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【勇者放浪記】トリックスターファンタジーTRPGスレ


1 :2016/06/11 〜 最終レス :2018/10/17
トリックスターの勇者「トリスタン」の年代記を、物語形式で進めていくTRPGです。
トリスタンを中心としたメインの動きはGMがやります。
参加や設定の投下は自由ですが、主人公のトリスタン及びメインの動きはGMが進めます。
仮に参加者がGM一人でも進みますので、とりあえずご期待ください。

2 :
トリップを忘れていました。
以下、初期キャラクター設定を投入します。

3 :
名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
特技:
長所:
短所:
武器:
防具:
所持品:
趣味:
最近気になること:
将来の夢(目標):
キャラ解説:

以上がキャラテンプレ、さらに参加者の方は一週間ルールでキャラ放棄扱いになります。(スレ主のGMは例外)
事情がある場合はこちらでご相談ください。

4 :
ふむ

5 :
主人公

名前:トリスタン・ロートネフィル
年齢:15
性別:男
身長:164
体重:53
スリーサイズ:
種族:人間
職業:冒険者の卵
特技:剣術
長所:剣の腕前はかなりのもの
短所:基本的に馬鹿で後のことを考えない・女たらし
武器:ロングソード「バルログ」(魔力がこもり、父から譲りうけたもの)
防具:皮製の服
所持品:薬草や火起こし道具など簡単な冒険者道具
趣味:体の鍛錬
最近気になること:将来何をしたらいいか
将来の夢(目標):世界一の剣士になる。自分のギルドを作る
キャラ解説:平民の家に育った若造。父を亡くし、母に育てられ、15歳の誕生日を迎えて
王国の王都までを往復する旅に出ている。剣の腕がめっぽう強く、女たらしだが頭が弱い。
体が小さいことがコンプレックスである。
口ぐせは「俺は前にしか進めねえぜ!」

6 :
ストーリー

無限に広がるグリュメイト世界。かつては神々が人間を作り、間接的にここを支配していたという伝説が残るが、
今では人間が複数の国家を持ち、支配している。
トリスタンが所属するクローランド領ロブレス村はマクドネル王国に属し、現在、王国は北に位置するフラウメキア帝国の侵攻を度々受けている。

さて、トリスタンは無事にマクドネル王都マックアフィールへと辿りつき、適当に遊び、ここで冒険者ギルドの登録をする振りをして用紙を記念に貰い、
それを証明として母親に見せるため、ロブレス村への帰途にあった。

クローランド領の入口は湿地帯になっており、トリスタンは雨によって帰途を阻まれていた。
――そこで一人の少女と出会う…

7 :
「しばらくは無理だな。こりゃ…」
雨は強く、湿地帯はすっかり水嵩が増し、水棲モンスターたちがうようよし始めた。
トリスタンにも巨大なマッドスネイルの姿が見える。

丘へ向かうと、そこには少女が男二人とトラブルを起こしているようだった。
「おいィ!よくもロイを殺ってくれたなネーチャ…」
「とりあえず持ってるんだろ?カネ。お前いかにも良いところの、って感じだしな」

既に肩を捕まれているが、少女も男たちに反論する。
「私は殺してなんていないもん!まだ生きてる。確認しに行きなさいよ!」
「そう言ったからってここで戻れるかよぉ…お前逃げるだろ?あ?」
剣を抜こうとするもの、既にもう一人の男に腰をつかまれ、剣には触れることは敵わない。危険だ。

「だいたいあんたたちが先に…あっ…!」
少女の太股にナイフが刺さり、続いて腹に一撃が入る。
男たちの服装ーチェインメイルと兜、小手などの服装に比べ、少女は剣以外はほぼ丸腰も同然。
皮装備でそれも腹や太股や露出したその服装は、無防備であると同時に扇情的ですらある。

「きゃあ!」
少女は服を脱がされていき、ついには押し倒され、男の一人がまたがった。
一人がもう一人の男に聞く。
「ヤるのか…?」「あぁ…ヤる。それからR。ロイには悪ぃが、そのくらいしねえと、収まりがつかねえもんでな!」

トリスタンは駆け出していた。
「やめろぉ!その子を離せ!嫌がってるだろがあ!!」
男たちが振り向く。
「あ?今お楽しみ中だから、ガキはさっさといきな!ん…?武器か、じゃあ殺しておくか」

男たち二人がトリスタンに斬りかかろうとした刹那、トリスタンはその後ろへと足を進めていた。
片足から血を噴き出し倒れた男たちのことは一瞥もせず、少女の方に駆け出しつつ呟く。
「安心しろ。その傷は魔法の傷だから、お前らの脚は当分は薬草でも万能薬でも治せないぜ…」

片足を完全に無力化され、這いずるようにして丘を降りていく男たちを尻目に、トリスタンは少女へと近づいた。
しかし、地面に生えていた蔦が足に絡みつき、少女へと覆いかぶさる形となってしまう。柔らかい感触が顔を覆った。
「わ、うぷ…うぷぷ、ぷ…うっ、こ…これは…?!」
その生暖かいものを、まるでオーブでも掴むかのように手づかみにし、トリスタンは驚愕の声を上げた。
それは紛れもなく少女の乳房だった。トリスタンの顔を鉄拳が襲い、さらに突き飛ばされたところに強烈な蹴りが見舞われる。
「こ…このドスケベ!! あんたもか!」

トリスタンは敵もいないということで暫く横になり、少女が無事なのを確認すると話しかけた。
先ほど脱がされていたせいで少女は皮のブレストアーマーの中の下着を露出していた。
雨か汗のせいか先端部分も透け、その形がはっきりしていることは言うまでもない。
「お、俺はあいつらの仲間じゃない…トリスタンってんだ。君みたいな女の子が一人でこんなところにいるなんて…危ないよ」

少女は立ち上がったトリスタンを見て、負けじと立ち上がり、胸を隠すように腕組みをして見せた。
「あんたに助けられたことは褒めてあげる。でも、子供扱いしてるけど、私、多分あんたと歳、そんなに変わらないと思うけど」
よくよく見ればトリスタンよりも背が高く、胸に限らず肉付きも張り、艶があり大人びている。子供っぽいのは声のせいか。

「どうでもいいよ。君、名前は…?」
「…… イリス…」

イリスは装備こそは高級なものの、どうやら魔法も使えなければ、回復薬すらないらしい。
トリスタンは傷のある太股の手当てと、腹にも回復薬を塗ってあげた。
二人は丘の上で雨宿りをしながら、しばらく静かに語り合った。

8 :
名前:イリス(イリシア・マクドネル)
年齢:16
性別:女
身長:169
体重:55
スリーサイズ:91-60-90
種族:人間
職業:第一王女
特技:冒険
長所:勇猛なこと
短所:後先を考えないこと
武器:ミスリルブレード
防具:ブレストアーマー
所持品:殆どなし
趣味:街でショッピング、ハイキング
最近気になること:王国の今後について
将来の夢(目標):幸せな生活を続ける
キャラ解説:トリスタンがたまたま出逢ったマクドネル第一王女。
王位継承権では弟である第一王子よりも低いが、支持者が多いため、王位継承争いの可能性がある。
トリスタンとイリスとの出会いは今後世界の歴史上に大きな影響を残すこととなる。

9 :
「イリスは…人を殺したことはあるのか?」
トリスタンが真剣な眼差しで問いかける。
「…ない。私は、守られて育ってきたから… あんたは?」
「守られて…か。羨ましいな。俺は、ロブレスって村から来たんだけど、故郷は辺鄙すぎて
よく荒くれ者どもが出やがる。おかげで11歳の時…一人殺っちまった…」

「トリスタン…」
イリスの彼を見る目が変わった。
「でもその時、親父が荒くれどもに襲われて殺された。母さんも酷い目に遭った…」
「……辺境は、大変なんだね」
「お前、一体どこから来てんだ…?」
「あ…まぁ、王都よ。それも結構都会のほう」
トリスタンがイリスの体をじろじろと見る。しかし、イリスはもう警戒していないようだ。
その装備はどう見ても、普通の装備ではなかった。布も絹のようだし、あちこちに宝石のようなものがちりばめられている。

「何、値踏みしてんの」トリスタンをイリスが小突く。
「ま、まぁ…値踏みは…ある意味してたかもだけど…」
「スケベ」
「男ってもんは、みんなスケベだよ。俺だって健康な男だからスケベさ」
「あぁ、そういえば…あの男たちもいやらしい事しようとしてた…その、ありがとう」
初めてイリスが礼のような言葉を口にした。あ、そういえば、とトリスタンは思った。
顔が引き締まる。

「しっ、あいつらがまだ居ると思うんだ… もしかしたらロイって奴を含めて3人、それともそれ以上か…」
「いたらどうする気?」
「様子を見る。向こうは一度負けたんだからな。それでもこっちを襲う気なら…R」
「…そうならないといいね」

雨が止み、そろそろ日が暮れようとしていた。ここに居ても安全とは限らない。
相手に場所を知られている以上、動く必要があるだろう。

丘を降りると、木陰から見知った男が現れた。先ほどの男の一人だ。
斜め後ろからも二人ほど男が現れる。ずっと身を潜ませていたのだ。
「ヒッヒッヒ、ロイが特効薬を持っててな。それで俺らも自由の身よ。
とりあえず武器を捨てて止まれ。そうすれば命だけは助けてやる」

そうは言うもののロイという男以外はどうやら足は完治していないらしい。
斜め後ろからは弓矢を構えられている。下手には動けない。
トリスタンがイリスに耳打ちをした。
「イリス、とりあえず俺に従ってくれ。まずはお前が武器を落とすんだ」
イリスがすぐにそれに従う。すると男たちは一気に警戒を緩めた。
少しずつ近づいてくる男たちを確認すると、トリスタンも剣を地面に落とす。
「ほう、物分りが良いじゃねえか… じゃあまずは武器を没収…と」

10 :
男の一人がトリスタンの剣を踏みつけようとしたところで、トリスタンは手をかざすと一瞬で彼の手に剣が装着され、
一撃のもとに男の首筋を断った。
「ギャアアアアアア!!」
一人が絶命すると、男たちは一気に怯む。すぐさまもう一人を袈裟斬りにする。

「ちょっと待てぇ! こいつがどうなってもいいのか?!」
残りの男、ロイがイリスに抱きつき、そのまま首を絞めようとしてきた。
「バルログ!」
トリスタンは剣に念じた。するとイリスの手にその剣が握らされる。
「さぁイリス、そいつをRんだ!」
「は?もうこの女には何もできね…ぐっ…!!」

イリスは男のわき腹に剣を突き刺し、そのまま崩れゆく男から剣を引き抜いて止めを刺した。
二人の傍らには三人の男の死骸が転がった。
「トリスタン…私…」
「良いんだ…これで。お前もこれで人殺しさ。冒険者は誰でも通る道だ」

そこからさらに離れた、クローランド方面を見渡す丘で、二人は夜を過ごすことにした。
装備を脱いでお互いに返り血を拭きあい、トリスタンの少ない保存食は分けて食べた。

満天の空の下、二人は並んで横になった。ふと、イリスがトリスタンの手を握り締める。
それに呼応し、トリスタンはイリスを抱き寄せた。そして唇を奪う。イリスは目をそっと閉じた。
「拒まない…んだな」
イリスが脚を絡ませ、トリスタンもそれに応じ、一つになった。
「イリス…俺、お前の防具の機能性ってやつが分かったような気がするよ」
そのまま二人は抱き合って眠り、朝がやってきた。

湿地の水かさが下がるまでゆっくりと朝を過ごし、そして二人は王都方面へと向かった。
街道が見えてきたあたりで、二人はまた抱き合ってキスをした。
「ここまで見たいだな。イリス、残念だけど」
「ねえ、トリスタンは冒険者になったらどうするの?」

イリスの真剣な眼差しに、トリスタンは困ったような顔で答える。
「うーん、とりあえず出世して王都のギルドにでも入れるようにするよ。
そして、俺は自分のギルドをいつか作る!またきっと会えるさ」
イリスはその答えに悲しそうな瞳で、しかし元気に返した。
「うん!きっとトリスタンならなれると思うな。そのときは、一緒にギルドやろうね。
結局…私もヒトゴロシになっちゃったし」

「じゃあ、これで…」
「待って!これ…!」
イリスは胸元にあった青い宝石をトリスタンに渡した。
「これがあれば、きっとまたトリスタンに会える気がするの。じゃあ、絶対に忘れないから。命の恩人さん」
「うん、元気で」
そして二人はここで別れることになった。
この出来事がその後大きな流れを産むことになることは、この時点では二人は何も知らない。

11 :
その一日後、トリスタンはロブレス村へと帰還した。
「母さん、とりあえずこれ…」
母、クレアはそれを見て呆れたように笑った。
「ま、結局王都に遊びに行って来たようなもんじゃないの!
…まぁいいわ。今晩はシチューだから、とりあえずゆっくり休みなさい。
クローランドのギルドへの申請も、あんた一人でするんだからね」

母の笑顔を見たトリスタンは安心して自室へと向かった。
そこには13歳になる妹のパーシーと、まだ3歳の弟、ジュリアスの姿があった。
「兄さん、どうせテキトーにやってきただけなんじゃない?その申請書も兄さんが作ったとか」
「そんなことねえよ。俺だって真面目なんだ」
ジュリアスはただ、一言だけ言った。
「ぼくも、兄さんみたいになりたいな」


【以上、冒頭部分は終了。愛読の他に参加もお待ちしています。】

12 :
他の創造者による設定の追加及び参加はどのようなタイミングで行えばよろしいのでしょうか?

13 :
>>12
じっくりとあらすじを読んだ上で、好きなタイミングでどうぞ。
なお、ストーリーテラーとして参加しない(設定のみ)場合は採用のタイミングはこちらで決めます。

14 :
>>13
有難うございます。この冒険の開幕を楽しみにしています。

15 :
メインの世界観はあらすじ通り剣と魔法の王道ファンタジーとすると、政治や社会、階級制度等は中世ヨーロッパ辺りだと仮定させてもらいます。詳しい時代考証等の設定があった場合そちらの設定に従います。
世界観ですが、今は魔法文明がメインの社会となっている世界。ただし、かつて「科学」と言われる別文明を扱っていた旧人類が過去に存在していた。

16 :
また、魔法文明を持つ現人類は突然変異的に発生したもの。二つの文明は両立していた時期が存在し科学が衰退していった。現人類は旧人類の血を引いていて魔力には大きい差があり、一人で大都市を壊滅させる事が出来る魔力を持つものもいれば魔力が全く存在しないものもいる。

17 :
また旧人類現人類共に純血と呼ばれる者が存在する。現人類の純血種は個人で大陸を滅ぼせる魔力をもっている。旧人類の純血種はその奇特さ故に情報がなく特徴は不明。
このような設定はどうでしょうか?ややありきたりになってしまったのと長文が投稿規制になっていたので数回に分けてしまいましたスイマセン(^^;

18 :
>>15-17
ありがとうございます。
「科学」のくだりは不採用ですが、基本的に残りは採用とさせていただきます。
本作品はそこに「神」が混じってくるので、>>15-17さんの想像しているものと若干相違があるかもしれませんが、
うまくミックスしてみます。

19 :
15です。そういえばですが…冒頭部には魔法の力の傷とあり、魔法は攻撃、回復等の事象を起こすものとして、魔力は魔法以外の用途で使用出来るものですか? 例としては、武器防具や薬品等に付与効果を与える、魔力を動力源とする飛行船等です。

20 :
>>19
基本的にそのような捉え方で結構です。
しかし、GM意向として、飛行船のような高文明を連想させるものは登場させない方向ですのでご了承を。

21 :
>>20
分かりました。

22 :
剣や弓等には何らかの加護が付与されているものがある。加護には魔法や錬金等により人が付与したものと、精霊や天使等人以外が付与したものに分類され、〇〇級 〇〇格等分類名が存在する。ただし、大砲や爆薬、マスケット銃等には何故か付与することが出来ない。
というのはどうでしょうか?

23 :
>>22
その設定は却下します。

24 :
一月が過ぎた。
クローランド領城下のウォーレン街までは歩いて半日ほどかかる。
王都から見ればハンパな田舎町だ。
ここにクローランドの冒険者ギルドが存在した。どう見ても田舎の酒場。

「おっちゃん!俺も今回参加!」
そういう声が飛び交うこのギルドは、まるで緊張感がない。しかし王都などの大規模ギルド群を知らないトリスタンにとっては、
それが当然のように思えた。

「さて、今やってる募集は…と」
張り紙を見ると、”東の森の盗賊団アジトの壊滅”とある。
こういうのはまさに冒険者のやる事とも言えるだろう。
とりあえずは食事を、と思いテーブルにつくと、すぐ隣に大柄な女がやってきた。
一瞬だけ、「バルログ」が光った気がした。このような感覚は初めてだ。
「ちょっといい?あなたもコレ、参加するの?」
ねっとりとした身に纏わり付くような声。その違和感に、トリスタンはこの時点では気付く由がなかった。

「あぁ…参加するよ」
なるべく、初心者であることを悟られないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「ではとりあえず、食べましょう?今回の冒険の無事を祈って」

名前:ナタリア
年齢:25
性別:女
身長:180
体重:65
スリーサイズ:105-67-99
種族:人間??
職業:魔術師
特技:魔法全般
長所:強力な魔法が使えること
短所:何を考えているか分からないこと
武器:オークロッド
防具:ローブ
所持品:??
趣味:あらゆる遊び、人間観察
最近気になること:??
将来の夢(目標):幸せな生活を続ける
キャラ解説:マクドネル王国王都で名を上げたという魔術師。
膨大な魔力を持ち、いつも不敵に微笑している。現在のところ目的は不明だが、
この日を境に、幸か不幸かトリスタンとは因縁を持つことになる。

25 :
今回のことを仕切っているのは、酒場経営者の一人のエギルという男らしい。
髭面で調子の良いことを言っているが、顔の傷といい、なかなかの強者だろう。
トリスタンは宿を取ってある。そろそろ食事もお開きで、寝る時間だ。
出発は明日の朝。続々酒場のメンバーたちも解散していく。
数人の柄の悪い男たちがこちらを指さして何か言っているが、彼らも帰っていった。

「そういや、ナタリアはどこから来たんだ?俺の田舎については嫌なぐらい話したけど」
酒を飲んでいるのはナタリアだけだが、トリスタンは特有の無防備さで自分の身の上話について語ってしまった。
ナタリアは相槌をうちながら、ときおり遠くを見るような目をしていた。
「… 女には秘密の一つや二つ、あってもいいものよ、トリスタン。それよりそろそろお暇するわ。では、また明日」

ナタリアが立ち上がると、改めて本格的な魔術師というものと対面しているのだと感じる。
その大柄で豊満ともいえる体は、他の屈強な男たちにも引けを取らず、紫色のローブには禍々しい刺繍、そして黒髪にフード。
多数のアクセサリーが輝き、嗅いだこともないような香がたちこめる。
ふと、会計を済ませたナタリアが突然姿を消した。
「あれが…魔法…!?」
トリスタンは呆気に取られてその消えた場所をずっと見ていた。

―翌日。
トリスタンは一人で取る宿とナタリアのことでなかなか寝付けず、寝不足気味での集合となった。
早速一団は盗賊のアジトへと動きだしている。

エギルを先頭に、総勢10人の冒険者たちが出発した。
ナタリアは一番後ろを歩いている。
正直怖いという気持ちと共に足取りの重いトリスタンは、とりあえずエギルの後ろ側についた。

すると、突然柄の悪い男たちが話しかけてきた。
「おう、若いの。昨日はあの魔術師のネーチャンと何かあったのかい?」
「え… 別に何も無かったけど…?」
トリスタンが答えると、次々と男たちが絡んでくる。

「そっかー、じゃあ俺ら、ちょっと昼休みにでも、味見しとくけど、良い?」
「良い体してるもんなぁ…終わるまでガマンできねえぜ」
「俺らさ、冒険者やりながら女食ってんだけど、一度これヤったら止められなくなんぜ」

「止めとけよ…!」トリスタンが止めに入る。
「あのなぁ…俺らがこれで生き残ってんのは、強えからなんだよ。
みんな今年だけでもう三人は殺してる。お前も余計なことしたら、Rからな」

やがて、アジトの手前に達し、周囲の安全を確認すると、突入前の食事ということでエギルから提案があった。
ナタリアはというと、先ほどの男たちに連れられて不承不承ながら奥の方に消えていった。

ァァァァァァァ…
エギルが声に気付き、そちらを向く。トリスタンは駆け出していた。
そこにはナタリアの姿があった。うんざりしたような目をしている。
ローブは肩から胸にかけて捲くられ、血があちこちに付いている。
「トリスタン… こいつらさ、どう処分したらいい訳?」
そこには無残な三人分の肉片があった。
「殺した…のか?!」

「うん、襲ってきたから。で、どうする?残りが…あんた以外が5人だっけ?
あいつらも信頼できないんだけど、殺そうか?それとも、盗賊側にこの情報流して向こうに付く?」
ナタリアが平然と言い放つのを見て、トリスタンは愕然とした。
やがて、脚が震え、次第にそれは顔の振るえにも変わっていく。狼狽しているのがナタリアには丸分かりだ。
人を家畜や虫程度にしか見ていない人間。そんな彼女に恐怖を覚えていた。
「あぁ…あ…」
トリスタンが膝をつく。自分にはどうにもできないことを悟ったのだ。

「とりあえずあのエギルという髭にはこの事は報告しとく。でも流れ次第では、あたしは何するか分かんないよ?
でもあんたがあたしの邪魔をしないなら、あんただけは殺さないって、それだけは約束するから」

26 :
「そう…だったのか…!」
エギルが目を見開き、三人の死骸を目の当たりにする。
パーティーはすっかり不穏な空気になったが、ベテランのエギルはそのことを吹き飛ばすかのように大声を上げた。
「みんな、いくぞおおお!」


敵の見張り台を攻略するところから攻撃が始まった。
盗賊団側も弓矢を使って応戦してくる。エギルの動きは素早く、そして手際が良かった。
いや… これは、自分以外の全てのメンバーの動きが向上している。
ふと後ろを見ると、ナタリアが補助魔法らしいものをこちら側にかけている様子だった。
たまにナタリアにも矢が飛んでくるが、彼女はそれを素手で受け、飛び降りて応戦してくる敵はロッドの一撃で背骨をへし折った。
「ギャアア!!」「うわああ!!」
あちこちで血をながした盗賊たちが次々と倒れていき、エギルたちはあっという間に盗賊の親分らしき大男を追い詰めた。

「おい!あとはもうお前だけだ!命は取らないから大人しくここを明け渡せ。身柄もだ」
エギルが声を張り上げる。
「くそおぉ…! どうせ連中、投獄とか言いながらRだろ? 捕まるぐらいならお前等の一人二人斬ってから死ぬさ」
盗賊のボス、カレイジャスが鬼のような形相で凄み、大量の投げナイフをぶら下げながら巨大な斧を担ぐ。
その姿に、さすがのエギルも手をこまねいているようだ。

「ちょっと、そこの勇敢な親分さん」
トリスタンは目を見開いた。ナタリアがカレイジャスに勝手に近づいていっているのだ。
「女…なんだ貴様、これ以上近づくとこのナイフで蜂の巣にするぞ」
腰の投げナイフ群に手を構えた彼だが、次の彼女の言葉までは想像できなかったようだ。

「あたしはナタリア。勇敢なあなたの味方になってあげたいの… その代わり、何かちょうだい?」
「わ、分かった!財宝の半分をくれてやる!だからこいつらをさっさと片付けてくれ!」
あっさりと条件を出し聞き入れるカレイジャス。そして…
「はい、契約成立。では、遊びましょうか?」

ナタリアが手をかざすと、死んだ盗賊、瀕死の盗賊が起き上がり、武器を手にエギルたちに襲い掛かった。
カレイジャス本人もいくらかパワーアップしているようである。
「これは…ネクロ…マンサーの…?!」
エギルが怯えながら武器を構えた。

「ジョアン、クルト、ジョニー…お前ら…いくぞおぉぉおお!!」
ゾンビと化した盗賊たちと共に、カレイジャスが突っ込んできた。
激しい戦闘を、ナタリアはただ、木の幹によりかかりのんびりと眺めていた。
――口元に笑みを浮かべながら。

やがて、ゾンビたちは倒され、一部の冒険者は一目散に逃亡していった。
エギルとカレイジャスが一対一となり、ついにカレイジャスを追い込んだところだった。さすがに強い。
「俺はここで死ぬわけにはいかんのだ!!」

ナタリアが口を開いた。
「エギル…確かそういう名前と聞いているわ。クローランドの冒険者ギルドで、
冒険者たちから報酬を半分以上”ハネ”てるってことで、その名前は裏では有名になってるのよ。
このあたりが死に場にふさわしいと、思うのだけれど」

「な、どうしてそれを…!! おのれ…!」
瞬間、カレイジャスが急激に膨張し、腕を伸ばして斧を振るってきた。
長年の勘がエギルをそうさせたのか、彼はそれを愛剣で受け流し、そのまま放棄すると、
一目散に森から抜け出そうとした。

「はい、終わり」 「うぐっ…!!!!」
逃げようとしたエギルはナタリアによって内臓を破裂させられ、口から大量の血を流して倒れた。
目を見開き、ナタリアを睨む。
「まさか貴様…純血…種…っ…!!」
そう呟くとエギルはそのまま白目を剥いて絶命した。

27 :
「で、これ、どうする?」
トリスタンはこの状況を呆然と立ち尽くして見ていた。
目の前には体を達磨のようにパンパンに膨れ上がらせたカレイジャスがいた。
目が突き出し、筋肉はビクビクと痙攣し苦悶の表情をしている。
「もう、楽にしちゃいましょうか」
バーン、と音を立ててカレイジャスの頭から脳漿が飛び出し、眼球が飛び出した。
そして静寂が訪れ、ナタリアとトリスタンの二人だけになった。

「ナタリア…なんてことを…!」
トリスタンは15歳にしておぞましい光景を目の当たりにし、頭の中が真っ白になっていた。
「弱いから死ぬ。当たり前じゃない」
「俺も…Rのか?」
ナタリアはそう尋ねられると少し考えたように口に手を当て、そして言葉をつむいだ。
「いえ…殺さないと約束したもの。でも、ここにある財宝をかけて、勝負は受けてもらうわ」

ナタリアはトリスタンに剣を抜かせると、自分はロッドを投げ捨て、ローブも脱ぎ出した。
白い下着に包まれただけの、ほぼ半裸といってもいい姿は、あらゆる男を煽情するものを持っていた。
「舐めやがって…! いくぞ!」
こちらはただの剣ではない。それにナタリアは気付いているのだろうか…
確実に傷を与えるため、少し大ぶりに構え、そのまま前に踏み出して肩から脚の方にかけて袈裟斬りにした。
「うおっ…!」
トリスタンは確かにナタリアの体を捉え、切り裂いたかに見えたが、その瞬間意識が遠のいた。

夢。ここは夢だ。裸になった自分を見ている。
自分はナタリアの上に圧し掛かり、ただただ男として自分より一回りも大きな肢体を支配し、征服している。
ナタリアを跪かせ、自分の思い通りにしている。そういう夢。

―そして目が覚めた。
そこはかつてカレイジャスが座っていた盗賊頭の椅子で、トリスタンは裸でそこに横たわっていた。
やがて、ナタリアが入ってくる。普通にローブを着て、杖を持っている。
「あたしは強い男が好き。だからあの大男も気に入った。でもあなたはもっと強い。そう、今日思ったの。
これはあなたがあたしに付けた傷… きっと、一生忘れない…」
ナタリアがローブを捲ると、臍の横のあたりに小指ほどの斜めに入った切り傷が付けられていた。きっと「バルログ」が斬ったのだ。

森のほうを振り返り、トリスタンに背を向けると、ナタリアは言った。
「あなたは今日、あたしから沢山のものを貰ったはずよ。だから明日からはきっと変わる。
そして…あたしも、あなたから沢山のものを貰ったわ。だから…変わるかもしれない。あたしもね」
その声は嬉しそうでもあり、悲しそうでもあった。

「そうか…あ、そうだ。純血、なんとかってのは…」
ナタリアが服をトリスタンに手渡しながら言った。
「きっとそれは王都にでも行けばいずれ分かるわ。あたしは歴史を残したのだから。勉強なさい」
頭をツン、と叩いた。そして、
「ここでお別れになるわね。トリスタン、早いとこ街に戻らないと。凄く嫌な予感がするの
服を着ると、明らかにそれがきつくなっているのが分かった。先ほど何かあったのは確かなのだ。
恐らく、トリスタンの肉体が何らかの形で大きくなっている。
ナタリアの実験台になったのか、それとも運命なのか、それは彼の口からは聞くことができなかった。
「俺はこれと…あとはこれだけあれば。良いかな?ナタリア」
トリスタンはカレイジャスの短剣の中でも一番豪華な装飾のあるものと、ナタリアのフードに付いた紫色の宝石を指さした。
「……あなた、欲がないのね。いいわ、持っていきなさい。では、早く」
「あぁ、分かった。怖かったけど、良い経験だったよ。ナタリア」
そしてトリスタンは「バルログ」を腰に挿すと、アジトを出た。

「トリスタン」 「え、どうしたの?」
ナタリアにもう一度呼びとめられる。
「男ってみんなスケベね」
そのままトリスタンは森を降りていった。
この出来事もまた、後に世界を揺るがす大きな流れを作ることとなった。

28 :

ロブソン村へ続く道を歩いていると、村が燃えていた。
「何があった?!」
トリスタンは駆け出す。徐々に近づく金属音。どこかの軍隊がやってきているようだ。
ドラゴンでも出て、それを止めるために来たのか?
すると、粉屋のおやじが村の入口に向かっているところだった。それを鎧を着た兵士が斬り捨てる。
「助けてくれええ!!」
急いで飛び出そうとするも、トリスタンはそれに待ったをかけた。
ここで出たら殺される。そう自分が自分に伝えているのだ。冷静になって物陰に隠れる。

大勢の兵士たちの中から、一際大きな馬に乗った男が現れた。
年齢は40ほどだろうか。その長い顎髭は、一度見たら忘れられないものだ。
そして、全身から出る雰囲気は、まさにナタリアのそれに似ていた。
”純血種”その言葉がトリスタンの頭の中を駆け巡った。
略奪や破壊は一晩中続くかに見えた。
やがて嵐は過ぎ去り、朝が来ると静寂が訪れた。目が覚めたトリスタンは、そっと家の中に入った。


「母さん…!」
トリスタンの目に飛び込んだのは、すっかり焼け焦げた自宅から見つかった母親の首無し死体だった。
そして…
「パーシー…!」
妹は、明らかに乱暴をされ、殺されたようだった。目は未だに苦悶に満ち溢れている。
トリスタンは、その瞼をそっと閉じた。
「どういう…ことなんだ…!!」
まだ幼い弟のジュリアスはどこにもいない。やがて少数戻った村の中の生き残りに聞いてみたが、
依然として行方は分かることがなかった。

この日、ロブソン村の残りの住人たちは廃村を決意し、他の地域へと移っていった。
身寄りのなくなったトリスタンは、すっかりと意気消沈し、そのまま放浪の旅に出た。
母と妹の復讐をし、弟を見つけだし、自分の生きる目的を見出すために――


― そして、八年の月日が流れ、トリスタンはすっかり手錬れの冒険者となっていた。


【序章はここまで。ここからが本番!】
【トリスタンは「トリックスター」としての主人公となり、作中には他の主人公たちが登場します。】

29 :
トリックスター(八年後のトリスタン)

名前:トリスタン・ロートネフィル
年齢:23
性別:男
身長:178
体重:71
スリーサイズ:
種族:人間
職業:冒険者(自称:冒険屋)
特技:剣術
長所:やると決めたら最後までやり遂げる意志
短所:基本的に馬鹿で後のことを考えない・女たらし
武器:ロングソード「バルログ」(父から譲り受けたもので、さらに魔術師ナタリアによって強化されている)
防具:チェインメイル
所持品:一通りの冒険者道具、軽武器
趣味:人助け
最近気になること:「純血種」の根底について
将来の夢(目標):世界一優しい剣士になり、自分のギルドを作る
キャラ解説:平民の家に育った男。父、母、妹を亡くし、弟が行方不明。
剣の腕がめっぽう強く、女たらしだが頭はいまいち。困っている人間がいると、どこからともなく現れる。
口ぐせは「俺は前にしか進めねえぜ」「男はみんなスケベなんだ」「人を助けることに理由があるのか?」
「どこからでも出てきてやるぜ」「俺は世界一の…!冒険屋さ…」

30 :
ここからが真の始まりか…

31 :
名前: セルフィ
年齢: 結構いい歳の気がするが数えていない
性別: ―(形態としては残念体型の女性)
身長:160
体重:45
スリーサイズ:細身
種族: 天使
職業: 冒険者兼ギルドマスター
特技: 聖術
長所: 物知り
短所: だけどバカ
武器: 光の杖
防具: 光のローブ
所持品:ギルドによく分からないガラクタ(自称お宝)の数々が飾ってある
趣味: 人助け・お宝集め
最近気になること: 物騒な事件が増えてきたこと。
将来の夢(目標): 皆が笑って暮らせる平和な世界!
キャラ解説:
冒険者ギルド「アナザーヘヴン」のマスター。
といっても自ら冒険に繰り出すため、マスター業務は副マスターにまかせっきり。
中性的な少女のような外見も相まって「お前がギルドマスターだったんかい!」という反応をされるのがお約束である。
子どもっぽいかと思えば達観していたり、現実主義者かと思えばとんでもない夢想家だったり掴みどころのない性格。

【天使】
創世記に神が作りし二種類の”ヒト”――そのうち”人間”では無い方を”天使”と呼ぶ。
人間と比べ筋力には劣るが「聖術」と呼ばれる強力な光・聖属性の魔法のようなものを行使する。
普段はほぼ人間と同じ外見だが、魔法行使時等に非実体の光の翼が現れる。

【早速異種族を作ってしまいましたがよろしかったでしょうか。
どこの町のギルドかは決めていないので最初の舞台となる街にして頂いたらスムーズに入れると思います。
マスターは設定上よろしくないということでしたらただのギルドメンバーにしますしその他も不都合なところがありましたら改変可です〜】

32 :
>>31
ありがとうございます。
キャラとして参加する、ということでよろしいでしょうか?

「天使」の設定も世界観に加えさせていただきます。
人間でも亜人でもない一種族という捕らえ方になりますが、「”神話”の中では重要な意味合いを持つ種族」、
という感じで適当に組み込んでいきます。

(もしキャラ参加されない場合でしたら、適当な場面でギルド設定含めて出して動かしていきます。)

33 :
>>32
よろしくお願いします!
キャラ参加させていただく所存ですが設定付加などは自由にやっちゃってください。
適宜合わせますので!

34 :
色々入れ忘れた…
33は自分です。

35 :
>>34
承知しました。
作品の属性上、一区切りが終わったら退場→NPC化ということになりますが、よろしくです。
FOルールは私の書き込みの後、丸3日間でFO扱いということでお願いします。

36 :
名前:ヴァネッサ
年齢:14
性別:女
身長:158
体重:46
スリーサイズ:83-57-82
種族:人間
職業:冒険者見習い、兼酒場のウェイトレス
特技:ボウガン
長所:明るい、すばしっこい
短所:頭があまりよろしくない
武器:クロスボウ、ナイフ
防具:布装備および皮装備
所持品:簡単な冒険者道具
趣味:ダーツ
最近気になること:内乱の行方について
将来の夢(目標):金持ちになる
キャラ解説:孤独な少女。内乱の煽りを食って、街の酒場に居つく。
持ち前の明るさとハンパな器用さで渡り歩こうとしている。


「ふぁーあ」
ヴァネッサは酒場のテーブル席で目を覚ました。昨日の夜から寝てしまったらしい。
「いつまで寝てんだよ。もうすぐ昼だ。開店の時間だぜ?そろそろ客くっぞ」
副マスターのブッシュがヴァネッサのポニーテールを掴み引っ張る。
「いてて、別にマスターは怒ってないじゃんか!」
すぐ横を見ると、マスターのセルフィが、いつも通りに皿洗いを済ませ、ギルドの書類をチェックしているところだった。

「おう、いらっしゃい」
ブッシュが客を出迎える。武装したどこかの兵士たちのようだ。柄は良くない。「おーい、早速厨房に戻れ」
ヴァネッサは慌ててテーブルから離れる。「ったく、いつまで経ってもガキだな」
「そこまでガキじゃないんだけどな…」
そう言いながらヴァネッサが自分の体を見る。ただのボロ布を纏っていただけの彼女も、すっかり成長した胸や腰に押し上げられ、
それらしい体つきになっていた。最近では窮屈な体に嫌気がさしている。すばしっこいのが取り得だからだ。

料理が注文されると、ヴァネッサが運びにいく。
「よう、まぁ座りな」「え…?」
どうやら兵士の一人がヴァネッサを手招きし、自分の隣に座らせようとしているようだ。
「おう、座れってんだよネーチャ…」
無理やり座らせ、ヴァネッサの乳房をわしづかみにする。やがてもう一人の男も太股のあたりを触ってきた。
「やめろよ!」
ヴァネッサは男たちを突き飛ばし、怒鳴りつけた。
「乱暴する奴は、帰りな!」すかさずブッシュが割って入る。「まあまぁ、すみませんな、うちの娘が…」
しかし、男たちも黙ってはいない。

「おう、自分ら俺ら誰だと思ってんねん?」「マクドネル王国の兵士様やぞ!」
男たちが次々と絡む。一人は剣を抜こうという勢いだ。
「とりあえずまぁ、そこの嬢ちゃんと外で話がしたいねん。ちょっとええか?」
男の一人がヴァネッサの耳を引っ張り、無理やり外に連れ出そうとしたとき、

ガンッ! 男が勢いよく床に叩きつけられた。
「おう、誰じゃワレー…!」
「よう、俺だ… 俺はどこからでも出てくるぜ。困ってる子がいる限りはな」

チェインメイルにレザージャケット、いかにも変わり者、といった格好の男は名乗った。
「俺はトリスタン…冒険屋さ」

37 :
二人いた男たちはすっかりトリスタンの素手でボコボコにされ、大人しくお縄となった。

現在の情勢は複雑だ。
マクドネル王国は八年ほど前、第一王女が突如として謎の不貞による子を身ごもったことで、
王国から追放されることになったが、王女を慕う一派が離反、そして領主であるモース地方のバルゲル公爵までもがこれに加担し、モース公国が独立し、すっかり国は二分された。
王女は男児ランスロットを産み、さらには国王マクレーン2世が自分の孫にあたる男児を密かに庇護しようとしたことで、第一王子フルトと対立し、終結しそうだった内乱は拮抗してしまった。
これにより王国ではフルト派、モース公国という二つの異分子を抱えることとなり、フラウメキア帝国の介入はさらに熾烈なものとなりつつある。
よってあちこちで徴兵が行なわれ、兵たちの士気、モラルの低下が国内全体の問題となりつつある。
今いる連中のような、国の兵士であるというだけで狼藉を働く者も少なくない。
ここは弱小勢力であるモース領だ。いつ外敵が侵入してもおかしくはあるまい。

「で、ブッシュ、このまま三人だけで行くって、マジ?」
「仕方ねえだろ?もう時間切れなんだよ。それに店を閉める訳にもいかんからな」
ヴァネッサの言葉に、ブッシュが手を広げてお手上げのポーズをする。
「しかも、オレと、このおっさんと、セルフィで行けってこと?」
ヴァネッサがトリスタンとセルフィを指差し、呆れたような顔をした。
仕事の内容はギルドが募集していたが、誰も集まらなかった。
内容は、「バルゲル公爵の家族の引越しを護衛しろ」だ。期日は明日、引っ越しが無事に終わるまで。

トリスタンは何やら考えたような顔をしていたが、大きくため息をつき納得した。
「ま、妥当だろうな。三人で動いた方が何かとやりやすい。怪しまれずにも済む。
しかし、俺はともかく、あと二人がガキと女だってのは納得いかねえが、ま、報酬も良いようだし、やるぜ」
ガキと言われたことが気に障ったのか、ムッとしながら無愛想に言った。「オレはヴァネッサ。カッコつけて死ぬなよ?おっさん」
「俺はトリスタンだ。ま、始まったなら、もう前にしか進めねえぜ。さて、そっちの姉ちゃんは?」
トリスタンは、セルフィの方を見た。どう見てもマスターのブッシュに紹介された冒険者、という扱いの目で…


【さぁ、初めましょうか。では遠慮なく一気に進めてしまってください】

38 :
>「いつまで寝てんだよ。もうすぐ昼だ。開店の時間だぜ?そろそろ客くっぞ」
>「いてて、別にマスターは怒ってないじゃんか!」

近頃日常茶飯事となった二人のコント(?)。このギルドは今日も平常運転です。
さて、このギルド”アナザーヘヴン”――
酒場の店主感も歴戦の冒険者感も充分なブッシュが一見マスターに見えるが、実はそうではない。

「おはよう! よく眠れたかい? 今日も元気にいってみよう!」

そう応えたマスターと呼ばれた人物は、年齢不詳、性別不詳、敢えて言うなら若い女性が近いか。
少し高めの丸椅子に腰かけプラプラ揺らしている肢と書類をめくる慣れた手つきがアンバランスさを醸し出す。
一見親しみやすさしかないのによく見ると実は恐ろしく整った顔をしている。
少しはねたセミショートの髪は、ありがちな例えではあるが太陽の光のような、という言葉がぴったりの色。
予備知識のある者なら彼(女)が”ヒト”ではあるが”人間”ではないと勘付くかもしれない。
書類をめくりながら掲示板をちらと見る。

【要人のお引越し! 破格の報酬!
無事に到着した暁には新居でお礼の宴……があるかも。
興味を持った方はマスターまで!】

「ん、そういえば出発日今日じゃん。
困ったなあ、ボクが出るとしてもあと一人はなんとか……。
二人とも、会員が来たら片っ端から勧誘たのむよ」

お手製のチラシも空しく現時点での立候補者はヴァネッサ一人。

>「おう、いらっしゃい」

本日最初の客は、見るからに早くお帰り頂きたいタイプの客であった。
本人に自覚があるのか無いのか、ヴァネッサは14歳にして末恐ろしい程のグラマー体型。
良からぬ輩にちょっかいを出されることも往々にしてある。
性を持たぬ種族であるセルフィにはその辺りの機微は分からないものの、ヴァネッサが嫌がっている事はよく分かる。

>「とりあえずまぁ、そこの嬢ちゃんと外で話がしたいねん。ちょっとええか?」

ここに来て今まで静観していたセルフィが立ち上がる。

「待ってください。話は雇い主である私が伺います」

普段ならここから「はぁ!?お前が雇い主!?ふざけんなよガキが!」やら云々かんぬんはじまるところだが……
セルフィの言葉に反応する間もなく男たちは突如現れた新しい客によって床にたたきつけられた。

>「おう、誰じゃワレー…!」
>「よう、俺だ… 俺はどこからでも出てくるぜ。困ってる子がいる限りはな」

「ああ、俺さんかぁ、……って誰!?」

>「俺はトリスタン…冒険屋さ」

この出会いは、歴史を変える――のか?

39 :
――こうして、時間は少し流れる。

>「で、ブッシュ、このまま三人だけで行くって、マジ?」

三人。そう、三人だ。
突如現れトリスタンと名乗った謎の男に、駄目元で依頼を受ける人数が足りなくて困っていると言ってみたところ、すすんで引き受けてくれたのだ。
しかも先ほどの動きを見る限りかなりの手練れ。状況は見た目ほど悪くないと言えるだろう。
それはそうとこのトリスタン、ヴァネッサにはおっさんと呼ばれているもののどう見てもまだ20代の青年である。
嗚呼10代って怖い物知らずだわ、と思うセルフィであった。

>「俺はトリスタンだ。ま、始まったなら、もう前にしか進めねえぜ。さて、そっちの姉ちゃんは?」

待ってました、とばかりに自己紹介をするセルフィ。

「ボクはセルフィ、このギルドのマスターさ! 特技は光系の魔法みたいなのを少々。
そしてこのヴァネッサ、確かにまだ若いけど素質はなかなかのものだ。
冒険者としての方向性はレンジャーに近い。今回の護衛みたいな任務は適任と言えるだろう」

こうして即席のパーティーが結成され――またしても時間は少し流れる。
内乱の最中のお引っ越し、ということは必然的にお忍びの旅になるわけで……
一行はひたすら悪路を突き進んでいた。

「どーしてわざわざこんな道を通るんだよ!」

「ふははっ、そりゃ堂々と広い道を通ったら敵勢力の刺客とか暗殺者とか襲撃が来るかもしれないじゃないか!」

「分かってるよンなこと!」

こんな感じで掛け合いをやっているぐらいだから、まだ元気なのだろう。
そんな中、ヴァネッサがぴたっと足を止めた。

「気をつけろ……何か来る!」

「出た、ヴァネッさんお得意の危険感知! ちなみに的中率は……五分五分!」

二人は以前にも何度か組んだことがあるのだろう。
ヴァネッサの警告に対し、セルフィは真面目に相手をするべきかどうか迷うなんとも微妙な的中率を提示するのであった。

40 :
誘う鳥が一つの形
よそう夜に一つの国
http://taropunko.blog.fc2.com

41 :
「気をつけろ…何か来る!」
ヴァネッサが警告の合図を送る。

護衛しているのは馬車、しかも調度森がちになってきた街道でのことだ。
明らかに戦闘には不向きな御者と先ほど少し会話をしただけで、トリスタンは特に何も気にしてはいなかった。
トリスタンとはそういう男なのだ。
「あぁ…こりゃ確かに”何か”だ。しかも十人はいるぜ」

「よう、ご貴族一行様。馬車の中身を置いていけ。引き渡せば命は保障する。お前らも含めてな」
どう見ても山賊、といった服装の男が数人、取り囲むようにして弓を構えた。
トリスタンはセルフィ、ヴァネッサを後ろに下がるよう合図をし、一歩前に出て「バルログ」を構えた。
「まぁ待て。その前にこっちも必用なモンがある。お前らの目的と雇い主の名前を教えてもらおうか」
「問答無用…だ」
「だろうな」

すぐに戦闘が始まった。まだ森の方にいるだろう敵は差し置き、両側から来て剣を振るう敵をいなし、そのまま脇腹を切り裂く。
一人がすぐに腸を散らしながら絶命し、早くも敵は目測が狂っていたことに気付いた。すぐに矢による攻撃に切り替わる。
ヴァネッサがここぞとばかりに前に出た。
「トリスタン!オレも戦う!前は二人でやろう」「馬鹿!下がってろ」
飛来する複数の矢をマントで回避しながら、トリスタンはヴァネッサの方を一瞥した。
「ぐっ…」
ヴァネッサは矢で脚を射抜かれ、それでも前に出ようとした。
「大丈夫か、クソっ、セルフィ、こいつを守りながら一緒に前を頼む。御者のおっさんも手伝ってくれ」
「お前、人を殺したことはあるのか?」トリスタンがヴァネッサに尋ねる。
「いや…そんなことある訳が…」「じゃあ下がってろ。戦場では殺せねえ奴ぁ死ぬだけだ」

ヒィィ、と呻く御者は、馬車の方に下がり、中の賓客を外に出るように促す。戦力は期待できなさそうだ。
そして、次に飛び込んできた敵の首筋を掻き斬る。セルフィの方も持ちこたえているようだ。
しかし敵の方にも動きがあった。
バリバリという音とともに森の方向から何かが飛び、トリスタンは焼けるような痛みとともに弾かれ、痺れによって大きく仰け反った。
「魔法…! 敵に魔法遣いがいるぞ…!」
そして、敵がさらにぞろぞろと現れ、槍による攻撃がトリスタンを襲う。
トリスタンはそれを受け流すと、脇腹に一撃をかまそうとする。しかし…
ガキィィン・・・!
魔法の力で槍自体は折れたものの、敵の脇腹への攻撃はかすり傷に終わった。
敵がプレートアーマーを着込んでいたためだ。
「この装備は…正規兵…?!」
すぐさま敵が腰の剣を抜き、トリスタンの動きに合わせて後ろに下がり、剣を構える。
重装歩兵と魔法兵による複合攻撃、それも未だに魔法兵の姿は見えない。
どこかに潜伏し、こちらを捉えているのだろう。

42 :
「さぁ、逃げるのだ!」
中年の男と女、まだ幼い少年、少女が馬車の近くで御者によって護衛されていた。
そこにアーマー兵が弓を構え、矢を放つ。
「さぁ殺せ。バルゲル公爵の長男以外は好きにしろって話だ。適当にやりゃ死なんだろ」
どうやら男はバルゲルの息子らしい。どう見ても武術の心得はない。死にに現れたようなものだ。

「ちょっと待ちな」
中から鎧を着込んだがっしりした体型の男が現れた。なんとそれはブッシュだった。
公爵の家族に攻撃を剣で攻撃を仕掛ける敵を斧でぶった切ると、早くも形成は逆転した。
「ブッシュ!」「お前は下がってろ、ヴァネッサ!」
「そうだ、お前はこれから女盛りなんだから、これ以上傷を増やされても困る」
「な…分かった!」ヴァネッサは顔を赤らめながらも下がり、後方支援に回った。
ブッシュが先陣を切り、その後ろからトリスタンが駆け出す。敵は次々と斬られていった。
前方の安全を確保したトリスタンは勢いを付けると敵アーマー兵の槍を、そのまま甲冑ごと叩き斬った。
激しい音とともに「バルログ」が敵に食い込み、そのまま崩れた鉄から大量の血飛沫を上げさせ絶命させる。
たまに矢傷や魔法傷などを受けながらも果敢に切り込む二人に、敵はすっかり消耗し、怯んだ。
ヴァネッサは脚を怪我しながらも、バルゲル一族の護衛に向かっている。後方とはいえ、充分危険だ。

敵の司令官らしき初老のローブの男が前に出てきた。
「おのれ…!こいつら予想以上に強い…30人の兵を相手にたった4人で…だと?」
「そんなにいるのか…!だが、ここで止まる訳にもいかねぇぜ…!」
合計で10人は殺ったはずだ。しかし敵は死者を出し、相当に怯んでいる。バルゲルの長男もおそるおそる剣を抜きはじめた。

「”アイツ”はどうした?まだ来ないのか?」「そろそろ来るかと…しかし、”アイツ”を使うのですか?」
「あぁ、今のうちに鍛えておけば国で一番の戦士になるぞ、”アレ”は…」

「まさか、”アレ”がここに来るってのか…?」ブッシュがつぶやいた。
「”アレ”って何よ?」

「――ジュリアス…そう言われているガキだ。11歳にして100人を斬ったらしい、バケモノさ」
「ジュリアス…!!!」
弟の名前を聞き、トリスタンは驚愕した。その途端、止んでいた魔法の攻撃が再び始まった。
「セルフィ、敵の位置は掴めないのか?」
状況はこちらがだいぶ押されている。バルゲル息子一家の命もそろそろ危ないだろう。満身創痍のブッシュが、セルフィの方を向いて叫んだ。

43 :
>「あぁ…こりゃ確かに”何か”だ。しかも十人はいるぜ」

「準備万端でお出迎え……ってところか、どこかから情報が漏れたのかな」

ヴァネッサの危険感知は生憎当たってしまったようだ。しかも十”匹”ならまだしも十"人”ときた。
というのもセルフィのギルドが請け負う依頼は暗殺や抗争といった過激なものはなく、護衛や遺跡探索や魔物退治の類。
普段基本的に魔物との戦闘を想定しているため、本格的な対人戦闘は不得手――まだ経験が浅いヴァネッサは特に。

>「大丈夫か、クソっ、セルフィ、こいつを守りながら一緒に前を頼む。御者のおっさんも手伝ってくれ」

トリスタンに諌められ、不承不承ながらも後ろに下がるヴァネッサ。代わりにセルフィが前へ。
とはいっても、何を隠そう、本来セルフィは純然たる後衛職。
肉弾戦においてはヴァネッサどころかその辺の人以上にド素人なのだが……。

「ヴァネッサ、弓で援護を! どさくさに紛れてボクを撃つのはシャレにならないからやめてね!」

そう言いながら光り輝く宝石があしらわれた杖を一振りすると、放射状に光弾が発射され、襲い掛かってきた敵を打ち抜く。
そう、接近される前に問答無用で吹っ飛ばせば何ら問題はないのだ。
その攻撃を掻いくぐって襲い掛かろうとする輩を、ヴァネッサの矢が足止めする。
普通なら乱戦の中に弓矢を撃ちこむのは常識外れだが、百発百中の腕前の持ち主ならそれが可能となるのだ。
そうこうしているうちに敵にどんどん新手が現れる。

「魔法兵に重装歩兵か、どう見てもただの過激派じゃないようだね」

44 :
いよいよ追い詰められてきたところでブッシュが登場し、なんとか盛り返す。
当初は店番をしておくつもりだったはずだが、虫の知らせを受けたのか――
尚、アナザーヘヴンはこんな感じで臨時休業が多い事で有名だったりする。
そして司令官らしき人が出てきて意味ありげな事を言い始めた。

「千人斬りのジュリアス……脅威のストライクゾーンを誇り老若男女問わずメッタ斬りにしてきたという生ける伝説……!
それが、ここに来るだとォおおおおお!?」

別に間違ってはいないが甚だ誤解を招く言い回しで恐怖を表現する。
そんなことをしている間に再び敵の魔法攻撃が再開した。

>「セルフィ、敵の位置は掴めないのか?」

「それさっきから考えてたんだけど魔法が飛んでくる方向が一つじゃない。
それに遠くに隠れてるにしては重装歩兵と連携が取れ過ぎてる。もしかして、だけど……」

光の杖を高々と掲げ、呪文を詠唱する。

「”聖ナル光ノ下ニ、真実ハ暴カレル”――Holy Light」

一瞬、聖術の光が辺り一帯を照らした。次の瞬間、魔法兵達が姿を現す。
彼らは森の中に隠れているわけではなく、混戦の間近に普通に控えていたのだ。

「当ったり! 姿隠しの魔法――そりゃ思いがけぬ方向からの不意打ちも楽勝ってわけだ」

「あれ?もしかして見えてる!?」「おいやべえぞ!」「この魔法が解けるなんて!」

安全な場所からいきなり最前線に放り出されたも同然の魔法兵達は大慌てである。
そこに容赦なく光弾を撃ちこむ。

「蹴散らすなら今のうちィ!」「ぐぎゃぁああああああああ!」

阿鼻叫喚(敵の)が響き渡る。

45 :
セルフィの呪文が放たれると、魔法兵が森の手前側に突然現れた。
「おわっ…! そこにいたか! セルフィ、ナイス!」

セルフィの光弾が魔法兵たちを打ち、さらに残りはトリスタンの投げナイフによって次々討ち取られていった。
「おのれ…おのれおのれおのれ…!!」

敵の指揮官はまさかの事態に慌てている。トリスタンとブッシュは傷つきながらも妨害を免れて敵を押し返しつつある。
次々に敵の屍が積み重ねられた。既に傭兵と思われる軽装の兵たちは逃げるか殺されるかして残っていない。しかしだった。

「おい、こいつの命がどうなっても良いのかよぉ…!」 「ヴァネッサ!」
盗賊風の男の一人がヴァネッサを羽交い絞めにしてぎりぎりとナイフを近付ける。首にそれが食い込み、血筋が垂れる。
焦るブッシュだったが、トリスタンはすかさず投げナイフを敵の脇腹へと突き刺した。
「グェェ…!!」
よろめくヴァネッサに後ろからトリスタンは声をかけた。一言だけ。「さぁ、そいつを殺せ、ヴァネッサ。ガキは卒業だ」
ヴァネッサは意識も朦朧とする中、冷静になり、ナイフを倒れた敵の首へと突き立てた。ギャァァという呻き声とともに男は絶命する。
生ぬるい血液がヴァネッサの手を伝う。人を初めて殺した瞬間に、彼女はすっかり頭を奪われていた。
「おい、一人殺ったぐらいでひるんでんじゃねえ。さっさとご家族様の護衛に入ってくれ」

ヴァネッサが下がって再びトリスタンが向き合った時だった。
ドシャアア! という轟音とともに、正面の森のあたりで、突然火柱が上がったと思えば、悲鳴が聞こえてきた。敵の兵のようだ。
それはまだ少年だった。大きな剣に敵兵のものと思われる兜付きの首をぶら下げており、こちらに向かってくる。
「敵は…どこにいるんだ? 俺が…殺してやる」

名前:ジュリアス(ジュリアス・ロートネフィル)
年齢:11
性別:男
身長:163
体重:55
スリーサイズ:
種族:人間?
職業:傭兵(狂戦士)
特技:剣技(遠距離・範囲含む)
長所:並外れた速度、剣技と魔力
短所:残虐。まだ頭は子供である部分が多く、暴走しやすい
武器:大剣(ドラゴンキラーと呼ばれている)
防具:上半身、下半身の一部だけを重点的に覆う軽装備
所持品:簡単な冒険者道具
趣味:人殺し
最近気になること:自分の村を焼き払った敵について、兄について
将来の夢(目標):母と姉の仇討ちをし、兄と村を崩壊させた敵を滅ぼす。
キャラ解説:トリスタンの父が死んだ際、同時に襲われた母が身ごもって生まれたトリスタンの弟。
村を空けて母と姉を見殺しにした(と思いこんでいる)兄のトリスタンを憎んでいる。
ロブレス村崩壊の際、たった3歳にして村を脱出し、そこからは傭兵団に拾われてめきめきと力を現す。
まさに歩く殺人鬼と化している。非常に能力に優れ、「純血種」の血を引いている可能性が高い。

46 :
その少年は体つきこそ小柄なものの、腹筋は割れており、限界まで鍛え抜かれていることが分かる。
全身からは赤や紫のオーラが表れている。これが普通の魔法によるものではいないことは明白だ。
「おぉ…ついに来たか、ジュリアス、あの者を殺せ!」

トリスタン、ブッシュと対峙していたアーマー兵たちは後ろから現れたジュリアスに驚いていた。
ジュリアスの進行ルートに不運にも居合わせてしまった兵が甲冑ごと上半身を吹き飛ばされる。
元々ぶら下がっていた頭とその兵の頭の二つが吹き飛び、血しぶきが噴水のように上がる。
オォォ・・・とあたりは静まりかえった。

「あいつは…まさか…そんなはずは、、、ジュリアス?!…だと?」
ふと八年前に生き別れた弟の顔に似ていることに気付き、ぼやいた。
ジュリアスは止まることなく、ゆっくりと兵たちの中を掻き分けてきた。
ブッシュがそれに呼応し、斧を構え、相手の出方を窺った。

一瞬のことに見えた。ブッシュが斧でジュリアスに斬りかかると、ジュリアスが大剣を瞬時に肩から振り下ろし、
時間が飛んだかのようにブッシュの斧に斬りつけた。
刹那、赤や紫の魔力の渦が天へと昇った。そして地面が割れ、ブッシュの斧と腕が宙を舞った。
「ギャァァァ!!」
その向こうには馬車があったが、調度その延長線上にいた御者の男に直撃し、一瞬で体を四散させていたところだった。
「ま、待て…」
勇猛果敢なブッシュも、さすがにこの言葉しか出なかったのだろう、しかし、その言葉を紡ぎ終える頃には、
もう一撃が横薙ぎに放たれており、ブッシュの首は宙を舞い、森の方へと吹き飛ばされていった。同時に敵の兵士たちが数人立っている近くの地面が大きく抉れる。
ウワァァァァ…

バルゲルの家族たちは逃げ出し、敵の兵たちも多くが、あまりの恐ろしさに我先へと逃げ出していった。
ただ敵の指揮官は辛うじて、尻餅をついたまま、ジュリアスの強さに拍手を送っていた。
ヴァネッサは馬車の後ろに隠れ、自分で手当てをしている。前線に残るトリスタンとセルフィの行く末を見届けながら。

ジュリアスは残ったブッシュの死骸を一瞥すると、トリスタンの方を向いた。
「…兄貴…!」
「やっぱり、お前だったのか、ジュリアス。何がお前をそのようにしたんだ?」
「あぁ?!シラ切ってんじゃねえよ!てめえが母さんや姉さんを殺したんだろうが!!!」
子供らしく激昂するジュリアスに、トリスタンはかぶりを振った。
「”父親は違うかもしれないが、俺は兄として忠告するぜ。俺は留守にしてただけだ。冷静になれ、ジュリアス」
「…ふっざけんな、トリスタン!!おれはな…てめぇをRために毎日剣振って来たんだよ!」

無駄だ、とトリスタンは悟った。「どうやら出来の悪い弟を宥める仕事みてえだな…」
トリスタンは後ろにいるセルフィに合図を送った。
「魔法で全力で援護してくれ。方法は問わねえ。最悪死ぬ覚悟だ。頼む」
そして、「バルログ」を構え、弟・ジュリアスに向き直った。

47 :
>「おぉ…ついに来たか、ジュリアス、あの者を殺せ!」

自らの側であるはずの兵をも容赦なく蹴散らしながら、その者は現れた。
並外れた身のこなしに、視認できるほどの濃密な魔力。
そしてとても11歳とは思えぬ体格。身長だけは小柄とはいえ、小柄な成人男性で通る程度はある。

「ブッシュ! 行っては駄目!」

相手の危険性を感じ取ったセルフィが制止するが、時すでに遅し。
数刻後には首が宙を舞っているのだった。

「い、いやぁあああああああああああああ!!」

ヴァネッサの悲痛な悲鳴が響き渡る。
それに対しセルフィは一見平常心で、後ろにいるバルゲルの家族達に声をかける。
その声が微かに震えている事に気付いた者は果たしているだろうか――

「ここは私達が食い止めます――先に行ってください! 必ず後から追いかけますから!」

護衛の任務を受けながら無責任にも聞こえるが、こうなってしまってはここに留まる方が却って危険であろう。
尤も、この状況では何も言われずとも逃げるであろうが――

「おいセルフィ、ここは引いた方がいいんじゃ……。アイツ人間じゃないだろ!」

それは至って常識的な提案。どう見ても勝ち目はない。
相手の正体まで察して言ったわけではないだろうが、概ね当たっている。

「ん〜、多分人間だけどただの人間ではないってところ。確かに普通なら勝ち目はない。
でも大丈夫、実はボクも人間じゃないんだ」

セルフィの背に非実体の光の翼、頭上に光輪が現れる。強敵と対峙する時としか見せない姿だ。
何が大丈夫なのか理屈は不明だが、その姿に圧倒され納得してしまうヴァネッサであった。

48 :
>「魔法で全力で援護してくれ。方法は問わねえ。最悪死ぬ覚悟だ。頼む」

「”彼ノ者ハ、女神ノ盾ニ、守ラレル”――Protection」「”ソノ剣、運命ヲ切リ開ク”――Holy Weapon」

トリスタンの言葉が終わらないうちに、二種類の術を矢継ぎ早にかける。
非実体の盾で敵の攻撃を受けた際の威力を軽減する防御の聖術と、聖なる力を付与する武器強化の聖術だ。

「言われなくても! キミはヴァネッサの恩人だしそいつはブッシュの仇だ。
でもね……生憎うちのギルドは殉職禁止だ!」

殉職禁止、それはアナザーヘヴンの鉄の掟……ブッシュが初の違反者であった。

「”戯レル御霊、光ノ饗宴”――will-o'-the-wisp」

続いて周囲にふわふわと漂う無数の光球が現れる。
通常攻撃に使っている光弾に似ているが、それより桁外れに大きい。
これを敵にぶつけると炸裂しダメージを与えることができるのだが、強敵相手では威力自体はあまり期待できない。
特筆すべきは、あらかじめ作っておけば寸分のタイムラグ無しに術者の意のままに操れる点だ。
ぶつけたところで仮に一瞬の目くらましや足止め程度にしかならないとしても
一瞬の差が命運を分ける近接戦闘の支援に使えば絶大な威力を発揮するのだ。
下準備をしている間に戦闘は始まり、ジュリアスがトリスタンに突進してきた。
駄目押しとばかりにトリスタンにもう一つ術をかける。

「もう一丁! “迷宮入リノ、合ワセ鏡”――Shadow Clone」

間一髪で相手が接近しきる前に発動。光を操り対象の無数の分身を作り出す技だ。
おそらく純血種である相手にどの術がどこまで通用するかは未知数――
とはいえ、鉄の掟違反者はブッシュだけで十分だ。
初撃でずんばらりはもう勘弁してくれよ?と思いながら永遠のような一瞬を見守る。

49 :
「い、いやぁあああああああああああああ!!」
ヴァネッサの悲鳴が響く。ブッシュの無残な姿を見たのだ。
家族のように暮らしてきたのだろう。当然のことだ。
だが、トリスタンは今は後ろを振り返ることすら許されない。


「おい、おっさん。金貨20枚追加、な?」ジュリアスが司令官へと睨みを利かせる。結構な額だ。
「あぁ、分かった…お前ならあいつらを始末してくれる…頼む」

フワリ、と後ろから異質な気配を感じ取った。
「セルフィ…?! まさか…あれは天使…!」
その姿はまさに天使。間違いなく彼女は人間ではなかった。
しかし、そこにすかさずジュリアスの一撃が入る。
ガィィィン…!
激しい音とともにトリスタンの両腕に物凄い衝撃が走り、辛うじて受けたものの、
後ろに数メートルほど弾き飛ばされてしまった。その地面は抉れている。
体を同時に赤と紫のオーラが纏い襲う。バリバリと、トリスタンの肉体を蝕んでいく。

「おい、来いよ。なぁ、トリスタン…!!」
ジュリアスは余裕といった表情で、追い詰められたトリスタンを睨みながら近づく。次の一撃で確実に葬るためだろう。
ジュリアスの剣は攻撃範囲も広く、確実だ。逃げる、避けるといった選択肢は残されていない。

50 :
しかし―
「”彼ノ者ハ、女神ノ盾ニ、守ラレル”――Protection」「”ソノ剣、運命ヲ切リ開ク”――Holy Weapon」
「言われなくても! キミはヴァネッサの恩人だしそいつはブッシュの仇だ。
でもね……生憎うちのギルドは殉職禁止だ!」

「殉職禁止か… 一人出しちまったな。分かった。だが、俺は止まらねえぜ。分かってんだろ?」
振り向かずジュリアスに向き合う。バルログを振りかぶったトリスタンは、明らかに特異な天使のオーラを纏い、体の痛みもなく、動きも軽い。
すぐさまジュリアスの脇腹に斬りかかるも、彼の人間離れした一撃がトリスタンを襲った。
「バカめ…!」にやりと笑うジュリアスだが、トリスタンは全く動じていなかった。バカな、という表情をするジュリアスに、バルログによる一撃が入る。
「あああああぁ!!」
11歳相応といえる、怯えを帯びた悲鳴が上がる。しばらくダメージを受けた経験がないのだろう。
攻撃はかわしたものの、魔法の一撃がジュリアスに入り、痺れは激しいものとなった。

「今だ!!」
「もう一丁! “迷宮入リノ、合ワセ鏡”――Shadow Clone」
ジュリアスは物凄い勢いで連撃をかまし、トリスタンを襲った。しかし、その全てが分身だった。
トリスタンの攻撃はオーラを追尾しており、それが逆に仇となったのだ。
しかし、接近するトリスタンが無事で済む訳もない。

「くそっ…!!」
アーマーや顔面には無数の傷ができ、流れ、飛ぶ血、そして衝撃波による打撲でかなりの痛みを伴った。
そして、その時は来た。
「うぁっ…!ぐぁぁぁ!!!」「覚悟しろ、糞弟オォォォ!!!」
トリスタンが大剣を持ったままのジュリアスを羽交い絞めにし、そのまま首を絞めはじめた。
暴れるジュリアスは大剣を動かし、さらにオーラでトリスタンを傷つける。
鍛え抜かれたトリスタンの肉体は、数十秒のち、ジュリアスを締め落とし、ついにジュリアスはぐったりと体を横たえた。
ふと見ると、ジュリアスの脇腹にボウガンの矢が刺さっている。ジュリアスを助けにトリスタンを撃ったのか、それともジュリアスを狙ったのか…
それは司令官による不意打ちだった。

後ろから来るセルフィと、その後から駆けつけてきたヴァネッサに、トリスタンは息も絶え絶えながら話した。
さらに後ろからは、隠れていたと思われるバルゲルの家族たちが現れる。
「こいつはしばらくは目を覚まさねぇ…どうかRのだけは止めてやってくれ。一応、弟なんだ。
それより、今逃げた司令官をRか、捕まえてくれ。それが終わったら、こいつを優先して回復を…毒があるかもしれねぇ…俺は…大丈夫…だ…」

そこまで話すと、トリスタンはガクリと頭を落とし、弟・ジュリアスの真横に倒れた。
ヴァネッサの悲鳴が意識が落ちる僅か前に聞こえた気がした。

51 :
幸い分身の幻影術が功を奏した。
ジュリアスはどれが本物かは全く分からないようで、片っ端から分身を襲っている。
たまたま本物にいきそうなときはセルフィがあらかじめ作っておいた光球を炸裂させ、目くらましを行う。
もちろんセルフィは術者なので本物を把握できるのだ。
暫し剣が風を切る音と閃光が炸裂する戦いが繰り広げられた――。
そしてついにトリスタンの剣筋がジュリアスを捉える……と、思いきや。

>「うぁっ…!ぐぁぁぁ!!!」「覚悟しろ、糞弟オォォォ!!!」

トリスタンは大剣を持ったままのジュリアスの首を絞めにかかった。
そのまま斬り込めば決着が着く間合いあったにも関わらず、下手をすれば形勢逆転される危険な行動。
トリスタンは相手の攻撃の直撃は受けていないはずだが、気付けば余波だけで満身創痍になっている。
もしまともに食らっていたら一たまりもなかっただろう。

「なっ……危険すぎる!」

今のうちに強力な単体攻撃が出来る攻撃魔法を撃ちこもうと一瞬思うが思いとどまる。
トリスタンがそこまでする理由として考えられるのはただ一つ。殺さずに気絶させるためだ。

「”誘ウハ深キ微睡”――Stun Magic」

唱えたのは、相手を気絶させる術。
気絶といっても衝撃を与えるわけではないので、強制的に眠らせる術とも言える。
雑魚相手に平和的不戦勝に持ち込む時のセルフィの定番技だが、強敵相手ではまず効かない。
駄目で元々、で放った術が少しは効いたのか
あるいはトリスタンが全て自力でやり遂げたのかは分からないが、ついにジュリアスは気を失った。
その脇腹にはいつの間にかボウガンの矢が刺さっている。司令官がボウガンを持っていた気がするが……
セルフィはこの時点では、トリスタンを撃とうとしてこちらに刺さってしまったのだろう、と解釈した。

>「こいつはしばらくは目を覚まさねぇ…どうかRのだけは止めてやってくれ。一応、弟なんだ。
それより、今逃げた司令官をRか、捕まえてくれ。それが終わったら、こいつを優先して回復を…毒があるかもしれねぇ…俺は…大丈夫…だ…」

「分かった、分かってるさ。大丈夫だから少しお休み」

攻撃魔法を撃たずに気絶の魔法に切り替えた―― 一瞬の判断だったが、殺さない事はその瞬間に決めてしまったのだ。
二人が兄弟なのだろうということは、二人の会話から察しがついていた。
とはいえ、トリスタンはジュリアスのような異常なオーラはまとっていない。
片親だけ一緒だとか、かなりワケありのようだ。
司令官はトリスタンが言ったように敗北を察して逃げたのか、いつの間にか姿を消している。もう一つの懸念事項は、ブッシュの無残な死を間近で見てしまったヴァネッサのことだ。

52 :
「分かってくれるかな……? こいつはきっとあの司令官に騙されて利用されてたんだ……。
こうなったのは判断を誤ったボクの責任だ」

冒険者が命を落とす事は珍しい事ではない。
それでも今まで殉職者を出さずにやってきたのは、まず無謀な依頼は受注せず
適性と熟練度を考えあわせ無理なく達成できる程度の依頼に冒険者を送り出してきたからだ。
今回は全てが想定を超えていた――だがこの世界は結果が全て。こうなってしまったからには言い訳はできない。

「見くびってんじゃねえぜ? ブッシュがいつも本当の敵をよく見極めろって言ってた」

罵声を浴びる覚悟をしていたセルフィだが、返ってきたのは意外な反応だった。

「見てたんだ、司令官のジジイがボウガンを撃つところを……。
構えを見りゃ分かる、どう見ても乱戦の中に適当に打ち込んだ感じだったぜありゃ」

「それじゃあ……誤射じゃなくて”当たればどっちでもよかった”ってことか!」

「厄介者同士をぶつければ少なくとも片方は消える……上手くいけば相打ちで両方だ。
利用されてたどころじゃない、厄介者同士掌の上でぶつけられただけだったんだよ!」

守るべき駆け出し冒険者とばかり思っていたヴァネッサがいつの間にか
ボウガンの名手ならではの観察眼と、一時の感情に流されず賢明な判断ができる心を身に着けていた事に驚く。

「良かった……安心してここを任せられるよ。”魂ノ傷サエ癒ス星ノ調ベ――”Star Light Healing”」

星のきらめきのような光がその場にいる全員に降り注ぐ。天使の強力な回復術だ。

「これで暫く休めば大丈夫なはずだ。ヴァネッサ、みんなを頼むよ……ボクはアイツを追う!」

気絶者と護衛対象を放置するわけにはいかないのはヴァネッサも分かったようで
一緒に行くと駄々をこねることはなかった。その代り、追跡に強力な手掛かりを示す。

「ジジイのやつ他の奴と違う靴を履いてやがるからすぐ分かるぜ。多分あっちの方向だ!」

野山を駆ける弓使いがよく身に着けている特技の一つ、足跡追跡――ヴァネッサもその例に漏れなかった。

「ありがとう!」

その通りの方に急ぐと、すぐに司令官に追いついた。
ヴァネッサの助言がなければこうはいかなかっただろう。

「変幻自在ノ光ノ呪縛――Rune rope」

相手はこちらに気付いているのかいないのか――逃げる相手の背に向け、動きを封じる光の縄を放つ。

53 :
「こ、ここは… おわっ!」
トリスタンが目を覚ますと、そこは屋敷のベッドの上だった。
ヴァネッサが抱きつき、柔らかい感触が襲う。
「トリスタン…! 良かった…良かった…!」
涙を流して喜ぶヴァネッサ。

「お前…おっさんは…ブッシュがやられたことは恨んでないのか?俺の弟が…それにお前、怪我!」
「もう大丈夫だ。トリスタンは…オレを守ってくれたから…そんな訳ないだろ」
「ところで、敵の正体は…?」
「あぁ、敵はフルトとかいう王子の一派だってさ…セルフィがあのジジイから洗いざらい聞いてくれたよ。さすがマスターだぜ」

話によると、どうやら敵の司令官がいた街が明らかになったらしい。この近くのイェーダという街で、王子派が接収した領土であることから特定したとのこと。
こちらの死者2名に対し、相手は十数名の死者を出しており、今回の暗殺は大失敗。情報も漏れていることだし、しばらくは攻勢はないだろう。
あれから丸一日以上が過ぎ、無事に引越しが終わり、今ではバルゲル公爵の息子、ニルスによって盛大な宴が屋敷で開かれている。ここはその一室ということだ。

「あ、そういえば…ジュリアスの奴はどこだ?」
「あいつなら…隣の部屋に…」
「すぐ言ってくる!」
「あ…まだ動くなっての、傷が…!」

そして、トリスタンはついに弟との「再会」を果たした。
「ぐっ…トリスタン…おれを…Rのか?」
「殺しはしねえ…」
バルログで素早くトリスタンの縄を切り、そのまま連れ出す。剣を突きつけたままだ。「ドラゴンキラー」は押収されたのか、そこにはなかった。
慌てるヴァネッサがそのままついてきた。
「そいつはブッシュを殺した極悪人だ!ガキだからったって…今度はトリスタンやオレやセルフィが、殺されるかもしれない」
大声でまくしたてるヴァネッサ。その目には涙が浮かぶ。
「そうはさせねぇさ…」

1階のフロアでセルフィの姿を見つけた。宴会の声が奥から聞こえる。
トリスタンはセルフィに合図し、ウィンクすると、ヴァネッサの肩を押して外すように頼んだ。
「ちょっとこいつ連れて、外行ってくる。セルフィはヴァネッサの世話頼んだ。あと、ありがとな。あんたがいなかったら、
多分俺は死んでいた」

54 :
屋敷の外は真っ暗だった。
少し屋敷から離れ、森の方へと行くと、トリスタンはジュリアスの肩を突き飛ばした。
「てめえ、どういうつもりだ?」
トリスタンはゆっくりと口を開いた。
「お前を解放する。後で俺が責任を取らされようが、それは俺のせいってことでいい。俺はお前を助けたい」
「馬鹿言ってんじゃねえ、俺がこれで許すとでも…」

トリスタンは剣をいったん鞘に収めると、弟に諭すように言った。
「よく聞け。お前と俺の母親は、お前の父親に、犯されたんだよ。そしてお前が生まれた」
「なんだって…?!」
「そして、お袋とパーシーを殺したのは…多分そいつ、お前の父親だ」
「…! そんなことが… そんなことが受け入れられるかぁあああ!!」
凄いオーラだ。赤と紫の光があたりを包み込み、衝撃でトリスタンは引き摺られた。
  「目を覚ませ、馬鹿野郎ーー!!」
トリスタンは瞬時にバルログを抜くと、ジュリアスの額に傷をつけた。血が僅かに流れ出す。
「痛いか…痛いだろうな… それが、俺がずっと背負ってきた傷だ」
「くっ…」

トリスタンは踵を返すと、そのまま弟の方を振り返らずに言った。
「逃げろ、ジュリアス。そして、いつか一緒に倒そう。そのクズ野郎をな。
そいつが、この世界を乱している大馬鹿野郎だ。また会える。 俺は…どこからでも、出てきてやるぜ…!」
「兄貴…」
最後にその言葉を聞き、屋敷の扉の方に着いた頃は、ジュリアスの気配は既になかった。

55 :
屋敷に戻ると、宴もいよいよ酣になっていた。
そのとき、正面のオブジェの奥に、ジュリアスの剣が置いてあるのが見えた。
それを持ち上げるトリスタン。かなり重い。普段振るっているバルログに比べ、こちらを今扱えといえば難しいだろう。
ヴァネッサにすら勝てないかもしれない。
「あいつ…あの体でどれだけ鍛えてたんだ…」

そのまま宴会場に入った。セルフィの姿がある。
トリスタンは「ドラゴンキラー」を抱えたまま、酒をもらい、飲みながらセルフィに話しかけた。
「よう、飲んでるかい?っつっても、ブッシュのおっさんを亡くしてて、悲しいんだろうけどさ。
ブッシュとはやっぱり、一緒に暮らすほどの仲だったのか?そういや、翼が生えてたみてえだけど、天使か何かの一族か?
あ、そうだ…あと、ヴァネッサのことはこれからどうするんだ?」

酒の勢いで一気に話しかける。なるべく明るく振舞うためだ。
本当は全身ボロボロで痛みが止まらない。心も痛い。
セルフィが大剣のことを気にしている。ジュリアスのことを口に出す前に、こちらから話した。
「あいつは俺が逃がした。悪い…」

沈黙が漂う。セルフィの、その綺麗で年齢や表情を窺いにくい顔を窺う。
「殴りたければ殴ればいい。通報してくれても構わない。ただ…あいつは、俺の弟なんだ。
どうしても復讐しなきゃならねえ敵がいる。そいつは、俺にとってもあいつにとっても一緒だ。
なぁに…この剣がなきゃ、あいつは今まで通りの力は出せねぇ…」

最後のだけは口からので任せだ。
セルフィとしばらく座って飲んでいると、ヴァネッサやニルスの子供たちもやってきた。
楽しそうだ。どうやらヴァネッサはまだまだお子様なようだ。

やがて、ニルスが部下の貴族らしき顔ぶれと共に現れ、今回活躍したと伝わっているトリスタンを呼んだ。
セルフィが誉められてもいいと思うが、ここは大人しく行くことにした。
「俺は…明日にはここから出る。お別れだ。報酬はいらねえ。ここの酒とこの剣だけで充分だ。
じゃあな。これからもギルドマスター、頑張ってくれよ。俺の命の恩人の天使さんよ」
セルフィを抱き寄せ、頭をぽんぽんと叩いた。そして、トリスタンはニルスたちに連れていかれた。

騎士に取り立てる、などの話もあったが、トリスタンは全て丁寧に断った。
そして、結局小額の報酬と、馬車で近くの街まで送り届ける、ということでこの夜の話は終わり、寝室に戻ることとなった。

56 :
【さて、次が今回の章でのセルフィ ◆WfbCv0o1zE さんの最後のレスとします。ご了承ください。
勿論、特にこちらから展開への制限はありませんので、自由に書いてしまって結構です。
また、今後の章で、展開次第ではNPCとしての登場があるかもしれないことをお伝えしておきます。】

57 :
司令官は実は高位の魔術師で……なんて展開も無きにしも非ず、と覚悟していたが
幸い自らの戦闘能力は素人に毛が生えた程度の文字通りの司令官だったようで
光の縄にあっさり捕縛され、軽く締め上げると洗いざらい喋ったのであった。
気絶者や怪我人達は馬車に寝かせ、伸びた司令官はとりあえずロープで簀巻きにして荷台に放り込み
バルゲル一家やお付きの者達に声をかけ体制を立て直す。

「大変お騒がせいたしました、先を急ぎましょう――!」

まだ任務は終わっていない、嘆くのも反省するのも無事に引っ越しが終わってからだ。
それからの道程は滞りなく進み――丸一日が経った頃、新居に辿り着いたのであった。
そうしたら、お約束の盛大な宴である。

トリスタンが目を覚ます少しばかり前――。
セルフィはジュリアスが拘束されている部屋に入り、光の杖を突きつける。
悪を断罪する神の使徒のような、とても高潔、だけど氷のように冷たい目。
ブッシュを殺された直後に対峙した時ですら見せなかった表情。

「Rなら殺せ……!」

「安心して、殺しはしない。代わりにこれが、ボクがキミに与える罰。
”汝ニ課スハ破リ得ヌ掟――”Geass”。“人をRな、誰かを護るため以外――はね”」

セルフィが呪文を唱えると、非実体の鎖がジュリアスに絡みついた、ように見えた――
これは危険人物が悪さをしないように禁止の呪いをかける術だ。
もしも禁止事項を破ろうとすると、精神に異常をきたすレベルの激しい苦痛に襲われることとなる。
と言うと反則級に強力そうに聞こえるが実はそうでもない。
例えば今回の殺人禁止だと「誰かを護るため以外」の例外条項が付くわけだが
多くの殺人が極限まで広く解釈すればだれかを護るためと言えてしまうわけで――
ただし、人殺しを趣味とする快楽殺人者となると話は別。ジュリアスはまさしくそれであった。
今の所何の変化もなく拍子抜けしているジュリアスに向かって、セルフィはすっかりいつもの調子に戻っ悪戯っぽく笑っていた。

「ざーんねんでした! キミはもう殺戮ヒャッハーできない。
具体的にはやろうとしたら気が変になるほどの激しい苦痛に襲われるからやらない方が身のためだ。
解き方はね……キミが快楽殺人者じゃなくなった時、この呪いは自動的に解ける」

トリスタンが目を覚ますと、すぐにジュリアスを外に連れ出していった。
ヴァネッサはすぐにニルスの子ども達と仲良くなり
残されたセルフィは宴の喧噪のなかでなんとなく今までの事を思い起こしていた。

『そなた以来新たな同胞が生まれておらぬ……これは由々しき事態!
そこでじゃ! 人間社会に赴き情報収集しつつ人助けをする任を命ず!』
『へいへい、どーせ拒否権無いっしょ?』
『行き倒れ……!? 嬢ちゃん!大丈夫か!?』
『本当は多分キミより年上だけどそれはいいとして長老の奴がケチではした金しか持たせてくれなかったんだ!』
『大変だ、頭を打ったのか! こいつは厄介なことになったぞ……!』
『ところでギルドを作ろうと思うんだ』『居候の分際で何言ってんだ!?』
『我がギルドもはや中堅規模……ブッシュ、キミを副マスターに任命しよう!』
『べ、別に嬉しくなんてないからな!? 巻き込まれて仕方なくやってるだけだ!』
『この子はヴァネッサ。行くところが無いらしいからうちに来てもらうことにした』『はい!?』

「ブッシュ……ありがとう……」

58 :
ゆっくり噛みしめる間もなかった想いが、ここにきて堰をきって溢れ出す。
暫くしてトリスタンが戻ってきたが、ジュリアスの姿は無い。
トリスタンは空元気で饒舌に喋りはじめた。

>「よう、飲んでるかい?っつっても、ブッシュのおっさんを亡くしてて、悲しいんだろうけどさ。
ブッシュとはやっぱり、一緒に暮らすほどの仲だったのか?そういや、翼が生えてたみてえだけど、天使か何かの一族か?
あ、そうだ…あと、ヴァネッサのことはこれからどうするんだ?」

「一緒に暮らすほどの仲というか……まあ成り行きで、ね。
これから話すことは酔っぱらいの戯言だ。
お察しの通りボクは天使、隠れ里エデンに住まい生命の樹から命を授かる一族――その一族の諜報員だ。
長老が言うにはこの世界には何かとんでもない異変が起こってる……。でもそれが何かは分からないんだ。
ヴァネッサは……そうだな、副マスターに任命してもいいかもしれない。
何にせよ今までどおりいてもらうさ、彼女が自分から離れて行かない限り、ね」

何か極秘事項をペラペラ喋っている気がするが、仮にトリスタンがこれを人に話したとしても
「頭のネジが飛んだギルドマスターがまた変な事を言ってやがる」で済むので何ら問題は無い。
ところで大剣ドラゴンキラーの持ち主は何処に行ったのだろうか、セルフィが尋ねる前にトリスタンが口を開いた。

>「あいつは俺が逃がした。悪い…」

「……」

セルフィは複雑な表情で絶句する。
驚きの事実ではあるが、全くの予想外ではなかった。逆に予想が的中しすぎて驚愕しているのかもしれない。

>「殴りたければ殴ればいい。通報してくれても構わない。ただ…あいつは、俺の弟なんだ。
どうしても復讐しなきゃならねえ敵がいる。そいつは、俺にとってもあいつにとっても一緒だ。
なぁに…この剣がなきゃ、あいつは今まで通りの力は出せねぇ…」

最後の苦し紛れの希望的観測を聞いてふっと笑う。
嘘から出た真――と言うべきか、それはおそらく現実のものとなっている。

「ふふっ、確かに今まで通りにはいかないかも。
そんな事だろうと思ってね、キミが寝ている間に弟君に悪戯させてもらった。
といってもそんなに物騒なものじゃあない。これ以上無駄に命を奪わないように”約束”してもらったんだ」

約束といっても無論強制的に――だが。
殺人禁止のギアスの例外条項“誰かを護るため以外”の誰かには、当然自分自身も含まれている。
無理矢理禁止事項を破ろうとしない限り、本人に危害を加えるものではない。
そうして暫く語らい、トリスタンががニルスに表彰されたりしていた。
明日にはジュリアスがいない事に皆が気付いて大騒ぎになるだろうが、ひたすらすっとぼけるのみである。

59 :
>「俺は…明日にはここから出る。お別れだ。報酬はいらねえ。ここの酒とこの剣だけで充分だ。
じゃあな。これからもギルドマスター、頑張ってくれよ。俺の命の恩人の天使さんよ」

トリスタンがセルフィを抱き寄せ、頭の上でかるく手をはずませる。セルフィはそれを拒まなかった。
もしこの場にブッシュがいたら「お前そんな柄じゃないだろ!」と突っ込んでいるところであろうが
セルフィの普段のキャラを脇に置いて絵面だけ切り取ってみれば恐ろしく絵になる一場面であった。

「こちらこそ、ありがとう。キミとはまたどこかで会う気がする。だから――またね」

長居してジュリアス逃がしの疑いがかけられては大変――おそらく明日の朝には出立することになるのだろう。

さて、この出会いは歴史を変えたのか――その答えは……
もしも出会っていなかったらトリックスターの勇者は死んでいた、その意味でYESであった。
しかしセルフィはそんなことを考えるわけもなく、ギルド”アナザーヘヴン”は平常運転の日々に戻るのである。

「おいセルフィ、こいつ行き場所ないみたいだから手下にしていいか?」
「駄目だよ勝手なことしたら」「えっ!?」「まずはきちんと会則を説明してうちの方針に賛同してから入会してもらわなきゃ」

これからもセルフィと愉快な仲間達は波瀾万丈な日々を紡いでいくのであろうが
勇者トリスタンの年代記における彼らの一幕はひとまずこれでおしまい。


【ありがとうございました!
置き土産にジュリアス君に細工をしましたが単に演出上やってみたかっただけなので
「実は効いていなかった」「気合で解除!」など何でもアリですw
形式上継続的にご一緒できないのは寂しい気もしますが今までにない斬新な形式なのでこれからの展開が楽しみでもあります!
最初から短期間と分かっているのでお試しで体験してみたい人にも向いてるかもしれませんね。
私が投げ込んだ設定の断片達はもちろん改変自由です。ひとまず一介のROMに戻りますが応援してます。
気が向いたら是非是非NPCとして使ってやってくださいね〜】

60 :
その日の夜のこと…

宴会での酒も入り、トリスタンは無事に事を済ませて朝を迎えるまでの一時をこの屋敷の部屋で眠りにつこうとしていた。
しかし、そう易々とはさせないようだ。”誰か”が部屋へと侵入してきたのだ。それも一人で。
「…誰だ?」
恨みは当然買うだろう。命を狙われる覚悟はあった。トリスタンは素早く起き上がり、相手の姿を確認した。
そこにいたのは――

「ヴァネッサ…!一体何をしに…俺にやっぱり恨みがあるのか?」
ヴァネッサはこれまでに無いような複雑な表情をしてきた。
トリスタンのベッドの前で話しかける。
「トリスタン…オレはとうとう”ヒトゴロシ”になっちまった…」
「寝付けないのか…?」
「うん…」
ヴァネッサらしくもない、しおらしい顔だった。

「お前は人を自分の手で殺した。冒険者としてはもう大人だ。誇りを持っていいんだぞ」
「だよな。もう大人なんだから、今晩ぐらいはトリスタンと一緒に寝る。どうせ明日逃げるんだろ?」
見透かしたように、ヴァネッサが言う。ベッドの端に腰掛けた。
「何言ってんだ…!お前はまだ女としてはガキだよ。話なら聞いてやるから、下でさっさと寝てな」
「これでも、そう言うのか…?」

トリスタンがふと気付くと、ヴァネッサは既に裸になっていた。
まだ14歳とはいえ、その肢体を見れば、女としては成熟していると誰もが言わざるを得まい。

トリスタンはしばらくの沈黙のうちに答えた。
「分かった。来いよ」そう言ってヴァネッサをいざなう。
「拒まないのか?」「どんな時でも女の要求に応えるのが男ってやつだ。男はみんなスケベなのさ」
部屋の明かりが消えた。

――
「トリスタン、もう行っちゃうの?」
「あぁ、予定より早くなった。セルフィたちが起きる前の方が良いと思ってな。お前、良い顔してるぞ」
ヴァネッサが顔を赤らめる。
「なぁ、トリスタン、あんた、うなされてなかったか?」
「そう見えたのか?」「あぁ、凄く苦しそうだったよ。でも、もう気にしていないなら良かった」
もしかすると、母を襲った相手に自分を重ね合わせていたのかもしれない。罪悪感、だろうか。
もしくはセルフィに対する自責の念から来たものかもしれない。
そっとヴァネッサを抱きしめ、頭を撫でる。

「これは俺からの餞別だ。お前の素早い動きなら、きっと使いこなせる。性能は保証つきだぜ」
それはカレイジャスが持っていた、豪華な宝飾つきの短剣だった。勿論、もったいなくて使ったことはない。
「じゃあ、オレからも…」
ヴァネッサは緑色の宝石を出した。
「これ、大分前にブッシュから譲ってもらったんだ。身代わりのお守りにって」
「いやいや、高価なモンだろ?そんな大事なのを俺なんかに…」
「もらっといてよ。もうオレは”一人前”だから。それにこれがあればきっとまたトリスタンに会える気がする…」
ヴァネッサは泣いていた。そっと抱きしめると、その宝石を受け取った。

「じゃあな。きっとお前ならセルフィと一緒に立派なギルドを立て直せる。また会おう」
そっとトリスタンは屋敷を出た。
「じゃあな、セルフィ」
命の恩人、セルフィに感謝しつつも、そっとトリスタンはそこを出た。
それにしてもセルフィがジュリアスに仕掛けた”悪戯”とは何だったのだろう…?

61 :
それから一日後の昼、トリスタンは森の中で戦が行なわれているのを見た。
どこかの国、恐らくはバルゲル公爵領と思われるデザインの鎧の兵たちと、
どこかの暗殺者たちといった軽装の顔ぶれとの戦いである。
暗殺者たちは決して手際が良いとはいえず、次々犠牲者を出し、士気を落としていた。
兵たちは決して錬度は高くないが、その中のトリスタンに歳の近い青年の剣さばきはかなりのものだった。

「キール様!」「さすがキール様だ!」
キールと呼ばれた男は、次々と剣から衝撃波のようなものを繰り出し、敵を屠っていった。
トリスタンほどの目にもなれば仕掛けが分かるが、それは魔法ではなく、剣自体が伸びるような仕掛けになっているようだ。
「水鳥剣!」「さすがキール様の水鳥剣!」
おっと、そんなことを考えていると、暗殺者のうちの二人がトリスタンを発見し、襲い掛かってきた。作戦が失敗した腹いせだろう。
表情を見ていると、どうも本物のプロというよりは、何者かにカネで雇われたそこらの農民といった方がふさわしかった。
「悪い…!」
バルログを引き抜くと、そのまま首筋と脇腹を突き刺し、二人を即死させた。
一瞬、キールの目が見開かれ、こちらに注目する。しかし、何を考えているか分からないような涼しげな目でこちらに挨拶した。
「すまない、青年。我々の争いに巻き込んでしまったな。では、我らは任務中なので、その死体にも触れないでもらえるとありがたい」

感じの悪い奴だ、とトリスタンは思ったが、特に興味もない。一言だけ聞いた。
「いや、大丈夫だ。それより、この近くに街はないか?”キール様”、腹が減ってな」
皮肉に対しキールが答えるまでもなく、近くの兵士がぶっきらぼうに言った。
「この方向に行けば街道に出るぞ。そうすればバルゲル公が治めるハーグに出る。さぁ、さっさと行くんだな」
キールは鼻で方向を指すだけで、そのまま敵の後処理へと入った。

感じの悪い男だ、と思いながらも、トリスタンはしぶしぶそちらへと向かった。

62 :
名前:イリシア・マクドネル(イリス)
年齢:24
性別:女
身長:171
体重:58
スリーサイズ:97-62-95
種族:人間
職業:マクドネル王国第一王女(バルゲル派)
特技:剣術
長所:勇猛なこと
短所:後先を考えないこと
武器:ハックブレード
防具:ブレストアーマー
所持品:多くの装飾品
趣味:ショッピング、剣術
最近気になること:戦乱の行く末について
将来の夢(目標):自分の力で王国を一つにする
キャラ解説:トリスタンがたまたま出逢ったマクドネル第一王女。
既に第一王子である弟フルトとの対立は決定的になっており、公爵領で保護されている。
なお、国王側とも友好。トリスタンとの間にできた7歳の息子、ランスロットがおり、溺愛している。
未婚の母であり、周囲からの感情は複雑。バルゲルの次男であるキースに想いを寄せられている。

>>59
【ありがとうございました。どこかでその設定、生かしたいですね。
お察しのとおり、短編の集まりで展開させていく予定です。ではではまた!】

63 :
街道に出てしばらく歩いていると、最近できたらしき大きな白亜の屋敷が目についた。
ついつい心を引かれたトリスタンは、屋敷へとそっと近づいていく。
その時、ふと屋敷の扉が開いた。トリスタンは見えないように物陰に隠れた。

屋敷からまず出てきたのは、豪奢な服装に身を包んだ男の子だった。
歳は7、8歳といったところだろうか?腰に剣を挿しているところを見ると、
その歳にして剣術の訓練を受けているのか、よほどの身分なのかということを思わせる。
それ以上に、男の子に見覚えがあった。

「まさか…」
いや、そのまさかだった。
「あれは… そんな…?!」
彼の顔は、トリスタンに”非常に似て”いた。

すぐ後ろからそのお付きと思われる兵士や侍女、執事、召使のような者が現れる。
明らかに普通の身分ではない。
そして、最後に現れた女性を見て驚いた。
それはあの時出逢った、イリスの姿に間違いなかった。


一応、>>61>>62の間です

64 :
支援保守

65 :
小一時間は過ぎただろうか。
しばらくすると、先ほどのキースという男が、多くの武装した兵たちを引き連れて屋敷へと戻っていった。
兵たちは一部の者を除いて別の場所にあるらしき宿舎へと向かっていく。
内部からも大勢が出迎えた。兵たち以外に、メイドたちの姿もあった。
彼女たちは様々な武器で武装している。「メイド・ガード」というこの周辺地域に残る伝統らしい。
場合によっては暗殺部隊も驚く特殊任務もできるという噂だ。

その奥から、自ら出向かえたのは、イリスだった。
「これはこれは、イリス様、ご機嫌麗しゅう…手土産をお持ちしました」
イリスはキースの姿を見て、不機嫌そうに一言言い放った。
「土産などいらぬ。もう貴殿の顔は見たくない。帰ってはくれないか」
トリスタンがイリスの変わりように驚く。まるで王族だ。いや、王族だったのか…
「これは今日のお近づきのしるしに…それとイリシア様、いつまでもそのような態度をされても困ります。
あなたは父上の庇護下にある。私の話にも従っていただかなくては…そして、ランスロット様は…」
何かを強引に手渡し、手の甲にキスをしようとするが…
「話はこれまでに。私は王国を元に戻す責務がある。そなたの野心などに利用されるつもりはない!」
そのまま手を弾くと、大声でイリス…イリシアは怒鳴った。

あまりの声の大きさに驚いたトリスタンはうっかり体を仰け反らせてしまい、剣の鞘が地面に当たった。
「何者だ!」
兵の一人が声を張り上げると、不審者を追うように指示が出された。
「賊だ!追え! 殺してしまっても構わん」
キースが声を張り上げる。バルゲル公爵の息子なのだろう。周囲は一斉に警戒態勢に入った。

トリスタンはその場に「ドラゴンキラー」を隠すと、そのまま森へと駆け出していた。
敵はまだ一部追ってきている。その足は速い。三人だ。そしてトリスタンは発見された。
「賊は剣を持っている男と思われます。見つけ次第殺しましょう」「はい!」
一斉にトリスタンの周囲をメイドたちが取り囲む。一人は東方風の曲剣、一人は沢山の飛び道具、そしてもう一人はナイフのようだ。
トリスタンは足は速かったが、彼女たちはなんせ布装備で、洗練された動きだ。確実に追いつかれ、殺される…!

木々の感覚が狭いあたりを狙い、迎え撃つ。
まずはナイフと矢が放たれるが、半分以上は木に遮られ、残りもマントによって弾かれた。
動きも揃っているようだ。左右から取り囲むようにして、残りの一人、刀使いが後ろから狙ってきた。
そこでトリスタンは、賭けに出る。
「うおぉぉおお!!」
バルログを抜くと、感覚が確かにあった。メイドは突然引き返したトリスタンに怯み、両側から攻撃が入ったものの、
矢と投げナイフの攻撃を受けつつも、後ろのメイドの首筋を切り裂き、彼女は刀を落とし大量の血を噴き出しながら肢体をがくりと木の幹にぶつけた。
「…!!」「しまった…殺しちまったか…!」

メイド側は全く怯む様子を見せず、間髪を入れずに攻撃を繰り出す。
トリスタンはわざとナイフを持ったメイドの方に背中を向け、ボウガンを持ったメイドの方に全身を傾けた。
その隙に上からナイフを持ったメイドが襲いかかる。そこが狙いだった。
トリスタンは横転すると、そのままメイドを掴み、屠Rるかのごとく、脇腹を抉った。
「ぐっ…」
その一撃はRつもりはなかったが、装備が予想より薄かったのか、トリスタンの力が予想以上だったのか、致命傷となってしまった。
彼女は血を撒き散らしながらのたうち回ったのち、動かなくなった。

もう一人は逃げるかと思いきや、わずかな隙にトリスタンの懐に飛び込んできた。刺し違えても殺害する気らしい。
「さすがはハーグのメイド・ガード…だが俺の体力を見誤ったようだな…!」
トリスタンはあちこちから血を流しながらも、そのまま護身用のナイフを持った腕を折り、バルログを首筋に突きつけた。
「止まれ、動くと死ぬぞ…うっ!」

メイドはバルログに噛みつき、刃先を落とした隙にトリスタンの腕に強烈な周り蹴りをかましてきた。
その攻撃をかろうじて防ぐと、腕に一撃を食らわせ、さらに次の攻撃の隙に脚にもかすり傷を負わせた。
魔法ダメージの蓄積により彼女の体はしびれ、いよいよ動きが鈍くなった。
「終わり…だな。さて、殺しはこのへんにしたい。命は助けてやるから、話を聞かせてくれ。傷薬もある」
しかし、剣を突きつかれたメイド・ガードの反応は意外なものだった。

「キース…様… 任務を果たせませんでした…死にます」
そう言って舌を噛み切ろうとしたのである。

66 :
名前:ドロシー
年齢:18
性別:女
身長:163
体重:53
スリーサイズ:84-59-85
種族:人間
職業:メイド兼ガード
特技:特殊任務
長所:絶対的な忠誠心
短所:あまり頭で考えようとしないこと
武器:小弓、ボウガン、ナイフなど
防具:メイド服
所持品:様々な暗器
趣味:掃除
最近気になること:内乱について、キースについて
将来の夢(目標):内乱を収め、キースのメイドとして生涯を過ごす
キャラ解説:幼くしてバルゲル家に預けられたメイド・ガード。
バルゲル家に絶対的な忠誠を誓っており、あらゆる任務をこなしてきた。
キースには恋心を抱いているようである。また、イリシアに対する理解も持ち合わせている方。

67 :
舌を噛んで死のうとしたメイドを、トリスタンは体を張って止めた。
トリスタンはメイドの口をこじ開け、そこに自ら握りこぶしを入れた。
「ぐっ…」 トリスタンの腕から血が滲み出し、それが溢れてしたたり落ちる。

「いいか?!お前はまだ若いし、綺麗だ。ここで死んだりしたら勿体ねぇ!それに、逃げようとすれば逃げられる!」
それでも腕に歯は食い込んだ。
「ぐっ、分かった。じゃあこう考えたらどうだ!お前が死んだらキース様とやらが悲しむぞ!とりあえず腕を放して、死ぬのは止せ!」
それでも腕は歯に食い込んだ。
「お前にはまだやる事がある。俺はイリシアの関係者だ!俺とお前の力があれば…きっと変えられる…!」
「…!」

そこで力が弱まった。
「分かりました。死ぬのはやめます。でも、殺せませんでした…ご自由にどうぞ…」
トリスタンはそのまま剣を突きつけたまま、命令する。
「じゃあ、まずは武器を捨てて服を脱いで裸になってくれ。辛いなら俺も手伝う…」
自分で言っていて恥ずかしくはあったが、安全のためには止むを得なかった。ガチャリ、と女は次々武器を地面に置く。
そして服を脱ぎ出した。そこにも武器があちこちに隠されていた。女は痩せ型だったようだが、そのプロポーションはやはり女としては魅力的に映った。
トリスタンが思わずゴクリ、と唾を飲み込む。女は一糸纏わぬ姿になった。
「このままこっちに来い」
剣を使って女を誘導する。それは武器から遠ざける目的でもあった。
「犯すのですか…?」女が覚悟を決めたように後ろを向いたままトリスタンに尋ねる。
「馬鹿、本当にやるぞ…? まずは傷の手当だっつの。まだまだ聞きたいことはたっぷりあるんだから。薬、あるか?」

トリスタンも同じく鎧などを脱いだ。そして、まずは女の傷を傷薬で応急処置し、折れた腕を包帯で巻き、
さらに女から貰った薬も含めて自分の全身にある深い傷も手当てした。
トリスタンの傷は多く、女は塗るのを手伝おうかと言い出したが、それは止めた。
もはや全裸同士で興奮し、いつ襲ってもおかしくない状態だったからだ。トリスタンも男なのだ。
「よし、大体これで良い。時間もないから服着るぞ」

そしてトリスタンと女は服を着た。女は水をかけられた犬のようなきょとんとした表情をしている。
「俺はトリスタン。イリシアとは知り合いだ。俺はあいつに会うのが目的だ。お前は…?」
「…私はドロシーと申します。キース様の配下で、イリシア様の屋敷のお世話をしています…」
「さて…まずはそれ、片付けよう。見てるだけでも辛い。知り合いか?」
「当然です…当然ですとも。アリスとマリーは、同じくキース様のお世話をしていました」
幸運にも、このあたりは水気が多い腐葉土で、穴は掘りやすかった。
ドロシーと共に二人分の穴を掘り終えると、トリスタンはマリーとアリスの死骸をそこに入れ、埋めた。
勿論、近くに転がった装備品も一緒に。

「…きっとキース様がお許しにならないと思います…私はどうしたら…」
「大丈夫だ。俺が何とかしてやる。その代わりだが…情報が欲しい。今、話せるだけ話してくれ。言いたくない部分は良いから」
ドロシーは正直に話した。
元々ドロシーは、バルゲル公に仕えていたメイドの一人だったが、王女のイリシアが突然身篭り、大騒ぎになって、
腹が大きい頃に追放されて内乱が発生、国外のバルゲルに引き取られることになった。初めは小さな家で隠れて住まう身だったが、
今度は男子、ランスロットを産んだことで、突然国王側から支援物資が送られるようになった。
その後は分離したフルト王子派を凌ぐ勢力になりつつあるということで、バルゲル公は急激に力をつけた。
自分は主にバルゲルの次男、キースの世話をすることになったが、独り身のキースは歳が近く夫のいないイリシアに興味を持つようになり、
父親があまりその気でもないのに、強引に迫ろうとしていて、それがドロシーの悩みの種になっている。
しかし、今でもキースのことは愛している、と。
「そうか、ランスロット…っていうんだな…その子…」
やたら興味深々なトリスタンに、ドロシーは驚いて顔を見た。

「あれ…きっと俺の種なんだ…」
トリスタンが、静かに呟いた。

68 :
片手を怪我したドロシーだったが、トリスタンの提案で、屋敷に気絶させたトリスタンを担ぎ込むことになった。
体は鍛えられており、決して楽ではなかったが、男一人を担ぐ程度なら片手に抱えることはできた。
剣を見えない位置に隠し、そのまま屋敷に向かう。

「賊を捕らえました。アリス、マリーは戦死…」
報告とトリスタンの姿を見たキールは、突如剣を抜くと、切っ先をトリスタンとドロシーに交互に向けていた。
「そうか…この男、知っているぞ。それはお前たちも苦戦する訳だ…
ふん、うちの可愛い”兵”を殺されたんだ。すぐにでも殺してやりたいところだが…ところで武器はどこに行った?」
「…戦闘中に、どこかに落としたかと…」
「まぁ良い。牢屋にぶちこんでおけ。しっかり縛っておけよ」「はっ!」
周囲の兵たちがぞろぞろと、トリスタンを地下牢へと担いでいった。

「うっ…!」
ドロシーはキールに抱き寄せられたかと思ったら、突然平手打ちを食らい、地面へと倒れ伏した。
その頭をキールがグリグリと踏みつける。
「少々、手際が悪いんじゃないか…? 今度似たようなことがあったらこの”レッドファルコン”の錆にしてやる。
今日は俺が寛容だと思って感謝するんだな。さぁ、行け。今日は休んで明日からは猛特訓だ」

トリスタンは暗い地下牢の中で目を覚ました。
どうやら見張りの兵士か拷問官か分からないが、アーマー姿の男数名に囲まれている。
両手両足を縛られ、裸にされて吊るされている。
「よう、起きたか。お前、メイドを二人も殺ったんだってな?結構な筋肉だ。若いが結構殺してると見た」
「てめえなんかを、まさかキール様は取り立てでもしねえか心配だぜ。その前に殺してやろうか?」

「…雑魚が」
「なんだって?」
「…雑魚が、黙ってろって言ってんだよ」「何ィィィ!!」
バン!パン!と鞭の音が響く。ただでさえ満身創痍の体に鞭の傷が刻まれる。
このままじゃ殺される…とトリスタンは思った。
「まぁ待て、面白い話をしてやるぜ」
相当の時間が経ち、鞭を握る兵も疲れたようだ。トリスタンの言葉に、鞭を振るう手をやめる。
見張りというのは相当に退屈な仕事のようだ。
「あぁ、俺の傭兵稼業での、面白い経験さ」

69 :

一方…ドロシーは、あちこちが傷で痛む中、イリシアの屋敷へと向かっていた。
イリシアの屋敷にもメイドの見張りがいる。不自然ではない。
回復魔法によって腕もかろうじて元通りになったが、体は疲れ果てていた。
兵の前を通り、そのままドロシーの部屋をノックする。
「何用だ?」
「イリシア様、賊を捕まえましたが…その…賊から気になる言葉を聞いておりまして…
今はその男は地下牢におります。イリシア様にどうか会いたいとのことです」

イリシアが地下牢へと向かうと、ぐったりした状態ながら、兵たちにからかわれるように語らうトリスタンの姿があった。
「イリシア様…?」兵士たちが驚き、立ち上がり敬礼をする。
「…!お前…来たのか?」 トリスタンが呟くように言った。「…!!」
イリシアは目を疑った。その姿は8年前に会った、あのトリスタンに間違いなかったからだ。
自分よりも小柄だった彼は一回りも二回りも大きな体をしており充分に鍛えられた裸身を晒していた。
反射的に、イリシアは言った。
「これよりその者を解放し、こちらで話を聞きます。連行を…」


既に夜も遅く、ランスロットは奥の部屋で寝ているようだ。
簡単な手当てを施され、布切れのような服を着たトリスタンは、イリシアの部屋で久々の”再会”を果たした。
キビキビとしたイリシアの口調を、トリスタンは聞いていた。まずは第一声。
「お前…変わったな…」 「トリスタンも…な」
既に縛っていた縄は全て解かれている。イリシアの瞳には全く警戒心がない。
その青い瞳でじっと、トリスタンの姿を凝視していた。昔を思い出しているのだろう。

「ランスロットと、本当にそっくり…」「やっぱり、そうなのか…?」
こくり、とイリシアが頷いた。
そしてどちらからともなく、抱き合う。自然な形でお互いの腰に手が回る。イリシアは泣いているようだった。
その姿を見て、トリスタンは無性に悲しくなった。これだけの間に、一体どれだけ彼女は悩んだのだろう…?

「俺を…許すのか…”イリシア”?」
すっかりたくましくなった腕でイリシアの頭を撫でながら、耳元に囁きかけた。
イリシアはトリスタンに唇に唇を重ね、そしてそっと呟いた。
「…許すものか…絶対に許さない…」しかしながら顔は綻んでいた。
「お前がどこで何をしていたかは知らないが、その間に国は分裂し、多くの戦争が起こり、数え切れないほどの人間が死んだ…」
「それは、俺が撒いた”種”だって言うのかい?イリシア…」
「あぁ…だが、私は…」もう一度口付けをする。 「幸せだ…」
そして、イリシアが恥ずかしそうな表情でトリスタンに語りかける。
「では、釈放の条件として、イリシアがお前に命令する」
「はぁ…何だってんだよ?」
「私を…黙って抱きなさい。牢獄で会ったお前のたくましい体が頭から離れないのだ」

70 :

別室にて、トリスタンとイリシアが寝そべっていた。充分に語らい、すっかり打ち解けている。
「だからさぁ、お前が無防備だったのも悪いんだっつの」「我慢することも、大事だ」
「まずさ、お前が王女だなんて明かさなかったんだから、やっぱお前が悪いって」「そういうのは男の勝手というもの」
「前から言ってるだろ?男はみんなスケベなんだ。そして、俺は世界一の…」「冒険屋…か」

服を着たトリスタンは、次の行動について悩んだ。獲物を屋敷の外に置いてきてしまった。
早くしなくては、もしキールの兵たちが現れたら取り返しのつかないことになる。
「トリスタン、ランスロットには会っておきたくないか?」
会っておきたくないか、というより会わせたい、といった表情だ。親子水入らずで、
あわよくば、このまま家庭を築きたい、といったところだろう。
そのとき、宝石をしまっているポケットが一瞬、熱くなった気がした。
「…悪ぃ、止めとくわ。あいつのためにも、今は早すぎる。真実を知るにはまだ時間が必要だ」
イリシアは凄く悲しそうな顔をして、もう一度トリスタンの胸に顔をうずめてきた。それを抱きとめる。
「俺はお前を…もっと安全で幸せにしてやる…必ず…!」
今度はトリスタンの方からキスをした。

トリスタンは武器を回収するためにイリシアに頼み、外にいる従者に伝えてもらった。
その間に再び先ほどの部屋に戻って酒を飲みながら会話をする。そういえば飲むのも久しぶりだ。
イリシアは現在王国内で起こっている、様々な問題について語り、
現在命を狙われているため、大剣の練習をしているとも語った。
また、キールによる執拗な誘いについても悩みを明かした。そしてそこに政略の影が潜んでいることも。
そういえばイリシアは比較的肩幅も大きい方だったはずだ。大剣を振るうことも不可能ではない。
考えていると突如、イリシアがかしこまった顔になってトリスタンに願い出た。
「捕虜のあなたに釈放条件として一つ頼みがあります」「どうした?」
「キールを…殺してください」

トリスタンは驚いた。キールはイリシア本人を庇う親族の一人であり、王族でもある。
それもこの屋敷のすぐ隣に豪邸を持っており、兵たちも多数従えている…というより、この一帯の兵は実質的にキールのものみたいなものだ。
これだけの大勢の敵がいる中で、それだけの剛の者を殺せというのは、トリスタンでも気が引けた。
そのとき、武器をかかえた人物が現れた。それはドロシーだった。
バルログと、ドラゴンキラーがその腕に抱えられていた。

トリスタンは直接出向き、ドロシーに礼を言うと、頑張れよ、と頭を撫でた。
ドロシーは嬉しそうに、そのまま屋敷を出ていった。一瞬、イリシアに関係を疑われたが。
「これなんだけど…お前、使えるか?」
ドラゴンキラーを手に取るイリシア。それは、弟・ジュリアスが愛用していたものだ。
その刀身は太く、禍々しい模様に彩られ、斬った人間や魔物の数は数え切れないことだろう。
それだけの貫禄が、その剣にはあった。

豊満な体を揺らして、一撃、一撃と大剣を振るう。その姿は様になっており、形も一通りはできるようだ。
問題はどれだけの実践力があるか、だが。
バルログもめでたくトリスタンの元に戻り、さっそくその感触を確認する。先ほどメイドを二人斬り捨てたことが頭にこびりついたが。

その時、屋敷の階下が急に騒がしくなった。
ガチャガチャと、プレートアーマーの音が響く。多くの兵たちが動いているのだろう。
見張りに対して、兵が大きな声を張り上げる。
「トリスタン、という者は来ているか…?! そいつは脱走した捕虜だ!見つけ次第殺せ!」

トリスタンはイリシアに促され、実の息子であるランスロットの部屋へと案内された。
ランスロットが思わず目を覚ます。
「何者?母上は、どこに行ったのですか?」丁寧な口調だ。相当の教育を受けているのだろう。
「俺はトリスタン。イリシア様の直属の兵だ。気にすることはない。ここで横になってな」
敬語を使う訳もいかず、だからといって父親面する訳にもいかない。
しかし、暗い中で、ランスロットとトリスタンは確かにお互いの顔をはっきりと見た。
ガチャガチャと音がして、ついにイリシアの部屋の扉が開け放たれた。

71 :
トリスタンはバルログを構え、音のする方向へと駆けた。
そのとき、大声が響いた。

「イリシア・マクドネルの名において命じる!この者、トリスタン・ロートネフィルは、
我が王家において数々の武勲を挙げた者… 我が直属の重臣である!
これより、キール・バルゲルを越権行為及び王家に対する反逆罪として、討ち取るべし!!」
そこにはマクドネル王家の旗を翻し、豪奢なプレート・メイルを着込んだイリシアの姿があった。
イリシアの体型に合わせて作られた特注のもので、その姿は女神にすら見えた。
トリスタンは突如として名指しされ、驚いてすぐさま反応した。
「承知!!これより反逆者、キールの首を取りに行きましょうぞ!!」
周囲のアーマー兵たちを煽る。駆けつけた者たちには王女に仕えた執事などもおり、次々に王女側についた。
それはまさに、これまでのイリシアとキールの振る舞いの差が明白になったとも言える。
身分と人望では、明らかにイリシア側に分があった。とっさの判断は一気に流れを変えた。

あっという間に屋敷は味方の兵で一杯になり、キールが率いる兵舎の方へと大勢が攻め込んでいった。
ほぼ戦争のようなものである。
移動しながら、嫌な予感がしたトリスタンは、イリシアに尋ねた。
「ランスロットはどうしている?」
「あの子は護衛を10人ほど付けている。キールの屋敷を落としたら移動する算段だ」
「では、地下牢はどこにあるんだ?」
「地下牢…だと?」

少し外すと言って行った先は、ついさっきまでトリスタンが繋がれていた地下牢だった。
わずかな見張りの兵たちをバルログで吹き飛ばすと、やはり彼女がいた。
「トリスタン…様?!」
ドロシーが目を見開いた。もう既に死を覚悟していたからだ。
「俺はどこからでも現れてやるぜ…ドロシー、どうしてお前がこんな目に遭わなきゃならないんだ…?」
「それは…私がキール様を…愛しのキール様を裏切ったから…です」
ドロシーは裸に剥かれ、鎖や鞭、さらに乱暴をされた傷ができていた。
首からかけられたロケットはボロボロになり、中からは金属の破片が落ちている。
トリスタンが拾うと、その裏には立派な黄色い宝石が埋め込まれていた。
「それ…私の母の形見なんです… ここに奉公する前に貰ったもので…
でも、これからは私、トリスタン様に仕えます。そちらも差し上げます…!!」
トリスタンは黙って宝石を受け取り、鎖を引きちぎると、ドロシーを抱き寄せ、唇を交わした。
残りの薬を丹念にドロシーに塗りたくる。今後は死を決した戦いになるというのに、トリスタンはこの女のために薬を使いきった。

そしてトリスタンは自分の服を脱ぐとドロシーに着せ、手を引いた。
「さぁ、急ぐぞ。俺は、お前の主人だった男を始末しなくてはならない…!」
「では…」
急かすトリスタンをドロシーは抱きついてしがみつき、そしてせがんだ。
「先ほどから体が火照ってどうにもならないのです…!トリスタン様に仕えるための証を…どうかください」
トリスタンは黙ってドロシーを抱いた。


キールの屋敷は炎上し、次々と脱走兵が出る始末だった。
それらをトリスタンは次々に膾斬りにしていく。少しでもバルゲル本家に報告する可能性のある兵を消し、
情報を遮断することが、結果としてイリシア勢の命運を守ることに繋がるのだ。
ドロシーも本調子ではないが、次々と敵の残党に取り付き、止めを刺していく。

72 :
トリスタンの持つ宝石たちが共鳴し、それらのオーラが渦を巻くようにしてバルログへと絡み付いていく。
既にトリスタンの一撃は、プレートアーマーをも貫き、甲冑ごと切り裂くだけの勢いを持っていた。
敵の剣がトリスタンを襲うと、トリスタンは素早くバルログを返し、剣を断ち切った上でそのまま軌道は敵のプレートに包まれた首を刎ね飛ばした。
敵の槍はそのまま軌道を反らされ、バルログがその槍を握っている腕を落とす。
プレートで包まれた体は腕の一本も落とされれば致命傷である。
兵士は絶望の叫び声を上げながらのたうち回り、やがて失血して死亡した。
「すげぇ、ありゃまるで台風の目だぜ…!」
味方の兵の一人がそう言った。

気がつくとトリスタンは屋敷の裏口から突入し、未だに敵味方でごった返している正門を差し置いて
破竹の勢いで進んでいった。
と、途中で梯子を見つけた。既にドロシーの姿は見失っていたが、今はそれどころではない。
早くキールを討ち取るだけだ。

キールはその時、自室で酒を飲んでいた。
既にフルプレート・アーマーを着こなし、武器も手元にある。
ただし、兜だけは邪魔になるのか、外していた。
「クソっ、下賤の者どもが…俺の意向に従わんとはな…イリシアまでも…あの売女が…!」
手前は護衛の兵たちで固められているのだろう。そろそろ出陣といった雰囲気だ。

それを小窓から見ていたのはトリスタンだ。すでに屋上に取り付いている。
しかし、この窓の大きさではどこからも侵入することはできない。つまり、やれることといえば…
「こうするしかねえぜ!!」
バカァァン!!と屋上の壁が破壊され、崩壊した瓦礫とともにトリスタンが落ちてきた。
それをキールが慌ててかわす。さすがの手馴れた動きだ。

同時に剣による一撃がトリスタンを襲う。切っ先をかわしたかに見えたが、
瓦礫とともに転倒していたこと、それと、「射程が思いのほか伸びたこと」が原因で、肩口に手痛い傷を負うこととなった。
「ぐおっ…」

「おう、貴様はあの時の…随分と威勢がいいな、略奪者め」
「キール様!!」
さらに分が悪いことに、騒ぎに駆けつけた兵が数名、護衛についてしまった。
トリスタンは味方から孤立し、敵だらけの中で、大ボスとご対面となった。

「Rええええ!!」
再びキールによる一撃が見舞われた。その剣は細長いが、切っ先が特殊で、まるで数倍はあるかのような軌道を取る。
「この剣は…!!ぐっ…」
「俺様の”レッドファルコン”はなぁ、”無敵の剣”って言われてんだよオラァ!」
キールが武器を振るうと、周囲にかまいたちが起こる。
「んにゃっぴ…」
どうやらファルコンの巻き添えになったらしく、部下のアーマー兵の首に外れた一撃が入り、衝撃で頚椎の一部が吹き飛ばされた。

「へぇ〜、そりゃ味方も敵も区別ができないんだな。大したことねえな…!」
血を流しながらも煽るトリスタン。キールをあざ笑うと、キールは明らかに取り乱した顔になった。
「雑魚はみんな死ぬ。こいつらも、てめえもな!!ほら、R!イリシアは俺のもんだァァ!!」
留めとばかりに一撃がトリスタンを襲う。それをトリスタンは、素早く弾き飛ばした。
「んぴっ… ん… あれ… グゥォ…!!」
トリスタンはファルコンの軌道を見て、それを弾き返してそのままキールを狙った。それも魔力を込めながら。
兜を被っていなかったキールの頭は見事にハート型に割れ、そのまま脳漿と大量の血を吹きながら崩れ落ちていった。
オォォォォ…!!!!!

周囲の兵たちが崩れ落ちる。残党狩りとばかりにトリスタンは周囲にいた敵をあらかた屠ると、
「キールは死んだ!!もう敵はここにはいない!!!」と大声で叫んだ。
そして、そのまま梯子を降りると、凄い勢いで丘を降りていった。
この日、イリシア勢はキールの屋敷とその周辺施設を陥落させ、
次の日にはニルスの領土にも侵攻しニルス一族を捕虜にした。
バルゲル公爵はハーグ城周辺以外を全て取られ孤立、イリシアは「女王」として正当なマクドネルの後継者を主張し、
王国、王子派につぐ第三の勢力として領地と軍事力を持つに至った。
しかし、トリスタンはその後、姿を現さなかった。

73 :
そしてさらに八年後…
いよいよこの世界は本格的な危機に曝され、「勇者の時代」が幕を開けることとなる――
トリスタンもまた、それを見守る一人の男として因果に巻き込まれていく――


トリックスター(八年後のトリスタン)

名前:トリスタン・ロートネフィル
年齢:31
性別:男
身長:178
体重:72
スリーサイズ:
種族:人間
職業:冒険屋
特技:剣術
長所:やると決めたら最後までやり遂げる意志
短所:基本的に馬鹿で後のことを考えない・女たらし
武器:ロングソード「バルログ」(父から譲り受けたもので、魔術や宝石によって超強化されている)
防具:チェインメイル
所持品:一通りの冒険者道具、軽武器
趣味:人助け
最近気になること:「純血種」の根底について
将来の夢(目標):世界一の冒険屋になる
キャラ解説:平民の家に育った男。父、母、妹を亡くし、弟とは因縁の末別離している。
剣の腕がめっぽう強く、女たらしだが頭はいまいち。困っている人間がいると、どこからともなく現れる。
口ぐせは「俺は前にしか進めねえぜ」「男はみんなスケベなんだ」「人を助けることに理由があるのか?」
「どこからでも出てきてやるぜ」「俺は世界一の…!冒険屋さ…」


トリスタンは酒場にいた。
「なぁ〜、おやっさん。最近のこのあたりで一番ひでぇコロシってのはどこであった?」
エールがごくごくと喉元を通る。顎髭を生やし、改造した兜を帽子のように着こなす風変わりな男だ。
「あー、コロシって言やぁ、そいつぁ魔女よ」
ツマミを一口取り、それを口の中でクチャクチャと噛むと、再びエールを煽る。そしてウェイトレスにお代わりを頼んだ。
「魔女?そりゃ、俺よりも強ぇのかい?」
「あー…お前さんはドラゴンを最近殺ってんだよな… そりゃ魔女だろ。なんてったって、一つの軍隊が壊滅するレベルってんだから
勿論、ワイバーン隊やジャイアント・ホーン隊なんかも含めてだよ」
トリスタンの肩がピクリと動く。どうやら次の仕事が決まりそうだ。

74 :
名前:ビビ
年齢:15
性別:女
身長:167
体重:51
スリーサイズ:83-58-90
種族:人間
職業:魔術学院生
特技:魔術
長所:常に本質を探究する精神
短所:中途半端に優しく、周囲の影響を受けやすいところ
武器:ライトロッド(光属性の一見、普通のロッド)
防具:ローブ
所持品:護身用の最低限の武器
趣味:魔法の研究
最近気になること:双子の妹”ペイル”の行方について
将来の夢(目標):平和な世の中を作る。ペイルの殺害。
キャラ解説:生まれながらに強大過ぎる魔力を持った少女。魔術師の母親(現在行方不明)によって
物心の付かない頃から魔法を習い、そのまま魔術学院に入学。あっという間に特待生になる。
途中で政権交代が起こってからはさらに手厚い援助を受けている。名前も知らない母からは「双子の妹を殺害」することが
人生の試練として課されている。魔力が高すぎることで周囲からは警戒され、国からも監視されている模様。


「ビビは、王様が変わって良かったよな。西マクドネルになった今じゃあ金にも困らないもんな」
男友達のロンがぼやくように言う。
「そんなことないわ。ここのところ監視の目が邪魔だし、プライベートも何もありゃしない」
ビビは思ったままのことを口にした。
「俺はさ、将来は魔法兵になろうと思ってる。何度も言ったと思うけどな。お前なら、魔法将軍もすぐだろ?もう推薦の話が来てるかもだぜ」
ロンの遠慮のない言葉に、ビビは怒った。基本は平和主義なのだ。
「ヒトゴロシになれってこと?あたしはそんなのは嫌なの。…ちょっと一人にさせて」
ビビはロンから離れ、階段に腰掛けた。頭には自分とそっくりと思われる、双子の妹の姿があった。
(いつか、あたしは、ヒトゴロシをしなくちゃならない…)

この八年の間に、イリシアは「東マクドネル王国」を建国し、政治体制も独自のものを築いていった。
そのおかげでフルトが国王を討ち果たし王となった本国は「西マクドネル王国」と呼ばれた。
バルゲル領も併合し、すっかり強国となっている。それはフルト王子の手腕ではなく、噂によれば、ある「将軍」の力添えによるものと言われている。
それも、国王の側近だった将軍が、寝返って王子についたというのだ。
西マクドネルも政治体制には手が加えられ、「魔法兵」を育てる「魔法学院」の運営に力を入れている。
だから、ビビのような人物は手をかけて育てられるという訳だ。

トリスタンとビビ。二人は皮肉にも同じ、西マクドネル領内の魔法都市ベールという街にいた。
再び物語の歯車は、動き始める――


【さてさて、16年後編に入ります】

75 :
ベールの酒場で情報収集をしていたトリスタンは、テーブルに突っ伏していた。
長い年月はそれなりの報酬を彼に与えた。その多くは身につけている腕輪や指輪などの財宝に替えられたが、
金貨なども充分溜まっている。自分が良い年齢なのは分かっているが、流浪の身というものはそう簡単に止められるものではない。
一日一善、ずっと正義の冒険屋をやってきたが、何が正義か、それに決着をつけるときだと勝手に考えている。もう年齢も30を過ぎた。
「純血種」「魔女」「天使」などのいくつかのキーワードを片手に手探りで生きてきたが、
近頃盛んになった戦争稼業で人を殺していくうちに、徐々にある境地にたどり着いたに違いない。
一言でいえば、「どうやったら戦争は終わり、人々が無駄に死なずに済むか」だ。
少ない脳味噌をひねり出して考えると、王国の統一、そして、大量殺戮をする者を何とかする、この二つで決着がつく。
トリスタンはここのところ、どうやって火種を消すかに執心しているのだ。

トリスタンはいびきをかいた。
次第にリアリティが失われていく。
視界がぼんやりとすると、目の前には東洋風の露出した魔術ローブを着た女が座っていた。
体格は大柄で年齢は20代にも見えるし、もっと上かもしれない。若い女だ。頭にはフードを被り、その表情はこちらから覗くことはできない。
自分が立っているか、座っているか、それすらも分からない。ただ女の姿だけが映し出されていた。
「悩みは、なあに?」
女に問いかけられ、すぐにトリスタンは答えた。
「あぁ、あるさ。どうやったら人が殺し合いをせずに済むんだろうな」
女は即答する。
「それは無理よ」
トリスタンは具体的な話に入った。夢にしては意識がはっきりとし過ぎているのだ。
「ある「魔女」を探している。人を殺しまくっている奴だ」
女はしばらく沈黙を保ち、そして呟いた。
「いずれその子には会うだろうけど、恐らく、会わない方が身のためでしょうね」
「なぜだ!」
トリスタンは否定されたことに対し、疑問を感じた。
「私の勘…あなたは…その魔女が殺せない」
「女は殺さない」
「そう…優しいのね」
「俺は前にしか、進めねえんだぜ…」
女はふっと笑った。
「何がおかしいんだ?争いの火種は、俺が全部摘んでみせる。必ずだ。じゃあな」
女がトリスタンに言葉を放つ。最後の言葉は、これまでとはうって変わって感情的に聞こえた。
「その火種、全部あなたが生み出したものなのよ」
そして、酒場の片隅に転がっていることに気付いたのは、次の日の朝だった。

76 :
「で、その「魔女」ってのはどこにいるんだい?」
トリスタンは地元の冒険者に尋ねた。トリスタンも冒険者かと聞かれたが、冒険”屋”だと訂正している。
「あぁ…ベールで「魔女」っていやぁ、あの子だな。「日輪の魔女」と言われてる子が、魔術学院にいるらしい」
「ん?てことは、そいつが大量のコロシをやってるってことかい?」
「いや、殺しまくってる奴は別の魔女じゃねえかな…このへんで「魔女」っていやその子ってことだよ」
「やばい奴なのかな?」
「いやいや、なんでも特待生だとかで、素行も良いらしい。日ごろから殺ってる訳じゃねえだろ。今月で卒業になるはずだ」
「助かるぜ。この分と、今回の宿代は俺の奢りだ」
「地元のモンだから」と言うのも構わず、トリスタンは食事代と宿にあたる金額をテーブルに置き、店を出た。

ベール魔術学院――
ビビは教員室の外で、ある天使族の女性と会話をしていた。
「…ということですので、今後の身の振り方に関しては余計なことをしてもらっては困るのです」
「イゾルデ… あなたは私の親にでもなったつもり?護衛にしては越権行為だわ」
「我々はあなたが物心つかない頃から支援を続けていたのです。ただの護衛ではありません。そもそも私の支援がなかったら…」
「結構。よく頭に入れておくから、とりあえず下がっていて頂戴。この後友達と約束があるの」
「友達?ボーイフレンドではないのですか?それも、あんな落ちこぼれなどと…」
「ロンの悪口はやめて。さぁ、今日はこれで帰って」
ふわりとした赤毛のセミショートの髪をフードで隠した天使族のイゾルデと言われた中世的な雰囲気の女性は、そのままフワリと宙を舞い、そのまま去っていった。
ビビはため息をつく。どうして特待生というだけでこんなに不自由なのか。
腕をめくり、刻まれた「日輪」の紋章を見ながらぼやいた。「最悪」

やがてロンと合流する。
ロンに対しては恋人とは思っていない。純粋に膨大過ぎる魔力は周囲を怖れさせ、明晰すぎる頭脳も周囲を遠ざけた。
この少年は、自分にとって「都合の良い存在」に過ぎない。
「なぁビビ、なんか最近君、暗いよ。おかしい」
ロンが見透かしたように言う。彼は頭も悪く、家が医者だというだけでいるようなものだ。冒険者志望だが、武術もお世辞にも長けているとはいえない。
「そんなことはない。ねえ…ロンはここを出た後が楽しみ?」
ロンは顔をやや赤らめた。
「…そりゃそうだ」「何で?」
一息ついて声を絞り出す。「…ビビと…もう会えなくなるんだから…」

と、その時だった。ビビは、遠くに何者かがこちらを覗いているのを感じた。
ロンの渾身の告白も、残念ながら風にかき消された。周囲の様子を窺う。どうやら、守衛の一人がこちらを見ているようだ。
「急いでるから…それじゃさよなら。また明日!」
一人になったが、決して怖くはない。戦いの訓練でも連勝、いや圧倒的勝利だった。
自分でも分かるのだ。加減をしないと相手は死んでしまうのではないか。と。
導師を相手にして、うっかり半殺しの怪我を負わせてしまったこともある。それもずっと前の話だ。
そして守衛が――トリスタンが、近づいてきた。驚いたような、おどけたような表情をしている。

77 :
kitai

78 :
近づいてきたのは男だった。明らかに守衛ではない。
”能力察知魔法”を素早く唱え、その姿を見ると、非常に膨大な体力を持った相手ということが分かった。
ビビは身構える。
「なぁ…」
特に敵意は無い相手に、ビビは”催眠”の呪文を唱えた。
「うっ…」
相手もどうやらその攻撃が何であるかに気付いたらしい。
男は素早くナイフを抜き、股に突き刺した。血が噴き出し、グッ、という声とともにそれをこらえる。
さらに”痺れ”の魔法を唱える。そこらのものではなく、非常に強力なものだ。
「ぐおぉぉぉおおお…!!!」
男は苦しんだ、否、苦しみながらも、周囲に気付かれないよう、声を押し殺している。
普通の人間ならとっくにショックで死亡しているほどの魔力だ。
しかし、男は筋肉を痙攣させながら、その場で横になり、それに耐えている。
腹から見える筋肉は非常に鍛え上げられているのが分かる。並みの刃物では通らないだろう。
男の顔だちは非常に整っていた。誰かに似ているような気はするが、それは気のせいだろうか。

「どういうこと?あたしを殺しに来たんじゃないの?」
「…なやみ…ないのか…?」
「え?」ビビが詠唱をやめる。
「何か悩みがあるんじゃないのか?”日輪の魔女”さん。…良かったら力になる」
「あなた、名前は…?国の兵士の人?」
「…トリスタン、冒険屋だ」

ビビは納得いかないまま、腰掛けて話を続けた。
既に転移魔法により、学院から遠く離れた街の片隅まで移動している。
「なんだ、やればいつでも脱走できたのかよ」
「一応、素行は良いことで通ってるからね。で、どうしたいの?あたしをここから連れ去りたい訳?」
「どうもこうもない。君のしたいようにしろってことだ。俺は君を自由にしに来た」
トリスタンはあまり目を合わせようとしない。照れているのか、恐れをなしているのか、それは謎だ。
「誰かに頼まれたの?」
「いや、そんなんじゃないさ。俺は人助けがしたいだけだ。君は、”魔女”なんだろう?今まで何人殺した?」
「人を殺したことなんて…ないわ」
いや、それは嘘だ。訓練で何度か”事故”として同輩や教師を死にいたらしめたことがある。
しかし、悪意がないということで、大きなお咎めは受けなかっただけだ。

「ワイバーンや騎馬隊を殺しまくってるって聞いてるが…」
トリスタンの言葉に目を疑った。そのようなことはしていない。背格好が似ている人間で、有り得るとしたら…一人考えられる。
そう、ペイルだ。
「知らない。魔女が一人だとは限らないじゃない」
うっすらとは聞いていた。東マクドネルとの戦争で、東側に魔女がいて、大きな被害が出ていると。
そして、その少女の数々の奇行も噂になっている。
  「殺戮はするが略奪には興味を持たない」「多くの魔法兵を率いている」「ベールを攻略したがっている」
おそらくだが、自分を狙っての行動かもしれない、とビビは思った。
「では、早速だけどお願いを聞いてくれる?」
「何だ?」トリスタンが問い返す。
「あなたを、雇っても構わない?報酬は私が持っている宝具の半分を約束するわ」
「…あぁ…分かった」そう言いながらトリスタンは目を反らした。
「どうして目を反らすの?私の方を見て…!」
トリスタンがこちらを見た。ビビと目が合うと、優しそうな、そして悲しそうな顔をした。
ビビは黙ってトリスタンに抱きつき、涙を流した。

79 :
トリスタンは胸に柔らかい感触を味わいながら、ビビが泣き止むのを待った。
まるで…そう、父親になったような気分だった。

「それでビビ、条件がある。さっきお前と一緒にいた、少年がいただろ?あいつを連れていってほしい」
「…見ていたの?!ロンのこと…?あの子は別に…友達ってだけで巻き込むのだって、かわいそうだわ」
「それでこそお前だ。優しいんだな。ただ、俺とお前が一緒にいたところでただの変質者だ。同い年の男の子、それも気にしてくれてる子がいれば、自然じゃないか?」
「…ええ。それはそうだけど…」
「多分あの感じ、あいつはお前に惚れてるぜ。俺は女を見る目もあるが、男を見る目もあるのさ」


次の日の夕方、ビビの能力もあって、トリスタン、ビビ、ロンの三人はベール郊外の町へと入っていた。
そこの酒場で簡単な打ち合わせをする。
「おじさん、どこの人?なぁ、ビビ、こんな人について行ってよかったのかよ」
結局のところ、ビビに言いくるめられて、あっさりと家出をしたロンは、やはりトリスタンの思い通りに動いてくれた。
「まぁ気にするな。俺はトリスタン。冒険屋さ。多少きつい行程になるだろうが、その子を守りたいんだろ?悪い話じゃないと思うぜ」
トリスタンは三人に説明し、まずは近くに小屋を立て、知り合いの少ない街とのコネクトをトリスタンとロンで行い、ビビをしばらく匿うということになった。

ベテラン冒険者(冒険屋)のトリスタンの奮闘とビビの魔力もあり、小屋はあっという間に完成し、
暮らしぶりも順調、といったところになった。
なにせ、ここはベールや各王都などの都市からは大分離れており、膨大な魔力を発散するにも調度いい。
「ちょっと可愛そうだけど、気持ち良かったわ」
獣を数匹狩るだけだが大魔法をぶちかまし、ビビは気持ちが満たされていた。
畑も即席で作り、徐々に食料が確保されていった。
十日が経ち、最初はおどおどしていたロンも、見違えるように積極的になった。
そして今日もいつもと変わらぬ朝がやってきた。朝食の時間だ。
干し肉を軽くあぶり、野草などを適度に煮込んで食事の完成だ。勿論ビビの能力が発揮される場面でもある。
何気なく、ビビが口を開いた。
「トリスタンって、まるでこうやって見るとお父さんみたいね」
トリスタンはそれを聞き、はっと真顔になったが、すぐにいつもの能天気な顔に戻った。
「止せよ。それよりお前ら、夫婦みたいだぞ」
トリスタンがビビとロンのことを茶化す。ビビはトリスタンを叩き、そしてロンは顔を赤らめた。
そのときである。

80 :

トリスタンが異変に気付いたのは、妙な爆発音が二回ほどしたところでだ。
茂みから外に出ると、そこには黒焦げになった街が残っていた。
すぐに助けに向かおうとするビビを制止し、トリスタンとロンは街の方に向かった。

「あれは…」
トリスタンははっと息を飲んだ。
そこにあったのは、あの時と同じ光景だったからだ。
地上を鎧を着た兵士たちが走りまわり、あちこちで次々悲鳴が上がる。
そして、以前との違いとして、空からも攻撃が行なわれている。
「あれは…!!」
それは”天使”だった。赤い髪の天使が天使隊を率い、街のあちこちで破壊活動を行なっている、
どうやら王国の軍隊のようだ。
「”純血種”がここにいることは分かっている!吐かなければもっと死人を出すことになるぞ!」
男の怒鳴り声が聞こえる。
「クリムゾン・ナイトだ!助けてくれー!」
そう言いながら逃げ回る農民を後ろから、槍を持った真紅の鎧の兵が突き刺して殺害する。

ロンが思わず後ずさる。トリスタンはそこに駆け出していた。
間違いなくあの時と同じタイプの鎧だ。母や妹を殺したのは、この「クリムゾン・ナイト」で間違いない。
(もしかすると…この中に母さんやパーシーを殺し、ジュリアスを狂わせた元凶がいるのかもしれない…)
トリスタンは歯をギリギリと鳴らし、怒りを露にした。

「まだ生き残りがいたか! さぁ、冒険者だか何だか知らんが、”純血種”の居場所を教えろ!さもないとついでに死んでもらう」
構えたナイトがトリスタンに襲いかかる。
「騎士様ってのは、そこまでエラいのか?え? うおおおおおお!!」
トリスタンが街の門に向かう間、三人のクリムゾン・ナイトの上半身がバルログによって吹き飛ばされた。
「貴様、これだけの数を相手にするつもりか?!」
クリムゾン・ナイトの隊長らしき男が大勢のナイトを従えながら武器を構えた。その後ろには天使隊もいる。
「俺はな…前にしか進めねえぜ…! ロン、後ろに下がってろ!」
こうして戦いの火蓋は切って落とされた。ビビは森の奥から、こちらを黙って見ていた。

【戦闘開始です。 途中参加の方なども歓迎します!】

81 :
名前:ロン・クーリッジ
年齢:16
性別:男
身長:165
体重:53
スリーサイズ:
種族:人間
職業:魔術学院生
特技:魔術
長所:基本的に優しい
短所:臆病で、あと一押しができない
武器:ロッド
防具:ローブ
所持品:護身用の最低限の武器
趣味:ビビについての詩を書くこと
最近気になること:ビビと自分の将来について
将来の夢(目標):ビビに好意を抱いている魔術学院の少年。戦いに巻き込まれる。


名前:イゾルデ
年齢:??
性別:女性形態
身長:185
体重:60
スリーサイズ:83-58-87
種族:天使
職業:紋章護衛官
特技:魔術
長所:使命に忠実であること
短所:忠実過ぎて深入りしてしまうこと
武器:オーブ(剣などにもできる)
防具:ローブ
所持品:ナイフ等
趣味:純血種の観察
最近気になること:マクドネル統一について
将来の夢(目標):平和な世の中を作る。

82 :
目の前では身の毛もよだつような激戦が繰り広げられていた。
トリスタンが吹き飛ばした兵の肉片の他に、おそらくここの町人と思われる人々の死体が焦げ、折り重なっている。
物凄い異臭に、ロンは意識が吹き飛びそうだった。

敵は重装兵を繰り出し、あっという間にトリスタンを囲む。
上からは天使隊が光輪のような攻撃を繰り出していた。
ロンは寒気がしたが、必死で呪文を唱えた。
「”堅牢なる盾を作り出したまえ”」
とりあえずだが自分とトリスタンに魔法の盾を出す。
「”目の前の敵を焼き払いたまえ”」
炎の魔法をトリスタンを囲む兵に向け放つが、そこを天使の一人が邪魔をする。
「そんな軟弱な魔法で、我らに対抗するつもりですか…」
それは天使を率いる赤髪の女、イゾルデであった。あっさりとロンの攻撃を弾くと、まるでそちらを気にも留めないように、
トリスタンの上空へと移動していく。

重装兵たちの大剣がトリスタンに向け振り下ろされるが、それをトリスタンがバルログで切り裂くと、
そのまま大剣はバターのように溶け、延長戦上にある兵の鎧を頭ごと吹き飛ばしていく。
ある兵は上半身を吹飛ばされ内蔵を撒き散らし、ある兵は兜を割られ歯形を晒していった。
兵たちは恐れおののくが、まるで怯んでいない。士気の高さか、あるいは…
次にトリスタンが攻撃を繰り出すと、イゾルデが横に割り込んだ。
「ぐっ…」
トリスタンの剣が止まる。

「おい、ロン!!あいつを連れて逃げろ!!」
ロンは聞くやいなや、一目散に駆け出していた。ビビのもとに。
「追うのです!」
ビビはすでに森の入口にいた。ロンは大声で叫んだ。
「トリスタンのおっさんが囲まれてる!逃げろって話だ。ビビ、俺と一緒に…」
「……撃つわ」
「な、ビビ、今なんて?」ビビの手を引きながらロンが尋ねる。
「敵を、迎え撃つわ。そしたらすぐにトリスタンを助けにいかないと…あの人、絶対無茶して殺されるから…!」
ロンは心外だが、もはや戦うしか方法はないと思った。ここで引いたら男がすたる。
「あぁ、分かった。その代わり、無茶はしないでくれよ」
「あんたに言われなくても分かってるわよ」

天使たちはビビの目の前に現れ、両側からビビを挟みこむ。
「大人しく我々に従うならよし、抵抗するなら、容赦はしません」
ビビはロッドを構え、魔力を放出した。やるつもりのようだ。
ロンは仕方なく、少し後ろに下がって呪文を唱えはじめた。

83 :
トリスタンはクリムゾン・ナイトの半数以上を斬ったが、なおも攻撃は収まることを知らない。
剣によるかすり傷や矢傷、おまけに天使の光輪による攻撃により、だいぶ消耗してしまった。
赤髪の天使は森の方に向かい、なおもトリスタンは騎士たちに囲まれている。
そこに隊長らしき男が現れる。この部隊を率いているのは、例の男ではなかったようだ。
「おい貴様、もう大分ボロボロらしいが、まだ20人はいる兵を相手にするか?今なら命だけは助けてやる…っぴ…」

男はトリスタンから離れた位置にいたが、まさかトリスタンが剣を投げるとは思っていなかったようだ。
巨漢ともいえる体型を特注のフルアーマーに身を包み、ハルバードを持った男は、顔面にバルログを突き立てられ、あっさりと命を落とした。
そして素早く跳躍し、男かバルログを抜き放った。
「おぉぉおおおおお!!!」
トリスタンが雄たけびを上げる。
「ひぃぃ!!」「隊長!! 隊長がやられたぞ!!」「なんてこった、一旦引けぇぇぇ!!」

トリスタンのクリムゾン・ナイトに対する憎悪は終わりを知らず、そのまま森の方に逃げた敵兵を数人屠り、ビビたちがいる方へ向かった。
そこに待っていたのは、地獄絵図だった。
本気を出したビビによって数名の天使兵たちが倒れ、ある者は凍傷で、ある者は焼け焦げて倒れている。
そこになおも次々と襲い掛かる天使兵たち。ビビとロンは次第にその勢いに気おされていった。
特にイゾルデを相手にしているビビはかつての世話役との戦いに怯んでいた。

「トリスタン!!」
トリスタンが駆けつけるなり、ビビは叫んだ。ロンは攻撃を受けるだけで精一杯だが、そこは”盾系男子”の異名を持つ彼だけあって、
未だに補助魔法などで持ちこたえていた。
「ふふふ、トリスタン…その名は友であるセルフィから聞いています…
とてつもなく強引で、色欲の強い野蛮人だとね…!私はイゾルデ…ここにおいて貴様を成敗します」

イゾルデが手を上に挙げると、赤い光とともに倒れていた天使兵、さらに弱っていた天使兵までもが、背中に矢のようなものを突きたてられて突如起き上がり、
死者…まるでゾンビのように起き上がった。骨が透けて光り、翼の生えたその姿はまさに悪魔そのものであった。
「あぁ…あ…イゾルデ…どうしてこんなことを…!」
次々繰り出してくる天使兵の攻撃にビビは後ずさり、ロンはさらにおびえ、手が震えた。
そこに天使兵が赤黒い光を浴びた剣による一撃を食らわす。
ロンは防御魔法のかかった杖でそれを受けたが、次の瞬間、
剣はそれを貫通し、ロンの首が宙を舞った…

84 :
「ロン―――!!!!!!」
ビビの叫び声と怒りは天を貫く勢いで、魔力の奔流が敵を襲った。あっという間に周囲の魔法兵は粉々になり、
離れていたトリスタンですら、バルログを構えて防御の体勢を取るほどであった。
しかし、イゾルデは”絶対魔法防御”が効いているためか、全く意に介さない。

「くそっ!お前、よくも…!」
イゾルデに向かい斬りかかるトリスタンだが、あっさりと空中に舞い上がり、それをいなした。
オーブから放った無数の赤い魔法刃をトリスタンに放った。
「ぐぉぉおおお…!!」
一撃、一撃の魔法ダメージは鎧を貫通し、それはトリスタンを確実に傷つけていった。
「トリスタン!!」トリスタンを傷つけられさらに激昂したビビは魔法による圧縮光線を放つも、それもかき消されてしまう。
さらにビビにも容赦なく攻撃が飛ぶ。ロンによる盾の強い効果が残っていたとはいえ、ビビは肩のあたりから傷を負ってしまう。ローブが裂ける。
「きゃああ!!」
肩からは血が流れ、その周囲の顔などにも細かい傷がつく。ビビにとってこれだけの攻撃を受けるのは生まれて初めてだろう。すっかり怯んでいる。

「何をしようが無駄! 今降伏すれば、この”大天使”イゾルデが二人とも命は助けてあげましょう。
ビビ様には我が魔法軍に加わっていただき、トリスタンには奴隷にでも…なってもらいますが…」
そう言いながらも、イゾルデは物凄い速度で飛び回り、次々にオーブからの攻撃でトリスタンやビビを傷つけた。
傷はどんどん増えていく。

「なんなら、このようなことは…いかがですか?」
ビビの前に信じられないものが迫る。それはロンの死骸だった。目を見開き、宙に浮きながら杖から魔力を迸らせようとしている。
ビビは悪い夢を見ているようだった。頭を抱える。そこに一撃が入り、それは真っ二つになって吹飛ばされながら後ろの樹木の方へと倒れていった。
「おいビビ、冷静になれ… いいか、お前の魔法を…そうだ、それでいこう…」

次の瞬間、再びイゾルデが高度を落とし、魔法刃を放ってきた。
「今だ!!」
ビビが収束させた魔法をバルログに向けて放つと、それをトリスタンはイゾルデのいる真上に向けて突くようにして振り上げた。
「ぎゃあっ!!」
イゾルデが痛みのあまりに高度を落とし、ぐらついたところで、バルログを放り投げてオーブに突き刺す。
オーブは暴れるように魔力を暴走させ、イゾルデの胸の中で爆発し、翼を焦がしたイゾルデは落下してくる。
地面に落ちたバルログを素早く取ったトリスタンは、イゾルデに馬乗りになり、残った羽根を毟り取ると、
腹へとバルログを突き刺した。それは彼女の肉体を貫通したが、尚も魔力は残っていた。

「大変なもんだな、なかなかRねえってのはよ。でも、俺は殺したりはしない。女は殺さねえ主義なんでね。
あんたはまだ助かる。まずは第一条件だ。今回の襲撃の首謀者を言え。どう考えてもこいつ一人を連れ戻す規模じゃねえ…」
刃は腹から胸の方へと徐々に食い込んでいく。イゾルデは涙を流していた。
「…殺さないならば、犯すのか?少なくとも今、私の口からは言えぬ。少なくとも貴様などには…」
トリスタンは震える手を押さえながら、再び手に力を入れた。こうしている間が辛いのだ。
「お前が涙を流してる。痛えって証拠だ。お前を一人生として、そして女として逃がしてやりてえ。まだいくらでもやり直せる。さぁ、話すんだ」
イゾルデは口から血を吐きながらも、それに耐え、断固として語ろうとしなかった。
「イゾルデ… トリスタン、ちょっと離してやって」
抑揚のない声でビビが後ろから話しかける。思わずトリスタンもビビにその場を譲った。
「ビビ様… あっ…!! …」
ビビはいつの間に、というぐらいの圧縮された魔力で、イゾルデの心臓の辺りに一撃を放った。
その一撃は胸部に穴が開き、一瞬で”大天使”と言われたイゾルデの命を奪った。
「バル…ゲ…ル…さ…」
一瞬だけ呟いた言葉は、「バルゲル」と確かに言ったように思えた。バルゲル公爵は既に殺されたはずであったが…

85 :
「ビビ…なんてことを…!!」
トリスタンがビビを咎めるや否や、すぐにビビが泣き出した。
「あたし…きっと、好きだったの… ロンのことが… だから、許せなくて…!」
「なんてことだ…」
ツンデレ、などという言葉があるようだが、一緒にいる時間が当たり前のように長く、
ビビ自身がロンに好意を持っていることに気付かなかったようなのだ。子育ての経験のないトリスタンは、
年頃の少女の機微な感情の変化には、頭が回らなかった。

数時間が経ち、日が暮れはじめた。
天使隊は全滅し、そして兵たちは引き揚げていき、ただの廃墟となった街だけが残った。
「埋めるの。手伝おうか?」
トリスタンが穴を掘っていると、ビビが申し出てきた。
ロンとイゾルデの二人分だ。あとは適当に森の奥に積み重ねてある。
「あぁ…一応な、こいつはセルフィという友達の友達って奴なんだ。だから、こいつも友達みてえなもんさ」
「そうなんだ…でも、ロンのお墓からは離しておいてね」
二人の遺体は埋葬され、やがて小屋の方にトリスタンとビビは引き揚げていった。

ビビのおかげであっという間に傷は癒えた。トリスタンはすっかり暗くなった小屋の中、ビビを慰めていた。
すっかり涙は出なくなったようだが、心の傷は深い。
彼は心底安心していた。魔力は殺人兵器そのものだが、心は普通の少女そのものだ。
何度も唇にキスをされたので、トリスタンの方もそれに応えるようにした。ビビはそれでも物足りないようだった。ローブを脱ぎ出す。
「この際だから、もう体もめちゃくちゃにして。あたし、トリスタンとなら、どこにでも行ける気がする」
「ダメだ。てか、ロンのことはもうどうでもいいのか?」
即答した。それは、これだけ柔らかい体を抱きすくめていても反応しないから、ではなく、他の理由でもあった。
「ロンはもうこの世にはいない。それだけは整理がついたの。これからどうしたらいいの?」
裸のままで、トリスタンに聞いてくる。
「まずは服を着なさい。お前ならきっと生き残れる。そうだな…なるべく東の方で冒険者でもするといい。もう立派な”ヒトゴロシ”だ。
すぐにベテランになれるさ。そして、俺みたいに世界一の…冒険屋を目指すんだ」
「何その冒険”屋”っての。自分で言っててカッコ悪くない? …」
「ははっ…」

体は大人でも、心はまだ子供のようで、ビビはすっかり疲れていたようで、あっという間に寝てしまった。
トリスタンはビビからは約束の報酬を何も取らずに、夜中のうちにそっと小屋を抜け出した。書置きと、一本のナイフだけを残して。

  ”どんな時でも俺が守っている。自分の正しいと思うことをしなさい。それで幸せになれる。お前の父さんより”


 【ビビ編の導入部分終了です。】

86 :
「バル…ゲ…ル…さ…」
トリスタンはイゾルデのその言葉を頼りに、西マクドネル領ハーグに近い東マクドネルの前線拠点、ティーリの城下にいた。
ハーグではかつて東部を治めていた公爵、バルゲルは攻撃を受けて戦死したとされている。
しかし、もしもバルゲルが生きており、天使隊やクリムゾンなどの禍々しい集団を率いているとすれば、それは世界の破壊をもたらす。
当然、東を治めているイリシアやランスロットの身も危うい。

そういう事で、ハーグの内情を探ろうと嗅ぎまわろうとしたトリスタンだが、
ロンの死やビビの落ち込み様を見て、自分もつい堕落してしまったらしい。
冒険者ギルドで仕事を請け負うも、内容は西側の残党狩りや落ち武者狩り、終いには戦場漁りと、野盗の仕事のような切れ味のない仕事で、
すっかり怠惰になってしまい、それなりの財力とそれなりの腕っ節も相成って、城下町に家を借り、
任務をする度に女遊びと酒浸りになる生活を続けてきた。
下手に強く頼りになるため、酒があっても戦いはでき、戦場でも女は勝手についてくるものだった。

今日も昼間方から酒場に入り浸り、皮の軽装備にバルログといっただらしない格好でちびちびと飲んでいた。
途端、後ろから香水の香りを感じる。女だと思った。
「よう…俺ぁ忙しいんだ…ぁ…?」
それは確かに女だった。しかし、その姿は…少年時代に見たあの女、
そして、いつか夢にまで現れたあの女に間違いなかった。
「隣、いいかしら?」「あんたは……―!!」

その姿は当時と殆ど変わってないように見えた。
ナタリア。確かそんな名前だったはずだ。そしてこの女は、
「ちょっと、外いいかしら?」
勘定を勝手に済ませ、トリスタンは気がつくと席を立っていた。

酒場の出口に向かう途中、トリスタンは複雑な感情を入り乱れさせていた。
それは、懐古、驚愕、そして…憎悪。
酒場を出ると、そこはいつもの街中ではなかった。


見渡す限り、天上の世界。
それがナタリアが作り出した幻想か、それとも拠点か…
いずれにせよ、トリスタンはここに飛ばされたことになる。
草原に木々が生え、小鳥たちがさえずり、そしていくつもの橋で繋がれ
真下には雲の海、真上には青い空が広がっている。楽園だ―
「…!」
何より驚いたのは、ナタリアが全裸でそこを歩いていることだった。
瑞々しく、豊満な肢体は歩く度に肉感的に揺れ、そして臍の脇にはあの時の刀傷がはっきりと残っている。
はっと気付く。
裸なのはナタリアだけではなく、トリスタン自身もそうだった。
ナタリアは何を恥らうことなく指をさし、少し離れた場所にある小屋を目指すと告げた。
トリスタンは様々な感情を溜めながら、その後ろを何を言うでもなく、ついていった。
二人が腰掛けたその場所は、眺望も良く、既に天に召されているかのような気分だった。
周囲には一切の人影もない。それどころか人一人いる気配もないようだ。

87 :
「大した場所だな…ここは、どこだ?あんたが作ったのか?」
ナタリアは窮屈そうに椅子に腰掛け、脚を組んで仰け反るように寄りかかりながら応えた。
「ご明答。ここは…私の世界。今、あなたは私のモノ。逆らうようなことをすれば、すぐにあの世行きよ」
トリスタンはそれを全部聞くまでもなく、急かすようにナタリアに聞いた。
「どうして俺の居場所が分かった?! 俺をずっと監視していたのか?!」
「まぁ、そう怒らないで。別に取って食おうって訳じゃないんだから」
その瞬間、トリスタンの宝石が熱くなった。紫色のもので間違いあるまい。

「ビビという子に会った。あれはあんたの子だろ?とぼけるなよ」
そうトリスタンが言うと、ナタリアはむっとした表情になってすぐに応えた。
「そう。そしてあなたの子…。あなたが私を襲って、犯して、産ませた子ってこと」
トリスタンは激昂した。
「ふざけんな!てめえが、勝手に襲って、勝手にガキ作って、産み落とした子供だろうが!」
ナタリアに殴りかかる。それをナタリアは魔術を使い、素手で止めると、吹飛ばした。
トリスタンは脇の椅子に顔面をぶつけたが、もう少しで奈落の底へと落ちる位置だった。
「あんた、こっちの苦労も知らないで…!私がお腹を痛めて、二人も子供を産んだってのに…!」
傷のある腹を撫でるようにしながら、ナタリアはトリスタンの顔を踏みつけた。魔力による重量とともに。
しかし、トリスタンはその勢いにも負けず、ナタリアの脚に噛み付き、逆に圧し掛かった。腹に拳による一撃が入る。
「馬鹿野郎!その子供がどれだけ苦しんでるかも知らずに…!あんたはどうしようもねえクズだ!しかも双子…だと?」
トリスタンは馬乗りになったままさらに顔面を殴ろうとして、そこで思わず手を止めた。

「もう一人の名前をペイルストーンと言うわ。私のところには6歳ぐらいまでいたかしら。
ビビッドジェムとペイルストーン。相性ビビとペイル。私の可愛い、子供たち…いえ、私たちのかしら…」
気がつくと一瞬の隙に形成は逆転し、トリスタンが馬乗りになられていた。柔らかい感触が徐々にトリスタンのリアリティを奪っていく。
「ねぇ、ビビについてもっと聞きたいこともあるし、今夜や休んでいかない?その感じだと、収まりが付かないんでしょ?」
空が見えた。既に夕焼け空になっている。この女の世界にも昼と夜はあるのか。絶望と欲望の宴が始まった。

88 :

青空が見えた。おそらくこの世界に朝が来たのだ。既にナタリアは傍に腰掛けており、外を眺めている。
「もう目が覚めたのか?俺はどれぐらい寝ていた」
ナタリアは馴れ馴れしくも近づくと、そのままトリスタンを膝枕するような格好になった。
「さぁ?私はもう、眠らなくても良い体になったから」
「そういえば、歳も大して変わってないな」
「そういうこと。私、普通の人間じゃないから。そして私はこの空間の他にも、沢山家を持っているわ。
例えば、忠実な”兵士”たちで一杯の場所とか、ね」
そのままの体勢で、トリスタンの頭を撫でながら答える。まるで赤子のような扱いだ。ナタリアが遠く感じた。

「あんた、”純血種”か…?」
それを聞くとナタリアは一瞬、胸が上下し、驚いたような表情になった。
「…ふっ、そう、とも言えるし、違う、とも言えるわ…”純潔種を産み出すもの”とでも言えばいいかしら」
そう言ったナタリアの顔はどこか遠くを見ているようであり、何かの彫像でも見ているかのような錯覚をトリスタンは受けた。
「自分の子供が、大量殺人をしているとして、それを平気でこんな所で眺めて…良い気なもんだ」

「大量殺人なんかじゃない。人は死ぬもの…それが自然の摂理。殺し合いをして数を減らし、優れた者だけが残るように、
人間というのはコントロールされているのよ。そう、あなたのように」
ナタリアの口からこのような言葉が出てぞっとした。ペイル――殺戮の魔女についてはカマをかけただけだった。
それが当たり前のように、まるで予定調和のようにナタリアは語った。この女は全てを知っている…!!

ナタリアの頭を撫でながらすっくと立ち上がると、トリスタンは迷うことなく言った。
「ありがとう。俺を…ここから出してくれないか?あとは何とかするから。お気に入りの場所を汚して済まなかった」
トリスタンの手を取って立ち上がったナタリアは、すたすたと帰り道を案内した。
トリスタンは指に嵌められた紫の指輪を、雲の底へと、それこそぱっと捨てた。



目が覚めた。隣にはナタリアがいた。
「”今日”は楽しかった。またお会いするかもしれないから、よろしくね。最高の冒険屋サマ」
立ち去ろうとして席を立とうとするナタリアに、トリスタン腕を掴み話しかけた。
「待てよ」
ナタリアが振り返る。
「俺は多くの人間を殺してきた。だが、全部”止むを得ず”だ。俺は平和なこの世界が、一番好きなんだよ。
あんたが戦乱を望むなら、俺はそれを全力で止める。あんたを殺してでも…な。それだけは覚えておいてくれ。
相手が神だろうが、容赦はしねえ。俺はどっからでも現れてやるぜ…!何か企む前に、その腹の傷を見るんだな」
彼女は一瞬、驚いたような顔をしながらも、平静を装い、ローブを捲って臍を出し、傷を見せた。

「その時は、お手柔らかに頼むわ。女に優しいのも、あなたの持ち味だから」
そう言うと、そのままナタリアは夜の街へと姿をくらましていった。



そこから遠く離れた東マクドネルの白亜の城では、若い剣士が剣をふるっていた。
少年が空を見上げると、紫色をした光が太陽に反射しながらゆっくりと落ちてきた。
少年はそれを拾い上げた。ティアラにドレスをした高貴な婦人が彼に話しかける。脇にはまだ幼い男の子もいる。
「ランス、今日は随分と熱心だな。もうすぐ夕餉の時間だ」
「あっ…はい、母上」
「母上など、堅苦しい話は無しにしろと言ったはずだ」
「ごめんなさい、母さん、今行くよ」

89 :
名前:ランスロット・マクドネル
年齢:15
性別:男
身長:175
体重:59
スリーサイズ:
種族:人間
職業:東マクドネル王国第一王子
特技:剣術
長所:とにかく真面目
短所:考えすぎな節がある
武器:魔法のロングソード
防具:豪華なチェインメイル
所持品:装飾品等
趣味:鍛錬
最近気になること:自分の初陣について
将来の夢(目標):母イリシアを支え、王国を統一する
キャラ解説:トリスタンとイリシアの子で王子。比較的良い環境で育てられたお坊ちゃまで、
礼儀正しく、現在のところ人を殺した経験すらない。初陣を控える。7歳の弟、ガウェインがいる。
父の顔も名前も知らないが、将軍や騎士よりは冒険者にあこがれている様子。

90 :
名前:ルイセ・マクマホン
年齢:17
性別:女
身長:158
体重:43
スリーサイズ:85-52-82
種族:人間
職業:盗賊
特技:投擲全般
長所:サービス精神旺盛
短所:比較的頭は悪い
武器:ソードブレイカー、ナイフ等
防具:皮の服
所持品:投擲用武器
趣味:人間観察
最近気になること:トリスタンとの関係について
将来の夢(目標):母イリシアを支え、王国を統一する
キャラ解説:細身で小柄な盗賊。元々は酒場のウェイトレスなどをしていた。ティーリの冒険者ギルドで冒険者をしているうちに
トリスタンと知り合い、男女の仲になる。トリスタンの強さに絶対の信頼を置いており、独占欲が強い。

名前:ギルミア・ガンバッサ
年齢:24
性別:女
身長:221
体重:105
スリーサイズ:124-89-130
種族:人間とオーガのハーフ
職業:冒険者
特技:怪力
長所:圧倒的なパワー
短所:頭はあまりよろしくない
武器:ジャイアントアックス、ガントレット
防具:皮とプレートのアーマー(自作)
所持品:冒険者セット等
趣味:酒飲みと力自慢
最近気になること:殺戮の魔女について
将来の夢(目標):冒険者として楽しみ、自分よりも強い男と結婚して幸せになる。
キャラ解説:人間とオーガのハーフ。父親はオーガ、母親は人間らしいが、本人は事情を詳しくは知らない。
幼い頃は差別に遭ったが、今では持ち前のパワーを生かして明るくふるまっている。
腕っ節には自身があり、負け無しの強さ。「売られた喧嘩は買う」をモットーとする喧嘩早い一面もあるとともに姉御肌でもある。


そして、再びトリスタンはいつもの”任務”についた。
久しぶりということで大分腕がなまっていることも危惧されたが、今回は顔見知りがいる。
これまでのティーリでの生活で知り合った女、ルイセだった。勿論、肉体関係が必ずしもプラスに働くとは限らないが。
他に数人の比較的腕利きの男に、驚くほど大柄なオーガ、いや、ハーフらしき女がいる。
今回も西マクドネルの待ち伏せをするといった比較的単純な任務だ。
前夜の酒場では早速暢気なパーティーらしきものが開かれている。トリスタンに声をかけたのは…

【とりあえずここまで。途中参加歓迎します!】

91 :
名前: ピュエラ・エテルヌス
年齢: 32
性別: 女
身長: 130p
体重: 27kg
スリーサイズ: つるぺた
種族: 草原妖精
職業: 吟遊詩人
特技: 呪歌・魔法舞踏
長所: 明るくおめでたい性格
短所: 明るくおめでたい性格
武器: 魔法のハープ/魔法のタンバリン
防具: 魔法強化された布の服/魔法のブーツ
所持品: 羊皮紙/羽ペン
趣味: 歌と踊り/伝承歌のネタ集め
最近気になること: 冒険への出動依頼が増えてきたこと
将来の夢(目標):後世に歌い継がれるような伝承歌を作ること
キャラ解説:
自称ティーリ冒険者ギルドの看板アイドル。
もちろんいつの間にか勝手に居ついただけだが半ば公認に近い黙認となっている。
実は支援系能力に長けた冒険者でもあり、度々マスターから出動依頼を受けている。

・草原妖精
耳の尖った子どものような姿をしている種族。
全体的に明るくおめでたい性格である意味強靭な精神力を持ち、歌や踊りを好む。
大変器用ですばしっこいが筋力は皆無。
そのため必然的に専ら後方援護となるが、敵の攻撃を避けまくるため前線に放り出されても意外と生き残る。

92 :
賑やかな前夜祭の背景に溶け込み、ステージで踊っているのは一人の幼女とも言える少女。
――とぱっと見誰もがそう思うだろう。しかしよく見ると少女の耳は異種族特有の尖った形をしている。
彼女は草原妖精――歌や踊りを好むとにかく陽気な種族だ。

「ピュエラ、今回も頼めるか?」

ステージにさりげなくマスターが近づき、問いかけた。
ふピュエラはステップを止めず、ピンクブロンドのツインテールを揺らしながら答える。

「今回の依頼は単なる待ち伏せやろ?
あんな屈強そうなメンバー揃うとったらウチいらんのちゃう?
……なんて野暮なこと言わん、お安い御用や!」

ステージからぴょんっと飛び降り、トコトコと冒険者の一団の方へ駆けてゆく。
見るからに屈強な冒険者の集団の中に物怖じする様子もなく分け入り、手頃な一人に話しかける。
それが偶然か必然かは分からないが、トリスタンであった。

「その依頼、ウチも参加させてもらいますわ、よろしくなー! 
一度しか言わんから耳かっぽじってよう聞けや、ウチはピュエラ・エテルヌス。この冒険者ギルドの看板アイドルや!」

後ろでマスターが「自称な」とすかさず補足する。構わず喋り続けるピュエラ。

「んん? あんちゃん飲んだくれみたいな振りしてよく見るとかっこええんとちゃう?
英雄伝承歌で言うところのトリックスターの香りがするで! アカンわあ、罪な男や!
……むぐ! むぐぐぐ何すんねん」

適当なことを喋りまくるピュエラの口をマスターが手で塞ぎ物理的に制止。

「いいから少しは黙れ!
こんなんだが生憎残念なことに後方支援の腕前はちょっとしたものでな……。
メンバーを見たところ少しばかり肉弾戦に偏っているようだからよければ連れていってやってくれ。
その間は店も静かになるしな」

「まーたそんな事ゆうて。知っとるでー、ウチがおらん間寂しいよーゆうて泣いとるくせに。
安心しい、絶対帰ってくるさかい。ってなわけで気張っていきまっしょい!」

こうして屈強な冒険者御一行に見るからに場違いな輩が約一名勝手に加わってしまった。

【ひとつ頼みますわ!
ところでルイセはんはイリシアはんと何らかの形で親子関係にあるんかいな!?】

93 :
>>92
【どうも、よろしくです。】
【うっかりしてました(笑 ルイセのキャラプロフ修正します 】

名前:ルイセ・マクマホン
年齢:17
性別:女
身長:158
体重:43
スリーサイズ:85-52-82
種族:人間
職業:盗賊
特技:投擲全般
長所:サービス精神旺盛
短所:比較的頭は悪い
武器:ソードブレイカー、ナイフ等
防具:皮の服
所持品:投擲用武器
趣味:人間観察
最近気になること:トリスタンとの関係について
将来の夢(目標):沢山報酬を貯めて家族を住まわせる家を街に建てる
キャラ解説:細身で小柄な盗賊。元々は酒場のウェイトレスなどをしていた。ティーリの冒険者ギルドで冒険者をしているうちに
トリスタンと知り合い、男女の仲になる。トリスタンの強さに絶対の信頼を置いており、独占欲が強い。

94 :
「今回の任務、聞いてる?」ルイセが問いかける。
トリスタンはそれを聞いているかいないかのような感じでチビチビと飲みながら、催し物に興じていた。
ステージには子供そのものともいえる女の子が、可憐な踊りを披露していた。
それはそこらの子供ではなく、良く見ると魔力の波動が感じられる。とがった耳。恐らく妖精系の亜人の一種だろう。
フェアリーより大きくエルフより小さい、といったところだ。
そちらに見とれていると、テーブルの向かいのルイセがバンと音を立てる。わざと胸の谷間を強調する格好だ。
「ちょっとー、このルイセ様のボディを前に、あんな子供なんか見てるの?やらしー」
トリスタンもようやく口を開く。
「あぁ、今回も東側の攻撃の掃討作戦らしいな。控え以下のゴミ拾いってとこか…退屈で嫌だな。
カネにはなるとはいえ、死体を見るのは嫌なもんだ」
周囲を見回す。今回のメンバーと思われる数人の男たちが他のテーブルに座っていた。
そこには大柄な…よく見ると女のようだった。肌の色が若干違うあたりは亜人種の血が混じっているのだろうか?
トリスタンよりも二周りも大きな体。そして傍には巨大な斧が置いてある。
「ハーグ付近の最前線だと聞いてるが…今回は…安心だな」

そう呟いた矢先のことである。
「その依頼、ウチも参加させてもらいますわ、よろしくなー! 
一度しか言わんから耳かっぽじってよう聞けや、ウチはピュエラ・エテルヌス。この冒険者ギルドの看板アイドルや!」
突然目の前にさっきまで踊っていた少女が現れていた。妖精特有のものか、妙な訛り。そして素早い身のこなしだ。

「お、おう。前から名前は知ってたが、ピュエラ?今回の作戦は簡単だが、ガキには危ないぞ。
最前線だし、どっから矢が飛び出してくるか分からん。ちなみに俺は、トリスタン…世界一の、冒険屋さ」
ルイセが、「まーた出た」とばかりにトリスタンの自己紹介に呆れる。

マスターがまるで保護者のように、後ろに現れ、口を塞ぐ。
どうやらピュエラの能力はマスターのお墨付きのようだ。
「あぁ、分かった。こいつはルイセ、俺の今の相棒だ。好きにすればいいが、
危なくなったら俺の後ろに下がってろ。一応、盾ぐらいにはなるぜ。今回はどうやら他も選りすぐりみたいだが」
自分の鍛え上げられた筋肉を見せつつ、周囲を鼻で指す。特に大女の方に。
「んん? あんちゃん飲んだくれみたいな振りしてよく見るとかっこええんとちゃう?
英雄伝承歌で言うところのトリックスターの香りがするで!」

「トリック・スター…?」
自分の指をさしてピュエラとルイセ、マスターの顔を見る。
「アカンわあ、罪な男や! ……むぐ! むぐぐぐ何すんねん」

「はぁ、俺が何か罪でもやったか?まぁ、人や魔物は大勢殺してるかもしれないけどな…
その分多くの命を救ってきたつもりだよ。これでも」
皮肉を利かせるように、肩をすくめながら周囲に弁解した。

今回もきっと大丈夫、と思いながら、先ほどピュエラに言われたことが引っかかっていた。
「アカンわあ、罪な男や!」言われてみれば、イリシアが子を宿してから王国は内紛が続き、多くの血が流れている。
ナタリア関係も一緒だ。大量殺戮兵器のようなものを余計に増やしてしまったようなものだ。
トリスタンはティーリの街にある自宅で、天井を見上げながら横になって考えていた。
ここにはあちこちに武器が置いてあり、食料品や衣類を入れる道具、そして暖炉も用意されており、
部屋には男女の衣類がぶら下がっている。今は女物はルイセのだ。
「あれー?いつもとちょと違うじゃーん?もしかしてあの娘に興味でも持っちゃった?」
ルイセが隣で服を脱ぎだす。小柄で細身なのとは裏腹に、月明かりに照らされた胸は性的だ。それに引かれたのもあり、こうして一緒にいる。
トリスタンと一緒の毛布に入り、体を密着させる。
「明日は早いぞ…今日はダメだ」
そう言われると残念そうに、トリスタンの岩のように硬い肌を撫でた。
「ま、いいけど… それより明日はちゃんと守ってよね。わたし、トリスタンの赤ちゃんがいるかもしれないから」
その言葉もトリスタンには深くは届かなかった。トリスタンは手の、指輪の欠けた部分が妙に冷たいのを恐ろしく感じた。
それ故に、ルイセの肌の温もりはありがたいものだった。やがて、そのまま眠りについた。

95 :

翌朝、いつものように冒険者ギルドのメンバーが出発した。総勢は10人ほど。
ルイセを初めとして見知った顔も数人いるが、ピュエラと大女は明らかに初めてだ。
以前、留守に無理をして参加し悲運の戦死を遂げたブッシュを思い出したが、今回は充分な人員だ。

ピュエラの良く分からない鼻歌が聞こえる中、トリスタンはルイセを隣にしながら、前線へと進んでいった。
今回はハーグ最前線の砦を東軍が落とす、そう伝えられていた。待機地点まではもうすぐだ。
目の前の岩が動いた、と思ったら大女だった。
「よう、兄ちゃん、そして嬢ちゃん。二人は付き合ってんのかい?あたいはギルミアってんだ。
連中からは姐さん、姐さんて呼ばれてるけどね。この体だけが取り得だから、何かあったら頼ってくんな」
「ギルミアか、覚えた。俺はトリスタンっていう冒険屋だ。頼りにしてるし、俺を頼りにしてもいい。
全力で戦って、全力で怪我してこい。そしたらあんた一人ぐらいなら、お姫様抱っこして連れて帰れるぜ」
不意に言われ驚いたような顔をして、再び不敵な笑みを浮かべるギルミア。
「ほう、冒険屋さんか、ははっ、覚えとくよ。良く見たら良い体してる。せいぜい死なないように頑張るさね」
最後は気を悪くしたように吐き捨てていった。大体の戦場では負け知らずなんだろう。
「お、おっ始まったみてえだぞ!」
軍が使用する楽器の音に反応し、メンバーの男の一人が合図を出した。一斉に物陰に隠れる。

初めに現れたのは東軍だった。騎兵が中心で、総勢二百名はいるだろうか。平原の方から来る人数としてはだいぶ少ない方だ。
馬上で指揮を取っていたのは、いつぞや見た顔ぶれだった。引越しの祝賀会の時にいた、ニルス配下のネイ将軍だった。貴族服と鎧姿では印象も違う。
魔法や矢の打ち合いが始まる。こちらはまだ気付かれてはいない。
位置の関係もありネイの東軍は要塞側の西軍に徐々に包囲され、けが人や犠牲者を出していった。
そこでネイは兵を引く。再び楽器の音が響いた。
歩兵がもたついたこともあり、西軍からは追討の命令が出されたようだ。
隠れていたビッグホーン、オストバードの騎兵、そしてワイバーンの竜騎兵が逃亡するネイの軍に襲いかかろうとする。
ネイの騎馬隊よりもずっと速い。
と――そこに複数の巨大な火の球が高速で襲い掛かった。
ドバァァァン!!!
ギャァァという西側の悲鳴が上がった。次々と繰り出される火の球とともに現れたのは、まだ若いと思われる少女を中心とする部隊。
少女と他には護衛と思われる騎士一名、軽装兵三名、ローブの女一名の計六人だった。

「相手はたった六人だ!怯むな!!」
爆発の合間を縫ったビッグホーンとオストバードの騎兵十人ほどが一斉に少女たちに切りかかった。
しかし、それは少女から放たれた雷によって見るも無残に吹飛ばされ、ハムのような状態になって辺りに飛び散った。少女が不敵ににやける。
ヒィィ、という声が上がる。追撃部隊が全滅した。そしてその破片は勢いを増してだいぶ後方に隠れていたトリスタンたちの頭上にもいくつか落ちた。
目玉の飛び出したオストバードの首、そして甲冑をつけ折れた槍を握ったままの兵の腕…
その有様にルイセは思わずトリスタンに抱きつき、周囲の男たちも震え上がった。

トリスタンは少女の顔をよく見た。
「ビビ…?!!」
その姿はまさにビビだった。しかし、彼女がこのような殺戮を行なっているとは信じがたい。
そこで思い出した。あのナタリアという魔女の言葉を。

名前:ペイル(ペイルストーン)
年齢:15
性別:女
身長:168
体重:52
スリーサイズ:84-59-91
種族:人間
職業:東マクドネル王国、魔法遊撃隊長
特技:魔術
長所:全く躊躇いのない殺戮精神
短所:気が短く、基本的に子供であること
武器:なし(純粋な魔力のみで戦う)
防具:ローブ
所持品:護身用の最低限の武器や回復アイテム等
趣味:人殺し
最近気になること:双子の妹”ビビ”を殺したいこと
将来の夢(目標):ビビの殺害、王国を自分のものにする

96 :
「ペイル…ストーン…」
間違いない。あれはペイル、双子の妹だ。ペイルの部隊はそのままゆっくりと要塞に近づいていく。
大きな犠牲を払い、士気の下がった要塞側はなかなか次の手を出せず、ペイルらの接近を不用意にも許していた。
ペイルが倒れている東軍兵と思われる死体を蹴り上げ、叫んだ。
「わたしは東の魔女ペイルストーン!簡単に言うよ。さっさと要塞から立ち去りな。
でないと皆殺し。いいね?はい、10数えるうちに逃げること。いーち…にーい…」
声は拡声の魔法で大きくなっているのだろう。その喋り方はまさに壊れた少女のものだった。
ビビのようなせめてもの歳相応の分別はなく、ただ殺戮をするだけの無邪気な子供。それがペイルだった――!

西軍の一部の兵が逃亡を開始する。西も傭兵を用いており、決して士気は高くない。
ましてや、”こう壊滅続きの現状では”。
「怯むな、撃てぇ!」
西の隊長らしき男が楽器を鳴らして合図し、矢や魔法が放たれる。
「ろーく…あれ?不意討ちってことかな? じゃあ、みんな私を守って」「はっ」
騎士の男が巨大な盾を、盗賊風の男たちはマントを使ってペイルへの矢を防ぎ、魔術師らしき女がバリアを張る。
「はい、じゃあ撃つね。下がって」
一部怪我をしている仲間を尻目にペイルは既に詠唱を済ませたらしく前に出たと思うと、突然腕から自分の体ほどあると思われる巨大な紫色の球体を出し、
要塞に向けてそれを余すことなくぶちかました。球体から無数の手のひらほどの球体が飛び出し、それは要塞に当たると禍々しいオーラを出し爆発した。
要塞では阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。一分もしないうちに、要塞が壊滅したことが、トリスタンにははっきりと分かった。

「誰も…いねぇ…」
恐らく五百人ほどはいたと思われる兵たちが、そこには既に誰もいない。
ペイルの放った魔法の余波と思われる磁場や、そこから飛び散った死臭がたちこめる中、ペイルは前に進んだ。
「はい、掃討作戦開始」
目を見開くようにして、五人の仲間を顎で使う。彼らの目、表情を見てトリスタンは驚いた。
そう、彼らは東マクドネルのために戦っているのではない。”恐怖に支配されながら”動いているだけなのだ。
数分の後に、ある程度のお宝らしきものを持って彼らは要塞を降りてきた。
そして、ある程度その場を彼らが離れたのを確認すると、トリスタンたちは戦場漁りに”元”要塞へと向かった。
勿論、ハーグの近くでいつ西軍の本隊が現れれるかは分からない。仲間の一部には腰を抜かしてなかなか立てない者がいた。

97 :
「これは酷いな…」
殆どの兵がバラバラになっていて原型を留めておらず、生き残ったと思われる一部の兵は首を刎ねられるか頭を吹飛ばされている。
気の強そうなギルミアですら、この時は一言も口を開かなかった。
「なんか、済まなかったな。こんなところに連れてきて」
トリスタンが申し訳なくなってピュエラに謝る。
「ったく、戦場漁りかと思ったら殆ど良いモンは取られちゃってんじゃん!ふざけんなっての!」
大声でルイセが叫ぶ。その口をトリスタンが塞いだが…

――そこには六人の殺戮者たちが戻ってきていた。
「あのさ、そこうちらのモンなんだけど…何勝手に漁ってるわけ?Rよ?」
弁解をしようと思う前に”R”との言葉が出る。表情も遊び感覚だ。こいつは壊れている、と思った。
「…い…一応だな、この通り、ティーリのギルドから正式に派遣された者だ。俺はトリスタン。
簡単に言うとだな、王国がティーリのギルドに頼んで、それを請け負った、つまり…」
「うるさい!!わたしのモノって言ってんだから、そうなんだよ!あっち行け!死にたいのかよ」
子供そのものだ。これでは会話にならない。――殺される。

トリスタンはメンバーに目配せし、諦めようと諭すことにした。ギルミアが血気だっており不安だったが、
ようやく説得に応じたようだ。
「あぁ、分かった」そう言って一行は立ち去ろうとした。しかしである…!

「あ、やっぱやーめた。半分Rってことで、どう?そっち10人、このペイル様に会って、半分も残れればいいっしょ?
じゃあ、あんたら、わたしが援護してやるから、適当に殺しといて。あ、5人殺したら終わりね」
「おい、もう良いだろ?」「そんな…無茶だ!」「それは難しいわ…」「ペイル様…ここはもう引き下がっては?」
最後に反論した騎士らしき男に、ペイルが詰め寄る。
「”忠誠を誓う”と言ったのは誰だっけ?ダレス!お前が真っ先に前に出るんだよ、ほら、お前らも早くしな」
ペイルの目にすっかり怯えた騎士ダレスは、うおおと雄たけびを上げると、トリスタンたちに槍を持って襲い掛かった。
それに続き軽装の男も剣を抜き、女も杖を構えて魔法を詠唱した。
そこにペイルの強力な補助魔法が入る。――オォォォォ…

地の底から湧き上がるような咆哮。五人の兵は紫色のオーラに包まれ、能力は大幅に向上した。
「下がってろ!」ルイセやピュエラにそう伝え、トリスタンを先頭にギルミアや男たちが前に出る。
盗賊風の男の攻撃を受け流し、そのまま剣の平で男を打とうとすると、次の一撃が放たれていた。「速い…!」
辛うじてそれを肩の鎧で受けると、頭をガントレットで殴った。急所を外し、男がふらつき怯む。
先ほどの一撃は内部にまで浸透しており、トリスタンにとって痛手となった。
「気をつけろ…こいつら強化されてるぞ…!」

【戦闘開始。こちら側がトリスタン、ピュエラ、ルイセ等含め10人、
敵側がペイルを含め6人でそのうち5人がこちらを襲撃。】

98 :
ピュエラは鼻歌を歌いながらスキップにも近い足取りで前線へと向かう。
トリスタン達も冗談を言い合ったりして和やかな雰囲気だ。
並んで歩くトリスタンとルイセも間に流れる空気を見るに
昨日は相棒と言っていたがギルミアの言うとおり恋人関係でもあるのだろう。
そんな空気は、戦闘開始と同時に一変することとなる。
東側が西側に押されたのか――そうではない。
今回の立場から言って東が強いに越した事はないのだが――あまりにも強すぎたのだ。
たったの六人が何百もの兵を圧倒的な力でもって蹂躙する。
六人と言っても他の5人を恐怖で支配し魔法で強化している首謀者は実質一人だ。
それはもはや戦闘というよりも一方的な破壊活動であった。
あれよあれよという間に要塞は壊滅し、要塞跡地へと変わる。
殺戮者達がお宝を持って帰っていくのを確認し、先ほどまで要塞だった場所へと向かう。
もはや西側の残党など残っているはずもなく、目的は専ら戦場漁りだ。

>「これは酷いな…」

「せやな……」

これには流石のピュエラも悲痛な面持ちをしている。

>「なんか、済まなかったな。こんなところに連れてきて」

「トリスはんが謝ることあらへんで。勧めたのはマスターやし来ると決めたんはウチや」

>「ったく、戦場漁りかと思ったら殆ど良いモンは取られちゃってんじゃん!ふざけんなっての!」

「まあまあ、よく探せばあるかもしれへんで。宝探しは任せたわ、ウチは鎮魂歌《レクイエム》歌うさかい」

ルイセがトレジャーハンターの類だと察したピュエラが、苦笑しながら告げる。
鎮魂歌は死者の魂を弔う呪歌。実利的にはアンデッドを浄化したりアンデッド化を防止したりする効果がある。

「あ、戻ってきはったんかいな。後はウチらが片づけるように依頼されとるから大丈夫やでー」

殺戮者達が戻ってきたことに気付き、内心恐怖を覚えながらも努めて明るく声をかけるピュエラ。
流石に立場上味方側の者にむやみに危害を加えることはないだろう……という甘い考えはすぐに打ち砕かれることになった。

99 :
>「あのさ、そこうちらのモンなんだけど…何勝手に漁ってるわけ?Rよ?」
>「…い…一応だな、この通り、ティーリのギルドから正式に派遣された者だ。俺はトリスタン。
簡単に言うとだな、王国がティーリのギルドに頼んで、それを請け負った、つまり…」
>「うるさい!!わたしのモノって言ってんだから、そうなんだよ!あっち行け!死にたいのかよ」

「……」

ボケとツッコミの会話に精通(?)したピュエラもはやどこからツッコんでいいか分からずに絶句する有様である。
無益な戦いを好まないピュエラは、トリスタンの目配せの意味をいちはやく理解した

「これアカンやつや、帰るで! 試合に負けて勝負に勝つんや、退却するもまた勇気や!」

仲間のうちの血気盛んな者達を説得し、帰ろうとしたときである。

>「あ、やっぱやーめた。半分Rってことで、どう?そっち10人、このペイル様に会って、半分も残れればいいっしょ?
じゃあ、あんたら、わたしが援護してやるから、適当に殺しといて。あ、5人殺したら終わりね」

「あかん……意味と趣旨が分からへん」

もはや何か目的があってRのではなく、殺戮自体が目的なのだろう。
流石に取り巻きの者達からもやんわりと反論されているが、当然効果は無かった。

>「”忠誠を誓う”と言ったのは誰だっけ?ダレス!お前が真っ先に前に出るんだよ、ほら、お前らも早くしな」


配下達はまともな良心が残っているあたり、精神操作の魔術にかかっているわけではなく単純に恐怖で支配されているだけなのだろう。
そう思ったピュエラは駄目元で説得を試みる。

「アンタら! そいつに仕えるの本当は嫌なんやろ! 一生そうやって怯えて生きるつもりかいな!?
ウチのギルドに来れば守ったるさかい。ウチのマスターめっちゃ強いんやで!」

これは満更ハッタリでもない。
ペイルは確かに最強だが、魔術師一人なら詠唱中に隙を突いて攻撃なども不可能ではない。
それを絶望的な最強にまで引き上げているのは他ならぬ5人の取り巻き達なのだ。
彼らはそれに気づいているのだろうか――
5人は一行に襲い掛かり、そこにペイルの補助魔法が入る。

「そんなんいつまでも通用せえへんで! 恐怖による支配ってゆうんはな、固いけど脆いんや!」

圧倒的優勢まで持っていかずとも、”負けるかもしれない”
そう思わせるところまで持っていければ偽りの連携は一気に崩れる。そこまでが勝負だ。

100 :
>「気をつけろ…こいつら強化されてるぞ…!」

「安心しい、こっちも強化すればいいまでや!」

敵を強制的に踊らせたり歌わせたりする強烈呪歌もあるが、ペイルの強力な補助魔法がかかっている今は効かないだろう。
となればやることは必然的に味方の強化となる。
程なくしてハープの演奏と流麗な旋律の歌声が響き始める。
《ヒーリング》――少しずつ味方の傷を回復させる癒しの呪歌。
歌が聞こえる範囲の者を対象に指定できるため、効果は味方全員に及ぶ。
そこから自然な流れで軽快な律動の曲へ移り変わる。《リズム》――足取りを軽やかにし、回避力を上昇させる呪歌だ。
やがてまたいつの間にか軽快なリズムは勇猛な響きに代わる。《モラル》――味方を鼓舞し攻撃力を上げる呪歌。
異なる呪歌同士を自然に繋ぐメドレーという技法を使っているのだ。
通常、呪歌の効果が続くのはそれを歌っている間のみだが、高位の呪歌士ともなるとやめてもしばらく効果が持続する。
よって、通常の補助魔法と同じように次々と重ねがけしていく事が可能となる。

強化された者同士の戦いとなり、戦況は拮抗。長期戦の様相を呈し始めた。
完全に拮抗ならまだいいのだが、微妙に押されているような気がしなくもない。
長く戦っていれば当然疲弊してくるものだが、相手方には全くそれが見られないのだ。

「バケモノちゃうの? 疲れ知らずや……ひぃええええええっと!?」

間奏中に思わずぼやいているところに敵の魔術師によって撃ち込まれた魔力球を間一髪で飛びのいて避ける。
気を取り直して再び歌いはじめる。
優しくそれでいて力強い響きの《レジスタンス》、気を確かに持たせ精神や生体の抵抗力を高める呪歌。魔法に対する抵抗力を上げるのに主に使われる。

「アンタもなかなかやるようだけど無駄よ!
わたしが強化した者はね、疲れも感じずただ敵を殲滅するための殺戮兵器と化す!
わたしの命令を果たすまでは止まることは無いわ!味方を長く苦しませたくないなら無駄なことはやめなさい!」

ペイルが勝ち誇ったように言い放つ。その言葉は、ピュエラがペイルの補助魔法の正体を察するには充分だった。
それはもはや補助魔法と言っていいものではなく、呪いに属するもの。
生命や精神を活性化させ魂を勇気づけるピュエラの歌とは正反対のものだ。

「おたくがかけてはる魔法は命を前借りする呪いやろ……そんなんしょっちゅうやりよったらそいつらすぐ死ぬで!」

「それがどうかした? 死んだら新しいのを探せばいいじゃなーい」

ペイルと会話するのは不毛と悟ったピュエラは、今度は配下の5人に語りかける。
最初から抵抗する気が無いわけではなく、強制的にかけられる強力な呪いに抵抗するに出来ず自暴自棄になっているとしたら……

「おたくらもほんまは分かっとるんやろ?そいつの下にいても捨て駒にされるだけや。
こんなチャンス滅多にないで! 背中押したるから呪いを打ち破ってみい!!」

間奏が終わって再び歌いはじめる。
先程までと同じレジスタンスを同じように歌っているように見えるが……決定的に違うことが一つある。
あろうことかレジスタンスの効果を配下5人にまで拡大したのだ。
端から見ると分からないが、かけられた本人たちは呪いを撃ち破るだけの精神力が与えられたのがはっきりと感じられるだろう。
あとは本人たちにそうする意思があるかどうかだ。


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