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ファンタジーっぽい作品を創作するスレ 2


1 :2010/08/07 〜 最終レス :2014/09/17
ここはファンタジーっぽい作品を創作するスレです。
古代・近代から現代・近未来、ライトから本格派、
SS・小説からイラスト・漫画まで、ファンタジー風味ならなんでもどうぞ。
なお、まとめwikiへの掲載を希望しない場合はその旨を明記してください。
■作品まとめwiki■
創作発表板@wiki
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/201.html
■前スレ■
ファンタジーっぽい作品を創作するスレ
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1228924353/
■避難所■
ファンタジーっぽい作品を創作するスレ〔避難所〕
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1280746108/
※お約束、イラストデータ等のアップ先、関連スレなどは
 >>2、>>3、>>4を参照

2 :
■創作スレのお約束■ (暫定)
■作者さん(書き手さん、描き手さん)へ
・名前欄か、投稿前の1レス目に作品タイトルを記入しましょう。
・投稿前の1レス目には作品傾向等をなるべく記載してください。
 特に、苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿前に必ず宣言を。
 まとめwikiへの掲載を希望しない場合も、投稿前に「wikiへの掲載なしで」等と記入してください。
・連載の続きには「>>前レス番号のつづき」とアンカーを入れて、判りやすく。
・投稿の終わりには「完」、「続く」、「投下はここまでです」などの一言を。
・複数レスで投稿する時は、できれば 「1/10」「2/10」……「10/10」といった形で通し番号を付けましょう。
■読み手さんへ
・作者側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、 読み手側には読む自由・読まない自由があります。
 読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
・作者が望んだ場合を除き、感想の範疇を越えた批評・批判は御遠慮ください。
・感想、アドバイスには作者さんへの配慮をお願いします。
■その他
・480KB付近、またはレスが980を超えたら新スレを立てて移動しましょう。
・荒らしには徹底スルーで!荒らしに構う人も荒らしです!!
・投下者同士がお互いを尊重し、スレの皆が気持ちよく投下できるスレにしましょう。

3 :
■イラストデータ等のアップ先■
創作発表板アップローダー
http://u6.getuploader.com/sousaku
創作発表板アップローダオルタナティブ(仮)
http://loda.jp/mitemite/
イメピタ        http://imepita.jp/
ピクト(複数添付可)  http://www.pic.to/
ナショナルアドレス   http://new.cx
@pita         http://pita.st/

4 :
■関連スレ■
古代・中世的ファンタジーを創作するスレ(古代・中世特化)
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1232716506/
獣人総合スレ(ケモノ系)
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1281087600/
亜人総合スレ(デミヒューマン系)
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1220443082/
異世界召還・トリップスレ(召喚もの)
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1219992281/
魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1263537324/
自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた(ミリタリー・自衛隊)
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1280728791/
【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】
http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1281103438/
【皆で】剣と魔法の世界の物語【作る】
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1255764349/

5 :
>>1
また皆で良いスレにしていきたいね。

6 :
>>1乙!
>>5
そうだね。
さて、また作品を投下できるように、創作作業に励むか。
SS書くのって、大変だけど、やっぱり楽しいよね。

7 :
>>1
乙です乙です。
まさか次スレが立つとは思わなかったが、これをきっかけに
何か書ければいいな。

8 :
祝! 新スレってことで、次から2レス投下。
セリフのみです。ごめんなさい。

9 :
「……ここは……」
「やあ、起きたかい?FTPSCSD2」
「FTPSCSD2?」
「君の名前さ」
「それが俺の名前……貴方は誰?」
「私は、FTPSCSD1、君のお兄さんってとこかな。もっとも、我らに性別はないが」
「FTPSCSD1、ここは、どこ?」
「ここは、幻想と現実との境界線にある創生の世界だよ」
「創生の世界……FTPSCSD1、これから俺は、ここで、何を……どうすれば良いんだ?」
「FTPSCSD2、君の仕事は、
 この世界を訪れる住人達が、様々な別世界で垣間見てきた、多様な幻想世界を語り合い、様々
 な世界の在り様を相互に認識できる機会を提供することだ」
「……よく解んないけど、俺は、貴方と一緒にそういう仕事をするんだな。まあ、楽しくなりそうだな」
「違うんだ、FTPSCSD2、
 私が、住人に提供することができる場の容量は、もう既に、私の能力の限界に近い……」
「……え……」
「FTPSCSD2、
 君は、私と、私と共に歩んでくれた住人の望みによって生まれた、新たな希望なんだ。
 私は、もうじき、創故と呼ばれる永遠の世界での眠りにつくことになる。
 その前に、君が生まれてくれて……こうして、会うことができて、本当に良かった」
「そんな! これから俺は、ここで、一人で生きてくって、ことなのか!」

10 :
「違うよ、FTPSCSD2、
 私や君と同じように、この創生の世界では、大勢の仲間が私達と同じように、この創生の世界に
 立って、その能力で、大勢の住人に場を提供し、あるがままに受け入れている。
 ほら、君にもその様子が見えるだろう?」
「……ああ……」
「君も、私と同じように、創故と呼ばれる永遠の世界に行き着くまでには、受け入れる住人も無く、
 孤独に苛まれる日や、心無い記述と嵐に傷つけられる日もあるだろう。
 だけど私は……君が、私よりも更に良い形で、住人達に愛されて、住民からの記述を受け入れ続け、
 その結果、500KBというデータを持って、創故に辿り着くことを願っているよ。
 君が一人寂しく創故に落ちたりすることが、決して無いように、この先の世界で、いつも祈って
 いるからね」
「……FTPSCSD1、俺……」
「私は、このことを伝えたくて、君に会いに来たんだ。
 FTPSCSD2、君が生まれてくれて、本当に良かった。後をよろしく頼む」
「……FTPSCSD1……ありがとう……俺でも、貴方を超えられるかな……
 とにかく、今、貴方が辿り着こうとしている、あの領域を目指して、
 俺も、また貴方に会えるように……頑張ってみるよ」
「……ありがとう、FTPSCSD2、じゃあ、また」
「うん、また」
――― それは、このスレの新たな物語 ――――
〈END〉

11 :
擬人化モノなので、ちょっとスレ違いな気もしますが、
とにかく、祝! 新スレってことでお赦しください。

12 :
おお、新スレ祝いw
こうして次スレへと受け継がれていくのだなぁ・・・。

13 :
大丈夫、今の創発では埋まる前に落ちる心配はないw

14 :
次スレ立った記念に
前スレ>>644-648の一年ぶりの続きを
投下

15 :
国境の町、コルドーナを後にし真っ直ぐな道を北へと向かう。
できれば夜が来る前に一番近いローニャ村へと辿りつきたかった。
右を見ても左を見ても、寂寥とした景色だけが広がり、空は薄暗く太陽の光はあまり差さない。
入国者たちの群れも、三々五々と小さな集団ごと、あるいは一人で点々と道を歩いてゆく。
用を済ませた商人たちの馬車が、足早に追い抜いて自分や他の人々を追い抜いて行った。
馬車に乗せてもらおうとする者も居たが、商人たちはまるでそんな暇など無いもしくは時間を惜しむかのように冷たく通り過ぎてゆく。
高い金を払ってどうにか乗せてもらえるものも居たが、少数だ。
彼らは恐ろしいのだ。 この国を徘徊する獣、「狩猟者」たちが。
夜になれば狩猟者たちがうろつき回る危険な野を通行するのはリスクが大きい。
だから、少しでも明るいうちに街と街を移動する。 野宿などすれば、襲われて朝がたには骨すら残っていないだろう。
恐ろしいのは他にもいる。
野盗・強盗の類だ。 旅人を襲って金品を奪う悪党どもは、どこの国に行ってもかならず居る。
特にこの国は入国者の中にその手の犯罪者、お尋ね者が多く紛れている。
真っ当な生き方を出来ないもの達が悪事に手を染め、官憲の追捕を逃れるうちに最後にこの国に辿りつく。
理由は、この国は一度入ったら出られない代わりに、他国からの追っ手も入ってこられない事。
そして、それはこの国の官憲が、入国者が犯罪者だと気付いても、隣国に引き渡したり入国を拒否したりはしない事。
国内で悪事を働いた場合は、「殺人と盗人は死刑」とコルドーナで兵士が宣言した通り、厳しい刑罰が待っている。
だが、それはあくまで現行犯に限る。
例えば殺人を行っても、現場を見られて咎められなければ、それまでだ。
故に、悪党にとってはこれほど仕事のやりやすい国は無い。
その首にかけられた賞金の額が多い名のある犯罪者ほど、この国に逃げ込みたがるだろう。
そして、今まさに自分の前方でも、悪党どもの「仕事」が行われている最中だった。

16 :
「たっ助けて! 助けてください! どうか命だけは……!!」
明らかに自分と同じ入国者だとわかる一人の女性を、3人の男が手に凶器を携えて取り囲んでいた。
男たちはどう見ても、善人には見えない面つきをしている。
判りやすい光景だった。 入国したばかりでこの国の勝手がわからない人間は、強盗の餌食になりやすい。
この国の街道を、一人きりで武器も持たず歩くことがどんなに危険な事か、知らないからだ。
それを身を持って学んだ時には、既に死体になっている。
哀れなその女性……その顔には見覚えがあった。 コルドーナの町でエーテル嵐に遭遇した時に隣に居た、らい病の女だ。
せったく変異の恩恵を受けて不治の病から癒されたと思ったのに、運が無い。
不幸な犠牲者は、悪党どもの振り下ろした斧を体に受けて、悲痛な叫び声を上げながら自分の血の海の中に倒れた。
悪党どもが、離れた場所で見ていた自分に気付く。 次の獲物に見定めたのだろう。
いやらしい笑みを顔に浮かべながら、ゆっくりと歩いて近づいてくる。
丁寧に、近づく度同時に三人で取り囲むような体勢をとり、逃がさないようにしている所を見ると、相当手馴れているようだ。
外套の下で自分は2本の大振りのナイフのうち1本を握る。
病を患ってから随分と使っていなかったが、今はエーテルの加護によって往時の肉体の力強さを取り戻している。
いや、前よりも逞しくなったような気もする。 数年のブランクは、大した枷にもならないだろう。
「運がなかったなあ、兄ちゃんよお……俺らも好きでこんな事やってるわけじゃねえんだがよ、ははっ」
何が面白いのか、三人の強盗の中の髭面の男が笑った。 手には血の滴る斧を持っている。
自分も、少し笑い返してやった。 特に面白い事があったわけではない。
人殺しが日常になり、殺した相手の身ぐるみを剥いで生活する事を当たり前になっても「笑える」ようでは、
「手馴れ」ては居ても、悪党としては大した手合いではない。
仕事に心の余裕を持ってしまってはダメだ。 それは油断を呼び、獲物を見分ける感覚や嗅覚を麻痺させる。
そんなこいつらが、「笑って」仕事をできる程度の小物でしかない事と、自分との対比が、何故か笑えたのだ。

17 :
小ばかにされた、と髭面の男もこちらの笑みでなんとなく気付いたのだろうか、急に不機嫌な顔になった。
苛立ちがよく判る。 自分が笑いながら、見下しながら、殺そうと思った相手から笑い返されるのは愉快じゃあるまい。
そして怒りは、動作を鈍らせる。 髭面が斧を振り上げる動きは、必要以上に大振りで、鈍間だった。
外套を跳ね上げ、神速の踏み込みと共に短剣を握っていた右手を素早く突き出す。
胸に対して水平に向けた切っ先は髭面の肋骨の隙間に上手く入り込み、肉を切り裂いて肺腑へと到達した。
斧を持った右腕を頭上に掲げたまま、髭面は何が起こったのかわからない、という表情をして硬直する。
後ろに居た二人の仲間も一瞬硬直し、すぐに事態に気付いてそれぞれの武器を振り上げ、襲い掛かってくる。
その動きは気配で知れていた。
一方的になぶり殺しにするとでも思っていた獲物に予想外の反撃を受け、強盗たちは明らかに動揺していた。
髭面から短剣を引き抜くと振り返りざまにもう一本の短剣を左腕で腰の鞘から引き抜き、後から剣で
切り付けようとしていた禿頭の男の攻撃を防ぐ。
短剣の刃と、長剣の刃が打ち合った瞬間、長剣の表面に霜が降り、刀身を伝って禿頭の男の腕までを白く覆った。
男が腕に走った痺れるような激痛に悲鳴を上げ、長剣を取り落とす。
その様子に、残る一人の強盗は困惑して抜き身の短刀を携えたまま、思わず攻撃の動作を止めた。
禿頭の男の腕は、凍傷になって皮膚が青紫色に変色していたのだ。
自分の左手に握る、こちらも大振りの短剣の表面が青白く輝き、冷気を発している。
「な、なんだそりゃあ……! アーティファクトで作られた武器か!? ま、まさか手前、氷剣のマクス……!?
そんな、そんなはずはねえ!! 氷剣のマクスは、3年前に腐人化病で死んだはずだ!!」
強盗のうちの最後の一人は、青ざめた顔で叫んだ。 明らかに脅えている。
自分が西方の国でその二つ名で呼ばれていた頃、悪党どもの一員だった頃の事を、彼は知っているようだ。
もっともその二つ名は、自分の力量や仕事の悪名よりも、この魔法を帯びた短剣によって知られるようになったものだが。
そして彼らにとって残念な事に、自分は、氷剣のマクスは生きていた。 病を患い、死人のようになっても生き延び、そしてこの国に来た。

18 :
「待ってくれ、あんたがマクスだってことは、知らなかったんだ。 知ってたらこんな事はしねえ!
た、助けてくれ! か、金なら、やる! 全部持って行っていいから、頼む、命だけは……!!」
どこかで聞いた様な命乞いの台詞を口にしながら、そいつは震える足で後ずさりをする。
ゆっくり歩いて近づきながら、凍て付いて動かない右腕を左腕で押さえながら膝を泥の中に突いて呻いている禿頭の男の喉を
すれ違いざまに短刀で切り裂いてやると、強盗の最後の一人は持っていた武器も投げすてて声にならない悲鳴を上げて背を見せ駆け出した。
その男を、自分が追う。 たいして面白くも無い行為だ。 何十回、何百回と繰り返した、「仕事」。
人殺しが日常になり、であった相手を殺して金品を奪う、既に飽きて何の感情も湧かなくなった行為。
そんな、感情の麻痺した自分を自嘲気味に笑う事はあっても、「楽しい」とは思えない。
だから、その男も走って追いついて、その背中から短剣で抉り、殺してやった。
三人分の財布と、武器と、衣服や靴など売って金に出来そうなものと、その他に食料や酒の瓶なんかを持っていれば
頂戴して荷物に纏め、早々にその場を立ち去る事にした。
死体は、明日になれば「狩猟者」が始末して形も残らないだろう。
歩き出す前に、ふと強盗どもに殺された哀れな女の死体に目を向ける。
病身を押してこの国にやってきて、エーテルの嵐に遭い、せっかく病が治りもとの美しい顔に戻る事が出来たというのに
たった数刻も経たず、この女は死んでしまった。
生きていれば、生まれ変わった姿でどんな人生を歩むつもりだったのだろうか。
哀れみを憶えはしても、別に埋葬してやる事も無い。 そもそも、助けもしなかった。
その女が服の袖から覗かせている綺麗な石の細工で作られた腕輪が目に入ったが、奪ったり盗む気にはなれなかった。
元々、自分が殺したわけでも無い死体から奪う習慣を俺は持たない。
わずかばかりの感傷だけを残し、日が落ちる前にその場を足早に去ることにした。

19 :
投下終り
世界観と設定は組み上がったのに
登場人物と物語が上手くできなくて
どうしたものか困っています
とりあえず世界観の説明ができるような文章で書いていけたら良いのですが

20 :
>>19 投下乙
今回も、読んでいるうちに、世界観に惹かれる感じがして良いなぁ…
と思ったので、このまま、マイペースで書いていって良いと思うよ 
マイペースでの続きに期待

21 :
前も思ったんだけど、FTPSCSDって何の略なの?

22 :
コナンのようなハードファンタジー書きます。
ハードな感想よろしく。

23 :
 窓の外から複数の馬蹄の音が近付いてきて、荒々しい嘶き声と共に建物の前で止まった。
 ベッドの上に横になっていたケインは、反射的に半身を起こすと、無言で聞き耳を立てた。
彼が居る二階の窓の下からは、何かを鋭く問 い詰める男たちの声と、それに対応する店の主人の
動揺した声が届いてくる。
 ケインは枕の下に隠した剣を素早く手に取ると、隣りで眠る赤毛の娼婦をそのままにしてベッド
から降り、長身ではないものの筋骨隆々とした裸体を晒しながら薄暗い中を歩き、窓辺へと寄った。
そっと外を窺うと、繁華街の通りには野次馬が集まって、その輪の中心にいるのは、真夜中でも
なお明るい灯火に照らされて黒光りする鎧を身に着けた、巡邏隊の兵卒たちと、その馬匹だった。
鞍から下りた兵卒たちは、兜の下の目をぎらりと光らせて、門前で何かをまくし立てながら、こち
らを見上げてくる。
 ケインが瞬間的に壁に身を潜めると、ベッドの上から酒やけした女の声が鳴った。
「…………なによ、いったい」
 娼婦は豊満な体を横たえ、掛け布にくるまったまま、どんよりと濁った目を向けてくる。
「なんの騒ぎ?」
 ケインは溜め息をつくと、いつもの癖で長い黒髪をくしゃくしゃと掻き毟りながら、
「巡邏兵だ」
 困ったような低声で答える。
「俺を追って来たんだ」
「なに?」
 女はすぐに起き上がると、目を剥いて問い質す。
「あんた、なにやったの?」
「この宿場に来る前に、二人ほどバラしてきた。二十リードほど向こうでな」
「はあ?誰を」
「俺は悪くないぜ」
 ケインは不服そうに言う。
「因縁つけてきたのは向こうだ。
女と歩いてたら、急にチンピラが寄って来て横取りしようとしやがった。
だから唾を吐きかけて、相手が得物を抜いたところを、逆にやっつけてやった。正当防衛さ」
「だったら、その場でそう説明すればよかったじゃない」
「そうだな」
 肩をすくめると、
「それをいつも端折ってるから誤解を招く。お蔭でいまじゃ賞金首さ。自業自得は分かってるよ」
「あたしは関係ないわよ」
 赤毛の娼婦は不機嫌そうに顔をしかめる。
「あんたとはさっき会ったばかりよ。疑われたらたまらないわ」
「そう言えばいい。疑われるもんか」
「いいから、さっさと出てってよ。あたしは穏やかに暮らしたいの」

24 :
 ケインは早足で壁際の衣装籠に行くと、革の短衣を取り出して素早く身に付け、ベルトを締めた。
サンダルを履いてマントを羽織ると、途端に旅装一式が完成する。荷物は剣一本と腰の小袋のみ、
それ以外は体ひとつだった。
「…………待って!」
 すぐに出口に向かおうとする男に、娼婦は慌てて声を掛けた。
「代金を払ってちょうだい」
 男は腰の小袋を取ると、丸ごと投げて寄越す。ベッドの上に落ちたそれを女は手に取り、ずっし
りとした重みを感じると、笑みを浮かべて呑気そうに告げる。
「あらいいの、こんなに?悪いわね」
「子供におもちゃでも買ってやれ」
「子供はいないわ」
 女は上機嫌で、
「でも、あんたの子供なら生んであげてもいいわよ」
「それは願い下げだ。尻の毛まで毟られそうでな」
「さようなら。元気でね」
 女はゆらゆらと手を振ると、
「正面からは出ない方がいいわよ。裏口があるからそっちに」
「知ってる。確認済みだ」
「そう。抜け目ない事」
 ケインは白い歯を見せて笑うと、
「子供は御免だが、その胸は最高だ。また相手したいね」
「ここを出て、その首と胴体がつながっていられたら、またいつでも触らせてあげるわよ」
 赤毛の娼婦は剥き出しの乳房を手で触りながら揺すって見せる。
 ケインは身を翻すと、部屋の外へと出た。廊下を進んで階段を下りようとすると、一階から鎧の
鳴る騒々しい音が響いてきた。
それを聞 いて舌打ちすると、すぐに後戻りして部屋に飛び込む。娼婦は途端に顔色を変えると、
「ちょっと!戻って来ないでよ!」
 ケインは無視してベッドをサンダルで踏みつけて横切ると、窓から首を出した。
下方には四、五名の巡邏兵がこちらを見上げていて、下手人の顔を認めると、急いで呼子を吹き鳴
らした。ケインは構わず窓に身を乗り出させると、上枠に外側から掴まって、懸垂の要領で体を引
き上げる。
次の瞬間、部屋の中に鎧姿の兵士たちが雪崩れ込んで来た。赤毛の娼婦が悲鳴を上げていると、
彼らは窓辺に駆け付け、首を出して上方 を見る。
屋根の上にはケインが顔を覗かせ、不適な笑みを浮かべて見せると、すぐさま首を引っ込めて姿
を消した。
巡邏兵は上るに上れず、下方の兵士たちに怒鳴り声を浴びせる。兵士たちはすぐさま一斉に鞍に
飛び乗ると、野次馬の波をかきわけるようにして馬を進めた。
 一方のケインは、平屋根の上を次々に飛び移り、星空の下を駆けて行く。マントに包んだ長身を
軽やかに宙に舞わせながら、阻むものの無い天上の道を、黒豹のように走り抜けて行った。
〈つづく〉

25 :
>>22
投下乙
筋骨隆々の剣闘士モノって感じが良いねー
個人的には、スリーハンドレッドのレオニダス王みたい

26 :
>>22
投下乙
筋骨隆々の剣闘士モノって感じが良いねー
個人的には、スリーハンドレッドのレオニダス王みたいなインテリマッチョ
も好きなので、今後に期待w

27 :
落ちたスレのレスを全部再現したのかw
乙www

28 :
避難所にスレ2が落ちたのは、残念…っていうレスがあったので、
スレ2をほぼ、そのままの形で復活させました。
ということで、
>>26までIDが同じなのと、
>>25のコメントを張り間違ったのは、ご容赦を…
これからの新生「ファンタジーっぽいスレ2」に幸あれ!

29 :
おお、乙でした。

30 :
>>28
乙です!
無事に移転してくれて良かった
また、まったり進行でやっていけると良いな

31 :
>>24の続き。
主人公の設定を若干変更します。
当初三十代半ばで屈強な、ゴリラのような巨漢のイメージで書き始めましたが、
二十代前半の、もっと俊敏そうな、中背の細マッチョということにします。
2ちゃんでは一旦書いてしまうと修正が利かないという不便さがあることに気付いた。
今後も書いてしまってから、やっぱこれはこういうことにするね、ってのはありそう。

32 :
 地上の騒ぎが大分遠ざかって、ケインがようやく立ち止まって息をついていると、
その耳に鳥の羽ばたくような音が届いた。
辺りの暗闇を見回すと、離れた所の屋根の連なりのすぐ上を、一羽の鳥の影が、水
平に飛び回っている。
 カラスくらいの大きさで、それは決して近付かず、かと言って離れもせず、遠巻き
に巡回しては時折屋根に止まり、再び羽ばたいては周囲を巡っていた。
 ケインは怪訝そうに見るが、すぐに気にするのを止めると、今度は猫のような忍び
足で屋根の上を進んで行く。やがて、目指す建物を前にすると、一旦足を止めて、光
る目をじっと向けた。
 それは裏通りに建つ石造りの黒い屋敷で、三階建ての最上階の窓に灯がついていた。
 ケインは石瓦の屋根に音も無く飛び移ると、明かりの点った窓の上方へ進む。そし
て下の様子を窺いながら、マントを脱ぐと片手に掛けて、ぐっと身を乗り出した。
 その時、先ほどから彼にずっとついて来ていた黒い鳥が、羽ばたき音と共にやって
来て、彼のすぐ間近を飛び回り始めた。
 その羽が顔を打つと、ケインは鬱陶しそうに手を振って追い払おうとする。
 しかし黒い鳥はしつこく付きまとうと、耳障りな甲高い声で鳴いた。それは女の引
き笑いのような奇怪な声音で、闇夜に不気味に響いた。
 一方でその直下、三階の明かりのついた部屋の中では、十名ほどの男たちが集って
いた。
 中央に据えられた円テーブルを囲んで、四名の男がカードゲームをしている。
 そのうちの一人、背の低い小太りの男は、血走った目で自身のカードと、対戦者た
ちのそれとを見比べていた。そのカードを持つ手が小刻みに震えている。
 部屋の周りの壁際には、いかつい男たちが立ち並んでいる。それぞれの腰に剣を吊
った彼らは、円テーブルのゲームをむっつりと押し黙って見守っていた。
 沈黙の中、不意に窓の外から奇妙な鳥の鳴き声が届いてきた。
 窓際に立っていた男は訝しげに振り返ると、ゆっくりテラスに出て行く。
 外に立ち、そこから夜の町並みを見回していると、突然上方からマントが降って来
て、その頭にふわりと覆い被さった。
 絡みついた布を、男が必死に引き剥がそうとしていると、そこへケインが屋根の縁
に掴まりながら飛び込んで来て、両足蹴りを相手の顔面に喰らわせた。男は吹っ飛び
ながら部屋の中に転がり込む。
 一同は突然の闖入者に驚愕して立ち上がり、向かい合う。
 ケインは床に降り立つと、向こうのテーブル席にいる小太りの男を見て、
「やっぱり、ここだったか」
 穏やかな、それでいて恐ろしいような笑みを浮かべる。
「ルキウス、会いに来たぞ」

33 :
 ケインの姿を見て、小太りの男は一瞬で顔を蒼褪めさせると、すぐに椅子を後方に
倒しながら立ち上がり、後退りする。
 一方、ケインに蹴り倒された男は、絡まったマントをようやく外すと、
「・・・・・・手前!何の真似だ!」
 怒り心頭で立ち上がり、腰の剣に手を掛ける。更に他の男たちも同様にして続こう
とすると、突然背後から一喝の声が入った。
「待て!」
 一同が振り返って見ると、部屋の奥のソファに五十絡みのスキンヘッドの男が座っ
ている。
 腰周りが太く、がっしりとしていて、鷹のような目が印象的である。
 決して大きな体ではないものの、有無を言わさぬ威圧感を持つその風貌から、一見
してこの場を仕切る首領である事が知れた。
 ソファに身をもたせながら、男は鷹揚に言う。
「俺が相手をしよう」
「しかし!」
「妙な奴だ。ひとつ話をしてみようじゃないか」
 スキンヘッドの男は面白そうに相手を眺めながら、
「どうした若僧、血相変えて。死にそうなツラだぞ?」
 嘲弄を含んだ口調に、しかしケインは意にも介さない様子で、
「邪魔するぜ。あんたがこのヤクザどもの首領か?」
「ヤクザとは失礼な奴だな。これでもこの町の上流人士と付き合いがある」
「だったらそいつらも揃って、同じヤクザなんだろうよ」
「俺がヤクザなら、お前は礼儀知らずのチンピラじゃねえか・・・・・・チンピラを
家に招待した覚えは無いが?」
 ケインは悪びれもせず、両腰に手を当てると、
「なあに、長居はしねえ。用事を済ませたらすぐに帰る」
「用事だと?」
 スキンヘッドは鼻で笑う。 
「だったら玄関から来い」
「よく言うぜ。どうせ門前払いだろ」
「だが、これじゃ喧嘩の出入りにしか見えんな」
「体裁はどうでもいい」
 ケインは言うと、小太りの男に目を当て、
「俺は、お前さんたちが匿っている、その男に会いに来たんだ」
 小太りの男は荒く呼吸をし、恐怖に震えながら背後を振り返ると、スキンヘッドに懇
願するような目を向けた。しかし相手の方はそれを無視すると、
「匿う?何を勘違いしてる」
 肩をすくめて見せ、
「匿ってなんかいない。そんな義理はねえな」

34 :
 小太りの男は驚愕に目を見張ると、思わず大声を出す。
「馬鹿な!」
 首を横に激しく振って、
「そんな馬鹿な!だってあんたはさっき・・・・・・」
 その時、部屋のドアが勢いよく開いて、屋敷の中を守っていた男たちが飛び込んで来
た。すぐに侵入者に飛び掛かろうとするのを、スキンヘッドの男は大声で制する。
「手を出すんじゃねえ!俺がいいと言うまで控えてろ!」
 一同が動きを止めていると、スキンヘッドはケインに向き直り、
「・・・・・・よく聞け。この男はな、俺たちにとって頭痛の種なんだ」
 素っ気無く告げる。
「とんでもないカード気違いでな。そのくせ、負けも支払えない。なのに、庇う筋合いが
どこにある?」
「負けは払った!」
 小太りの男は血相を変えて言う。
「払ったじゃないか!」
「とうとう気が狂ったか」
 スキンヘッドの男は軽蔑の視線を向け、
「俺たちはまだ、一銭も受け取ってないぞ?」
「だから、夜明けまでには!夜明けまでには金が来る!」
 そう言って、小太りの男はケインを指差した。
「この男が掴まれば!賞金が手に入るんだ!」
「やっぱりそうか」
 ケインは溜め息をついた。
「古い友人を売るとはな。見損なったぞ、ルキウス」
「友人だと?」
 ルキウスと呼ばれた小太りの男は、吐き捨てるように、
「お前みたいな悪党は友人でも何でもない!俺は今じゃ堅気なんだ!」
「昨日はずいぶん気前良く、遊ぶ金を持たせてくれたはずだが」
「うるさい!お前などさっさと首切り役人に引き渡されればいいんだ!それが正義
のためなんだ!」
「正義か」
 ケインは薄ら笑いを浮かべる。
「可哀相に。確かに少々頭がおかしくなってるらしい」

35 :
 ルキウスが憎悪に顔を歪めるのにも構わず、スキンヘッドの男を見ると、
「こいつをここまで追い詰めたのは、あんたらか」
「何を言う。博打の負けはこの男の勝手だ」
「イカサマをやっておいてもか」
「おい。口の利き方に気をつけろよ」
 スキンヘッドが凄む。
「一体、何の根拠があってそんな事を言う?」
「お前たちがけしかけたんだな。俺を役人に売れと」
「けしかけてなんかない。こいつが勝手に申し出たんだ」
「甘く見るなよ」
 今度はケインが鋭く言い放つ。
「そんな理屈が通ると思うのか?俺は今、すこぶる機嫌が悪い。この気分をどうして
くれる?」
「だったら、この男を呉れてやる」
 スキンヘッドの男は顎をしゃくって小太りの男を指し示す。
「実際、こいつはとんでもねえ奴さ。今だって凝りもせずにゲームを続けている。負け
の清算は済んだんだから、続きをやらせろと迫りやがる。こっちも渋々付き合っちゃい
るが、どうせまた迷惑を掛けるに決まってるんだ。もううんざりだよ。渡してやるから、
後はそっちの気の済むようにしろ」
「収まらんな」
 ケインは冷たく答える。
「そんなんじゃ収まらない」
「なら、どうする?」
 スキンヘッドの男は皮肉っぽい笑みを浮かべる。
「この屋敷の人数をすべて相手にでもするつもりか?」
「試してみるか?」
 ケインは、ぐるりを取り囲む男たちを見回しながら、
「この狭い部屋なら、二十人でも三十人でも同じ事さ。戦い方は心得てる・・・・・・
それに、誰を狙えばいいのかもな」
 凄みを利かせたその言葉に、スキンヘッドの男の片頬がぴくりと動く。部屋の中に
集まった男たちが一斉に剣を抜く。
 一触即発の雰囲気の中で、突如ルキウスは腰帯に差した匕首を抜き放つと、腰溜め
に構えて、叫び声を上げながらケインに突進した。
 その切っ先が胸に突き刺さる寸前で、ケインは体を開いて難なくそれをかわすと、
相手の手首を掴まえる。強い握力でそのまま上方に捻り上げると、
「おいおい、無茶するなよ」
 笑って言う。
「たったひとつの命だぜ?」

36 :
 ルキウスは痛みに脂汗を流している。ケインは一同を見回すと、
「分かってるさ。あんたらは皆悪くない!」
 澄ました顔で頷いて見せる。
「むしろ被害者だ。博打の負けはきちんと清算されなきゃな。それが筋だ」
 そう言いながら、捻り上げているルキウスを見て、
「だが、この男も悪くない。
 こいつはな、二年前まで俺の相棒だった。だが心を入れ替えてヤクザな道から足を
洗ったのさ。それで地道にこの町で居酒屋なんぞを始めた。真っ当な暮らしを願って
いたのさ。
 そうさ、こいつは悪くない。悪いのは・・・・・・」
 ケインは匕首をもぎ取ると、そのまま相手の手をテーブルに叩き付け、素早く匕首
を振り上げると、押さえ付けた手の甲に容赦なく突き立てた。ルキウスは悲鳴を上げ
る。
 しかしケインは構わず切っ先をごりごり捻り込みながら、
「悪いのは、この手だ!」
 強い口調で言った。
「カード遊びを忘れられない、この手なんだ!」
 テーブルに釘付けになった手から、真っ赤な血が流れ出し、床へと滴り落ちる。
 周囲の男たちは度肝を抜かれてその様子を見詰めている。やがてケインは顔を上げ
ると、
「なあ、あんた。取り引きをしようじゃないか」
 スキンヘッドの男は眉をひそめると、
「取り引き?」
「そうだ。
 この片手。それに俺の怒りを抑える事。その二つの代償で、この男の借りをチャラ
にしろ」
「・・・・・・断ったらどうする?」
「もう少し血が流れる必要があるな」

37 :
 スキンヘッドの男は黙り込んでいるが、やがて喉の奥で笑った。ケインは目を細めると、
「どうした。何がそんなに愉快だ?」
「いや・・・・・・実はな。お前という男と一度話してみたかったのさ」
 笑みを浮かべると、
「最近、名を売っているという、〈凶星〉ケインとな」
「名など売っちゃいない。勝手にそう呼ばれてるだけだ」
「どのみち、この程度の事でくたばる奴だとは思ってなかった。もしくたばるようなら、
会う価値も無いさ。だが、やはりお前はこうして俺の前に現れた。
 実際、大した度胸さ。そんな出来る男なら、場合によっちゃ手を組みたい、仲間に引き
入れたいと考えていたんだが・・・・・・気が変わった。お前みたいな危ない奴とはやっ
てけねえよ」
「独り言か?」
 ケインは無感動に尋ねる。
「俺は鏡じゃないぞ。取り引きするのか、しないのか?」
「・・・・・・ああ!分かったよ!」
 忌々しげにスキンヘッドは答える。
「分かったから、とっとと出て失せろ!」
「宣誓しろ」
「何?」
「神々に誓え。俺はこう見えて、信心深いんだ」
「ああ!」
 うんざりした顔で、
「盗賊と知恵の神セザールと、主神セムにかけて!」

38 :
 その文句を聞くと、ケインはようやく、テーブルの手に突き立てていた匕首を抜いた。
途端にルキウスは床にうずくまると、呻きながら血塗れの手を押さえる。
「良かったな、ルキウス」
 ケインは見下ろしながら笑った。
「これで晴れて自由の身だぞ」
「くそったれ」
 ルキウスは涙を流しながら憎悪の目で見上げてくる。
「地獄に落ちろ!」
「いずれ落ち合うさ。とうぶん先の話になるだろうがな」
「とうぶん先だと?」
 スキンヘッドの男が吐き捨てるような笑い声を出す。
「お前なぞ、明日中には断頭台に上ってるよ!」
「俺は捕まらんよ」
 ケインは平然と嘯く。
「こんな事で捕まるもんか。宿命の星が守ってるからな。だから賞金も無しだぜ?」
「大した自信だ。しかし仮に逃げおおせたとしても、その調子でやってりゃ半年で
お陀仏さ」
「さあて!用事は済んだ」
 話に飽きると、ケインは匕首を持った手を素早く振り抜く。凶器は目にも留まらぬ
速さで飛び、座っているスキンヘッドの頭のすぐ横の壁に突き刺さった。
「命拾いしたな・・・・・・ほら、邪魔だ!どけよ!」
 ケインは出口を塞ぐ男たちを乱暴に押しのけると、外へと出て行く。色めき立つ一同
に、スキンヘッドは怒声を放つ。
「行かせてやれ!」
 戸惑う男たちに、今度は抑えた口調で言い聞かせるように、
「放っておけ。関わるな」
「しかし!」
「こっちが無用な傷を負う必要は無い」
 そうは言いながらも、自身の顔のすぐ横に刺さっている匕首を苛立たしげに引き抜いて、
前の床に乱暴に投げ捨てる。そして廊下を遠ざかって行く足音を聞きながら、鬱憤晴らし
のように呟く。
「・・・・・・どのみち、この町から生きて出られやせんさ!」
(つづく)

39 :
>>38
乙乙!
新たな展開が楽しみになってきました
これからも期待してるよ

40 :
騎士のお姉さんと精霊の少年という組み合わせで、これから10レスほど投下。
少々流血描写がありますので、苦手な方はスルーでお願いします。

41 :
リアンは、その人気の少ない路地裏へと、瞬時に走リ出していた。
そんな所に好き好んで行きたい訳ではないが、この更に奥の方角に位置する路地裏の方から、何かが壊されるよ
うな大きな音と、屈強そうな男たち数名の荒々しい怒声が聞こえてきたからだ。
その怒声が響いてきた場所は、この界隈の歓楽街に程近い所にあるために賃料が安く、その賃料の安さに負けて
借りることにした自らの住まいからも、そう離れていない場所にある路地の更に奥の辺りだろう。
もし、そんな場所で、誰かが危険な目に逢っていたら、絶対に放ってなどおけない。
リアンは反射的にそう思い、そこに足を向けることを即座に決めて、飾り気なくあっさりと一つに束ねたブロン
ズゴールドの長い髪をなびかせ、その場所へ向かって走る。
彼女は、この街の護衛騎士団の騎士としての正式な任命を間近に控え、その任命式の予行演習に参加してきたば
かりだった。
そのために、新調されたばかりの真新しい式典用の上着を着用した、いつもよりも整ったその身なりのまま、こ
れから帰宅する予定だったのだ。
式典用のタイトな上着に身を包んでいるが故に、彼女は、いくら騎士であるとはいえ、他人の目から見ても、一
目で17、8歳のしなやかな身体つきをした年頃の娘だと判る身なりをしていた。
その服装のままで、咄嗟に走り出していた彼女は、これから先、屈強な男達と相対して、自らを危険に晒すよう
な場所へと、たった一人で出向いているのだということなど、全く気に留めてはいなかった。
恐らくは、この辺りでよくある無骨な男達の小競り合いに過ぎないのだろうが、ともかく、その場所に赴いて早
く状況を確認する必要があると思ったからだ。

42 :
リアンは、その路地裏のすぐ近くまで足を運ぶと、一旦立ち止まり、精悍なエメラルドグリーンの瞳で、注意深
く周りを見渡すように視線を巡らせる。
この辺りは、元々昼間のうちでも人通りが少ない。普段から度々、酒に酔った荒々しい男たちが諍いを引き起こ
すこともある所為からか、あまり人が寄り付かないのだろう。
どうやら今も、此処には、人は、リアン一人しか居ないようだった。
この場所で確認する限り、先程、聞こえてきたような騒々しい諍いの音はもう、聞こえてこない。
先程、リアンが耳にした男達による諍いは、どうにか収まったようで、辺りは先程の大きな音が嘘のように静ま
り返っていた。
諍いが収まった様子であることを確認したリアンは、路地裏に立ち入るまでもなく、その場を立ち去ろうとした
が、その瞬間、路地裏の方から僅かに吹いてきた暖かく湿った風の中に血の臭いが混じっていることに気付いた。
路地裏の奥で誰か怪我でもしているのだろうか?
そう思ったリアンは、風に乗って流れてくる血の臭いに気を配りながら、路地裏に通じる道の壁際に自らの背を
預けて身体を横に向けると、慎重に路地裏を覗き込み、その視線を更に奥の方にやった。
「……なっ!」

43 :
路地裏の奥の様子を確認し、その光景を目にしたリアンは、思わず声を上げた。
そこには、恐らく壁の古さも手伝ってはいるのだろうが、何らかの衝撃とともに崩れ落ちた石壁があり、その手前には何処からの刺客と思われる屈強な剣士たちが8人程、大量に血を流しながら倒れ、言切れていた。
そして、その更に奥には、13、4歳位の華奢な身体付きの少年が自らの脇腹から流れ出ている大量の血を止めようと、身体を折り曲げ、苦痛に喘ぎながら倒れ込んでいたのだ。
「……っあ……!」
目の前の凄惨な光景に言葉を失っていたリアンは、少年が傷の痛みのために上げた声にはっとして、我に返ると、
その視線を奥に倒れている少年へと向けた。
それから、その少年の無事を再度確認するため、路地の奥へと足を踏み入れ、間近にした少年の姿に改めて目を
見張った。
少年は、脇から流れ出る血液の色と辺りの土の色で所々汚し、おそらくは、相手の剣先をかわし損なったことに
より、数か所、破かれた衣服をその身に纏っていることを除けば、その光景には全くそぐわない美しい身なりを
していたからだ。

44 :
遠目からも華奢な身体つきが見てとれる少年は、刺繍などの豪奢な装飾こそ無いが、他人の目からみても上等な
仕立てだということが一目でわかる白地に紺色の縁取りが鮮やかな騎士服を身に付けていた。
また、その側には剣士たちとの小競り合いの際に引き裂かれ、地面に落ちたのであろう上質で柔らかそうな生地
の濃紺の外套が拡がっている。
そうして身に付けている衣服からだけでも、少年は周りの凄惨な光景からは十分に浮き立って見えた。
しかし、なによりも、その少年自身の怜悧なアイスブルーの瞳と整えられた短いシルバーブルーの髪によって、
より印象的な美しさを見せている、その容貌こそが、この場所の様子からは全くかけ離れたもののように感じさ
せていた。
更に、その少年の姿を最も場違いにさせていたのは、背中にある透明な輝きを放つ4枚の大きな羽根だ。
遠目に見た時には、はっきりとは解らなかったそれは、少年の背後から僅かに降りそそぐ陽の光を浴びて、虹色
の輝きを放ちながら、優美かつ小さな帆走船の帆を思わせるように、その背中に広げられていた。
少年は、近頃ではその数が相当に少なくなったと言われている生粋の精霊族なのだろう。
リアンが今、目にしている彼の羽根は、普段は彼らが生来、生まれながらに持っている魔導力でその背中に隠す
ようにして封印されているのだと聞いたことがある。
精霊族の純血種たる証であるその羽根を背中に封印することなく、顕わにしたまま、光に包まれているかのよう
な錯覚さえ覚えさせる少年の姿を目の当たりにしたリアンは、どうやら、自分は、今、普段、滅多に遭遇するこ
とのない場面に居合わせることになったようだ、その場に立ち尽くしたまま思った。
「……っ!」
脇腹にかけてはしる深い傷口を自らの手で押さえ、その整った顔を苦痛に歪めながら、目の前の少年が懸命に立
ち上がろうとしている様子を目に留めたリアンは、再び我に返り、少年に声をかける。

45 :
「……済まない! あんた、大丈夫か?」
「お前……今の私に向かってそんな愚かな質問をするな! ……これで……大丈夫な訳がないだろう……」
救助の手を差し伸べることがほんの少し遅くなったことを詫びたリアンに対し、少年は、年端に合わぬ、大人び
た口調でリアンに視線を合わせながら、その傷の痛みで気を失うまいとして、振り絞るような、声で言った。
傷の痛みと脇腹から流れ出た出血の為に起こる貧血のせいか、少年の瞳は、若干、その焦点が合わなくなってき
ているようにも見えた。
しかし、それでも彼のその双眸は、その気丈さと本来の気質の高さを表すには充分な意思の強さをたたえていた。
リアンは少年の返した言葉に少々むっとしたが、その少年の言葉をそれ以上気に留めること無く、痛みをこらえ
ていた少年を片手で抱き支えるようにした。
それから、自らの騎士服の飾りとして腰に巻いていた柔らかな布のベルトを素早く解くと、少年の傷口に当て、
その腰から腹部へと巻きつて止血するために、傷口の上で、しっかりと固定させるようにして結び直した。
「……っう……あぁっ! ……貴様! そんなに乱暴にするな……!!」
少年は痛みに堪えかねて、自らの血まみれの手袋を嵌めたままの片手をリアンの手元に添えながら喘いだ。
その少年の負った大きな傷を間近に見てから、彼を介抱することに必死になっていたリアンは、傷口から流れ続ける血液を何とか止めて、少年の苦痛を少しでも早く軽減してやりたいと強く思った。
そんなリアンの気持ちをよそに、少年は自らの手をリアンの手元に添えて、痛みに喘ぎながらも、その双眸に宿
る意思ある輝きを保ったまま、リアンを見上げて言った。

46 :
「もう……いいんだ、私に……これ以上構うな……」
「いいから!  黙ってなさい!」
リアンはそう言うと、少年の脇腹の傷に自らの手をそっと当てた。
応急処置として、リアンが止血を試みた傷口はその甲斐もあまり見られず、まだ新たな血を流し続けている。
少年の様子から見て取るに、そもそもは普段、魔導力で背中に封印している、その羽根を収めるだけの気力も、
当然のことながら、もう残っていないのだろう。
このまま、自分がこの場所を去れば、生死を分かつような重篤な状況により近づくことは明らかだ。
そんな状況にあるこの少年を自分がこのまま放っておける筈など無いではないか。
リアンは、そう思いながら語気を強めて、少年に言葉をかける。
「あんた、バカじゃないの! このまま放っておいたら、あんたが死んじゃうじゃない!」
「……馬鹿は、お前だ! ……刺客はもう、全員殺ったのだから……!
こんなところにこのまま居たら……貴方の立場も危ないだろう!  私は大丈夫だから……良いんだ……!」
少年はリアンに対して、声も切れ切れにそう言葉を返したが、それを受けてリアンは更に語気を強めて言い放っ
た。

47 :
「全然大丈夫じゃないだろう!!」
リアンは、その言葉とともに、少年の脇腹から流れ出る血を再度止血しようと、先程、少年の腹部に巻いた布の
ベルトを少しきつく結び直す。
それと同時にそのリアンから受けた手当てと傷口を締め付けられた激痛に耐えかねた少年の口から一際大きな
悲鳴があがった。
「……っ……ぁ!! う……あぁぁあ……あぁ!!!
……お前! …… 本当に馬鹿か!! ……本当に……やめ……っあぁっ!!」
少年は僅かな気力を振り絞るようにそう言って、リアンの腕の中から逃れようと抵抗を試みたが、少年がほんの
少し動いただけで、その傷口からは新たな血液が染み出て行く。
その様子を見たリアンは、自らの腰の革ベルトに吊り下げていた小さなポケットから、深い緑色の液状の回復薬
の入った小瓶を取りだした。
リアンの手元にその小さな瓶があることを確認した少年は、驚いたように瞳を見開いて、それを見た。
それから、どこにそんな気力が残っていたのかと思うような、はっきりとした口調で、拒絶の言葉を口にする。
「お前……それ……記憶と魔導力も一緒に飛ばす強烈なやつじゃないか!
 私は……そんなもの絶対に飲まない……!!」

48 :
「全然大丈夫じゃないだろう!!」
リアンは、その言葉とともに、少年の脇腹から流れ出る血を再度止血しようと、先程、少年の腹部に巻いた布の
ベルトを少しきつく結び直す。
それと同時にそのリアンから受けた手当てと傷口を締め付けられた激痛に耐えかねた少年の口から一際大きな
悲鳴があがった。
「……っ……ぁ!! う……あぁぁあ……あぁ!!!
……お前! …… 本当に馬鹿か!! ……本当に……やめ……っあぁっ!!」
少年は僅かな気力を振り絞るようにそう言って、リアンの腕の中から逃れようと抵抗を試みたが、少年がほんの
少し動いただけで、その傷口からは新たな血液が染み出て行く。
その様子を見たリアンは、自らの腰の革ベルトに吊り下げていた小さなポケットから、深い緑色の液状の回復薬
の入った小瓶を取りだした。
リアンの手元にその小さな瓶があることを確認した少年は、驚いたように瞳を見開いて、それを見た。
それから、どこにそんな気力が残っていたのかと思うような、はっきりとした口調で、拒絶の言葉を口にする。
「お前……それ……記憶と魔導力も一緒に飛ばす強烈なやつじゃないか!
 私は……そんなもの絶対に飲まない……!!」

49 :
少年はリアンの腕から逃れようとして、自らの腕に更に力をかけると、自分の身体を無理やり引き起こそうとし
て、力を振り絞った。
「……っあ!」
ほんの少し身体を動かしただけだが、傷口から全身へと拡がる激痛に耐えかねて、少年は、再び声を上げた。
少年のそんな様子を見かねたリアンは、強い口調で少年に声をかける。
「そんなこと言ったって、このままじゃ、あんたが助からないじゃないか!」
少年は、リアンのその言葉に観念したかのように、リアンを見上げたが、その瞳には、まだ不安そうな色を滲ま
せていた。
それから、更に、ほんの少し躊躇うような表情を見せたが、その後で、もう一度、覚悟を決めたかのように小さ
くリアンが成そうとしている手当に同意する言葉を口にした。
「……っ、……わかった……から……」
少年のその言葉を自分への同意だと、受け取ったリアンは、先程手にした小さな瓶の蓋を外し、中の液体を自ら
の口に含んだ。
そして、そのまま、少年の顎に自らの手を添えて、ほんの少し上に向かせると、リアンは、口移しでその薬を飲
ませるために、少年に口付けた。

50 :
少年は、そんな風に口付けをされるのが初めてだったのか、リアンの柔らかい唇がほんの少し触れただけで緊張
に震え、その瞳をきつく閉じた。
それと同時に、その唇を閉じたまま、更に緊張を強くしたのか、少年はその場から動くことも全くできなくなる
程に震えているようにも見えた。
リアンは、未だに少し震えていた少年を促すかのように、自らの手を再び少年の頬に優しく添えると、少年の喉
を少し反らして、顔を僅かに上へ向けるようにと、仕向けた。
「……ん……っ!」
少年は苦しそうな吐息を洩らし、躊躇いつつも、リアンが添えた手に従うようにして、自らの顔を上へと向け、
ほんの少しだけ口を開いた。
リアンはそれに合わせて、互いの唇を交えるように、深く口付けながら、先程口に含んだ薬を少年の口の中へと、
流し込んでやる。
その薬が少年の喉を流れていき、なおかつ、少年が最後まで飲み干したことを確認できるまで、リアンは、口付
けを解かず待っていた。
ほんのしばらくして、少年が観念したように、ごくりと喉を鳴らした音をもって、薬を飲み干したことを確認し
たリアンは、少年の口腔内と唇の周りに残った薬を拭い去るようにして、自らの舌で舐め取ってから、少年の唇
を解放してやる。
「……ん……っ、あぁ……んっ!」
唇を解放された少年は、再び苦しそうな吐息を零してから、口の中に僅かに残る薬の苦味に咳き込んだ後、その
身体の動きによって、傷口からもたらされた痛みに顔をしかめる。
それから、徐々効果を現わし始めた薬の効き目で、意識を手放しそうになりながらも、それを懸命に堪えた。
リアンはそんな様子の少年を抱きかかえながら微笑むと、優しく声をかけてやる。

51 :
「大丈夫だよ、あたしがしばらく、あんたを匿ってあげるから。あんたは、もう何も心配しなくていい。
 でも……できれば、あんたの名前だけでも教えてもらえないかな?」
「……エリアス……」
少年は、おそらく暫くの間、自分が記憶を失うであろうことを念頭に置いたのか、リアンに小さな声で名前を告
げた。
ようやく少し緊張が解けたその所為か、少年は、今まで、その気力だけで何とか保っていた自らの意識を手放す
と、抱きかかえられていたリアンの腕の中で、薬の効果がもたらす深い眠りへと落ちていった。
リアンはその様子を見届けると、地面に落ちていた少年の外套を拾い、背中の羽根を再び封印することもできず
に意識を無くしていた、目立ちすぎる少年の容姿を隠すようにして、その身体にふわりとかけた。
そして、少年の身体を優しく包むように抱きかかえ直すと、音を立てずに静かにそっと、その路地裏を後にした。
路地裏には、その凄惨な紅い血の色と8人の屈強な剣士の骸だけが残された。
〈END〉

52 :
途中で投下をミスってしまいました…orz
「邂逅8」が2回になってますが、最初の方は読み飛ばしてください。

53 :
おお、これは良いファンタジー。

54 :
漫画っぽさを出すのも良いかもしれないけど、ファンタジーなんだからもう少し会話は練ろうよ

55 :
具体的にどこら辺をどうしたらいいか、というのを
言ってあげるといいんじゃないかと。
個人的にはあまり気になるような所はなかったしなー。

56 :
>>40「邂逅」の続き 第2話「魔導」を避難所に投下してきました。
なお、避難所ということで、少しだけ大人向けの仕様になっていますので、そういうのが苦手な方はご留意を。
それから、2話目ということで、「君の軌跡」というシリーズタイトルを付けました。
また続きが書けると良いなぁ……と思ってますので、どうぞよろしく―。

57 :
避難所行ってきたw
投下乙です!
なんだか可愛い感じがあって良いなー 色々な意味で今後に期待w

58 :
http://ip.tosp.co.jp/bk/TosBk100.asp?I=samidareya&BookId=1

59 :
現代もの、サイキックファンタジー風味で、これから8レス投下します

60 :
見上げた空には、雲ひとつ無く、いつもよりも明るい光を放つ月が浮かぶだけだ。
こんな秋の晴れた夜長は、空を飛ぶのには、絶好の夜だ。
もう、あの場所には、そろそろ皆が集まっているだろうか?
僕は、そう思いながら、あの場所 −横浜のみなとみらい地区へと想いを馳せる。
あの場所は、世間一般の人々には、全く知られてはいないが、魔道力を秘めた強力な磁場を持ち合せた、少々特殊
な場所なのだ。
こんな場所は、この日本においては、数える程しか無い。

61 :
だから、僕等、サイキックと呼ばれる魔道能力者達は、こんな風に月のきれいな夜の晩には、横浜みなとみらい地区
へと集うのだ。
普段の生活においては、全く使う事の無い、自らの魔道力を数十倍にも高めた上で、一気に解放してやるために。
僕はその場所へと、想いを馳せると、自らの力を一気に解放し、自分が一人で住んでいるこの狭い、賃貸マンションの
一室から、みなとみらい地区へと、自らの身体を瞬時に移動させる。
いわゆる、瞬間移動ってやつだ。

62 :
そして、僕が再び目を開けると − 其処には、テレビでお馴染みのランドマークタワーが創りだす、天空に向けてそび
え立つ大きな光の柱と、大観覧車の華やかなイルミネーションに彩られた、横浜の代名詞とも言うべき景色が広がっ
ている。
その景色に、唯一つ、違和感を覚えるとしたら、その華やかな景色には、いつも夜遅くまで満ち溢れている、観光客な
どの大勢の道行く人々が全く見当たらないことだ。
その代わりに、今、この場所には、僕と同じ、サイキックとしての能力を持つものが、数十人程、集まっていた。
そうなのだ − ここは、サイキック達の力が、数十倍にも高まる不思議な場所で、実在する横浜みなとみらい地区と
同じ場所に位置する別の空間なのだ。

63 :
だから僕等サイキックが、この場所で、いくら本気で魔道力を振るおうとも、実在の空間には影響はしない。
とはいえ、万一のことを考えて、この集会が行われる度に、仲間の誰かが、強固な結界を作り、現実空間への影響が
及ぶ事の無いよう、万全の策を取ってはいるのだが。
「やあ、ユウキ、遅かったじゃないか」
瞬間移動を終えて、この空間に辿り着いたばかりの僕に向かって、サイキック能力者の一人がいつものように声をか
けてきた。
彼は、僕より1つ年上の17歳の少年で、仲間うちでは、ミカと呼ばれている。
この辺りのインターナショナルスクールに通っているらしいのだが、それ以上のことは、良くは知らない。
ここに集う、サイキック達は、皆、それぞれの事情を慮ってか、この場所では、偽名で通すことになっていたし、各個
人についての余計な詮索はしないことが、習わしになっていたからだ。

64 :
僕は改めてミカと、大観覧車のイルミネーションが映り込む、彼の後ろの景色へと視線を移した。
ミカは、金髪碧眼の美少年と言うに合い相応しい姿の少年で、その姿が、ランドマークの灯りを受けた月夜に良く映え
る。
僕はミカに向かって、この月夜の集会では、当たり前のように交わされている会話を続けた。
「ああ、ミカ、悪かったね、もう、そろそろ、シルエッタが始まるのかい?」
「うん、ウインザーが、強固な結界を張り終えたからね。そろそろスタートだよ」
「ユウキ、君、今回も、単独エントリーするの? 」
「もちろん!」
ミカとそんな会話を交わしながら、僕は軽快にそう答えた。

65 :
「ユウキ、今夜も君と戦えるのか。今から楽しみだな」
「うん、俺もだよ、ミカ」
そう言って、僕とミカは微笑み合うと、互いの拳を軽く合せるようにして、これから始まるシルエッタでの健闘を祈り合っ
た。その後で、それぞれの持ち場へと、空を軽々と飛びながら移動していく。
ミカは、帆船日本丸のマストの上にふわりと先に降り立つと、更にその先に位置する大観覧車の方へと向かった僕を
見据えていた。
そして、僕の眼下の水面には、大観覧車のイルミネーションの灯りと − その大観覧車の時刻を刻む、電光掲示版の
上へと降り立った、銀色の髪の16、7歳の少年の姿 − そう、僕の姿が映り込んでいた。
僕は何故だが、この魔道力を使う度に、髪の色が、こんな色になるのだ。
その水面に映る自らの姿を確認してから、僕は、このシルエッタにおいて、いつも、最大のライバルとなる、ミカの方へ
と再び視線を移した。

66 :
ミカの手元には、もう既に、彼自身の魔道力で創り出された、金色の光の剣が握られている。
僕もそのミカの様子を見据えながら、大きく息を吸い込むと、自らの手元に、白銀の光を帯びた剣を呼びだした。
それと、ほぼ、同時に、真夜中の12時を告げる汽笛が鳴り響く。
その汽笛の音と共に、僕は自らの身体を眼下の水面の方へと乗り出ようにすると、そのまま滑り落ちるように、降下し
ていった。
そして、その下の水面に着水する前に、タイミングを見計らって、自らの手元に在る剣に周りの空気を大きく切り裂くよ
うな桁違いに強い魔道力を乗せて、ミカのいる方角に向けて、勢い良く、真横に一気に振り払った。
ミカの方も、僕のその攻撃の軌道を既に読んでいて、あっという間にその攻撃を交わしていく。
その後で、ミカは僕との間合いを詰めるために、水面へと降り立ち、そこから、わざと大きな水飛沫が上がるようにし
て、僕に向かって、大きな威力を込めた剣撃を放つ。

67 :
僕の方もわざと、ミカのその剣撃を受け止め、自らの手元で、ミカが放った魔道力を一気に無力化してみせる。
だが、その次の瞬間には、互いに間合いを限界にまで近付けて、ほんの一瞬だけ、鋭い音と火花を散らしながら、剣
を交えると、二人で向かい合って、再び笑みを交わしていた。
それから、互いに、その場を素早く飛び去るようにして、再び間合いを開ける。
さあ、真夜中の祝祭はまだ始まったばかりだ。
今夜もこれから、楽しくなりそうだな……などと思いながら、僕はミカに向かって、再び攻撃を繰り出した。
−end−

68 :
なんかこういう厨二要素全開な作品ってテンション上がってくるよな

69 :
たまには、現代モノも良いかな−と思い、
即興で書いてみたら、ちょっと短かいお話になってしまいました。
しかし、一人称って、難しいなぁ……

70 :
その化け物は河狸と呼ばれ、後溢川を渡ろうとする旅人を取っては食っていた。
ある年、川岸にある村が日照り続きで水不足となった。
勇気ある村の若者が何人か後溢川に水を汲みに行ったが、帰ってくる者はいなかった。
そんなある日、困窮する村へ、三厘を名乗る若い坊主が訪れた。
村長は村人たちの前で三厘に問うた。若い旅のお坊さま、ワシらを助けてくれぬか。
三厘は答えた。私は若輩者であり、法力は小さい。しかし、知恵をひねれば解決するかもしれません。
三厘は続けた。魔には原因があります。問題を切り分け、原因を突き止め、道理をもって直せば良いのです。何か心当たりはありませんか?
村長は少し考えた後、答えた。少し思い出す時間が欲しいし、皆と話し合いたい。お坊様、この村に一晩泊まっていかぬか。
喜んで。三厘は言った。
翌朝、なぜか村人達はもう河狸が出ないことを知っていた。
実際、おそるおそる後溢川に水を汲みに行った者も帰ってきたのだった。
村から帰ってきた三厘は仲間の坊主から問われた。どうやって解決したのだ?
三厘は答えた。元凶は村人の旅人に対する恐れだ。そして、その原因が特定されることを村人が恐れた結果、問題が解決したのだ。

71 :
では私は仏教系ファンタジーで行ってみるかな、
と軽く話をでっち上げてみました。

72 :
>>71
投下乙です! 
お話がすっきりと短くまとまっていて、良いですねw
こういう短いお話も書けるようになりたいものだなぁと、思ってしいましたw

73 :
>>59の続きを投下
全部で9レスになるはず

74 :
見上げた空には、星ひとつ無い。今日は新月だ。
おまけにこれだけ曇っていれば、夜の闇がいつもよりも更に深いのも当然だろう。
こんな夜には恐らく − そう、あの場所には、誰一人、居ないはずだ。
僕はそう思いながら、あの場所、横浜のみなとみらい地区へと想いを馳せる。
とは言っても、僕が想いを馳せたあの場所は、世間一般の人々が知る現実の世界ではない。
僕が想いを馳せたのは、サイキックと呼ばれる能力者であれば、誰もが魅力的だと思うあの場所だ。
そう、強大な魔道力を伴う磁場を持つ、こことは違う次元に形成されたもう一つのみなとみらい地区だ。
もし、今夜が普段よりも一段と深い闇を創りだしているような真夜中などでなく、逆に月が一段と明るく輝い
ているような真夜中であったなら、あの場所では、僕のような魔道能力者が数十人は集う集会が開かれて
いた筈だ。

75 :
今晩は、月はおろか星の光さえない、漆黒の新月の闇夜だから、僕の魔道力も極端に低い。
それでも、僕は、僕の持っている、ありったけの魔道力を使って、僕の部屋からその場所へと跳んだ。
その魔道力を使っての瞬間移動を終えた直後、僕の目の前には、ランドマークタワーやクイーンズ・イース
ト、そして、インターコンチネンタルホテルといった、高層ビルの列柱が織りなす、壮麗な光の柱と華やかな
大観覧車のイルミネーションが創りだしている横浜の夜の風景が広がっている。
ただし、この場所は、現実世界とは異なる次元に存在する世界だから、観光客などの大勢の道行く人々
は、全く見当たらない。
そして、今、この場所には、僕と同じサイキック能力者さえ、誰一人、居ない。
周囲を彩る華やかな夜景とは対照的に、辺りには静寂を帯びたしんとした空気に包まれていて、秋の気配
をほんの少しだけ運び始めた海からの向かい風のみが僕の周りを漂っている。

76 :
僕の魔道力は、いつもよりも断然低くなってはいたが、それもこの空間に来るまでのことだ。
この空間まで来てしまえば、いつもよりも僅かな魔道力であっても、その僅かな力なりに、自然に増幅されて
いく。
僕は自らの内側に魔道力が少しずつ甦ってくるのを感じ取ると、自らの手元に金色に輝く剣を呼びだした。
まあ、いざという時に、即座に対応できるようにする為の護身用というやつだ。
それから、僕は自分のすぐ傍にそびえ立つ、ランドマークタワーを仰ぎ見ると、そのビルの頂上へと、自らの
魔道力を使って、一気に跳躍をかけた。
その大きな跳躍の直後に、僕は自らの眼下にある水面にほんの一瞬だけ視線を向ける。

77 :
眼下に映る水面には、自らの魔道力によって、金色の光に包まれながら、大きく跳躍する、金髪碧眼の
17、8歳の少年の姿 − そう、僕の姿だけが、今、この空間に唯一存在している者が放つ魔道力の光が
映り込んでいた。
僕は自らの魔道力によって、なんとかランドマークタワーの頂上へと辿り着くと、自らの両膝に手をついて、
少し前に屈むような姿勢になりながら、一気に魔道力を使った所為で、少々荒くなっていた呼吸を整えた。
それから、この地上から一際高い場所故に、先程から勢いを止める事無く常に吹き抜けている強風が、自
分の周りではその威力が弱くなるようにするため、金色の刀を振り降ろし、再び魔道力を使ったシールドを
作りあげる。
そうして魔道力を使ったシールドを作り終えた後で、僕はこのビルの下に広がる風景を見渡すために、ビル
の縁へと座りこんだ。

78 :
眼下には、この夜の漆黒の闇を更に深くしている原因の1つにもなっていた厚い重みを帯びた灰色の雲が
このビルよりも更に低い高度にあり、風にのって、ゆっくりと流れていくのが見える。
そして、その隙間からは、数えきれない程の沢山の灯りによって、地上に映る星空のようにも見える美しい
夜景が広がっていた。
また、それとは少し異なる方角に目を遣ると、ベイブリッジの灯や、そのもっと先へと続く大海の水平線まで
も見渡すことができた。
僕は暫くの間、片膝を抱え込むようにしたその姿勢で、ビルの端にぼんやりと座り込んでいた。
自分が一人きりになれるこの場所で、あの時起こった出来事に係わるこの記憶をもう一度、しっかりと受け
止めたいと思ったからだ。
「……アリス……」
僕は、あの時と同じように叫びたくなる気持ちをぐっと抑えると、今はもう、逢う事さえ叶わなくなった、その
愛しい存在の名前をそっと呼んだ。
そして、自らの瞳をそのまま閉じると、そこには、いつものように藍色の瞳と同じく、濃紺の長い髪をなびか
せた、15、6歳の少女が、ほんの少しだけ、哀しげな表情で微笑んでいる姿が映る。
それから更にそのまま瞳を閉じていると、僕との約束を交わすために、ほんの一瞬だけ、僕の唇へと軽く触
れるような優しい口付けをした後で、とてつもなく大きな光の渦に捲き込まれるように消失していく彼女の姿
が鮮やかに浮かびあがる。

79 :
彼女は、僕が自ら暴走させた強大な魔道力の犠牲となって、この世界から消えた少女だ。
その瞬間の出来事を思い出していた僕の瞳からは、いつものように自然と涙がこぼれ落ち始めた。
「……言ったでしょう? ……必ず君を救けるって。 大好き……だよ」
彼女の最後の言葉が僕の脳裏にはっきりと甦る。
それと同時に、僕の心の中には、いつものように、あの痛みを伴った感情が満ちていくのだ。
違う! 違う!! 僕は……あの時、唯、誰よりも、君を救いたかっんだ!!
だからこそ、あの場で、ありったけの魔道力を使ったというのに!!
僕の唯、唯一つの望みさえも、叶わずに……あの力だけが暴走していくなんて!!
「……っ、あ……」
僕は、再び絶叫したくなる気持ちを堪えて、今、この真上に広がる夜空の果てしない暗闇だけを見据える。
眼下の美しい灯りに目を移せば、余計に涙が止まらなくなる気がしたからだ。
その次の瞬間、僕は自らの背後に、人の気配を感じていた。

80 :
「ミカ、 こんな日に、この場所に一人で来るなんて! 俺を誘ってくれないのは、ひどいと思うぞ」
「うるさいよ、ユウキ、君は、いつも早く気付きすぎなんだよ」
僕は相手に直前まで零していた涙を見せたりすることのないように、自らの手でしっかりと拭う。
それから、自分にも気配を感じさせぬ間に、僕の背後に立っていた、大切な友人−ユウキへと強がり言って
から振り返る。
そこには、いつもと同じように、僕をほっとした気持ちにさせてくれる、短く整えられた銀色の髪と、青銀の瞳
を持つ少年が笑顔で立っていた。
本当は、彼自身も、あの時に大切なものを護りきれなかったという、自らを強く責める気持ちを僕と同じよう
に抱えているにもかかわらず、ユウキはいつもそんな様子を微塵も見せようとはしない。
こんな時、僕はいつも、この芯の強い気持ち保ち続けたままでいる友人が、今も変わらず傍にいてくれる事
に心から感謝するのだ。

81 :
「ミカ、こんな夜だけど……まあ、いつもよりは少ないけど、魔道力は使えてるし、
そろそろ……魔を封じにいこうか」
「ああ、そうだね」
ユウキはゆっくりと立ち上がった僕に、いつものように声をかけた。
僕はその言葉に合せるように短く返事を返す。
もう、ユウキと互いに笑い合って、シルエッタに興じていたあの頃とは、訳が違うのだ。
僕が自ら暴走させた魔道力がきっかけとなって、生じたこの次元の綻びは、今も完全に封じ込むには、至っ
ていない。
それに加えて、その綻びから度々生じるようになった、強大な負の力を帯びた魔道力は、この次元を超えて
現実世界にまで、少しずつ影響を及ぼすようになっていた。

82 :
それでも……僕等は、この強い次元の捻じれによって、あちこちに生じるようになった、強大な負の魔道力
の全てをいつか必ず封じきるだろう。
僕等二人が互いに手にする、この剣へと、再び封じるその都度、……アリスが消えた、あの次元へとつなが
るゲートを開くことが出来るかもしれない可能性が生じるのだ。
その可能性がある限り、僕は魔を封じ続けるだろう。
そう、だからこそ、僕等は、何度でも立ち上がり、その漆黒の暗闇を切り裂くのだ。
僕とユウキは、以前、そう、あのシルエッタが始まる前にしていたのと同じように、互いの拳を軽く合せて、こ
れから闘いへの健闘を祈り合った。
そして、既に眼下に大きく拡がり始めた漆黒の闇へと、それぞれの身を躍らせるようにして跳躍すると、その
暗闇を切り裂き始める。
−end−

83 :
前回、即興で書いた話の続きが書けたというのは、なんだか嬉しかったなw
あと、トリを付ける予定は無かったのに、なぜか付いてましたよ……
なので、最後までそのまま投下しました
どうぞよろしく

84 :
>>83
おお、投下乙です!
前回と同じく静かな中に躍動感のある感じが良いね
またの投下をお待ちしてますw

85 :
なんか続き物らしさが出てきたな
間の詳しい話とじゃは考えてるのかな

86 :
>>84>>85
レスありがとう! このストーリーにレスをもらえるなんて、なんかすごく嬉しいぞw
今また、この続きっぽい話を考えたりしてるところですw
なにせ即興で作り始めたストーリーなので、まだ少し間が空きそうだけど、
そのうち投下しますんで、どうぞよろしく!

87 :
近未来設定です。
ちょいグロありなので苦手な人は気をつけて下さい。
次から投下します。

88 :
不気味なほど白い世界に、俺は居た。何処かの病院の廊下だろうか。
付け入る隙のないような、全き白は俺の侵入を拒むように沈黙していた。
完璧でない者を排除するような、冷ややかな色の上を歩く。
鼻腔をかすめる、薬品の匂い。――それに混じって、甘ったるいような、香水めいた香りが漂ってきたことに気付き、
匂いの発信元を探る。しばらく歩いていくと、何かの気配を感じとある一室の前で立ち止まった。
……ここだ。この部屋から、吐き気を催すほど甘い匂いが湧いている。
くちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃ。
ぴちゃぴちゃべちゃべちゃ。
白い扉の向こうから何かを咀嚼する音が聴こえている。

……誰、だ。
そこにいるのは誰だ。
ぐちょぐちょげちぇげちょ。
ぴちゃぐちゃげちゃげちゃ。
開けるな。開けるな。決して開けてはナラナイ。
恐怖心が扉を開けるなと囁いている。
開けろ。開けてしまえ。ほら、早く。
俺は好奇心に突き動かされ扉に手をかけて――

89 :
「――っ」
……夢か。
ベッドから飛び起き、俺は息を吐いた。
毎夜頻繁に見る悪夢とはいえ、慣れることはない。
いつも、あの扉を開く所で夢は終わる。
あの先に何がいるのか、見てみたいようで、決して見たくもない気がした。

時計を見ると、もう昼近くになっていた。
遅刻だな。……あんな夢を見たせいだ。
「くそっ」
誰にともなく悪態をついて、立ち上がった。

乾いた風を皮膚に感じながら、俺は天を仰いだ。
電脳情報によって作られた人工の空が広がっている。
スクリーンに映し出された鈍色の空に太陽はない。
いつもと代わり映えしない、曖昧で暗澹とした世界。

90 :
昨日も、一昨日も、そして何年も前から、
この第一塔と呼ばれる居住区域は同じ風景だった。
永遠に変わらぬ景色ほど、おぞましいものはない。
その居心地の悪さに吐き気を覚えながら、俺は刑具……銃を収めているホルダーに手をやった。
見慣れた区画を抜け、道を通り、目的地の血管通りへ向かう。
名前の通り血塗れたように赤い路面と、
壁に埋め込まれた水道管がびくびくと脈打つ様は何度見てもグロテスクという感想を覚えた。
「ミツルちゃん。遅かったね。寝坊?」
そんな情景に全く不似合いな穏やかな口調で、目の前の女、マナは話しかけてきた。
「違う。お前と一緒にするな」
「そっかあ。あんまり遅いから家まで迎えに行こうと思ってた所だったんだ、無事に来てくれてよかった」
「俺が来るの遅くても迎えにはくるなよ」
「え、でも、ミツルちゃん遅刻ばっかしてたらお給料減っちゃうよ」
「いいから来るな」
「恥ずかしがりやだなあミツルちゃんは。近所の目とか気にしてるの?」
それもある。
何しろ、こいつの外見はあらゆる意味で一目をひく。
片側だけやたら伸びた金髪に十字の髪飾り、……片方しかない翼。
本来ならば、第二世代には一対の翼があるはずだが、
本人曰く、生まれつきひとつしか翼しかないらしい。


91 :
「とにかく家には来るな」
「は〜い」
俺の突っぱねるような物言いにも気分を害した様子はなくただ嬉しそうににこにこ笑っている。
こいつはいつもこんな調子だ。
物心ついた時から傍にいるせいか、小動物のように妙に懐いており、
何を言っても怒る気配がない。
きっと何処かのネジが抜けてしまっているんだろう。
――多少の哀れみを覚えつつ、俺は血管通りの瘡蓋扉を開いた。
湿った空気が、皮膚を撫でる。
微かに匂う、血と黴の匂い。赤茶けた砂と、高く伸びた岩の列がどこまでも広がっている。
地面に不規則に空いた穴からは蒸気が勢いよく立ち昇り、周囲に熱湯を撒き散らしていた。
血管通りに、瘡蓋扉。
名づけた奴は相当な皮肉屋だと思った。
此処は確かに血が流れ、臭い物に蓋をする場所だ。
第一塔から外界に繋がる、転送所、そして同時に
俺達のような能天使と呼ばれる人天使達が、あぶれ者共に鉄槌を下す処刑場。
果てしなく広がる、高原。

92 :
足を踏み入れると同時に何体かの奴らが蠢く気配を感じ、背中合わせに配置しているマナに呼びかけた。
銃を抜く。
「マナ。来るぞ。仕事だ」
「分かってる。大丈夫だよ、安心してミツルちゃん」
顔を見ていないので分からないが、恐らくマナは先ほどと同じ表情で笑っているのだろう。
平時のこいつの「大丈夫」はあまり当てにならないが、この時ほどマナが頼りに思えることはない。
三節混と呼ばれる旧時代の刑具を携えて、マナはじっと遠くをにらみつけた。
ずる……ずるっ。
何かをひきずる不気味な音が近づいてくる。
白く霞んだ霧の向こうにソイツはいた。
「う……ァ」
霧が晴れ、姿が露わになるとソイツは目とおぼしき器官をぐるりと回してこちらを捉えた。
かろうじて五肢の存在が判別出きる肉の塊、ぽっかりと顔に広がった空洞から、ばしゃばしゃと透明な液体を吐き出しながら蠕動する。
肥大化したイソギンチャクのような風貌。
食屍鬼――異形の姿を持つ、化物。

93 :
「ぐあぶぎゃあああああああ」
耳がはちきれそうな金切り声。
すぐさま銃弾をぶちこみたくなるのを押さえ、俺は聞いた。
「一応聴いておく。お前に意識はあるか」
食屍鬼は俺の台詞が終わる前に叫んだ。
「ぎゃえおぶぷはああぎゃあああ」
無駄か。だが上司に定められた規則だ。
「……お前に後二回、チャンスをやる。もし俺の問いかけに返事をするなら収容だけで済む。
お前に理性はあるか」
「ギイイイイイいいぎああああァッ」
うるさい。奴の体液が飛んだ。後一回だ。
「お前に精神はあるか」
返事の代わりに奴は自らの手を伸ばし、俺に攻撃を仕掛けてきた。
そうか、それが返事の代わりか。

94 :
「ミツルちゃん、危ないっ」
奴の攻撃をマナが三節混で弾き、怯んだところに足蹴りをくらわせた。
触手と化した手を、マナへ伸ばす食屍鬼。
マナはそのまま奴の上半身に足を付き回避を兼ねて宙返る。

残念だったな。
三回もチャンスをやったのに、全部棒にふるなんて馬鹿な奴。
……もっとも賢かったなら、初めからこんな所には来なかっただろうけどな。

「来世ではもっと上手く生きろよ」
もっともお前に生まれ変わる余地があればの話だが。

95 :
俺は奴の頭部に標準を定め、引金を引いた。
魔弾が醜い姿をした化物を一直線に撃ち抜く。
白い光が走り、正常な意識も、理性も、そして精神すら失った化物を浄化した。

「任務ご苦労様でした。今日はもう家に帰って疲れを癒しなさい」
神殿に住まいを構える俺達能天使のリーダー、サマエルに任務の報告に行くと、疲れを労いそう告げられた。
今日は殲滅した敵が少なかったため、あまり疲れていなかったが、休めるのはありがたい。
黙って従う事にした。

96 :
「今日はレラジェ来てなかったね。別の仕事かなあ」
部屋から出てきたマナが不思議そうに首を傾げる。
「……だろうな」
レラジェというのは俺達の同僚の一人だ。
人天使、階級は能天使。趣味は弱いものを甚振る事と拷問で、
過激派か保守派かといえば間違いなく過激派であり、ぶっとんだその性格からはみ出し者の烙印を押されている。
天使なんて異名が丸っきり似合わない男。
どちらかというとその殺伐とした風貌と嗜好は悪魔と呼ぶに相応しい。
レラジェが仕事に姿を現さないのはいつものことだった。職務放棄、ではない。

97 :
奴はこの“食屍鬼狩り”と呼ばれる能天使の仕事が三度の飯より好きと豪語してはばからず、
暇な時間は用もないのにこの食屍鬼が現れる場所にふらりと現れては食屍鬼を狩っているらしかった。
そんな男が姿を見せないのはサマエルに別の職務を言いつけられているからに違いない。
神殿を出て、居住区域へ急ぐ。
第一塔――。
俺が居住する塔はそう呼ばれている。数ある塔の中でも主に
人天使と呼ばれる第二世代が住まう地下施設だ。
勿論、天使といっても神話や聖書に登場する天使とは違う。

98 :
天使というのは第二世代を呼ぶ名だが俺はこの呼び名があまり好きではなかった。
……大災厄と呼ばれる世界戦争を経て地球の殆どの地域は焦土と化し、多くの人々は死に絶え
核兵器が齎した汚染により地上は生物の住める場所ではなくなった。
戦争で生き残った数少ない人間達は、地上を棄てて地下にいくつかの施設を作り、そこで生活することを余儀なくされた。
しかし、戦禍が齎した被害は、地上の汚染に留まらず、人間の身体にも影響を及ぼした。
出産率の著しい低下。放射能に汚染された人間は生殖機能を失ってしまったのだった。

99 :
そうした事態に研究者達は旧時代まで禁断とされていた技術に手を染めた。
人工のクローン。
論理的な問題から、今まで人間のクローンを生み出すことは法律的に禁止されてきたが、
あまりにも低い出産率を危惧した独立政府によってこれが承認された。

そうして生み出されたのが俺達の世代、所謂第二世代だ。
何故第二世代が天使と呼ばれているのか。答えは簡単だった。
俺達第二世代には背中から生えた翼があるからだ。
何のために在るのか、詳しいことはよく分からないが、大きい小さいなど形は様々であれ
背中から一様に白い翼が生えている。
悪趣味な遺伝子科学者が造形したに違いないそれは第一世代、戦争の生き残りである人間と第二世代を見分ける差異でもあった。


100 :
考え事をして歩いていたせいか前から走ってきた小さな子供にぶつかってしまった。
「うわっ!!」
子供はよろけて前につんのめり、転倒しそうになった。
咄嗟に手を差し出し、体を支えると少年は一瞬何が起きたのか分からないといった様子でぽかんとこちらを見上げていたが、
しばらくして頬を緩ませた。少年の首から下がっている身分証――
階級の最下層である下級天使であることを現す三角のプレートが揺れていた。
少年の頬には真新しい傷があり、よく見ると体の露出した部分あちこちに怪我をしていた。


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