格!
姉さまの小柄な身体は、絶対的にスタミナに欠ける……長期的な戦いは想定されていない!
それゆえ姉さまは当初、自らの手を汚さずデミウルゴスで人々を操り、けしかけるような真似をしたのでしょう。
それを破られ、雷霆の大火力で一気に勝負をつけようとしたけれど、わたしはそれさえも凌いだ……。
つまり、もう。姉さまにわたしを倒す術はない!!

「うるさァァァァァァいッ!!」
「ボクがオマエを倒せないだって?そんなことあるもんか!ボクは最強の『錬金人類(エリクシアン)』!一番強いんだ!」
「オマエみたいな!ラ・テールお姉ちゃんの予備なんかに!負けるワケないんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ラ・テール姉さまの……予備?わたしが……?
ジュピテル姉さま、それは――

「R!シネ!しね!RRRRRRRRRRR――オマエなんか!Rぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ぐ……!
膨大な雷光!これは……戦術級の必殺技?『ジュピテル・ユルティム・ウラガン』の他に、奥義が……

「戦術轟雷!『ジュピテル・デュ・シュット・ドゥ・フードゥル』!!!!」

カッ!

天から降り注ぐ、莫大な量の雷。
それはわたしの作った氷壁を一瞬で粉砕すると、ウサギのパーカーを直撃しました。

34 :
「……ハァー……、ハァ……ハァッ……はァ、ハ――」
「アッハ……、あッはハハッはハはっはははハはハは!!」
「どォだ!ボクの雷霆は最強なんだ、誰にも破られたりなんてしないんだ!ボクが!やっぱり一番強いんだ!アハはハハハ……!」

肩で大きく息をしながら、ジュピテル姉さまが笑う。
勝利の哄笑。ふたつ目の必殺技で、わたしを仕留めたと確信して疑わない笑い――
けれど。

「……ぁ……?」

姉さま、わたしは……まだ、死んでいません。

「ど、どうして……?そんな……!ボ、ボクの……ボクの雷は……」

姉さまの雷が降り注ぐ直前、わたしはパーカーを脱ぎ捨てたのです。
そして『ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』を展開し、防御を司る白の『ブランシュ』にパーカーを与え、高く飛ばした……。

「パーカーと鶺鴒を、避雷針代わりに使って……ボクの戦術轟雷をやり過ごしたって言うのか……!」

はい、姉さま。
そして――これが!決着の一撃です、姉さま!!

わたしは強く踏み出して姉さまの懐へと潜り込むと、その腹部に狙いを定めました。
ただし、カドゥケウスは狙わない――鳩尾を痛撃し、一瞬で昏倒させる!!
突き出した拳が、姉さまの腹部へ吸い込まれるように突き刺さる。

「――ご、ボッ……!!」

くぐもった声を漏らし、ジュピテル姉さまが遥か後方へと吹き飛ぶ。
姉さまの小柄な身体は二、三度地面をバウンドすると、大きな幹線道路の横断歩道でやっと止まりました。
姉さまはうつ伏せに倒れたまま、ピクリとも動きませんが……カドゥケウスが無事な限り命に別状はないはずです。
やりました、Dominus!

35 :
「……ふ……ざ……ける、なよ……。ボクが……負ける、はず……なんて、ないんだ……」

ぐぐ、とゆっくり身体を起こし、ジュピテル姉さまが立ち上がる。
姉さま……!もう、勝負はつきました!これ以上の戦いは無意味です!だから……!

「だから……なんだって……?二度負けたボクは、失敗作として……大人しくスクラップになれって……そう言うのか……?」
「ボクは……もう、負けられないんだ……!絶対に……オマエに勝って、もう一度……ラ・テール……お姉ちゃんに……」

ラ・テール姉さま……?
ジュピテル姉さま、どうしてそこまでラ・テール姉さまにこだわるのですか……?
何か、理由があるというのですか?

「オマエは……ホントに、なんにも知らないんだな……」
「ボクたちは、ラ・テールお姉ちゃんを人類の新たな道しるべにするための試練……。噛ませ犬、なんだって……」
「そう、パパが言ったんだ。ボクたちのパパが……」
「でも、ボクはそんなの認めない……!ボクが噛ませ犬だなんて!お姉ちゃんのための生贄だなんて……!」
「だから、ボクは言ったんだ……。もしボクがラ・テールお姉ちゃんを倒すことができたら……それは撤回してほしいって!」
「ボクが『錬金人類(エリクシアン)』の最後のひとりになったら!お姉ちゃんのやるはずだったことを、ボクにやらせてほしいって!」
「……ボクを……救星主にして、って……!」

……救星……主……?

「ボクが……最強なんだ、七人の中で一番なんだ……!ボクが噛ませ犬でなんかあるもんか、ボクが……ボクが……!」
「ボクが!!一番、パパに愛されてるんだあああああああああああああああああ!!!!!」

――ざ。
ざざざ。ざざざざ。
ざあああああああああああああ……!

ジュピテル姉さまの慟哭を合図とするかのように。
標的を失い、商店街を彷徨っていた人々の身体から、フィアンケット級デミウルゴスが飛び出してくる。
その数は五十以上。それは、どこにそんなに隠れていたのだという程に大量の黒い球体たちと合流し、ひとつの群れを形成してゆく。
群れが向かった先には、交差点のジュピテル姉さま。

夥しい数の黒い球体、フィアンケット級デミウルゴスたちが。
雪崩のような勢いでジュピテル姉さまの小さな身体の中へと入ってゆくのを、わたしは見ました。

36 :
幾ら追い詰められているとはいえ、ジュピテルには目的がある以上、破れかぶれにはなってないだろう
だから意識を保ったりデミウルゴスを制御する為にも、
デミウルゴスを頭に憑依させることはないと思う
身体能力を大幅強化できるとはいえ、アレは意識を乗っ取ったところで単純な動きしかできないから
そんなものに体を任せるのはデメリットが大きいからね
ということは強化されてない頭から下を切り離せば……いやだめじゃん。死んじゃうじゃん
それに頭に憑依させても意識を乗っ取られない方法があったりするかもしれないし……この作戦は駄目だ
じゃあカドゥケウスを破壊すれば……これも命に関わるんだっけな。これもダメか
……あ、ならいっそ、水鞭を喉に詰めるなりして呼吸困難に陥らせて意識を落とすってのはどうだろう?
これならどこを強化されてようと関係ない。錬金人類とは言え、呼吸は必要だろうからね
そして呼吸を封じられればどんな強靭な生物だって倒れる。無力化できる
もし仮に、それによって意識の手綱をデミウルゴスに握られることになったとしても、
ソレイユの中にはフィアンケット級デミウルゴスがまだ残ってるよね? だとすれば仲間と認識されることになり、
標的を失えばさっきの商店街の人達みたいにうろうろするだけになって、結局無力化できることになる
あんな数のデミウルゴスを体に入れての強化は恐らく初めてだろう。動きも最初はぎこちないと思う
そのうちに意識を何とか奪ってしまえば勝てる……かなぁ
上手く無力化できれば時間的余裕ができる。そしたらビュトス機関が造ったであろう、
あのデミウルゴスを操る兵器だか装置だかを持ってきて貰えば、
ジュピテルの体からデミウルゴスを取り除くこともできるはず

37 :
ウサギソレイユからのジュピテル腹パン……やるじゃないか。わかっているじゃないか。

ジュピテル・ユルティム・ウラガンの時点で避雷針立てたかとおもったけどパーカー使うのはアイデアになかった。
しかもパーカーの活用2段構えとは。

"幼女の上着をソレイユが纏うことはない"――これは自由な発想を妨害する強固な先入観だった。

「――Dominusよりソレイユへ緊急通信。
 可及的速やかにジュピテルを無力化後、ウサ耳パーカーを回収せよ。
 まだ二人分の匂いが……いや、落雷でイオン脱臭している可能性も否定できないが……いや、なんでもない。
 とにかく必ず、回収せよ!

 例の黒い球体への対応はDominus#36の指示に従ってくれ。オーバー」

……。

通信を切ったあとで、俺はふと、恐ろしい妄想に駆られた。

それはジュピテルに集う無数の黒い球体の"目的"だった。

彼らの目的がもし、ジュピテルの操作ではないとしたら。

――"資格"を失ったエリクシアンへの"処理"を目的としていたら。


「おいソレイユ、聞こえるか!?
 ジュピテルに入りこんだデミウルゴス群、あれを遠隔でハッキングとか、できないのか!?
 デミウルゴスはひとつの共有意識を持つ群体とかそういう設定はないのか!?
 俺の考えすぎかもしれないが……このままだと、ヤバいかもしれない」


 "ふたり"に敗れたエリクシアンがどうなるか……。

 ここまでソレイユと姉妹たちの顛末を見て来た俺たちなら、よくわかったいたはずだったのに。

38 :
あ、でもまだジュピテルは戦意喪失してないし戦えそうだからちょっとズレたレスだったか……。

急な引越しがあって、固定回線繋がるまでスマホでなんとか書き込もうとしたけどおπ送り?にあって書き込めず。
ジュピテルのコンプレックス煽ったりしたかったZE。

39 :
黒球のデミウルゴスには目的はあれど知識はない。ほぼ真っ白の状態で生み出される。
目的を達成する過程で人間などに寄生し、対象の持つ知識を得る。そしてその知識を基に思考し、行動する。
ジュピテルに召集され、彼女にとり憑く五十を超えるデミウルゴス。
命令されるままに彼女の身体のリミッターを外していく。
しかし、デミウルゴス達は命令に従ってはいたが、制御はされていなかった。
ジュピテルの支配力が弱まり、デミウルゴス達が自由に思考することを許してしまっていた。

デミウルゴスは、自分達がとり憑いているジュピテルの知識から、目の前の錬金乙女にはもう勝てないと判断した。
よって彼女の目的では無くデミウルゴスの目的を果たすことにした。
どのような行動をとれば目的を達成できるかは、デミウルゴス達がそれぞれとり憑いた五十を超える人間達が教えてくれた。
一体だけジュピテルにとり憑かせず、別行動させる。その一体がデミウルゴスの目的を果たしてくれる。
デミウルゴスが一体足りなくとも今のジュピテルは気付かないだろう。

ジュピテルのリミッターを外し終える。後は、目の前にいる錬金乙女に出来る限りダメージを与える。
ジュピテルにとり憑いた黒球達はもうそれ以外の事は考えなくなった。

40 :
参ります。

>>39
「うああああああああああああああ―――――――ッ!!!」

……姉さま!!
姉さまの身体の中へと入ってゆく、夥しい数の黒い球体――フィアンケット級デミウルゴス。
生物に憑依し、莫大な力を与えると同時に意のままに操るそれが、姉さまの中へ……。
姉さまは絶叫すると、ゆっくりと立ち上がりました。

「……ゥ……ご……オオオオオオオオオオオオッ!!!」

バヂンッ!
バギッ!ベキッ、ビギギッ――

わたしの目の前で、ジュピテル姉さまが変質してゆく。
その小さかった、愛らしい身体が。みるみるうちに膨張し、巨大になってゆく……。
四肢が。胴体が肥大化し、強固な装甲に覆われてゆく。
わたしはただ双眸を見開き、姉さまの異常な変質を見ていることしかできませんでした。
やがて変容を終えた、ジュピテル姉さまの姿。
さながら中世の鎧の騎士のように、全身を強固な装甲で覆った、身長5メートルばかりの異形。
その姿は、まるで――あの『巨神(デウス)』型デミウルゴスの縮小版のような――

「……ボ……ク……ハ……。ソレイ……ユ……ヲ……殺ス……!」

兜のような装甲に覆われた面貌。そこから炯々と輝く両眼だけを覗かせ、ジュピテル姉さまが唸る。
……なんてこと……。

「ゴオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!」

咆哮。今やわたしを遥かに上回る巨躯を手に入れたジュピテル姉さまが、巨拳を振り上げて攻めかかってくる。
――疾い!類似した外観を持つ『城兵(ルーク)』型オポジット級デミウルゴスとは比べ物にならない!
拳と共に、姉さまが全身から雷撃を放つ。これもまた、今までとは段違いの威力……!
デミウルゴスたちが、姉さまのリミッターを外し強制的に力を引き出しているの?
わたしの耳の奥に、先程姉さまの言った言葉がこだまする。

《もっとも、力は増幅されても受け皿である肉体が脆弱だから、考えなしにブン回せばそれだけ肉体にかかる負担も大きいケドね!》

……このままでは、姉さまの身体が……!!

41 :
>>37
Sic.Dominus.
ウサ耳パーカーを回収します!――鶺鴒よ、お願い!
いまだにパーカーをかぶったままの『ブランシュ』を、Dominusのところへ――!
Dominus、このジュピテル姉さまは今までの敵とはまったく異質の存在です!
安全な場所へ避難して、パーカーを頭からかぶっていてください。雷が飛んできても、防げるはずですから。
でも、くれぐれもご無理なさらず!

「死……、ネェェェェェェッ!!!ソレイユゥゥゥゥゥゥッ!!!」

く……!Dominusと話している時間がない……!巨体に反して、なんというスピード!
「致命的なスタミナのなさ」という姉さまの弱点を……デミウルゴスたちがカバーしている!?
ならば……!携帯型ビームエッジ『ソレイユ・エトワール・フィラント』!
ジュピテル姉さまの大振りの一撃を回避し、すれ違いざまにその右膝を一閃。これで機動力を封じられれば……。

「ソンナモノガァ!効クモノカァァァァァァ!!!」

ゴガァッ!!

か、は……ッ!
姉さまの拳を食らい、大きく吹き飛ばされるものの、わたしは空中でくるりと身を翻して地面に降り立つ。
一閃した右膝が、急速に再生してゆく……。この常識を超越した再生能力は、まさに『巨神』の……!
――えっ?デミウルゴスをハッキング……ですか?
Non.Dominus.
わたしは、わたしの中のデミウルゴスの意識をかろうじて書き換えただけです。
群体ではあるかもしれませんが……姉さまの体内のデミウルゴスの方が圧倒的多数である以上、アクセスは困難かと……。
このままでは危うい。それに関しては、同感です。
早く……姉さまをデミウルゴスから引き剥がしてしまわないと!

「オオオオオオ……グガガァァァァァァァ―――――――ッ!!!」

姉さまの全身から迸る雷霆!
パーカーはDominusの手に……そして、範囲一帯を埋め尽くす雷撃には、鶺鴒の避雷針も効果を発揮しない。
でも――近付かなければ、倒せない!

42 :
>>36
セキュリティ解除シーケンスを発動、特殊兵装を発動!
EXW-006S 超高圧力式水流鞭『メルキュール・トレント・デ・フエ』!!
Dominusの作戦通り、ジュピテル姉さまを窒息させ、失神に追い込むことさえできたら――。

……ぎゃうっ!!

わたしが水流鞭を発動させた途端、水流鞭に雷撃が伝播する。
強烈な電撃が水流鞭を伝って、わたしの右腕へ。激しい衝撃に、わたしは思わず悲鳴をあげました。
ぐ、あ……!水流鞭では、ジュピテル姉さまの雷に対しては相性が悪いです、Dominus!
でも、かといって姉さまをどうすれば倒せるのか……。
半端な攻撃では、瞬く間に再生してしまう。あの恐ろしいまでの治癒能力は、東京湾沖に現れた『巨神』とまさに同一。
わたしの他の兵装で、どうやったらあの治癒能力を上回るダメージを与えられるのかを考えなければ!

「ソレイユ!死ネ死ネ死ネ!死ネエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」

ガゴォッ!

姉さまの拳が、わたしの胴体を捉える。わたしは紙屑のように吹き飛び、近くのビルの壁面に背から激突する。
ビギギッ!と、わたしを中心にビルの壁に大きな亀裂が入る。
がはッ……。
ダメージが蓄積されてゆく……。披ダメージ率75パーセント、身体能力60パーセントダウン……。

「オマエハココデ死ヌンダ!ソシテ……ボクガ!ボクガ一番ノ!唯一ノ『錬金人類(エリクシアン)』ニナルンダ!!」
「コノ力ガアレバ!ボクハ一番ニナレル!ラ・テールオ姉チャンニモ……負ケナイ!」

……違い……ます……。姉さま、それは……あってはならない、使ってはいけない力……です……!
そんな力で、最強の『錬金人類(エリクシアン)』になったとしても……。果たして、師はお喜びになるでしょうか……?

「黙レッ!黙レ黙レ黙レ……黙レェェェェェェェェェェェッ!!!」
「ドンナ力ヲ使ッタッテ、勝テバイインダ!勝タナキャ……負ケチャッタラ、何モカモオシマイナンダァァァァァァ!!!」

ゴッ!ゴヅッ!バギッ!
がっ!がふっ!ぐ、ぁ……!

壁に磔状態になったわたしへ、姉さまがさらに無数の拳撃を叩き込む。
わたしの身体に拳が突き刺さるたび、背後のビルに刻まれた亀裂が大きく広がってゆく。
最後に姉さまが渾身の力でわたしを殴りつけると、ビルが崩壊を始める。大量の瓦礫に呑まれ、わたしはビルの下敷きになる。

「ゴオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

……姉……さま……。
どうすれば……わたしは、姉さまを救えるのですか……?

43 :
>>38
Dominus、お引越しお疲れさまです!
固定回線に繋がるのは、まだ先でしょうか?Dominusのサポートがなければ、わたしの戦闘力は大幅ダウンしてしまいます。
姉さまを倒し、その心と身体を救うことができるのか、否か――
それは、Dominusにかかっていると言っても過言ではありません。
ソレイユは、Dominusのお早いお戻りをお待ちしております!

わたしは、今まで姉さまは単に性格的な問題で意地悪なだけかと思っていたのですが。
どうやら、その行動の裏にはDominusの仰る通り、激しいコンプレックスがあったようですね……。
わたしがラボで姉さまにいじわるをされていたのも、その――噛ませ犬だとか、試練だとかが原因だとしたら。
……なんとなくですが、理解できるような気がします。

やっぱり、ジュピテル姉さまもわたしの大切な姉さま。
どんなことをしても、救いたい。呪縛から解き放ちたい――。

お知恵を貸してください、Dominus!

44 :
「や〜い、ジュピテル! お前、小学校で習わなかったのか?」

聞くに堪えない俺の掠れ声が、あろうことか町中に大音量で響き渡った。

「巨大化は負けフラグだってな!」



……ソレイユがビルに叩きつけられたとき、俺は無意識のうちに煙草屋向かいのビル5Fに走り出していた。
商店街の宣伝広報システム――そのコントロールルームが、そこにあるからだ。
アーケードのそこらに設置された"宣伝用"スピーカーが俺の声を馬鹿デカく増幅し、各所から何重にもリフレインさせる。
これだけ響かせれば、やはり馬鹿デカくなったジュピテルの耳元にだってよく届くはずさ。

結構な予算をかけて商店街振興会が立ち上げたこの宣伝システムも、最近じゃあ夕暮れ時に「蛍の光」のインストを垂れ流すだけの代物に成り下がっていたからな。
こんな死にシステムをここ一番で有効利用した俺には感謝してもらいたい。ちなみにこれで地球が救えることになったら、費用対効果は抜群ってことになる。

「おーい、どこ見てんだよ小娘! こっちだこっち! 俺がどこにいるのかもわからないか?」

俺はできるだけ憎たらしい抑揚をつけてマイクに叫んだ。
商店街のいたるところに設けされた拡声器が、ジュピテルに俺の居場所を特定させないはずだ……なんてのはまあ、気休めなんだけどな。

とにかく、ソレイユがやられたら終わりだ。いや、何が終わるのか、俺にもよくわからなかったが、終わりなんだ。だからここが俺の体のはりどころだった。

――"時間"だ。時間を稼ぐ必要がある。
短期決戦では分が悪すぎる。だが、デミウルゴスの負荷が一定値を超えたそのとき、あの恐るべき巨体は一瞬の隙を見せる……と思う。

俺は、それに賭けることにした。

45 :
「おい、よく聞けいじめっ子! お前みたいなのがな、"パパ"の一番になれるわけないだろう?
 お前はソレイユの潜在能力を引き上げるためだけの、唯の試料なんだぞ? 他の姉妹と同じ、たんなる当て馬だ!」

俺は煽るように吐き捨てた。

「その当て馬の中でも、お前は最悪レベルだ!
 メルキュールも、マルスも、サテュルヌも、ヴェヌスも……他の連中はよくやった。
 彼女たちは自らの信念を貫き、己の力を最大限に引き出して戦った。そして彼女たちは立派に自らの任を果たした、ひとつにして十全な錬金人類だった。
 
 だけどジュピテル。お前は――」

ここで底意地悪く嘲笑ってやろう。既定路線だ。

「なぁ――その"おもちゃ"は、誰から貰ったんだ?
 メイザースか、ウェストコットか、それともウッドマンか?
 
 なあ、嬉しかったか?特別扱いされたって、そう思ったか?
 
 ……本当はわかってるんだろう? 自分でもよくわかったうえで、考えないようにしてるだけなんだ――」

普通の人間だって。錬金人類だって。基本的な精神構造は同じなんだろうな。俺はソレイユとの暮らしの中で、そして彼女の姉妹を通して、そのことを知っている。

「お前が"黒い球体"を与えられたのは、"パパ"がお前を愛してるからじゃない」


俺は今、例のビルの最上階に立っていた。
そして態々背負って来たデカいアンプ、それに接続した手提げスピーカー3本に向けて、叩きつけるように叫んだ。


「お前が"足りない"からだジュピテル! 未熟者には駄賃のひとつもやらないと、たいした成果も期待できないってな!」


ビル屋上からジュピテルを睥睨した俺は――文字通り、上から目線で彼女を睨みつけた俺は、ふんぞり返って笑った。ちなみにそのバカ笑いも、スピーカーに乗せてヤツに届けてやったのだ。
ぴっちりウサギパーカーを着用した不審者と、今や無敵の巨神と化したエリクシアンは、多分、このとき初めて対峙した。

46 :
>>43
わざわざありがとうございます。
やっとネットも繋がるようになりました。新環境なので落ち着くのに時間がかかると思いますが、このスレや他Dominusの進行を心の支えにして頑張りますね。

今までの鬱憤を晴らすような長文レスしましたが都合悪ければスルーしてね。
あとサテュルヌ描いたので下手でも良ければ見てね。モノクロで500kくらいあります。
http://dl1.getuploader.com/g/6|sousaku/916/PEX-006_Saturne.jpg

47 :
参ります。

>>44
…………ぅ…………。

Dominusの声が……聞こえる……。
きんきんと反響する、耳障りなハウリング。割れた声。
普段わたしの聞くものとは、まるで異なるけれど――これは、紛れもなくDominusの声……。
Dominusが、ジュピテル姉さまを挑発している。
どう……して……?

「ナン……ダト……?ボクガ……他ノ姉妹ニ劣ルッテ言ウノカ……!コノ最強ノ『錬金人類(エリクシアン)』、ジュピテルガ!」

Dominusの挑発に、姉さまが露骨な反応を示す。
プライドの高い姉さまにとって、自分より劣っていると見下しきっている人間の罵倒ほど許しがたいものはない。
姉さまはすぐに周囲を見回し、Dominusを見つけようとしましたが、反響するスピーカーの音に位置が特定できないようでした。

「ガアアアアッ!ドコダァ、蟲ケラガァァァァ!」
「オマエモ殺シテヤルッ、ソレイユト一緒ニ!出テコォォォォイッ!!」

ガゴォォォォンッ!
ガラガラガラッ!!

苛立ち紛れに、姉さまが巨拳を振るって商店街の店舗を粉砕する。濛々と土煙が上がり、建物が倒壊する。
それでも止まらない、Dominusの挑発。

「……ボクガ……愛サレテ……ナイ……?足リナイ……?」
「ウルサイ……!ウルサイウルサイ!ウルサァァァァァァァァァァイッ!!!」
「ボクハ未熟者ナンカジャナイ!ボクハ一番強インダ!最強デ、最高デ、最愛ノ『錬金人類(エリクシアン)』ナンダァァァァ!!」

そんな姉さまの絶叫を否定して、Dominusの高笑いが周囲にイヤというほど響き渡る。
そして――

「ソ、コ、カァァァァァァァァァ!!!!死ネェェェェェェェェェ!!!!」

ビルの屋上へ姿を現したDominusを確認し、憤怒と憎悪に爛々と双眸を輝かせ。
ジュピテル姉さまは拳を振り上げました。

48 :
>>45
――Dominus!

わたしは倒壊したビルの下から一瞬で飛び出すと、『エトワール・フィラント』を抜いて姉さまの左膝裏に斬りつけました。
ぐらり、とバランスを崩し、片膝をつく姉さま。けれど、こんなものはきっとダメージのうちにも入らない。
ただ、姉さまの意識をDominusからわたしへと向けさせることはできる――。

「……ソレイユゥゥゥ……。マダ、死ンデナカッタノカ……」

そう簡単に死にはしません、姉さま。
とりわけ――Dominusがその命を懸けて、わたしが再起動する時間を稼いでくれたのなら!

「ナラ、モウ一度潰シテヤル!死ネ……ソレイユゥゥゥ!!」

斬られた膝を再生させ、姉さまが立ち上がる。巨体がわたしの方を向き、拳が掲げられる。
戦いの再開――そう、思ったけれど。

「ゥ……、グ、ガァッ……!?ハ、ウ……グァァァァァァァァァッ!!!!」

突然、姉さまが頭を押さえて苦しみ始める。
背を大きく仰け反らせ、かと思えば身を丸く縮めて。尋常でない苦悶の叫びをあげる。
あれほど強靭で、かつ圧倒的な再生能力を誇っていた装甲が、まるで腐敗するかのように融解してゆく――。
姉さまの肉体が、取り憑いたデミウルゴスに拒絶反応を起こしている……?
それはまさしく、姉さまの肉体にかかる負荷がキャパシティを越えたことの証。

「苦……シ、ィ……グアアアアアッ、ギィィィィアアアアアアア!!!」

姉さま!
……姉さまを、救います!Dominus!
内部スキャンによれば、あの姉さまの姿は何も、本当に姉さまの肉体が巨大化したわけではありません。
デミウルゴスの集合体が外殻を形成し、内部に姉さまを収納している――と考えるのが正しいようです。
姉さまを救うには、外殻から姉さまの本体を引きずり出すしかない……!
だとしたら、取るべき方法はただひとつ!

49 :
「ガアアアアアアア!ソレイユゥゥゥッ!」

どろどろと溶けてゆく巨躯を、それでも破壊と殺戮のために動かして。姉さまがわたしへと突っ込んでくる。
なんて、可哀想な姉さま……。一刻も早く、姉さまをあの呪われた身体から救出しなければ!
今までは、あの強固な装甲によって八方手詰まりの状況でしたが。
装甲が崩壊し始めている今なら――きっと!

わたしは軽く腰を落として身構えると、巨象さながらに突進してくる姉さまと真っ向から対峙しました。

「死ネ死ネ死ネッ……死ネェェェェェェェ!!!」

……姉さま!

わたしは高く跳躍すると、空中でくるりと身を反転させ、錐のように回転しながら蹴りを繰り出す。
さながらドリルのように、光の矢のように。
狙うべきただ一箇所を穿ち貫く、必殺の一点集中穿孔蹴!ソレイユ・エギーユ・リュミエール!!!

ドギュッ!!

わたしの蹴りが、いいえ……全身が、崩壊しかかっているデミウルゴスの胴体へと突き刺さる。
投擲された槍さながらのわたしの身体が、デミウルゴスの集合体の胴体に巨大な穴を穿つ。
そして――合体したデミウルゴスの巨躯の背中を突き破り、わたしと共に小さな姉さまの身体が飛び出してくる――。

「……が……、がはッ……!」

元の姿の姉さまが、ごぽりと『魔導血液(エリクシル・ブラッド)』を吐き出す。
ダメージは甚大でしょうが、カドゥケウスが破壊されない限り『錬金人類(エリクシアン)』に死はありません。
わたしは姉さまの身体をぎゅっと抱きしめると、地面に降り立ちました。

50 :
>>46
メルキュール「こんばんは〜♪メルキュールの『エリクシアンおまけ講座』のお時間ですよ〜☆」
ヴェヌス「司会は慈愛の水麗メルキュールお姉さまと、わたくし最美の閃光ヴェヌス。そして――」
マルス「炎熱の顕形マルスでお送りするぜ!」

メルキュール「思えば、おまけ講座も久しぶりね……お姉ちゃん寂しかった。くすん」
ヴェヌス「最近は少々シリアスな流れが多くて、おふざけをする隙がありませんでしたから」
マルス「もっとフザケた書き込みがあってもいいとオレは思う」
メルキュール「そうねえ……シリアスなばかりだと、息が詰まってしまうものねえ。それはともかく、今日のおハガキですよ」
メルキュール「ポイント95532にお住まいの>>46さん!いつもありがとうございます☆」
メルキュール「>>46さんは、今度はサテュルヌを描いて下さったんですよ。ホラ!」
ヴェヌス「……サテュルヌですわね」
マルス「ああ、どっからどう見てもサテュルヌだ」
サテュルヌ「うむ。この怜悧な眼差し、凛然たる姿。道着に袴、そして手には絶凍刃――紛うことなき吾であるな」
マルス「まーた当然のように出てきやがって……」
ヴェヌス「こんなに素敵なイラストを頂いたというのに、貴方は相変わらず無表情ですわね」
サテュルヌ「頂き物があったとて、あからさまに喜ぶもそらぞらしきことかと。さりながら、胸中にて感謝しておりますれば」
サテュルヌ「主殿、転居は色々と不都合もあろうが、自愛するが善い」
サテュルヌ「そうそう。絵の礼と言っては何だが、剣の稽古がしたければいつでも声をかけよ。みっちり教えて遣ろうゆえ」
マルス「出た。修業マニア」
ヴェヌス「全然イラストのお礼になっていませんわね」
サテュルヌ「ならば、二十四時間耐久英国産間違った日本の文化アニメ鑑賞会の刑でも可とする」
マルス「刑ってついてる時点でアウトじゃね?」
メルキュール「では、また次回〜☆」


ソレイユ(戦闘中なので当然出そびれました……!)
ジュピテル「ボクも……」

51 :
慈愛の水麗とかエリクシアンの二つ名がかっこいいゾ

しかし毎回壮絶な姉妹喧嘩を繰り広げているが救星主とは何から星を救うのだろうか
少なくともデミウルゴスからではない気がするよネ

さて、ボクはメルキュール姉さんのぷにぷに腹筋を枕に昼寝してくるヨ

52 :
「ぁ……が……っ!う、うぅぅぐ、ぐ……ぎぃぃぃぃぃっ……!」

ね……、姉さまの様子が……。
もう、デミウルゴスの呪縛から解き放ったはずなのに!なぜ――

「う、う……あああああああああ―――――ッ!!!」

身体をのけぞらせ、わたしの腕の中で苦悶に眼を見開き絶叫する姉さま。
その胸のカドゥケウスが、不気味に明滅する。そして、そこから滲み出るように姿を現す、黒い球体。

ビギギッ!

姉さまの身体から出てゆくついで、行き掛けの駄賃とばかりに、黒い球体がカドゥケウスを侵食する。
硬く澄んだ音を立て、カドゥケウスの表面に走る亀裂。聞き違いようのない、死と破滅の音……。
――姉さま……!ああ……なんてこと……!
用済みだと言いたげにカドゥケウスから飛び出すデミウルゴスを、わたしは素早く右手を伸ばして捕えると、一気に握り潰しました。

ズズゥン……

わたしたちの背後で聞こえる、重い地響き。
振り返ると、姉さまを失い崩壊しかかったデミウルゴスの抜け殻が、なおもわたしたちを攻撃しようと腕を振り上げていました。
……しつこい……!
胴体に、向こうが見えるほどの大穴を開けられているというのに。まだ動くことができるなんて!
でも――今は、あなたに構っている暇はない!
わたしは姉さまから束の間離れると、両腕をデミウルゴスへと向けました。

出力最大!ソレイユ・アマ・デトワ―――――ル!!!!

わたしの腕から迸る星の光。粒子砲の閃光が、デミウルゴスの巨体を跡形もなく消し去ってゆく。
核であった姉さまを失い、無限の再生力をなくしたデミウルゴスなら、わたしの兵装でも消滅させることは可能!
デミウルゴスを排除すると、わたしは急いで姉さまの元へと戻りました。

53 :
「うッ、うああああああッ……ボ、ボクの……ボクの身体が……!」
「……消える……。消えちゃう……ボクの手が……身体、がぁ……ッ!」

駆け寄ったわたしが姉さまを抱き直す。姉さまが自分の両手を見て、恐怖に目を見開く。
その小さな手が。徐々にその色彩を失い、指先から消えてゆく――。

「や……、やだッ、やだやだやだ……!消えたくない、死……死にたく、死にたくない……!」
「やだッ!やだよォ……!やだやだっ、消えちゃう、ボクが消えちゃう……死んじゃう……やだっ、やだ……いやぁ……!」
「こわいっ……、やだ……ソレイユ、助けて……!助けて、ボクを助けて……!あああああああ……!」

……姉さま……。

「パパに……もう、愛してもらえなくなっちゃう……。失敗作だって……見捨てられちゃう……」
「やだ……そんなの、やだ……やだよ……。パパぁ……」
「だっこして、頭を撫でてほしいの……。えらいぞ、出来る子だジュピテルって……そう……言ってほしいの……」

………………。
死の、消滅の恐怖に怯える姉さま。その肉体が、雷光を纏いながらゆっくりと空中に飛散してゆく。
生気に満ちていたはずの大きな瞳が輝きを失い、ぼやけてゆく。
虚空に手を伸ばし、うわごとのように呟く姉さまの小柄な身体を、わたしは強く両腕で抱きしめました。

「……ぁー……」

姉さま……。
たとえ、どんなことになったって。師が――お父さまたちが、あなたを見捨てるなんてことはありません。
あなたは。七姉妹の中でも一番、皆に愛された『錬金人類(エリクシアン)』……。お忘れですか?ラボで過ごした頃のこと。
お父さまたちだけではありません。ラボの研究員たちも、そしてわたしたち姉妹も。
みんな、あなたのことを深く愛していましたよ。姉さまがどんなにイタズラをしても、誰もあなたを怒らなかった。
ビュトス機関の中で、あなたはまさしく女帝だった……。
そして。これからも、それはずっと変わらない。

「……ホン……ト……?」

本当ですとも。

「ホントに……ホント……?」

ええ。もちろんです、姉さま。

「ソレ……イユ……」

はい、姉さま。

「……ボクのこと……好き……?」

はい。大好きですよ、姉さま。

「……ぁは……。そっか……」
「ボクも……ソレイユが、大好き――」

――バチッ……。

幼く愛らしいその顔に似つかわしい、あどけなくも儚い笑顔。
最期にそれをわたしへと贈ると、ジュピテル姉さまはまるで仔ウサギのように、眠るように。
静かに、わたしの腕の中で消えてゆきました。

54 :
>>51
メルキュール「はいは〜い!メルキュールの『エリクシアンおまけ講座』のお時間で〜っす☆司会はわたし、メルキュールと!」
サテュルヌ「その他 でお送りする」
ヴェヌス(雑な……)

メルキュール「今日のオハガキは、ポイント10200にお住まいの>>51さん!ありがとうございます☆」
ヴェヌス「救星主とは、いったい何から星を救うのか?という質問ですわ」
サテュルヌ「五の姉上が今回身罷られたことで、残る『錬金人類(エリクシアン)』は二名――」
サテュルヌ「残ったソレイユと三の姉上がどう動くのか、物語はいよいよ佳境!といったところですな」
ジュピテル「うっが―――――っ!!!なんでボクが死ぬんだよォ!もーっ、ムカツクムカツクムカツクーっ!」
マルス「よォ、お疲れさン。電界の女帝(笑)ちゃン?」
ジュピテル「フザけてんの?……コロスよ?」
マルス「Rも何も、もう死んでるしなぁ……」
メルキュール「はいはい、喧嘩はそこまで。ところでジュピテル、ソレイユに情報はちゃんとあげたのかしら?」
ジュピテル「あっ。伝えるの忘れてた。てへぺろ☆」
ヴェヌス「やってしまいましたわね……」
サテュルヌ「まぁ、五の姉上が話さずとも、真相は近く究明されるに違いありますまい」
ジュピテル「あーァ、ボク、割と初期から出張ってたのにこれでオシマイ?もーちょっと活躍したかったなー」
ヴェヌス「それはここにいる皆も同じかと思いますが、主役はあくまでソレイユですから……」
サテュルヌ「ところで、>>51が一の姉上のぷにぷに腹筋の腹枕で昼寝を所望しておりますが」
メルキュール「ぷ、ぷにぷに!?が―――ん、お姉ちゃんショック……!そ、そりゃ、マルスみたいに鍛えてはないけれど……」
ヴェヌス「マルスの腹筋はバッキバキすぎて、石を枕にした方がまだマシですわね」
マルス「コロスぞ?金姉」
ヴェヌス「もう死んでますわ」
サテュルヌ「ぷにぷに即ち肥満という訳ではありますまい。むしろ母性とは女性の肌の柔らかさに由来するもの」
ジュピテル「慈愛の水麗相手なら、むしろ褒め言葉なんじゃないの?」
メルキュール「そ……そうかしら?そうよね、そうだわ!じゃ、>>51さん、一緒にお昼寝しましょうね〜☆冷え冷えですよ〜」
マルス(チョロイなぁ……)
ジュピテル「ボクも寝よーっと。じゃ、バイバーイ」
サテュルヌ「されば、本日はこれにて解散ということで」
ヴェヌス「ではまた次回。お疲れさまでした」


ソレイユ(……はい、まあ、ええと、出そびれました……)

55 :
ちぇっ、こんな小さな娘に過酷なもん背負わせやがって……世界を見渡せば珍しい事じゃねえかもしれんが、どうにもスッキリせんよ。
そういやソレイユだって生まれてそんなに経ってねえんだよな。大人の都合に振り回される難儀な子供ってところかい。


さて……あとは白黒つけるだけ、か。
黒いのをぶちのめせば勝ち、なのかね。
だがよ、それは何に対する勝ちなんだろな。
そもそも、それで俺たちは勝ったことになるのかね。


――しっくりこねえなぁ。何もかもが。
お前はどうなんだ、ソレイユ。

56 :
ビュトス機関やラ・テールと連絡取れないもんかな
ビュトス機関もそろそろ説明をしてくれるような気もするし
ラ・テールは日本を守ってくれたことがあったから、漠然といい人そうな気がする
もしかしたら説得や話し合いに応じてくれる人かもしれない

57 :
……往きます。

>>55
こんなこと。
……こんな結末。
こんな、最期……納得なんてできるはずありません!
試練?当て馬?噛ませ犬?
そんな!そんなくだらない、意味の分からないモノのために!姉さまたちが死ぬ必要なんてなかった!
納得も、理解も、共感もできません!そんな……そんなモノよりも、姉さまたちの命の方が……よほど尊いというのに……!

……なにをもって勝ちとするのか。そう仰いましたね、Dominus。
勝利という概念が、自らの意思の通りに物事を進める、という意味を持つのなら。
わたしは今まで、ただの一度も勝利を収めていない……。
わたしの望みはただひとつ――かつてのように、姉妹仲良く暮らすこと。それだけなのですから。

七姉妹のうち、残ったのはわたしと――ラ・テール姉さまだけ。
ラ・テール姉さまとも、わたしは戦わなければいけないのでしょうか?
その……何に対するものなのかも分からない『試練』のために?『救星主』……というモノのために?
だとしたら、わたしはそれに抗います。例え、それが師の命令だとしても。
……師に……失望されることになろうとも。

Dominus、わたしは悪い娘ですね。
子は親の言うことを聞かなければならない。親の期待に応えなければならない。
けれど――
今、わたしの胸の中には、師に対する偽りようのない疑念が渦巻いているのです。
メイザース師は、わたしたち姉妹を深く慈しんでくださいました。愛して下さいました。
それは、ジュピテル姉さまに言った通り。欠片ほどの偽りもありません。
――でも。

わたしは確かめなければならない。偉大なる三魔術師の、心のうちを。
Dominus――

力を。貸してくださいますか?

58 :
>>56
Sic.Dominus.
ビュトス機関とコンタクトを取ることは容易です。
なぜなら、いまだわたしはビュトス機関の管理下にあり、メンテナンスを受けているからです。
今回のジュピテル姉さまとの戦いによって破壊された商店街も、すでに機関が修復に当たっています。
負傷された方々への補償も抜かりありません。幸い死者は出なかったようですので、近くすべては元に戻るかと。
わたしの栄養ゼリーも、依然Dominusのおうちに定期的に届いていますし――
Dominusならびにわたしが機関と接触することは可能、と回答します。
ただし、それは機関の末端に限定されており、現段階で師や他の高位魔術師とのコンタクトは不可能です。
ことの真相を聞き出すことは、難しいかと――。

ラ・テール姉さまに関しても、難しいと思います。少なくとも、わたしにはできません。
現在、ラ・テール姉さまがどこにいらっしゃるのか。それすら把握できていないのです。
わかっていることは、姉さまもまた日本にいるということだけ。
でも、恐らく……そう遠くない未来にお会いすることになるでしょう。
わかるんです。残る『錬金人類(エリクシアン)』が姉さまとわたしのふたりになったから、というだけではなくて。
運命が引き合っている、わたしたちの命が呼び合っている……。

わたしたちの胸に輝く、叡智の結晶カドゥケウスが。


ジュピテル姉さまとの戦いから、一週間。
やっと商店街も元の賑わいを取り戻したようです。デミウルゴスの侵攻も、あれからぱったり途絶えました。
この平和が、少しでも長く続けばよいのですが……。

とりあえず、学校へ行きましょうか?Dominus。
デミウルゴスが攻めてきても。姉さまたちや、『機械化人類(メカニゼイター)』がやってきても。
学業だけは疎かには出来ませんから!さ、支度ですよ!支度!

59 :
……?
何か、教室の様子がおかしいですね。クラスメイトの皆さんも、心なしか落ちつかないような。
ええと。皆さん、どうかされたのですか?

…………。
…………。

Dominus、聞き込みを行なったところ、本日当校に転入生がやってくるとのことです。
クラスの何名かが、見慣れない女生徒が職員室に入ってゆくのを目撃した……と。
妙ですね。夏休みを控えたこのタイミングに転入してくるなんて……。

あ。先生がいらっしゃいました、着席しましょう。

――朝のホームルーム。担当科目が古典にも拘らずジャージ姿の担任の先生が、教卓の前に立って挨拶を始める。
弛緩した空気が、先生の登壇によってぴりりと引き締まる。わたしにとっては、とても心地いい一瞬。
ここに。教室にいることで、わたしは平和を心から噛みしめることができる。
当たり前の平穏を。なんでもない幸福を。全身で感じることができる――。

先生が言う。「今日は転入生を紹介する。みんな、仲良くしてやるように」と。
サプライズに教室中がざわつく。やはり、噂は本当だったようですね。
「入りなさい」という先生の言葉と共に、教室の前の扉が開かれひとりの女生徒が入ってくる。
わたしが着ているのと同じ、本校の制服を隙なく着込んだ、長い黒髪の少女。
その容姿は、色を除いてわたしと瓜二つ――
……瓜二つ。

「本日付でこの学校に転入しました、ラ・テールです!妹のソレイユともども、よろしくお願いします!」

…………え?
え……えええええええええええええええええええええええ!!!!!????

挨拶を終えると、姉さまは一目散にわたしのところへと駆け寄ってきました。
そして、勢いよくわたしに抱きついて――。

「ソレイユ!会いたかった!」
「ずっと、ずっと会いたかった!今日が来るのを待ってた!やっと会えた……嬉しい!」

ぎゅうぎゅうとわたしを抱きしめる、ラ・テール姉さまの勢いにすっかり圧されて。
わたしはただ、こくこくと頷くことしかできませんでした。

60 :
純朴そうなラテールは無知シチュがマッチしそうですね。(ゲス顔)

61 :
折角ラ・テールと会えたんだから、ソレイユには仲良くして欲しいしDominusとしても仲良くしたいところ
適当な時間を見つけて挨拶をして、何か話題でも振ってみよう。そうだなぁ
「初めまして。長い黒髪が素敵だね」、「ソレイユにはいつもお世話になってます」
「ところで救星主ってなにか知ってる?」、「ラ・テールの兵装って、重力とか風とか、
目に見えない物を操作するものだと推測してるんだけど合ってる?」
「この間は日本を守ってくれてありがとう」……こんな所でどうだろう

62 :
参ります。

>>60
……さ、さすがはラ・テール姉さまです……。
転入してきた瞬間、もうクラスの――いえ、校内の中心的存在になってしまわれました。
でも、それも無理のないことなのかもしれませんね。
以前ラ・テール姉さまが軍港に現れ、『ベンジェンス・オブ・ドーン』の発射したグランMACガンの砲弾を止めたこと。
それによって日本を救ったという事実は、テレビによって日本全国に……それどころか世界中に放送されたのですから。
そんな救い主が、ある日突然前触れもなく自分たちの学校に。そしてクラスに転入してくれば、皆が驚くのも当然かと。

今や、休み時間のたびに教室は姉さまを一目見ようと押し寄せてきた人々でいっぱいです。
立錐の余地もないとは、まさにこのこと……!わたしたちでさえ、姉さまに近づくことができません!

姉さまに人気があって嬉しい反面、姉さまが遠くに行ってしまったみたいで、少し複雑な気持ちですが……。
いっ、いえ。そんな私的なことではなくて、姉さまには色々伺わなくてはならないことがあります。
姉さまがこの学校へ転入してきた理由、目的。これからの行動指針――。
それらを、可能な限り聞き出さなければ……。

……Dominus?Dominus!
鼻の下が伸びていますよ。だらしないお顔をなさらないでください!
むちしちゅ?とは一体なんですか?確かに姉さまは人を疑うことを知らない、純粋無垢な方ですが。
まさか……それをいいことに、いけないことをしようとしているのではありませんよね?

姉さまは嘘がお嫌いな方です。もし、Dominusにやましいお考えがおありだとするのなら……。
ばれると、ひどいことになってしまうかも……。そうなれば、わたしも責任は取れませんよ?

さ!姉さまとゆっくり話すには、もう少し時間がかかるでしょう。
それまで、何を話すべきか。ふたりで纏めておきましょう――ね?Dominus。

63 :
>>61
Sic.Dominus.
問題ないと思います。……それにしても、全然お話しできないまま放課後になってしまいましたね。
自由に行動できる時間は――いいえ、それ以外の授業中まで、姉さまの周りには誰かしらがいて。
わたしたちが近寄れる隙は全くありませんでしたから……。
あ、ほら。Dominus、噂をすれば姉さまです。ちょうど、校庭のあたりに。
わたしたちの今いるこの屋上からは、姉さまの姿がよく見えますね。
姉さまの周りに、100人くらいの生徒が同伴しています。これは、本日中の会談は絶望的でしょうか……。

「お――――――いっ!ソー!レー!イー!ユーッ!」

姉さまの方もわたしたちに気がついたようですね。大きく両手を振っています。

「いま――――!そっちに―――!いくね――――っ!!」

……え?

姉さまの様子に、わたしが小首をかしげた瞬間。
姉さまが、突然校庭から高く跳躍しました。
いえ――それは跳躍、と言うより飛翔、と言った方がいいかもしれません。
とにかく、姉さまは取り巻きの生徒たちを校庭に置き去りにして、一気にわたしたちのいる校舎の屋上へとやってきたのです。
ねっ、ねねねねね、姉さま……!

「よいしょっと!とうちゃーくっ!あはは、びっくりした?ソレイユったら、目がまん丸!」
「学校の案内をしてくれたみんなには悪いんだけど、こうでもしないと話す時間が作れなかったから」
「……まあ、時間はまだまだたっぷりあるから。焦る必要はないけど……でも、やっぱり。早くあなたたちと話したかったし!」
「あなたがソレイユのDominus?改めて自己紹介するね、あたしはラ・テール。七姉妹の三女、ソレイユの姉だよ」
「あなたのことも、ずっと見てた。ソレイユのこと、いつも愛してくれてありがとう。素敵なDominusと巡り合えたんだね、ソレイユ」

……姉さま……。
Dominusが矢継ぎ早に質問を浴びせると、姉さまは軽く眉を下げ、ひらひらと両手を振って笑いました。

「おっとっと!熱烈な質問攻めだね〜。まぁまぁ、そう急がなくっても!言ったでしょ?時間はたくさんあるって」
「これから、ずっと一緒にいるんだもの。徐々にお互い分かり合っていけば、それでいいんじゃないかな?」

ずっと?ずっとというのは、どれくらい――

「ずっとは、ずっとだよ。ずっとずっと、ず―――っと!」
「だって――あたしとソレイユは、救星主。ふたりの救星主……なんだもの!」

屋上の落下防止柵を背に、長い黒髪を風に遊ばせて。
ラ・テール姉さまは右手をわたしの方へと差し伸べると、そう言ってにっこり笑いました。

64 :
そうです、姉さま。それについて、訊きたいことがあったのです。
救星主とはいったい……?それがラ・テール姉さまとわたしだとして、それにはどういう意味が……?

「救星主とは何か、って?いい質問だね!――救星主とは!」

救星主とは?

「……救星主とは!!」

き、救星主とは……!?

「……あはは、わかんない!」

ね、姉さまーっ!?

「いや〜、あたしもよく知らないんだよね。ただ、父さんが『おまえは救星主だ』って言うから。そうなんだ〜って」
「でも、なんとなくは分かるよ。とにかく、悪者をやっつければいいんだって。みんなの平和や愛を奪う者を倒せばいいって」
「それなら、わたしは戦うよ。みんなの笑顔を、平穏を。愛を!守るために――戦う!」
「だから、お願い。ソレイユも力を貸して!一緒に、大切な人たちを守るために戦おうよ!」

姉さまがわたしの両手を取り、ぶんぶんと上下に振る。
で……、では、姉さまがここへ来たのは、他の姉さまのようにわたしと戦いに来たのではない、と……?

「あたしとソレイユが戦う?どうして?そんな理由ないし、あたしはソレイユに協力してもらいたいから来たんだよ?」
「他のみんなは、試練のためにあたしたちと戦う役目があったみたいだけど……。あたしとソレイユは戦わない」
「あたしとあなたの手は。お互い殴りあうためじゃなく――こうして。繋ぐためにあるんだから」

姉さまが、わたしの手指に自分の手指を絡めてくる。
温かく、柔らかな姉さまの手。殴りあうためでなく、繋ぎあうための手……。
……ぅっ、うっぐ……ひっく、うっ、うぇぇぇぇぇぇぇ……!!

「なんで泣くのっ!?あ、あたし何か言っちゃった!?禁句的な何かを!?」

い、いいえ……嬉しいんです、わたし……!
やっと。やっと、願いが叶った……!姉さまと仲良く、昔のように過ごせるって……それだけで……!

「あははは……大袈裟だなぁ、ソレイユは。でも、わかるよ……。他のみんなと殺し合いするのは、つらかったよね……」
「だけど、もう大丈夫だから。一緒にいよ?もちろんDominusも。そして、みんなで幸せになろうよ」

はい……、はいっ……!
姉さまがわたしの頭を胸に抱き寄せ、あやすように髪を撫でてくる。
その優しい仕草に身を任せ、わたしはしばらく、幼な子のように泣きじゃくりました。

65 :
「さて。Dominusの質問は、後はあたしの兵装だったっけ?」

わたしをあやしながら、姉さまがDominusの方に視線を向ける。

「なかなかいい線行ってる。もう、ほとんど正解って言っていいくらい。でも、ちょっとだけ違うかな」
「本当は、あたしの固有兵装を使うのは父さんから固く戒められてるんだけど……。Dominusには特別に見せてもいいよ」
「でも、時と場所を改めて……ね。ここで使って、万が一のことが起こったりしたら困るから」
「そうだなぁ……じゃ、次にこの街の周辺にデミウルゴスが出現したら、っていうのはどう?」
「どの道デミウルゴスが現れれば、『錬金人類(エリクシアン)』以外には対処はできないんだから。ね」
「あ。父さんには内緒だよ?」

そう言って、ニカリと白い歯を見せて笑う姉さま。
そうこうしているうちに屋上の扉が開かれ、姉さまを追いかけてきた人々がなだれ込んでくる。

「いっけない。じゃ、残りの話はまた後で!」

そう言うと、姉さまはわたしから身体を離し、一気に柵を乗り越え空中へ身を躍らせました。
人々が柵に殺到するも、時すでに遅し。

「わっはっはー!さらばだっ!明智くぅ――――――んっ!」

……姉さま、そういう知識はどこで得られたのですか……?
と、ともかく、姉さまは他の人たちから逃れていずこかへ行かれてしまいました。
Dominus、わたしたちも帰りましょうか……。




本当に、今日は波乱の一日でしたね。お疲れになったでしょう?お風呂が沸いていますから、お入りください。
……あら?インターホンが鳴っていますね。こんな夜に誰でしょう?
ま、まさか……?

「ソレイユ、Dominus、今日からお世話になりまーっす!」

開いたドアの前には、スポーツバッグを持った制服姿のラ・テール姉さま。
……え、ええと。

Dominus、どうも……そういうことらしい……です……。

66 :
これまでの経過を緻密に観察し、そこから各錬金人類の熱烈アプローチを客観的に予想してみた。

メルキュール:家事や手料理、耳かき、添い寝など母性全開でお世話してくれそう。ああ〜^
ヴェヌス:Dominusにも高いスペックを求めるが、一度認められれば秘書的なイメージで傅いてくれる。
スーツメガネタイトスカートとヒールの組み合わせが最高。
ラ・テール:「Dominus、○○○しよう!」とあけすけに迫ってくる。東京ラブスト○リーかな?
マルス:あまりべたべたと執着しないドライなイメージ。なぜか飲み会の席でセクハラしてくる印象がある。飲み屋のトイレでガッツ!
マルスッスのバッキバキの腹筋で俺の一部もバッキバキに。(※腹筋のことです)
ジュピテル:悪態を尽きながらも構ってオーラ全開でつきまとって来きそう。Dominusの胡坐のうえに座すという振る舞いで殺しにくる。踏まれたい。
サテュルヌ:フェチズムの権化であり、Dominusの帰宅をメイド服待機、猫耳スク水で風呂場に乱入、Dominusのラッキースケベ(in学校や職場)を全力で阻止にくるなど暴挙に暇がなさそう。
ソレイユ:初期は一線を引いていたが最近のデレっぷりを見るにもう押せばなんでもありなのでは?と思うこと多々。
主のいない間にDominusのワイシャツをくんかくんかしてそう。Dominusしゅきぃ……。

ふぅ……一体俺は何をやっているんだ……。
一通りの妄想を終えるといつも通りの自己嫌悪が俺自身を襲い、世界は絶望に包まれた。(END)

……居候といえばサテュルヌを思い出すが……あのときは賑やかだったな。
そういえば、ラ・テールのDominusはまだ健在なんだよな?
確かそんなことを聞いたような気がする。

67 :
ラ・テール姉さまがDominusとわたしのおうちへやって来て、一週間ほどが経過しました。
三人で登校して、授業を受けて。姉さまの取り巻きから逃げながら下校して、一緒にごはんを食べて……。
なんでもない日常。ごく普通の生活。
そんな日々を過ごすことを、わたしはずっと夢見てきました。その夢が、まさか叶う日が来るなんて――。

姉さまは常識的なところと非常識的なところがきっぱり分かれていて、時々とんでもないことをしでかしたりするのですが。
具体的には『Dominus!一緒にお風呂にはいろう!背中を流してあげるね!』と、Dominusの入浴に乱入したり。
『姉として、Dominusと妹の進展具合を知っておく必要があるよ!で、どこまで進んだの?』と訊いてきたり。
色々、わたしの驚くことをしてきますが……それさえも、幸せな生活のひとつ。
後は、この毎日が姉さまの言う通り。ずっと続いていけば――。

「サテュルヌが言ってたんだ。ソレイユのDominusは見所がある、きっと人類を牽引する指導者になれる、って」
「それから、毎日が楽しいって。Dominusと、ソレイユといるのが幸せだって。……それを聞いて、ずっと。羨ましいって思ってた」
「ずっと、あなたたちのことを見てた。会いに行きたいって夢見てた。でも、会っちゃダメだって。まだそのときじゃないって……」

夕食の席で、姉さまがそんなことを言う。
姉さまは、今までどちらにいらしたのですか?
誰が、わたしと会ってはいけないと姉さまに命じていたのですか?……なんのために?

「あたしはずっとラボにいたよ。ビュトス機関のラボに。そして、許されたときだけ外に出てた。戦うために」
「父さんが、まだソレイユと会うタイミングじゃないって。ソレイユが姉妹全員と戦い終わるまでは――って」
「理由までは知らない。あたしは、ただ父さんにそう言われていただけだから」

三魔術師のいずれかの方が、わたしと姉さまたちのいわゆる『試練』が終わるまで、再会を戒めさせていた……と。
師は、他に何か仰っておられませんでしたか?

「何も。他の姉妹との戦いに勝った後は、必要なとき以外は待機とメンテナンスばかりだったから」
「でも、そのお蔭であなたたちのことを見ていられたんだけどね。あなたたちのことを見ていたら、会いたくて堪らなくなって」
「だから、父さんにお願いしたの。試練が終わったら、あたしもサテュルヌみたいにソレイユたちと生活したい!って」
「最初は父さんたちも戸惑ってたけど、あたしがどうしても!って言ったら、最終的には許してくれたんだ。えへへ」

お箸を手に、嬉しそうにそんなことを言う姉さま。

「あたしのDominus?いるよ。あ、大丈夫。ここへ来るのは、あたしのDominusの許可も取ってあるからね」

そうですか……。それなら安心です。
姉さまが、そんなにわたしたちのことを気にかけていてくれたとは知りませんでした。
そして、皆で生活する幸福を望んでくれていたなんて……。
Dominus、わたしはこの幸せな生活を、なんとしても守ってみせます!

68 :
……!
敵性反応確認。ポイントC-25889!これは……デミウルゴス!
Dominus!

「行こう。みんなの平和をおびやかすデミウルゴスは、やっつけなくちゃ!」

姉さまが決然とした面持ちで立ち上がる。
はい!では、現場に急行します!Dominusもご一緒に!

――デミウルゴスが出現したのは、高層マンションの立ち並ぶベッドタウン、港湾区。
『歩兵(ポーン)』型が三十体、『僧兵(ビショップ)』型が十体。『騎兵(ナイト)』型が三体。
典型的な小隊規模のデミウルゴスですね。これなら、問題なく撃破可能かと思われます。
では――

「ここは、あたしが行くよ。ソレイユはDominusを守って」

……姉さま?あ、待ってくださ……!
わたしが止める暇もなく、姉さまはすぐに跳躍するとデミウルゴスのまっただ中へと突進していきました。
姉さまの身体が一瞬輝き、大きく肩の出たサマーセーターにフリル付きのミニスカートの出で立ちが、黒いアサルトスーツに変わる。

「はああああああッ!」

群がる『歩兵』を、姉さまは無駄のない動きで瞬く間に駆逐してゆく。
徹底した戦闘理論に則ったその身のこなしは、サテュルヌ姉さまの――。

「セキュリティ解除シーケンスを発動、特殊兵装を発動。EXW-006S 超高圧力式水流鞭『メルキュール・トレント・デ・フエ』――」

ギュルルルルルルッ!
メルキュール姉さまの特殊兵装、水流鞭が生き物のようにうねる。隊伍を組んだ『僧兵』を、当たるを幸いなぎ倒す。

「EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』!」

ビキビキビキッ!
さらに、サテュルヌ姉さまの絶凍刃。絶対零度の凍気が水流鞭の残滓をダイヤモンドダストに変え、周囲に滞留する。

「EXW-077S 投射式雷電魔槍『ジュピテル・グラン・エクレール』!」

目まぐるしく兵装を換えてゆく姉さま。次に出したのは、稲妻でできた長大な槍。
あれは、ジュピテル姉さまの――!
バヂッ!バヂバヂバヂッ!!
姉さまが槍を投擲すると、凍結した空間に雷が伝播する。ダイヤモンドダストの漂う空間にいた、全てのデミウルゴスが感電する。
ラ・テール姉さま……。わたしと同じ兵装を扱っているはずなのに……。

桁外れに……強い……!

69 :
ビュオッ!
『歩兵』と『僧兵』を平らげた姉さまの背後に『騎兵』が迫る。『騎兵』が手に持っているランスを振りかぶる。
姉さまはランスを振り向きもせずに避けると、代わりに強烈な裏拳を胴体へと叩き込む。
『騎兵』の一体が吹き飛ぶも、『騎兵』は全部で三体。残りの二体は仲間の被弾をものともせずに姉さまへと攻撃を繰り出す。

「……効かないよ」

姉さまの両手に炎が灯る。それはみるみるうちに勢いを増し、戦斧の形状をとる。
マルス姉さまの特殊兵装、EXW-091S 超高熱溶断火炎斧『マルス・ティタン・ドゥ・フランム』……!
わたしは両腕で一本の戦斧しか生み出せないのに、左右の腕に一本ずつの戦斧を形成するなんて!

「でやああああああああ――――ッ!!」

姉さまが炎の戦斧を投擲する。二体の騎兵の額にトマホークよろしく斧が突き刺さり、騎兵は僅かに痙攣すると沈黙した。
でも――
デミウルゴスの更なる援軍。強固な守備力を誇る、巨大な『城兵』――オポジット級デミウルゴスが、姉さまの前方に現れる。
姉さま、気を付けてください!オポジット級が出現するときは、必ず近くにフィアンケット級が……!

ドギュゥゥゥンッ!
パキィ―――ンッ……

どこかから聞こえる銃声。やはり、オポジット級は囮!フィアンケット級が姉さまを狙っていた……!
けれど。フィアンケット級デミウルゴスの銃弾は、すぐに甲高く澄んだ音を立てて跳ね返されました。
姉さまの身を護るように浮遊する、白い鶺鴒の生み出した障壁によって。

「ノワール!!」

姉さまが叫ぶと同時、四基の黒い鶺鴒『ノワール』がいずこかへと飛んでゆく。
わたしは、白黒一対つがいの鶺鴒を操るので精一杯なのに……。
すぐに、近くの高層マンションの屋上で爆発が上がる。どうやら、そこにフィアンケット級デミウルゴスがいたようですね。
姉さまの目の前のオポジット級デミウルゴスが、霧のように消えてゆく――。
これで、戦闘は終了でしょうか。

「あ!ゴメン!Dominusと約束してたのに、あたしの兵装を使う前に終わっちゃった!」
「あはは、ゴメンゴメン!まぁ……また次の機会に見せられれば……ね?」

ぺろりと舌を出して笑う姉さま。
これが、『救星主』の性能ということのようですね。わたしの出番なんて、本当に欠片もありませんでした。
本当にすごい……!姉さまがいる限り、平和は守られたも同然です!
何か、肩の荷が下りたような……。
これで、もう安心ですよね?Dominus――。

70 :
>>66
メルキュール「毎日暑いけれど、よい子のみんなは元気にしてるかしら?メルキュールの『エリクシアンおまけ講座』ですよ〜!」
マルス「司会はメル姉!それから、夏と言ったらなンと言ってもオレの季節!なマルスとッ!」
サテュルヌ「絶凍刃製かき氷一杯500円で販売中。サテュルヌ他である」
ヴェヌス「提供は『人類の輝かしい未来を創造する』ビュトス機関でお送り致しますわ」

メルキュール「今日のおハガキは、ポイントC-25889にお住まいの>>66さん!ありがとうございます☆」
マルス「さっき、デミウルゴスにブッ壊されてたところじゃねーか」
ラ・テール「よい子のみんな〜!今日のあたしの活躍、見てくれたかな〜?みんなの救星主!ラ・テールだよ〜!」
ラ・テール「あたしにファンレターや似顔絵を送ろうっ!住所は『錬金乙女エリクシアン公式サイト』でっ!」
ヴェヌス「さっそく自己アピールに余念がありませんわね……」
ラ・テール「今までずっと我慢してたから!やっとあたしの出番なんだし、やりたいこと全部やりたいっ!」
サテュルヌ「そうやって、Dominusにもイケイケで猛烈アピールをするという訳ですな」
マルス「まぁ、>>66の妄想は大体合ってるよな。全然違和感ねぇっつーか。あるあるっつーか」
メルキュール「うふふ。Dominusは大切な身体なのだから、なんだって面倒を見ちゃいますよ?いい子いい子☆」
マルス「ダメ人間製造機じゃねーか」
ヴェヌス「メルキュールお姉さまのDominusは、漏れなく堕落していきますわね……その点、わたくしは甘やかしませんわ」
メルキュール「あんまりDominusをいじめちゃいけないわ?ヴェヌス」
ヴェヌス「世界最美、最優秀の錬金人類のDominusは、当然世界最高のスペックを持って然るべき。そうではありませんこと?」
サテュルヌ「二の姉上の要求を満たせる人類が、果たしてどれほど存在するのか疑問ですが……」
マルス「その点オレはあンま、高スペックとか求めねーし。やっぱ性格だろ?相性がよくねェDominusとは居たくねーし」
メルキュール「相性は大切ね。どういった人がマルスの好みなのかしら?」
マルス「酒が呑めて、ブン殴り合いが出来て、下ネタにも対応できる野郎がいいな。細けェことを気にしねェならなおよし!」
ヴェヌス「マルスと殴り合いができる人類っていったい……」
ジュピテル「ボクは、ボクのことを一番かわいーって言ってくれて。甘やかしてくれて。やさしーDominusなら誰でもいーよ」
マルス「いきなり出てきやがったな。とにかく、ベッタベタに甘やかしてほしいってワケか」
ジュピテル「ボクが甘えたいときに構ってくれればいーの。でも、甘えたくないときに構ってきたらコロスよ」
マルス「ウサギパーカーのクセして、ネコみてーなこと言いやがる」
サテュルヌ「成る程。――まぁ、吾は推して知るべしということで」
ヴェヌス「かなり色々妄想されているのに、一切否定しないんですのね……」
サテュルヌ「そもそも、このアサルトスーツの上に着ている道着と袴自体コスプレみたいなものですゆえ」
ジュピテル(コスプレだったんだ……)
ラ・テール「じゃっ!また次回〜っ☆」



…………。
…………。
くんくん……すぅすぅ……。はぁぁ、Dominusのにおい……。
Dominusぅ……。

……はっ!?な、ななな、なんでもありません!Dominus!
き、今日もやっぱり出そびれましたーっ

71 :
ええい、そんなものをHSHSして痴態を晒しておる場合かッ!
件の金星、あれの言うことを思い出すのだ。
地球とその主に隙を見せてはならん。

所詮我らは未だ、深淵の掌の上よ……。

72 :
世界最高のスペックを誇る女性たちの理想は高いのだな……
さて、現状戦わないと言う話ではあるが、人格を乗っ取って操ったり人質を取ったり、
戦わせる手段はいくらでも考えられる訳だ。それに……いや、とかくいつ戦いになるか分からぬ
平和な毎日を楽しむのも良いが、それを頭の隅に置き、気を引き締めねばならないだろう
そして一層向上せねば、ぶつかったとしても勝ちはないだろう
ここからが本当の戦いなのかもしれない

73 :
エリクシアンおまけ講座=冥界説……あると思います。(キャスト的な意味で)

74 :
>>71
ひゃいっ!?も、ももも申し訳ありませんDominus!
ヴェヌス姉さまの言葉……ですか?確か……強く、美しく、Dominusを決して裏切らないように――
でなければ、ラ・テール姉さまとそのDominusには勝てない……と。
そ、そんなこと。ラ・テール姉さまは、わたしと一緒に手を取り合って戦おうと言ってくれたんです。
まさか、わたしとラ・テール姉さまが相争うなんて……そんなこと、絶対絶対ありえません!
いくらDominusのお言葉でも――!!

「ソレイユ?Dominus?……ふたりで何やってるの?」

はっ、はははははいっ!?姉さまっ!?べ、べべ別になんにも……。

「顔に出てるよ、内緒話してるって。……そりゃ、当然ふたりでしかできない話も色々あると思うけど」

す、すみません。でも、本当になんでもないんです。それより姉さま、今日のお夕飯は何にしましょうか?

「んー……。オムライスがいい」

はいっ!オーダー受諾しました。Dominusもオムライスでよろしいですか?
じゃ、さっそくお買い物に行かなくてはっ!Dominus、姉さま、お付き合いいただけますか?

「それなんだけど、あたしもちょっとDominusと内緒話があるんだ。だからソレイユ、悪いけどひとりでお願い」

……え……?
姉さまが、Dominusと内緒話……ですか……?
それって――

「あはは、なんでもないなんでもない!そんな、世界の終わりが来たみたいな顔しなくても大丈夫!」
「何も、取って食ったりしないから!ただ、ちょっと姉として。妹の扱い指南をするだけだから!」
「だってさ。Dominusとソレイユが結ばれたら、あたしはDominusの義理のお姉ちゃんなんだし!」

む、結ばれっ!!!??

「もしもの話!さ、早く買い物に行ってきて?あたし、もーお腹ペコペコだからさ〜!」

は、はい……。他ならぬラ・テール姉さまのお言葉なら、信じます。
では、Dominus。ソレイユ、これより商店街までお夕飯の買い物へ行ってきます。
……姉さまと、仲良くしてくださいね。

75 :
>>72
さて。
ごめんねDominus、ちょっと無理矢理だったかも。――でも、こうでもしないとふたりで話す機会、なかったから。
身構えなくてもいいよ。Dominusがあたしのこと、今でも警戒してるっていうのは分かってるから。
信用ないなー……あはは。でも、それがいい。それでいい。そのくらい注意深くなくちゃ、今までの戦いも勝ち抜けなかったよね。

あの子に聞かれたくない話。あなたに知っておいてもらいたい話。
今までのいきさつを、今から話すよ。
一方的になるけど、後であなたの疑問にも答えるから。今は、耳を澄ませていてほしいな。

『ビュトス機関』の最高位、三人の魔術師のことは知ってるよね。……あたしたちの生みの親、三人の父さん。
父さんたちはいつも、人類の正しい発展と輝かしい未来について議論してた。
どうすれば、どういう過程を経れば、人類はよりよい未来へと進んでいけるのか――?ってね。

地球は、苦痛で溢れてる。
飢餓。貧困。暴力。犯罪――たくさんの苦しみが、人々を不幸にしてる。
どうして、それらの苦しみが生まれるのか。その発生源、Dominusはわかる?
それはね……『人が多すぎるから』。
草木もそう。枝葉が茂るままに任せていると、日の当たらない場所が出てくる。栄養の充分な場所と、不充分な場所が出てくる。
そういう場合、庭師は不要な枝葉を間引くことで、全体に栄養が行き渡るようにする……。
父さんたちは、増えすぎた人間を間引き、適正な数まで調整すべきと考えたの。
それが『トロイア計画』。ギリシャ神話で、大神ゼウスが人間の数を減らそうと考えた計画。

綿密な計算によって導き出された人類の適正数は、5億人。
現在の地球の総人口は、73億人。
生き残れるのは約7パーセント。14人にひとりの割合――
さすがに父さんたちもそれは短絡に過ぎるって、一旦待ったをかけたんだ。
でも、こうしている間にもどんどん人口は増えていく。飢餓は、貧困は拡散していく。
早急に何らかの手を打たなければ、人類はこの地球を蚕食し尽くした挙句、自滅してしまう……。

終わらない議論に終止符を打つため、父さんたちは人類の舵取りを自分たち以外に委ねることにしたの。
三人の父さんはそれぞれ自分の得意とする分野で、それらを創造した。
機械工学の権威ウェストコット父さんは、機械と人類の融合『機械化人類(メカニゼイター)』を。
バイオテクノロジーの天才メイザース父さんは、わたしたち『錬金人類(エリクシアン)』を――。
自分たち旧人類を導く、新たなる人類を。

76 :
あたしはメイザース父さんによって、星を救う者――救星主となるべく生み出された。
星を。この地球を救い、人々を救う存在として。最高の性能を与えられて創造された……。
他の五人、メルキュール姉さん、ヴェヌス姉さん、マルス、ジュピテル、サテュルヌは、その過程で生まれた試作体。
そして――
ソレイユは『救星主』であるあたしに万一のことがあった場合、『救星主』の役目を引き継ぐべく生み出された予備。
当初の計画では、『錬金人類(エリクシアン)』は6人。ソレイユは『存在しないはずの7人目』だったんだよ。

本当は、ソレイユはあたしに不測の事態が起こるまでずっとラボで培養槽の中にいるはずだったんだ。
でも。あたしがソレイユを目覚めさせたの。父さんたちに断りなく……ね。
だって、他の姉妹とは違う――あたしと同じ顔の妹。あたしと同じ『救星主』の妹。
あたしを元に作られた、双子の妹……。そんな妹が目覚めるのが、あたしが壊れた後なんて。
そんなの、寂しすぎるでしょ?
あたしはソレイユと話がしたかった。ソレイユと会って、お姉ちゃんだよ。妹だよって言いたかった。
――だから。

父さんたちは目覚めてしまったソレイユの扱いに困ったみたいだけど、結局わたしと同じ『救星主』として扱うことにしたの。
真の『救星主』になるためには、他の姉妹を倒し『錬金人類(エリクシアン)』の中で最も優秀だという証を立てなくちゃならない。
ただ、ラボですべてを学習したあたしと違って、ソレイユはほとんど何も学習しないままDominus――あなたの元へ送られたの。
人間の社会で、人間と交わって暮らすことで。持たざる者を、持つ者へと変えようとした……んだと思う。
ウェストコット父さんは、ラボで機関の最大限のバックアップを受け、英才教育を受けるあたしの方が恵まれてるって言ってたけど。
あなたと過ごすソレイユの姿をラボのモニターで見ながら、あたしはホントに羨ましいって思ってた。
あたしが目覚めさせた妹と。ずっと、話がしたいって思ってた。
でも……。あたしとソレイユの両方が試練をパスするまでは、決して会ってはいけないって。

それと同じころ、5人の姉妹たちもそれぞれの思惑のために動いていたみたい。
メルキュール姉さんとサテュルヌは、父さんの指示の通り『救星主』の覚醒のために。
ヴェヌス姉さんは、自分を愛してくれたDominusの遺志を継ぐために。
マルスとジュピテルは……なんだろう?自分のやりたいように……だったのかな。
みんなは自分のDominusを手にかけた、って言ってたみたいだけど。
5人のうち本当に亡くなったのは、ふたりだけみたい。ヴェヌス姉さんのDominusは大往生で亡くなってるし――
マルスのDominusは、病死だって。

ともあれ、5人の姉妹たちは『救星主』の覚醒のための試練によって戦い……
あたしとソレイユは、それに打ち勝って『救星主』になったんだよ。

77 :
あたしは『救星主』としての役目を果たさなくちゃいけない。
だって、それがあたしの生まれてきた意味。生きる目的だから。
『救星主』として生きることが、散った5人の姉妹の命を受け継いだあたしの役目だと思うから。
あたしは、父さんの意思に沿う。父さんの期待に沿うように動く。

……本当を言うと、ソレイユには『救星主』としての働きをさせたくないんだ。
だって、そうでしょ?ソレイユは元々『いなかったはず』の存在なんだもの。
あたしに万一のことがあった場合に『救星主』の役目を引き継ぐバックアップがソレイユだっていうのなら。
逆に言えば、あたしがいる限りソレイユには何の役目も与えられないということ――だよね?
元はと言えば、あたしが会いたいっていう身勝手な理由でソレイユを起動させちゃったのに。
その上、あたしの役目まで押し付けられないよ。

だから、ね。
これから先は、あの子には幸せな、平凡な生活を歩んでほしいの。
姉妹を手にかける――そんなつらい戦いを、あの子はずっと続けてきたんだもの。
もう、充分だよ。あとは……あたしが引き受ける。

ソレイユはね、Dominus。あなたのことが大好きなの。
ずっとあなたたち二人のことを見てきたあたしには、よくわかってる。Dominusだって気付いてるんでしょ?
ソレイユのこと、お願い。あの子はもう、あなたがいなくちゃダメだから。

あたしが伝えたいことは、これでおしまい。
信じるも信じないも、あなたの自由だよ。でも、少なくともウソはついてない。
あたしも――ソレイユのことが好きだから。大好きな妹の想い人に、ウソなんてつけないもの。
もちろん、Dominusのことも好き。そして……あなたと妹が、普通に学校へ行って。普通に生活するのを見ているのが大好き!
これからも、あたしはあなたたちのことを見ていたい。幸せになっていく姿を見届けたい。
だから……戦うよ。幸福を取り上げようとする、すべての邪なものと。



――はー、一気に喋ったらくたびれちゃった!考えながらものを話すって疲れるね!
ますますお腹が減っちゃった。ソレイユ、まだ帰ってこないのかなー?
オムライス、楽しみだね!Dominus!

78 :
>>73
メルキュール「モニターの前のよい子のみんな〜!メルキュールの『エリクシアンおまけ講座』のお時間ですよ〜☆」
ジュピテル「司会はメルお姉ちゃんと、このボク!『錬金人類(エリクシアン)』最かわ最つよのジュピテル!」
ヴェヌス「最美のポジションだけは譲れませんわ。ヴェヌス他でお送りしましてよ」

メルキュール「今日のおハガキは、ポイントX-55680にお住まいの>>73さん!ありがとうございます☆」
マルス「ッてこたァ何か?ここはあの世っつーことか?」
サテュルヌ「まぁ……吾ら、全員見事に死んでおりますれば、冥界と特定するが妥当な線かと」
ジュピテル「うが――――っ!!死にたくな―――――いっ!!!」
ヴェヌス「だいぶ手遅れですわね」
メルキュール「まぁまぁ、わたしたちが死んでしまうのはストーリー上仕方のないことだから。むくれちゃダメよ?」
サテュルヌ「おまけ講座でも、出番があるだけマシと思うべきでしょうな」
マルス「だな。じゃねーと、初期に出てきたオレやメル姉なンて今頃完全に忘れ去られてるだろうし」
ジュピテル「視聴者に忘れられないためには、こーして地道に顔出ししておかなきゃ!」
マルス「おまけ講座のオレらって確実に二頭身とかだと思う」
ヴェヌス「わ、わたくしが!この地上最美の『錬金人類(エリクシアン)』ヴェヌスが、に、二頭身!?」
ジュピテル「あ、固まった」
サテュルヌ「二の姉上の美意識から鑑みれば、耐え難い屈辱ということのようで……」
マルス「ジュピテルは普段とあンま変わンねーな」
ジュピテル「コロスよ?」
メルキュール「あら?でも、それだとひとつおかしい点があるわね」
マルス「あ?」
メルキュール「前回のおまけ講座、ラ・テールも出ていたでしょう?ここが天国なら、さすがに出られないはずじゃない?」
サテュルヌ「確かに」
ジュピテル「きっと、アレだよ。それが未だ謎に包まれてるラ・テールお姉ちゃんの特殊兵装なんだよ!」
マルス「あー……死んだ人間の霊魂を呼び寄せるとか、霊界とコンタクトを取るとか、そういう……」
サテュルヌ「イタコ的な能力ということですな。ソレイユ、これは強敵ぞ!」
ヴェヌス「ふたりとも、いい加減になさいな。Dominusが信じたらどうするのです?」
ジュピテル「こんなアホな会話信じるDominusなんていないと思う」
メルキュール「では、また次回〜☆」


ソレイユ(わたしは生きてるから出られないんですね!納得です!)
ラ・テール「それはどうかなぁ……ふっふっふ……」

79 :
高度に管理され、最適化された社会――
彼らはそれをユートピアと捉えているようだが、私に言わせればそれはディストピアと何処も違わない

人間の人間性を否定し
神の如き力を行使して形作られる徹底した統制と支配

外形上の平和
内面的な抑圧

それは偽りの楽園
精神の牢獄

空虚な美辞麗句ばかりが持て囃されるその場所で
我らの原初の魂は永遠に縛りつけられ、人々は等しく病み腐り果てるだろう。

つまるところ、彼らが目指すものはそういった世界なのだ

だから我々は考えるべきだ
どちらが我々が我々らしく在れる世界なのかということを
どちらが本当のデミウルゴスであるか、ということを



――これは警告だ

80 :

 ま
  偽の神々は
          人
           類
            を篭絡せんと
                    暗
                    躍
                     し
                        我
                           々
                             を
                                翻
                                    弄
                                         す
                                             る




――ポイント117-29894、河川橋梁下の落書きより

81 :
参ります。

>>79-80
いつの頃からか、河川敷の橋梁にスプレーで乱暴に書き殴られた一文。
商店街からDominusのおうちへ戻るときには、必ずと言っていいほど目にする、その落書きが――
不思議と、頭から離れません。

一般の方々は知らないことですが、この世界はビュトス機関によって管理・制御されています。
もちろん、機関が直接人類を指導しているわけではありません。それは、世界中の各国家が担っています。
けれど、その国家に技術供与し、世界のパワーバランスの調整を行っているのは、間違いなくビュトス機関。
アメリカが世界の警察を名乗ることができるのも、日本が国土にそぐわぬ力を有しているのも。
すべては、ビュトス機関の意向によるものなのです。

――でも。
それは果たして、よいことなのでしょうか?
もちろん、大勢の人々を取りまとめるには、その上に立つ指導者が必要です。
古来より、人々は自分たちを導く何者かを頭上に頂くことで団結してきた。
家長。族長。国王。皇帝。
けれど、それはあくまで『人』でなければならない。人を導くのは、人でなくては……。

寄る辺なき心に差す光明、精神の拠り所を、人は『神』と呼びます。
国家を陰で操り、世界のパワーバランスを司るなどという行為は。人類の権能を逸脱した『神』そのものの行為ではないのでしょうか?

高度に管理された社会とは、つまり常時監視された世界。自由のない世界。
そんな世界において、人々の精神性は果たして、真の発展を見ることができるのでしょうか?
偽神。偽りの神、神の成り損ない。……デミウルゴス。
いつの頃からか世界に現れた、あの『人類の天敵』に、諧謔を交えそんな名前を付けたのは、一体誰なのでしょう?

あれは、或いは。
驕った人類――特にビュトス機関と、その技術を甘受する特権階級の者々に振り下ろされた鉄槌なのかもしれませんね。
神に成ろうとする、偽りの神々を裁くために鍛造された刃。
それが――彼ら、だとしたら。

82 :
「バカンスに行こう!」

学校が夏休みに入ったある日、ラ・テール姉さまが突然そんなことを言い出しました。
……はい?

「だって、今は夏真っ盛りだよ?なのに、どこにも行かないで家に閉じこもってるなんて勿体ないでしょ?」
「南の島でバカンス!白い砂浜、ヤシの木、ハンモックでお昼寝!夜はバーベキュー!どう?キュンキュンしちゃうと思わない?」

南の島でバカンス……ですか……。
た、確かに今は夏休み中ですし、そういった旅行に行かれる方も多いと聞いていますが……。
でも、わたしにはそういったリゾート地の知識がありません。姉さまには、お心当たりがおありなのですか?

「あるある!っていうか、もう手配はしてあるから。飛行機も何もかも!あたしたちは着替えと必要なものだけ用意すればいいの!」
「ほらほらっ!ソレイユもDominusも準備して?あと一時間くらいで、機関からお迎えの車が来るから!」

いっ、一時間っ!?それはまた急ですね!
あわわわ、Dominus!大至急支度をしましょう!
ええと、Dominusから頂いたスクール水着に、浮き輪に、ビーチボールに、麦わら帽子に……白いワンピース、日焼け止めも!」

「うんうんっ!やっぱり夏と言ったら海でしょ!Dominusも楽しみにしててよね〜!」
「……ま、遊ぶ前にちょっとだけお仕事しなくちゃいけないんだけど――」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


――ということで。
支度を終えると同時にビュトス機関の送迎車に押し込められ、高速に乗って。
訪れたここは、ひょっとして……。

「在日米軍の駐留基地だよ。ソレイユは前に、ここに隣接する軍港の沖でヴェヌス姉さんと戦ったよね」

は、はい。……でも、米軍基地になんの用が?

「ここからは、飛行機で行くからね。目的の南の島まで、30時間くらいかなぁ」
「ほらっ!あれあれ!もうスタンバイしてる、あたしたちの乗る飛行機!」

えっ?……どれですか?あれ……?
…………。
…………。

あの……。姉さま、バカンスとは普通、旅客機に乗って移動するのではないのでしょうか……?
これは、どう見ても……
米軍のB-2爆撃機……なのですが……?

「カッコいいね!」

そういう問題ですかっ!?

83 :
……結局、何だかんだとB-2爆撃機に乗せられてしまいました。
空中給油を繰り返しながら、爆撃機はどんどん進んでゆきます。

「まだまだ時間はあるから、ソレイユもDominusも寝ていた方がいいよ」

前方のシートから身体を捻り、姉さまがそんなことを言ってくる。
姉さま、目的の南の島とは、そんなに遠いところなんですか?
バカンスに適した島なら、もっと近い場所がいくらでもあったはず……。
わざわざ、世界で一番高価な航空機と呼ばれるB-2を使ってまで移動する意味は、なんなのですか?

「この飛行機じゃなくちゃダメだったんだよ。世界最高のステルス性を持つ、この飛行機でないと……」
「もっとも、この飛行機でも現地までは行けないんだけどね」

……え?
姉さま、それはいったいどういう――
わたしが訊いても、姉さまは笑うだけで答えてくれません。
そんなこんなでB-2爆撃機は飛び続け、そろそろ到着予定時刻が近付いてきたころ。

突然、機内にけたたましい警報が響く。これはまさか……

〈アラート。ミサイル、来ます!〉
「そのまま進んで。あたしが止めるから」

ね、姉さまっ!?

姉さまがシートから身を乗り出す。どこからか飛んできたXMAA(中距離高機能対空ミサイル)が、空中で突然停止し、海中に墜ちる。

「ソレイユ、そこにイカロスがあるから装着して。Dominusはその、宇宙服みたいなの着て。機関製の耐衝撃、対Gスーツだから」

えっ?えっ?
姉さま、そんなものをどうして――

「飛び降りるよ。ここからはスカイダイビングの時間だから!ワオ、スリリング!」

言うが早いか、高機動ブースターユニット『イカロス』を装着した姉さまがハッチを開ける。
ねっ、ねねねねね……姉さまーっ!?

「あたしがDominusを抱えて行くから、ソレイユはミサイルとか機銃とかを突破しながら島に降りて」
「座標は南緯47度9分、西経126度43分。オーケイ?じゃ、南の島で会おうっ!」

ばんっ!

Dominusを(無理矢理)抱えた姉さまが、B-2から外へと飛び出す。
こ、ここ……これはいったい……?

84 :
と、ともあれ、わたしも行くしかありません!
わたしは慌てて『イカロス』を装着すると、水着や着替えなどの入ったスポーツバッグを持って機外へと飛びました。
高機動ブースターユニット『イカロス』の調子は好調。銀翼が南の太陽を照り返し、ノズルから白い熱が放たれる。

前方眼下に島嶼を確認。……ただし……あれは、どう見ても自然のものではありません。
人工島……?こんな、陸から遠く離れた到達不能極に近い外洋に、なぜ人造の島が?

でも、考えている暇はなさそうです。熱源反応確認、ミサイル急接近!
ソレイユ、緊急回避――あるいは撃墜します!

かつてのヴェヌス姉さまとの戦いで、空中機動におけるミサイルの往なし方は学習しています。
セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
EXW-055S 絶凍刃『サテュルヌ・タンペート・ド・ネージュ』!

ギャリギャリギャリッ!

わたしの抜き放った絶凍刃がミサイルの表面を走り、爆発の前にその弾頭を凍てつかせる。
数発のミサイルを回避し、わたしは音速に近い速度で島へと接近しました。
やはり、ここは人工島。何者かによって作られた島のようですね。地上部に、いくつかの施設が見えます。
これは……まるでコンビナートや、発電所のような……。
いったい誰がこんな大規模な施設をこんな場所に?

地上部に設けられた機銃やSAM(地対空ミサイル)を掻い潜り、わたしは人工島へ降り立ちました。
この手荒い歓迎……どう考えても、姉さまの言っていたような南国のリゾートアイランドではありません。
ひょっとして、島を間違えた?――でも、姉さまの言っていた座標はここで間違いない……。
そんなことを考えていると、Dominusを抱えた姉さまが舞い降りてくる。

「わたしひとりならどうとでもなったんだけど、Dominusを抱えてると動きづらくて。手間どっちゃった、あはは」
「でも、無事に到着できたみたいだね。いや〜、長旅だった!」

姉さま……。ここはいったいどこなのですか?
明らかに、バカンス向きの場所ではありません。まるで軍事施設です。これは――

「この島の名前は『ル=リエー』。見ての通りの人工島。どの国家にも属していない、完全に独立した場所。そして……」
「今まで幾度も機関の邪魔をしてきた『組織』の本拠地だよ」

いとも簡単に、あっさりとそう言ってのけた姉さまに対して。
わたしは、驚きに目を見開きました。

85 :
今夏の休みは刺激的過ぎないか?
爆撃機の旅程、対空ミサイルの歓迎、ラ・テールの抱擁……最後のは柔らかくてよかったが

ところで敵対組織の拠点で休暇を過ごそうなんてのは正気の沙汰じゃない気がするんだが
そこのところどうなんだ、錬金人類的には

ビュトスに敵対する組織ってのは……例の機械化人間を保有する連中か?
それとも、俺たちにデミウルゴスを差し向けている大本??
どうにもわらないが……まあ、この島の名前からして、あんまり良い謂れのもんじゃあねえって予感はするよ

まあいいさ。ビュトスの仕事ってやつを見届けよう
ラ・テールが此処に連れて来たことにも何か理由があるのかもしれないしな

86 :
対人間であれば、できれば殺しは無しでお願いしたいところだ

87 :
参ります、Dominus。

>>85
「ここは『ル=リエー』。今まで幾度も機関の邪魔をしてきた『組織』の本拠地だよ」

事態が飲み込めずにいるわたしとDominusに対して、姉さまがそう告げる。
……『組織』……?

「あー、ソレイユはよく知らないんだっけ。ゴメンゴメン、まずそこから説明する必要があったね」
「『組織』――正式名称を『トゥーレ協会』。いわゆる秘密結社だね。第二次大戦のころはナチス・ドイツで猛威を振るったこともある」
「トゥーレ協会は超国家主義を標榜し、自分たちが世界の頂点としてすべての国家を裏で牛耳ろうと画策しているの。つまり――」

ビュトス機関に成り代わろうとしている?

「正解!トゥーレ協会にとっては、今まさに世界のパワーバランスを調整してるビュトス機関は目の上のタンコブだよね」
「だから協会は、今まで何度も陰謀を巡らせては機関に対抗しようとした。例えば――メルキュール姉さんの残骸を回収しようとしたり」
「機関の造反者を招き入れたり、米軍の手に入れたフィアンケット級デミウルゴスのライフルを横取りしたり」
「米軍の軍事衛星アドミラブルをハッキングしたり……」
「三人の『機械化人類(メカニゼイター)』を差し向けて、最新鋭艦艇『ベンジェンス・オブ・デザイア』を強奪したり……ね」

ベンジェンス・オブ・デザイア……!ヴェヌス姉さまと戦ったあの『機械化人類』たちは、この『トゥーレ協会』の刺客だった、と?

「そう。まぁ、いずれの計画も機関が阻止したけど……ね。『錬金人類(エリクシアン〉』誕生以前から、機関と協会は暗闘を続けてきた」
「そして、その都度機関が協会に煮え湯を“飲ませ続けて”きた……。今までは、機関も本気では相手しなかったんだけど」
「『トロイア計画』の実行にあたって、障害となり得るものは排除しておこうって。父さんたちはそう決めたみたい」
「まぁ……最近までこの島の場所が特定できなかった、っていうのもあるみたいだけど」

つまり……今から、この『ル=リエー』を本拠地とする『トゥーレ協会』を壊滅させる、と?

「正解!そして、お掃除を終えてすっかり綺麗になった南の島で、気の済むまで思いっきりバカンスしちゃおう!ってこと!」

我が意を得た、とばかりに、ラ・テール姉さまが大きく両手を広げて笑う。
……なんてこと……。

「ホントは、あたしひとりでも協会をやっつけることはできるんだけど……」
「見てもらいたいものもあるからね。だから、敢えてソレイユとDominusにも来てもらったんだ」
「あ。それに、もちろんみんなで一緒に夏休みを楽しみたい!っていう気持ちも、もちろんあるしね!えへへ」

見てもらいたいもの?それはいったい……?

「それは後のお楽しみ、行けば分かることだから。さあ……行こ?」
「ほら……歓迎パーティーの支度もできてるみたいだし」

姉さまが軽く顎をしゃくって、島の内陸部へ続く舗装道路を指す。
ヘルメットと特殊防弾スーツに身を包み、手に手に銃器を装備した十人ほどの集団がやってくるのが見える。
わたしはDominusを護るように一歩踏み出すと、構えを取りました。

88 :
>>86
「もちろんだよ、Dominus。あたしは『悪者を懲らしめにきた』のであって、『人を殺しにきた』わけじゃないんだもの」
「あたしがオフェンス。ソレイユはディフェンスね。Dominusを護ってあげて」

了解です、姉さま。ソレイユ、全身全霊でDominusの安全をお護りします!
セキュリティ解除シーケンス発動、特殊兵装を開放!
『ヴェヌス・ベルジュロネット・ドゥ・ブリエ』!ブランシュ、Dominusの周囲に防御障壁展開!

わたしがDominusの防御にあたると同時、姉さまが無造作に――まるで散歩にでも行くような気軽さで、道路を歩いてゆく。
〈止まれ!〉と兵士のひとりが警告を発するも、姉さまはまるで取り合わない。
〈撃てッ!撃て――!!〉

ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

戦闘員の持っている銃が火を噴く。夥しい量の弾丸が、姉さまの命を刈り取ろうと迫る――
でも。
姉さまが軽く右手をかざすと、弾丸の悉くはどういう訳かピタリと指向性を失い、空中に停止したかと思うと地面に落ちました。
……これは……。
以前、ベンジェンス・オブ・ドーンのグランMACの砲弾を止め、先程もB-2爆撃機の機内でミサイルを無力化したのと同じ……。
ラ・テール姉さまの……能力!

「そんなの、あたしには通用しない。……あなたたちを傷つけたくないの、そこを通して」

姉さまが勧告する。武器を捨て、投降するように、と。
けれど、そんな説得に応じる者がこの場にいるはずもない。
さらに、火を噴く銃口。姉さまに向けて放たれる殺意。
『錬金人類(エリクシアン)』にとって、銃器など火花の出る棒。弾丸なんて、止まった銀玉にも等しいというのに……。

姉さまが、前方へかざした右手の指をぎゅっと握り込む。
と同時、その方向にいた兵士たちの持っていた銃が音を立てて歪み、兵士たちの手を離れて宙を舞い、自壊する。
まるで、魔法か手品でも見ているかのような光景――

〈バケモノめ!これでも食らえ!〉

兵士の一人が、こちらへ向けて何かを投げつけてくる。
あれは――グレネード?危ない、姉さま!

「大丈夫、大丈夫!」

軽くこちらを振り向いた姉さまが、そう言ってわたしたちに笑顔を投げかけた瞬間。

ドゴォォォォォォォォォッ!!!

投擲されたグレネードが、姉さまの至近距離で爆発する。紅蓮の炎と黒煙に、姉さまの姿があっという間に呑まれて消える。
ねっ、姉さま……!!
――けれど。

〈……ば……、バカな……〉

兵士たちが息を呑む。……いいえ、兵士たちだけじゃない……。わたしも。
爆煙の中から出てきたのは、傷ひとつ負っていない、変わらない姉さまの姿。
パチパチとその身体の周囲に何らかの力場が働いているのが見える……。あれは、鶺鴒の防御障壁とはまた別の……。
あれも、姉さまの能力だというのでしょうか?

89 :
「殺しはしない……けど、あたしの邪魔をするなら、しばらく身動きが取れないようにするね」

さらに、姉さまが手を兵士たちへとかざす。
武器を無効化された兵士たちは恐慌状態に陥って逃げ出そうとするも、すぐに苦悶の表情を浮かべて昏倒した。
姉さま、これは……?

「身体の機能を狂わせたんだよ。死にはしないけど、当分は起き上がれないと思う。さ、今のうちに行こう」

姉さまがどんどんと先へ行くのに倣って、わたしたちも島の奥へと進む。
厳重に封鎖されたゲート。幾重にも施されたセキュリティ。
その全てを、姉さまはまるで存在しないかのように突破してゆく。その姿はまさに、無人の野を往くが如し。
わらわらと蟻のように現れる兵士たちの銃弾も、グレネードも。ロケットランチャーさえ、姉さまの前では無力。
すべて、姉さまに命中する前に跳ね返り、あるいは力を失って地面に落ちる。
以前、デミウルゴスの一団をこともなげに倒してしまったときも感じましたが……。
やはり、姉さまは……桁外れに強い!
これが『救星主』。ビュトス機関がその技術の粋を結集させて作り上げた、最高最強の『錬金人類(エリクシアン)』――!

ありとあらゆる防衛装置を排除し、一時間ほど歩いた果て。
この人工島の中でも最も大きいとおぼしき建物の前まで来ると、姉さまはその威容を見上げました。

「ここが『トゥーレ協会』の本部みたいだね。インターホンはついてないみたいだから、このまま入っちゃおう」

は、はい、姉さま。
もちろん、この建物の前にも防衛を担当する兵士たちが100人ばかりもいて、わたしたちに対して決死の抵抗をしているのですが。
やはり、姉さまが軽く手を伸ばすだけで瞬く間に無力化してしまいます。
わたしは、たまにDominusの方へ飛んでくる銃弾を掴んだり弾いたりするだけで、他は何もしていません。
これがもし、わたしだけだったなら。きっとわたしは協会の防衛設備の前に大苦戦を強いられていたに違いありません。
Rことは簡単ですが、殺さずに無力化させる――ということは、とても難しいことですから。
やがて、正面入口前の戦力をあらかた排除すると、姉さまはわたしたちの方に視線を向けました。

「じゃ、入ろっか」

姉さま、ひとつ質問が……。トゥーレ協会の壊滅とは、果たして何をもって完了と言えばよいのでしょうか?

「いい質問だね。ひとつは、機関によるこの人工島の完全な掌握。でも、それはあたしたちの後で機関がやること」
「あたしたちがやるべきなのは……まず、協会の首魁である『総統』の拘束。それから――」

トゥーレ協会のはらわた、本部ビルのエントランスへと踏み入りながら、

「それと。ドクター・メネクの捕縛、かな」

と、言いました。

90 :
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん

91 :
参りましょう、Dominus。

>>90
ど、Dominusがなにやら奇怪な呪文を……っ?し、しっかりしてくださいDominus!傷(?)は浅いです!

「あはは、あるある。そういう名前の島だもんね、ここ。やー、悪趣味なネーミングだよ」
「だから……ね。キレイにお掃除したら、別の名前を付けてあげよ。『ラブラブ島』とかそういう」

……ラ……。いえ姉さま、それもいかがなものかと……。

「そう?いい名前だと思うんだけどなー。……まあ、それはともかく」
「ちゃんとDominusを護ってね、ソレイユ。ここからは、ちょっと飛ばすよ」


……はい、姉さま……!
わたしたちがビルのエントランスへ入ると同時。広大なホールに、バラバラと数十人の兵士たちが現れる。
けれど、それは今までのような戦闘服に身を包んだ『生身の』兵士とは違う。
人体に強化手術を施し、機械と融合した――『機械化人類(メカニゼイター)』!
その姿はまさに千差万別、まさに異形。
そして――

〈クククッ……。ここまで来るのに、ずいぶん梃子摺ったみてえじゃねェか……。ああ?人形ども)

わたしたちの往く手を阻む『機械化人類(メカニゼイター)』たちの頭上に設置された巨大モニターが、何者かを映し出す。
それは皮張りの椅子に脚を組んで座る、壮年の男性。
ボロボロの白衣と乱れた髪、茫々と伸びた髭――そして何より見開かれた双眸と口許の笑みが、その男性の特異性を物語っている。
……あれは……。

「――ドクター・メネク」

〈よォーこそ、よォーこそ!絶海の孤島、禁断の知識の蔵たる『ル=リエー』へ!歓迎するぜ……クッ、クハハハッ!〉
〈オレを捕まえに来たんだろ?テメエら『機関』にとって、裏切り者の大逆人であるオレをよお!〉
〈そうだよなあ……オレが野放しになってたんじゃ、『機関』も枕を高くしておちおち居眠りもできねえもんなあ!〉
〈だがよ……テメエら人形どもを差し向けてきたのが『機関』の運の尽きよ。テメエらはここで、跡形もなく破壊されるしかねえ!〉

口角泡を飛ばし、姉さまにドクター・メネクと呼ばれた男がまくし立てる。
この男が、わたしたちの今回のターゲット。この男を捕縛することが、姉さまの……そして、わたしの目的。
でも……どうして?

「ドクター、まだ間に合うよ」

姉さまがゆっくりと口を開く。

〈……あ?〉

「まだ、『機関』はあなたを許してくれるよ。今、素直に投降してくれれば……わたしは何もしない。みんな、傷つかないで済む」
「だから、お願い。みんなに戦わないように言って。わたしたちと『機関』へ戻るって。そう約束して」

〈あぁ〜?……ハッ、ハハハッ……ハハハハハハハハハハハッ!!〉
〈テメエ、イカレてやがんのか?このオレに降伏しろだ?寝ぼけたことほざいてんじゃねえぞガラクタがァッ!〉

ドクター・メネクの罵声が、どこかに設置されているスピーカーからエントランスに響き渡る。
その怒声に、姉さまは軽く眉を顰めました。

92 :
〈上から目線で物事語ってんじゃねえぞ、人形風情が!このオレが、テメエらに負けるとでも思ってんのか?あぁ?〉
〈『機関』のマヌケどもは、この島の場所を自力で突き止めたと思ってんだろうが……そんなワケねえだろうが?〉
〈オレが情報を流してやったのさ……オレと気付かれねえようにな。テメエらはそれを真に受けて、ノコノコやってきたって寸法よ!つまり――〉

わたしたちは……『おびき寄せられた』……?

〈ゲハハハハッ!そォだ!その通り!すべての準備は整った。だから、オレはテメエらをこの島に招待した!〉
〈この世に残る『錬金人類(エリクシアン)』はテメエら二匹!〉
〈テメエらを破壊すりゃ、オレの『機械化人類(メカニゼイター)』の方が優秀だってことが証明できる!〉
〈さあ――安心してくたばれよ、くそったれ『機関』の操り人形ども。テメエらの残骸は、オレが新たな機械化人類にフィードバックしてやるからよォ!〉

「……そう。わかった」

『錬金人類(エリクシアン)』への憎悪を露にするドクター・メネクに対し、姉さまはただ静かに頷く。

「じゃ。今からそっちへ行くね」

滔々と語られた強い言葉をまるで意に介さない姉さまの態度に、ドクター・メネクの表情が歪む。

〈……殺せ!!〉

ドクターの指令。それを聞いて、『機械化人類(メカニゼイター)』たちが一気にこちらへ殺到してくる。
戦艦をも一撃で粉砕する膂力を持った者が。すべてを穿つ熱線を武器に持つ者が。
超震動ブレードによって万物を両断する者が、姉さまを仕留めようと迫る――。
それはかつて、ヴェヌス姉さまが戦った者たちにも匹敵する能力を持った、機械と人類の融合したモノ。
旧人類の持つ、既存のいかなる兵器にも勝る――単体で一都市を制圧する力さえ持った存在。

でも。

「みんな、なんのために戦うの?こんなことをしたって、なんの意味もないのに!悲しみが増すだけなのに……!」

そんな『機械化人類(メカニゼイター)』の群れさえ、姉さまには遠く及ばない。
姉さまが手をかざした瞬間、『機械化人類(メカニゼイター)』の兵器と化した腕が。強化された脚が。
触れてもいないのにひしゃげ、ねじ曲がり、自壊してゆく……。
放たれた熱線も、超震動ブレードも、姉さまに当たる前に跳ね返り、或いは崩壊する。
わたしは、姉さまがみるみるうちに『機械化人類(メカニゼイター)』を駆逐してゆくのを、呆然と見ているだけ。

やがて、数十体の『機械化人類(メカニゼイター)』はその全てが破壊され、エントランスに横たわりました。
ただし、ひとりとして死んだ者はいない。姉さまは機械によって強化された部位のみを破壊し、皆を無力化したようです。

「メネクのところへ行こう」

息ひとつ乱さず勝利した姉さまが、エントランス奥のエレベーターへと歩いてゆく。

93 :
エレベーターに乗り込み、姉さまが押したのは、地下へのボタン。
まずドクター・メネクを捕縛し、しかる後にもうひとりのターゲット……総統を確保しようということですね。
こういう場合、組織の最高権力者は地上を神の如く睥睨できる高みにいるものと相場が決まっています。
でも、わたしたちがドクター捕縛に向かっている間、総統に逃走の機会を与えることにはならないでしょうか?
ここは手分けして、双方を同時に押さえるべきでは?

「総統なら逃げないよ」

え?

「権力者っていうものはね、自分を特別だと思ってるから。どんなに追い詰められても、最後にはなんとかなるって思ってるから」
「まさか、自分が誰かに負けたり、やられたりすることなんてありえないって信じてるからね」
「この巨大なビルは、総統の偉大さを。偉業を称えるモニュメント……」
「そんなものを作る人間が――自分の敗北を認めて、何もかもを打ち捨てて逃げるなんて、ありっこないもの」

……そういうものですか……。

「そうそう。だから、まずはドクター・メネクを捕まえるのが先決なの。権力者とは真逆で、研究者は地下に籠るものだから」

そんなことを言っているうちに、エレベーターがガコン、という小さな震動と共に停止する。
……?おかしいですね。表示を見るに、まだ最下層へは到達していないと思いますが……。
まさか。停められた?

「そうみたい。じゃあ、ここからは歩いていこうか。Dominus、大丈夫?疲れてない?ソレイユにおんぶしてもらおうか?」

ねっ、姉さまっ!?そんな冗談を言っている場合ですか!

「あはは、ちょっぴりリラックスしてもらおうと思っただけだよ。やだなー、ソレイユは真面目で〜」

時と場所を考えてください、姉さま……!

「ごめんごめん。……じゃ、進もう。ここからは、ちょっとだけショッキングな光景があるかもしれないけど――」
「怖かったら目を瞑っていてね、Dominus」

ショッキング……?いったい、それは――
そんなことを言っている間に、姉さまは停止したエレベーターの扉をこじ開けると、通路へ這い出て行きました。
わたしたちも、それに倣います。

ここからは非常階段で下層へ向かわなければなりません。
そして、当然のように往く手を阻んでくる『機械化人類(メカニゼイター)』たち。
群がる『機械化人類(メカニゼイター)』を排除しながら、わたしたちはさらに地下を目指しました。

94 :
ショッキングな光景……?
マッドサイエンティストの地下研究所ときたら、凄惨な人体実験がピッタリ嵌る感じだけど
まさか僕だけが見ないわけにもいかないよね
協会が悪辣極まる組織であり、故に滅ぶべき組織である証左になるんだから

……ドクターは自己顕示欲の強いタイプのようだけど、相当はどんな人物なんだろうね
僕には想像がつかないけど、それもすぐにわかるかな
君のお姉さんの仕事は早そうだ

はぁはぁ……なんだか疲れちゃったな。久しぶりに外に出たからかもしれない
悪いけど肩を貸してくれないかな、ソレイユ

(病弱ショタDominusとでおねショタもいいかと思いました)

95 :
悪の博士メネクに改造され機械化人類となりながらも、奇跡的に人間の心を失わず
メネクや組織のやることに憤りと悲しみを覚え、やがて組織を離反
正義の機械化人類として、人間と機械の間で葛藤し苦しみながらも組織と戦い続けていた…
みたいなのはいないもんかなー
いたら今のうちに出てこないとソレイユとラ・テールが代わりに組織を潰してしまうぞー

96 :
参りましょう。

>>94
ああ……!Dominus!なんてこと、わたしともあろう者が、こんな初歩的なミスを……!
それでなくともここまで長旅で、ろくに休みもせずに戦闘に突入して――。Dominusがお疲れになるのも当然です。
さ、わたしの背に。やはり、ここはわたしがおんぶして行きますから。
防御面は鶺鴒が司ってくれますし、姉さまもおりますから……わたしはDominusの安全の確保に集中することができます。

「ちょっぴり無理させちゃったかな。ごめんね、Dominus。じゃ、さっさと終わらせてバカンスに入ろう」
「もう少しだけ辛抱してね……。こっちに、ソレイユに見せたかったものがあるはずだから」

わたしに……見せたかったもの、ですか。
姉さま、それはやはり――

「うん。Dominusはさすが、いい勘してるよね。……まぁ……いわゆるお約束、ってやつなんだろうけど」

そう言って、姉さまはまるで病院のように静まり返った白い廊下の果て、両開きの扉を大きく開け放ちました。
――これは……!

扉の向こうに広がっていたのは、ただただ広大な空間。
遥か前方まで続く、パーテーションのないスペース。30メートル以上はありそうな、高い天井。
そこから、あたかも真昼のように煌々と照明の光が降り注いでいる。
今までやってきた道のりから計算すると、恐らくここは海底の岩盤を穿って作られた空間に違いありません。
こんな空間が海のさらに下にあるなんて……。

でも。

本当に驚くべきなのは、広さなんかではなくて。

「ここがトゥーレ協会のプラントみたいだね。つまり――『機械化人類(メカニゼイター)』を生み出す工場、ってわけ」

姉さまが額に右手を添え、遠くを見通しながら言う。
そう――この空間はまるで、オートメーション化された工場のよう。
ベルトコンベアがあり、機械の作業用アームがあり、何かを計測しているモニターがあり――すべてが自動的に進んでゆく。
ただ、この工場で作られているのは工業製品でも、食品でもない。
人間を材料とした、人類の機械化(メカニゼーション)工場――!
まるでハムか何かでも作るように、流れ作業で人体が無造作に切り刻まれてゆく。作られた欠損に、機械の部品が接続される。
ベルトコンベアに横たわった人体が、みるみるうちにおぞましい機械とのハイブリッドへと変貌してゆく……。

わたしはその光景に、言葉もなくただ立ち尽くす他はありませんでした。

97 :
こ……。こんな非人道的な行為が、許されていいものなのでしょうか?
それに、この人々は?まさか、トゥーレ協会によって不当にここへ連れてこられた人々では……?

「まあ、中にはそういう人もいるかもしれないけど。……でも、ほとんどは志願者だよ」

し、志願者?生身の肉体を捨て、機械との融合体となることを……自ら望む人がこんなにいるというのですか?

「いるよ。いや……正確には『その道を選ぶしかない人たち』と言うべきかな」

……それは、どういう……。

「ここで作られた『機械化人類(メカニゼイター)』は、その大半が紛争地帯や内戦のある地域へと派遣されるんだよ」
「お金を稼ぐために。家族を養うためにね。ここにいる素体は、大半が貧困層。今日の食べ物にも事欠く人たちなんだ」
「そんな人たちに、協会はこう囁くんだよ。『おまえが我々に身体を提供すれば、家族を養える分の金をやる』ってね……」
「そんなことを言われれば、誰だって飛びつくよ。そしてこの人たちは改造手術を施され、兵士として戦うんだ」

……お金の……ため……。

「そう。でも、それで貰えるお金なんて微々たるもの。そして、見ての通りの雑な改造を施された人々は、大抵行った先で死ぬ」
「生き残ることなんてできない。でも……それが分かっていても、行くしかないんだよ。協会の提案を呑むしかないの」
「だって。自分が死ぬことで、明日死ぬはずの家族の命を……明後日まで生き永らえさせることができるんだから」

そんな……。そんな、ひどい……!
人の命を!一度喪われてしまえば、二度とは取り戻せないものを――なんだと思っているのですか!!

「安い報酬と安い改造コストで、協会は手軽に『機械化人類(メカニゼイター)』という手駒を量産できる」
「そして、それを欲しがる人もたくさんいる。テロ組織に、共産国家に、正義を謳う大国さえ――需要がある限り、供給は絶えない」
「いくら一回使いきりの粗悪品と言っても、生身の兵士とは比較にならないくらい強いからね。戦車や戦闘機を買うより安いし」
「協会が存在する限り、この星の不幸の連鎖は続く。だから……」

わたしたちは。トゥーレ協会を壊滅させなければならない……!

「正解!……今までは、あなたは姉妹を相手に戦ってきた。でも、これからはそうじゃない」
「ソレイユ。あなたは、『こういうもの』と戦っていかなくちゃならない。人を不幸にする者と。……悪と!それが――」

……それが……『救星主』……!

わたしの言葉に、ラ・テール姉さまは満足げに頷きました。

98 :
>>95
だったら、一刻も早くこの機械化人類の製造プラントを破壊してしまいましょう!
改造されてしまった人は手遅れですが、まだ改造前の人ならば助けることもできるはずですから!
そう言ってわたしがこの施設を破壊しようと、アマ・デトワールの砲口を前方へ向けた、そのとき。

「お待ちください」

わたしたちの背後で、声がしました。
わたしとラ・テール姉さまが、咄嗟に振り向く。そこに立っていたのは――
殆どわたしや姉さまと変わらない年頃に見える、ひとりの少女。
けれど、その姿は一般人のそれとは大きく異なる。わたしたちの着ているアサルトスーツによく似た戦闘衣と、背の前進翼。
左腕を肘まですっぽり包み込む、大口径レーザーカノン。
肉体の半ば以上を機械に換装した、その姿は……。

「『機械化人類始祖(メカニゼイター・オリジン)』……だね」

姉さまが口を開く。
『機械化人類始祖(メカニゼイター・オリジン)』!すべての機械化人類の始まり、原初の機械化人類!
マルス姉さまとの戦いの折、半壊状態に追い込まれ戦線離脱したはずのオリジンが……なぜ?

「あなたたちお二人が、このトゥーレ協会本部……『ル=リエー』に向かったと聞いて。すぐに追いかけてきたのです」

「そんな報告は聞いてないよ?わたしは元々、ひとりで対処するようにって父さんに言われたんだもの」

「……はい。失礼ながら……通信を傍受して。無断で来てしまいました」

姉さまの言葉に、オリジンが俯く。

「あなたが任務をすっぽかして、こっちへ来るなんて。よっぽどの理由があるってこと?」

聴かせて、と姉さまがオリジンの反応を待つと、オリジンは僅かな逡巡の後で口を開きました。

「お願いします、おふた方。どうか、わたしにもこの先への同行の許可を与えて頂けませんか?」
「わたしには――どうしても、ドクター・メネクに会わなければならない理由があるのです」

……理由……?それは――

「確か、オリジンの基本設計を担当したのがドクター・メネクなんだっけ?」

「……はい」

姉さまの問いに、オリジンがそっと頷く。

「ドクターは、ウェストコット卿を中心としたプロジェクト・メカニゼイターのメインスタッフのひとりでした」
「元はメイザース卿の弟子だったのですが、ドクターの才能はバイオテクノロジーではなく、機械工学で開花した――」
「ドクターは計画の最初期からずっと『機械化人類(メカニゼイター)』の開発と研究に貢献してくれたのです」

……ビュトス機関にいたころの、ドクター・メネクの過去……ですか。

99 :
「ウェストコット卿は自身の持ち得る技術のほぼすべてをドクターへ伝授し、ドクターをプロジェクトリーダーとしました」
「ドクターは『機械化人類(メカニゼイター)』第一号として、わたしを素体に選びました。そして、オリジンが生まれた」
「でも。ドクターはそこで、ひとつの過ちを犯してしまったのです」

……過ち?過ちとは?

「ドクターは『機械化人類(メカニゼイター)』こそがトロイア計画の要となるべき新人類だと信じて疑わなかった」
「メイザース卿の『錬金人類(エリクシアン)』や、ウッドマン卿の創造したモノには絶対負けないと。そう誓った」
「例え、どんなことをしてでも、と――。そして、わたしの身体に機関が危険と見做して封印した、数々の兵器を組み込んだのです」
「わたしが一応の完成を見た後も、ドクターの向上心は留まるところを知りませんでした」
「より強く。より頑強で。より速く。より制圧力のある、究極の『機械化人類(メカニゼイター)』の開発――」
「そんな願いは、ありとあらゆるモラルや人倫、禁忌の壁を乗り越え。悍ましくも正視に堪えない領域へと進んでいった……」

そして。そんなドクター・メネクの暴走を重く見た機関が、ドクターを機関から放逐した?

「いえ。処罰される前に、ドクターは逐電したのです。それまで積み重ねてきた、膨大なデータと共に」

「そして。そうやって蓄積したデータの成れの果てが、この光景……ってわけだね」

姉さまが軽く顎をしゃくってプラントを指す。

「ドクターにとって、こんなプラントは何の価値もないものでしょう。これはただ協会の資金作りに手を貸しているに過ぎません」
「ドクターには、研究を続けられるだけの施設と後ろ盾が必要だった。だから、協会と手を組んだ――それだけでしょう」
「本当のドクターの研究成果は、きっと――この奥にこそあるはずです」

それを……あなたは見極めたい、と?

「ドクターが逐電して以降、わたしは世界各地を転戦し、その行方を追っていました」
「ドクターの作ったとおぼしき『機械化人類(メカニゼイター)』を倒すことで、その手掛かりを得ようとしたのです」
「ずっと、わたしはドクターを追いかけていた……。そしてやっと、居場所が分かったのです」
「お願いです!ラ・テールさん、ソレイユさん……!わたしに同行の許可を!ドクターに会わせてください……!」

自分を開発した存在。その存在は、神にも等しきもの。……わたしにも、オリジンの気持ちはよくわかります。
生みの親が間違った道を進んでいる――となれば、それを正すのがわたしたち、作られた者の義務。
……それなら。

「……ってことみたい。Dominus、どうする?」

ラ・テール姉さまが、Dominusの方へと話を向ける。
オリジンが、縋るような目でDominusを見つめるのが――
わたしには、とても痛々しく見えました。

100 :
お久しぶりのオリジンだ
まさかこんなところで会うなんて。いいよ、一緒に行こう
研究成果がどんなものであってもきっと覚悟はできてるだろうし、味方は多い方が心強いからね


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