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魔女っ子&変身ヒロイン&魔法少女創作スレ7


1 :2011/03/16 〜 最終レス :2016/01/05
魔女っ子もの、変身ヒロインものの一次、二次SS、絵も可
皆さんの積極的な投下お待ちしております
まとめサイト
http://www15.atwiki.jp/majokkoxheroine/
避難所
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレin避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1258040593/
過去スレ
魔女っ子系創作スレ
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1224577849/
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ2
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1234927968/
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ3
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1240234961/
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ4
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1252248113/
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ5
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1263537324/
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ6
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1281272047/l50

2 :
前スレが容量いっぱいになってたので立てました

3 :
お疲れ様です。
一人でスレパンクさせてしまって申し訳なく思います。
容量制限があるなんて知らなかったorz


4 :
二次創作というか、既存キャラのオリ展開モノとか、ここに投下しても大丈夫でしょうか?

5 :
ぜひお願いします。
>一次、二次SS、絵も可
とあるわけだし、何も問題は無いと思います。

6 :
それでは投下させていただきます
・元ネタ「魔法少女まどか☆マギカ」
・今のところほぼ「原作……何それ」状態です。
・つうかぶっちゃけマミさん書きたかっただけ。
・許容できない方はトリップNGしてください。

7 :
 ───めた」
 少女がそう確信した、次の瞬間。
 突然、にょっきりと生えたそれが、巨大化しながら迫ってくる。
「え?」
 彼女がそれに気付いたときには、それは既に目前に迫っていた。
 一瞬、思考が止まる。
 それは自らの前で、あんぐりと口を開けて。
 僅かな思考停止から復帰したとき、既に逃げる術は無く。
 あんぐりと開けられた口の中は、闇の色。
 それを見る少女の表情に、心に浮かぶもの。
 絶望、恐怖、絶望、恐怖、恐怖、恐怖────
 だが、それに対して声を上げる暇すらなく。
 彼女の意識は、闇の中に飲み込まれた。
魔法少女マミ☆マギカ
PHASE-01:The day when the world was born

8 :

 がばっ、と先に身を起こしてから、
「っひっ、ぃっ……いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 と、肺の空気を搾り出しつくさん限りの勢いで声を上げた。
「なに、お姉ちゃ……むぐ」
「な、なな、なんだ、どうした何があった!?」
 少女の大声に、より幼い声が反応したが、それは倒れてきたそれの布に遮られた。
 少女よりは一〇は年上そうな青年が、フレームにカーテンの張られたついたてを倒して、少女よりも数段取り乱してバタバタとあたりを見回す。
「えっ、あ、あの……」
 ベッドの上の少女が戸惑っていると、倒れてきたついたてががたりとどかされ、その下から、ベッドの上の少女よりいくらか年下の少女が、怒り心頭といった様子で顔を出し、そして、暴れている青年を睨みつける。
「こんの……」
 ついたての下敷きになっていた少女は、そこから、上から下へと斜めに突き刺さるドロップキックを放つ。
「ド変態がぁ!!」
「ぐえっ!」
 それは青年の延髄あたりに突き刺さる。
 青年はその場に突っ伏すようにして床──に敷かれていた敷布団に向かって叩きつけられた。強烈なドロップキックで脳震盪を起こしたのか、青年はその場で昏倒してしまう。
「ったくバカキュウ」
 幼い方の少女が、カーテンのついたてを起こしながら、ぶつくさと愚痴るように言う。
 次に、やはり床に敷かれた敷布団と掛け布団を直しながら、ひょい、とその枕元に置かれた、ストレートタイプの携帯電話を取り上げると、通話切断ボタンを押し、ディスプレィのバックライトを点灯させた。
「だっ! まだ3時前だし! ったく、近所迷惑もいい加減にしてよね! このゴクツブシ」
 ついたての向こう側から返事は無かった。
「で、マミ。ここまでいきなり大声出して飛び起きて、どうしたの?」
「えっ?」
 幼い方の少女は、ベッドの上の少女に向かって問いかける。
「あ、うん……少し、恐い夢を見ちゃったみたい」
「どんな夢……?」
 決まり悪そうに言う少女に対して、幼い方の少女がさらに問いかける。

9 :

「えっと……?……うーん、あ、あれ? なんだかよく覚えてない、わ」
「ええーっ、そうなのぉ?」
 ベッドの方の少女が更に申し訳なさそうに苦笑してそう言うと、幼い方の少女は口をとがらせ気味にそう言った、
「ちぇっ、夜中に騒ぐから、何かと思って心配したのに」
「ごめんなさい」
 幼い方の少女が愚痴るように言う。
 すると、ベッドの上の少女は苦笑したまま、再度謝罪の言葉を告げた。
「まだ早いし、もう少し寝ておこっと」
 幼い方の少女は、そう言って布団の中にもぐりこんだ。
「マミも、もう少し寝ておいたほうがいいと思うよ」
「え、あ、うん。そうするわね」
 ベッドの少女も、そう言って掛け布団を被りなおした。
 ──なんだったんだろう、よく覚えてないのに、すごく……恐い、夢を見た、気が、する……
 少女の意識は、ゆっくりと眠りに落ちていった。

10 :

 巴家はワンルームに3人暮らし。
 数年前、少女達の両親は自動車事故で亡くなった。正確には一家全員が巻き込まれたが、後部座席にいた3人の子供は一命を取りとめた。
 近しい親戚は無く、引き取り手もいなかった。幸い、両親がそこそこの資産を溜め込んでいたので、とりあえず3人が学校に通いながら、慎ましやかに生活していく程度にはしばらく困らない額の金銭はあった。
「ふぁぁぁぁ……寝不足」
 床に敷かれた敷布団の上に立ち、大あくびをかきながらそう言うのは、長男、巴九兵衛。
 歳は21、身長はやや低め。髪をスポーツ刈りにした顔立ちは、整ってはいるがあえて美形と言うほどでもなく、それに目つきも悪い。既に学生の身分ではないが、さりとて定職にもついてない。ニート街道まっしぐら。
「何が。すぐおねんねしちゃったくせに」
 やはり敷布団を片付けながら嫌味っぽく言うのは、末子で次女の巴実真(みま)。小学5年生。
 やや癖のある強い髪を肩のあたりまで伸ばしたその姿は、素にしていればおっとりして見えるような顔つき。
「おねんねって、気絶したのを放置されてただけだろうが。風邪でも引いたらどうしてくれるんだ」
 九兵衛が睨むようにして言い返すが、
「キュウが風邪引くわけないでしょ」
 と、実真はさらりと嫌味で言い返した。
「お前な」
 九兵衛がさらに凄みかけたとき、
「はいはい2人とも、朝ご飯の準備が出来るから、喧嘩してないで部屋を片付けて?」
 キッチンセットの方から、もう1人の少女がやってきて、ぽんぽんと手を叩きながらそう言った。
「ね?」
 ────長女、巴マミ。
 見滝原中学校に通う2年生。
 妹である実真と同様の穏やかな容貌を持つが、その見た目通りに穏やかな物腰と、面倒見のよさそうな、ある種の母性を感じさせる雰囲気をまとっている。髪の毛の長さは実真より少し長い程度。ただ中学生としては割合長身で、プロポーションも女性らしい体つきになっている。
「あ、ああ……」
「わかりましたー」
 九兵衛が毒気を抜かれたように間抜けな声を出し、実真がおどけたような声で返事をする。
 ワンルームの片隅に畳んだ布団を寄せて、代わりに足が折りたたみ式のローテーブルが置かれる。
 そこに、マミ手作りの朝食が並べられていった。
「いただきます」
 3人は手を合わせた姿勢でそう言ってから、朝食に手をつけ始める。

11 :

「それじゃあ、行って来ますね」
 制服姿のマミは、ランドセルを背負った実真とともに、マンションの玄関で靴を履いてから、一旦室内側を振り返り、微笑みながらそう言った。
 マミは髪の毛をうしろ、やや下の方から縦ロールをかけている。
 実真の方は、癖を完全に隠さずにサイドアップにしている。
「ん、行ってこい」
 九兵衛はジャージに半纏という、自宅警備員まっしぐらな姿で2人の向かいに立っている。マミの言葉に、穏やかに笑ってそう応えた。
「今日こそちゃんと、職見つけて来いよー」
「うるせー、言われなくても解かってら」
 実真の発した憎まれ口に、九兵衛も顔を睨むようにしかめて言い返す
「こらこら2人とも」
 マミが、流石に少し呆れたというような口調で、2人をなだめる。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
 マミが玄関の鉄製のドアを開け、振り返るような姿勢で再度言う。そして実真とともに玄関を出て、パタン、と静かに扉が閉められた。
「さて、と」
 九兵衛は途端にヤル気なさそうな様子になって、だらだらと室内に戻る。
「アリバイ作りに一応ハロワでも行っとくかな……割の良いパートぐらい見つけても良いかも知んないし……」
 そう言いつつも、やってることといえば、マミのベッドの下からノートパソコンを引っ張り出し、それをローテーブルに広げて起動する事だった。
 ♪〜♪♪〜
「ん、電話?」
 マウスをその手に握って臨戦態勢に入ったかと思ったとき、携帯電話の着信音が九兵衛の意識を遮った。
 転がっていた赤い携帯電話を手に取り、フリップを開ける。
「!?」
 その着信相手の情報を見るや、九兵衛の表情が急に強張った。
 通話ボタンを押し、ゆっくりとした動作で耳元に受話器を当てる。
「…………もしもし」
 九兵衛は重い口調で、送話器に向かって声を出した。

12 :

「でしょー、アイツほんっと話し長いよね、それに宿題も多いしさぁ」
「でも、筋の通らない人じゃないし、あまり悪く言うのはどうかなって思うんだけど……」
 見滝原中学。
 廊下を歩きながら、教師について悪態をつく同級生を、マミはやんわりと諌めた。
 まもなく進級を迎えたこの時期になっても、生徒達の様子に特段の変わりはなかった。
 もっともマミ達は年度を越えればそうも言ってられなくなるだろうが。
「へいへい、さすが優等生は違いますね、と……」
 同級生は肩を竦めながら、からかうように苦笑して言う。
 その廊下の反対側から、1人の女生徒が歩いてきた。
 学校ならばよくある光景。──そう、そのまますれ違ってしまっていれば。
「巴マミ先輩ですね?」
 その少女は、一旦すれ違ったマミに向かって、振り返らずに声だけで問いかけた。
「え?」
 喧騒の中、決して大きくはない声で告げられたその言葉は、しかしマミにはやたらはっきりと聞こえた。
 マミが驚いて振り返ると、相手もこちらに向かい合っていた。
 艶のあるストレートの黒髪を腰の辺りまで伸ばした少女。
 美少女といって過言ではないのだが、何処か影がある。表情は僅かに怒気を孕んでいるようにも見える。
「妹さんは……元気ですか?」
「えっ?」
 制服は着ているから、同じ学校の生徒なのだろう。
 だが、見滝原中学は決して小さい学校ではない。面識のない生徒は、いくらでも居るのが普通だ。
「えっと……実真の知り合いなのかしら?」
 マミは、突然のことに加えて、相手の雰囲気に呑まれて、言葉を失い、ようやく搾り出すようにしてそう聞き返した。
「はい、……そのようなものです」
「実真は元気にしているけれど……あの、貴女の名前は?」
 マミは逡巡しながら、目の前の少女にそう問いかける。

13 :
「今は、まだ……」
 少女は無表情にそれだけ言うと、踵を返して、もともと向かっていた方に歩き去ってしまった。
「なにあの子」
 マミと一緒に歩いていた同級生が、不快そうな視線で、歩きさっていく少女の後姿を見る。
「1年生みたいだったけど……なに? マミの知り合いなの?」
「私は初めてだけど……実真の……妹の知り合いみたい」
 マミは、同級生の険悪そうな様子を和らげようと、柔和な苦笑交じりに、穏やかにそう言った。
「ふーん……それにしたって、あんな態度はないと思うけど」
「多分、なにかあったのよ」
 さらに険しい表情をする同級生に、マミはたしなめるようにそう言った。
「はいはい、マミは本当に優しいんだから」
 同級生の少女は、もう一度肩を竦めるポーズをとった。

14 :

 放課後。
「妹さんによろしく……ね」
 呟きながら、マミは1人で帰り道を行く。
「おかしいのよね……」
 ──どこかで会った気がする。
 マミは出会った長髪の1年生の姿を思い浮かべながら、引っかかるその違和感に思考をめぐらせていた。
「見つけたー!」
「そう、見つけた……って、え?」
 不意にかけられた声に、マミは一旦無意識に反芻してしまってから、ふと顔を上げる。
 すると────その視線の真正面に、女性の姿が捉えられた。
 その女性の姿は異様だった。
 衣装が突飛だというのもある。露出度が高く、そう、ファンタジーで言うところの女悪魔やサキュバスが着ているような衣装に見える。
 それだけではない。
 女性は小さかった。小柄、身長が低いという意味ではない。文字通り、人形のような小ささだった。
 あまつさえ、宙にふわふわと浮いていた。
「え、え、あ、あなた……あなた…………?」
 その姿を見て、マミはしかし、そのこと事態には驚かなかった。
 ただ、その姿を指差して、口をパクパクとさせながら凝視する。
「やっと見つけたよ。マミ」
「あなたは……」
 記憶が蘇る。
「かなえた願いの契約、果たしてもらうよ」
 小さな女性は、そう言ってくすりと笑う。
「魔法少女の契約を」

15 :
>>7-14
今回は以上です

16 :
遅ればせながら投下乙です!
今話題のまどかマギカでしかもマミさんのオリジナルストーリーとは期待大です
今後の展開が気になります

17 :
保守

18 :
過疎化している

19 :
まだ終わらんよ

20 :
登場人物
如月雫   ……本編の主人公。お嬢様なのに普通の人、と本人は思い込んでいる。オタク趣味。女子高生。負傷により左腕が機械義手になった。
           AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』(機体色は赤)の搭乗者。
           中盤以降、かなり攻撃的な性格になっており、敵と見なせば容赦なく殺しに掛かる。精神感応力が異常に高い。
如月源八  ……雫の祖父。大金持ちで科学者。シューティングスターの開発・改造に着手する総司令。現在、敵拠点にて軟禁されている。
弥生美香子……雫の友達。おっとり系。雫のことが好き。巫女さん。AMS−RH2870『アルティザン』(機体色は山吹色)の搭乗者だった。
           戦闘で受けた怪我で再起不能状態だったが如月邸の襲撃と時を同じくして何者かに拉致された。消息は未だ不明。
           密かに精神干渉能力を持っている。
卯月冬矢  ……喫茶店『KAMUI』のウェイター。23歳独身。自作AMS『神威MkV』(機体色は鉛色)の搭乗者。沈着冷静。
           最初は難病を煩う妹(香苗)の治療費を稼ぐため裏家業に足を突っ込んでいたが、雫に雇われてからは重要な彼女の右腕となる。
御神楽節子……源八の助手。クールビューティー。なんとかいう武術の達人。ツッコミは鋭い。
黒田さん  ……如月家の執事。あらゆる乗り物を運転できる。神出鬼没。忍者の一族として訓練を受けており、暗殺技術は突き抜けて高い。
室畑     ……政府の特務機関Asの局長。冷酷非情。でもマリィ大好きなオッサン。魔装『鬼鴉』の所有者。
柊川七海  ……Asの隊長。元変身ヒロイン。元気だけどおっかない女性。19歳。たいていは海外出張(主に米軍基地)している。
           AMS−GTX00/SLI『アレンデール』(機体色は白)の搭乗者。白い悪魔の異名を持つ。
高岡水瀬  ……七海の親友。性格は温厚で生真面目。素性は明かされない。
マリィ    ……Asの現場主任。見てくれ15歳の美少女。AMS−X05『ファントムナイト』(機体色は黒)の搭乗者。七海を尊敬している。
           M.A.R.Yシステムのコアとして製造された人造人間であり、システム発動中は超次元的な戦闘能力を発揮する。
稲垣孫六  ……Asの隊員。副主任としてマリィの傍に付いている。二十代後半。AMSはJ602『ミヅチ』(機体色は群青色)。
高橋     ……田嶋署の刑事。役職は警部補。定年前の初老だががっちりした体格。下水道内で獣魔に襲われ死亡。
前原     ……同署の刑事。高橋の部下。三十代前半の風貌。体格はもやし。機械系に強い。
クレール=J=サツキ
        ……元『地獄の壁』の隊長。16歳で階級は准尉。ブロンドのウェーブ髪の少女。A−GMA3『グラディウス』(機体色は黄色)の搭乗者。
           捕獲後、強化人間化。ヘルハウンド部隊の指揮官として如月邸を襲撃するものの、戦闘により死亡する。
マリア    ……15歳。生き別れの姉を捜している。現在は傭兵部隊『アローヘッド』に所属している。
           性格は大人しく、いつも何かに怯えている。でも長距離からの狙撃では神がかり的な命中精度を誇る。
水無月千歳……マリアの同僚で大親友。17歳。クールになりきれない性格。戦場では刀一本を手に突撃する戦闘狂。
           一途で思い込みの激しい激情家。かつての同僚である卯月冬矢を今でも慕っている。
キース=ハワード
        ……同じく傭兵。25歳。老け顔の男。千歳に惚れている。隊内ではサブリーダー的なポジション。


21 :
第17話 「逆襲の朝、悪夢の幕開け」
夜襲に一番向いている時間帯はいつだろう。
陽の出ているときは問題外。夕飯時もいただけないし、だからといって深夜十二時前後も人間の意識は明瞭だ。
ならば何時くらいが好ましいのか。
答えは午前2時から4時まで。いわゆる丑三つ時。
この時間帯は大抵の人間が深い眠りに入っていて、覚醒するまでに時間が掛かる。
しかも一日の中でもっとも外気温が下がっているため、身体能力だって低くなっている。
あらかじめその時間に備えでもしない限りは、状況の変化に対応できないのだ。
そういった理由があって、迫撃砲の轟音が最初に鳴り響いたのは午前2時を過ぎた頃合いだった。
『アローヘッド1より各員へ通達。賽は投げられた。繰り返す、賽は投げられた!』
無線機の向こう側から水無月千歳の声と、これに被せて爆発音が聞こえた。
「お嬢様。降下ポイントに到達しました」
「うん、ありがとう」
その上空800メートル地点には軍事色の輸送ヘリが一台。
操縦桿は万能運転手でもある執事が握っている。
如月雫は次にいつ着られるかも分からない明るいブラウン調のブレザー制服を着込んでいて、しかし腰には控えめに見たって不似合いな鋼色のベルトを巻いている。いや袖から出ている手が同系色だから、ある意味では似合っているのかも知れない。
ヘリの後部ハッチにはパラシュートを据え付けた神威MkVがすでに飛び降りる体勢に入っている。
神威は高々度からの落下には耐えられない仕様上、機械ベルトで空中変身なんて洒落たマネはできないのです。
「冬矢君、フォローはお願いね」
『了解した』
インカムで仲間に告げた後、側面ハッチをスライドさせる。
風がゴウと音を立てて少女の髪をなびかせる。
胸中にあるのは友人を救い出そうとする決意と、あとついでに爺様を奪還したいとかいう願い。
執事をはじめとする他の面々は爺様が最優先なのだろうけれど、代理で後始末を負わされた孫娘としてはむしろ運良く生還することがあったなら一発ぶん殴ってやりたい気持ちでいっぱいだった。
「一緒に頑張ろうね、シューティングスター」
腰に巻いた機械ベルトを指先で撫でて、それから飛び出した雫。
吹き荒ぶ風に身を任せつつ、ベルトの作動スイッチを押す。
「――変身!!」
鉛色の皮膜が少女をプレスする形で出現し、有無を言わせずサンドイッチする。
自由落下で膜を突き破ったその四肢はすでに鋼鉄の塊であり、そこからさらに紅蓮の炎に包まれる。
ドンと大地に降り立った輪郭は見るも鮮やかな紅色に染まっていた。
【網膜照合クリア。声紋認識クリア。脳波パターン正常。
  ――ジェネレータ駆動値を6に設定。バッテリー残量、97%
  ――システム・オールグリーン。AMS−HD9870EXP『シューティングスター・エクスペリエンス』、起動します】
システムの起動音を聞きながら周囲を見渡す。
それまで見回りをしていたであろう歩哨が数名、何かを叫びながら駆け寄ってくるのが見える。
7メートルほどの高さの鉄塔の上で敵兵が機銃を構えていたが、初弾を吐き出すより先に上空から狙撃されて地面に墜落した。
「さすがね、神威くん」
『褒めるのは生きて帰ってからにしてくれ』
「じゃあ、みんなが無事に帰れたらお祝いにケーキパーティーしましょう」
『どういう理屈だ。というか俺が焼くのか?』
「もちろん!」
『……構わないが、だったら一人で突っ走って怪我なんかするなよ』
「は〜い☆」

22 :
軽口を叩いた後は行き先を真っ直ぐに見据えてバックパックのブースターに火を灯す雫ちゃん。
頼れる味方機はまだパラシュートにぶら下がっていて、着地にはあと数十秒を要するだろう。
神威の射程圏は命中精度込みで70メートルといったところだから、彼が着地するまでにそれ以上距離を開けなければフォローはしてもらえるはず。
基地は森林で囲まれており、ドカンドカンと爆発が起きたって民家に影響は無さそうだ。
「よし。行こう!」
今夜は月が出ていて、そこへAMSに装備されている赤外線暗視カメラを足し合わせれば暗闇など問題のないレベルだ。
後方にある正門付近に目をやると、仲間の傭兵部隊が続々と侵入しているのが見える。
彼らはリーダーである水無月と、キースと、狙撃担当のマリアちゃん以外は防弾チョッキに軍服姿だった。
というか彼らが当初から活動していた中東ではAMSはたとえ旧式の粗悪品であったとしても高級で、そういった事情から扱える人間が少ない。
しかも屋敷に予備の機体が三つしか無くて、だから結果としてこちら側の戦力はAMSが5機と歩兵が6人といった体たらく。
それでも敵を混乱させる事に成功しているのは、彼ら歴戦の傭兵達がドンピシャのタイミングで迫撃砲の弾を着弾させてくれたからだろう。
今作戦での歩兵部隊の役割は初弾により敵部隊を混乱させる事と、そして何より退路の確保にある。
だから人々は本格的な突入をせず、正門付近で弾幕を張りつつAMS部隊が戻ってくるまで粘る。
最新の情報ではこの基地で運用されているAMSは50を下らないし、それらは全て夜間戦闘に特化させたタイプらしいから、全機が出張ってくるとこちらは瞬く間に全滅してしまうだろう。
そうなる前に作戦を完了させなければいけない。
前方を顧みれば建物の窓の隙間から覗いている敵影はまだ少ないし、隣接する倉庫からAMSが飛び出してくる気配もない。
慌てふためき手近にあった小銃を引っ掴んでやって来た敵兵ならば10人だろうが20人だろうが雫ちゃんの敵ではなかった。
「ていっ!」
小銃から吐き出される弾丸を難なくかわして敵陣まで迫ったAMSが、恐怖に目を見開く数名を撲Rる。
トンファーを持つ手に肉と骨とを砕く感触が伝わるけれど、そんな事にいちいち動揺するほどか弱い雫ちゃんではなくて、
障害物をあらかた薙ぎ倒した後はこの頃になってようやく着地した神威君が追いついてくるのを待つ。
神威のさらに後ろには水無月さんが駆るメタリックブルーの機体と黄土色の機体、それから小さな狙撃手が着込むモノトーン・カラーの輪郭がある。
それらは美香子ちゃんの機体『アルティザン』の改良型として量産された機体で、射撃は元より格闘も遠距離狙撃もそつなくこなす万能型だった。
『おい冬矢、お前の雇い主はいつもあんな突っ込んだ戦い方するのか?』
『ああ、だから援護する方も大忙しだ』
『嫁さんにしたくないタイプだな。危なっかしくて見てられねえ』
あとで聞いた話ではチームリーダーが単機で敵集団の中へ突っ込んでいくなんてのは有り得ない話らしい。
そりゃあまあ、指示を出す人間が鉄砲玉みたいなマネしちゃダメなんだろうけれど、これまでのやり方をいちいち変えるのは性に合わないし小細工も苦手なので正々堂々と真正面から殴りかかる雫ちゃんです。
「そこ、くだらないこと言ってないで早く来なさい!」
でもそれを言ったら傭兵達のリーダーだって一番乗りで日本刀振り回す凶暴女じゃない。
男共の談笑に目くじら立てる少女は怒鳴ってやろうかしらとも思ったけれど、前方にAMSの輪郭を見つけて即座に頭を切り換える。
そりゃあ、どんなお粗末な軍事施設であっても敵襲への備えはあるわよね。特に色々と恨みを買っている攻撃基地ともなれば防衛用のAMSだって配備されていて当然。
まあ、雫ちゃんとしては自機の限界を試してみたくてウズウズしているわけだし、後退だとか撤退だとか、そんな単語は思い浮かびもしないのだけれど。
出現したAMSは4体ほど。どれも全身ステルス色で手に歩兵より一回り大きな口径の小銃を装備している。
乾いた唇を舐めてニヤリと凶暴な笑みを浮かべる雫は、機体の駆動力を手動で最大値まで引っ張り上げて、腰を落として突っ込む体勢を整えた。

23 :
『切り込むなら私も手伝うぞ』
「おっけ〜、じゃあ、十秒で片付けるわよ!」
不意に目端に併走する影を見つけて言葉を交わす雫ちゃん。
半歩ほど遅れる格好で追従するのは出撃前に一悶着あった水無月千歳さん。
抜いているのは光学式の刃を持つ刀で、機体とセットで彼女に与えられた代物だ。
紅色とメタリックブルー、二人の少女は凄い早さで敵影に突っ込むと、それぞれ二つずつ、すれ違いざまに撃破する。
まさしく秒殺だった。
後方からの支援射撃を加えればツートップに死角は無い。
「けど驚いたわね。てっきり後ろから斬り掛かってくるものかと思ったのだけれど」
『仕事と私情を分けられないプロフェッショナルはいない。貰った給料ぶんの仕事はするさ』
「そう。じゃあ、期待しておくわ」
軽口を叩きながら施設の玄関口まで辿り着いた二人はそれぞれ周囲を警戒しつつ仲間の到着を待つ。
ややあって追いついた男共を伴い前進、地下へ続く通路を探す。
すぐに見つけたのは機材搬入用エレベータで、迷うことなく全員で乗り込む。
ゴクンッと振動があって、下へと動き始める鉄箱。
爺様がこの施設に捕らわれているという情報はあっても具体的にどの部屋に軟禁されているのか分からない。
それに美香子ちゃんも見つけなければいけない。
そういった理由から地下では二手に分かれる算段だった。
「じゃ、みんな。手はずは分かってるわね?」
とはいえ、たとえ爺様を発見したとしても無線傍受の可能性を恐れて連絡は行わない。
どちらが見つけようと、どちらも見つけられまいと制限時間いっぱいで捜索を切り上げて撤退する。
そうしないと迎撃に出てきた増援に全滅させられるから。
生き残っていれば再度の奪還作戦が立てられる可能性だって出てくるかもしれないワケだし、だからこそ死んではいけない。
全滅は彼女らにとっての完全な敗北を意味するのだ。
「よし、いくわよ!」
開いた扉の向こう側へと決死の覚悟で踏み入る雫ちゃん。
廊下の先に簡易的なバリケードを構築して小銃をぶっ放す輩が幾らかいたけれど、神威が肩に担いでいる携帯ミサイルをぶっ放せばただそれだけで静かになった。
ここに至るまでに時間のロスがほとんどないから目一杯に動けるだろう。
爆炎と黒い煙の渦巻く中を突っ切って、最初のT字路に差し掛かった人々は互いに頷き合ってそれぞれ別の方へと身体を向ける。
狙撃担当のマリアちゃんはここに居座って退路を確保する係。
なので雫と冬矢くん。千歳さんとキースさん。このペアが実働の救出班になる。
「冬矢君、私たちは美香子ちゃんも探さなきゃいけないから、相当にハードよ?」
『承知している』
「よし!」
レーダーを見れば神威が憎らしいまでに正確に距離を開けて追いかけているのが分かる。
幾つかの部屋を見つけて中を確認したけれど爺様の姿も友人の姿も見当たらなくて、かなり焦ってきた頃合いになってから二人は廊下の奥、突き当たりの部屋に足を踏み入れた。
『……どうやら俺達はハズレのようだな』
冬矢君が舌打ち混じりに囁いたけれど、雫ちゃんの耳には入らない。
その部屋はとても気味の悪い空間だった。
やけに天井の高い空間には所狭しと円柱型の巨大水槽が並んでいて、中は緑色の液体で満たされている。
液体の中に浮かんでいたのは、どう考えても人間のものとしか思えない大きさの脳みそ。
脊髄とか神経細胞とか、そういうのをくっつけたまんま人間の脳みそが、全ての水槽の中にあった。

24 :
「っていうかさ、この施設って、ただの攻撃基地じゃなかったの?」
『吐くのは後にしてくれよ』
「大丈夫。吐き気より怒りの方がキテるから」
『いや、気持ちは分かるが、なるべく冷静に頼む』
「うん。できるだけ我慢する」
B級SF映画のワンシーンを彷彿とさせる光景の中を進む二人。
少女の脳裏にとても嫌な考えが浮かんだけれど、すぐさま却下した。
なるべく何も考えないように水槽の部屋を進んでいくと一番奥にさらに鉄製の扉があって、
それはIDカードと指紋・声紋・網膜パターン照合式とかいう近未来的な代物だったけれど、冬矢君が自機から伸ばしたボードを差し込むと途端にブルーランプが灯った。
「え、何やったの?」
『ハッキングした。世の中にはこういう便利な道具が出回っているんだ』
彼の言い分にもツッコミたい所はあるのだけど、どうしたって腹の底まで迫り上がってくる怒りと悲しみとで言葉に出来ない雫ちゃん。
最深の部屋は先ほどとは違って何も無い広々としたフロアになっていた。
壁は何の装飾もないコンクリートで天井には梁のつもりなのか赤っぽいH鋼が走っている。
等間隔にぶら下がっている裸電球が床のコンクリートに光を照り返していて、やって来た侵入者2人の影と、それとは別の影を足下に描き出していた。
『――襲撃部隊の基地に夜襲とは恐れ入るぜ』
野太い男の声が少女の耳に入ってくる。
それは赤銅色のAMSだった。
見るからに重厚そうな装甲。如何にも馬力のありそうな四肢。手には回転式のガトリング砲が握られている。
一見して近接戦闘に長けた機体のように思われる。
肩にはドクロを象った部隊章がペイントされており、目元から覗く真っ青な光が不気味さを醸し出していた。
「……あんたは?」
インカムから声を聞いたと言う事は、すでに無線の周波数を合わせられているということ。
ならば今さら慌てふためく事もない。
雫が尋ねると男の声が落ち着いた音色で返してきた。
『ヘルハウンドの隊長さ。といっても、俺自身は【オルトロス】の隊員なんだがな』
『つまりヘルハウンドは洗脳した兵士による部隊で、それを統括しているのがお前達と言う事か』
『そういうこった』
割り込んできた冬矢君の声はここに至っても冷静だった。
雫ちゃんとしては「とにかくコイツがボス敵なのね」くらいにしか思わなかったけれど、彼の中では色々と真実が見えているらしい。
先ほどの光景から胃に穴が開きそうなくらいムカついている雫ちゃんは、さっさと終わらせようとトンファーを構え直す。
そんな紅機体に、赤銅色はガトリングではなく何も持っていない方の手をかざした。
『ところで、貴様らは魔法というモノを信じるか?』
男が言うと、かざされた掌に光が収束する。
敵機はその光を惜しげもなく放った。
ドカンと爆音を轟かせて、後方の壁がひしゃげた。
でも黒ずんではいなくて、だから銃の類ではないのだろうと察する。
まあ、要するに前回屋敷を強襲した女と同様の手法だということだ。
「……それがどうかしたの?」
『驚かないんだな』
「脳みそぶちまけて死んでしまえば同じ肉の塊でしょ?」
『ああ、そうだ。そうだとも』
肩のドクロを震わせて哄笑する男。
気が違ったのか、そもそも最初からおかしいのかは知らないけれど、ピタリと笑うのを止めた敵機の中の人は、次に手にしたガトリングを少女へと向けた。

25 :
『脳みそに特殊なチップを埋め込めば魔法使いだか超能力者だかにはなる。
  でも、それだけなんだよ。実験と戦闘を繰り返して、寝れば悪夢にうなされて。もう5年も続いてる。やってらんねえんだよぉ!!』
怒りに吠えたてる。
そうか。前回のあの女も、この男も、人工的な魔法使いなのね。
ファンタジーではなくてサイエンスフィクションなら遣りようがある。
脳とか心臓とか、致命傷を与えればカタがつく。
雫ちゃんは考えて手合いの攻撃が始まるタイミングを見極める。
飛び道具を持たない少女の必勝パターンは、やはり銃弾をかいくぐって相手の懐に飛び込んでの攻撃。
神威君はその援護に気を回すはずだから、彼から先制攻撃というのは有り得ないだろう。
行く先の軌道を何パターンか考えつつ、雫はさらに腰を落とした。
『貴様らはハラワタぶちまけてR! 今すぐに!!』
そして鈍い射撃音が堂内いっぱいに響き渡る。
少女の目は銃口から吐き出される光を捉えていた。
相手の殺意の矛先が、なぜだか白い筋になって見えて、その軸線から逃れるように動けば弾丸は自然と逸れていった。
『当たらねぇ?!』
驚く声が聞こえた。
銃声が、あと五秒で鳴り止む事が分かった。
そして、感じ取ったのと同じ未来が訪れる。
ああそうか。
スローモーションになった景色の中で、敵機めがけて突っ込んでいく中で、不意に悟った。
病院前での事故を予見できたのも、屋敷のゲートをくぐる時に覚えた不吉な感じも。
あれは別に魔法とか特別なものではなくて。
単に『死の臭い』を読み取っていただけなんだ。
だから今、どこに居てどちらに向かえば自分が安全なのか、手に取るように分かってしまう。
今この時。この部屋で最も安全なのは間違いなく敵の懐で、攻撃を繰り出す事こそが自身の生き残る唯一の手段。
だから雫は真っ直ぐに、脇目もふらずに突進すると躊躇うことなく構えていた拳をトンファーごと突き出した。
ベキョベキョ!!
鉄が悲鳴を上げる。
堅い手応えが腕から伝達されてくる。
けれど、まだ浅い。もう一歩踏み込まなければ装甲を抜けない。
「ちっ」
吐き出された舌打ちは誰の物だったのだろう。
突然感じた嫌な気配。見れば束になった銃口がこちらに向けられている。
雫は本能的に仰け反り、その反動で突き立てた得物を引き抜くのと同時に銃口をも蹴り上げる。
ガガガガガッ。
天井を向いた金属筒ががなり立てる音を聞いた。
『だったら、これはどうだぁ!!』
赤銅機械から発せられた雄叫び。
最大レベルの嫌な予感が訪れた。
鋼の輪郭に青白い光が灯ったかと思えば、爆発的な圧力が放出されたのだ。
全身がバラバラになりそうな衝撃を受けながら、シューティングスターが吹っ飛ばされる。
「きゃああぁぁぁ!!」
『雫!』
地面に激突した少女は幾ばくかの間呼吸困難に陥っている。
身体が動かない。どうにか目だけで敵の姿を捉える。
ゴウンッ、ゴウンッ。
援護射撃のつもりなのか、鉛色の神威君がライフルをぶっ放している。
しかし弾き出された弾丸は敵機の十数センチ手前で停止して、それぞれにひしゃげて床に落ちていた。

26 :
『くっ……これも魔法の力か!!』
冬矢の呻き声だ。
敵が赤銅色の面具の裏側でニタリと笑んだ、ような気がした。
『オルトロスの隊員が、雑兵に劣ると思うなよ!!』
それから敵は何も無い掌を天井にかざす。
するとその手の上に無数の黒い筋が収束して、やがてそれは真っ黒で巨大な球になった。
『R!! 虫けらども!!』
叫んだ勢いで放たれた黒球。
雫の視界いっぱいに迫る暗黒。
ゾクリと背筋が粟立って、その理由を突き止める暇さえなく少女は暗闇に飲み込まれていった。
+++
真っ黒な世界に佇んでいた。
夢や幻の類なのか、それとも今まさに死の淵を渡らんとする最期の光景なのか、雫には判断がつかない。
ただ、床も壁も天井も全てが真っ黒な中で、微かな浮遊感を覚えながら少女はそこにいる。
【――雫ちゃん】
誰かに呼ばれた様な気がした。
とてもとても懐かしい声。
けれど、どれだけ目を見開いても声の主を見つけ出す事ができない。
ミカ……。
呟いてみたけれど、自分の声が音になっているか自信がない。
と、何かが頬に触れた。
誰かの細くて暖かい手。
するとそれまで真っ暗だった世界に色が現れる。
僅かに光を灯す、友人の輪郭。
長くて艶やかな黒髪が暗黒の中でさえハッキリと見て取れた。
友人は神社の神主さんが着ているような服を着込んでいて、なぜだかその顔には困ったような悲しんでいるような表情が浮かんでいた。
あんた、こんなところに居たの。ホラ、帰るよ。
言ってみたけれど、我ながらとても間抜けな台詞だと思った。
美香子は眼を細めて微笑むと少女の頬に添えた手をそっと離して、こう言った。
【奇跡は、ここにあるんだよ】
キュウゥゥゥゥ――。
どこかで微かな駆動音が鳴り始める。
【MKCデバイスよりドライバの転送を受け付けました。システムの書き換えを実行します……、完了。
  脳波リンクを開始します。ジェネレータ駆動値を120に設定。魔力ブースト率を1000倍に固定。
  システム、EXPモードに移行します】
聞き慣れたはずの合成音が聞き慣れない言葉を連発する。
このシューティングスターという機体の中には一体何が積み込まれているというのか、パイロットには想像できなかった。

27 :
【あたし達は、ずっと一緒だよ】
反響する声が胸に深く染み込んでいく。
そして視界は再び暗闇へ。
ドクン。
鼓動が一際高く脈打つ。
目を閉じて、開く。
底のない暗闇?
違う。これは単に殺意の具現化をぶつけられた結果。
理解する。
敵から魔法による攻撃を受けているだけ。
防御する手段は?
魔法とは性質を変容させた魔力でしかない。
それなら反する性質の魔力をぶつければ、それは消滅する。
魔力とは自然界に満ちているエネルギーと自分の体内エネルギーとを混合した物。
法則を理解すれば、精神のチャンネルを合わせれば誰でも扱える物。
ならば、私にもできる。
魔法による攻撃は魔法によって弾き返す事が出来る。
だから、私にはできる。
「分かったよ、ミカ。……ありがとう」
呟いて未だ暗闇で見えない手を前にかざす。
恐れも怒りも、如何なる感情も感じなかった。
ただ確信があった。全てが自分の思い通りになるという確信。
「道を開けなさい!!」
腹の底から声を絞り出す。
その言葉に呼応するように、暗闇に盾に一本白い筋が入ったかと思えば、どんどん押し開かれてゆくじゃあないか。
『俺の魔法が破られただと?!』
形作られた道の向こう側に赤銅色のAMSが居た。
相手は焦った声でガトリング砲を持ち直すとこちらに向けて発砲してくる。
しかし吐き出された弾丸の嵐は、紅色の装甲の10センチ手前でひしゃげて停止していた。
『馬鹿な!!』
「こういう事ができるって教えてくれたの、アンタだよ」
そして腰を落とす。
全身の装甲が赤く、もっと紅く、炎のような煌めきを放つ。
【――対象座標を固定します】
合成音が言い終えるのと同時に敵機の四肢に光の輪っかが出現してその動きを封じる。
敵は藻掻こうとするが拘束が解かれる事は無かった。
『バインドだと?!』
【――《聖域》を展開しました。魔力濃度圧縮率、臨界値を越えました。攻撃を開始して下さい】
よく聞くとアナウンスする合成音は友人の声にとてもよく似ていた。
そっか、ずっと一緒に戦ってきたんだね――。
姿のない友人をとても身近に感じる。
優しい手が背中を押してくれたような気がした。
少女はふと微笑んで、身を委ねるように前へと躍り出る。

28 :
「――ゴルディアン・キック!」
真っ赤な光に包み込まれる。
機体そのものが真っ赤な光になる。
身動き撮れない標的が凄い早さで迫ってくる。
勢いを付けて、跳び蹴りの体勢に入った流星。
真っ赤な塊は床と平行にカッ飛んで、ほどなくして敵機を射貫いた。
『貴様……、そうか、あの方と同じ力を……!』
ヘルハウンドの隊長を名乗った男はそれだけを最期に吐き出すと木っ端微塵に爆発した。
敵機を射貫いた後、その背後に着地していた紅機体は肩越しに敵の塵になってゆく様を顧みる。
「少年誌にありがちな台詞を死に際に言わないで。お願いだから」
膝を付く格好だったので立ち上がろうとするけれど、どうしたことか尻餅をついてしまう雫。
モニタを見れば電力残量が底を尽きかけている。
いや、それ以前に足腰に力が入らなくて、駆け寄ってきた神威君に抱えて貰わなければ立ち上がる事さえ出来なかった。
『おい、大丈夫か雫!?』
「うん、なんとか」
『詳しい事は後で聞く。制限時間を切ったから脱出するぞ』
「うん、分かった」
仲間の腕を借りつつ来た道を返す二人。
途中で数名の敵兵に出くわしたが神威に残されていた弾薬でどうにか撃退して進む。
二手に分かれたT字路に差し掛かったとき、雫達は別れた人々と再会した。
「元気な様子じゃの、雫よ」
「クソジジイ……あとでぶん殴る」
そこには捕らわれていた源八爺さんが居た。
どうやら水無月チームは無事に仕事をこなしたらしい。
順調に地上階へと上った面々は大急ぎで建物から離脱する。
目端では格納庫から続々とAMS部隊が出陣するのが見えたけれど、彼らとやり合うつもりなんてさらさらない。
目的は達成されているのだから、あとは一目散に逃げ帰るだけなのだ。
「こっちだ、早くしろ!!」
門の所で粘っていた仲間達が怒鳴っている。
その後方には輸送ヘリが風切り音を轟かせている。
爺様は水無月さんが背に負ぶっていて、しんがりの冬矢君とキースさんが火力で追撃を押さえていた。
+++
こうして、どうにかこうにか奪還作戦を成功させた人々は、輸送ヘリに乗り込んで脱出。
全員無事に半壊した屋敷まで帰還できたのは出来過ぎとしか言い様がない。
しかし如月邸の地下施設に舞い戻った総司令は、全員の労をねぎらうより先に、施設に勤めているスタッフも含めて全員に招集を掛けると会議室に集めた。

29 :
「ワシらはここで決断をしなければならない」
源八総司令は開口一番にそう告げた。
会議室の壇上に巨大なスクリーンを広げて映写機で幾つかの写真を映し出す老人。
時間はすでに明け方になっていた。
しかし詰めかけた人々は不眠不休の作業で疲れ切っていて、どれもこれも目の下にクマを作っている。
源八爺さんの説明は、獣魔と呼ばれる地球外生命体の存在を明かすところから始まった。
全身を堅い甲羅で覆われた、昆虫の形を摸した生き物。
力が強く装甲の厚いクモ型。ステルス性に長けたゴキブリ型。飛行能力を持つハチ型。とにかく大群で押し寄せてくる軍隊アリ型。
他にも亜種なのかオオエンマハンミョウ型やリオック型。サソリ型にムカデ型と多種多様な獣魔が存在するが、全てに共通するのは人間を捕食するどう猛な肉食獣だということだ。
狐につままれた顔のスタッフ一同は、しかし何枚かの写真を見せられるうちに真剣な面持ちへと変わってゆく。
提供された資料ではアメリカ領内に出現したネストを壊滅させるために米軍は大規模な空爆を実施したらしい。
その後、半瓦解した巣に侵入を試みた軍の一個師団が半日を待たずに全滅、再度の三個師団同時投入によりどうにか殲滅する事に成功したという事実を告げたときには総員が真っ青な顔をしていた。
そしてつい先日、監視衛星から送られてきた写真により、日本領の島の一つ、佐渡島に獣魔の巣が形成されている事が判明した。
島内の街はすでに肉食昆虫共の狩猟場と化しており、生存者は皆無。
島への交通はすでに封鎖されていて、海上保安庁の船がガッチリ固めているらしい。
「これが我が国の現状じゃ。米国以外の国は黙りを決め込んでおるが、遠からずどこも同じになるじゃろう。
  なにせ相手は今の時点で推定500兆匹、あと十年もすれば地上を埋め尽くすじゃろうからな」
このバカバカしい数字を述べるときだけ老人は憎々しげに口端を歪めた。
「さて、ここでワシらに突き付けられた選択肢がある。
  政府は近々、佐渡島ネストの大規模な殲滅作戦を行うらしい。
  自衛隊も総動員させる予定じゃ。Asも出張ってくるし、総力戦になるじゃろう。
  そんな戦争へワシらは招待されておる。弾薬も装備も人間も、全てが足りない中での招待じゃ。
  しかしこの戦で敗れれば遠からず人類は滅亡するじゃろう。そういう戦じゃ。
  時間が惜しいので各自早急に決断して欲しい。ワシはこの作戦に乗るつもりじゃが、皆はどうする。
  妻子の事もあるじゃろう。命が惜しい者もあるじゃろう。
  ワシはそういった者を非難しない。一度きりの人生じゃ。誰にも己の意志に従う権利があるとワシは思う。
  故に、一時間だけ待つ。命を捨てる覚悟をするか、この地を去るか。各々、時間はないが慎重に選んで欲しい」
会議は老人の演説で締めくくられた。
思い思いの面持ちで会議室を去ってゆく背中達。
主要な人々だけが取り残される頃になって、孫娘は老人の胸ぐらを掴んで詰め寄った。
「どういうことよ、このクソジジイ!!」
「うお、なんじゃ雫。ついに家庭内暴力か?!」
「落ち着け雫」
「むうぅ!」
冬矢君に制止されて掴んでいた手を離す少女は、しかし鼻息も荒く総司令を睨み付ける。
爺様の説明では、軟禁されたあの朝、彼は普段から懇意にしていた政治家の家に出向いていたらしい。
そのツテを辿らなければ政治の世界に首を突っ込めないからだ。
しかし目的地に到着する間際になって、黒ずくめの集団に拉致されてしまった。
まあ、要するに先手を打たれたということです。
約束を取り付けていた政治家が裏切ったのか、それともすでに動きを察知されていたのかは分からない。
どちらにせよ黒ずくめ達は政府の手の者で、拉致した老人を現首相の前へと引きずり出したのだ。
そこで行われた話し合い。
それは要約すると、政府に協力して兵隊を出すか、もしくは関係者全員を強制収容所送りにするかの二者択一を迫る内容だった。
老人は考える時間を求めたが、その煮え切らない態度に腹を立てた首相が彼を攻撃部隊の駐留所に送り、ついでに屋敷への攻撃命令を出したと。
そんな経緯だった。

30 :
「そのおかげで家は半壊、私は合同葬儀を執り行わなきゃいけなくなったワケね」
「いや、それは本気でスマンと思っておる」
深い深い娘さんの溜息。
「だけど意外よね。自分の家を攻撃されて死人まで出たって言うのに、爺ちゃん、話に乗るんでしょ?」
ここまでやられたら、私だったら意地でも蹴るのだけれど。
特に自分の欲望や嫉妬心には正直な老人なだけに、その決断には信じられないものがある。
ひょっとしてすでに洗脳されているんじゃあなかろうか。
雫ちゃんの疑いを晴らすように老人は飄々と答えた。
「じゃが大切な孫娘を戦地に送るのじゃから、タダでは受けんよ」
どうやらこのジジイ。作戦成功と同時に軍事基地を一つ貰い受ける所存らしい。
独自にAMS開発と量産・運営を執り行う、政治から切り離された軍事組織の設立を軟禁されている中で提示していたのだ。
そして脱出する間際に通信室から『この襲撃は家を狙った事に対するケジメじゃ』と発信しておいた。
こうしておけば今回の奪還作戦が正当化できるし、報復攻撃を心配する必要も無い。
「っていうか、それって私たちが行かなくても普通に帰って来れたってことじゃあ……」
「バカモノ。こちらの実力を見せておかんと今後の遣り取りでナメられるじゃろうが!」
転んでもただでは起きないこの老人。
こちとら水槽漬けの脳みそまで見せられたっていうのに……。
ちょっぴり殺意の芽生える雫ちゃんです。
「それはそうと、美香子のこと、ちゃんと捜索かけておいてよね!」
「うむ、心得た」
だけど肝心の友人の事に関しては、老人は知らないと答えるだけだった。
少なくとも源八爺さんが連れてこられてから今に至るまで、基地に誰かが運び込まれた気配は感じなかったとの事で。
なので今度は政府の目も借りて友人の捜索をお願いしようと画策する雫ちゃんです。
だけど、実を言えば。
友人はもうこの世に居ないのではないかと考えている。
戦いの中で感じた彼女の気配が、それと触れ合った自分の本能的な部分が、密やかに友人の死を直感していたから。
だからあまり期待はしない。
今はただ前だけを向いて進もう。
もしも友人の無事な姿を見る事が出来たのなら、直感とかは気のせいだったで片付けて素直に喜ぼう。
そう、無言のまま決意する。
一時間の後、再び会議室へと集まった人々。
その数は若い工員が幾名か抜けただけで、以前とほとんど代わり映えがなかった。
これが喜ぶべき事なのか、自殺志願者の多さに辟易すべきなのかは分からないけれど。
どちらにせよ爺様のカリスマ性は未だに健在なんだなぁと再認識せざるを得ない雫だった。
おわり

31 :
リアルが忙しくてなかなか手を付けられない状況ですが、それでもどうにか投下です。
容量的にスレを圧迫してしまって申し訳ないです。

32 :
投下お疲れさま

33 :
ゲーマーズ作者やまなみ作者はどこに消えたのかな

34 :
魔法少女・アナルと変身ヒロイン・ヴァギナには、何故ちんこがあるのだろうか?

35 :
【9条マスコット】"無防備ちゃん"のパンチラ画像がネットに流出 (画像有)
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1281096529/

36 :
てすと

37 :
第18話 「白い悪魔、黒い天使」
その日、As本部の格納庫に二人の女が訪れていた。
一人はAsの部隊章と猫を象ったワッペンをそれぞれに貼り付けたジャケットを着込み、通り掛かるスタッフの方々からいちいち会釈される女性、柊川七海隊長であり。
もう一人は長い黒髪を首元で結わえた女性。
二人は年齢が同じでそれぞれに美人だったけれど、身に付けているのがジーンズやらジャケットやらで、しかも化粧と呼ぶほど大層なメイクも施していないから色気もへったくれもない。
「急に押しかけちゃってごめんね七海」
「タイミングが良かったね。先週だったら出張してたから入れ違いになってたわ」
「出張って?」
「米軍基地。細かい事は言えないけれど、新兵の教育とかしてたの」
「そっか、大変だね。そう言えばリュンクスの人達は?」
「みんなも似たようなものよ。年に数回、本部から招集が掛かったときなんかに会うのだけれど、相変わらず忙しいみたい」
「そっか……、山岸君は?」
「徹は元気だよ。でもって来年くらいに結婚するの」
「そう。式には呼んでね」
「もちろんだよ☆ そういう水瀬ちゃんは? ええと、異世界にあるっていう学校に通ってたんでしょ?」
「うん、卒業してからしばらくの間、色々と動き回っていたの」
「じゃあ今は正式になんとか騎士団の一員なんだ。凄いね」
「女神近衛騎士団。通称でナイツね。けど正式にはなってないの。試験で落ちちゃって」
「あらま。ええと、その、気を落とさないでね」
「落ち込んではいないわよ。もう過ぎた事だし」
二人して笑いながら鉄の臭いが漂う中を進む。
二人は幼い頃からの親友だった。
高校を卒業してからそれぞれに別の道を歩む事になったけれど、こうして再会できた事は素直に嬉しい。
七海の親友は高岡水瀬という名前で、実は戦う変身ヒロインとして一緒に戦った事もある娘さんだった。
とはいえ一時は対立していたし、七海から右手を奪った張本人でもあったりするのだけれど。
それでも今は全ての問題が解決されているし、お互いを親友として認め合っている。
「ずっとこっちに居るの?」
「う〜ん。色々とやらなきゃいけない事はあるけど当分の間は暇だし、しばらくはお世話になるんじゃないかしら」
「そうなんだ。じゃあさ、この後お買い物に行かない? 夏に着る服が欲しいの」
「ええ、いいわよ」
「じゃ、決まりね」
どういう経緯なのかは分からないが水瀬さんはAs局長である室畑氏に連絡を取り、しばらくのあいだ客人として居候させるよう約束を取り付けた。
でもって、客人といえど元、というか現役の変身ヒロインなのだから居る間だけでも働いて貰おうという事になって。
それで彼女専用のAMSを新たに新調する事にしたのです。だから二人して格納庫くんだりまでやって来たと、そういう次第なのです。
いや、まあ。色々と思う所はある。
一台で高級車が何台も買えてしまうようなバカ高い機体を、どうして正規雇用されていない人間のためにあつらえるのか、とか。
これを決定した局長とはどういった関係にあるのか、とか。
そもそも変身ヒロインに機械甲冑であるAMSなど着せる意味があるのか、とか。
だけどわざわざ尋ねようとする勇敢な猛者はいなくて。
七海としても親友に会えたというだけで満足していて詮索するつもりも無いようだしで、真相が暴かれる事は無さそうだ。
そうこうする間に、二人はデッキの前までやって来た。
デッキには見た事のないAMSが据え付けられている。
装甲の淵は金色で、基調になっている漆黒色と所々に走る赤い筋とが絶妙な色加減を形作っている。
見てくれははミリィのファントムをさらにゴテゴテさせた感じだ。
その足下に踞っていた若い工員が二人の気配に気付いて慌てて立ち上がった。
「どうも、お疲れ様っス」
「おつかれさま〜」
「その機体が?」
「……ああ、搭乗される方っスね。この機体がGTX02『プレストニア』。開発局から送られてきた新鋭機っス」
作業していたのは二十代前半の青年で、油まみれの作業服ポケットから紙切れを取り出して何かメモを取っている。
「試験運用は明後日からッス。仕様書には目ぇ通しておいてくださいね。……それにしても凄い機体っス。一体誰がこんなの考えたんでしょうねえ」

38 :
一体誰がと聞かれれば二人が思い浮かべるのは一人きりなのだけれど、それはさておき。
青年工員は今度は七海さんの方に顔を向けるとポケットから布の包みを取り出した。
差し出されたそれを受け取って開いてみると、そこには銀色に艶光る石がある。
GTX00/SLI『アレンデール』の心臓部とも言える石、ラピッドストーンと呼ばれる物質だった。
「七海さんの機体は一週間ほどメンテで動かせないから、石だけ抜いておいたっス」
「え、そんなにかかるの?」
「オイル交換だけじゃあなくて部品もいくつか取り替えなきゃいけないんで」
「もっと早くできないの?」
「そう思うならもっと丁寧に扱って欲しいッス。データを見せて貰いましたけど、七海さんは操作が荒っぽすぎるッス。AMSは繊細なんスよ」
「あうぅ」
苦笑を漏らす水瀬さん。ガックリ項垂れる七海さん。
若い工員は次の仕事があるからと溜息混じりに去っていく。
そそくさ用事を終わらせた二人は、その足で本部から抜け出した。
就業時間まではまだ幾ばくかあったけれど、七海は隊長として街を見回ってくると言えば誰も反論なんてできないし、水瀬に至っては正規の職員ではないからどこに外出しようと本人の自由。隊長さんの付き添いであれば尚のこと文句を言ってくる人間もない。
商店街を練り歩き、ショッピングモールであれやこれやと買い込んで、ケーキが美味しいと評判の喫茶店『KAMUI』でお茶などしていれば、気が付けば午後5時を過ぎていた。
「水着も買ったし、服も買い込んだし、ストレスも発散できたしで言う事無いね☆」
「七海、この季節に水着って、ちょっと早すぎない……?」
「ん、次の出張先は南の島だから、そこで着るの」
「海で泳いだりして腕、錆びたりしない?」
「大丈夫、水瀬ちゃんが居ない間に何度かバージョンアップしていてね。今のは錆びないしパワーも耐久力も抜群だから、今なら戦車と戦っても負ける気がしないよ!」
「いやいや、戦車と勝負することと水着は関係無いから」
「そうじゃなくて、南の島っていうのが武装ゲリラの動きの激しい場所でね。ひょっとしたら本当に素手で戦車に挑まなきゃいけなくなるかもなの」
「……あんたってば、人生サバイバルを地でいってるわね」
「そう? 褒められると照れるな」
「いや、褒めてないから」
喫茶店を出た後は寮でパスタを作ろうということになって、夕暮れ時のアスファルトに互いの影を落とす。
キャッキャウフフと両手一杯に紙袋を提げて家路を急ぐ。
七海は学生時代に戻ったようにはしゃいでいたし、その親友も苦笑は多かったけれど楽しそうだった。
やがて閑静な住宅地を突っ切り、細い裏通りに差し掛かった二人は、そこで日常と非日常の境目に出くわした。
「柊川、七海さんですね?」
黒ずくめの男が5人、二人の行き先を阻む格好で立ち塞がった。
肩越しに見遣ると挟み撃ちする格好でさらに4人。
そのうちの何人かは懐に手を忍ばせていて、拳銃などを隠し持っているのだろうと容易に推察できる。
七海さんは「今日の運勢、悪くは無かったんだけどな」なんて他人事のようにうそぶくと溜息混じりに両手の荷物を落とした。
「あたしが何者か分かって近づいたって事は、もちろん殺される覚悟もできているのでしょ?」
一歩小柄な輪郭が前に出る。
空気が一変し、男達の間に緊張が走る。
しかし彼らは胸元の得物を引き抜くでもなく、一番手前にいた人間が僅かに進み出ると口を開いた。
「我々は政府直属の特殊部隊『オルトロス』から派遣されてきました。貴女を本部まで案内する任務です。
  周辺地域への被害を鑑みて手荒な事はなるべく避けたい。黙って付いてきていただけませんか?」
「オルトロス……暗殺専門の外道集団が周りの迷惑を考えるなんて意外ね」
「外道とは心外です。我々も好きこのんでそういった任務に従事しているわけではないのですよ」

39 :
黒ずくめの声は若い。察するに30代前後といったところだろう。
見回してみれば確かに周りは民家で、こんな所で派手な立ち回りをすれば一軒か悪くすれば数件が色々と被害を被る事になる。
素手で戦うぶんには問題無くとも、この人数を相手取るなら攻撃魔法の使用も避けられないだろうし。
七海さんは考えて、だったら相手の拠点で暴れた方が手っ取り早い上に後腐れ無くて良いんじゃあないか、なんて結論に至って地面に落とした紙袋を持ち直す。
隣の親友に目配せすると、彼女は慎重に成り行きを見守っている様子だった。
「あたしは行かない方が良いの?」
「どっちでも良いけど、あたし個人としては一緒に来て欲しいな。そのぶん早く終わるし」
「そんなに頼りにされても困るんだけどなあ……」
ヒソヒソと遣り取りする娘さん方。
水瀬さんが苦笑混じりに返すと相方はニッコリと笑顔で頷いて見せる。
つまり、交戦状態に陥った際には彼女にも手伝えと、そう言っているのです。
「分かったわ。でも、せめて荷物は家まで届けて欲しいな」
「ご安心下さい。こちらで届けておきますので……おい」
「はっ」
男は気が長くないのだろう。女性達のひそひそ話に割って入った後は背を向けて付いてくるよう催促するのだ。
ここで待ったを掛けたのはなぜか水瀬だった。
「ちょっと待って。その前に胸のポケットに何を仕込んでいるか見せて貰えないかしら?」
呼び止められて振り返った男は、少しばかり苛ついたのか荒っぽい仕草で懐に手を入れるとそこに収められていた物品を取り出した。
他の人間達も同様に隠し持つそれを提示する。
彼らの手にあったのは拳銃ではなかった。刃物でもなかった。一様に黒く艶光る塊だった。
異世界でも、こちらでも、ラピッドストーンと呼ばれる代物だった。
「これで満足ですか?」
「……ええ、結構よ」
ラピッドは、本当はAMSに搭載するための部品ではない。
ラピッドは、本来は所有者の魔力を増大させ、魔法を行使するシステムを構築するための演算装置であり。
ようするに戦う変身ヒロイン達が振るう超常の力を、それ以外の人々でも発揮できるようにと開発された工業品だった。
そして、そういった代物を所持していると言う事は、つまりは彼らは全員とも拳銃ではなく魔法で攻撃を仕掛けるつもりだったと、そういうことなのだ。
少しばかり鋭くなった目で黒ずくめ達の後を追う水瀬さん。
「……面白い事になりそうじゃない」
誰にも聞き取れない声量で呟く。
別の観点から見ると、彼らが所属する組織では魔法という物の運用体制が確立されているということになる。もちろん製造も含めての話だ。
七海の所属するAsにしても、このオルトロスとかいう戦闘機関にしたって、現政府内で立ち上げられた組織には違いが無くて。
だからといって表だって魔法の情報を公に開示する事はしてなくて。
それはつまり、政府は魔法を運用する事で影から世界に影響を与えようとしているということ。
いや正しくは、あの科学者が在籍するSXSという組織が、なのだろう。
この先、獣魔の存在により窮地に立たされる事になるであろう人類にとっては、それはもしかしたら良い事なのかも知れない。
けれど、少なくとも愛とか正義とか、そういうものの守護者として君臨する女神近衛騎士団とは全面的な対立を生み出すことになる。
なぜなら騎士団はラピッドを犯罪の発生源、即ち『悪』と見なしているのだから。
悪の産物を扱う人間は悪。悪に組みする者も悪。悪は人間ではなく徹底的に屠るべき敵。敵は全て殺せ。
それが古から今に至るまでの女神に忠誠を誓う彼女らの一貫した考え。
結果として神の代弁者を気取る殺戮者達は、そう遠くない未来でこちら側の世界に宣戦布告することになるのだ。
水瀬はすぐ前を歩く背中達に無機質な視線を投げかける。

40 :
高岡水瀬、かつてミスティアークの名で愛と平和のために戦った女は、とうの昔に絶望していた。
己の信仰のためなら簡単に他者を踏み潰してしまう女神騎士の人々にも。
信者の暴走を止める素振りもせずに力を供給し続ける女神にも。
もちろん己の欲望のためなら躊躇いもせずに悪事を働く人間達は今でも憎らしい。
けれど、それを暴力で押し潰して無かった事にするのは違うと思うのだ。
ましてや神だの仏だのが手を下すなど筋違いにもほどがある。
だから水瀬は、まず女神とその眷属を滅ぼそうと思った。女神という存在を消してしまえば、その恩恵を享受する側もまた消滅する。
人を壊すのは人。ならば人を裁くのも人でなければならない。
それが過去に失われた命と引き替えに得た、たった一つの願いだった。
+++
黒ずくめ達は全部で10人居て、小道から出たすぐ先で停車していた白いワゴン車二台で移動を開始する。
移動していた時間は一時間弱といったところだろうか。
市街地から少し距離を置いた、山道に差し掛かる直前で自動車はエンジンを停止させた。
娘さん二人が拉致されてやって来たのは山の裾野にポッカリと口を開ける防空壕よろしくの入り口で、煌々とコンクリート敷きの床を照らし出す裸電球が奥まで続いている。
「随分と素敵な住処じゃないのさ」
思わず軽口を叩いてしまう七海さん。
黒ずくめ達は依然として緊張の気配を漂わせていて、先ほど言葉を交わした男がここでも先導して二人を案内する。
入り口から十メートルくらいまでは剥き出しのコンクリートだったけれど、そのさらに奥は金属製の通路になっていた。
長い廊下を進むと十字路が幾つかあって、曲がり角など全て無視して直進した団体様はそこに最新式のエレベータを発見する。
AMS一個小隊を運搬することを目的に設計されたエレベータであれば生身の人間12人くらい難なく積載できる。
分厚い鉄製扉から乗り込んだ一行は微かな振動と共に下へと降りてゆく。
「到着です」
やがて開いた自動昇降機の扉。
黒ずくめ男の声が静かに宣言する。
エレベータの向こう側は大きな部屋になっていた。
何も無い、がらんどうの部屋。
部屋の奥には格納庫のハッチを思わせる昇降式の鋼鉄扉があって、その向こう側から低い唸り声にも似た振動が伝わってくる。
中央付近まで押しやられた二人は、黒ずくめから少し待つように言われた。
「……これだけ要塞化されたんじゃ、生半可な攻撃は通用しないわね」
「水瀬ちゃん、気乗りしない様子だったのに今はやる気満々だね」
「そりゃあ、ラピッドを見せられた以上は、ナイツの端くれとしてはやる気にもなるでしょうよ」
「あ、そっか。ナイツって確か、ラピッド狩りもやってるんだっけ」
「そういうこと。といっても正規じゃないから本当はどちらでも構わないのよね。まあ、成り行き次第ってところかしら」
周囲の人々が二人から距離を開けて取り囲んでいる。
娘さん達は小声でお喋りしつつ、新たな登場人物を待っている。
「相手は全員ラピッドで武装した魔法使い。数は、建物の規模から考えて精鋭が200ってところかな。一般兵も含めて1000人くらいを見積もっておいた方が良さそうね」
「それって一個大隊並みじゃない。いくらなんでも多すぎない?」
「でもAsだってスタッフ全員の数を合わせればそれくらい居るでしょ? 同時期に組織された戦闘部隊なのだから均等に割り振られていたっておかしくはないわ」
「だけど、もしそうだったとして一人で500、やれそう?」
「う〜ん。ラピッドを運用する施設なだけに魔力防御も施しているだろうから壁抜きは難しいでしょうね。となると長期戦覚悟で虱潰ししていくしかなくなるけれど、それもたいがいしんどいのよねぇ」
「やろうと思えば出来るみたいな言い方だね」
「アンタはどうなのさ?」
「相手にもよるけどきっと大丈夫」
「そう。だったら問題は無いわね。仕掛けるタイミングには注意なさいよ」
「は〜い」

41 :
余裕綽々の二人だった。時折笑みを零す女性達の姿は、大勢に囲まれている状況の中では奇異な代物でしかない。
しかし、それすら自然と感じさせるほどに、二人は幾多の戦場に身を投じ、骸の山を乗り越えてきているのだ。
そして、そんな異様な空気を察知しているのか黒ずくめ達は遠巻きに固唾を飲む姿勢を崩さない。
しばし待たされて正面奥のゲートが重厚感に満ち溢れたがなり声と共に開かれた。
「ごきげんよう」
やって来たのは年の頃20代前半の、小柄な女性だった。
肩に掛かる長さのおかっぱ髪。服装はカーキ色のジャケット、その下に太ももが見える丈の黒いワンピース。足に革のロングブーツを履いている。
女は口元に笑みを浮かべ、しかしとても暗い目で七海さんを見据えている。
「あなたがAsの白い悪魔、柊川七海さんね?」
「ええ、そういう貴女は?」
「初めまして、私、蒼井聖と申します」
蒼井と名乗った女は含み笑いして見せた。
その独特な、蛇が獲物を狙うかのような雰囲気に七海の背筋が逆立つ。
どうにも生理的に受け付けないタイプの人種なのだろう。
「それでこんな山奥まで連れてきて、一体どんな用件かしら?」
七海が冷静な音色で尋ねると、女は首元を飾る黒いブローチを指で弄びながら答えた。
「私たちは近々、大規模な強襲作戦を行うつもりなの。それであなたにも協力してほしいのだけれど、どうかしら?」
七海さんは相手の言葉を吟味して、やや間を開けて答えた。
「そういう話なら政府側に話を通すのが筋ではなくて? 同じ政府直属と言っても組織としては別枠なのだし」
「そうもいかないの。だって、私たちが攻撃するのは国会議事堂なのだから」
「ああ、つまり、クーデターを起こそうっていう事ね?」
この時点で七海さんの表情は辟易していた。
かつて、クローン技術で戦士を大量生産して全世界に向けて宣戦布告した人々が居たし、そんな彼らの野望を打ち砕いたのは他ならぬ七海だったから。
彼女はポケットから銀色の石を取り出して、指で弄びつつ言葉を紡ぐ。
「参考までに聞いて置くけれど、断ったらどうなるのかしら?」
「もちろん今ここで死んで貰うわ。貴女の大切な恋人にも相応の代償を払って貰うし」
「彼もここに?」
「ええ、どうせ死ぬなら同じ墓穴に入った方が本望でしょ?」
「ご愁傷様」
「どういう意味かしら?」
怪訝な顔の女。反して七海さんはとても愉快そうに笑う。
「水瀬ちゃん。これで私たちの負担は3ぶんの1になったね」
「そうね。帰ってパスタを作る時間までできたわ」
「何を言っているのかしら、あなた達は」
すぐに分かるわ、それまでアナタが生きていられたらの話だけれど……。
それだけを言って、手の中のラピッドストーンを突き出して見せる。
「アレンデール、セットアップ」
【SET UP】
その傍で溜息混じりに菱形の青い石を取り出し、両手で包み込むと祈る仕草で呟く水瀬さん。
「エンジェライズ・リフレクション」
すると彼女たちの輪郭から白と黒、二つの色合いを含む光が放たれ、それぞれに衣服を分解・再構築する。
次の瞬間に同じ場所に立っていたのは、それまでとは違う存在だった。

42 :
「たまにはAMS無しの戦いってのも悪くないわね」
一人は白の闘士。
丈の短い白マント、結わえるのは真っ赤なリボン。
銀色の髪。金属製の靴は白く。長いのと短いの、二種類を組み合わせた複合スカート。
右腕に装着されているのは黄金色の竜頭手っ甲で、竜の顔には白い縁取りがあった。
「それじゃあ、ちゃっちゃと片付けますか」
また、もう一人は黒の騎士。
細い体を包み込む漆黒のマントと同色衣。長い髪はツインテールに結い上げられ、金色に染まっている。
胸元には紺碧色の宝石が装飾金具にはめ込まれる格好で静かに光を放ち。
手には狂おしく身をよじるように捻れた黄金の弓が握られている。
二人は居並んで周囲の黒ずくめ達を見る。
男達は懐からラピッドを取り出して各々に攻撃態勢を整えている。
また、開きっぱなしのゲートからステルス塗装されたAMSが30体、大型火器で武装した歩兵が100人ほど、駆け足でやって来ると女二人を取り囲んだ。
「まだ返事をして貰っていないのだけれど、変身したと言う事は話を断ったと考えて良いのかしら?」
「ええ、大勢で押し包んで力づくで言う事聞かせようっていうその根性が気に入らないわ。話の内容が何であったとしても答えは同じよ」
「せっかく死ななくて済むチャンスをあげたというのに、本当にお馬鹿な子」
「残念だけれど、あんたは根本的なところで思い違いをしているわね」
「どういうことかしら?」
「こういうことよ!」
叫ぶのと同時に白い輪郭が掻き消える。
七海は地面スレスレの跳躍で手近な集団に向けて突っ込むと、そこにいた人間達の首関節をことごとく捻り折る。
ものの十数秒で20以上の骸が、突っ立っている七海の足下に転がった。
「周りが全員敵だと敵味方を区別する手間が省けて楽だわ」
「くっ……!」
女が顔を歪めて舌打ちする。
だが別の方から上がった言葉で我に返った。
「こういう建物の中での銃の使用は自分の首を絞めるだけだって、どうして気付かないのかしら?」
意識が白ヒロインに向いていて、もう一人には全く注意を払っていなかった。
その隙に水瀬は弓に付いていた金具をせっせと外し、必殺技を放つ体勢を整えていたのだ。
金具の取り払われた黄金弓は左右に割れてXの形へと変形する。
そこに光の糸が出現して、指を掛けて引けば巨大な光の矢が出現した。
【FULL CHARGE】
『駆けろ! スプラッシュ・トレイサー!!』
放たれた矢はそこからさらに変形して光の隼へと姿を変えた。
翼を広げた塊は敵集団に直撃する手前で急に旋回して、隊列を真横から急襲する格好で薙ぎ払う。
この攻撃でフロアにいた兵の7割が、AMSやラピッド石の有無に関係無く胴体を引き裂かれて絶命した。
隼は最後に蒼井聖に迫ったが、激突する寸前で彼女が腕を振り抜くと爆発、光は飛散する。
「……やってくれるじゃない」
憎々しげに絞り出された言葉が僅かに反響する。
けれど、その声に反応できる人間は居なかった。
他の誰も彼もが、常識を覆す光景に息を飲むしか知らなかった。
それ以外の人間、つまりは攻撃を行った当人達はそれがごく当然の結果だと言わんばかりの顔で、まだ居残っている敵を見渡す。
「七海、早く片付けたいから二段階目に移ろうと思うのだけれど、アンタはどうする?」
「うん、いいね、そうしよう!」

43 :
弓をコンクリート床に突き立てた水瀬。
彼女はマントの内側から茶色い帯――空手や柔道の胴着に使われているような帯を取り出すと腰を捻る勢いだけで身に付ける。
「リフレクション・ツヴァイ!」
【UP DATE】
やたらと巻き舌な合成音を響かせつつ、いわゆる二段階変身というものが始まった。
背中と肩口をすっぽり覆っていた黒マントが、まるで花開くように二つ対の翼になった。
肩に少しばかり大きめの装甲が出現し、腕には漆黒色のガントレットが生えだしてくる。
またツインテールに結っていた紐が、ブラウン色のリボンに換装された。
そして手には上端と下端にブレードの付いた、接近戦でも凶悪な殺傷能力を発揮しそうな黄金の弓。
神々しさを放ちつつ、黒双翼の天使がそこに居た。
一方の七海は竜頭型手っ甲の上蓋をスライドさせると、そこへ一見して単三乾電池を思わせる物質を挿入。
「カシャコンッ」なんて音と共に蓋を閉めると竜の目に光が灯る。
「もういっこ、変身!」
【COMPLETE】
黄金色の手っ甲が啼いた。
白マントが失われて、引き替えに卵形の塊が背に二つ現れた。
塊は機械的な駆動音を唸らせつつ変形、それぞれ真っ白な光の翼を吐き出す。
マントの無くなった肩口には小さなショルダーパッド。
これが彼女の二段階変身。白い悪魔と恐れられる七海さんの本気の姿。
水瀬さんと七海さん。歴戦の変身ヒロイン二人は一瞬だけ目と目を合わせると、綺麗にハモるタイミングで口を開いた。
「「オーバークロック!!」」
【【Over Clocking!】】
同じタイミングで言ったものだから追随する合成音まで見事にマッチして、それがちょっと面白かったけれど。
ともかく白と黒、二つの輪郭が瞬間的に残像となってフロアいっぱいを駆け巡る。
二人が立ち止まった次の瞬間に、部屋で銃を構えていたはずの兵隊達がバタバタと倒れ込み、残されたのは女だけ。
蒼井聖は二人を睨み付けると「化け物め……」なんて呟くばかり。
死屍累々の中で、しかし女は気を取り直したように含み笑いするとそれぞれに距離を置く二人に言葉を投げかける。
「おかげで貴重な戦力が随分と減らされてしまったわ。一体どうしてくれるのかしら?」
「アンタが居なくなれば全て解決すると思うのだけど」
「ふふっ。そう、私と戦おうと言うのね。面白いわ、素敵なアイデアよ。けれど、上手くいくかしら?」
いちいち鼻につく仕草で胸元の黒い宝石を握り締めた女は、思い切りよく引きちぎってかざして見せた。
女の輪郭からどす黒い光が揺らめき立つ。
「サタナイズ・リフレクション……!」
その刹那、床と天井が真逆になった。
部屋の四方を囲む壁が剥がれ落ちて、その先に気色悪い紫色の空間が広がる。
それまで立っていた輪郭が闇に溶けて、次に巨大な爪が向こう側から闇を引き裂く。
出現した蒼井聖は真っ黒な衣装とオレンジ色の光を放つ金属爪に身を包んでいた。その目が赤く、怒りと憎しみの光を放っていた。
七海は、水瀬も、それを恐ろしい代物だと思った。

44 :
「最初はね、私だって女神に祈りを捧げていたの。けれどアイツは女神なんかじゃあなかったの。
  祈りも願いも、何一つ叶えもしないクセに殺せ殺せと囁きかける。だからね、私は祈りも願いも捨てたの」
「そう、堕天使ってワケね」
水瀬が無表情に弓を引き、光の矢をつがえる。
七海の光の翼が一際大きくはためく。
「悪魔に魂を売ったって? それがどうかしたの?」
光の翼が真っ直ぐに伸びて、その身体を前へと押し上げる。
光の矢が無数に増殖して塊へと形を変えてゆく。
そして二人は攻撃態勢に入った。
『撃ち抜け! シューティング・スター・スプラッシュ!!』
『真・アルティメット・ブレイカー!!』
無数の矢がレーザービームのように黒い輪郭へと放たれた。
光の拳が、身体ごと敵めがけて突っ込んだ。
――しかし。
ゴファッ!!
彼女らの中で爆炎が弾けた。
放たれた矢も拳も、手応えも感じさせないままに闇の中へと吸い込まれて、今度は同じだけの衝撃が跳ね返ってくるのだ。
七海が遥か頭上まで吹っ飛ばされて盛大に墜落した。水瀬が体中から血を吹いて床に崩れ落ちた。
「くぅ……、痛いじゃないの」
「本気でマズいかも」
呻きながら、それでもどうにか身を起こす二人。
そんな白黒天使に、堕天使は薄気味悪い笑みを投げかける。
「痛いでしょ? もっと痛くしてあげる。だから、素敵な声で鳴いてちょうだい!」
愉しげに述べてから、お返しだと言わんばかりに爪の付いた腕を振るう。
すると気色悪い背景の向こうから無数のどす黒い塊が飛んできて二人に襲い掛かる。
容赦なく降り注ぐ塊を体一杯に浴びて、悲鳴すら上げられない。
二人はそれぞれに床に這いつくばって、起き上がろうと藻掻いて、黒い塊に打ち付けられてまた倒れるという動作を繰り返す。
やがて疲れたのか、相手は一旦攻撃のを止めて一息吐いた。
「あらあら、地べたを這いつくばって、まるで憐れなウジ虫ね」
いちいち癇に障るぬめり気のある声が、白い悪魔の闘争心に火を付ける。
黒い天使に至っては、頭の血管が「プチン」と音を立てている。
二人はボロボロになりながら、自身から流れ出た血溜まりの中でさえ、どうにか手を付き立ち上がる。
仲間の顔を見て互いにニッと笑んでみせる。
「あたし、全力全開でアイツをぶちのめそうって決めたのだけれど、水瀬ちゃんはどうする?」
「同感ね。こういうのは普通に殺したくらいじゃ死なないだろうし、存在そのものを消し去ってやるわ」

45 :
弓を投げ捨てた黒。
今にも崩れ落ちそうな身体を力ずくで踏ん張って、手を真上にかざした白。
二つの輪郭がそれぞれに金と銀、二種類の光を帯び始めた。
【INFINITY FORM】
黒い衣装が金色へと染まってゆく。
黄金の翼が三対、その背に広がっていた。
肩にあった装甲が割れてスカートよろしく腰に巻き付く。
ツインテールの髪が解けてストレートになった。
それが水瀬の最終形態。神すらR破壊者の姿だった。
また一方で、かざした手はどこからか降ってきた巨大な剣を掴んでいた。
剣は見た目ほど重くないのか、持ち主は二度三度と振ってみせる。
すると大型器物の輪郭が緑色の筋を描き出し、やがては同調して銀色に染まってゆく。
【A.M.FIELD ― START UP】
【S.L.I.Count 10 second. Ready――】
巨大な剣を肩に担いで、膝が床に付きそうなまでに腰を落とす銀色の闘士。
合成音の【Go!】という声と同時に彼女は飛び出した。
「これがあたしの、全力全開、だぁっ!!」
みるみる迫る敵影に、渾身のハイキック&ローキック、流れる動作で回し蹴り。さらに上体を捻って浴びせ蹴りへと移行する。
超超高速、いやそれすら生ぬるい神速のコンビネーションだった。
しかし相手は倒れない。腕に装着した金属爪で攻撃をいなし、かわし、防いだかと思えば反撃に突いてくる。斬りつけてくる。
だが七海にとってそれらの攻撃はその全てが囮であり、本命は次の一手にあった。
「いっくぞぉぉぉ!!」
攻撃をかいくぐって懐に入る。
手を伸ばせば届く場所。これが七海さんの射程圏。
左手に持つ巨大な鉄塊は盾でしかなかった。逆手に持っていたのは右手の攻撃を見せないよう壁とするため。
右手の中には火花を散らす天使の輪っか、二つ。
改良を重ね、幾多の戦いの中で編み出した最強の必殺技。
「アルティメット・ブレイカーァァァァ!!」
真と付かないのは、こちらの方が歴史が長いから。
あの頃はまだ輪っか一つしか作れなかったけれど、今は違う。
それに至るまでのコンビネーションも、技そのものだって、無数の修羅場とたゆまぬ修練によって磨きをかけた。
今や、誰にも負ける気がしない。
それがたとえ、神だの仏だのが相手だったとしても。
ドカンッ!!
突き出された掌。
相手に密着した状態から放たれるのは修羅の技。
それぞれ逆向きに高速回転する二つの天使の輪っかが、同時に爆発し、恐るべき破壊力を敵の土手っ腹へと伝達する。
「あがっ……!!!」
女の胴体に風穴が開いて、ねじ切られるように上半身と下半身が別々の方向へと飛んでゆく。
解放された破壊力は敵の体を粉砕するだけでは飽きたらず、飛び散った肉片さえもさらに細かく砕いていく。
七海は背後に仲間の気配を感じて思い切りよく飛び退いた。

46 :
「水瀬ちゃん!!」
十分に距離を開けて仰ぎ見た先には、三対の黄金の翼を広げた天使がすでに攻撃準備を整えていた。
彼女は翼の力なのか宙に浮いていて、じっと攻撃目標を見据えている。
神々しいまでの光をその全身から放ちつつ、彼女は静かに息を吸う。
【Hyper Clocking】
合成音が宣言した刹那、宙を舞っていた敵の胴体が静止する。
何百枚もの魔方陣が、天使とその標的の間に割り込む格好で差し込まれた。
【OVER CHARGE】
「貴女に永久の安らぎを。ディナイアル・インフィニティ ――いきます!!」
回転する方陣を突き破って躍り出た天使は、途中から跳び蹴りの姿勢になった。
背にあった翼が爆発して、急加速。距離の半ばからは凄まじい速度と勢いで突っ込んでいた。
バクンッ。
空中に縫い付けられていた女の上下半身、それぞれに激突して遥か後方に着地したシルエット。
余韻に浸りつつ顧みれば、肉片と化した敵の体が今度はさらに塵へと還ってゆくのが見える。
無限の回数を否定された存在は、いかに強大であったとしても、もはや終焉の刻を迎えるしか手立てが無いのだ。
こうして二人の戦いは終わりを告げた。
+++
この後の事を言えば、拉致監禁されていた七海さんの婚約者が自力で牢から脱出、押し寄せる兵団を根こそぎ薙ぎ倒して二人の元へと駆け付け三人揃って要塞から脱出したわけですが。
ボロボロになっちゃった二人を前に彼は終始呆れ顔だったり。
山道をテクテク歩いて麓の町まで返って、携帯電話で本部に連絡して、迎えがやって来る頃にはすでに翌日の明け方になっていて、思ったより時間が過ぎていた事を知った二人が夕食を食べ損ねたと手近にあった看板やらガードレールに八つ当たり。
器物損壊の罪で御用になって、その流れであとで局長からこっぴどく叱られてしまったり、膨大な始末書を書かなきゃいけなくなったりと、そりゃあもう踏んだり蹴ったりの翌日を過ごす事になる。
しかもこの後、体のあちらこちらを骨折している事が発覚して緊急入院、近々行われるという大規模な作戦に参加できそうもなくて。
結果、病室のベッドの上で二人揃って陰鬱な面持ちを晒す事になるのです。
「七海さんも、自分一人だけの体じゃあないんですから、あんまり無茶しないで下さいね」
お見舞いにやってきたマリィちゃんから呆れ顔で告げられても、「誤解を招く言い方はやめて」と泣きそうな声で返すしか能がありません。
同じように体のあちこちにギブスをはめ込まれている水瀬さんとしては、ここでも苦笑するばかりです。
それはそうと、降伏してAs側からの介入を許した要塞の人々は、オルトロス内にあった研究資料も含めてAsに接収される事になった。
それは政府の判断であり、佐渡島決戦を目前に戦力を一本化しようとする目論見もあったのだろう。
要塞内の別のフロアには液体に漬け込まれた誰かの脳みそが無数にあったが、それも押収されて場所を移している。
その中に最重要機密文書なんて判子の押された書類もあったのだけれど、局の人間は大した吟味もしないまま指示通り開発局に送ってしまった。
『MKCデバイスの研究開発と運用に関する概要』。そのように題された書類。
書類には一枚の写真が添付されており、そこに弥生美香子の姿が写し出されていたのだが、そのことに気付いた人間は居なかった。
おわり

47 :
18話を投下しました。
スレタイに限りなく近い内容ですが、今回だけです。すみません。(話数が余ればまたやりたいですけれど…)
残り話数が徐々に減ってきておりますが、リアルとの兼ね合いもあってあと4ヶ月で終了できれば良いところかと思われます。

48 :
>>47
投下お疲れ様

49 :
保守

50 :
誰もいない

51 :
保守

52 :
テスト

53 :
第19話 「部隊編成」
如月邸の地下施設は連日てんてこ舞いの大忙しだった。
佐渡島ネスト攻撃作戦への参加を打診した源八爺さんは保有する資産のほとんどを投げ打って、武器弾薬の調達やらAMSの開発に勤しんでいる。
おかげで騙し騙しで使っていた、いつぶっ壊れてもおかしくない冬矢君の機体は新品同様、というか中の部品をごっそり入れ替えたから別機種になっちゃっているし、アローヘッドの人々だって全員がAMS持ちになっている。
傭兵部隊の人達は、老人救出の後、同じクライアントに雇われ直していた。
任務は孫娘であり如月家の次期頭首でもある雫ちゃんの護衛とかいう名目。
けれど肝心の娘さんが温室育ちのお嬢様どころか戦場ともなれば所構わず突っ走る完全武装の特攻野郎なので、必然的に傭兵達は彼女の後をついてまわる部下同然の扱いになってしまうのです。
そんなワケで再編成された民間の私設軍隊。
部隊名称は当初、「雫ちゃんと愉快な仲間達」なんて考え無しの代物だったけれど、参謀役に納まっている冬矢君と、戦場ではツートップを張る事になる水無月さんとが猛抗議、結局『ティエラ』なんて名前になった。
経緯をかいつまめば。
最初、主要メンバーの名字が偶然なのか暦に対応していて、なのでCalender eraから取ってエーラとしようとしたのだけれど、チーム・エーラと表記する際にTERAとなってしまい、
これを誤読したのが始まりで、だったらスペイン語で地球を意味する『Tierra』にしちゃえということで話が落ち着いたワケなのです。
で、ティエラの面々はもうじき自衛隊駐屯地に集結しつつある攻撃部隊と合流する予定なので、それまでにチームとして機能できるよう戦闘訓練に明け暮れる日々だったりします。
新しくAMS乗りとなった人達にも慣れてもらわないといけないし。
まあ、そんなわけで。如月邸の地下施設では本日も仮想の的を使っての予行演習が執り行われていました。
『前に出すぎるな雫!!』
『んなこと言われたって〜!!』
『まったくこれだから素人は!!』
『なによ、文句あんの?!』
『け、ケンカはダメですよ〜!!』
『いや、どうでもいいけどフォーメーションを崩さないでくれねえか。フォローしきれなくなる』
十人十色の声が司令室のスピーカーから漏れだしている。
源八爺さんをはじめとする司令室の方々も終始苦笑を禁じ得ない。
トレーニングルームの様相を写し出しているモニタの隅っこには的の撃破数が表示されているのだけれど、結果は散々で、単独の方がよっぽど良いんじゃあないかってな出来だ。
だからといって本番で単独行動を許すわけにはいかない手前、どうしてもチームプレイに慣れて貰う必要があった。
まあ、道のりは果てしなく遠そうなのだけれども。


54 :
彼らが練習している陣形は雫と水無月千歳を先頭に置いた攻撃的なフォーメーションだった。
中盤には卯月冬矢とキースを中央に置いてその両脇を二名づつで固め、後ろに狙撃手とその護衛を配置する。
後ろの人々は前方への支援攻撃を役どころとする事から積載容量いっぱいまで長距離砲とその弾薬を搭載しなければならなくて、ゆえに機動力は極端に落ちる。だから前衛の二人は後続と一定の距離を保たなければいけないのだけど、これがまた難しいのです。
『でもさ、本番の相手は無茶苦茶数が多いんでしょ? 私たち前に出られるの?』
『出来なくてもやってもらうさ。敵の巣で立ち止まれば全滅の危険性が高まる。
  それに、弾薬は最初から足りていないのだから全てを相手にする必要もない。ついでに言ってしまうと弾薬を消費すれば機体重量は軽くなる。
  奥に行くほどチーム全体の機動性は上がっていくんだ』
弾薬の切れた大型火器はその場に捨ててゆく算段だった。といっても補給を受けられる可能性もあるから軽量なライフル銃は所持しておく。
だから狙撃手は弾が切れた次の瞬間から中盤まで上がらなければいけない。
まあ、最初から最後までトンファーやら刀やらを振り回す女性二人には関係のない話なのだけれど。それでもチームとしての動きを把握しておかないとお話にならないわけで。
取りこぼした敵に関しては後続の部隊が潰してくれるのを期待するしか手立てが無い。
というか、それができないならこの攻撃作戦そのものが失敗に終わる公算が高い。
まだ実感が湧かないけれど、総力戦ともなればそこかしこで敵と味方が入り乱れていて、そんな中に自分達もいかなきゃいけないなんて不条理極まりない出来事が、決定事項として未来に起こるのですよ。
『俺達としてもなるべくペースを合わせるが、運動性も機動力も段違いに劣っている以上どうしたって限界はある。その辺りの事も察してくれ』
『……ごめん、わかった』
冬矢君は周囲の面々にも細々とした指示を与えつつ、全体の動きを調整してゆく。
訓練が終われば技術スタッフに出てきてもらってさらに各々の役割に適した機体調整に掛かってもらわなければいけない。
戦争は兵隊だけが行うものではないのです。
「しかしあの青年。一億円を出すだけの価値はあったようじゃな」
「ええ、まったくです」
司令室でニヤリとするジジイと相づちを打つ御神楽副司令。
シリアスな顔で久しぶりにと節子さんのお尻を撫で回そうとするご老体は次の瞬間に渾身の肘を脳天に貰っちゃったけれど。
それでも孫娘には、どうやら男を見る目があったらしいと笑みを零してしまう。
おかげで訓練中もアレコレ指示を出さなくて済んでいて、それは実戦においては大きなアドバンテージになっていた。
なぜなら、入手した情報では獣魔の巣には無線の電波を遮断する性質をもつ液体が塗布されているらしいから。
『よし、訓練はこの辺で切り上げよう。これ以上は効率が悪い』
やがて、時刻を確認しつつの冬矢君が声を張り上げた。
一様に漏れ出るのは安堵の息。とはいえ訓練の次はAMSについての勉強をしなければならない。
雫ちゃんはもとより元傭兵の方々もAMSについては素人に毛が生えた程度にしか知らなくて、だけどそれじゃあ作戦行動中に自機が故障なんてしちゃったら取り返しのつかない事態に陥ってしまう。そうならないための勉強なのです。

55 :
『各自、一時間の休憩とする。解散!』
いつの間にか隊長っぽい雰囲気を漂わせている冬矢君。
お嬢様としてはそれが不満ではあったけれど、だったら自分にそれと同じ事が出来るのかと問われれば言葉に詰まってしまうし、それに毅然とした彼の物腰を見るのは決して嫌じゃあない。
っていうか、ちょっと格好良いと思ってしまう雫ちゃんなのです。
休憩の間に備え付けのシャワーで汗を流して、元々は会議室として使われていた部屋を訪れた雫は、すでに折りたたみ机の上で教科書を広げている水無月さんと鉢合わせしてしまう。
目元の吊り上がったチームメイトは一瞥くれただけで再び視線を本へと戻した。
「あんたって、勉強好きなの?」
「うるさい、黙れ」
「なによ。ヒトがせっかく声かけてあげてんのに」
「……その口を閉じろ。Rぞ」
「これだから戦闘狂は。黙っていればけっこう良いセンいってるのにね」
別に仲良くなりたいわけじゃあない。
単に卯月先生様の講義が始まるまで時間が余っていて、持て余した暇を何かで潰したいと、そう思っただけなのだ。
三番目にやってきたキース君は心底疲れ切った顔をしていて、それがどちらかといえば気苦労から来ているものと察した雫としては声を掛けづらくて。
だからといって次に訪れた狙撃手、つまりはマリアちゃんは小動物よろしくいつもオドオドとしていて愛想を振りまく事すら申し訳なく思えてくる。
一番イキの良い水無月はこんなだし、溜まったストレスを発散する手段が無くて溜息など吐いてしまうお嬢様だったりします。
そうこうしてAMS自作マニアが転じて先生になってしまった冬矢君がやって来て、チーム・ティエラの面々は雁首揃えて彼の授業を受ける事になる。
内容はといえばうろ覚えではあったけれど、最近になってAMS専用の銃が開発されたらしくて、人間が扱う物より口径が大きくなる事に加えてAMS本体とリンクさせる事で自動照準にできたり、逆に手動へと戻したりが出来るって事とか。
今のところ国内で使用されている標準的なバッテリーでは2時間程度の稼働が限界で、軍用の強化仕様で3時間。劣化の激しい物なら30分と保たないから予備の電池は絶対に携行してなきゃいけないだとか。
特に激しい運動が続く前衛ともなれば常に電力残量を気にしてないとダメだとか。
それから雫の機体には無いけれど、アルティザンの後継機であるRH4850シリーズ(傭兵の方々に支給されたのはそういった機体らしい)には標準で簡易的な修理キットが搭載されていて、その使い方もいちいち説明してくれた。
「アルティザン、――ヨンパチの元になっているAMSは多機能に重きを置いた機体だったが、それはあくまで前衛機のバックアップを目的として作られていたからだ。
  とはいえアレもコレもと機能を付けたが故に中途半端でよっぽど適性のある人間にしか扱えない機体になってしまった。
  装甲に厚みを持たせたもののそれが逆に機動力を落とす結果になったしな。
  ま、ようするに器用貧乏は使い物にならないって事だ。
  そこで後継機、つまり君らが支給された4850シリーズ、ヨンパチではシステム周りをシェイプアップしてどういった状況でも高いレベルで実力を発揮できる汎用機とした。
  とはいえそれだけでは集団戦で突出した戦闘力を期待できなくなってしまうから4パターンの仕様を設定して役割分担できるようにしている。
  まず標準的な内部機関と武装、つまりノーマル状態のタイプM。
  次に追加装甲とモーターの換装で近接格闘戦に特化させたタイプF。
  それからレーダーを積み替えて、同時にミサイルや長距離砲を搭載した狙撃型のタイプS。
  カリカリに仕上げたタイプHGというのもあるが、まあ、それは燃費が三倍、稼働可能時間は10ぶんの1とかいう非効率な代物だし
  何より中身の方が性能についていけないから深く考えなくて良い。
  ヨンパチの説明はそんなところだ」
「質問です」
「む、なんだ水無月?」
「そのヨンパチ、ですが、もっとこう、分かりやすい固有名詞のようなものは無いのですか?」
冬矢君の前だと丁寧でしおらしい声色になってしまう千歳さん。
あからさまに、誰の目から見ても彼を慕っているのが分かる。
この部屋でそれが分からないのは当の本人くらいなものだろう。
「特にコレと言った名前はない。開発者である如月総司令が嫌っていてな。あえて名前を付けなかったらしい。
  ヨンパチというのは開発スタッフが勝手にそう呼んでいるだけだ。まあ、名前など、どうでも良い事なのだが」

56 :
アルティザンは美香子ちゃんの機体で実機は今現在も鉄くずのまんま倉庫で眠っている。
雫は友人を侮辱されたような気がしてムカついたけれど、彼の言い分は確かに的を射ているから反論しない。
アルティザンはその中途半端さのために実力を発揮する事もなく蜂の巣にされたのだ。
少女のやり場のない怒りに勘づいたのか、冬矢君は話題を変えて講義を続けた。
「今回編成されたティエラは雫の機体、つまり最前衛を突っ走るシューティングスターを援護する事を第一目的としたチームだ。
  そのために千歳のタイプFは常に彼女の横について、その左側を守備しなければならない。
  また中盤の俺とキースはその援護。マリアの狙撃は後続を叩く事で前衛を休ませる意味合いを持つ。
  故に中盤の兵士はなるべく激しい動作を控えてバッテリーを温存することになる。前衛を燃料の面でもサポートしなければならない。
  もちろんそうなれば前衛への負担は重くなるが、後衛の長距離砲で凌ぐしか手はない。
  ……作戦としてはそんなところだ。今やっている訓練も、最終的にチームとして機能する事を目的としているわけだしな」
機械の扱いについての話が終われば今度は部隊のフォーメーションについて語る冬矢君。
彼らの部隊名は『ティエラ』だが他部隊と遣り取りする際には『ティエラ00』と呼称し、その隊員については雫であれば『ティエラ01』と呼び習わす事になる。
また『CP』はコマンドポストの事で、つまり各部隊に命令を送っている場所を指しているし。
小隊が集まって中隊。中隊が集まれば大隊。異なる職種の大隊を集めて一連の作戦行動を完結できる規模になれば師団。
複数個の師団を集めて特定地域に戦線を張れる規模になれば旅団とする事とか。
AMS部隊の事は日本では重装歩兵部隊と呼ばれていて、つまりは歩兵の延長的な解釈が行われているけれど欧州などでは人型の戦車として認識されている都合から戦車部隊に属していたりと国によって扱いが違っている事とか。
そんなしょ〜もないウンチクが延々と垂れ流される講義ってどうよ?と思わずにはいられない。
というか軍隊用語が恐ろしく難解だということだけは雫ちゃんにも理解出来た。
「よし、講義はこれで終了とする」
後半は興味を失って夢うつつの雫ちゃんを叩き起こす事にいいかげんウンザリしたのか、冬矢君は渋い顔でそう告げると部屋を去ってゆく。
地下なので陽の傾きが分からないし空調のおかげで外の熱気さえ感じられないけれど、時計を見るに午後の6時を過ぎていた。
+++
訓練を終えた後。
卯月冬矢は帰宅するまでに自機の調整を終えておこうと格納庫に向かっていた。
彼の機体、神威MkWは前々回の戦闘で破損したバージョン3に今度は如月製のパーツを組み込んだ代物で、開発スタッフの話では換装した部品は現時点での最高モデルなのでこれ以上の性能アップは望めないとのことだった。
もちろん如月グループの中には鉄工屋もあればバイクや自動車の製造部門もあるわけだし、そこで最高級と言うのなら少なくとも国内でこれ以上の部品は存在しない事になる。
そして精密機械の分野に関してはこの国のこの企業は世界随一の技術とノウハウを保持しているのだ。
つまり改装を繰り返した彼の機体はこれが最終形態ということ。
もし次にAMSが必要となったときには新規に一から作り直さなければいけないだろう。
そんなことを考えながら廊下を進み、分厚い鋼鉄製の自動扉にIDカードを差し込めば格納庫の全容が眼前に広がった。
「やあ卯月さん、今日も調整かい? 精が出るねえ」
「ああ。こればっかりは俺じゃないと出来ないからな」
フロアに入った冬矢君に声を掛けたのは60歳くらいで白髪も混じっているというのに筋骨隆々の男。
整備・技術班の中では「おやっさん」と呼ばれている人だ。
彼の周囲では若い、といっても全員40代なのだけれど工員達が慌ただしく作業している。
冬矢君は如月家に属しているわけでもなければ整備班に身を置いているわけでもないのでおやっさんとは対等の立場で物を言っている。

57 :
「ボサッとすんじゃねえ、さっさと終わらせやがれ!!」
「へ〜い!」
まあ、雫お嬢様が現実逃避にやって来たときには余程の事が無い限りは全員作業の手を止めて退室しちゃうのだけれども。
本来はそんな怒声が日常的に飛び交う場所なのです。
「では、俺は勝手にやってるから用があったら声を掛けてくれ」
「ああ、気の済むようにやってくれ!!」
軽く頭を下げておやっさんとすれ違う。
冬矢君は過去の経緯もあって全員から一目置かれていた。
自作AMSで完全オーダーメイドの機体と互角以上の戦いを繰り広げていたのだから当然と言えばその通りなのだろう。
家から持ってきた自前の工具をデッキの底から引っ張り出して機体の前に腰を下ろす。
真っ先に準備するのはB5サイズのノートパソコンで、冬矢は慣れた手つきで機体に接続していく。
各部のモーターも、バッテリーも、油圧シリンダ各種も、物質的な整備は完全に終えていてあとはソフト面での微調整だけだった。
駆動時の微妙な電圧変更やら通常モニタから赤外線暗視装置に切り替える際のタイミングだとか、そういった細々とした仕様変更が後々に戦局を左右するものなのだ。
青年は過去に何度も行ってきた作業を行い、手際よく仕事をこなしてゆく。
いつの間にか背後に忍び寄っていた影に気付いて肩越しに仰ぎ見ると、そこには色を失いつつある顎ヒゲを指で撫でるおやっさんの姿。
「随分と繊細な設定してるんだなあ。そのOSは自前かい?」
「ああ。日本製のOSは貧弱だし、かといって欧州や米国のは大雑把すぎる。柔軟さと緻密さの求められる局面では役に立たない。だから自分専用に作った」
「そのOS、ウチにも欲しいな」
「機体を選ぶ代物だぞ」
「構わんよ。ベースがありゃあ改変はいくらでもできるってもんさ」
「だったらついでに神威の後継機でも作ってもらうとしようか」
「おう、任せな!!」
この遣り取りがのちにMKVと呼ばれる次世代型新鋭機開発の発端になるのだけれど、それはさておき。
技術畑の男は笑顔で離れていった。
それから幾ばくかの間、青年はノートPCを前に悪戦苦闘。
どうにか作業を終えて大きく息を吐けば、周囲にあった喧噪がぱたりと止んでいる事に気付く。
ふと腕時計に目を送れば、針は頂上を指している。
作業員はすでに一日の行程を終えて就寝しているのだ。
これが一般企業ならどれほどの残業代が見込めるのか。いや、この不景気なご時世ならサビ残として処理されるだけだろうな。
なんて考えながら工具を元あった場所に仕舞い込み立ち上がる冬矢。
さて帰ろうと振り返ると、開きっぱなしの扉の向こうから小さな輪郭がやって来るのを見つけた。
「……マリア?」

58 :
珍しい顔だった。
キースの話ではいつもオドオドしていて、けれど本当はとても人懐っこいという子猫のような少女。
彼女は何か思い詰めた表情で冬矢の元まで近づいてくる。
「どうかしたのか?」
「あの。……私を部隊から外して貰えませんか?」
唐突で突飛すぎる申し出だった。
いや、確かにここ最近の彼女は狙撃の命中精度も落ちてきて調子が悪いように見受けられる。
しかしチームの中にあって協調性に欠けているワケでもなければ問題を起こす事もない。現時点では部隊から外す事など考えられない人材だ。
「理由を聞こうか」
溜息を吐いて一歩進み出ると少女は無意識なのか同じ距離だけ後退る。
マリアはよく見れば手に何枚かを束ねた書類を持っていて、それをおずおずと冬矢に差し出した。
受け取って目を通せば、そこに少なくとも一度は見た事のある名前がご丁寧にも写真添付で描き出されていた。
「クレール=J=サツキ……?」
「生き別れの姉です」
目を伏せてぽつりと告げる少女。
クレールと言えば元米国軍の出身で、黄色い機体A−GMA3『グラディウス』と共に日本へとやって来た女だ。
市街地での戦闘の後、行方が分からなくなったかと思えば今度は暗殺部隊の先兵として如月地下施設を襲撃。雫との戦闘の際に死亡している。
「どこでこの書類を?」
「前の出撃で……」
「ああ、ヘルハウンドの駐留所か」
ヘルハウンドは政府直属の暗殺専門部隊オルトロスの直下にある実験部隊で、脳に何か仕込まれていたり洗脳されていたりでとても真っ当な兵隊とは呼べない代物だった。
感情が無く、痛みを感じない、魔法という特殊能力を使う兵士。クレールはそんなモノに改造された挙げ句、無残に殺されたのだ。
「それで、なぜ俺にその話をした?」
書類にはクレールが改造手術を受けた事と洗脳が施された事。試験運用での成績。そして如月邸の地下施設への強襲作戦に参加した結果、戦死したことが記されている。
A4サイズ5枚に綴られた少女の記録。そんな数奇な運命に翻弄され命を落とした人間の、生き別れの妹は何を思う?
冬矢が目を上げると、自分を真っ直ぐに見つめる瞳とかち合った。
「監視カメラの映像、残ってますよね? ……全部、見せて下さい」
自分の姉の最期を見届けたいのだろう。
そして姉を殺した人物が、姉をどのように殺害したのかを瞼の裏に焼き付けたいのだろう。
部隊の司令塔としてはその願いは絶対に聞き届けてはいけない。そんなことは分かっている。
けれど、年端もゆかないこの少女には、どれだけ重すぎる現実であったとしても知る権利と受け入れる義務がある。
金で雇われた戦士である前に、一人の人間としてそう思った。
「いいだろう。話は通しておく。気の済むまで見ると良い」
「有り難う御座います」
「ただし、その結果としてもしも君が復讐心に駆られたならば、俺は迷うことなく危険分子を排除する行動に出るだろう。それだけは忘れるな」
「……はい」
彼女の姉を殺害したのは雫お嬢様だった。
それも生身の少女に対してAMSで攻撃するなどといった凄惨極まりない殺害方法だ。
けれど、それでも雫は彼にとっての雇い主で、守るべき主なのだ。
先に仕掛けてきたのはあちらで、しかも武装していない家の者まで虐殺されているのだから正当性だってこちら側にある。
しかし、感情は理性に勝る事も知っている。唯一の肉親が酷い殺され方をすれば、その人物がどれほど残忍な所行に走っていようとも一方的な被害者と見なしたくなるのも道理。
ならば。この小さな少女に報復の兆しが見られれば、冬矢は即座に彼女を殺さなければならない。
狙撃手という性質上、土壇場で引き金を引かれたらその時点で全てが終わってしまうのだ。
一礼して踵を返したマリアの小さな背中を見送りながら、青年は平穏のままに解決して欲しいと願った。
+++

59 :
それから数日は平和だった。
訓練して、AMSの勉強をして、他の時間はそれぞれ好きなように過ごす。
佐渡島作戦を目前に如月軍団の移動準備は着々と進んでいて、これまでに掻き集めた武器弾薬は10トントラック5台に満載だし、AMSを整備するための機材だっていつでも搬出できるまでになっている。
戦争は兵隊だけが行うものではない。なので整備班も商売道具一式共々現地に赴くわけだし、仮設のテントや水、食料だってある程度は持っていく手はずなのです。
世間ではエコがどうとか計画停電がどうだとかで盛り上がっている、そんな夏の日の夜。
雫ちゃんは一人、地下のトレーニングルームでサンドバックを叩いていた。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
息は荒く、汗は滝のように流れ落ちている。
それは練習と言っても訓練的なものではなく、普段から溜め込んでいるストレスを発散するための運動。
深夜のアニメを見るにしたって感情を揺り動かされることもなく虚ろな目のまんまで、それじゃあイカンとタンクトップに短パン姿で地下に降りたという次第なのです。
部屋の天井は本当は高いはずなのだけれど、ぶら下がり健康器を思わせる鉄棒だとか吊されているサンドバックやらのおかげで随分と低く感じる。
機械義手は設定を変えて出力が出ないようにしているけれど、それは思い切りぶん殴って備品を破壊してしまわないようにとの配慮からだった。
何度も何度も蹴って殴ってを繰り返す少女。
一心不乱に叩いていると、それまで頭の中で渦巻いていたごちゃごちゃした煩わしさが霧散していくように思われる。
頭の中が空っぽになって、それでも運動を止めない雫は、しかし不意に背中に視線を感じて振り返った。
「あ、ごめんなさい。お邪魔でした?」
顧みた先には小柄な少女、マリアちゃんが深夜だというのに兵隊ルックで突っ立っている。
雫は肩で息を吐きつつ、表情を変えもしないで首を振った。
「どうしたの、こんな時間に? 明日も早いんだからもう寝なきゃダメだよ」
「そういう雫さんだって起きてるじゃないですか」
「私のはストレス発散だから良いの」
マリアちゃんはコロコロと笑う。
雫としても笑顔を返しはしたけれど、どうにも気持ちの良い笑顔にならない。
彼女は顔は朗らかに笑っているけれど、どこか緊張しているように感じられた。目が笑ってないんだ。
「雫さん、せっかくなので、ちょっとだけお話に付き合って貰っても良いですか?」
「いいけど手短にね」
普段は大人しくてオドオドと何かに怯えているような印象を受ける娘さん。
なのに今は、言葉にするのは難しいけれど、その全ての言動に対して何らかの明瞭な意志が含まれているような気がする。
雫はなぜだか今の彼女とはあまり話をしたくないと思った。
マリアちゃんは距離を測るように床を見て、小さく前に出る。
「私には姉が居るんです。もう随分と会ってませんけれど」
「ああ、そういえば身辺資料にそれっぽい事が書いてあったわね」
「それで、随分と探したのですけれど、ようやく見つかったんです」
「そう、良かったじゃない」
「はい、見ますか?」

60 :
マリアは物凄い笑顔で胸元のポケットから写真を取り出して、見せようと近づいてくる。
差し出された写真がよく見える距離になってから、雫は小さく息を吐く。
写真は、監視カメラの映像を切り取った物だった。
真っ赤なAMSにトドメを刺されている少女の絵。
事情を知らない人間が見たら思わず目を背けてしまうような光景が、鮮明に描き出されている。
「これが姉さんの、最期の姿です。もっと見ますか?」
「いいえ、じゅうぶんよ」
持っていた写真がヒラリと床に落ちた。
マリアは同じ手で腰から拳銃を引き抜く。
口元は笑顔を通り越して引きつっていた。目の奥に殺意の光が灯っていた。
雫は死の臭いが間近に迫っている事を悟り、背筋がゾワリと逆立つのを感じた。
「それで、復讐するために、私の前に立ったのかしら?」
「はい。いけませんか?」
銃口は9o、といったところか。
さすがは傭兵らしく両手で銃を構えている。この距離なら外す事はないだろうし、防弾チョッキを着込んでいない生身の体であれば一度きりの発砲であったとしても致命傷を負うだろう。
「悪いとは言わないわ。私が逆の立場でも同じ事をするだろうし」
だけど不思議と恐怖を感じなかった。
水無月さんに斬り掛かられた時もそうだったけれど、死に対して何の感情も抱かなくなっている。
あるいは、ひょっとしたら命の遣り取りを繰り返しているうちに感情が麻痺してしまったのかも知れない。
「だけど、やるなら本気できなさい。私もそのつもりで叩き潰すから」
「余裕なんですね」
「慣れているからね。誰かをR事も。大切な物を失う事も」
そう言って雫は僅かに腰を落とす。
全てにウンザリしていた。何とも誰とも関わらず、死ぬまで一人きりで部屋に閉じ籠もってお気に入りのアニメを見続けていたい。そんな欲求がある。
けれど誰もそれを許してはくれない。
だったら、いっそのこと他の誰かに殺されてしまった方が、自分的には幸せなのかも知れない。
問題があるなら生き残った人間達でどうにかすれば良い。
重い十字架は生き残った誰かが背負えばいい。
もう、どうでもいい。
私は他の誰かの手で殺されてしまう瞬間まで、めいっぱいに足掻く、ただそれだけのこと。
生きたいからそうするのではない。義務だから。これまで失われた命達への唯一の贖罪だから。
マリアは少し苦々しげな表情で、けれど銃口を標的から外す事はしない。
「一つ、聞かせて下さい」
「……なに?」
「あなたは、どうして生きていられるの?」
なんとも哲学的な質問だった。
それはきっと「殺し続けてでも生きようとするのはなぜか」という問い掛けなのだろう。
雫は微動だにせずに口を開く。

61 :
「もう居ない人達が、そこに居たって事を証明しなきゃいけないから」
「とても独り善がりな物言いですね」
「もしも私をR事ができたなら、今度はあなたが私の背負っている全てを引き継ぎなさい。
  拒否は許さない。逃げる事も許さない。他の誰かに殺されるその時まで、足掻いて足掻いて、死んでいった人達の存在を照明し続けなさい」
対峙する少女達はそれぞれに攻撃の姿勢を完成させていた。引き金に掛けられた指が、今まさに飛び掛からんとする肢体が、ピクリと反応する。
――しかし。
「そこまでだ!!」
突然部屋の扉が開いたかと思えば武装したいくつもの影が躍り出てくる。冬矢君がティエラの人々と共に駆け付けてきたのだ。
仲間達の銃口は全てマリアに向けられている。青年はいち早く雫の前に立って、実弾の装填されている自動小銃を小柄な輪郭に向けた。
「銃を捨てて投降しろ」
マリアは小さく息を吐いて、手にあった拳銃を手放す。黒光りする鉄塊がゴトリと音を立てた。
「マリア、……なんでアンタが」
ティエラのメンバーは主に彼女と同じ傭兵部隊で、特に仲の良かった千歳などは銃口を向けながらも信じられないといった面持ちで。
小さな呟きに反応するように、マリアは肩を竦めて見せる。
一方で青年の背中に守られる格好の雫ちゃんは、彼の肩を掴んで押し退けると驚きの表情など無視して前へと進み出た。
「ちょっとアンタ達、人が喋っているのに邪魔しないで貰えないかしら」
「ちょ、雫!!」
呼び止める冬矢君を肩越しに一瞥して、雫はさらにに一歩前へ。驚いたのは他の面々だけでなくマリアも同様だった。
「銃を拾いなさい」
「……え?」
「他の連中は手を出さないで。っていうか、つまんない事をしたら私がこの手で殺します」
言いながら機械義手の駆動力を普段通りに戻しておく。警戒しつつも言われたとおり自分のピストルに手を這わせるマリア。その様相を雫はジッと見据えている。
「アンタは選ばなきゃいけない。私を殺して他の誰かの死を背負って生きるか、それとも私についてくるか。二つに一つ。
  私を殺しても罪には問わないし、私がアンタを殺しても誰にも裁けない。条件はこれで全部。文句ある?」
人々が見守る中、マリアは持ち上げた拳銃をゆっくりと構え直す。
その銃口は雫の心臓に向けられていた。この距離じゃあかわす事はできないだろう。
生きるために足掻き続けると言ったそばから何をやっているのだろうと思わなくもない。だけど、ハッキリしないままでは気持ちが悪い。あやふやのまま戦地に赴くなんて出来るはずもない。
引き金を伝う指先が見える。雫は腰を落として飛び掛かる瞬間を待つ。
「――やめておきます」
しかし幾ばくかの緊張の後、マリアちゃんは銃を降ろした。彼女は拳銃をホルスターに収めると、大きく溜息を吐く。
「貴女の背負っている物は、私には重すぎるみたいです。姉さんの事は、憎くないと言えば嘘になってしまうけれど……」
「本当にそれで良いのね……?」
確認の問い掛けにマリアは「はい」とだけ告げた。雫は少しだけ目を閉じて、気分を切り替えて周囲を見渡す。大きく手を叩くと面々の視線が集まってきた。
「パーティはお開きよ。せっかく駆け付けてくれた人達には申し訳ないけれど、今ここで起こった事は他言無用。ただの夢や幻の類と思って頂戴!」
安堵なのか落胆なのかよく分からない息を吐きつつ部屋を去ってゆく仲間達。
彼女がどうして引き金を引く事もなく銃口を降ろしてしまったのか。この短い遣り取りの中でどういった答えを得たのか、雫には分からない。
けれど、これでようやく仲間になれた。そんな気がした。
おわり

62 :
というわけで19話の投下しました。
まあ、あとは部隊内のエピソードと最終決戦で残り7話を消化する段取りです。
それで2クールに納まるかな、と。そんなところ。(またスレを落としてしまったらゴメンなさい)

63 :
>>62
投下乙

64 :
保守

65 :
注)突撃陣形
           前方
       ↑  ↑
       ○(千歳)   ○(雫)  前衛:肉弾戦主体・斬り込み担当
   ○  ○(キース)    ○(冬矢)○    中盤:前衛の援護・前衛への電力支援も兼ねる
  ○                      ○   中盤:両サイドへの牽制
 ○ ○(マリア)     ○  後衛:狙撃&中盤への弾薬補給も兼ねる
         ○     ○           後詰め:狙撃手の護衛・後方の警戒

第20話 「戦場を征く風」
夏の日差しが一段と強くなった頃。
街ではセミの大合唱がこだまして、道行く人々から汗と体力を奪ってゆく。
見上げれば雲一つ無い炎天下。ニュースでは熱中症や日射病への注意を呼び掛けていたし、それと同時に節電の必要性も訴えかけている。
とはいえ、まあ、犯罪の発生率は低くて強盗事件があっただけで十数台にも及ぶパトカーの大追跡が行われたし、殺人などが起こった日には町をあげての大騒ぎ。
その街は、その日、その瞬間まで至って平和だった。
「え、なにコレ? 特撮?」
最初の犠牲者が放った言葉は悲鳴でも許しを請う嘆願でもなく、そんな間の抜けた台詞だった。
二番目の犠牲者は運悪く通り掛かってしまった主婦で、飛び散って自分の衣服に付着した物が誰かの血液と肉片である事に気付いて悲鳴を上げたその数秒後に首から上を食いちぎられて絶命した。
街のいくつかのマンホールの蓋がひとりでにひっくり返って、真っ暗な縦穴から続々と這い出してきたそれらを目の当たりにした人々は、恐怖の悲鳴を上げる事と全速力で逃げ出す事しか思いつかなかった。
地下からの来訪者達は、その全てが昆虫だった。
人間より巨大な体躯を持つ、全身を堅そうな殻で覆われた、肉食の生き物。
造形的にはアリを模したものが大半で、一部ゴキブリに似たものだとか、耳障りな羽音を撒き散らすハチに似た物があったが、それは逃げ惑う人々やパニックの中でも市民の盾になろうとする勇敢なお巡りさん達にとっては何の慰めにもならなくて。
至る所から這い出してきて人間を生きたまま捕食する虫けらの群はパッと見でも5千を下らない大所帯で。
彼らの胃袋を満足させるためにその数倍の犠牲者が必要とされた。
街は地獄と化していた。
上半身を食いちぎらせた女性の足下には泣き叫ぶ赤ん坊が転がっていたけれど、ものの数秒で昆虫が群がってきてその四肢を残らず咀嚼する。
恐慌状態に陥った若いスーツ男が携帯電話で家族の安否を確かめようとしたけれど、呼び出し音が鳴り止むより先に頭上から覆い被さってきた黒い物に押し潰され、背中や後頭部に牙を突き立てられて男は動かなくなった。
それまでバイクの話に夢中になっていた少年達は自分だけでも生き残ろうと手近に転がっていたバットや鉄パイプで応戦を試みるも、撃退に成功したのは最初の数匹だけで、いくらもしない間に後から後から押し寄せる群に飲まれていった。
街は地獄だった。
なぜそうなったのか。誰がこのような事態にしたのか。そしてどうすれば自分は助かるのか。
誰にも分からなかった。
圧倒的な恐怖が、逆に現実味を失わせていた。
誰一人として助からないのではないか。金切り声を上げて逃げ惑う人々は、一様にそう思った。
救いの手が差し伸べられたのは、それから一時間ほど経ってからの事だった。
+++

66 :
『――CPよりティエラ01へ。状況を報告してちょうだい』
「こちら01、街は壊滅……。生存者は……見当たらない」
ヘリの6機編成でやってティエラの面々。
さっそく襲い掛かってきたハチの飛行編隊をヘリ搭載の掃射機銃により撃退して動線を確保した後は焦り半分にダイビング。
パラシュートを背負った機体12機がアスファルトを多少陥没させつつ地面に降り立てば、広がっていたのは視界の果てまで続く陰惨なる煉獄。
空中で変身して真っ赤な機体に身を包む少女は、ふと足下に転がっていた血みどろのぬいぐるみを見つけて拾い上げる。
それはUFOキャッチャーの景品なのだろう。だけど持ち主の物とおぼしき血液に濡れて、クマの毛並みはどす黒く染まっていた。
「また、誰も守れないのね……」
血塗れのクマを地面に落として呟いた雫。
彼女の腕の装甲が開いてトンファーが飛び出した。
『総員、突撃陣形を取れ! 雫、キレるなよ?!』
「……うん。わかってる」
仲間達が急いでポジションを確保する。
彼らのテリトリーとなった場所に駆動音が鳴り響けば、そりゃあもう団体さんが熱烈歓迎してくれるってもんさ。
数分と待たずに獣魔の群が押し寄せてきた。
路地裏から巨大なゴキブリが顔を出す。
ハチの編隊が距離を測るように上空を旋回している。
今回はヘリにも火器を搭載しているから突撃部隊の直上くらいなら制空権を確保できそうだ。
「みんな、気合い入れて行くよ!!」
何も守れない。誰も笑顔になんてしてあげられない。
ならばせめて、全てを壊そう。
命が枯れるその時まで、壊して殺して踏み潰す悪鬼羅刹になろう。
少女は決意して身を乗り出す。仲間達が後に続く。
虫けらの群が迫ってくるのが見えた。
『一斉掃射、用意!』
冬矢君の声が聞こえた。
射撃音が収まった瞬間に前衛が速攻を掛ける。それがチームの段取りだ。
司令塔の「撃て」の声は、ど派手な銃声に掻き消された。
仲間達の銃口がそれぞれに火を噴く。マリアの機体に搭載されていた収束ミサイルが上空に放り出されて、そこからばらけて敵の群へと降り注ぐ。
ヘリの機関銃が蜂の編隊に鉛玉を浴びせかけていた。
爆音がこだまする。
白煙と火薬の臭いが充満する。
耳を澄ませば薬莢がそこかしこで路面を叩いている。
それは戦争だった。
死の気配が充ち満ちている。
ここでは理性なんてクソの役にも立たない。
自らを傷付けようとする全ての存在が敵で、敵は容赦なく躊躇いなく消し去らなければいけない。
なぜなら、それだけが唯一生き残る手段なのだから。

67 :
『射撃止め。突撃を開始する』
司令塔が冷静に告げて、雫は真っ赤に灼けた弾丸よろしく駆け出した。
目端に影のように付き従うメタリックブルーの輪郭が見えたけれど、彼女に対する配慮なんてこれっぽっちもなかった。
雫ちゃんの頭の中ではすでに血液よりも赤い怒りの炎が渦巻いていたから。
「お前らは、ここで死んでいけ!!」
バクンッ。
少女が叫んで腕を振るえば、機械甲冑の得物が昆虫の頭部に当たって硬い表皮もろとも脳みそをぶち抜いた。
二匹目がやって来て大きな顎で襲い掛かって来たが、軽くジャンプして空中から脳天めがけて膝を落とせば顎も眼球も見境無くひしゃげた。
息絶えた昆虫は痙攣なのか脳を破壊されてもなお攻撃しようと迫ってくる。その胴体を横合いから斬りつけて切断したのは千歳だった。
『コイツらは簡単には死なないらしいぞ! ボサッとするな!!』
無線越しに叱責が聞こえて思わず苦笑いをする雫。
ちょっとだけ冷静になれたような気がする。
そうだ。これは集団対集団の戦いで、雫の存在は立場的に最も重要視されるべきところ。
雫は死んではいけない。でも自らが置かれているのは直接的と接触する最も危険な位置。
だったら、もっと冷静に判断しなきゃいけない。組織的に動かなきゃいけない。
思い至って見上げれば、すでに三匹あまりの巨大昆虫が迫っていた。
「冬矢君、お願い!!」
『承知した』
足裏の車輪で急後退。叫びつつ真横に避けて銃弾の軌道から離れる。
真後ろからプレッシャーがあったかと思えば、突進していた虫けら3匹が体液を吹き上げながら崩れ落ちた。
「そっか、そういうことなのね」
一人で呟いてみる雫ちゃん。
これまで訓練で嫌と言うほど繰り返した組織戦のやり方を、その瞬間になって初めて理解したように思う。
組織戦ってのは、ようするに一本の線を描く事なんだ。
自分達の攻撃が届く範囲を線にして、押したり引いたりしながら敵陣を削っていく。穴が開けばそこから一気に押し広げてより大多数にダメージを与える。
これが戦いの本質。
理解さえできてしまえばあとは応用で何とかなるだろう。
「みんな、私と千歳さんとで仕掛けるから弾幕を集中させて!!」
告げるや否や再び突撃を仕掛けた雫。
彼女の動向に注視して遅れまいと歩幅を合わせる水無月さんに「しっかりついてきなさいよ!」なんて軽口を叩けば、相方は「誰に物を言っている?」
なんて愉しげに応えてくれる。
千歳さんは戦場ではとても頼りになる存在だし、チームというのも悪くないわね、なんて面具の下でニヤリとしてみる雫ちゃんです。
視界の先まで続く虫けら共の輪郭。
対してこちらはAMSが13機と輸送ヘリに搭載された機銃の火力だけ。
圧倒的に不利な状況だった。でも負けられない。引く事さえ許されない。
存在するその全てを薙ぎ払い踏み潰さなければ隣町にも被害が及ぶ。いや、この国が、世界が終わってしまう。
だから振りかざす。だから引き金を引く。
弾倉を使い果たした者は銃をバックパックの底に格納して刀を引き抜いた。
狙撃手は最後の収束ミサイルを射出した後、大型火器をパージして小銃に持ち替えた。
ものの十数分で彼らの周りには死骸の山が築かれていた。
いちいち数えるのも面倒臭いけれど、ざっと見て5000は下らないだろう。
それでも次から次へと果てしなく湧き出してくる肉食昆虫。
人々は徐々に疲弊していった。士気が高いおかげで負ける気はしないけれど、だからといって勝てる気もしなかった。
雫や千歳の動きも少しづつではあるけれど鈍くなっていくのが分かる。
直上では6台あったヘリが、いつの間にか2つに減っている。
緊張の糸が切れてしまったら次の瞬間には全滅するかも知れない。そんな気配が漂い始めている。

68 :
「まだまだぁ!!」
雫が吠えた。
紅色の装甲は所々が剥げ落ちて、面具が半分割れていた。少女の生身の目が外界を睨み付けている。
二人の仲間がこの時点で死んでいたけれど、だからといって彼らの死を悼む事はしない。
今はただ、襲い来る敵を一匹でも多く屠ること。居なくなった人々のために、そしてこれ以上の人々を死なせないために。
「あれは?!」
そんな中で誰かが叫んだ。
彼らの遥か頭上を通り過ぎる影。それは15機にも及ぶヘリの編隊で、そのうち幾つかは輸送用ではなく生粋の戦闘ヘリだった。
輸送用ヘリからいくつもの輪郭が飛び出してパラシュートを開く。その人型には見覚えがあった。群青色の機体は、確かJ602『ミヅチ』。
つまり彼らはAsの攻撃部隊だと言う事だ。
『少し遅刻したようですね。けれど補給物資も持ってきたのだから問題は無いでしょう』
インカムに紛れ込んだ声。目で探すと一つだけ他とは違う漆黒のAMSがパラシュートにぶら下がっていて、そいつは他の機体より先に背負っている物を切り離して地面に着地した。
「あんた、マリィといったかしら?」
『ええ、病院以来ですね。如月、雫さん』
その体躯は漆黒で所々に禍々しさを演出するかのような赤い筋が走っている。
その手には身の丈と同じくらいのランスが握られている。
そいつはシューティングスターのすぐ隣までやって来ると余裕綽々の笑みで彼女を見遣った。
『随分と良い格好ですね。手を貸しましょうか?』
「ふふん。いらないと言っても押しつけるんでしょ? まったく嫌味ったらしいったらありゃしない」
『それだけの軽口が叩けるなら大丈夫ですね。ま、つべこべ言わずに補給は受けておきなさい。どちらにせよ私たちだけでも突破は難しいのだから』
「じゃあお言葉に甘えておくわ。その時間くらいは稼いでくれるんでしょうね?」
『当然』
やや遅れてマリィの部下達が路面に足を付けた。続いて補給物資が積載されているとおぼしき深緑色のコンテナがアスファルトに着地する。
黒い機体は雫を追い越してさらに前へと足を進めると、持っていたランスの柄を路面に突き立てた。
『AMS−X05、ファントムナイト。スターティング・オペレーション。――さあ、虫けらたち。死にたい子から掛かってきなさい!!』
ドドーン。なんて効果音の付きそうな台詞だ。
でも昆虫に人間の言葉が分かるかどうかも疑わしいのに、この子はどうして自信満々でいられるのだろうかと思わずにはいられない。
とはいえ、彼女に付き従う兵士達は素人目に見てもよく訓練されており、瞬く間に陣形を完成させる。
ファントムを先頭に左右に広がる形で展開する様は矢じりのようだ。いや、角度を浅くしているから、いわゆる魚鱗陣形というものだろう。
彼らは真ん中の少女以外銃を構えていて、襲い掛かって来た虫の群を蜂の巣にしつつ前進を始めた。
補給の名目でコンテナ際から眺めていると、ファントムは銃を使わない格闘専門の機体で、だからといって何から何まで相手をするということがない。
かわせる攻撃はかわして始末は後方の部下に任せる。かわせない攻撃が来た時にだけランスを突き立て敵を屠る。
ああ、こういうやり方もあるのね。と感心しつつ見守る雫ちゃん。そんな紅機体の肩を鉛色の手が掴んだ。
『よく見ておくと良い。あの機体、なかなか上手いぞ』
AMSの操り方が上手いだけじゃあない。全体の動かし方が、自分の立ち位置を最大限に活かすやり方が上手いのだ。
冬矢に言われて思わず突っぱねようとする雫ちゃんだけど、でも考え直して頷いてみせる。
「そうね。でもアレと同じ事は私にはできそうにないわ。不器用だから」
『そんな事は全員分かっている。要は最大限、死なない努力をしてくれという事だ』
「ん、努力するよ」

69 :
とか言いながら雫はふと漆黒機体の形が前に見たときと少し違っている事に気付く。
そっか、あの子も乗り換えしたわけね。
前の型の時も動きは秀逸で、飛んでくる弾丸をかわしたりはお手の物だったけれど、今回は加えて安定感がある。
本気を出せばまだまだこんなモノじゃないのよ、とでも言わんばかりだ。
いやいや、動きはこの際どうだっていい。あの特撮にありがちな中盤で寝返って主人公チームに加わる敵側の幹部みたいなフォルムがたまらない。
前回同様に、自分の機体と取り替えてくれないかしら、なんて思っちゃう雫さんです。
ティエラの人々が弾薬補給を終えた頃になると地表に見えていた甲殻昆虫はあらかた片づいていた。
残っていた虫は勝ち目がないと踏んだのか蜘蛛の子を散らす勢いで逃げ出したけれど、上空ですでに蜂の編隊を掃討していた戦闘ヘリから機関銃の掃射を受けて次々と他界してゆく。
せっかく補給してやる気も十分なのに終わっちゃうの、なんてガッカリ感に苛まれたフリをする面々に戻ってきたファントムはこう仰った。
『さて、ここからが本番です。虫が出てきたって事は近くにネストがあるってこと。巣を根こそぎ破壊しない限り何度でも繁殖を繰り返します』
確かに爺様の開いた説明会の中にネストの話があった。
でも、内心ではいい加減おウチに帰りたい心境だったりするので「うへぇ」なんて顔をしかめる雫ちゃん。
そんな彼女の反応に気を悪くしてもマリィは怒ったりはしなかった。
『こちらはAsの攻撃部隊。私は部隊長のマリィ=カンザキです。こちらの話は聞いていましたね?』
いつの間に周波数を合わせたのか、無線で司令室に語り掛けるマリィちゃんはこの後の方針としてネストの探索とその殲滅を打ち出した。
如月邸の人々としても異存はないらしくて、その辺の段取りは全て任せると返してくる。
まあ、提供された資料というのはAsからもたらされた物だし、何より日本国内で初のネスト攻略を成功させたのは他ならぬマリィ率いる攻撃部隊なのだから、これに異を唱える権限など誰一人として持ち合わせていなワケで、しょ〜がないっちゃその通り。
『ではマリィ隊長。ティエラの指揮もお願いできるかしら?』
『分かりました』
『絶対に一人も死なせないで頂戴ね』
『はい』
雫と愉快な仲間達を差し置いて話が進んでいく。
物凄く疎外感、というか節子さんも物分かり良すぎるのよね。
これまで如月組とAsとでイザコザだってあったのだから、もっとこう『ワシのシマで何してけつかるんじゃ!!』くらいの勢いは無いのかしら。
いや、そうなったらそうなったでとてもマズイ事にはなるのだけれども……。
話がまとまって小一時間と待たずにAs隊員が隊長の元までやって来てネスト発見を報じた。
『ご苦労様、苦労ついでに隊員達に補給を指示して下さい。準備が整い次第、突入を開始します』
『はっ!』
稲垣と名を呼ばれた隊員は簡単に敬礼して駆け足で去っていく。
周囲を警戒する兵達に何やら指示を出して交代で補給を受けさせた後は三人一組でネストへの入り口を探索し、それは小一時間ほどで発見された。
そして慎重に行軍して、一行はそれらしき穴の手前までやって来たのです。
『では突入を開始します。各自、爆薬を所持しているか確認して下さい。それが切り札になるので使いどころを間違えないようお願いします。
  そしてティエラの皆さん。分かっているとは思いますが援軍はありませんので見かけた獣魔は確実に仕留めて下さい。
  ……この穴は、いわば地獄の入り口です。ここから生きて帰って来るのは敵を完全に殲滅した場合のみ。撤退は許されません』
逃げ帰って二次攻撃を段取りする余裕は、佐渡島決戦に総力を結集している今の日本にはない。
駐屯地に居残った自衛隊は、そもそも戦力を期待できないから駐屯地詰めなのだし、国道を封鎖したり避難民の護衛が関の山だろう。
だったらここに居る30機余りのAMSとその搭乗者とでどうにかするしかない。
もちろん全滅する事も許されない。
とどのつまり勝って前に進むしか道が無いのです。
マリィはそう言って、人々を見渡した。
悲壮感にも似た覚悟。そういった空気が漂っているのを雫は感じた。
『では。――突撃開始!!』

70 :
ティエラとAs。二つの集団はここで手を取り合って暗がりの深淵へと足を踏み入れた。
最前衛には火炎放射器を構えたAMSが4体。その傍に雫、マリィ、千歳さんがそれぞれ得物を構えて続き。
稲垣さんと冬矢君を頭とする中盤の人々。そして最後尾にはマリアちゃんなどの狙撃手とその護衛、Asの人々。
ネストはその構造上、散開しての攻撃が難しいので、逆を言えば前と後ろに火力を集中させておけばとりあえずの安全地帯は確保できるのです。
道行く中で聞いたマリィの話では、ネストはアリの巣のように各部屋に至る通路はあるけれど、幹線道、つまり卵の孵化場をも兼ねる最深の巨大フロアへは基本一本道なので迷うことなく進んでいけるらしい。
とはいえ各部屋から遅れて駆け付けた敵に否応なく挟撃されてしまうので、これを前提に進んでいかないとたちまち全滅エンドの憂き目に遭うといった事柄です。
『……突破力のある突撃部隊を前と後ろに付けられたらもっと遣り易いのでしょうけれど』
そんなこと言われたって。
ツッコミ入れそうな雫ちゃんなのだけれど、その前にふと気付いた。如月地下施設からの通信が途絶えている事に。
確か、壁に付いている粘液が無線の電波を無効にしちゃうんだっけ。
同じ空間内での会話は出来るけどCPはアテにならない。つまり全ての状況下で自分の判断が優先されると、そういうことなのです。
「ところでマリィ」
『……なにか?』
「あんたって、歳いくつ?」
『なぜそんなことを聞くのです?』
「いや、だってさ。パッと見、私より年下っぽいのに攻撃部隊を指揮してたりだから、どんな生活してたのかな〜って」
『私は……』
軽口のつもりで聞いてみたのに、相手はちょっと考え込んで、悲しそうな音色で答えた。
『学習と戦闘訓練、適度な睡眠と休息。事件が有れば駆け付けて解決する。それが私が繰り返してきた日常です』
「随分とキツい人生歩んでるわね」
『私は戦うために生まれて来ました。お父様がそのように造ったから』
「造った?」
『マテリアルナンバー……、いえ、研究により生成された怪人、私はそういったモノなのです』
「よく分からないけれど、友達とお喋りしたり、オシャレしたりはしないの?」
『友達と呼べる人間はいませんし、オシャレとかはよく分かりませんので』
「寂しいヤツ」
『余計なお世話です』
「けど勿体ないね。せっかく可愛いのに」
『この顔は可愛いのですか?』
「うん、誰が見ても可愛いと思うよ。まあ、その見てくれだと需要は限られるだろうけれど……」
『?』
病院での少女の姿を思い返して苦笑いしてみる雫ちゃん。
確かに彼女の面立ちは美少女と呼んだって差し支えないくらいの代物で、同性としては嫉妬の一つも覚えるというものだけど。
だけど喜怒哀楽に乏しい無機質な面持ちはどこか人形くさくて、機械じみていて、可愛いと愛でられるよりは憐れみの目で見られるかも知れない。
現に雫は彼女からそのような印象を受けている。
「あんたはそれで幸せ?」
なので思わず聞いてみる。彼女がどういった答えを返してくれるのか、ちょっと気になったから。
けれどマリィはその一瞬だけ柔らかな息を吐いて『はい』と答えた。
そっか、本人的には満足してるのね、と納得する雫ちゃん。
丁度良いタイミングで洞穴の向こうからカサカサと無数の蠢きを感じ取って、人々は待ってましたとばかりに臨戦態勢。
そんな中、ふと漏れ出した囁きがあった。
『もうじき三年目になります』
「え?」
『私が産まれてから経過した時間』
悲しみも喜びも感じない言葉を置き去りに、ファントムナイトが銀色ランスを構えて雫を追い越した。
意表を突かれて返す言葉も見当たらないまま、同じく両の手にあるトンファーを握り直す。
戦いが始まった。

71 :
敵は巨大な昆虫で、アリ型やゴキブリ型は元より如何にも堅そうなカブトムシ型もあった。
4つの火炎放射器が水平に炎柱を立てて、迫り来る虫共を焼き払う。
しかし今度は昆虫たちだって怯まない。次から次へと、仲間の死骸を踏み越えて襲い掛かって来る。
カブトムシ型は装甲が厚いためか炎の洗礼を受けても支援射撃の弾丸を食らってもビクともしない。しかし肉弾戦をモットーとする三人が甲殻の継ぎ目に得物を突き立てればたちまち動かなくなった。
どれほど堅い甲羅に覆われていようと、強靱な肉体を持っていようとも、所詮は神ならぬ生き物。
殺されれば死ぬのだ。
だからこそ人々は死に物狂いで前に進む。補給した弾薬がまた尽きて、火炎放射担当の前衛が4人とも五体を砕かれて絶命したが、それでも立ち止まることをしない。
援護の狙撃が途切れて後衛を顧みると、そちらはそちらで予想通りに追いかけてきた敵の増援と必死の攻防を繰り広げていた。
――スプリッド・ダークネス・ブレイク!!
ランスを構えた漆黒機体から灼熱の黒い炎が溢れ出して、数千度にも及ぶ熱量が射線上の敵を吹き飛ばし、焼き尽くす。
彼女の攻撃能力は、こういった限られた空間でこそ発揮されるらしい。
――オーバードライブ!!
合いの手を入れるように雫の超高速攻撃。無数の体躯を縫うように流れるのは紅色の残像。
灼熱の息吹を逃れた虫けらは、今度は鋼鉄のトンファーに打ちのめされて息絶える。
『さすが、と言うべきでしょうか?』
「誰に物を言っているのかしら。こんなものは軽い肩慣らしよ」
熱量を解き放って姿勢を戻した漆黒と、やや先行した敵のただ中にあって余裕の笑みを浮かべる紅色。
張り合っているのか、それとも互いを鼓舞しているのかは当人達にも分からない。
だけど、この圧倒的に不利な状況にあってさえ感じる安心感。
少女達は仲が良いわけでもなく、そもそも会話だって二度か三度しか交わしていない。
でも、この瞬間は互いを信じられる。
彼女に己の確信を認めさせたい欲求が、体を、握り締める手を前へと駆り立てる。
「こんなところでグズグズしてはいられないわ。みんな、私についてきなさい!!」
『随分と勇ましいですね。だけど、貴女は間違っていない。先はまだ長いのだから』
支援射撃が失われた事で逆に気が楽になったのかも知れない。
思い切り殴りつけて、蹴り飛ばして、薙ぎ払う赤と黒は、その他大勢の兵隊達を引率する格好で奥へと進む。
科学なのか魔法なのかも分からない力を振るう二人に敵は無かった。
(……あいつらの方がよっぽどバケモノだな)
千歳は敵の体液に濡れそぼった刀でもう何匹目かになるかも分からない敵を突き殺しているが、そんな彼女の目から見ても二つの攻撃力は異常だった。
今、彼女たちは人外の領域で戦っている。誰も彼もがそう感じ取っていた。
+++
辿り着いたそこは巨大な、球形の空間だった。
壁面はどこもかしこも僅かに発光していて、おかげで面具が割れたままの少女の裸眼でも様子が見渡せた。
中央には巨大な柱が一本あって、部屋の上下を結んでいる。
柱の中心辺りには壁面とは色合いの違うボーリング球くらいの玉があって、柱を支える格好になっている。
床一面に乳白色の塊があって、よく観察してみるとそれは昆虫の卵だった。
今にも孵化しそうな物もあれば、すでに割れて中身の無い殻もある。形状は同じでも産卵時期はまちまちらしい。
そんな、びっしりと産み付けられた卵の隙間を縫うように、黒い点が蠢いている。
『あれは――?!』

72 :
オオエンマハンミョウ型。揺りかごの守護者だ。
しかし過去にマリィが戦ったそれより一回り体格が大きい。
もしかしたらネストの成長に比例して大きくなるのかも知れない。
いやいや、今は理由を考えている場合じゃあなくて、どうやって俊敏性と装甲と強靱さを兼ね備えたガーディアンを殲滅するかを考える方が重要だった。
アリ型ほど多くはなく、かといってハチ型のように空を飛べるわけでもなく、おまけにゴキブリ型よろしくステルス性に秀でているわけでもない。
しかし強い。小さくともクワガタに似た鋏を外殻に持ち、それまでのどの昆虫より一匹当たりの性能が高いそれらは銃で仕留める事は元より肉弾戦ですら倒すのが難しい相手だった。
「くる……!!」
敵の侵入を察知して集まってきたガーディアンは、目視で50程度。レーダーでも似たような数字しか表示されていない。
「シャキシャキシャキ」と顎を擦り合わせ異様な音色を奏でる虫けら共は、しかし尋常ではない速度で攻撃部隊へと殺到する。
最初の十数匹は前衛の3人でどうにかなった。だが弾薬の尽きた状況では、というか銃の通用しない敵が相手では押し返す事ができなくて後退を余儀なくされる。
『クソッタレ!!』
『もうダメだ!! 俺達はここで死ぬんだ!!』
『た、助けてくれ!! うああぁぁぁ!!』
中盤の人々も刀を手に応戦を試みるが、前衛に匹敵するだけのパワーもスピードもない機体では苦戦を強いられる事は請け合いで。
ティエラのメンバー二人とAsの兵隊3名がそれぞれ胴体を引きちぎられて即死した。
『おいAsの嬢ちゃん、もしもここで爆薬を使ったらどうなる?』
そんな中でティエラ隊員のキース君が、やけに神妙な声色で尋ねる。
爆薬はAsから持ってきた物だし、当然ながらマリィはその破壊能力がどの程度かを知っている。
なのでランスを振り回しつつの少女が答えた。
『有効半径は10キロ四方といったところです。あなたの位置で使えば全員が爆風に巻き込まれます。
  複雑な電子回路が組み込まれているので投げつけるワケにもいきませんし』
爆薬は、手渡された時に受けた説明では化学反応による起爆方式なので手榴弾のようには扱えないらしい。
しかも時限式の設置型、つまりは壁面や施設の破壊に用いる類の代物だということです。本当に有り難うございました。
キース君はどうやら爆薬の遠投を考えていたようで、残念な回答に舌打ちをよこすだけ。
それでもこの期に及んでどこに隠し持っていたのか、対人用の手榴弾を投げつけて密集していた数匹の足を吹き飛ばす事に成功した。
『こちとら傭兵稼業が長いもんでな、パイナップルの一つや二つは最後まで取ってあるんだよ』
市街地戦でも、ここに至るまでも、彼は温存していたのだ。さすがとしか言い様がない。
元傭兵のグループは、キース君の行動を合図に次々と隠し持っていた手榴弾を投げつけ、それらは致命的とはいかないまでも足や甲殻の一部を破壊、ハンミョウ型の動きを鈍らせる事に成功していた。
「さすがは元アローヘッド。やるじゃない」
『傭兵は軍人と違って自分が可愛いもんさ。だから奥の手はいつだって準備してるんだよ』
トンファーを手に感嘆の息を漏らした雫ちゃん。
キース君はちょっぴり誇らしげだった。
装甲の厚さと俊敏性がウリの昆虫なのだから、その動きを封じれば当然ながら前衛の負担は減る。
一匹に費やす時間と労力が節約できるなら、敵殲滅を達成するまでのスピードだって当然早く楽になってゆく。
気が付けばオオエンマハンミョウ型の虫けらはあらかた片付いていた。
挟撃していた後方の虫たちも、後衛の皆さんの頑張りでどうにか撃退に成功していた。
『……どうやら目的は達成されたようですね』
『そうなって貰わなきゃ困るぜ。こっちはもう手持ちの手榴弾も弾薬もすっからかんなんだからよ』
ふぅ、なんて息を吐くマリィちゃん。相づちを打つのはキース君。
マリィの副官である稲垣さんがなぜだか舌打ちしている。
千歳さんは敵の体液に塗れた刀を地面に突き立てて肩で息をしている。
他の隊員達は両陣営に関わりなく生き残れた充足感にホッと胸を撫で下ろしている。

73 :
『いや、まだだ』
「そうね、まだ死の気配が消えていない。まだ何かが居る」
そんな中で、冬矢君の反応は違っていた。雫の音色も同様の響きを含んでいた。
雫の言葉に慌てて周囲を見渡すのはマリィだった。
少女の目や索敵機では敵の姿を見つけられなかったけれど、それでも雫の警戒は信じられた。
彼女は『死の気配』と表現した。
確かに、そう良いのかどうかは分からないけれど戦場の凍てつくような焼け付くような空気は薄らいでいない。
数秒間、もしくは数分間の沈黙。無線を通して誰かの呼吸音が聞こえる。
前衛が警戒を解いていないのを見てか、部隊全体の緊張感が増してゆく。
やがて、ボコリと地面が盛り上がった。
フロア中央の柱にほど近いポイントだ。
人々が身構える。
盛り上がった土くれから巨大な塊が迫り上がってきた。
それは表面が堅い甲羅で覆われた、他とは比べものにならないまでに巨大な、昆虫の卵。
卵の内側で何かが蠢いていた。
ガパリッと縦に裂ける卵。その内側からにゅっと出来てきたのは人間の造形とよく似た手。
手は、卵の裂け目から腕を突き出すと勢いを付けて左右に押し開く。緑色の液体が地面に滴り落ちた。
『なんだ……コイツは?!』
『ニンゲン? ……にしては大きいぞ』
『違う。人間じゃない!!』
粘液まみれのそれは真っ白な翼を背に生やした人型の生き物だった。
卵から出ようと地べたを這いずるソレは、身長が3メートルにも届こうかという巨人で、翼を持っていた。
産まれたばかりのソイツはヨタヨタと起き上がる。ソイツの頭上に光が収束して、輪っかが出現した。
『天使……?』
『コイツが天の使いだとするなら、俺たちゃ一体何だってんだ?』
『誰か大型銃を持ってないか。ライフルでも良い。誰でもいい。アレを殺してくれ!!』
兵隊達が口々に唱える。
しかしこの時にはすでに弾薬を使い果たしていて、誰一人として銃口を向ける者はいなかった。
ソイツは両足でしっかり床を踏みしめると、背にある翼をばたつかせて、体に付着していた粘液を払い落とそうとしている。
四肢は女性のそれだった。髪は無く、顔はのっぺりとしていて、目は瞳孔がなく真っ黒だった。
皮膚は日光を浴びていないせいか病的なまでに白く、内側の血管がほんのり透けて見える。
その輪郭は淡く白い光を纏っていた。頭上の輪っかが微かに揺れた、ように見えた。
ソイツは恐怖と混乱とで動けずにいる攻撃部隊を見遣り、次に天井を仰ぎ見て、言葉と言うよりは鳴き声に近い甲高い音を発した。
すると隊員達の間に恐慌が起きた。
『レーダーがイカレちまった!!』
『もうダメだ! 俺達ここでみんな死ぬんだ!!』
『か…体が、動かな……』
『ファック!! ファック!!』
無線の電波が荒れているのかノイズが酷い。
とはいえ耳を澄ませたところで人々の混乱具合が聞き取れるだけで有益な情報が入ってくる事はなかった。
『敵が本格的に活動を始める前に仕留めます』
そんな中で呟かれたのはマリィの音色。
囁きほどの声はノイズ塗れであってさえ少し震えているのが分かる。
雫は直感的に彼女の動作を制しなければいけないように思ったが、彼女ならどうにかしちゃうかもという迷いがそれを阻んだ。

74 :
【双極魔導動力炉の駆動力を臨界値に設定。
  S.L.Iドライバを組み込みました。サイコフレームを展開しました。
  A.Mフィールドを展開しました。高次物質化システムの運用を開始します】
カコンッ、とギアの入る音がして、漆黒騎士の周囲に熱風が渦巻き始める。
【アルティメット・フォームを起動しました。残360秒】
機体の装甲が瞬間的に黄金色へと染まった。
背にある発動機は「キュゥゥゥ……ン」と甲高い悲鳴を上げている。
機体の背に後光にも似た光の輪が出現した。
「マリィ!!」
雫がなぜだか分からないままに叫ぶ。機体が手にする得物は、いつの間にか青く巨大な槍へと変化していた。
ファントムは瞬間的に天使だなんて呼ばれたモノの前までやって来ると、巨大なその輪郭に向けて槍を構える。
――スプリッド・シャイン・ブレイク!!
少女の声がそう告げた。光の粒子が集まって、一気に放たれる。
無数の光の筋が敵の体を突き抜け、その裏側にあった柱すら貫通する。また標的に当たらなかった光は部屋に敷き詰められた虫の卵を捉えて破壊する。
彼女にとっての勝負は、その一瞬に凝縮されていた。――しかし。
『うそ……』
光の筋に射貫かれてズグズグに崩れ落ちるはずの肢体。
しかし宗教絵画からコピー&ペーストしたような翼と輪っかを持つ輪郭は、みるみる傷口が塞がっていって、崩れ落ちるよりも先にダメージを完治させてしまったじゃあないか。
これにはマリィも茫然自失で呟くしか手立てが無い。
しかも天使は白翼をめいっぱいに広げると、今見た物をそのまんまお返しするぜとでも言わんばかりの勢いでかざした手の上に光の粒子を収束させ、一気に解き放つ。
まだアルティメット・フォームの解けていない黒機体は吹き飛ばされながらもどうにか耐えきったけれど、後方に固まっていた兵士の数名が光に貫通されて崩れ落ちた。
『くっ……!!』
悔しげに呻きながら、それでもマリィは諦めない。
機体が最大攻撃力を発揮できるタイムリミットは6分間。まだ5分すら切っていない。
その中で少女は槍を振り回す。突いて、薙いで、打ち下ろす。しかし黄金騎士をすでに敵と認識しているのか天使だってただ突っ立っているだけでは済まさない。
欠損した肉体を再生させつつもかざした手から衝撃破を放ち、電波状況や精神に障害を与えるであろう奇声をあげ、翼からは二度目の光の筋を放つ。
守るべき卵を全滅させられた腹いせか、その反撃には躊躇も遠慮も無かった。
マリィは何度か吹き飛ばされ、それでも立ち上がって槍を振るう。しかし何度突いても薙いでも、その度に傷付けられた体は再生された。
やがて少女は疲れ果てたのか、それとも備蓄電力が切れかかっているのか、後方へと大きく飛び退くと装甲の色を明滅させながら膝を付く。
絶望の表情。きっと厳めしい面具の下にはそのような面持ちがあるのだろう。
「あんたさ、人生経験足りてないんじゃあないの?」
そこへ悠々と駆け付けたのは真っ赤な装甲。
雫の操るシューティングスターEXP。
彼女は破損した面具の隙間から覗く目で踞る黒機体を見下ろしていた。
『雫、さん?』
見上げて呟く少女と視線を絡ませる。
雫の瞳には絶望も無く、だからといって希望の光も灯っていない。ただその目には、強烈な闘争心だけが宿っていた。
「後ろを見なさい。大将のあんたが諦めてしまったら、ここまでアンタについてきた人達まで絶望しちゃうでしょ」
頭を巡らせて部下達の姿を探す。
モニタ越しにどうして良いのかも分からずに固唾を飲んで見守る人々が見える。
『私はどうしたら……?』
「こういうときはね。まだ奥の手を隠し持っているんだぞって顔で不敵に笑ってりゃ良いのよ」

75 :
ハッと仰ぎ見た先に凛として気高い光を見つけた。
マリィは足元を見て、警戒のためか様子を見ている天使を見て、それから深く息を吸って、槍を杖代わりに立ち上がる。
背負った動力炉が警告文を表示していたが、だからといってフリーズさせてしまうワケにもいかない。
なぜなら戦いは続いているのだから。
そんな少女に差し出されたのは予備のバッテリーだった。
「これでもうひと頑張りできるでしょ?」
『借りを作ってしまいましたね』
「電池は今ので打ち止めだから。……気合い入れて行くわよ!!」
『はいっ!!』
バッテリーをカートリッジ・スロットに押し込んで電力供給の比率を手動で切り替える。
目端に何かが映り込んで顔を向けると、そこにはメタリックブルーの機体。敵の体液を拭い取った刀を握る千歳さんの姿がある。
「冬矢君、アレをやるから、プランをお願い!!」
『了解した』
チーム・ティエラの司令塔に作戦を要求すれば、彼は即座に送ってきた。
きっとマリィが飛び出したときから練っていたのだろう。
雫の言った「アレ」という物も彼は理解していて、その攻撃能力を確実に相手の土手っ腹にねじ込むための作戦が、攻撃に参加する全ての兵士に行き渡った。
その作戦は、じれた敵が再三の光による攻撃を仕掛けてきたときに始まった。
「攻撃開始!!」
所構わず縦横無尽に駆け巡る光の筋。飛び退いて距離を取る雫。
千歳さんはマリィの背に隠れて攻撃をやり過ごす。
後方のメンバーは主要な者以外はさらに後退して巻き添えを食わない位置へと移動する。
そんな中で鉛色の機体、神威MkWが、腕に仰々しい機械を取り付けて前進していた。
『試させて貰う!!』
如月の開発スタッフが造った武器。
試し撃ちなどのデータが出ていないから今の今まで使わなかったが、このタイミング以外に使いどころが無いので解禁した。
電磁投射砲。いわゆるレールガン。AMS専用に開発されたそれを腕に仕込んだまんま冬矢は雫を追い越し、トリガーを引く。
ビィィィ……ゴファ!!
甲高い電気的な音と爆音がこだまする。
30ミリを超える、人間が扱うには少々大きすぎる銃口が控えめな炎を吐き出す。
そして弾丸は天使の肩口を根こそぎ粉砕し、その背後にある柱を僅かに抉った。
『キシャアアァァァ!!』
天使が苦痛の鳴き声をあげた。攻撃が一瞬だけ止まる。
そこへ突っ込んできたのは刀を水平に構えた水無月千歳。
防衛本能のなせる技なのか残っていた腕をそちらにかざした天使型獣魔。
掌から衝撃破が放たれる。だが、それを見越していた千歳は間違いなく肉弾戦のプロフェッショナルだった。
『落ちろおぉぉぉ!!』
シャコン!
ほとんど瞬間的に真横に飛び退くと地面スレスレに跳躍して一気に懐に入り込んだ千歳は、屈んだ体勢から跳ね上げるように切っ先を振るう。
天使の腕と体液が飛び散った。悲鳴を上げる暇もなかった。
そこへ真っ直ぐ突っ込んできたのは漆黒の機体。マリィの操るファントムナイト。
亡霊は持っていたランスで敵の胴体を串刺しすると駆動力を限界一杯まで酷使して標的を持ち上げる。

76 :
『AMフィールド全開!! ――スプリッド・ダークネス・ブレイク!!』
黒い炎がランスに灯り、その膨大な熱量と風圧が頭上まで担ぎ上げられた敵をさらに天井近くまで跳ね飛ばした。
そして、両腕をもがれ、土手っ腹に風穴を開けられたまま、それでも肉体修復を行いつつ落ちてくる天使の目に、隊列の一番奥に控える真っ赤な炎が映り込む。
「……ミカ、やるよ!!」
【MCKデバイス発動、脳波リンクを開始します。
  ジェネレータ駆動値を120に設定。魔力ブースト率を1000倍に固定。システム、EXPモードに移行します】
その装甲は紅よりも赤く煌めき。
その輪郭は神も魔も見境無く討ち滅ぼすまでに熱い。
その背後で白い巫女装束に身を包む少女が、真っ赤な背中を押している。
【――対象座標を固定します】
光の輪っかが出現して天使を空中に縫い止める。
敵は藻掻こうとするが拘束が解かれる事は無かった。
【――《聖域》を展開しました。魔力濃度圧縮率、臨界値を越えました。攻撃を開始して下さい】
一瞬の出来事だった。
それまでネスト最奥のフロアだったはずの場所が、まるで太陽の表面に降り立ったかのような光景へと変貌したじゃあないか。
至る所で巨大な炎柱がとぐろを巻き、床は流動するマグマの海。天井は底のない暗黒。
そんな光景を前にして身動きの敵わぬ天使は何を思ったのか。
「――ゴルディアン・キィィィィック!!」
声がした。炎の向こうから、さらに熱い塊が飛んでくる。
それは真っ赤な塊だった。
真横から見れば跳び蹴りの格好のままカッ飛んでいる機体を拝む事も出来たのだろうが、生憎と標的にされている天使には塊の真ん中にある靴裏しか見る事ができなくて。
やがて強烈な熱量と衝撃に射貫かれて、天使は再生する間もなく蒸発するしか手立てが無い。
天使の真後ろには柱を両端で支える黒い球体があったけれど、それすら塊は撃ち抜いていた。
+++

77 :
こうして戦いは幕を閉じた。
生き残っていた有象無象の虫けらたちは、各部屋に爆薬をセットする間際に殲滅していった。
雫とミリィのバッテリーはほとんど空になっていたけれど、生き残った仲間から分けて貰ってどうにか進む事が出来た。
部隊としての戦力は無きに等しい。それでも敗残兵の処理が出来たのは、ボスを葬ったためか甲殻昆虫たちが活動を停止していたためだ。
冬矢に言わせると、柱にくっついていた黒い球体が恐らくは敵集団の頭脳も兼ねていて、司令塔が破壊されたために末端も動作停止したのではないか、との事だったけれど。
その真偽については偉い学者さん達にでも確かめて貰うとして、まずは自分の任務を完遂する事が先決だとの見解の一致から、行軍中も無駄な議論はなされなかった。
そして、地上まで戻ってきた人々はタイミングを合わせて設置してきた爆薬を起爆。
獣魔の巣を完全に除去することに成功したのである。
「終わったね」
「はい、終わりました。けれど、本番はこれからですよ?」
「佐渡島だっけ?」
「はい、私たちは一足先に駐屯地に戻っています。補給や機体の修理もしなければいけませんので」
「そう、じゃあ私たちはのんびり追いかけるわ」
「遅刻は厳禁ですよ」
「わかってるわよ、んなこと」
兜を脱いだ少女達の会話です。
ティエラが6人、Asが11人、この戦いで殉職している。
生き残った人間としては彼らの葬儀も執り行わなければいけないのだけれども、それにしてもと思うのは前哨戦でリタイアすることの方が楽なんじゃあないか、なんて事だった。
雫は正直、獣魔と呼ばれる存在をナメていた。
単純な腕力の違いに加えて、数の暴力というものがこれほど恐ろしいものだということを初めて知った。
それにマリィが初めて見たという天使型。
あれは他の昆虫型とは明らかに違っていた。
あくまで想像だけど、もしも天使型が昆虫の群で言ういわゆる女王で、オオエンマハンミョウ型が守っている物が他の何でもなく女王の卵なのだとしたら、国内最大規模との情報もある佐渡島にはもっと強力な天使型が存在していることになる。
そうなると何をどうやっても勝てません。本当にry……と言いたくなっちゃう雫ちゃんでした。
「あ、そだ、マリィ!」
「はい?」
待機していた輸送ヘリに乗り込もうとするマリィを呼び止めて雫は言った。
「そっちに行くときDVDプレイヤーも持っていくからさ、一緒に見ようよ、アニメ」
「良いですよ」
なんだか妙なノリで返事をよこした少女は、手を振って雫と別れた。
「……いや、いくらなんでもアニメは無いんじゃないのか?」
「うっさいわね。ヒトの趣味にケチつけないで」
Asが輸送機に揺られて空の人になってから、冬矢が耳元で囁いたけれど雇い主は聞く耳を持たなかった。

おわり

78 :
というわけで20話の投下でした。

79 :
>>78
投下乙

80 :
ダークな内容でもいいの?

81 :
良い
つか見たい

82 :
>>81
携帯からなので文章荒くてすまん。
いつも変わらずそこにいる彼女に、私はエリと名付けた。
彼女が女性だと判別出来る理由は、ボサボサに伸びた髪と、白地のワンピース。 ワンピースは嘔吐物やら何やらで、黄色と茶色の斑模様を作っていた。
夏の盛ということもあり、彼女の体は腐敗し、様々な虫達が寄り集まっていた。
夕暮れの、朱い木漏れ日がさす雑木林で、彼女は虫の羽音を唄いながら、ロープに首をかけぶら下がっていた。
私が彼女に出会ったのはつい三週間前だ。

日曜日。梱包用のビニール紐を片手に、私は近所の雑木林へと踏み込んだ。
首を吊れそうな場所を探しているとき、彼女に出会ったのだ。

私は空想の中でいつも彼女と対話した。
最初のころは彼女は、悪い男に騙されて自殺し、私に悪い男に騙されないようにする術を教えてくれた。
「男はセックスのためなら、平気で嘘をつくから気をつけなさい」
五日くらい経って、彼女は仕事を見つからない話をし始めた。
「いい。若いうちに苦労するのよ。若い頃に怠けると、仕事が見つからないわよ」
十日程して、彼女は自分が政府の諜報員で、自殺に見せかけて殺されたことを話始めた。
「これは政府の陰謀よ。私は自殺に見せかけて殺されたの」
二週間後、彼女は自分が未来からやって来たタイムパトロールで、正しい歴史に修正するために死を選んだことを語った。
「世界を救うのは、たった一つの冴えたやり方はこれだけなの」

そして今日、彼女は自分が
魔法少女であることを語った。

83 :
続きは!?

84 :
遅れてごめん。
>>82の続き
「魔法少女?」
わざと、訝しげに聞き返す。
「そうよ。私は魔法少女だったの。
闇に潜む悪魔達かを滅ぼし世界を守るために選ばれた戦士」
エリは適当なセリフを並べる
ーー私の頭の中の空想だ。今考えた設定なので、
セリフがシンプルすぎた。
私は、この設定に肉付けをしていった。
魔法少女が首吊りにいたる理由を考えた。
「いつも学校でいじめられていた私は、ある日首を吊ろうとして、
山の中で一人の魔法少女にあったの、そしてーー」
そこまで考えたとき、私は虚しくなった。
学校でいじめられているのも、
自殺しに山に入ったのもみんな私だ。
魔法のような万能の力を手に入れて、ーー自分を変えたい。
ーー強くなりたい。
ーーみんなに優しくしてほしい。
ーーあいつらに復讐してやりたい。
ーー何もかも壊してやりたい。
そこまで考えたとき、深い虚無感に襲われた。
頭の中を薄暗い思考が飛び交い、
これ以上生きていくのが嫌になった。
虚無感が心の許容範囲から溢れだし、
胸の中を荒れ狂った。
気持ち悪さが体中を駆け回り、吐き気が込み上げ、
その場にうずくまった。
頭の中で「死にたい」という声が乱反射した。
「私の後を継がない?」
すぐ近くで見知らぬ女性の声。
突然の声に不意をつかれた私は条件反射的に立ち上がり、
声の主をさがした。木の影や、枝の上、
ゆっくりとあたりを見回す。
夕暮れの雑木林はしんとしていた。
静かすぎた。さっきまで空想にふけっていた私は、気にしなかったが、
いつもに虫や鳥の泣き声が、一切止んでいた。
全身から汗が吹出し、
胸の表面を汗の雫が滑っていくのを感じた
「怖がらないで」
また女の声。
やさしげな声が、逃げることより、
声の主を探すことを私に選択させた。
かなり近い距離から聞こえてくるが、どこにもいない。
「私ならあなたの前にいるじゃない」
私はゆっくりとエリの死体に視線を戻した。

85 :
エリの口元を注視する。ネジ曲がった唇から、
舌が飛び出し、口腔の中の柔らかい粘膜には得体のしれない虫が
大量にうごめいていた。
「エリなの?」
私は聞き返した?
「そうよ。いつも話かけていたんだけど、やっと気づいてくれたわね」
口は一切動かず、声だけが聞こえた。
しかし、私にはそれがエリの声だという確信があった。
声の主がわかり、私はほっとした。
同時にうれしかった。この声は私の空想じゃない。
本当にエリが話かけてくれたのだ。
しかし、私はあえて驚いたフリをした。
「し、死体が喋った」
尻餅をつくはずなのだが、服が汚れるのでやめた。
私はエリの腐った顔に期待を寄せた。ーー空想が現実になるかもしれない。
「落ち着いて、私は……」
エリが口ごもる。私はエリの言葉の続きを待った。
「…………。もう話す必要はないわね。あなたの想像通りよ。
悪魔が蘇り、世界を滅ぼそうとしている。
あなたに後を継いで欲しいのよ。あなたは選ばれた。
いいかしら?」
早口な説明すぎた。もう少しやりとりを楽しみたかった。
「いいじゃない、理由なんて。
あなたは力が欲しいんでしょ? 悪魔はそのうち現れるわ。
さ、私の真下を掘りなさい」
私は黙って頷き、エリが吊されている真下を、
あた枝切れで掘り返した。
理由なんてどうでもよかった。

86 :
地面から歪んだ黒い金属の塊が顔を出した。
。さらに掘り進めると、それが髑髏の形をしていることがわかった。
二つの眼窩の奥には一つずつ、赤い宝石がはめられていた。

ちょうど拳大くらいの大きさで、ところどころ引っかき傷があり、
銀色の下地が見えていた。
私はそれを両手で掴み、一気に地面から引き抜いた。
全身をねっとりと黒光りさせるそれは、私の身長くらいの長さがあった。
黒い髑髏の先端からは、金属の頚椎が伸びており、先端は鋭く尖っていた。
ちょうど握る部分だけ、円柱状になっており、
私の手にぴったりと収まった。

「さあ、変身して」
私は目を閉じて強く念じた。頭の中にある姿、強く美しい姿。
全身を氷の舌で舐めまわされるような感覚に、私は乳首が隆起していくのを感じた。
冷たい粘膜に体が覆われていき、締め付けられていく圧迫感。
やがて、粘膜と皮膚が同化していくのを感じると同時に、体に活力が注がれていくようなエクスタシーが稲妻のように走り抜けた。
ーー私は、変身したのだ。
瞼を開くと、私の服装は変化していた。
腰までざっくりとスリットの入った、フレアースカート。
中央には大きな髑髏模様が白抜きで入っている。
下着も黒で、柔らかくヒップを包んでくれていた。
ノースリーブのチュニックは大胆に胸が開いており、ウエストが露出していた。
上着には、黒の袖無しハーフコート。
烏のような黒い羽が表面を覆っており、背中に一対の大きな羽がついていた。
裾が、ボロボロに見えるように、ギサギサにデザインされていた。
両手は肘まである厚い布の黒い手袋を装着。
革でできているようであり、手首から肘にかけて、
メガホンのように直径を広げていた。
足元は足首まである黒いブーツ。
地面を蹴ってみると、エンジニアブーツのように硬い。
全身が黒だった。イメージ通りだ。
髪型や顔も変化しているようだった。

87 :
私はその場でくるりと一回りした。
「どう、気に入った? さあ、今度は杖を振ってみて」
あたりを見渡し標的になりそうなものを探した。
私は標的を近くにあった太い杉の木に定めた。
「あまり、強くやりすぎないでね」
杖を傾け、杉の木に向けた先端の髑髏に意識を集中させる。
イメージするのは、万物を粉砕する破壊のエネルギー。
ジェット機の気流音のような音を出し、髑髏が青く光りだす。
集中したエネルギーから生じる振動が杖を伝わって、両腕に流れ込む。
ブレを押さえ込み、狙いをつける。
「行け」
瞬間、耳元で大太鼓を鳴らされたような轟音と共に
強烈な反動が腕を通して背中に突き抜ける。
髑髏から放たれた青く光る揺らぎの塊は一直線に向かう。
ミサイルのような爆発音と共に、空中に無数の木片を撒き散らしながら、杉の木はゆっくりと倒れていった。
私の中では1パーセントの力で打ったつもりだった。
「初めてにしては上出来ね」
えりはお決まりの台詞を言った。
「さあ。悪魔と戦うのよ」
「悪魔はいつ来るの?」
「あなたが敵が欲しいと願ったとき、奴らは来るわ」 「それまでは、どうすれば?」
私はエリがなんて答えるか知っていた。
「好きにすればいいわ」
私は狂喜した。私がしたいこと、それはあの忌まわしい学園を粉々に吹き飛ばすことだった。

88 :
今一つ文才に恵まれん

89 :
>>87
良い感じの変身コスだなと。変身シーンも凝った感じでGJそしてGJ
しかしパラノイアな主人公とかダークというより鬱な感じがしてならないぜ
どう違うのか上手く言葉にはできないがw

90 :
>>89
感想どうもです。
コスは適当に考えました。
変身シーンは、正直どう書けばいいのかわかりませんね

91 :
>>90
そういう時は変身シーンの方向性を決めるってのは?
例えばエロくするとか、カッコ良くするとか

92 :
>>91
なるほど方向性を決めるか。
参考になりました


93 :
変身シーンはやっぱり全裸だよな

94 :
塩野干支郎次のセレスティアルクローズが、現代を舞台に北欧神話の戦乙女が男主人公を自らの鎧として纏う、いわば変身ヒロインものなんだが
惜しい事に変身していく描写が描かれてないんだよね
キスするとかのドラマチックなプロセスも無いし、ロリとショタが一瞬裸で向き合うシーンがあるだけ

95 :
誤爆した…orz

96 :
あまり誤爆にも見えんなw

97 :
アニメ板の萌える変身シーンスレかと思ったんだよ
あまり苛めてくれるなw

98 :
第21話 「オモチャの兵隊」
「――相変わらずお強いですね。でも、私だって負けてはいません!」
「こういう時はお姉さんに花を持たせるものなのよ?」
「貴女の妹になった覚えはありません!!」
赤と黒、2つのAMSが対峙していた。
一つは真っ赤な機体、シューティングスターEXP。
ランスを構えるのは漆黒の装甲を持つファントムナイト。
二人は自衛隊駐屯地のグラウンドの隅っこを借り切って、一対一の模擬戦を楽しんでいた。
チチッ。
「おおっと、危ない。ってか乱取りで槍なんか持たないでよ!!」
「使い慣れた武器でないと訓練の意味がありませんから。それに、訓練用の得物では勝てませんし」
「っほんとに可愛げのない!!」
ヒュン!
「そういう雫さんだって訓練用の武器に換装してないじゃないですか」
「私はいいのよ! 単純な打撃武器だし。それに訓練だからって持ち物変えるのは性に合わないのよ」
「こういうときは年下に勝ちを譲るのも優しさですよ?」
「調子に乗せて本番で死なれでもしたら寝覚めが悪いからね――っと」
キュン。
ランスで突かれたお返しに上段蹴りを放つ雫。
マリィはつま先をやり過ごすとランスを回して柄の部分で突いてくる。
追い打ちにと飛んできたトンファーがそれを受け止めた。
雫ちゃん率いるティエラ+スタッフの皆さんが20トントレーラー十台で東北の駐屯地に押しかけてきたのはつい昨日の事だった。
源八爺さんと御神楽女史は如月邸に仕事を残しているとかで、主力を先行させておいて自分達は後から出発する予定になっている。
破損したAMSの修理はどうにかなったのだけれど隊員の補充は誰でも良いというわけにもいかない都合から簡単にはいかなかったけれど。
それでも補修資財や武器弾薬は元より一ヶ月ぶんの携帯食料も持参しているから長期的な籠城戦だって耐えられる。
駐屯地はこれでも政府の管轄下にあるのだから燃料や食料はもちろんスタッフの給料まで出してくれるのだけれど、
やっぱり軍属の群の中に一般企業からの部隊が紛れ込むのだから非常時でも対応できるようにしておこうと、もっと言ってしまえばナメられたくないので自分達で用意できる物はなるべく持っていこうとの思惑があった。
「けれど勿体ないですね」
「なにが?」
「貴女の戦闘能力は一般人のレベルではありません。どうです、私の部下になりませんか? 待遇は保証しますよ?」
「冗談! 私は私のやりたいようにしかやらないわ。ってかなんで私がアンタの部下なのさ?!」
「不満ですか?」
「当たり前じゃない。なんで自分より弱い人間の下にならなきゃいけないのか逆に教えて欲しいくらいだわ」
「言いますね。けれど自分より弱いというのはご自分を過大評価しすぎです」
ヴンッ、とファントムの双眸に光が宿る。
カコンと音を立てたのは出力リミッターの上限を手で引き上げたからだろう。
そして雫ちゃんだって訓練モードから戦闘モードへと駆動力を引き上げていた。
「それを今、証明しましょう!」
「上等!!」
キュン。スパパパッ。ズシャッ!!
ミッターを解いた機体2つは、それぞれに、それまでの生ぬるい訓練形式から一気に離脱する。
周囲で観戦していた他部隊の人々が驚嘆の声を上げる。
そりゃあそうだろう。シューティングスターにしても漆黒機体にしたって、国内外で運用されているAMSとは規格的にも性能的にも大きく逸脱しているのだから。
それらが本気でやりあえば、もはや誰も追いつけない領域へとシフトするのだ。

99 :
「――スプリッド・ダークネス・ブレイク!!」
「甘いっ!!」
過去に同じ光景があった。あの時は相手の技の性質を知らなかったし、機体性能が雫の望む物に追いついていなかった。
けれど、今は違う。
真っ赤な装甲の内側には無尽蔵とも思えるパワーが駆け巡り、また死の気配を感じ取る事で紙一重の安全圏を見切る事が出来る。
突き出されたランスをトンファーでちょんと叩いて軌道を逸らし、さらに相手の懐へと入り込む。
一撃必殺の間合い。雫の。流星の目に光が宿った。
「沈めっ!!」
「くっ、……AMフィールド!!」
ズズンッ!!
思い切りよく突き出したはずのトンファーが、拳ごと、不可視の壁に押しとどめられていた。
何も無い空間に幾何学的な光の紋様が浮かび上がって、漆黒色の装甲を保護するように揺らめいている。
雫は舌打ちして半歩だけ飛び退くと今度はローキックで責め立てようとする。
「AMフィールドはあらゆる攻撃を遮断します。貴女に勝ち目はありません!!」
「はがゆいねぇ……!!」
放ったキックさえ相手の体には届かなくて、それで仕方なしにと素早く距離を開ける。しかし3秒間の間隙を挟んで思い至った。
もしかして、そのAMフィールドとやらが発動している間は攻撃動作ができない?
前回の天使型獣魔との戦いがフラッシュバックする。
確かに彼女はフィールドを展開させた直後に大技を放っていた。しかし、動作、つまり体勢が整ってからの話だ。
熱量を放つだけならフィールドを展開したままでもできる、けれど物理的な動きは含まれない。
分かりやすく言えば、盾を持っているのではなく、そこに壁があるという状態。攻撃は壁の隙間からということなのだろう。
ということは、あらゆる攻撃を遮断するという盾は、同時に自身の身動きをも封じてしまうのかも知れない。
「やりようは有るワケよ」
フフンと不敵に笑ってみる。
だったらこちらはカウンター狙いの一択で良い。
ヘタを打てば自分がKOされてしまうけれど、上手くすれば一撃必殺。
乗るか反るかの丁半博打。雫ちゃんはそういうのが大好きだった。
「へい、かもーん!」
「カウンター狙いですか。相変わらず勇敢ですね」
「私は白黒ハッキリさせたいタチなのよ。それに、時間切れでエンストなんて格好悪いでしょ?」
「ふふっ」
マリィの微笑む声を聞いた。
雫の口元が少しだけ緩んだ。
そして。
「――いきます!!」
漆黒機体が駆けた。赤い流星が迎え撃つ。
ヒュオ、――ズズンッ!!
白銀のランスが紅機体の残像を射貫いていた。
突き出された拳が、その手にあるトンファーごと腕に絡め取られていた。
もつれ合う二つの輪郭。しかしこの体勢でなお動く事を止めないシューティングスター。
固められた腕をちぎれんばかりの勢いで引き抜くと、その反動を利用して左拳を相手のガラ空きになっていた脇へとねじ込んだ。
ベキョベキョ。そんな鉄のねじ切られる音があって、宙を浮く勢いで真横に吹っ飛ばされたのはファントムだった。
漆黒色の体躯は地べたに激突して、そこから動く気配はなかった。
危険を察知してか救急班の人間が駆け寄ってきて強引に面具を剥ぎ取っている。
「いくらなんでも熱くなりすぎじゃあないのか?」

100 :
耳元で冬矢君の囁きがあったけれど雫は答えない。
AMSをボタン操作で脱がせて診察するに外傷はなくて、単に受けた衝撃で気絶しているだけとのことで。
ホッと胸を撫で下ろす人々と、その向こうで固唾を飲む野次馬が見えて、そこでようやく勝利を実感する。
けれど同時に、何とも言えない奇妙な感覚に陥った。
(わたし、こんな所でなにをやっているのだろう……?)
空は泣きたくなるほど青い。
本当だったら学校生活があって、家に帰れば完徹でアニメを見たり、そうでなければ美香子ちゃんの強引な誘いで街へと引きずり出されて、
嫌そうな素振りとは裏腹に流行の服を買ってファーストフード店でハンバーガーにかぶりついてみたり、はたまた甘くて美味しいケーキに舌鼓。
そんな日々がずっと続くと思っていた。
頭じゃ大学に行って会社に務めて、他の誰かと恋愛して結婚して子供を作って、そんな未来がある事を知っていたけれど、だけど気持ち的にはずっとこのまま続くと信じたかった。
それなのに、この現実はナニ?
SFまがいの強化服に身を包み、勝った負けたと騒いでる。駆り出されたこの戦争に負ければ未来は無いだなんて言われている。
どうして私はこんな所にいるのだろう?
とても場違いに思える。けれど、振り返ればこれまでもこれからも生死を共にする仲間達が居て、みんなが私を見つめている。
なぜ私なの? 問い掛けても答えは出ない。
+++
本当ならAMSでの格闘訓練だったはずの時間がいつの間にやら決闘じみたガチンコバトルになっちゃったものだから、夕刻ともなれば二人してスタッフの皆さんから叱られてしょんぼり顔で仮設テントに戻ってくる。
ファントムは脇腹の装甲とその内側の電気系、ついでに生命維持などの環境を整える装置が破損していたし。
シューティングスターに至っては腕部の人工筋肉がズタズタで総取っ替えしなきゃいけなかったりで、双方サイドのスタッフは修理に大わらわなのです。
で、そんな状況を作り出した本人達はと言えば同じテントの中、密かに持ち込んだ映像機器でアニメの鑑賞会などを開いていたり。
雫ちゃん秘蔵のコレクションはブルーレイで百本以上。
出撃までの数日間で制覇する段取りだったりする。
「ね、コレ面白いでしょ?」
「話し掛けないで下さい。気が散ります」
「うあ、ハマってるよこのコ」
マリィはこれまでアニメという物を見たことが無くて、興味の範囲外だったらどうしようと不安だったけれど、この尋常じゃない食いつきっぷりを見るに杞憂だったらしい。
というか普段から集中する事に馴れているせいか、瞬きもせずに食い入るように液晶モニタを見つめる少女を見る限りオタクになる要素は申し分無く。
あと数日ほど調教すればよく訓練されたオタクへと華麗に大変身すること請け合いだ。
夕刻からぶっ通しで鑑賞に明け暮れ、気が付けば晩の10時過ぎ。
背後で物音があって振り返ると、そこに二人ぶんの夕食をトレイに乗せてやって来た水無月さんの姿を見つけた。
「晩飯だ。まったくなんであたしが……」
「あ、そこ置いといて家政婦さん」
「誰が家政婦だコラ。ああ、こいつ殴りてえ――!!」
素っ気ない返事にグッと拳を握る千歳さん。
しかしそんな遣り取りさえ完全無視で画面に釘付けのマリィちゃんにほんのり興味を抱いたのか、千歳さんは覗き込むように少女の視線の先へと目をやった。
そこには物語の佳境を迎えた萌えアニメが映し出されている。
「そんなに面白いのか、それ……?」
「……」
返事がない。ただの屍のようだ。
いやいや、そうではなくて。
マリィちゃんは二次元の世界にすっかり魅了されいるらしく、彼女のドキドキ感が顔を見なくても伝わってくる。
反して千歳さんはそういうのにあまり興味が無いのかややしらけた面持ちだった。
「ま、早く寝ろよ。明日も早いんだしさ」
「ん、ありがと」
「おやすみ〜」


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