TOP カテ一覧 スレ一覧 100〜終まで 2ch元 削除依頼
【評価】創作物の批評依頼所【批判】
自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた 第80章
多ジャンルバトルロワイアル Part.17
【リレー小説】すぐに死ぬ殺人鬼スネ夫 PART834
VOCALOID関連キャラ総合スレ7【なんでもアリ】
TRPG系実験室 2
【モチベーション】創作意欲の上げ方【テンション】
○●○合作しようぜin創発板○●○ Part2
ロスト・スペラー 11
歌の歌詞をイメージして小説にしてみた。。。よ?
【伝奇】東京ブリーチャーズ【TRPG】
- 1 :2016/11/25 〜 最終レス :2017/10/18
- 201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。
――だが、妖怪は死滅していなかった!
都内、歌舞伎町。
不夜城を彩る煌びやかなネオンの光さえ当たらない、雑居ビルの僅かな隙間で、一組の男女がもつれ合っている。
若い女が仰向けに横たわる男に馬乗りになり、激しく息を喘がせている。
……しかし、それは人目を憚って繰り広げられる逢瀬などではない。
『喰って』いる。
女は耳まで裂けた口を大きく開くと、ノコギリのようなギザギザの歯で男の腹に噛み付き、はらわたを抉り出す。
まだ体温の残る肉を引き裂き、両手で臓腑を掴んでは貪り喰らう。
すでに絶息している男の身体が、グチャグチャという女の咀嚼に反応するかのように時折ビクンと痙攣する。
この世のものならぬ、酸鼻を極める食事の光景。
女は、人間ではなかった。
柔らかな臓物を、滴る血を存分に味わい、喉元をどす黒く染めた女が大きく仰け反って恍惚に目を細める。
だが、まだ喰い足りない。女は男の頭を両手で掴むと、頭蓋に収納された脳髄を味わおうと更に口を開いた。
――しかし。
ジャリ……という靴裏のこすれる音に、女は咄嗟に振り返った。
雑居ビルの間の細い路地裏、その出口に、数人の人影が立っている。
性別も年代もバラバラに見える、正体不明の一団。
「いやァ――お食事中のところスミマセンね。ちょォーッといいですか?」
一団の中央に佇む、古風な学生服にマントを羽織った――大正時代の学徒か何かのような姿の人影が、口を開く。
が、顔は見えない。その面貌は白い狐面に覆われており、中世的な声も相俟って少年か少女なのかも判然としない。
女は低く身構えた。食事を目撃した者は、すべて消さねばならない。
唇の端から鋭い牙が覗き、両手の爪が音を立てて伸びてゆく。その姿は明らかに人外の化生である。
だというのに、一団は一向に怖じる様子がない。依然として、女の逃げ道を塞ぐように佇立するのみ。
「こんな東京のド真ん中で、そうやって好き勝手絶頂に食べ物を喰い散らかされちゃ困るんですよねえ。美観を損ねる」
「2020年の東京オリンピック。ご存知ですか?それまでに、ボクたちはこの東京をすっかり綺麗にしなくちゃいけないんです」
「インフラ整備に、施設の建設。世界中から人々を迎えるために、この東京はやらなくちゃいけないことがゴマンとある」
「まぁ……その辺は人間のお偉いさんにやって頂くとして。人間じゃできないことは、ボクらの出番ってワケです」
「アナタたちのような《妖壊》を残らず葬り去る――ま、いわゆる害虫駆除ってヤツですか」
女が聞くと聞かざるとに拘らず、ぺらぺらと饒舌に狐面が喋る。
その全身から、蒼白い妖気が立ち昇る。他の者たちの姿が歪み、人ならぬ何かへと変貌してゆく――。
甲高い咆哮をあげ、女が一気に跳躍し襲い掛かってくる。
「東京オリンピック開催までの間に《妖壊》を殲滅し、この帝都東京をすっかり『漂白』する……」
狐面の背後にいる者たちが、女を迎え撃つ。
「そう。ボクらは――」
炎が、雷撃がビルとビルの隙間の袋小路で迸り、女の姿をした化生を一瞬で葬り去る。
狐面は白手袋を嵌めた右手を伸ばすと、消し炭となって爆散した女の残骸をひとつ抓んだ。
残骸をぐっと握り潰し、そして言う。
「――東京ブリーチャーズ」
- 2 :
- ジャンル:現代伝奇ファンタジー
コンセプト:妖怪・神話・フォークロアごちゃ混ぜ質雑可TRPG
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可
○日ルール:4日程度(延長可)
版権・越境:なし
敵役参加:なし(敵はGMが担当します)
質雑投下:あり
避難所の有無:なし
名前:(※国産妖怪に限る)
外見年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
長所:
短所:
趣味:
能力:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:
- 3 :
- 名前:那須野橘音(なすの きつね)
外見年齢:17歳
性別:?
身長:165cm
体重:53kg
スリーサイズ:?
種族:妖狐(三尾)
職業:高校生/探偵
性格:慇懃無礼、飄然としており掴みどころがない
長所:洞察力、観察力、知覚力に長ける
短所:秘密主義、敵も味方もからかわずにはいられない
趣味:読書、入浴
能力:狐火、変化術
容姿の特徴・風貌:
すらりとした華奢な体型、腰までの黒い長髪
学帽、学ラン、マントの古い学徒姿に狐面をかぶっている
簡単なキャラ解説:
学業の傍ら、私立探偵として多国籍な住人のいる胡散臭い雑居ビルの半地下に事務所を構える通称『孤面探偵』。
勝手に事件を嗅ぎ付けては首を突っ込んでくるため、警察からは疎まれている。
その正体は妖狐一族の中間管理職、三尾の狐。
一族の長『御前』から2020年の東京オリンピックまでに都内の《妖壊》を根絶やしにしろとの命を受け、
『東京ブリーチャーズ』を結成。学生と探偵と御使いの三足の草鞋を履きつつ任務をこなす日々。
- 4 :
- 事務所のデスクの上で、黒電話がけたたましく鳴る。
ソファでひっくり返って仮眠をとっていた橘音は、その音に驚いて飛び起きた。
ずれていた狐面をかぶり直し、スリッパをつっかけてデスクへ向かう。
「ハイハイ、そんなにがならなくたって聞こえてますよ……っと。もしもしー?こちら那須野探偵事務所ー」
「……あぁ、御前。お疲れさまですー。御用は何ですか?」
どうやら、電話の相手は御前という者らしい。
御前。正式な名を白面金毛九尾の狐、玉藻前と言う。日本の狐一族を統べる大妖怪である。
が、橘音はそんな超大物を相手にまるで畏まる気配がない。近所のオバサンと世間話でもするように笑っている。
「ええ、わかってますよ。ちゃーんと仕事はしてますって!最近はボクら化生にとっても生き辛い世の中ですからねぇ」
「みんな、世の中の変化に応じて外見を変え、仕事を変え……人間社会に馴染まざるを得なくなっちゃって」
「ご存知ですか?化け草履は靴屋勤務。小袖の手はファッションデザイナー。泥田坊はコメ農家ですって。みんな人間に化けて」
「かくいうボクも御前の命で、こうして学生なんかやってるワケですがね……いやまあ、楽しいからいいですけど」
「どうです?御前も人間社会に溶け込んでみては?昔は宮中に潜り込んだりして、ブイブイ言わせてたんでしょ?」
「もう飽きた?……はぁ、そうですか……。面白いのに」
ひとしきり近況報告や噂話をしていると、電話の向こうの御前が話柄を変えてくる。
「それで……あぁ、今度の仕事ですか。ええ、わかりました。まぁ、チャッチャと片付けますよ」
「人間社会に溶け込むことをよしとせず、化生の本能のままに生きるモノ――」
「環境破壊や自然破壊により住処を追われたモノ。長い時を経て理性が蒸発してしまったモノ。心が壊れてしまったモノ」
「壊れた妖怪、それが《妖壊》――。それを東京から一匹残らず駆逐するのが、ボクら『東京ブリーチャーズ』の役目ですから」
「そううまく行くかな、ですって?失礼しちゃうなぁ、御前。これでもボクらはその道のプロですよ?お茶の子さいさいですって!」
「まず資料を見ろ?……わかりました。じゃあFAXしておいてください、キツネだけに……FOX、なんちゃって」
「……あ、今、スゴく呆れた顔しましたよね?電話越しでも分かりましたからね。今」
御前との通話を切ると、程なくして事務所の片隅に置いてある複合機へ資料が送られてくる。
今回『漂白』すべき化生の資料だ。それを手に取りしげしげと眺めると、橘音は思わず苦笑し、
「……ははぁ。なるほど、こりゃ手強い」
と、言った。
となれば、さっそく援軍を呼ぶ必要がある。橘音は再度黒電話の受話器を取り上げた。
東京を漂白するにあたって、橘音が適任と判断しスカウトした《妖壊》退治のプロフェッショナル。
それが『東京ブリーチャーズ』である。
橘音は他のメンバーにターゲットを伝え、作戦を考えるブレーンであり、実際の荒事は他のメンバーが行う。
資料をデスクに起き、電話の傍らのアドレス帳を見て、メンバーへと順番に電話をかけてゆく。
電話に出た者にターゲットの名前を伝え、仕事を請け負うか否かを訊く。
果たして、今回の仕事に喰いついてくるメンバーは誰だろう?
デスクに無造作に置かれた、御前からの資料。
その一番上には、こう書かれていた。
『八尺様』――と。
- 5 :
- 敵役として参加します。よろしくお願いします。
名前:八尺夏(やさし なつ)
外見年齢:??歳
性別:女
身長:246cm
体重:125kg
スリーサイズ:150/96/144
種族:妖怪
職業:八尺様
性格:寂しがりで淫乱である
長所:でかい、目立たない、声が綺麗
短所:ポポポという謎の音が出てしまう、性欲強い
趣味:こっくりさん、男漁り、男攫い
能力:催淫術、格闘能力
容姿の特徴・風貌:ステルスではないかという程目立たない、縁のついた帽子を被っている、
白いワンピース姿、とにかく色々でかい、腰までの黒い長髪、稀に「ぽぽぽ」という音、声(?)を出す
目は普段は細く美人を髣髴とさせるが、獲物を見つけると大きく見開く
簡単なキャラ解説:
ある村に封印されていた、正体不明の女の姿をした妖怪「八尺様」の一人。
気に入った男に付き纏い、魅入った男を数日のうちに淫乱の宴に誘い、精を吸収し廃人にしてしまう。
成人前の若い男性、特に少年が狙われやすいとされ、相手を誘い出すために身内の声を出すこともある。
「八尺様」の出現頻度はそれほど多くはなく、田舎に多い事例だが、夏の場合は
都市部にも現れ、現在被害者を多数出しているという。
- 6 :
- 節子、このスレは敵役参加無しやで!
- 7 :
- >>5
おう
味方として出てくれや
- 8 :
- 名前:髪さま
外見年齢:?
性別:?
身長:30cm
体重:100g
スリーサイズ:?
種族:麻桶の毛
職業:居候
性格:横柄
長所:ごくたまに含蓄のあることを言う(が、大して役には立たない)
短所:いかにもすごい力を持っていそうではあるが、その実役に立たない
趣味:シャンプー
能力:他人をハゲにする力があるとかないとか
容姿の特徴・風貌:茶色い毛の塊に一つの目玉
簡単なキャラ解説:
麻桶の毛(まゆのけ、まゆげ)と言われる人間の頭髪の化生。絡み合った毛髪の中に単眼が輝いている。
那須野探偵事務所で生活しているが、東京ブリーチャーズの一員ではなくあくまで居候。
おまけコーナーで橘音の相方を務める。
- 9 :
- 橘音「はいっ!始まりました『那須野橘音のミッドナイト・ブリーチャー』!パーソナリティはボク、那須野橘音と!」
髪さま「毛髪界のアイドル、髪さまがお送りするゾナ」
橘音「……毛髪界って何ですか……?」
髪さま「一から説明すると512KBオーバーすること間違いなしゾナが、説明するゾナ?」
橘音「いりません。さ、記念すべき第一回放送、行ってみましょう!」
>>5
橘音「一発目に参加名乗りを上げてくださったのは……う、うぇぇ!?八尺様!?」
髪さま「よもや仲間より先に敵が乗り込んでくるとは、お釈迦さまでもわからん事態ゾナ……まさに機先を制されたゾナ」
橘音「い、いえ、この程度の事態、全然大したことありませんよ。全然リカバー可能ですよ、慌ててませんよ、えぇ」
髪さま(……めっちゃ動揺してるゾナ……)
橘音「一応>>2にも書きましたし、>>6さんも指摘して下さっていますが、このスレは敵役参加はナシなんですよぉ……」
髪さま「どうしてナシなんだゾナ?」
橘音「いやまぁ、一応GMとして大まかなシナリオも用意してましたし、敵はみんなで倒せたらなぁ、な〜んて……」
髪さま「おまえの都合など知らんゾナ。せっかく参加してくれるというのに、門前払いするなど失礼ゾナ」
橘音「で……ですよねぇ〜……。ま、まぁ、そういうことなら参加OKとしましょう!……ただし……」
髪さま「ただし?ゾナ?」
橘音「>>7さんの仰る通り、ゆくゆく味方になって頂けるのなら!ということではどうです?それなら、そのように誘導しますし」
髪さま「>>5、そういうことではどうゾナ?ここはワシに免じてOKしてほしいところゾナ」
橘音「とりあえず、29日辺りまでブリーチャーズのメンバーを募集して、その後こちらから話を投稿する予定です」
髪さま「>>5はその間、自分のイントロダクションなど自由に書いてくれればいいゾナ」
橘音「袖振り合うも多生の縁、ということでひとつ!よろしくお願いします!」
>>6
橘音「ご指摘ありがとうございます!こういうことは他の方々に言って頂いた方が、角が立たなくていいんですよね」
髪さま「こっちが言うとどうしても、なんかキツい感じに受け取られてしまうものゾナ」
橘音「名無しの皆さんの介入も歓迎しますよ。その場合は、こうしておまけコーナーで返答させて頂く形になると思います」
髪さま「ワシなんかこのおまけコーナーしか出番がないゾナゆえ、おまけコーナーを増やすことが至上命題ゾナ」
橘音「いや、これはあくまでもおまけコーナーで、本編より増えるようじゃ困るんですが……」
髪さま「いずれはおまけコーナーが本編を凌駕し!ワシが主役となってスレを乗っ取るゾナ!モシャシャシャ!(註:笑い声)」
橘音「八尺様の前に髪さま漂白した方がいいんじゃないだろうか……」
>>7
橘音「今のうち宣言しておきますが、ボクは荒事がからっきしできません」
髪さま「ふんぞり返って言うことではないゾナ」
橘音「適材適所と言ってほしいですね。荒っぽいことは他のメンバーの仕事!ボクは仕事の受注と手配その他の雑用係ですから」
髪さま「ちょっと待つゾナ、ということは?もし、ブリーチャーズが誰も来なかったらどうなるゾナ?」
橘音「あ、160パーセント八尺様に負けます」
髪さま「即ゲームオーバーとか洒落にもならんゾナっ!?」
橘音「だから仲間を募集してるんでしょうが!もう昨日からずっと電話かけっぱなしですからね、ボク!」
髪さま「友達少ないゾナから、仕方ないゾナね。陰キャはこれだから……ゾナ」
橘音「いやいやいや!風評被害ですよそれーっ!?」
髪さま「ということで、我と思う妖怪諸氏には是非ふるって参加してほしいと思うゾナ」
橘音「29日あたりまで待つと言いましたが、それ以降も随時参加者募集中ですから!では、今夜はこれでっ!」
髪さま「参加希望者には漏れなくワシのシャンプーをする権利を与えるゾナ」
橘音「洗濯機に放り込まれたくなかったら黙っててください」
- 10 :
- 妖怪とか探偵とか現代とか東京だとか
ときめく単語が散りばめられた良さげなスレだなと思いました
- 11 :
- うわっ、何だあんた狐のお面なんかつけて!漫画のキャラかよ!
個性的な探偵もいたものだなぁ
しかしその出で立ち、なんか見覚えがあるような気が…
- 12 :
- 名前:御幸 乃恵瑠(みゆき のえる)
外見年齢: 20代前半ぐらい
性別: 男性型雪女
身長: 172
体重: 54ぐらい
スリーサイズ: 細身
種族: 雪女(雪男に非ず)
職業: かき氷屋らしいが冬は実質無職
性格: 天然 勘違いクール なんだかんだでお人よし
長所: 夏に近くにいると涼しい
短所: 冬に近くにいると寒い
趣味: アイスを食べること
能力: 雪・氷の生成、冷気を操る
容姿の特徴・風貌: 色白の肌、普段は黒目にセミショートの黒髪
白基調の和パンク調の服に青いストール
簡単なキャラ解説:何故か男性形の雪女。雪男と言われると怒る。
オスの三毛猫のようなものか男装女子のようなものかは謎。まあ妖怪だし。
真の姿を現しても普段とあまり変化はないが、普段から白い肌が更に白くなり瞳が氷のようなブルー、髪は雪のような銀髪になる。
妖怪退治は定番ネタだけど味方側も退治する側も全員妖怪って新しいな〜と思いつつ
おまけコーナーの遊び心が決め手でうっかり参上
>「ちょっと待つゾナ、ということは?もし、ブリーチャーズが誰も来なかったらどうなるゾナ?」
>「あ、160パーセント八尺様に負けます」
「無茶しやがって……。べっ、べつにお前のために参加…登録してあるんじゃないんだからな!」
>他人をハゲにする力があるとかないとか
「……さらっと書いてあるけどその能力滅茶苦茶怖くね!?」
- 13 :
- >>12
お前荒らしかよォ…
- 14 :
- >>13
荒らしちゃうわ!……って八尺様、八尺様じゃないかァーッ!
きつねさんも誘ってくれたことだし一緒にやりましょ!
- 15 :
- 橘音「皆さんこんにちは!『那須野橘音のサンデー・ブリーチャー』!パーソナリティはボク、那須野橘音と!」
髪さま「髪は長い友達、髪さまがお送りするゾナ」
橘音「すでに本編よりおまけコーナーの方が目立ってるっていうね……う〜ん」
髪さま「……おま……毛?」
橘音「ホントそういうノリやめてください」
>>10
橘音「ですよね〜?ときめきますよね〜?とりあえず、ボクがときめくワードを沢山ちりばめてみたんですけど」
髪さま「共感してもらえて有難いゾナ。スレ立てしたはいいけど誰も来なかったらと、戦々恐々だったゾナ」
橘音「これは気合を入れなくちゃいけませんね、髪さま!」
髪さま「ワシはおまけにしか出ないから、気合とか入れる必要ないゾナ。がんばれゾナ〜(ぐてー)」
橘音「(性根が)腐ってやがる……早すぎたんだ……!」
髪さま「髪さまを本編に出してください!の嘆願書をみんなで送ろう!ゾナ」
橘音「送られてきたって出しませんよ」
>>11
橘音「ふっふっふ……!そうでしょう?ビックリするでしょう?大!成!功!」
橘音「何を隠そう、このボクこそが!帝都東京にその人ありと謳われた狐面探偵!那須野橘音その人なのですっ!」
髪さま「誰も知らんゾナ」
橘音「……えっ?ご存じない?このボクを?おっかしーなァ……いわゆる迷宮入り事件とか、結構解決してるんですけど」
髪さま「警察が自分のアホさをわざわざ外部に触れ回るようなことをするはずがないゾナ」
橘音「そうですかぁ……確かに最近は《妖壊》関係の仕事にかかりっきりですし、名前が売れないのは仕方ないのかも」
髪さま「売れたところでTwitterやらFacebookに「コスプレ探偵見かけたwww」とか写真上げられるのが落ちゾナ」
橘音「コ、コスプレ!?がーんっ!……やっぱり、見覚えがあるっていうのもそういう関係なんでしょうか……」
髪さま「まぁ、むしろワシが率先して画像アップしてるんゾナが」
橘音「洗濯機一名様ごあんなーい!」
>>12>>14 ノエルさん
橘音「このままじゃ280パーセント敗北必至のボクに援軍がっ!?やったー!」
髪さま「ゴボボ……約束どおりワシの髪をシャ……ゴボゴボ……シャンプーする権利を与えるゾゾゾナナナナ……」
橘音「洗濯されながら喋るのやめてもらえますか?」
髪さま「ゼエゼエ……と、ともかくブリーチャーズが来てくれたのはめでたいゾナ、コンゴトモヨロシク……ゾナ」
橘音「これで痛いこととか疲れることは全部ノエルさんにおっかぶせて、ボクは高見の見物ですね!」
髪さま「ぶん殴られたいゾナ?」
橘音「い、いやまぁ、それは妖狐流ジョークとして、ともかく歓迎しますよ!仲間が増えるのは嬉しいことです!」
髪さま「八尺様が仲間になると仮定して、あともう一人くらい欲しいところゾナ」
橘音「そうですね!まだ募集中ということで!」
髪さま「こちらは29日に話を投下する予定なので、それまでにイントロダクション等あれば投下を頼むゾナ」
橘音「追加設定やボクとの関係等々、自由に考えて頂いて構いませんので!やったもん勝ちです!」
髪さま「今回の仕事内容、ターゲットの八尺様を漂白するということは伝達済みということでゾナ」
橘音「よろしくお願いしまーす!」
髪さま「ワシの意に沿わない場合は漏れなく髪の毛をハゲ散らかしてやるゆえ、肝に銘じておくゾナ……モジャジャジャ!」
橘音「ワンモア洗濯機入りまーす!」
>>13 八尺様
橘音「めっちゃ負のオーラ的なものを放っていらっしゃるーっ!?」
髪さま「う……うろたえるんじゃあないッ!日本妖怪はうろたえないッ!ゾナ!」
橘音「ま……まあまあ、八尺様!ここはひとつ穏便に……。負のオーラは本編で思う存分発揮して頂く感じで!」
髪さま「雪男女が自分の好みのタイプ(成人前の若い男性、少年)じゃないから怒っているに違いないゾナ」
橘音「それってつまりボクが(貞操的な意味で)ヤバイってことですか?」
髪さま「このままだと薄い本みたいな展開不可避ゾナね」
橘音「い、いえ、このスレ一応全年齢対象ですから、そういうのはちょっと……せめて婉曲的表現で……」
髪さま「今年の冬コミはこれで決まりゾナ、捗るゾナ」
橘音「何がですか……。あ、そうそう、ちなみにこのコーナーはあくまで打ち合わせや雑談用の場所ですので――」
髪さま「ここでの会話や情報は、基本的に本編には反映されないということでお願いするゾナ」
橘音「では今回はこの辺で!ごきげんよう!」
- 16 :
- 「Snow White」――雑居ビルの通りに面した1階にその店はあった。
雑居ビルの中にあってこの店名では一見怪しい店に見えてしまうが、なんのことはない、喫茶店風のかき氷屋である。
かき氷しか出さないにも関わらず、粉雪のような氷のクオリティが半端ないということで知る人ぞ知る隠れた人気店だ。
製法は門外不出……というか出すに出せない。
ちなみに売上の何割かは北極のシロクマさんのために地球環境保護団体に寄付されるそうな……。
「ねぇねぇ、八尺様って知ってる〜? 最近噂になってるんだよね〜」
「そうそう、うちのクラスの男子がもう1週間来てなくってさ〜」
「まっさかー、ズル休みでしょー。あんなの作り話に決まってるじゃ〜ん、ねえ店主さん?」
「そうだよ、お化けや妖怪なんてこの世に存在しないんだよあんなのは全部ネットのデマさハハハ」
客の世間話に引きつった笑顔で答える店主の青年の正体は、日本古来の妖怪、雪女である。
雪女、というだけあって基本的に女性だけの種族であるが、オスの三毛猫程度の割合でごくたまに男性型も存在する。
女の集団の中に男がいるとパシリにされるのがありがちな展開であり、雪女の業界もその例に漏れなかった。
彼もまた近年の急速な地球温暖化を憂いた“雪の女王”と呼ばれる一族の王の命により、諜報員として派遣されたうちの一人だった。
するとたまたま同じビルにきつねの探偵事務所が入っており、いつの間にか東京漂白計画に巻き込まれていた。
本当にたまたまなのだろうか、という疑問はとりあえず置いておく。
今回のターゲットは「八尺様」。きつねをして手強いと言わしめるほどの妖壊であるが、
君はストライクゾーン外れてるから大丈夫とか何とか言いくるめられて参加と相成った。
しかしターゲットの性質上おびき出すには囮が必要になりそうだが、メンバーに丁度いい感じの少年型妖怪はいただろうか。
「……はっ、まさかきつねが……!?」
人間(妖怪)心理として、仮面で隠されると物凄い美少年か美少女ではないかと勝手な想像を巡らせるもので、囮としては適任かもしれない。
しかし彼(女)は戦闘能力皆無だ。雌狐だったらまだしも雄狐だったらそこからいけない事態にハッテンしかねない。
そこで客の小学生男子を見て名(迷)案を思いついた。
「そうだ、ランドセルを背負えば誰でも少年に変身できるぞ!」
そう、ランドセルとは背負うだけで誰しも小学生になれてしまう究極の記号的表現なのである。
「ちょっと借りるね」と言ってランドセルを背負って鏡を見た。クールな顔をした変態がそこにいた。
- 17 :
- 探偵さんこの辺りじゃ名の通った人だったのか
帝都の有名人と言えば、あいつかな…怪人65535面相とかって
名前からしてユニークな犯罪者かね
最近名を聞いてないが、あんた何か知ってるかい
- 18 :
- >>17
そりゃあ、八尺様じゃないかい?
- 19 :
- 名前:多甫 祈(たぼ いのり)
外見年齢:14(実年齢も14)
性別:女
身長:152cm
体重:45kg
スリーサイズ:不明
種族:ターボババア(ターボばあさんなど表記ゆれあり)
職業:中学生
性格:ワルに成りきれない不良、単純
長所:速い、強い、頑丈、意外に優しい
短所:思慮に欠ける、口が悪い、ガサツ
趣味:テレビ(特撮系、バラエティ)、食事
能力:時速140キロ程度まで瞬時に加速し走れる。また、それに耐えうる頑強な肉体となる等
容姿の特徴・風貌:目つきが悪く、細身。ぼさついた長い黒髪。黒のセーラー服、
あるいは私服のショートパンツにパーカー。素足に運動靴、時にサンダル
簡単なキャラ解説:
都市伝説妖怪ターボババア、の孫。妖怪だが人間の血も混じっており、普段は人間として生活している。
両親とは幼い頃に死別し、元祖ターボババアと質素な二人暮らしを送る。苦しい家計を助ける為、バイトとして東京ブリーチャーズに所属。
両親がいない故の寂しさから多少ひねくれていたり、ガサツで口が悪いなどの嫌いはあるが、
年下や弱いものに対しては優しい一面や、正義を愛する心を持っており、素直でないだけで心根までは腐っていない少女。
都市伝説妖怪なので古参妖怪ほどの恐るべき能力はないが、頑強な肉体と持ち前のスピードを活かし《妖壊》と対峙する。
学校での成績は中の下。語彙は少ない。
- 20 :
- 橘音「皆さんこんにちは!『那須野橘音のナイト・ブリーチャー』!パーソナリティはボク、那須野橘音と!」
髪さま「トリートメントはしているか?髪さまがお送りするゾナ」
>>17
橘音「な、なななんと!ここでまさか怪人65535面相、またの名をカンスト仮面の名前を聞くなんて……っ!」
髪さま「……誰ゾナ?」
橘音「いやまぁ、ボクにも色々ありまして。>>17さん、アナタさては古参クライアントですね?」
髪さま「古参も何も、前の事務所は1000はおろか200も行く前に消滅したゾナ」
橘音「知ってるなら『誰ゾナ?』とか訊かないでくださいよ……あと、消滅したのは不可抗力でしょ?」
髪さま「いくら妖怪でもあれには手も足も出ないゾナ」
橘音「ま、まぁ、とにかく!ボクのことをご存知の方がいらっしゃるというのは嬉しいことです、これからもご贔屓に!」
髪さま「カンスト仮面もそのうちチャッカリ出てくるかもしれんゾナ」
橘音「お……お楽しみに……?」
>>18
橘音「いや〜、さすがになんでもかんでも八尺様の仕業にしちゃうのは……」
髪さま「郵便ポストが赤いのも、お父さんの給料が安いのも、ワシがイケメンなのも全部八尺様が悪いゾナ」
橘音「全部関係ありません。特に最後」
髪さま「とりあえず、八尺様は敵として暴れてもらって構わないゾナ」
橘音「順番としては、ノエルさんが投下して下さいましたから、次に祈ちゃんのイントロダクションが欲しい所ですね」
橘音「で、祈ちゃんの後でボクが投下して、いよいよ八尺様のお出まし!といければ理想かなと」
髪さま「よろしく頼むゾナ」
>>19 祈ちゃん
橘音「いらっしゃーいっ!ようこそ東京ブリーチャーズへ!歓迎します!」
髪さま「女の子は大歓迎ゾナ、ワシの髪を思う存分シャンプーしていいゾナ、有難がるゾナゾナ」
橘音「はい丸洗い入りまーすっ!」
髪さま「ゴボゴボ……」
橘音「ということで早速祈ちゃんも導入をよろしくお願いしますね。ノエルさんのとき同様、関係等々捏造上等です」
橘音「チャッチャと合流するために、最初の舞台はノエルさんのお店「Snow White」ということにしておきましょうか」
橘音「ではでは、よろしくお願い致します!」
髪さま「両親のいない寂しさは、ワシが紛らわしてやるゾナ!さあ、ワシの胸に飛び込んでくるゾナ!」
橘音「胸どころか身体がないでしょ、髪さま……」
髪さま「いざとなったら髪で胴体を構成するゾナ」
橘音「そんな無駄なことに妖力使うのやめてください。ではまた次回っ!」
- 21 :
- ――とぅるるるる。
多甫家の玄関で電話が鳴る。
アパートであり、音が隣に響くのを気にしているのか、着信音はやや小さめに設定されていた。
コールが2回ほどを過ぎた所で受話器を手に取ったのは、目つきの悪い、パーカーにショートパンツの少女だった。
その少女の名前は多甫祈といった。
「はい、多甫です……って、橘音か」
最初は固く返答したものの、知った相手と知るや祈は口調を崩した。
橘音とは、祈のバイト先である探偵事務所の所長を務める人物、那須野橘音のことであり、
世間での通称は『狐面探偵』と言った。
その那須野橘音は祈に仕事があると言い、祈が先を促すと、ターゲットの名を告げた。
――『八尺様』。
「あ? 八尺様?」
思い当たることがあったようで、祈は口元を抑えて一瞬考え込み、問うた。
「……なんだっけそいつ。笛? あ、いやなんかでっけー貞○みてーなやつだっけ? あたしと同じ都市伝説系の……」
電話越しの相手からは呆れたような、からかうような響きを持った答えが返ってきたようだった。
祈の耳が赤くなる。
「……う、う”っせーなァ! バカ! あたしは強ェし敵の情報とか知らなくていいから敢えてだよ! 敢えて!!」
そしてめちゃくちゃに怒鳴ると、それをなだめるような声が電話越しに聞こえたようだった。
「……いいけどな、別に。今回もそいつ見つけてただ蹴りとばしゃいいんだろ? ……は? 違う?」
祈の表情が怪訝そうなものに変わる。
祈はばりばりの肉弾戦闘タイプの妖怪であり、その尋常ならざるスピードを活かして戦ったり、
逃走する敵を追ったりしてきたのだが、今回はそうでないという。
自分が戦闘面以外で役に立つ、という姿が想像できず、困惑しているのだった。
あたし勉強あんまりできないしな、なんか調べものとか難しい事頼まれたらどうしよう、などと考えて曇っていた祈の表情は、
電話の相手の言葉を聞き、その意味を理解することで晴れていく。
「あー、はいはい。囮な! あたしは細いし小さいから学生帽被ってランドセル背負ったら完璧小学生男子ってことな!?
そんでそれが八尺様の大好物、って――ふざけてんのかてめぇ! 誰が小学生男子のそっくりさんだってんだコラ!?」
そして晴れを通り越して、雷が落ちる。
受話器を握りつぶさんばかりに怒る祈の様子が電話越しでも面白いのか、
電話越しには笑い声が響いたようだった。そして何事か聞こえたかと思うと、逃げるように電話はぷつりと切れた。
「……詳しい話は「Snow White」で、とか、やってくれないと御幸が小学生になってしまうかも、とか。
意味わかんねーことテキトー言って逃げやがって。ま、行くけどな」
祈はぶつくさ呟き、受話器を置くと、戸締りやガス、室内の電球の消灯等を一通り確認した後、
玄関に戻ってきて運動靴を履いた。そして玄関の扉を開けて外へ出ると一度振り返り、
「じゃ、行ってきます」
と一人呟く。扉を閉め、鍵を掛けて、歩き出す。向かうは「Snow White」。
祈が所属する東京ブリーチャーズのメンバー、御幸乃恵瑠が経営するかき氷屋であった。
そこで詳しい話は語られるとのことだが、果たして小学生男子になりきれるメンバーが他にもいて、祈や御幸は囮の役目を免れるのか?
それとも本当に祈や御幸は小学生を演じることになってしまうのか。はたまたこの作戦自体がボツになってしまうのだろうか?
それがわかるのはまだ先の話である。
- 22 :
- 八尺様はここ数年の間に突然メジャーになった妖怪である。
元々は東京とは縁もゆかりもない僻村に祀られていた祟り神だったが、ネットの普及と共に知名度を上げた。
本来は一部地域でのみひっそりと語り継がれていた存在が、インターネットにより爆発的に有名になる――
ここ十年程度の間に、妖怪の中ではそうして力を増す妖怪たちが大勢出現した。
八尺様だけではない。クネクネ。コトリバコ。姦姦蛇螺。その他枚挙にいとまがない。
フォークロアブームに起因する、いわゆる都市伝説系妖怪の台頭である。
とはいえ、それ自体は別に珍しいことではない。都市伝説ブームはある一定の周期で必ず訪れる。
古くは怪人赤マント、人面犬、口裂け女。
特に、口裂け女は当時の警察当局が口裂け女に注意と勧告したほど社会現象を巻き起こした妖怪である。
インターネットのない時代、人々の噂だけでもそれほどの騒動となったのだ。
ネット社会の現在、広まる噂のスピードと範囲たるや、もはや全世界規模と言っても差し支えあるまい。
すっかり人間に主導権を握られてしまった妖怪達にとって、知名度が増すこと自体は歓迎すべきことである。
だが、そんな『急速にメジャーになった妖怪』は、大抵の場合ひとつの問題を抱える。
それは『ご近所付き合いができない』ということだ。
妖怪と言っても、なんでも好き勝手にやってよいということではない。
妖怪には妖怪のコミュニティがあり、妖怪なりの社会性をもって生きてゆかねばならないのだ。
まして、今は人間の世。かつてのように妖怪と人間が互いのテリトリーを尊重していた時代ではない。
妖怪が生きていくためには、人間社会の影でルールを遵守し、身を寄せ合っていくしかない。
しかし、最近まで隔絶された地域(大抵の場合ド田舎)で存在してきた都市伝説系妖怪にはそれが理解できない。
よって、メジャーになって行動範囲が拡大した後でも、旧来同様自分のやりたいことだけをしようとする。
東京以外ならまだしも、それを都内でされた日には、予想される被害たるや相当なものになるだろう。
従って、そういった『都会のマナーを守れない妖怪』には、マナーを教え込む必要がある。
もしくは都内から退去して頂く。または滅びて頂く。
>……なんだっけそいつ。笛? あ、いやなんかでっけー貞○みてーなやつだっけ? あたしと同じ都市伝説系の……
黒電話でブリーチャーズのメンバーに連絡する。幸い、目星をつけた少女は自宅にいた。
ぶっきらぼうながらも可愛い声が聞こえてくる。今回の仕事内容を伝えるも、少女――祈はピンときていないようだった。
おやおや、と肩を竦める。
「ご存じないんですか?勉強不足ですねぇ。学校の勉強だけじゃなく、妖怪の勉強もお粗末じゃ先が思いやられますよ?」
>……う、う”っせーなァ! バカ! あたしは強ェし敵の情報とか知らなくていいから敢えてだよ! 敢えて!!
「アハハ、そうですか。確かに祈ちゃんは強いですからね、事前情報なんて不要でしたか。いや、それは失敬!」
受話器越しにも感じられる怒気を笑って受け流す。こんな遣り取りはいつものことだ。
素直でからかい甲斐があるので、ついついちょっかいを出してしまう。
ひとしきり祈をからかい尽くすと、橘音は『Snow White』へ来るように――と締めくくって通話を切った。
今回はこの三人で当たることになるだろう。他のメンバー二、三人にも声をかけたが、反応は薄かった。
東京ブリーチャーズは強制ではない。メンバーのうち、そのとき手の空いている人員が漂白を担当する。
「――さて、と」
橘音は面をかぶり直し、長い髪とマントを翻して踵を返すと、事務所を出た。
- 23 :
- 薄暗い半地下にある事務所を出、やや傾斜の急な階段をのぼって、一階へ行く。
カララン、というドアベルの軽快な音を聞きながら、かき氷店『Snow White』へ入ると、洒落た店内と喧騒とが橘音を迎えた。
客の数は多い。そして、そのほとんどは若い女性のように見える。
いかにも女性の好みそうな、シャレオツな店だ。自己主張しすぎないインテリアや店内BGMが落ち着いた空間を演出している。
店の雰囲気だけでなく、肝心のかき氷の味の方も申し分ない。飲食店評価サイトでも星四つの評価を叩き出しているという。
原宿やら表参道やらに出店すればさだめし評判となるだろう――と、橘音はいつも思う。
が、それは不可能であろうということも理解している。
なぜなら――
「ノエルさん……。人様の嗜好に口出しはしませんが、そういう趣味はせめてバックヤードでやった方がいいと思いますよ?」
姿見の前でランドセルを背負っている店長の青年に、同情を多分に含んだ忠告をする。
この人は小学生に回帰願望があったのだろうか?などと思うものの、そもそも妖怪はごく一部を除いて学校へ行かない。
オバケにゃ学校も、試験もなんにもない。ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲー、である。
「何やってるんですかもう。何もノエルさんを囮にしようなんて考えてませんよ、それとも囮になりたいんですか?」
「それはそれとして。さっき祈ちゃんにも召集をかけておきました、今回はこの三人でやりましょう」
「……あ、宇治金イチゴミルクひとつ。あと熱いお茶をお願いします」
カウンター席に座り、注文をする。橘音もここのかき氷のファンである。
ほどなくかき氷が運ばれてくると、さっそく柄の長いスプーンですくって一口。
なお、狐面は口許の開いた半狐面のため食事に支障をきたさない。
「んん〜……おいしいっ!やっぱり、ノエルさんの作るかき氷は絶品ですね!このなめらかな口溶け!」
「一気に食べてもアイスクリーム頭痛にならない!そしてこの練乳とイチゴと餡と抹茶のハーモニーがぁぁ……!」
狐面をかぶったマント姿の学生が女性客に混じってかき氷を食べている姿は異様だったが、本人は気にしない。
瞬く間に平らげ、冷えた身体を熱いお茶で温めながら祈の到着を待つ。
「あ、祈ちゃーん!こっち!こっちですよー!」
「祈ちゃんも何か食べるでしょう?何がいいですか?あぁ、ここはボクがおごりますよ。仕事の前金代わりってことで」
祈が店にやってくると、そう言って彼女の分を注文する。
客足が一段落し、ノエルの手が空くのを待ってから、橘音はマントの内側から10インチタブレットを取り出した。
そして、おもむろにふたりへ膝を詰めて切り出す。
「じゃ、おいしいかき氷も食べたことですし、そろそろ本題に入りましょうか」
「今回のターゲット、八尺様に関しては、正直情報が『ほとんどない』です」
「わかっていることは男性――未成年、特に小学生くらいの少年に強い執着を見せるということ」
「強力な呪詛の力を持つということ。そして、とても執念深いということくらいです。世間で流布されている話の通りですね」
「歴史のある土着系妖怪なら、使う妖術から弱点に至るまで把握しているんですが、相手は新興の都市伝説系妖怪ですから」
「つまり、今回ボクたちは『相手のことを学習しながら、臨機応変に対処しなければならない』……ということですね」
「……行き当たりばったりでGO!とも言いますが」
「え?そんなのいつものことだろって?いやぁ〜、これは手厳しい!」
早い話がノープランということだ。橘音はアハハ、と誤魔化すように笑った。
- 24 :
- 「八尺様は昔の習性の名残か、強い縄張り意識を持ちます」
「自分の縄張りを作り、回遊魚のように縄張り内を周回して、自分好みの獲物を探し、捕食する」
「現在までの、八尺様の仕業と思われる失踪事件の現場をピックアップしました。ここと、ここと、ここ――」
タブレットをカウンターの上に置き、ノエルと祈に見えるように地図を表示する。
ある一定の区域に事件現場が集中している。まるで円を描くように、彼女の『縄張り』が浮かび上がってくる。
「出没時間はだいたい夕暮れ。逢魔が時――ですね。怪異の出現にはお誂えですが、単に子供の帰宅時間ってだけでしょう」
「とすると、今度『彼女』が現れるのは、だいたいこの辺り……ということになります」
タブレット上の八尺様の縄張りの中で、まだ完全な円を構築していない箇所をトントンと指先で叩く。
「で、作戦なんですが。祈ちゃんは電話でも言った通り、囮として男子小学生の格好をしてください」
「そして、ここにある公園まで八尺様を誘導してもらいたいんです。この役目はキミ以外にはできません」
キッパリと言い放つ。――が、その声には祈をからかうようなおどけた抑揚はない。本気で言っている。
「ボクやノエルさんが変装して、それがうまく行ったとしても、ボクたちは『彼女から逃げられない』。まず確実に捕まります」
「縄張りとは、つまるところ結界。結界の中では、その主は自由に行動することができる――」
「恐らく、八尺様は縄張り内であればどこでも一瞬で移動できるはず。限定瞬間転移、というヤツですね」
妖怪の中には、一瞬で遠距離を移動する妖術を使う者がいる。
ホラー映画等に見られる、鈍足の殺人鬼を引き離したと思ったらいつのまにか先回りされている――という現象はこれである。
人間より遥かに優れた身体能力を持つとはいえ、橘音やノエルでは八尺様の追跡からは逃れられない。
八尺様の追跡を振り切り、公園まで誘導するには、祈の超脚力が必要不可欠なのだ。
とはいえ、それさえ完璧とは言えない。何せ相手は未知の祟り神である。
「祈ちゃんが八尺様を公園まで誘導したら、次はボクたちの出番……というかノエルさんの出番です」
「公園をボクの妖力で結界化しておきます。ボクの結界内では、八尺様も存分に力を発揮できないでしょう」
「あとはノエルさんの冷気で氷漬けにするなり、祈ちゃんの変身ヒーローばりの飛び蹴りで倒すなりすればいい、と」
「まぁ、ザックリした作戦で恐縮なんですが、なんせわからない部分が多すぎますんでね……そこはご容赦ください」
そこまで一気に説明すると、橘音は一息ついてお茶を口に含んだ。
――まぁ、八尺様が実力未知数ってこと以外にも、まだ不安要素はあるんですがね……。
――それは別に話さなくてもいいでしょう。ボクの取り越し苦労かもしれませんし……。
仮面越しにノエルと祈の顔を見遣り、そんなことを考える。
いずれにしても、あとは当たって砕けろ。八尺様漂白作戦の開始である。
時刻は16時。この季節は日没が早く、もう周囲は薄闇に包まれている。怪異の出現にはうってつけのシチュエーションだ。
「祈ちゃん、うまくやってくださいよ?八尺様と遭遇しても、決して戦わないこと。いいですね」
結界を張った公園の自販機前に佇み、携帯電話で祈に念を押す。
祈は八尺様出没予想ポイントで待機。八尺様に見つかりやすいよう、無防備な姿を晒す。
「ノエルさんも準備をしておいてください。きっと、ここへ来る頃には八尺様はだいぶヒートアップしていると思いますから」
「冷気で頭を冷やしてあげましょう。あとは、会話が通じるかどうか――ま、試してみるしかないですね」
自販機でホットとアイスのコーヒーをひとつずつ買い、アイスコーヒーをノエルに差し出す。
ふたりのいる公園は八尺様の縄張りにギリギリ隣接した場所にあり、面積もなかなか広い。
もし荒事になったとしても、近隣への被害は出づらい。まさに今回の作戦向きの場所である。
まずは、祈が首尾よく八尺様を連れてくること――それにつきる。
「では。――東京ブリーチャーズ、ミッションスタート」
ホットコーヒーを一口飲んで、公園の時計に目を向ける。
児童の帰宅を促す『遠き山に日は落ちて』の放送が、暮れなずむ公園に物寂しく響いた。
- 25 :
- >>24
ピックアップがヒップアタックに見えた
- 26 :
- 設定やらが俺好みで凄く参加したいのにPCが壊れている悲しみ
髪さまの力で何とかならないかな
- 27 :
- 野球帽を被り、首にはマフラー。
長い髪はざっくりまとめて野球帽の中に収め、余った髪もパーカーの内側にしまい、
それが一見して分からないようマフラーで首元を覆う。
更に下をショートパンツから男子用のハーフパンツに履き替えたことで体のラインは一層隠れることになり、
極め付けに黒いランドセルを背負えば、立派な高学年の男子小学生が完成、と言ったところである。
「Snow White」に置かれた姿見で祈自身も確認したのだが、なかなかそれらしく出来上がっていると感心したものだ。
だが、祈はそれがなんとなく悔しい。
普段から意識している訳ではないが、髪も伸ばしているし少なくとも自分は女だという気持ちが祈の中にはあったのに、
こんなに男の格好が似合ってしまうなんて、と。何らかの辱めを受けているような思いであった。
それにここ、橘音の指示した八尺様の出現予想ポイントにくるまでの間に一体何人の人とすれ違っただろうか?
帽子を目深に被っていてわからなかったが、もしすれ違った中に知り合いが混じっていて、
自分だとバレていたらと思うと気が気でない。
しかし前金代わりとしてかき氷を食べてしまった以上、途中で断ることもできず、なし崩しにここまで来てしまったのである。
表通りから少し離れた、裏通りとも言うべき場所。
街灯は少なく、ビルが丁度夕暮れ時の西日を遮っていて道に影を落とし、一足先に夜が来たようなこの場所に。
祈はため息をつき、ビルの壁にもたれ掛かりながら、思う。
――それもこれも、御幸の出すかき氷がおいしいのがいけない。
あの氷がふわふわなのが悪い。いちごみるくが舌の上であまりに甘くとろけるものだから、
どうしても抗えず注文してしまったのだ。
だとすればこんな事態になったのは、あのおいしいかき氷を作る御幸の所為であり、
戻ったら文句の一つでも言ってやらねばなるまい。
美味しかったと。
前金代わりだと言われてかき氷を出され、疑問に思うどころか喜んで食べてしまう自分のうっかり加減を棚に上げて、
祈が意味不明な決意を静かに固めていると、ハーフパンツのポケットに入れた携帯(橘音からの借り物)が鳴った。
ポケットから取り出して通話ボタンを押し、耳に当てる。橘音の声が聞こえた。
「祈ちゃん、うまくやってくださいよ?八尺様と遭遇しても、決して戦わないこと。いいですね」
前置きはなく用件のみ、作戦前の最終確認、と言ったところである。
「わーってるって。やり合うなら公園の中で、だろ」
それを理解して、祈も短く適当に返す。
いくら男子小学生に変装をしても、声までは男子小学生になれない。
あまり長話をしていては声で八尺様にバレてしまうかもしれないと思い、手短に一言、二言言って通話を切る。
そしてポケットに携帯をしまうと、残ったのは耳が痛くなるような静寂だった。
最初は、橘音の声を聞いてしまったからだと祈は思った。
今いる場所が暗く人気のない裏通りだから、人の声を聞いた後だと尚更寂しく感じ、
こんなにも静寂が耳に刺さるような思いがするのだと。
だが、違和感。
確かにここは裏通りだが、コインパーキングなどもあり、
先程だって車が一台、駐車にやってきたりしていたのだ。人が全く通らないと言う訳ではなかったし、
表通りの遠い音だって、微かにだがここまで届いていた。
それがどうしたことだ。今では動くもの一つなく、何も聞こえないのだ。
空気が明らかに変わっていると祈は直感する。
体に緊張が走り、この位置から300メートル程の場所にある公園の位置が瞬時に思い出される。冷や汗が背中を伝った。
そして。
――ぽ、ぽ……ぽぽぽ。
その泡が弾けるような不気味な声が、確かに聞こえた気がした。
- 28 :
- 橘音「パソコンの前の皆さんこんばんは!スマホの前の皆さんもこんばんは!ガラケーは……えーっとぉ……」
髪さま「那須野橘音のナイト・ブリーチャー、始まるゾナ」
>>25
橘音「えぇ〜……それ、わざわざ指摘するようなことですかぁ〜?せっかくシリアスにやってるのにぃ」
髪さま「ヒップアタックだけに、尻ass……なんちゃってゾナ」
橘音「くだらなすぎて怒りも込み上げてきません」
髪さま「別に本編もそんなにシリアスって訳じゃないし、気にしないゾナ」
橘音「いやいや……一応伝奇とか怪奇とか、オカルトとかを取り扱ってるんですからそこは……ねぇ」
髪さま「世の中、なるようにしかならんゾナ。おまえがシリアスにしたいと思ってもみんなが従うとは限らんゾナ」
橘音「そこはなんとかこう、伏して!伏してお頼み申し上げますぅぅ〜!このとーりっ!」
髪さま「実際問題、シリアス一辺倒でも肩が凝るゾナ、適度にギャグも入れるのがいいゾナ」
橘音「ま、まぁ、一理ありますね……。そこはブリーチャーズの皆さんの裁量にお任せしましょう!」
髪さま「なんとなればおまけコーナーをやってもらっても構わんゾナ、ワシのことも自由に使ってくれていいゾナ」
橘音「誰も使わないでしょ、髪さまなんて……」
髪さま「ゾナッ!?東京ブリーチャーズのマスコットキャラであるワシを使わんとは何事ゾナ!」
橘音「マスコットキャラだったんですか!?可愛げゼロですよ!?」
髪さま「何を抜かすゾナ。いずれは目玉のファーザー(オブラート的表現)に匹敵する知名度を獲得する予定ゾナ」
橘音「なんたる畏れ多さ……!(ブルブル)」
>>26
髪さま「ワシは全知全能の髪さまゾナ。出来んことなどないゾナ」
橘音「ほほう!それではさっそく>>26さんのパソコンを修復しちゃってください!もーピカピカに!」
髪さま「嫌ゾナ。人様(髪だけど)に何かして貰いたかったら、それなりの態度というものがあるゾナ?」
橘音「がめついなぁ……」
髪さま「カミが貢ぎ物を求めるのは当然ゾナ。貢ぎ物を確認したら、ワシの神通力を披露してやってもいいゾナ」
橘音「だそうです、>>26さん……すいませんね、横柄な髪さまで……」
髪さま「カミとは横柄なものゾナ。貢ぎ物さえあればワシの神通力で>>26のパソコンに毛をモッサモサ生やしてやるゾナ」
橘音「ほう。毛が生えるとパソコンが直るんですか?」
髪さま「ハァ?直るわけないゾナ。おまえはなーにを訳の分からんことを言ってるゾナ?常識で考えるゾナ」
橘音「……えっ?でも、パソコンが壊れてるから何とかしてって……」
髪さま「ワシは毛にまつわることしか出来んゾナ。当たり前のことを訊くなゾナ」
橘音「さっき全知全能って言ったクセに……」
髪さま「全知全能(※ただし毛に限る)ゾナ」
橘音「(ガチャ)おぉーっと!ジュース零しちゃったー!すぐに拭かなくちゃー!(棒)」
髪さま「イダダダ!ワシで拭くなゾナ!雑巾じゃないゾナ!」
橘音「えー、祈ちゃんが投下してくださいましたので、次は八尺様にお願いしたいと思いますがいかがでしょう?」
橘音「その後ノエルさん、ボク、また祈ちゃんというローテーションで行ければと。では今日はこれにて!」
- 29 :
- 祈「…………。あっ、もう始まってんのか。おいーす。ゲストパーソナリティの多甫祈と」
髪さま「キューティクルがビューティフル、髪さまゾナ」
祈「っつー訳で、許可も降りてたことだしオマケコーナーのそのオマケ、『那須野橘音のナイト・ブリーチャー(?)』始めんぞ。
橘音と髪サマのコンビ程上手くできねーだろうけど、頑張るから。あと、なんか間違えてたらごめんな?」
髪さま「初々しいゾナ。祈ちゃん、先輩であるワシがリードするから安心してついてくるゾナ」
>>20
祈「まずは、歓迎してくれてあんがと。これからよろしくな。髪サマも」
髪さま「よろしく頼むゾナ。ではさっそく新人にワシのシャンプーという大役を頼みたいがゾナ」
祈「いいよ」
髪さま「いいゾナ!?」
祈「いつも橘音がやってるみたいにやればいいんだろ? 洗濯機回してぼちゃんって」
髪さま「あ、あれは悪い例だゾナ。真似しちゃいか」
祈「でも洗濯機に入って丸洗いって面白そうだよなー! 小さい時やってみたいと思ってたんだよね。
ばーちゃんに怒られそうだから結局しなかったけど。で、実際どんな感じ? 楽しいのかやっぱり!」
髪さま(……全然楽しくないどころかきっついゾナが、ワクワクした少女の瞳を裏切れんゾナ)
髪さま「た、楽しいゾナよ! 回るプールみたいなもんゾナ!」
祈「マジかー! じゃあこれ終わったらやってやるからな!」
髪さま「た……楽しみにしてるゾナ」
>>26
祈「髪サマでも直せねぇんだってよ。ごめんなー」
髪さま「直せん訳ではないゾナ。本気を出してないだけゾナ」
祈「あたしも機械疎いからさー。あっ」
髪さま「どうしたゾナ?」
祈「やー、今は参加できなくても、今後参加できる可能性があるなら、
今のうちに参加させたい妖怪のプロフィールとか纏めて投下しておけるんじゃねーのって」
髪さま「なるほどゾナ。そうすれば少なくとも、考えてた妖怪の種族を敵役やらで出されて
『ああ!この妖怪ワシが出したかったのにゾナー!!』ってなることもないかもしれんゾナ」
祈「そーそ。キープしとく感じかな」
髪さま「橘音が許したらそういうのも考えておくといいんじゃないかゾナ」
祈「パソコン、早く直ったらいいな」
>>28
祈「もしかしたら八尺夏ってのも何か書きたいことあんじゃねーかなーって思ってハンパなところで止まっちったんだけど、
それ伝え忘れててさ。橘音が仕切ってくれて助かったよ。さんきゅー」
髪さま「報連相は社会人の常識ゾナ。祈ちゃんもバイトとして社会に出てるんだから
報告や連絡、相談はきちんとしなきゃいかんゾナ」
祈「悪かったよ。かといって勝手にオマケみたいなのやんのもはばかれ、はばかられ?てさ。
どう伝えたもんかって悩んでたから、髪サマとオマケコーナー解禁は助かったよ。
……伝えると言えば、橘音とか御幸のやつとか八尺とか、これから一緒にやる奴らに言わなきゃなんねーことあんな」
髪さま「なんゾナ?」
祈「あたしの事はある程度好きに動かしたり、なんなら喋らせたりしていいし、
橘音みたいに関係を捏造したりしてもいいよ。ってさ」
髪さま「ほう……その心はゾナ?」
祈「心は、とか聞かれても……なんつーか。『決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可』って書いてるとは言え、
こういうのってちゃんと言っとかないと、みんな遠慮すんじゃねーかなって思ったんだよ。
これから八尺様だって出て来る訳で、したい演出とかやりたいこととかあるだろ? そこであたしに遠慮してたら
何もできなくなんねーかなって心配でさ。あたし楽しいのが好きだし、その……遠慮せず楽しく一緒にあそべたら、っつーか。
ま、こういうのが橘音やみんなの不都合にならなけりゃだけど」
髪さま「そういうことかゾナ。これも橘音次第ゾナが、ワシもみんなで楽しく遊べるのは嬉しいことだとは思うゾナ。
ちなみにこのワシ、髪さまもオマケコーナー限定で登場フリーみたいゾナ!
だからみんなもワシをガンガン登場させて、動かしていいんだゾナ? オマケコーナーで髪さまと握手! ゾナ!」
祈「握手って……髪サマの手ってどこにあんだよ。この辺か?」
髪さま「そこは目ゾナァーッ!?」
祈「んじゃ、言いたいことは言ったし、八尺様の続きを楽しみにしつつ、今日はあたしもこれで!
よっしゃ髪サマ、洗濯機行くぞー!」
髪さま「あ……忘れてたゾナ……」
- 30 :
- 年頃の女の子に小学生の格好させるなんて、デリカシーのないやつだな橘音は
祈ちゃん、おじさんと女の子の服買いに行こう(ゲス顔)
- 31 :
- ノエル「うおお、麻桶の毛すげー! 山賊を軽く締め上げる、そこに痺れる憧れるゥ!」
髪さま「さっきから何を読んでるゾナ? “日本妖怪大全”……?」
ノエル「日本古来の伝統妖怪を網羅してて参考資料に最適。境港妖怪検定中級の公式テキストにもなってるんだ」
髪さま「堺港…何ゾナその思いっきり目玉のファーザー(オブラート的表現)の息がかかってそうな検定」
ノエル「というわけでナイト・ブリーチャーもどきのはじまりはじまり〜」
ノエル「失踪事件の現場で犯人と遭遇してヒップアタック、お尻とお尻でお知り合い」
髪さま「昨日の敵は今日の友、一件落着ゾナ……って何も落着してないゾナ!?
……あれ? ワシがツッコミに回ってるゾナ? 尻ass分が足りんゾナ」
ノエル「でも今の都市伝説妖怪(八尺様くねくね世代)はガチでシリアスに怖いけど
前のブームの時の都市伝説妖怪(口裂け女人面犬世代)ってどこかコミカルな感じがするのはなんでだろう」
髪さま「傾向として今のは無口で一世代前はお喋りなのが原因かもしれないゾナ。
お前も黙ってれば名実共にクールなイケメン……の可能性がワンチャンある……ゾナ(小声)」
ノエル「いや、この業界敢えて残念な人からスタートするのが最強だと思うんだ(キリッ」
髪さま「その心はゾナ?」
ノエル「残念な人なら残念な言動をしたり残念設定が追加されても元の人物像を尊重していることになるし
逆に残念な人が格好いい言動をしたり格好いい設定が追加された日には……」
髪さま「……はっ、ギャップ萌え発動!? なるほど……残念な人最強ゾナ!」
ノエル「というわけで僕も決定リールどこまでも可、いっそ決定リール通り越して動かしてもOKな勢いで!
いやあ、第一印象で2枚目のイケメンとして入ってしまったら常にキャラ崩壊の恐怖が付きまとうところだった……危ない危ない」
髪さま「お前の場合そんな心配は要らんゾナ」
>>30
ノエル「年頃の女の子を知らないおじさんが連れて行くのは犯罪フラグ……!
そうだ、僕も一緒に行こう!」
髪さま「止めるんじゃないんだゾナ」
ノエル「あれ? これ可愛くね?」(スチャッ―― さりげない自然な動作で猫耳バンドを装着した)
髪さま「お廻りさんこちらですゾナ――というツッコミ待ちかもしれぬがそもそも女性服売り場にも猫耳バンドは無いゾナ」
- 32 :
- 既に八尺夏は動き出している…!
- 33 :
- だといいなあ
やっぱ敵は別PLのほうがパンチ効くもんね
- 34 :
- 橘音「なんだかもう既に本編よりおまけコーナーの比率の方が多いですよォ―――ッ!!?」
髪さま「モジャジャジャ!(註:笑い声)だから言ったゾナ、いずれはおまけがスレを乗っ取ると……!」
橘音「やらせはせん!やらせはせんぞぉ!……ということで那須野橘音のナイト・ブリーチャー、始まります!」
>>29 祈ちゃん
橘音「それにしても、祈ちゃんもノエルさんもやりますねえ。まったく違和感ありません」
髪さま「ワシのキャラが立っているからだゾナ、もっとワシを褒めろゾナ」
橘音「自分で言ってりゃ世話ないですね。ともかくおふたりとも、ありがとうございます」
髪さま「今後も何かあればワシを召喚するゾナ。本来ワシはとても多忙な身ゾナが、特別に相手をしてやるから有難く思えゾナ」
橘音「あーはいはい。すぐ増長するんだから……」
髪さま「そしていずれはスレタイも『神さまのナイト・ブリーチャー』に変更していく心意気ゾナ……モジャジャジャ!」
橘音「身の丈に合わない野望は破滅を招きますよ?」
髪さま「それはさておき、ワシは祈ちゃんのところで言いたいことを全部言ったので、ここで改めて言うことはないゾナ」
橘音「あぁ、洗濯機で丸洗いされるの楽しい!大好き!ってヤツですよね?」
髪さま「そこはどっちかというと忘れてほしい部分ゾナ!?」
橘音「むしろそこが大事でしょ。……『やりたい妖怪をキープしておきたい』っていう話ですよね、いいと思います」
髪さま「東京ブリーチャーズにはまだまだメンバーがいるはずゾナ。そういう面子は予めキープしておくといいゾナ」
橘音「それは全然構わないんですが、ひとつだけ注意点が」
髪さま「ゾナ?」
橘音「キャラを投下して頂く限りは、参加をして頂きたいのです。『投下=参加の意志あり』とみなしますよ、ということですね」
髪さま「参加の意思がないのにただキャラだけ作るというのはイカンゾナ、ということゾナ」
橘音「NPC扱いを期待しての投下も、ご遠慮いただければ。折角作ったのに、やられ役で敵にワンターンキルされるとか嫌でしょ?」
髪さま「それだけ守ってもらえるなら、もちろんキープは歓迎するゾナ」
橘音「まだ見ぬブリーチャーズの皆さんのご参加をお待ちしています!」
髪さま「早くパソコンを早く修理して参加するゾナ!Just do it!!」
>>30
橘音「妖怪が声掛け事案にひっかかるなんて、洒落にもなりませんよ……」
髪さま「祈ちゃんなら軽く駆け足しただけでも人間風情ブッチギリで引き離せるゾナ、心配ないゾナ」
橘音「な〜んて言ってる間に、ノエルさんと一緒にどこかへ行ってしまいました」
髪さま「腹が減ったら帰ってくるはずゾナ、ほっとくゾナ」
橘音「放し飼いの猫じゃないんですから……」
髪さま「というか、保護者にあのババアがいる限り祈ちゃんは大丈夫だと思うゾナ」
橘音「あー……祈ちゃんのオババ。確かにあのオババは怖い……。ここだけの話、戦力的にはオババの方が頼りになるんですが」
髪さま「あのババアをブリーチャーズに加えるのは反対ゾナぁぁぁぁぁ!?」
橘音「髪さま、オババにトラウマでもあるんですか?」
髪さま「ずっと昔の話ゾナが、ババアの娘の尻を触ったらババアに全力で蹴り飛ばされたゾナ」
橘音「自業自得でしょ。さぞかしよく飛んだでしょうね」
髪さま「確か、オレゴン州とかいうところまで飛ばされたゾナ。帰りが大変だったゾナ」
橘音「あちゃー……太平洋越えちゃったかー……」
- 35 :
- >>31 ノエルさん
橘音「ノエルさんほど『残念なイケメン』という言葉が似合う人もいません」
髪さま「しかし、計算で残念さを演出しているとしたらなかなかの策士ゾナ。あざといと言わざるを得ないゾナ」
橘音「計算で残念さを演出していると見せかけて素、というパターンではないかと」
髪さま「いずれにせよおいしいポジションゾナね、ワシとかぶり気味ゾナが」
橘音「お言葉ですが1ミリもかぶっていませんので、安心してください」
髪さま「ゾナ!?毛髪界の月亭方正と呼ばれたワシが……!」
橘音「それバカにされてますよ多分。……まあ、そんなことはどうでもいいんですが、決定リールについてお話ししましょう」
髪さま「ノエルも祈ちゃんもガンガンOK!と言っているゾナ」
橘音「じゃ、そういうことで」
髪さま「即決ゾナ!?まぁせっかく集まったんだし、みんなで楽しく自由に好きなことしようゾナ!ということゾナね」
橘音「口幅ったいことを言いますが、もちろん自由というのは好き勝手ということではなく、そこはお互いへの配慮第一ということで」
髪さま「その上で好きなこと、やりたいことをしてくれれば、こちらもそれに合わせるゾナ」
橘音「あ、ボクに関してもおふたりと同じくリールOKということで。皆さんと一緒にお話しを作っていければ、それが一番ですから」
髪さま「まだ始まったばかりで、どこまで続くかもわからんゾナが、始めたからには完結させるゾナ!」
橘音「どうか、皆さんも最後までお付き合いください。って感じですね!」
>>32
橘音「ほう!それは実に頼もしい!いや、ボクも正直ワクワクしてるんですよね。どんな八尺様が現れるのか?って」
髪さま「こちらが当初考えていた八尺様を上回るようなインパクトを期待するゾナ」
橘音「なんてなことをあんまり言っちゃうと、ハードルが上がって動きづらくなっちゃいますから、この位にしておきますか」
髪さま「橘音が次は八尺様と言ったのが木曜だったゾナから、ルールに則って月曜(5日)まで八尺様のターンとするゾナ」
橘音「その後ノエルさん、ボク、祈ちゃんの順番ですね。楽しみにしていましょう!」
髪さま「もしブリーチャーズが八尺様に負けたら、エロゲー的展開が待ってるゾナ?」
橘音「現状ブリーチャーズに八尺様の好みに合う妖怪がひとりもいないんですが、それは……」
髪さま「しょうがないゾナ、ここはワシが!ワシが尊い犠牲に!!」
橘音「人型ですらない」
>>33
髪さま「ということゾナが?やっぱり敵もPL参加OKにするゾナ?」
橘音「いやぁ、>>33さんの仰ることにも百里あるんですが、ここはどうかボクのワガママを聞いてください、と……」
髪さま「おまえ(GM)が敵を出して、おまえ(橘音)が倒してちゃマッチポンプゾナ」
橘音「ボクは倒しませんよ?というか言ったでしょ、ボクは戦闘はからっきしだって。正直な話、人間と喧嘩しても負けますよ」
髪さま「役に立たん奴ゾナ……」
橘音「ボクは言うなれば狂言回し。あくまで主役はブリーチャーズ、八尺様にノエルさん、祈ちゃんだと思っています」
髪さま「まぁ、おまえは主役って感じではないゾナね。敵か味方かわからない胡散臭い脇役Aって感じゾナ」
橘音「どうせボクは不審者ですよ、そんな言葉は言われ慣れてますしーっ!……というか……」
髪さま「というか?ゾナ?」
橘音「ぶっちゃけ、ボクが敵役をやりたいっていうね、アハハ!ラスボスも考えちゃいましたし!」
髪さま「気が早いにも程があるゾナ!?」
橘音「そういうことで、改めて皆さんお付き合いのほどを!では今日はこの辺で!」
- 36 :
- >「ノエルさん……。人様の嗜好に口出しはしませんが、そういう趣味はせめてバックヤードでやった方がいいと思いますよ?」
ナイスタイミングで橘音がご入店。
他人をからかうのが好きな橘音も憐れむこの惨状。これはアカン――重症である。
「ランドセルを背負えば……誰しも小学生になれるんだ!(※なれません)
いや、待てよ? 何も小学生じゃなくても成人前でよければ少し若作りすればいけるのか……?」
ちなみに客達はというと、店主の奇行も狐面の探偵が入ってきたことも完全スルー。
色々ひっくるめて日常茶飯事として慣れているようだ。
店内で度々繰り広げられる作戦会議については、まさか妖怪退治の打合せとは思わず
少し変わった探偵稼業を手伝っている、程度に思っているようである。
>「何やってるんですかもう。何もノエルさんを囮にしようなんて考えてませんよ、それとも囮になりたいんですか?」
>「それはそれとして。さっき祈ちゃんにも召集をかけておきました、今回はこの三人でやりましょう」
多甫 祈――この業界、雪女の男もいればババアの少女もいる。
ちなみに妖怪業界では常識のロリババアではなくリアル少女である。
というのも、彼女はおそらくクオーター(もう片方の親が普通の人間と仮定すれば)なのだ。
>「んん〜……おいしいっ!やっぱり、ノエルさんの作るかき氷は絶品ですね!このなめらかな口溶け!」
>「一気に食べてもアイスクリーム頭痛にならない!そしてこの練乳とイチゴと餡と抹茶のハーモニーがぁぁ……!」
「多めにラブ注入しといたからなっ!」
いつのネタやねん!とツッコミが入りそうなことを言いつつ橘音が食べているのをどことなく楽しげに見ている。
雪女の能力は、本来は全てを凍てつかせる恐るべき破滅の能力。
熟練して絶妙なコントロールを習得すると、あら不思議、美味しいかき氷が作れるようになります。
往々にして何事も平和的利用の方が難易度が高いのだ。
>「あ、祈ちゃーん!こっち!こっちですよー!」
- 37 :
- やがて祈もやってきた。橘音が前金代わりのかき氷をおごり、いよいよ作戦会議が始まる。
橘音は刑事ドラマの連続殺人事件的手法で次の誘拐地点を割り出し、祈に囮になるように言い渡した。
八尺様のストライクゾーンは、ズバリ小学生らしい。
ということは、ノエルはもちろん橘音も微妙に趣味ド真ん中からは外れていることになる。
というかどちらにしろ、主に能力的な意味で囮は祈にしか務まらないようだ。
しかし性別不詳の橘音と違って祈は紛う事無き女子。そんなに上手く化けられるだろうか……
という懸念は杞憂に終わった。
「うん、なかなかの完成度じゃないか。流石祈ちゃん。
そういえば宝塚の男役スターって普段は普通にすごい美人なんだよな」
これはもしや本人がなんとなく不本意なオーラを出しているのに気付いているのか。
いや、本人も深く考えて無さそうな天然の性別迷子のコイツのこと、そんな機微が分かるはずもない。
多分深い意味も無くなんとなく言っただけである。
(というか妖怪は下手すりゃ人型ですら無かったりするしむしろ性別不詳の場合の方が多いぐらいなんじゃなかろうか)
゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚
少しばかり時間は流れ、午後四時。子ども達の下校時刻。
公園にはすでに橘音によって結界が張られている。それも、こちらの足枷にはならずに妖壊のみを弱体化させる結界だ。
こんな結界が張れる橘音はやはり只者ではない。
すでに八尺様をおびき出しに向かった祈に、橘音が最終確認の電話をかける。
>「ノエルさんも準備をしておいてください。きっと、ここへ来る頃には八尺様はだいぶヒートアップしていると思いますから」
>「冷気で頭を冷やしてあげましょう。あとは、会話が通じるかどうか――ま、試してみるしかないですね」
橘音に手渡されたアイスコーヒーを一口飲む。
ちなみに妖怪というのは(種族にもよるが)基本飲み食いしなくても生きていけるが気が向いたらしてもいいらしい。
なんとも都合のいい人達である。
「まずは動きを封じて話し合いに持ち込むところからだな」
一度妖壊化した妖怪はそう簡単には元には戻らないが、説得に成功して改心味方化した前例も無くは無い。
八尺様は多少でかいとはいえ元からほぼ人型であることを考えると
本人さえその気になれば人間界に溶け込むことに向いている方と言えるだろう。
>「では。――東京ブリーチャーズ、ミッションスタート」
祈なら何事もなければ300メートルぐらい比喩ではなく文字通りあっと言う間であろうが、待っている方は要らんことを考えてしまうものである。
万が一捕まったらよくも騙したなとキレるのか、はたまたボーイッシュ美少女もアリじゃね!?と新たな扉が開かれてしまうのか――!?
……どっちにしてもアカン気がする。
゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚
ノエル「一応4日経ったので投下したけど」
髪さま「今のところシーンが別で大きな影響はないと思うので八尺様ももし執筆中だったら出来次第投下ゾナ」
- 38 :
- 八尺様がキャラキープしたまま音信不通だと止まってしまうので、
もし進展が無いようなら第二、第三の(NPC)八尺様に動いてもらうってのも良いかもね
- 39 :
- ついに始まったミッション、八尺様漂白作戦。
壊れた妖怪――《妖壊》と化した祟り神八尺様を相手に、はたしてブリーチャーズはどう戦うのか?
熾烈な追撃をかわし、祈ちゃんは公園まで八尺様を誘導できるのか?
ノエルさんの冷気は八尺様の怒りの炎を凍てつかせることができるのか?
そして、そもそもボクは何かの役に立つのか?
何もかもが不確定な中、薄闇の中から姿を現す白いワンピース姿の怪異。
八尺様の双眸が、まるで獲物を見つけた猛禽のように祈ちゃんを見て――。
次回、東京ブリーチャーズ
『Chaser&Fugitive』
お楽しみに!
〜次回放送予定日は12月7日です〜
- 40 :
- 結界を張った公園の中で、ノエルとふたり祈がやってくるのを待つ。
結界は橘音が許可した者以外は入れない構造になっており、一般人が誤って足を踏み入れることを防いでいる。
また、一度中に入った者は橘音の許可なしには外へ出られず、無理矢理出ようとするなら橘音をRしかない。
つまり、八尺様漂白作戦が完了するまでは、何者にも邪魔されないというわけだ。
祈のいる場所と公園の入口までの距離は、たったの300メートル。祈の全力疾走なら数秒の距離である。
しかし、全力疾走ではいけない。
祈は『八尺様が追跡でき』、『しかしながら決して捕まえられない』速度を調整し、八尺様を誘導しなければならないのだ。
さらに、公園は隣接しているとはいえギリギリ八尺様の縄張りの外にある。
八尺様が祈の捕縛を優先し、自らの縄張りを一瞬でも忘れるようにしむけるのは、大変な危険を伴うだろう。
いつものように逃走する者を追跡したり、暴れる妖壊に蹴りを見舞うのとはまるで違う、精密動作だ。
しかしながら、ここは祈に期待するしかない。橘音はそっと半狐面に手を添えた。
「確認ですが――」
ホットコーヒーを一口飲み、橘音が口を開く。
吐いた息が白い。棚引くそれがゆっくりと、十二月の澄んだ空気に溶け消えてゆく。
「妖怪とは『人の想いから生まれた』モノ、普通の生物とは違います。わかりやすく言えば『殺せない』――不死身の存在」
「オバケは死なない、病気もなんにもない……ゲッ、ゲッ、ゲゲゲのゲー、ってやつです」
川の氾濫や雷、地震など、自然の猛威への畏れ。
夜の闇への恐怖。飢饉や疫病といった、形なきものに対する怯え。
死者や死後の世界など、未知のモノへの想像――
そんな人間の豊かな空想力が、喜怒哀楽の感情が生み出すエネルギーが、妖怪を創造した。
妖怪の原動力とは、人々の想いそのもの。人々が空想することを、想いを馳せることをやめない限り、妖怪は死なない。
刀剣や銃器、打撃武器など物理的な手段で妖怪を殺そうとしても意味がない。
仮に武器を用い、その場では殺せたように見えたとしても、時間が経つとまた復活してしまう。
一時的に妖怪を退けることはできるだろうが、それでは根本的な解決にはならないのである。
「ですから――今回もいつも通りの手法で行きます」
そう言って、ノエルの方を見る。
説得して改心、味方にするという手法だ。まずこれを試み、説得に応じなければ封印というのがセオリーである。
ただし、説得するには説得に応じるよう下地を作る必要がある。
下地というのは相手を説得交渉のテーブルにつかせるということであり、その為には相手を大人しくさせる必要がある。
そこで、暴れる妖壊を疲弊させる荒事担当のメンバーが必要になってくる。
八尺様が結界に入った後は、八尺様を存分に暴れさせ、その力を使い果たさせなければならない。
その役目を担うのがノエル、というわけだ。
ただし、今回は少々いつもとは勝手が異なる。
いつもなら漂白対象がどんな妖術を使い、何が弱点であるのか等々事前にある程度調べがついている。
しかし今回に限っては、相手の能力に未知の部分が多すぎる。
橘音としてもネットの都市伝説程度しか持ちうる情報がない。
総体、前例のない相手との戦いである。分の悪い戦いと言わざるを得ない。
「ま……そんなのはいつものことですが、ね」
アハハ、といつもの調子で笑い飛ばすと、橘音は飲み干したコーヒーの空き缶を自販機脇のゴミ箱に捨てた。
「……そろそろですね。祈ちゃん、お願いしますよ……」
もう一度白い息を吐き、スラックスのポケットに白手袋を嵌めた両手を突っ込んで。
橘音は祈るように呟いた。
- 41 :
- ――ぽ……ぽっ、ぽ、ぽぽぽ……
どこからか声が聞こえる。
それは、泡の弾けるような。口笛のような。ごくごく淡い声。
しかし確かに、祈の待っていたモノの来訪を告げる声。
――ぽ、ぽぽ、ぽ……ぽぽぽ……
見れば、誰もいなかったはずの路地にいつの間にかひとつの影が現れている。
真っ白い鍔広の帽子を目深にかぶり、師走だというのにノースリーブの白いワンピースを着た、妙齢の女性。
一見して寒そうな外見以外は普通と言ってもよかったが、しかしその身長が常軌を逸している。
近くにあるコンクリートブロックの壁よりも、頭ひとつ以上大きい。
少なく見積もっても、その身長は240センチ以上はあろう。
240センチ、つまり――八尺。
帽子の鍔のお陰で、祈からその表情までは見えない。
が。
祈にはハッキリと感じられただろう。
その白いワンピース姿の女が、確実に祈を見ていることを。そして――
祈に対して、うっすらと笑みを浮かべたことも。
――ぽぽ……ぽ、ぽぽ……ぽ、ぽ……
声が近くなる。
気付けば、50メートルほど離れていたはずの女性――八尺様が、10メートル程まで距離を詰めている。
瞬きするほどの、ほんの一瞬の出来事だ。瞬間転移の妖術だろう。
八尺様が祈へと右手を伸ばす。
祈が駆け出すと、みるみるうちに八尺様との距離が開いてゆく。
あれほど巨大に見えた八尺様が、あっという間に米粒ほどの大きさにまで遠ざかってゆく。
……しかし。
祈が瞬きをするたび、その前方に八尺様が現れる。ふと目を離すと、その視界の及ばない角度からぬっと手が伸びてくる。
そして。
祈がどれだけ走ろうとも、それが絶え間なく繰り返される。
『もう、とっくに300メートル走りきっているというのに』。
本当なら既に公園まで到達していなければおかしい距離を、祈は走っている。
だというのに、一向に公園に辿り着く気配がない。
思えば、同じ路地をグルグルと回っているような気さえする。これが八尺様の縄張り――結界、ということなのだろうか?
橘音は最初に八尺様を結界内におびき寄せ、暴れるだけ暴れさせて疲弊させ、その後対話することを目論んでいた。
しかし、もし、『八尺様も橘音と同じことを考えていたとしたら』?
結界内に入ってきた獲物を好きなだけ逃げさせ、疲れさせてから、ゆっくりと捕食する――。
となれば。
ここは、祈の独力で八尺様の結界から脱出する以外にない。
――ぽ、ぽぽっ、ぽっぽっ……
八尺様の声が、祈の耳のすぐ傍から聞こえてくる。
声のみならず、今にも吐息さえ感じられそうなほどの距離に、八尺様がいる。
祈をあどけない少年だと思い込んで、その手を伸ばしてくる。
八尺様の巣と言ってもいい縄張り、その中にいるのは、祈ひとりだけ。
助けは、ない。
- 42 :
- 橘音「はいはいっ!那須野橘音のナイト・ブリーチャー、始まりますよ!司会はボク、那須野橘音と!」
髪さま「全世界9兆5千億人の薄毛の希望の星、髪さまでお送りするゾナ」
橘音「それ明らかに人外も込みの数ですよね……」
髪さま「コミコミゾナ」
>>38
橘音「ご心配なく、既にそのように調整していますので!何も問題ありません!」
髪さま「せめて、八尺様は遅れるなりなんなり一言欲しかったゾナが……」
橘音「まぁ、いろいろ都合もあるんでしょう。ということで、次は祈ちゃんお願いしますね」
髪さま「八尺様はまだ参加の意思があるなら、どこにでも突っ込んでしまっていいゾナ」
橘音「今出ている八尺様が自分だということでも、別人だということでも、どちらでも構いませんよ!」
髪さま「現在の『八尺様編(仮称)』が終わるまでは、いつでも八尺様の参加を受け付けるゾナ」
橘音「ただし、最後までお姿をお見せにならなかった場合は、残念ながら参加の意思なしと見做し、漂白します」
髪さま「その辺はキッチリやっておくのが大事だと思うゾナ、よろしくご理解のほどをゾナ」
橘音「まぁ、まだ始まったばかりですし。少なくとも今年いっぱいくらいは猶予がありますから!」
髪さま「八尺様以外にも飛び入り参加メンバーは随時募集中ゾナ、ふるって参加ゾナ」
橘音「あなたも東京ブリーチャーズで妖壊をバッタバッタと薙ぎ倒してみませんか?」
髪さま「服装、髪型自由!交通費全額支給!昇給、ボーナスあり!アットホームな職場ですゾナ!」
橘音「それブラック企業の常套句ですよ」
- 43 :
- 名前:尾弐 黒雄(オニ クロオ)
外見年齢:28歳
性別:男
身長:192cm
体重:91kg
スリーサイズ:?
種族:鬼
職業:葬儀屋
性格:自堕落
長所:特になし
短所:腰痛持ち、だらしない
趣味:料理
能力:怪力、頑強
容姿の特徴・風貌:
黒髪をオールバックで纏めている。長身で分厚い鎧の様な筋肉を持つ。
服装は常に黒服に黒ネクタイ。つまり喪服。
仕事着も喪服。普段着も喪服。ただし、普段着用はヨレヨレ。
簡単なキャラ解説:
東京の一角で葬儀屋を営む男。
彼の葬儀屋は訳有りの遺体の葬儀を専門に執り行い、警察や役所からの依頼も頻繁に受けている。
とある事情の元、仕事上で知り得た《妖壊》由来と思われる遺体の情報を『東京ブリーチャーズ』へ流している。
尚、彼自身も『東京ブリーチャーズ』の一員ではあるが、どうも微妙に胡散臭い行動をチラホラ取っている様だ。
正体は『鬼』。
生粋の鬼では無く、人が憎悪や怨嗟で変化した型の鬼であり、元人間である。
変化を解くと、角が生え皮膚が黒く硬質化する。
こうですかわかりますん
導入は製作中。書き終え次第タイミング見て投下させて欲しいです
- 44 :
- 混乱の中、八尺様に追われて路地を疾走しながら、祈は状況を整理する。
(やっぱりここ、結界の中だ……!)
同じ電柱をもう三度も見た。
似たような路地を走り回ったせいで方向感覚はとっくに狂っていて、
どこを走っているのかなどさっぱりわからなくなっている。だがそれでも同じ電柱だと気付けたのは、
電柱にT・Bというイニシャルめいた落書きが青のスプレーで描かれているのを祈が覚えていたからだ。
四度角を曲がった訳でもないのにその電柱に出くわすことや、
そう遠くないはずの公園にいくら走っても辿り着かないことからも、疑いようがない。
この通りの周辺が八尺様の結界によって無限回廊のように変えられてしまっており、
その中に祈は閉じ込められているのだ。
(……これ、割とピンチか?)
八尺様が背後から伸ばした左腕を身をよじって躱しながら、祈は考える。
額からは、焦りから汗が伝った。
この結界からどうにか抜け出して公園にまで八尺様を誘き出さねばならないが、
その方法が、祈には皆目見当もつかないのだった。
だが結界に閉じ込められている以上、外の橘音や御幸をアテにはできない。
確認してみたが、当然のように携帯は圏外だ。
この状況を自分の力だけで乗り越えなければならないのは、頭痛がする思いだった。
真後ろでは八尺様の笑い声が聞こえていた。
八尺様についての話は、祈も橘音から多少聞かされている。
それはかいつまんで言えば、八尺様に魅入られた少年が様々な恐怖体験をしながらもなんとか逃げおおせたと言う話であり、
その話の中では八尺様の生み出す結界のことなど一言も触れられていなかったし、
ましてやその脱出方法など出てくるはずもない。
つまりこの結界は、都市伝説上では語られることのない隠された八尺様の能力だと考えられた。
(そこまでは分かった。でも……分かったからってどうしろってんだ?)
妖怪の中には結界を張るものがそこそこいる。
そして大方は、ある条件を満たしたり、手順を踏むことでその結界を解除させたり、というようなことが可能なのだが、
八尺様の結界という全く未知の結界が相手では、その条件や手順を見つけることは至難だと言っていい。
しかもこんな風に追われていては、周囲を細かに観察することもできない。
今祈にできるのは、足と頭を動かし続けることだけだ。
幸い、都市伝説で語られているように時速20キロ程度が八尺様の限界なのか、
それとも結界に捕らえた獲物を追い回し嬲るのをただ楽しんでいるのか、八尺様が追ってくる速度自体は大したことはない。
時折瞬間移動して祈の真後ろにぴたりと付いてきているが、
ターボババアの孫である祈ならば逃げ続けることも、その追撃の手を躱し続けることも、
決して難しい事ではないように思う。
だが、それもきっと長くは続かないだろう。
この状況で何よりも困るのは、『八尺様がいつでも逃げられること』だった。
今はまだ八尺様が祈のことを小学生男子だと認識しているようで、
この追いかけっこが終わる様子はない。だがいつ気付くだろう。いつ飽きるだろう。
獲物を狩ろうと走る肉食獣だって、捕食不可能だと知るや早々に諦め、追うのを止めてしまう。
それと同じようなことが八尺様に起こらないと何故言えようか。
八尺様が祈への興味を失えば、恐らく結界は解除される。
だが同時にそれは、『八尺様が出現したときと同じように、また消え失せて姿を眩ましてしまう可能性をも意味する』のだった。
そうなれば祈には追跡する手立てはない。
妖気を察知するのに長けたブリーチャーズがいてその手を借りられればいいが、
借りられなければまんまと逃げられることになり、任務は失敗。被害者も増えるかもしれないのだ。
それだけは避けなければならなかった。
だからこそ橘音は自身の張った結界に八尺様を捕らえ、逃げられないようにしようと画策していたのであるし。
- 45 :
- (かといって……)
薙ぐように右から振るわれた八尺様の長い腕を、くぐるように躱しながら道の角を左に曲がった。また同じ電柱。
かといって、祈は攻撃することもできない。
攻撃を加えて倒してしまうなり、八尺様の意識を刈り取る、なんてことができればいいが、
それは一撃で倒せればの話だ。
もし攻撃を加えても倒せなかった場合、手痛い反撃を受けた八尺様はやはり捕食を諦めてどこぞへと消えてしまうだろう。
確実性に欠けるのだ。
また、結界の中では妖怪の力は増すことが多い。その点でも戦闘を挑むのは愚策だと言えた。
橘音が口酸っぱく、戦うなと言っていたのが祈の脳裏によみがえる。
(――じゃあ、どうすればいい!?)
逃げ続けては駄目、攻撃しても駄目。
結界の解除は即ち八尺様が祈への興味を失ったことを意味し、それは八尺様の逃走にも繋がる。
なのに祈は八尺様の結界を解除し、尚且つ逃げられないよう公園にまで追い込まねばならないのだ。
進退維谷まるとはこのことだった。祈が苛立ちから下唇をきつく噛むと、血が僅かに滲んだ。
口内に広がる血の味は、少なくとも顔をしかめる程度には美味しくない。
捕食などと言うが、八尺様は人間の、とりわけ小学生男子の血や肉のどこが美味しいと言うのだろう?
男子小学生なんてものは、そこまで女子小学生とも大差ないだろうに。
女子と比べて肉が多いのだろうか?
だが実際に男子小学生として狙われている祈は細身の部類で、食いでがある訳でもないのだ。
太めの男子を狙っているという情報がある訳でもなく、だとすれば男子小学生に拘る理由がどこにあるのだろうか?
その疑問に行き当たった時、祈の混迷し塞がっていた視界が開けた。
もし――。
その時、祈の肩を掴もうとしているのか、それとも抱きしめようとしているのか、
八尺様の両手が振り降ろされる。
が、祈がそれを避ける様子は見られない。それどころか走るスピードを緩めてしまっている。
思考するのに没頭しすぎたのだろうか。八尺様の手はついに祈の肩に掛かった。
瞬間。祈は屈んで前方に体を倒し、つんのめって転んだような体勢になる。
今度こそ捕まえたと確信していたような八尺様の手が空を切る。
更に祈は僅かに妖怪としての力を解放し、アスファルトを強めに蹴った。八尺様との距離が数メートル一気に開く。
背の高い八尺様は、己の身長の半分程しかない祈を目視し、捕まえようとしていた。
必然その視線はほぼ真下へ向いており、視界は狭まっている。故に八尺様には祈の姿が消えたように見えたことだろう。
その八尺様の数メートル先で、立ち止まり振返った祈の双眸が、
獲物を見失い、呆気に取られたように動きを止めた八尺様を捉える。
そして、祈は言う。
「ねえ、お姉さん」
精一杯男っぽさを出そうとカッコ付けてはいるが、少し上ずった声。
八尺様の視線が、消えた獲物、祈を再度捉えた。祈は続ける。
「お姉さんって走るの早いし、そ、それに背ぇ高くて、かっこいいね」
――ぽ?
八尺様の、呆けたような声が無音の通りに響く。
動き出される前にと、祈は更に言葉を紡ぐ。
「この先にさ。広くていい雰囲気の公園があるんだ。そこで一緒にコーヒーでも飲まない?」
声変わりのしていない少年の声音に聞こえなくもないその声が、畳みかける。
それは、少年からのお誘いだった。
――もし。八尺様が食事としての意味合いで少年を好む猟奇的な妖怪ではなく、
ただのショタコンの誘拐犯的な妖怪であるとするなら。そう考えれば、この嬲るような追いかけっこも、
祈のような食いでのない、細身の男子小学生を狙っていることも辻褄が合う。
今まで恋する対象に恐怖の目線を向けられたことや、悲鳴を上げて逃げられたことはあっても、
好意の眼差しで見られたことも。外見を褒められたことも。こうして誘われることもなかっただろう。
それがどうだ。この先の公園でなら、ショタにリードされながら話ができる。
追いかけて注意など引かなくても、隣に並べるのだ。ショタコンならば垂涎のシチュエーションではないか。
これならば結界を自主的に解除させた上で、更に八尺様を公園に誘き寄せられるのだと、祈は考えたのだった。
名付けて、引いて駄目なら押してみろ作戦。
「お姉さんのこと、聞かせてよ」
ダメ押しに、にっと笑って、手を伸ばしてみたりして。
- 46 :
- 祈 「おーし、投稿も終わったし! 遅れたけど今日もオマケのオマケ、那須野橘音のナイト・ブリーチャー(?)始めるぞ!
お相手はゲストパーソナリティの多甫祈と!」
髪さま「毛髪界の貴公子、髪さまゾナ」
祈 「沢山異名あんなー髪サマ。新人も来たみたいだし張り切って行くかんな!」
髪さま「視聴者諸君も、気合入れてついてくるゾナ」
>>30
祈 「だよなー。乙女心ってのをわかっちゃいないんだよ、橘音はさー」
祈 「悪い奴じゃないんだけど……って、服買ってくれんの!?」
祈 「おじさんいい奴! うちの事務所に依頼しにくる人がみんなおじさんみたいな人ならいいのにな!」
祈 「あ! そうだ、お茶淹れてきてやるよ! ちょっと高いやつ!」
祈 「あたし最近お茶淹れんの上手くなってきたんだよね。ちょっと待ってて!」
髪さま「祈りちゃん大喜びゾナ……。まぁ祈ちゃんは強いからワシも敢えて止めないゾナが、変なことは考えるんじゃないゾナ」
髪さま「もし変な事したらこのワシがお前の髪を……こう、ツルッ、ゾナ?」
>>31
祈 「とか言ってたらいつのまにか御幸の奴までついてきちゃったな」
祈 「そんでソッコーであたしらから離れてパーティグッズコーナーの猫耳漁りだしたんだけど」
髪さま「しかも何の躊躇いもなく装着したゾナ」
祈 「……何気に似合うのが腹立つよな」
祈 「でも抵抗ないのかな。男がああいうの付けるのってさ」
髪さま「抵抗ないんじゃないかゾナ。あやつ、雪女の一族に生まれてる珍しい男子だからなゾナ。
女物の服を着せられて育ったとか、周囲の雪女や姉妹に着せ替え人形代わりにされてたとか普通にありそうゾナ」
祈 「あー、女ばかりの家の末っ子みたいなもんか」
髪さま「そうゾナ。男にしてはお洒落にやたら興味があるのも、女性向けの衣装やらに抵抗がないのもその弊害みたいなもんだろうゾナ」
祈 「ふーん……かき氷が美味くて>>37の文章の区切り?とか綺麗だし、なんかやたら女子力たけーよなあいつ」
祈 「でもさ。いくら女子力高くてもアレは止めた方が良いよな?
季節的にクリスマスシーズンだからだと思うけど、今度は女子用のサンタ服持ってなんか悩んでるみたい」
髪さま「……体を張る奴ゾナ。やれやれ、そろそろ突っ込んで止めてやるかゾナ」
祈 「ちょっと遅れたな。あたしの続きもこないんじゃないかって不安にさせてたらごめんね」
祈 「次は……橘音の番かな。もしかしたら御幸のやつかもしんないけど。誰が書くんであれ、楽しみにしてるかんね。
展開的にちょっとやり辛かったりしないかなってのはちょっと不安だけど」
髪さま「はてさて八尺様は、祈ちゃんの誘いに乗ってくれるゾナ? それとも……。とにもかくにも待て次回、ゾナ!」
祈 「そんじゃ、今日はこの辺で。最後になるけど新しく来た尾弐 黒雄っておじさんもよろしくね!」
髪さま「グッナイゾナ!」
- 47 :
- 橘音「祈ちゃんお疲れさま、バトンタッチですね。……あ、髪さまはそのままで。那須野橘音のサタデー・ブリーチャー放送しますよ」
髪さま「まったく人使いが荒いゾナ、一服くらいさせろゾナ」
橘音「口もないのにどうやって一服するんです?」
髪さま「口がないのに喋ってる時点でその疑問は野暮ゾナ」
>>43 クロオさん
橘音「ようこそ東京ブリーチャーズへ!歓迎しますよ!」
髪さま「重量級妖怪ゾナね。まるでワシの若いころを見ているようゾナ」
橘音「髪さまは昔から毛しかないでしょ……」
髪さま「逞しい毛だったゾナ。最近は昔に比べると髪質が細くなって……ゾナナナ……」
橘音「悲しいなあ……。いやまあ髪さまの毛のことはさておき、クロオさんも導入ができ次第投下して下さって結構ですので!」
髪さま「順番は特に気にしなくていいゾナ、投下した場所が自分の順番になるゾナ」
橘音「そこからはローテーションで行って頂ければ。クロオさんのご活躍に期待しています!」
髪さま「例によってワシらのことは自由に使ってくれて構わんゾナ、でもシャンプーはしてくれなくていいゾナ」
橘音「珍しいですね?髪さまがシャンプーを拒否するなんて」
髪さま「怪力属性の鬼にシャンプーなんてされたら死んでしまうゾナ!それでなくとも最近は髪質が……」
橘音「悲しいなあ……」
>>46 祈ちゃん
橘音「大丈夫ですよ、祈ちゃん。期間内に投下して下さったのでまったく問題ありません」
髪さま「たったひとりで苦境ゾナが、なんとか頑張って欲しいゾナ。イザとなったらワシが助けに行くゾナ!」
橘音「そうやってムリヤリ出番をねじ込もうとするのやめてくださいよ、もう……」
髪さま「チッ……ゾナ」
橘音「では、ボクが投下して祈ちゃんも投下して下さったので、次はノエルさんお願いしますね」
髪さま「基本は橘音→祈ちゃん→ノエルで、尾弐がその中のどこかに入るというローテゾナ」
橘音「今回の祈ちゃんに対する八尺様の反応も、やって頂いて結構です。果たして祈ちゃんの運命は!?すべてはノエルさんの胸三寸!」
髪さま「ハードル上げるゾナねぇ……」
- 48 :
- あろうことか八尺様に手を指し延べる祈。言うまでもなく危険な賭けだ。
八尺様はその手を掴み……祈を異空間に引き込む……
とかいうこともなく、そのまま素直にリードされて歩きはじめた。
見事に作戦大成功か、それとも罠と気付きつつ敢えて乗ったのか……!?
゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚ 
>「妖怪とは『人の想いから生まれた』モノ、普通の生物とは違います。わかりやすく言えば『殺せない』――不死身の存在」
>「ですから――今回もいつも通りの手法で行きます」
「分かってる、僕にはむしろ普通の生物の方が謎だらけだ」
妖狐の橘音なら、あるいは遥か昔に普通の狐だった時代があるのかもしれない。
ノエルには、自分がいつ生まれたのか、最初から今の姿だったのか、正確なことは何も分からない。
気がついたらいつの間にか存在していた、としか言いようがない。
「来たみたいだね……!」
とんでもない妖気が近づいて来るのを感じた。
まだ変化を解くまでではないが、吐く息が白くなくなり、その身に尋常では無い冷気を纏う。
残っていたコーヒーを一気に飲み干そうとして……盛大に吹き出した。
なんと祈と八尺様らしき女性が手を取り合って恋人同士のように歩いてくるではないか。ドウシテコウナッターー!
まさか八尺様が行う小学生男子の捕食とは冗談じゃなくマジでそっち系の意味だったというのか!?
「これはこれは、ようこそおいでくださいました!美少年だらけの青空茶会へようこそ!」
戦闘モードに入りかけていたのを急遽交渉モードに変更。
若干トウが立っているうえに性別迷子と性別不詳の約二名を、ここは美少年で押し切ることとする。
ーーぽぽぽっ♪
なんと八尺様、ストライクゾーンと違うと怒ることもなく乗り気である。
大きめの遊具の上で、自販機のコーヒーでのお茶会が何故か始まってしまった。
返す返すもドウシテコウナッターー!
しかし交渉は一向に進まない。会話の内容以前の問題で、八尺様は「ぽ」しか言ってくれないのである。
人語は解しても喋れないだけなのかもしれない。そう思ったノエルは……
「お姉さんってラインとかするの?」
スマホを取り出し、ついでに橘音と祈にメッセージを送る。
相手が目の前にいながら内緒話をするときの常套手段である。
【一説には催淫術で相手を虜にする能力があるらしい!罠かもしれないきをつけろ】
それが本当だとしたらこの状況は危険、時間が経つほど相手の術中にはまる確率が上がってくる。
自分の邪魔をしようとする者達がいることを悟って敢えて祈の誘いに乗り、
一網打尽にしようとしている可能性が否定できないのだ。
「えっ、スマホ持ってない?あ、そうなんだ」
こんな感じで話は進展せず、皆が当初の予定通り強行手段に移ろうと思いはじめた頃……
いつの間にやらノエルの様子がおかしくなっていた。息は荒く、目はうつろ。
- 49 :
- 「どうしたんだろう、僕……何か、変だ……」
これはアカンーー注意喚起をした張本人が真っ先にその術中にはまる黄金パターンである。
「このままだと溶けてしまいそうだ……この熱を鎮めてくれ、八尺様……!」
八尺様は優しくノエルを抱き、その瞬間浮かべたのはーー獲物を捕らえた捕食者の笑みだった。
そのまままさかの本編で薄い本的展開に突入してしまうと思われた矢先ーー
ーーぽ!?
八尺様は短い悲鳴のような声をあげて、ノエルを放り投げた。
氷のような青い瞳に雪のような銀の髪ーー正体を現したノエルは氷粒の煌めきをまといながら着地。
静かな声で告げる。
「油断しきった密着状態で最大強度の冷気を叩き込んだ……一瞬とはいえ相当なダメージだったはずだ。
無駄な抵抗はやめるんだ」
対する八尺様は激しい怒りを滲ませながらガチのファイティングポーズで戦意を表明。
見た目に似合わず戦闘スタイルは巨体を生かした格闘系のようだ。
「やれやれ、一撃で戦意喪失までもっていければと思って頑張って演技したんだけどな……」
そう言いつつ軽く手を振るうと、手の中に鋭い氷の刃、言うなれば氷の刀のようなものが顕れる。
「来るよ、祈ちゃん!」
その声と同時に八尺様は跳躍し、戦いの火蓋は切って落とされた。
- 50 :
- 髪さま「いやはや、全年齢版的にどうなることかと思ったゾナ」
八尺様「キーー!この私の催淫術が効かない男がいるなんて…!さては貴様雄んなの子かオネエかっ!?」
ノエル「さあ。ところで知ってる?オスの三毛猫って本当はオスじゃないんだよ。別にいいけど君ここでは喋るんだ」
八尺様「……ポ!?ついうっかりポ! ということで午前3時ブリーチャー……ポ」
>>43
ノエル「鬼とは王道……!よろしくね!」
髪さま「ブリーチャーズはヒョロヒョロの集団かと思いきやマッチョもちゃんといたゾナ」
>>46
ノエル「文章の区切りは雪のイメージなんだ」
髪さま「なるほど、例えば祈ちゃんだったらどんなのがいいゾナ?」
ノエル「ダッシュしてる系の一行AAかな?」
髪さま「なるほど……。ところでバブルの時代じゃあるまいし何三角帽子を買い込んでるゾナ!
ノエル「実際はバブルどころではない年寄りだけどねっ」
髪さま「……そうだったゾナ。この業界はジジイババア性別不詳ばっかりゾナ。つくづく祈ちゃんは貴重な存在ゾナ」
>>47
ノエル「お言葉に甘えて戦闘開始までいってしまいますた」
髪さま「イってしまいました……ゾナ!?」
ノエル「そこ、無意味に意味深な変換すな!」
八尺様「本当はガチで術にかかってて寸でのところで正気に戻って
演技だったことにした可能性が微粒子レベルで存在する……ポ!」
ノエル「存在しねーよ!?(必死)もう駄目だ、深夜テンション収集付かない!」
髪さま「いい加減寝るゾナ」
八尺様「ポポポ」
- 51 :
- 曇天。
遍くを照らす陽光は無く、然りとて地を濡らす雨も無い。
或いは、それは夕暮れ時にも似た狭間の情景の中。
黒白の鯨幕で覆われた部屋の中から、男は立ち去って行く一つの家族を見送る。
父親と母親
祖父と祖母
涙を流しながら、励まし合いながら、並んで男から遠ざかって行く四人の家族。
本来は、五人であった家族。
だが、その中に一週間前まで居た少年の姿は今はもうない。
死んだからだ。
原因不明の衰弱死。
それが、元気に遊び駆け回り、人懐っこく、子供たちの中心であった少年の死因であった。
そして……その少年の死に顔は、苦悶と苦痛、何より恐怖によって彩られていた。
異常とも言える、年若い子供に相応しくないその形相。
そんな物を誰にも見せたくなかった為に、少年の家族は身内だけでの葬儀を執り行った。
そして、つい今しがた火葬と告別式を終え、離別の悲しみを抱えたまま帰路に付いたという訳である。
「……全く、やるせないねぇ」
そんな家族を見送る男……喪服を着こみ、髪をオールバックで纏めた大男。
彼は、首元を手で押さえながら小さな声でそう漏らす。
警察は、病死だと言っていた。
病院は、原因不明の奇病だと言っていた。
だが、男は……少年の葬儀を執り行った、尾弐 黒雄 は知っている。
少年は、死んだのではない。殺されたのだと。
人に仇名す人外のモノ――――『妖壊』に憑り殺されたのだと。
不可解な死に方と、少年の死に顔、何より……遺体に纏わりつく、特有の気配が。
尾弐 黒尾がこの仕事を始めてから何度も感じてきた、悍ましい『この世ならざる』気配が、それを伝えていた。
「……おっと、浸ってる場合じゃねぇか。式場の片付けと葬儀代の回収しねぇとな」
けれども、その真実を知っても尾弐が動く事は無い。
感情に任せて動く事が出来る程に尾弐は若くなく、或いは……心自体が時間の経過と共に腐り果てているのだろう。
そのまま欠伸を一つして事務所まで戻った尾弐であったが、ふと壁に貼られたカレンダーに付けられた赤丸を見て思い出す。
「ああ……そういや今日は例の『八尺様』をどうにかする日だったか」
脳裏に浮かぶのは、計画を立ち上げた者達の姿。
正体不詳の狐面に、雪女の雄、都市伝説の混じり者の少女
「bleachers……“ヒョウハクする者達”か。全く、意地の悪い言葉遊びな事で」
皮肉気な笑みを浮かべながら呟き、尾弐黒雄は事務所の椅子に腰かける。
「ま、集合時間まで暫くある事だし……一杯引っかけてから向かうとするかね」
そうして取り出したのは、日本酒の瓶。
先の葬儀の際に、死んだ少年の祖父が「お礼に」と渡してきた高価な日本酒であった。
――――――――――
- 52 :
- 黄昏時とは、誰ぞ彼……眼前のモノが、この世の者かそうでない者かの区別が付かなくなる時の事。
幽世と現世の境が曖昧になる時の事。
そんな、人ならざる者達の蠢き出す時の中。
都内に在るとある公園で、人外共の狂乱が始まっていた。
「ぽ……ぽぽぽ……」
沈みかけた太陽の残光の中で動き回る、複数の人影。
その中で真っ先に目に入るのは、身の丈八尺はあろうかという大女の姿だろう。
白のワンピースと、幅広の帽子を身に着けた女。
人間では在り得ない長身を有するその女こそは、『八尺様』。
インターネットを媒介として、その恐怖と共に近年急速に世に広がった化生。ネットロアの権化。
正体不明……一部では、祟り神の一種ではと噂される『八尺様』は、現在、この公園でその化物としての属性を露わにしていた。
「ぽぽ……ぽぽぽっ……」
眼前の獲物……先程、八尺様へ不意打ちを行った青年、雪女の類であるノエルに対し彼女が振るうのは、その身長に比例して長い手足。
疾走する自動車にさえ追いつく膂力を持つ八尺様の鞭の如き打撃は、音を置き去りにして触れる物を破砕する。
シーソーは砕け、ブランコの支柱は飴の様に曲げ折られ、埋まったタイヤは地面から掘り返される。
明らかに肉体が繰り出せる威力の上限を超えた破壊であり、物理的に考えれば
どう考えても異常な現象だが……現代日本において有数の知名度を誇る妖物である八尺様であれば、この程度は当たり前にやってのけられる。
それは、人間の感情が彼女に力を与えている故。
人間の持つ感情、特に信仰や恐怖と言ったものは、化物の餌となり、化物を強くする。
八尺様程の知名度になれば、その餌の量は膨大……それこそ、狐面を被った妖狐である那須野が張った結界に囚われ、
尚且つ並みの化物では身動き出来なくなる程の威力を持つノエルの一撃を受けても、未だ暴れ回れる程の力を得る事が出来るのだ。
そしてその猛威は現在……というよりも、この公園に八尺様が囚われてからずっと、ノエルにのみ向けられていた。
他の面々の攻撃に対しては、払いのけ、避けたりはするものの、具体的に反撃するまでには及んでいない。
それは、ノエルが八尺様に不意打ちの一撃を入れたという事もあるだろうが、何よりも……
「ぽぽぽぽぽ……」
彼女が、好みの『獲物』である男装をしている少女、多甫祈と、那須野を、『今は』傷付けない様にと考えている事が大きい。
逆に言えば、八尺様がそう思っている間は、ノエルが存命な限り二人の安全は保障されているのだが……
「…………ぽ?」
ふと、八尺様がノエルに対する猛攻の手を止めた。そして、首を九十度横に折り曲げ、祈の方へと向き直る。
その目……化物らしい負の感情が堆積した昏い目は、見てしまったのだ。
八尺様の攻撃により舞い起きた風で、祈の被った野球帽がほんの少し持ち上った……その中の顔を。
「ぽっぽっぽっ……」
自分が見たものを確かめる様に、八尺様はその長い腕を祈へと伸ばし……
- 53 :
- 「――――ぼっ!?」
直後、長身の八尺様が『く』の字に曲がり吹き飛んだ。
見れば、八尺様が先程まで立っていた場所に、先程までは居なかった新たな人影が一つ。
黒ネクタイと黒スーツ……所謂喪服を着こんだ、身の丈190cmを超える、筋骨隆々の大男。
右拳を前に突き出した姿勢で佇む、その男の名は……尾弐 黒雄
「……」
まるで子供向けのヒーローの様に颯爽と現れた尾弐は、那須野達の方へと向き直ると
「…………お、おえええぇェェ……!!」
そのまましゃがみ込み、盛大にゲロった。
「……くそっ、あのジーさんよりにもよって鬼殺しなんか渡しやがって……うぷっ……」
どうやら、酒を飲んで遅刻した挙句に、その銘柄が体質に合わなかったらしい。
色々と台無しである。そうして、暫くの間マーライオン状態になっていた尾弐であったが、
胃の中が空になった辺りで少し落ち着いたのだろう。
ポケットティッシュで口元を拭い立ち上がると、那須野の方へと向き直る。
「あー……吐いたらちっと楽になったぜ……で、遅刻しといてなんだが、コレどういう状況だよ那須野。
色男と……新入りっぽい坊主まで呼んだにしちゃあ、随分厄介な事になってるみてぇだがよ」
そうして視線を動かし、ノエルと男装した祈を眺め見た後、最期に八尺様が吹き飛んで行った方へと視線を向ける。
「ぽっぽっぽっ……」
「……おいおい、あれでまだ元気なのかよ。マジで相当厄介な事になってんな。いざとなったら俺、戦略的撤退していいか?」
尾弐の向けた視線の先に居たのは、未だ健在な八尺様の姿。
どうやら……一筋縄では行かなそうだ。
- 54 :
- 髪さま「……」
尾弐「……」
髪さま「……」
尾弐「……」
髪さま「……おーい、始めないゾナか?」
尾弐「……あ?何を?」
髪さま「何を?じゃないゾナ!オマケコーナーゾナ!『尾弐黒雄のナイト・ブリーチャー!』とか何とかさっさと始めるゾナ!」
尾弐「いや、なんでいい年したオッサンがンなもん初めなきゃならねぇんだよ。つか、今腰に湿布貼ってんだからちょっと静かにしてくれ」
髪さま「わざわざこのワシを出しておいておまけコーナーで湿布貼り始めるとかどういう了見ぞな!?」
尾弐「うるせぇなぁ、集中させてくれって。湿布が皺になったらどうしてくれんだよ。以外と不愉快なんだぞアレ」
髪さま「知らんゾナ!……ええい!もうこうなったらワシが開始の音頭を取るゾナ!」
髪さま「『尾弐黒雄のナイト・ブリーチャーもどき!』始まるゾナ!司会は亜麻色の髪の貴公子、髪さまと!」
尾弐「あ、やべ。ちょっと湿布の端の方が皺になったから伸ばしてくれねぇか?」
髪さま「本編でゲロ吐いておまけで湿布貼り続けるとか、自由なのも大概にするゾナ!?」
>>46
尾弐「おう、宜しく頼むわ。嬢ちゃん」
髪さま「……んん?そういえば、尾弐は本編で祈の事を坊主って呼んでたのに、なんで普通に宜しくしてるゾナ?」
尾弐「あん?そりゃあ、知り合いが変装をしてる時は見て見ぬふりをするのがマナーだからだよ。空気を読む社会人のスキルって奴だ」
髪さま「とかいいつつ、実は気付いていなかったりするゾナ?」
尾弐「おいおい、これでも俺は葬儀屋だぜ? 男と女の違いくらい一発で見抜けるっての。骨格とかで」
髪さま「割と気持ち悪い見抜き方ゾナね」
>>47
尾弐「ん?ああ、おう。宜しく頼むぜ……つか、八尺様を微妙に動かしちまって悪いな。ああでもしないと捻じ込めそうになかったんだわ」
髪さま「やれやれ、これだから応用力の無い奴は駄目ゾナね。どんな状況も泰然と切り抜けるワシを見習うゾナ」
尾弐「……あ。そういや、新人の仕事ってお前さんの洗髪なんだってな。薬用石鹸しかねぇけど洗ってやるからちょっとこっち来いよ」
髪さま「嫌ゾナあああ!昭和初期の人間並に髪のコンディションとか気にしてないオッサンに洗われたくないゾナアアア!!」
>>50
尾弐「マッチョねぇ……まあ、筋肉質なのは確かだな。つか、色男とか那須野が細いってだけな気もするけどよ」
髪さま「まあ、どいつもこいつもワシの若い頃に比べればまだまだゾナ!」
尾弐「いや……そもそも髪を鍛えるってどうやんだよ。早く育つように引っ張ったりすんのか?」
髪さま「故事成語の由来みたいな恐ろしい事を言うなゾナ!」
- 55 :
- 正直な話、祈が役目を果たせるかどうか自信はなかった。
妖怪には歴史、逸話、知名度――それらによって厳然たる位(ランク)が存在し、頂点はいわゆる魔王、神、と呼ばれる。
極端な話、一般に仏だとか、西洋で天使だ悪魔だと言われている者も、すべては妖怪の一種である。
それらの存在もすべて、人間の豊かな想像力によって生まれたのだから。
そんな妖怪のランクの中でも、神の名を冠するだけあって祟り神は相当な上位に位置する。
人間の感情の中で最も激しく、最も強いもの。それは『恨み』である。
菅原道真や崇徳上皇の例がある通り、人間は自らをも焼き焦がすほどの恨みによってしばしば祟り神に変じる。
恨みとは無限のパワー。対象が滅びるまで、その力が衰えることは決してない。
いくら祈が身体能力において他の追随を許さないとは言っても、正面切って八尺様に勝つことは不可能に近い。
攻撃されるほど、時間が経つほど、八尺様の恨みは激しく、強くなる。
持久戦は不利、といって一瞬で勝負を決められるほどヤワな相手でもない。
恨みつらみを原動力とする八尺様に対して祈に優位な点があるとしたら、人間の血を引くゆえの柔軟な発想力だろう。
『夜にしか姿を現さない』『相撲を挑まれると断れない』等々、妖怪は自らのルーツにまつわる習性に固執する。
八尺様にも『縄張りを周回する』『子供(少年)しか狙わない』という習性がある。
古来より、自らの習性に執着するあまり自滅する妖怪の逸話が数多くあるように。
祈に勝算があるとすれば、そんな妖怪の持つ掟を衝くより他にないのだ。
……そして。
>来たみたいだね……!
「そのようで。……って……あ、あれ?」
どれほど待っただろうか、足許から忍び寄る夜の冷気が少々つらくなってきたころ、祈と八尺様が公園にやってくる。
祈は見事に自分の役目を果たしたらしい。ほっと胸を撫で下ろしながら、橘音は身構えてマントの内側に左手を入れた。
が、何か想像と違う。
てっきり追いつ追われつしてくるとばかり思っていた祈と八尺様が、仲良く手なんて繋いでいる。
ノエルと同じく戦闘モードになっていた橘音もまた、慌てて頭を切り替えた。
>お姉さんってラインとかするの?
コミュ力のあるノエルが八尺様にフレンドリーな対応をする。
ノエルからの密かなメッセージを受け取り、こちらも『OK』とデフォルメされた狐が前足でマルを作っているスタンプを送る。
尤も、五感に訴える術の類は橘音には通用しない。かぶっている半狐面の効果だ。
ともあれそうして話していると、突然ノエルが体調不良を訴え始めた。
さっそく催淫術の効果が表れ始めたというのだろうか?
バギュッ!!
八尺様がノエルの身体に両腕を回そうとした瞬間、両者が弾かれたように離れる。
ふたりの間に雪華が散る。真冬ではあるが、ここは東京。本日降雪の予報はない。
ノエルの放った冷気が、束の間周囲の空気を凍てつかせる。
凄まじい凍気だ。並の妖怪なら一溜りもあるまい。――が、直撃を喰らったはずの八尺様は平然としている。
八尺様がアップライトスタイルで構える。どうやら、自分が嵌められたということに気付いたらしい。
「ノエルさん、そこは服を脱ぐくらいのサービスはしてあげなきゃ!」
ノエルの演技が功を奏さなかったことに対して、どうでもいい茶々を入れつつ。
橘音もまた身構え、マントの内側に改めて左手を突っ込んだ。
- 56 :
- >来るよ、祈ちゃん!
注意を促すノエルの声を合図とするように、八尺様が一気に突っかけてくる。
ドッ!ドウッ!ドズッ!
あっという間に距離を詰めてきた八尺様の拳の連撃が、ノエルを襲う。
驚異的に長いリーチから放たれる、迫撃砲のような重い打撃だ。防御をしてもなお衝撃が身体に響く。
それを、八尺様は矢継ぎ早に繰り出してくる。一打一打に憎悪のこもった、致死の拳撃。
八尺様のラッシュを凌げるのは、ノエルが見た目の優男ぶりに反して手練の漂白者であるからと言うしかない。
怒涛の攻勢の隙を衝き、ノエルもまた氷で作った刀を振りかざす。氷華が舞い散り、足許に霜が生まれては消えてゆく。
人外の身体能力を惜しげもなく使った、異能同士の戦闘。
「……いやはや、いつもながら目まぐるしい」
ふたりの熾烈な戦いを少し離れた場所で見守りながら、橘音が呟く。
それから、祈の方をちらりと見る。
「祈ちゃんもノエルさんに加勢を。ノエルさんの盾になるイメージで、積極的に八尺様の前へ出てください」
「八尺様は祈ちゃんには手出しできない。卑怯と思われるかもしれませんが……そこはご容赦願いますよ」
祈に対してそう要請する。八尺様の習性を利用しての戦術だ。
橘音は直接戦いには加わらない。ただ戦闘を傍観しているだけである。
橘音は荒事がまるでできない。跳躍力や瞬発力などは並の妖怪レベルにあるが、腕力は人間と大差ない。
元々頭脳労働者という位置づけだ。自然、離れた場所で戦闘を分析するのが仕事になる。
――ふむ。
八尺様の能力を、半狐面を通して解析する。
一見リーチと長身から来る単純な拳打のように見えるが、決してそれだけではない。
人外の膂力と速度。そこから発生する衝撃波が、触れることなく周囲のものを破壊してゆく。
まるで意志を持った嵐だ。祟り神と相対するのは初めてではないが、この力は脅威以外の何物でもない。
そして、祟り神の恨みの力は時間が経てば経つほど増大していくのだ。
持久戦はこちらに不利と言うしかない。このままでは、いずれジリ貧で敗れるのはこちらの方だろう。
だが、そんなことはさせない。
仲間が力尽きる前に敵の弱点を看破し、攻略法を伝える。それが自分の役目なのだ。
――それにしても。
二対一の戦闘であっても、八尺様が怯む様子はほとんどない。むしろ、初期よりその攻撃の威力と速度は上がっている。
げに恐るべきは恨みの力――ということだろうか。
直接戦闘メンバーは二人もいればよかろう、と思っていたが、見込みが甘かったかもしれない。
自らの計算違いに、橘音は内心舌打ちした。
何かに気付いたらしい八尺様が、祈へと手を伸ばす。
――バレた……か?
まずい。ここで祈が少年でないということが露見すれば、八尺様は益々怒り狂うだろう。
ふたりがかりでも若干劣勢気味なのだ。さらに八尺様が恨みを増加させれば、漂白どころの騒ぎではない。
橘音はマントの内側の左手に何かを掴んだ。そして、それをマントの外へと出そうとした。
が、その瞬間。
バギィッ!!!
八尺様の長身がまるでトラックにでも撥ねられたかのように大きく後方へと吹き飛ぶのを、橘音は見た。
- 57 :
- 「……あ、あなたは……!」
思わず頓狂な声を出してしまう。仮面の奥で、橘音は目を瞬かせた。
今しがたまで八尺様がいた場所には、代わりに黒ずくめの大男が佇立している。
もちろん、その姿には見覚えがある。東京ブリーチャーズのひとり、尾弐黒雄。
「クロオさ―――んっ!来てくれたんです……ね……?」
>…………お、おえええぇェェ……!!
予想外の援軍に橘音は満面喜色を湛えたが、すぐにその口許がひきつる。
この上なくかっこいい登場の直後に、この上なくかっこ悪い嘔吐。バンジージャンプ並に高低差が激しい。
若干引き気味に見守っていたが、黒雄が復活し、
>で、遅刻しといてなんだが、コレどういう状況だよ那須野。
と訊ねてくると、はっと気を取り直して一度咳払いした。
「今日は葬式があるから行けるかわからん、期待するなって言ってきたのはクロオさんでしょ?だから先にやってたんですよ」
「いやあ……相手は祟り神とは言え、バックボーンのない都市伝説系。三人でも何とかなるかな、と思ったんですが……」
「やっぱり、腐っても祟り神。ちょっと荷が重いと考え直してたところだったんですよねぇ。グッドタイミング!」
そんなことを、後頭部をポリポリ掻きながらあっけらかんと言う。
戦力が足りないと思っていたのは事実だ。しかし、これでぐっとこちらの勝機が増した。
ノエルの凍気。祈のスピード。そして黒雄のパワー。
三者三様のこの強さがあれば、怒り狂う八尺様とて漂白することは充分可能、と算段する。
あとは――
ぽっ、ぽぽっ、ぽっぽぽぽ……
はるか遠くまで吹き飛ばされたはずの八尺様が、暗闇の中でぼんやりと佇んでいる。
今までの戦闘で少なからずダメージを受けている筈なのに弱っているそぶりがないのは、汲めども尽きぬ恨みの力によるものか。
その周囲の地面から、八尺様の肌の色と同じ蒼白い色の『腕』が無数に生え、化生たちを捕えようとおぞましく蠢く。
禍々しい怒りと恨みの波動が伝播し、離れたところにいる四人の産毛をピリピリと刺激する。
>いざとなったら俺、戦略的撤退していいか?
「いいですよ、ただしボクが逃げた後でよろしく!」
黒雄の軽口に軽口を返す。こんな遣り取りはいつものことだ。
「ノエルさん、祈ちゃん、クロオさん。もう少しだけ彼女のお相手をお願いします。ボクに時間を下さい」
「そう。八尺様をどうにかする方法を考える時間を――」
ぽぽっ、ぽぽぽ、ぽぽ……
八尺様が悠然と歩を進める。息苦しいほどの憎悪の力が公園内に満ち、地面に生えた腕の群れがノエルたち三人へと伸びる。
戦いは、まだ続く。
- 58 :
- 八尺様とは本来、ワンピースを着た女性型怪異のことを指す単語では『ない』。
八尺様の起源は古く、室町時代にまで遡る。
中世の日本ではしばしば大規模な飢饉が発生し、人々は貧困と飢餓にあえいだ。
そういった自然相手の天災が発生した場合、人々の取る方策とはひとつしかない。『神頼み』である。
人々は自らの境遇を神の怒りによるものと考え、状況を打破するため神に祈りを捧げた。雨乞いなどその最たるものであろう。
しかし神とは狭量なもので、無手の祈りには耳を傾けない。願いの対価には供物が必要である。
人々は願いを叶えて貰うため、なけなしの食べ物や酒を神前に興じた。
そして、そんな供物の中で最も価値があるとされたのは、人間の命であった。
川の氾濫を食い止めるため、水神へ生娘を嫁に出す。豊作を祈願し、山神に屈強な若者を捧げる。
そんな人身御供の逸話は、枚挙に暇がない。
飢饉のときにも、人々は日照り神への供物に人間の命を捧げた。
一番多く捧げられたのは年若い子供、少年の命である。
育ち盛りの少年は漲る命そのものであるし、第一よく食べる。
神に捧げる供物としては、これほど適した者もない。口減らしにもなって一石二鳥である。
生贄に選ばれた少年は死ぬことで神の許へ遣いにゆき、地上の人々の窮状を訴える使者とされ、『橋役様』と呼ばれた。
神と人間のあいだを取り持つ橋渡し役。ゆえに『橋役様』――
『八尺様』とは、その『橋役様』が転訛したものである。
『橋役様』は村の中から適任とされる少年が無作為に選ばれたが、選ばれた方は堪らない。
特に反対したのは『橋役様』に選定された少年の母親である。
腹を痛めて生んだ子を、村のため生贄にしてRといきなり言われるのだ。しかし、拒絶することなど許されない。
結果、底知れぬ恨みと憎悪を抱いて子を手放すことになる。
それで首尾よく飢饉が終わるなり、雨が降るなりすればまだ救いはあろう。だが、そうならなかった場合はなお悲惨である。
実子を奪われたうえ、あの子は役目を果たせなんだ、役立たずだと陰口を叩かれる羽目になる。
そうして子を奪われた多くの母親たちの怒り、嘆き、憎悪や恨みはやがて形を成し、女怪の姿を取った。
本来八尺様が年端もゆかない少年を愛でるのは、性欲ゆえではない。
八尺様は求めているのだ。
理不尽な理由によって奪われた子供を。その命を。
もう一度、愛する我が子をこの手に抱きたいと。そう願っているだけなのだ。
八尺様が少年を犯し、精を搾り取ってRというのは、最近のネットロアによって付与された属性に過ぎない。
なぜなら、妖怪とは人々の想いによって生まれるもの。
人々が「そうあれかし」と思えば、それはそうなるしかないのだ。――例え、事実とはまるで異なる話であっても。
いつしか供物の少年を指す言葉『橋役様』が『八尺様』となり、その名も祟り神と化した女怪を指すものとなった。
八尺様の背が高いのも、名前から来るイメージが外見に影響されたもの。
『背が高いから八尺様と呼ばれた』のではない。『八尺様と呼ばれるようになって背が伸びた』のである。
従って。
八尺様の怒りと恨みを和らげるには、その根本的な問題を解決してやるしかない。
「じゃっじゃーん!狐面探偵七つ道具の壱!『召怪銘板(しょうかいタブレット)』〜!」
どこかの猫型ロボットのような口調で、橘音はマントの内側からこれ見よがしにタブレットを取り出した。
一見すると単なる10インチタブレットだが、フレームに髑髏など禍々しいレリーフが施されている。
もちろん、このタブレットは単なる市販の電化製品ではない。
日本妖怪の双璧、山本五郎座衛門と神野悪五郎。
『稲生物怪録』にあって魔王と呼ばれる二体の超大物妖怪の妖力が、このタブレットには宿っている。
魔王傘下の妖怪を一瞬で召喚し、その能力を行使できる妖具――それが『召怪銘板』。
音声認識機能付きでフリック入力の手間も省けるスグレモノである。
さっそく、橘音はタブレットへと一体の妖怪の名を告げた。
……ひたり。
ひたり、ひたり。ひたり……。
戦闘の続く公園内に、新たな何者かの足音が響く。
八尺様がそちらを見る。
真っ黒いシルエットの、しかし少年のような輪郭のそれ。
それを目の当たりにして、八尺様の攻撃の手が束の間緩んだ。
- 59 :
- 「……おっかぁ?」
橘音が呼び出した真っ黒なシルエットが、不安げな子供の声で言う。
そのまま暗闇に溶け込んでしまいそうな影のようなそのシルエットは、
よくよく目を凝らせば人間の少年のものであることが分かる。痩せた体に、この時代にそぐわない粗末な着物。
足は裸足だろうか。
だが顔は分からない。輪郭もぼやけて曖昧だ。
それはこの黒い少年が、己の顔すらも忘れてしまっていることを意味していた。
意志の弱い幽霊や力の弱い妖怪には時折あることだが、
長い時を経るなどすると彼らのことを誰もが忘れてしまう。というよりも覚えている者がこの世から消えてしまうのだが、
そうなると現世との結び付きが薄弱になり、己の姿を保てなくなっていくのである。
有名な妖怪ならばいい。噂や伝説などで語り継がれることができる。
それによって力を保ち、あるいは増し、今生にも存在を残すことができる。
だが全てに忘れ去られた力の弱い妖怪はそうではない。
今はかろうじて人の形を保っているが、やがては不定形の影となり、
己がなぜ現世に執着しているのか、なぜ妖怪なのか、なぜこの世を彷徨っているのかすらも忘れて
ただただ、世を揺蕩うだけの存在になるのだ。
そんな存在になる一歩手前のそれ。黒い少年の声を受けて、今度こそ八尺様の動きが止まる。
再び攻撃しようと振り上げた長い腕を脱力したようにだらりと落とし、
今しがたまで戦闘していたノエルをも忘れてしまったように黒い少年に向き直り、ただ一心に見つめている。
黒い少年もまた八尺様を見つめて、八尺様へ向かって歩いていく。
恐る恐る、というような歩調。何かを確かめるような、危なげな足取り。
そしてひと時だけ少年が動きを止める。何かに気付いたような気配があった。
「せぇ、でっかくなってるけど、やっぱりおっかぁだ! おっかぁ!」
八尺様へと近づく少年の足が早足になる。
顔はないが、その弾むような声音や動きで、少年が喜びに満ちているのが分かった。
その声を聴き、姿を見た八尺様の姿に変化が生じた。
- 60 :
- ――自分の息子をかわいがる隣家の女を見ると涙が滲んだ。
私にはあの子がいないのに、どうしてお前だけ。私にもあんなかわいらしい笑顔を向ける子がいたはずだったのに。
すがる思いで神に手を合わせたが、息子は帰ってこなかった。
雨が降らないからと、生贄に捧げた息子を役立たずだと罵った男を殺してやった。
私に我が子を差し出させておきながら、己の娘だけは守ってのうのうと暮らす村長を鎌で刺したが、Rことはできなかった。
村の男衆に捕まり、気狂いだとして閉じ込められ、殺された。首を絞められた。
あらぬ限りの力で叫んだ。返せ。
どうして。お前たちの所為じゃないか。
返せ。
お前たちの所為だ、お前たちの所為だ。我が子を返せ。もう会えない。
祟ってやる呪ってやる、殺してやる。我が子を返せ、もう一度会わせて。会いたい。
どこにいるの。殺してやる。私の子は。どこに。
「おっかぁ?」
「――あ……あぁ……あぁあああああ……!!」
おっかぁ。
己をそう呼ぶ姿は、見間違うことがない。山に森に、川に、谷底に。
どこにいるのかと、どこかにいるのではないかと、ずっと探し求めていた姿。
供物として捧げられた、救ってやれなかった我が子。生贄にされてしまった可哀想な我が子。
もう会えないと思っていた愛しいものが、駆け寄ってくるのを感じる。
ああ、こんな背の高さではあの子を抱きしめてあげられない。
どうして己はこんな姿になっているのだろう?
前の姿に戻って、我が子を安心させてあげなくては。
悲鳴を上げた八尺様の姿が、見る見るうちに縮んでいく。
その背丈は一五〇センチもないかもしれなかった。
また、着ているものはワンピースなどではなく、少年と似たような粗末な着物であるように見え、
先程のような若い女の雰囲気は微塵も感じられなくなっていた。
その輪郭はまるで陽炎のようにぼやけて、幾重もの、何人もの影が重なっているように見えた。
陽炎のような姿になった八尺様は、膝をついて諸手を広げ、走ってくる影のような少年を抱きとめた。
そして強く胸に抱きよせる。
「あいたかった。もうずっとあえないかとおもったよ、おっかぁ……」
その陽炎の腕の中で、安らいだような声を上げる、影の子供。
「太一かい?」
「次郎?」
「ぎん」
「一、一だ。あぁ……」
「六助……?」
陽炎の女が口々に、子どもの名を口にする。陽炎が一層揺らいで、複数の女の姿がブレて見えた。
八尺様。その元になった『橋役様』とは、
愛しい我が子を生贄に取られた母親達の怨念や魂が祟り神と化したものだ。
故にその存在にある想いや魂は一人のものではない。何人もの母が、その存在に囚われていたのだ。
母親が呼びかけると、少年の影から一人、また一人と、
顔の判別できる少年が剥がれるように出て来て、返事をした。
母の記憶が、少年たちにかつての姿を取り戻させていく。
橘音が呼び出した黒い少年もまた、『橋役様』として選ばれた少年たちの魂だった。
その無念や寂しさ、痛み。母を求めるその声が、やがて名も形も知られぬ妖怪として一塊になった姿だったのだ。
彷徨い歩いていた両者。母を見つけた子と、子を見つけた母は、
強く抱き合ってはやがて、天に昇るように消えていく。
- 61 :
- その光景を見て状況を理解できないのは、橘音以外のブリーチャーズ全員だっただろう。
ノエル、尾弐、そして祈の3人は、事態の推移を見守りながら、橘音の傍らへとやってきた。
「どういうことだよ、あれ」
先に口を開いたのは祈だった。あれ、と顎でしゃくって、八尺様たちを示す。
先程まで激しく戦っていたかと思えば、
橘音がいつもの妖怪時計もとい便利妖怪召喚タブレットによって黒いシルエットを呼び出し、
それが八尺様に語り掛けると、どうやら八尺様は満足してその黒いシルエットと共に成仏していくようである。
打ち合わせでは、自分達が戦闘で八尺様を叩きのめし、会話でなんとか納められれば良し、
できなければ封印等で漂白ということであったのに、話と違うではないか。納得できる説明を求む。
そう言いたげな不満そうな顔で、パーカーのポケットに両手を突っ込んでいる。
すっかり戦闘状態が解除されたと見ているようだった。
尾弐も似たようなもので、あくびなどしている。
八尺様と真正面から戦っていたノエルはその点冷静で、微かな冷気を体に纏わせたままであった。
祈の質問に答えず、橘音は人差し指を立てて仮面の口の前に持ってきた。
「説明は後です。まだ最後の戦闘が残ってますから」
そう言って、仮面の口の前に持ってきた指を、八尺様へと向ける。
その先には、一人の女が残されていた。
全てが成仏した訳ではなかった。
黒い少年達も、陽炎のようになった女達も消え去った後で、残されているモノがある。
陽炎の女たち、祟り神『橋役様』が居た場所に残されているその女は、
白のワンピースを着た、若い女だった。
それは八尺様の姿。
だが八尺という程に大きなものではなく、身長は180センチ前後と言った所か。
「――うふっ、ふふっ」
女から笑い声が聞こえる。
女はそれを恥じているのか、両手で己の口元を塞いだ。
「うふ、うぷぷ、……ぽっぽぽ」
口を両手で塞いでなお、堪えきれない笑いが、泡が弾けるような奇妙な破裂音を生んだ。
男か女かも判別つかぬ、不気味な笑い声となる。
この女こそが。橋役様が八尺様という都市伝説へと転ずる元凶となった者であった。
- 62 :
- ある田舎の村で男児を狙った陰惨な事件が起きた。
犯人はなかなかに長身の女で、犯行時白いワンピースを着ていたことがわかっている。
女は、男児への歪んだ性愛を抑えることができなかった。
公園で見知らぬ男児に声を掛けるというだけでも充分に異常な行動だが、
女はある時は2mを超える塀をよじ登ってでも男児の姿を眺めている、というような常軌を逸した行動に出ることがあった。
男児たちはその女の視線に気が付いて言うのだ。
「とても大きな女の人が塀から顔を出して、じっとぼくを見ていた」と。
塀を超すほど背丈の大きな女が子供を見つめていると言う噂は、実しやかに囁かれ、村中を駆け巡った。
ある時誰かが言った。それはもしや『八尺様』ではないか、と。
当時その村では、既に橋役様の名前は訛りはじめて、八尺様という名で定着しつつあった。
八尺様と言う言葉の響きから八尺にもなる大柄の女というイメージが独り歩きしており、
それは塀を越して男児を見る女の姿に合致していたのである。
そして八尺様は生贄として我が子を捧げているとも伝わっていた為、
八尺様は男児たちに失った我が子の姿を重ねて見ているのでは、という話になってしまった。
こうしてその異常な性愛を持った女と、
八尺様へと名を変えた橋役様のイメージは奇妙に結びついていくことになる。
念の為、異常者かも知れないという事で自治会などから児童や保護者らに注意喚起がなされたが、
身長が2mを超えるという話や、秋でもワンピースを着ているという特徴、
ぽぽぽという奇妙な笑い声がするという話はどうしても噂話や子どもの怪談の域を出ない。
注意喚起も虚しく、それは八尺様と言う怪談話として面白おかしく伝播していくことになったのだった。
しかし女はやがて、男児を攫い、犯した後に惨たらしくRという事件を起こした。
これで女が捕まればまだよかっただろう。
八尺様などいなかった、背がそこそこ高い異常者がいただけだと、
犯人は捕まりもう脅威は去ったのだと、村の住民は安心することができたし、八尺様の噂も消えただろう。
だが女は決して捕まることはなかった。それがいつまでも住民を恐怖に陥れることになった。
実際には女は警察を恐れて山に入り、誤って谷底へと転落して死んでしまったのだが、
それが誰にも知られなかった為に、まるで妖怪のように、本物の八尺様が出たかのように、
住民たちを心のどこかで怯えさせ続けてしまった。
それがこの八尺様を生み出した。
人々の恐怖は、死した女を八尺様として蘇らせ、そして女は完全に八尺様に成り代わってしまった。
八尺様とは『生贄として男児を奪われた母親の無念の集合体であり、祟り神』……ではなく、
『八尺ほどの背が高い女の妖怪で、気に入った男児を攫い、犯し、取りRもの』の意味となり、
その元となる橋役様の噂も、橋役様という祟り神となった女たちの強力な力をも自らに取り込んで、
主導権を握り、八尺様は暴れまわるようになる。
そして暴れた形跡の一部が、ネットで拡散される今の八尺様の都市伝説を形作ることへと繋がるのだ。
この女こそ。もう一つの八尺様。
祟り神・橋役様を取り込み、その力で勝手気ままに子供を攫い殺していた悪鬼。
異常性愛者にして、子供を犯して殺して回る快楽殺人者の妖怪。
「うぷっ……ぽぽっ、ひはははは!!」
もう一つの八尺様は哄笑する。そして大きく見開いた眼で、4人を見る。
楽しみを邪魔した者を許さない、そんな怒りの籠った眼。
それを向けられて尚、動じることなく橘音は淡々と言った。
「祟り神としての力は削ぎました。アレは八尺様の抜け殻とも言うべき、大したことのない妖怪となったはずです」
一拍置いて、続ける。
「お三方なら大丈夫だとは思いますが、気を付けてくださいよ?」
- 63 :
- 祈 「多甫 祈の! えーと、オマケ……にすらならないコーナーだッ!」
祈 「もうあたしのターンかなと思って続きを書いちゃったけど、
もし>>58が途中で、橘音が残った2日ぐらいで続き書こうとしてたらどうしようって今更思ってさ」
祈 「そんでちょっとだけこう、書いてんだけど……」
祈 「もしそうだったら、ご、ごめんな? その時はあたしの方は無視しちゃっていいから!」
祈 「てことで、その。ごめんっ! そんだけ! じゃーねっ!」
- 64 :
- 橘音「皆さんおはようございます。毎度おなじみ流浪のコーナー、那須野橘音のモーニング・ブリーチャーのお時間です」
髪さま「もう少し節操を持てゾナ」
>>63 祈ちゃん
橘音「何も問題ありません!というか、祈ちゃんにはボクの目論見をことごとく看破されてしまいました……」
髪さま「もう、チームのブレーン交代した方がいいんじゃないかゾナ?」
橘音「そしたらボクはお茶くみだけしてればいいですか?……それはともかく、いい流れだと思います」
髪さま「橘音が当初想定していたシナリオよりよっぽど面白いゾナ」
橘音「ぐうの音も出ません……」
髪さま「じゃあ、あれがブリーチャーズが本当に漂白するべき《妖壊》ということゾナね。後はノエルと尾弐に任せるゾナ」
橘音「遠慮なくやっつけちゃってください!ではまた次回!」
- 65 :
- ノエルは端から見ると八尺様とほぼ互角の戦いを繰り広げながらも、内心かなり焦っていた。
でかいし速いしリーチは長い。何より特筆すべきはその怨念の強さ。
凌いでも尚腹の底に響く、物理的な意味だけではない生気を抉り取るような衝撃。まともに食らえば一撃KOだろう。
もはや一体の妖怪を相手にしているとは思えない……複数の存在の集合体だろうか。
最初こそ「純粋な乙女心を弄んでサーセーン!」とか「顔は勘弁してね!」とか軽口も出ていたものだが、その余裕すらなくなってきた。
その様子を察してか、橘音が祈に加勢に入るように要請する。
どうやら八尺様は、自分好みの美少年の振りをしている祈には攻撃できないようだ。
しかしそれなら、微妙にストライクゾーンを外れている橘音が狙われないのは何故か。
そう、まるで自分だけが狙われているような……。何故だろう、胸の奥がざわざわする。
何時もなら強烈な憎悪も完全スルー出来るのに、責められている気がして罪悪感に苛まれる。
まさか……以前どこかで因縁があるのか――!? そう思ってはみるも、特に思い当たることはない。
その心の迷いが微妙な反応の遅れに繋がり、次第におされていく。
「がァっ!!」
かわし損ねた拳撃の余波をくらい、吹っ飛ばされる。
とどめを刺しに来るかと思いきや、八尺様が手を伸ばしたのは前にいた祈。
自分は純正の妖怪だから最悪どうなっても死にはしないが、人間分の多い祈はどうなるか分からない。
「祈ちゃん! 逃げ……」
>「――――ぼっ!?」
突然強烈な拳打を受け、吹っ飛ぶ八尺様。
>「……あ、あなたは……!」
心底喜んでいるような声音。仮面を被って普段はミステリアスキャラで通している橘音が、不意に垣間見せる素。
絶体絶命のピンチに颯爽と登場したのは、ブリーチャーズのパワー系マッチョ枠、尾弐 黒雄。
氷属性クール(※体温的な意味で)枠としてはこういう時はあからさまに喜びを表現せずに
余裕だった振りをしてクールな台詞で出迎えるのが様式美である。
立ちあがって服の埃を払いつつ言う。
「――遅かったじゃないか。危うく僕だけで倒してしまうところ……ってえぇえええええええええ!?
クロちゃん大丈夫!? 誰か背中さすってあげて!」
予想外のゲロのため、クールな台詞を言い終わることすらかなわなかった。
尚、現在変化解除中で超低体温のため、自分で背中をさすっては更に大変なことになってしまうのだ。
- 66 :
- 「……げぇ! 何あれ、マドハンド!?」
安心したのも束の間、八尺様の周囲の地面から無数の腕が生えていた。
少しでも気を抜けば飲み込まれてしまいそうな禍々しい瘴気。
>「ノエルさん、祈ちゃん、クロオさん。もう少しだけ彼女のお相手をお願いします。ボクに時間を下さい」
>「そう。八尺様をどうにかする方法を考える時間を――」
いつもなら一瞬にして対処法を弾きだす橘音が、時間をくれと言う。それだけ厄介な相手なのだ。
おまけに本当に聞こえているのか、幻聴なのか分からない声が聞こえてくる。
(まだ分からぬか? 自分が何故恨まれているのか)
「来るんじゃない……!」
地面から生えた腕を一気に凍らせ、砕け散らせて粉々にする。しかし次から次へと無尽蔵に生えてくる。
(所詮どんなに取り繕っても人に仇なす化け物よ……!)
「違う……」
(お前が正義面して除霊の真似事やってるなんざお笑い草だ。私の息子を奪ったお 前 が な!)
「―――――ッ!!」
ノエルは糸が切れた操り人形のように膝から崩れ落ちた。
妖怪は、永遠の時を生きる存在。
妖怪が皆が皆崇高な精神性を持っていれば何も問題はないのだが、見ての通りそうではない。
長い年月の間に負の感情を澱のように堆積させ、妖壊化する者も少なくないのだ。
永遠という名の毒に蝕まれぬために、ある者は尾弐のように心を動かさなくなっていき、またある者はノエルのように忘却という手段を取る。
忘却――大昔のこと、特に都合の悪いことから優先的に忘れ、リアルに「記憶にございません」状態になる、前都知事もびっくりの便利機能である。
しかしこれには致命的な欠点がある。
運悪く当時の当事者と出くわして真実を突きつけられた時、公正中立な第三者に検証してもらうまでもなく、全てを思い出してしまうのである。
もともとそれ程精神が強靭ではないから忘却という手段を取っているわけで、不意に思い出してしまった時の動揺たるや半端ない。
- 67 :
- ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚
遥か昔――ノエルがノエルという名前と今の姿を得るずっと前。
雪ん娘と呼ばれるまだ子どもの雪女だった時の話。
まだ発生してからそれ程時が経っていない、雪山に住まう雪の精のような存在だったころ。
唯一無二の親友がいた。それは人間ではなく、かといって妖怪でもなかった。
ふわふわの毛皮にもふもふの尻尾の暖かい生き物。
一緒に雪の中を駆け回って、冷たいのも嫌がらずに抱き枕になって眠ってくれた。
しかし永遠を生きる妖怪たるもの、刹那で死んでしまう普通の生き物と馴れ合ってはいけないというのがその当時の掟で
案の定と言うべきか大事件が起きてしまった。
ある日親友が死んだ……人間に殺されたのだ。
そこまでであれば「残念だけどよくある話」で済むのだが、その先がまずかった。
まだ不安定な存在だったその雪の精は、怒りと哀しみのあまり力の制御が出来なくなってしまったのだ。
現在で言うところの妖壊化――というやつかもしれない。
討伐隊でも来て適当に怒りをぶつければ収まるかもしれない、いっそのこと滅されてもいいとも思ったものだが、そんなものは来なかった。
ふもとの村は大寒波と冷害と季節外れの降雪に見舞われた。行きつく先は当然飢饉である。
そんなある日、雪の中に置き去りにされている少年を発見した。
少年はすでに事切れる寸前で、それにも拘わらずその雪の精が厄災の原因だと直感的に気付き
息も絶え絶えに人間達の窮状を訴え、どうか怒りを鎮めてほしいと懇願した。
こんなに綺麗な神様に看取られて幸せだ、残された母親のことだけが心配だとも。
雪の精は問い詰めた。自分がお前を死に追いやったのに、どうして罵らないのか、憎くないのかと。
少年はこう答えた。
「名誉ある『橋役様』に選ばれたんだから、立派に役目を果たさなきゃ」
゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚
気が付くとどうやら数秒間気絶していたようで、祈と黒雄に助けられていた。
「……。ごめん、ちょっと貧血で……。そんなことより……分かったかもしれない、アイツの正体!」
確かにいつも血色は悪いが、そもそも妖怪は貧血にならない。
言い訳にすらなっていない言い訳をしつつ、橘音の方に向き直る。早く告げなければ、重要な手掛かりを。
「橘音君! 八尺様は……橋役様で……えーと、つまり……」
そもそも音が似ているから一緒になったのであって、文字で見ればまだ分かるが、言葉で伝えるのはなかなか難しい。
逡巡している間に、橘音は秘密道具を取り出した。
>「じゃっじゃーん!狐面探偵七つ道具の壱!『召怪銘板(しょうかいタブレット)』〜!」
>「どういうことだよ、あれ」
訳が分からないという風に橘音に問いかける祈。
目の前で繰り広げられる光景を見てほぼ察しがついたノエルは、必死で何の事だか分からない振りをする。
――いや、でも姿変わってるし大丈夫か?
そんなことを考えているうちに、最後の一人の影の子どもがノエルの方に向き直る。
紛う事無きあの日の少年。
- 68 :
- 「あれ? “いめちぇん”した? 前の美少女も良かったけどそれはそれでいいな!」
益々何のことだか分からなくなる祈達と、動揺しまくるノエル。
この際人違いで押し通してやりたいと思うが、それは無理な話である。
妖怪たるもの、姿が変わることは稀によくあるが、妖力の形質のようなものはおいそれと変わらない。
純粋な子どもには、変装(?)している知人を気付かない振りをするという高度な気遣いは無かった!
ついに観念したノエルは土下座する。
「ごめん……! 僕は神様なんかじゃない……。
どうしようもなく弱かったから人に仇成す化け物になったんだ!」
「妖怪は人々がそうだと思えばそうなる……君が何と言おうとオラにとっては神様だ。
……せめて立派に役目を果たせたと思わせてくれたっていいだろ?
橋役様から神様に一つお願いだ。おっかぁ達を利用した悪い奴をやっつけてくれ――!」
そして彼もまた、母親の魂と抱き合って消えていく。
そこに残されたのは――
>「説明は後です。まだ最後の戦闘が残ってますから」
白いワンピースの女、元祖「八尺様」。全ての元凶――!
ノエルはその八尺様をびしっと指差し……
「お前に一つ言っておくことがある……。
YESショタコンNOタッチ! 美少年とは触れずに愛でるものとみつけたり!
なのに手を出しあまつさえ捕食するとは言語道断! てめぇのパンツは何色だぁ!」
一連の何やかんやを何とか誤魔化そうと、怒涛の勢いで意味不明なことをまくしたてる。
「というわけで、新たな扉を開いてショタコンを卒業しよう! さあ!」
なにが「というわけで」なのかは知らないが、両腕を開いて八尺様を迎え入れるポーズを取るノエル。
雪女には死の抱擁というオーソドックスな必殺技があるため、満更ふざけているわけでもないのだが、流石に素直に乗ってくるわけはない。
流石の異常性愛者の八尺様もこの手の変態紳士の対処は管轄外のようで若干引きつつも、普通に大上段からチョップをかましてきた。
「隙ありッ!」
ノエルは一気に姿勢を落とし、八尺様の足の間をスライディングの要領で潜り抜ける。
ちなみにこれ、業界的にはちょっとしたお呪い的意味がある行動で、人間の足の間をくぐって呪いR妖怪なんかもいる。
別に小学生男子的発想でパンツの色を見るためではない。多分、いや、断じて。
その証拠に八尺様は怒り狂いながら振り返ろうとするが……一歩も動けない。
いつの間にか両足が足元の地面ごと凍り付いて固定されていた。またとないチャンスだ。
「今だ―――!!」
- 69 :
- 名前:品岡ムジナ(しなおか - )
外見年齢:24
性別:男
身長:175
体重:60
スリーサイズ:中肉中背
種族:元のっぺらぼう現式神
職業:暴力団構成員
性格:お調子者・チンピラ・似非関西弁
長所:義理堅い
短所:強い者には媚びへつらい弱い者には横柄な小物メンタル
趣味:夜遊び
能力:顔以外の肉体と触れた物体の形状変化
容姿の特徴・風貌:ウルフカット、柄シャツに色眼鏡の人相悪い男
簡単なキャラ解説:
広域指定暴力団『山里組』の組員、つまりヤクザ。
山里組はいわゆる極道とは色合いの異なる資金集めの為の下請組織であり品岡は更にその下っ端。
歌舞伎町を拠点に地域の飲食店や風俗店などへのみかじめの集金を担当している。
その正体は江戸時代から関東地方を荒らし回っていた"化かし系"の妖怪、のっぺらぼう。
旅人を化かしては食糧や金銭を奪っていたところ、幕府属託の陰陽師によって化け物退治に遭い、
のっぺらぼうの能力である変幻自在な『顔』を封印され、陰陽師の式神となる。
契約により七代後まで陰陽師の一族の式神となって働かされており、
現在の当主であるヤクザの組長のもとで下っ端としてこき使われている。
『顔』を封印されている為に人相は固定されており、代わりに顔以外の肉体と触れた物体の形状変化妖術を持つ。
チャカやドスの他釘バットやスレッジハンマー等を形状変化で小さく纏めて体内に収納している人間武器庫。
もちろんこの能力を銃器や薬物の密輸に使ったりもしているわりと真面目に凶悪犯罪者。
"化かし系"の本家である『御前』とは親戚関係にあり、妖狐一族と繋がりのある陰陽師組長の命令で
東京ブリーチャーズの非正規メンバーとして必要な時に呼ばれてはやはりこき使われている。
ブリーチャーズが最後に漂白すべきは多分こいつとその飼主。
【今の話が終わったら参加したいです、ヨロシャス】
- 70 :
- 橘音「こんばんは、那須野橘音のナイト・ブリーチャーのお時間です。司会はボク、那須野橘音と」
髪さま「今年の漢字一文字は『毛』これで決まりゾナね。髪さまでお送りするゾナ」
橘音「いえ、今年の漢字一文字は『金』で決まっちゃいましたし」
髪さま「ゾナ!?誰の許しを得てゾナ!?」
橘音「少なくとも髪さまの許可が必要ないことだけは確かです」
>>69 ムジナさん
髪さま「また男かゾナ!ワシは乳のでかい美女を希望してるというのにゾナ!」
橘音「高女あたりですか?」
髪さま「乳はでかいかもしれんが、乳に比例して背も高いゾナ……確実に」
橘音「髪さまの要望はともかく、歓迎しますよ!ようこそ東京ブリーチャーズへ!」
髪さま「では、今の八尺様編が終了したら次の話から参加ということで、もう少し待っててほしいゾナ」
橘音「ノエルさんがいいパスを出して下さいましたので、ここはクロオさん!ひとつビシッと八尺様に引導を!」
髪さま「で、あと1ローテくらい全員分の〆をやってから、八尺様編終了と行きたいゾナ」
橘音「ということで、ムジナさんも参加希望されましたし、少し早いんですが>>5さんはここでタイムアップとさせて頂きます」
髪さま「ついでに、ここで一旦ブリーチャーズの参加者募集も締め切らせてもらうゾナ」
橘音「いやぁ、こんなにも集まって頂いて本当にありがたい限り。心からお礼を言わせて頂きます、ふかぶか」
髪さま「気付けばむっさい男ばっかりのチームになってしまったゾナねぇ……」
橘音「祈ちゃんにしばかれますよ?」
髪さま「ヒィ!?い、今のはオフレコで頼むゾナ。祈ちゃんとこのババアに蹴り飛ばされて太平洋横断は懲り懲りゾナ」
橘音「今度はユーラシア大陸横断かもしれませんよ」
髪さま「三蔵法師もビックリゾナねぇ……」
橘音「ともかくムジナさん、丁度いいスキルをもって来てくださいました。これでボクのネタが捗ります、むふふ」
髪さま「ま〜たロクでもないこと企んでるゾナ?」
橘音「ムジナさんにピッタリの案件を、御前が用意して下さるそうです。次の妖怪もね……お楽しみに!」
髪さま「ロクな相手じゃないということだけは理解したゾナ。ではまた次回ゾナ」
- 71 :
- 男ばかりで強そうなチームにはなったよね
- 72 :
- >「いいですよ、ただしボクが逃げた後でよろしく!」
「上司の帰宅まで帰れないたぁ、化物業界も人間じみてきたもんだぜ」
いつも通りの軽口を叩きあう、尾弐と那須野。
だが、垂れ流す言葉こそ弛緩しているものの、尾弐は一瞬たりとも八尺様から視線を外す事はしない。
それは、眼前で繰り広げられている光景が危険なものである事を察知しているが故。
「ぽぽ……ぽぽぽぽぽ」
まるで地に埋められた死者が助けを請うている様に、
異形の怪物たる八尺様の周囲の地面から這い出て来たのは、数多の腕。
血が通わぬ、青白い死人の腕。
呪詛の塊とも呼べるそれらは、八尺様の負の感情が具象化した物であり……故に、その行動目的は決まっている。
八尺様にとっての敵対者……尾弐達を捕獲し、壊す事だ。
>「……げぇ! 何あれ、マドハンド!?」
「ありゃ、舟幽霊とかその類だろ……那須野、俺とノエルで時間作ってやるから、仕込みは任せたぜ」
圧力さえも感じる程に膨れ上がった怨念を纏った『腕』は、暫くの間その場で蠢いていたが、
やがて獲物を捕獲する時の蛇の様に伸び――――尾弐達に襲い掛かってきた。
・・・
「……ちっ」
尾弐の体に纏わりつく、無数の腕、腕、腕、腕、腕。
青白い亡者の如き腕はその数を加速度的に増やし、もはや総数で百を超えようとしていた。
腕は一本一本が人外の膂力を有しており……それらの全てが、尾弐の肉体を捻じ切り、或いは叩き壊そうと試みる。
個を集団が蹂躙せしめるその様は、果たして蜘蛛の糸に群がる地獄の亡者の群れの様であり
群がられているのが一般人であれば、とうの昔に赤黒い挽肉と化していた事だろう。
けれども――――此処に居るのは尾弐黒雄。
剛力と堅牢を有する鬼の眷属である。
「……ああ、面倒臭ぇ。縋るな、祈るな、纏わりつくな」
尾弐が蠅でも払うかの様に雑に腕を振るうと、群がっていた腕は一斉に『弾き飛ばされた』。
更には、その腕の内の数本は半ばから千切れ、黒い霧と化し霧散していく。
退魔師の様に術を用いている訳では無い。
ノエルの様に、権能を用いている訳でもない。
単純な、暴力。
この国において悪と暴力の化身とされる種族の、理不尽なまでの只の力技である。
恐らくは、この『腕』との潰し合いで尾弐が果てる事は無い。
それは、数如きでは覆らぬ程に腕と尾弐とでは性能差が有るからだ。
本気で尾弐を滅したいのであれば、八尺様本体が対峙する以外に可能性は無いだろう。だが……
「ったく、次から次へとキリがねぇなオイ」
負けないという事は、勝てるという事と同義ではない。
無数の腕は、潰した端から増えていく。そして、その腕を効果的に『殲滅』する為の手段が尾弐には欠けていた。
- 73 :
- (ノエルの奴ならどうにか出来そうなんだが……どうにもさっきから妙な調子みてぇだしな)
種族としての雪女であるノエル。雪を繰り氷を統べる彼の権能は、広域殲滅戦において非常に有効なモノである。
本来であれば、尾弐が攻撃を引き受けノエルが随時腕を氷殺し続ける事で、腕との戦いは優位に進められた筈なのだが
>「違う……」
そのノエルは、先ほどから腕と戦ってはいるものの、その動きは尾弐が知る本調子とは程遠い。
まるで病魔に憑かれた人間の様に、常の精彩は見る影も無く……
> 「―――――ッ!!」
「なっ!?」
そしてとうとう、膝から崩れ落ちてしまった。
その光景を目撃した尾弐は、群がる腕を打ち払いながら急いでノエルの元へ走り寄る。
幸い、その人外の俊足を以って先に駆けつけた祈がカバーに入った事で腕による蹂躙は避けられていたが
(クソ……不味ぃな。ここでノエルが使い物にならなくなったら、あの『腕』を止められる奴がいねぇ……)
状況は、確実に悪化した。殲滅をこなせるノエルが戦線を離脱してしまえば、腕は増えるのみ。
尾弐と祈では、戦闘力はともかく面制圧の能力が不足している。
(那須野は間に合うか分からねぇ…………どうする。ヤる、か?)
戦況を分析していた尾弐は、暫くのあいだ何事かを逡巡していたが――――直後。
>「……。ごめん、ちょっと貧血で……。そんなことより……分かったかもしれない、アイツの正体!」
>「橘音君! 八尺様は……橋役様で……えーと、つまり……」
僅かの間意識を失っていたノエルが目を覚まし、『八尺様の正体が判った』と。そんな事を言って見せたのである。
未だ意識が朦朧としているのか、或いは伝えるべき言葉を見失っているのか、その言葉は単語を繋いだだけで不明瞭なものであったのだが
>「じゃっじゃーん!狐面探偵七つ道具の壱!『召怪銘板(しょうかいタブレット)』〜!」
けれども、那須野橘音。探偵としての姿を持ち、智謀で知られる稲荷の眷属たるその者にとっては、
その僅かな『切欠』があれば、真実に至る道を開くのに、十分であったらしい。
(ありゃ確か……妖怪を呼び出す呪具だったよな? けど、この場面で一体何を呼ぶってんだ?)
那須野が取り出した禍々しいタブレットの様な何かは、尾弐も以前にも見た事が有る。
妖怪を呼び出す。召怪銘板その為に用いる媒介であるが……果たして、この場面で使う道具であるとは尾弐には思えなかった。
位階の高い妖怪を呼び出すには時間もコストも掛かる上に、お手軽に呼び出せる程度の妖怪ではあの腕の群をどうにかする事は出来ないからだ。
不可解に思いながら様子を伺う尾弐であったが……その直後に、呼び出された怪異と八尺様の反応を見て、大いに納得させられる事となった。
「――――八尺……橋役……ああ、成程、そういう事かよ。確かに、『それ』程度なら直ぐに呼び出せるわな」
- 74 :
- 那須野によって呼び出されたのは、亡霊。それも、魑魅魍魎じみた力のない脆弱な霊体である。
だが、その力のない霊こそが、『八尺様』にとってはこの上なく有効な『手段』であった。
現に、その亡霊……小さな子供と思わしき、薄い影の様な亡霊を認識した瞬間、腕も、八尺様事態もその動きを止めてしまっている。
……そう。八尺様と対峙するにあたり、那須野が考え出した手段は、力による封殺ではない。
『鎮魂』であったのだ。
――――古来より、災厄を齎す荒ぶる神を鎮める。荒魂(あらみたま)を和魂(にぎみたま)へと変える手段は幾つか存在する。
人柱を立てて封ずる事。神として奉る事で、荒ぶる神としての属性自体を変化させる事。
そして……供物として、神が望む物を捧げる事。
荒ぶる神は、己の怒りや恨みの原因を取り除かれる事で、或いは望む物を手にすることで、その怒りを収める。
ならば、八尺様……否。橋役様が欲するモノとはなんぞや。
>「せぇ、でっかくなってるけど、やっぱりおっかぁだ! おっかぁ!」
その答えは、子供。
己がかつて失った、子供である。
>「どういうことだよ、あれ」
「あー……要は、腹減って暴れてた犬に餌を……じゃねぇ。喉かわいてた奴に水やったみてぇなもんだろ。多分。
ま、俺もそこらへん辺の詳細はさっぱりだから、那須野に聞いてやってくれや」
祈りの呟きに答える尾弐の眼前では、八尺様を構成していた橋役様(ははおやたち)が、橋役様(いとしごたち)と
共に昇華していく光景が繰り広げられている。
薄く光を放つ、その美しい情景に対し尾弐は……興が削げたとでも言う様に脱力し、つまらなそうに大きな欠伸を一つして見せた。
そうして、橋役様達は立ち去り……あとに残ったのは、たった一つの『悪意』。
・・・・
>「説明は後です。まだ最後の戦闘が残ってますから」
「……みてぇだな」
先程まで子供の橋役様に頭を下げていたノエルの言葉に従い、視線を向ければ、そこに居たのは一人の女の霊。
180という、女性にしては大柄な白いワンピースを着込んだ『悪霊』の姿。
>「うぷっ……ぽぽっ、ひはははは!!」
祟り神としての八尺様。その中核を成していた存在。
けたけたと唾を撒き散らしながら血走った瞳をギョロリと巡らせるその姿は、祟り神であった時よりも醜悪なものある。
>「祟り神としての力は削ぎました。アレは八尺様の抜け殻とも言うべき、大したことのない妖怪となったはずです」
一拍置いて、続ける。
>「お三方なら大丈夫だとは思いますが、気を付けてくださいよ?」
「あいよ、大将。つっても、三人がかりなんて必要ねぇよ。アレなら色男と俺だけで十分だ。
いの……新入りのボウズは、オジサンに任せて目ぇ瞑ってそこで休んでな」
そう言い残すと、尾弐は準備運動の様に肩を一度ぐるりと回し、女の霊へと歩んでいく。
- 75 :
- >「お前に一つ言っておくことがある……。
>YESショタコンNOタッチ! 美少年とは触れずに愛でるものとみつけたり!
>なのに手を出しあまつさえ捕食するとは言語道断! てめぇのパンツは何色だぁ!」
向かった先では、既にノエルが八尺様の残滓との戦闘を始めていた。
おどけた様子で挑発をし、或いは油断を誘いつつ……尚且つ相手の攻撃を適切に裁き、おまけに罠にまで嵌めて見せる。
その動きは、先の戦闘とは打って変わって艶やかなものとなっており、ノエルの本来の戦闘能力の高さを物語っていた。
現にそのノエルの戦略にまんまと掛かった女の霊は、足元を氷で固められ、動く事が出来なくなっている。
>「今だ―――!!」
そして、その身動きできない女の霊の前に、とうとう鬼がたどり着いた。
・・・・・
「ぽぽっ、はは、ぴゃひゃはは!!!!」
荒れ狂う女の霊。彼女は、眼前に立った長身の己よりも更に大きい尾弐に対して、渾身の拳を叩き付ける。
何度も、何度も、何度も、何度も。
彼女が放つ、先程は公園の地形を変えるまでに至った荒れ狂う嵐の様な連撃は、その全てが尾弐に命中している。
だが、それでも女の霊が拳を止める事は無い。
それは、己が獲物を『捕食』する事を邪魔し、尚且つ、先程己に手を上げた相手に対する怒り故だろう。
徹底的に破壊せんと拳を浴びせ続け……だがその最中、女の霊はふと疑問を覚えた。
―――――果たして、目の前の男はここまで『大きかった』だろうか?と
つい先ごろまでは拳一つ分程しかなかった身長差が、心なしか広がっている様に感じ……
「……ぽっ!?」
否。確かに、男との身長差が開いている。今では男は見上げる程の巨躯と化し、己を見下ろしている。
これはどうした事かと思い周囲を見渡せば、眼前の男以外の人物も全て見上げなければ顔が見れない程に巨大化しているではないか。
「ひゃ、ぽっ!?」
混乱に襲われながら周囲を見渡す女の霊。そこでようやく、眼前の男。
先程まで拳を浴びせていた、今や巨人の様に大きく見える男が口を開く。
「その様子じゃ勘違いしてるみてぇだから教えてやるがな……俺が大きくなったんじゃねぇ。お前が縮んでるんだよ」
- 76 :
- 「ぽぽっ!?」
驚愕の声を挙げる女の霊。そんな筈は無いと、男の腹を殴ろうとし……そこで、今や己の身長が男の膝丈程でしかない事に気付く。
挙動不審に手足を振り回す女の霊であったが、直後にその体が宙へと浮き上がる。
男……尾弐が、女の霊の首を掴み、足元の氷を無理矢理引きはがして持ち上げたのだ。
「なあ……お前さん、いつまで自分が神サマだと勘違いしてんだ?」
その尾弐の手を引っ掻き、なんとか逃れようとする女の霊に対し、尾弐は全く感情のこもっていない平坦な声で言葉を投げつける。
「橋役を失った今のアンタは、都市伝説に謳われる怪異でもなければ、荒ぶる祟り神でもねぇ。単なる十把一絡げの悪霊なんだぜ?」
「妖怪でもないただの悪霊なら……吹けば消える。妖怪に襲われでもすりゃあ消滅するって事、理解出来るか?」
公園の外套の光で逆光となり、尾弐の表情は全く見えない。
「ぽ、ぽ……」
だがその見えない表情こそが、狂った悪霊である女にとうの昔、人間だった頃に持ち合わせていた筈の感情を思い出させる。
それは即ち――――『恐怖』
「ああ、お前さんの体が縮んでるのは、人間の魂ってのがその心で姿を変えるからだ
――――恐怖と『ケ枯れ』で縮んだ小さく惨めな姿こそ、アンタの本当の姿って訳だな」
その言葉を聞いた瞬間、女の霊。ただの悪霊は、怯え狂ったように暴れ出す。
だが、もはや子供よりも小さくなったその身体では、尾弐の手から逃れようもない。
そんな女に対し、尾弐は一度ため息を吐くと、何処までも淡々と最後の言葉を告げる。
「さて、それじゃあ後腐れなくお別れといくか。妖怪じゃねぇアンタは蘇えれねぇだろうから
……地獄ってのに他の鬼がいたら、まあ宜しく言っといてくれや」
そうして、今や8センチ程の虫の様な大きさとなってしまった女の悪霊を、尾弐は中空へと放り投げ、
そのまま叩き潰すようにして拳を放つ―――――。
- 77 :
- 尾弐「それじゃあ、ナイト・ブリーチャー番外編はじめるぞー」
髪さま「ん?今日は随分素直に始めるゾナね。ははん、さてはワシの凄さを知って心服したゾナ!」
尾弐「司会は俺、進行も俺でお送りするからなー」
髪さま「さらっとワシの存在を無い事にするなゾナ!」
>>69
尾弐「おう、宜しく頼むわ」
髪さま「……ヤの付く自由業相手に随分落ち着いてるゾナね」
尾弐「まあ、仕事柄ヤクマル印の奴の葬式はよくやってるからな」
髪さま「黒い繋がりって奴ゾナ?」
尾弐「いや、仕事以外じゃ繋がってねぇよ。ショバ代とかも払った事ねぇぞ」
>>70
尾弐「あいよ、了解だ大将。とりあえず地獄行きの切符を購入してもらったぜ」
髪さま「……」
尾弐「あん?何だよ髪さん」
髪さま「いや、普通にドン引きしてたゾナ。何もあそこまでやらなくても良かった気がするゾナ」
尾弐「そうか?あー……まあ、やり過ぎなら誰か止めるだろ。多分。おそらく。きっと」
髪さま「それは流石に他人任せ過ぎると思うゾナ!?」
- 78 :
- 橘音が召怪銘板の音声認識機能に告げた妖怪の名は『ミサキ』だった。
ミサキには山ミサキ、川ミサキ、七人ミサキ等々の種類があるが、すべてに共通した要素がある。
それは『不慮の死を遂げた霊魂の集合体』という点だ。
>橘音君! 八尺様は……橋役様で……えーと、つまり……
ノエルの言葉が橘音に福音を与えた。それだけ聞けば、現状を打開する要素としては充分に過ぎる。
祟り神を力でねじ伏せることは不可能だ。強い力は八尺様の怒りと憎しみに油を注ぐ結果にしかならない。
……ならば。
八尺様の求めるものを与えればいい。
>どういうことだよ、あれ
数百年ぶりの再会を果たした母と子が、抱擁しながら天へと昇ってゆく。
そんな様子を見ながら、納得できないという様子で祈が説明を求めてくる。
が、橘音としても当初からこんな状況を想定していた訳ではない。全てはアドリブ、臨機応変な対処の結果である。
少々スムーズに行きすぎて拍子抜けした感はあるが、失敗よりは遥かにマシだ。
かといって、これで一件落着かと言われるとそうでもない。まだ、すべての元凶が残っている。
「説明は後です。まだ最後の戦闘が残ってますから」
ブリーチャーズの視線の先に佇む、長身の女。
いつの間にか八尺様の伝説に紛れ込み、八尺様の名前と力を利用し、八尺様の想いを穢し続けた元凶。
祟り神としての力を剥ぎ取られた、名もない異常者の成れの果て。
>うぷっ……ぽぽっ、ひはははは!!
八尺様であった者が嗤う。おぞましくも哀しげであった本物のそれとは違う、ただただ嫌悪感を催すばかりの嗤い。
その姿からはもはや、先刻ほどの妖気は微塵も感じられない。
相手の妖力を測ることのできる妖怪ならば、それはすぐに感じ取れることだろう。
つい今しがた戦っていた八尺様に比べれば、今目の前にいる者は残り滓のようなものだと。
そう。妖怪や神霊の持つ『妖気』『神気』『霊気』等々の『気』。それを根こそぎ失い、枯れ果てた姿――
『ケ(気)枯れ』である。
「祟り神としての力は削ぎました。アレは八尺様の抜け殻とも言うべき、大したことのない妖怪となったはずです」
「お三方なら大丈夫だとは思いますが、気を付けてくださいよ?」
>あいよ、大将。つっても、三人がかりなんて必要ねぇよ。アレなら色男と俺だけで十分だ。
一応注意を促すものの、この三人がよもや遅れを取るなどということは考えてもいない。
ブリーチャーズのメンバーは橘音が東京漂白計画を立ち上げるにあたり、熟慮に熟慮を重ねて厳選した化生ばかりだ。
特に、ノエルと尾弐のふたりは橘音の知る化生の中でもトップクラスの強さを持つ。この程度の悪霊ごとき敵ではあるまい。
現に尾弐がすぐに頼もしい返事をしてくれた。ならば、あとはふたりに任せるのが一番だろう。
橘音は戦闘前と同じく自販機へ向かうと、五百円硬貨を入れておしるこのボタンを押した。
そして祈の方を振り返ってから、
「あ、祈ちゃんも何か飲みます?」
と、明るい調子で言った。
- 79 :
- >YESショタコンNOタッチ! 美少年とは触れずに愛でるものとみつけたり!
>というわけで、新たな扉を開いてショタコンを卒業しよう! さあ!
「……ノエルさん、ノリノリだなぁ……」
ノエルと八尺様の残骸の繰り広げる戦いを眺めながら、小さく笑う。
一見ふざけているようにしか見えないが、あれがノエルの戦術だということを橘音は知っている。
ノエルが軽口を叩いている、それはつまり絶好調だということだ。
先程はなぜか調子が悪かったようで少々ひやっとしたが、この様子ならそれも完全に復調していると見ていいだろう。
妖怪にはつるべ火、野火、じゃんじゃん火、火車など『火』にまつわる者が圧倒的に多い。
仮に火属性でなくとも、氷雪の力は脅威だ。つまり大抵の化生に対してアドバンテージを得られる、ということである。
性格に多少首を傾げるときこそあるものの、橘音がノエルの強さを疑うことはない。
>今だ―――!!
ノエルの巧みな戦法により、八尺様であった者の足許が凍結し、地面に縫い付けられる。
そして、ノエルと入れ替わるように尾弐が悪霊の許へと到達する。
>ぽぽっ、はは、ぴゃひゃはは!!!!
悪霊の拳が尾弐に炸裂する。それを尾弐は避けるどころか、防御姿勢を取ることさえしないで受け止める。
先程までの八尺様の力が乗った拳ならば、いかにタフネスを売りにする尾弐といえど無傷では済まなかっただろう。
……しかし、現在尾弐に拳を見舞っている者はもう八尺様ではない。
八尺様の力と名を借り、我欲を満たそうとする邪な悪霊に過ぎないのだ。
>なあ……お前さん、いつまで自分が神サマだと勘違いしてんだ?
尾弐の無情な言葉。それには八尺様であった者に対する慈悲や憐憫はまったくない。
>――――恐怖と『ケ枯れ』で縮んだ小さく惨めな姿こそ、アンタの本当の姿って訳だな
淡々と述べられる事実。いつしか八尺様であった者の顔からは笑みが消え、代わりに恐怖がその面貌を引き攣らせてゆく。
縮んだ悪霊は尾弐につまみ上げられたままジタバタと暴れたが、それは滑稽な悪足掻きでしかない。
>……地獄ってのに他の鬼がいたら、まあ宜しく言っといてくれや
そう言ってから、尾弐はひょいと無造作に悪霊を宙に放り投げた。
が、それは見逃してやったとか、トドメをさすのをやめたという意味ではない。
ゴウッ!!!
尾弐が宙の悪霊へ向けて拳を繰り出す。
それは純粋なパワー。万物を破壊する、シンプルなエネルギー。
ちっぽけな悪霊など、塵も残さず消滅させてしまうほどの――。
「アギギギ……ッ、ギ……ギィィィィィヤアアアアアアアアアアア―――――――――ッ!!!!!」
避けることなど、守ることなど、出来るはずもない。
悪霊の喉から絶叫が迸る。力を持つ者の余裕ぶった笑みではない、今まで幾多の少年たちを辱めてきた歓喜の笑いでもない。
それは、心底からの恐怖の悲鳴。
尾弐の拳の直撃を受け、耳障りな断末魔をあげて、八尺様を騙った異常性愛者にして快楽殺人者の悪霊は消滅した。
- 80 :
- 「――八尺様、漂白完了。ミッションコンプリートですね」
尾弐が悪霊を殴り消滅させたのを見届けると、橘音は飲み干したおしるこの空き缶を捨てて言った。
「これで、八尺様が東京に出現することはなくなりました。……少なくとも、しばらくの間は……ね」
そう、ブリーチャーズがたった今八尺様を漂白したというのは紛れもない事実だ。
しかし、だからといって八尺様が本当に根絶されたのかと言えば、それは違う。
ブリーチャーズは八尺様の起源を漂白した。八尺様と呼ばれる存在が出現するに至った原因を浄化し、鎮魂し、消滅させた。
が、八尺様の伝説そのものを消滅させたわけではない。
これからも人々の口に、書籍に、インターネットの書き込みに八尺様の伝説がのぼる限り。
八尺様はなくならない。そして遠い未来、どこかでまた新たな八尺様が誕生するかもしれない。
哀しい人身御供の過去から生まれた祟り神としてではない、純粋なネットロアの、噂の産物としての八尺様が――。
「さてっ!じゃあ、お仕事も無事に終わりましたし!皆さん、オナカ減りません?」
「これから打ち上げかねて、お寿司でもどうです?あぁ、もちろんボクがオゴらせて頂きますから」
「……回るヤツね!!」
仕事が終われば、ここにいる必要はない。橘音はタブレットの液晶画面をなぞると、結界を解除した。
辺りはすっかり暗くなっているが、まだ宵の口だ。妖怪にとっては、これからが本来の活動時間と言える。
……とはいえ、心身ともに中学生の祈を無断で引っ張り回すのは気が引ける。
橘音はマントの内側から普段使いのスマートフォンを取り出した。祈の保護者、ターボババアに一言連絡しようとしている。
「オババにはボクから言っておきますから、祈ちゃんとノエルさんとクロオさんは先に行ってて頂けますか?」
「ボクもすぐ追い付きますから!じゃ、駅前のお寿司屋さんで。ボクの席も取っといて下さい」
「……回るとこですよ!?」
妙なところでケチである。三人を公園の外へ出し、自分は残る。
ひとりきりになった公園の中でスマートフォンを握ったまま、橘音はとある一箇所へと歩いていく。
それは先程まで八尺様の残骸であった悪霊が立っていた場所。ノエルが足止めのため凍り付かせた地点。
まだうっすらと氷の残っている地面に、橘音は凝然と目を落とす。
そこには、一枚の紙片が落ちていた。
六センチ四方の小さな紙片だ。表も裏も真っ黒だが、ただ中央に巨大な眼がひとつ描かれている。
まるで、暗闇の中で見開かれた眼のような。禍々しいデザインのそれから、微かな妖気を感じる。
それを拾い上げると、橘音は徐にスマートフォンの液晶パネルを操作した。
「――お疲れさまです御前。八尺様の漂白、完了しました」
「早い?アハハ、そうでしょうとも。言ったでしょう?チャッチャと片付けると。ボクらはプロですよ?プロ」
「……ええ。そうです。はい。また……『アレ』が糸を引いていたようです。ええ、間違いありません」
「まだ、情報が少なすぎますから。もう少し泳がせてからということですね……はい。はい、もちろん」
「そうですね……では、そのように……。ご心配なく、仕事はキッチリやり遂げますから。そのための彼らです」
「その代わり――御前も例の件、どうぞよしなに……」
通話を切ると、橘音は改めて紙片を値踏みするように見つめた。
自分たちの持つ妖気とよく似た、しかしどこか異なる力。
やがて紙片は橘音の手の中で静かに灰と化し、消えた。
「……ふむ」
一度鼻を鳴らすと、橘音は白手袋を嵌めた手に付着した灰をパッパッと払い、仲間の後を追って公園を後にした。
- 81 :
- ブリーチャーズが戦っていた公園とは異なるどこか。
帝都を俯瞰する眺望の高層ホテル、その上層階にあるプレミアムスイートに四つの人影がある。
「八尺様とやらが敗れましたわ」
はじめに口を開いたのは、中学生程度の背格好をした少女だ。腰までの黒髪をツインテールに纏めた、勝気そうな面差しの娘である。
愛らしい相貌だが前髪で顔のほぼ右半分が隠れており、強膜(白目)が黄色く瞳が真紅の左眼が強い妖気を放っている。
半袖ミニスカワンピースにロンググローブ、サイハイソックスにショートブーツ。その姿は頭のてっぺんから爪先まで総体黒い。
少女は広大なリビングルームのほぼ中央に陣取り、胸の下で緩く腕組みしてひとつ息をついた。
「ふゥン……連中もなかなかやるじゃない。ま、八尺様なんてアタシなら指二本もあれば余裕で倒せるけど〜ぉ!」
少女の報告を聞き、ロングソファに半ば寝そべるようにして座る女が笑う。
見た目は二十歳を少し過ぎた程度か。グラマラスな肢体をダウンジャケットにホットパンツ、ブーツという出で立ちで包んでいる。
ただし、その色味は少女と違ってすべて白い。透き通るような白とはこのことだろうか。
女が長い髪の毛先を指先で弄るたび、そこから白いものがキラキラと剥離する。――霜だ。
「カッ!だァから言ったんだぜ。ゴミに任せて様子見なんてまだるっこしい、オレ様が最初から出向くってなァ!」
そう銅鑼声でがなったのは、部屋の一角を占めるホームバーでしきりにグラスを呷っていた五十絡みの壮年の男である。
身長は二メートル以上あるだろうか。グレーのスーツをラフに着込んだ、筋骨隆々といった具合の大男だ。
仕立てのいいダブルのスーツの上からでも、筋肉の隆起がよくわかる。男はぐいっとグラスの酒を飲み干すと、盛大にげっぷをした。
少女と女とが同時に顔を顰める。
「おい、もう我慢しきれんぜ。そろそろ暴れさせろよ、満月も近いんだ。血が騒いで仕方ねえ」
「ダメですわ。お父さま……もといあの御方の許可が出ておりません。もう暫くは土着の者どもを使います」
少女が男の言葉をにべもなく突っぱねる。男はチッと舌打ちすると、短く刈り込んだ灰色の顎鬚を撫でた。
「あの御方も悠長ねェ……。アタシたちが直接出向けば、この国の妖怪たちなんてあっという間に殲滅できるってのに」
「まだ、あの御方は本調子ではないのです。それに、あの御方の望みは殲滅でなく支配。それをお忘れなく、もし忘れたなら――」
「わーかってる、わかってるってばァ!あの御方に楯突くワケないでしょ?ったく、可愛くないわねアンタ」
「わかればいいのです」
ヒラヒラと右手を振って降参する女の態度に満足したらしく、少女が腰に両手を当てて豊かでない胸を反らせる。
「そりゃわかったがよ。じゃあ、次は何を差し向けるんだ?」
男が訊ねる。その問いに対して少女が口を開こうとしたそのとき、
「もう、我輩が仕込みをさせてもらったヨ」
部屋の隅に静かに佇んでいた四人目が、不意にゆらりと動いた。真紅のマントで全身をすっぽりと包んだ、長身痩躯の怪人である。
シルクハットをかぶり、顔には某ハッカー集団でおなじみガイ・フォークスの仮面をつけた姿は異様と言うしかない。
「勝算は?」
少女が腕組みして怪人を見やる。怪人は仮面の奥で引き攣れた声で嗤った。
「バカ言っちゃァいけない、我輩の仕事だよ?ま……細工は流々、仕上げを御覧じろ……ってねエ」
それだけ言うと、怪人はすう……と溶けるように部屋から姿を消した。
「気味の悪い野郎だぜ」
男が吐き捨てるように言う。しかし、もう次の作戦が発動しているのなら手間が省けた。少女は右手を顎先に沿えると、
「では――お手並み拝見と行きましょうか」
そう言って、炯々と輝く左眼を細めながら笑った。
- 82 :
- 橘音「メリークリスマス!那須野橘音のホーリーナイト・ブリーチャーのお時間です!司会はボク、那須野橘音と!」
髪さま「赤鼻の髪さまでお送りするゾナ」
橘音「鼻ないでしょ」
>>71
橘音「いや〜、これはギャフンですね!確かに強そうではありますが」
髪さま「おっぱいの大きなギャルにシャンプーしてもらうワシの夢が……ゾナナナ……」
橘音「そういう妖怪をブリーチャーズに加えることにメリットを見出せません」
髪さま「これは男のロマンゾナ!ノエルと尾弐なら共感するに違いないゾナ!特に尾弐」
橘音「どうかなぁ……クロオさんは結構硬派だし……。あ、そうそう、話は変わりますが今日はクリスマスイヴでしょ?」
髪さま「リア充爆発しろゾナ」
橘音「まぁまぁ。プレゼントを用意しましたので、どうぞお納めください。まず、これが祈ちゃんの分」
髪さま「中身は何ゾナ?」
橘音「キックボードです。いいでしょ、むふふ」
髪さま「明らかに走った方が速いゾナ……。尾弐の分は?」
橘音「お酒を嗜まれるクロオさんには、日本酒を用意しました。大吟醸美○年!」
髪さま「含みのあるチョイスゾナね……。じゃあ、ノエルは何ゾナ?」
橘音「和パンクがお好きということで、和柄の小物入れなんかを。なおボクのお手製ですから実質お金はかかってません」
髪さま「安上がりゾナね。ムジナにはやらんのかゾナ?」
橘音「まだ出番前ですからね〜。申し訳ない!あ、これ髪さまの分です」
髪さま「ワシにもくれるのかゾナ?いい心がけゾナ、開けてもいいゾナ?」
橘音「どうぞどうぞ」
髪さま「……これは何ゾナ?」
橘音「ブラジリアンワックスですけど?」
髪さま「おまえワシを何だと思ってるゾナ!?」
橘音「では、あと祈ちゃん、ノエルさん、クロオさんでそれぞれ〆て頂いて、八尺様編終了とさせて頂きますね」
髪さま「ムダに風呂敷広げとるが、ついてきてほしいゾナ」
橘音「なんのなんの、まだまだですよ!それではよい聖夜を、また次回っ!」
- 83 :
- 尾弐、ノエル、祈の三人は、半ば橘音に追い出されるような形で公園を後にした。
話すことも特になく、僅かな間黙りこくって公園の入り口に佇んでいた三人だが、やがて誰からともなく歩き出す。
橘音は駅前の回転寿司屋だと言っていた為、
とりあえず駅の方へと向かえばその寿司屋の名や場所がわからなくとも辿り着けるのであるし、
三人の中にはその寿司屋について心当たりがある者がいるのかもしれなかった。
「しかし大将も妙なところでケチくせぇよな。タダ飯は有難いけどよ」
歩きながら、尾弐がそう切り出した。
尾弐は葬儀屋という職業柄、葬儀や通夜の席などで寿司を食べる機会がそれなりにあると思われたが、
だがそれでも貴重なタダ飯、ご馳走であることに違いはないのだろう。
加えて彼は先程嘔吐したばかりで胃の中が空である。さぞ腹の虫が騒いでいるのではないだろうか。
一言、二言。尾弐の切り出した上司の愚痴という、“いかにも人間らしい世間話”にノエルが応じるのだが、
祈は終始無言で二人の後をついてくるだけだ。
何か様子がおかしい。それを気にかけてか、なんにせよ、と尾弐は付け加える。
「新入りのボウズの歓迎会も兼ねてんだろうしな? 早く行こうじゃねぇか」
からかうような笑みを浮かべ、少年に扮した祈の頭を帽子越しにぐしゃぐしゃと撫でる尾弐。
「だ、だれが坊主だ!」
祈はそれを両手で掴んで跳ね除けた。更に、右手で目深に被っていた帽子を外し、
左手を首の後ろに回して、パーカーの中に仕舞っていた、腰に届きそうなほどに長い髪を外へと追い出す。
軽く被りを振ると、長い髪が風になびいた。
祈はきりとした目で尾弐をねめつけ、不機嫌そうに唇を尖らせている。
「なんだ、祈の嬢ちゃんだったのか。おじさん全然気付かなかったわ」
降参だとでも言うように大袈裟に両手をあげて、嘯く尾弐。
「わざとらしいんだよ。大体尾弐のおっさん、さっき祈って言いかけてたじゃんか!」
尾弐が八尺様を滅する直前、祈、と言いかけていたのを祈は覚えているのだった。
その指摘に尾弐は「おー、そうだっけか?」などと言いながら顎に手をやり、恍けて見せる。
「ま、変装してる時は気付いてても気付かない振りをしてやるのが大人のマナーって奴だからな」
「やっぱ気付いてんじゃねーか! ていうかなんだその雑なマナー! 女を坊主扱いする方がよっぽどマナー違反だろ!」
祈が怒鳴りながら拳を振り上げると、
「……祈ちゃんだったのか!?」
ノエルがそこに絡んでくる。正真正銘今気付きましたと言わんばかりの真顔で言うものだからタチが悪い。
祈の振り上げた拳は、ぽすりと天然男ノエルへと向かって脱力するように放たれた。
「御幸はあたしが変装する段階でいたんだから知らない訳ないだろ! ばか! 力抜けるだろ!」
「それを忘れるほど華麗な変装だったってことだよ? いや、似合ってたよね!」
今度は軽く脛を蹴られたノエルは、その場にしゃがみ込んで、整った顔をわずかに歪ませた。
尾弐が微かに笑う。
しゃがみ込んだまま、褒めたのに納得いかないという顔を作ってみせるノエルを見て、
祈はため息を吐き、立ち止まった。
- 84 :
- 「……そう言えば、さっきなんか調子悪そうにしてたけど大丈夫なの? 貧血って言ってたけど」
しゃがみ込むノエルの姿に、八尺様の繰り出す無数の腕に囲まれ、膝から崩れ落ちた先程の姿が重なり、
ふと祈が問うた。体調がすぐれないのだとしたら蹴ったりして悪かったかな、なんてことを思いながら。
するとノエルの表情が固まる。
「実は……」
ノエルの顔が曇り、俯く。「実は?」と続きを促しノエルの次の言葉を待ちながらも、
祈は何か聞いちゃいけない事を聞いてしまったような気まずさを感じていたのだが、
ノエルは顔を上げると、深刻そうな顔でこう言うのだった。
「実は、最近パンツを見てなかったからさ。どうにも血流の巡りが悪くて調子がでなく、でっ――」
今度は、先程蹴られた方とは逆側の脛に祈のつま先がめり込んだ。悶絶するノエル。
ノエルは己の過去を、今は話すべきではないと思ったのかもしれないし、
ただ話したくないのかもしれなかった。
「あ”ーっ! 聞いて損した! 心配して損したァ!」
そう言って顔を真っ赤にして憤慨して、祈は肩をいからせて尾弐の方へと向き直る。
すると、こちらの話に興味がなかったのか、それとも空腹が限界で急いでいるのか。
はたまた二人が付いてきていないことに気付いていないのか。
気が付けば、だいぶ尾弐との距離は離れてしまっている。
ゆっくり遠ざかっていく尾弐の背を見ながら、祈は動き出せないでいた。
「……あっれー、クロちゃん足早いなぁ。早く行かないと置いてかれちゃうよ、祈ちゃん」
いつの間にやら回復したノエルが祈の横に立っており、ぽんと祈の肩を叩く。
雪女の妖怪であるノエルは、患部を直接に冷やすことで怪我や痛みを誤魔化すことができるのやもしれなかった。
尾弐に追いつかねばと一歩踏み出そうとするノエルだが、その足が空中で止まる。
何かに服を引っ張られているような違和感を覚えたのだった。
違和感の元へと振り向けば、祈がノエルの服の裾をつまんでいる。
服の裾を離そうとせず、かといって黙ったまま動こうともしない祈に、
「祈ちゃん?」
仕方なくノエルは足を元の場所に降ろし、訊ねる。
「……聞き損ついでに、もういっこ聞きたいんだけど」
祈が口を開いた。
ノエルを視界に捉えない伏せがちのその瞳は、どこか思い詰めた色を帯びていた。
「なに?」
ノエルがいつも通りの調子で返す。祈は逡巡した後、意を決したように言った。
「八尺様のこと、あれでよかったのかな……?」
不安そうな祈の瞳が、ノエルの目と合う。
祈は、八尺様が尾弐に追い詰められ、憐れなまでに生きようと?く姿を見、断末魔の声を聴いた。
そして思ってしまった。やりすぎだったのではないか、と。
八尺様が橋役様の転じたものであるなどの真相についてはさておき、
祈は八尺様がどのような悪行を成した《妖壊》かは知っている。
少年を攫って食べると言う凶悪な事件を起こしていたことや、それによって死者すら出したことも橘音から聞かされていた。
故にその罪を償わせる為にも、被害に遭い命を奪われた少年達への手向けの為にも、
彼女になんらかの罰を与えることは必要であると思われた。
だが、八尺様と呼ばれた存在が恐怖の形相を浮かべ、八尺どころか8センチほどにまで縮みあがり、
狂おしいほど必死に足掻くその様を見て、可哀想ではないかと思ってしまった。
同情してしまったのだ。
そして考え始めれば泥沼だ。
もっと良い別の道があったのではないか。例えば消滅させるのではなく、成仏させるような。
では尾弐を止めるべきだったのではないか。自分の足なら空中に放られた八尺様を攫うことだってできたはずだ。
自分は選択を誤ったのではないだろうか。そんな取り止めのない考えが、祈の心を埋め尽くすのだった。
平たく言えば、心身ともに中学生の祈には先程の光景はショックが強すぎて、
それを上手く己の中で消化できず、消化するための言葉を探している、と言った所であろうか。
ノエルがどのような言葉を掛けるにせよ、祈はその言葉に何かを見出し、恐らくは納得するだろう。
祈はじっと、ノエルの言葉を待っていた。
- 85 :
- 祈 「てことで、那須野橘音のナイトブリーチャー(?)! お相手はゲストパーソナリティの多甫祈と!」
髪さま「抱かれたい髪さまNo.1! 髪さまでお送りするゾナ!」
祈 「一人しかいないランキング、ずっこいなー……」
髪さま「儂は元々特別なオンリーワン、並ぶものなどないから仕方ないことゾナ。ところで祈ちゃん、今日は制服ゾナ。珍しいゾナ」
祈 「……」
髪さま「どうしたゾナ?」
祈 「>>70で髪サマが、むさい男ばかりのチームだって言うから……少しでも女っぽく見えればと思って」
髪さま「ゾナーッ!? 予想外のいじけた反応! ちちち違うんだゾナ! 祈ちゃんはちゃんと女の子らしいゾナ! ね!? あー制服姿眩しいゾナァ!」
髪さま「と、とりあえず先にお返事からしちゃおうかゾナ! 祈ちゃん!?」
祈 「……うん」
[ [〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉] SPEED UP [ [〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉] SPEED UP [ [〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉] SPEED UP [ [〉[〉[〉[
>>64 橘音
祈 「何も問題なくてよかったー。ちょっと不安になってたけど、翌日すぐ返事くれて安心したよ。ありがとね!」
>>69 品岡のおじさん
祈 「……よ、ろ、し、く、な。品岡のおじさん」ドンッ
髪さま「お茶持ってきておきながら、すっごい睨んでるゾナ」
祈 「だってヤクザだし。悪い奴じゃん。ブリーチャーズ仲間だからお茶ぐらいは淹れてやるけどさ」
祈 「あたしらは正義の味方なんだからな。そこんとこ覚えといてよね」
髪さま「……やれやれ、一悶着ありそうな対応ゾナね」
>>71
祈 「だよなー。尾弐のおっさんは怪力でタフ! 倒れる姿なんてまず想像できないし」
髪さま「尾弐はブリーチャーズ一の肉体派ゾナ。……どうせなら虎柄ビキニを着けた鬼娘が良かったゾナ」
祈 「御幸だっていつもとぼけてる癖に、戦闘では何気に八尺様と互角だったり」
髪さま「尾弐程のパワーはないようゾナが、凍てつかせて敵の動きを封じたり、他のブリーチャーズにはない強力な能力を備えているゾナね。
……雪女とくれば美女というのが漫画では鉄板だった筈なのにゾナ」
祈 「品岡のおじさんは……色々重火器隠し持ってるらしいし、強そうだよな!」
髪さま「顔以外という制限付きゾナが、形状変化というトリッキーな能力を備えているのも魅力ゾナ。
色んな場所での活躍が見込めるゾナね。潜入とかいけそうゾナ? ……見た目だけでもギャルに……無理かゾナ」
祈 「髪サマ……」
髪さま「す、すまんゾナ。欲望がちょっとダダ漏れだったゾナ」
>>82 橘音
祈 「キックボード!? ありがとう!」
髪さま「おや、予想外に喜んでるゾナ」
祈 「うち貧乏だったからこういうの買えなくて。友達が持ってたの羨ましかったんだ。インラインスケートとかキックボードとか自転車とか」
祈 「だから今日は夢が一つ叶っちゃったな」
髪さま「良かったゾナね!」
祈 「そんで、これはあたしからのクリスマスプレゼントね! ケーキ買ってきたんだ、ホールのやつ!」
髪さま「ほほう!」
祈 「っていっても、あたしの少ないお小遣いからだからそんなに高いのじゃないけど。良かったらみんなで食べない?」
髪さま「どれ、儂が皿やらフォークやら持ってきてやるかゾナ」
[ [〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉] SPEED UP [ [〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉] SPEED UP [ [〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉[〉] SPEED UP [ [〉[〉[〉[
祈 「えっと……今回は、見て分かる通りみんな喋ったり動いたりしてるよ」
髪さま「お、恐れ多い事をしたゾナね祈ちゃん」
祈 「なるべく遠慮しながら、この状況を消化しつつみんなで仲良くお寿司屋さんに行くにはどうしたらいいんだーって悩みながら
書いたつもりだけど、気に入らなかったらあたしの書いたのはずばーっとなかったことにして続けていいからね!
言ってくれたらあたしも次から気を付けるし」
髪さま「祈ちゃんの見切り発車力が高すぎないかゾナ」
祈 「という訳で、またね! 多分あたしの今年の書き込みはこれで最後かな。良いお年を!」
髪さま「儂はまだ活躍するかもしれんゾナが、良いお年をゾナ!」
- 86 :
- 「もしも今度生まれ変われたら――触らず愛でる真人間になれますように」
ノエルは八尺様だった悪霊が消滅した虚空を少しだけ複雑な表情で見つめながら呟いた。
ちょっといい事を言ってる風だが、それは多分真人間ではなく変態紳士もしくは変態淑女である。
>「――八尺様、漂白完了。ミッションコンプリートですね」
>「これで、八尺様が東京に出現することはなくなりました。……少なくとも、しばらくの間は……ね」
橘音が勤務時間終了を告げると、人間の姿に変化し直しながら(大して変わらないけど)、橘音の方に振り向く。
「たたたたーんたーたーたったたーん♪ 橘音くん、僕の活躍見ててくれた!?」
分かる人にしか分からない謎のフレーズ(勝利のファンファーレで検索してみよう)を口ずさみながら橘音とハイタッチ。それは一体何の儀式だ。
しかもお前、肝心のところで気絶して守ってもらってほぼ勝負が付いてからしゃしゃり出てきただけちゃうんか――!?
「いやあ、衝撃の新事実が発覚してしまったよ。僕は――美少女だったんだ!」
そして無駄に爽やかな笑顔で妄言(※少なくとも端から見れば)を繰り出した。
――うん、そろそろ病院に行こう。いや、コイツを通院させるのは不可能、むしろ病院が来い。来てくださいお願いします。
黄色い救急車(都市伝説上に存在する頭がおかしくなった人を搬送する救急車)がマッハで飛んで来そうなレベルの妄言をああそうですか、という感じで軽く受け流す橘音。
どうやらコイツ、いつも冷静沈着で底が知れない橘音すら時々引かせてしまうある意味逸材のようなので
常日頃から口を開けば妄言迷言珍発言を垂れ流しているに違いない。
尚、にわかには信じがたいことにこんなんでも橘音の見立てによると強者揃いのブリーチャーズの中でも黒雄と双璧を成す強妖怪らしい。
ちなみに本人は厳選されたとは夢にも思っておらず、「丁度同じ雑居ビルにいるしとりあえず声掛けとこ」的なノリで誘われたと思っている。
>「さてっ!じゃあ、お仕事も無事に終わりましたし!皆さん、オナカ減りません?」
>「これから打ち上げかねて、お寿司でもどうです?あぁ、もちろんボクがオゴらせて頂きますから」
>「……回るヤツね!!」
橘音の願ってもない申し出――こう見えて、あれやこれやでかなり妖力(超分かりやすく言うとHP兼MPのようなものか?)を消耗していた。
放っておいてもそのうち元に戻るが、美味しい物を食べると早く戻るという都合の良いシステムになっている。(少なくともコイツの場合)
- 87 :
- 「いよっ大将、待ってました! 祈ちゃん、皿5枚入れたらはじまるやつ、当たったらあげるね。あ、祈ちゃん、もう目開けていいよ!」
事が終わるまで目を閉じておくように、と黒雄に言い聞かされていた祈に声をかけ。
橘音から何故か半ば追い出されるように公園を出されたが、その理由を特に深く考えたりはせずに素直に寿司屋に向かう。
>「しかし大将も妙なところでケチくせぇよな。タダ飯は有難いけどよ」
「あははっ! でも回るやつも好きだよ、アイスあるしね〜」
などと言っていると、祈と黒雄が坊主呼ばわりを巡って一悶着を始めた。
坊主とはすなわちハゲのことであってあんな長くて綺麗な髪なのにハゲ呼ばわりはない。
雪女(イケメン)を雪男(毛むくじゃらの白いサル)と呼んだら怒るのと一緒である。
と微妙にずれた解釈の元に祈のフォローに入り、そして蹴られた。
「僕は仮に美女って言われても嬉しいけどなあ……」
などと脛を冷やしながら呟いている。
生粋の精霊系妖怪であるノエルは性別の概念がチリ紙のごとく薄いため、祈が怒った理由が理解できないのであった。
衝撃の新事実!とか言いながら公開している時点でそれ自体は本人にとっては大して衝撃ではないのである。
人間の混血妖怪や元人間とか元動物はともかくその辺から湧いてきた生え抜きの妖怪は結局姿がどっちに見えるか、というだけの話なのだろう。
>「……そう言えば、さっきなんか調子悪そうにしてたけど大丈夫なの? 貧血って言ってたけど」
ここにきていきなり核心に切り込んでくる祈。
橘音や黒雄はノエルと同じく見た目より遥かに長い時を生きている妖怪。大昔に多少やらかしてようが何も気にすることは無い。
しかし祈は業界では珍しいリアル中学生。たったの14歳。
永遠を生きる者から見れば生まれたばかりに等しいその魂はまだあまりにも無垢で――
実も蓋も無く言ってしまえば、嫌われるのが怖かっただけかもしれない。
出てきたのは、苦し紛れの言い訳。
「実は、最近パンツを見てなかったからさ。どうにも血流の巡りが悪くて調子がでなく、でっ――」
>「あ”ーっ! 聞いて損した! 心配して損したァ!」
怒った祈からまた蹴りが飛んできた。悶絶しながらも、貧血で押し通せた事に胸をなでおろす。
もしも相手が祈ではなく生粋の妖怪だったら話にならなかっただろう。
パンツが好きな変態に思われてしまったが、まあ今更どうってことはない。
ほっとして黒雄の後を追おうとするノエルを祈が止める。まだ聞きたいことがあるらしい。
- 88 :
- >「八尺様のこと、あれでよかったのかな……?」
その言葉に、ノエルははっとして祈の顔を見る。
「祈ちゃん……見てたんだね」
黒雄に目を瞑っておくように言い聞かされていたが、見てしまったようだ。そりゃそうだ。
見るなのタブー、とはよく言ったもので神話の時代から人間見てはいけないと言われたら見てしまうし
禁断の扉は開けてしまうし、開けてはいけない箱は開けてしまうのである。
ノエルは思う、妖怪の血が混ざっているとはいえ4分の3は人間の中学生をこんな危険な事に巻き込んでいいのかと。
(メンバーが実は厳選されていることや混血であるが故の柔軟性等の深い意図があることを彼は知らない)
ここで敢えて救いのない答えを返したら、彼女は嫌気が差して身を引くだろうか――
いや、彼女が望んでここに身を置いているのなら、そんな余計なお世話はとんでもない傲慢というものだ。
自分は都合の悪い記憶に蓋をして無駄に長く生きているだけで、現にさっき彼女がいなかったら危なかった。
だから、自分の信じる世界観を正直に伝えることにした。
この世から消滅した魂がどこにいくのかとか、実は妖怪業界でも未だに統一見解に至っていない。
それは各々が心の中に秘めているもので、人に押し付けるものでもないから、普段は表に出さない。
でも、それが目の前の少女の救いになるのなら――
「あのね、これは僕の考えだから……」
そう前置きした上で。
「クロちゃんはああ言ってたけど地獄なんていかないから大丈夫」
「じゃあどこに行くのさ」と聞き返す祈にむかって。
「朝起きたときに窓から差す光、とか……街路樹の葉を揺らすそよ風とか」
「小川の水のせせらぎとか……野山に咲く花、とか……空から降ってくる雪とか」
「本当は魂に善も悪も無い――全ては一つなんだ」
途切れ途切れに断片的な言葉を紡ぐ。
ふざけた発言は湯水のごとく出てくるくせに、真剣な想いを伝えるのは苦手らしい。
なんとなく感じ取れるその世界観は優しく、この国の人間には割と一般受けするありがちなもので
黒雄に聞かれたら甘いと一喝されそうで、でも幸い目の前の少女を癒すにはもってこいのものだった。
「だからいつかまた人間に生まれ変われる日がくるかもしれない。その日のために、祈ってあげて。
本当の愛を知る事ができますようにってさ。
大丈夫、君にはその力がある。名前っていうのは強力なおまじないなんだ。君の名前は“祈”だろ?」
人間との混血である彼女の名は、生粋の妖怪にありがちな人間界に潜り込むために宛がわれた駄洒落のようなものではなく、きっと本当の親の願いが込められたものだ。
そして何を思ったか、祈の背に両腕を回して抱きしめ、耳元で囁くような声で言う。
「今日は守ってくれてありがとう――今度は僕が祈ちゃんのこと、絶対守るからね。
だから橘音くんのこと信じて、安心して続けて……」
- 89 :
- 一見ロマンチックな絵面だが……コイツに恋愛感情なんてものは多分存在しない。
純粋な仲間意識でやっているのであろう。どこまでも天然なのである。
まあただでさえ黄色い救急車で搬送されかねない人の上に祈目線ではパンツが好きな変態なので
いくら見た目がいいとはいえよもや祈がときめいてしまうなんてことはないであろう。
それどころか場合によっては「いきなり何すんだよ変態!」とド突き飛ばされたかもしれないぞ!
「さ、行こう!」
そう言って何事もなかったかのように祈を伴って駆けだしたかと思うと、あっという間に祈は遥か前方にいた。
彼女はターボババアの孫なので当然である。
「えっ、そんなのアリ!? ちょっと待ってよ――――――――!!」
情けない叫び声を響かせながら追いかけていくのであった。
ところでこいつ、第一話にして「開けるな危険」と書いてある禁断の扉をマッハでぶち破ってしまった気がするのは気のせいだろうか。
ぶち破ってしまったから「やっぱ無かったことにしよ」と閉めるに閉められないし。
まさしくドウシテコウナッタ――! という状況である。
ただ一つ確かなのはどう見ても裏で怪しい事を企んだりはしない(というかその知能もない)分っかりやすい味方キャラということでそこは安心していいだろう。
「やっと追いついた……! 今日こそ決着をつけてやる――!」
そんなナレーターの人の心配を余所に、やっとの思いで黒雄に追いつき、一方的に大食い対決の挑戦状をたたきつけたりしている。
他人のおごりで大食い対決すな。
「ああ、それと……今日は借りが出来たな。いつか倍返しにして叩き返してやる!
でもクロちゃんがピンチになることなんてなかなかないからさ――それまでいなくならないでねっ」
表現こそ違えど意味合いは先ほど祈に言った言葉とほぼ一緒である。
しかし祈の時よりも心なしか「いなくならないでね」の部分に力が入っているのは気のせいだろうか。
GMスレなのでまさか敵化はないとは思うが(←メタ発言自重)かといってこの業界ノエルのように分っかりやすい味方キャラばかりとも限らないのである。
黒雄の微妙な胡散臭さに本人も無意識のうちに勘付いているのかもしれないし、特に深い意味はないのかもしれなかった。
【すっかり遅くなったのでおまけコーナーはまた明日(今日)!】
- 90 :
- 名前:みゆき
外見年齢:10代前半ぐらいだがこの世ならざる妖艶さも併せ持つ
性別:祈の予想的中で男の娘……
と思いきや黒雄の性別判定をもパスする完全無欠の美少女。これもうわかんねぇな。
身長:152
体重:38ぐらい
スリーサイズ:細身 均整は取れているが巨乳ではない
種族:雪ん娘
職業:おまけコーナー賑やかし役
性格:天然 無邪気
長所:美少女であること
短所:残念であること
趣味:アイスを食べること モフモフすること
能力:かき氷作り
容姿の特徴・風貌:白い肌に長い銀髪にアイスブルーの瞳。白基調の和ロリに青い帯風のリボン
簡単なキャラ解説:
おまけコーナーにだけ出現する謎の残念な美少女。誰かさんと似ている。
モフモフしたものが好き。
怒るとブリザードが吹き荒れるので高級アイスを捧げて怒りを鎮めてもらおう。
万が一オマケコーナーに呼んでくれる奇特な人がいればいつでも誰のところにでも出張します。
みゆき「みんな、かなり遅くなったけどメリークリスマス!
各地で雪が降るみたいだけど車のタイヤは冬用に変えたかな? 雪ん娘みゆきのブリーチャーズもどき☆はじまるよ〜!」
髪さま「お相手は毛髪界の……だっ、誰ゾナ!? いや、知ってる気がするけど気が付いてはいけないような気がするゾナ……」
みゆき「誰とは失敬な。髪さまが「男祭でオッスオッスソイヤソイヤでホモホモしいゾナ、
新たな扉が開いたらどうしようゾナ」とか言うからご要望にお応えして出てきたのではないか」
髪さま「ムサいとは言ったけどホモホモしいとは言ってないしそんな扉は断じて開かんゾナ!
勝手に捏造するんじゃないゾナ! そもそもワシの要望は巨乳であって……(小声)」
みゆき「……なんか言ったか?
しかし来てみればそこまで男祭でもないようだが……まさか男3女1男寄りの性別不詳1だとでも思っておるのか?」
髪さま「そうとしか見えないゾナが……」
みゆき「甘―い! 目に見えるものばかりに気を取られているからそう見えるのだ!
男2女2 これもうわかんねぇな1。実に良いバランスではないか。
一見男ばかりで強そうだけどよく見ると実は萌えも完備……これは最強ではないか!」
髪さま「女2の時点ですでにおかしい上に変なカテゴリーが新設されてるゾナ……」
みゆき「こんな美少女が女の子なわけはないしあんなイケメン(※ただし外見に限る)が男なわけはないであろう。よって『これもうわかんねぇな』と」
髪さま「突っ込みどころが何重にも折り重なってどこから突っ込んでいいのか分からんゾナ」
みゆき「まぁ精霊系妖怪の性別などあって無いようなもの、深く追求するだけ無駄ということだ。しかし動物系妖怪は別。
仮面の性別不詳ミステリアスキャラというのは童の独断と偏見による統計によると999.99999%の確率で美女ッ! 巨乳美女の可能性もワンチャンあるぞ!」
髪さま「わざと小数点の位置を間違えるんじゃないゾナ!
橘音は化かすのが得意な妖狐ゾナよ、ミスリードを誘って実は男ゾナ間違いないゾナ!」
みゆき「そうか……? ふふっ、まあどっちでも良いわ。
普通の狐が1モフだとしたら三尾の狐は3モフ……なんとモフモフ度が通常の3倍!
うっかり化け損ねて尻尾ポロリしないかな〜♪」(橘音の尻を凝視)
髪さま「どっちにしても尻が狙われているゾナ!橘音逃げてゾナー!」
- 91 :
- みゆき「ここでお便りのコーナー、えーと、東京都在住のホワイトクリスマスさん」
髪さま「確かクリスマスはフランス語で……あっ(察し)」
みゆき「『皆様のレスをいつも楽しみに全裸待機しております。
後先考えない出オチキャラの見切り発車でまさかここまで美味しいポジションを頂けるとは感謝感激です。
不束通り越して色んな意味で煎餅もおかきもあられもなく散らかり放題ですが
クビにならない限り往生際悪く続ける所存なのでどうか最後までよろしくお願いします』
どれどれ……。あっ、確かに出オチ感半端ない。
ってか雪女(男)←どっちやねん! って一発ネタがやりたかっただけで何で男なのかとか何も考えてないやろこの人!
何々?『何も考えずに残念な人をやってたら何故か強キャラ設定のイケメン化という怪奇現象が発生していい意味で草不可避です』だって」
髪さま「それは妖怪の仕業ゾナ。「残念」と「強キャラ設定のイケメン」は両立するから大丈夫だ問題ないゾナ」
みゆき「実はあいつここが出来る少し前に丁度妖怪検定受けたりネット怪談にちょっとはまったりしておってな
これはもう参加するしかないと縁を感じたそうだ、それにしては付け焼刃すらついてないけどな!」
髪さま「偶然じゃないゾナ、それも妖怪の仕業ゾナ」
みゆき「あと冬なのにかき氷屋が賑わってる風なのは最初の八尺様が夏設定で来そうな感じだったからだそうで……」
髪さま「そうだったゾナね、まああれは常連客ということにすればいいゾナ」
>ムジナ殿
みゆき「よろしくオナシャス☆ いいなあ、楽しそうな能力! しかも割とガチなワル!」
髪さま「でもノエルはなんとなくガチなワルは苦手そうな気がするゾナ」
みゆき「うむ、あのヘタレっぷりではビビりまくりそうだな。それはそれで面白いではないか(ニヤリ)
ガンガン失礼な事とか言ってやってもいいからな、遠慮は無用!」
>祈ちゃん
みゆき「……」(ムジナをおじさんと呼んでいるのを見て複雑な表情をしている)
みゆき「おじさんて……まぁクロちゃんはマッチョだから仕方ないとして……」
髪さま「……子どもは正直ゾナ。『※ただしイケメンは除く』補正に感謝するゾナ」
みゆき「たとえ髪さまがヒロイン認定してくれなくても落ち込むな……
童から見ると祈ちゃんはむしろ主人公ポジションだと思うぞ(どんっ!」
髪さま「その心はゾナ?」
みゆき「桁違いのジジイババアがひしめくなか業界では稀有なリアル中学生――人間との混血という美味しすぎる設定!
単純な能力値では周囲に劣っても混血であるが故の無限の可能性を秘めている――!
知恵と勇気と友情と機転で遥かに格上の妖怪を打ち破る未来がありありと見えるぞ!」
髪さま「確かにそう言われてみれば主人公属性ゾナ……」
みゆき「と、いうわけで祈ちゃんが主人公ポジションにおさまった暁には童がヒロインポジションを頂くぞ(どんっ」
髪さま「あっ、通りすがりの黄色い救急車ゾナ! 重病人一名緊急搬送をお願いするゾナ―!」
みゆき「冗談だ、冗談。……隠れヒロインはきっちゃんに決まっておるではないか。
そのSPEED UPってやつかっこいい! ケーキくれるの!? ありがとう!
えーと、じゃあ童はみんなにかき氷作ってあげよう!……出来たよー(トンッ) 美味しくなる魔法いきまーす、萌え萌えずきゅーん☆」
髪さま「二重の意味で寒いゾナ……!
そういえばそのサービスを自らやるのを前にノエルがオプションサービスに設定しようとして全方位から止められてたような……」
みゆき「最近パンツ見てない発言で大草原不可避からのあのシリアスな振りはヤラレタ――! おかげで深夜テンションで変なスイッチが入ってしまったぞ!」
- 92 :
- >きっちゃん
みゆき「いかにもな敵の一味の作戦会議キタ―――――――――!
第一話お疲れ様! “橋役様”はあまりにそれっぽすぎて本当にそういう説があるのかと思って思わず検索してしまったぞ!」
「今回祈ちゃんがみんなをかなり大胆に動かしてたよね!それで思ったんだけど」
例えば
キャラクター操作:可/不可(キャラクターを動かしたり喋らせたりしていいか)
設定操作:可/不可(割と重要な過去設定とか捏造してもいいか)
みたいな項目をテンプレに追加してはどうかな〜なんて。
自キャラを動かされるとやりにくくなっちゃう人もいるだろうしそれで参加を敬遠されたら勿体ないから。
ノエルは「あ、自分ドMのド変態なんで煮るなり焼くなり好きにしてください!」って言ってた!
みゆき「……えっ、プレゼントくれるの!? ありがとう! 何これ可愛〜い! きっちゃんが作ったの!? すごい、大事に使わせてもらうぞ!
(出オチっぽいテンプレに書いてあるだけなのに)よく把握して貰ってて感激だ!
伝統ブッチの日本伝統妖怪ってどんな服着てるのかな?って考えたらああなったそうだ!」
髪さま「……何でお前が貰ってるゾナ?」(今更ながら根本的な質問)
みゆき「(ギクッ)いや、あ、アイツならそう言うだろうな〜って思って! あ、後で渡しとくから!」
みゆき「巨乳美女が好きかだって!? もちろん好きだってさ! あと美少女も美少年も男前マッチョも性別不詳も全部好きだって!
ぱふぱふは好きです、もふもふはもっと好きです!」
髪さま「ストライクゾーン広ッゾナ……ワシも身の危険を感じるゾナ!」
みゆき「分け隔てない愛、素晴らしいではないか。もしも変な意味に聞こえたとしたらそなたが汚れているからだ。
仕方がない、風呂に入るついでにシャンプーして清めてやろう」
髪さま「ゾナ!? それはサービスシーンということゾナ!? ついに美少女にシャンプーされる日が……!」
みゆき「先にいっておるぞ」
(ガラガラッ)
ノエル「えっ! 急に何!? もしかして覗きに来た!?」
髪さま「何が悲しゅうてお前をのぞかなあかんゾナ!
美少女は!? しかも無駄に湯気ガードが手厚くて何も見えんゾナ! 別に見たくないゾナけど」
ノエル「美少女なんて来てないけど。夢でも見たんじゃね?
あっ、そういえばまだシャンプーやってあげてなかったよね。いい機会だからやってあげるよ!」
髪さま「はっ(察し)これはもしや湯気ではなく氷から出る湯気的なやつ……!?」
ノエル「いくよ〜ん、目ぇ瞑ってね!」(冷水シャワー直撃)
髪さま「……氷水ゾナあああああああああ!!」(絶叫)
ノエル「そういえば髪様って性別?だし人間形態になったら巨乳好きのロリババア美少女の可能性もワンチャンあるんだよな……
つまり僕は今巨乳美女好きのロリババア美少女にシャンプーしている可能性が微粒子レベルで存在する……! うわあ、来年も幸せな年になりそうだなあ! 良いお年を!」
髪さま「全裸で言うなゾナあああああああ!」
- 93 :
- 橘音「こんにちは、那須野橘音の年の瀬ブリーチャーのお時間です」
髪さま「だんだん雑になってきたゾナね……」
橘音「そ、そんなことないですよ。……それはともかく、クロオさんの〆がまだなうちに恐縮なんですが、二点ほどご連絡が」
髪さま「……ゾナ」
>>85 祈ちゃん
橘音「お疲れさまでした。いつもボクの後で無茶振りの処理をして頂きまして、申し訳ありません」
髪さま「祈ちゃんの筆力に依存しっぱなしゾナね。橘音はもっと祈ちゃんに感謝しろゾナ」
橘音「えっと、ハグしてキスでもすればいいでしょうか?」
髪さま「そういうセクハラネタはもうノエルでおなかいっぱいゾナ」
橘音「そうでした、ボクとしたことが……。で、本題なんですが、ちょっとルールの改正をさせて頂こうと思いまして」
髪さま「何ゾナ、改まって」
橘音「自分以外のPCの行動や発言に関してですが、これは今後『原則的に禁止』ということにさせて頂きたいと思います」
髪さま「いきなりどういうことゾナ?前はそれでいいって言ってたはずゾナ」
橘音「仰る通りですが、ちょっと思う所がありまして。このスレはスレタイにもある通り『TRPG』を謳っています」
髪さま「いかにもゾナ」
橘音「TRPGはあくまでも自分のPCが考え、行動することを楽しむもの……と、ボクは考えています」
髪さま「まぁ……オフラインでのTRPGセッションでも、他人のキャラは動かさないゾナね」
橘音「でしょ。ということで、申し訳ないですが今後は原則禁止、ということで、ブリーチャーズの皆さんは周知願いますね」
髪さま「そういう大事なことはさっさと言えゾナ!」
橘音「いやぁ、ボクもGM初心者なものですから。いろいろ不備があるのはこう、笑って許して頂けたら……な〜んて」
髪さま「まったくゾナ。……念のため、祈ちゃんは別にイケナイコトをしたというわけじゃないゾナ」
橘音「勿論。『リレー小説』というスタイルでしたら、祈ちゃんのやり方は極めて正しいですから。これはボクの落ち度です」
髪さま「祈ちゃんの実力なら、他の妖怪を動かさなくてもうまい流れに持って行くことは充分可能と思ってるゾナ」
橘音「それも勿論。ということで宜しくお願いします。あ、髪さまは従来通り煮るなり焼くなり好きに使ってくれて構いませんから!」
髪さま「ちょっ!?おまえワシを生贄にして逃げる気ゾナ!?」
>>92 ノエ……みゆきちゃん?
橘音「おやっ?お客さんですか?クライアントかな……」
髪さま「とぼけっぷりが堂に入ってるゾナね」
橘音「この業界、知らんぷりしておいた方がいいことも多いですからねぇ。とにかく、お疲れさまですノ……みゆきちゃん」
髪さま「今ちょっと怪しかったゾナ」
橘音「ああ、上の件で言い忘れていたんですが、自PCに関わるNPCを作って自分と絡ませる等々といったことはOKです」
髪さま「みゆきやワシみたいなもんゾナね」
橘音「はい。その際はもちろん本編に出して頂いて構いませんので」
髪さま「おおおおお……!ついに!ついにワシが本編デビューする時が!」
橘音「いやそうじゃなくて。NPCの話であって、髪さまは本編には出しませんからね」
髪さま「チッ……ゾナ」
橘音「それからもう一件。今後、こちらの本スレは本編ストーリーのみを投下する場所にしたいと思います」
髪さま「な!?そ、それじゃワシはどうするゾナ!?おまけコーナーは!」
橘音「ご心配なく。ちゃんとそれ専用の、いわゆる避難所を作っておきましたから」
髪さま「ホッ。いきなりリストラかと思ったゾナ。ブラック企業もいいとこゾナ」
橘音「これも本当にありがたいお話なんですが、おまけコーナーの頻度が上がってきたのでね。これは分離させた方がいいだろうと」
髪さま「そうゾナねェ……。最初は、あんまり出番もないだろうと思っていたゾナけど……」
橘音「皆さんが積極的に使ってくださって、髪さまを可愛がって下さっているお陰です。感謝感激です、はい」
髪さま「まぁ、こっちも本編のみの方が読みやすくていいかもしれんゾナ」
橘音「そういうことです。ってな感じで、避難所はコチラ!」
【東京ブリーチャーズ】那須野探偵事務所【避難所】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/15289/1482900237/
髪さま「次回から、おまけコーナーはそっちゾナね。ワシも引っ越しゾナ」
橘音「避難所では名無しの皆さんからの雑談、仕事の依頼等々もどんどん受け付けますのでお気軽に!ではまた次回!」
- 94 :
- 2ch内TRPG系スレ用(創作発表板・なな板)総合ヲチスレ [無断転載禁止]©2ch.sc
http://mint.2ch.sc/test/read.cgi/net/1478705490/
- 95 :
- >>93
すまない
その板の避難所を使うのには反対だ
安全性が認められない
- 96 :
- 那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYIに改善が認められないなら
追放もやむを得ない
- 97 :
- 耳に留まり続ける断末魔と、拳に残る不快な感触。
己が行動により齎されたソレに対し、けれども尾弐が感情を動かされる事は無い。
風のない湖の様に。若しくは夜の砂漠の様に。
一つの命の残骸を葬り去ったというのに、尾弐黒雄の感情はどこまでも平坦であった。
そうして、悪霊が完全に霧散した頃。
>「――八尺様、漂白完了。ミッションコンプリートですね」
缶飲料を飲み終えた那須野が、いつも通りの様子で尾弐の近くへと歩み寄って来た。
>「これで、八尺様が東京に出現することはなくなりました。……少なくとも、しばらくの間は……ね」
「……あー、とりあえずこれで『目的は果たせた』訳だ」
どこか含みを持った言葉を吐く那須野に対し、尾弐も自身の右肩を揉みながらどこか煮え切らない返答を返す。
それは、尾弐も那須野と同じく、八尺様という怪異がこの世から完全に消え去った訳では無い事を知っているが故の反応だろう。
……或いはそれ以外の理由があるのかもしれないが、この場において尾弐がその真実を語るつもりは無いようである。
>「これから打ち上げかねて、お寿司でもどうです?あぁ、もちろんボクがオゴらせて頂きますから」
>「……回るヤツね!!」
「あいよ。折角だから道中は大将の懐具合をネタに会話回しとくぜ」
そうして一通りの事後処理を終えた尾弐は、那須野へとひらひらと手を振り、祈とノエルを伴い駅へと向かうのであった。
・・・・
駅までの道中。
歩みを進めるにつれすれ違う人の数は増えていき、蛍光灯の人工的な明かりが陽光に取って代わり、夜に沈む街を頼りなく照らし出していく。
そんな人間の作った社会を歩む人外の三人は、人々の喧騒が増すのに反比例してその口数を減らしていった。
別に、なにか理由があった訳では無い。強いて言うなら、先ほどの『仕事』に対して、各々に考える事があったからだろう。
どこか気まずい沈黙の中、尾弐は一度小さく息を吐くと、少々おどけた態度で口を開く
「しかし大将も妙なところでケチくせぇよな。タダ飯は有難いけどよ」
口に出す言葉は、先に那須野に述べた通りの懐事情へのからかい。
他に気の利いた話題がなかった故の発言であったが、それを起点にしてなんとかその場の会話は繋がって行った。
理由の無い沈黙は、意味のない会話で解消出来る。
尾弐は沈黙を続けない事こそが今この場で必要なのだと……常に比べて大人しい祈の様子を見てそう判断した様である。
>「やっぱ気付いてんじゃねーか! ていうかなんだその雑なマナー! 女を坊主扱いする方がよっぽどマナー違反だろ!」
>「僕は仮に美女って言われても嬉しいけどなあ……」
「おう、わりぃわりぃ。まあ今度新しい運動靴でも買ってやるから許してくれや、祈嬢ちゃん。
……あと、ノエル。お前さん、その発言は割とギリギリだろ。おじさんちょっとサブイボ立ったぞ」
その尾弐の小さな努力は無駄ではなかった様で――――結果、少なくとも祈は表面上は元気を取り戻した様に見える。
尚、発言の途中で尾弐はノエルにサブイボを立てているが……それは、尾弐が妖怪の性別概念に対して人間よりの
判断能力しか持ち合わせていないが故である。
妖怪といえども、種族が違えばその性質について知らない事も多いのだ。
- 98 :
- 「……」
そうして、一頻り場が落ち着き、ノエルと祈が愉快な掛け合いを始めたのを確認した尾弐は……二人に気付かれない様に、少しその歩みを早めた。
そのまま二人から少し離れた位置に辿り着き、彼が懐から取り出したのは携帯電話。
見た目に似合わない最新式のスマートフォンの画面に表示されているのは、2件の新着メール。
その内容を確認した尾弐は、一瞬眉間に皺を寄せた後……天を仰いで息を吐いた。
暫くして、尾弐が届いたメールの内の1件に手早く返信を行った所で、祈と、それに遅れてノエルが追いついてきた。
携帯を待機状態へ切り替えてからポケットへと仕舞うと、尾弐はノエルの提案した大食い勝負に
「暴飲で弱った胃でンな勝負したら、俺また吐くぞ」と、やんわりと拒否の意を答え……
>「ああ、それと……今日は借りが出来たな。いつか倍返しにして叩き返してやる!
>でもクロちゃんがピンチになることなんてなかなかないからさ――それまでいなくならないでねっ」
次いで放たれた言葉に、一瞬大きく目を見開いて動きを止めた。
だが、それも一瞬。直ぐに何時ものやる気なさげな表情に戻ると、手近に有った祈の頭をわしゃわしゃと撫でながら口を開く。
「は、心配すんな。俺は大丈夫だよ」
放たれたのは、ノエルの問いかけから少しズレた回答……それが故意なのかどうかは、尾弐以外は誰も知る由は無い。
【返信用 mail】
差出人:×××
宛先 :尾弐
本文 :結果報告を待つ
- 99 :
- 髪さま「ナイトブ」
尾弐「おっとストップだ」
髪さま「ゾナ!?」
尾弐「悪ぃが、ナイトブリーチャー番外編は今日は休業だ。
どうにも糞忙しくて時間が取れねぇんだよ」
尾弐「つーわけで、また後日投稿するから、それで許してくれ。
ああ、スレの方針については了解したぜ」
尾弐「……ん?」
尾弐「あー……那須野。なんか規制喰らっててその避難所書き込めねぇんだが」
- 100 :
- 橘音「皆さんおはようございます、那須野橘音のモーニング・ブリーチャー、略して朝ブリのお時間です」
髪さま「なんか下品な響きゾナね……。髪さまゾナ」
>>95
橘音「そ、そうなんですか?それは初耳です。具体的にどの辺りが安全ではないんでしょうか?」
髪さま「仔細はわからんゾナが、安全じゃないというなら使うのは控えた方がいいかもしれんゾナ」
橘音「まぁ、そうですね。単にボクの知ってる避難所関連板がそこだったっていうだけで、無理して使いたい訳じゃないですし」
髪さま「おまけに尾弐は結界に阻まれて、そこに行けないらしいゾナ?」
橘音「それは由々しき問題です、なら別の場所にしましょうか。あちこちフラフラしてしまって、皆さんには申し訳ないですが……」
髪さま「ということで、また別に避難所を用意したゾナ。そこも安全かどうかは不明ゾナが、まぁ物は試しゾナ」
橘音「新しい避難所のアドレスはこちらになります」
【東京ブリーチャーズ】那須野探偵事務所【避難所】
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/9925/1483045822/
橘音「お手数ですが、皆さん結界に阻まれないかのテストに書き込みお願いできればと思います」
髪さま「『テスト』とか一文だけでオッケーゾナ」
橘音「では、宜しくお願いしますね」
>>96
橘音「えぇ〜?なんです藪から棒に?すごいこと言う人もいたもんだなぁ」
髪さま「最近の不手際を指摘されているんじゃないかゾナ、反省しろゾナ」
橘音「へへぇ〜、それは大変に反省しておりますです、はいぃ〜。ここはひとつ、何卒追放だけはご勘弁を〜!」
髪さま「わかればいいゾナ、わかれば」
橘音(なんで髪さまに対して謝ってるんだろう、ボク……)
髪さま「ともかく、一応別の避難所は作ったし、これで様子見とさせてほしいゾナ」
橘音「クロオさんも〆を書いて下さいましたし、これで一巡ですね。では、第二話は年明けとさせて頂きましょうか」
髪さま「祈ちゃんもノエルも尾弐もムジナも、GMの不手際で迷惑かけてすまんゾナ」
橘音「面目ない……。で、でも、シナリオはキッチリとやりますからね!それはお楽しみに!」
髪さま「みんな期待をかけてくれているはずゾナ。それを裏切ってはいかんゾナ」
橘音「はい、それはもちろん。ボク自身、中途半端に投げ出すのは不本意ですから。ではまた次回!」
- 101 :
- >>100ゲッツおめでとうゴザイマス
おまけコーナー楽しくヲチさせて頂いてマス
安全かどうかは不明な避難所で本当に大丈夫デスカ
知ってる避難所関連板がそこだったって無理がないデスカ
とすると板のトップページも読んでないゴmゲフン失礼
度胸のある方には不要やもしれないデスがご参考までに有志の案内をドゾー
創作発表板 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/internet/3274/
避難所あんだろ馬鹿じゃねえの?
だそうデス
それでは良いお年を
- 102 :
- >>101
うん、そこ使うのがベストだと思うよ
- 103 :
- 一月某日、午後三時。都内某所にある、黄色いMが目印の世界規模ハンバーガーチェーン。
その店内の窓に面した禁煙席に、半狐面をかぶった古風な出で立ちの学生と柄シャツを着たチンピラ風な男が座っている。
「さて。今回アナタをお呼びしたのは、他でもありません。これを運んでほしいのです」
学生――那須野橘音はそう言うと、自分の足許に置いていたジュラルミンのケースをゴトン、と机の上に置いた。
二人用の席をムリヤリくっ付けて四人掛けの席にしているが、それでもまだ狭い。
食べかけのチーズバーガーとウーロン茶(Sサイズ)の載ったトレイが落ちそうになったが、ギリギリで食い止める。
「もう、親分さんに話は通してあります。アナタを自由に使っていい、という許可も……いつも通りに、ね」
橘音はそう言うと、にっこり笑った。――面のせいで顔の上半分は隠れているが。
ムジナの属するヤクザの組長は橘音の上司である御前と繋がりがあり、東京漂白計画も把握している。
何かあれば組をあげて協力する、ということも。そうして橘音は過去、必要に応じてたびたびムジナを使ってきた。
今回は運び屋の真似事をしろ、ということらしい。
「ムジナさんはこういうお仕事、得意でしょ?色んなモノを運んでるんじゃないですか、お金とか薬とか――死体とか」
からかうように言って、くふっ、と笑みを漏らす。
「もちろん、これも大切なモノです。東京漂白計画の完遂には必要不可欠なもの」
「言うまでもないですが、中身がなんなのかについては詮索無用でお願いします。それはまだ誰にも明かせません、時が来るまでは」
「とにかく、アナタにはこれを肌身離さず持っていてほしいんです。トイレのときも、眠るときも」
「もし、誤ってケースを開けてしまったり、紛失してしまった場合は――」
「……東京が。滅びます」
荘重な声音で言う。が、それもほんの一瞬のこと。すぐに両手を緩く広げると、
「何にしても、大事に持っていてくれればいいんですよ。ボクがいいと言うまで……たったそれだけの簡単なお仕事です」
と、いつもの軽い調子で告げた。
「じゃ……確かにお渡ししましたよ。たった今からミッションスタートです」
対面のムジナへ、ずいっとジュラルミンのケースを押し付ける。
「あ、そうそう。衝撃を加えたりしてもいけませんよ。壊れ物じゃないですが、万一ってこともありますし」
「そうですねえ、例えるなら……プルトニウムを運んでるくらいの意識でいて頂ければ」
サラリととんでもないことを言った。ムジナにケースを押し付けて一安心とばかりに首を鳴らすと、ハンバーガーの残りを食べる。
ウーロン茶を飲み干してから店内の掛け時計に視線をやり、トレイを持って立ち上がる。
「じゃ、そろそろ行きましょうか。皆さんそろそろ見えられるはずです」
「ウチの事務所ですよ。そこでまず、今回の作戦をミーティングしなくちゃね」
ケースはそう重くはない。入っているモノ自体も、大した重量ではないのだろう。
ムジナにケースを持たせると、橘音は鼻歌混じりにハンバーガーショップを出、事務所へと足を向けた。
- 104 :
- 「皆さんは、パズルは得意ですか?」
現状行動可能なメンバーに召集をかけ、いつもの面子が揃うと、橘音は不意にそんなことを言い出した。
それから自分の事務机に近付いて抽斗を開け、中から何かを取り出す。
それは、様々な色分けが施された立方体。いわゆるルービック・キューブだった。
「ボクは結構好きで、よく頭の体操として用いるんですよね。暇潰しにもなりますし……ホラできた」
カチャカチャとキューブを回し、瞬く間に六面体の色を揃えてガラスのローテーブルの上に置く。
「世の中にはコレの世界大会があって、日々プロフェッショナルがタイムを競っているそうですよ。いやあ、面白いですよね!」
「……それが今回の仕事とどう関係してるんだ、と言いたげな顔ですね?皆さん。ところがどっこい、これが大ありでして」
「では……次に、コレをご覧ください。あ、祈ちゃんちょっとテーブルどかすの手伝ってくれます?」
テーブルをどけ、プロジェクターの準備をすると、壁に複数のウインドウでデータが映し出される。
ネット上にアップされているニュース記事だ。他にもテレビの報道番組を録画した動画もある。
ソースはバラバラで統一感も何もないが、その取り上げているニュースはすべて同一のものである。
記事にはこうある。
『奥多摩町で一家四人変死 警察は目下原因を究明中』
『八王子市で七名死亡 女性ばかり狙われる 犯人情報なし』
『殺人ウイルスか!?昭島市で新たに女性二名死亡 姿なき殺人者の正体は?』
etcetc……
ここ最近世間を騒がせている、連続突然死に関するニュースである。
東京の西端で発生した変死事件は、当初無理心中に始まり一酸化炭素中毒や殺人事件の線で捜査が進められたが、不発に終わった。
その後八王子市で同じような変死事件が起こり、警察は異常犯罪者の仕業かと情報を募ったが、それも空振り。
翌日には昭島市で『往来を歩行中の女性が突然のたうち回り、血を吐いて死ぬ』という事件が起こり、警察は病原菌説を選択。
現在は厚生労働省の指示で事件発生地域の除染、隔離が行なわれているが、犠牲者は日々増加の一途を辿っている。
原因は今もって不明。新種のウィルス、毒ガステロ等々様々な原因の予測がなされたが、究明には至っていない。
「皆さんも、連日連夜のメディアの特集でもうとっくにご存知と思うのですが――」
「これは未知のウィルスでも、毒ガステロでもありません。これは明らかに《妖壊》の仕業です」
「しかも、特A級に危険な……天災レベルの、ね」
そう言って、プロジェクターの画像を変更する。東京都の地図だ。
「ご覧のように、事件は東京都の西端で始まり、徐々に東へ向かっています。つまり都心へ近付いている」
「二十三区以外を捨てるとは言いませんが、こちらへの侵食を許せばアウトです。それまでに漂白を完了しなければ……」
「でなければ、東京が滅びます。……いえ、日本が滅ぶ。そしてゆくゆくは世界が滅ぶでしょう。それほど危険な相手です」
橘音の声にいつものおどけた調子や揶揄の響きはない。本気でそう思っている。
テーブルの上のルービックキューブを再び手に取り、全員によく見えるように掲げてみせる。
「狙われるのは女性ばかり。そして往来で突然女性が死ぬなど、何者か目に見える存在の犯行でもない」
「これは『呪詛』です。凶悪な呪いのパワー、それも特殊な――子供を産むことのできる女性だけを殺害する呪詛」
「女性を呪殺し、子を産む者を根絶する。本来産まれるべき子供を奪い獲る、『子』を『獲る』……すなわち『子獲り』。そう――」
「今回のターゲットは。『コトリバコ』です」
橘音の掲げる市販のルービックキューブが、蛍光灯の明かりを反射してやけに毒々しく光って見えた。
- 105 :
- 那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI
チミが一番いらないわ
- 106 :
- 「実は先日、鞍馬山にある妖怪銀行の地下金庫に保管されていたコトリバコが何者かによって盗まれました」
ルービック・キューブをおろし、橘音は続ける。
「現在東京西部で猛威を振るっているのは、その盗まれたコトリバコで間違いないと思います」
「ボクたちのミッションはそのコトリバコを無力化し、回収する……ということですね」
「メンバーはボク、ノエルさん、クロオさん、そして今回は非正規メンバーのムジナさんにもご協力頂きます」
そう言って、一緒にハンバーガーショップから移動してきたムジナの方を一瞥する。
ムジナにはジュラルミンケースの形状は自由に変えてもいい、と事前に言い含めてある。
ムジナの持つ妖術ならば、ジュラルミンケースをそうとはわからない形にし持ち歩くことも可能だろう。
ただし、ジュラルミンケースの中身は非常に危険なものである、とも断っている。
あまり複雑な変化には対応できないかもしれないが、そこはムジナの腕の見せ所、といったところだろうか。
もちろん、そのままジュラルミンケースとして持ち歩いても構わない。
「今までの事件の発生日時と場所を鑑みると、コトリバコは現在この辺りにいるはずです」
壁に映し出された東京の地図、その小金井市近辺を指で丸くなぞる。
「相手は強力極まりない呪詛ですが、ノエルさんとクロオさん、ムジナさんには効きません。ご安心ください」
「それに、コトリバコを無力化するための秘策も用意してありますから。ともあれ現地に行ってみましょう、……それと――」
そこまで言って、祈の方を見る。
「祈ちゃんはこの事務所に待機していてください。報告は逐一行ないますから、バックアップを。いいですね?」
きっぱりと告げた。事実上の戦力外通告である。
コトリバコの呪詛は、女性にのみ効果を発揮する。そして、対象に妖怪や人間の別はない。
ましてや半妖である祈に対しては、覿面な効き目を見せるだろう。
コトリバコの呪詛は即効性であり、劇毒にも等しいものである。一旦その呪詛に捕われて、生きのびた者はいない。
それゆえに特A級の呪物として、天狗の頭領魔王尊の膝元である鞍馬山で厳重に保管されていたのだ。
(あれほどの警備網を突破して、コトリバコを盗み出すなんて。そんな芸当ができるのは世界にただひとり――)
そんなことを考えるも、口には出さない。
ともかく、祈を危機にさらすわけにはいかない。相手は八尺様などとは比較にならないほど凶悪な呪詛なのだ。
彼女の祖母から彼女のことを頼まれている身としては、絶対に譲れない話である。
むろん、本音を言えば彼女には同行して貰いたいし、その戦力は喉から手が出るほど欲しい。
好きで戦力外通告を言い渡したわけではないのだ。
が。
それでも、東京ブリーチャーズを率いる者としては、それを告げないわけにはいかなかった。
「では……。皆さん、行きましょうか」
祈の瞳を直視することを避けるように踵を返すと、橘音は事務所のドアへと向かった。
- 107 :
- 相手にされてないの気付けよ
- 108 :
- >「では……次に、コレをご覧ください。あ、祈ちゃんちょっとテーブルどかすの手伝ってくれます?」
「んぁ、はーい」
橘音に急に振られて祈は――妖怪と戦ってばかりいるのでなんとなく忘れがちなのだが――、
自分がこの事務所のバイトであることを思い出した。
ミカンを食べる手を止めてソファから立ち上がり、テーブルをどかすのを手伝う。
プロジェクターなどを設置したことがない祈は、橘音がそれにコードなどを繋げて設置する様を見て覚えた。
そして橘音がプロジェクターを設置し終えたのを見届けると、祈はまたソファに戻り、座り直す。
プロジェクターから事務所の白壁へと投影されたのは、
ここ最近の不可解な変死事件を取り上げた、ニュース映像の数々であった。
流石にその死に姿を映像で流している訳ではないが、
女性が突然のたうち回り血を吐いて死んだという話は生々しく、聞くに堪えない。
ニュースキャスターや専門家の語る病原菌説や新種のウィルス説、
毒ガステロの可能性があるというような話も、現実的な恐怖を煽り、聞いていて気分の良いものではなかった。
橘音は、東京の西端から始まり、徐々に東へと、
まるで侵攻するように次々起こるこれら一連の変死事件が《妖壊》により引き起こされたものだと言う。
挙げられた名は、『コトリバコ』。
漢字で『子獲り箱』等と書くその箱を、ある男は“武器”と称していた。
- 109 :
- コトリバコの製法は、ある男から、部落差別による迫害を受けていたある村へと伝えられた。
一見してそれはルービックキューブや立体パズルのように複雑に組まれた、意匠の凝った小箱でしかなく、
更には男性が触ったところで何の効果も見られない。
しかし、いかなる呪法や外法の類によるものか、その箱の内には凶悪な呪詛を閉じ込めてあり、
ひとたび女性や子供が近づくか触るかすれば一日の内にその命を獲り殺してしまう。
しかもその呪詛によって死ぬ者は、内臓を千切られるというその地獄の痛みに悶え苦しみながら死ぬというのだから、
たまったものではないだろう。
子を産む者を、子そのものを殺し、やがて一族を、子々孫々を絶やす。
嫁や子供を奪われた男もまた生き地獄へと追いやられる。故に、『武器』。それもとてつもなく強力な。
そんな非常に危険な代物が東京に持ち込まれた。
これはまさにニュースキャスターの語る毒ガステロを目論む者が東京に紛れ込んでいるにも等しい危険な状態であるのだが、
メジャーな都市伝説妖怪である八尺様のことすらうろ覚えの祈が、コトリバコのことなど知っている筈もなく。
祈は「やってる事はえぐいのに、小鳥箱ってなんか可愛い名前だな」などと考えており、
そのコトリバコの想像図は、鳥の巣箱に人間の腕や足が生え、巣箱の中から鳩だか鶏だか鳥の妖怪が顔を出して
嘴から毒ガスを撒き散らしているような代物で。
挙句、「弱そうだし、毒ガスに当たらなければ意外と楽勝かも」などと思っている有様であった。
コトリバコはその村で幾つか製造され、一部は実際に迫害を跳ね除ける為の武器や脅迫の道具として用いられた。
以後はその村と寺で厳重に管理されているのだが、行方が知れぬ物が一つだけある。
男が持って行った、”ハッカイ“と呼ばれる位のコトリバコである。
男はコトリバコの製法を村の者へ授ける際に、交換条件として“ハッカイ”のコトリバコを作り、己に渡すことを求めたという。
(コトリバコには位があり、その中に収める“ある物の年齢”や“多さ”によって、位と強さが異なるという特徴がある。
強さの下から順に、イッポウ、ニホウ、サンポウ、シッポウ ゴホウ、ロッポウ、チッポウ、そして――“ハッカイ”。
つまりハッカイは、コトリバコの中でも最上位という事になる。男がハッカイ以上のコトリバコは危険であるとし、
以降決して作るなと強く禁じたことからも、その効力の凶悪さが窺えた)
そうして男は、何の目的の為かハッカイのコトリバコを村人に作らせると、それを手にした後、姿を眩ましてしまったというのだ。
当時その村で作られ、男が持って行った物以外のコトリバコは全て寺と村で管理しているのだから、
妖怪銀行の地下金庫から盗み出されたコトリバコと言うのは恐らく、
鞍馬山がその男から回収して管理していたハッカイのコトリバコである可能性が高い。
もしくは別の場所で、秘密裏に作られたコトリバコであるのかもしれないが。
製法を教えた男すらも恐れ、作るのを禁じていたハッカイ。それがもし盗まれて東京に持ち込まれたのだとすれば、
そしてそれを無差別テロのように犯人が使う気でいるとするのなら、
本当にこの世が滅ぶような事態になりかねないのだが、祈はそんな恐ろしい事態を想像できずにいた。
盗まれたという事柄を聞いて「妖怪の銀行から盗むってまるで怪盗みたいだなー。もしくは透明人間とか?」
などと感想を抱いたり、「あれ? 盗まれたってことは小鳥箱ってもしかして自分で動くような妖怪じゃない?
小箱の中に鳥が入ってる道具みたいなものなのかな。付喪神ってやつ」などとコトリバコの想像図を修正したり、
「盗み出した奴がどんなに速くてもあたしの足で追いついて絶対に止めてやる!」などと意気込んでいたところで。
>「祈ちゃんはこの事務所に待機していてください。報告は逐一行ないますから、バックアップを。いいですね?」
これである。
「わかっ………ぇ、あたし留守番!? なんで!?」
まるで捨てられた子犬のような表情で、ソファから身を乗り出して、抗議の目線を向ける祈。
答えず、視線をも合わせぬようにする橘音を、せめて理由だけでも話して欲しいと視線だけで追いながらも、
それ以上の抗議はしない。
橘音が考えもなく祈をメンバーから外す訳がないのはわかっていたし、それに、困らせたくないのだ。
そうなると祈には、ただ橘音や他のブリーチャーズの面々を送り出すことしかできないのだった。
- 110 :
- 名前:御幸 乃恵瑠(みゆき のえる)
外見年齢: 20代前半ぐらい…かな?(本人特に意識していないし周囲にもあまり意識させない雰囲気)
性別: 男性型雪女
身長: 172
体重: 54ぐらい
スリーサイズ: 細身で均整がとれている
種族: 雪女(雪男に非ず)
職業: かき氷喫茶店店主
性格: 天然・故意入り混じってのボケ倒しでどこまでが本気だか分からない なんだかんだでお人よし
長所: 明るく裏表が無い 仲間想い 橘音の任務は真面目に頑張る(が、往々にして頑張りが明後日の方向に行く)
短所: 迷言・奇行が目立ち常にふざけているように見える 黒歴史を思い出してしまうと動揺しまくる
趣味: アイスを食べること もふもふしたものや可愛い物好き 実はゲーマー(だが下手糞)
能力: 氷雪・冷気の生成操作 氷で武器を生成しての近接戦闘(どっちかというと後衛アタッカー系)
容姿の特徴・風貌: 色白の肌 中性的な整った顔立ち
普段は黒目にセミショートの黒髪 アホ毛が立っていることがある
白基調の和パンク調の服に青いストール(服のコーデは日によって変わるがイメージは統一されている)
簡単なキャラ解説:
橘音の探偵事務所と同じ雑居ビルの1階でかき氷喫茶店「Snow White」を営む残念なイケメン。
その正体は珍獣レベルに激レアな男性形態の雪女で、近年の急速な地球温暖化を憂いた雪の女王(雪女のトップ的な人)からの命を受け東京に潜入している諜報員。
たまたま(←と本人は思っている)橘音と同じ雑居ビルに入っている事もありいつの間にかブリーチャーズの主要メンバーになっていた。
忘却によって負の感情を堆積させることを防いでいるため過去の記憶が曖昧だがとりあえず自分が長く生きているらしいことは自覚している。
尚、第一話にて昔は美少女だったという割とどうでもいい衝撃の事実が発覚した。
色々とカオスだが、根本的にはいわゆる分かりやすい味方ポジション。
真の姿を現しても普段とあまり変化はないが、普段から白い肌が更に白くなり瞳が氷のようなブルー、髪は雪のような銀髪になる。
- 111 :
- SnowWhiteは本日定休日。
ノエルはコタツ(のように見えて電源が入るようになってない何か)に入ってTVゲームに興じている。
「うっは、新宿崩壊したwww」
やっているのは通称「新宿ホストファンタジー」。
新宿のホスト王子が3人のお供ホストと共に男4人で高級車でのキャッキャウフフなホモホモしい、もといむさ苦しい旅の果てに
真のホスト王となって死にゆく星の命を救うという怪作である。
おまけに美少年主人公がラスボス直前で10年寝こけて何故かヒゲ生えたおっさんになるという、ノエルが見たら卒倒しそうな謎演出付きだ!
遊びほうけている人は放っておいて。
開きっぱなしのパソコン画面に派遣主との通信記録がそのまま残っているので覗いてみよう。
派遣主は歌いながら雪山を駆けあがって氷の城を作り上げたとかの色々凄い伝説があるお方だが
それ以上踏み込んだらガチで消されかねない気がするのでやめておこう!
派遣主【こんにちは。お仕事頑張っていますか?】
ノエル【ええ、まあそこそこ……】(←気づいたらなんか壮大っぽい計画に巻き込まれちゃってて……とは言えない)
派遣主【暇だったら副業してお小遣いにしてもいいからね! どんどん手伝ってあげてね!】
ノエル【はい、それはもう!】【……じゃなくて手伝ってあげてねって誰をですか?】(←東京漂白計画は一応極秘のはず)
派遣主【誰をってそりゃあ下の階の】【いや、なんでもない!】(←口を滑らせたようだ)
ノエル【ところで大変つかぬことをお伺いしますが僕は諜報員になる前は何やってたんですっけ……?】
(↑思った以上に記憶が欠落している事に気付いてしまったようだ)
派遣主【え!? えーと、えーと】【そりゃあ雪山で走り回ってたから野生の珍獣ゲットだぜー的な感じで捕まえて……】(←明らかに今考えたよね!?)
ノエル【ポ○モンかい!】
派遣主【あっ、宅配便来たからまた今度!】
「あ、死んだ! 全く、男4人でむさ苦しいからやる気が出ないんだ!
製作者はなんでこんなものを世に出してしまったんだ……! どうせ11年も封印してたんならそのまま封印しておくべきだった!」
一方こちらはゲームオーバーになったようで、自分の下手糞さを棚に上げて製作者に文句を言い始めた。
「もうこんな時間か」
立ち上がって、クローゼットを開ける。お出かけコーデを選び始めたようだ。
白基調に青系統の入った凝ったデザインの服ばかりたくさん並んでいる。
ん? 今一瞬フリフリロリータ服っぽいのが混ざってた気がするけど気のせいだよな!? 気のせいということにしておこう!
着替えている間アングルを他のところに向けると、何故かさりげなく猫耳バンドが転がっている。
実は狐耳じゃないかって? 多分それは考え過ぎというものだ。
そして服を着替えたかと思うと、今度は髪を気にし始めた。なんでも、頭頂部の髪が一束だけはねるのが気になるらしい。
それはアホ毛というやつだ。だってアホだから仕方がない。というか一体何なんだこの珍獣の生態観察パートは。
ようやくアホ毛を寝かしつけ、玄関から出て雑居ビルの狭い階段を降りていく。
最近はなし崩し的にうちの店で作戦会議をやることが多くなっていた気がするけど今日は普通に橘音くんの事務所か――
等と思いつつ、特に深く考えることはないのであった。
- 112 :
- >「皆さんは、パズルは得意ですか?」
>「ボクは結構好きで、よく頭の体操として用いるんですよね。暇潰しにもなりますし……ホラできた」
得意ですか?と言われても、頭を使おうと言われてリアルに頭突きしかねないレベルのバカである。得意であるはずはない。
橘音がルービックキューブを解く様を手品でも見るかのようにキラキラした瞳で見つめ……
「なんだって!? 一度バラバラに解体しなくても出来るのか……!」
速さや手際の良さ以前のところで感心していた。遊び方自体を勘違いしていたようだ。
そして話題はルービックキューブとは一見無関係に思える連続変死事件へと移る。
>「ご覧のように、事件は東京都の西端で始まり、徐々に東へ向かっています。つまり都心へ近付いている」
>「二十三区以外を捨てるとは言いませんが、こちらへの侵食を許せばアウトです。それまでに漂白を完了しなければ……」
>「でなければ、東京が滅びます。……いえ、日本が滅ぶ。そしてゆくゆくは世界が滅ぶでしょう。それほど危険な相手です」
「世界滅亡って……ゲームじゃあるまいし」
あはは、と笑ってみせるが、橘音の様子がいつもの人を食ったような態度ではないことに気付き、流石に真面目な顔になる。
「――マジかよ……」
>「今回のターゲットは。『コトリバコ』です」
「なんて恐ろしいんだ……! 確かにおっさんばっかりになったらむさ苦しさのあまり世界が滅亡してしまう……!」
世界滅亡の理由が合っているかはともかくとして、とにかく放置すれば世界が滅亡することは理解したようだ。
「男4人で冒険」ですらむさ苦しいのである。
全世界がおっさんばかりでオッスオッスソイヤソイヤになったむさ苦しさたるや世界滅亡レベルだ。間違いない。
「つまり世界が男ばかり、それも美少年ではなくおっさんばかりになって得する者の犯行……。
分かったぞ! 犯人はガチでホモ――略してガチホモだ!」
橘音が説明しているのを聞きつつ勝手に迷推理を繰り広げている。
もしも探偵になったらどんな簡単な事件も明後日の方向にハッテンさせまくった挙句に
迷宮入りさせてしまう迷探偵になること請け合いだ。
>「相手は強力極まりない呪詛ですが、ノエルさんとクロオさん、ムジナさんには効きません。ご安心ください」
>「それに、コトリバコを無力化するための秘策も用意してありますから。ともあれ現地に行ってみましょう、……それと――」
>「祈ちゃんはこの事務所に待機していてください。報告は逐一行ないますから、バックアップを。いいですね?」
「……え?」
その言葉はあまりにも予想外だったようで、橘音、もとい狐につままれたような顔をする。
てっきりコトリバコの脅威は妖怪には関係ないと思っていたようだ。
- 113 :
- >「わかっ………ぇ、あたし留守番!? なんで!?」
祈自身もこれは予想外だったようで、橘音に抗議の目を向ける。
それを見たノエルは任せとけ!という風に祈にウィンクし、机をばんっと叩いて立ち上がる。
「何それ仲間外れ!? ってかさっき無力化するための秘策があるって言ったじゃん。
この前の八尺様の時はわざわざ男装させて一番危ない役をやらせといて今回は危ないから駄目って何なのさ!
それに――男4人で行くなんて絵的にむさ苦しすぎるじゃないか! 僕は美少女がいないとやる気が出ないんだ!」
ノエルは年齢性別立場に拘わらず皆を対等な仲間として見ていて、それぞれの得意分野に絶大な信頼を置いている。
知将橘音が秘策があると言うなら大丈夫だろうし、俊足の祈なら獲り殺されるようなヘマはしまいと思ってのこと。
たとえ相手が雇い主でも異議申し立て容赦なしだ。
しかしこれは橘音が諸般の事情を総合勘案して導き出した結果。
アホが抗議したところで無視されるか、良くて軽くあしらわれるのが関の山であろう。
>「では……。皆さん、行きましょうか」
祈に目を合わせることもせず出て行こうとする橘音の様子を見て、ノエルもようやく理解した。
橘音がここまでの態度を取るということは、それだけ危険な相手だということなのだ。
「……分かったよ。それなら……」
理解した上で、すっ――と橘音の前に立ちはだかる。
踏み込んではいけない領域に踏み込む時のような一大決心をしたような表情。
「橘音くん……君はどうなんだい?」
そう言って、これでもかといわんばかりのドヤ顔を作ってみせる。
もちろん言わんとする意味は、皆橘音くんが男だといつから思い込んでいたんだ!?
自己紹介カードにも性別:?って書いてあるじゃないか!ということである。
口には出さずとも思っている人は多いであろう、仮面の性別不詳ミステリアスキャラというのはかなりの確率において……。
そこは思っても空気を読んで気付かない振りをするのが大人だが、このバカに空気を読むなどという高度な芸当を期待してはいけなかった!
「……と聞いたところで正直に答えるはずはない。そこでまずはその仮面を引っぺがす!」
橘音の顔をびしっと指差しながら、どんっと効果音が付きそうな感じで宣言。
「それでも超美形すぎて分からなければその時は――身ぐるみ引っぺがす!」
どどんっと更に効果音が付きそうな感じで宣言。
「実は前々から仮面引っぺがしてみたかったんだよね〜、何故か触れたらいけない雰囲気だったから我慢してたけどさあ!」と今にも飛びかかりそうな勢いだ。
大変だ、早く何とかしないと大変なことになる!
- 114 :
- 東京都新宿区・歌舞伎町――
東洋有数の歓楽街であるこの街は、高度経済成長という鮮烈なる光とそれが生み出す影によって形づくられてきた。
街の外が景況不振に喘いでいても、ギラつくネオンの下を行き交う人々は変わらず明日への活力に満ちている。
そして同様に、薄暗い路地裏でカラスに啄まれる路傍の吐瀉物もまた、等しく朝日を迎えていた。
この世の愉悦の全てが集うこの街で、一際濃く切り取られた陰影の化身。
全力前進する社会から落伍したろくでなし、いわゆるヤクザ者達である。
「まいどぉー、品岡ですぅー。おしぼりの納品に参りましたぁ」
歌舞伎町の一角に軒を連ねる飲食店『BAR シマノ』の扉が営業時間前にも関わらず開け放たれた。
まだ日の高い表通りからひょこりと入店したのは一人の男。
短く刈り込まれたウルフカットに茶色い色眼鏡、派手な柄シャツはどう見てもカタギの格好ではない。
外見の印象に違わず、男は暴力団の組員だった。
広域指定暴力団『山里組』構成員、品岡ムジナ……歌舞伎町に根を張るヤクザの一人である。
開店準備に追われていた店員達はその姿を認めた途端、男を遠巻きにしながらバックヤードの店長を呼んだ。
裏で水仕事をしていた店長は渋い顔で応対する。
「また山里さんとこか。悪いけどうちはもうみかじめは払えないって言ったろう」
品岡は人相の悪い顔面にくしゃりと出来の悪い笑みを浮かべて食い下がる。
「そない嫌ぁな顔せんといで下さいよぉ店長はん。バブルの頃からウチがケツ持ってきた仲ですやん」
「うぅん。うちだって山里さんとは長い付き合いだから無下にはしたくないんだけどねえ。
ここ最近はお上の締め付けも本当に厳しいんだよ。ほら、東京オリンピックの関係でさ。
みかじめ払う店には営業許可は出せないとまで言われちゃ、うちも商売だからさぁ」
「せやからみかじめやのうて、"おしぼり代"や言うとりますがな。真っ当なビジネスですわ」
品岡がおしぼりの詰まったクーラーボックスを開ける。店長の渋面は変わらない。
「おしぼり1セット3万円は真っ当とは言えないんじゃないかねぇ」
「ただのおしぼりとちゃいまっせ。今はやりの水素水をふんだんに染み込ませたこのおしぼり!
なんとビタミンの200倍のパワーが拭いた場所に潤いをもたらしお肌もサッパリ清潔になる凄い商品でっせ!」
「おしぼりって元からそういうものだからねぇ……」
「わかった!わかりましたほんならおしぼりもう1セットお値段据え置きでつけちゃう!」
店長の冷ややかな対応に浮いた汗をおしぼりで拭いながら品岡はもう一つクーラーボックスを机に乗せた。
- 115 :
- 「えぇ?まだ足りひん?いやぁ参りました店長はん商売上手ですなぁ。今ならここに洗剤と缶ビールも追加や!
もう赤字覚悟!お世話になっとる店長はんだけの特別価格で1万円値引きしまっせ!とりあえず一ヶ月だけでもお試しで!」
「新聞の勧誘みたいになってない……?」
「ホント頼んます……集金できるまで帰ってくるなってオヤジに……ぐすっ」
「マッチ売りのヤクザかな」
次々と机の上に積まれていく粗品の数々、何より強面の品岡の鬼気迫る沈痛な面持ちに店長はついに根負けした。
いたたまれなくなったのである。
「仕方ないなぁ、本当に今回だけだからね。来月も来るようなら流石にウチもかばいきれないよ」
「ホンマでっか!いやぁ流石店長はん器が大きい!この店も繁盛間違い無しや!」
「いいから。もう帰ってくれるかな、ヤクザにいつまでも居座られると客入りに響くからね」
「へい!ほなまた!」
「だからもう来んなって……」
代金を受け取った途端に調子よく踵を返して出ていく品岡に、呆れながら店長はふと何かに気付いたように言った。
「そういえば君、手ぶらだけど……追加のおしぼりと粗品、どこから出したの?」
● ● ●
- 116 :
- 「けーっ!下手に出てりゃあ調子くれよってからに!」
都条例にて路上喫煙が禁止され、歌舞伎町と言えども往来で煙草を吸うことは許されなくなった。
暴力団は警察や地域住民との余計なトラブルを避ける為に交通ルールや公序良俗にはむしろ厳しい。
品岡も例に漏れず、街の片隅に設置されたこぢんまりとした喫煙スペースで一服つけていた。
紺地に金印の缶筒からフィルターのない煙草を一本取り出し、100円ライターで火をつける。
自費購入した粗品をばら撒き身銭を切りまくり、最終的には泣き落としまで講じたヤクザの一仕事がようやく終わった。
「ヤクザとカタギが持ちつ持たれつの古き良き時代はどこへ行ってしもうたんや……」
平成初期にいわゆる暴力団対策法が施行され、世間のヤクザへの風当たりは露骨に厳しくなった。
バブルの時代から当たり前のように揉め事代行――つまりケツ持ちをヤクザに頼ってきたこの街でさえ、
今は手のひらを返したようにヤクザを追い出しにかかっている。
ふんぞり返っていれば手下から上納金が入ってくる上層部は未だに呑気にしているが、
品岡のような末端組織の木っ端組員は毎日脂汗をかきながらカタギにペコペコ頭を下げてどうにか金を集めている。
昔は良かった。街の用心棒を気取り、肩で風を切って歩いていられた。今は石を投げられたって満足に反撃できない。
Vシネマのように義理と人情が金を生む時代は終わってしまった。
今や古式ゆかしい"ヤクザ"は増えることのない既得権益と信用を少しずつ切り売りして端金に変える商売だ。
そしてその変遷に取り残され食い詰めた者たちが、今も過去の栄光にぶら下がっている。
泥舟には違いなかった。だが出港してしまった船は、例え沈没寸前であっても最期まで運命を共にするしかないのだ。
「こんな不毛な商売畳んではよ隠居せんかなぁ、あの腐れ組長(オヤジ)」
日々の生活に忙殺されて忘れがちであるが――下っ端ヤクザ・品岡ムジナは、人間ではない。
江戸時代から生きている古典妖怪『のっぺらぼう』。古より人を化かして存在を証明してきた妖怪変化の眷属だ。
変幻自在の『顔』を持ち、美女や貴族、あるいは凶悪な怪物など様々な姿に化けては旅人を化かし、食糧や金銭を巻き上げていた。
その悪名は江戸はおろか京にまで届き、人々の"畏れ"が彼の妖力の糧となり、まさに地元じゃ負け知らずの栄華を誇っていたのだ。
しかし調子に乗りすぎたツケはあまりに早く回ってきた。
噂を聞きつけた時の幕府に仕える陰陽師によって、のっぺらぼうは妖怪退治に遭ってしまった。
品岡ムジナという名前によって存在を縛られ、『顔』を封印されたことで人相を固定された元のっぺらぼうは、
契約により陰陽師一族が七人代替わりするまで下僕として使役される式神に身を堕とす羽目となった。
現在の一族当主、六代目の陰陽師は暴力団山里組の組長・山里宗玄。
従って、その式神たる品岡もまた、ヤクザの下働きとして日々こき使われている。
かつては関東平野を荒らし回った凶悪無双の妖怪変化、現代にさえ名を残し続けている無貌の怪物は、
今や喫煙所で一服つけながらスマホ(Xperia Z1f)を構うことが唯一の楽しみな普通のおっさんに成り下がっていた――!
- 117 :
- 同じく喫煙所でサボっている新宿のサラリーマン達にも遠巻きにされながらショートピースを一本吸い終わる頃、
弄っていたスマホ(Xperia Z1f)が震え、画面が"ヌキなび"の店舗情報から着信表示に切り替わる。
大写しになったのはアドレス帳に登録された山里組長の強面だった。
品岡はぎょっとしてスマホ(Xperia Z1f)をお手玉しながら電話に出る。
「お、おつかれさんですオヤジ。品岡です」
『三下がええご身分やなムジナぁ……カタギに混じって吸う煙草は旨いか?』
げぇぇサボりバレてる!品岡は露骨に顎を落とすが驚きはない。
使役者たる陰陽師の山里には、式神が今どこで何をしているか呪法によって把握することができる。
組の事務所から離れたこの喫煙所でいつも時間を潰していることも掌握済みなのだ。
「い、今ちょうど集金が終わったところですわ!すぐ事務所帰りますんで!」
『いや、今日は戻らんでええ。そのまま今から教える場所に直行せえや。そこに人を待たせとる』
電話口で山里から伝えられたのは都内にあるファーストフード店だった。
ヤクザ者の会合ならもっと格式高い料亭を使う。こんな中高生の集まりみたいな場所を指定される理由は一つだけだ。
「……っちゅうと、『御前』の絡みですか」
『せや。あの狐ババアの手のモンから依頼が来とる』
神妙に声を落とした品岡に、山里も短く答えた。
下っ端ヤクザの品岡ムジナには、暴力団員とは別にもう一つの"顔"がある。
『――自分にご指名の仕事や、ムジナ』
● ● ●
- 118 :
- 都内某所、ハンバーガーチェーンの片隅。
品岡がそこに到着すると、前言に違わず見知った人影が既に席をとっていた。
「どうも橘音の坊っちゃん、お元気そうでんな。ババ……『御前』の姐さんも息災でっか」
待っていたのは学生風の少年だった。
"風"というのは、彼の着る学生服は現代日本におおよそ似つかわしくない旧学制の襟詰め姿であるからだ。
マントに学帽、さらに言えばその下の半面がなんとも胡散臭い雰囲気を漂わせている。
都内は都内でも秋葉原か池袋か中野ブロードウェイでなければ違和感の塊のような出で立ちだ。
――変化の王『御前』の眷属、妖狐一族の"三尾"・那須野橘音。
のっぺらぼうもその端に名を連ねる古典日本の変化妖怪の一廉だ。
尤も、品岡が傍流も傍流の分家筋だとすれば、彼はバリバリの本家筋、言わば妖怪のエリートである。
見た目は頼りなさげな少年でも怪異としての格が違う。品岡がへりくだるのも必然だった。
「しかし相変わらずけったいな格好してはりますなぁ。長く生きてる連中にゃモード感っちゅうのが欠けてていけねえや」
柄シャツに色眼鏡とVシネから切り出してきたような品岡も大概ではある。
しばし世間話代わりに乾いた笑いの応酬をして、懐から煙草を取り出すものの席の禁煙マークが目に入った。
「かぁー、今時はどっこも禁煙でっか。坊っちゃんも煙草はやらないんで?」
百年単位で生きている妖怪にも意外と喫煙者は少ない。薬草を燃す煙草の煙には魔除けの意味も含まれているからだ。
逆にそんな煙草を敢えて吸うことが粋であるとされた時代もあったが、その時代に取り残されたのが品岡という男だった。
煙草が吸えないならコーヒーだけにしておかず何か頼んでおけば良かった。
色々間の悪いヤクザが地味に後悔を噛み締めていると、対面の橘音が本題を切り出した。
>「さて。今回アナタをお呼びしたのは、他でもありません。これを運んでほしいのです」
橘音が足元から引っ張り上げたのは、一抱えほどもある大きなジェラルミンケースだった。
かなりの重量があるらしく、頼りない店の机がガタガタと揺れてコーヒーに波を立てる。
>「もう、親分さんに話は通してあります。アナタを自由に使っていい、という許可も……いつも通りに、ね」
「いやあ水臭いですわ坊っちゃん。オヤジ越しと言わんでもこのムジナ、坊っちゃんの為にいつでも粉骨砕身しまっせ」
喫煙者にしては不自然に白い歯――これも顔貌固定の副作用である――を見せて品岡は答える。
無論、おべんちゃらである。橘音から持ち込まれる事案はだいたいいつも厄介事だ。
この首にかかる契約の輪がなければ今すぐにでもここを辞してその辺のファッションヘルスに駆け込みたい。
そしてご多分に漏れず、今回もいろんな意味でヘビーな荷物を運ばされるようだ。
>「ムジナさんはこういうお仕事、得意でしょ?色んなモノを運んでるんじゃないですか、お金とか薬とか――死体とか」
「人聞きの悪いこと言わはりますなぁ。ホンマかなわんわ」
渋面をつくりつつも、品岡は否定しなかった。つまりはそういうことである。
とは言え、今はヤクザも法令遵守の時代。そして日本の司法組織は非常に優秀だ。
金や薬はともかく、『人間』一人を足がつかないよう痕跡なく消してしまうには払うべき労力があまりに大きい。
なにせ時は現代。街中に監視カメラがあり、ICカードの履歴は保存され、SNSで常時他人と繋がることのできる時代である。
山の中で霞を食って生きている仙人でもなければ、必ずどこかで人一人分の欠落は露呈する。
妖怪界隈で"神隠し"が流行らなくなったように――ヤクザにとっても人殺しは割に合わない商売なのだ。
- 119 :
- >「もちろん、これも大切なモノです。東京漂白計画の完遂には必要不可欠なもの」
>「もし、誤ってケースを開けてしまったり、紛失してしまった場合は――」
>「……東京が。滅びます」
「……そら実に、割に合わん仕事ですな」
東京が滅ぶ。ファーストフード店の一席で口に出されたその言葉に、品岡は喉を鳴らした。
ほら来た。やっぱりクソ重たい荷物やないか。一介の式神風情に押し付けて良い責任ちゃうやろ。
様々な恨み言を鋼の精神で飲み下し、懐の煙草缶が無性に恋しくなった。
>「じゃ……確かにお渡ししましたよ。たった今からミッションスタートです」
「こら御前の姐さんにもお駄賃弾んでもらわな。ちゃぁんと口添え頼んますよ」
乾いた口に冷めたコーヒーを流し込み、品岡は席を立った。
受け取ったケースを右手で持ち上げる。重量はあるが、抱えて歩けないほどではない。
>「あ、そうそう。衝撃を加えたりしてもいけませんよ。壊れ物じゃないですが、万一ってこともありますし」
>「そうですねえ、例えるなら……プルトニウムを運んでるくらいの意識でいて頂ければ」
「えぇ……そんなん肌身離さず持っとってワシは大丈夫なんでっかこれ」
いくらただちに影響はないと言われても、百年後に影響があっちゃ困るのが妖怪というイキモノだ。
日露戦争の折に満州で大陸妖怪から呪詛を食らって、つい最近ようやく衰弱死した妖怪を知っている。
当時は帝国陸軍将校の式神だった品岡もまた、同様の呪いが伝染ってないか八方様々な妖怪医にあたったものだった。
検査の結果は陰性で一安心、代わりに性病が発覚してそっちで入院を余儀無くされた。
>「じゃ、そろそろ行きましょうか。皆さんそろそろ見えられるはずです」
橘音は不安を取り除くような気休めを言ってはくれない。それもいつも通りだった。
彼も机の上の注文品を腹の中に片付けて、同様に席を立つ。
>「ウチの事務所ですよ。そこでまず、今回の作戦をミーティングしなくちゃね」
道中で一服つけたいというヤクザの懇願は、当然の如く却下された。
● ● ●
- 120 :
- かつて"のっぺらぼう"だった品岡ムジナには、生来からの変化妖術がある。
変幻自在に姿を変え、古来より人を化かし続けてきた化性の術。
しかしそれは主たる陰陽師によって強固な制限をかけられ、限定的なものへと劣化を遂げている。
のっぺらぼうの中核にして真髄たる『顔』――以外の肉体と物体を変化させる妖術だ。
「"顔"が変えられるなら、絶世の美女なり美男子なりに化けていくらでも稼いだるっちゅうのに」
"顔"は個人を他人と識別する……個性を確立するにおいて最も根源的な概念だ。
その辺のおっさんにAKBの服を着せてもアイドルには見えないように。
免許証や受験票やパスポート、それから指名手配のポスターに大きく顔写真が載るように。
頭部前面に張り付く単なる肉の造形が、その個人の社会的な立場を確認する証となるのである。
陰陽師が適当に設定したこの"顔"がある限り、彼は品岡ムジナという存在から逃れられない。
300年生き続ける妖怪変化を、ちょっとばかし妖術が使えるだけのただのおっさんに縛り続ける、これは楔なのだ。
さて、そんなちょっとばかしの妖術であるが、ヤクザの運び屋をやるにあたってはそれなりに便利だ。
おしぼりや粗品、スーツケースに満載の薬物や銃器、裏金に裏帳簿、果ては高級外車や条約違反の希少動物まで、
品岡ムジナの妖術はそれらの質量を無視し手のひらサイズにまで小さくして身体の中にしまっておける。
つまり品岡はてぶらのまま、あらゆる税関や検査を素通りして大量の物資を密輸できるのである。
それならヤクザの下っ端なんかやらずに運送業でもやれば良い……とかつての品岡は主に反駁した。
しかしそこでも枷となるのが現代日本という法治国家の優秀さだ。
まっとうに運送業をやるとなれば、当然税金を納めなくてはならない。送料の領収書を税務署に提出しなければならない。
しかし大量の物資を輸送するとなれば、当然大型のトラックや船舶を使う、という『建前』が必要になる。
それらの輸送手段を使った場合の燃料代や高速費用なども、当然税務署は追跡が可能だ。
品岡ムジナが物理法則を無視した輸送を行えば行うほど、本来想定されるべき経費との釣り合いがとれなくなる。
疑惑の行き着く先は脱税か――あるいは人知を超越した何らかの手段か。
いずれにせよ、開ければ何が出てくるかわからない国家という匣を不用意につつくことになる。
然るに、とかくこの世は妖怪にとって生きづらい。
結局のところ、現代日本で妖術を有効活用するには、税金を納めない闇稼業しか選択肢はないのだ。
当代の陰陽師はそう結論付けてヤクザの世界に入り、そして品岡の妖術で功績を挙げ、組長の座についた。
閑話休題、話は逸れたがつまりは品岡の能力ならば例えそれが危険物であっても完璧に隠し持つことができる。
適当に圧縮するなり帯状にするなりして、腹のあたりに保持しておけば良い。
そう考えて、早速手渡されたケースに形状変化妖術を行使する。
「……あんまガッツリ形変えんほうがええかな」
橘音からは自由に形状変化を使って良いとは聞いているが、肝心の中身については詮索無用とのことだった。
なにせ開けたら東京が滅ぶと言う。構造的に『開きやすい』ケースの金具を痛めるような変化は避けるべきだろう。
ついでに言えば、ぶっちゃけ肌身離さず持っていたくはない。
万が一開いた時にその余波……があるのかは分からないが、それから逃げ切れる距離は保っておきたい。
となれば、安易に肉体の中に埋め込むというのも考えものだ。
しばし黙考して、とりあえず形は変えずに大きさだけを手のひら大に縮め、
ケースの取っ手に鎖を通してペンダントのように持ち歩くことにした。
これならばいざというときに鎖を千切って放り捨てることもできる。東京より命のほうが大事だ。
「相変わらず小汚いビルですなぁ」
道中でそれだけの準備をして、橘音に誘われるまま品岡は事務所の敷居を跨いだ。
【導入です】
- 121 :
- 今章からの参加はもう締め切っちゃった?
- 122 :
- >>121
諦めろ
判断の遅い奴に合わせるほどTRPGは甘くない
- 123 :
- 何で名無しが仕切ってんだ
- 124 :
- >>121
避難所あるからそっちで聞いてみるといいよ
- 125 :
- >「皆さんは、パズルは得意ですか?」
「……ん? おお、ルービックキューブじゃねぇか。随分懐かしいモノ持ってきたな」
那須野の事務所。
今回の仕事の為に呼ばれ、来客用のソファーで寝転びながら魚肉ソーセージを齧っていた尾弐は、
外出から戻ってきた那須野が手にしている立体パズルを見ると、半分ほど残っていた魚肉ソーセージを一気に口に頬張り、
噛み砕き飲み込んでから上体を起こした。
もはや自宅の様なくつろぎ具合であるが、何時もの事の様で誰もそれに突っ込む様子は無い。
>「世の中にはコレの世界大会があって、日々プロフェッショナルがタイムを競っているそうですよ。いやあ、面白いですよね!」
>「なんだって!? 一度バラバラに解体しなくても出来るのか……!」
「……那須野は揃えるの早すぎて気持ち悪ぃし、ノエルに至ってはどうやって社会生活送ってんのか心配になるレベルだなおい。
ああ、ちなみに俺はパズルとかそういう細かいのは苦手だぞ」
そうして、尾弐と那須野とノエルと祈。
いつものメンバーで益体も無い会話を交わしながら、那須野の語る仕事の内容を聞いていたのだが……その話が進むにつれて尾弐の表情は険しくなっていく
>「これは『呪詛』です。凶悪な呪いのパワー、それも特殊な――子供を産むことのできる女性だけを殺害する呪詛」
>「女性を呪殺し、子を産む者を根絶する。本来産まれるべき子供を奪い獲る、『子』を『獲る』……すなわち『子獲り』。そう――」
>「今回のターゲットは。『コトリバコ』です」
「……ここ最近。俺の所で女の突然死の葬儀が増えてたんだが……腐乱死体並みに厳重に『梱包』されてたのはソレが原因か」
苦虫を噛んだ様に顔を顰めながら、最近自身が執り行ってきた葬儀を思い出す尾弐。
袋に詰められた『人に見せられない状態の遺体』の葬儀は、このご時世では比較的多く存在するが、
そもそも、そういった死を遂げた遺体は往々にして無念や怨念を纏っている事が多い為、コトリバコの呪詛と混じり
『妖壊』の仕業である事に気付けなかった様だ。
「にしても女だけをR呪物たぁ、なんとまあ面倒臭ぇ代物が出てきたもんだ。
おまけに、あの手のモンは人が死んで噂が広がる程に呪詛の濃度が増してくから時間もねぇ……はぁ」
コトリバコの様な呪物の特性を思い出し、ため息を吐く尾弐。
世界が滅ぶような呪いを前にして不真面目と取られかねない態度であるが、それも仕方ないと言えよう。
こと、呪物というものは壊して終わりというモノではない……いや、むしろ破壊してはいけない類の物であるのだから。
今回の例で言うなら、確かに根源である『箱』を破砕してしまえばそれで呪いが止まる可能性は有る。
だが、それよりも遥かに高い確率で、呪詛が漏れ広がり……中に封じられていたモノの規模に応じて
その周囲の土地を汚染し、この世に一種の地獄を顕現させかねないのだ。
故に、呪詛に対して取れる最善の手段とは封印の類であり……逆に言えば、尾弐の得意とする腕力はその解決に役立たないのである。
己が不得手とする手段でしか解決が図れないとなれば、尾弐が先行きに不安を覚え、ため息を吐くのも当然と言えよう。
>「つまり世界が男ばかり、それも美少年ではなくおっさんばかりになって得する者の犯行……。
>分かったぞ! 犯人はガチでホモ――略してガチホモだ!」
だから、尾弐のため息にノエルの言葉は関係ない。
聞いた瞬間にこめかみを押さえ、眉を潜ませたが関係ない。きっと。たぶん。恐らく。メイビー。
- 126 :
- >「相手は強力極まりない呪詛ですが、ノエルさんとクロオさん、ムジナさんには効きません。ご安心ください」
>「それに、コトリバコを無力化するための秘策も用意してありますから。ともあれ現地に行ってみましょう、……それと――」
そうして、説明の後に那須野が現地へ向かおうと行動指針を示す。
尾弐はいつも通りにやる気な下げにソファーから重い腰を上げたが……
>「祈ちゃんはこの事務所に待機していてください。報告は逐一行ないますから、バックアップを。いいですね?」
>「わかっ………ぇ、あたし留守番!? なんで!?」
どうにも今回は、その様子がおかしかった。いつも飄々とした態度を取っている那須野にしては歯切れが悪く、
尚且つ戦力として召集をかけた祈に対して待機を命じるという指令。
一瞬、疑問符を浮かべた尾弐であったが、直ぐにその原因に思い至る。
(……ああ、そういや嬢ちゃんは『女』だ。だとすれば、女をR呪詛に対して相手が悪すぎるわな)
思えば、多甫 祈という少女は、人外由来の身体能力を有し、またその血脈を引いているとはいえ……人間の少女なのだ。
だとすれば、妖怪でさえ女は死ぬという今回の呪詛と相対するに際し、あまりに不利である。
むしろ、安全を考えるのであれば問題が解決するまで事務所から一歩も出ない事が最善である。那須野はそう判断したのだろう。
それを察した尾弐は、那須野に声をかけ、その辺りの説明をする事を薦めようとするが
>「何それ仲間外れ!? ってかさっき無力化するための秘策があるって言ったじゃん。
>この前の八尺様の時はわざわざ男装させて一番危ない役をやらせといて今回は危ないから駄目って何なのさ!
>それに――男4人で行くなんて絵的にむさ苦しすぎるじゃないか! 僕は美少女がいないとやる気が出ないんだ!」
ここに、那須野の意見に真っ向から反発するブリーチャーズが一人。
御幸 乃恵瑠。雪女の種族を持つ彼は仲間を想う気持ちが強いのだろう。
それが故に、祈を『仲間外れ』にする選択肢に対して強い反発の意志を示して見せた。
祈なら大丈夫と彼女を信頼するノエルと、万一を思い祈の為に遠くへ置く事を選択する那須野。
意見は対峙するが……けれど、ここにおいてノエルの意見が通る事は無い。
何故ならば、この場における決定権を持つのは那須野であり、彼が是と言わない限りは行動計画に変更は無いからだ。
けれども、権限こそなかれその程度で諦めるノエルではない。
>「……分かったよ。それなら……」
>「橘音くん……君はどうなんだい?」
>「……と聞いたところで正直に答えるはずはない。そこでまずはその仮面を引っぺがす!」
ノエルは、最終的に実力行使による意見の突破を目的とし構えを取り
- 127 :
- 「――――そこまでだ。雪女なのに熱くなってねぇでちったぁ頭冷やせノエル。後、覆面剥ぎもマナー違反だ」
だが、すんでのところで尾弐がその襟首を掴み持ち上げ、先程まで自身が腰かけていた柔らかい来客用ソファーへ向けて軽く放り投げる。
次いで尾弐は那須野の方へと向くと、その仮面に自身の右手を向け……デコピンを放った。
手加減をしているとはいえ、鬼の膂力によるデコピンである。まともに直撃すれば、ハリセンでぶっ叩かれたくらいの衝撃は有るだろう。
「那須野、お前さんもだ。そういう方針は一人で決め込まないで俺らに相談しろ……お前が頭が良いのは知ってるし、
今回の件も祈の嬢ちゃんの事を考えてそう決めたのも判る。
けどな……最善よりも次善やその次の選択肢の方が好きなバカも、世の中には結構居るんだ。そもそも――――」
そこで尾弐は祈の方へと歩み寄ると、彼女の頭に手を置く。
「お前らの決定には、祈の嬢ちゃんの意見がどこにもねぇ。何より最初にそこを確認すべきだろうが」
そう言った尾弐は祈の頭から手を放してしゃがみ込み、祈と目線の高さを揃えてから再度口を開く。
「祈の嬢ちゃん。手段は俺らでどうにかしてやる――――だから、聞かせてくれ。お前さんは、どうしたい?」
尋ねる尾弐……実の所を言えば、尾弐の中には祈が実働部隊として参加する事を選んだ場合に取る事の出来る対策案が2つ存在している。
一つは、祟りの先掛け……尾弐の様な鬼や、那須野の様な狐には、祟に関する伝承が数多く存在する。
それを利用して、事前に祟る――呪詛をかける事で、他の呪詛を弾くというリスキーな手段。
そしてもう一つが
>「相変わらず小汚いビルですなぁ」
ドアの外から聞こえて来た関西弁。先程、那須野が援軍として呼ぶと言っていた、尾弐も知っている『形状変化』を得意とする妖怪。
内面に問題は有るが、事この様な場面いおいて極めて有用な能力を持つ彼に協力を仰ぐと言う手段。
だが、尾弐はこの二つの腹案をあえて語る事をせず、祈の意志を確認するために返答を求める事にした。
- 128 :
- キツネって奴は無能なのか?
- 129 :
- 無能ってより勝手なことしかいない
GMのバトンタッチを求む
- 130 :
- >「皆さんは、パズルは得意ですか?」
東京ブリーチャーズの新たなる任務、そのブリーフィング――
品岡ムジナは橘音の説明を事務所のドア越しに聞いていた。
別に彼が他のメンバーからハブにされているとかでは……まあちょっとはあるかも知れないが、立ち聞きはそれが理由ではない。
事務所内が禁煙だからである。
「えらいけったいなモンが流出しとるみたいやなぁ」
ピース缶から取り出した二本目の両切りタバコに火を付けながら、品岡はひとりごちた。
コトリバコ。その名を聞いただけでニコチンが恋しくなるようなホンモノの霊的災害、『霊災』だ。
陰陽師の式神である品岡もブリーチャーズとは別口の依頼で似たような手合いと対峙したことがある。
尤も、基本的には退魔に使用する機材や祭壇を運搬する役目として関わることばかりではあったが。
かの霊災が八尺様のようないわゆる妖怪による呪殺と異なる点は、そこに『ヒトの悪意』が必ず存在していることだ。
妖怪が半ば本能的に、自らの力の増大を図るべく人をRのとは明確に違う。
コトリバコは、人が人をR為の呪いなのだ。
故にその毒牙には枷がない。放置しておけば際限なく被害規模は拡大していく。
「鞍馬山は何しとんねん。妖狐の小間使いに外注するような案件ちゃうやろこれ、不祥事やん」
橘音に聞こえていないのを良いことに言いたい放題である。
世に害なす呪詛を秘匿し封印する妖怪銀行、当然そこには強固な結界と屈強な番人というセキュリティが存在する。
向こう云百年と鉄壁を誇っていた鞍馬山の監視を掻い潜ってコトリバコが流出したとすれば、事態はコトリバコだけに留まるまい。
単なる油断や不備からポロッと零れ落ちたならばまだ良い。
問題は、悪意を持った第三者が、鞍馬山から呪物を盗み出せるほどの技術を持っている点にある。
「一応オヤジに報告しといたほうがええんかな……でもなぁ、貧乏クジ引かされんのはワシやろしなぁ」
品岡の親玉である陰陽師は、『御前』とは別の、すなわち人間の側から霊的治安を維持する組織だ。
関東一円はおろかいずれ日本全体に影響を及ぼすであろう霊災を放置しておいて良い道理はない。
陰陽師が腰を上げた場合、その走狗として駆り出されるのはやはり式神の品岡なのだろう。
二足のわらじはこれだから面倒だ。そうなる前にとっとと片付けるに限る。
>「それに、コトリバコを無力化するための秘策も用意してありますから。ともあれ現地に行ってみましょう、……それと――」
三本目のショートピースが燃え尽きる頃、ブリーフィングが纏まったらしき気配を感じた。
ニコチンの補給も十分だ。匂い消しにミントタブレットを二三個口に放り込んで噛み砕きながら、品岡はドアに手を掛けた。
>「祈ちゃんはこの事務所に待機していてください。報告は逐一行ないますから、バックアップを。いいですね?」
>「わかっ………ぇ、あたし留守番!? なんで!?」
どうやら出撃前にもうひと悶着起きたようである。
東京ブリーチャーズの常勤メンバーとは何度か仕事を共にしたことがあるのでその人となりは知っている。
都市伝説ターボババァの血縁、多甫祈。コトリバコとはおそらく最も相性の悪い『女性』だ。
>「何それ仲間外れ!? ってかさっき無力化するための秘策があるって言ったじゃん」
噛み付いているのは"男雪女"の御幸乃恵瑠。
極めて希少な男性型雪女故に、今回はその個性によりコトリバコの呪いを免れている。
祈と乃恵瑠の二人は総じて元気が良いので陰気なヤクザの品岡としては苦手な部類だ。
そしてもっと苦手なタイプは――
>「――――そこまでだ。雪女なのに熱くなってねぇでちったぁ頭冷やせノエル。後、覆面剥ぎもマナー違反だ」
"黒鬼"尾弐黒雄。東京ブリーチャーズのブレーキ役にして、裏社会専門の葬儀屋。
怪異絡みの死亡事例の他表に出せない暴力団の葬儀も取り仕切る、品岡よりよほどヤクザ然とした男だ。
その猛獣のような威圧感は本職ヤクザの品岡をして萎縮させ、本職陰陽師の山里組長でさえノータッチ。
まさに東京のアンタッチャブル、ヤクザ社会のタブーに近い男だ。
- 131 :
- >「祈の嬢ちゃん。手段は俺らでどうにかしてやる――――だから、聞かせてくれ。お前さんは、どうしたい?」
尾弐が話をうまく纏めつつあるし、そろそろ顔を出しても良い頃だろう。
若年特有の青く熱いやり取りに参加するつもりはないが、年長者として後押しぐらいはできる。
「……って、何空気読んどんねんワシ」
我が物顔で街を征くヤクザに在るまじき状態だ。
女子供や優男によろしくされるのも座りが悪いし、ここで一つ立場の再認識というヤツをやってやろう。
「相変わらず小汚いビルですなぁ」
ドアを開けるなり不遜な発言をしながら品岡は事務所に歩み入った。
橘音の元にあるルービックキューブを拝借し、手近にあるソファにどかりと腰掛ける。
「ご紹介に預かった品岡や。まぁ自己紹介せんでも皆ワシの顔は知っとるやろ」
纏まりかけた空気にしっかり水を差しながら、色眼鏡越しに祈と乃恵瑠をねっとりと見る。
「外で聞かせてもろたけど、なんやヤンヤ言いやんなや。橘音の坊っちゃんが困っとるやないか。
コトリバコっちゅうのがどういう呪詛か聞いとったやろ。
ありゃマジでヤバイんや、近づくだけで呪われるのに嬢ちゃん連れてけるわけないやろ」
ルービックキューブを手の中で弄びながら、既に尾弐が十分説得したことを復唱するように言う。
まさに鬼の威を借るムジナである。
ルービックキューブは瞬く間に6種の色が混在してぐちゃぐちゃになってしまった。
橘音に任せればまたピタリと戻せるかもしれないが、品岡にはもうどうしようもない。
「……っちゅうんが大人の建前の話やな。尾弐のアニキが言うたようにどうにかする方法はある。
嬢ちゃん次第やけどな。ちょいと優しいおじさんの豆知識聞いてみんか」
まだら色になったキューブを指で弾き、立てた人差し指の上で回転させる。
品岡が特別器用なわけではなく、人差し指を変化させてキューブが回りやすくしているだけだ。
「例えばこのワシの変化妖術。モノの形を好き勝手変えられるチャチな手品みたいなもんや。
生き物や妖怪の形を変えるには相手の許可が必要やねんけど、こいつを嬢ちゃんに使うこともできるんや。
嬢ちゃんの身体の『構造的に女らしい』部分を"埋めて"、『構造的に男らしい』部分を"生やす"。
……あぁ、具体的にどういう部位かについては、お家に帰っておばあちゃんにでも聞くんやで」
指先で回転するルービックキューブが、ひとりでにカチャカチャと組み変わって行く。
蛹の中で眠る蝶のように、内部で一度バラして構造を変化させているのだ。
「もっと簡単に噛み砕いて言うなら、モロッコ行かんでも歌舞伎町で性転換手術はできるっちゅうことや。
ワシは専門家やないからホルモンバランスとか交感神経やらは弄れんけど、とりあえず形を男に見せかけることはできる。
女に対するコトリバコの呪いは子作りの臓器を破壊する呪詛や。構造的にそれをなくしてしまえば呪いは防げるやろな。
まぁ、こんなもんは見せかけの子供だましに過ぎん対策やけれども――」
ルービックキューブの回転が止まる。
そこにあったのはもとの正六面体ではなく、一面の中央が突起し反対側が凹んだ卑猥な造形物だった。
「――ワシはのっぺらぼう、"騙し"の専門家や。呪いだって騙してみせたる」
無論、品岡の講釈は実施事例のない机上の空論に過ぎない。
コトリバコが相手の何をもって『女性』と認識するかは不明なのだ。
更に言えば、呪いの種別を"対子供"に切り替えられた場合に対応できるかどうかも分かっていない。
だから実際には、もう二重三重に防御を施す必要はあるだろう。
「嬢ちゃんが親にもらった身体弄るのに抵抗あるならやめといてもええで。電話番も立派な仕事や。ワシもよくやっとるし」
【ブリーチャーズに合流、疑似性転換による呪詛防ぎを提案】
- 132 :
- 頼むから
荒らし派遣するのやめて
- 133 :
- >わかっ………ぇ、あたし留守番!? なんで!?
自分の決定に対して、祈が不服を申し立てるであろうことは予想の範囲内だった。
そして、それに対する回答も用意していた。――と言っても、それは前述の説明の復唱に過ぎなかったが。
コトリバコは女子供を殲滅することに特化した呪具である。
女でしかも外見通り子供である祈は、コトリバコにとって格好の餌食であろう。
様々な可能性を勘算した結果、橘音は単純に『祈をコトリバコに近付かせない』ことが最善であるとの決断を下した。
触らぬ神に祟りなし、と言う。それが祈を危険から遠ざける最上の手であると、橘音は判断したのだ。
が。
>何それ仲間外れ!? ってかさっき無力化するための秘策があるって言ったじゃん。
祈からの抗議の声はなく、それは別の方角から聞こえた。
ノエルだ。
>この前の八尺様の時はわざわざ男装させて一番危ない役をやらせといて今回は危ないから駄目って何なのさ!
「それは……」
確かに、そうだ。前回の八尺様漂白作戦において、自分は祈に囮という最も危険な役目を課した。
だというのに、今回は留守番などというのは道理に合わない。ノエルが抗議するのも尤もだ。
しかし、今回は危険度のレベルが違う。八尺様も祟り神という最高レベルの《妖壊》だったが、コトリバコには遥かに劣る。
そして。コトリバコには『その呪詛を受けて、生き延びた者はいない』という、厳然たる事実がある。
万一祈がコトリバコのターゲットになってしまったら。その呪詛を受けてしまったら。
多少小知恵が回る程度の橘音では、手の施しようがない。
>橘音くん……君はどうなんだい?
逡巡していると、ノエルに目の前を塞がれた。そして告げられる言葉に、
「……へっ?」
思わず頓狂な声を出してしまう。
>……と聞いたところで正直に答えるはずはない。そこでまずはその仮面を引っぺがす!
>それでも超美形すぎて分からなければその時は――身ぐるみ引っぺがす!
「ち……ちょっ!?ノ、ノエルさん!?」
突拍子もない発言に、さすがに慌てた。
東京ブリーチャーズ内において、橘音の素顔や性別はある意味アンタッチャブルなものとして扱われてきた。
が、このエキセントリックな人物に『空気を読む』などという芸当ができるはずがなかったのだ。
わきわきと両手指を蠢かせ、人の悪い笑みを浮かべたノエルが身構えるのを見て、思わず両腕で自身を抱く。
『やる』と言ったら『やる』目だ。降って湧いた貞操の危機である。
「ひぃぃ……、ス、ストップストップ!ステイ!ハウス!おすわり!!」
なんだかよくわからないことを言ってノエルを制止しようとするも、もちろん効果はない。
まさに一触即発。そして、ノエルが橘音の仮面を剥がさんと飛びかかりかけた、その瞬間――
- 134 :
- >――――そこまでだ。雪女なのに熱くなってねぇでちったぁ頭冷やせノエル。後、覆面剥ぎもマナー違反だ
動いたのは尾弐だった。ノエルの襟首を借りてきた猫の子よろしく掴み上げ、ぽいとソファへ投げ飛ばす。
間一髪、貞操の危機は脱したと橘音は胸を撫で下ろした。
が。
ほっと息をついた直後、尾弐のデコピンが額を直撃する。
「ぴぎゃん!」
鳴いた。半狐面越しとはいえ、鬼の膂力のデコピンである。衝撃に大きく仰け反り、それから額を押さえてうずくまる。
>那須野、お前さんもだ。そういう方針は一人で決め込まないで俺らに相談しろ……お前が頭が良いのは知ってるし
>今回の件も祈の嬢ちゃんの事を考えてそう決めたのも判る。
>けどな……最善よりも次善やその次の選択肢の方が好きなバカも、世の中には結構居るんだ。そもそも――――
「うぐぐぐ……。く、首が吹き飛ぶかと思いました……。頭脳労働者の頭が吹っ飛んだら、無脳労働者になっちゃいますよぉ……」
滔々と語られる尾弐の言葉を、涙目になりながら聞く。
橘音は探偵である。探偵は真実の探求を是とし、何よりも優先すべきと捉えている。
が、橘音は真実を探求し、真理に到達しても、それを余人に開示しない。自分だけが分かっていればいいと思っている。
よってしばしば自分ひとりが得心してしまい、周囲の人々は置いてきぼり――という状況が発生する。
今回もそうだ。導き出された結果だけを告げ、その結論に至る途中経過を説明することを省いてしまった。
橘音のそんな思考に慣れたメンバーは察してくれるものの、空気の読めないノエルには通用しなかった、というわけだ。
>お前らの決定には、祈の嬢ちゃんの意見がどこにもねぇ。何より最初にそこを確認すべきだろうが
確かにその通りだ。よかれと思って判断を下したものの、メンバーの、何より祈の意思を顧みなさすぎたかもしれない。
橘音は何も酔狂で異種妖怪からなる東京ブリーチャーズを結成したわけではない。
それは、様々な妖怪たちの意見を取り入れ、多様な思想、主義主張のもとに計画を推進しようとしたがゆえである。
ただ単に東京を漂白するための兵隊を集めるだけなら、眷属たる妖狐を幾らでも用意することができる。
だが、それではいけない。様々な考えを持つ、様々な妖怪たちと力を合わせて計画を進めることに意味がある。
何故なら、漂白計画の舞台である東京は、八百万の神が住まう日本の中枢。
その空気に、水に、大地に。ありとあらゆる妖の棲む都であるのだから。
「……そうですね、クロオさんの仰る通りです。わかりました、わかりましたよ、もう……」
まだ額はジンジンするが、一旦気を取り直して頷く。戦力外通告を撤回するとしたら、これからどうするか。
まずは祈の意思確認だろう。接近することさえハイリスクなコトリバコの呪詛、それから身を守るにはどうするか。
そも、祈は戦いに行きたいのか。それともリーダーである橘音の指示に従うのか。
>祈の嬢ちゃん。手段は俺らでどうにかしてやる――――だから、聞かせてくれ。お前さんは、どうしたい?
尾弐が祈に訊ねる。強面の尾弐だが、こういう場合の対応はひどく優しい。
尾弐にコトリバコの呪詛を回避する腹案があるように、橘音にもいくつか呪詛返し、呪詛逸らしの策がある。
だが、それとて100パーセントではない。そもそも、それをコトリバコに対して試したこともない。
すべては憶測に過ぎず、『効く』か『効かない』かを確認するには、実際にやってみる以外にないのだ。
(……できれば、やりたくはないんですが……ね)
ちら、と仮面越しに祈を見る。
祈は正義感の強い少女だ。様々な妖怪の思惑が絡むこの東京漂白計画を、正義の行いであると信じている。
橘音はそれを子供の幼い憧憬だと思っている。
無知と無邪気からなる、幼稚な憧れ。聖夜にサンタクロースを信じるのと、それは何も変わらない。
だが、無知はすなわち無垢であり、無邪気は転じて無敵となりうる。
それは永い刻を生き、多数の経験と叡智を手に入れて分別臭くなった自分たちが永久に喪ってしまったもの。
自分を正義と断言できる、キラキラ輝く眩しい魂の煌めき――。
それだけは、なんとしても守らなければならない。
例え、我が身を子獲りの呪詛の前に投げ出してでも。
- 135 :
- >ご紹介に預かった品岡や。まぁ自己紹介せんでも皆ワシの顔は知っとるやろ
事務所内のメンバー全員が祈の答えを待っていると、示し合わせたようにチンピラ風の男が入ってきた。
品岡ムジナ。今回のコトリバコ漂白のために応援として呼んだ非正規メンバーだ。
>嬢ちゃん次第やけどな。ちょいと優しいおじさんの豆知識聞いてみんか
出る機会を見計らっていたのかと思ってしまうほどのタイミングで、ムジナが告げる。
流暢な話題の持って行き方は、さすがヤクザ……といったところだろうか。
メンバーの意識がムジナに向かうと、橘音もまた緩く腕組みしてムジナの言葉に耳を傾けた。
>嬢ちゃんの身体の『構造的に女らしい』部分を"埋めて"、『構造的に男らしい』部分を"生やす"。
ムジナの指先で、ルービック・キューブが尋常ならざる形状に変化していく。
それが、ムジナの持つ妖術だった。もう何度も見ているはずだが、改めてその術の冴えに驚く。
自分が変化する変化術ならばある程度は自信のある橘音だったが、物体や他者の変質となるとまったくの不得手である。
彼は自らを分家筋、だとか卑下して語るが、なかなかどうしてここまで変化に熟達した妖怪はいない。
>――ワシはのっぺらぼう、"騙し"の専門家や。呪いだって騙してみせたる
頼もしい言葉だった。自らの修めた術への、絶対の自信がうかがえる。
本来はあくまでも『秘策』の運搬役として選定したつもりだったが、意外なところで有利に働いたものである。
……ただし、ムジナ本人も考えている通り、それもまた尾弐や橘音の腹案同様実施事例のない仮説に過ぎない。
効果のあるなしは、祈本人による『人体実験』で確認するしかないのだ。
ムジナが提案を終えると、束の間事務所の応接間内に静寂が訪れる。
幾許かの時間を置いて、橘音が口を開く。
「……ボク個人の意見としては、やはり祈ちゃんを連れて行くのはお勧めしません」
「けれど、ここは祈ちゃんの意思を尊重しましょう。もし行くというのなら、可能な限りの対策はします」
「でも、それも十全な効果を発揮するかはわからない。相手は『霊災』……単なる《妖壊》とはワケが違うのですから」
そこまで言ったところで、誰も手を触れていなかったテレビの電源が入る。
緊急のニュース速報だ。稲城市の某所で今まさに、多数の女性が血を吐き苦悶しては倒れているという。
言うまでもなく、コトリバコがその場にあるということの証左であろう。
女性ニュースキャスターが、切羽詰まった様子で退避勧告の文言を読み上げている。
まもなく事件の発生した区画は隔離され、誰ひとり立ち入ることができなくなる、との情報も――。
「……始まったようですね」
低く押し殺した声音で、呟くように言う。
長々と考えている時間はない。こちらの行動が遅ければ、それだけ苦しんで死ぬ女性が増える。
橘音は改めて祈の顔を見つめた。そして白手袋に包んだ右手を彼女へと差しのべると、
「さあ。選んでください、祈ちゃん――キミの進むべき道を」
と、言った。
- 136 :
- 那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI
いや、そのりくつはおかしい
- 137 :
- いい加減にしろ
- 138 :
- ume
- 139 :
- 埋め
- 140 :
- 埋め
- 141 :
- 生め
- 142 :
- 埋め
- 143 :
- 産め
- 144 :
- 梅
- 145 :
- 生め
- 146 :
- うめ
- 147 :
- 膿め
- 148 :
- 倦め
- 149 :
- 宇
- 150 :
- 目
- 151 :
- 楳
- 152 :
- ウメ
- 153 :
- 埋め
- 154 :
- >>153
やめろや知的障碍者
- 155 :
- しゅんとした表情で祈が橘音を目で追っていると、ふと祈の方を向いていたノエルと目が合う。
するとノエルは任せてとでも言いたげに笑んで、祈にウィンクをしてみせた。
そして机を叩いて立ち上がると、橘音へ向かい猛然と抗議を始めるのだった。
>「何それ仲間外れ!? ってかさっき無力化するための秘策があるって言ったじゃん。
>この前の八尺様の時はわざわざ男装させて一番危ない役をやらせといて今回は危ないから駄目って何なのさ!
>それに――男4人で行くなんて絵的にむさ苦しすぎるじゃないか! 僕は美少女がいないとやる気が出ないんだ!」
「御幸……」
残念ながら抗議の結果は振るわなかった様子だが、抗議をしてくれたことが祈は嬉しい。
御幸 乃恵瑠。雪女の種族に生まれた明るい青年。
八尺様を討ち果たしたあの夜、八尺様の魂の消滅という結末に戸惑い、
気持ちを消化できず悩んでいた祈。それを救ったのはノエルであった。
ノエルの持つ、子どもに読み聴かせる絵本やおとぎ話のような優しい世界観。
それは祈が八尺様の死を受け入れ、彼女の再生を正しく祈ることに繋がった。
ノエルの話が事実であるかどうかは別にして、
そんな優しい話を聞かせてくれる誰かがいるということに祈は救われたし、
男に抱きしめられたことなどない祈は今思い出しても頬が熱くなるような思いだが、
抱きしめられた時はめちゃくちゃ安心した。その安心感は祈の揺れる心を安定させたのだった。
そんなことがあったからと言って二人の関係に何らかの変化があった訳ではないが、
祈の目にはノエルへの信頼が以前よりも見えるようになった。
祈はまるで頼れる兄ができたような感覚が――、
>「橘音くん……君はどうなんだい?」
>「……と聞いたところで正直に答えるはずはない。そこでまずはその仮面を引っぺがす!」
(……ん?)
祈が事の推移を見守っていると、どうやらノエルの話が脱線したらしく、
祈という美少女成分(祈は自分のことを美少女だと思っていないので元々そんなものはないのだが)が足りないなら
性別不詳の橘音が補えばいいじゃない、実は君は女の子なんだろうさぁその仮面を取り給え、
ほれほれ良いではないか良いではないか、あーれー。そんな流れになりつつあった。
橘音の仮面は、ブリーチャーズの全員が無意識か意識的か触れることのなかった疑問だ。
単にファッションのつもりであるやも知れないが、顔の下に大きな傷があってそれを気にして隠しているのやも知れない。
そんな様々を考慮して誰もが触れてこなかったものに、ノエルは脱線した暴走列車で突っ込んでいく。
>「ひぃぃ……、ス、ストップストップ!ステイ!ハウス!おすわり!!」
今まさに橘音の仮面にノエルの手が伸び、列車は激突するかに思われた。
だが。
- 156 :
- >「――――そこまでだ。雪女なのに熱くなってねぇでちったぁ頭冷やせノエル。後、覆面剥ぎもマナー違反だ」
爆走を続ける列車を片手で止める者がいる。その男は既にノエルの背後まで回り込んでおり、
祈が止めようとするまでもなく、ノエルの襟首を掴んで来客用ソファへと軽々と放り投げてしまう。
尾弐 黒雄。黒鬼。ブリーチャーズのまとめ役。
文字通りノエルと橘音の間に入った尾弐は、ヒートアップするノエルを軽々いなしただけでなく、
ブリーチャーズのリーダーである橘音にも平然とデコピンをかまし、
>「ぴぎゃん!」
貴重な橘音の鳴き声――、場の混乱を完全に治めてしまった。手馴れたものである。
尾弐のデコピンを喰らった橘音ののけぞり方が半端でなかった為、それが少々心配ではあったものの、
ともあれ、話がこじれなかったことに祈は安堵する。
密かに橘音の素顔が気になっている祈としては、僅かに残念である気もしたのだが。
>「那須野、お前さんもだ。そういう方針は一人で決め込まないで俺らに相談しろ……お前が頭が良いのは知ってるし、
> 今回の件も祈の嬢ちゃんの事を考えてそう決めたのも判る。
> けどな……最善よりも次善やその次の選択肢の方が好きなバカも、世の中には結構居るんだ。そもそも――――」
尾弐は橘音やノエルへと言葉を重ねながら祈の傍まで歩み寄ると、その手を祈の頭へと載せた。
大きくてごつごつしていて、温かい手だなと祈は思った。不思議と心地良い。
>「お前らの決定には、祈の嬢ちゃんの意見がどこにもねぇ。何より最初にそこを確認すべきだろうが」
尾弐はその手を外見に見合わぬ優しい動作でそっと離すと、
今度はまるで小さな子どもとでも話すように、しゃがんで目線を合わせた上で、祈に訊ねるのだった。
>「祈の嬢ちゃん。手段は俺らでどうにかしてやる――――だから、聞かせてくれ。お前さんは、どうしたい?」
祈は、橘音の決定は覆せないものだと思っていた。
橘音は東京ブリーチャーズのリーダーであるし、狐面探偵としてその名を馳せる智慧者だ。
そんな人物が否というのだから否であると。
しかもどうやらコトリバコというものは祈が想像するよりもはるかに危険なものであるらしく、
攻撃に当たらなければ大丈夫だろうだとか、近づかずに攻撃すれば平気だろうだとか、
そんな安易な考えや小細工が通じる相手ではなさそうである。
コトリバコを封じる秘策があると言う橘音自身が祈の同行を断った程なのだから。
だが尾弐は、どうにかしてくれると言う。
頼もしい言葉やその声に、動作に。
祈も安心感を覚えて、素直な気持ちを吐き出すことができそうな気がした。
祈は尾弐の目をまっすぐに見て、口を開く。
「あたしは――」
- 157 :
- >「相変わらず小汚いビルですなぁ」
祈の言葉を遮るように事務所のドアが開かれて、
不遜な態度で男が一人、そんな言葉を吐きながら入って来る。
そちらを見やれば、祈の知った顔がそこにあった。
品岡ムジナ。形状変化の能力を持ちながら、顔の変化を封じられたのっぺらぼう。
今はヤクザの走狗であり、ブリーチャーズの非正規メンバーでもある。
話が纏まりかけたところでやってきた闖入者に、当然四人の視線は注がれているあろうに、
当の本人はどこ吹く風と言った体でそのまま堂々と歩みを進めていく。
そして橘音の元にあるルービックキューブを掴んだかと思えば、
事務所の主人に促された訳でもなしにソファにどかりと腰を下ろした。
その遠慮のない衝撃に、ソファが大きく軋む。
>「ご紹介に預かった品岡や。まぁ自己紹介せんでも皆ワシの顔は知っとるやろ」
一瞬にして場の空気を変え、支配した品岡はそう続けた。
品岡のいかにもヤクザものらしい横柄な態度。色眼鏡越しでも感じる、
ノエルや祈を舐める無遠慮なねっとりとした視線。
流石に祈もムッとして、何らかの言葉をぶつけようとするのだが、それより先に品岡が口を開いた。
>「外で聞かせてもろたけど、なんやヤンヤ言いやんなや。橘音の坊っちゃんが困っとるやないか。
> コトリバコっちゅうのがどういう呪詛か聞いとったやろ。
> ありゃマジでヤバイんや、近づくだけで呪われるのに嬢ちゃん連れてけるわけないやろ」
拝借したルービックキューブを手の内で弄びながら。
その掌の中で、橘音によって色の揃えられていたルービックキューブは
いつの間にか6面バラバラの配色に変えられてしまっていた。
>「……っちゅうんが大人の建前の話やな。尾弐のアニキが言うたようにどうにかする方法はある。
>嬢ちゃん次第やけどな。ちょいと優しいおじさんの豆知識聞いてみんか」
そう言って品岡は語るのだった。祈がコトリバコに立ち向かう方法を。
それは、女であるのが駄目ならば女でなくなってしまえば良いという、
至極単純明快な論理であり、しかし非常に難しい話であったのだが、品岡はただそれだけの事とでも言うように簡単に言ってのけた。
それもその筈だろう。品岡の形状変化の力であれば、
品岡が言うように海外になどに行かなくてもこの場で、しかも短時間で女を捨てて男になることができるのだから。
品岡が指の上に載せた、色がバラバラにされたルービックキューブ。
それは独りでに回り、組み合わさり、終いには一面の中央が突起し反対側が凹んだ卑猥な造形物となった。
このルービックキューブのように、祈すらも簡単に変えてしまえるのだろう。
そして品岡は、自分ならばコトリバコの呪いすら騙してみせると豪語した後、
>「嬢ちゃんが親にもらった身体弄るのに抵抗あるならやめといてもええで。電話番も立派な仕事や。ワシもよくやっとるし」
こんな言葉で結んだ。
親に貰った身体を弄ることに対する抵抗があるなら。そう品岡は言うが、
ない訳がないではないかと、祈は歯噛みする。
既にいない両親。二人から貰った身体を弄ることに対しては勿論だが、
この形状変化には大きな危険が伴うと祈には思えたからだった。
- 158 :
- 学校の成績が中の下の祈でも、
流石にコウノトリがキャベツ畑から子供を運んでくる訳ではなく、
母が子を産むことや、女にはそういう臓器というか器官というか、そういう物があることぐらいは知っている。
祈にそこまで具体的な人生設計があるかと言えば答えは否だが、
将来もしかしたら好きになった男の人と家庭を築いて、子どもを産み、
この手にその子を抱くようなこともあるのかもしれないと、そんな可能性を漠然と考えなくもない。
だがもし仮に、形状変化によってその器官のどこかに傷が付いたり、後遺症が残ったり、
器官が元通りにならなければ、ぼんやりと抱いていたその未来、我が子を手に抱くと言う未来は簡単に閉ざされることになる。
品岡は形状変化の術のエキスパートではあっても、医者ではないのだから。
品岡が負傷するなど、何らかの理由で元に戻せなくなった場合も結果は同様であるし、
最悪の想像として、『品岡が元通りにするのを拒んだら?』というものがある。
品岡は祈の目から見て、そこまで信用できる男ではない。
拒むまではいかなくとも、戯れに、あるいは遊び半分に。
ストレスが溜まっているならその捌け口に。
あるいはなんとはなしに。もしくは面白いと思って。
誰にも、それこそ祈本人や、彼を呼び出し制御しているであろう橘音にすら気付かれぬように小さな傷を残したり、
細工を施したり、そんなことができるのだとしたら。
そこに残るのは、女としての生を失った哀しい人間もどきだ。
法という国家との約束事を反故にして歩き、人の不幸で飯を食べる。
そんなヤクザ者。その一員である品岡。
信頼する医者でもない彼に己の体を、それも生物にとって最も重要で、
根幹をなす部分を預けるというリスクがそこには存在する。
赤ちゃんができなくなるかもしれない。そんな暗い言葉が祈の頭の内を覆った。
それだけでなく、もしかすれば、痛い思いや恥ずかしい思いもするかもしれず、不安の種はいくらでも祈の心に芽吹く。
だが。祈には迷いなど最初からなかった。
- 159 :
- 埋めるのか?
- 160 :
- 誰も触れていない筈のテレビがひとりでに点いて、緊急のニュース速報を流す。
現場の映像こそ流さないが、稲城市にて多数の女性が血を吐き倒れていると伝えるニュースキャスターの切迫した声が、
これが真実であると、異常事態であると明確に知らせていた。
コトリバコを持った何者かがその力を振るっている――。
橘音は祈の顔を見つめて、白手袋に包んだ右手を祈へと差し伸べてこう問うた。
>「さあ。選んでください、祈ちゃん――キミの進むべき道を」
祈は、先程遮られて言えなかった言葉の続きを告げる。答えは最初から決まっていた。
「あたしは“行く”よ。品岡のおじさんの提案に乗る」
立ち上がり、橘音の仮面越しの視線を真っ向から受け止めて。
足手纏いになるだとか、付いて行けば状況が悪化するだとか、
絶対的な理由で“行けない”のならばまだしも、
行ける道があるのならば、行かないと言う選択肢を選ぶ理由が祈にはない。
なぜなら祈は、正義の味方だから。
確かにブリーチャーズは完全な正義の味方ではないかもしれない。
橘音も何やら、誰かから依頼されて漂白しているようでもある。
だが祈は知っている。
心が壊れてどうしようもなく、暴れまわる《妖壊》達。
そんな誰も立ち向かうことのできない脅威に立ち向かうのは命懸けだということを。
幾ら妖怪が死なぬと橘音が話していたとは言え、痛みや苦痛、苦悩からは無縁ではないし、
また死なないという話も確実ではない。
事実、妖怪であり祟り神でもあった八尺様はこの世から消滅している。何か切欠があれば妖怪も恐らく死ぬのだ。
だから橘音も、ノエルも、尾弐も。全員が文字通り命を懸けて戦っていることになる。
そしてそれは恐らく、自分の為と言う我欲だけでは成せない。
己の身が可愛いのならば、危険が降りかかった時に逃げ出してしまえばいいのだから。
戦闘能力のない橘音など特にそうだ。
部下に任せて安全な事務所でふんぞり返っていればいいものを、
本人はむしろ積極的に現場に赴き、常に策を巡らせ指示を飛ばしている。
橘音を始めとして、ブリーチャーズの誰もが逃げることはない。
それは我欲を超えた『何か』の為に戦っていることを意味しており、
その『何か』は東京という街を、人々を守ることに直接に繋がっている。
だからきっと、東京ブリーチャーズは正義の味方だと祈は信じる。
バイトとは言えその一員である自分もまたそうであると。
「ちゃんと元通りにできるんでしょ? 品岡のおじさんなら」
その一員であることが誇らしいから。その誇りに恥じない己でありたいから。
皆と肩を並べて歩きたいから。人々を守る、祈が描く正義の味方でありたいから。
背を向けることを祈自身が許さない。
「橘音にもさっき言ってた対策ってやつ、やって貰っていいかな。時間もないし、最低限で良いから」
ぐずぐずしてはいられない。
脅威は既に、街を飲み込み始めているのだから。
- 161 :
- 埋め
- 162 :
- 埋め
- 163 :
- 埋め
- 164 :
- 埋め
- 165 :
- 埋め
- 166 :
- 埋め
- 167 :
- 埋め
- 168 :
- 埋め
- 169 :
- 埋め
- 170 :
- 埋め
- 171 :
- 埋め
- 172 :
- 埋め埋め
- 173 :
- うめうめ
- 174 :
- 埋めよう
- 175 :
- 埋め
- 176 :
- 埋め
- 177 :
- 熟め
- 178 :
- 倦め
- 179 :
- 績め
- 180 :
- 楳
- 181 :
- 右
- 182 :
- 目
- 183 :
- 左
- 184 :
- 目
- 185 :
- 埋め
- 186 :
- >「ひぃぃ……、ス、ストップストップ!ステイ!ハウス!おすわり!!」
橘音が必死で止めようとするも、残念ながらノエルは某犬妖怪ではなかった!
それどころか、いつも冷静な橘音が素丸出しで慌てふためく様はこの変態を更に刺激してしまった。いわゆるギャップ萌えである。
「そそるねぇ! モフモフクンクンしたるわあ! ありのままの姿見せやがれぇええええええええええええ!!」
雪女特有の妖艶な笑みすら浮かべ、色んな意味でギリギリな台詞を吐きながら襲い掛かる!
が、間一髪で黒雄に阻止されソファにダイブすることとなった。
落下時にソファごと傾いて後ろの本棚にあたり、顔の上に資料が何束か落ちてきた。
>「――――そこまでだ。雪女なのに熱くなってねぇでちったぁ頭冷やせノエル。後、覆面剥ぎもマナー違反だ」
「ゴメンよ橘音くん……もうしないから」
資料が乗っかっているせいで表情は見えないが、一応反省しているらしい。
どうやら黒雄の言う事は素直に聞くようである。この珍獣をも手なずけるマッチョのOTONA力半端ない。
もし彼がいなかったらとっくに珍獣の収拾が付かなくなっていることだろう。
「でもさ、そろそろ顔ぐらい見せてくれたっていいじゃないか……。隠されると気になるんだよ、パンツと一緒さ」
早いもので自分がここに来てからもう2年半以上経ったか――
こっちは普通に戦闘の度にお気軽に変化解いてるというのに、橘音くんときたら正体どころか顔すら見せてくれない。
そもそも、橘音くんが無駄にモフモフして可愛い(※勝手な想像図)……じゃなくて。
秘密主義だからいけない――とノエルは思う。何も正体見せろとまで言っているわけではない。
人間に化けた時の顔を思わせぶりに隠したところで一体何の意味があるというのか。
そして、そんな大して意味がないものが気になってしまう自分にも悶々としてしまうのである。
そもそも仮面剥がしの暴挙に出たのは当然橘音自身の身を案じた面も無くは無いのだが
そういえば妖狐だからどうにでも化けれるのか――それならそうと言えよ!と自己完結した。
顔の上に乗っている資料をのけようとして両手で持ち上げ、仰向けの姿勢のまま何気なく見る。
まだノエルが加入する前のブリーチャーズ結成初期の資料のようだ。
トイレの花子さんの話し相手に人面犬の飼い主探し、といったいかにも連載初期のコメディタッチのノリから始まり
開始直後の勢いがなくなってきてテコ入れにそろそろバトルぶっ込むかというところで平成26年豪雪――
へえ、雪女の討伐もやったんだ。東京を豪雪地帯にしようなんて空気読まない奴もいたもんだなあ!
と見ていると当然、勝手に見ないでくださいという感じで取り上げられて片付けられるであろう。
言っちゃダメ系の昔話がたくさんあるように、妖怪業界でも個人情報漏洩はよろしくないのである。
>「祈の嬢ちゃん。手段は俺らでどうにかしてやる――――だから、聞かせてくれ。お前さんは、どうしたい?」
と、まとまりかけたところに絶妙のタイミングで入ってくる者がいた。
実際にはタイミングを見計らっていたのだから絶妙なのは当たり前なのだが。
- 187 :
- >「相変わらず小汚いビルですなぁ」
>「ご紹介に預かった品岡や。まぁ自己紹介せんでも皆ワシの顔は知っとるやろ」
「出ーたーなあ! 顔無しタヌキ! お前の顔は見飽きたぜー!
そろそろイメチェンで美女にでも変えて貰えばいいのに!」
噂によると昔の陰陽師に式神にされて顔を固定されてしまったのっぺらぼうらしいが
この顔が当時の陰陽師の好みだったのか……と思うとなかなか感慨深いものがある。
いやでも人相悪いのと変な色眼鏡で胡散臭く見えてるだけでよく見ると実は意外とイケてる可能性も――
>「外で聞かせてもろたけど、なんやヤンヤ言いやんなや。橘音の坊っちゃんが困っとるやないか。
コトリバコっちゅうのがどういう呪詛か聞いとったやろ。
ありゃマジでヤバイんや、近づくだけで呪われるのに嬢ちゃん連れてけるわけないやろ」
「それはそうなんだけど……君に言われると何故か腹が立つなあ何でだろうなあ」
誰に言われたかより何を言われたかの方が大事という標語が横行するのはぶっちゃけある意味その逆が真実であるからなわけで。
要するにノエルはムジナに対してあまり良い印象を持っていない。
普通にヤクザだし感じが悪いからというのもあるのだが、純粋な妖、それも出自が雪の精であるノエルは煙草が大の苦手だ。
目の前で吸われた日には本気で気分が悪くなる。
そんなこともあってムジナも匂いに気を使っているのかもしれないが、残念ながらノエルにはドアの外の気遣いに気が付くほど高度な知能はないのだ。
ここで一句。雪山に 煙草のポイ捨て ダメゼッタイ(字余り)
>「……っちゅうんが大人の建前の話やな。尾弐のアニキが言うたようにどうにかする方法はある。
嬢ちゃん次第やけどな。ちょいと優しいおじさんの豆知識聞いてみんか」
「あっ……。 品岡くん、キミ案外いい奴だな!」
ここに来てようやく思い至る。そういえば、こいつの能力は形状変化だったか――
それなら美少女を美少年に変身させるぐらい楽勝だな!これで勝つる!と思うノエル。
――しかし。
>「嬢ちゃんの身体の『構造的に女らしい』部分を"埋めて"、『構造的に男らしい』部分を"生やす"。
……あぁ、具体的にどういう部位かについては、お家に帰っておばあちゃんにでも聞くんやで」
「……?」
シンデレラに出てくる魔法のような美少女→美少年のふわふわキラキラ変換を期待していたのに、どうも趣が異なる様子。
はて、何のことだろうか――構造的に女らしい部分っていったら巨乳か!
でも埋めるんじゃなくて平らにするんじゃ? まあ祈ちゃんは元々そんなに無いから問題ないよね!
構造的に男らしい部分って何かあったっけ? 生やすっていったらヒゲ!?あれはおっさん限定でしょ!等と思っている始末である。
男女の根本的な違いを理解していないようだ。もはやアホというレベルを超越している。
しかし妖怪が人間の想像力から生まれているとしたら、これは仕方がないのだ。
雪女(男)なんて珍獣を想像してしまうような人間はどうせ物事を深く考えないアホに違いないので
「女しかいないはずの妖怪が何故か見た目イケメンだったら楽しいよね!
奴ら精霊みたいなもんだしあの辺がどうなってるとか生々しい部分には踏み込まない方向で!」
ってなもんである。え、何!? こっち見んな!
- 188 :
- >「ワシは専門家やないからホルモンバランスとか交感神経やらは弄れんけど、とりあえず形を男に見せかけることはできる。
女に対するコトリバコの呪いは子作りの臓器を破壊する呪詛や。構造的にそれをなくしてしまえば呪いは防げるやろな。」
ホルモン……焼肉? 子作りって言われても雪ん娘はいつの間にか雪山から湧いてくるもんだし。
人間はもしや違うのか――!? そんなもん作ろうと思って作れたら凄くね!?
益々訳が分からなくなってきた。人間ってややこしいんだなあ、と思うノエル。
何せノエルは人間の振りをしていても表面上人間に見えているだけなのだ。
良く言えば人間にしては小奇麗過ぎ、悪く言えばこの世ならざる雰囲気を隠しきれていない。
食べなくても生きれるし、トイレ行かなくていいし、というと一見支障は無さそうだが
うっかりすると体温下がってくるし、凄く消耗したりすると人間の体温を維持するのに大変な努力を要する。
文字通りの意味での血も涙もない化け物――
そのうちボロが出て年末によくやってるおっさん達が超常現象について熱く議論するしょうもない番組で
「東京に妖怪が潜り込んでる!」と住民票を晒されて「あっバレました?」とモザイク付きで取材を受けてしまうのか!?
もしそうなっても頭がおかしくなった人の妄言で流されるから多分大丈夫だ問題ない!
ちょっと話は逸れたが、こんな感じで一人だけ話に付いていっていないノエルだったが
祈の表情を見るに、どうやらこの形状変化は大変な危険を伴うらしいことだけは感じ取った。
純粋な妖であるノエルは姿形が変わるぐらいどうってことないと思っているが
人間は物質界に基盤を置く存在であるからして、人間にとっては大変なことなのかもしれない。
もしも自分だったら魂の形質を弄られるようなものか――と思い至り、祈の気持ちのほんの一端を理解する。
万が一失敗したら祈は死んでしまうのだろうか?
そんな恐怖が浮かんでくるが、そもそも自分の抗議がこの展開の発端となったのだ。
橘音は自分としては付いて来るのは勧めないと告げた上で、判断を祈自身に委ねた。
>「さあ。選んでください、祈ちゃん――キミの進むべき道を」
>「あたしは“行く”よ。品岡のおじさんの提案に乗る」
迷いのない目できっぱりと答える祈を見て、思った。ああ、彼女は穢れ無き光だ。
フリフリキラキラの衣装こそ着ていないものの、人の身でありながらその人外の力を持って人々の夢と希望を守るために戦う魔法少女なのだ――!
それに比べ、自分は無駄に歳食ってる割に何てしょうもないのだろうか、とノエルは思う。
志望動機は何かと聞かれれば、思い返せば最初は誘われたからなんとなくノリで。
そして同じ雑居ビルのよしみで付き合ってる間にあてにされるようになって抜けられなくなり今に至る。
というのが本人の認識するところなのだが、普通に考えてご近所のよしみで続けられるようなシロモノではない。
ノエルには祈のような崇高な正義感もなければ、黒雄のような今はまだ語られぬ思惑も、ムジナのような逃れられぬ契約の楔があるわけでもない。
「自分戦いとか苦手なんで」と店の女性客とキャッキャウフフしつつ平和に過ごしても何ら問題はないのである。
そこには実は物凄く単純且つ強力な動機があるのだが、それを本人が自覚することは――無い。少なくとも今のところは。
- 189 :
- 「祈ちゃん……僕はオバケだからよく分かんないけどさ、どんな事があっても君は君だからね」
そんな在り来たりな言葉しかかけられないノエルだったが、祈は自分が大変な状況だというのに橘音の心配までしているようだった。
>「橘音にもさっき言ってた対策ってやつ、やって貰っていいかな。時間もないし、最低限で良いから」
「橘音くんは妖狐だから心配しなくていい。マッチョにも美少女にもどうにでもなれるんだよ」
「ああそうだ、誰が心配するものか! それだってどうせ仮の姿なんだろ!
思わせぶりに顔隠してんじゃねー! この厨二ファッションオサレ仮面め!
べ、別に君のために付き合ってやってるわけじゃないんだからな!?」
橘音のことは心配しなくていいと祈に諭し。
ついでに何故か橘音に向かって微妙に逆ギレし始めたようだが――もう一度言おう、本人がその理由を自覚することは無いのだ!
また話が脱線しかけたが、気を取り直して真面目な顔になって橘音と黒雄に向かってこんなことを言い出す。
「ところで……今のところ死んでるのは女の人だけみたいだけど、確か噂では子どもも駄目なんじゃなかったっけ?」
いくら対女性の呪いを防いだところで、対子どもの呪いも発動しようものならリアル中学生の祈はやはりアウト。
性別のほうは力技でどうにかなっても、年齢――つまり生まれてからの年数はどうにも変えられない。
ノエルは少し何かを考えるような表情をして――
「そういえばステータス異常って二つ重ねてはかからないんだよね!」
それがどうしたと言いたいところだが、たまたまこの場合はこの考え方は満更的外れでもないらしい。
とはいえ、ノエルの能力はいわゆる氷属性異能バトルなので、呪詛なんていう風流なものは基本管轄外だ。
敢えて言うなら、一つだけそれらしきものがある。
それは心を凍らせる呪い――魂に霊的な氷の刃を突き刺す。徐々にその氷が心を侵食し、最後には全身が凍り付いて死ぬ。
平たく言えば時限式の氷殺術みたいなものだけど、かける時に極限まで侵食速度を遅くしておけば……
――いやいやいや、アカンって! 死ぬのを防ぐために死ぬ呪いをかけるなんて意味不明だ。
アホの考え休むに似たり、というわけで――
「命に別状無いようなしょうもない呪いかけとけばいいんじゃないかな?」
と二人に丸投げした。
- 190 :
- もうみんな飽きたかな?
- 191 :
- さっさとしろ
スレ潰したいのか?
- 192 :
- >「あたしは――」
進むか、退くか。
尾弐が祈に行った『未来を問いかける』行為は、ある意味では酷く冷酷な行為である。
何故ならば、己の意志で決めた未来には嘘が付け無いからだ。
己が光を夢見て選んだ道がその実、死出の旅路であったとして。
それが他者に押し付けられた道であれば、怨み言の一つも零せよう。
けれど、自身の意志で、自身の言葉で決めた未来であるのなら、そこに他者は介在しない。
自身の責任の元に、ただ純然とした過程と結果のみが刻まれる事となる。
非道く冷たい孤独の旅路。己が未来を己自身で選んだ者は、それを延々と歩く事となるのである。
だから――――故に。
未来を選ぶことを求めた尾弐黒雄は、多甫祈が選ぶ未来を見届けなければならない。
例え尾弐に、彼女が瞳に讃える澄んだ光を見る資格がなくとも。
言葉を交わす事さえもが、本来許されざる行為であるとしても。
選んだ道を見届けなければならない。
それが、尾弐の責任だからだ。
尾弐は視線を逸らす事無く祈の言葉をじっと待ち――――だが。
祈が口を開く直前に、その妖怪は現れた。
>「ご紹介に預かった品岡や。まぁ自己紹介せんでも皆ワシの顔は知っとるやろ」
「……いや、まあ一週間前にも葬儀の席で遭ったしな」
無遠慮に室内に踏み入り、手近に在ったソファーに腰かけたその男の名は、品岡ムジナ。
東京に縄張りを持つ暴力団の構成員にして、顔の有るノッペラボウ。
尾弐が思案していたコトリバコの呪いを欺く手段。その中の鬼札にして、化かし、騙し、欺く事に関する専門家。
ブリーチャーズの中においても、どこか毛色の違う存在。
彼はその手でルービックキューブを、文字通り弄びながら……恐らく、立ち聞きしていたのであろう。
祈から呪いの矛先をそらす為の一手を語り出した。
>「――ワシはのっぺらぼう、"騙し"の専門家や。呪いだって騙してみせたる」
そして……彼自身の能力の事であり、当然と言えば当然なのだが。
ムジナが語った意見は、尾弐が想定していた呪詛対策の一つと完全に一致していた。
「色々言いてぇことはあるが――――まず、誰がアニキだ。お前さんと杯交わした覚えはねぇぞ化かし屋。
こんな善良なオジサンをVシネの世界に巻き込むんじゃねぇよ」
- 193 :
- ムジナの登場により話が中断した事で祈から視線を外した尾弐は、困った様に頭を掻きながら立ち上がり、ムジナから
少し離れた場所に在る椅子へと腰掛ける。
その様子から察せる様に――――尾弐黒雄は、この品岡ムジナという妖怪を苦手としている。
それは、尾弐が俗にいうヤクザという者達と意識的に距離を置いて付き合っているという事もあるのだが、何よりも
(相変わらず掴み所がねぇ奴だな……判り易い性格してる所が却って判りづれぇ)
尾弐が苦手としているのは、ムジナの『性質』である。強気に阿り弱気を挫く。
一見すれば悪党らしい明瞭な性格であるのだが、尾弐にとってムジナのそれは酷く判断に困るものであった。
何を『弱い』基準として敵対し、何を『強い』基準として味方となっているのか。
どこまでならば『裏切らない』のか……それが想定出来ない相手はやり辛い。
掴み所が無いという点では那須野も似たようなところは有るのだが、ムジナはまた性質が異なる。
そもそも――――尾弐にはムジナが今見せている性格すらも、本質からかけ離れたモノである様に思えて仕方ないのだ。
そうであるが故に、普段は過度の接触を避けていたのだが……今回はそうもいかない。
>「さあ。選んでください、祈ちゃん――キミの進むべき道を」
今回の件で祈が戦う道を選んだ場合、間違いなく必要となるのはムジナの力であり
>「あたしは“行く”よ。品岡のおじさんの提案に乗る」
そして……先程視線を合わせた時に尾弐が感じた通り。
ニュースキャスターが切迫した様子で事件を報じる声が聞こえる中。
多甫 祈という少女は――――尾弐にとっては眩しすぎる輝きを瞳に持つ少女は、【戦う】という道を選択したのだから。
だとすれば、尾弐も覚悟を決めなければいけない。道を選ぶことを薦めた者として、責任を果たす覚悟を。
>「橘音にもさっき言ってた対策ってやつ、やって貰っていいかな。時間もないし、最低限で良いから」
>「橘音くんは妖狐だから心配しなくていい。マッチョにも美少女にもどうにでもなれるんだよ」
>「ああそうだ、誰が心配するものか! それだってどうせ仮の姿なんだろ!
>思わせぶりに顔隠してんじゃねー! この厨二ファッションオサレ仮面め!
>べ、別に君のために付き合ってやってるわけじゃないんだからな!?」
……そして、尾弐がそんな覚悟をしている中。
そんな事など知る由も無いノエルは那須野に対してツンデレていた。
「いや……なんつーか、お前さん随分とまあ、思春期のガキみてぇな反応だな。
一応言っとくが、祈の嬢ちゃんが言ってるのは那須野が嬢ちゃんへ護法を掛ける事で、那須野にムジナの術を掛けるって訳じゃねぇからな」
突っ込むのも野暮だと思うのだが、さりとて突っ込まなければ場が混沌としそうなので、
とりあえずそう指摘する尾弐。だが、流石に年長の妖怪だけあってノエルも常にノエっている訳では無いらしい。
彼が次に述べた言葉は、今回の呪詛対策の核心部分……ムジナだけでは対応が困難な部分の呪詛に関してであった。
- 194 :
- >「ところで……今のところ死んでるのは女の人だけみたいだけど、確か噂では子どもも駄目なんじゃなかったっけ?」
>「そういえばステータス異常って二つ重ねてはかからないんだよね!」
>「命に別状無いようなしょうもない呪いかけとけばいいんじゃないかな?」
「子供への呪詛……何を以って『子供』とするか判らねぇ辺りが厄介だな。
年齢からして現代換算なのか、それとも元服なのか。もしくは二次性徴、見た目が基準なのか……。
せめてそれを調べる為の時間があれば良かったんだが……それが出来ない以上、対策は魔除けか、ノエルも言った呪詛の先掛けくらいしかねぇよな」
そう言って腕を組み、少しの間試案を巡らせる尾弐。
「……呪詛の重ね掛けについては、適当な呪いじゃコトリバコに呪いに飲み込まれちまうかもしれねぇ。
ある程度強力な『呪(まじない)』による契約……俺で言うなら『守ってやるから生贄を寄越せ』って感じのもんが必要だと思うんだが、
流石にそれは不味ぃからな……」
病気、疫病、凶事……その権化である鬼の呪いであれば、恐らく多少の時間であればコトリバコにも対抗できるだろう。
けれど、昔話に多く在る様に、鬼の呪いは基本的に対価を求め、それを解く方法は鬼を出し抜き倒すか
契約を履行する以外に無い。呪術のプロであれば、もっと上手い手段も知り得るのかもしれないが、生憎と尾弐は呪術は素人である。
それに、今回の件ではただでさえ負担をかけている祈にそこまで負担をかけるのは酷だろう
ならば、別の方法を考えなくてはならない。自身の特性を理解し、なおかつ祈の負担にならない呪詛への対抗策を。
「……。 おう那須野、ちっとばかし洗面台借りるぞ。
直ぐ戻るが、その間にお前さんの持ってる対抗策を試しといてくれや」
そこで、ふと。何かを思い立った尾弐は、事務所の用具入れの中から勝手に
カッターナイフの替えの刃を取り出すと、こっそりと喪服のポケットに入れ……部屋を出て事務所の洗面台の有る区画に歩いて行った。
――――
そうして。
尾弐が戻ってきたのは、那須野の話が終わった頃であった。
先頃までと何ら変わらない態度ではあるが、はだけていた喪服の前ボタンが何故かしっかりと留められており。
その手には先ほどまでは持っていなかった何かを持っている。
「那須野の方は終わったか? もし終わったんなら、お前さん達にこれを渡してぇんだがよ」
そう言って尾弐が差し出したのは、3つの白封筒。
恐らく怪訝な視線を受けるだろうが、それを気にする性質でもない尾弐は、那須野。祈。ノエルのそれぞれに白封筒を手渡す。
「そいつは魔除けのお護りだ。今日はたまたま持ち歩いててな。
中身は鬼切安綱とまではいかねぇが、正真正銘『悪鬼』を切った破魔の刃物だ。
そこらの護符よりは魔除け――――呪詛対策になる筈だぜ。3つ有るから、祈の嬢ちゃんと那須野……ついでにノエル。
一応種族が雪女のお前さんも持っとけ。万が一の可能性もあるからな。あと、性別と年齢的にムジナの分はねぇ」
無論……その刃物。カッターナイフの刃は、偶然持ち歩いていた訳では無い。
が、尾弐はその由来を敢えて語る様な真似はしない。
この程度の骨折りは、少女に自身の未来を決めさせた者が、当然果たすべき責任であると、尾弐はそう考えているからだ。
- 195 :
- _
- 196 :
- >「色々言いてぇことはあるが――――まず、誰がアニキだ。お前さんと杯交わした覚えはねぇぞ化かし屋。
こんな善良なオジサンをVシネの世界に巻き込むんじゃねぇよ」
「そない寂しいこと言わんといて下さいよアニキ。
男品岡、一度見初めた相手は盃の有る無し関わらずアニキと呼ばせてもらいやす」
尾弐が露骨に距離を開けて座り直すのを色眼鏡の端で見送り、品岡は野卑た笑みを作った。
これもやはりおべんちゃらだ。品岡の視線にあるのは敬意ではなく単なる鬼に対する畏怖である。
「まま、嬢ちゃんの答えを聞きましょか」
即席の性転換という品岡の提案に、祈はしばらくの沈黙で応じた。
当たり前と言えば当たり前、医療知識のない者に臓器を預けるというのはおいそれと頷けないリスクを孕んでいる。
その相手がガラの悪いチンピラともなればなおのことだ。
「躊躇は当然やな嬢ちゃん。せやけどこれが怪異と"戦う"ってことなんやで。
命も懸けずに戦うなんて虫の良い話なんぞ寝物語の中にしかあらへん」
品岡は祈の逡巡を鼻で笑ってそう言った。
これから向かう先はおとぎ話の討伐譚とは違う。敵を制圧し、あるいはR命のやり取りだ。
自分も相手も命がけ、命を守る為に他の何かを犠牲にするのも当然の仕儀である。
憧れだけで飛び込んでいける世界ではない。
正直な心理を吐露してしまえば、品岡は祈のことを一人前と認めてはいなかった。
年端もいかない子供であり、妖怪の血が混じっているだけの人間に近い半端な存在。
契約や金銭のやり取りで動くプロの品岡とは違い、ただ正義感で妖壊と相対しようとするその青さは、好ましいとは思えない。
純粋で真っ直ぐなその瞳にはまだ世界の過酷さや汚さが映っていないだけだと。
そういう半ばやっかみも含んだ感情が、彼に露悪的な言い方を選択させた。
……もともと性根が腐ってる部分もあるけれど。
>「……始まったようですね」
事務所のテレビに緊急速報が流れた。稲城市で再びコトリバコの呪詛が発動したのだ。
そこは23区の西に隣接するまさに目と鼻の先、もう時間は残されていない。
>「さあ。選んでください、祈ちゃん――キミの進むべき道を」
「やっぱ嬢ちゃんは置いて行きましょうや、坊っちゃん。ワシらだけで十分でしょう」
無言を貫く祈を見て品岡は橘音にそう提案した。
祈の妖怪としての戦力を軽視している品岡にとって、彼女は必ずしも連れて行きたい相手ではない。
戦力外通告を受けた少女が傷つこうとも、それは彼女の問題で品岡の知ったことではないのだ。
だが、多甫祈は事態を座視することを選ばなかった。
>「あたしは“行く”よ。品岡のおじさんの提案に乗る」
彼女はやおら立ち上がり、その双眸で真っ直ぐ橘音を見つめて答えた。
視線はゆっくりと品岡へと動き、色眼鏡の向こうの曇った両眼を二つの眼光が捉えた。
>「ちゃんと元通りにできるんでしょ? 品岡のおじさんなら」
その挑戦的な言葉に、今度は品岡が面食らう番だった。
- 197 :
- 「ほぉぉ……ええ度胸やないか嬢ちゃん」
これから身体を預ける相手に、挑発するような物言い。
それも相手は他人の不幸で飯を食う正真正銘の犯罪者にしてヤクザ者の品岡だ。
沈黙を経由した祈のそれはおそらく反射的に出た言葉ではない。
考えて考え抜いて、品岡が稚気にでも悪意を混ぜれば彼女の人生がぶち壊しになることも理解しての発言だろう。
例え橘音の監視があろうとも、それを騙し果せて他人の腹の中に爆弾を残す手際が品岡にはある。
(万に一つもワシが賊心を見せんと信じとる……わけやないやろ)
信頼ではなく――『覚悟』。
史上最悪の霊災と相対する為に、無視できないリスクをそれでも抱え込む覚悟。
未熟で、早気で、品岡の二十分の一も生きていない小娘が、命懸けの覚悟を決めている。
手のひらがじっとりと汗ばむのを感じた。品岡は、自分がこの少女に気圧されていることに気が付いた。
「誰に向かって言っとんねん」
品岡は眩しそうに眼を眇めて、しかし遮光レンズの嵌った色眼鏡を外して祈に目を合わせた。
「上等や。男にするのも女に戻すのも、完璧にやったるわい。嬢ちゃんが拍子抜けするくらいにな」
>「ああそうだ、誰が心配するものか! それだってどうせ仮の姿なんだろ!
思わせぶりに顔隠してんじゃねー! この厨二ファッションオサレ仮面め!
べ、別に君のために付き合ってやってるわけじゃないんだからな!?」
と、締まった空気をぶち壊すようにノエルが再びノエり始めた。
雪女の癖に場が冷えるのが我慢ならないらしい彼の奇態に品岡は唇を曲げる。
「じゃかぁしい!自分は嬢ちゃんから保体の教科書でも借りて黙って読んどれ!!
無機質なわりに結構エグい図解見て夜眠れなくなったりしとけ!」
十重二十重に厄介事に縛られ喘ぐ品岡にとって、このノリと勢いだけで生きている生命体は祈以上にやっかみの対象だった。
ブリーチャーズの仕事上のみの付き合いではあるが、間違ってもプライベートで関わろうとは思えない。
そもそもこの事務所が禁煙なのだってノエルが煙草の煙が苦手だからという理由で橘音からご法度が出た部分が大きく、
そういう意味でも彼は品岡にとっての眼の上のたんこぶに近かった。
>「ところで……今のところ死んでるのは女の人だけみたいだけど、確か噂では子どもも駄目なんじゃなかったっけ?」
珍妙の代名詞がふと真面目な指摘をして品岡は眉を開いた。
尤もな話ではある。祈を男に変えたとして、『子供用』の呪いまで防げる保障はない。
>「子供への呪詛……何を以って『子供』とするか判らねぇ辺りが厄介だな。
年齢からして現代換算なのか、それとも元服なのか。もしくは二次性徴、見た目が基準なのか……。
「嬢ちゃんを男にした後風俗にでも行かせたらええんちゃうかな。二重の意味で男にするのも兼ねて。げひっ」
中学生の居る場でドギツいお下劣ジョークをかました品岡は刺すような視線に袋叩きにされた。
自然発火でもしそうなくらい鋭い白眼視に耐えられなくなった品岡はわざとらしく咳払いをして場を流す。
ノエルがまた性懲りもなく何かを思いついたらしく平手を打った。
>「そういえばステータス異常って二つ重ねてはかからないんだよね!」
「いや、重複するやろ状態異常。みんなのトラウマ・モルボル先生のくっさいくっさい息のこと忘れたとは言わせへんで」
当代陰陽師山里宗玄がまだ幼き頃、次期当主の世話役を先代より仰せつかった品岡はよく宗玄のプレイするゲームを傍で見ていた。
だいたい二十年くらい前の話であの頃はオヤジもまだ可愛げがあったなームジ兄ぃムジ兄ぃと慕ってくれたなーと
余計な思い出まで回顧しつつ表示されるバッドステータスの山にぶるりと震えた記憶を再び脳裏に封じ込める。
- 198 :
- とは言え、ノエルの指摘は的を得ていた。
異なる種類の状態異常は重複するが、例えば上位種の異常に既に掛かっていれば上書きされることはない。
「もうどく」状態の勇者に「どく」が上書きされないように。
より強力な呪詛を先に祈へ掛けておけば、コトリバコの呪詛を防げるかもしれない。
>「……呪詛の重ね掛けについては、適当な呪いじゃコトリバコに呪いに飲み込まれちまうかもしれねぇ。
尾弐は何事か思案すると、橘音に断って洗面所の方へと消えていった。
ほな、と品岡も膝を叩いて立ち上がる。
「鬼の居ぬ間になんとやらや。こっちも嬢ちゃんに施す"対策"を始めよか」
手の中で遊んでいた色眼鏡を形状変化で捏ね、30cm程度の棒とその先端に紙策のついた道具を作る。
大幣(おおぬさ)と呼ばれる、神事の際に用いられる穢れ祓いの呪具だ。
品岡は唸りをつけて大幣で自分の手のひらを叩くと、裸眼に再び野卑た笑みを浮かべて祈に言った。
「その前に嬢ちゃん、小便行っとき。下半身捏ねくり回すから下手すると漏らすことになんで」
祈が手洗いに行って戻ってくるか、あるいは尿意がなくトイレに行かなかったとしても、品岡は如才なく準備を終わらせる。
少女の頭に大幣を当て、スマホに表示した真言を詠唱し始めた。
「えー……おんきりきり、ばざら、うんはった」
紡がれる呪言に霊的な意味合いはない。陰陽師の詠唱を見よう見まねであるし、そもそもカンニングをしている。
ただしこれが儀礼上となると話は別だ。呪文を聞かせることで対象者に低強度のトランス状態を作り出し、術を効きやすくする。
妖怪の血縁にこの程度のインチキは無意味かもしれないが、それでも万全を期するという約束を違えるつもりはない。
できることは全てやって、完璧な形状変化を果たしてみせる。
スマホをソファに放り、空いた手で九字を切る。
「オンキリキリ・ハラハラ・フダラン・バサツ・ソワカ・オン・バザラ・トシャカク」
祈の下半身に変化が顕れる。
腰から下の感覚が無くなり、傷が治る前の瘡蓋のような、むずむずする感覚に襲われるだろう。
痛みはないが、得も言われぬ異物感と軽い不快感を覚えるはずである。
外見的にはまだ何も起きていないが、体内ではめまぐるしいスピードで臓器の解体と再編成が行われていた。
まず子宮が縮み、内膜同士が癒着して一つの肉となって周囲に溶け込み消え失せた。
卵巣を下腹部前面へと移動させ、外皮と共に体外へ迫り出して擬似的な睾丸を形成する。
尿道の周囲の肉を隆起させ、睾丸の上部から伸ばして海綿体を充填する。
今回品岡が行ったのは腹部皮弁法と呼ばれる最も簡易的な性転換術式だ。
ようは周囲の肉と皮膚を使ってそれらしいモノを創造し、薬剤等による肥大を伴わない為に患者への負担が小さい。
祈の下腹部に、彼女が見慣れないであろう異物が出現していた。
「……工事完了や。完璧に仕上げちゃおるが小便は身体を元に戻すまで我慢しとくんやで。
尿道が出来上がったばかりで粘膜同士が張り付いとるからな」
臓器を操作する精密で繊細な形状変化は久々だった。
額に浮いた汗を取り出したハンカチで拭って懐を叩き、ここが禁煙だったことを思い出す。
ニコチンへの欲求に歯を食いしばって耐えながら、品岡は祈の予後を観察した。
「股ぐらは窮屈やないか?嬢ちゃんが履いとるのが伸縮性のあるスポーツショーツならよほど大丈夫やと思うが、
背伸びしてシルクのパンツとか履いとるんだったらそこの阿呆にブリーフでも借りとき」
女子の下着に異常に詳しいヤクザはノエルを顎でしゃくって指し、ポケットから一枚の紙片を出す。
これも陰陽師が呪術の行使に用いる真言の書かれた呪符だ。
- 199 :
- 「右手出しぃ」
品岡はそれを形状変化で細長い帯状に変え、祈の右手首に巻きつけた。
切れ目はすぐに馴染んで見えなくなった。
「そいつはワシの妖術を嬢ちゃんの身体に繋ぎ止める呪符や。それを破ればすぐに術が切れて元の嬢ちゃんに戻る。
戦闘中に切れんよう多少頑丈に作ってあるけど、妖力込めて引っ張ればブチっといくはずや。
ま、保険やな。ホントは金とるモンやけどサービスっちゅうことにしといたる」
橘音から日当も出ているし、とは敢えて言わなかった。格好を付けたかったのである。
品岡は首をコキリと鳴らすと踵を返した。
「はぁーしんど。慣れんことするもんやないな、ワシちょっとヤニの補給に行ってくる。
ああ嬢ちゃん、下半身のバランス変わっとるから今のうちに慣らしとき。ほな」
腰を叩きながら事務所を出た品岡は、手汗でべとべとのショートピースをきっかり二本吸いきってから帰ってきた。
その頃には中座した尾弐も戻ってきているようだった。
彼は白い封筒を3つ、それぞれ橘音とノエルと祈に渡す。
>「そいつは魔除けのお護りだ。今日はたまたま持ち歩いててな。
中身は鬼切安綱とまではいかねぇが、正真正銘『悪鬼』を切った破魔の刃物だ。
そこらの護符よりは魔除け――――呪詛対策になる筈だぜ。3つ有るから、祈の嬢ちゃんと那須野……ついでにノエル。
「あのぉ尾弐のアニキ、ワシの分は……?」
>「性別と年齢的にムジナの分はねぇ」
「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」
性別と年齢の話ならしょうがないね!と品岡は胸を撫で下ろす。
事務所から出ていった様子のない尾弐がどこから破魔の刃を調達してきたのか定かではないが、
高く売れそうならあとでノエルあたりをだまくらかしてちょろまかそうと適当に考えていた。
その裏には知られざる尾弐なりの"覚悟"があったが、デリカシーのないヤクザにそれを知られなかったのは彼の幸運であろう。
【祈ちゃんに性転換手術。いつでも妖術を解除できるリストバンド型の呪符を渡す】
- 200 :
- 性転換はちょっと品がないと思う
- 201 :
- >あたしは“行く”よ。品岡のおじさんの提案に乗る
祈のまっすぐな、まっすぐ過ぎる言葉が、橘音の耳に響く。
そうだ。最初から、結論なんて決まっていた。
この少女が『呪詛が怖いから事務所で待機している』などという選択肢を選ぶはずがない。
むしろ漂白対象が危険であればあるほど、この少女はそれを食い止めようとするのだ。
純粋な、真っ白な正義感で。
「あーあ、もう、折角祈ちゃんの身の安全に配慮したって言うのに、だーれもボクの言うことを聞きゃしない!」
「リーダーをリーダーとも思わない、こーんなメンバーを集めてきたのはいったい誰です?断固抗議してやらなくちゃ!」
「…………うん、ボクだ!じゃあこりゃ、もう仕方ないですね!」
いやぁ参った参った、と橘音はおかしそうに笑って後ろ頭を掻く。
「……それに、よくよく考えたらボクらがコトリバコの漂白に失敗すれば、どのみち東京の女性は全滅するんです」
「つまり、どこにいたって同じということだ。それなら――」
祈が望むのなら、一緒にいればいい。
>やっぱ嬢ちゃんは置いて行きましょうや、坊っちゃん。ワシらだけで十分でしょう
唯一橘音に同調し、先程そんなことを言ってきたムジナがちらと橘音を見たが、橘音は最終的に同伴を許した。
>橘音にもさっき言ってた対策ってやつ、やって貰っていいかな。時間もないし、最低限で良いから
「ええ、もちろん。この狐面探偵にお任せあれ!」
祈の言葉に、軽く自分の胸を叩いて返す。
が、『これをやっていれば大丈夫』という確実な手立てがないのは変わらない。
橘音はリーダーであり作戦参謀である。勝ち目のある作戦しか考えないし、勝ち目のある戦いしか挑まない。
今までも、前回の八尺様に関しても、橘音はあらかじめ必勝の策を用意して《妖壊》に挑んできた。
だというのに、今回はそれがない。
コトリバコはそれ自体が強大無比な呪詛の塊であり、兵器である。
この世界にあるすべての毒ガス、細菌、病原体。あらゆる化学兵器よりも、その呪詛は確実に女子供をR。
いくら既存の呪詛対策を施したところで、それをあっさりと踏み越えてくるかもしれないのだ。
薄氷を踏むような作戦しか立てられない現状に、臍を噛む――が。
>橘音くんは妖狐だから心配しなくていい。マッチョにも美少女にもどうにでもなれるんだよ
>ああそうだ、誰が心配するものか! それだってどうせ仮の姿なんだろ!
>思わせぶりに顔隠してんじゃねー! この厨二ファッションオサレ仮面め!
>べ、別に君のために付き合ってやってるわけじゃないんだからな!?
そんな薄氷を、ノエルの逆ギレ気味の言葉が一気にブチ割った。
>いや……なんつーか、お前さん随分とまあ、思春期のガキみてぇな反応だな
尾弐が呆れ顔で言う。ノエルのノエりっぷりは、こんな逼迫した状況でも何も変わらない。
自分たちが失敗すれば、東京都の人口が半分になるというのに、この妖は事態を理解しているんだろうか?と思う。
しかし、いかなるときでも態度を変えないのがブリーチャーズのムードメーカー、ノエルの紛れもない長所であろう。
ノエルにノエられたお蔭で、いっとき抱え込んでいた絶望感や悲壮感はどこかへ吹っ飛んでしまった。
「誰が厨二ファッションオサレ仮面ですかっ!?」
ずびし!とノエルの胸元に軽く手刀でツッコミを入れる。
場の雰囲気が束の間なごむ。――そう、この空気がいい。漂白者に絶望は不要だ。
災厄、困難、不幸に絶望――あらゆる凶事を白く塗り潰すのが、東京ブリーチャーズの仕事なのだから。
- 202 :
- >ところで……今のところ死んでるのは女の人だけみたいだけど、確か噂では子どもも駄目なんじゃなかったっけ?
>嬢ちゃんを男にした後風俗にでも行かせたらええんちゃうかな。二重の意味で男にするのも兼ねて。げひっ
「ムジナさん、それ、セクハラですよ」
仮面の奥から半眼で指摘した。
今でこそ坊ちゃんと男扱いされているが、橘音も以前ムジナに性別のことを指摘されたことがある。
下卑た物言いはいかにもチンピラといった風情で、他のメンバーの視線も寒々しいが、彼が今回の作戦の鍵なのは間違いない。
>そういえばステータス異常って二つ重ねてはかからないんだよね!
さらなるノエルの提案。橘音は驚いたようにぱちぱちと目を瞬かせた。
単なるムードメーカーではなく、たまに頭の配線が正常になるのかときどき鋭いことも言うのがノエルである。
>いや、重複するやろ状態異常。みんなのトラウマ・モルボル先生のくっさいくっさい息のこと忘れたとは言わせへんで
>……呪詛の重ね掛けについては、適当な呪いじゃコトリバコに呪いに飲み込まれちまうかもしれねぇ
ノエルの疑問に対しての、ムジナと尾弐の回答。
これについては橘音も反論の余地がない。コトリバコの呪詛を弾くには、コトリバコを上回る呪詛をかけなければならない。
そして、橘音にそこまでの呪詛は使えない。これでも善狐、御使いのはしくれである。呪詛に関しては完全な門外漢だ。
海千山千の古狐、御前なら呪詛も呪詛封じもお手のものなのだろうが、上司に助けは求められない。
それに、コトリバコの呪詛を回避するために祈をさらなる危険に陥れるようでは本末転倒であろう。
橘音はコホンと一度空咳を打つと、おもむろに口を開いた。
「まぁ、ムジナさんの発言は後ほど親分さんに報告しておくとして。確かに、今回の一連の事件では子供は死んでいません」
「原因は不明ですが、そういうことなら今は子供相手の呪詛は気にしなくていいと思います」
「というか、性別変換だけでも祈ちゃんの身体には負担が大きすぎます。呪詛の重ねがけはすべきじゃない、ですから――」
「他の方法を考えましょう。祈ちゃんの身体に施すのは、ムジナさんの術だけで充分です」
妖怪に肉体改造を施すのは簡単だ。妖怪は元々肉体という概念が希薄だからである。
が、人間はそうはいかない。肉体に強く依存する人間のそれを改造するというのは、大変な行為なのだ。
よもやムジナが失敗するとは思わないが、祈の肉体に大きな負担がかかるというのは紛れもない事実である。
>……。 おう那須野、ちっとばかし洗面台借りるぞ
不意に尾弐が用具入れの戸棚から何かを取り、応接間の外の洗面台へと歩いていく。
「どうぞどうぞ、顔でも洗ってくるんですか?クロオさん、額に脂浮いてますしね」
白手袋に包んだ右手をヒラヒラと振って送り出す。
もちろん、尾弐がただ単に顔を洗ってくるなどとは露とも思っていない。尾弐は尾弐で対策をしてくるのだろうと察する。
と、
>鬼の居ぬ間になんとやらや。こっちも嬢ちゃんに施す"対策"を始めよか
ムジナもまた祈に性別転換術を施すべく立ち上がる。
ムジナが祈に術をかけるのを、橘音は緩く胸の下で腕組みした状態で眺めた。
万が一にもムジナが悪心を抱くとは思わないが、それでもリーダーとしての義務がある。
>オンキリキリ・ハラハラ・フダラン・バサツ・ソワカ・オン・バザラ・トシャカク
事務所の中にムジナの呪言が響く。
チンピラ風の男が女子中学生の頭に大幣を当て、まじない師ばりの術をかけている。
甚だ怪しい光景だったが、しかしこれが呪詛逸らしの最も効果的な方法なのだ。
>……工事完了や
時間にして数分。術式は拍子抜けするほど呆気なく終わった。
- 203 :
- 傍から見る分には、祈に外見的な変化はない。
それは祈本人にしか感じられない変化であろう。まさか、確認したいから変化した場所を見せろとは言えない。
それができるのはノエルだけだ。ノエルの芸風を横取りはすまい。……などと妙なことを一瞬考える。
>はぁーしんど。慣れんことするもんやないな、ワシちょっとヤニの補給に行ってくる
>那須野の方は終わったか? もし終わったんなら、お前さん達にこれを渡してぇんだがよ
術式を終え、ニコチン不足となったムジナが部屋を出て行くのとほぼ入れ違いに、尾弐が戻ってくる。
尾弐の差し出してきた白い封筒を受け取ると、橘音はふむ、とひとつ息をついた。
>そいつは魔除けのお護りだ。今日はたまたま持ち歩いててな
>中身は鬼切安綱とまではいかねぇが、正真正銘『悪鬼』を切った破魔の刃物だ
「……ナルホド。確かに、これは紛れもなく鬼切の刃。ありがたく頂いておきますね」
白封筒をためつすがめつ眺め、橘音はにんまり笑う。
先程尾弐が用具入れから持って行ったモノ。たまたまひょっこり持ち合わせていたという、破魔の刃物。
それが斬ったという『悪鬼』――
それらが示すものは、ひとつしかない。
が、その真実をわざわざ暴いたりはしない。橘音は『真実は自分ひとりが知っていればいい』探偵である。
ただ、尾弐にそれとなく告げてはおく。そっと尾弐に近付くと、つま先立ちで背を伸ばし、
「クロオさんのそういうところ。好きですよ」
と、耳元で囁いた。
「……さて。じゃ、ボクの用件がまだ終わっていませんので……最後にそれをやっていきましょう」
メンバー全員の顔をぐるりと見回して、口を開く。
「ムジナさんの術による『擬』、クロオさんの破魔の刃物による『護』。コトリバコ対策は、これでふたつ」
「これ以上の対策は、はっきり言って蛇足でしょう。ボクも護符の類を考えましたが、クロオさんの刃物に勝るものは作れません」
「それに何をしたところで無駄なときは無駄ですから。やられるときはやられます、なので『もうこれはアカン』と思ったら――」
「皆さん、踊ってください」
突然妙なことを言いだした。
「いいですか?ボクがお手本を見せますからね。皆さん、マネしてやってみてください……いきますよ」
タン、タン。タタタン、タタタン、タン。
右足を前一歩、左足を前に一歩。左足を一歩下げ、右足も下げて、両足の踵を合わせる。
右足で一度地面を踏み鳴らし、左足を軸にして反時計回りにくるりと一回転。
そして、右足でもう一度地面を踏む。これがワンセット。
「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで〜」
そんなことを言いながら、全員が覚えるまで踊りを続ける。
もちろん、橘音は万策尽きたときのヤケッパチのためこの非常時に踊りを披露しているわけではない。
呪式歩法『禹歩(うほ)』――
古来陰陽家に秘術として用いられてきた、退魔の力を宿す舞踏である。
このステップを踏むことで、足許に簡易的な呪詛反射の方陣を発生させ身を守ることができるのだ。
本来はもっと長く複雑なものだが、橘音は簡単なステップで効果が発動するようアレンジを施している。
簡単であるがゆえに効果を発揮するのはほんの一瞬だが、それでも回避には役立つことだろう。
全員に踊りを覚えさせると、橘音は満足したように笑った。そして右手人差し指で虚空をビシリ!と指す。
「では――。東京ブリーチャーズ、アッセンブル!!」
某アメコミのパクリだった。
- 204 :
- 稲城市、某所。
普段は大勢の人々が行き交っているであろう商店街が、KEEP OUTと書かれた黄色のバリケードテープで封鎖されている。
その近くにはたくさんの警察車両、救急車、消防車が集まっており、今まさに懸命の救命活動が行なわれていた。
……が、今さらの救命活動などにいったい何の意味があるだろう?
救急車に担ぎ込まれ、AEDによって――あるいは人力によって心肺蘇生を施されている女性たちは、とっくに絶息している。
野次馬たちが群れを成し、その光景を写メで撮影したりしている。
目の前で死が猛威を振るっているというのに、なんという楽観ぶりだろう。群衆を前に橘音はそう思う。
が、そんな人々を《妖壊》から守るのが自分たちの仕事だ。
「ハイハイ、お邪魔しますよ。毎度おなじみ狐面探偵、那須野橘音ですよぉ〜」
救急車や消防車の回転灯が眩しく輝く中、人混みを縫って前へ進んでゆく。
人々を押しとどめている警官のひとりが橘音たちブリーチャーズの面々を見咎め、制止を促す。
が、橘音は歩みを止めない。警官の目を見つめ、仮面の奥の双眸をギラリと輝かせる。
橘音の目を見た警官はたちまちボンヤリと棒立ちになり、ブリーチャーズをバリケードテープの内側へ通した。
妖狐の持つ妖術のひとつ、幻惑視。肥溜めを風呂と偽るような、妖狐お得意のたぶらかしである。
「お疲れさまです。ここはこのボクがいつも通り!バシッと解決してきますから、皆さんは誰も中へ通さないように」
そんなことを言う。事件にすぐ首を突っ込む厄介者として、警察関係者の間では有名な橘音だ。
廃墟のような無人の商店街を、橘音は普段通りの軽やかな足取りで歩いてゆく。
しかし、その後に続くブリーチャーズの面々にはもう感じられることだろう。
ピリピリと肌を刺すような、妖気の残滓。
それはつい最近までこの界隈に目標とするモノが――コトリバコがいた、ということの証左に他ならない。
「この『残り香』から察するに……コトリバコはまずこの近辺に現れ、あちらへ向かったようですね」
右手を前方へ伸ばして告げる。よく見れば、商店街のあちこちに血だまりができている。呪詛の犠牲になった女性たちのものだろう。
「この商店街を訪れていた女性の悉くを殺して。……いやはや、食い散らかしてくれたものです」
口調は軽いが、別におどけているわけでも、危機感を覚えていないわけでもない。
憤っている。ただ、それを人に悟られたくないだけなのだ。素直でない性格である。
そして――そのまま五分ほども歩いた後だろうか。
『それ』との遭遇は、突然に訪れた。
「た……、た、助けて……。助けて……ください……」
開けっ放しの薬局の店舗の中から、よたよたと三十代くらいの女性が出てくる。服装からして薬剤師の女性だろうか。
下腹部が真っ赤に染まっている。呪詛を浴びた証拠だが、生きているということは影響が弱かったのだろう。
距離にして50メートルほど。女性はブリーチャーズを認めると、涙を流しながらふらふらと助けを求めてきた。
祈などはすぐに女性を助けようとするかもしれない。――が。
「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
鋭い声で注意を促す。と同時、女性が何の前触れもなくごぷり、と大量の血を吐き出した。
「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
女性が自らの顔に爪を立て、苦悶の声をあげながら掻きむしる。下腹部の真紅が一層広がってゆく。
自ら顔の皮膚を抉り、髪をむしり、女性は断末魔の悲鳴をあげてのたうち回った。
妖怪である橘音をして、目をそむけたくなるほどに凄惨な有様である。――これが、コトリバコの呪詛。
女性の下腹部があたかも別の生き物のように激しく蠢き、その後破裂する。
ゴボゴボとくぐもった声を血と共に漏らし、目や耳、鼻からも大量の血を流すと、女性は前のめりに倒れて絶命した。
間近で見る呪詛の凄まじさたるや絶句する他ないが、ボンヤリしている暇はない。
なぜなら、敵はもう出現しているのだから。
そう――想像を絶する苦痛のうちに死亡したであろう、女性の亡骸のすぐ傍に。
寄木細工の小箱が落ちているのを、ブリーチャーズの面々は見た。
- 205 :
- それは、直径10センチにも満たない小さな箱だった。
いわゆる『秘密箱』と呼ばれるものだ。精妙な細工によって、通常の手順では開かないようにできている。
箱根の辺りでは土地の名物にもなっている、日本古来の伝統工芸だ。
現代で言うところのパズルボックス、それが『コトリバコ』の正体だった。
一見すると、なんの変哲もない寄木細工。
だが、その内側から溢れ出んばかりの妖気が迸っているのが、ブリーチャーズの面々には感じられることだろう。
鞍馬山の妖怪銀行から何者かによって盗み出された、至高の呪具。
『ハッカイのコトリバコ』――。
「付喪神化していますね」
コトリバコを前に、橘音が呟く。
百年経てば器物も化ける、というのが付喪神のセオリーであり、伝承にあるコトリバコが作られたのは十九世紀。
百年などとっくに経過している。
コトリバコほどの呪力を持つ器物ならば、妖怪銀行に保管されている最中に自我を持ったとしてもまったく不自然ではない。
……ォ……ァァ……
………ォオォ…………アァァアァアァァアァァァ……
……ギャ……ァ…………
…オ……ギャア……オォォオォォ……オォオオォォォオォオオォォオギャァアアァアァアァァァ…………
…………オギャアアアアアアアア!!!オギャアアアアアアアアアアアア!!!!!
コトリバコの中から、声が聞こえる。
それは、泣き声。コトリバコ製作の過程で『材料』にされた、嬰児たちの怨嗟の声。
泣き声は徐々に大きく、明瞭になってゆき、やがて耳をつんざくような絶叫へと変わった。
誰も手を触れていないコトリバコが、ふわりと宙に浮かぶ。
物凄い勢いで回転しながら、自ら封を解こうと展開してゆく。秘密箱の秘密が解き明かされる。
内部に封じられたモノが、外へと飛び出る――。
オギャアアアアアアアア!!!!!オギャアアアアアアアアアアア――――――――――ッ!!!!
『ソレ』は赤子だった。
だが、当然只の赤子ではない。身の丈4メートルはありそうな、巨大な赤子。
八体どころではない。無数の赤子の亡骸を縫い合わせ、一体の赤子に仕立てたような、ずんぐりとした不恰好な赤子の《妖壊》。
体躯の至るところから突き出た小さく短い手がわきわきと蠢き、グチャグチャに連結した顔の両眼からは絶え間なく血が流れている。
これが、付喪神化したコトリバコの姿だった。
……オギャアアアアアアアアア――――――ッ!!!!オォォオォォオオオ!!!!!
どうやら、コトリバコはブリーチャーズを攻撃対象と認識したらしい。
ぽっかりと開いた空洞のような口から悍ましい叫びをあげながら、メンバーのひとりに狙いを定めて突進してくる。
が、それは祈ではなかった。コトリバコは祈の方には見向きもしない。ムジナの妖術が効果を発揮している証拠だ。
狙われたのは、橘音だった。
「……まぁ、そう来ますよね。ボクがアナタだったとしても、同じことをするでしょう」
予想の範疇だ。大型バスほどの巨体を持つコトリバコの突進を、まるでマタドールのようにマントで往なす。
狐面探偵七つ道具の弐『迷ひ家外套(マヨイガマント)』。
マント自体が一種の結界になっており、治癒能力を持つと同時に妖力や妖術からある程度身を守ってくれる。
その上伝説の迷い家のようにあらゆる妖具、呪具を召喚することもできるスグレモノだ。
「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」
執拗に追撃してくるコトリバコの攻撃を身軽に避けながら、メンバーへ向けて叫ぶ。
この状況においては、相手の付喪神化というのは都合がいい。
何故なら、呪具ではなく《妖壊》と化した者に対しては、ブリーチャーズの最も得意とする戦法が使えるからである。即ち――
『ぶん殴って黙らせる』という戦法が。
- 206 :
- ムジナの術が効いている状態の祈なら、コトリバコを攻撃することは可能だろう。
また、コトリバコが付喪神化しているということは、その呪詛の有効範囲も可視化されているということである。
端的に言えば『コトリバコの攻撃を喰らわない限り、呪詛は発動しない』。
祈が当初考えていた『当たらなければどうということはない理論』が有効になっているのだ。
……とはいえ、コトリバコが強力無比な相手であることにはなんの変わりもない。
オギャアアアアアアアアア!!!オォォォオォオオギャアアァアアァアァアァァア!!!!!
基本的に橘音を狙ってはいるものの、コトリバコもそれを邪魔されれば他のメンバーへターゲットを変更する。
ただ図体がでかいだけの赤子だと侮ることはできない。その動きは4メートルの巨体にしてはあまりに速く、反応も鋭い。
単純な体当たりや、短い手をメチャクチャに振り回して繰り出す叩きつけなどは、純粋に脅威である。
また、ブリーチャーズが攻撃したときにコトリバコの身体から噴き出る緑色の膿のような粘液も曲者だった。
粘液に直接呪詛の力はないようだったが、強酸のようなそれは触れたものを爛れさせ、徐々に溶かしてゆく。
その粘液を時折吐瀉物のように口から吐きつけてくるのも厄介である。
「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
コトリバコの追跡をかわしながら、橘音が悲鳴にも似た声をあげる。
狐らしいと言うべきか、長い髪を揺らしてひょいひょいと身軽な動きで攻撃を凌いではいるものの、もう息が上がっている。
このままでは、あと五分と持つまい。
だが、いくら強いとはいってもコトリバコは一体。ブリーチャーズは戦闘員が四名。
このまま行けばコトリバコの呪力を減退させ『ケ枯れ』に持って行くことは充分可能――と、橘音は思っていた。
が。
……オ……オォオォオォオォォォオォオォオォ……
オギャア……オ、オオ……オオオギャアアァアァアアァアア…………
オォオォォオ……オギャアアアアアアアア……!!!!
また、赤子の泣き声が聞こえた。
しかし、それは目の前にいる巨大なコトリバコの発した泣き声では『ない』。
ブリーチャーズのいる商店街の至るところから、まるで獣の群れが発する遠吠えのように幾重にも赤子の泣き声が聞こえる。
「ま……、まさか……!」
予想だにしていなかった、最悪の可能性が頭の片隅からむくむくと鎌首をもたげてくる。
そう。妖怪銀行から何者かによって持ちだされたコトリバコは、間違いなくひとつ。
だが、コトリバコは全部で八つ。あと七つのコトリバコは、他の場所に代々保管されているという。
もしも妖怪銀行からコトリバコを持ちだした者が、他のコトリバコも手に入れていたとしたら――?
オギャアアァアァアァアァアァァァァ……
オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……!!!
路地裏から、店舗の奥から、屋根の上から。
ず、ずるる、と音を立てながら、大小さまざまな赤子の《妖壊》が姿を現す。
その数は七体。今まで相手をしていた『ハッカイ』を加えれば、イッポウから全種類コンプリートということになる。
当然、その全てが女子供を瞬く間にR呪詛の塊。凶悪極まりない呪いの根源。
それ以前に、数の点から言っても四対八。それまでの力関係は完全に逆転した。
「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」
絶体絶命の危機。
背筋を冷や汗が伝うのを感じながら、橘音はポツリとそう零した。
- 207 :
- 那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI
こいつはいらんわ
- 208 :
- https://youtu.be/quIHgwuF6r4
- 209 :
- >>208
面白いと思ってんのか蛆虫
- 210 :
- 狐の発言がいちいち寒いわ
- 211 :
- 埋め
- 212 :
- 埋め
- 213 :
- 埋め
- 214 :
- >「上等や。男にするのも女に戻すのも、完璧にやったるわい。嬢ちゃんが拍子抜けするくらいにな」
祈の問いに対し、品岡はそう約束する。
普通ならばヤクザと交わす口約束など信じられたものではないのだが、
この品岡の言葉は恐らく、品岡が己の術へ寄せる絶対の自信やプライドを賭して吐かれた言葉だ、
と祈は品岡と交えた視線から直感する。
先程まで感じられた祈を試すような色もない。
そうであるなら、その言葉を違えることも曲げることもしないだろう。そう信じられる。
祈は品岡の返事を聞いて、にっと笑った。
「頼むね。品岡のおじさん」
その笑みがややぎこちないのは、やはり恐怖そのものが大きいからだろう。
>「祈ちゃん……僕はオバケだからよく分かんないけどさ、どんな事があっても君は君だからね」
そんな祈を心配してか、言葉を掛けるノエル。
「ん。ありがと」
それに祈は特に表情を変えることもなく、軽く応じた。
雪女として世に生まれたノエルと、妖怪が混じりながらも人間として生を受けた祈では感覚が根本から異なる。
例えば人間の毛髪は防寒の為など確かな理由があって存在するが、雪女であるノエルには当然、防寒の必要などない。
では何故あるのかと言えば、それが人の形を模すのに適しているからだ。
あくまでも雪女とはこうであろうと人が想像し、畏れ、あるいは望み、
ノエルがそう描いたからその形になっているだけであって、その髪も、その腕も、顔も。
その性すらもしかしたら、ノエルにとっては仮初めのものでしかないのかもしれない。
故に祈の気持ちはノエル自身も言うようによく分からないのだろうと思われた。
だが祈はそれを理解しようと努めてくれたことや、励ましてくれたことが嬉しい。
ただそれを、上手く表情に出すだけの余裕がないだけで。
なのだが、
>「ああそうだ、誰が心配するものか! それだってどうせ仮の姿なんだろ!
>思わせぶりに顔隠してんじゃねー! この厨二ファッションオサレ仮面め!
>べ、別に君のために付き合ってやってるわけじゃないんだからな!?」
どうしたことだろうか、祈の言葉を別の意味に捉えたらしく、
ノエルが急にツンデレ的にいつもの調子でノエり始め――しかもそれが橘音への好意を裏返し的に告白していて――、
祈も笑わざるを得なくなる。
尾弐の的確なツッコミも、品岡の漫才かコントを彷彿させる言い回しも、なんだかおかしくて。
「ごめん御幸、今のはあたしの言い方悪かったね。
勿論橘音のことは心配してるけど、さっきのは尾弐のおっさんが言ってた方の意味だから」
目の端に浮かぶ笑いの涙を指先で拭う。今度は自然と笑えた気がした祈である。
ノエルの言葉に、緊張していた肩の力が抜けて、いつもの調子を取り戻すことができたようだった。
- 215 :
- 子ども対策。ブリーチャーズの面々が話すように、
コトリバコの呪いにはもう一つの側面があるのだという。
それは女だけでなく子供にも同様の効果を与えるというものだった。
女で子供の祈は余裕でアウトだが、
>「ええ、もちろん。この狐面探偵にお任せあれ!」
橘音が頼もしくそう言うので、そちらは恐らく橘音がなんとかしてくれるであろうから、まずは。
>「鬼の居ぬ間になんとやらや。こっちも嬢ちゃんに施す"対策"を始めよか」
「うん、お願い」
尾弐が席を外したところで、ついに祈へ女へ及ぶ方の呪いへの対策が始まろうとしていた。
己が掛けていた色眼鏡を大幣へと変え、それらしい雰囲気を出していた品岡が、
>「その前に嬢ちゃん、小便行っとき。下半身捏ねくり回すから下手すると漏らすことになんで」
ふと、野卑た笑みを浮かべてそんなことを言う。
「……べっ、別に。トイレならミーティングの前に行ったからいいし!」
急に振られるシモの話に、赤面しつつ祈は答えた。
ミーティングが始まったのは今から十数分程度前のことだ。
その前にトイレに行っていたというのは事実であり、尿意そのものがないことと、
ミーティングの間にみかんを食べていたことが個人的に気にかかったものの、時間もないことでその不安を黙Rることにする。
やがて、祈がソファに身を沈めると、その頭に品岡の造りだした大幣が載せられた。
>「えー……おんきりきり、ばざら、うんはった」
唱えられるのは、祈が漫画などで見た、あるいはテレビなどで聞いたことのある呪文だった。
何か陰陽師のキャラが唱えていたような、と考えていたところで、意識がだんだんぼんやりしてくる。
トランス状態、というものだ。眠りに入る寸前のような、混濁とした精神状態に祈は入りつつあった。
祈の頭の上に今度は品岡の手が載せられ、呪文の続きが唱えられる。
>「オンキリキリ・ハラハラ・フダラン・バサツ・ソワカ・オン・バザラ・トシャカク」
祈が体に異変を感じたのはその直後だった。
「ん……」
品岡の掌から、祈の脳へ。脳から脊椎、神経、体を通り下半身へ。
何らかの力が走り抜けるのを感じる共に、下半身の感覚ががくりと、消失――。
瞬間、自分がソファに沈み込んで一体になり、上半身だけ生やしている何かであるような奇妙な錯覚を覚える。
そのように感じるのは、トランス状態のもたらす混濁したふわふわとした意識が、
想像と現実の境界を曖昧にさせている故であろうか。
腰から足先までの神経が途絶えたような感覚。
下半身のどこかしこがむず痒いのに、足の指一本、動かせている気がしなかった。
これを品岡なりの麻酔のようなものだろうと祈は理解する。
手術のように開腹などしないとはいえ、体の内部を妖力で強引に捻じ曲げていく品岡の術をそのまま受けていれば、
それこそ、神経が激痛を訴えて発狂していてもおかしくはない。
コトリバコの呪いを受ければ生きたまま内臓がねじ切られる苦痛を味わうと言うが、
その苦痛を与えられるのは、何もコトリバコだけではないと言うことだろう。
苦痛がない事に祈が安堵したのも束の間。
「あっ……!?」
小さく呻く。
感覚がない筈の腰から下。
確かに痛みはない。だがその“中身”の収縮やうねりが、上半身に振動として伝わってくる。
それによって、概ねでしかないものの、今己の体の中で何が行われているのか想像がついてしまうのだった。
そして今、自分の中にあった大事な物が縮んでいき、やがては体に溶けるようにして消えたことが分かってしまう。
一時の事と覚悟していたとは言え、自分の一部が消えるのを生々しく知覚するのは想像を超えるショックがあった。
奥歯を噛みしめてそれに耐えるも、加えて、やはり本来ある筈の痛みを術で誤魔化しているだけだからであろうか、
小刻みに痙攣する足が、己の体へのダメージを表しているようで。
見ていられなくなり、ぎゅっと目を瞑る。
が、それは体内の音や振動により耳を澄ませるだけの結果に終わった。
いつ終わるのか、まだ終わらないのか。その思いだけが一時祈の心を塗りつぶした。
- 216 :
- >「……工事完了や。完璧に仕上げちゃおるが小便は身体を元に戻すまで我慢しとくんやで。
>尿道が出来上がったばかりで粘膜同士が張り付いとるからな」
やがて、品岡の声が降ってきた。
それによって、急に視界が開けたようにトランス状態が解けて、祈ははっと目を見開いた。
意識がはっきりと覚醒していくのがわかる。
「はっ……はっ……」
汗ばんだ手。握りしめたソファの革。知らず呼吸が荒くなっていたことに祈は気付く。
思ったよりも早く終わったらしく、祈が時計を見ても5分と経っていなかった。
だがもうずっとソファに座って術を受け、その終わりを待っていたような気がしていた。
トランス状態が解けた時に下半身の感覚も戻っていたようで、
荒い呼吸を整えながら足先を動かしてみると、しっかりと足指が動いた感触があった。
試しに立ち上がって屈伸をしてみても、足は何事もなかったかのように動く。
恐る恐る下腹部に触れてみても痛みはなく、
元々そうだったのではないか、何もされていないのではないかと錯覚してしまいそうになる。
一部に強烈な違和感はあるにはあり、そしてその違和感の元を見て確かめるだけの勇気は祈にはないのだが、
それ以外は全く問題ないようで、動くことに支障はなさそうに思えた。
完璧な仕事だと言えた。それが本当に拍子抜けするほどの短時間であっさり終わったのだった。
品岡の術者としての腕は本物であり、その術への誇りにかけて、
この性転換手術は完璧に仕上げられたことであろうことを祈は実感する。
その品岡を見やれば、祈へ施す術に余程気を遣ってくれたのか、その額には汗が浮かんでいた。
それを見て、多少の敬意を払うに値する相手であるのかも知れないなと、祈は品岡に対する認識を少し改める。
>「股ぐらは窮屈やないか?嬢ちゃんが履いとるのが伸縮性のあるスポーツショーツならよほど大丈夫やと思うが、
>背伸びしてシルクのパンツとか履いとるんだったらそこの阿呆にブリーフでも借りとき」
本当にこれさえなければもう少し素直に尊敬できるような気がするのに、と祈は心の中で呟き、溜息をつく。
祈の家は貧乏であるし、背伸びするだけの余裕はない。多少の窮屈感はあるがそれは我慢しようと心に決めた。
なんとなく答えるのが癪な気がして祈が黙っていると、品岡は続けた。
- 217 :
- >「右手出しぃ」
品岡に言われるがままに祈が右手を差し出すと、
品岡が取り出した紙片が蛇のごとく祈の腕に巻き付いて
リストバンドのような形となり、切れ目すら見えなくなった。鮮やかな手並みである。
>「そいつはワシの妖術を嬢ちゃんの身体に繋ぎ止める呪符や。それを破ればすぐに術が切れて元の嬢ちゃんに戻る。
>戦闘中に切れんよう多少頑丈に作ってあるけど、妖力込めて引っ張ればブチっといくはずや。
>ま、保険やな。ホントは金とるモンやけどサービスっちゅうことにしといたる」
格好をつけて、踵を返す品岡。そして、
>「はぁーしんど。慣れんことするもんやないな、ワシちょっとヤニの補給に行ってくる。
>ああ嬢ちゃん、下半身のバランス変わっとるから今のうちに慣らしとき。ほな」
煙草を吸うために事務所の扉へと歩き始めて、その背はゆっくり遠くなっていく。
今を逃せば言いづらくなる。言うなら今しかないと、祈は声を張った。
「……あの、ありがと! お礼と言っちゃなんだけど、今度お菓子差し入れてやるよ!」
聞こえているのかいないのか、事務所を出てタバコを吸いに行ってしまう品岡と入れ違いになるようにして、
尾弐が洗面所から戻って来た。
はだけていた喪服の前ボタンが留められているのは、これから漂白に向かうにあたり、
気を引き締めてきたと言う所であろうかと祈は推察する。
>「那須野の方は終わったか? もし終わったんなら、お前さん達にこれを渡してぇんだがよ」
その手に握られているのは3つの封筒。
急にお年玉や辞表でも出してくる訳でなし、一体なんだろうと怪訝な目を向ける祈。
尾弐はそれらを、ここにいない品岡以外の三人へと差し出し、祈はそれを反射的に受け取る。
>「そいつは魔除けのお護りだ。今日はたまたま持ち歩いててな。
>中身は鬼切安綱とまではいかねぇが、正真正銘『悪鬼』を切った破魔の刃物だ。
悪鬼を切った破魔の刃物。その言葉のイメージで、
祈はそれを大層なお宝だと思った。そして「えっ、そんなの借りちゃっていいの? 国宝とかじゃ」
と言いかけて、かといって返すこともできないことに気付き、その言葉の続きを飲み込む。
尾弐の気持ちを無駄にするわけにもいかないし、これを祈が受け取らないことは死に直結するのだから。
「ううん。ありがと、借りておくね」
飲み込んだ言葉の代わりにそう言って、封筒を上着のポケットにしまい込んだ。
他のブリーチャーズの面々も封筒を手にし、戻ってきた品岡が封筒を手に出来なかったのを嘆いているのを見た後、
あとは品岡の言う通りに準備体操でもして体を慣らしておくべきかと、
祈が二、三歩ほど尾弐から離れ、体をひねった所で。橘音がそっと尾弐に近付くのが目に入る。
更につま先立ちで背を伸ばして、何事か耳元で囁いたのを目撃する。
>好きですよ」
ふと耳に入った言葉の断片は、そんな音をしていた。
正確には、聞こえた訳ではない。橘音の狐面は上半分を隠しており、口元は見えるようになっている。
その口元の動きを見て、断片的に聞こえた音と繋ぎ合わせて、なんとなくそう言ったのだろうと判断したのだった。
その時の祈は、ふーん、橘音は尾弐のおっさんのこと気に入ってるんだな、としか思わなかった。
>「……さて。じゃ、ボクの用件がまだ終わっていませんので……最後にそれをやっていきましょう」
橘音がブリーチャーズの全員の顔をぐるりと見回して、
>「ムジナさんの術による『擬』、クロオさんの破魔の刃物による『護』。コトリバコ対策は、これでふたつ」
>「これ以上の対策は、はっきり言って蛇足でしょう。ボクも護符の類を考えましたが、クロオさんの刃物に勝るものは作れません」
>「それに何をしたところで無駄なときは無駄ですから。やられるときはやられます、なので『もうこれはアカン』と思ったら――」
>「皆さん、踊ってください」
そしてこんなことを言い放ったのだった。
- 218 :
- 禹歩(うほ。なんとなくノエルが好きそうな言葉の響きだと祈は思う)、
とかいうダンスにどれ程の意味があるのかは、正直なところ祈には分からない。
だが本当にどうしようもなくなった時に役に立つのだと言うし、
この緊急事態にふざける橘音ではないので、とりあえず素直に覚えておくことにしたのだった。
体育の授業でダンスを習っている祈としては覚えるのに大した苦労はなかったし、
慣れぬ下半身の感覚を慣らすだけの時間にもなったのだが、とかくそれを全員が覚えるのに要した時間。
そしてテレビが映すコトリバコが暴れる現場、稲城市の某商店街へと辿り着くまでの時間は、
非常に焦れたものになった。
アベンジャー○じゃねーか。そう橘音の掛け声にはしっかりとツッコミを入れて事務所を後にしたものの、
早く行かねばと気は焦る。
消防署の人達だって、通報があってもすぐ現場には赴かず、
まずはどのように動くかなどしっかり話し合ってから動くのだとテレビで言っていたし、
橘音は事件があってからすぐにそれを妖怪の仕業だと見抜き、ミーティングをしてすぐに動いた。
これが最善の、最速のやり方だった筈だと信じても。
目の前に広がる惨状はどうしても、もう少し早ければなんとかなったのではという後悔にも似た気持ちを祈に思わせる。
血に塗れた女性の遺体。それを蘇生しようとする救急隊員。群がる野次馬達。
騒然とする事件現場を、手馴れた様子で掻き分けてすいすい歩く橘音の後に付いて行きながら、
やりきれない思いを抱えざるを得ない。
だが今は悔やんでいる時ではない。そう被りを振って、祈は気持ちを理性で追い越していく。
橘音率いるプチ続く百鬼夜行は、やがて立ち入り禁止と書かれた黄色のテープの前で制止を求められるが、
立ち塞がるその警察官も、橘音の声を聴き目を見てしまえば道を開けた。
バリケードテープの内側へと侵入する奇妙な面々に向く野次馬の目を避ける為、
祈はパーカーのフードを被って顔を隠した。スマホを向けられて写真を撮られ、それがネット上にアップされたりすれば、
同級生や先生などに見つかって厄介なことになる。そんな事態を恐れた為だった。
そうしてバリケードテープを潜ってその境界の内側に入ると、
妖怪としての感覚やセンサーに欠ける祈でも、流石に空気が変わったのが分かる。
首筋に走る、悪寒めいたぞわぞわした感覚。
血の臭いも濃くなり、ここにコトリバコがいることは間違いないと、ここは危険だと五感が告げている。
>「この『残り香』から察するに……コトリバコはまずこの近辺に現れ、あちらへ向かったようですね」
橘音も同様に――と言っても祈などよりも遥かに優れた感覚でそれを察知しているだろう――、
それを感じているようで、そんなことを言う。
女性たちが作った血の跡を追い、橘音の指示に従って5分ほど歩いた頃だろうか。
何かの影が祈の視界の端をよぎった。
祈は警戒して構えるが、そのふらついた影が人間の姿をしていたことで、祈は警戒を弱めた。
視界をよぎったのは、薬局から姿を現した影は女性だった。下腹部は血に染まっているが、まだかろうじて生きている。
>「た……、た、助けて……。助けて……ください……」
か細い声を絞り出して、女性は助けを求める。
良かった、まだ生きている人がいたんだ。祈は希望を見て、駆け出した。
もしかすれば尾弐に授けられたこの封筒を押し当てれば、
コトリバコから受けた呪詛を弾き返すことができ、生存の可能性があるのやもしれない。
そんなことを思ってのことだった。しかし、
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
橘音の鋭い言葉に、祈の足が止まる。
間髪入れず、女性が大量の血を吐き出し、絶叫。
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
その女性の足元に転がる小箱を、祈は見た。
遅かったのだ。もう既にこの女性は、コトリバコの呪詛をどうしようもないくらいに受けていて――。
顔に爪を立て、頭を掻きむしり、やがて腹を破裂させて。
我が身に降りかかった苦痛を全身で余すことなく表現した後、彼女は絶命する。
助けることができなかった。伸ばしかけた手を祈は握りしめて、歯噛みする。
しかし、己の無力を嘆いている暇など有りはしないのだろう。
女性の死体の傍らに転がる直径10センチにも満たない小さな箱、
コトリバコは自ら展開し、その中身を露わにし始めた。
- 219 :
- 外へと飛び出したのは無数の赤ん坊の亡骸。そして体のパーツだった。
それらを繋ぎ合わせ、出来上がったのは4メートル程にもなる巨大な赤ん坊であった。
その泣き声はあまりに悲しい。
生まれて間もなく訳もわからず殺され、その体の一部を奪われた彼ら彼女らの怨嗟の声。
降りかかった理不尽への怒り。誰も助けてくれることがない悲しみやその嘆きが凝縮された声だ。
コトリバコの赤ん坊の虚ろな眼窩はブリーチャー達を捉え、
そしてその怒りや憎しみのままに、吠えるように泣くと、這い始めた。
巨体に見合わぬ素早い動きで、それがぶつかったとなれば相当なダメージは免れないと思わせた。
その暗い目線の先にいるのは橘音だった。
>「……まぁ、そう来ますよね。ボクがアナタだったとしても、同じことをするでしょう」
>「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」
赤子は猛然と、“橘音へと”向かい、這っていく。
これは祈に施された二つの対策が効果を発揮していることを意味しているであろうが、同時に――。
(あの赤ん坊が橘音を狙ったのは、橘音が弱そうに見えたからなのか? それとも――)
疑問が生まれる。
尾弐の傍らに立ち、そっとつま先立ちをする橘音の姿がフラッシュバックする。
>『好きですよ』
不意に聞こえてしまった、尾弐に囁く言葉。
>『思わせぶりに顔隠してんじゃねー! この厨二ファッションオサレ仮面め!
>べ、別に君のために付き合ってやってるわけじゃないんだからな!?』
言葉とは裏腹に、ツンとデレにコーティングされた橘音への好意を示すノエルの表情。
狐面の下に隠された見たことのない顔。性別すら分からぬ組織の長。
男に生まれた雪女。その戦う理由。不自然な性。性すらも仮初めのものである可能性。
橘音から尾弐へ贈られた、言葉の意味。
そしてこれらがすべて一本の糸で繋がっているのだとすれば。
祈は橘音のことをずっと男だと思っていたがもしかしたら――、そしてノエルが男である理由は――。
否、こんなことを考えている場合ではない。なにもかもは戦いの後だ。
祈は再度頭を振って、自らの内に芽生えた疑問を打ち消した。
マタドールのように華麗に舞い、コトリバコの赤ん坊を翻弄する橘音。
祈は気持ちを切り替え、それをフォローすべく攻撃を加えようとコトリバコの赤ん坊の側面へと肉薄するのだが、
刹那、赤子の腹から、継ぎ接ぎの皮膚を破って緑色の液体が飛び出してくる。
反射的に避けると、それは商店街のアスファルトに当たり、その周囲を溶かして臭気を放った。
這い這いをする赤ん坊が擦ったその膝などから時折流しているその緑色の液体は、血液などではなく、
強酸性の何かだと祈は察する。
よくよく見れば、赤ん坊の皮膚は全体的に膿が溜まったようにぶよぶよと膨れており、
どこを攻撃してもその膿の如き緑色の液体が噴出してくると思われた。
このまま下手に蹴りを見舞えば、逆にこちらが致命傷を負うことになる。
それを理解した祈の行動は早かった。祈は適当な店を探すと、そこに飛び込む。
- 220 :
- >「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
やがて橘音の息が上がり始め、弱音を吐き始めた頃に祈は戻ってきた。
見ればどうやら、一体だけでも厄介なコトリバコの赤ん坊が更に増えているようで、
これは厄介だな、などと祈は事態にそぐわない軽い感想を抱く。
祈の姿は、先程までとは異なっている。
白い遮光カーテンか何かをローブのように頭から体を覆うように被っており、それを脚にも巻きつけている。
また、似たような布をいくつも、両手いっぱいに抱えていた。
一時戦場から姿を眩ました祈は、ここが商店街であり物が溢れていることのを良いことに、
自身の防具となるものをその場で調達してきてしまったのだった。
倒れた女性の顔に、祈は白いハンカチを載せた。
その苦悶の顔を、もう誰にも見られないように。そして、助けきれなくてごめんと心の中で手を合わせる。
「悪いね。ちょっと席外しちゃって」
ブリーチャーズの面々にそう軽く詫び、抱えた布を一部アスファルトへと置く。
コトリバコの赤ん坊の数が増えた。だから何だと言うのだろう、祈がやることは変わらない。
祈は駆けて、橘音が相手をしている、ハッカイのコトリバコの赤ん坊の背後へと回り込んだ。
そして強く助走をつける。狙うは、その左足。
「……ごめんな」
口を突いて出てきたのは謝罪の言葉だった。
- 221 :
- ――例えば、ヘビー級ボクサーのパンチ力が800kg程だという話がある。
どのような計算式を用いて算出されたのかは定かでないが
これを単純にそのパンチ力を運動量で求めたものだと仮定すると、計算式はP=mv。
運動量=質量×速度(m/s。秒速○m)という形になる。
Pにはパンチ力である800kg、mにはそのボクサーがパンチに乗せた自重が入る。
今回は75kgの体重のボクサーが、そのパンチに全体重を乗せることができたと仮定しよう。
そうすると、800=75×……という式ができ、速度までも求めることができるようになる。
大凡10.7を当てはめれば800に到達するので、このボクサーのパンチの速度は秒速10.7mということになる。
時速に換算すれば38キロ程度。
100mを10秒で走る陸上選手でも、その速度を時速に直せば36キロ程度ということになるので、
人間の速度の限界という物を考えれば、ある種妥当な数字であるのやもしれない。
では、この式を祈に当て嵌めてみたとする。
彼女の体重が、前後はあるとはいえ45kg。加えて最高速度は時速140km。秒速に直すと388.8m。
全体重を載せた蹴りをこの速度で放てたと仮定すれば、mv=45×388.8となり、その運動量Pは17496kg。
即ち、その一撃の蹴りは『約17.5t』にも達することになる。
これは彼女の敬愛する特撮の単独ヒーローが通常フォームで放つ必殺技にも匹敵し、
しかもそれが彼女の細足に集約されるとなれば、その破壊力は。
――コトリバコの赤ん坊の大木のような足をも切断し、千切り飛ばす程となる。
《あぎゃあぁぁあ!!!? ぎゃ、ぎぃ、ああ、ああ、まあああぁ!!》
宙を舞うコトリバコの赤ん坊の左足。そして粘液。
祈の脚力に耐えかねてアスファルトには亀裂が走る。
祈は脚に巻いていた遮光カーテンに緑色の粘液が付着し、溶け始めたのを確認すると、
それを脱ぎ捨てて他の布を纏う。
更に、もう一度。
《いぎゃあああ”あ”ぁ”ぁ”あ”あ”!!!!》
今度は右足が舞う。
そもそも膿のような粘液を皮膚下に溜めているこの赤ん坊の体は、ぶよぶよとして、ぐずぐずとして。脆い。
無論、その大型バスのような巨体を動かすだけの筋量は確かにある。骨もある様子だ。
だがそれでも、未熟な赤ん坊の体を複数継ぎ接いで一体の巨大な赤ん坊を形作っているために、
構造的には弱いのだ。
小石を積み上げて巨大な岩に見せかけて、それを妖力でもって無理やり繋いで動かしているようなもので、
部位と部位の間、特に継ぎ目か何かに見えるような場所などはそれが顕著に現れている。
そこを狙ってしまえばこの程度のことは難しい事ではない。
魂をも砕く、尾弐程の膂力がない祈でも。
祈がこの赤子に抱くのは悲しみだけだ。
生まれて間もなく、実の親に殺されるという深い悲しみ。理不尽への怒り。痛み、苦しみ。
それを抱える子どもが、訳もわからず悲しみや怒りのままに叫び、暴れてしまったところで誰が責められるだろう。
いや、この子どもに殺された人達やその家族はきっと怒っているに違いないし責めるだろうが、
この8体の赤子に対して、怒りや憎しみなど祈には抱けなかった。
何故ならこの子達は単なる犠牲者だからだ。
男が村に齎した呪法の。村の人間達や、あるいは時代の。
そして今は、この一件を裏で糸引く姿を見せない誰かにその怒りや憎しみすらも利用されている、
憐れな子ども達でしかないからだ。
だがこれ以上被害を出さないためにも、
『ケ枯れ』をさせて、この子達をその終わらない苦しみから解き放ってやる為にも、
赤子を蹴り飛ばすことによって生まれる良心の痛みを抱えてでも、ダメージを負わせるしか今は方法がない。
だからやることはただ一つ。その覚悟を負って、一体一体蹴りを見舞い、止める。それだけだ。
「御幸っ! お願い!」
この怒りや憎しみをぶつけるべき相手がもしいるとすれば、コトリバコを盗み、裏で糸を引くその者だけだ。
祈は静かに闘志を燃やし、ノエルに次を託す。まずは一体。その機動力を削いで。
- 222 :
- >「いや……なんつーか、お前さん随分とまあ、思春期のガキみてぇな反応だな。
一応言っとくが、祈の嬢ちゃんが言ってるのは那須野が嬢ちゃんへ護法を掛ける事で、那須野にムジナの術を掛けるって訳じゃねぇからな」
>「じゃかぁしい!自分は嬢ちゃんから保体の教科書でも借りて黙って読んどれ!!
無機質なわりに結構エグい図解見て夜眠れなくなったりしとけ!」
>「誰が厨二ファッションオサレ仮面ですかっ!?」
>「ごめん御幸、今のはあたしの言い方悪かったね。
勿論橘音のことは心配してるけど、さっきのは尾弐のおっさんが言ってた方の意味だから」
「えっ……ああ! そっか、そうだよね! ごめんごめん」
総ツッコミをくらったノエルはばつが悪そうながらも何故かどこか嬉しそうだ。
ナレーターの人まで釣られてノエってただって? それは気のせいだ(棒
ところでノエルは思っている事がすぐ顔に出るらしく、どうやら先程話に付いて行けていなかったのがバレバレだったらしい。
この際だからということで、その辺から橘音の高校の保健体育の教科書を引っ張り出して見始めた。
アレがアレアレでアレがアレな図解を暫し無言で見つめ……
「人間ってこうなってるのか……! これをこう変化させるの!? そりゃ大変だ!」
と、ようやく話に追いついた模様である。
黒雄が何故か洗面所に行き、いよいよムジナが祈に術をかける流れとなった。
>「その前に嬢ちゃん、小便行っとき。下半身捏ねくり回すから下手すると漏らすことになんで」
>「……べっ、別に。トイレならミーティングの前に行ったからいいし!」
「このタヌキ! もうちょっと言い方ってもんがあるでしょー! まずその顔がアウトだから!
いや、昔の陰陽師の趣味の良し悪しはとりあえず置いといて表情的な意味で!」
とムジナの物言いに突っかかりながら、人間って大変だなあ、と改めて思うノエル。
何しろ壮絶な戦いの果てに授業中にメガンテしてそして伝説へ――とか
うっかり電車の中で爆破テロして大惨事世界大戦勃発とかいう都市伝説はネット上にごろごろ転がっているのだ。
「あーあ、デリカシーの無い男ってほんっとやだよね〜」
と苦笑しながら、祈の横に行って隣に座る。
そういう本人の額に巨大なブーメランが突き刺さっている気がするのは多分気のせいではない。
いくら本人に性的な意図が無かろうと、いくら爽やかな顔で言おうと
通常の判断能力を持つ他者が客観的に見て変態な言動をしていれば立派な変態である。
「大丈夫だから、ね。僕が付いてる」
そんな事を言って祈の手を握る。
ムジナの術にかかりトランス状態になった祈は、不思議な幻を見ることになるのだった。
ふと横を見ると、ノエルだけどノエルじゃないのだ。
元々作画の揺れ幅の激しそうな奴だが、いつもとは明らかに違う方向に作画揺れしている。
何故か少し外にはねた髪にぱっちりした瞳。相変わらず白い肌に薄紅色の口許。
華奢な肩に、なだらかな曲線を描く細身の体躯。
平たく言うと、中性的イケメンがボーイッシュ美女になっていた。
造形の完成度の高さに反してすっとぼけた雰囲気が残念さを醸し出しているのはいつも通りである。
髪がはねているのはぱっと見の違いを分かりやすくするための記号的表現であろう。
巨乳だったか、だって!? 残念ながら特にそういう印象は残っていないと思われる。
あまりそこが強調されないような服装なのでよく分からなかった、ということにしておこう!
- 223 :
- 「何? 何か顔に付いてる?」
祈が正気に戻ってみると、いつも通りのノエルがきょとんとした顔をしていることだろう。
>「股ぐらは窮屈やないか?嬢ちゃんが履いとるのが伸縮性のあるスポーツショーツならよほど大丈夫やと思うが、
背伸びしてシルクのパンツとか履いとるんだったらそこの阿呆にブリーフでも借りとき」
「そうやって人にさりげなくブリーフ派のイメージを植え付けようとしないで!
こっちは種族的にイメージとか神秘性とか大事なんだから!
しかも何でパンツの種類にそんなに詳しいんだ、パンツはパンツでいいじゃないか!
パンツは皆平等!」
性懲りもなくパンツを連呼しはじめた。やはりさっきのは160%気のせいであろう。
いい加減作画揺れ激しすぎるだろ!で流しちゃっていいんじゃないかな。
「それはそうと……全然変わったように見えないんだけど。品岡くん、本当にちゃんとやったの!?」
ノエルはぱっと見の絵面を重視する性質がある。
例えば髪が短くなる等の記号的表現が示されれば納得したのだが、見えないところだけ変化したと言われてもいまいちピンとこないようだ。
大体スマホカンニングしてたし絵的にどう見てもインチキ臭いと思ったんだ、祈ちゃんの命がかかっているのに橘音くんは何で何も言わないんだ!?
と、謎の使命感に駆られるノエル。
「なーんか信用ならないなあ……。祈ちゃん、本当に変化したか見せて!」
とんでもない変態発言だが、本人は至って大真面目である。
「恥ずかしがってる場合じゃないでしょう! 見ると言ったら見るぞ! うおりゃあああああああああ!!」
このまま誰も止めなければ、祈に蹴っ飛ばされてバグではなくリアルに事務所の壁にめり込むことになった事だろう。合掌。
話は変わって――
>「そいつは魔除けのお護りだ。今日はたまたま持ち歩いててな。
中身は鬼切安綱とまではいかねぇが、正真正銘『悪鬼』を切った破魔の刃物だ。
そこらの護符よりは魔除け――――呪詛対策になる筈だぜ。3つ有るから、祈の嬢ちゃんと那須野……ついでにノエル」
さてさて、このパートの珍獣、ただ騒いでいただけで全く役に立っていない上についでに何か貰ってしまったぞ。
- 224 :
- >「一応種族が雪女のお前さんも持っとけ。万が一の可能性もあるからな」
一瞬意外な表情をしてから「ああそういえば!」といった表情に変わるノエル。
橘音には大丈夫と言われたものの、雪女(イケメン)がコトリバコに近付いてどうだったかという前例はない(そんなもんあったら困る)
コトリバコの明確な性別判定基準も謎なら雪女(中身残念だけどとりあえず見た目イケメン)がどういう存在なのかも謎なのだ。
そこは奥ゆかしくふわっとさせとくつもりだったのに何で女だけR呪いの箱なんてややこしいものが出てくるんだ
という誰かさんの心の声が聞こえてきそうである。
とはいえ、コトリバコに相手を選ぶ権利があるとすればこんな変態はマジで本気で結構ですと全力でお断りだ、間違いない。
ノエルは物事を深く考えないので、この世ならざるイケメン(外見)の自分がよもやコトリバコの餌食になるとは思っていないものの――
「えへへっ、ありがとう!」
気にかけてくれた事自体が嬉しかったのだろう、照れたような笑みを浮かべて受け取ったのであった。
クロちゃんは本当にいい奴だなあ!と思っているノエルが、悪鬼を斬ったと言われたところでまさかその由来に気付こうはずもない。
>「あのぉ尾弐のアニキ、ワシの分は……?」
>「あと、性別と年齢的にムジナの分はねぇ」
>「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」
ハブられてないか気にするなんて意外と可愛いとこあるじゃん。
というかそもそものっぺらぼうって性別無いような……。身体は変化自在だから……顔基準?
昔の陰陽師が顔を固定する時に美女にしなかったのはこのためだったんだ!と勝手に納得したノエルであった(※多分無関係)
その後も、橘音が背伸びして黒雄に何かを告げているのを見て祈と同じようなことを思ったらしく
祈の肩をトントンして「あれ見てあれ」という感じで指差してニヤニヤ笑ったり――
>「皆さん、踊ってください」
「禹↓歩↑……? え、違う? 禹↑歩↓?」
マッチョとヤクザが軽快にステップを踏む様がツボにド嵌りしたらしく
「そうかこれが禹歩!いい男ってやつだなwwwwwww」と腹を抱えて笑い転げたり
緊迫感のきの字も無い言動を繰り広げたのであった。
(あれ? 間違っても呪いにかかりそうにないこの二人まで何で一緒に練習してるんだ?
面白いからまあいいか!と思うノエルであった)
+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚
- 225 :
- 場面は変わって、一行は稲城市に来ていた。
お上りさんがやらかしちゃった的なキメ過ぎな和パンクファッション、喪服のマッチョ、Vシネのヤクザ、極めつけは大正学徒のキツネ仮面。
はっきり言って祈以外はコスプレ集団。ただでさえ人目を引いてしまう。
“ヒーロー活動をしているのがバレてはいけない系ヒーロー”の祈の心境は如何なるものだろうか。
「くっ……凄いプレッシャーだ……!」
等とテンプレ台詞を言いながら、ノエルは橘音に伴われて進んでいく。
台詞だけ見るとふざけているように見えるが、表情に割と余裕が無い。
あまりにも状況がぴったりすぎてマジでその言葉が出ているのである。
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
「祈ちゃん、見るな!!」
あまりにも凄惨なコトリバコによる呪殺の光景を前にして、ノエルは思わず近くにいた祈を自分の方に抱き寄せた。
絶命した女性のすぐ隣にあった箱を見て橘音が一言。
>「付喪神化していますね」
嬰児たちの怨嗟の絶叫と共に、禁断の箱は開かれる――
コトリバコは付喪神化した《妖壊》としての姿を一行の前に現したのだった。
「うへぇ……せめてデザインだけでも鳥っぽく可愛くデフォルメしとけよ!
アニメ化する時にモザイクかけなきゃいけないじゃん」
軽口を叩きながらも、ノエルの瞳にふと憐れみの色が宿る。
《妖壊》――ある者は人の純然たる悪意から生まれ、またある者は発展する文明の影で結果的にそういう役割を押し付けられ――
どんなに光に焦がれてもそれは叶わず、輝かしい文明の光の側に行きたいと思ってもそれは許されず
とうに過ぎ去った過去の時代の楔に縛られ、悲しくて苦しくて自分ではどうにもならなくて
心の奥底ではもう眠らせてほしいと、ただ呪われた運命の終わりを願うのだ――
――何を憐れんでいる? 人に仇成す悪い奴らじゃないか
と、軽くかぶりを振って不意に浮かんできた妙な思考を振り払う。
コトリバコが橘音に向かって一直線に突進してきた。
>「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」
「えぇっ!? 囮って……弱いくせに何言ってんの!?」
ちなみにここで橘音がやっぱり雌狐だったと判断するのは早計というものである。
囮になるためにわざと雌狐に見せている可能性もあるのだから。
どちらにせよノエルは気が気ではない。
「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
とか何とか言いながら、自分はがっつり後ろに下がる。
一応強キャラのくせして何下がっとんねん!と思われそうだがこれが多人数で強敵と戦う時のいつもの布陣だ。
「――キャストオフ!」
- 226 :
- 氷粒の煌めきと共に銀髪に青目の妖怪としての姿になり、その手に氷の錫杖が現れる。
変身ヒロインものではメイクアップ!という掛け声があるが、コイツの場合普段の方が化けた状態なのであれとは逆である。
杖を出す事に一見特に意味はなさそうだが、気分で妖力が変動したりもするノエルにとって絵面は重要なのだ。
ちなみに以前魔法少女風のステッキを出して黒雄あたりからブーイングを食らったことがあるとかないとか。
「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」
杖を一振りし、まずは蹴りを攻撃手段とする祈の靴に向かって、氷の妖力の付与――
靴の裏に霊的な氷の棘が現れ、妖力スパイクのようになるだろう。
他の人にも、こんな感じで任意の武器に付与できるはずだ。
祈はいったんコトリバコを攻撃しようとするも、何かを思いついたらしく近くの店に入っていった。
皆それに特に疑問を持つことはない。
ベースが人間であり妖怪としての性質や凝り固まったセオリーに縛られない祈は、武防具を現地調達したり
「ゲームならシステム上できないよね!?」という行動を取って事態を打開することが度々あるのだ。
祈がいない間、こちらはとりあえず普通に戦う事とする。
「――アイシクルエッジ!」
無数の巨大な氷柱を撃ちこむ連続攻撃。
ちなみに技名のようなものは大抵ゲームからのパクリでありノエル的感覚でなんとなく格好良ければ何でもよく、単に掛け声のようなものである。
せめて和風ファンタジーから取れよ!と思うが何故か派遣主からしてどう考えても北欧の人だし仕方がない。
このままいけば「ケ枯れ」に持ち込めるのは時間の問題だと思われたが、早くも橘音の息が上がり始めた。
>「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
「いや、知ってるし囮やめろよ! 品岡君、体だけ女になって囮交代してあげて!」
祈が体どころか下半身の一部分だけ男にして男判定を受けているのだからその逆も真とは思うのだが……
顔がヤクザのままで体だけ女になったとしてそれをコトリバコが女と認めるかは――甚だ疑問である。
更に事態は最悪の展開となる。
>「ま……、まさか……!」
「そのまさかみたいだね……!」
コトリバコが仲間を呼んだのか知らないが、コトリバコBCDFGHI、もとい1から7までが一挙に現れた!
「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
- 227 :
- というのも、囲まれたら、前を黒雄や祈に任せて自分は後ろから攻撃に専念という盤石の布陣が取れなくなるから困るのだ。
しかも敵がなまじ知能がある奴だったりすると
「あいつ味方の強化とか強い妖術攻撃とかしてきてウザいし見た感じヒョロそうだから先にやっちまおうぜ!」
となるのが鉄板である。
>「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」
とにかく、このままでは数秒後に橘音が集中攻撃を食らう展開が目に見えている!
ノエルは、橘音のイマイチ分かり辛いながら本気で助けを求める呟きに、高らかな詠唱で応えた。
詠唱してる暇があったらさっさと発動しろよと思われそうだが、通常の氷柱カッキーン等は一瞬で発動できるが、大技にはそれなりの溜めが必要なのだ。
「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし凍てつきゅ…氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!」
途中で明らかに噛み、やばっ!という顔をしたが、強引に押し切る。
「エターナルフォースブリザード!!」
妖力を解き放つと、8体全てのコトリバコを氷雪の嵐が襲う。
詠唱をすることで日本全国津々浦々の厨二病患者のパワーを集めることができ
詠唱が長い程その効果は増大するとは本人の語るところであるが、真偽は定かではない。
パソコンやスマホの前の我こそはと思う良い子の厨二病患者のみんなはパワーを送ってあげよう!
今まさに橘音にとどめを刺そうとしていたハッカイのコトリバコの動きが止まる。
8体のコトリバコが全て周囲の空気ごと凍り付いていた。
「だから言ったじゃん! 囮なんてもうやめて!」
橘音の前に出て、氷の杖を消して代わりに両手に大小の刀を顕現する。
二刀流である。もう一度言おう、二刀流である。
ところで、ボスに即死攻撃無効は常識だ。
普段なら並み居る雑魚を一掃する厨御用達のチート攻撃も、コトリバコの前ではせいぜい一定時間氷結させる程度である。
5秒もしくは3秒、いや1秒は持ったか――
ガラスが割れるのにも似た音と共に氷が飛び散り、まず最高位のハッカイの氷結の状態異常が解除される。
しかしメンバー全員が揃うまでの時間を稼ぐには十分だったようだ。
>「悪いね。ちょっと席外しちゃって」
祈が大量の布を持って現れた。彼女がごめんと謝るのを聞いてしまったノエルは呟く。
「いいよ、躊躇わなくていい」
- 228 :
- ノエルは少しも妖壊を攻撃するのを躊躇うことは無い。彼は何故か確信しているからだ。
《妖壊》が自分を滅した相手に最後に抱く感情、それは――
山よりも高く海よりも深い、感謝という言葉では言い表せない感謝だと。
全くもっておめでたい思考回路である。
布を纏った祈は、ハッカイの両足を人知を超えた蹴りで吹き飛ばす。
両足が無くなっても浮遊しているので動けないわけではないのだが、それでも機動力はかなり落ちたはずだ。
中学か高校ぐらいの物理の計算をすると祈のキックがどれほど凄いのかが具体的によく分かるのだが
ノエルに物質世界の学問の代表格である物理の理論なんて分かるはずもなく、単純に「祈ちゃんのキックは超凄い」と思っている。
その確固たる物理学の理論に裏付けされた超凄いキックに
ノエルの完全スピリチュアルワールドなよく分からない謎パワーが付与されているのだから、それはもう最強というものだ。
例えるなら、年末のしょうもない番組でお馴染みの大槻教授と韮澤さんがタッグを組んだようなものだ。
>「御幸っ! お願い!」
祈に決め手を託されたノエルは、すっ――と少し目を細める。
世界の裏に焦点を合わせる、この世ならざる世界を見るような目つき
と言えば恰好よさげだが、平たく言えば3D画像を見る時のような感じだ。
祈が普通に目に見える継ぎ目を狙ったことからヒントを得て、霊的な継ぎ目を見ているのだ。
そうしてみると、それは想像以上に継ぎ接ぎだらけの代物であった。
「見切ったあ!」
祈の持ってきた布を投げて相手に覆い被せ、氷の刃を閃かせて地面を蹴って跳ぶ。
物質世界の純粋に化学的な強酸はノエルには効かないが、《妖壊》の出すそれは厳密には”強酸のようなもの”。
当然ながら霊的な性質も持っている。
それに服が解けて予期せぬサービスシーンになったら困るのだ。本人大騒ぎするわ需要は無いわで誰も得しない。
一閃、二閃――無数の剣戟が閃く。一見適当に見えるが、継ぎ目を余すことなく斬っているのだ。
カーテン一枚ぐらいなら挟んでも継ぎ目を見るのに支障はないらしい。
空中で制止したり方向転換しているように見えたとしても多分気のせいではない。
「店長!その動きは!俺らには出来ません!」を地で行く物理法則を無視した動きだ。
しゅたっ――と、はらりはらりと舞い落ちるカーテンの破片と共に着地。
普通はこのパターンは後ろで敵が爆散するものだが――
- 229 :
- 「あれぇ〜? おっかしいなあ〜」
特に相手の見た目に大きな変化はない。しかし言葉とは裏腹に予想の範疇である。
霊的3D視が出来る者には分かるだろう、実は見た目以上に不可視の切り込みが刻まれ首の皮一枚で繋がっている状態。
あと一発衝撃を加えてやればバラバラに砕け散るかもしれない。
が、見た目にはよく分からない致命傷を与えられて怒ったのかもしれないハッカイにターゲットロックオンされてしまった。
「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」
体当たりを辛うじて避ける。相手の足があるままだったら余裕で死んでたな!
後衛が調子に乗って前に出てくると碌なことにならないのだ。
「たーすーけーてー!!」
と叫びながら、追いかけられながら何故か黒雄の方に猛ダッシュ。
クロちゃんなら!クロちゃんならなんとかしてくれる!と思っているらしい。
駄目だこりゃ! 少なくとも祈から見たらただの間抜けにしか見えない!
- 230 :
- 間抜けにしか見えないっつーか
もっと分かりやすい文章書こうな
- 231 :
- >「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」
「そいつぁすまねぇな。お詫びに、お前さんの葬式は俺の所で挙げてやるぜ。特別価格の2割引だ」
三人に護符を渡した尾弐は、ムジナの軽口と祈とノエルの礼に対して右手をヒラヒラと振って答えると、
そのまま歩を後ろに進めて壁に背を預ける。
――――と。
そんな鬼の元に、何か含みの有る笑みを讃えた那須野が近づいてきた。
「……ん? 那須野、どうした?」
これまでのブリーチャーズの活動において、那須野その表情を度々見てきた尾弐は、
半ば獣じみた直感により微妙に距離を取ろうとする。
だが、那須野はそれよりも早く尾弐の傍に寄ると、爪先立ちで耳元に口を寄せ
>「クロオさんのそういうところ。好きですよ」
「!?」
――そう、小さく囁いた。
唐突に放たれたその発言を受け、硬直する尾弐であったが……暫くすると小さく息を吐き、
困った様に右手で頬を掻いてから口を開く。
「あんがとよ。オジサンも大将のそういう所、気に入ってるぜ」
どうやら、尾弐の隠し事は聡明な狐面の探偵にはお見遠しであったらしい。
那須野の言葉でようやくその事を理解した尾弐だが……それでも小さな意地があるのだろう。
隠し事の内容を己の口からは語らず、ただ、那須野が己の隠し事について無遠慮に触れ回らないでくれた事への礼を述べた。
……尚。複数の意味で取れる言葉に対し、尾弐が額面通りの部分以外に触れなかったのは、
青い勘違いをする程に若く無いと自負しているという事もあるが、
それ以上に現在進行形で尾弐の方へと指を刺し、意地悪気な笑みを浮かべている一名。
こういったやり取りで妙な盛り上がりを見せそうな、種族が雪女である妖怪を懸念しての事であった。
>「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで〜」
「……やべぇ。早々に、前言撤回したくなってきた」
余談ではあるが、その後に那須野の主導によって行われた呪式歩法『禹歩(うほ)』の練習に際して、
尾弐が自分の足を自分で踏んで横転する程にダンスのセンスが壊滅している事が判明したのだが、それはまた別の話である。
閑話休題。
- 232 :
- 稲城市、某所。常であれば親子連れでにぎわうその商店街は、今や死地と化していた。
鳴り響く救急車両の甲高いサイレンと、血に塗れ倒れ伏した数多の女性の死体。
その死体に縋り付いて慟哭の声を上げる、伴侶と思わしき男性。
或いは、死という概念が理解出来ず死体と化した母親を必至に起こそうとする少年。
そして、その凄惨な光景を、掲げた携帯電話のカメラで修めようと躍起になっている野次馬達。
むせ返るような鉄と吐瀉物の臭いの中で繰り広げられるその情景は、正しく阿鼻叫喚。
此処は、地獄に在らずにして地獄で在った。
そして、そんな地獄の一丁目。
血の赤で染まった修羅の巷を奥へと進む、珍妙な集団がここに一つ。
時代がかった服を来た、正体不明の狐面。
人外の美貌を持つ色白の青年。
胡散臭さを隠しもしない、色眼鏡を掛けたチンピラ。
不謹慎にも喪服を着こむ、猛禽の様な目をした巨躯の男
そして、その集団の中において、常識的な恰好をしているが故に逆に視線を集める中学生。
彼等の名は、漂白する者達(ブリーチャーズ)
眼前の地獄を払拭する為に、敢えて地獄に踏み込んだ、勇敢な愚か者達である。
「こいつぁヤベェな……商店街一帯、呪詛まみれじゃねぇか。まるで黄泉比良坂だ」
そのブリーチャーズの一員である尾弐黒雄は、那須野の術により潜入を果たした商店街を歩きつつ、
右手で口元を抑え眉を潜めて周囲を見渡す。
尾弐の視界に映るのは、荒れ果て床に散らばった商品と、無数の血溜まり。
……そして、放置されている幾つかの女性の死体。
恐らくは、救助活動の初動で運び出されず、毒ガステロの可能性を考慮した警察によって
現場が封鎖された事で取り残されたのだろう。
助けを求める様に前に伸ばされた彼女達の腕は、けれどもう動く事は無い。
「嘔吐に下血、腹部破裂の上に腐乱臭……どいつもこいつも内側から腐らされてやがるな。
まさか、奴さんは胎内に『戻ろう』とでもしたのかね」
死体の幾つかを見聞していた尾弐は、死体の瞼を右手でそっと閉じると、
そう見解を述べて腰を上げた。と、その時
- 233 :
- >「た……、た、助けて……。助けて……ください……」
尾弐達の進行方向の先に在る薬局の中から、フラフラと白衣を着込んだ女性が歩き出て来たのである。
やはり呪いに侵されており、その衣服は赤色で染まっているが……それでも女はまだ生きていた。
「ちっ……!」
けれど、尾弐がその女を助ける為に動く事は無かった。
むしろ小さく舌打ちをしてから右腕を横に伸ばし、一同に背中を見せて壁となり、
女の元へ寄る事を制止をしてみせたのである。
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
>「祈ちゃん、見るな!!」
そしてそれは、尾弐が眼前の女性がもはや助からないと判断したが故の事。
そう。女はまだ、生きていた――――けれど、もう手遅れな程に呪詛に侵されてしまっていたのである。
やがて、女の腹は腹にガスの溜まった死体の様に弾け飛び……新たな血溜まりとなったその足元に、コロリと小さな箱が転がった。
>「付喪神化していますね」
尾弐達の見守る前で、カタカタと人の手を借りずに解かれていく小さな箱。木製のパズルボックス。
だんだんと大きくなる嬰児の泣き声に比例して回転の速度を増していくソレは、絶叫の様な泣き声が最大になった所で、
ピタリとその動きを止める。
そして―――――――
>オギャアアアアアアアア!!!!!オギャアアアアアアアアアアア――――――――――ッ!!!!
断末魔の様な泣き声と共に湧き出た其れは、尾弐の身長に倍する巨躯を持つ、赤ん坊の形をしたナニカであった。
全身から体毛の様に四肢を『生やした』その不気味な姿は、或いは、人の死体を粘土の様に捏ね繰り回せば同じような物が作れるかもしれない。
絶えず両目から血を流すこの異形を作り出したのが、素材と同じ人間であるという事は、悍ましいという他無いだろう。
そして、その異形の赤ん坊は首を振り周囲を見渡すと
>「……まぁ、そう来ますよね。ボクがアナタだったとしても、同じことをするでしょう」
ブリーチャーズのリーダーである那須野を標的と定め、襲い掛かってきたのである。
尾弐はとっさに動こうとするも、コトリバコの異形の動きはその巨体からは考えられぬ程に素早く、あわや激突すると思われたが
>「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」
驚くべきことに、その突撃は那須野がその手に持ったマントによって、コトリバコの異形は勢いのまま壁へと衝突する事となったのである。
- 234 :
- 「ったく、無茶しやがって……あいよ、了解だ大将」
尾弐は、那須野が無事にコトリバコの怪異を往なした事を確認すると、
その無茶な行動に対して苦々しい表情を浮かべたが……けれど、それを止める事はせずに、那須野の指示に対して是と答える。
それは、長い付き合いであるが故の、尾弐からの那須野への信頼であると言えよう。
頭脳労働担当である那須野が『囮となる事が出来る』と言った以上、それは可能な事なのだろうと、尾弐はそう判断したのである。
>「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
だが、それはそれとして那須野の行動が無茶な事には変わりない。
尾弐が知る限り、彼の探偵は荒事向きではない為、ノエルが心配するのもまた当然と言えよう。
「そう思うなら、さっさとアレをどうにかしようぜ色男。
目立つ間もなく凍らせて砕いてかき氷みたいにすりゃあ、那須野の出番も無くなるだろ」
故に、尾弐はノエルの言動を否定する事も肯定する事も無く、
ただ、コトリバコの異形へと近づくと右腕を振りかぶり――――
「うおっ……!?」
しかし、拳を当てるその直前。ボコリと異形の赤ん坊の皮膚が盛り上がったのを見て、尾弐は後ろへ大きく跳躍し距離を取った。
そうして距離を取ってから見てみれば、先ほどまで尾弐が立っていた場所に濁った水溜りの様な物が出来ており
――――その水溜りが、煙を上げてアスファルトを溶かしていた。
「おいおい……触れたらアウトかよ。面倒くせぇ仕様だな」
尾弐と同じくコトリバコの溶解液の特性を見抜いたと思われる祈が攻撃を中断し、店舗の中へ入って行くのを横目に捕えながら、尾弐はそうぼやく。
幸い、今はノエルが氷による遠距離攻撃を放っている事でコトリバコの動きは封じられているが……それも長くは持たないだろう。
>「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
端的に言うのであれば、囮役を果たしている那須野の体力が限界だからである。
>「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」
「なぁ……もっとこう、気合の入る掛け声にできねぇのかソレ。あと、ムジナの女装を推すのは止めろ。
想像しただけでさっき食った魚肉ソーセージ全部吐きそうだ」
恐らく、囮としての那須野はあと何分も持たない……故に、決着を早期に付けるべく、尾弐は道に設置されていた
一時停止の道路標識を右手で掴むと、地中深くに埋め込まれ固定された其れを、まるで雑草か何かの様に軽々と引き抜いた。
直後、その道路標識に掛かるのは、気の抜ける掛け声で放たれたノエルの術による強化。
呪氷を纏った道路標識はまるで巨大な金棒の様な形状と化し、それを右腕に持つ尾弐は、
コトリバコの怪物に向けて氷の棘を纏う道路標識を――――何の躊躇いも無く、横薙ぎに払った。
人外の膂力を持って放たれたその攻撃は、風切り音と共にコトリバコの怪物の頭部へと向かう。
それは、そのまま直撃すれば石畳に落ちた柘榴の様に怪物の頭を破砕できる一撃である。だが
「ちっ、その巨体でなんて速度してやがる」
尾弐の一撃を、コトリバコの化物は恐るべき速度で首を後ろに引く事で回避して見せた。
それでも完全には回避出来なかったのか、尾弐の一撃は怪物の下顎の一部を吹き飛ばし、
肉片を壁のオブジェと化す事に成功したのだが……
「……オーケー、この程度はダメージの内に入らねぇってか」
尾弐の与えた傷は、傷口から小さな手足が無数に生え、蠢き結合する事で塞がってしまった。
コトリバコの特性を目の当たりにした尾弐は、再度道路標識を構え――――
- 235 :
- >オギャアアァアァアァアァアァァァァ……
>オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……!!!
>「ま……、まさか……!」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」
けれども、状況はここで悪化する。
コトリバコの怪物がその口腔から垂れ流す泣き声。それが、いつの間にか『増えて』いたのだ。
其れも、一つ弐つではない。
増えた泣き声は――――合わせて七つ。
>「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」
>「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」
増えた怪物達。八体のコトリバコの怪物は、現れて早々に即座に尾弐達を敵対対象と認識した様である。
そして、同じ呪具であるが故にその行動指針も似通っているのだろう。
コトリバコ達は……那須野へと群がる様に、うぞうぞと進み出した。
>「エターナルフォースブリザード!!」
幸い、その急襲はノエルが放った謎の名称の大規模術式による氷結で食い止められたが、
相手は巨大な呪詛の塊。そう時間は稼げないだろう。
現に、最初に遭遇したコトリバコを包む氷は、既に罅割れている。
その状況を見て現状では勝ち目が薄いと判断した尾弐は、コトリバコの群れを睨みながら、静かに口を開く。
「……分が悪ぃな、こりゃ。那須野、ノエル、ムジナ。ここは俺が食い止める。祈の嬢ちゃんを見つけ出して逃」
だが、尾弐がその言葉を言い切る直前。一人の少女の声がその場に響いた。
>「悪いね。ちょっと席外しちゃって」
「祈の嬢ちゃんか。調度良かった……って、何だよその恰好は」
現れたのは、先ほど商店街の店舗の一つに入って行った多甫 祈。
彼女は遮光カーテンを全身に纏い、更に脚に巻き付けた状態でその場に現れたのである。
あまりに意外なその様相に、真意の読めない尾弐の口からは思わず呆然とした声が漏れる。
だが、それも一瞬。祈が行動を開始するまでの事であった。
祈は先ほど犠牲になった女性の顔に布をかぶせると、助走を付け――――
>「……ごめんな」
一言。様々な感情が籠った謝罪の言葉と共に、ブリーチャーズにおいて最速を誇るその脚力で、
コトリバコの怪物の両脚を、破砕してみせたのである。
当然、直接打撃を放った祈に強酸性の液体が降り注ぐが、纏った布がそれらを全て遮断する。
道具を使い、工夫し、敵対者を凌駕する。
それは、祈という少女……否。人間という生物の持つ強さであり、何の努力も無く優れた能力を持つ
妖怪では通常至らぬ発想であった。
- 236 :
- そんな祈を見て、尾弐は思う
(ああ――――弱くて、脆いな)
それは侮蔑でも罵倒でもない。尾弐という妖怪が抱いた、ただの感想である。
弱さを補う戦い方も、敵対している妖壊に抱く懺悔の心も、尾弐は持っていない。
弱さは強さで塗り潰す。
鬼という種族にはそれが出来る性能が有った。
妖壊に対する慈悲の心も無い。
例えどの様な理由があれ、殺人を犯した存在は許される事は無く、救われる必要も無く、
ただただ地獄の底まで落ち込むべきだと、尾弐はそう考えているからだ。
そうであるが故に、己の弱さを認め敵対者への憐憫の心を持つ祈は、尾弐にとっては脆弱な存在であり。
そうであるがこそ、尾弐にとっては目を背けてしまいたくなる程に、眩しい存在であった。
僅かな放心。
けれど、その間にも状況は前へ前へと進んでいく。
気が付けば、眼前には叫び声を上げるノエルと、迫り来る両足を失ったハッカイのコトリバコ。
それを認識した尾弐は、何かを振り払うように舌打ちをすると、右腕の道路標識を高く振り上げ、
ノエルの攻撃により脆弱化しているコトリバコへと振り下ろすが
「な、ぐがっ―――!?」
オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……アア……キャハハハ……!!!
その直前、鬼の左側部へと『投げつけられた』軽自動車によって吹き飛ばされ、そのまま軽自動車と一緒に
店舗の壁に叩きつけられる事となってしまった。
「っ……て、めぇ……ら……そうかい……そうかよ」
妖怪ですら耐えがたいその一撃を受けて、額から血を流す程度のダメージで済んでいるのは、種族としての頑強さが故。
だが、尾弐への攻撃はこれで終わりではない。
尾弐へ車を投げつけてきたのは、ノエルの凍結より復活したコトリバコ。『ニホウ、サンポウ』
そして、今現在。
激突地点を予測し待ち伏せていた『シッポウ』が、今まさに尾弐へと強酸性の液体を纏った拳を振り上げているのだ。
それら3体のコトリバコは、血の涙を流しながら――――「笑って」いる。
尾弐をR為に戦略を立て、商店街に入る前から尾弐の『左腕が全く動いていない』という弱点を見抜き、
ただ暴れるハッカイのコトリバコを囮にして自身達から視線を外し。
自分たちの意志で。その知性を尽くし。尾弐をR算段が立ったと思い、嗤っている。
そのコトリバコ達の笑顔をみた尾弐は、苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。
「苦痛の果てに……本物の怪物に成り下がりやがったな……ガキ共……!」
そんな尾弐をあざ笑い、拳を振り下ろす『シッポウ』のコトリバコ。
尾弐は、その拳が自身に振り下ろされるまでの間に、大気を震わせわせる怒号の様な声を挙げる。
「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」
そうして。その声を断ち切る様に、シッポウの拳は尾弐へと振り下ろされた。
更に『ニホウ』及び『サンポウ』が野生の猿の様に、素早く尾弐の方へと群がって行く。
那須野を狙う為の障害になるであろう尾弐を、確実に始末する為に。
- 237 :
- ここが廃れたのは誰のせい?
- 238 :
- 品岡の施術、尾弐の護符、二段構えの呪詛対策はこれで完了した。
少なくとも今日のうちに祈がコトリバコの標的になることはあるまい。そう言い切るだけの信頼を彼ら同士が持っている。
ならば事態は巧遅よりも拙速、あとは出撃を待つばかり――
>「これ以上の対策は、はっきり言って蛇足でしょう。ボクも護符の類を考えましたが、クロオさんの刃物に勝るものは作れません」
>「それに何をしたところで無駄なときは無駄ですから。やられるときはやられます、なので『もうこれはアカン』と思ったら――」
>「皆さん、踊ってください」
橘音の提案した最後の対策、その突拍子もない言葉にブリーチャーズは異口同音に困惑した。
しかし橘音は都合4つの沈黙も意に介さず、大真面目に謎ステップを踏んで追従するよう促してくる。
アキレス腱がよく伸ばせそうな足の動きは一見珍妙のようで、軽やかに踏み切れば確かに舞踊と言えなくもない。
>「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで〜」
「よう分からんけど任しといてください。このムジナ、こう見えて踊りは得意でっせ。
バブルの頃はクラブでブイブイ言わせたもんですわ!」
当時の流行曲を鼻歌しながら上機嫌に足を捌き、無意味に腰の振りまで加えるヤクザ。
言われた通りに足踏みして、陰陽師の使いっ走りはようやくその動きに見当がついた。
(めっちゃ我流にアレンジされとるけど……禹歩やこれ)
歩幅や歩調、足運びに呪術的な意味を持たせて簡易的な儀式とする陰陽師の歩法だ。
陰陽師や呪術師はその一挙手一投足全てを呪術とする。
方変えと言って外出時に踏み出す足や家を出る方角にまで意味付けを行い、ものによっては殆どこじつけにすら近い。
逆に言えば、そういった小さな小さなまじないの積み重ねこそが術師の力の源とも言える。
禹歩などはその最たる例で、元は神事の際の行進に意味付けして呪術化したのが始まりであった。
不合理の極みに思える足踏みは時代を経て洗練され、より実践的な価値を持つ術式体系を確立した。
熟達した禹歩の使い手は橘音の示したような結界のみならず、さながら兎の如く空間を跳躍することさえできると言う。
例えば「う〜っトイレトイレ」と公園の便所へ急ぐ際にも目的地まで一瞬で移動しベンチのいい男に遭遇しないことも可能!
>「禹↓歩↑……? え、違う? 禹↑歩↓?」
そこまで考えて、自分がノエルと同じ思考レベルにあったことに品岡は愕然とした。
「ようこんな骨董品引っ張り出しましたなぁ」
禹歩は強力な歩法だが、本来焼け石の上を歩くような過酷な訓練と修練の末に身につける高等呪術だ。
その習得の難易度故に、本職の中でも完全に扱える者はごく僅かだ。
橘音が教えたこの禹歩にはムジナがかつて目にした本職陰陽師達のような複雑さはない。
効果は限定されているが、代わりに術の素養のない者でも発動できるようになっている。
古式の呪法を尊重しつつも、必要十分な要素を抜き出して新たなまじないに編纂する技術。
確かなる呪術的知見と、既存の観念に囚われない柔軟さを持った存在。
化かし系本家、妖狐の落とし子、三尾の名は伊達ではないということだ。
急場しのぎの付け焼き刃――しかし研ぎ澄まされたそれを全員が覚え切る暫しの間。
尾弐のどじょう掬いのような踊りにゲラゲラ笑っていたムジナが再び視線でぶん殴られる経緯を経て、
ようやく全ての準備は整った。
>「では――。東京ブリーチャーズ、アッセンブル!!」
「ノリノリですな坊っちゃん」
かくして、東京ブリーチャーズは出撃する。
● ● ●
- 239 :
- 直近の被災現場、東京都稲城市はまさに震源地の如き地獄絵図を展開していた。
各所を封鎖する黄色いテープ、ひっきりなしに往復する救急車と警察車両、倒れた母を呼ぶ子供の鳴き声――
安全帽にサージカルマスク姿でカメラを抱えるマスコミが、路肩の野次馬に矢継ぎ早に質問を投げかけている。
道中で確認したSNSでは、現場の惨状が加速度的に広められており、早いものはYoutubeにすら動画が上がっていた。
>「こいつぁヤベェな……商店街一帯、呪詛まみれじゃねぇか。まるで黄泉比良坂だ」
血反吐と吐瀉物にまみれたアスファルトを踏み締め人の海の中を行く、五人の男女達。
妖狐、ターボババァ(孫)、雪女(男)、鬼、のっぺらぼう(元)のオカルトリカル・パレード。
橘音の幻術によって警察の案内を受けるブリーチャーズに、野次馬達のカメラは集中する。
「おうおう!なに撮っとんねや!見せモンちゃうぞゴラアアアア!!」
最後尾に引っ付いていたいかにもヤクザな人相の悪い男が唾を散らしながら野次馬たちに食って掛かる。
異常事態に遠巻きに沸いていた見物人達が、汚物を見るような目でカメラを逸らした。
>「この『残り香』から察するに……コトリバコはまずこの近辺に現れ、あちらへ向かったようですね」
>「くっ……凄いプレッシャーだ……!」
「救助活動もあっちの方は難航しとるみたいや。原因不明の発信源に迂闊に近付けられんのやろな」
血溜まりだけを痕跡とする現場から、奥へ向かうに従い遺留品が目立ってきている。
おそらく被害者の搬送だけを優先して回収しきれなかったもの達だろう。
路肩に止まった軽自動車のダッシュボードに貼られた幸せそうな家族写真が、赤黒い液体に染まっていた。
そしてついに、運び出すことさえ叶わなかった死体さえ散見し始める。
>「嘔吐に下血、腹部破裂の上に腐乱臭……どいつもこいつも内側から腐らされてやがるな。
まさか、奴さんは胎内に『戻ろう』とでもしたのかね」
「ぞっとせん話ですな。連中が単に使役されとるんやなく自由意志があるとしたらもう手がつけられまへんで」
無感情に死体を眺めていた品岡はそう零した。
300年も生きていればいい加減人の死体は見慣れている。それを自分の手で作り出したこともある。
これよりももっと酷く壊された人体など、戦時中に傍で飯が食えるくらい見てきた。
不条理な死に憤りを感じるほど品岡は若くないし、憤れるほど真っ当な生き方をしてるわけでもない。
しかしそれでも、いつまでたっても、この目の奥を焦がすような疼痛には慣れなかった・
>「た……、た、助けて……。助けて……ください……」
前方の薬局から人影がまろび出た。
白衣を着た中年女性、しかしその白衣は既に赤黒く染まって元の色が分からない。
生存者、とは言えなかった。"まだ"死んでいないだけの者をそう呼ぶことはできない。
しかしブリーチャーズはそう割り切れる老人だけの集まりではなかった。
>「ちっ……!」
尾弐が短く舌打ちして一同の前に出たのは、女性に駆け寄らんとする祈の動きに気付いたからだろう。
品岡もはっとして祈の背中に声を掛ける。
「あかん、寄るな嬢ちゃん!」
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
次いで橘音の警告、それはすぐに現実のものとなった。
女性の腹部が焼いた餅のように膨らみ、血潮を撒き散らしながら破裂した。
耳をつんざくような断末魔が木霊する。
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
>「祈ちゃん、見るな!!」
- 240 :
- 橘音の声に足を止めた祈を、ノエルが素早く抱き寄せる。
彼らの足元数メートルの位置までの地面が赤黒い死の色に濡れた。
「"中"になんか居るで!」
破裂の勢いか、はたまた自ら跳躍したのか――原型を留めぬ亡骸のかたわらに、一つの小箱が落ちた。
複雑な木目で織られたそれは、寄木細工と呼ばれる工芸品だ。
一見してただの薄汚い小箱であるが、頬を叩くような圧力を伴う凄まじい妖気がそこから放たれていた。
>「付喪神化していますね」
「あれが鞍馬山からパクられたっちゅうコトリバコの本体でっか……!」
似たようなものを退魔した経験がある品岡だが、"あのクラス"の呪物と対面したのは初めてであった。
コトリバコの最上位、『ハッカイ』。人間の悪意の凝集物。村一つを皆殺しにした本物の霊的災害。
永年封印指定のそれが、自我を持った付喪神と化している。考えうる限りの最悪の事態だった。
コトリバコの中から地獄の底から響くような赤子の鳴き声が轟いた。
見えない糸に吊られたように箱が宙に浮き、ひとりでに細工を解いていく。
スライドし、回転し、さながら橘音が弄んでいたルービックキューブのように形を組み替えていく。
やがて匣は開かれ、封印されていた"中身"が顔を出した。
巨大な赤子――人間の身体を無理やりつなぎ合わせたような、幼きフランケンシュタイン。
身体の随所から節足動物の如く幼児の手が蠢き、継ぎ接ぎだらけの顔面からは滂沱の血涙が河のように流れている。
店舗の二階に頭と届かせんばかりの巨躯が、ブリーチャーズの眼前に出現した。
「なんやこれ……これがヒトの創り出せるもんなんか」
コトリバコの付喪神。実体を得た悪意。その本質は、誰かを呪わんが為に創作された妖壊だ。
ならばこれは、作り手が描いた怨嗟の形に他ならない。
この醜悪な姿は、コトリバコを生んだ者の憎悪の重さを表している。
「どう生きとったら、こんな絵図が描けるっちゅうんや……!」
>……オギャアアアアアアアアア――――――ッ!!!!オォォオォォオオオ!!!!!
赤子の鳴き声から雄叫びへと変遷した咆哮が、ビリビリと大気を震わせる。
品岡が冷や汗にまみれた背筋を伸ばすと同時、コトリバコは巨体に似合わぬ速度でこちらへ突進してきた。
品岡は一歩、祈の前に出るようにして踏み出す。
性転換は完璧に施術した。それでも未だコトリバコが男女を区別する基準は曖昧なままだ。
真っ先に狙われるとすればやはり見た目からして女の祈であろう。瞬時にそう判断して品岡は動く。
>「……まぁ、そう来ますよね。ボクがアナタだったとしても、同じことをするでしょう」
だが毒牙の向かった矛先は――橘音。
彼はマントを翻し、大型ダンプの追突にも等しいコトリバコのチャージを弾き返した。
(嬢ちゃんじゃなくて橘音の坊っちゃんを狙ったんか、今――?)
祈を男体化した今、コトリバコが男女を認識するとすれば外見の可能性が高いと品岡は踏んでいた。
祈は妙齢の色香とは無縁であるものの、二次性徴を迎え既に女性らしい顔立ちになりつつある。
品岡にそういう趣味はないが、夜の商売でも引く手あまたであると思えるぐらいには可憐な容姿だ。
その祈を差し置いて、橘音に牙を向けた理由。
品岡と橘音の付き合いは妖怪の尺度で言えばまだ浅いが、それでも十年二十年では効かない長さではある。
初めて会った時――『御前』の取り持ちで顔をあわせた際も、品岡は橘音の性別が分からず不躾な質問をぶつけた。
答えはうまいことはぐらかされたが、妖怪にとっても仕事人にとっても性別などどうでも良いので特に追求はしなかった。
便宜上、服装から『坊っちゃん』と呼び男として扱うことで彼なりの落とし所を見つけたのだ。
- 241 :
- >「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」
橘音はそう皆に指示した。囮。つまり彼はコトリバコの攻撃が自分に向くと認識している。
攻撃される理由に、心当たりがあるのだ。
(ようそんなんで嬢ちゃんに駄目出ししたなぁ。自分が一番危険やって分かっとるんやないか)
橘音の――彼か、彼女か――その秘された覚悟をおぼろげに感じ取って、品岡は内心で苦笑した。
そしてそれだけだ。何も変わらない。そんなことは、妖怪にとっては、どうだっていいのだ。
「しゃあ!これだけ膳が揃ったんや。そろそろ品岡おじさんのカッコ良いとこ見せたらんとな。
荒事はヤクザの専売特許ってこと、教えたるわい」
品岡はポケットから指先ほどのサイズの何かを取り出し、指で弾いた。
それは空中で形状変化を解かれ、もとの大きさとなって彼の手に握られる。
工事現場で基礎打ちや解体に用いられるスレッジハンマー。
人間の頭蓋骨など容易く粉砕可能な、彼の持つ武器の一つである。
>「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
何考えてんだはお前だよと世界中の全人類から総ツッコミ受けそうな珍妙生命体が声高に叫ぶ。
>「――キャストオフ!」
人類最悪の脅威を目の前にしてもブレない業界屈指のトップノエリストは、己の"化けの皮"を脱ぎ去った。
雪女。凍てつく吹雪の化身をその身に宿し、アスファルトに薄氷を生みながら舞い降りる。
>「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」
ノエルが杖を一振りすると、煌めく謎エフェクトと共に品岡のハンマーにも霜が下りる。
加速度的に成長する氷柱が、スレッジハンマーの打撃部位に凶悪な棘を作り出した。
「エグいもん付けよるなぁ。殺意マシマシやんけ」
軽く地面をハンマーで小突くとその箇所が一瞬で凍り付く。
言うなれば氷結の呪術自体がハンマーの先端に展開している形だ。
半端な妖怪ならばこの一撃で魂まで凍てつくことだろう。
同様にノエルの術で造られた氷の金棒を手に尾弐が前に出た。
「……って金棒ちゃうなアレ!道路標識(一時停止)や!」
どこから持ってきたんだそんなモン、と見回してみれば無残な空洞が地面にあった。
コンクリで固められた標識を雑草でも取るかのように軽く引っこ抜く、げに恐ろしきは鬼の怪力。
こともなげに手の中にある氷漬けの標識を、尾弐は片手でバッティングでもするように薙ぎ払った。
風を巻いて振るわれる巨大質量。暴力の嵐がコトリバコに激突し、その下顎を吹き飛ばす。
>「――アイシクルエッジ!」
そこへ畳み掛けるように放たれるノエルの妖術。
無数の氷柱が滝のようにコトリバコを打ち付け、その肉を削いでいく。
巨大な手足がアスファルトに縫い止められ、動きが止まった。
「ドタマかち割ったらあああああ!!」
そこへ回り込んでいた品岡が跳躍、後ろから脳天目掛けてスレッジハンマーをぶち当てた。
鋭利な氷の棘がコトリバコの頭蓋を貫通し、凍てつく冷気が内側から凍らせにかかる。
付喪神と化したコトリバコに脳みそがあるかはわからないが、この間髪入れない三段攻撃に平然とはしていられまい。
すわ決着か――そう確信した品岡が唇を舐めた瞬間、コトリバコが大きく暴れた。
「ぎええええ!」
- 242 :
- 巨大な頭部に棘を突き刺していた品岡はその動きにハンマーごと振り下ろされ、アスファルトに墜落する。
受け身をとって転がりながら衝撃を吸収すると、その上から緑色の液体が降ってきた。
「ひえっ……」
咄嗟に後ろへ跳躍し、なんとか引っ被ることは避けられた。
そしてそれがとてつもなく幸運だったことに、溶かされていくアスファルトを見て痛感した。
「迂闊に殴りゃしっぺ返しが来るってことかいな……」
化学耐性の高い舗装材であるアスファルトがああも容易く溶けるほどの強酸。
酸というよりも『溶かす』という呪詛に近い。それもとびきり強烈な。
おそらくは、臓器を溶解させるコトリバコ本来の呪いを戦闘用に改造して使っているのだ。
悠長に分析している暇はない。コトリバコはその粘液を、あろうことか自らの口から吐き出してきた。
「ちょっ、待て、待て待て待てや!」
波打ち際のフナムシのようにカサカサと逃げ惑う品岡。
追従する粘液が道路上に溶解の傷跡を点々と残していく。
「お乳飲んでゲップせぇへんかった赤子かいな!」
品岡が命からがら一定距離を離れると、今度は再び橘音が標的として狙われ始める。
あれだけしこたまぶん殴ったというのにコトリバコがケ枯れする様子は微塵もない。
>「……オーケー、この程度はダメージの内に入らねぇってか」
尾弐がげんなりと呟くが、品岡も同じ気持ちだった。
頭をかち割られようとも、手足をもがれようとも、すぐに周囲の屍肉が隆起して傷を塞いでしまう。
強烈なヘイトを稼ぎいなし続ける橘音の顔色にも、疲労の影が見え始めた。
>「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
「貧弱すぎまへんか!?」
とは言え橘音が手繰るのは呪具だ。扱うにも相応の妖力を消費するのだろう。
少なくとも千日手ではない。無限に思える耐久力を持つコトリバコ相手に、防戦一方ではジリ貧だ。
>「いや、知ってるし囮やめろよ! 品岡君、体だけ女になって囮交代してあげて!」
「ワシにRと言うとるんか!?」
ノエルの無茶振りに品岡は悲鳴に近い声で怒鳴り返した。
付喪神化したことで力を強めた半面、本来の問答無用の広範囲呪詛は失われている。
やろうと思えば入れ替わり立ち替わり橘音と囮を分担することもできるかも知れないが……
>「ムジナの女装を推すのは止めろ。想像しただけでさっき食った魚肉ソーセージ全部吐きそうだ」
「せやせや!ソーセージはそんな簡単に出したり消したりするもんやないんや!自分も男なら分かるやろ!?」
性別観念が特に希薄な雪女に言っても糠に釘かもしれないが、祈の性転換にもあれだけ集中力を使ったのだ。
勝手知ったる自分の肉体とは言え、重要臓器を埋めたり空けたり生やしたりを戦闘中にできるほど余裕のある状況ではない。
「ちゅうか嬢ちゃんはどこ行ったんや!何の為にソーセージした(完了動詞)と思っとんねん!」
コトリバコと最初の交戦に入ったあたりから祈の霊圧が消えていた。
逃げた、というわけではないだろう。信頼ではなく論理的な根拠として、あの覚悟の宿った双眸が脳裏に浮かんだ。
依然として追い詰められつつあるブリーチャーズ。訪れた戦況の変化は好転ではなく――絶望の鐘が鳴った。
遠くから聞こえてくる、目の前のコトリバコとは別の鳴き声。それも一つではない。
- 243 :
- >「ま……、まさか……!」
>「そのまさかみたいだね……!」
>「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」
「あかんやろ……反則ちゃうんかそんなん……」
戦場となった薬局周辺に集うようにして現れたのは、新手のコトリバコ――7体。
交戦中のハッカイと合わせて計8体のコトリバコ、イッポウからハッカイまでご丁寧に全種類が勢揃いだ。
>「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
「もっと良いグラボを買えええーーーっ!!」
あまりの絶望的展開に錯乱した品岡の見当違いのツッコミが飛ぶ。
>「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」
「わはははははアニキ面白い冗談言わはりますな!……今まで割に合う仕事があったかっちゅうねん」
>「あ、あれぇ〜?これは……死んだ、かなぁ……?」
「坊っちゃん!?」
橘音がマジなトーンで零す。
あの飄々としていつも人を食ったような、ある意味超然とした態度を崩さなかったブリーチャーズのブレインが。
流石にお手上げとばかりにそう言った。この世のどんなものよりも絶望的な宣告だった。
――強敵に訪れた増援、破滅のムードに飲まれつつある東京ブリーチャーズ。
だが、そんな深刻な事態にあってもまったく空気を読まないある意味最強の男がいた!
>「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし凍てつきゅ…氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!」
(噛んだな。おもくそ噛んだ)
絶望をものともせず、ノエルが謎の呪文詠唱を始める。
途中思いっきり噛んだ気がするが妖気の高まりは失敗を感じさせない。
なんというガバガバな設定であろうか!!
>「エターナルフォースブリザード!!」
解き放たれた氷雪な波動が8体のコトリバコ達を襲い、相手は死ぬ。
いや死ななかった、元から死んでるからかもしれないが凄まじい猛吹雪を受けてなおコトリバコ達は健在だ。
しかしそれでも、手足を凍りつかされたことで今にも飛びかからんとしていた付喪神達はその動きを止める!
>「だから言ったじゃん! 囮なんてもうやめて!」
「助かっ……ちゃおらんな。連中すぐ動き出すで」
>「……分が悪ぃな、こりゃ。那須野、ノエル、ムジナ。ここは俺が食い止める。祈の嬢ちゃんを見つけ出して逃」
>「悪いね。ちょっと席外しちゃって」
尾弐が撤退を提案するその刹那、突風と共にいなくなっていた祈が姿を現した。
品岡は彼女を指差して大声を上げた。
「どこ行っとってん!小便は帰るまで我慢や言うたやろ!!」
- 244 :
- しかし祈はお花摘みに中座したわけではないらしい。
それが証拠に彼女が身体や手足をぐるぐる巻きにしている白い物体はトイレットペーパーではなく分厚い布だ。
同じものの予備も持ってきたらしき祈は布の山を地面に置く。
「……戦えるんやな、嬢ちゃん」
品岡は糾弾をやめて静かにそう言った。
少女は答えない。応答は、言葉ではなく姿勢で示した。
祈の姿が再び消える。風が巻き、再び彼女が出現したのはハッカイの真後ろだった。
その俊足で敵の後ろに回り込んだのだ。
>「……ごめんな」
祈はハッカイの後ろで何事かをつぶやき、その足元に蹴りを入れた。
「あかん!嬢ちゃんがなんぼ足速くてもそいつのぶっとい足には蹴り負け――」
――ハッカイの柱と見まごう異形の脚が、爆発したように吹っ飛んだ。
千切れ飛んだ巨大な左足が人知を超えた速度で飛び、路肩の乗用車に直撃して爆ぜた。
「えっ」
品岡が事態を認識し切れないうちにもう片方、コトリバコの右足も同様に切断され宙を舞う。
その巨体を支えきれなくなったハッカイはアスファルトの上に崩れ落ちた。
鈍重な轟音がこちらまで響いてきて、品岡はようやく祈の蹴りがコトリバコの脚を二本ふっ飛ばしたのだと理解した。
「嬢ちゃんってあんな強かったんか……!?」
理屈の上では分かる。ターボババァの脚力で、構造的に脆い関節部を攻撃し破壊したのだ。
祈の妖怪としての戦闘力を完全に過小評価していた品岡は開いた口が塞がらない。
(ワシ、アレに説教ぶっこいとったんか)
もしも品岡が祈の性転換に悪意を混ぜ、彼女の人生を台無しにしていたら。
あの蹴りは、間違いなく品岡に向けて放たれていただろう。
いや、そうでなくとも祈はあの圧倒的な暴力を背景に品岡を脅すことだってできたはずだ。
それを良しとせず、彼女はあくまで自身の覚悟を見せることで品岡から最大限の譲歩を引き出した。
――あの時、自分が感じた祈に対する畏怖。あれは本物だったのだ。
コトリバコの傷口から迸る粘液を布で防ぎ、破損すればとっかえひっかえで祈は戦闘を続ける。
一度退いたように見えたのは、コトリバコの特性を理解し適切な対策を施して戦線に復帰する為。
多甫祈。ターボババァの孫にして、ブリーチャーズ唯一の、妖怪混じりの人間。
誰に教えられるでもなく、たった十余年の経験だけで最適解を導き出す、戦闘センスの申し子だ。
>「御幸っ! お願い!」
ハッカイの機動力を削ぎ、地に顎を付けさせた祈がノエルを呼ぶ。
いつの間にか杖をしまい氷の双剣を手にしたノエルが応じるように跳んだ。
>「見切ったあ!」
ノエルは祈の持ってきた布――遮光カーテンをハッカイに被せ、粘液を封じる。
そのまま両の剣を縦横無尽に奔らせた。
切り裂かれたコトリバコの皮膚から溢れる粘液がカーテンを染め、溶かし尽くしていく。
切り落とされた布の奥から、全身に裂傷を刻んだハッカイの姿が出てきた。
浅い。凍結によるダメージは入っているが、ノエルの細腕では巨躯を完全には断てなかったようだ。
傷を癒やしきれないままにハッカイは動き始める。
- 245 :
- >「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」
「何言っとるんやあいつ……」
こんな時にも発動するあれはもはや「ノエル」という名の状態異常かもしれない。
脚を失ったハッカイが身をよじらせてタックルを仕掛ける。ノエルはそれを危なげなく退避した。
身体をささえられないハッカイは地面を滑り、その衝撃で右の豪腕が外れて転がった。
「通っとったんか、刃が!」
ノエルの斬撃線と同じ部位が切り離されている。
皮一枚を断ったと見えて、その実皮一枚を残して他を断っていたのだ。
げに恐るべきはその刃の冴え、雪女の妖力は伊達ではない。
>「たーすーけーてー!!」
戦果を確認することなくノエルは走る、その先には氷の金棒を抱えた尾弐がいる。
釣り野伏の如く釣られて這いずるハッカイは、手足がないながらも凄まじい速度で尾弐へと迫る。
「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」
隅っこで解説要員になっていた品岡は勝機に拳を握った。
尾弐が道路標識を振り被る。あれを直撃されればいかなハッカイと言えどもケ枯れは確実!
カウンターを合わせるように、迫り来るコトリバコへ完璧なタイミングで標識が振り下ろされ――
>「な、ぐがっ―――!?」
――横合いから飛んできた軽自動車に尾弐が跳ね飛ばされた。
「アニキ!!」
軽自動車ごと店舗の壁に叩きつけられ、尾弐は血を流しながら咳き込む。
いや壁と車に挟まれてその程度で済んでるのも大概頭おかしい耐久だが、問題は別にある。
『誰が車を飛ばしたか』――
「もう動き出したんか!」
車を投げ飛ばしたのはハッカイではない他のコトリバコ。
その大きさから見当をつけるに、ノエルに凍りつかされていたニホウとサンポウの二体だ。
>「っ……て、めぇ……ら……そうかい……そうかよ」
「あかんアニキ、追撃来とります!!」
品岡が言うが早いか、既に尾弐の直上には更なるコトリバコの姿があった。
シッポウ。その豪腕に例の緑の液体を纏い、尾弐へのトドメとせんばかりに振り下ろす。
尾弐は品岡へ首を向けて、コトリバコの咆哮にも負けない怒号を放った。
>「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」
それを最後にシッポウが尾弐へと激突し、ニホウとサンポウも追ってそこへ飛び込んでいく。
声はかき消され、尾弐の顔はすぐに見えなくなった。
「"助けろ"でもなく"手伝え"でもなく……でっか」
尾弐は自身が窮地に陥ってなお、品岡に助力を求めるのではなく仲間への援護を指示した。
それは品岡では尾弐を助けられないという軽視か――違う。
品岡ならば、祈にノエル、橘音を助けられるという、信頼だ。
- 246 :
- 「なるほど確かにクソガキの癇癪から他の子供を守ってやるのも……大人の役目ですな」
尾弐と品岡は東京ブリーチャーズにおける『大人』……実年齢ではなく立ち回りとしての大人という立場だ。
無論そこには荒事担当というポジショニングの理由も含まれているが、それだけではないと品岡は思う。思いたい。
たとえ盃を交わしていなくとも、一方的に慕っているだけだとしても。
尾弐と品岡は義兄弟だ。――兄貴分の信頼には、応えるのが舎弟の身上だ。
「ほな、兄貴が三匹引き受けてくるっちゅうさかい……ワシは二匹ばかし相手にしようかね」
懐から煙草を取り出し、片手で火を点ける。
肺一杯に煙を吸い込んで吐き出した彼の眼前には、二体のコトリバコが凍結から復帰し動き始めていた。
牛程度の大きさの『イッポウ』とライトバンほどの『ロッポウ』。
イッポウはコトリバコの中においては最下位だが、それでも複数人を容易く殺める呪詛を持っている。
ロッポウに至ってはその強力さを語るべくもない。
スレッジハンマーを肩に担い、煙草を挟んだ指先をクイクイと曲げて二体のコトリバコを挑発する。
「来いやガキども。たかだか百年ぽっち生きた程度で図に乗るんちゃうぞ。大人の怖さ教えたるわ」
――――!――――!!
言葉として認識できない金切り声を挙げながら、まずイッポウが飛び掛かってきた。
最優先目標として橘音を狙うようだが、武器を構えて敵対した者を放置しておくほど愚かではないらしい。
先程尾弐をハメたように、コトリバコ達は急速に成長して知恵をつけ始めている。
始めている、というのがキモだ。完全に手をつけられなくなる前に潰してしまえば憂いはない。
「あの馬鹿が季節考えずに吹雪吹かすせいで寒かったやろ。ワシ気遣いの達人だからそういうの分かっちゃう」
アスファルトを蹴立てて向かってくるイッポウに、品岡は指先の煙草を弾いて飛ばした。
形状変化により巨大化しながら宙を舞う煙草。燃える物が大きくなれば、当然火種も大きくなる。
燃え盛る30センチほどの松明と化した煙草の先端がイッポウに直撃し、その額を焼いた。
――――!!
煙草には魔除け、炎には浄化の意味がある。妖怪であれば少なからず苦手とされる組み合わせだ。
悲鳴にも似た声を上げて怯み、一瞬立ち止まるイッポウ。
品岡は空いた手を筒状に丸め、口元に当てた。
「せやから温めたるわ」
丸めた掌に満たされたのは、彼が体内に収納しているものの一つ、ガソリンだ。
品岡はそれを思いっきり吐息でイッポウ目掛けて吹き付けた。
形状変化で巨大化――単純に量を増やした大量のガソリンが、霧状にイッポウを濡らす。
煙草の火種がそれに引火した。
――――――!!!
ボンッ!!と大気の爆ぜる音と共にイッポウの全身が引火したガソリンで炎上する。
継ぎ接ぎだらけの肉体が焼け爛れ、あたりに肉の焼ける悪臭が漂った。
それを眺めていた品岡は、やおら身体をくの字に折った。
「後ろから来ても当たらへんで。ワシ背中に眼ぇついとるから」
彼の頭のあった空間を豪腕が薙いでいった。
凄まじい脚力によって品岡の背後に回り込んだロッポウが、彼の頭を吹き飛ばさんと殴りかかったのだ。
だがそれは『背中に眼をつけた』品岡によって躱され、カウンターのようにロッポウの頭部にスレッジハンマーの先端が突き刺さった。
品岡ムジナの常態は中肉中背の男性だ。
一般人よりかは鍛え込んであるが、それでも重量5kgを超えるハンマーを手足のように振り回すには困難な体型である。
だが彼には形状変化がある。小さくしたハンマーを振りながら、インパクトの瞬間だけ元の大きさに戻す。
そうすることで、まるで小枝を振るうような軽さと速さで鈍重なハンマーの一撃を繰り出せるというからくりだ。
- 247 :
- ――――ッ!!
頭部を棘つきスレッジハンマーで痛打されたロッポウは、しかし頑丈な頚部によって仰け反ることはなかった。
炎上していたイッポウも地面を転がって火を消し、こちらへ飛び掛かってきている。
前方と背後、挟み撃ちの形になり品岡に逃げ場はない。
果たして、二つの巨大質量の激突は品岡をペシャンコに潰す……ことはなかった。
品岡の周囲に紫電が走り、イッポウとロッポウは見えない壁に阻まれた。
「流石橘音の坊っちゃん、よう効きよるわ」
――禹歩による簡易結界。
だが踏ん張りが必要なハンマーを振るっていた品岡に軽いステップを刻む余裕などあるはずもない。
靴の中。脚の全ての指を形状変化で足そのものに変え、禹歩を刻ませた。
十本の足指にそれぞれ歩法を踏ませる両足×5の五重奏により強引に禹歩の結界を成立させたのだ。
「おら、軽いのから退けや」
返す刀でイッポウの顔面にハンマーを叩き込む。
ロッポウよりも軽いイッポウは衝撃をこらえ切ることができず、アスファルトの上を滑るようにふっ飛ばされた。
ノエルの付与妖術によりそのまま凍りついた地面に縫い止められる。
「ヌルい連携やのう。獣の群れが狩りするのと妖怪相手にするんじゃ勝手が違うやろ。
自分らの図体の違いも考慮せんと一緒くたにかかってきたってワシは止められへんで」
簡易結界を破ったロッポウが苛立ちを隠さぬ雄叫びを上げる。品岡はそれを鼻で笑って妖術を行使した。
彼の足元、血と煤に汚れたアスファルトの地面が隆起し、檻を形成してロッポウを閉じ込める。
ロッポウは叫びながら暴れるが、舗装材として耐久力と柔軟性を兼ね備えたアスファルトは容易に砕けない。
「無駄無駄ぁ、10トントラックが上走っても平気な骨材式アスファルトや。19世紀にゃこんな材質あらへんかったやろ」
背後で氷結による縛りの溶けたイッポウが跳躍するのが見えた。
品岡はハンマーをしまい、代わりの武器を復元しながら振り向いた。
「こっちは昔からある奴や。見たことあるかは知らんけどな」
手の中にあったのは黒光りする拳銃。ヤクザ御用達と風評被害に定評のあるトカレフだ。
品岡は飛びかかるイッポウへ向けてそれを連射。ドン、ドンと発砲音が立て続けに響き、同じ数だけ地面が弾ける。
恐るべきはコトリバコの学習能力、イッポウは銃弾をジグザグに走ることで避けながら肉迫する。
「あかん!全然当たらんわ!ヤクザもコスト削減でろくに銃なんか撃たせてくれんもんなぁ」
愚痴を垂れながらも引き金を引き続ける。
やがてマガジンが空になる頃、ついに一発がイッポウの脇腹に命中した。
しかし拳銃弾一発程度で付喪神が止まるわけもなく、赤子の口を邪悪に広げて噛み付いてきた。
「そら!……おおん?」
品岡は再びアスファルトを隆起させて壁を作り出すが、囲う前にイッポウが飛び退いたことで檻は虚しく空を切る。
学習しているのだ。ロッポウの二の轍を踏ませることは不可能。同時にトカレフの弾も切れた。
――――――!――――――!!
引き金を引いても弾が出てこないことに気付いたイッポウがあざ笑うかのように鳴いた。
炎による熱傷も、拳銃による銃創も、持ち前の再生力ですでに傷の痕跡すらない。
イッポウは既に分析していた。この品岡ムジナという男の持ちうる手段では自分を殺せないと。
炎も銃も全て虚仮威しで、地面隆起の檻にさえ閉じ込められなければ如何ようにでも料理できると。
なにせ自分は疲れ知らずの付喪神、何度でも飛び掛かって疲労させ、いずれ生まれる隙を突けば良い。
- 248 :
- 「……小賢しい糞餓鬼やなぁ。ええけどな、学ぶことは子供の特権や言うやろ。
勉強しとけ。最初に言うたように、ワシが自分に教えるんは大人の怖さや。いくつかあるからよう聞いとけ」
イッポウへ向けて人差し指を立てる。
「ひとつ、年上には敬意を払えや。ワシは自分の三倍は生きとる大先輩やぞ」
ぼこん、とくぐもった音を立ててイッポウの身体が膨らんだ。
イッポウ自身の意志によるものではない。奇声に困惑の色が交じる。
品岡は二本目の指を立てた。
「ふたつ、妖怪同士の戦いで、一発入れたら終いなんてことあるわけないやろ」
膨張の源は、イッポウに打ち込まれた小さな拳銃弾。
ただの銃弾ではない品岡の特製だ。と言っても何か特別な呪術が施されているわけではない。
本当に、そのままの意味で、品岡が作った弾である。
ヤクザ社会に荒れ狂う絶不況という波が真っ先に直撃したのは、彼らの得物……銃だった。
輸入コストや密輸の費用が上乗せされ、今や弾一発に千円近い値段がついている。
貧乏ヤクザの品岡は苦肉の策として使用済みの薬莢と火薬を組み合わせ、銃弾を自作していた。
その弾頭となる金属は、これも組の経営するスクラップ工場から得た廃材だ。
「みっつ、最後に教えるんは自分がこれまで散々他人に押し付けてきた――」
イッポウの体内で膨張する銃弾の塊は、セダン型の乗用車のフレームだった。
品岡の弾丸はそれら廃車を小さく纏めることで作り出され、たった今それを復元した。
彼の妖術は触れた物体の形状変化。形を変えることは触れなければできないが、
祈に渡した呪符のように、妖力を遮断して形を元に戻すこと自体は離れていても可能である。
体内で急速に元の大きさに戻ろうとする力が、イッポウの肉体強度を上回った時。
「――身体を内側から食い破られる痛みや」
イッポウの肉体が破裂し、中から体液によって半分溶けかけた廃車のフレームが飛び出した。
コトリバコの付喪神は内臓の全てを押し潰され、巨躯を半ばから切断されて地面に落ちた。
アスファルトを転がり燃え続ける煙草を拾って咥え直し、真っ白い煙を吐いて踵を返す。
「総評するとこいつが年季の差ってやつやな。以上、品岡おじさんによるはじめての妖怪戦闘、講義終了や。
――勉強代は負けといたるわ」
動かなくなったイッポウを背に振り向いた先で、ロッポウと目が合った。
アスファルトの檻は例の粘液によって溶かし尽くされ、自由になったコトリバコが出てきた所だった。
「……あ、あー……なんでも溶かす粘液のことすっかり忘れとったわ……」
ロッポウと品岡はしばらく無言で見つめ合って、赤子の顎が開くと同時に品岡は猛ダッシュで逃げた。
その背中を無数の粘液が追ってくる。
「ま、待てや!話し合お!話せば分かる!一旦ゲロ吐くのやめやーーーっ!!」
【イッポウ、ロッポウをひきつけ交戦。イッポウを内側から破裂させる。ロッポウと追いかけっこ】
- 249 :
- あ、糞出るわ
ブリュッセル
- 250 :
- 「あらよっと!」
一転して激しい戦闘の坩堝と化した商店街を、縦横に橘音が跳ねる。
>えぇっ!? 囮って……弱いくせに何言ってんの!?
>何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!
ノエルの悲鳴にも似た言葉が示す通り、橘音がからっきし荒事の不得意な化生であることは周知の事実である。
実際、今の橘音にコトリバコを物理的にケ枯れさせる手段はない。
が、『斃せない』は『対抗手段がない』と同義ではない。
獣由来の身のこなし、瞬発力ならば橘音も他のメンバーと大差ない。そして、そこに自分の今回の役目がある。
>ったく、無茶しやがって……あいよ、了解だ大将
付き合いの長い尾弐は、そんな橘音の真意を察したようだ。
橘音と尾弐はブリーチャーズ結成以前から付き合いのある間柄だ。ふたりで妖壊退治に当たったことも少なくない。
以心伝心。そんな感覚に橘音は小さく微笑む。
「ほらほらっ、こっちですよ!あんよは上手……ってね!」
マントをヒラヒラと振って挑発し、コトリバコたちを引き付ける。
狐面探偵七つ道具・マヨイガマントの防御能力と、禹歩のステップが生み出す瞬間的な防御結界。
踊るように戦場を跳ねながら、その二種類を用いて危なげなくコトリバコの攻撃を防いでゆく。
>お乳飲んでゲップせぇへんかった赤子かいな!
「まったくですね!お乳を飲ませた後は、ちゃんとお母さんが背中をトントンしてあげなくちゃ!ネグレクトですよこれ!」
ムジナの言葉に素っ頓狂な相槌を打ちつつ、攻撃を凌ぐ。
増殖したコトリバコの攻撃は苛烈そのもの。普通の化生なら、ひとたまりもなく葬り去られていることだろう。
まさに霊的災害。呪詛兵器。その威力は噂通り、否――噂以上だ。
しかし。
>今まで割に合う仕事があったかっちゅうねん
ムジナの言う通り。今まで、東京ブリーチャーズの仕事に『楽勝』『余裕』などというものが一度でもあっただろうか。
いつでも、薄皮一枚の戦いを繰り広げてきた。こちらに犠牲が出たことだって、一度や二度ではない。
今回も同じ。自分たちを上回る化生を相手に粘り、凌ぎ、対策を立て、一歩先んじる。
それだけの話だ。
――とはいえ、ですよ……。
息が上がる。喉がひりつく。回避に専念しつつも、その動きが鈍くなってゆくのが自分でもわかる。
いくら他のメンバーに負けないすばしっこさがあるとは言っても、スタミナはない。
こんなことなら普段からトレーニングでもしておくんだった……などと思うも、後の祭りである。
他のメンバーがそれぞれ懸命にコトリバコたちに食らいつき、負担を減らそうとしてくれているが、それにも限度がある。
>だから言ったじゃん! 囮なんてもうやめて!
ノエルが橘音の前に出、両手に氷の刀を出現させる。
雪女由来の見目の麗しさに加えて、透き通る氷の刃を携えたノエルの姿は凛然として、溜息が出るほど美しい。
和パンクな出で立ちも相俟って、刀剣ナントカだのが好きな腐女子の皆さんが見れば卒倒間違いなしの凛々しさだ。
……中身が変態なことを除けば。
- 251 :
- 「えぇ〜?いいじゃないですかぁ、ボクもたまには目立ちたいんです〜」
そんなとぼけたことを言う。ノエルの氷結技能を信頼しきっているからこその弁だ。
正直、戦況は不利である。この状況では、メンバーの誰もが自らを護ることだけで手一杯に違いない。
だというのに、ノエルは橘音のことを案じてくれている。橘音だけではない、ノエルは全員のことを見ているのだろう。
先程も、ノエルが全員の得物に氷の属性付与をしているのが見えた。
メンバーのサポート担当という自分の役目を把握し、それを忠実に実行している証拠だ。
普段は(非常時も)とぼけた言動でいまいち頼りない印象のノエルだが、その実彼の援護射撃には隙がない。
今も、八体のコトリバコが彼の冷気によって凍り付き、その動きを止めたばかりだ。
……とはいえ。
――さすがに、このままじゃキツイですね……。
ちらり、と一瞬ムジナを見る。ムジナはまだ無傷だ。
次の策を用いるべきか。そう算段し、全員に指示するべく口を開きかけた、そのとき。
>悪いね。ちょっと席外しちゃって
いつの間にか姿を消していた祈が戦列に復帰した。
が、その姿は異様極まる。まるでハロウィンの仮装だ。
「ト……、トリック・オア・トリート?すみません、今はキャンディの持ち合わせがなくって!」
馬鹿なことを言う。しかし、祈はもちろん悪ふざけでこんな格好をしたわけではなかった。
白い閃光のように、祈が奔る。――その速さは稲妻のよう。人外の動体視力を有する橘音も、一瞬その姿を見失うほどだった。
気がつけば、祈はハッカイの太短い脚を割り箸でも圧し折るかのようにちぎり飛ばしていた。
「おぉ……」
あんな小さな少女のどこにそんな力があるのか。いつもながら、祈の攻撃力には驚嘆せずにはいられない。
コトリバコが甲高い悲鳴をあげる。ちぎり飛ばされた切断面から、濁流のように濃緑色の粘液が迸る。
祈はそれを身に纏ったシーツで受けとめると、煙をあげながら溶けてゆくそれを素早く脱ぎ捨て、別の布をかぶった。
「……なるほど。上手い」
感心した。
当意即妙、臨機応変な祈の戦術は、予め綿密な作戦を用意しておくことを良しとする橘音の戦略とはまるで異なる。
それこそが人間の血を引く祈の最大の特性と言って差し支えないだろう。妖怪の持ちえない、人間ならではの機転。
それが、ターボババア由来の肉体と双璧をなす祈の武器なのだ。
そして。
「迷いは、ないみたいですね」
当初橘音が祈を今回のメンバーから外そうとしたのは、彼女が呪詛の対象であるという理由の他に、もうひとつ。
それは『同情』だった。
祈はメンバーの中で誰よりも優しい。それもまた、彼女が半分人間であるがゆえの要素だろう。
しかし、優しさは時に自らを縛る枷にもなる。
もし、彼女がコトリバコの由来を知ったなら。呪具の素材として使われた赤子の苦しみを知ったなら。
八尺様との戦いでも自責の念に囚われていた祈だ。彼女は間違いなく『同情』する。
そうなれば、いかなる理由があろうと無辜の赤子を攻撃するという行為に対して躊躇いを覚えてしまうかもしれない。
戦場で躊躇することは死を意味する――そう、思っていたのだが。
現在の戦いぶりを見る限り、祈の行動に逡巡はない。
むろん何の感情も抱いていないということはないのだろうが、少なくとも今の彼女には戦いを優先する自制心があるということだ。
きっと、彼女の抱いている『東京ブリーチャーズの一員であることの誇り』がそうさせるのだろう。
それならば、もうなんの心配もない。
――がんばって、祈ちゃん。
無言で彼女にエールを送ると、橘音は祈から視線を外した。
- 252 :
- >な、ぐがっ―――!?
ドガァァァァァァッ!!!
尾弐のうめき声と、その直後の轟音に、橘音は咄嗟に振り向いた。
見れば、尾弐が軽自動車の激突を喰らい、商店街の店舗の壁面に叩きつけられている。
「クロオさん!」
思わず叫ぶ。ブリーチャーズ随一の頑強さを誇る尾弐だ、致命傷には至っていないようだが、それでも少なからぬダメージであろう。
解せないのは尾弐の様子だ。百戦錬磨の尾弐が自動車の投擲などというモーションの大きな攻撃に対処できない筈がない。
いつものように左腕で払いのけるなりすればいいだけの話だ。尾弐の膂力はそれを充分可能にする。
何かに気を取られていた?いや――
――左腕が。動いていない……?
壁に激突した尾弐の異変に気付く。今の攻撃によって負傷したのか?
違う。あの様子では、そのずっと前から。恐らく半地下の探偵事務所でブリーフィングをしていたときから。
破魔の刃物を用意した頃から、動いていなかったのだろう。
尾弐が巧妙に隠していたということもあるが、今の今まで囮に専念していたお蔭で、橘音はついぞそれに気付かなかった。
……が、それに気付いても、橘音は尾弐の援護に行くようなことはしない。
それを指摘し、他のメンバーたちに教えるようなこともしない。
尾弐が先程、無謀としか思えない橘音の囮宣言を黙して受け入れたように。
橘音もまた、尾弐の力を信じて疑わないからだ。
>ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
大気を震わせるような、尾弐の怒号。
それは強がりでも何でもない。『できる』からこその言葉であろう。
例え圧倒的な劣勢にあっても。腕が片方動かなくても。
尾弐は『片付ける』と言った。ならば、もう心配はいらない。
>来いやガキども。たかだか百年ぽっち生きた程度で図に乗るんちゃうぞ。大人の怖さ教えたるわ
怒号と共に突進してきた『チッポウ』の攻撃をトン、と軽快なステップを踏んで往なしながら、ムジナを見る。
ムジナは『イッポウ』『ロッポウ』を相手にスレッジハンマーを担ぎ、真正面から迎え撃とうとしていた。
チンピラ以外の何者でもない風貌のムジナが剣呑な凶器を手に啖呵を切る姿は、まさしくVシネマの世界だ。
が、相手は敵対暴力団の差し向けた鉄砲玉でもなければ、ヒットマンでもない。
鞍馬山で永年封印指定を受けた呪詛兵器『コトリバコ』の眷属である。
「よっ!ムジナさんかっこいい!千両役者!」
軽く茶化して、またヒラリとチッポウの攻撃を避ける。
祈の戦法が人間の柔軟な思考に裏打ちされたものなら、ムジナの戦いは化かし系の手本のような戦い方だ。
『騙す』ということは、妖怪にとって単なるいたずら以上に特別な意味を持つ。
人間をその知能では理解できない手段で欺き、化かし、騙す。
そうすることで人間は妖怪を『人間より上位のもの』『偉大なもの』『畏怖すべきもの』と認識する。
そして、その感情が。畏怖が、尊崇が、妖怪により強い力を与える。
人間に侮られ、軽んじられてしまえば、妖怪はおしまいなのだ。――よって、妖怪は人間を騙し、化かし続ける。
ムジナの戦い方は、その集大成のようなものだった。
ムジナの攻撃は一見、妖壊には何の効果もなさそうなものばかりだ。
しかし、『なんの効果もなさそう』――そう思い込むこと自体が、すでにムジナの術中に嵌っている。
牛ほどの大きさのイッポウの身体を内部から食い破るように、乗用車のフレームが飛び出してくる。
イッポウはセダンに胴体を分断されると、泣き声とも断末魔ともつかない叫び声をあげてうつ伏せに倒れた。
そして、そのままブクブクと緑色の膿になって溶解していく。
後に残されたのは、ひとつの古ぼけた寄木細工。
『ケ枯れ』だ。
- 253 :
- 『イッポウ』はムジナが見事な騙しのテクニックでケ枯れさせた。次の相手は『ロッポウ』だ。
『ニホウ』『サンポウ』『シッポウ』は尾弐が引き付けている。
『ハッカイ』は祈とノエルを当面撃滅すべき対象と認識したらしい。
では。
オギャアアアアアアアア!!!!!オオオオオオオギャアアアアアアア――――――――――ッ!!!!
『チッポウ』は自分の担当だ。
腕を振り上げ、時に口から溶解液を吐き出して攻撃してくるチッポウから身を翻しながら、橘音は戦場を奔る。
とっくに息は上がり、身体も鉛のように重い。息を喘がせながら駆ける姿は、ただ闇雲に逃げ回っているようにしか見えない。
グオッ!!
チッポウの右腕が、まるで蟻でも叩き潰すかのように振り下ろされ、アスファルトが砕け散る。
チッポウは七番目のコトリバコ。ハッカイに次ぐ巨体と破壊力を有している。
張り手一発で盛大にヒビの入った地面を振り返り、橘音は背筋にツララを差し込まれたような悪寒を味わった。
「あんなの喰らったら、ボクみたいに華奢なコは一発でミンチですよ!」
誰に言うともなく、そんな泣き言を口にする。
しかし、他のメンバーの援護は期待できない。今でさえメンバーには大きな負担を強いているのだ。
自分ひとりだけが安閑としてはいられまい。
――それにしても。
チッポウの溶解液をマントで凌ぎつつ、橘音は周囲に視線を走らせる。
今、戦場にいるコトリバコは六体。イッポウはムジナがケ枯れさせたから除外するとして、一体足りない。
ニホウ、サンポウ、シッポウは尾弐を取り囲んでいる。ロッポウはムジナを追いかけている。
チッポウは橘音のすぐ後ろにいる。ハッカイは祈とノエルにかかりきりだ。
だとしたら。
『ゴホウ』はいったい、どこへ行ったのだろう?
その疑問は、すぐに解消された。
ボッ!!
チッポウが橘音に向けて、恐るべき速度で何か小さなものを投げつけてくる。
橘音はそれを避けようと、逃げながら僅かに身じろぎした。
しばらく前から、チッポウは逃げ回る橘音に手近なアスファルト片や雑貨類、コンクリートブロックなどを投げつけてきていた。
軽自動車すら軽々と投げるコトリバコの怪力で投擲されるそれは、当たれば必殺の威力を誇る。
といって、そうそう命中するものではない。橘音は今回も必要最小限の動きで回避しようと身を捩ったのだが――
今回投げられた『それ』は、アスファルト片やその辺に転がっている雑貨ではなかった。
キャハハハハハハッ……ギャハッ!アギギギギギィィィィッ!!!
「……な……!?しまった!」
癇高い、耳障りな笑い声が耳を打つ。仮面の奥で橘音は瞠目した。
投擲物が橘音の眼前で突然膨張し、無数の赤子となって橘音に抱きついたのだ。
チッポウが投擲したのは、ゴホウのコトリバコ――その本体である寄木細工。
体力の消耗を抑えるため、紙一重で回避していたのが仇となった。
「う……うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」
コトリバコの接触を受けることは、女性にとっては避けられぬ死の到来を意味している。
それは妖怪であっても変わりない。うぞうぞと蠢くゴホウのコトリバコたちが、あたかも親に甘えるように橘音の身体に縋りつく。
触れた場所から白煙が上がる。女子供をRことに特化した即効性の呪詛が、橘音の全身を冒してゆく――。
その悍ましい感覚に、橘音は絶叫した。
- 254 :
- 「うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」
子獲りの呪いに侵食され、橘音は叫び声をあげた。
その効力は強力無比、凶悪無双。解呪の方法はなく、一度受ければ待っているのは死、それ以外にない。
コトリバコに抱きつかれた橘音も例に漏れず、ほどなく目鼻や耳、口から出血し、下腹部を破裂させて死に至るのだろう。
と、思ったが。
「ぎゃああああ〜っ!死ぃ〜ぬぅ〜っ!呪いで死んでしまうぅ〜っ!」
橘音は舌を出してさも苦しそうに喉を掻きむしる仕草をし、身体をくねらせた。
だが、その苦しみようはいやに芝居がかっており、わざとらしい。
ひとしきり苦悶するそぶりを見せた後で、橘音は徐にコホンと空咳を打つと、
「……な〜んちゃって」
と、言った。
死なない。
「一体いつから――ボクが女の子だと錯覚していたんです?」
へばりつくゴホウたちを見下ろし、口角にしてやったりといった笑みを刻む。
橘音は商店街に入る際、行く手を阻む警官に妖術をかけることで立ち入りを可能にした。
自分を偽り、まったく別の何かに見せかけて翻弄する、妖狐の十八番――幻惑視。
それと同じことを、ファースト・コンタクトの瞬間コトリバコにも施したのである。
純粋な呪詛兵器としてのコトリバコが相手であったなら、幻惑視は使えなかった。
が、今のコトリバコは付喪神化し、妖壊に変貌している。赤子には目があり、耳があり、そして学習する知能がある。
感覚器を備え、知能を有するということは、つまり『騙せる』ということだ。
肉体改造とは異なる、相手の意識認識を混乱させ齟齬を起こさせる術。
そして、コトリバコたちはまんまとそれに引っかかった。
「はいはいっ、邪魔邪魔!ボクはママじゃありませんからね、どいたどいた!」
マントで赤子を払いのけ、大きく跳躍する。
ゴホウ、チッポウから距離を取ると同時に靴の踵で着地点をタタン、と踏みしめ、それから反時計回りにターンする。
場にそぐわない軽快な足運び、それは先刻事務所で見せた――
「イッツ!ショータ――――イムッ!!」
タンッ!と最後に地面を強く踏むと、その瞬間に橘音の足元を起点として何か複雑な紋様が地面を走り、戦闘区域全体を覆ってゆく。
紋様から、眩い光が迸る。それに触れたコトリバコたちの動きが、瞬く間に鈍くなってゆく。
『禹歩』。
しかし、事務所でメンバーに教えたような簡単なものとは違う。正真正銘、正式の手順を踏まえた禹歩による結界である。
橘音は何も闇雲に戦場を右往左往し、囮を務めていたわけではない。
囮として逃げる一方で、戦闘区域全体に禹歩による結界を構築していたのだ。
オォオォオォォォォ……、ギャアァアァァァァアアアアアァァアァァアアァ……!!!
コトリバコたちが苦しげにのたうち、喉の奥から恨みがましい声を絞り出す。
破魔の結界が効果を発揮している証拠だ。編み上げるのに時間はかかったが、その効き目は覿面である。
「さぁーてっ!皆さん、劣勢ターンはこの辺りで!そろそろ反撃と行きましょうか!」
バサリと大きくマントを翻し、かぶっている学帽のつばを白手袋で軽く押し上げて。
橘音はメンバーにそう言い放った。
- 255 :
- あー、
そういう設定気持ち悪いから本気でやめて
- 256 :
- >「あれぇ〜? おっかしいなあ〜」
コトリバコの赤ん坊『ハッカイ』に飛び乗り、妖怪にしか見えぬ霊的な継ぎ目を余すことなく切り刻んだノエル。
その後、コトリバコの赤ん坊から飛び降りてヒーローの如く三点着地を決めて見せた彼が呟いたのはそんな言葉であった。
背後でコトリバコの赤ん坊が爆発四散でもしているかと思えば、そんな事はない。
「……へ?」
祈は瞬間、呆けた。
別段、爆発を期待していた訳ではないのだが、あんなにカッコ付けといてそれはないだろ、という顔になる。
切り刻まれたコトリバコの赤ん坊はと言えば、全身から緑色の体液や血を撒き散らしているものの
依然として戦闘続行可能な様子であった。
と言ってもそれは見る者が見れば、もはや蛇腹切りにされた胡瓜の如く、
かろうじて皮一枚で繋がっているだけの状態だと解るのだが、妖怪的な感覚にいまいち欠ける祈にはそれが解らない。
ノエルへと体当たりを決行しようとするハッカイの姿を見て、まだ全然元気そうじゃんなどと思えてしまう。
>「たーすーけーてー!!」
悲鳴を上げ、尾弐の元へと逃げ去るノエルを脇目に見ながら、
祈はコトリバコの強酸性粘液が付着した布を脱ぎ捨て、素早く別の布で体と足を覆った。そして思う。
(ほんと変な奴だよなー、御幸って)
一時戦場を離れる前から目の端に入っていたが、ノエルの姿は黒髪から銀髪に、瞳の色は青へと変わっていた。
また、手には氷で作り上げた錫杖を持ち、それを振るっていたと思っていたのだが、
戻ってくれば今度は氷の刀を二本握り込み、二刀流を演じている。
天然かと思えば意外と鋭い所を突いたり、かっこよく決めたと思えば決められていなかったりするし、
姿も戦闘スタイルも、何もかもがコロコロ変わる。まるで山の天気か秋の空だ。全く訳が分からない。
それらをひっくるめて、祈なりの言葉で一言で表すと『変』なのである。
姿と言えば、祈が品岡の形状変化の術を受けていた時、隣に座っていたのはノエルだったと祈は思うのだが、
その記憶の中の姿もまた、いまいち一致しなかった。
トランス状態にあったせいで幻でも見たのあろうか、
ノエルとは別人の、ぱっちりした瞳が印象的な美女の姿を見たような気がするのだった。
かといってトランスから目覚めれば、手を握って隣に座っていたのはいつもと変わらぬノエルであって。
(まったく、よくわかんない奴……)
なんであれ、ハッカイのコトリバコの力は祈とノエルの連携である程度削いだはずだ。
ノエルが逃げ込んだ先には尾弐もいる。ノエルだけでは駄目でも尾弐ならなんとかしてくれるであろうし、
品岡だって戦力として大いに期待できる。
ハッカイへと氷でできた金棒(金棒と言うのはおかしいのだが見た目がそれらしいので)を
振りかぶる尾弐の姿も確認できたし、祈は安心して次のコトリバコにかかればいい。
――そう思っていた。
>「な、ぐがっ―――!?」
聞き慣れぬ尾弐の苦鳴。
次いで、轟音。大きな質量を持った何かが激突する音と、金属がアスファルトを擦る不快な音が混じりあう。
祈は他のコトリバコへと向けようとしていた視線を戻し、目を見開いた。
尾弐が立っていた場所。ノエルが隠れようとしていた頼もしい背中があった場所。そこに尾弐の姿はなかった。
代わりに足元のアスファルトには、巨大な何かが擦れて傷をつけたであろう跡があり、
その痕跡を目で追っていくと、その先に軽自動車が転がっていた。
そしてその軽自動車と店舗の間に挟まれる形になっている尾弐の姿を見つける。
それを見て笑う、『ニホウ』と『サンポウ』――二番目と三番目に小さいコトリバコの赤ん坊もまた、目に入った。
- 257 :
- 「尾弐のおっさん!!」
祈は思わず叫んだ。
油断した。祈はコトリバコ達が氷漬けにされている筈の場所に目を向け、
何もいないことに今ようやく気付く。祈は他のコトリバコは全てノエルが凍結させ、動きを封じたものと思い込んでいた。
そして何よりハッカイのコトリバコだけに目を奪われすぎていたのだ。
既に他のコトリバコの赤ん坊達は、氷の呪縛を解いて行動を開始しており、
ダメ押しとばかりに尾弐へと『シッポウ』が向かう。助けに向かうべきでは、と祈の本能が告げた。
>「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
> テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」
だが、尾弐の地の底から響くような怒号が、祈の耳にも届く。
その声が言っている。俺は大丈夫だと。
そうだ、と祈は思い直す。祈は尾弐程タフな妖怪を知らないし、倒れる姿など想像できない。
いかに強力な怪異が相手であっても、尾弐はきっと負けない。
今日はたまたま調子が悪くて――どうせまた事務所に来る前にお酒とちゃんぽんを食べたのだろう。
食べ合わせが悪いらしいし――、コトリバコに不意を突かれただけなのだ。
尾弐が大丈夫だと言うのなら、きっと何も問題はない。
だとすれば。祈にできるのは残りのコトリバコの赤ん坊の相手だ。
ニホウ、サンポウ及びシッポウは尾弐が相手をするとして、
>「ほな、兄貴が三匹引き受けてくるっちゅうさかい……ワシは二匹ばかし相手にしようかね」
イッポウとロッポウは品岡が引き受けた。
品岡の戦いぶりをあまり見たことがないので、祈はそれをちょっとばかり不安げに見送る。
更に、チッポウの囮は橘音がどうやら引き受けたようである。
残りはゴホウと手負いのハッカイだが。しかし。
(ゴホウの姿が見えない……?)
祈は目の上に手をやり、注意深く周囲を見渡した。
ハッカイはノエルを元気に追っている。だがどうやら見た目よりもダメージがあったようで、
バランスを崩した際にその右腕を失っていた。
他のコトリバコたちの動きも見えるのだが、どうしてもゴホウだけ姿が見えない。これはどういうことか。
ゴホウよりも遥か下の位であるイッポウですらノエルの氷を破って攻撃に転じており、
それを鑑みれば、ゴホウも凍結をとっくに解いている筈だと言うのに。
攻撃の機会を伺い、どこかに隠れているのかもしれない。と祈は思う。
だとすれば危険である。皆、目の前の敵に手いっぱいだ。
相手できるギリギリを見極めて引き受けているだろう。
そこにゴホウが不意を突いて乱入するような真似をすれば、すぐにその均衡は崩れてしまう。
ならば両足と右腕を失った手負いのハッカイは、逃げ回っているノエルにそのままどうにかして貰うとして、
隠れているゴホウを探し出して何とかするのが自分の役――。
- 258 :
- そこまで考えた所で、思い至る。違和感があることに。
そこから、『自分が相手をするべきはゴホウではなくハッカイの方である』、という答えに祈は行き着く。
祈が知る限り、ノエルは弱い妖怪ではない。
尾弐のような剛力やタフネスを備えたバリバリの戦闘系妖怪ではないにせよ、
先日の八尺様戦では、尾弐が駆け付けるまでの間、
八尺様の音を追い越すほどの猛攻をほぼ一人で凌ぎきったその技の冴えや戦闘勘、実力は疑いようがない。
また今日に至っては強大な呪いの塊であるコトリバコ達を全て凍てつかせ、
僅かな間とは言えその動きを奪ったほどに強大な妖力をも備えている。
そんな男が、逃げ回るに終始している。それが違和感の元だった。
思えば今日のノエルは張り切り過ぎではなかっただろうか。
氷による遠距離支援攻撃に始まり、仲間へ自身の力を分け与えて武器を強化。
更に橘音を庇う為であろう、二刀を構えて前線へ躍り出て見せた。
そしてコトリバコ8体を凍結させ足止めした後は、祈が要請したことでハッカイへ止めを刺そうとも試みている。
まさに八面六臂の活躍だ。しかもそれらは短時間で行われている。
力を使い過ぎれば当然、枯れる。
止めを刺し損なったのも、力を短時間で使い過ぎて妖力切れが近い故に起こった、事故のような出来事かもしれない。
そうだとすれば、ノエルが逃げ回るのに終始しているのも頷ける話だ。
先程はぎりぎりハッカイの突撃から身を躱していたが、
ノエルならばわざわざ躱さなくとも、巨大な氷の壁の一つや二つ造りだせそうなものだ。
それも、突撃を仕掛けるコトリバコに対し凸型に、ナイフのような鋭い形状の壁を造りだしてしまえば
コトリバコの突撃の勢いを利用して真っ二つに出来そうなものだと言うのに、それすらできていない。
尾弐という強力な前衛を失い、力を回復させる暇もないのかもしれなかった。
無論、単に彼の美的センスが本当にコトリバコの赤ん坊のビジュアルを拒否しているために、
生理的嫌悪のみで、考えもなく逃げ回ってしまっているだけなのかもしれず、
そう考えるとやはりゴホウへの警戒を優先した方がいいのでは、という思いも湧くのだが、
八尺様との戦いの最中で、気を失ったようにぼんやりし始めたノエルの姿が祈の頭にちらついて離れない。
ああなられたら、困る。
「世話焼けるよなぁ、もう!」
祈はぼやきながらまたしても駆けて、数瞬の後にそこそこ離れているノエルの元へと辿り着く。
辿り着くまでの間に、右腕が千切れ飛んだ悲しみや怒りを叫びながら、
残る手足は左腕のみとなったハッカイが器用に起き上がろうとしているのが視界の端に入っている。
このまま起き上がりノエルを視界に収めれば、ハッカイはまたノエルを追うだろう。
そう思った祈は、ノエルの体をふわりと、あくまでも優しく蹴り上げた。
そして精肉店のオーニング(テントとも。店の前に付いているビニール製の屋根のようなもの)の上に着地させる。
「御幸はそこからテキトーに援護とか、姿が見えないゴホウでも探したりしてて!」
その位置ならば周りをよく見渡せるはずであるし、安易にコトリバコの標的にもならないだろう。
力を回復させながら、姿の見えぬゴホウを警戒することも可能であろうし、
手近な場所にはしごもある。いざとなれば飛び降りることのできない高さではない。
加えてそこは、それぞれ仲間が戦っている位置の中間程に位置しているから、行こうと思えば誰の援護にも行けることだろう。
そう祈は咄嗟に考えたのであった。
- 259 :
- 「こっちだ、コトリバコ!」
ハッカイは起き上がって必死にノエル探そうとしたものの、
そのノエルが見つからなかったことで、手近な場所にいる祈へと完全にターゲットを変えたようだった。
左腕だけで器用に這いずり、それなりの速度で祈を追ってくる。
ハッカイを仲間たちから引き離すため、祈は敢えてぎりぎりの速度で走り、コトリバコに追わせた。
尾弐も品岡も、橘音もノエルも、恐らくは目の前の状況に手いっぱいであろうし、
なるべくハッカイの目がそちらに向かないようにせねばならないと思ったのだ。
コトリバコの呪詛によって、祈の目の前で女性が血反吐を吐いて亡くなった時、
その凄惨な姿を見ないよう祈の前に立ち塞がってくれたのは尾弐であり、
目を覆ってくれたのはノエルであり、そして背後から制止の声をかけてくれたのは意外にも品岡であった。
心のないヤクザ者と祈が思っていた品岡すらも、自分を守ってくれている。そう祈は感じる。
だが彼らと肩を並べて立つのであれば、彼らと同じように、危険な相手を一人で相手にせねばならない。
守られるだけでなく、自分もまた彼らを守らなければ。そう思う故に彼らから離れるのだった。
いくらか仲間たちから離れた頃合いであろうか。
やがて、ハッカイは祈を追うことを諦めたのか、動きを止めた。
それに気付いた祈もまた、足を止めて振り向く。
靴の裏にはノエルが施した氷の棘がスパイクのように生えている為、
思ったよりもぴたりと止まった。
ここまで引き付けたのに、気が変わって仲間の方に戻られたら厄介だな、なんてことを考えている祈を、
ハッカイはその暗い眼窩で見据えて、笑っているような、怒っているような、それでいて泣いているような、
複雑な表情を浮かべた。そして頬を膨らませて精一杯に上を向くと、
『ぷぅぅううぅうぅぅぅううううう!!』
口から大量の緑色の粘液を吐き出した。
まるで緑色の噴水――、否、間欠泉だ。ハッカイの体積を明らかに大きく上回る量の粘液が吐き出され、
空気中で拡散。ちぎれて粒となり、周囲に雨のように降り注ぐ。
ハッカイにつられて空を仰いでいた祈は驚愕する。
「おわっ!?」
粘液が降り注ぎ、周囲の店舗が、アスファルトが、焼ける。溶ける。
祈は慌てて外套代わりにしているカーテンを被り直し、粘液の雨をなんとか躱そうと走るが、
広範囲に散らばり、次々落ちてくるそれを全て躱しきることはできなかった。
なんとかシャッターの降りていない店舗を見つけ、陳列されている商品をなぎ倒しながら飛び込んで
やっとの思いで凌いだものの。
それでも被っているカーテンを脱ぎ捨てざるを得ない程に粘液を浴びてしまっていた。
粘液を浴びたカーテンを脱ぎ捨て、最後の一枚へと取り換えながら周囲を見渡すと、
祈がなぎ倒してしまったのはスポーツのユニフォームが陳列されていた棚だったようで、
バスケット用のカラフルなユニフォームが暗い店内に散乱してしまっていた。
他にもシューズやボールなど、様々なスポーツ用品が店内には所狭しと置かれている。
(あたしが逃げ込んだのはスポーツ用品店だったのか……)
そんなことに気づく。
祈は粘液が下に落ち切るのを待ちながら、店内から外の様子を窺った。
店舗の外のアスファルトの様子は酷いもので、雨のように降り注いだ粘液が大小様々な穴を開けており、
とても人が歩けるようなものではなくなっていた。
これはハッカイのコトリバコがいる所まで続いているようであり、
足を取られることなく接近するのが困難になったことを意味していた。
祈は歯噛みした。転びでもすれば、ぐずぐずに溶けたアスファルトに突っ込むことになる為、危険である。
もし接近しようと思えば、まだ溶かされていない箇所を見つけて跳躍するなどしなければならないだろう。
更に。
祈が店舗の出入り口に近付き、ちらりとでもハッカイの様子を窺おうとすれば、
すかさず粘液が吐きつけられた。粘液は店舗の壁やガラス製の扉を瞬く間に溶かしていく。
移動するのを諦めたハッカイは、まるで固定砲台のように、祈の姿を確認するや否や粘液を吐きつけて来るのであった。
- 260 :
- (賢い……)
完全に閉じ込められた形だった。
外に出ようとすれば粘液が飛んでくる。仮に上手く粘液を躱して外に出られたとしても、
先程のように上から大量の粘液を降らされたらどうしようもない。
また、この足場では十分な速度を出すことはできないだろうし、
ハッカイに接近し攻撃に転じるのすら一か八かの賭けになる。
祈が近づいて攻撃するしかできないこと、そして粘液に触れれば死に直結するダメージを負うことを、
十二分に分かった上での行動だった。
そもそも、祈は決定打に欠けている。
なんとかハッカイの手足を千切り飛ばすことはできても、
この細足であのゾウのような巨体を倒せるかどうかは疑問が残った。
手っ取り早く倒すとすれば、あの形態からして思考の核となっているであろう頭を狙った方が早いのであろうが、
それも難しいと思われた。
何故なら祈の足では、あの巨大な頭を潰すには長さが足りないのだ。
蹴りを見舞っても表面を抉るだけになると予想された。
だがより深い場所、例えば脳があると思われる場所にまで攻撃を届かせようとすれば、
祈は体ごと突っ込まねばならない。
それは即ち強酸性の粘液が詰まった袋に身を投げるに等しい行為であり、
いくら体を防護する布を纏っていようと自殺行為である。
だとすれば、コトリバコの赤ん坊を悪戯に苦しませるのは本意ではないが、
ちまちま攻撃して肉体を削り、『ケ枯れ』を起こさせるしかないのだろう。そう祈は結論付ける。
なんにせよ、まずはどうにかこの状況を脱し、接近しなければならない。
――だが、どうやって。
そんな事をつらつら考えていると、
じゅうっ、じゅうっ。と、どこかから音が聞こえてくることに祈は気付いた。
店舗の外からだった。
ハッカイのコトリバコがいる方向から聞こえてくるそれは、
何かが溶かされている音だと思わせた。
『ま”ああああ”! ぎ”ゃっ、やっ! あ”ぁ”っ!!!』
悲鳴じみたハッカイの咆哮が響いた後、またその音が再開される。
ぶしゅう、じゅうっ。その音が近付いていることで祈は察する。
これはハッカイが、祈がいる方向へと粘液を吐き続ける音だ、と。
そうすれば、祈が例え離れた店の中から出てこなくても、ハッカイ自身が移動できなくても、祈を追い詰めることができる。
逃げ場を失った祈に粘液を吐きつけても良いだろうし、飛び出してきた所をまた雨のような粘液で仕留めるも良しである。
赤ん坊のくせに賢すぎやしないか、などと祈が感嘆するのも束の間、やがて祈がいる店舗の壁までもが溶解し始めた。
祈が店の奥へと退避するべきか、それとも一か八か飛び出すかと迷っていると、
溶けた壁に人の頭ほどの穴が開いて、そこからハッカイの姿が覗いた。
そこから見えたハッカイの姿は、祈から動くという行為を奪った。
――ハッカイの左腕が落ちていた。
腐ったように黒く変色したそれは、ハッカイの体の横に転がっている。
当然、左腕までも失ったハッカイは体を支えることも叶わず地に伏しているのだが、
それでも首だけは祈へと恨めし気に向け続けていた。
その顔は、血の涙に塗れている。
『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!』
もう嫌だと、泣き叫んでいるように見えるにも関わらず、
『い”っ、ぎぎぎ”あ”あ”!』
次の瞬間には怒りの形相になり、粘液を吐き出してくる、ハッカイ。
なんとか絞り出されたようなそれは、先程の粘液が壁に穿った人の頭程の穴をどうにか潜って、
祈の足元にまで飛び散った。粘液には緑と黒みの強い赤が混じりあっている。
粘液に混じる赤は、ハッカイの血だ。
『い”あ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”あ”あ”!!! ま”っ! あぶっ、ぷあぁああああ”! げぇっ、げぇえ!』
ハッカイの絶叫。その口が弱々しく開かれて、血をごぶりと吐き出した。
祈はこの赤ん坊が、コトリバコの力によって無理矢理に動かされてるのだと理解する。
- 261 :
- コトリバコの呪詛の源は、
その狭い細工の中に押し込められた子ども達の魂の嘆き、憎しみや恨み。
即ち『負の感情』である。
恐らくコトリバコには、その呪詛を効果的に発揮させるために、
内側に閉じ込めた子供たちの魂に働きかける呪いのような何かが施されているのだろう。
その何かが、強制的に子ども達から憎悪等の負の感情を引き出しているのだ。
そう考えれば、両の足がなくなり、満身創痍の状態なっても執拗にノエルを追い続けたことや、
移動する力すら失い、左腕がもげた状態でも祈への攻撃を続けたこと。その異常な攻撃性に説明がつく。
ハッカイともなれば、それこそ無尽蔵の呪詛を吐き出せるだけの力があっただろうから
そのような呪いが働いていてもなんとかなったに違いない。
だがノエルの刃は霊的な継ぎ目を完全に断ち切り、既にハッカイを仕留め終えていた。
そのような状態では、残された命を無理矢理に、粘液として絞り出しているようなものだ。
だが止めることができないのだろう。そのような状態になっても。
馬に鞭を打つように、コトリバコが無理矢理にあの赤ん坊へ命じているから。
恨め、憎めと。目の前の敵を倒せと。
痛い筈なのに。苦しい筈なのに。もう嫌だと泣き叫んでも、コトリバコの呪詛が
攻撃を止めることをを許さない。その苦しみは想像を絶する。
またも粘液を吐こうとしているのだろう。ハッカイは再び首を持ち上げ、口を祈へと向けた。
その目から流れる血の涙に、響く嗚咽に。
「終わりに、しよう……」
祈は、血が熱くなるのを感じた。
もう、見ていられなかった。
この状態ならば、恐らく放っておいても『ケ枯れ』を起こしてただの小箱に戻るだろうが、
それを待とうだなどとは微塵も思えない。
一刻も早く、あの子をその苦しみから解き放ってやらなければならなかった。
それも、これ以上苦しまぬよう、一撃で。
そう思った時、祈の頭に、どうすれば彼の巨体の頭を潰せるかという問いに対する答えがようやく閃いた。
祈は辺りを見回し、程なくしてそれを見つける。
祈が見つけたのは、重い金属製のバットだった。
『ぶあああっ! あ”ぁあぁ”!』
ハッカイが再び粘液を吐きつける。祈はそれを避けることもなく、そのまま浴びた。
赤の混じった粘液が祈の被る布を汚し、灼いていく。だが祈はそれを脱ぎ捨てる間すら惜しんで、金属製のバットを構える。
体を捩り、目いっぱいに振り被る。
「うううううううう、らあああああああっ!!!」
そして渾身の力でもって、ハッカイへと投擲した。
――ターボババアと言う妖怪の孫である祈は、その走る速度に強力な制限を受ける。
どれほど早く走ろうとしても、フォームを変えたとしても、その速度が時速140kmを超えることはできない。
それが都市伝説として語られるターボババアの速度の限界だからだ。
しかし、それ以外の物に関しては規定がない。
人が時速40kmで走れるのなら、祈は140kmを走る。
単純に考えて人の3倍以上の筋力を備える祈が全力を込め、遠心力をも利用して投げた金属製のバットは、
軽々と時速140kmなど超え――、雷の如く凄まじい勢いで飛び征く。
そのまま、手足を失い動くこともできないハッカイの頭部、その眉間へと突き刺さり、
そのぐずぐずの皮膚を突き破り、柔らかな頭蓋を砕いて、
中身を恐ろしい力で掻き回しながら頭の反対側へと貫通、中身を吹き出させる。
ハッカイを貫いて尚勢い余るバットは、閉まっている店舗のシャッターへと突き刺さってようやくその動きを止めた。
『あ……ぎぃ、ぁ、お、…………』
ややあって、頭の半分ほどを失ったハッカイの首が、力なく倒れた。
そして『ケ枯れ』を起こし、付喪神としての姿を保てなくなったハッカイの体は緑色の膿のようになり、消失する。
残されたのは小さな小箱だけとなった。
呪詛としての力も失ったのか、ハッカイが作りだした粘液もまた消えている。
祈が今更になって被っていたカーテンを脱いでみると、幸い粘液は体にまで達していなかったものの、
パーカーや髪の先を、焦がしたり溶かしたりしているようであった。
なんにせよ、ハッカイは倒した。
「……今はおやすみ、コトリバコ」
後で橘音に、この小箱に閉じ込められた子ども達をどう供養すればいいのか聞かねばならない。
そんなことを考えながら、祈は呟く。少し離れた場所から、破魔の結界の光が広がるのが見えていた。
【祈、ノエルを安全圏へ逃がしてフリーにした後、やや離れた位置で手負いのハッカイを撃破】
- 262 :
- >「……へ?」
祈の視線が突き刺さるのを感じつつ、ノエルは走る。
やーめーてー、そんな目で見ないで!? そもそも僕は(言動が)格好いいキャラじゃないんだからな!?
等と思いつつ向かう先には道路標識を振りかざした黒雄が控えている。
右手だけで標識を持っているのは「死にかけの奴にとどめを刺すぐらい右手だけで十分だぜ!」ということか、とノエルは解釈した。
>「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」
「へっへーん、当然!」
隅で解説要員と化していたムジナに思わずガッツポーズを返してからおっと、自分こいつと仲悪いんだった!と思う。
黒雄なら自分が仕留め損ねたハッカイを問答無用で粉砕してくれる――ここまで想定のうちだ。
だがしかし。
>「な、ぐがっ―――!?」
予期せぬ交通事故発生。黒雄は軽自動車にはねられて飛んでいった。
運転していたのは……じゃなくて投げつけたのは、凍結から早くも復活したニホウ、サンポウ。
>「もう動き出したんか!」
「誰だレンジでチンしたのは!? 君達免許とれる歳じゃないでしょー!」
それは享年か死後含むかによって変わってくるが、残念そもそも車を運転するには免許がいるが投げるのに免許は要らない!
更には黒雄が吹っ飛ばされた先でシッポウに殴り掛かられようとしていた。
左右をほぼ等しく使えて二刀流を操るノエルは、気付かなくてもいいことに気付いてしまった。
いくらなんでも左が動いてなくない――!?と。 一体いつから?と記憶を手繰る。
もしかして最初から?と思い至るも、先入観が邪魔をして核心に辿り着くことはない。
ただなんともいえない胸騒ぎだけが残るのだ。
>「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」
そんな無茶な!大体さっきも「ここは俺に任せて行け!」的な死亡フラグ立てようとしてたよね!?と思うノエル。
しかし人の心配をしている余裕は割とマジでない。背後には依然として恐慌状態に陥ったハッカイ。
通常の生き物がHP1で普通に動き回る事は常識的に考えて有り得ないが、
妖壊は逆に最後の悪あがきで凶暴になって普通以上に攻撃力等が凶悪になる仕様の者もいる。
このハッカイに関してはまさしくそのパターンのようだった。
「ええーっ、どうすんのコレ!?」
- 263 :
- 気が遠くなりそうになりながら、ノエルは自問自答する。
そもそもなんでこんな事になったのかというと、柄でもなく真面目に戦いすぎたのがいけない。
特にエターナルフォースブリザード(通称)は終幕を飾る一撃必殺を想定した大規模術式であり
あんなものを一時の足止めのために使っては後が続かないに決まっている。
大体隙あらば安全地帯でサボタージュしたり背景でおやつ食べ始めたりとやる気なさげに戦うのが自分の芸風ではなかったか。
敵味方双方から「ふざけてんのか!?」とツッコミが入ったことも一度や二度ではないが
「あいつ余裕ぶっこいてるし実は滅茶苦茶強いんじゃね!?」と相手に無駄にプレッシャーをかける思わぬ利点があるぞ!
ともあれ、普段そんな感じなので今のこの状況を見てもアイツまたふざけてるよ!としか思われないであろう。
それでいい、むしろそうでないと困る。嘘でも、虚像でも、余裕ぶっこいた底知れない奴でいなければ。
一瞬後ろを振り返ってみれば、すでにハッカイは自壊を始めており、右腕がもげている。
つまり相手が崩壊するまで逃げ切れば勝ちだ!
滅茶苦茶格好悪い戦法だがそれが何だというのだ、逃げるは恥だが役に立つ――!
しかしそこに祈が風のように現れ、何故か蹴るようなポーズを取る。
もしやノエルの日頃からのあまりの変態さやダメダメさに嫌気が差したというのか!?
本日の出撃前にもまた無自覚変態爆撃をやらかしたからね、仕方ないね!
そうでなくても、毎回変化を解いたり戻ったりする様子を微妙に理解不能のナマモノを見るような目で見てくるし。
しかし一般的な意味での変態な言動はともかく、あの本来の意味での変態は妖怪としては割と普通のはずだ。
むしろ人間型を保ったままでカラーリングが変わって少し謎の氷粒煌めきエフェクトがかかるだけなんてまだ大人しい方だ。
設定上存在する他のメンバーには完全人外の姿になって炎や電撃放っちゃう妖怪もいるぞ!(>1参照)
まあ完全人外までいったらそれはそれで割り切れるのかもしれないが、
なまじ人間型をしているだけに、人間と同じ感覚を期待してしまうのかもしれない。
「ちょっと待ったあ! これには深い訳が……! ほら、男だらけの妖怪集団になっちゃったからやる気が……」
そう言っている間に、ふわりと体が宙に浮いて精肉店のテントの上に乗っていた。
祈に蹴り上げられたのだ。その蹴り方はとても優しく。
>「御幸はそこからテキトーに援護とか、姿が見えないゴホウでも探したりしてて!」
>「こっちだ、コトリバコ!」
「ありがとう、頼んだ……! 危ないから、攻撃しなくていいから逃げて!」
- 264 :
- 祈ならハッカイが崩壊するまで逃げ切るのは楽勝のはず。そう思ってそのまま送り出した。
祈にはこの言い方では正しく意図が伝わらなかった訳だが、どちらにせよ祈はそれを良しとしなかったことだろう。
ノエルを安全地帯に退避させるという祈の行動はドンピシャリの正解で、それだけにドキリとした。
見抜かれた――!?と。祈ちゃん、君はどこまで見抜いている……!?
祈は橘音とは違う意味で、真実を見抜いてしまう面がある。
頭脳明晰で知識と経験を兼ね備えた橘音が気付かない類の真実だ。それは先入観に囚われない子どもだからこそか。
自分が本当はみんなが思っている程強くなんかなくて、脆くて弱くてふわっふわなのが全てお見通しなのか――?
ノエルが普段やる気無さげにしか戦わないのには単純明快な理由があり、今のように妖力切れを起こさないためだ。
それだとすぐに役立たずになるが、ノエルは自然界からパワーを取り込む謎システムを搭載しており
消費と同ペースで回復させることによって無尽蔵を装う事ができるのだ。
サボったりおやつを食べたりしているのは平たく言うと実はMP回復のためであり
どうして今日は柄でもなく飛ばし過ぎたかというと、八尺様との戦いで思い出さなくていい記憶が呼び覚まされてしまったからであろう。
あれからというもの、仲間が――友達が死ぬのが滅茶苦茶怖い――
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、幼き日に刻まれた魂の傷は百どころか永遠に癒えることはない。
等と考えつつも、服の内側から某チューブ型容器入り氷菓(チョココーヒー味)を取り出して吸い始めたので
端からみると全く真面目な事を考えているように見えない。
(体温によってアイスを溶かさずに持ち歩くことが出来るのだ!)
まず目に入ってきたのが、ムジナがイッポウ&ロッポウと戦いを繰り広げる様子であった。
そういえば、ムジナは形状変化なんてトンデモ能力使いの割には意外と肉体の概念とかかっちりしているようだ。
のっぺらぼうってソーセージ出したり消したりも余裕のガチお化けのイメージだけど、
式神になった時に感覚が人間に寄ったのかもしれない、等と思う。
>「総評するとこいつが年季の差ってやつやな。以上、品岡おじさんによるはじめての妖怪戦闘、講義終了や。
――勉強代は負けといたるわ」
「大変勉強になりました!」
ここにアイス食いながらがっつり講義タダ見している生徒がいた。
学ぶことが子どもの特権であるとするならば、毎日が新鮮な驚きと発見の連続であるノエルは子どもに分類されるらしい。
――うん、人生楽しそうで何より!
>「ま、待てや!話し合お!話せば分かる!一旦ゲロ吐くのやめやーーーっ!!」
超かっこよくイッポウを撃破したムジナだったが、拘束から脱したロッポウに追いかけられ始める。
「――スリップ」
アイスを食べ終わったノエルは講義代とばかりに、ロッポウの手足に滑って転ばせる術を発動。
見事にかかってすっころんだ。かなり妖力が回復してきたようだ。
セコい嫌がらせのような術だが、走行中の車にかけたら大惨事必至だ。
現代では雪山で遭難こそ流行らなくなったが、積雪→路面凍結のコンボはかなりエグい。
一方、橘音は無謀にも上から二番目に高位のコトリバコであるチッポウを一人で相手にしていた。
張り手一発で盛大に地面にひびが入る。
- 265 :
- >「あんなの喰らったら、ボクみたいに華奢なコは一発でミンチですよ!」
黒雄はコトリバコ三体を一人で相手にしているが、それでもどちらかを選ぶなら支援に行くべきは橘音の方だろう。
彼は敵の攻撃をいなすことは出来ても直接攻撃する手段は無いのだから。
そう決断し、テントの上から飛び降りる。ゴホウの居場所は結局分からずじまいだ。
チッポウが何か小さなものを橘音に投げるが、あれぐらいなら軽くいなせ――なかった。
>「……な……!?しまった!」
>「う……うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」
チッポウが投げたのは、なんとゴホウの本体。
混戦の中で小さな寄木細工に戻られたら居場所が分からなくなるのは当然だ。
問題は……ゴホウに組み付かれた橘音が断末魔の絶叫をあげていることである。
ただ組付かれているだけで取り立てて攻撃されているようには見えないのだが、まさかあの妖怪ですら女は死ぬという呪詛か――!?
「な……!?」
ノエルは血の気が引くといっても元から血の気が無いし、顔面蒼白と言っても常に蒼白だし
どう表現したらいいか分からないがとにかく死にそうな顔をして硬直していた。
>「ぎゃああああ〜っ!死ぃ〜ぬぅ〜っ!呪いで死んでしまうぅ〜っ!」
>「……な〜んちゃって」
「こっちが死ぬかと思った! こっちは変態補正で死んでも次週までに復活余裕だけどな! どーだ羨ましいだろ!」
全身の力が抜けてへたり込みそうになりながら、抗議なのかよく分からない抗議をする。
とはいえ、この類のことは別に今に始まったことではない。
橘音は秘密主義のため、仲間にすら作戦の全貌を教えないことがままある。
敵を騙すにはまず味方から――とはよく言ったもので
アホな味方が率先して騙されることによって敵も流石に真実だろうと思い込み、偽計がより盤石のものとなるのだ。
>「一体いつから――ボクが女の子だと錯覚していたんです?」
>「はいはいっ、邪魔邪魔!ボクはママじゃありませんからね、どいたどいた!」
>「イッツ!ショータ――――イムッ!!」
橘音が足を踏み鳴らすと同時に、禹歩の結界が辺りに広がっていく。
「橘音くんがセルフでソーセージしてようが(動詞)元からソーセージ(形容動詞)だろうが
工事済みの元ソーセージ(名詞)だろうがそんなことは割とどうでもいい!
ここはこう言うべきだろう、禹↓歩↑!いい漢!」
- 266 :
- 相変わらずイントネーションを間違えた禹歩の発音で、橘音のいい漢っぷりを称賛するノエル。
ちなみに子ども(精神年齢)は新しく覚えた言葉をとりあえず使ってみたがる性質があるので、うっかり変な言葉を教えると大変なことになるのだ。
みんなも気を付けよう!
ノエルが腕を一閃すると、劣勢を察し慌てて合体し直そうとするミニゴホウに、雪玉がぶつかったかと思うと崩壊して足元を埋め、瞬時に凍り付いて手足を地面に縫い付ける。
「せっかく大勢になったんだから急いでリュニオン(再結合)しちゃ勿体ない!
忙しい橘音くんの代わりに遊んであげるよ! 雪合戦だ! 一人でも僕にタッチできたら君達の勝ちな!」
例によって攻勢ターンに入った瞬間にあからさまに分かりやすく元気になったノエルがゴホウ達を挑発する。
もしゴホウ達が日本語を喋れたら、「いや、”勝ちな!”ってドヤ顔で言ってるけどアンタ男だろ!」「見た目だけはやたら綺麗だけど男……だよな!?」
「でも雪"女”だから呪いワンチャンいけるんじゃね!?」「あれ? なんか焦点を後ろに合わせると変な映像が見える気が……」
「しかし我らのプライドにかけてあんな変態を女枠に入れてはいけない……!」
等と審議が繰り広げられているところ……かどうかは定かではないが。
「ふっはははは! 遅い! そんなんじゃハイハイレースで優勝狙えないぞ!」
再結合を阻まれ困惑しているらしいゴホウ達に、ノエルは両手を同時に使って次々と雪玉を当てていく。
相手は破魔の結界で動きが鈍くなっているので当てるのは楽勝であった。
足元が氷雪に埋もれて身動きできなくなったゴホウ達を前に作り出すは
ご丁寧に8tと凹凸で描かれた無駄に巨大な氷のハンマー。(実際には8tも無いよ!)
「お次はモグラ叩きだー! ワニワニパニックでも可ッ! とーう!」
ハンマーを振りかざし無駄に大きいモーションで跳ぶ。
動けない奴ら相手にモグラ叩きも何もあったものではない。これは酷い!
「えっ! ヤバ……!」
そこにチッポウの横薙ぎの張り手が飛んできた。
チッポウは橘音が引き受けていたはずだが、流石に小さいお友達を容赦なくいじめる悪い奴を放置できなくなったらしい。
イジメ、ダメ、ゼッタイ!
「たあッ!!」
とりあえず振りかざした8tハンマーを上段振り下ろしから強引に横一閃に変更して迎撃し、
その反動で敢えて派手に吹っ飛ばされることで衝撃を和らげる。
少し離れた場所で地面を二、三回転がって立ち上がり、追撃に備えて身構えるが……来ない。
溶解液は飛ばしてくるものの、ゴホウ達を足止めしたあたりから動こうとしない。
その様子を見たノエルは、とある仮説に行きついた。
まさか、ゴホウを守ろうとしているのか――!? 連携はしている気配はあったが、仲間を守ろうとする意識まであるというのか。
そう思ってしまった瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。
- 267 :
- 「ほらほら、こっちだ、来てみろよ!」
その痛みを悟られぬよう表向きは変わらぬ調子で挑発しつつ。
雪玉をぶつけて牽制しながら、大きく位置を動こうとしないチッポウの周囲を円状に駆ける。
敵の攻撃に当たらないように相手の周囲をぐるぐる回りつつ自分は遠距離攻撃を加える
アクションRPGのボス戦でありがちな立ち回りだ。
そして一周回ったところで相手の方に向き直り、地面に手を付いた。
「――アイスプリズン!」
チッポウがいる地点の四方を囲うように、氷の壁がせり上がる。
ゴホウ達を凍りつかせた地点もその範囲内に入っている。
とはいえ、このままではいずれ溶解液で脱出されてしまうのだが――
「ギャアァアァァァァアアアアアァァアァァアアァアアア!!!」
囚われたチッポウの怒りの絶叫が響き渡る。
「あーあ、雪山でそんなに大きい声出したら駄目だって。終わりだぁあああああああ!」
自分はこの子たちの仲間を想う気持ちを利用した――仲間を失う事に一番怯えているのは自分自身だというのに。
人間に似た部分の心の激痛を誤魔化そうとするかのように、敢えて無邪気で邪悪ともいうべき笑みを浮かべ、腕を掲げる。
しかしここで言う邪悪は飽くまでも人間の尺度から見た時のこと、自然災害は常に人間の都合など知ったこっちゃないのだ。
氷の壁が質量保存の法則を無視したレベルの大量の雪と化し、壁の内側に雪崩れ込んでいく!
そう、雪崩れ込むという言葉のそもそもの語源、巻き込まれた者全ての息の根を止める、
雪山で遭難が流行らなくなった現代に至っても度々甚大な被害を出す氷雪系最恐の凶悪無比な自然災害――雪崩である。
雪女のホームグラウンドは言うまでも無く雪山。
もちろんここは雪山ではないのだが、先程円形に走ったことで、その内側に自らの領域――結界を作り上げたのだ。
「勝負――アリ!」
勝利を確信したノエルは、橘音に向かっていつもに増してとびっきりのドヤ顔を向けるのだった。
ちなみにどうやって寄木細工掘り出すんだ!?とか後先全く考えていないぞ!
- 268 :
- 最初に人を殺したのは、苦痛から逃れる為であった。
呪具として改造された魂は、製作者の意図に従い動かねば、耐えがたい苦痛が与えられるからだ。
次に人を殺したのは、苦痛を味わいたくないが故であった。
呪具に刻まれた呪いの通りに人を殺せば、自分は痛くないからだ。
更に人を殺したのは、母の温もりを求めたが故であった。
標的(オカアサン)の胎内(ナカ)に戻れば、幸せに生まれ直す事が出来ると思ったからだ。
尚も人を殺したのは、自分が知らない幸せを持つ人間を憎むが故であった。
誰かが自分と同じ様に苦しんでRば、少しだけ気持ちが晴れる気がしたからだ。
そうして、次も、次も、次も。
殺して殺して
殺して殺し。
呪って呪って
呪って呪い。
やがて異形の霊体(カラダ)を手に入れて
九十九の神と呼ばれる存在に成り果てて
電子の海を揺蕩う、人の噂に力を与えられ
製作者の意図をも超え、とうとう人智を超えた霊災と化した頃
人をRのは、人をR為となっていた。
自身の力に抗えずに無様に死んでいく人間を見る事に、愉悦を感じる様になったからだ。
百を越える年月を経た、コトリバコ。
『ニホウ』『サンポウ』『シッポウ』
彼等は、時を経て哀れな被害者から本物の怪物と成り果てた。
人をR為にR、救えぬ怪物と化したのだ。
そして今、その三体の怪物の殺意は一人の男に向けられている。
尾弐黒雄
喪服を着こんだ悪鬼。
腕力と頑強さを武器に、有象無象、魑魅魍魎共を捻じ伏せる悪意と暴力の権化。
その尾弐への奇襲を成功させたコトリバコは、今や尾弐の体を玩具でも扱うかの様に粗雑に――――破砕していた。
呪詛の強酸を浴びせかけ、巨大な腕で頭を掴み、アスファルトへと叩き付け。
脚を掴み振り回し、離れた位置に在る商店のコンクリの壁へと放り投げ。
それを餌を放られた犬の様に追いかけると、その拳で、或いは掴んだ瓦礫で、殴りつけ、踏みつける。
尾弐を破壊する三体のコトリバコ達は、本当に楽しそうに。まるで子供の様に無邪気な笑みを浮かべている。
これだけ壊れにくい玩具を手にしたのは、初めてだったのであろう。
自身の手で命を奪う行為への興奮に、本物の赤子の様な笑い声を挙げる彼等。
- 269 :
- そのまま絶え間なく暴力は続いていったが……やがて、土煙で尾弐の姿が見えなくなった頃。
コトリバコ達は唐突にその手を休めた。
疲労?慈悲?……否。
彼等は自身が振るった暴力の結果を確認する為に、コトリバコ達はその拳を止めたのである。
彼等が脳裏に浮かべる土煙の向こう光景は、まるで挽肉の様にグズグズになり、力なく絶命している尾弐の姿。
あれだけの呪詛の酸を、暴力を、蹂躙を受けたのだ。丈夫な玩具と言えども壊れない筈が無い。
釣りあがる口元を隠す事も無く揃って、三つ子の子供の様に楽しげに嗤うコトリバコ。
そうして、土煙は晴れる。
向けられる視線。そこには……瓦礫に上半身が半ば埋もれ、力なく首を垂れる尾弐の姿があった。
瓦礫からはみ出た左腕は切り刻まれたかの様に血まみれで、一部の傷は肉の先。白い骨を露見させている。
更にその上半身からは、溶解液の効果であろう。今尚煙が上がっている。
その様子を見た3匹のコトリバコは、思ったよりも損壊が少ない事に若干不満げな様子を見せたが、
それでも再起不能と思うに十分な傷を与えた事への喜びの方が大きかったのであろう。
動かない尾弐の元へ、最後の仕上げ……いざ止めを刺さんと近づいていく。
そうして。とうとう尾弐の前まで辿り着いた『シッポウ』のコトリバコが、
その頭を喰らわんと大きく口を開き――――その直後。
風船が割れる様な音が響き、『シッポウ』の巨大な頭が、消し飛んだ。
突然の事態に思考が付いていかず、動きを止めたのは『ニホウ』『サンポウ』のコトリバコ。
呆然としながらも、原因を探るべくその異形の目を動かし見て見れば、そこには
「……あー、悪ぃな。オジサン、力加減間違えちまったわ」
瓦礫に埋まっていた上体を易々と立ち上げ、数刻前に那須野にデコピンを見舞った時と同じ様に、右腕を前に突き出している尾弐の姿。
いや……同じというには語弊があろう。
何故ならば、尾弐の突き出した右腕。その拳は、鉛の様に黒く禍々しく変化しているのだから。
そう。
加減の無い数多の暴力に晒され、呪詛により生み出された酸を浴びせられて、それでも尚。
尾弐黒尾は、健在であったのだ。
健在であり、尚且つコトリバコを確実に屠る機会を窺がっていたのである。
……コトリバコ達は、気付くべきだった。
最も損壊している尾弐の左腕、その傷が全て、彼らが持っていない『刃物による切傷』である事に。
嬉々として暴力を叩きつけている最中、尾弐が一度も苦悶の声を洩らしていなかった事に。
「さて、いい感じに大将達から見えねぇ程遠くに運んでくれたみてぇだし
お前らも俺相手に十分自分勝手を楽しんでくれたみてぇだからな……もう、いいだろ」
そうして、瓦礫の山を発泡スチロールか何かの様に易々とかき分け抜け出した尾弐は、そのまま立ち上がり一つ歩を進める。
すると……それに呼応するかの様に、何か得体の知れない感覚に押されたコトリバコ達は、一歩後退した。
更に尾弐がもう一歩進めば、今度は二歩分後退する。三歩、四歩と進める内に、コトリバコが退く歩数は増え。
やがて『ニホウ』と『サンポウ』は、彼らがかつて感じた事のない悍ましい感覚に従い、尾弐へ完全に背を向けると、
急き立てられるかのように逃走を開始した。
それは、奪われた物として発生し、奪うモノとして存在してきた彼らからは縁遠い『恐怖』という感情によって齎された行動であった。
一目散に逃走するコトリバコ……だが、その逃走は直ぐに終わりを向ける事となる。
『禹歩』
那須野が先頃展開したその破魔の結界が、壁となり彼らの前に立ちはだかったのだ。
周囲一帯を覆う破魔の結界であるが……コトリバコ達を含む尾弐の周囲十m程には、
まるで浄化しきれない穢れでもあるかの様に、展開出来ておらず、
それが故に、コトリバコ達は周囲を結界に囲まれると言う、ある種の牢獄に囚われたかの様な状態となったのである
- 270 :
- 「逃げてくれんなよ、怪物共。俺のこの姿は連中に……特に、那須野の奴には見せる訳にはいかねぇんだからな」
退く事の出来なくなったコトリバコは、迫る尾弐に対し暫くの間混乱した様子を見せ……結局、彼等は己の力に縋る事となった。
状況を打開する為に、他者を理不尽に蹂躙する事の出来ていた己の力を信じ、反撃を試みたのである。
先ず行われたのは、『ニホウ』による溶解液の噴射。それは、あらゆるモノを溶かす呪詛の毒である。
「毒で俺を殺りたきゃ――――神さんから貰った酒に盛って飲ませるなりしやがれ」
だが、それは今の尾弐に対しては僅かに皮膚を焼く程度の効果しか齎す事は出来ず……まるで用を成さなかった。
当然である。呪詛は上位の呪詛で塗りつぶせる。ならば、呪詛で出来た溶解性の毒液が、『今の』尾弐に通用する筈が無いのだ。
そのまま尾弐が右手で溶解液を噴き出し続けるニホウの頭を叩くと……まるで巨大な鉄槌でも振り下ろされたかの様に
ニホウの頭は潰れ、地面にめり込んでしまった。
続いて行われたのは、『サンポウ』による巨体を利用した押し潰し。
数百キロはあろうかというその重量は、並みの人間であれば床の染みに出来る程のものである。が
「じゃれ付くんじゃねぇ。いつまで赤ん坊のつもりでいやがんだ。怪物が」
尾弐の右腕一本により、その巨体は受け止められてしまった。
いや、それだけではない。尾弐が力を込めると、サンポウの巨体は中空に放り投げられ、
そのままその胴体を尾弐の拳により貫かれてしまったのである。
そして最後に、尾弐の背後から襲い掛かってきたのは頭部の再生をようやく果たした『シッポウ』のコトリバコ。
シッポウは、最初に奇襲を成功させたのと同じように尾弐の左側面へ向けてその巨大な拳を振るう。が
「不意打ちで首を落とせなかった時点で、お前さん達に勝ち目はねぇよ。諦めろ」
尾弐は、振るわれたその拳を右手で受け止めると、そのままシッポウの指を二本掴み――――骨ごと力任せに引き抜いてしまった。
・・・
かくして尾弐の眼前に広がるのは、阿鼻叫喚。粘液に塗れ、苦痛にのた打ち回る3匹のコトリバコ達の光景。
先程までの愉悦の色は遥か遠く、恐怖と苦痛から逃れようともがき暴れる異形の赤子の姿は、いっそ哀れですらある。
……だが、尾弐はそんなコトリバコ達を見ても眉ひとつ動かす事はなかった。
尾弐は、ただ淡々と。底の見えない闇の様な色の瞳で見据えながら口を開く。
「どんな理由があろうと、自分の意思で自分の望む通りに他人を殺した奴に救いなんてモンがあると思うな。
人を呪わば穴二つ……人をR事を楽しんじまったテメェらは、もう哀れな犠牲者じゃねぇ。
同情される事すら許されねぇ、立派な『コトリバコ』って名前の怪物なんだよ」
そうして尾弐は、必死に逃げようともがくコトリバコ……『シッポウ』のすぐ側まで近づくと、拳を振り上げ。
「だから――――テメェらみてぇな怪物の相手は、同じ怪物で十分だ」
その胴体へと右手を突き刺し……体内から小さな木箱を、無理矢理に取り出した。
- 271 :
- 尾弐が取り出したその木箱は、他のコトリバコ達のものとは違い、核となる嬰児の魂と呪詛が融合してしまったかの様に変形してしまっている。
まるで心臓の様に脈打ち、色はどす黒く変色しているコトリバコ。
己の体から取り出された其れを、『シッポウ』のコトリバコは必死になって取り戻そうと腕を伸ばすが……その手が届く前に
尾弐の右手は、小箱を握りつぶした。
箱が潰れるのと同時に苦痛の叫び声を上げながらドロドロに溶解し消滅する、コトリバコの異形の赤子としての姿。
だが尾弐は、その悲鳴すらも気にする事は無く、『ニホウ』『サンポウ』と、順々に小箱を破砕していく。
コトリバコの体液に塗れながら、無表情に淡々とその作業をこなしていく尾弐の様子は、
ある意味ではコトリバコよりも余程怪物じみていた。
そうして、3つのコトリバコを破壊した尾弐は……そのまま、ドサリと瓦礫へと座り込んだ。
「あー、痛ぇ……年甲斐も無く気張り過ぎたかねぇ」
いかな頑強な尾弐とはいえ、あれだけの攻撃を受ければ流石に完全に無傷とはいかない。
最も大きな傷は破魔の刃を作る為に自分で切り刻んだ左腕だが、それ以外にも小さな傷が、尾弐の全身の皮膚に刻まれている。
着込んでいた喪服も一部を残してすっかり融解してしまった為、ブリーチャーズの面々と合流する前にそこらの店で現地調達する必要があるだろう。
「まあ、それでも……こんだけの『呪詛』の塊を喰らえば、ちったぁ目的に近づけた、かね」
そう呟いた尾弐は、自身の右手……先程まで黒く変色していたその拳に一度視線を落とし、黙りこんでいたが、
……暫くして、他のブリーチャーズの面々が戦闘を行っているであろう区域へと視線を向ける。
「ムジナの奴に任せた以上、万が一にも死人が出る様な事はねぇだろうが……一応、急いで戻るとするか」
そう言って、立ち上がる尾弐。
道中の無人と化した服飾店でレザージャケットを勝手に借り受けた彼は、大分距離が開いてしまった仲間たちの元へと向かう。
- 272 :
- 35:54
↓
10:40
https://www.youtube.com/watch?v=WTdY7h129Mk
https://www.youtube.com/watch?v=8R0luOy8ce8
- 273 :
- >>272
失せろや糞マルチ
ハゲ
- 274 :
- ずだだだだ、と不格好なガニ股走りでロッポウから逃げる品岡。
無論敵から目を背けて無防備を晒しているわけではない。ちゃんと背中に目を生やしている。
追って飛んでくる粘液を目視し、ジグザグに動いて躱しながら疾走する。
「あかん息切れてきた……!煙草やめよっかなもう……!」
タールに塗れた肺が酸素を求めて律動し、水際の金魚のようにパクパクと喘ぐ。
肉体疲労とは無縁の妖怪と言えど、今日は朝から色々妖術を使いすぎた。
元々そこまで妖力の残高に自信のあるほうでない品岡は露骨に足運びの精彩を欠く。
ロッポウの足音がすぐ背後まで迫ってくる……!
>「――スリップ」
横合いから鈴の鳴るような声がしたが早いか路面が突如凍りつき、疾走していたロッポウが足を取られた。
重量感のある転倒の音が響き、走りながら吐いていたゲロが明後日の方向に飛んで街灯を溶かす。
「でかした優男!」
出現したアイスバーンの主は、何故か精肉屋の庇の上でチューブ容器を名残惜しそうにちゅうちゅう吸っているノエル。
涙の出るような好アシストだった。
思わぬ加勢に調子を取り戻した品岡は振り向きざまに、抜け目なく再装填を終わらせていたトカレフを撃つ。
二発、三発。相変わらずの糞エイムで無駄玉が遠くを穿つが、一発がロッポウの右半身に命中した。
「よっしゃ、弾ぜろやクソガキ!」
間断なく妖力を遮断し弾頭の形状変化を解除、廃車のフレームに復元する。
体内で異物を膨張させられたロッポウはイッポウと同じ末路を――辿らなかった。
廃車はロッポウのすぐ後方に現れた。
「なんやと……!」
着弾観測から弾頭の復元、その一瞬の間隙を縫って、ロッポウは被弾箇所を自らえぐり取ったのだ。
虚空に放られたロッポウの肉片が、出現した廃車によって押し潰される。
深く抉られた傷口からは緑の体液が溢れ、それが地面を焦がす頃には傷が塞がってしまった。
ケ枯れには、至らない。
「そら学べ言うたのはワシやけど……適応早すぎるんとちゃうか」
イッポウがケ枯れさせられた原因を即座に理解し、その対策まで完璧にやってのける。
最悪の霊災、最凶呪具の付喪神。わかりきっていたことではあるが、やはり怪異としての格が違う。
ヒトをR為の呪いは、より効率よくR為に――殺し続ける為に、進化を続けている。
――!…………――!!!
ロッポウは吠える。
その轟きにイッポウのような品岡を揶揄する響きはなく、純粋な己を鼓舞する叫び。
味方を破壊され、孤立し、自分を滅ぼせる相手とおそらく初めて対峙したコトリバコに、最早愉悦の色はない。
ただ人間を嬲りRだけだった呪詛の化身が、己が敵を滅する戦士と化し始めていた。
「しんどいなぁ、付き合いきれんわ。ちゅうても見逃してくれるわけやないよな。
ええで、とことん付き合うたるわ。……大人やからな」
ボコ、ボコ、ボコ……と地面に穿たれた複数の穴から廃車のフレームが生える。
それらの圧縮に使っていた妖力を止め、わずかではあるが回復はできた。
氷の棘付きスレッジハンマーを片手で構え、重心を落とす。
「……行くでコトリバコ、ジブンの好きなじゃれ合いや」
- 275 :
- 刹那、品岡の姿がロッポウの視界から消えた。
十歩ほど離れたアスファルトが擦れる音、一瞬だけ現れた品岡が更にブレて消える。
品岡の姿を捉えたロッポウが粘液を吐く頃には最早的はそこにない。
形状変化で足の骨を強力なバネに変え、鞠のように跳ね回っているのだ。
「っつおらぁ!」
バネの加速そのままに、横合いからハンマーがロッポウの顔面を捉えた。
氷の棘が赤子の表皮を一瞬で凍結させ、次いで打撃がそれを砕く。
そうして二度、三度と少しづつではあるが、確実にコトリバコの体積を削いでいく。
「修復する隙なんぞやるかいな」
祈ほどの強烈な速力はないが、ロッポウの反応速度を超えられればそれで十分。
復元弾頭のように一撃では仕留められなくとも、このまま一方的な攻勢に持ち込み続ければ、いずれはケ枯れさせられる!
ロッポウが息を吸い込んだ。粘液を吐く予備動作だ。
しかしその射出口たる巨大なあぎとは明後日の方を向いている。
コトリバコの恐るべき学習能力が、品岡の機動力をバネによる直線的なものと見抜いた。
彼の一瞬後の位置を予測してそこ目掛けて粘液を吐きかける。
果たして、放物線を描く粘液の先に品岡が現れた。
「浅いわ」
地面のアスファルトがめくれあがり、粘液に対する壁となった。
溶けゆく壁の向こうからハンマーが飛び、コトリバコの下顎を砕いた。
痛みに悲鳴じみた叫びを上げながらもロッポウの両眼は品岡を睨めつける。
ボコンボコンと身体を蠕動させながら赤子の唇が蕾のようにすぼまった。
(何するつもりや……距離開けたほうがええな)
ただならぬ動きに警戒する品岡は二歩、三歩とバネ足でバックステップ。
踏んだ地面が隆起し、都合三枚の壁が品岡とロッポウの間に形成された。
ロッポウの身体がかつてないほどに、体積にして倍ほども膨れ上がる。
キィ……と甲高い音で鳴いて唇から粘液が噴き出した。
「それしかできんのかい、芸が無いのぉ――」
鼻で笑った品岡の右腕に激痛が奔った。
さながら水鉄砲の要領で射出口を狭め速度と圧力を増した粘液が三枚の壁を一瞬で貫通し、その先の品岡を撃ち抜いていた。
「あ……?ああああああああっ!?」
圧縮粘液に穿たれた右腕が毒々しく変色し、煙を立てながら腐食の範囲を広げていく。
品岡はたまらず情けない悲鳴を上げながら左手で右の腕を掴み、形状変化で引き千切って捨てた。
握ったスレッジハンマーごと地面に放られた右腕が、溶解してアスファルトの染みと化した。
「前言撤回や。頭使っとるやないか……」
自切した右腕が戻らない。コトリバコの呪いの一部が残っているのだ。
形状変化で強引に腕を作ることも考えたが、残り少ない妖力を無駄には出来なかった。
品岡は潔く腕を諦めて再び走る。彼のいた場所にロッポウが轟音を立てて着地した。
「おのれが……!」
残った左腕で拳銃を撃つ。利き腕を失い回避しながらの射撃では当然当たらない。
ロッポウが距離を詰める。牽制に鉛玉をばら撒きながら少しでも距離を取る。
趨勢は完全に逆転し、品岡は防戦一方だった。
片腕でできる攻撃などたかが知れているし、何よりノエルの妖術のかかったハンマーを落としたのが痛い。
現状コトリバコに対して有効な打撃の放てる唯一の武器だった。
- 276 :
- 【次スレに続く】
【伝奇】東京ブリーチャーズ・弐【TRPG】 [無断転載禁止]©2ch.sc
http://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1487419069/
- 277 :
- 期待してるよ!
- 278 :
- この板はめいいっぱいまで書き込まないとスレが倉庫に落ちないのである
- 279 :
- 都内の某雑居ビルに事務所を構える高校生探偵の那須野橘音、
その正体は三尾の狐であり、妖壊漂白チーム東京ブリーチャーズのリーダーだ。
橘音のもとに、今日も上司の玉藻前から指令が下る。今回の討伐以来は八尺様。
橘音が所属メンバーに電話をかけまくった結果、
橘音の探偵事務所の助手でもあるターボババアの孫の太甫祈と
橘音と同じ雑居ビルでかき氷喫茶店をしている雪女(イケメン)の御幸乃恵瑠が作戦に参加することとなった。
祈が男子小学生に変装し、橘音が結界を張った公園に誘い込むべく囮となる。
祈は見事な機転で八尺様を公園に誘い込むことに成功し、戦闘が始まる。
最初は互角に戦っていたものの次第に追い詰められていくノエルと祈。
絶体絶命のピンチに陥った時、葬儀屋を営む鬼の尾弐黒雄が駆けつけ、事なきを得る。
しかし状況は依然として予断を許さない。
そんな中、打開策を考える間持ち堪えるように皆に要請する橘音。
八尺様から激しい怨嗟を向けられ気を失うノエルだったが、気絶から目覚めたノエルは橘音に告げる。
八尺様は『橋役様』だと。
かつて幼い頃に妖壊と化したこと、その時に生贄として少年――『橋役様』を捧げられたことを思い出したのだ。
それは、古の時代に行われていた人身御供の風習が生み出した哀しき妖怪。
『橋役様』とは自然災害を鎮めるために、神に捧げるために生贄とされた少年のことであり
この八尺様は、橋役様として生贄にされた我が子を求め彷徨う母親の霊の集合体だった。
その言葉を受けた橘音は、橋役様とされた少年の霊達、妖怪名「ミサキ」を召喚。
何組もの母親と子が再開を果たし成仏していく。
その後に残ったのは、かつて複数の少年を殺した背の高い猟奇殺人者の女の悪霊。
哀しき母親の霊達を取り込み利用していた諸悪の元凶だった。
しかしそれらの力を失いただの悪霊となった八尺様などブリーチャーズの敵ではない。
弱弱しい姿になった八尺様が尾弐によってあまりにも容赦なく消し飛ばされた光景を目の当たりにした祈は
これでよかったのかとノエルに問いかける。
ノエルはいつか生まれ変われると説き、優しく祈を抱きしめたのだった。
一方の橘音は、八尺様が消えた場所から怪しげな紙片を拾い上げる。
それは今回の八尺様の事件が何者かの差し金によるものということを示していた。
そんな彼らを高層ホテルの一室から見つめる4つの人影――
彼らは東京ドミネーターズ。彼らこそ、八尺様ばかりではなくここ最近の妖壊事件の黒幕であった。
- 280 :
- 都内で女性の謎の変死事件が多発――鞍馬山の妖怪銀行から盗まれた呪詛兵器「ハッカイのコトリバコ」の仕業だ。
コトリバコ漂白の命を受けた那須野橘音の元に集まるのは、多甫祈と御幸乃恵瑠と尾弐黒雄、
そしてのっぺらぼうで陰陽師の式神のヤクザで、ブリーチャーズの非正規メンバーでも品岡ムジナだ。
当初橘音は祈を連れて行くのは危険だとして事務所に残そうとするが、ノエルは橘音が性別不詳であることを指摘し激しく抗議。
紆余曲折を経てムジナの形状変化妖術により男に化けた上で同行することになった。
尾弐は自らの腕を切ったカッターの刃を、その事は伝えずに破魔の刃と称してを祈と橘音とノエルに渡すのであった。
現場に向かった一行は、付喪神化したハッカイ(8種類あるコトリバコの最上位)と遭遇。
複数の巨大な赤子が融合したような不気味な化け物の姿となったハッカイとの戦闘が始まった。
ハッカイがいかに強力といえど5対1、このままいけば勝てると思われた時だった。
ハッカイ以外の7種類のコトリバコが一斉に現れ、場は絶望に包まれる。
追い詰められる一同だったが、すんでのところで橘音の呪式歩方「禹歩」による結界が完成。
コトリバコ達は能力に強力な制限を受け、一転して攻勢ターンとなる。
一同は激戦の末に、全コトリバコの撃破に成功したのだった。
原型の小箱に戻ったコトリバコ達だったが、しかし直後に声をあげはじめる。
ケ枯れして一時的に大人しくなっただけの状態であるため、何らかの手を打たなければすぐに復活してしまうのだ。
橘音は、パズルを解くと展開されるようになっている地獄の門「リンフォン」を発動。
コトリバコ達は成す術もなく地獄の門に吸い込まれていったのであった。
あまりの救いの無い結末に呆然とする祈やノエル。
辛くもコトリバコを撃破した一同だったが、そんな一同の前に東京ドミネーターズの4人が姿を現す。
リーダーらしき『妖怪大統領』の名代レディベアを筆頭に、人狼のロボ、ジャック・フロストのクリス、赤マントの怪人65535面相。
彼らはコトリバコを放ったのは自分達だと堂々と宣言、更に東京を支配すると宣言して宣戦布告する。
満身創痍の一同だったが、激しい怒りに駆られて飛び出した祈を全員でサポートする形となった。
しかし皆の攻撃はことごとく無効化され、祈はレディベアの瞳術の前にあっさりと倒れ伏す。
ドミネーターズの面々はそれ以上一同を追い詰めようとはせず、強者の余裕たっぷりに姿を消すのであった。
悔しがる祈に、橘音はコトリバコの赤子の指の欠片を小箱に入れて渡し
想いの力はきっと伝わるからコトリバコを想うなら持っておくといいと伝えるのだった。
解散後、尾弐はムジナに自分がいなくなった後祈やノエルや橘音を守ってほしいと持ちかけ、ムジナはそれを断る。
何はともあれそれぞれの自宅に帰る一同。
祈はコトリバコを想いながら眠り、一方激戦で妖力を使い果たしたノエルは何故か美少女の姿になっていた。
そして橘音は事務所に帰り着いた後、破魔の刃のお蔭で助かったと密かに尾弐に感謝するのであった。
- 281 :
- ttps://www.youtube.com/watch?v=M-ssdkN2wos
ttps://www.youtube.com/watch?v=jxUhx4S3_Ao
ttps://www.youtube.com/watch?v=8Sh17kXfw-k
ttps://www.youtube.com/watch?v=gBRF0op5BrE
ttps://www.youtube.com/watch?v=WdW4qz352U0
ttps://www.youtube.com/watch?v=ZuT3xYLW7vA
ttps://www.youtube.com/watch?v=Nwptlbjv-MU
ttps://www.youtube.com/watch?v=Y9FT_yaCu1c
- 282 :
- コトリバコとの戦いから少し時間が流れ桜が咲き始めた頃。
SnowWhiteに突如としてクリスが一人で現れる。
動揺するノエルに向かって、自分はノエルの姉だと言い、ブリーチャーズを抜けるように言って去っていく。
クリスを呆然と見送ったノエルは、我に返ると階下の橘音の事務所に駆け込む。
橘音は尾弐と共に今後のことについて話し合っているところであった。
ノエルの話を聞いた橘音は、3年前にもクリスと戦ったことがあり5人もの仲間が犠牲になったことを明かす。
恐るべき強敵だが、橘音は相手が手掛かりを見せた今がクリスと決着を付ける好機だと再戦を決意。
送り狼のポチを召喚し、クリスが使ったかき氷の器から行先を追跡させることとする。
まずは中学校に寄って祈と合流する流れとなった。
一方、新学期を迎えた祈のクラスに、モノ・ベアードと名乗る転入生が現れる。
それは東京ドミネーターズのレディベアであった。
モノは学校内では戦わないという協定を祈に持ちかけ、祈はそれを受諾。
その直後、水に飢えて《妖壊》と化したカマイタチが体育教師を襲撃。
祈とモノは共闘してカマイタチを無力化する。
そこに橘音達が到着。カマイタチは逃げてゆき、どさくさに紛れて橘音は祈を連れ出した。
ポチの先導で行きついた場所は、千代田区にあるやんごとなき神社。
その拝殿の前にてクリスは悠然と待ち構えていた。
クリスはノエルのブリーチャーズからドミネーターズへの移籍を持ちかけるが、ノエルはそれを拒否。
昔みゆき(ノエルの昔の名前)が妖壊化したことにより雪の女王によって引き離された過去を語り始めるクリス。
クリスが行使する力は、本来はみゆきが持っていた時期女王としての力であった。
そして、ノエルが東京に来たのは雪の女王から橘音への依頼によるものであり、
橘音は最初から全てを知っていたことも明らかになる。
自らが前人格の乃恵瑠と雪の女王との契約によってつくられた仮の人格だと悟ったノエルは、皆に別れを告げる。
突如として女性の姿になるノエル、それはノエルの以前の人格で、
数百年の間雪の女王の元で次期雪の女王としての教育を受けた乃恵瑠であった。
祈やポチはノエルの消失に動揺するが、容赦なく戦闘は開始。
クリスは祭神簿と國魂神鏡の力を行使し、英霊たちを召喚し一行を襲わせる。
橘音はそれに動物の英霊たちを召喚することで対抗。
ノエルが消えてはいないことを信じ、神器たる剣を乃恵瑠のもとに届ける祈とポチ。
- 283 :
- しかし尾弐はそれではクリスに勝つには不十分だと考え、
いざとなったら乃恵瑠を殺害しクリスに決定的な隙を作ることを考えていた。
尾弐にとって、人を殺めた《妖壊》は憎むべき存在であり、かつて妖壊化したノエルもその中に含まれるのであった。
尾弐のその考えを察した橘音は、莫大な妖力の行使によってケ枯れ寸前になりながらも
ノエルを信じて見守るように諭し、万が一駄目なら共に手を穢そうと告げる。
そしてポチには、クリスとの戦いから手を引き、雪の中で倒れた祈を連れ戻しに行くように告げる。
橘音は最初からノエルとクリスに一騎打ちをさせるつもりであった。
橘音が雪の女王から受けた依頼とは、ノエルがクリスと決着を付けられるように導いて欲しいというものであったのだ。
一方、クリスと戦っている乃恵瑠も、尾弐が自分に殺意のようなものを向けている事に気付き、
それを戦略上の良し悪しの問題として冷静に受け止めるのであったが、「死にたくない」という本音が口をついて出る。
それによって乃恵瑠は、自分の中にノエルが残っていること、むしろノエルの方が本性だった事に気付く。
ノエルの精神世界では消えようとするノエルを原初の人格であるみゆきが繋ぎ留め、
ノエルは決して虚構ではなく原型の自分が望んだ真実の姿だと告げていた。
ここに、度重なる記憶消去により三つに分かれていた人格がノエルをベースに統合されるに至る。
乃恵瑠の姿をしたノエルは一気にクリスを圧倒、神器たる剣の力を使いクリスから力を取り戻すことに成功する。
女王の力を失ったクリスにもはや戦闘を続行する力はなく、
また胸に飛び込んできたみゆきを抱きしめることで戦意は無くなり、戦いは終わった。
ケ枯れ寸前だった橘音は、尾弐に血を与えられることで持ち直し、
凍えてほぼ気絶していた祈とポチも、尾弐の介抱と吹雪がおさまったことで意識を取り戻した。
そこに怪人赤マントが出現、祭神簿と國魂神鏡をクリスから奪い破壊する。
これらの破壊が、クリスが妖怪大統領から命じられていた本来の任務であった。
赤マントはクリスに手を下すことはしなかったが、それはその必要が無いと知っているからであった。
本来さほど強大ではない一介の雪妖に過ぎなかったクリスは、身の丈に余る力を長年持ち続けた反動によって、
ノエルに抱かれながら雪となって消えていくのであった。
赤マントが去り、クリスは消え去り、その場にいるのはブリーチャーズの面々だけとなる。
クリスと決着を付けたことにより、ノエルが東京に居続ける理由は無くなった。
しかし普段の青年の姿に戻ったノエルは仲間達に向かって、
こんな過去を持つ自分が今後もブリーチャーズにいていいかと問いかける。
仲間達の反応は様々だったが、ノエルの申し出を承諾するという点では一致していた。
警察や消防が来る前にと急いで撤退する一同。
事務所に戻った橘音は、自身の因縁のライバル的存在である怪人赤マントとの対決に思いを巡らせるのであった。
店舗兼自宅に帰ったノエルは常連客に扮して東京に付いてきていた乃恵瑠時代の従者達に暖かく迎え入れられ、
家に帰った祈はターボババアに御馳走でねぎらわれる。
一方の尾弐は、拠点の一つとしている入り口無き路地裏にて、神社で手に入れてきた神事用の清酒を呷って吐き出す。
吐きだした酒が黒く変色しており触れた雑草を枯らすのを見て
自分にはもう時間が無いという意味合いの意味深な言葉を零すのであった。
- 284 :
- 7月半ばになったころ、橘音がいつものメンバーを集めて温泉への慰安旅行を持ちかける。
皆の返事を聞く前に橘音が半ば強引に押し切る形で、全員参加となった。
一週間後、一行は妖怪の妖怪による妖怪のための温泉旅館「迷い家」を訪れる。
温泉や散策を楽しみ、夜になって豪華な晩餐をとっていたところ、迷い家の主であるぬらりひょんの富嶽が現れ、一行に依頼をもちかける。
それは最近発見され人間達の手によって上野の博物館に捕らわれていいるニホンオオカミの保護であった。
橘音はじっくり作戦を練ってから実行に移そうと言うが、その夜ポチが単身ニホンオオカミに会いに行こうと脱走。
総出で追跡するが、ポチに追いついた橘音はポチの先走った行動を許し、そのまま行くように告げるのだった。
残りのメンバーは一晩泊まり、次の日天神細道をくぐって東京に戻る。
橘音は偽のカンスト仮面によるニホンオオカミ誘拐の予告上を仕掛け、
東京ブリーチャーズの犬神にカンスト仮面の振りをして乱入して騒ぎを起こしてもらっているうちにニホンオオカミを連れ去るという計画を立てていた。
しかし東京ドミネーターズの狼王ロボの乱入により計画は頓挫。
走って東京に辿り着いていたポチも合流し、ロボを迎え撃つ一同だったが、全く歯が立たない。
そしてロボは白いニホンオオカミを目にすると、かつて人間に殺された妻ブランカと思いこんだのであった。
そこにレディベアが現れロボに内輪の事情で撤退を命じ、ロボはしぶしぶそれに従うのであった。
ひとまず戦いが終わった後にニホンオオカミの檻を見てみるともぬけの殻になっており、混乱に乗じて逃げたようだった。
尾弐と祈がその場に残り、ポチと橘音とノエルが足跡等を手掛かりにニホンオオカミを追跡。
尚、橘音はこのニホンオオカミをシロと勝手に名付けた。
とあるビルの屋上でニホンオオカミ(以下シロ)を見つけた一行。
ポチは獣にしか分からぬ声無き言葉をシロと交わすが、
シロは同族だけが仲間になれる存在だと思い込んでおり、同族以外と群れているポチを仲間とは認めなかった。
そのままシロは走り去ってしまい、深追いすることなく博物館に戻る一同。
重傷の尾弐に救急車を手配し、皆も一緒に乗り込んで、河童が経営する妖怪のための病院河原医院へと向かう。
治療を受けた尾弐は瞬く間に回復し、病室内で作戦会議に突入。
橘音は、満月となる4日後の夜に、ロボは衝動を抑えきれなくなってブランカ(シロ)奪還のために必ず動くと皆に告げ
ポチに、ロボに衝撃を与えるためにシロとつがいになれと無茶振りし、
他のメンバーには銀の弾丸を確実に当てる方法を考えておくように言い残し
自分は銀の弾丸を探しに行くと言い残して音信を絶った。
ノエルは天神細道を用いての0距離射撃を提案。迷い家まで天神細道を取りに行った祈は、富嶽から風火輪を授かるのであった。
残りの日数、ノエルと祈は天神細道の使い方を研究し、尾弐は猟銃などを手配していた。
その間、ポチはシロに協力要請するのではなく、シロを深い山へ逃がすべく匂いで道しるべを作っていた。
そして4日後の夜、待てど暮らせど橘音は来ないが、何もしないわけにはいかずシロの元に向かう一行。
- 285 :2017/10/18
- ポチはシロに、自分の作った匂いの道をたどって逃げるように要請する。
シロは逆にポチ達に逃げるように言い、寄り添ってほしいと言ったポチに身を寄せようとする。
丁度その時、ロボが現れ、一行は銀の弾丸という切り札無しに迎え撃つ事となった。
シロを前にして我を失ったロボは、相手を食べる事で魂を取り込んで一つになれるという理屈でシロを噛みR。
更に、同族を自らの中にかくまうという理由で狼の血を引くポチを次のターゲットとして戦闘続行。
死亡したかのように見えたシロだが、祈が一縷の望みをかけてシロを抱いて天神細道をくぐり、河原医院にかつぎこむ。
普通の狼だったら死んでいたところだったが、妖怪として覚醒したシロは息を吹き返し、河童の軟膏で瞬時に回復した。
ブリーチャーズの結束の強さに心を動かされたことが、妖怪としての覚醒を促したのだった。
シロと共に急いで戦場に戻ろうとする祈の前に、突然壮麗な門が現れ、ミカエルと名乗る天使が現れる。
彼女は聖罰と称し半死半生にした橘音と魔滅の銀弾を寄越して、激励するような言葉を残し去って行った。
橘音を河原医院に預け、魔滅の銀弾を携えて皆の元に戻る祈とシロ。
一方、ポチ・尾弐・ノエルはロボに大ダメージを与えること成功するも、手負いの獣となったロボは更に凶暴化。
やはり人狼は銀の弾丸以外では倒せないのだと思われた。
そこに祈とシロが到着し、シロは自分を仲間に加えてほしいとブリーチャーズのメンバーに懇願する。
それはロボにとっては、ブランカ(シロ)からの決定的な離別宣言を意味していた。
あまりの衝撃に硬直するロボ、祈の手の中には魔滅の弾丸。ついに好機は訪れた。
しかしポチはロボに組みつき、その首筋に噛みつく。狼として狼に負けたと思わせてやりたい、との想い故。
祈はそんなポチの想いを汲み、銀の弾丸を構えた上で、ポチと勝負して負けたら穏やかな妖怪になるように約束させる罠を仕掛けた。
しかしロボは勝負に乗らないという。すでにポチの牙はロボの鉄壁の防御を貫き突き立っていたのだ。
自らの負けを悟ったロボは正気を取り戻し、勝者であるポチに獣《ベート》の力を継承。
一行に裏で糸を引く黒幕の存在を示唆し激励した後、自分の心臓を自ら握りつぶすという壮絶な最期を遂げるのであった。
こうしてシロの保護に成功した一行は、シロを送り届けるためと慰安旅行の続きを兼ねて再び迷い家を訪れる。
ちなみに重傷だった橘音はこの時にはすっかり回復してあっけらかんとしていた。
ポチはシロともっと仲良くなりたいと思いつつ話しかけられないまま旅行の最終日を迎えてしまった。
何事もなく終わると思われたが、見送りに来たシロからポチへ
東京漂白が完遂したら結婚しよう(意訳)的な意味のまさかの逆プロポーズが行われる。
予想外の事態に動揺しつつもそれを受け入れる形となったポチであった。
レッツ!レッツ!レッツラゴー!
kskアニメキャラバトルロワイアル Part32
創作発表
【リレー小説】隙あらば殺人鬼スネ夫 PART95
ネギまバトルロワイヤル31 〜NBR ]]]T〜
【マラカナンで】キャプテン森崎46【釈迦寝ポーズ】
【リレー小説】殺人鬼スネ夫とエイリアン Part119
絵師募集スレ 2
【幼女】ロリ総合スレ【旧YSS】
ファイアーエムブレム的フォーマットで創作
--------------------
中庸戦
メンヘル板【モナー薬局回答者控室】#38
高橋貢
お前らが愛用してるシャーペン挙げてけ
ハァハァ・・・仕事に行きたくない ○| ̄|_12539日目
次の日本代表監督は誰がいい?part3
b-mobile ビーモバイル 日本通信 13
【お手本は韓国!】新型コロナ 検査態勢強化で致死率低く抑える国も
【B.LEAGUE】東京八王子トレインズpart1【B2】
ステーキハンバーグ&サラダバーけん67匹目
このクラシック曲の題名を教えて!49
(過去)こんなひとりでできるもん!は嫌だ!
DIYでロフトスペースを作ろう
広瀬すず part49
言いたいことだけ言って立ち去るスレッドPart2810
【藤本タツキ】チェンソーマン62【ワッチョイ】
【ニコ生】 ようずん 【ロリ禿】
タクティクスオウガで対戦があったら最強なユニット
☆★★花屋@店舗運営板 その23★★★
バイク通勤・通学の人集まれ!43
TOP カテ一覧 スレ一覧 100〜終まで 2ch元 削除依頼