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夢想転職 拳法やめたら無職だよ


1 :2016/11/26 〜 最終レス :2017/01/09
パロディ小説。漫画に描いてくれる人がいるとうれしい。

2 :
夢想転職〜拳法やめたら無職だよ〜
作 嵯峨良蒼樹

一九九X年、世界が核の炎に包まれそうなある日、ある幻の暗殺拳の道場の一室で二人の男が対峙していた。
「どうしても行くつもりか、R(ル)アオウ!」
白い髭を生やした僧体の男が厳しい表情で問いかけた。
「伝承者がK(ケー)ンシロウと決まった今ここに残っても仕方あるまい」
鍛え抜かれ鋼鉄のごとく引き締まった肉体を持つ巨漢が背を向けたまま冷たく答えると、僧体の男の声は厳しさを増した。

3 :
「ならば□斗神拳(かくとしんけん)を捨てるがよい。二度と使ってはならぬ!  □斗神拳は一子相伝が掟……拳を捨てぬのならお前の拳を封じなければ……」
「分かった。今日限り□斗神拳は使わぬ」
「えっ、いいのー?」

4 :
「□斗神拳を使わなければいいのだろう?」
「そ、そうだけど、この間お前、天を握るとか何とか言ってなかったっけ?」
「それは聞き間違いだ。老いたな、R(ル)ユウケン……」
師父ルユウケンはなおも呆気に取られていたが、やがてさびしそうに口を開いた。
「……そうか、ならばわしにできることがあれば言ってみてくれ」
「気遣いなど無用! このルアオウ、職を変えるに人の手は借りぬ!」
すげない返事に肩を落としたルユウケンを後に残して部屋を出たルアオウは、その足で□斗神拳正殿に入った。

5 :
昼なお暗い正殿には灯明に照らされた巨大な一対の仁王像が佇立(ちょりつ)し、その前に一人の男が端座していた。
その男の髪は肩にかかるほど長く、その理知的な風貌からは荒々しさを微塵も感じさせないが、その体躯は完璧なほどに鍛え上げられた均整を示していた。
□斗神拳次兄T(ティ)オキである。
ルアオウはティオキの横に無言で座った。二人の間にしばらく沈黙が続いた後、荒々しい足音が正殿に近づき、正殿の扉がけたたましくきしみながら開いた。
扉を押し開けて入って来たのは□斗神拳三男のJ(ジェイ)ギだった。

6 :
「兄者たち、伝承者が弟のK(ケー)ンシロウに決まったぞ!」
ジェイギは憤怒の形相でルアオウとティオキに訴えたが、二人の兄は微動だにせず無言のままだった。
「兄者たちはなぜ何も言わん! 一番下の未熟者に伝承者の座を奪われて悔しくないのか!」
しかしルアオウとティオキは依然一言も発しない。

7 :
「□斗神拳は一子相伝! 伝承者争いに敗れた人間は拳を封じられ、名乗ることも許されん! そのためある者は拳をつぶされある者は記憶を奪われた!」
ジェイギは怒りに任せて激しく言葉を次々に吐き出した。しかし二人はやはり微動だにせず返事をしなかった。
「兄者たち、ふぬけたかー!」
ジェイギはとうとう二人の兄にまで怒りの矛先を向け、傍らに立っている鉄柱を右の裏拳で打った。
ドカァン!
三人の兄弟と共に□斗神拳伝承者を争ったほどのジェイギの鉄拳に、鉄柱は音を立ててひん曲がった。

8 :
その時まで瞑目していたルアオウがかっと目を開き、ジェイギをにらみ据えた。
「うぬはこのオレをふぬけ呼ばわりするか!」
 その凄まじいほどの眼光にはさすがのジェイギも気圧されて身をかがめ、弱々しくおもねるように答えた。
「ごめんちゃい、お茶目しただけだよーん」

9 :
「ジェイギ、ここに来て座れ」
ルアオウは依然鋭い眼光のままジェイギに命じた。
「……はい」
ルアオウの一喝でさっきまでの威勢を吹き飛ばされたジェイギはルアオウに叱られるのかと思いつつ、おずおずと二人の前に座った。
ジェイギもかなりの長身であったが、それをはるかに凌ぐ巨漢のルアオウの前に座るとジェイギがルアオウを見上げる格好になった。

10 :
「親父(おやじ)はビジネスモデルを誤った」
ルアオウが重々しく口を開いたが、ジェイギは聞き慣れない言葉に目を白黒させた。
「び、ビジネスモデル?」
「そうだ」
「簡単にいうと、商売の仕方のことだ」
ティオキが横から補足した。
「ああ、そういうことね」
ジェイギも理解したのを見てルアオウは話を続けた。

11 :
「□斗神拳にいかに歴史があろうとも、一子相伝の掟に縛られて伝承者争いの敗者の拳をつぶすなど愚の骨頂!」
「そうだそうだ!」
「まあ、ルアオウの話を最後まで聞こうじゃないか」
「考えても見よ、今の□斗神拳道場の経営がいかにして成り立っているのか。もはや自ら稽古を付けぬルユウケンに代わって弟子たちに稽古を付けているのはケーンシロウではない! ここにいるオレたち三人ではないか!」
「そうだ! 未熟者のあいつは自分の修行で精いっぱいだ!」

12 :
「オレがマッチョ系の弟子に教え、ティオキがオタク系の弟子、ジェイギがアウトロー系の弟子の相手をしているからこの道場は細々と成り立っているのだ!」
「そうだそうだ!」
「確かにルアオウのいう通りだ」
「しかしもしオレたちが拳を封じられ、この道場を追われたら次の日から道場はどうなる? オレたちに稽古を付けられるばかりでインストラクター経験に乏しいケーンシロウでは道場を守ることなど到底不可能だ!」
「兄者のいう通りだ! やはりケーンシロウでは□斗神拳は滅びる!」
ジェイギは興奮してそうまくし立てた
「仮に道場が存続できたとしても……?」
ルアオウがそこまで話した時、正殿の裏口の戸が静かに開き、三人は一斉にその方角に目を向けた。

13 :
ルアオウほどの巨躯ではないが、厳しく鍛え上げられ引き締まった肉体を持つ長身の男が入って来た。
噂をすれば影、その男こそが先ほど伝承者に指名されたばかりの□斗神拳四兄弟の末弟ケーンシロウだった。
「何をしに来た、ケーンシロウ!」
敵意むき出しのジェイギは立ち上がると、近づいて来たケーンシロウにとげとげしい言葉を投げ付けた。

14 :
「……」
ケーンシロウはジェイギの目を見ず、その言葉を受け流した。ティオキがその場を納めようと宥めるように口を開いた。
「ジェイギ、落ち着け。ケーンシロウ、何か話したいことがあって来たのだろう?」
「ああ」
「ならばここに来て座るがよい。ジェイギ、話はまだ終わっていない。お前も座れ」
そういうとティオキはケーンシロウに向かって自分の右隣りを指差して見せた。
「すまない」
「くそっ」

15 :
ケーンシロウが少し遠慮がちにティオキの横に近づくと、ジェイギはルアオウの顔色をうかがったがルアオウは目を閉じて腕を組んだままだった。ジェイギもそれをケーンシロウへの暗黙の許可と受け取って、ケーンシロウの横にしぶしぶ腰を下ろした。
腰を下ろしたケーンシロウは慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「さっき父から□斗神拳伝承者に指名された」
それを聞いたとたん、ジェイギは凄まじい形相でケーンシロウを怒鳴りつけた。
「オレは認めねえ! さっさと親父の所に行って辞退して来い!」

16 :
「ジェイギ待て!」
ティオキは少し声を荒げてジェイギを叱責すると、ケーンシロウに向かって穏やかに促した。
「ケーンシロウ、続けてくれ」
「うむ。末弟の身で伝承者の役目を任されて大きな責任を感じている。まだ未熟なオレ一人で道場をやっていけるかどうか、正直な所自信はない」
その言葉を聞くや否やジェイギが言わんことか、と口を挟んだ。
「そうだ未熟者のお前には無理だ!」

17 :
「ジェイギよさないか!」
ティオキが気色ばむと、ジェイギは不服そうに言い返そうとしたが、目を開いたルアオウがそれを遮った。
「話を続けるがよい」
「……そこでルアオウ、裏宗家を継ぐあなたの知恵を借りに来た」

18 :
「う、裏宗家? 何だそりゃ?」
ジェイギは初めて聞く言葉に仰天していたが、ルアオウは会心の笑みを漏らした。
「ふっ、知っておったか、□斗神拳裏宗家の存在を」
「ああ……」
「何だ、その裏宗家ってのは?」
いぶかしげに尋ねるジェイギにティオキが静かに答えた。
「□斗宗家の出身でありながら伝承者の地位を断念し、陰から□斗神拳を支えて来た者たち、それが□斗神拳裏宗家だ」

19 :
ルアオウがティオキの言葉を引き継いで熱く語り出した。
「そもそも□斗神拳伝承者は職業ではない! 日々の壮絶なる鍛錬なくして会得できぬ□斗神拳の伝承者には己が生活を省みる暇(いとま)はない! よって□斗神拳伝承者は生活力皆無!」
ルアオウの言葉をティオキが引き取って話を続けた。
「その伝承者に代わって□斗神拳を経済的に保護発展させてきたのが裏宗家歴代当主なのだ。ジェイギ、お前もK(ク)オウリュウを知っているだろう」
「クオウリュウ……、ああ、山奥で座禅ばっかりしてるあの爺さんな。親父との伝承者争い時自分から身を引いたんだろ」
ジェイギは訳知り顔で答えたが、ティオキは穏やかにジェイギの誤解を正した。

20 :
【訂正】

誤:親父との伝承者争い時

正:親父との伝承者争い「の」時

失礼しました。お詫びして訂正します。

21 :
「クオウリュウはあそこでただぼんやりと座禅をしていたのではない。クオウリュウはあの付近の山々の鉱山を経営していたのだ。そして採算が合わなくなって閉山になるまでは何かと物入りな□斗神拳道場に多額の寄付を続けていたのだ」
「へえ、そうだったのか? オレは弟子から月謝をもらって何とかやっていけてるもんだとばかり思ってた」
その気楽な言葉を聞いたルアオウはかっと目を剥いてジェイギを叱咤(しった)した。

22 :
「愚か者め! ろくに集めもしない弟子の謝礼ごときでこの広大な土地と建物が保てるか! あれもこれも裏宗家歴代当主の寄付だ! この正殿も、そこにそびえる仁王像も、お前が今殴った鉄柱も、何もかもだ!」
「そうだったのか?」
「その鉄柱の裏を見てみよ!」
「えっ? あ、クオウリュウの名前が書いてある」
「そうやって裏宗家歴代当主が生活力皆無の歴代伝承者を陰で支えてきたからこそ□斗神拳の今日があるのだ!」
「そ、そうだったのか、知らなかった……」
ルアオウの指摘にジェイギはただ呆然とするばかりだった。

23 :
「そうなのだ」
とティオキも相槌を打った。
それまで黙って聞いていたケーンシロウが口を開いた。
「しかし、高度成長の後採算が合わなくなって鉱山を閉鎖した後、クオウリュウはリタイヤして援助は途絶えた。しかもオレが伝承者となった後兄さんたちが掟通りに拳を封じられれば道場で稽古をつけられるのは未熟なオレ一人になる……」

24 :
「ほう、それでルアオウの兄者に泣きつきに来たという訳かい」
ケーンシロウの言葉を聞いたジェイギは皮肉な表情を浮かべ勝ち誇ったような口ぶりでまた口を挟んだ。
「よせジェイギ。ケーンシロウ、お前の不安はもっともだ。続けてくれ」
 ティオキがジェイギの言葉を遮って促し、ケーンシロウは話し続けた。

25 :
「オレだけになる□斗神拳の道場にどれだけの人数の弟子が残るか……。自分の修行ばかりに必死で他人に稽古をつけたこともろくにないオレにインストラクターとしての適性があるか分からない。
それに弟子が残って道場が存続できたとしても、この広大な土地や建物の維持管理費や税金は到底まかなえない。どうしたものか考えあぐねている……」
「うむ、お前のいう通りだ。誰が伝承者となっても□斗神拳は同じ問題を抱えることになるだろう。実は私たちもそのことを話し合っていた所だ」
ティオキが再び助け舟を出したのでケーンシロウは少し安堵した表情を浮かべ、話の内容を知りたげにティオキとルアオウの顔を見た。
「そうだ、親父は伝承者もビジネスモデルも誤ったんだ。ビジネスモデルって何か分かるか、ケーンシロウ、あーん?」
ジェイギは自分が知らないことはケーンシロウも知るまいと思って得意げにたずねた。

26 :
「簡単に言えばビジネスでもうける仕組みのことだろう」
「何だ、知ってるのかよ?」
知らないと思っていたケーンシロウにあっさりと答えられてジェイギは不満げに口をとがらせ黙った。
代わりにルアオウが口を開いた。
「ケーンシロウ、お前のいう通り□斗神拳の掟に従えば伝承者一人で□斗神拳を支えることなど到底不可能。バブル崩壊後の今の時代、伝承者も経営を考えねばその身を養うこともできぬが、親父はあの通り古き掟に従うことしか考えておらぬ。
このままでは□斗神拳は今ある身代を食いつぶして破産する!」

27 :
「その通りだ……」
ルアオウの指摘にケーンシロウは苦悩の表情を浮かべた。
ルアオウはケーンシロウのその表情を見て爽快な笑顔を浮かべた。
「しかし安堵せい、ケーンシロウ。□斗神拳は伝承者一人が守るものにあらず! このルアオウ、裏宗家を継ぐに当たって既に究極秘奥義夢想転職を体得しておる!」

28 :
「夢想転職?」
この秘奥義はさすがのケーンシロウも知らないようだった。
「何だ、その夢想転職ってえのは?」
ジェイギも興味津々といった様子でたずねた。
「□斗神拳裏宗家究極秘奥義夢想転職、それは□斗神拳を守るために代々の裏宗家当主が体得してきた究極秘奥義だ……」
ルアオウに代わってティオキが解説し始めた。

29 :
「伝承者争いに敗れた者が□斗神拳を経済的に支えるために無職より転じて自分にふさわしい職を拾う、それが夢想転職。□斗神拳を心より愛し、その真髄を極めんと全身全霊を傾けた者でなければその奥義は体得できぬ。
そこまでして伝承者に劣らぬ程に己が拳を高めた者が伝承者争いに敗れて現職の真の哀しみを知る時、その奥義は体得できるという」
「そんな奥義が裏宗家に……」
「うむ。一子相伝であるはずの□斗神拳が常に幾人かの伝承者候補を擁してきたのは伝承者の陰となり経済的に□斗神拳を守る裏宗家たる逸材を見出すためでもあったのだ」

30 :
「そうだ。夢想転職を身につけたオレは今や己が望むままにあらゆる職業についてビジネスモデルと競合、成功への障害をありありと思い浮かべ、天職を見出すことができる!」
「便利な奥義だなあ……」
ジェイギが感心したようにつぶやいた。
ルアオウはそれを満足そうに聞きながら話を続けた。
「この奥義のすごい所はそれだけではない。この夢想転職は、志を同じくするビジネスパートナーと共に気を高めればオレが思い浮かべる内容を共有できるのだ!」
「それは私も初めて聞いた」
ティオキも控えめだが驚嘆の声を上げた。

31 :
それを見たルアオウは笑みを浮かべた。
「しかし驚くことでもあるまい。覇業を含めあらゆる大きなビジネスは一人ではなし得ぬのだからな」
「なるほど、あなたのいう通りだ。……ではルアオウ、あなたは夢想転職を使えば私たちと共に□斗神拳を経済的に守る道が見出すことができるというのだな」
「うむ。しかしそれは夜を待とう。この秘奥義は時間がかかる」
「分かった。ケーンシロウ、それでいいな」
ケーンシロウは感謝のまなざしでうなずいた。
「よろしく頼む」
「ジェイギ、お前もいいな」
ジェイギは後回しに聞かれたのが面白くないようだったが、不承不承と言った表情でうなずいた。
「あ、ああ……」
「ではまた夜にここに集まろう。ルアオウ、それでいいか?」
「うむ、親父には気取られるなよ」

32 :
師父ルユウケンとの会話のない夕食を終え、四人は夜の正殿に再び集まった。
ルアオウが仁王像の前に座り、その左手にティオキ、右にはジェイギが座り、ケーンシロウはルアオウの正面に座っている。
ティオキは対座する三人の顔を穏やかな表情で見回した。
「みんな集まったな。ではルアオウ、始めてくれ」
「うむ。ならばまずは皆両手をこう構えるのだ」
ルアオウはそういうと右手は胸の高さに挙げ、左手は手のひらを上にして膝の上に置き、どちらの手も親指と人差し指で輪を作って見せた。
他の三人もルアオウにならって同じ姿勢を取ったが、ジェイギはつい余計なことを口走ってしまった。
「ゼニよ来い、ってえことかな?」

33 :
それを聞いたルアオウはジェイギを一喝した。
「たわけ! これは上品下生(じょうぼんげしょう)の法印というのだ!」
ジェイギは首をすくめた。
「ごめんちゃい」
「ルアオウ、法印をこう結んだら今度はどうするのか教えてくれ」
ティオキに穏やかに促されてルアオウは気を取り直して話を続けた。
「目を閉じて皆同じ想いを込めて気を高めるのだ。オレが夢想転職の奥義を使い、□斗神拳を守るためのビジネスモデルを見出したいという皆の想いが一つになった時、オレたちは瞑想の中で天職かも知れない仕事を現実のように体験する。
その中で誰がどんな役割を果たせるか、どんな競争相手が現れるか、どのような障害が成功を阻むリスクになるかをありありと思い浮かべることになる。それを何度か繰り返せば□斗神拳を経済的に守る道は自ずと見えて来よう」

34 :
「なるほど、分かった。ケーンシロウもジェイギも分かったな」
「うむ」
ケーンシロウは素直にうなずいた。
「何で弟のケーンシロウが先なんだよ……分かったよ」
ジェイギはケーンシロウの後回しにされることが不満そうで口をとがらせたが、ティオキが少し厳しい表情を見せると不承不承うなずいた。
「よし、では皆で□斗神拳を守る道を見出そう。ルアオウ、頼む」
「うむ。ならばみな目を閉じよ」
ルアオウに言われて他の三人は印相を結んだまま目を閉じた。ルアオウはそれを見届けてから自分も印相を結んで目を閉じた。

35 :
「さあ、皆気を高めるのだ! ぬううっ!」
そう言ったルアオウの全身から凄まじいほどの気があふれ出し、周囲に広がっていく。
「はあっ!」
「おおおっ!」
「はあっ!」
他の三人もそれぞれに気を高めた。
間もなく四つの気は重なり合い、四人を包んだ。
しかし、その瞬間ルアオウはカッと目を見開き、その気を消した。

36 :
ティオキとケーンシロウもほぼ同時に気を高めるのをやめ、目を開いた。
ジェイギだけはもう少しの間目を閉じて何か思い浮かべつつ気を高めていたが、周囲の異変に気付いて目を開くと、慌てて気を消した。
ルアオウがジェイギをにらみ付け、ティオキとケーンシロウがうさん臭いものを見るような目つきでジェイギを見ていた。

37 :
「ジェイギ、うぬは今何を考えておったか?」
「えっ? も、もちろん□斗神拳を守る方法に決まってるじゃないか……」
ジェイギは幾分ルアオウにおもねるような様子で答えたが、ルアオウの表情は一層険しくなった。
「口先でごまかそうとしてもこのルアオウを欺くことはできぬ! ジェイギ、うぬは雑念を抱いていたであろう!」
「えっ?」
慌てふためくジェイギにティオキも静かに語りかけた。
「ジェイギ、ごまかしても無駄だ。お前は金や女のことを考えていただろう……」

38 :
「そ、そりゃまあ成功して金持ちになったらいいな、とか、もてたらいいな、とか、思ったけど……なあ、そんなことどうでもいいじゃん。転職する時誰でも思うことだろ?」
しかしルアオウの鋭い眼光はジェイギのそんな甘い考えを決して許さないことを何よりも雄弁に物語っていた。
「そのように甘い考えでは夢想転職はなし得ぬ!」

39 :
ルアオウの叱咤がジェイギの言い訳がましい話を遮った。
「成功は天職を見つけた後に付いてくるものだろう。まずは何よりも□斗神拳を経済的に守ることを真剣に考えねばなるまい。ルアオウ、あなたはそう言いたいのだろう?」
ティオキが割って入り、ルアオウを宥めつつジェイギを諭すように言った。
「そうだ。邪念を抱く者はこの□斗の長兄がここより放り出すと覚悟せよ!」
「わ、分かった兄者。すまなかった。この通り謝るから許してくれ」
ジェイギも反省したらしく、ルアオウに向かって手を合わせて許しを乞うた。

40 :
ジェイギが珍しく殊勝な態度を見せたので、ルアオウもそれ以上はとがめることをしなかった。
「分かればよいのだ」
「ではルアオウ、また夢想転職を始めてくれないか」
「よし! ではもう一度法印を結んで目を閉じるのだ……」
三人が再び法印を結んで目を閉じ、気を高めるのを見届けたルアオウは自身も同じように法印を結んで目を閉じ、気を高めた。
「□斗神拳裏宗家究極秘奥義、夢想転職! ぬううりゃああっ!」
四つの気は今度は見事に調和して四人を包み、夢想転職の世界を四人の脳裏に浮かび上がらせた。

41 :
プロローグ、
ここまでです。

42 :
【□斗のメン】

二千年にわたり受け継がれてきた恐るべき暗殺拳と共に受け継がれてきた秘伝の味を守る店があった。
その名を、□斗神軒(かくとしんけん)!
天空に連なる七つの星の下(もと)、仕込みは、繰り返される……

43 :
(ほにゃららららららー、ジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャ!)

(ほにゃらーん!ほっ!ほにゃほーにゃほにゃらー、ほにゃー、ほっにやっ!)

44 :
YOUは食(SHOCK)!
味でほほが落ちてくる!
YOUは食(SHOCK)!
オレのほほが落ちてくる!
熱いスープ、慌てて飲んだらやけどしちゃうよ!
レンゲ使ってふうふうしてから飲めよ!

YOUは食(SHOCK)!
オレの麺はおいしいよ!
YOUは食(SHOCK)!
オレのスープもおいしいよ!
味を求めさまよう心今熱く燃えてる
全て溶かし味わい豊かなはずさ!

オレとの味を守るためお前は旅立ち
レシピを見失った!
おなかを空かせた顔など見たくはないさ!
味を取り戻せ!

45 :
「ケーンシロウ、頼んだぞ」
「任せてくれ、ティオキ!」
カウンターの向こうにいるティオキに声を掛けられたケーンシロウは勢いよく答えると両手を挙げ、いつものように半身に構えた。
「はああっ!」

46 :
□斗神拳を使って戦う時のように気を高め、気分が高揚したケーンシロウの口をついて決めゼリフが出た。
「□斗の麺は無敵だ」

47 :
今回はここまで。

皆さん、ご感想をお願いします!

48 :
嫌いじゃない

49 :
ポーズも表情もいつものように決まっていた。いつもと違うのは、中華風の上着を着て右手にラーメン、左手にチャーハンをのせていることくらいだ。
(ふっ、決まった……)
ケーンシロウは自分のいつも通りのかっこよさに内心満足したが、叱咤の声が飛んできて我に返った。
「ちょっと兄ちゃん! ブルースリーの真似してないでさっさと持って来てよ!」
背広を着て四角いメガネをかけたサラリーマン風のモヒカンがカウンター席からケーンシロウをにらみ付けていた。

50 :
「す、すみません……」
額に汗をかいて謝ったケーンシロウはいそいそとサラリーマン風モヒカンの客の前に注文の品を置き、元気よく叫んだ。
「ラーメンチャーハンお待ちぃ!」
「ったく、近頃の若いもんは、ゆとりだから困ったもんだねえ」
モヒカンサラリーマンは待ちかねたといった様子でケーンシロウに小言を言いつつ割り箸を取った。
「今どきのビジネスマンは忙しいんだよお……」

51 :
しかし、口うるさいモヒカンサラリーマンも麺を口にするとすぐに食べることに夢中になった。
「おっ、うめっ! こりゃうめえ! ハフハフ、ホフホフ……」
(ふっ……)
済まなさそうに愛想笑いを浮かべて客の文句を聞いていたケーンシロウは、客が幸せそうに麺を食べるのを見て暖かい微笑みを浮かべた。
(□斗の麺は無敵だ……)

52 :
「いったはずだ! おれはこの手に麺を握ると!」
「あ、あれ天じゃなくて麺だったの?」
「だから老いたというのだ」
「ああそう……」
「まあよい。□斗神拳の掟は拳を封じても麺までは封じておるまい」
「……」
師父ルユウケンに高らかに宣言したルアオウは麺での覇業を成し遂げるべく、ラーメン店開業に向けて驀進(ばくしん)を始めた。

53 :
二千年の長きにわたり受け継がれてきた□斗神拳に暗殺拳と共に受け継がれてきた幻の麺、□(かく)斗(と)神(しん)麺(めん)をビジネスに活かすことを思いついたのだ。
□斗神拳が最強の拳であり続けるため、歴代伝承者たちは拳法だけでなく、拳法家の鍛錬の一環として食事を含む養生法にも工夫を凝らし続けてきた。
その結果、□斗神拳伝承者が発展させてきた秘伝の麺は味と滋養共に極められ、神の麺と呼ぶにふさわしいほどの域に達していたのだった。

54 :
□斗神麺のビジネス展開の最初の障害は開業資金だった。
ルアオウたちは金銭面に無頓着な師父ルユウケンからはろくに小遣いももらっていなかったからだ。
ルアオウたちの収入はその拳に心酔した□斗神拳の弟子からの謝礼だけで、ティオキと力を合わせても自力で店舗を持つことは到底不可能だった。
しかし、ルアオウとティオキに心服する□斗神拳の弟子たちからの借り入れで開業資金は賄うことができた。
資金不足に加え、起業に失敗するリスクを考えて当面従業員を雇うことはせず、店の営業は四兄弟で行うことになった。
かくして準備は整い、幻の□斗神麺を提供するラーメン店□斗神軒が晴れて開業したのだった。

55 :
ケーンシロウがそんな回想をしていると、テーブル席の二人の客から声が飛んだ。
「オレたちにバリ硬替え玉を一つづつ頼む」
ケーンシロウはカウンターの向こうにある厨房に威勢よく声をかけた。
「テーブルAのお二人様にバリ硬替え玉!」
「心得た!」
カウンターの向こうから力強くハリのある声が帰って来た。
「食らうがいい、我が最強の麺を! □斗剛掌メーン!」
ルアオウが目にも留まらぬ早業で両手を素早く動かすとほとんど直線に見えるバリ硬の替え玉が飛んだ。
二つの替え玉は注文したテーブルにある二つのドンブリに威勢よく、しかしスープを一滴もこぼすことなく飛び込んだ。

56 :
「待ってましたあ!」
歓喜の声を上げた二人の客が待ちきれない様子で麺を口に運ぶと、バリ硬麺はその名の通り、二人が麺をかむたびにバリバリと音を立てる。
「いてっ、いてっ! でもうめっ!」
バリ硬麺が歯ぐきに刺さるらしく、二人の客は麺をすするたびに痛がっている。
しかし□斗神麺の絶妙な味に夢中になっている二人は痛がりながらも物凄い勢いで麺をすするのをやめられないようだ。

57 :
ケーンシロウは微笑んだ。
(□斗の偉大なる長兄ルアオウの剛の麺、さすがだな……)
別なテーブルのターバンをした二人からも声が上がった。
「オレたちも替え玉頼む。こっちはバリ柔で」
「テーブルBのお二人様にバリ柔替え玉!」
「承知!」
今度は柔らかだが気合のこもった声が帰って来た。
「□斗有情断迅麺(うじょうだんじんめん)!」
ティオキもルアオウに劣らぬ素早さと切れのある動きで両手から替え玉を飛ばしたが、その麺は柔らかくまとまっていた。
ティオキが飛ばした替え玉もスープを一滴もこぼすことなく、二つのドンブリにきれいに飛び込んだ。

58 :
「おっ、来た来た!」
「いただきまーす!」
バリ柔の替え玉を頼んだ二人もはやる気持ちを抑え切れないといった様子で勢いよく麺をすすった。
「うめーーっ!」
ルアオウの剛の麺とは違ってティオキの麺を食べる二人は苦痛は感じないらしく、その味を絶賛しつつ勢いよく麺をすすっている。
その様子を見ながらカウンターの向こうからティオキが静かにつぶやいた。
「せめて痛みを知らずに安らかに味わうがよい……」

59 :
それを聞いたケーンシロウの顔にはまた微笑みが浮かぶ。
(ティオキの麺は柔の麺……)
ケーンシロウはまだ自分が作る麺の質がルアオウの剛の麺に近いことを自覚していなかったが、ティオキの柔の麺を高く評価していた。
(ティオキの麺を食べた者は天国を感じるという……)
ケーンシロウはティオキが□斗神拳に伝わる秘孔術と拳法家の養生法として極められた薬麺を医学に活用することに情熱を傾けていることを知っていた。

60 :
「私は□斗神麺を病に悩む人々を救うのに役立てたいのだ……お前なら分かってくれると思う……」
ティオキは折にふれてそんな熱い思いを語った。ケーンシロウはティオキの華麗な拳技だけでなくその高貴な人柄までも深く尊敬していた。
(オレが惹かれ追い続けた最も華麗な麺を作る男……もし□斗神麺が一子相伝だったらティオキこそが伝承者になるべきはずの男なのでは……!)
しかし、ケーンシロウがそんなことを内心思っている間に、ティオキの麺を食べていた二人に異変が起こり始めていた。

61 :
「お、おい、お前その腕どうしたんだ?」
片方の客が連れにそういうと、もう一人が言い返した。
「お前こそその顔は変だろ? ……ほええ、いい気持ちだあ……」
言い返した方の客の両腕は異常な方向にねじれ続けているが、それは苦痛どころか非常な快感らしく、恍惚の表情を浮かべている。
「ら、らいじょうぶか、そんな顔して、はひゃあ、気持ちんよかあ……」
もう一人の客も連れを心配しながらもろれつが回らなくなり、快感で緩み切った表情を浮かべながら、手足を異常にくねらせ始めた。

62 :
「だ、大丈夫ですか?」
ケーンシロウは心配になって声をかけた。
しかし、二人の客の体はますますねじ曲がり、二人ともありえない姿勢と恍惚の表情を見せながら断末魔の悲鳴を上げ始めた。
「ぱみょおー!」
「ちにゃあー!」
二人とも□斗神拳で秘孔を突かれた時のように破裂しそうな勢いだ。
まさかこのまま爆発するのか?
ケーンシロウは目も当てられないという表情になり、片手で顔を覆った。

63 :
しかし二人は爆発しなかった。
二人の体は勢いよくするすると動いて元通りになったのでケーンシロウはほっとして胸をなでおろした。

64 :
今のは有情断迅麺の効能だった。
それでも二人が怒り出すのではないかとケーンシロウはいつものようにハラハラしたが、客が笑顔になったので、安心した。
「いやあ、この麺を食べるといつもいい気分になるなあ」
「ああ、オレもだ。気分爽快」
「さっきまでの肩こりがなくなって楽になったよ」
「オレも腰痛が消えた」
(やり過ぎだよ、ティオキ兄さん……)
ケーンシロウは二人の客が喜ぶ声を気付かれないように聞きながら一人で苦笑いを浮かべた。
この麺の注文には気苦労が多いのだ。

65 :
「有情断迅麺を食べると全身が柔軟になる。ストレッチが促されてこりがほぐれ、血行が非常に良くなるのだ」
ティオキからはそう聞かされているので、有情断迅麺は人体に有害どころか健康上有益だとケーンシロウは信じている。
だが、有情断迅麺を食べた客はまるでティオキの有情拳を受けたように爆発しそうに見えるので、客からこの麺の注文を受けるとケーンシロウはいつも心配でたまらなくなってしまうのだ。

66 :
このテーブルのターバンを巻いた二人は常連客だからまだいいが、人目が気になる客や特に若い女性客が何も知らずに注文することがないように接客に気を使わなければいけない要注意メニューだ。
それでもまさしく幻の麺であることには違いないので、メニューにはこう注意書きをつけて載せてある。
「幻の超ヘルシー麺! だけど余りのうまさに変顔注意!」
しかし有情断迅麺は怖いもの見たさや健康上の効能に引かれる男性客を中心に根強い人気を誇り、ルアオウの□斗剛掌麺と並ぶ定番メニューの一つだ。
(やはり□斗の麺は無敵だ……)
ケーンシロウはほれぼれとした表情で店内を見回した。

67 :
二千年の長きにわたって受け継がれてきた秘伝の味を初めて世に問うと鳴り物入りで開店した□斗神軒はまもなく繁盛し始めた。
今では食事時には行列ができるほどに賑わっている。
今日も仕事中のサラリーマンや工員やOL、休暇を取って来たらしい家族連れなど様々な客が店内を埋め尽くして□斗の麺を楽しんでいる。
□斗神軒の最大の魅力は何といっても□斗の長兄ルアオウの剛の麺と次兄ティオキの柔の麺だ。対照的な二人の麺が競うようにして幅広い客層を引き付けている。
その麺だけでなく特徴的なキャラクターにも注目が集まり、ルアオウにもティオキにも大勢の固定客がいるほどだ。

68 :
麺の味だけではなく、ラーメン店に求められる注文から料理提供までの早さも□斗神軒の魅力だ。
ルアオウの剛の麺はゆでる時間が大変短いのでスープや具と一緒にドンブリに入れて提供するまでに三分もかからない。
ティオキの柔の麺はゆで上がるまでに剛の麺より時間がかかる。
だがティオキは拳法修行で培った見切りを応用し、客の注文数を予想して麺をゆでているので、提供するまでの時間はルアオウとほとんど変わりがない。
特に替え玉の注文に対しては、二人とも即座に反応し、注文した客のドンブリまで麺を飛ばすので、ほとんど時間がかからない。
替え玉飛ばしは時間短縮だけでなく、炉端焼きのように魅せる職人芸として集客にも役立っている。

69 :
ちなみに開業前、ルアオウはさらなる時間短縮と話題作りのために、素手で麺を扱うことを提案した。
「炎さえもこの完璧なる肉体を焼くことはできぬ!」
ルアオウはそう言って麺ゆで用のラーメン釜の中で煮えたぎる熱湯に手を突っ込んで見せたが、ティオキに却下された。
「いや、ルアオウ、衛生面で印象が悪いからそれはやめておこう」
結局二人は普通のラーメン店のように振りざるを使って麺を扱っている。
替え玉飛ばしのおかげでケーンシロウがドンブリを動かす手間もいらないので、人件費節約の点でも役に立っている。

70 :
店内の座席にもルアオウとティオキが相談して、カウンター席とテーブル席のバランスにも気を使って設計してある。
飲食店の座席配分には工夫と配慮が必要だ。
わざと座りにくいカウンター席を多くして客が食事を済ませたらすぐ出て行くように仕向けて回転率を高めようとする飲食店は多い。
だが、そうすると食事をゆっくりと楽しみたい家族連れや友人連れの客の足が遠のき、客一人当たりの注文金額は下がってしまう。
かといってテーブル席ばかりだと急いでいる単独客までテーブルに案内することが増えて、集客効率が下がってしまう。
そこで□斗神軒では手早く食事を済ませたい客のために十分な数のカウンター席を用意する一方、□斗神麺の秘伝の味をじっくりと味わいたい客のための二人用、四人用テーブル席も十分用意した。

71 :
もちろん、テーブル席を動かせばお好みの人数でパーティーをすることができるように配置も工夫してある。
訪れる客の目的が仕事の合間の食事休憩なのか、時間をかけて食事をしたいのかを見極めてそれに合った席に案内するのはもちろん接客担当のケーンシロウの仕事だ。
拳法修行で培った心眼のおかげで客の好みを見誤ることはない、とケーンシロウは自負している。
今も店内の客は皆それぞれに満足そうに食事をしている。
ケーンシロウがそんなことに思いを巡らせていると、厨房の電話が鳴り始めた。電話番もケーンシロウの仕事だ。

72 :
「……はい、K(ク)アサンドラ町までですね。お時間二十分ほどいただきますがよろしいですか? はい、かしこまりました……クアサンドル町のU(ユー)イグル様に剛の麺チャーハンセット、特盛出前一丁!」
「心得た!」
「はいよお!」
剛の麺づくりに忙しいルアオウと、手際よく食器を洗っているジェイギが同時に元気よく答えた。ルアオウの横ではティオキが柔の麺を次々とゆで上げている。

73 :
その三人に背を向けているルユウケンは、壁際にある寸胴でスープの出汁(だし)を作るのに忙しい。
金のことには無頓着なルユウケンだが、□斗神麺を世に出したいという四兄弟の願いを快く認めてくれた。
ルユウケンは二千年の長きにわたって受け継がれ、継ぎ足して使われてきた□斗神麺の秘伝の出汁を持ち出すことを許してくれたばかりでなく、こうして自ら厨房でスープ作りを手伝ってくれている。
拳の修行では過酷といえるほど厳しい師父ルユウケンだが、その根底にある四兄弟への慈愛を感じて、ケーンシロウの胸は熱くなる。
二千年の長きにわたる□斗の先人たちの想いが詰まった出汁から作る絶品のスープはルアオウの剛の麺にもティオキの柔の麺にもよく合う。
それはまるで□斗の先人たちが□斗神軒の人気を支えてくれているようにケーンシロウには思える。

74 :
そんな感慨に浸っていると、ルユウケンが
「ぶぇっくしょい!」
と遠慮のないくしゃみをし、スープに波が立った。
「済まぬ、□斗の先人たちよ……」
無表情のルユウケンはそういって形だけ詫びるように右手で手刀を作りながら、左手に持ったお玉で鍋をかき回した。
ケーンシロウは二千年の長きにわたって□斗の先人たちのどんな物が混ざって来たかは考えないことにした。
そうしているとまた厨房で威勢のいい声が上がった。

75 :
「剛の麺チャーハンセット、特盛一丁上がり!」
「はいよ!」
ルアオウが作り上げたチャーハンセットをジェイギが手際よく出前用のおかもちに詰めていた。
「じゃ、ユーイグルさんのとこへ行って来るから後は頼むぞ」
出前はジェイギの担当だ。
ケーンシロウに一声かけたジェイギは店の勝手口から出て愛用のバイクに乗った。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ……。

76 :
いつもはアウトロー風ファッションのジェイギも□斗神軒ではケーンシロウと同じ制服を着ている。店で愛用のバイクも業務用原付だ。
「ごついバイクでこのマスクをかぶって出前ってのも話題作りにいいんじゃねえか? なあ、兄者たち、ケーンシロウ、どう思う?」
ジェイギはラーメン店の制服姿が嫌だったらしく、□斗神軒を開店する前にそんな提案をしてきたが、
「店員がそのような仮面を帯びるなど我が麺には恥辱!」
とルアオウに一喝されてあきらめた。今では金髪という以外には特に目立つ所のない服装で仕事をしている。

77 :
他のメンバーが店での仕事に集中できるように、ジェイギが食材の仕入れや出前など外に出る仕事を一手に引き受けている。
店にいる時は洗い物や清掃などルアオウとティオキが調理の手を止めることがないようにサポートを惜しまない。
取引先や出前先での客との会話などが気晴らしになるのでジェイギ自身も外に出る仕事を楽しんでいるようだった。
そうこうしているうちに、家族連れの客が伝票を取って席を立ったので、ケーンシロウは急いでレジに向かった。

78 :
「お会計合わせて三千五百円です」
父親らしい人が支払いをする横ではなぜか少女が泣きじゃくり、それを少年がなだめていた。
「どうして、どうして出て行かなくちゃいけないの……」
「仕方ねえだろ、他のお客さんも待ってるんだからさ」
「どうして皆争わなくちゃいけないの……」
「だから違うだろ、R(ル)イン、お前も替え玉二つもおかわりしたろ?」
「だって、だっておいしいんだもん……」

79 :
ルインと✖人(バツト)というらしい兄妹はまだ子供だがこの店の常連だ。両親と来ることが多いが、二人で来ることもある。店を出るのを悲しむルインとバツトのやり取りがこの店の風物詩のようになり始めている。
「ありがとうございました!」
「もう泣くなよ。また来りゃいいじゃねえか。ほら、おれがおんぶしてやるからさ……」
バツトにおんぶされたルインは微笑むケーンシロウに見送られながら店を出たが、また涙を流した。
こぼれた涙は輝きながら風に舞い散った。
「メ〜〜〜ン! また食べたいよー!」

80 :
【誤】✖人(バツト)
【正】X人(バツト)

81 :
ルインたちに続いて、トレンチコートに身を包み、帽子を深くかぶって顔を隠した客がこそこそと支払いを済ませて店を出た。
その男は店から遠ざかるルインとバツトをしばらく眺めていたが、店の自動ドアが閉まると口笛を吹いた。
それに答えて一羽の巨大なワシが男の背の高さまで舞い降りてきた。
男が何か小さなものを懐から取り出してワシに掴(つか)ませた。ワシは再び舞い上がり、どこかへと飛び去った。

「なに! □斗の麺が現れただと?」

82 :
今日はここまでざんす

83 :
あげ

84 :
あげ

85 :
あげ

86 :
あげ

87 :
あげ

88 :
あげ

89 :
「うむ。オレの手下のG(ジ)ヨーカーのワシがこれを持って来た」
わずか二時間後、○(まる)斗(と)聖(せい)拳(けん)本部会館ビル最上階の会議室で、○斗聖拳の頂点に立つ六人が一つのテーブルを囲んでいた。

90 :
○斗聖拳は□斗神拳と表裏一体とされ、□斗神拳に劣らず長い歴史を持つ伝説の拳法である。
ただし○斗聖拳はその存在を世間に隠さないいわゆる陽拳なので□斗神拳とは違って伝承者を一子相伝とせず、分派を認めて来た。
そのため才能ある者たちの手で新しい流派が生まれて各地に支部ができ、本部会館ビルを立てるほどの隆盛を享受している。
しかし○斗聖拳の指導者たちは表裏一体とされる同業者である□斗神拳を警戒してその動向を監視し続けて来たので、□斗神軒開店の知らせを受けると即座に最高幹部会議を開いたのだった。

91 :
「これを見てくれ」
そういいながらS(ス)インはジヨーカーのワシから受け取ったという物を会議室のテーブルの上に置いた。スインは○斗孤(こ)鷲(しゅう)拳(けん)の伝承者であり、常々ケーンシロウのことをライバル視している男である。
他の五人が身を乗り出してそれを見つめた。

92 :
「これは……□斗神軒のポイントカードか?」
「うむ……」
驚きの声を上げたのは○斗聖拳の最大流派○斗鳳凰拳(ほうおうけん)を率いるS(ス)アウザーである。拳法業界での帝王を自認するスアウザーも、今は低迷しているが○斗聖拳に劣らぬポテンシャルを秘めている□斗神拳には強い警戒心を抱いている。
「ほう、□斗の奴ら、面白いことを考えるな……」

93 :
そういうのは華麗な技で世の人を魅了する○斗水鳥拳(すいちょうけん)のR(ル)エイである。ルエイはその端正な顔立ちもあって女性から絶大な人気を誇っており、□斗神軒開店を知ってもその態度には余裕が見られた。
「うむ……」
○斗白鷺拳(はくろけん)伝承者のS(ス)ユウは親友ルエイの言葉に頷いている。スユウは盲目ながら全てを見通す心眼と華麗な足技で○斗六聖拳の頂点の一人に上り詰め、その不屈の闘志と人格により多くの人から尊敬されている。

94 :
「まあ、このオレの美と知略には遠く及ばんがな」
見下したような台詞を吐くのは○斗紅鶴拳(こうかくけん)伝承者のY(イ)ユダである。イユダは美しすぎる拳法家として自分を売り出し、美容のための拳法というコンセプトで各地の道場を開き、かなりの成功を収めている。
しかし、ルエイに対して強いライバル心を抱き、ルエイよりも美しい拳法家として認められようと躍起になっている。
「……」

95 :
○斗六聖拳の最後の一人は無言でいる。
○斗正統血統とされ、「○斗最後の将」と呼ばれるその人物はおそらく女性と思われるが、なぜか鎧兜に身を包み、その素顔も素性もその側近と○斗寺院の長老以外は知らず、○斗六聖拳の他の五人でさえ知らない。
一九九〇年代の今なぜそんな恰好をするのか、正統血統であるのになぜ素性の秘密が他の五人にすらばれないのかは永遠の謎である。
スインはスアウザー以外の四人の反応が鈍いことが不満らしく、険しい表情を浮かべて再び訴えた。

96 :
「□斗の動きを侮ってはなるまい。奴ら今は沈黙を守っているが、こうして世間に出てきた以上、いずれ□斗神拳の存在も明るみに出るだろう」
「□斗神拳が陽拳となって我ら○斗聖拳と競い始めるというのか?」
スユウが驚きの声を上げた。
「そうだ」
「特にルアオウは□斗の掟に縛られるような男ではない。やつならばこの世の覇権すら目指そうとするだろう」
□斗神拳の動向を探り続けてきたスアウザーは、ルアオウを己の野望を阻みかねない最大の敵と見なしていた。

97 :
「拳も麺もその手段という訳か?」
スアウザーの言葉を聞いて、ルエイも眉をひそめた。
「ならばどうする?」
沈黙を守っていた○斗最後の将がたずねると、スアウザーはその問いを待ち構えていたというように不敵な笑みを浮かべて答えた。
「オレに考えがある」
スアウザーはそう言うと身を乗り出して小声で話し始めた。
○斗六聖拳の六人はそれからしばらくの間何事かをひそひそと相談した後、意味ありげに頷きあった。

98 :
「味こそが正義。いい時代になったものだ……」
スインは不敵な笑みを浮かべてつぶやいた。
「参りますよ、キング様」
白い塊を抱えたジヨーカーが声をかけると、スインは両腕を挙げて目の前に敵がいるかのように身構えた。

99 :
しかし、その前に人がいるわけではない。
スインの前にはただラーメン店で使うゆで麺器が一台置かれて湯が沸騰し、その中にはいくつかの振りざるが小刻みに揺れながら麺を待ち構えている。
「ほいっ!」
ジヨーカーが掛け声と共にその塊をスインの目の高さに投げ上げるとスインは凄まじい形相になって叫んだ。

100 :
「○斗千手龍麺!」


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