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ロスト・スペラー 21


1 :2019/11/15 〜 最終レス :2020/05/07
そろそろネタが切れそう

過去スレ

https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1544173745/
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1530793274/
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1518082935/
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1505903970/
http://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1493114981/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1480151547/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1466594246/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1455282046/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1442487250/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1290782611/

2 :
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。
魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。

『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。


ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。

3 :
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。

4 :
前スレは中途半端な所で容量限界が来てしまいました。
今まで最大512KBまでだったのが、1024KBになった様です。

5 :
待ってました!

時に、暗黒魔法は独立した魔法の一派なのか、わたし気になります!

6 :
おしっこおおおおお!!

うんち!うんこおおお!

7 :
ちんちん!
ちんちん!

8 :
登場人物紹介

【面道 つかさ】
このスレの主人公。なんでもギガントバトルでケリをつけようとする熱血的な男。
ギガントは父から受け継いだ『キングメンガー』。命と引き換えにしても構わないという割には、すぐ無くしたりカツアゲにあうことも。
世界一のギガントシューターを目指すと明言しているが実力は弱く連敗ばかりで、特に不利でしかないファーストギガントを取りたがりすぐに敗北することも多い。
ギガント以外に全く興味がなく少しでも小難しい話になると寝てしまう。

9 :
おしっこぶっしゃー

10 :
金玉

11 :
>>5
暗黒魔法は神聖/その他で分かれていた旧暦の魔法の分類です。
特定の魔法の流派ではなく、宗教的・倫理的な禁忌を多分に含んだ物を一纏めにした物です。
例えば、生け贄や人柱を必要とする、血や臓物を捧げる等の物で、その多くは悪魔の力を借りる形の物でした。

12 :
貪に取り憑かれ、他の命を自らに取り込んだビュードリュオン。
戦禍竜アマントサングインを身に宿し、その力を自らの物にしたニージェルクローム。
この2人が使う魔法に直接の関係はありません。
彼等に限らず、多くの魔法使いは、同系統とされていても、本質的に無関係と言う事があります。
例えば、トロウィヤウィッチの魔法は本質が魅了ですが、舞踊魔法使いの一種とされています。
音楽魔法使いレノックと、禁断の地の精霊楽団達も、楽器を使う点では同系統ですが、根本は異なります。

13 :
もっと言ってしまえば、真面に系統立てられた魔法は共通魔法と精霊魔法しか無いのです。
神聖魔法は神の御業ですし、その他の魔法は悪魔によって地上に齎された物です。
そして悪魔は生まれた世界が違えば、全く別種の法則で、その力を行使します。
旧暦には起こす現象は同じでも、過程が全く異なる魔法が幾つもありました。
傍目には同じでも、当人達の意識では完全な別物と言う事は珍しくありません。
多くの魔法使いは自らの流派を自称します。
中には名前被りもありますし、派閥を形成しない物もあります。
長い時の中で類似の系統と統合したり、手段や解釈の違いで分裂したりもしました。
暗黒魔法使いは、その中でも特に定まった形を持たない者達です。
自らの欲望や欲求に正直な者達が、自ら正道ならざる事を自覚して、「暗黒」を自称する様になった物もあれば、
同様に「正道ならざる者達」と見做され「暗黒」と謗られた、他称的な物もあります。
この辺は魔法暦以降の「外道魔法」に似た感覚でもあります。

14 :
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。

15 :
よって結論から言えば、「魔法暦の」暗黒魔法は他の魔法から独立はしていますが、「一派」と言う表現は、
適切では無いと言う事になります。
これは他の「共通魔法以外の魔法」も同じです。
集落を形成している隠密魔法使いが、寧ろ特殊な事例です。
「共通魔法以外の魔法」でも、過去には多くの支持者や同志を持って、一大流派を形成した物もありますし、
「暗黒魔法」の中にも嘗ては、その様な流派、乃至は派閥を形成した物もあったでしょう。
しかし、魔法暦以降、共通魔法使い達の認識で「外道魔法」を頼る集団は、弾圧を受けて縮小しています。
組織的な活動を封じられ、個人レベルにまで落ちるか、或いは僻地に追い込まれるかして。
「暗黒魔法」も「外道魔法」に変わりありませんし、倫理に悖る魔法は特に厳しく取り締まられました。
ビュードリュオンは魔法暦の人間であり、旧暦の様な派閥や伝統と言う意識はありません。
権力を得るとか、同志を作ると言う意識も皆無です。
一方でニージェルクロームは同じく魔法暦の人間でありながら、そうした過去の偉大な組織に憧れていました。
尤も、彼の場合はアマントサングインと同化するに従って、異端への憧れや偉大な物への帰属精神を失いましたが……。

16 :
さて、反逆同盟の暗黒魔法使いは名前に反して、「暗黒」要素を余り持ちません。
ビュードリュオンもニージェルクロームも、独学で概念的な「闇」を利用する技術を身に付けてはいるのですが、
判り易く暗闇を操ったり、闇を支配したりする様な物ではありませんし、明かりに弱い事もありません。
そちらの魔法はルヴィエラが使いますが、彼女は自分の魔法を「闇を操る魔法」と認識していますが、
「暗黒魔法」だとは認識していません。
彼女は人間の魔法の分類に、全く興味がありません。
多くの悪魔や旧い魔法使いと同様に、自分の魔法は自分の物で、他と比較する様な物では無いと思っています。

17 :
さて、反逆同盟の暗黒魔法使いは名前に反して、「暗黒」要素を余り持ちません。
ビュードリュオンもニージェルクロームも、独学で概念的な「闇」を利用する技術を身に付けてはいるのですが、
判り易く暗闇を操ったり、闇を支配したりする様な物ではありませんし、明かりに弱い事もありません。
そちらの魔法はルヴィエラが使いますが、彼女は自分の魔法を「闇を操る魔法」と認識していますが、
「暗黒魔法」だとは認識していません。
彼女は人間の魔法の分類に、全く興味がありません。
多くの悪魔や旧い魔法使いと同様に、自分の魔法は自分の物で、他と比較する様な物では無いと思っています。

18 :
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。

19 :
登場人物紹介
【小出 ミル子】
つかさのクラスメイト。ツンデレな性格であり、彼の世話を焼くことが多い。
ギガントバトル選手権で優勝できれば留学できると父親と約束していた。
愛用のギガントは「シャリースメンメンコ」。

20 :
【桐谷.M.キリト】
イケメンで謎の多い人物。
つかさたちのバトルを影から見つめて謎の台詞を仄めかしていたが、
つかさたち全員からオフ台詞を全て聞かれていたことを暴露される。
暴露後にギガントバトルに興味があることをつかさたちに話したところあっさりと勝負に乗ってくれた。
ただし肝心の初勝負は不良からの大会告知のための介入で中断される。
瞬間移動のような能力も見せており、ギガントバトルに負けた相手に何らかの異常を与えている。
「・・・・・・来たな、面道つかさ。ふふふ・・・・・・。 始まるぞ、ついに」

21 :
おちんちんびろーん

22 :
何このスレ

23 :
おおおおお

24 :
>>22
黙れバカ

25 :
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。

26 :
↑うるせぇバカヤローコノヤロー

27 :
タマキン・スカイウォーカー

28 :
なろうとか好きそう

29 :
ここはもしかして障がい者専用スレ?

30 :
しかしながら、共通魔法の誕生から魔法暦以降、魔法は系統立てられ、より論理的に或いは理屈的になりました。
これは強大な能力を持つ悪魔の存在しないファイセアルスでは、他の魔法の在り方にも影響を及ぼしています。
全ての魔法に『呪文<スペル>』を与えた『偉大なる魔導師<グランドマージ>』は、その点に於いても、正に「偉大」なのです。
殆ど先天的な才能(「悪魔の才能」と言っても良いでしょう)と、悪魔その物の力を借りる事でしか使えなかった魔法が、
「研究」され「解明」されて、「技術」に「落とし込められた」のです。
これも旧い魔法使いには我慢ならない、堪え難い事でした。
自らの秘法・秘術が、堕落した・貶められたと言う感覚で、共通魔法に反発したのです。
旧い魔法使い達にとっては、共通魔法は本当の魔法ではありません。
しかし、魔法大戦で共通魔法使いが勝利した事で、旧い魔法使い達が認めようと認めざるとに拘らず、旧暦では異なっていた、
魔法の発動条件や発動までの過程は、共通魔法使いの領域では、より論理的で明確な物に変じて行きました。
それは神が定めた法の支配する地上で魔力を行使するに当たって、必要な事でもあったのです。

31 :
こんなにレスが付いたのは最初に書き始めて9年間で初めての事です。
これまで余り注目される事無く細々と続けていた物ですから驚いています。
何名様でしょうか、それとも、お一人様?
殆ど個人スレも同然なスレに、ようこそ入らっしゃいました。
もう飽きられたかも知れませんが、>>1の一番下のスレから読んで頂けると幸いです。
文章も読み難い事は自覚していますが、これで長年続けて来た物で御勘弁を。
……と言っても、余りに長いので、とても一から全てを読んではいられないでしょう。
自分でも一から全部読めと言われたら拒否します。

32 :
もしかしたら一覧から訪れた他スレの方でしょうか?
前スレで誤って書き込まれたか、悪戯で書き込まれたか判りませんが、似た様な流れを見掛けました。
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1544173745/5-6
こちらです。
だから何と言う訳でもありませんが……。

33 :
なろうは知っていますが、読んだ事はありません。
最初は設定スレとして始めたスレで、設定だけ延々と書き続けるのも何だからと、物語を入れてみたんですが、
なろうっぽいんでしょうか?

34 :
なろうの話はネット上で、よく見掛けはするんですが……。
このスレは自分が思い付いた設定を投げると言うか、アイディアの投棄場みたいな所もあるので、
素人の考える話は似たり寄ったりだと言う意味では、なろうっぽくなるのかも知れません。
そう言うと、なろうで真面目に書いている方にとっては失礼な話かも知れませんが……。

35 :
……はい。
流石に日曜の深夜や平日の昼間にレスを続ける程、お暇では無かったのでしょう。
健全で結構な事です。

36 :
少し寂しさを覚えつつ、前スレの続きから行きたいと思います。
前スレでは、中途半端な所で容量限界が来てしまいました。
ここで板情報を再度確認します。
新しい創作発表板の設定では、容量限界が512KBから1024KBに変わりました。
従来の2倍です。
具体的に何時から変更されたのかは不明です。
この容量はスレの右下に表示される物とは違う筈です。
スレの右下の表示は実際の要領の約1.4倍になっています。

37 :
これによりAAでもある程度の作品を投稿出来る様になった……と思います。
まあAA系は専用のカテゴリーがあるので、態々創作発表板でやる事は無いと思いますが……。
そもそもVIPや外部板の方が注目され易いので、そちらでやる人が多いでしょうし。
容量が増えて、不便になる事は無いでしょうから、問題はありませんが……。
ある程度の長文で遣り取りしても、直ぐにスレが埋まってしまう事態は防げるでしょう。

38 :
ロススぺは設定の緻密さも物語の内容も興味を惹かれるものばかりで、日々のささやかな楽しみにとしております

……物語の開始前なら邪魔にならないかなと思ってコソッとささやかにお伝えしましたっ!

39 :
>>38
ありがとうございます。
それでは改めて続けます。

40 :
スフィカは淡々と答えた。

 「私に人を襲う事を止めろと?」

 「そうだよ、人を襲わなくても済むなら、それに越した事は無いだろう?
  マトラは居なくなった。
  『仕事』をしなくても、罰せられる事は無いんだ。
  これからは人の世界で穏やかに生きて行こう」

ラントロックは問い掛けたが、彼女は肯かない。

 「……人を襲うのは魔物の宿命だ。
  テリアやフテラは、人の餌でも満足出来たのだろうが、私は違う。
  人の血肉を食らわなければ、生きて行けない」

月明かりに浮かぶスフィカの姿は、どこと無く悲し気だった。
ラントロックは真っ直ぐ彼女を見詰めて言う。

 「それは思い込みだ。
  スフィカさんは、自分は他人と違うと決め付けている」

 「半端な情けを掛けないでくれ。
  私は所詮、化け物なんだ。
  人と同じ生活は出来ない。
  狼が羊の群れで暮らせない様に」

 「人と姿が違う事を、気にしているのか?」

スフィカは明らかに人では無い。
テリアやフテラ、ネーラの様に、人に化ける事も出来ない。

41 :
その事を気にしているのかと、ラントロックは思った。
だが、スフィカが肉食だと言うのも事実である。
加工肉では無く、生肉を捏ねて食べる性質だと言う事も、あるのかも知れない。
確かに、人の世界で生きて行くには、難しい性質と容姿ではある。
それ等の問題を解決する良案は無いかと、ラントロックは暫し思案した。
そこで彼はポイキロサームズの事を思い出す。
ポイキロサームズは元人間で、魔導師会の禁呪によって、人の姿に戻った。
どうにかして、魔導師会の手を借りる事が出来れば……と彼は考える。

 「それなら、スフィカさん、人間になりに行こう」

 「えっ」

驚いた顔をする彼女に、ラントロックは続ける。

 「魔導師会は人化の魔法を知っている。
  もし魔導師会を当てに出来なくても、人間に変わった怪物の話は幾らでもある。
  旧い魔法使いの中に、人化の法を知っている人が居るかも知れない」

 「私が……人間に……?」

 「そうだよ。
  魔性を得て、人間に化けるんじゃなくて、人間その物になるんだ」

ラントロックの提案に、スフィカは迷いを見せた。
人に成れるなら成りたいとは思うのだが、本当に人に成れるのかと言う不安があるのだ。

 「本当に?」

 「なれるさ。
  俺が付いている」

ラントロックも確証は無かったが、大見得を切った。
嘘にする積もりは無い。

42 :
スフィカは今度こそ小さく肯いて、彼に言う。

 「人間になりたい……」

 「探しに行こう。
  人間になる方法を」

ラントロックはスフィカを見詰めて、そっと抱き留めた。
彼女の肌は硬質で、小刻みに震えている。
2人して月を眺めている内に、ラントロックは眠りに落ちた。
……翌朝、ラントロックはスフィカを抱えた儘、木の上で目を覚ました。

 (朝か……。
  よく落ちなかったな)

ラントロックは余り寝相の良い方では無かったが、無事に朝を迎えられて安堵する。
彼はスフィカを起こして、共に地上に下りた。

 「取り敢えず、ネーラさんの所に飛ぶよ」

ラントロックは特殊な水の入った水筒を逆さにして、地面の上に水溜まりを作る。

 「おーい、ネーラさん!
  スフィカさんを見付けたよ!」

彼の呼び掛けに応じて、ネーラが水の中から現れた。

 「はいはい。
  おお、スフィカ、久しいな。
  生きていたか!」

スフィカは無言で小さく肯く。

43 :
https://youtu.be/XlZ98ZbeTrw

44 :
ラントロックとスフィカは水を潜り、カターナ地方からブリンガー地方キーン半島のソーシェの森に、
移動した。
そこに住む「森の魔女」、使役魔法使いのウィローに、ラントロックは相談する。

 「ウィローさん、お願いがあります。
  スフィカさんを人間にしたいんですけど……」

 「へー、人間に?」

古めかしい魔女の姿のウィローは、嗄れた老婆の声でスフィカに尋ねた。

 「お前、人間になるって事が、どう言う事か解っているのかい?」

スフィカは肯く。

 「力を失う」

その答にウィローは深く頷き返し、再び問うた。

 「お前は無力な人間に満足出来るのかな?」

 「……ああ、出来る。
  人間になれば、肉に飢える事も無くなる。
  人に追われて暮らすより、人として生きたい」

それは切実な願いだった。
ウィローは何度も頷いて、同情する。

 「怪物として生き続けるのも、楽じゃないからね。
  人化の法か……。
  残念ながら、私は知らないけど、知ってる奴なら知ってるよ」

45 :
ラントロックはウィローに尋ねる。

 「それは誰ですか?」

 「レノックだよ」

 「今、どこに?」

 「ティナーに居るんじゃないのかな?
  詳しい事は分からない。
  外の世界の事は、よく知らないからね」

教える事は教えたと、ウィローは溜め息を吐いて、素っ気無い態度。
ラントロックは困って立ち尽くしていたが、ウィローの反応は冷たい。

 「もう私から言える事は何も無いよ。
  後は自分の力で何とかするんだね」

しかし、全く当てが無いのに、ティナーまで行って、どうするのかとラントロックは悩んだ。
それを見兼ねて、ウィローは一つ助言する。

 「やれやれ、仕様の無い子だ。
  旧い魔法使いに会いたいなら、先ず行動する事だよ。
  動かないと始まらないのは、何にしても同じさね。
  求むれば、やがて得る。
  旧い魔法使いに会う為の、合言葉だよ」

 「……はい」

ラントロックは腑に落ちないながらも、一応は頷いて、彼女の言う通りにしてみる事にした。

46 :
ティナー地方に向かう前に、ラントロックはネーラに尋ねる。

 「ネーラさんも、一緒に行かない?」

 「何故そんな事を聞く?」

ネーラは真面目に彼に尋ね返す。
ラントロックも真剣な顔で答えた。

 「スフィカさんと一緒に、人間になろう」

 「人間になって、どうしろと言うんだ?」

 「一緒に旅をするんだ。
  世界中を見て回ろう」

それはネーラの期待する回答では無かった。
彼女は小さく笑って首を横に振る。

 「嫌だよ」

否定の言葉は優しく、少し悲し気。
ラントロックも寂し気に言う。

 「残念だ」

背を向けた彼に対して、ネーラは声を掛けようとするも、思い止まる。
結局、ラントロックはスフィカだけを連れて、森を出て行った。
ウィローは俯いたネーラを見て、呆れた声で言う。

 「馬鹿だね。
  人間に成る成らないは置いといて、素直に付いて行けば良いのに」

47 :
第四魔法都市ティナーにて

ラントロックとスフィカはブリンガー地方から遥々徒歩と馬車で移動し、ティナー市内に着く。
移動中、ラントロックは魅了の魔法で敵意を取り去り、スフィカが注目されない様にした。
しかし、ティナーに着いた良い物の、何の手掛かりも無い状態。
ラントロックは使役魔法使いウィローの言葉を信じて、都市を彷徨う。
やがて2人は路地裏で言葉の魔法使いワーズ・ワースと出会った。
少女の姿を取るワーズ・ワースに、ラントロックは初めて会うが、その気配から徒者で無い事は、
直ぐに察せた。
警戒する彼に、ワーズ・ワースは苦笑いする。
 「そう睨まないでくれよ。
  私はワーズ・ワース・"グロッサデュナミ"。
  言葉の魔法使いだ。
  君の事は、よく知っている。
  奇跡の魔法使いワーロック・アイスロンと、魅了魔法使いバーティフューラー・
  トロウィヤウィッチ・カローディアの息子、ラントロックだね?」
 「あんたは一体……」
ラントロックは見た目年下の少女に対しても、気を緩めなかった。
彼はワーズ・ワースの強大さを感じ取っているのだ。
年齢が見た目通りでは無い事も、見抜いている。
 「今、名乗った事が全てだよ。
  君は旧い魔法使いの事を余り知らないのかな?
  私達は大抵の事は知っている。
  風が教えてくれるんだ」
 「それなら、どうして、この街に来たのかも?」

48 :
ラントロックは尋ねたが、ワーズ・ワースは再び苦笑いする。
 「大抵の事は知っていると言ったけど、全知と言う訳じゃないんだ。
  用があるなら言って貰わないと分からない。
  私は只、珍しい者が来たと思って、話を聞きに来ただけだよ」
ラントロックは暫し怪しんでいたが、それだけでは何にもならないと思い切り、自分から話した。
 「彼女を人間にしたい。
  その方法を探しに来た」
彼は隣のスフィカを指して言う。
 「蜂女の『昆虫人<エントマントロポス>』か……。
  しかし、その気配は……」
ワーズ・ワースはスフィカを見詰めて、険しい表情。
ラントロックは何かあるのかと、率直に問う。
 「どうしたんだ?」
 「いや、何でも無い。
  見知った顔じゃないから、どんな奴かと。
  どうやら、新参の様だ」
ワーズ・ワースは溜め息を吐いて、改めて問う。
 「それで、彼女を人間にしたいと?」
 「ああ」
 「本気か?」

49 :
彼女の問は、ラントロックでは無く、スフィカに向けられていた。
スフィカは小さく肯く。
それを見て、ワーズ・ワースは幻惑させる様に言う。
 「人間と言うのは、不便な物だよ。
  力弱く、その癖、数を恃みに横暴になる。
  人外から人間になった者は、必ず後悔する。
  『自分は人間じゃない』と言う意識を捨て切れないからね。
  人間に成ると言うのは、実は大変な事なんだよ。
  否、成る事自体は簡単でも、成り切る事がね……。
  大きな苦難と苦痛を伴う」
決意を揺らがす言動を、ラントロックは不快に思った。
 「人間にはなるなって事か?」
 「そうは言っていない。
  只、『大変だよ』と。
  生半可な気持ちで、やる様な事じゃない」
ワーズ・ワースの態度は揶揄いを含んでいる。
それが益々ラントロックは不愉快だった。
 「あんた、一体何なんだ?」
怒る彼を見て、ワーズ・ワースは愛おし気な目をする。
 「あはは。
  だから、そう睨まないで。
  君は若い頃の君の父親に似ているよ。
  親子だね」

50 :
意図しているのか、いないのか、彼女の言葉は的確に、ラントロックの神経を苛付かせる。

 「話を逸らすな。
  何が言いたいんだ?」

凄む彼に対して、ワーズは両肩を竦めて見せた。

 「私が言いたいのは一つだけ。
  人間に成るのは大変だと言う事。
  その覚悟はあるのかなと聞いているだけさ」

それを聞いたラントロックは、一度スフィカを顧みた。

 「スフィカさん……」

スフィカは何も答えない。
人形の様な顔で、呆っと虚空を見詰めている。
否、そう見えるだけで、実際は内心で葛藤しているのだ。
昆虫人だから表情の変化が少ないだけ。
中々彼女が答えないので、ラントロックは心配になる。
元々人間の彼には、人間に成ると言う事が解らない。
便利だとも不便だとも思わない。
しかし、人外の者は違うのだろうかと、彼は考える。
そんな1人と1体の様子を見て、ワーズは呆れた顔をする。

 「何も考えていなかったのかな?」

ラントロックとスフィカは何も答えられなかった。
ワーズは小さく溜め息を吐き、仕方無いなと言う風に話す。

 「人間に成る方法を知りたければ、レノックに聞くが良い。
  音の魔法使いレノック・ダッバーディーだ」

51 :
ラントロックは漸く本来の目的を思い出す。

 「そうだ、俺達はレノックさんを探しに来たんだ!
  今、どこに!?」

ワーズは詰まらなそうに答える。

 「あいつは『結婚旅行<ハネムーン>』中だよ。
  人間の女と付き合ってるんだ。
  全く、信じられない位、軽薄な奴」

 「それで、『どこに』!?」

ラントロックが具体的な場所を問い質すと、彼女は小さく笑って答えた。

 「カターナだよ。
  何でも人間の間では、定番なんだそうだ。
  今頃、宜しくやってるんじゃないか?」

 「カターナかぁ……」

無駄に遠回りしたなと、ラントロックは徒労感に草臥れる。
カターナ、ブリンガー、ティナーと回って、又カターナに戻らなければならないのだから。
疲れた顔をするラントロックに、ワーズは助言した。

 「旧い魔法使いに会う為の、合言葉は知っているな?」

ラントロックはウィローに伝えられた言葉を答える。

 「求めれば、得る」

 「そう、その通り。
  心の底から、真に人間に成りたいと望んでいれば、必ず会える」

ワーズの言葉にラントロックは頷いたが、スフィカは無反応だった。

52 :
第六魔法都市カターナにて


ラントロックとスフィカは馬車鉄道でカターナに向かう。
数日掛けて、特に何事も無くカターナに着き、馬車から下りた2人……否、1人と1体は、
空を見上げた。
よく晴れた暑い日。
ラントロックはスフィカを一度顧みた。
そして彼女に呼び掛ける。

 「さて、一緒に探そう」

スフィカは静かに頷いた。
しかし、探せど探せど、レノックは見付からない。
もしかしたら行き違いになったのかも知れないと、ラントロックは不安になった。
ハネムーンと言う物が、基本何日かは分からないが、そう長い期間では無い事は想像出来る。
精々1週間、長くても2週間程度だろう。
或いは、2〜3日とか、もっと短い事もあり得る。
探し疲れたラントロックは、その辺の街路樹の木陰で涼みつつ、休憩する。
そしてスフィカに話し掛けた。

 「中々見つからないね。
  どうしようか?
  スフィカさん」

人間に成るのを諦めないのであれば、どうするも何も無いのだが、ラントロックの問は不用意だった。
スフィカは彼に謝る。

 「……済まない、トロウィヤウィッチ。
  私が腑甲斐無いばかりに」

 「どうしたんだい?」

 「レノックが見付からないのは、私の決心が弱い所為だ」

それは考え過ぎだと、ラントロックは笑って気にしない。

 「人間に成るって言うのは、今までの自分を変える事なんだから、決心が付かなくて当然だよ。
  俺だって人間を辞めて、他の生き物になれって言われても、困っちゃうし。
  取り敢えずは、レノックさんに会って、話を聞いてみてからでも良いじゃないか?
  行き成り人間に成れる訳じゃないだろうしさ」

53 :
スフィカは俯いた儘で、何も答えなかった。
ラントロックは怪訝な顔になって問う。

 「……スフィカさん?」

 「本当は、人間に成るのが怖いんだ。
  本当に人間に成れるのかも。
  もし、失敗したら、どう仕様か……。
  そんな事ばかり考えてしまう」

深刻に悩む彼女に、ラントロックは言う。

 「もし成れなくても大丈夫。
  俺はスフィカさんを見捨てたりしないよ。
  どこかで潜(ひっそ)りと暮らそう。
  禁断の地みたいな、共通魔法使いの目の届かない所で、静かに暮らすんだ」

 「有り難う、トロウィヤウィッチ」

スフィカに感謝されたラントロックは、少し困った顔をした。

 「『トロウィヤウィッチ』じゃなくて……。
  スフィカさんも俺を名前で呼んでくれないか?
  俺は『ラントロック・アイスロン』だ。
  『トロウィヤウィッチ』は魔法使いの名前、バーティフューラーは一族の名前。
  俺自身はラントロック」

 「ラントロック?」

 「そう、ラントロック。
  長いならラントで構わない」

 「分かったよ、ラント」

54 :
そんな話をして、スフィカは少し前向きな気持ちになれた。
その時、若い男女の2人組がラントロックに声を掛ける。

 「や、ラントじゃないか!」

ラントロックは振り向いた。
女性の方には見覚えがある。
フィーゴ・ササンカだ。
着物姿のボルガ地方の伝統的な格好では無く、常夏の地に合わせた、露出の多い服を着ている。
暑ければ、それなりの格好をするのは当然の事だと、ラントロックは疑問に思わなかったが、
当のササンカにとっては大きな変化である。
ボルガ地方民はグラマー地方に次いで、肌を露出したがらない傾向にあり、特に伝統的な価値観を、
重視する人間は、その傾向が強い。
隠密魔法使いの集団は、その極地である。
ササンカは村を抜けた事で、外の文化に馴染んだのだ。
それは扨て置き、問題は男性の方である。
ラントロックは男性の方に見覚えが無かった。
しかし、彼の纏う魔力の流れは知っている。

 「レノック……さん?」

 「そうだよ、レノック・ダッバーディーだ。
  何時もの姿じゃなくて悪かったね」

レノックは爽やかに笑い、ラントロックに問い掛けた。

 「こんな所で何をしてるんだい?
  隣の子は……」

彼はラントロックの隣のフードを被ったスフィカの顔を覗き込もうとする。

55 :
ラントロックは慌てて彼を止めた。

 「待ってくれ、レノックさん。
  彼女は……」

レノックは小さく頷き、ラントロックに言う。

 「ああ、分かっているよ。
  彼女は人間じゃないね?
  以前に言っていた、昆虫人の子かな?」

 「あ、ああ」

全部お見通しと言う感じのレノックに、ラントロックは戸惑った。
ラントロックは禁断の地では家に篭もり勝ちだったので、レノックの事は余り知らないのだ。
小賢人と呼ばれるレノックは、旧い魔法使いの中でも、指折りの知恵者である。
暫しレノックの雰囲気に圧されていたラントロックだったが、彼は本来の目的を思い出した。

 「そうだ、レノックさん、教えて欲しい事がある。
  人間に成る方法を知らないか?」

そうラントロックに聞かれたレノックは、一瞬怪訝な顔をするも、直ぐに事情を理解する。

 「成る程、彼女を人間にしたいと言う訳か……」

その通りだと、ラントロックは何度も頷く。
レノックは一度周囲を見回して、ラントロックとスフィカに言った。

 「ここは少し目立つな。
  人目に付かない所に行こう」

一同は街から離れて、人気の少ない遊泳禁止の浜辺に移動する。

56 :
レノックは周囲に人目が無い事を確認して、スフィカに言った。

 「ここなら他人に見られる事は無い。
  顔を見せてくれ」

スフィカは躊躇っていたが、やがて緩りとローブのフードを剥ぐ。
現れたのは昆虫の顔だ。
ササンカは無言で目立った反応こそしなかったが、内心で驚いていた。
レノックはスフィカに小さな布の袋を渡す。

 「これが人に成る為の魔法の粉だ。
  この粉を水に溶かして飲めば、君は人に変われる」

スフィカは表情こそ分からないが、半信半疑だった。

 「本当か……?」

 「僕は嘘は言わないよ。
  但し、使うなら人目に付かない所で、独り、誰にも姿を見られては行けない。
  太陽や月に照らされても行けないし、鑑や水面に姿を映しても行けない。
  一晩過ごして、翌朝を迎えれば、君は人間になっている。
  君は新しい命として、生まれ変わるんだ。
  それまでの過去は捨て去る必要がある」

レノックの最後の一言に、スフィカは直感する。

 「私の記憶もか?」

レノックは無言で頷いた。
その事実を知ったラントロックは声を上げる。

 「そんな!」

57 :
レノックは至極真面目な顔で、ラントロックとスフィカに告げた。

 「記憶を保持した儘、人間になる方法もある。
  でも、それだと今までの生き方を捨てた事にはならない。
  過去に囚われている者は、人間には成れない。
  魔性を持った人間は、人間では無い。
  唯、人の姿をした化け物に過ぎない」

厳しい言葉に、ラントロックは沈黙した。
真っ当な人間になりたければ、魔性を捨て、魔物として生きた過去も捨てなければならないのだ。
人の血肉の味を覚えた儘、人間にはなれないと言う事。

 「君に、その覚悟はあるか?」

レノックに回答を迫られて、スフィカも沈黙していた。
ラントロックは彼女に「人間にならなくても良い」と言う事も出来たが、それを口にしてしまうと、
人間になりたいと言った彼女の思いまで否定する事になりそうで、躊躇われた。
やがてスフィカは答える。

 「ある。
  私は人間に成りたい」

そう言って、彼女はレノックの手から小さな袋を受け取った。
本当に大丈夫なのかとラントロックは心配したが、それを口に出したりはしなかった。
唯、彼女の覚悟を受け止めて、見守ると決めた。
しかし、スフィカはラントロックに言う。

 「ラント、これから私は人間になる。
  ……付いて来ないでくれ」

 「えっ、いや、大丈夫!?
  もう少し考えた方が良くないか!?」

ラントロックは驚いて彼女に問い掛けた。

58 :
だが、もうスフィカの心は決まっている。

 「考えた所で、結論は変わらない。
  人間になりたいなら、こうするしか無いんだ。
  ラント、貴方の事を忘れていたら、御免なさい」

そう言って、スフィカはローブを脱ぎ捨て、昆虫人の姿を露にして飛び去って行った。

 「えっ、待ってくれよ、スフィカさん!
  どこで人間になる積もりなんだ!?」

空を飛ぶスフィカに、ラントロックは追い付けない。
スフィカを追い掛ける事を諦めた彼は、レノックに食って掛かった。

 「レノックさん、どう言う事なんだ!」

 「どうも、こうも無い。
  君も彼女の事は忘れるんだ」

 「えっ!?
  何で、そんな……!」

 「君は彼女が魔物だった事を憶えている。
  魔物の彼女の事は忘れろ。
  それが彼女の為でもある」

 「忘れるなんて、そんな簡単に出来るかよ!」

 「人間に成ると言う事は、生まれ変わると言う事。
  魔物としての彼女は死に、新しい人間としての生を受ける。
  彼女は、それを選んだ」

スフィカが決めた事に、ラントロックは何も言う事が出来ない。
彼は人間に成ると言う事を甘く見ていた自分に悔いた。
それ程の決意と覚悟が要る物だとは、思っていなかったのだ。

59 :
ラントロックはレノックに問う。

 「それで……スフィカさんは、どこに行ったんだ?
  もし人間に成れても、独りだと……」

レノックは冷たく言った。

 「それは君の知った事では無い」

 「そんな訳には行くかよ!!」

焦るラントロックにレノックは真面目な顔で尋ねる。

 「君は乙女心と言う物が解っていない。
  どうして彼女が君の前から去って行ったのか、君には全く解らないと言うのか?」

そう言われてラントロックは驚き、自らを顧みる。
しかし、幾ら考えても理由は解らない。

 「……レノックさんは知っているのか?」

その問い掛けに、レノックは苦笑いした。

 「知らないなら、知らないで良い。
  その儘、彼女の事は忘れてしまうんだな」

 「どうして教えてくれない!?」

 「それは君が自分で気付くべき事だから。
  だけど、気付かないなら、気付かないで良い」

60 :
ラントロックにはレノックが意地悪をしているとしか思えなかった。
しかし、スフィカがラントロックの元を離れてしまったのは事実だ。
そこには何か理由がある。
我関せずと涼しい顔をしているレノックとは対照的に、ササンカは心配そうな顔をしていた。

 「レノック殿、どう言う事なのでしょうか?」

 「殿なんて、他人行儀な言い方は止してくれよ。
  敬語も止めだ。
  僕等は、もう夫婦なんだぜ」

 「そ、それでは……レノック、どう言う事か、教えてくれないか?」

 「何の話?」

 「あのスフィカとか言う者、レノックは彼女に就いて詳しい様だが」

 「ああ、僕は人の心が読めるからね。
  感情や思考は、態度や呼吸に現れる物だよ。
  注意深く観察していれば、心を読む位は訳無い」

得意気に語るレノック。
ササンカは一度ラントロックを見て、再びレノックに尋ねた。

 「スフィカは何を思っていたのだ?」

 「君も女の子だから気持ちは解らなくは無いと思う」

そう言って、レノックはササンカに耳打ちする。
それを聞いたササンカは、難しい顔をした。

 「そう……なのか?」

 「中々難しいよね」

レノックは肩を竦めて、小さく息を吐く。

61 :
一体何なのかと、ラントロックは眉を顰めた。
ササンカはラントロックを見詰めて問う。

 「ラントロック、貴方は彼女の事を、どう思っているのだ?」

 「仲間だ。
  大事な仲間だよ」

一瞬の迷いも無くラントロックが言い切ると、ササンカは悲しそうな顔になった。

 「……だったら、仕方無い」

それ以上、ササンカは何も言わなくなる。
代わりにレノックがラントロックに問う。

 「ラント、君は人間に成って記憶を失ったスフィカに、何が出来る?」

 「何って……」

 「彼女は普通の人間になる。
  特別な力を持たない、極々普通の人間だ。
  加えて、記憶を持たない」

 「それでも事情を理解して、一緒に居て上げられるのは、俺しか……」

 「彼女は人間に成ると言うのに、過去の事情を知っていて、何か意味があるのかな?
  嘗て、人外だった事を教えるのか?」

 「そんな積もりは……」

 「過去を捨て去って、生まれ変わろうと言う者の過去を知っている事が、生まれ変わった後に、
  何か役に立つのか?」

ラントロックはレノックが言いたい事を、何と無くではあるが、理解し始めていた。

62 :
薄々感付いていた事を、彼はレノックに問う。

 「人間に成るスフィカさんにとって、俺は必要無いって事なのか……?」

レノックは苦笑いを浮かべて答えた。

 「逆だよ。
  彼女を必要としていないのは、君の方だ。
  だから、彼女は君から離れる事を決意した」

ラントロックは俯く。

 「……それって、詰まり……」

察した様子の彼に対して、レノックは事実を告げた。

 「彼女が求めていた物は、君の愛だ。
  しかし、君は彼女を愛していない」

ラントロックには何も言えない。
彼にとってスフィカは大事な仲間だが、それと生涯の伴侶として迎えるかと言う話は別だ。
種族が違うからと言うのでは無く、ラントロックは未だ義姉を愛している。
愛する人には忠実でありたいと言う彼の思いが、同時に複数の人と付き合う事を許さない。
レノックは彼を言葉で慰める。

 「君は悪くないよ。
  そう、これは誰も悪くない。
  色恋の沙汰とは、そう言う物なんだ。
  好いた惚れたに罪は無い」

訳知り顔のレノックにラントロックは不快な顔をしたが、事実は事実として受け止める。

63 :
レノックは続ける。

 「余り深刻になるな。
  色恋に関しては、寧ろ、好きでも無い者を好きだと言う事の方が、罪が重い。
  そこから先は地獄だ。
  叶わぬ想いと知ったなら、潔く断ち切る事も、必要な事なんだよ。
  それはラント、君にも言える事だ。
  彼女は君の事を諦めた。
  それを寂しく思うのは自然な感情だが、寂しさを紛らわす為だけに、彼女を追うべきでは無い」

ラントロックはレノックの言葉を受け入れて、力無く俯いた。

 「分かった……。
  もうスフィカさんを追う事はしない。
  ……でも、人間に成ったスフィカさんが、本当に無事に人間の生活に溶け込めるか……」

レノックは静かに頷く。

 「その点に関しては、僕が面倒を見よう。
  ラント、君は何も心配しなくて良い。
  君は君自身の事を考え給え」

そう断言されて、ラントロックは口を閉ざした。
そして、悄然としてレノックに頭を下げる。

 「スフィカさんの事、お願いします」

彼は独りで、海岸沿いの道路を歩き出す。
テリアとフテラは動物に戻ってしまって行方不明。
スフィカは人間に成って、彼の元を離れて行った。
B3FのB3は去り、残ったのはFのネーラだけ。

64 :
ラントロックは道端で水筒の水を使い、水溜まりを作ると、ソーシェの森に居るネーラの元に戻った。
そしてネーラに事の次第を説明する。
ネーラは水球に浮かびながら、寂し気に言う。

 「そう……。
  スフィカは、そう決断したんだな」

 「俺には彼女を止められなかった」

 「それは仕方が無い事だよ。
  成就せぬ願いを抱き続けるより、新しい生き方を選んだのだ。
  その心は尊重しなければな」

そこでラントロックはネーラに尋ねる。

 「ネーラさんは?」

 「……私は気が長い方だから。
  それに精さえ貰えれば、構わない。
  心だの何だのと、煩い事は言わないよ」

 「本当に……?」

真剣に尋ねられて、ネーラは困った顔になった。

 「都合の好い女と思われるのも困るので、一応言っておくが、私は安い女では無い。
  そもそも子供を産むだけなら、交尾せずとも良いのだ」

 「それでも……温もりが欲しいんだね?」

ラントロックの問い掛けに、ネーラは小さく頷く。

65 :
それを見たラントロックは、水球の中のネーラに向けて、両手を差し出した。
何の積もりかと訝る彼女に対して、ラントロックは言う。
 「俺も温もりが欲しい」
ネーラは困惑して答える。
 「私は変温動物だよ」
 「そう言う事じゃないんだ」
真っ直ぐ見詰めて来るラントロックの瞳に耐えられず、ネーラは視線を逸らして彼の手を取った。
ラントロックはネーラの腕を手繰り寄せて、彼女の体を水球から引き抜き、優しく抱き締める。
冷たく湿ったネーラの体に、ラントロックの体温が伝わる。
 「……暖かい。
  熱い位だ。
  やはり私達は違う生き物なのだと思うよ」
寂し気に言うネーラに、ラントロックは驚いた。
 「どうして、そんな事を言うんだ?」
 「……私は都合の好い女では無い。
  寂しい時に、体だけ求められて、応える様な女では……」
ラントロックは強くネーラを抱き締めて、両目を閉じる。
 「御免よ、ネーラさん。
  『甘え』だと言う事は解っているんだ。
  でも、寂しいんだよ。
  皆、去って行ってしまった」

66 :
ネーラは体ではラントロックに逆らわず、口先だけで抵抗した。
 「それでも私を愛してくれないんだな……」
ラントロックは何も言えなかった。
ネーラは更に続ける。
 「どうして魅了の魔法を使わない?
  魅了の魔法を使って、問答無用で黙らせれば良いだろう」
 「そんなの、虚しくなるだけじゃないか……」
スフィカが去った後、ラントロックは魅了の魔法を使えなくなった。
技術的には可能なのだが、心が動かないのだ。
どうしても使う気になれない。
ネーラは小さく息を吐いて、ラントロックを抱き締め返す。
 「今日だけだぞ」
 「……恋人よりも、仲間が、友達が欲しい」
 「困った子だ」
ラントロックは母親に甘える様に、ネーラに抱かれた。
彼は心を許せる存在が欲しいのだ。
自分を優しく包んでくれる、母親の様な存在を求めている。
それは幼くして母を失った事も関係している。
ネーラは母性で彼の求めに応え、唯静かに寄り添う。
依存気味ではあるが、彼女は彼と心が深く結び付くのを感じていた。

67 :
その後、第六魔法都市カターナで記憶喪失の女性が発見され、病院に連れて行かれる。
彼女は自分の名前も過去も何も憶えておらず、日常生活も儘ならない状態だった。
数月の入院生活で、女性は医師の男性と恋に落ち、結婚した。
女性の過去は全く不明で、記憶が戻る事も無かったが、今が幸せなら良いと、誰も問題にしなかった。

68 :
next scene is...

69 :
ノストラサッジオ死す


第四魔法都市ティナーにて


反逆同盟との戦いが終わった後、ワーロック・アイスロンは予知魔法使いのノストラサッジオに、
感謝の念を伝えに向かった。
反逆同盟との戦いの被害は軽微だったとは言えないが、決定的な破局は迎えずに済んだ。
正確には一度破局してしまったのだが、全部夢で無かった事になったので、結果良しだ。
もしかしたら、それもノストラサッジオの予知の力があっての事なのかも知れない。
ワーロックが貧民街に入り、地下組織マグマの『拠点<アジト>』に向かっていると、
道中でマグマの構成員が慌てた様子で駆け寄って来た。

 「あっ、ラビさん、ラビさん、大変なんですよ!
  今朝から先生が居らんのですわ!」

中央訛りで早口で捲くし立てる彼に、ワーロックは驚いて尋ねる。

 「居ない?」

 「ええ、そうです。
  ラビさん、何か心当たりは無いですか!?」

 「いえ……、残念ながら。
  書き置きとか無かった……んですよね?」

 「いや、書き置きはありました」

構成員の返答に、ワーロックは脱力した。

 「あるなら……。
  いや、内容次第ですね。
  何て書いてあったんです?」

70 :
ワーロックの質問に、構成員は難しい顔をして答える。

 「予知は失敗したとか何とか……」

それを聞いて、ワーロックは更に驚を喫した。
予知は予知魔法使いの命だ。
予知が外れる事は、魔法使いとしての死を意味する。
ワーロックは『予言者<プレディクター>』としてのノストラサッジオに予知を依頼した。
その内容は、全員が無事に反逆同盟との戦いを乗り切れる事。
しかし、全員が全員、無事にとは行かなかった。
共通魔法社会を破壊すると言う、反逆同盟の試みは失敗した物の、大きな爪痕が残ってしまった。
ワーロックは責任を感じて、マグマの構成員に告げる。

 「私も探してみます」

そうして、貧民街の中でノストラサッジオを探して回った。
彼は乞食達を頼り、1人当たり500MG硬貨1枚で買収して、ノストラサッジオの捜索を依頼した。
1角後に乞食達の情報網は、ノストラサッジオの足跡を捉える。
話に拠ると、ノストラサッジオらしき老人が、貧民街を通る大きな川、ロジ川の畔に佇んでいた様だ。
それを信じて、ワーロックはロジ川の上流から下流まで、歩いて行ける範囲を全て見て回った。
だが、時々釣り人や乞食達が屯している以外は、特に何も無い。
ノストラサッジオを見たと言う人も居なかった。
川沿いには無断で作物を栽培している畑もある。
その畑の中で、呆然と川面を見詰めている老人が居た。
同じ老人ではあるが、ノストラサッジオとは似ていない。
顔付きはノストラサッジオより老けており、髪は真っ白で、短い無精髭を生やしている。
着物は襤褸だ。
ワーロックは彼に尋ねてみた。

 「済みません、人探しをしているんですけど……。
  この人に見覚えは有りませんか?」

ワーロックはマグマの構成員に用意して貰った、ノストラサッジオの似姿を老人に見せる。

71 :
老人はワーロックを一瞥すると、再び呆然と川面を見詰め出す。
答えて貰えないのかとワーロックが眉を顰めると、老人は小声で零した。

 「その人は見付からんよ」

 「何か知っているんですか?」

ワーロックが目を剥いて尋ねると、老人は川面を見詰めた儘で答える。

 「……私は何も知らん。
  何も知らんが、分かる……」

老人の言葉の意味を量り兼ねて、ワーロックは沈黙した。
その後ワーロックはロジ川を2往復したが、結局ノストラサッジオは見付からなかった。
予知は予知魔法使いの命、予知を外した予知魔法使いに価値は無く、もしかしたら入水自殺か……と、
ワーロックは悠大なロジ川の流れを見詰めて思う。
否、そう決め付けるのは早いと、彼は首を横に振って、嫌な考えを振り払った。
そして、ノストラサッジオを知る者達に、話を聞いて回ろうと決める。
カターナ地方に結婚旅行中のレノックは措いて、他に近場で頼れそうな魔法使いは1人だけ、
言葉の魔法使いワーズ・ワースしか居ない。
ワーロックはティナー市内の繁華街に向かい、ワーズ・ワースを探した。
ワーズ・ワースは意外に早く見付かった。
ワーロックは単刀直入に尋ねる。

 「ワーズさん!
  ノストラサッジオさんを知りませんか?」

 「ノストラサッジオ?
  彼奴(あやつ)が、どうした?」

彼はワーズに斯々然々と事情を説明した。
話を聞き終えて、ワーズは眉を顰め、皮肉な笑みを浮かべる。

 「それが本当なら、ノストラサッジオは生きてはいまいよ」

72 :
ワーロックは眉を顰めて、ワーズ・ワースに言う。

 「未だ、そうと決め付けるのは早いでしょう」

 「どうかな?
  君は魔法使いをRのが得意みたいだからね」

厳しい言葉にワーロックは沈黙した。
魔法使いは魔法が使えるから魔法使い。
魔法が使えなくなったら、魔法使いでは無くなってしまう。
それだけの単純な事が、真性の魔法使いにとっては死に直結する。
ワーズ・ワースは俯いたワーロックを見て、申し訳無さそうな顔をした。

 「悪かったよ。
  しかし、残酷だが、私はノストラサッジオが生きているとは思わない。
  魔法使いが住家を離れて、行方を晦ますと言う事は、相当な事なんだ」

生存は絶望的だと理解しても、ワーロックは僅かな希望を求めた。

 「もし、ノストラサッジオさんが出掛けるとしたら、どこだと思いますか?」

 「あの世だろう。
  冗談でも何でも無いぞ」

 「そうでは無くて……」

 「ああ、死に場所か?
  流石に、そこまでは分からない。
  しかし、奴に思い出の地等と言う物は無かろう。
  丸で消え去る様に、誰にも知られぬ場所で、孤独に死す事が出来れば、それで良いのかもな」

それは寂し過ぎるとワーロックは思った。
だが、魔法使いにとって、魔法を失敗する事は恥その物。
誰にも姿を見られず、消えたいと言う願いは、そう不可解な物では無いのだ。

73 :
ワーロックはワーズ・ワースに依願する。

 「ノストラサッジオさんは見付かると、言ってくれませんか?」

彼女は難色を顔に表した。

 「嫌だよ。
  私は不利な賭け事はしない主義なんだ。
  君は私までR気なのか?」

ワーズ・ワースの言葉は真実になる。
彼女が語る事は、現実に影響を与え、変化させる。
それに失敗すれば、やはり死が待っている。
人間なら死なないが、彼女は完全な魔法使いだ。
物理的な命を持たず、極めて概念的、魔法的な命となっている。
その彼女が魔法の使用を、ここまで忌避すると言う事は、それだけノストラサッジオの死が、
確定的である事を意味している。

 「分かりました。
  他の人にも聞いてみます」

そう言って立ち去ろうとするワーロックを、ワーズは呼び止める。

 「待て待て、当てはあるのか?」

 「いいえ。
  それでも探すだけ探してみます」

ワーズは愚直な彼を見兼ねて助言した。

 「この近くに、魔法使いが来ている。
  路地裏を歩け。
  そこで会った者に、『言葉に導かれた』と告げろ」

 「有り難う御座います」

ワーロックは彼女の助言に従い、路地裏を歩き回る。

74 :
繁華街は路地裏でも日中であれば人通りは多いのだが、この日は全く人と会わなかった。
未だ人々は反逆同盟の事を警戒しているのか、それともワーズの魔法的な導きなのかは判らない。
だが、如何にも魔法使いに会えそうな雰囲気だった。
そこでワーロックは黒衣の人物を見た。
屹度ワーズが言っていた者に違い無いと、彼は自ら話し掛ける。

 「言葉に導かれて来ました」

黒衣の人物は低い男の声で答える。

 「望みを言え」

行き成りの事にワーロックは驚いたが、話が早いのは好都合なので、素直に願いを口にした。

 「……ある人を探しています」

 「誰だ?」

 「予知魔法使い、ノストラサッジオ」

ワーロックが答えると、黒衣の人物は沈黙する。
数十極後に、黒衣の人物は改めて問い掛けた。

 「……どんな関係だ?」

 「彼は私の恩人です」

 「……探して、どうする?」

 「安否を知りたい。
  唯それだけです」

最初の方は間髪入れずに問い掛けて来た黒衣の人物だったが、ワーロックがノストラサッジオの、
名前を出してからは、明らかに反応が鈍い。

75 :
ワーロックは彼の反応を怪しんだ。
 「どうしたんですか?」
 「言葉の魔法使い奴(め)、厄介事を押し付けたな……」
黒衣の人物は小声で暈やく。
それを聞いて、ワーロックは眉を顰める。
 「……結局、見付けて貰えるんですか?」
不安そうな声で尋ねる彼に、黒衣の人物は初めて自分から物を言った。
 「私は人の願いを叶えられる。
  だが、人探しは得意では無い」
 「人を探して貰うのは無理なんですか?」
願いを叶える魔法使いにとっては、そう難しい話でも無いだろうと、ワーロックは思っていたが、
そうでは無い様子。
 「普通の人間なら何と言う事は無いが、魔法使いを探す事は出来ない。
  弱小なら未だしも、予知魔法使いは特に厄介だ。
  当人が見付かりたくないと思っていれば、先ず見付からない」
 「そうですか……。
  安否だけでも判ると良いんですけど……」
ワーロックは肩を落として溜め息を吐く。
明らかに落胆した彼に、願いを叶える魔法使いは少し思案した。
 「……人探しなら打って付けが居る。
  それを紹介してやろう」

76 :
彼の言葉にワーロックは目を見張る。
 「本当ですか!?
  それは、誰ですか?」
 「風の魔法使いだ。
  人の噂は風に乗り世界中を巡る。
  その全てを風の魔法使いは知っている」
 「どこに居るんですか?」
 「どこにでも居る。
  今も私達の話を聞いている」
黒衣の人物に言われて、ワーロックは空を見上げた。
所々に白い雲の浮かぶ、晴れた空。
弱い風が吹いている。
だが、誰か居ると言う感じはしない。
 「どうすれば会えるんですか?」
 「何時でも、どこでも会える。
  『風』が、その気になりさえすれば」
 「……それで、どうすれば会えるんでしょう?」
 「待て、呼び掛けてみる」
黒衣の人物は暫く沈黙していた。
テレパシーを使っているのかなとワーロックは思う。

77 :
暫くして、黒衣の人物はワーロックに告げた。
 「ティナー市内では会えないそうだ。
  この近辺で人気の無い、小高い場所に来て欲しいと言っている」
ワーロックは困った顔で尋ねる。
 「条件に当て嵌まるなら、どこでも良いんですか?」
 「そうだ」
黒衣の人物は、それだけしか答えない。
これ以上話をする積もりは無い様子。
 「分かりました、行ってみます。
  有り難う御座いました」
ワーロックは願いを叶える魔法使いに一礼して、付近で人気の無い小高い場所を探す。
さて、彼が目を付けたのは、ティナー市の街外れにある、どことも知れない低い山だった。
標高30身程の、木々に覆われた、極普通の山だ。
1角程で山頂に着いたワーロックは、見晴らしの良い場所を探す。
丁度、半径3身程の円形に開けた場所を発見して、その中央にワーロックは立つ。
彼は空を見上げて、風を感じた。
数極と経たない内に、さわさわと緩やかな風が吹き始める。
何と無く、ワーロックは風の魔法使いに会える様な気がした。
それから約1点後、ワーロックはテレパシーを受ける。
 (よく来た。
  私は風の使い)
ワーロックは周囲を見回して、背後に一人の少年を発見する。

78 :
煤んだ空色のローブを着込んだ、不思議な雰囲気の少年に、ワーロックは話し掛けた。

 「貴方が風の魔法使い?」

 「そう呼ばれる事もある。
  嵐を呼ぶ者、風に乗る者、雲を誘う者、天より降臨する者、呼び名は様々だが、今の時世は、
  風の魔法使いと言う方が、解り易いだろう」

 「それでは、聞きたい事があるのですが……」

ワーロックが尋ねようとすると、少年は小さく頷き、彼の先を制して答える。

 「判っている。
  君は探し人に既に会っている。
  貧民街に戻り給え。
  予知魔法使いは元の場所に戻った」

 「あっ、本当ですか?」

無言で頷く少年を見て、ワーロックは安堵し、脱力した。
散々探して回ったのに、元の場所に戻っているとは。
骨折り損だとは思った物の、しかし、ノストラサッジオが戻って来ているなら、問題は無い。
とにかく無事が何よりだと、ワーロックは誰かを恨む事はしなかった。

 「それなら良かった。
  有り難う御座いました」

彼が礼を言うと、少年は瞬きの間に、姿を消している。
旧い魔法使いの中には、人間嫌いの者が多く、全体として余り長々と会話をしない傾向にある。
淡泊な態度は寂しかったが、そんな物だとワーロックは割り切って、貧民街に向かった。

79 :
ワーロックはノストラサッジオを探しに方々走り回っていたので、貧民街に戻るのは数日振り。
そこでマグマの構成員にノストラサッジオの事を尋ねた。
マグマの構成員はワーロックの問に対して、歯切れの悪い回答をする。

 「戻って来た……と言って良いのか……」

 「どうしたんです?」

 「とにかく、会って貰えれば解ります」

そう言って、マグマの構成員は彼をノストラサッジオの部屋に通した。
そこでワーロックは川の畔に居た老人と再会する。

 「えっ、誰……」

ノストラサッジオと再会出来る物とばかり思っていたワーロックは、目を剥いて驚く。
同時に、どうして構成員の歯切れが悪かったのかも理解した。

 「貴方は……?」

ワーロックの言葉に、老人も戸惑った様な態度で答える。

 「私は……予知魔法使い……らしい」

 「らしいって……」

 「何故かは知らないが、ここに来れば良いと判っていた」

 「貴方がノストラサッジオさんの代わりの予知魔法使い……?」

 「ノストラサッジオ……。
  そう、彼は私に、そう言っていた。
  これからは私がノストラサッジオなのだと」

80 :
老人の言葉に、ワーロックは再び目を剥いて驚く。

 「ノストラサッジオさんに会ったんですか!?」

 「ノストラサッジオ……?」

ワーロックは老人に詰め寄ったが、老人は『ノストラサッジオ』が何か解っていない様子だった。
ワーロックは改めて老人に、ノストラサッジオの似姿を見せる。

 「彼です!」

 「ああ、この人だ。
  この人が私に……。
  いや、この人だったかな?
  記憶が曖昧だな?」

瞭(はっき)りしない老人に、ワーロックは不安になった。
彼は唯の痴呆老人なのでは無いかと。
怪訝な顔をするワーロックに老人は言う。

 「私はノストラサッジオ……なのか?」

 「違……いや、違わないのか?
  ノストラサッジオは個人名では無い?」

そう言えばと、ワーロックはノストラサッジオに会ったばかりの頃を思い出す。
もう随分と昔の事だが、ノストラサッジオは本名では無いと言っていた様な気がする。
老人は難しい顔をするワーロックに、困惑した顔で告げた。

 「とにかく私がノストラサッジオなのだ。
  そして予知をするのだ。
  私はノストラサッジオ、予知……魔法使い。
  君はラヴィゾール。
  ここはマグマの拠点、そして私の部屋」

老人は正気か妄言かも判らない言葉を吐く。

81 :
ワーロックは彼がノストラサッジオだとは認め難かった。
そこで一つ質問をする。

 「貴方の名前を教えて下さい」

 「私は……、私は……?
  思い出せない。
  私はノストラサッジオ。
  違う、ノストラサッジオは私の名前では無い……。
  それは予知魔法使いの名前だ」

老人は混乱して、何度も首を傾げていた。
彼はワーロックを見詰めて言う。

 「君の知っているノストラサッジオは死んだ。
  そして私が後を引き継いだ」

彼の口調はノストラサッジオの物に似ている。
それがワーロックには不気味だった。
ワーロックは師の言葉を思い出す。

――魔法使いは究極的には魔法その物になる。
――「魔法の使い」としての魔法使いになるのだ。
――魔法を使う者から、魔法その物、そして魔法に使われる者へ……。

ノストラサッジオも同じだったのかも知れないと、彼は思った。
長年予知魔法使いとして生きていたノストラサッジオも、昔は普通の人間で、ある時から目覚め、
この老人の様に人間から魔法使いに変わってしまったのだろうかと。
そして、漸く目の前の「新しいノストラサッジオ」を認める気持ちになって来た。

 「貴方が新しいノストラサッジオさん……と言う事ですか?」

ワーロックの問に、老人は大きく頷く。

 「どうやら、そう言う事らしい」

82 :
ノストラサッジオが何を思って、この老人に予知魔法を託したのかは分からない。
何も老人でなくてもとワーロックは思ったが、その方が都合が好かったか、或いは何等かの条件に、
当て嵌まるのが、この老人しか居なかったのか?
とにかくノストラサッジオは代替わりした。
今まで彼が頼りにしていたノストラサッジオは、もう居ない。
それをワーロックは悲しんだ。
彼に対して、老人は訳知り顔で言う。

 「嘆く事は無い、ラヴィゾール。
  私はノストラサッジオ。
  前代と変わらず、何時でも君達の力になる」

その言葉はワーロックを一層悲しませた。
この老人は人間だった頃の意識を失っている。
それまでの生を捨て、新たな予知魔法使いに生まれ変わったのだ。

 (そう言う人間を選んだのか……)

生に未練の無い者だからこそ、ノストラサッジオの後継者になれた。
そうして「魔法」は存えるのだ。

 「私が貴方を新しいノストラサッジオさんと認めるのには、未だ少し時間が掛かりそうです」

ワーロックは正直に自分の思いをノストラサッジオに告げる。
彼が何と言った所で、この老人が新しいノストラサッジオと言う事実は変わらない。
マグマも老人をノストラサッジオと認め、以前と変わらず、利用しようとするだろう。
老人は淡々と答えた。

 「私達は又会う事になる。
  何時でも待っているよ」

それは予知だ。
ワーロックも新しいノストラサッジオを認めて、今までと同じ様に付き合う様になる。
今では無く、「将来」の話。

83 :
魔法とは正に「魔の法」だ。
社会に安定を齎す筈の法に拠って生きる人が、法を尊ぶ剰りに、法に縛られ、法に狂わされ、
法の内で滅びるのと同じく、魔法も人を狂わせる。
魔法を使う者は、何時しか魔法が「法」である事を忘れて、魔法に傾倒し、魔法に全てを捧げる。
そうして自らの生き方と魔法を同一の物とし、自分自身の生き方を忘れてしまう。
魔法を便利な道具としか思っていない内は、魔法を極める事は出来ない。
しかし、魔法を極めようとすれば、何時しか魔法に狂わされる。
魔法を使う者、魔法を極めんとする者は、覚悟しなくてはならない。
その全てを魔法に捧げる積もりがあるのか否かを。
人の身を惜しんで魔法の神髄は得られず、幾つもの魔法を極めんとする者も又、その神髄には、
永遠に届かない事を覚悟しなければならない。
真の魔法を志す道は、正に魔道なのだ。
ワーロックも魔法使いである。
彼は――彼の魔法は、彼の生き方その物だ。
魔法使いの魔法とは、その様な物であるべきだと、彼は思っている。

84 :
next scene is...

85 :
グランスールとゲヴェールト


第六魔法都市カターナにて


精霊魔法使いの女、通称「グランスール」は、カターナ地方で3匹の犬を拾った。
この3匹は、どうやら主に捨てられたか、主と逸れるかしてしまった物らしく、
野良犬と言うには上品だった。
この場合の上品とは、見た目の事もあるが、振る舞いも含める。
よく躾けられているのだ。
無駄に人に吠え掛かる事はせず、無闇に人に噛み付く事もせず、堂々と落ち着いている。
多少は動物とも意思の疎通が可能なグランスールは、3匹の犬から事情を聞いた。
犬達の語る所によると、3匹の飼い主は所謂「外道魔法使い」であり、その中でも特殊な物で、
複数の人格を持つらしい。
飼い主の別人格は冷酷で、犬達を道具としか思っておらず、粗雑な扱いをすると言う。
魔導師との戦いで、飼い主は行方を晦ましてしまい、どこに行ったのか分からなくなった。
しかし、3匹は捨てられたとは全く思っていない。
何時か、優しい主人が帰って来ると信じている。
その健気さに心を打たれ、グランスールは3匹の飼い主が見付かるまで、仮の飼い主となる事にした。
旅の身である彼女は、行方知れずの飼い主を探すのには、都合が好かった。
犬達も彼女を信用して、共に付いて行った。
犬達はグランスールを本当の飼い主の様に慕っていた。
普段は彼女の背後を守り、怪しい者が彼女に近付けば、守る様に間に入る。
グランスールは犬達に守られる度に、不要な事だと思いながらも、その忠実さには感心していた。
そして、事々に3匹の犬に言うのである。

 「こんな賢い子達を捨てる主人は居ないよ。
  生きていれば、絶対に探そうとする。
  そう遠くない内に会えるさ」

86 :
グランスールが3匹の犬を拾ったのは、未だ反逆同盟が倒れる前の事だった。
だが、彼女と犬達の付き合いは数月で終わった。
魔導師会の執行者が、彼女の連れている犬に目を付けたのである。

 「そこの人!
  その犬達は、貴女の飼い犬ですか?」

元々魔導師会と関わり合いになりたくないグランスールは、内心で非常に面倒臭く不快に思った物の、
それは心の中だけに収めて、表面上は穏やかに対応する。
彼女の敵意を察して、犬達が前に出ようとしたが、それをグランスールは手振りで抑えた。

 「はい、そうです」

一時的とは言え、飼い主なのだから嘘では無い。
しかし、執行者は簡単には彼女を解放しない。

 「どこかで拾った犬ですか?」

 「どうして、そんな事を?」

飼育届が必要ならば面倒だなとグランスールは考えた。
彼女は旅の身を言い訳にすれば、見逃して貰えるかと言う計算を始める。

 「いえ、よく似た犬の捜索願が出ている物ですから。
  丁度、貴女が連れている様に3匹の」

 「誰から?」

 「そりゃ飼い主ですよ」

遂に、この時が来たかとグランスールは溜め息を吐いた。

87 :
彼女は事実を認める。

 「確かに、この犬達は私が拾った物だ。
  飼い主が居なくて困っていた様だから、私が一時的に預かった」

それを聞いて、執行者は安堵した。

 「そうでしたか……。
  飼い主に確認を求めるので、直ぐ近くの支部まで来て貰えませんか?
  先ず間違い無いと思うんですが、人違いならぬ犬違いと言う事もありますので」

グランスールは共通魔法使いでは無いので、執行者の依願に裏が無いか警戒していたが、
執行者は困った顔で告げる。

 「そう時間は取りません。
  本当に唯確認するだけですので」

執行者の言葉に嘘は無いと認めた彼女は、大人しく彼に従った。
数点掛けて支部に着いたグランスールは、そこで青年ゲヴェールト・ブルーティクライトと会う。

 「フリンク、アインファッハ、クルーク!」

ゲヴェールトは3匹の犬を見るなり、それぞれに呼び掛けた。
犬達はグランスールの下を離れて、真っ直ぐ彼に駆け寄り、戯れ付く。

 「おぉ、良し良し!!
  御免よ、お前達。
  でも、もう大丈夫だ。
  お前達を酷い目に遭わせたりはしないよ。
  これからは、ずっと一緒だ」

ゲヴェールトは3匹を撫で回して抱き締める。

88 :
グランスールはゲヴェールトと飼い犬の姿を見て、寂しそうな顔をした。
無意識に、そんな顔をしてしまっていた。
やはり仮の飼い主より、本来の飼い主なのだ。
彼女の視線に気付いたゲヴェールトは、小さく一礼をする。
 「有り難う御座いました。
  貴女が私の犬を保護して下さったんですね」
 「ああ、良いよ、礼には及ばない」
グランスールは感情を覚られない様に、視線を逸らした。
そんな彼女をゲヴェールトは熟(じっ)と見詰める。
何を見ているのかと、グランスールは不機嫌を顔に表した。
 「何か?」
 「あっ、いえ、どこの方かなと思いまして」
グランスールはカターナ地方民にしては背が高く、顔付きも細面だ。
加えて、浅黒い肌に白い伝統文様の入れ墨をしているので、とても目立つ。
グランスールが眉間の皺を一層深くしたので、ゲヴェールトは慌てて謝罪した。
 「済みません、立ち入った事を……」
後ろ暗い事があると思われるのも嫌なので、グランスールは答える。
 「私は旅の身だ」
 「あ、そうでしたか……」
何と無く気不味い空気になり、2人は沈黙する。

89 :
執行者は何時の間にか立ち去っている。
これ以上は魔導師会が関与する事では無いと言う事なのだろう。
ここで別れても良いのだが、グランスールは一つ気になる事があった。
 「貴方、共通魔法使いじゃないの?」
 「あ、はい。
  血の魔法使いです」
 「どんな魔法?」
グランスールは完全に興味本位で尋ねる。
特に深い意味は無い。
ゲヴェールトは困った顔で答える。
 「血を飲んだ者を操ると言う……」
 「操る?」
 「えー、説明は難しいんですが、意識を乗っ取ると言うか、思い通りに動かすと言うか、
  そんな感じの……。
  血液自体を操る事も出来ます。
  自分の血しか操れませんけど」
 「ああ、そう言う魔法……。
  変わった魔法ね」
 「はい、中々使い所の無い魔法で……。
  あの、貴女も共通魔法使いではない……ですよね?」
ゲヴェールトの問い掛けに、グランスールは大きく頷いた。
 「私は精霊魔法使いだ」

90 :
精霊魔法使いと聞いて、ゲヴェールトは1人の男を思い浮かべる。
 「――と言う事は、コバルトゥスと言う方を知っていますか?」
 「ああ、私の弟だよ」
 「姉弟……?」
ゲヴェールトはグランスールの容姿を上から下まで見詰めた。
グランスールは又も眉を顰める。
 「どうした?」
 「あ、いえ、余り似てらっしゃらないなと」
 「血の繋がりは無いからね」
 「あっ、そうでしたか……」
気不味くなって俯くゲヴェールトを見て、グランスールは小さく笑った。
 「こらこら、変な誤解をするんじゃない。
  別に複雑な関係じゃない。
  少しの間、一緒に暮らしていただけの、姉弟みたいな関係ってだけさ」
 「あっ、そうでしたか……」
そこから再び重苦しい沈黙。
ゲヴェールトは咳払いを一つして、改めて礼を言う。
 「えー、この度は誠に有り難う御座いました。
  ……お名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

91 :
社交辞令に疎いグランスールは小さく笑って拒否した。
 「私の名前を知って、どうしようって言うんだい?
  私は別に感謝も礼も求めないよ」
 「ああ、いえ、そう言う事では無く……。
  又どこかで、お会いするかも知れませんから……」
グランスールは惚けて答える。
 「そんな予定は無いけれど」
 「予定とか、そう言う話でも無く……」
どこかで偶々会った時にでも、何か恩返しが出来ればとゲヴェールトは思っていたのだが、
彼女には全く気が無い様だったので、彼は小さく息を吐いて諦めた。
 「とにかく有り難う御座いました。
  この御恩は、『必ず』、お返しします」
グランスールは肩を竦めて苦笑い。
 「別に良いって言うのに」
そうして2人は別れた。
――しかし、直ぐに2人は再会する事になる。
グランスールは旅の身だが、金が無くては生きて行けない。
彼女の主な収入源は、直ぐに金の入る飛び入りの仕事だ。
例えば、夜のクラブで歌手やダンサーをしたり、狩猟や漁猟を手伝ったり、割と何でも出来る。
プロフィールは大体偽っている。

92 :
グランスールの実年齢は、明らかに人外だと言える程では無いが、少なくとも若くは無い。
だが、外見年齢は若い儘である。
これは多くの魔法使いと同じく、彼女も半精霊化している為だ。
飽くまで「半」であり、永遠の命を持っている訳では無い。
肉体を捨て去れば、永遠の命を持つ事も可能だが、それをしようとは全く思っていない。
それは彼女自身、自然の儘に生きる事が、精霊魔法使いのあるべき姿だと思っているからに、
他ならない。
グランスールはカターナの海で、海女達と共に漁業を手伝っていた。
彼女はカターナ地方に訪れる度、毎年の様に手伝っているので、既に地元の海女集団とは、
顔馴染みである。
精霊魔法を自在に使う彼女は、泳ぎが得意で、水にも慣れており、潜水時間も常人の3倍は長い。
グランスールが狙うのは大物だ。
普通の人では手が出せない、大型の魚介類を取る。
大体自分の体と同じ大きさまでなら、彼女は捕獲出来る。
中には人間を襲う危険な物も居るが、グランスールの敵では無い。
大きい物は調理も相応に大変だが、共通魔法があるので、処理には苦労しない。
人間が入れそうな程の、大きな壺貝を彼女が海から引き上げると、海女達の間で歓声が起きる。
 「ヒャー、大物だ!」
 「相変わらず、凄いねぇ!」
海女達の年齢幅は広い。
家業としている者もあれば、グランスールの様に臨時の収入に利用する者も居る。
危険が伴うので、人気の職業と言う訳では無いが、稼ぎは悪くなく、後継者も多い。
グランスールは海女達に笑い掛ける。
 「もっと沖に、この倍はある真珠貝を見付けたよ。
  もし大きな真珠が入ってたら、今晩は宴会だ」

93 :
若い海女達が態とらしい嬌声を上げる。
 「キャー、素敵!」
それに対してグランスールは大きな笑みを見せるが、一方で経験豊富な老齢の海女達は心配顔で、
彼女に警告した。
 「あんたの事だから大丈夫だとは思うけど、気を付けなよ」
 「心配御無用です。
  海は私の味方ですから」
精霊魔法使いである彼女にとって、自然は彼女の親しい友人だ。
大型の海獣も、荒れ狂う波も、彼女の敵では無い。
老齢の海女達もグランスールを「海に愛された者」だと認識していたので、諄くは言わなかった。
グランスールは海に飛び込んで、大きな真珠貝を獲りに行く。
普通の人間なら、潮に流されて帰れなくなる様な場所も、グランスールには問題無い。
流れに乗って、大きな真珠貝まで接近し、精霊魔法で岩の隙間から貝を引き抜く。
その瞬間を待っていた様に、大蛸が彼女の背後に現れた。
触手も含めると人間の倍の大きさはあろうと言う、正に大蛸。
 (おっとっと、横取りかな?
  人の獲物を奪ろうなんて、甘い甘い)
グランスールは一度敢えて貝を蛸に渡すと、精霊魔法「水の槍」で蛸の急所、両目の間を貫いた。
蛸は貝を抱いた儘、体色を淡くして即死する。
 (これぞ一石二鳥)
グランスールは蛸が巻き付いた貝を回収して、浅瀬へと泳ぐ。

94 :
そこへ更に闖入者が現れる。
今度は海獺だ。
逸れ物が単独でグランスールの抱える獲物を狙っている。

 (人の獲物を横取りしようとは、感心しないね。
  自分の力で狩りをやらないと、女の子に持てないぞ)

彼女は内心で独り言ち、対処方法を思案する。
蛸は呉れてやっても良いのだが、これで人間を狙う事に味を占めて貰っても困る。

 (仕様が無い。
  痛い目を見て諦めて貰おう)

グランスールは海中で海獺と戦う決意をした。
先ずは精霊魔法で海流を局所的に変化させ、海獺の行動を制限する。
海獺は本能で海流が判るのだ。
目に見えているかの様に、海流の強い部分、弱い部分を見極められる。
そして、自然に体力の消耗が少ない進路を選択する。
海流を避けて回り込んで来る海獺に対し、グランスールは水槍の魔法で、その目を狙った。

 「アギャァアアッ!!」

両目を潰された海獺は、醜い叫び声を上げて怯む。
その隙にグランスールは浅瀬へと泳いだ。
海獺は暫く、その場で沼田打ち回っていたが、直ぐに回復して再びグランスールを追う。

 (執拗いなぁ。
  執念深い事が悪い訳じゃないけどね。
  これは愈々女の子に持てない奴の行動だよ)

頭の先が漸く水面から出る程度の浅瀬で、グランスールは再び海獺と対峙する。

95 :
グランスールは貝と蛸を守りながら、海獺と戦わなくてはならない。
海獺の大きさは3身程。
海獣としては小さい方だが、脅威には変わり無い。
武器があっても、真面な人間では立ち向かえないのが、大海獣なのだ。
グランスールは水の中に潜り、水の刃で海獺を切り裂く。
しかし、体の表面を傷付けるだけで、大きな打撃は与えられない。
海獺の方は既に貝にも蛸にも興味が無く、邪魔者のグランスールを排除する事だけを考えている。
突進を繰り返す海獺を、グランスールは流れに身を任せて回避する。

 (早く諦めた方が身の為だぞ。
  疲れるのは、そちらが先だ)

その内に海獺は疲れて、グランスールを無視して、浅瀬で休憩を始めた。

 (あらら、これは困った。
  そんな所で待ち構えられていたら、陸に上がれないじゃないか……)

海獺は海獣だが、陸上でも十分な機動力を持つ。
やはり人間では敵わない。
グランスールは精霊魔法を使い、静かに雨雲を呼び寄せた。
数針は掛かるが、雨雲を呼んで落雷で海獺を仕留めようと言う計算だ。
徐々に冷たい風が吹き始める……。
その時、海岸に3匹の犬を連れたゲヴェールトが現れた。
犬達が海獺を取り囲んで吠え掛かり、その間にゲヴェールトはナイフで自らの腕を浅く切り、
出血させる。
彼は出血した儘で、海獺に接近して腕を振るい、血飛沫を浴びせた。
血飛沫を顔に受けた海獺は、直ぐに大人しくなって、ゲヴェールトに平伏する。
3匹の犬達は海獺から離れて、ゲヴェールトの周囲に戻った。
その後、ゲヴェールトは海獺に指示して、海の中に帰らせる。
彼が海を指差すと、海獺は海に飛び込み、その儘沖へ。

96 :
その間にグランスールは貝と蛸を波打ち際に運んだ。
今まで遠巻きに彼女を見守っているだけだった海女達も、彼女を手伝いに駆け付ける。
貝と蛸は無事に陸上に引き上げられ、海獺が戻って来る事も無かった。
落ち着ける状況になったグランスールがゲヴェールトの様子を窺うと、彼は腕に包帯を巻いて、
愛犬達と退散しようとしていた。
お礼をしない訳には行かないだろうと、グランスールは彼を追う。

 「待って!」

呼び止められたゲヴェールトは振り返って、彼女と向き合った。
彼は気恥ずかしそうな笑みを浮かべて言う。

 「何か?」

 「助けてくれたでしょう?」

 「ああー、別に助けは必要無かったみたいですけどね。
  海辺を散歩していたら、偶々見掛けた物で。
  大事にするのも何だと思ったので」

空模様を見ながら話すゲヴェールトは、状況をよく理解していた。
彼はグランスールが雷雲を呼んでいる事、更に自分の手助けが必要無い事も知っていた。
グランスールは眉を顰めて問う。

 「恩返しの積もり?」

 「いえ、こんな物で返せたとは思っていません。
  あれは……魔法使いとしての自己紹介みたいな物でしょうか?
  私には、こう言う事が出来ますと言う……。
  私の能力が役立つ時に、貴女と偶然一緒に居る可能性は低いでしょうけど」

97 :
ゲヴェールトの透かした態度が気に食わず、グランスールは不機嫌な顔をする。

 「助けられたからには、お礼をしないと行けないんだけど」

 「いえ、結構です」

 「『結構です』じゃなくて、これは私の主義だよ」

 「でも、貴女も私の礼は要らないと言ったじゃないですか?
  お互いに礼を受け取る積もりが無いなら、それも対等って奴でしょう」

ゲヴェールトに言い包められて、グランスールは引き下がった。
グランスールとしては、恩は押し付ける物で、返す物では無いのだ。
よって、他人に恩を売られると、どこか据わりが悪くなる。
それは単なる我が儘だ。
去ろうとするゲヴェールトをグランスールは再び呼び止める。

 「待て、名前を聞いていなかった」

ゲヴェールトは足を止めて振り返った。

 「ゲヴェールト。
  ゲヴェールト・シュトルツ・ブルーティクライト」

 「エグゼラ地方の生まれ?」

 「ああ、ティナー地方寄りの南部の生まれだ」

グランスールは頷いて、自分も名乗る。
「グランスール」と言う通称では無い、本当の名前を。

 「私はフィジア。
  カターナ地方の生まれ」

98 :
ゲヴェールトは彼女の名前を確認する様に、自分でも口にした。

 「フィジア……。
  名字は?」

 「無い。
  私は自然の中で生きる物。
  個体の識別としての名はあれど、所属を示す名字を持たない。
  最も古く、伝統的な精霊魔法使い。
  貴方が犬達に名字を付けないのと同じく、私達は自然の中では犬達と同じ。
  誰も何も区別しない」

精霊魔法使いとは面倒臭い物だとゲヴェールトは思うが、口には出さない。

 「そ、そうですか……」

 「敢えて言うならば、『精霊魔法使い<エレメンタル・マスター>』と。
  精霊魔法使いのフィジア。
  そう憶えて欲しい」

 「解りました、フィジアさん」

 「有り難う、ゲヴェールト。
  それともシュトルツ?」

 「あ、ゲヴェールトで大丈夫です。
  ミドルネームで呼ばれる事は余り無いので……」

 「そう。
  それじゃあ、又どこかで」

お互いに名前を確認すると、グランスールは再会を予感させる言葉を告げて、背を向けた。

99 :
グランスールは海女達の集団に戻る。
海女達は既に海岸から離れた場所で、大物の解体を始めていた。
若い子達は戻って来たグランスールに、ゲヴェールトの事を尋ねる。

 「姉さん、姉さん、あの人誰?」

 「誰って、只の顔見知りだよ」

若い子は色恋の香りに敏感なのだ。
年頃の男女が一緒に居れば、先ず関係を疑う。

 「嘘だー!
  そんな感じじゃなかったよ」

 「嘘って言われても」

グランスールは苦笑して、全く動揺を見せない。
若い子等は露骨に残念がる。

 「違うのかぁ……」

 「何だい、君達?
  君達こそ彼が気になるのか?」

若い子等は顔を見合わせ、小さく笑った。

 「気にならない訳じゃないけど……」

 「でも、そこまで気にする程じゃないって言うか?」

曖昧な返答にグランスールは眉を顰め、話を切り替える。

 「それより、真珠貝は?」

100 :
年配の海女達は真珠貝の口を開けて、中身を取り出していた。
 「ほれ、大物だ」
拳大の真珠が2つ、3つと転がり出て来る。
若い海女達は目を輝かせて、真珠を手に取る。
 「わー、綺麗!」
それを年配の海女の一人が窘める。
 「これこれ、獲物を取ったのは、『姉<スー>』ちゃんだよ」
若い子等は揃ってグランスールを見た。
 「あっ、御免なさい……」
グランスールは小さく笑って許す。
 「良いよ。
  どうせ売ってしまうんだし。
  売り上げは皆で分けるんだし。
  今の内に、好きなだけ眺めときなよ」
彼女は形の残る物に頓着しない。
それが精霊魔法使いとして、あるべき姿だから。
精霊は基本的に見えないが、その存在は感じられる。
見える物ばかりに囚われていては、精霊には気付けない。
しかし、全く物欲が無い訳では無い。
価値観が一般的な人とは少し違うだけだ。


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