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【TRPG】バンパイアを殲滅せよ【現代ファンタジー】


1 :2017/02/25 〜 最終レス :2019/01/20
東京都副都心――新宿

立ち聳える無数のオフィスビルと網の目の移動路線、絶えず行き交う人の群れ。
夜はまったく違う顔を持つこの街の何処かで……あなたは耳にしたことがあるだろうか。
『吸血鬼(バンパイア)は実在する』という噂を。

ある日あなたは目撃してしまう。
眠らぬ街の片隅で、黒い影が倒れた少女に覆いかぶさるのを。鋭く尖る乱杭歯と、光る眼を。
名も知らぬ少女の喉元にくっきりと残された、二つの小さな噛み痕を。
あなたは確信した。そして決意した。この街のどこかに潜むバンパイアという化け物を駆除しなければと。
その手に握る銀の弾頭。
それを彼等の胸に打ち込めるのは――あなただけなのだから。

ジャンル:バイオレンスファンタジー
コンセプト: 現代の日本を舞台にしたリレー小説型シューティングゲーム
ストーリー: 特になし 導入や設定、ネタフリがあれば自然と組み上がるはず
最低参加人数:1名(多くても3名までとします)
GM:あり
決定リール:あり ※詳細は後述
○日ルール:7日
版権・越境:不可(ドラキュラ伯爵でも不可)
敵役参加:なし ただし途中で吸血鬼化した場合はその限りではない
避難所の有無:なし 連絡等は【 】でくくること
注意1:バンパイアは強敵です。普通に撃ってもそう易々と当たってはくれません。要は「工夫を凝らして」
注意2:目的のために手段を選んで下さい。警察もいます。捕まっても良ければご自由に。
注意3:すべての年齢層が見ています。残虐的行動はやむを得ないにしても、それを生々しく「表現」してはいけません。
注意4:あくまでゲームです。周囲の人に当たるべからず。会議中の閲覧禁止。通行人を殴るのは以ての外。

このゲームはフィクションです。実在の人物、団体等とは一切関係ありません

2 :
キャラ用テンプレ

名前:日本人推奨
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:女性の場合は省かぬが吉
種族:人間、吸血鬼以外の種族は存在しません
職業:
性格:
特技:超能力と呼ばれる『特殊能力』を使えるのはバンパイアだけ(時間、空間操作は禁忌)
武器:銃は実際に普及しているものを使用すること。口径20mm以上の火器(砲)の所有は禁じます。
防具:ここが現代の日本であることを念頭に
所持品:実際に持てるものを。そんなものドコに隠してた? ってならないように。背中から釘バットも禁止!
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:因縁設定、大いに結構

能力設定:
吸血鬼(バンパイア)は化け物です。人間より高い身体能力を持っています。
体力、筋力、跳躍力、聴力、動体視力、嗅覚、味覚、すべてにおいて人のそれを上回ります。
やっかいな事に、特殊能力を持つ者もいます。コウモリに姿を変えたりするアレです。
その代わり弱点も多く存在します。陽の光を恐れ、十字架に怯み、にんにくの匂いを嫌います。
水を渡れず、鏡に映らないことも彼等に取っては相当なコンプレックスのようです。
彼等は滅多なことでは死にません。首を落とせば再生し、焼かれても灰から蘇ります。
決定的な弱点は唯一、純銀製の弾丸だけです。それを心臓に打ち込むことで、完全に彼等を滅ぼすことが出来ます。

1ラウンド終了後、継続を希望すれば次のラウンドへと進めます。
進まない場合は必ず最終ターンで死亡してください。吸血鬼化を望む場合も同様です。
敵は必ず「死ぬか」、「仲間となるか」を聞いてきます。
1ラウンド=3〜5ターンを目安とします。

※決定リール
プレイヤーは持ちキャラ、NPCだけでなく、対戦相手についても「ある程度」の操作が可能です。
「ある程度」とは、決定打とならない攻撃ならば、受けたりかわしたりさせて良いということです。
○殴りつけたが難なくかわされてしまった
○手足に打ち込んだ弾丸が見事命中
×弾丸は奴の心臓を射抜いた
当然ですが、他PCや敵キャラの能動的行動――何かの目的をもってしゃべらせたり、行動させたりするのはNGです。

以下、導入を投下、集まり次第ミッションを開始します。気楽に、楽しく行きましょう!

3 :
名前:佐伯 裕也(さえき ゆうや)
年齢:不明
性別:男
身長:179
体重:70
種族:バンパイア
職業:個人投資家
性格:傲慢、浮き沈みが無い
特技:魅了(チャーム)。相手に眼を合わせる事で発動。サングラスで回避可。
武器:なし
防具:なし
所持品:ペンと手帳、財布に10万以上の現金
容姿の特徴・風貌:アニエスのスーツを着こなした茶髪の優男。
簡単なキャラ解説:「コロニー」の中では一番の下っ端。フラリと夜の街に出向いては好みの女性を手にかけている。

4 :
大都会の只中だというのに、木に囲まれたこの公園はとても静かだ。
鬱蒼と茂る木々が、明るい月の光を遮っている。
懐に入れた携帯が独特の振動音にて着信を知らせているが……放っておく。
伯爵を頂点とする我等吸血族のコロニーは今やその数を減らし……10にも満たない。
ここ新宿のコロニーも、貴重な会員が先日、とある人間に殺された。銀の弾丸を操る人間――ハンターにだ。
どうせそのハンターを見つけろとでも言うのだろう。

足を運ぶたび……歩道の敷石と砂とが擦れ合う音がこの耳に届く。音を消すは容易だが、今は消す必要などない。
公園の名は何だっただろう。確か入り口には名のようなものが記されていた筈だ。……が、特に興味はない。
早く……早く……この喝えた喉を潤さなければ。

灌木が生い茂る暗がりの方々で人の気配がする。
声をひそめ囁く声、息遣いと吐息から、それが若い、或いは妙齢の男女のものであると解る。
恥を知らぬ人間どもだ。隅に並ぶ紙の箱――段ボールの中ではホームレス達がひしめいているというのに。
兎にも角にも興味はない。恥知らずな人間はこの舌に合わない。

不意に香る香水の匂い。甲高い足音を鳴らし、公園に足を踏み入れた女がいる。
シャネルのbT。これを好んでつける女は多い。見れば薄化粧の美しい女だ。薄紅色の上下に……大きく開く胸元。
闇にたたずむこちらに気づいたのか、ロングブーツを履く足が止まる。

「すみません。道を聞きたいのですが」

不案内を装い声をかけた。女が怪訝気にこちらを見上げるが、目が合ったとたんにその緊張を解いた。
フラフラとこちらに近づき、甘えるようにしなだれる。
今夜も我が能力の効目は良好だ。我が能力――魅了(チャーム)。月が満ちれば数人同時に落ちることも。
暗がりに連れ込み、首を横に向かせた。滑らかな白い肌。柔らかな肢体。
稀にみる上等の得物だ。存分にこの身体を味わい尽くした後で……この牙を突き立ててくれようか……いや……やはり……
血の欲求は性の欲求に勝る。
堪らず剥いた牙が鋭く、長く伸びるのが自分でも解る。これが、これこそが我等吸血族の性。

カチリと後ろで何かが鳴った。
振り向くと、更なる暗がりで何者かが立っている。鼻を突く不快な匂い。鉄とガンオイルの匂い。

「まさか貴様、ハンター、……か?」


≪Insert Coin≫

5 :
銃スレかい?
入るしかネェな

6 :
俺だ。
とりあえずキャラだけ投下だ。邪魔するぜ

名前:水流=ベウチー十蔵=ガンコン(つる・じゅうぞう)
年齢:自称忘れた
性別:男
身長:181
体重:75
種族:人間(自称強化人間)
職業:ピザ屋店員兼ヴァンパイア・ハンター(ガンマン)
性格:痛快でハードボイルドでアメリカかぶれ
特技:タマの回転撃ち、十字弾、跳弾
武器:コルトM1903サイガMk.3(38口径)、M249機関砲(牽引式)
防具:防弾チョッキ、防弾ジャケット、スピードブーツ、ハイスペクサングラス
所持品:予備用の携帯食料やタマ、ある程度のカネ
容姿の特徴・風貌:長い茶髪でサングラスをかけたハードボイルド風のピザ屋店員。
簡単なキャラ解説:ヴァンパイアハンター業を営むピザ屋店員。銃を撃つのが誰よりも好きだと自負している。
ピザ選手権で世界5位に入ったこともある男。ピザ以外の料理も得意。


【ってことで導入部は後で書く。仲間も歓迎だ――Good Night...(楽しい一夜を)】

7 :
M249機関砲と書いたが、機関銃の間違いだ。5.56mmだ。
早くタマぁ撃ちてェなァ…

>>1よろしく頼む】

8 :
>6
弾の撃てる冒険の世界へようこそ! なんスかその名前w

今のうちにひとつ提案
銃の専門用語っていっぱいありますよね。つい バン バン 使いたくなってしまう。でも読む方は大変?
そこで
・ググらんと分からんようなマニアックな用語は使わない。
・どうしても描写に必要ならば、使っても良し。ただし1レスにつき1つか2つ。
・その場合は可能な限り分かり易い説明を。
・カタカナ語には( )書きで和訳語を。こんなのみんな知ってる! なんて思わない。ただし既出は省いて良し。

【ルールというか配慮というか。まあほとんど自分に言ってるんですが。Is it OK ?】

9 :
武器の詳細をこちらへ投下してください。
あくまで資料庫です。連絡等は本スレ内でお願いします。

【バンパイアを殲滅せよ】資料庫
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/9925/1488064303/

10 :
俺の銃の基本スペックだ。実際にはこれをサイガ式に改造、
そしてサプレッサー機能まで搭載されてる。
タマも話の中で改造する描写があるが、それぐれェは許してくれや。

コルトM1903
設計:アメリカ・コルトファイヤーアームズ
製造:コルトファイヤーアームズ、ブローニングアームズ
口径:.32口径(7.65mm、M1903).38口径(9mm、M1908)
銃身長:127mm
使用弾薬使用弾薬:.32ACP弾(M1903)
.380ACP弾(M1908
作動方式:ブローバック
全長:171mm、重量:675g
装弾数
8+1発(M1903)
7+1発(M1908)

M249は有名な機関銃だ。作中でも大して使わねェ…
なんせモノがデカいもんでね。目立っちまうんだよ。
スペックについては適当にググってくれ。

>GM
専門用語については大体了解した。
極力調べなくても分かるような内容にするつもりだ。

それと俺からの要望だ。資料庫は使わねェ。

了承してくれりゃ、俺ァ結構長くなると思うがすぐに導入部分を書き始めるぜ。

11 :
ダメダメ!

12 :
ええで!

13 :
>10
【使わないんかい!】

えと……出禁でも?
まあ私がコピペして張れば済む話なんで別にいいんですが、正直面白エピソード聞けるかと楽しみにしてたんです。
いいですよ! 五月雨式でロール回していきましょう!

【 超長い導入 Come on! 】

14 :
【coinは投げられた――】


俺ァ大都会は嫌いだ。
渋谷に引っ越してから何ヶ月が経っただろう。

ここは汚ねェ……
新宿寄りの宮下公園なんかはホームレスがウヨウヨしてやがる。
まるでゾンビみてェだ。

今日は午前中から数年は住んだタマプラーザで「タマ・カフェ」に行くついでに
俺の「マスター」のいた「町田家」に寄った。
多摩地方にはその名の通りタマを撃てる場所が何箇所もできた。タマ地方って言われてる。
だが俺にとって一番馴染むのはここよ。
タマプラーザってのは自衛隊の弾薬庫ができてから急激に栄えた。
ここは横浜でありながら渋谷とのアクセスも便利で、今では新宿方面にも直通で行けるぜ。



……

15 :
系ラーメンてぇのは横浜が発祥だ。
一日に何ン十キロものゲンコツやカシラ、背ガラを茹でて何時間も煮込む。
いや、「炊き出す」だな。こりゃちょっとした料理みてぇなモンだ。
こん時に出る臭いは最高にトンコツ臭ェ。半径10mは軽く臭いが充満する。
下茹で、本茹でを続けてようやく至高のスープができる。
苦情と隣り合わせだ。折角店を開いたのに苦情で辞める奴が多くいるって
俺の昔のダチが言ってたな。
そして醤油ダシと合わさって最高に濃厚なスープができるってぇ訳よ。
いわゆる元祖トンコツ醤油ってぇやつだ。だけど「町田家」は味がちょっとちげェ……
店舗が複数あって、本店がある町田の鶴川、八王子の高尾、そしてここと割りと辺鄙な場所にあるらしい。


「……!! こりゃすげェ……何使ってんだ? マスター」
俺ァ数年前、トランプピザのユニフォームを着たまま、初めてここのラーメンを食った。
こりゃ家系じゃねェ……濃厚でありながら研ぎ澄まされてやがる。

「おめぇさん、誰に口利いてやがンだ。それより兄ちゃんよ、デリバリーの仕事中に良いんか?店に通報すんぜ?」
俺ァマスターの声も耳に入らず、ガン食いよ。うめェ。
ただの濃厚なトンコツじゃねェ。野菜のような研ぎ澄まされた味が麺に、俺の舌に絡みやがる。
気がおかしくなりそうだぜ。クスリでも入ってんじゃねェか?
ピザが冷めちまうが、知ったこっちゃねェ。こんなラーメン食ったことねェぜ。

「なぁ、おっさん、このラーメンのダシを教えてくれねェか?」
マスターは即答した。
「ワシはスープマスターだ。誰に向かって口利いとる。町田家じゃあな、バイトにすらスープのダシは教えねェ……
それが一杯千円以下で食えることを有難く思うんだな。スープマスターってのは町田家じゃあ十年は積まねえとなれんぜ。
ここの味を知りたきゃ、そんなチンケなピザ屋なんぞさっさと辞めるこったな。さっさと食って帰れ」

16 :
俺ァ即答した。
「悪ィけどおっさん、俺ァピザ一本なんでね、ピザ屋を辞める訳にゃいかねェ……あんた、タマはやんのか?
俺ァタバコはやらねぇが、酒とタマはやる。「タマ・カフェ」で会おうぜ」

それが、俺と「マスター」との出会いだった。
タマプラでピザ屋をやりながら毎年世界選手権に出た。イタリアだァ?そんな所じゃねェ。
本場アメリカよ。トランプピザってェのはアメリカが発祥だ。ニューヨークのマンハッタンで世界大会が開かれる。
ついに俺ァ去年で世界5位になった。

だがよ、その日だったんだ。
マスターが死んだ、って話を聞いたのはな。

俺ァ「タマをやる」って聞いた町田家のマスターと「タマ・カフェ」で毎週のようにタマを撃ちあったぜ。
タマぁ撃ってる時だけはマスターも俺のライバルよ。それと町田家の中でも少しずつだが、バイトをさせてもらった。
クソ重いゲンコツや気持ち悪ィカシラを運びながら、毎日のようにコッソリ時給500円でバイトしたぜ。
マスターはこう言ったことがある。
「家系ラーメンのスープだってピザだって銃弾と同じだ。ツル、てめぇもピザ屋なら覚えとけ。例えば坦坦麺なら「麻」と「辣」が効いて
初めて味が出るってもんだ。魂よ。それ以上ワシの店の秘伝の味を盗みたかったら、銃でワシに勝つまで魂を込めるこった」

あぁ、覚えてるぜ。俺ァ巷で噂のヴァンパイアなんぞの相手なんてしてられなかったんだ。
まさか、そのヴァンパイアに、マスターが殺されるたぁな。
トンコツ醤油の作り方はわかった。問題は香味野菜よ。タマネギ、ニンジン、リンゴ、シイタケ、ショウガetc……
こういった野菜や素材は全部ダシ取ったら捨てちまう。この中で何か一つだけが足りねェ……
俺ァずっと自室でダシの研究をしてたんだが、結局最後までマスターの味は出せなかったぜ。

……

17 :
ヴァンパイア……俗にいう吸血鬼ってェヤツよ。
ここ数年で突如現れ、数は減ったとは言われてるが、被害者が後を絶たねェ……
特に若い女がターゲットになるって言われてやがる。協会は青山霊園あたりが怪しいって話だが、
全く情報は掴めてねェな。初期の襲撃場所からするともしかしたらタマ地区の方かもしれねェ。
しかもヴァンパイアは人の生き血を吸って、そいつまでヴァンパイアにするらしい。
マスターの死に顔も、普通のツラじゃなかったって、覚えてるぜ。
なにせ銃がねェところを一撃でガブリ、だ。
斉藤慎太郎、享年58歳だそうだ。

俺ァ望まずしてヴァンパイア・ハンターって奴になった。マスターの仇って訳だな。
ピザ屋は辞めねェ。

今日も宮下公園店でピザ作りだ。
強力粉と薄力粉を混ぜて練ったものを一晩寝かせるのが、この店のやり方よ。ま、そんなこたぁどうでもいい。
俺ァこの店で唯一、作りながらデリバリーもやってる。
ここは春になりゃ花見の客も多い。たまにホームレスからも依頼があるぜ。
で、俺が店長にヴァンパイア・ハンターであることを知らせたら、二つ返事よ。
勿論俺が有能ってェのもあるんだろうが、単にハンターを雇うことでクニから助成金が降りるらしい。
多分だが、俺の給料より高ェ金額がこの店に払われてんだろうな。
ま、俺が有能だからってのは置いとくか。
手首にスナップを利かせて、生地を頭の上で回転させる。このへんはタマ撃つのと一緒だわな。
そしてトマトソース、チリソース、カレーソースと本場アメリカ仕込のソースをぐるりと塗りこむ。
次はチーズだ。ひたすらバラ撒く。これァピザ競技でも速さが問われる部分だが、俺ァ食い物を粗末にはしねェ。
そりゃマスターに鍛えられたからな。勿論、タマもだよ。
「ツルさんさすが!」「ジュウさんに任せればあとは大体大丈夫っすね!」
後輩や先輩どもが俺を褒めやがる。ま、俺が一人だけ歳食ってるってぇのもあるだろうが、普通に腕が良いヤツは褒められる。
それが世の中の道理よ。

18 :
そしてオーブンで焼く。
トランプピザはマニュアル化されてるが、俺ァひたすらアメリカンハンドトスを俺流のやり方で焼く。
クリスピー? 知ったこっちゃねぇ。そんな貧弱なイタリア風ピザは他のヤツらに焼かせとくモンだ。

ドッドドッドドド……♪
ターミネーターのテーマの着信音が鳴った。俺ァいつもこれだ。メールか。
『指名手配中のヴァンパイアを片付けてくれ。名前は佐伯裕也。場所は渋谷区○○○グランデ原宿……810号室だ
留守だった場合は別班が追跡に当たる』

ハンター協会からのメールだ。どうやら俺にピザ配送員の格好で狙えってェ話らしい。
時間はもう夜9時だ。
良い子は寝る時間だってェのに、ヴァンプどもは活発に盛りやがる。
センサーを腕に巻き、トランプピザの帽子を被る。

『了解、タマは指定されたブツを使うんだったな』
俺ァ「トランプ・デラックスL」と「チーズスペシャルM」と「ガーリック・マスターXL」を詰め込むと、
グランデ原宿周辺のピザ三枚を持って店を出た。
おっと、オツリを忘れねェようにな。オツリのケースは予備のタマ入れと間違えそうになるから困ったもんだ。

俺のバイクは特別製よ。
懐に潜ませたコルトM1903サイガMk.3の他に、ヴァンパイアの集団やサーヴァントなどに囲まれた時でも対応できるように、
トランクの下にM249ミニミ機関銃も用意されてる。勿論タマもたんまり仕込んである。
だから俺ァ保温用の鉄板は使わねェ……当然ピザは冷めるが、仕事が優先だ。俺ァ自分が作ったピザにゃあ自信がある。
マスターが言うように魂込めて作ってるからな。アルデンテが利いた生地と焼き加減が絶妙なアメリカン・ハンドトスは冷めても美味い。

810号室のチャイムを鳴らす。
ピンポーン…… ピンポーン……

「出ねェ……」
俺ァ10秒経っても反応がねェから、思い切りドアを蹴った。
おっと、後ろから帰宅途中の三つ隣のOLのネーチャンに見られてやがる。
店にクレームが入る前におとなしくしとくか。

19 :
「佐伯さまー、佐伯さまー」
適当に声だけかけてみる。ピザ屋のマネだ。おっと、俺ァピザ屋だった。
ネーチャンが自室に入ると、俺ァさっさと810のピックングを開始した。
懐のコルトに手を潜ませながら、さっさとドアを開く。ちなみにタマは協会から支給された銀塗りのモンだが、
俺ァそこにさらに十字傷を入れてる。いや、卍に近い形だな。こうすることで、タマは食い込んで殺傷能力が増すってモンだ。
そして俺ァさらにスナップを利かせる。どうなるかは分かってるな?と……

「誰もいねェ……」
冷めたピザ二枚を届けて、一軒からのクレームを聞き流しながら、俺ァ宮下公園のあたりを通りかかった。
オーダーのラベルを確認する。
『コーポ宮下公園102 水原桜子』
「ガーリック・マスターXL」を持つと、小せぇアパートに向かった。

おっと、反応してやがる。血の臭い、薄気味悪ィぜ。
俺は今までで三人ほどヴァンパイアを片付けた。どいつも周りの支援に俺のタマの腕があって片付いた案件だが、
今回は俺一人だけよ。

女の香水の臭いもしやがる。よく通る男の声だ。

腕のセンサーがビンビンなりやがる。俺の方もしばらくタマ撃ってねェ……
早く撃ちたくてたまんねぇぜ。

女が男の方に抱きついた。こりゃビンゴ、だな。
ヴァンプ野郎の牙が光る。俺ァ同時に地面にそっと冷え切った「ガーリック・マスターXL」を置く。大事な商品よ。
そして懐からコルトを抜く。もちろんサプレッサー付よ。しかもコイツぁサイガ流に改造された特別製だ。
たっぷりとガンオイルが塗ってあってタマの滑りも良いはずだ。歩きながらそっと安全装置を外す。
俺専用の命の銃って言ってもいい。あぁ、早く撃ちてェ……

M249が入ったバイクがちょいと離れてるのばっかりが不安だ。

>「まさか貴様、ハンター、……か?」

俺ァ振り向いた佐伯と思われる男に銃口を向けると、赤外線ポインタを額に向けた。

「俺ァハンターじゃねェ…… ただの通りすがりのアメリカンピザの配達人よ。
さぁ、お届けに上がったぜ。てめェの頭にLサイズのタマをプレゼントだ……」

パシュッ、パシュ、パシュ……!

俺ァ三発の銃弾(タマ)を佐伯と思われる男の額に向けて発射した。
反動とサプレッサー音の感覚が俺の全身を震わせ、妙に興奮を昂ぶらせてくれる。
あぁ、今日もタマぁ撃てて幸せだぜ……

【以上が導入部分だ。 Have a good night...(今日も良い夜を…!)】

20 :
【投下はや! そしてWonderful! 】
【3日ほどお待ちください。もし他に希望者様いらっしゃいましたら今のうちにお入りください】

21 :
>14
【あ、ひとつだけ。「サイガ式に改造」って具体的にどこをどのように?】
【重要ですって! 反撃する側としては!】

22 :
>GM

おう、割とどうでもいい話だな。
サイガってェのはロシアのイズマッシュ・サイガ散弾銃のことだ。
銃身が長くなっててタマの軌道がより精密になった、程度に認識してくれ
タマの弾速・破壊力も増してMk3ってことにしてある。

ちなみに「町田家」のモデルになった店だ。
http://www.yokohama-ya.co.jp/

23 :
向けられた銃口が月光を浴び冷たく光る。
ガンオイルの匂いに混じる――さらに不快な臭気が臭覚野を刺激する。……この匂い……

>俺ァハンターじゃねェ…… ただの通りすがりのアメリカンピザの配達人よ。
>さぁ、お届けに上がったぜ。てめェの頭にLサイズのタマをプレゼントだ……

言葉どおりの「それらしい」ユニフォーム。男の身体から立ち昇るソレの匂い。
更なる大元はそれか。そこに置いた箱――おそらくガーリックを効かせたおぞましい物体。
「貴様、我等バンパイアの弱点を知っているな?」

嗅ぐな
見るな
触れるな
浴びるな

まさしくそれは我等に取っての四大悪のひとつ。大蒜(にんにく)。
ハンターじゃないだと? そのやたらと「使い込まれ感」のあるハンドガンは何だ。
隙のない立ち姿。トリガーにかけられた指。初めてならばいくらか震える。手練のハンターでなければ何だというのだ。
しかもそのサングラス。この「眼力」に備えるとは……すでにこの「佐伯裕也」のプロファイリングを?

続いて起こる三度の連続音。火薬の爆発音ではない。まるで空気を打ち出すような――ささやかな射出音。
なるほどサプレッサー内蔵加工。そう言えばそんな銃を使う男の話を……何処かで……
何れにしても消音効果は威力の低下を伴う。騒ぎを恐れるあまりの選択だろうが、それこそが命取りだ。
我等バンパイアに生半可な威力の弾丸など通じるものか。当たったとしても胸以外なら問題ないのだからな。

意識を前方の「弾」に強く向けた。
視界が赤く染まる。ゆっくりと、しかし確実にこちらの眉間を狙う弾が見える。回転する銃弾の先に更に強く眼を凝らす。
丸い……銀に光る弾頭に鉤十字の傷。
……嫌な形だ。教会の屋根にあるあの形……そうだ! あの方が言っていた!
昨年、協会に登録したばかりの凄腕のハンターがいると。自ら改造したコルトに、卍の銃弾を込める男だと!
名も聞いた気がするが……思い出せない。やたら妙ちくりんな……そしてその名にも嫌な響きが……

弾がいよいよ目前に迫った時思い出した。
ツル――そうだ! 水流だ! ……流れる水と書いて水流! ……ゾッとしやがる!
「ツル……十蔵なんちゃら、だっけか?」
奴がやった仲間は三名。たしか奴の弾(タマ)は――異常なほどの威力を……

上から伸びる木の枝を掴み地面を蹴る。ここは樹木が多い。枝や幹を飛び移り逃げるのは容易い。
――だがしかし
「大蒜」と「十字」、「流水」をトリプルで知覚してしまった身体が思うように動かない。抱きつく女性を振りほどけない。
口の中が乾く。舌が口内に張り付く。
まさか……この自分が追い込まれている? 人という種の進化形――ヴァンパイアである自分が!?
中途半端な跳躍はしかし、着弾の場所をずらすという効果は生んだ。右肩に一発、右胸に二発。
頭部が破壊されるよりは幾分マシだろう。見た目的に。
受けた衝撃で掴んでいた枝が折れ、女性に抱きつかれた格好のまま後ろに飛ばされた。

「ぐハッ……!」
押しつぶされた肺が絞り出した苦鳴。二度目の衝撃。木にぶつかり止まったか?
背がザラリとした幹をこする。足を投げ出し座る格好となった自分に、なお縋りつく女性。「魅いられたまま」。
迷わず引き寄せ、その首筋に牙を立てた。

「は……ああ……」
女はいつもこんな声を出す。アレをする以上にイイのだろう。もっと吸ってやりたいが時間がない。
虚ろな眼――サーヴァント特有の目をした女。いい女だ。また逢えたら「仲間」にしてやってもいい。

女を立たせ、背を押す。
ハイヒールが脱げて転がった。まるで助けを呼ぶように叫び、よろめき、座り込む女。
スーツとスカーフが風に閃く。満開の桜の色をしたスカーフ。視認出来たのはそこまでだった。
フェンスを越え「下」に飛び降りた。この公園は「立体」だ。下の駐車スペースを抜け、人の群れに俺は逃げた。

24 :
管理人はいつも通り居眠りをしていた。

ボタンを押したエレベータの扉が開く。誰も居ない。
室内に巡らされた鏡はこの姿を映していない。これもいつものこと。今夜に限りそれは幸いだった。
もし映っていたら、青白い顔をした冴えない男が一人立っていただろう。
血に染まる右肩と右胸を女物のガウンで隠した不審な男。頬を大量に伝う汗と、人のそれよりどす黒い血液。

怪しすぎる。
人目につかないよう気をつけはしたが、今の時代だ。通報されたかも知れない。
物好きな連中はすぐにネットに流したがる。鏡には映らないが写真には写るのが我等だ。

地上8階。廊下を抜けた一番奥が自分の「家」だ。居ついて三年になる。

――なんだ? 真鍮のドアの下方が……少し凹んでいる。泥のような汚れ。誰かが蹴ったか? 誰が?
――まさか!?

思ったとおり、鍵はあいていた。ドアの隙間から漂う「あの」匂い。

ファンの回る音と微かな作動音。PCはみな電源を入れたままだ。
壁一面に備え付けられた液晶画面には株価の上下を示す無数の数値、グラフが映し出されている。
見られるのは問題ない。問題なのはハードディスクに保存されたデータだ。
匿名で登録したサイトでのメールのやり取り。殺した女のデータ、仲間の居場所、その他etc.……
あけた痕跡を確認したいが、廊下より追手の気配がする。替えのスーツを取り出すのが精いっぱいだ。

バルコニーには強い風が吹いていた。見渡す限りのネオン。
手すりに手をかけ、身を躍らせる。痛む肩が夜風に染みる。紙袋が風に煽られ、バサバサと音を立てる。
飛び降りたのは隣接の七階建てのオフィスビルだ。都会はいい。こうしてビル伝いにどこまでも行ける。

新宿御苑の外周に沿って、北――歌舞伎町に向かう。彼に会い、これを診てもらわなければならない。
跳躍しつつ、とりあえずの住処をどうするか考える。朝日が昇る前に眠る場所が必要だ。
場所を知られた以上……あそこには戻れない。
投資などという仕事はくそ面白くも無かったが、手を汚さずに済む仕事ではあった。
流水を嫌うヴァンパイアが出来る仕事など限られている。動けるのは夜だけ。人並みの食事もしない。
そんな我等にうってつけの飯のタネを……それを…………忌々しい。落ち着けるいい場所だった。

煮えたぎる思いを腹に据え、見上げた夜空。二十三夜の月だった。

25 :
深夜も近いというのにどこの店も開いている。
前も後ろも人間だらけだ。会社員、OL、学生、夜の女に、男達。酒にタバコ、香水の匂いに入り混じる奴らの体臭。
誰に注意を払うでもない人間どもの群れ。見るからに観光目的の外国人だけが周囲に奇異の目を向けている。
さりげなく肩を庇い、速度を合わせながら……女を物色する。襲いはしない。ただのウィンドウショッピングだ。
立て看板を片手に声をかけてくる男。特に不審に思う風はない。

看板のない建物がここでは一種異様に思えるくらいだ。新しい外装。そう言えば最近リフォームしたと言っていた。
ドアを開き、薄暗い階段を降りると、すでに大勢の待ち人が居た。無論、この俺を待っていた訳ではない。
会社員にはとても見えないナリをした男達の首や肩には、竜や花を象った彫りものがある。
チラリとこちらを伺うが、すぐに眼を逸らす。ここでは互いについて詮索はしない。
受付のない廊下の両側に置かれた長椅子の隅に腰かける。充満する薬品の匂いと血の匂い。悪くない。

廊下の真ん中の扉が音を立てて開いた。
「佐井センセ、次も頼んます」
頭を下げる若い男。右腕を吊り、額には包帯が巻かれている。
男に続き顔を出したのは、年の頃は三十半ば。長く真っ直ぐな黒髪が美しい白衣の女。

「また来てね、って言いたいところだけど。次はただの怪我じゃ済まないかもよ?」

おいおい、親しみ感あり過ぎだろう。涼しげな目と形のいい口元が人懐こい笑みを作る。とても闇医者には見えない。
ゆっくりと廊下の「患者達」を見回した彼女の目が俺に止まる。視線をこの右肩に向けた女は不意に真顔になった。

「それ、急がないと」

男達が一斉にこちらを見た。
「……そりゃないっスよ!」
「俺なんか9時からずっと待ってんスけど!」
「あなた達はただここに来たかっただけでしょ!? それくらい自分でやんなさい!」

なるほど、彼等の傷は一見して軽傷だ。人間どもが良くいう「ツバでもつけときゃ治る」って奴だ。
綺麗な女医とイチャつきたくて待っていたのだ。まあその気持ちは解らなくもない。

「この人の手当は時間がかかるわ。さ、行った行った!」
あくまで明るい彼女に、男達は恨みがましい視線を向けるでもなく腰を上げた。彼等は総じて単純。もの解りもいい。
関わり合いになるのは御免だが、嫌いな人種ではない。

診療台はまだ生温かかった。さっきの男の匂いも染みついている。

「ごめん。そのシーツ、替えるね?」
カチリとドアの鍵をしめた女医の手が、棚に重ねられたリネンを掴む。てきぱきとした動作。助手は居ない。
「撃たれたんでしょ?」
スーツの上から解ると言うのか。それとも勘か。
脱いだスーツとYシャツを注意深く籠に乗せ、台の上に横たわった。
手を洗っているのだろう水音が止んだ。何やらカチャカチャと音を立てる銀のトレイ片手に、マスクをした彼女が近づいて来る。
「三発被弾した。一発は貫通したからいいが、二発まだ残っている」
「そう。結構……深いわね」

触りもしないが、彼女の見立てはいつも正しい。
眼を閉じ、両手を硬く握りしめた。腕はいいのだが……彼女の治療は少々……いやかなり荒っぽい。

26 :
弾の摘出と共に傷は瞬時に塞がった。痛みが引き、生気が戻る。

「便利ねぇ、ヴァンパイアって。傷跡どころか、血も汚れもすっかり綺麗になるなんて」

彼女は闇の医者だ。患者のえり好みはしない。たとえそれが……ヴァンパイアでも。
そんな彼女にこの眼の力を使ったことは一度もない。だが彼女は違う。
「ねぇ。ほんとは……欲しいんでしょ?」
彼女の目がこの目を捕えて離さない。白衣のボタンをひとつ、ふたつと外す彼女の手は、なんと細く、白いのだろう。
「いいのよ? 吸っても。仲間にしてくれたら……」
彼女の吐息が首筋を這う。まるでヴァンパイアのように。身体の芯が燃えるように熱い。こんな女がこの世にいるのだ。
「浅香(あさか)……」


何度か抱いた。しかし牙は使わずに耐えた。
彼女は言う。
「永遠の命があれば、ずっとこの仕事を続けるでしょ?」
だが彼女は知らないのだ。ヴァンパイアの歩く道は永遠の闇だと言うことを。

「もう服を着た方がいい。俺は追われている」
「なにそれ。そういう事は先に言ってよね?」

口を尖らす仕草まで愛おしい。彼女を巻き込みたくない。だが――

ドアの向こうで息をひそめ、こちらを伺う気配がした。コトに夢中で気が付かなかったのか。
ここは地下だ。逃げ道など無い。

27 :
ここまで読んできたらワクワクしてきた
がんばれ

28 :
>>27
ならいっそ参加してしまったらどうだろう。見ての通り、女手が足りてない
もし望むなら「仲間」にしてやってもいい
あんたが女なら、の話だが

29 :
>あんたが女なら、の話だが

キモっ!

30 :
男の血は吸う気になれない

以上っ!

31 :
【書くなら今日だが、悪ィがもしかしたら今日中に書くのは無理かもしれねェ…
そうなりゃこの後は大分後になるだろう。それでも良いなら辛抱してくれ
悪ィな】

32 :
【まったくもって構わない】

33 :
アニエスのスーツってェのがどんなモンかは分からねェが、スーツ姿に茶髪、
何よりも飛び出した犬歯がグラス越しでも物語ってる。こいつァヴァンパイアの佐伯だ。

奴が跳躍する。俺のフォーカスがスローモーになりそうだ。
大体の奴ァ最初のタマを頭に受けて動けなくなったところを心臓にズドン、だ。
だがこいつァ最初からタマの動きを読んでやがった。眼力がそれを物語ってる。

>「ツル……十蔵なんちゃら、だっけか?」

俺ァピザ界じゃそれなりに有名なつもりだ。
なにせナリがナリだけに、みんな俺のこたァ覚えやがる。
だがヴァンプどもにも名前が通ってるたぁ驚いたぜ。
タマは奴の右胸と肩に入っただけだ。致命傷にはならねェ。
顔をそこまでして無事にしてェってこたぁ、よほどのナルシストってこった。

「あぁ俺が水流だ。お前ァ佐伯ってことか。俺ァハンターの中でも優しい部類だ。アメリカ人よ。
タマの十字架であの世に送ってやる。成仏なんかはさせねェ…」

奴が怯えてるのがはっきり分かるぜ。
だが女が人質に取られてやがる。桜色のスカーフの結構な美人だ。後ろ姿は少なくともな。
民間人を巻き込む訳にはいかねェ…
女の首筋に佐伯の牙が突き刺さる。もう「手遅れ」かもな。
ヴァンプに魅入って牙を突き立てられた奴ァヴァンプになる。サーヴァントって奴よ。

俺ァ僅かな間隙を見て銃を構えると、銃口を再び佐伯に向けた。

「アァッ!」

女が押されて丁度盾になるかのように佐伯の奴に転がされる。
俺ァ視界を奪われ、一瞬後ろに跳躍すると、バク宙しながらピザの箱の方まで戻った。

34 :
「手こずらせやがって。運が良かったな。てめェの体にガーリック弾をお見舞いしてやる!」

俺ァもう一度コルトを抜くと、跳躍する佐伯の方に向けてタマを発射する。
乾いたサプレッサー音が三発響き、それがピザのダンボール箱を貫通して佐伯目掛けて飛んでいった。

この「ガーリックマスター」ってぇのは思えばヴァンプどもの苦手なニンニク入りだ。
しかも俺が焼いたこれは通常の三倍増しよ。特別サービスってェやつだ。
どこを齧ってもニンニクの味が効いてやがる。
つまりだ。

タマはダンボールを貫通した後、パン生地を抜けて、その後卍字の傷にガーリックをタンマリとメリ込ませ、
ガーリックとチーズたっぷりのタマが佐伯を襲うってこった。

――と。

佐伯が逃げやがった。俺のガーリック弾は奴の頬にかするかどうかのところで避けられた。
タマからは火薬の臭いとニンニクの臭いがするはずだ。
この宮下公園ってェのは思えば空中庭園だ。下には駐車スペースがある。
ホームレスどもがうようよしてやがる、汚ねェ空中庭園なんだぜ。
おまけに佐伯が逃げた方向は線路がわんさか縦断してやがる。この時間帯は電車の音でうるせェ。

「逃げられちまった…他の奴の獲物にならなきゃ良いけどな」

うめき声を上げながら俺に縋り付く若い女は人間の目をしてねェ。
こいつも始末しておきてェところだが、俺ァあいにくサーヴァントの始末は請け負ってないんでね。
コルトの背中を首に一発お見舞いして気絶させると、ホームレスどもに襲われねェ程度のところに隠しておいた。

『水流だ。佐伯ってェヴァンプを見つけた。女が一人やられた。地点は渋谷エリア157-77、始末を頼む
俺ァそのまま仕事を抜けて佐伯を負う。発信機の状態はどうだ?』

『…ご苦労。発信機がお前の弾に入っていると伝えたが、無駄撃ちしたな?
確かに二つ、北方向に移動しているのを確認している。ピザ屋など辞めたまえ。すぐに追え』

『そいつァ良かった。だがこれも俺の”仕事”…なんでね。最後のをすぐ届けて店長に連絡してから向かう。
”仕事”が済んだら、”仕事”だぜ…』

プツリと切れた協会からの連絡を確認すると、最後の場所に向かった。
少々穴の空いたピザだが、ま、半額ぐらいにしとくか。

35 :
ピンポーン、と鳴らすと、若い女が出てきた。
なかなかのスタイルで、紅葉の模様のスカーフをしてやがる。
まだ帰って間もないOL、といったところか。

「水原様、でよろしいですね。少々お届け中に傷つけちまいましてね。
お詫びに商品を半額と、次回の半額クーポンで…」

女と目が合った。こいつァさっきの女か!!?
倒れてる位置からここまでは空でも飛ばねエ限り追いつけねェ。
そう考えるとそっくりなただの別人だろう。
女はピザの臭いがすると一瞬喜んだ表情をするも、穴が開いていると知るや、
血相を変えてキレた。

「あなた、こんなグチャグチャにしてお金取るっていうの? タダにするか、
あなたの店にクレームを入れられるか、どっちか選びなさいよ!」

女の人相は悪く、さっきの女に瓜二つなのにまるでヴァンプのように犬歯を尖らせて怒りやがる。
面倒なことになる前に謝ったおくのが筋だぜ。

「御代はいりません。スイヤッセンシタァ〜」

俺ァ最後の仕事も終わらせると、店に連絡を入れた。

「仕事は終わったぜ、店長。あとはクレームが一、二件入るかもしれねェが、
そりゃあんたに任せた。悪ィが”仕事”が入ったんでね。
俺、届ける、あんた、謝る。そういうモンだろ? ピザ屋ってのァ」

何かを喚きたてようとする店長を無視して電話を切り、俺ァトランプピザの帽子をトランクに放り込むと、そのままヘルメットを被って
新宿方面へと向かった。

36 :
俺ァ大都会が嫌いだ。
ロスに居た頃ァまだ楽だった。銃に囲まれて暮らして、タマが飛び交う世界だが
アメリカって国は自然が多くて豊かだ。フリーダムとリバティーの国よ。

日本人ってェのはどうしてこうも集まりたがる?
東京の密集具合よ。田舎から色んな企業がこぞって東京に出たがる。
そうなると労働者どもも東京にゾロゾロ出てくる。ネズミとモグラの巣だぜ。
人がいるから人が集まる。日本人ってェのは小心者だ。

ガキの頃、アメリカから来た帰国子女の俺を、連中は仲間外れにしやがった。
散々馬鹿にされ、蔑まれた。だけど舐められたことだけはねェ…
何故なら俺ァ殴られたら、必ず殴り返してたからな。タマぶち込まれねェだけ有り難いと思うべきだぜ。

俺は群れる必要はねェと思ってる。それがアメリカ流だからだ。
ロスっていやぁ、ガキの頃ァコロンボ刑事に憧れたもんだった。
コロンボは大体群れずに一人で解決しちまう。俺もああいう風になりてェもんだぜ。

『歌舞伎町に着いたか? 地点は新宿エリア137-48だ。ここで止まっている。
丁度ウチの連中が調査した要注意人物が潜伏している場所だ。
名前は 佐井浅香。 人間の女だが、こいつが何故かヴァンパイア勢に手を貸しているらしい。
見つけたら始末してくれ。後はこちらで何とかする』

『あー…ここが135-39だからもう少しだな? 人間の女だって?
俺ァ女を撃つためにタマやってんじゃねェ… 佐伯を片付けたらヅラかるつもりだ』

『両方始末したら報酬は5倍にしてやる。それに水流、ヴァンパイアには
女もいると、ガイダンスで説明したのを忘れたとは言わせんぞ?』

『分かった。だが俺ァピザ屋は辞めねェ…それに終わったら休暇が欲しい。
ちょっと急用ができちまったんでね』

さっき嗅いだガーリックの臭い、あそこで俺はピーンと来たぜ。
俺の探していた香味野菜ってのがニンニクに近ェってのがよ。
だから家に帰ったらまた『町田家』のスープにチャレンジするつもりだ。
必ずあの味を再現してみせるぜ。なァ、
――斉藤さんよ。

37 :
『モンゴル風湯麺、吉本 歌舞伎町店』
さすが眠れネェ町、新宿だ。ラーメン屋まで深夜営業してやがる。
前に人気店ってェことで別の店に食いに行ったことがある。

はっきり言って美味くはねェ…
何より野菜炒めが死んでやがる。作り置きってやつだ。
タンメンってェのはただ味が良いだけじゃ話にならねェ。
「炒」(チャオ)と「爆」(バオ)が利いてから初めて良い具材として生きる。
「炒」ってのは弱火で鉄鍋を暖めてじっくり炒める方法、「爆」ってェのは強火で脂と一緒に強火で
一気に炒める方法だ。これができて初めてラーメンの具材になる。
って、500円でバイトしてた頃、マスターに言われたモンよ。
基本ができてねェ店はまずい。だが、秘伝の旨辛味とかでテレビで取り上げられてからは、
店は毎日繁盛してるって話だ。
人がいるから人が集まるもんだ。日本人ってェのはそういうもんなんだぜ。

さて、こんな店に佐伯がいる訳がねェ。横長の縦に並んだ看板を見ると地下があるようだ。

『B1 Bar ラヴニール』
ラヴニール、フランス語で「未来」を表す言葉だ。
L'avenir 、つまりル・アベニールでも良い。
何でこんなことを知ってるかって? 俺ァ仕事でビジネスホテルを使ったんだが、
こういう名前で、ラヴとかいう名前の宿に男一人で泊まって良いのかって思って調べたら出てきたんだよ、この単語がな。

さて、地下に降りると、俺ァ早速席に座って注文した。
「ワイルドターキーをダブルで頼む」
俺ァタバコは吸わねェが酒は好きだ。スコッチなんて貧弱なモノは飲まねェ。
アメリカンならバーボンよ。

38 :
周囲を見渡してみる。ポイント表示は Shinjyuku 137-48とバッチリなってやがる。
だが佐伯の姿は見当たらねェ。

(…2階から上の風俗店にでも行ったか?)

センサーの方は1階の「吉本」よりも強くなっていてやがる。ここに居るのは間違いねェ…
その時、横から声を掛けてきた野郎がいた。

「水流様ですね?」

俺よりも一回り近く若ェような、細身の兄ちゃんだ。恐らくタマの腕も大したことはねェだろう。

「…あァ?」

「僕もハンターの一人で、仁科渉(にしな・わたる)と申します。今回、水流さんと組むよう協会から頼まれておりまして。
どうぞ、こちらへ」

調子乗りやがって。何より俺より先に居るのが気に食わねェ。
仁科に案内されて後ろのダーツやらビリヤードをやってるあたりに通される。
一番奥のビリヤード台は下が完全に板で密封されてやがる。不自然だ。

「…この下です。この下に佐伯が潜伏しているとのこと。
僕が先に突入します。水流さんは後から来てください。ここは地下2階よりも下があって、
連中はエレベーターで自由に出入りしているようです」

「おう、お前誰に口利いてんだ?俺ァアメリカ仕込みのタマ撃ちよ。
お前はとりあえず俺の後に突入しろ」

俺ァさっさとここの店長に協会の証を見せると、ビリヤード台をどかして
下に突入した。こういうのは速度が勝負だ。
案の定、酒に酔った馬鹿が一匹千鳥足で歩いてやがる。
俺ァ素早くバック宙しながらそいつの頚椎をコルトで殴った。
倒れた奴の財布を漁る。案の定、ホルダー付きのカードキーのようなものが出てきた。
VとPを組み合わせたようなマーク、おまけに読み取り部もある。

「仁科、お前ァ上に止めてあるバイクからブツを持ってエレベーターから入れ。挟み撃ちにするぞ。
俺ァこのまま時間を稼ぎながら進む。同時にここを制圧してやろうぜ」

仁科が慌てて外に出たあたりで、通信が入った。

『宮下公園で女を確保したそうだ。ところでそっちの様子はどうだ?
もう着いたのかね? 仁科という男を…』

プツリ、と通信が途切れる。敵に見つかったんだ。馬鹿なタイミングの通信のせいでな。
俺ァ死ぬ訳にはいかねェ。あのスープの味を再現するまではな。

マガジンは既に交換済みだ。8発とも十字の部分にガーリックをたっぷり塗りこんである。
佐伯ももう終わりよ。

腕のセンサーがビクビクしやがる。俺のタマも銃口から飛び出したがってるぜ。
俺ァ角に隠れてしゃがむと、まずは飛び出してきた最初の敵の心臓あたりを狙って一発を撃ち込んだ。
パシュッ、とサプレッサーの小気味良い音が響く。


【待たせたな】

39 :
廊下の向こうの気配には彼女も気付いたらしい。
後ろ手で乳支援ベルト(俗称brassiere)のホックを留め、しかし慌てず騒がず診療台後ろのカーテンを引いた。
果たしてそこには大がかりで場違いな機材が所狭しと置かれていた。

「……これは……?」
「借金のカタに『患者様』から頂いたの。けっこう使えるわよ?」

先に服を着たらどうかと思ったが、つい目の前に夢中になるのが彼女の可愛いところでもある。
仕方なく、キーを操作する彼女の背に白のブラウスを羽織らせてやる。ラジオの電波でも傍受するかのチューニング音。
すぐにそれは何者かの「声」を拾った。途切れ気味で掠れているが……男のものだ。

……≪……宮下公園で女……確保……そうだ≫

「宮下公園? これは……」
「そう。ハンター達の通信電波よ。妨害電波だって出せる」

彼女の操作で切れ切れの会話が「ニシナという男」のあたりで途切れた。
「呆れた女だ。こんなものを使って普段から奴等の会話を盗聴してたのか。違法だぞ」
「……あなたが言う?」
「俺に人間の法など関係ない」
「あたしも。存在自体が法の外だから」

悪戯そうな目は笑っていない。その手がさらに……掛け布に隠れた架台下を探る。
「おいおい。そんな物まで持ってるのか」
「女の一人身だもん」

その右手に握られていたのは小振りの拳銃だった。ハンマー(撃鉄)の形が小さく丸い。
「ワルサーPPK。これならたぶん、あたしでも扱える」
強張った貌のまま……彼女は手慣れた動作でマガジン(弾倉)を装着し、スライド(遊底)を引いた。
ガチリという力強い音。今のでタマがチャンバー(薬室)内に移動した。
この状態になったPPKはトリガー(引き金)を引くだけで弾が出る。ハンマー(撃鉄)を起立させる必要はない。
つまり――彼女は「本気」だ。

「何故そこまで肩入れする」
「恩を売ってるだけ」
「……恩?」
「そうよ。もし上手く逃げられたら……仲間にしてくれる?」

銃のグリップを両手で保持した彼女がウィンクした。……美人はトクだ。
そんな顔でいつも君は軽く言う。仲間にしてくれと迫る。俺は……いつも通りの返答をするしか無かった。

「駄目だ」

ピクリと片眉を跳ね上げた彼女が、マズル(銃口)を俺に向けた。至極冷静な動作だった。

「ヴァンパイアが血を吸うのは悪意じゃない。ただの本能。違う?」
「……違わない」
「なら吸っちゃえばいいじゃない。こっちがいいって言ってるのよ?」
「吸えば……君は俺の僕(しもべ)=サーヴァントになってしまう。放置すれば死ぬか、或いは――」
「吸血鬼になる、でしょ?」

ピタリと額に吸いついた銃口は冷たかった。彼女の指が安全装置を外すのが見える。脅しまで堂に入っている。
だが真の決意が試されるのはここからだ。

「誰もがなれる訳じゃない。『素質』が必要だ」
「素質って……どんな?」
「……欲望だ。人の血を求め、欲する欲望。心からヴァンパイアになりたいという願い」
「それなら……誰にも負けないわ」
「そうか。なら――俺を撃て」

40 :
「……っえ?」

声が上ずっている。明らかな動揺だ。
「銃口を降ろすな。君が本気なら撃てるはずだ」
「……でもっ……」
「俺は化け物だ。死にはしない」

白い手と指がカタカタと震えている。間違いない。彼女はヴァージン。まだ人を撃った事が無いのだ。
これで俺を助けようなどと聞いて呆れる。

「早くしろ。時間がないぞ」
「………っ……」
「――撃てえええええ!!!!!!!」

彼女の指がトリガ―を引いた。
よもや目を閉じるかと危惧していたが、彼女の瞳はしっかりと俺の目を捕えていた。
――条件反射とは恐ろしい。長年に渡り銃による攻撃を受けてきたからこその反射か。
その音を聞いた瞬間、すべての事象が自動的にスローになった。
我々ヴァンパイアが何故人より動体視力に優れ、素早く物事を察知し、動けるのか。
答えはこれだ。
覚醒を促すノルアドレナリン、快感を誘うドーパミン、エンケファリン、β―エンドルフィンその他の脳内物質。
その分泌量が違うのだ。これと言った場面で大量に、そしてそれを受け的確に反応可能な強靭なる神経その他の細胞も。

シアー(ハンマーを保持したり離したりする為の金具)が回転し
ハンマーがリリースされファイアリングピン(撃針)が弾のプライマー(雷管)を叩く

PPKの内部機構が発するすべての音が、すべて順序正しく「聞こえた」
寸分狂わぬ各スプリングの反発音とタイミング。滑らかにバレル(銃身)を滑り押し出される――弾丸の弾頭。そのすべてが。
それが自分を撃つ弾だと実感したのは、それらすべての音がひとつの音に集束した時だった。
それは硬い床をハリセンで叩いたような発射音。

顔全体を棍棒か何かで殴られたかの衝撃。間髪いれず三発、いや四……五発!
小型のハンドガンではあるが、至近距離で六発も喰らったのだからたまらない。身体も意識も弾け飛んだ。
安らぎとも緊迫ともつかない妙な感覚が己の身体を支配した。散った何かが、再び元の場へと戻っていく感覚。
「心臓」のある本体へと。はたで見る者に取ってはおぞましい光景だっただろう。

次に目を開けた時、彼女の顔が近くにあった。冷たい床から抱き起こす彼女の手は温かい。

「良かったわ」
「……何が?」
「全部貫通して」

振り向くと、たったいま自分が寝ていた樹脂製の床材に六つの穴があいていた。弾頭がめり込んだ痕だ。かすかな硝煙の匂い。
穴の他は気味の悪いほどに綺麗だった。血の染みひとつ残っていない。

「……一発で良かったんだが」
「ごめん。でも練習していいって言ったの、あなたよ?」

ペロリと舌を出した彼女が自分の胸を抑えている。頬が紅潮している。興奮冷めやらぬと言った体。たいした女だ。
そして一方で俺は、さっきの彼女の問いに答えずに済んだことで安堵していた。
「何故吸わないのか」という問い。
答えられる訳が無い。我等誇り高きヴァンパイアが「人間の女に惚れた」などと。

「度胸はついたな?」
「お陰さまで」

マガジンを取り出し七発のカートリッジ(実包)を補弾しているその様は妙に落ち着き払っていた。
本当に君は――医者なのか?

41 :
「当たるコツを教えて?」

これまた何処から仕入れたのか、ピンク色の防弾チョッキを着込みながら彼女が問う。俺は思わず吹き出した。
「あれだけ『生身』に打ち込んどいて何を言うんだ。反動が生む誤差、照準の僅かなズレ。頭のいい君なら掴んだはずだ」
そして白状する。
「銃は撃ったこともなければ触ったことすら無い」と。

撃たれた経験のある人間ならば、少しはこの気持ちが解るだろう。
初めてその味を知ったのは――400年以上も前の話。

当時「種子島」と呼ばれていた銃の普及を危惧した「あの方」から……とある鍛冶場を襲えと命じられ……
まさかそれを感付かれていたとは思いもしなかった。思えばあの頃から「ハンター」は存在していたのだ。
数人の放った弾丸がこの手足を吹き飛ばした。あの衝撃は忘れられるものではない。
頭や胴を破壊され、倒れる仲間達。あれほどの同胞の血を見たことも。
闇に生きる者となり――初めて感じた屈辱と戦慄。

ただしそれは束の間だった。
その武器は、撃てばすぐに控えの射手と交替しなければならない不便なシロモノだったからだ。
弾丸を込め、火薬を詰める動作もすべて手動。起爆薬は火縄。
そのあまりの使い勝手の悪さを我々は嘲った。湿気て火が点かず、イラついた様を笑ったことも。
我等のスピードを以てすれば、子供の玩具に等しかった。
まさかその玩具が更なる進化を遂げるとは。それも絶対的な切り札を伴って。

銀の弾丸――silver bullet

いつどこで誰が考案したのか。その弾丸がひとたび我等の心臓を射抜けば、たちまち滅びが訪れる。
崩れ、溶け、この世から完全に抹消される。灰すら残らない。

いずれにしても……今までは運が良かっただけだ。今夜の敵は相当手強い。
奴の得物は無論火縄銃などではなく、やっかいな改造まで施した現代の「対吸血兵器」。
腕だけではない。心の内に何かを秘めている。そんな弾(タマ)だった。それが一番「怖い」

自身の巡らす思いに、ふと自問した。
『怖い? 何が? 死ぬのが? 俺は死ぬのが……怖いのだろうか?』

「追手は誰なの? 人数は?」
彼女の声で我に返る。……俺らしくもない。

「水流という名の、相当の手練だ。威力の高いサピレッサー拳銃所持。もうひとかたはさっき君も聞いただろう『ニシナ』。
若手のハンターらしいが、武器は不明だ」
「少なくとも二人居るってことね」
「そうだな。俺が奴なら前後から攻める」

息を止め、じっと耳を澄ませた彼女が耳打ちした。
「ほんとね。あっちだけじゃなく、エレベーターの方で音がする」

言われて自分も目を閉じた。全神経を聴覚に集中させる。金属製の何かを設置する音。
注意深く動かしてはいるようだが、それがかなりの質量を持ったものだと解る。
「一応」叩きこんである各種武器の仕様が頭の中で展開される。
本体重量推定六、七キロ。少なくとも地面に設置しなければ使えない火器だ。そんなものを、この屋内で?

通常屋内で使う最も有効な武器はハンドガンだ。一発ずつ正確に狙い撃つならそれしかない。それなりの威力もある。
より殺傷能力の高い火器、例えば大人数を相手取る場合でも、せいぜいサブマシンガン(短機関銃)止まりだろう。
連射が可能な一方で威力は落ちるが長距離を飛ばす必要はないのだし、むしろ安全だ。
それより威力が高くなると、人や壁を貫通し、味方は無関係の人間まで殺傷する危険性があるからだ。

「浅香。エレベータ側に気をつけろ。あの音は軽機関銃の可能性がある」

42 :
「軽……機関銃? ダダダダダーー!! って撃つアレのこと?」
それこそサブマシンガンでも構える身振りで答える彼女。
……まあいい。今、「小銃」と「軽(とか重)が頭に付く機関銃」の違いを説明している暇などない。

「威力も射程も桁違いって事だ。君の着ている『それ』も難なく貫通する」
「なに……それぇ……」

さっきまでの威勢は何処へやら。ペタンと尻餅をつく。
そんな彼女を尻目に、俺は診療室の隅に置かれた薬品棚を物色した。
「シアン化カリウム」とラベリングされた小瓶の隣に、「無水エタノール」の瓶が二本あるのが目に付いた。
小瓶は懐へ。アルコールの瓶は二本とも彼女に放った。
「ちょっと……何すんのよ!」
慌てて受け取った浅香が憤慨している。……威勢が戻ったようでなにより。

「合図したら、エレベータ側に向かって投げつけろ」
「なるほどっ! 撃てば男の身体に火が付くってわけね!」
「そう上手くいけばいいが、少なくともビビって撃てなくなる」
「で? その後は?」
「投げたらすぐに走れ。じゃなかった。走るな。匍匐(ほふく)前進が基本だ」

銃を相手にする場合、壁に沿って立つのはもっとも危険だ。思わぬ方角から跳弾が飛んでくる。
一見無防備だが、床の中央を這って歩くのが一番安全なのだ。(とあの方が言っていた)
彼女は逃げる姿勢より、向かう方角の方が気になったらしい。

「前進って……どっちに? 反対側に逃げるの?」
「違う。エレベータの男を叩くんだ」

一瞬唖然とした彼女だが、すぐに真顔になった。
「わかった。裕也はどうするの?」
「俺は……奴を倒す」
「……丸腰で? せめて防弾チョッキでも」

壁にかかっていたそれを掴もうとした彼女の手を押さえる。
「……奴の弾はそんなものは効かない。そもそもそんな物を着る趣味はない」
「趣味って……」
「ヴァンパイアの矜持が許さないってこと」

ニヤリと笑って見せた俺を見て、彼女も笑う。準備OK?


俺は注意深くドアを引き、トンっと「それ」の背を押した。

――――――パシュッ!!

思った通り、それは狙い撃たれた。聞き覚えのある音。奴の銃だ。弾丸が見事目標の左胸を撃ち抜く。
しかし呆気に取られたに違いない。
床に転がるそれはヴァンパイアでも、まして人間でも無い。人間を模った人形だ。「中山筋肉ん」と俺は呼んでいる。
筋肉んが恨めしそうな目でこちらを見た気がしたが、俺達が逃げるためだ。仕方がない。

床に伏せた状態で身を乗り出した彼女が、瓶を放り投げた。瓶の割れる音と、男の叫ぶ声。

彼女がそっちに向かうのを確認し、俺は壁伝いに奴に向かって走った。
基本、丸無視。何故なら俺は、ヴァンパイアだから。

もし奴の弾が運よく心臓に当たらなかったその時は……血をいただこう。首をへし折った、その後でな!


【仁科にエタノールの瓶を投擲、水流に肉弾戦を仕掛ける】

43 :
水流(つる)家の歴史は、どうやら聞くところによれば鹿児島県にルーツを持つらしい。
種子島の鉄砲ってのも戦国時代初期にそっちから伝わってきたものだ。
俺の先祖ってェのは鉄砲隊だって言われてる。
つまり俺がガキの頃親父から教わったタマは、種子島流の流派を継いでいるとかそうでないとか。

そんなことはどうでもいい。要はタマが上手いか下手かでいえば、
どっちかってェと血筋に恵まれてるってこった。
ただ、悪ィが俺ァアメリカンなんでね。ピザ屋になっちまった。
日本文化のラーメンってェのにも興味がある。あの味を出さねェうちァ死にたくねェ…

仁科とエレベーターで挟み撃ちにするつもりが、糞通信のせいで予定が狂っちまった。
なんと正面から来た奴ァ、佐伯だった。

――と、体型が近ェだけで「筋肉ん」という今売れねェ芸人にそっくりな人体模型だった。
佐伯が出てきたのはその後ろだ。

奴ァ「くわっ!」と目を見開き、全身を使って飛び掛ってきやがる。
俺の残りのタマは6発だ。
俺ァ運動神経は良いはずだが、ヴァンプの連中ってェのは早ぇ。
とても正面から戦ったんじゃ太刀打ちできねェ。
最悪、エレベーターから来る仁科を待って二人懸かりで攻めてぇところだ。
オマケにさっきの男が連中の仲間とすると、奥には女以外にも敵が潜んでる可能性だってある。
先は角になっていて左に折れてるようだが見えねエ。
少なくとも地下1階のバーに比べてこの地下2階はコンクリの塊のような構造で
娯楽設備はねェと思っていい。
その時、先でパリン、という音が聞こえ、「おぉぉぉ!」という叫び声が上がった。
声質からして仁科かもしれねェ。

44 :
俺ァ得意のバック転をしながら佐伯の動きを見て、タマを二発ばかり壁に向かって撃った。
いわゆる「跳弾」って奴よ。このタマは壁のわずかな角度の違いで撃ちこまれずに反射し、生きたタマとして
しばらくこの場面を制圧する。俺ァおおよそのタマの軌道を読みながら、絶対にタマが来ねェだろう死角を利用して移動し、
佐伯をいなしながら奴目掛けてさらに二発を撃ちこんだ。それも心臓目掛けてだ。

これで奴ァかわすのも難しくなって、俺の本命のタマも命中率が上がる。
そのまま左へと曲がった。

その先は廊下が続いていて、いくつもの部屋がある。
何人かの男たちが俺らの戦闘が始まったのに気付き、逃げ回ってやがる。
奥には開いたエレベーター。そっちに男どもが殺到する。女もいるようだ。
そのやたらスタイルの良い女は仁科

俺が佐伯の方に銃を構えながらエレベータ側に後ずさりすると、女は仁科が拳銃を構えるや否や、薬ビンのようなものを投げた。
パァン、パァン、ボォォ…ドゴオォォォン!!!!――

「ギャァァァ!!」

エレベーター付近が火の海になり燃え上がり、M249が仁科ごと爆発した。
近くに殺到した男たちも火の渦に巻き込まれちまったようだ。

「チッ!」

俺ァ舌打ちすると、とりあえず女の首と背中に向けて一発ずつ銃弾を撃ち込み、そのまま掴みかかる佐伯をかわすとコルトを投げつけた。
そしてポケットからアレを取り出す。ニンニクだ。
実は水原家に届けに行く前に、こっそりニンニクを上からもぎとっておいた。
なんせ三倍入ってる訳だ。多少盗ったところでバレやしねェ…

「来いよ、佐伯。口の中にガーリック砲をぶっ放してやらァ・・・」

俺ァ女や仁科がどうなったかを確認する前に通路側へと引っ込み、佐伯と対峙する。
片手にはニンニクが数片。もう片方の手はポケットに入れてある。
俺にはもう一つ隠し武器が仕込まれている。安全な位置で戦いつつも逃がすつもりはねェ…

【仁科はM249と一緒に構成員を数名巻き込んで爆死、エレベーター完全破壊】
【いよいよ決戦ってとこか】

45 :
エレベータ側での騒ぎが気にはなったが、見ないことにする。
やると決めたからにはやる。そういう女だ。彼女が撃たれ、死ぬようなことがあれば、その時は――

半身(はんみ)の姿勢を保ちつつ、床と壁を踏み台にした跳躍を数度。そのたびに狙いを変える水流。
無駄だ。時に弾速を上回るヴァンパイアの動きを読める射手など居ない。
目標まで5m。一気に間合いを詰める。
「シャッ!!!!」
右眼を狙った突手。普通の人間は反射的に左によける。そこを――肘で叩く! 

ゴギンッ!!

鈍い音は肘打ちが決まった音ではない。水流は左右のどちらにも避けていない。
避けた方向は後ろ。奴はなんと円を描くように後退したのだ。まさかのバク転だ。
伸ばした指先は空しく彼のサングラスを弾き飛ばしたのみ。音は、水流の足先がこの手首を蹴りあげた音。
「――くっ!」
たまらず一歩後退。落ちたサングラスがカラカラと床を転がる。

「……やるね、おっさん?」
ふつう咄嗟に後転する人間など居ない。見た目はいいが、無駄な動きも多い。隙も大きく実戦向きじゃない。
格好つけたがりの兄ちゃんがやりたがるような、そんな行為だ。
しかし水流のそれは広場で若いのが練習する、あんな動きとまるで違う。無駄なし隙なしかつダイナミック。

追いすがる二度目の攻撃もすんでの所でかわされた。「いなし」が同時に攻撃にもなっている。恐るべし、バック転!
いちいち間合いが開くのも気に食わない。タマを撃つために、意図的に間合いを作っているのかも知れない。
案の定、奴は撃ってきた。音は二度。よくもそんな体勢で撃てるものだ。

いつも通り、眼を凝らし弾道を読む。だがその必要もなかったらしい。
二発とも大きく軌道をずらし、この身体を避けるように左右に分かれたからだ。
「何処を狙ってる!?」
流石の奴も無理な姿勢が祟ったか。構わず水流を挑発する。銃口がこちらに向く。

――シュバッ!!! 

「なにっ!?」
後ろから来た何かが脇腹を掠めた。それが弾丸だと気づいたのは、掠めた弾が再び跳弾となってこちらに向かってきた時だ。
硝煙に混じる大蒜臭。
「……うそ……だろうっ!?」
ビリヤードの軌道と異なるイレギュラーな軌道。当然だ。弾の形は完全な球体ではなく、壁も完璧な平滑面ではない。
まったくと言っていいほど弾の軌道が読めない。
こちらが読めないというのに、弾の方はまるでこちらをロックオンしたかのように執拗に追ってくる。
そして撃った本人には当たらない。壁面の中の僅かな凹凸を把握し、あらかじめ軌道を予測し撃ちこんだとでも?
縦横無尽に張り巡らされた赤外線センサーのようにこの動きを止め、制限する二つの軌道。
避け切れず、掠めた弾が足や腕に肉を削り、持っていく。
魂の宿る弾を撃つ男。なるほど、ガン(銃)、魂(コン)。

奴の指がさらにトリガ―を引いた。二発! 狙いは――この左胸!
跳弾は未だにその動きを止めていない。左右より交差しつつ接近する弾頭が、前後左右どちらに逃げることも許さない。

「Shit(くそっ)!!」

俺はヴァンパイアの誇りをかなぐり捨てた。
この場合もっとも安全と思われる体勢――その場に腹這いになった。

46 :
壁材の破片がパラパラと頭上に落下した。
心臓を狙った弾が後ろの何かに当たる音。跳弾はさらに数回上の空間を飛び回り、ようやく動きを止めた。
眼前に置かれた右袖のカフスが千切れ、無くなっていた。
肘、肩、大腿に焼けつく痛み。
そんな痛みはどうでもいい。どうせすぐに戻る。高価なスーツを台無しにされたのは痛いが、百歩譲ろう。
許せないのは――この匂いだ。奴が弾に「あの匂いの元」を擦り付けていたのだろう。 
宙に漂う粉塵までもが濃厚なあの匂いを撒き散らしている。
身体じゅうのあらゆる場所、それこそ髪の毛一本一本があの匂いに「汚染」されていく。
――おのれ家畜の――ブタの分際で!! 骨も肉も粉々に砕いてやる!!

しかし顔を上げたその先に奴の姿は無い。廊下はすぐ横で直角に折れている。流石に跳弾を恐れ非難したのか。
飛び起きざまに落ちていたサングラスを憎悪を込めて踏みつぶす。
グラスの割れる、一種清涼とも言える音が、滾(たぎ)る思いを束の間落ち着かせた。
――そうだ。落ち着け。まだ勝敗は決していない。

>パァン、パァン、ボォォ…ドゴオォォォン!!!!――
>ギャァァァ!!

浅香の居る方向からだ。あのエタノールが功を奏したのか。
数人巻き込まれたようだ。思った以上の効果だが、だからこそ急に彼女の身が心配になった。

廊下を曲がるとすぐに水流の後ろ姿が目に入った。
その向こう、エレベータ周辺にはヌラヌラと床を舐める炎。その少し手前に彼女。
俺の言葉を忠実に守り、いまだ「伏せ」の体勢を崩さない彼女に向かい、水流が発泡した。やはり二発。

「浅香!!」

至近距離。
一発は彼女の背中に命中。もう一発は首筋を掠め床に着弾した。血飛沫と共にあり得ぬ量のコンクリートの破片が弾け飛ぶ。
彼女は動かない。ショックで気絶したか、耳元での炸裂音で鼓膜をやられたのか。
出血はさほどでも無い。あの出方、動脈ではない、静脈からだ。急ぎ手当すれば問題ない。
背の方はまったく出血が見られない。着弾の角度が浅いせいで、ぎりぎりあの衝撃を食い止められたのだろう。
だが衝撃の圧力は相当のはず。肋骨くらいはやられただろう。再度「感情」が爆発した。

「貴様あああ!!!」

後ろから水流に掴みかかった。
ヒラリと余裕の体でかわされ、腕が虚空を薙ぐ。奴が銃を構える。

――馬鹿め!
と思った瞬間、水流はそれをこちらに投げつけた。奴も当然知っていたのだ。それが弾切れだという事に。
「ぎゃっ!!?」
コルトを額に受けた俺はたまらず無様な悲鳴を上げた。ガンガン鳴る頭とチカチカ光る視界。
その視界が傾き、俺は片膝をついた。
割られた額から止めどなく流れる血が床を濡らす。だがまだだ。奴はいま丸腰! 軍配はむしろ――俺に向けられている!

立ち上がった俺は、ぐっと両目に力を入れた。この眼力で――強引にその自由を奪ってやる!
奴の手から何かがこぼれおちた。大蒜だ。おおかたそれを投げつける気でいたのだろう。

「ひざまづけ」
俺の言葉にフラフラと力なく両膝を折った水流がこちらを見上げた。その眼には意思が籠っていない。
そうだ。裸眼でこの眼力を退けられた人間はただの一人も居ない。

「よくも……下等生物の分際でこの俺を!! 俺サマをっ……!!」

奴の米神に横蹴りを叩きつけた。横倒しになった水流の頭を靴底で思い切り踏みにじる。
心地よい勝利の確信。その感覚にしばし酔いしれる。
そんな俺は無論、気づいていない。水流にはまだ隠し武器があるという可能性に。

47 :
【訂正です】
>2 「次ラウンドへ進まない場合は必ず最終ターンで死亡してください」の記載は無視してください。
ゲームだから死んで終わり。みたいなノリで書いたけど、小説形式でわざわざ死ぬ必要ないですもんね。

【お互い決定リール全開で行きましょう!】

48 :
水流 十蔵 ◆gM.lwFOvE2

【おかしな規制で書き込みの1/4〜3/4が消えちまった
πなんとかってェ奴だ
中身は大体がサングラスを飛ばされてからの過去話だ
とりあえずこれで対処するが、最後の4/4の部分が残ってる
これで勘弁して貰えると助かる】

――

頭蓋骨ァ無事だが、さっきの視線も含めてフラフラしやがる。
全身のあちこちが痛ェ。多分どこか折れてやがるな。明日は休みにするしかねェ。
さらに蹴りを一発かまされた。
俺ァとりあえず演技でも良い、最後の一発をかましてやるために、気絶したようなフリをしてやった。

目をうっすらと開けて奴の動き、位置だけを把握する。
『どんな苦境でも、タマを信じろ』、それが死んだ親父の言葉だ。
『生きたタマを撃て』それがタマプラで会ったスープマスターの言葉だった。

おう、まだタマは生きてる。俺の心の中でな。確実に育ってるぜ。
それになァ、俺ァ最高のスープってやつのもう一度出会うまで、死ぬ訳にゃいかねェんだよ。
銃だよ。タマァ撃つんだよ…

佐伯が最高の形で俺に迫る。牙を突きたてるためか、それとも首をへし折るためか…
どっちでも良い。俺にとって理想の瞬間が来た。コルトはもう遠くに落ちてる。

俺ァ仕込んであったカクシガンを手に取った。そりゃ下半身の銃だろ?ってそんなくだらねェ下ネタは使わねェ…
俺の右ポケットの中だ。
こいつァ俺がガキの頃親父からプレゼントされたモンだ。

――銀玉鉄砲。
これァ日本の文化みてェなモンだ。
アメリカでは普通はガキのオモチャでもタマはプラ製なりのきっちりしたモンを使う。
日本でいうBB弾ってェやつだ。
銀玉ってェのは日本人的な発想だ。雨が降れば勝手に溶けて環境にもやさしい。

オマケにホンモノのタマを撃ってる気分にすらなれる。

一瞬の動きだ。
倒れたままカクシガンのベレッタ銀玉鉄砲を思いっきり佐伯の口に突っ込んでやる。

49 :
拍子に佐伯のでけぇ口に飲まれ、思い切り噛み付かれるが、構いやしねェ。
そして引き金を引く。
こいつァ勿論俺によって改造されて弾速は増し増しになってる。

当然だが、中のタマも…

「…てめェの大好物をくれてやるぜ!」

パチン、パチンと小気味良い音が響く。それはBB弾のような音だが、モノの24銀シルバーのタマだ。
銀ってェのは密度が高くて重い。だが俺の遊び心が、このオモチャを極限まで改造させて、その射出を可能にしてある。

「ぐおォ…」

俺の腕に佐伯の牙が食い込み、血がどばどば溢れる。まるでチリソースだ。
次第に右手の感覚が無くなり、
ヴァンプの力に意識をのっとられるか、俺のタマが佐伯に止めをさすかの勝負になってきた。
タマは一発目は佐伯の喉チンコに当たり、二発目以降は俺の腕のスナップが利いて
佐伯の喉の奥に次々と撃ちこまれた。タマが唸る。俺の全身からガンコン家の誇りってのが溢れてきそうだ。

「…おぅ、トッピングを忘れてるぞ…!」

俺ァ渾身の力を振り絞ってもう片方の左手で茹で左ポケットのニンニクを思い切り握りつぶしてやった。
ニンニクが粒とペーストになって佐伯の頭から顔面を襲う。
チリソースにガーリックソース、増し増しだぜ。

パチン、パチン・・・
まだ銀玉が佐伯の口内で弾ける。
タマはまだまだ生きてるぜ。

頭がフラフラしやがる。斉藤さん、もうそろそろ俺ァ限界かもな…!
だが、ガンマンの家系に生まれてピザを極め、ラーメンに出会ったことァ忘れねェぜ…!


【おう! 殺るか殺られるか、それはアンタが決めてくれ】

50 :
このまま踏みぬき、頭を砕いてやろうかと思った矢先、奴がぐったりとその身を床に預けた。
足をどけ、試しに頬を小突いてみる。ピクリとも動かない。

「フン……。他愛もない」

建物内が急に静まり返った気がした。
微かな電車の走行音が過ぎるたびに天井と壁が振動し、付着していた粉塵が舞い落ちる。
エレベータ付近に散らばる男達はすでにこと切れている。
手前にうつ伏せに倒れている浅香。まだ無事だろうか。

「浅香!」
俺の声が聞こえたのか、ピクリと彼女の肩が応じた。そちらに向かおうと足を踏み出すが、しかし思いなおした。
「トドメを……さしておくか」
廊下には未だあの嫌な匂いが充満している。それもこれもすべてこのピザ屋のせいだ。
ガーリックソースの染みつくその身体には触れたくもないが、そう言ってもいられない。

左腕で水流の肩を掴んで持ち上げ、抱え込むように引き寄せる。右腕を頭に回し、一息に頸椎を折ろうとしたその瞬間。
奴の右手が俺と奴との身体の間に強引に割って入った。
「……!?」
驚いて出そうとした声を、口中に差し込まれた何かが阻んだ。
奴の手首だ。その手には小さい何かが握られている。
――構うものか! 手首ごと噛みちぎってやる!
上顎の牙が食い込み、生ぬるい液体が口中を伝う。血だ。まさかこの俺が野郎の血を味わうことになろうとは!
再び怒りが込み上げ、その骨を砕こうとした、その時だった。
ガチンと何かが喉に当たった。

>…てめェの大好物をくれてやるぜ!

まさかこいつ、鉄砲を!? こんな小さいサイズの銃があるのか!?
続けて喉の奥に数発喰らう。威力は普通の銃とは比べるべくもないが、それこそがヤバかった。弾が歴とした純銀だったからだ。
小威力の弾は首を突き抜けることなく、喉の奥に居座り続けた。咽頭周辺の組織を焼き焦がしながら。

「……はっ……か……」

銀の弾は喉を焼きつつ食道、胃へと下がっていく。俺は悶えた。とんでもない苦痛だった。目からは涙が溢れ出た。
がっちりとハマりこんだ手首が口から抜けない。
奴の肩をつかむ左腕に更なる力を込める。右の指先が奴の米神に食い込む。
牙が食い込む奴の腕。すでに骨が拉(ひしゃ)げ、壮絶な痛みが襲っている筈だ。
それでも奴の指は引き金を引き続ける。なんたる精神力!

>…おぅ、トッピングを忘れてるぞ…!

――まだあるのか!? 奥の手が!! 「トッピング」ってことはつまり――まさか――!!
鼻の粘膜に突き刺さるあれの匂い! さっきより濃厚で、よりジュウシーな……うわああああああ!!!!!
このとき俺はすでに観念していた。もういい。もう降参だ。だからもう、お願いだから大蒜ペーストの顔射だけは勘弁して!!!

そう言えたらどんなに良かっただろう。
口は塞がったまま。目と鼻から何かしらの液体を垂れ流したまま。
俺は大量の大蒜ペーストを顔面に喰らった。

「……@*&%$……」

ホワイトアウト。完全にピヨっ…………た……



【佐伯、気絶です。とりあえずトドメさして1ステージ目クリアって事で。エンドロールをどうぞ】

51 :
「ぐぉぉぉッ…!」

俺の腕に佐伯の牙が食い込み、いよいよそれはホネにでも達しようとしている。
そりゃ気絶するぐれェの痛みだ。
さらに佐伯の腕で首を絞められ、オダブツも近くなってきた。
物凄く痛ェ…

ギィィィ…ン…
妙な音が佐伯からする。俺ァ良く目を凝らして佐伯の口の中を見た。
そこでは銀玉がヴァンプの体内で特殊反応してやがった。

「タマがァ…泣いてるぜ…」

>「……はっ……か……」

佐伯が目から涙を流す姿が俺の波打った視界に映った。
そうだ、俺ァこいつと一緒であまりの痛みに涙が出てる訳よ。
だが俺ァ負ける訳にはいかねェ…

ひたすら俺は引き金を引き続けた。佐伯の顎の力が抜けていった。

――十数秒後。

俺ァ意識が朦朧とする中、コルトを手にとると、尻ポケットから予備のタマを込め、
気絶した佐伯の左胸目掛けてトリガーを引いた。
そうだよ、モノホンの銃で、タマぁ撃つんだよ。

パァン…!

俺ァ血の止まらねェ右手を応急処置すると、忌々しい無線機の電源を入れた。

『…おい、…馬鹿者! 無線機の電源を勝手に切るな。もうじき増援が着くはずだ。
お前は無事なら一旦引け。ズィルバー・クロイツの連中に任せろ』

丁度隠し階段から増援どもがゾロゾロと出てきたところだった。

『…佐伯を始末した。佐井ってェ女もそこらに転がってる。
仁科や佐伯の仲間連中も一緒だ。怪我の手当ての準備を頼む。
てめェが思ってるほど、タマってェのは遅くねェ。待ってりゃ勝手に飛び出すもんだ。
俺ァこれで家に帰るから報酬は振り込んでおいてくれ。じゃあな』

52 :
俺が無線を切る頃、仁科の死亡が確認された。
俺のM249と一緒にオダブツだったみてェだ。女や取り巻きの男ども数人が生きていて回収された。
これから事情聴取ってとこだろうな。

佐伯は心機能が完全に停まったのを確認した上で、両手を腹の前で組ませて置いた。
俺の粋な「日本人魂」ってェやつだ。俺ァキリスト教徒だが、せいぜい成仏しろや。

俺ァタマを補給しに渋谷にある自室に帰ろうかと思ったが、その前にハラが減った。
上の「モンゴル風湯麺・吉本」で飯にした。

スープは湯麺の旨味と麻婆豆腐の「麻」(マー)と「辣」(ラー)が適度に効いていてうめェ。
だが、野菜炒めが死んでやがる。相変わらずの味だ。

「店長、ラーメンで野菜の作り置きはやっちゃいけねェぜ… 野菜が泣いてらァ」

そう言って野菜炒めをたんまりと器に残して店を去った。「二度と来るな」という怒鳴り声を聴くと、
俺ァバイクにエンジンをかけた。
ピザ屋にバイクを置いて、明治通りから見える渋谷の街は、まだまだ営業中だった。

メールを確認する。

『お前からの通報により宮下公園で保護した女性の名前を、"水原秋子"と確認した。状態は安定しているが、
今後も経過観察が必要だ。今回は水流のお手柄だ。ゆっくり休むといい』

(秋子…だって?)

そういえば俺ァ水原桜子と聞いていたんだが、気のせいだろうか。
明日は久々の休みだ。病院行って、ニンニクを買ってタマを補充したら、
タマプラにある斉藤さんの墓参りにでも行くか。

そろそろ朝焼けが昇るR246付近の光景を眺めながら、俺ァ帰路についた。


【と、いうことで悪ィが佐伯にはご退場願った。次章はハンター側の入れ替えも構わない。
俺とこのままバトンタッチってェのも良いかもな。  ――See you next stage...(次回へ続く)】

53 :
【お疲れ様でした! エンドロール兼導入を用意するまで少々お待ち下さい】
【水原桜子はそちらで動かしますか? それとも貰っても?】

54 :
【ありがとう。あぁ、水原桜子などのNPCは自由にして貰って構わねェ――
俺も一旦引退だ。てェことで二章からは新規メンバーを入れて新たな物語を作ってくれ G.Luck...】

55 :
導入次第で参加希望

56 :
>>55
ガンコンがGMでもやるんか?

57 :
☆ 日本人の婚姻数と出生数を増やしましょう。そのためには、☆
@ 公的年金と生活保護を段階的に廃止して、満18歳以上の日本人に、
ベーシックインカムの導入は必須です。月額約60000円位ならば、廃止すれば
財源的には可能です。ベーシックインカム、でぜひググってみてください。
A 人工子宮は、既に完成しています。独身でも自分の赤ちゃんが欲しい方々へ。
人工子宮、でぜひググってみてください。日本のために、お願い致します。☆☆

58 :
ピシャリと水が跳ねる音。間を置き、またひとつ。ふたつ。
ぼんやりと焦点を宙に彷徨わせているうちに、吹きつけた風が運ぶ匂いが頭の芯を刺激した。忌々しい、あの匂い。
全開の窓から忍び込む生温かい夜気が余計に癇に障る。
「秋子の馬鹿! よりによってどうしてガーリックなんか!」
ピザが箱ごと詰め込まれたゴミ箱に、更に蓋をする。
「このアパートごと、燃やしてしまおうかしら!」
半ば本気でそう思い、振り向いたキッチンの横に、自分と秋子とが並んで写るポートレートが目に入った。

秋子。双子の妹。
一卵性双生児であるが故に外見は誰が見ても瓜二つだ。面長な輪郭を縁取るストレートの黒髪。黒目勝ちの涼しげな眼。
だが性格は真逆だ。
出版社で編集の仕事をしている秋子は何事も事務的で可愛げがない。
浮ついた所も無い。二十をとうに越しているのに、念入りに化粧をしている所を見たことがないほどだ。
無論、男性と付き合ったもない。
そんな妹に服を贈ってみたのだ。桜色のスーツだ。スリットの入ったタイトに胸元の開いたデザインのジャケット。
少しは洒落っ気を持って欲しいという姉の老婆心だ。
着て見せてくれとメールすると、すぐに返事がきた。自分のアパートでピザでも食べないかというのだ。
早速夜を待ち、コーポ宮下公園102号室のドアを叩いた。妹はまだ帰っていなかった。
『もうすぐ戻るから! ピザが来たら受け取っておいてね!』
折良くそんなメールが届く。ちゃっかり姉に代金を払わせるつもりかも知れない。
ふらりと廊下に出た。
右はバスルーム。キラリと光る大きめの鏡が目に映り、つい足を運ぶ。
ガラス面に指を立てる。一点の曇りもない鏡面だった。写しだされた真後ろの背景がくっきりと写りこんでいる。
そう。ほんの数か月前までは映っていたのだ。この自分自身の姿も。

チャイムが鳴りギクリと鼓動が跳ねた。
ああ、ピザかと思い当たり、ドアを開ける。配達人は若くは無いが年寄りでもない男だった。

>水原様、でよろしいですね。少々お届け中に傷つけちまいましてね。お詫びに商品を半額と、次回の半額クーポンで…

言いながらこの顔を見た配達員は、明らかに驚いた顔をした。まるで幽霊でも見る目つきだ。
何だろう? 顔に昨夜の食事の痕跡でも残っていただろうか?
しかし何かに頷き、男は再び居住まいを正した。
改めて男を見た。その気で見れば相当いい男だった。
世間一般で言う「イケメン」ではないが、さりげない立ち姿、箱を渡す腕の動き。それだけで鋼のような筋肉の躍動を感じる。
男の中の男。そんなフェロモンを発していたのだ。
男は――食材だ。妹が来る前に、彼を主菜(メインディッシュ)にするのも悪くない。

差し出された箱に手を伸ばし、絶句した。箱、そしてそれを持つ男から立ち昇る「あれ」の匂いに。
「あなた、こんなグチャグチャにしてお金取るっていうの?」
まさかニンニクの匂いにキレたとは言えない。幸い箱には何かが貫通した跡があった。
「タダにするか、あなたの店にクレームを入れられるか、どっちか選びなさいよ!」

男が慌てて箱を床に置く。

>御代はいりません。スイヤッセンシタァ〜

逃げるように玄関を飛び出して行く男。動作がやたらと機敏だが、よほど焦っていたのだろう。
――なんて人を小馬鹿にした態度だろう? あんな男をメインにしようとしたなんて!


箱を片付け待つこと小一時間。
キッチンの水音を数えるのにも飽きた頃、ようやく階段を駆け上がる靴音が耳に届いた。玄関のドアが音を立てて開く。
「もう! 遅いじゃない! ていうか、私ニンニク駄目になったってあれほど――」

吹きつけた夜風が首元のスカーフを揺らした。
紅葉の葉柄のスカーフ。去年の暮れに秋子がくれた、唯一の贈り物。
その秋色のスカーフが、恐るべき衝撃で引き裂かれた。

59 :
名前:水原桜子(みずはら さくらこ)
年齢:不明だが外見25歳前後
性別:女
身長:155
体重:45
スリーサイズ:80 51 79
種族:ヴァンパイア
職業:ピアニスト
性格:享楽主義
特技:操舵。ピアノを弾く指に「力」を注ぐことで発動。ヘッドホンで回避可。
武器:なし
防具:なし
所持品:シャネルのポーチに化粧品その他
容姿の特徴・風貌:いつも派手目のスーツを身につけている。肩口でバッサリ切ったワンレングスの髪はキャメルブラウン。
簡単なキャラ解説:新宿のコロニーを仕切る協会(通称「VP」)の幹部の一人。音楽家の両親から相続した白い豪邸に住む。

60 :
「さすがねぇ……。ヴァンプの反射神経ってやっぱり凄いのね」

息を弾ませ、玄関に立っていたのは一人の女だった。
30は越しているだろう。頬にかかったストレートの黒髪をゆっくりと払いのけ、唇をペロリと舐めた見知らぬ女。
薄汚れた白衣。だらりと下げた右手に拳銃、左手には一振りのナイフ。細く長い脚にぴったり張り付く黒のデニム。
コートではなく白衣とは妙な井出達だが、薬局にでも勤務しているのだろう。
が、そんな事はどうでもいい。
この女からは血と硝煙の匂いがプンプンする。
現にデニムのパンツにべっとりと張り付いているのは、紛れもない人間の血液。

背にした壁が氷のようだ。背筋を流れる汗。自分はいま追い詰められている。「ハンター」であろう、この女に。
ただの人間ならば敵ではない。動作はのろく、力も無い。その気になれば数十人同時に来られても相手にもならない。
だがハンターは違う。
速度、腕力こそ我らに劣るものの、その動きは非常に無駄が無い。
無駄のない動きは当然、こちらに勝る速度として反映される。
そんな彼らが「あれ」を使えばどうなるか。
あれ、すなわち銀の弾丸を込めた銃。ハンター協会で支給されるそれを恐れぬヴァンパイアなど居ない。
今この場であの拳銃を向けられるのは将棋で言う「詰み」に他ならない。
背後は壁。右手は居間へと続く廊下だが、幅は狭く天井も低い。飛び込んだが最後、格好の的となるだろう。

「……あんた、誰?」
一応聞いてみる。ただのハンターならば聞く耳も持たぬだろうが。
「そう凄まないで? 脅かしたのは悪かったわ」
白衣の女がにっこり笑い、銃とナイフを懐に隠した。
代わりに取りだしたのは一枚のカード。
VとPを組み合わせたマークは紛れもない、吸血鬼のコロニーを仕切る。協会「VP」の会員証だ。
色はブロンズ。下っ端の持つカードだが、それでも人間ならば月額数百万の上納金を必要とするカードだ。
「それがあなたの物だっていう証拠は?」
いきなりナイフで切りつけて来るような女だ。信用など出来るわけがない。
「その薄汚い格好で会員だなんて笑わせる。だいたい何して稼いでんのさ」

女は肩をすくめてカードを仕舞った。
「こう見えても……医者なんだけど。モグリのね」
言いながら白衣の裾をヒラリと捲る女の手つきは、確かにハンターのそれとは違うようだ。
さっきは不意を突かれただけかも知れない。医者というものは刃物の扱いに慣れているだけなのかも知れない。
だが……油断はするまい。目的を知るまでは。
「あんた、私が誰か知ってるのよね?」
「うふっ! もちろんよ!」
人懐こい笑みを浮かべる女。さらりとした長い黒髪が妹のそれを思わせた。
「あたしは佐井浅香。しがない町医者よ。貴方はVPの幹部の一人、水原さんよね?」
言うなり浅香と名乗った女は小上がりに両膝と両手をついた。半土下座とも言える格好だ。
表情を一転して真剣なものに変えた浅香が、キッとこの顔を見上げた。
睨みあうこと数秒。
何かを決したように浅香が口を開いた。

「おねがい。あたしを仲間にして。彼の……佐伯裕也のカタキを討ちたいの!」

61 :
名前:佐井浅香(さい あさか)
年齢:36
性別:女
身長:165
体重:56
スリーサイズ:85 54 83
種族:人間
職業:医者
性格:明るい 思った事を実行しなければ気が済まない性格 仕事大好き
特技:刃物を使う事(外科以外でも)
武器:懐にメスを含めた刃物数本と拳銃一丁(ワルサーPPK)
防具:ピンクの防弾チョッキ、白衣(厚手のオーダーメイドで防火、防刃など特殊加工済)
所持品:白衣内に治療器具や薬品一式
容姿の特徴・風貌:黒のGパンに白衣を羽織る。ストレートの長い黒髪。
簡単なキャラ解説:新宿歌舞伎町に診療所を構える闇医者。今の仕事を続けたいがために不老不死を望む。

62 :
目を覚ました時、裕也とあいつが組み合ってた。
不利だってすぐに分かった。あの裕也が泣いてたんだもの。
何百年も生きてて……撃退したハンターも数知れない。あの裕也が子供みたいに「痛くて」泣いてるなんて。
何とかしてあげたいけど、無理みたい。まだ死にたくない。あたし「か弱い人間」。あのハンター「相当に出来る」。
……あなたがいけないのよ? 何度も吸ってお願いしたのにしてくれないから。

裕也の最期はあっけなかった。
気絶したとこに一発。音がやけに腹に響いたわ。悲しい音だった。当然弾丸は銀製よね?
裕也が言ってた「滅び」がどんなものかと見てたかったけど、すぐに溶けたり蒸発するわけじゃないみたい。

>『…おい、…馬鹿者! 無線機の電源を勝手に切るな。もうじき増援が着くはずだ。
お前は無事なら一旦引け。ズィルバー・クロイツの連中に任せろ』

ちょっと。無線の声がバッチリ聞こえてるんだけど?
こっちが気絶してると思って油断しすぎじゃない?
……来た来た。ざっと10人は居るかも。
……ちょ……どさくさに紛れてそんなとこ触んないでよ!! 気絶したふりも楽じゃないわ!


男達に抱えられて運ばれる途中、薄眼を開けて裕也の方を見た。
あいつ、胸上で手を組ませたりして。キザったらしいったらありゃしない。
でもあたしにトドメ刺さなかったわね。女子供に手は出さない――紳士ってとこかしら?

63 :
しばらく寝たふりしてズィルバー・クロイツの男に担がれてた。
流石に背中に「銀の十字架」とか背負(しょ)ってないわね。極々普通のグレイのスーツに、黒い革靴。
ジャケットの下にゴワゴワするもの――たぶん防弾チョッキだと思うけど――を着こんで……まるで私服刑事みたい。
こいつら、ハンター協会に所属する軍隊ってとこね。
ハンターになる腕も度胸もないけど、みんなと一緒なら怖くない、って連中。
で、どうして寝たふりしてたかって言うと、奴らの耳元から聞こえてくる無線の中身に興味があったから。
収穫はあった。

≪水原……桜子。コーポ宮下公園102に潜伏の可能性……≫

たぶん全国何処言っても知らない人いないんじゃないかしら?
世界を股にかけるピアニスト。両親とも音楽家で、音楽界のサラブレット、水原桜子。
なんて、これは表向き。
彼女、実はVPのメンバーなのよね。しかも幹部。
あたしみたいな人間はどんなにお金積んだってブロンズ(青色)止まりだけど、彼女はゴールドカード。
コロニーのボスを支える4人の幹部の一人。
知ってる? 幹部って、例の弱点をいくつか克服した人達なのよね! ボスに至っては弱点無しとも言われてる。
ほんとかしら? って最初思ったけど、ピンと来たわ。
桜子さんの名字、「水原」。水ていう字をヴァンパイアは異常に嫌うはず。
つまり彼女は、吸血鬼に取っての4大悪のひとつ、「水」を克服してるってこと。シャワー浴びても平気なのよ?
炊事もお洗濯も出来る! 大金持ちの彼女がそんなことするかどうかは知らないけど。


奴らの目を盗んで逃げることなんて簡単だった。

64 :
狭い階段の踊り場。スピードが緩むその隙を狙って男の腕を振りほどいた。
着地がてら、コンクリートの白い壁に体当たり。
音も無く開いた四角い穴に身体をスルリと滑り込ませる。

そう! これ回転ドア! スイッチの正確な位置さえ覚えていれば簡単に開くの!

実はあたし、このビルのオーナーなのよね。他にも隠し扉とか抜け道とかたくさんあるんだから。
あはっ! 闇雲に叩いたって開かないわよ!? いい気味!
まあ……そのうちの一つを発見されちゃったのは……ちょっと癪だけど。

一旦部屋に引き返して。白衣持って。外に出てしばらく走って……そして気付いちゃった。
襟に付いてる小さな黒いボタンに。
これってもしかして……発信器? 


「待って」
今まで黙ってあたしの話を聞いてた桜子さんが初めて口を開いた。
「あなたが何故我らの仲間になりたいのか、佐伯とどんな関係があるのか、聞きたいことは山ほどある」
ぞっとするほど低くて、どこか高圧的な声。しゃがみこんでるあたしを毅然と見下ろして……冷たく笑って。
「でも、そんな時間は無いみたいね。発信器? 奴らはすぐにここに来る。そういう事ね?」
まっ白い陶器みたいな肌。ザワ立つ頭髪。口の端からこぼれる鋭い犬歯。茶色だった眼も、今は金色に輝いてる。
冷たい夜の気配。これが……ヴァンパイア。
「でもいいわ。どの道奴らはこの場所に来た。貴方は私に「準備」する間を与えてくれた。そう思う事にするわ」
言うなり桜子さんが腰のベルトから何かを掴みだした。キラキラ光るそれは……髪の毛かしら?
いいえ。あの色艶、撓む音。とっても細い一本の針金。


刹那、ドアが乱暴に開け放たれて――なんてこと! 音と気配はなかったけど、連中とっくに来てたんだわ!
拳銃を構えた男達。留め金を外すカチリという音。
万事休すね。
奴らがあたしに遠慮するわけないもの。あたしが彼らの支援者だって事、とっくにバレてる。

観念して眼を閉じる。でもいくら待っても銃声はしない。
空気がピンと張り詰めている。
かなりの高周波で近づいてくる一つの音。これ、耳鳴りかしら? 
でもそれにしては綺麗な、澄んだ音。思わず耳を傾けてしまうくらい。
ここ、何処かしら?
もしかしてあたし、死んじゃってる? 撃たれて即死だったら――こんな感じかも?
手指の感覚はないし、ここが暑いか寒いかも分からないもの。
でも何か変。この音、どこかで――

思いきって眼を開けた。連中はなんとそのままの姿勢で固まっていた。呆けた顔で。
桜子さんはと言うと、さっきの針金を左脇にピンと張らせて立っていた。針――いいえ、あれはきっとピアノ線。

細い指の先が弦上をそっとなぞる。まるで……ピアノの鍵盤でも叩いてるみたいに。

65 :
「ふふっ……いい子ね……」
桜子さんはちょっとだけ口元を緩ませて、そして呟いた。
ビィンッ! と音高くピアノ線を弾く。……ってどんな仕掛け!?  針金が一瞬でベルトの中に!

「銃を床に置いて立ち去りなさい。今ここで起きたことは……綺麗さっぱり忘れるのよ」
言われるままに頷いたクロイツのメンバー達。その顔には恍惚の表情。
……こわっ!
あたしはその場にペタンと尻もちをついた。
桜子さん、こんな風にして人間を操れるんだ。裕也も似たような事してたけど、せいぜい一人か二人だったじゃない?
一度に10人! たった一本のピアノ線でよ!?

フラフラと階段を降りていく男達。まるで意思のない人形のよう。
「それで?」
「え?」
桜子さんの声で我に返った。眼の色は茶色に戻ってる。普通の……綺麗な女の人。
「何が『え』よ。何故仲間になりたいのかって聞いてるの。佐伯とはどこで?」
……そうだった話の続き。すっかり忘れてたわ。

「単純な事よ。大好きなお仕事を、この先もずっとずっと続けたいから。裕也はただの患者」

我ながらかなり端折った答えだと思う。案の上、桜子さんはケラケラ笑いだした。
「ただの患者? さっき仇を討ちたい! なんて言ってなかった?」
音も無く近づいてきて……しゃがみ込んだ彼女。
折れそうなくらい細い首、腰、手足。あたしよりずっと小柄なのに……すっごい威圧感。
まっすぐにあたしの眉間を指差して……その指がゆっくりと下に降りて……胸の谷間――心臓を指す。
「惚れてたの? 人間が? ヴァンパイアに?」
悪戯っぽい笑み。まるで中学か高校のクラスメイトみたい。
「……惚れてたのは彼の方よ。あたしに取って彼は患者に過ぎなかった」
「随分な自信ね。患者? 本当に彼は『ただの』患者だった?」
「訂正するわ。『大事な』患者よ。あたしを変えてくれる能力を持つ……ね」
「ふーん……?」
トンッっとあたしの胸を小突いてから、彼女が立ちあがった。口元を人差し指で撫でながら。
「まあいいわ。……そう。見た目良けりゃあ見境無しの彼が……ねぇ……」
――なんか……気になるなあ。もしかして裕也、桜子さんとも関係があったのかしら。
「あら? 勘違いしないで? 佐伯と私(あたくし)、そんな関係じゃないわ?」
「べ・べつにそんなんじゃないわ! 裕也の事なんか何とも思ってなかったって言ってるでしょ!?」
……自分で言って恥ずかしかった。これじゃ好きって言ってんのと変わんない。
「……可愛い人」
桜子さんの目が一瞬だけ金色に染まる。

「いいわ。私の屋敷にいらっしゃい」
差し出された彼女の手は氷みたいだった。

66 :
簡単に身支度を済ませて、玄関のドアを開けたその時。高く昇った月の明かりがあたし達の頬をサッと照らした。
ぎょっとしたようにその月を見上げて、そしてあたしを睨んだ桜子さんの顔。今でも忘れない。
「……ど……どうかしたんですか?」
思わず出た敬語。
近くに植わっていた銀杏の木がザワリと音を立てる。
「二十三夜の月が……あんなに高く……?」
「えぇ。それがどうかなさいました?」
ギシリと金属が軋む音。彼女の手が階段の鉄柵を握りつぶす音。
「……あなた、それ本気で言ってるの?」
喉が引きつって声が出ない。
「あの月の! あれの月齢くらい解るわよね!? 『上弦』の南中時刻は日の出とほぼ同時なのよ!?」
ってことは……日の出まで後1時間も無い!?
……迂闊だったわ。あたし、ヴァンパイアに憧れてるくせに、月についてはほとんど無関心だった。
「申し訳……ありません」
何とか頑張って絞り出した声。
ギリギリ鳴ってた鉄柵が音を立てるのを止めた。ハラハラ散った銀杏の葉が黄色く色づいている。
まだ夏の盛りだと思っていたが違ったようだ。さっきまで温かかった夜風がヒヤリと冷たい。もう秋なのだ。
この仕事を始めてから、季節というものを感じたことがなかった。太陽がいま昇っているのか、月齢、月の出入りの時刻。
……意識しないといけないわ。命に関わることだもの。
「まあいいわ。始発が使える時間だし」
……なんだかんだ言って「まあいい」で済ませてくれるのが桜子さんのいい所ね。
……って今、始発って? まさか地下鉄使うつもり? 大金持ちで、有名人で、ヴァンパイアの桜子さんが!?
てっきり笛を吹けば運転手つきのリムジンが迎えにくるのかと!

軽い身のこなしで階段を駆け降りた桜子さん。
「どうしたの? 駅はすぐそこよ?」
……朝って結構混むじゃない。それでなくても超有名人の彼女。
「桜子さんが電車の中でもみくちゃにされないか心配だわ」
彼女が「はあ?」って顔をした。
「要らない心配ね。通勤通学の人間どもがいちいち周りを気にすると思う?」

それもそうかと思いつつ。あたしの読みは変な所で当たってしまった。

67 :
期待

68 :
宮下公園を横切ったその時だったわ。
「あ! あのヒト、桜子!?」
甲高い声に振り向くと……え!? ちょっ……ちょっと!!
あたし達はまだ幼稚園児くらいの子供達に取り囲まれて「もみくちゃ」にされた。
訂正。「された」のは桜子さん。手を握ったりスカートの裾引っ張ったり。おいこら! めくっちゃダメ!

――この子達、いったい何処から出てきたのかしら!? 年長組……くらいの……ほとんどが女の子、男の子もちらほら。
男の子はカッチリした半ズボンの黒スーツに蝶ネクタイ。
対して女の子は入園式に着るにはちょっと派手すぎるドレス。ってかそんな時期でもないわね。パーティーか何か?
「あ! すみません!」
引率してたらしい女性が慌てて走ってきた。
「ああ!? 桜子さん!? 水原桜子さんじゃありませんか!!」
……止めるどころか、顔を赤くしてサインを求め始めた女性。
いくら桜子さんが有名人でも、ちょっと異常じゃない? 一昔前のアイドルじゃあるまいし。
桜子さんと言えば……さすがね。慣れてるっていうか。
アルカイックな笑みを浮かべて。サイン書いたり子供達ひとりひとりの手を握って話しかけたり。まるで皇室の方みたい。
「この子達、これからピアノの発表会なんです!」
あ、そういうこと。ピアノ教室の生徒さんなのね。なら仕方ないかあ。
なんて悠長なこと言ってる場合じゃないよね。空の色がさっきより明るいもの。なりふり構ってられないわ。
「ごめんねキミ達! 先生これからお仕事なの!」
桜子さんの手を引いて無理やり彼らから逃げ出した。
そうよね。これが今のあたしの「お役目」よね。桜子さんの印象を悪くしないための。
全速で走って……あった! 地下鉄の出入り口!

明治神宮前から千代田線に乗った。真っ暗な壁眺めながら物思いにふける――間はなかった。
すぐに銀座線に乗り換えて、そしてまた大江戸線に乗り換えて。え? また乗り換え?
あんまりすぐ乗り継ぐせいか、乗り合わせた人間は彼女に気づかない。……たまたま? それとも計算かしら。
結局あたし達の終着駅は白銀台だった。
あんなに乗り継いで、結局ここ。上(山手線)使えばすぐだった。つくづくヴァンパイアって不便だわ。
……でもどうする気? たぶんもう夜は明けてるわ。

あたしの心配をよそに、桜子さんは駅内をすたすた歩いて行く。そして出口に続く階段を上がる――前に消えた。
いいえ、消えたように見えただけ。
すぐにピンと来たわ。あたしのビルの隠し扉と一緒だったもの。
桜子さんが触れた壁の一部を軽く押すと、案の定。薄闇の中にたたずむ彼女が居た。
「……ふうん?」
……なによ。その「試してみたら意外に出来るわね」みたいな顔しちゃって。
「行くわよ」
「行くって?」
「決まってるじゃない。わたくしの『屋敷』によ」
彼女のお屋敷なら見たことあるわ。少し前にテレビで紹介されてたもの。
綺麗なお庭に綺麗な白いお屋敷。黒服の執事さんに……黒メイド服の女性達。違う世界だったなあ……

しばらく歩いて。歩く先々に灯る蝋燭風の照明に関心しながら。
行き止まりに設えられた黒い大きなドア。その前に、黒い服着た背の高い男性が立っていた。

69 :
「おかえりなさいませ、お嬢様方」
ゆっくりと上体を傾けた男性は、テレビで見た執事その人だった。
どうして覚えてるかって言われたら……渋めで素敵なおじさま、だったから?
……いいじゃない。思うだけなら。

「御苦労、柏木(かしわぎ)」
背筋を伸ばして、つんとすまして。ほんとこの人「お嬢様」。
「秋子さまもご一緒とは……」
なんて言いかけて彼、ハッとした顔であたしの顔を見た。
――秋子? 最近どこかで聞いたような?
説明を求めるように桜子さんを見た執事さん。見るからにうろたえてる。うふふ……狼狽する執事さんに、やや萌え。
「秋子はアパートに来なくてよ。連絡は来てて?」
あはっ! 「来なくてよ」なんてセリフ。お話の中のお嬢様言葉だと思ってた!
「来ておりません。この方はどなた様でらっしゃいます?」
チラっとあたしを見た執事さん。
……そんな胡散臭そうな顔しなくてもいいじゃない。
そりゃあ……防弾チョッキの上に血のついた白衣とか、見るからに怪しいけど。電車の乗客も明らかに目ぇそむけてたけど。

しばしの沈黙。
あたし、なにか言うべきかしら? 桜子さんのファンです! とか?
「この子、うちの主治医に致しますわ」
有無を言わせぬ迫力で桜子さんが言い切った。
「……え?」
思わず彼女の顔を見た。にこりとも笑わずに前を向いたままの桜子さん。本気じゃないわよね? ポーズよね?
「はあ……」
納得のいかない顔の執事さん。そりゃそうよね。
そういやこの人。あたしの事「秋子さま」って呼んだわね。
執事がそう呼ぶってことは、桜子さんの親戚かしら。桜と秋だし、姉妹かもね? 彼女もヴァンパイアなのかしら。
この執事さんも、メイドさん達も、人間じゃないのかしら。
ううん。
あの番組は生放送で、たしか昼間だったわ。この人もメイドさんも、お庭の中を堂々と歩いてた。
そして……そうよ! 桜子さん本人も居た! 放映は確か半年前!
思考がどんどん膨らむうちに、いきなり思いだした。秋子さんの名前を最近聞いた事がある、その訳を。
鮮明に思い出したのだ。クロイツの連中が、ぼそぼそ呟いてた言葉を。


『佐伯に噛まれた僕(しもべ)の女、秋子って名前だとさ』
『今度も女かよ。どうすんだ? また俺らがやんのか?』
『かも知んねぇが、上が聴取した後だろ。かなりいい女らしいぜ』
『くそっ……! 俺も幹部になりてぇなあ……』

70 :
【以上、導入。短期長期問わず参加者を募集します。3日待ちますので宜しければどうぞ】

71 :
このまま止まってしまうのもなんなので、しばらくデモンストレーションでも

72 :
名前:麻生 結弦(あそう ゆづる)
年齢:28
性別:男
身長:176
体重:65
種族:人間
職業:ピアニスト兼ヴァンパイア・ハンター
性格:繊細で物静か
特技:数学的な思考
武器:ベレッタBU9 NANO(ナノ)
防具:特になし
所持品:ハンカチ 爪切り 
容姿の特徴・風貌:神経質そうな線の細い顔立ち、長めの前髪で右目を隠している。左利き。黒のベストにジャケット。
簡単なキャラ解説:桜子の家と昔から親交があった音楽家の長男で、両親ともにハンター。ショパンが好き。

73 :
鳴り響く音。半音。和音。協和音の連続音。
白い天井と白い壁に反響する音が、室内に響き渡る。やがて細かく、小さく。
最終音に耳を澄まし、そっと……音をたてぬよう……ゆっくりと指を鍵盤から上げる。
「ふ……――」
緊張が解け、ため息。
時計の針がきっちり60分の経過を知らせている。
ハノン(フランスのCharles Louis Hanonが書いた教本)を弾き終えるのに要した時間だ。
首と肩を回して伸ばし、しばしリラックス。これからが本番。そんな時だった。携帯が電子音のショパンを奏でたのは。
ワルツOp.64-NO.2。
表示された番号はハンター協会の事務局。

「はい、麻生ですが」

声は少しイラついていたかも知れない。
せっかく温めた指がまた固まってしまう、そんな焦りを隠せない。
「『水原桜子』の動向は探ったか?」
電話の向こうの声は自分以上に苛立っていた。それもそうか。依頼を受けてから早2日が経つ。
「すみません。まだ手をつけておりません」
「……おいおい。彼女が本当にヴァンパイアなら早く――」
「分かってますよ。でも僕、本業の方が大事なんです。今晩はリサイタルなんですよ?」
「お前、ピアノと人命とどっちが大事なんだ?」

四角い部屋の中央に置かれたグランドピアノ。その黒い肌に刻印されたSTEINWAY & SONSの文字。
鏡面のように硬く滑らかな響板に、スマホで話す自分の姿が映っている。
彼女――桜子と最後に逢ったのは半年前だ。その時は確かに映っていた。
自分と連弾する桜子の姿。白いドレスの裾をはためかせ、柔らかに動く彼女の腕、手首、白い指。
今は映らないとでも言うのだろうか?
そういえば桜子の家には白のSteinwayがあったはずだが――

「聞いているのか麻生君!」
「……はいはい聞いてますよ。彼女とは今晩にでも接触しますので宜しく」

何か言いかけた相手を無視して通話を切った。
「ごめんね局長。別にあんたの事嫌いとかそんなんじゃないんだ。時間が勿体ない、ただそれだけ」
携帯をオフにし、鍵盤の上に両手をかざす。
最初の音は思い切りよく。小刻みに響く軽快な音。
うん。やっぱりショパンはこのSteinwayが一番だね。国産もいいけど、僕には重すぎて。

74 :
肥溜めで自演してる馬鹿のスレなんて誰も来ないよ
理解した?

75 :
>74
なになに、誰か褒めてくれたりしてんの?
って見に行っちゃったじゃないですか
だよねー、こんな過疎スレ真面目に読む人なんか居ないよね

ていうか!
釣りしてる暇あったらネタでも投下してくださいよ! お願いしますよ!

76 :
人間の女って、こうも騒がしい生き物だったかしら?
いえ、音大の学生も、女中達も仕事仲間もここまで酷くはなかった。

「桜子さん! この白いピアノ、すっごく綺麗ね!! わあ……すごい数の楽譜ねぇー……」
「……ちょっと。パンを齧ったあとじゃなくて? その手で触らないでくださる?」
「さっき柏木さんに言われてちゃんと洗ったわ! これ……録音に使うのね? あ! メトロノームが埃かぶってる!」

――うざっ!
この女。遠慮という言葉を教わらなかったに違いないわ。
昨夜は大人しかったのは単に疲れてたんだわ。一晩休んだらこのとおり。
許可もなく機械類をいじる、楽譜をめくる……ほんと……頭痛い。連れて来たの、失敗だったかもだわ。

「浅香せんせい……私、最近左肩が変に痛くて……」
「わたしもここの所が……」
集まってきた昼服のメイドたちまで……。なによ。普段滅多にしゃべらないくせに。
そういえば部屋の空気がいつもと違うような気がするわ。賑やかし……なんて言うのか。ムードメーカー……とでも?
ほんと、真剣な顔して相談に乗ったりして。いかにも親しみやすくて親身になってくれる医者って感じね。
今どきのお医者様ってこんななのかしら。

「貴方達。サボタージュは許さなくてよ。さあ!」
しぶしぶ持ち場に戻るメイド達の残念そうな顔。……まったく。

急に静まり返った部屋の中。防音室は外の音を拾わないから当然なのだけど。
向き直った浅香の肩越しに、赤いバラの花が一輪。日の出前に私が温室から切って活けたもの。
蕾んでいたのがもう開いている。これもこの女の陽気のせいかしら?

「はしゃぎ過ぎちゃって御免なさい。あたし、囲われの身だってこと忘れてたわ」
……ふん。急にしおらしい顔しちゃって。そんな風にしてもダメよ。男ならそんな仕草に騙されるかもだけど。
ても……変だわ。さっきより……この女。綺麗に見える。
「囲われだなんて……。いいわ、こちらへいらっしゃい」
頷いた浅香がこの眼を見て歩みを止めた。
そうよね。ヴァンパイアが本気になった時の眼を見て、動揺しない人間はまずいない。
居間で、廊下で、階段で。急に「その気」になった私の眼を見た女中達に、何度同じ反応をされたかしら。
悲鳴をあげて、座り込んだまま表情を凍りつかせて。
そんな女中たちに手は出さなかったわ。当然よね。小さい時から面倒を見てくれた人達だもの。
わたくしが襲ったのは無礼な男どもどもだけ。下心をちらつかせて誘う男はみんなあの世に送ってやった。
サーヴァントになどしやしない。一滴残らず絞り取る。そうすればひと月は持った。

「優しくしてね? 桜子さん」
ブラウスのボタンを外して首をさらけ出した浅香。思わず笑ってしまう。
「優しくって何よ? 優しく……ゆっくり喰らい付けって?」

手加減はしなかった。
腰を引き寄せ、髪を掴んで強引に仰向かせる。身を任せる浅香。その眼がぎゅっと硬く閉じられる。
緊張した身体。硬直した筋肉。それでいて……芳しく甘い吐息。女性らしい柔らかな背のライン。
上下する胸は、両の膨らみで今にも弾けそうだ。白く滑らかな首筋。一瞬間浮いては消える、一筋の静脈。
凄いわ佐伯の奴。よく我慢できたわね。
「……っあっ……!」
そっと触れた唇に浅香が反応した。背を仰け反らせ、身をよじって逃れようとする。
――が、出来るものか。下手に吸血鬼の怪力に抗えば……怪我をするわよ?
「……あ! ああ! あああーーー!!!!」

思わず浅香を隅のソファに投げ出した。
「なんなのよ!」
「……え……えっ?」
「えっ? じゃないわ! あなた、本当に仲間になる覚悟がおあり?」
訳が分からないって顔して上目遣いに見上げる浅香。……拾われた子犬か?
「わたくし、無礼な男と気の小さい女は大嫌いなのよ。そんなに怖がるようじゃ、仲間になる資格はないわね」
「そんなっ! あたし、別に怖くなんか――」

77 :
……これが本当のお金持ちってものなのね!
そりゃあたしも相当稼いでるって自信あるけど、医療器具と「お布施」で消えちゃうもの。
だいたい家持つ発想自体ないっていうか。

「バスルームをお使いになりますか? それともお食事を?」
素敵なバリトンボイスがあたしの耳をくすぐる。
「え?」
執事の柏木さんがあたしを見てる……あ……あたしに言ってるの?
じっとこちらの様子を窺う柏木さん。ほんとスーツが良く似合ってる。撫でつけた髪の生え際にちょっと白いのが混じってて。
ハラリ……っとかかる数本の前髪……素敵! ロマンスグレイって言葉はあなたの為にある言葉よ! 素敵! 口髭も素敵! 
執事さんって……頼んだら何でもしてくれるのかしら? お風呂で背中とか流してくれないかしら?
『綺麗なお肌でいらっしゃいますね……加減は如何です?』
『ちょうどいいわ。さすがは執事さんね。タオルの柔らかさから力の入れ加減まで、一部の隙もないわ』
『貴方様のお身体にも……素晴らしく隙がなくいらっしゃる』
『背中はもういいわ。前の方も洗って下さる?』

コツンと肩を小突かれた。桜子さんだ。……呆れた顔して……やだ。あたしったら、つい妄想なんか。
「ご迷惑でなければ、先にシャワーをお借りしたいわ」
そうよ。
ズボンについた血が乾いてゴワゴワしてたし、汗で張り付いたブラジャーとか髪についた硝煙と血の匂いとか。
こんなんでゆっくり食事できる人が居たらお目にかかりたいわ。

「承知致しました」

うわあ!
首をほんの数センチ縦に動かす、そんな仕草までほんと「バトラー」だわ! バトラー柏木って呼んじゃう!
そんなあたしに向けられた桜子さんの視線は無視。こんな機会滅多にないもの! この際思いっきり楽しんじゃう!

案内されたバスルームは……なにこれ。公衆浴場だってこんなに広くないわ!
広さだけじゃない。一泊5万円くらいの温泉宿って感じ?
黒い石で造られた不規則な形状の浴槽は……25mはあるかしら。滝行が出来そうなくらい大きい打たせ湯も。
床も――ちょっとゴツゴツ感を残して敷き詰めた石、石、石。
洗面台も腰かけもぜ〜んぶ石。大理石とか御影石(花崗岩)をうまく交互に使ったり。う〜ん! THE 金持ち!

あたしったら、すっかり時間を忘れて楽しんじゃったみたい。
メイドさん達が様子を見に来た時、お湯につかったまま寝てたって桜子さんが言ってた。
たぶんそのまま運ばれて……朝までぐっすり。用意されてたディナーはきっとメイドさん達が美味しく頂いたわね?

朝一番にメイドさんが寝室に集まってきて……
「パーティーでお酒に呑まれる殿方は大勢居られますけど、お風呂であんなになっちゃう方は初めて見たわ!」

え……そういえば全部……見られちゃった?
「浅香様ってお医者さまなんですね! 美人だし、プロポーション抜群だし、てっきりいつもの芸能関係の方かと……」

そうなんだ。芸能人の客とか多いんだ? さすが!
「Aubade(オーバドゥ)になさいます? それともChantal Thomass(シャルタントーマス)?」

オーバ……何それ。美味しいの?


フランスの超高級ブランドの下着は着心地抜群で、昨日着てたジーンズとブラウスはすっかり乾いてノリがきいてて。
朝食の、いかにも手作り! って感じのバターロールを頂いたあと、桜子さんが迎えに来て……案内されたピアノ室。
……もう大抵のことじゃ驚かないわ!
きっとあらゆるブランドのグランドピアノとかバイオリン関係が所狭しって感じで並んでるんだわ!

重そうな防音室の扉を開けて眼に入ったのは、真っ白な四角い部屋。
壁に飾られた1輪のバラの花。
部屋の真ん中に置かれていたのは……部屋と同じ色――純白で塗られた一台のグランドピアノだけだった。

78 :
ハイパーウンコエボリューション!!!!

79 :
あたし、別の意味で感動しちゃった。
だってお風呂も調度も「贅を凝らした」極みだったじゃない。
それがこんな質素な部屋なのよ? もちろん素材とかに関しては高級な造りには違いないだろうけど。
このピアノも。スタウィンウェイよスタウィンウェイ。ヤマハとかカワイと違って職人の手作りって聞いたことあるわ!
こんなのコンサートホールでしか見たことない! すごい! この質感! ヒンヤリして気持ちいい! この楽譜も!

あたし、教職取るために大学行ってからピアノ齧ったことあるのよね。
だからちょっとは分かるんだ。リストにシューマン、シューベルト。いかにも上級者が弾く曲集よね。
あたしがはしゃぎまくってる傍から、メイドさん達も口ぐちに話しかけてきて……
みんな色々悩みがあるのね。桜子さん、ちゃんと定期健診受けさせてあげてるのかしら? 
「貴方達。サボタージュは許さなくてよ。さあ!」

あはは……。怒られちゃった。
「はしゃぎ過ぎちゃって御免なさい。あたし、囲われの身だってこと忘れてたわ」
なんて言ったら桜子さん。
ふんって顔しちゃって。ひどくない? ひとが素直に謝ってんのに。

メイドさん達がパタパタと慌てて出ていく……そんな中、廊下の柱時計が時の鐘を鳴らした。
1度……ってことは……1時よね。さっきのは朝食ってより昼食だったわねぇ……って、ちょっと待って。
今、真昼ってことよね? 桜子さん、ばっちり起きてるけど……? てっきりヴァンパイアは昼寝てるものだと。

「こちらへいらっしゃい」
彼女の声は逆らえない何かをはらんでた。
フラフラと勝手に動く身体。明かりに惹かれる虫みたいに。でも途中であの「眼」に射すくめられた。
クロイツの連中を撃退した時と同じ眼。裕也も見せたことのない真紅の瞳。
殺される。そう思った。
純白のドレスを纏った桜子さん。血の気のない白い顔と腕が部屋の色と同化してて……目と唇だけが異様に赤い。
……恐ろしい……笑み。彼女の足が……ゆっくりとこちらに近づいてきて……

裕也は言ってたわ。吸血鬼は3通りの目的で血を吸うって。
一つ目は自分自身が生きるため。つまりはお食事。
二つ目は下僕とするため。サーヴァントと化した人間は使い勝手がいいのだとか。
そして三つ目が――仲間にするため。仲間が居なくなったら彼らも困るもの。

桜子さん、信じていいのよね? 仲間にしてくれるのよね?
「優しくしてね」って言おうとしたけど、うまくいかなかった。舌と唇が引きつって動かない。
でも桜子さんは唇の動きだけで言いたいことが解ったみたい。
「優しくって何よ? 優しく……ゆっくり喰らい付けって?」

いきなり腰を抱かれ前髪を掴まれた時、ヴァイパイアの本性を見た気がした。
すごい……すごい力!! あたしよりずっと小柄なのに! ヴァイパイアって……化け物なんだわ!!
むき出しになった牙が光るのが見えた。吐息は血と同じ匂いがした。
彼女の唇はあまりにも冷たくて……熱くて……
「……っあっ……!」
やだ! あたし、感じてる? ほんのちょっと唇が触れただけなのに!?
「……あ! ああ! あああーーー!!!!」
だめ! それ以上やられたら頭おかしくなっちゃう! 身体が勝手に動いちゃう!
桜子さんお願い! もっと強く……抱きしめて!! 

そしたら桜子さん! あたしのこと軽々と持ち上げて、思い切り部屋のソファに叩きつけた。
――な……なんで! どうして!?
「なんなのよ!」
「……え……えっ?」
――なに? それこっちのセリフ! 
「えっ? じゃないわ! あなた、本当に仲間になる覚悟がおあり?」
桜子さんの言ってる意味が良くわからない。何か気に障ることでもした?

「わたくし、無礼な男と気の小さい女は大嫌いなのよ。そんなに怖がるようじゃ、仲間になる資格はないわね」
「そんなっ! あたし、別に怖くなんか――」

80 :
「よくって? なかなか見所がありそうだから私(わたくし)もその気になったのよ?」

桜子さんの瞳の色が戻った。張りつめてた部屋の空気も。
「わたくし、少し睡眠を取ります。5時ごろ起こして下さる?」
あたしが口を開くのも待たず、彼女はそそくさと行ってしまった。ぐいっと扉が閉まる音。
部屋にポツンと残されたあたし。訪れた静寂。

ポタリと何かが床に落ちた。
壁の一輪ざしに活けてあったバラの花びらだ。
咲いたばかりだったのがもう枯れ始めてる。きっと桜子さんの鬼気のせいね?
音の無い世界。白すぎるくらい白い部屋。
腰を上げ、落ちていた花弁を拾う。
すっかり乾いてしまったそれがさらりと砕け、宙に舞い――ガチャリ! っと開かれたドアの音にあたしは飛び上がった。

入ってきたのは柏木さんだった。彼の黒い服が白い部屋にくっきりと浮かび上がる。
「佐井様、少し宜しいでしょうか?」
思わずブラウスの首元のボタンを留めた。別にやましいことは無いはずなのに、何だろう。……後ろめたい感じ。
「えぇ、何かしら?」
後ろ手で閉められた扉。重苦しい空気が耳に纏わりつく。
「秋子様のことです。お嬢様は昨晩アパートに帰られなかったと言われた。その訳を……ご存知でいらっしゃいますね?」
さすがはバトラー柏木。秋子の名前で動揺した……あたしの様子をちゃんと見てたのね?
別に隠してたわけじゃないない。聞かれなかったから答えなかった……秋子さんのこと。
ああもう……ますます後ろめたい。

「秋子さんはハンター協会に捕まったらしいわ。今頃聴取でも受けてるんじゃない?」
「『協会』が……聴取? いったいなぜ秋子様を……?」
「何でも、佐伯に噛まれたとか何とか」
「――な……んですと……?」

眉間に深く刻まれた皺。怖い眼つき。……わわっ! ごめんなさい! 今まで黙っててごめんなさい!!
つかつかと歩み寄ってきて、黒スーツの懐に手を差し入れた彼の手が黒い何かを掴みだす。
それは……とても見覚えのある一丁の拳銃だった。
「……それ……」
「バスルームにお忘れでおいでです。こちらの大事なカードも」
あ……あたしったら何てこと。はしゃぎ過ぎたその挙句に……恥ずかしい。
柏木さんはそんなあたしにお構いなし。手袋を嵌めた両手であたしの両肩をガシリと掴んだ。伝わる熱気。
 
「佐井様。自我喪失された秋子様が、お嬢様の事を話してしまう可能性は限りなく高い。そうですね?」
「え? まあ、そうなる……かしら」
ちょっと拍子抜け。柏木さん。秋子さんの事は心配じゃないのかしら。
桜子さん第一ってのも解るけど、一番身の危険が迫ってるの、秋子さんよね?
ハンター協会が彼女を無事で帰すとは思えないもの。用済みのサーヴァントなんて生かしとく訳ないもの。
そんなあたしの様子をじっと見ていた柏木さん。ふっと表情を緩めて……やだ。ちょっとマジで素敵。

「秋子様も無論心配ですが……協会に捕まった以上致し方ありません。それより今後です」
「……今後?」
「今宵、お嬢様はある方のリサイタルに呼ばれていらっしゃいます」
「そうなの?」
ああ、だから桜子さん。5時に起こせって。

「演奏者は麻生結弦。彼の家は代々のハンター。間違いなくお嬢様をターゲットにしていると思われます」
麻生結弦……知ってるわ。桜子さんに並ぶ若手ピアニスト。桜子さんのライバルと称される……
な〜んか影があるっていうか……そうなの、彼、ハンターだったの?

「どうかお嬢様を救って差し上げてください。お嬢様は自ら『変わられた』。それはすべて……麻生結弦のため……」
「麻生結弦のって……それどういう――」

柏木さんはそれ以上何も云わなかった。
手に取ったあたしのPPK。635gの銃がやたら重く、そしてとても……冷たく感じた。

81 :
開場してから15分がたった。
控室のモニターに観客席の様子が映し出されている。すでに満席に近い。
……と、白いドレスの女性が、女性と連れだって歩いているのが見えた。
招待したS席に腰を降ろしつつ、見上げた目がこちらに合う。「見てるのは分かってるのよ」とでも言いたげに。
彼女はこの僕がハンターだと知っている。まだ僕達が幼かった頃――

「何をしてますの!? そんなことではハンターになれなくてよ!?」
膝がやっと隠れる長さの白ワンピース。その裾をひるがえし息を切らす桜子。
テラスの横で本を読んでる秋子に手を振りながら。
落としたベレッタを急いで拾った。玩具だったけど、まだ小さい僕の手には大きすぎる。
「待て! そこを動くな!」
両手で銃を持ちなおし、狙いをつける。
それを見た桜子も、手に持った水鉄砲を僕に向ける。そんな僕達の遊びはいつも大人達に邪魔され――

「先生! 麻生先生!」
「……えっ……なに?」
「立ち見でもいいから入れてくれと仰せのお客様が殺到しております。如何いたしましょう?」

コンサートホールの支配人が困った顔して立っていた。
僕はマネージャーを取らないから、こんな調整は全部ここに来る。

「殺到って……何人?」
「少なくとも50名様はいらっしゃるかと」
「……そんなに? おっかしいなあ。平日にしちゃあ多くないですか?」

今夜のリサイタルは桜子のために用意したようなものだ。他の客は少なくていい。いや少ない方が都合がいい。
だからわざわざ平日に入れたのが……立ち見? 通路に50人って。
「ここ2,3日、空きはなかったよね」
「はい。4Fの小会議室以外に空きは御座いません」
「だよね。会議室の追加公演って訳にも行きませんから……いいですよ、当日券、半額で出して下さい」

控室のピアノの蓋を押し上げ、一息に弾いたアルペジオ。その音が桜子の耳に届いか。
モニターの桜子がまたもや僕の方を見た。
「挑戦、受けて立つって所か。いいよ。君が本当にヴァンパイアになったのかどうか……確かめてあげるよ」

足早に立ち去る支配人。開演まで……あと10分。

82 :
ペインブルー PSO2 豚 迷惑プレイヤー 無職 引き籠もり 底辺 孤立死 孤独 ボッチ 馬鹿 低学歴 コミュニケーション障害 メンヘラ 自己中 キチガイ 犯罪者 野良猫殺し S.P.A.Ts VP

83 :
「おかしいわ」

それが、ただ黙ってコンサートホールに付いてきた浅香の最初の言葉だった。
「何が?」
ズボンのポケットからチケットを取りだした浅香の目は、油断なく周囲に向けられている。
「おかしいわよ。ドレスコードの指定も無いのに、カジュアルなカッコの人が誰も居ないなんて」

エントランスには正装の男や女がうようよとたむろっていた居た。
言われてみれば……そうかも知れないわね
皆が皆それなりの格好をしている。男は黒かグレイのスーツ。女もスーツかワンピース。
そんな中、浅香だけがいつものブラックジーンズに白ブラウスに……白衣。いやその白衣だけはやめなさいって。
「あなたが悪いのよ。わたくしのドレスを嫌がるから」
「当然! 桜子さんのドレス、どれもみ〜んなお姫様みたいだもの! そのドレスも……どっちが今夜の主役だか……!」

と、いつのまにか受付脇に立っていた男がやおら声を張り上げた。
「当日券御所望のお客様! 空いたスペースご利用でも宜しければ、破格にてチケットをご提供致します!」
その声にどっと歓声が上がり、数十人の客が足早に移動し始めた。
「浅香。行きましょう?」
「う……うん」
頷きながらも彼女が表情を曇らす。
「ほら、あなたの格好なんか誰も見ていなくてよ?」
「いいえ、むしろそれが問題なのよ」
「……え?」
受付に殺到する客達を眺める彼女の眼が、スイッと細まった。
「誰一人として……関心がない。それが問題なの」
「どういう意味?」
「だから! どうして誰も桜子さんに注目しないの!? あの子供達でさえ――」
周囲がチラリと控えめな目を向ける。それに気付いたのか浅香を口をつぐむ。
「……そうね。そのとおりだわ。一様の服装、一様の態度と動き。ここの客はまるで『統率されている』」

浅香がぐっとこの腕を掴んだ。逃げるなら今だと言うかのように。
「いいえ」
私がゆっくりとかぶりを振る――その様子を浅香がまじまじと見て。ため息をひとつ、肩を竦めて手を離す。
「いいわ。いざって時は頼むとバトラー柏木に言われたから。その代わり、あの約束を守ってよね?」
チケットの半券を受け取り、颯爽とゲートを抜ける浅香。ふっきれた足取りだ。

そう。それでいい。
この先は――5分後に戦場となるのだから。

84 :
臙脂色の重たそうな両開きの扉。この先はホールの前室になっている。
ゆっくりと押し開け――あれ? 重すぎて開かない?
そんなあたしに桜子さん、小馬鹿にしたような目を向けて。
「あなた、英語も読めないの?」

あ。PULLって書いてある。あはっ!
そんなあたしが引き開けた扉めがけて、我先にと押し寄せてきた「立ち見希望」の人達。ちょ、ちょっと!
人波に呑まれた桜子さんのドレスの裾がチラッと見えて――
そのまんまの状態で場内へなだれ込む。えぇっと、桜子さんはどこ!? 席はどこ!?

「浅香! シート番号は!?」
人波の中から聞こえてきた桜子さんの声。急いでチケットを確認する。
「……っと……Tの36と37だわ!」
「う……うそ!?」
男達を無理やり押しのけて這いだしてきた桜子さんが、あたしのチケットを奪い取った。
印刷された座席番号を何度も確認して……不審の眼であたしを睨みつける。
そんな睨まれても! あたしはただ柏木さんからそれを受け取っただけで……
「……結弦。招待しておいて、こんな席? どんなつもりですの?」
むくれた顔して席に着いた桜子さん。そう、Tの37――再後席の右端に。

……うーん。おこっても当然よね。ふつう招待するとしたら、あの真ん中あたりじゃない?
あら?
あたしがちょうど目を向けた――前から10列目くらいの、少し右寄りの席。
そこに、まるで桜子さんみたいな白いドレスの人が座っていた。そこだけパっと花が咲いたみたい。
あんな服で来る人が、他にも居るのねぇ。

場内の照明がひとつ、ふたつ消え出す。あわてて席に着くあたし。
横にも後ろにもずらりと立ち並ぶ紳士淑女然とした人達。
彼らが腕にかけるコートの下に、武器を隠しててもおかしくない。いつこちらに向かって発砲しないか気が気じゃない。
なのに桜子さん。落ち着いてプログラムなんか開いちゃって。この人達がみんな敵かも知れないのに、随分余裕じゃない?

あたしは腰に差し込んだPPKをそっと右手に握りこんだ。

85 :
割れるような拍手がホールを満たした。
硬い靴底が舞台の木板に当たる甲高い音さえ消してしまう拍手の音。
白く眩しく照らされた舞台の中央で軽く一礼し、顔を上げる。

こんな光景、滅多にないね。
これがほんとの満員御礼、後ろと両脇の通路も立ち見の客であんなに埋まってる。
今夜は僕のために集まってくれてありがとう!

って言いたいとこだけど、たった今解ったよ。たいして宣伝もしてないのに、立ち見が出ちゃった訳が。
「匂い」だ。香水とか柔軟剤の匂いだかに混じる……金属とオイルの匂い。
普段から銃の手入れを欠かさない――ハンターだからこそ感じ取れる匂い。
つまり、あの立ち見客もハンター、或いはズィルバー・クロイツの連中だって事。
局長の仕業だよ絶対。
桜子と接触するって聞いて手を回したに決まってる。
良く良く見れば、雰囲気が変だよ。20〜30代に統一されてて、ダンサーみたいに妙に姿勢が良くて。
漂う緊張感とか顔つきとか目つきとか……一般人じゃないの、バレバレだよ。
お願いだから、凄い目で睨まないでくださいよ。僕ってそんなに信用ないですか?
このリサイタル、桜子の為に用意したんですよ? 邪魔しないで欲しかったのに。

そんな僕の眼をまっすぐに見つめて来る桜子。
君はそろそろ僕の意図に気づいてくれたはず。そう、今日のプログラム、目を通してくれたよね?
ショパンの申し子なんて呼ばれてる僕が、何故そんな曲ばかりを選んだのか。
革命? 木枯らし? ノクターン? バラード1番?
弾かないよ……。たぶんみんなが大好きなショパンはひとつも弾かない。 

僕の胸のうち、聴いてくれるよね?
これが今の僕。
僕はヴァンパイアが憎い。
知ってるよね? 半年前……ヴァンパイアが僕の両親の命を奪ったこと。
でも僕を――世界的ピアニストに押し上げてくれたのはそのヴァンパイアだ。
僕はその怒りを鍵盤にぶつける事が出来るようになった。音は慟哭となり、哀しみを生む。
その音を聞いて、聴衆が泣いてくれる。僕の境遇を鑑みて、僕の音に共鳴してくれる。

君もそうだろ?
君も同じ頃、両親をヴァンパイアに殺された。
君も、周りの人達も泣いていたね。僕は君が……ピアノを止めてしまうんじゃないかと心配したりした。
でも君はやめず……それどころか感動を生む弾き手になって帰ってきた。
うん。僕と君は同じだよ。そんな君が――ヴァンパイアになどなる筈がない。
この腰に差したベレッタを使う機会なんか――来る筈がない。

どう? 桜子。このリサイタルが君にとっての「革命」になるといいんだけど。

86 :
キシリとピアノ椅子が軋む音。
腰を降ろしたまま、何故か不審に顔をしかめる彼。

どうしたの結弦? 椅子の高さはリハ時に調整済でしょう?
……――いや、違うわ。椅子の高さを訝ったのではなく……眩んだのね。照明の照り返しに。

彼は普段、長い前髪で右側の目を隠している。それが素敵だと騒ぐ女性もいる。
しかし自分は知っている。彼の右目が……健常ではないことを。思わぬ事故がもとで、その眼は機能を失った。
聞いたことがある。見えはしないが、光は見えると。むしろ痛いほどに眩しいのだと。
少し間を置き、おもむろに両の手を鍵盤に置いた彼。
弾き始めたのはリスト作曲「超絶技巧練習曲 第4番 マゼッパ」だった。

驚きだわ。
いつもショパンのポピュラーな曲目ばかり選択する貴方が、こんな曲を選ぶなんて!
激しい情熱のこもった、重く荒々しい多重和音の連続。端から全開の曲。
まるで舞台を揺るがすほどの迫力に、客が押されてる。あちらこちらから息を飲む音が聞こえる。
なんて音かしら!?
思い出すわ……半年前、貴方がおじさまとおばさまを亡くした時のことを。
ヴァンパイアに返り討ちになったおじさま方のお姿は、とても正視に耐えなくて、その頃わたくしも両親を殺されて。
その時を境に――わたくし達は逢うことをやめた。

怒りと憎しみが綯い交ぜになった音。まさに激情だわ。これが貴方が表現したかった音ですの?
音が胸を揺さぶり、突き刺さる。凄いわ……ええ。……とても……。

8分ほどの演奏が終了し、客は沸いた。1曲目にしてなんとスタンディングオベーション!

何故? 何故なの?
次の曲も……その次の曲もリスト。リストリストリストリスト……そう! 今夜はリストオンリー!
確かに観客はその迫力と技巧に客は酔うでしょう。
男性ピアニストならではの音量、迫力を兼ね備えた、ダイナミックな演奏に沸くことでしょう。
でも……客は貴方の美しい「木枯らし」を聞きに来たのではなくて?
優しく奏でるセレナーデや、軽快なワルツを楽しみに来たのではなくて?
貴方の音は繊細で詩的で、そこが評価されていた筈。それがこんな……

ええ、わたくしは好きよ。リストの曲を弾く時ほど、魂を揺さぶられる事もなければエクスタシーを得られる事もない。
ええ! ええ! とても楽しみですわ! 
美しい「ラ・カンパネラ」で締めくくる今夜のリサイタル……最高ですわ!

まさか貴方。今夜のリストはすべてわたくしのために?

87 :
彼のピアノを生で聴いて、あたしはとにかく圧倒されてた。

高低差の激しい和音の連続、「弾く」というよりは「叩きつける」と表現すべき……一種暴力的な重い旋律。
……なんて……なんて指を酷使する曲かしら!
作曲したリストは、奏者が腱鞘炎になればいいと思ってたんだわ!
弾く方も弾く方で……
ピアニストって凄いのね。これだけの音量、どうやって? 指の力だけでこんな音が? スピード? バネ? 体重移動?
あーあ。もっと左寄りの席だったら良かったわ。ここからじゃ身体の動きが良く見えないもの。

88 :
ため息をつくあたしの横で、桜子さんがぎゅっと手を組み合わせて震えているのが見えた。

……桜子さん。怖い顔して熱心に聴いてるけど……実際どんな気持ちなのかしら。
嫉妬かしら。ライバルって言われてるから……そうよね。嫉妬よね。純粋に感動してるって事はないわよね。
あたしも……ごめん。圧倒はされても感動までは出来ないわ。
ショパンなら有名なフレーズも多いし、楽しく聴けると思うの。でも――リストって聴いたことないから――だから……

もしかしてこんな客、あたしだけ? みんな本当に楽しんで聴いてる?
このプログラムだって……気取りすぎじゃない?

1 Etudes d'execution transcendante S.139/R.2b No.4 Mazeppa
2 St.Francios de Paule marchant sur les flots 〜Legendes S.175/R.17
・(中略)
8 La Campanella 〜Grandes etudes de Paganini S.141/R.3b

そう。曲目を全部イタリア語で表記しちゃったりして。
F. Liszt(フランツ リスト)以外、全然ピンと来ないじゃない。


刻一刻と過ぎる時間。進むプログラム。
あたしにはとても長い時間。欠伸を噛みRのが精いっぱい。ただ椅子に座るのがこんなにつらいなんて。

カチッ……!
――えっ!?
軽い金属音があたしの目を覚まさせた。てっきり銃のセイフティレバーを外した音かと勘違いしたあたし。
咄嗟に桜子さんをかばうようにして音の主――後ろに立つ客を見上げた。
そんなあたしに、当の彼も驚いたらしい。
「すみません」
と小さく謝り、軽く頭を下げる。
その顔に見覚えがあった。たしかそう……さっき当日券を破格で出すと宣言していた男だ。
背が高く、着なれたタキシードの似合う……ちょっと柏木さんを思わせる風格の初老の男。もしかして劇場の支配人かしら?
ごめんなさい。きっと指輪かカフスがシートの背に当たった音ね?
はあ……先入観ってば恐ろし……

「お集まりの皆さま! いよいよ最終曲となりました。リストと言えばこの曲、そう、ラ・カンパネラ!」

やおら張り上げられた若い男の声。見れば舞台中央に麻生結弦がマイク片手に立っていた。
ちょっと驚き。ピアニストって、ただ鍵盤だけ叩いてるものかと思ってたから。
二コリと笑い、麻生が続ける。

「実はここでサプライズを用意しました。皆さま、お気づきですね? S席の彼女に!」

ザワつく観衆。
その声に答えるように、席を立った白いドレスの女性。ああ、あの桜子さんばりの派手なドレスの人だわ。いったい誰なの?

「この曲は是非彼女に演奏して頂きたいと思うのですが……如何でしょう? 水原桜子先生?」

え? ――えぇ!?
あたしは天地がひっくり返った心地だった。
だってだって、麻生が言葉をかけたその人が――優雅にほほ笑んで頷いたその人が、確かに桜子さん本人だったから!

89 :
プログラム7番――タランテラを弾き終えた時、高揚は頂点に達していた。
あえて休憩を入れずに一息に弾ききったリスト難曲。

どう? 桜子。
君と最後に遭ったのは両家の葬列が済んで……二人でノクターンを連弾した時だったね。
僕も、そして君も両親の死を受け入れられなくて……でもピアノの音は物凄く悲しくて。
弾き終わった時、君はポツリと言った。
『あの子を、秋子を幸せにしてあげて』と。
『僕が好きなのは秋子じゃない。僕は君と結婚したい』

ずっと閉じたままだった瞼を開けた。
白い光が目の奥の飛び込んで矢のように突き刺さり……思わず手で眼を覆った。
押し寄せる疲労感。
思った以上に……辛い。そうだよ、とっくに限界は超えてた。
腕も肩も、石になったように重い。今更に身体から噴き出す汗。恐るべし……リスト。
ドーバー海峡を泳いで渡った気分。最終曲を弾く気力も体力も残ってない。でもいいんだ。これで。

椅子の背を掴んで腰をあげ、舞台袖に合図を送る。係員がマイクを手に走ってくる。
受け取ったマイクをONにして、指先で軽く叩く。うん、いい感じ。
常連客が「いつものが始まったか」みたいな期待の目を向けてきた。ザワついてた場内が静まり返る。
そう。曲が終わるたびにコメントを入れるのが僕のいつのもスタイルだからね。
作者が曲に込めた意味とか、逸話とか。僕なりの解釈とか苦労話とか。そういうの、喜んでくれるお客多いから。
でもごめん。今日はそういうの、一切なしだ。

「お集まりの皆さま! いよいよ最終曲となりました。リストと言えばこの曲、そう、ラ・カンパネラ!」
拍手が起きる。行儀悪く、指笛を鳴らす人も居る。今夜の客はやたらとノリがいい。
「実はここでサプライズを用意しました。皆さま、お気づきですね? S席の彼女に!」
どよめきが起こる。何事かと身を乗り出す客も居る。両脇のハンター達がピクリと反応する。
桜子は――黙って僕の顔を見つめている。
「この曲は是非彼女に演奏して頂きたいと思うのですが……如何でしょう? 水原桜子先生?」
客席から「うそ!?」とか、「マジ!? すごっ!」なんて驚く声が次々にあがる。

彼女はしばらく座ったまま大きな眼を見開いて……なんと答えようかと迷ってるようだった。
あの時の君も迷っていたね。
血を吐く思い思いで綴った僕の言葉に――君は黙ったまま……そして部屋を出て行った。
以来ずっと音沙汰なし。今日こそ聞かせて、いや「聴かせて」もらうよ。君の答えを。

やがてそっと微笑んだ彼女。ゆっくりと、優雅に首を縦に振る。
――嬉しいよ。YESでもNOでもいい。君は「答えてくれる」気になった。そうだね?

彼女をエスコートしようと、舞台中央のステップを降りる。
立ち上がり、歩を進める彼女の手を取って舞台へと誘(いざな)う。
片手でドレスの裾をつまみ上げ、ステップに足を乗せ……舞台上にあがった、その時だった。

「ダメよ!!」

制止の声。高いキーの、良く通る女の声だ。見ると最後列の右端に、白い人影が立っている。
純白のドレス、肩まで伸ばしたキャメルブラウンの髪。
「……桜……子?」
いやしかし隣には……
だが気付いてしまった。僕の手に添えられた……手の爪に。緋色に塗られたその爪の先がとても「長い」ことに。

「君は……誰?」

にやりと口元を歪めた女が、いきなり僕の手首を掴んで後ろ手に捩り上げた。
そのまま抵抗する間もなく脚を払われ、舞台に膝をつく。女の力とは思えない力とスピード。

きつく首を絞め上げる女の手にナイフが握られているのを見た時、初めて客の一人が甲高い悲鳴を上げた。

90 :
Tarantella――タランテラ

毒蜘蛛に噛まれ、注ぎ込まれた毒を出さんと死ぬまで踊り狂う――云わば狂気を孕んだ舞曲。
超絶技巧に並ぶ超絶技巧、自分のすべて惜しまず出しきるリストを象徴するかの曲。
客はあなたのピアノを見てどう感じたかしら?
ハイネがピアノを弾くリストを見てこう表現したと言うわ。

『あまりにも深い情熱の為に我を忘れ、象牙の鍵盤の上で猛り狂う。
一面には甘い花々の香りが満ち、野生の荒々しさが木霊となって響き渡る。
うっとりとした心地良さと苦悩が同時に訪れる。
私はリストを愛しているにもかかわらず、私の魂は彼の音楽によって癒されることはない』

91 :
わたくしも、そして場に居合わせた誰もが――微かな疑問を抱いている。
技巧と迫力を嫌というほど見せつけた今夜の麻生が、何を伝え何を与えたかったのか。
多くの人間が抱えるであろう癒されぬ魂は、癒されぬままなのか。
でも最後の曲を聴いて納得するでしょうね。
今までの7曲はむしろこの為にあったとさえ思うことでしょう。
La Campanellaは鐘の音(ね)を模した曲。
美しく響く高いベルの音が、この一帯に籠もる熱気を――抑え切れぬ興奮と悪魔の狂気を消し去ってくれる事でしょう。

聴かせて結弦。
哀しくも美しい――弔いの音楽を。

92 :
しかし最終曲を残し、両の目を手で覆った彼。
ちょっと尋常ではない彼の様子から……わたくしは解ってしまった。彼が限界を超えてしまったことを。
そんな結弦はマイク片手に、あえて明るい声を客席に響かせる。

「お集まりの皆さま! いよいよ最終曲となりました。リストと言えばこの曲、そう、ラ・カンパネラ!」

駄目よ結弦。退院したあの時、お医者様に言われたでしょう?
傷ついた神経は元には戻らない、長時間の運動は無理だと。
一定間以上の心拍と血圧の上昇はもう片方の目にも影響を与える危険すらあると。
カンパネラは決して荒々しい難曲ではないけど、とても神経を使う曲よ。
鐘の音を模した右パート、その激しい高低差の中で、高音の主旋律を美しく奏でる必要がある。
時に主旋律を共に奏でる左パートは強すぎず、かつ早い連打は主題を殺さぬマイルドな音を要求される。
云わば些細な気の緩みがすべてを台無しにしてしまう――誤魔化しの一切きかない曲よ。
いつものあなたならいざ知らず、今のあなたは――

「実はここでサプライズを用意しました。皆さま、お気づきですね? S席の彼女に!」

――え?

「この曲は是非彼女に演奏して頂きたいと思うのですが……如何でしょう? 水原桜子先生?」

――は?
――ちょ……ちょっと、何よそれ!! 何も聞いてないわよ結弦!!!

ははあ……どうやらあなたを見くびっていたようね?
おかしいと思ったわ。
自分の限界を知ってるはずのあなたが、何故こんな無茶をしたのか。
でも反則ですわ! そんなサプライズ、わたくしに取ってはドッキリ以外の何物でもありませんわ!
でもまあ……いいわ。客を楽しませる、プレゼン上手のあなたらしいわ。
受けて立って差し上げますわ。こんな席をSなんておっしゃる、あなたの皮肉に答えてみせますわ!


でも、彼の相手は他に居たのだ。本当のS席に、別の「水原桜子」が。


麻生の手でエスコートされ、舞台上へといざなわれた女は、まるで自分に生き写しだった。
ヴァンパイアとなってからというもの、鏡に映らなかった自分自身があそこに居る。
「嘘……」
だがすぐに気付いた。背格好は同じでも、中身は全く違うもう一人の自分。
あの日以来、男という生き物を一切拒絶し、心を閉ざしてしまった――たった一人の妹。
「……秋子。あなたも……結弦に呼ばれていたの?」

しかしそれにしては妙だ。結弦は彼女を「桜子先生」と呼んでいたのだから。

93 :
彼は秋子をこの自分だと思い込んでいる。
何故なら、彼が間違いなくS席に彼女を招待したから。
ならばこのチケットは一体誰が――? 何者があの子――秋子にS席のチケットを?
そして何故――何故あの子はわたくしの振りをしているの!?

白いドレスの裾が揺れる。ステップを擦る衣擦れの音が止む。

――ザワリ………!!

感じた殺気は両脇の立ち見客からのものだった。
浅香が危惧するとおり、彼らは普通の客ではない。その佇まいと匂いで感づいていた。
銀の十字架を背負うハンター支援団。俗称ズィルバー・クロイツ。
今の今まで動かずにいたのは、おそらく決めあぐねていたのだろう。どちらが本物の水原桜子なのかを。
だが今――

――秋子……! あなた、もしかして……

あの日。
彼女が思いの丈を結弦にぶつけ、結弦は冷たくその手を払い……泣いて帰って来た秋子を私は抱きしめた。
男は誰も信じないと言い張る秋子を寝かしつけ、私は結弦の屋敷へ向かった。
あなたは云ったわね。
共に僕達の両親を送ろうと。
貴方のノクターンは……低音なのに、しっかりと芯が通った優しい音だった。
わたくしの主旋律をサポートし包み込む……その時感じたわ。ああ、この人が愛しているのは秋子ではなくこの私だって。
戦慄が走ったわ。
わたくしが愛しているのは彼の弾くピアノだけだったと思っていたから。
「結婚したいのは君だ」とその口からはっきり云われ、声が出なかった。
慌てて彼の手を振りほどいて、ピアノに掛けてあったコートを掴んで。彼はそれを止めようとした。
「あっ……!」
彼が呻いて右眼を押さえたけれど、無我夢中だったわたくしは急いで部屋を出た。
リムジンの運転席に座る柏木に合図を送り、家路に向かった車内で……ふと気がついた。
コートの袖口についた赤い染みに。袖ベルトの金具のピンが……べっとりと血で染まっていたことに。

結弦の右眼の視力は戻らない。
そう聞かされた時、わたくしは覚悟を決めた。
結弦はハンター。わたくしはその標的(まと)になる。結弦は自らの敵(かたき)を取る必要に迫られる、そう思ったから。

そんな私を知った秋子は家を出た。
やり直したい、そう秋子は言ったけど。本当はあの子、ずっと恨んでいたんじゃないかしら。
自分を振った結弦のこと。そして姉が人間を捨てたのは自分自身のせい。ならばいっそ――
舞台という晴れの舞台で、公衆の面前で、ヴァンパイア「水原桜子」はハンターに殺された。結弦はその巻き添えを食った。
そう知らしめるために、彼女はわたくしの振りを――

「ダメよ!!」

止めなければ!
そんなわたくしの声に結弦が気付いた。
眩しそうにこちらを見上げ……ふと彼女の手元に視線を落とす。彼の表情が変わる。

「君は……誰?」

気付くの……遅すぎるわ結弦。ほらごらんなさい。
すべての精力を使い果たした貴方だもの、女の力でも易々と組み伏せられる。

チャキっと武器を構える音。ハンター達が舞台に狙いをつけている。
流石に結弦に当たることを躊躇しているのか、まだ撃とうとはしない。

そんなハンター達の頭上をフワリと飛びこえる。
フフ……わたくし、ヴァンパイアですのよ? こんな動作は朝飯前……いいえ、ブレイクファーストの前の前ですわ!!

94 :
あれは――桜子さん!? でも桜子さんはちゃんとここに……ええーー!?

「……秋子。あなたも……結弦に呼ばれていたの?」

桜子さんの呟く声が耳に届いて……あ……秋子、さん?
なあんだ、そうだったの! てっきり桜子さんのドッペルゲンガーを目撃しちゃったのかと思ったわ!
きっと一卵性の双子ね? 仕草も格好も桜子さんそっくりだもの!

ついでにちょっと安心。裕也に噛まれたって聞いてたけど、意外に元気そうじゃない?
足取りもしっかりしてるし、呆けてもいない。きっともの凄い意志の持ち主なのね?
今夜は桜子さんの身代わりになろうと駆けつけたに違いないわ!
でも凄くない? あの協会から逃げて来れたなんて……協力者でも居たのかしら?
なんて呑気に考えてたあたし。
桜子さんの攻撃を至近距離で喰らってしまった。
それは「声」

―――――――――「ダメよ!!」

これがほんとの音速攻撃! 痛ったあーい……耳が……耳があ……!
桜子さんってば、ピアノ線無しでもそんな攻撃が出来ちゃうの!?
まるで音の散弾銃を喰らったみたい!
そうね……名付けて、突発的高音域発声練習(ハイレベルボイス・イン・フルメタルジャケット)!
うーん我ながらナイスなネーミングセンス!!
散弾にフルメタルジャケットは使用しないとか細かい事は、このさい忘れて?
にしても大丈夫かしらあたしの鼓膜! ……ちゃんと……聞こえてる? あんもう……耳ん中がワンワンいってるう……

でも心配ご無用だった。
桜子さんの声に気付いた麻生がこっちを見て……そして秋子さんに誰何した声が、しっかりと聞こえたもの。
「君は誰?」って。
流石はコンサートホールの音響効果――って……あら? 麻生は秋子さんと面識ないのかしら?
こっちの桜子さんに気付いたんだから、もう一人は双子の妹(だか姉だか)って気付いても良さそうじゃない?
ってまあどうでもいっか。

正体がバレちゃった彼女。
いきなり悪の女幹部みたいな顔つきになっちゃって、さっさと麻生の腕をひねり上げてねじ伏せてしまった。
あらら……なんて鮮やかなお手並み。
身体能力の差なのか、単に体勢が悪いのか、麻生はじっと動かない。
遠目にも彼の米神に浮かんだ玉の汗がライトに照らされてジリジリと光っているのが見えた。
彼女の手に握られた銀のナイフが、強いスポットライトの光をあちらこちらへ照り返す。
それを見て我に返ったのだろう。
一人が上げた鋭い悲鳴を皮切りに、会場全体があっと言う間に恐慌に陥った。
今まで立ち見客に徹していたの協会の連中が銃を構え始める。でも、それを見た客席の客がさらに騒いで……
あはは……すっごい大混乱。
流石に、撃てないわよねえ。ヘタすりゃ何の関係もないお客様に当たっちゃうもの。

秋子さん!
とっととやっちゃって!
あたしは桜子さんを連れてとっとと逃げるから!
柏木さん! あなたが言ってた、「救う」ってこういう事よね?
桜子さん! 早く行きましょう!!

でもあたしの思うようにはならなかった。桜子さんが座っていた筈の席――T37に彼女の姿が無かったから。
咄嗟に見上げたあたしの目に映ったのは、鮮やかに宙を舞う桜子さんの姿。
白い蝶のようにはためくドレスの袖に裾。

ささささ桜子さん!!? す……すごい! 飛んでる!
でもあの――どういうつもり!!?

桜子さーーーーん!!! パンツが! シャルタントーマスのパンツが丸見えよーーーー!!!

95 :
そんな桜子さんに、意外と客達は気付かない。
我先にと出口に向かう人がほとんどで。舞台上から眼が離せないまま座り込む人達もちらほらと居たりして。

「皆さま! お静まりを! 落ち着いて下さい! 係員の指示に従ってください!」
さっきの支配人風の男性が急ぐ人をなだめているけど、あまり効果は無いみたい。
だって、5、600人は居るもの。
それが一度に出口に殺到したからもう大変。転倒するやら将棋倒しになるやらで……何だかこっちの方が怪我人多そう。
おまけに協会の奴らが両脇塞いじゃってるでしょ? 銃口を桜子さんに向けるのに精一杯で、他の客を見ようともしないの。
あたし、ちょっとムカっと来た。

「ちょっと! ハントよりお客の誘導優先したら!!?」

96 :
そうしたら、協会連中がハッとした顔であたしの方を向いて。
そそくさと、ほんとに救護活動にあたり始めた。
なんだ、意外に素直で可愛いじゃない……って、そうよね。あいつら、悪の組織って訳じゃないものね。
人間を守るのが奴らの信条だもの。
そう。奴らが桜子さんヴァンパイアを狙うのは、「人間を守るため」。

そこでふと考えてしまった。じゃああたしは何? って思ったの。

あたしは仕事が好き。
手当をすると、患者は喜んでくれる。お金をくれる。裏の住人は特に「はずんで」くれる。
うわお! あたしってばお金持ち!
でも……別に綺麗な服を着たいとは思わない。ジャガーやRーリ乗り回したいとも思わない。
美味しいお食事にも執着はない。薬が買えて、新しい医療器具が手に入ればそれでいい。

あたしは仕事が好き。治療する行為が好き。
傷が綺麗に治った時、人は言うわ。センセイ、腕がいいね! 次も頼むよ?
死の床に居た筈の老人は言う。ワシがもう30歳若ければ、センセイにポロポーズしたんじゃが。
いつもワクチンを受けにくる少年は言う。センセイのおかげで僕、お注射ぜんぜん平気になったよ!

あたし、医者……よね。人間の傷を治すのが仕事。
でもあたし、人を殺した。
あの時……エタノールの瓶を投げつけた男は……たぶん死んだわ。ニシナって言ったっけ?
ずっと――夢中でヴァンプって存在を追っかけてるあたしたけど、何か……違わない?

ヴァンパイアになりたいのは、好きなお仕事をずっと続けたいから。
その為なら何でもする。出来る。
……何でも? 
殺人……でも……?


「秋子。その手を……お離しなさい」

舞台の方から桜子さんの優しい声がした。
麻生と秋子さんから少しだけ距離を置いて降り立った彼女が、「人間の眼」で秋子さんを見つめていた。
桜子さん、秋子さんを止める気?
でもどうして? 桜子さんは麻生を助けたいの? そもそも何故あなたは――ここに来たの?

あたしの思考はそこで止まった。
誰かに強く腕を掴まれたから。
協会連中だと思ったあたしは問答無用で攻撃 (股間に蹴りを一発!)しようとしたけど、その前に壁に押し付けられてしまった。
「何すんのよ! 離して!!」
って言ってみたけど、聞くわけないわよね。
即ハンカチで口を塞がれて……ああ、セボフルラン(全身麻酔剤の一つ)の匂いだわあなんて思ったら意識がなくなって……
気がついたら床に転がってた。
客の喧騒がすぐ近くで聞こえる。差し込む照明の光。え? ここって……舞台袖?

「手荒な事をして申し訳ありません」
支配人はあたしの横に膝をついて座ってた。
「あなたはいったい――」
彼は唇に一本だけ立てた指を押し当ててあたしを黙らせると、自分の顔をむんずと掴んだ。
なんとその顔はマスク。
そう、映画のメーキャップみたいなペラペラのマスク。
それを剥ぎ取り素顔を見せた男は、なんとバトラー柏木その人だった。

97 :
騒然となったホールの上を、彼女は「飛んで」いた。

跳ぶでなく、飛ぶ。
人間技ではない。まるで白い綿毛が風に舞うように空を蹴る白いドレスの女。
半年前、確かにその姿をピアノの響板に映していた君が……――まさか! 本当に!? 
桜子、君は本当に――ヴァンパイアになってしまったのか!!?

「水原桜子はヴァンパイアである可能性がある。しかも幹部だ」
なんて言われた時はまさかと思ったけど、でも……そうか。そうなんだ。
君のピアノは両親の死だけで変えられるような音じゃない。
何かを呪ったり、恨んだり、哀しんだり、それだけで出せるような音じゃない。
まるで悪魔的な魅惑を秘めた超常の音。人間を超えたヴァンパイアだからこそ出せる音。僕には決して――

98 :
ふと香ったシャネルの5番。
自分の首に巻きつく腕、押し付けられた身体から微かに立ち昇る香水の香り。

そうか、君も誰なのか、たったいま解ったよ。そのシャネル、僕が贈ったものだもの。
局長も人が悪くないですか? 秋子を寄越すなら寄越すって言ってくれたら、ちょっとはマシな対応が取れたのに。
でもおかしいな。サーヴァントはマスター――噛んだ本人の言う事しか効かない筈だよね。
佐伯は死んだはず。いったい誰の命令で? それとも……僕への恨みがよっぽど強い、とか?
……だね。
殺されても文句は言えない……よね。
あの時、自分の気持ちを正直に打ち明けたから。
「3か月だ」って聞いた時は驚いて……正直迷ったけど……けどどうしても駄目なんだ。
僕には桜子しか見えない。これだけは曲げられないんだ。


フワリと生温かい風が頬に当たる。見ると本物の桜子がピアノの向こう側に立っていた。

「秋子。その手を……お離しなさい」
「姉さん……ダメよ……逃げて!!」
ゆっくりと桜子が近づく。一歩、また一歩。
「来ないで!!」
僕の首を絞める腕が小刻みに震えている。
「馬鹿な子。こんな私の為に……死ぬつもり?」
艶やかな響板に指を滑らせ、桜子が呟く。その黒い肌に彼女の姿は映っていない。
椅子と鍵盤を照らしているスポットライト。
その光の中に身を投じた白いドレスが眩しくて眼を焼いたけど、でもその動作から眼を離せない。
Steinwayの刻印や、白と黒の鍵盤をいとおしそうに撫でる白い指に。
そんな彼女の左手がオクターブを奏でるポジションを取る。
ふたつの指が二本の黒鍵に添えられる。
「姉さん……やめて……!!」

硬く芯の通った和音がホール一杯に響き渡った。
どこまでも澄みきったその音はE(ピアノのミ)フラット。なるほど、ラ・カンパネラの出だしの音だ。
騒いでいた客達、出口付近にかたまっていた客達が、ぼんやりした緩慢な動作で動き始めた。今まで着いていた――自分の席へ。
ハンター協会の面々までが、同じ動きで立ち席に戻っていく。
それはまるで軍隊のような統率された動きだった。

ぞっとした。ヴァンパイアはその個体によって特殊な能力を持つ。
何らかの手段を以て人間を操る――操舵の力もそのうちの一つ。
ある者は眼を合わせることでその力を発揮すると言う。
桜子は……ピアノの音を聴かせることで、人間を操れると言うのか……!?
うっとりと舞台を見つめたまま人形のように動かない客達。
協会連中までが、両腕を下げたままぼんやりと桜子を見ている。
これだけの人数を一度に? なんと恐ろしい能力だろう。幹部になれる筈だよ。
「諦めなさい秋子。奴らの気力はたったいま殺いだ。もう銃は撃てない。あなたを狙う事も」
震えていた秋子の腕がゆっくりと解かれる。
僕は彼女を刺激しないよう……慎重な動作で彼女らから距離を取った。
名残惜しげに僕を見た秋子が、手に持つナイフの刃を自らの喉に当て――

「よせっ!」「およしなさい!」

桜子の方が速かった。瞬時に秋子の後ろに移動し、ナイフを叩き落とす。
「ごめんなさい……姉さん……」ふらりと桜子にもたれかかり、眼を閉じる秋子。
「……秋子?」
彼女の声に戸惑いの色が滲む。
「秋子、まさかあなた!?」
解かれた桜色のスカーフの下に、くっきりと残る醜い傷跡。吸血の徴。しばらくの沈黙。

「……知っていたの? 結弦?」
彼女の瞳がその色を変えていく。黒から茶色、そして金を経――真紅へと。

99 :
足先で触れた木製の舞台が、この身を硬く受け止める。
一瞬間だけ、ホール全体が静まり返る。怨みの籠もる喧騒の余韻がホールを満たす。

結弦の首に腕を回したままの秋子。額に脂汗を滲ませたままの結弦。
二人ともこちらを凝視したまま。
結弦が身じろぎする度に、タキシードとドレスが衣擦れの音をたてる。

――秋子?いったい何があなたを動かしたというの? どこにそんな力が秘められていたというの?
曲がりなりにも、結弦は男。私と同じ、細く小柄な……その身体で……よくもまあ……

振り上げられたまま静止しているナイフの刃先が小刻みに震えている。
まさか私が来るなんて思っていなかったのでしょうね?

「秋子。その手を……お離しなさい」
「姉さん……ダメよ……逃げて!!」

いいわ。
あなたがS席のチケットをどうやって手に入れたのか、今は聞かないわ。

前に……足を踏み出す。
まるでわたくしから二人を庇うように……立ち塞がるグランドピアノ。
円錐型のスポットライトに浮かび上がる黒い体躯。
天蓋から覗く、230本余りの硬鋼鉄の線。
弦に止められた銀のチューニングピンの鋭い煌めき、燻した光沢を放つ金属のフレーム。
果たしてグランドピアノを超える楽器がこの世にあるだろうか。
なんという精巧さ。
なんという重量感、存在感。
そして温かい。
優美なカーブを描く漆黒の側板も……一見して冷たいけれど……でも確かな木の温もりを宿している。
優しく指先を受け止めるこの象牙の鍵盤も。

「来ないで!!」
「馬鹿な子。こんな私の為に……死ぬつもり?」

どよめきに混じる悲鳴。我に帰った客達が、再び扉へと動き出す。
騒ぎに乗じ、こちらに銃を向ける男達が数人。
――させないわ!!
鍵盤に置いた左手。親指と中指をD(ピアノのレ)シャープのオクターブに添える。

「姉さん……やめて……!!」

指先に向けたすべての意識を――その先のイメージへとつなげていく。
鍵(キー)が跳ねあげたハンマーが下から弦を突き、その振動が響板にて増幅され、やがてこのホール全体を震撼させる。
意識のあるすべての「人間」に我が操舵の効果が期待できる。
貴方がたに、それを防ぐ術(すべ)があるかしら? 

さあ、しっかりお聴きなさい。
たったいまから、わたくしが貴方がたのマスターですのよ?

100 :
さすがはコンサートホールの音響効果ね。
多少の喧騒などお構いなしだわ。
そう、怖いことは何もない。落ち着いて……自分の席にお戻りなさい。
武器を持つものは懐深くに隠しなさいな。ここは音楽を楽しむ場。銃など……野暮の極みですわ。
そうよ。あなた方は帰さない。リタイタルはこれからが本番。

さあ秋子、あなたも。
結弦を解放なさい。
敵を討つのはわたくし。裏切られたあなたの思いと、生まれていた筈の命の敵は……必ず。

……どうしたの? 
何故離さないの?
「音」はその耳に届いているのでしょう? まさか……あなた……

「諦めなさい秋子。奴らの気力は殺いだ。もう銃は撃てない。あなたを狙う事も」

一縷の望みをかけ紡いだ言葉に、はじめて秋子が反応した。
拘束を解かれた結弦が彼女から数メートル離れた場所へと移動し、それを確認した秋子が何をしたか。
彼女の行動は、わたくしの意図――秋子を助けたいという思いとはまったくの逆。

「よせっ!」「およしなさい!」

何故秋子に我が能力が通じなかったのか。

「ごめんなさい……姉さん……」

ぐったりももたれ掛かる妹の、スカーフの下に隠された醜い傷跡。
それは吸血鬼に噛まれて間も無い証。吸血鬼化せず、死にも至らず、あの世との境を彷徨っている証。

そういうことだったの!
さっきの体術も、怪力も、確かにサーヴァントならではのもの!
ならば一体誰が……いったい何者が……あなたを手にかけたというの!?

秋子の傷を目の当たりにした結弦はさほど驚いていない。いやむしろ――
「……知っていたの? 結弦?」

明らかに知っていた眼だ。
ハンターである彼のこと、協会から得られる情報は少なくあるまい。
彼は秋子が噛まれたことを知り、その上でリサイタルを決行したことになる。
如何なるつもりでこの自分を招いたのかは知るよしもないが、まずは秋子への対処が先ではなかったか?
過去秋子にどんな仕打ちをしたか、どんな責任があるか、考えもしなかったというのか?


絶望と怒り。
二つの感情が、この身体をヴァンパイアのそれに変えていく。
赤く染まる視界。
引き裂きたい。屠りたい。啜りたい。そんな衝動。自身の力では決して抑えられぬ吸血鬼の性。

――思い知らせてさしあげますわ! 人間の更なる進化体――我等ヴァンパイアの力を!


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