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【RPN】文堂珈琲館part1


1 :2018/03/14 〜 最終レス :2019/12/21
前身スレ: http://itest.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1519338178/l50

このスレは、文堂珈琲館という架空の喫茶店を舞台に、各々の作ったキャラに成りきって他の客や店員との会話や関係性を楽しむことを目的としています。

反応すること・しやすさを心がけ、一人で暴走するのは避けてください。

以下の(>>2-4あたり)ルールを守って書き込みましょう。

2 :
【禁止事項】
・荒らし行為
・キャラクターの殺害、その他違法行為
・別作品のキャラを丸ごと使うこと(ただし設定の一部を利用するのはあり)
・世界観を崩壊させるような設定の投下

【ルール】
・基本的にオリジナルのキャラを使うこと
・初登場のキャラクターは、その特徴に関するわかりやすい説明をいれること
・客はまず、飲食物の注文をすること(メニューは>>4を参考にしてください)
・参加者同士で自由な会話・設定の拡張を行うこと
・時間帯の変更をする時は、「時計の鐘が鳴った。【朝/昼/夕方/夜】だ」という文章を入れること

【表記上のルール】
・地の文は名前欄に場所名を入れて書く(第三者視点を推奨)
・台詞・心情描写は名前欄にキャラ名を入れて書く
・台詞は必ず「」で区切る

3 :
現在の設定一覧

【文堂珈琲館】
一戸建ての老舗喫茶。

一階→店舗部分。ゆったりとできる程度の広さで、店員との会話や豊富な蔵書を楽しめる。

二階→二階全体が物置部屋になっている。
先代マスターが収集した骨董品や本などが置かれており、客にも解放されている。

【人物】

《町田 小枝(まちだ こずえ)》
亜麻色の髪をポニーテールにした女性(21)。
先代マスターの父が倒れ、急遽コーヒーの達人鴨島を雇用した。
立派なマスターを目指して頑張っているが、鴨島の方がそれっぽいので今のところ客にはバイトと思われている。

《鴨島 翔昭(カモジマ ショウショウ)》(72歳)
文堂珈琲館のマスター。店長の町田の要請によりこの店で働く。
白髪オールバックの老紳士を体現したような人である。
身長182cm、年齢の割に筋肉質。
呼び名は“翔ちゃん”

《ニャンティ・ペロティ》
アルバイト。19歳。見た目は女性。身長134cm。
髪型はツインテール。無表情。白い肌にピンクの唇。
南の島国「ゴチャン」から来た。外国人というよりはただのネコに見える。

※店員さん募集中です

4 :
    【MENU】

・コーヒー(ホットorアイス)

ブレンド 350
アメリカン 350
キリマンジャロ 400
モカ 400
ブラジル 400
ウィンナーコーヒー 450
エスプレッソ 450
カRテ 450
ガテマラ 500
ベトナム(店長お奨め) 500

・紅茶各種 350〜450
・ハーブティー各種 350〜450
・ココア 350
(各ホットorアイス)

・ジュース
100%オレンジジュース 400
100%マンゴージュース 450
100%タロイモジュース 100
ミックスジュース 450
レモンスカッシュ 400
クリームソーダ 400

・軽食
サンドイッチ各種 450〜650
トースト 250
カレーライス(並、大盛、ドカ盛) 500 650 800
オムライス 550
ハンバーグプレート 850
チーズハンバーグプレート 950
スパゲッティーナポリタン 500
ニャンティ特製ゴチャン風日替りランチ  
 380

モーニングメニュー(A、B、C) 500

・デザート
チーズケーキ 400
チョコレートケーキ 400
フルーツケーキ 450
白いだけのケーキ 500
タロイモとトウモロコシの萌え萌えケーキ 150
日替り動物さんアイスクリーム 700

・アルコール(夜)
ビール 500〜
ワイン 450〜
カクテル各種 500〜

==================
その他、お客様のご要望にお応えいたしますのでお気軽にお申し付け下さい

5 :
新人アルバイトのニャンティは、厨房でオムライスを作る練習をしていた。
小さな身体にエプロンが大きすぎ、余って後ろに垂れた紐がネコの尻尾のように揺れている。
無表情なのだが、その動き方からウキウキしているのが見てとれる。

6 :
「よし、完璧なオムライスの完成である」
その言葉通り、ニャンティの前には絵に描いたようなオムライスが出来上がっていた。
「あとは……昨日ネットで調べた通り、日本の喫茶店でオムライスを提供する時に行うという儀式をやるだけだ」
そう言うと黄色い薄焼き卵の上にケチャップでハートを描き、両手でハートを作り、照れ臭そうに高い声で言った。
「おいしくなぁれ、もえもえきゅん……」

7 :
「ショウショウ殿、小枝……ちゃん。これでよいのだろうか? よければ味見をお願いします」

8 :
「おお!これは素晴らしいですね。この歳でこのような活動に参加出来て嬉しい限りでございます。」

9 :
>>7
「ショウショウ殿などとよそよそしい呼び名はおやめください。翔ちゃんと皆様からはお呼びされているので是非そのように。」

10 :
「ショウ……ちゃん」

11 :
「早く奉仕がしたいです。最初のお客様、早くいらっしゃらないですかね」

12 :
私、某小説投稿サイトで批評をやっております歌川ロマンと申します。
53歳バツイチの♀でございます。
今日もまたこのカフェに参りましたのは仕事……ではなく、このお店は本棚に懐かしの「白鳥麗子でございます」を置いてらっしゃるので贔屓にしておりますの。
あ、マスター(?)がとてもナイスな老紳士でいらっしゃることも理由のひとつかしら。

13 :
「あら、マスター……。何か急激に老け込んだのではありませんこと?」

14 :
「いらっしゃいませ、ご主人様」

15 :
「あら、あらまぁ新しいメイドさん?
と言いますか何時からこのお店はメイド喫茶になりましたの?
今日もマスターお奨めのベトナムコーヒーにしますわ。あれ泥のように美味しいの。病みつきよ。
さてそれでは早速漫画を読み始めるとしましょう。今日は『オマタかおる』に致しますわ、ホホホ……」

16 :
やっほー店長ぉー
またまたあそびにきたよ〜☆ミ
新装オープンおめでとぉ〜!

あたしは萩尾望都の「精霊狩り(昭和46年)」読みたいな!

17 :
あたしは雛森あゆみ17歳
漢字で書くと雛森波間咲17歳
誰も一発で読めた奴はいないのでひらがなで通すことにした

どこにでもいる平凡な見た目の美少女だ

昭和の少女マンガマニアなのでレア物をたっぷり置いてるこの店が大好きでよく来る
「精霊狩り」の文庫本ではなく単行本を置いてる店なんてこの世でここだけだ!

でも本当のあたしのお目当てはそれよりも……あれっ?

18 :
「翔ちゃん……ちょっと見ない間に白髪が増えまくってかっこいい」

19 :
「いらっしゃいませ、ご主人様。ご注文は?」

20 :
「翔ちゃんを……あたしにください」

21 :
「『ニャンティ特製ゴチャン風スペシャルランチ』ですね? 了解しました」

22 :
>>21
「ニャンティさん、勝手に注文を捏造してはいけませんよ。あゆみさんも一旦落ち着いてくださいな。精霊狩りの続きです。」

23 :
だめ……

だめ…….:*:・'°☆

目がハートマークになって何も見えない
何も聞こえない…….:*:・'°☆

今なら何を出されても心ここにあらずで口にしちゃいそう…….:*:・'°☆

あぁ……

恋はデンジャラス.:*:・'°☆

24 :
>>15
「お待たせ致しました。ベトナムコーヒーになります。どうぞごゆるりと。」

25 :
「ニャンティさん。取り敢えずジャーマンカモミールティーを淹れてあげてください。少し興奮なさっているようですので。確か紅茶の棚の右下にあったはずなので、お願いします。」

26 :
「ありがとう。この一杯が私にとって至福の一時を下さいますわ。あとはあの小娘を黙らせてくだされば最高なのですけどね。ホホホ……」

27 :
>>20
「お待たせしました。ジャーマンカモミールティーでございます。このタロイモは私からのサービスです」

28 :
「あら、小娘が何も言わずにぶっ倒れてしまいましたわ。青春って怖いわね。
とにかく静かになりましたこと。ホホホ……。お休みなさい」

29 :
「おはようございます。
良い天気です。TVのニュースによるともうすぐ桜が咲きます。
さて今日も新しいお客様をお待ちしておりますよ」

30 :
「ランチの時間になりました。
本日のニャンティ特製ゴチャン風日替りランチは、私も大好物の焼パイナップル定食です。特別サービスで丸焼きにしてみました。
どうぞご賞味下さい」

31 :
ニャンちゃんの萌キュンニャンちゃんの萌キュンニャンちゃんの……はっ!?
いけない、あまりの可愛さにぼーっとしてた。
いつの間にか昼になってるし、私も張り切っていかないと!

32 :
「ショウちゃんさん、ニャンちゃん、おはようございます。ところでその手に持ってる香ばしい匂いのする黒い物体は一体……?」

33 :
「これは爆弾です。今夜国会議事堂に仕掛けよとの任務を受けました。ちなみに私は嘘をつくのが苦手なので嘘をつく練習をしています」

34 :
>>32
「本当は、これはゴチャン産のパイナップルです。見ての通り真っ黒なのでブラック・パイナップルと呼ばれています。そのまんまです。
普通のパイナップルに比べて果汁が肉汁のようなのでご飯によく合いますよ」

35 :
「ふわー、斬新だけどおいしそう。ゴチャン産の植物ってあんまり出回ってないし、きっとお客さんもびっくりしてくれるよ!
じゃあ……ああ、あの席からの注文なんだ。
わたし、運んできますね」

36 :
「かじると真っ赤な果汁がドバドバ飛び散るので気をつけるように伝えて下さい」

37 :
「ところで小枝……ちゃん。BGMにゴチャン語のポップスをかけてみたいのですが……引かれるでしょうか」

38 :
「歌詞によく『キェーッ』とか『クェーッ』とか『ンコーッ』が入りますので……」

39 :
そんな主張の激しいBGMがあってたまるか!
と突っ込みたくなるのを堪えて、私は務めて穏やかに笑って言った。
「不許可です」
ニャンちゃんは口ではハイと頷きながらも、そわそわと音響機器を見ている。
「絶対に、絶対にこっそりBGMを変えたりしたらだめなんだからね」
私は再三念押しすると、今度こそ料理を持って客席に向かったのだった。

40 :
突然BGMのジャズが止まったかと思うと、美しい星空のようなアコースティック・ギターの音色が店内に広がった。
続いて少女のような母のような優しい歌声が、洗練された都会に緑と明るい雨をもたらすように降り注いだ。

41 :
「♪ティリ タラ キェー イリー
ズゥォー ダ ワ ンコーッ♪

♪ゾンテ イシ ンベー ヨー
ターイ ターイ シャーン クェーッ♪」

42 :
「やはりスカシベ・ピッピの『シャン・ホー・ジューシチ・ヤン』は最高だ。つい合わせて歌ってしまった」

43 :
「ピッピの優しい歌声にきっと小枝の心も溶けるに違いない」

44 :
「これは何とも言えない音楽ですね。ゴチャン産パイナップルからは連想できない優しい音楽ですね。初めて聴くゴチャン音楽ですが、こういうのも時には良いものですね。」

45 :
(^o^)

46 :
ニャンティは初めて『ニコニコカード』を使用した。
表情筋が未発達なため無表情になりがちなのをカバーするべく前日せっせと作って来たのだった。
もちろん他に『激おこカード』『悲しみのカード』も作ってある。

47 :
「さっきから何ですの? このわけのわからない言葉の音楽は。
いつものマスターお奨めのジャズピアノに戻してくださらないかしら」

48 :
角の席ではいかにもRockやってますといった外見の若い男5人が熱く語り合っていた。

キャシャーン(vo)「なぁ、わかってんのか? 俺達『地獄のバレンタイン』ほどRockなバンドはいねぇんだ」

モンスター(G)「わかってるぜ、キャシャーン。俺達『ジゴバレ』は最高のバンドさyeah!」

ゴーレム(B)「あの姉ちゃんかーいーなぁ……。ちょっとセクハラして来よーかなー……。でも、事後バレしたらヤバいかなー……」

鉄頭(G)「俺達ならばいつの日か日本をこの手に……あクェーッ」

キリサキ(D)「なんだこのクソみてぇな音楽w 『クェーッ』って何だよw」

49 :
キャシャーン(vo)「オッサーン! ナポリタン遅ぇよ! 注文してからもう3分も経ってんよ!」

モンスター(G)「あとこの音楽止めろ。イライラするわAh!」

ゴーレム(B)「うわー、あっちにいるポニーテールの娘もいーなー……いーなー……」

鉄頭(G)「むぅ。クェーッ……か。何だろう、やみつきになる」

50 :
「そうか、小枝はこうなると私が傷つくかもしれないと読んで不許可をくれたのだな」ニャンティは音楽を止めると、元のジャズに戻した。

51 :
「小枝、ごめんなさい」ニャンティは小枝の前へ行き、ぺこりと頭を下げた。

52 :
食事を運び終え、空きテーブルの上の食器を片付け始めていると、不意にBGMが変わった。
流れ出したのは綺麗な外国語の歌だ。
ところどころキエーやらンコーやら聞こえるから、十中八九ニャンちゃんの仕業だろう。
もう、あんなに言ったのに。
でも想像していたのとは全然違う。
奇声というより歌詞の一部という感じで、普通に聴いていられそうだ。

53 :
だがあちこちから野次が飛び、それを気にしてかBGMは再びジャズに戻る。
私が食器を持ってニャンちゃんのいる厨房に向かうとニャンちゃんは私の前に進み出てきてぺこりと頭を下げたのだった。

54 :
「ダメって言っておいてなんだけど、私はあれ、綺麗だと思ったよ。良かったらオフの時に他の曲も色々聴かせてほしいな」

私はそう告げ、食器を流しに置く。
よし、お皿洗い頑張ろっと。

55 :
「おはようございます。昨夜帰ってからゴチャンの音楽を聴きまくったら見事にホームシックにかかりました。
32人の兄弟達は皆元気だろうか」

56 :
「お昼時になりました。
本日のニャンティ特製ゴチャン風日替りランチは『飲むパスタ』リュイリュイにしてみました。
ギリギリ固形を保った平打ちパスタをスプーンで掬ってお召し上がり下さい。
味付けはバジルとガーリックをメインに、隠し味にオレンジとパイナップルを入れてみました。
具は鶏肉と、トマトを丸ごと使っています。
これだけやってもイタリアンにならないのが自分でも不思議です」

57 :
「今日はお客様、来ないです、よ。
一見のお客様、どなたでも大歓迎ですよ。
あなたのキャラを知りたいよ。
日本語の語尾の『〜よ』の使い方が難しい……よ。とりあえず何にでもつけてみますよ」

58 :
>>54
「小枝ちゃん。ゴチャンのCDを持って来たけどお客様のいない今ならかけていい?」
そう言ってニャンティはリュックからCDを取り出して見せた。
ジャケットには大きな虎が人間を食い殺している様子がリアルに描かれていた。

59 :
あまりにも生々しいパッケージに、「ぎえっ」と死にかけの虫のような声が出た。
さっき試食させられた可哀想な麺が喉までせり上がってくるが、なんとか飲み下し、頷く。

「た、たまにはデスメタルもいいよね」

60 :
曲の再生を待つ間、私はペパーミントティーをカップに注ぎ、同じく試食でゲッソリしている鴨島さんに差し出した。
ペパーミントはスッキリ飲めて、消化にも良いからきっと私たちの胃を救ってくれるはずだ。

「どうぞ、鴨島さん。ニャンちゃんがゴチャンのCDを持ってきてくれたので、それを聴きながら少し休憩にしましょう」

そう言って私が鴨島さんの隣に腰掛けた時、昨日と同じようにBGMが切り替わる。

61 :
>>60
「すいませんね。やはり老体に珍味は無謀でしたかね。しかしお客さんが来ませんね。あのロックロックしてるお客さんの注文はなんでしたっけ?」

62 :
「ああ……あの人たちのことならよく覚えてます。確かナポリタン一つと、日替わりランチ4つをお出ししたんですけど、ぜんっぜん私の話聞いてくれないんですよねぇ。
それで、ブラックパイナップルの飛沫を全身に浴びちゃって。
『お前達覚えてやがれよ!』なんて言いながら慌てて帰っていきました」

63 :
>>62
「困りましたね。ソファーを拭いておかなければいけませんね。それにまた静かになってしまいましたね。」

64 :
店のBGMが切り替わり、パーカッションとピアノとエレキベースの音が都会的な趣で流れ始めた。
やがて地の底から唸りながら迫(せ)り上がって来るようなボーカルが地鳴りとともに登場し、その場にいた全員の喉元に噛みつき、ふしゅるふしゅると甲高い唾液の音を立てた。

65 :
「別に一度キャラを作ったら、ずっと続けないといけないなんてことはないんですよ?
忙しい方は、トリップをつけずに出してくれれば、そのまま自然消滅するか他の人が再利用します。
あまり気負わず、気軽にご来店ください」

66 :
「ゴチャン原住民『ミミ族』の歌姫チャリン・アチャリンのアルバム「シャー、シャー、シャー」。日本語に訳すと「殺、殺、殺」です。
昨日かけたスカシベ・ピッピの歌声が小鳥の囀りなら、アチャリンの歌声は虎の咆哮が猫の鳴き声に聞こえてしまうほど猛獣系です。
サーベルタイガーに怯えながら暮らしていた頃の人類の原初的な恐怖の記憶を鮮烈に呼び覚ましてくれ、快感です。
この1曲目の「シンダ・プンニョー」は、虎に食われたアメリカ人密猟者が虎の中で分解され糞尿になるまでを精緻に描いています」

67 :
>>65
「1話完結のサザエさんみたいなものですよね」

68 :
「そうそう、そんな感じです。多分」

69 :
疲れが出たのか、一瞬意識を飛ばしていた私だが、大地を揺るがすような咆哮に我に返る。
ななな、なになになに!?
ニャンちゃんがなにか説明しているようだけど、あまりの声量になにも聞こえない。
まるでこれでは蹂躙だ。
食いちぎられて、飲み込まれて、溶かされる。

「いやー!消化されるー!」

たまらず叫ぶけれど、その声も一層激しさを増す声にかき消されてしまう。
ああ、溶け、解け、とけてーー。
そこで私の意識はぷっつりと途切れた。

70 :
「こういう癒しも……アリ……でしょう?」と言い終えると同時にニャンティもぱたりと意識を失った。

71 :
「おはようございます。土曜日も朝から早い方々にはお疲れ様です。
私は考えたら昨日のアレでショウちゃんがショックで天国へ行ってないかと心配で早めに出勤してみました」

72 :
「昨日のリュイリュイがなぜか不評でしたので、今日のランチは普通にメロンチャーハンにしようと考えています。
ゴチャンではみんな大好きの定番の味です。
メロンには愛知県産ハネジューメロンを使いますので日本人の口にも合うと思います」

73 :
「ランチタイムになりました。
今日の日替りランチは予定通りメロンチャーハンになります。南国定番の味をお試し下さい。

ハネジューは愛知県産だと思っていたら愛知県の輸入業者が扱っているメキシコ産でした。
農薬汚染の危険性がないとも限りませんので、念のため取り止め、代わりにゴチャン・メロンを使うことにしました」

74 :
「ゴチャンの野菜や果物は味が濃いのが特徴です。
我が国の気候と風土ならではの神の贈り物だとゴチャン人はよく自慢します。
農薬汚染の心配はありません。青木ヶ原樹海の中にこっそり開いたゴチャン国営農場にて作っていますので。
日本の気候と風土で作ってもそっくり同じものが出来ていますので、関係者は誰もが苦虫を噛み潰したような顔をしています」

75 :
「アルバイトさん随時募集中です。
私達と一緒に働いてみませんか?
同僚バイトの小枝ちゃんがまるで店長さんのような気まぐれシフトなので猫の手も借りたいぐらいてんてこ舞いしています」

76 :
こんにちわ、誰かいまちゅか?

77 :
いまちぇんか?

78 :
なら、レジのお金もらって行くでちゅ♪♪

79 :
「チッ、しけてやがんな3万6千円ほどかよ!でもこれでカズノコちゃんに極太バイブを買ってあげれるでちゅ♪♪♪」

80 :
虎にかじられる夢を見て、汗だくで目を覚ますと時計は正午を回っていた。
あのあと、なんとか自室に辿り着いたはいいものの、目覚ましをかけ忘れたのだ。
私は急ぎ支度を整えると、父やかつての従業員が去って静かになった居住空間を抜け、控え室のロッカーの一つに繋がる扉を開ける。

そしてさも、時間通りにきてましたという顔で店舗に入っていくのだった。

81 :
そしてカウンターに入った時私は見た。
肥え太った小男が、レジを探っていたのだ。

「ニャンちゃん、go!」

厨房でまた摩訶不思議な料理を作っていたニャンちゃんに指示を出し、私は警察に連絡をいれる。
数分後、警察に取り押さえられて店を出ていった男の後ろ姿を見送って、私たちはほっと息をついた。

82 :
「もう、4万円程度とはいえ大事なお店の売上を盗もうとする人がいるなんて。
ありがとうニャンちゃん。
ニャンちゃんが戦える子で良かったよ〜……」

83 :
カズノコぉぉ〜〜〜! と叫び続ける男にもう1回だけ引っ掻き傷を入れて、ニャンティは振り返った。

「『Go!』と言われると条件反射で戦闘モードに入ります。よくご存知でしたね」

84 :
「えっ、そんな狂戦士的な設定が?」

機密という文字で埋め尽くされた履歴書からは彼女の経歴はわからなかったけれど、もしかしてかつては兵士かなにかだったのか。
そんな疑問が湧くものの、無理に聞き出すこともないと思い私は彼女から目をそらした。
それより、そろそろ夜になる。
お酒類を取りにいかなければ。

85 :
 わたしは相変わらず隅っこが好きだ。小鳥達の羽を休める隠れ家的な空気が好きだ。
 落ち着く、安心、周りが見える。いわんやこのレトロな珈琲店をや。

 制服姿のわたしがずっしりしちゃうこの席って、どうして有能なんだろう。
 しっくりした木目のテーブルにネコ足の椅子。ここにずっと座っていれば、何ページでも名作を書ける
自信さえ持ってしまう不思議。すらすらすらって、シャーペンが止まらない。ページを捲る音も快調。
 わたしの目に前には幾多の観客が瞼の裏に写る。その視線を浴びるのはなんて至福なことだろう?

 だって、わたしはかわいい。かわいい。かわいい。世界中の誰よりもかわいい。仕方ないじゃない?
 とある中学の演劇部2年生、熊懐杏(くまだき・あんず)が居れば、いつでも超満員のステージだし。

86 :
 わたしは今、台本を書いている。無論、演劇の台本だ。
 そして主演は……ご存知、熊懐杏。次回の公演でこの劇を部員のみんなに提案してみせるんだ。
 テーマは『格差社会』。人類永遠のテーマだ。格差なくして、この世は成り立たない真理。
 だから、いい本を書くには人間観察が大事。この世は人と人との重なり合い、憎しみあい、そして
奪い合いで成り立っている。だから、わたしはこの店にやってきた。

 珈琲を口にしながら様々な人間模様を垣間見て、血の通った戯曲を一文字一文字このペンでしたためる。
 しかし、すらすらすらっとごきげんだった筆先が、ふと事切れたように止まった。

 つまり、煮詰まった。どうしたものか。
 こんなにかわいいわたしが本を書いているというのに、何故に?
 もう一度言う。わたしはかわいい。かわいい。かわいい。

 ふっと、わたしの目の前を横切る店員がいた。

87 :
 黒髪のツインテール、雪のような肌。そして、桃色の唇。
 かわいいわたしが言うのもおかしな話だが……かわいい。くっ……かわいい。

 無論、名前は分からない。だって、昨日今日見かけた店員さんだし。ただ、異国情緒溢れる香りが
ふわっと彼女から溢れ出していたのは事実だし。でも、思うんだけど、世界中の誰よりもかわいいわたしが
嫉妬するなんて、どんな歴史ある六法全書でさえも、きっと罪とは書されてないはずだ!そうだ!そうだ!

 でも、彼女も……かわいい。

 どうしよう。わたしの気がぐるぐると目の前のベトナムコーヒーに渦巻くミルクのように回っている。
 わたしはコーヒーは苦手だ。何故なら、わたしはかわいいからだ。かわいい女の子は甘いミルクと
ほろ苦い珈琲で出来ているって、どこかの劇のセリフで聞いたような。だから、わたしにはぴったりだ。
 しかし、背伸びが過ぎてコーヒーを注文してしまった過ちは消えない。苦さを隠そうとして真っ白く、
唇に纏わりつくようなミルクをぶっかけたわたしって……やっぱり、かわいい。

 でも……あの子より、どっちがかわいいですか?

88 :
【ROY】

性別… オス
年齢… 75歳の若者
外見… 獣のように美しい、緑に光る瞳、金銀ツートーンのカールした髪
性格… 獣そのもの、つまりは無邪気
能力… 女性を惹き付ける強力なフェロモンを発している
食性… 肉食、特に人間の女性の血を好んで飲む

ネイチャー・ワールドに生まれ育った野生児である
しかし飛行機事故で漂流してきた当時13歳の愛田谷善三と触れあううちに人間としての理性に目覚める
人間がネイチャー・ワールドに居られるのは二十歳までであり、それを過ぎると発狂して死に至る
その事に身をもって気付いた善三は海へ身を投げ、死にかけていたところを通りかかった船に救われ、ヒューマンワールドへと戻る
ROYは善三を追って人間の町へやって来た
ROYに一目で恋してしまった女性達は彼を匿い、ことごとく彼に愛されて食料となる
ROYが食料としてではなく心から愛しているのは善三ただ一人だけなのであった
その善三は人間の町で刑事になっており、最近連続する女性の生き血抜き取り殺人事件の担当となっていた
幸せそうに死んでいる女性達の美しい死体を見、善三は心当たりがあることを必死で振り払うのだった

89 :
「オレンジジュースをください」

90 :
 あ。あの子が動いた。あいの変わらず無表情、でもって色白の顔も華やいで、ツインテールも
ふわりとあどけなく。
 でも、わたしの方がかわいい、かわいいぞっ。

 でもでも。

 いくら人差し指を唇に当てても、わたしのかわいい脳みそは動いてくれやしない。

 だめだ。だめだ。だめだ。こういう時、どういう顔をしたらいいのか分からない。
 ナントカくんなら、きっとこう言うだろう。

 (逃げればいいと思うよ)


 だよね?逃げても恥だし損はしない。
 「ごちそうさまでしたっ」と、わたしは書きかけの台本ノートをネコ足の椅子にわざと忘れて、
ベトナムコーヒーの御代を支払い、そそくさとこの珈琲店を後にした。

 決まってるでしょ?
 あの「かわいい」ツインなテールの店員さんに、書きかけの台本を読んでもらうために。

 だって……あなたが主役の台本なんだよ?ぜひに感想聞きたいなっ。
 かわいいわたしが書いたんだぞ。しっかし。中学2年生にコーヒー500円はきっついなあ。

  
 

91 :
(どうしたんだろう、僕に見つめられたのにあの娘ニコリともしない
小さくて色白のツインテールの娘
可愛いから食べたかったんだけどな

まぁいいや
今日は善三がここにやって来る
5年ぶりなのかな、ようやく会える
その前に腹ごしらえしておきたかったんだけどな……

おや?
厨房の中にもう一人いるじゃないか
ポニーテールの娘、あの娘も美味しそうだね)

92 :
>>91
「ふう」
私は店の控え室に入るとすぐさまため息をついた。常連の客が足を悪くしたが、どうしてもここのサンドウィッチとコーヒーを飲みたいと言うので徒歩で届けに行っていたのだ。次からはニャンティか誰かに頼もうかと思う。

そんなことを考えながら着替えて店に出ると始めて観る顔があった。
その男…否、雄と言うべき者だった。その目は危険な香りと甘さを混ぜたあまり見かけない模様だった。

93 :
ふと背筋に悪寒が奔り、ぱっと後ろを振り返ると、客席に人がいるのが見えた。
頭部が光を反射して眩しく、姿までは確認できないが、なんとなく雰囲気でわかるヤバさは昨日捨て台詞を吐いて去っていったロックバンド5人集以上だ。
ボス格がお礼参りにきたのかもしれない。
私は内心ビクビクしながら、じっと茶葉が開くのを待つ。
けっこう真剣に、店を守れる人を雇った方がいい気がしてきた……。

94 :
「小枝、あのオレンジジュースのお客さんには近づかないで下さい」

ニャンティは厨房に入ると踏み台を使って背伸びをし、小枝に耳打ちして来た。

「私の野生の勘が危険をエマージェンシーコールしています。何かあったら私が守ります」

95 :
>>90
ニャンティがテーブルを片づけていると、ネコ足の椅子にお客の忘れものを見つけた。
綴じ紐でまとめられた原稿用紙の分厚い束だ。
漢字の読み書きがまだ苦手なため所々しか読み取れないが、何か楽しそうなものに見えた。

96 :
「小枝ちゃん。お客様の忘れ物です。警察に届けたらいいですか?
あの席は確か中学生ぐらいの女の子が座っていた席です。
可愛い子でした。私も女の子に生まれていればよかったと思わされるぐらい」

97 :
>>92
「ショウちゃん、無理をするのは許しません。何のために私がいるんですか。
私のお祖母ちゃんは山歩き中に原住民に襲われ、首を狩られて死にました。
ショウちゃんまでそうなったらどうしようかと心配で泣いてしまいます」

98 :
>>97
「心配をかけたようだね。すまないね。常連さんがどうしてもって言うもんだから。それにこう見えても身体は結構丈夫に出来ていますから安心してください。」

99 :
ニャンちゃんから忠告と忘れ物を受け取って、どうせ暇だからと私は原稿用紙をペラペラと捲ってみた。
流し読みのつもりが、つい読みいってしまい、私は感嘆の息とともに束をゆっくり閉じる。
確かニャンちゃんは可愛い中学生くらいの女の子が忘れていったものだといっていたけれど、もしその子が書いたものなのだとしたら、本当に素晴らしい才能だ。
私は原稿用紙が汚れないよう、袋に入れて棚にしまい、その少女とやらがまた訪れた時に返すことにした。
これだけの脚本であれば近いうちに取りに戻って来るだろうから、再び警察のお世話になる必要もないだろう。

そういえば、主人公があの子とかなり似ている気がするけど……これは私の考えすぎかな。

100 :
「あ、鴨島さんが帰ってきたみたい!
むむむ……私も出迎えたいけど、あのキンキラした人、ずっと座ってる。
もしかして誰か待ってるのかな?
でもこんな遅い時間までこないってことはドタキャンされちゃったんじゃ……」

そう思うと妙に同情心が湧き、慰めてあげたい気持ちになったが、ニャンちゃんの忠告を守って私は厨房で2人を待つことにした。

101 :
【愛田谷 善三】

性別… 男
年齢… 25歳
外見… オッサンのように鬱陶しい、眠たげな目、毛先があっちこっちを向いた黒髪、しゃくれ
性格… 優柔不断、面倒臭がり、大らか、感情豊か
能力… 犬並みに鼻が利く
食性… カツ丼好き

13歳の時に飛行機事故で両親を亡くす
自身はただ一人の生存者となるが、流れ着いたのはネイチャー・ワールドの島だった
そこには人間にそっくりなアニメールとアーニマンという動物が住んでいた
アーニマン達は善三を食べようとするが、アニメール達は理由あって彼を守った
アニメールと人間のハーフであるという金と銀の髪をもつ美しい若者と仲良くなり、彼にROYという名前をつける
7年間二人は共に暮らし、いつしか愛し合うようになる
島の自然の中で、二人は永遠とも思える時間を過ごす
しかし二十歳の誕生日が近付くにつれ善三は発狂し始め、遂には海へ身を投げる
通りかかった船に救われヒューマンワールドに帰った善三は、警察犬並みの嗅覚だけを買われ、刑事となる

102 :
(ROYから電話があった
どうやって電話のかけ方を覚えたのかなどどうでもいい
やはり連続吸血殺人事件の犯人はあいつだったのだ

どうやって海を越えて来た?
それもどうでもいい
今はただあいつを無事にネイチャー・ワールドへ帰してやることしか考えられない

刑事、失格だ)

103 :
(喫茶店のドアの取っ手を掴んで思い切り押した
何度やっても開かないのを向こうから小さな店員さんが押して開けてくれた

探すまでもなく、俺の嗅覚は彼の姿を捕らえていた
懐かしすぎて再び気が狂いそうになる獣の香り

昼間の光を全身から発しているかのようなROYが、俺を真っ直ぐ見つめて微笑んでいた)

104 :
「ROY……」

105 :
「ゼンゾー……、やっと会えた」

106 :
「ご注文は?」

107 :
(「なぜここにいるんだ?」と言うと、ROYは耳を伏せ、哀しげな目をした。

「ゼンゾーは会いたくなかったの?」

そんなわけはない! わけがない!
しかし俺がネイチャー・ワールドに近付いただけで発狂してしまうように、お前も……)

108 :
>>106
「あ、すぐ出るんでいりません
ROY、外へ……誰もいないところで話をしよう」

109 :
「待ってよ、ゼンゾー
知ってるだろう? 僕はこっちじゃ最低5時間ごとに食事を摂らないとどんどん歳をとってしまうよ
あっという間に老化して、骨にまでなってしまうよ
見てよ、あそこに美味しそうな獲物がいるんだ」

110 :
そう言い終わるが早いか、ROYは狼のように素早く厨房に入り込み、ポニーテールの女性店員の背後をとった

111 :
「もうすぐ5時間経つんだ、行儀悪いかもしれないけど『いただきます』も言わないよ」

112 :
「ROY! やめろーー!」
そう叫びながら俺は構えた拳銃の引き金を引くことが出来なかった

113 :
ニャンティがツインテールを逆立ててキンキラお兄さんを海の向こうまで飛ばしてしまった。
誰も叫び声を上げる暇もない一瞬の出来事であった。

114 :
「さて、店じまいをしましょう」パンパンと手を払いながらニャンティは言った。

115 :
「……何て言えばいいんだ俺、コレ……」

116 :
「小枝、あったかいココアを入れました。おやすみなさい」そう言うとニャンティはぎゅっとハグをした。

117 :
小枝は、ニャンティに抱きしめられながら、割れた窓を呆然と眺めていた。
背後をとられたことも銃声が轟いたことも、ニャンティがROYを蹴り飛ばしたことも、普通の人間からすれば一瞬の内に起きた出来事で、彼女には認識できなかったのだ。

118 :
「え、えっと、ありがとう。おやすみ……あの、でも今一体なにが起こったの……?」

119 :
「……どうすりゃいいんだコレ……、俺……」

120 :
「えーと、そこのお客様?
なんだかよくわかりませんが、色々と事情があるみたいですし……明日またおいでください。
なにか相談に乗れることもあるかもしれません」

知らなくていいです、というようなことを言って去ってしまったニャンちゃんに困惑しながら、私は同じく困惑している男性に声をかける。こういう時も集客を欠かさない。
それが閑古鳥が鳴きがちなこのお店では大切なことだと思いながら。

121 :
「え〜〜〜ん! アイルビーバックしてやる〜〜〜!」

122 :
そう言い残し、ぼさぼさの頭をした男性はさらに髪を振り乱して去っていく。
私はその背中を見送ると、ドアにかけていたプレートを「open」から「closed」へと裏返し、ココアと共に自室へ戻った。
今日は色々あって疲れたし、もう寝よう。
口の中の甘い余韻をそのままに、私は布団に潜り込んだ。

123 :
「今日は日曜日なのでバイトはお休みです。
なのでぶんどーこーひーかんに遊びに来ました。
チョコをふんだんに使ったパンダさんの動物アイスを食べながら、一応本業の国家任務もやってるフリをしとかないといけないので、その書類を3分で片づけたところです」

124 :
「昨日のメロンチャーハンがひとつも注文がなかったのはショックでした。
どうにも私は日本人の味の好みがまだまだわかっていないようです。
試しに明日はゴチャン人でもこれが好きな奴はマニアと言われるシュール・クサヤン・チョドゥップの定食にしてみようと思っているんですが、
どうでしょうか。一応相談してからにします。
強烈な大便臭を半径50mに渡って撒き散らす煮込みすぎた豆腐のような魚料理で、
あらゆる障害物を物ともせず貫通しますので、向かいのライバル店への嫌がらせ効果もあると思うのですが」

125 :
「小枝ちゃん。今日でなくてもいいので、どこか日本の面白いところへ連れて行ってくれませんか。ヤーフェして下さい。
……ヤーフェの日本語がわからない。すまほで調べます。
ありました、『デートして下さい』です」

126 :
「ショウちゃんが食後のコーヒーを勧めて来たが、私はコーヒーが飲めません。
苦いのがどうにも苦手です。臭いものよりも苦手なのです。
ですが私ももうすぐ二十歳になる身、大人の嗜みとしてコーヒーぐらい飲めるようにはなりたいです。
どなたか教えて下さい。コーヒー牛乳さえ飲めない私でも飲めるコーヒーってあるでしょうか?」

127 :
カウンター席にちょこんと腰掛けるニャンちゃんは、いつもの制服姿ではなくシンプルな私服を着ていた。
ただ仕事熱心なのは相変わらず、アイスを頬張る片手間に、絶対作らせてはいけない気がするレシピを提案してくるから油断ならない。

128 :
うーん、やっぱり日本の食べ物を色々と食べさせてあげるのが一番かな。

「よし。じゃあ、今日のニャンちゃんは私が独り占めということで♪」

日曜日は従兄弟が店を受け持つことになってるから、私も暇人なのだ。
色々と計画を練りたいから、面白いところへはまだ連れていけないけど、ショッピングで食べ歩いたり可愛いお洋服を選んであげるくらいのことなら今すぐでもできる。
苦くない、コーヒー……と呼べるかはわからないけど、そういうものがあるお店も思い当たりはあるし、色々連れて行ってあげよう。

「準備してくるから、少し待っててね」

そう言うと、私はバタバタときたばかりの道を引き返した。

129 :
ニャンティは尻尾を嬉しそうに揺らすようにツインテールを揺らし、器に残ったチョコレートをスプーンでちょこちょこ掬いながら言った。
「ヒントになるかわかりませんが、コーヒーは駄目なのにチョコは大好きです。カカオ70%ぐらいが一番好みです」

130 :
「昨日はお騒がせしました
コーヒーください」

131 :
「あれから考えたんですがROYも人間の法に裁かれることなく自然界の中へ帰っていけたわけですし、
何より海を越えて送り帰す方法はないと思っていたのにまさかあんな方法で……
昨日の小さい店員さんにお礼を言いたいのですが今日はお休みですか?」

132 :
「ところでこの町に人間の姿をした野獣が2匹入り込んだようです
似顔絵を描かせましたのでこいつらを見かけたらご一報ください」

133 :
【ゴゴ】

性別… 男
年齢… 32歳
外見… 身長190cmの巨体、ライオンのような髪型、ファッションにこだわりがない
性格… 残忍、冷酷、躊躇がない
能力… 怪力、コンクリートを噛み砕く顎力
食性… 雑食だが肉を好む

【ネア】

性別… 女
年齢… 27歳
外見… スキンヘッド、体毛が一切なく、皮膚の表面がヌメヌメしている、細身、蛇顔
性格… 残忍、冷酷、獲物を弄んでじわじわとRのを好む
能力… 俊敏、体内で獲物を麻痺させる毒を生成
食性… 雑食だが肉しか食わない

二人ともネイチャー・ワールドに住むアーニマンである
アニメールであるROYが人間の姿をしたイヌ科の動物であるのに対し、アーニマンは野生化した人間である
言葉は話すが原始的で、自然界に適応するための特殊能力をそれぞれが持っている
群れを作って生活するが社会性は非常に低く、群れの中での共食い騒ぎなど日常茶飯事である
二人はアニメールの群れを離れて人間界へ渡ったROYをRため町へやって来た
既に23人の人間、11匹の犬、32匹の猫等が彼らの犠牲となっていた

134 :
>>0128
一旦控え室に入り、荷物を取り出す。
厚手のカーディガンの上から肩掛け鞄を下げ、その中に膨らんだ財布を突っ込むと、私は心踊らせながら、ニャンちゃんの手を引いてショッピングセンターに向かった。

135 :
手始めに向かったのは、洋服店だ。
彼女の身長なら子供服でも余裕で着られるから、普段のシンプルな格好とはまた違う、フリルがついてるような可愛い服を沢山買ってみた。
グレーの猫耳パーカーは特に、不思議なくらいしっくりきたのでそれに着替えてもらい、次は一階のフードコートへ。

136 :
炒飯、パスタ、ラーメン、カレー、たこ焼き、焼きそば、パフェーー。
出されたものはなんでも食べるニャンちゃんについ面白がって色々と買い与えていたら、いつの間にか人だかりができていた。
ところで次から次へと口の中に放り込んでいたけど、あれだと味が混ざってよくわからなかったんじゃ……?

それから最上階でニャンちゃんオススメのゴチャン映画を観て、胃の中身をちょっとばかりトイレに流したあと、私たちはとある喫茶店に立ち寄った。

137 :
「あ、きたよ。ほらこれ」

オシャレな雰囲気が漂うその喫茶店は、若者人気が高く、純粋な喫茶とはまた一風変わった飲み物が多く出されていた。
その一つが今運ばれてきたコレ、ハニーチョコレートである。
チョコレートを牛乳に溶かし、マシュマロとたっぷりのハチミツ(と珈琲ちょっと)をいれたこの飲み物は、アクセントの珈琲がチョコの甘さを、ハチミツがチョコの苦さをそれぞれ引き立てる味わい深い仕上がりになっている。
つまり珈琲が苦手だけどチョコの苦さは嫌いじゃない、そんなあの子にはちょべりぐな一杯というわけだ。
最早ただのホットチョコレートだけど。
でもニャンちゃんは嬉しそうに見える顔で飲んでくれたので、連れてきて良かったと思う。

138 :
そして最後に、記念として色違いのリボンをお互いに贈り、私たちはすっかり暗くなった街を仲良く並んで帰ったのだった。
ーー後ろから、飢えた瞳に見つめられていると気付くこともなく。

139 :
小枝の従弟、町田凪は帰ってきた2人を見て、ほっとため息を漏らした。
鴨島の容赦ない指示の元、慣れない労働をこなして疲れきったところによくわからない野獣の絵を渡されて、心底うんざりしていたのだ。
彼は鉛のように重い体を引きずってニャンティの方に近づくと、ずいっと生白い手で野獣の絵を押し付ける。

「これ、あの客から。あなたのこと、探してた」

そしてまた店の方へと踵を返し、猫背でずるずると歩いていくと控え室へと姿を消した。

140 :
店内に貼られた似顔絵を見て5人の男達がいいネタ見つけたとばかりに騒いでいた。

>>133
キャシャーン(vo)「そんだけ特徴ありまくってんのに捕まえられねぇとか警察は無能かよ!?」

モンスター(G)「そうさ警察ってのは無能なのかい?Hey!」

ゴーレム(B)「ありえねーよなー……。(今日はこの店可愛い娘がいないなんてなー……。来た意味なかったよなー……)」

鉄頭(G)「うむ、有り得ない設定だな。リアルじゃない」

キリサキ(D)「いっつも同じ順番でしか喋らねーお前ら四人のほうが有り得ない設定でリアルじゃねーよw ヘボどもが!ww」

141 :
「なんだかフラグが立ってしまっていますね。
今日は私これで帰るので心配です」

142 :
「小枝、今日はヤーフェ楽しかったです。ありがとうございました」

ニャンティはペコリとお辞儀をした。
猫耳フードを被り、しかしツインテールはしっかりと外に出していた。

「それでは失礼します。……あ、もし何かあったらトリップなしの私を使って下さっても構いません。
それではお休みなさい」

143 :
私も疲れていたし、お客様は帰っていたようなので受け取った似顔絵のコピーは棚にしまい、「展開はまた明日お願いします」という張り紙を出して店を閉めた。
最近過酷な長時間勤務になりがちだったが、この喫茶店はブラックではない。
鴨島さんもニャンちゃんも、他のみんなも無理はせずゆっくり休んでほしいと思いながら私は眠りについたのだった。

144 :
誰もがではないかも知れないけれど、多くの人が不安や悩みを抱えて生きている。

いつもはそれを他人には見せずに頑張れるのだけれど
たまに心が弱くなると、心が破裂しそうなほど辛くなり、一人ではいられなくなる。

そんな時にはどこでもいいから人のいる場所へ紛れたくなる。
でも、何処へ?

賑やかな場所は好きじゃない。

二人きりになれる友達など私にはいない

145 :
私の名前は水島うつろ。

いつの間にかもう42歳にもなる。

独身。でも子供は二人いる。

二人とも私の元にはいないけれど。

私には何もない。

誇りにできる過去も、待ち焦がれる未来も。

自分を愛せるような現在も。

146 :
とても眠たいのに眠れないので夜の町へ出てきた。
あまり賑やかではないほうへ。
逃げてきた。
私という壁の中から。

店はどこも閉まっている。
賑やかではないほうへ出てきたので仕方がない。
こんな暗い通りを女一人歩いていても誰も見向きもしない。
若い頃なら痴漢にも襲われた。
しかし今は痴漢さえ、私なんかには見向きもしない。

147 :
この喫茶店、前にも入った。

あの時は貴幸と一緒だった。

白髪頭のあたたかい声のマスターがいて、私達の話を笑顔で聞いてくれた。

でも今は閉まっている。

仕方なく私は何もないまま帰ることにした。

私という檻の中へ。

148 :
でも、おかしな貼り紙。

「展開はまた明日お願いします」……

意味はわからないけれど笑ってしまい、少し心が軽くなった。

149 :
私はたまたま持っていたサインペンで、その貼り紙に一言書き添えると、家に戻った。

「ありがとう」

そう、書き添えて。

150 :
「今日は珍しく早起きしたから、私が一番乗りですね。開店です!」

静かな店内で準備を進め、ついに開店しようという時、ふと外の張り紙になにかが書き添えられていることに気がついた。
えーと、なになに?「ありがとう」?
お礼を言われるようなものではないんだけど……なんだろう、落書きかな。
私は首を捻りながら、張り紙をしまってプレートを「open」へと裏返す。
さて、今日も一日張り切っていこうっと。

151 :
「今日のランチは牡蛎オムライスです。
昨日、小枝に日本人の心を教えてもらったのでもう大丈夫です。
メインメニューのオムライスと被っていてしかも170円も安いですが気づかないフリをお願いします。
ちなみに使用する牡蛎は隣室に住む広島のおばちゃんに分けてもらったものなので、数量限定16食です。
なくなり次第どうするかは考えてません。
まぁメロンチャーハンが一食も出なかったくらいなので、売り切れることはないでしょう。
私か小枝か鴨島マスターがケチャップをかけ、おいしくなる呪文を唱えるサービスがつきます。
現在奥の控え室で二人とも鏡を見ながら愛嬌たっぷりの笑顔で『おいくなぁれ、もえもえきゅん』の練習中です」

152 :
会社の昼休み。
昨夜の喫茶店へ食べにきた。

日替わりランチを頼んだ。

誰か、私に話しかけてくれないだろうか。

私はただ待っている。
話しかけられるのを待っている。
自分から話しかけることなんてできない


153 :
話しかけられたら、どう、答えよう。

明るい笑顔で「今日は」?
テレビで見るような世間話?
取られてしまった私の二人の子供のこと?
それともその人が好きな話題を膨らませてあげようか。

154 :
開いている。
昨夜冷たく閉まっていた店が。開いている。
それは何て安心できることなんだろう。

店に漂うコーヒーの香り。
マンガ本を読むいい歳のおじさんの子供のような顔。
頭の上を微風のように通り過ぎて行くBGM。
コーヒーカップとティースプーンがカチャリと固い音を立てるのに木のような柔らかさが私の耳をくすぐる。

155 :
こんなに居心地が好い空間なのに、私はやはり死ぬことばかりを考えていた。

156 :
>>152
身長:178
年齢:25歳
容姿:少し筋肉質で痩せ型
性格:至って平凡
特性:とある世界で魔導師の孫として修行をし旅行中にこの店に迷い込んだ。魔法の殆ど使えないこの世界で帰る方法を模索しながら生活している。
職業:時計修理のお店「藤田時計」で働く。副業あり。
その他
もともと、軍属の魔導師だったため、魔術、呪術はもちろん、格闘術にも秀でている。好きなメニューはホットミルク。

157 :
>>155
「マスター。ホットミルクとサンドウィッチ。」
私は扉を開けるとすぐに注文をする。
いつもの店で、いつもの注文、いつものカウンター席に座る。
ただいつもと違ったのは、隣の席に人がいたことだ。何処かにあってここにある。そんな感じの、今にも消えそうな人だった。
「どうも、はじめまして一見さん?」

158 :
「あ……、ハイ」

159 :
つい話しかけてしまったが、いきなり過ぎた事は否めない。
しかし、隣に誰かいて話さないなんてもったいない気もする。一人旅はいいが独り旅はいかんと言っていた爺の声が聞こえたような気もした。

160 :
>>158
「へぇ。何頼んだの?」

161 :
変な人が隣に座って話しかけてきた。
空いている席が他にあるのに。変な人。
どこかファンタジー世界のコスプレ好きを感じさせる。

でも変な人は嫌いじゃない。
だって私自身が変な人だから。
普通の人よりも仲間だと思える人のほうが好き。

でも、やはりうまく喋れない。

私の心と外見はいつものように
どんどん食い違って行く。

162 :
>>160
「ラ……ランチを」

163 :
たぶん私は今、迷惑そうな顔をしている。

むしろ嬉しがっている内面とは裏腹に。

164 :
いつものように相手は引いてしまった。
「つまらない奴」とか「迷惑そうだな」とか思われてるに違いない。

心の中ではどうやってその人の笑顔を引き出そうと考えているのに。

とっておきの笑い話をする?
それで笑ってもらえた試しがない。

おどけてお笑い芸人の真似をして一発芸やってみる?
変な私がもっと変な人になる。

その人の話をひたすら聞きに回る?
その人が自分話ばかりする人ならそれで今まで何回かえって寂しくなった?

165 :
「ここのランチ美味しいよね。あんまり食べないけど。」

迷惑だったかもしれない
まあいいや。しかし…

166 :
なんか重い女だな、そう思われてるに違いない。

ごめんなさい不快にさせて。
でも自分ではどうすることもできないの。

その時、ふと音のないテレビを見ると、宮沢りえと森田剛の結婚報道がやっていた。

考えすぎずに言った言葉はスラスラと口を出て行く。
「りえちゃん、今度は幸せになれるといいですね……」

167 :
「きれい……。もう44歳なのに……」

168 :
>>167
「そうですね、すごく綺麗です。しかしまあ、結婚…と言う概念がイマイチわからないな。やっぱり一年二年じゃ慣れねぇな…」

169 :
>>165
菊久がそう言った直後、背後からクスクスと笑い声がした。
振り返ると小さくて髪型がツインテールの店員が、口の端を少しだけ上げてクスクスと声を発していた。
「惜しいですね。『ここのランチ美味しいよね、食べたことないけど』だったら私も大声で笑い転げていたかもしれません」
ニャンティはそれだけ言うと隣の女性客のほうを向き、料理を前に置いた。

>>162
「かなりお待たせしました。本日のランチ『牡蛎のオムライス』でございます。では特別サービスをさせていただきます」
両手に持ったケチャップで薄焼き卵の上にネコの絵を描き、呪文を唱える。
「おいくなぁれ、もえもえきゅんっ」

女性は面白くも何ともなさそうな白けた顔でネコの絵を見つめていたが、
ニャンティにはもじもじぴくぴくと忙しなく動く女性の両手が、楽しげに見えた。
ちょっと自分と似たものを感じて嬉しくなった。顔はちっとも笑っていなかったが。

170 :
「今日は大忙しです。賑やかなのはいいことだ。
ランチ16食、あっという間に売り切れてしまいました。ごめんなさい。
小枝、教えて下さい。日本人は酢豚にパイナップルを入れるのに、どうして炒飯にメロンは入れないのですか?」

171 :
「いやあ、組み合わせの善し悪しというか……。炒飯にメロンを合わせても、美味しくなるどころか折角ぱらぱらの炒飯がべちゃっと甘くなっちゃうというか……」

ニャンちゃんが一生懸命作ってくれたものをまずいとも言えず、私は「日本人には早すぎた味」という結論で締めくくることにした。

172 :
なぜ笑われたのかよくわからなかった。
やはりここの世界では結婚と言うものはごくごく溢れた物なのか。
ふと”携帯“がなった。平たく美しい石板…などと言っていた事もあったが、ここの世界では魔法が殆ど使えない代わりに科学と言うものが深化してきたらしい。
メールを開いてみると
2体の異形を見つけた。画像を添付する。
とだけあった。副業の時間らしい。
その画像にはおおよそ人ではないなにかが映っていた。画像の下の方に小さく「ゴゴ」「ネア」と言う文字を見つけた。きっと名前なのだろう。
私はサンドウィッチを齧りながらじっくりと見ていた。もちろん、画像ではなくニャンティと言う少女をだ。異形と言えば異形なのだろう。しかし、可愛い…

173 :
>>171
「なるほど。やっぱりゴチャン人は進んでいるのです♪」ニャンティは嬉しそうにエプロンの紐を揺らした。
「正直最近、ホームシックがひどいです。
夜、パパとママの膝で丸くなって眠っている自分を思い出すと泣きそうになります。
だから昨日のヤーフェは本当に楽しくて面白くてウキウキでした。
日本にも大好きな人が出来たのでニャンティは頑張れます」

174 :
「でも……可愛い服を買ってくれてありがとう。でも……
どれだけ可愛く着飾っても私は女の子じゃないです。
猫がどれだけ可愛く着飾っても猫は猫、みたいなものです。
私の最近の悩みはホームシックですが、ずっと悩んでいるのは自分が齋藤飛鳥さんみたいな可愛い女の子ではないことです。
中性は男性にも女性にも恋することが出来ますが、結婚は許されていません。
また恋したとしても、男女に付き物のムラムラする感情?(合ってますかね?)というものが我々中性にはありません。
女の子に生まれたかった……な」

175 :
やっぱりいつもと同じだった。

私に話しかけてくれた人は、私に呆れて会話をやめてしまった。

ふふ。でも……
メイド喫茶みたいなの初めてで嬉しかった。

おいしくなぁれ
もえもえきゅん……か。

私も帰ったら鏡に向かってやってみよう。
少しは性格が明るくなるかもしれない。

……そんなわけないか。

176 :
会社までの帰り道、だるかった。

私より不幸な人間はいない。
どんな不幸な目に遭っても頑張れる人よりも、何もない人のほうが不幸に違いない。

人間には生きる力がいる……なんて、不思議なこと。
ただ食べて眠ってヤッてだけでは生きて行けないなんて……

私には今、生きて行ける力がない。
誰か今すぐ、私の心臓を停めてくれないだろうか。

あるいは私の中から幸せな心臓発作が起きればいいのに。

177 :
歩き続けてないと辛くなる。

足を止めたら死にたくなる。

わかってて足を止める。

ううん、違うよ。まだ死なない。

ちょっと歩き疲れただけ。

缶コーヒーでも買って公園のベンチで飲もう。

178 :
今日のあのメイドさん、可愛いかったから、何も悩みなんてないんだろうな。
でも羨ましくて妬ましくて殺したく……なんかはならない。
私のぶんまで幸せになってほしい。
そして自分を殺したい。

そう考えながら、公園の茂みががさりと音を立てたのに顔を上げるとライオンがそこに立っていた。

179 :
(どうしてこんなところにライオンが?)

そんなことを思う間もなくライオンは私の喉を喰いちぎり、

私は私の腹部を喰い破って内蔵が食われる音を聴いた。

痛くはなかった。これまでしたどのSEXよりも痺れた。

でも私の口は、喉から笛のような音を立てながら、ぱくぱくと動いた。

「死にたくない! 死にたくない!」

「やっぱり死にたく……ない! 死にたく……な……………………」

180 :
「う? ネア?」

181 :
「ケケ! こご」

182 :
【参加自由】バーチャル(’-’*)♪愛
http://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1519338178/

183 :
「……上手く言えないけど、女の子じゃなくてもニャンちゃんは素敵だよ。
見た目も、恋愛の仕方も素敵な個性」

どことなく、ツインテールをしゅんとさせているニャンちゃんの肩をギュッと抱く。
私には性別の悩みは本当には理解できないし、慰めにもならないだろうけど、少しでも埋まらないものが埋まるといいと思った。

184 :
さて、今夜はもう閉店だ。
真っ暗な空に浮かぶ紅い月に少しびびった私は、いつもより戸締りをしっかりしてから眠りについた。

185 :
「すみません。1分も遅刻してしまいました。
今日はなかなかツインテールが肩より外でまとまってくれなくて……」

186 :
「今日はゴチャンのきのこ『ドクダミアン』が大量に手に入りました。
名前の通り、小ぶりで可愛いきのこです。
本日のランチはこのドクダミアンを使ったボン・カレーにしたいと思います。
似たような名前の商品が日本にありますが、関係はありません。
ドクダミアンは熱と空気を加えたものを噛むと、プキュッと快い音がします。
約31分の1の確率でボン! と紙袋を叩いたような爆発音のするものも混じっています。
春の眠気に襲われている人もボン! でシャッキリ! すること間違いなしです。
それでは心地好い音のハーモニーをお楽しみ下さい」

187 :
「最近ショウちゃんが喋ってくれません。
やはり私がコーヒーを飲めないのが悪いのでしょうか……」

188 :
あっちこっちのテーブルでプキュプキュボンボン騒々しい店内をニャンティの小さなエプロン姿が忙しく駆け回った。
水を運び、オーダーを取り、ボン・カレーやコーヒーを運び、帰ったお客のテーブルを片付ける。
そんな何でもない繰り返しが楽しくて、前へ後ろへツインテールを揺らす。
また新しいお客さんが入って来た。

「いらっしゃいませー」

189 :
「のす!」

190 :
名前 城山 出雲男(しろやま いずもお)

性別 男
年齢 17歳
性格 積極的、可愛い女の子が大好き
容姿 身長186cm、体重136kg、いつも柔道着姿、やたら光を反射するメガネをかけている
能力 なし
好物 食べられるものなら何でも

寞華高校(ばかこうこう)二年、柔道部員。巨漢だが筋肉はほとんどない。一言で言えばただのデブ。
『千鳥投げ』というオリジナルの必殺技を持っているが、それを使って試合に勝ったことがない。というか試合に出してもらったことがない。
大きな声で喋る時は何を喋っても「のす」しか言えないが、小声なら普通に喋ることが出来る。意外とお洒落なことを言う。
悩み多き年頃にして本気で悩み事が何もなく、常にポジティヴ、悪く言えばバカ。
座右の銘は「乃木坂全員にフラれても欅坂がある」。
秀でた能力は何もないが、TV放送も行われた全国区の大食い大会で97位に入ったことがある。

191 :
大きな体をなんとか入口に潜らせて一人で入店して来たのは柔道着姿の高校生であったが、誰もが30歳代の変なオッサンが入って来たとしか思わなかった。
柔道着の胸には名前なのか『ズモー』とネームペンで書いてある。
一人で四人掛けの席に座ると、大声で「のす!」と言った。
注文を取りに来たツインテールの店員が「のすはありません」と答えると、指で手招きをし、店員の耳元で何か囁いた。

192 :
「本日のランチ『ボン・カレー』、きのこ特盛ですね? ありがとうございます。あとパンツは白です」

193 :
「のすー!」

ズモーは興奮して本当に白かどうかを確認しにかかった。
しかし勢いよく後ろを向いたニャンティのツインテールの先端に鼻先を打たれ、暫くの間静かになった。
のすふー、のすふー、と鼻息だけは荒かったが。

やがてニャンティが料理を持って来た。
「お待たせしました、本日のランチ『ボン・カレー』ドクダミアンきのこ特盛でございます」

194 :
料理を見もせずにズモーは再び人差し指でニャンティに耳を貸すよう促す。

「いいですけど今度は耳たぶなめないで下さい」
ニャンティがそうお願いすると3回頷き、こちょこちょと何かを囁いた。

195 :
サンドウィッチを食べ終えた。店内は少しお客が増えて混みそうだったので。

会計を済ませて店を出るとき従業員のニャンティに四角い箱を渡しておいた。鴨島さんに渡すようにと言っておいた。
勿論中身は本業の時計で、珍しいデザインだった。話に聞くところでは鴨島さんのデザインらしい。

196 :
ズモーを月まで飛ばし、ニャンティは四角い箱を開けてみた。
ゴチャンでは見たこともないような趣向を凝らした渋いデザインの時計だった。
どういうデザインかというと↓(丸投げ)

197 :
大小様々の歯車で造られた機械仕掛けの鳥が、枝にとまり時計を咥えているというようなものだ。
金属部分にはダメージ加工が加えられており、文堂珈琲館によく似合うアンティーク調に仕上がっている。

198 :
おやすみ

199 :
 犯人は必ず犯行現場に戻ってくる、とよく言われるが、わたしも犯人の気持ちと同じなんだろう。
 もちろん、法を犯すことや、背徳的な行動は身に覚えなどない。ただ、この間椅子に置いていった戯曲のその後が気になっただけだ。

 あのツインなテール子ちゃんは、わたしの演劇台本を読んでくれただろうか。
 かわいいあの子が、わたしの台本を読みながらハートをきゅっきゅとさせている姿を想像するだけで、それはそれは演劇部員冥利だし。

 でも、言っておく。

 わたしは、かわいい。かわいい。誰よりもかわいいぞっ。

 淡い気持ちを抱えつつ、ほのかな希望を胸にして、レトロチックな珈琲店に足を入れると、ほんのりとわたしの鼻孔を香ばしいかおりが擽った。

 「いらっしゃいませー」

 亜麻色の髪の女性がにこやかに迎えてくれた。
 今日は何を頼もうかとメニュー表に目を通す。しかし、格調高いこの店と釣り合うように、お値段もやや高め(中学生目線だけど)のようだ。

 わたしはしがないJCだぞっ。しかも二年生だぞっ。

 『日替り動物さんアイスクリーム』がすっごい気になるんだが、七百円だなんて手が出せなさすぎるこの悲しさ。
 『チーズハンバーグプレート』も断然食べてみたいのだが、九百五十円の世界はブルジョワジーな輝きで眩しすぎる。

 はあ……。大人はいいなぁ。

 大人になったら、ゼロが幾つも幾つも並んだような金額を見ても、迷うことなくスマートに注文するんだ。

 慢性的金欠病患者のわたしは身の丈に合った「ニャンティ特製ゴチャン風日替りランチ」にしようかな。で、ニャンティってなに?

200 :
 「ここから、ここまで全部」だなんてセリフ、ちょっと言ってみたいかも。

 だから、わたしはスクラッチ宝くじに賭けてみる。この店に来る途中に購入した紙切れは、わたしにとっては一世一代の大博打だ。
 財布から取り出した五円玉でごりごりごりと銀色の円を削る。同じマークが揃えば十万円。もしかして、これだけの大金があれば
ウチの演劇部を買収することができるんじゃないのか?と、不埒な考えが浮かぶ。

 ふと、思い出したのが後輩の鈴城のことだ。クソがつくぐらいの生意気な男子だ。
 エチュードをしているときこと、わたしの考えた素敵なセリフをコテンパにするような勢いでねじ伏せてきたんだ。
 理屈っぽく、わたしのセリフの穴という穴をつついて完膚なきまでに叩きのめしてきたんだ。

 今度会ったら、鈴城のヤツを男の娘にしてやるからなっ。かわいいわたしを怒らせると、大地にヒビが入るんだからっ。

 と、わたしの電話が鳴った。あろうにも鈴城からだ。

 着信拒否してやろうかとあらぬ考えもよぎるが、わたしは「あれ……鈴城くん。どうしたの?」と、先輩らしく、女子らしく甘い声で返答した。
 わたしの姿が見えない鈴城はころんと騙されるんだろうな。女子を敵に回すと怖いぞ。

 「え?大変じゃない?今すぐ行くからね!」と、優しい先輩を装ってわたしは泣く泣くこの店を後にすることにした。
 男子Rにゃ刃物はいらぬ、優しく出ればすぐ騙される。

 優しそうな亜麻色の髪の店員さんに見守られながら、この店から去った後、わたしは削りかけのスクラッチを落っことしていったことに気づくのだった。

 さようなら。わたしの十万円。かわいいツインなテール子ちゃんにくれてやるっ。
  

201 :
ズモーは月面を蹴り、一瞬で文堂珈琲館の自分の席に戻って来ると、熱々のボン・カレーを食べ始めた。
「のす! のす!」
「ばくっ、はふはふ、むぐむぐ、プキュッ、のす!」
「がつっ、はふはふ、プキュッ、もぐもぐ、プキュプキュッ、の、のす!」
「がうっ、のすふー、のすふー、プキュッ、むぐむぐ、ボン! の、のすーーー!!!?」

202 :
食べ終わるとおもむろに器を手に立ち上がり、カウンターへ返却に持って行き、言った。
「のす!」
小枝は『どうせテーブル片付けるからいいのに……』と思いながらも笑顔で
「あっ、わざわざありがとうございます」と言おうとしたが、最後まで言わせて貰えなかった。
ズモーが急接近して来たのだ。
ズモーは小枝にキスする勢いで近づくと、硬直する頬を通り抜け、ピアスで飾った美しいその耳に囁いた。

203 :
「今夜、俺の愛チャリ2ケツで春の海を見に行かないか?」

204 :
「お早うございます。ってもうお昼です。
今日は祝日ですので日替わりランチはありませんが、私はバイトに来ています。
今日の日替わり動物さんアイスクリームはキリンさんにしてみました。
バナナアイスとミルクチョコレートをふんだんに使い、周りを色とりどりのフルーツで飾りました。
高さ1m34cm、私の身長と同じダイナミックなアイスの彫刻をどうぞご堪能下さい」

205 :
「あの可愛いお客様、またいらしてました。可愛い女の子になることが夢の私からすると羨ましすぎるお客様なのでまた来てほしいです」
そんなことをぶつぶつ呟きながらその客の帰ったあとのテーブルを片付けていると、床にカラフルな紙片が落ちているのを見つけた。
祖国ゴチャンでそんなものを見たことがなかったニャンティは、トレーの上にその紙片を乗せると、厨房に引き上げ、ごみ箱の中に捨てようとした。

206 :
「それはダメですけど、海って言葉で思い出しました!最近瀬戸内海でとれた海鮮を使ったパスタを試作してみたんです。
もしよければ、試食をお願いできませんか?」

食事が好きそうな方だし、試食にも付き合ってくれるかもしれない。
その見立ては当たっていたらしく、その男性は「のす!」と快く頷いてくれた。
私は一度厨房に引っ込むと真っ赤なパスタを持っていく。
一見単純なナポリタンに見えるが、実はこの赤いソースは全部デスソースなので、きっと色んな意味で新鮮さを提供できるはずだ。

207 :
赤いパスタを口に運ぼうとしている男性を横目に、私はさっき帰っていったとても可愛い少女のことを考えていた。
帰ってから、この前の台本の持ち主が、確か可愛い中学生くらいの子だと聞いたことを思い出したのだ。

「ど、どうしよう。次きた時こそは返さないと……」

万が一にも返し忘れることがないよう、私はレジの隣に忘れ物箱を設置し、そこに例の台本を入れておいたのだった。

208 :
ちょうど俺がメシを食いに来ている時でよかった。こともあろうに最初見た時から可愛いと思っていたポニーテールの女性店員さんに、
こともあろうに俺の目の前で、唇を真っ赤にした柔道着姿のキモデブが強制猥褻行為を働きやがったのだ。即刻現行犯で確保した。
「だってあの女が……」とか蚊の鳴くような声で言いやがるがどんな理由があろうと強制猥褻行為に及ぶことが許されるわけではない。
あの女性店員に限ってはそんな理由もあるわけがない。
17歳の高校生だとか言いやがる(推定倍も年齢を逆サバ読む奴は初めてだ)のを「ハイハイ話は署で聞くからね」と大人しくさせる
までもなく、その巨体からは想像もつかないほど力が弱くて驚いた。俺もかなり弱いほうなんだが……。

ショックでまだ震えの止まらない可愛い店員さんに「もう大丈夫ですよ、どうかいつもの優しい笑顔を見せてください」と
笑わせる目的で柄にもないことを言ったが、可愛い店員さんの震えは止まらなかった。
これでは言えるはずもない、「先日この店のすぐ近くでゴゴ及びネアの犠牲者と見られる遺体が発見された」ことなど。

「この店、落ち着けるんで、俺、気に入りました。常連になっちゃいますね」
それだけ言うと、手錠で繋いだデブのオッサンを連れて店を出た。

209 :
人間化した動物であるアニメールなら俺の嗅覚ですぐに捕まえてみせるが、動物化した人間アーニマンはなかなか見つけられない。
アニメールは人間界に存在しない煌めく匂いを発するのですぐわかる。しかしアーニマンの匂いは人間界でもありふれている。
不潔な人間や野良猫の匂いと見分けがつかないのだ。しかし俺が見つける。人間界へやって来て、生きているものの肉を片っ端から
食い散らかしている二体のアーニマン「ゴゴ」と「ネア」を。

210 :
レジに行くとあの小さなネコみたいな女店員がいた。
俺はコイツが怖い。ROYを一万km先のネイチャー・ワールドへ蹴り飛ばした脚力はインパラ並みだ。
一応あれからROYにハッピーエンドをくれたことの礼は言っておいたが、しかしどうにもコイツを人間とは思えない。
「なぁ、お前もアーニマンなんじゃないか?」
俺がそう言うと「は?」とそいつは答えた。
しらばっくれるのが当たり前だ。正直に答えるわけがない。バカか、俺は。
コイツの存在の不気味さもあり、俺は当分この店から目が離せない。
「また来るよ」とデブのぶんも代金を立て替えて払い、表へ出た。

211 :
「こら、ニャンティ」
鴨島にそう言われ、拾ったスクラッチ宝くじを捨てようとしていた手をニャンティは止めた。
「お客様のものを勝手に捨ててはいけませんよ。てんちょ……町田さんが忘れ物箱を設置しましたので、そこへ入れておきなさい」
「ハイ」
素直にそう答えながら、ちょっとショックを受けた。お客様の大事な忘れ物をゴミだと思った自分に。

その時、店内で騒ぎが起こった。何事かと振り返ると、さっきニャンティの耳元で「初潮は、もうあった?」と囁いたお客様が、
忘れ物箱を設置してレジのほうから帰って来る途中の小枝に抱きつき、押し倒しているところだった。
ニャンティは助けなかった。男女の間によくあるアレだと思って。
昔、祖国ゴチャンで任務の遂行中、公園で今のと同じような男女を目にし、助けようとして相棒の男に「ヤボなことしなさんな」と言われた。
あの記憶がニャンティを動かさなかった。

212 :
すると最近常連客になった刑事さんがそれを止め、男に手錠をかけた。
小枝は明らかに怯えている。男には明らかに殺気がなかったのに。
ニャンティには何が何だかわからなかった。
けれどすぐに駆け寄って行き、震えている小枝を安心させようとハグをした。

刑事さんが男を連れてレジに行ったので、小枝の背中を両手でポンポンとしてから会計に回り、とりあえず小枝に抱きついた男の顔を一回だけ引っ掻いた。
「なぁ、お前もアーニマンなんじゃないか?」と刑事に言われた時に「は?」と答えたのはドキリとしたからだった。
お客様の大事な忘れ物を捨てようとし、男女の間のことが何も理解出来ない自分は、本当にそういう人間ではない何かであるような気がした。

213 :
暫くすると小枝は落ち着き、閉店時間になり、掃除を済ませてニャンティはアパートへ帰ることにした。
小枝が食事に誘ってくれたが、今日は帰りたい気分だった。別の言い方をすれば、へこんでいた。

214 :
その建物を表現するには「とてもボロい木造アパート」の一言で済む。
家賃8000円のこのアパートの最上階にニャンティは住んでいる。
2階の自分の部屋に上がると、ベッドに寝転がった。
部屋にはベッドと洋服ダンス、TVと仕事用のPCを除いてはほぼ何もなく、綺麗に片付いているのがかえって殺風景な部屋である。

ドアを外からノックする音がし、「たな」と女性の声がした。
「きく」とニャンティが答えると、「まる」と言いながら勝手にドアを開けて紫色のくるくるパーマをあてたおばさんが入って来た。
「ニャンちゃん、帰ったのかい?」見ればわかることを聞きながら入って来たのは隣に住む広島のおばちゃんであった。
「故郷のおばあちゃんが『かき醤油』を送ってくれたんじゃわ、ニャンちゃん、使うかい?」
「ぜひ」
「じゃあ、ここに置いとくでなー」
しばらくどうでもいい世間話をした後、
出て行き際、おばさんは一瞬動きを止め、キラリと目を光らせた。
「019号、本部から暗殺指令が出ている」
「そういう冗談やめて下さい」
ニャンティが疲れた顔で言うとおばさんはテヘペローと舌を出しながら自分の部屋に帰って行った。

215 :
おばさんが帰るとやたら静かになった。

静けさに耐えられないかのようにニャンティはゴチャン語で独り言を言い始める。

「広島のおばあちゃんもやはり紫色の頭をしているのだろうか……。
祖国のジャガティばあちゃんに電話してみようかな。昨日もしたけど。一昨日も……。
今日は色々とへこんだ。私は何のために工作員としての教育を受けて来たのだ……。
……お腹、空かないな。
……とりあえず一風呂浴びよう」

そう呟くとニャンティは起き上がり、ツインテールを結んでいるゴムを解いた。

216 :
するとスマホの着信音(チャリン・アチャリンの『ネコ・デス』)が激しいデスボイスで鳴った。
国際電話。実家の共用ケータイからだ。
「ジャガティばあちゃんかな?」と呟きながら出ると、意外にも電話の向こうから聞こえて来たのは日本語だった。
「ハイハイ、ニャンティ・ニェーニェかい? ワンパク・ペロティだよ」
「ワンパク兄さん? なぜあなたが? 私はあなたとは二度と会話しないと言ったはず」
「おいおい、いいから日本語で喋ろう。ハハハ、ニェーニェの日本語がどれだけ上達したか聞いてあげる」
「いりません。あなたから習った日本語ではないですから」
「ハハハ、嫌わないでくれよ。同じ中性どうし、仲良くしよう」
「今日の晩ごはん、何食べました?」
「メロンチャーハンだよ。ニェーニェは?」
「まだです」
「ハハハハハ! あ、今、おばあちゃんに換わるよ」

217 :
ニャンティは母方のジャガティおばあちゃんとゴチャン語で短いながら濃い話をした。
父方のおばあちゃんが原住民に首を狩られて死んでからは、たった一人のおばあちゃんだった。
昔からニャンティが悩んでいるとそれを空に放り投げてどうでもよくさせてくれる力を持つおばあちゃんだった。
「日本で辛いことはないかい?」とおばあちゃんは聞いた。
「ウン、友達も出来たし、楽しいことばかりだよ」
「そうかい、ニャンティは嘘のつけない子だからね、信じるよ」
「信じるとかいう話じゃないよ」ニャンティはにゃはっと笑った。
「でもね、もし辛い思いをすることがあったら、いつでも帰っておいでよ。なに、私達がトウモロコシを一生食べられなくなるとしても、それよりニャンティのほうが大事だからね」
ニャンティは何も答えずにただおばあちゃんの言葉を聞いた。
「あんたの体のことにしたって、あんたがやらなきゃいけないってことはないんだからね。あんたがやらなくても誰かがいつかはやる。
でも、もしあんたが自分にしか出来ないって思うんなら、出来るまで頑張りなさい。あんたは出来る子だから、きっと出来る。信じてるよ。
でも神様のイタズラで、もし出来なかった時には、あんたには帰れるところがあるんだよ。大丈夫だからね、いつでも帰っておいで」
大きな目から涙をぽろぽろこぼしながら、ニャンティはウン、ウン、とうなずいた。
大きくて透き通るような上弦の月が窓から覗いていた。

218 :
浴室というより洗面所に近い。
しかし巨大なタライとは言え確かに浴槽だし、ホースに如雨露の先をくっつけたものとは言え確かにシャワーだった。
ニャンティの真っ白な裸体が月に照らされ浮かび上がる。
解いた長い黒髪が夜風になびく。
お風呂に入るという行為自体はあまり好きではないが、綺麗になるのは好きだ。
囲いが粗末なので誰かに見られるかもしれなかった。
いつものこと。気にしない。
見られたところで何か問題があるとは思っていなかった。
体型は12歳ぐらいの頃から変わっていない。
少年のような胸、臍の下には19歳ならば当然生えているべきはずの毛がなく、股間にはどちらともつかないものが付いている。
まだ肌寒い季節なので、ニャンティは湯を張ったタライに全身を埋めた。
温もりながら、今まで何度となく思ったことをまた思う。
なぜ、ゴチャンには中性の人間が産まれるのだろう。
なぜ、私達は自然の摂理に反しているのだろう。
成人する時に男になるか女になるかを選べる両性具有キャラの出て来る日本の漫画を昔読んだが、あのようでもなく、
雌雄同体でもなく、私達は死ぬまで中性のままだ。
私達は、一体何なのだろう。
そう思いながら、お腹が鳴った。

219 :
喉元すぎればなんとやらですっかり落ち着いた私は、興奮作用でもあったのかとデスソースについて検索をかけ、結果、罪悪感に苛まれていた。
ピリ辛でおいしいと思っていたが、かなり辛いという意見の人が圧倒的に多いのでどうやらそっちの方が多数派なのだろう。
善意で試食してくれたのに激辛だったなんて、あんなことをされても文句はいえない……。
悪気はなかったとはいえ、ズモーさんには本当に悪い事をしてしまった。
明日ちゃんと警察の人に事情を説明して、あの人が解放された暁には、お詫びになにかまた別のものをご馳走しよう。
私は新たな決意を胸に目を閉じた。

「……でもいいなあ、そんなに辛いんだ」

密かな呟きは、暗闇の中に溶けていく。
落ちていく意識の中で、私は久しぶりに母の姿を見た、気がした。

220 :
「今日のランチは自信作です。
この前、小枝ちゃんに日本料理の店へ連れて行ってもらい、ウニ丼を食べました。
その時にヒントを得ました。『これだ!』と思いましたよ。
ホカホカのごはん、艶々のもみのり、そしてその上にゴチャン特産の濃厚なマンゴーを乗せたマンゴー丼、爆誕!です。
ウニそっくりのとろとろマンゴーに広島のかき醤油をかけてお召し上がり下さい」

221 :
ニャンティは昨日ジャガティばあちゃんと電話をして元気を取り戻した。
へこむ出来事があってもリセットするのではなく、それを次への糧にして、出来る子になるまで頑張ろう。
そう心に決め、顔を上げて出勤した。
まずはみんなに謝ろう。でもあまり堅苦しい謝り方だと何だか謝っているうちにまたへこんで来そう。
そう思って昨日、あれからもう一度ワンパク兄さんに電話をし、謝る時に使えるフレンドリーな日本語を教えてもらった。
昨夜と今朝でそれを100ぺん練習してやって来た。
いつものことだが、わかっているのに他のことに気が向くとすぐに忘れてしまう、
ワンパク兄さんが『人を騙して楽しむ大嘘つき』だということなど。

222 :
「ショウちゃん、昨日はコーヒーカップ2つも壊してごめんにゃ。あとお客様の大事な忘れ物を捨てようとしたこともごめんにゃ。
小枝、昨日はごはん、一緒に行けなくてごめんにゃ。それより襲われてるのに助けに行けなくてごめんにゃ」

223 :
「ごめんにゃ」と言うたび頭をぺこりと下げた。
「さぁ、今日も1日頑張るにゃ! あっ、そうです。アレも持っておかないと……」

ニャンティは昨日忘れ物箱に入れておいたスクラッチ宝くじを取り出し、エプロンのポケットに入れた。
あの可愛いお客様がまた来たら、自分の手から返し、捨てようとしたことを正直に告白し、ごめんにゃと自分の口から言うのだ。

224 :
朝起きて気が付いた。
そういえば示談で処理してもらうにもズモーさんの連絡先を知らない……。
またお世話になってしまうのは恐縮だけど、あの癖毛の刑事さんがきたらちょっと聞いてみよう。

225 :
私が仕入れたコーヒー豆を持って店に入り、間違って買ってしまったゴチャンのコーヒー豆をどうしようか鴨島さんに相談していると、ニャンちゃんがてててと駆け寄ってきた。
生真面目にも昨日のことを色々と気にしていたらしい彼女は、「ごめんにゃ」とお茶目な語尾で謝罪を繰り返す。
鴨島さんは「カップはまた買えばいいですから。あと、忘れ物のことはお客様ご本人に謝りましょう」と穏やかに言い、私は「気にしてないよ、でもありがとう」と彼女を安心させるように微笑んだ。

……ところで萌え萌えキュンの時も思ったけど、ニャンちゃんは一体どこでそんな言葉を覚えてくるんだろう?
あんまりネットとかを読んでそうには見えないんだけど……。
首をかしげつつ、私はウニ丼という珍しく普通(高そうだけど)のランチを運ぶ作業に移ったのだった。

226 :
 コーヒー占いを知ってますか?

 飲み終わったカップを逆さまにひっくり返ししばらく待つ。そして元に戻してカップの底に残った粉で運勢を占うトルコ伝統の占いだ。
 生意気な後輩男子・鈴城にそそのかされて、乙女の純真を試されて、ちょっとご提案に乗ってみた。占いの嫌いな女子ゼロ人説だ。
 金欠の極みでこの店でコーヒーを飲むのも最後かもしれない。それは言い過ぎか、一か月ぐらい先かもしれない。じっくりと目と舌で味わいつつカップを置いた。

 最悪だった。

 (なに……これ)

 人の形をしているじゃないか。どことなく、紳士的であり落ち着きのある佇まい。それでいて、肉体美にもとれるシルエット。
 言うならば……ここのお店のマスターか。白髪のオールバックの老紳士がわたしのカップに浮かび上がり、カウンターで皿を拭く姿と重なった。

 わたし熊懐杏(くまだき・あんず)には、ジジイ萌えという属性は持ち合わせてはいない。
 誰かにほれ込むとすれば、かわいいわたしか、あのツインなテール子ちゃんだ。

 すると、奥にいた老紳士がわたしのテーブルの傍へとつかつか近づいてきた。わたしはそんなに安くはないぞっ。非売品ですって。

227 :
 「コーヒー占いですか」

 彼女からすれば老いぼれとしか見えないだろう。だが、コーヒーを愛する一人の人間として琴線に触れたのだ。
 ボブショートの黒髪で、健康的な黒目がちな瞳。それと比べて、白髪だらけで力を失いつつある眼光のわたしだ。
 このわたしが彼女と会話を交わそうとすること自体、出過ぎた行為と言ってもよろしいだろう。

 「どう見えますかね」

 しかし、そんなわたしに彼女ははつらつな声で返してくれた。まるで鈴の音のような声で。

228 :
 「人に見えるんですけど」

 コーヒーカップの残り粉が話しかけてきた。否。目の前の老紳士だった。
 リアルで言うとこっ恥ずかしくなるようなセリフを舞台の上で言うような部活をしているクセに、現実の会話は若葉マークだ。
 返したセリフは素っ頓狂としか評価できない。しかし、老紳士は優しくわたしを「レディ」扱いしてくれた。

 結果は「人恋しい」との占いだってことは重々承知。だからと言って、誰彼構わずわたしに関わってくれるのはごめんだ。
 老紳士は『言い逃れる隙間はありませんぞ』と言わんばかりに覗き込んできた。

229 :
 「人恋しいのではありませんか」

 彼女はきっと私に対しては好意的ではないだろう。彼女が何も答えないのだから。
 わたしもたくさんのお客様を見ている。物言わずとも、相手の心理がわかるものだ。
 きっと、彼女はかわいい子が好きなのだろう。おそらく、自分自身もかわいくあるべきことの努力を惜しまないはずだ。彼女のみどりの黒髪が物語る。
 そして、嗜好が多種多様なのは時代の流れ。女の子が女の子に恋をすることは宇宙船が飛ぶ時代にはごく普通だろう。
海外にさえ行くことがステイタスになる時代、つまり、わたしが血気盛んな青二才の頃とは違うのだ。

 彼女の視線は玄関にあった。そこには店員のニャンティがいるのだから。

230 :
 「すいません!お、おあいそ!」

 わたしがネコ脚の椅子から音立てて立ち上がると、老紳士の胸板に顔が激突した。
 まるで鋼のような老紳士の胸が、わたしの胸の鼓動を速めた。

 早くここから逃げ出したい。占いなんかするんじゃなかった。結果、自分をさらけ出すだけ、辱めを受けるだけ。コーヒーカップを今にも誰でもいいから
投げつけたくなる気持ちでレジに駆け出す。

 かわいい。わたしはかわいい。熊懐杏(くまだき・あんず)は誰よりも……目の前のツインなテール子ちゃんといい勝負でかわいい。
 すると、ツインなテール子ちゃんはわたしに一枚の派手なデザインの紙切れを渡してくれた。スクラッチの宝くじだ。この前、わたしがこの店で忘れていった
紙切れからの宝物。ツインなテール子ちゃんは無表情だったが、かすかな吐息でちょっと緊張していることがわかる。

 ツインなテール子ちゃんに促され、銀色のマークを削る。

 「あ……千円、当たってる」

 千円あれば……また、来れる。ツインなテール子ちゃんにまた会える。老紳士は……知らないっ。
 コーヒーよりも彼女と会えることを考えてしまうわたしは、もしかして人恋しいのか?

 とにかく、こんな占いを教えてくれた鈴城を蹴り飛ばすことが最優先だし。
 

231 :
もしかして鴨島さんは気づいていないのだろうか…気づいて欲しいが。
私は時計店の作業場で時計をバラしている作業中だった。どこの部品か忘れないように簡単に書いた図面の上にネジや歯車を置きながら考えていた。

あの箱には秘密がある。できれば秘密でと言う依頼だったので、二重底の箱にして置いた。あれなら依頼品を知らない人間にはただの時計が入ってるとしか認識されない。鴨島さんなら二重底の下の懐中時計に気づいてくれているはず…
懐中時計にはコーヒー豆を模った模様やドリッパーや、ミルなんかを緻密に描いたあの店のオリジナルデザイン。それをこっそりと忍ばせてあったのだ。ニャンティの就職祝いらしい。

232 :
「昨日は大変な目に遭いましたね、町田さん」
 俺は5日連続でこの店にまたやって来た。もちろんコーヒーを飲みにだぞ。いや、白々しいか……。
 書類を作る関係で彼女の名前は簡単に割れた。職権濫用と言いたきゃ言え。下の名前までしっかり覚えて忘れないぜ。
「アイツ本当に17歳の高校生だったんでびっくりしましたよ。後に親が引き取りに来ましたが……。
「最近(ムシャクシャしたから)みたいな理由での犯行が多いんで、コイツもその類いかと思ったんですけどどうも違うようで。
「彼女が出来ない鬱憤からあんなことをしたんだろう? と聞くと『白石マイは俺の嫁』とかわけのわからんことを言いやがるのでマル精かと思いました。
「あ、いや、マル精なんて下品な言葉は覚えないように。
「え? アイツの住所知りたいんスか? もう関わらんほうがいいですよ。はぁ、お詫びしたいことがある? それなら、まぁ……」
 うーん。何も悪いことをしていないのにお詫びとか、やっぱり天使すぎるだろ。

233 :
 そして俺はコーヒーを一口飲むと、言いそびれないように練習して来た台詞を繰り出した。
「ところで最近例の二体の野獣による被害者がこの店のすぐ近くで出ました。充分ご注意ください。
「戸締まりはしっかりと、そしてなるべく一人では外を歩かないでください」
 チラリとあの小さな店員を確認すると遠くの席で接客中だったので、俺は続けて一気に言った。
「あの小さな店員さん、俺の刑事のカンからすると人間じゃありません。バケモンです。なるべくアイツとも一緒にいないように。
「で、今度のお休みの日、一緒に映画でも行きませんか? あなたの外歩きはこの俺がしっかりお守りします」

234 :
「お気遣い、ありがとうございます。でっ、でもその、お客様とのプライベートなお付き合いは基本的に禁止されてて……」

小枝は、自分の父が発布した「文堂珈琲館法度」をおもむろに取り出すと、赤い頬を隠すように顔の前でちょこんと巻物を広げて見せた。
納得して貰うや否や、「今度、映画の感想を聞かせてくださいね」と言い残して小枝はぱっと休憩室の方に引っ込む。

235 :
アパートに帰ったニャンティは昨日とはうってかわって上機嫌だった。
「シャン・ホー、ジューシーチー、ヤンっ」とゴチャン語で鼻唄を歌いながら、
とたとたと鉄の階段を上がり、パンチ一発で破れそうな木の扉の鍵を開け、自分の部屋に入る。
今日はいい日だった。可愛いあのお客様には1000円ぶんのラッキーがあった。
ショウちゃんは怒ってなかったし、コーヒーを飲めない自分のことを嫌っていないこともわかった。
何よりみんなに、特に小枝に謝れた。
しかも謝り方がどうも好評だったように思える。
ワンパク兄さんが教えてくれたフレンドリーな日本語がよかったのに違いない。
店から持ち帰ったマンゴーどんぶりをぺろりと平らげ、コンビニで買った特盛プリンをゆっくり食べながら、
自分が今までワンパク兄さんのことを嘘つきだなどと思っていたことを恥じた。
ワンパク兄さんにも謝りたいので後で国際電話をかけようと決めていた。

236 :
早速教えてもらった住所に宛ててお詫びの手紙を書く傍ら、彼女は頭の中で刑事の言葉を反芻していた。
渡された獣人の写真はにわかには信じ難かったが、彼に嘘をつく理由はない。
だから店の近くで被害に遭った人がいるという話も本当なのだろうと小枝は信じている。
だが、大切な友人かつ従業員のニャンティがその凶暴な獣と一緒くたに見られていると知り、彼女自身にもわからない複雑な感情が胸中に渦巻いていた。
すぐに引っ込んだのは、照れもあったが、一番はそうでもしないとその渦巻いている感情が漏れ出してしまいそうだったからだ。
次来た時はニャンティの可愛いところをさりげなくアピールしてみようか。それとも彼女に猫耳でもつけて新しい扉をーー。
小枝は自分を落ち着かせるため、楽しい想像に浸りながら、ぎっしりみっちりお詫びの言葉を書き綴った計20枚ほどの便箋を封筒に詰め込み、投函するため外へ出ていった。

237 :
春の雨がパラパラと、板を張っただけの屋根を叩く。
少し寒かったけど丁寧に、丁寧に髪を洗う。
綺麗にしておかないとツインテールに結った時、アンテナの感度が鈍くなってしまう。
続けて身体のほうも丁寧に洗う。
特にチャームポイントのお尻は入念に。誰に見せるわけでもないけれどブツブツでも出来たら困るので。
それに女性らしいところのあまりない自分の身体の中で、お尻だけは桃のように丸みを帯びていて好きだった。
タライの浴槽に浸かると口まで沈め、ブクブクと子供のように泡を立てて遊んだ。
月を見上げると昨日よりも少しだけ三日月に近い半月だった。

238 :
部屋に戻るとすぐ電話をかけた。

「ムイ?」
電話に出たのは19男のムンチョコだった。
「ムンチョコニェーニェ。元気か?」
とニャンティがそう声をかけた時にはもう電話の向こうは21女のミャンミャンに換わっていた。
「ニャンティ・グェーグェ〜〜!」
「おおミャンミャン〜! 会いたいぞ〜」とニャンティが笑った時にはもう22女のカンカンに、すぐまた27男、次いで28女、
そんな感じでわずか1分の間に15人と会話し、ヘトヘトになりかけた頃にようやくジャガティばあちゃんに換わった。
「元気になったようだね」
「バレてたか、ばあちゃんに嘘はつけないね」
「嘘と強がりは違うさね。任務も進んでいるのかい?」
「任務は待つだけの仕事だから。ニャンティの本業は『自分磨き』みたいなモン」
「カフェのアルバイトは楽しいのかい?」
「うん! すごく!」
毎日自分が考案した日替わりランチを出させてもらっていること、小枝やショウちゃんのこと、楽しいお客様のこと、
色々と話そうと思った時、電話の向こうのばあちゃんが言った。
「ワンパクが替わりたいそうだよ。今、替わるね」

239 :
「やぁニャンティ・ニェーニェ(ゴチャン語で年下の中性の兄弟の呼称)」
電話に出たワンパク兄さんの声は明らかにニャンティに非難されることを期待していた。しかしニャンティの声は明るかった。
「ハイ、ワンパク・グェーグェ(年上の中性の兄弟の呼称)」
「あれ? なんだか機嫌がよさそうだね?」
「ハイ! グェーグェのお陰です」
「んん? ……ちゃんと教えた通りの日本語で謝ったのかい?」
「ハイ! 『ごめんにゃ』を連発しましたところ、大変好評でした。ひとえにワンパク兄さんのお教えのお陰です。
私、今までずっと兄さんのことを意地悪で嘘つきなのだと勘違いしていました。心から謝ります。ごめんにゃ!」
「……。」
「おや? どうしたのです、ワンパク兄さん?」
「いや、ちょっとね……。苦虫を噛み潰しているんだよ」
「虫を? 食べているのですか!? タイ人みたいで格好いい!」
「……まぁ、あれだ。よかったね、謝罪がうまく行って」
「ハイ! また、ぜひフレンドリーな日本語をお教え下さい」
「今すぐひとつ教えようか?」
「ぜひ」

240 :
「よし、じゃあまず質問をしようか。たとえば食事の誘いを断る時、ニャンティは日本語で何て言う? 一言で」
「……誘われた相手にもよりますし、色々ですね。『ごめんなさい』とか『お断りします』とか」
「どれも固いな」
「あ、じゃあ『ごめんね、今日は……ちょっと』ではどうです?」
「長いな。もっとフレンドリーかつ便利な言葉があるんだよ」
「どのような?」
「じゃあ今から僕が言うのを真似してごらん」
「ハイ」
「『ごめんこうむる!』」
「ごめんこうむる」
「もっと力を入れて! ごめんこうむる!」
「ごめんこうむる!」
「よし! それにアクションも加えるんだ。両手で刀を持つように……ほら、日本時代劇の『桃太郎侍』で高橋英樹が敵を斬り捨てるだろう?
あの動きのように、斜め上から袈裟懸けで斬るように鋭く動きを加えながら、『ごめんこうむる!』」
「ごめんこうむる!」ニャンティは鋭い剣さばきでばっさりと敵を斬り捨てた。
「ハハハ! 明日が楽しみだね」
「ハイ! 明日が楽しみです」
ニャンティは口で息をしながら、鼻の頭の汗を拭きながら、明るく言った。
「それではワンパク兄さん、お休みなさい」

241 :
>>234
うぅ……めげるもんか。
文堂珈琲館法度? なんだそりゃ! 知るもんか!
俺は下心など一切なく、ただ君を守りたいだけなんだ!
(いや、完璧嘘だな、これ……)

よし、考えろ。
恋愛兵術書にはこうあるではないか、
「将を射んと欲するならばまず馬を射よ」と。

よーしよし。じゃあ彼女にとっての馬とは?
馬……、馬といえば……
_________________

「おい、俺と友達になってくれ」
俺は注文を取りに来た例の小さいツインテールの店員にそう注文した。

242 :
「本日のニャンティ特製ゴチャン風日替わりランチは『カーニバルライス』です。
ゴチャンでは高級食材のアレが日本ではタダ同然で手に入ると知り、高級レストランのシェフになったような気分でつくりました。
真っ赤なデスソース・ライスの中から断末魔を上げるように丸く口を開けたアレが天を向いて聳え立っています。
本場ゴチャンでは普通アレは一匹だけ使用するのですが、あまりにもタダ同然なので、豪華に5匹聳え立たせました。
こんなのゴチャンで食べれば軽く一皿3000G$(約一万二千円)はします。
死と隣り合わせの情熱的なカーニバル風味とアレの豪快に聳え立つ謎な姿をご堪能下さい。
あ、触角は取り除いてお召し上がり下さい」

243 :
>>241
ニャンティはろくに会話もしたことのない男の人から「友達になってくれ」と言われ、
5秒ほどじーーーっとその男の人のしゃくれた顎を凝視してから、言った。
「ぜひ」
断る理由はなかったし、何より日本人の友達が増えることがとても嬉しかった。
「ところでお名前、『アイタタタさん』でよろしいのでしょうか? 私はニャンティ・ペロティです。生まれはゴチャン民主主義共和国で祖国に兄弟が(自己紹介3分省略)……です。
それでは今度の日曜、デートして下さい」

244 :
「あ、しまった。昨日ワンパク兄さんから教わったあの言葉>>240を試す絶好のチャンスだったかもしれない。
「ごめんこうむる!」と斬り捨ててから「嘘ぴょ〜ん」と言えばもっとフレンドリーな印象を持ってもらえたかも……。
どうも私はこういうところがダメだな。楽しい空気が作れない」
ぶつぶつ呟き厨房に戻りながら、ニャンティは誰にともなく言った。
「誰か私に『ごめんこうむる』を言う機会を与えてはくれないだろうか?」

245 :
「同時に店舗スタッフ及びお客様キャラも募集しております。
性別、年齢不問。シリアスキャラでもギャグキャラでも何でもお相手いたします」

246 :
「アイタガヤ。アイタガヤ ゼンゾーだ。『善ちゃん』でも何でも好きに呼べ」

 意中のあの娘には断られ、どーでもいいバケモンにはOKされる。人生こんなものだよな……。
 しかし怪しい奴と思っていたが、至近距離で匂いを嗅ぐとバケモン特有のあの野良イヌやホームレスのような異臭がない。
 どれだけ洗ったところで拭えないはずなんだが。……というかコイツ、匂いがまったくしない。まるでロボットだ。
 もしや本当にロボットなんじゃないのか? 殺人ロボットかなんか。
……油断は禁物だ。

 しかしいきなりデートと言われ、正直俺はたじろいでしまった。
 デートなんてした記憶は12歳の夏が最後だ。
つまりというかなんというか、俺は25歳にして未だチェリー・ボーイなのだ。あ? 悪いか!

 後輩の青木に勝ち誇ったような顔で言われたことが脳裏に甦る。
「どんなドブスでもいいからまずヤッちまうことですよ。
「それで自信とテクつけてから、本命に行く。ドブスは保険で取っておく」

 鬼畜め。悪魔め。と、思いながらも「そうなのかなぁ」と考える俺も実際いる。そんなもんだ。
 つまり、このバケモンで筆下ろしするチャンスなんだよな? これは。

 いや、コレで立つのは無理だろう。だってコイツからは女の匂いがしない。一切しないのだ。
 ここで「女の匂い」というと普通の奴なら「フローラルな香り」みたいなのを想像するんだろうが全然違う。
 牛のレバーと生卵と牛乳がいっぺんに発酵したような匂い。常人にはわからんだろうがイヌ並みの鼻をもつ俺にとってはそれこそが女の匂いだ。
 そして町田さんからはそんな匂いが狂おしいほど特別濃厚にするのだ。

 そうだ。恐らくはこれこそが愛の力なのだ。
 愛してしまった町田さんからは強烈な匂いがする、どーでもいいコイツからはしない。そういうことなのだ。
 やはり俺は愛のないデートなどする気にはなれない。
 だからコイツとデートする理由はない。さくっと断ろ……いや待て待て。町田さんを得るためにコイツと仲良くしようとしてたんじゃないか。

247 :
>>243

 と、その時、俺の頭に素晴らしいプランが閃いた。
「デートして下さい」と言うバケモン娘に俺は提案した。
「こっちももう一人連れて来るからさ、お前も町田さん連れて来いよ。連れて来てください」

248 :
あれ?

私、どうしたんだっけ?

確か、喫茶店でランチを食べて、その帰りに……

なのに私は未だ喫茶店の窓側のテーブルに居て、私の目の前にはランチが用意されている。

死にたかったはずなのに……
何も感じなくなっている。

りえちゃん、綺麗。もう44歳なのに。

そういえばお腹が減ってきた。
お腹が空いて空いて、たまらない。

ランチを食べよう。

……おかしいな。
いくら食べても飢えが治まらない。

まるでお腹がなくなったみたい。

いくら食べても
いくら食べても食べても
いくら食べても食べても食べても食べても食べても食べても飢えが食べても食べても

249 :
 首から血を流し、はらわたのない女性が窓側のテーブルに座ってランチを食べていた。
 口に運ぶたびに今食べたものが腹部に開いた洞穴からボトボトと皿に落ち戻っていた。
 他の者にその姿は見えなかったが、カウンター内のニャンティにだけははっきりと見えていた。

 女性はおもむろに立ち上がると、飛び出るほどに眼球を赤く剥き出し、カウンター内のニャンティに迫りながら叫んだ。
「一緒にお食事行きませんかぁぁぁああああ!」>>244

250 :
【ピン獣大使ステファニー】

性別 女、ピン
年齢 ???????
外見 黒いボンデージ・ルック、女王様、ピン
性格 残忍、高飛車、女王様、ピン
武器 ピンピンのムチ
口癖 おばかさん

ピンからキリまでいる魔獣の中でもピンのトップの存在
とにかく何から何までとってもピン

251 :
>>247
「デートして下さいなんて冗談ですよ。ごめんにゃ!」

252 :
>>250
「ご注文は?」

253 :
>>248-249
ニャンティは急に動きが固まり、小枝の上着の裾を掴んで背中に隠れた。
小枝の脇からそーっと窓側のテーブルを窺い見る。
「どうしたの、ニャンちゃん?」と小枝が不思議に思って聞くと、
「グエー(ゴチャン語で『幽霊』の意)がいる……」と言いながら視線はひとところから離さない。
そしていきなり「プヤーーッ!」と大声を上げた。
「プヤーー! プヤーー!」と叫びながら小枝の背後に隠れ、そのまま幽霊がいなくなるまでくっついてしまった。

プヤーとはゴチャン語で『いやー』のことである。
パニックの時、人は最も言い慣れた言語を発するものだ。

結局その日、ニャンティはワンパク兄さんから教わったフレンドリーな日本語「ごめんこうむる」を披露することはなかった。

254 :
「土日はバイトお休みします。遊びに来れたら来るかもです。それではお休みなさい」

255 :
「ねぇマスター聞いてくれよ。
えっ? 俺のこと覚えてないって?
『かりんどう ふのすけ』ですよ。え? 聞き覚えがない?
まぁ、しょうがないよね。影の薄い俺のことですからね。
だから容姿や年齢なんて覚えて貰う必要ないですよ。
どうせ忘れられてしまう。実際、特徴も何もないしね。

聞いてくれよ、マスター。俺いつもコンビニで買い物する時にさ、
品物受け取る時『ありがとう』って言うんだよ。いやどんな店員さんにでもさ。
100円のコーヒーしか買わないのに笑顔をくれる店員さんには元気を貰えるし、
そうでない店員さんでもわざわざ俺ごときのために働いてくれちゃってるんだなぁと思うと感謝したくて。

それより何より自分が昔コンビニ店員のバイトしてた時、あるお客さんから『ありがとう』って言って貰って嬉しかったことがあったんだ。
20歳代後半ぐらいの、全然綺麗な女性でもなかったけど、
しっかり俺の顔を見て、明るい笑顔とはっきりした声で『ありがとう』って。
そんなこと言う義務まったくないのにさ。
『すげぇ』って思ったよ。『なんだこの人間素晴らしいみたいな気持ち!』ってなった。
自分が普段『人間ほど愚かな生き物はいねぇな』って思ってることの反動で特にそうなっちゃったのかもしれないけどさ。
で、この感動を他のみんなにも分け与えたいって思うようになって、それからコンビニでもスーパーでもどこでも、
買い物する時には必ず『ありがとう』って言うようになったんだ。

でもね。

あれって言う奴を選ぶみたいでね。
俺が『ありがとう』って言うと必ず店員さんの笑顔が消えちゃうんだ。
それまでまるで俺のことを愛してくれてるのか?みたいな笑顔を浮かべてた女の子でも、
俺が『ありがとう』って言った瞬間スーッと笑顔が消えちゃうんだ。

俺、どんな風に見えてるのかね。

春は死にたい季節ナンバーワンだよ。
でもマスターが話聞いてくれるから頑張れる。
それじゃウィンナーコーヒーご馳走さま。また来るよ!

……あ、次来た時には俺のこと覚えとい……まっ、いっかぁ!」

256 :
今朝、ニャンちゃんから「グエーに狙われているので休みます」と電話がかかってきた。
グエーというのは幽霊のことらしい。
そんなものが店の中にいるのは嫌なので、彼女に言われた通り、休憩時間にゴチャンニンニクを買いにスーパーにいくと、腐った卵とおじさんの靴下ときつめの香草を混ぜたような悪臭がする謎の植物が見つかった。

……。

「客払い用の間違いかな」

厄祓いなら盛り塩で充分だ。
私は天然塩を一瓶購入し、店に帰った。

257 :
店に入ると、鴨島さんが前に時計屋さんが持ってきてくれた箱を持ってにこにこしていた。
「どうかしたんですか?」と声をかけると、はっとしてこちらを振り返ったが、私の顔を確認するなり身体のこわばりを緩める。

「店長でしたか。あなたになら見せても問題はないでしょう。……これですよ」

そう言って取り出されたのは、素敵な意匠の懐中時計だ。

「わ、これ、オーダーメイドですか?」
「ええ、少し遅れましたがニャンティさんの歓迎の品にと思いまして。名栗さんに頼んだのですが、はは、やはり彼は腕がいい」

嬉しそうな彼を見て、私はふと気になったことを尋ねてみる。

258 :
「歓迎の品を贈るなら、やっぱり歓迎会はしますよね。もし準備がまだなら、私も全力で協力しますけど……」

店長のくせにすっかり忘れてたのはちょっと恥ずかしいから、挽回できると嬉しい。
そんな裏心からの問いに、彼はあっさりと首を横に振る。

「あ、いえ。実はもう場所にも目星がついてるんですよ。少し遠方になりますが、ゴチャン料理の専門店を見つけまして」
「ーー覚悟は決まってるんですね」

故郷の料理でもてなしたいその気持ちはよくわかったから、私も覚悟を決めて頷いた。
だが彼はそれにも首を振った。

「私たちにも食べられる料理はリサーチ済みです。手配しておきますので、ご安心を」

これが紳士の底力……!
私は鴨島さんの抜群の気遣いにただただ感銘を受け、前のめりで彼の手を握りしめた。

「さすがです!最高です!じゃあ私はニャンちゃんに空いてる日にちを聞いてみますね」
「ええ、よろしくお願いします」

休憩室を出た私は、早速ニャンちゃんに聞いてみようとしたが、そういえば今日は休みだったことを思い出した。
電話番号も知らないし、また今度きた時に聞いてみよう。
私はうきうきとしながら、新たな客の訪れを報せるベルの音にへいらっしゃーいと元気な返事を返したのだった。

259 :
「おばかさん」

260 :
 その客は明らかに異様だった。
 文堂珈琲館の木の扉を開けると、怯えているような動きで店内をぐるぐると目の動きだけで見渡した。
 町田小枝が「いらっしゃいませ」と声をかけると体を硬直させ、そのまま静かに出て行こうとした。
 が、再び顔だけ店内に入れ、目の動きだけで店内の様子を確認する。
 たまたま客のいない時間帯で、店内にはピン獣大使ステファニーと町田小枝一人だ。それを確認すると、その女は蛇のような笑いを浮かべた。

261 :
 ようやく店内に入ってきたその女の全貌はやはり異様だった。
 長い黒髪のパッツンストレートは明らかにウィッグだ。被り方があまりにもいい加減で、斜めにずれている。
 目の上で揃うはずの前髪がずれているため、眉毛がないことも丸わかりだった。
 黒い長袖Tシャツに白の長いスカートを穿いているのだが、どちらも前後を逆に着けている。
 スカートはホックだけで止めており、全開のサイドジッパーからは下着を着けていない素肌が見えてしまっていた。ヌメヌメとした光を浮かべる素肌が。
 裂けるほどに開いた口が笑う。前歯が二本だけ針のように尖っていた。

 女は裸足でヒタヒタと床を這うように歩き、町田小枝めがけて真っ直ぐ進んでくる。
『これはヤバイ。何かわからないけどヤバイ』
 身の危険を感じ取った小枝は側にあったパン切り包丁を手に取り、構えた。
 しかしその目を離した一瞬の隙に女は消えていた。

262 :
「アイタガヤァ、アイタガヤァ」

263 :
 すぐ背後にその声を聞き、町田小枝は振り返ろうとして、首筋にチクリと注射針を刺されたような痛みを感じた。そしてすぐに動けなくなった。
 ネアの持つ即効性の神経毒を注ぎ込まれたのである。全身が麻痺し、4時間は立っていることもできないだろう。
 ネアは後ろに倒れかかった小枝を支え、その耳に囁いた。
「バラバラ、好き?」
 そして小枝の手からパン切り包丁を奪い取ると、彼女の腕の根元に当て、軽く引いた。
 軽く引いただけなのに服は裂け、肉を1cmほど抉った。白いブラウスがみるみる紅く染まる。
「ウデ、取れる。ネア、両手で持つ。飲む、飲む、飲む!」
 嬉しそうにそう言いながら、赤い舌を出して見せた。先が大きく二つに割れている。
 その舌を使い、味見をするように小枝の首筋をネロネロと舐め上げた。ネアの味蕾に濃厚な女の味が広がった。
『女の味』と言うと人間ならばフローラルなイメージを持つかもしれない。が、動物的感覚を持つネアの場合は違った。
 ネアにとって女の味とはレバーと生卵と牛乳を混ぜたものを三日間真夏の気温の中で発酵させたような味であり、つまりは強烈なほどに糞まずかった。

264 :
「ッギャアアアア!!!!」
 ネアは飛び退き、カウンター内のコーヒー器具を薙ぎ倒して苦しんだ。
 小枝は崩れ落ちたが、ネアの体がクッションになり、ぺたりと尻餅をつく形でゆっくりと倒れた。
「オッ、オエッ! オエッ!」
 あまりのまずさにネアは嘔吐きはじめ、やがて今朝丸飲みした鶏を吐き出した。
 ピン獣大使ステファニーはその様子をずっとテーブルの下に隠れて見ていた。
 ネアは周章てふためいて店を出ていき、痺れて動けない小枝と半分消化された一羽の鶏が残された。
 

265 :
うーむ

266 :
ニャンティはお気に入りの日本のロックバンド「太鼓スーパークラッシャーズ」のライブを見た帰り道にいた。
「最高のライブだった。まさかあそこでバスドラを蹴破るとは……凄いパワーを貰った」
♪わっけもない、わっけもない、と鼻唄を歌いながら人気のない裏通りを歩いていると、前からロングヘアーの女性が歩いて来た。
ニャンティは気になって気になってたまらず、ついに女性を呼び止め、口を出してしまった。
「かつらずれてますよ」
言いながら、かつらをまっすぐに直してあげようと伸ばしたその手を女性に噛まれた。

267 :
「あっ」と一言漏らして固まったニャンティを、ネアは舐めてみた。
大丈夫だ、こいつは女の味がしない。
むしろ大好物のネコみたいな味がする。
ネアはネコを呑む時いつもそうするように、恐怖に口を固く結び顔を背けるネコの、その最期の表情を楽しもうとした。
しかしニャンティがまったく表情を変えない上、じーっと見つめて来るのに腹が立ってそのまま呑むことにした。
顎の間接を外し、食道をいっぱいに広げ、少しずつ飲み込んで行く。
やがてお腹が妊婦よりも大きくなったネアは、これなら3日はもつな、と満足げながら疲れきった顔でその場に座り込んだ。

ニャンティの小さな身体なら神経毒が消えるまで6時間はかかるだろう。
生還不可能になるほどまで消化するのは2時間もあれば充分だ。
それまで植え込みに隠れて眠るとしよう。

268 :
「人助けの趣味はないんだけどね。
そこは気に入りの店のシェフなんだ。
殺されるとボクが困る。

だから……キミが死んでくれるかい?」

植え込みに身を落ち着けたネア。
そのすぐ後ろのなにもなかった空間に、まるで幻かなにかのように一人の青年が現れる。
青年は口の端を吊り上げ、アメジストをはめこんだかのような瞳に酷薄な光を宿すと、口の中で何事かを呟いた。
一瞬の後ーーネアの上半身が煙の如く露散し、青年は淡々と体内を引き裂いてニャンティを助け出した。

「あーばっちいな。手が汚れた。
よし、ハンカチ代及び水道代、あああと送迎代ということでこの財布はもらっていこう。

じゃ、またね。

良い夢を、ニャンティ・ペロティ」

ニャンティの懐から薄いがま口の財布を抜き取った男が、再び口の中でなにかを呟くと二人の姿もまた煙のようにかき消えていった。

269 :
 彼女のいる喫茶店に野良蛇のような匂いが入って行ったのを遠くから嗅ぎ付け急いで駆けつけた。
 彼女はカウンターの中にへたり込み、震えていた。
 腕から血を流しているので自分のネクタイを外し、肩のあたりで縛る。傷は幸い浅そうだ。
 痺れた彼女、床にくっついている溶けかけの一羽の鶏……。
 間違いない、ネアがここに来たのだ。
 奴らは獰猛なくせに臆病で、普通は人間のいる屋内には入って来ない。
 それを圧して入って来るほどの目的が何かここにあったということだ。それは何だ?

「俺が来たからもう大丈夫ですよ」
 震えの止まらない町田さんを安心させたくて俺は彼女を抱き締めた。
 鼻を至近距離で強烈な女の匂いが襲う。
 いい香りだ。
 俺は危うく刑事でありながら犯罪者になってしまいそうだった。

270 :
本日は臨時休業とさせていただきます

271 :
店長と働き者のアルバイト。二人も休んだのでは臨時休業にする他なかった。

店長は腕の怪我だけでなく精神的にも傷を受けており、体内の毒が後遺症を引き起こす恐れもあるとのことで、大事をとって市民病院に入院した。
普段通りに会話は出来たが、時々私の声が聞こえなくなるぐらい自分の中に入り込んでしまう。
林檎を剥いてあげたら喜んで食べてくれたが……。心配だ。

ニャンティも同じ病院に担ぎ込まれた。こちらは店長にもまして深刻だった。
ベッドに仰向けに寝たままずっとまばたきもせず天井を見つめている。発見された時からずっと目を開けているそうだ。
話しかけても何の反応もなく、起きているのか寝ているのかすらわからなかった。
植物人間になったのかもしれないと医者は言った。

愛田谷刑事は逮捕された。警官が駆けつけた時、店長が動けないことをいいことに色々イタズラをしようとしていたそうだ。
見た目はだらしないが誠実そうな男だと思っていた私の目は節穴だったようだ。

272 :
「ハァ……。いつもの平和な時間はどこへやら。早くいつも通りに戻ってくれればいいが……」

まぁ、しかしネアの死骸が発見されたことで店長も少しは落ち着いてくれたように見えた。
もう一匹いるので不安は消えないが……。

しかしネアを倒したのは一体誰なのか?
実は私には少し心当たりがあった。

お客のいない文堂珈琲館のカウンター席に座り、私は自分で淹れたベトナムコーヒーを飲み干すと、ネアの臭いを完全に消し去るべく、床を洗い始めた。

273 :
犯人はこの中にいるわ!

274 :
「俺は無実だ! 冤罪だ! 彼女に聞いてみてくれ!」

275 :
すでに1匹が消えてしまった…
しかも鴨島さんのお店で。一応上方には報告はしたが反応がない所を観ると対象死亡で問題ないようだ。
見ているだけにしていた罪滅ぼしって言っても大したことはできないので、店の痕跡を消す手伝いと、お見舞いに行くことにした。

病室に着くとその子はまだ虚ろなまま天井を見つめていた。
「……」

なにを語ったらいいのか、語らない方がいいのか。自分には決められず。
さすがにゴチャン産フルーツを持ってくるわけにはいかなかったので、国産果物の使ったジュースを置いておいた。

276 :
空港ゲートに4人のゴチャン人が降り立った。
ニャンティが入院して意識が戻らないと聞き、家族を代表してやって来たのである。
父、祖母、妹、そして中性の兄、の4人であった。

277 :
名前 ワンパク・ペロティ(中性の兄)

年齢 28歳
肌の色 純白
身長 146cm
体重 62kg
外見 頭の上に中型のマリモがひとつ乗っているような個性的な髪型、5歳児がそっくりな似顔絵を描けるほどシンプルな顔、ビール腹、いつも笑顔

日本の製薬会社に5年勤めていた。現在は同社のゴチャン支点勤務。そのため日本語がペラペラ。
不確かな情報を自信をもって口にするため周囲をかき回すことが多い。親しい人間にはわざと嘘の情報を与えて楽しむサディスト。
小太りのオッサンに見えて実は剣道七段。


名前 ミャンミャン・ペロティ(妹)

年齢 16歳になったばかり
肌の色 薄い褐色
身長 162cm、まだ伸び盛り
体重 47kg
スリーサイズ B82(C)、W49、H83
髪型 ショート

ゴチャンのファッション雑誌「ヤンヤン」の人気モデル。ハーフ顔。三つ隣にかつて住んでいたオランダ人のイケメン似。
父にはまったく似たところがないが、産まれた時、父は「美人さんが産まれたぞぉ」と、とても喜んだ。現在も溺愛している。
ニャンティを「お姉ちゃん」と呼ぶニャンティっ子。

278 :
名前 ペロティ・ペロティ(父)

年齢 54歳
肌の色 白
身長 132cm
体重 31kg
外見 ワンパクと同じ。ただ、口元に皺があり、頭のマリモが二つあるので区別は容易。

33人の子供の父親。再婚4回。
いくつもの農園を経営している。


名前 ジャガティ・ペロティ(祖母)

年齢 91歳
肌の色 薄い褐色
身長 128cm
体重 21kg
外見 ニャンティにそっくり。違うのは無数の皺と肌の色、そしてオールバックにした総白髪の髪型ぐらい。
実は日本語がペラペラだが理由あってそのことを隠している。

279 :
病室に入るとニャンティが天井を見つめて寝ていた。
「お姉ちゃん、来たよ」と妹のミャンミャンが声をかけても無反応だ。
「ニャンティ? 聞こえてるかい?」父が呼んでもぴくりともしない。

「とりあえず四日間ここにいよう」とジャガティばあちゃんが言った。「きっとこの子はその間に帰って来る」
ばあちゃんがそう言うと本当にそうなる気がして、皆少し気持ちが明るくなった。
「きっとニャンティは生まれ変わろうとしているんだよ」ワンパク兄さんが言った。「二日目だ。明後日、ニャンティは目を覚ます!」
ワンパク兄さんがそう言うとすごく嘘臭くて、絶対にそうならないような気がして、皆また気持ちが暗くなってしまった。

「お姉ちゃん、ミャンを残して死んだら嫌だ!」妹がニャンティの上に突っ伏して泣いた。
「こ、こら」父が叱る。「死ぬなんて……そんな縁起でもない言葉を口に出すんじゃありません」
「とりあえずニャンティがお世話になってるという喫茶店へ挨拶に行こう」ばあちゃんが言った。「わしの呪術に引っ掛かる何かがあるかも知れんしの」

280 :
「うん。……行く」
ミャンミャンは立ち上がると、長いしっぽをスカートの中にしまった。

281 :
外を歩いていると日本人の頭の軽そうな男の人があたしに声をかけて来た。足下を一緒に歩いてる3人が小さすぎて見えなかったらしい。
「芸能界に興味ない?」
どうやらその手のスカウトみたい。
あたし様を誰だと思ってるの。『ヤンヤン』のトップモデル、ミャンミャンちゃんを知らないなんて、日本人って遅れてるぅ。
とにかくあたしは今、日本人が嫌いだ。どいつもこいつもがあたしの最愛のお姉ちゃんをあんなにした犯人に見えるから。
あたしが睨みながら見下したまま何も言わないでいると、ワンパク兄ちゃんが口を出した。
「ごめんなさい、この子、日本語が喋れないもんで」
嘘つき。お姉ちゃんに付き合って勉強したからそこそこは喋れるよ。でもまぁそゆことにしとく。
「ただ『進撃の巨人』のファンなもんだから、『エレン、家が!』ってのだけ喋れるんですよアハハハハ」
あー、一番最初に覚えたのは確かにソレ。
「エレン! イエガー!」とわざとガイジン発音で大げさに言ってやったら逃げてった。

282 :
「どうもこの度は……申し訳ございません。大切な娘さんをお守り出来ず。この鴨島翔昭、不覚の至りです」
Closedの札が表に出ていたので誰もいないのかと思いながらもドアを叩くと鴨島マスターが中にいた。
ニャンティの家族だと説明するとマスターはベトナムコーヒーを二杯とマンゴージュース、そしてウーロン茶を入れてくれた。
「お店、定休日なんですか?」ワンパクが聞く。
「いえ、ニャンティさんがあまりによく働いてくれるので頼り切ってしまっていました。彼女が倒れただけで営業不能になってしまいまして」
「わぁ、それならいい代わりがここにいますよ」ワンパクはニコニコしながらミャンミャンを振り返った。「お前、バイトやれ」

283 :
モデル並みどころか日本のトップモデルさえ超えるのではないかと思わせる8頭身16歳美少女に見とれながら、
鴨島は「ウム」と頷いた。お客がごっつ増えるような気がした。

「え……、やだ。お姉ちゃんの側にいたい」ミャンミャンは首を横に振った。

「うんや、やりなさいミャンミャン」
そう言ったのはジャガティばあちゃんだった。
ばあちゃんに言われると、やらなければいけないどころか、やればいいことがあるような気がして来るのが不思議だ。

「ウフフ、決まりだね」ワンパク兄さんが笑った。「でも一人じゃ足りないでしょ? ついでに僕もバイトしちゃおっかな〜」
「うんや。わしがやる」
ジャガティばあちゃんのその言葉に全員が10秒沈黙した。

「えええええ!?」
ワンパクが通訳すると鴨島も顎を外した。

「ミャンミャンに人目を引いとってほしい。その間にわしはニャンティをあんなにしておる源の邪気を見つける」
ジャガティばあちゃんはそう言うと、いそいそとメイド服を試着した。

284 :
「放置かよ(涙)」

285 :
「おはよ……。
今日のミャンミャン特製ゴチャン風日替わりランチはDry Curry……。日本語で言うとドライカレー?
フライパンにバターをひき、玉ねぎとハムとピーマンとニンジンとご飯を炒めて、塩コショウとカレー粉で味付けして、隠し味にマヨネーズをちょびっと使いました。
お姉ちゃんみたいな独創性のない、普通のつまらない料理しか作れなくてごめんなさい」

286 :
ミャンミャンは初めのうちは病院の姉のことばかり考えてアルバイトに気が乗らなかったが、
そのうち人に見られることが大好きなモデル魂のエンジンがかかり、またこの店の制服が可愛いことも手伝って、
ノリノリで接客しはじめた。
たまにスカートからノリノリで飛び出す猫のしっぽを客に指摘されても「しっぽでーす」で済ませた。

287 :
ミャンミャンに人目が引きつけられている隙に、ジャガティばあちゃんは邪気の源を探った。
『確かに客が増えるにつれて邪気も増して来おる……。どこじゃ?』

288 :
退院明けの朝、私はニャンちゃんの眠る病室を訪れていた。
殺されかけてショックを受けていた私のことを気遣ったのか、鴨島さんもお医者さんも誰も彼女のことを教えてくれなかったが、今日になって「蛇」の被害に遭い意識不明になっている少女の噂話を耳にして、慌てて駆けつけたのだ。

「ニャンちゃん……、ごめんなさい」

爛れた白い頬をそっと撫ぜ、懺悔する。
もし、自分があの時ネアを引き止められていたなら。あるいは、愛田谷刑事の捜査にもっと協力できていたなら。
そう思わずにはいられなかった。

289 :
でも後悔しても時は戻らない。
今の私にできるのは、まだどこかで生きているゴゴを探す協力をすることくらいだ。
そのためにも、今日警察が事情聴取にやってきら愛田谷さんの解放を訴えよう。
私は色々と弁護の言葉を考えながら、離れ難い気持ちをこらえてニャンちゃんに背を向け、実家兼職場に向かう。

「……あれ?」

店にいくと、看板がopenになっていた。
鴨島さんが一人で営業しているのだろうか。
不思議に思いながら扉を開けると、見知らぬメイド服の老女と美女が同時にこちらを振り返る。

「間違えました」

私は開けたばかりの扉をばたんとしめた。

290 :
 ようやく自由の身に戻った。
 町田さんが俺のために身を尽くして疑いを晴らしてくれたのだ。やはり彼女も俺のことを……?
 しかしよくも二日間も拘留してくれやがったものだ。
 それどころかあのままだと懲戒免職になるところだった。ったく、髪の匂いを嗅ぎまくったぐらいで辞めさせられてはかなわない。

 俺は彼女の無事を確かめるために文堂珈琲館へ急いだ。
 扉を開けるとあの小さいほうのネコみたいなふざけた店員がいた。たった二日で80ぐらい歳をとっていたが興味なかった。
 もう一人見慣れない女の店員もいた。美人だがガキだ。美人だがガキじゃないかと自分に言い聞かせた。
 町田さんの姿が見えない。マスターに聞こうと近づいたがやたら怖い顔をしている。
「町田さんに会わせてください」
 そう言った途端追い出された。……なんだってんだ……?

291 :
身なりの綺麗なおばさんが店に入って来た。
「らっしゃ〜い」と声をかけると、鴨島サンから「店長です」と紹介された。
お姉ちゃんからよく話を聞いてた人だ。優しくて愛にあふれた人だって。店長サンとは聞いてなかったけど。
入院してたと聞いてたので「このたびはゴシュウショウサマでした」と言ってぺこりとしたら変な顔をされた。
まぁワンパク兄ちゃんに教えてもらった日本語だから変だろうのは想定内。
「いつもお姉ちゃんがお世話になってます。妹のミャンミャンといいます」
自己紹介したらあっちも自己紹介し返して来たけどその名前、お姉ちゃんから100回は聞かせれてるからとっくに覚えてる。

「こちはジャガティおばあちゃん」と紹介すると、おばあちゃんは店長サンの顔を下からじーっと見つめてた。お姉ちゃんみたい。
そだねー、日本語がわからないもんねー、と通訳したけどやっぱりじーっと見つめたまま。
店長サンの顔を……。
あれ?
なんかずれてる。
顔というより……肩?

292 :
『なんと……そんな所におったんか、ニャンティよ』
小さなニャンティの魂が、町田小枝の肩にちょこんと腰掛けておった。
よほど怖い目に遭ったのか、その服をぎゅっと掴んで。

293 :
昔からこういうことはあった。
ニャンティは自分を消してしまいたいほど怖い目に遭うと、体を捨てて魂だけ逃げ出してしまうのだ。
ただ今まではせいぜいすぐ側にいる誰かのポケットの中などに逃げ、
怖いものが去ったらすぐに体に戻ったものだが。

「よっぽど怖い目をしたんだよ。可哀想に」
ジャガティばあちゃんは皆を集めて話した。
「まぁ、しかし、とりあえずニャンティは見つけた。あとは体に帰してやるだけじゃが、邪魔をしとる何者かがおる」
「何者かって何者なんだい?」ペロティパパがとぼけた質問をした。
「わからんから何者かなんじゃが……」と突っ込んだ上でばあちゃんは続けた。
「しかし、あの喫茶店にそれがおるのは間違いない。邪気をひしひしと感じるでの。それを倒せばニャンティは目を覚ます」

294 :
「それで……」ワンパクが言った。「ばあちゃんはその邪気キャラの設定をもう用意しているのかい?」
「うんや、なんも」ばあちゃんは首を横に振った。「誰かが設定してくれんかのぅ……と思うちょる」
ワンパクがずっこけた。

『これがわしの最後の戦いにぬるかもしれんのぅ……」
そう思いながら、ジャガティばあちゃんは鉄の数珠を擦り合わせた。

295 :
 ニャンティ・ペロティも襲われて入院していたとは知らなかった。
 町田さんはそこにいるかもしれない、と直感して行ってみる。

 残り香はあった。しかし彼女はもう帰ったあとだった。

 ニャンティ・ペロティは植物人間になったとのことだ。
 実際、今、俺の目の前で、目を開けたまま死んだように横たわっている。

 しかし本当に生きてんのかコレ?
 俺は軽〜い気持ちでニャンティの口の中に指を突っ込んでみた。
 あったかい。湿ってる。
 生きてるわ。ってかなんだこれ気持ちえぇ……。

 町田さんの強烈な残り香が俺を狂わせる。
 俺はニャンティの口の中に自分の指を入れたり出したりを繰り返すのに夢中になっていた。

 こんなに気持ちえぇんや……人の口ん中って。
 よく見りゃコイツの唇、ピンク色で可愛いな……。
 どんな味かな、吸ってみたら……。

 そこへ看護師さんが入って来て俺を二度見した。
「口の中に異物の残留はないようだ」
 適当なことを言いながら俺は病室を逃げ出した。

296 :
「グェーグェー!」
「ひゃー!?」

ミャンちゃんに鳥の鳴き真似?をしながら右肩に飛びつかれるなどなんやかんやあって、私はニャンちゃん(生霊)が自分の肩の上にいることや、ジャガティさんが邪気という不思議パワーをミャンちゃんの影で探していることを知る。

「じゃあそのエプロン、やめません?」

その萌キュン用エプロンでは目立って仕方ないだろうと、普段用の茶色いエプロンを持ち出す。
しかし、客にも前世紀の遺物と罵られたそのエプロンは「白いやつの方がいいってさ」とあっさり拒絶され、虚しく風に揺れた。
これはこれでシックでいい感じなのに……。

297 :
そんな感じで色んな用事がすんで夜になり、最後に鴨島さんを見送ったあと、私は静まり返った店内を見渡す。
ジャガティさんが言うには、この店の中になにか邪気持ちの人がいるらしい。

『凪、今も邪気眼って使えるかな?』
『次の日曜は手伝わない。今決めた』
『そんなぁーというか、次のどころか前の日曜もいなかったけど……』
『うるさい黙れ。俺も暇じゃないんだ』

なにか分かればと思い、昔邪気眼の使い手だった従弟の凪にメールを送ってみるが、大いにすねられた。
あ、いや、そうだった。凪はあの目の暴走に苦しめられていたのに私ときたら……。

『ごめん、嫌なこと思い出させて(><)
あと忙しいのに昨日はありがとう。
無理はしないでね!』
『ああもう……心底イラつく。
ほんっと相変わらず人の心のキビンとか、
イタミとか、わかってないよね。
気持ち悪いウザイ気味が悪い。
おなじ人間とか信じらんないR』

「なるほど、考えたなあ」

私はふふっと笑って携帯を閉じる。
昨日病室に置かれていた謎の軟膏といいこのメールといい、本当に素直じゃない。
そこが可愛いんだけどね。

298 :
……いけない、真剣に原因特定をするつもりが、つい和んでしまった。でもそういえば、と私は少し前のことを思い出す。
そう、邪気キャラにうってつけの設定を持ったなにかがこの店にいたような……。
あの、盛り塩を見てるとなにか思い出せそうな気がするんだけど……。
うーん、最近色々あったからか記憶が混乱している。
明日ジャガティさんに相談してみようかな。
結局思い出せそうにもないので、私はさっさと寝床につくことにした。

299 :
「のす!」

300 :
ズモーは久し振りに店を訪れ、モーニングを3人前食った。
小枝には何も言わず、小枝がお詫びを言いに来ても「のす!」とも言わず、目も合わせなかった。
大口を開けてパンケーキ3枚重ねて放り込む。

「いくら食べてもお腹が空くのよ〜〜〜」
ズモーの隣にお腹に大きな穴の空いた女性がいて、血まみれのパンケーキを食べていた。
口から入れるたび、パンケーキがお腹から飛び出し、テーブルの上の皿に戻る。
つまりテーブルが相当低く、お腹よりも下にあったわけだが、彼女は気にしていなかった。

「あの2匹は違うの」
ジャガティばあちゃんは小物を見る目で見送った。

301 :
「おはよっ。
今日のランチはちょっとゴチャン風にしてみたよ!
牛肉ラーメン定食です。
隣のラーメン屋さんから借りて来たスープと麺にトロットロになるまで煮込んだゴロゴロの牛肉を乗せました。
新しいお客さんをお待ちしてます。お部屋暖かくして待ってるね! ミャンと気持ちいいことしよ?」

302 :
 牛肉ラーメン定食とやらを食す。
 この店、味が落ちたの何でかね。
 化学調味料の嫌な匂いが味覚を麻痺させる。
 前はもっと自然な味がしてたんだがね。

 ところで俺は今更ながら合点が行った。
 ネアが町田さんを食べずに立ち去った理由。
 それは強烈なまでの彼女のフェロモンだったに違いない。
 俺にはとんでもなく甘美なこの女の匂いが、同じ女であるネアにはとんでもない悪臭だったのだ。
 なんか少し悔しい気もするけどそのおかげで町田さんは助かったのだ。

 しかしゴゴはそうは行かない。
 ヤツは恐らくこの匂いが大好物だ。
 ネイチャー・ワールドにいた時もメスの動物ばかり襲って食べていた。
 また、ネアがこの店に入って来たということについても気になる。
 臆病なアーニマンが普通、人間のいる店の中に入って来るか?
 この店に何かヤツらを誘引する邪気を発しているものがあるとしか思えない。

303 :
「この店に何か、たとえばネズミとかアリとかが誘き寄せられるような物とか、何か置いてはありませんかね?」
 俺はカウンター越しに町田さんに聞いてみた。
 どうしても唇に目が行く。
 指、突っ込んだらどんなだろう……。
 俺は足を組んで劣情を隠した。

「買い出し行ってきますー」と言いながらミャンミャン・ペロティがすぐ横を通った。
 コイツもガキのくせになかなかの女の匂いを発してやがる。
 だが、言わせて貰えれば牛乳の匂いが強すぎる。
 レバー、生卵、牛乳。この3つが同時に同程度に発酵し、血生臭さとすえた臭いと乳臭さのハーモニーを醸し出している町田さんの圧勝だ。

304 :
 店を出てスーパーへ行くまでには水島うつろが殺された例の公園を通る。
 春の強い風に乗ってミャンミャンの牛乳臭い香りは公園内まで漂い、茂みに身を隠していた獅子の鼻腔をくすぐった。
 ゴゴには獲物に恐怖を与えてからR趣味はない。
 むしろ出来るだけ恐怖を与えずに一瞬で仕止める。
 それは王者の優しさかもしれなかった。

 突然、公園の植え込みを裂いてライオンのような男が現れた。
 茶色い髪は顔のぐるりを覆い、筋肉の鎧は更に金色の体毛で包まれている。
 開かれた大きな口は全て鋭い犬歯だった。
 その口が真っ直ぐにミャンミャン・ペロティに突進してきた。

305 :
ゴゴの一噛みは空を切った。
スカートの中から黒いしっぽが屹立している。ひらりと横へ飛んでかわしたミャンミャンは、
地面に立つと体を大きく見せるためのファイティング・ポーズをとった。

「にゃんにゃにょよ!」
細いしっぽの毛は派手に逆立ち、タヌキのようになった。黒いショートヘアーも同じく逆立ち、猫耳のようになった。
「にゃんにゃにょよにゃんにゃにゃにゃ!!?」
威嚇しているのかパニクっているだけなのかよくわからない声を発し、精一杯ゴゴを牽制する。

「……ナカマ?」ゴゴが低い声で呟いた。
「誰が仲間だーーー!」ミャンミャンは長い爪を構えた。
しかし猫がライオンに敵うはずもない。

306 :
これはピンチに見えて、ある意味チャンスなのだろうか? ミャンミャンは考えていた。
このまま文堂珈琲館へ誘導すれば、刑事さんの言っていた邪気の源をゴゴは示してくれるかもしれない。
邪気の源がわかれば、おばあちゃんがお姉ちゃんを元に戻してくれるかもしれない。
でもお客さんやマスター、店長のいる店内へこれを連れて行くなんて、ちょっと出来ない。下手しなくても大惨事になる。
大体こいつより自分のほうが足が速いなんて確証は……ないけど自信はある。
脚の速さには自信がある。

昔TVかなんかで見たのを思い出した。
ライオンは脚の速い動物を狩る時、追い回して走らせて、疲れるのを待つ。
でもあれは複数でチームを組んでこそ出来る作戦だ。
1対1なら、逃げ切れる。
そう思うのに、怖くてそいつに背を向けることが出来なかった。

『どうしよう、どうしよう、どうすればいいの』
ミャンミャンは自分を大きく見せるためのファイティング・ポーズをとったまま動くことが出来なかった。
ゴゴはゆっくり横へ動き、確実な次の一撃を狙っている。
「助けて! 誰か助けて!」結局普通の女の子のように、そう叫ぶことしか出来なかったのである。

307 :
「見つけたぞい!」
トイレ掃除から出て来たわしは、遂に邪気の源を見つけた。
そいつは禍々しいほどのドス黒……いやどちらかというとドス桃色の邪気を発して目の前におった。

とどめの確信が欲しかったわしは、町田小枝に聞いてみた。
「お前さんが蛇に襲われた時、そいつは何か言っとらんかったか? たとえば>>262あたりで?」
おっと、いかん。つい日本語が出てしまった。
わしが日本語を解することは誰にも知られてはいかんことじゃというのに……。後でしっかり口止めしておかねばの。

308 :
「は? 俺だっていうのか?
そりゃ無理があるだろ
俺が邪気だってんなら俺んとこ来るはずだろ、なんで喫茶店に来るんだ?」

309 :
「うんや。お前さんじゃ」
ジャガティばあちゃんはビシリと言った。
「町田小枝が襲われた日、お前さん、もしやこの店に上着を忘れて行かんかったかえ?」
「そ、そういえば……」愛田谷は心当たりがあった。
「お前さんの上着のポケットに『エロマー』が住み着いておるのじゃ。そいつが春の発情シーズン真っ盛りの獣を惹きつけておるのじゃ」
「エ、エロマー??」
「エロ魔みたいなもんじゃ。そしてニャンティは、エロマーに取り憑かれたお前さんから町田小枝を守るため、自分の体に帰れずにおるのじゃ!」
愛田谷は『無理やりじゃね?』みたいな顔をした。それを見てばあちゃんは付け加えた。
「……たぶん」

310 :
議論はどうやってエロマーを追い出すかに移行し、「塩水一気飲みはどうですか?」と悪気なく笑う小枝に恐れをなした愛田谷による上着を捨てればいいじゃないという提案でまとまる。

「じゃあこれ、捨ててくるよ」

渋々と言った様子で立ち上がった愛田谷だが、いざ上着を捨てようとすると、なんとも言えない離れがたさを感じて躊躇っていた。
質に出すことも捨てることも燃やすこともできずにうろうろしていると、彼の耳に「助けて」という悲痛な叫びが届く。
慌てて駆けつけた先では、ミャンミャンとゴゴが対峙していた。

311 :
「まぁ、春は木の芽時とか言うしねw」

312 :
「狂ってもおかしくはない」

313 :
ミャンミャンの叫びに応えて声がした。
「ひとつ、人の世の生き血をすすり……」
ゴゴが声のするほうを振り返ると、小さな犬みたいなのがマリモをひとつ頭に乗せて歩いて来るのを見た。
「ふたつ、ふらちな悪行残名……」
「ワンパクお兄ちゃん!」
ミャンミャンは嬉し涙を流して叫んだ。普段は頼りないけれどこんな時にはなんて頼もしい、剣道七段の兄だ。
「みっつ、ミャンミャンをいじめるこのライオンを……」
最後まで言わせずゴゴが噛みついた。
ワンパク兄さんは木の葉のように軽やかに攻撃をかわし、着地した。
「怖くないぞ、怖くなんかないぞ」そう自分に言い聞かせると手に持っていた木刀を前に構える。
「出た! 必殺の仕込み刀ね?」ミャンミャンがヨイショした。
「いや、日本だと銃刀法に触れてしまうんでね、ただの木刀だよアハハハハ」
「それでどう倒すのよーー!」
またゴゴが襲いかかったがワンパクは水のように受け流した。
「ミャンミャン、聞け。倒すの無理だ。逃げなさい」
「お兄ちゃんは?」
「兄さんは大丈夫だから。全力で走りなさい」
「ラジャー!」
素早くそうミャンミャンが答え、走り出そうとした時だった、足手まといが現れたのは。

314 :
「こっちだライオンめー!」
そのゴチャン語の叫び声がしたほうを見て二人は顎が外れるほどの悲鳴を上げた。
ペロティパパがゴルフクラブを持って臨戦体制だったのだ。
「パパパパパパ……パパ!?」
ゴゴはしかし、ちらりと一瞥しただけで無視した。
「こっちを向けライオンめー!」
そう叫びながらゴルフクラブを降り下ろしたが、まったく届いてなかった。
「パパに何が出来るのよーー!」
「パパ逃げて! パパさえいなければ僕らも逃げれるから!」
「去レ、雄ドモ」とゴゴが喋った。「俺ガ喰イタイノハ女ダケダ」
「娘は私が守るー!」
そう叫んで躍りかかったパパをゴゴは易々とねじ伏せ、脚で踏みつけた。
「オイ、マリモ。コイツを助ケタケレバ娘ヲ渡セ。サモナケレバこいつヲ喰ウ」
「よーし食べろ! 私を食べろ!」パパは嬉しそうに言った。
ワンパク兄さんは何も出来ずにいる。
ミャンミャンが木刀を奪ってゴゴめがけて駆け出そうとするのを止めるのが精一杯だった。
しかし足元に転がるものを見つけ、これはと閃いた。

315 :
足元に転がるそれはミャンミャンがスーパーで買って来た1kgの牛肉のかたまりだった。
ワンパク兄さんはそれを両手に持ち、お供えするようにゴゴに差し出した。
「高級な和牛肉でございます。どうか、これで、ひとつ……」
ゴゴの顔に怒りが浮かんだ。
「俺ヲ馬鹿ニスルノカ?
俺ガ喰イタイノハ女ダト言ッタロウ!」
そう吠えると差し出した牛肉を弾き飛ばした。
弾き飛ばした方向からちょうど愛田谷が駆けつけて来た。
牛肉をキャッチした愛田谷は、自分の上着にそれをくるんでゴゴの前に投げた。
牛肉とエロマーが合体し、それは一瞬にしてゴゴを夢中にさせるマタタビと化した。

316 :
ゴロゴロと喉を鳴らして愛田谷の上着をペロペロ舐めるゴゴを背に、ワンパク兄さんが言った。
「あとの処置はお任せします。お休みなさい」

317 :
店に駆けつけた頃にはほとんど方が付いているように見えた。
何かよくわからないものをしゃぶりまくっているもう一方の獣とゴチャン人が数人…私は懐から超強力な麻酔弾が装填された銃を取り出して構えた。恐らく一発で倒れるだろうとは思うが、なにせあの躯体のどこに当てればいいかわからなかった。

パンッ

乾いた音がして弾丸が放たれた。命中し獣はピクッと反応しこっちを睨んだ。我に帰ったようでイキナリ襲いかかってきた。
反撃しなくてはと思い、銃を捨てサッと構えた。重心を低くし、腕で防御と索敵をする。軍式戦闘術の基本の構え。獣が両手で切り裂こうと向かってくる。
その爪が私の喉笛を切り裂くより前に右の正拳が顔面にねじ込まれた。まさに出鼻を挫くと言った感じだろか。
そして動きの止まった瞬間、間髪入れずにキックを入れた。右手と同時に腰に連動して足が出ていたのだ。

318 :
「格闘中なので今日の日替わりランチは手抜きです。ごめんね(≡・x・≡)
『胡椒餅セット』をどうぞ。米粉で作った皮にゴロゴロの豚肉と野菜で作った胡椒風味の餡を入れて焼いたのを近所の胡椒餅屋さんで買って来ました。
ど○兵衛きつねうどんと一緒にどうぞ、お兄ちゃん」

319 :
麻酔弾が3発撃ち込まれ、動きの止まったライオンを皆で囲んで見ていた。
「よく見たらおもしろい顔してるね」ミャンミャンが言った。
「警察はこれどうするつもりかな。死刑とかになるのか?」ワンパク兄さんが言った。
「ライオンが死刑って変……」
「でもただのライオンじゃないからね。2本足で歩くし」

見世物になっているライオンを見ているうちに、ペロティパパはライオンが可哀想になって来た。
このライオン、言葉を喋った。言葉を喋るということは人間だ。
きっと故郷に家族もあるに違いない。
可愛い子供達が何人いるのだろう。
パパが死んだら子供達は泣くだろう。

「ねぇ、この人、アフリカかどこか知らないけど、故郷に帰してあげられないかなぁ」
ペロパパは自信なさげな笑いを浮かべて言った。

320 :
 愛田谷は無表情にゴゴの額を撃ち抜いた。
 彼のベレッタは気づかれぬような改造が加えられており、威力を5段階で調節することが出来る。
 最も威力を強くすれば厚さ10cmの鉄板をも貫通する。彼は威力最大でもう15発撃った。
「バケモノが襲って来た。何発撃っても倒れず向かって来た。やむなく急所を撃って殺した。ということで頼む」
そう言うとパトカーのサイレンの鳴り響くほうへ踵を返した。

321 :
今日は日本滞在最後の日。

お姉ちゃんはまだ店長サンの肩の上にいるらしい。
よっぽど居心地がいいのだろうか。
すぐに起こすと絶対「いい肉がタダで手に入った」とか言って獅子肉の何かを作りそうな予感がしたので皆でしばらく放置した。
今夜あたり店長サンに病室へ来てもらって肩の上からそっと移してもらおう。

最後の日ということで、本日のランチはおばあちゃんが担当することになった。
ワンパクお兄ちゃんに指示を出して製薬会社から食材を取り寄せていた。
ということは……まさかアレを作るつもり?? アレはゴチャン人のあたしでもキツいのに、日本人に果たして食べれるかな?

322 :
「本日のランチは『ゴチャンミミズのステーキ』ですじゃ。
無駄な装飾や添え野菜は省き、簡素に鉄板の上で踊るミミズらだけを食すのが通じゃでの。
焼きうどんのようにつるっと行け。
讃岐うどんのようにコシがあり、味つけせんでも肉の味が濃厚じゃから余計な調味は加えておらん。
滋養強壮に効果がありまくり、これを食べた後は元気出まくって走り出したくなること請け合いじゃ」

323 :
100%マンゴージュースを頂こうかしら。

あら、このお店、ピアノを置いてるのね。アップライトだけど。
でもブルースにはアップライトが似合うからちょうどいいわ。

私はかわいい歌歌い。
「ドラゴンボール」に出て来るミスター&#183;ポポをデコったら私になるわ。
つまり超かわいい。
歌ったらもっとかわいくなるのよ。まるでジャングルに住むお姫様みたいに。

ねぇマスター。
1曲だけでも歌わせてくれないかしら。

324 :
「どうぞ」

325 :
家永 永遠音はピアノを弾き、歌い出した。
下手だった。ピアノも歌もゲロが出るほど下手だった。

326 :
ネアとゴゴ、それからエロマーは無事倒されたらしい。
ジャガティさんから報告を受け、私はほっとすると同時にすぐにでも病院に向かいたかったけれど、獅子肉がどうこうと止められた。
肉食獣の肉は美味しくないとかいうけど、多分ミミズステーキよりましだったなーと思いながら安定のゴチャン料理を見下ろす。
昨日までの、けっこう美味しいミャンちゃんの料理とニャンちゃん&ジャガティさんの料理、どっちが本来の感じなのか……。
マリモさんたちの料理もちょっと見てみたかったけど、一方が「むごいことおぉぉ」と愚図って大変なことになっていたので遠慮し、ハンカチとお冷を出しておいた。

「町田さん、3番テーブルにオレンジジュースをお願いします」
「はい!了解です」
「あ゛〜ああ〜♪」

全てが終わったからだろうか、賑やかな店内にいると心からほっとしてきて、つい頬がゆるゆるになってしまう。
お父さんの大切なお店で、大切な居場所になりつつあるこのお店が無事で本当に良かった。
ついついにやけてしまう口元を手のひらで覆い隠しながら、私はぱたぱたとジュースをいれるために厨房へ向かったのだった。

327 :
Dream of a land my soul is from
I hear a hand stroke on a drum

Shades of delight
Cocoa hue

Rich as the night
Afro blue


Elegant boy, beautiful girl
Dancing for joy delicate whirl

Shades of delight
Cocoa hue

Rich as the night
Afro blue


Two young lovers face to face
With undulating grace


They gently sway
Then slip away to some secluded place


Shades of delight
Cocoa hue


Rich as the night
Afro blue

328 :
ニャンティの目に約一週間ぶりに生気が戻った。
まばたきをまったくしないので被せられているゴーグル越しに大きな瞳がキョロキョロと動いた。
まるで寝てる間に知らない家に連れて来られた赤ちゃんみたい、とミャンミャンは思った。
「機嫌はどうだい?」とペロティパパがちょっと言い間違えた。
「気分はどうだい?」とワンパク兄さんが言い直した。
「ここは天国?」とニャンティが弱々しく唇を動かした。
その途端目からドバーと滝の涙を流しながらミャンミャンが抱きついた。
「そうさ、天国だよ」とワンパク兄さんが微笑んだ。「僕もパパもミャンもタロイモにあたって死んだのさ。だから先に天国に行ってたニャンティに会えたんだ」
「え! ここは天国だったのかい!?」ペロパパが辺りを見回してたじろいだ。
「ミャン……。ダメではないか、お前だけは死んではいけない。戻りなさい」ニャンティは真面目な顔で叱った。
「僕らはいいのかよ!?」パパと兄さんが声を揃えて突っ込んだ。
ミャンミャンは何も答えず、ただ姉さんの頬にキスの嵐を浴びせた。

329 :
「お帰り、ニャンティ」
「ばあちゃんの声だ」
ニャンティは見回したが、ジャガティばあちゃんの姿は見つけられなかった、背が低すぎて。
「さすがおばあちゃん、霊界と会話が出来るのですね?」
「馬鹿言ってんじゃないよ」
ジャガティばあちゃんはひょいと寝ているニャンティの上に飛び乗った。
ニャンティは号泣した。
「おばあちゃんも死んだのですか!? 死んだらダメだ! ニャンティが一番死んだら悲しい人はおばあちゃんです!」
ミャンミャンがウンウンと頷いた。他の二人も深く納得し、3回頷いた。
おばあちゃんは可愛い中性の孫の額を人差し指で叩き、言った。
「ミャンの唇は冷たかったのかい? お前は生きてるんだよ。もちろん皆、生きている」
ニャンティはしばらく上目遣いで記憶を辿った。身体を離れてからの記憶はない。一番最後の記憶は……、蛇。
プヤーー! と一声叫んでからニャンティはミャンミャンの胸にしがみついて、言った。
「へびさんもう、いなくなった?」

330 :
4人が帰国する日の朝、ミャンミャンのスマートフォンに国際電話がかかって来た。
「やぁミャンミャン、ちゃんとメシ食ってる?」
「どうしたの、ボブ?」
ボブと呼ばれた男はアメリカンドラマっぽいゴチャン語で続けた。
「日本にいるって聞いたんだけど、まだいるの?」
「今日帰るつもりだけど」
「あぁ、それストップ。ちょうどよかった。君にチャンスがあるんだ、日本にさ」
「チャンスって?」
「小粟ジュン主演の映画の準主役のオーディションだ。台湾からやって来た異母兄妹の役を募集してる。君にうってつけだと思ってね」
「でもあたし台湾人じゃないわ」
「どうせ日本語しか喋らないよ。現に募集要綱に『国籍不問、日本人でもOKって書いてある」
「そんなもんなんだ?」
「そんなもんさ。受けるかい?」
「でも女優なんてやったことないわ」
「そのほうが変なクセとかがなくていいそうだよ。君はチャーミングだし、日本語が喋れるし、度胸もある。しっぽもあるけどね。
調べてみたけど特にゴリ押しされてそうな受験者もいない。君なら絶対受かると思って電話したんだ。やってみなよ」
ミャンミャンは暫く考えた。祖国ゴチャンではトップモデルの自分だけど日本では無名の挑戦者ということになる。プライド的にはちょっと嫌だ。
でもこれはゴチャンだけで有名人の自分が、日本のみならずアジア圏で有名になれるチャンスかもしれない。
何より、とミャンミャンは考えた。これは大好きなお姉ちゃんともっと一緒にいられるチャンスだ。
「受けるわ」ミャンミャンは答えた。「小粟ジュンみたいなオッサンには興味ないけど」

331 :
芸能事務所の社員だと名乗る男が入って来て、言った。
「あのぅ、お店の中にコレ貼らせて貰ってもいいですか?」
映画のオーディションの募集チラシだった。
鴨島マスターはざっと目を通してから穏やかに言った。
「ほう、これは面白そうですな。どうぞどうぞ」

332 :
 次世代のアイドル女優募集!

来年公開予定の小粟ジュン主演映画『金魂2』のヒロインを募集します。
主人公「宇治金時」の台湾からやって来た異母兄妹の妹「巫女神楽」役を募集します。
「新しいタイプのアイドル女優を発掘する」ことが主旨ですので演劇経験はあってもなくても構いません。

【参加資格】
15歳〜35歳の健康な女性
国籍不問、日本人でもOK

333 :
以下のテンプレに従ってどなたでもお気軽にご応募下さい。

【名前】・
【年齢】・
【身長、体重、スリーサイズ】

【趣味】・
【特技】・
【自分を動物にたとえると?】


【一言アピール】


334 :
抜けていました。以下のテンプレでお願いします。

【名前】・
【国籍】・
【年齢】・
【身長、体重、スリーサイズ】

【趣味】・
【特技】・
【自分を動物にたとえると?】


【一言アピール】


335 :
【名前】・ミャンミャン・ペロティ
【国籍】・ゴチャン民主主義共和国
【年齢】・16
【身長、体重、スリーサイズ】
・162、48、B82(C)、W49、H83
【趣味】・旅行、アニメ鑑賞
【特技】・ゴチャン流格闘術「猫拳」
【自分を動物にたとえると?】
・猫

【一言アピール】
・度胸には自信があります!

336 :
ミャンミャンが書いているのを見て面白半分でニャンティも書いてみた。
もちろん本当に出すつもりはない。自分は女性ではないから資格対象外だと思っているので。

【名前】・ニャンティ・ペロティ
【国籍】・ゴチャン民主主義共和国
【年齢】・19
【身長、体重、スリーサイズ】
・134、38、B61(A)、W56、H67
【趣味】・料理、奉仕
【特技】・どんな狭いところでも通れる
【自分を動物にたとえると?】
・犬

【一言アピール】
・文堂珈琲館をよろしくお願いします。

337 :
「まだお姉ちゃんが本調子でないので今日のランチは私が担当します。
本日のゴチャン風日替わりランチは『鶏の唐揚げ定食』にしました。日本国産の若鶏を使った唐揚げにゴチャン産レモンソルトをかけてお召し上がりください」

338 :
厨房の隅でニャンティがミャンミャンを呼びつけ、「お前の料理は普通すぎる」と説教していた。

339 :
 今日もくそ生意気な鈴城を蹴っ飛ばしてやった。
 何故なら、鈴城はすぐに嘘をつくからだ。しかも、分かりやすく、子供っぽく、言い訳がましい嘘。
 鈴城とはわたしの演劇部の後輩男子だ。

 「金の斧と銀の斧を作ってくれない?」と、劇で使う小道具を鈴城に依頼した。ヤツは手先が器用だからだ。
 しかし、約束の期日に、物は出来ていなかった。

 鈴城曰く「俺の才能はこんなものじゃない」と。

 ふざけろっ。まずは謝れ。

 しかし、ヤツが後輩だからって、かわいいわたしが甘やかしすぎたからかもしれないと反省するのだった。

 どこかに誠実で、真っ直ぐで、オトナな後輩はいないだろうか。
 男らしく「ごめんなさい」の言える男子はきゅんきゅんしちゃうぞ。しかも、それがイケメンだったらならば。

 そんな妄想をかきたてながら、レトロチックな扉を開く。ここはとある珈琲店。カランコロンと鈴が響き、
「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる声がわたしの鼓膜を優しく撫でる。

 カウンターには白髪の老人がグラスを磨きながらにっこりと微笑んだ。
 元・男の子。男子はみな、紳士になる……。きっと。あの、鈴城でさえも。いや、それはないな。

 この店に来たならば、何か一品でも頼まなければならぬ。
 わたしはじっとメニュー表とにらめっこしつつ、財布の中身との交渉を続けた。
 現実と欲望の講和条約を結ぶ会議はひたすら続く。

 久しぶりに訪ねたこの珈琲店。香ばしいかおりがわたしの鼻腔をくすぐって、オトナな気持ちにさせてくれる。
 男子なんてガキだ。この珈琲の味が分かるわたしとは大違いだぞ。アメリカンの優しさは鈴城に分かるか。

 「ご注文はいかがされますか?お勧めは『ゴチャン豚とろラーメン』です」
 「えっと……」
 「『ゴチャントウガラシのつけ麺』もおすすめです」

 ラーメンの出汁の香りすらしない店内なのに、この店はラーメンを用意しているのか……と、
おそるおそるあたりを見渡した。 
 そういえば、いつものかわいい店員さんと違って、お初にお目にかかる子がわたしが目の前にいる。
 褐色の肌にショートにまとめた髪。エプロンの上からでも分かるスタイルのよさ。

 言うなれば『イケメン』だ。いや……彼女は『イケメン』だ。

340 :
 「えっと……。みかんジュースください」

 胸の奥からこみ上がる鼓動と、休まる暇さえない息遣いに気圧されて、当たり障りの無い注文をするわたし。

 かわいいわたしなのに、かわいいわたしなのに……だからか、この意気地なしっ。清水の舞台に登る前に
敵前逃亡するような、火中の栗を拾う前に水をぶっ掛けちゃうような。鈴城を蹴っ飛ばすことさえ出来るのに。
 理由はきっと、鈴城がイケメンじゃないからだ。イケメンは罪だ。人を狂わせる。

 でも、そんなのはわたしじゃない。かわいいわたしじゃないぞ。
 燦燦と輝く舞台の上で、五万の観衆からの喝采を全身で受ける……はずのわたしだぞっ。
 イケメンなんかに飲まれるなんて、かわいいわたしとは違うんだからっ。
 だって、わたしは演劇部員。視線が釘付けになるのは承知のとおりなんだからっ。

 イケメンは罪だ。わたしはかわいい。
 イケメンは罪だ。わたしはかわいい。
 イケメンは罪だ。わたしはかわいい。
 イケメンは罪だ。わたしはかわいい。

 イケメンは罪だ。わたしはかわいい。

 ちょっと興奮を収めようと、一厘のお花を摘みに行く。ちょっと、ごめんあそばせ……。



 すっきりとした心地よさ。ローファーの足音、木目の床を響かせる。
 ご不浄からの帰り際、扉の脇の壁に一枚のポスターが掲示されているのを目撃した。 
 『次世代のアイドル女優募集』だと……。文字羅列を目で追いかける。

 【参加資格】
 15歳〜35歳の健康な女性
 国籍不問、日本人でもOK 

 なんだと。
 わたしにぴったりなお誘いじゃないか。天はわたしに微笑んだ。
 燦燦と輝く舞台の上で、五万の観衆からの喝采を全身で受るはず。
 だって、わたしは演劇部員。視線が釘付けになるのは承知のとおり。

 ひれ伏せイケメン。わたしの華麗なる演技で圧倒させてくれるわ。
 夢はかなう。たとえ、それがタナボタでも。

341 :
 つばきをごくりと飲み込んで、わたしは吊るされている応募用紙をぴらりと剥ぎ取って、席に戻り
くまのペンケースからシャーペンを取り出した。一本のペンを手にして誇り高く突き上げるその姿はきっと、
孤高で揺ぎ無い一人の剣豪にも勝ると劣らない……かも。と、思えてきた。
 

【名前】・熊懐杏(くまだき あんず)
【国籍】・日本
【年齢】・14
【身長、体重、スリーサイズ】
・154、49、B84(C)、W58、H85
【趣味】・読書
【特技】・妄想
【自分を動物にたとえると?】
・うさぎ

【一言アピール】
・誰よりもかわいいですっ


 と、書いたところでわたしは悩んだ。些細で、重要な悩み事。女子の半分はお砂糖、もう半分は悩み事で
出来ているって、どこかの誰かが言っていた。ソースがない情報の信憑性は皆無だが、そんなものは後付だ。


【参加資格】
 15歳〜35歳の健康な女性


 わたしは14歳だ。
 厨ニ真っ盛りの女子だ。15歳なんていう未知なる年齢など、よくわからんちん。

 このまま知らん振りのすまし顔で消しゴムを取り出して、『14』の数字を消してしまおうか。
 それでは嘘つきの鈴城レベルと同じじゃないかと、自分で自分を責め立てる。

 「お待ちどうさまです。みかんジュースです」と、イケメンの店員さんが近づいてきた。
 彼女に見られる前にわたしは素早く『14』を消し去り、『15』と記入した。一つや二つ、違っても
オトナたちには分かるまい。たった一年遅くこの世に生を授かっただけだぞ。

 そんなことを考えながら飲んだせいか、みかんジュースが異様に甘く感じた。

342 :
田舎から母と祖母が二人で私に会いに来た。
最近入り浸っている喫茶店で会うことにする。
私の部屋はあんなだから、なるべく入ってほしくない。

「どうだい? ピン獣大使の仕事は楽しいかい?」
おばあちゃんが聞いてきた。
「私は……使命としてやってるだけだから」
「頑張りなよ。あんた、せっかく天下のピン獣大使になれたんだから」
さすがおばあちゃんだ。私の喜ぶツボを知ってる。

そう、アタクシは天下のピン獣大使様。
ピンからキリまでいる魔獣の中でもとびきりピンなの。
しかももう7ヶ月もその地位を保ってる。
他のピン獣大使は大抵3ヶ月以内には辞めて行くのに。私は7ヶ月も続けているのよ!
歴代最長は20年以上という人がいるけど、あれは神だわ。
神になれる人間なんてさすがに一握り。
私にもなれるかな?

母が溜め息をついて言った。
「ピン獣大使とやらもいいけど……そろそろあなたも結婚を考えなきゃいけない歳なのよ? わかってる?」
「ピン獣大使『とやら』!!??」私は即座に反応した。
いや、知っておる。世の馬鹿者どもはわかっておらぬのだ。ピン獣大使の何たるかを知らぬ下級市民も多いと聞く。
ピン獣大使を知らぬなどと、それは「王様って何?」みたいな問題発言に等しいというのに。
「この仕事を志望した動機はなんですか?」みたいなありがちな質問があるが、ピン獣大使にその質問はありえぬ。
ピン獣大使は『志望するもの』ではない。『誰もが憧れるもの』である。国王に誰が聞くだろうか? 「国王を志望した動機はなんですか?」などと!?

母が言った、「ねぇ、ミチコ」
ミチコって言うなーー!!!
「実はあなたに縁談が来ているの。歯医者さんの卵でねぇ」
「はっ、はいしゃ!?……」
「そう。持って来てるんだけど、写真だけでも見てくれないかねぇ?」
見た。身を乗り出して見た。ダメだと思った。前歯が2本、上唇をめくるほどに飛び出している。この人が立派な歯医者になれるわけがないだろと思った。なれるものはせいぜい人生の敗者だろ。

343 :
「最近の子は結婚なんかせんでも生きて行けるもんなぁ、なぁステファニー?」
おばあちゃんが私をちゃんとした名前で呼んでくれた。
「ピン獣大使がお金に困るわけないもんね?」
ウィンクをしてくれた。
「おばあちゃんてば」母がたしなめた。「ピンなんとかとやらがそんなにお金になるんなら皆やってなきゃおかしいでしょ」
また『とやら』が出た。しかも獣大使を省略した。もうほっておこう。
「っていうか何度も聞くけどあなた、騙されてるんじゃないの? 大丈夫なの? それを心配して私達出て来たのよ?」
おばあちゃんがすぐに首を横に振った。「私は違うよぉ。顔を見に来ただけだよぉ」

騙されてるわけないじゃない。店長のあの自信たっぷりな勧誘の言葉が嘘だったとでも言うの?

私は女優になるため上京した。地元では○○町の綾瀬はるかと呼ばれた私だもの。演劇学校なんかに入る必要はなく、すぐにスターになれるものだと信じてた。
オーディションを受けては一次で落とされる日々を繰り返したけど、私はいつか見る目のあるちゃんとしたプロの理解者に会えることを信じてた。
そしてそんなある日、『魔獣館』の店長に拾わ……出会った。店長は言った、「君は千年に一人の逸材。ピン獣大使になれる器だ!」
あの時恥ずかしながらピン獣大使が何なのか知らなかった愚かな私に店長は手取り足取り教えてくれた。何も知らなかった田舎娘の私は店長に洗の……教育を施され、遂には全人類の憧れ、ピン獣大使になったのよ!
ただ最近、本当はちょっと疑問に思い始めてはいる。月100万以上稼げるって聞いてたのに私は一番多い月でも35万しか稼げてない。
そこは騙されてるのかもしれない。
店長がピンはねしてるのかもしれない。
なんかだんだん自信がなくなってきた。
母の前ではいつものホホホ笑いも決まり文句の「おばかさん」も出てこない。
何を照れてるの? ステファニー!
あなたは天下のピン獣大使ステファニーでしょう?
騙されてるんじゃないの? などと愚かな発言をするババアに「おばかさん」をくれてやりなさい!

「とにかくバカな仕事は辞めて故郷へ帰ってきなさい」
母が強制ではない口調で言った。
「恵子おばさんがいい仕事紹介してくれるって。介護施設の……」
「おば」かさん……
「おば?」
「……おばさんによろしく言っといて」

敗北者の気分でトイレに行った。出てすぐの壁にポスターを目にした。
映画のオーディション? 新世代のアイドル募集? あぁ、私のことね。
溜め息をつきながら、私はほぼ無意識にそれに応募していた。

344 :
【名前】・山下 美智子
【国籍】・日本
【年齢】・31
【身長、体重、スリーサイズ】
・169、65、B92(E)、W63、89
【趣味】・読書
【特技】・鞭
【自分を動物にたとえると?】
・ピン獣

【一言アピール】
・おばかさん

345 :
【名前】・粟子・モンロー
【国籍】・中国
【年齢】・19
【身長、体重、スリーサイズ】
・158、53、86(D)、58、85
【趣味】・旅行、ギター
【特技】・物真似
【自分を動物にたとえると?】
・「中国の橋本カンナ」と呼ばれています

【一言アピール】
・ニホンゴ マッタク シャベラレマセン

346 :
あ。なんかあの橋本カンナにそっくりな子……、最近テレビで見た覚えがある。
あの子も応募するのね。私かあの子のどちらかが輝きそうだわ……

母と祖母は先に帰って行った。私は一人でいつものようにこれから2時間かけて漫画を読みながらクリームソーダを飲む。

祖母からいつものようにLINEが入ってきた。

〔私は応援してるからね!〕

347 :
おはようございます。
今回のオーディションの審査員長を務めさせていただきますスティーブ・スーパーライトと言います。

ミャンミャンさん、熊懐さん、山下(ステファニー)さん、粟子さんの参加を受け付けました。

まだ参加者募集中です。

 次世代のアイドル女優募集!

来年公開予定の小粟ジュン主演映画『金魂2』のヒロインを募集します。
主人公「宇治金時」の台湾からやって来た異母兄妹の妹「巫女神楽」役を募集します。
「新しいタイプのアイドル女優を発掘する」ことが主旨ですので演劇経験はあってもなくても構いません。

【参加資格】
15歳〜35歳の健康な女性
国籍不問、日本人でもOK

↓のテンプレにプロフィールを明記の上、ご参加ください。
どなたでも、お気軽に。

348 :
【名前】・
【国籍】・
【年齢】・
【身長、体重、スリーサイズ】

【趣味】・
【特技】・
【自分を動物にたとえると?】


【一言アピール】


349 :
 審査の流れ

一次審査→二次審査→最終選考の流れとなります。

一次審査は簡単な自己アピールをしていただく予定です。
可愛さをアピールするなり、特技を披露するなり、ご自由にどうぞ。

「一次審査開始」を告げてから二日経って本人の書き込みがない場合には勝手ながら私が代わりになりきらせていただきます。

350 :
私の自己紹介をしておきます。

【名前】・スティーブ・スーパーライト
【国籍】・日本、出生はアメリカ
【年齢】・41
【身長、体重】
・188、86
【趣味】・ヘビメタ、ギター
【特技】・変身能力を持つ。容姿、声、性格まで他人になりきることが出来る。女性になることも。
【自分を動物にたとえると?】
・狐

【一言アピール】
・お気軽にご参加くださいませ

351 :
【名前】・楊紫雰 ヤン・ツーファン(フェニー・ヤン)
【国籍】・台湾
【年齢】・23
【身長、体重、スリーサイズ】
・ヒミツ
【趣味】・食べること
【特技】・甘いものは底無し
【自分を動物にたとえると?】
・金魚

【一言アピール】
・私は可愛い(自分で言う、気持ち悪い(^-^;)

352 :
おや? こんなところにオーディションの応募用紙が落ちている。
ほほう。ニャンティが書いたのですね。
確かにニャンティなら主人公の妹役にピッタリかもしれない。
……おや? 小枝君も書いているではありませんか。
確かに店長の魅力なら芸能人になることも夢ではないどころか勿体ないと思っていましたよ。
でも二人とも控えめな性格だからか、出すことを迷っているようですね。
よしよし、私が出しておいて差し上げましょう。

353 :
二人が遊びで書いただけの応募用紙を、鴨島マスターはポストに投函しに出て行った。

354 :
それでは一次審査を開始します。

尚、一次審査が終わるまでは途中参加も受け付けます。
>>347-348に従ってどなたでもご参加ください。

355 :
【一次審査】

あなたの魅力を自由にアピールしてください。

356 :
「1番、ミャンミャン行きまーす」
ミャンミャンは元気よくそう言うと、ゴチャン格闘術『猫拳』の型を披露した。

長テーブルを前に並んだ審査員達の前で、スレンダーだが16歳とは思えないほど発育のいい、しなやかな薄褐色の身体が猫のように踊った。
激しく動くたびに短い黒髪が猫耳のように逆立ち、たまにめくれる白いTシャツの背中に、ジーンズから出ているしっぽのようなものがチラリと見えた。
僅かに緑色がかった大きな瞳が仮想の敵を追い、やがて額から滴る汗が形のよい唇までつたうと、桃色の舌がペロリとそれを舐め取った。
最後に2mを超える高さからの踵落としを決めると、ミャンミャンは息も切らさずにお辞儀をした。

「ありがとうございましたー」

357 :
「2番、ニャンティ・ペロティです。失礼して帰ります」
そう言うなり本当に帰ろうとしたニャンティをミャンミャンが引きずり戻した

「離せ、ミャン! やはり私は帰る! ちょうどバイトの制服を着ているのでこのままバイトに行く!」
「お姉ちゃん、昨日あたしと勝負するって言ってくれたでしょ。あたし闘る気マンマンなんだから」
「私は女の子ではない! この場にいる資格がないのだ!」
「女の子にしか見えないから大丈夫。あっ、あたしお姉ちゃんのアレ見たい! アレやってよ」
「アレか……」

以上ゴチャン語による会話が終わり、ニャンティはゆっくりとことことこと出入り口へ向かって歩き出した。
「子供ぐらい小さいのに決して子供には見えない不思議な魅力がありますな」と審査員の一人が言った。
皆が注目する中、ニャンティはドアを開け、出て行った。
パタンと静かに閉められたドアを全員が放心して見つめる中、ドアと床の1cmの隙間の向こうから、ツインテールの先っちょがにょきっと現れた。
次いでなんだかモフモフした黒い物体が隙間からぐいぐい出て来る。それがニャンティの頭だということに気づくのにそれほど時間はかからかなかった。
やがて顔全体がぽこんという音とともに出て来ると、皆を見回し、ちょっと顔が赤くなった。
「行きます」
そう言うなり勢いよく身体を全部引き抜いた。
「キャー!」
「ぎゃー!」
「きもー!」
悲鳴が会場を包む中、ニャンティは無言でメイド服についた汚れを手でぱんぱんとはたきながら「終わりです」と言った。

358 :
遅れましたが審査員の皆さま方を紹介します。

審査員長 スティーブ・スーパーライト(41)

審査員

小粟ジュン(主演、35)
橋本カンナ(前作ヒロイン、19)
木の実NANA(女優、71)
恵比須 義数(漫画家、70)

359 :
「三番ピンじゅ…山下美智子です。よろしくお願いします」

そう挨拶したはいいけど……どうしたらいいの?
鞭を忘れて来てしまった。華麗なるピン獣使いの鞭捌きを見せようと思ってたのに……どうしたらいいの?

大丈夫。大丈夫よ、ステファニー。
私は伊達に他の娘より10歳以上人生経験を積んできてはいないわ。
そう。私には大人の女の武器がある。若い娘にはないもの、それは何? それはテクよ、テク。

……って、私は何をしようとしているの!? 危うく公衆の面前ですっぽんぽんになるとこだったわ。ブラウスのボタンを三つ外したところで我に返ってよかった。
これからどうしよう。外したボタンをまた元に戻したら怪しまれる……って何を怪しまれるの? しっかりしなさい、ステファニー!

私の魅力を見せるのよ。そう、お題は自分の魅力をアピールすることでしょ? 私の魅力って何? 決まってるわ、それはピン獣大使であるということだわ!
鞭は忘れてしまったけど鞭がなくてはその威厳を見せつけることが出来ないなんてピンからキリまでいる魔獣の中のピンであるところのピン獣大使として失格じゃない!
『ホホホ! おばかさん』と一声吠えるだけでいい。それだけで、きっと誰もが跪いて床を舐めはじめるわ。
やるのよ! やるのよ、ステファニー!

「kiroroの『長い間』歌います」

私は胸のボタンを三つ外したまま心を込めて歌った。ブラウスの下に着込んだ赤いボンデージはたぶんギリギリ見えてなかった。

360 :
 大勢の人前に出るってことなど慣れているはずなのに、大きな舞台ではなくせまっくるしい
雑居ビルの一室だとこうも心臓の瞬きが止まらないのは何故だ。

 ここは来年公開予定の小粟ジュン主演映画『金魂2』のヒロインオーディション会場。
 主人公「宇治金時」の台湾からやって来た異母兄妹の妹「巫女神楽」役が選ばれることになっている。

 「四番、熊懐杏(くまだき あんず)です」

 わたしの名前が響く。生涯でもっとも重い台詞。

 書類審査を終え、ここに幾多の才能が集う。
 拳法を披露する者、自慢の喉で魅了する者。

 主催者であるインターナショナルな男性はじっとわたしたちを品定めする。まるで女衒(ぜげん)のように。

 わたしは……場違いじゃなかろうか。
 ブレザーセーラーの制服に包まれたわたしが来る場所じゃ、とうていなかろうに。
 どう見ても、わたしは普通の中学生だ。ボブショートの黒髪だし、そんなにおっぱい大きくないし、
人様に自慢できるってことならば、この度胸かな。

 軽い気持ちで応募したオーディション、勿論誰にも親にも内緒だし、年齢さえも偽った。
 演劇部だからと人前も演技もドンと来いと、余裕をかます暇も審査員を目の前にして消え失せた。

 テレビやネット知った顔がずらりとわたしを向いて凝視して、これから始まる品定めの支度を整えていた。

 前作の映画主演を勤めるイケメン俳優。九州から来た一万に一人の美少女。伝説の女優。そして……
一見人畜無害なウォンバッド、だけど一口開ければクズ野郎な漫画家がわたしを見つめる。

 ごくりとつばきを飲み込んで、審査員をみなかぼちゃだと思い込む。わたしの特技は妄想だ。
かぼちゃをふとつひとつ棍棒でかち割ってもいい。妄想だけはフリーダム。
 この『宴』を催す左端のインターナショナルな男性が冷めたようなにこやかさで
「で、熊懐さん。自己アピールをお願いします」と書類をチラ見しながらわたしに告げた。

361 :
 「泣きながらけん玉します」

 一瞬、審査員がざわつく。
 ライバルたちも首を傾げる。

 わたしは世界を救う勇者の剣ように、カーディガンのポケットからけん玉を天高く取り出した。
 何のへんてつも特徴もない、木製のけん玉だ。
 コンと大皿の真っ赤な玉を乗せる。その音は著名な棋士の第一手が響くときを思わせた。
 そして、手首を効かせて軽く上へ振ると、深紅の玉はふわりと宙に舞う。
 その瞬間、わたしは手首を90度回し、横向きだった片方の中皿を上にする。

 こん、こん、こん……。

 「もしもしかめよ……かめさんよ」

 リズムよく跳ねる赤い玉、木の音が室内に響く。

 そして、わたしの瞳から涙がほろりと零れてきた。
 レンズに通したかのような視界で、一万に一人の美少女がはっと目を見開く顔が見える。

 「お前の……首は……どこにある」

 一度流れた透明の玉はとどまることを知らず、頬を顎を通じて流れていった。
 伝説の女優さえも手を止める。

 「ちゅ、ちゅのだしぇ……やりぃだしぇ……」

362 :
 嗚咽に嗚咽を重ねたわたしの声はもはや文字にならず、めのまえのけん玉さえ見えなくなるほどの
涙がぼろぼろと零れていた。これだけ取り乱しているのに、何故かわたしは冷静で、神の視点からわたしを見ているのだった。

 「あ……あ、ぁ、あたまだせぇぇせー、えーん、えーん……ぐひっ」

 膝から崩れ落ちたわたしを抱えてくれたのは、ライバルだったはずの、一番始めに自己アピールを披露した子。
 ごほごほとむせ混むわたしはしっかりとけん玉を握りしめ、それでも心地よいテンポで
「もしもしかめよ」の技を続けていたと、その子は後に教えてくれた。そして、唄を思いっきり間違えていたことを。

 さて、自己アピールを終えたわたしに質問をしたのは右端に座る、白髪頭のウォンバットのような男性だった。
 彼はえへらえへらと笑いながら、独特な九州の訛りで「何を思い浮かべながら演技してたの?」と尋ねる。

 「飼ってた……かめが……。みどりちゃんが……、ひっ。死んじゃったことを」と。
 「くだみゃき……あんじゅでした」と。

 インターナショナルな審査委員長は冷ややかにペンを書類に滑らせていたことぐらいは……分かります。

 それでも、ペットを飼ったことも育てたこともない嘘っぱち全開の応答だ。
 わたしは中学生なのに「女子高生」という嘘っぱちを書いたことを棚において……。

 ウォンバットは「そうなんだ。俺さ、こういうの弱くてさ」と、腹を抱えて、体を揺らしながら笑いを堪えていた。

363 :
場違いだった。
みんな凄い。私場違い。
超ヤバイ。どうすればいい。
最初の娘みたいな運動私できない。
次の子の運動もっとできない。
歌は好き。でも日本語の歌難しい。
泣きながらけん玉はクール。私がやったらコールドなる。
超ヤバイ。
ここで私の用意して来たロングロング・グミキャンディーの一気呑みなんか出来ない。したら更にコールド。
きっと部屋が冬に逆戻りね。
私みたいな普通の女の子来たらダメだったね。
来たらダメなとこ来ちゃったね。
何で来たの?
私、何で来たの?
バスで……違うだろ!
そだ。役の女の子台湾人だからだ。
私台湾人。
だからだ。
だから?
だから何?
台湾人受かるなら台湾人みんな受かる。
私だけじゃない。

364 :
台湾から来た高校生にしか見えない23歳の丸顔の女の子は、その場に立ち尽くしたままポロポロと涙を流し始めた。
やがて嗚咽が漏れ、うえーんと泣き出してしまった。

「また泣くんかいっ」小粟ジュンが突っ込んだ。
『さっきの娘のより嘘っぽい』と橋本カンナは思った。
「可愛い……」木の実NANAが呟いた。
恵比須 義数はエヘ、エヘ、エヘと笑いながらポケットからハンカチを取り出して、すぐしまった。

「結構です。よくわかりました」謎のアメリカン人スティーブがよく通る声で言った。

365 :
「でもこの審査員達ってさ」ミャンミャンがニャンティに小声のゴチャン語で言った。「監督も演出家も来てないってどーゆーわけ?」
「おいっ。知らないのか、ミャン?」
「何を?」
「あそこにいらっしゃるスティーブ・スーパーライト様。あのお方は私の大好きなゴチャン映画『踊るバスケ・ファイター』を撮った映画監督であり、演出家でもあるのだぞ?」
「知らんわ」
「にゃにをぅ!?」
「はいはい。熱くなったお姉ちゃん暖かいからホッカイロ代わりに使おうっと」
そう言うなりミャンミャンはニャンティを自分のTシャツの中に入れ、抱っこした。
襟から顔を出したニャンティは、気持ちいいのかそのままそこでヌイグルミのように固まってしまった。

366 :
残りは粟子さんだけです。

自由に自分の魅力をアピールしてください。
容姿の自慢でも、特技の披露でも、ご自由に。
今日の22時までに開始していただけない場合は不肖私めがなりきらせていただきます。

367 :
粟子さんの審査が終わるまでは新しい参加者様も受け付けております。
>>348のテンプレに必要事項をご記入の上、自己アピールをお願いします。

368 :
粟子さんは日本語がまったく喋れないのでフェニーに通訳をお願いした。
「橋本カンナさんの物真似をします」
ちょうど審査員席にいた本人に隣に立ってもらい、同じ表情で微笑んだ。
審査員席がざわついた。
「おんなじだ!」
「見分けがつかない!」
「いや、でもこれ意味あるんですか?」
「カンナちゃんが出ればいいだけのことでは……」
「カンナちゃんのが若いし」
「日本語喋れるし」
「カンナちゃんにはない、あなたならではの何かを見せてくれませんか?」

フェニーが通訳すると、粟子さんは照れ臭そうに小声で言った。
「小粟ジュンさんになら何されても構わないです」
「よっしゃ!」小粟ジュンだけが万歳した。
それを物陰から山田ユウがじっとりと見つめていた。

369 :
第二次審査に移ります。

「楽しい・嬉しい気持ちから一転、悲しい・腹立たしい気持ちに変わる演技」をお願いします。
エチュードです。台詞、シチュエーションはご自由にどうぞ。

月曜日夜22時までに開始していただけない場合は不肖私めが代役をやらせて頂きます。

370 :
「はい」とニャンティが手を挙げ、進み出た。

「今日は帰ったら冷蔵庫にプリンがあるのです」
無表情の棒読みでそう言った。
そしてニャンニャンニャン♪と誰も知らない歌を調子よく歌いながら歩くと、ツインテールがウキウキと揺れた。

「帰りました」と口で説明し、「冷蔵庫を開けます」と、また説明した。
手で冷蔵庫を開ける動作をし、弾む動作でキョロキョロとプリンを探す動きをし、やがて固まった。
どうやら冷蔵庫内にプリンはなかったようだ。
表情はまったく変わらなかったが、それまでピンピンしていたツインテールがショボーンと垂れたことでそのことが伝わった。

冷蔵庫をパタンと閉めると、また説明を始めた。
「私には33人の兄弟がいますので誰が食べたのかはわかりません。別に食べたかったのなら食べてくれてもいいのですが、
それならそうと私に一言言ってから食べてほしかったです。私の今のこの気持ちは悲しいです。怒りはありません。玄関は
開けっ放しなので兄弟ではなく隣の家の末っ子が入って来て食べたのかもしれません。それでもいいです。でもそれでも
それならそうと言ってくれればいいのにと思います。冷蔵庫にあると思っていたプリンがないのと予めないことを知らされ
ていたプリンがないのとでは」
「はい、ありがとうございました」スティーブが止めた。

371 :
ミャンミャンがセーラー服を着て登場するなり、言った。
「まーきのっ」
そしてすぐに恥ずかしそうに横を向く。
「まきのさぁ、こないだいつもお昼パンじゃ味気ないって言ってたでしょ? だからさぁ、あたしさぁ……」
そう言って後ろ手に隠していたものを前に出そうとしたところで動きが止まる。
「えっ? ……別れたい? え。飽きた……?」
「やだやだ……! あたし、悪いとこあるなら直すから」
そう言いながら一生懸命涙を出そうとする。
「可愛くなれって言うなら可愛くなる。靴を舐めろって言うなら舐めるから……!」
どうしても涙が出ないので秘密兵器の目薬を取り出し、普通にみんなの前で差した。
「やだよぉ〜……! 捨てないでよぉ〜……! まきのぉ〜!」
ボロボロ目薬を流しながら顔を伏せて崩れ落ちると、しばらく間を置いてから立ち上がり、笑顔で言った。
「終わりです」

それを見ていたニャンティが誰に言うともなく呟いた。
「なるほど。この間ミャンが振ったばかりのマキノ君の演技をしたのですね」

372 :
 しまった。ネタが被った。と、心の中で呟くしかないだろう。

 『楽しい・嬉しい気持ちから一転、悲しい・腹立たしい気持ちに変わる演技』というお題を頂いて
わたしの気持ちは、架空のデートでいっぱいだった。しかし、先ほど演技を終えたイケメンな女の子と
まったくではないのだが、思いついた内容と似通ってしまったのだ。

 お相手は『お兄ちゃん』と呼べる間の従兄、一緒にデートに出かけて……まで、出来ていたのにご破算だ。

 たった、手を上げるのが遅かったために、二番煎じの烙印を押されてしまうのは心外。
 奥歯をかみ締めながら、わたしは脳内にしまい込んだ幾多のパターンを模索していた。

 女子高生ぐらいの歳の審査委員がニコニコとしている中、わたしは心臓をバクバクと稼動させている。
 相変わらずウォンバットみたいな男性審査委員は何を考えているのか察しがつかない程の不敵な笑み。

 「はいっ」

 もう、どうにでもなれっ。
 手を挙げたのならば、もうやるしかない。

373 :
 「熊懐杏、いきます。ばかばかしいお笑いを一席」

 会場がざわつく。お題を何だと思っているんだ……と、言わんばかりに。
 わたしはわたしでフル無視を続け、真っ白い会議室の床に正座をし、深々と両手を突いて頭を下げた。
 そして、ゆっくりと元の体勢に戻しつつ、女子高生ぐらいの審査委員のパ○ツが見えそうだな、
ああ。ちらりと見えたぞっ。イメージ通りの純白だ。と邪念を燃やしていた。

 「隣の家に、囲いができたんだって?」

 静けさがあたりを支配する。

 「かっこいいいいい!」

 失笑さえ、起きない。

 「かっこいいいって!マジ?すっごーい!いやー、さすがお隣さんだよ!やった、やった!おじさん!やった!
  この木目が最高なんだよね!敢えて節を残した自然派が!いやー!あっはははははは!!!





  は……。は。

374 :
  お隣さん。もういないんだよね。夜逃げってヤツ。優しいおじさんだったのになぁ。
  オトナの事情はなんだかわからないけど、経営破たんってやつ?身なりが良かったし、中小の社長さんだし。
  可愛らしいわんちゃんもいたのになぁ……。シーズーってやつ?ふわっふわした。
  いつもおじさん言ってた。
 『立派な囲いを作るんだ。敢えて節を残した自然派な囲いを』って。

  そして、望みどおりの囲いが出来たと思いきや、突然の夜逃げ。人生はわかりません。
  
  わたしの気持ちとかけまして、『戻ってきてよ』と泣き付かれたおじさんときます。

  その心は『すまん(住まん)』。」

 一筋の光るものを目にためたわたしには、ウォンバットのような悪魔が腹を抱えて笑っているのが見えた。

 

375 :
  お隣さん。もういないんだよね。夜逃げってヤツ。優しいおじさんだったのになぁ。
  オトナの事情はなんだかわからないけど、経営破たんってやつ?身なりが良かったし、中小の社長さんだし。
  可愛らしいわんちゃんもいたのになぁ……。シーズーってやつ?ふわっふわした。
  いつもおじさん言ってた。
 『立派な囲いを作るんだ。敢えて節を残した自然派な囲いを』って。

  そして、望みどおりの囲いが出来たと思いきや、突然の夜逃げ。人生はわかりません。
  
  わたしの気持ちとかけまして、『戻ってきてよ』と泣き付かれたおじさんときます。

  その心は『すまん(住まん)』。」

 一筋の光るものを目にためたわたしには、ウォンバットのような悪魔が腹を抱えて笑っているのが見えた。

 

376 :
フッ……。
こんなの地で行けるわ。

377 :
「田舎から母と祖母が二人で私に会いに来た。
最近入り浸っている喫茶店で会うことにする。
私の部屋はあんなだから、なるべく入ってほしくない。

「どうだい? ピン獣大使の仕事は楽しいかい?」
おばあちゃんが聞いてきた。
「私は……使命としてやってるだけだから」
「頑張りなよ。あんた、せっかく天下のピン獣大使になれたんだから」
さすがおばあちゃんだ。私の喜ぶツボを知ってる。

そう、アタクシは天下のピン獣大使様。
ピンからキリまでいる魔獣の中でもとびきりピンなの。
しかももう7ヶ月もその地位を保ってる。
他のピン獣大使は大抵3ヶ月以内には辞めて行くのに。私は7ヶ月も続けているのよ!
歴代最長は20年以上という人がいるけど、あれは神だわ。
神になれる人間なんてさすがに一握り。
私にもなれるかな?

母が溜め息をついて言った。
「ピン獣大使とやらもいいけど……そろそろあなたも結婚を考えなきゃいけない歳なのよ? わかってる?」
「ピン獣大使『とやら』!!??」私は即座に反応した。
いや、知っておる。世の馬鹿者どもはわかっておらぬのだ。ピン獣大使の何たるかを知らぬ下級市民も多いと聞く。
ピン獣大使を知らぬなどと、それは「王様って何?」みたいな問題発言に等しいというのに。
「この仕事を志望した動機はなんですか?」みたいなありがちな質問があるが、ピン獣大使にその質問はありえぬ。
ピン獣大使は『志望するもの』ではない。『誰もが憧れるもの』である。国王に誰が聞くだろうか? 「国王を志望した動機はなんですか?」などと!?

母が言った、「ねぇ、ミチコ」
ミチコって言うなーー!!!
「実はあなたに縁談が来ているの。歯医者さんの卵でねぇ」
「はっ、はいしゃ!?……」
「そう。持って来てるんだけど、写真だけでも見てくれないかねぇ?」

はいしゃ。歯医者さん。
神様、私は歯科医師婦人になるのですか?
毎日目も体も喜ぶほどのスイーツを食べて、虫歯になったら夫に治してもらって。
それどころか無料で高級ホワイトニング。今の猫の牙みたいな歯並びも無料でインプラント。
施してくれる彼はもちろんイケメン。優しい笑顔で高身長。
あぁ、素敵。私はヨゴレのピン獣大使から一転、人生の勝ち組になるの?
あぁ、もちろん見るわ。見させて頂くわ。どんな人なの? 私に幸せをプレゼントしてくれる王子様は?

げっ。

前歯が2本、上唇をめくるほどに飛び出している。
この一点だけでダメ。この一点だけでアウト。
この人が立派な歯医者になれるわけがないじゃない!
なれるものはせいぜい人生の敗者だろ! ばしっ!」

378 :
「ハァハァ……。ありがとうございました」

379 :
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

8Q2BS

380 :
その日、初めて文堂珈琲館のドアを開けた俺を出迎えたのは、異様な喧噪だった。
ポンコツのテレビに映し出された、雑居ビルの一室と思わしき審査会場の様子だ。

「何だ、もう始まってたのかオーディション。時間に遅れるなんざ最低じゃねーか。
 本当に最低な奴だな、俺の目覚まし時計。多少、乱暴に止められても仕方ないね」

紫煙と共に、気怠い空気が店内に流れ込む。
一服の清涼な空気と一獲千金を目当てに此処に訪ねて来たが、
不思議な事に、何故か俺の行く先々では周囲の空気もマネーフローも淀みがちだ。

「ヒロイン役募集のチラシを見たんだが……いや、見たんですけどォ。
 着流しに木刀二本差しの伊達美少女って新ジャンルの女優でェす」

≪この木目が最高なんだよね!敢えて節を残した自然派が!≫

「あ、分かる? 君、木刀マニアかな? でも節は無いよね。
 隣のお宅の竹囲いじゃあるまいし。君の目が節穴―――」

其々が"風蓮湖"と"神仙沼"の刻印が施された大小拵えは、通信販売で入手した逸品だ。
清楚でありながら艶やかな黒髪の一本結を翻して、俺は営業用スマイルと共に振り向く。

―――オーディション会場の音声だった。

≪いやー!あっはははははは!!!≫

「ハハハ……てめー何が可笑しいんでェ!!」

どうやら、節穴は俺の両耳らしかった。
ライブ中継か録画かは定かじゃないが、あのテレビは俺の敵だ。
一撃ブチ込んでやろうとカウンターの端へと向かう。そして俺は運命と出会った。

「パソコン一台で金持ち…だと?」

381 :
『知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
 参考までに書いておきます
 グーグルで検索するといいかも"ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ"
 8Q2BS』

口の端に銜えた煙草が傾く。店のフロアに落ちた長い灰にも気付かず、
俺は、壁から破り取った怪しげな広告を食い入る様に見た。
適当にメニューを指差してオーダーを入れる。

「……マスター。ここから、ここまで全部。それと朱鞠小豆丼特盛マヨだくで頼む。
 注文の代金はツケにしといてくれ。なァに、次に来る時は大金持ちになってらァ」

≪なれるものはせいぜい人生の敗者だろ! ばしっ!≫

「五月蝿ェ! 誰が人生の敗者ですかコノヤロー」

長髪のヅラを脱ぎ捨て丸めた紙屑と共にゴミ箱に放り込んだ俺は、店内の物色を始める。
無論、うっかり持ち主が目を離したパソコンがその辺に都合良く転がってないか、
オーダーした土坂丼スペシャルが出来上がるまでの間に捜索しておく為だ。

「しかし、どいつもこいつもヒロインの資質ってモンを分かってねェ。
 取って付けた様なあざとい萌え要素に、胸焼けする程の盛り過ぎた設定。
 そんな付け焼刃で役者が務まるか。役作りのイロハがなっちゃいねェんだよ。
 目覚まし時計が壊れてなけりゃ俺の手本を見せてやれたんだが、間が悪かったな」

胸倉に左右一対で仕込んでいたDカップ相当のメロンパンを取り出して歯形を残しつつ、
俺は、伊達美少女と言う新概念が世に出る事が叶わなかった社会的損失を噛みしめた。

382 :
【名前】ここ源氏……芸名でもいいんですかね? じゃあ"土坂(ひじさか)銀姫"でェす
【国籍】実は土坂星からお忍びで花嫁修業に来たお姫様なのら〜。みんなには内緒だゾ
【年齢】にじゅ……十五歳でェす。R15+指定作品でも余裕で出演イケまァす
【体躯】俺の身長が高ェ? いや気のせいだから。ただの錯覚だから。てめーの頭が高ェ
【趣味】華道と茶道と日本舞踊でェす。恥ずかしがり屋なんで一生披露しないけどね
【特技】お菓子作りとか、もう半端無い腕前だからね。ある意味、必殺技の域に達してるね
【動物】
  よく友達から言われるのはァ、可愛いマスコットとかペットとかケダモノの類かなァ
  ご主人様と日向ぼっこで添い寝とかイイですよねェ、ふかふかの芝生でモフモフ
  ウトウトした頃を見計らって寝首を掻くようなオテンバ仔狼ちゃんなのでウルフ
【一言】
  前作『金魂』のキャスティングでは汚い電話営業で原作者のお墨付きを取り付けた
  そんな小粟ジュンさんの大ファンなのら〜。売れねェ役者ナメてんのか
  ジュンさんと日向ぼっこに行って一緒にお昼寝したいでウルフ

383 :
久しぶりにこの板来たけどまだやってたんだ
結構ぐちゃぐちゃやけど…
キャラ増えて楽しくなって来たねぇw

384 :
04I

385 :
あら? どなたもいらっしゃらないのかしら?

386 :
『あら? どなたもいらっしゃらないのかしら?』

不意に響いた声に、俺は店内のインテリアを物色する手を止める。
いや、二つの迷いが俺の手を止めた。一つは、それが何処から聞こえたか、だ。
ポンコツテレビの音声か、あるいは肉声か。そして二つ目は、声の主が誰であったか、だ。

「……いや、そうでもなさそうだぜ」

二つ目が先に解消した。俺は、この女の審査用プロフィールを正確に記憶している―――

「―――"淫獣"の山下(31)だったな。オーディション上がりの一杯(丼)か?」

【任意選択】
rァ
 1.会場の模様は生中継されているが、山下(31)は持参し損ねた鞭を取りに戻って来た
 2.会場の模様は生中継されているが、山下(31)は自らの落選を悟り即座に帰って来た
 3.会場の模様は先日収録された記録映像であり、普通に来店した
 4.会場の模様は生中継でも記録映像ですらなく、俺の幻覚だった
 5.会場の模様とは無関係に、俺は現在進行形で山下(31)の幻覚を見ている
 6.―――オーディション会場の音声だった(二回目)

この中で、蓋然性の突出して高そうなモノは無い。何れも充分に起こり得る展開だが、
[2]の場合は比較的厄介だ。夢に挫けた傷心の年増をフォローする術を俺は持たない。

「此処で会ったのも何かの縁だ、パソコン一台あったら貸してくれ。300円あげるから」

最悪なのが[6]だ。長らく更新される事の無かった俺の輝かしいステータス画面の最終項に、
<環境音との高等会話術>という、死にスキルないし不毛な萌え属性が追記されてしまう。
流石の銀志狼さんとて、つい先程オーダーした土坂丼スペシャルの提供を待たずして、
コテコテの天丼を自炊完了などという不祥事になれば、自主的な出禁は不可避だ。

387 :
さて、私は。ぐぅたらくぅの上の空だ。
なの空間に漂う煙のごとき音楽感。
そこに私の居場所はあるかないかの二択しかない。
この金色のもさもさの髪型にも似たこれを解いて、
客になるか、それともこのままメイドを演じるか。
ぐぅたらくぅの上の空のままに。

この喫茶店、床が木。
歩くとみしみし言いそうなわりに。
固く私の体重を確実にそのままに跳ね返してくれる。
なんて小癪。
なんて生命感。
私の負け。
なんてわけにはいかないので。

私はコーヒーを注文する。
何でもいい。
私の気持ちを起こしてくれるのならば。
何でもいい。
何でもいい。
ぐぅたらくぅの上の空のまま。

388 :
さて、次の日の朝

389 :
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

HP9

390 :
ほしゅ

391 :2019/12/21
fgdj38y4j96d8j48d9
2018.9.13>gooニュース>ローカル>速報>毎日新聞>朝刊>P24

【天満屋グループの賃金未払い集団訴訟】請求額支払いで和解 岡山地方裁判所
 天満屋グループの警備会社「山陽セフティ」(岡山市北区西長瀬1206-7)の元社員ら7人が、会社側に未払い賃金約2400万円及びこれに対する遅延損害金約700万円の支払いを求めた訴訟が12日、岡山地方裁判所で和解した。
会社側が請求額と同額を支払うとの内容。
 訴状によると、元社員らは2015年1月~17年2月、山陽セフティに正社員の警備員として勤務。
夜間の仮眠時間も緊急時の出動に備えて車両などで待機していたが、車両待機手当(月7500円)や緊急出動手当(深夜勤務1回につき700円)などが支払われるだけだった。
 元社員らは「仮眠時間も会社の指揮命令下にあるため労働基準法上の労働時間に当たり、賃金が発生する」と主張。
ある元社員の場合は時間外労働時間が月平均172時間だったのに、月55~96時間分の賃金が未払いになっているとし、支払いを求めて17年4月に岡山地方裁判所へ提訴した。
これに対し、会社側は争う姿勢を示していた。
 和解について、山陽セフティの代理人菊池捷男弁護士(菊池綜合法律事務所)は「一切コメントしない」としている。(朝日新聞)

#天満屋 グループ>行政処分>事件>求人>新卒>採用>評判>社長>役員>年収>本社>総務>管制センター>パーキング>移転>電話番号>倉敷>福山>柔道部>パワハラ >Facebook>Twitter>電伝万

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