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SS紹介スレ
ネギまバトルロワイヤル31 〜NBR ]]]T〜

ロスト・スペラー 12


1 :2015/09/17 〜 最終レス :2016/02/03
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。

『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。


ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。

2 :
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』――『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。

3 :
……と、こんな感じで容量一杯まで、設定を作りながら話を作ったりする、設定スレの延長。
時には無かった事にしたい設定も出て来るけど、少しずつ矛盾を無くして行きたいと思います。
規制に巻き込まれた時は、裏2ちゃんねるの創作発表板で遊んでいるかも知れません。

4 :
過去スレ
ロスト・スペラー 11
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1430563030/
ロスト・スペラー 10
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1418203508/
ロスト・スペラー 9
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1404902987/
ロスト・スペラー 8
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1392030633/
ロスト・スペラー 7
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1377336123/
ロスト・スペラー 6
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1361442140/
ロスト・スペラー 5
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1347875540/
ロスト・スペラー 4
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1334387344/
ロスト・スペラー 3
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1318585674/
ロスト・スペラー 2
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1303809625/
ロスト・スペラー
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1290782611/

5 :
テンプレの順番を弄ってみました。

6 :
旧暦の魔法勢力


神聖魔法使い


神聖魔法使いは、旧暦の最大勢力である。
旧暦の共通魔法使い達は、神を信じて祈る者が起こす奇跡を「神聖魔法」と呼んだ。
一方、神聖魔法使い自体は、神の奇跡を魔法とは言わず、『聖なる祝福<ホーリー・ブレス>』、
或いは単に『祝福<ブレス/ブレッシング>』と称した。
神聖魔法使いは『聖なる祈り子<ホーリー・プレアー>』だが、『祈る者<プレイヤー>』とは違い、
そこに神聖魔法使いの本質が表れている。
即ち、真の神聖魔法使いは『祈る者』ではなく、『祈り<プレアー>』その物なのだ。
人々の祈りの体現者が、神聖魔法使いの指導者、即ち『聖君<ホリヨン>』となって、人々を従える。
しかし、祈る対象は誰でも良いらしく、非道を行う偽聖君も度々登場している。
その理屈で言えば、より多数の祈りを集めた方が、強い聖君となるのが道理だが、
祈りの加護が無い者に一騎討ちで負ける等、現実は違った様だ。
真の聖君となる条件に就いては、「正義を愛する心を持つ」や「人を愛する心を持つ」等、
複数の曖昧な伝説があり、謎が多い。
神聖魔法使い達は、神聖魔法以外の魔法を忌避し、他の魔法勢力を排撃した。
魔法大戦以後、魔導師会には確認されていない。

7 :
呪詛魔法使い


呪詛魔法使いは、旧暦の全勢力、全存在への対抗勢力である。
他人の恨みを代行する形で、相手に呪詛を投じる。
「名明かしの禁止」、「自発的投呪の禁止」、「仇討返しの禁止」、「復代行の禁止」等、
幾つもの厳しい制約を自らに課し、その性質上、絶対に権力者にはなれないと言う、奇妙な集団。
暗殺組織の様な物だが、「正当な手続」で依頼を受ければ敵も味方も無い。
中には権力者に取り入って、政敵を呪う者もあった様だが、そうした者達は悉く破滅の道を歩み、
「掟を破った者の末路」と言われた。
必ず呪った相手をRとは限らず、体調を崩させるだけに止める他、人間関係を悪化させる等、
間接的に苦しめる事もある。
恐るべき事に、魔法暦になっても活動を続けており、根絶には至っていない。


精霊魔法使い


精霊魔法使いは、旧暦では主に辺境で活動していた。
過去には大勢力を築いた時代もあった様だが、魔法大戦が起こるまでの数十年間は、
他の魔法勢力の影響が及ばない、小国を治める程度だった。
精霊魔法使いは精霊言語で精霊に命じる、或いは、願う事で魔法を使うが、
「精霊」とは如何なる物なのか、真の精霊魔法使いにしか解らないと言う。
精霊魔法は精霊言語を通じて、火、風、水、土の『元素<エレメント>』を制御し、自然現象を起こす。
魔法大戦では独自勢力と、共通魔法使いと共闘した勢力、大戦に参加しなかった勢力の、
3勢に分かれる。
魔法大戦後も、共通魔法使いに混じったり、独自に活動したり、隠遁したりと様々。

8 :
予知魔法使い


予知魔法使いは、旧暦では聖君に対抗する者達に、重臣として召し抱えられていた。
神聖魔法使いは大勢力ではあったが、聖君に祈りが集中する事を快く思わない者も多かった。
偽聖君なる者が存在するなら、尚更である。
中には野心を持って、聖君に成り代わろうとする者もあった。
予知魔法使いは、そうした者達に取り入り、権力を得た。
予知魔法使いは単独では実力を十分に発揮出来ず、大抵は『顕現士<インプレメンター>』と呼ばれる、
「駒」を使って予言の実現を確実にする。
魔法大戦後、魔導師会に確認されているのは、マキリニテアトー1人のみ。
マキリニテアトーは開花期、騒乱罪の首謀者として魔導師会に逮捕された後、禁固千年を科され、
現在もグラマー市の魔法刑務所の地下に収監されている。


召喚魔法使い


聖君に対抗する為に、魔法で悪魔を召喚し、その能力を借りた者達が、召喚魔法使いである。
召喚された悪魔は召喚者と契約を結び、それに従ったと言う。
基本的には悪魔が優位で、贄や代償の内容、召喚に応じるか否か、契約を結ぶか否かも、
悪魔の気紛れだったらしい。
召喚者は契約によって、魔法を使える様にして貰ったり、命令に従って貰ったり、
願いを叶えて貰ったりするが、必ず望み通りになるとは限らなかった。
旧暦の一般人には、神の奇跡も悪魔の魔法も、その他の魔法も区別が付かなかった様で、
権力者が政敵を倒す為に、「悪魔使い」の濡れ衣を着せる事例が多発した。
神聖魔法使いにとっては、精霊魔法も呪詛魔法も、一様に「悪魔の業」である。
その為、信用に足る記述が少なく、召喚魔法は存在その物が疑問視されている。

9 :
共通魔法使い


魔法大戦の勝者にして、戦後、唯一大陸を支配している勢力。
魔法暦以後は魔導師会を結成して、魔法秩序の維持に努めている。
旧暦では新興の弱小勢力。
共通魔法は精霊魔法を科学的に解析する事で誕生した、人工魔法と言う扱い。
故に、精霊言語を基礎とする。
精霊魔法の火の魔法を電光、風の魔法を気体、水の魔法を液体、土の魔法を固体の操作として、
多くの現象を魔法で起こせる様にした。
他、精霊魔法以外の魔法にも呪文を与え、誰でも扱える様にした。
この偉業は多くの魔法勢力に敵視され、魔法大戦を引き起こす切っ掛けとなった。

10 :
処刑人


魔法暦472年3月11日付ティナー市民新聞社発行「週刊プロット」
「特集」処刑人――魔導師会法務執行部刑事部捜査第四課――より


「魔法に関する法律」に違反した重犯罪人の処分を担当する、法務執行部刑事部捜査第四課。
そこに所属する「処刑人」は『死の呪文<デス・スペル>』の使用を許可されている。
一般市民には畏怖の対象である、その処刑人の素顔に迫る。


処刑人は性質上、報復や復讐を避ける為に、素性を明かさない。
しかし、我々は幸運にも元処刑人を名乗る男性A氏(仮称)と接触する事が出来た。
個人情報を伏せる事を条件に、A氏は取材に応じてくれた。
以下は質問と回答。

11 :
(前略……型通りの挨拶の言葉が並ぶ)


死の呪文に就いて

――処刑人と言えば「死の呪文」だが、どの様な場合に、どう使用するのか?
A氏:処刑人が派遣される時は、既に対象の命は考慮されていない。
   処刑人は対象の事情を知らないし、死の呪文を使うのか、使わないのかも判断しない。
   指示は最初から与えられている。
   狩人が獲物を狩るのと同様に、淡々と実行する。
――「死の呪文」専用の魔導機があると言うのは、本当か?
A氏:本当だ。
   呪文の拡散を防ぐ為に、処刑人は呪文を知らされない。
   銃を撃つ様に、対象を捉えて魔導機を起動する。
   それで全て終わる。
――仕留め損ねる事は?
A氏:無かった。
   先ず、「外す」と言う事が無い。
   「躱される」とか、「耐えられる」と言う事も無い。
   防御が不可能なのだと思う。
――魔力の流れから先読みされないのか?
A氏:効果が出るまで、魔力が乱れない。
   発動した時は死んでいるので、気付く暇は無い。

12 :
――そんな呪文を使うのに、恐怖心は?
A氏:当然ある。
   間違って発動しないか、何時も怯えていた。
――それは仲間への信頼の問題か、それとも機械への信頼の問題か?
A氏:両方ある。
   だが、何より自分への信頼が問われる。
   魔導機はトリガー1つで起動する。
   安全装置を解除するのも自分の手で。
   本当に安全装置が掛かっているか、何度も確認してしまう。
   味方には冗談でも絶対に向けない。
――相手を殺したくないと言う思いは?
A氏:処刑人が出動する時は、対象を処分する時。
   状況によって、現場で複雑な判断をしなければならない、他の執行者に比べれば、
   割り切れる分だけ楽だと思う。
――次は、その部分を掘り下げて聞きたい。

13 :
処刑人の使命

――処刑人の仕事は「R事」なのか?
A氏:何が何でもR訳ではなく、「与えられた任務を如何に熟すか」と言う事だと理解している。
   抹殺せよと命令されたら、それに従う。
   制圧任務ならば、殺害に拘る事は無い。
   尤も、制圧任務で処刑人が動く事は滅多に無いが……。
――例えば、凶悪な魔法犯罪者が人質を取って立て篭もった場合、処刑人が優先するのは?
A氏:他の課や、同じ課の制圧班との共同作戦になると思う。
   その場合、処刑人の役割は犯人の処分になる。
――やはり、「R事」が仕事では?
A氏:……言ってしまえば、そうなるかも知れない。
   少なくとも私は、他の任務で出動した事は無い訳で。
   「処刑人」なのだから。
――質問を変える。
   処分命令が下された時、それは何よりも優先される?
A氏:基本的には、現場の長の判断に従う。
   決死の命令が下れば、何を引き換えにしても、任務を遂行する。
   それが対象の抹殺であれば、刺し違えてでも。
   勿論、無闇に命を投げ出す事はしないが……。
   処刑人の命は自分の物ではない。

14 :
――では、現場の長が不在の場合、どうなるか?
   任務の遂行が困難な状況では、独自判断で撤退も可能?
A氏:そう言う状況では撤退せざるを得ない。
   任務に当たる際、目標が定められているので、失敗すれば撤退する。
   上司から新しい任務を与えられない限り。
――任務失敗と判断する具体例を、差し支え無い範囲で。
A氏:主に想定されているのは、任務達成に必要な条件を欠いた時。
   作戦を遂行するだけの人員や物資が不足した、或いは、不足と推測される場合。
   制限時間のある任務では、時間切れでも失敗扱いになる。
   それでも上司と連絡が取れるなら、必ず判断を仰ぐ。
   良い結果に繋がったとしても、勝手な行動は許されない。
――「命令以外の事は出来ない」と言う訳か?
   重罪人を追っている最中に、重傷者を発見したとしても、命令が無ければ救助しない?
A氏:その通りだ。
   処刑人は命を斟酌してはならない。
   何故なら、命を奪う職業だから。
   新たに命令が下れば、話は別だが……。
――全ては上司の判断次第と。
A氏:そうだ。
――では、追跡中の重罪人が、人質を取った場合は?
   上司の判断を仰ぐ時間は無いとして。
A氏:可能であれば、対象のみを仕留める。
   対象外の者をRのは、処刑人の仕事ではない。
――可能でなければ?
A氏:対象外の者を、積極的にR事は無い。
   負傷していれば、任務達成後に手当て位はする。
――投降した者への対応は?
A氏:上司の判断に任せる。
   連絡が取れない場合は、当初の任務を優先して処分する。
   但し、処刑人が出動する時は、対象に「慈悲を掛ける必要は無い」と判断された時。
   余程の事でなければ、指示の変更は無い。

15 :
処刑人の価値観

――先程、「処刑人の命は自分の物ではない」と言ったが、その真意は?
A氏:その儘の意味だ。
   処刑人は任務中に負傷したり、或いは、敵に捕らわれたりしても、救助を期待しない。
   上司の判断に依るが、任務の遂行に支障が出るならば、基本的に見捨てられる。
   逆に言えば、そうでなければ助けると言う事でもあるが……。
   「処刑人の命は自分の物ではない」とは、責任逃れの方便でもある。
――「見捨てる」と判断した上司を、恨みはしないのか?
A氏:「処刑人は命を斟酌しない」。
   他人の命を平然と奪える者が、自分だけ例外的に救われる道理は無い。
――全員が全員、そう悟っているのか?
A氏:そんな事は無いが、長らく処刑人をしてると、命に対する感覚が狂って来る。
   特に「死の呪文」での殺人経験がある者は、人死にを何とも思わないか、死に囚われるかの、
   両極端に分かれる。
   それは処刑人の特殊な職場環境も影響しているだろう。
   実は、処刑人同士の仲間意識は薄い。
   互いに番号で呼び合い、素性は疎か本名さえ知らない者ばかり。
   顔も判らない者と、共同で作戦に当たる。
   配置転換も頻繁で、ある日突然番号違いの人員が配置される。
   そんな生活を続けていると、自分も含めて、命に価値が無い様な錯覚に陥る。
――連携に支障は無いのか?
A氏:無い様に教育される。
   処刑人は「自分の役割」だけを考え、それを果たす為の最低限の事が出来れば良い。
   命令されて動く処刑人に、優劣は無い。
   数月の訓練で身に付けられる程度の、体力と知識さえあれば困らない。
   内容だけ見れば、10人が受ければ、9人は合格する様な代物だ。
――どんな教育なのか?
A氏:余りに静かで、穏やかだ。
   徹底的に管理されて、簡単な命令を淡々と熟すだけ。
   都市警察や他の刑事執行者の訓練より緩いと思う。
   褒められもしなければ、貶されもしない。
   不向きと判断されたら、もう来なくて良いと言われる。
   行動の自由と感情の起伏を、可能な限り排除された生活を続けている内に、自我を失う。

16 :
――本当に、それだけなのか?
   簡単な訓練だけで、命の遣り取りをする恐怖を打ち消せるのか?
A氏:詳細は機密に触れるので語れないが、訓練自体は本当に簡単な物だ。
   後は、「研修」がある位。
   死への恐怖を打ち消す為に、研修で死の記録を繰り返し見せられる。
   絞首刑とか、安楽死とか、抗争の様子とか、災害や疫病で死んだ人達とか……。
   散々そう言うのを見せ付けられた後、訓練で死の呪文を実際に、動物相手に使うのだが、
   そこまでしても最初は震えてしまう。
   誰でもだ。
   体調を崩して、直ぐに辞職する者も珍しくなかった。
   慣れるまで個人差はあるが、元狩人で動物をRのは慣れていると豪語する者でも、
   耐えられずに辞めた例がある。
   理由は解らないが、脊髄から全身の神経が凍り付く様な、恐ろしさがある。
   私の場合は、震えと眩暈が止まらなくなって、数日は真面に動けなかった。
   死の呪文は禁呪だから、本能的な物なのかも知れない。
――そこを乗り越えれば、殺される覚悟も出来るのか?
A氏:「乗り越える」と言うより、「蓋をする」と言った感覚だ。
   心を閉ざして、気付かない振りをする。
   一々受け止めていたら、狂ってしまう。
   状況的に、処刑人は対象より優位な事が殆どだ。
   殺される覚悟までしている者は少ないだろう。
   だが、死の呪文を「経験」すると、命の軽さが誤魔化せなくなる。
――どう言う意味か?
A氏:処刑人は自分の心を殺して、何も感じない振りをする。
   「どんな重罪人を処刑する時でも、一々怒りや憎しみを抱きはしない」
   「自分も含めて、全ての命を物の様に、機械的に扱う」
   それは飽くまで理想論。
   人間である限り、感情を完全に排除する事は難しい。
   死への恐怖、殺人に対する嫌悪、理不尽な命令に対する反発、命を奪う優越感、
   失われる命への憐れみ、自由を封じられる抑圧……。
   感情を剥き出しにこそしないが、実際には色々な思いが、処刑人の中に潜んでいる。
   そう言うのを上手く捌ける者だけが、処刑人を続けられる。
――快楽殺人者や英雄願望を持つ者は?
A氏:ハハッ、死の呪文を経験しても、人格や思考が変わらないなら大した物だ。
   いや、経験したからこそ、殺人の快楽や英雄願望に目覚めるのか?
   有り得ない事ではないが、どちらにせよ不適格だ。
   私情を挟めば、そこに隙が生じる。
   処刑人とは死の呪文を運ぶだけの存在。
   任務の意味を考えては行けない。
   任務を果たす主は「死の呪文」で、処刑人は謂わば『死神の馬<ペール・ホース>』だ。

17 :
退職後の生活

――それで日常生活に支障は無いのか?
A氏:人に依る。
   影響が出るのは、退職後が多い。
   何とも無く社会復帰する者もあれば、酷い鬱になる者もある。
   処刑人以外に生きる道が無く、年老いるまで処刑人を辞められない者もある。
――貴方(A氏)は大丈夫なのか?
A氏:時々死の呪文の魔導機が、自分に向けられる夢を見る位だ。
   それと、不意に視線を感じて、誰かに狙われていると妄想する事がある。
   何かの拍子に死の呪文を思い出して、震えが止まらなくなる……。
   後遺症としては軽い方だと思う。
――処刑人は魔導師会法務執行部の所属だが、本当に全て魔導師なのか?
A氏:処刑人の採用試験に合格すれば、特例第6種魔導師として扱われる。
   身元の不確かな者や、思想・人格に問題のある者は、試験以前に弾かれる。
   私も処刑人の採用試験に合格して、魔導師になった。
――扱いは他の魔導師と一緒なのか?
A氏:各種手当や補償は一般より充実しているが、活動を制限される。
   総合的に見れば、そんなには違わない筈だが……、特例魔導師と言う事で、
   引け目の様な物がある。
   一般の魔導師は難しい試験を突破しているので。

18 :
――家族や友人は処刑人になる事を、どう思っていたのか?
A氏:私は既に成人していたので、親には相談しなかった。
   事前に打ち明けていたら、多分反対されていただろう。
   「処刑人になった」と言って、喜んで貰える様な職業ではないと思う。
   友人達にも話してはいない。
――処刑人になった後で、打ち明けたのか?
A氏:在職中は身分を明かしてはならないと言う、規約がある。
   それでも気付く者は気付くらしいが、家の場合は違った。
   一応、退職後に両親だけには処刑人だった事を告白したが……。
――その時の反応は?
A氏:特には……。
   「そうだったの?」と、驚いた様子ではあったが、意外に軽い反応で。
   良いとも悪いとも言われなかった。
   気を遣われたのかも知れない。
――退職後、家族や友人との付き合いは?
A氏:普通にある。
――結婚は?
A氏:処刑人を辞めた後に。
   処刑人の仕事をしながら、家庭を持てる者は少ないと思う。
   私は十数年勤めた分の蓄えがあるので、趣味で農業をしながら静かに暮らしている。
   贅沢をしなければ、生活に困る事は無い。
   処刑人を辞めて、心を病む者も多い中で、私は幸せな方だと思う。

19 :
(喋り過ぎると消されるぞ……)

20 :
最後に

――元処刑人として、何か人々に伝えたい事は?
A氏:私は取材に応じているだけで、伝えたいと言う程の事は……。
   市民に恐れられているとは聞くが、そんな物だと思う。
   理解や感謝を求める事は無い。
――何故?
A氏:処刑人は捜査第四課の他に、魔法刑務所で刑罰を執行する者も存在するが、何に就いて、
   どう感謝すべきだと言うのか?
   「犯罪者を殺してくれて有り難う」?
   「汚れ仕事をさせて御免なさい」?
   私は元同業者として、「大変だな」と同情は出来るが、感謝は違うと思う。
   必要な仕事ではあるが、褒められる様な物ではない。
   結局の所、処刑人は「魔導師会」と言う大きな組織の不始末を片付けているだけ。
――そんな発言をして大丈夫なのか?
A氏:事実だ。
   魔導師会は魔法秩序維持の為に存在する。
   法務執行部内で治安維持部と刑事部が分かれているのは、治安が維持出来なくなった時に、
   刑事部が出動する為だ。
   その刑事部でも手に負えない「危機」の為に、捜査第四課、処刑人は存在する。
   それ以前に、魔法を悪用しない為の教育は、教職員連合の仕事だ。
   法律を整備し、人々の生活を安定させて、社会不安を減らすのは、運営部と都市議の仕事だ。
   処刑人が動くのは、最後の最後。
   引退した私が言うのも何だが、処刑人は冷徹な暗殺者で結構だと思う。
   恐れられるのも、仕事の内。
   処刑人の存在に感謝する位なら、本を糺す事を意識して貰いたい。
――在職中から、その様な不満を持っていたのか?
A氏:不満ではない。
   魔導師ならば、誰でも同じ認識だと信じている。


(後略……型通りの挨拶の言葉が並ぶ)

21 :
Off The Record


――処刑人は同僚の素性を知らないのでは?
A氏:最初の内は軽口を叩く者も多い。
   採用試験や初歩の訓練、研修では顔まで隠さないから、人恋しくて口が滑らかになる奴も出る。
   日毎に無口になって行くがな。
――そうではなくて、退職後の様子をどうやって知るのか?
A氏:長らく続けていると、何と無く判るんだ。
   駄目になる奴と、そうじゃない奴。
   退職間際に浮かれて、「これから」を語る奴。
   何も言わずに去る奴。
   明らかに不穏な空気を漂わせて消えた奴。
   配置転換は頻繁でも、単なる異動とは何か違うと判る。
   無駄な勘が働くんだ。
――本当に、それだけなのか?
A氏:「元処刑人は処刑人じゃない」。
   そう言う事だ。

22 :
死の呪文には複数あるが、何れも禁呪である。
一般には解呪方法も対抗呪文も知られていない。


即死魔法

窒息死や毒殺、臓器破壊、生理機能停止とは異なり、対象の精霊(精力と精神)を消失させる、
最も確実に対象をR魔法。
対象は外傷を受けないが、肉体の機能を回復させても、蘇生は不可能。
精霊を狙う為、所謂「憑依」や「霊体」にも有効。
精を残して霊だけをR物や、肉体まで消し去る物もある。
上記の効果は一般には知られていない為、処刑人や「死の呪文」には様々な噂が付き纏う。
精霊の消失現象は対象のみならず、使用者や目撃者、近傍の者にも重大な影響を与える。
それは魔法が余りに強力な為に、呪文の効果を余波として受ける事で起こる。


時限式即死魔法

上述の魔法と仕組みは同じだが、発動までに時間差がある。
遠隔操作で任意に発動出来る物も。
連鎖式で周囲を巻き込む物は、イラディケーターと呼ばれる。
「呪文を掛けた者を生かして本拠地に返す」と言えば、名前の由来が分かるだろう。
余りに凶悪なので、イラディケーターが使用された例は少ない。
時限式だろうと、連鎖式だろうと、死の呪文には違い無いと言う事で、魔導師会の公式発表では、
一々死の呪文を区別しない。


漸死魔法

徐々に精霊を削って、死に至らしめる魔法。
対象は時間の経過と伴に活力と思考力を失って行き、衰弱死する。
痛みも苦しみも無いが、時限式の即死魔法が開発されて以降、殆ど利用されなくなった。
「殆ど」と言うのは、即死が通用しない物でも、漸死ならば通用する事がある為。

23 :
特例魔導師


高度な専門知識や特殊な訓練を要する、魔法関連の職業に対応する人員を確保する為に、
魔法学校上級課程卒業か、それと同難度の採用試験に合格して成る一般の魔導師の他に、
特別な条件で採用される魔導師の事。
全8種。
特例第1種は医療魔導師。
特例第2種は魔法研究者(禁呪を含む)。
特例第3種は魔法道具技術士。
特例第4種は緊急登用及び一時雇用。
特例第5種は他の特殊技能者及び高難度魔法使用者。
特例第6種は特定禁呪使用者。
特例第7種は準魔導師。
特例第8種は魔法競技者。
第5種は優秀な才能や特異な能力の持ち主を採用する為の物。
第7種は人員が不足した場合を想定して、魔法学校中級課程卒業か、同程度の能力を持ち、
魔導師の資格を持たない者に、特別に魔導師に準ずる地位を与える物。
第4種との違いは、雇用期間にある。
その為、長期に亘って雇用する時は、特例第4種から特例第7種に変更する。
特例魔導師の扱いは一般の魔導師と粗略同じだが、共通して魔導師会内では被選挙権が無い。
特例魔導師であっても、正規の魔導師採用試験を受ける事は出来る。
合格すれば当然、一般の魔導師になる。
全体で見れば、特例魔導師の割合は一般に比べて少ない。
この他に魔導師ではないが、特別な魔法を使用する為の取扱資格もある。

24 :
災厄の種


ボルガ地方北西部の町ロンウェイバーにて


ロンウェイバー町はボルガ地方の北西部に位置する、大きな町。
市と言う程ではないが、下手な都市より人口は多い。
しかし、この町はエグゼラ地方に近い為、魔法暦40年頃まで極北人の侵攻に悩まされていた。
その為に、周辺一帯を治めていた地方豪族によって、略奪する価値も無い小さな村落である事を、
余儀無くされ、時には戦場として扱われ、発展を阻害され続けて来た歴史がある。
それが現在の様に大きな町になったのは、魔導師会が到着して、極北人の脅威が去り、
更に3番ハイウェイが開通した後の事。
こうした歴史から、古くからのロンウェイバーの住民は旅人には優しいが、近隣市町村に対しては、
良くない感情を抱いている者が多い。

25 :
旅商の男ラビゾーは、この町で自称冒険者の青年精霊魔法使いコバルトゥスと再会した。
両者は特に示し合わせている訳ではないが、不思議と顔を合わせる事が多い。
行動パターンが似ているのか、大陸は広いと言うのに、年に一度は出会っている。
そして、必ず先に声を掛けるのは、コバルトゥスの方だ。
ラビゾーはコバルトゥスに余り良い感情を持っていないので、偶々見掛けても無視するのだが、
逆にコバルトゥスは彼を先輩と呼んで慕い、積極的に関わろうとして来るので、
成り行きで付き合う事になる。
今回もラビゾーが「エグゼラへ向かう」と告げると、彼は「奇遇ッスね」等と調子の良い事を言って、
旅路に同行しようとした。
コバルトゥスの本音は、特に目的も無く浮ら浮らしている所に、顔見知りと出会ったので、
面白半分で付いて行くのだ。
だからと言って、ラビゾーが断る理由にはならず、結局はコバルトゥスの押しの強さに負けて、
簡単に同行を許してしまうのだが……。

26 :
ラビゾーとコバルトゥスが、3番ハイウェイに沿う小道を歩いていると、道脇の草叢で、
蹲っている女性の姿があった。
ラビゾーはコバルトゥスより先に、彼女の存在に気付いた物の、ローブ姿の背中しか見えず、
性別は疎か、何をしているのかも判らなかったので、暫し訝し気な目付きで見詰めていた。
遅れて反応したコバルトゥスが、慌てた様子で駆け出した所で、漸く女性が何らかの不調で、
道端に蹲っているのではないかと感付く。
コバルトゥスは人命が懸かっているが如く真剣な声で、女性に近寄った。

 「大丈夫ですか、お嬢さん?」

 「ええ、少し気分が悪くなって……。
  体を擦って貰えませんか?」

「女の事になると手が早いな」とラビゾーは感心と呆れ半々で、バックパックを漁って、
形態救急箱を探した。
コバルトゥスは女性の背中を優しく撫で、彼女に問い掛ける。

 「どの辺りですか?」

女性はコバルトゥスが背中を擦っている手とは、逆の手を取って、自らの胸の下に持って行く。
そうすると、自然に体が密着する形になる。
コバルトゥスは表面上は紳士振って、女性の体を撫で回す。

 「どう?
  楽になった?」

 「ええ、でも、未だ少し気分が悪いみたい……。
  離れないで……」

女性は艶っぽく吐息を漏らし、コバルトゥスに獅噛み付いた。

27 :
2人の様子を見て、ラビゾーは眉を顰める。

 (何やってんだか……)

本当に具合が悪いなら、急いで助けなければならないが、擦って治まる程度なら、
コバルトゥス共々放って行こうかと彼は考えた。

 (馬鹿馬鹿しい。
  心配して損した)

見切りを付けて、その場を離れようとした時、コバルトゥスが声を上げる。

 「どわっ!?」

何事かとラビゾーが目を向けると、コバルトゥスが黒い塊に覆われている。

 「どうした、コバギ!?」

黒い塊は、よく見ると巨大な翼だった。
先程まで蹲っていた女性が、黒い翼を生やして、コバルトゥスを連れ去ろうとしている。
ラビゾーは女性の顔に覚えがあった。

 「待てっ!
  お前は――」

女性もラビゾーに気付いて、目を見開く。
2人は過去に面識があった。

 「あっ!
  お前は……ラ、ラ……ラヴ……ラビ?」

 「ええと、エピ……ピエ……?」

しかし、お互いに自己紹介した訳ではないので、名前は空覚え。

28 :
黒い翼を生やした彼女の名は、ハルピュイア・エピレクティカ。
人を食う魔性の怪鳥だ。
以前ラビゾーに会った時より、髪の毛が伸びている。
結局、彼女の名前が思い出せなかったラビゾーは、啖呵を切って誤魔化した。

 「レズのピッキー!
  未だ悪さをしているのか!」

ラビゾーがロッドを手に取って伸ばすと、エピレクティカは身構えて反論する。

 「レズもピッキーも止めろ!!
  私には『漆黒の翼<フテラ・マブラ>』と言う新しい名前がある!」

 「新しい……?」

 「お前の所為で、食人を禁じられ、どれだけ私が苦労した事か……。
  これ以上、邪魔されて堪るか!
  追って来るなよ!
  キィイイイイーーーーッ!!!」

エピレクティカは耳を劈く様な金切り声を上げると、趾でコバルトゥスを掴み、羽撃いて飛翔した。
ラビゾーは堪らず耳を塞ぎ、コバルトゥスに呼び掛ける。

 「コバギ、何をしている!?
  魔法を使えば、そんな奴どうとでも出来るだろう!」

コバルトゥスは焦りを顔に表して、魚の様に口を開閉する。

 (何を訴えたいんだ……?)

少し間を置いて、ラビゾーは理解した。

 (――封魔の声か!)

エピレクティカは魔法的な効果を持つ、呪縛の声を持っている。
恐らくは、それでコバルトゥスの声を封じたのだろうと、ラビゾーは予想した。

29 :
エピレクティカは風を起こし、瞬く間に高度を上げて、飛び去る。
ラビゾーは周囲を見回したが、近くに頼れる人は居ない。
3番ハイウェイの警備員を呼ぶ事も考えたが、その間に2人を見失いそうだった。
数極の逡巡後、ラビゾーはエピレクティカを追って駆け出す。
エピレクティカはラビゾーの追跡に気付いていない様子だが、どんどん道を外れて、
木々の生い茂る山を越えて行く。

 (どこまで行く気だ……?)

ラビゾーは山に分け入り、道無き道を走って、彼女を追い続けた。
やがて、エピレクティカは山を2つ越えた先にある、小さな滝の付近に降り立つ。
エピレクティカが何の為にコバルトゥスを連れ去ったのか、ラビゾーには分からないが、
彼女は凶悪な屍食鳥である。
ある出来事で、人を食らう事を禁じられたが、その口振りから察するに、人肉食を諦めて、
大人しく過ごしていた訳では無さそう。
手遅れになっては行けないと、ラビゾーは小さな滝に向かった。

30 :
エピレクティカに連れ去られたコバルトゥスは、3身程の小高い滝の下流にある沢辺の、
大岩の上に転がされた。
彼が抵抗しなかったのは、魔法が使えないのに空中で暴れると、墜落死すると考えた為だ。
しかし、地上に降りたら、その心配は無い。
コバルトゥスは2本1組の短剣を抜くと、エピレクティカに刃を向ける。
警戒する彼に、別の人物が声を掛けた。

 「手荒な真似をして済まなかった。
  先ずは話を聞いてくれ、精霊魔法使いの裔よ」

コバルトゥスが声の主を探して左右を窺うと、背後の川の中から別の女性が姿を現す。

 「こっちだよ」

彼が振り向くと、そこには下半身魚の女性。
近代的なカミシアを着ており、長い黒髪から水を滴らせつつ、水辺から大岩に這い上がる。
コバルトゥスが「人魚」に目を奪われていると、又別の女性の声がする。

 「精霊魔法使い?」

大岩の陰から飛び出して、コバルトゥスの前に姿を現したのは、狼とも山猫とも付かない、
獣の顔を持つ黒毛の女性。
ローブを着ている物の、鼻が突き出ており、顔の横の高い位置には大きな耳、
そして腰の後ろには太い尻尾が付いている。
鳥人に人魚に獣人、3人の女性に囲まれたコバルトゥスは、獣人を正面に捉え、
左右の2人に1本ずつ短剣を向けて、牽制する。

31 :
そこへ彼の頭上に4人目が登場する。
同じくローブを着た、蜂の様な姿の女性だ。
大きな羽音を響かせながら、コバルトゥスの背後を取る。
コバルトゥスは愈々追い詰められた。
寄らば斬らん勢いの殺気を発する彼を見て、獣人がエピレクティカに問い掛ける。

 「一寸、フテラ、どう言う事?
  獲物じゃないの?」

 「し、知るか!
  ネーラに聞いて!」

エピレクティカは人魚に話を振る。
視線が人魚のネーラに集まる。
ネーラは呆れた様に溜め息を吐いた。

 「主等は揃いも揃って……。
  魔力の流れが共通魔法使いと違うだろう?」

彼女が同意を求めても、他の3人は顔を見合わせて惚けている。
獣人はコバルトゥスの臭いを嗅ぎながら、首を傾げた。

 「臭いが少し違うかなー?
  でも、そんなに違わないかも?
  よく分かんないや」

 「……当てにならな過ぎる。
  エピレクティカ、呪縛を解いて、口を利ける様にして上げな」

ネーラは呆れ果て、エピレクティカに命じた。

32 :
命令口調が気に入らず、エピレクティカは高い声で反発する。

 「エピレクティカって言うな!」

 「はいはい、悪かったよ。
  『鳥頭<バードブレイン>』のフテラちゃん」

 「私等より少し頭が良いからって、調子に乗るなよ!
  『溝川の水<ネーラ・リュマートナ>』!」

 「溝川ではない!
  『淵<アビス>』だ!
  『深淵の水<ネーラ・アビス>』!」

行き成り目の前で言い争いが始まり、コバルトゥスは困惑した。
そこへ獣人が近寄り、話し掛ける。

 「御免ね、お兄さん。
  フテラが共通魔法使いだって勘違いしたみたいで。
  危うく食べちゃう所だったよ。
  私は闇の獣人テリア。
  そんで、啀み合ってるのが、鳥人のフテラと魚人のネーラ。
  あっちの無口が虫人のスフィカ」

唐突に慣れ慣れしい態度で自己紹介を始められ、コバルトゥスは益々困惑する。
虫人のスフィカは羽音をさせて、カチッと大顎を鳴らし、テリアに注意した。

 「未だ仲間と決まった訳じゃない。
  余り箆々(べらべら)と喋るな」

スフィカは取っ付き難そうだと、コバルトゥスは思ったが、逆にテリアは出し抜き易そうだと感じた。
彼は一息吐いて短剣を収めると、自らの唇を指して罰点を作り、テリアに口が利けない事を、
身振り手振りで示す。

33 :
それをどう理解したのか、テリアはコバルトゥスに近寄ると、舌を伸ばして彼の唇を舐めた。
これをキスと判定して良いかは不明だが、不意打ちに慌てたコバルトゥスは唇を拭う。

 「ワァップ、何を!?」

テリアは舌舐め擦りをしながら、牙を剥いて笑う。
コバルトゥスは遅れて、口が利ける様になっていると気付いた。

 「あ、有り難う」

少し気不味そうに礼を言うコバルトゥス。
そこでスフィカが釘を刺す。

 「妙な気は起こすな。
  魔力の流れは『観えて』いる」

鋭い殺気。
コバルトゥスはスフィカに愛想笑いを向けると、未だ睨み合っているエピレクティカとネーラに対して、
声を掛けた。

 「お嬢さん方、顔を顰めてばかりでは、折角の美しさが台無しですよ」

エピレクティカとネーラは鬼の形相で振り向いた。
先に冷静になったのはネーラ。
エピレクティカを無視して、岩の上を滑りつつ、コバルトゥスに這い寄る。
コバルトゥスは動じずに迎えた。

 「フフン、中々面白い男だ。
  臆さないのだな」

 「『女性に優しく』が私の『信条<クレード>』なので」

 「気に入ったよ」

ネーラは科を作って、コバルトゥスに寄り掛かる。
一方、彼女に逃げられたエピレクティカは、外方を向いていた。

34 :
ネーラは甘えた声で、コバルトゥスを誘惑する。

 「精霊魔法使いよ、名前を教えてくれないか?」

 「私の名はコバルトゥス。
  土の精霊に由来します」

 「敬語は止めよう。
  私達は『同じ』共通魔法社会の外の存在だ」

どう言う意味かと、コバルトゥスが視線でネーラに訴え掛けると、彼女は突然抱き付いて、
耳元で妖しく囁く。

 「私達の仲間になってくれ。
  共通魔法使いを打ち倒す為の」

 「何だって……?」

動揺するコバルトゥスを、ネーラは一層強く抱き締める。
人外の腕力は大人の男のコバルトゥスでも解けない程。
ネーラは彼を逃がさない積もりだ。
コバルトゥスは他の3人に目を遣った。
……3人共、不気味な笑みを浮かべている。

 「断っても良いんだよ?」

テリアが逃げ道を用意して、優しく微笑む。
いや、違う。
それは自己の欲求が満たされる事を希望しての、邪悪な微笑だ。
彼女等はコバルトゥスが断ったら、この場で殺して食う積もりなのだ。

35 :
コバルトゥスは困り顔で、大胆にもネーラを抱き締め返した。

 「一寸、待ってくれないか?
  事情が分からないと何とも言えないな。
  ……君、冷たいね」

 「変温動物だからな。
  それは扨措き、話を逸らして時間を稼ごうとしても無駄だ。
  私は気が長くない」

ネーラは力を込めて、徐々にコバルトゥスを締め上げる。
息苦しさを感じて、コバルトゥスは少し蒼褪める。

 「そんな風にされたら、益々素直に頷けない」

 「応じるも断るも、主の自由だが」

 「……何の為に、共通魔法使いを倒す?」

 「奴等に外道と呼ばれた者達は、少なからず恨みを持っている。
  共通魔法使いが支配する現状は余りに窮屈だ。
  我々は旧暦の『本来あるべき世界』を取り戻す」

さて、自分には当て嵌まらないぞとコバルトゥスは眉を顰めた。
根無し草で奔放な彼は、共通魔法社会の規範に囚われないが、無益な衝突も好まない。
思案している間も、ネーラがコバルトゥスを締め上げる力は、益々強くなって行く。
コバルトゥスに余裕は無いが、平静を装う。

 「それだけなのか?
  大義名分も結構だけど、何か個人的な『見返り』が無いとなぁ……」

 「肝が据わっているな。
  良いぞ、要求を言ってみろ」

話に応じながらも、ネーラは全く力を弱めない。

36 :
コバルトゥスの肋骨と背骨が、呻く様に軋む。
如何に女好きの彼でも限界で、ネーラを抱き締める手を自ら離した。
ここで下手な回答は出来ない。
懸命に頭を働かせ、彼が出した答は……。

 「……俺を世界の王にしろ」

 「は?」

ネーラは呆気に取られ、一瞬思考が停止する。
その上、有ろう事か彼女は、一考の余地有りと思ってしまった。
上手く抱き込めるかも知れないと、計算したのだ。

 「ネーラ!」

スフィカが声を上げるが、時既に遅し。
コバルトゥスは2本の短剣を、ネーラの上腕と肩の境目、烏口の辺りに突き立てる。

 「ギャッ!!」

ネーラは悲鳴を上げて、拘束を緩める。
その隙に、コバルトゥスは彼女を振り解いて蹴り飛ばし、距離を取った。

37 :
テリアとスフィカとエピレクティカは同時にコバルトゥスに襲い掛かる。

 「食って良いな!?」

 「ああ、仕留める」

嬉々として両目を輝かせながら問い掛けるテリアに、スフィカは淡々と応じる。

 「巧々(まんま)と注意を逸らされたな、馬鹿め」

エピレクティカはネーラを一瞥して、吐き捨てた。
コバルトゥスは高い魔法資質を持つが、それでも謎の怪人を相手に、3対1は不利。
逃げの一手しか無い。
しかし、コバルトゥスが逃げ出そうとした気配を敏く察して、スフィカが妨害する。

 「行け、虫達」

羽の生えた川辺の小虫が集まって、コバルトゥスに纏わり付く。
それを火の魔法で排除しようとした矢先に、エピレクティカが喉を震わせ、魔力を乱す。

 「Ahーーーーーーーー!」

その隙に、テリアが鋭い爪を伸ばし、コバルトゥスに飛び掛かる。
コバルトゥスは辛うじて短剣で防御したが、腕力で押し負け、組み伏せられた。

 (ここまでか……)

38 :
コバルトゥスが諦め掛けた時、急にテリアが顔を上げ、周囲を警戒し始めた。

 「どうした、テリア?」

エピレクティカが尋ねると、テリアは神妙な面持ちで答える。

 「川上から誰か来る」

 「こんな山の中に?
  誰が――」

何者だろうと考えたエピレクティカは、思い当たって歯噛みした。

 「――って、奴かっ!?
  又してもっ、忌々しい!」

 「フテラ?」

スフィカが声を掛けると、エピレクティカは憎々し気に応える。

 「恐らく、私の知っている奴だ。
  男だろう?」

静かに頷いたテリアを見て、エピレクティカは確信し、舌打ちする。

 「弱い癖に手強い、厄介な奴だよ。
  単独とは限らない。
  何か味方に付けているかも知れない」

矛盾した彼女の発言に、ネーラとスフィカは顔を見合わせて呆れた。
テリアはコバルトゥスを押さえ付けた儘、小首を傾げてエピレクティカに言う。

 「脅威は感じないけどなぁ?
  魔法を使ってる様子は無いし、気配は1つだけ。
  それも普通の人間の臭いしかしないよ。
  獲物が増えて好都合だと思うけど?」

 「本当か?」

エピレクティカが確認すると、テリアは頷く。

 「肉の臭いがする。
  魔力の少ない、良い肉の臭い。
  こいつよりは食い出がありそう」

4人は顔色を窺い合って、互いの意思を確認する。

39 :
一方、ラビゾーは上流から川を下って、コバルトゥスの姿を探していた。
そして、滝の先に4人の怪人とコバルトゥスの姿を発見する。
コバルトゥスが尻尾の生えた怪人に押さえ付けられいるのを、遠目で確認したラビゾーは、
即座に行動に移った。
全員エピレクティカと同類の人肉食の魔物ならば、迷っている間に殺されてしまう。
彼は手近な石を拾い集め、滝の上から4人に向かって投げ付ける。

 「ワーーーーッ!!!」

同時に大声を張り上げて威嚇した。
それは丸で鳥獣を追い払うかの様に。
石は当たらなかった物の、4人は不意打ちに慌てる。
特にテリアは怯んで、コバルトゥスを押さえ付ける力を緩めてしまった。
コバルトゥスはテリアを押し退けて、脱兎の如く滝ヘ向かって駆け出す。

 「テリア、何やってんの!?
  逃げられたじゃないのさ!」

エピレクティカが声を上げると、テリアは悄気て言い訳する。

 「こ、こんな直ぐ近くに来てるとは思わなくて……」

スフィカが真っ先に反応してコバルトゥスを追うも、ラビゾーが滝の上から投石で援護するので、
思った様に追い込めない。

40 :
コバルトゥスは得意の精霊魔法で、滝の上に向かって大跳躍。
そして、ラビゾーの隣に着地して、先ず感謝の言葉を述べた。

 「先輩、助かりました!」

 「話は後だ!
  逃げるぞ!」

ラビゾーとコバルトゥスは上流へ向かって駆け出そうとしたが、直ぐにスフィカとエピレクティカが、
滝の上に飛来する。

 「来たっ!
  あいつ等、危(ヤバ)いッスよ!
  片方は虫使い、鳥の方は魔性の声を持ってます!
  振り切るのは難しいかも」

コバルトゥスが説明すると、ラビゾーはバックパックを漁って、蝋燭の様に紐の芯が付いた、
緑色の筒を取り出した。

 「何スか、それ?」

 「火を点けろ!」

ラビゾーはコバルトゥスの疑問に応えるより先に、強い口調で命令する。
コバルトゥスは取り敢えず従った。

 「火よ!」

緑色の筒に火が灯ると、濛々と白い煙が立ち込める。

 「コバギ、煙を吸わない様にしろ!」

少し煙を吸い込んでしまったコバルトゥスは、噎せて咳き込む。

 「ゴホッ、ゴホッ、こ、これは……?」

 「旅の必需品、殺虫香だ」

ラビゾーは白煙を吐き続ける筒を片手に答えた。

41 :
殺虫香は徐々に煙を細くして行き、その代わりに香木の匂いを漂わせる。
この匂いは殺虫効果が継続している事を示す物で、それ自体に毒性は無い。
殺虫香の有効成分は、人や家畜には余り効果が無く、虫には高い効果があると言う物だ。
その為、エピレクティカは平気だったが、スフィカは触角を曲げて苦悶した。

 「フテラ、毒だ」

 「毒!?」

 「殺虫剤……」

スフィカは堪らず地上に降りて、弊(へた)り込む。
先ず1人片付いた事に、ラビゾーは安堵した。

 「虫除けの積もりだったけど、ラッキーだ」

 「先輩、油断しないで下さい。
  後2人、近付いてます」

コバルトゥスが忠告すると、その通り、獣人のテリアが崖を登って追い着く。

 「何、この臭い……?」

『檀<サンサラム>』の香りに顔を顰めた彼女は、弱り切って這い蹲るスフィカを認めると、逆上した。

 「スフィカ!!
  くっ、お前達、楽にRると思うな!
  フテラ、『あれ』をやるぞ!」

テリアは牙を剥いて、天に向かって吠える。

 「Gwooーーーーーーーーーー」

 「Pheeーーーーーーーーーー」

それに合わせて、エピレクティカも高音で唱和した。
ラビゾーの体が動かなくなる。
強力な金縛りの呪いだ。

42 :
そうそう何度も同じ手は食わないと、コバルトゥスが精霊魔法で対抗する。

 「I3DL2N5・NH5C1C2A6!
  J56H1N5・B2MG46!!」

風の魔法で空気の振動が変わり、音を打ち消す。
ラビゾーの呪縛は一瞬にして解けるが、エピレクティカとテリアは予測していたかの様に、
素早く次の行動に移った。
エピレクティカはコバルトゥスに、テリアはラビゾーに、それぞれ向かって行く。
コバルトゥスは2人の行動には何らかの意図があると直感し、両手に短剣を持って、
自らテリアに斬り掛かった。
テリアは応戦せざるを得ない。
彼女とコバルトゥスは、お互い雷火の如き身の熟しで、息も吐かせぬ攻防を展開する。

 「テリア!」

加勢しようとするエピレクティカを、テリアは制した。

 「フテラ、こいつは私に任せて、あいつを先に殺れ!」

コバルトゥスとテリアの戦いは、下手に横槍を入れられない程の烈しさ。
エピレクティカは言われた通り、ラビゾーに標的を変えた。
ラビゾーは殺虫香を左手に持ち替え、右手にロッドを構える。
降下して来るエピレクティカを迎撃すべく、ラビゾーはロッドを振り下ろすが、簡単に躱されてしまい、
交錯の瞬間に左手の殺虫香を弾き落とされた。
苦し紛れにラビゾーはロッドを闇雲に振り回すが、エピレクティカは的確なヒット・アンド・アウェイで、
彼を後退させる。

43 :
ラビゾーは武術の心得はあったが、普通の人間は格闘で、態々不慣れな空中戦を挑みはしない。
飛行する敵と戦うのは初めてだった。
彼はエピテクティカを組み伏せた事があったが、その時は不意打ちに近かった。
エピレクティカはラビゾーのロッドを蹴り落とすと、両腕で彼の首を掴み、吊り上げて絞める。

 「追って来るなと言ったのになァ!
  人肉は食べられなくなったが、Rだけなら簡単だぞ!
  恨むなら愚かな自分を恨め!」

エピレクティカの腕力は人間の女性の比ではなく、ラビゾーでも外せない。
人外の握力が、彼の軌道を押し潰す。
窒息と鬱血でラビゾーの顔が赤くなって行くのを見て、エピレクティカは嘲笑した。

 「アハハ、無様だな!
  醜くR!!」

ラビゾーの窮地を察したコバルトゥスは、テリアと格闘戦中にも拘らず、右手の短剣を投げ付ける。

 「先輩、これを!」

短剣はダートの様に、真っ直ぐラビゾー目掛けて飛んで行く。

 (止めろ、馬鹿っ!!)

ラビゾーは抗議したかったが、首を絞められているので、声が出ない。
当のコバルトゥスとしては、ラビゾーに短剣を投げ渡した積もりだった。
しかし、ラビゾーには飛来する短剣を器用に受け取る技量等ありはしない。
この儘では顔面に短剣が突き刺さって、即死するとまでは行かなくとも重傷を負う。

44 :
ラビゾーは何とか間抜けな死に様を防ぐ為に、左腕を短剣の前に翳した。
短剣の刃は深々と腕に突き刺さり、真っ赤な血を飛び散らせるも、そこで止まる。
途端にエピレクティカは腕の力を抜いて、その場に蹲り、嘔吐(えづ)き始めた。

 「うっ……ぐぐっ、うぇっ……!
  くっ、忌々しい……」

血飛沫がエピレクティカの顔に掛かっている。
人肉食を禁じた呪いが発動したのだ。
それは「血肉を味わうと吐き戻す」と言う物。
ラビゾーは解放されたが、酸欠と貧血で目を回しており、直ぐには動けない。
エピレクティカが倒れたのを見て、テリアは焦りを露にする。

 「フテラ!!」

直後、俄かに霧が立ち込めた。

 「テリア、撤退だ!
  フテラは任せた!」

川の中からスフィカを抱えたネーラが現れ、テリアに指示を出す。
テリアは素直に彼女に従い、稲妻の様な迅さでエピレクティカを回収した。
ネーラはスフィカと共に水中に消え、テリアはエピレクティカを担いで滝の下に飛び降りる。
取り敢えず、危機は去った。

45 :
コバルトゥスは短剣を鞘に納めると、ラビゾーに駆け寄る。

 「先輩、大丈夫ッスか?」

ラビゾーは深呼吸を繰り返して息を整えながら、短剣の刺さった腕を見せ付けて、彼に訴えた。

 「迚(とて)も痛い。
  凄く痛い」

 「あー、先輩、剣を受け取るの失敗してましたね。
  折角、投げたのに」

コバルトゥスが「仕方の無い人だ」とでも言う様に呆れ笑ったので、ラビゾーは怒り出す。

 「失敗じゃないっ!
  取れる訳無いだろうが!
  R気か!!」

 「あれ、先輩は出来ないんスか?」

 「お前は出来るのかよ!?」

 「出来ますけど」

コバルトゥスは然も当然の如く答えると、何の警告もせずに、ラビゾーの腕に刺さった短剣を抜いた。

 「痛ーっ!!」

ラビゾーが叫ぶと同時に、栓を抜いた様に血が噴き出すも、コバルトゥスは殆ど関心を持たず、
直ぐに彼の腕を掴んで傷口を押さえ、魔法で治療する。
コバルトゥスの回復魔法は効果が高く、ラビゾーの傷は数極で塞がった。

46 :
ラビゾーの治療を終えたコバルトゥスは、短剣で軽く空を切り、その刃に付いた血糊を綺麗に払うと、
鞘に納める。
そして、抗議の眼差しを向け続けるラビゾーに対して、決まり悪そうに言った。

 「そんな睨まないで下さいよ。
  先輩には感謝してますって。
  実際、助けられたのは俺の方なんスから」

ラビゾーは視線を逸らすと、小さく息を吐いて怒りを抑え、コバルトゥスに尋ねた。

 「何とも無いか?」

 「お蔭様で。
  所で、先輩は……鳥の女と知り合いだったんスか?」

 「知り合いって程じゃないんだが、どう言えば良いのか……。
  因縁があったんだ」

 「男と女の?」

 「違う。
  相手は人を食う魔物だぞ」

 「女は魔物って言うじゃないッスか」

どうしても色事の方面に持って行こうとするコバルトゥスに、ラビゾーは不快感を露にして閉口する。

47 :
彼は未だ細い煙を吐き続ける殺虫香を回収して、コバルトゥスに皮肉を言った。

 「お前こそ女に囲まれて、満更でも無かったんじゃないか?」

コバルトゥスは苦笑して否定する。

 「連中が自然の存在じゃないって事は、魂の形で判りますよ。
  見て呉れに騙されはしないッス」

 「だったら、何で連れ去られたんだよ」

ラビゾーが突っ込むと、コバルトゥスは早口で言い訳した。

 「い、いや、それは油断したと言うか……。
  苦しんでる人を助けたいと思うのは、人間として当然っしょ?
  それに、『魔物』なんて見た事も聞いた事も無かったし……」

 「知らなかったのか……。
  知らなかったんなら……仕方無いのかな」

 「寧ろ、何で先輩は知ってるんスか?
  もしかして、全部知ってて黙ってた?」

 「僕だって最初から見抜いてた訳じゃない。
  止めようにも、お前が独りで勝手に行ったんじゃないか……」

他愛無い話をしながら、ラビゾーは胸騒ぎを感じていた。
エピレクティカと共に居た、3人の怪人。
彼女等は何者なのか……。
徒党を組んで人を襲う事を学んだと言うのか……。

48 :
コバルトゥスの「コバルト」に就いて、少し余談を。


16世紀のヨーロッパでは、コバルトは銀の紛い物とされ、鉱業の厄介物でした。
これは土の妖精コボルトが、銀を食べて腐らせる為とされています。
時にノームやドワーフ、ノッカー、レプラコーンとも混同される、この悪戯好きの妖精の大元は、
ギリシア神話のコバロス(複数形コバイロイ)だそうです。
コバイロイは悪戯好きの妖精であり、男根崇拝に関連します。
又、ディオニュソスの仲間で、Choroimanes-Aiolomorphosを装って、ディオニュソスに変身します。
Choroimanes-Aiolomorphosの意味は分かりません。
Choroimanesは「踊りの熱狂」と言う意味で、「動きのリズムと神の繋がりの例示」。
Χοροι(dances)μανησ(mad?/mania?)。
Aiolomorphosは「アイオロス(風の神)の形の」で、「急な或いは容易な変化の例示」、又は、
「(光沢や多彩な斑点がある)デュオニュソスの肌や服の」と言う、2つの意味があります。
Αιολο(aeolos)μορφοσ(form)。
検索した結果、英語に直訳すると「"Mad-after dancing" - "of plastic form"」になる様ですが、
適切な訳が分かりません。
英語ウィキペディア編集者は、ギリシア語を固有名詞扱いせず、真面目に翻訳して欲しいです。
さて、話をコバイロイに戻すと、どうやらケルコペスやカベイロイと関連がある様です。
コバイロイとケルコペスは共に、ヘラクレスの物を盗んで捕まり、一度は許された物の、
その後にゼウスに悪戯をして猿にされたと言う、共通した神話を持ちます。
カベイロイは「大きな男根の小人」、ケルコペスは「尻尾のある男」を意味するそうです。
これは「尻尾」を「男性器」と混同したか、両者が暗示的に同じ意味を持つのだと思います
(『第三の足』や『男の尻尾』と同類)。
神話のケルコペスの元になったのは、現地のオナガザル属だろうとされています。

49 :
どうしてコバイロイがコボルトになったのかは不明です。
ドイツ語ウィキペディアでは、koboldを「kobe(小屋、納屋)」と「hold(良い、高貴な、"鬼"や
"ホレの小母さん"の様な)」、又は「walten(ルール、所有)」の組み合わせと考えています。
「kobe-walten」は「執事、留守番」を意味するそうです。
kobe-hold、kobe-waltenがkoboldのイメージを作ったと言う事でしょうか?
コボルトは家の守り神であったり、座敷童の様な物だったり、嚔(くしゃみ)や寝坊の原因になったり、
お金を盗んだり、良い所も悪い所もあります。
コボルトは「家や自然の霊」として、エルフ(小さな妖精)やゴブリン、インプ、ニクス(水の妖精)、
小人等の多くの民話と合体して、時に妖精の総称としても扱われます。
四大精霊の土はノームから時々コボルトに置き換えられます。
ゲーム由来と言われる「犬の頭」は、「洞窟で暮らす狼」から来たのかも知れません。
ドイツの鉱業の歴史は古く、その興りは10世紀からで、16世紀には最盛期を迎えます。
コバルト元素の由来では、悪戯妖精のコボルトが、銀を食べてコバルトを排出したのだと言います。
ニッケル元素も「銅の悪魔(kupfer-nickel:現代英語訳copper-nick)」で類似の語源だとか。
悪魔を意味するnick(ニック)はニコラスの愛称でもあり、copper-nicolausと言えば、
地動説のニコラウス・コペルニクス(Copernicus/Kopernik:銅屋のニコラウス)。
彼も近い年代の人物なのは、偶然の一致でしょうか?

50 :
序でに、悪魔ニックに就いても調べてみました。
ニックはゲルマン神話や民間伝承に登場する、ニクシーやニッカー、ネッキ、ネックとも呼ばれる、
水の精霊であり、他の生き物の姿を借りて現れます。
人魚だったり、竜だったり、男性だったり、女性だったりと、地域や伝承によって様々です。
これはゲルマン祖語のnikwus(ニクヴス)、nikwis(ニクヴィス)が由来で、更に印欧祖語neig
(洗う事)から来ているそうです。
サンスクリット語のニーニークティ、ギリシア語のνιζω(ニゾー)、νιπτω(ニプトー)、
アイルランド語のnigh(ニー)は、何れも「洗う事、洗われた」と言う意味を持ち、
neigに関連していると言います。
neig由来のneck(ネック)は英語とスウェーデン語では裸を意味するnek(ネク)、naeck(ネック)に、
古期スイス語ではneker(ネカー)、古期アイスランド語ではnykr(ニークル)、
ノルウェー語ではnykk(ニッキ)、フィンランド語ではnaekki(ニッキ)、古期デンマーク語ではnikke
(ニケ)へと変わりました。
アイスランドのnykur(ニークル)は馬の様な生き物だと言います。
低地ドイツ語ではnecker(ネッカー)、中期オランダ語ではnicker(ニッカー)と呼ばれ、
これはnickelやnikkelとコボルトを足した物です。
高地ドイツ語では鰐を意味するnihhus(ニフス)、古期英語では水の怪物、
河馬を意味するnicor(ニッカー)になりました。
ノルウェーのフォッセグリムや、スウェーデンのストレムカルレンとも関連しているらしいです。
スカンジナビアではベッカヘステン(小川の馬)と呼ばれるケルピー(馬の姿をした幻獣)は、
ウェールズではケフィル・ドゥール(水の馬)と呼ばれます。
イギリスの民間伝承では、古期英語nicorを由来とする水竜のknucker(ナッカー)の他に、
ジェニー・グリーンティース、シェリーコート、ペグ・パウラー、ベッカヘステンに似たブラグ、
グリンディローがあります。
以上、英語ウィキペディアを斜め読み。
ニコラスは関係無さそうです。

51 :
「洗う」や「裸」を意味する単語が、悪魔全般を指す物になった経緯は不明です。
ローマ神話のネプトゥーヌスや、ケルト神話のネフタン、ペルシア神話のアパム・ナパート、
エトルリア神話のネスンス等、水の神と関連している可能性があります。
もしかしたら、ギリシア神話のニュクスやナウプリオスとも関連しているかも知れません。
スカンジナビアではネッケン、ネッカー、ネッキ、ネックは、バイオリンで魔法の音楽を演奏し、
女性や子供を誘って、水に溺れさせる男性の水の精霊でした。
しかし、必ずしも悪意があるとは限らず、無害な物語や、悲恋の物語もありました。
これ等はローレライや人魚の伝説とも重なります。
水は定型を持たないので、水の精霊であるネックも真実の姿は不明です。
ニックは「水の精霊」なのですが、低地ドイツ語では何故かコボルトと関連するとされています。
しかし、ドイツ語でニクス、ニクシーと言えば、男の人魚と女の人魚の事です。
ケルト神話のメリュジーヌやギリシア神話のサイレンの様に、男性を誘惑して溺れさせます。
ニーベルンゲンの歌では、ドナウ川との関連でニクスに言及しています。
コボルトとの関連は見られません。

52 :
翼の生えた女性のフィギュアヘッド(船首像)は、ギリシア神話のニーケー(勝利の女神)ですが、
同様に人魚のフィギュアヘッドも多数あり、その中には「翼の生えた人魚」もあります。
ニーケーとニックの混同も有り得ない事ではないかも知れません。

53 :
ニッケル(nickel)を調べてみると、「daemon subterraneus(地下の鬼)や、daemon metallicus
(鉱山の鬼)」と言われる山や鉱山に関連する、伝説上の生き物の総称として、
berggeist(ベルクガイスト:山の霊)なる概念があり、その中の一つだそうです。
ベルクガイストには他に、スカルプニク(宝の守護者、シュレジア山脈の頂)や、
ギュービッヒ(ハルツ山地)、ガンガール(ブートヴァイス周辺)等があります。
1487年のシュネーベルクにはBergmaennlein(ベルクメンライン:山の小人)の伝説がありました。
それは性的特徴の無い、3人の裸の子供の様なイラストで、鉱山の守護者と解釈されています。
家財を守るローマ神話のペナーテースの影響を受けた物らしいです。
他にもニアフィスの報告書では、シュネーベルクの鉱夫は「『人々に暴力を振るう』、
危険な地下の鬼」を知っていました。
ゲオルギウス・アグリコーラによると、ベルクガイスター(山の霊)の系統は、2つに分けられます。
暗く、乱暴で野蛮な、「残忍な地下の鬼」――bergteufel「ベルクトイフェル(山の悪魔)」。
穏やかで、友好的な、「小さな地下の鬼」――bergmennel「ベルクメンネル」、kobel「コーベル」、
guttel「グーテル」。
「小さな地下の鬼」のコーベルは、恐らくはコボルトの元になった物です。
アグリコーラの言うベルクトイフェルの例として、Annaberg(アンベルク)で12人の労働者を、
毒の息で殺した、怒りの目と(馬の様な)細長い首を持ったGeist(ガイスト:霊)があります。
アンベルクでは高い等級の銀が採れましたが、この為に放棄されました。
この霊に名前はありません。
別の例では、Schwarzen Kutte(シュバルツェン・クーテ:黒い修道服)の霊があります。
シュネーベルクのセント・ジョージの鉱穴で、労働者を持ち上げて、悪巧みをしない様に、
銀の豊富な洞窟へ置いて行くと言います。
特に後者の、ハルツ山地、エルツ山地、ザクセン地方、トランシルバニア(ジーベンビュルゲン)の、
鉱夫武勇談で見られる、これ等の霊を、アグリコーラは明らかに悪質なBergmoench
(ベルクメンヒ:moench=英語monk、山の僧)とは、呼んでいません。

54 :
この危険で、悪質で、孤独な者達の反対が、陽気なBergmaennchen(ベルクメンヒェン:山の人)です。
ベルクメンヒェンはコボルトの特徴的な挙動を示しています。
あちこちで陽気にクスクスと笑ったり、物を叩いて雑音を出したり、目立つ所に石を投げたり、
労働者の真似をしたりします。
彼等は通常、目には見えませんが、3スパン(27インチ=約70cm)の大年寄りの姿で、
Kapuzenkittel(カプーツェンキッテル:フードが付いたコート)とArschleder(アルシュレーダー:
革の尻当て)と言う、典型的な鉱夫の格好をしています。
「作業服を着た老人」と言う、Zwerg(ツヴェルク:ドワーフ)の一般的なイメージは、
これを基に作られました。
ベルクメンヒェンは時々鉱夫を虐めますが、大笑いや汚い言葉で気分を害さない限り、
傷付ける事はありません。
鉱夫はベルクメンヒェンの存在を何とも思わず、寧ろGuttel(グーテル)等は名前(gut=good、
良い)の通り、豊富な採集物の良い前兆と見做します。
アグリコーラはベルクメンヒェンと地上の家の霊、家庭や家畜を世話する者達(Wichtel「ヴィヒテル」、
Heinzelmaennchen「ハインツェルメンヒェン」)、スカンジナビアのTrollen(トロール)と比較して、
後者は無害で「家庭的に飼い馴らされた」形だとしました。
アグリコーラは「ベルクメンヒェン」を家庭的にした物が、所謂「家の霊」だとした様です。
ドイツ語に自信が無いので、詳しく知りたい人は、ドイツ語ウィキペディアのBerggeistを読んで下さい。
適当に翻訳に突っ込んで、分からない所は飛ばしたので、上述の内容は不正確な意訳です。
全体的に見ると、ニッケルとニクスは関係が薄そうですが……。

55 :
Skarbnik(スカルプニク)の様に、スラブ民族語系のnik(英語の「-er」、「-man」に相当する)が、
悪魔のnickと関連付けられた可能性もあります。
スカルプニクはドイツ語では、Schatzhueter(シャッツヒューター:schatz「treasure」+hueter
「guardian」=宝の守護者)と言いますが、元はポーランド語で「Skarb(宝)」+「-nik」の形です。
Copernicus(コペルニクス)を彼の母国ポーランド語で表記すると、Kopernik(コーペルニク)、
「Koper(銅)」+「-nik」で、銅屋になるのと同じです。
又、オーストリアの言語はドイツ語ですが、ドイツ語の単語の後に「-el」を付けて、小さい物、
可愛い物、親しみを表します。
これはドイツ語の「-chen」、「-lein」に相当する物です。
詰まり、先述のBergmaennchen、Bergmaennlein、Bergmennelは、何れも「山の小さな人」と言う、
殆ど同じ意味になります(ドイツ語で「お嬢さん」を意味する、fraeulein「フロイライン」、
maedchen「メトヒェン」、maedel「メーデル」と同じです)。
Heinzelmaennchenは「Heinzel(家の)」+「maennchen(小人)」となります。
ベルクガイストのguttel(グーテル)、kobel(コーベル)、nickel(ニッケル)、wichtel(ヴィヒテル)、
bergmennel(ベルクメンネル)、bergteufel(ベルクトイフェル)の何れも、語尾に「el」が付きます。
「teufel(トイフェル)」は単独で「悪魔」を指します。
これ等はラテン語の「-el」とも関連しているかも知れません。
故に、コボルトの語源にコバロイは関係無く、単に「kobe(小屋)」に「el」を付けて、
「小屋の霊」コーベルからコボルトが誕生したとも考えられます。
ニッケルは「nik」+「el」の可能性も無いとは言えません。
ベルクガイストの逸話がある地域を見ると、現在のドイツ国内だけでなく、チェコ、オーストリア等、
ドイツの南東方面にも広がっている事が分かります。
或いは、英語「nick」がドイツ語「knick(クニック)」に関連している事が、由来かも知れません。
英語nickの「傷を付ける」と言う意味に加え、ドイツ語knickは「駄目にする」と言う意味も持ちます。


※:aeはアーウムラウト(アとエの中間発音)、ueはウーウムラウト(ウとイの中間発音)、
  oeはオーウムラウト(オとエの中間発音)。

56 :
随分と話が逸れてしまいましたが、以下が本題です。
翻って、現実の物とは別の、ファイセアルス(或いは旧暦)のコボルトに纏わる伝説を、
創作しらなければならない訳ですが、「旧暦の土精の伝説」までは良いとして、
これまでの設定との整合性も加味した上で、語源にも触れなければならないでしょう。
今更ですが、一応ファイセアルスの各地方の言語は、現代の世界各地の言語に、
便宜的に当て嵌めている設定です。
日本語で解り易くする為に、一部のキャラクターには国内の方言と組み合わせて喋らせています
(英語を基礎に、訛り程度の違いが、各地にあると言う感じで)。
現実のコボルトはコバロス、更にはケルコペス、カベイロイから来ていると予想されますが、
ファイセアルスの土精も同語源とすれば、「尻尾のある男」になります。
尻尾から男根崇拝と言う背景を考えれば、男の名前にコバルト、コボルトを付けるのは、
不自然ではないでしょう(逆に女の名前には向きません)。
精霊が無邪気な子供、又は好色な男性のイメージで語られると言う、ファイセアルスの精霊像にも、
合致すると思います。
一応、コバルト鉱石と言う物は登場していないので、コバルト=青色とするには、
未だ一捻り加えなければならない訳ですが……。
悪戯好きな有尾亜人種コボルト(例えばキツネザルの様な生物)が、土に由来する物になるには、
やはり洞窟で暮らしていると設定するのが自然でしょう。
有尾亜人種が実在しなくとも、それに似た生物が旧暦に存在したと設定すれば、
それをモデルにして「コボルトと言う精霊が創られた」と考えられます。
「コボルトの暮らす洞窟で青い鉱石が採れる」とすれば、コバルトと青を関連付けられます。
設定は自由なので、コボルトの体色を青くしても、「kobe」語源を採用しても良いのですが……。
余談ですが、現実のコバルトは混合によって、青赤緑黄と多彩に変色するので、青とは限りません。
それぞれ、コバルトブルーやコバルトグリーン等と言います。
不純物を多く含んだ自然の状態では、赤い鉱石になる物もあります。

57 :
>>48-49でコバイロイと言っていますが、正しくはコバロイです。

58 :
妖獣事件前日譚


ティナー地方北部の都市ラサーラにて


未だ寒さの残る頃、ニャンダコラスの子孫を名乗る化猫ニャンダコーレは、
偶々訪れたラサーラ市にて、飼い化猫の一匹から奇妙な噂を聞いた。

 「ニャンダコーレしゃん!
  久ゃし振りゃーニャァ!」

元気良く声を掛けて来た飼い化猫に、ニャンダコーレは戸惑う。

 「コレ、済みません、どちら様でしたかな、コレ……?」

 「憶えてニャーきゃや?
  ニャーに、気にすー事ぁニャーよ!
  あん時ゃー、ニャっちたァ余(あんみ)ゃ話ャしちニャきゃっちゃし、
  よー思い返(きゃー)してみちゃー、
  わっちゃ名乗(ニャニョ)ってニャきゃったわ!
  わっちゃ『ブルー』っちゅーよ!
  改めて宜しゅう!」

 「ニャァ……」

一人で陽気に捲くし立てる飼い化猫に、ニャンダコーレは閉口した。
飼い化猫のブルーは、構わず話を続ける。

 「所で、ニャンダコーレしゃん、ニャっちも北ゃへ行くんきゃ?」

 「北?
  コレ、北に何が?」

ニャンダコーレが興味を示すと、ブルーは勘違いを恥じて釈明した。

 「へゃー、違ゃーたきゃ……。
  いゃーニャ、妖獣ん『楽園』ぎゃあーっちゅー話ャしでゃニャ……」

 「楽園……とは、コレ?」

 「わっちも詳(かぁ)しい事ぁ知らニャーでゃも、妖獣ん国ぎゃ有ーっちゅーでゃ。
  野良ん奴(やっち)ゃ大勢、楽園行くっちゅーち出てったんゃ」

59 :
ニャンダコーレは不吉な予感がして、髭をそわそわ動かした。

 「コレ、貴方は何故、行かなかったのですかな、コレ?」

 「ニャー、わっちゃ今(いみ)ゃん儘(まんみゃ)で不満(みゃん)はニャーし!
  行ったんは宿ニャしん連中ばっきゃでゃ」

 「野良の化猫が、コレ、揃って?」

 「ニャーニャー、『妖獣ん国』ャーで!
  犬(わん)も猫(にゃーこ)も行きょっちゃ!」

野良の犬と猫が馴れ合わない様に、魔犬と化猫も基本的には連まない。
それが共に楽園を目指すと言う事があるだろうか?

 「その楽園とやらは、コレ、どこに?」

 「そかぁ辺に未(みゃ)だ案内(にゃー)ぎゃ居(お)ーと思うでゃ。
  頼みゃー連れちっちくれんじゃにゃーきゃや?」

 「案内ですか……」

 「わっちゃ怪しいっち疑っちょーけどニャー。
  旨(んみゃ)い話にゃ裏ぎゃ有ーっち物よ」

ブルーの忠告に、ニャンダコーレは苦笑して断りを入れた。

 「コレ、私とて本気ではありませぬ。
  妖獣を騙しているなら、コレ放っては置けぬでしょう。
  コレ、楽園の正体とやらを、コレ暴いてやろうと思いましてな、コレ」

60 :
ニャンダコーレは早速、楽園への案内を探して、街を彷徨う。
そこらの妖獣に話を聞いて回っていると、直ぐに案内は見付かった。
街角でニャンダコーレと対面した案内猫は、彼を路地裏へと誘う。

 「貴方が、コレ、楽園への案内役なのですかな?」

 「そうだ。
  楽園に行きたいのか?」

 「興味はありますな、コレ」

案内役を自称する化猫は、普通の化猫と変わらない4足歩行。
強いて違う所を取り上げるとするならば、人語が流暢な位。
案内猫はニャンダコーレを観察して、何度も頷いた。

 「楽園ってのは、妖獣の妖獣による妖獣の為の国だ。
  あんたなら、結構良い地位が貰えるかもよ」

 「コレ、どう言う意味ですか?」

 「そりゃ『国』だからさ、纏める奴が必要な訳。
  楽園は未だ新しい、生まれたばかりの国なんだ。
  有能な奴は大歓迎だよ」

真面目に国を作る気なのかと、ニャンダコーレは訝る。
妖獣と言っても様々だ。
群れる物、群れない物、喋る物、喋れない物、大きい物、小さい物、捕食と被食の関係もある。
それ等を纏めて、1つの国に出来るのだろうか?
妖獣は妖獣、人間とは違うと言うのに。

61 :
ニャンダコーレが考え込んでいると、案内猫は不思議そうに問い掛ける。

 「何が心配なんだ?
  使い魔として人間に扱き使われる事は無くなるんだぞ」

暫しの沈黙後、ニャンダコーレは尋ねる。

 「コレ、国と言うからには、指導者が必要でしょう、コレ。
  どんな国なのですかな、コレ?」

 「どんな?」

 「共和制とか、王制とか、コレ」

案内猫は難しい概念が解らなかったので、知っている事だけ答えた。

 「この世界でニャンダカ王国を再建するんだ」

 「コレ、その王の名は?」

ニャンダカニャンダカと聞いて、ニャンダコーレの目付きが険しくなる。
しかし、案内猫は全く気付かず、得意になって答えた。

 「ナハトガーブ様だ。
  亜熊より巨大な、妖獣の王。
  地上を支配するのに相応しい方」

 「地上を支配?」

 「おっと、喋り過ぎた。
  興味があるなら、楽園に来なよ。
  早い内に、『こっち』に付いた方が得だぜ」

それで隠している積もりなのだろうかと、ニャンダコーレは呆れる。

62 :
妖獣達の良からぬ企みを察し、ニャンダコーレは楽園に行ってみる事にした。

 「それでは、コレ、案内をお願い出来ますか?」

 「分かった。
  だが、他にも楽園に行きたい奴が居るかも知れない。
  週末まで待ってくれ」

 「コレ、構いませんよ」

ニャンダコーレは案内猫の言う通り、週末までラサーラ市に滞在して、時を待った。
妖獣神話――全ての妖獣は、同じ神話を語ると言う。
全ての妖獣はニャンダカニャンダカの子孫で、ニャンダカニャンダカV世の時代に、
逆臣ニャンダコラスの謀反に遭い、追放された。
それから何だ彼だで、辿り着いたのが魔法大戦の最中のファイセアルス。
この世界でニャンダカニャンダカの子孫達は、同属で戦い続け、種を鍛え上げた。
そうして行く内に、肉を食らう妖獣と、争いを厭う霊獣に分かれ、この地で静かに生きる事を決意した、
霊獣達とは対照的に、未だ妖獣達は帰郷を諦めていないと言う。
ニャンダコラスの子孫を自称するニャンダコーレは、妖獣達の動向を監視している。
ニャンダカニャンダカの子孫達が帰郷を諦めて、この世界に新たなニャンダカ国を築く事は、
ニャンダコラスの子孫としては喜ぶべき事かも知れない。
飽くまで、この地で満足すると言うのなら……。
しかし、地上を支配した野心が、そこで収まるとは限らない。

63 :
そして、週末の朝……。
ニャンダコーレは十余の野良化猫達と共に、案内猫に付いて、北へ北へと移動する。
野良化猫達は揃って、薄汚れて見窄らしい姿。
夢も希望も無いのか、目が死んでいる。
もう楽園しか、縋る物が無いのだろうか……。
ニャンダコーレは道々、1匹の野良化猫に、話を聞いてみた。

 「コレ、そこの御仁、お伺いしたい事があるのですが、コレ?」

 「何ニャ……」

余り気乗りしない様子で、野良化猫は返事をする。
ニャンダコーレは少し申し訳無さそうに、声を落として尋ねた。

 「貴方はコレ、楽園が本当にあると、コレ、お思いですか?」

 「……しゃーニャァ。
  有っちも、ニャっちも、構(きゃま)わニャーでゃ。
  野良ん儘、街(みゃち)に居っち、腐っちみゃーよりゃ……。
  食い物と寝(にぇ)床しゃえ有りゃ……」

随分と消極的な理由で行くのだなと、ニャンダコーレは意外に思う。
野心を持って行く物は少数で、食い詰めて仕方無く楽園を目指す者が、大半を占めているのではと、
彼は予想した。
或いは、地域的な性質と言う物もあるかも知れないが……。

64 :
楽園への道程は、決して楽ではなかった。
向かう方角は北。
案内猫が言うには、1日や2日では到底辿り着けない所にあると言うのだ。
よって、各々の食べ物は自力で確保しなければならなかった。
幸い、季節は既に春を迎えて、様々な生き物(主に虫)が活発になる頃。
逞しい物達は、蛙や蚯蚓、芋虫、飛蝗等を取って、己の腹を満たした。
しかし――……。

 「コレ、貴方は食べなくても、コレ良いのですかな?」

ニャンダコーレは弱り切った様子の、1匹の野良化猫に話し掛けた。
その野良化猫は、静かに首を横に振る。
肯定なのか、否定なのか判らない。
ニャンダコーレは外気を取り入れて、内気に変換する、吸精の法を心得ているので、
食事を必要としないが、他の物には不可能な芸当である。

 「そんな様子では、コレ楽園に辿り着く前に、コレ、倒れてしまいますよ」

ニャンダコーレは世話を焼いて、そこ等に居た蛙を捕まえ、野良化猫の前に投げた。
だが、その野良化猫は視線を落として見詰めるだけで、食べる所か、捕らえようともしない。
蛙は跳ねて逃げ出し、別の野良化猫に食べられてしまう。

65 :
自然に適応出来ない化猫なのだ。
野生に帰るには、この化猫は余りに飼い馴らされ過ぎた。
元は随分と良い暮らしをしていたのだろう。
この化猫は楽園に着く前に、餓死するだろうと、ニャンダコーレは予感した。
それを気に掛ける物は、この場には存在しない。
弱い物は死んで行くのが、野生の掟。
ニャンダコーレも、この化猫を見限る積もりだった。
その翌日こそ脱落者は出なかった物の、3日、4日と経つに連れて、置いて行かれる物が出始める。
北へ、北へと進むので、徐々に寒くなり、食べる物も無くなって来る。
丸で死へと向かっている様だった。
初めは脱落して行った物達を、野生に適応出来ない弱者と嘲っていた生き残りの野良化猫達も、
そろそろ自分の命も危ういと気付いて、狼狽え始めた。
8日目の夜、雪の残る森の中で、遂に仲間割れが始まった。
生き残りの野良化猫達が怒りの矛先を向けた相手は、当然ながら案内猫だった。

 「何時んニャったぁ、楽園っち所に着くんゃ?
  寒(しゃみ)ぃ上に、食う物もニャー!」

 「もう直ぐだ」

案内猫は全く疲弊している様子が無い。
慣れているにしても、奇妙だった。
野良化猫は一層声高に不満を吐く。

 「『直ぐ』じゃニャーよ!
  後何日ゃ!?」

 「呟々(ぶつぶつ)言わずに、黙って付いて来な。
  言い争うだけ労力の無駄だ。
  あんた等は、街の片隅で屑の様に死んで行くか、楽園を目指すかで、後者を選んだ。
  今更こんな所で離反して、どこへ帰るってんだ?」

案内猫の言う通りなのだが、それで納得する野良化猫達ではない。

66 :
反発の原因は、案内猫の高圧的な物言いにもある。

 「ニャっちゃ偉しょうやニャァ!!
  そーぎゃ気に食わニャー!」

 「幾ら喚き散らそうが、疲れるだけだってのに。
  帰りたいなら、勝手にすれば良いさ。
  楽園に行きたい物だけ、付いて来い」

案内猫は突き放した態度で、不貞寝した。
腹の虫が治まらない野良化猫達は、とにかく痛い目に遭わせなければ気が済まないと、
案内猫を取り囲む。
ニャンダコーレは遠巻きに、事の成り行きを観察していた。
案内猫は、これをどう乗り切る積もりなのか……?
殺気立つ野良化猫達に苛立ったのか、案内猫は舌打ちをする。
同時に、1匹の野良化猫が額を押さえて蹲った。
その野良化猫の額からは、赤い血が溢れ出している。
野良化猫達は初め何が起こったのか理解出来ずに、数極の間、呆然としていたが、
案内猫が獣魔法を使ったのだと感付くと、動揺して距離を取った。

 「身の程を知ったろ?
  大人しくしてな」

案内猫は野良化猫達を見下して毒吐く。
最早逆らう事は許されない様な、重苦しい空気が辺りを支配していた。

67 :
ニャンダコーレは徐に案内猫に近付き、問い掛けた。

 「今のはコレ、何ですか?」

 「……魔法だよ、魔法」

案内猫は面倒臭そうに答える。

 「貴方は、コレ何物なのですか?
  楽園は本当にあるのですか、コレ?」

 「あんたまで、諄々(くどくど)言うのか?
  他の連中とは違うと思ってたんだがな……」

失望を露にする案内猫だが、ニャンダコーレは怯まない。

 「答えて貰えますかな、コレ?」

ニャンダコーレが食い下がると、案内猫は舌打ちした。
魔力の流れを感じて、ニャンダコーレは横に跳び、見えない斬撃を避ける。
更に、両手を合わせて、拝む様にニャゴニャゴと呪文を唱え、己の獣魔法を使って反撃した。
案内猫は謎の圧力で地面に押し付けられる。

 「ギ、ギニャ……!
  あ、あんた、何物だ……?」

 「コレ、私の質問が先でしたよ」

ニャンダコーレは圧力を強めて、案内猫に抗弁を許さない。

68 :
野良化猫達は、案内猫に復讐する好機にも拘らず、ニャンダコーレを恐れて手が出せなかった。
案内猫は観念して、素直に答える。

 「楽園はあるさ……。
  ナハトガーブ様が支配する、妖獣の国が……」

 「そこは本当に、コレ楽園なのですか?」

鋭いニャンダコーレの問いに、案内猫は言い淀む。

 「……楽園は道半ば。
  真の楽園を築く為には……、未だ……」

 「未だ?」

 「に、人間に戦いを……」

 「コレ、戦い……?
  成る程、コレ、人間に下克上を仕掛けると言うのですな、コレ。
  ……余りに馬鹿気ている」

ニャンダコーレは一言で切り捨てたが、案内猫は笑って反論した。

 「出来るさ、ナハトガーブ様なら……!
  あの方は強い!
  あの方の前では、あんたでさえも虫螻だ……!」

そんなにナハトガーブは強いのかと、ニャンダコーレは不安になるより、疑う気持ちが勝る。

69 :
ここでニャンダコーレは自らの正体を明かした。

 「この私がコレ、その程度の脅しに怯むとでも思っているのか、コレ!
  我輩はニャンダコォーレッ!!
  コレ、貴様等ニャンダカニャンダカの子孫共の仇敵、コレ、ニャンダコラスの血を引く物!
  ニャンダカ国の再建と言う、コレ、貴様等の下らない野望も、コレ私が終わらせる!!」

何の冗談かと、案内猫も野良化猫達も、呆気に取られて動けなかった。

 「ニャンダコラスの……?」

 「コレ、その通り!」

ニャンダコーレは堂々と言い切ったが、案内猫や野良化猫達は、恐れ戦くと言うよりは、
俄かには信じ難いと言った目付き。
冷ややかな眼差しを受けて、ニャンダコーレは逆に冷笑する。

 「コレ、ニャンダカ神話を信じる癖に、コレ、自らをニャンダカニャンダカの子孫と言い張る癖に、
  ニャンダコラスの子孫の存在は、コレ信じないのか?」

案内猫は冷静になって、言い返した。

 「仮に、あんたがニャンダコラスの子孫だとして……?
  ナハトガーブ様に遠く及ばない事実は変わらない……」

ニャンダコーレは鼻で笑って相手にせず、野良化猫達に呼び掛ける。

 「コレ、皆も聞いたであろう?
  奴等は人間に、コレ戦いを挑む気だ。
  勝ち目があると思うか、コレ?」

野良化猫達は右顧左眄し、互いに顔を見合わせるばかりで、何も答えなかった。
所詮使い魔の妖獣が、人間と戦って勝てる訳が無いのだ。

70 :
ニャンダコーレは声を張って、尻込みしてばかりで、態度を明確にしない野良化猫達を一喝する。

 「お前達はコレ、奴等と共に、コレ人間と戦いたいと言うのか、コレ!!」

野良化猫達は怯んだが、内の1匹が反論した。

 「……んにゃら、どうしぇーっちゅーんゃ?
  こっきゃら戻れっちゅーんゃきゃや?
  捨(し)て猫みてーに、塵(ごみ)漁っち生きれっちゅーんきゃ?」

それは純粋な疑問だった。
街中の化猫は山野で生きられる程、強くはない。
自然の山野には、妖狐や魔犬と言った、化猫の脅威になる妖獣が棲息している。
野生に帰ると言っても、人里から離れる事は出来ない。
化猫とは半端な生き物なのだ。
安寧を求めるなら、街中で塵を漁っていた方が良い。
しかし、そんな生活が嫌で、野良化猫達は楽園を目指した。
普通の妖獣なら、そんな事は考えない。
使い魔として育てられたが為に、そこらの獣と自分は違うと信じたくて、悪い誘いに乗ってしまう。
ニャンダコーレは一層声を荒げた。

 「ならば、コレ人間と戦う覚悟があると言うのか!
  人間と戦うと言う事の意味を、コレ解っているのか!
  コレ、人間に害を為した妖獣の末路を、コレ知らぬ訳ではあるまい!」

熱り立つニャンダコーレに、野良化猫達は恐れ戸惑う。

71 :
やがて、野良化猫の1匹が仲間に呼び掛けた。

 「帰(きゃえ)らあや……。
  楽園にゃんじょ、ニャきゃっちゃんゃ……。
  わっちゃ戻ーでゃ。
  皆(みにゃ)ぁ思い思いにしぇーば良(え)えよ」

彼が去ると、皆々俯いて、疎らに後に続いた。
案内猫は身動きが取れない儘、暴言を吐く。

 「待てっ……、こんな得体の知れない奴に諭されるのか!?
  ニャンダコラス等と……!
  戦う気概も無いのかっ、人間の奴隷の屑共め!
  だから、お前達は進歩しないんだ!!
  惨めったらしく、乞食みたいに残飯を貪ってろ!!」

だが、野良化猫達は振り向きはしても、一匹として止まろうとはしない。
ニャンダコーレは案内猫を黙らせるべく、踏み付けて詰問した。

 「コレ、貴様には未だ役目がある。
  私を楽園まで案内して貰うぞ、コレ」

案内猫は悔しそうに歯噛みしたが、考えを改めて不敵に笑った。

 「……良いだろう。
  あんたもナハトガーブ様に会えば、考えが変わるさ……」

そこまで自信を持って言い切れるとは、ナハトガーブとは亜熊か、鬼熊か、それとも……。
ニャンダコーレとて不安に思わない訳ではなかったが、ニャンダコラスの子孫として、
ニャンダカ国の再建等と言う愚行を前に、引く事は出来なかった。

72 :
夜更け、ニャンダコーレは両目を閉じて体を休めながら、案内猫を監視し続けていた。
一見隙だらけだが、案内猫には逆襲する素振りも、逃げ出す素振りも無い。

 (……諦めが良いのか、コレ?)

睡眠も食事も殆ど必要としない程、ニャンダコーレは生物から遠ざかっている。
その事に最初は気付かなかった案内猫も、2匹切りになって数日過ごし、やっと違和感を覚えた。

 「あんた、何も食わなくて良いのか?」

 「食べないなら食べないで、コレ、どうとでもなる」

 「な、何で……?」

 「私はコレ、ニャンダコラスの子孫。
  ニャンダカニャンダカの子孫とは、出来が違うのだ、コレ」

差別的な物言いだが、案内猫は動揺した。
妖獣神話を信じ、ニャンダカニャンダカの子孫を自称する妖獣達にとって、ニャンダコラスとは、
得体の知れない仇敵。
重臣の身分ながら反逆して、ニャンダカニャンダカV世を追放したと言う事しか語られていないが、
不明な部分が多いが故に、増す恐ろしさもある。
ニャンダコラスは具体的に、どの位の強さで、どうやって反逆を成功させたのか?
妖獣は復讐の為に、爪と牙を研ぎ続けなければならない。
神話が口伝で受け継がれる度に、ニャンダコラスの「恐ろしさ」と「強大さ」は、膨れ上がり続ける。
案内猫はニャンダコーレを、危険な存在ではないかと、感じ始めていた。
それでも――いや、だからこそ、ニャンダコーレを味方に出来れば、純粋な力で劣るが故に、
妖獣軍の中では地位が低い化猫でも、発言力を強く出来るのではと考える。
化猫は決して、諂媚するばかりの生き物ではないのだ。

73 :
案内猫は丸で鉱山の様な、複数の洞窟が掘られた雪山に、ニャンダコーレを連れて行った。
そこでは、何匹もの魔犬が番をしており、ニャンダコーレを認めるや威嚇する。
ニャンダコーレは戦いになる事を覚悟していたが、案内猫が執り成した。

 「こいつは敵じゃない。
  新入りだ」

どう言う積もりかと、ニャンダコーレは不審の眼差しを案内猫に向ける。
しかし、案内猫の方は、彼を気にする素振りを見せない。
魔犬は唸るのを止めて、道を開ける。
だが、疑う様な目でニャンダコーレを睨み続けており、気を許した訳ではない事は明らかだ。

 「中に入れ」

案内猫は強気にニャンダコーレを洞窟内に誘った。
洞窟は嫌に広く、巨人でも住んでいるのかと思う程。
ニャンダコーレは案内猫の後に続きながら、問い掛ける。

 「コレ、正(まさ)か本気でナハトガーブに引き会わせる気なのか、コレ?」

 「……ああ」

案内猫は静かに頷く。
敵地の真ん中で、大将首を獲る事等出来やしないと、高を括っているのか、それとも、
ナハトガーブへの絶大な信頼が故なのか、ニャンダコーレは不気味に思いながら、
決戦に備え秘(ひそ)かに気を高める。

74 :
幾本にも枝分かれした洞窟を、案内猫とニャンダコーレは歩き続ける。
案内猫が素直にニャンダコーレを、ナハトガーブの元へ連れて行くとは限らない。
それを心配して、ニャンダコーレは道に迷わない様、獣魔法で記憶した。
洞窟の所々で、魔犬や化狸、妖狐、化猫の姿が見られる。
しかし、楽園と言うイメージは欠片も無い。
丸で戦を控えた砦の様に、張り詰めた空気が漂っている。
野良化猫共は逃げて正解だったなと、ニャンダコーレは思った。
洞窟に入ってから数点後、案内猫とニャンダコーレは広い空間に出る。
その中央には、直径2身程の巨大な金色の毛玉が眠っていた。
巨大な動物が、寝滑(そべ)り、丸くなっている。
これがナハトガーブ……。
ニャンダコーレは気圧されて、息を呑んだ。
人と比較しても倍以上の大きさなのだから、化猫にとっては正に「巨大」……とは言え、
鬼熊や亜熊ならば、この位の個体は稀に見られる。
ニャンダコーレが恐れたのは、その体躯よりも、空間を支配している強大な魔法資質だ。
並の妖獣の比ではなく、ニャンダコーレをも大きく上回る。
案内猫の態度も理解出来ると、ニャンダコーレは納得する。

75 :
案内猫はナハトガーブの前で、動かずに固まっていた。
余りに畏れ多く、声を掛ける事が出来ないのだ。
だが、ニャンダコーレも迂闊に動けない。
寝込みを襲った所で、これと戦って勝てる気はしなかった。
出来る事なら、穏便に話を進められないかと引け腰にもなる。
2匹が沈黙していると、ナハトガーブは目を覚まして、自ら問う。

 「何用カ?」

 「は……はい、新入りを連れて参りました。
  ニャンダコラスの子孫を名乗る物で……」

重く響く声に、案内猫は緊張の余り、震えながら応える。
ニャンダコーレは臆さず、案内猫の後に続けて、自ら名乗った。

 「我輩はニャンダコーレ。
  コレ、妖獣の仇敵ニャンダコラスの子孫だ、コレ」

 「……ソレデ?」

ニャンダコーレの隣で、案内猫は正に開いた口が塞がらない顔で驚愕しているのだが、
ナハトガーブはニャンダコラスの名に反応せず、興味無さそうに流す。
妖獣神話を知っているなら、ニャンダコラスに反応しない筈は無いのだが……。
案内猫は慌てて、ナハトガーブに事情を説明した。

 「この物が、ニャンダカニャンダカの子孫の野望を止めて見せると、息巻くので……」

 「コレガ?
  我ガ野望ヲ?」

ナハトガーブは徐に埋(うず)めていた首を起こし、案内猫とニャンダコーレを睨んだ。
その顔は鬼熊でも亜熊でもない。
況して、犬猫でもない。
角と牙を持った、得体の知れない、悪魔の様な怪物だった。

76 :
蛇に睨まれた蛙の様に、全く動けない案内猫とニャンダコーレを、ナハトガーブは暫し見詰める。
そして、鼻で笑うと再び丸くなった。

 「愚カナ……。
  コノ程度ノ物ガ騒イダ所デ、一々報告セズトモ良イ。
  勝手ニ始末シロ」

 「は、はい……」

案内猫は只管に畏まって、頷く事しか出来ない。
全く相手にされていない事に、ニャンダコーレは安堵したい所だったが、妖獣の仇敵である、
ニャンダコラスの子孫を自称する以上は、黙っている訳には行かなかった。

 「コレ、待つのだ!
  貴様はコレ妖獣を利用して、何をコレ企んでいる!」

ナハトガーブは耳を貸さず、無視を決め込んでいたが、ニャンダコーレの一言で、
そうも行かなくなった。

 「その魔力はコレ、妖獣の物ではないな!
  貴様は何物なのだ、コレ?
  答えよ、コレ『旧い魔法使い<オールド・マジシャン>』!」

 「今、何ト言ッタ?」

ナハトガーブは怒りの篭もった眼差しを、ニャンダコーレに向ける。

77 :
その殺気に中てられ、案内猫は気絶しそうだった。
ナハトガーブは案内猫に厳かな声で命令する。

 「貴様ハ下ガッテイロ」

 「は、はいっ、失礼しました!」

案内猫は腰を抜かして転げながら、吹き飛ばされる様に一目散に逃げ、あっと言う間に姿を消す。
ニャンダコーレは一対一でナハトガーブと対峙した。
彼は恐れを感じながらも、そこに急所があると感付き、ナハトガーブの弱点を探りに踏み込んだ。

 「コレ、何を恐れている?
  妖獣ではないと知られると、コレ都合が悪いのか?」

ナハトガーブは一旦両目を閉じると、落ち着きを取り戻し、澄んだ瞳でニャンダコーレに尋ねる。

 「何故、私ガ妖獣デナイト思ッタ?」

その目には奇びと驚嘆の感情が隠れていた。
ニャンダコーレは態度を急変させたナハトガーブに戸惑うも、平静を装って答える。

 「魔力の質が違うのだ、コレ。
  コレ、野生の妖獣の物でも、コレ、使い魔の物でもない……」

ナハトガーブは頷き、口の端を少し歪めて、自嘲気味に笑った。

78 :
そして、ニャンダコーレに問い掛ける。

 「貴様ハ何物ダ?」

 「コレ、先程名乗った筈。
  我輩はニャンダコーレ、コレ、ニャンダコラスの子孫」

 「『妖獣神話』カ……、フフフ」

 「コレ、何が可笑しい?」

 「否(イヤ)、馬鹿ニシテイルノデハナイ。
  偉大ナル祖ヲ持ツト、苦労スル物ヨナァ。
  何物モ血ノ宿命カラハ、逃レラレヌト言ウノカ……」

ナハトガーブはニャンダコーレとの対話を、楽しんでいる様だった。
しかし、当のニャンダコーレには楽しむ余裕は無い。
彼はナハトガーブに言う。

 「妖獣共を利用して、コレ、馬鹿な夢を見させるのは、コレ止めるのだ」

 「ソウハ行カヌ……。
  祖ノ仇ヲ討ツト言ウ点デ、私ト奴等ハ一致シテイル。
  ソノ相手コソ違エドナ」

 「やはり、コレ、旧い魔法使いの裔か!
  その目、コレ変身魔法使いだな?」

79 :
ナハトガーブは虚を衝かれて、目を剥いた。

 「……何故、判ル?」

 「変身魔法使いは、コレ何に姿を似せられても、一つだけ変えられない物があると、コレ聞く。
  コレ、それは瞳!」

ニャンダコーレに指摘され、ナハトガーブは内心大いに焦った。
最早手心は不要と、強引に話を打ち切って、魔法を使う。

 「……オ喋リガ過ギタ様ダナ。
  霊ヲ残シ、物言ワヌ立像ト化セ!
  其ハ生ケル屍ナリ!」

魔力がニャンダコーレに集まり、その体を変質させて行く。
全身が石の様に硬く、重くなって、動けなくなる。
体だけではない。
身に付けている物までも。
徐々に感覚が失われ、意識だけが残る。

 「魔犬共!」

ナハトガーブが叫ぶと、直ぐに2匹の魔犬が駆け付けた。

 「コレヲ片付ケテ置ケ」

魔犬は命令通り、ニャンダコーレの形をした像を、2匹で協力して屑々(せっせ)と背に乗せ、
外に運び出す。
続けて、ナハトガーブはテレパシーで洞窟に居る全妖獣に伝えた。

 「妖獣達ヨ、今日限リデ、コノ塒ハ放棄スル!
  新タナ拠点ハ、人間ノ集落ダ!
  長キ雌伏ノ時ニ終ワリヲ告ゲヨウ、愈々我等妖獣軍ハ進撃ヲ開始スル!」

妖獣達は色めき立った。
長らく地上を支配して来た人間を駆逐し、地上に理想の楽園、ニャンダカ国を築くのだ。

80 :
ニャンダコーレは洞窟の外の針葉樹林に投げ捨てられた。
立像と化したニャンダコーレは、雪に埋もれても、寒さを感じないが、意識だけは確りしている。

 (愚かな妖獣共……。
  コレ、利用されているだけとも知らず……)

彼は妖獣達を憐れみながら、どうにか出来ない物かと、考え続けた。
妖獣達を助けたいと考えている訳ではないが、無益な――本当に「無益な」殺し合いが、
今将に行われようとしている。
ニャンダコーレはニャンダカニャンダカやニャンダコラス以前に、「当然の正義」として、
それを止めなければならない。
日没前に、妖獣達は林の中に捨て置かれたニャンダコーレには目も呉れず、大軍勢を成して、
洞窟から出て行く。
犬、猫、熊、鼬、狐狸……様々な妖獣に混じって、猿や鼠の霊獣も見られる。

 (どうにか動けないか、コレ……)

『立像化<スタチュワイズ>』の魔法は何とか自力で解除出来そうな感じだが、時間が掛かる。
どの程度の距離に人里があるか知れないが、新たな拠点とすると言うからには、そう遠くない筈。
どちらが勝つにせよ、戦いが始まってしまえば、悲惨な結果になる。
妖獣達は人間に復讐する積もりで容赦しないだろうし、人間も妖獣を徹底的に駆除するだろう。
日が暮れ、徐々に辺りは暗んで行く。
ニャンダコーレは寒さを感じ始めていた。
魔法が解けつつある証拠だ。

81 :
体の自由を取り戻したニャンダコーレは、寒さに震えながら、夜の針葉樹林を歩き始めた。
体調は万全とは言い難いが、今は何より時間が惜しい。
移動しながら魔法を使って、回復する。
多数の妖獣が歩いた後には、最早獣道とは言えない位の、大きな道が出来ている。
追跡は容易だった。
数角歩いた所で、ニャンダコーレは人里の明かりを発見する。
……驚く程に静かで、物音一つしない。
幾ら田舎と言っても、鳥や獣の夜鳴き位は聞こえる筈だ。
それを不気味に思ったニャンダコーレは、獣魔法で気配を探った。
両目を閉じれば、魔法資質が妖獣の気配を察知する。

 (遅かったか、コレ……)

ニャンダコーレは落胆した。
集落の方々に、妖獣の気配が感じられる。
人の気配は全くしない。
既に制圧が完了した後なのだ。
ここから妖獣達は、次々と人間の集落を襲って行く積もりなのだろう。
何としても、この時点で妖獣達を止めなければならないと、ニャンダコーレは駆け出す。
妖獣達を率いる王、ナハトガーブが実はニャンダカニャンダカとは無縁な物だと知れば、
この凶行を止められるかも知れない。
ニャンダカ国の王は、ニャンダカニャンダカの血を引く物以外に考えられないのだ。
正統性の無い王を認める度量は、妖獣達には無い筈。
何故なら、妖獣達はニャンダカ神話を信じて、今日まで生きて来たのだから……。

82 :
妖獣達が制圧したのは、人口が1万にも満たない小村。
ニャンダコーレは見た目、普通の化猫なので、怪しまれずに潜入出来た。
敵味方の確認はされなかった――と言うか、そもそも妖獣達は人が通る道以外を警戒していない。
勝利の後で浮かれているのか……。
疎らに人家が配された村の中で、見掛けるのは妖獣ばかり。
ニャンダコーレは先ず目に付いた、大きな一軒家を訪ねた。
田舎村に特有の、広い個人所有の庭と畑は、無残に荒らされていた。
屋外だけではない。
屋内も泥だらけで、物が散乱し、酷く汚れている。
家の中では、妖獣達が我が物顔で屯していた。
やはり、ニャンダコーレが部外者だと気付く様子は無い。
ニャンダコーレは問い掛ける。

 「……コレ、ここの住人は?」

口の利ける魔犬が答えた。

 「大人は抵抗したから殺した。
  子供は王の所へ預けた」

 「殺したのか、コレ!?」

ニャンダコーレが声を荒げると、魔犬は吃驚して狼狽える。

 「も、問題は無い筈だ。
  抵抗する奴は殺せと、そう言う指示だった」

命令に忠実な魔犬らしく、反論は整然とした物。

83 :
魔犬の価値は、命令を愚直に実行する所にある。
末端に怒っても仕方が無いと、ニャンダコーレは気を落ち着けた。

 「コレ、王の居場所は?」

 「村の広場だ。
  そこで勝利の宴を開く」

情報を得たニャンダコーレは、広場に向かう前に、魔犬に尋ねた。

 「……人間を殺したなら、コレ、もう戻れないぞ。
  今更降伏した所で、コレ人間は妖獣を許しはしない。
  解っているのか、コレ?」

 「……私に命令してくれる人間は、私を捨てた。
  今は唯、新たな主の命に従うのみ」

その答を聞いて、これに王の正統性を訴えても無駄だろうと、ニャンダコーレは確信する。

 「コレ、相解った。
  ならば、コレ何も言うまい」

彼は空き家を出て、広場へ向かって走る。
勝利の宴が開かれている場所――……そこは遠目でも直ぐに判った。
多くの妖獣が炎を囲んで犇き、歌う様に不気味な鳴き声を上げている。

84 :
何百何千と言う妖獣達の中心には、ナハトガーブが居た。
――同属で争い合う内に、ニャンダカニャンダカの子孫は、霊獣と妖獣に分かれた。
角と牙を持つ『有り得ない動物<アンティテータ>』は、それ等の統合の象徴。
『異様<グロテスク>』さと美しさを併せ持つ。
洞窟の中でニャンダコーレが見た物より、倍は大きく、正に妖獣の王に相応しい偉容。
魔法資質の差によって生じる威圧感が、そう感じさせるのか……。

 「ココニ、我等妖獣ノ最初ノ勝利ヲ宣言シヨウ!
  今ハ只酔イ痴レルガ良イ。
  コレカラノ戦イハ、熾烈ヲ極メル」

ナハトガーブが演説する前には、人の死体が並べられている。

 「サア、勝者ノ権利ダ!
  美肉ヲ食ラエ!」

ナハトガーブが命じると、数匹の魔犬が死体を運んで、妖獣達の前を歩く。
妖獣達は、ある物は厳かに、ある物は貪欲に、人の死体から肉を剥ぐ。
遠慮勝ちに含む物、嬉々として齧り付く物、その姿は様々ながらも、誰もが肉を口にする。
家畜や食料を差し置いて、態々人を食らうのは、その覚悟を確かな物にする為だ。
これは儀式なのである。

85 :
ニャンダコーレは雷火の如き身の熟しで、群集の間を駆け抜け、ナハトガーブの前に躍り出た。

 「待つのだ!!
  皆、コレ聞けっ!!」

何事かと、妖獣達は儀式を中断して、面を上げる。
ニャンダコーレはナハトガーブの正体を暴露した。

 「奴はコレ妖獣ではないっ!
  コレ、妖獣の王を騙る、悪の魔法使いだ、コレ!
  皆々、コレ、奴に都合好く利用されているに過ぎぬ!!」

しかし、妖獣の多くは事情を呑み込めていない。
行き成り現れた物に、そんな事を言われても信じられない。
ナハトガーブはニャンダコーレを見下して、含み笑った。

 「グフフ、何ヲ言ッテオルノダ?」

ナハトガーブが惚けると、妖獣達の群れの中から、老虎が現れて進言する。

 「不埒物ノ始末ハ、オ任セヲ……」

 「否、ソノ必要ハ無イ。
  丁度、物足リヌ戦イデ、退屈シテイタ所ダ。
  オ前達ハ、手ヲ出スナ」

ナハトガーブは老虎を制し、悠然たる歩みでニャンダコーレに迫る。

86 :
妖獣達は物見に集まり、壁を作って、ニャンダコーレの逃げ場を封じた。
ナハトガーブはニャンダコーレに話し掛ける。

 「殺サズニ置イテヤッタト言ウノニ、愚カナ奴ダ。
  何故、再ビ我ガ前ニ現レタ?」

 「それはコレ、こちらの台詞だ!
  こうなる事は、コレ分かっていたであろうに、何故コレ、私を見逃した?」

 「オ前ハ妖獣デモ、人間デモ無イガ故ニ……」

ニャンダコーレが逆に問うと、ナハトガーブは一瞬だけ寂しそうな目をした。
意外な反応に、ニャンダコーレは気を取られる。
その隙を衝いて、ナハトガーブは前足の太く鋭い大爪を振り下ろした。
固い地面に深々と5本の爪痕が残る。

 「くっ、コレッ!!」

ニャンダコーレは辛うじて避け、獣魔法で反撃した。
魔力の爪が伸び、ナハトガーブの前腕部を切り裂くも、肉まで届かない。
魔力、毛皮、皮膚の壁が厚い。

 「ドウシタ、ソンナ程度デ私ヲ止メヨウトシテイタノカ?
  勇気ト無謀ハ異ナル物ダゾ!」

ナハトガーブが高い声で吠えると、大気が震えて、ニャンダコーレの動きが封じられる。

87 :
余りに能力が違い過ぎる。
腕力、体格、魔法資質、全てに於いて、ニャンダコーレがナハトガーブに勝る所は無い。
大人と子供、虎と猫……いや、それ以上だ。
ナハトガーブは動けないニャンダコーレを握り締めると、高く掲げた。

 「扨、ドウシテ呉レヨウカ……?
  一思イニ頭蓋ヲ噛ミ砕クガ良イカ?
  ソレトモ生キタ儘デ丸呑ミガ良イカ?」

余裕の笑みを浮かべるナハトガーブだが、ニャンダコーレは怒りでも、憎しみでも、恐怖でもない、
純粋な憐れみの目で見詰め返す。

 「何故抵抗シナイ?
  ……ソノ目ハ何ダ!」

 「コレ、貴様の目こそ、何なのだ、コレ……?
  殺意が感じられぬ……」

ナハトガーブとニャンダコーレは暫し睨み合う。
数極後、ナハトガーブは口の端を少し歪めて、又も自嘲気味に笑った。

 「余計ナ口は利ケナクシタ方ガ良イ様ダナ。
  猫ハ猫ラシク、黙ッテオレバ可愛イ物ヲ」

ナハトガーブは魔法を使い、ニャンダコーレを普通の猫にする。
彼の体は縮み、喉は変質して、口が利けなくなる。

88 :
ナハトガーブはニャンダコーレを空中で解放した。
ニャンダコーレは四足で着地し、喋ろうとするが……、

 「ニュー、ニャー!」

真面な言葉にならない。
知能まで後退しているのか、言語的な思考まで鈍っている。
その姿は全く仇気無い仔猫。
ナハトガーブは馬鹿にする様に大笑いした。

 「ハハハハハハ、何ヲ言ッテオルノヤラ!
  全ク猫畜生デハナイカ!
  貴様ニトッテ、コレ程ノ屈辱ハ有ルマイ!」

それに倣って、他の妖獣達も一斉に笑い出す。

 「己ガ無力ヲ悔イルガ良イ!
  誰ゾ、此奴ヲ人質ノ人間共ト一緒ニ、閉ジ込メテ置ケ!」

ナハトガーブが命じると、数匹の将軍虎がニャンダコーレを取り囲んだ。
ニャンダコーレは小さい体を活かして、包囲を脱しようとしたが、一匹の将軍虎に押さえ込まれ、
母猫に運ばれる様に首の後ろを咥えて持ち上げられる。
獣魔法を使おうと思っても、やはり唱えられない。
抵抗するだけ無駄と悟ったニャンダコーレは、妖獣達の嘲笑を受けながら、連行されるのだった。

89 :
ニャンダコーレを咥えた大虎が広場から離れると、老虎が2匹の将軍虎を伴って、追って来た。

 「1体デハ不意ヲ衝カレヌトモ限ラヌ。
  念ニハ念ヲ入レ、3体デ行動セヨ。
  決シテ逃スデナイゾ」

老虎は万一の事態を想定していた。
相手が1匹なら、どうにかなるかも知れないと考えていたニャンダコーレは、内心で悔しがる。
広場へ戻ろうとする老虎を、若い将軍虎が呼び止めた。

 「老師、ナハトガーブ様ハ本当ニ妖獣ノ王……ナノデスカ?」

老虎は若虎に問い掛ける。

 「此奴(キャツ)ノ言ウ事ヲ真ニ受ケ、ナハトガーブ様ヲ疑ウテオルノカ?」

 「ソ、ソノ様ナ事ハ……」

若虎が言い淀むと、老虎は牙を剥いて、不気味に笑った。

 「ドウデモ良イデハナイカ?
  儂ハ、アノ強大ナ能力ヲ信ジル。
  妖獣ノ王デモ、悪ノ魔法使イデモ、ドチラデモ構ワヌ。
  利用スルト言ウナラ、コチラモ利用サセテ貰ウマデヨ」

老虎は広場の賑わいの中へ戻って行く。
3匹の将軍虎達は、不安を感じながらも、何も言わずに村の集会所へ移動した。

90 :
村の集会所には大勢の村人が閉じ込められており、外では鬼熊と魔犬が番をしている。
将軍虎はニャンダコーレを集会所の敷地内に放り込むと、鬼熊と魔犬に命じる。

 「ナハトガーブ様ノ命令ダ。
  仔猫一匹逃ガスナヨ」

こうなっては、ニャンダコーレに為す術は無い。
魔法を失い、知能まで低下した、今の彼は少し賢いだけの猫。
ニャンダコーレは仕方無く、集会所に入ろうとしたが、中から鍵が掛けられていた。
妖獣の侵入を恐れて、入り口を閉めたのだろう。
未だ村人達は「避難している」と言う意識で、「計画的に生き残らされている」とは、
考えていないかも知れない。
ニャンダコーレは集会所の縁の下に入り込み、丸くなって体を休めた。
魔法の力を失った彼は、腹も空くし、眠くもなる。
その内、深く寝入ってしまった。
目が覚めた時には、ニャンダコーレは殆ど真面な思考が出来なくなっていた。
辺りは未だ暗い物の、仄かに明るんでいる。
先ず、空腹を満たそうと、ニャンダコーレは餌を探しに縁の下から這い出した。
魔犬をも恐れる様になって、忍び足で慎重に、慎重に。
そんな彼の前に、例の案内猫が現れた。
ニャンダコーレは案内猫に就いても、複雑な情報を記憶していなかった。
単に「敵とも味方とも言えない関係だった」事だけ認識しており、警戒する。

91 :
案内猫は威嚇の姿勢を取るニャンダコーレを宥めた。

 「……安心してくれ、危害を加える気は無い」

ニャンダコーレは案内猫の言葉は理解出来ずとも、雰囲気から敵意が無い事を察して、
警戒を緩める。
案内猫は周囲を確認すると、声を潜めてニャンダコーレに尋ねた。

 「あんたの話、本当なのか?
  ナハトガーブ様が妖獣じゃないってのは……」

言葉を理解出来ないニャンダコーレは、真っ直ぐな瞳で案内猫を見詰めるだけ。
しかし、それを勝手に解釈した案内猫は、独り頷いた。

 「『楽園』は実現しないんだな……。
  村を制圧する時の戦いで、漸く解ったよ。
  あいつ等の望む世界は、暴力と理不尽が支配する世界なんだ。
  ナハトガーブ様を頂点に、強い物が幅を利かせて、弱い物を押し潰す……」

戸惑うニャンダコーレに構わず、案内猫は尚も語り続ける。

 「人間の奴隷が良いとは思わないけど……、こんなのは御免だよ。
  でも、誰も俺の話なんか聞いちゃくれない。
  どいつも、こいつも、勝者の気分に酔っている。
  ……俺の能力じゃ、あんたに掛けられた魔法を完全には解けないけれど、
  弱める位なら出来ると思う。
  今更勝手な言い分なのは分かってるが……頼む、皆を止めてくれ。
  屹度、あんたにしか出来ない」

案内猫はニャンダコーレに手を翳すと、呟々と獣魔法を唱え始めた。

92 :
だが、唱え終えても変化は表れない。
案内猫は落胆した様子で、深い溜め息を吐いた。

 「あのナハトガーブ様の魔法だから、そう簡単には戻らないか……。
  俺は同じ化猫達だけでも説得してみる。
  望み薄だけどな。
  あんたが元に戻ったら、一緒に戦おう」

去り行く案内猫を見送りながら、ニャンダコーレは餌の事ばかり考えていた。
集会所の周囲を彷徨き、彼は花畑を発見する。
そこに土竜が居る事を察したニャンダコーレは、土を掘り返して捕獲し、その場で食べる。
普段のニャンダコーレが食べる物ではないが、汚いとも臭いとも思わなかった。
取り敢えず、1匹の土竜だけで空腹を紛らわした彼は、再び縁の下に潜って眠った。
それから、どれ程の時間が経過したのだろう……。
目を覚ましたニャンダコーレは、少しだけ元の意識を取り戻していた。
彼は縁の下から這い出し、周囲を窺ったが、鬼熊も魔犬も居なくなっている。
集会所の中も人の気配がしない。

 (コレ、奴等は一体どこへ……?)

完全に猫だった間の記憶は曖昧で、思い出そうにも、霞が掛かった様。
それに、未だ体は猫の儘。
不完全な状態では、妖獣達に追い着いた所で、何も出来ない。
先ずは変身魔法を解こうと、ニャンダコーレは懸命に獣魔法を使った。
ナハトガーブの変身魔法は強力で、只の猫の体では、獣魔法を上手く使えない。
時々休憩しながら、ニャンダコーレは半日以上を掛けて、漸く元の姿に戻る事が出来た。

93 :
ニャンダコーレは重い足取りで、村中を回ったが、目立つ所には誰も居ない。
もう次の集落へ侵攻したのだろうかと、ニャンダコーレは焦った。
普通の猫だった間に、どれだけ事態が進行してしまったのだろうか?
いや、そうではない。
ニャンダコーレは知らないが、既に事件は解決した後なのだ。
ナハトガーブは共通魔法使いに倒され、妖獣軍は敗走したのである。
妖獣の撤退から、人間達が村を取り戻すまでの、空白の時間――それが今。
不気味な静けさの中で、ニャンダコーレは生き残りを探した。
もしかしたら、妖獣軍が見落とした人間や、ナハトガーブに付いて行けなかった妖獣が、
ここに留まっているかも知れない。
案内猫と交わした約束は憶えていなかったが、妖獣達を説得して戦いを止めさせる事も、
ナハトガーブを倒す事も不可能となれば、生存者や脱落者を逃がす位しか出来ない。
僅かな希望を求め、一軒一軒家屋を調べていたニャンダコーレは、突然背後から殴られて、
地面に倒れ伏した。

 「妖獣め!
  よくも、よくも……!」

その間際に聞こえたのは、怒りと憎しみと悲しみが綯い交ぜとなった男の声。
肉体の変質に伴う体力の消耗で、ニャンダコーレは疲れ切っていた。
本来ならば気付ける筈の、人の気配も見落とす程に。
ニャンダコーレは筋違いの暴行に対する怒りよりも、無常を感じていた。
何と命の儚き事、自分の無力な事……。
生存者が居た事を、喜ぶべきか……。
彼は抵抗する気力も無く、簡単に意識を手放した。

94 :
三人虎を成す


第一魔法都市グラマー ランダーラ地区ランダーラ魔法刑務所地下留置場にて


魔導師会の八導師親衛隊ジラ・アルベラ・レバルトは、この日、同じ所属の先輩である、
クァイーダ・シャジャーラにランダーラ地区の魔法刑務所の地下へ連れて行かれた。
クァイーダ曰く、親衛隊になったなら、「会っておかなければならない人」が居ると。
魔法刑務所の地下と言えば、強力な魔法封印が施され、凶悪な魔法犯罪者が収容される事で、
知られている。
八導師の親衛隊が、態々魔法刑務所の地下で会わねばならぬ程の人物とは一体?
ジラの尤もな疑問にも、クァイーダは「会えば分かる」としか答えなかった。
ジラとクァイーダは刑務所の地下4階に着く。
先ず目にしたのは、厳重にロックされた鉄の扉。
通常の犯罪者の留置場とは、全く異なる仕様。
それは即ち、収監者が余程の危険人物だと言う事に他ならない。
クァイーダは解除紋章に触れて、魔法封印錠を解く。
ジラは心配になって、彼女に尋ねた。

 「だ、大丈夫なんですか?
  中の人物は、凶悪犯罪者では……」

 「そう、凶悪犯罪者。
  貴女も聞いた事があるんじゃない?
  予知魔法使い『マキリニテアトー』」

 「マキリニテアトーが?」

 「これから私達が会うのは、『マキリニテアトー』その人」

クァイーダの発言に、ジラは動揺を露にする。

 「えっ……?
  あの、だって、マキニテアトーは開花期の人物で……」

 「生きているんだ。
  『古の賢者達<オールド・ウィザーズ>』は」

 「古の賢者達……。
  ま、待って下さい、心の準備が……」

 「ここまで来て、何言ってるの?」

クァイーダは構わず、鉄扉の向こうに踏み込む。
ジラは慌てて、その後を追った。

95 :
鉄扉を隔てた空間は、「無駄に広い」と形容するのが相応しい所だった。
丸で立派な屋敷の様に、煌々と明かる長い廊下があり、それに沿って幾つもの部屋がある。
刑務所の地下に、これ程の施設がある事に、ジラは驚嘆の息を吐くばかりだった。

 「これが収監所……?」

 「ええ、それも唯一人の為の」

 「『特待』って訳ですか……」

 「復興期の偉人、イコノスの名言にもある。
  才傑Rべからず。
  優れた人物を活躍させたくば、投資と報酬を惜しんではならない」

クァイーダの言葉に、ジラは引っ掛かる所があった。

 「それはマキリニテアトーが……?」

 「ええ、彼は価値のある人物。
  過去に何度も難事件を解決に導いた。
  今の待遇は、その成果あっての物」

 「良いんですか?
  魔導師会が外道魔法使いを頼りにする様な……」

それは魔導師として当然の疑問だった。
そもそも魔導師会とは魔法秩序維持の為の組織ではなかったのか?
外道魔法を認めて利用しているなら、他の魔法を禁じる理由は?

96 :
クァイーダは真面目に答える。

 「魔法に関する法律は、外道魔法の存在その物までは禁じていない。
  限定的な状況では、外道魔法の使用は許可されている。
  元執行者なら、その位は知ってるよね?」

 「……宣伝、公布等を目的とする、大々的な、衆目に付く形での使用禁止。
  同、技術、術理の公開、出版の禁止。
  他、特に許可や届出が無い状態で、緊急性も要さない、業務での使用禁止。
  後は共通魔法と同じで、人を害したり、社会を混乱させたりしなければ良い筈です」

 「どの法律に基づいて、『駄目』と言うの?」

 「『業務での使用禁止』に該当するのでは?」

 「許可は取ってあるよ」

それで良いのかと、ジラは腑に落ちない気持ちで、黙り込んだ。
クァイーダは大きな声で、マキリニテアトーを呼ぶ。

 「『先生<キュリオス>』、クァイーダです!
  先生!」

数極の間を置いて、廊下に並んだ1室のドアが開き、黒いローブ姿の中年の男性が姿を現した。

 「そろそろ来る頃だと思っていた。
  後ろの彼女が新人か?」

 「はい」

 「立ち話も何だ、応接間で待っててくれ」

クァイーダとマキリニテアトーは、慣れた様子で会話する。
外見は普通の中年の小父さんだったので、ジラは本当に彼がマキリニテアトーなのか疑った。
言葉遣いが古めかしいと言う事も無い。

97 :
にゃんこぉぉぉ

98 :
クァイーダとジラは、先に応接間で待った。
こちらも4身平方と広いが、飾り気が全く無く、殺風景にも程がある。
お負けに窓が無い。
遅れて来たマキリニテアトーは、気削に笑う。

 「待たせてしまったかな?
  初めまして、ジラ君。
  私がマキリニテアトーだ」

唐突に名前を呼ばれて、ジラは驚いた。

 「何故、私の名前を?」

 「私は予知魔法使いだから……と言って、納得して貰えるかな?
  他に説明の仕様が無い」

苦笑するマキニテアトー。
ジラはクァイーダに横目で視線を送った。
事前に自分を紹介していたのではないかと、勘繰ったのだ。

 「私は何も話してないよ」

しかし、クァイーダは否定する。

99 :
疑り深いジラを、マキリニテアトーは不快には思わない。
寧ろ、余裕を持って微笑ましく見ている。
その態度に、ジラは益々疑念を深める。

 「俄かには信じられないだろう。
  無理に信じろとも言わない。
  その内、嫌でも信じる様になるよ」

そう言うと、マキリニテアトーは徐に立ち上がり、お茶の用意を始めた。
ジラは声を潜めて、クァイーダに尋ねる。

 「あの、顔合わせは分かるんですけど、何を話せば良いんですか?
  何か話さないと行けない事、あります?」

 「それを本人に聞けば?」

 「えっ……」

クァイーダの返しに、ジラは戸惑う。
2人が話している間に、茶を淹れたマキリニテアトーは、それを『盆<トレー>』に載せて彼女等に配った。

 「あ、どうも」

ジラが愛想笑いで礼をすると、マキリニテアトーは自ら話を振る。

 「何の話をしてたの?」

 「ああ、いえ、その――」

口篭るジラに代わって、クァイーダが答えた。

 「彼女は貴方と何を話せば良いのか、分からないんだそうです」

100 :
それを聞いて、マキリニテアトーは深く頷く。

 「成る程、知らない小父さんと会わせられても、話題に困ると言う訳だな」

 「いえ、あの……」

 「私は予知魔法使いだからね。
  人が何を考えているか、大体分かる。
  君は外道魔法使いと関わる事自体、気が乗らないんだろう?」

 「そんな事は――」

 「清濁併せ呑む度量が無いと、親衛隊の仕事は務まらないよ」

マキリニテアトーの言い分が、ジラは無性に癪に障った。
彼の「予知」が正しいかは措いて、何でも知った顔をして決め付けられ、諭されるのが、
気に入らないのだ。
それを表情に出すジラを、マキリニテアトーは諌める。

 「感情的になるのは良くない。
  私は魔導師会に請われて、協力している立場なのだ。
  例えば、君が私の機嫌を損ねて、今後の協力が望めないとなった時、責任を取れるのかな?」

正論振って挑発する様な彼の物言いに、ジラは堂々と反論する。

 「『威圧行為<ハラスメント>』は犯罪です。
  魔導師会が外道魔法使いに屈するとでも?
  クァイーダさん、今の発言を記録して下さい」

クァイーダはマキリニテアトーを窘めた。

 「失言でしたね、先生」

 「……随分確りした新人だな」

 「彼女は元執行者なので」

マキリニテアトーは負けを認めて、ジラに謝罪する。

 「済まない、悪かった。
  新しい親衛隊員が、どの程度の者か、少し試してみたかったんだ。
  頼むから、訴えないでくれ」


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