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だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ7


1 :2011/11/28 〜 最終レス :2019/10/14
・これまでのガンダムシリーズの二次創作でも、
 オリジナルのガンダムを創っても、ガンダムなら何でもござれ
・短編、長編、絵、あなたの投下をお持ちしてます
・こんな設定考えたんだけどどうよ?って声をかけると
 多分誰かが反応します。あとはその設定でかいて投下するだけ!
携帯からのうpはこちら
ttp://imepita.jp/pc/
PCからのうpはこちらで
ttp://www6.uploader.jp/home/sousaku/
過去スレ
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ6」
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1318547846/l50
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ5」
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1280676691/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ4」
ttp://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1258723294/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ3」
ttp://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1245402223/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ2」
ttp://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1236428995/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ」
ttp://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1219832460/
これまでの投下作品まとめはこちら
ttp://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/119.html

2 :
前のスレが容量オーバーになってたので建てました。
まあ、ほぼおれのせい……だな(汗
さてさて。
では、早速行きましょうか。

3 :
 ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト) 外伝・月光の歌姫01

 真っ白い大地の上空を、二機の飛行物体が駆け抜ける。
 派手に飛び回り、時に二機が上空で交叉して、まるで星空に絵でも描く様な動きを見せた。
 その二機は、現用の航空機などではない。
 翼の無い、その推進力で半ば強引に飛翔する力を得ている、白いパール塗装の歪な機械。
 可変MS・リゼル。
「機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)」に登場する機体だ。
 地球連邦軍のリガズィの後継機で、メタスの可変機構を取り入れて完全変形を実現した機体である。
 なにしろリガズィは、フライトユニットは別パーツだったのだから。
 ゴツゴツした箱の様な鋼の塊に、申し訳程度の機首と翼。
 航空力学に照らし合わせたならとても、これが飛ぶとは思えない。
 それが、ただ飛ぶばかりか曲技飛行まで見せるのは、ここが現実の空間では無いからだ。
 ついでに言えば、地球上でも無い。
 そして。
『……Yeah――――っ!!』
 甲高いシャウトと共に、どこかから飛んで来た空間を乱舞する小さな機械から、次々と強力な光が放たれた。
 円錐形に似たフォルムを持ち、遠隔操作だからこその機動性を見せる。
 それはファンネル。
 色とりどりのビームを放射し、大地を無茶苦茶に切り刻みながら飛び回る。
 視界を遮る程の煙が立ち昇るが、この場においてはこれは、スモーク自体を人工的に発生させているのだろう。
 何故ならばここには、砂を舞わせる風を起こす為に必要な、大気が存在しない。
 ここは、月面だ。
 バーチャルな空間に形作られた、3DCGで構成された地球の衛星の地表部分。
 そして、ビームのカラフルな光に染まるスモークが晴れた場所に立っていたのは――
 一機の白いMS。
 身長よりも広い横幅を持った、だが華麗とも思えるフォルムを有する、シリーズ屈指の美しさを誇る機体。
「機動戦士Zガンダム」に登場した、ネオジオン軍のニュータイプ専用MS・キュベレイ。
 パール塗装を施されたボディにカラービームの照り返しを反射させ、右手を手元に、左手は高々と天を指差し――
 このMSの出自を考えると、およそ戦闘時には考えられない姿である。

4 :
『みんな――っ! 元気してるぅ――っ!?』
 手元に寄せた右手が握るのは、ビームガン/サーベルを改造したマイクだ。
 ヘッド部分がクラシカルな形に見えるのは、ワザと大きく見せるためか。
 それとも、それがかわいい形だと使い手が思っているからなのか。
『それじゃあ――いっくよぉ――っ!』
 カメラがある位置がわかるのか、完全に真っ直ぐ目線を向け、ビシッと長い左人差し指を差し向ける。
『“ハートにっ……シューティング☆スタ――――”っ!!』
 ダンっ! ダダダンっ!!
 ドラムが告げる曲の始まりと共に、上空を舞うリゼルがフォーメーションを変えて高々と上昇した。
 続くギターのソロに、ファンネルの動きが激しくなる。
 そして、それらの中心であるキュベレイも、その場でクルクルと舞い踊った。
 まるで音のうねりに乗って、全てが連動しているかの様だ。
 そして、ドラムが刻む腹を蹴り付ける様なリズムと共に、あの特徴的な大きな両肩が振動している。
 中にスピーカーが仕込まれているのだ。

 ♪ 星屑が このハートに降り注ぎ
   胸に キラキラ 輝くの
   ちょっと あなた 気付いてる?
   この輝きは 全部 あなたのものよ
   You are my only one !!

「……えーっと……」
 大音量で鳴り響くポップロック調のアイドルソングに、少し引き気味なウエハラ・ユイトである。
 模型工作同好会結成以来、普段はその隠れた活動の場をホビーショップ・ノアに限定していたが、
 今日は久し振りに違う所に行ってみようと、
 親友にして相棒のホシナ・ケンヤと共に駅前のゲーセンに足を踏み入れた途端に、この歓迎振りだ。
 もちろん、その場で歌っている訳ではない。
 これは、ネット配信されているPV(プロモーションビデオ)の映像だ。
 しかし、いつの間に。
 ガンプラバトルのフィールドで、MSに乗って歌を歌うアイドルなんかが出てきたのか。
「おおー! こりゃガンプラバトル界の歌姫、シノザワ・マイナじゃねえかよ!」
 興奮気味にそう言うところを見ると、どうやらケンヤは彼女のファンらしいが。
「これって……良くあるバーチャルアイドル……とかって奴?」
 CGのMSがマイクを持って歌っているなんて、そうとしか思えない。
「へえっ!? ユイお前、シノザワ・マイナ知らねえのかよ?」
 信じられない、と言う顔で親友は心底驚いている。


5 :
 すると丁度、リズムに乗って月面で踊るキュベレイの姿が、同じ色の衣装に身を包んだ女の子の姿にパッと変わった。
 ワイプで次々と、実写映像とMSのCGが入れ替わる。
 振り付けが完全にシンクロしていた。
 月面に宇宙服無しで立つ生身の女の子は、見れば一瞬ギョッとするが、考えればバーチャル映像なのだから何も不思議は無い。
 背中まで伸びる栗色の髪。
 両側で結わえた長いツインテール。
 これがどうやら、シノザワ・マイナ本人らしい。
 キュベレイが手にするのと同じデザインのマイクを持って、フワフワのスカートを揺らしながら一定の範囲内で踊り、歌っていた。
「このキュベレイは、マイナの愛機さ。これは音楽ライブ用のスペシャルチューニングモデルらしいけどな」
 上空を駆けるリゼルも間奏のタイミングで人型に転じ、キュベレイの両脇に降り立って一緒に踊る。
 見た目は変わらず、GMっぽいMSのままだ。
 どうやらこの姿でバックダンサーと言う事らしい。
 こちらはパイロットの素顔を出さない代わりに、機体各所に刻まれたスリットから効果用のレーザーを煌かせている。
「……ん???」
 ジッとモニターを見上げていたユイトが、怪訝そうな表情を浮かべた。
「なんだユイ? どした???」
 その変化に気付いたケンヤが、訊ねて来るが――
「――いや」
 ユイトは、すぐにその表情を戻した。
「なんだか、どこかで見た事がある気がする子だと思ったんだけど……思い違いだよ、きっと!」

 ♪ あなたの ハートに シューティーング☆スタ――――っ!!

 モニターで顔がアップになるそのアイドルが、ウインクしてCGの星を目蓋から散らしてみせるが、
 その数秒前には、もうユイトとケンヤはそっちを見ていない。
「それより、久し振りにこっちに来たんだ。早くエントリーしちゃおうよ」
「そうだな。マイたんはいつでも見れるしな〜」
「そんな呼び方なんだ? でもそういうの、きっとユウリにキモがられるよ」
「あいつ、アイドルとか興味ないみたいだしなあ」
「……いや、そういう事じゃなくて……」
 なんだかんだ言いながら、ケンヤもアイドルよりバトルの方が大事なのだろう。
 まったくモニターに頓着する事は無い。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「ああっ! もう全っ然ダメっ!! てんでなってないわっ!!」
 今しがた新作のPV撮影のリハーサルで撮影された画像を一通り見終え、いきなり少女は喚く。
 件の歌姫、シノザワ・マイナその人であった。
 現在配信されているPVで見せる表情が、まるでウソだとでも言う様に、怒りを顔の全面に表している。

6 :
「あんた達、何の為にわたしのバック固めてんのっ!? しっかりやんないと即刻クビよクビっ!!」
 明らかに年上の女性二人に、上から目線で怒鳴り散らした。
 二人はガンプラバトルプレイヤー用のパイロットスーツを着ている。
 ヘルメットは被ってないが、代わりにマイク付きヘッドセットを装着していた。
 あの映像のバックで踊る、二機のリゼルのパイロットだ。
 こちらは素顔が出たりしないため、衣装の必要は無いのだろう。
 それでも、一応スーツのカラーリングは機体に合わせた特注の物だったが。
 そして見えないその中身にも、実は特殊な仕掛けが施してある。
「今日はもうやめやめっ! 帰るから車出してっ!!」
「でもマイナちゃ〜ん! これはこれで、決して出来は悪くないと思うんだけどなあ」
 中年のディレクターらしき男が、両手を揉みながら恐る恐るやってくる。
「アレのっ? ドコがっ!? あんまりふざけてるとアンタもクビよっ!?」
 ディレクターよりも、この少女の方が立場は上らしい。
 ここにいるスタッフは、ガンプラバトルフィールド上でのPVを撮影するための、事務所お抱えスタッフだ。
 だから実質、マイナ自身が主導権を握っている。
 その場がシーンとしてしまったのが更に気持ちを逆撫でしてしまったか、
「――ふんっ!!」
 大袈裟に鼻を鳴らして、少女はスタジオから出て行ってしまった。
 今日の撮影は本当に中止らしい。
 衣装も着替える事無く地下で黒い大型車に乗り込んだマイナは、後席に備えられたモニターに画像を表示させる。
 モニターが映し出したのは――
 今年の夏に開催された、ガンプラバトル全国大会本選の記録画像だ。
「……まったく……」
 ブツブツと文句を言いながら、その目はモニターから離さない。
 瞬きも許されないと思い込んでるかの様に、端から見れば怖いと思われる程の鋭い視線を注ぐ。
「一体何がそんなに不満なんだマイナ?」
 車を走らせながら運転席から話掛けて来たのは、中年の男だ。
「パパ……いえ社長。もうあの連中じゃダメよ!」
 イライラしながらも、怒鳴る相手は選んでいるのか、訴える様に言葉を吐いた。
 その間も、画面はしっかり見続けながら。
「ネットでも有名なガンプラダンスユニットだって言うから、一度は使ってみたけど……アレじゃあいない方がマシ」
「そうかい? 私にはその理由がわからないがな」
 娘――マイナに言われて彼女達を探し出してきたのは、父であり事務所社長でもある彼だ。
 良し悪しもわからないまま採用した為、今のこの事態は想定していない。
「やっぱりね、MSは戦闘機動じゃないと生き生きと見えないのよ。あんな魅せるためだけの曲芸じゃあ、絶対リスナーには伝わんない!」
 ガンプラバトルをやる者は、全員がバトル目的でエントリーすると思われがちだが、
 実際には、実に様々な目的でエントリーする者達がいる。
 チームでエントリーしてきて、延々二人で漫才をやったり、コントを繰り広げる者。
 機体のギミックを使って、街角の大道芸人よろしく、いろんな芸を見せる者。
 なぜか、戦闘をよそに宇宙の果てを目指してどこまでも真っ直ぐに飛んで行く者。
 そして、あの彼女達の様に、MSの機動性を生かして曲技飛行を極めようとする者
 ある意味、マイナもMSで歌を歌っている以上彼女達とは近しい仲間である筈だが――
 マイナは、自分では違うと思っている。
 なぜなら、彼女自身良くわかっている。
 歌を歌うという行為に、本来MSという物は必須ではない。
 今自分がやっているのは、端から見れば単なる演出だ。
 だが。
 これを本気でやって行けば、誰も文句は言わなくなるだろう。

7 :
 シノザワ・マイナの歌には、MSが無いと物足りない。
 世間にそこまで言わせて初めて、彼女は目標を達成できる事になる。
 一時的に、PVのためだけにやっていたのでは、他のタレントなんかとまるっきり一緒だ。
 人気アイドルグループ・SGOC(スゴック)のリーダー、コウジ・マツモトなどはガンプラ好きを公言して憚らないが――
 自分は、ただ好きだけで終わらせるつもりは無い。
 そして、このままカワイイだけのアイドルで終わるつもりも、無い。
 ガンプラバトルのフィールドで、自分だけが歌う事を許される。
 そして、ライブもフィールド上に、客を集めて開催する。
 そうなれば、世界でも初のバーチャルフィールドでの音楽ライブ実現と言う事になるだろう。
 そこまで突き詰めるつもりで、やる。
 認められるのはMSだけでも、自分だけでもダメ。
 そうしたいなら、自分自身の歌にももっと磨きを掛けないといけないが。
 そこまでやって、やっと自分はオンリーワンになれる。
 その為には。
 あんなぬるいダンスなど、無い方がマシだとさえ思う。
 本気の高機動ダンスをバックに、自分が渾身の歌を歌う。
 それが、今の自分の欲する全てだ。
 だから、ただ好きだけで大会画像を眺めたりはしない。
 全ては、次へと進む自分のため。
 妥協はしない。
 そんな彼女の目に止まったのは――
 一機のMS。
 本来の機体を若干形状変更したのに加えて、さらにサブウイングまである。
 ハッキリと機動性向上を目指して施されたカスタムなのは明らかだ。
 重力下での高機動実現には、多少パーツが邪魔でも空力を味方に付けなければいけないという事を良く理解している。
 バーニアで強引に軌道を捻じ曲げるなど、本来は邪道だ。
 そのためか。
 本来ベースとなったウイングゼロカスタムの設定には無い、バードモードへの可変機能が追加されている。
 この変形自体はそう難しい物ではないが、
 わざわざアーリータイプではなく、TV版と同じパターンの変形をさせている辺りに、このパイロットの機体への強いこだわりを感じさせた。
 そして、それを操る腕前も実に機体特性に適っている。
 変形と言う行為ですら、その速度をコントロールする為に活用していると思えた。
 本来、機動性自体はそう高くないウイングガンダムだが、それを理解した上で、テクニックでその欠点を埋めている。
 そして。
 強力すぎる武装は、時に自分の首を絞める事になるという事も良くわかっているのだろう。
 元々ある武装に、見た目でわかる出力調整を加え、さらに使い勝手の良い武装を別に追加している。
 そして、成功例をあまり耳にしない、GNドライヴの搭載と起動。
 本体から武装まで、隅々まで血の通った、見事な機体だと思えた。
 ここまでやれば、GNドライヴも動いて不思議ではない気がして来る。
 このパイロットは、とことん本気だ。
 決して、単なる遊びでバトルに臨んではいない。
 もちろん、楽しいからやっているのは間違いないが、それも本気だからこそ感じる楽しさだろう。
 歌と戦闘。
 一見違う事ではあるが、ガンプラを介して見ると、こんなにも通じるものなのか。

8 :
 自分だってMSを駆ってあのフィールドに立つ以上は、戦闘の事も良く理解しているつもりである。
 だからこそ、勝利の喜びも、愛機を失った悲しみも、良く理解できる。
 マイナは、目の前に光を見た気がした。
 後席に持ち込んだバッグの中から、愛用のタブレットPCを取り出す。
 ただ笑顔を強要されて歌わされているアイドルならともかく、
 自分の様に未来へのビジョンを持つ者にとって、情報は必要不可欠かつ貴重だ。
 ガンプラバトル全国大会の関連サイトにアクセスして、今のウイングガンダムの情報を検索する。
 目当ての機体は、すぐに見つかった。
 と言うより、他にウイングでエントリーしているプレイヤーがいなかったのだ。
 当然の様に、本名および顔写真は無く、あるのはエントリー時の登録名と、機体のスキャンデータ画像のみ。
「エントリーはW地区……エントリーネーム……???」
 一瞬、読み方に迷う名前だ。
 二つのアルファベット二文字の間にハイフン。
 これは果たして、単なるイニシャルなのか、それともネタか?
「ゆーわい?……うーい?……ゆーい……」
 そこまで口にして、ふと画面を操作する指が止まった。
 眉根を寄せて考え込む。
「マイナ、車の中でパソコンなんかいじってると目に良くない」
 父が声を掛けるが、聞いてはいない。
「ユーイ……ユイ!?」
 ふと口を突いた言葉で、何かにハッと気付いた。
 その顔は、何かの決意を秘めていた。
「――停めてっ!」
 反射的に叫んでいた。
「うわわっ!?」
 運転中に不意を突かれた父は、突然の声に驚きながら、急ブレーキで減速を掛けて路肩に車を寄せる。
「突然危ないじゃないか。一体どうした!?」
 怒りと呆れを半々にした様な表情で、後席に顔を向ける。
 その鼻先に、PCの画面を突き付けた。
「このウイングガンダムのパイロット、探すわ! すぐに!!」
 前回の様に、“探してくれ”とは言わない。
「まさか、お前自ら動くのか? 撮影はどうする!?」
「そんなの、今のまんまじゃ何回リハやったって一緒よ!」
 躊躇無くそう答える。
 こうなると、もう親の言う事など聞きはしない。
「W地区……多分、場所は変わって無いと思う。一旦マンションに帰って、支度を整えたらすぐに出るわ!」
「ちょっと待て! じゃあ明日からのスケジュールはどうするんだ!?」
 一応、一般的にはまだそれほどメジャーではないとは言え、ここ数日スケジュールは埋まっている。
 今が一番大事な時期。
 一つでも穴を開けたら、今後それがどう影響するか。
 だが。
「このまま普通にスケジュールをこなしていったって、ただのアイドル。十年後には元アイドルって呼ばれるだけで終わるのよ!!」
 シノザワ・マイナは、自分自身の才能を信じている訳ではない。
 常に危機感を感じている。
 だが、だからこそ。
 今このチャンスを、逃す訳には行かないと思う。
 たとえ一般的なメディアから干される事になったって、ガンプラバトルのフィールドがあれば、自分は続けて行ける。
 続けていれば、また実力で元のポジション――いや、それ以上のところまで上がる事も。
 信じているのは、その部分だけだ。

9 :
「パパっ! 今しかないの! だから……お願いっ!!」
 ここぞと言う時に、親として頼って来る。
 しかも、大切なカワイイ娘が。
 これに逆らえる男親がいるだろうか。
「わかった……ただし、今からすぐはダメだ」
 逆らえないながらも、締める所はしっかり締めて、父親は言った。
「スケジュールの事もあるが……学校はキャンセルできないだろう?」
 まだ中学二年生。
 学校は、一応マジメに通っている。
「とりあえず、週末の二日だ。学校にはちゃんと行け。スケジュールは……なんとかする」
「金曜日の放課後から! 一刻も早く動きたいの!!」
「……わかった」
 なんとか妥協はさせたと思える娘の言葉に、父親兼事務所社長は渋々頷いた。
 今後どのくらい時間が掛かるかわからないが、ともかく足掛かりは必要だ。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 放課後の技術実習室で、四人の会員達はそれぞれの作業準備に没頭している。
 先日、例の大作を披露した文化祭は無事に終了。
 製作を指揮したユイトからすれば、まだまだ問題のある完成品だったが、そこは初めてのジオラマ。
 物見高い一般客や他の生徒達からは、非常に好評を博した。
 ジオラマとなると、さすがにケンヤでも経験は不足しているし、ユイト自身もあそこまで大きい物は初めてだ。
 だから、ユイトは作って良かったと思っている。
 文化祭終了後、保管場所の問題もあってこの作品は廃棄の予定だったが、
 学校がそれを止めた。
 出来がなかなか良いので、保存の方向で考えたいと言う。
 従って今は、この実習室の片隅で、繋いで大きくした新聞紙を掛けられている。
「これは勝利よ! 自力で勝ち取った、我々の完全勝利っ!!」
 時々作業を手伝ってくれた、顧問のクルカワ・アオイは、学校側のこの対応に興奮していた。
 この作品一つで、模型工作同好会は学校側からも認められた、と言う事にはなるが……
 そうなると、次の大作はもっと良い物を求められる事になるし、
 それ以上に、入会希望者が来る可能性が高くなるのも、彼ら自身としては問題だ。
 事実、文化祭が終わってから、入会テストバトルはすでに二回ほどやった。
 最近は覆面プレイヤーとして、アオイが一人で多人数を相手に叩き伏せる事が多くなっていたが。
 相手が子供だろうが素人だろうが、敵として戦う以上一切手は抜かないのがこの猛者のポリシーだ。
 という訳で。
 あれからしばらくは少し忙しかったが、このところのんびりとした日々が続いている。
 学校の勉強以外は。
 彼らは今、会の活動として個別の作品を作っている。
 顧問からの課題は出ていないため、いっそガンプラ以外で何かやろうとみんなで相談して――
 ユイトは、何やら牛乳パックを大量に集めてきて、それを紙粘土状に加工してから何か作るつもりだ。
 ケンヤは、百円ショップで買って来た割り箸を削って、なにやらチマチマと作っている。
 ミスノは、ジオラマ作りでミニチュアの魅力に目覚めたか、ドールハウスを作ろうとしている。


10 :
 そんな中、ユウリは……
「うーん……これなんかおいしそうに見えるよねー」
 見ているのは、なぜか料理のレシピ本だ。
 どうやら、リアルな食品サンプルを作ろうとしているらしい。
 最近は携帯ストラップなどもあったりして、そういうリアルなミニチュアが人気だが――
「ユウリ。自分の今の実力は、ちゃんと見極めて選びなよ」
 ユイトは、どこか心配そうに言う。
 不当に高望みするのは、素人にありがちな傾向だ。
 食品サンプルを作る事自体は誰も反対しないが、あまりにレベルの高い所を目指して挫折すると、一番辛いのは本人なのだから。
 それよりなにより。
 今のところ、ユウリはレシピ本を見ているだけで、肝心のサンプルの作り方はチェックしていない。
 そこが一番問題だったりする。
「ユイ、お前何作るつもりなんだ?」
 まだ素材準備の段階なので、全貌が見えない。
「うん、とりあえず日本の城でも。安土城なんか良いね!」
 牛乳パック粘土だと、市販されている紙粘土よりも軽く出来る為、少し大きめの作品でも作る事が可能だろう。
「そんなの、キット売ってるじゃん」
「いや、あれは安いと小さいし、大きいのは高いから。それに出来るだけ、内部も作ってみたいからさ」
 こだわるポイントは、個人でそれぞれ違う。
 そういう意味では、ミスノのこだわりはユイトに近い様だ。
 悩むのにも飽きたのか、ユウリは隣を見やった。
「ミスノは……よくそれだけチマチマと……」
 なにしろ、木工工具の他に裁縫道具まで用意して気合が入っている。
 裁縫の技術まで必要なドールハウスは、事実上女子の独擅場だ。
「そういうの、ユイも好きそうだよなー」
 何気に言うケンヤ。
 その言葉に、
「ホントっ? ユイト君こういうの、好きっ!?」
 何故か過剰に反応するミスノ。
「うん。内部まで精巧に作られたドールハウスって、本当に見事だよね」
 あまり深く考える様子も無くユイトは返すが、
「わっ……わたしがんばるっ! とことん作り込むっ!!」
 いきなり、テンションがMAXにまで高まってしまった。
「なんかこういうの、悪くないよな」
 ケンヤはしみじみと言った。
 この会は、ガンプラバトルの為にアオイが強引に立ち上げた同好会だが、
 逆にこの会が無ければ、ケンヤ自身ガンプラ以外の物を作ろうなどとは考えなかっただろう。
 おかげで、ガンプラにもそれで培った技術がフィードバックされていくはずだ。
 それはとても良い事だと思えたが――
 ガラガラガラッ!
「はーい! 今日もやってるわねゴブリン達っ!!」
 いきなり引き戸が開いて、顧問の声が響いた。
 そしてあろう事か、
「何? 何みんなしてチマチマやってんの〜?」
 ジロリと作業途中のみんなを見渡した。
 物言いまで弟子と似ている師匠である。
「いや、最近あんたが課題出さないから、こっちで独自に個別のスキルアップを図ってんじゃねえか」
 呆れた様にケンヤが返す。
「そんなのよりもっとガンプラ作んなさいよ。退屈なだけじゃない」
 せっかく自主的に真面目な活動をしようとしているのに、ぶち壊しだ。
「あのなぁ。中学生にそんなホイホイキット買える財力ないだろが」
「別にモナカキットでも良いじゃない。あれなら安いわよ」
「あれは素組みだと、そのまんまバトルには使えないだろが。確かに塗装やら接着やらで、練習にはなるけどさ」
 余程の腕があってカスタムにも手馴れて無いと、旧キットで今のガンプラバトルに挑むのは難しい。

11 :

「まあ何でも良いわ。それよりバトルに行きましょ!」
 みんなの作業の進捗にはまったく気を使う事無く、アオイは急かす様に言った。
「せっかくの金曜日じゃない。明日明後日は休みなんだから、今日は多少ハメ外したって構やしないわ!!」
 そう言って、返答も聞かずにさっさと部屋から出る。
「とにかく、先にノアに行ってるわ!」
 ガラガラピシャッ!
 開いた時同様、扉は乱暴に閉められた。
「……なんかイラついてんな、アオイ先生」
「一刻も早く、ストレス解消したいって感じ?」
「嫌な事があったみたいだね」
「クルカワ先生……とってもわかりやすい……」
 四人はヒソヒソと噂しあう。
 ともかく、ああ言われた以上無視は出来ない。
 今日の作業はここまでにして、一旦帰宅する事にする。

 そして二時間後。
「――遅いっ!!」
 待ちきれずに店の前で、仁王立ちで腕組みするクルカワ・アオイが、四人を出迎えた。
「いや。制服のまんまで来れりゃ、もっと早いんだけどな」
「まったくもう! やっぱり問題は学校(あそこ)か!!」
 どうやら、イライラの原因も職場である学校らしい。
 即座に頭の中で結びつけたか、言葉を吐き捨てた。
「もっと学校内での立場を強化しないといけないわね!」
「……いや、それより店入ろうぜ」
 ただでさえ、来店客を拒む様に店先に陣取っていたのだ。
 これ以上ここにいたら、本当に営業妨害になってしまう。
「みんな、新作持って来たんでしょうね?」
「師匠、あたしそんなに早いペースで作れません!!」
「えーっと……わたしも同じく……」
「オレは新作だぜ! 結構自信作だ!!」
「でもザクだろ? ボクは一応完全新作……かな?」
「なによー! ウエハラ君はウイングカスタムでも良かったのに!!」
 アオイはあのウイングの活躍を間近で見たかった様だが、
「あれはそうそう出せませんって! 大丈夫。期待は裏切らないと思います!!」
 ユイトもその言葉に自信を窺わせた。
 五人揃って入店する。


12 :
『バトルフィールドは“ソロモン周辺宙域”です』
 戦後連邦では“コンペイ島”とも呼ばれた、旧ジオン軍の宇宙要塞だ。
 周囲は宇宙空間が広がっているが――
 実は度重なる戦闘で、周辺には大小様々なデブリが散らばっている。
 それを利用して罠を張ったり、待ち伏せしたり、色々な作戦を考えられるのがこのフィールドの魅力だろう。
 こうなると、意外なMSが活躍したりする。
『ふっふふーん! これは良いわ!!』
 コクピットで声を上げるのはユウリだ。
 そしてその愛機は――
 全国大会本選でも使った、ガイアガンダムだ。
 四足獣のMA形態で、デブリが集まる暗礁宙域を、隕石から隕石へ飛び移りながら高速で移動してゆく。
 上下が無いので、足場さえあればどこでも走れるのが強みである。
 それから遅れて、おっかなびっくりと言う感じで隕石の間を抜けて行くのは――
 ミスノのティエレン・タオツーだ。
『ユウリちゃん……すっごい張り切ってるなあ……きゃっ!?』
 結構隕石同士の間隔が狭かったりする為、こういう場に慣れていない彼女には、通り抜けるだけで一苦労だろう。
 今も接触しそうになって、慌てて操作レバーを動かしたりしているのだから。
 そんな彼女の元に、
『おいおい。やっぱこういうところはミスノには危ないぜ』
 派手にバーニアを吹かして傍にやって来たのは、ケンヤだ。
 だが。
『――ええっ!? ケンヤ君、それって???』
 いつもと同じザクだと思っていたが、今日は少し違う。
 確かに、ベースになっているのはザクというか、ハイザックだ。
 ただし。
 その全体を覆うと言うか、装着されている大型ユニットが、そのシルエットを全くの別物に変えていた。
『ハハン! びっくりしたか? ハイザックにはこういう装備もあるんだぜ!! 本体以外はフルスクラッチだけど』
 モノアイを輝かせて得意そうなのは――
 バイザック・TR−2“ビグウィグ”
「Zガンダム」のハイザックをコントロールユニット及びジェネレーターとして活用する為に丸ごと流用した、移動式ビームキャノン砲台の試作機だ。
 MS右側に長大なメガ粒子砲のバレルを持ち、そのユニット自体が自力で移動できる機能を持っている。
 コアになっているハイザック自体も、大幅に改造が加わっていて、なかなかの力作だ。
 ノーマルのハイザックと違う部分もしっかり造り込まれている。
 ケンヤが自信作と言うのも頷ける。
 どこがどう違うのか、ミスノにはさっぱりわからないが。


13 :
 ティターンズのテストMSと言う事で、今回は本体のカラーリングもティターンズカラー。
 僅かに自己主張のつもりか、頭頂部に前から後ろへズバッと、白いラインが一本太く走っていた。
『あの課題の時、徹底的にいじれって言われたのが、こういう答えになったのさ』
『へぇ〜! じゃあこれ、あの時のハイザックを使ってるのね!!』
『あと他に出来るとすれば、“ダンディライアン”くらいかあ。いや、あっちはベースがマラサイか!?』
 アニメ本編ではネタが足りなくて、ついに模型雑誌連載オリジナルモデルの方まで眼を向けるしかないザクマニアである。
 ザクの方が数え切れない程のバリエーションがあるのに対して、ハイザックは正直、カラーリングくらいしか変更点が無いのだ。
『それより、掴まれよ。こっから出るぞ!』
『でも……ユウリちゃんが……』
『アイツは走り回ってご機嫌なんだから、放っといても大丈夫さ』
 薦めに従って、巨大な機動砲台に取り付くティエレン。
『行くぜ!』『う……うん』
 危険がいっぱいの暗礁の中を進みだすと、隕石の陰に隠れていたらしいMSが数機飛び出して来た。
 リックドムやゲルググなど、まさにこういう場所に特化した様な機体ばかりだ。
『囲まれるっ!?』『そうはさせねえ! 一発かましてやるぜっ!!』
 だがこうなると、さすがにケンヤのバイザックも不利となる。
 推力は上がっているし、火力も高いが、
 このサイズになるとさすがに、宇宙用MS単体の方が機動性では勝る。
 そんな局面で、ケンヤに出来る事はただ一つ。
『――よし! ぶっ放すぜいっ!!』
 キュウゥゥゥゥゥゥ…………バオッ!
 バイザックのビームキャノンが、躊躇いも無く放たれた。
 粒子砲のエネルギーは敵MSに命中する事無く、彼らの後方に陣取っていた隕石に命中する。
 ドゴアッ!
 真っ赤に焼けた岩石が周囲に散り、そこにあった岩石が消失した。
『――今だっ!』
 敵MSが避け、障害物が消えた間隙を縫って、TR−2が急加速しつつ通り抜ける。
 それを追って敵MSが動き出した。
『追ってくるよっ!?』
『とりあえず、真っ直ぐ飛んで出来るだけ振り切るしかないよなあ』
 直進スピードだけは、こっちも負けてない。
 だが。
 まっすぐ進むだけしか逃げる手段が無いというのは、やはり非常に分が悪い。
 ビームライフルが、バズーカが、そしてミサイルが。
 大きくて狙いやすい標的を、我先にとばかり狙ってくる。
 後ろに向かって反撃するための武装はTR−2には無く、事実上ひっついているティエレンが反撃するしかない。
『追いつかれるっ!?』
 ミスノが絶望の声を上げ、
『――くっそおおおおおおっ!!』
 ケンヤが、悔しさに絶叫する――
 その時。


14 :
 ――バシュウウウウウッ!!
 遠距離からの高出力ビームが、追跡する敵MS達の行方を遮った。
『――なんだっ!?』『新手かっ!?』
 ビームの光跡を目で追い――
 彼らは見た。
 遥か彼方で輝く月を背に――
 大きな翼を広げてそこに静止する、人型らしきMSのシルエットを。
 その姿――まさに死を招く天使。
『――あ……あれはっ!?』
『まさか――ウイングゼ……』
 驚きの声を上げるミスノとケンヤ。
 思わずその姿から連想するMSの名前をケンヤの口から最後まで言わせる様な事はせず、
 ブワッと大きく羽ばたいた謎のMSは、この空気の存在しない空間で、まるで風を孕む様にグルリと大きくロールすると、
 こちらに向かって真っ直ぐに飛んできた。
 見かけ上は、ゆるりと飛んでいる様に見えるが――
 その速度、恐ろしく速い。
 真正面から放たれる攻撃を、これも一見緩やかで大きな動きで回避し、
 あっという間に、一機のリックドムの射程内に到達した。
『――このっ!?』
 ジャイアントバズを構えて、今にも撃とうとした瞬間。
 その左脇を、超高速で飛び抜けた。
 その黒い重装甲の機体は、腹部で真っ二つになり――
 やや遅れて、リックドムは爆発する。
『ああっ!?』『す……すげえ!?』
 圧倒的な性能差に、ミスノとケンヤも言葉を失った。
 そして、その爆発の輝きで――
 そのMSの姿が露わになる。
 機体全体を包み込めそうなほどに巨大な翼の中心になっていた機体は、全身が白い――が。
 おそらく、ケンヤが言う様にウイングガンダムゼロカスタムの物らしき翼を有したその機体、
 ガンダム……ではない。

15 :
「ガンダムW」のMSの中では、全てのMSの起源と言われている。
 プロトタイプリーオーとも呼ばれる、アフターコロニー世界でのMSの始祖だ。
 それが、翼を持っている――と、言う事は。
『まさか――トールギス……ヘブンっ!?』
 ケンヤの驚愕の叫びにミスノは、
『へっ……ヘブンっ!?』
 訳のわからなさに絶句するしかない。
 トールギスヘブン。
 ガンダムWの外伝的小説「フローズン・ティアドロップ」に登場する、作品世界では五番機にあたるトールギスだ。
 ついでに言えば作中には、TV本編に登場する事の無かった、トールギス始龍(シロン)も回想シーンで登場する。
「ケンヤ……大正解っ!」
 その白い機体のコクピットで声を上げたのは、ユイトだ。
「……と言っても、設定画とか無いから想像で作るしかないんだけどね!」
 バイザックの隣について速度を合わせる機体は、美しいの一言だった。
 登場した経緯を考えて、ベースはトールギスV。
 ユイトの勝手な考察では、
 エンドレスワルツ最後の決戦の地・ルクセンブルグで、ツインバスターライフルの連続発射により自壊したウイングゼロの残った翼を、
 密かに“火消しのプリベンター”が回収。
 戦後火星に移住したゼクス・マーキスが、一緒に持ち込んだトールギスVの機体にこの翼を流用および調整。
 それにより完成したのが、トールギスヘブンだろうという説だ。
 もっとも、全貌が見えないのでほぼ妄想だが。
 せめてイラストでもあれば良いが、現在の所、登場時に使った殲滅兵器の正体もわからない。
 従って武装は――
 右にVのメガキャノン。
 左にVのシールド……は装着しているが、先端に付いている突起は、ヒートロッドとは少し違う。
 だが。
 あの文章で判断する限り、トールギスヘブンは一切武装してはいないはずだ。
 翼が攻撃と防御を兼用しているのは間違いないだろうが、今のままでは再現のしようが無い。
 従って、正確にはあの“トールギスヘブン”の、姿を写した贋物と言う事になる。

16 :

「だから、これは正確には“ヘブン”じゃなくて……“飛天”って、ところかな?」
 新作を披露できた嬉しさに、ユイトの声も弾んでいる。
“飛天”――東洋風の天使と言う事だ。
『まったく……いつの間に作ってたんだぁ?』
 ケンヤは呆れ、
『ホントにキレイ……』
 ミスノは見とれている。
「いや、全国大会のウイングカスタム作った時に、翼が丸々余っちゃってさ。それで、ちょうどトールギスVのキットも手に入ったから」
 良く見ると、全体的にはトールギスVそのままの本体だが、フェイス部分だけはガンダム顔だ。
 目元を覆うクリアカバー越しに、二つの輝く眼が見える。
 ガンダム顔にしたのは、単なるこだわりだろう。
 本体の、Vで青だった部分は、シルバーグレーに塗装され、全体の白を部分的に引き締めていた。
 突進する為の推力を補う為か、両方の腰に、オリジナルの追加ブースターが装着されている。
 これだけが少しだけ美観を損ねているが、不要になれば排除出来る様になっている。
「――じゃあ、後ろは任せてよ。早くここから出よう!」
 そう言って、トールギス飛天は翼を羽ばたくように動かして後方を向いた。
 左のシールド先端から、ズイっと長いブレードが飛び出す。
『わかった! ミスノ行くぞっ!!』
『ああっ! ユイト君の戦う姿〜!!』
 ミスノはもっとトールギスの活躍を間近で見たいのだろう。
 だが。
 今はのんびりと見物と言う状況ではない。
「――さあっ! ここから先はボクが相手だ!!」
 左のシールドから伸びるブレードを真正面に突き付け、ユイトのトールギス飛天は宣言した。
 元より、殲滅戦は望んでいない。
 あくまでも、ケンヤ達が暗礁宙域を抜けるまでの時間稼ぎだ。

『……あれっ? ミスノがいない???』
 隕石の中を散々走り回った後に、ようやくユウリは気付いた。
 ふと気付くと、後から追ってきていたはずの親友のMSの姿が見えない。
 自分は労せずここまで抜けてきたので、ミスノがどれだけ苦労していたかに思い至っていなかったのだ。
『あっちゃー! ミスノを迷子にしちゃったか。しょうがないなああの子も』
 実際には、自分の方が迷子に近いのだが。
 それでも、走る速度は緩めない。
 どこまでも、無限に続くかに思われるデブリ群の中を、ひたすら走りぬける。


17 :
 その行く手に飛び出し立ちはだかるのは――MS−18E・ケンプファー。
「0080・ポケットの中の戦争」で初登場した、ジオン軍の試作MSだ。
 両肩にバズーカを装着し、左腕には十基余りの機雷を繋げた“チェーンマイン”という武器を装備している。
 その凶悪な武器で、獣を捕らえようとでも言うのか。
 頭上でグルグルと投げ縄よろしく振り回すと、いきなり前に振り下ろしてきた。
『――おっとぉ! 知ってるわよぉその武器はっ!!』
 横っ飛びに回避して、それが手元に戻るまでの間を見計らって突進を仕掛ける。
 間に合わないと悟ったか、ケンプファーの方も左手の武器を投げ捨てて、二門のバズを構えた。
 だが。
『それも間に合わないわよっ!』
 MA形態のガイアが、背中に装備された二門のビームキャノンを迷う事無くぶっ放す。
 腹部のコクピットにその攻撃をモロに食らい、青いMSは大爆発を起こした。
『――よっと!』
 そこから宇宙空間に身を躍らせ、一瞬の内にMS形態へと転ずる。
 作る方はまだまだ不得手だが、ユウリは確実に操縦の腕を上げている。
 そして、兄のガンダムDVDコレクションで、出来る限り過去の作品を予習してきた。
 だから、MSの名前はわからなくても、その形状と、搭載する武装は一通り頭に入っている。
 相手がよほど特殊なカスタムでもしてこない限り、対応出来る自信がついていた。
 原作を忠実にリスペクトしようとする相手ほど、ユウリにとってはやりやすい相手となるに違いない。
 陸戦における優位性の向上を目指して開発されたとされるガイアガンダムだが、
 その開発陣営は、元々宇宙を拠点とするザフト軍。
 宇宙での戦闘も、充分に考慮されている。
 右肩にマウントされたビームライフルを右手に持ち替え、油断無く構えた。
 そこに襲い掛かるのは、やはり宇宙での主流か。
 リックドム三機で編制されたチームが、フォーメーションを組んでやってくる。
 こちらは原作と違い、主武装をジャイアントバズとしながらもサイドアームにザクマシンガンを装備している。
 次々と撃ち込まれる砲弾を避けながら、たった一機でビームライフルを撃ちまくった。
 機動性で勝るリックドムも、散開してそれを回避。
 何度かの砲撃で砲弾が尽きると、今度はマシンガンを撃ってきた。
 どちらかと言うと、強力だが避けるのは容易いバズーカに比べ、
 威力は弱くても隙無く撃ち込まれるマシンガン攻撃の方がユウリは苦手だ。
 バーニアとAMBACを併用して、雨の様に撃ち込まれる攻撃を回避し、
 右手のライフルと、両肩から伸びるビームキャノンを正面に向け――
『――行っくわよぉ〜……当れぇっ!!』
 ビウッ!
 バフォッ!!
 一斉に発射し、一機を仕留めた。
 だが他の二機が、大きく散開して再び挟撃を仕掛けてくる。
『わわわわわっ!? これはヤバイわっ!!』
 スラスターを吹かして離脱を図るが、いかにガイアガンダムと言えど、空間戦ではリックドムの方が上だ。

18 :
 ヒートサーベルを抜き放って迫るリックドムに対抗して、ユウリの機体もビームサーベルを抜いた。
 前と後ろから挟まれる形になるので、どちらにも同時に反撃とはいかない。
『ええ〜いっ! なるようになれっ!!』
 一瞬だけ考えて、前から来る方に仕掛ける事に決めたユウリだったが――
 後ろからも確実に攻撃は来る。
 だが。
 ゴアッ!
 突然高速で接近して来た何かが、ガイアガンダムを後ろから斬り付けようとしていたリックドムを弾き飛ばす。
 いや。
 接触と同時に、縦に真っ二つに切り裂いていた。
 ドゴァッ!!
 その爆発に驚いたか、前から来るリックドムの動きが僅かに鈍る。
 そんな動きの変化を、ユウリは見逃さない。
『――いただきっ!』
 ビームサーベルを横に一閃。
 ドドーン!
 真っ二つに分断された黒いボディが、大爆発を起こして至近距離にいるガイアをも巻き込んだ。
 その爆発の炎の中から――
 黄色と黒のツートンボディが飛び出す。
 ユウリの機体だ。
 多少爆発の巻き添えは食ったが、自分のやった結果なので文句は言えない。
 そして。
『やっぱり……師匠〜〜〜!』
 ピンチを救ってくれたMSに振り向くと、情けない声を上げた。
『フッ……ソウミさん! 一人でも結構やる様になったじゃない!!』
 声を上げるのは、クルカワ・アオイ。
 そして今回の機体は――
 夏の大会前にユイトのウイングゼロと死闘を繰り広げた、リーオーヘッドのトールギスだ。
 あれからアオイは、この機体を“始龍”ならぬ“武龍(ウーロン)”と名付けている。
 これを選んだと言う事は、今日はお遊び無しのガチバトル。
 それというのも――


19 :
『あーあ。せっかくウエハラ君があのウイング持って来ると思って、これ持ってきたのになー』
 どうやら対ウイングカスタムの為のチョイスだった様だ。
『リターンマッチじゃないけど、やっぱりアレに対抗しようと思ったら、この機体じゃないと』
 そう言いながら、今リックドムを切り裂いたヒートロッドをプラプラと揺らす。
『師匠……新作じゃないんだ……』
 店に入る前、みんなには新作を持って来たか聞いていた本人が、以前の作品を再登場させるとは。
『私だってねえ、それほど裕福な訳じゃないわよ。あなた達はお年玉とか、これから色々貰う機会あるじゃない?』
 なんだかんだ言っても地方公務員。
 食いっぱぐれは無いが、大儲けも望めないという微妙な職業だ。
『でも今日は、本気をビンビン感じます! 師匠っ!!』
『本気でやんないと、太刀打ち出来ないのよね。本当にエースになったわ、彼は』
 身近で育った強敵に、嬉しそうな声を上げた。
『さあ弟子よ、みんなの所に案内せよ!』
 合流を果たしたら、今度はユイトを相手に戦うつもりなのだろうか?
『はい師匠! こちらです!!』
 その辺りをあまり深く考えない弟子は、進んで道案内を買って出る。
 デブリ群に沿って、元来たルートを遡る様に進みだした二機。
 程なく前方に見えたのは――
 長大な砲身を備えた移動砲台ユニットに、その上に乗って右手のマシンガンを構えるピンクっぽい機体。
『ホシナ君……それに、マナサキさんも!?』
『――おっ? ソウミにアオイ先生か!?』
 丁度暗礁宙域を抜けて来たところで、合流を果たす。
『ウエハラ君はどこよっ!?』
 カメラアイ部分を点灯させて、トールギル武龍がいきり立つが、
『……あ〜、今日はその機体かあ。じゃあどうなのかなあ?』
 ケンヤの声が、何故か冴えない。
『それってどういう意味?』
 疑問を呈したアオイの言葉に、TR−2はその方向を転じて、
『百聞は一見にしかず。まあ、見て判断してくれよ』
『キレイな機体でしたよ〜!』
 すでに間近で堪能したケンヤとミスノは、そうコメントしながら元来た先を示す。
 示した先に、爆発の光が見えた。
 そしてそこから飛び出したのは、白い殻で包まれた様な、一機のMS。

20 :
「――やっと抜けたっ!」
 ユイトのトールギス飛天だ。
 ハルートやウイングなどのいつもの機体ならば、デブリで狭められた限定空間でもそう苦労はしないが、
 なんと言っても、真っ直ぐ飛んで一撃離脱戦法、と言うのが持ち味のこの機体。
 やはり、広い場所の方がその力は発揮しやすい。
 その特徴的な翼をバサリと広げ、その動きが生み出す反作用に機体を揺らしながら、ゆらりとその場に留まった。
『――なんじゃありゃあ〜〜〜〜っ!?』
 いきなり叫んだのは、クルカワ・アオイだ。
『おお、その反応は予想外!』
 ケンヤはその思わぬ反応に、どこか喜びを滲ませている。
『トールギスに……ウイングゼロの翼っ!?』
 どうやら、さすがに小説までチェックの目が及んでなかったらしい。
 自分が今乗っている機体も、同じ小説に出てきているが、アオイ本人はTV本編のヒイロ・ユイのセリフを手掛かりに作ったし、
 今は仕事とガンプラ作りが忙しくて、アニメと漫画に目を通すだけで精一杯だ。
『――アレは……あの機体の強さは……ちゃんと検証しないといけないわねっ!!』
 ゴアッ!
 友軍登録しているにもかかわらず、訳の判らない事を呟いて、いきなりブースター全開で飛び出すトールギス武龍。
『――ああっ!?』『おお! やっぱり我慢できなくなったか!?』
 突然の過剰反応に、ミスノとケンヤは驚きの声を上げた。
『ふふふっ……師匠の武人の血が……騒いだっ!?』
 ユウリは、なんだか武術家の弟子っぽい事を呟くが――
 クルカワ・アオイは、ただの中学英語教諭だ。
「さて敵は――って!?」
 何気にユイトが呟いたところに。
 思わぬ攻撃が迫る。
 ドヒュンっ!
 背後から放たれたドーバーガンの砲撃を、飛天が間一髪避けた。
 その一撃は、精々呼び止める為に背中を軽く叩いたのだ、とでも言う様に――
 接近しつつ武龍が振り上げたのは、左のヒートロッド。
 大きく翼を動かして、クルリとその場でターンする様に回避行動を取ると、
 その動きの延長で、飛天が左のブレードを下から跳ね上げる様に振るった。
 今度はそれを、武龍の方が避ける番だ。
 切っ先が触れるギリギリの位置で急停止し、機体全体でスウェーバックの様に後方に縦回転。
 回転運動を維持したまま、素早く全体を後方に移動させた。
『――ふふん。私の知らない機体があるなんて、やるじゃないっ!?』
「期待は裏切らない……って、言ったでしょ? まさか知らないとは思わなかったけど!!」
 本人達でさえも予想だにしなかった、まさかのトールギス対決。
 ただでさえウイング系のMSはエントリーが少ないのに、ここでバッタリ鉢合わせだ。
 仲間内同士ではあったが。

21 :
『そうね! オッケー、じゃあ今日はトコトン戦りましょうか!!』
 アオイはもう他のMSはそっちのけで、仲間内同士の頂上決戦に挑むつもりだ。
「……それで良いのかなあ? でも、このまま許してくれそうも無いしね」
 ユイトも渋々応じながら、言葉の端では嬉しさを覗かせる。
 息が合うのか、飛び退くタイミングも同時。
 そこから武龍のドーバーガンの一撃を上に飛び退いて、飛天がメガキャノンを撃ち込む。
 それを回避しつつ距離を詰めると、間合いに入るタイミングに合わせて、振り被られたヒートロッドが唸った。
 その一閃が首を捕らえようとした瞬間。
 フレキシブルな無数に連なる刃が巻き付いたのは、長いブレードだ。
『ふふん。せっかく同じ武器が付いてるのに、ワザワザただの刃物にしちゃったの? わかんないわね』
「――先生らしくないなあ。見た目だけで判断するのは……間違いだよっ!」
 ユイトの言葉と共に、
 トールギス飛天の左シールドから伸びるブレードが、
 バラリと解けた。
『その剣――まさかっ!?』
 斬れ味抜群の小さなブレードが幾つも集まって、一振りの剣を形成している。
 これは――蛇腹剣。
 左腕の動きで、仕返しとばかりに巻き付き返した。
 今、二機のタイプ違いのトールギスが、宇宙空間で互いの左腕を拘束し合いながらその場をグルグルと回っている。
 どちらが主導権を握っているのかは、この後の展開次第だが。
『つまり……ヒートロッドの機能を残しつつ、斬撃力を追求した……って、事!?』
「まあ、そう言う事。一応半端なカスタムはしていないつもり――ですよっ!」
 言い終わると同時に動いたのは飛天の方だ。
 手元にグイッと引き寄せ、同時にシールドから抜いたビームサーベルを振り被る。
 それに対して武龍の方も、ビームサーベルでその攻撃を受け止めた。
 互いに引っ張り合う事で、双方のシールドから伸びる武装が、ギリギリと音を立てた。
 だが。
「わかってるよね、先生? このまま無理すれば、どっちが壊れるか」
『そうね……悔しいけど、その点に関しては私の負けね!』
 武龍が引く力を抜くのに合わせて、飛天も左腕の力を緩める。
 互いに巻き付き合った武装は、双方が後ろに飛び退いた事で完全に離れる。

22 :
 一振りで、蛇腹の状態から一振りの刃へと復帰する飛天のブレード。
『それ、ボールチェーンで繋いでるんだもの。さすがにROBOT魂から流用したヒートロッドでも負けちゃうわよね』
「耐久性を追及したんだ。それに、それだけじゃなくて――」
 伸びたままのブレードはそのままの形状で射出され、
 さらに、その後ろからも蛇腹刃が続々と出てきた。
 それらがさらに繋がって――
 最終的には、刃渡りだけで右のメガキャノンの全長に匹敵する長さになった。
『自在に間合いも変化する……フレキシブルブレードってところ……か』
「出し惜しみしてもしょうがない。先生には、全てを見せた上で全力でぶつからないと!」
 前方への突進と共に跳ね上がる左の凶刃を、武龍が後方に移動して紙一重で避けた。
 その刃、真っ赤に加熱している。
 動きは止まらず、さらに一歩踏み込んで振り下ろされる刃を、下への移動で避けた。
『その攻撃……防げるとわかってても食らいたく無いわね!』
 苦々しい言葉を吐くが、どこか嬉しさも帯びている。
「珍しい――いつも正面から受け止めるのが、先生の流儀だと思ってた……よっ!」
 今度は上から迫りつつ、真っ直ぐに突き。
 ユイトも、容赦はしない。
 手加減されるのが、アオイが一番嫌う事だと判っているからだ。
『そうねっ! 判ってるんだけど、意外とやりづらいわ同じ機体同士の戦いって!!』
 今度は肩口で、機体表面で相手の刃を摺らせる様に。
 まさにギリギリの避け方で決定打を逸らしながら、間合いを詰める飛天の頭部に向かってドーバーガンの砲口を向けた。
 その射程――ほぼゼロ距離。
『接近戦で分が悪いなら――砲撃戦しかないじゃない!』
「ちょっ――これ立派な接近戦ですって!!」
 バオッ!
 至近距離からの砲撃を、ユイトの機体もギリギリで避ける。
 少しだけ頭部左側面を持っていかれたが、内部の可動部まで影響は無い。
 だが、二つのカメラアイを保護していたクリアパーツが砕けて、左半分だけガンダムフェイスが露わになる。
『――チッ! 勘の良い子っ!!』
「――おわっと!?」
 すかさず放たれた武龍の左正面蹴りを、飛天の右主翼が、まさに攻防一体のアーマーとしての機能を発揮させて防いだ。
 その衝突の反作用で、再び二機の間合いが離れる。

23 :
「ズルイな先生……ボクは先生の事、蹴ったり出来ないじゃないか」
 言いながらユイトがニヤリと笑みを浮かべると、
『別に良いわよぉ。こんな場で教師だ生徒だってのも無粋だしね。無礼講よ!』
 アオイは、なんて事も無いと言う様に応じる。
 再び衝突しようと二機のトールギスが突進を開始しようとした――その瞬間。
 パビュビュビュビュビュッ!
 小さいが、土砂降りの雨の様に激しいビーム砲火が、飛天と武龍の間に次々と降り注ぐ。
『――なにっ!? 邪魔な奴ねっ!!』
「ビーム攻撃――こんな時に一体誰がっ!?」
 二機のトールギスが見上げた先に佇んでいたのは――白く美しいフォルムの、一機のMS。
『あれは……キュベレイ? でもなんで!?』
「あれは……あの機体は確か……?」
 今、ユイト達の戦いに割って入る様に攻撃を仕掛けて来ていたファンネルは、
 まるで主の命に従う従僕の様に、グルリとキュベレイを取り囲み、円の外にその砲口を向けてゆっくりと回る。
 間違いない。
 ユイトの記憶に残っている。
 これはあの、つい先日音楽PVで観た、あの歌って踊るキュベレイだ。
 そしてパイロットの名前は確か――シノザワ・マイナ。
 それが何故、こんなW地区限定のバトルロイヤルのフィールドに?
 その突然の登場に驚いていたのは、ユイト達だけでは無い。
 今、この戦場で戦闘を繰り広げているすべてのMSが。
 その手を、動きを止めて、このMSに見入っている。
 そしてみんなが、戸惑っていた。
 突然降って湧いた、この事態に。

 おわり

24 :
投下終了。
お楽しみいただければと思います。
今回、ミスノの恋バナを先に進めるために、これ以上無い程の強力な新兵器を投入してしまいましたが。
この先どうなるのか。
結構作者的にも不安です。
でわ〜☆

25 :
・・・くだらない

26 :
シーマ様救済のSSがあると聞いて

27 :
>>24
投下乙。
…………そうきたかW
これで進めるって事は、三角関係的なことなのか? 三角関係、歌とくれば、あとはサーカスが揃えば
……いや、揃っちゃダメだなW
結論とまではいかなくても、ミスノが多少なりと報われればと思います。
>>26
やってるけど、まだ一話しか書けてない。シーマ様は二話から。
二話も半分くらい書けてるから、もうちょい
救済できてるかどうかは微妙だけど、見せ場は超有る

28 :
NTに覚醒したコッセルがリリー・マルレーンで無双する展開に期待

29 :
役に立つかどうかは分からないけど、シーマ様は処女という設定があるそうです

30 :
>>27
感想ありがとう。
まあ、歌がどうとかやった時点で、あの作品が引き合いに出されることは必然だったんだけどねw
ただ、こういう形にしようと思ったのは、完全に無関係だね。
ただ、むしろMSに乗って歌うってところに食いつくかと思ってたので、そこは少し予想外。
元々話の始まりがミスノの事からだし、良い形で決着は付けねばと思ってますよ。
まあ、GPBにおいては、明確なヒロインっちゅー奴が設定されて無かったりする訳ですが。
あと、自分を追い込む話として。
今回の作者的ノルマは、「最低一話一曲」
でわ。

31 :
>>28
ねーよw コッセルは出すけど
やるとしても中年の底力パワーとかだろw
>>29
ありがとう。頂きました。使いどころ無さそうだけどw
>>30
了解。期待しつつ待ちます
……で、何かやる気出たので二話書き終わりました。
とりあえず書けたところまで投下していいのかな?
あんまり待たせるのも悪いし

32 :
>>31
あれ? 投下されてない?
待ってる人もいますから、やっちゃってくださいよ。

33 :
了解。じゃあぱっとやっちゃいます

34 :

 宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
 同年1月15日、ドズル・ザビ中将率いる公国軍機動艦隊がサイド5に侵攻。地球連邦軍はこれに対しレビル中将率いる第一連合艦隊を差し向け、後に言
う『ルウム戦役』の戦端がここに開かれる。
 数で勝る連邦艦隊に対し、公国軍は『新兵器』を投入し対抗。必勝を期して人類史上初の宇宙艦隊決戦に臨む。
 しかし、その『新兵器』の存在は、すでに連邦軍に察知されていた――

  *

 公国軍の新兵器は『二つ』存在した。
 一つは、結果としてそれまでの宇宙戦闘の定型を根本から覆した20メートル級汎用人型機動兵器『モビルスーツ』。そしてもう一つは全長230メート
ル超の超大型核融合プラズマ・ビーム砲『ヨルムンガンド』である。
 公国軍側が企図していたルウム戦役のシナリオは、作戦としては至ってシンプルなものだった。まずはセオリー通り艦隊同士による砲雷撃戦から始めるが、
数で劣るこの戦は捨てる。多少の損害には目を瞑る。第一フェイズであるこの艦隊戦の最大の目的は、敵艦を沈めることではなく、敵艦の弾薬、推進剤を使
い切らせることである。それによってこの後のMSによる敵艦攻撃の際の弾幕を薄くしてMS部隊の負担を減らすことができ、また初弾以降にヨルムンガン
ドの存在を認識した敵艦に、それでも満足な回避行動を取らせず安定した命中率及び戦果を確保することができるのである。


35 :

 よって公国軍艦隊は防御を捨てる。敵艦隊の眼前まで踏み込み、一歩も引かずに零距離砲戦を挑む。連邦軍は田舎の猪武者が飛び込んできたと、戦果を挙
げるべくこれまた一歩も引かずに応戦するだろう。目の前に的がいるのに撃たない馬鹿はいない。政治的状況から考えても、ここで敵が消極策を取ることは
あり得ない。地球にコロニーを落とされた連邦軍に求められているのは、クレバーな判定勝利ではなく、痛快なる完全撃砕なのだ。敵は必ずこの誘いに乗る。
 充分な『戦果』を挙げたと判断したら、公国軍艦隊は一旦引いて陣形を立て直す。敵がそれを見てさらに止めを打とうと踏み込んでくるか、その場に留ま
ってクールダウンを入れようとするかは分からない。
 それは別に、どちらでもいい。
 本当の地獄は、そこから始まるのだ。
 そして実際に、歴史はそう推移した。連邦軍第一連合艦隊は公国軍のそれに勝る圧倒的大打撃を受けて壊滅し、艦隊司令のレビル中将までもが捕虜に取ら
れ、完全に戦線は瓦解した。
 ――ただし。


36 :

 1月15日、2156時。
 ヴィロード・カミヤ伍長の所属する公国軍機動艦隊所属第11MS小隊は、定刻4分前に目標のルウムN3宙域に到着した。「見えたぞ。あ
れだ」隊長のジェシー・リン少尉から通信が入る。
 まだ点のようにしか見えなかったが、ヴィロードにも『それ』は視認できた。ヴィロード達小隊の今日の作戦の要、ひいてはこれから始まる
大決戦の趨勢を決する船。試験支援艦ヨーツンヘイム。巨大な二つのカーゴ・ベイに主となる船体が小さくなって挟まれている、といった風情
の輸送艦であり、全体に暗緑色系の迷彩塗装が施されている。宇宙空間でははっきり言って無意味な迷彩だ。それでもあえてそれを施している
のは、それによってこの船の『役目』を明確にしようという意図なのだろう。
 そして、そのヨーツンヘイムの傍らに浮かんでいる、ヨーツンヘイムと同じくらいの全長を有する長大な――「…あれが」
「あれが、砲だっていうんですか?」
「らしいな」
「発射の余波で、僕達まで吹っ飛ばされませんかね」
「砲自体は反動をRように設計されてるらしいが――考えてみりゃ、そりゃ砲手に対しての話だよな。超高出力のビームは、掠めただけでも
宇宙戦艦に充分な損傷を与えられる。俺達の木っ端ザクなんかひとたまりも無えな。唐揚げにされるか、吹っ飛ばされて宇宙の藻屑と消えるか、
だな」
「帰っていいすか、隊長」
「駄目だ。こいつと母艦のヨーツンヘイムを護衛するのが今日の俺達の任務だ。唐揚げにされても持ち場を離れるな。吹っ飛ばされたら戻って
来い」
「きつい仕事だぜ」
「唐揚げにされたら労災下りますよ、軍曹殿」
「付け合せにポテトサラダでもつけてくれんのか、ああ?」


37 :

 軽口を叩きながら、三機のMS‐06Cザクで構成されるリン小隊はヨーツンヘイムに接近した。2158時。隊長のジェシーが通信回線を
開く。
「こちら機動艦隊第11MS小隊、隊長のジェシー・リン少尉だ。定刻通り、本日2200時より貴艦及び艦隊決戦砲の護衛任務に就く。よろ
しく頼む」
「ヨーツンヘイムより第11MS小隊へ。艦長のマルティン・プロホノウだ。本艦及び決戦兵器は近接した敵に対しての防空能力を備えておら
ん。我らの命運、貴官ら小隊に預けようと思う。貴官らの健闘に期待する」
「了解です、艦長。最善を尽くします」
 リン少尉のザクは脚を大きく振って逆さまになり、バックパックを再噴射してその場に静止した。眼下には細部まで視認できるようになった
ヨーツンヘイムとヨルムンガンドがある。「リン小隊、−《ライン》隊形! 二番機は右翼、三番機は左翼を警戒! 俺がセンターで指揮を執
る!」
「「了解!」」
 二機から同時に応答があり、二機のザクがリン機の両翼に、先程のリン機と全く同じ挙動で静止した。さらにAMBACで各機が90度旋回
し、左右を警戒する。「…始まりますね」ヴィロードが呟く。
「さすがに緊張するか?」
「そりゃあ、正直。初飛行でなくてよかったですけど、まさか初陣が、こんな大規模な艦隊決戦になるなんて――」


38 :

「分からんではないな。俺も正直、不謹慎だが、ちょっとわくわくしてる。何しろ人類初の宇宙での艦隊決戦だからな。命のやり取り、戦争を
してるって自覚はあるつもりだが――何が起こるか、興味深い一戦だと思う」
「しかし、その暢気な台詞が出てくるのも、要は俺達が『居残り組』だからでしょう。あーあ、俺も前線で派手に暴れたかったぜ」
 軍曹のぼやきに、ヴィロードは口を引き結んだ。――他のMS小隊は作戦の第2フェイズで、勇躍敵陣に突入して敵艦隊を撃滅する手筈にな
っている。対艦攻撃シミュレーションにはヴィロード達も何度も参加した。やれる。自信ではなく、事実としてそう思った。このMSという兵
器にはそれだけの能力がある。第2フェイズの艦隊攻撃は必ずや成功するだろう。第1フェイズはその成功率を高めるための準備砲撃でしかな
い。
 居残り組にされた、とは思いたくなかった。隊長のジェシー・リン少尉、ナンバー2のゼン・カストラ軍曹、そして自分。確かにシャア・ア
ズナブルやランバ・ラルなどという連中と比べられると何も言えないが、自分の目で見た二人の実力が、他のパイロットと比べて明らかに劣っ
ているとは思わない。しいて言うなら――ヴィロード自身はMSでの飛行経験もそれほど無く、実戦もこれが初めてだ。しかしそれでも、この
二人の指導に歯を食い縛ってついてきたという自負はある。
 単に役割分担の問題だ、と思う。このヨーツンヘイムとヨルムンガンドもまた、この決戦の一翼を担うものだ。第1フェイズに味方艦隊より
送られてきた敵艦隊の座標データを元に最終照準調整を行い、第2フェイズ開始と同時に砲撃する。弾速の速いビームの方がMSより先に敵艦
隊へ到達し、第一射で泡を食った敵にMS部隊が襲い掛かるという段取りだ。しかし万一、敵が事前にそれを察知しないとも限らない。その時
のために自分達がいるのだ、と思う。確かに重要な役回りではないが、かといって無くてもいい役目とは思わない。むしろ誰かがやらなければ
ならない。ヴィロードはそう思っていた。
「同感です」
 でも、同感だった。
 同感なんて暢気な口を利けるのは、『それ』がやって来るまでだった。


39 :

 2214時。
 それまで星の瞬きしか見えなかった虚空に、ちかちかと明滅する光が生まれ始めた。光と光の間で行き交う細い光条――火線。「始まった…
!」
「隊長! 僕らは」
「騒ぐな! 俺達は何もしない。全機現ポイントを死守。何かするのは下にいる蛇だ」
「第一、ここからじゃどの道前線からの座標データが無いと当たりゃしねえ。まだ俺達の出番じゃねえよ、ヴィロード」
「…しかし、皆は戦っています…!」
「はいはい。いい子だから静かにしてな、坊や」
 それきり、会話は止まった。作戦中に余計な私語をする馬鹿はいない。静寂と緊張を孕みながら、刻一刻と時は過ぎていく。
 ――2245時。「遅い…!」
「…確かに遅えな。ヨルムンガンドの攻撃はMSの出撃に先行するはずだ。そろそろ第一射を仕掛けてもいい時間だ」
「問題発生、ですかね」
「…聞いてみるか」
 リン機がヨーツンヘイムに回線を開く。「リン小隊一番機よりヨーツンヘイム。状況を確認したい。本隊からの最終攻撃指令はまだか?」
 応答まで、しばらく間があった。
「――こちらヨーツンヘイム。当方も現在状況を確認中。本隊からの座標測距データが来ない。リン小隊は現状を維持されたし」


40 :

 答える声の後ろで、まだか、とどなる男の声が聞こえた。どうやら艦内もだいぶ慌てているらしい。「…データが来ない…?」
「本隊の馬鹿がデータ送んのを忘れてるか、あるいは、作戦変更か――」
「変更なら通達があるはずです。やはり何かのトラブルじゃ」
「…本隊は苦戦するのも覚悟の上のはずだ。押され気味だったんで送信できませんでした、じゃあるまい。別の理由があると思えるが――」
「うわ!?」
 ヴィロードは思わず声を上げた。「どうしたヴィロード!」「三番機、状況を伝えろ! 敵か!?」二人から続けざまに通信が飛ぶ。「い、
いえ大丈夫です。敵襲ではありません」言いながら、ヴィロードは正面に向き直った。接触状態ならこちらの声は伝わるはずだ。そのまま声を
上げた。
「何やってんだお前! 作戦行動中だ! 離脱してヨーツンヘイムへ退避しろ!」
 ノーマルスーツの人影が一つ、ザクの目の前――つまりメインカメラに張り付いていた。
「申し訳無い! 私は第603技術試験中隊、オリヴァー・マイ技術中尉だ! そちらの官姓名を教えてもらいたい!」
 それ以前に何の用か、と思ったが、中尉――上官の言う事では仕方が無い。「機動艦隊第11MS小隊三番機、ヴィロード・カミヤ伍長であ
ります!」
「カミヤ伍長、仕事の邪魔をして申し訳無い。本官及びヨルムンガンドの任務を遂行するため、貴官の助力を請いたい」
「…助力?」


41 :

「現在ヨルムンガンドは、敵艦隊の精確な座標データが届かないために、攻撃が出来ない状態だ。このままでは戦局に何の貢献もできずに終わ
ってしまう。砲術長はここからの観測データのみで撃つと言っている。時間が無い。残る方法は一つ――誰かが前線まで行って、敵座標を特定
するしかない」
 ――中尉の言わんとしている事を理解するのに、しばらく時間が必要だった。「…つまり」
「僕のザクを、ターゲット・スコープにしようってんですか?」
「そういうことになる。私と一緒に前線まで行って、座標データ収集に協力して欲しい」
「…本気かよ、そんな作戦…」
「本気だと示すために、私がノーマルスーツでここまで来た」
「しかし、それは本来の作戦とは」
「いや、行けヴィロード。もう時間が無い」
 二人の会話に、リン少尉が割り込んだ。「隊長、ですが」「時計を見ろ。時間だ」言われて時計を見た。2300時。第2フェイズ開始時刻。
「艦隊も引き揚げ始めている。MS部隊もじきに発進するだろう。支援砲撃をかけるなら今しかない。行ってこい。このまま観客で終わりたく
なければな」
「しかし、もし作戦変更だとしたら、こちらの判断で砲撃をかけるのは」
「だからそれも行って聞いてこい。目の前まで行ってまともな答えが聞けなければこっちで勝手にやるさ。それで何か言われても結局責任を取
るのは本隊の総司令だ。俺らの知ったことじゃないさ」
 …いざとなったら、ドズル・ザビ中将に責任をふっかけてこいと言うのか。「いや、それはさすがに――」
「という解釈でよければ、当小隊の要員をお貸ししますが、いかがですかな? 中尉殿」


42 :

 唐突に話を振られたマイ中尉は、しかし逡巡するのも一瞬、すぐさま答えを返した。「感謝します、リン少尉。カミヤ伍長は必ずや無事にお
返しします」
「それは伍長本人の責任と思いますが、結構でしょう。――というわけでヴィロード、作戦変更だ。貴様は直ちに現戦域を離脱、以後はマイ技
術中尉の指揮下に入れ。折角の初陣だ。こんなところでくすぶってないで、一丁前に出て皆さんのお役に立ってこい」
「そうだぜヴィロード。行って来いよ。ここは俺達が守ってやる」
「…」
 ヴィロードはため息を一つ吐き、コクピット・ハッチを開いた。中尉のノーマルスーツが滑り込んでくる。「僕の運転は隊長ほど上手くあり
ませんよ」「覚悟の上だ」またしても即答。どうやら本当に本気らしい。
「確認ですけど、ヨーツンヘイムに許可は取ったんでしょうね」
「勿論だ。急ごう。ぐずぐずしてると砲術長のダミ声が飛んで来るぞ」
「…これも、誰かがやらなきゃいけない事、か」
 呟き、正面を見据えた。漆黒の宇宙《そら》。その向こうに小さな星のように、無数の光が明滅する。「隊長、行ってきます」「自衛目的を
超える戦闘行為は許可しない。必ず原隊へ復帰せよ。以上」
 無理はするな。必ず帰って来い。
「了解。――ヴィロード・カミヤ、行きます!」
 宣言し、スロットルを押し込んだ。周囲の星が流星となり、ザクの加速を伝える。「ぐっ――速い…!」後ろでマイ中尉が呟いた。
「最大戦速で行きます。身体をどこかに固定してください」
「りょ、了解!」
 一瞬どもったが、またしても即答だった。技術屋さんにしては肝が据わっている。小さく笑い、ヴィロードはさらに加速した。
 警告音が耳に届いたのは、その瞬間だった。「え?」


43 :

 そして、その意味を認識するより速く、ヴィロードの目は正面から飛来した『それ』を捉えた。「な!?」一瞬で通り過ぎる。凄まじいスピ
ードですれ違った。AMBACで宙返りし、減速する。
「今のは!?」
「どうした伍長! どうして止まるんだ!」
 マイ中尉には見えなかったらしい。無理も無い。パイロットの目でも影を追うのがやっとの相対速度だった。集中もしていない内勤の中尉に
見えるとは思わない。
 しかし、あれは、確かに――
「二番機、撃て!」
「しかし、ありゃMSですぜ!」
「しかし敵だ! 状況を認識しろ! 母艦と決戦砲を護れ!」
「畜生――何だってんだテメエはコラァァァ!」
 隊長と軍曹の怒号。かろうじて聞こえたのはそれだけだった。ヨーツンヘイムの声はミノフスキー粒子の影響で届かない。しかし状況を把握
するには充分だった。
 あれは、確かに、『MS』だった。「中尉、後退します」
「ま、待て! しかし我々は!」
「砲がやられちゃ意味無いでしょう! 敵が来ているんです!」
「そんな――あり得ない! 主戦場からどれだけ距離があると思ってるんだ!? どう考えても捕捉されるはずが無い! しかも砲撃を始める
前にだと…!?」
 議論の時間が勿体無かった。ヴィロードはスロットルを押し込み、もと来た航路を最大戦速で引き返す。一度止んでいた警報が再び鳴り始め
た。会敵《エンゲージ》。照星が先に敵を捕捉し、やがてヴィロードの目にも見えた。二機のザクから十字砲火を受け、しかし凄まじいスピー
ドでそれを回避するMS。「白い…?」思わず呟いた。そのMSは、目にも眩しい白亜のカラーリングが施されていた。白いMS。


44 :

「ご親切なMSだな!」
 トリガーを引いた。ザク・マシンガンから放たれた火線が白いMSに襲い掛かる。タイミングも完璧。隊長と軍曹の銃撃をかわし、速度がわ
ずかに落ちた瞬間を狙った。命中。ありったけの弾をフルオートで敵の白い躯に叩き込みながら、ヴィロードはそのMSとすれ違った。「イヤ
ッホー!」撃破を確信し、快哉を挙げる。
「ヴィロード! チェック・シックス! ユニフォーム!」
 後方に注意。回避せよ。「え!?」
 反射的に機を側転させた瞬間、凄まじい衝撃がコクピットを襲った。「ぐああああっ!?」「馬鹿な!?」マイ中尉の悲鳴と、ヴィロードの
驚愕の声と、一斉に鳴り出した警報音が重なった。被弾。機体温度危険域。計器動作に異常発生。右腕部及び脚部信号途絶。メイン・ウェポン
信号途絶。プロペラント・タンクに損傷発生。爆発の危険あり。直ちにエンジンをカットせよ。「そんな――どこを、どこをやられたんだ!?」
警告の意味は理解できても、ヴィロードの意識は追いついていなかった。右腕と脚を持っていかれた。それも一撃で。計器や機関部にまで異常
が発生している。戦艦の主砲でも食らわなければあり得ない。
 ヴィロードは残った腕を振ってザクを反転させた。「うわ――!?」瞬間、光がヴィロードの網膜を焼く。ビーム。嘘だ。叫んだ。自分の見
たものが信じられない。光が奔る一瞬前、白いMSが手にしたライフルをこちらに向けるのが見えた。
 ビーム砲を装備した、MS――!


45 :

「あり得ねえ――! 隊長、何ですアイツは! まさか連邦軍ってんじゃないでしょうね!」
「そんなわけあるか! 連邦がMSだと――ビーム・ライフルを装備しているだと!? 冗談じゃない! そんなことがあってたまるか!」
 叫び、リン機がヒート・ホークを装備した。片手でマシンガンを撃ちながら白いMSに接近する。「隊長! 無茶です!」思わず叫んだ。し
かし応答は無い。通信機までやられたらしい。白いMSが火線をかわし、予測したようにその位置へリン機が飛び込み、斬りかかった。白いM
Sは片手でその腕を掴んで押し留める。
「隊長、止せ! 無茶だ!」
「いや、こうだ! こいつにはマシンガンは効かない! しかもビーム砲を装備しているとすれば、射撃戦でこちらに勝ち目は無い! 回りこ
めゼン! 俺が押さえている間に」
 そこまでだった。リン機が真っ二つになり、爆発する。爆光は一瞬で消え、白いMSが現れた。「何だよ、あれ…」ヴィロードは思わず呟い
た。白いMSはビーム・ライフルを腰のラックにマウントし、それを持っていた右手に細い光の束を握っていた。よく見ると、その手にグリッ
プを握りこんでいるのが見える。大昔のSF映画でしか見たことの無い、光の剣――。
「ち――畜生ォォォォ!」
 ゼン軍曹が叫ぶ。白いMSは左腕に持っていたリン機の腕の残骸を放り棄て、その手にビーム・ライフルを構えた。殺意を乗せた光が宇宙を
照らす。ゼンは全速機動でそれをかわし、そのまま白いMSの死角へ回り込もうとする。白いMSはそれを追尾し、即座に背後を取った。白い
MSが再びライフルを構えた瞬間、ゼン機は宙返りしてその場で減速する。フルオート斉射。白いMSの腕が跳ね上がり、ビームは明後日の方
向へ発射された。そのままの速度で接近する敵に、ゼンはヒート・ホークを抜き放つ。「殺ったああああ!」二機の距離が零になり、ゼン機が
ヒート・ホークを振り抜き、


46 :

「!!」
 白いMSは回し蹴りの要領でゼン機に左脚の踵を食らわせた。きりもみしながら吹っ飛ぶゼン機にビームを撃ち込む。二機目のザクが火球と
なり、それを背にして白いMSは振り返り、ビーム・ライフルを下に向けて構えた。
 ヨルムンガンド。「止せ――止めろ! 有人管制なんだ! 人が乗っているんだぞ!」
 一際大きな爆光が、ヨルムンガンドから上がった。「――」
「うう――な、何が起きた…?」
 後ろで声が上がり、マイ中尉がシートの後ろから身を乗り出す。「!? 駄目だ中尉、見ない方がいい!」
 ヴィロードが叫んだ時にはもう、中尉はその光を見てしまっていた。「――馬鹿な――」
「ヨルムンガンドが――我々の決戦兵器が――!」
「くっ…!」
 ヴィロードは憎悪を込めた眼で、白いMSを睨んだ。一人なら、たとえ半壊のザクでも、一命を賭してでもあいつに一矢を報いたい。でも、
中尉がいた。彼まで付き合わせるわけにはいかない。
 無理はするな。必ず帰って来い。「クソッ…!」
「隊長……畜生……!」
 拳を壁に叩きつける。
 それしか、できなかった。


47 :

 ヨルムンガンドを破壊し、往多翼は息を整えた。護衛がいるとは予想外だった。いないはずなのに。自分の存在が徐々に確定されていた歴史
に干渉し始めたのかも知れない。しかしそれは自分の存在がこちらの世界に同化を始めているということだ。タイムスリップの場合と同じだ。
もたもたしていると修正が効かなくなり、完全に『揺り戻し』が終われば自分はこの世界の時間軸に組み込まれ、元の世界には戻れない。
 ――という二流SF的な解釈も出来るし、単にこのガンダムの存在がジオンに知られた結果、護衛が配備されたというもう少し現実的な解釈
も出来る。
「どっちでもいいけどな」
 呟いた。元の世界へ戻る方法が見つからない以上、無駄な考察だ。ガンダムを正面に向き直らせる。試験支援艦ヨーツンヘイム。ミッション
もいよいよ大詰めだ。ビーム・ライフルの照準を合わせ、回線を開く。「ジオン公国軍機動艦隊所属、試験支援艦ヨーツンヘイムに告ぐ」
「貴艦に交戦能力が無いのは分かっている。よって降伏を宣言して頂く必要は無い。こちらの要求を伝える。貴艦が今回従事していた作戦の責
任者を引き渡せ。その一人を引き渡せば、当方は直ちにこの宙域より撤収する。残りの乗員の安全は保証する」
 返答はすぐには無かった。おそらく相当に混乱しているだろう。何しろ正体不明の敵に、いきなり自分の所属から艦名まで言い当てられたの
だから。
「――こちら、ヨーツンヘイム」
 しばらくしてから答えたのは、渋みがかった老人の声だった。
「艦長のマルティン・プロホノウだ。本艦の責任者というと、私ということになる。私が投降すれば、艦の安全は保証するというのか?」
「保証する」


48 :

「問答無用で仕掛けてきた敵に言われても信用はできん。すでに我々は仲間を君に殺されている」
「信用して欲しいとは思わない。要求に従わないなら、艦を撃沈して生き残りを連れて帰る。全員を危険に曝して決死の反撃を挑むのが貴方に
とって最善の選択なら、好きにすればいい」
「目的は何だ? 何故責任者の身柄を欲するのだ?」
「それは俺の事情だ。教える義理は無い。――ただし、それを教えれば貴方が投降することを確約するというのなら、その限りではない」
 返答まで、しばらく間があった。翼は何も言わずに待った。答えは分かっている。相手にはこのガンダムに抗し得る武装も、頼むべき援護も
いない。本隊は遥か前線だ。「分かった」
「投降しよう。今からそちらへ向かう」
「しかし、艦長!」
「もういい、特務大尉。確かに打つ手は無い。――我々は、負けたのだ」
 女の声をやんわりと制し、その後「ノーマルスーツでそちらへ向かう。受け入れ準備を頼む」と艦長は続けた。翼は「了解」とだけ応えた。
やがてヨーツンヘイムから星よりも小さな光が飛び出した。カメラを拡大する。緊急用の発炎筒《ペンライト》を持ったノーマルスーツ。背中
に背負ったバーニアを噴かして向かってくるそれを、翼はガンダムの手で掴み取った。「――コクピットには、入れてくれんのかな?」相手の
声が聞こえるようになる。


49 :

「当たり前だ。貴方が自爆しないとも限らない。しばらく我慢してもらうぞ」
「君は、連邦軍なのか?」
 違う、と叫びたかった。あんな奴等と一緒にするな。俺は戦争なんかを仕事にはしないし、する気も無い。
 ――でも、言えなかった。言ったところで無意味だった。何も変わりはしない。
「そうだ」
「…ジオンは、意外と早く負けるかも知れんな。秘密兵器であるMSが、すでに連邦にコピーされているとは。しかも、我々が持たないMSサ
イズのビーム砲まで搭載しているとあっては…」
 それも違う。連邦はまだMSを持ってはいない。少なくともこれから半年の間は、公国軍は破竹の快進撃を続けるのだ。
 しかし、たとえそれを言ったとしても、この老人の落胆と敗北感を鎮めることはできないだろう。根拠の無い陳腐な気休めで終わるだけだ。
真実など、今の翼にはクソ程の価値も無かった。このふざけた運命も変えられず、この老人を慰めることもできない真実など――!
 だから、翼は別の言葉を探した。「かもな」


50 :

「でも、貴方はいい部下を持った。見ろよ。もう行っていいのに、まだ宙域に留まっている」
「…そうか」
 ガンダムの手の中のマルティン・プロホノウが、振り返ってヨーツンヘイムを見た。敬礼する。何を思っていたかなど翼には分からない。―
―ただ、彼にとっては長年連れ添った船《いえ》であることは知っていた。
 ビーム・ライフルをラックに戻し、ガンダムに敬礼させる。「君は…」気づいた艦長が、驚いた声を上げた。
「確かに、ジオンは負けるかもしれない。――でも、彼らは生き残るよ。保証する」
「…気休めだな」
「本当だ。今あの船に乗っている乗員は、誰一人欠ける事無く終戦まで生き残る。そうなることになっているんだ」
「…?」
「さあ、行こう、艦長。悪いがきつい旅になるぞ。何しろこれから、ルウム戦役のど真ん中で単騎駆けをやらなきゃならないんでな」
 言って、翼はガンダムを回頭させた。バックパックを噴かし、加速する。艦長が呻くのが聞こえた。しかし速度を緩めることは出来ない。気
にかけることも難しいだろう。ただ最大戦速で駆け抜け、生きて母艦に辿り着く。今はそれしか考えない。
 何しろあそこには、歴代のジオンのトップエースが勢揃いしているのだ。


51 :

「艦長」
 呼ばれて、サラミス級巡洋艦《イケイル》艦長、カーク・ヤクネイン少佐はそちらを振り返った。「何か」
「《2.5》の識別信号を確認。戻ったようです」
「――ふん」
 受け入れ準備をしろとも、着艦指示を出せとも言わなかった。この艦には宇宙戦闘機他の機動兵器を運用する機能は無い。ましてや『あんな
もの』など。自力で何とかしろと思う。
 やがて、視界の彼方で光っては消える閃光の中から、一つがこちらへと近づいてきた。その小さな光はやがて白い人型を成し、減速して、サ
ラミスの甲板、主砲塔群の間に着艦した。
「回線を繋げ」
 言って、艦長席横の受話器を取る。「どうぞ」通信士が言うのを聞いて、口を開いた。
「イクタ・ツバサか」
「見りゃ分かんだろ」
 反抗的な小僧《ガキ》だ。
「首尾は?」


52 :

 往多翼は答えず、ガンダムが片手を挙げた。舌打ちし、「モニター拡大」指示を出す。その手の中に、ジオンのノーマルスーツが握られてい
るのが見えた。「回収班を回してくれ」計ったようなタイミングで、翼の声が要請する。
「除装はさせてるんだろうな」
「させられるわけないだろうが。身体検査はそっちでやってくれ。――最も、ここに来るまでに体力を殆ど使い切ってるだろうけどな」
「役立たずめ。――ランチを向かわせる。妙な真似はするなよ」
 言って、受話器を置いた。「陸戦隊発進準備。捕虜を回収させろ」
「待ってください艦長。本隊より入電。緊急です」
「読め」
「発、《ネレイド》、宛、《イケイル》。《アナンケ》轟沈。レビル中将以下、乗員の安否は不明。以降の指揮は本艦が引き継ぐ。敵の人型機
動兵器により本隊は潰走。本艦はこれより残存艦と合流し、ルナツー宙域まで後退する。貴艦も直ちに任務を中止し、合流されたし。以上です」
 誰も、何も言わなかった。《アナンケ》が――旗艦が沈んだ。レビル将軍は生死不明――いや、宇宙戦闘でのそれは、討ち死にと同じだ。本
隊は潰走。ルナツーまで後退。負けたのだ。地球連邦軍が。宇宙のテロリストを倒すために立ち上がった正義の軍隊が、敗北した。それも旗艦
を落とされ、本隊を叩き潰されるという、無様で手痛い惨敗。
「…ふざけやがって…!」
 艦長のカークは吐き捨てた。敗北という事実に対してではなかった。それよりももっと不可解で不条理な事実――『この大敗を予言した者が
いる』という、その事実に対して反吐を吐いた。全て決まっていたとでも言うのか。この敗北が。ここで負けて、失意と無念の中で死ぬ人間の
数が。
「艦長――ご指示を」


53 :

「分かっている! 本艦は直ちに作戦を中止、本隊に合流しルナツーへ後退する! 回頭180度! 機関全速!」
「艦長、ランチは」
「中止だと言ったろうが! さっさと逃げないとここにも敵が来るぞ! 《2.5》は自力でついて来させろ! 遅れるようなら置いていく!」
「待ってくれ!」
 翼の声が割り込んだ。受話器を取る。「黙れ! 作戦は中止だ! 本艦は撤退戦に移行する! 貴様も死にたくなければ走れ!」
「待ってくれ! その前に捕虜を回収してくれ! 老いぼれで、ここに来るまでに衰弱しきってるんだ! 艦でもランチでもいいから中に入れ
てやってくれ! これ以上無理をさせたら死んでしまう!」
「本艦の安全が最優先だ! 却下する!」
「頼むよ! この人は自分の船を棄ててここに来たんだ! これじゃ犬死にじゃないか!」
「お前にとってはな! お前にとっては自分の言葉が真実だと示すための身の証だから、そりゃ大事だろうさ! 人の命で自分の保身を図ろう
とするクソガキめ!」
「――何だと…!!」
 怒気を孕んだ声が艦橋に響く。慌しくなりかけたそこが、また静まり返った。「か、艦長、あまり刺激しない方が…」一人がおずおずと声を
上げる。「逆らえるものかよ…!」口の中で言い返す。どうせあの小僧はジオンのスパイだ。そう考えるのが一番現実的でしっくり来る。しか
し、現実的なスパイがこんなバカみたいな道化を演じるだろうか? 自分はこの戦争の未来を知っているなどと。しかもその予言は、今回に関
しては的中した。連邦軍が最大最強の戦力を投入し、万全以上の万全を期して挑んだ一大決戦において、『それでも連邦は負ける』と言い切っ
たのだ。――そして、その通りになった。当てずっぽうがたまたま当たっただけとしても、うすら寒いものを感じる。常識と理解を超えた状況
に、カーク・ヤクネインは冷静さを失っていた。
「分かったよ」
 通信機が、静かな声でそう答えた。


54 :

「艦の安全を確保すればいいんだな? 了解した。これから前線に行ってこの宙域に向かう敵MSを迎撃する。この艦には一機も近づかせない。
捕虜はここに置いていく。回収してから撤退してくれ。俺は自力で追いつく。待たなくていい」
「…作戦は中止だといったはずだ」
「それでも聞いてもらう為に、戦ってくる。俺の命を賭けて頼む。あとは聞いてくれると信じるだけだ。――お願いします、カーク・ヤクネイ
ン少佐。俺もこの爺さんも、無駄死にはさせないでやってください」
 言って、翼の乗るガンダムが踵を返した。捕虜を放し、空いた手にビーム・ライフルを構える。
「往多翼、2.5《ツー・ポイント・ファイヴ》、行くぞ!」
 バックパックを噴かし、飛び立つ。
「…やつめ」
 見送り、カークは吐き捨てた。「…艦長、どうします?」クルーが訊いてくる。
「回収してやれ。ただし作業は迅速にな。すでに撤退命令は出ているんだ。ぼやぼやしてると置いてかれるぞ」
「了解」
 そのやり取りで、艦橋は緊迫した静寂から任務中の慌しい喧騒に戻った。各ブリッジクルーからそれぞれの部署へ指示が飛び、捕虜の回収と
艦の機関始動及び回頭が行われる。カークはそれを見ながら一人、艦長席で安堵のため息を吐いた。


55 :

 地獄のような戦場へと舞い戻るガンダムの中で、翼はなるべく呼吸を長く、深くして、平静を保とうとしていた。すでに本隊は潰走した。と
いうことはもはや正対しての砲雷撃戦ではなく、追撃戦、あるいは掃討戦が行われているということだ。逃げる敵を追いかけて仕留める戦なわ
けだが、それはつまり、翼がいる方向へ逃げてくる連邦艦がいなければ、敵には出会わないということになる。
 あるいは、追撃部隊に引っかからず、いきなり本陣にぶつかってしまうか。
「…来た」
 さらに神経を落ち着けるため、独り言を言ってみる。センサーに反応。一機。周囲に敵影は無し。ゆっくりとこちらに近づいてくる。こちら
に逃げてくる連邦艦は無かった。念のために哨戒に来た、というところだろう。それなら一機で行動しているのも説明はつく。今の連邦の手ひ
どい負け方では、最悪会敵してもMS一機でも問題無い、という考えがジオン側に生まれてもおかしくない。
 ガンダムを宙返りさせて減速し、さらに半回転して正面に向き直る。「よし…」さして意味は無い独り言を繰り返し、神経を落ち着かせる。
敵は依然、ゆっくりとこちらに近づいている。ガンダムとザクならガンダムの方がセンサー範囲は広い。まだこちらに気づいていないと考える
のが妥当だ。ならば取るべき戦法は一つ――即ち、先制攻撃。
 ビーム・ライフルを構え、狙いを定める。実体弾よりも遥かに速い弾速で奔る重粒子弾は、発射されて警報が鳴ってから回避することはまず
不可能だ。すでにロックオンされていることを認識した上で、敵の発射タイミングを予測して回避運動を起こすしかない。そして、地上での零
距離砲戦でならともかく、宇宙の空間機動戦闘でそれを実践するのはほぼ不可能だ。狙われているのも知らないのに、方角も分からない位置か
ら光となって迫る弾丸はかわせない。


56 :

「まずは一機――!」
 生き延びるために、迷いはとうに棄てた。そのためなら老人を捕虜にもするし、人だってR。非難するなら代わってくれ。口の中だけで叫
び、トリガーを引く。
「――え――!?」
 漆黒の宇宙を奔った光は、しかしそれ以上の何も生む事無く通り過ぎた。爆発は無い。敵影は先程までとは少しずれた位置で、同じような速
度で航行していた。だから一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 理解したのは、それまで穏やかな速度で動いていた敵影が、明らかな戦闘速度でこちらに接近し始めてからだった。「かわされた……!?」
 あり得ない。そう思い、すぐにいや、と打ち消した。あり得るとしたらどうなるのか。発射を認識してからかわすのが不可能なのだから、敵
はこちらの発射タイミングを予測していたことになる。そんなことができるのか。相手が銃を構えていることすら認識できないような距離で。
それは予測ではなく、予知だ。翼の脳裏に、恐るべき一つの単語がよぎる。
「違う!」
 叫び、翼は敵の銃撃を側方回転機動《サイド・ロール》で回避した。戦闘速度で敵機が迫る。ビーム・ライフルは――まだ砲冷却が終わって
いない。翼は舌打ちし、頭部バルカンの斉射で牽制しつつ、猛スピードで通過する敵機を見送った。こういう時に、「盾は絶対要るだろ……!」
毒づく。翼が搭乗するガンダムは外見こそRX‐78‐2に酷似していたが、細部が違っていた。まず盾が無い。そしてバックパックのビーム
・サーベル・コネクターも無かった。ビーム・サーベルは使用時に腕部格納ラックより飛び出し、それをガンダムが腕に握り、ビームを発振し
て抜刀完了となる。
 そして左肩に、白地に映える黒く大きな文字で《2.5》とマーキングされていた。2.5ガンダム。RX-78-2.5という事だろう。
 そんなガンダム、翼は知らない。「MS、か…?」


57 :

「しかし、撃ってきたのなら味方ではあるまい。しかも連邦の識別信号を使っている。敵機と認定。交戦に入る」
「ニュータイプじゃ、ない…!」
 敵はこちらの動きを予知したのではない。おそらく敵は、こちらが狙いを定めた時にはすでにこちらの存在に気づいていたのだ。そして気づ
かない振りをしていた。こちらに先に一発撃たせ、二射目までのタイムラグで安全に射程内へ踏み込むために。
 その証拠に、翼の視界で鮮やかに宙返りし、こちらへマシンガンの銃口を向けるザクの片腕は、鮮やかな白で染められていた。翼はそのカラ
ーリングのザクを知っている。『赤い稲妻』と並び称されるジオン最強のパイロットの一人。『白狼』、シン・マツナガ。
 警報《アラート》と同時に回避運動を取った。火線がガンダムの脇を掠めていく。翼はビーム・ライフルを正面に構え直し、「うわ!?」そ
の腕が跳ね上がった。片腕を白く塗り固めたザクが、目の前でモノアイを閃かせる。踏み込まれた。「もらったぞ!」ザクの振り上げた手がヒ
ート・ホークを振り下ろす。「くそ!」翼はザクに前蹴りを食らわせ、紙一重でヒート・ホークの刃を避けた。ライフルを向ける。零距離。
「むぅん!」
「ぐああああっ!?」
 激しい衝撃と共に、翼のガンダムは吹き飛ばされた。ショルダー・タックル。「くそおおお!」回転しながら吹き飛ぶガンダムの姿勢制御を
しつつ、翼は敵をロックオンしようとする。ロックサイトが視界の端を右往左往する。ガンダムが高速で回転しているせいで、照星が視界に入
ってこない。「どうやら」


58 :

「私も対MS戦は初めてだが、案ずるより生むが易し、だな。君にはまだ、戦場で『白』を纏う資格は無いようだ」
「好きでやってるわけじゃ――!?」
 回転が収まる直前、全く違うベクトルにガンダムは弾き飛ばされた。しまった――その言葉さえ声に出せず、翼は操縦席の中でシェイクされ
る。何のことは無い。冷静さを失わなければ分かることだった。ガンダムにタックルをかけたマツナガ機は、そのままガンダムと一緒に飛んで
いたのだ。ガンダムの視界に映らぬように姿勢を低くし、そしてさらに回し蹴りの要領でガンダムを別方向へ弾き飛ばした。「さあ、終わりだ
!」
 敵弾警報と同時に、無数の衝撃がコクピットを襲う。ザク・マシンガンのフルオート斉射。翼は悲鳴を上げ、死を覚悟した。殺される。瞬間、
吹き上がる爆炎より速く生への執着が目を醒ます。「うああああああ! 畜生ォォォォォ!」スロットルを思い切り押し込んだ。ガンダムが最
大戦速で飛翔し、マシンガンの銃火から脱出する。「まだ動く……!?」宙返りしてマツナガ機を視界に収め、さらに加速する。ビーム・ライ
フル・ロックオン。「なめんな! なめんな! なめてんじゃねえぞクソオヤジがあああ!」トリガーを連打した。撃ち続ける。砲身未冷却警
告をトリガーボタンで黙らせ、撃ち続ける。
「無茶苦茶な……!」
「ブッ殺してやる! 俺をRならテメエがR!」


59 :

 零距離。回避したザクにビーム・サーベルを投げつける。「何と!?」命中。すぐにビームは消えて無くなるが、その刃はその一瞬の間に、
ザクの白い右肩口に深い刀傷をつけていた。「行けええええ!」さらにライフルを一発。避けたマツナガ機に踏み込み、拳を繰り出す。一度
AMBACを挟む蹴りよりも、推進力をそのまま利用できるストレートの方が宇宙戦では威力が出る。マツナガ機はこれを破損した右腕で受
け、そのまま一回転して左腕のヒート・ホークを振り下ろした。翼はビーム・ライフルを捨てて右腕にサーベルを構え、迫るザクの左腕を斬
り飛ばす。「R!」「させん!」返す刀で振り下ろされたサーベルをマツナガは後方宙返りでかわし、そこから急加速してガンダムの腹に
蹴りを食らわせた。翼の悲鳴と共にガンダムはまたも吹き飛ばされ、「――畜生がッ!」翼はバックパックを吹かして制動をかけて踏み止ま
り、
 マツナガ機は、その時すでに後退を始めていた。「ま、待ちやがれ!」「追いたければ、追うがいい」
「しかし、私に追いつこうと思ったら、ライフルを拾っている時間は無いぞ。そして追いついたとしても、その時はすでに我々の本陣が目の
前だ。その上で、追いたければそうするがいい」
「逃げるのか! ジオンの『白狼』ともあろうものが!」
「チャチな挑発には乗らんよ。また会おう、少年。君は生き残れれば、いいパイロットになるかもしれん」
 言い残し、マツナガ機はみるみる遠ざかっていった。センサー・ロスト。視界からも消え、翼とガンダムだけが虚空に取り残される。「……」
「……あ……?」
 放心するうちに、気がついた。
手が、震えている。
 震えはみるみる全身に回り、翼は思わず自分の身を抱いた。「……はは」
「は、はは……あははははははは……!」
 笑った。自分の身体を駆け巡る何かを、吐き出すように笑った。
 空しい高揚と笑いが去った後、涙が出た。


60 :

「さて、早速尋問を始めようか」
 カーク・ヤクネインは、事務的な口調でそう宣言した。手元の事前調書と目の前の老人を見比べる。「マルティン・プロホノウ中佐相当官殿、
か」
「私は当艦、サラミス級巡洋艦《イケイル》艦長、カーク・ヤクネイン少佐だ。貴官の尋問は私が直接担当する。貴官の身柄は南極条約に則っ
て丁重に扱われる。拷問をする気は無いから安心しろ」
「――ノーマルスーツで戦場を突っ切らされた老体をそのまま取調室に呼ぶのが、丁重な扱いかね?」
 老人の返答に、カークはふん、と鼻を鳴らした。どいつもこいつも――口の中だけで呟き、次の言葉を紡ぐ。
「ハードな取調べをするつもりは無い。貴方が私の質問に正確かつ誠実に回答すれば、この場はその数点の確認事項だけで終わる。時間も体力
も使わせる気は無い。――ただし、貴方の回答にその二つが認められなかった場合、ルナツーに戻って以降は専門の取調官がつきっきりで貴方
の調書作成を行う。貴方の最低限の人権は条約によって保証されるが、それはあくまで最低限だと思っておくことだ」
「脅迫に聞こえるな」
「警告だ。何度も言うが私はそこまでする気は無い。――お前達ジオンの隠し玉のおかげで、本艦までルナツーに逃げ込む羽目になった。がっ
くり来たよ。もう疲れた。さっさと終わらせたい。貴方だってここで黙秘だの偽証だの余計なことをしなければ、ルナツーに入ってからはしば
らくゆっくりできるんだ。ここは大人しく従った方が身のためだぞ」
「……ふん」


61 :

「前置きは終わりだ。始めよう。――まずは、貴官の指揮していた艦の名前だ」
「……ヨーツンヘイム」
 プロホノウの答えに、カークは片眉を上げて「ふむ」と小さく唸った。
「よかろう。では次だ。貴官が今回の戦闘で従事していた作戦の内容を、可能な限り詳細に答えてもらおう」
「……」
「……? どうした? 喋っていいぞ」
「たとえ虜囚の辱めを受けても、同じジオンの人間を売るような真似はできん」
「……最初に言ったな? 貴方がここで黙秘を続けるなら、私も余計な体力を使って追求する気は無い。ただルナツーに入港してからの貴方の
睡眠時間がクソ面白くも無い連中との回りくどい押し問答で削られるだけのことだ。最終確認だ。これ以上の質疑に応じる気は無いんだな?」
「……」
「結構。ならこれで終わりにしよう。ルナツーに入るまでほんの僅かだが、せいぜいその老体を休めておくがいい」
 そう言って、カークは資料一式を持ってさっさと席を立った。踵を返し、ドアへと歩く。
 そのドアが、開いた。「……」
「……貴様が何故ここにいる」
「取調べはどうしたんだよ」


62 :

「応じる気は無いそうだ。続きはルナツーだな。貴様の処遇も先送りだ」
「……冗談じゃない」
 吐き捨て、往多翼はカークを押しのけて取調室に入った。「おい」カークの声を無視し、マルティン・プロホノウの傍らに立つ。
 老人が、目だけで翼を見上げた。「……あのMSに乗っていた小僧か」
「話した方がいい。いや、話してください。拷問でもされたらどうするんです?」
「条約違反だな。そう思うほか無い」
「話せば、そんなことは無くなります。貴方だって、義理立てするほどジオンに肩入れしてるわけでも無いんでしょう?」
「くだらんな」
「――え?」
 プロホノウの眼が、正面から翼と、カークを見据えた。「調子に乗るなよ小僧共。確かにワシは軍なんぞにこれっぽっちも義理も情も無いが、
仲間を撃った人殺しのクソガキと、そのガキを使いっぱしりにして喜んでる若造なんぞは最早同じ人間とは思わん。負けて尻尾を振る男がどこ
におるか。拷問でも何でも好きにせい。ワシはお前らには従わん」
 がたん、と椅子が倒れる音がした。
 翼がプロホノウを殴った音は、その音にかき消された。「おい、イクタ! やめろ!」
「喋れよ」
「……早速実践か。思い切りのいい小僧だな」


63 :

「ああそうさ。どうせ俺はこいつらと同じ、戦争で自分の身を守ってるクソ野郎だよ。それがどうした? それの何が悪い? 他にどうすりゃ
よかったんだよ。途中でやめときゃよかったのか? 最初から尻尾巻いて逃げりゃよかった? それができりゃ苦労しねえよ。やりもしないで
偉そうに言うなよ。俺と同じ立場に立って、本当に殺されるかもしれないと肌で感じたら、俺みたいにならないって誰が断言できんだよ! そ
んな奴のことぁ知らねえよ!
 さあ喋れよ! 俺の身を守る為に、俺の言葉が真実だと証明する為に、お前が知ってることを洗いざらい喋れ!」
 言葉を吐き出す間も、翼はプロホノウを殴り、蹴り、圧し掛かってまた殴りつけた。「おい、やめろ! 誰かいないか! 畜生、飯になんか
行かせるんじゃなかった!」
「言えよ、オラ! お前は本当は軍人でも何でもないただの船乗りで、乗っていたのは第603技術試験中隊の連中だったって言えよ! 今回
の作戦はヨルムンガンドを使用しての超長距離砲撃作戦で、でも本隊からデータが届かなくて攻撃開始時刻に間に合わず、フタ開けてみたらそ
の作戦自体がそもそも当て馬で、ジオンの本命の秘密兵器はMSで、その存在を秘匿するためにヨルムンガンドは偽情報に利用されただけだっ
て、洗いざらい喋っちまえよ!」
 翼の言葉に、カークと、殴られているプロホノウさえ目を見開いた。
 翼の拳が止まり、プロホノウの上で崩れ落ちる。
「喋れよ……喋ってくれよ……あんたが喋ってくれないと、俺は殺されるんだよ……俺の言ってることが真実だって、価値があるんだってこの
世界の人間に認めさせないと、俺はこの世界じゃ生きていけないんだよ……頼むよ、艦長……あんたのプライドなんてどうでもいいから、俺を
助けると思って喋ってくれよ……俺にはこうするしかないんだよ……!」
 嗚咽と言葉を吐き出し、「うう、うああ、あああああああ――!」それでも足りず、翼は号泣した。
 初動加速と軌道修正を終えた《イケイル》は、魂が抜けて川を流れる流木のように、音も無くルナツーへと流れていった――

 機動戦士ガンダム ‐翼の往先−
 第三話 『蛇と少年』


64 :

次回予告
死肉と血の臭いを嗅ぎつけてやって来たのなら、それは野獣である。
人の呪いと憎しみの声を聞きつけてやって来たのなら、それは悪魔である。
――ならば、神や救世主は、何に呼ばれてやってくるのだろう。
そんな事は、誰も知らない。
なぜなら、そんなものが現実に現れたことなど一度も無いから。
野獣と悪魔が跋扈する地獄の島。死んだ眼をした獣達が、人を腐らす臭い息を吐きつける。
でも、君は力を持っているから、その歴史を否定することができる。
否定せよ。拒絶せよ。間違った歴史を修正せよ。
もっと分かりやすく言ってやろうか?
殺セ。殺セ。ブッ殺セ!
もう一度だけ言おう。
アノ人デナシノクソ野郎共ヲ、一人残ラズブッ殺セ!
次回、機動戦士ガンダム −翼の往先−
第一話 『悪魔召喚』
間違ッタ歴史ヲ修正シロ。
俺達ガコンナ死ニ方ヲスルナンテ、間違ッタ歴史ハ修正シロ!


65 :
>>33-64
投下乙です。
シン・マツナガは好きなので、登場は嬉しかったですよ。
まあ、名前だけで実際の登場は少ないキャラですけどね。
翼ってのが主人公ですよね?
漢字表記なのはワザとかな?
ガンダムは日本人でもカタカナ表記というイメージがあったので、
そこは設定上差別化しているのかな? という理解も出来るのですが。
次は、ファンの人待望のシーマ・ガラハウ登場だったですね。
続き楽しみにしてます。

66 :
>>65
レスありがとうございます。
翼の名前はもちろんわざとです。
主人公ですよね? という疑問ももっともです。あんまり主人公に見えないと思います。
翼に対してはヴィロードがライバルキャラになります。こいつの成長というか、圧倒的な
差のある2.5ガンダムを倒そうと苦闘する姿も見てやってください。ある意味ダブル主人公です。
四話まで出る予定がありませんがw
で。

67 :

 宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
 同年1月3日、公国軍機動艦隊はスペースコロニー・サイド1、2、4を襲撃、無差別攻撃によってこれを瞬く間に征圧した。連邦軍パトロール艦隊は公
国軍MS部隊によって壊滅し、各スペースコロニーには直接攻撃よりもさらに効率の良い殺人兵器――G3神経ガスが注入され、あまりにも多くの人命が、
筆舌に尽くし難い苦痛と共に喪われた。
 物語は、ここから始まる。
 苦悶と絶望、憎悪と怨嗟の声が宇宙に満ちる時、時空と次元の境を歪めて、その歴史を破壊するための『力』が呼び醒まされる――

  *

 1月3日、0704時。サイド2近海。
「コロニー・アイランド・ロータス、及び停泊中の連邦軍パトロール艦隊を視認。マゼラン級1、サラミス級3。300秒以内に射程圏内に入ります」


68 :

 レーダー手の声が静かな艦橋にそう告げる。予定通りだ。敵艦の数も戦術予報から外れていない。準備は万端。現時刻まで異状無し。
 ムサイ級巡洋艦《リリー・マルレーン》副長のデトローフ・コッセルは、その声を聞いても何の反応も示さない上司――艦長にしてこの艦隊
の司令である『彼女』を見やった。
「シーマ様。そろそろです」
「……仕事だね」
 シーマと呼ばれた女性は煙草の煙をゆっくりと吐き出し、虎の毛皮を敷いた艦長席で物憂げに脚を組みながら、それだけ応えた。長い黒髪が
無重力の空中に広がり、片手を挙げてそれを自分の視界から避ける。
「こちらも四隻。しかも向こうはまだこちらを敵と認識していない。普通に艦隊戦を挑んでも負けやしません。最初の一斉射でマゼラン一つは
潰せる。その後はMSを発進させ、喉元まで踏み込みましょう。引っ掻き回してやりますよ」
「私も出るよ」
「……どうしても、ですかい」
「当たり前だろう。艦隊の指揮はあんたが執りな。だいたい、MS戦は私がこの船で一番上手いんだから、引っ込んでる手は無いだろう」


69 :

「……シーマ様。不敬を覚悟で申しやすが、気遣いは無用ですぜ。軍に入った時から、汚れ仕事をやる覚悟はしてたんだ。ここにいる野郎は皆
そのはずだ」
「ものには限度がある。私の図々しさにもね」
 言って、シーマは艦長席を離れた。流れる黒髪と憂いを帯びた瞳が、艦橋のドアを抜けて去っていく。この女《ひと》だからここまでついて
きた。ジオン公国軍宇宙突撃機動軍海兵隊司令、シーマ・ガラハウ少佐。その肩書きと決して輝かしいなどとは言えない戦歴は、彼女の美貌に
昏い影を落とす。しかしそれは、彼女が男と同じ戦場で――海兵という過酷で陰惨な部署で、他の兵士と労苦を共にしてきた証だ。その上で司
令になった。そして今も、部下を守ろうとしている。だから誰も文句は言わない。どんなに過酷な戦場で、どんなに非人道的な任務であっても、
ただそれを遂行し、帰還する。シーマ艦隊が精強といわれるのは、決して技量や戦術のことではない。
 コッセルは通信士を振り返った。「シーマ様のMSを! ザク・マシンガンの準備! 全艦戦闘態勢!」
「了解《アイ・サー》!」
 野郎達が豪気な声を返した。地獄へ行け、などと言われたぐらいでビビる連中ではない。そんなものは何度も見てきた。今度も同じことをや
るだけだ。


70 :

《リリー・マルレーン》から飛び立ったシーマのザクは、総勢十二機のMS部隊の先陣を切ってコロニーへと飛んだ。艦隊の相手はこちらも艦
隊に任せる。MS隊の任務はコロニー攻撃班と護衛班に分かれ、コロニーへ到達してこれを占拠、護衛班は攻撃班の『作業』が終わるまでこれ
を護衛することだ。敵が戦艦と巡洋艦なら、艦載機の存在はあり得ない。楽な仕事だ。過剰投入じゃないのかい、とも思う。しかし、隊の連中
にMSでの実戦訓練をさせられると思えば、一々反駁する気も無かった。そんなことで上にお伺いなど立てない。どんなバカな作戦でも拝命し、
遂行するのが海兵だ。
 ふざけんなよ、と思う。「シーマ様」
「0713。そろそろ始まりますぜ」
「各機、自分の機が所定の航路《コース》から外れてないか確認しな。味方の弾に当たって死ぬようなバカに、シーマ艦隊は名乗らせないよ」
 了解、と野郎達が応える。所定の航路を飛んでれば、最初の砲撃には当たらないし敵にも見つからない。仮に見つかったとしても、そもそも
連中は自分達が『何』なのかも分からないはずだ。
 0715時。
 定刻通り、シーマ艦隊からの一斉砲撃が出航直後のマゼラン級を直撃した。瞬く間に蜂の巣になった艦体が爆散する。大小の破片が周囲に飛
び散り、寝ぼけた馬鹿を叩き起こすように周囲のサラミス級を叩く。「ヒャッホー! 見たか連邦のバカ共! これが俺達の挨拶だ!」


71 :

「騒ぐんじゃないよ。全機速度そのままで進攻。護衛班は敵艦隊の動きも警戒。場合によっちゃ側面から仕掛ける」
「了解!」
 応える声を確認し、シーマは速度を維持して飛ぶ。味方艦隊の砲撃は間断無く続き、連邦艦も陣形を立て直して応射を始める。といっても、
すでに戦力差は四対三だ。先制で得た流れを切らずに攻め続ければ、仮に大勝とはいかなくても敗北はしないはずだ。少なくとも、攻撃班がコ
ロニーにとりつく時間は稼げる。あんまり手間取るようなら加勢してやればいい。「シーマ様!」
「敵サラミス級1、陣を離れて動きます! こちらの進攻ルートへ接近! 来ますぜ!」
「ほう――気づいた事は誉めてやろうか。でも、一隻じゃ無理だねえ」
 おそらくこちらを宇宙攻撃機か何かと思ったのだろう。牽制のつもりかも知れない。しかし、連邦はMSという兵器を知らない。たった一隻
で十二機のMSに挑むなど、乗っているのがどんな名将でも無理だ。――そもそも、名将ならそんなことしないか。
 勝った。シーマはほくそ笑んだ。しかも一隻が離れたことで、艦隊同士の戦力差は四対二にまでなった。もはや負ける要素が無い。後の問題
は一つ、一隻残ったサラミス級をどう始末するかだ。
 ――後ろを取られても面白くない。今始末するかね。
 決断し、シーマはMS隊に通信を飛ばす。
「攻撃班は増速しつつコロニーへ進攻。相対速度もあるんだ、正面に立たれなきゃ火砲は当たらない。駆け抜けな。護衛班は接近する敵艦に対
し∧《アロー》隊形で進攻。トップは私が取る。一合で仕留めるよ。攻撃終了次第すぐ攻撃班と合流する」


72 :

「了解!」
 通信機が応えると同時に、シーマは操縦桿を切った。護衛班、MS二個小隊もこれに続く。FCSセイフティ・オフ。有視界戦闘モードへ切
替。オート・ターゲット・ホーミング・オフ。マシンガン・ツーハンデッド・スタンバイ。
 接敵警報。直後に敵艦発砲警報。AMBACを使うまでも無いし、むしろそれで速度を殺したくも無い。シーマは桿を僅かに動かし、ジグザ
グよりは緩やかな蛇行機動で敵艦に進攻した。射程内。まだだ。桿を引き、敵の甲板の上を滑るように飛ぶ。周囲の砲塔がメガ粒子の火線を迸
らせ、その脇をすり抜けて『目標』へ飛ぶ。
「――そら!」
 宙返りし、ザクの両脚を進行方向に向けて敵艦橋の正面に『着地』した。衝撃でサラミスの船体が傾ぐ。そのまま『真下』へザク・マシンガ
ンを構えた。一斉射。無数の砲弾に貫かれ、サラミスの艦橋が弾け飛ぶ。シーマは即座に艦体を蹴って離脱した。続いて襲来したMS隊が次々
にサラミスの砲塔やミサイル発射管、機関部やレーダー・アンテナに銃撃を加え、艦を完全に無力化する。サラミスはいくつかの小爆発と共に
蜂の巣になり、そのまま魂の抜けた残骸と化した。「シーマ様! 敵艦沈黙! 攻撃能力の無力化を確認!」
「見りゃ分かる。全機回頭。直ちに所定のコースへ戻る。攻撃班と合流するよ」
「ヒャッハー!」
「ご機嫌だぜ、このMSって奴は!」
「どんどん来やがれ連邦め! 片っ端から蜂の巣にしてやるぜ!」
「騒ぐな。行くよ。まだ仕事は終わっちゃいないんだ」


73 :

 窘め、コロニーの方向へ旋回する。他の機体もそれに続いた。「攻撃班。こっちは片付いた。塩梅はどうだい?」
「まもなくコロニーに取り付きます。その後は二機ずつ三個に散って所定のポイントに配置、エア・ロックの開放作業にかかります」
「準備が終わった奴から知らせな。私が合図するまで、トリガーは引くんじゃないよ」
「――イエス・マム」
 通信が切れる。攻撃班が分散を始めた。コロニーの三つのエア・ロックを開放し、そこからG3神経ガスを注入する。コロニーは宇宙に浮か
ぶ巨大な密室だ。そしてそれを満たすに充分な量のガスをシーマ達は準備して来ている。最も迅速かつ効率的な形で、このコロニーは全滅する。
 そして、その後は――
「よし。全機減速して周辺を警戒。以降は攻撃班を護衛だ。敵がこっちに来るようなら知らせな。――来やしないだろうがね」
「了解」
 命じ、シーマは小さくため息を吐いた。艦隊の方を見やる。すでに砲火は殆ど収まっていた。おそらく敵艦に接舷し、白兵戦に移行したのだ。
勝った。百戦錬磨のシーマ海兵隊に白兵で敵う軍隊など、地球圏には存在しない。これでこの作戦も終わり――そう思い、しかしシーマはすぐ
頭を振った。まだだ。最後にまだ一つ、厄介で憂鬱な仕事が残っている。
「シーマ様」


74 :

「……何だい」
 憂鬱が、なるべく声に出ないように応えた。「攻撃班、全機準備完了しました。――定刻通りです」
「……時間は、守らなきゃいけないねえ」
 一瞬だけ、間を置いた。――最後に何か考えようと思ったが、何も思いつかなかった。
 口を開く。
「よし。やりな。攻撃班全機、G3ガス注入開始」
「了解」
 部下達の声は淀み無かった。かけるべき言葉なんて無かった。かけられたいとも思わなかった。百の言葉より、一本の煙草が欲しい。重くて、
バカバカしくて、イライラした。
「――シーマ様」
「何だい」
 かけられたいとも思わなかった。そのイライラは素直に声に出てしまった。「――何ですかね、ありゃあ」
「――あ? 何がだい。分かるように言いな」
「すぃません。――二時方向に熱源反応有り。大きさからして艦じゃない。戦闘機か――あるいは、MS」
「――ああ?」
 言われて、計器を確認した。数を数える。――自分達十二機の他に、少し離れた場所に点のように小さな影が停滞している。


75 :

 見ている――シーマは何故かそう感じた。私らを見ている。殺気は感じなかった。MSも何の警報も発していない。識別は不明。連邦軍では
ない。しかしジオンでもない。
 微かに、肌がぴりつくのを感じた。女の勘。海兵の勘。何か、人間の五感には属さない器官が、ほんの僅かに警告を発する。いいだろう。来
るなら来い――シーマはその直感を受け入れた。そうして生きてきた。やるってんなら、やってやるだけだ。他の野郎も、勘のいい奴はもう覚
悟ができてるはずだ。
 ――しかし、シーマのその覚悟は、今回に関しては裏切られた。
『――ぐぅぅぅううぅわアアアアアアアアああああアアアアアアあああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああアアああアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッッッ!!!!』
「――!?」
 シーマの身体を、咆哮と共に凍りついた稲妻が突き抜ける。
 宇宙に木霊したその咆哮は、人間の発するものとはとても思えなかった。
 本当の地獄が、始まる。


76 :

 往多翼は、まだ状況を把握していなかった。
「なんでだ……? 俺、なんでこんなところに……」
 見たことも無い場所だった。狭くて、暗い。寒くて、身体の芯が落ち着かない。
 ――いや、違う。
 見たことは、ある。
 TVの画面で。
「……嘘つけよ……」
 正面の暗闇に、いくつか星が流れた。夜――違う。宇宙だと分かった。それなら身体の浮遊感も説明がつく。そして自分の周囲で点々と灯る
コンソールの光。足に当たるフットペダルの感覚。両手に握るスロットル・レバー。
 夢だ。翼は結論づけた。いい年してガキみたいな夢を見るもんだ。MSで宇宙を飛ぶ夢なんて。恥ずかしいから早く醒めて欲しい。
 警告音。「……?」
 音につられてそちらを見る。レーダーに機影。十近くいる。ああはいはい敵ね、と投げやりに思った。どうせ夢だ。
『殺セ』
「……!?」
 悪寒が、背筋を走った。『殺セ』


77 :

『殺セ』
『殺セ』
『全員殺セ』
『ブッ殺セ』
『痛メツケロ』
『切リ刻メ』
『引キ千切レ』
『目玉抉リ出セ』
『手足モギ取レ』
『タマ握リ潰セ』
『女ハ犯セ』
『爪剥ギ取レ』
『骨全部折レ』
『歯モダ』
『生皮剥ゲ』
『内蔵掻キ出セ』
『生カシテ帰スナ』
『殺セ』
『殺セ』
『殺セ』
『殺セ!』
「……な……何だよ……一体……!?」


78 :

 湧き出すように響くその声に、翼は狼狽してそう呟くのが精一杯だった。どこから聞こえてくるのか――いや、周り中の空間から声が染み出
してくる気配がする。憎悪と怨嗟の声は耳から翼の臓腑と脳を侵し、そしてたった一つのことを要求する。
『殺セ』
『殺セ』
『殺セ!』
「やめろ……やめろよ……静かにしろよ……!」
 耳を塞ぎ、自分でも何を言っているのか分からないまま声を上げる。身体を駆け巡る恐怖が噴出し、翼の身体を震わせ、声となって漏れ出る。
 警告音。翼は急に響いた冷たく現実的な音に、思わずそちらを見る。照準波警報。ロックオンされた。十二の光点が微かに動き始める。迎撃
態勢。レディ・フォー・コンバット。
『――ぐぅぅぅううぅわアアアアアアアアああああアアアアアアあああ嗚呼ああああああああああああああああああああああああアアああアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああ
ぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッッッッッ!!!!』
「――ぅあああああああああああっ!」


79 :

 周囲に渦巻く『何か』が一斉に咆哮を上げるのと、翼の理性が壊れて悲鳴を上げたのは、ほぼ同時だった。
 スロットルを押し込み、尾を引く流星のように宇宙空間を飛翔する。なぜ動かせる、という疑問は浮かばなかった。恐怖と狂気が翼の身体を
支配していた。「――来やがった!? 何者だテメエ! 止まれ!」
「撃ちなカイン! 総員迎撃! あれは敵だ! 攻撃班に近づかせるな!」
「しかしシーマ様! あれは」
 声は途中で途切れた。ライフルから放たれた光に撃ち抜かれ、ザクが火球に変わる。「ビーム……! ビーム・ライフルだと……!?」「―
―生かしちゃおけないね! ゲオとザックスついてきな! 残りは進行ルートに布陣! 死んでも通すんじゃないよ!」
 三機のザクがガンダムに迫る。ヘッドオン。翼は中央の一機を狙い、トリガーを引く。ザクは散開し、そのままガンダムとザクはすれ違い、
 三方からのザク・マシンガンの銃火がガンダムを捕らえた。「ぐぅあああああああああああああああ!」翼の悲鳴はもはや恐怖ではなく、恐
慌だった。これは夢だ。酷い夢だ。意味も脈絡も無いのに、死ぬほど怖い夢というのは存在する。早く醒めてくれ。
「来やがれ、クソ野郎!」
「何処の誰だか知らねえが、やるってんなら蜂の巣にしてやるぜ!」
 残った二機のザクが正面に立ち塞がり、マシンガンを構える。真っ直ぐ突っ込んでくる白いMS。インフォメーション・メッセージ。ターゲ
ット・インサイト。「撃て!」


80 :

 一斉射撃。さらに追撃する三機のザクの銃火も加わり、十字砲火に切り刻まれて白いMSは小爆発を起こし、軌道を逸れて力無く流れ始めた。
「やった……!」「ざまあ見やがれクソ野郎が! その程度で俺らシーマ艦隊に食って掛かろうなんざ笑わせるぜ!」「シーマ様。済みました。
仕事に戻りましょう」
『殺セ!』
『殺セ!』
『早ク殺セ!』
『全員殺セ!』
『皆殺シダ!』
『殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ
殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ殺シテ早ク殺シテエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!』
「――気を抜くな! まだだよ!」
「何!?」
 シーマは見た。流れていくMSが纏う残り火が、視界の彼方でくるりと一回転するのを。
『うぅああああああああああ――!』
「な――あれだけ食らってまだやる気かよ!?」
「来るぞ!」
 白いMSが加速する。五機のザクは合流し、敵の進行方向に対して径の小さい半円陣を敷いた。敵が陣の何処を狙って来ても、他の僚機が側
面から狙い撃てる陣形だ。
 ――しかし、白いMSはその動きが終わるより早く、全く別の方向へと転進した。「あ――?」「なんでそっちに――」


81 :

「――抜かった! 攻撃班! 作業中断、全機撤収! 作戦は放棄する!」
「し、しかし! まだ10%も終わってませんぜ! これじゃ循環浄化機構《エアコン》で全部ろ過されちまう!」
「放棄するっつってんだろが! 命あっての物種さね!」
「しかし」
 その声も途中で消えた。爆光がコロニーの壁を照らす。二つ、三つ、四つ。光条と爆光が続けざまに閃き、死者の悲鳴や怒号は殆ど聞こえな
い。攻撃班はろくな武装を持っていない。もう間に合わない。全滅する。
『そうか!』
 声が響いた。男の――いや、小僧の声だった。
『お前らが、毒ガス攻撃をやったんだな! この人でなしのクズ野郎どもめ! だったらお望み通り、皆殺しにしてやるよ!』
「――ほざいてろ!」
 吐き捨て、シーマは考えた。勝てるか、あれに? こちらの戦力は残った護衛班のザクが五機。負けるわけ無いだろバカ、と言える頭はすで
にシーマには無い。さっきまでは微かだった悪寒が、今はほぼ確信となって身体を駆け巡っている。あれには勝てない。殺される。逃げるべき
だ。
 あれは――化け物だ――「コッセル」
「作戦放棄。総員撤退。MS隊を収容し、全速力で宙域を離脱しな」
「了解。しかし、あれはどうします?」
「始末するさ。――私がやる」
「……!? お一人で、とでも言う気ですかい!?」
「馬鹿な!」
「そりゃ無えぜシーマ様! 一緒に逃げましょう! いくらなんでもありゃ無理だ!」
「黙れ!」
 腹から怒鳴った。全員が黙る。「行きな。時間が無い。こうして喋ってる時間も、攻撃班を見捨てて作ってるってのを忘れるな」


82 :

「――らしくないですぜシーマ様。こんな時、誰を放っといても真っ先に逃げ出すのが俺らのやり方じゃないすか。何で今日に限ってカッコつ
けてんです?」
 そんなこと、シーマ自身が聞きたかった。なんでこんな気分になったんだろう。宇宙に渦巻くこの憎悪の声に、自分まで頭をやられたのだろ
うか。しかし、軍人としてはさほど不合理な決断じゃない。全員が背を向ければ狙い撃ちにされる。誰かが殿をやらなければならない。そして
その役に最も適しているのは、自分だ。はあ、とため息を吐き、髪をかき上げようとしてヘルメットに手をぶつけた。舌打ちし、メットを外す。
黒髪が宙に踊る。どうせ死ぬんだ。暑苦しくて汗臭いヘルメットに閉じ込められたままなんてうんざりだ。――なんでやんのかだって?
 言えば代わってくれんのかよバカが。
「行ってくる。気をつけて帰りなよ」
 ザクを加速させ、コロニーへ飛ぶ。「シーマ様!」無視する。立て続けに上がる爆炎に向かって突っ込んだ。炎の中に白い悪魔が浮かび上が
る。最後のザクに手にした光の束――いや、光の剣を振りかざし、
 間一髪、ザクが白いMSの腕を両手で掴んで食い止めた。競り合う。押し斬ろうとする白いMS。「そうだ、いいよ、ハッシュ――」呟いた。
そのまま押さえてろ。無線は飛ばさない。コロニーの壁に沿って飛び、マシンガンの狙いを定める。


83 :

 白いMSが、こちらへ振り向いた。「チッ――!」舌打ちすると同時に引き金を引く。
「ぐああああっ!」
 悲鳴はハッシュの声だった。火線が通ったそこに白いMSの姿は無い。ハッシュを蹴ってコロニーに叩きつけ、その反動でかわしたのだ。
「ハッシュ! 生きてるかい!?」ハッシュ機がめり込んだコロニー外壁に『着地』する。
「シーマ様――畜生、駄目だ、パワーが上がらない。バックパックのどこかがイカれたらしい。離脱不能です」
「――だったら、もういい。機を棄ててコロニーに避難しな。気密区画まで入ってノーマルスーツを棄てれば、何とか紛れ込めるはずだ」
「シーマ様は――?」
「決まってんだろ」
『殺セ!』
『殺セ!』
『アト二人ダ!』
『アノ人デナシノクソ野郎共ヲ、一人残ラズブッ殺セ!』
『いぃぃぃいいぃくっぅぅぅぅぅぅううぅうぅうぅぅうぞぉっぉぉおぉおおぉぉぉォォォォォォォオォオォ!』
 悪魔が叫び、飛翔する。「奴の目を引きつける。流れ弾が来る前に逃げな」
「駄目だ! 止めてくれシーマ様! あんたはこんなところで死ぬ人じゃない!」
「男がぐちぐち女々しいんだよ。命令はしたからね」


84 :

 言い残し、飛ぶ。敵弾警報よりも早く機を上下左右に振り、敵が放ったビーム弾をかわす。彼我の距離が瞬く間に零になる。シーマは敵MS
の顔を見た。人間を模したようなツイン・アイ。角のような二本のブレード・アンテナ。ご丁寧に口のような意匠まである。
 しかし。
「遅い!」
 真っ向勝負なら、敵のパイロットの技量はシーマには遠く及ばなかった。光の剣――ビーム・サーベルを振り上げる腕を右腕で受け止め、左
に構えたヒート・ホークを一閃する。
「があっ――!」
 敵が獣のような呻きを漏らし、ヒート・ホークは敵の胸部右上方――人間で言う鎖骨の辺りに食い込んだ。しかし斬れない。超硬チタン装甲
でさえ易々と切り裂くヒート・ホークが、止まる。「だったら――」装甲を抜けないなら、方法は一つ。装甲以外を破壊するしかない。
「――何故だ!」
「何――!?」
 シーマは急に聞こえたその言葉に反射的に応えながら、敵MSの右腕を見た。もう一本、光が伸びる。しまった、と思い反応しようとしたが、
敵はその剣を振り抜こうとしない。
「何故こんなことをするんだ! 俺がどうしてここに現れたか、分かっているんだろう! 憎まれると分かっていて、それでも同じスペースノ
イドを、どうして殺せるんだ!?」
「あ――?」
 悪魔が、人語を喋った。シーマにはそんな感想しかなかった。後は――


85 :

「馬鹿か! 戦争で軍人が人をRのは当たり前だろうが! 憎まれたからどうだってんだい!? 世の中の殆どの人間は、自分が憎まれてん
のを自覚して生きてんだよ! それでも生きてたいからさ! 違うってんなら、尚更そんな奴のこたぁ知ったこっちゃ無いね! 勝手に生きて
勝手に死にやがれ!」
「それでもやり方というのがあるだろ! 銃後の人間を毒ガスで殺して、あんたの良心は痛まないのか!」
「銃後もクソも関係あるかい! 戦争になりゃ全員死ぬんだ! 安全なところに自分だけ逃げ込んで怪我した殺されたっつって文句言い出す人
間、私はヘドが出るほど嫌いだよ! むしろそいつらこそ先にRばいい!」
「そうかよ――! 全員Rばいいってんなら、まずあんたがRって話だな!」
 ガンダムの右手のサーベルが横薙ぎに一閃する。「笑わせんな!」シーマはそれを両脚を大きく振って、ガンダムの上で逆立ちになるような
姿勢でかわした。「あ、うぁ――!?」サーベルを振った力とシーマ機の急な機動で翼はバランスを失う。すかさずシーマはヒート・ホークを
引き抜き、そのまま右腕を軸に一回転した。瞬間、ガンダムとザクが背中合わせの姿勢になり、
「そら!」
「な!?」
 シーマ機の左脚が跳ね上がり、ガンダムの背中――バックパックを蹴り上げた。首尾よくノズルに入っていれば、敵はもうスラスターを使え
ない。「うわあああ――!?」悲鳴を上げ、くるくると回転しながらガンダムが吹き飛ぶ。シーマはマシンガンを取り出し、引き金を引いた。
フルオート斉射。全弾命中。
『――畜生ォォォォォ!』
「何!?」


86 :

 叫び、ガンダムは体勢を立て直して加速した。割れた装甲を弾けさせ、シーマ機に肉薄する。ビーム・サーベルを振りかざし、また掴んで止
めようとしたシーマ機にそのまま体当たりした。二機が流星となって宇宙を翔ぶ。ガンダムは左回転し、サーベルでシーマ機の首を斬り飛ばし
た。しかしシーマ機は怯まず、身体を開けたガンダムの腹を狙って横薙ぎのヒート・ホークを叩き込む。ガンダムの右足が跳ね上がり、首を失
ったシーマ機を蹴り飛ばした。「クソ――!」シーマは思い切りフットペダルを踏み込み、明後日の方向へと全速で飛び退った。刹那、シーマ
機が一瞬前までいた場所をビームが駆け抜ける。
「オラァァ!」
「くっ――!」
 追ってきたガンダムの拳を食らい、シーマ機はまた吹っ飛ばされる。「がっ――!?」食らった。そう思ったが、シーマはまだ生きていた。
ビーム・ライフルを食らったのではない。コロニーの外壁に叩きつけられたのだ。
「!」
 しまった。そう思って正面を見た時には、ガンダムがビーム・ライフルを構えていた。やられる――そう思った。それだけだった。死ぬとか
そんな意識を持つ間も無かった。
 ――だが、一秒を通り過ぎた頃になっても、殺意の光がシーマを包むことは無かった。
「…?」
 訝しみ、ガンダムから小さな舌打ちが聞こえる。
 二秒にもならない時間で、シーマは全てを理解した。
「は――アハハ! アッハハハハハハハハ! バァァカ!」


87 :

 コロニー外壁を蹴り、加速する。回避パターンなど組み込まず、一直線に踏み込む。哄笑と共にヒート・ホークを振り抜く。ガンダムの反応
はやはり遅く、防御しようと持ち上げた腕が半ばまで切断された。
「コロニーを撃つのが怖かったかい!? 笑かしてくれるにも程があるよ! それで怨念返しだって!? 寝言は寝て言えクソガキが!」
「黙れ! あんたこそ何故分からない! ただの怨念返しなら、俺はここに呼ばれるはずが無いんだ!」
「何度も言わせんな――寝言は寝て言え!」
 左回し蹴りでガンダムの頭を蹴り飛ばす。「クソ――!」ガンダムはそのまま回転し、ビーム・ライフルの銃口をシーマに向ける。しかしそ
の腕はシーマ機の左腕に打ち払われた。右のザク・マシンガンが吼える。ガンダムは半身を開いてかわし、破損した右腕を叩きつけてザク・マ
シンガンを持つ手を打ち落とした。上体を崩したザクの腹に膝を叩き込む。
「ぐっ――!?」
「殺った!」
 コクピットを直撃され、シーマの反応が一瞬鈍る。その隙を逃さず、ガンダムは両腕を振り上げた。フルパワーで殴りつける。一度で駄目な
ら二度でも三度でも。死ぬか失神するまで痛めつけてやる。
 ドゥッ――!
 激しい衝撃がザクのコクピットを襲った。上下左右に揺さぶられ、壁かどこかに頭をぶつけてたまらずシーマは失神した。
 片腕片脚をもがれたザクと光の残照に灼かれるガンダムが、別々の方向に吹き飛ばされていった。


88 :

 シーマはベッドの上で目を醒ました。
 見慣れない場所だが、知っている。船の――リリー・マルレーンの医務室だ。「…」
「…!?」
「シーマ様!」
 動こうとして激痛に呻いた。傍にいたコッセルが椅子から立ち上がる。「気がつきやしたかい!?」
「――船、か」
「ええ。苦労しましたぜ、吹っ飛んじまったザクを探して回収するのは」
「吹っ飛んだ――?」
「危険とは思いましたが、見てられませんでね。シーマ様とあの野郎がやりあってるところに、一発ぶち込んじまいました。敵はあれから戻っ
てきませんでしたから、おそらく仕留めたでしょう」
「――」
 零距離戦闘中のMSに、戦艦の主砲を撃ち込んだと言うのか。とんでもないバカだ。普段なら怒鳴り散らして平手を食らわせるところだが―
―命を救われた以上、強くは言えない。
「――二度は、無いよ」
「申し訳ありません」
「謝るこたぁ無い。支援が無きゃどのみちやられてたんだ。助かったよ。――探してくれたんだって? よくそんな時間があったね」


89 :

「損害が大きすぎやしたからね。次の作戦からは外されちまいましたよ。――ま、好都合だったわけですが」
「――次? そういや、結局作戦はどうなったんだい。失敗かい?」
「別の部隊がイフィッシュとかいうコロニーを征圧できたんで、そっちを使うそうです。今頃は護衛艦隊と一緒に」
「――そうかい」
「……シーマ様。一回だけ、よろしいですかい」
「?」
「失礼しやす」
 軽く、殴られた。「……何だい」
「ヘルメットを着けてないとは、どういう了見ですかね」
「……気をつけるよ」
「二度は、ありませんぜ」
 言って、コッセルは笑った。シーマも笑う。「おお、シーマ様!」「何!? もう起きておられるじゃねえか!」「ずるいぜ副長! 起きた
んならとっとと教えてくれねえとよ!」「うるせえ馬鹿共! 出て行け! ここは病室だ!」「だったらテメエがまず出て行けって話じゃねえ
か!」「だいたいあんたのダミ声が一番でけえよ!」「シーマ様! 俺ですぜ! シーマ様のザクを見つけてリリー・マルレーンまでお送りし
たのは!」「しれっと嘘吐くんじゃねえよ! 操舵のお前が何で回収できんだコラ!」
 どたどたと押しかけてくる部下達。思わずシーマは吹き出した。こんないい連中を、今日は七人も殺してしまった。次は何人死ぬだろう。何
人死なせずに済むだろう。
 ――とりあえず、この馬鹿共が帰ってから考えようと思う。

 機動戦士ガンダム −翼の往先−
 第一話 『悪魔召喚』


90 :

次回予告
もう嫌だ。もう止めてくれ。早くこの悪夢から醒ましてくれ。
恐ろしい夢から醒めた少年を待っていたのは、悪夢よりも無惨な悲劇が続く終末の世界だった。
預言者を気取る男の声が宇宙に響く。
『神の放ったメギドの火に、連邦は必ずや灼き尽くされるであろう』
堕ちていく空。蒼く輝き、紅く燃える地球。
満身創痍のガンダムと共に、少年は再び戦場に立つ。
酷薄な神は少年に宣告する。
『ここで還るならそれでよし。しかし、もし君が人の身で翼を求めるならば――』
少年は答える。愚問であると。還りたいに決まっていると。
「……でも、還れねえだろ」
戦いの道を選んだ少年に、神は狼との決闘を言い渡す。
生きる権利と確率を削り取られ、少年の心が軋み始める――
次回、機動戦士ガンダム −翼の往先−
第二話 『メギドの火』
その火を人間にもたらしたのが神だとするなら、
神は、無能である。


91 :
せっかくのシーマ様ご出陣でも静かなので……
>>67-90
投下乙です。
かなり激しい戦闘で。
なんとなくガンダムカタナを思い浮かべてしまいましたw
シーマの乗機がザクとありましたが、一年戦争当初だと、ひょっとしてザクTですかね?
後のエースパイロットは、搭乗経験がある事が多そうなので。
主人公・翼がいかにガンダムに飲み込まれないで戦い続けるか。
この先期待するやら不安やらです。
ま、そこは大人しく続きを待つって事で。

92 :
>>91
レスありがとうございます。
僕のSSにレスが少ないのはガーベラの頃からの伝統なので、もう慣れっこですw
ネタ的に絡み辛いのかも知れませんが。今回は特にw
三話以降はまだ全然です。遥か未来に投下予定。

93 :
予告
今夜GPB外伝の続き投下予定。
現在最後の読み直し中なので、しばしお待ち下さい。

94 :
 ガンプラビルダーズVS・A(ヴァーサス・アサルト) 外伝・月光の歌姫02

「なんでないてるの?」
 不意に声を掛けられて、小さな女の子は顔を上げた。
 真っ赤に腫らした目で見上げると、傍に立っていたのは自分と同様に小さな、男の子だ。
 一生懸命砂場で遊んでいたらしく、スモックを身につけた全身は砂まみれ。
 顔も汚したまま、不思議そうに見下ろしていた。
 そして右手には、何やら人型のロボットを手にしている。
 小さな物だが、小さい子が持っているとそこそこ良いサイズだ。
 すでに長い間遊び倒されているらしく、四肢と背中の羽根らしきパーツの関節がプラプラしていた。
 ソフビの人形だったら、こんな風にはならない。
 これは、プラモデルだ。
 父親に作ってもらったらしく、遊んでボロボロになっても良い様に、素組みだけで済まされている。
 それでも、組んだだけで設定に近い配色になるのだから、この頃からのプラモデルは侮れない。
 見るのも珍しいのか、少女の視線はそのプラモデルに注がれていた。
 それはそうだろう。
 女の子にとって、プラモデルは男の子、それも少し大きい子が作る物という印象が強いだろうから。
「これ? これねー、おとーさんにつくってもらったー! すなばであそぶせんよう!!」
 どこか得意気に、男の子が手にしたプラモデルのロボットを差し出した。
「ういんぐがんだむ! かっこいー! ゆいはこれがいちばんすきー!!」
 ウイングガンダム。
 少女の記憶に、一番最初に刻まれたガンダムの名前だ。
「これにのってるのも、ゆいってひとなんだよー!!」
 まるでそれが好きな理由だとでも言う様に、何故か得意気な男の子だ。
「きぃーん!」と声を上げながら手に持って飛ばす様に走り回ると、関節のヘタリまくった四肢と羽根がカチャカチャと揺れた。
 見た目にはとてもカッコイイロボットとは思えなかったが、男の子は気にする様子も無い。
 そして、なぜだかとても微笑ましかった。

95 :
「ね! あそぼーよ!!」
 ここでやっと、話掛けた目的を思い出したか。
 やっと用向きを告げて、男の子は満足そうに笑う。
「ゆいはねー、ゆいってゆーの!!」
「……あたし……まい……」
「まいちゃん? ねえ、あそぼ!」
 他の女の子達は、なぜか遊んでくれない。
 このゆいと名乗る男の子が、初めて自分に声を掛けてくれた。
「いこ! すなあそびしよう!!」
 男の子は左手にプラモデルを持ち替えて、右手を差し出した。
 その手を、右手でそっと握り返す。
 温かい。
「いこ!」「うん!」
 涙をぬぐって立ち上がる。
 他に、一緒に遊ぼうとする子供の姿は見られない。
 だが、その二人の姿は微笑ましかった。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「――ねえ。ここにウイングガンダムを使う人、来る?」
 電子音とBGMが耳に響いて邪魔な、ゲームセンターの店内で、
 栗色の髪の少女が、カウンターにいるアルバイトスタッフに声を掛けた。
 顔には大きな黒縁のメガネを掛けている。
 ここはW地区の、それほど大きくは無い街の駅前にある、全国チェーンのアミューズメントスポットだ。
 ほんの数年前に出来たので、少女にとっては初めての場所だったが。
「ウイング? バトルには珍しいMSだね」
 あまり考える様子も無く、そう答えるスタッフに、
「来た事が無いんなら良いわ。他を当るから」
 即答を望んでいたのにアテが外れたか、アッサリその場を離れようとする。
「あ〜、待って待って! そういやついこないだ、確か一回来たよ! その時はウイングじゃなくてハルートだったけど」
 引き止めようと言うつもりか、慌ててそう言った。
「――本当に?」
 聞き返す少女の方は疑わしげだ。
「この辺じゃちょっと有名な子だから。何ヶ月か前までは週に何度か来てたけどね。最近はそんなに来ないよ」
「――じゃあ、他の場所をメインにやってるって事ね」
「いや、こっちにもまた来るんじゃないかなあ? それより君、カワイイね。シノザワ・マイナに似てるって言われない?」
「ありがとう。そうね、たまに言われるわ」
 なんとか相手の気を引こうと、褒める様な事を言うが、
 言われた本人は、まるっきり興味が無さそうだ。
 視線を逸らして、高い位置に設置された大型モニターに眼を向ける。

96 :
 画面に表示されているのは、今行われている地区限定バトルロイヤルのリアルタイム中継だ。
 多数の宇宙用MSが所狭しと飛び回り、フィールドのそこここで激しいバトルを展開している。
 今大映しになったのは、ティターンズカラーのハイザックに大型移動砲台ユニットが合体した物だが――
 少女に、これが探し求める相手の仲間だと言う知識は無い。
「おー! そういや電ホビに載ってたなあ。ああいう改造MS!」
 そのスタッフもガンプラが好きなのだろう。
 画像を見て、喜びの声を上げる。
「お仕事中に邪魔してごめんなさい。用があればまた来るわ」
 そう言って、カウンターを去ろうとする少女。
「あ! ちょっと待って君。あれ……」
 呼び止めたスタッフが、少女に対して画面を指で示す。
 モニターには、大きな羽根を持つ白いMSが大写しになっていた。
「――何なの? あれはガンダムじゃないわよ」
「いや、でも」
 尚も離れない指先に、もう一度モニターを見た。
 そのMSに関してリアルタイム表示された、今行われている対戦カードと、そのプレイヤーのエントリーネーム。
 BATTLE:U−Y VS KuruKuru
「――っ!?」
「たしかその子って、あんなエントリーネームだったと思……って!?」
 名前を確認した瞬間、少女は駆け出していた。
 向かう先は――店に設置された、ガンプラバトル専用の筐体。
「エントリーするわっ! 何番が空いてるのっ!?」
「いや、今からエントリーすると、残り時間十分切っちゃうよ!?」
「――大丈夫! これを使うから!!」
 走りながら少女がポケットから取り出したのは、普通のプレイヤーが目にする事は無いカード。
「ぶ……ブラックカードっ!?」
「何番!? 早くっ!!」
「えーっと……さっ……三番が空いてるよ。スーツはっ!?」
「要らないっ!!」
 慌しく指定された筐体に潜り込み、バッグを探る。
 取り出したのは、自前のヘッドセットと白いMS。
 いつもPV撮影で使っているキュベレイ……だが、
 実はこれは、ガンプラでは無い。
 1/100マスターグレード(MG)を原型にして、映画関係のプロップを専門に製作する造形会社に依頼して仕立てた特注品だ。
 見た目はガンプラだが、内部には小型スピーカーや音楽プレイヤーその他、必要なギミックを仕込んである。
 普通のカードでは、スキャナーに掛けた時点でレギュレーションチェックに引っ掛かってしまうので、エントリー自体出来ないが――
 マイナは、特殊なカードを持っている。

97 :
 フリーアクセスカード。
 システム管理用カードとも開発用カードとも言われるが、知っている者にはブラックカードの方が通りが良い。
 PV撮影の為にスタジオに筐体を置いている関係上、彼女も当たり前の様に持っている。
 今マイナが乗り込むのは、指定された筐体では無いので、システム内部に直接干渉する事はできないが、
 それでも、いくつかの特殊な操作が可能になる。
 どんな物でも、スキャンしてフィールド上に3DCGで再現できる、というのもその一つだ。
 完全に、ガンプラバトルシステムそのものを、ひとつのシミュレータとして利用する為の機能だったりする。
 ただし通常のフィールドでは、たとえ攻撃しても相手にダメージは無いが。
 しかしそれは、マイナにとっては好都合となる。
 ビームを撃っても相手のMSに影響が無いならば、それはライブ用の視覚効果として利用出来るからだ。
 もちろんフィールドの方には効果が現れるため、PVでも派手な演出として使っている。
 ハロを模したガンプラスキャナーにキュベレイを入れて蓋を閉じ、カードをスロットに挿入。
 手にしたヘッドセットの右側に筐体のシートから伸びるコードを、左側には自前の小さな機械から伸びるコードを接続。
 その機械をクリップで胸元に付ければ、準備は完了だ。
 プレイ時間残り十分を切れば普通はエントリー不可能だが、今の彼女には関係ない。
 ポイントの加減算も無いが、ポイントなんてどうでも良い。
 今シノザワ・マイナがやろうとしているのは――
 あのウイングガンダムのパイロットを捕まえる。
 そして――こちらの用向きを伝える。
 今はそれで充分だ。
『アクセス完了、エントリー開始します。ガンプラスキャナー起動』
 システムボイスが告げる。
 己が写し身たるガンプラを駆る者だけに許された、もう一つの現実世界への突入を。

 こうして、本来ならエントリーすら不可能なはずの特殊なキュベレイが、戦場に降臨した。


98 :
『……いきなり何? あのキュベレイは!?』
 トールギス武龍を駆るクルカワ・アオイが迎撃に動こうとするが、
「――待った! 先生落ち着いて!!」
 傍らのトールギス飛天、ウエハラ・ユイトがそれを制した。
 こうしている間にも、
 本来ならありえない非常事態に、周囲で戦闘を行っていたMSが続々と集結してくる。
 突然現れたキュベレイの方は、モノアイをグリグリと動かして周囲を覗うだけで、そこから移動する気配は無い。
 端から見える動きと言えば――
 あの特徴的な、前後に開く大きな両肩を解放し、両腕をパアッと左右に広げる。
 そして一度収納した右手が、大きなヘッドのマイクを手に再び現れると――
 それを口元(?)に構えた。
『何? 一体何が始まるの???』
『こんな所で……ゲリラライブかぁ?』
 ソウミ・ユウリとホシナ・ケンヤも、疑問しか湧いてこない。
 やがて、カッカッカッとドラムスティックが打ち鳴らされる音が響き――

 ♪ ねえ わたしをみてよ
   あなたが好きだって 言ってくれた
   白い装甲(ドレス)をまとって
   ここに……いるからっ!

 音無しで始まったスローな歌に戸惑っていると、
 ワンフレーズアカペラ歌唱終了と同時に、ギターとベースとキーボードとドラムが、いきなり大音量で鳴り出した。
『こっ……これはっ! マイたんのデビュー曲“オトメの決心”っ!?』
『なんであんた、そんなに詳しいのよホシナっ!?』
 思わず説明的なセリフを吐いてしまったケンヤに、ユウリは驚愕する。
 傍にいるマナサキ・ミスノは、この異常事態に何も言えない状態だ。
 そして、この歌が歌い始められてしまった影響は――すぐに出た。
『おい……この歌……?』『ああ。歌いだし前に微かに聞こえたブレス……』『いかにも録音ですという整った感じがしないライブ感!』
『これは正真正銘――シノザワ・マイナの生歌かっ!?』
 それを同時に理解した連中が、
 周囲で、狂った様に飛び回り始める。

99 :
「これは……一体!?」
 いつもと違う熱気に、ユイトも戸惑い気味だ。

 ♪ 雨上がりの 星空に
   手を合わせて祈るの
   流れ星に お願い
   この想いを 届けて
   そんな弱気じゃ 伝わらないわ
   切ない 恋心
   ねえ わたしをみてよ
   あなたが好きだって 言ってくれた
   白い装甲をまとって
   ここにいるから

 スローからアップテンポへと変調し、アイドルらしく変化した歌が、その場を支配した。
 歌を知っている者は、フレーズに合わせて合いの手を入れる。
 そして抜き放たれたビームサーベルやヒートサーベルが、ペンライトの様に振られた。
 こうなると、もはやバトルどころの騒ぎではない。
 ここは、にわか音楽ライブ会場と化してしまった。
 リックドムが、ゲルググが、06-RザクUが、
 ギラドーガが、ギラズールが、さらにはリガズィやジェガン、ジェスタといった連邦系MSまでも。
 シノザワ・マイナのファンらしき連中の駆る宇宙用高機動MSが、エキサイトして舞い狂う。
『――歌の力って……スゴイっ!!』
 心底感嘆したミスノが呟くが、
『いや、それって違うアニメっぽくない???』
 ユウリはそれに対して、冷静にツッコミを入れた。
『あのキュベレイ、どうやら1/100スケールみたいね。でもなんかおかしいわ』
「いや、先生。こんな時も冷静に分析って」
 MSである以上、友軍以外は全て敵、とでも言う様に。
 言葉を絞り出す女教師の物言いに、ユイトは苦笑いする。


100 :
 ♪ ねえ わたしをみてよ
   あなたが好きだって 言ってくれた
   白い装甲をまとって
   会いに行くから
   素直なままで

 一曲最後まで歌い終わったところで、フィールドは歓喜に包まれる。
『マイたんっ! 一体どこからエントリーしてるんだっ!?』
『すぐ行く! 今行くっ!! どこへでも行くっ!!』
『ちくしょー! うちは田舎だから、来てる可能性は絶対無いなっ!!』
 口々に叫ぶファン達の声に、
(――はっ!?)
 コクピットシートに着いたまま、マイナは我に返る。
(しまった……つい調子に乗って、フルコーラス歌っちゃったっ!?)
 目の前の戦闘を威嚇射撃で止めるだけだと、他からやってくるMSの攻撃が始まる可能性がある。
 そう思って、歌でフィールド全体を戦闘停止状態に持って行った……はずだったが。
 どうやら、やりすぎた。
 そして無情にも、
『ガンプラバトル、タイムアップです。フィールドに残ったMSのパイロットは――』
 バトルの終了を告げる音声案内。
 さすがのブラックカードも、全アクセス権限の無いシステムに対して、プレイ時間にまで干渉する事は出来ない。
 だから。
『――ねえっ! あなたユイ君でしょうっ!?』
 ビシッと指を指す相手は、大きな翼を持つカスタムトールギスだ。
「……ええっ!?」
 驚いたのは、名指しで声を掛けられた当の本人。
『お願い! 大事な話があるのっ!! これが終わったら、どこか近くで会――』
 最後まで言わせずに、スクリーンはブラックアウトした。




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