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違う世界に国ごとトリップ


1 :2018/05/31 〜 最終レス :2019/03/06
では

2 :
日本国
府中刑務所

日本が転移して13年目の年が明けていた頃、マディノ元子爵ベッセンは新たに立川市からも魔力と才能のある子供達を招聘し、魔術について教えていた。
立川市から招聘されたのは仏教系一人、神道系が二人、大陸魔術系が1人。
弟子の数は36人となった。
パソコンを打ちながら作製した弟子達への教科書を読み上げながら思いに吹ける。

「日本人もこの世界に馴染んできたかな?」

それが喜ばしいことかベッセンにはわからない。
移民の増加のせいもあるが、日本本国の人口は1億1500万人を割り込んだ。
その反面、転移後に産まれた日本人は1284万人を越える。
日本本国の死者の増大は、大陸に移民した者達には影響は及んでいない。
日本本国を守っている海の結界が、転移してきた日本人達に悪影響を与えているのではとベッセンは考えている。
日本人が転移後の世代に入れ替わる頃には、自分の生徒たちが指導者層になれると確信もあった。
最低でもあと10年、いや20年は必要だった。

「そうなると大陸の日本人達が邪魔だな。
まあ、今は出来ることも無いか。」

日本人達には海の結界の悪影響を秘密にしておきたいが、海棲亜人やエルフやドワーフが旧港区に大使館を構えて居住を始めた。
彼等も魔術に精通した者を連れて来ている筈だから、日本人にバレるのは時間の問題と言えた。
また、日本自体が魔術に関する知識を蓄積すれば、相対的に自分の価値も低下、弟子たちを増やすことも出来ない。

「今は余計な戦力の浪費だけは控えてくれるといいな。」

帝国の残党や日本を面白く思っていない貴族や教団、亜人達が日本の技術を学び、力を付けてくれるのがベストだ。
ベッセン自身は戦犯の汚名を着せられ、主君、地位、爵位、領地、一族、家臣、名誉、財産、自由全てを奪われた。
だが持って産まれた魔力と知識は残っている。
今は大人しく日本に従ってはいるが、何時かは全てを取り戻してみせる。
ベッセンの中の野望と復讐の炎は消えていなかった。
その為には時間が必要だった。
弟子達の教育や必要な栄養等を摂る時間以外はほぼ肉体を凍結させて寿命と若さを稼いでいる。
問題は他にもある。
弟子達の教育に人手が足りないのだ。
年長の弟子達が弟弟子達の教育を幾らか携わってくれるので、今はどうにかなっているが、そろそろ限界だとは感じていた。

「と、言うわけで優秀な魔術師で導士級の者をここに派遣してもらえいかな?」

相談を受けたベッセン担当の公安調査官の福沢は、眉を潜めて聞き返してくる。

「導士級じゃないとダメなのか?」
「もうすぐ二クラス分になりそうだしね。
年齢も修行期間もバラバラだから効率は良くないのは理解できるだろ?
それに私自身が自由に動けない身だから、スカウトに使える人材が欲しい。
導士級が欲しいのは、簡単に言うと魔術を使う為には肉体にある魔力の扉を開く必要があるんだ。
前に私が大月市の僧侶にやったようにね。
まあ、あの時はうっかり仏の力をこの世界に招いてしまったのは誤算だったけど。」

嬉しい誤算であった。
あれでこの日本人にも魔術が使えると、よいデモンストレーションになったし、弟子の増大にも繋がった。

「その扉を開くことが出来るのが、導士というわけさ。
まあ、30年くらいの修行が必要だけど。」

ベッセンは十年くらいだった。
代々宮廷魔術師の家系で貴族だったことが大きい。
一族の理解と蓄積された血統による才能と蓄積された知識による効率的な英才教育。
それらを可能とする資産と地位があったことが大きい。

3 :
通常は30年以上の修行をしてからなるものだから、老齢の者が多いのが実情だ。

「魔術師達が我々に非協力的なことは知ってるだろ。
それにそれだけの実力者達なら当然・・・」
「ああ、大半が灰になったろうね。
弟子達も含めて。」

導士やそれになれる実力のある者達は、そのほとんどが帝国の支援を受けていたので有事の際には宮廷魔術師団に召集される。
その閲兵式の最中に空襲を受けたのだ。
生き残っている者などはそれほどいないだろう。
期待できるのは、遠方や任務の為に閲兵式に参加していなかった者や独自の結社にいた者達だがどれほどいるかはさすがに把握出来ていない。

「エルフ達では駄目なのか?
彼等なら高い魔力と長い寿命で期待できるのでは無いか?」
「種族が違うと相性が悪くて危ないんだよね。
それに彼等は産まれながらに扉を開いてるから、その方面の修行はしてなかったりする。
ん〜、そうなると各教団の司祭長級の人間か・・・
まず地元を離れたがらないな。」
「総督府に一応は問い合わせてみる。
期待はしないでくれ。」

やはり10年、20年は待たないとダメだなと、ベッセンは落胆する気持ちを抑えられなかった。

東京市市ヶ谷
防衛省

旧東京都の住民が移動したあと、防衛省も施設の大拡充をおこなっていた。
寺社と警視庁第四方面本部以外の東京都新宿区市谷本村町全域にまで拡がっている。
その中には防衛大臣官邸も建築され、大臣のオフィスも官邸内に存在する。

「これが元子爵様の御要望かい?」

防衛大臣乃村利正は秘書の白戸昭美から、公安調査庁から届いたベッセンの報告書を読み漁っている。
日本政府はベッセンは有用だが危険人物と見ており、心理学者やプロファイラーなども動員して監視を怠っていない。
まだ、彼の弟子達にも後援者たる寺社を通じて紐付きにする計画も進行している。

「魔術には精通していても、我々のことを甘くみてもらっては困るな。」

監視者達の報告は、ベッセンに反抗の心と能力は決して衰えていないというものだった。
こちらもいつでも府中刑務所ごと破壊できるように戦闘機やミサイルも配備済みなのだ。
刑務所内にも公安調査庁の実働部隊が配備されているし、警視庁も調布や立川の機動隊並びにSATの任務にベッセン排除を加えている。
神奈川県警SAT1個小隊を全滅にしたベッセンの実力は決して低くは見積もっていない。
唯一の問題は、ベッセンが外部と連絡を取ることを防ぐ手段が無いことだった。

「総督府に奴の要望を聞かせよう。
なるべく裏切らない導士や司祭長をな。
単身赴任してくれる家族持ちが最適だ。」

白戸が頷くと、関係各所に送る書類の作成に取りかかる。
その間に乃村は他の報告書にも目を通す。
防衛装備庁からは、転移後の装備の一新が第9師団まで完了の報告書が来ている。
従来の第9師団の装備は老朽化されていない物が厳選されて第11師団に移管された。
今年は第10師団から第12師団に装備が引き渡される予定だ。

「第16師団は・・・、前線は消耗が激しいな。
高価な在日米軍の武器ではもう限界か。」


4 :
「現米軍も自衛隊と同じ装備に移管しつつあります。
安価で工場が完成したロシア系とは比べられません。」

大陸における日本の権益を守る主力であった第16師団の活躍の程が知れる話である。

「あと四年持ちこたえてくれれば自衛隊装備を回せるんだが・・・。」

そこに入室を知らせるインターホンが鳴り、白戸が受話器を手に話し出す。

「大臣、第17旅団長久田正志陸将補がおいでになりました。」
「通してくれ。」

久田陸将補は入室とともに敬礼をしつつ、着席を勧められて席に着く。

「久田陸将補、これは内示だが貴官が大陸に帰還後に三等陸将の辞令が総督府から発令される。
現在、訓練中の第17後方支援連隊とともに帰還して貰い、第17師団が正式に発足する。
今後の第17師団の展開予定を聞かせてくれ。」
「はい、現在王都を中心に展開している各普通科連隊を各分屯地の3領に移動、駐屯させます。
まずは南部アンフォニーに第17普通科連隊。
西部エジンバラに第34普通科連隊。
北部デルモントに第51普通科連隊。
各分屯地の分屯隊は各連隊に復帰させます。
また、王都ソフィアの駐屯地には、第17師団本隊並びに第17特科連隊、第17後方支援連隊が駐屯します。」

王国や貴族に対する布陣だが、同時に地球系同盟国や同盟都市に対抗する為のものだ。
特に建国宣言したばかりの華西民国や北サハリン共和国は警戒が必要だった。

「政府もようやく重い腰をあげて、海自の新造艦や空自のF−35の生産の予算が降りたばかりだ。
陸自がその恩恵に預かれるのはまだ数年先だが耐えてくれ。」

政府が重い腰を上げた理由はそれだけではない。
エルフ達からの情報により、今後も地球からの転移が有り得ることが否定できなくなったからだ。
しかもこの世界では一年でも地球では五年経過した対象の転移だ。
個人や小規模な転移ならいいが、国単位で未来技術を持ってくる対象が転移してきたらどうなるか?
答えは日本自身がこの世界に証明してみせてしまった。
多少はその差を補うべく、停滞させていた新兵器の開発に動き出したのだ。
久田陸将補が退出したあと、現在は第一師団の所属となっている第18普通科連隊の連隊長上田翔大一等陸佐が訪ねてきた。

「現在、我が連隊と各陸自部隊からの異動希望ならびに志願者のリストです。」

第18普通科連隊も現在の任地から二年後に大陸に進駐する。
トラブルを少なくする為に隊員の希望を聞いてやる為のリストだった。

「予想通りだな。
年内に大阪市の移民が開始されるから、それを見越した志願者が多いな。
まあ、こちらにも都合がよいから無理の無い範囲で配慮してくれたまえ。」

移民庁からの報告書によると、横浜市民による六浦市民の移民は6月後半に終了する見通しだった。
その後は、大阪市平野区、東淀川区の住民の移民をもって六浦市への移民が完了する。
そして、大阪市民が中心となる第4植民都市の移民が始まることになる。

「六浦の港も開港すれば、送り出せる移民の数も増える。
現地ではすでにインフラの工事も始まっている。
ゼネコンの連中は仕事が無くならないと左団扇だ。
羨ましい限りだ。」

都市建設や街道の整備、鉄道の敷設。
材木や鉱物による資源の採掘など、日本や地球系同盟国や都市の労働力だけでは人員を賄うことが出来ない。
住民にとって何より大事なことは食料の確保だ。
都市の外での活動にはあまり積極的ではないのが現実だ。

5 :
代わりの人材として、各領地から派遣された賦役の領民が動員されている。
王国や貴族に日本に対する敗戦賠償として年貢の半分や採掘された鉱物を差し出す政策が大陸全土で行われている。
最も輸送や保存の問題もあり、辺境の領土では、現金で日本の輸送ルート沿いの領地から作物を買い取り、支払うことも認められている。
問題は現金で支払うことも出来ない貴族達で、彼等は農村や町から余剰の労働力を賦役として差し出してきた。
奴隷扱いは流石に不味いと、最低賃金で雇用したが、大いに活用されることとなった。
労働力の低下は食料の生産やや鉱物の採掘に響くのではと懸念はされた。
しかし、農村や鉱山には日本の指導のもとに知識や技術の提供が施されて、生産量は寧ろ増加の傾向にある。
しかし、日本や華西によるインフラバブルが終われば大量の失業者が大陸に溢れることになる。
もちろん日本の支配領域からは、物理的に叩き出すのは大前提だ。
それ以前に遠方に『最後の餌』が用意されて釣りだす計画となっている。

「閣下、外務省からです。旧南米、中南米諸国18ヵ国が、アルベルト市への合流を決定しました。
日本人等の外国籍配偶者も含めて、約二万人。
スペイン語圏でほとんどがカトリック教徒という共通点を持っています。」

秘書の白戸の報告に乃村は口笛を吹いて答える。

「独立都市の建設はもう無いとみて諦めたか。
ここまで粘ってた連中にもこの風を感じてくれると助かるな。」

昨年の独立都市の建設を決める調整会議の惨憺たる有り様を浮かべて、乃村は肩を竦める。
ペルー人を主体とするアルベルト市の規模ならば二万人程度含めても新たな植民都市が造られる可能性はほぼ無いと言っていい。

「もう13年も立つのに定住先を得られなかった者達への草刈りが始まったな。」


大陸北部
呂栄市
アキノビーチ

フィリピン系を中心とする呂栄市の郊外にある海岸、通称アキノビーチでは、呂栄軍警察隊と日本国自衛隊による合同演習が行われていた。
敵の対象が大型モンスターであり、呂栄軍警察が重火器をあまり持っていないことを前提とした演習だ。
呂栄軍警察のテクニカルやパトカーといった車両から、拳銃や小銃を発砲しながらモンスターを海岸に誘導する。
海上には沿岸警備隊の日本から供与されたパローラ級巡視船七番船『ケープ サン アグスティン』と八番船『カブラ』が待ち受けていて、JM61-RFS 20mm多銃身機銃の掃射で退治を完了する。
モンスター役は、海上自衛隊特別警備大隊隷下の水陸機動中隊であった。

「なかなか様になって来たじゃないか。
そろそろ人数も増えてきたし、陸自に戻った暁には駐屯地でも欲しいところだな。」

感慨深げに自らの部隊の連度を演習本部から語るのは陸自から海自に出向させられている長沼一等陸佐だった。
ようやく政府から水陸両用車の増産を受けて、原隊に戻れそうだと機嫌も良いのだ。
水陸両用車もAAV−7水陸両用強襲車の人員輸送型4両、指揮通信型1両、水陸両用車回収型1両に増え、国産試作車両と合わせて8両になった。
隊員も225名と大所帯になってきた。
転移前の計画と比べれば一割にも満たない人員だ。
先の海棲亜人との戦いで『叡智の甲羅』なる者を確保する突入作戦で高評価を受けたのも大きい。
長い年月を生きてきた海亀人数万年の歴史と技術の記録の保管庫らしい。
幾つかの者は機密扱いを受けて、在日米軍から返還された旧横須賀海軍施設内に密かに造られた研究所で保管、研究されてるという。
転移の謎についても解明されるか期待されている。

「そういえば連中と海保の共同調査が実行中だったな。
うまくいってるのかな・・・」


対馬海峡

海上保安庁と新たに日本と国交を結び、傘下に入った栄螺伯国は共同で、日本本土周辺海域の海洋結界の範囲調査が行われていた。
派遣された巡視船『やしま』のブリッジで、船長の河野は双眼鏡を片手に目標海域を視界に納めていた。
共同で作業に当たっていた『食材の使者の息子』号が掲げた鋏が摘まんだ旗を確認し、微妙な感覚を覚えつつ船員に指示を出す。

6 :
「『食材の使者の息子』号の調査が完了した。
ブイの設置の準備をせよ。」

ここが最後の調査対象だった。
地図にブイの設置場所を書き込み、定規で地球時代の地図と照らし合わせる。

「やはり地球の大陸陸地から26キロ地点までは海洋結界の効果範囲外となってるな。」

対馬はまだ大丈夫だが、高麗主要3島や北サハリン西海岸の旧間宮海峡沿岸の一部はほぼ効果範囲となることになる。
対馬までは約26キロまでは安全圏だがそれも何年保つかは今後の調査次第となるだろう。

「あとは我々の作業になります。
『食材の使者の息子』号には浮上航行の指示を。」

同乗していた大使館付き連絡官である栄螺の女騎士ミドーリ(日本名)が頷く。

「心得た。」

彼女がブリッジから甲板にでて、法螺貝を服出すと、『食材の使者の息子』号が浮上してくる。
ヤドカリ型水陸両用艦と日本では呼称される『食材の使者の息子』号は、先年日本の客船『いしかり』を襲撃した『食材の使者』号の子供であるらしい。
船体というか、身体や宿の栄螺殻も『食材の使者』号より一回り小さい。
栄螺伯国は巨大ヤドカリを艦船として利用しているが、遠洋での活動は向いていない。
『食材の使者の息子』号も大使館付きの艦として、小さいことを生かして途中から日本の艦船に牽引して貰ったくらいだ。
この対馬沖にもその低速ぶりから、海自や海保の艦船に牽引されて来たのだ。
栄螺伯国は、先年の襲撃と百済サミット襲撃事件の顛末を知り、日本とは対立よりも国交を結ぶことが得策とし、巻貝系諸部族を統一して使節団を派遣していた。
日本で捕虜になっていた女騎士ミドーリ(日本名)が両国の橋渡しになり、その地位と所領は安堵されることになった。
『いしかり襲撃事件』で日本側に死者が出なかったことは幸運と言えたろう。
栄螺伯国は旧オランダ大使館に居を構えて、活動を初めてこの共同調査に参加した。

「そういや、あの坊主の親御さんは今はどうしてるので?」

ミドーリ(日本名)はいったい誰のことが理解できなかったが、河野船長が『食材の使者の息子』号を指さす方を見て合点がいった。
『食材の使者の息子』号の親である『食材の使者』号は、護衛艦『いそゆき』の97式短魚雷を三発も食らって宿の貝殻部と鋏を破壊されている。
本体も衝撃で幾分か傷付いていた。
それでも本国まで辿り着いたのはたいしたものだった。

「本体が入れる殻がまだ育ってないので、現在は専用の入江で療養中です。」

艦船に対しての言葉とは思えないなと、話を振った自分のことを棚に上げて河野船長は考えていた。
設置されたブイは、海上保安署がある港を基準に設置されている。
一年後にもう一度を観測を行い、『海洋結界』の縮小範囲を調べることになっている。

「日本はこの世界に同化しつつあるか・・・
誰が言ったか知らないが、」



千島道
占守島

日本の北東端にあたるこの島でも、『海洋結界』の調査は行われていた。
この島には自衛隊の第308沿岸監視隊と海上保安庁の海上保安署、警察の交番が2ヵ所が置かれている。
民間人は漁師を中心として、500名程度しかいない。
この島の北側海岸に自衛隊と海保の隊員が調査、監視にあたっていたが、上陸してきた海亀人の重甲羅海兵達と目を合わせて困った顔をする。
彼等は等間隔に散らばり、上陸してきたのだ。
その範囲は広く、『海洋結界』がこの島では機能していないことを証明してしまった。

「上陸、出来てしまいましたな・・・」

海上保安署署長の言葉に第308沿岸監視隊隊長の的場三佐は二の句を継げないでいる。

7 :
日本本土で唯一の『海洋結界』の穴が見つかったのだから当然だろう。

「防衛省並びに北部方面隊総監部に報告。
択捉の第五師団司令部もだ。
海亀人の皆さんには申し訳ないが、島内の上陸可能範囲の報告を急がせてくれ。」

上陸可能な地域は、占守島の東側の沿岸全域に及んだ。

「範囲の広がりかたから、今年、去年の話じゃないな・・・
サミットの時に君らに見付からなくてよかったよ。」

的場三佐は海亀人の重甲羅亀海兵の隊長ドーロス・スタートにそう声を掛けるが、呆れたような反応をされた。

「こんな戦略的に無意味な島を制圧したって、あんたらの怒りを買うだけじゃないか。
見付けれなくてよかったよ。」

この占守島の片岡村にも700名ばかりの日本人が住んでいる。
安全が確保されていない以上、本土に島民を撤収させるかが問題となった。
夜になって、村長と村議会は避難せずの結論をだした。
今後はどこに逃げても『海洋結界』が狭まるのは明らかだ。
十三年の歳月を掛けて、開拓したこの島を離れる住民は誰もいなかったのだ。

「今後は周辺海域でのモンスターとの遭遇や上陸にも備えないといけない。
壁とまでは無理かも知れないが、金網で村を囲うくらいは検討しなければならないな。」

的場三佐の指摘に村長は溜め息を吐く。

「巣でも造られては堪りませんからな。
村かも監視の為の自警団から人をだしましょう。」

言われて気がついたが、確かに巣でも造られたら一大事だ。
しかも『海洋結界』の恩恵が陸地に及ばなくなって数年たっていると考えられる。
本当に巣は無いのか?
不安に狩られた的場三佐は、択捉島の第五師団司令部に応援を要請し、島中の探索を始めることとなる。



高麗国
珍島市
観梅島近海
国防警備隊太平洋三号型巡視船『太平洋9号』

『海洋結界』の加護が無くなった高麗国の主要三島だが、近隣の諸島ではまだ結界の加護は維持されていた。
そのうちの観梅島も同様で、リゾート地で知られた島も食料確保の為に漁港が拡充されて人口が増えた。
しかし、今年に入ってから若い男性の行方不明者が増えて問題となっていた。

「政府はブリタニカにタイド級給油艦『タイドレース』の納入に合わせてピリピリしている。
その矢先に行方不明者が拐われる瞬間が携帯カメラからだが撮影された。
敵の正体がこれだ。」

ブリーフィングルームで船長がスクリーンに映った存在を指差す。
頭と胸が人間の女性で、それ以外の部分が鳥というモンスターが、足の鉤爪で若い成人男性の胴体を掴み飛び去るところだった。

「ハルピュイア、通称ハーピーだ。
山岳地帯や海岸に住み着き、人を拐うことがあるそうだ。
理由はほとんど雌しか産まれない種族で、牡は稀にしかいない。
つまり生殖に他種族の男性を利用しているそうだ。
『海洋結界』によるモンスターの上陸は警戒していたが、その前にそらから侵入されたことに気がついてなかったわけだ。」

集まられた海兵隊員達は微妙な顔となる。

8 :
「女は拐われないので?」
「識者の話によると、雌が圧倒的に多いから間に合ってるそうだ。
ちなみに人間との言語的コミュニケーションは現在のところ不可能。
他の亜人のように王国との交流も無ければ、交渉出来るような文明的組織も見当たらない。
よって地球系同盟国並びに独立都市は、ハーピーを害獣として駆除することに決定した。」

識者ってなんだよ、という呟きは質問では無いので船長は無視する。

「奴等の巣は鳥島群島の加沙島と推定されている。
住民が800名ほどいて、危険に晒されていると考えられる。
念のために他の有人島も警備隊と自警団が現在も捜索を行っている。
諸君らは加沙島のハーピーの駆逐後、諸鳥島群島の無人島を一つ一つ捜索する為に召集された。
長丁場になるが、諸君等の健闘を期待する。」

鳥島群島が所属する珍島市の無人島は185に及ぶ。
それを海兵一個小隊で捜索しろというのだから、隊員達はうんざりとする顔を隠そうともしない。

「そう腐るな。
有人島の捜索が終わった警備隊もこれに加わるし、自衛隊の西部普通科連隊もこの作業に加わる。
そう長くはかからないさ。」

先程の長丁場発言と矛盾するが、船長としてはこう言うしかない。

「ハーピーどもが大陸から遠いこの地にどうやって渡ってきたのか、日本も興味を示してるからな。
それに現実問題として、国防警備隊はイカ共の攻撃から再建出来たとは言い難い。
背に腹は代えられないってな。」

ハーピーの巣の根絶自体は問題は無い。
加沙島の港から海兵隊が上陸すると、住民の避難活動が始まっていた。
海兵隊達は近隣まではバスで移動し、徒歩で巣になっていると思われる南部の金鉱跡に向かう。
夜目の効かず、眠りに入っているハーピー達にいちいち隠密行動は取らない。
最短距離で巣になっている南部の金鉱跡の洞窟に侵入する。

「臭いな・・・」
「アレの臭いか・・・
ガスマスクでも持って来るんだったな。」


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[3]
^04/11 20:01
壁にはペリッドで貼り付けられた男達が気を失っている。
さらに地面には悪臭が漂うなか憔悴仕切った男達が複数倒れていた。
数人はすでに事切れている。
洞窟の中のハーピーは30匹近くいたが、色々と満足したのか多少の物音でも起きてこない。
藁で造られた鳥の巣のような物には卵が複数入っている。

「この数が繁殖されたら溜まらんな・・・」

遺体の回収は諦め生存者の救出を優先し、洞窟にC4プラスチック爆弾を仕込んで脱出する。
だが救出された男達の悪臭と物音にさすがに気がついたのか、森からも複数のハーピーが飛び上がってきた。
海兵達が小銃による射撃で急降下してくるハーピーを迎撃しながら海岸を目指す。
鳥目の為か狙いが甘く、ハーピー達は蜂の巣になっていく。
しかし、数が多く鉤爪に隊員や生存者が捉えられそうになるが、拳銃でハーピーを射殺して難を逃れる。
隊員達や要救助者がバスに乗り込むと、車体をハーピーの鉤爪が激しく叩いてくる。
バスを走らせ港まで来ると海上の『太平洋9号』による40mm連装機銃やブローニングM2重機関銃による援護射撃も始まり、上空のハーピーを餌食にしていく
乗員や島の警官達も小銃や拳銃で応戦する。

「待て、待て、ちょっと待て!?」

9 :
保守

10 :
急降下してくるハーピーより、撃墜され墜落してくるハーピーの死体の方が危険となる一幕もあった。
十分な距離が取れたと、隊員の一人が洞窟のC4プラスチック爆弾の起爆用の無線スイッチを押すと洞窟が爆破された。
その爆発に呼応したように森や周辺の小島から無数のハーピーが空を覆った。
ハーピーは単体ではさほど強くはない。
危険を察知したとたんに群れで安全圏まで避難し始めたのだ。

「おいおい、何匹・・・
奴等どこに行く気だ?」

ハーピーの群れは『太平洋9号』からも進路が観測された。
進路は南。
日本しか有り得なかった。


北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ 』は、大陸から高麗に鉱石を運ぶ仕事に携わっていた。
と、言うのは表向きの話で、北サハリン船籍に偽装したチャールズ・L ・ホワイト元米軍中佐が強奪した船だった。
船長のナルコフは元ロシアマフィアで密輸に携わり、主要な船員達も指名手配犯ばかりだ。
その中には訓練を受けた帝国軍残党まで混じっていた。

「高麗に密かに運んでたハーピーの卵の孵化が予想より早かったな。
騒動を起こして、国防警備隊に嗅ぎ付けられた。」
「どうしやす?
この船も臨検を受けたら一発でバレますぜ。
中佐の魔法で眠らせていたハーピーが目を覚まし始めてますし。」

最初のうちは卵を運んで、高麗本国に大量発生させて混乱を狙う気だったが、卵が見つからなくなり、ハーピーそのものを輸送する羽目になっていた。
ナルコフ達船員は、モンスター避けの護符を、チャールズ中佐から貰っているがハーピー達はコンテナに閉じ込めて使わないようにしていた。

「とにかく中佐からの連絡を待て。
幸いハーピーの群れが日本の群れを引き付けてくれるから、まだ時間はあるさ。」


東京市ヶ谷
防衛省統合司令部

統合司令部は陸海空3自衛隊の運用を常時、一元的に指揮する目的で創設された。
元々は転移時の混乱を乗り切るための統合任務部隊司令部を常設化したものだ。
この統合司令部による指揮のもと、日本国は帝国との戦争に勝利するになる。
構想自体は転移前からあり、研究もされていたが、転移前との最大の違いは外征部隊や海外領土の派遣部隊の指揮も任されていることになる。
役割の増大から市ヶ谷の防衛省の拡大が求められ、新庁舎に居を構えることになった。
その統合司令部は、高麗国によるハーピーの群れの駆除失敗と、その群れが日本本土に向けて南下しているとの報告に大あらわになっていた。

「陸自、西部方面隊に防衛出動を指示。
第13、14、15師団にも駐屯地に隊員を召集させろ。
海自の報告はどうした!!」

統合司令の哀川一等陸将の怒号に、海自の担当者が資料を手渡してくる。

「駆除任務の増援の為に珍島に向かっていた第4護衛隊が間もなく群れと会敵します。
また、五島列島には佐世保から第12護衛隊。
壱岐島にも佐世保から第4掃海隊が防衛ラインを敷いて、駆除にあたります。
念のために呉からも第二護衛隊を派遣しました。」

人クラスの大きさで、時速80キロでの飛翔が確認されハーピーには、ミサイルの有効性が信用できない。
機銃や艦砲程度なら掃海隊でも務まるとの判断の派遣だった。

「また、第4護衛隊並びに同行の『くにさき』には、西普連が同乗しており、群れを引き付ける任務に任せます。」

11 :
「おう、それなら・・・唐津市方向に引き付けてくれ。
陸自の久留米の第4高射連隊と小倉の4普連を展開させる。」
「間に合うでしょうか?」
「間に合わせるんだ。
念願の79式の実戦経験も積ませれるしな。」

79式自走高射機関砲は、日本が帝国との勝利後に完成させた新型対空車両だ。
北サハリンのツングースカを参考に90口径35mm対空機関砲KDAを4門設置されている。
従来の地対空ミサイル中隊とは別に、増員されて創設された第3中隊の配備された。
名称には西暦が意味をなさないこの世界では、皇歴が採用されている。

「追い込んだら壱岐や五島列島の部隊も移動させて包囲し、殲滅させる。
また、包囲を待つまでなく殲滅できるならそれもよしだ。」
「空自の第6飛行隊のF−2六機が、ハーピーの群れの背後に回り込みました。
また観測の結果、ハーピーの数は2400に修正。」
「くそ、思ったより大いな。
高麗の連中はどこに目玉付けてたんだ。
ハーピーどもがどこから日本や高麗に飛来したのか、早急に調べる必要があるな。」

会敵の時刻が迫っていた。



福岡県福岡市
博多駅

小倉から到着した新幹線から、小倉駐屯地に所属する第4普通科連隊の隊員が降車して駆け出していく。
普通科隊員達を誘導している地元の地方連絡本部の隊員が叫ぶ。

「走れ!!
ハーピーどもは待ってくれないぞ!!」

博多駅の新幹線改札を抜けて、地下鉄のホームに向かっていく。
地下鉄に乗り込み、満員電車もかくやという段階になったら順次発車していく。
緊急の地下鉄は途中で地上に出て、ノンストップで西唐津駅に向かう。
ここからは、民間のバスが徴用されて唐津市沿岸に配備される予定である。
緊急事態であり、唐津市並びに糸島市には戒厳令が施行されている。
住民は沿岸部の住民は避難を、その他の住民は屋内での待機が命じられる。
また、両市内への交通も制限された。
海上でも海上保安庁の巡視船の『まつうら』、『いなさ』が警戒にあたり、神集島や姫島住民の避難に作業に従事している。
第4普通科連隊連隊長の鶴見一佐は、唐津城に司令部をおくことにする。

「あれだよな。
城って階段長いからやだよなあ・・・」

山城の山頂まで伸びる石段にうんざりした声をあげる。
西唐津駅からは部隊の展開を優先させる為に連隊司令部の隊員は徒歩で唐津城に向かう羽目になっていた。

「いえ連隊長、本丸まで行く直通エレベーターがありますのでそれで・・・」

幕僚の一人が気まずそうに指を指している。

「・・・こういうのは風情がどうかと思うよな。
さて、展開をいそがせろ。
間もなく会敵予想時刻だ。」

自衛隊だけでなく、福岡県警第12機動隊は糸島市に、佐賀県警機動隊やパトカーに乗った警官達も唐津市に集結している。

「ここに到着する前に殲滅してくれればなあ・・・」

12 :
保守

13 :
海上自衛隊第4護衛隊
ひゅうが型護衛艦『いせ』

飛行甲板に西部普通科連隊の隊員や『いせ』の立入検査隊員達が小銃を構えて待ち構えている。
『くにさき』の甲板でも同様の動きを見せている。

「来るぞ!!」

先行している護衛艦の『あけぼの』、『さざなみ』、『ふゆつき』の艦砲の発射音が響く。
これにCIWSの発射音もだ。
海面にハーピーが次々と落下していく影が見える。
だがハーピーの群れは次々と分離し、護衛艦にまとわりついて接近する。
各艦の立入検査隊や同乗する西普連の小銃や銃架に設置されたM2重機関銃も火を吹いている。
そちらの銃弾は自由自在に飛ぶハーピーに対して、あまり効果は上げられていない。

「殲滅戦とは厄介だな。」

ブリッジから双眼鏡で覗いていた艦長の窪塚一佐はため息を吐く。
人間大のモンスターが自由に飛行し、数百も同時に攻めてくると護衛艦でも対処が困難になってくる。
幸いハーピーの爪では、護衛艦の装甲に傷も付けれない。
ただひたすら鬱陶しいだけだ。

「艦を反転させ、唐津湾に誘導する。
弾薬が尽きるまではハーピーが追い付ける速度に留める。」

ただ『いせ』や『くにさき』の甲板には数百の男性隊員がその姿を見せている。
ハーピー達はその男達の姿や臭いに魅せられて押し寄せてくる。
『いせ』と『くにさき』のCIWSの発砲が始まり、甲板の隊員達もこれに加わる。
『くにさき』の場合、現地で使う予定だった車両を甲板に駐車しており、車内や銃架から発砲している隊員もいる。
こちらの銃弾の密度は、護衛艦の比では無く、ハーピー達が次々と海上に落下していく。
海上に落下したハーピー達は、『海上結界』の餌食となっているのか、息のある者も暴れ狂い浮かんで来なくなる。

「艦長、『あけぼの』から小銃弾が尽きたと連絡が。」

『いせ』や『くにさき』ならともかく、通常の護衛艦に分乗しただけの西普連の隊員は、持ち込み分以上の弾薬は持っていない。
海上で戦うなど想定しないからだ。
それでも現在の海上自衛隊の艦艇は乗員数分の拳銃は支給されている。
それを借り受けて抵抗は続いているが、それも時間の問題だろう。

「『さざなみ』から報告、近接を許したハーピーが歌のようなものを発し、それを聞いた隊員や乗員が放心状態で動かなくなる事態が発生!!」
「歌だと?」

『くにさき』や『いせ』では銃声が鳴りやまずに全く聞こえない。
それでも海面スレスレから急上昇して、接近してきたハーピーの一部が同様に歌を歌い、隊員が戦闘不能になる事態が相次いだ。
戦闘不能になった隊員や乗員は艦内に引きずり込んで保護する。
それでも装甲が薄い区画では、歌が聞こえてしまい艦内で放心状態となる者が続出した。

「全スピーカーで何でもいいから派手な音楽を最大音量で鳴らせ!!」

『いせ』の艦内に『軍艦マーチ』が鳴り響き、『くにさき』ではメタルバンドの派手な曲が流れ始める。
後続の『あけぼの』がアニソン、『ふゆつき』がアイドルソングを流している。
だが『さざなみ』は何も流さないどころか、速度が低下していた。
その『さざなみ』には無数のハーピーがまとわりつき、大合唱の形をなしている。

「『さざなみ』のブリッジ並びにCIC沈黙・・・
『ふゆつき』が救助に残ると。」
このままでは囮の役が果たせない。
焦燥に刈られるブリッジだが、爆音が彼等の士気を取り戻す。

14 :
「空自です!!
空自の第6飛行隊がハーピーに攻撃を開始しました。」

第6飛行隊のFー2戦闘機6機が、『さざなみ』の周囲のハーピーを機銃で掃射していく。

「当艦も速度を落とし、歌の壁を『さざなみ』に張る。

「神集島まで距離3000!!

ハーピー達が離れていきます。」

ハーピー達も羽を休める必要があるのか、艦隊から離れていきます姫島、鳥島、神集島、高島などに集まっていく。
海上保安庁の巡視船『まつうら』か神集島、『いなさ』が姫島近海で警戒にあたっており、両船も無数のハーピーに発砲を開始している。
唐津湾にいた自衛官や警察官も各地で発砲している。

「九州本島に渡ろうとする奴を優先して叩け!!」


唐津市唐津城
第4普通科連隊臨時司令部

「沿岸部で散発的な駆除作業は行われましたが、概ね九州本島へのハーピーの到達は阻止できました。
駆除作業の際に歌を聴かされて行動不能になった隊員が48名。
占拠された鳥島、高島は避難が終了しており、第4並びに第12戦隊が唐津湾を塞ぐ形で展開。
但し、護衛艦『さざなみ』は乗員並びに同乗した西普連の隊員30名が放心状態で戦闘不能と判断されて市内の病院に搬送されました。
残ったハーピーは500足らずと想定されます。」

幕僚の木村三佐の報告に、連隊長の鶴見一佐は渋い顔をする。

「接近戦はやばいか。」
「王国大使館に問い合わせたところ、歌の効果範囲は概ね半径50メートル。
夜は歌わない傾向があるようです。」

鶴見一佐は考え込む顔をして夜襲を検討している。

「西普連に夜襲を要請しよう。
うちの隊員はまだ無理だ。」

新型の装備は与えられたが、現在の普通科隊員の練度では夜襲を任せるには不安があった。
自衛隊は転移後に失業対策と帝国との戦争、占領統治に合わせて増員を掛けていた。
実戦経験のあった隊員は必然的に昇進し、アウストラリス大陸に派遣された第16師団や第17師団や西方大陸アガリアレプト派遣され、旅団化された第1空挺旅団、富士教導旅団、第1特科旅団、第1高射旅団等に配属された。
本国の普通科隊員達の大半がその後に入隊したものだ。

「ここは我々の庭です。
レンジャーの資格保有者を集めて参加させましょう。」

連隊の面子は何者にも代えがたい。

「それにしても歌だと?
資料には無かったな。」

自衛隊は交戦したモンスターをライブラリー化し、日本の保有するファンタジーモンスターの知識を注釈として書き込んでいた。

「どうやらセイレーンの知識と混在化していたようです。
もともとセイレーンも古代ギリシャでは半人半鳥だったのですが、中世ヨーロッパでは、人魚のような半人半魚の怪物として記述されています。」
「ヨーロッパの連中も適当だな。
この世界ではセイレーンとハーピーは同種と考えるべきか。」

放心状態になったことにより転倒し、負傷した乗員も多い。
死者が出なかったのは奇跡だといえる。

15 :
「連隊からも夜襲が出来る者を中隊規模で選抜し・・・歌?
しまった!!」

それは鳥島や高島に集まったハーピー達の大合唱だった。
夜になる前にまわりの生物を眠らせて安全を保つためだ。
その歌は風になり、沿岸部で警戒にあたっていた隊員や夜襲の為に待機していた西普連・・・
そして、唐津城で監視に当たっていた隊員と司令部の幕僚達が次々と倒れていく。
鶴見一佐は咄嗟に手のひらで耳を塞ぐが、城内で無事だった隊員はほとんどいない。

「合唱か・・・、くそ、甘く見てた・・・」


東京市ヶ谷
統合司令部

唐津の惨状の報告に、哀川陸将は頭を抱え込んでいた。

「それで・・・、損害は。」
「第4普通科連隊の隊員450名。
西部普通科連隊900名が戦闘不能に陥り、夜襲は中止になりました。
また、四名ほどの隊員が倒れた際の打ち所が悪かったり、海に転落するなどして殉職しました。
現在も放心状態の隊員の回収作業が行われています。
海保の巡視船も2隻とも行動不能と報告が来ています。」

ハーピーは夜になって動きを止めた。
本来ならここで夜襲を用いて叩いておきたかった。
神集島や姫島は島民こそ避難しているが集落もあり、民間資産の破壊を恐れた政府によって、空爆や艦砲による攻撃を禁じられたのが仇となった。

「放心状態の隊員の容態は?」
「王国大使館に問い合わせたところ、大陸の冒険者なら強い刺激を与えればすぐに目覚めたそうですが、我々のように半日も状態異常が続くことは無かったそうです。」

最近では当たり前のように受け入れられようになった『地球人は魔法に対する耐性が無い』という説がある。
哀川陸将も半信半疑に聞いていたが認めざるを得なかった。


「規模は小さくなったが、夜襲はまだ有効な手のはずだ。
いや、いまやらねば被害は拡大する。
残存の隊員に回収作業が一段落したら夜襲を強行させろ。」

大分や長崎からも部隊を呼びよせているが、4普連と違い準備万端の車両移動なので間に合いそうにない。
西普連と四普連の800名余りの隊員を両島に上陸させることが決定した。
但し、政府から追加された要望書からは手榴弾や摘弾の使用も制限が書き込まれていた。



佐賀県
唐津市鳥島

陸上自衛隊第4普通科連隊第3中隊の隊員が、手漕ぎのキス釣りボートを徴用して、この無人島に上陸する。
水谷三曹は三人掛かりで、ボートを海岸に引き上げる作業を行っていた。
徴用した品なので、なるべく無事に返却しなければならない。

「疲れた・・」

佐賀県ヨットハーバーから約一キロ程度の距離だが、4普連の隊員達は二人乗りや三人乗りのボートで海上を走破したのだ。
中には慣れないカヤックで島に渡った猛者もいる。
平時はボートやカヤックで渡る客も普通にいるそうだが、隊員達は寝不足と疲労で困憊していのが災いした。

16 :
ただでさえ昨日は、早朝に小倉から唐津に駆けつけ、昼間は唐津湾の避難誘導、警戒と散発的な駆除作業に駆り出された。
ようやく交代して休めると思ったら、ハーピーの歌声で放心状態となった隊員の回収作業にと叩き起こされた。
鍛えぬかれた隊員と装備は本当に重かった。
それも一段落する頃には日付が変わっていた。
そして、そのまま徴用した手漕ぎボートで海上一キロの距離を渡り切れと命令されたのだ。
文句の一つも言いたくなるだろう。
すでに鳥島にはヨットの心得がある隊員によって、操作されたヨットに乗船してきた隊員が警戒にあたっている。
小隊長の加山二尉が、こちらに静かにしろというハンドサインを送ってくることには多少ムカつく。
先行した隊員は80式小銃に着剣した銃剣やナイフ、個人購入した刀剣で、眠りについているハーピを一匹一匹、刺突して始末している。
89式小銃の後継80式小銃は、カービン型ライフルに変更したことにより銃身の短縮並びに軽量化を達成した。
また、想定する敵が人間だけでなく、モンスターが追加されたことによる3点バーストの廃止も盛り込まれている。
個人購入の刀剣は大陸では自由に購入、携帯できる。
しかし、『海洋結界』に囲まれた日本本国では緩和されたとはいえ、まだまだ厳しい条件の元でしか許されていない。
自衛隊や警察などの武官では購入が奨励されるどころか、制式装備として採用しようかとの動きまであるくらいだ。
その任務に刃物は最適な獲物だった。
ハーピーが眠っている間に可能な限り始末する。
大抵のハーピーは樹木に寄り添って寝ていた。
隊員達には疲労と寝不足、そして夜の闇があるのが幸だ。
モンスターとはいえ、人の顔をした生き物をRのだ。
そのことに想いを馳せる余裕も無く、躊躇いや罪悪感も見せずに機械的にハーピーを駆除してまわっていた。
もちろんハーピーが飛び立っても、対岸の79式自走高射機関砲が唐津神社、全農唐津石油工場、唐津ヨットハーバーの駐車場に一両ずつ陣取り待ち構えている。
高島にも島を囲うように、東の浜海水浴場、虹の松原に79式自走高射機関砲が置かれている。
鳥島も高島も79式自走高射機関砲の射程距離内だ。
鳥島は無人島なので、ロクに家屋も無く、地面に巣を作ろうとしていたハーピーの駆除は、思いのはか順調に進んでいった。



唐津市
高島

高島は宝くじ関連の島興しに成功した島で、唐津港と陸続きの大島から西に約1.5キロ程度の距離にある。
西部普通科連隊は本来なら夜明け前に各島に上陸して、圧倒的隊員数によって、ハーピーどもを殲滅する筈だった。
その為に海岸で船舶を徴用したり、港や海岸で船舶が着岸するのを待機させていたのが災いした。
ハーピーの歌の効果で半数以上の隊員が放心状態に陥るのは、とんだ失態であった。
唯一無事だった中隊長の窪塚一尉の指揮のもと、FRP製のカッター型短艇で隊員達がオールを使って島に上陸した。
島の北部は山になっており、民家はは南部の海岸沿いに集まっている。
ハーピー達は集落が避難が済んで無人となっていた集落の建物に巣を造りだしていた。
人口400人程度の集落があり、ハーピーはそれらの建物瓦屋根で眠りに付いている。
よって西部普通科連隊の猛者達は、いちいち梯子で屋根に登ってハーピーを仕留めないといけないという難事に遭遇していた。

「参ったな、梯子が足りないぞ。」

ボートに可能な限りの隊員を乗せる為に不必要だと思われた装備はあまり持ち込んでいない。
今なら一網打尽に出来るのだが、重火器の使用は禁じられ、小銃では狙いにくい場所だった。

17 :
保守

18 :
家屋を破壊するのも避けたい事態だった。
何より銃声で起きられて、空に逃げられるのは避けたいところだ。
どのみち今の隊員には実戦で発砲したことがある者は少ない。
それは精鋭足る西普連ともいえど同様だった。
梯子を使わずに登ろうとして、物音で起きられて逃げられる事態が幾つか発生した。
ようやく梯子がまわってきて、よじ登る隊員は屋根の上でまだ起きていたハーピーと目が合ってしまった。

「 キェェェェェェェェェ〜〜 」

猿叫のような叫び声を上げられて隊員は硬直する。
周辺家屋にいたハーピー達は一斉に目を覚まして、目についた西普連の隊員に襲いかかる。
梯子を昇る途中だった隊員は、梯子を倒されて地面に落ちていく。
屋根でハーピーを刺突していた隊員も他のハーピーが飛来して体当たりを食らい屋根から叩き落とされる。
窪塚一尉はもはやここまでと発砲を許可した。

「飛び上がったハーピーに発砲を許可する。
負傷者は小学校に運べ!!」

真っ先に発砲を始めたのはやはり大陸帰りの隊員達だった。
許可さえ下りれば彼等に躊躇いは無い。
彼等に触発されて、初めての実戦を経験する隊員も射ち始める。
窪塚一尉も89式小銃を撃ちながら負傷して後送される隊員を援護する。
西部普通科連隊は第4普通科連隊と違って、転移後の新装備はあまり配備されてない。
しかし、使いなれた銃器の方に隊員は信頼を置いていた。
ハーピーの数は決して多くはない。
銃弾が使用できれば、西普連の敵ではなかった。


唐津城
第4普通科連隊臨時司令部

「鳥島の駆除が完了との報告がありました。」
「第4中隊が神集島にて、少数のハーピーを確認、交戦中!!」
「湾岸防衛の第5中隊も三ヶ所でハーピーを確認。
追跡の上、駆除します。」
「79AW、発砲開始!!」

壊滅した第1・2中隊から無事だった者を集めて再編した司令部はどうにか機能を回復した。
湾岸の防衛には久留米から呼び寄せた教育隊まで動員してカバーしている。
連隊長の鶴見一佐は予備の第6中隊も動員するか考えていた。

「高島の西普連はどうか?」
「負傷者を出しつつも順調とのことです。」

島からは銃声も聞こえる。

「刃物だけではやはり片付かんかったか。」

その銃声も少なくなってくる。
唐津における殲滅はうまくいきそうだった。

「姫島の方に福岡県警SAT一個小隊が、警備艇三隻で突入。
あちらはしょっぱなから、銃器を使用している模様です。」
「長年、暴力団相手にしる連中は違うな。
他のSATでもあそこまで思いきりはよくあるまい。」

福岡市や北九州市に配備されていた分隊を集めた部隊だ。
姫島は福岡県に属するのでかき集められた。
他の戦闘となった3島に比べれば姫島は遠隔にあるが、そのぶんハーピーの数も少ない。
県警警備艇『げんかい』、『ほうまん』、『こうとう』の3隻に分乗した。

19 :
エンジン音に気がついたハーピー達が殺到するが、船上から発砲しつつ排除しながら桟橋に停泊して上陸した。
各県警警備艇も自衛隊から供与された89式小銃を銃架に設置して発砲している。
その後は隠れ潜むハーピーの掃討にあたっている。

歌による放心や鉤爪による負傷者は増えたが、唐津・糸島におけるハーピーの掃討は概ね夜明けまでには完了した。
鳥目だったハーピーは夜間での行動範囲が狭かったせいもある。


だが夜明けと同時に平戸市から救援要請が届くことになる。


市ヶ谷
防衛省統合司令部

ようやく唐津、糸島のハーピー殲滅に成功したと思ったら今度は平戸からの救援要請である。
徹夜で事務処理や増援の調整を行っていた統合司令の哀川陸将は不機嫌な声を隠そうともせずに問いただす。

「どういうことだ?」
「はっ、平戸市田助町の港に夜明けとともに旧イラン船籍の大型貨物船が田助港の桟橋に激突するよに停船。
船内から大量のハーピーが田助港を襲撃し、多くの住民が被害にあっています。」

旧イラン船籍の船は独立の決まらないイラン人船長が大陸に放置して逃亡したものということが判明した。
何者かがわざわざ日本まで航行してきたようだが、そこは貨物船を制圧して調べてみないとわからない。

「現地の動きですが、鏡川駐在所の警官が発砲するも数匹倒すのが限界と、近くの中学校に住民を避難させながら増援を要請。
平戸警察署は全署員に出動を命じますが、70名程度の署員ではカバーしきれないとの報告が来ています。
また、平戸城並びに城下の高校に住民が避難しています。
平戸港の防衛は平戸海上保安署と巡視艇『かいとう』があたります。」

すでにハーピーの動きは平戸島全域に拡がる下手に避難するより、家屋の中で籠城した方が安全と思われた。

「長崎県警は近隣の警察署にも出動を命じました。
また、県警機動隊とSATも現地に向かっています。」

残念ながら県警主力の車両では三時間以上も掛かると見られ、即戦力としては期待できそうもなかった。
幕僚達の報告に、哀川陸将は自衛隊各部隊に命令を下す。

「佐世保の相浦駐屯地の部隊は動けるか?」
「駄目です。
現在は呂栄との合同演習の為に大陸にいます。」

他の長崎県内の陸自部隊は何れも遠く、疲弊した唐津から送り込んだ方が早いくらいだった。

「それでも事後処理には必要になる。
大村の21普連に向かわせろ。
第4施設大隊もだ。
佐世保の特別警備隊と護衛隊も向かわせろ。」

佐世保の特別警備隊は、呉にあった特別警備隊を元に転移後に創設された。
同様に横須賀、舞鶴、那覇にも創設され、規模は各々中隊規模の200名となっている。
もともとは転移により創設が見送られた水陸機動団の訓練が施された隊員達が中核になっている。

「佐世保の第4護衛隊は唐津に、第12護衛隊は五島列島にいます。
両護衛隊が平戸に向かってますが、佐世保に残った第8護衛隊は整備中ですのは第4ミサイル艇隊しかいません。
傭船契約を結んだ民間フェリー『かもづる』がいますので、特別警備隊の輸送を委託するのが妥当だと思います。」

『かもづる』は防衛省が傭船契約を結んだ高速民間フェリーである。
民間フェリーとしては破格の30ノットの船足を有し、定員500名、トラック120両、乗用車80両と、おおすみ型輸送艦を上回る車両輸送力がある。

「よし第4ミサイル艇隊に護衛させて、平戸港に向かわせろ。」

20 :
保守

21 :
平戸市

鏡川駐在所の警察官佐藤巡査部長は、避難をさせていた住民とともに田助港の郵便局に立て籠っていた。
すでに拳銃の弾丸は尽きており、警棒でハーピーを殴り付けて奮戦している。

「お巡りさん、バリケードが限界だ。
他のお巡りさんはまだこれないのか?」

たまたま巡回中に自転車で港をまわっていた為に騒動に巻き込まれた。
突然桟橋に貨物船が激突したかと思うと、中から大量のハーピーが貨物船から現れたのだ。
港の漁船は朝早くから出払っており、男手はほとんどいなかった。
「駐在所の連中は小学校の方に防衛線を張ってるらしい。
署の連中はコンビニの所まで来たらしい。
せめてパトカーで来てればなあ・・・」

パトカーにはショットガンが積んであった。
双方から激しい銃声がしていたが今は途切れている。
平戸警察署には1200発の銃弾が保有している。
田舎の警察署でこれだから、全国の警察署に支給された弾丸の数は計り知れない。
銃器メーカーの高笑いが聞こえるようだった。
無線機ではそこまで話して貰えなかったが、それでもハーピーがここを襲い続けてるということは、それが途切れたということだろう。
郵便局の窓を塞いでた机が弾け飛び、ハーピーが侵入してこようとする。
立て籠っていた女子供が棒切れで殴り付けるが、その後ろにいたハーピーの歌により数人が放心状態となって侵入を許した。


平戸警察署

田助町の救出に向かわせた警官隊からは、銃弾の欠乏が報告されている。
署長の田所はさすがに連絡役として婦警達と署内に残っていた。
男性警官は総出で田助町の救出に向かっている。

「江迎警察署の警官隊が平戸大橋で避難する市民と襲撃してきたハーピーと交戦状態に入って阻まれています。」
「くそ、そっちもか」

平戸港でも海保の署員や巡視艇の発砲が聞こえる。
まだ、数はそんなに多くなく、消防団や青年団も斧や博物館の刀や槍を奮って町の各所で抵抗を続けている。

「まったく、いったい何匹いるんだあの化け物は!!」


北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

ナルコフ船長は船を大陸に向けて、帰還の途に着いていた。
大陸の同志達が航行してきた貨物船は、大陸の海岸に座礁していたものを回収したものだった。
貨物船にもコンテナに大量のハーピーの卵が積載されていた。
『ナジェージダ・アリルーエワ』に積載されていた分も積載し、無人にしてから日本本土に向けて、自動操縦で解き放った。
ラジオからの情報では平戸市の港に激突したらしい。

「無人地帯ならもう少し繁殖の時間が稼げたんだかな。」

唐津市では自衛隊を手こずらせたようだが、対策も研究されただろう。
もともとはスタンピードで全滅した村で、冒険者が発見した大量の卵を奪い取ったのが始まりだった。
地道に高麗まで運ぶと勝手に増殖していた。
今回の2隻で追加した卵は900にも及び、田助港に突入させた時には半数近くが孵化していた。
このまま日本を脅かすよう土着してくれれば幸いと考えられていた。

「まあ、せいぜい日本を引っ掻き回してくれれば十分だよな。」

最後のコンテナにはお土産も置いてある。
そいつの奮戦に期待すこと大であった。

22 :
保守

23 :
長崎県
平戸市田助港

轟音をあげながら海上自衛隊のミサイル艇『しらたか』が港内に侵入する。

「目標の貨物船を視認!!」

双眼鏡で確認する艇長の角田一尉は、ハーピーが溢れでてくる貨物船の甲板に積載されたコンテナや船内の扉から出てくるハーピーの姿を捉えていた。

「主砲はコンテナを狙え。
SSMは燃料タンクをだ。
この近距離で外したならおお恥だぞ。」

命令通りに主砲が旋回し、発砲を開始する。
まだ、船内には無数のハーピーが残っていると思われ、その発生源だけでも叩こうという作戦だ。

「SSM発射、準備完了!!」
「一番、二番、撃て!!」

発射された2発の90式艦対艦誘導弾が貨物船の横っ腹に命中する。
すでに『しらたか』の主砲の連射を浴びて、甲板を炎上させていた貨物船は内部からの爆発により三つに割れて沈み始めた。
廃棄直前に見える貨物船にはひとたまりもなかっただろう。
まだ卵だったり、生まれたてで飛ぶのもおぼつかない幼体。
幼体に餌を持ってきていた成体が炎と海水に飲み込まれて息絶えていく。
任務を終えた『しらたか』だが、港の各所を飛ぶ回るハーピーに備え付けの12.7mm単装機銃M2 2基が火を吹いた。

「露払いは済んだと後続船団に連絡!!」


防衛フェリー『かもづる』が、海自のミサイル艇『おおたか』に先導されて、田助港に入港してくる。
どの船舶も『歌』対策にスピーカーから大音量で、景気のよい音楽を流しながらの入港である。
ハーピー達がそれらの艦艇に殺到するが、船内各所から89式小銃を発砲する佐世保基地特別警備隊の隊員に打ち払われる。
『かもづる』の両脇には巡視船『あまみ』、『ちくご』が固め、多銃身機銃を唸らせている。
田助港の桟橋に停船した『かもづる』の船体右舷のサイドランプが展開し、特別警備隊の隊員が小銃を構えながら飛び出していく。
隊員達を目敏く見つけたハーピー達は彼等に襲いかかるが、互いの死角をカバーしあった特別警備隊隊員達に返り討ちにあう。
彼等が目指すのは港からも見える小さな建物。
この漁港で唯一のハーピー達が群がる郵便局だ。
ハーピー達を追い散らし、先頭切って突入した田口一等陸曹が見たのは警察官の制服を着た無惨な遺体であった。
最後まで抵抗したであろう手には警棒が握りしめられたままだった。
鉤爪で切り裂かれ、貪り食われたのが伺い知れる。
他にも数人の局員や老人や女性の遺体が発見された。
殉職した佐藤巡査部長に手を合わせていた田口一曹は、微かな物音や声がしたのを聞き逃さなかった。
郵便局のロッカーや金庫に押し込められていた子供達だ。

「生存者発見!!」

遺体に毛布を被せ、子供達には見せないように外に連れ出していく。

「お爺ちゃんは?
お巡りさんもいないよ・・・」

子供達の疑問を田口一曹は答えることが出来ない。
急かしながら『かもづる』から降ろされた73式中型トラックに乗せていく。
同時にすれ違っていく、73式中型トラックと軽装甲機動車、高機動車が一両ずつ、郵便局から一キロほど離れた小学校に向かう。
小学校には田助町の住民が避難しており、佐藤巡査部長の所属していた駐在所の警官達が自警団と総出で防衛に徹している。
特別警備隊一個小隊もいれば簡単に蹴散らせるはずだ。
郵便局を制圧した第1小隊は、そのまま港周辺で逃げ遅れた住民の救助やハーピーの掃討を命じられた。
その3分後には銃声が聞こえ始め、十分後には散発的にしか聞こえなくなった。

24 :
保守

25 :
「第二小隊が小学校の救援に成功したそうだが・・・
駐在所の警官達は小学校の正門でバリケードを張って、玉砕したそうだ。
民間人に死者はいない。」

同僚の隊員から聞いた報告に田口一曹は、舌打ちを禁じ得なかった。
民間人は防火扉や頑丈な体育館の用具室等の内部に立て籠って難を逃れたらしかった。


平戸市
国道153号
供養川防衛線

一方、一時は田助町近郊まで進出した平戸警察署の警官隊は、防衛線を供養川バス停まで下げざるを得なかった。
パトカーによる大音量のサイレン音と惜しみ無くバラ蒔かれた銃弾により、殉職者こそいないが負傷者を多数出していた。
戦えない負傷者はパトカーの後部座席に放り込まれ、後退しながら残った銃弾を叩き込んでいく。
銃弾は少なく、前進することは出来ない。
しかし、警官達の士気は高い。
すでに無線機から田助港に自衛隊が上陸したことは伝わっている。
ここを凌げば攻勢に出れる。
パトカーの周辺では警棒や警戒杖による白兵戦に押し込まれている。
急降下するハーピーに、平戸では盛んな心形刀流の使い手で、剣道4段の生活安全課の警部が横合いから警棒で殴り付ける。
また、別の年配で身体が軽い総務課の警部補が鉤爪に肩を掴まれる。
防刃チョッキにより、鉤爪が肉体に刺さることは避けられた。
しかし、ハーピーは警部補をそのまま空中に連れ去ろうした。
パトカーの屋根からジャンプした防犯課の若い巡査がハーピーに飛び掛かり、諸ともに地面に落ちていく。
負傷者をパトカーに放り込んだ少年課の巡査部長は、低空飛行で突入してきたハーピーをパトカーの後部座席のドアパンチで弾き飛ばした後に、弾の切れた散弾銃で殴り付ける。
負傷して地面に倒れていた交通課の巡査長が助走を付けて飛び立とうとするハーピーの足に手錠を掛けて、転ばして柔道の寝技を掛けていく。
署員達の奮戦ぶりに、指揮を執っていた副署長は頭が下がる思いだった。
副署長も折れた警戒杖を捨てて、警棒に持ち変える。
しかし、空中から様子を伺っていたハーピー達が突然の銃声と共に次々と地面に落ちていった。

「援軍だ!!」

副署長は声を張り上げるが、サイレンの音で署員達には聞こえない。
それでもみるみる減っていくハーピーの様子に歓喜の声を張り上げている。
海上自衛隊佐世保基地特別警備隊第3小隊は、ハーピーを蹴散らしながら警官隊の救助を始めた。

「衛生班をまわしてくれ、負傷者多数!!」



佐世保基地特別警備隊の司令部小隊は、田助港に停泊していた防衛フェリー『かもづる』内部に置かれていた。

「不謹慎な話ですが、ハーピー達が人間に狙いを定めていたおかげで、森の中に隠れたり、その上空を迂回する行動を余り取っていません。
おかげで集中的に掃討が可能となりました。」
「それ公の場では言うなよ?
民間人にも死者が出てるんだから。」

佐世保基地特別警備隊隊長の金杉三佐は部下の発言嗜めながら机の上の地図に目を通す。

「第二小隊は小学校を拠点に大久保町北部の掃討にあたれ。
第3小隊は供養川防衛線を中心に大久保町南部が担当だ。
第4小隊は平戸港に向かわせろ。」

避難民は『かもづる』に運ばれてくる。
負傷者も多く、特別警備隊の衛生科の隊員だけでは足りない。
市内の医療関係者の安全を確保しつつ、動員する必要があった。

「長崎県警からです。
警備艇『ゆみはり』、『はやて』、『むらさめ』の三隻が県警SATを乗せて、間もなく平戸大橋を通過すると・・・」

26 :
こちらと足並みを揃えて欲しかったが貴重な戦力には違いない。
海保の巡視船にはハゲ島等の近隣の島の探索にあたってもらっている。

「平戸大橋も交戦中だったな。
そちらを任せよう。」



平戸大橋防衛線

平戸大橋は同市の中心市街地がある平戸島と九州本土を繋ぐ全長 665mの橋である。
この大橋には避難民が放置した車両が大量に駐車されており、援軍に駆けつけた江迎警察署の警官隊の行く手を阻んでいた。
そして、逃げる避難民を追ってハーピーが飛来してくる。

「構え・・・、撃て!!」

放置された車両を盾に、警官達は一斉に拳銃と散弾銃を発砲する。。
弾倉が空になるまで撃つが、数匹のハーピーが落すのみだ。
空を飛ぶ敵に拳銃では効果が薄い。
なお数十匹のハーピーが、橋の上空と下から襲い掛かってくる。
橋の下部からの敵には対処が難しい。
しかし、佐世保から派遣された県警警備艇3隻が平戸大橋の下を通過する。
警備艇に分乗した県警SATが、橋の下を通過しながら一斉に小銃による射撃を敢行する。
県警SATは分隊規模の10人しかいないが、正確な射撃で半数以上のハーピーが海に落ちていく。
たまらず橋の上に逃げて姿を見せたハーピーは江迎署の警官隊の銃弾の餌食になる。

「このまま平戸港に向かう!!」
県警SAT隊長宮迫警部の指示に、『ゆみはり』艇長が聞き返す。

「大橋の化け物はいいのか?」
「後続の機動隊や陸自の部隊も直に来るから問題はない。」

宮迫警部は平戸港の陥落は心配してはいなかった。
平戸港の南部を占める岩の上町は、平戸警察署、平戸海上保安署、平戸消防署、平戸市役所という平戸市の主要機関が置かれている。
それぞれの署は散発的なハーピーの攻撃なら十分に対処出来る。
岩の上町の住民はそれらの署の南に位置する平戸城に避難している。
港の北側にはすでに自衛隊が戦闘を開始している。
港湾内では、海保の巡視船『かいどう』や平戸警察署の警備艇『ひらど』が睨みを効かせている。
平戸港の南側はちょっとした要塞の体をしていた。
平戸城の避難民を先に保護すべく、港湾入り口にある平戸図書館近郊の岸壁から県警SATが上陸した。
警備艇はそのまま平戸港の警備艇と合流するべく岸壁を離れていく。
県警SATは目に付くハーピーを銃撃し、図書館の裏側にある平戸城が鎮座する亀岡山を駆け上がる。
そこで宮迫警部は驚きのものを目にする。
鎧甲冑を着た30人ほどの男達が刀や槍を持って、ハーピーと戦っているのだ。

「お、兵隊さん・・・、いやお巡りさんか?
やっと来たか!!」

男達の大半は老人であった。

「その格好はどうしたんです?」
「平戸くんち祭りの武者行列のメンバー、平戸藩武将隊だよ。
武器は城内の展示品だが、街を守る為だ。
御先祖様達も誇りに思ってくれるさ。」

頼もしい話だと、宮迫警部は呆れてしまう。
平戸くんち祭りは、平戸城下の秋祭りである。
武者行列もあって、市民が甲冑を来てパレードに参加する。
半分は張りぼてだが、無いよりはマシと持ち出して戦いに参加していた。

27 :
「半分は本物なのか?」

銃声まで轟いている。
はじめは地元警察の銃や猟友会の猟銃の類いかと思ったが、よく見てみると火縄銃だった。
城内に展示してあった火縄銃を、使用可能にしてあるのだ。
城壁の鉄砲狭間から本当に発砲している光景は苦笑を禁じ得ない。
勿論、銃規制緩和で使用可能になった銃で法律には違反していない。
城下の高校からも有志の学生が弓矢や木刀を持ち込んで応戦している。
モンスターや海賊がいる世界では、武道系の部活が実戦を意識した傾向に全国的になりつつある。
また、彼等の中には大陸で冒険者に憧れ、夢見ている者も少数ながらいて嬉々として参戦していた。

「やりすぎだろう
いつの時代だよ、まったく・・・」
「地域によっては、大筒まで再現したところもあるそうですよ。」
「マジか?
・・・我々が来た意味無くなりそうだから早く参戦しよう。」

宮迫警部は市民の自警ぶりにドン引きしながらも県警SATを率いて、平戸城に群がるハーピーの駆除に加わった。
すでに掃討は時間の問題だった。


北サハリン船籍貨物船『ナジェージダ・アリルーエワ』

福岡、佐賀、長崎3県で起きた騒動はラジオで逐一、状況が報道されていた。
ナルコフ船長はこのまま日本の領海に留まるのは危険と判断し、船を外洋に向けて航行させていた。
死者は高麗で12名、日本で28名と発表された。
負傷者は両国で3800名を越える。
大半が自衛官や警官というから大変な戦果と言えた。

「まあ、今回は上手くいった方かな?」

今回は実験的な意味が強く、モンスターを使ったテロでは効果的だった。
モンスターを輸送するには、ホワイト中佐による時間凍結の魔法が必要なのは難点だ。
合流した帝国軍残党にも魔術の使い手はいるが、ホワイト中佐の魔法は大陸の魔術とは系統が違うらしい。
ホワイト中佐一人に支えられる現体制は不安定だった。
ナルコフや残党軍の指揮官達はどこかで、落とし所を望んでいるが、ホワイト中佐は違う。
どこかでホワイト中佐を切る必要はあると思うが、ロシアマフィアの幹部だったナルコフも地球側同盟国並びに都市に帰属を望めば投獄は免れない身だ。

「まあ、もう少し付き合ってはやるがな。」

感慨に耽っていると、レーダーにこの船を追跡してくる艦影が映し出されとの報告に眉を潜める。

追跡艦はこちらに停船せよと、無線で警告を送ってきている。

高麗国のフリゲート『大邱』であった。
『大邱』、転移前の巨済の大宇 造船所で起工されていた艦だ。
高麗国独立まで建造が凍結され、最近までは西方大陸派遣艦隊で活躍していた。
しかし、百済サミット並びに高麗・北サハリン襲撃事件を期に、高麗国防衛の穴埋めとして呼び戻されたばかりだった。
速度で老朽貨物船の『ナジェージダ・アリルーエワ』が振り切ることは無理だった。

「『海洋結界』はすでに抜けている。
13番コンテナを海中に投下しろ。」

コンテナは国際規格の三倍の大きさだ。
いざという時の切り札はまだ残してある。

「しっかし、あんなものどっから拾って来たんだ?」

28 :
フリゲート『大邱』

『大邱』のブリッジでは緊急接近する物体に、Mk 45 5インチ砲で狙いを付けるべく待ち受けていた。

「敵は海中か?」

艦長は近くまで来ている筈なのに姿を見せない敵に苛立ちを見せている。
小型の水中生物の相手はやりずらい。
その生物に至近距離まで接近され艦の真下を通過された。
水柱が艦の後方に立つと共に後部の飛行甲板に『ソレ』が降り立った。
臨検の乗員が小銃を構えて、『それ』に狙いを定めるが、あまりの悪臭に嘔吐する者が続出した。
全長9メートル程の個体は一見小型の竜に見えた。
しかし、その肉体は明らかに腐食していた。


田助港

炎上する貨物船の鎮火をすべく、巡視船からの放水が始まっていた。
すでに市内のハーピーは駆逐し、港に到着した消防車も消火に参加している。
貨物船は巨大な船倉に幾つかのコンテナが積載されていたらしく、そこにハーピーや卵が積載されていたと、推定されていた。
だが同時にコンテナでは無く、船倉に直接眠らされていたモノが目を覚ました。
脆くなった甲板をぶち破り、頭部を外に覗かせたそれは、巡視船の姿を見た瞬間、咆哮を放った。
魔力の籠められた咆哮を聞いた人間達は、その場に立ち尽くして気の弱い者は意識を失っていく。

「防衛フェリー『かもづる』通信途絶!!」
「特別警備隊、第1から4小隊も連絡が取れません!!」
「ミサイル艇『しらたか』、『おおたか』、通信途絶!!」

混乱は自衛隊だけではない。


平戸警察署

「現場に派遣した警官、誰も連絡が取れません!!」
「無線機、個人携帯、何でもいいから連絡を取ってみろ!!」

署に残った婦警達が、知ってる限りの現場に派遣された警官達の個人携帯に電話を掛けているが誰も出ない。

「署長、海保からも田助港の巡視船『ちくご』が連絡が取れないと。
ハゲ島を探索していた『あまみ』が向かってますが、こっちの警官も向かわせて欲しいと・・・」

それどころでは無いのだが、警察にはまだ手駒があった。

「県警SATと水上警備艇を田助港に向かわせろ。
それと江迎署の警官隊を平戸港まで移動する様に要請しろ。」

ようやく事態が終息したと終わったらまだ一波乱が起きそうな展開に、署長はうんざりとしていた。


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[7]
^05/27 00:53
「署長、大村の陸上自衛隊の第21普通科連隊。
県警機動隊が平戸大橋を通過しました。」

それだけでは無い。

29 :
「目達原の第3対戦車ヘリコプター隊が作戦行動を開始する為に、住民の避難活動を要請して来ました。」

避難活動はとっくに終わっている。
それよりも強力な火力を持った部隊が、続々と到着したことに署員達は色めき立つ。


現地ではかろうじて意識を失っていなかった警官や海上保安官、自衛官達が抵抗を続けていた。
貨物船から出てきたモンスターは、いつの間にか識者がアンデット・ドラゴンと命名されている。

「識者って誰だよ!!」
「知らん!!」

田口一曹は、遺体収容の為に『かもづる』船内の冷凍倉庫にいたのが幸いした。
竜の咆哮は届かず、冷凍倉庫で他の隊員や乗員が倒れていたのに気が付いた。
タラップから船外に出ると、外も同様な状況の様だった。
そして、貨物船の甲板には巨大なモンスターがいる。
桟橋に倒れている隊員達を保護しつつ、同様に無事だった隊員とモンスターに対して発砲する。
他にも無事だった自衛官、警官、海上保安官も港や船から銃火器を発砲してそれに続く。
アンデット・ドラゴンの名称は、ヘッドフォンをしていて無事だった報道関係者から聞いたものだった。
特別警備隊は船内の活動が本来の任務なので、重火器を装備してないのは痛かった。
幸いなことに、アンデット・ドラゴンは手近なハーピーの死体を食い漁っているので、歩みは遅く人間に被害はまだ無い。
肉体が腐っている為か、翼をはばかせて飛ぶことは出来ないようだ。

「ここを通すな!!」

田口一曹は銃を持った者達を桟橋に集めて、前進を阻止すべく攻撃する。
その中には89式小銃を拾ってきた平戸署の副署長も混じっている。
だが頑健な鱗は健在であり、銃弾では貫くことが出来ない。
絶望的な戦いだが彼らの耳にはヘリコプターのローター音が届くと希望が湧いてくる。
戦っている者達だけでは無く、竜の咆哮で恐慌に陥っている者達が再び銃を手に取り始めた。


8機のAH-1 コブラは田助港に向かい、識者に命名されたアンデット・ドラゴンを包囲するように飛行する。
桟橋では車両でバリケードを作り、銃器で抵抗が続けられている。

『騎兵隊の到着だ。
味方に当てるなよ?
全機、攻撃を開始せよ。』

M197旋回式3銃身20mm機関砲から合計6480発が撃ち込まれ、アンデット・ドラゴンは細切れになり、桟橋まで粉砕されていた。

「や、やり過ぎだ・・・」

機関砲による弾雨を背後に、港に走りながら退避していた田口一曹は叫びながらも事件が終わったことに安堵していた。



平戸市田助港

事態が解決した平戸では、援軍の到着した第21普通科連隊や県警機動隊の隊員達が街中で打ち捨てられたハーピーの死体の回収が行われていた。
同時にハーピーの歌やアンデット・ドラゴンの咆哮で、心身喪失した隊員や警官達の回収もだ。
唐津からの報告では、同様の状態に陥った者達が回復しているとの報告もあがっている。
平戸の回収者達も直に回復すると、安堵の空気が漂っていた。
佐世保特別警備隊の田口一曹は。戦い続けたこともあり、休憩を兼ねて桟橋を散策していた。
粉砕されたアンデット・ドラゴン周辺を見て違和感に気がついた。

「ハーピーが喰われてる?」

アンデット・ドラゴンとの戦いの最中にハーピーが食われているのは何度も目撃した。
落ち着いて思い出してみると、アンデット・ドラゴンは海上に漂うハーピーの死体も喰っていたのだ。

30 :
保守

31 :
支援

32 :
支援

33 :
保守

34 :
保守

35 :
海上には『海洋結界』が存在したはずだ。
海上に墜落したハーピーは、『海洋結界』に触れて狂死している。
その死体が喰われているのだ。

「アンデットだからか?
いや、実験は行われたからそんな筈はないはずだ。」

アンデットに『海洋結界』が効果があることを横須賀の研究所が行い、実証された筈だ。
食い散らされたハーピーの数は無数に打ち捨てられている。

「『海洋結界』が効かないモンスターがいる?」

自らが辿り着いた答えに戦慄し、上官の元に具申すべく駆け出していった。


翌日の東京市ヶ谷
防衛省

「最終的な自衛官の殉職者は13名。
警察官、海上保安庁も23名の殉職者を出してしまいました。
また、民間人の死者も28名。
負傷者は官民合わせて五千人を越えます。」

統合司令の哀川陸将が、乃村利正防衛大臣に報告する。
会議室には防衛省、自衛隊、警察、海上保安庁幹部が集まっていた。

「『歌』や『咆哮』で意識を失っていた者達の容態は?」
「一晩寝たら概ね回復の傾向にあります。
最も王国や子爵の話によると、この世界の人間なら30分もあれば回復するものだとか。
やはり我々はこの世界の人間より魔力に対する耐性は無いようです。」

その反面で、民間人の中でもこの世界に来てから生まれた子供達には影響は少なかったことが実証された。

「ハーピー達は『海洋結界』に守られる我が国の海からは餌が調達出来ないことから、避難の完了した地域に展開した警官や自衛官が狙われました。
武器を持った者に優先的に襲いかかったおかげで、被害は最小限に済んだと言えるでしょう。」

哀川陸将軍の言葉に警察幹部が反発を覚える。

「最小限ですと?
うちは平戸署が死傷者多数で、機能停止。
海保も巡視船2隻が港の突っ込んで中破だぞ。
あの帝国との戦争以来最大の被害なんだ。
だいたい自衛隊は高麗にハーピーを討伐に向かったんじゃなかったのか!!
なぜ、日本に奴等が飛来する羽目になったんだ!!
そして、あの貨物船はいったいなんだったんだ!!」

確かにハーピーやアンデット・ドラゴンを積載した貨物船には謎が多かった。
その点に関しては海保の幹部が立ち上がる。

「あの貨物船は海保並びに全国の港湾局に日本に立ちよった記録がありませんでした。
つまり、転移当時日本領海或いは近海の公海を航行中に転移に巻き込まれた1隻と考えられます。」

転移当時、日本政府は日本近海を飛行、或いは航行していた船舶に国籍問わずにあらゆる通信体で、日本に留まるように呼び掛けた。
自衛隊や海保も総動員でエスコートに参加していたので、覚えている者も多い。
このエスコート任務には在日米軍も加わっている。
しかし、人工衛星が全て失われ、通信や捜索可能な範囲に大きく制限が掛かってしまった。
また、異世界転移を戯れ言と日本政府の警告を無視した船舶も多かった。
脛に傷を持つ船などは、むしろ速度を上げて逃げ去っていった。

36 :
保守

37 :
「そうした船の1隻か・・・
なるほど、『長征7号』の例もある。
我々が把握している以上に多いんだろな、そういった行方不明船は。」

乃村大臣の言葉に海保と警察の両幹部が席に座る。

「貨物船の詳細については、各捜査機関に任せるとしてだ。
最後に出てきたアンデット・ドラゴン、あれはまずい。
ハーピーもだが、船舶にモンスターを積載して日本や大陸領土に突入させてくるテロは絶対に防がないといけない。
それとな、気になる報告だが、こいつは海上に墜ちたハーピーの死骸を食ってたそうだ。」

会議室の面々は驚愕の声をあげる。

「今、子爵殿と王国大使館で検証してもらっているが、どうやら竜種には『海洋結界』が効果が薄いという結果が出そうだ。」
「そんな・・・、だから隅田川に水竜の群れが侵入出来たのか・・・」

警視庁が総力を結集して退治した『隅田川水竜襲撃事件』を思いだし、警察幹部は冷や汗を垂らす。

「『海洋結界』は年々、範囲が狭まっている。
いずれその効果が消滅することを前提に我々は防衛体制を整えなければならない。
今回の責任問題を我々に追及してくる声もあるが、我々の予算要求に尽く抵抗してくる財務省に今回の件を被ってもらう。
関係各機関はその方向で情報統制を進めてくれ。」

与党右派と野党日本国民戦線の主張通りに軍備増強の口実になるだろう。
会議の結論を述べて、解散となった。
それぞれの担当者には被災地域に対する支援や地元組織の再建など、仕事が山積みなのだ。
大臣秘書の白戸昭美が執務室で資料を渡してきた。
白戸は既に乃村の次男と入籍を済ませているが、夫婦別姓で名字は変えていない。

「高麗側の被害です。
民間人の死者48名、国防警備隊の殉職者19名。
御自慢の新鋭フリゲート『大邱』が中破してドック入りしました。
不審船の『大邱』にも小型のアンデットドラゴンが襲いかかったようです。
どうにか始末出来たようですが、甚大な損害が出ていたそうです。」

冗談抜きで帝国との戦争以来の損害だった。
実際のところ、日本本国ではともかく、高麗国の鳥島諸島において、ハーピーの駆除作戦はいまだに続いている。
幾つかの無人島に巣を作られた形跡があり、住みつかれたようだ。
ハーピーが空を飛んで、無人島から無人島にと、逃げ回っているので、人員の足りない国防警備隊だけでは手に負えないのだ。

「こちらに来るほど数が増えなければいい。
連中にも少しは苦労してもらおう。」
「海棲亜人による襲撃事件も加えると、ろくな目にあってないから少し可哀想な気がしますが・・・」

息子の嫁の言葉に話題を変えることにした。

「府中の子爵様の報告も来てるな。
あのアンデット・ドラゴンの作成には、人間の魂千体以上必要だそうだ。。
いったいどんな奴の仕業だろうな。」
「会議の場では、誰もテロリストの正体に付いて口に出しませんでしたね。」

テロ集団が従来の帝国残党軍と違い、高い技術力を有していることから、地球人の集まりであることは明白だ。
その事の公表は地球系同盟国並びに独立都市の足並みを乱す可能性がある。
薄々は誰もが勘づいており、はみだし者達の行き着く先となっている。

「今はまだ泳がす。
連中も地盤固めの為に王国と度々衝突してるようだからな。
王国を消耗させ、手に負えなくなった時に、一気呵成に叩き潰す。
精々我々にとっての良い当て馬になってくれることを望むよ。」

38 :
国民を満足に食べさせられない日本は、その敵意を向けれる外敵を欲している。
西方大陸で活躍する派遣隊が活躍するニュースだけでは足りないのだ。

「それは亡国への道かも知れませんよ?」

白戸の言葉に乃村は肩を竦める。

「ああ、だから我々も第二の日本を造るまでの時間を稼ぐ必要があるのだ。」



大陸西部
ブライバッハ子爵領

現ホラティウス侯爵に成り済ました元アメリカ空軍チャールズ・L ・ホワイト中佐は、解放軍兵士たちともに、ホラティウス侯爵領から幾つもの領地を経由して、ブライバッハ子爵領の海に面した崖道を歩いていた。
ブライバッハ子爵は、帝国残党軍を支援する門閥貴族の一人で、有るものを何年も王国や日本から隠していた。

「この地域は十数年も立入禁止にしている。
領民でもほとんど知られていない。」

案内を自らがするブライバッハ子爵にホワイト元中佐は、興味深く尋ねる。
偽装された崖にある洞窟に入るのだから、警戒も怠っていない。

「乗員が何百人もいた筈だが?」
「500人ほどいたかな?
大多数は歓迎の宴で毒殺したよ。
立て籠った連中も人質をとって、投降したところで始末した。
その後に日本との戦争が始まったので隠蔽して沈黙を守っていたが、帝国が滅んだ以上、あれはとんだ不良物件だ。
持ち去ってくれると助かる。」

やがて、広い空間に入る。
そこに仮設された桟橋に係留された大型の『艦』をみて、ホワイト中佐は感嘆の声をあげる。

「素晴らしい。
まさかこれほどのモノとは・・・」

ミストラル級強襲揚陸艦『ディズミュド』。
乗員を失ったその艦は静かにその艦体に錆を浮かせて、停泊していた。
乗員の手配、長年放置されていたことからの整備など、数々の問題が浮き上がっているが、ホワイト中佐の中では崩壊する地球系の都市が脳裏を占めていた。

39 :
第1話再録

40 :
大陸の沿岸部

洞窟をを利用した粗末に設置された天然のドックに1隻の潜水艦が停泊していた。
天然のドックといっても粗末な木製の桟橋が掛かっているだけだ。
094型原子力潜水艦『長征7号』は、中華人民共和国海軍が運用する弾道ミサイル原子力潜水艦である。
NATOコードは晋級。
海南島の亜竜湾海軍基地を出港して約半年。
当初は、日本国が実行支配する魚釣島近海まで航行して、日米の反応をみて帰還する簡単な任務のはずだった。
しかし、帰還中に何らかの異変が生じたのか本国への連絡はおろか、大陸の存在すら無くなっており、ひたすら大陸を探して航海を続けた。
そして、ようやく見つけた陸地は地球上のものとは明らかに違っていた。


呉定発中尉は最後の仲間だった乗員の墓穴を砂浜で掘り、埋葬を終えたところだった。

「副長達は・・・うまく行ったかな。」

すでに備蓄の食料は底を尽きた。
艦長を初めとする127名の乗員は、食料調達や周辺の偵察の際に化け物のような生物の襲撃や流行り病で次々と命を落としていった。
『長征7号』に立て籠り抵抗を続けたが、艦に装備されていた小銃や拳銃を持って、副長達12名が森に消えたのが3ヶ月前。
遂に呉中尉は最後の一人となってしまった。
残された武器は拳銃一挺。
弾丸は三発。
『長征7号』の魚雷やSLBMなどは使い途がない。
艦に戻って手製の釣竿で魚でも釣ろうか考えていると、銛や三ツ又の矛を持った人型の生物が海から上がって、呉中尉を取り囲もうとする。
人型の生物と言ったが、人は手足にヒレや水かきは無く、全身がうろこで覆われたりしていない。
何より頭部が魚のものだ。
拳銃を彼等に向けながら少しずつ後退する。

「魚野郎め、食われてたまるか!!」

呉中尉は食われていった仲間達の顔を思い浮かべながら最後の抵抗を試みることにした。


大陸西部
新香港

釣り針のように突き出た半島に守られた新香港は天然の良港である。
もとは大陸で覇を唱えていた帝国を、異世界に転移した日本が降伏させ、帝国海軍最大の根拠地であるノディオンの街をを割譲させたのが始まりである。
爆買い等の観光で来ていた約十万人。
転移の影響で失業した中国人労働者約30万人や一万人の留学生、日本人配偶者などを加えて約45万人が住民を完全に追放したこの地に住み着いた。
異世界チャイナタウンと日本では呼ばれている。
日本大使館が設置され、日本本土から大陸への玄関口となっている。
その日本大使館から一台の車が大使相合元徳と駐在武官である渡辺始一等海佐が、新香港主席官邸であるノディオン城に緊急に呼び出されたのだ。

「最近、呼び出される懸案事項があったかね?」
「新香港の武装警察と駐屯している16普連の演習は終わりましたし、海警も特に問題はないですし・・・」

渡辺一佐にも思い当たることはない。
車が場内に入るとすぐに応接室に通される。
すでに林主席と数名の武官が待っていた。
林主席は立ち上がり握手を求めてきて、相合も応じる。

「相合大使、急な呼び出しに応じて頂きありがとうございます。」
「火急な呼び出し緊急な事態とお見受けしますが?」

「新香港設立から五年、我が市でも異世界人と中華人民を見分ける為に戸籍の登録を行っていましたが、最近無登録の人民が城壁外で発見されてましてな。
本人は中華人民共和国海軍南海艦隊所属の呉定発中尉と名乗っています。
どうやら日本の異世界転移時に巻き込まれて6年も放置されてたようですな。」
「なるほど、海警か軍艦の生き残りですか。」

41 :
転移直前に尖閣諸島に領海侵犯を繰り返していた中国側は海警船3隻と江凱II型(054A型)フリゲート常州。
中華民国の巡防船1隻が転移に巻き込まれて、日本の保護下に入っている。
そのまま新香港海警局の所属となったが、まだ取り零しがあったのかと渡辺一佐は考えていた。
だが林主席は首を横にふった。

「彼が乗艦していたのは『長征7号。』弾道ミサイル搭載原子力潜水艦で、どうやら核ミサイルが1基搭載されていたようです。」

相合も渡辺も絶句したが辛うじて言葉を捻り出した。

「これは本国通達事案ですな・・・」


冒険者のパーティーが地上に上陸して、近隣を略奪していたマーマンの群れを討伐していた。
シーフのマシューを先頭にマーマンがねぐらにしていた洞窟を安全を確かめながら入っていく。
洞窟の中は海に繋がっているが、巨大な黒い船が浮かんでいて放置されている。
リーダーのハリソンが船を見上げて呟く。

「たいへんだ、御領主様に知らせないと!!」

冒険者のパーティーは慌てて洞窟を飛び出していった。


新香港
主席官邸『ノディオン城』

日本大使相合元徳と駐在武官である渡辺始一等海佐が本国に問い合わせる為に急ぎ大使館に戻る為に退室した後、林主席は背後に控えていた武官に声をかける。

「常少将、現在遠隔地まで派遣できる部隊はいるかね?」

常峰輝武警少将は、林主席と転移前の在日中国大使、陸軍駐在武官だった頃からの付き合いである。
さらに今の日本側との会話の内容から目的地までの距離も勘案して返答する。

「陸自16普連との演習を終えた武警第6大隊から50名ほどなら、弾薬や車両の燃料の残りを集めさせて捜索に当たれます。」
「よし、疲れているかもしれないが出動させて『長征七号』を抑えろ。
自衛隊や米軍が出てきたら、『長征七号』は中国籍なのは確実だから新香港が接収すると主張しろ。
但し、武力による交戦は避けろ。
こちらには呉定発中尉という案内役もいるから先手は取れるだろう。」
「現地組織が介入してきた場合は如何致しますか?」
「反乱を名目に武力によって鎮圧だ。」
「畏まりました。
燃料、食料、弾薬の手配ができしだい出発させます。
現地までは2日ほどで到着すると思います。
しかし、何故日本側にも教えたのですか?
我々が密かに確保してからでもよいと思いましたが・・・」

林主席は武官全員に伝わるようにソファーから立ち上がって見渡す。

「我が新香港は、日本に軍事的、経済的に依存しているのが実態だ。
核兵器一発手に入れた程度で日本に対抗すれば、北朝鮮の二の舞になるだけだ。
だが高く売り付けることは出来るだろ?
先に教えるのは、我々は日本と敵対していないという意思表明だよ。
ただ、先に核兵器を抑えないとは一言も言ってないがな。」


日本大使館
大使館に帰還した相合大使は、本国に事態の説明と対応の指示を求めて執務室に籠っていたが、直ぐに自衛隊や文官の責任者を召集した会議室にやってきた。
事態の説明はすでに渡辺一等海佐が行っていたが、大使の顔色から本国から色好い返事が貰えなかったことを皆が察していた。

42 :
「本国は現地駐屯部隊で対処しろと通達してきた。
『長征7号』の確保、或いは無力化だ。
目標が原子力潜水艦である以上、無制限の破壊は禁じるとのことだ。
本国からの増援はすぐにはでない。
青木陸将、部隊の派遣を命じたい。」

第16師団師団長青木一也陸将は立ち上がって説明を始める。

「今回は即応を優先しますので、第16偵察中隊から先遣を出させます。
現在、出動待機しており命令次第出動出来ます。」

陸上自衛隊第16師団は、大陸駐屯の為に新設された部隊である。
本国の部隊は転移直後に大量に発生した失業者を背景に自衛隊経験者を大量に再雇用した。
失業者対策である。
偵察隊が中隊規模になるくらいの増員だ。
転移直後に起きた『隅田川水竜襲撃事件』や開戦の発端となった『横浜広域魔法爆撃』が、自衛隊の大幅増強を世間が後押しする結果となった。
海上からのモンスターの襲撃がある以上、終戦後各部隊は本国に張り付けになってしまったのだ。
第16師団は大陸の日本の権益を防衛するのが存在意義となった。
「まあ、宜しく頼むよ。
どれくらい掛かる?」
「現地までは6日といったところでしょうか。」


ハイライン侯爵領
海岸部
冒険者の一団から通報を受けたハイライン侯爵ボルドーは、馬に引かれた『ISUZU:エルフ』と書かれた車両の横扉を開いて、その地に降り立った。
日本との戦争の責任を取って隠居させられた父の後を継いだばかりの若者だ。
次の馬車からも数人の男達が降りてくる。
そして、馬に乗った武装した銃士達がまわりを固める。
先込め式の滑腔式歩兵銃を持てるのは、以前は騎士と呼ばれてた階級の人間だけで足る?
馬車から降りた人間だけで達には船大工や錬金術師と言った人間達だがドワーフといった妖精族が混じっている。
ボルドーは一団を率いて、洞窟に入っていく。

「これが・・・、異界の国の船か?
まさか上部まで鉄張りとは・・・だがこの船を手に入れれば奴らに対抗出来るかもしれない。」

軍事的にはたかが1隻程度では話にならないだろう。
だが船ならば生活の為の道具や武器が積まれていたはず。
圧倒的な技術格差が少しは埋まるかもしれない。
そうすればこの新興開拓地の民達を救える方法が見つかるかもしれない。
希望を見いだす。

「上部に手回し式の入り口があるそうです。
開けっ放しになっていたらしく、内部にはマーマンの死体が何体か。
乗員は停泊中に襲撃を受けたものと思われます。
洞窟の外に百個以上の簡素に造られた墓地も発見されています。」

銃士長が現時点でわかったことを報告してくる。

「うむ、職人達をかき集めてきた。
徹底的に調査を進めよ。」


客船『中華泰山号(チャイニーズタイシャン)』
下関寄港時に異世界転移に巻き込まれた同船は、新香港の公営企業の所属となっている。
かつては900人もの中国人客を乗せて、日本爆買ツアーを行っていたが現在乗せている乗客は新香港武装警察官50名と案内役の中国海軍中尉呉定発が乗り合わせている。
すでに出港から2日と半日。

「船長?
すでに到着予定時刻を2時間も過ぎてると思うのだが・・・」

43 :
隊長の湯正宇大尉が心配そうな顔で船長に尋ねる。

「はっはは、もうすぐですよ、あわてない、あわてない。
もともと航路も無いとこ進んでるんだから時間が無茶なのね。
まあ、近くまでは前にも行ったことがあるから水深はわかってるけど、慎重に進んでるだけだから安心するよろし。」

実質、軍事組織に所属する湯大尉は時間に正確になっているが、船長は未だに中国人的大陸時間の感覚でいるらしい。
異世界に来てむしろ悪化しているようだ。
だか船長にも思うところはあるのだ。
普段は新京から日本への食糧を運ぶのんびりした航海ばかりなのだ。
突然に新香港政府から武警を運ぶよう命令されて、これはヤバイ仕事だと感じてはいた。
厳重な機密扱いが適用された。
新香港政府が隠し事をする相手など、日本政府や自衛隊以外に無いだろう。
慎重に航海を進めるしかない。

「いや、どうせ目標は逃げやしないだろうけどさ。
報告が遅れるから急いでくれよ?」

湯大尉からの苦情も大変疎ましく感じていた。


陸上自衛隊
中国人達が海上からハイライン侯爵領に向かっている頃、日本人共は陸路を輸送蒸気機関車で現地に向かっていた。
赤井照長一等陸尉率いる偵察小隊は30名。
車両は在日米軍から購入したM1126ストライカーが2両。
偵察用バイクが4両、軽装甲機動車1両の30名の部隊を貨物として列車に積載している。
隊員の小銃はM16。
大半の装備は在日米軍に在庫を掃き出させて調達した代物である。
これは、第16師団全般に行き渡っている。
自衛隊用の列車なので、ブリーフィング用の車両も備え付けられており、副隊長の酒井二尉と路線図や街道が書かれた地図を壁に貼って眺めていた。

「新香港から王都、日本の直轄領新京を結ぶ大陸横断列車を施設部隊や土建屋が総力を挙げて3年掛かりで完成させたばかりだが、道路の方もなんとかして欲しいな。」
「年貢の迅速な輸送の為の効率重視。
まあ、当時の我が国の食糧事情は切実でしたからね。
この大陸でもすでに炭鉱は小規模ながら存在したから蒸気機関車なんて使うことが出来たわけですが。」

改めて地図を見渡す。
すでに新香港を出発して三日目。
王都を経由し、現在も敷設中の南部線でいけるのが1日分の距離。
残りの2日は街道沿いに車両で移動となる。

「ヘリを使えればすぐだったんですがね。」
「北部方面の年貢輸送に重点を置かれて、こちらの燃料の割り当ても少ないから仕方がない。
化学防護隊も出発したらしいから安全だけは確保しとかないとな。」


ハイライン侯爵領
ハイライン家館
ハイライン侯爵領は、新興の開拓領である。
かつては百万を越える民を抱え、帝国でも屈指の領土を保有していた。
しかし、戦争に負けると責任をとって公爵から侯爵に降格。
当主フィリップは、隠居を申し渡され家督相続を強制された。
ここまではいい。
皇族、貴族全てが一律に処されたからだ。
だがハイライン家は領土を転封されて今の家名に変えられてしまった。
その上こんな未開拓地に一族や朗党、公都を追放された領民の運命を託さぜるを得なくなっている。
元ノディオン公爵フィリップはこの様な状況が憤死しかねないほど不満だった。

「ボルドーは何をしている!!
もう四日も帰っておらんぞあの馬鹿息子は!!」

44 :
傍らに控えていた家宰のリヒターが恭しく答える。

「お館様は海岸で怪しげな船が発見されたと兵を率いて巡回に出ております。」
「そんなことをしている場合か!!
この大事な時に・・・」
「何かありましたか?」

長年仕える家宰のリヒターに手紙をみせる。
現在、新京に造られた中学校なるものに留学中のハイライン家の長女からのものだった。
貴族らしい装飾後たっぷりの手紙だが、要約するとこうだ。

「最近、サークルなる集まりに入って宴席に招かれては姫様扱いをされて嬉しい。」
「将来卒業したら領内に学校や病院を造りたいな。」
「あ、お兄様元気?」

楽しそうで何よりだとリヒターは思ったが、前当主様は苦悩して手紙を握りしめている姿に困惑する。

「あやつめ、貴族の誇りと優位性を放棄するようなことを・・・、日本被れめ!!」

貴族の優位性とは青い血に由縁する統治機構の保障と財産に裏打ちされた教育や医療だろう。
それが平民に安売りされては貴族の存在意義が無くなるのだ。
先勝国が敗戦国の体制の存続を許したのは異例のことであった。
日本からすると統治するのが面倒だったからだ。
代わりに貴族や王族にも賠償の責を化し、年貢として徴収した作物から半分を日本に納めている。
貴族の財力は大幅に目減りし、かつてのような贅沢は出来なくなった。
民に重税を課そうとしても四公六民法で、税収が固定化されて、各領地の軍事力強化も抑えられている。

「姫様は日本の社交界に出入りし、将来の領内の夢を語っているだけではありませんか?」

リヒターの言葉はフィリップの耳に入ってこない。
「仕方がない。
ワシがヒルデガルドの教育について、ボルドーに一言言ってやる。海岸だったな。」
「こんな夜半にですか?」
「帰るのは昼になるかもしれん。朝食の用意は忘れるな!!」

颯爽と庭に出たフィリップは、お付の者の用意させた馬と腰に差して、護衛の騎士や兵士を連れて海岸に向かっていった。


ハイライン侯爵領
海岸地帯
黒い船の調査を続けていたボルドー達は、幾つかの頑丈な扉を苦労して開けながら残された品々を回収してその陣幕に持ち込んでいた。

「日本が使ってのとは些か型が違うが、短銃とライフル、弾は撃ち尽くした後か。・・・ふむ、よくできたナイフだな。」

ボルドーの興味は武器にあったが、こんなものは領地の発展に寄与しないだろう。
「食器に・・・電話か?
鉄のスコップは役に立ちそうだな、馬車に詰めろ。」

あまり良い収穫はない。
貴重そうな物は幾つかのあったが、領地で代用可能な物やどう動かしてもまったく作動しない機械の類いばかりだ。

「船の装甲はどうだ?」
「それが表面部はともかく、肝心な装甲自体は斧や剣で斬り付けてもまるで歯がたちません。」

銃士長のイーヴの報告にボルドーは眉を潜める。

「船は動かせそうか?」
「まったく、動かし方が判らないとのことです。
まだ幾つか開かない扉がありますが、中央部に特に厳重な部屋があって、斧で入り口を抉じ開けようとしましたが、斧の歯が欠けたそうです。
よほど貴重な物が隠されているのでしょう。」

45 :
保守

46 :
隊長の湯正宇大尉が心配そうな顔で船長に尋ねる。

「はっはは、もうすぐですよ、あわてない、あわてない。
もともと航路も無いとこ進んでるんだから時間が無茶なのね。
まあ、近くまでは前にも行ったことがあるから水深はわかってるけど、慎重に進んでるだけだから安心するよろし。」

実質、軍事組織に所属する湯大尉は時間に正確になっているが、船長は未だに中国人的大陸時間の感覚でいるらしい。
異世界に来てむしろ悪化しているようだ。
だか船長にも思うところはあるのだ。
普段は新京から日本への食糧を運ぶのんびりした航海ばかりなのだ。
突然に新香港政府から武警を運ぶよう命令されて、これはヤバイ仕事だと感じてはいた。
厳重な機密扱いが適用された。
新香港政府が隠し事をする相手など、日本政府や自衛隊以外に無いだろう。
慎重に航海を進めるしかない。

「いや、どうせ目標は逃げやしないだろうけどさ。
報告が遅れるから急いでくれよ?」

湯大尉からの苦情も大変疎ましく感じていた。

陸上自衛隊
中国人達が海上からハイライン侯爵領に向かっている頃、日本人共は陸路を輸送蒸気機関車で現地に向かっていた。
赤井照長一等陸尉率いる偵察小隊は30名。
車両は在日米軍から購入したM1126ストライカーが2両。
偵察用バイクが4両、軽装甲機動車1両の30名の部隊を貨物として列車に積載している。
隊員の小銃はM16。
大半の装備は在日米軍に在庫を掃き出させて調達した代物である。
これは、第16師団全般に行き渡っている。
自衛隊用の列車なので、ブリーフィング用の車両も備え付けられており、副隊長の酒井二尉と路線図や街道が書かれた地図を壁に貼って眺めていた。

「新香港から王都、日本の直轄領新京を結ぶ大陸横断列車を施設部隊や土建屋が総力を挙げて3年掛かりで完成させたばかりだが、道路の方もなんとかして欲しいな。」
「年貢の迅速な輸送の為の効率重視。
まあ、当時の我が国の食糧事情は切実でしたからね。
この大陸でもすでに炭鉱は小規模ながら存在したから蒸気機関車なんて使うことが出来たわけですが。」

改めて地図を見渡す。
すでに新香港を出発して三日目。
王都を経由し、現在も敷設中の南部線でいけるのが1日分の距離。
残りの2日は街道沿いに車両で移動となる。

「ヘリを使えればすぐだったんですがね。」
「北部方面の年貢輸送に重点を置かれて、こちらの燃料の割り当ても少ないから仕方がない。
化学防護隊も出発したらしいから安全だけは確保しとかないとな。」

ハイライン侯爵領
ハイライン家館
ハイライン侯爵領は、新興の開拓領である。
かつては百万を越える民を抱え、帝国でも屈指の領土を保有していた。
しかし、戦争に負けると責任をとって公爵から侯爵に降格。
当主フィリップは、隠居を申し渡され家督相続を強制された。
ここまではいい。
皇族、貴族全てが一律に処されたからだ。
だがハイライン家は領土を転封されて今の家名に変えられてしまった。
その上こんな未開拓地に一族や朗党、公都を追放された領民の運命を託さぜるを得なくなっている。
元ノディオン公爵フィリップはこの様な状況が憤死しかねないほど不満だった。

「ボルドーは何をしている!!
もう四日も帰っておらんぞあの馬鹿息子は!!」

47 :
保守

48 :
隊長の湯正宇大尉が心配そうな顔で船長に尋ねる。

「はっはは、もうすぐですよ、あわてない、あわてない。
もともと航路も無いとこ進んでるんだから時間が無茶なのね。
まあ、近くまでは前にも行ったことがあるから水深はわかってるけど、慎重に進んでるだけだから安心するよろし。」

実質、軍事組織に所属する湯大尉は時間に正確になっているが、船長は未だに中国人的大陸時間の感覚でいるらしい。
異世界に来てむしろ悪化しているようだ。
だか船長にも思うところはあるのだ。
普段は新京から日本への食糧を運ぶのんびりした航海ばかりなのだ。
突然に新香港政府から武警を運ぶよう命令されて、これはヤバイ仕事だと感じてはいた。
厳重な機密扱いが適用された。
新香港政府が隠し事をする相手など、日本政府や自衛隊以外に無いだろう。
慎重に航海を進めるしかない。

「いや、どうせ目標は逃げやしないだろうけどさ。
報告が遅れるから急いでくれよ?」

湯大尉からの苦情も大変疎ましく感じていた。

陸上自衛隊
中国人達が海上からハイライン侯爵領に向かっている頃、日本人共は陸路を輸送蒸気機関車で現地に向かっていた。
赤井照長一等陸尉率いる偵察小隊は30名。
車両は在日米軍から購入したM1126ストライカーが2両。
偵察用バイクが4両、軽装甲機動車1両の30名の部隊を貨物として列車に積載している。
隊員の小銃はM16。
大半の装備は在日米軍に在庫を掃き出させて調達した代物である。
これは、第16師団全般に行き渡っている。
自衛隊用の列車なので、ブリーフィング用の車両も備え付けられており、副隊長の酒井二尉と路線図や街道が書かれた地図を壁に貼って眺めていた。

「新香港から王都、日本の直轄領新京を結ぶ大陸横断列車を施設部隊や土建屋が総力を挙げて3年掛かりで完成させたばかりだが、道路の方もなんとかして欲しいな。」
「年貢の迅速な輸送の為の効率重視。
まあ、当時の我が国の食糧事情は切実でしたからね。
この大陸でもすでに炭鉱は小規模ながら存在したから蒸気機関車なんて使うことが出来たわけですが。」

改めて地図を見渡す。
すでに新香港を出発して三日目。
王都を経由し、現在も敷設中の南部線でいけるのが1日分の距離。
残りの2日は街道沿いに車両で移動となる。

「ヘリを使えればすぐだったんですがね。」
「北部方面の年貢輸送に重点を置かれて、こちらの燃料の割り当ても少ないから仕方がない。
化学防護隊も出発したらしいから安全だけは確保しとかないとな。」

ハイライン侯爵領
ハイライン家館
ハイライン侯爵領は、新興の開拓領である。
かつては百万を越える民を抱え、帝国でも屈指の領土を保有していた。
しかし、戦争に負けると責任をとって公爵から侯爵に降格。
当主フィリップは、隠居を申し渡され家督相続を強制された。
ここまではいい。
皇族、貴族全てが一律に処されたからだ。
だがハイライン家は領土を転封されて今の家名に変えられてしまった。
その上こんな未開拓地に一族や朗党、公都を追放された領民の運命を託さぜるを得なくなっている。
元ノディオン公爵フィリップはこの様な状況が憤死しかねないほど不満だった。

「ボルドーは何をしている!!
もう四日も帰っておらんぞあの馬鹿息子は!!」

49 :
保守

50 :
「現米軍も自衛隊と同じ装備に移管しつつあります。
安価で工場が完成したロシア系とは比べられません。」

大陸における日本の権益を守る主力であった第16師団の活躍の程が知れる話である。

「あと四年持ちこたえてくれれば自衛隊装備を回せるんだが・・・。」

そこに入室を知らせるインターホンが鳴り、白戸が受話器を手に話し出す。

「大臣、第17旅団長久田正志陸将補がおいでになりました。」
「通してくれ。」

久田陸将補は入室とともに敬礼をしつつ、着席を勧められて席に着く。

「久田陸将補、これは内示だが貴官が大陸に帰還後に三等陸将の辞令が総督府から発令される。
現在、訓練中の第17後方支援連隊とともに帰還して貰い、第17師団が正式に発足する。
今後の第17師団の展開予定を聞かせてくれ。」
「はい、現在王都を中心に展開している各普通科連隊を各分屯地の3領に移動、駐屯させます。
まずは南部アンフォニーに第17普通科連隊。
西部エジンバラに第34普通科連隊。
北部デルモントに第51普通科連隊。
各分屯地の分屯隊は各連隊に復帰させます。
また、王都ソフィアの駐屯地には、第17師団本隊並びに第17特科連隊、第17後方支援連隊が駐屯します。」

王国や貴族に対する布陣だが、同時に地球系同盟国や同盟都市に対抗する為のものだ。
特に建国宣言したばかりの華西民国や北サハリン共和国は警戒が必要だった。

「政府もようやく重い腰をあげて、海自の新造艦や空自のF−35の生産の予算が降りたばかりだ。
陸自がその恩恵に預かれるのはまだ数年先だが耐えてくれ。」

政府が重い腰を上げた理由はそれだけではない。
エルフ達からの情報により、今後も地球からの転移が有り得ることが否定できなくなったからだ。
しかもこの世界では一年でも地球では五年経過した対象の転移だ。
個人や小規模な転移ならいいが、国単位で未来技術を持ってくる対象が転移してきたらどうなるか?
答えは日本自身がこの世界に証明してみせてしまった。
多少はその差を補うべく、停滞させていた新兵器の開発に動き出したのだ。
久田陸将補が退出したあと、現在は第一師団の所属となっている第18普通科連隊の連隊長上田翔大一等陸佐が訪ねてきた。

「現在、我が連隊と各陸自部隊からの異動希望ならびに志願者のリストです。」

第18普通科連隊も現在の任地から二年後に大陸に進駐する。
トラブルを少なくする為に隊員の希望を聞いてやる為のリストだった。

「予想通りだな。
年内に大阪市の移民が開始されるから、それを見越した志願者が多いな。
まあ、こちらにも都合がよいから無理の無い範囲で配慮してくれたまえ。」

移民庁からの報告書によると、横浜市民による六浦市民の移民は6月後半に終了する見通しだった。
その後は、大阪市平野区、東淀川区の住民の移民をもって六浦市への移民が完了する。
そして、大阪市民が中心となる第4植民都市の移民が始まることになる。

「六浦の港も開港すれば、送り出せる移民の数も増える。
現地ではすでにインフラの工事も始まっている。
ゼネコンの連中は仕事が無くならないと左団扇だ。
羨ましい限りだ。」

都市建設や街道の整備、鉄道の敷設。
材木や鉱物による資源の採掘など、日本や地球系同盟国や都市の労働力だけでは人員を賄うことが出来ない。
住民にとって何より大事なことは食料の確保だ。
都市の外での活動にはあまり積極的ではないのが現実だ。

51 :
「現米軍も自衛隊と同じ装備に移管しつつあります。
安価で工場が完成したロシア系とは比べられません。」

大陸における日本の権益を守る主力であった第16師団の活躍の程が知れる話である。

「あと四年持ちこたえてくれれば自衛隊装備を回せるんだが・・・。」

そこに入室を知らせるインターホンが鳴り、白戸が受話器を手に話し出す。

「大臣、第17旅団長久田正志陸将補がおいでになりました。」
「通してくれ。」

久田陸将補は入室とともに敬礼をしつつ、着席を勧められて席に着く。

「久田陸将補、これは内示だが貴官が大陸に帰還後に三等陸将の辞令が総督府から発令される。
現在、訓練中の第17後方支援連隊とともに帰還して貰い、第17師団が正式に発足する。
今後の第17師団の展開予定を聞かせてくれ。」
「はい、現在王都を中心に展開している各普通科連隊を各分屯地の3領に移動、駐屯させます。
まずは南部アンフォニーに第17普通科連隊。
西部エジンバラに第34普通科連隊。
北部デルモントに第51普通科連隊。
各分屯地の分屯隊は各連隊に復帰させます。
また、王都ソフィアの駐屯地には、第17師団本隊並びに第17特科連隊、第17後方支援連隊が駐屯します。」

王国や貴族に対する布陣だが、同時に地球系同盟国や同盟都市に対抗する為のものだ。
特に建国宣言したばかりの華西民国や北サハリン共和国は警戒が必要だった。

「政府もようやく重い腰をあげて、海自の新造艦や空自のF−35の生産の予算が降りたばかりだ。
陸自がその恩恵に預かれるのはまだ数年先だが耐えてくれ。」

政府が重い腰を上げた理由はそれだけではない。
エルフ達からの情報により、今後も地球からの転移が有り得ることが否定できなくなったからだ。
しかもこの世界では一年でも地球では五年経過した対象の転移だ。
個人や小規模な転移ならいいが、国単位で未来技術を持ってくる対象が転移してきたらどうなるか?
答えは日本自身がこの世界に証明してみせてしまった。
多少はその差を補うべく、停滞させていた新兵器の開発に動き出したのだ。
久田陸将補が退出したあと、現在は第一師団の所属となっている第18普通科連隊の連隊長上田翔大一等陸佐が訪ねてきた。

「現在、我が連隊と各陸自部隊からの異動希望ならびに志願者のリストです。」

第18普通科連隊も現在の任地から二年後に大陸に進駐する。
トラブルを少なくする為に隊員の希望を聞いてやる為のリストだった。

「予想通りだな。
年内に大阪市の移民が開始されるから、それを見越した志願者が多いな。
まあ、こちらにも都合がよいから無理の無い範囲で配慮してくれたまえ。」

移民庁からの報告書によると、横浜市民による六浦市民の移民は6月後半に終了する見通しだった。
その後は、大阪市平野区、東淀川区の住民の移民をもって六浦市への移民が完了する。
そして、大阪市民が中心となる第4植民都市の移民が始まることになる。

「六浦の港も開港すれば、送り出せる移民の数も増える。
現地ではすでにインフラの工事も始まっている。
ゼネコンの連中は仕事が無くならないと左団扇だ。
羨ましい限りだ。」

都市建設や街道の整備、鉄道の敷設。
材木や鉱物による資源の採掘など、日本や地球系同盟国や都市の労働力だけでは人員を賄うことが出来ない。
住民にとって何より大事なことは食料の確保だ。
都市の外での活動にはあまり積極的ではないのが現実だ。

52 :
保守

53 :
「女は拐われないので?」
「識者の話によると、雌が圧倒的に多いから間に合ってるそうだ。
ちなみに人間との言語的コミュニケーションは現在のところ不可能。
他の亜人のように王国との交流も無ければ、交渉出来るような文明的組織も見当たらない。
よって地球系同盟国並びに独立都市は、ハーピーを害獣として駆除することに決定した。」

識者ってなんだよ、という呟きは質問では無いので船長は無視する。

「奴等の巣は鳥島群島の加沙島と推定されている。
住民が800名ほどいて、危険に晒されていると考えられる。
念のために他の有人島も警備隊と自警団が現在も捜索を行っている。
諸君らは加沙島のハーピーの駆逐後、諸鳥島群島の無人島を一つ一つ捜索する為に召集された。
長丁場になるが、諸君等の健闘を期待する。」

鳥島群島が所属する珍島市の無人島は185に及ぶ。
それを海兵一個小隊で捜索しろというのだから、隊員達はうんざりとする顔を隠そうともしない。

「そう腐るな。
有人島の捜索が終わった警備隊もこれに加わるし、自衛隊の西部普通科連隊もこの作業に加わる。
そう長くはかからないさ。」

先程の長丁場発言と矛盾するが、船長としてはこう言うしかない。

「ハーピーどもが大陸から遠いこの地にどうやって渡ってきたのか、日本も興味を示してるからな。
それに現実問題として、国防警備隊はイカ共の攻撃から再建出来たとは言い難い。
背に腹は代えられないってな。」

ハーピーの巣の根絶自体は問題は無い。
加沙島の港から海兵隊が上陸すると、住民の避難活動が始まっていた。
海兵隊達は近隣まではバスで移動し、徒歩で巣になっていると思われる南部の金鉱跡に向かう。
夜目の効かず、眠りに入っているハーピー達にいちいち隠密行動は取らない。
最短距離で巣になっている南部の金鉱跡の洞窟に侵入する。

「臭いな・・・」
「アレの臭いか・・・
ガスマスクでも持って来るんだったな。」

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壁にはペリッドで貼り付けられた男達が気を失っている。
さらに地面には悪臭が漂うなか憔悴仕切った男達が複数倒れていた。
数人はすでに事切れている。
洞窟の中のハーピーは30匹近くいたが、色々と満足したのか多少の物音でも起きてこない。
藁で造られた鳥の巣のような物には卵が複数入っている。

「この数が繁殖されたら溜まらんな・・・」

遺体の回収は諦め生存者の救出を優先し、洞窟にC4プラスチック爆弾を仕込んで脱出する。
だが救出された男達の悪臭と物音にさすがに気がついたのか、森からも複数のハーピーが飛び上がってきた。
海兵達が小銃による射撃で急降下してくるハーピーを迎撃しながら海岸を目指す。
鳥目の為か狙いが甘く、ハーピー達は蜂の巣になっていく。
しかし、数が多く鉤爪に隊員や生存者が捉えられそうになるが、拳銃でハーピーを射殺して難を逃れる。
隊員達や要救助者がバスに乗り込むと、車体をハーピーの鉤爪が激しく叩いてくる。
バスを走らせ港まで来ると海上の『太平洋9号』による40mm連装機銃やブローニングM2重機関銃による援護射撃も始まり、上空のハーピーを餌食にしていく
乗員や島の警官達も小銃や拳銃で応戦する。

「待て、待て、ちょっと待て!?」

54 :
「現米軍も自衛隊と同じ装備に移管しつつあります。
安価で工場が完成したロシア系とは比べられません。」

大陸における日本の権益を守る主力であった第16師団の活躍の程が知れる話である。

「あと四年持ちこたえてくれれば自衛隊装備を回せるんだが・・・。」

そこに入室を知らせるインターホンが鳴り、白戸が受話器を手に話し出す。

「大臣、第17旅団長久田正志陸将補がおいでになりました。」
「通してくれ。」

久田陸将補は入室とともに敬礼をしつつ、着席を勧められて席に着く。

「久田陸将補、これは内示だが貴官が大陸に帰還後に三等陸将の辞令が総督府から発令される。
現在、訓練中の第17後方支援連隊とともに帰還して貰い、第17師団が正式に発足する。
今後の第17師団の展開予定を聞かせてくれ。」
「はい、現在王都を中心に展開している各普通科連隊を各分屯地の3領に移動、駐屯させます。
まずは南部アンフォニーに第17普通科連隊。
西部エジンバラに第34普通科連隊。
北部デルモントに第51普通科連隊。
各分屯地の分屯隊は各連隊に復帰させます。
また、王都ソフィアの駐屯地には、第17師団本隊並びに第17特科連隊、第17後方支援連隊が駐屯します。」

王国や貴族に対する布陣だが、同時に地球系同盟国や同盟都市に対抗する為のものだ。
特に建国宣言したばかりの華西民国や北サハリン共和国は警戒が必要だった。

「政府もようやく重い腰をあげて、海自の新造艦や空自のF−35の生産の予算が降りたばかりだ。
陸自がその恩恵に預かれるのはまだ数年先だが耐えてくれ。」

政府が重い腰を上げた理由はそれだけではない。
エルフ達からの情報により、今後も地球からの転移が有り得ることが否定できなくなったからだ。
しかもこの世界では一年でも地球では五年経過した対象の転移だ。
個人や小規模な転移ならいいが、国単位で未来技術を持ってくる対象が転移してきたらどうなるか?
答えは日本自身がこの世界に証明してみせてしまった。
多少はその差を補うべく、停滞させていた新兵器の開発に動き出したのだ。
久田陸将補が退出したあと、現在は第一師団の所属となっている第18普通科連隊の連隊長上田翔大一等陸佐が訪ねてきた。

「現在、我が連隊と各陸自部隊からの異動希望ならびに志願者のリストです。」

第18普通科連隊も現在の任地から二年後に大陸に進駐する。
トラブルを少なくする為に隊員の希望を聞いてやる為のリストだった。

「予想通りだな。
年内に大阪市の移民が開始されるから、それを見越した志願者が多いな。
まあ、こちらにも都合がよいから無理の無い範囲で配慮してくれたまえ。」

移民庁からの報告書によると、横浜市民による六浦市民の移民は6月後半に終了する見通しだった。
その後は、大阪市平野区、東淀川区の住民の移民をもって六浦市への移民が完了する。
そして、大阪市民が中心となる第4植民都市の移民が始まることになる。

「六浦の港も開港すれば、送り出せる移民の数も増える。
現地ではすでにインフラの工事も始まっている。
ゼネコンの連中は仕事が無くならないと左団扇だ。
羨ましい限りだ。」

都市建設や街道の整備、鉄道の敷設。
材木や鉱物による資源の採掘など、日本や地球系同盟国や都市の労働力だけでは人員を賄うことが出来ない。
住民にとって何より大事なことは食料の確保だ。
都市の外での活動にはあまり積極的ではないのが現実だ。

55 :
わざわざ保守してくれたようなので>>44の続きから

56 :
「或いは危険な物か。
再現も無理だな。
後は・・・なんだと思うこれは?」

何本も並べられた棒状のものは533ミリ魚雷六本である。

「さあ、日本が使っていたミサイルではないかと思われますが・・・」
「あの空を飛ぶ矢か、実物は始めてみるな。
どうやって飛ぶんだろうなこれは?」
「皆目検討も付きません。
尻から火を吹きながら飛んで来るという話でしたが?」
「風車が付いているようだが、これで飛ぶんじゃないか?」

主従が検証を続けていると、馬を駆る音とボルドーを呼ぶ声が聞こえる。

「父上か、また厄介な・・・」

陣幕に入ってきたフィリップはボルドーを怒鳴り付けようとしたが、並べられた銃器や魚雷を見て冷静になる。

「おい、こいつはさっさと埋めるか、日本に引き渡せ。
きっと災いを呼ぶ。」
「来て早々なんですか?
父上ならこれを利用しろと言うかと・・・この日本の船を研究すれば・・・」
「日本じゃない。
その棒に書かれた紋章をみろ。
今は使われてないが、新香港の一部の奴等が使っていた旗印だ。」

五星紅旗、自衛隊に陣借りしていた中国人という部族が使っていた旗だ。
ノディオンを引き渡す調印式の時にいた忌々しい連中だ。
すると、陣幕の外で叫び声や味方のものと思われる銃声が聞こえる。

「ほれ、災いが向こうからやってきたぞ。
ものども出合え、出合え、狼藉者を斬って捨てい!!」

フィリップは剣を鞘から抜き、陣幕から出ていった。
ボルドーとイーヴも慌ててその跡を追って陣幕を出ていった。


新香港武装警察部隊
目標からややズレた海岸に上陸した武警部隊は予想以上の悪路に悩まされていた。
先頭に三菱パジェロ2両。
何れもサンルーフと屋根に銃架が備え付けられている。
窓にはアーマーシールドを張りつけ打撃武器からの防御を考慮されている。
各車両には五名の隊員が乗車しており、即応性と機動力に申し分はない。
問題は同行するヒュンダイトラック、トラゴ2両各7名乗り。
トヨタ・コースターGX26名乗りの三両だった。
上陸して侯爵領内の各村まではある程度の道が出来ていたのだが、それはとても狭い道であった。
せいぜい中型の馬車が通れることを考慮したものだろう。
燃料や弾薬、食糧を積んだトラックを置いていくわけにもいかない。
トラックの屋根には機関銃を装備した銃座がそれぞれ2基もあり、火力支援の為にも必要なのだ。 慎重にゆっくりと。
時には岩を木を人力や車両からワイヤーで牽引して、排除しながら進むだけで新香港を出発して五日目となってしまった。
途中、幾つかの村があったが全て無視した。
各村から伝令が出るより武警側の方が早いからだ。
マイクロバスに乗った湯大尉は、隣に座らせた案内役の呉中尉に地図を見せて話し掛ける。

「中尉、そろそろ1キロ圏内だ。周辺に見覚えはあるか?」

こんな深夜も近い時間に自分でも無理を言ってると自覚はあるが、さっきから中尉がブツブツ言い出して不気味なので話を振ってみたのだ。
まだまだ森林地帯だが地図では、海岸の側のはずだった。

57 :
「はい、間違いないです。
この臭い、間違いなくここです。」
「臭い?」

もう一度問おうとすると前方から無数の矢が飛んでくる。
車両の装甲は射抜けるものではないが、窓に関してはちょっと心配だ。

「大尉、前方警戒の成龍2が、設置中なのか移動するバリケードと武装した一団を確認。
攻撃を受けたので後退中。」

最後尾座席にいる通信兵が伝えてくる。
成龍はパジェロに着けたユニット名だ。
トラゴの方には長城だ。

「成龍1は、成龍2の後退を援護。小隊は降車!!
連中を殲滅してやれ。
長城2は待機。
長城1は、腹を奴等に向けて制圧射撃開始!!」

新香港武装警察の装備は、基本的に長年日本警察が押収した銃火器を供与されたものである。
一応はちゃんと使えるように整備や修理を行ってはいるが、些か不揃いなのと夜間用の装備がない点が弱点とはいえる。
銃座からの制圧射撃が行われる中、自らもバスを降りた湯大尉は背中にRPG−26携帯式ロケットランチャーを背負った隊員に命令する。

「長引かせる訳にはいかない。
RPGでバリケードを粉砕して、成龍1、成龍2を突っ込ませる。
合図と共に撃てよ・・・」

湯大尉はもともとは軍人でも人民武装警察官でもない。
学生の頃に学生の義務である軍事教練を受けて、兵役の経験があっただけだ。
叔母か日本に爆買いに出掛けるから荷物持ちとして動員されたら転移に巻き込まれてしまった口だ。
その後は、帝国との戦争が始まり日本政府が募集した第一外国人師団に志願して今に至る。
転移に巻き込まれて路頭に迷った親戚一同で一番の出世頭であり、今でも彼等の生活を支える大黒柱なのだ。
こんなところで死ぬわけには行かない。
だから弾薬の損耗を気にする上官達の顔を立てて出し惜しみするつもりもまったく無い。
各車両や隊員の配置を確認すると声を張り上げる。

「今だ、撃て!!」

その弾頭はバリケードに吸い込まれるように飛んでいき大爆発を巻き起こす。
爆風で目の前に福岡県警のシールが、飛んできたのを目にして苦笑してしまう。
当然の事だが、このRPG−26も日本警察の押収品である。


陸上自衛隊
偵察小隊
陸路を行く自衛隊偵察部隊の車両は予想以上に走りやすい道を進んでいた。

「急拵えの用だが、道が整備されてて助かったな。」

赤井一尉の言葉に酒井二尉も感心したように頷く。

「侯爵領に入って途中から急にですね。岩とか倒木が道の外に片付けられています。」

まるで我々のような車両が通ったことがあるみたいだった。
赤井一尉は各車両への無線マイクを手に取る。

「各車、良く聞け。
この調子なら夜明けには着けそうだ。
最低限の人員を残し、睡眠を取って鋭気を養え。
朝から忙しくなるぞ。」

58 :
もちろんこの時点では、原子力潜水艦捜索するという意味以上のものはなかった。
なにしろ相手は原潜だ。
ガイガーカウンターが強く反応するところに行けば直ぐに発見できる筈である。

「あとは遠巻きに化学防護小隊に任せればいいさ。」
「ですよね〜」

酒井二尉もまったく同感と楽観視していた。

たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。
たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。

「各員、よく聞け。
どうやら我々の上前を跳ねようとしている輩が現地にいるらしい。
総員、戦闘準備!!
目標を奴等に渡すな!!
原潜は日本が確保する。」

一旦、通信を切ると酒井二尉が進言してくる。

「敵は明らかに重火器を使用しています。
友軍なのか確認する必要があるのでは?」
「どのみち四時間はわからん。
それまでに確かめさせろ。」

移動速度を早めて三時間で戦闘があった地点に到着した赤井一尉一行は、困惑する物体を発見する。
それは爆発のような現象に引きちぎられた何らかの生物の尻尾であった。
暗視装置で周辺を確認していたら見つけたのだ。

「直径がメートル単位、長さが15メートルか?
くそ、何がいたんだここに?」
「爬虫類系ですね。
鱗とかあるし・・・ドラゴンでしょうか?」

隊員達の脳裏に転移直後に起きた事件が脳裏によぎる。

『隅田川水竜襲撃事件』
転移直後の混乱に陥っていた日本は、食料や燃料を統制的に管理することに連日のようにデモが巻き起こっていた。
そんな時に東京湾に水竜の群れが十二頭侵入。
隅田川を遡上し、各橋につがいと思われる2頭ずつが縄張りとし、近隣住民を餌にせんと上陸をしてきたのだ。
深夜から明け方の間の移動であり、日中は水底で眠ってたので対処に遅れたのだ。
勝鬨橋、佃大橋、中央大橋、永代橋、隅田川大橋、清洲橋の6つの橋で、駆けつけた各警察署や第9機動隊の警官が有らん限りの銃弾を叩きつけて、8匹を仕留めるが残りの4匹が北上しながら集結。
新大橋で第二機動隊が迎え撃ち、2匹を始末するが、2匹には防衛線を突破された。
両国大橋でさらに一匹を本所警察署が仕留めるが、総武線隅田川橋梁を破壊。
総武線車両が三両も川底に落ちる被害をだし、乗客・乗員300名もの死者をだした。
最後の一匹も総武線車両に押し潰されて死んだ。
最終的な死者は450名に及び、日本が異世界に放り込まれたと誰にも自覚させた事件。
この事件のあと、デモなどは潮が引くようにいなくなり、日本は異世界へのサバイバルに邁進できるようになった。
青ざめる隊員達を尻目に赤井一大尉は、銃声が聞こえる地点に目を向ける。

59 :
「まだ、戦闘は続いてるな。
十分に注意して進むぞ、だが素早くだ。」

進行方向に手を振ると、レンジャ―の資格をもつ隊員三名を戦闘に隊員達が横に広がりつつ木々の間を縫うように前進を開始する。

「105mmを持ってくるんだったな。」

赤井一尉は隊員達を支援する為の105mm砲M68A1E4、「105mm低姿勢砲塔」を搭載しているストライカー装甲車MGSを持ってこなかったことを詫びているのだ。

「40mmでもいけますよ。」

ストライカーICV(兵員輸送車)の車長の牧田二尉がら通信が入る。
ストライカーICV(兵員輸送車)は、取り付けられたカメラの映像を車内のモニターで見ながら操作可能であり、射手が体を曝す事無く目標を攻撃できる。
また、熱線映像装置が組み込まれており夜間の戦闘も可能となっている。
今回は40mm擲弾発射器Mk 19が装備されている。
「よし、火力で圧倒してやれ。」


新香港武装警察
湯大尉は困惑していた。
最初にバリケードを破壊して、車両を先頭に掃射しながら前進した。
何十メートルもあった筈のバリケードが一部を除いてきれいさっぱり無くなっているのだ。
さらにあれだけ銃撃をかましたのに死体がきれいさっぱり存在しない。

「血とかはあるんだが、誰も死なないとかありえないだろう。」

困惑して地面を探っている湯大尉を呼びつける悲鳴が聞こえる。

「大尉!?
蛇がでっかい蛇が!!」

眉を潜める湯大尉が顔を上げる。
「なんだ蛇くらいで情けない声をだすな・・・」

さすがに歴戦の湯大尉は悲鳴はあげなかったが絶句して棒立ちになっていた。
長城1が巨大な蛇にとぐろを巻かれているのだ。
運転席がメキメキと音を立てて潰れていく。
三人は乗っていたはずだが、三人とも飛び出して逃げ出している。
銃座にいた二人もだ。

「グレネード!!」

思わず叫ぶと隊員が放った一発が燃料や弾薬を積んだトレーラー部に直撃して爆発して、海蛇も炎に巻かれて炎上して息絶える。

「ふん、しょせんはでかいだけの蛇じゃないか。」

燃料と弾薬を半分も失ったのは後で責任を追及されるかもと内心の震えを隠すように強気に言う。

「大尉・・・あっちにもっとでかいのが・・・」

成竜1と成竜2が銃架から銃撃しながら小まめに動いては、巨大な蛇の噛みつきをかわしている。
先程の蛇の数倍の長さだが、尾の部分が焼け焦げてなくなっている。

「奴等だ・・・みんな奴等に殺された・・・」

60 :
案内役の呉定発海軍中尉が皆の恐怖を煽り立てるようなことを言ってくれる。
さらにその周辺に無数の半魚人達が笛の音色とともに、巨大な貝殻で作った鎧や兜を装備して現れる。
数は数百単位だろうか?
AK-74の弾丸を各隊員が横に薙ぐように撃ちまくるが、半魚人達も魚の骨や貝殻を削って造った投げ槍や弓矢で応戦しながら前進してくる。
弾丸の効果が無いわけではなく、数十体の半魚人が倒れ伏すが死んでいるのは少ないようだ。
後退する武装警察達はそれでも目標の洞窟を見つけると、長城2とマイクロバスを洞窟の入り口の前に停車させて、壁がわりにして抵抗する。
成竜1と成竜2はこちらには合流させずに来た道を戻らせた。
いざという時には任務失敗の報告をしてもらわないといけない。

「これで暫くはもつだろう。」

隊員達の中には矢や投げ槍が手足に刺さったり、切りつけられたりと負傷した隊員が出ている。
不思議と死者は出ていない。
半魚人達が地上では動きが鈍いのが理由だろう。
応急措置が必要だったが、半魚人の攻撃は終わっていない。
車両の隙間から銃撃して、交戦している隊員もいるのだ。
だがなんとか、一息付けると思った湯大尉だが、海蛇が長城2に体当たりをすると、長城2が一メートルも真横に移動させられた。
海蛇は長城2の銃座からの攻撃で後方に這いながら退くが、ここが突破されるのは時間の問題だ。
銃撃もあの分厚そうな皮を傷つけるが致命傷は与えられていない。

「燃料は仕方がない、弾薬と食料を洞窟に運びこめ。」

隊員達が長城2の三番扉を開けて中の物資を洞窟に運び出していく。
だが洞窟の中には先客がいたようだ。


「なんだ新香港の連中も存外にだらしないな。
マーマンども片付けてくれると期待してたのじゃがな。」

洞窟の中で銃士隊を3隊に分けて、立ち撃ち、膝撃ち、伏せ撃ちの構えを取らせている。
この地形では効果的な陣形だ。
しかも、武警側は大半が両手に荷物を抱えたままだ。

「我々も少しは学ぶのだよ、理解したかな?」

苦汁を飲ませ続けられた新香港の武警に圧倒的に有利な立ち位置にたったので得意気な顔をしている。
ドヤ顔の元ノディオン公フィリップの後ろで困り顔をハイライン侯ボルドーが宥める。

「我々もここに逃げ込んできただけなのにこれ以上敵を増やすのやめて下さい父上・・・」


話は少し遡る。
フィリップが陣幕を出ると剣兵、槍兵達が異形の者達と、そこかしかで斬り結んでいた。
数が違いすぎるので、劣勢に立たせられている。

「ボルドー、銃士隊を洞窟に集結させて、皆が逃げ込むのを助成せよ。」
「父上は?」

言うが早いがフィリップは剣を抜き去り、マーマンを二体切り捨てている。

「殿軍は老人の花舞台よ。」

年寄りの冷や水かと思いきや3匹のマーマンを相手に一歩も引いていない。
マーマンの繰り出してくる銛を避けて、右手で柄を掴んで引き寄せて、剣で首を刎ねる。

「急げ!!
あんまり長くは保たんぞ。」

フィリップの意外な活躍に惚けている銃士隊長イーヴは、先込め式銃で、フィリップに群がっていたマーマンの額を撃ち抜く。

61 :
「イーヴ、父上を守れ。
銃士隊は、洞窟前の敵を掃射。
その後は剣兵、槍隊は洞窟を制圧せよ。」

自らも剣を抜いて、血路を切り開く。
洞窟の中には黒い船を調査する為の魔術師や職人、人夫達が奥に残っている。
一番近い村は馬で数時間の内陸にあるからまだ無事の筈だ。
ならばマーマン達はここで撃退する必要がある。
だが気がついたら横でフィリップがマーマン達と斬り結んでいた。

「父上?
なぜ、こちらで戦ってるのですか?」
「ふん、さすがに儂も剣一本であれと戦うのは辛いは・・・」

フィリップの剣が指し示す方向に巨大な手足の無い爬虫類がこちらを睨んでいる。

「シーサペント・・・」
「まさか陸地までひっぱりだしてくるとわな・・・海岸は確かにすぐそこだが・・・」

あっというまにフィリップが先頭に立って洞窟前を制圧に走っている。
銃士隊はシーサペントを牽制するので手一杯で、どうにか生き残りが洞窟に逃げ込んだ時には約一名を除いて、息も絶え絶えだった。

「なんじゃ若いモンが情けない。ほれ、陣形を整えろ。
すぐに奴等がくるぞ。」

だが予想に反して外から奇怪な音や連続して発砲される銃声が聞こえてくる。
さらに侯爵軍でも領民でも無い格好の連中が乗り込んでくる。

「なんだ新香港の連中も存外にだらしないな。
マーマンどもを片付けてくれると期待してたのじゃがな。」

フィリップだけが事情を察し、憎まれ口を叩いている。

「我々もここに逃げ込んできただけなのにこれ以上敵を増やすのやめて下さい父上・・・」

ボルドーの苦悩は頭痛にまで昇華しようとしていた。

「まあ、聞け。
新香港の連中が来たこと戦力は激増した。
ここは争ってる場合じゃ無いから否応あるまい。なあにまかせておけ、儂に良い考えがある。」

銃士隊や武警隊員達が洞窟内に侵入しようとするマーマン達を狙い撃ちしている中、少し奥でフィリップがボルドーや湯大尉に作戦を説明する。

「まずシーサペントだが、あやつはマーマンの蛇使いに笛の音で操られている。
蛇使いさえ葬れば暴れだしてマーマン共にも襲い掛かるだろう。」

笛で操られていると聞いて、湯大尉は思わず呟く。

「インド人もびっくりだぜ・・・それから?」
「儂らは黒い船からミサイルといったかな?
アレを6本抜き取った。」

湯大尉はSLBMが抜かれたのかと最初は戸惑ったが、話を聞いてるうちに魚雷のことだと気がついた。
その違いを指摘し、疑問をぶつけてみる。

「魚雷には固定の鍵が掛かってたと思うのだがどうやって解除したんだ?」
「え?
解除の魔法で一発だったぞ。まあ、厳重な鍵だったらしく、連れて来た魔術師が一人魔力切れを起こしていたがな。」

62 :
「本国は現地駐屯部隊で対処しろと通達してきた。
『長征7号』の確保、或いは無力化だ。
目標が原子力潜水艦である以上、無制限の破壊は禁じるとのことだ。
本国からの増援はすぐにはでない。
青木陸将、部隊の派遣を命じたい。」

第16師団師団長青木一也陸将は立ち上がって説明を始める。

「今回は即応を優先しますので、第16偵察中隊から先遣を出させます。
現在、出動待機しており命令次第出動出来ます。」

陸上自衛隊第16師団は、大陸駐屯の為に新設された部隊である。
本国の部隊は転移直後に大量に発生した失業者を背景に自衛隊経験者を大量に再雇用した。
失業者対策である。
偵察隊が中隊規模になるくらいの増員だ。
転移直後に起きた『隅田川水竜襲撃事件』や開戦の発端となった『横浜広域魔法爆撃』が、自衛隊の大幅増強を世間が後押しする結果となった。
海上からのモンスターの襲撃がある以上、終戦後各部隊は本国に張り付けになってしまったのだ。
第16師団は大陸の日本の権益を防衛するのが存在意義となった。
「まあ、宜しく頼むよ。
どれくらい掛かる?」
「現地までは6日といったところでしょうか。」

ハイライン侯爵領
海岸部
冒険者の一団から通報を受けたハイライン侯爵ボルドーは、馬に引かれた『ISUZU:エルフ』と書かれた車両の横扉を開いて、その地に降り立った。
日本との戦争の責任を取って隠居させられた父の後を継いだばかりの若者だ。
次の馬車からも数人の男達が降りてくる。
そして、馬に乗った武装した銃士達がまわりを固める。
先込め式の滑腔式歩兵銃を持てるのは、以前は騎士と呼ばれてた階級の人間だけで足る?
馬車から降りた人間だけで達には船大工や錬金術師と言った人間達だがドワーフといった妖精族が混じっている。
ボルドーは一団を率いて、洞窟に入っていく。

「これが・・・、異界の国の船か?
まさか上部まで鉄張りとは・・・だがこの船を手に入れれば奴らに対抗出来るかもしれない。」

軍事的にはたかが1隻程度では話にならないだろう。
だが船ならば生活の為の道具や武器が積まれていたはず。
圧倒的な技術格差が少しは埋まるかもしれない。
そうすればこの新興開拓地の民達を救える方法が見つかるかもしれない。
希望を見いだす。

「上部に手回し式の入り口があるそうです。
開けっ放しになっていたらしく、内部にはマーマンの死体が何体か。
乗員は停泊中に襲撃を受けたものと思われます。
洞窟の外に百個以上の簡素に造られた墓地も発見されています。」

銃士長が現時点でわかったことを報告してくる。

「うむ、職人達をかき集めてきた。
徹底的に調査を進めよ。」

客船『中華泰山号(チャイニーズタイシャン)』
下関寄港時に異世界転移に巻き込まれた同船は、新香港の公営企業の所属となっている。
かつては900人もの中国人客を乗せて、日本爆買ツアーを行っていたが現在乗せている乗客は新香港武装警察官50名と案内役の中国海軍中尉呉定発が乗り合わせている。
すでに出港から2日と半日。

「船長?
すでに到着予定時刻を2時間も過ぎてると思うのだが・・・」

63 :
>>55
どう致しまして

64 :
もちろんこの時点では、原子力潜水艦捜索するという意味以上のものはなかった。
なにしろ相手は原潜だ。
ガイガーカウンターが強く反応するところに行けば直ぐに発見できる筈である。

「あとは遠巻きに化学防護小隊に任せればいいさ。」
「ですよね〜」

酒井二尉もまったく同感と楽観視していた。

たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。
たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。

「各員、よく聞け。
どうやら我々の上前を跳ねようとしている輩が現地にいるらしい。
総員、戦闘準備!!
目標を奴等に渡すな!!
原潜は日本が確保する。」

一旦、通信を切ると酒井二尉が進言してくる。

「敵は明らかに重火器を使用しています。
友軍なのか確認する必要があるのでは?」
「どのみち四時間はわからん。
それまでに確かめさせろ。」

移動速度を早めて三時間で戦闘があった地点に到着した赤井一尉一行は、困惑する物体を発見する。
それは爆発のような現象に引きちぎられた何らかの生物の尻尾であった。
暗視装置で周辺を確認していたら見つけたのだ。

「直径がメートル単位、長さが15メートルか?
くそ、何がいたんだここに?」
「爬虫類系ですね。
鱗とかあるし・・・ドラゴンでしょうか?」

隊員達の脳裏に転移直後に起きた事件が脳裏によぎる。

『隅田川水竜襲撃事件』
転移直後の混乱に陥っていた日本は、食料や燃料を統制的に管理することに連日のようにデモが巻き起こっていた。
そんな時に東京湾に水竜の群れが十二頭侵入。
隅田隅田を遡上し、各橋につがいと思われる2頭ずつが縄張りとし、近隣住民を餌にせんと上陸をしてきたのだ。
深夜から明け方の間の移動であり、日中は水底で眠っ清洲橋てたので対処に遅れたのだ。
勝鬨橋、佃大橋、中央大橋、永代橋、隅田川大橋、清洲橋、清洲橋の6つの橋で、駆けつけた各警察署や第9機動隊の警官が有らん限りの銃弾を叩きつけて、8匹を仕留めるが残りの4匹が北上しながら集結。
新大橋で第二機動隊が迎え撃ち、2匹を始末するが、2匹には防衛線を突破された。
両国大橋でさらに一匹を本所警察署が仕留めるが、総武線隅田川橋梁を破壊。
総武線車両が三両も川底に落ちる被害をだし、乗客・乗員300名もの死者をだした。
最後の一匹も総武線車両に押し潰されて死んだ。
最終的な死者は450名に及び、日本が異世界に放り込まれたと誰にも自覚させた事件。
この事件のあと、デモなどは潮が引くようにいなくなり、日本は異世界へのサバイバルに邁進できるようになった。
青ざめる隊員達を尻目に赤井一大尉は、銃声が聞こえる地点に目を向ける。

65 :
支援

66 :
「そうした船の1隻か・・・
なるほど、『長征7号』の例もある。
我々が把握している以上に多いんだろな、そういった行方不明船は。」

乃村大臣の言葉に海保と警察の両幹部が席に座る。

「貨物船の詳細については、各捜査機関に任せるとしてだ。
最後に出てきたアンデット・ドラゴン、あれはまずい。
ハーピーもだが、船舶にモンスターを積載して日本や大陸領土に突入させてくるテロは絶対に防がないといけない。
それとな、気になる報告だが、こいつは海上に墜ちたハーピーの死骸を食ってたそうだ。」

会議室の面々は驚愕の声をあげる。

「今、子爵殿と王国大使館で検証してもらっているが、どうやら竜種には『海洋結界』が効果が薄いという結果が出そうだ。」
「そんな・・・、だから隅田川に水竜の群れが侵入出来たのか・・・」

警視庁が総力を結集して退治した『隅田川水竜襲撃事件』を思いだし、警察幹部は冷や汗を垂らす。

「『海洋結界』は年々、範囲が狭まっている。
いずれその効果が消滅することを前提に我々は防衛体制を整えなければならない。
今回の責任問題を我々に追及してくる声もあるが、我々の予算要求に尽く抵抗してくる財務省に今回の件を被ってもらう。
関係各機関はその方向で情報統制を進めてくれ。」

与党右派と野党日本国民戦線の主張通りに軍備増強の口実になるだろう。
会議の結論を述べて、解散となった。
それぞれの担当者には被災地域に対する支援や地元組織の再建など、仕事が山積みなのだ。
大臣秘書の白戸昭美が執務室で資料を渡してきた。
白戸は既に乃村の次男と入籍を済ませているが、夫婦別姓で名字は変えていない。

「高麗側の被害です。
民間人の死者48名、国防警備隊の殉職者19名。
御自慢の新鋭フリゲート『大邱』が中破してドック入りしました。
不審船の『大邱』にも小型のアンデットドラゴンが襲いかかったようです。
どうにか始末出来たようですが、甚大な損害が出ていたそうです。」

冗談抜きで帝国との戦争以来の損害だった。
実際のところ、日本本国ではともかく、高麗国国の鳥島諸島において、ハーピーの駆除作戦はいまだに続いている。
幾つかの無人島に巣を作られた形跡があり、住みつかれたようだ。
ハーピーが空を飛んで、無人島から無人島にと、逃げ回っているので、人員の足りない国防警備隊だけでは手に負えないのだ。

「こちらに来るほど数が増えなければいい。
連中にも少しは苦労してもらおう。」
「海棲亜人による襲撃事件も加えると、ろくな目にあってないから少し可哀想な気がしますが・・・」

息子の嫁の言葉に話題を変えることにした。

「府中の子爵様の報告も来てるな。
あのアンデット・ドラゴンの作成には、人間の魂千体以上必要だそうだ。。
いったいどんな奴の仕業だろうな。」
「会議の場では、誰もテロリストの正体に付いて口に出しませんでしたね。」

テロ集団が従来の帝国残党軍と違い、高い技術力を有していることから、地球人の集まりであることは明白だ。
その事の公表は地球系同盟国並びに独立都市の足並みを乱す可能性がある。
薄々は誰もが勘づいており、はみだし者達の行き着く先となっている。

「今はまだ泳がす。
連中も地盤固めの為に王国と度々衝突してるようだからな。
王国を消耗させ、手に負えなくなった時に、一気呵成に叩き潰す。
精々我々にとっての良い当て馬になってくれることを望むよ。」
「乗員が何百人もいた筈だが?」

67 :
>>63
しかし、そのやり方効率が悪いでしょう
こっちはここは六ヶ所目だから構わないけど

68 :
>>67
応援していますので
ぜひ続けてください

69 :
>>68
まあ、おかげで『形』になってきたよ
どれくらいの文字数で投稿できるかは課題だったからね
今も手繰り。
何が毎回NGワードになるかも理解できた

おかげで別スレは効率よく投稿できてるよ

70 :
>>69
なによりです

71 :
>>70
まあ、ここが被害担当なのは知ってるんでしょ?
どうせこのペースだと700レスくらいまでしか投稿できないんだから

72 :
家屋を破壊するのも避けたい事態だった。
何より銃声で起きられて、空に逃げられるのは避けたいところだ。
どのみち今の隊員には実戦で発砲したことがある者は少ない。
それは精鋭足る西普連ともいえど同様だった。
梯子を使わずに登ろうとして、物音で起きられて逃げられる事態が幾つか発生した。
ようやく梯子がまわってきて、よじ登る隊員は屋根の上でまだ起きていたハーピーと目が合ってしまった。

「 キェェェェェェェェェ〜〜 」

猿叫のような叫び声を上げられて隊員は硬直する。
周辺家屋にいたハーピー達は一斉に目を覚まして、目についた西普連の隊員に襲いかかる。
梯子を昇る途中だった隊員は、梯子を倒されて地面に落ちていく。
屋根でハーピーを刺突していた隊員も他のハーピーが飛来して体当たりを食らい屋根から叩き落とされる。
窪塚一尉はもはやここまでと発砲を許可した。

「飛び上がったハーピーに発砲を許可する。
負傷者は小学校に運べ!!」

真っ先に発砲を始めたのはやはり大陸帰りの隊員達だった。
許可さえ下りれば彼等に躊躇いは無い。
彼等に触発されて、初めての実戦を経験する隊員も射ち始める。
窪塚一尉も89式小銃を撃ちながら負傷して後送される隊員を援護する。
西部普通科連隊は第4普通科連隊と違って、転移後の新装備はあまり配備されてない。
しかし、使いなれた銃器の方に隊員は信頼を置いていた。
ハーピーの数は決して多くはない。
銃弾が使用できれば、西普連の敵ではなかった。

唐津城
第4普通科連隊臨時司令部

「鳥島の駆除が完了との報告がありました。」
「第4中隊が神集島にて、少数のハーピーを確認、交戦中!!」
「湾岸防衛の第5中隊も三ヶ所でハーピーを確認。
追跡の上、駆除します。」
「79AW、発砲開始!!」

壊滅した第1・2中隊から無事だった者を集めて再編した司令部はどうにか機能を回復した。
湾岸の防衛には久留米から呼び寄せた教育隊まで動員してカバーしている。
連隊長の鶴見一佐は予備の第6中隊も動員するか考えていた。

「高島の西普連はどうか?」
「負傷者を出しつつも順調とのことです。」

島からは銃声も聞こえる。

「刃物だけではやはり片付かんかったか。」

その銃声も少なくなってくる。
唐津における殲滅はうまくいきそうだった。

「姫島の方に福岡県警SAT一個小隊が、警備艇三隻で突入。
あちらはしょっぱなから、銃器を使用している模様です。」
「長年、暴力団相手にしる連中は違うな。
他のSATでもあそこまで思いきりはよくあるまい。」

福岡市や北九州市に配備されていた分隊を集めた部隊だ。
姫島は福岡県に属するのでかき集められた。
他の戦闘となった3島に比べれば姫島は遠隔にあるが、そのぶんハーピーの数も少ない。
県警警備艇『げんかい』、『ほうまん』、『こうとう』の3隻に分乗した。

73 :
>>71
知らないねぇ

74 :
>>73
まあ、そんなことはどうでもいいか

どんな作品が好み?

75 :
「現米軍も自衛隊と同じ装備に移管しつつあります。
安価で工場が完成したロシア系とは比べられません。」

大陸における日本の権益を守る主力であった第16師団の活躍の程が知れる話である。

「あと四年持ちこたえてくれれば自衛隊装備を回せるんだが・・・。」

そこに入室を知らせるインターホンが鳴り、白戸が受話器を手に話し出す。

「大臣、第17旅団長久田正志陸将補がおいでになりました。」
「通してくれ。」

久田陸将補は入室とともに敬礼をしつつ、着席を勧められて席に着く。

「久田陸将補、これは内示だが貴官が大陸に帰還後に三等陸将の辞令が総督府から発令される。
現在、訓練中の第17後方支援連隊とともに帰還して貰い、第17師団が正式に発足する。
今後の第17師団の展開予定を聞かせてくれ。」
「はい、現在王都を中心に展開している各普通科連隊を各分屯地の3領に移動、駐屯させます。
まずは南部アンフォニーに第17普通科連隊。
西部エジンバラに第34普通科連隊。
北部デルモントに第51普通科連隊。
各分屯地の分屯隊は各連隊に復帰させます。
また、王都ソフィアの駐屯地には、第17師団本隊並びに第17特科連隊、第17後方支援連隊が駐屯します。」

王国や貴族に対する布陣だが、同時に地球系同盟国や同盟都市に対抗する為のものだ。
特に建国宣言したばかりの華西民国や北サハリン共和国は警戒が必要だった。

「政府もようやく重い腰をあげて、海自の新造艦や空自のF−35の生産の予算が降りたばかりだ。
陸自がその恩恵に預かれるのはまだ数年先だが耐えてくれ。」

政府が重い腰を上げた理由はそれだけではない。
エルフ達からの情報により、今後も地球からの転移が有り得ることが否定できなくなったからだ。
しかもこの世界では一年でも地球では五年経過した対象の転移だ。
個人や小規模な転移ならいいが、国単位で未来技術を持ってくる対象が転移してきたらどうなるか?
答えは日本自身がこの世界に証明してみせてしまった。
多少はその差を補うべく、停滞させていた新兵器の開発に動き出したのだ。
久田陸将補が退出したあと、現在は第一師団の所属となっている第18普通科連隊の連隊長上田翔大一等陸佐が訪ねてきた。

「現在、我が連隊と各陸自部隊からの異動希望ならびに志願者のリストです。」

第18普通科連隊も現在の任地から二年後に大陸に進駐する。
トラブルを少なくする為に隊員の希望を聞いてやる為のリストだった。

「予想通りだな。
年内に大阪市の移民が開始されるから、それを見越した志願者が多いな。
まあ、こちらにも都合がよいから無理の無い範囲で配慮してくれたまえ。」

移民庁からの報告書によると、横浜市民による六浦市民の移民は6月後半に終了する見通しだった。
その後は、大阪市平野区、東淀川区の住民の移民をもって六浦市への移民が完了する。
そして、大阪市民が中心となる第4植民都市の移民が始まることになる。

「六浦の港も開港すれば、送り出せる移民の数も増える。
現地ではすでにインフラの工事も始まっている。
ゼネコンの連中は仕事が無くならないと左団扇だ。
羨ましい限りだ。」

都市建設や街道の整備、鉄道の敷設。
材木や鉱物による資源の採掘など、日本や地球系同盟国や都市の労働力だけでは人員を賄うことが出来ない。
住民にとって何より大事なことは食料の確保だ。
都市の外での活動にはあまり積極的ではないのが現実だ。

76 :
隊長の湯正宇大尉が心配そうな顔で船長に尋ねる。

「はっはは、もうすぐですよ、あわてない、あわてない。
もともと航路も無いとこ進んでるんだから時間が無茶なのね。
まあ、近くまでは前にも行ったことがあるから水深はわかってるけど、慎重に進んでるだけだから安心するよろし。」

実質、軍事組織に所属する湯大尉は時間に正確になっているが、船長は未だに中国人的大陸時間の感覚でいるらしい。
異世界に来てむしろ悪化しているようだ。
だか船長にも思うところはあるのだ。
普段は新京から日本への食糧を運ぶのんびりした航海ばかりなのだ。
突然に新香港政府から武警を運ぶよう命令されて、これはヤバイ仕事だと感じてはいた。
厳重な機密扱いが適用された。
新香港政府が隠し事をする相手など、日本政府や自衛隊以外に無いだろう。
慎重に航海を進めるしかない。

「いや、どうせ目標は逃げやしないだろうけどさ。
報告が遅れるから急いでくれよ?」

湯大尉からの苦情も大変疎ましく感じていた。

陸上自衛隊
中国人達が海上からハイライン侯爵領に向かっている頃、日本人共は陸路を輸送蒸気機関車で現地に向かっていた。
赤井照長一等陸尉率いる偵察小隊は30名。
車両は在日米軍から購入したM1126ストライカーが2両。
偵察用バイクが4両、軽装甲機動車1両の30名の部隊を貨物として列車に積載している。
隊員の小銃はM16。
大半の装備は在日米軍に在庫を掃き出させて調達した代物である。
これは、第16師団全般に行き渡っている。
自衛隊用の列車なので、ブリーフィング用の車両も備え付けられており、副隊長の酒井二尉と路線図や街道が書かれた地図を壁に貼って眺めていた。

「新香港から王都、日本の直轄領新京を結ぶ大陸横断列車を施設部隊や土建屋が総力を挙げて3年掛かりで完成させたばかりだが、道路の方もなんとかして欲しいな。」
「年貢の迅速な輸送の為の効率重視。
まあ、当時の我が国の食糧事情は切実でしたからね。
この大陸でもすでに炭鉱は小規模ながら存在したから蒸気機関車なんて使うことが出来たわけですが。」

改めて地図を見渡す。
すでに新香港を出発して三日目。
王都を経由し、現在も敷設中の南部線でいけるのが1日分の距離。
残りの2日は街道沿いに車両で移動となる。

「ヘリを使えればすぐだったんですがね。」
「北部方面の年貢輸送に重点を置かれて、こちらの燃料の割り当ても少ないから仕方がない。
化学防護隊も出発したらしいから安全だけは確保しとかないとな。」

ハイライン侯爵領
ハイライン家館
ハイライン侯爵領は、新興の開拓領である。
かつては百万を越える民を抱え、帝国でも屈指の領土を保有していた。
しかし、戦争に負けると責任をとって公爵から侯爵に降格。
当主フィリップは、隠居を申し渡され家督相続を強制された。
ここまではいい。
皇族、貴族全てが一律に処されたからだ。
だがハイライン家は領土を転封されて今の家名に変えられてしまった。
その上こんな未開拓地に一族や朗党、公都を追放された領民の運命を託さぜるを得なくなっている。
元ノディオン公爵フィリップはこの様な状況が憤死しかねないほど不満だった。

「ボルドーは何をしている!!
もう四日も帰っておらんぞあの馬鹿息子は!!」

77 :
>>73
う〜ん、暇人だねぇ

78 :
>>74
どんな作品が好み?

79 :
前々から聞いてみたかったが、虚しくならない?

80 :
「そうした船の1隻か・・・
なるほど、『長征7号』の例もある。
我々が把握している以上に多いんだろな、そういった行方不明船は。」

乃村大臣の言葉に海保と警察の両幹部が席に座る。

「貨物船の詳細については、各捜査機関に任せるとしてだ。
最後に出てきたアンデット・ドラゴン、あれはまずい。
ハーピーもだが、船舶にモンスターを積載して日本や大陸領土に突入させてくるテロは絶対に防がないといけない。
それとな、気になる報告だが、こいつは海上に墜ちたハーピーの死骸を食ってたそうだ。」

会議室の面々は驚愕の声をあげる。

「今、子爵殿と王国大使館で検証してもらっているが、どうやら竜種には『海洋結界』が効果が薄いという結果が出そうだ。」
「そんな・・・、だから隅田川に水竜の群れが侵入出来たのか・・・」

警視庁が総力を結集して退治した『隅田川水竜襲撃事件』を思いだし、警察幹部は冷や汗を垂らす。

「『海洋結界』は年々、範囲が狭まっている。
いずれその効果が消滅することを前提に我々は防衛体制を整えなければならない。
今回の責任問題を我々に追及してくる声もあるが、我々の予算要求に尽く抵抗してくる財務省に今回の件を被ってもらう。
関係各機関はその方向で情報統制を進めてくれ。」

与党右派と野党日本国民戦線の主張通りに軍備増強の口実になるだろう。
会議の結論を述べて、解散となった。
それぞれの担当者には被災地域に対する支援や地元組織の再建など、仕事が山積みなのだ。
大臣秘書の白戸昭美が執務室で資料を渡してきた。
白戸は既に乃村の次男と入籍を済ませているが、夫婦別姓で名字は変えていない。

「高麗側の被害です。
民間人の死者48名、国防警備隊の殉職者19名。
御自慢の新鋭フリゲート『大邱』が中破してドック入りしました。
不審船の『大邱』にも小型のアンデットドラゴンが襲いかかったようです。
どうにか始末出来たようですが、甚大な損害が出ていたそうです。」

冗談抜きで帝国との戦争以来の損害だった。
実際のところ、日本本国ではともかく、高麗国国の鳥島諸島において、ハーピーの駆除作戦はいまだに続いている。
幾つかの無人島に巣を作られた形跡があり、住みつかれたようだ。
ハーピーが空を飛んで、無人島から無人島にと、逃げ回っているので、人員の足りない国防警備隊だけでは手に負えないのだ。

「こちらに来るほど数が増えなければいい。
連中にも少しは苦労してもらおう。」
「海棲亜人による襲撃事件も加えると、ろくな目にあってないから少し可哀想な気がしますが・・・」

息子の嫁の言葉に話題を変えることにした。

「府中の子爵様の報告も来てるな。
あのアンデット・ドラゴンの作成には、人間の魂千体以上必要だそうだ。。
いったいどんな奴の仕業だろうな。」
「会議の場では、誰もテロリストの正体に付いて口に出しませんでしたね。」

テロ集団が従来の帝国残党軍と違い、高い技術力を有していることから、地球人の集まりであることは明白だ。
その事の公表は地球系同盟国並びに独立都市の足並みを乱す可能性がある。
薄々は誰もが勘づいており、はみだし者達の行き着く先となっている。

「今はまだ泳がす。
連中も地盤固めの為に王国と度々衝突してるようだからな。
王国を消耗させ、手に負えなくなった時に、一気呵成に叩き潰す。
精々我々にとっての良い当て馬になってくれることを望むよ。」
「乗員が何百人もいた筈だが?」

81 :
>>78
ねぇねぇ、どうなの?

82 :
もちろんこの時点では、原子力潜水艦捜索するという意味以上のものはなかった。
なにしろ相手は原潜だ。
ガイガーカウンターが強く反応するところに行けば直ぐに発見できる筈である。

「あとは遠巻きに化学防護小隊に任せればいいさ。」
「ですよね〜」

酒井二尉もまったく同感と楽観視していた。

たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。
たが先頭の偵察用バイクで先行していた隊員から通信が入ると、雰囲気が変わる。

『爆発音並びに銃声が聞こえます。
現地は戦闘中、戦闘中です。』

赤井一尉は受信機のマイクを持ったまま各車両に通信を繋ぐ。

「各員、よく聞け。
どうやら我々の上前を跳ねようとしている輩が現地にいるらしい。
総員、戦闘準備!!
目標を奴等に渡すな!!
原潜は日本が確保する。」

一旦、通信を切ると酒井二尉が進言してくる。

「敵は明らかに重火器を使用しています。
友軍なのか確認する必要があるのでは?」
「どのみち四時間はわからん。
それまでに確かめさせろ。」

移動速度を早めて三時間で戦闘があった地点に到着した赤井一尉一行は、困惑する物体を発見する。
それは爆発のような現象に引きちぎられた何らかの生物の尻尾であった。
暗視装置で周辺を確認していたら見つけたのだ。

「直径がメートル単位、長さが15メートルか?
くそ、何がいたんだここに?」
「爬虫類系ですね。
鱗とかあるし・・・ドラゴンでしょうか?」

隊員達の脳裏に転移直後に起きた事件が脳裏によぎる。

『隅田川水竜襲撃事件』
転移直後の混乱に陥っていた日本は、食料や燃料を統制的に管理することに連日のようにデモが巻き起こっていた。
そんな時に東京湾に水竜の群れが十二頭侵入。
隅田隅田を遡上し、各橋につがいと思われる2頭ずつが縄張りとし、近隣住民を餌にせんと上陸をしてきたのだ。
深夜から明け方の間の移動であり、日中は水底で眠っ清洲橋てたので対処に遅れたのだ。
勝鬨橋、佃大橋、中央大橋、永代橋、隅田川大橋、清洲橋、清洲橋の6つの橋で、駆けつけた各警察署や第9機動隊の警官が有らん限りの銃弾を叩きつけて、8匹を仕留めるが残りの4匹が北上しながら集結。
新大橋で第二機動隊が迎え撃ち、2匹を始末するが、2匹には防衛線を突破された。
両国大橋でさらに一匹を本所警察署が仕留めるが、総武線隅田川橋梁総武線隅田川橋梁を破壊。
総武線車両が三両も川底に落ちる被害をだし、乗客・乗員300名もの死者をだした。
最後の一匹も総武線車両に押し潰されて死んだ。
最終的な死者は450名に及び、日本が異世界に放り込まれたと誰にも自覚させた事件。
この事件のあと、デモなどは潮が引くようにいなくなり、日本は異世界へのサバイバルに邁進できるようになった。
青ざめる隊員達を尻目に赤井一大尉は、銃声が聞こえる地点に目を向ける。

83 :
>>79
作品書くのが虚しくなる時あるの?大丈夫?

84 :
う〜ん、逃げに走ったか

85 :
>>83
いや、君の無駄行為何年やるのかなって

こちらは他に掲載する場はあるからいいんだけど

86 :
隊長の湯正宇大尉が心配そうな顔で船長に尋ねる。

「はっはは、もうすぐですよ、あわてない、あわてない。
もともと航路も無いとこ進んでるんだから時間が無茶なのね。
まあ、近くまでは前にも行ったことがあるから水深はわかってるけど、慎重に進んでるだけだから安心するよろし。」

実質、軍事組織に所属する湯大尉は時間に正確になっているが、船長は未だに中国人的大陸時間の感覚でいるらしい。
異世界に来てむしろ悪化しているようだ。
だか船長にも思うところはあるのだ。
普段は新京から日本への食糧を運ぶのんびりした航海ばかりなのだ。
突然に新香港政府から武警を運ぶよう命令されて、これはヤバイ仕事だと感じてはいた。
厳重な機密扱いが適用された。
新香港政府が隠し事をする相手など、日本政府や自衛隊以外に無いだろう。
慎重に航海を進めるしかない。

「いや、どうせ目標は逃げやしないだろうけどさ。
報告が遅れるから急いでくれよ?」

湯大尉からの苦情も大変疎ましく感じていた。

陸上自衛隊
中国人達が海上からハイライン侯爵領に向かっている頃、日本人共は陸路を輸送蒸気機関車で現地に向かっていた。
赤井照長一等陸尉率いる偵察小隊は30名。
車両は在日米軍から購入したM1126ストライカーが2両。
偵察用バイクが4両、軽装甲機動車1両の30名の部隊を貨物として列車に積載している。
隊員の小銃はM16。
大半の装備は在日米軍に在庫を掃き出させて赤井照長調達した代物である。
これは、第16師団全般に行き渡っている。
自衛隊用の列車なので、ブリーフィング用の車両も備え付けられており、副隊長の酒井二尉と路線図や街道が書かれた地図を壁に貼って眺めていた。

「新香港から王都、日本の直轄領新京を結ぶ大陸横断列車を施設部隊や土建屋が総力を挙げて3年掛かりで完成させたばかりだが、道路の方もなんとかして欲しいな。」
「年貢の迅速な輸送の為の効率重視。
まあ、当時の我が国の食糧事情は切実でしたからね。
この大陸でもすでに炭鉱は小規模ながら存在したから蒸気機関車なんて使うことが出来たわけですが。」

改めて地図を見渡す。
すでに新香港を出発して三日目。
王都を経由し、現在も敷設中の南部線でいけるのが1日分の距離。
残りの2日は街道沿いに車両で移動となる。

「赤井照長ヘリを使えればすぐだったんですがね。」
「北部方面の年貢輸送に重点を置かれて、こちらの燃料の割り当ても少ないから仕方がない。
化学防護隊も出発したらしいから安全だけは確保しとかないとな。」

ハイライン侯爵領
ハイライン家館
ハイライン侯爵領は、新興の開拓領である。
かつては百万を越える民を抱え、帝国でも屈指の領土を保有していた。
しかし、戦争に負けると責任をとって公爵から侯爵に降格。
当主フィリップは、隠居を申し渡され家督相続を強制された。
ここまではいい。
皇族、貴族全てが一律に処されたからだ。
だがハイライン家は領土を転封されて今の家名に変えられてしまった。
その上こんな未開拓地に一族や朗党、公都を追放された領民の運命を託さぜるを得なくなっている。
元ノディオン公爵フィリップはこの様な状況が憤死しかねないほど不満だった。

「ボルドーは何をしている!!
もう四日も帰っておらんぞあの馬鹿息子は!!」

87 :
>>57
まずはここだな

88 :
>>59
次はここ

89 :
その後は別の魔術師が軽量化の魔法を掛けて、力自慢六人掛かりで外に持ち出したらしい。
この魔術師二人含む八名は疲労困憊で戦力にならないらしい。

「ミサイルだか魚雷だか知らんが、要するに火薬の詰まった筒だろ?
銃で狙い撃ちして爆発させれば、外の連中を一掃出来るんじゃないか?」

湯大尉はその光景をイメージしてみるが、否定的に首をふる。

「狙い撃つ為には洞窟入り口の半魚人共を掃討してからになる。それに陣幕の中の魚雷をどう撃ち抜けばいいんだ?
小銃で魚雷を撃ち抜いて爆発させられるのか?
博打的要素が強すぎて賛成できん。」
「御主等の肩掛け式大砲ならなんとかなるんじゃないか?」

フィリップに言われて武警隊員達の背中に目をやる。

「RPG−7が三本、RPG−22が一本・・・いけるか?」

他にアテもないので、その作戦を採用することにした。
洞窟がシーサペントの体当たりでも崩れない強固なことを確認して、後方に注意しながら洞窟内でRPG−7を発射する。
洞窟入口で爆発が起こり、ハイラインの兵士達と武警隊員達は、洞窟内部で倒れ付しているマーマン達に銃剣や槍でトドメを刺しながら前進する。
シーサペントが顔を洞窟に向けて、こちらを凝視している姿が目に入る。

「もう一発喰らわせてやるか」

RPG−7を背負った武警隊員の背中を叩くと隊員は発射の構えをとる。
だがシーサペントが少し顔を上げると、その口には魚雷が咥えられていた。
魚雷が一本洞窟に投げ込まれるが、狭い洞窟内では確実に衝突必至となってしまう。
RPG−7の発射された弾頭は止まらない。

「逃げろ!!」

弾頭が魚雷を直撃すると、一目散で逃げ出していた湯大尉、イーヴ達を爆風が吹き飛ばし岩肌に叩き付ける。
フィリップやボルドーが武警隊員や兵士達を助け出しながら爆発で一部が崩落を始めた洞窟のさらに奥に退く。
数名の武警隊員や兵士達が崩れて来る土砂に飲み込まれていく。

「まさか敵に先にやられるとはな。
わかっててやったのかな?」

湯大尉を肩に担ぎ上げているフィリップも困った顔で呟く。
イーヴを背負っているボルドーが応じる。

「放り込むのに手頃な鉄の棒としか思ってなかったのでしょう。
蛇使いも驚愕してると思いますよ?」

意識の戻った湯大尉は、武警隊員の無事を確認するが、四人が崩落に巻き込まれて戦死していた。
ハイラインの兵士達も7名が還らぬ人となっていた。
また、負傷して戦えない武警隊員14名。
負傷者を含む17名が小銃を失っていた。
搬送するさいに邪魔だと放棄させられたらしい。
フィリップの判断だ。

「RPGも全滅か。」

洞窟に入った武警隊員は40名が、負傷者14、戦死4。
小銃を保持している者は13名だけで洞窟内に敷いた防衛線で抵抗を続けている。
崩落が止まり更に狭くなった洞窟内だから少人数でも持ちこたえれるのだろう。
長城1、2の運転手や銃座にいた隊員は、車両から逃げ出すさいに拳銃以外持ち出せていない。
予備の弾薬が入った箱も崩落の時にそのほとんどを失っていた。

90 :
「こちらも似たようなものじゃ。
銃士17、兵士31、人夫や職人にも武器を持たせて40・・・、かつては二万の軍勢を指揮していた儂が今ではたった百名あまりか・・・落ちたものだ。」

その指揮下の兵士に自分達も加えられてることに気がつき湯大尉は愕然としていたが、負傷者を救護していた葉曹長が小声で呟いてくる。

「・・・大尉、これを・・・」

手渡されの放射能の上昇を示すガイガーカウンターだった。
今までほとんど反応がなかったので忘れていたが、ここに来て微量だか放射能濃度が上がっているようだ。

「そういえばこの奥にあるんだったな。許容被爆線量ってどれくらいだっけ?」
「今までは洞窟が天然の防護壁になって、放射能被害を抑えていたのかもしれません。」
「或いは九年のノーメンテで遂にガタが来たのかだな。」

湯大尉は、ふとこんな都市伝説を思い出していた。
日本と一緒に転移してきた千島列島と樺太のロシア人達は、日本からの援助と引き換えに千島列島と南樺太を返還し、北サハリンに引き上げていった。
陸自第5旅団は大幅な増強を受け第5師団に再建され、管轄を千島列島に移して各島の調査に乗り出した。
中千島の新知島に駐屯の調査に来た第5施設大隊は、同島で旧ソ連時代に建設された潜水艦隊基地を発見したという。
同大隊がその後、何を発見したのかは知らないが基地周辺は民間人等の立ち入り禁止区域に指定された。
一説によると、放棄されていた旧ソ連の潜水艦を日本が手に入れたのではないかと言われている。
だが1994年以来放棄されていたその原子力潜水艦は小規模だが放射能漏れをおこしていたという。
洞窟をさらに奥に進み、洞窟内の海面に浮かぶ『長征7号』の姿を確認した湯大尉はこの艦を持ち帰っていいのか疑問を覚えてきた。
銃声が段々大きく聞こえてきた。
だいぶ押し込まれているのだろう。
マーマン達の鎧や盾は確かに頑丈だが、仕留めることは難しくない。
だが狭い洞窟内、積み重なった死体自体が魚肉の壁となって銃弾を防ぎ、その屍を乗り越えながらマーマン達が前進してくるのだ。
もはや全滅は時間の問題と覚悟せざるをえない。
そこに指揮官として、胸に装着していた秋葉原で購入したトランシーバーが通信を受信する。

「こちら成竜1の王少尉、聞こえるかどうぞ?」

「湯大尉だ。成竜1、作戦は失敗だ。
退却して新香港の指示を仰げ、どうぞ。」
「成竜1、その命令に対し、意見具申。
我々は自衛隊と合流した、どうぞ。」

その言葉に湯大尉は希望を取り戻す。

「成竜1、現在位置で指示を待て。」

締めの言葉を言わずに湯大尉は、フィリップやボルドーを呼び出した。


陸上自衛隊
偵察小隊
赤井一尉率いる陸自偵察小隊は行軍中に、銃架や窓から射撃しながら山道の坂道をバックしてくる三菱パジェロ2台を発見する。
所属は車体に書かれた『新香港武装警察』の漢字で確認。
追跡しているのが数百体のマーマンだと理解すると、戦闘開始の号令を掛ける。
ストライカーICV(兵員輸送車)2両の40mm擲弾発射器Mk 19が火を吹き、武警車両に迫っていたマーマンの一群を粉砕する。
こちらに気がついた別の一群が、陸自側に進軍してくるがマーマンは山登りが余り得意で無いらしく歩みは遅い。
既に森の中に布陣していた偵察隊隊員達は、山道に密集しているマーマン達にM16の弾丸を集中させる。
山道をバックし続けてきた武警隊員達も車から降りて、40mm擲弾発射器Mk 19で散り散りになったマーマンを狩っていく。
マーマン達は銃弾の攻撃に訳もわからずに右往左往し、身を伏せる術も知らない。
巨大な貝殻で造った鎧や盾も最初の銃弾は受け止めるが、2発目、3発目と削られていき粉砕され、屍となっていく。
そこかしこで、手榴弾が爆発する音が響き渡る。
あまりの派手な浪費ぶりに、赤井一尉は弾薬の残量が心配になってきた。
ちょうど、木陰で射撃をしていた酒井二尉に話し掛ける。

「ちょっと数が多いな。
なんだってこんなに海の種族が陸地に集まってるんだ?」

91 :
「異常ですね。
何か連中にも譲れないものがあるんじゃないですか?」

ようやく逃走をはかるマーマンは無視して、前進してくるマーマンを掃討していった。
掃討後に合流した王少尉から事情を聞き出すことになる。

「洞窟と無線は繋がるのか?
その魚雷を爆破する作戦はこちらが引き継ぐ。
洞窟内の人間は原潜に乗り込み、立て籠って崩落に備えろ。」

準備の間にフィリップから得た情報もトランシーバーで伝えられ、作戦に組み込まれていく。
赤井一尉と酒井二尉は状況の確認を行う為に山裾まで徒歩で降りていく。
双眼鏡から確認すると、シーサーペントは陣幕から魚雷を一本くわえるところだった。

「40mmは陣幕を狙え。
AT4 (携行対戦車弾)は直接、シーサーペントの魚雷を狙え。
酒井、蛇使いとやらは確認出来たか?」
「ターバンを頭に巻いて、法螺貝吹いてる奴がいます。
たぶんあれでしょう。」

3名の隊員が、在日米軍から購入したAT4 (携行対戦車弾)を準備する。

「貝殻で造った王冠みたいのを被った奴もいるな。
あいつが指揮官か。
まとめて吹き飛ばしてやる。」

マーマン達もまだ洞窟入り口付近を中心に500は陣取っている。
山道から40mm擲弾が連続で発射される。
山裾からはAT4 (携行対戦車弾)が3発。
陣幕の中に吸い込まれる40mm擲弾が着弾すると土煙が巻き上がり、直後に魚雷四発を誘爆させる。
大爆発の炎が周囲のマーマンの大軍を飲み込み、生き残った者達も衝撃波で立っていられるものはいない。
照準器で狙いを定められたシーサーペントがくわえる魚雷は最初の一発目のAT4 (携行対戦車弾)が直撃して爆発し、頭を完全に吹っ飛ばす。
続いて2発目、3発目が着弾して、シーサーペントの巨体を爆発で切り裂いていく。
炎上したシーサーペントの無数の肉片がマーマン達に降り注ぐ。
近くにいた蛇使いも巻き込まれて潰されている。

「掃討戦に移行する。
弾薬が無くなるまで殺れ。
海に逃げる奴は無理にやらなくていい。」

森林を利用して隠れ潜んでいた偵察隊員達は、逃げ惑うマーマン達に向けて引き金を引き続ける。


『長征7号』艦内
戦略原子力潜水艦内部に逃げこんだ湯大尉、フィリップ、ボルドー一行は、巨大な爆音の後に岩や土砂が『長征7号』に降り注ぐ音を不安げに聞きながら座り込んでいる。

「天井崩れたりせんじゃろうな?」

フィリップの言葉はこの場の全員の気持ちを代弁している。
だが湯大尉はそれを認めるわけにはいかない。
誰かがパニックを起こして馬鹿をやらかさないように士気を鼓舞する必要は感じていた。
今は呉中尉が艦内を点検しているので、湯大尉が説明の為に立ち上がる。

「この艦は海中を何百メートル沈んでも大丈夫に出来ている。
安心してくれ。」

あまり海軍艦艇の知識に付いては自信がない。
拙い説明で伝わったか不安は残る。

92 :
「なんと最初から沈むことを前提に造られた船なのか?
頼りないのう・・・」

フィリップの指摘にボルドーは神に祈り始め、イーヴは自決を試みみようとして、周囲に抑え付けられている。
その光景に湯大尉も天を仰ぎ見ていた。
武骨な天井とパイプしか見えなかったが・・・
呉中尉が艦内にあった防護服を着て現れると、全員が艦の角に身を寄せて固まる。
防護マスクを脱いだ呉中尉は、呆れた顔で聞いてくる。

「大陸の人間は潜水艦について知らないんですか?」
「大陸の海軍は潜水艦を探知することも出来ずに殲滅されたからな。情報としては知ってても、実物を見たことがあるのはここの連中が最初じゃないかな?
新香港海警局も保有してないからな。
今までは・・・ところで放射能漏れはどうなった?」

「原子炉に通じるパイプが軽く傷ついて小さな穴が開いてました。今は塞いでるから大丈夫ですよ。まあ、応急処置ですが。」

そう言って右手に持ったガムテープを見せてくる。
それを見た瞬間、湯大尉は呉中尉に向けて拳銃の銃口を向けた。

「いや、詰め物を固定するのに使っただけですよ?
隔壁もちゃんと閉めましたから・・・」


陸上自衛隊
偵察小隊
赤井一大尉は偵察隊員と武警隊員10名が洞窟の入り口に到達した。
マーマン達の掃討はほとんどは死亡している。
だか王冠を頂く大柄のマーマンが巨大な三ツ又の矛をこちらに向けている。

マーマン達の王であろう。
すでに傷だらけて体の至るところが流血している。

「オマエ達モアノ船ヲ求メテキタノカ・・・」
「人の言葉がわかるか・・・その通りだ。
お前達にはあの艦は何の価値もあるまい。
なぜ、こんな戦いになった?」
「アノ船ハ我ラノ王国ノ入リ口ニ鎮座シ塞イダ。
我ラハタダ王国ニ帰リタカッタダケダ。」

なんという無駄な戦いだったのかと赤井は愕然とする。

「我々はあの艦をどかして持って帰ろうとしただけだ。
無駄な戦いだったな。」

「ソウカ、多クノ同族ニ助ケヲ求メ、命ヲ失ワセテシマッタナ。
ケジメヲ・・・」

トライデントを構えて、王は自衛隊員達の前に突き進んでくる。

自衛隊隊員達は誰も撃てなかった。
たが王は一太刀の前に斬り伏せられた。

「遠からんもの音に聞け!!
我こそは、ノディオン前公爵フィリップ!!
先帝陛下より賜りし宝剣にて、敵王撃ち取ったり!!」

『長征7号』から出てきたフィリップ、ボルドー、湯大尉達だ。

93 :
「日本軍諸君。
援軍大儀であった!!」
「父上、もう少し空気をお読みください。」


日本国直轄領
新京特別区
大陸を統括する総督府のある新京は完全に人口的に造り出した町だ。
現在では皇都が灰塵と化したことにより王都に次ぐ規模を誇る都市となっている。
南区には自衛隊の第16師団の司令部が置かれ、第32普通科連隊、第16特科連隊が駐屯して防衛を担当している。
そして貴族達に賦役を命じて建設した巨大な外壁が新京を守っている。
港湾部には日本本国に食料や鉱物資源を送り込むための大規模な港が建設された。
また、備蓄倉庫、工場、労働者の為の住宅地を形成するコンビナートとなっている。
空港までここに作られているので、自治体の名称は港区になっている。
文字通りの意味で日本の生命線である。


新京国際空港にチャーター機で訪れて新香港からやってきた林主席は、新香港武装警察長官常峰輝武警少将を随員に駐新京新香港領事館職員に用意された馬に牽引されるキャンピングトレーラに乗り込む。
通称、キャンピングキャレッジ、もしくは家馬車と呼ばれる最近イチオシの馬車兼住居の車両だ。
内部は応接仕様になっており、林主席と常少将はソファーに座りながら領事館職員から渡された新聞をテーブルに広げて目を通していく。

『日本人大陸移民210万人突破!!本国人口1億千九百万人時代の到来!!』

これは論評する気は無いので、次の記事に目を通す。

『百済市の市長選出。課題は45万人高麗国の大陸への窓口になれるか?』

高麗国は日本と一緒に転移してきた旧大韓民国の巨済島、南海島、珍島の3島が日本に観光や仕事でに来ていた南北朝鮮人15万人を取り込んで建国した国だ。
その高麗国も大陸に進出してきた記事だ。
百済市も南部貴族の港町を接収して出来た町だが、現在の住民は近代的な生活をおくれないと批判が政権に殺到しているらしい。

『北サハリン、日本企業との提携で豊原市から稚内までのパイプライン開通。
近日中にサハリン3の開発に着手。』

北サハリンの基幹事業の油田開発は、日本に輸入が増加することになる。
日本本国は既に一般乗用車はほとんど走っていない。
だがようやく人口九百万の北海道だけは、転移直後レベルまで回復する見通しとなった。
高い食料生産が日本で最も裕福な地としてな地位に押し上げたのだ。

「次は我々の東シナ海油田だな。
沖縄経済と結び付き、日本から見放されないようにしないといけない。」


『新香港政府、ハイライン侯爵領への貿易港建設の契約』

最後のは『長征07号』を崩落した洞窟から運び出す為に結ばされた契約だ。
港の建設には侯爵領の住民が雇われる。
ノディオンを追放された住民への謝罪と公共事業の意味も込められている。

「なかなか痛い契約だったが、将来に期待させてもらおう。
地球的な港では無く、この大陸のレベルに合わせたものとは日本からも言われてるからな。」
「しかし、『長征07号』は惜しかったですな。
損傷が酷くて、潜水が不可能とは、皮肉が聞いています。」

まったく、常峰輝武警少将の言う通りで、修理の目処さえ立たない有り様だ。
核兵器は日本に引き渡すのは取り決め通りだったが、『長征07号』を新香港の戦力として期待していたのだ。

「まあ、他にも使い道は色々あるだろう。
電力事情の多少の足しにするとか、ミサイルのプラットホームとかな。」

94 :
そこはこれから官公庁が集中する中央区にある大陸総督府の城での会議で決められることになる。
大陸総督府の城には連日のように大陸各所から貴族や街の代表者が陳情に訪れている。
開発の誘致や日本人とのトラブルの裁定、本領安堵の免許更新、再発行、モンスター退治の自衛隊の出動の要請など多岐に渡る。
総督府の執務室には多数のファンタジー小説やオカルト雑誌が本棚を埋め尽くす。
少しでも現状を理解してもらう為と頭を柔らかくしてもらう為だ。
他には江戸幕府に関する資料が本棚の一角を占めている。

「まさか、首獲りの恩賞を求められるとは思ってなかったな・・・」

大陸に存在する統一国家である王国を傀儡にする男、秋月春種総督府は机の上で頭を抱えている。
新香港の主席との会談などより気が重くなる。
何しろハイラインの代表がこの部屋にこれから生首を持って来るというのだ。
日本の古い文献を漁り、このような文化があったことを知られてしまったのだ。

「今後もこのような事態が続いたらどうしましょうか・・・部屋が生首で溢れるような事態は、ちょっと避けたいのですが・・・ああ、ここがよろしいかと。」

秘書官秋山も困り顔で書類を渡してくる。

「元帝国皇族天領アンフォニーか。
男爵領になるのかな?
ハイライン侯爵領からも比較的近くて、将来的な南北線の駅建設の候補地の一つか。
まあ、申し分ないんじゃないかな?
地下資源に関してはどうだ?」
「亜鉛、石炭、鉛の二号鉱山。銅に関しては三号鉱山の採掘が開始されています。現在は第6鉱山開発地域に指定されてました。
これは総督府直轄ですが、鉱山町に関する利権はアンフォニー領統治機関に委ねられるでしょう。」

数字の割り振りはこの九年で見つり、日本の管理下になった鉱山の順番である。
ちなみにアンフォニーが現在の調査対象としては最新のものだ。
南北線は南部地域に植民都市百済との間に引く列車の一つだ。
首一つの恩賞として、ノディオン元公爵に与える隠居地としては惜しくも無い。
ハイライン侯爵の申請によれは、将来的にこの新京に留学中の妹に分家として相続させる予定となっている。
公安からの報告では、その妹君は親日で進歩的らしい。

「進歩的という言葉に多少違和感を覚えるが承認しよう。
安堵状の手配は?」
「完成しております。」
「よろしい。
現地の総督府支所と駐屯の第六分遣隊への連絡はよろしくな。
しかし、・・・やっぱり生首は勘弁してくれないかな・・・」


大陸総督府の城門に到着した林主席と常武警少将は家馬車から降りたところで度肝を抜かれる。

「新香港主席林修光閣下とお見受けいたします。
私はハイライン侯爵家の長女ヒルデガルドと申します。
この度は、父が新香港武装警察への援軍並びにマーマン王を討ち取った功績を認められてハイラインの代表として、大陸開発院に参上仕りました。
主席閣下とも御同席して頂ければ幸いなのですが、如何でしょうか?」

林主席としても金髪の美少女と同行することに依存はない。
ハイライン侯爵家と新香港の親密ぶりを日本側にアピールする良い機会でもある。
問題は人力車から車夫に手を引かれて降りてくる美少女ヒルデガルドの従者が、銀の皿に乗せられたマーマン王の生首を持っていることだろう。
ある程度の経緯を聞いているが、実際に見せられるとドン引きしてしまう。

「ご挨拶痛み入ります。
麗しき御令嬢と同行出来ることに依存はありません・・・ところで、その首は例の?」
「はい、マーマン王の御首に御座います。
ハイラインより、塩漬けにされて日本の宅急便で送られてきました。
総督閣下に献上する為に持参した次第であります。」

95 :
「そうなのですか?
では、失礼して先に謁見させて頂きますわ。
主席閣下もまたのちほど・・・」

ヒルデガルドが職員や警備員を騒然とさせながら城門に入っていくのを見送り林主席は決断する。

「総督との会見は明日にしてもらおう。」
「閣下、お気付きでしたか?
あの従者と車夫、日本人でしたぞ。」

気力の抜けて脱力していた林主席に常少将が注意を促す。

「ふむ、何者か調べておけ。」

ハイライン侯爵領
海上自衛隊
多目的支援艦『ひうち』
「牽引ワイヤーロープ固定!!」「曳航装置、正常作動。」
「『長征07号』、岸から離れました。」

曳航装置は、航行不能となった船舶をワイヤーロープで接続し港や修理地などへ牽引し航行するための装置である。
多用途支援艦『ひうち』の曳航装置は、補給艦『ましゅう』や護衛艦『みねゆき』などの大型艦を曳航した実績を持っている。
乗員からの報告に艦長の明智三佐は満足そうに頷く。
海上にはこの作業の為に第16施設大隊を運んできた輸送艦『おおすみ』と、近海を警戒している護衛艦『しらね』が姿を見せている。
護衛艦『しらね』は転移前に除籍後舞鶴東港に係留保管され、標的艦となる予定であったが、転移後の戦力不足から現役に復帰。
再び偽装を施されて、新京地方隊の一翼を担っている。
『長征07号』、新香港海警局に入局して昇進した呉定発大尉が臨時の艦長代理として乗り込んでいる。
なにしろ新香港で潜水艦乗務経験者を集ってみたが二人しかいなかった。
彼等を加え、呉大尉は貴重な新香港サブマリナーとして、後進の教育にあたることになっている。

「もっとも本物の潜水艦なんて、手に入るのかね?」

呉大尉自体はあまり期待していない。
だが再就職出来たことには素直に喜んでいる。
『長征07号』は沖合いに停泊するフリゲート『常州』と合流して新香港に向かうことなる。


『長征07号』が着底していた場所をどけると全長100メートルを越える岩穴が海底に存在した。
『長征07号』はちょうどこの海底の岩穴にすっぽり嵌まっていたらしい。
海上自衛隊新京地方隊からかき集めた潜水士達が王国の入り口に侵入する。
途中で海底洞窟の方向が代わり、水の無い地底洞窟に到達する。
そこで彼等が目にしたものは、三千人規模が住んでいたと思われる岩を削って造られたと思われる海底都市と白骨化したマーマンの遺体だけだった。


「共食いの形跡が見られたそうです。
他にも座礁船から運びこまれたと思われる生活物資、財宝が確認されました。
何年も閉じ込められ、食料が尽き、死の王国と化したようです。」

撮影された映像をみせながら、ハイライン家の屋敷で赤井一尉が鎮痛な面持ちで探索の結果をボルドーとフィリップに報告する。

「いずれは縦穴を掘って、兵や冒険者を送って探索しよう。
財宝の権利はこちらで良いのかな?」

だが即物的なボルドーの言葉に赤井は頷く。

「財宝に関してはこちらは権利を放棄します。
あと、縦穴を掘るのは慰霊碑の建設の資材調達のついでまでですよ。」
「どうせなら祠や神社とやらも造っていかんか?」

フィリップの提案に赤井は考えてみる。

96 :
では第三話

97 :
とりあえず5話まで終わり

98 :
H22

99 :
こっちは4話

100 :
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

L34

101 :2019/03/06
中国映画の「流浪地球」みたいなもんですか?

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あなたの文章真面目に酷評します Part107
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