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ロスト・スペラー 14
伝統君 伝統ちゃんのお散歩日記

ロスト・スペラー 9


1 :2014/07/09 〜 最終レス :2014/11/27
1スレ目冒頭で言っていた「過去作」では、主人公はラビゾーとサティの2人で、
各地を巡って『失われた呪文<ロスト・スペル>』を封じる物語だった。
多少名残や引き継いだ設定はある物の、基本的に今とは物語も設定も人物も違っていた。

過去スレ
ロスト・スペラー 8
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
ロスト・スペラー 7
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
ロスト・スペラー 6
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
ロスト・スペラー 5
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
ロスト・スペラー 4
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
ロスト・スペラー 3
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
ロスト・スペラー 2
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
ロスト・スペラー
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1290782611/

2 :
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。
『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。

ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。

3 :
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。
今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。

4 :
……と、こんな感じで容量一杯まで、話を作ったり作らなかったりする、設定スレの延長。
規制に巻き込まれた時は、裏2ちゃんねるの創作発表板で遊んでいるかも知れません。

5 :
乙です!!!!!

6 :
>>5
ありがとう

7 :
未だ紹介していない、複数回登場している名有りの人物

○魔法学校

ヒュージ・マグナ

共通魔法使い。
ティナー中央魔法学校の中級課程に通う学生(生徒?)。
同級生のシューロゥ、ヘレックス、ローダンドの3人と合わせて、『問題児四人組<ポーザー・カルテット>』。
お調子者で乗りが良く、クラスのムード・メイカー的な存在。
試験中でも、何かに付けて笑いを取りに行く、生粋の芸人。
クラスメイトを笑わせて、教師に怒られたり、呆れられたりするのが、彼の日課。
座学は苦手で、成績も余り良くないが、頭が悪い訳ではない。
高い魔法資質と、優れた運動神経を持つも、本人は周囲の奨めで魔法学校に通っているだけで、
魔導師になる積もりは毛程も無い。
将来の夢は機巧技師。
グージフフォディクスとは公学校時代に同級生で、親しみを込めて彼女を「委員長」と呼んでいるが、
当人には嫌がられている。

8 :
ベヘッティナ・ストローマット

共通魔法使い。
ティナー中央魔法学校の中級課程に通う学生(生徒?)。
初級課程から魔法学校に通っている、成金お嬢様。
シーダーと言う名の、植林リスの使い魔を持つ。
密かにヒュージ・マグナを慕っており、彼と親しい付き合いのグージフフォディクスに、
見当違いなライバル意識を抱いて、何かと張り合おうとする。

9 :
○外道魔法使い

シトラカラス・クドーシュ

描画魔法使い。
魔法で本物と見紛う絵を描く事が出来る。
本人も「絵に描いた様な」美青年……。
それだけ。
旧暦から生きているが、師に魔法の極意を教えて貰えなかった半人前。
郊外の廃墟にアトリエを構えていたが、篭り切りの生活に限界を感じて、修行の旅に出る。
以後は、似顔絵や風景画で路銀を稼ぐ毎日。
最近まで存在を忘れていた。

10 :
○象牙の塔

オイヤードントリダントス・トーワル&タタッシー・バリク&ラーファエル・イコ

全員、共通魔法使い。
禁呪の研究者の同期生3人組。
それぞれ通称は、女好きのオイヤー、皮肉屋のタタッシー、馬鹿笑いのラーファエル。
所属する研究室は別々だが、事ある毎に連んでいる。

ヘイゼントラスターロット・ラーフェル

共通魔法使い。
B級禁断共通魔法の研究者で、ヒレンミ研究室の所属。
オイヤードントリダントスとは幼馴染みで、彼からはヘイズィー、他の者からはヘイゼン、
又はヘイズと呼ばれている。
やたらと長い名前はティナー地方南部の古い家系の伝統。

カティナ・ウツヒコ

共通魔法使い。
B級禁断共通魔法の研究者で、ヒレンミ研究室の所属。
ヘイゼントラスターロットの後輩。
ボルガ系のティナー地方民。
カティナが名前で、ウツヒコが名字。
天才的な描文センスの持ち主であると同時に、記憶力や思考力も人並み外れている。
但し、その弊害で奇癖が多い事から、傍目には吃音の奇人と認識されている。

11 :
○異空デーモテール
ファイセアルスがj存在する宇宙とは別の、数多の世界から成る、混沌の宇宙。

デラゼナバラドーテス

小世界エティーの準爵相当で、エティーの出来事を記し続ける、日記係。
現在はサティの付き人。
エティーの海で生まれた、生粋のエティー人。
大砂時計でエティーの時間を管理している。
無鉄砲なサティに肝を冷やしっ放しの苦労人。
女性型をしているが、性別は無い。
基本的にデーモテールの存在は、混沌から勝手に産み落とされるので、生殖機能を持たない。

フロー&レト&ロフ&バコー・ヴァルデ

エティーと他世界の境界のである、4つの「果て」を守る守護者。
能力は子爵相当。
果てを監視して、他世界からの敵対的な侵入者を排除するのが役目。
デラゼナバラドーテスとは違い、その為だけに生まれた存在であり、他の機能や思考を持たない。
実質は守護者と言うより越境管理者で、他世界からの出入りを記録している。

12 :
バニェス

エティーの隣にある、大世界マクナクの大伯爵。
戦好きの野心家。
真っ赤な獅子の鬣の様な髪を持つ、無貌の物。
通称、獅子髪伯。
嘗て、エティーに攻め込んだ事があり、その際に子爵級以上の存在を全滅させた。
最初の侵攻では、深手を負って撤退。
再侵攻では、エティーの力を得たサティに敗れ、以降は侵略を諦めているが、
沈まぬエティーの秘密への探究心は無くなっていない。
箱舟形態は赤い雲を纏う、翼の生えた黒い球体。

バーティ

中世界アイフの管理主にして侯爵級の悪魔貴族。
愛を求めて彷徨う、虹色の乙女。
バーティフューラーの一族の祖にして、トロウィヤウィッチの魔法の正体。
代々のトロウィヤウィッチに宿り、その中からファイセアルスを見ていた。
世界の名前と管理主の名前は基本的には同一だが、アイフの場合は特殊で、
管理主が長らく眠っていた為に、他の世界の者が先に名付けた。
箱舟形態は虹色の二枚貝。

13 :
サティ・クゥワーヴァ

小世界エティーの管理主。
だが、彼女は一応の責任者に過ぎず、エティーの「情報」に触れる権利は持っていても、
それを全て理解している訳ではない。
エティーその物を支えている実体は別にある。
サティは元々ファイセアルスに暮らす人間だったが、余りに高い魔法資質を持っていた為、
魔法の真実に気付き、精霊化の技術を極めて、ファイセアルスを離れエティーへ旅立った。
魔法生命体となった彼女は、自身の体を自在に変化させられる上に、魔法資質の及ぶ範囲内なら、
瞬間移動も出来る。
しかし、それでも実力は伯爵相当に止まる。
デーモテールの侯爵級には手も足も出なかった。
エティーの雲を操る事で、昼と夜と作っていたが、近頃は太陽が勝手に動くので、暇を持て余し気味。
物語の異空側の主人公として、デーモテールの各世界を旅する(予定)。

14 :
はあ、早速あちこちミスってる……。
>>10
ヘイゼントラスターロット・ラーフェル
オイヤードントリダントスとは幼馴染みで、彼からはヘイズ、他の者からはヘイゼン、
又はヘイズィーと呼ばれている。

15 :
グラターナ街道にて

グラターナ街道はグラマー市とカターナ市を結ぶ大街道の一で、日時を問わず人の往来が絶えない。
街道沿いに大魔力路があり、唯一大陸を守護する大魔法結界の一部となっている。
魔笛奏者レノック・ダッバーディーは、普段活動拠点にしているティナー地方から離れて、
久方振りの遠出をしていた。
特に目的や目標も無く、振らり独り長旅。
大して金は持っていないが、子供の形をしている彼は、他人の善意に只乗りして、
諸々の費用を小狡く吝嗇っている。
さて、そんなレノックがグラターナ街道を歩いていると、道端で風景画を描いている青年が居た。
レノックは彼を知っている。
この青年はレノックと同じ外道魔法使い。
描画魔法使いのシトラカラスだ。

16 :
レノックは陽気にシトラカラスに話し掛けた。
 「よっ、絵描き君」
 「あ、レノックさん」
シトラカラスは愛想笑いをして、一礼する。
レノックは彼の脇に移動して、絵を覗き込み、眉を顰めて言った。
 「相変わらず、詰まらない絵を描いているねェ」
シトラカラスが描いていたのは、極普通の風景画。
よく描けているが、それだけの代物だ。
 「……面白い絵って何ですか?」
シトラカラスが困った顔で尋ねると、レノックは意地悪く笑う。
 「価値を他人に求める程、愚かな事は無いだろう。
  君は描きたくて、この絵を描いているんじゃないのかい?」
シトラカラスは沈黙した。
別に描きたくて描いている訳ではない。
数を熟せば何か掴めるかも知れないと、修行の為に手を動かしているのだ。
彼は他に方法を知らない。

17 :
レノックは呆れた様に言う。
 「君の絵は本物と見紛う程だ。
  手当たり次第に模写をする段階は、疾うに過ぎ去った筈。
  もっと『創造的<クリエイティブ>』な事をしようよ」
 「これでも、色々やってみてはいるんですよ。
  普段とは違う道具を使ったり、実物を見ないで描いてみたり、全く空想の物を描いたり、
  絵柄を変えてみたり。
  点描、切り絵、版画、押し絵とか、他にも絵に関する物は一通り。
  写実だけじゃなくて、心象派の手法も試してみました。
  でも、何か違うんですよね……」
俯き加減で悩みを口にするシトラカラスに、レノックは同情して頷いた。
 「そりゃ、所詮は他人の真似事だからね。
  技法を幾ら学んでも、そこから先が難しい。
  音楽も同じさ。
  『演奏<パフォーマンス>』と『作曲<コンポジション>』と音楽の『創造<クリエーション>』は、似て非なる工程だ。
  でも、君は人と比べて、大分恵まれていると思うよ。
  色々な技術や手法で、様々な絵を描けるんだから」
 「何百年も絵を描く事しかしていないので」
シトラカラスは苦い表情で謙遜した。
何百年も絵を描き続け、それ以外の事を殆どしなかったのに、未だ描画魔法使いとして、
完成を見ないのだから、その程度は出来ていなければならないと、考えていたのだ。

18 :
レノックは深い溜め息を吐く。
 「僕が知ってる描画魔法使いは、理想の生活が欲しくて、絵を描いていたよ。
  それで絵の中に入って生活したり、絵の中の物を現実に持ち込んだりしていた。
  君に比べると、絵の技術自体は、然程の物でも無かったと思うけどな。
  普通は描きたい物があって、絵を描くんだけど、それが無いのは辛いね。
  描画魔法使いとしては致命的なんじゃないか?」
彼は「絵に描いた様な」シトラカラスの横顔を、意味深に見詰めた。
シトラカラスは言い訳する様に反論する。
 「目標はあります。
  師匠みたいな絵を描く事です」
 「どんな絵だい?」
 「生きている様な」
 「動画――とは違うんだよな。
  いや、その位は解っているさ。
  それで、生きている絵を描いて、どうしようって言うんだい?」
 「どうって……」
シトラカラスは困惑した。
師匠の様になりたいとは思っていたが、なった後の事は考えていなかった。
絵を描き続けて、もう何百年も経つと言うのに……。
 「極める為に極めると言うのは、愚かな事だよ」
レノックは改めて、呆れた様に息を漏らす。

19 :
少し間を置いて、レノックはシトラカラスに問い掛けた。
 「彫刻や『粘土細工<クレイクラフト>』は、やってみた事があるかい?」
 「はい。
  絵の勉強になると思って。
  アニメーションや空間描画もやってみました。
  でも、何も変わりませんでしたよ……。
  上手く描ける様になっただけです」
 「フム、フム」
シトラカラスの答を受けて、レノックは軽く頷きながら、暫し思案した後、こう切り出した。
 「じゃあ、僕が今から一曲演奏するから、それを絵にしておくれ」
 「演奏する姿を描けば良いんですか?」
惚けるシトラカラスに、レノックは又も呆れる。
 「曲の絵を描けと言うんだ。
  音楽を描くんだよ」
 「詩歌ではなくて、曲の?」
 「ああ、そうだ」
シトラカラスは大袈裟に驚いて見せるが、レノックは平然と言い放った。

20 :
シトラカラスは遠慮勝ちに尋ねる。
 「曲のタイトルとか――」
 「そんな物は無い。
  即興だ。
  だから、君も」
益々弱った顔をするシトラカラスを、レノックは叱り付けた。
 「芸術魔法使いなんだろう?
  センスを見せろと言うんだ!」
 「は、はい……」
結構な無茶振りだが、これも修行と自分に言い聞かせて、シトラカラスは言われる儘に筆を執る。
いざ演奏を始めようとするレノックを、シトラカラスは凝視した。
奏者の情感を見逃さない様にする為だ。
だが、レノックは構えた横笛を下ろして、注文を付けた。
 「……目を閉じてくれないか?」
 「えぇ?」
 「曲を評価するのに、目は要らない。
  僕が何を考えているとか、どう言う意図だとか、そんな事は関係無い。
  『芸術<アート>』はセンスと技術だ。
  背景を問われる事はあっても、背景その物を評価する事があってはならない。
  解るかい?」
シトラカラスは不服そうな顔をする。

21 :
レノックとて無意味に難題を押し付けているのではない。
「センスを見せろ」――個人のセンスに正解は無いのだ。
大衆受けするか否かと言う問題はあっても。
唯、己の道を信じて突き進むのみ。
シトラカラスは師の影を追う余り、「正解」に拘っている。
どれが正しい等と言っている内は、永遠に神髄には辿り着けない。
レノックは演奏を始めた。
彼の音楽のイメージと、シトラカラスの描くイメージが、必ずしも一致するとは限らない。
一致するに越した事は無いのだが、仮令一致しなくとも、それで良いのだと言う事を、
同じ芸術魔法使いとして、レノックはシトラカラスに伝えなくてはならない。
魔法使いは人間の芸術家とは違うのだ。

22 :
レノックの演奏は、不思議な響きだった。
形式的には、変奏曲と呼ばれる物だ。
同じ旋律を、技法を変えて繰り返す。
初めは緩やかで穏やかな曲調から、徐々に明るく軽快な物へ……。
街道での演奏にも拘らず、立ち聞きする者は居ない。
邪魔が入らない様に、存在感を消しているのだ。
その辺りはシトラカラスも承知している。
余計な気兼ねをせず、彼は曲だけに集中して、絵を描き始める。
所が、1針と数点後、曲は一転して暗く低い調子になり、そこから激しく重く盛り上がって行く。
シトラカラスは狼狽した。
変奏曲なのだが、音楽は巧妙に異なる部位を引き継いで、次第に新しい曲へと換骨されて行く。
最初とは全くイメージが違う。
既に描いてしまった絵と、どう折り合いを付ければ良いのだろう?
演奏は尚も続き、最後は再び落ち着きを取り戻し、静かに締められた。
半角以上も費やした、長い演奏だった。
……シトラカラスは思う様な絵が描けなかった。

23 :
レノックは演奏を終えると、シトラカラスに尋ねる。
 「どう?
  出来た?」
 「あ、待って下さい」
 「待たないよ」
そう言うと、彼はシトラカラスの脇から、絵を覗き込む。
不揃いな淡い色の円を、適当に配置した、何とも言えない絵だった。
シトラカラスの心の迷いを表した様に、力強い線は無く、色合いも暈けている。
何を描いたかと尋ねられても、シトラカラスにも答えられないだろう。
 「良いね」
しかし、レノックは満足そうに頷いた。
 「君の迷いが、手に取る様に解る」
 「……こんな物を評価されては困ります」
 「当然だ。
  背景を問われる事はあっても、背景その物を評価する事があってはならない。
  絵としては実に下らない。
  子供の落書きにも劣る」
手厳しい評価に、シトラカラスは俯いた。

24 :
レノックは態と、曲調の変化する、長い音楽を演奏した。
これを聞きながら、1枚の紙にイメージを収めるのは、無理がある。
どこで終わるかも知れない音楽を、どの様に表現するか等、聞き終えてからでないと難しい。
詰まり、シトラカラスに上手い絵を描かせる積もりは、毛頭無かったのだ。
 「――だが、今までの絵よりは生きている。
  そうは思わないかい?」
レノックはシトラカラスに問い掛けた。
 「どう言う意味ですか?」
 「この絵を見ていて、何か湧き上がる感情は無いか?」
数極、絵を凝視しつつ思案して、シトラカラスは苦笑いする。
 「見ているだけで恥ずかしくなります。
  破り捨てたい位ですよ」
レノックは深く頷いた。
 「それが『生きている』と言う事だよ」
 「題を付けるなら、『失敗』とか『迷い』でしょうか?
  心象派の技法ですね。
  でも……――」
だが、シトラカラスの答を聞いて、途端に不機嫌な顔になる。

25 :
写実とか心象とか、そんな分類は、魔法使いには――否、絵描きにだって無意味だ。
レノックは絵に就いて語り始める。
 「詰まらない事を考え過ぎだ。
  有るが儘、思うが儘を映して、出来上がるのは静止した一瞬。
  絵とは一瞬の感動を留め置く物。
  留め置かれた一瞬は、メッセージを訴え続ける」
 「私の絵には、それが無い……?」
 「そうだ、君には心が無い。
  心を込めない絵では、幾ら精緻を極めても、君自身の心を動かせはしない。
  君の絵が死んでいるのは、君の心が死んでいるからに他ならない。
  心象派の技法と言うが、心の無い心象に、何の意味がある?
  君が詰まらないと思う物を描いても、詰まらない物が出来上がるだけだ」
レノックは敢えて、「生きていない」ではなく、「死んでいる」と強い表現を使った。
 「心……」
 「君が師の絵を見て、大きな感動を受けた事は判る。
  だが、幾ら技を真似ても、心が無ければ、良い絵にはならない。
  少なくとも、君にとっては。
  同じ対象を描いても、茫然と描いた物と、必死に描いた物とでは、『重み』が違うんだ」
シトラカラスは目を伏せ、長らく沈黙した。

26 :
そろそろ立ち去ろうと、レノックが外方を向くと、シトラカラスは重苦しい口調で尋ねる。
 「……心とは何ですか?」
 「感じる物だ」
 「私は何を描けば良いのですか?」
彼の真剣な悩みに、レノックは少し考えて、こう告げた。
 「良い絵を描くには、良い被写体に巡り合わなければならない。
  君には未だ、己の理想を描き出す程の、イマジネーションは無い様だから。
  それを与えてくれる様な、本物に触れるべきだ」
 「本物とは、どの様な物ですか?」
 「『君が』美しいと思った物だ。
  昔から言うだろう。
  絵の極意は、『美しいと思った物を描きなさい』と」
 「『美しい』とは何ですか?」
 「出会えば、心が動くだろう。
  思わず、描き留めずには居られない物だ。
  その時まで、腕が錆び付かない様に、有り物を書き続けるんだな」
今一つ納得し兼ねる表情のシトラカラスに構わず、レノックは彼と別れて独り街道を行った。

27 :
シトラカラスは途方に暮れる。
……結局、やる事は今と変わらない。
目に映る物を、描き続けるだけ。
 「美しい物……」
しかし、明確な目標が出来た事で、シトラカラスは希望を持った。
美しい物と巡り合う。
それが何かは解らないけれど。
どんな物かは想像も付かないけれど。
彼はレノックの曲を聴いて描いた、仕様も無い出来損ないの絵を、大事に仕舞って、
風景画の続きを描いた。

28 :
「レノック君、久し振り」
「ああ、奇遇だな。こんな所で」
「フフフ……、君も中々お節介なんだな」
「見ていたのか? いや、迷える若人を放って置けなくてね。同じ芸術魔法使いだから、
 助言の1つや2つ、与えてやろうと言う心が僕にもあるのさ」
「彼は真の魔法使いになれるだろうか?」
「『分からない』ね。そこまで責任は持てない。道を決めるのも、進むのも彼自身だ。
 第一、僕は彼の師匠じゃない」
「確かに」
「弟子なんか取る物じゃないよ。他人の人生を抱え込むなんて、面倒臭いだけじゃないか?」
「確かに……」

29 :
「悄気るな、悄気るな、偉大な魔法使い。後悔してるのか?」
「ああ。だが、それは『弟子を取った』事に対してではない。『指導が至らなかった』。これに尽きる」
「未だ、取り返しは付くんだろう?」
「そう願いたい物だ。どうしてだろうな……。魔法を使えば何でも出来る筈なのに、
 我が事は儘ならぬ物ばかりだよ」
「それは魔法の使い方が悪いんだ。何と言うか、本当に老いたんだな。寂しいを通り越して、
 悲しくなるよ。本当に、どうして――」
「こうなる事を望んでいたのかも知れん。無力な一存在になりたいと」
「何でも出来る癖に、何も出来ない物になりたかったって? 訳が解らない。
 果て無い時を生きて来た癖に、どうして今頃老いる必要があるんだ?」
「儂は最近、疲れを覚える様になったよ。耄碌して来た」
「斃る前に、手前の落とし前だけは付けてくれよ。2人も弟子を取ったんだ。
 呆けた振りして責任逃れしようったって、そうは行かない」
「ああ、必ず……。必ず」

30 :
魔法が使えない人は、どうやって生きているの?

誰もが魔法資質を持つ唯一大陸で、魔法が使えないと言うのは、一種の障害扱いだ。
魔法資質を持たない者は、全人口の2‰程度で、これは毎年徐々に増えつつある。
但し、魔法資質は余り遺伝せず、魔法資質の無い親から、魔法資質のある子が生まれたり、
逆に、魔法資質の優れた両親から、魔法資質の低い子が、生まれたりする。
文明化以前は、前者は縁起の良いイメージがある一方で、後者は「親が」蔑まれる傾向にあった。
未来予想では、魔力の希薄化が進行するに連れて、初めの内は全体的に魔法資質が向上するも、
次第に極端に高い者と、極端に低い者の二極化が起こるとされる。
魔法資質が低いだけで、事務や経理等のデスク・ワークの一部を除く、殆どの就職が不利になる。
技術、現場系では、特定の魔法の資格や免許が非常に重視される。
唯一大陸では、魔法を重視する性質上、現場の地位が高く、事務方は低い。
社長や役員より、特殊な資格持ちの技術者や、現場責任者の給与が高い等、逆転現象が間々ある。
魔法の才能が無い者は、魔法を余り必要としない職業に、追い遣られる。
溢れ者は犯罪に手を染める事が多い。
近年は魔力不足により、益々魔法が使える人材の価値が高まると同時に、魔導機を扱う技能、
魔法が使えなくても問題の無い人材、システム、製品の開発等、魔法資質に頼らない動きが、
広がりつつある。

31 :
ボルガ東岸新聞 地域面特集記事「人」より

ライ・ライ・コーさん ボルガ市オーサ地区在住 ボルガ地方魔導師会執行者

28歳でボルガ南魔法学校上級課程を卒業、幼い頃から憧れていた執行者に。
コーさんは6歳の時、家族で中央区に出かけて独り逸れてしまい、執行者に保護された。
その経験から、将来は執行者となって、困っている人を助けたいと、強く思うようになる。
しかし、コーさんは生まれついて魔法資質が低く、魔導師になるのは無理だと、
周囲に反対されていた。
諦めかけていたコーさんは、当時公学校の担任だった恩師に相談し、「君の人生なのだから、
後悔しないように」と背中を押され、ボルガ南魔法学校中級課程への編入を決意する。
周囲の懸念通り、魔法学校では苦難の連続だった。
魔法が得意でないと言う理由で、同級生に爪弾きにされた事もあった。
何度学校を中退しようと思った事か知れない。
「早い内に辞めれば修正が効く」と、家族や友人から幾度も説得された。
その度に恩師が支えてくれた。
「もう気力が続かないなら辞めなさい。まだ希望があるなら続けなさい」
――手応えはあった。
時間さえあれば、何とかできる自信があった。
6年目、やっと上級課程に進級。
もう迷わなかった。
7年かけて上級課程を卒業。
念願叶って魔導師会の執行者となった。

32 :
花形の刑事課ではなく、市民と共にある生活安全課へ。
犯罪と戦う刑事よりも、補導員となって市民の近くにありたい。
そんな思いから、コーさんは迷いなく、生活安全課への配属を希望した。
しかし、魔法資質が低い事から、「街頭での補導は任せにくい」と、事務や連絡係を勧められる。
魔法資質が低い者は、不測の事態に対応できない。
補導しようとした相手に、魔法を使って反抗される可能性もある。
それでもコーさんは折れなかった。
「魔法資質が低いからこそ、解り合える人達もいる」
少年少女が非行に走る原因は、魔法資質絡みの例が少なくない。
魔法資質が低いせいで、希望する職に就けず、自暴自棄になる若者もいる。
「私には彼等の気持ちが解るんです」
危険な目にも遭った。
暴れる若者に大怪我をさせられた事も。
上司からは「魔導師の名誉に関わる」と、何度も注意された。
だが、安易に実力行使はしなかった。
「上から押さえつけて言う事を聞かせでも、本当の解決にはなりません」
コーさんに説得されて、更生した若者は多い。
「魔導師はエリートと認識されていますが、私みたいな人だっていますし、同じ人間なんです」
柔和な人柄。
優しい笑顔の、41歳。

33 :
ファストランニング

魔法を使った競技は数あれど、娯楽魔法競技に迫る勢いで盛り上がる物は少ない。
その中で、フラワリング、ストリーミング、マリオネット、マックスパワーに続く、
第五の娯楽魔法競技になろうとしているのが、ファストランニングだ。
各所にチェックポイントが設置されたコースを、順番通りに巡って走破する。
道具無し、妨害無し、魔法は身体能力を強化するだけと言う、単純な競技。
直進とコーナリングの、バランスの良さが求められる。
上級者は殆ど「飛行」状態だが、地面を走る方が速い競技者も居る。
短距離は1通未満、長距離は1街以上、その中間が中距離で、それぞれ得意とする競技者が居る。
しかし、魔法を使わなくても成り立つ為、これは魔法競技なのか、それともスポーツなのか、
議論が分かれる。
どこでも気軽に出来るので、街中でファストランニングの真似事をする者が後を絶たず、
魔導師会や都市警察の悩みの種となっている。

34 :
こうした新しい競技が生まれるのは、大抵ティナー市だ。
ブレイン・ストリーミングのインフレーション・ルールと言い、新しい事を始めるのは、
決まってティナーである。
正式な競技になる前のファストランニングは、入り組んだ路地で遊ぶ子供の駆けっこだった。
他の都市でも、同じ様な遊びは行われていたが、競技として取り入れたのは、ティナーが初めて。
何かを思い付いたとしても、乗って来る物が居ないと話にならない。
それも1人や2人ではなくて、大勢でなければ……。
ティナー市民は新し物好きで、乗りが良い。
だからこそ、新たな流行を生み出せるのだ。
唯一大陸最大都市は伊達ではない。
但し、流行が長続きするとは限らない。
純粋に面白く、気軽に楽しめなければ、飽きられる。
面白かったとしても、ルールや環境が整備されなければ、1年も経たずに廃れてしまう。

35 :
ティナー市 中央市民公園にて

この日、市民公園のアスレチック・コースを借り切って、ファストランニングの社会人クラブによる、
練習試合が行われていた。
レースのチェックポイントは元々決まってる訳ではなく、当日に適当に決められる。
登り棒の天辺や、大滑り台を越えた先と言った、遊具を最大限に利用したコースにする。
長距離でもないのに、無闇に遠回りだけさせる、詰まらないコースにはしない。
そうなると、大体パターンは決まって来る。
レース前に、走者は必ず下見をして、コースを頭に叩き込む。
そして、理想のコース取りをイメージするのだ。
だが、そうそう計画通りには行かない。
他の走者に割り込まれたり、先行者に追随しなければならない場合もある。
更に、場の魔力は有限だ。
誰もが我先にと魔法を使おうとすれば、魔力競合が起きて、魔法の効果を十分に発揮出来ない。
それを狙って後方から仕掛ける手もある。
タイムを維持する為には、ある程度は周囲に合わせて走る必要もある。
単に「全力で走れば良い」と言う物ではないのだ。

36 :
公園を借り切って行われる、社会人クラブの練習試合には、市内の殆どの団体が参加する。
公式大会でもない限りは、他の競技者のレベルを知る機会が無い為だ。
故に、この場にはトップレベルの競技者も居れば、素人レベルの競技者も居る。
全員が一斉に走る訳ではなく、実力が近い者同士で組を作るので、混雑する心配は無い。
走らない者は、審判をしたり、タイムを測定したりする。
プロが存在しない為に、どこの団体も資金不足。
人を雇う余裕は無いので、身内で協力し合うのだ。
競技者は十代の少年少女も居れば、六十路が近い老人も居る。
だが、トップレベルで通用するのは、20代中頃〜30代中頃まで。
魔法資質だけでなく、完成した肉体が無ければ、ベストタイムは狙えない。

37 :
今回のコースを順番に見て行こう。
チェックポイントは全部で5つ。
スタート地点はアスレチック・コースの南端。
直ぐ西に半径9身弱の池があり、この向こう岸に最初のチェックポイントがある。
魔法で池を横切るか、大人しく大回りして行くか、2択になるだろう。
そこから北上した所、登り棒エリアの中に第2チェックポイント。
林立する登り棒を掻い潜るのだ。
第3チェックポントは、登り棒エリアから東へ真っ直ぐ。
アスレチック・コースの中央にある、高さ5身強の大滑り台の上。
ここも少し遠回りして滑り台を上るか、魔法で大跳躍するか、選択が分かれるだろう。
最初から飛ばしていると、そろそろ息が苦しくなる頃。
疲労は魔法の成功率に直結する。
初心者のリタイアが多いのも、この辺りだ。
滑り台を下りて北上すると、林がある。
その中のコテージ前が第4チェックポイント。
見通しの悪い林の中を、如何に早く抜けるかが鍵となる。
林から南東へ進み、花畑の最終チェックポイントへ。
通過時に花を傷付けてはならない。
踏み付けようが、風圧だろうが、花を傷めれば失格だ。
注意深く魔法を使うか、自信が無ければ、大人しく順路を走る。
最後は特に障害無く、スタート地点に戻ってゴール。
中距離の手本の様なコースだ。

38 :
さて、ここで1人の走者に注目しよう。
民間企業に就職して、ファストランニングの社会人クラブに入った、22歳の青年。
それなりに魔法資質も体力もある、期待の新星だ。
未だトップレベルで戦うには、技術や経験が足りない物の、数年間辛抱強く努力すれば、
立派なトップ・プレイヤーになるだろう。
しかし、彼は人数の都合で、トップ・プレイヤーと同じ組に入れられた。
相手には魔導師も居る。
惨敗するのは目に見えているが、だからと言って、逃げる訳には行かない。
余り差が付くと惨めだが、そうならない為に、今まで練習して来たのだ。
時期尚早気味でも、何時かは戦うべき強敵達。
トップ・プレイヤーとの実力差を、身を以って知るのも、必要な経験だ。

39 :
ファストランニングでは、レベルの低い者から順に走る。
最初は年少者、それから高齢者、一般競技者と続き、トップ・プレイヤーは最後だ。
青年は出番が来るまで、タイム計測係を任されていた。
先ず10代前半の少年少女達が、コースを走る。
彼等が道に迷わない様に、要所要所に案内の大人が付く。
両手を打ち合わせて出す、発砲音の様な、大きな魔法の破裂音が、スタートの合図。
青年は同時にタイムカウンターを動かす。
10代前半の平均的なタイムは1針程度。
速い者は、その半分。
遅い者でも、途中で歩いたりしなければ、2針は掛からない。
但し、魔法が使えないと、2針は少し厳しいかも知れない。
スタートした少年少女の一部は、早速池を横切り始めた。
跳躍や浮遊の魔法は、体重の軽い子供の方が、有利に扱える。
大人になって飛べなくなる例が出る程だ。
その分、速度は出ない。
地を蹴って加速出来る分、遠回りした方が早いと言う事もある。
半点も経たない内に、殆どの子供達は第1チェックポイントを通過して、豆粒程の大きさになる。

40 :
第2チェックポントの登り棒エリアでは、棒に攀じ登る者、複数の棒を利用して、
壁蹴りの要領で上がる者、大跳躍で一気に天辺まで上がる者に分かれる。
子供でも大人顔負けのペースで走る者も居れば、既に先頭集団から倍以上離されている者も。
未だ未だレースは序盤だ。
この儘の順位で終わるとは限らないが、流石に後方の者は先頭集団に追い付けないだろう。
青年は冷静に子供達の走る姿を見守っていた。
子供のレースだからと言って、侮る積もりは無い。
走るコースは同じ。
真剣な勝負に、大人も子供も無い。
どの作戦が、どの程度有効かを、見る意味もある。
余り順位に変動は無く、先頭集団は第3チェックポイントを通過して、
第4チェックポイントの林に入る。
密生した木が邪魔で、スタート地点からでは、走者の姿は全く見えない。
誰が先頭で林を抜け出すか、注目して暫し待つ。

41 :
林から1人、2人と子供達が疎らに抜け出す。
互いの距離が開き始め、先頭集団の中でも、差が付いていた。
何人かは順位を大きく上げている。
子供の体力の限界か、それとも林の中で何か大きく差を付けたり、逆に差を縮める様な、
上手い方法があるのだろうか?
林は視界が悪い物の、コース取りさえ間違えなければ、順路を無視して直進し、
大幅なショートカットが見込める。
チェックポイント通過方式のファストランニングでは、ショートカットで他者を出し抜くのは基本。
誰かがショートカットすれば、他人も真似するので、何時までも優位に立てる物ではないが、
これを上手く利用すれば、上級者とも互角に渡り合えるかも知れない。
だが、大人と子供が同じショートカットを利用出来るとは限らない。
あれこれと青年が考えている間に、数人は既に花畑のチェックポイントを通過していた。
後は道形に走るのみで、もう順位は変動しそうに無い。
ここまで来て、実力を温存していると言う事も無く、1位、2位、3位と、順位が確定して行く。
最後まで1歩1極を競う様な、熾烈な戦いは、二桁の順位にならなければ、見られなかった。
コースの距離が長くなれば長くなる程、接戦は見られなくなる。
特に、個人の能力で勝負が決まり易い子供の場合は、小さな差が大きく広がる。

42 :
「子供の場合は」、個人の能力で勝負が決まり易い。
では、大人は違うのか?
年少者の次は、高齢者がコースを走る。
このレースで、ファストランニングが個人技能のみの勝負でない事が、判るだろう。
高齢者は主に、趣味で参加している者が中心だ。
子供の様に体重が軽い訳でもないし、若者の様に体力がある訳でもないので、
詠唱や描文技術が熟れている以外、魔法が有効に使えると言う事は無い。
どんなに魔法資質に優れていても、最早一線で戦えるだけの地力は無いので、
老いて猶壮健な一部の者を除いて、然程血気に逸りもしなければ、勝敗に拘る事も無い。
故に、平均的なタイムは年少者より劣る……と思われ勝ちだが、実際は早くゴールする。
それは何故なのか?
論より証拠。
実際のレースの様子を見てみよう。

43 :
スタートして間も無く、先頭集団と後方集団が出来上がる。
これが高齢者のレースの特徴だ。
先頭は真剣にタイムを競う者達、後方は気楽に走る者達と考えて、差し支え無い。
所が、奇妙な事に、後方集団は扨措くとしても、先頭集団も殆ど差が付かない。
これは何を意味するのだろうか?
子供とは違い、高齢者ともなれば、身体の鍛え方、魔法の得手不得手次第で、
個人の能力には大きな差が付く。
それは他者との距離と言う、目に見える形で表出する筈。
そんなに実力の拮抗した走者が多いのだろうか?
いや、これは助け合っているのだ。
連携して共通魔法を使い、トップを走る選手に食らい付いている。
1人より2人、2人より3人の方が、魔法の効果は上がる。
足の遅い者は、協力して速度の底上げを行っている。
これが「差の付かない先頭集団」の正体だ。
しかし、当然ながら、何時までも団子と言う訳には行かない。
第3チェックポイントを過ぎた辺りで、先頭集団の速度に付いて行けず、
置いて行かれる者が出始める。
そうした者達は、後方集団に支えられて完走する。

44 :
助け合い、協力と言えば聞こえは良いが、その実は冷徹なまでの弱肉強食である。
レースはタイムと順位を競う物。
仲良し小好しで『同着<デッド・ヒート>』では詰まらない。
最終的には協力を止めて、どちらが上か決めなければならない。
要するに、ゴール前の裏切りがあるのだ。
第4チェックポイントを過ぎて、林の中から抜け出す頃には、先頭集団は当初の3分の1以下に、
数を減らしていた。
実力の無い者から、徐々に脱落して行き、残るのは精鋭のみ。
これがファストランニング。
高齢者のレースでは、後方集団が拾ってくれるが、一般競技者以上になると、そんな物は無い。
体力の無い者から落ちて行き、付いて行くのが限界の者や、完走出来ない者も珍しくない。
後方から様子を窺う作戦もあるが、それは飽くまで集団に付いて行ける事が、最低条件。
周囲のペースに乗り遅れたら、単独での挽回は不可能に近い。

45 :
高齢者に限らず、殆どのレースでは、第5チェックポイントを過ぎてから、本当の勝負になる。
連携を止めて、完全に個人の地力での戦い。
だが、今回のコースのキーポイントは、第4チェックポイントがある林の中だろうと、
青年は考えていた。
狭い木々の間を抜けてショートカットするのに、他人と協力は出来ない。
予め通る道が判っていれば、協力も出来るのだが、他人を出し抜こうと言うのに、
事前に種(ネタ)を明かす馬鹿は居ない。
第4チェックポイントまで集団の後ろか、中程……とにかく先頭から離れ過ぎない位置を確保し、
ゴールまで全力疾走。
先ず、そこまで上手く行かないだろう。
一時は先頭に立っても、途中で追い付かれるのが落ちだ。
それでも、トップ・プレイヤーを相手に、本気で勝とうと思うなら、それ以外に手は無いだろうと、
青年は考えていた。
乗るか反るかの大博打は、実力に劣る者が選ぶ事の出来る、最良の作戦だ。

46 :
特に大きな問題は起こらず、順調に予定を消化して行き、最後のレースを迎える。
自身が参加するレースのスタート前、青年は何時も緊張感と高揚感を味わうのだが、
今回は格別だった。
憧れ――とまでは言わないが、目標としているトップ・プレイヤーと肩を並べて走れるのだ。
未だ始まってもいないのに、気の早い心臓は鼓動を高める。
地に足の付かない状態で、青年はスタート位置に付く。
彼は無理に前に出ようとはしなかった。
先ずは、様子を窺いながら。
青年の自己ベストは、トップ・プレイヤーの平均レベルに後少し及ばない程度だが、
それなら出端から置いて行かれる事は無いだろうと、何度も自分を納得させる。
惨敗するにしても、少し位は印象に残る戦い方をしてやろうと、青年は企んでいた。

47 :
スタートの合図で、集団が一斉に動く。
 (流石に速い!)
青年は早々にペースの違いを実感していた。
一般競技者の中では上位に入る彼も、トップ・プレイヤーの中では下位だ。
集団のペースは大凡、角速1街半と言った所。
終始全力に近い速度だ。
スタート直後にしても、随分速い。
一般競技者は角速1街を維持出来れば、十分上位を狙えるのだが……。
正に、レベルが違う。
スタート地点から西にある池を、トップの者は飛んで渡る。
助走を付けて、魔法での大跳躍。
後に続く者は、水渡りの魔法で、水面を走って渡る。
誰一人として遠回りしない。
 (これは持たないぞ……)
青年は段々不安になって来た。
周囲に合わせて魔法を使っているから、魔力消費は気にしなくて良いが、体力が持つか分からない。
この儘だと、第3チェックポイント辺りで、息が上がってしまう。

48 :
今までトップ・プレイヤーの走りを何度も見て来たのだから、ペースは把握している積もりだった。
角速1街を維持する等と言う、甘えた考えでは、上位には入れないのも、想定通りだ。
それでも、明らかに「速い」と彼は感じる。
気の所為か、それとも今回は特別なのか?
 (絶対に皆、後半まで持たない……よな?
  先頭が特に速いのか?
  オーバーペース気味?
  誰かに釣られている?
  特別な選手でも居るのか?)
青年とてトップ・プレイヤーを志す一人だ。
ファストランニングの最上位選手は、全員把握している。
ここ数月で劇的な成長を遂げた、「意外な伏兵」が居たのだろうか?
魔法と言う「技術」がある社会では、今まで余り目立たなかった者が、一寸した骨や切っ掛けで、
短期間に一気に上位まで伸し上がる事が、偶にある。
そうでなければ……。

49 :
 (『転向組<コンバーテッド>』かもな……)
可能性は、もう一つある。
他の娯楽魔法競技から『転向<コンバート>』した者だ。
フラワリング、マリオネット、ストリーミング、マックスパワー。
これ等の四大娯楽魔法競技は、何れも全地域でファストランニングより人気が有り、
魔導師会の公認を受けて、プロが存在している事もあって、競技者も多い。
故に競争が激しく、全体的なレベルも高い。
当然、落ち零れる者が出て来る。
ファストランニングは、そうした者達の受け皿になっている面もある。
ファストランニングは余り多くの魔法を使う必要が無い為、魔法の知識や技量の無い者でも、
活躍出来る。
純粋なファストランニングの競技者にとっては、口惜しい事実だが、こうした転向者の方が、
高い実力を備えている事が多い。
プロ崩れの娯楽魔法競技者でも、ファストランニングでは十分通用するのだ。

50 :
ファストランニングを始めて高が数月程度の新人に、大きな顔をされては堪らないと、
誰もが思っているのだとしたら?
この異様なハイペースにも説明が付くかも知れない。
そうした事実があれば、青年だって同じ気持ちになる。
もし、先行者が全くの素人で、ペース配分を考慮せずに暴走しているのであれば、
レースの後半で全員失速と言う事態も考えられるのだが、そう甘くはないだろうなと、
青年は思案しながら追走していた。
こうした突然の予定変更は、トップ・プレイヤーなら想定していて当然。
序盤に飛ばすなら、ゴールまで逃げ切る位の事は、やって退ける。
青年の選択は、体力が尽きるのを覚悟で先頭集団と共に行くか、取り敢えず完走を目指すか……。
 (日和っても仕方無い!
  行ける所まで行ってやる!)
後者の選択は無かった。
初めてファストランニングをやる素人とは違うのだ。
無様な結末が待っていようとも、戦わなければ未来は無い。

51 :
青年は水渡りの魔法で池を横切り、第1チェックポイントを無事通過。
次の登り棒エリアでは、三角跳びを連続で繰り返して、最も高い棒の天辺にある、
第2チェックポイントにタッチ。
その先の第3チェックポイント付近では、地上から大跳躍で大滑り台に飛び乗った。
見晴らしの良い大滑り台の上で、青年は顔を上げて、先頭を確認する。
概ね順調に進んでいたにも拘らず、先頭を走っている者は、既に第4チェックポイントがある、
林の中に入ろうとしている。
5巨以上の距離があり、何者かを確認する事も出来ない。
 (ここからが勝負だ!)
疲労具合からして、体力は残り半分と言った所かと、青年は当たりを付ける。
このペースを維持して、ゴール出来るかは怪しい。
最後にスパートを掛ける余裕は、当然ながら無いだろう。
だが、途中で力尽きても構わない。
せめて、先頭を走る奴の顔を拝んでやろうと、青年は集団から離れて、独自のコースを取った。

52 :
順路から外れ、林の中のチェックポイントに向かって一直線。
魔法で引いたガイドラインだけを頼りに、視界の悪い林の中を突っ切る。
整備された順路は、走り易いけれども、大きく蛇行している。
それは元々、林の風景を見て回る為の、ハイキング・コースだから。
理論的には、道から逸れて、真っ直ぐ突っ切った方が早い。
青年は駆ける。
柔らかい腐葉土に、時々足を取られながらも、大木を右に左に避け、倒木を跳び越えて、
コテージの第4チェックポイントで鋭角ターン。
他の走者の姿が見えないが、それは先頭集団を追い越したからなのだと、自分に言い聞かせる。
次は第5チェックポイントに向かって、真っ直ぐガイドラインを引き、同じく独自のコースを走る。
この方が早いのだと信じて。

53 :
林を抜けると、眩しい日差しと爽やかな風が、青年を出迎えた。
約4身先には、独走している男が居る。
見慣れない人物だった。
 (こいつが先頭か!)
やはり転向者だと、青年は確信する。
もう少しで追い付けそう。
自分がトップ・プレイヤーのトップに立つのだ。
それが仮令一時の栄光でも。
青年は速度を上げて、名も知らぬ転向者に追い付き、肩を並べた。
転向者は驚いた顔で、先頭を譲らせまいと、少し速度を上げる。
青年は更に速度を上げて、短い競り合いの後、彼を追い越した。
 (俺が……、トップだ!)
前方には他に誰も居ない。
一段と視界が開けて、明るくなった感覚を受ける。
そして暫し、風を切って、無人の野を行く快感に浸る。
――しかし、花畑に入った所で、青年は失速する。
体力の限界が来たのだ。
又直ぐに転向者に追い抜かれ、第5チェックポイントに着く手前で、追い上げて来た集団に、
呑み込まれた。

54 :
何とか集団に付いて行きたいが、体が言う事を聞かない。
呼吸が苦しい。
十分な詠唱が出来ない。
足が重い、体中の間接が痛む。
自然な動作で描文を行えない。
第5チェックポイントを過ぎる頃には、完全に集団に置いて行かれていた。
 「大丈夫か?」
青年の疲弊振りに、心配した下位のランナーが声を掛けて来る。
青年は応える余裕も無く、無言で前を見続けて走った。
下位のランナーも、彼を置いて行く。
後はゴールまで走るだけ。
コースは平坦で真っ直ぐ……だと言うのに、嫌に遠い。
馬鹿な事をしたと、青年は自分でも思う。
後悔は尽きない。
無難に走っていれば、先頭集団の後方でゴール出来たかも知れない。

55 :
気分が後ろ向きだと、益々足が前に進まない。
悪循環だ。
後から来た者に、次々と抜かれて行くのが、口惜しい。
青年は最下位で、倒れ込む様にゴールした。
最下位と言う自覚は無く、タイムも頭に入っていない。
何も考えられない程に、疲れ果てていた。
青年は眠る様に気を失う。
……気が付いた時は、救護テントの下で、担架に乗せられていた。
 「トップ・プレイヤーの前で、張り切り過ぎたな」
最初に声を掛けて来たのは、同じクラブの先輩だった。
未だ回らない頭で、青年は呆けた顔で応える。
 「いや、でも、良い気分です」
全力を出し切り、一時はトップに立った事で、青年は心地好い達成感を得ていた。
 「ファストランニング、続けるか?」
 「当たり前でしょう」
先輩は呆れと安堵の混じった、小さな溜め息を吐く。

56 :
どの競技でも同じだが、全力を出しても敵わない、付いて行けないと認めてしまうと、
それが引退の目安になる。
戦う心を折られるのだ。
青年は未だ若い。
ファストランニングのトップ・プレイヤーは、何年も掛けて理想の体を作る。
全ては唯(たった)数年と言う、短い栄光の為に。
その中で一度位は、こんな走りをしても良い。
凡百のプレイヤーに埋もれて、見せ場も無く下位でゴールするよりも、僅かでも上位を脅かし、
最下位になる事の方が、何倍も有意義だ。
「芳を流す能わずば、臭を遺すべし」の信念を、青年は持っていた。
 「あ、そう言えば、トップは誰でした?」
思い出した様に、青年は先輩に尋ねる。
 「リヴェロン・ジェウェラーだ。
  ラガラト・ランニング・クラブのエース」
 「ああ、転向者じゃなかったんですね」
リヴェロンは有名なプレイヤーで、青年が目標にしている人物の一だ。
初っ端から飛ばしていた転向者は、流石にペースを維持出来ず、追い抜かれたのだろう。
もしかしたら、リヴェロンが急激にペースを上げて、追い抜いたのかも知れないが……。
 「新参が簡単に勝てる程、甘い物じゃねえよ。
  この世界は」
それは転向者の事だろうか?
それとも青年の事だろうか?
どちらとも取れる表現に、青年は複雑な気持ちで、レースを思い返していた。
何時かは、必ず。

57 :
「魔力とは何か?」
「混沌の欠片、全ての源」
「魔法とは何か?」
「神の真似事、悪魔の法」
「魔法資質とは何か?」
「創世能力、人の未練」
「魔法大戦とは何か?」
「祈りの終焉、悪魔の宴」
「悪魔とは何か?」
「異空の生命、出来損ないの神」
「異空とは何か?」
「神の誕生を待つ、神無き世界」
「神とは何か?」
「空を統べ、法で満たす物」
「神聖魔法とは何か?」
「正統な物による『特別措置』」
「外道魔法とは何か?」
「不法な物達による『不正な指令』」
「共通魔法とは何か?」
「外道魔法に同じ」
「唯一大陸とは何か?」
「巨大な浮上島」
「『現生人類<シーヒャントロポス>』とは何か?」
「土の肉、人の霊、悪魔の精」

58 :
エティーの秘密

異空エティーにて

マクナクの伯爵バニェスは、エティーに滞在して暫く、住民の観察をしていた。
エティーは異空の常識では考えられない程、平和な所である。
『無能<ウェント>』や『平民<マグス>』が、『準爵<バロア>』や『子爵<シェリフ>』と変わらず過ごしている。
異空では基本的に、下位の物は上位の物に謙って、見過ごして貰える様に、気を遣っている。
上位の物の胸三寸で、下位の物は存在を抹消される為だ。
無能や平民は家畜以下、虫にも等しい命なのである。
それがエティーでは呑気に、他愛無い世間話をしたり、遊戯に興じたりしている。
日常の暇潰しと言えば、戦いしか知らなかったバニェスにとって、『遊戯<ゲーム>』の存在は、
興味深かった。
そもそも下位の物と対等に勝負すると言う概念が無かったのだ。
自らは傷付かない戦いとして、見込んだ下位の物に決闘をさせると言う物はあったが、
そこで下位の物に配慮する等と言う事は無く、死ぬまで戦わせた。
異空では命が軽い。
自らの命を他に継ぐと言う事もしない。
故に、何もせず無為に生き延びるより、上位の物に従い、戦ってRと言うのが、
常識として罷り通っていた。

59 :
勿論、それは全く無意味な事では無い。
異空の土地は有限で、高位の貴族でなければ、世界を維持出来ない。
所が、無能や平民は土地を埋め尽くす勢いで、次から次へと生まれる。
稀に高位の貴族が誕生して、新たな世界と土地を生み出すのだが、何時かは予測出来ないし、
必ず誕生すると決まっている訳でもない。
土地を預かる物は、無能や平民が余り多くなり過ぎない内に、処分する責任を負う。
では、エティーは如何にして、無能や平民を処分しているのだろうか?
バニェスはエティーに滞在していて、生み出される無能や平民が制限されている事に気付いた。
しかし、過去にバニェスが侵攻した時には、戦いに巻き込まれて、多数の無能や平民が、
消失した筈である。
予め、生み出される量を調節する様に、法が整備されているのだろうか?
……その法を管理している者は誰だろう?
現在のエティーの最上位貴族はサティだが、彼女には法に関わる権利が無い様だと、
バニェスは見切っていた。

60 :
何物かが、サティの存在を隠れ蓑に、裏でエティーを支えている。
恐らくは公爵か、侯爵級。
それが沈まぬエティーの秘密に違い無いと、バニェスは当たりを付けていた。
だが、何度気配を探しても、その様な物は無い。
地の底に、天の上に、エティーの隅々まで、確かに法の支配を感じるのだが、
そこまで強大な物ではない。
最近、メトルラがエティーに組み込まれたが、これとて維持には相当の能力を要する。
実は知られざるエティーの主とは、余りに強大な能力の持ち主で、エティーの外からでも、
世界を支え続けられるのではと、バニェスは途方も無い想像をした。
真相は全く別の所にあるのだが、マクナク公爵の下で生まれたバニェスには、
そうした「世界を支える唯一の絶対なる存在」しか、想像出来ないのだ。
いや、バニェスに限らず、異空の物の多くは、「世界を支える唯一の絶対なる存在」を尊奉している。
故に、それ以外の発想が出来ない。

61 :
そんなバニェスが、エティーの秘密に気付いた切っ掛けは、ある平民と準爵の戯れだった。
準爵は2人の平民に、共通魔法の「合唱」技術を教えていた。
エティーの魔法法則は、ファイセアルスに準じる。
……いや、元はファイセアルスの魔法法則こそが、エティーから齎された物なのだが、
詳細は置くとして、とにかくエティーでも共通魔法は有効だ。
平民は2人で協力して、準爵と『念力<サイコキネシス>』の押し合いをする。
それは丁度、1枚の板を隔てて、対面から互いに、押し付け合っている様だった。
初め、両者は均衡を保っていたが、徐々に準爵が圧され始める。
 「参った、参った」
老人の容姿をした準爵は、簡単に負けを認めて、降参した。
上級の物としての誇りは無いのかと、バニェスは不快に思うも、口を出さずに成り行きを見守る。
 「先生、本当に本気だった?」
どうも平民は加減されたのではないかと疑っている様で、上級の物を負かしたと言うのに、
今一つ晴れない顔をしている。
当然だろう。
下級の物が、上級の物を打ち負かす等、異空では有り得ない事だ。
 「ああ、本気だったとも。
  私独りでは、君達には敵わない。
  少なくとも、正面からの力押しではね」
準爵の言い分に、平民は気を良くした。
 「サティさんにも勝てるかな?」
 「調子に乗っては行かん。
  私は準爵相当にしては、弱い方だ。
  君達2人だけでは、伯爵級には遠く及ばない」
準爵に釘を刺され、2人は肩を落として、残念がる。

62 :
合唱技術を使えば、平民でも弱い準爵程度には勝てる。
その事実にも、バニェスは余り関心を示さなかった。
所詮は下級同士の戯れに過ぎない。
しかし、準爵は聞き捨てならない事を言う。
 「だが、何十、何百と力を合わせれば、子爵だって負かせる。
  何千、何万と力を合わせれば、伯爵とも戦える」
バニェスは目を剥いて驚いた。
それは強者絶対の理が支配する異空に於いては、「あってはならない事」だ。
エティーの物は、他世界に――異空全体の認識に、反逆する意思を持っているのだろうか?
力を合わせると言う「技術」を、バニェスは警戒する。
 「エティーは皆の支えで生きている。
  私達は弱い存在だが、一人一人が皆、エティーを支える命なのだ。
  それを忘れては行けないよ」
 「はーい」
平民は素直に、準爵に返事をして、去って行った。
そこで礑とバニェス伯爵は、自らがサティに敗北した瞬間を思い浮かべる。
 (あの時……)
果たして、自分は本当は何に負けたのだろうか?
バニェスは暫し思案した後、自ら準爵に話し掛けた。

63 :
 「そこの準爵!」
バニェスの声に、老人の姿をした準爵相当は、顔を顰める。
彼はバニェスを知っていた。
当然、過去にエティーを侵略しに来た事も。
バニェスが滞在している理由も聞き及んでいるし、今の所は害意も無いと理解しているが、
好い感情は持っていない。
 「私にはウェイルと言う名がある。
  ウェイル・ドレイグー・ジャイルだ。
  バニェス伯爵」
 「私を知っていながら、準爵如き下級貴族が――」
 「ここはエティーだ。
  『バニェス』、エティーの流儀に従って貰いたい」
揉め事を起こさない様にと、バニェスはエティーの最高貴族であるサティに、注意されている。
エティーに滞在する為、能力の大半を彼女に預けている今、『大伯爵』バニェスの能力は、
子爵級にまで落ちている。
――それでも子爵級はあるのだ。
準爵相当では相手にならない。

64 :
だが、ウェイル準爵相当は臆さない。
子爵級の能力にも、マクナク生まれの異貌にも。
バニェスは生意気な奴だと反感を覚えつつも、話を続ける。
 「ウェイル……と言う名なのだな。
  ドレイグー・ジャイルとは何かの称号か?」
サティに力を預けて良かったと、バニェスは己の判断の正しさを自賛する。
もし元の力を持っていたら、深く前後を考えず、大きな問題となる事は承知で、
この下級貴族を只では済まさなかっただろう。
 「私のフルネームだ。
  私が元居た世界では、その様に名乗っていた」
 「元居た世界?
  貴様はエティーの存在ではないのか?」
 「私は生まれはエティーだが、育った世界はファイセアルスと言う。
  エティーに似た世界だ」
よもや――と、バニェスはウェイル準爵相当に尋ねた。
 「ファイセアルスの支配者は誰だ?
  何物が法を管理している?」
ファイセアルスの支配者が、エティーに関与していると思ったのだ。

65 :
ウェイル準爵相当は、困った顔で応える。
 「……どの様な言い方が、適切だろうか?
  ファイセアルスには2つの法があるのだ。
  理法と魔法」
 「2つ?」
 「ファイセアルスは無限に広がる宇宙の一片。
  初めに『神<エルダート>』が在り、宇宙の全ての法を創った。
  それを私達は理法と呼んでいる。
  ……『呼んでいた』と言う方が正しいかな?」
無限に広がると聞いて、バニェスは確信を持つ。
やはりエティーには幾つもの空を支配する、強大な絶対者が潜んでいるのだ。
それはマクナク公爵に比肩する程だろうか?
それとも『貴族<アリストクラティア>』より更に上の、『皇帝<オートクラティア>』と呼ばれる物だろうか?
 「その後、宇宙の片隅のファイセアルスに、魔法が生まれた。
  魔法は神の法ではなく、『私達』が齎した法だ。
  魔法はファイセアルスの住民によって、維持されている」
所が、魔法の説明を受けて、バニェスは混乱する。
唯一絶対なる者の法ではなく、有象無象が維持する法とは一体?

66 :
バニェスは考察の末に、神が創った土地の上で、新たに住民が法を創ったのだと、理解した。
その程度は見過ごされているのだ。
管理主に権限を認められて、独自の法を創り出す。
異空でも、そうした事は間々ある。
或いは、ファイセアルスと言う世界は、強大な力を持ち、幾つもの世界を統べる神にとっては、
取るに足らない小世界なのかも知れない。
ファイセアルスで住民が何をしようと、自由なのだろう。
そうバニェスは理解した。
――何にせよ、重要な所は、そこではない。
理法や魔法が何だろうと、関係無い。
バニェスが知りたいのは、エティーを支配する物の正体だ。
 「貴様等エティーの物共は、その神とやらの庇護下にあるのか?」
もし、そうであれば、ウェイル準爵相当の強気にも説明が付くのだが……。
 「いや、エティーは『私達の』土地。
  神とは無関係だ」
 「では、エティーの支配者は誰だ?」
痺れを切らしたバニェスは、直接尋ねた。

67 :
ウェイル準爵相当は呆気に取られ、数度瞬きをした後、苦笑した。
 「誰も支配等していない」
 「では、この世界は誰に支えられているのだ?」
 「私達、エティーの住民によって」
 「嘘を言うな。
  少なくとも、今の貴様は違うだろう」
バニェスは語気を強めて威嚇した。
異空の物は嘘を嫌う。
下級の物が上級の物を謀る等、許し難い所業だ。
ウェイル準爵相当は再び苦笑する。
 「ここに在り、ここで生きている。
  それだけで世界を支えるには十分なのだ」
 「準爵如きに世界を支えられる訳が――」
 「無能でも何十、何百と力を合わせれば、平民に勝る。
  何千、何万と力を合わせれば、子爵にも並ぶ。
  何億と力を合わせれば、バニェス大伯爵……貴方とて。
  私達、皆が力を合わせれば、世界の維持は、そう難しい事ではない」
 「この私を侮辱する気か!」
バニェスは激昂したが、ウェイル準爵相当は小さく笑った。
 「事実の宣告が侮辱になると?」

68 :
バニェスの真っ赤な髪が逆立ち、肌の鱗が逆剥ける。
怒りの感情表現だ。
 「貴様は貴族の誇りを持たぬのか!?
  最下級とは言え、貴様も貴族だろう!
  下級の物に負かされて、恥とは思わぬのか?」
ウェイル準爵相当は浅い溜め息を吐く。
 「負けたから何だと?
  格上だの格下だの、詰まらない事を」
 「詰まらないだと!?
  それが絶対の世界に在って、詰まらないと切り捨てられる程、貴様は偉くなった積もりか!?」
 「エティーは違う。
  皆が集まれば、大きな力となる。
  それで世界が支えられるのなら、王も支配者も不要なのだ。
  解るか、バニェス?」
冷静な一言に、バニェスは大変な衝撃を受けた。
全身が震え、頭が真っ白になり、怒りを通り越して、声も出せない。
何と大逸れた思想だろう。
それは……とても清々しく、澄み切った感覚だった。

69 :
尋常ならざる精神状態で、バニェスは一瞬だけ良からぬ想像をした。
もしかしたら……――、もしかしたら、己も誰かと協力すれば、他の侯爵級も……そればかりか、
マクナク公爵をも倒せるのではないか?
 (……悪い冗談だ)
妄想は長続きせず、直ぐに正気に返る。
そんな事があってはならない。
第一、誰が協力等してくれると言うのだろう?
上級の物を倒すのに力を貸してくれと言われて、危険を承知で助けてくれる様な信頼関係は、
異空には無いのだ。
バニェスはコルタ準爵と言う従僕を抱えているが、これも力による上下関係に過ぎない。
バニェスを打ち負かす、より強い力を持つ物が現れたら、コルタ準爵は躊躇わず、
そちらに乗り換えるだろう。
 (エティーの物は違うのか……)
バニェスはエティーを少しだけ羨ましいと思った。
酷く退屈で詰まらない、だが、平和で穏やかなエティー。
青と緑の美しい世界。

70 :
バニェスは平常心を取り戻し、ウェイル準爵相当に尋ねた。
 「ウェイル準爵――」
 「呼び名に爵位は不要だ、バニェス。
  エティーに爵位は存在しない。
  私は準爵ではなく、準爵に相当する能力を持っているに過ぎない。
  貴方と私は……いや、貴方も私も、誰もが対等な一存在だ。
  少なくとも、このエティーでは」
 「では、ウェイル、貴様は不安にならないのか?
  誰もが対等と言う事は、貴様も下級の物と等しい存在と言う事だ。
  力による上下が数で覆されるなら、下級の物に反逆されるとは思わないのか?」
それは本心からの疑問だった。
ウェイル準爵相当は今度は笑わず、真面目に応える。
 「反逆に何の意味があろう。
  誰が虐げられている訳でもなく、誰が横暴勝手に振る舞っている訳でもない。
  それに、エティーは皆が支えている。
  誰が支配者になった所で、独りでは世界は支えられない。
  故に、我が儘は通らない」
その理屈にバニェスは感動するも、どうしても腑に落ちない部分があった。

71 :
バニェスは諄くも改めて尋ねる。
 「だが、どこにでも思慮の浅い愚か者は存在する。
  道理も弁えぬ物に、寝首を掻かれるとは思わないのか?」
 「……私とて独りではない。
  何物かが力を合わせて、私を打ち倒そうとするならば、私も誰かと力を合わせて、
  それを撃退する事が出来る」
 「『誰か』とは?
  貴様は従僕を持っていない様だが……」
 「誰とでも。
  エティーの殆どの物は、私と顔見知りだよ」
その顔見知りと言う概念が、バニェスには解らない。
 「見知っているから、何なのだ?
  必ず助けてくれるとでも?」
 「必ずとは言い切れないが、余程恨まれていない限りは、助けて貰えると思っている」
 「何故だ?」
 「それが『信頼<トラスト>』と言う物だ」
エティーの理屈は、バニェスには理解出来ない物だらけだ。

72 :
バニェスは無貌ながら、鱗を逆立てた儘で、髪を徐々に寝かせて行く。
これは不安や迷い、困惑の感情を表す。
思考は冷静だが、落ち着ける状態ではない。
 「信頼?」
 「一口に信頼と言っても色々だが、この場合は、『君が困った時には助けるから、
  私が困った時には助けて欲しい』と言う、暗黙の了解だ」
 「それなら理解出来るぞ。
  我々も信用と言う概念を持っている。
  一度交わした約束は違えない。
  だが、担保は必要無いのか?」
異空では他者との契約の証に、何かを担保する。
それが無ければ、契約は成立しない。
口約束は守られないのだ。
 「ああ」
 「何故だ?」
 「それが信頼と言う物だ」
バニェスは暫し思案して、ウェイル準爵相当に提案した。
 「では、私を『信頼』してくれないか?
  こうして会って話をしている時点で、私達は既に顔見知りの筈だ」

73 :
何の担保も要らず、約束が守られるのなら、これを利用しない手は無いと、
バニェスは思い付いたのだ。
ウェイル準爵相当は驚きと呆れの混じった顔で、こう告げる。
 「それは無理だ。
  貴方は未だ信頼に値しない。
  信頼とは時間を掛けて培う物だ」
 「……サティ・クゥワーヴァも同じ事を言っていた。
  だが、奴は名目上とは言え、エティーの管理者だ。
  義務や責任が付いて回る故に、軽々に相手を信用出来ないのは解る。
  貴様は違うだろう?」
 「何が言いたい?」
 「従僕でもない準爵が、伯爵の助力を得られると言うのは、破格の条件だぞ。
  貴様に損は無かろう」
バニェスは未だに階級の概念を捨てられないで居る。
侯爵級に迫ろうかと言う自身の能力と地位に、絶対の信頼と自信を置いているのだ。
ウェイル準爵相当は眉を顰める。
 「エティーでは無意味な事だ」
 「馬鹿を言うな!
  エティーだろうが何だろうが、どの世界でも、歴然たる力の差は存在する。
  誰にも無視する事は出来ない」

74 :
バニェスは声を荒げた後、静かに囁いた。
 「伯爵の後ろ盾を得れば、準爵相当の貴様も、子爵級に傅かずに済む。
  魅力的な条件だろう?」
 「エティーに階級は無いと言った。
  階級を盾に、横暴に振る舞う物は、このエティーには存在しない。
  縦しんば、そうした物が誕生したとしても、私達には抗う術がある」
 「『協力』するのか?」
バニェスは嘲笑する。
他に芸が無いのかと言わんばかりに。
 「大伯爵の貴方にとっては、私達等、取るに足らない存在だろう。
  その様に、力の強い物は傲慢になり、やがて力に呑まれ、溺れる。
  私達は徒に力を求めはしない」
ウェイル準爵相当の台詞は、バニェスには負け犬の遠吠え、弱者の強がりにしか聞こえない。
 「理解は出来ないが、理屈は分かった。
  貴様等、弱者にとっては都合の好い世界なのだろう。
  似合いだな」
良い世界だとは思うが、脆過ぎる。
これで公爵級や侯爵級を従えられるなら、話は別なのだが……。
今一つ惜しいと思うバニェスであった。

75 :
英雄譚

童話「運命の子」シリーズA 奇跡の者

『巨人退治<ジャイアントバスター>』編

それは夏の盛りも過ぎて、涼しい風が吹きはじめる頃でした。
西の国で火竜征伐を終えたばかりのクローテルは、再びアーク国の王様に呼び出されて、
命令を受けました。
 「クローテルよ、南の国との国境にあるエーファ山の頂には、巨人が住んでいるとのうわさがある。
  火竜を倒した実力が本物なら、これを退治して見せよ」
クローテルは不満を言わず、ただ黙々と王様の命令に従って、エーファ山に向かいます。
となりの国を降伏させ、盗賊団を全めつさせて、大火竜バルカンレギナをも征した、
勇士クローテルの人気は、王様をもしのぐほどでした。
貴族の中にもクローテルを認める者が現れはじめ、王様は大変な危機感をつのらせていました。
このままクローテルに対する国民の人気が高まれば、いつか王位を追われると危ぶんでいたのです。
もちろん、伝説の火竜を倒したクローテルですから、巨人をも倒してしまうかもしれません。
そこで王様はクローテルの付き人に、アズラという若い女の暗殺者を選びました。
旅の途中でクローテルを亡き者にしようと企てたのです。
 「どんな手段を用いてもかまわん。
  必ずクローテルを殺せ」
アズラは祈り子だと身分をいつわって、クローテルと共にエーファ山へ向かいます。

76 :
巨人のうわさは、あくまでうわさ。
本当に巨人がいるとは限りません。
道中は何事もなく、天気もおだやかで、クローテルとアズラの2人旅はピクニックのようでした。
アズラは世間話をして、クローテルの気をゆるめようとします。
 「クローテル様は、お年はおいくつですか?」
 「17です」
 「……ずいぶん、お若いのですね。
  てっきり成人なさっているかと」
クローテルが自分より5つも若かったので、アズラはおどろきました。
そして、まだ若い彼を哀れに思いましたが、命令を果たさなければ、自分が処刑されてしまいます。
山の中腹でアズラは切り立ったがけから、風景を見るようにクローテルにうながしました。
 「クローテル様、ごらんください。
  良いながめですよ」
 「ああ、本当だ」
クローテルが景色に見とれているすきに、アズラは彼を背中から突き飛ばして、
がけ下に落としました。

77 :
アズラはクローテルの生死を確認しようと、がけ下をのぞきこみましたが、
あまりに深いがけだったので、何も分かりませんでした。
普通なら、とても助かりそうにはありませんが、生死不明では困ります。
死体を見つけようと、アズラは道を引き返して、山を下りました。
ところが、数点後に彼女は山を登ってくるクローテルと再会します。
アズラは目を疑いました。
 「クローテル様、ご無事でしたか!」
動揺した彼女は、自分が突き落としたのに、クローテルを心配するふりをして、ごまかそうとします。
 「はい、この通り」
クローテルは体を動かして、元気だとアピールしました。
体どころか鎧や服にも、かすり傷一つ無く、どこか痛めたようにも見えません。
 「本当に大丈夫ですか?
  お怪我はありませんか?」
 「大丈夫です。
  さあ、行きましょう」
そればかりか、アズラを少しも追及しませんでした。
アズラは気味が悪くなりましたが、一緒にいれば必ず、また暗殺の機会が訪れると信じて、
黙ってクローテルに付いていきました。

78 :
途中で山小屋を発見したアズラは、恐る恐るクローテルに呼びかけます。
 「クローテル様、山登りをはじめて、しばらくになります。
  ここで少し休憩しませんか?
  お昼も近いことですし……」
 「いいえ、私は平気ですよ」
あっさり断られ、やっぱり警戒されているのではと、アズラは怪しみます。
それでも、クローテルが鈍いだけという可能性に賭けて、彼女は改めて言いました。
 「ごめんなさい、私が疲れているのです。
  どうか休ませてください」
クローテルは慌てて取り成しました。
 「あ、これは済みません、気づきませんでした。
  昼食がてらのお休みと参りましょう」
アズラの思惑通り、クローテルは山小屋に立ち寄ります。

79 :
アズラは山小屋で、毒入りのランチを用意しました。
味も見た目も変わりませんが、一口食べれば熊でも死んでしまう、猛毒です。
 「どうぞ、お召し上がりください」
アズラは何食わぬ顔で、毒入りのランチを差し出しました。
パンにも水にも、彼女が食べる分にも、全部毒が入っています。
毒の塗ってある部分を、ほんの少し口に含んだだけで、人間なら死んでしまいます。
ただし、アズラは食事前に予防薬を飲んでいます。
彼女だけは毒が効きません。
 「ありがとうございます。
  いただきます」
クローテルは丁寧にお礼を言って、パンに手をつけました。
 「おいしいですね」
アズラは予防薬のために、少しだけしかランチを食べませんでした。
 「クローテル様、遠慮なさらず。
  まだまだありますよ」
 「アズラさんは、もう良いのですか?」
 「はい、食が細いもので。
  私に構わず、お召し上がりください」
 「では、お言葉に甘えて……いただきます」
その分、クローテルはランチをたくさん食べてしまいました。

80 :
お昼を食べ終えた2人は、再び山頂へ向かって歩き出します。
いつ毒が効きはじめるかと、アズラはどきどきしながら、クローテルの後に付いていきました。
段々エーファ山の頂に近づいて、辺りにかすみがかかってきます。
その時でした。
急にクローテルがひざを突いて、うめき出したのです。
 「クローテル様、どうなさいました?
  お体の具合が悪いのですか?」
アズラが声をかけると、クローテルは首を横に振って強がります。
 「少し、目まいがしただけです」
やっと毒が効いたのかと、アズラは心の中で喜びました。
クローテルは何度も首を横に振って、ふらふら立ち上がります。
その足取りは、明らかに弱々しくなっていました。
もう少しで死ぬと、アズラは確信していました。

81 :
ところが、なかなかクローテルは倒れません。
アズラは今か今かと、その時を待っていましたが、ついに何事も無く、かすみの中を抜けました。
クローテルの足取りも、少しずつ力強さを取り戻しています。
どうやったらクローテルを殺せるのかと、アズラは困ってしまいました。
がけから突き落としても、毒を盛っても死ななかったのです。
クローテルは普通の人間ではないと、認めざるをえません。
彼女は巨人のうわさを信じていませんでしたが、もう巨人に殺してもらう他に無いと思っていました。
そんな時、クローテルが急に振り返って、アズラに尋ねます。
 「アズラさんは、祈り子さんなのに、歌わないのですか?」
 「な、何のことですか?」
 「聖歌です」
アズラは祈り子が歌うことを知りませんでした。
 「私は歌が下手なので……」
 「でも、祈り子さんは歌えないと――」
どんなに歌が下手でも、祈り子が歌わないことはありません。
歌えない祈り子は、歌えるようになるまでは、人前に出られないのです。

82 :
ここに来て、やっとクローテルは気づきました。
 「アズラさん、嘘をついていますね?
  あなたは祈り子じゃなかった。
  王様に言われて、私を見張っていたのでしょう」
それでも暗殺者とまでは考えられなくて、変に抑えた言い方になってしまいます。
アズラは呆れて、クローテルに正体を明かしました。
 「この期に及んで、気をつかっていただく必要はありません。
  本当は全部分かっているんでしょう?
  私は王様に、あなたを暗Rるように命令されました」
 「そうだったんですか?」
クローテルが間抜けな返事で答えると、アズラは怒り出します。
 「とぼけないでください!
  がけから突き落としても、毒を盛っても、あなたは死にませんでした。
  もう私に、あなたをRことはできません。
  私の任務は失敗です。
  お城に帰れば、処刑されるでしょう」
 「どうしてですか?」
なぜアズラが処刑されるのか、クローテルには分かりませんでした。

83 :
いら立ちを堪えて、アズラは説明します。
 「暗殺者は正体を知られては生きていけないのです」
 「どうしてですか?」
 「暗殺が仕事だからです」
 「でも、あなたは自分から暗殺者だと名乗りましたよ?」
アズラは眉間にしわを寄せて、理解してもらうのを諦めました。
 「もう何でも良いです。
  どうせ私は生きていられません」
投げやりなアズラに、クローテルは困った顔になりました。
 「そんなことを言わないで。
  あなたには巨人を倒した証人になってもらわないと……」
 「巨人なんて本当にいるわけないでしょう?
  王様のでたらめです。
  すべては、あなたを暗Rるための狂言です」
2人が言い合っていると、突然山の上から大きな岩が転がり落ちてきました。

84 :
クローテルは牛よりも大きな岩を、がっしり両手で受け止めます。
そして、踏ん張って持ち上げると、山の上に向かって投げ返しました。
アズラは目を丸くするだけで、何も言うことができませんでした。
 「アズラさん、巨人はいますよ」
雲に隠れた山の頂を見つめて、そうクローテルが言うので、アズラは恐ろしくなりました。
本当に巨人がいるかもしれないと、感じたのです。
 「……分かりました。
  あなたに付いていきます」
クローテルの中に神秘的なものを見たアズラは、彼に従うことにしました。
多くのアーク国の民がうわさするように、クローテルが神の子ではないかと、思いはじめたのです。
アズラは神というものを、あまり信じていませんでしたが、もし本当にエーファ山の頂に巨人がいて、
クローテルが巨人をも倒すほどの勇者なら、神がクローテルと共にあることを認めて、
信徒になると決めていました。

85 :
山頂に向かう道中、何度も大岩がクローテルたちを狙ったように落ちてきました。
その度にクローテルは岩を受け止めて、山の上に投げ返します。
恐ろしくなったアズラは、クローテルに尋ねました。
 「これは巨人が落としているのでしょうか?」
 「はい、そうです」
クローテルは「多分」とも、「おそらく」とも言わずに、はっきりと答えました。
もしかしたら、自然に落ちてきたとか、誰かアズラ以外の暗殺者が先回りしていたとか、
他にも可能性は考えられます。
クローテルはアズラには分からない、何かを見ていました。
山頂が見えるようになると、大岩は落ちてこなくなりましたが、クローテルの息は、
少しも上がっていませんでした。

86 :
エーファ山の頂に着いた2人は、人間の5倍もの大きさの、巨大な岩を見つけました。
しかし、よく観察すると、それは人型をしていることが分かります。
周りには大きな岩が転がっています。
これが巨人なのかと、アズラは息を呑みました。
姿は粗い石彫刻のよう。
岩のような肌には、青白い苔が生えています。
背中には千切られたような翼があり、もっと奇妙なことに、右腕が2本ありました。
アズラが立ちつくしていると、クローテルは平気な顔で近寄っていきました。
3本腕の巨人は、ゆっくり目を開けて、クローテルを睨み下ろします。
 「お前は何者なのだ?
  私が落とした岩を止めたばかりか、投げ返しおった」
低く重い声が、山中にこだましました。
 「私はクローテルという、アーク国の騎士です」
クローテルは物おじせずに、堂々と答えました。
アズラは後ろに下がって、岩の陰から巨人とクローテルのやりとりを見守りました。

87 :
巨人が声を出す度に、空気が震えます。
クローテルとは大人と子供……いいえ、赤子ほど大きさが違います。
 「ただの騎士ではないな?
  その力の秘密は何だ?」
 「知りません」
 「まあ、よい。
  それで何の用なのだ?」
 「王様に命令されて、あなたを倒しにきました」
それを聞いた巨人は、機嫌の悪そうな顔になりました。
 「なまいきな小僧め」
巨人は左腕を大きく振り上げると、テーブルより大きい手の平を、クローテルに叩きつけます。
普通の人なら、ぺしゃんこに潰れてしまうところですが、クローテルは受け止めました。
 「強さを得るため、邪法に手を染めたか……。
  おろかなり、人間」
巨人は腰を上げて、全体重をかけて、クローテルを押し潰そうとします。

88 :
ところが、クローテルはウェルクスの実(※)の様に、潰されることなく耐えました。
巨人は何度も力を入れますが、まったく効きません。
 「どういうことだ?
  邪法の波動を感じない……」
クローテルは動揺する巨人の手を片腕で支え、もう片手で剣を鞘から抜きます。
そして、全力で突き上げました。
 「ギャッ!!」
巨人は大地を揺らして痛がり、のけぞってクローテルを押さえつけていた手をどかします。
分厚い巨人の手の平には大穴が開いて、クローテルの剣は折れていました。
 「な、何だ、その力は!?
  痛い、大砲を食らうより痛い!」
大げさに痛がる巨人に、クローテルは剣を捨てて立ち向かいます。
素手で巨人のひざに渾身の一撃。
巨人は転げ回って、うずくまりました。
 「ひざの皿が割れる!?
  いかに邪法でも、こんな力を人間が持てるわけがない!
  お前は人間ではないな!?」
巨人を一方的にやっつけるクローテルを見て、アズラは確信しました。
やはりクローテルは神の子だと。

89 :
巨人は尚もクローテルに問いかけます。
 「お前は何者なのだ!?」
 「アーク国の騎士クローテル」
 「そんなことを聞いているのではない!」
クローテルは困った顔になりました。
 「誰もが私を人間ではないと言います。
  神の子、さもなくば悪魔の子だと。
  なぜですか?」
 「普通の人間は、素手で巨人に立ち向かいはしない」
巨人が答えると、クローテルは反論します。
 「私は力が強いだけです」
 「その『力』が人間には無いのだ」
クローテルは悲しそうな顔になりました。
 「力が強いだけで、人間ではなくなるのですか?」
 「お前が人間ではないことを証明してやろう」
そう言うと、巨人は巨体に似合わない素早さで、右腕を振るってクローテルを捕まえました。

90 :
巨人は怪力で、クローテルを握り締めます。
クローテルは必死に抵抗しましたが、さすがの彼でも抜け出すことはできません。
巨人は視線を上げて、岩陰に隠れているアズラをにらみました。
そして、もう1つの右手で、アズラを掴みました。
 「アズラさん!」
クローテルはアズラに呼びかけましたが、彼女は声を出すことができません。
 「クローテル、これが人間なのだ。
  私が軽く握っただけで、声も出せなくなる」
巨人が力を込めると、アズラは声にならない声を上げて、少しも動かなくなりました。
 「骨が折れたな。
  もろい。
  これが人間だ」
巨人はアズラを掴んでいた手を放して、彼女を地面に落としました。
 「もう助からないだろう。
  それに比べて、お前は……」
どれだけ巨人が力を込めても、クローテルは潰れません。

91 :
力だけでは、どうにもできないと悟った巨人は、古い呪文を唱えました。
 「コム・ヴェルセ・ポティ・イン・トー・フォルティ」
巨人の力は、さらに強くなって、クローテルを苦しめます。
 「ブルコーン、壊れろ」
ついにクローテルは巨人に握り潰されて、全身の骨が砕けました。
ため息をついた巨人は、クローテルを解放して、地面に落とします。
 「痛いか?」
巨人に問われても、クローテルは何も言えませんでした。
それでもクローテルは死にもしなければ、気を失いもしません。
 「少しずつ回復しているようだな」
巨人はクローテルの骨が自然に治りはじめていることを察しました。
巨人は屈みこんで、左の手の平をクローテルに見せます。
クローテルが開けた穴は、ふさがっていました。
 「普通の人間は、すぐには治らないのだ」
クローテルは仰向けのまま、黙って空を見上げました。

92 :
巨人は静かに、クローテルに語りかけます。
 「お前が何者なのか、分かってきたぞ。
  お前は私たちと同種の存在なのだな。
  お前のことを、人間が『神の子』と言うのは、あながち間違いではない」
 「同種……?」
 「姿形こそ人間と同じだが、その力は私たちと同じものだ」
とまどうクローテルに、巨人は昔話を聞かせました。
 「はるか昔、この宇宙が誕生する前のこと。
  古い宇宙には2つの人類があった。
  父なる神と母なる星の、長子である私たち巨人族と、次子である力なき小人族」
 「知っています……。
  創世神話ですね」
短い間に、クローテルは起き上がって話せるほどに、回復していました。
 「私たち巨人は、古い宇宙の巨人族の生き残りだ」
クローテルには自分が何者か、知りたい気持ちが生まれていました。

93 :
まだ巨人の話をうのみにできないクローテルは、巨人に反論します。
 「私は人間の父と母の間に生まれました。
  巨人とは違います」
 「お前のような者を何と言うか、私は知っているぞ。
  そう、ホリヨンだ。
  人でありながら、人ならざる力に目覚めた者」
巨人の言葉を、クローテルは大げさに否定しました。
 「私は伝説のホリヨンのような、絶対の力も、奇跡の力も持っていません。
  何より、ホリヨンは神託を受けるはずです。
  私は今まで、そんなものを受けた覚えはありません」
 「クローテルよ、お前の存在そのものが神託なのだ。
  神の子である私には分かる。
  私の巨人の目は、お前の中に確かな神意を見ている。
  ホリヨンは人の祈りを受けて、真の力を発揮する。
  お前がホリヨンの力を使うには、お前のために祈る者が必要だ」
 「ホリヨンは世が乱れた時、人々を救うために現れるはず……。
  それなのに、いつも私は自分だけ生き残ってきました。
  母の命と引き換えに生まれて、義理の父が死んだ時も、軍団が全めつした時も、
  実の父が死んだ時も――」
クローテルはアズラの死体に目を向けます。
 「そして、今も……。
  私がホリヨンなら、この力は何のためにあるのですか?」
それは本心からの悩みでした。
クローテルは強い力を持ちながら、進むべき道に迷っていました。

94 :
巨人はクローテルを諭します。
 「クローテルよ、お前の周りで不幸が起きるのは、それだけ世が乱れている証拠だ。
  不幸な目にあっているのは、お前だけではない。
  ただ王の命令を聞くのではなく、真に悩み苦しんでいる者のためにこそ、力を使うべきだ。
  やがて、お前も自らの内なる神意に気づき、ホリヨンの奇跡を起すようになるだろう」
クローテルは今一度、アズラの死体に目を向けました。
 「今は無理でしょうか……?」
 「やってみるがいい」
 「でも、どうすれば?」
 「ひたすらに、願う形を思え。
  他の方法は知らない」
巨人の言うことに従い、クローテルはアズラの死体を抱えて、彼女が生きている姿を思いました。
クローテルとアズラは白い炎に包まれていきます。
炎が収まった後、アズラは息を吹き返していました。

95 :
巨人はクローテルに改めて問いかけます。
 「まだ私を倒すつもりか?」
うつむいたクローテルは、小さくつぶやきました。
 「この力は悩み苦しんでいる者のために……」
 「そうだ、それがホリヨンの使命。
  クローテルよ、お前の存在は神の下にあることを忘れるな。
  私は今よりエーファ山を離れ、誰も近づけない場所へ移ろう。
  お前が何を成すのか、そこで見届ける。
  お前が真のホリヨンとして、世の中を良い方向へ導けるなら、私は人との関わりを断ち、
  永い眠りにつこう」
おもむろに立ち上がった巨人は、アーク国とは反対側へ山を下りていきました。
後にはクローテルと、気を失っているアズラだけが残されました。

96 :
クローテルはアズラを負って山を下り、途中の山小屋で、彼女が目を覚ますまで、
静かに待っていました。
気がついたアズラは、しばらく呆然としていましたが、やがて我に返って、クローテルに尋ねます。
 「巨人は?」
 「山を下りて、誰にも近づけない所へ行きました」
アズラはクローテルが巨人を倒したのだと思いました。
彼女には、もう1つ気になることがあります。
 「私は大けがをしていたはず……。
  どうして?」
 「私が必死に願ったので、治りました。
  なぜかは、私にも分かりません」
何も隠さず、クローテルは正直に答えました。
うそを言っているようにも思えないので、アズラは深く追究しませんでした。
ただ、神聖な奇跡が起こったのだということは、分かりました。

97 :
クローテルとアズラは、エーファ山を下りる前に、再び山頂に行きました。
雲の上は見晴らしが良く、青空が広がっている他に、そこには何もありませんでした。
 「全部、夢だったみたいです……」
そうアズラが言うと、クローテルは少し考えました。
 「夢だったことにしますか?」
 「いいえ、これを夢で終わらせてはなりません」
クローテルを見るアズラの目は、信仰者のものに変わっていました。
 「私は命をかけて、クローテル様こそ真の神の子と、王様に訴えましょう。
  それが暗殺者だった私の、せめてものつぐないです」
決意を口にするアズラを、クローテルはなだめます。
 「命をかける必要はありません。
  せっかく助かった命を、むだにしないでください。
  もう私のために人の命が失われるのを、見過ごすことはできません」
クローテルもアズラと同じく、新たな使命に目覚めていました。

98 :
運命の子シリーズ第二章「奇跡の者」は、8つの小編から成る。
故郷アルス伯爵領を襲った盗賊団を壊滅させる、『盗賊退治<マローダーズバスター>』編。
火山の噴火を食い止める為に大火竜バルカンレギナと戦う、『火竜退治<フレイムドラゴンバスター>』編。
エーファ山に住むと言う伝説の巨人を退治する、『巨人退治<ジャイアントバスター>』編。
小国の守護竜と対話する、『小さな守護竜<タイニー・ガーディアンドラゴン>』編。
氷海にて死闘の果てに魔竜を打ち倒す、『魔竜退治<ダークドラゴンバスター>』編。
聖君の神器と、その継承者を探す、『聖なる継承者達<ホーリー・ディセンダンツ>』編
邪悪な公爵の砦を攻略する、『悪魔退治<デモンバスター>』編。
そして、試練を乗り越えてアーク国の王となる、『王位禅譲<スローン・インヘリタンス>』編。
巨人退治編は、その題に反して、実際に巨人を退治していない。
腕力で負けた巨人は、魔法を使ってクローテルを圧倒し、その後は彼と対話して、
自ら身を引いている。
だが、巨人が向かった「誰も近付けない場所」は、死の暗喩とする見方もある。
以降のストーリーで、「エーファ山の巨人」が登場する事は無い。
巨人退治編以降のクローテルは、これまでの無知で無垢な装いとは打って変わって、
アーク国王に面従腹背の態度を取り始める。
その前の盗賊退治編から、彼に感情が芽生える兆しはあったが、巨人退治編から本格的に、
ホリヨンとしての意識を持ち、自らの意志で動いて、数々の奇跡を起こすようになる。

99 :
作中でクローテルが向かったエーファ山は、記録ではアーファ、アッハ、イファとも記されている、
推定海抜標高2区程の高山。
アークレスタルト法国の南の国境を成している山脈の、最も高い所を言う。
「巨人」が棲んでいるとされるが、巨人魔法使いとの関連は明らかでない。
巨人魔法使いは飽くまで、見た目は普通の人間で、『巨人魔法』を使っていたに過ぎない。
エーファ山の巨人が使った魔法と、巨人魔法との関連も不明。
よって、両者の関連は薄いと、現時点では考えられている。
作中、アーク国王は「噂」を理由にして巨人退治を命じたが、本気ではない旨が、
アズラより語られている。
建て前に過ぎなかったとしても、何故巨人を退治する必要があったのか?
そこには旧暦の大勢力に顕著な、全てを明らかにして、支配下に入らない物を排除する、
古い正義に由来する。
これは何も神聖魔法使いだけの物ではなく、魔法暦以降の魔導師会にも見られた姿勢で、
真実を求める働きに通じる。
エーファ山の頂に近付く者は事故死すると言われており、その主要因は落石で、
巨人の仕業とされていた。
だが、アーク国王の巨人退治命令は、旧暦の価値観を盾に下された物に過ぎず、
真の目的は人目に付かない高山での、クローテル暗殺にあった事は、言うまでも無い。

100 :
アズラが暗殺に用いた毒は、遅効性の物と推考されている。
原典では「神の子」クロトクウォースが普通の人間でない事は、既に周知の事実であり、
国王側は「怪物」クロトクウォースを如何に倒すかに腐心していた。
不死身のクロトクウォースを確実にRには、人間の致死量を大幅に超過した、
大量の毒物を摂取させる必要があると、予想されていた。
それを実行するには、遅効性の毒でなければならなかったと言う道理だ。
しかし、このアズラが優秀な暗殺者かと言うと、どうも怪しい。
常人ならば確実に死んでいたであろう、突き落としや毒殺の失敗は措くとしても、
祈り子の慣習を知らなかったり、簡単に正体を明かしたりと、隙が多い。
祈り子を騙り切れなかったのは、実態が一般には殆ど知られていなかった事もあるだろうが、
アズラは暗殺を生業としている、「業者」でない可能性が高い。
そもそもアークレスタルト法国内では、暗殺は重大な背教行為である。
国内で国民による暗殺事件が起きれば、「民に信仰心を持たせられていない」として、
王位が揺らぐ程だ。
この様な隙を外国勢力に嗅ぎ付けられるのを恐れて、「暗殺は国外で」が暗黙の了解。
更に、専門組織の手は借りず、個人的に暗殺者を育成して召し抱える。
故に、アズラの様な粗末な暗殺者が、誕生する物と思われる。
アズラの信仰心が薄い理由は、暗殺が禁じられている筈の神聖な国で、
位の高い貴族が暗殺者を抱えていると言う、矛盾からであろう。


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