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【スポコン】ロウきゅーぶ!SSスレ【ロリコン】


1 :2011/08/28 〜 最終レス :2015/06/08
第15回電撃小説大賞<銀賞>受賞作、蒼山サグのロウきゅーぶ!についてあれこれ妄想し創作するスレです。
少女はスポコン! コーチはロリコン!?
高校入学とともに部長のロリコン疑惑で部活を失った長谷川昴。ただでさえ小学生の話題は
タブーなのに気づけばなぜか小学校女子バスケ部コーチに就任って……!?
小学生の女子だって抱えている悩みは多いのです。
そんな彼女たちに翻弄される、さわやかローリング・スポコメディ!
●次スレは480kか960レスを超えたのを確認し宣言後に建ててください
●ネタバレは公式発売日から24時間後に投稿してください(それでも貼りたい方は※ネタバレありと記入)
●カップリングがある場合は本文に入る前に宣言してください
まとめwiki(二人称等の参考にどうぞ)
ttp://www14.atwiki.jp/ro-kyubu/
ttp://www47.atwiki.jp/ro_kyu

※R18作品はエロパロ板に投稿してください
蒼山サグ ロウきゅーぶ!でエロパロ 4本目!
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1309716743/701-800

2 :
ロリキューブが正式名称だと思ってた

3 :
この過疎りようである

4 :
スレさえ立てれば誰かが書いてくれると思うのは間違い

5 :
とりあえず来てみましたよっと

6 :
とりあえずみんな誰が一番好きよ?

7 :
ひなたちゃん
書いてくれるのか?

8 :
内容が内容だけに、エロパロ以外では厳しい

9 :
ある日、昴のもとに一通の封筒
その中にはDVDが…
とかですね、わかりません

10 :
竹中と1on1して、ごめんねと言いながらもさり気なく本気を出し続ける智花
というのも良いかなぁと思った。

11 :
あと、ひなたを溺愛するかげの小ネタを考えてるけど
どうあがいてもキャラ崩壊orz

12 :
多少のキャラ崩壊はしょうがないと思う

13 :
とりあえず誰かもっかんでお願い

14 :
智花「昴さんってロリコンなんですか…?」
昴「えっ…」

15 :
智花「紗季が疑ってたので…」
昴「そ、そんなわけないさー」

16 :
智花「でっ、でも私はそれでも…///」
昴「へ?」

17 :
昴、記憶喪失に

真帆や紗季が昴と智花が恋人同士だと吹き込む

記憶のない昴はそれを真に受ける
みたいな話を

18 :
キャラスレ
http://speedo.ula.cc/test/r.so/yuzuru.2ch.sc/anichara2/1318003124/352?guid=ON

19 :
昴「俺が守る!智花のバスケも。居場所も。」
智花「でも、勝てないって…」
昴「正直勝算があるわけじゃない。けど…」
ん?
昴「勝算って言ってみて。」
智花「ふぇ?し、勝算。」
昴「何故だろう、勝算って言葉を耳にした途端に胸がときめいて。…智花、お昼の12時の事なんて言うんだっけ。」
智花「正午。」
昴「はぅ!」
智花「昴さん?!」
さっきより、さらに胸がときめく。
昴「智花。詳しく記録する事って何て言ったっけ。」
智花「詳録。」
昴「どかばき!」
智花「昴さん!?」
胸にハンマーで殴られたように衝撃が走る。

昴「ありがとう智花!そう、詳録こそ俺が求めていたものだ!」
智花「し、詳録がですか?」
そう、詳録こそ勝利の鍵なのだ。
でも。
昴「まずは家に帰って作成会議だ。母さんのオムライスを食べながら、ね。」
智花「はい!」

20 :
とある日曜日。可憐な制服に身を包んだ智花と出会った。
男バスとの試合も近いし学校で自主練をするつもりだったが、コートが使われてしまっていたのだ。

昴「うちにもゴール位あるし」

こんな、寂しそうな可愛い小さな女の子を捨て置ける人間がいるだろうか。いたら、全力で殴ってやる
俺は、ほとんど条件反射で智花を誘っていた。

昴「ここからなら自転車で二人乗りした方が早いし」
智花「わ、わかりました!」

少しでも長く練習したいという智花の意思をくみ、自転車の二人乗りで行く事に。
俺は自転車の荷台に腰をおろし、智花の華奢な腰に手を回す。

智花「さあ行きますよ、長谷川さん!…って私が漕ぐんですか?!」

女子小学生に自転車を漕がせる男子高校生の図。

昴「…自転車を漕ぐのは足腰を鍛えるのにいいからね」

智花の練習のためだ、多少のそしりは甘んじじて受けよう。

智花「なるほど、さすが長谷川さんです!私、頑張っちゃいます!」

昴「あ、もちろん立ち漕ぎね。」

立ち漕ぎじゃないと足腰を鍛える事は出来ないからな。

21 :
昴「…」

智花が元気よく自転車を漕ぐ。揺れるスカートが目の前に見える。

昴「後少し」

智花「まだこぎだして30秒ですけど。ずいぶん近いんですね」

昴「あ、いや、こっちの話。」

智花には悪いが今はスカートの揺れを見守るのに忙しい。
スカートで立ち漕ぎなんかしたら下着が見えてしまうかもしれないからな。そうならないようにしっかり見守らなくては。

昴「!」

揺れるスカートがついに捲れあがり、智花のお尻の真後ろにある俺の視界にその中身が飛び込んでくる。だが。

昴「す、スパッツだと!?」

智花「ふぇ?!」

昴「確かに着替えの時間さえ惜しんで少しでも練習したい気持ちはわかる。でも、スカートの下にスパッツをはくのは間違いだ!」

智花「ふえぇ!?」

昴「いいかい、自転車を漕ぐときスカートの下にスパッツをはくと本来排出される熱が中にこもり、必要以上にスタミナを奪ってしまうんだ!」

智花「そ、そんな理由があったんですか。私、てっきり長谷川さんがパンツを見たいからそんな事を言い出したのかと誤解してました!」

昴「誤解がとけて良かったよ。」

智花「通報するところでした。」

昴「誤解がとけて本当に良かった!」

22 :
智花「わかりました、スパッツを脱ぎますね」

なんて物分かりのいい子なんだ。
俺が言わんとする事をすぐ理解するなんて。


智花「うんしょ」

太陽の下、スカートの中に手を突っ込みスパッツを脱ぐ美少女とそれを見守る男子高校生の図。
智花の為とはいえ、端からみるとなかなか危険な状態の気がする。

智花「は、恥ずかしいです。私、なんだかいけない事してる。」

昴「ごめんな、いけない事させちゃって。」

智花「ふぁうっ!?」

スパッツを脱ぎ終えた突然智花が驚いた声をあげる。

智花「あの、長谷川さん。やっぱり長谷川さんに漕いでもらっていいですか?」

昴「どうしたの?」

智花は顔を真っ赤にし、スカートを押さえながら。

智花「スパッツの下にパンツはくのは忘れてました」

23 :
グッジョブ

24 :
智花「き、今日は晩御飯に招待していただきまして、あ、ありがとうございます!」

昴「遠慮しないでいいよ。さあ、食べて。」

今日はいろいろあったな。
街で偶然出会った智花を家に誘って。そして俺がコーチに復帰するという条件でバスケ勝負したり。
そして智花の悲しい独白を聞いた俺は、いても立ってもいられなくなり、帰宅中の智花を迎えにいって。
何だかんだで今、一緒にご飯を食べている。

七夕「うふふ、久しぶりににぎやかで楽しいわね、昴くん。晩飯三人前な!って、セリフ、ラノベの主人公みたいに格好良かったわよ。」

昴「う、うるさいな!格好いいとか言うな!あと昴くんと言うな!」

高校生にもなって格好いいとかそんな事言われると背中がむずむずするわ。

智花「す、昴さんは格好いいです!さっき私を守ってくれるってセリフすごく素敵でした!」

昴「そうかな?俺格好良かった?」

智花「はい、とても!」

うーん、格好いいと言われるのはいくつになっても嬉しいなあ。

25 :
昴「あれ?智花はお肉嫌い?」

そういえばさっきから智花はまったくお肉を食べていない。
せっかく焼き肉なのに、肉を食べないとは。あ、智花のようなちっちゃくて可愛い女の子はお肉が苦手な子も多いようだけど。

智花「ふぇ!?き、嫌いじゃありませんけど、サラダの方がもっと好きなだけです、昴さん。」

昴「そっか。ドレッシングいる?」

智花「は、はい、いただきます。はぅ!?」

ドレッシングを受け渡した時、智花が容器を強く握りすぎたのか、中身が飛び出し顔にかかってしまう。

昴「…」

白い液体がかかった智花の顔、なんかエロチック。

昴「なあ智花、ここにウインナーあるから食べない?」

深い意味はないけど。

智花「は、はい?い、いただきます。」

昴「はい、あーん」

智花「あーん…って、は、恥ずかしいですっ」

26 :
昴「これも男バスに勝つために必要なんだ」

智花「いただきます!あーん。」

うーん、素直な子だなあ。
可愛い口で、差しだしたウインナーにはむ、と食いつく。

昴「あ、歯を立てないでね」
そこは大事だよね。深い意味はないけど。

智花「ふぇ?」

智花が口にウインナーをくわえたまま頷く。

智花「はむ、ふあ。ふあふさん…」

顔に白い液体をつけたままウインナーを頬張る小学生の図。
うん、健全だ。

昴「よし、今度は動かすぞ、智花!」

智花「んっ。ふあっ!?」

涙目で必死にウインナーをくわえる智花。
なんかみなぎってキター!

七夕「うふふ、本当に仲がいいわね。」

昴「あ」

…しまった。母さんがいるの忘れてた。
俺の全ての脳細胞が言い訳を考えるためにフル稼働を初めた。


智花「…ふぁ。な、何だかドキドキしちゃったよぉ」

27 :
盛り上がってまいりました

28 :
智花「すいません、昴さん。家にお邪魔したうえ、勉強まで見ていただいて。」
とある休日。いつものように家に来てバスケの練習を一緒にしたあと、智花から宿題でわからないところがあるのですが、と切り出されたのだ。

昴「気にしないで。それにほとんど教える事ないくらい、すらすら解いてるし」

うーん、はっきり言って俺要らなかったんじゃないのか。

智花「そんな事ないですっ。昴さんにみてもらうといつも以上に頑張れるんです。」

嬉しい事言ってくれる。
コーチ冥利につきるな。
でも何もしてないのは事実だしな。

29 :
昴「俺が智花にまともに教えられるのは保健体育くらいだからな。何か知りたい事ある?」

昔から俺、保健体育の評価だけは良かったんだよな。
あまり算数では智花の役にたたなかったけど、バスケの事や効率的な運動についてなら教えてあげられる。

智花「ふぇっ!?ほ、保健体育ですか?!」

あれ、智花の顔が急に真っ赤になったぞ。

昴「あ、もしかしたら智花、保健体育が苦手なんだ?」

智花「あ、あのっ!?昴さん?!」

昴「よし、遠慮はいらない。色々教えてあげるよ、手取り足取り!」

もちろん手取り足取りは言葉のあやである。

昴「じゃあまずは赤ちゃんの作り方からかな」

智花「ふぇぇぇ!?」

30 :
昴「なんてね、冗談だよ。」

アグネスも怖いしな。

智花「は、はい、では、それはまたの機会にお願いしますっ」

昴「え?何か言った?」

智花「いえ、何も。」

昴「そう?じゃあまずは軽い運動から。逆立ちをしようか」

智花「ふぇぇぇ?さ、逆立ちが保健体育の勉強と関係あるんですか?」

昴「当然だよ。逆立ちは全身の筋肉をくまなく鍛えられる素晴らしい運動なんだ。テストにでるよ。」

決して智花がミニスカートを履いているからではない。

智花「そうなんですか。私てっきり昴さんがパンツを覗くためかと誤解してました、ごめんなさい。」

昴「誤解がとけて良かったよ」

いたいけな少女にそんな誤解をさせてしまうなんて。反省が必要だな。

智花「えへへ、今日かわいいパンツ履いてたか確認するところでした。」

昴「大丈夫、今日の智花のパンツもかわいいよ」

智花「何で知ってるんですか?!」

昴「かわいい教え子の事だからね。」

どんな事でも把握するのはコーチの勤めである。

智花「う、嬉しいです、昴さんっ」

智花がにっこりと微笑む。
かわいい笑顔だ。まるで可憐な花が咲いたような。
結局その日は、何故か怒りの表情のミホ姉が乱入してくるまで逆立ちの練習をしたのだった。

31 :
この天然変質者ぶりは紛れもなくすばるんだなw

32 :
天然じゃなくね?

33 :
夕方。今日は部活の日ではない。本来はバスケ同好会の活動日だったのだが、無理をいって休ませてもらった。
自宅のベランダに腰掛け、シュート練習をする小さくて可愛い幼い美少女、智花を見つめる。
相変わらず美しいフォームだ。思わず惹き付けられてしまう。
いつもなら、智花がシュートを撃つたびにチラリト見えるおへそや、微かに揺れる胸をみるだけで満足なのだが。

昴「そわそわ」

今日の俺は智花に集中しきれないでいた。

智花「どうしたんですか?昴さん」

落ち着きのない俺を見て、シュート練習をしていた智花が手をとめ駆け寄ってくる。
心配してくれているのだろう。本当にいい子だなあ。

昴「ごめんな、智花。何でもないんだ」

智花「は、はい。あの、もし何か悩み事があるのならおっしゃってください!わた、私に出来る事なら何でもしますっ」

昴「な、何でも!?」

智花「は、はい!」

そうかそうか、何でもか。いったい何をしてもらおうかな。

昴「とりあえず裸エプロンでジャンプシュートを…」

と、言いかけた時、玄関のチャイムが鳴らされる。

34 :
昴「来た!」

俺はそれと同時に玄関へ走る。

智花「わ、わかりました!昴さんがおのぞみなら…。あれ?」

すまない智花、後できちんと見せてもらうから。
だが、今は何よりも優先しなくてはならないのだ。
そう、一分一秒を争う事なのだ。
母さんが玄関へ出るより早く!

男「長谷川さん、お届けものです」

昴「はい!」

よし。母さんより早く出る事に成功した。
宅配便を受けとる事に成功したのだ。
この中身を母さんに知られるわけにはいかないからな。

智花「あ、あの、昴さん?宅配便だったんですか?うふふ、嬉しそうな顔してます。」

昴「ああ。今日発売のロウきゅーぶの二巻が届いたんだ…って、あ!?」

智花「え?」

結局。

智花「ろうきゅうぶ?バスケのアニメなんですか?わあ、私見てみたいな」

何故か自室で智花と一緒にロウきゅーぶBlu-rayを鑑賞するはめになってしまった。
正直引かれるかと思い針のむしろだったのだが。

智花「昴さんと一緒にアニメを見れて、私、幸せです。えへへ」

天使のような笑顔で微笑んでくれる智花をみて、少し嬉しくなったり。

35 :
後日。
結局母さんにばれてしまい。
いや、本当の所、母さんにはばれても良かったのだが。
本当に恐れていたのは隠し事を出来ない母さんから漏れる情報だったわけで。


ミホ「またんかこのロリコン!」

葵「あんたを殺して私も死ぬ!」

怖い大人達に追いかけ回される事になったのだった。

追伸。裸エプロンの智花は天使だった。

36 :
登場人物自身が観るってどういうことだよwww

37 :
ちょwwwwなんかワロタwwww

38 :
交換日記

湊智花「あふうう…。うふ」

まほまほ「お、もっかんが壊れてる」

あいり「と、智花ちゃん?大丈夫?」

紗季「大丈夫よ、こんな時のトモは、きっと長谷川さんといい事があったのよ」

ひなた「おー。ひなたもおにいちゃんといいことしたい。えっとね、おにいちゃんと一緒にアニメみたい」

湊智花「はふっ!?」

まほまほ「お?どうしたもっかん。アニメがどうかしたのか?」

湊智花「な、何でもない、よ?」

まほまほ「そーだな、すばるんといいことするにはやっぱりこーかんどあげないとな。やっぱり妹メイドで…」

紗季「その作戦ちっとも駄目だったじゃない」

まほまほ「んなことねー!すばるんのかいそうシーンにいっつもメイド服でてくるし!」

紗季「長谷川さんは家庭的な方が好きなのよ!」

まほまほ「水着エプロンは大失敗だったじゃねーか!」

紗季「あ、あれはスクール水着を着ていたからよ!裸エプロンだったらきっと…。ね、トモ?」

湊智花「ふええええ!?な、何で私にふるのかな?!」

紗季「何でって。ねえ?」

ひなた「おー。ひなも一緒にロウきゅーぶみたい」

あいり「と、智花ちゃんって大胆だよね…。わ、私も長谷川さんの前で裸エプロン…。あうう、無理っ」

まほまほ「ん?なになに?すばるんに裸エプロンシュートお願いされたの?w」

湊智花「み、みんな、どこまで知ってるの?!」

39 :
昴「あれ、智花、おへその横、虫に刺されてるぞ。かゆくない?」

智花「はう、少しかゆいです。でも、何でおへその横に刺されてるのに気がつかれたんですか?」

昴「智花のシュートのフォームチェックのために見ていたら、偶然可愛いおへそが見えてしまったんだよ」

コーチたるもの常に選手の変化には気を付けないと駄目だからな。
決して可愛いおへそを見るためにフォームチェックをしていたわけではない。

智花「えへへ、そうだったんですか。てっきりおへそを見るためかと思ってました」

昴「ははは、そんなわけないじゃないか。」

智花「じゃあシャツの裾、中に締まっておきますね。」

昴「いや、それはそのままでいい。
…智花そこに横になって。薬を塗ろう。」

可愛いお腹に痕が残ってはいけないからな。

40 :
智花「は、はい」

そう言って智花は仰向けで横になる。

智花「あの、す、昴さん。」

昴「ああ、わかってる」

智花が顔を真っ赤にして何かを訴える。
やはり恥ずかしいだろうからな。
前回と同じように目隠しをつける。

昴「よし、これで何も見えなくなったよ、智花。」

智花「は、はい。では誘導しますねっ」

昴「うん、よろしく」

薬を塗った指を智花のお腹の上におく。

智花「はぅっ。え、えっと、ここから少し上に…」

昴「うん?こんな所に窪みがあるぞ」

智花「はぅぅ!?そ、そこはおへそですぅ!」

昴「あ、失礼」

決してわざとではないんだ、ごめん。

昴「小学生のおへそに指入れちゃったー。ひゃっほーい」

智花「す、昴さん。心の声と実際の台詞が逆ですっ」

41 :
昴「あ、ごめん。嫌だったよね」

智花「い、いえ。嫌というわけでは…はぅ」

ん?何て言ったかよく聞こえなかったな。
まあいいか、気をとりなおそう。

昴「お。ここ、ぷっくり腫れてる。ここだね。」

智花「はぅぅぅ!?」

お、凄い反応。どうやら正解のようだな。

智花「はっ、んっ!す、すばっ!?ひゃうう!」

…なんか智花の反応がおかしい気がする。
気のせいか、腫れがさらに大きくなってきたような。
これはいけない、もっと薬をつけなくては。
たっぷり薬をつけ、もう一度腫れに塗りこむ。

智花「んーっ!んっ!ひゃううう!?」

昴「お、こっちにも腫れてる場所がある。」

こっちにも薬を塗っておかないとな。
ぐりぐり。

智花「〜〜〜〜〜っ!?」

智花の体が跳ねる。
虫さされがそんなに痛かったのか。
でも、早い段階で薬が濡れて良かった。

42 :
昴「智花、終わったよ。」

俺は目隠しを外し智花を安心させるために、にっこり微笑む。

智花「…ふぁう?ふ、ふばるひゃん…?」

何故か顔を真っ赤にし、荒い息をする智花の姿。

昴「どうだった?」

智花「は、はひ。む、胸がすーすーしますけど、きもちよかったです…でも」

昴「でも?」

智花「あの、まだ刺された所には塗れてないです…ふぁう。」

昴「あれ?おかしいな。もう一度塗らないとか」

智花「はぅっ?!…お、お願いします、昴さん…♪」

昴「よし任せろ、また気持ちよくしてあげるよ」

ミホ姉「へえ、また気持ちよく?」

背後から殺気をはらんだ声が聞こえる。

昴「…え?」

うーん。激しく誤解をされている気がする。

ミホ姉「百回R!このロリコン!」

昴「ぎゃー!?」

43 :
相変わらずの高クオリティw

44 :
昴さん凄いよ最高だよ

45 :
いいぞもっとやれ

46 :
ho

47 :
朝からハアハア

48 :
パンチラww激カワ(ニコ動)
http://www.nicovideo.jp/watch/1321418959
こいつら良くねぇ??久々ど真ん中来たで!!!!!

49 :
ここはエロ禁止とのことですが、
原作レベルのエロならOKなんですかね?
具体的には小学生の入浴シーンとか下着姿とかキスシーンとか。

50 :
せっかく全年齢板があるので投下してみます。
もしも葵が告白して昴と付き合ったらというお話です。
・葵メイン(のはず)なので、女バスの面々は基本敵役です。
・原作9巻直後を想定してます。
・続きものです。無駄に長かったり、そのまま放置する可能性もあります。
・どこまでが非エロかは色々な判断がありますが、
 原作レベルのエロは許容範囲ということで書いてます。
 ご注意ください。

51 :

「昴っ!」
「ん? なんだ、葵?」
読んでいた『ミニバスケット・コーチチング』という本から顔をあげてぼけっと間抜け面を向けるのは
長谷川昴――七芝高校一年十組、好きな物はオムレツで、ポジションはポイントガード
……ううんっ、そんなことは重要じゃない。
こいつは私の十数年来の幼馴染で、……そして……そして……。
「…………あ、……あ、あ、あのね、昴……私……ずっと言えなかったことがあるんだけど……」
ここは昴の部屋。練習に役立つDVDがあるからといって上がりこんだのは1時間も前。
七夕さんは出掛けていて居ない。一つ屋根の下に昴と二人っきり。
見ている人間は誰もいない……そう千載一遇のチャンスなのだ。

52 :


「言えなかったこと? なんだ、改まって。俺で良ければ何でも聞くぞ」
俺で良ければって……ああんっ、もうばかっ。あんたじゃなきゃ意味がないのよ!
カッとなって声にだそうとした言葉をどうにか飲み込む。
……だめだめ。それじゃいつもとおんなじ。今日は……今日こそはって、覚悟を決めたんだから……。
「……あ、あ、あのね、昴……」
「うん。なんだ、葵」
すーはーと大きく息を吸う。心臓のドキドキが止まらない。
今まで経験したどの試合よりもずっと緊張しているのがわかる。
昨夜から練習してきた言葉を頭の中で繰り返しながら
私は清水の舞台から飛び降りる気持ちで言った。
「――私っ、昴のことが好きなの! 昔から、ずっとずっと小さい頃から、ずっと!」


53 :

言った!
ついに言った。昴に、私の気持ちを、ついに――!
言った瞬間、頭が真っ白になった。
かぁぁぁっと体中の血が顔に集まってくるのが分かる。
「? ああ、俺も葵のことは好きだぞ」
「ええっ!? ほっ、ほ、ほ、ホント!?」
「もちろん。幼馴染だしな。プレイヤーとしても尊敬している」
「――そうじゃなくって!!! 幼馴染とか、バスケとか、そういうんじゃなくって、
 ……その……私は、……私と、つ、つ、付き合って、ほしいっていうか……」
「うん? どっか行くのか? 葵には世話になっているし別に構わんけど……」
こ、こいつはああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
なんでいつもいっつも私の言うことを曲解しようとするのよ!
「あああっ、もう! 私は、男として昴が好きだって言ってるの!
 昴と付き合って、恋人同士になりたいって言ってるの!!!」
「……は?」
絶句……といった感じでぽかんと口を開けたまま固まる昴。
その表情に胸が締め付けらるほどの切なさと後悔を覚える。
昴は私がそんなことを言い出すなんて考えもしなかった。
私を女の子として見ていなかったのだ。
どうしよう! このままじゃ、私たちの、幼馴染としての関係まで崩れてしまう。


54 :

「……葵……」
「あの、そのっ、これは……じょ……」
冗談――そうだ。冗談って言ってしまえば今までの関係を失わずにすむ。
でも、いいの? 私は本当に、それでいいの?
私は――。
昴が真剣な表情で私にぐっと顔を寄せる。
「……葵……お前……」
「……わ、私……は……」
「……正気か?」
「……へ?」
コツンとおでことおでこをくっつけて、昴は心配そうに私を見る。
「やっぱり熱があるじゃないか。すぐに帰った方がいいぞ。
 いや、それともここで横になって休んでいくか?」
そう言ってピラッと自分のベッドの布団をめくる。
「……………………こ………………こっ………………こっ………………」
「なんだ、オンドリのマネ? いかん、精神に異常をきたしているな。
 やっぱりいったん寝て、あとでミホ姉に車で送ってもらえば……」
「こおおおおんのっっっっばかああああああああああああああ!!!!!!!!」
私の右ハイキックが昴の頭を薙いだのは、その直後だった。


55 :

「ぐわっ!?」
私に勧めたベッドの上に倒れ込んだ昴の上にのしかかり、襟を締めあげガクガクと揺らす。
「なんでっ、あんたはっ、いつもそうなのよ!
 昔っから私の気持ちなんてちっともわかってくれなくて!!
 私がどんだけ勇気を振り絞って告白したと思っているのよ!!!」
「え? え? こ、告白って?」
「したでしょう! 今!! 昴のこと好きだって!!! 恋人同士になりたいって!!!!」
こいつわざとすっとぼけてんじゃないのかしら!?
そんなことはないって経験上わかってるんだけど、さすがにここまで鈍感だと疑いたくなる。
……次おかしなこといったら殴ろう。
「あ、葵が俺のこと好きって……そ、そんな……いつから?」
「いつって、ずっと前からよ! 小学生の時から! 悪かったわね!」
「嘘だろ!? 俺ぜんぜん気付かなかったぞ!」
「――だからあんたはっ!!!」
マウントポジションのまま拳を振り上げる。
「うわっ!? 待てっ…………て、あれ?」
「……うっ……うっ……ぐすっ……」
私は握りしめた拳をポンっと昴の胸に落とした。
「……うぅっ……なんで……なんでよ。なんでわかってくれないのよ。
 ずっと……ずっと好きだったのに……。
 私は昴を好きになっちゃいけないっていうの?
 私が昴を好きってことは、そんなに信じられないようなことなの?」
「……葵……」
ゲンコツの代わりにポツポツと昴の顔に涙が落ちる。

56 :

自分の想いが受け入れられない悔しさと悲しさ。昴への怒り。
いろんな感情が溢れてきて頭の中がごちゃ混ぜになる。
なんで私、こんなやつを好きになっちゃたんだろう……。
「あの……葵は本当に、俺のことが好きなのか?」
「嫌いよ。昴なんか、だいっきらい」
「ええと……ごめんな。俺、葵がそんな長い間俺のことを好きでいてくれたなんて知らなくって……」
「普通気付くわよっ。いったいどんだけ、私があんたの側にいたと思ってんのよ!
 それなのに昴は私のことなんかちっとも見てくれなくて……昴にとって私なんかどうでもいい存在なんでしょ!」
「そんなわけあるか!」
「え……」
思いがけない強い否定。
昴は真剣な眼差しで私を見つめると、はっきりとした口調で言った。
「俺は葵のこと大好きだぞ。子供のときからずっと一緒にいて、何でも遠慮なく話せて、
俺のことを一番よくわかっていて、……その、かけがえのない女の子だと思っている」
「す、昴っ」
初めて聞く幼馴染の言葉に胸がトクンと高鳴る。
え、嘘。昴が私を好きだって言ってくれた。女の子だって見てくれていた!
暗く鬱積した心の中にぱあーーっと光が溢れだしたようだ。
「……でも……ごめん。確かに好きなんだけど……今まで葵をそういう風みたことはなくって……
 ていうかそもそも俺自身が恋愛とかに疎いから……正直恋人とかいわれてもピンとこないんだ」
「あっ……」
その光りが急速にしぼんでいく。
「それに今の俺はバスケで手一杯だから。女バスはもちろん、来年バスケ部を復活させるっていう目標もある。
 葵の気持ちは嬉しいけど、女の子にうつつを抜かしている余裕は……」
「――だ、だったら!」
やっと射した光の道を途切らせまいと、私は咄嗟に声を出した。

57 :

「お試し期間ていうのはどう!?」
「へっ!? お、お試し?」
「そう! わ、私だって昴を幼馴染以上に見るのはちょっと勇気と時間が必要だし、
 お互い今後のためにとりあえず付き合ってみるっていうのはどうかな?
 もちろん昴はバスケ優先で構わない。智花ちゃんたちのことしっかり指導してあげなきゃいけないことはわかってるし、
 私だって5年生の子たちのこと見なきゃいけないから。それにバスケ部のことは最初からサポートするって言ってたでしょ。
 昴の助けにこそなれ邪魔にはならないはずよ。ただ……それ以外の時間は……私と一緒に……いてほしいかなって……」
「でもっ……そんな中途半端な関係、葵に失礼じゃ……」
「――私は構わない!」
きっぱりと言い放つ。
「……私は、それでもいいから……そんで、昴がもしどうしても、私のこと、幼馴染以上にみれないって時は……別れる。
 今まで通りの幼馴染に戻るから……ね、いいでしょ?」
「葵……」
すがる思いだった。
やっと告白できたのに、昴が私のこと好きって言ってくれたのに、
これで終わりだなんて絶対に嫌だ!
昴はちょっと困ったように目をつむって僅かに逡巡した後、顔を赤くして恥ずかしそうに口を動かした。
「……わかった」
「……えっ、わ、わかったって」
「だから……葵がそれでいいっていうんなら……付き合うよ。
 ――葵の、恋人になる」
こうして、私の積年の想いは報われたのだった。


58 :
とりあえず今日はここまで。
忍法帖のレベルが低いので、レベル上げがてら
少しずつまったり投下していきます。

59 :
おつー。
続き待ってるよー。

60 :
>>59
ありがとです。
では続きまいります。

61 :

「…………はふぅ……」
「おーい、ブチョー? きーてるー?」
「…………え!? な、なにゾノ?」
「ふふ、葵ちん、幸せいっぱいって感じだねぇ」
私と昴が晴れて恋人同士になった夜、ゾノとショージが家に集まってくれた。
そう、何を隠そう、今回私が昴に告白できたのはこの二人の脅迫……もとい協力のおかげなのだ。
「で、で、そのあとどうなったの? やっぱりアレ? 若い二人はそのまま一気にベッドの上で
 熱く火照った体をくんずほずれつーーーって!」
「そっ、そんなことあるわけないでしょ! あの後急に七夕さんが帰って来ちゃって大変だったんだから。
 ……私が昴に跨がっているところみられちゃって……」
「いいんじゃなぁい。将来を予兆してるみたいでさぁ」
「ブチョーは中学んときからセンセーをお尻に敷いてたもんな」
「そ、そんなこと……」
ケタケタと笑う二人を怨みがましく見るも、二人の後押しがあったからこそうまくいったので
今日ばかりは叱るに叱れない。

62 :

「あはは――って、それでいいと思ってるのか! ブチョー!!」
えっ、!? なに、私が叱られるの?
「ほんとに無かったの!? くんずほずれつの全体運動!」
「うん。あのあと恥ずかしくなって帰ってきちゃったけど……」
「あ〜〜〜、も〜〜〜」
なぜだかゾノは頭を抱えて天を仰ぐ。
その隣ではショージがやれやれというふうに肩をすくめていた。
「な、なによ二人とも。二人のおかげでちゃんと昴とこっ……恋人になれたんだらいいでしょ?」
「……あのねー、ブチョー」
ため息をひとつ突いてゾノがジト目で私を見る。
「蹴りいれて締めあげて馬乗りになって告白したのは……まあショーガナイ。ブチョーだし」
「し、失礼ねっ」
「でもその後の泣き落としはグッジョブ! 女の武器をちゃんと使えたんだね!」
「別に嘘泣きじゃないんだけど……」
「でーーーもーーー!」
ゾノはばしっとテーブルを叩いて――
「お試し期間ってなんなのさ! なんで期限をつけちゃうわけ!?」
「え、あの、期間ていってもいつまでってわけじゃなくて、もし昴が嫌になったらってことで……」
「おんなじだよ! そんな男に都合のいいようなこと言っちゃってセンセーが別れようっていったらブチョーそれでいいの! 諦められんの!?」
「う……そ、それは……」
そんなの無理! せっかく恋人同士になれたのに、また幼馴染の関係に戻るだなんて……。
でもあの時は昴に断れそうだったから必死で……。

63 :

「ほら、嫌なんでしょ! だったら今すぐ夜ばいをかけて逃げられないように既成事実を!」
「まあまあ、ゾノ、コーフンしないでさぁ。私はむしろよかったと思うよぉ。
 葵ちんに好きって言われてセンセぇが即答できるとは思っていなかったしぃ、
 お試しってことでハードルがさがってOKしやすくなったんじゃないかなぁ」
「そうよねっ、ショージ! 私もそう思ったんだ!」
「それにぃ、葵ちん、ちゃんと自分の気持ち伝えられたんでしょう? センセぇのこと、ずっと前から大好きだって」
「……うん。それは大丈夫。ちゃんと伝えた……」
今度こそ、間違いなく……。
私が頷くと、ショージはそばかすの残るほっぺたをほころばせ、おっとりとした笑顔を作った。
「なら平気だよぅ。センセぇはぁ、葵ちんが24時間365日センセぇのこと想い続けてるって知った上で
別れようって言えるほど冷たい男のコじゃないよぅ」
そっか、そうだよね。
昴がそんな薄情なヤツじゃないってことは、私が一番よく知っている。
いつも自分のことなんて省みないで、人のことばっか世話やいているお人好しなんだから。


64 :

「うん。わかった。ありがとう、ショージ。……でも私、別に一日中昴のことばっか考えているわけじゃないんだからね!」
「ふーん、じゃあ、例えば一日のうちどれくらいセンセーのこと考えてんの? パーセントで答えてくれい!」
「へ!? いや、その、あの…………50%くらいかな?」
控え目に答えると、ゾノとショージは目を見開いて驚いた。
「なっ!? 過半数越え!」
「一日の半分も想っているだなんて、葵ちんはほんとセンセぇのことが好きなんだねぇ」
え? もしかして多かった?
「ち、違うのよ! ほら勉強している時とかに『この問題解けるのかな、あいつ』って思ったり、
 ご飯食べているときに『これ、あいつ好きなか』って思ったり、
 バスケしているときに『昴ならこのときこうする』って考えたり、
 何かするときにふと昴のことが一緒に頭に浮かぶから50%って言っただけで、
 別に一日の半分ずっと昴のこと考えているわけじゃないんだから!」
そういう時間は別にあるから本当は50%じゃきかないんだけど。
「……ブチョー、それは年がら年中っていうんだよ。ほぼ100パーじゃん」
「違うわよ! だって寝ているときは考えてないし! 毎晩昴の夢を見られるとは限らないんだから!」
「……週何回……って聞くのが怖いな……」


65 :

「葵ちん!」
「きゃっ、な、なに?」
呆れるゾノとは対照的にショージはプルプル震えていたかと思ったら突然抱きついてきた。

「葵ちん、けなげ! いいよぉ、葵ちんが正式な恋人になれるまで、私たちが全面バックアップしてあげるからぁ」
「あ、ありがと、ショージ」
ちょっと戸惑ったけど、私のことをこんなにも応援してくれる親友の気持ちに応えるべく、私もぎゅっとジョージの体を強く抱きしめた。
……ショージって女の子でもドキドキするくらい柔らかくっていい匂いがするのよね。
「そーだな! とりあえずこれからのこと考えよ! 敵に勝つには先手必勝! 攻めて攻めて攻めまくるんだ!」
「……あのさー。今更いうのもなんだけど、その『敵』って……本当のことなの?」
私の問いかけに、ゾノとショージは「まだわかってないのか」とばかりに揃ってため息を吐いたのだった。
私が幼馴染の関係を壊してまで、なぜ今、昴に告白をしたのか。
そして今まで見守っていただけの二人が、なぜ強力に私を応援しだしたのか。
その原因が、二人のいう『敵』にあるのである。
あれは私と昴が京都旅行から帰ってきてから少しした時のことだった……。


66 :
以上。今日はここまでです。

67 :
続きが楽しみだ

68 :
おつおつ

69 :
ttp://news.dengeki.com/elem/000/000/438/438737/
ttp://news.dengeki.com/elem/000/000/438/438749/c20111214_curtain_12_cs1w1_720x540.jpg
ttp://news.dengeki.com/elem/000/000/438/438750/c20111214_curtain_13_cs1w1_720x540.jpg
ttp://news.dengeki.com/elem/000/000/438/438751/c20111214_curtain_14_cs1w1_600x643.jpg
ttp://news.dengeki.com/elem/000/000/438/438752/c20111214_curtain_15_cs1w1_600x643.jpg
そうだ、カーテン買おう

70 :
続きです。

71 :

「ブチョー! あれはいったいどゆこと!? 京都で何があったのさ!」
突如家まで押し掛けてきた二人が、私に詰め寄った。
「なにって……お土産渡した時にも話した通り、別に昴とは何にもなかったわよ。……あのパンツを見られた以外は」
「それは聞いたよぅ。葵ちんがセンセぇとひとつ屋根の下で二晩も過ごしたのになんの進展もなかったってことはぁ」
「……随分ひっかかる言い方ね。――って、だいたい私と昴はただの幼馴染なんだから、
 進展なんてあるはずないでしょ!」
うぅ、自分でも気にしているのに……。そりゃあの昴が私になんかしてくるとは思わなかったけど
……本当に、なんにも、まーーーたく何もなかったんだもん。落ち込みもするわよ。
……ちょっとは覚悟してた私がバカみたいじゃない……。
でもゾノはいつものおちゃらけた様子とは違い、真剣な表情で私の肩を掴んで揺さぶった。
「今はツンデレってる場合じゃないよ! なにさっ、あのまほまほの態度は!?」
「へ? 真帆ちゃん?」
あ、そういえば京都ではちょっと事件があったんだっけ。そのことかな?
私は京都であった真帆ちゃんにまつわる顛末を二人に聞かせてあげた。

72 :

「――い、許嫁だとう!?」
「いや、だからそれは真帆ちゃんのお父さんが勝手に言っただけで、もちろん昴は断ったわよ」
「……なるほどねぇ……葵ちん、これはちょっと……ううん、かなりまずいと思うよぉ」
「え、な、なんで? 昴は断ったのよ。真帆ちゃんの気持ちが大事だって言って……」
「だからぁ、その気持ちが問題なんだよぅ」
「あたしたちさ、今日たまたまセンセーとまほまほたちが一緒にいんの見たんだよ!
 そしたらさ、まほまほがセンセーに抱きついて!」
「えっ!? ……で、でも、真帆ちゃんって割とそういうことしない?
 人懐っこいっていうか、誰にも構わずじゃれてくるから、そんな問題にするほどじゃ……」
「最初はね、私たちも『ああ、またやってるぅ。センセぇもてもてだねぇ』くらいに見てたのね。
 ……でも、あの目がねぇ……」
「め?」
「まほまほがさ、センセーに抱きついて、離れる一瞬、すごい熱のこもった目をしたんだよ!
 今までのまほまほからは想像できないような熱い眼差し! あれは恋する乙女の目だね!」
「……いや、さすがにそれは考え過ぎじゃないの?」
三沢真帆ちゃんはお金持ちのお嬢様で……ていうと聞こえはいいけど、
明るく元気、やんちゃが服着て駆けずり回っているような男の子みたいな女の子だ。
すっごくかわいいし、話してみると驚くほど素直で、とってもいい子なんだけど
……正直あの5人の中では『恋する乙女』という言葉から一番かけ離れていると思う。
……ふーんだ、どうせ私も昔はそう思われていた女の子でしたよーだ!


73 :

「葵ちんもセンセぇほどじゃないけど、鈍感ちんだからねぇ。でもほんとだよぉ。
 それにさぁ、それを見る紗季ちゃんもねぇ、ちょっとおかしな感じだったしぃ」
「へ!? 紗季ちゃんも!」
「うん。何かいーたそうな、でも我慢してるって凄くせつなげな目をしてたんだよぅ」
そんなっ、紗季ちゃんまで……。
真帆ちゃんなら笑い話ですませるが、紗季ちゃんとなれば聞き捨てならない。
なにせ今まで昴と付き合っているという疑惑があったり(私の勘違いだったけど)、
二人一緒に待ち合わせをして買い物に行ったりと(智花ちゃんへのプレゼント選びだけど)、
私の中ではひそかに要注意人物になっているのよね(……ごめん、紗季ちゃん)。
「そのせいかさ、なーんかみんなの雰囲気が浮ついてるっていうか桃色がかっててさ!
 ブチョーヤバイよ! マゴマゴしてたらあの子たちの誰かにセンセー取られちゃうよ!」
「そんなことあるわけないでしょ! みんなまだ小学生なのよ! 恋愛なんてまだ早過ぎるわ!」
私が大声で否定すると、二人は顔を見合って「ハァーーー」と揃ってため息をついた。
「あのさ、そのセリフ、小学生のときからセンセーに恋しまくってたブチョーがいう?」
「だめだよぅ、葵ちん。自分のこと棚にあげちゃぁ」
「なっ、なにバカなこといってるのよ! 私がいつ、昴なんかに恋したっていうのよ!?
 あいつとは小学校から中学校まで9年間も同じクラスだったから誤解されやすいけど、
 ただの幼馴染なんだからね!!!」
ああ、もう! 自分で言ってて嫌になってくる!
これも全部昴のせいだ。明日このことをしっかり問い詰めてやらなくっちゃ!


74 :

私が昴への制裁を決意していると、目の前にすっとショージの顔をが現れた。
いつものぽわぽわした感じではなく、めったにみない真剣な表情。
「葵ちん、本当に、それでいいの?」
「え、そ、それって?」
「いつまでもぉ、センセぇのこと、幼馴染のまんまでいいのかなぁって。ぐずぐずしてるとほんとに誰かに取られちゃうよぉ」
「だから私は昴のことは好きでも何でもないんだってば! 今日のショージ、ちょっとしつこいよ!」
いつもならからかうだけからかってすぐ次の話題にいくはずのショージが、このときばかりは様子が違った。
癖のついた髪の毛を指に絡ませながら、私に意味深な流し眼を送ってくる。
「ふぅん。そっかぁ。葵ちんはぁ、センセぇのこと、好きでも嫌いでもない、ただの幼馴染だっていうんだねぇ」
「そ、そうよ! 何度もそう言ってるでしょ!」
「だったらぁ、私ぃ、センセぇと付き合っちゃおうかなぁ」
「はあ!?」
「なっ、なんだとー!?」
な、な、な、なにいっちゃってるのよ、このコは!?
昴とショージが付き合うなんて、あり得るわけないじゃない!
「センセぇってぇ、あの通りのイケメンだしぃ、面倒見がよくって優しいしぃ、実は前から狙ってたんだぁ。
 でも葵ちんがセンセぇのこと好きだって知ってたから諦めてたんだけどぉ、葵ちんにその気がないんなら私が先に告っちゃってもオッケーだよねぇ?」
「ダメよ! そんなの絶対ダメ!」
「んー? どぉしてぇ? 葵ちんはぁ、センセぇが誰と付き合おうとかまわないんでしょう?」
「だって、……そのっ、昴なんかと付き合ったらショージが不幸になるのが目に見えてるものっ!
 あいつってば頭ん中バスケバスケで女の子の気持ちをまるで分からない朴念仁なんだから!」
「いいじゃなぁい。純情でぇ。バスケ一筋に打ち込んでる男のコってぇ、すごくカッコイイよぉ。ちょっとくらい鈍感だってゆるしちゃう」
「ちょっとじゃないのよっ、あいつの鈍感さは! じゃなきゃ私だっ――」
思わず口にしてしまいそうになる本心を慌てて止める。
私だって、指をくわえて待っていたわけじゃない。そ、それらしいアプローチだってちゃんとしてきたんだから!
なのにあのバカってばそれをことごとく無視するは台なしにするは曲解するは……ああ、もう! 思い出しただけで腹が立つ!


75 :

「ふふぅ、大丈夫。どんな鈍感ちんでも会うたんびに『愛してるよぉ』て言ってあげれば、嫌でも気付くからぁ。
 センセぇだって毎日そう言ってあげれば私のこと好きになってくれると思うよぅ。私ぃ、がんばって迫っちゃう」
うそっ、そんな、昴がショージのことを好きになるだなんて、考えるのも嫌だ!
「ショージ! あたしとの関係はどーなるのさ! あの二人で過ごした熱い夜はウソだったの!?」
「ごめんねぇ、ゾノのことは大好きだよぅ。でもやっぱりぃ、女の子よりも男の子の方がいいかなってぇ」
「がぁーーーーん!」
なんかゾノがショックを受けているが今はそんなこと気にする余裕すらない。
「ねぇ葵ちん、どうする? もちろん葵ちんはぁ、私のこと応援してくれるよねぇ。
 だってぇ、葵ちんはセンセぇとはただの幼馴染でぇ、私とは親友なんだもん。当然祝福してくれるよねぇ?」
「……わ、私は…………うん。もちろん、おうえんするよ。ショージが本当に昴を好きなら……私は……温かく見守るから……」
「……そっかぁ……ありがとう、葵ちん。……でもぉ、ならなんで泣いてるの?」
「……ふぇ?」
そこで私は初めて自分が涙を流していることに気付いた。
……あれ……なんで?
こらえようとしても、一度流れ出た涙はおさまらず、次から次へと溢れだす。
ふいにがばっとショージが抱きついてきた。
「ごめんっ、葵ちん。全部うそ、センセぇなんかより葵ちんの方がずっと好き!
 だから言ってみ。どうして泣いてるの? 素直に吐き出してみ?」
「わ……私は…………私はっ!」
後は言葉にならなかった。
ただショージに抱かれながら、私は涙と一緒に昴への想いを吐露したのだった。
「私は昴が好き! 小さい頃からずっと好きだったの! 誰にも取られたくない!」
「うん。そうだねぇ。みんなわかってるよぅ。あとはそれをぉ、センセぇに伝えればいいんだよぅ」
「でも告白して昴に断れたらイヤ! そんなことになったら、もう顔も見られない! 一緒にいられられないっ!」
「大丈夫だよぅ。葵ちんはこんなにもセンセぇのことを想っているんだもん。絶対に気持ちは通じるってぇ」
幼子をあやすように、ショージは優しく私の背中をさすって言い聞かせる。


76 :

「よし! そーとなれば即決行だ! ブチョー、明日センセーに告白な!」
「ぐすっ、わかった…………ええええ!? なっ、あ、明日!? むりっ、まだ心の準備がっ」
「ダメダメ! ブチョーいったい何年準備体操してるつもりだ! 今のブチョーに必要なのは決断だ!」
「そうだねぇ、思いたったら吉日っていうしねぇ。今のまんまだとぐずぐずしてる間にあのコたちに先こされちゃうよぉ。
 ほんとはもうちょっと葵ちんとセンセぇのすれ違いっぷりを楽しみたかったんだけどぉ、敵が出てきたとなれば話は別だよぅ」
抱きしめられた体の温かさとショージの髪の毛から香る匂いにちょっとぼぅとなっていた私の耳に、その言葉は異質に聞こえた。
「敵……って、真帆ちゃんたちが? でも相手は小学生だよ……」
「甘い! 恋愛に小学生も高校生もない! ブチョー、これは戦争なんだ! あるのは勝者と敗者のみ!
 勝った者だけが獲物をゲットできて、負けた者は何も得られない非情な闘いなんだ!
 だってセンセーの彼女になれるのは一人だけなんだよ!?」
ゾノの言葉が私の胸にズキンと突き刺さる。
そうだ。昴と付き合えるのはこの世界でたった一人。もし誰かが先に昴と付き合ってしまったら、私はそれを見ているしかないんだ。
……それも、昴の間近で。
――そんなのは、絶対にいやだ!
「――うんっ、わかった! 私、明日昴に告白する。自分の想い、全部昴に伝える!」
「よぉーしっ、よく言ったブチョー! そーと決まれば作戦会議だ! 小学生なんかに負けるなー!」
『おー!!!』

「…………今思い出すとなんて恥ずかしいっていうか、大人げないというか……」
「ふふぅ、でも良かったじゃなぁい。そのおかげでこうしてセンセぇの恋人の座を手に入れられたんだからぁ」
「そーだブチョー! もっとあたしたちに感謝したまえ!」
「うん、それはしてる。ありがとう、ゾノ、ショージ」
私は床に手をついて深々とお辞儀をする。
たぶん一生言われ続けるんだろうけど、そんなことは気にならないくらい二人への感謝は大きい。
「よーしっ、じゃ早速次の作戦を考えよーぜい! やっぱアレだよアレ! 幼馴染といえば!」
「幼馴染といえば?」


77 :

「……で、これか」
翌朝。
ジャージに着替えた私は、練習用の荷物と学校の鞄、制服をもって昴の家へと向かっていた。
『幼馴染といえば、やっぱ毎朝起こしにいくのが定番でしょ!』
『無理。あいつ自主練してるから朝早いし』
『なら葵ちんも一緒に練習すればいいんじゃなぁい?』
『おおっ、ナイスショージ! 毎朝一緒に練習だなんて、同じバスケ選手で幼馴染のブチョーにしかできない技だぜ!』
『うん、すごいアピールになると思うよぉ。これを半年も続ければセンセぇのハートはもう葵ちんのものだよぅ』
まったく簡単に言ってくれる。こうみえても女子高生の朝は何かと忙しいのだ。
「……でも考えてみたら昴が自分のバスケできるのって、同好会と朝と夜の自主練くらいしかないのよね。
 来年のバスケ部再開のことも考えたら朝練にも付き合ってあげた方がいいのか」
一人で練習するのと、相手がいるのとでは練習の幅が格段に違う。
今までは時間と恥ずかしさの面もあってできなかったが、こ……恋人になったからには
しっかり昴のバスケ部再生の目標をサポートしてあげなくてはいけない。
そのためには朝の貴重な時間も惜しくはない!
私はそう決意すると、意気揚々とした足取りで長谷川家の前までやってきた。
するとリングのある庭の方からボールが弾む小刻みな音が聞こえてきた。
「あ、やってるやってる。相変わらず早いなあ」
ふふ、私がいきなり現れたら、昴おどろくかな?
これから毎朝昴と一緒にバスケができると思うと嬉しくって、つい浮かれていた私は
玄関を通らず、直接庭へまわってしまった。
「昴―っ、おはよう! あのね、今日から私も一緒にれんしゅ――」
「ふぇ!?」
「え!?」
どがっ!!!
「……え?」
私の手から持ってきた荷物がバタンッと地面に落ちる。
目の前で、昨日恋人になったばかりの幼馴染の男の子が、スパッツをはいた小学生の女の子を、今まさに襲いかからんと押し倒していた。

78 :
以上。今日はここまでです。

79 :
おつー
俺は読んでるから続き待ってるぞ

80 :
>>79
さんくすです。
では続きを。

81 :

「……つまり、私がいきなり声をかけたから驚いて智花ちゃんが転んじゃって、
 それを助けようとした昴の手を掴んだまま一緒に倒れちゃったって訳ね」
「はい。そうなんです。私のせいでお騒がせしてしまって申し訳ございませんでした」
私の前で髪の毛が地面に届かんばかりに深くお辞儀をしているのは、湊智花ちゃん。
昴がコーチをしている彗心学園女子バスケットボール部の子だ。
礼儀正しくてお淑やかで、ご両親からお茶や日本舞踊を習っている大和撫子という言葉がピッタリくる女の子だが、バスケは攻撃的で負けず嫌い。
最初の頃は適役がいなかったからポイントガードをやっていたけど、
紗季ちゃんにその座を譲ってからは生粋のフォワードとしてその力をぐんぐん伸ばしている部のエースだ。
163cmのセンターなどと不愉快な異名を付けられた私としては、共感しつつも今の彼女が羨ましくてたまらない。
……ええ、ほんとにもう、羨ましいったらありゃしない!
「……はは、誤解が解けて良かったな! じゃ、今日はこの辺であがろうか。智花、先にシャワーを浴びておいで」
「ふぇっ、あ、はい。それでは葵さん、失礼します」
「ええ。どこかの変態に覗かれないように気を付けてねー」
私はパタパタとお風呂場に向かう智花ちゃんに笑顔で手を振った。
「…………」
「な、なんだ、葵。あれだけ蹴りまくっておいて、まだ俺に文句があるのか?
 あと俺は変態でもないし、智花のシャワーを覗いたことなんて一度もないぞ!」
「当たり前でしょ!!! そんなことしてたら今頃あんたは生きていないわ!
 私が綺麗さっぱりこの世から抹殺してるんだから!」
智花ちゃんの上に覆いかぶさった昴を見た瞬間、私の意識は吹っ飛んでいた。
気付いた時にはボコボコになった昴を足で何度も何度も踏みつけていたのだった。
……智花ちゃんが止めてくれなかったら、危うく出来たばかりの彼氏を撲殺してしまうところだったわ。


82 :

「だいたい誤解がとけたんなら、無実の罪で蹴られた俺にも謝ってほしいんだが……」
「……無実?」
「……ええと、その……あれは事故だって理解してくれたんだよな?」
「……昴……あんたこそ、私が何に対して怒っているのかわかってるの?」
汚物をみるような眼差しをむけると、昴は焦ったように釈明しだした。
「……あの、もしかして、智花が毎朝家にきてたのを黙っていたことを怒ってる?」
「当たり前でしょ!! あんたが私に内緒で智花ちゃんと毎日毎朝いっしょにバスケをしてただなんて、許せるわけないでしょ!?
 いいなさい、いったいいつからこんないかがわしいことをしてたの!」
「ええと、智花と出会ったすぐだから4月からかな?」
「なっ!?」
『うん、すごいアピールになると思うよぉ。これを半年も続ければセンセぇのハートはもう葵ちんのものだよぅ』
そんな、もう半年以上じゃない!
どうしよう! 記憶がなくなるまで殴ればまだ間に合うかな!?
「こらっ、拳を握るな! だいたいいかがわしいことってなんだよ! 俺達は純粋にバスケをしていただけだ!」
「さっきのアレをみてそんな言い訳信じられるわけないでしょ!」
「葵、おまえな、少しは自分の彼氏を信じろよ!」
「えっ!?」
昴の発した言葉に、振り上げていた拳がピタリと止まる。
「……す、昴……ちゃんと憶えてくれていたんだ、昨日のこと……」
「当たり前だろ。……むしろさっきの仕打ちから、葵の方こそ憶えていたのか疑わしいんだが、俺は」
「そ、そんなことないわよ。しっかり憶えているわよ。私と……その昴がこ、恋人……になったってことは」
ごにょごにょと指先を動かしながら私は口に出して確認する。
そ、そうよ。私は昴と付き合うことになったんだから、恋人のことは信用してあげなきゃだめよねっ。


83 :

「ああ、確かに葵に言わなかったのは悪かったと思っている。でも別に隠していったってわけじゃないんだ。
 このことは女バスのみんなも母さんもミホ姉も、もちろん智花の親御さんだって知っているから、つい葵も知っているような感じがしてさ。言うの忘れてた」
「あのねえ。……はあ、まあ智花ちゃんのご両親が許可しているなら私が文句言う立場じゃないけど……
 ……わ、私は一応、す、昴の彼女になったんだからっ、これからはちゃんと話してよね!」
「ああ、わかった。気を付けるよ」
はにかみながら謝る昴の顔に、ぽっと頬が熱くなる。
す、昴って、こういう何気ない表情がやたら可愛いかったりするのよね。
そうよっ。過去のことはもういいわ! だって今まではただの幼馴染だったんだし、
これらは彼女として、ちゃんと接してもらえればそれで十分!
私がぐっと手を握って心を新たにしていると、昴が言いにくそうに声を掛けてきた。
「……で、あのさ葵。……悪いんだけど、俺たちが付き合うってこと、智花たち女バスの子には秘密にしてほしいんだ」
「……へ?」
ぽかん……としている私に昴は畳みかけるように言う。
「いや、前に葵のことを初めて智花が知った時さ、なんかすごく調子が悪くなって……やっぱりあの年頃の女の子ってすごく繊細だろ。
 コーチが彼女とイチャイチャしてるって思われるのは、教育上良くないんと思うんだ」
「……ええと……そっか、な?」
一瞬なにか後ろめたいことがあるじゃないかと疑ったが、『彼女とイチャイチャ』というフレーズでブレーキのかかった私は、少し冷静になって考えてみた。
たとえば自分の部のコーチが男子バスケのコーチと付き合ってイチャイチャしていたとしたら……それは面白くないだろう。
たとえイチャイチャとかしてなくても、やっぱり気を使うだろうし……。
ゾノとかショージなら盛大にからかうだろうけど、それはそれで部としては好ましくない。

84 :

「……でも隠れて付き合ってて後でバレるのも、それはそれで傷つくと思うよ。さっきの私みたいにさ」
「わかってる。でもタイミングってあるだろ? 今はちょうどみんな11月の大会に向かって頑張っている時だ。
 それを俺たちの事情でモチベーションを下げるようなことはしたくないんだ。
 やっと掴んだ公式戦のチャンスだし、負ける要素は極力排除しておきたい」
そうだ。今度真帆ちゃんのお父さんの主催でミニバスの大会があって、女バスの子も、
そして私が指導している5年生の子たちも、それに向けて一生懸命練習をしている。
そんな大事な時期にコーチが、しかも一応敵対しているチーム同士のコーチが付き合うだなんて、害以外のなにものにもならないだろう。
……特にうちの子たちが問題よね。一方的に敵視してるんだもの……。
「……そうね、少なくとも5年生と6年生がもう少し仲良くならないと、私、コーチ解任されちゃうかも」
「ま、葵はなんだかんだ言ってあの子たちに信頼されているから大丈夫だろうけど、
 言うタイミングは慎重に選んだほうがいいと思うんだ」
「わかった。たしかに昴の言う通りだわ。じゃあ、小学生組には秘密にしておきましょう」
ちょっと残念な気もするけど、バスケ優先と言い出したのは私なんだから仕方ないよね。
「……でもその代わりってわけじゃないけど、私も明日から朝練に加わるからね、いいでしょ?」
「えっ!?」
「……なによ、その驚きは? まさか智花ちゃんとの二人の時間を邪魔されたくないとか世迷言を言うんじゃないでしょうね!?」
「そ、そうじゃないけど、……ほら智花にも聞いてみないと、俺の一存ではなんとも……」
「なら智花ちゃんがいいっていったら昴はOKってことでいいわよね。私が聞いとくから」
「そ、そうだな。……ははは」
……なんか怪しい。
でもいっか。明日からは私の監視下でビシバシしごいてやるんだから!


85 :

「昴さーーん、お待たせしましたー。シャワー空きましたー」
「おっ、なんだ智花、早かったね。じゃ悪い、葵。俺もシャワー浴びてくるわ」
「あ、うん。いってらっしゃい……」
昴がリビングを出ていくのと入れ替わりに、シャワーを浴びたばかりの智花ちゃんが
ほんのりと体を上気させてやってきた。
「あの、葵さんは、シャワーを浴びなくてよろしいのでしょうか?」
「あ、一応家でるとき軽く浴びてきたから大丈夫。今日は運動もしなかったし」
「ふぇっ、あ、あれは運動では……ないんですね」
「? ところで智花ちゃん、明日からは私も朝、一緒にバスケの練習しようと思うんだけどいいかな?」
「ええっ!? そ、そんな!」
智花ちゃんんはその小さな体からは想像もできないような大きな声を出して驚いた。
……え、なんでそんなに驚くの?
「……えっと、もしかして嫌かな? 私、邪魔?」
「そ――そんなことはありません! ……でも、と、突然のお申し出なのでびっくりしてしまいまして……」
「あ、そっか。ごめんね、いきなりで。……で、いいのかな? 私が一緒でも」
「は、はい! ……もちろん……です。……はぅ……」
……あれ、なんだろ。智花ちゃん、すごく落ち込んでいる気がする。
……もしかして本当に、昴と二人きりで練習するのを邪魔されるのが嫌とか……。
でもそれって……智花ちゃんが……昴のことを……好き?
…………あはは、ま、まさかねえ……。
……智花ちゃんはまだ小学生なんだから……そんなこと……あるわけ……。


86 :

その時、キッチンの方から七夕さんがちょいちょいと私を手招きしているのが見えた。
私が智花ちゃんに断ってから七夕さんの所に行くと、七夕さんは困ったような顔で私に話し始めた。
「ごめんね、葵ちゃん。あのね、智花ちゃんはすばるくんと一緒に朝の練習をするのをとても楽しみにしているの。
 だから朝は智花ちゃんとすばるくんのふたりだけにさせてあげてくれないかな?」
「ええっ!? そ、そんな、なんで!?」
二人の様子から薄々そんな感じはしていたが、まさかそれを母親の七夕さんから言われるとは思わなかった。
「智花ちゃんが、一度バスケをやめてしまったお話は聞いてる?
 それを真帆ちゃんたちが一緒になってもう一度バスケを始めたの。
 で、部がなくなっちゃいそうになったのを助けたのがすばるくん。
 その時からずっと、智花ちゃんは毎朝早いのに家に来て、すばるくんとバスケの練習をしているの。
 智花ちゃんにとって、すばるくんと朝バスケの練習をすることは、自分の居場所を守ったという証で、とても特別なことなの」
「ええと……すいません、よくわからないんですけど、……要は二人で朝練をすることは、
 智花ちゃんにとってただの練習以上の意味があるということですか?」
「そう! ごめんなさいね、私、説明が下手で」
七夕さんはおっとりしていて、あまりハキハキ説明するタイプじゃないからなあ。
「あとね、智花ちゃんだけじゃなくって、すばるくんにとってもそうなのよ」
「昴も?」
「ええ、バスケ部がなくなって落ち込んでたすばるくんが、またバスケをやり始めたのは智花ちゃんがいたから。
 すばるくんが智花ちゃんを連れてきて一緒に練習してからね、すばるくんがまた本気でバスケをやり始めたのは。
 試合に勝って女子バスケット部が存続することになった後も、智花ちゃんが毎日きて、すばるくんのために頑張って、またコーチになるようにしてくれたのよ。
 だからね、二人で朝バスケをすることは、すばるくんにとっても、智花ちゃんにとっても、とても大事なことだから、申し訳ないけど葵ちゃんは遠慮してくれないかな?」
「そ……それは……」
七夕さんの言いたいことはなんとなくわかる。
でもだからって、はいそうですかと引きさがるわけにはいかない。
だって私は昴のこ、恋人なんだから、他の女の子と毎朝二人っきりでバスケをすることなんて容認できるはずがない。
……そんな強い絆みたいな話を聞かせれれば余計にだ。

87 :

私が余程不満な表情をしていたのだろう。
七夕さんは「あらあら」と困った顔を見せた後、にっこりと笑顔で言った。
「大丈夫よ。すばるくんと智花ちゃんの間には、葵ちゃんが心配するようなことは起こらないわ。葵ちゃんの代わりに私がちゃんと見張っておくから。
 葵ちゃんはすばるくんの彼女さんになったんだから、ここはでんっと構えて、年下の子にゆずってあげてくれないかな?」
「いえ、ですから彼女だからこそ心配…………って、ええええええ!!!!
 な、な、七夕さんっ、どうしてそれを!? まさか昴がしゃべったんですか!?」
あいつ、昨日の今日でなんで言うのよ! 私だってまだお母さんには言ってないのに!
慌てふためく私を見て、七夕さんは「ふふっ」と優しく微笑む。
「すばるくんはなんにも言ってないわ。むしろ必死に隠そうとしてたけど……見てればすぐわかるわ。
 私がね、葵ちゃんの話をすると、今の葵ちゃんみたいにすごく慌てるのよ。ほんとお似合いね」
「あう……そうですか」
でも……そっか、昴のやつ、私のこと言われてすごく慌てたのか……えへへ、なんか嬉しいなっ。
にやける私を七夕さんはますます笑顔になって見る。
「葵ちゃんがすばるくんの彼女さんになってくれてほんと嬉しいわ。これからもすばるくんのこと末長くよろしくね」
「は、はいっ。こちらこそ、よろしくお願いします!」
「ふふ、でもすばるくん、やっぱり最後には葵ちゃんを選んだのね。
 葵ちゃんはしっかりしてるし、小さい頃からずっとすばるくんと一緒にいてくれたから、
私も安心してすばるくんを任せられるわ」
「そ、そんな任せるだなんて、まだ結婚するわけじゃないんですしっ」
でも七夕さんとだったら、きっと幸せな嫁姑関係を築けるんだろうなあ。

88 :

「あら、私、昔は葵ちゃんがすばるくんのお嫁さんになってくれるものだとばかり思ってたのよ。
 葵ちゃんもあと数カ月したら結婚できる年齢になるんだし、そろそろ考えてもいいんじゃないかしら?」
「いや、さすがにまだ早いですよう。それに昴はあと2年たたないと無理ですしぃ」
顔の前で手をブンブン振りながら、私の心はすでに2年後の新婚生活へと向かっていた。
えへへ、昴と結婚……新婚生活。七夕さんと一緒にご飯作ってえ、ふふ、楽しいだろうなあ。
……ん、あれ? ……『昔は』『思っていた』……? いやおかしくはないだけど、
七夕さんの性格からすると『今も』『思っている』の方がしっくりくるような……。
「そうね、もうちょっとの辛抱ね。葵ちゃんがお嫁にきてくれたら、きっと毎日楽しいでしょうに。
 ……あ、でも智花ちゃんとか紗季ちゃんがきてくれても楽しいだろうから、それが選べないのがちょっと残念かな」
「ちょ、ちょっと七夕さんっ、なに言っているんですか!?」
なんでそこで智花ちゃんと紗季ちゃんの名前がでてくるの!?
「あ、ごめんなさいね、葵ちゃん」
「いえ、わかっていただければ……」
「真帆ちゃんや愛莉ちゃん、ひなたちゃんがお嫁に来てくれても楽しいわね。仲間はずれはよくないわよね」
「違いますっ! 七夕さんっ、お嫁さんは一人だけです! 日本は一夫多妻制じゃありませんから!」
激こうする私に七夕さんは「そうね。残念だわ」と本当に残念そうに答えたのだった。


89 :

「ああ……なんだか疲れた」
七夕さんが私と昴の中を認めてくれたのは嬉しいんだけど……
……なんか素直に喜べない……。
私がリビングに戻ると、智花ちゃんはソファーにきちんと膝を揃えて座ってテレビを見ていた。
でもその視線はテレビを見ているというよりは、何かを思い悩んでいるように見えた。
「智花ちゃん、ごめんね。一人でほっといちゃって」
「いえっ、とんでもございません。……あの、葵さん、先程の件なんですけど……」
智花ちゃんがとても真剣な表情で、私の方に向き直る。
なんだか見ているこちらの胸が痛くなるような切羽詰まった感じだ。
「あ、朝練のこと? あれ、やっぱり無し。私はいいや、やめとく」
「ふぇっ!? よろしいんですか!?」
「うん。実はね、私、朝、すごく弱いんだ。今日は頑張って起きたんだけど、今すごく眠くって……
 これじゃ授業中に寝ちゃいそうだから、やっぱり朝は今まで通りギリギリまで寝ていることにするわ」
「そうですか……でも睡眠時間は大切ですものね! 授業中に寝ちゃったら先生に怒られてしまいますしっ」
適当な理由をつけて辞退を申し上げると、一転、曇った顔がたちまち快晴の笑顔に変わる。
七夕さんが言う通り、智花ちゃんは昴と二人だけで朝練をしたかったんだろうけど、
あまりに嬉しそうな様子に、若干不安を覚えてくるわ。

90 :

「……ねえ、智花ちゃん。ちなみに昴との練習って、どんなことしてるの? 
 まさかとは思うけど、何か変なこととかされてないわよね」
「ふぇっ、そんな変なことなんて……昴さんは、私にとても優しく指導してくださいます。
 それはもう手とり足とり、体を使ってじっくりたっぷり熟練した大人のテクニックを教え込んでくださっています。
 あ、でも優しいだけじゃないんです。私の弱いところをすぐに見つけては重点的に攻めてきて、私、いつも昴さんに先に行かされてしまうんです。
 私も頑張らなきゃって思って、自分が知っている限りの技を駆使して昴さんを抜くと、
 昴さんはとても気持ちが良さそうなお顔で『智花、上手になったね』とおっしゃってくださるんです。
 私は嬉しくって苦しいのも飲み込んで、『昴さんが教えてくださった賜物です』って答えて、昴さんをもう一度抜こうとするんですが、
 やっぱり昴さんの方がすごくって、私、何度も何度も腰が抜けてへたりこんでしまうまで、昴さんに翻弄されてしまいます。
 昴さんは手技もうまいんですが、腰の使い方が特にすごくって、私も合わせようとするんですが、どうしても昴さんのスピードが速くて体を打ち付けられてしまうんです。
 最初の頃は昴さんは私の体を気にしてやめてしまっていたんですけど、私が頑張って耐えられるようになってきたので、最近では遠慮なくガンガン攻め続けてくださいます。
 私もまだちょっと痛いんですけど、このごろはなんだかそれが気持ち良くなってしまって……えへへ、いけない子ですね。最後はお互いに一回ずつ決めて終わります。
 終わった後は体はヘトヘトなのに、すごい幸福感に包まれて……昴さんが『智花、今日もお疲れ様。すごく良かったよ。智花は日に日に上達していってるね』って髪を撫でて頂くのがとても嬉しくって……
 私、毎朝昴さんとできてとても幸せだなあって思っています」
…………。
「ふー、さっぱりしたー。あ、葵もシャワー浴びていくか? まだ時間あるだろ?」
「……昴、ちょっと顔かして」
「ん? なんだ?」
私は昴を廊下まで連れ出すと
「こーーーのーーーロリコン変態ばかああああああ!!!!!!!」
自分の蹴り技のすべてを叩きこんでやった。


91 :
今日はここまでです。

92 :
gi
なんか読んでたらショージ×すばるんを書きたくなってきた
いつかチャレンジしたい

93 :

七夕さんの台詞回しにやや違和感があったが、
プロットは面白いと思うからがんばってくれー

94 :
GJですよー。葵も好き派(たぶん割といる)なら一度は妄想したことを形にしてくれてる
のはありがたい。是非完走してくれ

95 :
久々に更新したら大漁レスと共にぐふさんがイタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
これから読み耽る

96 :
続きです。
自分では非エロだと思うのですが、人によっては
今回の内容をエロだと思うかもしれません。
気になる方はご注意ください。

97 :

放課後。
「ねえ昴! ちょっと待ってよ!」
昇降口でずっと待っていた私は、見慣れた顔がやってくるのを見つけて声をかけた。
「よ、葵。いま帰りか?」
「うんっ。……あの、け、今朝はごめんね! いきなり蹴り飛ばして出て行っちゃって。
 あの後よく考えてみたんだけど、もしかしてまた私、早とちりしちゃったんじゃないかと思って……」
今朝、私は昴を叩き伏せ、ジャージのまま学校まで走ってきてしまった。
せっかく昴と恋人同士になった初日だっていうのに、私ってば何やってるんだろう……。
あれからずっと授業中も後悔しっぱなしだった。
よくよく考えればちょっと語弊はあるものの、智花ちゃんはバスケの練習のことを言っていたのかもしれない。
そう気付いたものの、今さら昴の教室まで謝りにいくきっかけもつかめず、結局ズルズル放課後まできてしまった。
こうしてみるとずっと同じクラスだった小中の9年間は良かったな。
ケンカしても近くにいるからすぐ仲直りできたものね。
「ああ、気にするな。たぶん葵のことだからそんなことだと思ったし」
「そ、そう。……念のために聞いておくけど、智花ちゃんとはバスケの練習しかしてないのよね。
 へ、変なこととかしてないんでしょうね!」
「当たり前だって。いいかげん、そこらへんは信用してくれよ」
そりゃ信じたいけど……昴が疑われるようなマネばっかしてるのがいけないんでしょ!
思わずそう言いかけたけど、ここでケンカしたらまた同じだ。
そうだ信じよう。恋人を信じることは何よりも大切なことだ。

98 :

「うん、わかった。あ、あのさ、ところで今から慧心にいくんでしょ。私も一緒に行っていいかな?」
「あれ? 5年生は今日学校で練習するのか?」
「ううん、そうじゃないけど……どうせなら学校でみんなと会ってから移動したほうがいいと思うし……
 ……その、す、昴と少しでも一緒にいたいから……」
「え? ごめん、途中から声小さくてよく聞こえない……」
「いいから、とくかく一緒に行くわよ!」
今日は昴は女バスのコーチ、私は5年生たちのコーチがある。
とはいえ体育館は女バスが使うので、5年生は別の場所で練習せざるをえない。
その間は昴とは会うことができないのだ。
昴にもバスケ優先を言ったし、私だって恋愛にかまけて指導を怠けるつもりは微塵もない。
バスケを愛する可愛い後輩たちのためにも、全力をもってコーチにあたるつもりだ。
……だからその……それ以外の時間は、できるだけ多く昴と一緒にいたいと思ってもいいわよね?
慧心学園までは七芝高校から駅まで歩いて、そこからバスに乗る。
その間の正味1時間足らずの僅かな時間、それが私と昴が二人きりでいられる時間だ。
大切にしなきゃ!
私がそう思いながら昴と並んで校門を出た瞬間だった。
目の前にすーっと大型のリムジンが止まった。
「お待たせいたしました。すばるんさま。あおいっちさま」
「へ?」
車から出てきた三沢家のメイド――久井奈聖さんが深々とお辞儀をする。

99 :

「久井奈さんっ、これは何なんですか!?」
「はい。旦那さまのご命令により、お二人をお迎えにあがりました。さ、どうぞお乗りくださいませ」
頭を下げたまま、すっと後部座席のドアを引く。
ハッと隣を振り向いたが、昴も口を開けて唖然としていたのでどうやら初耳らしい。
「そんないいですよっ。一介の高校生がこんな豪華な車でお出迎えなんて贅沢すぎます!」
「それは困りました。お二人を慧心学園までお送りしないと私が旦那様に叱られてしまいます」
頬に手を当てて全く困ってないようにやんわりと答える久井奈さん。
「ねえ、ちょっと昴、どうすんのよ!」
「どうするもなにも……きちゃった以上、今回だけでも乗せてもらうしかないだろ?
 ここで追い返しても久井奈さんに悪し、……それに周囲の目がある」
周りをみるとすでにガヤガヤと下校する生徒たちが集まってきている。
そりゃ校門前にこんな豪華な車が止まってたら、どこのお金持ちかと気になるわよね。
「……うぅ、わかった。さっさとこの場を立ち去りましょう。
 それじゃあ、久井奈さん、申し訳ございませんが、今回だけお願いできますか?」
「かしこまりました。どうぞお乗りください」
うー、二人の大切な時間がーっ。
そうして私と昴は三沢家のリムジンの中へと乗り込んだ。


100 :

「……うわっ、……すごっ」
「……ここ、車の中よね?」
あまりの室内……いや車内の豪華さに二人とも呆然となってしまった。
あらためて真帆ちゃんの家はお金持ちなんだと実感した。
……当の本人がそれを全く感じさせないのが逆に大物の証なんだろうけど。
「おっ、見ろよ葵。バスケの雑誌がこんなにあるぞ。……すごい、俺がチェックしてるの全部ある!」
「はい。すばるんさまのお読みになる書籍はすべてご用意いたしております。どうぞ到着までごゆるりとおくつろぎくださいませ」
……なんで昴の読んでる本、全部知ってるの?
私だって半分くらいしか把握してないのに……。
ほら、こんなの見たことない……。
雑誌の合間に挟んであった見慣れないピンク色の本を取ってみると、
『小学生高学年女子との付き合い方』と書いてあった。
「すばるぅー、これは何のご本かなあ?」
「あっ!? いや、これは、題名だけ見るとすごく誤解を招くんだが、
 中身はちゃんとした所謂ハウツー本なんだ。ほら、俺女の子のこととか疎いから、
 なにかとんでもない間違いを起こさないうちに学んでおこうと思って……」
「こんな本持っている時点で十分とんでもない問題よ!」
「なら読んでみろって! ウソじゃないから!」
昴があんまりにも必死になって弁明するので、とりあえずページをめくって読んでみると
……思春期に入った女の子に接する際の注意事項とかが具体例をあげて分かりやすく説明してあった。
「あ、本当だ。ごめんごめん。意外と真面目な内容なのね」
「だから言ったろ……たく、人をガラス玉みたいな目で見やがって」
「だって昴の今の立場でこんな本見つけたら大変だって思うじゃない。
 ……へー、こんなことも書いてあるんだあ……」
ペラペラとページをめくっていくと次の言葉が飛び込んできた。
『女の子が生理の場合について』


101 :

「昴ぅぅぅぅぅぅ!!!」
「だってしょうがないじゃないか! 知っておかないとダメだって本に書いてあるから、俺だって恥ずかしいのを我慢して!」
「そんなの私が教えてあげるから読まなくていいのよ!」
「ええっ!?」
何を思ったのか昴はカッと目を見開いて
「葵が、俺に、生理のことを教えてくれるのか?」
と、信じられないものを見るように言った。
「…………」
一瞬、間をおいて、カーーーーッと体中の血液が顔に昇ってきた。
「バカッ! アホッ! 私が愛莉ちゃんたちに教えるに決まってるじゃない! このデリカシークラッシャー!」
「いてっ、痛っ、ごめんっ、俺が悪かった! だから本でたたくな!」
ボカッボカッと問題の本で昴を叩きまくる。


102 :

「あおいっちさま、すばるんさま、まもなく発車いたしますので、車内でお暴れになるのはご遠慮して頂けますでしょうか?」
「あ、はいっ、すいません! ほら、あんたがバカなこというから怒られちゃったじゃない!」
「いてて……なんで俺ばっか……」
「ご本がお嫌でしたら、テレビをご用意しておりますので、そちらをご堪能ください」
久井奈さんが言うと座席シートいっぱいのどでかいテレビがウィーーンと現れた。
「わっ、すごい……」
「テレビっていってもこの時間は見ないからな……あれ、なんだ?」
テレビ番組が映るのかと思いきや、画面一杯に移ったのは、ライトアップされたバスケのゴールと、
Tシャツスパッツ姿の真帆ちゃんだった。
「これは昨晩記録いたしました、真帆さまのシュート練習の映像です。
 ぜひすばるんさまに見て頂き気になるところを注意して頂きたいとの仰せです」
「よしっ、わかった。どんとこいだ」
ことバスケとなると目を輝かせてしまう我が幼馴染――ううん、我が恋人。
……まあ私も似たようなものだけど、私はあくまで、昴>バスケなので、こいつほどではないと思う。


103 :

『えへへ、すばるんっ。これからまほまほがたくさんシュートを決めちゃうからねっ。
 ちゃっんと見ててくれないとダメだぞっ。』
カメラ目線でウインク一つ、真帆ちゃんはリングに向かってシュート練習を始めた。
『よーしっ、がんばるぞーっ! てりゃっ!』
ゴールに向かい、次々とシュートを決めていく真帆ちゃん。
私が初めて見た頃よりもフォームの雑な所が消え、成功率も格段に良くなっている。
女の子はワンハンドよりもツーハンドの方が安定するし成功率もあがるから
変えさせた方がいいと思っていたんだけど、いまやしっかり身に付けている。
「真帆ちゃん、ワンハンド、ホントに上手になったよね」
「当たり前だ。毎日自分で練習しているんだからな。偉いぞ、真帆」
昴はまるで我がことのように自慢げに言う。
はは、嬉しいんだろうな。自分の教え子が上達していることが。
私たちはそのまま真帆ちゃんのシュート練習を釘づけになって見た。

104 :

『えいっ! とりゃっ!』
ぴらっ、ぴらっ。
「……あのさ、昴、これ、いつまで続くの?」
「毎日200本って言ってたけど……なんだ葵、まさか飽きたとか言うんじゃないだろうな?」
「ううん。そんなことは全然ない。……ないんだけど……」
『てりゃっ! うりゃ!』
ぴらっ、ぴらっ。
……前から気になってたんだけど、この子たちの服、裾がめくり上がり過ぎじゃない?
真帆ちゃんがジャンプシュートをする度に、Tシャツがめくれて、健康的な白いお腹がチラッチラッと見えるのだ。
それを昴はじぃーーーっと穴があくほど凝視している。
うー、胸のあたりがモヤモヤする。
まあ昴はシュートフォームにしか興味のないシュートフォームフェチだから
心配する必要はないんだろうけど……隣でみているこっちはハラハラしっぱなしだ。
やっぱり『彼女』としての視点で見ているからなのかな?
正直これ以上、昴に真帆ちゃんのおへそを見てほしくない……。


105 :

「とりゃっ! ……あ、また失敗したー。うぬぬーっ、うりゃっ!」
『あっ!?』
その時私と昴が同時に声をあげる。
力がはいったのか、フォームが崩れ、裾が大きくめくり上がり、お腹がほとんど丸見えになる!
「ダメだ真帆っ。力が入り過ぎだ!」
「そうよ、だめよ!」
『うー、また入んなかったーっ。どりゃっ!』
わっ!? 今度はさらに上まで!
『てりゃっ、てりゃっ、うりゃっ!』
めくり上がったまま次から次へと大きくジャンプするから真帆ちゃんの裾のボーダーラインはどんどん上へとあがっていく。
ああっ、もう胸まで見えちゃうじゃない!
「駄目だ真帆! そんな力任せに打っちゃ! もっとフォームを意識して、練習を思い出せ!」
「そうよっ、もっと落ち着いてっ、余計な力を抜いてっ、ほらっ、一回深呼吸!」
私も昴もヒートアップして、これが録画だということをすっかり忘れ、大声で画面の真帆ちゃんに指示を出す!
『うー、ゼンゼンはいんなくなっちゃったー。えーと、こんなときはすばるんの言ったことを思い出して
 ……落ち着いて……フォームを意識して……深呼吸……すー、はー……よしっ。せーのっ、とりゃ!』
……ぽすっ。
『やったぁー! はいったどー!』
「よしっ、その通りだ! 偉いぞっ、真帆!」
「うんっ、今のはすごく綺麗だった。ほとんどめくれなかったし!」
私たちは手を叩いて喜び合う。その後、落ち着きを取り戻した真帆ちゃんは難なくゴールを決め、無事200本を終えたのだった。
「いやー、ほっとしたよ。録画ってその場で指示が出せないから心臓に悪いよな」
「ほんと……もうドキドキしっぱなしよ」
「でも葵もやっぱバスケのことになると熱くなるよな。おまえのアドバイス、ちゃんと真帆に伝わってたぞ」
「へっ!? あ、そうよね! うんっ、録画だから意味ないんだけどね!」
「いや、大事なのは気持ちだよ。葵の真帆とバスケに対する熱い気持ちがきっと時空を超えて伝わったんだよ」
「ははは……そうだといいね……」
……ごめんなさい。真帆ちゃん。バスケの神様……。


106 :

『あー疲れた。ジュースジュース!』
「……あれ? これまだ続いてるわよ?」
「ほんとだ。……えっ、しかも移動してる?」
真帆ちゃんが移動するのと同時に画面もそれを追って動いている。
「これ、久井奈さんが撮ってるんですか?」
「はい、さようでございます」
「でもどこに行くんだろ? もう練習は終わったのよね?」
「さあ? ジュースは……あ、もう飲んでる。飲み終わって……あ、また駆けだした」
私たちは?を付けたまま、画面の真帆ちゃんの動きを見守る。
練習後にすることといえばストレッチかな? と考えていたら、真帆ちゃんがひとつの扉を開けて入っていく。
「……ここ、どこ?」
「さあ……ずいぶん広いな」
私たちが分からなかったのは、自分の家にある『その場所』とはあまりにスケールが違ったからだった。
次の瞬間、真帆ちゃんの行動によって、『そこ』が『どこ』なのかを理解するはめになる。
『あー、汗かいたー。よっと!』
『なっ!?』
真帆ちゃんは勢いよくTシャツをまくり上げ、脱いで――って!?
「昴っ! 見ちゃだめ!」
「うわっ!?」
私は瞬時に昴の目を塞ぐ! 両手でしっかり、絶対真帆ちゃんのヌードを見せないように!
『スパッツもパンツもべっちょり。どーお、すばるんっ、まほ汁大売り出しだよ!』
そこは脱衣所だったのだ。

107 :

「な、なんてものを撮っているんですかっ、久井奈さん!」
「はい。真帆さまが、すばるんさまにならご自分のすべてを見せても構わないとおっしゃたので」
「いくらご主人さまだからって、子供の言うことを本気にしないでください! 風雅さんに叱られますよ!」
「ご心配ございません。旦那さまの許可は得ております」
「えっ、うそ!? なんて!?」
「『昴君が責任をとってくれるなら構わない』と」
「それは許可じゃなくて脅迫です!」
『さー、シャワーあびよ!』
言ってるそばから生まれたまんまの姿になった真帆ちゃんは、奥の扉を開けてお風呂場へと直行する。
こんなの絶対昴には見せらんない!
「とにかくっ、今すぐ止めてください!」
「申し訳ございません。運転中はこちらからは操作ができないのです。
 後部座席にリモコンがございますので、そちらをご使用ください」
「え、リモコン? ……どこにもないですよ?」
「恐らく真帆さまがどこかに放り出したままにしてしまわれたのでしょう。
 申し訳ございませんが、シートの下などを捜して頂けませんでしょうか?」
「この状態でですか!?」
画面の中では真帆ちゃんが気持ちよさそうにシャワーを浴びている。
今、手を離してリモコンを捜しにいったら、そのすべてが昴の視界の中に!
昴が真帆ちゃんと結婚しなくちゃならなくなる!!
「葵、俺は目を閉じて後を向いているから、おまえはリモコンを捜してくれ。大丈夫、俺を信じろ」
「……そ、そうね。わかった――ぬあっ!?」
シャワーを止めた真帆ちゃんが椅子に腰かけ、泡のついたスポンジで体を洗い始めた。
『おまたはーきれーにあらいましょー♪』
「うわああああっ、だめっだめっ、いまは絶対だめえええええ!!!」
「ぐあっ! 痛いっ、葵、力入れ過ぎ!」
信じる信じないの問題ではない。彼女として、ここで手を離すことなんて死んでもできない!
私の手を振り払おうとする昴に抱きつき、その動きを完全に拘束する!
『ふんふんふーん♪ ごしごし、ごしごし♪ すばるんにクサイとか言われたらヤダもんね!』
「ああっ!? そんなに足広げちゃって! 女の子がダメじゃないの!!」
「って、おいっ! 葵っ! おまえくっつきすぎっ! む、胸が……色々ヤバイところが当たってるって!」
「うっさい! いまは黙って大人しくしてなさいっ! んなっ!? だめっ、そこは大人になってからあああーーーーー!!!」
……結局、リモコンは見つからずに、慧心学園につくまでの間、
私は真帆ちゃんのサービスショットを思う存分堪能するはめになったのであった。


108 :
以上、今日はここまで。
ご挨拶おくれましたが、エロパロで書いてる者です。
別板なので一応名前はふせておりました。
エロパロの方は色々考え過ぎて筆が止まってしまったので
今回のコンセプトは『とにかく書き進めて終わらせる』です。
故に言葉使いのおかしいところが多々あると思いますので、
遠慮なく指摘していただけるとありがたいです。

109 :
なんと、ぐふさんだったか!
葵もすごく好きなのでGJでした!
続き、楽しみにしています!

110 :
続きです。ちょっと短めで。

111 :

「うぅ、なんかすごく疲れた。やっぱり普通にバスにしておけばよかった……」
「……ああ、まったくな」
「真帆ちゃんも困ったものね。いくら子供だからって来年には中学生なんだから、もう少し恥じらいをもってほしいわ」
「ああ、まったくだな!」
「なによ、昴。さっきからちょっと変よ? ……もしかして、さっきの真帆ちゃんの裸、見たんじゃないでしょうね!」
そういえば少し顔が赤いし! 服脱いだ瞬間は目隠し間に合わなかったし! すーばーる〜〜〜。
「あのなあ……」
どやかし付けようとした私の頭に、コツンと軽く昴のゲンコツが乗る。
「俺が言ってるのはおまえのことだよ。葵、おまえももう高校生なんだから、
 少しは恥じらいを持って女の子らしくしろっていうんだ」
「なっ、なによ失礼ね。私は十分女の子らしいですよーだっ!
 だいたい私が女の子らしく見えないとしたら、それは昴のせいでしょ!
 ちゃんと女の子らしく扱ってくれたことなんかないじゃないっ」
「そうだな。じゃ今日からは葵のことを女の子として扱うことにするよ」
「えっ?」
「まずはこうかな?」
昴は私の頭に乗せていた拳を開き、掌で優しく撫ではじめた。
わわわ……昴に頭撫でられるのなんていつ以来だろ?
すごく幸せ。
「――ってこれじゃ女の子扱いじゃなくて、子供扱いじゃないの!」
「あれ、そうか? 智花とかひなたちゃんはこうすると凄く喜んでくれるぞ」
そう言うと昴は手を離してしまった。
「えっ、もう終わりなの?」
「だって子供扱いはいやなんだろ?」
それはそうだけど……もうちょっと撫でてほしかったな……。
「それにほら、もう校内に入るから誰に見られるかわからないぞ。みんなには言わないって約束、忘れないでくれよ」
「ふんっ。わかってるわよ」
「おい、なに怒ってるんだよ」
「怒ってない!」
ほんとっ、女の子の気持ちなんてゼンゼンわかってないんだから!
私たちは警備員さんに挨拶をして校内へと入っていった。

112 :

「おー、あおいがいる」
「えっ、葵さん!?」
初等部の方に行くと、袴田ひなたちゃんとかげつちゃんの姉妹が仲良く歩いてきた。
こうして二人並んでると、かげつちゃんがお姉さんで、ひなたちゃんが妹に見えるけど、実は反対。
ひなたちゃんは妹のかげつちゃんを可愛がって、かげつちゃんはひなたちゃんをお姉ちゃんとしてとても慕っているのよね。
「こんにちは、おにーちゃん、あおい」
「こ、こんにちはです」
きちんとご挨拶をする二人に私と昴も挨拶を返すが、かげつちゃんの様子がどうも変だ。
「……あの、葵さん。今日の練習はお休みだったのではないでしょうか?」
「へっ?」
「ミミさんも雅美さんも、あと竹中先輩のお家も用事があるので今日は中止と、前回の練習の後……」
「ああっ!」
そ、そうだった!
『じゃあ次回は中止にしましょう』って私が言ったんじゃない!
「おー、あおい、わすれんぼさん?」
「なんだ、葵にしちゃ珍しいな」
うー、だってだって、昨日、私には昴に告白するという人生の中で最大のビックイベントがあったわけで、
……それ以外のことなんて頭の中から吹っ飛んじゃっていたのよ!
その後も昴と恋人になれた嬉しさでいっぱいになって……ああ、なんてこと。


113 :

「……ごめん、昴、私、帰る……」
私は肩をガックリ落として、その場で回れ右をする。
五年生の指導には全力をつくすと決めておきながら、結局私は昴と恋人になれたことに浮かれて
彼女たちをないがしろにしていたのだ。
昴の言う通り、こんな状態で付き合っていることをオープンにしたら、みんなのやる気を削いでしまうだろう。
「おい待てよっ、葵。ここまで来てなにも帰ることはないだろ?
 一緒に女バスの練習をみればいいじゃないか。みんな葵が来てくれたら喜ぶぞ」
「ありがと。でもいい。今日は家で反省してる……」
深い自己嫌悪に陥りながら、私は校門へと向かって歩き出そうとする……。
――むんず。
「おー、あおい、ひなたちのことみてくれないの? ひなはあおいにバスケ教えてほしーです」
「え、でも……ひなたちゃんたちのコーチは昴でしょ?」
右手を掴んで離さないひなたちゃんに優しく諭そうとすると、今度は左手を掴まれる。
「でしたらっ、私にコーチしてください! 今日は体育があったので体操服は持ってきてますしっ、
 私が姉様方と一緒に練習すれば、葵さんがみなさんをコーチしても問題ないはずです!」
かげつちゃんも必死になってお姉ちゃんを援護する。
うぅ、そんなまっすぐな瞳で見つめられても……。
可愛らしい姉妹に両手を掴まれて、私は困りはててしまった。
「……えーと……でもかげつちゃん、ひなたちゃんたちと一緒に練習したら、他の四人に怒られちゃうんじゃない?」
「えっ!? あっ、そ、そうですね……どうしましょう……」
そう言われるとかげつちゃんは途端にオドオドとしてしまう。
ああ、ばか私っ。彼女たちを軽視した反省のために帰ろうっていうのに、かげつちゃんを困らせたら意味がないじゃない。
「ごめんね、かげつちゃん。意地悪な言い方しちゃって。
 うん、わかった。かげつちゃん、今日は女バスのみんなと一緒に練習しよ。
 みんなには後で私からうまく言っておくから大丈夫」
「あ、はいっ! ありがとうございます。良かったですね、姉様!」
「わーい。ありがとう、あおい、かげ。」
手を取り合って喜ぶ袴田姉妹をみると、やれやれ小学生には勝てないな、と思うしかない。
……ん? なにニヤニヤ笑ってるのよ、昴のやつ。……やな感じだわ。


114 :
今日はここまで。

115 :
ぐふたんGJでした。
エロもいいけど、普通に2828できるのも大好物です///

116 :
知らないとはいえ、ひなたとかげつの天使っぷりがマジやばい
今回は葵、完全に恋敵設定なのに

117 :
続きです。

118 :

「すばるんっ、すばるんっ、こっちこっちーっ」
「こらぁ真帆っ、ひっぱるなって! 昇るな!」
「だってぇ、すばるんがトロイのがいけないんだぞっ。せっかくあおいっちが来てるんだし、早く練習始めようよー!」
「だからって男子更衣室に入ってきちゃダメだろ。真帆は女の子なんだからさ」
「えへっ、すばるんにとって、あたしは女の子?」
「? もちろん。とってもかわいくって魅力的な女の子だよ」
「きししっ、そっかー! じゃーなでてなでてーっ!」
「よーし、ほらいいこいいこー」
「うみゅー、すばるんにナデナデされるの、すっごく幸せ……」
目の前で繰り広げられる光景に、私は目が点になった。
「……ね、ねえかげつちゃん、昴と真帆ちゃんてあんな仲良かったっけ?」
「え? ……どうでしょうか。私もいつもの様子を知らないのでよくわかりませんが……」
「そ、そうよね、かげつちゃんは五年生だもんね」
「ただ真帆先輩が長谷川コーチにとても懐いているようにみえます」
「……そうよね、やっぱり」
しかも当て付けんばかりに、さっき私が撫でてもらったのと同じ構図で……。
ううん、あのときはもう久井奈さんだって帰ってたし誰も見てないはず……。
「あ、紗季先輩が注意してます。やっぱり行き過ぎた行為だったのでしょうか」
「うーん、真帆ちゃんを紗季ちゃんが注意するのは逆によくあるパターン……って、ええ!?」
昴のやつ、今度は紗季ちゃんを撫で始めたじゃない!
紗季ちゃん、うっすら頬を染めちゃって、まるで恋する乙女のよう……。
「……注意したご褒美でしょうか……紗季先輩のあんなお顔初めて見ました」
「ど、どうしよう、かげつちゃん! 紗季ちゃんが、昴に恋心を!」
「え!? お、落ち着いてください、葵さん。紗季先輩に限ってそんなことはないと思います」
で、でも紗季ちゃんは要注意なのよ! ほら、あんなに瞳を潤ませて!
私がヤキモキしていると、今度はてててっーとひなたちゃんが走り寄ってきて……なっ!
「なんでひなたちゃんまでナデナデされてるの!?」
「きっと自分も撫でてほしいとお願いしたんだと思います。姉様は長谷川コーチに撫でてもらうのが大好きですから」
「大好きってそんないつも撫でてもらってるの!?」
「はい。最近は会うたびにナデナデしてもらえるからとても嬉しいと姉様はおっしゃってました」
あ、あいつぅ〜〜〜。
私は何年ぶりだっていうのに、ひなたちゃんには会うたびだとう。
しかも何、あの懇切丁寧なナデナデは! 私のときとは全然違う!


119 :

「あ、葵さんっ、怒らないでください。姉様にナデナデをお願いされて断れる人間なんていないんですから!
 葵さんだって、もし姉様に『なでなでしてください』とお願いされたら断れますか?」
……たしかにあんな可愛い子にお願いされたら『いいわよ』って答えて撫でちゃうわよね。断る理由なんてないし……。
「そっか、別に昴がよこしまな思いで撫でているわけじゃないのね。普通のことなのねっ」
「はい、その通りです。私だってお許し頂ければいくらでも撫でてさしあげるのに!」
「……え、かげつちゃんはひなたちゃんに撫でさせてもらえないの?」
私が聞くとかげつちゃんはまぶたをふせて、ほっぺたをほんのり赤くした。
「……はい。姉様は『妹がおねーちゃんをなでてはいけせん。妹をなでなでするのはおねーちゃんの特権なのです』と言っていつも私をなでくり回すのです」
「あはは、そうなんだ」
ふと自分よりも背の高いかげつちゃんを、ひなたちゃんが嬉しそうにナデナデしている光景が浮かんで、ほんわかした気分になった。
「優しいお姉ちゃんだね。ひなたちゃんは」
「はい! 姉様は私にとって世界一の姉様です!」
今まで見たなかでとびきりの笑顔でかげつちゃんが答える。
あ、この子、笑ったところがひなたちゃんそっくりなんだ。
外見も性格もあまり似てない姉妹だけど、心は強く結びついているんだと思わせる笑顔だった。
……やば、これはほんとに……ナデナデしたい。
私にもこんな妹がいたらなあ……。


120 :

私がナデナデ衝動にかられていると、かげつちゃんがまた思いつめた表情になった。
「……あの、ところで葵さん、つかぬことをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うん、なに、なんでも聞いて」
今ならなんでも答えちゃう!
「長谷川コーチとは、いつからお付き合いしていらっしゃるんでしょうか?」
「昨日からだよ。まだまだ新婚ほやほや――って、ええーーーーーっ!!!???」
私は心底驚いて、かげつちゃんを見た。
「なっ、なんで知ってるの? かげつちゃん、まさかエスパー!?」
「いえ、そんな能力は持ち合わせてなくても、葵さんを見てれば大抵の人は気付くと思いますが……」
うそっ、私、そんなわかりやすい行動してた!?
……それにしたって、秘密にすると決めた初日から、当の本人たちにいきなりバレるなんて……私ほんとになにやってるんだろう。
「そうですか、やはりお二人はお付き合いをされているのですね」
かげつちゃんはしょぼん……と残念そうに俯いてしまった。
「……えっとかげつちゃん、なんでそんなに落ち込むのかな。やっぱりコーチ同士が付き合うっていうのが嫌?
 ……そ、それともまさか、かげつちゃん、昴のことを……」
「いえ、私は構わないのですが……姉様が傷つくのではないかと思いまして……」
「ひなたちゃんが?」
「はい。姉様はつねづね『ひなはおにーちゃんのおよめさんになります』とおっしゃってましたから」
お嫁――っ!
……まてまて落ち着きなさい、葵。そうやって過敏に反応するからいけないのよ。
小学生のお嫁さんになりたいだなんて、かわいいもんじゃないの。


121 :

「そそそそそそうなんだっ」
だめっ、声が震えちゃう!
「……はい。でもお二人がお付き合いしているのならば諦めるしかありませんね」
そう溜息をつくと、かげつちゃんは表情を和らげ、ペコリとお辞儀をした。
「葵さん、長谷川コーチとのお付き合い、おめでとうございます。
 私からみても、お二人はとてもお似合いだと思います」
「あ、ありがとう、かげつちゃん。……あの、かげつちゃんは祝福してくれるの?
 ひなたちゃんのために、邪魔しようとかって思わない?」
「えっ!? だってお二人はもう恋人同士なんですよね?
 なら姉様がいくら長谷川コーチを好きでも、どうしようもないじゃないですか」
私の言葉にびっくりして問い返してくるかげつちゃん。
「それに、お二人は幼なじみだとお伺いしましたが……」
「うん、そう。小中の9年間はクラスも同じだったりする」
「すごいですね。……長年に渡ってはぐくんできた愛を成就させたお二人……
 他の人には入り込めない強い絆を感じます。とても素敵だと思います!」
「そ、そうかな。あはは、ありがとう」
胸の前で両手を組んで、ぽ〜〜〜となっているかげつちゃんを見ながら私は思った。
……さすが小学生。なんて純真なんだろう。
この子たちにとって恋愛とは一度くっついたらそこで終了、
他人の恋人を奪うという発想はないんだ。
だから、いくらひなたちゃんが大好きでも、私と昴が既に恋人である以上は、諦めさせるしかないと考えるわけだ。
……どうしよう。これって実はまだ『お試し期間』だよって言うべきなんだろうか。
でもいくらお試しだからって、昴に横恋慕するのを許してるわけじゃない。
あくまで恋人は私なんだから!
……でもそんなこと言っても、かげつちゃんを混乱させるだけだろうし……。
結局、私は余計なことは言わないことにした。私と昴が付き合っているのは事実だし、
昴が嫌になったら別れるっていうのは、普通に付き合っていても起こる事態だ。
わざわざ言うことではないだろう。
……ううん、ごめん、違う。
私は昴を取られたくない。だからかげつちゃんに本当のことを言わないんだ。
……ごめんなさい、かげつちゃん。私は心の汚れた人間です。


122 :

「……でもひなたちゃんはあんなに可愛いんだし、これから大きくなればもっと可愛くなるだろうし、
 昴なんかよりもカッコイイ男の子がいくらでも寄ってくるわよ」
「何を言っているんですか!? そんな不埒な男どもなんか、可憐な姉様には絶対近づけさせません!」
「ええ!?」
罪悪感もあって慰めるつもりで言ったら、ものすごい勢いで拒絶されちゃった。
やっぱりお試しだって黙っているのを見透かされているのかな。……でも、なんか様子がおかしいような……。
「成長して今よりももっと綺麗になられた姉様に男なんか近付けたらすぐ毒牙にかかってしまいます!
 長谷川コーチならば姉様も慕ってますし、尊敬できる方なので姉様を任せてもいいと思ってましたが
 ……他の女性とお付き合いなさっているのでしたら、考え直さなくてはなりませんね……」
「……あの、かげつちゃん?」
恐る恐る名前を呼ぶと、かげつちゃんはバッとこちらを振り返った。
「葵さんっ、長谷川コーチのこと、よろしくお願いします! しっかり掴んで離さないでくださいね!」
「えっ!? ど、どういうこと?」
「考えてみれば、いくら信頼しているとはいえ長谷川コーチも男の人。油断していたら、いつ姉様に襲いかからないとも限りません」
「そっかあ――って、昴がひなたちゃんを襲うってなに!? まさかそんなことが実際にあったの!?」
夏に夏陽くんが言った不吉な言葉が思い出される。
あの時は夏陽くんの嫉妬心からだと納得したが、まさか妹のかげつちゃんからも同じような言葉が出てくるなんて!
「いえ、今のところまだありませんが、なにしろ姉様は『無垢なる魔性』の持ち主です」
「『いのせんと・ちゃーむ』?」
「はい。羽田野先生が命名されました。まさに姉様にぴったりの二つ名だと思います。
 どんな生き物も姉様の魅力の前には理性を忘れて恋してしまうのです。
 男も、女も、動物も、性別や種族、血の繋がりすら『無垢なる魔性』の前には意味をなさないのです」
そういえばショージがやたらひなたちゃんにご執心だったような……。
……でもさすがにかげつちゃんの表現は言い過ぎよね。
「ですから、葵さんががっちり長谷川コーチの身も心も掴んで頂ければ私も安心です。
 私もできる限り、お二人の関係を応援させて頂きます」
「……はは、ありがとう、かげつちゃん」
……身も心もって……私の感じた純真さはどこへいってしまったの、かげつちゃん?
……どうもかげつちゃんは、ひなたちゃんに対して過保護な面があるわね。
それだけお姉ちゃんのことが大好きってことなんだろうけど…………このままずっとだったら、ちょっと心配だわ。


123 :

「じゃあ……あのね、かげつちゃん。ひとつ提案なんだけど、このことはみんなには秘密にしてもらえないかな?
 これから大会があるでしょ? 今は余計な気を使わせたくないんだ」
「……そうですね。いきなり言われたら、姉様はショックで寝込んでしまわれるかもしれません」
「うん、だからみんなにはタイミングを見て私と昴でちゃんと言うから、
 それまではかげつちゃんは『知らない』ってことにしておいてほしいの。
 ……お姉ちゃんや友達に隠し事させちゃって本当にごめんなさいなんだけど」
「いえ、これも姉様のためです。せいいっぱい協力させて頂きます」
「ありがとう、かげつちゃん」
私がお礼の意味も込めて、かげつちゃんを撫でてあげようと手を伸ばした時――
「おーい、葵、かげつちゃん。いつまでしゃべってるんだ? 練習始めるぞ」
「あっ、ごめんね。私がかげつちゃんを無理やり引きとめちゃったの」
「そっか。ごめんな、かげつちゃん。さ、みんなと一緒に練習しようか!」
昴がやってきて、ぽんっとかげつちゃんの頭の上に掌をおいて、ぐりぐりと撫で回す。
「あっ……」
「こらっ! 昴、なにやってるの! かげつちゃん嫌がってるじゃない!」
「あっ、ごめん! さっきまでひなたちゃんたちを撫でてからつい。ごめんね、かげつちゃん!」
そう言って逃げるように去っていった。
「……まったくもう。かげつちゃん、じゃあ向こうに集まってみんなで練習……」
「……お、男の人になでられちゃった……姉様とはぜんぜん違う……おっきな手……」
かげつちゃんは顔を両手で隠して、ゆでダコのように真っ赤になっていた。
……え、かげつちゃん? あなた今、私に協力してくれるって言ったわよね?
――って昴! あんた小学五年生を一瞬で骨抜きにするだなんて、いったいどんな撫でスキルを持ってんのよ!


124 :
今日はここまで。
ゲッタンが仲間になりました。
味方か、スパイか、はたまた自ら大穴となるのか……分かりませんけど。

125 :
恋のナチュラルボーントリックスター(妹)がなかまになった!
ますます事態が悪化したような気がしたが、別にそんなことはなかったぜ!乙

126 :
最近来て少しずつ読ませていただいています。
>>76
ブチョーいったい何年準備体操してるつもりだ!
凄い名言だw 

127 :
うーん素晴らしい
一瞬で寝返る(?)かげつちゃんツボったwwww
タイプミスがちと多い気もするが期待してるからファイトだぜ

128 :
ほしゅぺろ

129 :
かげつルートもおもしろそうだ
今年もよろしく頼む

130 :
没ネタその1
美星は、夜の街でクラスの生徒にからんでいた不良高校生を叩きのめしてケガをさせてしまう。
相手が訴えないと聞いてホッとする昴たち。だが、校長が下した処分は『解雇』。
実は、昴が来る前に保護者と度々トラブルを起こした美星は、今度不祥事を起こした場合は即刻解雇するという
『日付のない退職願』を書かされていたのだった。日付が入ってしまった以上、もうどうすることもできない。
美星が学校を去る日。叩きのめした不良が仲間を連れて仕返しにやってくる。
多勢に無勢、雨の中、美星は袋叩きにされる。そこへ昴と女バス、さらには男バスの生徒たちが助けに入る。
教師たちまで加わり、たちまち、グラウンドで泥まみれの大乱闘が始まった……。
没ネタその2
慧心学園の隣にある会社の社長が、ガンにおかされてあと半年の命と宣告される。
実は、社長は学生時代、昴の父・銀河と宿命のライバルだった。
実業団からの誘いがあったが、父の急死で会社を継ぐことになり、夢を断念したのだ。
体が動くうちに好きなことをしようと、社長は銀河に対決を申し込む。
銀河は社長の病気とは思えないパワーに圧倒され、ボロ負けする。
しかし社長は落胆する。「お前はそんなヤワな奴じゃなかったはずだ。俺は今のお前を認めない」。
ぬるま湯に浸かっていたと反省、奮起した銀河は昴、女バスを相手に特訓を開始する。
しかし対決する度に負ける。あきらめかけた銀河に社長は檄を飛ばした。
「お前は俺が唯一かなわないと思ったライバルだ。俺が死ぬ前にあきらめてくれるな」
そして、ついに銀河は社長に勝つ。だが、社長は「見事だ」と言って倒れてしまう。
「社長さん、死んじゃだめだ」
「おじちゃん、死なないで」
昴、智花たちみんなの願いが届いたのか、社長は意識を取り戻した。
「また、バスケやろうな」
「ああ、今度は負けないぞ」
銀河と社長は握手を交わした。
「社長さん、貴重なものを見せていただいたご恩は決して忘れません」
「おじちゃん、ありがとう!」
昴たちの感謝の言葉を胸に抱いた社長は、終末医療専門の病院に入院し、体育館で患者たちと
バスケを楽しむのだった。

131 :
aoi age

132 :
ぐふさんの人気に嫉妬

133 :
ぐふさんはエロもシリアスも書ける両刀使い

134 :
どうもお待たせしました。
続きを投下します。
一時スレ落ちたんじゃないかとヒヤヒヤしましたが
残ってて良かったです。

135 :

「うゃーっ、勝負だ! あおいっち!」
「――甘いっ」
ドリブルで抜こうとした真帆ちゃんの進路に体を入れ、ひるんだ瞬間にボールを掠め取る。
「あぅーっ、また負けたー。あたしもうまくなったと思ったのになあ」
「ううん、真帆ちゃん、前に比べたらすごく上手になってるよ。でもまだまだ私を抜くのは早いかな」
「ちぇーっ、そのうち絶対、バスケもおっぱいの大きさもあおいっちを追い抜いてやるんだからなっ!」
「……あははは……そうだね、頑張っていこうね」
「ふぇっ、が、頑張れば葵さんのようになれるんですか!?」
「もちろん、みんなまだまだ成長期なんだから、バスケも、体の発育だってこれからよ」
「そうなんですか! よかった、私、勇気が湧いてきました!」
「で、できればそのあたり、もう少し詳しくお聞かせ願いませんか?」
「もちろん。紗季ちゃんはまずボールを持ったときに……」
「いえ……そちらではなくて……」
「おーい、みんな、練習始めるぞ―」
『はいっ!』
……うーん、いつもと変わらないかなあ?
最初の雰囲気がちょっとアレだったから心配したけど、練習が始まってみればみんな真剣、
私に対してもいたって普通……むしろ大歓迎だった。
ウォーミングアップが終わった後、真帆ちゃんが『あおいっちと勝負がしたい!』と言い出した時にはちょっとびっくりしたけど、
純粋に1on1をしただけで、それ以外はなにもなかったし……やっぱり私の勘違いだったのかしら?
ちょっとスキンシップが過度な気もするけど、イマドキの小学生はあれくらい普通なのかな?
ゾノとショージはこの子たちを『敵』って言ってたけど、みんな素直ないい子だし……二人も私と同じように勘違いをしていたとしか思えない。
……それとも私を告白させるためにわざと言っとか?
うーん、でも二人ともふざけることはあっても、そういったウソはあんまりつかないしなあ。
「葵−っ、練習始めるぞー」
「あ、ごめん。いまいくー!」
考えにふけっていた私に昴が声をかけた。
ま、いっか。勘違いでもそのおかげで昴と付き合えるようになったわけだし。
今はしっかりバスケに集中しなきゃっ!


136 :

――て、思ったんだけど――
――ダンッ――ダンッ――ダン――
……集中……集中……。
――ころりん。
「いててて。てへ、転んじゃった。あ、体操服もめくれちゃった」
「真帆! 大丈夫か!? ケガはないか!」
「うんっ、ヘーキヘーキ」
「ダメじゃないか。もっと気をつけないと」
「はーい。ごめんなさーい」
――ダンッ――ダンッ――ダン――
……集中……集中……。
――タッタッタッ、ポスンッ。
「きゃっ? す、すいません、昴さん」
「おっと、どうしたんだい、智花? 今日は俺にぶつかってばかりじゃないか」
「ほんとに申し訳ございません。ちょっと注意散漫でした。……でも、いつも昴さんが抱きとめてくださるから平気です」
「ははは、俺なんかの胸でよければいつでも貸すけど、練習中はちゃんと集中しないと危ないぞ」
「はいっ。気をつけます」
……そう……集中……集中……。
「長谷川さんこの場合なんですけど、私はどう動いたらいいでしょうか?」
「ん? どの場合?」
「ここです、ここ」
「ああ、この場合はね」
ノートにフォーメーションを書いていた紗季ちゃんがぴっとりと寄り添って昴に教えを請う。
……気にしない。あれはバスケのレクチャーを受けているだけ。
バスケの練習……バスケの練習……。
「おー、おにーちゃん。だっこしてください」
「よしきた。おいで」
「――って、まてーーーいっ! 抱っこは練習に関係ないでしょ!」
「葵さん、違います! よく見てください」
「え?」
見るとネットに絡まったボールを、昴に抱っこされたひなたちゃんが取ろうとしていた。
「…………はあ、だめね、私」
私とかげつちゃんは女バスのみんなと合同練習をしているんだけど……昴と他の子のやり取りが気になって全然集中できない。
……というかみんな、肉体的接触が多すぎない?
「葵さんは、長谷川さんのことをちょっと気にし過ぎだと思います」
「わかってるつもりなんだけどね。こう目の端にチラッチラッと入るとつい……」
かげつちゃんの冷静な指摘に苦笑して応える。
これも彼女になったからこそ、余計に気になっちゃうのかな。

137 :

あーっ、もうダメダメ! こんなんじゃ、かげつちゃんにもみんなにも、昴に対しても失礼だわ!
私はパンッ!と両手で自分の頬を叩いて喝をいれた。
「よしっ、気合いはいった! かげつちゃん、悪いけどいつもの特訓をするわよ! お姉ちゃんと一緒にできないけどいい?」
「はいっ、よろしくお願いします。葵さん!」
うんうん。なんて素直な返事なんだろう。
11月の大会に向けて私はかげつちゃんにセンターのなんたるかを叩き込んでいる。
愛莉ちゃんには及ばないけどかげつちゃんも小学五年生にしては高身長だ。
運動神経もいいし、飲み込みもはやく、ひなたちゃんとの練習で下地もできているし、おまけに素直。
将来有望な後輩に自分のもつセンターの技術を伝授するのは嬉しいかぎりだ。
「おーい、葵。ちょっといいか?」
その時昴が愛莉ちゃんを連れてこっちにやってきた。
「なに? 昴」
「次の練習なんだけど、せっかくセンターのポジションが3人もいるんだし、葵が愛莉とかげつちゃんを見てくれないか?」
「お願いします! 葵さん!」
愛莉ちゃんがその稀にみる長躯をぺこりと折ってお辞儀をする。
本来、打倒女バスをうたっている五年生チームのコーチである私が、愛莉ちゃんの練習をみるのはまずいんだけど……それはそれ。
このバスケ界の至宝となるかもしれない女の子にセンターの技術を教えないだなんてありえないし、
かげつちゃんと愛莉ちゃん、二人いるからこそできる練習もある。
私としては五年生と六年生、双方が競い合って共に強くなってくれるのが一番望ましい。
「うん、もちろん。私もそう思ってたんだ。愛莉ちゃん、よろしくね。かげつちゃんもいいかな?」
「はいっ、よろしくお願いします!」
まったく、ほんと素直な子たちで助かるわ。
というわけで、私が愛莉ちゃんとかげつちゃんを、昴が他の子たちをみることになり、
二つのグループに分かれて練習をすることになった。


138 :

「かげつちゃん! もっと腰落としてスペースつくって! そうっ、いいわよ!
 愛莉ちゃん! 自分より低い相手だと油断してるとすぐ押し出されちゃうわよ!」
『は、はい!』
「よしっ、いくわよ、――シュート!」
私が放ったボールがリングで跳ね、二人が同時にジャンプする。
ボールを手にしたのは――愛莉ちゃん。さすが背丈のアドバンテージは強い。
でもかげつちゃんもいいところまで迫っている。
リバウンドはなんといっても高さとジャンプ力が物を言う。
しかしセンターとなればどのチームも身長の高い子が集まってくるわけだから、
となるとゴール下のポジショニングも同じくらい重要になってくるのだ。
愛莉ちゃんは何よりその背の高さが最大の武器だし、最近はゴール下での動きもよくなってきている。
まだ恐がりな所は残っているけど、以前に比べれば十分改善されている。
かげつちゃんは身長こそ愛莉ちゃんに劣っているものの、動きは速いし、何より思い切りがいい。
普段は目上の人には礼儀正しいけど、バスケになれば愛莉ちゃんに臆することなく、ぐいぐい攻め込んでいく。
始めて日が浅いからまだまだ技術は未熟だけど……これは将来有望だわ。
愛莉ちゃんにかげつちゃん。どちらも中学生になったらきっと凄いセンターになっているんだろうな。
「…………」
だから、ふと思う。
……もしあの時、桐原にこの二人――ううん、どちらか一方でいい――がいてくれたら……。
私はセンターをやってなくって、シューティングガードとして、自分の本来の力を発揮できたんだろうか。
ゾノやショージ……桐原女子バスケットボール部のみんなと一緒に悲願の公式戦一勝を……
それ以上の……あいつみたいに全国を……狙えたんだろうか?
「……あのー、葵さーん?」
「……次のシュートを打って頂かないと、練習が……」
「――あっ、ご、ごめんっ!」
二人に言われて慌ててボールを構える。
……構えて……シュート。
……ポスン。
……ボールは静かにネットへと吸い込まれた。
「……あれ?」
「……葵さん?」
「ほ、ほんとにごめん! 入っちゃった! 外さなきゃいけないのにねっ、はは、ほんとどうかしてる!」
……未練ね。
ボールを拾ってくれた愛莉ちゃんからパスを受け、心の中で自嘲する。
私は昴の全国への夢を全力でサポートする――そう決めたっていうのに……
心の中のどこかで、まだ私個人のバスケへの情熱がくすぶっているんだろうか……。


139 :

「おっ、やってるなー」
とその時、昴が呑気な顔をしてやってきた。
……なによ、せっかく気にしなくなってたのに……これ以上私の心を乱さないでほしいわね。
「なんか用? 今、愛莉ちゃんとかげつちゃんの練習で忙しいの」
「いや、どんな感じかなって気になってさ。なあ葵、リバウンドの練習なら
 俺がボール出すからお前も混ざったらいいんじゃないか」
「私? ……そうね」
リバウンドの練習は1対1よりも数人でやったほうがより実戦に近い練習ができる。
愛莉ちゃんもかげつちゃんもチームの中では一番背が高いから、普段練習相手になるのは私たちコーチくらいだ。
2対1のリバウンド練習するにはいい機会ね。
「ならいっそのこと、昴も入って2対2でやってみない? それこそ滅多にできないでしょ」
「お、そりゃ面白そうだな。よし、じゃあ俺とかげつちゃん、葵と愛莉でチームを組んでやろうか」
攻守のバランスを考えれば男の昴が、この中で一番背の低くて経験の浅いかげつちゃんと組んでリードしてあげるのは自然なことだ。
「え、私が長谷川コーチとペアになるんですか? 姉様を差し置いて!」
「はは、練習の間だけだよ。ひなたちゃんは向こうで自分の練習をしっかりやっているんだから、かげつちゃんも頑張ろうね」
そう言ってぽんっとかげつちゃんの肩に手を置く昴。
かげつちゃんもうっすらと頬を染め、「はい」と嬉しそうに答える。
……かげつちゃん、あたな本当に私の味方でいいのよね?


140 :
>>139
最後の行、誤記修正です。
誤)……かげつちゃん、あたな本当に私の味方でいいのよね?
正)……かげつちゃん、あなた本当に私の味方でいいのよね?



141 :

「それじゃボールの出すのは……おーい、智花ー!」
「はい、なんでしょうかっ。昴さん!」
昴に呼ばれて向こうからダッシュで智花ちゃんがやってきた。
「練習中申し訳ないんだけど、リバウンドの練習をするから、このボールをわざと外すようにシュート……」
そこまで言って昴はふと考え込む。
「……いや、両手でボールを投げてくれないか。リングかボードに当たればそれでいいから」
「ふぇ、シュートでなくてよろしいんですか?」
「ああ、わざと外すような真似をして、智花の美しいシュートフォームを崩してしまったら大変だからね」
「ふぇええっ、そんな、私なんかまだまだへたっぴで、昴さんや葵さんのシュートフォームに比べたら全然綺麗じゃありません!」
「何を言うんだ! 智花のは惚れ惚れするくらい綺麗だよ。毎日見ている俺が保証する」
「でも葵さんみたいにスラリとしてないし……胸とかお尻だって……」
「いや、葵よりも智花の方が断然綺麗だよ。少なくとも俺はそう感じる」
そう言ってナデナデと智花ちゃんの頭を撫でる。
智花ちゃんは「ふぇぇぇ」と顔を真っ赤にしながらも、とても幸せそう……。
……本日五人目……いや、そうじゃなくって。
「……昴、ちょっと来なさい」
「ん? なんだ葵。もしかしてヤキモチか?」
「ば、バカ! しょ、小学生相手に嫉妬なんてするわけないでしょ!
 私はただ、その、昴が誤解を招くような物言いをするから、注意を……」
「はは、心配するな。あれは智花を元気づけるために言ったまでさ。
 もちろん智花は綺麗だけど、俺にとってはは葵だって十分魅力的さ」
「……シュートフォームが、でしょう」
「他になにがある?」
……ええ、そりゃこのバスケバカのことなんだから予想はついていたけどさ、
こうもはっきり「他になにがある」って……それじゃまるで私がシュートフォーム以外に魅力がないみたいじゃないのよ!
……ほーーーんと、女の子の気持ちなんかこれっぽっちもわからないんだから!
「もういい! はやく練習始めよ! 智花ちゃん、ボールお願いね!」
「ふぇっ! はい! かしこまりました!」
「ごめんな、智花。葵のやつ今日ちょっと機嫌が悪いんだ」
「どうされたんでしょうか?」
「……よくわからないんだけどなんか朝からイライラしてて……あっ、そうか!」
ようやくわかったか、この鈍感。
「『あの本』に書いてあったぞ。女の子はアレがくると怒りっぽくなるって。葵ー、お前今日、生――」
ドドドドドド!
「違うわよっバカ! あとあんたは今すぐあの本に書かれていたことを忘れなさい!」
「え、でも……」
「でもじゃない! あんたみたいなデリカシークラッシャーがちょっと知識をかじってたって、
 余計女の子を傷つけるだけよっ。まだ鈍感の方が救いがあるわ!」
「そ、そこまでいわなくても……」
「いいから! はいって言う! 嫌なら記憶が無くなるまで殴り続けるわよ!」
「……は、はい」
昴の首ねっこを掴んでガクガク揺さぶりながら、私はこのどうしようもない幼馴染に躾を施したのだった。


142 :

「では、次いきまーす」
智花ちゃんがツーハンドでシュートをして、リングからこぼれたボールを私たち四人がジャンプし奪い合う。
「きゃっ!」
「よっ……と。愛莉、もっと体を密着させないと駄目だよ。それじゃ簡単に相手にポジションを取られちゃうよ」
「は、はい!」
2対2のリバウンド練習が続いていく。
しかし1対1の時と比べて、小学生二人は明らかにボールが取れなくなっている。
高校生相手ってのもあるけど、二人ともこの人数でするのは初めてだもん。仕方ないよね。
そろそろアドバイスをしてあげようかな……。
「次いきまーす」
「えいっ!」
「よしっ、いいぞ。愛莉、その感じだ!」
「はい! 長谷川さん、ありがとうございます!」
……なんかこの二人、さっきからくっつきすぎじゃない?
リバウンドの練習なんだから当たり前なんだけど……2対2でやってるんだから
私と競ってもいいはずなのに、始まってからずっと愛莉ちゃんとばかりべたべたべたべた……。
そもそもこの場合、組んでいる私が愛莉ちゃんに指導するはずでしょ?
「もう少し腰を落とすんだ。そう……お尻に相手の腰を乗っけるような感じで押し出す!」
「はいっ、こうですか? えいっ!」
「そう! すごく上手だよ!」
愛莉ちゃんは……すごく嬉しそう。
腰に手を回されたりして嫌じゃないのかしら?
それだけ信頼されているってことだろうけど……ちょっと! あれ、お尻に当たってない!?
「――隙ありです!」
「あっ」
って考えてたら、かげつちゃんが素早くボールの落下点に回り込んできてジャンプ!
しっかりとボールをキャッチする。
「葵さん、よそ見していたら駄目ですよ」
「あはは、ごめん。でもナイスリバンよ、かげつちゃん」
油断していたとはいえ、かげつちゃんはスピードもタイミングもばっちりだった。
やれやれ、しっかりしなきゃいけないのは私の方ね。
愛莉ちゃんは嫌がってないし、昴も一応ちゃんと指導しているんだから、
私もいっちょ本気を出してみますか!
……と気を引き締めた後の一本だった。


143 :

智花ちゃんが投げたボールがリングに当たった瞬間――
「すばるーん! ボール取ってー!」
『え!?』
反射的に声の方を見るとボールがコロコロと私たちに向かって転がってきた。
しかも既にゴール下に届こうかとしている。
私と昴は間に合ったが、かげつちゃんと愛莉ちゃんはジャンプしてしまっている。
このままでは落下時にボールを踏んで怪我をしてしまうかもしれない!
「危ない!」
名前を呼ばれたこともあり、昴がいち早く反応して足元に転がってきたボールを拾う。
よかった、これで最悪の事態は……。
――ズポッ。
「……え?」
「――きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
……えっと、昴はボールを拾うために屈んだわけなのね。
そしてそこにリバウンドを終えた愛莉ちゃんが着地した。
……体を起こした昴の頭が、ちょうど愛莉ちゃんのめくれた体操服の中にスッポリと入ったって……。
――ええええええええ!!!!!?????
「ひゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「うわっ!?」
当然、そんな状態では二人ともバランスを崩して折り重なるように倒れてしまう。
昴は愛莉ちゃんの体操服に顔を入れたまま、愛莉ちゃんの上にのしかかっている!
「な、なんだっ、ここは! 何も見えない! いったいどうなってるんだ!?」
「ひぃやあああああああああああああああっ!!! だめです、長谷川さんっ。動かないでください!」
「――ぎゅむっ!」
状況の分からない昴が服の中で動くので、愛莉ちゃんはぎゅうっと両腕で昴の頭を抱きしめて拘束する。
――って、愛莉ちゃん! それじゃますます自分の胸を昴の顔に押し付けているじゃない!
――ばんっばんっ!と手で床を叩く昴。
その頭は白い体操服の中で見えないが、恐らく愛莉ちゃんの大きなおっぱいの間に挟まれているのだろう。


144 :

「昴っ、あんたどこに頭突っ込んでるの! さっさと出てきなさい! 愛莉ちゃんも、落ち着いて手を離して!」
「はうっ、で、でも、長谷川さんの顔が当たって――きゃあっ! そんなところ口付けちゃダメです!」
「――ふががっ!」
さらにぎゅうと昴を締め付ける愛莉ちゃん。
ど、どこに口付けしたってぇぇぇ!!?? ――昴!!!
――R!
私が殺意を覚えた時だった。
昴が愛莉ちゃんの両腕をがしっと掴み、がばっと上にあげて拘束を解いた。
「――はあ、はあ、し、死ぬかと思った……」
そして顔を起こして脱出……。
「愛莉、ごめんね、ケガはない? でもそんなに抱き締めらたら息が……」
「はわっ、はわわわ……」
そこには腕と一緒に体操服もめくり上げられてスポーツブラを丸出しにされた愛莉ちゃんが、昴に組み伏せられていた。
誰がどう見たって、襲っているようにしか見えない。
「……え、あの、愛莉? こ、これは事故……」
「はう、あ、あわわ、ぐすっ、ふぇっ……」
「――いいからとっとと離れんかーーーーーーーーーーいっ!!!!!!」
――ドッカァーーーンッ!!!!
全速力で助走を付けた私は、昴の横っ腹をサッカーボールキックで蹴り上げた。
「――ずぼれぎゃらしゃればっ!!!」
「わぁ、すっげーーーっ! すばるんの体、マンガみたいに飛んでった! もう一回やって!」
「バカッ! 今の落ち方はシャレになってないわよ! 長谷川さん、大丈夫ですか!?」
「おー、おにーちゃん、ボールみたいにばうんどして、ぐるぐる回っていった」
「――昴さん! 昴さん!! 目を開けてください!」
「ふえぇぇぇぇ〜〜〜ん!」
――ふん、頭でなかっただけ感謝しなさいっ。
私はベソをかく愛莉ちゃんを助け起こしながら、床に転がった不届き者を冷たい目で睨みつけたのだった。
……ちなみに。
その瞬間を目撃していた、たまたま母校にやってきたなでしこリーグのお姉さんに、
私は熱烈なスカウトを受けるはめになってしまうのだが……それは後日の話だ。

145 :
今日はここまで。
誤記修正
>>144
誤)「愛莉、ごめんね、ケガはない? でもそんなに抱き締めらたら息が……」
正)「愛莉、ごめんね、ケガはない? でもそんなに抱き締められたら息が……」
投下した瞬間に見つかるの法則ですね。

146 :
アイリーン可愛いwww
超乙です!

147 :
ぐふさん乙彼!
葵ちんもかわいいwww

148 :
あいりーんhshs

149 :
ぐふさんage

150 :
乙乙
fight chin-up!

151 :
ご無沙汰しております。
レスありがとうございます。
とりあえず続きを書かせて頂きます。

152 :

シャアーーーーー。
「……はあ、疲れた」
練習が終わってシャワーを浴びながら、私は深いため息を吐いた。
肉体的というより、精神的に疲れた。
「葵さん、お疲れですか?」
「あ、ううん。気にしないで。今日はちょっと昴への制裁が多かっただけだから」
隣でシャワーを浴びていたかげつちゃんに安心するよう微笑みかける。
ここは慧心学園のシャワー室。
小学校なのにシャワーが付いてるなんて贅沢だなーて思ったけど、
こうして練習の汗を流せるのは快適よね。
心と体に溜まった疲れも一緒に洗い落とされるようだわ。
「…………」
「ん? どうかした? かげつちゃん?」
「いえっ! その……やっぱり高校生は凄いなと思いまして」
「へ?」
かげつちゃんは感慨深そうに、私の胸の辺りを見る。
「おー、かげ。あおいのおっぱい、おおきいんだよ。いーよね」
「ひゃんっ、ね、姉様!」
かげつちゃんのさらに隣にいたひなたちゃんが、垣根をくぐって妹の体に抱き着いてきた。
「……ああ、そういうこと」
「いえ、その、胸の大きさもそうなんですが、体のラインとか、お尻とかも、凄いスタイルがよくって、
 葵さんは大人だなあと思った次第です」
「おー、あおいはおっぱいもおしりもおおきい。あいりといい勝負」
「え? ひなちゃん呼んだ?」
髪から滴を滴らせながら愛莉ちゃんが奥からひょっこりと顔を出す。
むむむ、私から見ても愛莉ちゃんは凄くいいプロポーションをしている。
将来が末恐ろしいわ。


153 :

「なーなー、ヒナ。ぶっちゃけあおいっちとアイリーンてどっちがおっぱいおっきい?
 アイリーンもかなりでっかくなってきたから、そろそろあおいっちを追い抜くんじゃねっ」
「おー」
「え、な、なに?」
ひなたちゃんが物凄く真剣な表情で私と愛莉ちゃんの裸を交互に見る。
「……あおいは、ぷるんぷるん。あいりは、ぽよんぽよん。どちらもなかなかの逸品でござる」
「おおー、なんかエロそーな響き! ぷるんぷるんにぽよんぽよんかー。ゴカン的にはアイリーンの方がおっきそうだな!」
「……でもほら、葵さんのって……上にツンッて向いていて……全然形が崩れてないのよね」
「うん、すごく綺麗。ああいうのを『おっぱい』っていうんだろうね。私のは……はぅ、ただの『胸』だよ」
「えっ、わたしの胸、崩れちゃってるの!?」
自分の胸を押さえて落ち込む智花ちゃんと、ふにふにと揉んで形を確認をする愛莉ちゃん。
「ううんっ、そんなことないわ! 愛莉のおっぱいだってとても綺麗よ!
 ただ愛莉におっぱいはボリューム満点ですっごく柔らかそうだなって感じなの。ほら、こうすると、ふにんってなるでしょ」
「きゃあ! 紗季ちゃんっ、指でつっついちゃダメだよう!」
「うわ、指が沈むわ!」
「おー、あいりのおっぱい、すごくやわらかい。ひなもお気に入り」
「こらサキ! すっけーぞっ。あたしにもツンツンさせろ!」
「沈むって何!? どうして胸に指が沈むの!」
「コラ! みんな裸で騒がないの! 滑って転んだら危ないでしょ。風邪をひかないうちに、体を洗っちゃいなさい!」
『……はーい』
一喝。
みんなわらわらと自分のシャワーの場所まで戻る。
部活の後って楽しくっていつまでも話し続けているから、こうして誰かが止めてあげないといけないのよね。
でもみんな素直に言うことを聞いてくれて助かるわ。ゾノとショージにはそりゃ苦労させられたもの。


154 :

さてと、私もさっさと髪洗っちゃお。
えーと、シャンプーは……と。
私が家から持ってきたシャンプーを手に取ると……。
「あのー、葵さん。よろしければ葵さんもお使いになりませんか?」
「え? これは……」
敷居扉の向こうから、智花ちゃんがいくつもの小さな容器をもって現れた。
「シャンプーです。父のお弟子さんの方から試供品をたくさん頂いたので、みんなで使おうと思ってもってきたんです。
 天然素材を使った髪に優しいシャンプーだそうですよ」
「へぇ〜ほんとだ。ずいぶん色々な種類があるのね」
バラの成分を配合したシャンプーに、こっちはハーブ。へー、海藻っていうのもあるんだ。
藻のエキスが痛んだ髪に効果的と。ほんとかしら?
「おー、さき、しきょうひんてなーに?」
「本物を買う前に、まずはお試しってとこで、ただでくれるもののことよ」
「おー、おためし?」
ピクッとシャンプーを持った手が止まった。
『お試し』って……脳裏に、昨日の自分の言葉が蘇る。
私と昴は『お試し期間』ということで付き合っているのだ。
……もし昴が私を幼馴染以上に思えなかったら、いつ別れてもいいという条件で。 
「そうよ。買ってから自分に合ってなくって『ああ、こんなの買うんじゃなかった!』って思いをするのは嫌でしょ。
だから買う前にこうやって少しずつ色々な種類を試して、自分にピッタリのを見つけて、
それを買ってもらおうってわけなの」
「おー、それは名案ですなー」
「そうよ、お試しができるんなら、絶対やったほうがお得よ! 間違ってひどいのを引いたら最悪ですもの!」
……さ、紗季ちゃん、なにか嫌なことでもあったの?
……それよりも、だ、大丈夫よね? バレてないわよね。そもそも私たちが『お試し』で付き合っていることはかげつちゃんにだって言ってないんだし。
まさか口止めさせた昴自身が言うわけないだろうし……よし、ここは平常心でいこう。


155 :

「葵さん、どれを『お試し』しますか?」
「そっ、そーねー。色々あるから迷っちゃうわ」
「あ、でしたら全部『お試し』してくださって構いませんよ」
「え? ぜ、全部」
私が驚くと、智花ちゃんはニッコリ穏やかな微笑みを浮かべた。
「はい、紗季の言う通り、一度『お試し』してみないとわかりませんよね。
 ですから全部を少しずーーーつ替わりばんこに試してみればいいんです。
 そうすれば、ご自分にぴったりの相手が見つかると思います」
智花ちゃんは『お試し』の部分を何度も強調して言った。
「あ、相手って、シャンプーのことよね!」
「もちろんです。でも女の子にとって髪は命、シャンプーは恋人も同然です。
 ですから全部を試して、その中から一生を添い遂げるような最高のパートナーを見つけなければならないんです。
 あ、大丈夫ですよ。これはあくまで『お試し』であって、『本物じゃない』のですから、
 気にいらなければすぐに洗い流してしまえばいいんです」
まるで幼子を諭すような優しい微笑みに、何故だか私は寒気を感じた。
……ま、まさかと思うけど、智花ちゃん、全部知っていて
『お試しで付き合っているなら本物じゃない。さっさと別れて自分たちにも付き合わせろ!』
とか言っているわけじゃ……ううんっ、そんなことあるわけない! 考えすぎ考えすぎ……。


156 :


「……あ、あはは、ごめんね、智花ちゃん。私やっぱり家から持ってきた自分がいつも使っているシャンプーにするわ!
 ほら、これが一番自分に合っているってわかってるし、昔から愛用しているから」
「そんなのダメです!」
「ええっ!?」
素直でおしとやかなはずの智花ちゃんが、突然大声で叫んだ。
「それでは新しい出会いが失われてしまいます! 確かにそれは葵さんに合っているかもしれません。
 でもこの中にはその使い古されたシャンプーよりももっと自分に合っているものがあるかもしれないじゃないですか!
 別にすぐに捨てろとはいいません! ただこうしてお試しができるのならば、一度全部を試してから再度選び直すのが葵さんのためです!
 ちなみに私のオススメは、このバラの香りのシャンプーです」
鬼気迫る表情から一転、智花ちゃんがさっと赤いボトルを差し出す。
「あたしはこのオレンジのが好き!」
「私はラベンダーの香りがいいと思います」
「ひなは桃が好きです。あおいも使って」
「わたしはマリーゴールドなんか可愛くていいんじゃないかと思います!」
みんなが次々と自分のお勧めのシャンプーを私に差し出す。
「さあ、葵さん。どれから『お試し』しますか? ご心配には及びません。
 ちゃんと順番にみんなのを使ってもらいますから。
『お試し』なんだから、みんな試してみなくちゃいけません。
 きっとそんな使い古したものより、こっちの新しいものの方がお気に召しますよ」
「み、みんな、落ち着いて。――かげつちゃん!」
私が振り向いて教え子に助けを求めたところ……。
「えっ、私はこの海藻のシャンプーが葵さんの長い髪にはいいと思います」
かげつちゃんはグリーンのシャンプーをおずおずと差し出した。
……違ぁぁぁうっ!
うぅ、これは罰なのね、ちゃんとかげつちゃんに全てを打ち明けなかった私が悪いのね。


157 :

「いいのっ! 私はこのミルク石鹸風味でいいから!」
「ダメです! そんないかにも子供の時から使ってます――みたいなシャンプー絶対認めるわけにはいきません。
 長く使っているのより、新しい方がいいんです。葵さんもそうだと言ってください。
 そう認めてくださればいいんです!」
「だって! 昴がこの香りが好きだって言ってくれたんだもん!」
その瞬間――私に詰め寄っていた智花ちゃん達がピタリと止まった。
「葵さん! そのシャンプー、私にもお貸しください!」
「あっ、もっかんずりーぞ!」
「おー、あおい、ひなにも使わせて」
「ダメよ! みんなで使ったらなくなっちゃうわ!
 私はメーカーと商品名さえ控えさせてもらえれば自分で買いますから!」
「あ、紗季ちゃん! わたしにも教えて!」
「私もお願いします!」
……えっと、何がどうなったの?
自分のシャンプーに群がる裸の女の子たちをみながら、私は呆然とするしかなかった。
……ちなみに、昴が私のシャンプーの香りが好きだといってくれたのは、小学生の一緒にお風呂したときだけで、
それ以降一度も言ってくれたことはない……なんてことは情けなくって言えなかった。


158 :
今日はここまで。
……二足のわらじは大変です。

159 :
待ってました、乙です、GJです! 葵も女バスのみんなもかわいいですなぁ。
しかし、「お試し期間」がばれてるとしか思えないw

160 :
かげぇ…

161 :

シャンプーに固執する面々ワロタwww
SS読んでからかげつの脳内イメージ変わったわ
しかし「お試し」を別のものにかけるとか上手いな
そんな甘くないのかもしれないけど展開なんかはもう世に出せるレベルだと思う
続きも頑張れ


162 :
面白かった!
GJとかじゃなくてただただ面白かった!
昴の出てこない話というのもいいものだなぁ
シャンプーのくだりなんて本当に「上手いな」って思ったよ
次も期待しています

163 :
レスありがとうございます。
続きを投下します。

164 :

「……てことがあったんです」
「にゃはは、そりゃ災難だったなー」
慧心からの帰り、美星ちゃんが車で送ってくれるというので、私はクーペの後部座席で膝を立てながら先程の出来事を話した。
「……やっぱりみんなにバレちゃったんでしょうか。私たちが付き合っていること……」
「どーかなあ。バレたらそんな回りくどいことしないで即効問い詰めてくると思うけど」
「そう……ですよね」
たしかにあんなネチネチとしたやり方は純真なあの子たちには似合わない。
でもただの偶然にしてはあまりにもピンポイントな攻撃なのよねぇ。
「しっかし、まさかお前たちが付き合うとはなー。ビックリしたぞ」
「……私と昴が付き合うことは驚くほどありえないことなんですか?」
「そー怒るなって。だって昴はこの通りの鈍感野郎だし、葵が昴に告白できるほど素直になるとは微塵も思っていなかったしな。
 お前『昴とはただの幼馴染だ』ってツンデレ街道まっしぐらだったろ」
「そ、それは……」
……うー、まったく言い返せない。
予想はしていたけど、私と昴が付き合い出したことは美星ちゃんにあっさりバレていた。
朝、七夕さんが『すばるくんと葵ちゃんがお付き合いすることになったの』と、
それはそれは嬉しそうに話してくれたらしい。
七夕さぁ〜〜〜ん!
「……ったく、母さんめ……」
そのせいか昴はさっきからとても不機嫌だ。助手席でむすーっとしてそっぽを向いている。
……昴にとっては、美星ちゃんに知られるというのはなかなか複雑な心境なのよね。


165 :

「まーまー、お姉ちゃん嬉しかったんだって。お前が彼女の一人も作らないから
『すばるくん、女の子に興味ないのかしら。やっぱり男の子がいいのかしら』って心配してたんだぞ」
「こらまて! なんで彼女がいないだけでホモだと疑われなくっちゃならないんだ!」
「だってお前、中学のときは男ばっかり取っ替え引っ替え家に連れ込んでたじゃないか」
「ありゃ男バスの連中だろ! それだけバスケに集中してたんだよ!」
「そして今や女子小学生ばかり取っ替え引っ替えだもんな。まったく葵が引き受けてくれて私も肩の荷が降りたよ。
 これでようやく可愛い教え子が甥の毒牙にかかる心配をしなくてすむってもんだ」
「……美星ちゃん、それってネタなのかな? それとも本当に……」
「嘘に決まってるだろ!」
美星ちゃんはハンドルを握りながら「う〜〜ん、そーだなー」となにか言いづらそうに唸った。
(昴の言葉は私も美星ちゃんも当然無視だ)
「私も最初は冗談のつもりだったんだ。七芝のバスケ部がロリコン疑惑で休部になっただろ。
 だからそんなこと笑い飛ばしてやろうとからかってたんだけど……」
「あのなっ、それで俺がどれだけ傷ついたと思ってるんだ!」
「……コーチになってからもうヤバイんだよ。いつも智花たちをなめ回すように見て、練習にかこつけてベタベタ触りまくってるしさ。
 あ、前学校で合宿したときなんか、女子の部屋に忍び込んで襲おうとしたんだぞ」
「……昴、どういうこと?」
「まて、葵、誤解だ! 俺は襲ってなんかいない!」
後ろから助手席に座る昴の肩をガシリと掴む。
ほんと昴は、私を怒らせるネタに事欠かないわね。


166 :

「あれから『うわっ、こいつもしかして真性なんじゃね!?』て思い始めたんだ。
 でも気付いたときにはもう手遅れ。みんなすっかりこいつに篭絡されててさ。
 ひななんか昴とお風呂入ったり、一緒に寝ようとして聞かないんだ。結局私も監視のために一緒に寝る羽目になったんだぞ」
「――昴! あんたっ、はいったの!? ひなたちゃんと一緒にお風呂にはいったの! そんで一緒に寝たの!?」
頭が怒りで真っ白になる。私は後ろから昴の首をぎゅーぎゅーと絞めて、揺さぶった。
「ぐーーー! 違う! あれはひなたちゃんが勝手に男湯にはいってきたんだって!
 一緒に寝たのだってひなたちゃんがどうしてもって言うから」
「信じられない! あんな小さな女の子と一緒にお風呂はいったり一緒に寝ておきながら、子供に罪をなすりつけるなんて!
 それは犯罪者の考え方よ! 自分は悪くないって言って犯行を重ねていくんだわ! 美星ちゃん、こいつ屠ってもいい!?
 これ以上世間のご迷惑になる前に私がこの手でRわ!」
手はすでに頸動脈をロックしている。後は苦しまないよう、一気に頸椎ごと破壊すれば終わりだ。
「まて葵。そんなんでも私の甥だ。死んだらお姉ちゃんが悲しむ。
 いざとなったら身内である私が始末するから、ここはこらえてくれ。
 それにお前ら一応付き合っているんだろ? これから葵が昴をちゃんと更正させていけばいいじゃないか。
 葵と付き合い始めたってことは、昴もノーマルに復帰する気が――はっ!」
美星ちゃんは愕然として助手席で首を絞められている甥を見る。
「――まさか昴、お前葵を隠れミノに利用するつもりか!
 同級生と付き合って自分はさもロリコンじゃないですよってポーズをとって、
 裏では智花やひなたちに口にはできないおぞましいプレイを強要するつもりだな!
 どこまで腐ってやがるんだ!」
「すばるぅぅぅーーーっ! 信じてたのに! 嬉しかったのに!! まさかそんな下心があったなんて!!!
 もう許さない! 昴を殺して私も死ぬぅぅぅーーー!!!」
「ぐぅががぁーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


167 :

両手にきゅっと力を込めて息の根を止めてやろうとしたら、昴は必死になって抵抗した。
「待て! 葵! 何が悲しくて付き合った初日に恋人に絞殺されなきゃならないんだ!
 つかお前、ホントに俺のこと好きなのか!? 今日のお前からは殺意しか感じないぞ!
 お前の方こそもしかして、俺をR機会を伺うためにわざと付き合い始めたんじゃないのか!?」
「あはは、なに言ってるんだか……」
私は愛しい恋人に笑顔を振り向けた。
「昴を殺そうと思えば、いつでも殺れるわ。わざわざ恋人になる必要ないじゃない。
 今だってすっごく怒ってるけど好きだからこそ、手加減してあげているのよ」
「そうだぞ。いつだって一撃で仕留められるんだからな。それをしないのが私たちがお前を大切に思っている証だぞ」
『ねー♪』
「…………」
私と美星ちゃんが意気投合している横で、昴が何故かガクガクと震えていた。


168 :

「にゅふふ、でもお前ら付き合ったっていうのに、何にも変わらないのな。
 ……葵ー、そんなんじゃホントに智花たちに昴をとられかねないぞー」
「――ちょっと!? ……やめてください。それ、真剣に悩んでるんですから」
「あれ? でも智花たちを優先させていいって話だろ、葵?」
「そういう意味じゃ! ……ああん、もうあんたは黙ってなさい、この鈍感バカ!」
「にゃはは、葵も大変だなー」
私の怒号と、ケタケタとおかしそうに笑う美星ちゃんの声に挟まれた昴が仏頂面で呟く。
「なんだよ、葵もミホ姉も鈍感鈍感って。……そりゃ多少は鈍いかもしれないけど
 そんなクドクド言われるほど酷くは……」
「あ、そうだ葵、一応これだけは言っておきたいんだけど……」
「はい、なんでしょうか?」
「聞けよ! こら!」
朴念仁は放っておいて、私と美星ちゃんは話を続ける。
「これは昴の叔母として、教育者としての忠告なんだけど……」
「ええ」
「――避妊はちゃんとしろよ」
『ぶっ!?』
私と昴は揃って吹き出した。
「な、なっ、ナニいっちゃってるんですか!? 美星ちゃん!!!」
「そ、そうだ! ひっ……そ、そんなこと、俺と葵であるわけないだろ!?」
そうそう――って、ちょっと待ちなさい。それはどういう意味よ昴! 
いや、気持ちはわかるんだけど、そうまでハッキリ言われると凄くムカつくわ。

169 :

「いや、まあお前らにそんな心配まだ早いとは思うんだけど、一応釘を刺しておかないとな。
 いいか、葵。もし昴を襲うとしてもだ、こいつのことだからそんな準備絶対してないから、
 自分の身は自分で管理しなきゃいけないんだぞ」
「なんで私が襲うことになっているんですか!? 普通逆でしょ!」
「……お前らの場合、あとは意図しない偶然のハプニングくらいしか考えられんだろ。
 勢いに任せてナマで妊娠とか、貧乏くじを引くのは女の方なんだから、ちゃんとスキンは持ち歩いておけよ。
 言っとくけど、私は高校生のうちに産ませる気はないからな。お姉ちゃんも同じだ。
 ……お姉ちゃん、ああ見えて『おばあちゃん』って呼ばれることにはかなりの抵抗があるみたいだからな。
 あれで怒ると怖いんだ……」
「……そうだな……」
美星ちゃんと昴が棒でも飲み込んだみたいに歯切れ悪く答えた。
……怒った七夕さんってそんなに怖かったかなあ? 子供のころ『めっ』て優しく怒られた記憶はあるんだけど……家族の間では違うのかもしれない。
「大丈夫ですよ。私たち、まだ付き合ったばかりで、もっと清い交際を続けていきたいんで……」
「そうそう。今はバスケに夢中で、そんなこと考えられないって。だいたい葵に欲情したことなんて、今の今まで一度もないんだから」
……こいつ、やっぱり死にたいのかな?
私が再び殺意を募らせていると、美星ちゃんがはーーーと息を吐いた。
「……まあ、お前らの場合、心配するだけ無駄って気もするけど……。
 私が高校生の時なんて、付き合ってるやつらはみんなやってたからなー。念のため言っといた方がいいと思っただけさ」
「ええっ!? じゃあミホ姉も?」
「…………」
「…………」
……この、バカは……。
「え? だって前に、高校生時代なんてモテてモテてしょうがなかったって……」
「……葵、昴をシメろ。私は今、運転中で手が離せない」
「はい。わかりました」
「なっ――ぐえ!?」
私は今度は手加減を一切なしで、昴の喉を締め上げた。
……今の美星ちゃんに逆らうなんて怖くてできないし、私がやらなければ美星ちゃんは自分で手をくだすだろう。……運転なんかそっちのけで。
私もまだ十五の身空で星になりたくはなかった。
「――ッ!」
先ほどと同じように昴はジタバタと抵抗していたが、今度は外れない。何せ美星ちゃん直伝の『実戦用』だ。さっきの『手加減用』とは違う。
数秒もしないうちにガクンと昴が落ちた。
「……やれやれ、葵も先が思いやられるな。こんな鈍感を好きになって」
「……覚悟の上です」

170 :
今日はここまで。

171 :
GJ、GJ、そして乙! 昴、鈍感というより異性に興味無さ過ぎですね。
もうちょっと普通してあげてもいい気がします、原作通りではありますがw

172 :
GJ!
今回はガールズトーク(?)って感じだったな
昴のことは羨ましいような全然羨ましくないような…

173 :
ぐふさんGJ もうこれ本編でいい気がする

174 :
乙!
葵がちょっぴりヤンデレに見えたw

175 :
保守。

176 :
追い付いたぞ!

177 :
ぐふたん・・・・・GJ!

178 :
おお、復活してたのか


179 :
ほしゅ

180 :
ほもしゅ

181 :
ぐふさん続き楽しみにしてますよ

182 :
ほしゅ

183 :
わっふるわっふる

184 :
ほしゅ

185 :
追いついた
素晴らしい

186 :
ほしゅ

187 :
ご無沙汰しております。
お待たせしてしまって大変申し訳ございません。
葵ちんのハラハラドキドキ恋愛ウォーズの続きです。


188 :

「ゾノと」
「ショージの」
「ドキドキ恋愛相談室ーーーっ!」
「……ひとのうちに勝手にあがりこんで何やってるのよ……」
 美星ちゃんに家まで送ってもらったら、なぜかゾノとショージの二人が私の部屋でくつろいでいた。
「いやいやブチョーのワクワクドキドキ恋人初日の成果を聞こうと思ってさ」
「まぁ葵ちんのことだからぁ、進展なんてしてないんだろうけどぉ、とりあえず反省会ってことでねぇ」
「ちょっ! 聞く前に既に反省会決定なの!?」
「じゃあセンセぇとぉ、なにか進展あったぁ?」
「…………えーと……」
 私は今日一日のことを、二人に話して聞かせた。
「…………問題だね」
「…………うん。大問題だねぇ」
「……えっと、どこが問題なのかな?」
 私も思うところは色々あったのだが、それよりも二人の顔がマジにひきつっていたので、ちょっと遠慮がちに聞いてみた。
「ブチョー反省会どころじゃないよ」
「うん。これは懲罰委員会だよぉ」
「え? え? なんで?」
 わけがわからず聞くと、ゾノとショージは揃って『はあーーー』とため息をついた。
「では被告人ブチョーに質問です。あなたは今日、彼氏であるところの長谷川昴センセーを何回蹴りましたか?」
「うーんと、細かいのをいれると50回くらいかな?」
「葵ちん、アウトぉ! スリーアウツチェンジ! ゲームセットぉ! しかもダブルヘッダーで×2試合分っ!」
「だ、だってあれは、昴があの子たちを押し倒したりするから仕方なく!」
「ブチョー……。そりゃブチョーにとっちゃセンセーを蹴るなんて挨拶みたいなモンだろーけどさ、
 せっかく恋人になったんだから控えた方がいいよ」
「あのね、葵ちん。聞いたかぎりじゃ、今日一日センセぇを殴ったり蹴ったりしてるだけでぇ、
 恋人らしいこと一つもしてないんだよぉ。これは問題だよぉ」
「う、……たしかに」
 朝、智花ちゃんの話を聞いて蹴り倒してから、学校では話してないし、放課後はバスケの練習……
 その間も昴を蹴ったり締め上げたり……付き合う前より昴に制裁が激しい気がするわね。


189 :

「まあセンセーはブチョーに蹴られ慣れているから怒ったりしてないと思うけどさ、普通だったらソッコー破局だよ!」
「そうだねぇ。センセぇ鈍感なうえMだからそんじょそこいらの暴力はご褒美になるからいいけど、
 葵ちんのSもハンパじゃないからねぇ。力加減を間違えちゃうと警察沙汰になっちゃうよぉ」
「誰がSよ!? 昴だってMなんかじゃないわよ!」
「あ、そっか。ベッドの上じゃ逆になるパターンか!」
「昼間は強気で蹴りまくっているくせにぃ、夜はご主人様に突かれまくる従順なメス奴隷に変貌するんだよねぇ。
 いいなぁ、弊社もまぜてほしいなぁ」
「あちしもあちしも! 3Pじゃ一人余っちゃう! もう一人加わって4Pの方がいいって」
「違うよぉ、ゾノ。受けは葵ちん一人だから3Pでもいいんだよぉ。サンドイッチだよぉ」
「じゃあセンセーが下でブチョーを仰向けにして、あちしたちが左右から攻めるってのはどう!」
「あ、いいねぇ。くふふ、センセぇにメチャクチャにされてヨガリ狂う葵ちん、可愛いんだろうなぁ。
 3人がかりでいっぱい可愛がってあげるからねぇ」
「……えっと、ごめん。なんの話?」
 異次元の会話に私は完璧に取り残されていた。
 3Pって……スリーポイントシュートじゃないわよね?
「ショージ! ブチョーのオコチャマ脳にはレベルが高すぎた! あれは絶対スリーポイントだと思っている顔だ!」
「葵ちんを責めちゃ駄目だよぉ、ゾノ。一人前の芸人は客を選ばない、客に合わせて笑いをとっていくんだよぉ。
 弊社たちがまだ未熟なのがいけないんだよぉ」
「そーか! ごめんな、ブチョー!」
「うん、とりあえず馬鹿にされていることだけは、ヒシヒシと伝わってくるわ」
 私が拳を握ってプルプルと体を震わせていると、ゾノとショージは途端真面目な顔になって向き直る。
「――てふざけている場合じゃないよ! ブチョー! 自分の立場わかってるのか!」
「このままだとぅ、あの子たちにセンセぇをとられちゃうよぉ」
「…………」
 ……言い返したいことは山ほどあったが、ここで突っ込むと二人がさらに騒ぎ出すのは中学のバスケ部時代で身に染みているので、あえてスルーすることにした。


190 :

「あの……やっぱりさ、女バスの子たちに私と昴が付き合ってるって、……バレちゃったかな?」
 私が気になっていたことを恐る恐る尋ねると二人は同時に目を見開いて詰め寄る。
「んなの当たり前だ! 小学五年生にだって一発でバレるんだぞ! 誰が見たって100パーわかる!」
「問題はぁ、バレたのに何も言ってこないことだよぉ」
「へ? どういうこと?」
「普通はひなたちんの妹ちゃんみたいにぃ、『付き合っているんですか?』てきいてくるでしょう?
 なのに話題にもしてこないってことはぁ、葵ちんとセンセぇが付き合っている事実を認めていないってことだよぉ」
「つまり絶対にブチョーからセンセーを奪い取ってやる!って宣言してるんだ! 宣戦布告だ!」
「シャワーの時の様子だけでもわかるってもんだよぉ。『お試し』だってことまで見透かされてるしねぇ」
「そのことなんだけど、二人とも……私と昴のこと、誰かにしゃべってないよね?
 ……特にその……『お試し期間』のこととか……」
 付き合っていることはともかく、『お試し期間』のことまで知っているのは、私と昴、そしてこの二人しかいない。
「あー、それは……」
「ねえ……」
 ゾノとショージが困ったなあと苦笑する。
「ま、まさかしゃべったの!?」
「いや! 特定の誰かにはしゃべってないけど。ほら! 今週のあちしとショージの話題といえばブチョーたちのことでもちきりじゃん?」
「だからぁ、道端とかお店のなかでぇ、もし立ち聞きされてたらぁ、……バレちゃったかもしんないかなぁ……て」
 あ、そういうこと。
 この二人が夢中になっておしゃべりしていたら、そりゃ聞きたくなくても聞こえてくるわね。
 ……街中でしゃべんなと言いたいところだけど、それこそRと言っているようなものだし。
 柿園さつきと御庄寺多恵、女三人寄らずとも十分すぎるほど姦しい。


191 :

「それかアレだ! 盗聴されてるとか!」
「……誰が、なんのために?」
「そりゃもちろんまほまほの家の人だよ。お金持ちって、そーゆーお庭番とかがいそーじゃん!」
 お庭番といわれて、真帆ちゃん専属のあの超優秀なメイドさんのことを思い出した。
 往年の時代劇に出てくるようなミニスカ網タイツの『くノ一』の姿の久井奈さんが、夜な夜な昴の部屋に忍び込んで、そして……。
『すばるんさま、私が大人の女というものを教えてさしあげましょう』
『駄目です、久井奈さん。俺には葵というれっきとした彼女が……』
『ふふ、あんな尻の青い小娘のことなんて忘れさせてあげますわ。ほら、おっぱいだって私の方が大きいでしょう?
 さあ服を脱いで。この胸の中に飛び込んでいらっしゃい』
『ああっ、ごめん、葵。俺はもう、我慢できない! だーいぶっ!』
「――てカンジで!」
「勝手に人の妄想を作り出すな! そんなことあるわけないでしょ、まったく……」
「じゃあ、こんな感じはぁ?」
『わっはっはー。すばるんさま、くノ一ですよー。さー、この五円玉をご覧ください。
 あなたはだんだん眠くなるー』
『すーすー』
『目が覚めたら、すばるんさまは真帆さまのことが大好きなーる。1、2、3、はい!』
『……あれ、俺は何を? ――はっ、なんだかすごく真帆に会いたくなってきた』
『ではこちらへ。真帆さまが胸を小さくしてお待ちでございます』
『でもそれ以上に、目の前にいる久井奈さんを押し倒したくなってきた』
『え?』
『その豊満なお尻にかぶりつかせてくださーいっ、だーいぶっ!』
『ああ!? 駄目です、すばるんさま! すばるんさまには真帆さまがっ。ああんっ、でもこんな野獣のような激しさ、初めて……』
「――いい加減にしなさい! それ全部あんたたちの願望じゃないの!」
「あ、ばれたぁ?」
「そーだよな! センセーはおっきいのより小っちゃい方が好きなんだもんな! だからブチョーも困ってるんだもんな!」
「すすす昴は小さい女の子が好きなんかじゃないわよっ。ちゃんと私と付き合ってるんだから! おっきい方がいいんだもん!」
「葵ちん、泣いちゃだめだよぉ。かわいいよぉ」
 ……柿園さつきと御庄寺多恵、女三人寄らずとも十分すぎるほど姦しく、
荻山葵が加わるともはや収拾がつかなくなるとは、某一の字が付く友人の言葉だ。

192 :
今日はここまで。
ゾノとショージが暴走しがちな気もしますが、
原作10巻読むとこんな感じかなーと。

193 :
ゾノノノとショージョージがいいキャラしてんなー
むしろこっちとお付き合いしたほうがいいんじゃないかな昴はw

194 :
止める役がいないとこうなるのか

195 :
ほしゅ

196 :
続ききてたのか

197 :
ロウきゅーぶで一番かわいいのは柿園さつきちゃん

198 :
>>197
いや、愛莉が1番だと思います!

199 :
ふふ、わた紗季さんが一番隠れ美人なんじゃないかしら?

200 :
199>>
サキー、おっつー
by悪魔のファンタジスタまままま

201 :
エロパロの方の鬱シナリオの人、とうとう完結したな
イチャラブばっかりのエロパロスレであれだけ壮大な欝はある意味新鮮だった
てかラストの展開怖すぎだろ

202 :
見てきた。恨みの連関って怖いよね
映画で同じような展開の作品が合った気がする

203 :
騙されたと思って見に行ったら案外おもしろかったな
ただ最後の座談会がなければ滅茶苦茶暗い気分のまま終わってるわ
それくらい凄い鬱シナリオだった

204 :
むしろお茶を濁さず鬱を貫いて欲しかった

205 :
ああ、本当に面白かった
あの作品は智花たちが頑張って演じた劇なんだって思ったら、さらに楽しめるようになった
不思議な魅力がある作品だったなあ
まさに『物語』って感じで

206 :
むしろ劇の裏側を妄想すると滅茶苦茶萌える
女バスメンバーがセックスシーンを演じてる時の紗季さんの顔は一度でいいから見てみたいw

207 :
言い訳ができないほどご無沙汰ですが、続きです。

208 :

……十分後。
「……コホン。えー、では話を戻すけど、私と昴が付き合っていることは、みんなにバレバレってこと?」
「イエィッス!」
「まぁ、予想どおりだねぇ」
「じゃあもう隠している意味はないわね。はっきり宣言しちゃった方がよくない?」
そうすれば、かげつちゃんのようにみんな諦めて祝福してくれるかもしれない。
そんな淡い期待を、ゾノとショージはバッサリと切り捨てた。
「……どーかな。その場でセンセーに詰め寄って、『お試し』だってことまで白状させるんじゃないかな」
「う……」
「『じゃー期間は一週間な! そんでダメだったら次はあたしたちのバーン!』とかぁ、言ってきそうだねぇ。
 葵ちん、一週間でセンセぇを落とせる自信あるぅ?」
「お、落とすって、私たちはもう恋人同士なんだし……」
「恋人として見れなかったら別れてもいいって言ったんだろ! それがイッシューカン! センセーのことだから勢いに呑まれて絶体約束しちゃうよ!」
「うう……」
「今日の感じじゃ一か月……ううん、一年たっても無理だねぇ」
「ううう……」
ひ、否定できない。
「ならやっぱり、アレしかないね!」
「そうだねぇ、敵に気付かれた以上一刻の猶予も無いよぉ」
「……なによ、またアレって?」
二人の『アレ』には若干不安があるんだけど……。

209 :

「ブチョー、今日は何曜日?」
「え? ……金曜日だけど……」
「今日の明日じゃさすがに無理があるから、決戦は日曜日だね!」
「葵ちんの準備もあるしぃ、計画も練らなきゃいけないからぁ、ちょうどいいと思うよぉ」
「だからなんなのよ!」
当の本人を無視して話を進めようとする二人に文句を言うと、ゾノとショージは顔を見合わせキョトンとした表情で答えた。
「そんなのデートに決まってるじゃんか!」
「……は!? で、デート!? わ、私と、昴が!?」
「そんなに驚くことのほうがぁ、弊社として驚きだよぉ」
そばかすのある頬をポリポリとかきながら、ショージが苦笑いをする。
だって、ほらっ、そりゃ思い描いてはいたけどっ、いきなり言われたから!
「付き合ってるんだからデートするのは当然だろ!」
「この週末を逃したらぁ、本当にセンセぇを取られちゃうかもよぉ。来週からは葵ちんだって5年生の練習みなきゃいけないんでしょ?
 その前に対策を打っておかなきゃいけないんだよぉ」
……たしかに。私の目の届かないところで今日みたいに昴にベタベタされていると思ったら、落ち着いて練習を見ることなんてできないだろう。
「だーかーらー、デートでセンセーのハートをガッチリゲットしておくんだ!」
「で、でも、いきなりデートっていったって……」
「細かいことは弊社とゾノが決めるからぁ、まずはアポイントメントだよぉ。はい、電話」
いつの間に取ったのか、私の携帯電話をぽんっと手に持たせると、ショージはぐっと両の拳を握る。
「ふぁいとぉ、葵ちん!」
「先手必勝だ、ブチョー!」
「う、うん……」
結局二人に押されて私は昴に電話をかけることになった。


210 :

『――プルルル――ガチャッ。はい、どうした、葵?』
『……あ、あのね、昴……えっと……に、日曜って、空いてるかな?』
『日曜って今度の?』
『う、うん。あの、私たち、付き合っているでしょ。なら、その、で、デートくらい、した方がいいかなって……』
ああんっ、もう何いってるんだろっ。した方がいいんじゃなくって、したいんでしょ!
心臓がバクバクいって止まらない。こんなのバスケの試合の時の方が全然マシだ。
しかし返された昴の言葉は、そんな私の気持ちを大きく裏切るものだった。
『あ、ごめん。その日、もう約束があるんだ。たった今、真帆に誘われちゃってさ』
『は!? ま、真帆ちゃんに誘われた?』
『そう、ほんと今さっき。帰ってきたら携帯が鳴って、日曜日女バスのみんなで遊びに行こうって』
『ちょ、それOKしたの!?』
『もちろん。断る理由なんて無いだろ。そうだ、葵も一緒に行かないか? みんな喜ぶと思うぞ』
もちろん――じゃなーーーいっ!!!
ナニ彼女よりも小学生を優先させてんのよ!?
しかも一緒に行こうだなんて……本当にこいつは私を彼女として認識しているのかしら?
思い切り怒鳴り散らしてやろうと思ったら、目の前でゾノとショージが両手を付けたり離したりして『引き伸ばせー』と合図を送ってきた。
「?」
『おーい、葵、どうした?』
『あ、ごめん。えーと、それはそうと昴、今日の練習のことなんだけどさ……』
よくわからなかったけど、二人の示す通り無理やり話題を変える。
するとゾノとショージはそれぞれスチャッと自分の携帯を取り出し、どこかへと電話をかけ始めた。
不思議に思いながらも私は昴との鉄板の話題――バスケ談義へと花を咲かせたのだった。


211 :

『……えー、違うわよ。あそこはもっと愛莉ちゃんの大きさをいかして……あ、ちょっと待って』
チョイチョイとゾノに肩をつつかれ、私は一度電話を離した。
気がつけば二人とも電話は終わったようだった。
でもなぜだろう? ゾノもショージもジト目で私を見ている。
「……えっと、もう引き伸ばさなくていいのかな?」
「はい。お楽しみのところ大変申し訳ございませんが、そろそろ一旦切ってもらえますかね、ブチョー殿!」
「バスケの十分の一でもいいから恋バナができれば弊社たちも苦労しないんだけどねぇ」
「い、いいでしょ! 別に! ――あ、ごめん昴。ちょっと長くなったみたいだから、もう切るね。うん、うん、じゃ、またね」
呆れる二人の声にいたたまれなくなって、一言二言言葉を交わしすぐに電話を切る。
――と携帯のディスプレイに表示された時間を見てビックリ。バスケの話だけで30分以上していたみたい……。
「ええと、それでどうしたの? 昴は日曜日真帆ちゃんたちと遊びに行くって言ってたけど……」
「それは聞いた! だからあちしたちが手を打ったんだよ!」
「手……て、もう先約があるんじゃどうしようもないじゃない……」
「葵ちん、そんな甘いこといってたら、恋のバトルには永久に勝てないよぉ。バスケとおんなじ、取られたボールは奪い返さないとねぇ」
「そーだそーだ! ボールを奪い返すのブチョー得意中の得意じゃんか!」
「そりゃバスケならね。でも約束は破っちゃ駄目でしょ?」
「女の子レベルはまだまだだねぇ、葵ちん。そこがカワイイんだけどぉ。
 大丈夫、もう少ししたらセンセぇから電話があると思うからぁ」
「昴から? 今したばっかりなのに?」
「もしかかってこなかったらこっちからかけ直せばいいんだよ! そんなことよりデートの作戦を考えよ!
 ブチョーが長電話してたおかげで時間がないんだから!」
「そうだねぇ。まずどこにいくかプランを考えないとねえ。予約しなきゃいけないところもあるし、服装も合わせないといけないからぁ。
 ゾノぉ、ここなんかどうかなぁ?」
「いやー、ここはまだブチョーたちには早いんじゃない? こっちの方がいいって!」
「ちょ、ちょっと二人ともっ!」
もー、訳わかんないなーっ。
私のことを無視して、とっとと雑誌(自分たちで持ってきた)を広げてあーだこーだと作戦会議を始めてしまうゾノとショージ。
手を打ったといっても仮に真帆ちゃんたちが昴を狙っているとしたら自ら中止にするはずないし、
昴があの子たちとの約束を破るとは思えない(私との約束はしょっちゅう忘れるのにね……)。
当事者ほったらかしで勝手に進めないでよっと文句を言おうとしたら、次の瞬間、自分の携帯が鳴り出した。相手は――え!?


212 :

『もしもし、どうしたの、昴?』
『葵、それがさー、日曜日のことなんだけど、真帆たちから中止にしてくれって言われたんだ』
『へ?』

なに、突然?
『なんでも俺に電話した後ミホ姉から連絡があって、『この前やったテストで真帆の点数がヒドすぎたから、日曜日はつきっきりで勉強をみてやる。拒否権なぁーしっ!』て言われたんだって』
『いつもながら強引だよなー』という昴の声を耳にしながら、はっとショージを見る。
そういえば硯谷のときもショージは美星ちゃんと連絡を取り合っていたのよね。
『んで真帆とミホ姉だけじゃ心配だから紗季も付き合うことになって、それに智花や愛莉、ひなたちゃんも、
 日曜日はおうちの人から一緒に出かけようって後から言われたらしくって、それならまた今度にしようってことになったんだ』
『そ、そうなんだ』
『……で、さ。だから、大丈夫だぞ…………葵との……デート』
『え!?』
『なんだよ、葵が言い出したんだろ。だから日曜日は予定が無くなったから、その……デート、できるから』
『う、うん。わかった。じゃ、詳しいことは後で連絡するから……』
放心したまま私は電話を切った。
あまりの展開の速さに頭が追いついてきていなかったが、にんまりと笑っている二人に目をやる。
「もしかして、美星ちゃんに連絡して手を回してくれたって、ショージ?」
「まぁねぇ。ほら、ちゃぁーんとボール取り返せたでしょ?」
「他の子たちだって、あちしたちのもてるネットワークのすべてを使ってディフェンスしたんだぜ! どーだ、すごいだろ!」
「……うん。ありがとう、ゾノ、ショージ」
実のところ、私はかなり感動してしまった。
いったいどんな人脈を使ったのかは少し気になったが、自分のためにこんなにも親身になって力を尽くしてくれた友人に、じーーんと胸が熱くなる。
「ゾノ、ショージ、本当にありがとう。二人が友達ですごく嬉しい」
「いいって、いいって! ブチョーとあちしたちの仲じゃんかよ!」
「そうだよぉ。お礼は体で払ってくれればいいからさぁ」
「うん、わかった――なんて言うわけないでしょ!」
「あいたぁ」
ショージの頭に軽くチョップ。
こんな冗談を言い合えるのも、信頼があればこそだ。

213 :

「よし、これで邪魔は入らなくなった! あとはどんだけブチョーがセンセーにアピールできるかが勝負だよ!」
「しっかり計画してぇ、めいっぱいオシャレしてかないとぉ、センセぇと葵ちんの場合いつも遊ぶのと変わんないからねぇ」
「そ、そうだよね。で、デートなんだからいつもよりも、もっと可愛くしていかないとねっ」
「かわいいなんて甘い! ノーサツだノーサツ! 思いっきしキワイドイのでいかなくっちゃ!」
「なにせあのセンセぇだからねぇ。中学時代、言い寄る女子をことごとく無視し続けたスルースキルの持ち主……
 服もデートコースもネリネリにしていかないと、結局いつも通りで終わっちゃうよぉ」
「う、うん。わかった。デート、デート、昴との初めてのデートなんだから、念入りに……」
うわっ、どうしよう! もう緊張してきちゃった!
「ふふ、ほんとぉ、恋する乙女はカワイイねぇ。大丈夫だよぉ、弊社とゾノが一緒に考えてあげるからぁ」
「そーだ! まかせろ! このゾノノノとショージがカンペキなデートプランをブチョーにご提供するぜっ!」
「うんっ、ありがとう! 二人とも!」
私はなんて素晴らしい親友をもったんだろう。
ゾノとショージは雑誌に向き直り、デートコースの相談を再開する。
私のその中に加わろうとしたら、ショージが何かを思い出したように顔をあげた。
「あ、そうだぁ、大事なこと聞くの忘れてたぁ。葵ちん」
「ん、なぁに?」
「初めての場所はどこがいい?」
「……へ?」
「センセぇの部屋かぁ、自分の部屋かぁ、それともホテル」
「デートならホテルだろうけど、ブチョーたちには敷居が高いだろ」
「だよねぇ。やっぱり最初はどっちかの家の方がいいと思うよぉ。
 私のオススメは葵ちんの部屋だねぇ。自分の部屋なら葵ちんもそんなに緊張しないだろうし、
 逆にセンセぇはドキドキだよぉ」
「なるほど! 自分のテリトリーにエモノを引きずり込もうってわけだな! さすがショージ!」
「後始末も楽だしねぇ。センセぇの家だと大変だよぉ。あらかじめタオルを持って行って、
 する前に敷いかなきゃならないからぁ。葵ちん、ちゃんとできるぅ?」
「なっ、なっ、なんの話をしてるのよ! そんなのダメに決まっているじゃない!」
『えぇ!?』
ゾノとショージが同時に驚く。
「ブチョー! いきなり野外か! 見られるのがいいのか!?」
「葵ちんっ、まさか自分で破いちゃったの! いくらセンセぇが相手にしてくれないからって、そんな激しくしなくっても……」
「そうか! あまりもセンセーが恋しいから露出プレイに目覚めちゃったのか! あの開放感がいいんだな!」
「大丈夫だよぉ。激しいスポーツしてると自然と破けちゃうっていうから、葵ちんなら説得力あるよぉ」
「あ……あは……あは……」
これも……冗談よね? お互いが信じあるからこその……ふざけあいよね?

214 :


顔を引きつらせながら歪んだ微笑みを浮かべていると、
ショージが『あっ』と何かを思いついたように声をあげた。
「そうだ! 葵ちん、もう破っちゃったなら、予行練習しよ!」
「……は?」
私の肩をガシッと掴み、ショージは普段とは違うどこかイッちゃった目で矢継ぎ早やにしゃべり始めた。
「そうだよ! もう『ない』んなら遠慮無しに『アレ』ができるじゃない!
 ううんっ、むしろ『初めて』の練習をしてたら勢い余って破っちゃったってことにすれば!
 女の子同士ならノーカンだから、きっとセンセぇも許してくれるって!
 男のコは痛がるより気持ちよく喘いだ方が『自分が感じさせてるんだ!』って思っちゃうから、絶対得だよ!
 葵ちんの素敵な初体験のために、弊社が女の悦びをたっぷり教えてあげる!
 指一本でヨガリ狂えるようになるまで、葵ちんの体を徹底的に改造してあげるから!
 大丈夫、破瓜の痛みなんて感じない――ううんっ、その痛みさえも快楽に感じられるような淫乱M奴隷に調教してあげる!
 ――んでもってめでたく結ばれるんだけど、センセぇの未熟なテクじゃ満足できなくって、弊社との関係をダラダラ続けちゃって、
 そのうち体だけじゃなくって心までも弊社に依存するようになって、ゾノも一緒に三人で愛欲にまみれた日々を送るのよ!
 さっ、いますぐそこのベッドで予行練習を――」
――ガツンッ!
「――するかこの変態!!!」
「はうぅぅぅん!」
私は男以外には滅多に使わない必殺かかと落としをショージのドタマに振り下ろしてやった。
……な、なにドサクサ紛れにトンでもないこと言ってるの!。

215 :

「はあ、はあ、……ゾノ、まさかと思うけど、あんたたち、私の手助けをするとかいいながら、本当は手篭めにして自分たちモノにしようっていうのが目的なんじゃないでしょうね?」
「なっ、なにゆーんだっ! あちしをショージみたいな変態と一緒にしないでよ! ショージはともかく、あちしはそんなつもりゼンゼンないよ!」
ひどい言われようだが事実だから仕方が無い。
「あちしは純粋に、ブチョーがセンセーと恋人になって幸せになってくれればいいと思ってるんだ!
 そりゃ確かにあちしもショージも女の子が好きだよ。でもブチョーを自分のモノにしようとは思わない。
ブチョーがセンセーのこと好きだって、中学の頃からずっと知っているから!」
ゾノは必死の表情で声を張り上げ、私に訴えかけてきた。
その真摯な姿は、私の心によどんだ邪念を打ち払ってくれた。
「ゾノ……ごめん、そうだよね、私……友達を疑うようなこと言って……」
「ううんっ、それは日頃の行いのせいだからしょーがない。でもわかって! あちしがいつも思っているのは、ブチョーの心の平穏だけだよ!
 ブチョーがセンセーのことで空回りして悩んだり苦しんだりしないよう、精一杯サポートする、それがあちしのしたいことだよ!」
「ゾノ!」
私はなんて愚かなんだろう。こんなにも自分を大切に思ってくれる友達の心を疑るなんて……。
私は謝罪と感謝の意味をこめて、ゾノを抱きしめようと手を広げる。
「ゾノ、ごめん! 私、あなたのこと誤解してた!」
「そうだよっ、だってあちしは――ブチョーの体だけが目当てなんだから!」
「…………は?」
……なん……ですって?
「――って違う! そうじゃなくって、心はセンセーにあげるから体だけはあちしに……
 じゃなくて…… センセーとの恋は成就してほしいけど、その代わりちょびっとご褒美が欲しいっていうか……
 いやいや……ただちょっとおっぱい揉ませてくれたり、パンツに顔つっこませてくれたらいいなーって思っただけ……
 いやそりゃ本音を言えばもっとイロイロやりたいよ? でもセンセーからブチョーを奪い取ろうなんて考えてない。そう、強いて言うのなら……
 ――女体は人類の至宝なんだよ! 
 かわいい女の子の裸は誰のものであろうとも、鑑賞され、オサワリされる運命にあるんだよ!
 だからブチョーもセンセーと付き合ってもあちしたちに揉みほぐされる義務が……
 あっ、待って! ブチョー! そんな足あげたらパンツ見えちゃう――(カシャ)――おしっ、縞パンゲットだぜーっ!
  てええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
――ドゴッ!
「……ふう」
かかとをゾノの脳天にめり込ませ、私は深いため息を吐いた。
……コレさえなければ信頼できて一緒にいてもとても楽しい、最高の友達なのだが……。
私の周りには、なんでこんな残念な人間しかいないんだろうか?
「しかもそのうち一人が自分の彼氏ときたもんだ……」
深い深いため息を吐きつつ、私はゾノの撮った写真データを削除したのだった……。

216 :
今日はここまで。
ゾノとショージの変態っぷりを出すのに苦労しました。
次回よりいよいよメインとなるデート編です。
もちろん……まともなデートにはなりません。
……早く書かなきゃ……。

217 :
>>216

なんつーかすごくナチュラルに変態で違和感ないw
なかなかやるなーと思った直後にこれだよ・・・

218 :
乙です。
10巻の雰囲気そのまま過ぎる。
さすがですね。
次も期待。

219 :
すばるんは残念な人じゃないだろw比較的常識人じゃないか!
今日のお前が言うな大賞

220 :
ぐふさん、この調子で勉強会もお願いしますよ!!

221 :
今回も面白かった!
でも自分を追い込みすぎないようには注意してくださいね
プレッシャーやその他諸々でスランプになんてなったら笑えないですから…
自分の経験談になっちゃいますけど、そのテのスランプは長引きますので、気楽にのんびりやっていってほしいところです

222 :
まあのんびりでおkやな
ゆっくりいこう

223 :
ぐふさんあいかわらずすごいわ
エロパロ板とこっち両方読んでるよ
でもゆっくり書いてね!
それを楽しみに生きる!

224 :
保守

225 :
ぐふさーん

226 :
ho

227 :
mo

228 :


229 :


230 :


231 :


232 :


233 :


234 :


235 :


236 :


237 :


238 :


239 :


240 :


241 :


242 :
このスレまだ生きてますか?
保守されてるから大丈夫だろうけど
原作9巻終盤の真帆×昴展開が非常に気に入ったのに
11巻での真帆はお子ちゃま扱い、アニメの方も
誘拐省略して不自然な婚約パーティーでごまかし。
ってな訳で、できるだけ原作の雰囲気を壊さない程度で
まほまほ×すばるんのSSを執筆中です。
最終的にはもっかん×すばるんでやんわり落ち着けるつもりです。
愛莉、紗季、ひなたちゃんの昴への想いもできるだけ尊重しつつ。
葵は登場するかどうか未定です。
需要があれば投稿します。

243 :
あるある
投稿期待

244 :
是非お願いしますっ!

245 :
242の者です。
需要あるっぽいので近々投稿しようと思いますが、
とりあえずロウきゅーぶ!SSの最終回を見てから
にしたいので、もうしばらくお待ちください。
という訳で予告
・主なカップリングはまほまほ×すばるん
・時系列は修学旅行終了後、真帆父のミニバス大会
に向けて練習を頑張っている辺り
・出来るだけ原作の雰囲気を壊さないように
・俺にはバスケ知識や語彙力が皆無につき糞文注意
・すでに割とシナリオできてるので、
定期的に小出しで投稿できるかもです
・過度な期待はしないでください、絶対に。

246 :
>245
了解。
激しく期待して待ってるよ。

247 :
ミートゥー!!

248 :
>>245の者です。
BS11での視聴ではまだアニメの最終回が先なので、遠方の友人の家まで
赴くという無茶なことをして最終回見てきました。涙が止まらん!
さて、予定通りSSを投稿します。
あまりに熱中したせいでもう完結しちゃいましたw
SSと言いながら、ワードで文字カウントしたら4万文字の長編です、あしからず。
話の展開的に、原作11巻のボイスチャットまでは既読だと分かりやすいです。
アニメしか知らない場合はちょっと不自然な点があるかも。
☆言い訳:
原作は諸事情により10巻だけ飛ばして読んでいまして、
「こんな展開になればいいなー」的なノリでSSを書きあげたあと、
10巻を読んで驚愕!
なんと、自分で書いたSSとネタがもろ被り。サグさんさすがです。
それから、俺の才能の無さゆえに無駄に説明的な文章がダラダラと続きます。
矛盾点なども多々あるとは思いますが、それでもお付き合いいただければ嬉しい限りです。
で、実はまだ作品のタイトルが決まってないので、決まり次第投下します

249 :
だめだ、洒落たタイトル思いつかない。なんかフツーのやつで。
タイトル:「智花vs真帆!?〜あの人へ、想いよ届け〜」
※ひなたちゃんと愛莉があまり登場しないのでファンの方は悪しからず

250 :
「ねえねえもっかん、今朝もすばるんとイチャイチャしたっ?」(ニヤニヤ)
「ふぇぇっ!? い、イチャイチャなんて、そんな…」
「もう真帆、あんまりからかっちゃトモがかわいそうでしょ!」
「あれー、今日はノリが悪いぞサキさん。そーだ! もっかん、(ヒソヒソ)」
「っ…!? ム、無理だよぅ…!」
「えー、何で? いーじゃん! すばるん喜びすぎて倒れちゃうよきっと」
「ダメダメっ…… !」
「じゃあさ、私がしてもいい〜?」
「えっっっ!?…真帆が………!?」
「きしし、ジョーダンだって」
「ううっ…いじわる」
お馴染みのそんな話を練習前の体育館で飽きもせず続けるツインテールの少女は、俺――長谷川昴がコーチをさせてもらっている慧心学園初等部6年女子バスケ部の部員、三沢真帆だ。
快活を絵に描いたような天真爛漫な性格で、チームのムードメーカーである。が、その性格ゆえトラブルメーカーでもある。
「すばるん」とは、真帆がつけた俺のあだ名だ。
真帆のからかいに顔を真っ赤にして俯き加減になっている少女は湊智花だ。
彼女のバスケの才能は小学生という立場を遥かに超えたもので、まがうことなきうちのエースである。
智花は毎日俺の家に来て、朝練をいっしょにしてくれる。
真帆と智花の仲介に入る眼鏡の少女は永塚紗季。
巧みな状況判断力でチームを支えている。
何らかのトラブルの時は博学の彼女が知恵を絞って解決してくれることもしばしばだ。

251 :
「ひなちゃん、修学旅行楽しかったね」
「おー、ひな、また行きたい」
修学旅行の思い出を語る長駆の少女は香椎愛莉。
チームで最も長身でありセンターとしての素質を開花させつつあるが、その長身にコンプレックスを持っており、やや引っ込み思案な性格である。
愛莉の問いかけに応じる天使のようなスマイルの小さな少女は袴田ひなたちゃん。
お人形さんのような彼女には同じクラスの男子の大半に好意を寄せられているという逸話がある。
このことはクラスでは周知の事実なのだが、本人は気づいていない模様だ。
彼女たち5人はめまぐるしく成長し、真帆の父、三沢風雅さんが主催するミニバス大会への参加のため、日々厳しい練習に汗を流している。
今日もこうして体育館に集まり、これから練習を開始するところである。

252 :
「ねーねーすばるん、今日はどんな練習? 早くやろー!」
今日の練習メニューと今後の予定を構想している俺のもとに、体操服に着替え終えた真帆が目を輝かせて駆けてきて、抱きついてくる。
どうも最近、真帆にやたらと抱きつかれるので慣れてしまったが、まれに俺を呼吸困難に陥らせる危険な抱きつき方をするので油断ならない。
とはいえ、女バス顧問で俺の叔母のミホ姉こと篁美星には何度も命の危険を感じる攻撃を受けてきたので、少々の苦痛ではへこたれない自信はあるのだが。
「ぶー、おにーちゃん、ひなも、だっこ」
「はいはい、おいで」
「わーい」
頬をぷくーっと膨らませたひなたちゃんがそう懇願してきたので、喜んで応じる。
うむ、ちょーかわいい。いや、やましい気持ちなどはこれっぽっちも無いが。
「真帆もひなも、あんまり長谷川さんを困らせないの!」
「あ、あの、今日もご指導よろしくお願いします」
「は、長谷川さん、よろしくお願いします、えへへ」
紗季が真帆とひなたちゃんをたしなめている間に、智花と愛莉が控えめに挨拶をする。
しかし、そんな3人も実は俺のシャツの裾を掴んでいたり、体を寄せたりしているように見えるのは気のせいだろうか。
「ああ、みんなよろしく」
こうして、今日も練習が始まった。

253 :
今日の天気はやや荒れ模様で、智花たちが体育館に集合する頃こそ小雨だったが、今はかなりの大雨となっている。
当然練習は体育館の中で行うので雨に濡れる心配は皆無だったのだが…。
ピカッ
ゴロゴロ…
「うぎゃあーーーーーー!!!」
雷だ。鼓膜が張り裂けそうな大音量の音(こえ)と稲光。
停電した訳でもなかったので練習への支障といえば“気が散る”程度かと安堵していたのだが…。
そもそも、俺には雷の音が聞こえなかった。
その理由は真帆がそれを凌駕する大音量で暴れていたからだ。
真帆はあの性格に反して暗闇やお化けといったものを極度に怖がる。
現状、体育館の中は電気が灯っていて明るいのだが、真帆は何に怯えているのだろうか。
まあ、雷も苦手なんだなという推測にすぐたどり着き、ひとまずは真帆を落ち着かせようと智花にアイコンタクトを送る。
その刹那、窓から2度目の稲光。
「うぎゃもがっっ!!!」
智花が俺の意を汲んで、コートを走り回る真帆からスティールを決めるように、“鼓膜潰し”の叫び声を間一髪封じる。
「真帆ちゃん、落ち着いて」
「おー? 真帆、かみなりさんきらい? ピカピカしてきれい」
自身も少しだけ雷に怯えているような雰囲気で愛莉が真帆を宥める。
一方のひなたちゃんはこの局面でもニコニコ笑顔を絶やさず、カミナリ様の味方についた。

254 :
そんなひなたちゃんの様子を微笑ましい気持ちで見ていると
「はぁ、まったく、真帆には呆れるわ。長谷川さん、この後どうしましょうか?
この調子だと雷も真帆も収まりそうにないですね」
紗季が尋ねてきて我に返る。
「えっ、あーそうだなぁ…」
どうしたものか。まだ練習時間は1時間近く残っている。
最近はハードな練習が続くのでたまには早めに切り上げてもいいのだが、さすがに早すぎるだろう。
それに、それを望む者はおそらく、真帆以外にいないのではないだろうか。
とりあえず真帆の様子を伺ってみることにしよう。
「真帆、どう? 練習続けられそう?」
「…ぃ嫌だー!」
しかして、大方予想通りの答えが返ってきた。
半ベソの真帆を見ていると、さすがに強制的に練習させるのは憚られる。
そもそも、嫌々で練習するほど無意味なものはない。
これは俺の経験からも断言できるので、避けなければならない。
何か手はないものか考えようと窓の方を見た瞬間、またしても鋭い光が差し込む。
かくなる上は。
俺は再び暴れようとする真帆の進路に仁王立ちする形で半ば強引に、押さえつけた。
いや、抱き止めたという方が正しいか。
「真帆、落ち着け!」
「すば…るん…?」
すると安心したのか、鼓膜潰しの叫びは轟かなかった。
その代わり、ギリギリ半ベソで堪えていた真帆の瞳から雫が垂れ、苦しいほどの力で抱き返された。

255 :
「仕方ない。今日は真帆以外の4人で練習してほしい。
真帆は見学にしよう。それでいいかな?」
『はいっ』
4人はすぐに応じてくれた。が、真帆はまだ不安そうな瞳で俺を見つめたままだった。
「大丈夫だよ、そんなに怖がらなくても」
なるべく刺激しないように声をかけたつもりだったが、依然として不安は拭えていないようだった。
いつも元気いっぱいの真帆がこの調子だと、なんとなくチームの雰囲気が悪くなる。
それだけでなく、そんなに不安そうな少女をコーチとして放っておく訳にもいかない。
僅かに逡巡したのち、俺は真帆の手を握って尋ねる。
「よし、じゃあ今日は雷が収まるまで俺がこうして手を繋いでいる。これでも怖い?」
「えっ…すばるん…本当に?」
「ああ、本当に。絶対に手は離さないから」
すると真帆の瞳から不安そうな表情が一気に消え失せ、キラキラ輝き始めた。
うん、とても分かりやすい。
そう言えば、愛莉の水泳の練習をする時も俺は似たようなことを言った気がする。
当時の愛莉は水泳が怖くてたまらなかったのと同様に、真帆は雷が怖くてたまらないのだろう。
いくら快活な真帆と言えどもまだ小学生なのだ。
こうして手を繋ぐだけでも安心するのだろうし、それは俺を信頼してくれている証であるので、大変喜ばしいことだ。
ならば真帆のために、精一杯信頼に応えてやろう。

256 :
「あ、あのぉ…す、昴さん…私たちはどうすればいいでしょうか…?」
決意を固めた折、智花が控えめにそう尋ねてきたので、4人にこれから行う練習内容を伝え、
俺と真帆は体育館のステージに座って練習を見守ることにする。

俺は真帆とともに4人の練習を眺めていたのだが、どうも先ほどから智花がこちらをチラチラと見てきて落ち着かない。
しかも偶然目が合ってしまって智花が顔を赤くし始めたので、ますます居心地が悪くなってしまう。
「ど、どうかした、智花?」
「ふぇぇっ!?」
「何か質問でもあれば、遠慮せず言ってごらん」
「い、いえ、そうでは、なくて、そ、その、何でもありません! ご心配をおかけしましたっ」
毎日一緒に朝練をしているのだから、質問位遠慮せずに聞いてくれればいいのにな。
思慮深い智花だから、抵抗があるのだろうか。
そんな様子に気づいたのか、今度は紗季が真帆をチラチラと見ているようだ。
喧嘩は絶えない二人だが、実はとても仲良し。
練習中も紗季は真帆のことを心配しているのだろう。
コーチとしては、この時ばかりは練習に集中してほしいものだが、仲間を思いやる気持ちを否定する気なんて毛頭ない。
このチーム、バスケの技術こそまだまだトップクラスには程遠いが、チームワークだけは世界一なのではないだろうか。
決して過大評価ではなく。
だからこそこれまで、相手の意表を突く奇策を講じたと言えども、格上相手にも善戦できたのだろう。

257 :
すみません、まだまったく面白味もないところですが、
続きはまた今度にします。明日か明後日に。
次回:真帆がとんでもない(?)行動に!

258 :
よし、頑張ってー!

259 :
>>257
乙です。
真帆のトンデモ行動に期待です。

260 :
どうも、続きです。
もう完成してるんで大連投で失礼します。

261 :
そんな中、先ほどから真帆は一言も喋らない。
こうして俺が近くにいることでいくらか不安を取り除いてあげることができると予想していたのだが、そんなに簡単な問題ではなかったのかもしれない。
「真帆、ごめんな」
「ほえ? なんですばるんが謝んの?」
俺の未熟さを謝罪すると、無言だった真帆はすっとんきょうな声で応じる。
「いや、もうちょっと俺が気の利いた言葉とかかけてあげられれば、真帆も安心できたのかなと思って」
「…」
ダメだ。また真帆が無言になってしまった。
慌てて何か言葉を探していると
「すばるんは何も悪くない、あたしが勝手に怖がって、みんなにも迷惑かけて、なんていうかさー、
あたしちょーかっこわるいなーって思って」
真帆が口を開いた。
気の強さでみんなの前で威張ってみせることもある真帆だから、今日の雷による騒動は大失態だったのかもしれない。
「別にかっこ悪くなんてないよ」
「…へ?」
「雷は、正直俺も怖いよ。きっと雷が好きな人なんて滅多にいないよ」
真帆を安心させるために言ったことだが、先ほどひなたちゃんは雷に肯定的な発言をしていたことを思い出して、すぐに猛烈な後悔に襲われる。
俺の不用意な発言は説得力の欠片もない上に、何だかひなたちゃんを侮辱しているようで、二重の申し訳なさが押し寄せた。
「そっか、そーだよね、すばるんにだって怖いものあるよね、くふふ」
しかし、返ってきた言葉は俺を慰めてくれるような、いつもの真帆らしい明るい口調だったので深く安堵した。

262 :
直後、またしても空が光った。
ドッカーーーーン!!
『!!!』
地響きを伴う強烈な音に、この場にいる全員がビクッと反応する。
よく光速と音速の差で雷が比較的近いか遠いかを判断するが、その基準で判断するとこの雷は、どうやらかなり近くに落ちたようだ。
真帆はというと、ずっと握っていた俺の手を握力計をも壊す勢いでさらに強く握りこんだのだが、その点以外は落ち着いているようだ。
うむ、手がかなり痛むのだが、振りほどくわけにもいくまい。
幸いにもあと十数分で練習の終了時刻を迎えるので、この位我慢だ。
コートの4人も何事もないことを確認すると、練習を再開する。
途中、4人に一通り気づいたことをアドバイスした程度で、今日はあまりコーチとしての働きができなかったが、4人は不満なく練習を自主的に行ってくれた。
こうして、練習時間が終了を迎えたところで集合をかける。
ところで、雷なんて割とすぐ収まると楽観視していたのだが、今日は多数の雷雲が発生しているのか、依然として稲光と雷鳴が轟いていた。
『ありがとうございました』
真帆と手を繋いだままみんなと挨拶を交わすと着替えのためみんなは更衣室に向かって行く。一人を除き。
「な、なあ真帆、着替えないの?」
「うーん…」
真帆はどうにも手を離したくないのか、単純に着替えるのが面倒なのか、俺の手を離そうとしない。
真帆が来ないことに気づいた4人もこちらに引き返してきた。
「真帆ちゃん、着替えよう?」
「真帆、いつまで長谷川さんに頼ってるつもり? もう帰らないといけないんだから」
「真帆、私たちもいるから怖くないよ」
「おー、まほ、とってもこわがりやさん」

263 :
愛莉、紗季、智花、ひなたちゃんの呼びかけに声にならない声をあげる真帆。
最後のひなたちゃんの発言は若干トドメを刺したような気がしなくもないが、何にせよ、そろそろ体育館を施錠して帰らなければならない時間であるのだ。
「着替えておいで、みんなも俺も、すぐ近くにいるよ」
俺も最後に声を掛けると、真帆は渋々繋いでいた手を離して、4人の輪に加わる。
左腕に紗季とひなたちゃんが、右腕に智花と愛莉がくっついて、重い足取りながら真帆が更衣室に向かっていった。
あまり時間もないので俺も男子更衣室へ向かい、さっさと着替え、智花たちが着替え終えるのを待っていた。
こうして待っている間も雷鳴が何度か鼓膜を揺らした。
ふと窓の外を見ると、空から誰かがバケツで水をかけているのでないかと疑うほどの雨がバシャバシャと地面に打ち付けていた。
話題のゲリラ豪雨といったところだろうか。

☆ガールズトーク〜更衣室〜
紗季「真帆、元気出しなさいってば。あんた雷もそんなにダメだったっけ?」
愛莉「でも、気持ち分かるな。私も雷は苦手だな。今は泳げるようになったけど、プールも怖くて怖くて嫌だった」
ひなた「おー、かみなりさん、はなびだと思えばいい。とってもきれいだよ?」
智花「稲光は怖いけど、確かに綺麗かも…」
真帆「だってー、停電になったらどうすんの!? 真っ暗になるじゃん!!」
紗季「ふふ、確かに暗闇恐怖症の真帆には苦痛そうね。でもそれなら、雷自体が怖いわけじゃないのね?」
智花「でもさっきの雷は音も大きくてびっくりしたよね」
紗季「まったく、真帆のせいでトモが不機嫌極まりなくて、練習するのも大変だったんだから。
長谷川さんの方ばかり見てて全然パスが通らないし」
智花「ふぇぇっ!? そ、そんなことないよぅ…」
愛莉「えへへ、智花ちゃんご機嫌斜めなの?」
智花「あ、愛莉まで…」
真帆「きしし、やっぱそっかー。じゃあさ、もっかんも『昴さ〜ん、私雷が怖いですぅぅ』って言えばいいじゃん!」
智花「そ、そんなこと言いません言えません…!」
紗季「まあでも、その調子なら真帆も大丈夫そうね」
ひなた「どっかーーーーーん!」
真帆「うぎゃーーーーー!? ってヒナ〜〜許さんっ!!」
ひなた「おー、まほとかけっこ」
紗季「こら、真帆もひなもふざけてないで早く着替えなさい! それから、真帆はちゃんと長谷川さんにお礼を言うこと」

264 :
更衣室から楽しそうな声が聞こえてきて、俺はホッと胸を撫で下ろした。
真帆があの後も雷に怯え続けていたとしたら、こんな楽しそうな声は聞けなかっただろう。
不覚にも、夜中に雷が鳴って広い三沢家で走り回る真帆を想像して笑いを漏らしてしまった。
すまない真帆、怖がっている真帆を笑ったわけでは断じてない。
まあ真帆には久井奈さんが付いているので、真帆がひとりぼっちになることなんてことはないのだろうけど。
「すーばるんっ」
「うわっ!? ど、どうしたの真帆?」
おかしな妄想をしていると、いきなり本人が現れて変な声が出てしまった。
「あは、すばるん何驚いてんの?」
「い、いや何でもない。それよりどうしたの?」
「えっと、今日はあんがとね、すばるんのおかげで元気になった!」
「どういたしまして。って言っても俺はほとんど何もしてないんだけどね」
俺はただ真帆の横に座って手を繋いでいただけで、お礼を言われるようなことは何もしていない。
でもたったそれだけのことで真帆が落ち着きを取り戻せたのなら、俺の行動は間違っていなかったのだろう。

雷は依然鳴り止まないが、雨はいくばくか小降りとなっていた。
真帆たち5人と再度挨拶をして、見送ったあと、ミホ姉の車を待機する。
ふと携帯を確認すると、ミホ姉からメールが届いていた。
明日の授業で使う教材を準備するとかで、しばらく待っていてほしいとのことだった。
この雷雨の中外でミホ姉を待つのもはばかられたので、俺は体育館の鍵を再度開けて、中に入った。
少しばかり練習してみるか、スクープショット。
しかしながら、高難易度のスクープショットは相手がいない状況でも高い確率で失敗してしまう。
これでは、実践で使えるレベルには相変わらず程遠い。
少しイライラを募らせてしまった俺はスクープショットをとりあえずやめ、敵陣からドリブルをしてディフェンスを躱し
レイアップシュートを放つという流れを想像しながら、何本かゴールを決めた。

265 :
「うおー、すばるんのドリブルちょー速い!」
もう学校にはいないはずの聞き慣れた声が体育館に響いた。
「ま、真帆、どうしたの? 帰ったんじゃ…?」
「すばるんが体育館に戻って行ったからさ、練習するのかなと思って。ねえねえ、練習見ちゃダメ?」
「それは構わないけど、俺の練習なんか見てても楽しくないと思うよ。そうだ、もしよければ真帆も一緒に練習するかい?」
「え、いいの!? するする!!」
「あ、でももう制服に着替えちゃったね」
「そんなのぜーんぜん問題なしっ!」
右手でVサインを作って見せる真帆。
こうして、ややイレギュラーな形で真帆と二人きりでの練習が始まった。
そう言えば、智花と二人きりで練習することはあっても、真帆と二人きりというのはほとんど記憶にない。
あまり時間も取れないけど、これは細かい部分を指導するのにちょうど良い機会だ。
と、ここで、ふと思いたったことを聞いてみる。
「真帆、200本シュート、まだ続けてる?」
「モッチモチロンロン! 一昨日なんかさ、朝晩合わせて500本シュート練習したんだ! まあ、間で何度も休憩しちゃったけど」
「へぇ、よく頑張ってるね」
「しかもさ、最初の200本で、シュート成功率98%。自己新記録!!」
「本当かいっ!? それはすごい!」
先ほどまでの体育館での練習の時とは打って変わって生き生きと成果を報告する真帆。
あれ、もう雷は平気なのかな、と疑問に感じつつも、俺も嬉しくなって自慢のシューターの頭に軽く手を置き、撫でてやる。
ちょっとだけ照れくさそうにしながら(無い)胸を張る真帆に、微笑ましくなって笑顔を返す。
いくら休憩を挟みつつの「練習」とはいえ、シュート成功率が98%というのは「驚異的」という言葉だけでは足りないほどの数字である。
数ヶ月前は予め決められた場所からシュートを打ってもほとんど成功しない状態からスタートした。
最近でも、智花のシュート成功率に対抗できるかと言えば、疑問符であった。
だから、なんとなく思ったことを口にしてみた。
「はは、これなら勝てるかもな、智花に」
「えっっ!!! ホント? あたし、もっかんに勝てる?」

266 :
98%。これがいかに驚異的か。NBAの公式記録と比較すれば歴然だ。
詳細は不明だが真帆の情報をもとにすると、単純計算で200本中196回シュートを決めたということ、
そして、最低でも40本は連続でシュートを決めたということが分かる。
実際に何本連続で成功したのか、真帆は覚えていないようであったが、もし実践でこのような数字を出せれば一躍有名選手の仲間入りだ。
俺は割と自信を持って言った。
「あの智花ですら、50本連続で決めるのにとてつもない時間がかかったんだ。
あれから智花だってもっと上達しているけど、フリースロー勝負なら真帆も負けてないぞ」
「よっしゃー! もっと練習して、もっかんを超える!!」
チームワークが大事なバスケだが、部内での競争も成長を大きく促進させる。
ここでエースの名前を敢えて出すことで、真帆にはさらに自信がつくだろう。
さてそろそろ、聞きあぐねていたことを聞いてみよう。
「ところで真帆、どうして帰らなかったの? 何かあった?」
初等部の児童は夏時間冬時間、それぞれ決められた時間までに帰らないといけない校則がある。
「っ!……それは…」
先ほどは俺が体育館に戻ったことを理由にしていたが、何かもっと重大な理由がある気がした。
真帆は言葉に詰まってしまった。
俺は何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
ただ、いくら雷が苦手だとしても今日の真帆は何かがおかしい。
教え子を疑うつもりはないが、どうも、何かを隠しているように見える。
それも、いつものようなイタズラの企みではなく、どこか絶望的な雰囲気すら放っているような、そんな気がする。
「何か悩みでもあるの? 俺にできることがあれば何でも力になるよ」
「本当…?」
「ああ、もちろんさ」
すると真帆はしばらく俯いて逡巡した後、拳を握り、意を決したように顔をあげる。
「…すばるん、今夜、あたしん家に泊まりに来てっ!………くださいっ!」
「………………えぇっ!?」

267 :
なんということだ。
珍しく敬語で頭を下げてお願いされ、いくつもの疑問と混乱が頭の中に渦を巻く。
これはやはり、何かとてつもないことを企んでいるのか…?
いや、もしかして――。
「ど、どうしてまた急に…?」
とりあえず、事の経緯を尋ねる俺。
「今日ね、おとーさんもおかーさんもイタリア出張でいなくって…」
「で、でも真帆には久井奈さんがいるだろ?」
「やんばるは、いろんな作業とか見回りとかがあるから、ずっと一緒にはいてくれなくて…」
やはり、か。本来なら、もっと早く気づいてやるべきだったのかもしれない。
先ほどまであれほど雷を怖がっていた真帆なのだから、まだ雷雨が続く中ひとりぼっちで自室にこもることは、
それこそ真帆にとってお化け屋敷に自ら足を踏み入れることと同じように恐怖なのだろう。
そして先ほど真帆から感じ取った絶望的な表情。
何らかの特別な事情でこの雷雨の中、あの広い三沢家に一人で留守番となれば…。
その恐怖は筆舌に尽くし難い。
奇しくも、先ほど妄想した事態が現実のものとなってしまったようだ。
とは言え、あまりにも急すぎる。
母さんはともかく、ミホ姉に何と説明すればいいのか。
下手をすればひなたちゃんの家出騒動のときのように、ミホ姉にがんじがらめにされながら夜明けを待たねばならぬ可能性がある。
真帆には申し訳ないが、それなら雷に打たれる方が何倍もマシなのだ。
久井奈さん以外に、給仕の人はいないの? と口を開きかけたところで俺は言葉を飲み込む。
これではまるで、真帆のお願いを何とか理由をつけて断ろうとしている情けない姿にしか映らないではないか。
俺は約束したのだ。俺のできることは何でも力になる、と。
そしてもう一つ、雷が収まるまで絶対に手を離さない、と。
後者は既に破綻してしまっているが、約束は約束だ。
できる限り果たすのが、コーチという立場ながら教育者としての義務ではないだろうか。
だとすれば答えは決まっている。
「よしわかった。約束だからな」
「ほんとっ? 本当に来てくれるのすばるん?」
「ああ、もちろん」

268 :
さすがの真帆も、「一人だと怖いから家に来てほしい」なんて自分の口から言い出せる訳がないだろう。
これ以上深い理由は追及せずに俺は真帆のお願いを聞き入れることにした。
そうして真帆と再び手をつなぐと、今にも泣き出しそうな程潤んでいた真帆の瞳がお星様のようにキラキラ輝きだした。
うん、やっぱりわかりやすい。
俺の選択は間違っていなかったと安堵したのだが、次第に真帆は頬を赤らめて俯き加減になってしまった。
あれおかしいな。真帆のこんな表情は非常に珍しい。
具体的には、修学旅行のときに見た表情と同じで、あれが最初で最後だった気がする。
俺、また無意識のうちに失言をしてしまっただろうか。
いや、いきなり手をつないだのがマズかったのか。
でも手をつなぐ程度なら先ほどまでずっとしていたことだし、そもそも真帆は俺に抱きつくことすら何の躊躇いもなく
やってのける傍若無人な性格なのだから、嫌がることはないだろう。
どうしていいのか分からずただ困惑していると、
「すばるん、ありがとっ!」
真帆は終始照れくさそうに、でも満面の笑みでお礼を返してくれた。
俺は安堵すると共に、この笑顔をしっかり守ってやらなければ、と心に誓うのだった。
「では真帆さま、遅くならないうちに帰りましょう。お車を手配いたしました」
「く、久井奈さんっ!?」
そこへ、真帆のお世話係のメイドさん、久井奈聖さんが突如現れた。
「やんばる、さんきゅー! すばるん、早く行こっ!」
「ちょちょちょっと待って! ミホ姉に伝えておかないと…」
母さんには後で電話連絡すればいいが、そろそろ仕事を終えて俺を連れて帰る予定のミホ姉には直接事情を説明した方がいいだろう。
「それでしたら、ご心配には及びません」
「はい…?」
「みーたんさまには私の方から、すばるんさまはお先にお帰りになったとお伝えいたしましたので」
それは実にありがたい。しかしもうひとつ問題点がある。
ミホ姉が帰り際に長谷川家にタダ飯をたかりに来てしまうと、俺がいないのを怪訝に思われてしまう。
心の中でそう考えていると、
「それから、みーたんさまは極めて多忙とのことで、今日はご自分のアパートで徹夜するとおっしゃっていました」
と続けた。
つまるところ、ミホ姉は今日は長谷川家には寄らないということか。
これで厄介ごとは全てなくなったので安堵して久井奈さんの運転する車へ乗り込むことができた。
…久井奈さん、あなたはエスパーですか。

269 :
それにしても、ミホ姉にしては珍しくちゃんと仕事をしているようだ。
いや、あるいは、放っておいてたまりにたまった仕事を一夜漬けで片付けようとしているのかもしれない。
俺も人のことを言える立場ではないが、いつも真帆には早く宿題を済ませるように言っている教師がこの惨状では、あまりにも説得力に欠ける。
ミホ姉の身内として、クラス全員に謝罪したい気持ちで一杯だ。

「ねーすばるん、今日も200本シュートするから、まほまほの凄いシュートしっかり見てね!」
「はは、わかったよ」
そんな話をしているうちに、車は広大な敷地面積を誇る三沢家へ到着した。
俺はひとまず真帆の部屋まで案内され、久井奈さんは食事の準備へ向かわれた。
外は雷雨なのでさすがにコートは使えないと思ったのだが、そこは風雅さんのことだ。
コートに屋根でもつけたか、屋内にゴールを新設したか、いずれかであることに疑いの余地はない。
それならいっそ、恵まれた環境下、真帆と共に俺も汗を流すことにしよう。
ところで、紗季の話では、真帆の部屋はいつも足の踏み場がないほど散らかっており、
普段は温厚な久井奈さんによく叱責されているとのことだったが、部屋はおおむね綺麗に片付いていた。
なんだかんだ言いつつ、これも久井奈さんが片付けたのだろう。
勉強机に無造作に置かれた教科書や横に掛けてある赤いランドセルはいかにも小学生らしくてかわいらしいが、
おとぎ話のお姫様でも驚愕するようなどでかいベッドは、およそ小学生の部屋にあるべきものとは思えない異質なオーラを漂わせていた。
そんなオーラが原因か、はたまた、ここが女子小学生の部屋であるという一種の背徳感からか、どうにも居心地が悪かった俺は、
食事までの間バスケの練習をしようと真帆に提案した。

270 :
連投規制危ういのでここで終わります
次は数日後に書き込みます。
次回:女子小学生の部屋に一人きりの昴が…

271 :
まずはランドセルを漁るんですね。
あれ、でも慧心ってランドセルでしたっけ?

272 :
>>271
あ、そうでしたっけ?
いやー、小学生って言ったらランドセルしか思い浮かばないw
では続きです。
そんな連続シュート無理だろって突っ込みはなしで。

273 :
「よっしゃー、さくっと200本シュート決めるぜ!」
屋内に設置されたゴールに移動するや、真帆はやる気満々という面持ちで毎日欠かさず行っているという200本シュートを始める。
ここは、お手並み拝見といこう。
「えいっ!」
次々とゴールに収まるボール。
フォームは智花と比較するとやや固いのだが、それでも抜群の精度でゴールを射抜いていた。
「すごい、すごすぎる…」
速いペースでポンポンとシュートを決める真帆に少しばかり驚嘆しながら、俺はシュートを見つめていた。
そして、なんと、真帆のシュートは失敗することなく…、
50本を越えた。
俺を「コーチ」に引き留めるために、智花が何度も挑み何度も失敗した、あの50本連続シュートを、真帆はいともたやすく決めて見せたのだ。
俺はそんな真帆のシュートにとにかく見惚れていたのだが、徐々に真帆の表情が強張ってきた。
「ぐっ…」
シュート練習というのも意外と過酷なもので、ここまで休憩なくハイペースでシュートを放ち続けていた真帆は汗だくで、息遣いも荒くなっていた。
フォームもぎこちない上に、ジャンプには力が入っておらず、膝や腕の伸縮もままならない。
練習やトレーニングを続け、毎日朝晩の200本シュートも欠かさなかった上に、もともと体力には定評のある真帆だが、苦痛で表情が歪む。
全身を動かして放つジャンプシュートに拘っていることと、連続記録は失敗できないという極度のプレッシャーも伴い、予想以上に体力を消耗しているようだ。
ボールの軌道も不安定となり、これまでゴールの中心を射止めていたシュートは徐々にブレ始めた。
そしてそのブレに対処しようとすると余計に、無駄な力が、力みとなってスローのときに大きく体へ負担をかけている。
いかん、こんな「手打ち」シュートでは。俺は意を決して叫ぶ。
「真帆、もっとジャンプを滑らかに! 膝をしっかり使って!」
「すばるん!? よ、よっしゃー、おりゃー!!」

274 :
俺がいきなり強い口調で発したアドバイスに少し驚く真帆だったが、すぐに理解し、力を振り絞る。
驚異の80本目が綺麗に決まった。
すごい。言葉では表現できないほどすごい。
80本連続なんて、コーチである俺でも、一生達成し得ないのではなかろうか。
「はぁ、はぁ、とぉっ!…あっ」
しかし、真帆は疲労困憊。腕が、足が、思うように動かないのだろう。
84本目にてとうとうボールはゴールに嫌われた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
「よく頑張ったよ真帆、83連続ゴールとか、こんな大記録、そうそう生まれないよ!」
ヨレヨレの真帆を精一杯労ってから休憩を促すが、真帆はそれを無言で拒否し、再びボールを握った。
あまり無理をしても体に良くないのだが、瞳からは確かな闘志が伺えたのでここは真帆の頑張りを買ってやろう。
そして、俺も――ややスパルタな檄を飛ばして真帆を鼓舞し、日課の200本シュートを見届けた。
予想通り、その後のシュート成功率は散々だったが、この過酷な練習を途中で投げ出さずに頑張る真帆を見て、ついつい頬が緩んでしまった。
なお、念のため言っておくが、俺がドSという訳では断じてないぞ。
「ぐあぁーーー、ちーかーれーたー!! オニキョーカンすばるんのせいでむっちゃつかれた〜〜!」
「はは、ごめんな真帆。あんなに連続でシュートを決めるもんだから、俺もつい熱中しちゃって。許してくれ」
「へへ、そーだろそーだろ! でもさーすばるん、すばるんは何も悪くないのにいちいち謝りすぎっ!」
「え、ご、ごめんなさい…」
「ほらそれっ!」
うむ、先ほどまでとはまるっきり立場が逆転してしまった。
しかしながら、確かに何かとすぐ謝るのは俺の悪い癖かもしれない。
それを小学生に教わるとは何とも情けなく、またしても謝りたくなってきてしまった。

275 :
「真帆さま、すばるんさま、大浴場の準備が出来ておりますので、ご利用ください。
その後ご夕食とさせていただきます」
真帆の練習を見届けたタイミングで、久井奈さんが現れた。
“大”浴場という言葉に一般貧民の俺は壮大な違和感を覚えながら、久井奈さんのお言葉に甘えることにした。
「すばるんさま、今日はお忙しい中、真帆さまのために時間を割いていただいて心より感謝いたします」
「いえいえ、こちらこそ何から何まで…。食事も質素なもので構いませんので」
「いえいえ、すでにフルコースの準備を整えておりますので、ご遠慮なくお楽しみください」
「は、はい…」
そんな話をしながら、浴場まで案内してくださった久井奈さんに精いっぱいお礼をし、俺は三沢家自慢の大浴場を堪能した。
なんでも、今日のお湯は別府温泉から取り寄せているとかなんとか…。
ところで、真帆のご両親すらいらっしゃらないのに、部外者の俺がフルコースをいただいてバチでもあたらないだろうか。

入浴を終えた俺は真帆の部屋に戻る。
ここで待機するようにと言われたのだが、なんというか、女子小学生の部屋に男子高校生が一人で待機するという、
何とも滑稽な画が出来上がってしまったのだった。
うむ、何かの手違いでこの光景がミホ姉の目に入れば、
盛大な誤解を伴い世にも恐ろしい事態が待ち受けていることだろう。
ミホ姉のことを想像して身震いをしていると、突然
ぱ〜りらぱりらぱ〜りら♪
真帆の携帯に着信があり、仰天しすぎてすっ転んでしまった。
音のする方へ向かうと真帆の携帯は、いかにも最新式というようなパソコンのすぐ横に置いてあった。
まあ俺としては勝手に他人の電話に出るつもりなんて一切なかったのだが…。
とりあえず、真帆ともあろうお嬢様が近ごろ話題のスマートフォンよりもフィーチャーフォン(普通の携帯電話)
を選んでいることに少しだけ疑問を抱きながら、折りたたまれた携帯の外部ディスプレイに映る着信相手の名前を見る。
そこには「やんばる」と表示されていた。
あれ、久井奈さんから着信?
何故だろう。同じ家の中にいながら電話をするというのは一般常識では考えにくい。
いや、ここが三沢家だと考えればあり得ない話ではないのかもしれないが、
久井奈さんは真帆に付き添ってお風呂に行ったはずだ。
それならば今は真帆と一緒にいるはずだから、真帆の携帯に電話をかけるのは不自然である。

276 :
だとすれば。あらゆる思考を巡らせて至った結論。
何らかのアクシデントが発生して俺に助けを求めているのかも。
まずい。本当に何らかの非常事態があったとすれば、俺にも危険が接近している可能性がある。
いや、それ以上に真帆が心配だ。
真帆の笑顔を守ってやると心に誓ったばかりなのに、俺の対応次第では手遅れになってしまう可能性だってある。
これは、迷っている暇などないではないか。
覚悟を決め、電話を手に取って通話ボタンを押そうとした瞬間、電話は切れてしまった。
参ったな、掛け直した方がいいのだろうか、などと考える暇もなく、再び携帯が鳴り出した。
相手はまたしても「やんばる」。
もはや疑う余地もなく、何かしらの緊急事態なのだろう。
慌てて通話ボタンを押す。
「久井奈さん、何があったんですかっ!?」
「真帆、アンタいつまで…」
あれ、おかしい。聞こえてきたのは久井奈さんの声ではない。
でも聞き覚えのある声だ。というかこの声、紛れもなく…
「さ、紗季っ!!!!???」
「は、長谷川さんっ!!!!???」
「あ、あの何で紗季が…?」
「あ、あの、それはこちらのセリフと言いますか、その、ええと…、し、失礼しますっ!!!」
「え、ちょ、ちょっと!」
電話は向こうから切られた。あーもう、訳がわからない。
少なくとも、久井奈さんからの電話ではないようだった。
「す〜ばる〜んっ」
と、このタイミングで真帆が部屋に戻ってきた。
俺は混乱しすぎて呆然と真帆の携帯の待ち受け画面を見つめていた…。
「ん? あ〜〜〜〜!! すばるんなに人の携帯勝手に見てんの〜〜っ!」
「えっ…? あ、いや、その、これは、ええと、あの………」
「むぅーー、信じらんないっ! 早く返して!」
真帆が光速で俺の手から携帯を奪い取った瞬間、ようやく俺は我に返った。
真帆の様子からして、俺は真帆がいない間に、こっそり携帯を盗み見しようとしていたと誤解されてしまったようである。
真帆は鬼の形相で俺をにらんでいる。なんにせよ、とにかく謝らなければ…。

277 :
支援

278 :
とりあえず今回はここまでです。
273の名前ミスりました(汗
次回:真帆と昴、仲良く二人きりの時間…!?
真帆「うにゃっ!? ちょちょちょっとすばるん、そ、それはダメぇぇぇっ…!」
昴「なんで? 自分から見せてあげるって言ったくせに」
真帆「や、やっぱりダメ…」

279 :
保守

280 :
あれ、ここ落ちてなかった?

281 :
保守

282 :
ho

283 :
su

284 :
u

285 :


286 :


287 :
ho

288 :
shu

289 :


290 :


291 :
to

292 :
no

293 :
ri

294 :
tsu

295 :
ke

296 :
テスト

297 :


298 :
shu

299 :
あれ、ここ落ちてなかったっけ?
というかそれ以前にPC故障で書けなくなったけど復活しました。
>>276の続き、需要あれば投下します

300 :
読みたい

301 :
>>299てちーさんご存命!?需要ありまくりです!!

302 :
また故障かな?楽しみなのに

303 :
>>300-302
あらら、思ったより人いますねw
今日はご勘弁いただきたいので、数日以内に投稿します。
ふと読み返したら、真帆がガールズトークでやたら漢字使ってて違和感…
あ、チャットじゃないからいいか!

304 :
>>303てちーさん降臨!全裸正座するほうがいい?半裸?

305 :
>>304
SSスレとかでよくあるこの流れは何なんですかね?w
服は着てくださいww
とりあえず、今から続きを投下します
なんかやたらと期待されてるみたいだけど、そんな良いもんじゃないっす
おかしい部分があったら各自で補完や脳内修正よろしく

306 :
その後の弁解・釈明・土下座による謝罪にはかなりの時間を要したのは言うまでもない。
「ぎゃははははははっっっ!!」
俺が“盗み見”をした正当な理由を知った真帆は文字通り“大爆笑”し始めた。
「本当にごめん。でも、真帆に何か危険が迫っているかもしれないと思ったら放っておけなくてさ」
「はは、すばるんはシンパイショーだなー。でもまあそーゆーことなら許してやんよ!」
「どうもありがとうございます…」
安堵したのもつかの間。
「あーでも! オトメの携帯を勝手に見たのは本当だから、すばるんにはあたしの願いを一つ聞いてもらいます!」
「うぇっっ!?」
「なんだよーそのイヤそーな反応はっ!」
「ははは…」
実を言うと、俺も言い返したい点はあるのだ。
先ほど偶然見てしまった真帆の携帯の待ち受け画面は“砂のお城に埋もれて教え子にくすぐられながら苦悶の表情をしている俺の写真”だったのだから。
あれは真帆の別荘で合宿をしたときに、諸事情により俺が受けた罰ゲームを撮影した写真だ。
なぜだ、真帆は一体なぜそんな写真を待ち受けに選んだ?
女バスメンバーの集合写真とかならともかく、俺の何とも情けない顔がドアップで写り込んでいる写真をなぜ…?
できれば今すぐ、この手で削除してやりたい…!
それに、真帆のお願いとか嫌な予感しかしない。
いつも予想の斜め上を行く真帆の発想には苦労し続けてきたのだ。
ましてや真帆の本拠地であるこの部屋で、一体どんなお願いをしてくることやら。
しかしながら、理由はどうあれこれは俺が蒔いた種だ。
仕方なく真帆の要求を呑むことにしよう。
「それで、真帆のお願いって?」
「きしし、それはまだナイショ! さーすばるん、今日はやんばるがフルコース用意してるんだって! 早く食べに行こ!」

307 :
マズい。相当マズい。いや、料理がマズいのではなく、真帆の要求が何なのか未だに分からないのがマズい。
真帆の何か企んでいそうなあの表情、やはりとてつもない要求をしてくるに違いない。
そのせいでせっかくのフルコースもほとんど味が分からないまま食事を終えてしまった。
まあ、キャビアとかフォアグラとか、もともと俺に全く縁のない食材が次々と登場したので、正常な思考でも味は分からなかったのかもしれないが。
さて、夕食中に真帆に話を聞いたところ、紗季からの着信が「やんばる」となっていた理由は、真帆が寝ぼけて紗季の連絡先を消してしまい、
再登録時に再びねぼけて「やんばる」と入力したからということらしい。
なんともお粗末な…。
むむ、それならこの一連の騒動の原因は真帆ではないか。
何故俺が、真帆の要求を呑むハメになるんだ。
とばっちりとはまさにこのことだが、今更真帆に文句を言うのもオトナゲない。
ここはグッと堪えよう。いや、オトナゲはあるけど。

夕食を終え、真帆の部屋に戻った俺は早速、要求が何なのかを聞いた。
「じゃあ、いい加減教えてくれないか、真帆のお願いっていうのを」
「いいけど、その前にちょっと待って!」
そう言うと、真帆はパソコンを起動して何やらキーボードをタイプし始めた。
「へへ、すばるんこれ見るの初めてだよね、ほら見て!」
真帆に言われるがまま、俺はパソコンのディスプレイを覗き込む。

308 :
☆SNS Log Data
「真帆、いつになったら来るのかしら 紗季」
「真帆ちゃん今日は遅いね、何かあったのかな? あいり」
「それが…さっき真帆に電話したら、よくわかんないことが起きて… 紗季」
「真帆、雷をすっごく怖がってたもんね 湊 智花」
「ええと…それもだけど…、もっと重要なことを真帆に聞きたかったんだけど… 紗季」
「おー、だいじなおはなし? ひなた」
まほまほがログインしました。
「おまたー! いやー、きょうはみんなごめんなっ! まほまほ」
「真帆、早く説明しなさい。 紗季」
「ほえ? なにを? まほまほ」
「とぼけないで。何でアンタの携帯に電話したら長谷川さんが出たの? 紗季」
「え………、昴さんが!? 湊 智花」
「おー? まほの携帯、おにーちゃんの携帯ととりかえっこ? ひなた」
「さあ、早く説明しないとトモが発狂しちゃうわよ 紗季」
「ふぇぇぇぇええっ!? な、な、何で私なの〜っ? 湊 智花」
「と、智花ちゃん落ち着いて! 真帆ちゃん、私も理由知りたいな。 あいり」
「まーいろいろあってさー、カンタンにゆーと、すばるんはきょうあたしんちにおとまりすんの! まほまほ」
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!! 湊 智花」
「あぅ、真帆ちゃん家に長谷川さんが…? あいり」
「は…………? 紗季」
「ぶー、まほずるい。ひなもおにーちゃんとお泊まりしたい ひなた」
「まー、すばるんをヒトリジメするのもなんだし、まほまほがゲキシャしたすばるんのヒゾーシャシンをうpしてあげるからたのしみにしておきなさい、はっはっは! まほまほ」
「………秘蔵…!? 湊 智花」

309 :
「ね、ねえ真帆、突然変な話になるけど、修学旅行のあとに私とチャットしたときのこと覚えてる? 紗季」
「んー? あんときむっちゃねむくってなにはなしたかおぼえてないなー まほまほ」
「長谷川さんのこと、どう思ってるのか、とか話したじゃない。 紗季」
「えーそーだっけ? じゃあさじゃあさ、みんなはどうおもってんの、すばるんのことっ。まずもっかん! まほまほ」
「ふぇぇぇっっ!? どうって…、わわ私は昴さんはとてもバスケがお上手で優しくて頼もしくていつか昴さんのような素敵なバスケ選手になれたらいいなぁって…ふぁう… 湊 智花」
「ふふ、トモ、それ長谷川さんが聞いたら大変なことになるわね。 紗季」
「きしし、そういうサキさんはどーなんでしょーね? まほまほ」
「わ、私は…。長谷川さんにはいつもコーチとしてお世話になっていただいているから、そ、その、素敵な方だと思ってるわ。 紗季」
「おー、ひなもおにーちゃんがだいすき! あいりは? ひなた」
「え、わ、私っ!? も、もちろん長谷川さんは私たちにとって大切な方で、水泳まで教えてくだって…あぅ… あいり」
「くふふ、これはこれは面白いことになりそうだな… まほまほ」
「??…ね、ねぇ真帆、まさかとは思うけど、長谷川さん、これ見てらっしゃるの…? 紗季」
「あったりまえじゃん! なんだよいまさら! まほまほ」
湊 智花がログアウトしました。
「ってもっかんにげるなーっ!! まほまほ」
「あ、あ、あの、私………、おやすみなさいっ! あいり」
「あの長谷川さん、失礼な発言をしてしまって申し訳ありません。どうかお気になさらず。おやすみなさい。 紗季」
あいりがログアウトしました。
紗季がログアウトしました。
「ちぇーみんなノリわるいぞまったく。なーヒナ まほまほ」
「おー。おにーちゃん、ひなとお話しよ? ひなた」
「よーしじゃあヒナ! これかr まほまほ」
「ごめんねひなたちゃん、もう遅いから今日はおやすみ(長谷川 昴) まほまほ」
「おー、おにーちゃん? わかった、ひなも眠いから、おにーちゃんのいうことききます。おやすみなさい。 ひなた」
全員ログアウトしました。

310 :
「うにゃっ!? ちょちょちょっとすばるん、そ、それはダメぇぇぇっ…!」
「なんで? 自分から見せてあげるって言ったくせに」
真帆は顔面を紅潮させ、瞳を潤ませながら上目遣いで俺に制止を求める。
珍しく恥じらいを見せる少女に、俺はますますその欲求を強める。
「や、やっぱりダメ…。は、恥ずかしいから……」
「はは、そんなに恥ずかしがることなんてないよ、俺だって見てみたいし」
「な、なんでだよー、見てもいいことないからさ、ね、ね?」
普段の真帆が見せることのない表情に、俺の好奇心が少しばかり良心を追いやった、そんな気分でやや強引ながらできるだけ真帆を諭してから、
パンパンに膨れ上がったファスナーに手をかける。
「中間テストか。国語39点、社会35点、算数に至っては10点…うん、さすがに酷いなこれは…」
「うーー、すばるんのいじわるぅっっ!!」

さて、ここまでの成り行きを説明することとしよう。
SNSでの会話を見せられた俺は、夜更かしをしない程度なら何も問題ないだろうと5人の交流を眺めていた。
しかし、真帆の質問から智花たち3人が続々ログアウトをするのを見て少し混乱してしまった。
まだひなたちゃんと会話をしようとする真帆から半ば強引にキーボードを奪い取り、ひなたちゃんにログアウトを促す言葉を入力してエンターキーを押下した。
隣でブーブー喚いている真帆に、話題転換とばかりに強引に話を振る。
「な、なあ真帆。それで、お願いって言うのは…?」
「あ、そーだったそーだった! すばるんに見てほしい物がある」
そう言うと真帆は勉強机の引き出しから、ファスナーつきのファイルを2つ取り出して、片方を俺に渡した。
「ん? これは?」
「あたしのちょー優秀なテスト! ほら、見て見て!」
ちょー優秀とな。ふむ。
以前、真帆のロッカーに入っていたテストを見てしまったことがあるが、あれは正直、酷い点だった。
「まああたしの点が良いのはユーメーなんだけどさ!」
自慢げな真帆をみて猜疑心を強める俺だったが、とりあえずファスナーを開けてみた。
「国語小テスト10点満点、社会小テスト20点満点、ほお、頑張ってるんだな」
国民的猫型ロボットアニメに登場するメガネの少年に匹敵する点数だけは回避してほしい、と真帆には大変申し訳ないことを考えていたのだが、実際は意外にも、想像をはるかに超える高得点だった。
“小”テストばかりだったが、ほとんどが満点、悪くても8割以上の点が取れている。
それも、真帆が苦手にしている暗記系科目で。
真帆もちゃんと努力して勉強しているんだという証拠を見せられ、俺は今までの真帆に対する偏見を詫びなければならないと深く反省するのだった。

311 :
待ちわびたぁ!

312 :
「点が良いのはわかったけど、これが真帆のお願い?」
そう尋ねると、少しうつむき加減に真帆は続けた。
「なんていうか、その、すばるんに見せたら褒めてくれるかなーって」
なんと、真帆のお願いと言うのは、俺に褒めてもらうことだったようだ。
もっととんでもない要求をするのかと思っていただけに拍子抜けだが、真帆の努力の跡はしっかり見たので、別に真帆からお願いされるでもなく褒めてあげたい気分だ。
すぐさま、真帆の頭に手を置いて撫でながら、ねぎらいの言葉をかける。
「えへへ…」
嬉しそうに、でも照れくさそうに、真帆はモジモジと俺の手の感触を確かめているようだった。
なんだか今日の真帆は、いつにもまして甘えん坊というか、照れ症というか…。
いつもの真帆らしくないのが少し気にかかるのだが、真帆がいかにも幸せそうな表情をしているので、追及は無しの方向にしよう。

…とまあ、こんな具合でトラブルも特になく平和な時間を過ごしていたのだが…。

先ほど見せてもらったファイルは小テスト用らしい。
テストをファイルに入れてきちんと整理したのは久井奈さんだろうか。
それとも勉強にも熱意が沸いてきたとおぼしき真帆自身だろうか。
いずれにせよ、几帳面に自分の成果を整理するのは大切なことだ。
俺はそのまま、もう一方のファイルも見せてもらおうと手を伸ばす。
どういうわけかこのファイル、今にも張り裂けそうなほどパンパンにテストが収納されている。
テストの回数的には定期試験よりも、小テストの方が多いとも思うのだが。

…という流れで、俺はほぼ全ての問題にバツ印が書かれて、添削で真っ赤になっているテストを山ほど見ることになり、現在に至る。
なるほど、「小テスト」と「定期テスト」に分けているのではなく、「良い点」と「悪い点」で分けて整理した結果、悪い点のテストの方が圧倒的に多くなったという訳か。
うむ、真帆のロッカーで見た点数は、伊達ではなかったようだ。

313 :
「ね、すばるんもういいでしょ…?」
「ん、これだけ見せて」
依然涙目で俺からテストを取り返そうとする真帆に断りを入れて、俺はふと目に入った体育のテストを手に取った。
俺が小学生のときに体育のペーパーテストなんてした記憶がないので、非常に興味があった。
「お、『バスケットボールのルールについての問に答えなさい。』か。どれどれ」
俺が真帆たちのコーチに就任したばかりの頃は、男バスとの試合までの時間の無さなどを理由に、ほとんどバスケの知識を教えなかった。
その時より格段に強くなった真帆の、バスケの知識は果たして。
「すごい、全問正解じゃないか! 偉いぞ真帆」
「えー、そんなん当たり前じゃん。すばるん、あたしがバスケを中途半端にやってるとか思ってる?」
精一杯褒めたつもりだったのだが、真帆はやや不機嫌そうに応じる。
「そんな訳ないじゃないか。真帆は一生懸命バスケをやっているよ。それはコーチの俺が保証する。
でも、俺はほとんどバスケの知識を教えていないのに、テストで全問正解するなんて、とっても頑張ったんだなと思って」
自他ともに認めるバスケバカの俺としては、教え子がバスケの技術も知識もどんどん吸収していることが心底嬉しかった。
またしても真帆の頭に手を置いて撫でてやる。
「何か一つでも一生懸命になれることがあるのは、素晴らしいことだと思うよ」
すると、真帆は少し俯いて小声で言う。
「おかーさんにも、やんばるにも、ついでに紗季にも、バスケを頑張るのはいいけど、他の勉強もしっかりしなさいって、いつも怒られる。
すばるんはどー思う? あたしの悪い点数見て、すばるんも『勉強しなさい』とか『バスケばかりに熱中するな』って、怒る?」
何だか真帆の表情が一気に曇ってきた。
もしかしたら、いつもは真帆に従順な久井奈さんですら、さすがにこの点数には反感を覚え、せっかく頑張って小テストで良い点を取った真帆を褒めてあげられなかったのかもしれない。
頑張ったのに、誰も認めてくれない、そんな寂しいことがあってたまるか。
「確かに勉強は大切だから、それをおろそかにしてはいけないと思う。でも、本当にバスケが好きで、楽しくて仕方がないなら、時にはバスケだけに集中するのも良いんじゃないかな。
それで勉強時間がちょっとだけ減ったとしても、俺は絶対に怒らないよ」
そう告げると、真帆は感極まったように瞳を潤ませて、俺に力一杯抱きついてきた。

「でも。」
「…へ?」
「この算数の点数、さすがに酷い。せめて平均点近くまでは…」
「だってだって、ちょうど苦手な範囲だったんだもん! バスケみたいに、ゴール決めたら2点とか3点ってハッキリしたルールだったら簡単なのにっ!」
「はは、確かに。よし、じゃあ次の算数のテストで平均点以上取れたらご褒美をあげよう。
そうだな、何か一つ、真帆の願いを聞いてあげるよ。ただし、俺ができる範囲でな」
「うえっ!? すばるん本当にっ?」
「ああ。ただし、俺ができる範囲でな」
※大事なことなので二度言いました。
再三言っているが、ことに真帆の場合、突拍子もない要求を突きつけてくることがあるので「俺ができる範囲で」という条件は必須事項なのだ。
「でもちょっと待った! さすがにあたしだってちょっとベンキョーすれば平均点位取れるって! 決めた! 紗季に勝ったらってことでどう、すばるん?」
「え、紗季に? 真帆がそれでいいならいいけど、あの紗季と勝負するの?」
「だからこそ燃えるんじゃん!」
正直、勉強は基本的に紗季に教えてもらう側の真帆が、その紗季本人を超えると言うのは少し無謀に思えた。
とはいえ、一度やると決めると最後まであきらめないのが真帆だ。
このやる気と負けん気、ぜひ見させていただこう。
ただ、後から考えると、紗季に断りもせず決めてしまったのは申し訳ないと思ったのだが。

314 :
連投規制につき今日はここまで。
続きは後日です。
感想とか意見があればぜひお願いします!
次回:真帆と昴の濃厚(?)な夜…。

315 :
>>314乙!素晴らしい!

316 :
連投規制の仕組みがイマイチ理解できてないにわかですが、続き行きます
文章の区切り方とか、段落分けとか下手だなーと自分でも思いますが、
大目に見てください…

317 :
ところで、真帆が俺をここに呼んだ理由は、雷雨に起因するものだとばかり思っていたが、もしかしたら、密かに成績について思い悩んでいたのかもしれない。
その辺りの悩みは専門家であるミホ姉の方がうまく対応できるだろうと思ったが、俺を頼ってくれたのは、バスケへの想いで通じるものがあったのだろう。
それに、教師側ではなく真帆と同じ立場の学生側の俺に意見を求めるのは、理にかなっているのかもしれない。
正直な話、決して勉強は得意ではない俺が偉そうに言える立場ではないことは重々承知だが、それでも、俺がいることで
真帆の悩みや寂しさを少しでも解消できるなら、それはとても光栄なことだ。
「すばるん、あたしさ、バスケがすっげー好き。みんなでするバスケがすっげー楽しい。
みんなで試合に勝てたときよっしゃー!ってなる気分がサイコーって思うんだ」
「うん、その気持ち、よく分かるよ」
「それから、同じチームなのに紗季とかに抜かれたらすんげー悔しいし、今度はぜってー勝ってやるって思う。でも…。」
真帆は一旦言葉に詰まったので、なるべく穏やかに続きを促した。
「でも?」
「…もっかんには何をしても勝てなくて、悔しくて…」
真帆はチームのエース智花を心から信頼しているし、技術の高さも知っている。
それだけでなく、そもそも真帆がバスケに興味を持ったのも、智花のプレーに魅了されたからに他ならない。
それゆえに、当面のライバルである紗季のみならず智花を越えたいという負けず嫌いの一面は練習でも隠すことなく披露している。
ただし、俺の知る限り、バスケにおいて智花に真剣勝負を挑んで“勝った”ことはない。
この点については、真帆も相当な悔しさを持っているのだろう。
そんな吐露を聞いて、俺は言葉に詰まる。
大きな目標がそこにあるのに、目の前に見えているのに、何度手を伸ばしても一向に届かない。
もしそんなもどかしさが真帆の心の中にあるとすれば、今後何度も訪れるであろう“さらに大きな壁”にぶつかったとき、真帆は挫折してしまうかもしれない。
挫折はバスケを辞めることを意味する。
それはだめだ。コーチとして、俺には真帆を勇気付ける義務がある。
「確かに智花はすごい。でも、真帆には真帆にしかない武器がある」
「あたしにしかない武器?」
慎重に言葉を選んで紡ぎ出した答え。それは真帆にプラスに働くだろうか。
「ああ。それは…元気の良さだ。これは確実に、智花にはない真帆の武器さ」
「…。」
しかし、真帆の反応は芳しくない。
俺としては自信をもってそう断言したつもりだったのだが。
「活気のないチームは暗くなって、試合運びにボロが出やすい。
些細なことで仲間割れも起きる。それに、劣勢になったとき、立ち直れない。
でも今のみんなはそんなことには決してならない。それは、真帆がいるからだよ。」
そう言ってさらに、つい最近確信できた新たな武器もあることを付け加える。
「それに、フリースロー。今日の真帆のシュート練習を見て思った。今の智花になら、勝てると思うよ」
敢えて“今の”智花と言ったのは、智花も日々努力し成長していることを真帆に伝えておきたかったからだ。
「本当? あたし、もっかんに勝てる?」
「うん、きっとね。」
「絶対に?」
「ああ」
何度も同じ質問をする真帆に、俺は何度も同じ答えを返したのだった。

318 :
とはいえ、真帆が智花にこだわるのはなぜだろうか。
親友であり、かつ、よきライバルという関係は漫画やアニメなどでお馴染みだが、何か他にも理由があるのだろうか。
興味本位で聞いてみることにした。
「目標があるのはいいことだけど、どうしてそんなに智花に勝ちたいの?」
「……」
俺の予想に反して、真帆は黙ってしまった。
もし、触れてはいけない話題に触れたのなら、また真帆を怒らせてしまうと思った俺は、
「言いたくないことなら言わなくても良いんだけど…」
と付け加えた。すると、真帆は今度は慌てて口を開いた。
「だって!……もっかんに勝てる位強くなれたら、すば…………」
途中で言葉に詰まる真帆。
言うか言うまいか、迷っているような表情で逡巡した後、言葉を続ける。
「だって!……もっかんに勝てる位強くなれたら、………今度のミニバス大会でもアッショーできるじゃんっ!」
何か、言い換えたような感じもするが、そこは気のせいということにしておこう。
それにしても、何とも真帆らしい理由だな。
この意気込みこそ重要。
俺もコーチとして、初めての大会に向けて精一杯努力しようと決意した。

しかしながら、そんな俺は知る由もなかった。
このときの何気ない真帆との会話が、俺の知らないところで壮絶なドラマを生むことになろうとは…。



夜も更けてきたので、そろそろ寝る時間だ。
もっとも高校生の俺にとってはまだ早い気がしたのだが、ここは小学生の家だ。
夜更かしは厳禁である。
と、ここにきてようやく重大なことに気づく。
そう、俺が寝る場所は…。
「すばるん、そろそろ寝よっ、すばるんの枕はこっち!」
「ぇ…」
予想的中。大きな真帆のベッドに枕が2つ用意されているのは単なる偶然ではなかった…!
大人4人が横になってもまだスペースが余るほど大きなベッドだが、小学生の女の子と同じベッドで夜を明かすなんて………どう考えても無理だ!!!
豪邸の真帆の家なら空き部屋の一つぐらいあると考えたが、それだと俺がここに来た意味がないことを思い出す。
「いやいやいや、大丈夫、俺は床で寝るからっ!」
「えーなんで? すばるんはお客さんなんだから床なんかダメだって!」
「そそそんなベッドに俺なんかが寝るなんて贅沢すぎるから!」

319 :
何とも苦しい言い訳で阻止をしようとするが、真帆が引き下がるはずもなかった。
「何わけわかんないこと言ってんのさ、ほら早く」
俺の言い訳をあっさりかわすと、今度は俺の手を引いてベッドに誘導しようとする。
「ま、待ってくれ真帆、さすがにこれはマズい…!」
「ほえ? 何が? あっ、そーかそーか! あたしが“ミリョクテキなジョセイ”だからキンチョーしてんのか! きしし」
「いや、そうではなくて…あ、真帆が“魅力的ではない”と言っている訳ではなくて…」
「何ブツブツ言ってんのさー。早く早く」
引いていた手をようやく離してくれたと思ったら、今度は俺の背中を両手で押して、是が非でもベッドへ連れ込もうとする、いや、押し込もうとする。
徐々に近づくベッド。参った。誰か助けて…。
こうして、土俵際に追い込まれた力士のごとく、一杯いっぱいのところで抵抗を試み続けた。
しばらくして、俺の背中を押す真帆の力が徐々に弱まり始めた。
真帆も疲れてきたか、しめた!などと呑気に考えていた俺は、深く後悔することとなる。
その後、真帆は俺の背中を押すことをやめた。
しばしの間、部屋は静けさに包まれた。
さすがに怪訝に思い、俺は後ろを振り返ってみた。
そこには、壁によりかかりながらうなだれる真帆の姿があった。
「………すばるんは、あたしと寝るのがそんなにイヤ…?」
真帆は体を震わせながらこう問うてきた。
これはやってしまった…!
真帆の目には、俺が真帆と一緒に寝ることが嫌で仕方ないというようにしか映らなかったようだ。
そうじゃないんだ真帆。俺は慌てて弁解した。
「ぜんっぜん嫌じゃないよ! でも、ほら、何かの間違いでミホ姉とかにバレたら大変じゃないか!」
「何で? 今日はみーたん忙しいって言ってたじゃんか! それに、バレるって何っ? バレたら困るようなこと、すばるんがするわけないじゃん!」
「………。」
真帆から感じられる不思議な威圧感に、俺はもう言い返す言葉もなくただ立ち尽くす。
真帆と同じベッドで寝ること自体が、ミホ姉に処刑される原因となるのだけど、真帆はそれを理解してくれない。
もっとも、真帆はまだ無垢な小学生なのだから、それを理解させるというのが無理な話だ。
ああ、いっそこのまま夜が明けてくれないだろうかと神に祈っていると、真帆が震えた声を絞り出した。

320 :
「キャンプの…ときもみんなと一緒に…寝たの…に、あた…しと…一緒…に寝…る…のは…嫌…だっ…た…?」
細切れで言葉を発する真帆の足元にはポタポタと“水滴”が落ちてきた。
下を向いているので顔は見えないが、さすがに、こういう状況に疎い俺にもわかった。
間違いなく、真帆は泣いている。
しかも、盛大な誤解をしている。これはもう、とにかく、いろいろとヤバい。
何にせよ俺は最低だ。理由はどうあれ、小学生の女の子を泣かせてしまうなんて。
でも、どうしたらいいのか全くわからない。
この際寝床のことはどうでもいいから、早く真帆に落ち着いてほしい。
どう声をかけてどう慰めるか、そしてどうやって謝罪するか。全く思いつかない。
だから。
ぎゅっ
「すば…るん…? ひっく…」
俺は真帆を精一杯抱きしめた。
子どもをあやす父親のような心境で、とにかく真帆には泣き止んでほしかったから。
いつものひまわりのような笑顔を早く取り戻したかったから。
そして何より、その笑顔を守ってやろうと誓ったはずの俺が、笑顔を奪うなんてできないから。
「ゴメン真帆。俺は真帆のことを嫌っているわけじゃない。むしろ、真帆が俺のことをそんなに信頼してくれて、とっても嬉しいよ。
真帆は俺にとってとても大切な子だから。ね、もう泣かないで」
「しゅば…りゅんっ…へへ」
それを聞いて、真帆は俺の胸で涙を拭い、笑顔を見せてくれた。
瞳はまだ潤んでいたが、本当に輝かしい笑顔だった。
やはり今日の真帆は感情豊かというのか、情緒不安定というのか、どこかいつもと違う雰囲気があった。
その雰囲気の正体が何物なのか俺には見当もつかないが、俺が真帆のそばにいてやることでいい方向に作用するのであれば、それを躊躇う理由はないのだ。
結局俺は真帆と同じベッドで寝ることになった。
気はのらないが、やむをえまい。
そんな俺の苦悩など知る由もなく、すっかりご機嫌になった真帆は、ベッドに入るや否や、俺を抱き枕か何かと勘違いしているのではないかという程にピッタリ密着して寝息を立て始めた。
…うん、いろんな意味で、俺は全く眠れそうにない。
俺の首筋辺りに真帆の吐息がピンポイントで降り注ぎ、腰の辺りは真帆の両足でがっちりロックされている。
こんなに広いベッドだから、ギリギリ端まで寄って寝ればいいと高を括っていた俺に、真帆はアスリートにとって重要な睡眠時間を与えてくださらなかった。
みんなも、女の子を泣かせるのはやめようね。ダメ、絶対!

321 :
翌朝。
結局ほとんど寝付けなかった俺は真帆を起こさないように注意しながら、帰り支度を整える。
そういえば、寝付けなかった割には、誰かに無理やり写真を撮られる夢を見たような気がする。
きっと、真帆の携帯の待ち受け画面が頭から離れないのだろう…。
久井奈さんがすぐに車を準備してくださったので、今日は真帆とお別れだ。
何だか名残惜しさを感じながら、真帆の部屋を出る。
これから家に帰れば、いつも通り智花との朝練が待っている。
「すばるん様。この度は真帆さまの為に時間を割いてくださり、心よりお礼申し上げます。」
俺が廊下に出ると、久井奈さんが現れた。昨日と同じ文言を俺に伝えた久井奈さんは、どこか清々しい表情をしていた。
「真帆さまは、普段の感謝を伝えるため、すばるんさまをご自分の部屋へご招待するのだと張り切っておられました」
「へ…? 真帆が…?」
「はい。その上、もっとすばるんさまに褒めてもらいたいと、毎日のシュート練習の量を増やされ、ご自分で部屋の掃除もされました。
せめて小テスト位はいい点を取ってすばるんさまを見返してやろうと、勉強もご自分から進んでおやりになっていました」
そうだったのか…。俺は真帆の気持ちを全く考えもせず、自分勝手に行動していた。
だから、真帆はあんなに辛そうに涙を流したのだ。
わがままだったのは、他でもない俺自身だったのかもしれない。
「万一、すばるんさまに失礼な言動を真帆さまがされたとすれば、私が代わりに謝罪いたします。この通りでございます」
「いえ、謝るのはこちらの方です。真帆がそんな風に考えていたなんて俺は全く気づかず、真帆を傷つけてしまいました。本当に申し訳ありません」
「さようでございますか。しかし真帆さまは、とても喜んでおられると思いますよ」
「だと良いんですが…」
真帆の俺への気持ちに感激していると、その本人の声が響いた。
「あ、いたいた! すばるん、やんばるー!」
真帆が、元気いっぱいなのに眠そうな表情という、何ともギャップのある状態でこちらに駆けてきた。
「真帆? どうしたの?」
「すばるんひどい〜! 何で起こしてくんないの? 今日はあたしもすばるん家で朝練するっ! ね、いいでしょ?」
「はは、分かったよ。でも真帆、早起きは苦手じゃなかった?」
「そーだけどさ、あたしだって早起き位できるもん!」
そう言っていた真帆だったが、長谷川家への帰路、車内で爆睡する真帆を見て、俺はクスクスと笑ってしまった。
おそらく、真帆がこんなに早起きしたことはないのだろう。
長谷川家に帰ればすぐに朝練をする予定なのだから、今くらいは眠っててもらってもいいかな。
昨晩一緒に寝たにもかかわらず、見る機会がなかった真帆の寝顔を、俺はしばらく眺めていたのだった。

322 :
今日はここまで。
あ、タイトル変えるの忘れてました、お許しを
次回:昴の部屋をあさる真帆、智花も共犯…!?昴の人生終了のお知らせ…!?
タイトルの「智花vs真帆」の回収はまだ先です(汗)

323 :
>>322乙っす!盛り上がってきました〜!

324 :
あけおめです
今年もロウきゅーぶ!をよろしくです(謎の宣伝)
新年に見てる人いるか分からないけど、続き書きます

325 :
家に到着すると、既に智花が玄関で待っていた。いつもの時間より20分以上早いが、それだけ気合が入っているのだろう。
「おはよう、智花。今日は早いね」
「ふぁぅ…す、昴さん…、おおおおはようございますっ!」
あれ、どうしたんだろう。今日の智花はどういう訳か、かなり緊張しているようだ。
「おっはーもっかん!」
「真帆…! お、おはようっ!!」
遅れて登場した真帆に一瞬驚いたようだが、今日は真帆も一緒に…という説明もするまでもなく、すぐに状況を理解したようだ。
真帆に挨拶を返して笑った。
「あ、あの昴さん。えっと、その、き、昨日のこと…気になさらないでください、その、私、…」
「昨日のこと? ええと、何かあったっけ?」
もしやSNSのことかな? あのときは混乱していて、智花たちが何を言っていたかなんて全く覚えていないのだが。
「ふぇぇっ!? あ、あの、ご存知ないなら、その、何でもないですっ!」
「きしし、すばるん。もっかんはねー、SNSですばるんのこと素敵…もがっ!?」
「ま、真帆っっっ!!!」
慌てて真帆の口を封じる智花。
なんだかよくわからないけど、今日の練習は賑やかになりそうだ。
早速、二人と共にロードワークを終え、俺のスクープショットの練習に付き合ってもらった。
真帆が「あたしにも教えてっ」としつこく懇願してきたこと以外はこれと言って問題もなく、珍しい3人での朝練をいつも以上に賑やかに終えたのだった。
智花と真帆にシャワーを先に浴びるように促し、俺は自室で待機することにした。
あ、そうだ。母さんに真帆の分の朝食も用意するように−−−言わなくても、母さんのことだから大丈夫か。

☆ガールズトーク〜長谷川家 浴室〜
智花「ね、ねぇ真帆、き、昨日はその…、昴さんが真帆のお家に泊まったのって本当だよね…?」
真帆「もっちろん! すばるんと一緒に寝て、あたしの恥ずかしいモノも見られちった!」
智花「ふぇぇぇええっっっっっ!!!???」
真帆「ん? そんな驚くことないじゃん。あそっか、もっかん羨ましいんだなー!」
智花「ち、違っ……………!!」
真帆「そういえば、昨日のSNSで『昴さんダ・イ・ス・キ(ハート)』とか書くのかなーって期待したのに、もっかんったら何も言わずにログアウトしちゃってつまんない! すばるんも見てたのに」
智花「………書きません書きません書きません…昴さんが見てなくても書きませんっ!!」
真帆「でもいーなー、もっかんはすばるんと毎日練習できてさー」
智花「え…? 真帆も朝晩、シュート練習してるんだよね?」
真帆「まーそーだけどさ。あ、そーだもっかん、今度さ、あたしとフリースローで勝負しよっ!」
智花「へっ? 勝負? フリースローで?」
真帆「おうよ! あたし、もっかんに全然勝てないけど、フリースローだけならちょっと自信あるんだ!」
智花「へーそうなんだ。えへへ、勝負なら受けて立つよ! ぜひお願いします」
真帆「おっしゃー! じゃあ来週の土曜日はどう? あたしん家で勝負だ!」
智花「うん分かった。負けないよ!」
真帆「んじゃあさ、 勝った方はすばるんにコクハクするってことで!」

智花「……………………………………………ふぇ?」

真帆「なーんちゃって、くふふ、もっかん顔真っ赤!」
智花「あうぅぅぅ…真帆ひどいよぉ…」

326 :
俺もシャワーを終えてリビングに戻ったとき、ちょうど母さんが極上の卵焼きを仕上げ、食卓に並べてくれたところだった。
今日は真帆も加わり、より楽しい朝食になりそうだ…と思ったのだが、
「…………ふぁぅ」
智花の様子がおかしい。箸が完全に止まっているし、ボーっとしているし、俺の方をチラチラ見てくるし。
何せ顔が真っ赤だ。シャワーの浴びすぎでのぼせたのだろうか。
いや、ほぼ同じ時間智花と真帆は一緒に浴室にいたし、のぼせるほど長時間シャワーを浴び続けた訳ではない。
ならば、考えられることは。俺は智花のおでこに手のひらをあてる。
「ひゃうっっ!? す、す、すば、昴、さんっ!?」
「ご、ごめん。顔が赤いから熱があるのかと思って…」
「ふぇぇぇっ!? い、いえ、全然、大丈夫ですっ。ご心配をおかけして申し訳ありませんっ!」
いや、大丈夫という言葉に全く説得力がないのだが…。
とは言っても、本人が大丈夫だと言っている以上、何もできない。
朝食を終えても智花の体調が優れないようなら、ミホ姉に連絡を入れておくことにしよう。
しかも、智花がこの状態なのに真帆がニヤニヤと笑っていた。
そうか、智花が挙動不審なのは真帆のせいかと、およその見当はついたが、面倒なことにはしたくないので、俺は気にしてないフリで押し通した。

朝食を終えた俺たちはまだ時間に余裕があったので、部屋に戻って談笑していた。
智花の体調(?)も落ち着いたようだ。
「なあ智花はどう思う?」
「はい? 何のことでしょうか?」
「あれ、真帆はまだ智花に話してなかったのか。実は真帆が、昨日、フリースローを83本も連続で決めたって話」
「は、はちじゅうさんっ!?」
「さすがの智花でも驚くよなぁ」
真帆の偉大なる記録を智花にも知ってほしかった俺は、つい口を滑らせた。
すると、なんだか真帆がやや起こり気味に言った。
「んもーすばるん! それ話したらダメじゃんか!」
「へ? 何で」
「来週の土曜日、もっかんとフリースロー対決するの! 敵にあたしのジョーホー漏らすなっ!」
なるほど、これは少し申し訳ないことをしてしまったかも。
ともあれ、エース智花とクラッチシューター真帆のフリースロー対決とは、なんとも面白そうな企画だ。
俺もぜひ対決を見たいところだが、土曜日は諸用で観戦できないのが残念である。
久井奈さんに撮影でもお願いしようかな、と考えていると、真帆が俺の部屋をちょこまかと動き回り…いや、荒らし回り始めた…!
真帆よ、ここは俺の部屋だ! やめておけ!と心の中で唱える。

327 :
「ま、真帆! 勝手に昴さんの私物触っちゃダメだよ!」
どうにも真帆を止められない俺の意を汲んで、智花が注意をしてくれる。
智花、ナイスアシスト!
毎日一緒に練習しているだけあって、俺と智花の無言の意思疎通はもはやお手のものだ。
「もっかんだって、毎日すばるんのいない間にベッドの下とか押入れの中とかいろいろ調べてるくせに!」
「そんなことしてませんしてませんしてません…!」
あろうことか今度は智花が濡れ衣を着せられてしまっている。
これは真帆に教育的指導だ!と思ったのだが…、真帆は絶対に触れてはいけないアレを手にしてしまった…!
「うわっ!? ま、真帆! それは開けちゃダメだ!!!」
「えーなんで? すばるんだってあたしのテスト無理やり見たくせにー!」
「ぐっ…それは、そうだけど…でもこれだけはダメだっっ!」
俺はバスケの時よりも俊敏な動きで、真帆から厳封された袋をスティールすることに成功した。
「ちょーあやしい!! あたしが見つけたんだからあたしのもんだ! 返せー!」
何という無茶苦茶な理論だ!
……と言いたいところなのだが、実を言うとこの中身は、男子高校生の部屋には本来存在しえない、“真帆が身につけているべき物”なのだ。
もちろん、俺はそれらを望んで保管している訳では断じてない。
そういえば、前にも似たようなことがあったような。あれは夏休みの最終日で…って、そんなことを考えている場合じゃない!
とにかく、今ここでアレを真帆に直接返す訳にはいかない!
とりあえず真帆の動きを止めるよう、智花にアイコンタクトを送る。
しかし、その智花すら真帆の言葉に翻弄され、何か考え込んでしまっている。
「もっかんも知りたいよね? すばるんの隠してるあやしーモノ」
「ふぇぇぇっ!? わ、私はそんなこと…ふぁぁ……」
一瞬のスキを突き、俺に迫る真帆。
壁際に追い詰められる俺。もう逃げ場はない。

かくして、俺の人生に終止符が打たれ…

「昴さんっ! パスです!!」
「おっ智花! ナイス!!」
間一髪。智花が両手を広げてパスを要求してきたので、すがるような思いでそれに従う。
さすが我がエース。
チームの危機を救ってくれるだけでなく、俺の命の危機すら救ってくれる、まさに恩人である。
「よーしもっかん! その袋開けちゃえ」
「えっ、でも…」
「だいじょびだって。すばるんからもっかんへのプレゼントだってきっと」
袋が智花に渡ってすっかり安心した俺は、ふぅと息を漏らして、真帆の興味をどうやってあの袋から逸らせるかを考えていた。
名案は浮かばなかったが、ふと時計を見ると、もう少しで智花たちも俺も学校に行かなければならない時間だ。
しめた。あとは智花が数分の時間稼ぎさえしてくれれば。
……あれ?
ビリビリ…。
時間が止まるという表現は、まさに今この瞬間のために作られたような気さえする、そんな大惨事が起きていた。
……あろうことか、他でもない智花が、袋を開封しようとしていた……!

328 :
「ちょ、、とも、、か、、?」
「あ…ごごごごめんなさいっっっ! つい出来心で! あの、何とお詫びをしたらよいか…ほらっ、真帆も!」
「うぇー、もっかんが開けたのになんであたしが謝るんだよー!?」
いわゆる絶望の眼差しで智花を凝視すると、俺の視線に気づいた智花が慌てて袋に再度封をしようと試みる。
そして土下座して、さらに真帆にも土下座をさせて俺に謝り始めた。
ええと、この際智花の謀反はどうでもいい。問題は、中身を見られたかどうかだ。
「あ、あの、昴さんの大事な物、勝手に開けてしまって、その、私、本当に申し訳ありませんっ!」
「そそそんなに謝らなくて大丈夫だから! と、とにかく顔上げて!」
智花を落ち着かせてから、遠回しに中身を見たかどうか尋ねてみたところ、どうやら“ふんわりしたもの”という程度しか認識していないようだった。
はあ、よかった。一時はどうなるかと思ったけれど、すっかり安心できた。
「ちぇー。修学旅行で無くなったあたしのパンツでも出てきたら面白かったのに」
「っ!!!!!」
心臓が飛び出た。いや、本当に飛び出たわけじゃないけど、表現としてはきっと間違っていないレベルだった。
もしや…バレてる!? しかも、本人に!?
「真帆っ! 昴さんに失礼だよっっ!!」
「あはは、ジョーダンだってもっかん。そんな怒んなくてもいいじゃん…」
どうやら冗談らしい。はあ、よかったよかった、本当によかった。
ただ、俺を信頼してくれているためか、智花は珍しく鬼の形相で真帆を叱っていた。
ごめんな智花、その信頼に応えられなくて、と内心で詫びる。
口が裂けても声には出さないが。
こんな具合で、真帆がこの部屋にいるのは危険すぎる。
一刻も早く追い出すことしか頭になかった俺は、通学カバンに例の袋を突っ込んだまま家を飛び出てしまったことを、学校に着いてから思い出した。
バカか俺は。今、教室の俺の席に置かれているカバンの中には真帆のパンツが存在しているのだ。
袋に包まれてカバンに入っているので、そう簡単に人にバレることなんてないのだが、言うまでもなく今日はいつもの練習の何倍も汗をかいた。冷や汗を。
これで荷物検査でもあったら今度こそ本当に人生終了速報が流れるところだった。
まったく、どこの国に女子小学生のパンツを学校に持参する男子高校生がいるって言うんだよ…。

329 :
ちょっと今回少ないですが、きりが良いのでここまでです。
原作にも、同じようなネタが出たので思いっきり被ってます(汗)
次回:算数のテスト、勝ったのは真帆か、紗季か?

330 :
乙ANDあけましておめでとうございまっほー!

331 :
>>329乙!まほまほマジまほまほ

332 :
続きいきます
最近、ロウきゅーぶの原作を読んでないので、
ラノベとアニメで微妙に違ってる部分(時系列とか)や、
人名の漢字とかが思い出せなくて困ってますw
くいなさんとかみほしとか毎回忘れるorz

333 :
人生最大の危機を乗り越えてからの俺は、なんとかこれまでと同じ生活をすることができた。
朝、智花と一緒に練習するのも、いつもの日課である。
真帆との対決を今週末に控えた智花は、普段より早く俺の家に来て、シュート練習をするようになった。
なんだか懐かしい光景だった。
智花が50本連続でシュートを成功させたらコーチ継続、という賭けをしたこともあったものだ。
あのときは、他の4人も智花に頼りきりだったと言って過言ではないが、今ではそれぞれが、重要な戦力になっているのだ。
「調子はどう、智花?」
「はい、とっても良いです!」
そんな会話を交わしつつ、天使の翼が生えたようなフォームでシュートを放つ智花に見惚れていると、あっという間に時間が経ってしまう。
この時間がいつまでも続くといいなと心から思った。
それにしても、わずか数日の間に、一体何球のボールがゴールに吸い込まれたのだろうか。
毎日の長時間の練習による智花の疲労も気になるところだが、本人はいたって元気そうなので、練習量については智花に任せることにした。
「俺は見に行けないんだけど、真帆との対決、健闘を祈ってるよ」
「はい、ありがとうございます!」
「よし、それじゃあ今日はこのくらいにしようか」
俺が片付けを始めると、智花が急にうつむきながら、
「あ、あの、昴さん…」
と消え入りそうな声で話しかけてきた。
先ほどまでの元気はどうしたのだろうか。気になった俺はすぐさま言葉を返した。
「どうしたの、智花?」
「いえ、あの、その…、昴さんにお願いしたいことがありまして…」
この様子だと少し言いにくいことなのかもしれないので、
「いいよ、なんでも言ってごらん」
とやさしく聞き返した。
「わ、私が真帆に勝ったら、その…、私のお話を聞いてほしいんですっ!」
思わず“そんな簡単なことで良いの?”とか“お話ならいつもしてるじゃないか”とか聞き返しそうになったが、
智花が懸命に伝えてくれたお願いなのだから、余計なことを言わず「了解」とだけ答えた。
「ありがとうございます。私、がんばります!」
とはいえ、お話というのが何なのか気にはなる。
いろいろと思考を巡らせた結果、おそらく、負けた方は罰ゲームという取り決めを真帆としていて、俺にそのヘルプを頼むということだろうと、俺の中で勝手に結論付けた。

334 :
☆ここから語り手は智花視点になります
真帆ったら、昴さんに告白なんて…。
数日前、真帆が冗談めかして言った言葉が頭から離れない。
気にするまいと思えば思うほど、気になって仕方がない。
真帆は、それをどういう意味で言ったんだろう。
もし、冗談ではないのなら、真帆は昴さんのことが――
私は昴さんに、「真帆に勝ったらお話を聞いてほしい」と勢いで言ってしまった。
「お話」って何なんだろう、なんて何度も自問自答するが、それが「告白」を意味するということ位、自分でも分かっている。
恥ずかしくて告白なんてできるはずもないのに、昴さんには、真帆に勝ったら告白しますと暗に約束したようなものだった。
私は何で、こんなことを言ってしまったのだろうか。
――やっぱり、私も…。
昴さんの背中を流したり、昴さんのベッドで寝たり、恥ずかしかったことがたくさん浮かんできた。
でも、真帆はいつも、どんなことも恥ずかしがることなくやってしまう。
だから、もし私が負けてしまったら…。
そう思うと、決心は早かった。真帆に勝つ。絶対に。
そしてもう一つ、自分へ条件をつけた。
それは、昴さんが褒めてくださったシュートしか使わないということ。
いつものジャンプシュートだけで、真帆に挑むことにした。
真帆は大切な親友だけど、バスケでも負けるなんて、絶対に嫌だから。

☆ここから語り手は紗季視点
「そんな…」
おかしい。あり得ない。そして、すごく悔しい。
決して侮っていた訳ではないけれど、真帆が算数で私よりいい点を取るなんて。
まさか、カンニング!? いや、いくら真帆でも、そんな非常識なことはしないはずよね。
事の発端は、真帆の家に長谷川さんが泊まったという日の翌日、みーたんが目の下にクマを作って、明らかに寝不足という酷い顔で私たちの教室に現れたときに遡る。
「ぎゃははっ! みーたんひっでー顔!」
「コラ真帆っ! 失礼でしょ!」
真帆を咎めながらも、私も内心笑いを堪えていたりした。というか、クラスのみんながそんな感じだった。
でも、みーたんの次の一言で、クラス全体が凍りついてしまった。
「みんな、本当に申し訳ないが…、これから慧心学園一斉テストを始める。算数だけ、来週に行う」
慧心学園では年に一回、全校一斉で学力検査を行う。
検査日程は教師のみが把握し、生徒には一切告知せず抜き打ちで行われる。
みーたんは算数のテストの制作を任されていたけど、すっかり忘れていたらしい。
前日の職員会議で指摘されて思い出し、徹夜でテストを作ったのだけど、結局間に合わなかったという。
その反面、いつも難しいみーたんの算数のテストだけ1週間延期されたのは私たちには好都合だった。

335 :
今日は算数を含めた、全てのテストの返却日。
結果が返却されて、クラス内が一斉に騒がしくなり始めた。
どのテストもまずまず自信があったのだけど、その結果には予想と異なることが二つあった。
一つは得意の国語でミスをして100点を惜しくも逃してしまったこと。
もう一つは…。
「93点! ま、真帆ちゃんすごい! こんな点数取っちゃうなんて。私、計算が遅くて時間が足りなくなっちゃったよ」
「真帆って前回の算数のテスト酷かったって言ってたよね? すごく勉強したんだね。私も頑張らないと」
「おー。まほ、おりこうさん(ナデナデ)。ひなの点数、まほのはんぶんくらいしかない。むねん」
真帆に、算数のテストで負けるなんて、生涯で初めての屈辱だった。
「で、サキはどーだった? 算数のテスト」
真帆が私の答案を覗き込もうとしたので、慌てて机の中に隠した。
「なんだよー! 自分だけ見せないなんてずるいぞー!! もしかして学級委員のサキさんともあろうお方が赤点!?」
他の教科では全部、私が真帆より圧倒的に上だったのに、何故?
でも、さすがに赤点なんて噂を流されては困る。
「はぁ。赤点ではないけど。ほら、91点」
「うおーーーっ! サキに勝ったぜーーい!!」
あまり良い気分ではない私は、真帆に少し突っかかり気味に言った。
「それで。あんなに勉強嫌いの真帆が、算数だけこんなにいい点なのは、どういうカラクリ?」
「むっか〜! カラクリってなんだよー! 一生懸命頑張った結果じゃんか!」
「そ、そうだよ紗季ちゃん。何かその言い方だと、真帆ちゃんが悪いことしたように聞こえるよ」
私は、本気で怒りだした真帆に思わずたじろいだ。
その上、普段控えめな愛莉に間に入られて、私がただの負け惜しみを真帆にぶつけているだけだと気づかされた。
ここは潔く、負けを認めるしかない。
「…真帆、愛莉、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの。今回は私の負けだわ。
でも、次は負けないから。真帆、また勝負しましょう」
「おう! 望むところだ!」
悔しい事には変わりないけれど、真帆の頑張りが長続きさえしてくれれば次のテストでも面白い勝負ができそうだわ。
ふふ、見てなさい真帆。
「そんなことより! みんなにお知らせがありまーす!」
あっという間にテストから興味を逸らして、真帆が何やら発表を始める。
「今週の土曜日に、あたしともっかんでフリースロー対決をしますっ! みんな見に来てねっ」
私とテストで勝負したと思ったら、今度はトモとバスケで勝負とは。相変わらず落ち着きがない。
「トモと真帆がねぇ。真帆、勝算でもあるの?」
「はっはっは! 勝つ自信があるからフリースローにしたのだ!」
これまでの練習を見てきた限りでは、トモに勝てるほどのフリースローの精度を、真帆が持ち合わせているとは思えない。
それでも真帆から感じられる自信は一体…?

336 :
どうも最近、真帆は何事にも全力で取り組むようになった気がする。
一つのことに集中できずにすぐ飽きていた真帆をよく知る私としては、少し複雑な心境。
でも、それだけ真帆が成長してくれているなら、私も嬉しいのだけど。
それと、看過できないもう一つの変化。
真帆は修学旅行以来、長谷川さんに…。
私の考えすぎだとは思うんだけど―――
「そんでさ、勝った方はすばるんにコクハクするんだ!」
―――えっ?? これって…。
『ええぇっっっ!!??』
みんながみんな、声を揃えて仰天してしまう。
「おー、おにーちゃんにこくはく? おもしろそう」
「と、智花ちゃん、本当なのっ…!?」
「ふぇぇぇっ!? わ、私はっ…こ、こ、告白なんて…そんなこと……ふぁぁ…」
「ちょ、ちょっと真帆! アンタ何てこと考えてるのよ!」
もちろん、真帆お得意のいつもの冗談だと思った、いや、冗談であって欲しかった。
でも、
「ほえ? サキさんチョー必死ですなー。」
「…っ!? そ、そんなことは…」
「心配しなくたって、もっかんが勝つに決まってんじゃん! あはは!!」
「さっきと言ってることが違うじゃない!」
笑ってごまかされたけれど、真帆の口から「冗談」という言葉は出てこなかった。
長年付き合ってきた仲なのだから、真帆の気持ちはよく分かっていたつもり。
修学旅行の帰りの新幹線で、長谷川さんのことを話す真帆は明らかにいつもと様子が違っていた。
でも、それをもっと問いただしたとき、真帆はいわゆる“おこちゃま”で、恋愛なんて興味なしだとわかった…はずだったのに。
じゃあ、さっきの真帆は? トモをからかっているだけなの?
もしもそういう気持ちがあるのだとすれば、もはやこれはトモだけの問題じゃない。
トモには失礼だけど、順当にトモが勝っても、きっと極度の緊張で告白なんかできないと思う。
でも仮に、万が一、何かの間違いで、もし真帆が勝つような下剋上が起きてしまったら…。

真帆とトモが対決をするという土曜日になった。
長谷川さん以外、女バス6年組が真帆の家のバスケットコートに勢ぞろい。
5人でいることはいつも通りなのに、いつもとは違う異様な雰囲気が漂っていた。
なぜなら、対決が予想以上に本格的だから。
最初に5人で話し合って、ルールと役割を決める。
本来は5人全員で対戦をしたいところだけど、今回は真帆の強い希望により、トモと真帆の一騎討ちのみとなった。
私と愛莉は審判、ひなは自ら望んで久井奈さんと応援兼ボール拾いを買って出た。

337 :
☆湊 智花vs三沢 真帆 フリースロー対決特別ルール

・フリースローは各シューターが1投ずつ交互に行う。
・両シューターとも5投を終えた時点で、ポイントが多い方を当該セットの勝者とする。
・両シューターとも5投を終えた時点で同点の場合、以降は同数のシュートで一方が他方の得点を上回る状況になるまで1投ずつ延長し、上回った方を当該セットの勝者とする(サドンデス方式)。
・最大3セット実施し、2セットを先取した方を勝者とする。
・シュート時の動作に特に制限は無いが、シュート動作に入ってから、シュートを途中で止めることはできない。
・シュートは、審判からボールを受け取って5秒以内に打たなければならない。
・反則(バイオレーション)を犯したシューターは、そのターンのシュートを失敗したものとみなす。

338 :
今日はここまでです。
ただの自己満SSに付き合ってくださる方、本当にありがとうございます!
どうでもいいですが、私の好きなキャラトップ3は
1位 まほまほ
2位 もっかん
3位 ひなたちゃん
です。真帆の抱き枕、今でもお世話になってます。冬はあったか♪
次回:いよいよ始まるフリースロー対決。絶対に負けられない戦いが、そこにはある。

339 :
>>338乙。

340 :
つづきです
前半、地の文多めです。

341 :
いわゆるサッカーのPK戦のようなスタイル。
高度な集中力、精度、精神力が要求される、決して「自信がある」だけでは勝てないルール。
真帆の自信とトモの技術、勝つのは――。
「もっかん、あたしぜってー勝つから!」
「私だって負けないよ!」
さっきまでわいわい談笑していた2人はお互い挨拶を交わすと、眼つきを変えた。
闘志全開の真帆と、控えめに真帆を見つめるトモ。
この点では真帆に軍配が上がるけど、いざ勝負が始まれば人が変わったようになるのがトモだ。
勝負がどうなるかなんて、誰にもわからない。
じゃんけんの結果、先攻は真帆となった。
第1セット。
真帆は審判である私からボールを受け取ると、そのままジャンプしてボールを放った。
トモのジャンプシュートを模倣して編み出したフォームには、トモのようなしなやかさはないけれど、しっかりと芯が通ったムダのない動きでゴールを射抜いた。
「おー、まほかっこいい」
思わず声を出したひなに軽く自慢げな笑みを返す真帆。
次は、トモの番。
こちらも、お得意のジャンプシュートだった。
ふんわりと、でも力強く、羽根が生えたようなしなやかなジャンプでリングの中央を射抜いた。
すごい…!
やはり、トモのシュートは盤石だった。
3投目、真帆がバランスを崩したが、そのシュートは辛うじてリングを通過した。
それ以降、どちらも外さずあっという間に5本連続のシュートを決めた。
2人ともシュートの精度は抜群だった。
早くも9投目に突入。
土のコートのせいか、徐々に足場を気にし始める真帆。
自分の家の敷地なのだから、真帆には若干の地の利があると思ったのだけれど、さすがに考えすぎだったらしい。
そんな中、真帆は足元を気にしながらも、なお抜群の精度でシュートを決めた。
自信がある、と言っていたのは少なくとも嘘ではないようだ。
特に、真帆が先攻になったことで、その精度をトモに見せつけ、プレッシャーを与えるには十分だった。
それに、トモのバスケは性格に反して攻撃的。
そんなトモが、シュートをひたすら決めるだけという我慢比べのような戦いに、平常心でいられるかどうか。
案外この勝負、真帆に勝機があるかもしれない。

342 :
見てるよ!

343 :
シュートを決めるたび軽く笑顔とガッツポーズを見せる真帆と、真剣な表情を一切崩さず黙々とシュートを放つトモ。
2人の表情に違いはあれど、どちらも一向にシュートを外さない。
そんな中、局面は急展開を迎える。
真帆の12投目。
私から受けたボールをキャッチしそこなった。汗で滑ったのかもしれない。
ルール上は問題ないので普通にシュートを打てばいいのだけど、真帆はかなり焦って強引にシュートを打った。
その結果、ボールはリングに嫌われた。
悔しさを露に、拳を握って唇を噛む真帆。
落ち着いていれば何でもないことなのに、真帆の弱い部分が出てしまったようだ。
続いてトモの番。決めればこのセット、トモの勝利となる。
全員の視線を集める中、やはり表情ひとつ変えずにフリースローラインに立つトモ。そして。
「第1セット、トモの勝ち」
打った瞬間入ると分かるような、言葉で表現しきれない芸術的なシュートを決めて見せた。
その瞬間、真帆を一瞥したトモの表情がほんの僅かだけ緩んでいた。
コート中を掻き回してゴールを奪い取るような戦いができないこの対決で、トモが唯一見せた真帆への“挑発”だったようにも見えた。
それは真帆にも伝わったようだった。真帆の表情が険しくなる。
相手チームに挑発されて暴走してしまうのが真帆の悪い癖。
いつもは仲の良いチームメイトだけど、今はライバルであるトモの控えめな“攻撃”は、見た目以上に効果抜群だったみたい。
こんな時、決まって声を掛けていた私も、今は審判。
真帆だけにアドバイスしては公平性が失われるので、とにかく今は職務を全うしよう。
第2セット。
それは、あっけない幕切れだった。
真帆の1投目。
フォームだけは崩れず第1セットと同様にジャンプシュートを放った。でも。
「あ…」
先ほどのミスを引きずっているのか、ボールは、第1セットの精度が嘘のようにすっぽ抜けてゴールネット下方をカスっただけ。
えも言われぬ大失投だった。
「ぐっ……」
でも、まだ勝負は決していない。
5投目までに、トモがシュートを外す可能性だってあるのに、真帆は深くうな垂れてしまった。
「ま、真帆ちゃん…」
愛莉が真帆に声を掛けようとしたので、私が制止した。
愛莉の気持ちは分かるのだけど、ここは仕方ない。
愛莉も私の制止に理解を示し、そのままトモにボールを投げた。

344 :
トモの1投目。
ここで決めれば、これまでの精度から考えて、圧倒的にトモが有利になる。
トモは相変わらず表情を変えずに、飛び上がった。
綺麗な弧を描いたボールは――
「ぁ…」
――リング上を2周グルグルと回った末に、リングを通過することなく落ちていったのだった。
トモがこの対決で初めてシュートを外したのを見て最も驚いたのは、真帆だった。
「…え、もっかん…?」
「真帆、早く投げないと5秒経つよ?」
「へ? あっ! おりゃー!!」
驚いて固まっていた真帆にトモが笑顔で指摘すると、真帆は慌ててシュートを打った。
フォームも無茶苦茶だったけど、どうにかゴールに収まった。
トモったら…。
本人は隠そうとしていたけど、トモの“フェイク”はバレバレだった。
もちろん、バスケにおいてトモのフェイクはなかなか見破れないけど、“嘘をつく演技”という意味での“フェイク”はトモの最も苦手としていること。
いかにも、偶然シュートが外れたように装っているが、トモは間違いなく、“外れるシュート”を狙って打った。
その違和感は、真帆もはっきりと感じていた様子だった。
もっとも、リング上を2周回ったこともトモの計算の内なのか、定かではないけれど。
もしそこまで狙っていたのだとしたら、さすがに凄すぎる…。
こうして、1投目は両者失敗、それ以降は両者とも一度も失敗することなく5投を終えた。
あのトモの失敗が無ければ、トモが勝っていたことになる。
トモはなぜそんな行動をとったのか。
たとえ相手が長谷川さんであっても、ハンデを極度に嫌うほど負けん気が強い。
それなのに、この真剣勝負の中、1投目で失敗した真帆を不憫に思った?
それとも、真帆ともっと対決をしたかった?
いや、ただ単にトモの優しさなのかしら。

対決は一転、持久戦となった。
依然としてリングの中央を一寸の狂いなくズバッと射抜くトモに対して、真帆のシュートは徐々に軌道がブレ始めた。
トモが奇跡的に失敗しない限り、真帆が負けるのは時間の問題だと思われた。
しかし、決着の時は一向に訪れない。
そんな2人のシュートに魅了されて時間が経つのをほとんど忘れていた私たち。
…気づけばもう51投目を終えたところだった。
女バスメンバーではトモですら難しいと言われた、長谷川さんを引き留めた伝説の50本連続のシュートを、二人揃って成功させたのだ。
ここまでくれば、私も愛莉もほぼ審判という職を忘れて、2人を応援していた。
もちろん、ひなも、久井奈さんも。

345 :
トモは表情を変えないのではっきりとしないけど、まだ余裕があるようで、一方の真帆はいっぱいいっぱいという感じ。
「ジャンプを滑らかに、膝を使って…、おりゃー!!」
でも決して気を抜かない。
52投目、真帆は与えられる5秒を精一杯使って、独り言のようにフォームを確認しながらシュートを放つ。
これも決まる。
続くトモ。依然として綺麗なシュートを放った。
「っ…!」
と、突如トモから声にならない声が漏れる。
私から見たところ、シュートはこれまで通り綺麗に決まったように見えたのだけど。
「トモ、何かあった?」
「ううん、大丈夫だよ…」
本人が大丈夫と言ったので、私は中断せず真帆にボールを渡した。
53投目。
真帆は力を振り絞るためか、先ほどより大きな声で、何やら叫びながらシュートする。
「やーんばるーーーーーっっ!」
このシュートも決まった。
私たちは真帆の叫びに思わず吹き出したけど、トモは真剣な表情を貫いていた。
「っっ……!!」
続くトモは、またしてもしかめっ面で声を上げる。
真帆の叫びに笑いを堪えている…訳ではないようだ。
トモの表情が、どんどん険しくなる。
54投目。
「すーーーーばるーんっっ!」
真帆が今度は長谷川さんの名前を叫びシュートを決めた。
続くトモは顔をさらにしかめながらシュートを放った。
至って綺麗に決まったけど、シュートの後しきりに右手のひらを気にしていた。
「智花ちゃん…?」
「ご、ごめん、何でもない」
今度は愛莉が心配そうに声をかけるが、トモはそれを制止する。
さきほどから何かおかしい。トモは何かを隠している…?
55投目。
「みーたぁーーーーーんーぐあっ!!」
ここで真帆が見事に…
すっ転んだ。
それでも転ぶ直前までしっかりゴールを見据え、指の力だけでボールを放る。

346 :
ボールはリング前方にぶつかり上方に跳ね上がって――
「くっ………」
――そのままゴールの手前に落ちた。
あとはトモが決めるだけ。
これでトモの勝利が決まった。誰もがそう思ったのだけど。
トモの表情が酷いことになっていた。まさに“絶望的”、な表情だった。
トモが申告してこないので、対決を中断することもできない。
心配で目を潤ませる愛莉からボールを受け取ったトモは、その瞬間にまた顔をしかめた。
するとトモはそのままジャンプの体勢に入……らず、ワンステップ後ろに下がった。
え、ジャンプシュートをしない?
それからトモは左手を大きく突き上げた。
「スクープ…ショット…!?」
トモの手を離れたボールは大きな弧を描き、
ゴールに吸い込まれた。勝負あり。

☆ガールズトーク〜三沢家 真帆の部屋・おやつを食べながら〜
真帆「あはは、やっぱもっかんは強いなー、あたしなんかぜんぜんダメだったー」
智花「そんなことないよ、真帆だってとっても強かったよ! もうちょっとで負けちゃうところだった」
紗季「そうね。まさか真帆があんなに連続でシュートを決めるなんて、これっぽっちも思わなかったわ」
真帆「むっき〜! なんだよそのいーかた!」
紗季「それよりトモ、なんで右手の豆がつぶれたこと隠してたの?」
智花「だって、真帆があんなに頑張ってるのに、豆が潰れたくらいで諦めちゃったら、真帆に申し訳ないと思って」
愛莉「でも、智花ちゃんのスクープショット、とってもかっこよかったよ」
ひなた「おー、ともかのひっさつわざ、すごかった」
智花「そ、そうかな…? ありがとうね、愛莉、ひなた」
真帆「そだ、ねえもっかん、………」
智花「うん? なあに真帆?」
真帆「…いや、なんでもない! ささ、もっとたくさんお菓子とかケーキとかあるからどんどん食べて!」
ひなた「おー、真帆、ふとっぱら。いただきます!」
紗季「ひな、あんまり甘いもの食べ過ぎると体に良くないわよ」
愛莉「たしかに、甘いもの食べすぎたら太っちゃうかも…」
智花「え…それは嫌だなぁ…」
真帆「だいじょびだって! あたしたち、それだけウンドーしてるんだしっ!」
紗季「確かにそうね。次の大会に向けて、もっともっと練習しないといけないし」
智花「そうだね。みんな、がんばろうね!」
みんな『おー!』

347 :
>>342
どうもです
今日はここまで。
運動なんかまるでダメな私が書いたので、
バスケで「そんなことありえねー」みたいな内容があったらお詫びします
次回:敗れた真帆。その胸中を紗季にだけ明かす…。

348 :
ちょっと間が空きましたが、続き投下です。
自分のを読み返すと文章も語彙も稚拙で、
やっぱり小説家やラノベ作家の方って、表現の仕方が巧いなぁと感じる今日この頃です。

349 :
「はぁ…」
「何ため息なんてついてんのよ?」
「にょわっ!! さ、サキ、なんでいんの!? 帰ったんじゃ!?」
トモと真帆の対決を見ておやつをたくさんご馳走になった私たちは、また学校で会おうと挨拶して解散した。ただ、私はいろんな意味で真帆のことが気になったので、ちょっとだけのつもりで、真帆の行動を観察してみた。
すると真帆は、中庭の芝生に大の字になってため息をついていた。
「ふふ、トモに負けて落ち込んでるかと思って」
「そ、そりゃチョー悔しいけどさー、やっぱりもっかんってすごいなーって」
今回の勝負、客観的に見て、真帆が完全に劣っていたとは言い切れない。
あのトモにあそこまで太刀打ちできた真帆には、尊敬すら覚える。
私も真帆に負けていられないと心から思ったけれども、今聞きたいのはそんなことじゃない。
「それで、どうするの? 長谷川さんのこと」
ちょっと単刀直入すぎたかも、と思ったけど、真帆は質問の意味がよくわかっていないような呆けた表情で答えた。
「ほえ? すばるんのことって何?」
真帆の本心が知りたかったので、今度は丁寧に聞き返した。
「真帆は、長谷川さんのことどう思ってるの? ほら、この前のSNSで、私たちには聞いたのに、真帆だけ答えてないじゃない」
「あはは、だってすばるんにキーボードをゴーダツされちゃったからさー」
長谷川さんのことを聞かれても表情を変えずに淡々と話す真帆。
「それで、どうなの?」
「うーん、すばるんは、あたしたちを強くしてくれたんだし、すんげーかっこいいと思ってる! だからすばるんのことちょー好きだぜ!」
「…それは、トモとケンカしてでも、独り占めしたいくらいに?」
「だからなんでそーゆー話になるのさ? あたしもすばるんが好きだし、もっかんもすばるんが好き。そんなの今まで通りじゃん!」
私がかつて、真帆にチャットで聞いたのと全く同じ質問に、全く同じ答えを返した。
だから、あのときとは違う質問をぶつけてみる。
「じゃあ、トモと対決したのは何でなの?」
真帆の顔が、一瞬、本当に一瞬だけ、険しい表情になったような、そんな、気がした。
「だって、もっかんに勝てる位強くなれたら、次の大会でもアッショーできるじゃん! だから腕試しって感じ?」

350 :
単純に、真帆はトモに憧れている。
トモのバスケに惹かれて、自ら進んで部員を集めて部活まで作った。
だからこそ、圧倒的なバスケの技術を誇るトモより強くなりたいと純粋に思っている。
それは紛れもない事実だと思う。でも。
「本当に、それだけの理由?」
「へ? どゆこと? サキだって強くなりたいでしょ?」
「本当にそれだけの理由なら、なんで、長谷川さんへの告白を賭けたりしたの? 本当は、トモを倒して、長谷川さんに告白しようって、そんなふうに思ったんじゃないの?」
「っ……」
私は、真帆の目が少し泳いだ瞬間を見逃さなかった。
「そのためにシュート練習も増やして、いつも以上に頑張って、本気でトモに勝ってやろうって、思ったんじゃないの? 長谷川さんに抱きついたり、泊まりに来ていただいたり、真帆は最近長谷川さんに甘え過ぎだと思うわ」
何だか止まらなくなってしまった私は、これまで溜まっていたものを吐き出すように、真帆の話す隙も与えないほど早口で言い放った。
真帆は何も言わず、ただ空を見つめていた。
しばらくののち、真帆は消え入りそうな声で言った。
「そんなこと…サキだって、おんなじじゃん」
「えっっ!? ちょ、それどういう…」
真帆は体を起して、今度は強い口調で答える。
「サキだって、すばるんと一緒にいるとき、とっても楽しそうだし、とってもシアワセそうだし、それとおんなじ」
「っ……!?」
真帆の返答に、私は声が出なくなってしまう。
確かに、長谷川さんはいつも私たちに優しく指導をしてくださって、私たちのことを常に一番に考えてくださる。
だから、もっとバスケの練習をして、長谷川さんに認めていただける選手になれたら、それはとても嬉しいに違いない。
「あたし、みんなといる時もちょー楽しいけど、すばるんといるときもちょー楽しい。でも、もっかんみたいに毎日すばるんには会えないからさ、もっとすばるんと一緒にいたいなーって思うんだ。だから、ほんと言うともっかんがうらやましい」
自分から言うには割と恥ずかしいセリフを口にしているのに、これっぽっちも照れる仕草を見せずに素直な心の内を披露してくれた真帆を、少しだけうらやましく思った。だから。
「たしかに、私もそうなのかも」
私も素直に認めることにした。
きっと、愛莉もひなたも、この場にいたら同じことを言うと思う。
トモにはちょっとだけ、かわいそうだけど。
「それで、トモにはリベンジするの?」
「もっちろん! 今度はもっともっと練習して、フリースローじゃなくて1on1で勝負する! そんで、もっかんをテッテーテキに倒すっ!」
「ふふ、それはいいけど、ライバルはトモだけじゃないのよ。まずは次の大会で絶対優勝しましょう!」
「あったり前じゃん!」
こうして、私も真帆も、大会に向けてさらに老練することを誓ったのだった。

351 :
「あっ…」
「え、どうしたの真帆?」
不意に、真帆が何か思い出したように声をあげたと思うと、何だかとても小さい声で喋った。
「もっかんはすばるんにコクハクしちゃうのかなー…」
それを考えるの、今更過ぎるわ。
「ふふ、真帆ってそんなに長谷川さんに“愛の告白”をしたかったの?」
「うえぇっっっ!? い、いや、そそそんなんじゃないって! ただ、勝ったもっかんがどうすんのか気になっただけで……!」
あの真帆が、珍しく顔面を真っ赤にして否定する。
いつもトモを弄ってニヤニヤしている側なのが真帆なのに、今日は何だか新鮮。
「別にいいわよ、隠さなくって。そんなの真帆らしくないわ」
「別に隠してなんかないし! っていうかサキだって、すばるんにコクハクしたいんだろーっ?」
「えっっっ!? そ、そんなことないわよっっ!!」
ものすごく慌てた様子で聞き返してくる真帆に、私も何だか大慌てで答えた。
もう、私が取り乱してどうするのよ…!
「あ、そーだった! きしし、あたし知ってるぜ! サキとすばるんが、スポーツショップで手をつないでデートしてたこと!」
「うぶっっ!! ちょ、ちょっと真帆!! なんでそれ知ってんのよ!!??」
「さあ? どうしてでしょうねー? ぷくく」
「ま、雅美ね! 雅美から聞いたのね!! もうっ、あの写真は削除してもらったはずなのに、何で…!? でも違うわ! あれはトモの誕生日プレゼントを…」
「ぷくく、サキ顔まっかじゃん!」
「ま、真帆にだけは言われたくないわ!」

こんな会話も、楽しいことに変わりない。
長谷川さんがいて、トモがいて、真帆がいて、愛莉がいて、ひながいて。
この場所にいるのがとても幸せなことに変わりない。
だから、今を精一杯楽しめばいい。
今更ながらそんなことを、真帆に教わったような気がした。
久しぶりの真帆と二人きりの時間。
少し喋りすぎて、空は暮れかかっていた。私もそろそろ家に帰らないと。
最後に、一つだけ真帆に聞いてみた。
「もし真帆が勝ってたら、本当に告白したの?」
「まーー、勝てばね…」
少し残念そうに答える真帆を見て、それが本気だったことがより明確になった。
「じゃあ良かったわ、トモが勝ってくれて」
「へ?」
「きっと、緊張しちゃってできないわ、トモなら」
真帆には緊張とか、恥ずかしさとか、そんな感覚はなさそうだし。
「くふふ、そっかー! うーん、でもなー…」
「でも?」
「あたしでもキンチョーするかも。すばるんのこと話してると、なんかドキドキするっていうか、落ち着かないっていうか…」
聞けば聞くほど、真帆は重症というか、べた惚れというか、そんな感じだった。
とはいえこれで、真帆の長谷川さんへの想いは、本物であることが証明された。
ふふ、これで面白くなったわ。ライバルは多ければ多いほど燃えるもの。バスケも、そして、恋もね。
トモと真帆だけ先に行くなんて、私が食い止める!

352 :
短いですが、ここまでです。次は今夜か明日の夜にでも。
相変わらずアイリーンとひなたちゃんの出番少なくてすみません
次回:勝った智花、いつものように昴の家に朝練へ出かける。告白は…!?

353 :
GJ!2828が止まらないぜ

354 :
>>350で紗季視点なのに「ひなた」って書いてる。「ひな」に訂正。
では続き行きます。

355 :
(4)外接円の半径R…変数はcircumradius
a / sinA = 2R
R = a / (2 * sinA)
なので、プログラムでの計算式は
circumradius = lab / (2 * sin(theta));

356 :
>>355
ごめんなさい!!
思いっきり誤爆したwww
お許しを

357 :
☆ここから昴視点に戻ります。
「すごい…」
俺は、智花と真帆の真剣勝負を見ながら、良い意味で絶句した。
どんな歴史的な試合にも勝るのでは、という教え子たちの奮闘に、言葉も出せないまま、画面を食い入るように見つめていた。
テレビ画面に「停止」の文字が表示されてからもしばらく画面を見つめたまま余韻に浸り、動けなかった程である。
おそらく、久井奈さんがこのDVDを届けてくれたのだろう。
智花と真帆の対戦をノーカットで収録してあった。
ひたすらシュートを見守っていたせいか、智花と真帆のシュートシーンが勝手に脳内リピート再生されて落ち着かない。
表情ひとつ変えず勝負に徹した智花は、俺を虜にさせたあのシュートで真帆を追い込んでいった。
だが2セット終盤で、どうやら豆が潰れたのを隠したまま勝負を続けたようだった。
全てのスローをジャンプシュートで決めてきた中で、最後のスクープショットは痛む手を隠して勝負を決める苦肉の策だった。
そんな中でもシュートを決めた智花は、さすが、エースという感じだ。
明日の朝練は軽い運動にして、精一杯褒めてあげることにしよう。
一方の真帆も、俺の教えをしっかり実践して智花に食らいついていた。
そして、限界を超えた身体を奮い立たせるように、智花にはない“元気の良さ”で最後の力を振り絞った。
惜しかったな真帆。智花にスクープショットを教えていなければ、あのセットは真帆のものだったかもしれない。
こちらもしっかり褒めてあげなければならない。
さて、プレーヤーからディスクを取り出し、ケースに戻そうとしたところ、何やら見覚えのある筆跡の紙切れが入っていることに気づいた。
この元気の良い筆跡は、真帆のものだ。
すばるんへ
話したいことがあるので、明日の昼ごろ公園にぜーーーーったい来ること!!
まほまほより☆
真帆から呼び出しを受けてしまった。
ん? おかしいな。
以前勝手に妄想した罰ゲーム制度があるとすれば、勝った智花からお話があるはずだ。
なぜ真帆から…?
まあ、深いことは考えず、明日は真帆の呼び出しに応じることにしよう。
ただ、「昼ごろ」とは随分曖昧で困る。
せっかく昼に外出するのであれば朝練のときに智花も誘って、3人でフードコートで外食をしてもいいな。

358 :
翌日。いつも通り智花が俺の家に来たのだが…。
「おはよう智花」
「あ、あのあの、おは…」
「ええと、智花?」
何だか挙動不審な智花。
「す、しば、しゅばる…さん、どうもおはよう…ございま……すか?」
「と、智花? なんか日本語が……変…」
「ふぇぇぇっっ!? ごごごごめんなさいっっっ」
何というか、とにかく、智花がおかしい。
言葉でどう表していいのか分からないが、緊張にガクガク震えながら言葉もカミカミだ。
いつもは礼儀正しく挨拶をする智花を、むしろ年上の俺の方が見習わなければならないほどなのに、どうしてこうなった。
「あの、智花。体調が悪いなら無理しなくても…」
「い、いえっ!! 体調はとても良いんです!! だから、その、ええと…、私、しゅばる…、昴さんに、お、お話…したいことがその…ええと…」
あ、例の罰ゲーム制度かな? やはりものすごく言いにくいことらしい。
とりあえず、一旦落ち着いてもらいたい。
何か良い話題は無いだろうか…と考え、心配なことを思い出したので聞いてみた。
「そういえば、手の豆が潰れたんだよね? 今日はボール触るのやめておこうか?」
「あっ………そ、そ、そ、そうなんですっ。どうしてそれをご存じなんですか…?」
なんとなく、智花が一瞬がっかりしたような表情にも見えたけど、俺の気のせいだろう。
「昨日の真帆との対決、久井奈さんがDVDにして持ってきてくれたんだ。ずっとジャンプシュートをしていた智花が最後だけしなかったから変に思ってさ」
「そ、そうだったんですか!? さ、さすがです昴さん。映像だけでそこまでわかっちゃうなんて」
そして、2セット目でわざと外したシュートについて尋ねようと思ったけど、これは気づいていないフリをしておいた方がいいのかもしれないと考え、言葉を飲み込んだ。
「真帆との対戦、どうだった?」
「えっと、真帆は私が予想した以上にシュートがうまくなっていて、あとは運みたいなものでした。でも、どうしても負けられない理由があったので。」
痛む手で放つジャンプシュートと、もう一方の手で放つスクープショット。
成功する確率を考えた結果、後者にしたということだろうか。
智花の場合、普通に左手でも対応できそうだけど。
ところで。
「どうしても負けられない理由って?」
「ふぇぇぇぇっっ!? そ、それは…言えましぇん! いくらしゅば…昴さんの頼みでも、それだけは言えませんっ!」
ものすごい威圧感で拒否された。
いくら俺でも、そこまで拒絶されてはさすがにヘコむのだが。
それに、今日は何度も「しゅばるさん」と呼ばれている。
いくら噛んだだけだと言っても、こう何度も間違えられるといい気分ではないなぁ…。

359 :
とはいえ、別に智花が悪いわけではないのだし、まだ昨日の健闘を称えていないから、しっかり褒めてあげなければ。
俺は智花の頭に手を置いて、ナデナデさせてもらった。
「智花のシュート、相変わらず魅力的だったよ。きっとこれからも、チームを救ってくれるのは智花だ」
「ふぇぇぇっ!? み、魅力的なんて…そ、そんな…ふぁぅ…」
想いのままを智花に伝えると、噴火しそうなほど顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。
まあ、今日のカミカミ全開の智花よりは見慣れている表情なので、わずかに安堵したのだが…。
「あ、あの…それで、しゅば…」
「はは、智花、今日はカミカミだなぁ」
またしても智花は「しゅばるさん」と言いそうになったので、さすがに堪え切れず笑いを漏らしてしまう。
いっそのこと「はしぇがわしゅばる」に改名してしまいたい。
「はぅ…、ご、ごめんなさい」
「いいよ、気にしないで。それより、何か言いたいことでも?」
「ええと、そ…その…私………その、あの…あぅぅぅ……」
智花はまたしても言いにくそうに、言葉を途切れ途切れに発する。
「わ、私、その…昴さんの、ことが…その…す、す…」
うん、今度はちゃんと「昴さん」と言ってくれた。少し安心。
「す、す、す…昴さんのことが、その、す、す、昴さんのことがその、す、す、す……昴さんの……あぅぅ………」
そしてこの無限ループである。
俺が一体どうしたというのだろうか。
もしかして、また俺は無意識の内に智花を傷つけてしまったのだろうか。
「やっぱり無理ですっっっ!!!」
え…、ちょっと待ってくれ智花。俺のことが無理ってどういうことだ!?
やはり、俺は何か智花に対して愚行を働いたようだ。
心当たりは無いが、これは早いところ謝罪をしないと取り返しのつかないことになる。
「あっっっ! その、決して昴さんのことを『無理』と言ったんじゃないですっ! ごめんなさいっっ!」
と、先に智花が弁解を図ってくれたので、俺の早とちりだったことが分かり安堵した。
でも、それならば智花はなぜこんなにも、緊張しているのだろうか。
その後何度尋ねてみても、智花は顔を赤くしたまま黙秘してしまった。
何だかぎこちない朝食をとった後、俺はふと思い出して智花に聞いてみる。
「そうだ智花。今日はこのあと用事ある?」
「このあとですか? えっと、特には…」
「実は俺、昼に真帆に会いに行くんだけど、せっかくだから智花も一緒に昼食でもどうかなと思って」
「えっ真帆にっ…!? あ、あ、あの、私そういえば、昼からお茶のお稽古があったのを思い出したので、残念ですがお二人でどうぞ…!」
「そ、そう? まあ、それなら仕方ないか」
何とも焦った表情で断られたのが少し気にかかるが、お茶の稽古ならば無理に誘うわけにもいかないだろう。
ただ、昼からという割に智花は妙に慌てて俺の家を飛び出して行ってしまった。
いくらなんでも、今日の智花は不自然極まりない。
もし悩みでもあるなら、今度さりげなく聞いてみることにしようか。

360 :
☆ここから第三者視点。
自分でもよく分からない間に長谷川家を飛び出した智花は、しばらく当てもなくウロウロした。
本当は稽古なんて無かったから、もう少し昴の家にいるつもりだったのに体が勝手に逃げてきてしまった。
恥ずかしさと、真帆という単語にいろいろな想いがこみ上げてきて、結局どうにも落ち着かず、公園のブランコに一人腰をおろすことにした。
ぼんやりと先ほどの昴とのやりとりを回想しつつ、時間が経つのを待った。
「はうぅぅ…恥ずかしいよぅ………まだ、心臓が…」
ドキドキと心臓が鳴いていた次の瞬間。
「あれー、もっかんじゃん! なにやってんのこんなとこで!」
「ひゃうっ!? ま、真帆っ!?」
不意に後ろから声をかけられて心臓が止まりそうになった。
しかも、そこにいたのは真帆。今はできれば会いたくない人物だった。
なぜ会いたくないのかは、智花自身もよく分からない。
「び、びっくりしたぁ…。ま、真帆こそどうしたの?」
「あたしはすばるんと待ち合わせ!」
「や、やっぱりそうなんだ…」
「どしたのもっかん、元気ないなー!」
いつもとはどことなく様子の違う智花を見て、真帆は何かを察したように尋ねた。
「あはは、もしかしてもっかん、すばるんにコクハクしたの?」
「ふぇぇぇっっ!? そ、そんなおこがましいこと……………、」
“できなかった”と言いかけると、ほとんど食い気味に真帆が言った。
「やっぱそっかー、それでキンチョーしちゃって逃げてきちゃったんだな!」
「あぅ…」
完全に図星を突かれ、ようやく落ち着いてきたはずの心臓の鼓動が、再び激しくなる。
「あの、その、真帆は…?」
「ほえ? あたしがどうかした?」
「だから、その、昴さんと待ち合わせしてる理由。こ、こ、告…白…とか…?」
「なにいってんのさもっかん! あたし負けたんだからそんな権利無いじゃん! 今日は、あたしがサキに算数のテストで勝ったから、すばるんからゴホービもらうだけっ!」
「な、なんだぁ…」
顔中に「よかったー」というような安堵の表情が広がった智花を見た真帆は“むぅー”とふくれっ面になった。
そして、ほんのちょっとだけ智花をからかおうと企てる。
「そだ、もっかん。じゃじゃーん! これ見て!」
「ん…?」
真帆が差し出したのは携帯電話。
智花は不思議に思いながらもそのディスプレイを見る。
「ぶっっっ!!」
その瞬間、顔面を真っ赤にして噴き出す。
「どうどう? カメラマンまほまほが撮影した、すばるんのお宝写真! すばるんたらなかなか眠ってくれなくてさー、こっそり撮るの大変だったんだから!」
そこには、紛れもなく昴の……“寝顔”が写っていた。
「きしし、もっかんの携帯にも送ってあげよっか、この写真」
「っ…!! わ、わ、私はっ、そんなの…いらない…わけじゃないけど…その…昴さんにバレたら怒られちゃうよぅ…」
「あっそ、いらないんだったら消しちゃおっかな〜?」
「っっっ!!!! せ、せっかく撮ったんだから消さなくていいっ! …あ、私、別に欲しいわけじゃなくて…あぅぅ」
「あはは、もっかんも素直じゃないなー。まあでも、もっかんがモタモタしてくれたら、あたしにもチャンスがあるしっ!」
「へ…? それはどういう…?」
意味深な真帆の言葉に智花は少し動揺しつつ尋ねた。
「ほえ? もっかんがモタモタしてる間に、もっと練習してうまくなって、あたしが正真正銘の女バスのエースになるって意味!」
「あ、バスケの話だったんだ…」
苦笑しながら真帆の話を聞く智花の瞳は、最初こそ不安げだったが、次第に、実に楽しそうなそれへと変わっていった。

361 :
今日はここまでです。
>>355は完全無視でお願いしますw
いよいよ次回ラストです。別に感動シーンとかはありません。
次回:真帆、昴とドキドキ(?)デート!?

362 :
何か最近重いですね
というか2ch全体がよく落ちますね…
しばらく様子見で続きは数日後に。

363 :
楽しみに待ってます

364 :
マダかなーマダかなー

365 :
どうも、お待たせしました。
最近ただ単に忙しくて時間が無かったんです、本当です。
では、続き(最終回)です。

366 :
「ねぇねぇ、これからもっかんも一緒に行こっ! すばるんとデート♪」
「へ? で、デート!? でもお邪魔なんじゃ…」
「何で邪魔なのさ! すばるんだって、もっかんがいた方が嬉しいに決まってんじゃん!」
「で、でも、私…」
「あー、もっかんのことだから、昼から稽古があるとか言ってごまかしてきたんだなー?」
「っ…!! な、なんでそこまで分かるの…!?」
親友の心はお見通し、と言わんばかりのどや顔で笑う真帆を見て、智花は少し困惑した。
でも、真帆の方から誘ってくれたら断る理由もないので、
「じゃ、じゃあ、私も行こうかな…」
と応じた。
それから二人はしばらく談笑した。
バスケの話や修学旅行の思い出話、そして昴の話。
おおかた、昴の悪口を言う真帆を智花がやんわりと叱るという構図で。
そうしてしばらくの後、突然真帆が両手を大きく振りながら大声で叫び出した。
「すばる〜〜ん、こっちこっちー!」
見ると、ちょうど昴が公園の反対側の道路を、こちら側へ向いて歩いているところだった。
「あ、真帆、それに智花も!」
智花は、ここに自分がいることを昴にどう説明すべきか悩んでいたが、昴は特にそのことについて追及しなかった。
それどころか、今日の智花は様子が変だったから心配したけど、この感じなら大丈夫だな、と声を掛けてくれた。
昴の優しさが心に染みて、少しだけ涙が出てきてしまった。
なにはともあれ、これから楽しい一日が始まると思うと智花はワクワクで一杯になった。
「もーすばるん、おそーーい!」
「はは…、ごめんごめん」
文句を言いつつ、昴に走り寄るやいなや、一切の遠慮もなく左腕に抱きつく真帆。
それを見た智花は緊張しつつも、勇気を振り絞ってそっと昴の右手に触れた。
すると昴は優しく握り返してくれた。
この幸せな時間がいつまでも続くといいな、そう思いながら3人仲良く、街に繰り出すのだった。

367 :
☆ここから昴視点に戻ります
真帆の呼び出しに応じた俺は、罰ゲーム制度なんて無かったという事実を二人に聞かされてに少し驚きつつ、真帆が紗季にテストで勝ったという事実にまた驚いた。
真帆の言葉を疑ったわけではないけど、智花も証人になっていた。
今回の真帆からの呼び出しは、ご褒美のおねだりだったということだ。
真帆から「デートしよっ」と言われた時は少し固まったが、とりあえず「お買いもの」とか「遊びに行く」という意味で捉えておこう。
まずは昼食ということで、最初に行ったのが全国チェーンの牛丼屋である木公屋。
もともと真帆のお願いを聞いてあげる名目のため、俺が奢るつもりだったのだが、俺も普通の高校生。
お小遣いがあまり残っていなかったので、安く済ませるためにやむを得ず、安価でかつ真帆の好物であるはずの牛丼を選んだ。
大富豪三沢家のお嬢様のお口には合わないのではという俺の危惧は、良い意味で大外れ。
超特盛りの牛丼にこれまた超特盛りの七味をかけて、目をお星様のようにきらきらさせながらさぞ美味しそうに頬張っていた。
これには、俺と智花のみならず、店員さんや他のお客さんもドン引きしていた。
その一方で、智花は俺の財布に遠慮したのか、一番小さい「小盛りハーフ」という名前の牛丼を注文。
いくら女の子だとは言っても、小盛りのさらに半分という少ない量で小学6年生の智花のお腹はふくれたのかどうか気になった俺は、自分の丼を智花に差し出した。
「俺のも食べる?」
「ふぇぇぇぇっっ!?」
「い、いや、智花の牛丼、さすがに少ないかなと思って…」
しかし。
「あれ、すばるんもういらないの? じゃああたしにちょうだいっ!!」
とまあ、誰の許可も得ずに、隣の真帆ライオンがご飯粒ひとつ残らず食い荒らしてしまったのだが。
このときの智花が若干不機嫌に見えたのは、やっぱり、まだお腹は満足していなかったからなのかもしれない。
うむ、次に真帆と木公屋に来るときは、20分以内に完食できれば無料という「ウルトラデラックステラ盛り牛丼スペシャル」を勧めることにしよう。
その後、女子たちの長〜い買い物に付き合ってヘトヘトになった、とは口が裂けても言えないなぁ。
そんな中、新鮮だったのは、真帆がバッティングセンターに行きたいと言い出したので少しだけ立ち寄ったとき。
女子小学生のバッティングフォームは見たことがないが、なかなか豪快なスイングだった。
まあ、最初は空振りを連発していたのだが。
俺は、野球の知識はあまりないけれど、少しばかり教えてやろうと思い立った。
真帆ならきっとすぐに上達することだろう。
「右足に体重を乗せたら、脇を締めて、腰を使って振ってごらん。手だけで打とうとしないで」
後ろから真帆を抱きこむようにして手首を掴んで、フォームの確認をする。
「こう? おりゃーー!」
「そうそう、その調子!」
そんな感じで真帆に心身ともに“密着”して野球の指導をしていると、背後に何やら殺気を感じた。
振り返ると、ベンチで見ているだけだった智花が、少し不気味な視線を俺たちに向けていた。
「ごめん、手を痛めている智花にはちょっと退屈だったかな…? もうすぐ終わるから」
「い、いえっ、決して退屈では…」
言葉ではそう言っているが、真帆と俺をじーーと見つめる、いや、睨むような視線が本当に怖かった…。
まあ20球で終わりだから、あと少し我慢。
そんな事態があったことも知らない真帆はいつも通りの元気の良さで、スイングを続けた。
すると、カキーンと痛快な金属音が響いた。
打球は小さな“ホームランゾーン”という的に直撃した。
「すごいぞ真帆! ホームランだ!」
「おっしゃーー」
なんと、俺でも打ったことのないホームランを早速達成し、賞品のソフトクリーム(1個)無料券をゲットしたのだった。

368 :
「はい、すばるん」
「ん?」
「だから、すばるん先に食べて」
「え? どう言う意味?」
賞品として貰ってきたソフトクリームを俺に差し出した真帆は言った。
「すばるんのおかげでホームラン打てたんだし、先に食べていいよ」
「い、いや、それは真帆があてたんだから、俺は自分で買うよ」
「でもすばるんお金無いんでしょー、だからこれを3人で分けるの!」
「い、いや、でも…」
「早く食べないと溶けちゃうじゃん! ほらほら」
そして、無理やり俺の口をこじ開けてソフトクリームを突っ込む真帆。
さすがに冷たいソフトクリームを無理に食べさせられると頭がツーンと…。
「はい次、もっかん」
「ふぇぇっ!? わ、私?」
俺が食べ終えると、今度は智花にそのソフトクリームを渡す真帆。
つい先ほどまで俺が口をつけていたクリームを。
「あ、え、うぅ、これって…昴さんと…間接キ…」
「んもー何で二人とも早く食べないの!? 溶けるから早くっ!」
そういうと今度は、智花にまたしても無理やり食べさせようとする。
「じ、自分で食べるから…」
そう言うと智花はややぎこちない手つきで、クリームを口に運んだ。
「あ、おいしい…」
おかしいことに、バッティングはしていないにもかかわらず、智花は全身から汗を噴き出し、顔を真っ赤にして食べた。
あー、もしかして、俺の食べかけを食べるのには抵抗があったのかも…。
俺ももう少し注意を払うべきだった、と反省しかけたのだが、
「ちょっともっかん! そんなに食べたらあたしの分無くなっちゃうじゃんか!」
「あ、ごめんっ! おいしかったからつい…」
という会話の通り、智花がものすごい勢いで食べ始めたので、どうも、嫌々ながら食べたわけではなさそうだった。
顔はまだ真っ赤だけど。
最後、コーンの下の方でクリームもあまり入ってない部分を、冗談半分でブツブツと文句を言いながら食べる真帆に、智花がしきりに謝っていた。
楽しい一日が終わり、寂しさ募る帰路である。
2人が何やらヒソヒソと話し始めた。

「さっきはごめんね、真帆」
「まったく! すばるんと間接キスできてそんなに嬉しかったのかー」
「ちょ、何言ってるの!? そんなつもりじゃっ…!」
「ふーん…、それよりもっかん、今がチャーンス!」
「へ? チャンスって何?」
「だから、すばるんにコクハクするチャンスだってこと!」
「ふぇっっ、む、無理だよぅ…」
「ダイジョーブだって! あたしが手伝ってあげるから」

何を話していたのかは分からないが、一通り話が済んだと思うと智花は慌てた様子で、真帆はきらきらと目を輝かせて俺を見つめてきた。
「え、えーと、何…かな…?」
「ねーすばるん! もっかんがすばるんに言いたいことがあるって!」
「っ!!!! 」
真帆の発した言葉にさらに慌て始めた智花を見て俺は心配になった。
「ど、どうしたの、智花?」
「ふぇぇぇっ!? いや、あの、何でもないですっっっ!」
とても不自然な慌て方だった。
前々から感じていたが、智花には何か言いづらい悩みがあるのかもしれない。

369 :
「悩みがあるなら言ってごらん。俺にできることなら何でもするよ」
「な、何でも…!?」
「すばるん違うって! もっかんはすばるんのことが大すk…もがっ!!」
真帆の口を封じた智花がものすごい剣幕で迫った。
「ちょ、ちょっと真帆、言っちゃダメ!!」
「えーーなんでさー、自分じゃ言えないんならあたしが代わりに」
「ダメっ! こ、こういうことは自分で言うから…」
先ほどまでヒソヒソと話していたのに、この会話は丸聞こえだったのだが、よかったのか…?
それに、智花が途中で遮った真帆の言葉も、もうほとんど聞き取れた。
さすがに聞かなかったふりをするのも心苦しいので。
「…ふぇ…??? え、あああああの、えええ!?」
すると、お次は真帆が目を少女漫画のように潤ませてこちらを見つめてきたので、少し気恥ずかしいが、俺の気持ちを全て打ち明けることにした。
「もちろん、真帆のことも大好きだよ」
「うぇっ!? すばるん…?」
「それから、愛莉、紗季、ひなたちゃんのこともね。みんな、大切な仲間だから。」
こうして、自分の気持ちをはっきりと伝え、実に清らかな気分になったのに、2人はなんだか浮かない顔をしていた。
何でだろう、おかしいな。
昼の公園で2人と別れるまで、何だか空気が重かった上に、別れ際、智花が小声で発した言葉に驚いた。
「昴さんの…ばか…」
えっ…今なんて…? あの智花が「ばか」などという汚い言葉を使うなんてありえないはずだ。
うん、俺の耳がそろそろ寿命なのかもしれない…。
翌日。
「あの、昴さん、昨日はありがとうございました。とても、とても楽しかったです」
朝練を終えた俺は部屋で智花と談笑していると、丁寧に正座して昨日のお礼を言われた。
昨日の帰り道での悪夢のような出来事は、そっと心の奥に留めておいた。
おそらく、きっと、たぶん、本当に夢だったんだろう。
智花もそれについて言及しないばかりか、いつも以上にご機嫌だったのでとりあえず安心した。
「うん、俺も楽しかったよ。それにしても、真帆があんなに牛丼を食べるとは思わなかった…」
「確かに、あれは食べすぎですよね…はは」
そんな風に昨日のことを思い出していると、
「あ、真帆からメールです!」
智花が真帆から届いたメールを読み上げてくれた。
「きのうはありがとう、と。昴さんによろしくだそうです。あ、あと添付ファイルが………ひゃぁぁっ!?」
「と、智花!? どうしたっ!?」
突然、智花が悲鳴(?)を上げたので、驚いた俺は智花の携帯を覗き込もうとした。
「だっ、ダメです! これは見ちゃダメですっっ!!」
智花が顔面どころか全身を真っ赤にして俺から逃げて行ってしまった。
一体どうしたと言うのだろうか。
まあ、そのあと落ち着いた智花が「真帆、写真ありがとう」と返信していたのを横から見て、何か大変な事態が起きたわけでもないということが分かった。
でも、智花が恥ずかしがる写真ってなんだろう…?

「あの、昴さん。いつも私たちのために時間を割いていただいてありがとうございます。昴さんに認めていただけるよう、これからももっと頑張ります。だから、その、これからもずっと、昴さんのそばにいさせてくださいっ!」
「うん、こちらこそ、お願いします」
「は、はいっ! えへへ」
これからの決意を述べた智花は少し照れくさそうだったが、とても輝かしい笑顔を浮かべていた。
その笑顔があまりにも眩しすぎて、こちらまで照れくさくなってきてしまったけど、これからもこの笑顔の近くにいられることに喜びを感じながら、俺はずっと智花を見つめていた。

370 :
>>369 超重要な一文が抜けてましたww
なので370の冒頭からその部分だけ再投稿
「悩みがあるなら言ってごらん。俺にできることなら何でもするよ」
「な、何でも…!?」
「すばるん違うって! もっかんはすばるんのことが大すk…もがっ!!」
真帆の口を封じた智花がものすごい剣幕で迫った。
「ちょ、ちょっと真帆、言っちゃダメ!!」
「えーーなんでさー、自分じゃ言えないんならあたしが代わりに」
「ダメっ! こ、こういうことは自分で言うから…」
先ほどまでヒソヒソと話していたのに、この会話は丸聞こえだったのだが、よかったのか…?
それに、智花が途中で遮った真帆の言葉も、もうほとんど聞き取れた。
さすがに聞かなかったふりをするのも心苦しいので。
「俺も智花のこと、大好きだよ」

以下同じです。>>370に続きます

371 :
>>369 超重要な一文が抜けてましたww
なので370の冒頭からその部分だけ再投稿
「悩みがあるなら言ってごらん。俺にできることなら何でもするよ」
「な、何でも…!?」
「すばるん違うって! もっかんはすばるんのことが大すk…もがっ!!」
真帆の口を封じた智花がものすごい剣幕で迫った。
「ちょ、ちょっと真帆、言っちゃダメ!!」
「えーーなんでさー、自分じゃ言えないんならあたしが代わりに」
「ダメっ! こ、こういうことは自分で言うから…」
先ほどまでヒソヒソと話していたのに、この会話は丸聞こえだったのだが、よかったのか…?
それに、智花が途中で遮った真帆の言葉も、もうほとんど聞き取れた。
さすがに聞かなかったふりをするのも心苦しいので。
「俺も智花のこと、大好きだよ」

以下同じです。>>370に続きます

372 :
SNS Log Data
「みんな〜、きいてくれー! あたしホームランうったんだぜー まほまほ」
「おー、まほかっこいい ひなた」
「わーすごいなぁ、私なんてボールが怖くて打てないよ あいり」
「すばるんにちょびーっとおしえてもらったら、すぐうてるよーになった! さすがまほまほ、じがじさん! まほまほ」
「はいはいすごいすごい 紗季」
「ん? それほめてるよーにきこえないんだけどっ! まほまほ」
「べつに真帆が凄いんじゃなくて、長谷川さんが凄いんだと思うわ 紗季」
「なんだよちょーむかつく! そんならサキもやってみろよ! まほまほ」
「わ、私はいいわよ…。でも、真帆って野球のルール知ってるの? 紗季」
「んー? ホームランうてばかちで、さんしんしたらまけじゃないの? まほまほ」
「そんないい加減だから夏陽とも喧嘩しちゃうのよ。 紗季」
「それはいまカンケーないだろー!? まほまほ」
「まあまあ、二人とも落ち着いて… 湊 智花」
「よーしもっかん、今度はホームラン競争やろっか? まほまほ」
「まったく、たかがホームラン打ったくらいですぐ調子に乗るんだから 紗季」
「わ、私はいいよぉ…。それに、真帆とはまたバスケで勝負したいな 湊 智花」
「ジョーダンだってば! あたしだってもっかんにはバスケで勝ちたいし! まほまほ」
「『バスケで』ねぇ… 紗季」
「な、なんだよー!? まほまほ」
「ねぇ?トモ 紗季」
「え…私っ? あ、ええと…? 湊 智花」
「真帆ったら、長谷川さんのこと話してるとドキドキするとか、幸せとか言ってたのよ 紗季」
「ちょ、サキっ!! まほまほ」
「長谷川さんと毎日練習できるトモが羨ましいって。トモが告白するかどうか心配でとっても焦ってたし 紗季」
「こらサキ、それ以上言うなー! まほまほ」
「あはは、実はかなり前から知ってるよ、昴さんといるとき、真帆はとっても楽しそうだもんね… 湊 智花」
「うぇっ、もっかんまでっっ!? まほまほ」
「…私だって、真帆が羨ましいけどなぁ。なんでも緊張せずに平常心でできるってすごいことだと思うよ 湊 智花」
「いや、緊張しないわけじゃないし! この間すばるんと一緒のベッドで寝た時はシンゾーが壊れるかと思ったし まほまほ」
「…え? 湊 智花」
「…え? 紗季」
「…え? あいり」

373 :
見てるよ〜

374 :
二重投稿すみませんでした
連投規制食らってましたorz
残りあと少しなのに…
以下、>>372の続き

「あれ、このこと話してなかったっけ? まほまほ」
「昴さんが真帆の家に泊まったってことしか知らないよ…? 湊 智花」
「あぅぅ、長谷川さんと真帆ちゃんが…? あいり」
「ちょっと! いくらなんでもそれはやりすぎでしょ! 紗季」
「おー? ひなもおにーちゃんといっしょに寝たことあるよ? ひなた」
「もーいーじゃん、すんだことだしさ まほまほ」
「よくないっっ!! 湊 智花」
「よくないっっ!! 紗希」
「あぅあぅ、さすがにそれは… あいり」
「おー? なんでひなは怒られないで、真帆だけ怒られてるの? ひなた」
「うんうん、みんなすばるんがすきってことだろー! それでいいじゃん。もっかんはあいかわらずコクハクできなかったけど まほまほ」
「……言えたもん 湊 智花」
「…え? まほまほ」
「…え? 紗季」
「…え? あいり」
「おー、ともか、大胆 ひなた」
「今日の朝練で、ちゃんと自分の気持ちは言ったよ…? う、嘘じゃないよ…? 湊 智花」
「えええちょっともっかんそれはどゆこと!? マジで!? まほまほ」
「… 湊 智花」
「ちょ、もっかん、ジョーダンだよねっ? ね? まほまほ」
「…… 湊 智花」
「もっかんってば! まほまほ」
「……… 湊 智花」
「こらーなんかいえー まほまほ」
「………… 湊 智花」
「真帆、必死すぎ 紗希」
「智花ちゃんが真帆ちゃんをからかうっていつもと逆だね あいり」
「べつにからかってるつもりは…。 湊 智花」
「えーなんでみんなそんなにはんのーうすいんだよっ? まほまほ」
「だって、まだはっきりと分からないし… 紗季」
「おー、ともか。おにーちゃんのおへんじは? ひなた」
「へ? えーとたしか『こちらこそ、お願いします』って… 湊 智花」
**この日のログデータは、容量の関係でこれ以上読み込めませんでした。**

*おしまい*

375 :
>>370は安価ミス&二重投稿です。
てなわけで完結です。
拙い文章ですが、お付き合いいただきありがとうございました
デートシーンもうちょっと長く書きたかったけど、ネタが思い浮かばないのでお許しを。
真帆×昴を書きたかったという自己満は達成できましたw
ただ、もう少し巧く書きたかったなぁ。
感想いただけるとめちゃくちゃ嬉しいです。
それでは、機会があればまた。

376 :


377 :
保守

378 :
ho

379 :
http://log2.jp/?id=loli

380 :
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/page2.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/page3.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/JKsakasadori.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/index.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/page.html

381 :
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/JSJCJKLeg.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/JKschool.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/page3.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/munechira.html

382 :
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/LOLIGIRL.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/JSJCJK.html
http://shiroutodougacom.x.fc2.com/JSJSJKGIRLMEET.html

383 :2015/06/08
保守

過疎ってますなー

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