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【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ3


1 :2016/04/08 〜 最終レス :2016/10/10
 ロールプレイ(=想像上のある役柄を演じる事)によりストーリーを進める一種のリレー小説です。
(スレッドタイトルにTRPGとありますが、ダイスを振る本来のテーブルトークRPGとは異なります)
文章表現にはこだわりません。台本風(台詞とト書きによるもの)も可。重要なのは臨場感……かと。
なな板時代の過去スレが存在しますが、ここは創作板。なりきるのはストーリー内のみとします。
プレイヤー(=PL)はここが全年齢対象板であることを意識してください。過度な残虐表現も控えること。

過去スレ
【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ
http://tamae.2ch.sc/test/read.cgi/charaneta2/1454123717/

【防衛】要塞を守りきれ!ファンタジーTRPGスレ2
http://tamae.2ch.sc/test/read.cgi/charaneta2/1457645564/

2 :
新規参入者はここで参加の意志を伝え、投下順の指示を受けてからプロフ(以下参照)とロールを投下して下さい。
基本的にレス順を守ること。
○日ルール(※)は3日とします。
※レス順が回ってから連絡なく○日経過した場合、次のレス番に投下権利が移行すること。
(その場合一時的にNPC(他PLが動かすキャラクター)扱いとなる事もあります)
挨拶、連絡、相談事は【 】でくくること。


名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
特技:
長所:
短所:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:


スレタイの通り、要塞を敵から守るという主旨のもと、ストーリーを展開していきます。
名無しの方の介入もありです。
第1部は完結済、第2部は進行中。以下、1部のあらすじを投下、2部を再現します。

3 :
【第1部あらすじ】

王国の辺境……深い森の中にひっそりと屹立するベスマ要塞。
かつて帝国との大戦において重要拠点であったこの要塞はいつしか廃棄され、今やならず者達の住処と化していた。
ベスマ要塞にはいくつかの噂があった。
秘宝が眠る、亡霊が彷徨う、秘密の地下研究錬に……黒い頭陀袋を被った正体不明の怪人が棲んでいる……
噂の一部は真実だった。怪人とは死者を操る屍術師であり、亡霊とは彼が作り出したアンデッドだったのだ。
ある嵐の夜、弓使いの少女が要塞に逃げ込んだ。
ここはならず者の巣窟、と彼女の身を案じた死術師は傀儡のスケルトンを介し明日には要塞を出るよう説得する。
そんな彼に好意を持った少女はすぐにでも会いたいと言い出す。彼女は名をイルマといった。
怪人は自らを賢者――ワイズマンと名乗った。
彼はイルマに一夜の安息を約束するが、ワーデルロー・ドゥガーチ率いる帝国の軍勢はすでに迫っていた。
ワイズマンは中庭で人形の制作に没頭していた人形使い(=クレイトン)とイルマとの3人で帝国軍に立ち向かう事を決意。
運悪く立ち寄った行商のエルフ(=シャドウ)を匿いつつ、戦いの火蓋は切って落とされた。
イルマの射的の腕は確かだった。火矢を用いた作戦も功を奏し、多くの重騎兵達を殺傷し敵に打撃を与える。
クレイトンの鉄人形もその巨体と腕力で敵兵を捌くが……多勢に無勢。人形は壊され、イルマは敵矢を受け倒れてしまう。
そんなイルマをシャドウが一蹴した。彼は帝国の密偵だったのだ。
彼は何故かイルマを治癒の魔法で回復させ、秘宝を求め地下研究棟へと向かっていった。
劣勢に傾いたと思われた要塞側だったが、ワイズマンの大魔術が形勢を一気に逆転させる。
巨大な魔法陣を天に具現、死者をゾンビと化して従え、さらに死体の集合体=レギオンを作り出し、敵を蹂躙したのだ。
指揮官のワーデルローは悪魔との契約によって魔に変化するも、イルマの矢に倒れ消滅、要塞側が勝利したかに思われた。
しかしシャドウは地下通路へ続く扉の封を解き、地下研究棟へ続く回廊にまで到達していた。
イルマはワイズマンを助けようと彼を追うが、疲れ果てた上に死霊にとりつかれ気を失ってしまう。
シャドウはイルマから死霊を取り払い、その上でワイズマンを研究棟から出てくるよう挑発。
それに応じたワイズマンはその正体を現した。その身を死そのものと化した強力無比のアンデッドだったのだ。
要塞に眠る秘宝も、最高の叡智と秘術を身に付けたワイズマン自身であった。
ワイズマンの容赦ない攻撃呪文に対し、シャドウも古代エルフの魔法を用いて応戦する。
両者の戦いは熾烈を極め、それを目の当たりにしたイルマは自分のせいだと自身を責める。
ついにイルマはワイズマンの最後の攻撃魔法(帝国軍をも一瞬で滅ぼす威力をもつ)の只中に身を投じ、その威力を相殺。
息絶えたイルマの気丈さに心を打たれたシャドウは自らの命を引き換えに蘇生の呪文を唱え、倒れるが……。
 時は流れ、帝国は崩壊した。ベスマ要塞は未だその姿を留めている。
ベスマ要塞にはいくつかの噂があった。
秘宝が眠る、亡霊が彷徨う、秘密の地下研究錬に、黒い頭陀袋を被った正体不明の怪人が棲んでいる。
そして……その怪人は美しい眠り姫を守っている、という――

4 :
名前: シャドウ・ヴェルハーレン
年齢: 310(外見は18歳前後)
性別: 男
身長: 185
体重: 85
種族:エルフ
職業:帝国皇帝直属の騎士だったが、現在は要塞を警護する門番
性格:計算高く疑り深い、敵には容赦しない
長所:話せば解る奴、かも知れない
短所:火炎系魔法は苦手
特技:上級魔法が使える
武器:短剣、鞭
防具:なし
所持品:魔法関連の薬草
容姿の特徴・風貌:金色の長髪を後ろで束ねる。額には五芒星の印。
簡単なキャラ解説:「この世の叡智=賢者」守るため、要塞上部で番人をしている。

5 :
肌を刺す氷のような感触に「彼」は思わず顔をしかめた。しかし手元が狂わぬよう‥ゆっくりと刃を頬に滑らせる。
『行商が来たら純銀製の剃刀を手に入れよう』
いつも思うのだが「ここ」には滅多に客は来ない。
この要塞にまつわる「噂」がそうさせているのだろうが、今の彼にとってはあまり重要な事では無かった。
要塞の最上階、「医務室」と呼ばれる場で生活する彼にとっては。

あの要塞の一夜からどれほどの時が経ったのだろう。
気がついたら「地下研究棟への扉」の前に倒れていた。
少女に蘇生術を施したその後に何が起こったのか‥知るは賢者のみだが‥彼は何も語らない。
兎にも角にも彼はここに存在し、それが意味するのは‥術が失敗したという事だ。「彼女」はもうこの世に居ない。
帝国が崩壊したという情報がもたらされたのはそのすぐ後のこと。
帰る場もないが追手の心配もない。それならいっそ居座ってしまおうか、そんな軽い気持ちでここに居る。

【亜人、客だ】

いきなり声をかけられ剃刀を落とした。頬にうっすらと赤い筋が走る。
人が入って来たのではない。魔法による伝令だ。
一体いつになったら名で呼んでくれるのだろうとため息をつく。ま‥‥ネズミか蠅、よりはマシか‥?

外套を羽織り中庭に出た。春の陽気が鼻をくすぐる。
外壁の向こう側に人が居る気配。むせかえる花の香りが邪魔をして‥人間なのかどうかすら解らない。
いっそ門を叩いてくれればいい、その方が対応しやすい。

6 :
エルフの旦那、銀のナイフは要らんかね?

7 :
名前:マキアーチャ
年齢:20
性別:女
身長:165
体重:50
種族:人間
職業:ハンター
性格:淡々としている、ツンデレ
長所:射撃の腕がまあまあ
短所:あまり頭で考える方ではない
特技:二本射ち
武器:ロングボウ、クロスボウ
防具:皮の胸当て
所持品:矢等
容姿の特徴・風貌:髪を三つ編みにした、細身のアーチャー
簡単なキャラ解説:平凡な冒険者生活に嫌気がさしている、女ハンター。
ここに来た目的:何も考えずに歩いていたらたまたま要塞にたどり着き、遺跡・廃墟マニアなので興味を持った。


私はマキアーチャだ。そこの男、お邪魔するぞ。
ところでここは何だ? あなたはここに住んでいるのか?

8 :
>6
姿の見えぬ客。その第一声に、門を押し開けようとした腕の動きが止まる。
こちらをエルフの男と言い当てたその力強い声音はドワーフのものだった。
ドワーフの5感は鋭敏だ。花の匂いに微かに混じるエルフの匂いを嗅ぎあてるとは流石‥と言おうか。
「エルフの旦那」は首を軽く振ると、門を開けた。ドワーフは信じられる。
少なくとも人間よりは。
はたしてそこには、およそ想像した通りの男が立っていた。
背丈はエルフの半分ほど、鍛冶職人を思わせる革服を身に付けたその男は、人の良さそうな赤ら顔をこちらに向けた。
手早く敷物を敷き、自慢の商品を並べ始める。

思わず唸った。
ドワーフの手による品の何と美しいことか。装飾もそうだが、その重厚さ、心に響くものがある。
鉄の品は無かった。おそらく相手がエルフと知り、あえてその場に出さないのだろう。
日用品は無いのかと尋ねると、お安いご用と云った風に荷を解き始める。
銀の皿にフォーク、スプーン、燭台に柄の長い剃刀。
ひと揃い選び、懐の薬草を手渡した。
明らかに不審の色を浮かべたドワーフに、
これはエルフの聖地にしか生えぬ貴重なもので、魔力と生命力を引き出す薬草だと説明すると、とたんに顔をほころばせた。

取引成立。
これでもう‥食事と身支度の度に嫌な思いをせずに済む。

9 :
>7
ふと見上げると、人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
ドワーフと入れ替わるように門の前で足を止め、じっとこちらを見つめるそれは‥人間の女だった。
イルマより歳は少し上だろうか‥などとつい思い、首を振る。
あらためて彼女を観察した。
彼の背丈とさほど変わらぬ長さの縦弓の他、横弓を装備している。
小娘の持つ弓よりいくらか上等な得物だ、と感心し‥‥ハッと我に返る。意図せず彼女と比べている自分に舌打ちする。
女はニコリともせず、マキアーチャと名乗った。警戒を少し緩める。名乗られたのなら名乗り返すのが礼儀だ。

「私はシャドウ(影)と呼ばれている」

君は・と言いかけるが矢継ぎ早に質問を浴びた。ここは何か、ここに住んで居るのかと。
彼女は彼は日用品を買うところを見ていたはずだ。つまり「何故住んでいるのか」と聞きたいのだろう、と勝手に解釈する。
ふう‥‥‥っと長いため息が出た。しばし思案し口を開く。

「ここは王国の領地内。つまりここは王国の要塞」
一陣の風が吹き、咲き誇る花の花弁を吹き散らした。額に降りかかる花を手の甲で振り払う。

「この額の印は帝国騎士の証。帝国の者が王国の要塞に居る。‥故にその疑問はもっともだが‥話せば長くなる」
外套が煽られ、彼の服装が露わになる。騎士とは言うが、鎧の類を一切つけず、長剣も帯かず。

「見ての通り、私はエルフ。故に魔法が使えるが‥案ずるな。行使時はこの印が光る」
今は光を帯びていない印に軽く触れる。

「こちらの問いにも答えてもらおう。ベスマ要塞。この名を聞いたことがあるか。その名にまつわる噂も」

獅子に似た金色の眼を細め、じっとマキアーチャを見つめた。
敵なのか否か、彼女の貌(かお)から読み取る事が出来ないでいる。

10 :
エルフの男に挨拶すると、シャドウ、と名乗られた。
ここは王国の領地内で要塞だという答えに、マキアーチャはほっとした。

「なるほど、そういうことか…
ベスマ要塞だと…?ここが!噂では地下に宝がある、ということぐらいだ。
どうせ王国が棄てたほどの要塞だ。もうとうの昔にそんなもの、無いんだろう」

シャドウに見つめられる。どうやら敵意はなさそうだ。
マキアーチャは、弓を下ろすと、その近くに腰掛けた。
「少しの間だ。弓の練習場にでもさせてもらおう。
大丈夫、気が済んだら帰るから。食料も心許ないんでね。
それにしても、この近くは甲冑やら武器やらの破片を多く見る。
この近くで少し前に戦争でもあったのか?」

11 :
驚いた。
ベスマ要塞の宝の噂を耳にしていながら、どうせ無いのだろうと一笑に付したのだ。
冒険者はたいがい宝という言葉に弱いものだが‥‥この女、ぶっきら棒だが邪気がない。
シャドウの視線から目を逸らし、外壁に立てかけた弓の傍らに腰かけたマキアーチャを眼で追う。
印象としては悪くない。さばさばとしていて言葉の澱みもない。
が‥かといって簡単に信用は出来ない。

>「少しの間だ。弓の練習場にでもさせてもらおう。
大丈夫、気が済んだら帰るから。食料も心許ないんでね。
それにしても、この近くは甲冑やら武器やらの破片を多く見る。
この近くで少し前に戦争でもあったのか?」

ああ、と答えて要塞の周辺を見渡した。多少草木に紛れているが、かつての戦いの跡は手つかずのままだった。
無論片づける気はさらさら無い。
骨が折れるという事以前に、鉄に触れたくなかった。焼けたそれを触った時と同じ衝撃を受けるからだ。
エルフ特有の‥一種のアレルギーなのだろう。実際に火傷を負う訳ではないが。

「かつての帝国がここに攻め入った。その数は‥これを見れば想像に難くないだろう」
半分土に埋もれた鉄製の剣を足で小突いた。錆びた破片が風で巻き上がる。

「それが‥‥一夜にして全滅した。ただの3名の手によってだ。信じられるか?」
瞼を閉じる。その時の様相がまざまざと浮かび‥たまらず目を開く。
何事も無かったように歩き出した。彼女の「得物」の方へ。

「素晴らしい長弓だ。確かにここは‥練習には持ってこいだな」
長弓の例に漏れず、その長さは彼女の背丈を超えている。材質は‥骨‥或いは象牙だろうか。
主に馬上で弓を引いていた彼は、この長さの弓を扱ったことが無かった。触れてみたい。何かを射ってみたい。

要塞を取り囲む森に目を向けた。陽は高いが、鬱蒼と茂る森の中は薄暗い。
鹿がいる、と直感的に感じ取る。
軽く指笛を鳴らす。
‥3頭がこちらに注意を向けている。距離は‥320フィート(約100m)。この弓なら届くだろう。

咄嗟に長弓と矢を取り上げた。彼女が取り返す暇も与えず、矢を放つ。
横合いの風を計算に入れたつもりが‥大きく逸れ、しかも飛距離が及ばなかった。
やれやれ、といった体で弓を返した。
おそらく怒るだろう。大事な得物を取られたのだ。殺されても文句は言えない所だ。

鹿の鋭い鳴き声。
まだ1頭、こちらを見ている。今がチャンス、とばかりに顎をしゃくった。

12 :
「かつての帝国がここに攻め入った。その数は‥これを見れば想像に難くないだろう」
半分土に埋もれた鉄製の剣を足で小突いた。錆びた破片が風で巻き上がる。
「それが‥‥一夜にして全滅した。ただの3名の手によってだ。信じられるか?」

シャドウからの説明が入る。
「なるほど。あちこちにあった白い粉のようなもの、その塊、人の骨ということか。
これは…相当の人数だな。三人で、などは不可能だろう。私は何度も戦場で撤退を経験している」

話している間にもシャドウが長弓について誉め、さらに勝手に手に取って外にいる鹿を狙い撃った。
こちらにはクロスボウがある。もしこちらを狙うなら先に撃つことなどは容易い。

外の鹿に矢を放って落胆するシャドウを見て、マキアーチャは僅かに笑った。
「あなたは見たところ弓使いではないようだな。エルフの割に、他の文化に精通し過ぎている」

「長弓の軌道は慣れていなければそれを読むのは難しい。ましてや動く動物ならな」
そう言うとマキアーチャはクロスボウを構え、クォレルを鹿に向けては発射した。
外れた、かに見えたが鹿の尻尾付近に一本が刺さっている。鹿は動きを封じられ、
他の仲間は少し離れた位置で遠巻きにしてそれを心配するように眺めている。

「このとおり、クロスボウの射線は直線。それも二本撃つことで的中率は上がる。
しかし裸の鹿を狙ってこの程度だ。これが鎧を着た人間なら相当の力と精密さが要るだろうな」

クロスボウを下ろし、窓から空を見上げた。雨が降っている。
どうやらこの晩はこの要塞で過ごすことになりそうだ。
「ついていないようだ。シャドウ、今夜はここに泊まらせてもらう。
…「死の賢者」とやらが出なければいいものだな」

13 :
>「三人で、などは不可能だろう。私は何度も戦場で撤退を経験している」

信じられぬのも無理はない。
だがあえてそれ以上の説明はしなかった。賢者の存在を知られたくは無い。

>「あなたは見たところ弓使いではないようだな。エルフの割に、他の文化に精通し過ぎている」

マキアーチャが微かに笑う。
人の失敗がそんなに面白いか、と睨み返すが‥ついつられて苦笑した。不思議な女だ。
彼女はクロスボウを構え、2本の矢を放った。そんな短い弓で飛距離が出るものだろうか‥?
予想に反した重い発射音とともに、矢の1本が鹿に命中する。思わず漏れる感嘆の口笛。

>「これが鎧を着た人間なら相当の力と精密さが要るだろうな」

「だろうな」などと他人事のように言っているが‥‥戦場を生き抜いてきた女だ。
実際に鎧を着た人間を射った事があるのだろう。「相当の力と精密さ」によって。
あれが自分に向けられていたらと思うと背筋が寒くなる。

鹿は後ろ脚をクタリと曲げ、その場に蹲った。致命傷ではないが森で生きていく事は出来まい。ならば。
懐から短剣を取り出し、木の鞘を抜いた。銀色に鈍く光る切っ先を鹿に向ける。

【風の御使い 荒ぶる御霊よ 諸刃の剣に纏いて我が意志に答えよ】

エルフ語のスペルと共に額の印が青白く輝いた。空を裂く音を立て、短剣はまっすぐに森に飛んで行く。
意志を持つかのように獲物の周囲を旋回、その首筋を斜めに深く切り裂いた。
血飛沫を上げ倒れる鹿に驚き、仲間の鹿が森の奥へ消えた。

走れば20秒たらずの距離を【転移】の魔法を使って移動した。
たった20秒が惜しかった。急がねば死体は他の肉食獣に奪われてしまう。
まだ唸りを上げ旋回する剣を横薙ぎに掴み、鹿の「あばら」周辺だけを切り取る。
風を纏わせた刃は切れ味が良く、血糊もつかない。
刀身を鞘に納める。パチンという音が心地良く響いた。この音は好きだ。事の終わりを告げる音だ。

鹿肉の包みを下げて戻ってくるまでこの間1分足らず。
‥ふと空を見上げる。額に降りかかる雨が数滴。嵐の訪れを告げる遠雷の音。

>「ついていないようだ。シャドウ、今夜はここに泊まらせてもらう。
>…「死の賢者」とやらが出なければいいものだな」

一瞬耳を疑った。泊る事なら問題ない。むしろ大変結構。しかしその後‥彼女は何と‥‥‥?

シャドウは無言でマキアーチャを要塞内部に招き入れた。地下への階段を降り、地下食料倉庫につき当たる。
レディーファースト、とばかりに開けた扉の横に立つ。

重い扉を後ろ手で閉めた。先を行く彼女の足が止まる。
暗闇の中スペルを紡ぐと、白々とした魔法の明かりがゆらりと二人の影を作りだした。
数百の人員を賄う食料倉庫はただの広さでは無い。天井は高く、ひしめき合う棚にはおびただしい食料が備蓄されている。
相当古いものの筈だが‥どれも痛んではいない。保存に関する魔法が施されているのかも知れない。
倉庫の一角のワインセラーに足を運ぶ。

「鹿肉のソテーに合うと思わないか?」
ヴィンテージものの赤を一本彼女に差し出し‥受け取ろうとした彼女の腕を掴んだ。
ゆっくりと、しかし強引に壁際に追い詰め‥‥耳元に口を近づける。

「ディナーの後‥‥二人きりで夜を明かそう」
低い‥吐息に近い声音で囁く。宮廷時代、これで落ちなかった女はいない。
「その最中(さなか)で聞かせてくれ。‥‥死の賢者とは何か‥‥君の本当の目的とは‥何か」

彼の眼に殺気の色が浮かんで消えたのを彼女が気づいたかどうか。これを挑発と受け取れば、ここで一戦交えることになる。

14 :
シャドウがスペルを唱えると、マキアーチャが弱らせた鹿に止めを刺した。

「あ…」
そこまでするつもりはなかったのだが、もう起こってしまったことは仕方が無い。

転移魔法らしきものを使い、気がつけばシャドウは鹿肉を持ってこちらに来ていた。
「そこまでしなくとも…まあ、感謝しよう」
腹が減っていたのは確かだ。礼が自然に出た。

シャドウは無言で地下へと来るよう促す。
「賢者」とやらが眠りを覚ますかもしれない。マキアーチャの足はゆっくりとシャドウとつけた。
しかし…

そこは食料庫のようだった。
>「鹿肉のソテーに合うと思わないか?」
マキアーチャにシャドウが迫り、耳元へと近づく。ドキリとしていくのが分かった。
>「ディナーの後‥‥二人きりで夜を明かそう」
「その最中(さなか)で聞かせてくれ。‥‥死の賢者とは何か‥‥君の本当の目的とは‥何か」

「あ…その、だな」
マキアーチャはすっかりとシャドウの仕草にうっとりとしていた。
一晩の間、男に守って貰えるのならば、それも悪くはない。元々そういう性格だ。
ワインを飲み、食事を口に入れながら久々に落ち着いた気分になっていた。
ただ、「死の賢者」というたまたま口から出た言葉にそこまで拘る理由については聞かないが。

マキアーチャがやがて、弓を置いた。
「良いだろう。共に夜を明かすことを…歓迎する。戦うつもりはない。一晩限りならな…
目的など初めからない。だが…「死の賢者」がここに居るという噂ぐらいなら知っている。これだけだ、さぁ、夜に感謝すればいい…」
食事を終え、体を横たえる。顔が紅潮し、脈が速くなっていた。

15 :
>「あ…その、だな」

意外にも、マキアーチャは抵抗しなかった。むしろうっとりと自分を見つめ‥その眼に敵意の色はない。
知らずに【魅了(チャーム)】のスペルでも使ってしまったのだろうかと疑うほどだ。
種族は違えど所詮は雄と雌。身体を求めあうは自然の摂理か‥
マキアーチャの顎に手をかけ、唇に自分のそれを重ね合わせようと近づき‥‥寸前で止めた。愉しみは後だ。

赤ワインを数本、食材をいくつか籠に取り、最上階の医務室に向かった。
続き部屋になっている厨房兼食堂のテーブルに籠を置く。手伝おうとするマキアーチャを手で制し、準備に取りかかる。
まずは‥‥暖炉の火を厨房の炉辺に移す事からだ。


ほどなくしてテーブルには宮廷料理と見紛う出来栄えの皿が並べられていた。
メインはもちろん獲りたてのジビエだ。ローストした鹿肉のオレンジソースかけ。骨付きの赤ワイン煮込み。
付け合わせは香草のサラダ、パセリを散らしたポタージュ。
デザートは中庭の百合根を使ったオリジナルのターキッシュ・ディライト(=トルコのロクムに相当)。
どれも皇帝付きのシェフ直伝だ。
初めて人間の料理を口にしたときの感動が忘れられず、頭を下げ頼み込み仕込んでもらった結果だ。
見事な細工の銀の燭台と食器がテーブルの料理を引き立てている。
あのドワーフに感謝しなければ、と胸で十字を切る。
「聖なる糧に大いなる喜びと感謝を」
ナイフを手に取った。彼女の口に合うといいのだが。

グラスを触れ合わす音。ナイフを入れる金属音。燭台の蝋燭の‥ゆらめく炎の音。
普段の食事ではあり得ない音の数々を彼は愉しんでいた。窓を打ちつける雨音までも二人を祝福しているように感じる。
ワインが1本、2本と空くにつれ‥二人の距離が狭まる。当たり障りのない会話。こんな夜もあっていい。

食事が済み、皿を水場に運ぶ。またしても手伝おうとするマキアーチャを止め、皿を四角い箱のようなものに押し込める。
【水魔法】を用いる食洗器だ。皿の数が多い時は便利だ。
額の五芒星から放たれる光が黄色に変わる。これが赤くなった時‥魔力は底をつく。今日は少々使いすぎた。


ゴトリ‥と弓を置く音。‥つまり、そういう事だ。
目的など初めから無い、という彼女の言葉は本当ならば‥友に夜の帳(とばり)に感謝するべきだ。
寝台に横たえる身体に蝋燭の明かりが艶めかしく映る。手首を掴み、優しく組み敷く.。ギシリ‥と寝台が軋む。
そっと唇を合わせた、その時。

【亜人、客だ】

――――――いいところで‥‥!!と言いかけて全身の力が抜けた。賢者の辞書に「気遣い」という言葉は無いのだろうか?
ぐっと壁の一角を睨みつつ寝台から離れた。長いため息が出る。
賢者の声は彼女にも届いている筈。だが説明は後になりそうだ。

「共に来るか?招かれざる客かも知れないが」
腰のベルトに鞭の束を差し込みながらマキアーチャを促した。

16 :
>>15
【思考が漏れ出ているぞ、亜人。
なぜ、このわたしが君の交尾の機会に配慮しなければならないのかね?

自身を以ってベスマ要塞の門番を任ずるなら、役目を何より優先して果たせ。
わたしは忙しい。わざわざ客の相手をする時間はない。

さあ、往きたまえ。敵ならば殲滅し、流れ者ならば適当にいなせ。
誰一人として、わたしの研究棟には近づけさせないように……】

地の底から響くような、低い声。
それは、要塞の遥か最下層に居を構える『死の賢者』のもの。
一夜の宿を望む娘には取り合わず、シャドウへ一方的に用件を告げると、それはほどなく絶えた。

【当PCのご愛顧ありがとうございます。楽しそうなのでちょっとお邪魔を。失礼致しました】

17 :
オーク、という種族がいる。
豚面の亜人種(デミ・ヒューマン)である。
古文書に曰く、その性、凶暴にして貪婪。怠惰にして狡猾。
略奪をもって是とし、姦淫をもって善とす。

かつては神代の時代に豚頭の魔王オルクスの眷属として武勇を揮ったとされるが、今やその面影は微塵もない。
森や渓谷、人里離れた迷宮など、どこにでも群れを作っては血の繋がりの濃い『氏族』を形成する。
氏族は一匹の『族長(チーフ)』を頂点とし、上意下達の一枚岩となってしばしば人里に下り、略奪行為を働く。
その文化程度は甚だ低く、精神的にも愚劣極まりないものであり、人間やエルフ等とは基本的に相容れない。
畢竟、国や地域を問わず討伐すべき対象とみなされている存在である。

そして。

「ブッヒヒ……ここがメグマ要塞かァ。なかなか立派なところじゃねェか」
「バカ、メグマ要塞じゃねエよ。ベクダ要塞だって、族長が言ってたろォ?」
「そうだったか?忘れちまったよ、ブヒヒヒ!」
「まあ、どっちでもいいやな!とにかく要塞の場所はわかったんだし!おい、族長にご報告だァ!」
「ブヒーッ!」
「ブヒヒ!」

今、ベスマ要塞は新たな侵略者を迎えようとしていた。

18 :
名前:オーク氏族『オド・オ・オボシュ』
年齢:まちまち
性別:全員男
身長:1m程度から2m越えまで様々
体重:総じて肥満
種族:オーク
職業:蛮族
性格:凶暴、強欲、性欲旺盛
長所:戦闘慣れしており、筋力ならびに防御力は人間やエルフを上回る
短所:基本バカである。魔法は知らない
特技:どんな種族の女でも妊娠させることが可能
武器:棍棒、錆びた剣、古びた槍など様々
防具:腰ミノ(基本裸)
所持品:特になし
容姿の特徴・風貌:豚面の亜人種。
簡単なキャラ解説:50匹程度で群れを形成しているオークの氏族
ここに来た目的:ベスマ要塞を新たな根城とし、近隣の町や村を襲おうと画策している

【よろしくお願い致します。なお、やられ役ですので勝つ気は微塵もありません】

19 :
「ん…」
シャドウの体がのしかかり、接吻が始まった。
男女のシルエットが一つになろうとしている。

しかし…
>【亜人、客だ】

どうやら妙な声が響いた、これが「死の賢者」だろうか?
マキアーチャは先ほどのことは成り行きに過ぎないので、シャドウに対して気を使ったが、

>「共に来るか?招かれざる客かも知れないが」

という言葉に即答し、向かった。
と、シャドウの足が止まる。何者かと会話をしているようだ。


「で?結局のところ、私は眠れないようだな」
不機嫌そうにマキアーチャが要塞の下を見下ろしながら言った。

どうもオークの一団がここベスマ要塞に近づいてきている。
オークというのは与しがたい相手だ。人間のように整然と攻めてはこない。
ましてやこの人数だ。かつてここに居たという伝説の戦士達のようにはいかないだろう。

既に門は閉めてある。
オークたちは草原や木のあるあたりをうろうろとしており、まだこちらを攻撃する様子はない。

マキアーチャはもしもの場合は撤退することも考え、このまま眠ることよりも撃退するという選択をした。
「シャドウ、とりあえず数発撃って様子を見る」

マキアーチャは射程の長い長弓を構え、一発を一番手前で見張りをするオークに向け放った。
しかし、その攻撃は風などで思い通りには飛ばない。オークのだいぶ手前で矢が落ちた。
やがてオークたちは仲間を呼び、矢の飛んできた方向を見た。
マキアーチャはそれに呼応し、矢を三本番え、近くの様子を見にきたオークたちに放った。

ギェェエ!という声が嫌でも要塞の屋上まで聞こえる。どうやらオークの一人の肩あたりに刺さったようで、
悲鳴を上げてのたうちまわっている。
オークたちが武器を構えはじめた。襲う算段だろう。
「シャドウ、やったぞ。ここは死の賢者とやらの加護があるんだろう?
とりあえずあいつらと一戦交えよう。無理そうだったら私は一人でも引き揚げる」

かくして、一斉に50匹程度のオークたちが要塞に近づいてきた。

【マキアーチャの宣戦布告により戦闘開始】

20 :
>「で?結局のところ、私は眠れないようだな」

食堂の窓から外をうかがうマキアーチャの声には苛立ちが混じっている。
文句はあちらさんに、といった風に外を眼で差し、肩をすくめて見せた。
客はオークの群れ。
知性は無い、と侮りがちだが中々どうして。
「街」を作らぬエルフに取っては厄介な相手だった。
騒ぎに駆けつけたあの時も‥尻から顎にかけて杭を穿たれた同胞の姿が今でも眼に焼き付いている。
男はR、女は犯してからR。人が戦場の狂気を借りて行う行為を当然のこととする連中だ。

「こっちへ」
屋上へは向かわず、マキアーチャを銃眼(=矢を射るための狭間)のある場所へと案内した。
見晴らしは相当悪いが、春を迎えたばかりの雨はまだ冷たい。体力を消耗するのは避けたい所だ。
この要塞に設えられた銃眼は縦に長く、長弓の射手には有利だ。反面、横弓であるクロスボウには不向きとされる。
マキアーチャが弓を引き絞り、第一矢を放つ。
案の上、暴風に煽られうまく飛ばない。が、すぐにコツを掴んだらしい。非人間的な動物の悲鳴が耳に届く。

>「シャドウ、やったぞ。ここは死の賢者とやらの加護があるんだろう?」

「‥加護?」
思わず問い返した。言われて見て初めて気づいた。自分はまだ「加護」を受けていない。
もうひとつ。魔力を消耗した今‥使える呪文は一度が限度。
「容易には門の扉は破れまい。しばしここを頼む」
そう言い残し、【転移】のスペルを唱え、その場から消えた。

21 :
移動先は賢者の住まう研究棟のひとつ手前、あの一夜の決戦が行われた回廊内。
座標を把握しているからこそ転移可能な場ではあるが‥‥来ていいと許された場でも無い。
こめかみに浮かんだ玉の汗が頬を滑る。手の震えが止まらない。言葉を発しようと口を開くが‥かすれ声すら出ない。
これが‥‥一夜にして身体に植えつけられた恐怖という名の呪縛。
膝を折り、両の腕を左右に広げた。深く息を吸い‥‥吐きだす。

「賢者よ!!崇高にして偉大なる我が主(あるじ)よ!!」

返事はない。回廊を漂う死霊の群れが、まるで主人の代わりを務めるかの如く引き攣った叫びを上げる。
「今一度その御姿を拝顔したく参上した非礼、お詫びいたします」
「未だ契約による加護を受けぬこの身、過分なる命を受けるに及ばぬ身なれば」
「その御身を以て我が額(ぬか)に契約の印(しるし)を授けたもう‥」

魔術のスペルにも似るシャドウの言葉は、略式ながら主との契約を結ぶ形式、儀式に乗っ取ったものだった。
いま額にある正五芒星は帝国の印、以前はこれを介して本国より魔力の供給を得ていたのだ。
だからこそ死霊を従えるという大技も使えた。
だが、失われた帝国はもはやその役を為さない。彼自身の魔力では到底門番の任など負える筈もない。
賢者と契約を結ぶことは、彼自身には必要なことだったのだ。

「賢者よ!ご返答を!!」哀願の叫びが虚しく響く。

「よもや‥こうお考えか!?この額にある‥帝国の印が邪魔だと!!?」
シャドウは短剣の鞘を抜いた。眉間に切っ先を当て、一息に額を薙ぐ。
両手の平を床につき、深く首(こうべ)を垂れた。ポタリ‥‥緋色の雫が白い大理石に新たな彩りを与える。

「帝国の犬は‥今ここに‥ただの犬となり果てて御座います‥」
彼はそのまま動かなかった。ひたすら賢者の返答を待つつもりである。


「我が真(まこと)の名はヴェルハルレン。主を裏切らぬ印なれば、お受け取りを」

22 :
>「こっちへ」

「こんなものが…あったとはな」
銃眼。こちらからの攻撃はきわめて容易だが、向こうからこちらを狙うのは至難をきわめる。
はっきり言ってたいした腕ではないが、矢もふんだんにあるようだ。

>「容易には門の扉は破れまい。しばしここを頼む」
そう言ってシャドウはその場を離れる。その瞬間マキアーチャの胸に不安がよぎった。

「さびしくなるな」
シャドウの背中にそう声をかけると、オークの軍勢に向き直る。

迫り来るオークに次々と長弓から矢を浴びせかける。
攻撃は外れが7割だが、速射と敵が殆ど飛び道具を持っていないこと、銃眼のおかげで
門に辿りつくまでに5、6人のオークを戦闘不能にし、10人程度を負傷させた。
長弓はボロボロになり、途中からはクロスボウを隙間から撃ち込んだ。
倒れたオークのうち何人が死んだかは不明だ。生命力のある生物だ。なかなか死ぬとも考えられない。

さて、残った40程度のオークが門に様々な武器をもって攻撃を仕掛ける。
その中には破壊槌もあった。近いうちに破られるだろう。

「くっ、どうしたらいい?」
そうは言っても一人では限度がある。撤退するか…
そこまで考え、屋上があることに気付いた。
クロスボウを持ち、屋上の門の真上の位置に陣取る。そこには大小の石が用意されていた。

石を転がしながら、破壊寸前の門を見、さらに周囲を見回す。もし進入されたらどちらから脱出しよう。
よく見ると先ほど上がった場所以外にも梯子が用意さえている。

マキアーチャは決して強くない腕力で必死に投石を続け、さらに数人のオークを頭から潰し戦闘不能にした。
しかし、その攻撃は同時に門の耐久度も減退させ、ついに門が大きな音を立てて外れる。

マキアーチャは攻撃をやめ、慌てて昇ってきた梯子まで言って一言叫ぶ。
「シャドウ! オークの進入を許した!! 早く援護を!!」

それだけ言うと、別の梯子まで走り、急いでそこから降りた。
どうか、オークと鉢合わせにならぬよう祈りながら…

23 :
「ブヒッ!?な、なんだ!?」
「矢だ!要塞から攻撃されてるぞオ!」
「この要塞は廃墟なんじゃなかったのかよゥ!?ブヒーッ!」

マキアーチャの示威行動に対し、斥候として要塞に近付いていた数匹のオークが喚く。
数発当たりはしたものの、殺傷可能射程の範囲外だ。致命傷には程遠い。
無抵抗とばかり思っていた要塞からの、思いもよらぬ先制攻撃。
オークたちはしばらくブーブー、ブヒブヒと鼻息荒く吼え立てたが、ほどなくそれぞれ武器を構えた。
――尤も、戦術や組織だった行動といったものは無い。そこまで上等な脳味噌など持たない生物である。

矢を警戒し、おっかなびっくりといった様子で要塞に接近しかけていたオークたちであったが、そのうちの一匹が不意に鼻をひくつかせる。

「どォした?」
「におう、ニオうぜえ……。こりゃ、メスのニオイだァ」
「……本当だ。メスのニオイだ。こりゃ、人間のメスのニオイじゃねエか。ブヒヒ、要塞にメスがいるのかァ?」

オークは聴覚と嗅覚が非常に発達しており、目よりもにおいで物事を把握する。
要塞に近付いたことで、マキアーチャの僅かな体臭を嗅ぎ当てたのだ。
それまで矢の洗礼にやや怯えていたオークたちは、俄然いきり立った。

「ブヒヒヒッ!メスは族長に献上だァ!さぞかし喜んでくださるだろォぜ!」
「バカ野郎!どこのメスとも知れねェメスを、いきなり族長に差し出しちゃヤベェだろォが!?」
「あぁ〜?ってことは……」
「まずは、俺たちで2〜3回毒見してからに決まってンだろォ!?ブヒヒヒヒッ!」
「ブヒーッ!俺が一番な!」
「オ、オデも、メズと犯りだぁぁい゛!」

下劣な連中である。また、清潔にするという習慣がないため、その身体は常に悪臭を纏っている。
オークどもが要塞に接近したなら、生臭いにおいがマキアーチャとシャドウの嗅覚を刺激するだろう。
具体的に言えばイカのにおいだ。栗の花でもよい。

余談だが、彼らの氏族名『オド・オ・オボシュ』はオーク語(九割がスラングである)で『半端なく臭い俺ら』を意味する。
褒め言葉である。

24 :
ベスマ要塞の隠された地下への入り口、その先にある螺旋階段を下った果て。
神殿のような静寂に包まれた地下回廊に、シャドウの声が響く。

>賢者よ!!崇高にして偉大なる我が主(あるじ)よ!!
>帝国の犬は‥今ここに‥ただの犬となり果てて御座います‥

哀願するその声が、回廊の高い天井に木霊する。
どれほど時間が経過しただろうか、薄暗い回廊のどこからか、不意にゆっくりと低い声が響いた。

「……君の主になった覚えはない。わたしが生者を好まないということ……知っていると思ったがね」

声はすれども、姿はない。シャドウの前方には、研究棟への扉を封印した七つの結界がほの白い光を放っている。

「わたしは本来、ここには存在しないことになっている者だ。いない者の力を当てにしてどうする?
地上のことは、地上で勝手にやればいい。わたしは、ここへ誰も近付いてほしくないだけだ。
そして、それは君も例外ではない」

>我が真(まこと)の名はヴェルハルレン。主を裏切らぬ印なれば、お受け取りを

「契約だと。主だと。わたしから平穏を奪い、あの子を奪い、そしてその上魔力まで吸い上げようというのか。
勘違いするな……わたしはまだ、君を許したわけではない。
わたしにとっては、君もまだ気を許すに足る存在ではない――それを忘れるな。
君が要塞から去らないから、スケルトン代わりに歩哨として使っているだけなのだ。君はあくまで、死体の代わりでしかない」

辛辣な言葉を投げかける。

「……そんなに、わたしと契約がしたいのか?わたしが何者か知った上で、そんなことを言っているのか?
死そのものであるわたしに対して。ならば――」

幾許かの静寂。少しの間を置くと、ワイズマンはシャドウの前に姿を見せぬまま、

「君が死体になったら、考えるよ」

と、言った。

25 :
「ブッ!ブヒッ!矢ァばっかり撃ってきやがってェ!」
「怯むな!門に取り付いちまえばこっちのもんだぜ、ブヒヒッ!」
「畜生、痛ェじゃねエか!あのメス、とっ捕まえて気が狂うまで犯してやるぜェェ!」
 
一旦女が絡むと、オークの士気は高い。食欲と性欲を原動力として動いているような連中である。
負傷によってオークの兵力は若干低下したが、それでも一旦ついた勢いは留まるところを知らない。
マキアーチャの矢雨を潜り抜け、降り注ぐ岩を避けて正門に到達する。
ここまでで落石を受け十数匹が負傷、または脳天に直撃を受けて死んだが、オークにとっては些細な出来事である。
オークは共食いさえ厭わない。死んだ時点でそれは仲間ではなく単なる肉塊であり、食料としか見なされなくなるのだ。

「破城槌の用意だ!」
「ブーッ!」

オークのひとりが叫ぶと、後続の数人が破城槌――という名の単なる丸太――を抱えてくる。
最初から要塞を攻略するという目的の元、用意されていたものだ。
その辺の木を伐っただけの丸太でも、あるだけマシというものであろう。オークの分際で準備がいい。

ドォォンッ!ドガァァァッ!

「ブーッ!」
「ブヒッ!ブヒヒッ!」
「ブッヒヒヒーッ!」

幾度かの破城槌による吶喊により、門を閉ざしていた閂がへし折れる。
オークたち20匹ほどが、野蛮な雄叫びをあげながらベスマ要塞になだれ込む。
まだマキアーチャとは鉢合わせしないだろうが、嗅覚の発達しているオークのことだ。遭遇するのは時間の問題だろう。
そうなれば、オークたちは寄ってたかってマキアーチャを辱めようとするに違いない。
オークにとっては、とにかく相手が女であれば何でもよいのである。
――なお、穴があれば男でもよしとするオークも相当数いる。

26 :
「……騒がしいな」

上層の戦いを水晶球で確認しながら、ワイズマンは呟いた。
シャドウはまだ、回廊でひれ伏しているのだろうか?そんなことをしても、何の意味もないというのに。

しかし。

「上にいるのは、射手の娘か……。ああ、人間の、射手の娘。なんと奇遇なことだろう。
あの子を思い出す。わたしのことを大好きと言ってくれた……わたしの大切なあの子に」

そう昔語りするように言うと、研究棟の一角に視線を向ける。
愛用の安楽椅子に座し、眠るように瞼を閉じた、年若い少女の亡骸へ。
まるで生きているかのような、その亡骸の髪に一度触れると、ワイズマンは小さく息を吐いた。
そして、短く詠唱を唱える。

「君に力を貸すわけではない。上にいる娘を死なせたくないだけだ。
いいかね……敵を完全に撃退しろ。そして、あの娘を護れ。絶対に死なせるな。
あの娘に、わたしの愛しい眠り姫の二の轍を踏ませてはならない」

そんな言葉と共に、シャドウの前に一枚の小さな護符が現れる。
特徴的なワイズマンの魔術紋様が描かれた、手のひら大の護符だ。

「それを丸めて飲み下せ。君に魔力を与えてくれるだろう。――だが、注意したまえ。
それは『生命力を魔力に変換する護符』だ。使い過ぎれば命にかかわる。
強力な魔法を使えば、それだけ体力の消耗も激しい。使い終わったらすぐ吐き出すがよかろう。
尤も、君が死のうがわたしには何の問題もないがね」

そんなことを言って、水晶球越しにシャドウを見る。

「いつまでわたしの聖域にいるつもりだ?さっさと出ていくがいい。
わたしは忙しいと言ったはずだ……この子を蘇らせる方法を探すのに、一分一秒でも無駄にしたくない。
話は以上だ」

水晶球の中の映像を消すと、ワイズマンは再び安楽椅子へと向き直った。
そして、穏やかな表情を浮かべている少女の亡骸に対して覆面越しに微笑むと、

「これで。良かったかね?……イルマ」

そう、寂しげな声で告げた。



返事は、ない。

27 :
……長い……時。

いつしか額から流れる血は止まり、大理石を染めた朱色の血がどす黒くその色を変える頃、ようやく返事は返ってきた。

>契約だと。主だと。わたしから平穏を奪い、あの子を奪い、そしてその上魔力まで吸い上げようというのか
>勘違いするな……わたしはまだ、君を許したわけではない

地を震わすようなワイズマンの声。言葉尻こそ柔らかいが、その実は冷たく素っ気ないものだった。
思わず顔を上げ眼を見開く。
「そんな……」
予想はしていた。一蹴される覚悟はあった。
だが一方で期待もしていたのだ。手前勝手とはいえ露払いをかって出た自分を、少しは認めてくれるのではないかと。
唇を噛みしめ、しかし彼はそこを動かなかった。どの道後がないのだ。魔力を持たぬ魔導師はネズミ一匹に劣る。
打算が彼をここに導いた。しかし彼は気づいていない。
秘宝すなわち最高の叡智を求めるが故に……いつしか賢者そのものを求める自分の気持ちに。
先に仕えていた帝国の王以上に……心から賢者を主としたい、そんな思いが実際に芽生えていた事を。
次なるワイズマンの言葉が、それを思い知らせることになる。

>君が死体になったら、考えるよ

「死体になったら……考える……?」
賢者の言葉をゆっくりと反芻する。血ではない何かが両の頬を伝い、床に落ちてピシャリと跳ねた。
手で頬をぬぐい、それが涙だと気づくのにしばらくかかった。
彼は今まで泣いたことがない。どういう時に人が泣くのか良く解らない。
「死体になったら……考える……」
震える手が床に転がる短剣を拾い上げた。切っ先を喉元に押し当て、力を込めるが……

キンッ!という冷たい音を立て、剣が石床に転がった。
はははは……
乾いた笑い。高い天井に描かれた紋様がじわりと滲む。
一体自分は何をしている……?
笑いは何時しか嗚咽に変わった。何故に笑う?何故に泣く?この感情は何なのだ?

―――――あああああああああああああああああああ!!!!!
声を限りに叫んだ。堰を切って溢れ出した感情は止まらなかった。
彼は純血のエルフ。すべての感情を胸の中に押し殺してきた300年。一度も味わったことのないこの感情。
これを表す言葉が見つからない。人間であれば、「切ない」と表現するであろうその言葉が。

28 :
≪ドォォンッ!ドガァァァッ!≫

門を破る振動を感じ取り、我に返った。
忘れていた。自分が死んだら……マキアーチャはどうなる?たった一人でオークの襲撃を受けている彼女は!?
その時。

>君に力を貸すわけではない。上にいる娘を死なせたくないだけだ
>いいかね……敵を完全に撃退しろ。そして、あの娘を護れ。絶対に死なせるな

ワイズマンの言葉と共に、眼前にヒラリと何かが舞った。
護符だった。覚えのある紋様が描かれているそれを、そっと手に取る。
「おお……」
感動で声が震える。力を貸さないといいつつ貸してくれるという……賢者は……ツンデレだろうか?
それで……これはどうすれば?

>わたしの愛しい眠り姫の二の轍を踏ませてはならない

「え?」
ワイズマンの続けた言葉はシャドウに2度目の衝撃を与えた。研究棟のあるであろう結界の向こう側を見つめる。
イルマ……?……まさか……そこに居るのか……?
蘇生術は失敗した。自分が生きているからイルマが生きていないのは確実だ。
だが……半永久的に身体を保存する効力だけが……残されたとしたら……だから……眠っている……そうなのか?
ずっと今まで……一緒に居たのか……?賢者と……一緒に……?
嫉妬の炎がジリリと胸を焦がしたが、それがどちらに向けられるものか良く解らない。
そんなこんなでシャドウはワイズマンの話をほとんど聞いていなかった。
『丸めて飲み下せ』としか。

「ご厚情……有難く頂戴いたします」
言われた通り、護符を手に握りつぶり、一息に飲みこんだ。

――――――――――――――――――バヂ!!!!!

弾かれるように床に転がった。
あまりの激痛に声も出せずのたうち回る。身体からはゆらりと紫煙が立ち上り、食い縛る歯の間から鮮血が迸った。
それは身体の表と裏が逆転するかのような得体の知れない苦痛だった。
額にはうっすらと……やがてくっきりと賢者の魔紋が浮かぶ。
徐々に苦痛は去り、ようやく呼吸が落ち着いた彼は顔を上げた。
ほどけた髪を後ろに払い、ゆっくりと立ちあがった。身体が軽い。
『出ていくがいい』という賢者の言葉に一礼すると、一瞬でその場から退出した。

29 :
シャドウが出現したのは丁度マキアーチャが梯子を降りた、そのすぐ傍だった。
彼女の手にクロスボウがあるのを確認し、声をかける。
「援護を!」
門の方からは歓声を上げて向かい来るオーク達。逃げても仕方がない。ここで向かい討つ。
オーク達の姿が視界に入る。
不意に腹の底から沸き上がる魔力。身体中に漲(みなぎ)るこの力。これが……‘賢者’の力……!!
先頭の2匹がこちらに向かってきたが、彼女の援護がある。構わず彼等に向かって右手を伸ばす。

【天地(あめつち)の精霊よ 我が力の源(みなもと)を拠り所とし  大いなる雷(いかずち)を召喚せん】

おそらく火炎球の次にポピュラーな攻撃呪文、雷撃。
以前の彼なら出せる雷は1本。詠唱を延長したとしても2本。
雷鳴と共に出現したのは光の壁(カーテン)。いや、壁を思わせるほどの雷光の束だった。
雷光は外壁を内張りする陣形を取り地に降りると、20匹のオークを一瞬で灰塵と化した。
ついでに城壁を取り囲む外壁も木端微塵となる。

「!!?」
もっと力を抑える必要があると思ったその時、視界がぐらりと揺れた。魔力の消耗ではない、生命力の消費によるものだ。
賢者の言葉をまともに聞いていなかった彼は、魔力の源が自身の生命力であることを理解していない。
一方、仲間の死にオーク達は怯まない。残り10数匹が咆哮と共にこちらに向かってくる。

【雷(いかずち)よ!!】

呪文詠唱を最小限にとどめて放つ。2本の雷撃が8匹を消し炭に変える、残り5匹!
いきなり眼の前がブラックアウトした。冷たい土に手のひらが触れる感覚。
マキアーチャの手持ちの矢はあと何本か。確認したいがうまく口を利く事が出来ない。
5匹のオークがこちらに向かって来る気配。
その中に1匹、オークにしては知性を思わせる口ぶりの者が居る。何かしら指示を送り、それに呼応する声。
腕を掴まれた。振り払おうとしても身体が言う事を聞かない。鞭を取り上げられ手足に巻かれた。

『何をする気だ、何故殺さない!?』
必死で叫ぶが猿ぐつわを咬まされ獣のような声しか出ない。呪文を封じる気だ。オークの分際で頭が回る。
手足を一緒くたに棒のようなものに括る、通称「タヌキ縛り」にて担がれた。
彼女は?マキアーチャはどうなってる!?
首を巡らすと、棍棒で脅され、先を行くのがかろうじて見えた。縛られてはいない。向かっているのは地下のようだ。
なんとも情けない格好のまま、しかし思考を働かせ合点がいく。
彼等を突き動かす本能の一つ「食欲」が彼女を食料倉庫へと案内させているのだと。

30 :
>>1
さすがベテラン!
復興に向けての一歩だな
乙!

31 :
「はぁ…はぁ…ぐぅっ…やはり、ただでは済まなかったか…」

キーンタプと名乗る、オークの族長…シャーマンが彼らの統率を取っていたらしい。
シャドウの奮戦により残り5匹まで減らすも、寸でのところでシャドウを幻影術のようなもので倒され、
マキアーチャは弓も壊れ止むを得ず棍棒で脅され、地下の食料庫へと案内されたのだ。

そこで5匹のオークは気絶したらしきシャドウを縛り、マキアーチャに食料を用意させた。
用意した食料は人間用にして50人分はあったはずだ。
しかし、それだけの大量の食料を用意したのが、仇となったのだ。

食欲を満たした彼らは、まず一人がマキアーチャに突然襲い掛かった。
「まずは、俺たちで2〜3回毒見してからに決まってンだろォ!?ブヒヒヒヒッ!」
「ブヒーッ!俺が一番な!」
「オ、オデも、メズと犯りだぁぁい゛!」

一人が上に圧し掛かろうとすると、次々と残りのオークもその後に続く。
キーンタプも止めようともしない。そこで一番前にいたオークの一匹がその舌でマキアーチャの体を嘗め回したところ、
思い切り傍にあった矢尻で突いてやった。

「うがあぁああああ!!!このメス!!!ゴロスゴロスゥゥ!!」
オークは舌から大量の血を撒き散らし、のたうち回りながら他のオークに呼びかけた。
そうなるともはやオークは手の付け所がない。あっという間に脱がされ、両手を縛られ、
気絶したシャドウと食料を未だに頬張るキーンタプの前で三匹のオークに代わる代わる犯された。

オークはまさに怪物だ。食欲もさることながら、性欲も留まるところを知らない。
―――

「ぐぁっ、くっ、もう…殺してくれ…頼む…ッ!」
既に三匹のオークの慰み者として一巡りしている。
ただ気持ち悪さと恐怖と痛みから逃れようと、マキアーチャは叫んだ。
もしかしたらシャドウがこれで目を覚ますかもしれないし、オークの族長の気が変わるかもしれないことにも賭けていたが、
あまりの恥辱と苦痛にオークにそう懇願する他なかった。

マキアーチャの苦痛の声がベスマ要塞の地下へと響きわたった。

32 :
何これ
ここ全年齢板だよね?気持ち悪い

33 :
夢落ちで

34 :
全く問題なし
むしろそういう表現はシャドウが多用してる

てかシャドウの書き込みだとしたらだが
その対応力のなさでよく10年プレーしてきたなと思うが

35 :
ここのシャドウってやつ
絶望的にTRPGに向かない
思い通りにならないとキレるやばいやつ

36 :
>33
気が付くと馬上に居た。
疲れて眠ってしまったのだろうか……?
既に陽は落ちている。湿った土の匂い。遥か彼方から迫る軍勢の気配。ワーデルローの叫ぶ声が混じる。
人形使いの男がこちらに駆けてくる。身構えようと手綱を引き絞り……しかし男は踵を返し戻っていった。

≪望めば戻れる≫

何処からともなく響く声とともに、景色は変わった。
要塞の屋上にてうつ伏せに倒れる少女。燃える大木が赤々と彼女を照らす。
少女の身体から流れる血が雨水と共に足元に届く。駆け寄り……手を当てる。息はない。

≪分岐点はあまた存在する≫

再び場面が変わる。イルマが自分の腕に縋りついている。必死に何かを訴える燃えるような眼差し。

≪戻るか否か≫

声に問われ眼を閉じる。戻れるものなら戻りたい。いっそ……森で死と向かい合った……あの時に。
そう願った時、草の上に横たわっていた。
眼の前に揺れる白い花を手にとるが、感覚はすでにない。胸にあいた穴も裂かれた手足の傷の痛みも何も感じない。
薄れる意識。誰とも出会わず、何も感じず、ただ一人のエルフとして……森に還る。これ以上の幸せがあるだろうか。
……しかし……本当にそうだろうか?

過ぎ去った筈のシーンが浮かんでは消える。
賢者の護符。眠れる少女。銀の職台に揺れる炎。ワイングラスの触れ合う音。弓矢を手に笑うマキアーチャ。
これをすべて……無かった事にするだと……?――――――――――――莫迦な!

37 :
マキアーチャの声が耳に届いた。
食糧倉庫の冷たい床を背に感じる。果物と焼けた肉の匂いが鼻をつき……そして得も言われぬ悪臭。
『オーク……!』
眼を開く。マキアーチャがオーク達の足元にぐったりと横たわっているのが見えた。
口から血を流したオークがマキアーチャめがけ棍棒を振り上げるが、制止の声がかかる。

声のした方向に眼を向けると、族長と思しきオークが安座していた。
まだ肉のついている骨を後ろに放り、立ち上がったその背丈は……7フィート(2m強)はあるだろうか。
オークにしてはまともな顔つき、堂々とした態度、手下どもとは明らかに格が違う。
筋肉質な身体の至る所に赤い線が無数に刻まれ、何かの刻印を象(かたど)っている。その形には覚えがあった。
『……キーンタプ』

奴の群れに襲われたエルフの数は三桁。人間の被害は……桁が二つ多いに違いない。
強さは無論、頭が良く狡猾でなかなか討伐隊の手に負えぬと聞く。
ギロリとオーク達を睨み、魔狼のような唸りを上げてマキアーチャに向かっていく。
非常にまずい状況だ。
4匹のオーク達は、ブヒブヒ云いながらこちらに向かってくる。
手首をねじり揺すってみたが、結わえつけられた木の棒がカラカラ音をたてただけだ。
気を失っていたせいか魔力だけは充分だった。あとは呪文さえ……と猿轡を噛んでみるが歯が立たない。
二人がかりで持ち上げられ、壁に叩きつけられた。
背骨が軋んだ音を立て、一瞬間息が止まる。棒が真二つに折れ、幸い足だけは自由になった。
馬乗りになろうとしたオークを反動をつけて蹴りあげる。
すかさず後ろから羽交い絞めにされるが、頭突きで回避。横合いからの蹴りを縛られたままの両腕で捉え、投げ返す。
はずみで両腕の戒めが解ける。
棍棒をつかむオークの手首を狙い蹴り飛ばすと、運よく棍棒が隣のオークの頭を直撃する。まずは1匹。
頭突きされたオークが仕返し、とばかりに正面から頭を打ち付けてきた。
すばやく回り込み、頭突きの勢いに自分の体重をのせる。たまたま後ろにいたオークの頭を直撃。残り1匹。
口を塞いでいた皮布を外し、呼吸を整え呪文を唱えようとした、その時。

「グワウゥゥ……」
キーンタプが唸り声を発した。怯えたように眼前のオークが硬直する。
地響きに似た音をたててやってきた族長は、仲間の頭を掴むとその指に力を込めた。骨が潰れる嫌な音。
骨付き肉を放るのと大した変わらぬ動作でそれを放る。散乱した皿が割れ、鶏骨の残骸が飛び散った。
黒い舌先が分厚い唇をベロリと舐める。

「エルフは打たれよわい。体力も無い。取り柄はその……見てくれだけ」

耳を疑った。その言葉は生前の陛下の言葉、そのままだった。何故……奴が……?

ヴクククと笑いながら灰色の牙を覗かせる。
「死ぬ間際にうわ言のように呟いていた。人間の王と言うから肉もさぞかし旨いかと思えば……エルフの方がまだマシだ」

怒りで我を忘れた。相手の首に足を回すようにして飛び乗った。左腕で眼を塞ぎ、脳天に短剣を……!
と思えば……ない!そういえば回廊に……!?
「くっ……!!」
足で首を挟んだまま弓なりになる。一回転して敵を床に叩きつけるつもりが、敵もさるもの。
無理に体勢を戻そうとせず、逆に後ろの壁に突っ込んだ。あわてて飛び下りるが、降りた瞬間の足を払われる。
転倒しながら相手の足を取り、固めようとして逆に固められた。膝の関節が軋む。
敵の膝に肘をうちつけ、怯んだところを身体を捻って外しざまに、顎を蹴りあげた。

ガッ!!

派手な音の割に……効いていないらしい。ニヤリと笑い、その足を取る。力任せに振り回され、床に叩きつけられた。
首を前に倒したため頭の強打は免れたが……身体の方がいってしまって仰向けのまま動けない。
首を掴まれ宙釣りにされた。

遠くなりかける意識を必死に引き留め……考える。どうすれば……勝てる……?
そう思った時、横で何かが動いた。

38 :
終了

39 :
なぜだ

40 :
坊や(Bowyer)だからさ…

41 :
>>39-40
面白くない
-114514点

42 :
君たち、くっついちゃいなYO

43 :
―――――――――ガアアアアアアアア!!!!!!!

突然の咆哮。キーンタプが首を掴む嘗を放したため、床に投げ出された。
何事かと咳き込みつつ顔を上げると、さっき倒したはずのオーク達が族長の足に齧りついているのが見える。
灰色に濁る眼、ダラリと垂れた青黒い舌。
生ける屍(ゾンビ)だとすぐにわかった。見るに見かねた賢者が手を貸してくれたのだろうか。
とにかくこの機会を逃す手はない。

「マキアーチャ!!」
倉庫の隅で半裸のまま蹲るマキアーチャに駆けよった。肩を揺さぶるが、返事がない。
ほどけた髪、焦点の定まらぬ虚ろな眼差し。何事か呟いているが良く聞き取れない。
オークに何をされたのか、大体の察しはついた。こんな時、いったい何をどうすれば慰めになるのだろう……?
「……だいじょうぶ……か?」
傍らに落ちていた上着を着せながら、一応聞いてみる。
コクンと頷くが、そんなはずはない。
「いいか、あれは犬だ。野良犬に噛まれたと思えば何てことはない」
彼女の瞳にかすかな生気が宿る。ギュッと口の端を引き締めたと思ったら、いきなり頬を張られた。

「おそいぞ馬鹿!!!!」
「馬鹿バカ莫迦ばか馬鹿莫迦バカ莫迦!!!馬鹿ああああああ!!!!!!」

ずっと行き場のない怒りと戦っていたのだろう。
「……いいパンチだ」
殴るだけ殴って気が済んだのか、その場にペタンとすわり込む。
族長がゾンビ達を引きずりながらこちらに向かってくる。彼女の手を引いて立ち上がらせた。
「走れるか?」
マキアーチャが僅かに顔を赤らめ、パっと手を放した。
「……当たり前だ!子供じゃないぞ!?」
叫びながら先に立って上への階段を駆け上がる。急いで後に続いた。壁に掛かった長弓と矢を彼女に手渡しながら。

44 :
雨はだいぶ小降りになっていた。広い中庭に出ると、隅に見慣れたテントと見慣れた鉄人形が眼に止まる。
あの男はこの騒ぎに気づいていないのか、静観を決め込んでいるのか。……まあ……互いに不干渉なのはいつもの事だが。
中央の水時計を挟んで反対側、かつて外壁のあった場のすぐ傍には、ドュガーチ家の紋が刻まれた剣が突きたっている。
奴の墓代わりに立てたものだが……さすがに名家の剣。未だに錆びず、銀の刀身が雨に濡れギラリと光った。
奴は……どんな心境でこの様子を見ているのか。


族長が出口からその姿を現した。
身体を染める夥(おびただ)しいオークの血。何やら咀嚼する口からも紫色の血が溢れ出している。
まさか……ゾンビと化した仲間の肉を……?
身体が一回り、いやふた回りも大きくなっているようだ。

―――――ガアアアアァァアアアアアアアア!!!!!!!

再び族長が吠えた。同時にマキアーチャが矢を放つが、届く寸前で掴みとられる。
急ぎ召喚した雷撃も、再び発せられた族長の恫喝に消滅する。
【氷の鎚よ!】【風の刃よ!】【土蜘蛛よ!】
試しに凍気と風の精霊魔法も試してみるが、すべて同じ結果となった。
こんな力があるのだろうか……?賢者の手によるアンデッドを喰らったからだろうか……?
矢も魔法も通じず、肉弾戦で勝てるはずも無い。絶体絶命か……?しかしふと……思い立つ。

再度風の刃を召喚した。右手の先に生じた白刃を軽く……横に振る。
族長が吠える。刃はあさっての方角に飛び、隅に鎮座するテントを切り裂いた。
「う…うわああああああああああああああああああああ!!」
中から男が飛び出してきた。クレイトンだ。
巨大な鉄人形に興味を持ったのか、族長がクレイトンのテントに向かって歩き始める。
「何してんだおめえ!!」
クレイトンがこちらに向かって何事か叫んでいるが、知ったことではない。知らぬ振りする方が悪い。
「……ゴーレム……。魔力で動くものナド戦力になるモノか……」
キーンタプは知らない。
クレイトンの人形の動力が魔力では無いことを。しかも当時より数段パワーアップしている……に違いない。

45 :
「これでもくらえやおらぁああああああああああ!!」
「グルアアアアアアアア!!!!!!」

人形が鉄の腕を振り上げ、下ろした。
動きを止めぬ人形に族長が一瞬唖然とし、しかしすんでの処で横によけた。
拳が雨で濡れた地面にぶちあたり、小石や土を大量にまき散らす。これにはクレイトンも驚いたようだ。
小石や土とはいえ、後の世の散弾にも勝る威力。人形の操舵が不可能となったのか、巨体はそのまま動かない。
勿論、オークもそれをまともに浴びた。眼をこすり、口に入った泥を吐きだしている。チャンスは今しかない。
マキアーチャに、もう一度奴を射るよう合図する。
矢を番える彼女。それを見たクレイトンが慌てて距離を取る。
額の魔紋に意識を移す。再び……生命力を吸い取られる感覚。構わず炎のイメージを想起する。

【炎よ その矢に集え】

ほんの小さな炎を宿らせるつもりだった。
しかし放たれた矢は、以前イルマが使った火矢とほぼ同威力の矢となってキーンタプの背を直撃した。
「伏せろ!!」

―――――……ボゴォオオオオオオオオオ……ン!!!!!!


爆音が止んだ頃、雨も止んでいた。
3人それぞれ、ゆっくり身体を起こし……その惨状を見て唖然とする。
族長は影も形もなかった。それどころか要塞の城門から医務室に続く通路、屋上のある主塔が綺麗に吹き飛んでいる。
クレイトンは鉄の人形が盾となったのか無傷だった。だが……人形も粉々となっていた。
ゴトリっと手前に転がった黒い箱を手に取り……落胆するような怨むような眼でこちらを見ている。
まあ……全面的にこっちが悪い。
機械いじりは手伝えないが、夕食の差し入れくらいは出来るだろう。

マキアーチャは、と言えば……まだポカンとして中庭を見ていた。
私の顔とクレイトンとを交互に見、フッと笑った。
こちらもつられて笑い、手を差し出しだした処、ピシリと撥ねつけられた。……女は良く解らない。

「しばらくは城壁の再建に勤しむことになりそうだ。手伝ってくれないか?」
一応申し出てみる。
「半年……いや数年はかかるかも知れない。いやその……君さえ良ければ10年でも20年でも居てくれて構わない」
マキアーチャが、うん?という顔をして振り向く。
「私は凝った料理は得意だが、普段の……その……家庭料理の類は苦手だ」
「あと……破れた服を繕う、だとか……部屋の細かな装い、だとか……そういうのも得意じゃない」

彼女も子供じゃない。言いたいことは伝わる筈だ。まあ……言ってみるだけ 只(ただ)だ。

46 :
突然マキアーチャは、意識を失った・・・

気がつくと病院のベッドの上・・・

若い22,3歳ぐらいの看護師が
「目が覚められましたか?」

マキアーチャは
「は・はい・・・」
薄っすらとだが記憶が蘇って来た。
”そうだ・・・僕は旅客機で東アジア共和国に向かう途中
旅客機が突然光に包まれて、その後・・・
不思議な体験をした・・・あれは夢だったのか?”

マキアーチャは看護師に聞く・・・
「すみません?今日は西暦何年の何月何日でしょうか?」

看護師は
「うふふふ・・・あの事故で少し混乱されているようですわねえ?
西暦・・・?って今は使われなくなった言葉ですわね?
今日は宇宙暦40,786宇宙年26月96日ですわ・・・
西暦換算では2403年ぐらいになるのかしら?」

マキアーチャは驚いて声を上げた・・・
「ええ?2403年?ということは、あれから400年も
経ったっていうのか?」

看護師は
「MR、マキアーチャ?まだ少し混乱されているようですわね?
MR、マキアーチャは、火星に向かう宇宙旅客機の中で突然
意識を失われ、この月面第2エリアのアームストロング病院へ
運ばれて来たんです?覚えてらっしゃいませんか?」

つづく・・・

47 :
北に連なるルーン山脈。頂と渓谷には雪が消えずに残っていて……とても美しいと思う。
霜降り山脈と呼ばれる所以だ、と父さんは言う。
あそこは元々ルーン帝国の領地だったそうだけど、今は森のエルフが住んでるんだそうだ。
東の向こうには同じエルフが守る深い森。
西はなだらかな丘陵地帯。農地と牧場と……たまに高い建物。教会と学校だろう。
南に見える景色はすべて……アルカナン王国の領地内だ。
ここからだと見えないけど、あの地平線の向こうに王都のアルカナンがあるって母さんが言ってた。
故郷らしいけど、ここに来てから一度も帰ってないってさ。

ここらへんは辺境もいいとこだ。特に帝国が崩壊してからは……誰も見向きしない全くの廃墟。
……だったんだけどな。
父さんがドワーフ達の手を借りて主塔その他を再建してから……やたらお客が増えた気がする。
一昨日は王都の神官が大勢「視察」に来たし、昨日は昨日でアルカナ騎士団の騎士がひとり。
ルーンの世継ぎが生きてるとか何とか、匿ってないかとかいちゃもんつけて……何だかんだで父さんが追い返したけど。


名前: ルーク・ヴェルハーレン
年齢: 17
性別: 男
身長: 179
体重: 71
種族:ハーフエルフ
職業:ハンター
性格:陽気 好奇心旺盛
長所:積極的
短所:水・氷系の魔法は使えない
特技:炎系の精霊魔法、弓矢
武器:二振りの短剣、弓矢
防具:なし
所持品:薬草
容姿の特徴・風貌:碧眼 無造作にカットした茶色の髪
簡単なキャラ解説:要塞を住処とし、ハンターをして生計を立てている。

48 :
王都まで出頭願おう

49 :
金板を槌で叩くような、甲高い連続音。
あわててベッドから飛び起きた。
音は中庭からだ。窓から明るい光が差し込んでいる。軽く顔を洗い、外服に着替えて階段を駆け下りる。
中庭の真ん中に据えられた魔法仕掛けの水時計。水面が陽の光を受けキラキラ光っている。
その横で機械いじりに没頭する男が一人。
「クレイトンおじさん!」
さほど大柄でもないが、革の服の上からでもはっきり解る、逞しい体つき。
40を越してるはずだが、その仕草はどことなく若々しい。
クレイトン、と呼ばれた男は白眼勝ちの眼をギョロっと少年に向け、作業の手を止めた。

「おう、朝早えぇな、坊主」
「おじさんこそ」
トンッと男の傍に座り、その手に持つ歯車に視線を送る。
「それをつければ完成かい?」
「いんや、まだまだ」
男の前には高さ13フィート(約4m)はあるだろう、巨大な鉄人形の上半身が据えられていた。
「どうみても完成に見えるけど」
「細けえ調整がまだまだあんだよ、ここんとこも……そら、ぎこちねえだろ?」
人形の指を曲げたり伸ばしたりしながらニヤっと笑う。

上の方からカンカンとフライパンを叩く音。母さんが呼んでる。
「この匂いはシチューだな?おめえ、幸せもんだなあ」
「そう……かな……?」
そりゃあ毎日ご飯作る親がいて、柔らかいベットで寝られて……世間一般で言う幸せってこんなもん、なのかな?
でも……
「でも、なんだ?」
「俺は冒険がしたいんだよ、おじさん」

50 :
青い眼を輝かせて自分を見つめる少年を、クレイトンが眩しそうに見返す。
「……気持ちは解るが、おめえにはまだ早えぇ」
「父さんも同じこと言うんだ」
「まともな親ならそう言うさ。あのエルフがまともかって聞かれたら、良くわかんねえけどな」
一瞬浮かんだ嫌悪の表情を、ルークは見逃さなかった。
「おじさんは……父さんの事、嫌いなの?」
「あ?」
「だってさ、いつもそんな言い方するだろ?『あのエルフ』って」
「ま、好き……ではねえな」
「なんで?前に人形を壊されたから?それとも……エルフだから?」
「どっちでもねえ。とにかく、冒険したけりゃ、もちっと腕磨け」

ルークは両膝に置いた手を握り締めると、軽い身のこなしでパッと立ち上がった。
「なんだよ!攻撃魔法は一通りマスターしたし、治癒も飛翔も使えるし、弓だって!」
言いながら手に弓を持ち、弦を引く動作をしてみせる。

「……そういうことじゃねぇ。もう少し大人になってからってこった」
はあーーと長い溜息をつき、ルークは意味もなく歩き回った。逸る気持ちを抑えられない。
「霜降り山脈に行くなってのは解る。遠いし、エルフもゴブリンもオークも居る。でも地下の探検くらいならいいだろ?」
クレイトンの顔がわずかに曇る。
「……やめとけ」
「何でさ。何でみんな地下にこだわるのさ。賢者の扉を開けてみたいって思うの、当然だろ?」
「……地下だけはやめとけ!」
歯車をカチリを嵌めこみながら、男が諭した。
「あれに触っちゃいけねえ。グーリン・マ・コールもそう言ってる」
クレイトンは別の歯車を手に取ると、指先でその歯車をクルクル回しはじめた。
「いつも思うんだけど……そのグーリン何とかって神様。教会の公認?」

男が何か言いかけようとしたその時、門を誰かが叩いた。

51 :
同じころ、主塔の最上階、広い居間の一角で、一組の男女がテーブルについていた。
ドワーフの手で新しく再建された食堂兼居間は、重厚で落ち着いた造りに変わっていた。
暖炉の上には牡鹿のはく製が掛けられ、壁のレンガの赤茶色が自然なグラデーションを帯びている。
木製のテーブルに並べられたスープが、まだ湯気を立てている。

スープ皿の両脇に肘をつき、組んだ手に顎を乗せているのはルークの父親だ。
後ろに流した長い金色の髪。長い耳。エルフだ。
外見こそ若いが、不老不死のエルフ族が見た目通りでないのは周知の事実だ。現に300をとうに越している。
尖った耳がピクリと動く。彼には外の会話がすべて聞こえていた。
「どうした。またルークが何か?」
男のような口調だが、声の主はルークの母親だ。茶色の長い髪を編みこみ、上にまとめている。
「冒険したい、などと。マキアーチャ。君にはあれの気持ちが解るか?」
「まあな」
彼女はもと冒険者。一人息子の気持ちは痛いほど解る。
故に「可愛い息子に旅をさせたい派」、なのだが、慎重で真面目すぎるエルフの夫がなかなかそれを許そうとしない。
その夫が思いもかけぬ話題をもちかけた。
「ルークも17になった。冒険者ギルドが斡旋する場に……いい物件があった。奴には丁度いい」
「どういう風の吹きまわしだ?それは何処だ?いつの間に調べたんだ?」
矢継ぎ早に問いを繰り出すのは、彼女が射手(アーチャー)だからだろうといつも思う。
「私なりに考えていただけだ。地下研究棟に興味を持たれても困る、というのもある」


不意に、伝令魔法による聞きなれた声が響いた。賢者による来客の知らせだ。また王国からだろうか?
窓から外壁の向こうを見下ろすと、剣や槍が数多く突き立っているのが見える。微かに聞こえる馬の嘶き声……100以上。
「誰だ?」
険しい顔つきになった夫を心配気に見つめるマキアーチャ。
「いつかこの日が来ると思っていた。しばらく戻れぬかも知れん」
「え?」
額に描かれた魔紋が青い光を放ち、彼の身体が煙るようにかき消えた。
マキアーチャはそれを追いもせず、ただ彼の座っていた椅子の背をぐっと握り締めた。

52 :
大勢の人間が発するどよめきの声とともに、門を叩く音が止んだ。
ルークは門へと進める足を止める。
どうやら父親が門の外に「降りた」ようだが……今日はやけに大勢だ。嫌な予感がする。

「王都まで出頭願おう」
相手の声がはっきりと聞こえた。ええっと……出頭って……何だっけ?
「容疑は?」
答える父親の声。容疑?っ…っ…ってことは……ええっーーー!!?

急いで閂(かんぬき)をはずし、通用門を押し開けた。
ずらりと並ぶ王国の騎士団。馬に跨る者は抜き身の剣を、地に立つ者は槍を高く掲げている。
左手の盾にはアルカナン王国の紋章と王家の紋が刻まれている。なんで王の親衛隊がこんなに……?
肩や胸につけた徽章をジャラジャラ言わせながら、親衛隊長らしき男が馬から降りた。
黒い髪と顎髭を蓄えた堂々たる体躯の騎士だ。
鋭い眼付きで眼の前のエルフを一瞥すると、巻かれていた紙を広げ、声高らかに読み上げる。

「王国への不法侵入容疑、間諜容疑、かの大戦における大量虐殺容疑」
罪状を聞き、納得したように頷く父親。
(いやいや、そこは反論するところだろ親父!)
何か言いたげなルークを後ろ手で制し、息子にしか聞こえぬ声で。
「私は大丈夫だ。ここをしばらく頼む」
そう囁いた父親の両の手にガチャリと鉄の輪が嵌められた。端正な顔が苦痛に歪む。
エルフは鉄にさわれない。もし持続的に触れることがあれば、苦痛のため集中を削がれ魔法が使えないと聞いた事がある。
下手をすれば精神崩壊しかねないとも。
他の騎士たちが虜囚となったエルフの腕を取り、強引に馬に乗せた。
隊長が、睨みつけるルークを肩越しに見やり……フンと鼻で笑った。黙っていられる人間が居るだろうか。

「待て!!」
矢筒から矢を抜こうとした手をクレイトンが止めた。構わず追おうとするが、腕を掴まれ動けない。
「わかんねぇのか!」
クレイトンがさらに力を込める。思わぬクレイトンの腕力に思わず呻くルーク。
「あいつは役目を果たしただけだ。この要塞の平穏を乱させねぇ、それがあいつの役目だ」
「わかってる!わかってるけど……」

ひと際大きく馬が嘶き、騎士たちが背を向けた。
蹄が地を蹴る地鳴りの音、もうもうと立つ砂埃。クレイトンが門を閉じ、閂をかけた。
地面に座りこむルークの肩に、ポンと手を置く。
「父さんは……どうなるの?」
「どうなるって……そりゃあよ?やった事はほんとだろうから……良くて火刑。悪くて……」
「悪くて?火炙りより悪いことってあるの?」
「そりゃあるだろよ。軍隊の拷問っつったらそら酷でえもんだって。エルフなら特に・」
ルークは肩に置かれた手を払い、クレイトンの胸元を掴んだ。
「何だよそれ!さらっと言うなよそんな事!!」
「おめえ、その体たらくで良く冒険してぇとかほざいたな。奴の息子ならもっと・」
ハッとして彼は手を離した。
「もっと?……父さんの事、嫌いじゃなかったの?」
「バカか」
クレイトンはゆっくりと作業場に向かい、腰をおろした。
「大人ってのはな。好きとか嫌いで動いてんじゃねえんだよ。ヒヨっ子の小僧っ子が」

「あああ!!もう!!!」
小さい金槌で、自分の肩を叩いているクレイトンをしばらく眺めていたルークは、意を決したように立ち上がった。
「どうする気だ?」
訝しげに聞くクレイトン。
「腹が減っては何とやら!朝飯を食う!」
言うなり最上階への階段を駆け上がっていくルーク。
その様子をニヤニヤしながら見やり、彼は金槌を作業箱に仕舞った。ポリポリと頭を掻く。
「……見どころが無(ね)えってわけじゃねぇんだけどなぁ」

53 :
このままだとRPGじゃなく、ただの一人小説ですね。
敵味方問わず、同僚募集中です。

54 :
名無しでなら協力できるぞ

55 :
それでもぜんっぜん有り難いです!!

56 :
やってて空しくない?

57 :
やりたくてやってるので空しくはありませんが正直寂しいです

58 :
もうやめようか

59 :
カツカツと小刻みに響く硬い靴音。
丁寧に磨かれたマーブル模様の白大理石の廊下を、白い装束の少年が一人、足早に歩いている。
目深に被るフードから銀色の髪がのぞいて揺れる。右手には背丈より長い錫杖。先端のルビーが唯一の彼の彩(いろどり)だ。
神経質そうな銀の眼が、突きあたりの白い扉を見上げた。
簡易の謁見室の扉は、他国の使者を通すそれに比べさほど豪奢ではない。
フードを降ろし、彼はドアを押しあけた。
若い外見とは裏腹の身分にある彼は、いつ何時であろうと勝手にこの部屋に入ることを許されている。

「陛下、何故(なにゆえ)このような……!」
入るなり咎める台詞を口にした少年に、部屋に居た人間達が一斉に視線を送った。
「遅かったなビショップ」
声をかけたのは王座に座る若い王だ。今年で38になる。
豊かな長い黒髪に優美な細い眉、深い湖の如き藍色の瞳。光沢のある白い衣を纏うなかなかの美女だ。
細い腰に金の帯、額と首元には豪奢な黄金のアミュレットが光っている。

御前に敷かれた緋色の絨毯に、王国親衛隊の騎士が10人ばかり、片膝を立て控えている。
先頭に立つのは親衛隊長と国家騎士団長を兼任するラファエル・ド・シュトルヒルム。
ビショップとは犬猿の仲……にあるラファエルは、フンと鼻を鳴らし視線を前に戻した。
ビショップもラファエルを一目睨むと、彼の横に引き据えられているエルフの傍に歩み寄った。
両手を繋ぐ鋼鉄の枷。声を上げまいと必死で苦痛に耐えるエルフの男。
しかして気の毒だとは微塵も感じなかったが……言っておく必要はあるだろう。
「エルフ評議会から抗議の知らせが入っています。
我が同族に虐待・凌辱等の行為を行った場合、即刻に各エルフ族の集落に働きかけ、資源の提供を取りやめると」
「ほう?」
揶揄するように返事を返したのはラファエルだ。自慢の黒い顎鬚を撫でつけ、頭二つ分は低い背丈のビショップを見下ろす。
「もう評議会の耳に入るとは……誰かが情報を流したのではあるまいな?」
「まさかとは思うが、貴公はわたくしを疑っておられる?」
「神官風情のやりそうな事だ」
「それが当方に如何なる利益をもたらすのか、無い頭を捻り考えられたらいかがか」

「やめよ」
言い争いを始める二人に、女王が割って入った。

60 :
「わらわが命じたのだ。心配せずとも丁重にもてなすつもりだが?」
「何を仰せか!こ奴は……!」
ラファエルがエルフの肩をつかんで乱暴に引き倒すと、右足で頭を踏みつけた。
彼は25年前の大戦を思い返していた。

友軍として駆け付けた彼らの前に現れたのは、たった一人の敵将だった。
軍団長の撤退を告げる声は、横合いからの大津波によってかき消された。
悪夢のような一瞬の出来事。
馬も人も大半が溺れ、運よく逃げた者は宙に舞う風の白刃で切り刻まれた。
まだ騎士として新米だったラファエルだけが生き延びたのだ。
咄嗟に軍団長である父親が彼に渡した魔法剣、アルカナ=ブレードの加護によって。
彼等の不覚は当然と言えた。
一度に大量の標的を仕留める魔法は存在しないとされてきたからだ。魔導師一人が持つ魔力量など限られている。
しかしその敵将はいとも簡単にやってのけた。
それは本国から供給される膨大な魔力に耐えられる器を持った……エルフだったからだと知ったのは最近の事。

そのエルフこそがこの男。シャドウ・ヴェルハーレン! まさか……生きていたとは!!
全体重を右足に乗せる。頭蓋骨がミシリと音を立てた。


「それで……? 気は晴れたかラファエルよ」
王が柔らかな物腰で席を立ち、玉座を降りはじめた。
騎士団長は慌てて足をどけた。やや後方に下がり、部下と同様片方の膝をつく。
ビショップも急ぎ同じ姿勢を取った。視線を、横たわったまま動かぬシャドウに注いだまま。
彼は彼で、手塩にかけ育てた神官達を殺された経緯があった。
たとえ死ぬまで鞭打ったとしても、全身の骨が砕けるまで鎚で打ち据えたとしても……その数に見合う報復とはなるまい。
「そう……。そんな事では気は晴れぬ」

それが自分に向けた言葉だと気づき、ビショップは顔を上げた。王が美しい眼で自分を見つめている。
ビショップは年甲斐もなくどぎまぎした。
彼は決して若くはない。先代の王の、そのまた先代の王の時代から王宮に仕えていた大神官長なのだ。
左手の平に埋め込んだ魔法石、エターナルストーンによってその外見を保っているに過ぎない。
実際の年齢は100を超えている。
余談だが、エターナルストーンは不老不死をもたらすものではない。せいぜい百年の寿命の延長であると言う。

61 :
「鉄の枷をはずしてやれ」
王の命に一同はざわめき立った。行動に移すものは居ない。
「どうした。この王城にて魔法は使えぬ」
「しかし王!この者は魔導師にして帝国の騎士。陛下の御前にて解く訳には」
ビショップの抗議に、王は意味深かげな微笑を返す。
「エルフに鉄枷は……『虐待』であろう?」
ラファエルが御意、とだけ答え腰に帯びる大剣を抜いた。彼だけは王の前での帯刀を許されている。
宙に閃く二つの銀の軌跡。少し遅れて鋼鉄の輪がスッパリ断たれ、転がった。
鋼鉄すらたやすく断ち切る国家の宝剣。威力を発揮できるのは彼だけだ。
身体を起こしたシャドウの両の手首には傷一つついていない。

「エルフどの。いや、ヴェルハーレン卿とお呼び致すがよろしいか?」
王の問いにシャドウは答えない。両手を床についたまま、黙って下を向いている。
音もたてず歩を進める王の足が、シャドウの眼前で止まった。王は素足だった。
「その魔紋。其方にとっては二つ目の紋であろう」
ハッとしたようにシャドウは顔を上げた。左の頬には靴の泥がこびりついている。
「二人の主人が偉大であったか……其方が尻軽なのか……どちらでも良い。わらわが欲しい情報はただひとつ」
「『死の賢者』とは……なにものか」
おそらく聞かれるだろうと危惧していた問いだった。
「何も知らぬ。聞くだけ無駄だ」
不遜な受け答えに騎士達が色めき立った。シャドウの首筋に抜き身の剣が押し当てられたが、王が『下げろ』と合図を送る。
しぶしぶ剣を鞘に納める騎士団長に、神官長が侮蔑の視線を送る。
物言わず火花を散らす二人。構わず王が続ける。

「答えたくなくば答えずとも良いが……未来永劫闇の中で後悔する事になるぞ?」
「知らぬものは知らぬ」
「では……その身体に聞こう」
王の右の手指がシャドウの額の紋に触れた。その指がズブリと中に潜る。魔法ではない、霊的な力。
他の心を読み、操るアルカナン国王に代々受け継がれてきた力。最高位のシャーマンの力だ。
シャドウの眼から朱色の血が幾筋も流れ落ちた。
何かに抗うように震える口が、言葉にならない声を上げる。

突如、王は手を離した。ドサリと倒れこむ男には眼もくれず、血に染まる指を舌でなぞる。
「連れて行け。次に目覚める事があれば……我が傀儡となっていよう」
誰もが戦慄するであろう王の行為は、その場の人間にさほどの衝撃を与えていない。みな見慣れているのだ。
ただビショップだけは只ならぬものを感じていた。
彼は誰にも聞こえぬ声で、ポツリと呟いた。

「あの魔紋……。陛下の御手に移ったかに見えたが……はて……?」

62 :
お前ユリウスかよお前よ

63 :
――――――――――――ドンッ

強く肩を打ったルークはバランスを崩し蹈鞴(たたら)を踏んだ。雑多の中、ぶつかった相手を見やる。
相手も自分を見ていた。
目深なフードのせいで顔は良く見えないが、口を結んだままこちらに顔を向けている。
「すみません」
思わず謝った。ぼうっとしていた自分が悪いのだろう。
相手の男は何も言わず、ただルークの顔をじっと見ている。よほど気に障ったのだろうか。
「顔を見せろ」
高圧的な物言いだ。
「なんだよ、こっちは素直に謝ってるだろ」
ムッとしてルークが言い返すが……言ってしまってから「しまった」と後悔した。無視して素早く立ち去るべきだったと。
ここは城下町。
「ちょっとだけ買い物をしてくる」と出かけはしたが、聞き込みをするのが本来の目的なのだ。目立つべきではない。
買い物客がただならぬ様子の二人を遠巻きに眺め始めた。
装飾品を売る行商や果物売り、辻占い師たちがそそくさと店仕舞いを始める。

相手が舌うちする音がはっきり聞こえた。
ツカツカと歩み寄ると、ルークの腕をつかんだ。
「痛って!!」
たまらず悲鳴を上げた。先日クレイトンに掴まれた腕に出来た青痣。まさにそこを掴まれたのだ。
「……? 怪我でもしているのか?」
男はパッと手を離すが、今度はルークの後ろ襟首を掴んで引っ張っていく。
押し戻そうとする人間達の間を掻きわけ、しばらく行くと人気のない裏道に出た。
怪しげな店が立ち並ぶ裏の街道。その横道を曲がり……裏の裏のそのまた裏道へと足を運ぶ。
「ちょ……もういいから、離してくれない? 苦しいんだけど!」
「逃げぬと約束すれば離さぬでもない」
「ああもう! わかった! 約束する!」
ようやく男の手から解放され、ルークは大きく息を吐いた。首回りを撫でつけ、フードが外れているのに気づく。

「……エルフか……?」
ルークを見て男が呆気にとられた顔をするが、すぐに真顔になった。『音』を聞きつけたのだ。
その音にはルークも気づいていた。
人間ならざる物が発する足音と息遣い。生温かい風が微かな獣の匂いを運ぶ。
「白の番人だ。来い」
男が素早く近くの店の扉を開ける。
「何してる。 かみ殺されたいのか」
ルークは音の正体を見てみたいという欲求に駆られたが、素直に従うことにした。本来の目的を思い出したのだ。

そこは娼館を兼ねた酒場だった。

64 :
こういうのって設定とか展開とかどれぐらい踏み込んでいいものなんだろうか
面白そうなんだけど思い付きで書き込んでも却って邪魔になりそうで

65 :
>64
その手の心配をされる、つまり名無しではなくキャラでの参加を御検討でしょうか。
設定も展開も、先に出したもん勝ちですので、相当の無茶ぶりでなければ遠慮は御無用かと。
ぶっちゃけ。
ど〜〜〜〜〜しても心配なときは、「やっちゃっていい?」と一言聞くのもありかと。避難所もありませんし。

66 :
了解、回答ありがとう
しばらくは定期参加できそうにないので過去ログ読んで流れの勉強しつつ名無しでネタ振りしようかと
プロットや設定を練ってある場合は他人からいじられるのを嫌がる人もいるので心配になって聞いてみました

67 :
カウンター越しに座る身なりのいい初老の男、おそらくマスターだろう。
静まり返った店の中、暖炉の薪がパチパチとはぜている。
小奇麗な木製の床に壁。凝った彫り物が施された丸い木のテーブルが数台、ゆとりを持って並べられている。
「へえ……」
感心しながら部屋を見回すルークを連れが小突いた。マスターが胡散臭げな眼を向けている。

「お客様。CLOSEの文字をご覧になられましたか」
ルークが首を捻った。咄嗟に目に入った扉に、そんな表示は無かった。
確か扉には……二つ首の竜が月を囲むような……そんな模様が彫られていた気が……
一人考え込むルークを尻目に、迷いの無い足取りでカウンターに近づく連れの男。
懐から重そうな包みを取り出し、差し出す。中身を検(あらた)めたマスターの眼がスッと細まった。
「……失礼致しました。こちらへ」

連れの男が足を組んで椅子に腰かけ、慣れた仕草でテーブルに肘をついている。
ルークは座らない。粗末な身なりのくせにやたら金回りのいいこの男が不審に思えて仕方なかったのだ。
――盗賊団の一味なのかな。 金持ちの家襲うから付き合え! とか言われたりして。

「オーダーは」
「へ!?」
マスターの問いに頓狂な声で返したルークを無視し、男が麦酒(ビール)を二つ注文する。
「いや……その……」
口ごもるルークの前に、広口の大きな杯が置かれた。細かいクリーム状の泡が盛り上がっている。
指先で縁(ふち)をはじくと、泡が一筋、高山の泡雪のように流れ落ちた。
どうしたものかと考え込む。そろそろ帰らなきゃ母さんが心配するかも。
「どうした。飲まぬのか? 見かけどおりの歳じゃないのだろう?」
旨そうに杯を傾けながら男が言う。
「俺、行かなきゃ」
出口に向かおうとするルークの服を男が引っ張った。
「待て。付き合ってくれてもいいだろう」
「やっぱり」
「何がやっぱりなのだ」
「だから!ここに俺を連れてきた理由(わけ)だよ! 盗人(ぬすっと)野郎を手伝う腹なんかこれっぽっちも無いからな!」

68 :
男がポカンと口を開ける。
「ちょっと待て。何か誤解がある。とりあえず落ち着け」
ルークの肩に手を置き、宥めるように座らせた男は被っていたフードを降ろした。
くせのある黒髪を後ろで束ねた精悍な男。その表情(かお)は若々しくも理知的だ。とても盗賊には見えないが……

「ライアンだ」
親指で自身を差し、男が名乗った。
ルークは一瞬押し黙るが、名乗られたら名乗り返せと父親が言っていたのを思い出す。
「……ルーク」
「ルーク? エルフらしくない名だな」
「あんたこそ。『小さき王』とかどんだけだよ」
「ほう……? やはり見かけどおりの歳じゃないのだな。100歳くらいか?」
「んなジジィじゃないって! 17になったばっかりだっつーの!」
マスターがコホン、と咳払いをしたので、ルークは黙って椅子に腰かけた。
「……で? 付き合えって何のことだよ」
「ん?」
「ん?じゃない。言ってたろ。『付き合ってくれてもいいだろう』って」
「ん」

ライアンがチラリとカウンターの横を眼で差した。いつの間にか、女の人達がこちらの様子をうかがっている。
背中と胸元がやけに開いた……色とりどりのイブニングドレスを身に付けた女性達。
――春先に庭の花に集まってくる蝶みたいだ。
――って事は……えーと……ここはそういう所……ですか?

「勘違いするな。情報収集だ」
ニッと笑うと、ライアンは明るい茶色の髪の、ややポッチャリ系の女の子の肩に手を回した。
桃色のイブニングドレス。小柄で……唇はピンクでちっちゃくて……茶色のフワフワの髪……クリクリの目……すっごく可愛い。
――って……いつの間に!!
「ここは王族、貴族が忍んで通う高級娼館。彼女らなら王の性癖から筆頭神官の懐具合まで知ってる」
「いや俺、協力するなんて言ってない」
手洗いにでも行く振りをして消えようかと算段するルークに、さらに声を潜めてライアンが囁いた。
「エルフなら知ってるだろ。今朝早くに親衛隊の奴らが捕縛してきたエルフの事を」
「……え!?」
「シッ!……彼について……何でもいい。聞いといてくれ」

「何であんたが」と言いかけたルークの声は、群がってきた「蝶たち」の嬌声にかき消された。

69 :
エターナルストーンは賢者の石?

70 :
頭おかしい

71 :
王の寝室に暖炉はない。事故があってはならない。職台もない。火は時にすべてを消し去る。
汗ばむ右手をゆっくり広げる。
これは鍵だ。
――我らを『賢者の石』へと導く――鍵。


名前: エスメライン・F・ファシリアーナ=アルカナン
年齢: 38
性別: 女
身長: 170
体重: 51
スリーサイズ:85 55 87 
種族:人間
職業:国家元首
性格:慈愛に満ちた為政者であり、反国勢力に対しては容赦ない
特技:他者の心を読み、操る能力を持つ(魔力を持つが魔法は使わない)
武器:なし
防具:なし
所持品:黄金のアミュレット各種を身につける
容姿の特徴・風貌:黒髪と黒い瞳、純白の絹のドレス(腰からスリットあり)、幅広の金帯、常に素手で素足。
簡単なキャラ解説:アルカナン王国の現国王。王家の悲願である『賢者の石』の探索に力を注ぐ。

72 :
こちらへと近づく靴音。ビショップのものだ。ドア向こうの衛兵が敬礼する金擦れの音。
扉を叩く音、2度。

「この夜更けに何用か」
「ご機嫌を伺いに参りました。何とぞ、お目通りを」

蝶番が軋む。
革の靴底が床石に触れ、カツンという音を立てる。乾いた小気味良い音が壁に、天井に反響する。
靴音が部屋の中央でピタリと止まった。ビショップがその場に膝まづく。白い長衣の裾がバサリと翻る。
「今宵はどうしても確認したき事がございます」
「ほう?」

ヒタリ……と歩を進める。石の床は冷たい。
かがみこみ、ビショップの左手を取る。彼の掌に埋まる青石が星屑を散らすように煌めく。
「エターナルストーン。先々代の世に当時の其方が持ち帰ったと聞く」
「は。『賢者の石』を精製した。その言葉を信じ、ベスマの地下へ赴いたは80年前」
「其方、いくつになる」
「140になります。見た目に反し、身体自体は衰え……もって後……半世紀かと」
王はしばらく少年にしか見えぬ神官長の顔を眺めていた。
「その石は其方に年若い外見とわずかな延命をもたらしたのみ。つまりは……賢者の石とは似て非なるもの」
「……左様にございます」
「して……其方の見極めたき事とは……これであろう?」

自分の右手をビショップの前に広げて見せた。
手の平に……滲むように浮かぶ紫色の小さな紋様。賢者の魔紋。
禍々しく紫色に煙る魔紋をまじかに見、ビショップの目が大きく見開かれた。頬を一滴の汗が伝う。
「奴の記憶を垣間見た。『死の賢者』の紋に相違ない」
「『死の賢者』。……死の壁を超えた者。……ならば『賢者の石』は……彼が……?」
軽い眩暈。違和感。異質感。これはみな……あのエルフから奪ったこれのせいなのだろう。

不意に肩を支えられ、我に返った。
「その魔紋、お身体に障ります。宜しければ、このわたくしが引き受けますが」
彼の手が魔紋に重なる。さざ波のように熱(ほとぼ)りが引いていく。癒しの石……エターナルストーン。
「其方には一刻も早く『賢者の石』を見つけてもらわねばならぬ。この紋は仕事に障ろう」
先代の、そのまた先代から王家に仕える大神官。その忠義に一片の曇りもない。
天蓋の下に腰かけ、退出を促す。

「我が手心に……入り込む者あり」
「……白の番人を放ちました。ご案じ召されますな」

柔らかな寝台に身を横たえる。天蓋に描かれた双頭の竜が揺らめき、その首をもたげたかに見えた。

73 :
これはTRPGではない

74 :
>73
同意です。まさかここまでヒトが来ないとは。
放置は出来ないので続けますけどね?
いつかきっと誰か来てくれます。きっと。待ちますとも!容量完走するまで!

75 :
「エルフって初めて見ました!」
「あたしも。今夜はあたしを選んで?」
「やだ、あたくしよね?」

腕や肩を触ってくる女の子達にもみくちゃにされ、パニックになりかけた。とと兎に角いっぺんににしゃべらないで欲しい。
何言ってるか良く解んないし、これじゃ答えようにも……
「エルフって、あっちの方もすごいんでしょ?」
「やばっ! 引き締まったお尻! ハンターでもしてるの? 」
――ちょ・なんなの!? 変なとこ触んないで!

俺は隅のテーブルに腰かけていたライアンに視線を送った。
けどあいつ、あの女の子と話し込んで……こっちを見ようともしない。――薄情もん!

『選べばいいのよ。ただ、気に入った娘の手を握ればいいの』
声が聞こえた。
幾人もの女の声に混じる一人の女性の声。聞き取れたのは、それがエルフ語だったからだ。
『情報が欲しいのでしょう?『あのエルフ』の』
口笛と鼻歌を合わせたような言葉。他の子は言葉とすら思ってないだろう。

じっと俺を見つめるその女性。銀色のまっすぐな髪に、青い瞳。黒いドレスが良く似合う……大人びた女性。
『……どうしてそれを……?』
俺もエルフ語で返した。
『エルフがここに来る理由なんて、他にはないもの』
彼女が当然のように手を差し出してきた。思わずその手を取る。
他の娘達が、咎めるようながっかりしたような声を上げ、カウンターの向こうへ引き上げていった。
……ふーん、こういうもんなんだ。
チラリとライアンの方を見る。二人が手を取り合って立ち上がり、奥へと行きかけるのが見える。
「わたし達も、行きましょう?」
「えぇ? 何処へ?」
「二人だけで……話せるところ」
そっか。娼館だから、奥にそういう個室があるわけね。

まったく疑いもせず俺は彼女についていった。思えばこれが初めての冒険だった。

76 :
「そこに掛けて、くつろいで。ね?」

彼女が案内した部屋は、見たこともないくらい豪華な寝室だった。本で見た王侯貴族のそれに負けないくらい。
広い間取り、高い天井、天蓋付きの寝台に、細かい刺繍つきの寝具。
窓際に、石造りの大きな……盥(たらい)のような四角い物体。泡がたくさん……石鹸の香り? 
「浴槽……よ。裸になって、身体を洗うの」
「え!? 顔だけじゃなくて、身体も洗うの!?」
「ふふ……お客様には好評よ? とても気持ちがいいって。お互いの身体を泡で洗い合・」
「待った!」
どうしたの?という顔をして俺を見つめる彼女。
今すごい想像しちゃったんですけど。
そりゃ娼館ってことは……そういうことするトコ、なのかも知んないけど……そんなつもり、ぜんぜん無い。誓って無い。
「ふふ!初心なのね、可愛い!」
俺の胸元の紐を解きにかかる彼女の手をギュッとつかんだ。
「……お姉さん」
「エレンって呼んで」
「……エレン」
「はい」
「何か飲みたい」
エレンが急に心得顔になって部屋から出て行った。さっき麦酒を飲まずにいたのを見ていたのかも知れない。
とりあえずベットに腰かけた。
ふと……寝台の木製のノブに文字が刻まれているのに気づいた。ルーン文字だ。
このアルカナンがルーンの一部だった頃より……遥か昔の古代人が作った文字。なんて父さんが言ってたっけ。
よほどオタクな魔導師でなければ、読める人間は滅多に居ないとも。
オタクな父親に文字を習った俺には一応読める。
ア・ン・フィ・ス・バ・エ・ナ 。アンフィスバエナ。……読めるには読めるけど、……どんな意味だっけ?

ノックの音。エレンがグラスと瓶の乗ったトレイを手に入ってきた。
「はい」
差し出されたグラスを受け取る。薄い琥珀色の液体。底から細かい泡が上っては消える。……なんだろう?
不思議そうに眺める俺を見て、エレンがくすりと笑った。
「シャンパンよ」
「シャンパン……ってことは、酒?」ため息をついてグラスを突っ返した。
「赤ワインの方が良かったかしら?」
「ごめん。まだ17だから飲めないんだ」
「17ならいいじゃない。アルカナンの法律じゃ16からいいって・」
「ええ! そうなの!? 親父が25にならなきゃ駄目だって……」
エレンがニコリと笑ってグラスを差し出した。
「そう。随分と堅物のお父様なのね」
そうそう。いつも俺を子供扱いするんだ。冒険にも行かせてくれないし。

受け取ったシャンパンは、泡が少し減っていた。……酒は苦くて不味いって聞いてたけど……。
半ばヤケクソ気味に口に入れる。すっきりして甘くなくて……とても美味しい?
「うんと飲んでいいのよ? あちらのお客様がたくさん置いていって下さったから」
「ふーん……?」
あいつ(ライアン)、そう言えば情報収集とか言ってたっけ。
「それにしても貴方と……貴方のお父様。わたしの聞いたエルフとは随分感じが違うわ」
「え?」
「今は亡き帝国に、とっても好色なエルフが居たそうよ?」
「へえ」
「何でも城内の女侍従からお偉方の新妻にまで手を出したって。まさに『あのエルフ』当人のことよ」
「え?」
「エルフならもちろん知ってるわよね? シャドウ=ヴェルハーレン! 名前まで悪役よね!」

俺は飲みかけたシャンパンを、思い切り彼女に向かって吹いた。

77 :
重い扉を閉める音が、石の床を介し振動となって身体に伝わった。
鎧靴が床に当たる甲高い足音とともに、鎧同士が擦れる不快な金属音が耳につく。……二人、いや三人居る。

「起きろ!」
怒声を浴びた。ちょうど起きた所だと言いたかったが口が開かない。目も開かない。
首を上げることも出来ず、床に投げ出された足の感覚は無く。
広げた両腕を壁に繋ぎとめる石の枷。
聴覚と、石枷がもたらす腕の重さ分の痛みだけが、自分がまだ生きていることを証明する唯一の感覚。

「隊長。よもや?」
「フン。この程度でくたばるタマか」

鳩尾に重い衝撃。ほとんど痛みは感じない。……が、徐々に感覚が戻る。
うっすらと目を開ける。見た顔がそこにあった。要塞に押し掛けた一群の将。
そして以前……殲滅せしめんと攻撃した敵軍の、唯一の生き残り。名は確かラファエル。

「どうだ。扉以外、鉄を一切使わぬ石牢。エルフには丁重なもてなしだろう」
「この国では壁に拘束することをもてなしと呼ぶのか」

男達が息をのんだ。同時にラファエルが剣の柄に手をかける。その剣にも覚えがあった。
謁見の間にて鉄の枷を断ち切った剣。
そして大戦にて……敵軍の将が年若いラファエルに手渡した魔法剣。大津波を引かせ、風の白刃をすべて霞と化した剣だ。
柄頭に竜の刻印が見える。アンフィスバエナ(=双頭の竜)はアルカナン王家の紋。王の所有である証。
「奴の額を確認しろ」
「……!しかし奴は……!」
「魔法は使えぬ。陛下の魔力結界はここ王城の地下はもとより、城下にまで及ぶのだ。無論……魔具の類は別だがな」
言うなり男は剣を引きぬき、切っ先をこちらにむけた。

騎士のひとりが眼の前にかがんだ。額を覆う金の髪を乱暴に掴み上げる。
「隊長。我が王の紋に違いありません」
「こ奴はエルフ。操舵の術が効かぬのでは?」
「ならば……試そう」

ラファエルが剣を正眼に構え、振り下ろした。冷気に似た風圧が身体を突き抜ける。意識が……揺さぶられる。
「答えよ。貴様の主(あるじ)の名は?」

「知れたこと。『……・――――……』」
……どうしたことか、言葉が……名が出てこない。我が自ら主と定めた……その人物は……?……姿は……?

「貴様の主は……『あの方』、であろう?」

……ゆっくりと首を……縦に振る。いかにも。……我が主は……あの……麗しき御方。

「王の命を伝える」
ラファエルが剣を軽く振る。手首を捉える石枷が斬られて落ちる。自由となった両の腕を床につけ、膝まづいた。
「なんなりと、ご命令を」
「ラファエル・ド・シュトルヒルムが配下となり、ベスマに赴け。『賢者の石』を我が元に届けよ」
「承知……致しました」

彼等に続き牢を出た。
……はて……。自分は何故……投獄されていたのだったか……?

78 :
【キャラ考えてみたよん】

名前: シオ・ビクタス
年齢: 26
性別: 男
身長: 183
体重:76
スリーサイズ:
種族: 人間
職業: 剣士
性格: 意志が強い、頑固
特技: 双剣術
長所:義に厚いところ
短所:涙もろい、味覚オンチ
武器:双剣(片手で扱えるように軽い)、短剣
防具:胸当て、股間当て
所持品:わずかな金、簡易な寝具、師から授かった手紙
容姿の特徴・風貌: 黒髪の長髪ポニーテール、眉毛のキリッとした美男子、茶色の瞳、意志の固さを感じる口元、ヒゲは薄くほとんど生えない
簡単なキャラ解説:義侠心あふれる好青年
双子の妹がいる

79 :
「シオよ、アルカナン王国にいる鍛冶屋のホンダを訪ねよ委細は彼に聞け」

一ヶ月前にシオが受け取った手紙にはそれだけが書かれていた
「しかし唐突な…変わらぬ人だな」
つぶやくとシオは短くため息を吐いた
遠くには巨大な王都があるのが見えている
すでにアルカナンとは目と鼻の先に来ている
王都まであと半日の所にいるが着いたらまずは宿を探さねばならない
鍛冶屋のホンダをシオは知らない
広い王都を数ある鍛冶屋を探してホンダを見つけることを思ってシオの足どりは重くなった
「普通アルカナンの何処そこまでは書くものだがあの人には常識…」という所まで言ってシオは次の言葉を飲み込んだ
眼前に馬車があらわれたからだ
荷台にワラを積んでゴトゴトとこちらに向かってくる
手綱をもった老人は楽しそうに口笛を吹いていた
シオは歩みをとめ馬車道をよけて端によった
老人もシオに気づいて口笛を吹くのをやめた
この荷を背負い剣を腰の両側に差した若い旅人に老人は警戒したのかじっと観察するように見つめていたがシオの前にくると手綱を引いて馬を止めた
「お若いの、王都まで行くのかね?」
老人は手綱をもったまま声をかけた
「ええ」
シオは短く返事をした
老人は急に目を細めて
「お若いの、剣闘会に出るならもっと速く歩かねば日暮れには遅れるぞ」
「剣闘会?」
今度はシオの返事に思いがけなかったのか老人は目を見開いて
「王都で今度開かれる剣闘会に出るんじゃないのかね、そうかこれはすまなかった」
そう言うと老人は自分の勘違いを笑ってシオに軽く謝るように会釈をすると
そのまま馬に合図を送って荷馬車はゴトゴトと去っていってしまった
「剣闘会……」
シオはまた老人の言ったことをつぶやいてそうだ日暮れまでには王都に着かなければと歩きを速めた

80 :
王都の入り口である門の前は夕暮れ近くになって行き交う人の群れでごった返していた
牛やロバの背に荷を乗せて運んでいる者や荷台に大きな樽をいくつも積んで馬車を走らせている者、風呂敷を背に重そうな足取りの行商らしい男、子供の手を連れてキョロキョロ周りの様子を伺いながら門に入ろうとする女
王都の門はいくつかあり最も大きな門は日が落ちれば閉じてしまう
夜は小門だけが出入りを許されるが入都は厳しく制限され手形がなければ入ることはまず許されない
他にも都に入る方法はあるがシオには元になるソレが無い
夕暮れに間に合ったのは良かった
シオは竜や獅子が彫られた立派な大門に目をやりながら安堵の息を吐いた
門を抜けると人の群れは思い思いの方へ拡散していきシオの眼前に王城にまっすぐと続く大通りが見えた
「あれがアルカナンの王城か」
雄壮な大城が道の先にそびえていた
その姿に目を見張ったものの王都へ来た目的が目下鍛冶屋を探すことであるシオには関係が無い
あそこに用は無い
シオはまず宿を探すため大通りを歩き始めた
ふと目をやると人だかりがあり覗くと豚の頭を店頭に並べた肉屋の主人が2本の包丁を擦り合わせて威勢よく啖呵を切っている
「うちの豚はそんじょそこらの豚とは違うよ東のナバウルに住むといわれる一角豚だよこの肉を食べたら健康長寿ときたもんだ」
その啖呵を聞いた子供が口を挟んだ
「角なんて生えてないじゃないか」
店主は子供を見てこれは一角豚のメスでメスには角が生えないんだよと説明すると
これを聞いていた周りから不審の声が上がった
するとわかったわかったと言って店主が奥に引っ込みこれがオスの一角豚だよと角の生えた豚の頭を出してきた
一角豚というものを初めて見た人達は驚きの声をあげて珍しいものを見たとささやきあった
そうしていると人だかりの中からその一角豚の肉をくれという者が出てその声に1人続き2人続きあれよあれよという間に店頭の豚肉はほとんど売れてしまった
店主は嬉しそうな顔をして今日はもうこれで終わり店じまいだと言って品物を片付け始めた
「一角豚とは初めて見たな、我が師アルシャインは東のナバウルへ剣術修行に出たことがあったはずだがそんな話は聞いたことがなかった」
シオも王都に来たのは初めてでは無いが都には常に新鮮な驚きがある
王都まで足取りの重かったシオも都の溌剌とした空気というものに気分をあらためた

81 :
「モーラ悦びと痛みの店」
その文字の横に半裸の女性がこちらを誘うように人差し指を曲げている絵が描かれた看板に目をやった
「あれは宿……ではないよな」
シオは苦笑した
すでに小一時間宿を探して通りをうろついている
以前王都に来たときに使った宿は満室でありその宿から紹介された別の宿も満室であった
それではと目についた宿屋に飛び込んだがやはり満室で空きは無いという
「剣闘会…」
荷馬車の老人が言っていた剣闘会をどの宿の主人も使った
「今年は王都で10年振りに剣闘会が行われるんですアルカナンどころか大陸各地から見物客が集まって来ているんですよ」
それ故にどこの宿屋も客室は満杯だという

剣闘会は王都にある闘技場で行われる
アルカナンには3つの闘技場があるが王都の闘技場は一番大きく観客が20万人は入れるという規模である
剣闘会は剣だけではなく槍や弓あるいは魔法もその使用を許可されている
但し武器はもちろんのこと魔法も事前にどのような魔法を使うのかを申告しなくてはならない
大陸中で小規模の剣闘会は行われるがアルカナン、北方のアインランド、東のナバウルで行われる大剣闘会は三大剣闘会といわれ優勝者には大陸一の名声と莫大な賞金が支払われる
しかし大規模な剣闘会は持ち回りではなくその時の為政者が力を誇示するために開くもので大陸で数年に1度あるいは数十年に1度しか行われずアインランドではすでに30年の間大規模な剣闘会は開かれていない
今回アルカナン王都で行われる大剣闘会は大陸で行われる大規模な剣闘会として10年ぶりでありそれ故に大陸中からアルカナンに見物客が押し寄せてきている

すでに日が落ち始めている
泊まる宿が無ければこのまま都で野宿というのも仕方ないとシオは覚悟し始めている
しかし王都で野宿するのは王都の外で野宿するより危険であることがある
「獣より人のほうが怖い」
それがシオの生きてきた実感である
あるいはあの娼館に一夜だけでも泊まって明日にはホンダを見つけ出してその厄介になればいい
シオの足が娼館に向いた

82 :
白の番人=人狼
人に化けてる
よし書こう

83 :
「モーラ悦びと痛みの店」
その看板の文字の隣に描かれた女性は先ほどと変わらず人差し指を曲げてシオを誘っている
しかしこの前と違うのはシオは看板を見ただけでなく店の中に入った
店の中は薄暗くランプの数も大きさもそれ以上明かりを必要としないように計算されていた
カウンターがあり年配の女が声をかけてきた

「お客さん一晩は金貨1枚だよ」
シオは苦笑した
「あいにく銀貨しかもっていない」

ふんと鼻を鳴らした年配の女はカウンターを指で叩いて銀貨を置くように催促した
シオは懐から銀貨12枚を取りだしてカウンターに置いた
女の感じの悪さは商売が上手くいってないことを表している
剣闘会で大陸中から人が来ているのに何故かこの店は繁盛していない
年配の女がカウンターの奥へと引っ込み
しばらくすると少女がカウンターの奥から出てきた

「まさか君が?」

シオが驚くと少女はぶんぶんと首を振り部屋に案内するとだけ言って歩き始めた
シオはその少女について階段を上がり2階の廊下を進んで一番奥の部屋に案内された
部屋に入るとやはり暗い
少女は部屋の説明だけしてそそくさと戻っていった
何もない殺風景な部屋にひとり残されたシオは騙されたと思ったが文句を言いにいくほど怒りがこみ上げてこない
旅の疲れがそうさせているのか元よりそんな気もなかったからなのか
シオは旅装を解いてベッドに横たわった
良い匂いだ
枕は柔らかくシーツは洗濯されてしっかり太陽に干されている
ベッドに抱かれるだけで十分に気持ちよくそのままシオはうつらうつらとしていると扉を誰かがノックする音が聞こえた

84 :
「誰だ?」

シオは目を覚まして扉の向こうに声をかけただが返事は無い
代わりに扉の向こうからすすり泣くような音だけは聞こえる
シオはベッドから起きて扉を開けると先ほど部屋を案内してくれた少女がそこに立っていた
少女の格好は生地の薄い白のワンピース姿で下着がはっきりと透けていた
シオは戸惑って言葉が出ない
少女は目をふせてすすり泣いている
その沈黙の状況が数秒続いたが
シオは状況を理解して少女に優しく声をかけた

「私は大丈夫だそういうのは必要ない君はそのまま戻るといい」

しかし少女は返事をせずまだすすり泣いている
シオはもう一度同じ事をさらに優しい口調で説いたがやはり少女は動かない
シオが表情に困惑の色を浮かべていると泣いていた少女が話し始めた
お客さんの所から戻るなと女主人に言われてきたから戻ることは出来ない
話している少女の目から涙がさらに溢れた
このまま少女が戻ればどうなるかをシオは容易に想像できた
少女のことを考えてシオは部屋に招き入れた
シオは椅子に座り少女をベッドに座らせた
少女はチラチラとシオの顔を見ては怯えている
シオはいきなり自分の故郷の話をし始めた
少女はキョトンとした顔でシオの顔を見つめる

「私の生まれた村は漁村で海がキレイでな魚が豊富に獲れるんだ」

シオは少女を和ませようと色んな話をした
少女は話を聞いている内に緊張がとけて時おり笑みを浮かべてシオの話に聞き入っていた

「知ってるか?東のナバウルには一角豚というのがいてな」

「それ…ウソ…」

少女がシオの話に突然入ってきた

「ウソ?」

シオが言葉を繰り返す
今度は少女が話し始めた
一角豚というのはウソで肉屋の店主が角に見えるように木を削って普通の豚の頭に指しているだけ
最初に店主に声をかける子供も一角豚の頭を見せたあとその豚肉をくれと一番先に叫ぶ人もグルだという
店主が作った一角豚の頭は店先にずっと置いておけば見破られしまうからしまって置かなければならない
店の奥から出してきた一角豚の頭は始めに注文をかけた男に渡してしまえばバレることはない
少女の説明にシオは目を丸くして驚いているとその顔に気付いたように少女は笑顔をシオに向けて言った

「お兄さんて面白い人」

85 :
シオと少女の会話は夜半まで続いたが少女は泣きつかれたのか安堵したのかシオが話している間に気づくと寝てしまっていた
ベッドの上の無垢な少女の寝顔を見るとシオは深くため息をついた
少女の未来を思えば気分が暗くなる
だが自分にどうすることも出来ないことを分かっているそれが悲しいのだ
胸に重苦しさを感じながらシオは再び眠りにつこうと床に毛布をしいた
その時扉の向こうに人の気配を感じた
「誰だ?」
「お客さん娘がそこにお邪魔していませんか?」
女主人の声が廊下に響いた
「いや、ここには来ていない」
シオはウソをついた
シオの言葉に女主人の返事はなくわずかの間沈黙が流れた後ガチャガチャとドアノブを強引に回そうとする音が聞こえた
シオは棚に置いたベルトから2本の剣を抜いた
「何者だ!」
シオの怒声が部屋に鳴り響いた
その声に寝ていた少女が飛び起きた
目の覚めた少女は部屋の中に充満する異様な気配に怯え2本の剣を両手にしたシオの背中をじっと見つめている
扉の外にいるのは女主人ではないそれどころか人ですらない
シオの怒声にドアノブを回そうとする音が消えまた沈黙が流れた次の瞬間木製のドアを長い毛でビッシリと覆われた獣のような腕が貫いた
その光景に少女は悲鳴を上げる
シオは2本の剣を身構えた
貫かれたドアの穴から怪物がのぞきこみその眼がシオと少女を捉えた
「人狼か」

86 :
シオはその怪物を知っている
奴らは昼間は人に化け、夜に狼となって人を襲う
山深い村々に時おり表れるというのを聞いたことがある
しかし王都にこんな怪物が住んでいるとはあるいは紛れ込んだか
シオは背後の少女を気にした
「ベッドの下に入れるか?」
少女は涙を浮かべて眼の前の恐怖に震えていたがシオの声にうなずきベッドの下に潜り込んだ
覚悟を決めたシオは大きく息を吸って吐くと双剣の柄を握り直した
人狼の不気味な眼が穴から離れたあとけたたましい音が共にドアが勢いよく弾けた
その木片が部屋に散らばると木片の上を怪物の足が踏みしめた
全身が茶褐色の毛に覆われ狼の頭を持った怪物が鋭い爪を立て牙を剥き出しにしてシオの前に立った
少女がベッドの下から人狼の足元を見ていた
人狼が息を吐くたびに剥き出しの牙を濡らしてヨダレが床に滴り落ちている
シオと対峙していた人狼が唸り声をあげた
その瞬間シオは右手の剣を一閃する
人狼は大きく後ろに飛んでその攻撃をかわした
反応が早い
距離を取った人狼が体勢を低くとったあと
床を蹴ってシオに飛び掛かった
人狼の爪がシオを捉えたかに見えたがシオはその鋭い爪をかわし人狼と体を入れ替えると同時に左手の剣を人狼の肩に突き刺した
すぐに人狼はシオに向き直って戦闘体勢を取るが刺された右肩からは血が流れ右の腕は上がらなかった
人狼は威嚇の表情とともに唸り声をあげるがシオはいささかも臆することなくさらに斬りかかる
人狼はその鋭い攻撃にたまらず退がると痛みに歪んだ顔を見せた
飛び退いた人狼が再びシオとの距離を取ると
シオもまた大きく息を吸って吐きゆっくりと双剣を人狼に向かって構え直した
その様子を人狼は忌々しく睨み付ける
シオと人狼の睨み合いが続いた
だが夜半の喧騒に辺りが騒がしくなってきた
人狼は耳を立てて周囲の様子をうかがったあと眉間にシワを寄せると小さく唸った
その直後勢いよく床を蹴った人狼は部屋の窓を突き破って外に逃げた
シオは警戒しつつ破れた窓に近づくと辺りを確認したあと剣をゆっくりと下ろした
「エルフ…」
シオはつぶやいた
そう聞こえた
人狼が逃げる前に放った小さな唸り声の中に確かにそう聞こえた
シオはベッドに振り返った
この部屋にいるのはシオともう1人しかいない
ベッドの下で恐怖に震えている1人の少女しか

87 :
投下、ありがとうございます! 思いつくまま自由に展開するストーリー、楽しく読ませて頂きました。
2点だけ、お願いがあります。
時間を空けて投下する時は、【つづく】と最後に表示してくれませんか? 入るタイミングが分からないので。
(長めのストーリーを投下する場合、1レス出来たその度に投下するのではなく、すべて書き切ってから一晩寝かせ、
少なくとも1回は推敲してからの投下をお勧めします)
もうひとつ。
遠慮せず絡んでください。
どうせ娼館に泊まるならルークと同じ館に泊まるとか、王城から出てくる騎士の一団を見かけるとか。
でないと唯のサイドストーリーになっちゃいます。
なかなかにアイディア豊富ですので、勿体ないと思い……偉そうにアドバイスさせて頂きました。

1日待って【つづき】がなければ明日にでも投下します。よろしくお願いします。

88 :
「ちょっといいかい?要塞の守り神さん」

「よければ私も仕事させてもらうよ」



名前: ベリル・メンヌハ
年齢: 23
性別: 女
身長: 186
体重: 74
種族:人間
職業:錬金術士
性格:自信満々で欲に忠実
長所:果敢
短所:性格に問題あり
特技:凍結系の魔法
武器:強力なとげ付のロッド
防具:ローブ
所持品:様々
容姿の特徴・風貌:紫色の髪で大柄、体の線が出る服  スリーサイズは104-68-99ぐらい
簡単なキャラ解説:秘宝を探している錬金術士。既に禁忌に触れた研究をしている。
酒と男が大好き。



【支援NPCです】

女は名前をベリルと名乗り、破格のじょうけんで雇われることを願い出た。

89 :
>>87
ご指摘ありがとうございます
よく分からなかったんで
展開とか設定とか何とかすれば回収できるように腐心してたんですけど限界来てましたwww
つづくのかどうかを書かなかったのはすみませんでした
様子を見て誰も書いてなかったら本編の外側をなぞるように書いていこうと思ってたので
今度から気を付けます
一応出した名称の簡単な説明だけ書いておきます

鍛冶屋のホンダ・・・王都で鍛冶屋を営む鼻の大きな中年男性で年齢は50代
あとは特に考えてません(笑)

アルシャイン・・・シオの師匠、10年前の大剣闘会の優勝者、剣の達人、白髪まじりの短髪に無精髭、弟子に対して勝手で無遠慮

アインランド・・・北方の領主達の連合国
アインランド人のイメージとしては身体の大きい北欧の白人

ナバウル・・・東方にある王国のことで草原や山岳の多い土地、人種はアジア系、カザフスタン人みたいなモンゴロイド系が多いイメージ

ハーフマンエルフの少女リリス・・・人とエルフの間の子供、年齢10歳、娼館にて産まれる、母親は5歳の時に病気で亡くなる

こんな感じです

90 :
>88
NPCのキャラクターですね、ありがたく使わせて頂きます。
念のため確認しますが、NPC扱いで本当によろしいですか? ロール回し、やりません?

>89
なんと大陸の全貌が明らかに!
地図、書いてみたいですが何処にどうアップしていいものやら……もしご存知でしたら教えてください。
少女さんはハーフエルフなんですね。なるほど絡みやすい。
あ。遠慮なく絡む派&絡まれたい派ですので、度が過ぎるようでしたら言ってください。


>賢者のPL様
現在要塞から少々離れてますが……そのうちズバッと行くかも知れません。今明かされるワイズマンの過去!
『ワイズマン』って真の名も出自も、いつから要塞に居たのかもすべて謎なんですよね。
確かなのはもと人間だったって事だけ。
いやその……いくら『何されても文句言えないNPC』でも過去設定までいじられるのは気分いいものじゃありませんよね?
何処まで設定していいものか……正直悩みっぱなしです。
もしガチで放って置いて欲しい時は一言お願いします。
このままだとほんと遠慮なくバッサリやっちゃいますよ? 無論死なない程度にですが。

91 :
>>90
>>88ですが、NPC扱いで結構です。
ロールによっては死亡しても構いません。

92 :
気まずい沈黙が部屋を満たした。エレンが驚いたような怒ったような顔でこっちを見ている。
「ごごごごめん!!」
慌ててテーブルに置いてあった布切れで彼女の顔を拭く。
「お酒はじめてなのよね? 仕方ないわ」
にっこり笑って俺から布を取り上げ、髪と服を拭き始めるエレン。
そうそう! シャンパンのシュワシュワが喉に引っかかったっていうか、そういう事にしといてくださいっ!

「そんなに慌てなくて大丈夫よ。どうせ脱ぐんだし?」
ちょっぴり挑発的な眼で俺を見つめ、彼女は両手でドレスの襟を横にずらす。
胸元の深い谷間を形成する二つの丸い御山。すっごく柔らかそう…………いやいやいやいや。
「待ったっ!」
彼女の手を掴んで止めた。その眺め。俺には刺激的過ぎるんでお願いだからやめて。
チラリと壁際の水時計を見る。――もうこんな時間?

「あのエルフを助けたいなら無駄……よ?」
「……えっ……?」
エレンがつまんなそうな顔をして椅子に腰かけた。
……どうして俺が考えてること、解るんだろう。読心術でも使えるんだろうか?
「解るわ。全部顔に書いてあるもの」
「……」
「ていうか、いま王都には腕に覚えのある剣士達が集まってるのよ? 人間だけじゃなく、エルフも、ドワーフも大勢。
わかる? 剣闘会に参加するフリして「囚われのエルフ」をこっそり助けようってエルフがたくさん居るの」

「……そうなの?」
「そうなの。だからお国からお達しが来てるわけ。エルフを見たら捕まえとけって」

急に頭がクラクラした。もしかして、さっきのお酒に何か入れられた……とか?
「入れたわ。強い眠り薬をね。でもあなたはほとんど飲まなかった」
エレンが濡れたドレスに眼をやりながら言う。
もしかして……ライアンもこいつらの仲間なんだろうか。初めからそうと知ってて……?

ゆっくりと……テラスに向かって後退した。
「無駄よ。外には……白の番人がたくさん居る。あのエルフもとっくに・」
「とっくに……なに?」
エレンが冷たい笑みを浮かべる。
――思い出した! アンフィスバエナは双頭の竜。ここ、王の息のかかった宿ってこと!?


ガシャアアアアンンン……!!!!!

窓を破って外に・と思ったその時、窓を突き破る音がした。外からだ。
テラスの窓にカギはかかっていなかった。開けて顔を出すと、通りを白い影が通り過ぎた。獣の匂いと血の匂いが入り混じる。
ヒラリと身を躍らせた。
トンッと石畳に足がつく、と同時に横合いから何者かに突き飛ばされた。
『敵……!?』
回転しつつ身を起こし、背の短剣を2本とも引き抜いた。

93 :
眼の前に黒髪の男が一人、背を向けて立っていた。男の前に牙を向く2匹の白い魔狼(ワーグ)。鋭い唸り声が耳に刺さる。
「ライアン!?」
彼の左手にはちょっと変わった刃形の短剣が一振り。
衝撃派を伴う咆哮と共に、魔狼が躍りかかってきた。大きい!!16フィート(約5m)はある!!
攻撃呪文が――間に合わない!!
ライアンが剣を両手に持ち替えて胸の前にかざした。いったい何を!?

≪ スリサズ = thurisaz ≫ 

ライアンが発したのはフサルク(ルーンのアルファベット)の一文字だった。魔狼が弾かれたように方向転換する。
そのまま走って行ってしまった魔狼を見やり、ライアンがニッと笑った。
「何か解ったか?」
「へ?」
「へ? ではない。あの女から何か聞き出せたか?」

冗談じゃない。いま間違いなく死ぬか生きるかの瀬戸際だった。それをまるで「飛んできた蚊を追い払った」後みたいに。
「おい。まさか……何も収穫がなかった。などと言うのではあるまいな?」
ライアンの顔は真剣そのものだ。
「収穫どことか……薬飲まされて捕まりそうになったんですけど」
一瞬、間を置いてライアンが笑いだした。 ――笑いごとか!?
「なるほど。それで奴らの狙いが大体解った。お前を選んだこの眼に狂いは無かった」
――――ぜんぜん解んないんだけど!!

「来い!!」
俺の腕(怪我していない方)をむんずと掴むライアン。……またこの展開?
「今度はどこ行くんだよ!?」
「決まってるだろう。剣闘会に参加する。闘技場なら遠慮なく魔剣が使えるからな」
状況説明もなしにこれ? とにかく聞きたい事が山ほどあった。さっきの不思議な技といい……白い魔狼といい……

「つかあんた何者? 目的は何?」
引っ張られながら夢中で聞いた。せめてそれだけでも教えてもらわないと困る!
しばらく俺を引っ張って走っていたライアンは、ふと足を止めた。じっと俺の眼を見つめ……口を開いた。
「我が名はオースティン・ライアン・オブ・ルーン。ルーンの復興に、ヴェルハーレン卿の助けが要る。それだけだ」
エルフ語で綴られた衝撃的な言葉に、一瞬凍りつく。
「すまん。初めからそう言っていたら……付いてきてくれたか? ルーク・ヴェルハーレン」

全部……知ってた……?
俺はヘナヘナとその場にヘタり込んだ。遠くで魔狼の吠え声がしていた。

94 :
名前: ライアン( オースティン・ライアン・オブ・ルーン)
年齢: 25
性別: 男
身長: 185
体重: 79
種族:人間
職業:剣士
性格:強引 物事に動じない 上から目線
長所:短剣の使い手、エルフ語を解す
短所:魔法自体は全く使えない
特技:複数の魔力剣による連続技  
武器:オリハルコン製の短剣を24本(それぞれにルーン文字が一文字ずつ刻まれている)
防具:なし
所持品:蝋燭、火打石など、野営に必要な小道具一式
容姿の特徴・風貌:瞳は黒。黒い巻き毛を後ろでまとめる。旅装、フード付きの外套
簡単なキャラ解説:亡きルーン帝国王の嫡子、各地を放浪していたが、ベスマ要塞の噂を聞き王国に潜入

95 :
>>90
申し訳ない
地図をどこにアップしたらいいのかはちょっと分かりません
imgurに載っけて貼るとかじゃいけませんかね?
すいません適当ですwww

96 :
「君はエルフか?」
シオの問いに少女は頷く
「半分だけ」
「ハーフエルフか」
人間とエルフのハーフは耳の形などでは年の幼い頃だと判別がつかないことがある
少女は恐怖に青ざめた顔をしてうつむいていた
シオは笑顔を作ると
「お互い自己紹介がまだだったな、私はシオ・ビクタスという者だ」
少女をなぐさめるように言葉をかけた
少女はシオの言葉に顔を上げる
「リリス・レニエ」
そのはっきりとした声の強さにリリスの意外な心の強さを感じるとシオはリリスに部屋にいるように言葉を残して一階へと下りていった
カウンターの奥に入ると女主人が叫ぶ間もなく喉を食いちぎられたのだろう
首からおびただしい量の血を流して死んでいた
シオはそのむごたらしい死体をわずかだけ観察すると一階の安全を一通り確認したあと2階の部屋に戻りリリスに一階の状況を伝えた
リリスは女主人の死を聞くとポロポロと涙をこぼした
「ここにいるのは危険だ、誰か他に頼る者はいないか?」
リリスは涙で濡れた顔を振って自分には他に身寄りはないことを表した
もうすぐ騒ぎを聞き付けた王都の衛兵がやってくるだろう
そうなればリリスはどうなるか
人間の孤児ならば王国が保護してくれるかも知れない
だがもしリリスがハーフマンエルフであることが知れたら容赦なく王都の路上に放り出すだろう
王国は例えまだ年端もいかぬ孤児の少女であろうとエルフの血が半分も流れていれば保護をしたりはしない
そうなればリリスはあの人狼の餌食になるだけだ
人狼は間違いなくエルフを狙っている
顔を手で覆って悲しみと不安にうちひしがれるリリスを見つめていたシオはそっと肩に手をかけた
「分かった、兎に角一緒にここから出よう後のことはそれから考えよう」
シオの言葉にリリスは顔を上げた
リリスは目にたまった涙を急いで指でぬぐうとシオの顔を見てまっすぐに頷いた
シオがリリスを連れて娼館を出ると騒ぎに起きた住民達が何事かと部屋の窓を開けて通りを見ていた
通りの向こうからは炬火をもった男数人と馬に乗った武人の集団が近づいてくるのが見える
王都の衛兵に見つかるのを避けるようにシオとリリスは通りを横切る路地の暗闇へと消えていった

97 :
>95
ありがとうございます。描いたらアップしてみます。
ロールですが、投下は明日になりそうです。よろしくお願いします。

98 :
王城近くに建てられた聖アルカヌス闘技場は、直径328ヤード(約300m)の巨大な円形闘技場だ。
観客の収容人数はなんと20万人。各国のそれが通常5万人である事を考えれば、その規模の大きさが窺えよう。
一階の全面に設えられた丸い門(アーチ)は80箇所、うち王城側のアーチは王侯貴族専用の入り口となっている。
他はすべて観戦に訪れた市民のための門である。
ここでひとつ、疑問に思うかもしれない。剣闘に参加する者たちは――いったい何処から入るのか?

闘技場から100ヤードも離れていない場所に、高い外壁に囲まれた円形の街が存在する。
ときたま上空を旋回するグリフォンの背に乗れば、広場を中心にして同心円状に並ぶ家屋を見るだろう。
多くの者はこの街をこう呼ぶ。「剣闘士村」、或いはただ……「村」と。



「ここが剣闘士村だ。参加者は皆ここを通る」
「俺(エルフ)が入って……怪しまれない?」
「大丈夫だ。ここは 誰 で も 自由に入る事が出来る王国で唯一の場所なのだ」
「誰でも?」
「そうだ。エルフだろうが、罪人だろうが、誰でもだ」

眼の前に構える大きな門。門といっても扉は無い。両脇に背の高い門兵が二人、銀の槍を手に立っている。
ライアンと連れだって門をくぐると、上品そうな貴婦人とすれ違った。門兵に何か渡している。
「……あれ、何?」
「礼金だ。ここから出るには金貨30枚が要る」
「……持ってるの?」
「さっき使ったのが最後だ」
――冗談だろ!?

急いで引き返そうとした俺の前で、槍が2本交差した。刹那、銀に光る障壁が扉となって門を閉ざした。
「ちょ・……ええ!?」
ライアンが俺の肩を掴んで引き寄せる。
「あれに触れたら一瞬でお陀仏だ。私が居て良かったな」
「良くない! 自由に出入りできるってさっき・」
「何を聞いてた。自由に入れるとは言ったが、自由に出られるとは言ってない」
「……」
こういう時、なんと言ったらいいんだろう。
○×! ○×○! ○×&@!! ○○○○○!!!思いつく限りの罵倒の言葉を叫ぶ。もちろん……心の中で。

99 :
「……お前。言いたいことが全部顔に書いてあるぞ」
思わずため息が出た。そういやエレンにもそんなこと言われたっけ。
仰ぎ見た夜空に煌めく満天の星。ついっと流れた星が目に染みた。――ま、いっか。これも冒険だと思えば。

街の中央に向かってまっすぐ進むと、すぐに石畳の広場に出た。人もいる。
剣を打ち合う者、それに喝を入れる男。倒れている者も数人。
真ん中には湯気の立つ大きめの噴水。数人の男が湯で身体を洗っている。胸や背中にひどい怪我をしている。
「村は剣闘士の養成所も兼ねている。これは傷を癒す湯殿だ」
ライアンが手の平で湯をすくった。
なるほど、湯は何かを癒す不思議な香りがした。熱くもなくぬるくもない。泳いだらさぞかし気持いいだろう……なんて。

ライアンの足が、頑丈そうなレンガ造りの小屋の前で止まった。
大きめの煙突、窓からのぞく鉄槌や鞴(ふいご)。鍛冶場だ。拳で数回、扉を叩く。
眠たそうな眼をした若い女性が扉を開けた。
「こんな夜中に、なんか用?」
珍しい紫色の長い髪、ライアンと並ぶくらい背が高い。女性は眼の前のライアンと後ろにいる俺の顔をぼんやり見つめた。
「ん……いい男」
訂正。眠そうなんじゃなく、酔っぱらってるんだ。息が……ハンパなく酒臭い。
「ライアンという者だが……ホンダはいるか?」

奥の方で答える声があった。
バタバタと走り寄る音。扉が大きく開き、立っていたのはやたらと鼻の大きな中年の男。
長くて黒い髭が顔の半分を覆っているが、頭には一本の毛も生えていない。クレイトンおじさんより……年上、かな?
「ライアン! でかくなったな! 10年ぶりか!」
男はごつい腕でいきなりライアンを抱きしめ、背中をバンバンと叩いた。
「親父さんも元気そうで何より。新しいお弟子さんかい?」
ドアに寄りかかって腕組みをするお姉さんが、ライアンに向かってパタパタと手を振った。
「ベリルってんだ! わしの練った鉄に惚れこんで弟子にしろって聞かねぇんだよ!」
「違うよおっさん。あたしは 錬 金 術 師。ここに居たくてちょっとやっかいになってるだけ」
ベリルは両手を腰に当て、大きすぎる胸を張った。……でかいなあ。いや、上背が。

「おや、このエルフは?」
……このエルフ。あんまいい響きじゃない。そういや父さんも「あの人間」とか「そこの人間」とか言ってたっけ。
「ルークだ。マキアーチャの子だよ」
驚いてライアンを見る。まさか母さんの名前が出てくるなんて思わなかった。
「ははは! あいつの坊主か! 言われてみりゃそっくりだっ!」
今度は俺の肩をバンバン叩きはじめるおっさん。――――痛いって! 
「平平凡凡な生活に嫌気がさしたっつって出てったがなぁ。エルフと所帯持つたぁ驚きだぁ!」
どうでもいいがおっさん。声でかいよ。みんなが見てるだろ。
「まさかこの村で孫に会えるたぁな! 今夜は飲みなおそうや!」
抱き寄せるようにして俺の肩をぎゅっと掴むおっさん。……ん。……孫?

100 :
「あ」
ライアンがわざとらしくポンと手を打った。
「言い忘れていたが、このホンダはマキアーチャ殿の実の親父さんだ」
「……え?……じゃあ……おっさんって俺の……祖父ちゃん?」
「よせよぉ、ジイちゃん、だなんてくすぐったいわ」

ライアンから聞かされた2度目の衝撃的事実に、俺はさほど驚いていなかった。そんな自分に驚いてみたり。
『おめえ、その体たらくで良く冒険してぇとかほざいたな』
クレイトンおじさんの言ってた言葉。
うん。俺もう、たいがいの事じゃ驚かないよ。これが冒険ってやつなんだよね? おじさん。

「こんなとこで立ち話もなんだ。入んな」
おっさ・祖父ちゃんがぐいぐいと俺達を作業場に押し込めた。そこは真新しい鉄の匂いがした。


「あんたがアルシャインにくっついてここ出て行ったのが……10年前だったなぁ」
グビっと強そうな酒を喉に流し込み、祖父ちゃんが呟いた。
「師は優勝の賞金を、ここにいた私達を外に出す為に使ってしまった。……感謝してもしきれない」
ライアンが柄にもなく眼を潤ませている。もしかして……泣き上戸?
「そういや『シオの奴がそっちに行くから頼む』と伝言があった。そろそろ来る頃かもなぁ」
タンっと空の杯をテーブルに置き、立ち上がった祖父ちゃん。何をするかと思えば……傍らの酒樽のコックをひねった。
俺が見てるだけでも1ダースは空けてる。
その隣でもかぱかぱ杯を空けるベリルさん。見たとこまったく酔ってない。……父さんといい勝負かも。
俺はと言えば、寄越された麦酒の杯をチビチビやっていた。……苦くて飲めたもんじゃない。

「おい」
「え…!? なに?」
「お前、おっさんの孫だろ? もっと景気よくやんなよ」
そう言って俺の肩に手を回すベリルさん。ふうっと息を俺の耳に吹きかけたもんだから、思わずブルルっと身震いした。
「おおすげぇ! エルフの耳ってパタパタ動く!」
……そんな事で感動してもらえるなら、ええ……やりますとも。ちなみに後ろに伏せたりも出来ますよ? 
もっともこれ、警戒してる時ね。だからもっと離れてね、お姉さん。すっごい迫力なんで。
俺は何とか話を逸らそうと考えを巡らせた。
「ベリルさん、錬金術師なのに、何故ここにいるんです?」
何故か敬語だったり。
「ルーク君。錬金術師が求めるもの、な〜んだ」
指先でちょんと俺の鼻先をつつくベリル。絡み上戸だよこの人。
「……賢者の石、とか?」
何気なく言った俺の言葉に、その場の誰もが凍りついた。

「……賢者の……石」
「うむ。……賢者の石……」
何だよ、俺、まずいこと言った?
「あっはっは! あたしはそんな大それたもん、狙ってないよ! ぜんぜん狙ってない! ほんと!」
……そう念を押されるとかえって怪しいんですけど。
「ルーク君! 君、聖アルカヌス闘技場がどうしてあんなに大きいのか、疑問に思った事ない?」


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