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【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】


1 :2017/02/24 〜 最終レス :2017/08/10
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし (1つの章は平均二か月程度)
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(ただしスレの形式上敵役で継続参加するには工夫が必要)
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
避難所の有無:なし(規制等の関係で必要な方は言ってもらえれば検討します)

新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
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能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

2 :
第一話『灼熱の廃都』(1スレ目〜89)

赤い風の吹き荒ぶ、灼熱の聖域――イグニス山脈。
ヴィルトリア帝国南部に連なるその魔境に、ただ一人で歩を進める男が居た。
彼の者の名は、アルバート・ローレンス。帝国が誇りし七人の黒騎士の一角であり、黒竜騎士の称号を持つ男だ。
そんなアルバートは、世界中を震撼させている古竜(エンシェントドラゴン)をも操ることが出来ると言われている竜の指輪の捜索を命じられ、遥々このイグニス山脈にやって来たのであった。

そして、アルバートが山道を歩いていると、彼を獲物と見なしたジオリザードマンたちが現れた。
それらを魔剣レーヴァテインで蹴散らしている最中、自らをハイランド連邦共和国の名門魔術学園であるユグドラシアの導師だと名乗ったエルフ、ティターニアと邂逅する。
ティターニアとの共闘でリザードマンを全滅させたアルバートが、彼女の話を聞いてみれば、どうやら自分と同じような目的でこの場所に来たのだと分かる。
このままティターニアと共に探索を続けるべきか考えていた時、二人の前に現れたのは伝説の古代都市の守護者――スチームゴーレムだった。
古代文明の叡智の結晶である強敵と対峙し、途中で合流したハーフオークのジャンや、アルバートを付け回すコインという犯罪奴隷の協力もあり、一行はゴーレムを撃破することに成功。

一体何故、とうの昔に滅びた古代都市の護り手が、まだ活動を続けているのか。
そんな疑問は、次に取ったアルバートの行動によって、すぐに払拭されることとなる。
周囲の風景に違和感を覚えたアルバートは、魔術効果さえも燃やし尽くすことができるレーヴァテインを振り、辺り一面を覆っていた幻術を見事に焼き払う。
すると、その中から現れたのは真紅に彩られた美しい街並み。かつて栄華を誇った四大都市の一つ、灼熱都市ヴォルカナの遺跡に他ならなかった。
考古学者でもあるティターニアが、浮かれた足取りで街の中を駆け回っていると、次いで現れたのは幻の蛮獣ベヒーモスと、その上に跨った赤い髪の少女だ。
赤髪の少女は、指輪の元までアルバートたちを案内すると言い、途中で強引に割り込んできた格闘士のナウシトエも加えつつ、一行はヴォルカナの神殿へと向かう。

そして、ようやく辿り着いた遺跡の最奥部で始まったのは、ベヒーモスと対峙するという試練だった。
アルバートはその突出した力を以てベヒーモスと拮抗し、ティターニアは空間の属性を塗り替える大魔術の詠唱を開始。
ジャン、コイン、ナウシトエらの時間稼ぎの甲斐もあり、発動したティターニアの魔術によって、灼熱のマグマは一変。
突如として極寒の風が吹き荒れ始めた洞窟内で、ベヒーモスの動きは明らかに精彩を欠き、その隙を狙ってアルバートの剣が敵の右腕を断つ。辛くもこれを討ち倒すことに成功した。

彼らを試練を越えた勇者と認め、赤髪の少女――いや、焔の竜イグニスは、ドラゴンズリングに関わる伝説を語り始める。
だが、遂に差し出された指輪を前にして、暴走とも呼べる行動を取ったのはナウシトエだった。
ナウシトエは素早く奪い去った指輪を飲み込むと、その肉体が竜の魔力によって、化け物じみた姿へと変貌する。
この騒動でアルバートは彼女を帝国の敵と見なし、今にも戦いの火蓋が切って落とされようとした時、またしても事態が急変する。

虚空を斬り裂く氷の槍に貫かれ、あっけなく絶命するイグニス。
そして、空中に開いた黒い穴から現れた、神話の登場人物のように美しい男。
それはかつてのアルバートの親友であり、現在はダーマ魔法王国の宮廷魔術師を務める天才。白魔卿の異名を持つ、ジュリアン・クロウリーだった。

憎むべきジュリアンを前に激昂したアルバートは、地を駆け抜けて斬り掛かるが、しかしその剣は悪魔の騎士(デーモンナイト)によって阻まれる。
ジュリアンの護衛であるその騎士と剣戟を交え、無残にも完敗したアルバートは、胴体に強烈なダメージを負って倒れ伏す。
そして、仲間たちもジュリアンの行使する魔術の前に手も足も出ず、為す術もないまま、ナウシトエが腹に抱えた指輪を奪われてしまった。

ティターニアは最後の精神力を振り絞って転移魔術を発動し、満身創痍のアルバートらを、麓のカバンコウまで送り届ける。
傷付いた一行は体を休めながら、それぞれに思いを馳せ、その上空には町並みを照らす黄金色の満月が浮かんでいた。

3 :
第二話『海精の歌姫』(1スレ目90〜262)

イグニスが遺した言葉を手掛かりに水の指環があると思われるアクア海溝を目指すことにした一行は
海溝に向かう船を手に入れるために自由都市カルディアを訪れた。
街の中を歩いていたところ、物乞いらしき少女が店主に痛めつけられている現場に遭遇。
なんだかんだで少女を助けた一行は、少女から遺跡や指環に関する情報収集を試みる。
情報提供として少女が歌った歌は素晴らしく美しく、歌詞には「ステラマリス」「人魚」という言葉がちりばめられているのであった。

そんな中、街の衛兵が少女を監視していることに気付き警戒していたところ、港で爆発火災が発生。
駆けつけてみると、反帝国レジスタンスの海賊「ハイドラ」による襲撃であった。
帝国騎士であるアルバートを中心とする一行は、必然的に消火・鎮圧に協力することとなる。
火災がほぼ鎮火しひと段落と思ったのも束の間、港に突如巨大な船が現れ、街に砲撃を開始した。
その船を指揮するのは、ハイドラの首領エドガー・オールストン。
エドガーの狙いは、帝国打倒のために、実は特殊なセイレーンである少女の「滅びの歌」を発動させることであった。
ジャン・ティターニア・ナウシトエは港にてエドガーと戦闘を開始。
一方、敵に路地裏に誘導されたアルバートとそれを追いかけていったコインは、路地裏にてハイドラ団員と戦闘を開始する。
エドガーは予想以上に強く、苦戦するジャン達。
追い詰められて絶体絶命のピンチに陥ったところ、津波のようなものが来て、ジャンとティターニアは暫し気を失うのであった。

気が付いてみると、ジャンとティターニアは美しい人魚の姿になった少女に手を引かれて海の中を進んでいた。
(尚、アルバート・コイン・ナウシトエの三人は戦闘の混乱で消息不明になってしまった)
少女の正体は、セイレーンの女王にして海底都市ステラマリスの守護聖獣クイーンネレイド(通称クイーン)であった。
実は津波のようなものは、クイーンによる戦意喪失効果をもつ歌の大魔術であった。
クイーンは、指環の勇者として認めたジャン達を海底都市ステラマリスの水竜アクアのもとへ連れていくという。
記憶を対価に人間に扮して指環の勇者を探しに地上に来ていた彼女は、指環の勇者と出会ったことで全てを思い出したとのことだ。

道中で流されていたドワーフのマジャーリンを仲間に加え、ステラマリスに到着した一行は
指環の祭壇へと導かれ、青髪の少年の姿をした水の竜アクアと相見える。
アクアは一行に水の指環を渡し、近頃何故か風の竜ウェントゥスが襲撃をしかけてくると告白。
噂をすれば早速、ウェントゥス配下と思われる翼竜の一団が攻め込んできた。
迎え撃つ一行だったが、襲撃に便乗して何故かジュリアンまで現れ、一行から指環を奪おうとする。
アクアがジュリアンの足止めをし、クイーンの転移の歌によって危うくカルディアに逃がされた一行。
別れ際にアクアは、次は大地の竜テッラの元へ向かえと言い残した。

カルディアに転送された一行のもとに、黒騎士の一人であり、指環を集める命を受けている黒鳥騎士アルダガが現れる。
アルダガと会話をしていたところ謎の襲撃者達が襲い掛かってきて戦闘となり、マジャーリンが死亡。
怒りのままに襲撃者達を蹴散らすジャンとティターニアだったが、襲撃者達の死体が巨大なアンデッドとなって襲い掛かってきた。
アルダガはそのアンデッドを一撃で倒した後、ジャンが持つ指環の存在に気づき、指環を渡すよう一行に迫る。
ジャン達は協力して指環を集めないかと交渉するも決裂、戦闘となった。
ジャンとティターニアは激しい戦闘の末に辛くもアルダガを撃破。
戦闘不能となったアルダガは、先々での再戦を予告しつつ強制帰還の転移術によって二人の前から消えて行ったのであった。

4 :
第三話『惨劇の楽園《アガルタ》』(1スレ目278〜2スレ目260)

テッラの元に急げとのアクアの言葉に従い、目的地をハイランド連邦共和国領のテッラ洞窟に定めたジャンとティターニアは
洞窟の近くにあり探索の拠点となる都市、魔術学園都市アスガルドにやってきた。
街中を歩いていると、突如として通常より強いオオネズミの一団が現れ、人々を襲い始めた。
近頃テッラ洞窟から魔力の影響を受けた強いモンスターが出てくるようになっていたのだった。
掃討に入ろうとする二人だったが、そうするまでもなく、オオネズミ達は二人の女性によって一掃される。
ハイランドの主府ソルタレクの冒険者ギルドのマネージャー、ミライユと
テッラ洞窟探索のためにアスガルドを訪れていたトレジャーハンターのラテだ。
ミライユは表向き友好的に二人に接近するが、本当の目的はティターニアの監視、ひいては指環の奪取であり
その場面に遭遇したラテはミライユの危険性を感知し、二人の身を案じて同行を申し出るのであった。
こうして行動を共にすることになった4人は、ミライユの払いで高級宿に泊まることとなり
互いに警戒しつつもそれなりに楽しい一晩を過ごすのであった。
次の日、洞窟に向かう一行だったが、この先に指環があると予感したミライユは増援を呼び、
ギルド員のタイザン・シュマリ・ホロカも合流する。
洞窟を進んでいった先には謎の魔法陣があり、どうしたものかと思案していたところ大きな揺れとともに魔法陣の力が発動。
一行は地底都市アガルタに招き入れられたのであった。
そこでは、ジャンとティターニアに指環を託そうとする大地の竜テッラと
それに反対するアガルタの守護聖獣フェンリルが激しい戦いを繰り広げていた。
フェンリルは突然ミライユに歩み寄ると、ミライユのような者が指環を託すにふさわしいとして力が欲しくないかと問う。
しかしミライユはシュマリにその役目を命じ、シュマリはフェンリルと同化してテッラと戦い始めた。
テッラがジャンとティターニアに指環を与えると言った後に指環の祭壇を出現させると、
ミライユがいちはやく指環を手にし持ち去ろうとする。
ラテがそれを阻止すると、ミライユは冷酷で残虐な本性を現し、自らの権力を振りかざして同士討ちをさせようとしたり
実際にティターニアの魔術を使ってジャンを拘束したりとあらゆる手段を使って応戦。
更に、自らに逆らったタイザンを殺害し、ホロカを蹂躙する。
また、戦いの中でミライユからユグドラシア襲撃の計画も語られるのであった。
そんな中、ラテはジャンとティターニアを鼓舞し、魔物の血により自らの強化をした上に
何重にもレンジャーとしての技を使い、ミライユに斬りかかる。
一方、怒りのあまり理性を失っていたジャンは、持っていた水の指環を嵌めるという行動に出たが
精神世界での水竜アクアとの対話の末に、理性を取り戻す。
そして水の指環を制御できる力を得て、その力で作り出した水の魔力の大剣を持って、ミライユに対峙するのであった。
そんな中、ティターニアは、ホロカからミライユを救ってほしいとの驚くべき要請を受ける。
精霊使いであり精霊と対話できるホロカは、ミライユが今のようになった理由が彼女の過去にあると見抜いたのだ。
ティターニアはそれに応える形で、ホロカの助力を受けて、
過去と現在が入り混じり死者と対話できる、精神世界のような領域を顕現する大魔術を発動。
その中で、幼いころに“指環の魔女”に殺された姉のメルセデスと邂逅し、自らの罪を自覚したミライユは泣き崩れるのであった。
そんな彼女に先程までの鬼気迫る気迫は見る影もなく、精神的には生きる気力を失い肉体的にもすでに重傷で助からないと見立てたラテは
せめてこれ以上苦しませまいと、メルセデスの幻を纏ってミライユに安楽死の薬を飲ませたのであった。
タイザンとミライユを埋葬し、一通り遺跡からめぼしい物を採取し終えた一行に、
テッラは”指環の魔女”が真の敵であるという意味合いの事を語り始めるが
詳細を語る間も無く、ウェントゥスの元へ行けとだけ言って、一行を送り出すべく転移魔術を発動する。
ジュリアンが近くまで来ているというのだ――おそらくはテッラにとどめを刺すために。
テッラに死んで欲しくは無いフェンリルは最後まで一行を行かせまいとするものの、
テッラに諭され最終的には一行に指環を託し送り出すのであった。

5 :
脚、腰、上体の全てが連動した完璧な後ろ回し蹴り。
胴にモロ受けした戦士風が吹っ飛び、青果店の軒先へと背中から突っ込んだ。
オーニングが裂け、木樽が割れて発酵前の葡萄汁が溢れ、艶のある果物達が割れた石畳を転がっていく。
ノーキンはその中のリンゴを拾い上げて片手で握り潰し果汁を啜った。

>「……痛ぇなオイ、この胸当て結構高かったんだぜ」

戦士風は潰れた果実の中からムクリと起き上がる。
ノーキンの蹴りを受けてなお身体のどこにも負傷は見受けられず、代わりに鉄鎧が跡形もなくひしゃげて彼の胸から落ちた。

「うむむ。竜種の心の臓を消し飛ばす我が蹴りであったのだが。頑丈なのは良いことだな若輩!冒険者は身体が資本だ!」

エルフの魔術的知覚が戦士風の周囲に漂う魔力の波を捉えた。
あの指環だ。打撃の瞬間に指環の魔力で水を纏い、蹴りの衝撃を抑え込んだのだ。
おそるべきはこの瞬間的な攻防で指環の力の切り替えを間に合わせた判断力、戦闘の才覚。

(指環に選ばれた者か――)

一度弾けた水達は再度戦士風の元へと集い、その五体に具足となって定着する。
肉弾戦へと特化した形態だ。

>「こっちも名乗らせてもらう。冒険者のジャン・ジャック・ジャンソンだ。
  指環は渡せねえ。あの世か牢屋、どっちかに行ってくれや」

「うむ!貴様の名を覚えようジャン・ジャック・ジャクソン!
 要望通りあの世に行こうではないか。ただしそれがいつになるかは吾輩が決めるがな!」

戦士風改めジャンが重さを感じさせない足運びで肉迫する。
そこへ背後から呪文が飛んできた。

>「――エーテリアル・ウェポン」

「やはり息災であったかドリームフォレスト!」

呪文は直接ジャンへと付与されず、戦域に展開されていた6つの魔法陣を反射するように経由する。
ノーキンにも見える魔力の波長は魔法陣を経るごとに力強く確かなものとなり、都合6回の反射の末ジャンに届く。
眩い白光――内部にいくつもの色を内包した光がジャンの具足へと付与された。

「さぁ組み合おう!愉しくなってきたではないか!!」

ジャンの蹴り足が滑り込むようにノーキンの足元を打つ。
この体格差で足払いなど掛けられても動じるはずがない――そう認識していたノーキンはあっけないほどにバランスを崩した。

「ぬ……?」

想像を凌駕する蹴りの重さ、おそらくはティターニアのエンチャントによる強化だ。
見事に脚を払われたノーキンは次いで迫るジャンの膝蹴りを何も出来ずに直撃した。
火炎と稲妻と凍気が一度に押し寄せ、巨大なハンマーで打ち付けられたと錯覚するほどの衝撃が彼を襲う!
連撃はそれで終わりではなかった。身体をくの字に折ったノーキンの顔面へ、渾身の右フック!

「ぶっ」

態勢を整え切れてないノーキンはやはりそれもモロに受け、大男が仰け反った。
指環の力か、打撃に付随する水流が打たれた各所に残留し、重石のように負荷を掛けていた。

「ヌルい!ヌルい!ヌルいわァッ!!ケイジィの肩叩き(券使用)の方がまだ痛恨であったぞ!」

仰け反りふっ飛ばされた衝撃を石畳が焦げるほどの摩擦でこらえ切る。
半端な鎧であれば粉々に砕け散っていただろう重打の連撃を受けてなお、ノーキンの肉体は無傷であった。
否、その胸板に多少の凹みが散見される――それは彼の力みによってポコンと元に戻ってしまった。

6 :
「粗塩を擦り込み研磨した我が素肌!打撃で傷をつけるなど笑止の試みよ!
 吾輩が鎧を纏わぬ理由を考えるが良い!鎧よりも硬き肉に覆われているからであろうが!」

ノーキンのこの異常な防御力には理由がある。
武闘家のスキルが一つ『硬気功』。氣(≒魔力)を体内で練り上げその内圧で外部からの圧力と拮抗させ打撃を受け止める技術。
規格外の肉体を持つノーキンの規模でそれを行えば、打撃・斬撃・魔法とあらゆる攻撃を皮膚で留め切ることが可能だ。
ミスリルを断つ大剣の刃ですら、氣の体内爆発に押し出され薄皮一枚食い込まない。

「――名付けて爆発反応筋肉(リアクティブマッスル)!!
 本気で固めた我が筋肉は、オリハルコンをも凌駕する!オリハルコンを殴って砕いたことが貴様にあるか!?
 そしてなんだこの小細工は!吾輩は普段これより強い負荷をかけて筋トレしているぞ!」

ノーキンは水流の枷がまるで効いていないとアピールするように腕を回す。
事実、楔の如く手足を戒めてられているにも関わらず、その動きは先刻と遜色がない。
こっちは特に何のスキルも使ってなどおらず、純粋に凄まじい膂力によるゴリ押しだ。

「力量差は理解できたかね若輩・ジャック・ジャクソンよ!貴様が指環に選ばれていようが吾輩の知るところではない。
 いつの時代も!冒険者はあらゆる過酷な環境から力づくで宝を盗み、奪い、騙し取ってきた!
 貴様よりも吾輩のほうが力が強いのだから、奪ったものを更に奪われるのは実に当然の摂理であろうよ!」

ノーキンはジャンの戦闘力を完全に軽視していた。
指環の力を使いこなし、さらにエルフ屈指の術士の援護を受けてなお、己の肉体には傷一つ付けられない。
油断や慢心ではなく、厳然たる事実がそこには横たわっている。

「貴様は指環の力で何を得るつもりだ?冒険者風情が求めるものなどせいぜいが大金と、指環を持つ者としての名誉であろう。
 いつか貴様が死んだ時、それらは全て無意味となる。あの世には金も地位も持ち込むことは出来ぬのだからな。
 いずれ無価値と化すものを命懸けで追い求める、冒険者という生き方の、それが限界だ」

ノーキンは両手の指をそれぞれ順番に鳴らし、二つの拳をつくる。
オリハルコンをぶち抜き飛翔する砲弾すらも真っ向から粉砕した超硬の破城槌。
矛先は、真っ直ぐジャンを捉えている。

「大いなる力にはそれを振るうに足る理念こそが不可欠である!健全な肉体に宿りし健全なる精神!
 貴様がそれを持ち得るか、今一度問おうではないか――貴様の筋肉にな!」

>「いきます。――“黄昏の大旋風”≪セフィア・トルネード≫…!!」

ノーキンが拳を打ち放たんと踏み込んだ瞬間、展開していた魔法陣から解き放たれた。
無色透明な力の渦がノーキンを包むように巻き、上位攻撃魔法の炎熱にすら耐えうる世界樹のマントが刻まれていく!

「――邪魔だ!!」

ノーキンは咆哮、体内に練り上げた魔力を体外へと放出した。
『硬気功』の上位スキル、『波紋功』。肉体を中心に強烈な魔力の波濤を打ち出し、至近距離の物体や魔法を吹き飛ばす。
魔法を使えないノーキンの魔力は術式によって方向性を定められる前の純粋な無属性。
無属性同士の激突は単純な物量差によってノーキン側に軍配が上がり、黄昏の大旋風は掻き消された。

「無粋な魔法はこれで消えた。貴様が人の形状を保っていることを期待するぞ。指環が探しやすいようにな!」

瞬間、ノーキンの両腕が羽撃きの如く蠢き、超高速のラッシュと共に無数の魔力塊が撃ち放たれた。
アスガルド外壁を破壊したのと同じ、砲撃の嵐である。

「ノーキン・ラングリッジ☆キャニスタァァァァァ!!!」

もはや超高速で迫り来る壁にも等しい破壊の風が、ジャンを粉砕すべく殺到した。

 ● ● ●

7 :
>「……なかった」

不可視のまま地を這うように疾走するケイジィを、しかしラテの双眸は紛れなく捉えていた。
毒を撒き、姿を消し、声を反響させ……考えうる知覚の全てを欺いたにも関わらず。
ふわりと目の前を舞う不可視の何かがケイジィに纏わりつき、薄ぼんやりとだが彼女の輪郭を大気に象った。
突き出した毒ナイフが足捌きによって躱され空を切る。

「あ、あれ〜?見えてるっぽくない……?」

だが一度走り出した速度はケイジィの軽い身体では止め切れない。
下手に減速して無防備な態勢を狙われればそれこそ相手の思う壺だ。

(だから連続攻撃!)

対するラテもただ回避しただけに留まらない。
返す刀の右腕が、ケイジィ目掛けて降ってくる。見えないが、何かを握っている。
おそらくレンジャーのスキルで不可視化した武器だ。間合いが読めず、どちらに避ければ良いかわからない。

この戦闘速度の中で恐ろしく機転の効く女だ。対応としては非の打ち所が無いと言って良い。
だが――関係ない。例えその一撃がケイジィの頭蓋を砕こうとも、同時にこちらのナイフも当たる。

(しょせんは人間相手のカウンターだよぅ!)

魂なき魔導人形に過ぎないケイジィにとって『相打ち』という概念はない。
頭部パーツは相応に頑丈に造られているし……仮に首を切り飛ばされても動作に支障が生まれない。
彼女の運動能力を制御している場所はそこではないからだ。
この態勢からなら毒ナイフで胴体を深く狙える。それでこの戦闘は終わりだ――

>「ラテさんっ…させない!」

横合いから突如現れた女がケイジィとラテとに割って入り、ナイフを錫杖で受けた。
激しい火花と毒の飛沫が散り、態勢を崩したケイジィの鳩尾に蹴りが飛んでくる。

「ふぎゃん!」

ケイジィは微妙な悲鳴を上げながらふっ飛ばされた。
空中で回転、猫のように器用に着地する。
どうやら女の乱入はラテにとっても予想外だったらしく、握ってた武器が手放されて壁に突き立つ音が聞こえた。

「あぅー……すっごい邪魔!」

闖入者の素性は記憶を辿るにティターニアに引っ付いて飛んできたユグドラシア一味の一人だ。
確かパトリエーゼとか名乗っていた、体格の良い長身の女だ。

>「ふんっ…あ!」

蹴り足を引いたパトリエーゼはその太腿に一筋の血傷を発見する。
ケイジィは蹴りを入れられふっ飛ばされるその刹那、一撃入れることに成功していた。
神経毒は健在だ。これであの女は捨て置いてもじきに動けなくなる。

>「……無茶な事しちゃ、駄目ですよ。あなたが欲しがった平和な居場所は、この戦いの先にあるんだ」

「そうだよ!ソルタレクの支配に置かれても皆殺しってわけじゃないんだしさ!
 まぁでっかいお姉さんにもちっこいお姉さんにもここで死んでもらうんだけどね!」

8 :
ケイジィの挑発にもはやラテは応えず、その両眼に冷酷な色を浮かべて言った。

>「そういうのは私がやりますから」

>「げぼっ……がぁぁっ……!」

ラテの呟きを具象化したような悲鳴が路地から聞こえてきた。
ユグドラシア制圧部隊が逃げ込んだ路地だ。何人かが物陰からまろび出て、盛大に吐血し倒れる。

「うええ!?ちょっ、どしたのみんな!?」

彼らだけではない。四方八方の路地から冒険者たちの苦悶の声が響く。
何をされたのかは分からないが、誰がやったのかは明白だった。

「市街地に毒撒いたの!?ひどい!良心ってものがないのお姉さん!」

ケイジィの自分を棚に上げた糾弾はともかく、ラテの講じた戦術は冒険者達に対して覿面な効果をもたらした。
一人また一人と毒に倒れる仲間達、どこに撒かれたかもわからず迂闊に呼吸も出来ない八方塞がりの状況。
彼らは一般的な冒険者が教会で施すような防毒の加護を受けていない。寄せ集めの彼らにそんな金はなかった。
プリースト達が現場で処置に当たっているが、治すそばから新たに感染者が出るいたちごっこの様相を呈していた。

>「目的ならもう、聞きました。あなた達は……あくまで奪い、殺したいんだな。この街から、私達から」

「そだね。だったらどうだって言うのおねーさん」

>「だったら、もういい。その代わり、私にも良心を期待するな」

ラテは吠える。オオネズミの咆哮に声を乗せ、冒険者達に言葉を告げる。

>「ソルタレクの冒険者ども!聞こえるか!私は警告したぞ!ここは怪物の口の中だと!
 それでも踏み込んだのはお前達だ!だったら……報いを受けさせてやる!
 苦しめて、誤った選択を後悔させて、もう取り返しが付かない事を絶望させて!」
>「……殺してやる」

「ひゅう。……良い殺意」

おそらく。刃を交え、人的被害が出始めたこの段階にあって初めて。
お互いの間に深く刻まれた隔絶を、ようやく彼女は認めたのだ。
もう殺し合うしかないと……覚悟を決めた。
圧力を錯覚するような濃密な殺意が迸り、ケイジィの硬質な頬を叩く。

ラテはこちらから目を離さずに数歩のバックステップ。
そこには彼女が撃ち落としたアルゲノドンのまだ暖かい死骸が血を流し続けていた。
羽毛を湿らす鮮血を片手で掬い、唇をつけた。

>「ラテ殿、やめ……」

遠くで冒険者達に阻まれたティターニアが警告の声を上げる。
果たして声は届かず――ラテは血を飲み干す。喉を鳴らして嚥下する。
変化はすぐに訪れた。

ラテの肉体が骨格レベルで造り変わっていく。
オオネズミの脂に濡れた毛皮が柔らかな羽毛に変わり、両腕は幅広の翼へ。
獣の双眸は鋭く透き通った猛禽類の両眼に、脚は硬質な鱗殻に覆われた鉤爪に。
ネズミと鷹を無理矢理混ぜ合わせたような化物がそこにいた。

「……ネズミの獣人じゃなかったんだねおねえさん。こういうのなんて言ったかな」

9 :
ケイジィの記憶回路が閃き、ダーマ魔法王国で暗殺者をやっていた頃の記憶を引っ張り出す。
かの国の暗黒魔法技術の一つに似たような姿があった。
複数の生物を魔術で融合させた生物兵器の、名前は確か――

「――キメラ。暗黒大陸の外で見たのは初めてだよ」

ラテは獰猛な、それでいて冷酷な理性を感じさせる薄ら笑いを浮かべる。

>「……人形のあなたには、奪う命がない。その人格すらも、どうせ作り物なんでしょう」
>「だから、せめてあなた自身を奪います。奪われる苦しみを、学んでこの世から消えていくといい。あなたも、あの男も」

「愉しそうだねおねえさん。そっちの方がさっきまでのしかめっ面よりずっと良いよ」

対するケイジィもナイフに新たな毒を充填し、機動用の魔力を練り上げる。
レンジャーらしく毒の対策を施しているようだが、ならば主要な血管に直接撃ち込めば良い。
血を体内に取り込んで変身する仕様上、同様に体内に入れられた毒だけを選別して打ち消すには時間がかかるはずだ。
解毒が間に合わない量の毒を注いで終わらせる。

「存在の奪い合い、いってみよう!」

先手をとったのはラテだった。
形状のよくわからない武器――矢を番えたところを見るに弓の一種か――から三本の矢が放たれる。
同時に手から投じられるのは投げナイフ。その全てが、空中で放物線を描きながら形を歪ませていく。
生まれたのは高速で接近する無数のラテの姿だった。
姿かたちを偽装する幻影、『ファントム』だ。

「うわぁ、気持ち悪い!」

大量のラテが迫り来る。ケイジィは重心を低く下げながらまず右手へ身体を飛ばした。
ラテの形をしてはいるがあれらは全て幻、その動きも矢そのままの直線軌道。
実に安直な幻影術だ。

「こういうとき大抵本体は……後ろっ!」

振り返りざまにナイフを振るう。果たしてラテの姿がそこにあった。
しかしそれもまた幻影、刃が空を切り、幻が解け――軽銀爆弾が出現した。

「うそっ」

炸裂。軽銀の炎が風を呑んで膨れ上がり、ケイジィを包み込む。
衣服に施された防御魔術が発動し、彼女に燃え移ることさえなかったが、火に追われてケイジィはまろぶ。
そこへ頭上からショートスピアが降ってきた。

「わああああ!」

咄嗟に両手を翳し、飛来するショートスピアを挟み取った。
同時に違和感がふつりと浮かぶ。
不意を打たれた致命的な一撃だったはずだ。しかしトドメの一閃にしてはあまりに弱い。
またぞろ何らかの追撃の布石かと警戒するが次撃の飛んでくる様子もない。

(手加減……とかじゃないよね)

あの殺意は本物だった。手心を加えられる理由もない。
疑念が心を支配する刹那、解毒の為に下がっていたパトリエーゼが不可視のラテに飛びついた。

>「…“無色の抱擁”≪エーテルクルセイド≫…!!」

「なんで!?」

10 :
どうやらラテから異形の力を吸い取っているらしく、ラテは鳥はおろかネズミの特徴さえ失い、
接敵当初の人間の姿で再び姿を現した。
意味が分からない。わざわざリスクを侵して手に入れた戦闘能力を、まさに戦いの最中に解呪した?
疑問が思考回路を埋め尽くす。あのときティターニアはラテの行動に警告を叫んでいた。
やはりラテのあの姿は、不可逆的な危険を伴うものなのか。

>「いきます。――“黄昏の大旋風”≪セフィア・トルネード≫…!!」

パトリエーゼが呪文を唱える。
6つの魔法陣が煌めき、魔力のうねりが巨大な竜巻となってケイジィを襲った。

「仲間うちで奪い合ってどうすんのさぁーーー!」

竜巻から逃げ惑うケイジィ。
余波を受けた冒険者達が数人、外傷もないのにその場にへたり込んで立ち上がれない。
おそらくは精神を虚脱に追い込む術式だ。ケイジィには人の心がないので影響は受けなかった。
路地を乗り越え、家屋の窓を蹴破り、ラテ達の背後へ回り込むように家の中を潜行する。

今の小競り合いでケイジィは理解を始めていた。
ラテはあの変化の魔法に振り回されている――おそらくは、意図的に。
血を飲んだ途端に変わった雰囲気は、彼女にとっての精神的な切り替えを意味している。
自身の甘さを押さえ込み、仮借敵を痛めつける為の、『理由付け』。
ティターニアやパトリエーゼが身を挺してラテを止めたのも、血が彼女に力を与えると同時に彼女を苛んでいるからだ。
付け入るスキがあるとすればそこ。

「……奪うとかRとか、威勢の良いこと言うけどさ、おねえさん」

屋根の下からラテに対して呼びかける。
彼女は無視するだろうか。人間の聴覚は意味のある音――言葉に対して高性能だ。
それこそ耳でも塞がない限りは、必ず言葉は頭に届く。そういう機能を持っている。
安易に耳を塞いでくれるならばこれもまた幸いだ。

「Rのにどうしてそんなに理由が必要なの?
 警告を無視したから。取り合わず退かなかったから。アスガルドの罪なき人たちを脅かしたから。
 ――言い訳探してばっかりじゃん。全部受け身なんだよね、おねえさんの殺意って」

ラテはきっと、人をR自分を嫌悪している。
だから殺さなければならなかった、殺されても仕方ないような連中だったとR理由を探す。
殺される側にとってはそんなもの無意味なのにも関わらず。

「おねえさんはどうして冒険者なんかやってるのさ。
 冒険者なんて遺跡からモノは盗むし魔物を殺して死体は売るし、お金を積まれれば人だってRよ?
 ギルドの後ろ盾がなかったら犯罪者と殆どなにも変わらない、薄汚い商売だよね」

今アスガルドを守る為に動いているギルドの冒険者たちだって、命を賭けるのは報酬があるからだ。
もしも彼らがアスガルドよりも先にソルタレクに雇われていたならば、立場は簡単に逆転したことだろう。
そこに理想など存在しない。あるのは金と名誉という実利を得る為の経済活動だ。

「冒険者が人をR理由はお金と名誉、この二つだけでじゅーぶんなんだよ。
 それ以上の理想があるならわざわざ冒険者じゃなくたっていくらでも高尚なお仕事はあるもん。
 ……薄汚い人殺しのケイジィの、これは持論だけどね。だから――」

ラテの立つ屋根が突如として砕かれ、ケイジィの毒ナイフが下から飛んでくる。
更に足場となっている家屋には既に無色透明無臭の毒ガスが充満させてある。
うかつに近場に着地すればガスを吸引し、サカゴマイマイの神経毒が上下左右を狂わせる。

「――おねーさん向いてないよ。冒険者辞めたら?」

【ノーキン:ジャンの連撃を硬気功で凌ぎ、水の枷を無視。問いかけながらアスガルド外壁を粉砕した連打を放つ】
【ケイジィ:ラテとティターニアのやり取りからラテの不安定さを推測し、煽りながら足場の家にに毒ガスを充満させ下から攻撃】

11 :
指環の力、鍛えられた肉体、そしてティターニアからの支援。
全てが揃い放たれた連撃は一つ一つが必殺というべき威力だった。

だが、それでも百数十年に渡って鍛えられた肉体には届かない。

>「ヌルい!ヌルい!ヌルいわァッ!!ケイジィの肩叩き(券使用)の方がまだ痛恨であったぞ!」

胸板にできた多少の凹みですら、ノーキンが力を込めるだけであっという間に戻る。
冒険者という職に身を置いてわずか十年ほどのジャンにとって、これは越えがたい経験の壁を感じさせるものだった。

>「――名付けて爆発反応筋肉(リアクティブマッスル)!!
 本気で固めた我が筋肉は、オリハルコンをも凌駕する!オリハルコンを殴って砕いたことが貴様にあるか!?
 そしてなんだこの小細工は!吾輩は普段これより強い負荷をかけて筋トレしているぞ!」

そして魔力の水流ですら小細工扱い。先ほどと変わらない関節の動きはジャンの策を全て無駄と断じている。
震える手足に強引に力を込めて石畳を踏み荒らし、ジャンは思考を必死に巡らせる。

(斬るのもダメ殴るのもダメ、魔術もダメなんて達人ってのは無茶苦茶だな!
さてどうする?このままいけばたぶん俺は指環にこびりつく肉片になるかもしれねえが、
全部あっちの方が上だ。いや待て、あいつが異常に丈夫なのは見覚えがあるぞ!)

>「力量差は理解できたかね若輩・ジャック・ジャクソンよ!貴様が指環に選ばれていようが吾輩の知るところではない。
 いつの時代も!冒険者はあらゆる過酷な環境から力づくで宝を盗み、奪い、騙し取ってきた!
 貴様よりも吾輩のほうが力が強いのだから、奪ったものを更に奪われるのは実に当然の摂理であろうよ!」

「うるせえぞ筋肉野郎!冒険者は力と知恵と勇気の塊だって知らねえか!
 お前には知恵がねえんだよ知恵が!」

悪態をつきつつ、この十年の間に一緒に戦ってきた冒険者たちのことを思い出す。
騎士、戦士、魔術師、神官、レンジャー。そして……武闘家だ。
彼らが素手と軽装で前線を張ることができる理由、それは硬気功と呼ばれる技が大きく支えている。
体内で練り上げられた氣と呼ばれるものが肉体を強化し、あらゆる攻撃を防ぐ壁となる。
だが、その無敵とも言える技にも欠点があった。

(打撃やら斬撃には強いが……あれは突き、つまり刺突に弱い!)

硬気功が刺突に弱い理由としては、防具と同じように氣の隙間ができるからとか
ヒトの肉体がそもそも硬気功の流れに偏りを生むから、などが識者によって挙げられているが、
ジャンにとっては理由なんてどうでもよく、自分の手持ちの中にまだチャンスがあるというだけで十分だった。

(聖短剣サクラメント……こいつで首を取る!)

腰に下がった地味な鉄製の鞘に触れ、あらゆる守りを貫き通す短剣が手元にあるということを自覚することで
少しだけ手足の震えが収まった。もはや目に見えるほどの怯えはジャンになく、ただその場に佇むように立っていた。

>「貴様は指環の力で何を得るつもりだ?冒険者風情が求めるものなどせいぜいが大金と、指環を持つ者としての名誉であろう。
 いつか貴様が死んだ時、それらは全て無意味となる。あの世には金も地位も持ち込むことは出来ぬのだからな。
 いずれ無価値と化すものを命懸けで追い求める、冒険者という生き方の、それが限界だ」

「あんたエルフだろ?長く生きてんなら分かってるかと思ったが……分からないみたいだな。
 名誉ってのは歴史に名を残すんだぜ。そしてそれは人が勇気を持つ理由になるんだ、忘れられるまでずっとな!」

ノーキンが形作る二つの破城槌に合わせるように、ジャンもまた応えるように拳を作る。
一騎打ちの構図に見えたが、生憎ジャンはそのつもりではなかった。

12 :
>「大いなる力にはそれを振るうに足る理念こそが不可欠である!健全な肉体に宿りし健全なる精神!
 貴様がそれを持ち得るか、今一度問おうではないか――貴様の筋肉にな!」

問いかけと共にノーキンが力強く踏み込んだ瞬間、パトリエーゼの無属性魔術が放たれる。

>「いきます。――“黄昏の大旋風”≪セフィア・トルネード≫…!!」

生物であれば精神を吹き飛ばし、そうでなければ物理的に削り取る。
既存のあらゆる属性に当てはまらない極めて強力な魔術だ。
ノーキンと言葉の応酬を繰り返す間、遠くに見えていたパトリエーゼたちが
杖を構えるのを確認していたため、わざとノーキンに合わせるようにして時間を稼いだ。

>「――邪魔だ!!」

体内にある氣や魔力を放出し、近くのあらゆる物を吹き飛ばす咆哮。
これは硬気功の応用の一つ、波紋功だ。と言ってもノーキンのそれは属性を持たず、
純粋な魔力量をただ放出してぶつけている。

>「無粋な魔法はこれで消えた。貴様が人の形状を保っていることを期待するぞ。指環が探しやすいようにな!」

だからこそ、勝機がそこにあった。
一時的にできた氣の空白、絶対的な隙間。パトリエーゼが見せてくれたチャンスだ。

>「ノーキン・ラングリッジ☆キャニスタァァァァァ!!!」

放たれるであろう無数の魔力塊は骨が砕けそうな凄まじい密度と思われるが、
今のジャンはただ鞘から聖短剣サクラメントを引き抜き、一点に集中させた指環の魔力にそれを乗せるだけだった。
束ねられた水流は世界を形作る力の一つを束ねたもの。それは魔力の嵐を貫き、ノーキンの心臓ただ一点をめがけ直進する。
その流れに乗ったサクラメントは間違いなく氣の空白点を突き、あらゆる守りを貫いて致命的な一撃となるだろう。

直後に襲い来る魔力の奔流に対し、ジャンは踏みとどまることなく再び吹き飛ばされることを選んだ。
おそらく今度はどこかの骨が砕けるだろうが、守る術はどこにもない。ならばわざと吹き飛ばされ、負傷を最小限に抑えることにしたのだ。
再び青果店の軒先に背中から突っ込み、ジャンは身体のどこかで骨の砕ける音を聞く。

だが、骨折の痛みによって歪んで見える視界の中でジャンは見てしまった。
横から吹き飛んできたあの着飾った人形が、ノーキンをかばうようにサクラメントの一撃を受け止めたのを。


【パトリエーゼさん短い間でしたがありがとうございました!
 
 ジャンはちょっとだけ戦線離脱ですので、ケイジィが耐えればこれで数的に互角かもしれませんね】

13 :
>「わかりました。きっとこれも運命なのでしょう。
エーテリアル世界が分裂したのも、ここであたしがラテさんのために身を張るのも」
>「…“無色の抱擁”≪エーテルクルセイド≫…!!」

「やった……!」

パトリエーゼがラテの魔物の血の侵食を食い止めることに成功する。
しかし激昂したラテはパトリエーゼを責めたてる。

>「……誰がこんな事を頼んだ!私が、あなたにこんな事をしろといつ頼んだ!こんなの、ただ……惨めなだけだ!」

「我が頼んだのだ! 自分では気付いておらぬかもしれぬが副作用が出ておる。
大概にせねば元に戻れなくなるぞ……!」

ティターニアが自分が依頼したこととその理由を言い聞かせるも
もはやその言葉は届かず、尚も怒りは実際に解呪を行ったパトリエーゼに向く。

>「私に、あなたに助けてもらう義理なんてない!
 あなたがあなたじゃなくたって、私は誰にだって、親切にしてた!」
>「その程度だったんだ!これ以上、余計な事をしてくれるな!」
>「……もう、私を助けないで下さい。弱い私を、これ以上惨めにさせないで」

ラテの言葉から、自分が弱い事への底知れぬコンプレックスが垣間見える。
ラテがミライユを結果的に手にかけてしまったことをずっと気に病んでいるのは
単純な人殺しの衝撃以上に、その本質は救えなかったことへの自責の念、なのかもしれない。
実は以前にも自分の弱さゆえに誰かを救えなかったことがあるとしたら。
ずっと封印されていたそれが、今回の件で呼びさまされてしまったのだとしたら……。
彼女は本当は分かっているのかもしれない。魔物の血の影響が精神まで及んでいることを。
分かった上で敢えてやっているのかもしれない――”弱い”人間の心の迷いを捨て”強い”獣と化すために。
ラテは何を思ったか、自らの周囲に爆弾をばら撒き自ら火の檻に捕らわれる。
その中から感じる凄まじい魔力の波動。
炎の隙間から垣間見えるラテの影は、何かの瓶を呷ろうとしているように見える。

>「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

「フェンリルの血――!? やめるのだ……!!」

今のラテはもはや誰にも止められない――
一方のノーキンVSジャンのパワー系戦士対決の方であるが
ジャンが指環の力を解放しティターニアが究極の付与魔術を成功させて尚、劣勢であった。
それ自体凄まじい威力であるはずの上に強力な魔力付与までされた打撃や斬撃がことごとく通らないのだ。
ティターニアはラテを助けられないことと、ジャンへの支援が功を奏さないことの両方の意味で途方に暮れていた。

14 :
>「いきます。――“黄昏の大旋風”≪セフィア・トルネード≫…!!」

>『――ムーアテーメンより。敵襲じゃ!こやつらは今街を襲っている連中とは訳が違う。わしらで対抗してみるが、
余裕があったら援護頼む』
>「今、助けにいきます…!」

パトリエーゼは置き土産にエーテル属性の大魔術を発動させると、学長陣営の支援に向かうと告げて走り去っていったのであった。
それは純粋に学長の防衛に行かねばという使命感もあるだろうし
ここに居づらくなったからという理由も少しは混ざっているのかもしれなかった。

「済まぬ、辛い役目をさせてしまったな……。学長の方は頼むぞ!」

そう言ってパトリエーゼを送り出す。

>「――邪魔だ!!」
>「無粋な魔法はこれで消えた。貴様が人の形状を保っていることを期待するぞ。指環が探しやすいようにな!」

ノーキンは魔力の大旋風すら筋力で弾き返してしまった。否――筋力と見せかけて実際には魔力である。
魔法が使えないからといって、魔力が弱いわけでは決してないのだ。

>「ノーキン・ラングリッジ☆キャニスタァァァァァ!!!」

凄まじい魔力の嵐に、なんとジャンはひるむことなく突撃した。
唯一のノーキンへ攻撃を通せる可能性のある手段は刺突だと見抜いたジャンは
相手の魔力の間隙を突いて聖短剣サクラメントでの捨て身の一撃を放ったのだ。
しかしその軌道上に、ラテに弾き飛ばされて飛んできたケイジィが割り込んできた。
偶然その場所に飛ばされてきただけなのかもしれないが、自らノーキンを庇ったようにも見えた。
サクラメントはあらゆる物体を貫通し生体だけに突き刺さるようになっている特殊な短剣――
突き詰めれば生物というよりは物体であるはずの魔導人形への効果はいかほどの物だろうか。
捨て身の攻撃を放ったジャンは派手に吹き飛ばされて、青果店の軒先に突っ込んだ。
しかも、少なくともすぐには起き上がってくる様子はない。
それもそのはず、あの魔力の奔流の中に突っ込んだのだ、無事であるはずはない。

>「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」
>「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」

異形の獣と化したラテの姿を、その身から溢れ出す魔力の形質を見たティターニアは戦慄した――
そこにいたのはラテでもフェンリルでもなく、同時にそのどちらでもある何者かであった。
絶望的な筋肉を前にして、鉄壁だったはずのジャンは一時戦線離脱
ラテは心が無いはずの人形に心を抉られた末にラテではない何者かになってしまった。
困ったときの神頼み――自分の力ではどうしようもなくなった人間やエルフは、往往にして人知を超えた大きな力に縋ろうとする。
それは殆どの場合功を奏さず結果的に溺れる物は藁にも縋ると同義になってしまうのだが、
ティターニアの場合、文字通りの人知を超えた力が実際に手の中にあった。

「頼む、テッラ殿、力を貸してくれ……!」

15 :
ティターニアは祈るような気持ちで、大地の指環を嵌めたのであった。
次の瞬間、古代都市アガルタのような場所で、テッラが穏やかに微笑んでいた。

「やっと呼んでくれましたね……幸い私は、護りにおいては最強の力を誇ります。
少なくとも四大属性の竜の中では。これより第一段階――”護りの加護”を解放します。さあ、共に行きましょう!」

「良いのか!?」

テッラのあまりの物わかりの良さに拍子抜けし、思わず聞き返す。
ジャンの時は、指環の持ち主としてふさわしいか試されていた様子もあったが――

「私って地属性じゃないですか……。
先代の勇者の時はどうにも地味なイメージが付き纏いましたからねえ、今代で活躍するのを密かに楽しみにしていたのです。
――というのは冗談として」

冗談にしては妙に感情がこもっていたのは気のせいだろうか。
アガルタで話している時は表には出さなかったようだが、テッラは意外とお茶目な性格のようだ。

「自分の力ではどうにもならないときに適切な者へ助けを求める事が出来るのも紛れもない強さの一つだと、私は思いますよ。
尤も……フェンリルとは真っ向から意見が対立してましたけどね」

「ああ、分かる分かる! あやつは絶対認めそうにないな」

「ええ。でもそんなフェンリルにも、自分の力ではどうにもならない事がありました。
勇者に指環を託せば守護聖獣の役目は終わり――それが古より定められた抗えぬ宿命。
だけどフェンリルはその運命にすら抗おうとして、あの少女に助けを求めた……のかもしれません。
きっと……どうしても指環に宿った私と一緒に来たくて、勇者の行く末を見届けたくて、あの少女を選んだんだと思います。
もちろんあの意地っ張りが連れて行ってくれなんて素直に頼めるわけがないから
“指環を巡る舞台に迷い込んだ小鼠”……なんて不器用に煽って……」

テッラの推測が当たっているかは分からないが、可能性としては有り得るかもしれない。
フェンリルはラテの中に眠る自分と似た獣の側面を感じ取って、彼女が魔物の血を飲む戦術を使うのを見て、万に一つの可能性に賭けたのかもしれない。
ラテが自分の力を宿して旅の行く末を見届けさせてくれる可能性に――

16 :
束の間の白昼夢が終わり、ティターニアの意識は戦場へ戻ってきた。
背に黄金色の魔力で出来た竜の翼が顕現する。
一行が古代都市から去る時にテッラがフェンリルにしたのと同じように、ティターニアはラテを翼で包み込んで語りかける。
正確にはティターニアの口を借りたテッラが、ラテと同化したフェンリルに、だ。

「フェンリル……随分無茶をしましたね。だけどもう止めません。
あなたに私が必要なように、私にもあなたが必要なのだから。だから……共にこの街を護りましょう」

ティターニアは杖を一閃し、ノーキンとケイジィに何等かの魔術のようなものをかける。
その瞬間二人を大地震が襲い、まともに立っていられなくなるだろう。
実際に大地震を起こしては味方も巻き込まれる上に甚大な被害が出てしまうが、もちろんそうはならない。
竜は自らの属性を概念ごと司る――
それは正確には実際の地震ではなく、対象となった者にだけ感じられる地震のようなものだ。

「テッラ殿もフェンリルを止めぬと言っておるからな、我ももう止めぬ。
全力でぶつかるのだラテ殿! 護りは我が引き受ける――!」

黄金色の魔力の翼を広げたティターニアは、ラテの半歩後ろに並び立つ。
今のティターニアなら、あらゆる攻撃に対して瞬時にテッラの力による魔力の盾を発動させることが可能だろう。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

「待て、其れを持ち出してはならぬ――」

水晶を持ち去ろうとする黒騎士の前に立ちふさがる者がいた。
黒騎士は抑揚のない声で呟く。

「やはり生きていたか、ダグラス」

ダグラスと呼ばれた人物はしかし白髪の老人ではなく、艶やかな黒髪の青年の姿をしていた。

「なんじゃ、折角ジジイの幻影をまとって貫禄を出しておったのにお見通しだったか。
改めて名乗ろう。我が名はダグラス・ムーアテーメン・ドリームフォレスト――
ハイランド建国の英雄にしてここユグドラシアの初代学長聖ティターニアの夫じゃ」

遥か古の時代、神樹ユグドラシルの祝福の元に偉大なる妖精女王と結ばれた青年――
それが人間にもエルフにも属さない仙人ダグラスの正体だった。
今、ダグラスと黒騎士の熾烈な戦いが始まろうとしていた。

【学長パートはノーキン殿との対比をやってみたかっただけで先の展開は全く未定なので
もしも気が向いた方がいたら自由に続きを書いてもらって全く問題ない!】

17 :
足場を砕かれたラテが墜ちていく。すれ違うように振るったケイジィのナイフは辛うじて躱された。
それで良い。重要なのは集中力をナイフに使わせ、彼女の周囲に充満している毒ガスへの警戒を遅らせること。
狙い通りにラテは路地へと落下した。衝撃を転がって逃し、墜落によるダメージは抑えられたようだが――

(そこはもうケイジィの間合い!)

一拍遅れて毒ガスに気付いたラテが呼吸を抑える。
後手だ。綺麗な空気中で深呼吸した後ならば息を止めたまま動けるかもしれない。
しかし彼女は準備のままならないままに毒ガスの渦中へと飛び込んだ。
十分に酸素を身体に蓄えることはできず……限界はすぐに訪れる。

>「……私に、向いてるものなんてないんですよ」

振るったナイフが石の盾と火花を散らし、打ち込んだ分だけ押していく。
ケイジィに追い立てられながら、ラテは自嘲気味に呟いた。

「結論出すのはやいよー!生きてれば可能性は無限大だよ?人形のケイジィと違ってさ!」

毒に侵されながらラテは後方へ跳んだ。
天地を狂わされた状態でよく動いたものだ。だが次はない。必ず動作に支障は出る。
ケイジィの歩幅で二歩の距離を詰めれば、それで胴を串刺しにできる。

「生きてれば、だけどね!」

ケイジィが肉迫すべく跳躍した瞬間、ラテが何かを両手いっぱいに取り出した。
投擲する隙など与えない――しかし彼女はそれを投げることなく自分のすぐ傍で炸裂させた。
毎度おなじみの、軽銀爆弾である。

「自爆――!?」

無数の火の玉が大気を糧に膨れ上がった。
ラテとの間に再び炎の壁が生まれ、ケイジィは石畳を削るようにブレーキをかける。
驚きはしたが、なんのことはない、安直な時間稼ぎだ。
ここは壁際、もはやラテに退路などなく、炎の壁も数秒と保たない。
この目眩ましが晴れた時が彼女の最期だ。

>「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」

炎の向こうで、ラテが何事か呟いた。
刹那、ケイジィは悍ましいほどの膨大な魔力の発生をそこから感じた。
同時に大気はおろか石畳すら震える咆哮が木霊する。

「うえええっ?」

無数の蝋燭を一息に吹き消すように、炎の壁が散る。
その向こうから姿を現したのはラテではなかった。
人狼――銀の毛皮と害意を固めたような牙、嵐と見紛う吐息に混じる強烈な獣臭。

「な、なにそれ……魔物……じゃない……?」

単なる魔物や魔獣の類に、これほどの魔力は持ち得ない。
魂なき人形のケイジィすら射竦める程の、畏怖を纏ってなどいない。
魔導知性の感覚器が全力で警報を鳴らす、山脈が如き大地の魔力――
相まみえたことはないが、知識としては知っている。これは。

「フェンリル――!?」

応じるようにフェンリルは一吠え、その獣毛に覆われた片足で地面を小突く。
石畳に鋼の花が開いた。地中から生成された夥しい数の短剣が、波濤のようにケイジィへ迫る!

18 :
「うそでしょーーっ!」

たまらずケイジィは退いた。彼女のいた場所を刃の津波が飲み込み、石畳の欠片すら残さない。
回避して、それで終わりではなかった。波濤に追いつくように現れたフェンリルが、ケイジィの眼の前で豪脚を振るう。
短剣を巻き込んで放たれた蹴りは、刃の切っ先をケイジィの右肩に突き立てた。
あっけなく、右腕が肩から吹っ飛んだ。

>「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」

「あっ?」

魔導人形に苦痛はないが、致命的な危険が迫っていることを認識する感覚があった。
剣を蹴り込んだ獣の脚が次に蹴るのは――ケイジィそのものだ。
ぐん、と景色が矢のように加速して、彼女は吹っ飛ばされた。

>「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」

(あーこれマズいなぁ、死ぬわケイジィ。命ないけれど)

慣性に振り回されながらも、魔導人形の思考回路は冷静に状況を忖度していた。
衣服の防護魔術をもってしてもこの速度でどこぞかへ叩きつけられれば大破は免れないだろう。
仮に凌ぎきったとしても、追撃を堪え切る自信はない。守護聖獣フェンリル、その膂力は規格外だ。
それは良い。跡形もなく破壊されたところで自分は命なき魔導人形だ。
壊されることに忌避感はない――そのように造られている。だが。

(このままだとノーキンに直撃だよぅ)

そうなるように蹴られたのだから当然だ。
あの偉丈夫が人形ぶつけられたくらいでどうにかなるとも思えないが、今はジャンと名乗ったあのオークとの立ち合いの最中だ。
重量のある自分が直撃した衝撃で、態勢を崩すかもしれない。このフリルが目隠しになるかもしれない。隙を作ってしまうかも。
心底楽しそうに戦うノーキンに邪魔を入れるのは、例えそれが壊れかけの自分であっても――嫌だった。

「ノーキン!撃って!!」

両足が地面を離れ、高速で吹っ飛ぶケイジィに出来るのは、ノーキンへ向けて声を上げることだけだった。
能筋拳――魔力塊の砲弾を使えばケイジィのボディを粉砕して戦いへの影響を極限に抑えることができる。
丁度間のいいことにノーキンはジャンへ向けて魔力弾のラッシュを放っている最中だ。
連撃の一呼吸のさなか、一発だけこちらへ向けて放つだけで済む。
ノーキンは視線だけをケイジィに遣り、彼女の望み通り拳を向け――

――五指を開いた。ケイジィの身体はそこへ飛び込み、柔らかく受け止められた。

「むっ」

慣性を殺しきれなかったらしいノーキンは二歩ふらついて石畳を踏む。
ラッシュが途切れた。

「何やってんのさノーキン――」

人形の抗議に男は答えず、その両眼はジャンとラテとを間断なく捉え続けている。
前方の家屋を基礎すら残らず砕き尽くす砲弾の嵐の中。
それをかき分けるようにして水流が突っ切り、ノーキンとケイジィの元へ迫ってきた。
魔力塊に穿たれ、弾かれ、体積を減らしながらも水流は一直線にこちらへ飛ぶ。
その先端には白く輝く短剣が、水流に保護されるようにして乗っていた。

19 :
(あれは――)

ダーマにいた頃、"教会"の戦闘司祭の暗殺任務を請け負ったことがあった。
彼らの使う聖具の一つ、あらゆる防御を貫くダガーにひどく苦労した記憶が蘇る。
聖短剣サクラメント。女神の加護を乗せた、鎧通しの剣。
水流の中にあるあの剣こそが、そのサクラメントに違いなかった。

「ほう!防御を捨て我輩に一矢報いることを選んだか!よかろう、受けて立つぞ!!」

ノーキンは聖短剣の特性に気付いていない。
己の信頼する肉体と硬気功によって、相性の悪い刺突攻撃さえも阻んでみせるつもりだ。

事実、硬気功が刺突に弱いというのは確かなことである。
魔力の体内爆発とは言わば肉体という革袋に息を吹き込んで膨らませることに近い。
刺突により一箇所にでも穴が空けば、内圧が今度は穴を拡げる凶器として術者に牙を剥く。

通常ならばノーキンの硬気功は刺突すら完全に防ぎきることができる。
しかし今は練り上げた魔力を放出する『波紋功』を行使したことにより、十分な内圧に練り直すまでタイムラグがある。
加えて聖短剣サクラメントは、常軌を逸して頑丈な彼の肌すら濡れた紙を断つように容易く破る。

サクラメントはノーキンの心臓を刺し貫くだろう。
短剣の切っ先を阻むものは、なにもない。
なにも――ただひとつの例外を除いて。

ケイジィは残った左腕で身体を支え、両足で主人の胸板を蹴る。
宙へ向けて跳んだ彼女を迎え入れるように、水流と――包まれたサクラメントが直撃した。
もはや水音と形容する領域を逸した轟音が響き、ノーキンの眼前で激突した両者がぶち撒けられる。

指環の水魔法は世界を構成する元素そのもの。
フェンリルに散々痛めつけられた防護術式など殆ど意味を為さず、滝壺に落ちた木っ端のようにケイジィの五体が砕かれる。
同様に、人類の技術の到達点とも言うべき魔導人形が全存在を賭してぶつかった衝撃は水流の勢いを八方に捻じ曲げた。

水流はノーキンには届かず、石畳や明後日の方向の家屋を穿って果てる。
ケイジィは右腕に加え頭部の左半分と両足を膝から失ってノーキンの足元に転がった。
その胸元に聖短剣サクラメントの刃が根本まで突き刺さっていた。

「何をやっているのだ、ケイジィ」

足元で一度バウンドした人形の背を屈んで受け止めたノーキンは、奇しくも先程と真逆の立場で問いを零す。
やはり同様に、ケイジィは答えなかった。代わりに彼女は苦悶の声を漏らす。
痛みなど持たないはずの魔導人形がだ。

「あ……う……ぐ……!」

「ケイジィ?」

聖短剣サクラメントは物理的なあらゆる障害を貫いて生体に突き刺さる剣。
魔導人形であるケイジィに刺さったところで、害する生身の肉体がそもそも存在せず無意味となるはずだった。

例外があるとすればそれは、ケイジィが『骸装式魔導人形』――死体から造られた人形であるという特異。
少女の死体を特殊な魔術で硬化処理し、血液の代わりに魔力伝導体を流し、内臓を仕込み武器や毒ガス生成器に置換して、
骸装式魔導人形KG-03は製造されている。

死んではいても、生身は生身。
サクラメントの一撃は、ケイジィと形作る根源的な生体部分を狙い過たず貫通し、破壊していた。

「……ごめんノーキン……ダメかも……もうちょい、頑張れると思ったんだけどなぁ」

20 :
残った左腕が彷徨うように空を掻く。
主人がそれを掴むと、魔導人形は安らいだような表情で眼を閉じ、そのまま動かなくなった。
ノーキンはボロ布のようになったマントを外し、ケイジィの身体を覆って石畳に置く。

「今暫し眠るが良い。全てが終わったら叩き起こしてやろう」

その時、彼の立つ地面が強烈に揺れた。
脚をついていられないほどの振動、しかし瓦礫が跳ねたり家屋が崩れる様子はない。
エルフの知覚が大地の魔力を察知する。これは指環の魔法――発生源はティターニアだ。

「無粋であると……言っておろうが!!」

ノーキンは怒号一発、拳で地面を叩く。
セフィアトルネードを打ち消したものとは比べ物にならない密度の『波紋功』が発生。
地震の魔法は愚か、周辺に転がる瓦礫や砕かれた武具の破片の一切合切――ケイジィの身体を除いた全てが吹き飛んだ。

ノーキンは立ち上がり、褌以外に一糸纏わぬ姿でフェンリルと化したラテとその後ろのティターニアに対峙する。
ドミノマスクを外し、澄んだ翠の双眸に敵の姿を捉えた。

「二つ目の指環はすぐ傍に在ったようだな。やはりテッラを攻略したのはユグドラシアであったか。
 実に数奇なり。今日のこの戦いで、双方が我がものとなる!三年探したぞ、古竜の指環よ!!」

瞬間、ノーキンの姿が消える。ラテの眼前で石畳が砕かれるのと同時、右拳を振りかぶったノーキンが現れた。
武闘家のスキル『軽気功』。重心を引き上げたステップによる高速機動だ。
ミスリル製のメリケンサックが軋むほどの力で握られた拳が、フェンリルの顔面を殴りつけんと飛ぶ。
金属質な音を立てて弾かれた。プロテクション――防御魔術だ。輝く翼を生やしたティターニアが杖を振るっていた。

「右にフェンリル、左にテッラ。貴様らで精霊と聖獣を再現するつもりか!
 愉快であるぞ!これが指環の試練ならば、吾輩が継承するに能うるかの証明になるというわけだ!」

間髪入れずに左の拳をぶち当てる。これもテッラの盾に阻まれた。
連打、連打、連打……無数の火花と光が散り、砕けたプロテクションの破片が粉雪のように散る。

指環の力を得たティターニアの防壁は強固だ。
ノーキンの拳を以ってしても、威力を相殺されフェンリルの顔面へ届かない。

拳以上の、高い威力を持った攻撃が必要だった。
それは――

「ノーキン・パイルバンク☆バスタァァァァァ!!」

――肘撃ちである。
『震脚』による踏み込みの威力と全体重を乗せた肘撃ち、これは最早肘を先端とした体当たりに近い。
常人が打っても人を殺しうる暗技を、ノーキンの膂力で打ち放った。


【ケイジィ:聖短剣サクラメントに生体部分を破壊され沈黙
 ノーキン:ティターニアの防壁を突き破りフェンリルを叩くべく肘撃ち】

21 :
蹴っ飛ばしたお人形を、筋肉さんは優しく受け止めた。
撃ってと叫んだ人形の言葉も無視して、あの嵐のような連打を途切れさせてまで。
なーんだ、やっぱりあなた達にもあるんじゃないか。
奪われたくないものが。失いたくないものが。
あなた達は、お互いを大切に思っている。だったら、話は早い。

これからはあの人形を執拗に狙ってやればいいんだ。
筋肉さんはそれを気に留めずにはいられないはず。あるいは、さっきみたいに庇ってくるかも。
ジャンさんティターニアさん、それに今の私を相手に、そんな無茶が続く訳ない。いや、続かせない。

あの人形からは、筋肉さんを。
筋肉さんからは、お人形を。
奪ってやる。

奪って……あれ?奪って、どうしたかったんだっけ。どうなって欲しかったんだっけ。
ええっと……ううん……。
まぁ、いいや。そんなの奪ってから考えればいいんだ。

そんな事よりも……折角強くなったんだ。
もっとこの力を振るってみたくて、堪らない。

>「何をやっているのだ、ケイジィ」

……って、あらら。
お人形さん、壊れちゃった。

>「……ごめんノーキン……ダメかも……もうちょい、頑張れると思ったんだけどなぁ」

ジャンさんの投げた短剣は、あの人形の致命的な何かを貫いてしまったようだ。
誰にも予想出来る事じゃなかったとは言え……こんな事が、あっていいのか。

あの人形は同じレンジャークラスとして、強くなった私の物差しに丁度よかったのに。
……本当に、それだけだっけ?
何か、忘れてる気がする……だけど私がそれを思い出す前に、背後から聞こえた足音が、私の思考を中断させた。

>「テッラ殿もフェンリルを止めぬと言っておるからな、我ももう止めぬ。
  全力でぶつかるのだラテ殿! 護りは我が引き受ける――!」

ティターニアさんの声。
いつだって凛と響くその声に、

「……ぷっ」

私は思わず、吹き出してしまった。
でもティターニアさんが悪いよこれは。だって、

「くく……あははは!ちょっと、こんな時に冗談言わないで下さいよ!」

私は笑いを噛み殺しながら、ティターニアさんを振り返る。

「止めないんじゃない。止められないんですよ。今の私は、もう、誰にも」

そして、そう返した。

22 :
「……久方ぶりだのう、テッラよ。だが勘違いするなよ。
 我は貴様の後を追ってきた訳ではない。全てはこの小鼠が、勝手にした事よ」

いつも通りのスマイルも添えて。

「そう、全て、勝手にした事……故に。此奴が我が力に呑まれようと、我は知らぬ。
 だが……一つ、我にも予見出来ぬ事があった」

冗談を言ったり、返したり、うん、余裕が出てきた。
やっぱり、強くなれて良かった。

「この子鼠は……我が思っていた以上に、弱い。己の弱さにすら負けるほどに。
 我が力に埋もれて、消えてしまうやも知れぬなぁ。
 もっとも我にとってはその方が好都合だが……何も言わぬのも友への不義。難儀よのう」

……あれ?なんだかティターニアさんの反応が妙だ。

「……私、何か変な事言いました?」

……っと、いけない。
いつまでもおふざけをしている訳にもいかない。
私は筋肉さんへ向き直る。

>「無粋であると……言っておろうが!!」

わお、すごい気迫。
あれあれ?これってもしかしなくても……

「怒っちゃってるのかな?」

だとしたら、いい兆候だ。私達にとってはだけどね。
戦闘の最中において怒りってのは基本的には隙になる。
ジャンさんが時折見せているような爆発力にもなり得るけど、それはもう相手次第だから考えても無駄。

>「二つ目の指環はすぐ傍に在ったようだな。やはりテッラを攻略したのはユグドラシアであったか。
  実に数奇なり。今日のこの戦いで、双方が我がものとなる!三年探したぞ、古竜の指環よ!!」

「へえ、三年も。そりゃすごいですね。……是が非でも、このチャンスを逃す訳にはいかない、と。
 大丈夫です?焦ったりしてません?いつも通りのパフォーマンスを発揮出来ますか?」

筋肉さんは私の言葉には耳も貸さず、殴りかかってきた。
えー、でもそれって無粋じゃない?ぶーぶー。
なんて、言ってる場合じゃないか。

私は爪先で石畳を叩く。
新たな短刀が生み出され、私の手元へと跳び上がる。

逆手で掴んだそれの切っ先を、筋肉さんの拳の軌道上に据える。
頑丈さが取り柄みたいだけど……あなたの筋力であなたを刺せば、少しは効果が期待出来ないかな?

……と思ったら、目の前で弾ける、剣戟のような激しい音。
筋肉さんの拳は、私の眼前で止まっていた。
あぁ、そっか。ティターニアさんが守ってくれたんだ。

23 :
>「右にフェンリル、左にテッラ。貴様らで精霊と聖獣を再現するつもりか!
  愉快であるぞ!これが指環の試練ならば、吾輩が継承するに能うるかの証明になるというわけだ!」

「まさか。これはただの、私の奥の手。あなたはあの時、あの場所に、いられなかった。
 素質がないんですよ。こんな小娘ですら……指輪を巡る冒険の舞台に、立てたのに」

あーあ……残念。
でも、ま、いっか。拳が私に届かないなら……こんな事も出来ちゃうし。

「……ノーキン?なんで私をぶとうとしてるの?」

大地の属性が持つ、何かを模る力。
それを【ファントム】に応用して、私はケイジィと呼ばれたあの人形の姿に化けてみせた。

「ねえ、やめてよノーキン。私、二回も壊されたくないよ……なーんて。
 どうです?似てました?似てたでしょ?
 もう取り戻せない物を見せつけられる気分はどうですか?」

防壁越しに筋肉さんの顔を覗き込む。
筋肉さんの瞳の中に映る私は……笑っている。

……うん、いつも通りのスマイル。よく出来てる。

直後、筋肉さんの全身が一際大きく躍動する。

>「ノーキン・パイルバンク☆バスタァァァァァ!!」

全脚力と、全体重を乗せた肘打。
魔狼の勘が言ってる。この一撃は、テッラの盾でも防げないと。
私はティターニアさんを後ろに突き飛ばし、同時に地を蹴り、ほぼ真上に跳躍。
宙返りの要領で筋肉さんの頭上を取り、そのまま背後へ。
そして距離を取る。

頬を伝う生ぬるい感覚。触れなくても、見なくても分かる。これは血だ。
僅かに掠めた肘撃に、フェンリルの毛皮が引き裂かれていた。
やっぱり強いなぁ、この人。だけど今は、心が竦まない。
むしろ……私はこんなに強い人にも、きっと勝てる。そう思うと心が躍る。

24 :
さて……奇しくもティターニアさんと挟み撃ちの形になったけど、別にそれは狙いじゃない。
私の狙いは……これ。筋肉さんのマントに隠された、可愛い可愛いお人形さん。
髪の毛と下顎を掴んで持ち上げる。頭の左半分が無くなっちゃってて、持ちにくいなぁ。

「きゃーやめてノーキンぶたないでー壊れちゃうよー……ふふっ、あはは」

人形の下顎から手を離して、宝箱を漁る。
取り出したのは古代都市で拾ってきた宝石。
指に挟むようにして、二つ。

大地の竜の加護を受け続け、強い魔力を宿したそれに、フェンリルの力を合成。爆弾を作る。
まずは一つ、筋肉さんへと軽く放り投げる。
避けるのも弾くのも簡単だろう。でもそれでいいの。
一つ目は、何が起こるのか分かってもらう為だから。

爆弾が爆ぜる。
小さな宝石から開花するかのように鋭く長い鉱物が生え、直後に全てが内側へとねじ曲がる。
さながらフェンリルの牙が世界を噛み砕く瞬間みたく。

「駄目じゃないですか、筋肉さん。この子、こんなに可愛いんですから、もっとおしゃれさせてあげないと」

さて、それじゃもう一つの爆弾を……人形さんのお洋服の胸元に、合成。

「ほら、こんな風に」

そして筋肉さんへと、お人形を放り投げる。
軌道はやっぱり避けるのも弾くのも簡単。
だけど……きっと避けないよね。跳ね除けたりもしないよね。
だって、さっきもそうだったもん。やーさしく、受け止めてくれるよね。庇おうとしてくれるよね?



【ケイジィちゃーん!違うんです!そんなつもりじゃなかったんです!
 さておき楽しく心を抉ってもらえたので今度はノーキンさんを抉る番かなと思いまして……】

25 :
折れていたのは右腕だった。
あの魔力の奔流の中、腕一本が折れるだけで済んだのは幸運の域に入るだろう。
腰の赤色の革袋からジャンは薬草と木の実を取り出し、まとめて口に頬張った。
ベヒーモスとの戦いでも食べたこの二つは、オークに伝わる薬の組み合わせの一つであり
オークに極めて強力な自然治癒の活性化をもたらす。

数分もすれば折れた骨は再び元に戻り、戦えるほどではないが動かせることぐらいはできる。
ティターニアとラテがノーキンと戦っている間、ジャンはさらなる戦いに備えてしばし休むこととした。

>「今暫し眠るが良い。全てが終わったら叩き起こしてやろう」

先程見た通り、サクラメントの一撃はノーキンではなくケイジィを貫いてしまったようだ。
一見して生体ではなさそうな見た目だったが、そういえばダーマには死体を加工して兵器とする技術があったはずだ。
いかなる経緯かは不明だが、ケイジィがもしそれならばサクラメントの一撃はさぞかし効いただろう。

「ラテに……渡しときゃあ……楽できたかもな……」

急激な回復に伴う右腕の激痛に顔を歪ませながら、地面が揺れるような錯覚を感じる。
さらに嵌めた指環が蒼い輝きを放ち、ノーキンを挟んだ向こう、ティターニアとラテがいる辺りには黄金の輝きが見える。
あの輝きの正体は指環が教えてくれる――テッラの指環、大地の力だ。

>「テッラ殿もフェンリルを止めぬと言っておるからな、我ももう止めぬ。
全力でぶつかるのだラテ殿! 護りは我が引き受ける――!」

>「無粋であると……言っておろうが!!」

叫びと共に地面に放った一撃は周囲のあらゆるものを吹き飛ばし、砕いて粉微塵と変える。
ジャンが突っ込んだ青果店も例外ではないが、離れていたおかげで果物がさらに吹き飛ぶぐらいで済んだ。

「あいつ……また魔物に?いや違う……あれはフェンリルになりやがったのか!」

ジャンもまた叫びと共に走り出す。強くあろうとして人ならざる者になったものへ向けて。
あの地底都市から帰ってから、ラテの様子が微妙におかしかったことをもっと話し合うべきだったとジャンは後悔しながら走る。
指環の力でまだ完治していない右腕を水流で保護し、左腕でアクアの大剣を肩に担いで。

(……けど、今はラテを止めてる場合じゃねえ!まずはノーキンの首を取る!)

ノーキンの防御の要たる氣が刺突に弱いのはおそらくケイジィがかばった点から正解だろう。
ならば、注意がラテの投げた人形に向いている今、再び束ねた水流にて今度こそ確実に心臓を貫く。
ラテが正気かどうか確認するのはそれからでもいい、ジャンはそう考えて大剣を突き出す。
突き出された大剣は槍の形となり、指環の魔力を束ねた水流となった。

一方その頃――隠された魔法陣と変装によって学内への侵入を許したアスガルドの冒険者部隊は
裏門と横道の部隊を学内へと呼び戻し、一部の精鋭は学長の元へと向かっていた。

>「なんじゃ、折角ジジイの幻影をまとって貫禄を出しておったのにお見通しだったか。
改めて名乗ろう。我が名はダグラス・ムーアテーメン・ドリームフォレスト――
ハイランド建国の英雄にしてここユグドラシアの初代学長聖ティターニアの夫じゃ」

その声に応えるように、精鋭の一人であるエルフの剣士が学長の前に現れる。
学長の親友にしてアスガルド流剣術の祖、カドム・グラディア・ドリーマーだ。
彼もまた普段の姿である白髪の老人の姿をやめ、本来の姿である赤髪の青年となっていた。

「我が名はカドム・グラディア・ドリーマー。そこの騎士!名を名乗れ!」

血のこびりついた長剣はすでに何人も切り捨てていることを証明しているが、
身につけている鎧もまた戦いの結果傷ついている。
だが瞳に見える意志の強さは衰えぬ戦意を示し、相手が何者でも揺るがぬ決意だ。

【カドムさんは自由に動かしてもらって結構です!】

26 :
>「……私、何か変な事言いました?」

「……いや、何でもない。今は戦いに集中するのだ」

ラテとフェンリルの一連の発言は、ラテがフェンリルに乗っ取られつつあることを示していた。
その上、ラテ自身はそのことに気付いていないようだ。
――止めないんじゃない。止められないんですよ。今の私は、もう、誰にも
それは、自分自身ですら気付いていない心の奥底の止めてほしいという叫びだろうか。
ティターニアは、心の中でテッラにフェンリルの真意を問いかける。

(また意地をはっておるのか……? それとも本気なのか!?)
『正直私にも計り知れません。
ただ一つ確かなのは……仮に私の推測が当たっていたとしてもこのままではフェンリルはラテさんを乗っ取ってしまうでしょう。
所詮はその程度の子鼠だったと……』
(……なんだと!?)

幾星霜の時をフェンリルと共に過ごしたテッラがそう言うのだからそうなのだろう。
一刻も早く戦闘を終わらせて手を打たなければならない。
相手が魔道人形ゆえに効かないと思われたサクラメントの一撃はだがしかし、予想外にもケイジィを戦闘不能へと追い込んだようだ。
それを見て、無駄だと分かっていつつも降伏勧告をするティターニア。

「もうやめぬか、これで1対2、ジャン殿が再起すれば1対3だ」

対するノーキンはドミノマスクを外して素顔を晒し、一歩も引かぬ意思を表明する。

>「二つ目の指環はすぐ傍に在ったようだな。やはりテッラを攻略したのはユグドラシアであったか。
 実に数奇なり。今日のこの戦いで、双方が我がものとなる!三年探したぞ、古竜の指環よ!!」

「やはりそう来るか。確かに間違ってはおらぬ、ただし指環持ち二人とフェンリルを一人で倒せればな――!」

テッラの力を宿す堅牢の盾で、ノーキンの怒涛のラッシュをことごとく防ぐ。
見ればラテはその軌道上に短刀を構え拳を刺そうとしていたようだが……
そうすれば確かにノーキンへダメージは入るだろうが、それで打撃自体の衝撃が無くなるわけではない。
今のラテは攻撃性が極限まで引き出されて防御度外視になっているようだった。

>「右にフェンリル、左にテッラ。貴様らで精霊と聖獣を再現するつもりか!
 愉快であるぞ!これが指環の試練ならば、吾輩が継承するに能うるかの証明になるというわけだ!」

>「まさか。これはただの、私の奥の手。あなたはあの時、あの場所に、いられなかった。
 素質がないんですよ。こんな小娘ですら……指輪を巡る冒険の舞台に、立てたのに」

27 :
そんなラテの様子を見ながら、ティターニアの胸中で様々な想いが交錯する。
やはりあの時ミライユを介錯しようとするラテを力尽くでも止めていればこんなことには――。
たとえ救えなかったという結果は同じでも、“頑張ったけど駄目だった”という大義名分を作ってやれればこうはならなかったかもしれない。
しかし、しかしだ。
もしも今すぐラテのフェンリルとの同化を解除できる手段があったとして、果たしてそれをしているだろうか。
このユグドラシア防衛戦において、ラテのフェンリルの力が役に立っていないと言えば嘘になる。
それどころかラテがこうしなければ今頃とっくに敗北を喫していただろう。
自分は年端もいかぬ若者の若気の至りを利用する卑怯者なのだろうか。
いや、何も煽って唆したわけでもない、それどころか止めようとすらした。ただ止めきれなかっただけだ――

>「……ノーキン?なんで私をぶとうとしてるの?」
>「ねえ、やめてよノーキン。私、二回も壊されたくないよ……なーんて。
 どうです?似てました?似てたでしょ?
 もう取り戻せない物を見せつけられる気分はどうですか?」

ケイジィの幻影を被りノーキンを揺さぶるラテ。
正々堂々とは言えない手段だが、それは特に問題ではない。
先程ケイジィがラテに散々仕掛けた手法であり、そもそも命をかけた戦いなのだから手段を選んでいる場合ではない。
正々堂々などと呑気なことは、小細工無しの純粋な力において絶対の強さを持つ強者だけが言っていられるのだ。
ただ、テッラの素朴な疑問の声が頭の中に響いた。

『なんというか、フェンリルの戦い方ではないですね……。
彼は気高く誇り高く……悪く言えば力押し一辺倒の戦い方をする、そんな獣でした』

「そうか……あれはやはりラテ殿なのだな。
偉大な狼の力を手にしながら子鼠……我に言わせればリスの癖が抜けぬのだな……!
フェンリルの強大な力を手にした今小細工など必要なかろうに!」

煽るような言葉の反面、どこか希望を見出したような口調。
何も今にはじまったことではない。彼女は最初からそうだったではないか。
言葉で自在に相手の心理を操りフェイントで翻弄し幻影で欺いて一瞬の隙を突いて敵を討つ。それが彼女の戦い方だ。

>「ノーキン・パイルバンク☆バスタァァァァァ!!」

繰り出された肘打というレベルを超えた肘打。
防ぎきれないと踏んだのであろうラテはティターニアを後ろに突き飛ばして逃がし、自身は大きく跳躍する。
それでも僅かに掠め、フェンリルの毛皮が引き裂かれて血が流れていた。
ティターニアに構わず一瞬早く跳んでいたら完全に避けきれていたであろう。

28 :
>「駄目じゃないですか、筋肉さん。この子、こんなに可愛いんですから、もっとおしゃれさせてあげないと」
>「ほら、こんな風に」

ラテは宝石爆弾を仕込んだケイジィをノーキンに向けて投げる。
ノーキンがケイジィを避けずに受け止めれば鋭い岩の棘に貫かれるという算段であろう。
しかしそうなると分かっていれば、流石に避けるかもしれない。
そう思ったティターニアは、多少避けたり弾き飛ばしたりで二人の距離が離れても対応できるように小細工を講じることにした。

「ラテ殿……そなたが弱いというなら我だってここの防衛のためにそなたを利用する卑怯な弱者だ!
しかし弱くてもいいではないか、弱者だけが得ることが出来る強さもある――」

卑怯な小細工は弱者だけが得ることができる強さ、それが正しいとするなら、ティターニアも紛れも無く弱者の側に属するのだろう。
鮮やかでトリッキーな騙し討ちも常識無視のトンデモ戦術も、毛色は違えど正攻法ではない小細工という点では同じ。
今まさにノーキンに向かって投げられたケイジィの胸の宝石爆弾に杖を向け、アレンジを加える。
元よりテッラの力を受け続けて魔力を宿した宝石ゆえに、それが可能だった。
大地の指環が持つ力の一つ――“豊饒の祝福”。
“護りの加護”が堅牢なる大地そのものの力とすれば、これは大地より芽吹く植物の概念を操る力だ。
もしノーキンがケイジィを避けずに受け止めれば、宝石爆弾から鉱物のようなものが伸びて……というところまでは同じ。
しかしそれは彼らの体を貫くのではなく、植物の根のようにケイジィごとノーキンに巻き付き、絶対の拘束を施すだろう。
鉱物が伸びるのは直線的だが植物の根はそうではない、多少二人が離れようとも物ともしないだろう。
しかしその素材は鉱物でもなく、植物の根でもなく、同時にその両方である何か。
フェンリルの力によって作られる鉱物にテッラの魔力による植物の概念を重ね掛けして生み出された、この世に存在しえない物だ。
その名は“岩の根”――神話においてフェンリルを捕縛したという魔法の縄グRニルを形作った素材の一つ。
素材はたった一つではあるが、神話の魔縄グRニルを模したものと言えるだろう。

29 :
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

>「我が名はカドム・グラディア・ドリーマー。そこの騎士!名を名乗れ!」

「まあいい、どうせ貴様らはここで死ぬのだから教えてやろう。俺の名はアドルフ・シュレディンガー ――人呼んで”黒犬騎士アドルフ”。
帝国の狂犬に喧嘩を売った以上生き長らえると思うな」

まさに戦いが始まろうとしていたその時、ノーキンが引き連れてきた部隊のうちのここまで辿り着いた何人かが雪崩れ込んできた。

「貴様が学長か!? 指環はどこだ!」

そこで不意にアドルフの後ろから、彼と同じぐらいか少し年上と思われる女が進み出る。
修道服をモチーフにしたようにも見える漆黒のローブをまとった女だ。

「あらあら、わざわざここまでご苦労だったわね――疲れたでしょう、ゆっくりお休みなさい。
”セフィア・トルネード”≪刻滅の大旋風≫!」

彼女はなんとただの一撃の魔術で、突入してきた部隊を蹴散らしてしまった。
術式こそパトリエーゼが使っていたものと同じだが、その発動速度や威力は桁違いだ。
ダグラスとカドムもこれには一瞬唖然とする。

「貴様ら、裏で手を結んでいたのではなかったのか!?」

「そうだけど? だから何!? キャッハハハハハハ!! ザコを薙ぎ払うのってサイコ――――――!!」

漆黒の女の甲高い哄笑が響き渡る。その瞳には恍惚の色が浮かび、完全に正気ではない。
禁断の劇薬エーテル・ネクトルを長年に渡り摂取し続け、尤も厄介な方向に精神が崩壊した結果であった。
その上強大な魔力はしっかり身に着けているというのだから、始末に負えない。
彼女の名は黒曜のメアリ――エーテル教団幹部にして、黒犬騎士アドルフの実の姉だ。
アドルフは半分呆れつつも想定の範囲内といった様子である。

「全く、仕方のない姉上だ……」

「いいじゃない、どうせそのうち皆殺しなんだから!
ねえアドルフ、この際だから指環の勇者やあの指環狙ってる筋肉エルフもまとめてやっちゃわな〜い?
そろそろ両方ともフラフラになってる頃だろうしぃ。ほらあれ、漁夫の利っていうやつ?」

狂った姉の提案を受け、しかしこの際それもアリか――とアドルフは暫し思案する様子を見せる。

【ノーキン殿の意向次第で共闘展開にも持ちこめるようにもしてみた。
ノーキン殿が敵役として散りたい場合も我々で姉弟戦突入しても
やめといてアドルフ殿にヒャッハー姉を引きずって帰らせてもいいし例によって皆の意向次第で!】

30 :
ノーキンの100を超える体重の全てを乗せた肘撃ち。
押し出された大気が雲を引く巨大質量は、ティターニアの防壁を粉砕し、その先のフェンリルを穿った。

「……浅いな!」

鮮血と鋼にも似た硬度の毛皮が散る。しかし骨まで届いていない。
フェンリルは刹那の間隙を縫って跳躍し、ノーキンを飛び越えて背後へ回っていた。
反撃は――来ない。背の遥か遠く、ノーキンが先程までいた場所に獣の影が現れる。
そこに置かれた、マントの中身を掴んで持ち上げる。

>「きゃーやめてノーキンぶたないでー壊れちゃうよー……ふふっ、あはは」

フェンリルは半壊したケイジィの頭をがくがくと揺さぶり、最早物言わぬ亡骸に声を真似て喋らせる。
ノーキンは黙ってそれを見ていた。安直な挑発。先刻の乱打の直前にも幻影を纏って同じことをしていた。
怒りを喚起して隙を生み出さんとする魂胆が透けて見える。

――そう、奴はノーキンから隙を見出そうとしている。
フェンリルという、規格外の聖獣の力を得てして、なお。

「……小手先だな、若輩。今の貴様に"そんなもの"が必要なのか?
 吾輩に比肩しうる膂力を持ちながら!それ以外に頼みを置く理由など今更あるまい……貴様にも、吾輩にもだ!」

例えかつての相棒の亡骸を弄ばれようとも、その尊厳を踏みにじられようとも、ノーキンが無様に取り乱すことはない。
それは単純な齢の功。百余年の間戦いの場で己を磨き抜いてきた戦闘者の感性が、心の動揺を最小限に抑え込んでいる。

「貴様の狼藉は……貴様がフェンリルの肉体を信頼出来ていない証左であろう。
 だからこの期に及んで児戯に走る。貴様は最早人間ではないのだ。人間の技を戦場に持ち出してどうする」

一人劇場を終えたフェンリルはこちらを揶揄する愉悦を浮かべ、二つの宝石を取り出した。
遺跡から掘り出されたアーティファクトによく見られるものだ。
濃密な魔力や祀られし神の威光を受け続け、強力な魔力を供えた器物。
然るべき競りに掛ければアスガルドの一等地に一軒家を建てられる、二つあったうちの片割れをフェンリルはこともなげに放った。

緩やかに放物線を描いた宝石をノーキンは平手で払った。
彼の膂力で弾かれた宝石は至近の石畳に突き刺さり、そこに石の華が咲く。
もしも宝石が直撃していれば、あの鋭利な石の牙が肉に食い込んでいたことは想像に難くない。

>「駄目じゃないですか、筋肉さん。この子、こんなに可愛いんですから、もっとおしゃれさせてあげないと」
>「ほら、こんな風に」

もう一つの宝石は――ケイジィの亡骸へと埋め込まれた。
フェンリルの豪腕が振りかぶり、宝石付きのケイジィをノーキン目掛けて投擲する。

「……児戯だと言っている!」

ノーキンは冷静に拳を引いた。
触れれば先程のように石の華で噛み付かれるならば、魔力の砲弾で空中で撃ち落せば良い。
先程のように波紋功で全て吹き飛ばしてしまうのも良い。
ノーキンの技量ならばそれが容易くできる。何を憂いることがあろうか。
引き絞られた弓の如く背筋が律動し、エーテルメリケンサックに魔力の光が灯る。

31 :
必殺の拳が放たれんとした刹那。
風を受けて力なく揺れるケイジィの頭部、片方だけ残った眼球と、目が合った。

「…………!!」

硬く握られていた拳が振るわれる過程で力を失い、萎びた蕾のように開いた五指に戻る。
迫り来るケイジィの身体を、やはりノーキンは砕くことが出来ず――再び受け止めた。

埋め込まれた宝石が内部に宿る魔力を解放する。
ケイジィの胸元から無数の岩の触手が伸びて、ノーキンの右腕から右肩にかけてを次々に突き刺していく。
硬気功すら貫く、フェンリルのあぎとによる刺突。
岩を染め上げるように鮮血が噴き出した。

「ぐ……ぬ……手緩いぞフェンリル!これは貴様の試練であったな!
 よかろう、貴様の牙など我が筋肉で全て止めてみせる!吾輩の望んだ肉体の戦いだ!!」

ノーキンの上体が倍ほども膨れ上がる。純粋な筋肉の収縮のみで岩の牙をこじ開けつつあった。
力を失ったケイジィの身体を掻き抱きながら、一本また一本と筋繊維に押し出されて牙が抜け落ちていく。
血を流していた傷口がみるみるうちに塞がり、強固な結束で出血を止める。

「さあ認めるが良いフェンリル、我が膂力を……!!」

だが宝石は無数の牙を生やしただけで終わりではなかった。
ノーキンの筋肉から抜け出た牙達が変質した。生まれたのはしなやかな大樹の『根』。
鉱物の如く硬質で、植物の如く柔軟な根――大地の力そのものがノーキンの五体に巻き付き、石畳に縫い止める。
感じるのはフェンリルの魔力だけではない。

「テッラの加護か!味な真似を……!」

テッラとフェンリル、精霊と聖獣の力が渾然一体となってノーキンを締め上げていく。
ただ硬いだけの岩ならばノーキンの筋力で粉砕できる。
しかし樹木の特性も得た根はその力を木の葉を殴るように往なし、受け流して無にかえす。
最早両足は殆ど地面と同化し、ノーキンをその場に磔にしていた。

拘束され、無力化され、それでも男は諦めない。
諦められるはずがない。

「吾輩は指環の全てを簒奪する者!たかだか一つの指環相手に止められる五体であってなるものか……!!」

唯一自由な肺腑に渾身の力を込め、強烈な肺活量で息を吸う。
武闘家の特殊な呼吸法は、大量の呼気を取り込むことで瞬間的に爆発的な力を産む。
生まれた力をノーキンは全て"氣"の練り上げに費やした。

渾身の『波紋功』。
練り上げた全ての魔力を放出すれば、四肢をくまなく覆い尽くした岩の根を吹き飛ばせる。
それが可能なように、例え精霊と聖獣を一度に相手しても打ち倒せるように、今日まで鍛え上げてきた。
体内の魔力爆発を、解放する。

「行くぞ指環の体現者共よ!これが吾輩の筋肉だ!!」

――フェンリルと化したラテが用いた挑発の戦術。
ノーキンが児戯だと切って捨てたその行為には、確かな意味があった。
熟練した戦闘者である彼に心理的な動揺は生まれ得ない。
例え肉親の亡骸を辱められようとも眉一つ動かさずに目の前の敵を葬るだろう。

そう、目の前の敵を。
ノーキンの意識は、冷静さを保ちながらも、確実に目の前のフェンリル、その一挙一動に集中していた。
背後から迫って来るジャンに、直前まで注意を割けないほどに。

32 :
「が……!?」

ノーキンの胸から一本の槍が生えた。
血に濡れた穂先は鋼鉄ではなく、固めた水流で出来ていた。
首だけを回して振り向けば、ノーキンの胸郭を貫く槍と、それを構えるジャンがそこにいた。

「ふ……はは……血肉の一片も残さず粉砕したと思っていたのだが……な……」

アスガルド外壁すら砕き尽くすノーキンのラッシュを受けてなお、ジャンは五体満足で戦線に復帰していた。
そこに如何なる絡繰があったのか最早彼には分からない。
しかしジャンは確かに生き延び、こうしてノーキンに致命傷を与えた。結果が全てだ。

「それでこそ……指環に選ばれた者だ。そして貴様も理解しているだろう――そこは我が間合いだ!!」

瞬間、ノーキンの裏拳がジャンの顔面を捉えた。
槍を掲げて身体ごとぶつかってきたジャンに、ノーキンの射程から逃がす猶予など与えない。
尾を引く血の軌跡はジャンのものか、それともノーキン自身のものか、最早判別はつかない。

「ぐ……ふっ……」

ノーキンの口元から滝の如く赤黒い血が飛び出した。
ジャンの槍による一撃は分厚い筋肉と堅牢な肋骨に逸らされ心臓を穿ちさえしなかったが、
肝臓と肺の一部、気管支を貫き破壊していた。
即死ではなくとも、致命傷。今はその僅かな猶予がノーキンの肉体を動かしている。

「……痛恨である。指環一つならば如何様にもなったはずだが……ここにあるのは二つであったな。
 基本的な足し算すら失念していたとは……吾輩もどうやらヒトの子であるらしい」

結局の所、ノーキンを死に至らしめるのは指環のでたらめな魔力や聖獣の牙などではない。
最後の最後に彼へ刃を届かせたのは……人間の悪意。
そして、規格外の肉体を相手に舌鋒鋭く自身の土俵で勝負して勝ちをもぎ取ったラテの執念だ。

胴を貫通する槍を片手で掴み、瀕死にしてなお健在の握力で握り潰した。
体内に遺る流水の破片を抜けば、導水管のように血液が溢れ出す。
傷を塞ぐ力は残っていなかった。残ってなかったら何だと言うのか。

「……魔術の才なき身に生まれ……その境遇を覆す為に吾輩は肉体を鍛えた。
 磨き抜いた我が五体はあらゆる不条理を叩き潰してきたが……ただ一つ、筋肉だけでは跳ね除けられぬものがあった」

岩の牙に四肢を食い千切られ、大樹の根に縫い付けられ、胴を槍で刺し貫かれて、なお。
ノーキンは二足で大地に立ち続けていた。

「"死"だけは……ヒトの力で覆すことはできない……出来なかった」

腕の中で眠る魔導人形の砕かれた半分の頭部。
残った片側から伸びる耳は、ノーキンのものより少し短い――エルフの耳。
ノーキンはそれを伏し目で撫でて、気管支に血が入って噎せる。
石畳に吐き出された血の中には、刻まれた内臓の破片さえも混じっていた。
あらかたを吐き終えて、ノーキンは脂汗混じりの双眸で前を向いた。

33 :
「やすやすと諦めはせぬぞ……!"死"如きが……我が道程を阻めるか……!!」

みしりみしりと音を立てながら、足を地面に縫い止めている根が剥がれつつある。
本物の聖獣フェンリルさえ地に繋ぎ止めていた根を、ノーキンの筋力と――執念が、覆し始めていた。
足に力を込めれば込めるほど、傷口から流れる血の量は増して行く。
塞いでいたはずの右腕の傷が開き、彼の右半身を鮮血に染め上げる。

「指環の力で……吾輩は……死を打ち砕く……!!」

一歩。ついに踏み出した。
溢れ出た血液が彼の足跡を色濃く石畳に残す。

二歩。上体を拘束していた根さえも引き千切って動き始める。
健康的に日焼けしていた彼の素肌は色を失い、眼球が乾きつつあった。

三歩。ティターニアの持つ指環へと手を伸ばす。
大人の顔ほどもある五指は、しかし広げることさえままならず力なく虚空を掴んだ。

そして、彼の歩みはそこで終わった。
膨張していた筋肉が萎み切り、食い止めていた岩の牙が再び襲いかかる。
同時、ケイジィの身体から伸びる大樹の根がノーキンの上半身を完全に包もうとし、彼は叫んだ。
断末魔ではない。

「――指環の継承者達よ!見事なり!!」

根の侵食が停止する。それが最後だった。
命を振り絞った咆哮を結末として、ノーキン・ソードマンは静かに事切れた。
金の為に故郷の街を襲い、指環を得んと全てを賭した男の最期。
それは――娘によく似た人形を腕に抱いての、立往生だった。


【ノーキン&ケイジィ:死亡】
【ティターニアさん、ジャンさん、ラテさん、本当に楽しかったです!ありがとうございました!】
【共闘展開もとても魅力的なのですが、当初の予定通り敵役として散ることを選びました。
 色々考えていたやりたいことを遣り尽くせてすごく楽しかったです
 また機会があればご一緒させてください!】

34 :
>「……児戯だと言っている!」

「本当に?」

筋肉さんが拳を振り被る。
手甲が魔力の光を帯び、突きを放ち……しかし拳を振り抜かず、五指を開く。
まず鉱物の花が、そして、鮮血の花が咲いた。

「嘘つきぃ。やっぱり通用するじゃないですか。やーさしいー」

これで右腕は封じた。
戦いという観点でものを言えば、この時点で私の勝ちみたいなもんだ。
だって出血してるなら、後は勝手に相手は弱っていく。
あのお人形ちゃんを庇い続けなきゃいけないなら、もう防御も攻撃もろくに出来ない。

>「ぐ……ぬ……手緩いぞフェンリル!これは貴様の試練であったな!
 よかろう、貴様の牙など我が筋肉で全て止めてみせる!吾輩の望んだ肉体の戦いだ!!」

……と思ったんだけど、あらら。
すっごい筋力……まぁ私にはなんの害もないし、良いんだけど。

>「さあ認めるが良いフェンリル、我が膂力を……!!」

「はいはい、すごいですね。でも……隙だらけですよ」

どうせ私の方が強いんだ……だから執拗に狙っちゃうよ。そのお人形ちゃんを。
もうとっくに壊れちゃった人形を庇いながら、どこまで耐えられるかな?
それとも……耐えられなくなって、お人形、捨てちゃうのかな?
どっちにしても……

「……楽しみ」

そして地を蹴り距離を詰めようとして……不意に、筋肉さんの体を『綱』が這い上がった。
感じるのは……テッラの加護。ティターニアさんだ。
うーん、援護してくれるのはありがたいけど……こりゃ、今度こそ終わりかなぁ。

>「吾輩は指環の全てを簒奪する者!たかだか一つの指環相手に止められる五体であってなるものか……!!」

あっ、まだ粘るみたい。
物凄い気力の高まり……さっきの、確か波紋功だっけ?で体を縛る綱を吹き飛ばすつもりだ。
なら、私はそれを利用してやる。
大技を放った直後の隙を突いて、そのお人形の首を刎ねる。
反応出来るかな?防ぎ切れるかな?

筋肉さんと、目が合った。
あえて目を逸らす。今なおあの人が大事そうに持っている人形へと。

>「ぐ……ふっ……」

そして……筋肉さんの胸から、槍が生えた。
水で出来た鋭い槍……ジャンさんが指環の力で作り出したものだ。

>「……痛恨である。指環一つならば如何様にもなったはずだが……ここにあるのは二つであったな。
 基本的な足し算すら失念していたとは……吾輩もどうやらヒトの子であるらしい」

あれは、致命傷だ。
死んじゃうんだ……つまらないなぁ。

35 :
>「……魔術の才なき身に生まれ……その境遇を覆す為に吾輩は肉体を鍛えた。
 磨き抜いた我が五体はあらゆる不条理を叩き潰してきたが……ただ一つ、筋肉だけでは跳ね除けられぬものがあった」

ま、いっか。せめて最後に、今の気分だけでも聞かせてもらおっかな。
大事なものも、自分の命も奪われて……自分のしようとした事をされて、どんな気分なのか。

>「"死"だけは……ヒトの力で覆すことはできない……出来なかった」

……なんだ、その表情は。
その、愛おしげな表情は。

筋肉さんの手がお人形の耳を撫でる。
少し尖った、小さな耳。
……まさか。

>「やすやすと諦めはせぬぞ……!"死"如きが……我が道程を阻めるか……!!」

筋肉さんの顔を見つめる。
今なお私を力強く睨みつける双眸と目が合った。

>「指環の力で……吾輩は……死を打ち砕く……!!」

澄んだ翠の瞳……あのお人形も、同じ色をしていなかったか。

「う、あ……」

>「――指環の継承者達よ!見事なり!!」

「あぁ……そんな……私、何を……なんて事を……」

違う、嘘だ。そんな訳ない。
耳の形も、瞳の色も、エルフなら別に珍しい訳じゃない。
こんなの、私のただの妄想だ。

震えが止まらない。立っていられない。
だって、もし「そう」なら……この人は、私達となんら変わらない。
自分の大事なものの為に戦っただけ。

違う。私は悪くない。
殺さなきゃ殺されていた。
奪わなきゃ奪われていた。

……違う。そんな言い訳、何の意味もない。
私は、奪っちゃいけないものを、奪ったんだ。
嬉々として、楽しみながら。

36 :
『終幕か。あの男も、そしてお前も』

フェンリルの声が聞こえる。

「……違う。私はあんな事したくなかった。あなたが」

『擦るな小鼠。我は言った筈だ。貴様は我でも、貴様でもない何者かになると。
 力を得れば、人は変わる。善に転ぶ者もいれば……悪に流れる者もいる』

耳を塞ぐ。頭を振る。
それでも声はやまない。

『貴様は、成ったのだ。己の弱さ故に味わった苦渋を、他者に強いる者に。
 我が力と、弱き心を併せ持つ悪に。
 いっそ消えてしまった方が、まだ救いがあったな。小鼠よ』

……何も言い返せない。
だって本当は、私だって分かっているんだ。
私が強ければ。フェンリルの力に溺れずにいられるくらい、強ければ……ノーキンさん達を殺さずにいられた筈なんだ。

私の弱さが、私が、また人を死なせたんだ。

「……ごめんなさい」

殺してしまってごめんなさい。
奪ってしまってごめんなさい。
私は、石畳から短剣を作り出す。

そしてそれを……ジャンさんとティターニアさんへ投擲した。だって、償いをしなきゃいけないから。

「失くさなきゃ……奪ってしまった分、私が失わなきゃ……」

ティターニアさんも、ジャンさんも、私の大切な人達。
だから……償う為には、失わないと。

『砕けたか……つくづく、弱い』

フェンリルの声……その通りだ。私は、弱い。
きっと私はまだ、おかしいままだ。
今している事も、何かおかしいんだろう。

だけどもう……何も考えたくない。
ただ、楽になりたい。
だから……だから私は牙を剥いて、ジャンさんに飛びかかった。

37 :
 


>「ねえアドルフ、この際だから指環の勇者やあの指環狙ってる筋肉エルフもまとめてやっちゃわな〜い?
 そろそろ両方ともフラフラになってる頃だろうしぃ。ほらあれ、漁夫の利っていうやつ?」

「それも悪くない……が、まずは目的を果たしてからだ、姉上」

「えー、仕方ないわねぇ」

アドルフの返答に黒曜のメアリは唇を尖らせて、それからパトリエーゼの死体へ歩み寄り、見下ろす。
双眸を細め、暫し凝視。そして、口を開く。

「……駄目ね。パティの魂……そこにもう、虚無はない」

そこから紡がれる声は先程とは一変して、静やかだった。

「なんだと?」

「ここの人間が、随分と優しくしてくれたみたい。魂が色付いてしまっている……。
 これでは“ワールド・エンブレイス”≪世界を抱く翼≫の贄にはなれない。
 無色透明の世界で、再会する事は……出来ない」

メアリは膝をつき、パトリエーゼを覆い被さるように抱く。

「兄である俺に斬られ、死んだと言うのにか?」

「……そうみたいね〜。うふふ、どう?悲しい?虚しい?……虚無を感じてる?私は、感じてるわ」

「……なら、さっさと済ませろ、姉上。俺も、指環の勇者とやらを斬ってやりたくなってきた」

そのやり取りに、ダグラスが怪訝そうな表情を浮かべた。

「お主ら……その娘を家族として、愛していたのか?ならば何故、殺してしまったのだ……」

「あら、見た目は若くてもやっぱり歳を取ると耳が遠くなっちゃうのかしら。
 さっきも言ったじゃない?無色透明の世界で、エーテリアル世界で、再び出会う為よ。
 もっともその為には……あの子自身が虚無である必要があったのに……!」

瞬間、膨れ上がる虚無の魔力。
一条の閃光がダグラスを襲う。
それを遮る水の障壁。
軌跡を捻じ曲げられた閃光は石床に突き刺さる。
虚無の属性が、大地の属性を塗り潰し、消滅を招く。

「馬鹿な、理解出来ぬ。それほど愛していたのなら、何故この世界でその娘を満たしてやろうと考えなかった」

ダグラスの問いに、今度はメアリが怪訝そうに首を傾げる。

「でしょうね。人の身に生まれながら、人の定めを逸したあなたには、理解出来るはずがない。
 たった百年も生きられない、その生命の殆どを、幼さと老いに支配される、人間の考えも」

瞬間、アドルフが左脇に抱えた水晶を、背後にいるメアリへと放った。
カドムの反応は早い。風の魔力を剣に宿し、鋭く踏み込む。
だがいかにアスガルド流剣術の開祖と言えど、黒騎士を相手に不意は突けない。
アドルフが左手で、逆手に抜刀した短剣が、カドムの一撃を受け止める。

38 :
「アスガルド流剣術……属性魔力を剣と体に宿す、魔法剣か。
 エルフの演芸としては面白いが……俺には通じん。狂犬の牙は、全てを喰らう」

エーテル、虚無の力を宿した剣は、刃を交えるだけでも敵の力を削ぐ。
ましてや剣に宿した魔力であれば尚更だ。
相性が悪い。アドルフの力に逆らわぬ形で飛び退き、カドムは歯噛みする。

「……理解出来なかったでしょう?
 この水晶を、虚無の竜……クリスタルドラゴンを、どう目覚めさせるのかも」

アドルフから渡された水晶を、メアリが抱きしめる。

「火と、水と、大地と、風と、光と、闇と……
 古竜に塗り潰され、あらゆる属性に満たされたこの世界に、純粋な虚無が存在し得る隙間はない……。
 ただ、一箇所を除いて」

刹那、無の水晶から尋常ならざる気配が溢れた。
気配だけだ。
熟達したエルフの第六感でさえ、その存在を完全に知覚する事が出来ない。

「真の虚無は、人の心に。パティ……あなたともう、二度と会えない……。
 その虚無を……捧ぐわ。この世界を包む透き通る翼……
 古の神が隠した、世界を禊ぐ者……クリスタルドラゴンに」

不可視の気配が、メアリの体を通り抜け、そして膨れ上がる。

「あぁ!あぁ!パティ……あなたを失った喪失感すら、失っていくのが分かるわ!
 私、今、最っ高に……何もない……虚無的……だわ……あぁ……」

恍惚の表情でメアリが身悶えする。
彼女が膝から崩れ落ち、同時、不可視の気配が空へと昇る。
そして高度な防御魔法を施された天井を『掻き消して』、どこかへ消えていった。

「神造竜?……なるほど。満たされた者には、決して解けぬ封印、か」

ダグラスが得心がいった、という様子で呟く。

「クリスタルドラゴン……その正体は、神の遺した権利か。
 古竜が塗り替えたこの世界が、そこに生きる者にとって苦痛でしかなかった時、再びエーテリアル世界を蘇らせる為の」

彼は暫し考え込み、メアリとアドルフを見据える。

「去れ、この世界を受け入れられぬ者達よ。
 これが神々によって定められた戦いならば、決着をつけるべきはここでも我らでもない」

「ダグラス!ここで終わらせるべきだ!この世界に生きているのは神でも古竜でもない!」

親友の抗議に、しかしダグラスは首を横に振る。

39 :
「……いや、お引き取り願おう。ワシはまだ死ぬのも、友を失うのも御免じゃからの。
 虚無が故郷であるならば、此奴らはまさしく死兵じゃ。
 あちらが敗戦濃厚であるからこそ……ワシらも、何も奪われずには勝てまい」

「あら、優しいのねお爺ちゃん。じゃ、お言葉に甘えて……帰っちゃおうかしら」

「……いいのか、姉上」

「よくないぞ、姉上……って言いたそうな顔してるわよぉ?
 ま、ここで派手に散るのも虚無的で素敵だけど……今は帰りましょ。
 パティをエーテリアル世界に送ってあげるには……ドリームフォレストとは、あまり険悪になるのは良くないわ」

妹の名を出されると、アドルフは一瞬渋い表情を見せ、剣を収めた。
メアリがその場でくるりと、右足を軸に回転すると、地面に魔法陣が浮かび上がる。
転移の魔法陣だ。

淡い光がメアリとアドルフ、パトリエーゼの亡骸を包む。
光が収まると、彼らの姿はもうそこにはなかった。



【ノーキンさんお疲れ様でした!やりたい事好き放題やらせてもらえて超楽しかったです!是非また一緒に遊びましょう!
 
 ラテをどういう風に止めるのかは、ジャンさんティターニアさんにお任せします。どんな形になろうと美味しいです。
 ユグドラシア側は……なんか思いついたからそのまま書き殴っちゃいました。辻褄はよくわかってないです!】

40 :
>「それでこそ……指環に選ばれた者だ。そして貴様も理解しているだろう――そこは我が間合いだ!!」

確実に心臓を貫くためにより踏み込んだ一撃は、臓器を穿った感触こそあったが代償は大きいものだった。
直後に飛んできた裏拳を防ぐために張った水流の壁はわずかに方向を逸らしたものの
ジャンの頬に直撃し、歯が何本かへし折れて吹き飛び口の中を跳ねまわった。

「――痛えじゃねえかァ!!」

口内に残る嫌な感触を噛みしめながら、突き刺した水流の槍をさらに深く抉りこむように刺す。
わずかな体力と気力を振り絞りジャンは立ち続け、執拗に何度も抜いては突き刺す。

>「……痛恨である。指環一つならば如何様にもなったはずだが……ここにあるのは二つであったな。
 基本的な足し算すら失念していたとは……吾輩もどうやらヒトの子であるらしい」

そう語りながらジャンが突き刺し続けていた槍を掴み、なんと片手で握り潰した上引き抜いてしまった。
だが氣は既に体内からなく、溢れ出る血液はノーキンが気力のみで立ち続けていることの証明だ。
ジャンは槍が引き抜かれたときに思わず腰を抜かし、ヒトにしてヒトを超えようとした者の最期をただ見つめることしかできないでいる。

ノーキンはジャンを気に留めることもなく、語り続けながらゆっくりと歩き始める。
指環の魔力とフェンリルの力で作られた岩石の根を強引に振り払い、目の前に立つティターニアの指環へ向かって。
だが一歩、二歩と続き、三歩目にしてノーキンはついに足を止め、力尽きたかと思われた。
再び根が歩みを止めた彼を縛るべく伸びた瞬間、彼が最後に叫んだ言葉は呪詛のような遺言ではなかった。

>「――指環の継承者達よ!見事なり!!」

むしろジャンたちの旅路を祝福するような、堂々とした咆哮は彼の生涯を表すものだったのだろう。
そこから彼は一歩も動くことなく、静かに人生を終えた。

「……エルフ爺め、最後まで好きなように動きやがって。
 ティターニア、ラテ。とっととユグドラシアに戻ろ――」

短い黙祷を済ませた後、人形に突き刺さっていたサクラメントを引き抜く。
さらに軽く悪態をついて二人を見た瞬間、気づいた。ラテの様子が明らかにおかしい。

>「……ごめんなさい」

石畳の一部が剥げ、石で作られた短剣状の何かが宙に浮かぶ。
そしてラテは――それを無造作にジャンとティターニアへ投げた。

「バカ野郎!いきなり何やってんだよ、気でも狂ったのか!?」

慌てて水流の壁で方向を逸らし、後ろにあった家屋の壁に短剣状の石片が突き刺さる。
避けなければ間違いなく脳天に突き刺さっていたその一撃にジャンは思わず怒鳴ったが、なおもラテの様子は変わらない。

>「失くさなきゃ……奪ってしまった分、私が失わなきゃ……」

そう呟きながら、ジャンへとラテは跳躍した。
殺意をむき出しにしたそれは、避けなければ間違いなく喉笛を噛みちぎられる一撃だろう。

(心が不安定なところでフェンリルに何か言われちまったな!
あのクソ狼ロクなことをしやがらねえ!!)

だが、ジャンは避けない。戦闘の余波で砕けた石畳を踏みしめ、指環を掲げてウォークライを放つ。

「酔っ払いに一番効くやつだ……ようく聞いておけよオオォォォォ!!!!」

指環から大量の水をラテの顔めがけて叩きつけ、跳躍の勢いを失ったところで顔を掴み、ウォークライで頭を揺さぶる。
酒に酔ったり魔術で正気を失った同族に対してオークが行う治療法の一つだ。
一般的にオーク族の間で「頭を冷やせ」と言われた場合にはこのことを指すことが多い。

41 :
さて、ノーキンという指揮官を失い烏合の衆となったソルタレクの冒険者部隊は
もれなくアスガルドの冒険者ギルドに仕留められるか、捕縛されてしまった。

学園内に残った残党も間もなく掃討され、長く続いたこの戦いももうすぐ終わるだろう。

「だけどな、終わった後ってのが大変なんだ、物事ってやつはな。
 まずは負傷者の治療と学園と都市との合同会議だ。それが終われば報酬の支払い。
 壊れた街の復旧作業。ソルタレクのクソったれ共への抗議文」

「冒険者ギルドどうしの戦争なんて歴史上初めてですなあ」

「喜べよギール、お前が数間違えて頼んだ羊皮紙の山全部使うことになるぜ」

アスガルド冒険者ギルド支部、その会議室。
戦闘がほぼ終結し、ギルドの幹部とギルドマスターが一堂に会してこれからの対応について話し合っていた。
アスガルド側も被害は少なくなかったが、捕縛した冒険者たちを労働に使わせることである程度被害は補える見込みだ。

「で、次の話なんだけどよ……敵の指揮官をぶちのめしたっていう連中。
 あいつらが噂の指環持ちか?」

そろそろ白髪が目立つ年に差し掛かったギルドマスターが、テーブルに銀のゴブレットを叩きつけて話す。
それに呼応するように、ギルドの幹部たちもまた各々の意見を述べ始める。

「もしそうだとすれば、面倒なことになりますな」

「私たちは知らなかった方向でいきましょう、彼らは単純に強かったということで」

「……それが一番だな、神話の遺物なんてずっと眠っていてほしいもんだ」

「次の議題に移りましょう、黒騎士が介入していたという報告についてですが――」

【ノーキンさんありがとうございました!パワータイプのキャラどうしのぶつかり合いでも
 色々やれるもんだということを知ってとても勉強になりました!

 言葉による説得はジャンに向いてないと思うので、ティターニアさんにぶん投げておきます!

 冒険者ギルドの話は勝手に使ってもらって結構です、カドムさんがかっこよく動いてくれて嬉しい…!】

42 :
>「貴様の狼藉は……貴様がフェンリルの肉体を信頼出来ていない証左であろう。
 だからこの期に及んで児戯に走る。貴様は最早人間ではないのだ。人間の技を戦場に持ち出してどうする」

テッラの抱いた疑問と同じような内容のことをノーキンは冷静に指摘する。
ラテの容赦ない揺さぶりを受けて尚ノーキンは取り乱す事なく、
それどころかラテの煽りが逆に戦闘への集中力を高める方向へ作用しているようにも見えた。

>「……児戯だと言っている!」
>「…………!!」

ティターニアの予測した通り、ノーキンはいったんはケイジィごと宝石爆弾を射ち落とさんと拳を引いた。
しかし寸前でそれをやめ、ケイジィを受け止めたのだった。それがどういう結果を齎すか分かっていながら。
それを見たティターニアは奇妙な違和感を覚えた。
あれ程の揺さぶりを受けて取り乱さなかったノーキンがここにきて感情に流されたのは何故か――
そこから暫し、岩の根と規格外の筋肉の激しい攻防が繰り広げられる。

>「吾輩は指環の全てを簒奪する者!たかだか一つの指環相手に止められる五体であってなるものか……!!」
>「行くぞ指環の体現者共よ!これが吾輩の筋肉だ!!」

ティターニアは直感し、同時に戦慄した。
彼は岩の根もろとも竜と聖獣の力を宿したティターニアとラテを吹き飛ばすつもりだ。
そして恐ろしいことに、ノーキンの中ではそれが可能なほどの魔力が膨れ上がっていた。
万事休すと思われた、その時。

>「が……!?」

ジャンの放った渾身の水の槍での刺突が、ノーキンを貫く。
ノーキンはジャンに渾身のカウンターを浴びせると、自らの死を悟ったように語り始めた。

>「……痛恨である。指環一つならば如何様にもなったはずだが……ここにあるのは二つであったな。
 基本的な足し算すら失念していたとは……吾輩もどうやらヒトの子であるらしい」

「何をいっておる、我らはもとより神樹より肉体を授かった精霊――”ヒト”ではなかろう」

>「……魔術の才なき身に生まれ……その境遇を覆す為に吾輩は肉体を鍛えた。
 磨き抜いた我が五体はあらゆる不条理を叩き潰してきたが……ただ一つ、筋肉だけでは跳ね除けられぬものがあった」
>「"死"だけは……ヒトの力で覆すことはできない……出来なかった」

「そうか、そなたは……エルフの身に生まれながら、エルフの定めを逸した者――か」

43 :
ここで彼が言う”覆せなかった死”とは――。
一瞬ノーキンの視線がその腕に抱いた耳が尖った人形に向けられたのを見て、様々な情報の断片が繋がる。
ノーキンがエルフとしては歳を重ねているように見えたこと。噂に伝え聞いた、彼が宮廷を出奔するきっかけとなった事件。
彼がどうしてもケイジィの体を砕くことは出来なかったこと。
そして生体だけを破壊するはずのサクラメントに破壊されたケイジィ。
ダーマ魔法王国が擁するという、死体を魔道人形へと作りかえる禁断の技術――
ケイジィが魔道人形として生まれ変わった娘だったのだとしたら、全ての辻褄が合ってしまう。
いや、そんな上手い話があるはずが、ない。
万が一そうだとしても、今のラテに僅かでもその仮説に至るきっかけを与えてはならない。

>「やすやすと諦めはせぬぞ……!"死"如きが……我が道程を阻めるか……!!」
>「指環の力で……吾輩は……死を打ち砕く……!!」

もうとっくに事切れているはずのノーキンが、一歩また一歩と歩を進めてくる。
それはまさしく、短い寿命に支配される存在――”ヒト”だけが持ち得る凄まじい気迫だった。
エルフという種族は、おしなべて究極的には合理的な思考を持つ。
相手が撤退を許す限り、最後まで戦って散るということはまずないのだ。
ついに歩みを止めたノーキンの最期の言葉は、断末魔でも増してや恨み節でもなく――

>「――指環の継承者達よ!見事なり!!」

純粋に自らの野望を打ち砕いた強者を讃える言葉だった。
自らと同じ瞳の色をした人形を腕に抱き、人形もろとも大樹の根に抱かれての堂々たる立往生。
様々な感慨を込めてティターニアは呟いた。

「この大莫迦者……無様に生き延びれば再起のチャンスもあるというのに。
だが……見事なのはそなたの方だ」

とにもかくにもノーキンが率いてきた部隊はこれで撤退していくだろうが、今は感慨にひたっている場合ではない。
別陣営に攻め込まれたらしい学長陣営の援護に急がなければならないのだ。

>「……エルフ爺め、最後まで好きなように動きやがって。
 ティターニア、ラテ。とっととユグドラシアに戻ろ――」

>「……ごめんなさい」

ラテが突然石の短剣をティターニアとジャンに放ってきた。
放たれたそれを、テッラの盾で防ぐ。硬質な音を立てて双方が砕け散った。
ノーキンの経歴などをほぼ知らぬラテだが、この戦闘の中の僅かな情報から気付かなくていい仮説に至ってしまったというのか。

>「バカ野郎!いきなり何やってんだよ、気でも狂ったのか!?」

「うむ、どうやら”混乱”しておるようだな!」

混乱というのは味方同士で同士討ちさせる類の呪術にかかった状態の通称だが、もちろんただの混乱ではないのは分かっている。
これが、主であるテッラですら手を焼く熾烈なる魔狼フェンリルの血を飲んだ代償――

44 :
>「失くさなきゃ……奪ってしまった分、私が失わなきゃ……」

更にラテはジャンに襲い掛かっていく。

>「酔っ払いに一番効くやつだ……ようく聞いておけよオオォォォォ!!!!」

対するジャンはラテの顔に大量の水をぶっかけ、ウォークライを放つ。
それにひるんだ隙を付き、ティターニアはひとまずラテを木の根で拘束する。
その時人形を抱いたままのポーズのノーキンの両の手の指から、カランと音を立てて地面に何かが落ちた。
魔法装具エーテルメリケンサック――
ノーキンは市場に出回っていたのを大金で購入した模様だが、それは特殊な魔法金属で出来た古代のアーティファクト。
装用者が事切れたことにより、自然と抜け落ちたのだろう。

「ノーキン殿、借り受ける……!」

ティターニアは何を思ったか大地の指環を外し、エーテルメリケンサックをはめる。
案の定、魔法金属は瞬時に形を変え、ぴったりのサイズになった。
それは魔力で盾を作る防具としての側面が注目されがちだが、魔力を筋力に変換する武器でもある。

「ジャン殿、援護を頼むぞ!」

ジャンにそう声をかけ、ラテに対峙する。
とりあえず今は木の根で拘束されているものの、いつ拘束を破ってくるか分かったものではない。
エーテルメリケンサックをはめているとはいえ、大地の指環を外したティターニアが今のラテに殴られでもすれば一たまりも無い。
アルダガ戦の時に凄まじい魔力のぶつかり合いの中に飛び込んだ時と同じ。
もしもラテが自分を害しようとしても、ジャンなら自分が目的を果たすまで守ってくれるだろうという、絶対の信頼だった。

『何をするつもりですか……!?』
(フェンリルを止められるのはやはりそなたしかおらぬ、直接止めてやってくれ……!)

エーテルメリケンサックの力を発動しラテの片腕を取りながら、ティターニアは語りかける。

「ラテ殿、そなたは確かにその者達にとっては英雄への輝かしい道程を阻んだ悪だったであろうな。
しかし善悪なんて誰が決める? そんなものが分かるのは……それこそエーテリアル世界の古き神だけだ。
地上に生きる者にとっては所詮自分にとって都合のいい者が善、都合の悪い者が悪に過ぎぬ。
その上で言うが……本当に助かった、ありがとう。そなたの力が無ければ勝てなかっただろう。
ノーキン殿は我々ユグドラシア陣営が最も苦手とする、死ぬまで止まらぬ――そんな奴だった」

45 :
語りかけながら、異形の獣のものと化したラテの指に、大地の指環をはめる。
指に押し当てれば、指環は形を変えてひとりでに入っていく。

「だから、もうその力を奪おうとは思わぬ。そなたに必要なのは、熾烈な獣の手綱を握り得るもう一つの力だ――」

もはやティターニアにはフェンリルの呪いを解く手段が無いというのもあるが、それ以上に。
例えそれが呪われた禁断の力だとしても、今のラテから力を奪ってはならない。
フェンリルの力を取り除く方向でいけば、ラテはパトリエーゼにそうされた時のように激昂し絶望するだけだろう。
ラテを救う道があるとすれば、その熾烈なる力を制御できるだけの更なる力を得ることだけだ。
だからティターニアは、幾星霜の時をフェンリルと共に過ごしたテッラに託した。
フェンリルを制御できるとしたらやはり彼女しかいまいと――

【>ラテ殿
このまま大地の指環使いになってもらってもいいし落ち着いたら返してもらっても良いぞ! お任せしよう!
>ノーキン殿
ありがとう&お疲れ様! 天晴な敵役っぷりであった!
またいつかどこかで、できれば是非またこのスレでお会いしよう!】

46 :
魔狼の脚力は私を矢のように弾き飛ばした。
瞬く間に、ジャンさんの太い首が目の前にまで近づく。
私は口をめいっぱい開けて牙を剥く。

そして……水の指環から放たれた水流が私の視界を埋め尽くす。
次の瞬間には、私の頭はジャンさんの大きな右手に掴まれていた。
やっぱり……ジャンさんは強いなぁ。

怖い。あの頼もしくて、暖かかったジャンさんの手が、怖くて堪らない。
思わず、目を閉じる。

>「酔っ払いに一番効くやつだ……ようく聞いておけよオオォォォォ!!!!」

「う……あ……」

……だけどジャンさんは私を殺さなかった。
ウォークライ……だっけ……熟達した戦士の雄叫びが、私の頭の中で反響する。
壊れてしまいたかった私の心が押さえつけられて……正気に引き戻される。

ティターニアさんの操る蔦が私を縛り上げる。
だけど……殺意は感じない。恐怖も。
だってティターニアさんは……優しくて、強いから。

>「ラテ殿、そなたは確かにその者達にとっては英雄への輝かしい道程を阻んだ悪だったであろうな。

ティターニアさんが私の右手を取って、語りかける。

しかし善悪なんて誰が決める? そんなものが分かるのは……それこそエーテリアル世界の古き神だけだ。
地上に生きる者にとっては所詮自分にとって都合のいい者が善、都合の悪い者が悪に過ぎぬ。

……だとしても、やっちゃいけない事はある。そうでしょう?
なんて聞いても……きっとそれでも、優しく微笑みかけてくれるんだろうな、ティターニアさんは。

>その上で言うが……本当に助かった、ありがとう。そなたの力が無ければ勝てなかっただろう。
 ノーキン殿は我々ユグドラシア陣営が最も苦手とする、死ぬまで止まらぬ――そんな奴だった」

ティターニアさんが大地の指環を私の指に押し当てる。
いくらジャンさんが守ってくれるとは言え……今の私に、指環の力を与えるなんて。
この人はどこまで、優しくて……強いんだろう。

魔獣の血肉が、消えていく。
だけどパトリエーゼに抱き締められた時みたいになくなった訳じゃない。
テッラさんが、フェンリルを宥めているんだ。

47 :
指環の力が、ティターニアさんの作り出した蔦に乾きをもたらして、萎びさせる。
脆くなったそれは勝手に崩れ落ちて……私はティターニアさんに歩み寄る。

「……ティターニアさんは、強いですね」

そしてそのまま倒れ込むように抱きついた。

「私も、こんな風に……ミライユさんを助けたかった……。
ノーキンさんを、死なせたくなかった……!」

温かい。涙が溢れてくる。止まらない。
ティターニアさんはこんなに優しいのに、こんなに温かいのに……

「怖いんです。戦うのも、逃げるのも……
 生きるのも、死ぬのも……怖い……怖いよぉ……」

……体の震えが、止まらない。

「弱くてごめんなさい……駄目なんです。私、強くなっても弱いままで……。
 人殺しなんか、したくなかったのに馬鹿みたいに強がって。
 わた、私、さっき……ジャンさんと、ティターニアさんを、こ、殺さなきゃなんて……なんで、そんな事……」

自分がした事の恐ろしさに膝から力が抜ける。
その場に崩れ落ちる。
馬鹿みたいに弱い自分が、惨めで、惨めで、私は両手で目を覆った。

「私、弱いから……戦うのも、逃げるのも、怖くて、選べないから……。
 なのにこんな、馬鹿みたいな事は、すぐに思いついちゃって……」

大地の指環を、額に押し当てるように。
ミライユさんが眠る、あの地底都市を思い出す。
私も、あそこで埋もれてしまった方が良かったんだ

「ごめんなさい」

そしてそれは、今からでも遅くない。大地の指環が、琥珀色に強く瞬いた。

48 :
 


きがついたら、いしただみがめのまえにあった。
おでこぶつけた。いたい。
なんだか、ぼーっとしちゃってたみたい。

からだをおこすと、くつとあしがみえた。うえをみあげる。

「……あー、てぃたーにあさんだー」

てぃたーにあさんのおかお、いつみてもきれーだなー。
でも、なんかへんなかお。

「てぃたーにあさん、おなかいたいの?おくすりあげよっか?」

……おなかいたいわけじゃないみたい。
じゃあなんで、へんなかおしてるんだろ。へんなの。

……あれ?

「……みらいゆさんは?どこ?」

まわりをきょろきょろみてみる。いない。

「のーきんさんは?けいじーちゃんは?」

へんなかたちのきがはえてるけど、ふたりもいないなぁ。
なにかが、ぴかっとした。
ゆびわだ。わたしのみぎてできらきらひかる、だいちのゆびわ。

「あ、おもいだした!ゆびわをぜんぶあつめれば、またみんなとあえるんだった!でしょ!てぃたーにあさん!」

えへへ、ふぇんりるさんと、てっらさんのおかげで、わたしすっごくつよくなれた。
だから、きっとゆびわをぜんぶあつめちゃうのも、すぐだよね。

そしたら、またみんなにあえるんだ。
たのしみだなぁ。



【ご、ご、ごめんなさーい!読みにくいのごめんなさい!気まずいの超ごめんなさい!毒電波を受信しちゃったの!
 
 ごめんなさいついでにもう一つ、ちょっと次章からキャラを変えたいと思っております
 ラテに関してはもし良ければ同行してるけど空気くらいの扱いにしてもらえればなーなんて
 だ、大丈夫ですかね?あ、指環の所有権はおまかせ返しします!】

49 :
>「ジャン殿、援護を頼むぞ!」

ティターニアがそう叫ぶのに合わせ、ジャンも顔を掴んだ右手を離し両手でラテの両腕をがっちりと掴む。
ラテがいつ再び暴れるか分からない今、抑えつけている間にティターニアの説得が功を奏するのを待つしかない。

>「ラテ殿、そなたは確かにその者達にとっては英雄への輝かしい道程を阻んだ悪だったであろうな。
しかし善悪なんて誰が決める? そんなものが分かるのは……それこそエーテリアル世界の古き神だけだ。

ジャンにとって、殺人は慣れたものだった。
野盗、山賊、他の冒険者。相手が襲ってきた場合がほとんどだった。
最初は自分を守るためにやむなくの行動だったが、一時期は山賊の砦を見つけては他の冒険者と組んで襲撃していたこともあった。
ラテのように殺人の善悪について悩むことは、いつの間にか通り過ぎてしまった。生きるためにやむをえないのだと、自分に言い聞かせているうちに。
だからこそ、ジャンはラテの苦悩を聞いてやるべきだったのだ。
誰にも話せず抱え込んでいる間に、ラテは自らの重さに潰されようとしている。

>「……ティターニアさんは、強いですね」

やがてティターニアが喋り終わり、ラテの狼のような指に大地の指環を嵌めた。
フェンリルの血肉を身に纏ったラテは指環の加護によって消え去り、今ここにいるのは一人の冒険者だ。

>「私も、こんな風に……ミライユさんを助けたかった……。
ノーキンさんを、死なせたくなかった……!」

ラテの全身から力が抜け、ジャンも掴んでいた両腕を離す。
毛むくじゃらの魔獣の腕ではなく、細いたおやかな腕を。

>「怖いんです。戦うのも、逃げるのも……
 生きるのも、死ぬのも……怖い……怖いよぉ……」

「……ちょっと戦闘が長続きして、不安定になってんだよ。
 怪我治して飯食って寝れば、納得のいく答えが見つかるって」

どう声をかければいいかジャンは分からず、結局思いついたまま適当な言葉を並べた。
年を重ね、経験と知識が合わさったティターニアとは違ってジャンは語るということをあまり得意としていない。
心を癒す魔術なんてあったかとティターニアに聞いてみようとした瞬間、ラテが指環を額に押し当てた。

>「ごめんなさい」

「―――おいっ!」

指環が琥珀色に輝き、一瞬辺りは光に包まれる。
光が消えた直後、ジャンは水の指環からアクアの声が聞こえるのを感じとった。

50 :
『ジャン。彼女はもう……耐えられなかったようだ。
 指環の膨大な魔力で自分を……戻してしまった。無垢で純真だった頃に』

>「……あー、てぃたーにあさんだー」

そこにいたのは、ラテだ。
石畳に倒れていたが起き上がり、ティターニアの顔をじっと見つめている。

>「てぃたーにあさん、おなかいたいの?おくすりあげよっか?」

『先に言っておくが、この指環で元に戻そうと考えない方がいい。
 君の考える彼女の人格が彼女の中に入るだけで、元の彼女では決してない』

「ああ……クソッ!ちょっと黙ってろ!」

>「……みらいゆさんは?どこ?」

もう冒険者のラテはいない。心が壊れる前に心の一部を忘れてしまったヒトが、ここにいるだけだ。
ジャンはティターニアの方を向いて、肩を掴んで叫ぶ。

「ティターニア!!なんとかならねえのかよ!薬とか魔術とか!
 諦めさせるにはまだ早えだろう!?」

>「あ、おもいだした!ゆびわをぜんぶあつめれば、またみんなとあえるんだった!でしょ!てぃたーにあさん!」

ラテはジャンを気にすることなく微笑んで元気に喋っている。
まるでそうすることでしか、自分を保てないというように。

「仲間が増えて……指環を手に入れて……無事街を守って……それで終わりでいいじゃねえか……
 なんだってこんな……こんなもののせいで!」

嵌めていた水の指環を強引に外し、地面に思い切り叩きつけた。
だが指環は壊れることなく、大海の如き輝きを放ったままだ。

「指環があるからだ!みんな欲しいあまりにおかしくなって、最後には壊れちまう!
 なんでこんなものを作った?世の中をまともにしたいなら他人任せにするんじゃねえ!!」

ジャンは心のおもむくままに叫んだ。
いつしかジャンは、自分が泣いていることに気がついた。
それは変わり果ててしまったラテを悲しんでか、あるいはそれを止められなかった自分へのふがいなさにか。
様々な感情がごちゃ混ぜになった心を抑えきれなくなったかのように、ただ泣き叫んだ。


【ラテさんまさかの精神崩壊√とは……これにはジャンも絶叫物です
 同行とキャラ変更に関しては自分は異論ありません!】

51 :
大地の指環に宿ったテッラがフェンリルをたしなめるのに成功したのだろう
ラテの獣化が解除され、元の姿に戻っていく。

>「……ティターニアさんは、強いですね」
>「私も、こんな風に……ミライユさんを助けたかった……。
ノーキンさんを、死なせたくなかった……!」

泣きながら倒れこんできたラテを無言で抱きしめる。
ティターニアが見るに、ラテは決して弱いわけではない。
ただ自分が背負える許容量も考えずに見ず知らずの他人の身を案じて自ら災いの渦中に飛び込み
他人の痛みを慮るあまり背負う必要の無い痛みまで肩代わりして背負いこんでしまう。
この戦乱の世を生きるには優しすぎて繊細過ぎるのだ。
もしも平和な時代に生まれていたらどんなに素晴らしい特性だったことだろう。
裏を返せばティターニアが強いわけでもない、強いて言うなら鈍感力が強いのだ。
繊細過ぎる者や純粋過ぎる者が一歩間違えれば精神崩壊に追い込まれたり振り切れて過激な道に走り
ある種の鈍感な者があっけらかんと生きている――
それが、紛れもないこの世界の一つの側面。

>「怖いんです。戦うのも、逃げるのも……
 生きるのも、死ぬのも……怖い……怖いよぉ……」

>「……ちょっと戦闘が長続きして、不安定になってんだよ。
 怪我治して飯食って寝れば、納得のいく答えが見つかるって」

ジャンの言葉に無言で頷く。
精神の平静を取り戻す魔術はあるにはあるが、それが功を奏すのは魔術によって錯乱させられたり突発的な事態に慌てている時だ。
あまりにも根が深い理由で動揺している今のラテには意味を成さないだろう。

>「弱くてごめんなさい……駄目なんです。私、強くなっても弱いままで……。
 人殺しなんか、したくなかったのに馬鹿みたいに強がって。
 わた、私、さっき……ジャンさんと、ティターニアさんを、こ、殺さなきゃなんて……なんで、そんな事……」

「もうよい、何も言わなくてよい。フェンリルの血の影響だ……。
フェンリル殿には今頃テッラ殿が滾々と説教してくれておるであろう」

>「私、弱いから……戦うのも、逃げるのも、怖くて、選べないから……。
 なのにこんな、馬鹿みたいな事は、すぐに思いついちゃって……」

ラテは未だ動揺しているが、フェンリルの獣化が解除された時点でとりあえず危機は脱しただろうと思っていた。
しかし次の瞬間、その見通しがあまりにも甘かったことを知ることとなる。

52 :
>「ごめんなさい」

ラテは指環の力を、全てを埋もれさせるという大地の持つ一つの側面を――発動してしまった。
辺りが琥珀色の光に包まれ、ラテが崩れ落ちるようにその場に倒れる。

「――ラテ殿!?」

>「……あー、てぃたーにあさんだー」

すぐに起き上がってきた事にはひとまず安堵するものの、明らかに様子がおかしい。

>「てぃたーにあさん、おなかいたいの?おくすりあげよっか?」
>「……みらいゆさんは?どこ?」

「ラテ殿……そなた……」

現状に耐えきれなくなったラテは、全てを埋もれさせて幼い頃に戻ってしまったようだった。
ティターニア達が知っているラテはもうそこにはいない――

>「ティターニア!!なんとかならねえのかよ!薬とか魔術とか!
 諦めさせるにはまだ早えだろう!?」

ジャンに詰め寄られたティターニアは、ラテの指から指環を外して問いかける。
唯一の希望としてテッラに託した結果がこれだ。もはやティターニアの力でどうにかなるはずはなかった。

「テッラ殿、どういうことだ……!」
『……こうするしかなかったのです。
もしも無理矢理元に戻せば彼女は自らで自らを殺めることになるでしょう……』
「そ……んな……」

――どこで選択肢を間違えたんだろう。どうすれば彼女はこうならずに済んだんだろう。
この戦いが始まる前にパーティーを抜けさせていれば。
あの時小賢しく後先考えたりせずに形振り構わずミライユを助けるために全力を尽くしていれば。
最初に出会った時に同行を許可していなければ――

>「仲間が増えて……指環を手に入れて……無事街を守って……それで終わりでいいじゃねえか……
 なんだってこんな……こんなもののせいで!」
>「指環があるからだ!みんな欲しいあまりにおかしくなって、最後には壊れちまう!
 なんでこんなものを作った?世の中をまともにしたいなら他人任せにするんじゃねえ!!」

ジャンが指環を地面に叩きつけ、形振り構わず泣き叫ぶ。
そうだ、指環――ラテだけではない。
マジャーリン、ミライユ、タイザン、ノーキン、ケイジィ――
みんな指環を巡る戦いに身を投じて、あるいは巻き込まれて死んだ。
生死不明ではあるが、アルバート、コイン、ナウシトエだってそうかもしれない。
指環の勇者の旅とは、出会った者や同行した者を死に追いやりあるいは不幸に陥れる旅でしかなかった。

53 :
「は、ははははは、これではまるで……死神……だな」

乾いた自嘲の笑い声が漏れる。
あの時軽い気持ちでアルバートに同行したのが始まりか。いや、それよりもっと前。
気まぐれで竜の指環を探してみようなんて思ったのが、そもそもの間違いだったのだ――
ティターニアは大地の指環を力なく取り落とし、膝を突いて絶叫した。

「う……うああああああああああああああああああ!!」

不意に、地面に転がっている二つの指環がふわりと浮かびあがるのが視界の端に見えた。
それを呆然と目で追うと、指環は白銀の魔術師の手の中におさまる。

「愚か者共めが、今更気付いたのか……遥か古より続く呪われた因果に。
歴史上の戦乱の全てが指環を巡る争いといっても過言ではないのだ」

ジュリアン・クロウリー ――元、帝国の主席魔術師にして、現、ダーマ魔法王国の宮廷魔術師。
言うまでも無く、この旅始まって以来の行く先々に指環を狙って現れる宿敵だ。
いや、もはや指環を集める旅を続ける気力を失った今となっては宿敵だった――というべきか。
彼は精神崩壊したラテと、打ちひしがれているジャンとティターニアを見回しつつ言う。

「暫定指環の勇者の旅もここまでか――貴様らには過ぎたる玩具だったということだ。
アイツが同行者として認めた奴らならもう少し骨があると思ったのだがな……。
まあいい、要らぬなら貰い受けるまでだ――」

「ああ、それで四つ揃ったのだな……早く呪われた因果とやらを終わらせてやってくれ」

もはや抵抗する気力もなく投げやりに答えるティターニア。
しかし、それに対するジュリアンの言葉は予想外のものだった。

「残念ながらまだ揃ってはいない。指環は七つ――――
イグニスが貴様らに告げた言葉――四属性の竜を訪ねよという言葉は最初の段階に過ぎん。
そもそも……まだ四つ揃ってもいない。
風の竜ウェントゥス――あれはおそらく、すでに”虚無”に取り込まれている」

虚無――エーテル属性を、一字で表す言葉は、風と近いイメージもある「空」。
そしてエーテル属性の魔術には、カラーレスウィンド、セフィアトルネード等、風と親和性のあるものも多い。
それが偶然ではないとすれば、”虚無”に最初に取り込まれるのが風だとしても、何ら不思議はない。

「手を組んでいたのではなかったのか!?」

「騙されて乗せられている振りをしているだけだ。他の三つの指環を揃えてきたら風の指環をやろうという言葉にな。
奴の真意は分からぬが大人しく指環を渡すつもりはないのは確かだ。戦いは避けられぬだろうな――」

「どうせそなたなら楽勝であろう? 毎度竜を一人で……」

そこまで言ってから気付いた。
竜が死ぬことで指環が完成するのだとしたら――
今までに彼が倒してきたのは、すでに指環を委譲し、最終的に負けることを前提とした竜達だ。
でも、今度は違う。本気で相手を潰さんとする本当の竜の力は――未知数。

54 :
「……もしも負けたらどうなる?」

「よもやそんなことはなかろうが、万が一そうなったら……世界は虚無に飲まれるだろう。
故に指環を巡る舞台を降りてくれて助かった。貴様らが来たところで足手まといにしかならぬからな。
風の竜が鎮座するは……風紋都市シェバト――ウェントゥス大平原の中心にある」

「虚無に飲まれる……だと!?」

いくら指環を三つ持っていたところで、指環を巡るどの伝説を見ても、扱える指環は一人一つまでだ。
彼ならそんな常識は軽く超えていくのかもしれないが、本気で足手まといだと思っているのなら、何故行先を教えた?
本当のことを言っている保証もない、罠かもしれない。
それでもティターニアには、ジュリアンが追ってこいと言っているように思えた。

「俺としたことが、無駄話が過ぎたようだ。最後に一つ教えてやる。
古竜とは世界そのもの――指環を全て揃えた者は世界のすべてを手に入れる――
例えば、そいつを元に戻してやるぐらい、造作もないだろうな」

ジュリアンはそう言ってラテを視線で示し、転移の術で姿をかき消したのであった。
指環を揃えれば、ラテを治すことが出来る――
指環の力で死を打ち砕くと言ったノーキンの究極の目的は、指環の力でケイジィを甦らせることだったのかもしれない。
何を置いても叶えたい強い願い――それが彼の強さの根源だったのかもしれない。
純粋な願いは、一歩間違えれば狂気に堕ちる危険なものなのかもしれない。でも、それでも――
しばらくの沈黙の後、ティターニアは静かに宣言した。

「ラテ殿、ジャン殿、我は行くぞ――」

【ティターニア「打ちきり最終回オナシャス!」ジュリアン「だが断る」
ラテ殿の扱い&キャラ変更了解した! 一巡して今章終わりな感じで!
指環は没収されてしまったが次章ですぐに返してもらえると思うのでご安心を。
ジュリアン殿はもうあからさまに味方キャラになる流れなので
ラテ殿は次章以降のキャラの選択肢の一つに入れてもらってもいいと思う!】

55 :
名前:グラ=ハ・スタン・ツタラージャ
年齢:19歳(転生後)
性別:男
身長:178cm
体重:72kg
スリーサイズ:細め、筋肉質、ガッチリ
種族:人間(前世はインキュバスハーフ)
職業:魔道研究員
性格:自由で奔放、刹那主義
能力:透視、女性を操る能力
武器:水晶玉と複数のナイフ
防具:布製の青紫色のローブ
所持品:水晶玉、複数の薬品、女サーヴァント一名
容姿の特徴・風貌:真っ白な髪をボサボサに伸ばし、肌も白く、そこに青紫のローブを羽織るため目立つ容姿。
顔立ちは非常に整っており、甘いマスクはあらゆる女性を虜にしてきた。
簡単なキャラ解説:
ダーマ魔法王国の密偵の一人だったが、転生後は堕落してユグドラシアの研究員の一員として収まっている。
元はインキュバスハーフだったが、自身の研究で人間として転生し、0歳で既に意思を持ち、赤ん坊としてユグドラシアに育てられた。
女を虜にする能力を引き継いでおり、常によからぬことを考えている。
目標はティターニアを堕落させ、ダーマの信奉する「大天使」として彼の傀儡として「降臨」させること。
ダーマに併合されたツタラージャの王族の血を引いている。


「できるよ」

グラ=ハが女の問いに応える。
ここはユグドラシアの「地下棟」と呼ばれる場所。
女。現在の彼のサーヴァントであるラヴィアンは、ここ半年ほどは彼の下で身の回りの世話をしている。
研究者というのは、学長によって比較的自由に権限を与えられていた。
先の敵の侵入の際も、この部屋に複数配置された水晶球で様子を見るだけで、
数人の犠牲を出した学園側の戦いぶりを「観戦」しているだけだった。

56 :
ラヴィアンが艶かしく裸身をくねらせ、蛇のようにグラ=ハの身体に触れる。
それを裸のまま無視するように、壁の方にある水晶球を見つめ、笑みを浮かべる。
先ほどまで愛し合っていたとはとても思えない執着振りだ。

「グラ=ハ様は学園を乗っ取られるのですか?」

彼はその問いかけには答えない。できる、とは言ったがやるとは言っていない。
その瞳が捉えたものは、両手で目を覆いながら崩れ落ち、まるで幼児のような眼で周囲に甘えている女、ラテの姿だ。

「この女はすぐに堕ちる」

グラ=ハは、その数百年分ともいわれる知識を働かせながらも、一つのことに執着していた。
ティターニア。
彼が赤ん坊の頃から注目していた女だ。
自分と同じく数百年以上を生きる存在でありながら、全くブレが無い。精神にブレが無い。

「いや、堕とそう。壊れてしまっても構わないよ。あいつが、ティターニアが僕のものになるならば…」

再び忠実なサーヴァントであるラヴィアンへと目線を変える。
するとラヴィアンの眼のハイライトがあっという間に消えてなくなった。これが「堕ちる」ということ。
この棟だけで、既にグラ=ハの自由になる女たちが五人以上はいる。
他にもあちこちの女を虜にしており、アスガルド市街にはもう二人の「隠し子」まで存在するほど。
先ほどの戦いでも参加していたが、死人は出なかった。少なくとも自分の手駒からは…

「あまり手荒なことはしたくない。病人として担ぎ込むのも手だけど、
ティターニアがピンピンしてる以上、何があってもおかしくない。僕は彼女を買っている…」

裸身のままベッドを降りると、グラ=ハは翼を広げた大きな透明の彫像のようなものに触れ、撫ぜる。
中にはコポコポと音を立てた薄赤の液体が満たされている。

「ティターニアを弱らせ、堕落させ、ここに入れる。大天使の復活って訳さ」

尚も艶かしい声を出してグラ=ハの肌に触れるラヴィアンの頭を撫でると、首筋のあたりまで往復させる。
すると、彼女は気を失い、床へと倒れ込んだ。毛布が掛けられる。

「破壊するのは容易い。操るのが大変なんだよね、女ってのは」

ローブを着込むと、グラ=ハは髪が目だたぬよう、フードの中に隠す。
これでただの魔術師風の優男に見えるはずだ。魔力を隠すのも彼は上手い。

服を着せたラヴィアンを連れ、上のフロアに行くと、数名の研究員たちが居た。
グラ=ハとの連絡役も兼ねている。その中の一人の女性もまた、彼の言いなりだった。

「ラウラ、上にいるティターニア様たちとの慰安がしたい。護衛の冒険者たちも疲れているようなのでね」

いくつかの道具をグラ=ハが見せる。ラウラはグラ=ハと眼が合うと、すぐさま動き出した。
彼女もダーマ魔法王国の出身で、実は内通者の一人でもある。しかし、彼に魅せられているのはまた別の話。

グラ=ハ、ラヴィアン、ラウラの三人が、ティターニアたちの部屋に迫る。


(まず新規参入、よろしくお願いします。今のところ直接絡むかどうかまでは指定しません。
一気に絡めるのもあり、現時点ではスルーというのもありです)

57 :
【今回ラテはパスさせてください……
 何故なら今の状態で長いレスを書くのは自分にも皆さんにも優しくないから!
 
 指環を奪ったジュリアンに「わたしのゆびわ!」なんて飛びかかろうとするけどいなされて
 難しい話されてきょとんとして
 でもティターニアさんが立ち直ったらころっと忘れて「わたしもいくー!」……そんなていでお願いします

 ジュリアン君!初期からのキーパーソンを持ちキャラに……
 ツンデレ属性も嫌いじゃない……
 ……けど私かわいい女の子が動かしたいんですよね!
 


 実はジュリアンちゃんだったって事に……いやないな……ないない……】

58 :
>グラ=ハ殿
ようこそ!よろしく頼む! そのシーンは次章の冒頭部分ということになるかな。
当面は腹に一物抱えつつもパーティーメンバーとして同行という立ち位置でいいだろうか。
もしも次章で中ボスをやりたい等の希望があればあらかじめ言っておいてくれたら助かる。
一つの章に別勢力の敵役が二人以上は実質出演しにくい関係上敵役希望の人が参加を考える関係もあると思うので。

>ラテ殿
パス了解した。ジュリアンちゃん――その発想は無かった! 本が薄くなるな(爆
実際女性と見紛う美貌設定だから無くは無いとは思うがそれは「可愛い女の子」ではなく「クールビューティー長身美女」だと思うのだ。
可愛い女の子で味方側PCとして使えそうな既存キャラならシュマリ殿ホロカ殿がいるしもちろん新キャラでもOK!

59 :
毎度恒例の次章(から)の参加者募集要項(?)
既存NPCをPC昇格させても新キャラでもOK
次は風の指環編の予定

・パーティーメンバー参加・・・特に人数制限無し

・敵役参加・・・いわゆる中ボスポジション。前例を考えると実質一つの章に二人以上は出にくいのかも?
ただし同一勢力なら二人以上でも自然にいけると思う

パーティーメンバーとして潜入してからの中ボス化だったり逆にまず敵役で参入してからの味方化もアリ
両パターン共に希望があれば言っておいてくれれば念頭に置いておこう

・風の竜ウェントゥス、風の守護聖獣
このポジションをPCでやるのも面白いかも
これは元から登場はほぼ確定している人達なので上の敵役参加枠とは別枠で大丈夫

60 :
名前:フィリア・ピューピア
年齢:1歳と2ヶ月
性別:雌……?
身長:72cm
体重:2kg
スリーサイズ:うん
種族:森と虫の妖精
職業:おうじょさま!
性格:お子様だけどそれなりにおうじょさまの自覚もあるよ!

能力:蝶のような身のこなし・王の力『ロイヤル・ファミリー』
武器:短剣『レギナ・ピアース』
防具:マント『森の切れ端』

所持品:瓶詰めのはちみつがたくさん・故郷の森から持ってきた物々交換に使えそうな物が色々

容姿の特徴・風貌:四頭身。小さな触角。玉虫色の髪。普段は淡い翠色。長さは短め
         頭に留まっているお友達の司書蝶リテラちゃん。普段はリボンに擬態している。
         大きめのマント。その下から覗く鮮やかな蝶の羽。

簡単なキャラ解説:

ですのですの!わたくし、おうじょさまですの!
人間のみなさまと虫のみんなが仲良く暮らせる世の中を目指して旅の最中ですの!
ユグドラシアには、ハイランド連邦の中でも特別、異種族に寛容だと聞いて尋ねてきましたの!

突然ですが、みなさま、もし人里にエルフさんが歩いていたら、どう思いますの?
「あ、エルフだ。最近は人間の住んでるとこでも見かけるようになったなー」とか、そんな所ではありませんか?

ではオークやリザードマンなら?
「うげっ……いやいや種族差別はよくないよな。話してみれば案外気さくだったりするらしいし……」とかでしょうか

では、オオムカデが人里の往来を練り歩いていたら?
「衛兵さーん!魔物が!魔物がー!」って、なりませんこと?なりますわよね?なるでしょう?

……なんでそーなるの!ですの!
虫族にだって知性を持った者はいますの!そりゃちっちゃい子達はみんなあんまりものを考えてませんけども!
魔物サイズに大きくなればその分あたまだってよくなりますの!え?わたくしもちっちゃい?がう!

この虫達へのあっとうてきな差別感情……これはゆゆしき問題ですの!
なにがゆゆしいって、このままじゃ周りの種族や国々にあらゆる面で置き去りにされて
その内滅ぼされるかどれーにされるかの二択が待ってますの!

わたくしちっちゃいけど、かしこいから知ってますの。昔、和の国もそれで痛い目を見ているんですの
だからわたくしが虫達を代表して、人間たちの世界を旅して、虫さん達の国際社会参加を広めていくのですの!

……え?なんでわたくしは人の姿をしているのか?
だってわたくし、妖精ですの。森と虫の妖精ですの

……これまでにも、人と仲良くすべきだと考える虫の王はいましたのよ
だけど、巨大な虫の魔物の姿を見て、人間は話し合おうとは思ってくれませんの

人間との和平、融和を考え、だけどそれを成し遂げられず死んでいった、偉大な虫の王たち
わたくしは彼らの失意に飲まれた夢の、その欠片の結実として生まれた妖精ですの

つまり!わたくしは言わば、ぼーこくのおうじょさま!
志半ばで倒れていった王さま達の夢をかなえる義務がありますの!
その為なら、彼らも偉大なる王の力の片鱗を貸してくれますの

ちなみに他の妖精よりずっと大きいのもおうじょさまだからですの!

61 :
次章はこんな感じで行こうと思います!

62 :
あ、あー、味方として参加希望です
もしかしたら敵に回っちゃったりもするかも?

63 :
情緒不安定過ぎる
今回は参加を取り止めた方がスレのためになるんじゃないかね

64 :
名前:スレイブ・ディクショナル
年齢:19
性別:男
身長:普通
体重:普通
スリーサイズ:まあ普通
種族:ガチの人間
職業:ダーマのなんか近衛騎士的なやつ
性格:頭がかなりアレめ。あとガチのマジで語彙力がない
能力:すげー剣術
武器:知性を喰い力に変える魔剣【なんだっけ名前忘れた】
防具:みんな着てるような鎧。着てるとやべーくらい高く跳べたりする魔法とかかかってる
所持品:だいたいいつもの
容姿の特徴・風貌:ドギツい蛍光色のツンツンヘアーやばみを感じる系
簡単なキャラ解説:
通称『ダーマのやべー奴』
白なんとか卿のジュリアンパイセンに付いて護衛とかパシリ的なこととかしてる。
パイセンまじやべーくらいつえーから護衛とか必要ナッシング表明してたけど舎弟っつか勝手に付いていってる系。
ウェントスとかいう超激ヤバいドラゴンをアレするみたいな話らしいけどほぽほぽわかってない。
頭はアレだけど実力はガチでヤバイ。剣とかめっちゃ使う。なんかビームみたいなのも出す。
パイセンがウェントスとアレする間ティタとかジャンとかが余計なことしないように見張っとけってゆわれた。
昨日の晩飯は焼きプリン。


【敵役としてアレしたいと思ってる系です。なんかいい感じのタイミングで混ざりたいっすね】

65 :
名前:クライブ・ストライフ
年齢:19
性別:男
身長:普通
体重:普通
スリーサイズ:まあ普通
種族:ガチの人間
職業:ユグドラシアの護衛とかいうやつ
性格:頭がかなりアレめ。あとガチのマジで性欲ハンパない
能力:すげー剣術とテク
武器:女を喰う力をもらう魔剣【なんだっけ名前忘れた】
防具:みんな着てるような鎧。着てるとやべーくらい高く跳べたりする魔法とかかかってる
所持品:だいたいいつもの
容姿の特徴・風貌:ドギツい蛍光色のツンツンヘアーやばみを感じる系
簡単なキャラ解説:
通称『ユグドラシアのやべー奴』
スレイブの双子の弟。
髪型はやべーけど性欲旺盛でグラ=ハってやつを毛嫌いしている。
ユグドラシアの連中には絶対手を出さないかど、結構他の女には手を出す。
ガクチョーからとりあえず変な虫がつかないようにってことで護衛をたのまれた。
昨日の晩飯はミートローフ。

【味方側として護衛しちゃうタイプのあれ系です。次のタイミングで混ざりたいっすね】

66 :
>ラテ殿改めフィリア殿
可愛い!けど何気に強そう! 改めてよろしく!

>スレイブ殿
次章の敵役枠獲得オメ!
パイセンは最近ツンデレ化の進行が激しいので色々と不可解な言動をとるかもしれないがそれでもいいなら問題ないぞ!
パイセンは共有NPCなのでもちろん動かして貰ってもOK
ところで双子の弟が来てるみたいだが大丈夫だろうかw

>クライブ殿
久々にシンプルな味方側枠キター!(立ち位置としては)
というわけでスレイブ殿がよければそれで
もし駄目でも苗字も違って割とファンタジー世界では稀によくいる髪型だと思うので(?)
兄弟設定の部分だけ無くせばいけると思う!

67 :
私、兄弟設定みたいな大事な事を相談もなしに突っ込むような人とはあんまりやりたくないなー……なんて
いくらなんでも荒らしとか冷やかしの類じゃないんですか、これ

68 :
おれはこれでも頑張って考えて頭捻ってキャラ設定作ってるわけ
つまりこのテンプレは魂の塊っつーか、おれのPLとしてのプライドそのものなんだよ
それをほんの少し弄って下ネタにしただけのコピーキャラ作ってはいこれが僕の新キャラですとか他人に言われたら、
なんつうかすげー馬鹿にされてるとしか思えねーんだよな
クライブ君がどういうつもりでやってんのか知らねーけど、おれはおこだぜ
ガチなおこだぜ

69 :
>クライブ殿
もしテンプレピンポンダッシユの類なら特に以後のレスは不要だ
参加の意思があればすまぬがキャラを作り直してほしい

70 :
皆さん、よろしくですー。

>>58
ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Ycさん

(そですね、基本的に独白を言うだけで、中ボスどころか次章の最後あたりまでは
仲間として行動したいと思ってます。敵勢力ではなく味方勢力の一員と思ってもらえればと。
たまに予兆が出るだけで、裏切るのは大分後になると思います。
ところでレスの順番は章OPや他のみなさんを待ったほうがいい感じです?)

71 :
>>60 
【ラテ改めフィリアさんよろしくです!
 暗い雰囲気になりそうなところに明るいキャラはありがたい…】

>>66
【スレイブさんもよろしくです、魔剣がなければ語彙力の高いエリート騎士なのではと思わせる設定いいですね!】

>>70
【グラさんよろしくです、勘の鋭いジャンは道中怪しむかもしれませんので悪役化頑張ってください!】

72 :
>グラ=ハ殿
立ち位置了解した!
そうだな、ジャン殿の〆後に>56後のシーンに繋げる感じで次章開始しようと思うのでもう少しお待ちを

73 :
その暗い雰囲気を作り出したのも私なんですけどね

74 :
でへへ、途中送信しちゃった
ちょっともしかしたらやっぱキャラかーえた!とか言い出すかもしれません
この世界は楽しすぎて色んなキャラがやりたくなっちゃいます

75 :
叫び疲れたジャンが、ふと地面に叩きつけた指環に目をやる。
指環はカタカタと音を立てて震えたかと思うと、ふわりと浮かんでこの場にいるはずのない男の手に飛んでいく。

>「愚か者共めが、今更気付いたのか……遥か古より続く呪われた因果に。
歴史上の戦乱の全てが指環を巡る争いといっても過言ではないのだ」

ジュリアン・クロウリー。「人の皮を被った魔族」とも称されるダーマ魔法王国の宮廷魔術師。
旅が始まってからずっと、指環を狙ってきた強敵だ。

>「暫定指環の勇者の旅もここまでか――貴様らには過ぎたる玩具だったということだ。
アイツが同行者として認めた奴らならもう少し骨があると思ったのだがな……。
まあいい、要らぬなら貰い受けるまでだ――」

「そんなもんくれてやるよ、早くどっかに行ってくれ」

かつては丈夫な石壁だっただろう岩塊にジャンは腰を下ろし、ただジュリアンとティターニアの話をうなだれながら聞いていた。
長々と二人が指環と竜の秘密について語る中、ジャンは今までの旅を思い返していた。
あの火山から始まり、宿場町で傷を癒し、港で海賊に襲われた。
海底都市にて二つ目の指輪を受け継ぎ、港に戻ってみれば黒鳥騎士アルダガとの戦い。
黒鳥騎士を無事退け、ここアスガルドで三つ目の指輪を受け継いだ。

そして……指環を狙うソルタレク冒険者ギルドからの刺客。
ジャンは迷うことなく立ち塞がってきた者を全て倒してきた。
指環を全て揃え、名誉と共に歴史に名を残すのだと信じて戦ってきた。

>「俺としたことが、無駄話が過ぎたようだ。最後に一つ教えてやる。
古竜とは世界そのもの――指環を全て揃えた者は世界のすべてを手に入れる――
例えば、そいつを元に戻してやるぐらい、造作もないだろうな」

ジャンが思い返す中、ジュリアンが最後に残した言葉がジャンの耳に入った。
一つの指環の力で自らを変えてしまったのならば、全ての指環の力で元に戻すことは容易。
変わり果ててしまったラテを見ながら、ジャンは一つの決意と共にゆっくりと立ち上がる。

>「ラテ殿、ジャン殿、我は行くぞ――」

ラテの手を引いて、ジャンはティターニアの横に並び立つ。
日は既に天頂にさしかかり、いつもならそろそろ昼飯をどうするか考える時間だ。

「――行こうぜ、ティターニア。これからどうするか、飯食って考えようや」

76 :
第4話『虚無の尖兵』(2スレ目262〜3スレ目75)

風の指環を求めて、暗黒大陸にあるというウェントゥス大平原に次の目的地を定めた一行。
しかしそこは切り立った崖に囲まれて通常の手段では入れない平原であった。
そこで一行は、完成間近だという飛空艇が完成するまでユグドラシアに滞在することとなった。
そんな中、ソルタレク冒険者ギルドが襲撃を仕掛けてくるという情報が舞い込んでくる。
襲撃に先んじて斥候が攻め込んでくる混乱の中、ソルタレクの抗争から逃げ出してきたパトリエーゼが一行の前に現れる。
ティターニア達や学長に、ユグドラシアにいていいと居場所を与えられたパトリエーゼは、来たる襲撃を一行と共に戦うことを決意するのだった。
それから3日後、いよいよ本隊がアスガルドに攻め込んできた。
指揮を取るのは、指環を求める二人組の冒険者ノーキン&ケイジィ。
二人と一行の激しい戦闘が繰り広げられる中、学長のいる陣営に別の勢力が攻め込んできたという連絡が入り、そちらの援護へ向かうパトリエーゼ。
その勢力は、パトリエーゼの兄の黒犬騎士アドルフと姉の黒曜のメアリ率いる、エーテル教団の手の内と思われる一団であり、パトリエーゼはアドルフによって殺されてしまう。
彼らは“クリスタルドラゴン”復活のための器である“無の水晶”≪エーテル・クォーツ≫を奪い、
パトリエーゼの遺体もろとも転移の術で姿を消すのであった。
一方のティターニア達は、大地と水の二つの指環の力と、ラテのフェンリルの血を飲むことによる獣化により辛くも勝利をおさめる。
しかしフェンリルの血はラテの精神を取り返しの付かないところまで蝕んでいた。
戦闘終了と同時に、暴走したラテはジャンとティターニアに攻撃をしかける。
なんとか取り押さえ大地の指環に宿るテッラの力を使い何とか暴走は止まったものの、
現実に耐えきれなくなったラテは指環の力を使い自らの精神を幼児退行させてしまう。
あまりの事態に指環を集める旅を続ける気力を無くすジャンとティターニアの前に、ジュリアンが姿を現し、二つの指環を手中におさめる。
彼は風の竜を倒しに行くので追ってこいという意味にも取れることを語り、指環を全て揃えればラテを元に戻す事が出来ると言い残して去っていく。
その言葉を聞いたジャンとティターニアは、ラテを元に戻すために指環を集める旅を続ける決意を固めるのであった。

77 :
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。.第5話開始 .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
こうして、パトリエーゼの死、ラテの精神崩壊という甚大な被害を出しながらも何とかソルタレクの侵攻を食い止めたユグドラシア陣営。
一段落ついた後にティターニア達は学長のダグラスに呼ばれ、互いの顛末を交換しあったのであった。
それから急ピッチで進められた飛空艇の完成まで数日間。
その間に新たな仲間を加えたりしつつ気持ちを新たにし、出発を間近に控えた頃――
ティターニアの研究室に、予想外の来客が訪れるのであった。
ジャンや幼児化したラテ、そして新たに仲間になったフィリアも一緒にいるところに、助手のパックが来客を告げる。

「ティターニア様、誰か来たよー。グリ……じゃなかった、グラとかいったっけ?
なんか旅に同行したいみたいだけど」

「名前をそこで切ると妙に可愛い響きだな……。グラ=ハ……地下棟の研究員ではないか。
しかしあやつはそんなにアウトドア派だっただろうか。まあ良い、話を聞いてみよう」

「いいよ、入ってー」

こうしてグラ=ハ達はパックに部屋に招き入れられた。

【お待たせした、第5話開始だ!
順番は話の流れ的に次はグラ=ハ殿がスムーズだと思う!
その次は前章からの引き続きでラテ殿改めフィリア殿→ジャン殿、という感じだろうか
(ここは特にどちらが先でもいいので入れ替え可)
スレイブ殿はこちらの一行と対面するまでは適宜好きな時に書いてくれ!

>フィリア殿
間延びしてもいけないのでとりあえずもう仲間に入っている前提で始めてしまったが
導入とか出会った経緯なんかがもしあれば最初のレスの冒頭にくっつけてもらうか
機会があればおいおい、という感じで一つよろしく頼む!
(キャラ変更について)
キャラの出入りがしやすいのが章形式の利点の一つなのでそれも一つの楽しみ方としてアリだと思うぞ!
ただし指環とかのキーアイテムは置いて行ってもらうようにはなるがw
それでラスボス戦になったら歴代キャラオールスターで盛り上げるのも楽しそう(←気が早い)
キャラを変えたくなった時は別に大層な離脱理由を考えなくても「故郷に帰るように言われた」とかでもOK!

それととりあえず新章開始したが味方枠等まだまだ空いているので参加者は常時募集中】
Evaluation: Average.

78 :
「やあやあ、皆さんお揃いで。導師様もお元気なようで何より」

グラ=ハが二人の女とともにティターニアの待つ部屋へと入っていく。
そして女の一人、ラウラに眼で合図をし、下がってもらう。

「先日の戦闘では実にご愁傷様だった。僕が研究に没頭していて援護に出られなくてすまない。
だが、これからきっと僕は役に立つと思うよ。丁度外に出る用事があった」

と、言うとグラ=ハは周囲のメンバーを見渡した。
ティターニアの傍にはオーク風の男、ジャン、先ほどまで「すぐ堕ちる」と思っていた視線の怪しいラテ、
妖精のフィリア、そして以前からの顔見知りであるパックと揃っている。

「うん、バランスが取れているようでいてどこか不安定そうな、そんな魅力的なパーティーだと思うよ。
僕のことはティターニアやパックは良く知っていると思う。かつて「神童」と言われていた、
名前をグラ=ハ・スタン・ツタラージャという。うん、グラ=ハで良い。
「神童」とは言うけどね、この国でも言われてるように、「三つで神童も十五過ぎれば只の人」ってね。
だから別の驚くことはない」

ティターニアの姿を改めて上から下まで眺めた。やはり産まれた時から変わっていない。
その端正な顔、細くしなやかなプロポーションは「器」として見ても相応しいものだ。

「僕の主な目的は錬金材料の調達だ。こっちは助手のラヴィアン。ま、彼女みたいなものだと思ってくれていい。
僕側の人間だから、こちらでお互いに守ることになってる。だから旅の間はお構いなし、ってことだ。
で、もう一つの目的はティターニアの護衛だ。僕は研究をやっているし、いつでも「ここ」に戻れる。
そしてどれだけ弱った身体でも治療してみせることができる。だからティターニアは安心して戦うといいよ」

79 :
ラヴィアンに目配せすると、「よろしくね」と答え、恭しくもぶっきらぼうに頭を下げる。
彼女の髪を撫でて肩を抱くようにすると、近くの椅子へと座らせる。

名前:ラヴィアン・ジオフォン
年齢:20歳
性別:女
身長:168cm
体重:54kg
スリーサイズ:それなり、細め、大きい
種族:人間(ただしグラ=ハによりかなり堕落が進んでいる)
職業:魔道研究員
性格:ロマンチストで忠実
能力:攻撃魔法、支援魔法
武器:ショートソード
防具:上はレザーアーマーに下はスカート、マント、全て青紫の装備
所持品:様々な予備品・食料
容姿の特徴・風貌:茶髪でロング、容姿はそれなりに美人。魔法剣士風だが決して機能的な格好ではなくどこか露出度が高い。
簡単なキャラ解説:
元々はユグドラシアのエリート研究員の一人だったが、グラ=ハの手にかかり忠実な部下(サーヴァント)の一人となった。

グラ=ハは腕組みをしながら思案するように眼を閉じて、そしてとりあえずはラテの方へと近づく。
肢体を眺める限りはティターニアよりも凹凸に富んでおり、余程そこらの女よりも女らしい身体をしているが、
その表情はあまりにも幼すぎた。それが改めてグラ=ハの心を煽る。

「何か不安なのかい? 不安なことがあれば僕を頼ると良い。何も心配はいらないよ」

頭を軽く撫でながら、目線を合わせる。一瞬だけだが、ラテの瞳からハイライトが消える。
(この女はもう直に堕ちる…しかし何が彼女をそうしてしまったのだろうな…?)

グラ=ハはラヴィアンの隣の椅子に腰掛け、ポケットから布に包まれた色とりどりの小さな立方体を取り出した。

「例えばこれ。僕の研究の成果品だ。モグモグ…このとおり、料理を凝縮することでサイコロ状の保存食にした。
これは野菜スープだね。味は保証するよ。他にこれが胡椒ステーキ、これが果実の盛り合わせだ。一個でお腹いっぱい。まだ沢山あるよ。
研究などの長時間を使う際は実に重宝する。冒険ではこれを皆さんに振舞える」

小さなキューブを弄ぶようにしてテーブルに敷いた布のあちこちに置いた。「さぁどうぞ味見していってください」といった感じに。

「研究室から情報が入っている。「無の水晶<エーテル・クォーツ>が取られた」とね。
僕はどちらかというとインドアなんだが、黙ってはいられない性質だ。分かるだろ?同じ研究者としてさ。
と、いうことだ。皆さんも賢そうなメンバーだし、僕らも入れて一緒に探しに行こう。飛空艇が近く完成すると聞いている。
たとえそれが、凶悪なドラゴンと相対することになっても…だって僕らはユグドラシアのメンバー、だろう?」

ジャンたちを誉めながら、改めてティターニアに手を差し出すグラ=ハ。ラヴィアンも同時に立ち上がる。
その瞳は自信に満ち溢れていたが、実際のところは「ティターニアにも決して今回は余裕がなく、
隙を伺う僅かな好機が巡った」、という野心に満ちた瞳だった。

「研究員というのは孤独なもんだ。僕が突然ここに現れたことには、何か「因果」のようなものがあるのかもしれない。
この前の襲撃のようなことがなければ、逆に僕もここで一生を終えていたかもしれないね」

ふと、思い出したようにグラ=ハが天を仰いで呟く。

「そういえば「虚無」の魔法についての古い文献で、知り合いの学者と協力して「極大魔法」と呼ばれている類のものを調べている。
その名は「ヴォイド・…何とかというもので、存在そのものを消し去るという恐ろしい魔法らしい。
長く生きていると…おっと、…長く生きているのは君の方だったね、ティターニア」



(いきなりのご指名ありがとうございます。
と、いった感じでグラ=ハとお供のラヴィアンが加わります)

80 :
せっかくの登場シーンに水を差すようですみませんが
今回のラテへのロールは私受け取りかねます。拒否します
次のレスで変換受けをさせてもらいますが、これは大事な事なので先に言わせて頂きました

「この女はもうすぐ堕ちる」って要するに
「この女はもうすぐ特に理由もなく自分に惚れるか何かして情婦Cないし操り人形、もしくは両方になる」
って事ですよね

ラテは現在優先的に操作するキャラではありませんが、それでも私のキャラクターです
所有権を放棄した覚えはありませんし好きに扱っていいとも言っていません。愛着のある大事なキャラクターです

そのラテに対して相談も断りもなく上述のような事を言われて、私はすごくいやな気持ちです
別にそういう意図じゃなかったとしても、どんな意図だったとしても、相談なしにされて気持ちのいい事じゃありません

もっと正直な話をすれば、気持ち悪いです
女を堕とすなんて言っておきながら、する事と言えば頭を撫でて目を合わせるだけというのも、私が付き合って楽しめる気もしません
あなたはライトノベルの主人公じゃないし私もそのヒロインではありません
今後同じようなロールをされても私は同じように拒否します
悪しからず、ご了承下さい

81 :
>「この女はもうすぐ堕ちる」って要するに
>「この女はもうすぐ特に理由もなく自分に惚れるか何かして情婦Cないし操り人形、もしくは両方になる」
>って事ですよね


違います
あなたは極端に受け取り過ぎです

先の展開を話しておきますが、実際に「堕とす」ようなことはしません
これは約束します
一度頭を冷やしてください

念のため、以下を差し替えます


’頭を軽く撫でながら、目線を合わせる。一瞬だけだが、ラテの瞳からハイライトが消える。
(この女はもう直に堕ちる…しかし何が彼女をそうしてしまったのだろうな…?)’
   ↓
’そう言って、’


もう一度言います
今回のあなたの言動は、私を追い詰め追放しようとしている、かなり暴力的な行為です
これはTRPGです
ロールです
お願いですから頭を冷やしてください

82 :
堕ちるなと勝手に思っているだけなら構いませんが、あなたはそうではなかったでしょう
あなたのロールは、あなたが私のキャラクターの精神状態を勝手に操作する事に抵抗を覚えない、相談もできない人物だと
私にそう思わせるには十分でした
被害者面をするな。私はめちゃくちゃ怒ってます
一言謝る前に、お前が極端だと私を責めるあなたを見て、余計にです

83 :
>ラテ殿
>「この女はもうすぐ堕ちる」発言
少し落ち着くのだ
グラ=ハ殿も言っておるが単なる自分のキャラの台詞であって作中の彼が勝手にそう思っているだけだ。実際に堕ちると確定しているわけではない。
相手に相談しなければ自由に台詞も喋れないというのではあまりにも窮屈ではないだろうか
>女を堕とすなんて言っておきながら、する事と言えば頭を撫でて目を合わせるだけというのも、私が付き合って楽しめる気もしません
これはまあ……かといって過激なことをしたらそれはそれでアレだし他人同士が集まっている以上いろいろと嗜好の差はある故
全部が全部ラテ殿が楽しめる演出というわけにもいくまい、ご了承いただきたい。

そんなことよりもラテ殿が本当に今回引っかかったのは決定リールを使っている目のハイライトが消えた描写では?
これについても決定リール・後手キャンセルありなのでルール上はセーフの範疇でサクッと後手キャンセルしてもらえば済むのだが
特にセクシー要素のあるロールは好き嫌い分かれるのは分かる
なので仕掛けられる事自体が不快だったり毎回後手キャンセルするのが気が引ける場合は
今回みたいに大層な理由を述べなくても「苦手なので自分に対してはやめてください」と一言言えばいいと思うぞ

>あなたのロールは、あなたが私のキャラクターの精神状態を勝手に操作する事に抵抗を覚えない、相談もできない人物だと
私にそう思わせるには十分でした
ラテ殿がそう思ったとしても実際にそこまでの描写はなく自キャラのロールの範疇におさまっている以上怒りを露わに糾弾するのはいかがなものかと……。
怒ってしまうのは感情なので仕方がないがそれを表に出さずに穏やかにお願いというスタンスをとった方が何かとうまくいくものだ

>グラ=ハ殿
ということでラテ殿のPLはああいうロールが苦手なようなので
ラテ殿・フィリア殿に対してのあれ系のロールは今後はやめておいてやってほしい
もともとメインターゲットが我ということなので特に大きな問題は発生しないと思う。

議論に労力を費やすのは不毛なのでこの件に関する返信等は不要だ
以後何事もなかったように再開してほしいというのが我の望むところだ

84 :
>◆ejIZLl01yY さん

>被害者面をするな。私はめちゃくちゃ怒ってます

話を聞いてください。
そんな暴言を吐くあなたにはTRPGをプレイする資格はありませんよ。
ですから、これはゲームのロールです。私はあなたに頭を冷やしてもらいたいだけなのです。
何事もなかったかのように再開したいので、穏やかになりましょう。


>ティターニアさん

調停ありがとうございます。了解しました。
前述の通りラテさんに絡んだ部分の文章を削除とさせていただき、
今後のロールについては過激になりすぎないよう、注意していきます。

85 :
やらしー系のロールに限らず今回みてーなキャラの内面に切り込むエモーショナルなロールは
とても非常にデリケートな問題だから
リアクションまで決定ロールで打つ前に相談が必要だったとおれは思うぜ
少なくないカロリーと糖分と想像力を使ってお腹痛めて産み出したキャラなんだ
可愛がってて当然だし、そこに込められた想いは尊重されるべきだ

86 :
おわ、リロードしてなかった
すまねーもう黙ってるよ

87 :
>>86
うん、分かってるよ
だってキミ、ラテの肥満だもんね

88 :
どうしても腹に据えかねる事だけ言って全部忘れます

>ラテ殿がそう思ったとしても実際にそこまでの描写はなく自キャラのロールの範疇におさまっている以上怒りを露わに糾弾するのはいかがなものかと……。

収まってなくないですか?
私は、私を勝手に動かされた事に怒ってたはずです
バトル中のアクション的なものならまだしも、私の精神状態をコントロールされるのは流石に度し難いです

89 :
>>84
>そんな暴言を吐くあなたにはTRPGをプレイする資格はありませんよ。
>ですから、これはゲームのロールです。私はあなたに頭を冷やしてもらいたいだけなのです。

なんで私決定ロール食らった挙句煽られてるんですか?
というか、ロールかどうかはどうでもいいんですよ
私が次のターンで、危険を感じたからとあなたのキャラの首を捩じ切ったとして
それもただのロールですよ。でもあなたはきっと嫌な思いをしますし、もしかしたら抗議をするかもしれません
ゲームだから相手に嫌な思いをさせてもいいってちょっと色々おかしくないですか?
一言謝るのがそんなに嫌ですか?



はい、忘れました!お騒がせしてすみません!

90 :
>>88
いや、精神状態なんてどこでコントロールされた?
ハイライト云々もグラハ目線での主観で傷ひとつ付いてないだろ?
極端に反応しすぎなんだよお前はよ
謝るのはお前じゃね?

91 :
>>88
ラテよう、

とりあえずさ、GM代理であるティターニアはお前さんの暴走を止めようとして味方してくれたんだ。

乱暴な物言いをしたことをここで一言でいいからさ、謝っておくのが筋じゃないかね?

敵をこれ以上増やすことは感心しないよ?

92 :
 


倒壊を免れた建物の上から見下ろすアスガルドの街は、今日も大勢の人が忙しなく動いてますの。
人間だけじゃありませんの。
エルフも、獣人も、オークも、リザードマンも、皆がこの街を元に戻す為に力を合わせている。
思わず微笑まずにはいられないくらい、とても素晴らしい光景ですの。

……視界の中で動く、大きな影を目で追う。
建物の仮組みに糸を張り、支え、資材を持ち上げるビッグスパイダー。
その能力は、このユグドラシアの今において、とても有用ですの。

ダグラス学長様に虫族の都入りの許しを得た矢先に、あの襲撃。
人の不幸を喜ぶ趣味はありませんが……おうじょさま的にはこれはチャンスですの。
われわれ虫族が、ヒトの織り成す社会へと参入する為の、この上ないチャンスですの。

え?お前は一緒に働かないのかって?
……虫にもそれぞれ、得意不得意、果たすべき仕事がありますの。
わたくしのような小さき者が力仕事に混じっても、かえって邪魔になってしまいますの。

え?じゃあお前は何が得意なのかって?
王の力……はわたくしの力じゃないし……。
人々との交渉は……リテラちゃんから結構助言をもらってるし……。

……そ、そう言えばダグラス学長様に一つ頼まれごとをしていましたの!
学長様には格別の便宜を図って頂いてるから、断る訳にはいきませんの!
ええっと、確かティターニア様?の研究室へ向かえば大体分かるとか……。

なのでわたくし、屋上から飛び立ってユグドラシアへ向かいますの。
ふよふよてくてくと移動を終え……ティターニア様のお部屋の前に着きましたの。

……ええと、まずはノックをするんでしたの。
お返事を待って、それからこのドアノブ?を回して、ドアを引っ張れば……。

お、重いですの!わたくしの力じゃこのドアを引っ張れませんの!
ど、どうしよう……開けてくれるよう頼むべきですの……?
いや、ヒトの社会で暮らしていくにはこれくらいの事、出来なくてどうするんですの!
頑張れわたくし!かくなる上は壁を足蹴にして、思いっきり引っ張れば……!

「あのー、どうされました?」

あ、開けてもらえ……

「ぎゃふん!」

ひ、引っ張ってたから勢いよく開きすぎて壁に挟まれましたの……。
い、痛い……もうちょっとわたくしが力持ちだったら潰れてたかも……。

「あ、あれ!?大丈夫ですか!?……って、妖精さん?」

「お、お構いなく……開けてくれて助かりましたの」

ちょっと折れ曲がった触角を整えて、改めてドアの前に立つ。
ええと、ヒト達の間での挨拶は……ドレスの裾を摘んで、こう……ぺこり、と。
あ、合ってるよね?

93 :
「お初にお目にかかりますの。わたくし、フィリア・ピューピアと申しますの。
 ダグラス学長様に、頼みがあるからここへ来てくれと伺って……」

そう言いながら、下げた頭を上げると……狼のような目をした女の子が、わたくしをじっと見下ろしてましたの。
女の子と言っても、わたくしの方がずっと歳下なんですけど……

「……えっと、どうかしましたの?そんなにじっと見つめられると、なんだか怖いですの」

返事がありませんの。
あっ、もしかして研究者の方ですの?それでわたくしの観察をしてるのでしょうか……
などと考えていたら、突然触角をむんずと掴まれましたの。
……え?いきなりすぎて少し呆然としてしまいましたの。
あ、あの?一体なんのおつもり……

「なにこれちっちゃい!かるい!おもしろーい!」

「ぎゃー!いたたたた!も、持ち上げないで欲しいですの!もげる!もげる!」

な、なんですのこの方!この背丈なら結構いいお歳でしょうに!
まるでカブトムシの脚を一本ずつもいでいく子供のような屈託と容赦のなさ!

「あ、てぃたーにあさんにようじがあるんだっけ?じゃあ、はい!」

「ぎええ!」

挙句の果てには放り捨てられましたの!

「い……一体どうなってますの!」

わたくし、思わず声を張り上げてしまいましたの。

「わたくしユグドラシアにはお世話になっていますけども!
 この仕打ちには流石に説明を求めますの!」

ですが文字通り虫けらのように扱われて、それでもへーこらしてるわたくしではありませんの!
それは虫族にとって最も忌避するべき未来ですもの!

……ふんふん、なるほど、こないだの戦いで記憶喪失に。
……それで、治療の術は?
ここの魔法とか、薬とか……効果があるなら、今もあのままの訳がないですわね……。
術はあるけど……とてつもなく長い旅路になる、と。

「……うぅ、ぐすん」

ど、怒鳴ってしまって悪い事をしましたの……。
そんな事情があったなんて……なのに、この方々の眼の、言葉の、なんと力強い事。

「ダグラス学長様がわたくしに頼みたかった事、理解出来ましたの!
 わたくし、あなた達の旅路を精一杯サポートさせて頂きますの!」

わたくしは勢いよく立ち上がり、
そのままくるりと一回転。
そして棚引くマントの内からはみ出るように、一瞬垣間見えるのは……

「改めて名乗らせて頂きますの。わたくし森と虫を司る妖精、フィリア・ピューピアと申しますの。
 人との共存を願い、しかし叶えられなかった虫の王達の、夢の欠片の化生……とでも言いましょうか。
 つまり……虫達のおうじょさまですの!」

わたくしと共に渦を巻く、巨大なムカデの姿。

94 :
「この身に宿す、虫の力、王の力……きっとあなた達のお役に立ちますわ」

もっとも……この王の力は、あまり濫用出来るものではないのですけれども。
なにせわたくし、今しがた言ったばかりですが、かつての王達の、夢と力の欠片の寄せ集めですの。
つまり王の力を使うという事はまさしく、わたくしの体に亀裂を入れて、中身を掻き出しているも同然。

と……不意に室内にノックの音が響きました。
ティターニア様の助手さんと思しきホビットさんが、ドアの外を伺い、お客様を招き入れましたの。

>「やあやあ、皆さんお揃いで。導師様もお元気なようで何より」

あら、端整なお顔。

>「うん、バランスが取れているようでいてどこか不安定そうな、そんな魅力的なパーティーだと思うよ。

この方も旅に同行するんですの?
おともだちがたくさん増えるのはとてもいい事ですの!
……だけど、うーん。ちょっとこの方は、私には近寄り難いですの。なんでかって……

>「何か不安なのかい? 不安なことがあれば僕を頼ると良い。何も心配はいらないよ」

「……あなた、なんだかへんなにおいするからいやー。ジャンさんのほうがいいー」

そう、この方の纏うにおいは、わたくしには少々強すぎますの。
この、香水……?いや、気配?それとも魔力?
なんでしょう……まるでつがいを誘う虫が漂わせているような、このにおいは。
振る舞われた食べ物も、ちょっと遠慮しておきますの。

>「たとえそれが、凶悪なドラゴンと相対することになっても…だって僕らはユグドラシアのメンバー、だろう?」

「ドラゴン?あなた達、そんなものとも戦うつもりですの?ていうか、そんなのホントにいるんですの?」

……俄かには信じられませんの。

「まっ、例えそれが本当だとしてもわたくし臆したりはしませんの!
 なにせ、わたくしはおうじょさまですの。
 あなた達は虫じゃないけど……とても尊い方々だと、思いますの」

そしてそういう方々を守るのが、おうじょさまのお仕事……一番大事なしめいですの。

「だから、絶対損なわせたりしませんの!」



【改めてよろしくお願いしますですの!】

95 :
◆ejIZLl01yY

消えて、どうぞ

96 :
自分のキャラでお人形遊びするのは結構、再開する前に一言あった方が良いんじゃないの
特にスレ主さんに暴言吐いた以上、はい戻りました、じゃ信頼は取り戻せないのよ

97 :
ユグドラシアが復興に向けて動き出し、ほとんど残骸と化した市場もほんの数日で
仮とはいえ店舗が立ち並び、資材や人の流れが元に戻りつつある。

その流れの中に、一人のハーフオークがいた。ジャンだ。
ティターニアと同じように旅を諦めることなく、続けるための資金を稼ぐために
今では日雇いの建設手伝いをしながら、ティターニアの研究室で寝泊りしている。

(ティターニアは雇い主で、報酬も出るけどよ……ダーマに行っても学園からもらえるとは思えねえ。
せめて頼りっぱなしにはならないようにしないとな!)

そんなことを考えながらジャンが歩いていると、巨大な蜘蛛が目の前を通り過ぎていく。
思わずジャンは抱えていた角材を叩きつけそうになったが、周りの人間は誰も気にしていない。

「おいカラベルスキー、ありゃなんだ」

昨日知り合ったドワーフの作業員にジャンは聞いた。彼はこの街で古株の部類に入り、
変わった住民や珍しい住民なら知っているはずだ。

「ビッグスパイダーとかいうやつだってよ。役に立ちたいって言うから資材運びと仮組みの足場やらせてんだ。
 他にもぞろぞろ喋る虫がここにやってきてる」

へえ、とジャンは返して作業に取り掛かることにした。
魔物の類でないのなら気にすることもない。そう考えて角材を資材置き場に置いてレンガ作りに取り掛かる。

そうして飛空艇の完成を間近に控え、出発の準備を済ませたところで新たな仲間が加わることになった。

>「お初にお目にかかりますの。わたくし、フィリア・ピューピアと申しますの。
 ダグラス学長様に、頼みがあるからここへ来てくれと伺って……」

「話は聞いてるぞ。俺たちの……」

98 :
>「なにこれちっちゃい!かるい!おもしろーい!」

>「ぎゃー!いたたたた!も、持ち上げないで欲しいですの!もげる!もげる!」

「ラテ!待て!ティターニアに用事があって来てんだ!」

ラテの目線に合わせて頭を下げ、応対を改めさせるために落ち着かせる。
さすがに幼子並に戻ってしまったとはいえ、言葉に対して一定の理解はしてくれることは分かった。

>「あ、てぃたーにあさんにようじがあるんだっけ?じゃあ、はい!」

>「ぎええ!」

「ラテ、小さいとはいえあの人はちゃんとした人間だ。俺たちと同じだ。
 いきなり投げたり掴んだりしてはダメだぜ」

目線を合わせたまま幼子に教えるように、穏やかに語りかける。
言えばちゃんと聞き、覚える辺り時間が経てば元に戻るかもしれないという希望はまだある。

>「わたくしユグドラシアにはお世話になっていますけども!
 この仕打ちには流石に説明を求めますの!」

「すまねえ。これには原因があってな……」

ラテが如何にしてこうなったか。口下手なジャンはだいぶ簡略化したものの大体を話した。
話が終わりに近づくにつれて彼女の顔が徐々に怒りから悲しみへ、変わっていくのが見て分かる。

>「改めて名乗らせて頂きますの。わたくし森と虫を司る妖精、フィリア・ピューピアと申しますの。
 人との共存を願い、しかし叶えられなかった虫の王達の、夢の欠片の化生……とでも言いましょうか。
 つまり……虫達のおうじょさまですの!」

「ジャン・ジャック・ジャンソン。ハーフオークだ、よろしくな、フィリア」

お転婆なお嬢様のような口調に似合わず、実力はあるようだ。
フィリアの横に巨大なムカデが姿を現したとき、ジャンは自分の身に一瞬畏怖とも言うべき震えが走ったのを感じたからだ。
これからの旅は、きっと過酷なものになる。足手まといになりそうであればジャンは容赦なく切り捨てるつもりでいたが、その必要はないだろう。

99 :
>「やあやあ、皆さんお揃いで。導師様もお元気なようで何より」

挨拶が終わったところで、またも来客がやってきた。
いわゆる美形な顔立ちに、優しげな口調。しかし真っ白な肌に青紫のローブを羽織った姿は、まるで魔族のようだ。

>「先日の戦闘では実にご愁傷様だった。僕が研究に没頭していて援護に出られなくてすまない。
だが、これからきっと僕は役に立つと思うよ。丁度外に出る用事があった」

そう言って研究室を見渡し、男はさらに言葉を続ける。

>「うん、バランスが取れているようでいてどこか不安定そうな、そんな魅力的なパーティーだと思うよ。

朗々と自己紹介を兼ねて語る様は演劇のようだが、ジャンにそういった感性はない。
ただ「話が長いなコイツ」ぐらいにしか思わず、満足するまで話させてやることにした。

(自分の手柄とか身の上をいきなり語るような奴だ、よほど自信があるんだし、実力もそれなりだろう)

無理に遮ることはない。ただティターニアを眺める視線が妙にねっとりとしているというか、しつこいのはジャンの気になるところだった。

>「そういえば「虚無」の魔法についての古い文献で、知り合いの学者と協力して「極大魔法」と呼ばれている類のものを調べている。
その名は「ヴォイド・…何とかというもので、存在そのものを消し去るという恐ろしい魔法らしい。
長く生きていると…おっと、…長く生きているのは君の方だったね、ティターニア」

「……話は終わりみたいだな。横槍入れて悪いが、俺はジャン・ジャック・ジャンソン。
 ティターニアの……護衛、いや仲間だな。ラヴィアンにグラハ、道中よろしく頼む」

腰のベルトには鉄製の鞘に収められた聖短剣サクラメント、背中にはミスリル・ハンマー。
この数日で鋼の胸当てとひざ当て、篭手も揃えたジャンは心折れた旅人から、一人の冒険者へと立ち直っていた。

「ティターニア。そろそろ飛空艇ってやつで行く頃じゃねえのか?
 たぶん荷物の積み込みも終わっただろうしよ、顔合わせも終わったことだし行かねえか」

おそらくこの場において最も無垢であろうラテの手を引いて、ジャンは立ち上がる。
もう迷うことはない、と心に刻んで。

【今更自分が蒸し返すのもなんですが、気に入らないロールにはそれなりのロールで返すのが一番かと
 話の外で中の人が殴り合う事態になるぐらいなら事前にきっちりしてほしくないこと・してほしいことの線引きをしておくべきです】

100 :
>「ぎゃー!いたたたた!も、持ち上げないで欲しいですの!もげる!もげる!」
>「ラテ!待て!ティターニアに用事があって来てんだ!」

旅に同行することになった妖精を粗雑に扱うラテをジャンがたしなめる。
幼児退行と同時に記憶喪失になってしまったラテだが、第一印象は怖がられがちなジャンによく懐いている。
元来の感覚の鋭さでジャンの内面の善良さを感じ取っているのだろう。

>「改めて名乗らせて頂きますの。わたくし森と虫を司る妖精、フィリア・ピューピアと申しますの。
 人との共存を願い、しかし叶えられなかった虫の王達の、夢の欠片の化生……とでも言いましょうか。
 つまり……虫達のおうじょさまですの!」
>「ジャン・ジャック・ジャンソン。ハーフオークだ、よろしくな、フィリア」

「エルフのティターニアだ、よろしく頼む」

フィリアのマントの内側に一瞬、巨大なムカデの姿が見える。
虫の王――小さな体に強大な力を秘めていることが伺える。
この世界には虫型の知的種族もいるが、人間という種族は、全体的に同族同士で群れたがり他の種族を警戒する傾向がある。
人型の種族であってもそうなのだから、動物型、さらには虫型となれば猶更だ。
その傾向が顕著に表われているのが帝国、ということだろう。

>「この身に宿す、虫の力、王の力……きっとあなた達のお役に立ちますわ」

続いて、パックが次の来客を招き入れる。
ドアを開けた瞬間に黒板消しがポスっと床に落ちた後、その一団はそれには無反応で何食わぬ顔で入ってきた。

「オイラの罠を見切った――だと!?」
「これパック、古典的な罠を仕掛けるでない」

>「やあやあ、皆さんお揃いで。導師様もお元気なようで何より」
>「先日の戦闘では実にご愁傷様だった。僕が研究に没頭していて援護に出られなくてすまない。
だが、これからきっと僕は役に立つと思うよ。丁度外に出る用事があった」

>「うん、バランスが取れているようでいてどこか不安定そうな、そんな魅力的なパーティーだと思うよ。
僕のことはティターニアやパックは良く知っていると思う。かつて「神童」と言われていた、
名前をグラ=ハ・スタン・ツタラージャという。うん、グラ=ハで良い。
「神童」とは言うけどね、この国でも言われてるように、「三つで神童も十五過ぎれば只の人」ってね。
だから別の驚くことはない」

「ははは、褒めても何も出ぬぞ。なんだ、こんなBBAをそんなに眺めまわして。ババ専という噂が広がっても知らぬぞ」


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