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TRPG系実験室 2


1 :2018/09/07 〜 最終レス :2020/03/06
TRPG関係であれば自由に使えるスレです
他の話で使用中であっても使えます。何企画同時進行になっても構いません
ここの企画から新スレとして独立するのも自由です
複数企画に参加する場合は企画ごとに別のトリップを使うことをお勧めします。
使用にあたっては混乱を避けるために名前欄の最初に【】でタイトルを付けてください

使用方法(例)
・超短編になりそうなTRPG
・始まるかも分からない実験的TRPG
・新スレを始めたいけどいきなり新スレ建てるのは敷居が高い場合
・SS投下(万が一誰かが乗ってきたらTRPG化するかも?)
・スレ原案だけ放置(誰かがその設定を使ってはじめるかも)
・キャラテンプレだけ放置(誰かに拾われるかも)

2 :
避難所用板

なな板TRPGよろず掲示板
ttp://jbbs.shitaraba.net/internet/9925/

TRPG系実験板
ttp://jbbs.shitaraba.net/internet/20240/

3 :
>>2
したらばか
荒らしのスレ確定やん

4 :
前スレ:TRPG系実験室
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1479560761/

5 :
ベンケイはエクスフォードのショットガンをものともしない。
更に随伴機とベンケイはフォーメーションを組んで行動しており、
随伴しているコープスブライドから撃墜を狙っていくのも難しい。

>「先に護衛から落とすのは――難しいようだね」

>「だろうね。トーチカ・システム……僕らが小学生の頃の戦術なのに」

「トーチカ・システム……」

先輩の所感から聞いたことのある単語を聞き取り、なんとか鸚鵡返しする。
記憶が確かなら機体タイプから厳選し守りを固める戦術だったはずだ。
その攻略法までは周子に分からないので、先輩方の判断に任せる事にした。

>「やるなら両方狙った方がいい。一斉攻撃だ。どちらかを狙えばどちらかをカバーしてくる。
> ……まったく、ここまで流行を叩き潰すような機体を出してくるとはね!」

高機動中火力型有利の現環境を真っ向から潰す次世代機を前に、桐山は皮肉を込めてそう言い放った。
桐山が立てた作戦は、ベンケイも随伴機のコープスブライドもまとめて狙ってしまうというものだ。
リーダーながら戦略眼に欠ける周子は言われるがまま肯定し、それを承認した。

>「あら、私は好きよそういうの。勝てる機体、勝てる戦術で順当な勝ちを収めたって楽しくないもの。
> 勝利への道筋に舗装は必要ない。誰かに用意されたお仕着せの美酒は、薄味だわ」

晶は流行りや環境というものを好まず、自分なりの勝ち筋を模索する性分だ。
加えて逆転勝利を常に狙う節があるのであえて自ら窮地に追い込む事すらある。
彼女の戦闘は見ていてハラハラする事も多いが、カタルシスを感じるのも確かだ。
敵の猛攻を凌ぎ、逆転の一撃を叩き込む!微塵改は彼女の理想を体現していると言えよう。

前を見ればマクシミリアンが大剣を持って敵陣に切り込み、四対一で渡り合っている。
足捌きで常に敵の射線を切り疑似的に一対一を作る『クイックステップ』で巧みに敵を捌いていく。
『クイックステップ』――すなわち銃口から敵の射撃を予測し、回避するのは機動力のある機体ならそう難しくはない。
だが、四対一ともなれば射線を切り続けるのも難しくなってくる。初心者にはまず出来ない芸当だ。

>「撃ち込むなら今だ!」

一人で前衛を受け持っていたマクシミリアンがベンケイの薙刀に押され後ずさる。
そして打ち合いが三度目を迎えた時、ベンケイの随伴機は完全に桐山だけに意識が向いていた。

>「駄目だ。仕留めきれなかったら次がなくなる。一度距離を……」

「え!?……どっち!?」

ARデバイスを通して八木の声が響く。八木の判断は桐山とは違っていたようだ。
リーダーとしてどちらを選択して良いものやら、周子の引き出しには判断材料がない。
何もせず悩んでいる間にARデバイスの通信が晶に切り替わった。

>「桐山先輩、『スイッチ』するわ。周ちゃん、爆弾先輩、フォローをお願い」

晶は桐山の立てた作戦通りに行動することにしたらしい。
また、ベンケイはマクシミリアンとの攻防に熱心なあまり、前に出過ぎている。
晶の微塵改は足の遅い機体だが、スイッチなら自然な形で前衛を交代できる。

6 :
>「零式牽引索条『呑竜』――起動!」

微塵改がベンケイにワイヤーアンカーを撃ち込んで接近戦に持ち込む。
ライオットシールドで薙刀の猛攻を防ぎつつ、背中からスレッジハンマーを抜き放った。

>「ベンケイの弱点と言えば……昔から"ここ"と相場が決まっているわよね……!」

拘束された不意を突いて、向う脛目掛けてスレッジハンマーを振り下ろす!
打撃エフェクトが豪快に火花を上げ、追加装甲をぶち抜いて脚の装甲が爆裂した。
足払いの一撃で脚部が破壊された事で、ベンケイは膝をつき、耐久バーが減っていく。

「やった!ダメージが通ったよ晶ちゃん!」

>「今のは、上手い……だけど、それだけじゃ……」

八木の呟き通り、ベンケイを操縦する彼の表情は何ら崩れていない。
脛を破壊されたといっても、骨格は無事。駆動系にも支障はなかった。
モータルは平然とした様子で機体の損傷を確認し終えて、戦闘に意識を向け直す。

「後が続かないようだな……? これで終わりなら勝機はないと思う事だ」

モータルが気取った様子でくっくっくと笑う。
バラバラのチームつつじヶ丘の様子を見て舐めているのだ。
ファイターとしての勘が告げている。このままでは押し切られて負ける。

(このままじゃ八木先輩の言った通りだ……!)

もっと八木の言葉に耳を傾けておけば良かったと、周子は途端に後悔した。
長年このゲームに親しみ、経験を積んで来た八木だからこのシナリオは目に見えていただろう。
安易に応戦せず、逃げて様子を見守るという手段だってあったはず。
リーダーとして、ファイターとして完全に判断ミスをしてしまった。
操縦桿を握る手が汗で滲む。いつもの明るい表情に翳りが見え始める。
ゲームもまだ序盤、こんな所で負けたくない。負ける訳にはいかない。

(このまま押し込まれる前に……なんとかしないと……!)

リーダーとしての責任を感じながら、周子は頭を巡らせた。
問題はこの一斉攻撃で相手のトーチカ・システムを如何に崩せるかだ。

(駄目だ……エクスフォードだと援護射撃で耐久を削れても一気に盤面を返せない)

通常の射撃機と違いエクスフォードは元来格闘機だ。
正味なところ、射撃兵装の威力は然程高いものではなかった。
たとえ一発当てたところで敵機を撃墜できるほどの火力がない。
『ハーミットアーマリー』内の射撃武器を連続で命中させれば話は別だが、
桐山が実践したように万能機相手にはクイックステップで躱される可能性もある。

(不用意に射撃しても焼け石に水……どうすれば……)

周子が悩んでいたところに、不意にARデバイス越しに声が響いた。

>「……ゲームは、勝たなきゃ面白くない」

それは八木の声だった。

>「僕は今でもそう思ってる。だから……」

やや後方に位置していたクラウンの両手が再び膨らみ、爆弾を四つ形成する。
だがクラウンの前はキューブで塞がっており、本来投げるのに不利な位置だ。

7 :
>「悪いけどこのゲーム、どうしても勝ってもらうよ」

構わず投擲し、爆弾は低い放物線を描いて飛んでいく。
その着弾地点はモータル達より遥か手前。エクスフォードとマクシミリアンの後方左右だ。

>「桐山、水鳥、次の一撃は絶対に当たる」

周子とエクスフォードの背後でクラウンの投げた爆弾が爆ぜた。
ただの爆弾ではない。背後からでも分かる目映い輝きと、あまりに長い発光時間。
クラウンが投擲したのは最初に見せてくれた爆弾ではなく、閃光弾なのだと気づいた。
前方にいるモータル達はあまりのまぶしさに目が眩んでいる様子だった。

「八木先輩――!」

翳りを見せていた周子の顔がぱっと明るくなった。
八木はゲームが上手い。元ゲーム部の桐山がそう言っていた。
このゲームについて運営並みに熟知していて、色々な事を知っているのだろう。
周子達の素人くさい立ち回りに言いたい事は山となるほどあるはずだ。
それでいて尚、最高の援護を入れてくれた。

「――ありがとうございます!」

エクスフォードがショットガンを構え直し、万能機を狙って射撃。
撃ち尽くすまで引き金を引き続け、放たれた散弾が全弾命中する。

「このまま火力を集中させる!」

操縦桿を捻り武装選択画面から『マイクロミサイル』を選択した。
『ハーミットアーマリー』のちょうど上側が開き弾頭が顔を覗かせる。
レーダー上の標的をロックオンし、トリガーを引いて三発発射。
煙が微かに尾を引きながら万能機へ飛来、命中。
耐久バーが0になったことで盛大な爆発音を上げながら機体が爆散する。

「やった! これで一機撃墜!」

崩れ落ちる万能機が爆散する発光を受けて、エクスフォードの装甲が鈍く輝く。
桐山の方はどうかと、周子はマクシミリアンへ視線を向ける。
トーチカ・システムを崩してしまいさえすれば、後の懸念はベンケイのみだ。

「ちぃっ、まぶしい……!」

ベンケイを操縦するモータルは目が眩みつつも尚、操縦桿を動かして武器を変更した。
大薙刀を背中にマウントし、新たに武器を取り出す。それは『太刀』と『大鋸』だ。
隙を見せはしたが、ベンケイの追加装甲である鎧も健在。多少のダメージなら支障はない。

目が眩む前の敵の位置もなんとなく把握している。
眼前にいた足の遅い機体――微塵改なら、確実に攻撃できる。
攻撃範囲の広い二刀流なら多少動き回ろうが攻撃を当てられる可能性は高い。

「どこだ! 敵はどこにいる……!?」

ベンケイは太刀と大鋸を滅茶苦茶に振り回し、微塵改を探す。
無闇に暴れ回っているだけだが格闘機のベンケイが暴れれば嵐に等しい。

【念入りに撃って万能機を一機撃墜。ベンケイが二刀流で滅茶苦茶に暴れまわる】

8 :
【すみません、誤解してた箇所があるのでちょっと訂正。

桐山が実践したように万能機相手にはクイックステップで躱される可能性もある。
という一文は
万能機相手には躱されたり防がれてしまう可能性もある。

に脳内補完をお願いします。すみません。】

9 :
(こいつを使ってみるか……?いや、ベンケイを倒しきれる保証はない。
それどころかもし使って負ければ……!)

桐山は小銃で敵機をけん制しながら、マクシミリアンの背中に搭載された大型の武器を確認する。
折り畳まれたそれは、『カリブルヌスMK-2』と名付けた完全自作の格闘・射撃両用の万能武器だ。

マシンナリーファイターズにおいては公式以外にも機体パーツや武器、補助兵装の制作が認められており、
公式に登録することで自分だけの機体が作れるというのがウリの一つだった。
だが実際はモデル制作に要求される3Dモデリングや物理演算などの技術や知識、さらには使用する場合
改造不可かつ強烈な欠点を必ず審査において運営から要求されるため実際に使われるパーツはごく少数だ。

桐山がゲーム部に入る前から使っていたこの自作武器は、巨大なビーム刃を形成する柄であり
大型ビームキャノンでもある。ひとたび発動すれば重装甲タイプでも耐久バーの半分を瞬時に削り取るほどの火力を有するが、
運営から与えられたデメリットはそれを上回るものだ。

そのデメリットとは『使用中における他武装の使用禁止(他武装には補助兵装及び素手による格闘・
全てのレーダー及びセンサー・移動用のスラスターもしくはバーニアも含まれる)』。

つまり使用している間は目視で敵を視認し、走って敵を射程圏内に捉えなければならない。
その間一切の他武装による補助はできないというものだが、桐山はそれを受け入れた。

自らの制作技術の証明として、それを周囲に見せつけるためだった。
実際過去のゲーム部においても自作できるほどの人間は桐山以外にいなかったのもあって
入部当初から期待の新人として扱われていた。

(だけど……僕にはそれしかなかった。実際の腕前は知識と技術に追いつかず、
結果として新人の中で最下位と判断された僕は雑用やモデルの作成を一方的に押しつけられた)

しかし、そんな中でもカリブルヌスを発動した試合だけは必ず勝っていた。
もちろん使えば勝てる!という状況的な判断もあったが、時にはとっさの判断で圧倒的な劣勢を覆したこともあった。
そうして試合数を重ねていくうち、次第に桐山はカリブルヌスを使うことが怖くなってしまった。

(これを使って負ければ……僕には何もなくなってしまう。
ベンケイはまだ全部の能力が分かったわけじゃない、こうして紫水君の機体を盾に防御戦をすればいつかは――)

>「悪いけどこのゲーム、どうしても勝ってもらうよ」

逃げ腰の考えを押し留めるかのように、八木の声が聞こえた。
それと同時に投げられた爆弾は、エクスフォードとマクシミリアンの背後へとふわりと浮かんで飛んでいく。

>「桐山、水鳥、次の一撃は絶対に当たる」

>「八木先輩――!」

そうして起爆した爆弾は、熱ではなく莫大な光量で辺りを覆う。
瞬時に八木が爆弾のステータスを再設定し、燃焼時間の長い照明弾として投擲したのだ。
迷いを振り切ったようなその言葉に、桐山も思考が切り替わる。

「……ありがとう、八木!」

10 :
>「どこだ! 敵はどこにいる……!?」

閃光弾によって行動不能になったベンケイと、その背後にいるコープスブライド。
どちらかが復帰する前に、致命傷を与えなければならない。
つまり――背中に背負ったそれを抜く時だ。

「カリブルヌスMK-2、起動。発動条件承認」

桐山は静かに、だが確かにはっきりと強い意志を込めてつぶやく。
すると背中に折り畳まれた鉄塊のような武器が徐々に割り開くように変形し、
複雑な形状の発振器に槍のように長い柄とトリガーを取り付けた一つの武器を両手に持つ。
全センサーとレーダーがダウンし、一瞬桐山のHUDに映し出されるモニターの映像が歪む。
そうしてエネルギーをカリブルヌスと機体動作だけに回し、準備が整った。

「まずは武器からだ!」

ベンケイの得物は太刀と大鋸の二刀流。
マクシミリアンの大剣ならばリーチと出力の差で負けるだろう。
だが、カリブルヌスはそれをはるかに上回る射程を持ったビーム刃を形成する。

平均的な機体三機分に匹敵するビーム刃が薙ぎ払うように正面から太刀と大鋸に衝突し、
そのまま武器を切り裂いたかと思うと追加装甲にビーム刃が食い込む。
装甲は徐々に溶解しながら切り裂かれ、ついには内部骨格にまでその影響は及ぶ。

「武器は新型じゃない!それならぁぁ!!」

仮想操縦桿を倒して横に捻り、ビーム刃の出力を平均から最大に変更。
機体の出力を戦闘不能寸前にまで下げ、その分を全てカリブルヌスに回す。
さらに装甲は容易く溶け始め、光刃の輝きはより一層強くなる。

「ば、馬鹿な!対ビームコーティングされた追加装甲だぞ!」

じりじりと減り続ける追加装甲の耐久値はモータルを焦らせ、
部位破壊警告がモニターの片隅に表示される。
なんとしてでもこの光刃を止めなければならないと判断したのか、
ベンケイは素手でマクシミリアンの両腕を掴み、カリブルヌスから離そうとする。

その出力はマクシミリアンの腕部装甲を粉砕するには十分なものだが、
桐山は離脱を選ばずカリブルヌスを使用し続ける。先程と同じように、ベンケイがこちらに注意を向け続けているからだ。


【ちょっと入院しててお待たせしました、秘密兵器の登場です!
 スレ立てありがとうございました】

11 :
test

12 :
微塵改が叩き込んだ炸裂ハンマーによる一撃は、ベンケイの脚部装甲を穿ち飛ばした。
剥き出しになった脚部にも損傷が入り、ベンケイは一時的に膝をつく――スタン状態に入る。

>「やった!ダメージが通ったよ晶ちゃん!」

後ろで周子が喜色ばんだ声を挙げた。晶は思わず振り返り、周子とハイタッチした。
白兵戦の真っ最中に敵から目を離すなど、ド素人丸出しのムーブである。

>「今のは、上手い……だけど、それだけじゃ……」

弛緩した空気を咎めるように八木から警告が入る。
彼の指摘どおり、立ち上がったベンケイの挙動に支障はない。
人間なら痛みで動けなくなるレベルの打撃だが、相手はもの言わぬマシンナリーなのだ。

「心配ないわ。丸裸になった泣き所に……もいっぱぁぁぁつっ!!」

すかさず晶は再びスレッジハンマーを振りかぶり、うなりをつけてベンケイの脚部を打撃した。
しかし、金属のぶつかり合う音だけが響き渡り、爆発が起こらない。脚部のゲージをわずかに削っただけだ。

「あ、リロード……」

二式炸裂戦槌は、打撃部に装填された炸薬を衝撃で爆発させることで威力を生み出す兵装だ。
炸薬を装填しなければならないのである。つまり、一撃ごとにリロードが必要なのだ。
そして、周子と喜びを分かち合うことに夢中になっていた晶は、リロードをすっかり忘れていた!!

13 :
>「後が続かないようだな……? これで終わりなら勝機はないと思う事だ」

ベンケイの向こうでモータルがくつくつと笑う。
本来であれば、敵がスタンした隙にリロードを行うか、別の武器に切り替えて追撃を加えるべきだった。
複数の武器を持ち替えながら戦うことは、弾幕を張る上で非常に重要な技術のひとつだ。
リロードの隙は、敵が体勢を立て直すのに十分過ぎる時間なのだから。

「むぅ……私としたことがとんだ失策ね……」

炸裂戦槌を背面のハードポイントに戻し、ライオットシールドを構え直す。
背面にはオートローダーが搭載されていて、別の武器を構えている間にも自動でリロードを行ってくれる。
問題は、もう一度痛打を叩き込む隙を、ベンケイやその随伴機が与えてくれるかどうかだ。

決定力が不足したまま、しばらく膠着状態が続いていた。
とはいえ、こちらが壊滅していないのは、ひとえにベンケイ側の温情によるところが大きい。
何故ならベンケイはまだ『七つ道具』のうち一つしか使っていないのだ。
あまりに早く決着が付きすぎてもデモンストレーションにならないという、商業的な都合がベンケイに制限をかけている。

つまりは、舐めプだ。
ベンケイが本気を出せば、チームつつじヶ丘は瞬く間にジリ貧へ追い込まれるだろう。
そして、本気を出されなくとも、純粋な性能差によって微塵改の耐久は削りきられ、トーチカは瓦解する。

「気に食わないわね。そんなふうにちまちま削り合うのがベンケイの戦い方なの?
 出し惜しみせず大技ぶちかましなさいよ。あるんでしょう?もっとすごい武器が」

「その手の挑発には乗らんよお嬢さん。
 まだまだサバイバルの先は長い……ここで全ての武装を明かすわけにはいかんのだ。
 大人の事情でな」

「ふふっ……大技を見たければ出さざるを得なくなるまで追い詰めろと……そういうことね?」

「いや本当に社外秘なんですよお客様」

ベンケイが大薙刀を振るい、微塵改のシールドを呵責なく打擲する。
ミサイルの直撃すら耐える三式白兵防盾が、少しずつではあるが歪んでいく。

14 :
>「……ゲームは、勝たなきゃ面白くない」

立ち往生しかけた戦局に水を打つように、八木の声が無線越しに聞こえた。
しばらく無言を貫いていた彼にいかなる心境の変化があったのか、晶に推し量る術はない。
しかし、彼の言葉は、最適解を選ばない晶たちに対する非難の声ではなかった。

>「悪いけどこのゲーム、どうしても勝ってもらうよ」

八木の駆る爆撃特化マシンナリー、クラウンの投擲した爆弾が宙を舞う。
それは敵陣まで届かず、微塵改の真後ろにポテンと転がった。

「ミスった――?」

否、炸裂した爆弾には威力がない。
代わりに放たれたのは、視界を塗りつぶさんばかりのまばゆい閃光。
フラッシュバンだ。背後で閃光を浴びた微塵改のカメラに影響はないが、敵マシンナリーには覿面に効果を発揮した。
ベンケイの動きが露骨に止まる。見当識を阻害され、操るオペレーターが動揺したのだ。

>「八木先輩――!」
>「――ありがとうございます!」

生まれた隙を、周子は見逃さなかった。
彼女はエクスフォードの兵装を解放し、ベンケイの後方に控える万能機へ全て叩き込む。
打ち込まれた波状攻撃に万能機はひとたまりもなく、耐久を全損して爆散した。

>「やった! これで一機撃墜!」

「やるわね、周ちゃん!」

晶はもう一度周子とハイタッチして快哉を分かち合った。
これだ。エクスフォード最大の強みは、武装を展開する隙さえあれば瞬間的に極大の火力を発揮できること。
そして、1機だけでも敵が対応しきれないレベルの波状攻撃を発生させられることだ。

武装を使い切ればリロードに時間はかかるものの、その非常に高いDPS(秒間ダメージ量)は他の追随を許さない。
継続戦闘能力を度外視すれば、この場でエクスフォードにまさる火力を有するマシンナリーは居まい。
これで形成は――少なくとも数の上では、逆転した。

15 :
>「どこだ! 敵はどこにいる……!?」

味方を1機撃墜される時間を経てなお、ベンケイの視界は復帰していないようだった。
高い索敵能力、つまりは高感度のセンサーが仇となっているのだ。
八木がこうなることまで読んで閃光弾を放ったのだとすれば、末恐ろしい話である。
ベンケイと接敵したその瞬間から、彼は敵の特性を逆手に取る戦術を構築していたのだ。

そして、八木の爆撃を鏑矢として行動を開始したのは、周子だけではなかった。

>「カリブルヌスMK-2、起動。発動条件承認」

桐山の声が無線越しに響き、微塵改と前衛を交代したマクシミリアンが脱力する。
移動に使うスラスターの火さえも消失し、タービンエンジンの鳴動も止んだ。
マシントラブルによる動作の停止?……違う。桐山の目に、一縷の動揺もない。
マクシミリアンの背部からスラリと抜き放たれたのは、一本の鉄塊じみた棒。

「これは……槍……?でも引き金が付いてる……?」

先端に付いたレーザー発振器は、敵方のコープスブライドも所持しているエナジーランスにも似ている。
しかし、サイズが段違いだ。ポッキーとうまい棒くらい違う。

>「まずは武器からだ!」

マクシミリアンがうまい棒のトリガーを引き、発振器から長大なレーザー刃が伸びる。
這い回る紫電で大気を焦がしながら、鋼の騎士は光の刃を構えた。サンライズ立ちだ。かっこいい。
光の軌跡が弧を描き、ベンケイの持つ太刀と大鉈はバターの如く半ばで溶断された。

>「武器は新型じゃない!それならぁぁ!!」

会心の勢いは止まらず、刃はベンケイの追加装甲まで食い荒らし始める。
さしものベンケイもこれには危機感を覚えたのか、微塵改から目を離してマクシミリアンを潰しにかかった。
残りの七つ道具を展開し、レーザーに灼かれながらもマクシミリアンへ吶喊を仕掛ける。

16 :
「あら、足元がお留守でしてよ」

――そこへ、微塵改のスレッジハンマーが再び脚部を殴打した。
今度こそリロードの完了していた炸薬が起爆し、骨格にダメージが入る。
ベンケイが膝をつく、その隙は、もう見逃さない。

「必殺のぉぉぉぉシールドバッシュ!!」

すかさずライオットシールドをぶちかまし、ノックバックでベンケイがさらによろめいた。
後方に控えていた残りの万能機が弾幕を張るが、その全てが微塵改の盾によって阻まれる。
微塵改の巨大な身体と盾が、ベンケイと後続の随伴機たちを切り離し、援護を不可能にした。

トーチカ・システムの応用法。
敵をおびき寄せ、トーチカの内部に「閉じ込める」ことで、友軍との距離にかかわらず孤立させるのだ。

「爆弾先輩。私はエンジョイ勢だから、別に負けても大して悔しくなんてないわ。
 適当にガチャガチャ操作して、適当にぶん殴るだけでも、そこそこ楽しめるもの。
 約束された勝利より、死闘の果てにたどり着く敗北のほうが、価値があると思ってる」

かつてのゲーム部がどんな経緯で崩壊を迎えたのか、紫水晶は知らない。
しかし、うわ言のように八木が呟いていた「勝たなきゃ面白くない」という言葉。
何より、桐山と八木との間に漂うある種の緊張感から、なんとなく何があったかは察することができた。
そして、お荷物と言っても良い初心者を二人抱えてなお、勝利を掴もうとしていることも、理解できる。

「だけど……エンジョイ勢だからこそ、もっと楽しめる方法を知りたいわ。
 勝つことでよりバトルを楽しめるのなら……爆弾先輩、私たちを勝たせて」

炸薬を消費した炸裂戦槌を、切り替える暇すら惜しんでその辺に捨てる。
ノータイムで抜き放った一式徹甲剣で、ベンケイの膝関節パーツを刺突した。
骨格に直接ダメージが入り、関節部の駆動範囲が大幅に狭まる。これで逃走は不可能になった。

随伴のコープスブライド達が微塵改を削りきってベンケイを救出するのが先か。
孤立したベンケイをチームつつじヶ丘の結集火力で叩き潰すのが先か。
ここから先はダメージレース。よりDPSを出せる者の勝利だ。


【ベンケイの後ろに盾を展開し、随伴機から孤立させる】

17 :
文体がなあ
色々残念過ぎてもはや擁護ができない

18 :
◆ロールプレイング・ノベル入門【1】◆
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1537503921/

【VRP=バーチャル・ロールプレイング】
コテハンで架空のバーチャル・キャラクターを作って、ロールプレイをする遊びです。
応用すればTRPGや、個人あるいは共同での小説執筆のようなことも可能です。

RPNとはVRPを基礎とし多人数で小説創作のようなことを行う遊びと演習を兼ねた究極のメソッドです。

19 :
戦況が動いていく。
エクスフォードの一斉射撃が敵機のコープスブライドを撃破。

>「やった! これで一機撃墜!」
>「やるわね、周ちゃん!」

(……面白い機体だ。基本的に、防御特化……というか、非機動特化型は
 必ず一つの問題に直面する。つまり、自分よりも速い相手にどうアドバンテージを取るか。
 あの機体は……センスか、計算か……上手い落とし所を見つけてる。本当に、面白い)

優樹が、自分で使ってみたいと感じるくらい、エクスフォードは良い機体だった。
もっとも、彼女はそんな事は意識していなかったかもしれないが。

>「カリブルヌスMK-2、起動。発動条件承認」

と、戦況が有利に傾いたと見たマクシミリアンが動いた。
機体背部の、通常の何倍も大きな発振器とトリガーを伴うグリップ。
マクシミリアンがそれを引き抜いて、トリガーをしかと握り締めた。

(……対人ゲームってのは結局のところ、人間同士の駆け引きが肝になる)

瞬間、グリップ先端の発振器から眩い光が迸る。
ベンケイの持つ太刀の、更に倍は長い高出力のビームブレード。

(だから僕はもっと、その剣は気軽に抜けばいいと思ってたんだけど……。
 いや、そうじゃなくて……このタイミングは、かなりいい感じだ。なにせもう、「仕込み」が済んでる)

仕込みとは――すなわち、印象付けだ。
マクシミリアンは平均的なステータスの汎用機。
操縦者のスキルも極めて平均的。
近接特化型のベンケイと1on1で勝負しても勝ち目はない。
ベンケイの操縦者にそう思わせるには、十分なくらい長い間、桐山は相手と打ち合った。

「まずは武器からだ!」

故に――振り下ろされた光刃を、ベンケイは避けるのではなく迎え撃った。
これまでに積み重ねられた印象が、咄嗟の判断を攻撃的なものに傾けた。

マシンナリーファイターズはゲームだ。
だから金属の刃と非実体的なビームブレードで打ち合う事が出来る。
そして武器の全長が長く重量がないという事は、その先端を叩けば、非常に強い力を与えられる。

ベンケイの二刀とカリブルヌスが交差する。
その後の事は、一瞬だった。
ベンケイの武器が焼き切られ、ベンケイの腕部装甲に食い込むまで、一瞬の出来事だった。

>「武器は新型じゃない!それならぁぁ!!」
>「ば、馬鹿な!対ビームコーティングされた追加装甲だぞ!」

ベンケイの操縦者が、思わず狼狽の声を上げる。
それから咄嗟にマクシミリアンに飛びかかると、その腕を掴み、捻り上げる。
それでも桐山はカリブルヌスを解除しない。

腕を掴まれていても、骨格が完全に握り潰されなければ手は動かせる。
そしてビームブレードは指先の動きで柄の向きを少し変えるだけでも、相手を斬りつけられる。
カリブルヌスなら、撫でる程度の接触でも装甲に多大なダメージを与えられるだろう。

20 :
脅威は未だ終わっていない。
ベンケイはそう判断せざるを得なかった。
マクシミリアンを突き飛ばし、背部から戦鎚を引き抜く。
そのまま猛然と地を蹴り、戦鎚を振り上げる。
マクシミリアンの腕か肩、或いはカリブルヌスそのものを破壊し、完全に脅威を取り去るつもりだ。

だが――ベンケイの操縦者は、動揺していた。
軽度のパニック状態にあるとすら言えた。
目眩ましを受けていたとは言え、友軍が一機落ちている事が意識から抜け落ちていた。
その状態で、三秒。マクシミリアンへの対処だけに集中した。
それはつまり端的に言えば――

>「あら、足元がお留守でしてよ」

隙だらけだった。
微塵改のスレッジハンマーが、ベンケイの脚部を再び強打した。
装甲は既に剥がれ落ちている。爆発は骨格にまで及んだ。
ベンケイが膝を突く。

>「必殺のぉぉぉぉシールドバッシュ!!」

その背中に容赦なく、微塵改の追撃が叩き込まれた。
ベンケイが完全に体勢を崩して床を転がる。
しかし彼はトラフィックゴーストの中でも、新機体のパイロットに任命された実力者。
即座に受け身を取り、体勢を立て直し――そして自分の置かれた状況を理解した。

微塵改からの更なる追撃はない。
代わりに聞こえる友軍の射撃音と、それをシールドが弾く音。
そして自機の前方に見える、エクスフォードとマクシミリアン。

「……『タスク』か」

モータルと優樹が、奇しくも同時に呟いた。
『タスク』。トーチカ・システムの全盛期に発案された戦術だ。

敵機を『牙(タスク)』の内側に放り込むように。
敵チームに友軍の救出という無理な『課題(タスク)』を強いるように。
各個撃破と精神的動揺を主目的とした作戦。

21 :
(あの子がそれを知っていたとは思えない……。
 ハンマーの取り回しと言い、なんというか……勘がいいんだな)

そんな事を考えつつ、優樹は操縦桿を動かす。
一旦キューブに完全に身を隠して、クラウンに爆弾を生成させる。
『タスク』の最中、頭上からの爆撃を確認して撃ち落としている余裕はない。
コープスブライドにも、ベンケイにもだ。
勝負は、殆ど決まったようなものだった。

>「爆弾先輩。私はエンジョイ勢だから、別に負けても大して悔しくなんてないわ。
 適当にガチャガチャ操作して、適当にぶん殴るだけでも、そこそこ楽しめるもの。
 約束された勝利より、死闘の果てにたどり着く敗北のほうが、価値があると思ってる」

紫水が不意に優樹を呼び、語りかけた。
優樹は何も答えない。
どう答えればいいのか分からなかったからだ。

そういう考え方があってもいいとは思う。
だがチームを組んでいるのなら、個人の嗜好をチームより優先するのはおかしな事だとも思う。
もちろんこの試合に関しては、自分から申し出てこのチームに入れてもらっているのだ。
彼らのプレイスタイルやカスタマイズに口出しする気も、権利もない。
と、そのような事を手短に語る方法が、優樹には分からなかった。

自分がすべき事は、彼らを勝たせる事。
少なくとも、つつじヶ丘高校ゲーム部への悪評など誰も口に出来なくなるくらい、圧倒的に。
そしてその準備は既に完了している。
身を隠した状態からの連続爆撃。
優樹はそれを実行しようと、操縦桿を握り直し――

>「だけど……エンジョイ勢だからこそ、もっと楽しめる方法を知りたいわ。
 勝つことでよりバトルを楽しめるのなら……爆弾先輩、私たちを勝たせて」

けれども、続く紫水の言葉に、その手を止めた。
ゲームを楽しみたい。その為に、勝たせて欲しい。

優樹は考える。
もしも自分がこのまま爆撃を実行し、勝利したとして。
それは彼らにとって楽しい事だろうか。
この状況を作り出しただけでも、十分すぎるほどの戦功である事は間違いない。
だが――もっといいやり方があるんじゃないのか。そうも思えた。

「……ああ、分かったよ。少なくとも……この戦いの勝利は、僕らが貰おう」

目の前にいるこのベンケイを倒す事は――出来る。
その為の算段は既に優樹の頭の中にある。
しかし、それでこのゲームに勝てるかと言えば――その可能性は低いと、優樹は考えていた。

この試合は新型機のデモンストレーションマッチだ。
その目的は実戦を通して強化骨格機の強さ、新メタの到来を痛感してもらう事。
であれば――なにもベンケイは、マッチに一体である理由はない。
むしろ何体もいる方が自然である。
それどころか重装射撃型や、高機動型用の強化骨格機だって用意されているかもしれない。

そういった事情を考えると――チームつつじヶ丘高校がこのマッチで勝利するのは、難しいだろう。
何も考えずに、ただ勝利を約束するような気遣いは、コミュ障の優樹には出来なかった。

それでも、このベンケイとの戦いだけは。
文句なしに楽しく、勝利してみせる。優樹はそう決意していた。

22 :
優樹はクラウンをキューブの陰から出した。
そして一歩、また一歩とチームメンバーの傍へ。
ベンケイの傍へと歩いていく。

「……桐山君、水鳥ちゃん。迂闊に仕掛けない方がいい。
 ソイツはまだ何か……逆転を狙ってるよ」

『タスク』の檻に放り込まれて、しかしベンケイは逆に冷静さを取り戻していた。
両手を肩越しに背中に回し、腰を低く落としている。
右足はまだ無事で、見せていない七つ道具はあと三つ。
踏み込み一つで間合いを詰め、カウンターを叩き込む余裕はまだ、ある。

「……何のつもりだ」

射撃特化型のクラウンが自ら距離を縮めてくる。
ベンケイが一歩踏み込めば、得物が届くほどの近間。白兵戦の距離だ。
定石から外れたその行動に、モータルは怪訝そうに問いを発する。

「……あの状況からただ勝つのは、簡単ですけど。
 約束された勝利より……死闘の果てに辿り着く勝利の方が、価値があるらしいんですよ。
 それを確かめに来ました」

「ふっ……青いな。そして愚かだ!ならば教えてやろう!
 掴めたはずの勝利を逃し、食らう敗北の味をな……!」

ベンケイが一際深く腰を落とす。
やはり狙いはカウンター。
『タスク』への対抗策として、それは正解だった。
この作戦は幽閉した敵機を、壁役が落ちるよりも先に倒せなければ破綻する。

そこで被幽閉機が徹底的な防戦、カウンター狙いを決め込めば――
『タスク』を実行しているチームに、逆に『課題』を押し付ける事が出来る。

23 :
「……七つ道具。最後まで見せてもらいますよ」

ベンケイがしようとしている事は、要するに『わからん殺し』だ。
あえて先手を取らせ、まだ見せていない兵装で、対処不能な一撃を見舞う。

であれば。
その七つ道具を全て暴いた上で、誰も欠けずに勝利する事が出来れば。
それは――ただ勝つよりもずっと難しくて、だからこそ面白いかもしれない。
優樹は、気づけば小さく笑みを浮かべていた。

(クラウンで、白兵戦……とんだ縛りプレイだな。されるのは、正直嫌いだけど。
 自分がするのは……確かに、ちょっとワクワクするかもしれないな)

クラウンの両腕には爆弾を抱えられていた。
キューブに隠れている間に生成した大威力の爆弾が七つ。

「七手だ。七手で決めてやる」

クラウンは、その全ての爆弾を放り投げた。
ベンケイ目掛けて、ではない。自身の頭上へ。
爆弾はふわりと宙を舞い――そして物理演算エンジンに従い、落ちてくる。

そして――クラウンの両腕が、素早く動いた。
落ちてきた爆弾を指先で受け止め、押し上げ、再び頭上へ。
しかし七つの内一つだけは、そうしない。
ただ右手で掴み――ベンケイへと投擲する。

『ジャグリング』。
両手で保持しきれない爆弾を、お手玉する事でキープし続ける。
クラウン・ノイジーモデル専用のテクニックだ。

ベンケイが背部マウントから薙刀を引き抜き、両手で構えた。
爆弾を切り落とす算段だろう。

応じるようにクラウンは右手を動かした。
右前腕で自身の視界を覆うように。

ベンケイが咄嗟に左手を止めて身を屈めた。
投擲されたのが閃光弾であれば、目の前で切り払うのは不味い、と。
身を躱された爆弾はベンケイのやや後方の地面に落ちて――爆発した。

視界を庇う動作はただのブラフ。
ベンケイの姿勢を不完全なものにさせる為だ。
爆弾を躱す為に、片脚の踏ん張りが効かない状態で身を屈めた。
そうすれば当然、体勢が崩れる。その状態では――長物を振るうのは困難だろう。

(これで薙刀とハンマーはもう使えない。
 太刀と大鋸はさっき壊れた……さあ、あと三つ。見せてもらいますよ)

体勢を立て直す時間は与えない。
クラウンは爆弾を立て続けに二つ投擲する。

ベンケイが右手で短刀を抜き放ち、爆弾を切り払う。
十手状の刃――恐らくは白兵戦において、敵の武器を制する為の物なのだろう。

24 :
(だけど、それじゃカウンターは狙えない。あと二つ……)

クラウンが、爆弾の一つを一際強く頭上へ弾いた。
自機の頭上ではない。ベンケイの頭上へ。
爆弾が降ってくるまでには、まだ一秒弱の時間がある。
その間に、クラウンは次に投げる爆弾を手にする事が出来る。

(ベンケイが上から降ってくる爆弾を対処すれば、その瞬間にこれを投げつける。
 そうされない為には……どうすればいいか、あなたには分かるはず)

ベンケイは――十手を頭上へ投げ放った。
0.5秒後に降ってくるはずだった爆弾が、爆破された。

(そうだ。それしかない。だけど……さあ、これで次の七つ道具を抜くしかない)

25 :
クラウンが真正面から爆弾を投げつける。
ベンケイが背中に右腕を回す。
そして爆弾を叩き落とした。

使用された兵装は――拳。
より正確には虎爪――分厚い刃を帯びたナックルダスターによって。

(これで、あと一つ。そしてその武器では頭上からの爆撃は防げない。
 爆弾は残り二つ。ベンケイの頭上と、正面へ。それで終わり……)

そうして優樹は落下してくる二つの爆弾を掴もうとして――
しかし不意に、クラウンの体が大きく揺れた。
激しい金属音と共に。

虎爪が、クラウン・ノイジーモデルの胸部に突き刺さっていた。
投擲されたのだ。武器の投擲は、なにもクラウンだけの専売特許ではない。
やろうと思えば、格闘機だってする事が出来る。

「仕込みは十分だった。間違いなく当たってくれると思ったよ」

受けたダメージは、致命傷ではない。
近接武器の投擲は攻撃値に大幅なマイナス補正がかかる。
だが――予想外の出来事による動揺と、機体の揺れ。
それらがもたらした結果は大きかった。

キャッチするはずだった二つの爆弾が、クラウンの手から零れて床に落ちた。
ストックしていた爆弾は、もうない。

「っ……くそ!」

クラウンの左手、人差し指の先が膨れ上がる。
爆弾の生成――だが、それをベンケイが見逃すはずはない。

「遅い!」

ベンケイの両腕が地面を強く押す。
その反動で立ち上がりざま、背部から抜かれた薙刀が稲妻のごとく振り下ろされた。
優樹は咄嗟に回避行動を取るが――間に合わない。
クラウンの右腕が切断され、宙を舞った。

「……少し、計算違いだったな」

優樹が、小さくそう呟く。
だがその声音は――敗北を悟ったプレイヤーのものではなかった。
むしろその逆。勝利を確信しているかのように――涼しげだった。

クラウンの右足が、今しがた自身の右腕を切り落とした薙刀の柄を踏みつける。
様子が妙だ。モータルがその事に気づいた。
だがもう遅い。

クラウンの左手が、切断され、落下する自機の右腕を掴んだ。
爆弾を生成する為のチューブが内臓された――つまり爆薬が内部に満ちている、右腕を。
優樹は自分が優れたプレイヤーだと自覚しているが、完璧ではない事も知っている。
自分がしくじった時の手も、既に考えてあった。

「六手で十分だった」

そしてそれを、ベンケイへと投げつけた。
薙刀はクラウンに踏みつけられている。パワーの差で強引に引き戻す事は出来るだろう。
だがそんな時間は、ない。

26 :
太刀も大鋸も、マクシミリアンのカリブルヌスに破壊された。
十手も虎爪も、クラウンとの戦いで投げている。
重い戦鎚では、右腕を払い除けられても体勢が崩れる。次がない。

ベンケイが、薙刀を手放した。
空いた右手を背部マウントへ。
そして――最後の七つ道具を抜いた。

引き抜かれたのは、たった一本の棍棒。
だがそれをきっかけとして、装甲の内側に格納されていた七本の棍棒が、
紫電の鎖に接続されて連鎖的に射出される。
それらは空中で連結し、一本の長い杖と化した。

杖は蛇のようにしなり、投擲されたクラウンの右腕を絡め取り、遥か遠くへ放り捨てた。

「……そういうの、なんて言うんでしたっけ。
 確か……ああ、一、二、三……八節棍でいいのかな」

「多節棍、で大丈夫ですよ。……ああ、まったく。厳重注意くらいで済ませてもらえるといいなぁ、これ」

「……まさか、ホントに社外秘だったんですか?それは、なんというか……すみません」

優樹はARコックピットの中で、笑っていた。
喘息持ちの彼は、ゲームの中のこの瞬間が大好きだった。
呼吸を忘れるほどの戦いと、ストレスなどどこにもない勝利の瞬間が。

「僕の勝ちは、これでもらった。次は……僕らの勝ちを貰おうよ、さあ」

マクシミリアンやエクスフォードの初動を見てから手や足を絡め取り、引き寄せ、叩きのめす。
ベンケイは恐らくはそのような戦法を予定していたはず。
だがそんな『わからん殺し』は、もう出来ない。
ただ真正面から、それこそ史実の弁慶のように、敵を迎え撃つ以外に出来る事はない。

変幻自在の間合いを持つ多節棍は凶悪な武器だし、ベンケイの操縦者は優れたプレイヤーだ。
だが、だとしても――これより先は、優樹の手出しすべき領域ではない。
少なくとも彼はそう、判断した。

27 :
くっせえ文章しか書けないのか
これだからお前は

28 :
ショットガンとマイクロミサイルの波状攻撃により万能機を一機墜としたエクスフォード。
黄色で彩られたマシンナリーは無感動に武装コンテナから弾倉を取り出しショットガンをリロードした。

>「やるわね、周ちゃん!」

八木が既に1機撃墜しているので、これでチームつつじヶ丘に撃墜スコアが2になった。
周子は晶とハイタッチし、喜びを分かち合いながら桐山の方を見た。

>「カリブルヌスMK-2、起動。発動条件承認」

「あ、あれは……!?」

桐山は覚悟を決めた顔で背中から秘匿していた武器を取り出した。
折り畳まれたその武器が複雑な発振器を露出させながら真の姿へと形を成していく。
マクシミリアンはその巨大な得物を両手に構え、発振器からビームを出力する。

>「まずは武器からだ!」

視界を奪われた中でなんとか武装を『太刀』と『大鋸』に切り替えたベンケイ。
眩しさに目をやられた操縦者が微かに捉えたのは巨大な光の塊だった。

>「武器は新型じゃない!それならぁぁ!!」

――その正体は『カリブルヌスMK-2』と名付けられたビームソードである。
ベンケイの操縦者は辛うじて振り下ろされる光刃を捉え、二刀流で受け止める!
だが二刀の武器はたちまち融解し、追加装甲に食い込み、内部骨格にまで影響を及ぼす。

>「ば、馬鹿な!対ビームコーティングされた追加装甲だぞ!」

マシンナリーの知識なら大方頭に入っているモータルだが、こんな武器は見た事がない。
ビームを発振するエナジー系武器にこれほど長大で巨大なビームを出せるものは存在しない。
当然だ。これはN社が販売・配布している武器ではなく、桐山が創り出した独自の武器なのだから。
多大な制約を糧に使用を許されたオリジナル武器の威力をモータルはまさに味わっていた。

「頑張れ、桐山先輩!!」

桐山の裂帛の気合をこめた一撃に周子も思わず叫ぶ。
激突の振動でボディを細かく揺らしながら、マクシミリアンはなおもベンケイを切り裂こうと力を込める。
あれほどの威力だ。マクシミリアンが稼働できるギリギリまで出力を光刃に回しているに違いない。

ベンケイは溶融した武器を捨て、素手でカリブルヌスを振るうマクシミリアンの両腕を掴む。
格闘機特有の出力で腕部装甲を粉砕し、骨格を握り砕こうとベンケイもまた力を込める。
それでもマクシミリアンは止まらないと見るや、背部から戦槌を取り出し勢いよく振り上げる。

>「あら、足元がお留守でしてよ」

この時、操縦者はカリブルヌスを止めようとするのに手一杯で、微塵改にまでは頭が回らなかった。
フリーになっていた微塵改がスレッジハンマー、二式炸裂戦槌で脚部を痛烈に叩く。
カリブルヌスの一撃で大幅に減っていたベンケイの耐久がまた減少した。
その衝撃でマクシミリアンの両腕を離し、再び膝をつくベンケイ。

>「必殺のぉぉぉぉシールドバッシュ!!」

畳みかけるようにシールドバッシュを食らい、ノックバックで大きく態勢を崩す。
そして微塵改は盾を構えベンケイの背後に立つことで、後ろの随伴機から引き離すことに成功した。
恐るべきことに晶は即興でトーチカ・システムを応用してベンケイを閉じ込め、孤立させてしまったのだ。
更にハンマーを直ちに捨て去って武器を剣に持ち替えると、刺突で膝関節にダメージを与え、逃走を不可能にする。

29 :
>「……『タスク』か」

モータルと八木が同時に呟いたそれこそが晶が即興で行った応用戦術の名だった。
集団戦の戦術を知らないので周子は、ただ晶の機転に驚かされるばかりだ。
はじめてのサバイバル戦にも関わらずトーチカ・システムを応用するその資質。
むらっ気はあるが機転を利かせた豪胆な立ち回りは目を見張るものがある。

(このままじゃ晶ちゃんが弾幕に晒される……!)

残った随伴機二機がベンケイを救出するため、にわかに火力を結集させはじめた。
射撃機のエナジーライフルの光弾や万能機が放つ突撃銃の銃弾が次々に微塵改を襲う。

無論、微塵改にはライオットシールドがある。その全ては盾に阻まれるだろう。
だが一機でどこまで壁役を果たせるか、いつまで弾幕に耐え切れるか分からない。

>「爆弾先輩。私はエンジョイ勢だから、別に負けても大して悔しくなんてないわ。
> 適当にガチャガチャ操作して、適当にぶん殴るだけでも、そこそこ楽しめるもの。
> 約束された勝利より、死闘の果てにたどり着く敗北のほうが、価値があると思ってる」

シールドで弾幕を受け止めながら、晶は八木とのプレイングスタイルの違いについて語りはじめた。
ARデバイスに淡々と聞こえる声を聞いてるうち、ゲーム部崩壊の理由が頭を掠める。
過去のゲーム部はまさに、楽しみ方の不一致で不和が起き、結果として崩壊してしまった。

>「だけど……エンジョイ勢だからこそ、もっと楽しめる方法を知りたいわ。
> 勝つことでよりバトルを楽しめるのなら……爆弾先輩、私たちを勝たせて」

だがチームつつじヶ丘にそんな過去は関係ない。
周子は紫水晶という人となりに改めてほっこりした。
晶は気取った言い回しを好む故か、たまにツンデレセリフを発動するのだ。

>「……ああ、分かったよ。少なくとも……この戦いの勝利は、僕らが貰おう」

少なくともチームつつじヶ丘はゲーム部のようになりはしない。
もし八木や桐山がゲーム部崩壊の騒動の渦中にいたとしても気にするほどの事はない。
周子はいちファイターとしてそう確信し、再び戦闘に意識を向け直した。

一方、ベンケイの状況はというと、そのダメージは中破と言うべき惨憺たる有様だった。
胴体はカリブルヌスMK-2の攻撃で追加装甲が焼ただれ、内部骨格が剥き出しになっている。
脚部は片足の膝関節を一式徹甲剣で貫かれ、動くこともままならない状態だ。
耐久も半分は削られている。だが、それでも――ベンケイはいまだ健在。

>「……桐山君、水鳥ちゃん。迂闊に仕掛けない方がいい。
> ソイツはまだ何か……逆転を狙ってるよ」

「八木先輩!」

キューブに隠れていたクラウンが姿を現す。徐々にベンケイの距離を縮めはじめた。
本来ならクラウンは遠距離から爆撃を行う機体のはずだが、これでは格闘を挑むようだ。
不可解な行動にモータルは怪訝な声を発する。

>「……何のつもりだ」

>「……あの状況からただ勝つのは、簡単ですけど。
> 約束された勝利より……死闘の果てに辿り着く勝利の方が、価値があるらしいんですよ。
> それを確かめに来ました」

八木は晶の考え方を汲み取った上で勝つつもりのようだった。
すなわち格闘機相手に射撃機で白兵戦を制するという縛りプレイ。
晶が八木に歩み寄ったように、八木もまた晶のやり方に歩み寄ろうとしている。
周子はそれを止める気はない。八木の心意気を周子は見守ることにした。

30 :
クラウンが更に距離を近づけてもベンケイは動かない。カウンター狙いだ。
――そしてクラウンが水風船を投げるやベンケイも跳ね起きるように動いた!
爆弾投擲の妙手と七つ道具を備えし僧兵の攻防は瞬く間だった。
クラウンが風船を投げるや、ベンケイは七つ道具が惜しみなく発揮される。
やがて薙刀の柄を踏みつけたクラウンが切り落とされた自機の右腕を掴んだ時。

>「……少し、計算違いだったな」

新型機ベンケイとクラウンの戦いぶりを、観客たちも固唾を飲んで見守っている。
サバイバルマッチ前の下馬評は弱体チームだったが、今やそんな事は忘れられつつあった。

>「六手で十分だった」

掴んだ右腕には爆弾を生成するのに必要な爆薬を秘めている。
クラウンはそれをベンケイ目掛けていつものように投げつけた。
固唾を飲んでいた観客たちが「おおっ!」と叫ぶ。

「やったぁっ!?」

観客Aになり果てた周子もその場で飛び跳ねた。
これまでにベンケイが使用した太刀、大鋸、十手、虎爪はもう使えない。
前者ふたつは破壊され、後者ふたつは手元にない。
薙刀は踏みつけられ、戦槌では隙が大きく後が続かない。

ゆえにベンケイがとったのは、七つ道具最後のひとつの開帳だった。
一本の棍棒を引き抜いたかと思うと、八つ現れ、紫電の鎖で繋ぎ止める。
そして蛇のように絡めとって飛来する腕を放り捨ててしまった。

>「多節棍、で大丈夫ですよ。……ああ、まったく。厳重注意くらいで済ませてもらえるといいなぁ、これ」

>「……まさか、ホントに社外秘だったんですか?それは、なんというか……すみません」

笑い合う八木とモータルの愉快気な様子を見てまたほっこりした。
などと気を抜いている場合ではなかった。戦闘中だ。

>「僕の勝ちは、これでもらった。次は……僕らの勝ちを貰おうよ、さあ」

その言葉の意味は分かっている。
桐山が先陣を切ってベンケイを追い詰め、晶が随伴機から隔離し、八木が手の内を全て引き出した。
そして最後はベンケイを倒して、勝つ。その役割を担うのは、誰か。

「八木先輩、桐山先輩。私に任せてください。ここは私がやる!」

周子はそう主張した。
ベンケイとの戦闘を最初に選んだのは自分だ。けりは自分でつけたい。
いやそれ以上に、単純にこのバトルをもっと楽しみたいと思った。

「……ずっと後ろから見てたよ。みんな凄いファイターだって思った。
 自分もあんな風に戦えるのか不安になっちゃうくらいに。
 けど私、すごくわくわくしてる。みんなの戦いを見て熱くなったから!」

集団戦のいろはは分からないが一対一なら何度も経験している。
ベンケイの本領である格闘戦でも競り勝つ自信は、ある。

31 :
仮想操縦桿を握り直して、エクスフォードをベンケイへ近づける。
そして視界の端に展開していたウインドウを最大にした。
最大にした窓はエクスフォードのツインアイで捉えた映像だ。

援護射撃はレーダーと自動ロックオン任せだったので目視だったが今は違う。
前衛に出て本格的に戦う場面だ。自機の視点をメインに戦う必要がある。

「私も全力で楽しみたい!この一瞬、この戦い、このイベントを!
 お楽しみはまだまだこれから!こんなところで負ける訳にはいかない!」

周子はいわゆるエンジョイ勢だからロボットバトルをやるだけで楽しい。
だが同時にゲーム部でもある。ただ遊ぶのではなく、公式戦で勝って結果を残すという目標がある。
だから最終目標も世界大会出場。エクスフォードはそのためにビルドされた、周子の魂の結晶だ。

「よし、絶対勝つぞ!!」

「最初に散弾銃を放ってきたお嬢さんだな。社外秘の多節棍の力、刮目せよ!」

追加装甲つきのベンケイにダメージが通らないのは初手で判明済み。
秒間ダメージ量を稼ぐのに残された手段は格闘戦しかない。

ダメージレースに余計な駆け引きは無用だ。正面勝負あるのみ!
トリガーを引きショットガンを武装コンテナにしまい込むと、仮想操縦桿を思い切り前に倒す。
丸腰のままスラスターを吹かして、エクスフォードが出せる最高速で突っ込む!

読み通り接近戦か、とモータルは思った。やはり格闘機で間違いない。
ベンケイと少し似ている。武器を大量に抱え込み、それを適宜選択して戦える機体だ。
機体名称は知らないが、カスタム前はどう考えてもハーミットクラブだろう。
初期機体を手間暇かけてカスタマイズし使い込む奇特な人は稀にいる。

(弱い初期機体を魔改造して使う人は世界大会にもいる。そういう発想は嫌いじゃない)

少なくともモータルには周子の気持ちが理解できるようだ。
モータルは手始めに足を絡めとって自分のペースに持ち込むことにした。
杖と化した多節棍の結合部に紫電の鎖が発生し、蛇のように唸って迎撃に入った。

多節棍は操縦桿の操作によって途中で軌道を変えたり"絡めとり"を実行できる。
出来る事は多いが煩雑なので扱いの難しい武器だが、使いこなせば変幻自在の攻撃は強力無比。

盾はなさそうなので多節棍を弾いて防ぐなら武器を使うはず。
手持ち式の武器ならそのまま巻き取って奪う事も可能だろう。
腕に仕込んでいるタイプなら腕を絡めとってやはり有利をとれる。

周子は武器選択のトリガーを引きつつ、操縦桿を左へ倒した。
エクスフォードが両腕を構えると、多節棍の先端めがけて左腕を伸ばす。
傍目からは素手で掴み取りにいったようにしかみえない。無謀な行動だ。
だがモータルは油断しない。

即座に多節棍の機能を使い、軌道を変更した。
蛇のような波うつ軌道が腕を避けるカーブの軌道へ。軌道が変わったことで狙いも足から胴へ。
棍棒を繋ぐ紫電の鎖がしなり、しなやかな曲線を描きつつ胴へ迫る。

ならばとエクスフォードは右腕を伸ばす。
左腕を空振るも、瞬時に伸ばした右腕で強引に触れに行った。
そして黄色い腕と多節棍の先端が接触し、多節棍はエクスフォードに"絡めとられた"。

32 :
正確に表現すれば、絡めとったのは腕に展開しているエクスフォードの武器だ。
展開した仕込み武器が大きく開き、多節棍の先端を挟みこんでいる。
分類としては暗器のリストブレードにあたるのだろうか。
極限まで精錬された、鋭く、氷のように冷たい二枚の刃。

「鋏、だな」

ゲーム起動時にもらえる初期機体のひとつ、ハーミットクラブの近接武器だ。
鋏は腕の手首辺りからそのまま生えるように突出しており、パンチの要領で放てる。
実践したように上手く決まれば、剣や槍を挟んで絡めとれる一見便利な武器だ。

「その通り!キャッチアンドゴー!このまま一気に突っ込む!」

多節棍の絡めとる攻撃を上回り、逆に鋏で多節棍を絡めとったことで調子づく。
これでベンケイは無防備だ。エクスフォードは勢いよく進撃を再開する。

モータルは窮地にも関わらず焦ることもなく、冷静なままだ。
多節棍を見切って絡めとる芸当も驚嘆はするがそれ以上の感想はない。
モータルはエクスフォードの鋏の致命的すぎる弱点を知っているからだ。

あの武器は展開式の仕込み鋏という関係上、リーチがとても短い。
長柄武器並みの多節棍に対して鋏はダガーに毛が生えた程度の長さしかない。
ベンケイ本体に攻撃を食らわせるにはもっと接近しなくてはならなかった。

鋏の有効射程に到達するまでの距離、実に棍の七節ぶん。限りなく遠い。
そして鋏が有効になる距離まで接近を許すほどモータルはお人好しでもない。
あわれな丸腰同然のヤドカリをなぶり殺して終わりだ。

「社外秘の多節棍の妙、とくとご覧あれ!」

多節棍を繋いでいた紫電の鎖がふっと消えた。鎖が消えたことで七節の棍がばらばらと宙を舞う。
エクスフォードは掴み取った棍棒の一本を鋏に挟んだまま、その光景を眺めていた。
ベンケイは手に持っていた一本の棍を突き出すと、七つの棍棒は再び紫電の鎖で繋がれた。

「ず、ずるい……!」

これではせっかく挟みとった意味がない。
ベンケイは七節になった多節棍を連結して一本の棍棒へと形を戻す。
そして目も留まらぬ速さで棍棒を振るい、胴めがけて素早く突いてきた。
もとより鈍重なエクスフォードに回避という選択はなく、防ぐしかない。

左腕の鋏を展開すると勢いよく左腕を振り抜く。
鋏と棍の先端が激突する。エフェクトが火花のように散った。
腕を振り抜ききったところに、隙が出来る。赤子の手を捻るより簡単な作業だ。

ベンケイはすかさず多節棍を鞭のようにしならせて大きく薙いだ。
右腕の鋏は一節の棍で塞がり、左腕の鋏は間に合わない。

エクスフォードは攻撃を胸部装甲にモロで食らい、耐久が大幅に減っていく。
一撃食らっただけで装甲が大きく陥没し、バチバチと嫌なダメージ音がなる。
流石は強化骨格機のマシンナリー。あと二発も貰えばお陀仏の恐るべき威力だ。

「油断した……!でもまだまだ!」

鋏が届くまでできる事は近づき続けることだけだ。
鋏の有効射程圏まで残りは棍の四節ぶん。到達までまだ遠い。

33 :
続けざまに多節棍を鞭のように振るうが、どうにか目が慣れた。
軌道変更のパターンも読める。今度は左の鋏のみで掴むことに成功した。
ベンケイ側も再度紫電の鎖の連結を解除し、残りの六節で再連結する。

「射程距離まであと三節ぶん!」

そう叫んだところで、周子は目を丸くした。
形のよい目が大きく見開かれ、琥珀色の瞳が一層際立つ。

再連結した多節棍は三節"ずつ"だ。
両手に三節棍を装備したベンケイが容赦なく棍を振りかぶる。
手数を増やして耐久を一気に削って撃墜するはらだろう。

エクスフォードは両腕の鋏が挟んだ棍ふたつを捨て去った。
そして減速して頭を下げ、ボディの前で両腕を交差させる。
ボクシングの防御テクニック、クロスアームブロックで身を固めた。

(これで守りやすくなった。なんとか凌げるはず!)

そして振るわれたのは、神速もかくやという素早い二撃だ。
三節棍が変幻自在に軌道を変え、狙いが腕なのか足なのか、ボディなのかもわからない。
ノーマルモードから急にベリーハードになった感覚だ。こんな無理ゲー周子もごめんである。

ならば、ファイターが皆平等に持つ勘に賭けるしかない。
周子は三節棍の先端あたりをぎりぎり捉え、勘に任せて両腕の鋏を振るった。
腕の行く先は果たして空振りか。いや、鋏は三節棍に命中し見事に弾き飛ばした!

鋏がベンケイに届く有効距離までもう棍の二節ぶんとなかった。
極限まで接近を許しにも拘わらず、モータルは不意にしてやったりという顔をした。

「"とった"ぞ――――!!!!」

図ったようにふたつの三節棍の連結を切り、残り四節で通常の棍を形成する。
三節棍を弾きにいった今、エクスフォードのボディはがらあきだ。
最初からぎりぎりまで誘い込み、波状攻撃を浴びせて耐久を削りきる算段だったのだ。

ここまで接近を許したのは三節棍の凄さを知らしめるためのあくまで魅せプレイ。
モータルが頭に描いたのは敵の健闘虚しく、ベンケイの勝利という筋書きだ。
ベンケイは大きく棍を振りかぶり、必殺の一撃を叩き込んだ――

「こ、これは!?」

――かにみえた。ベンケイは攻撃を中止せざるを得なくなった。
エクスフォードが地面を蹴り、ベンケイの真上へ逃げてしまった。
あの重い巨体が攻防のさなか高速でマシンナリー1機分空へ上昇した。

「私の攻撃を読んでいたとでも言うのか!?」

三節棍の連結を切ると同時、周子もまたハーミットアーマリーからあるものを射出した。
それは微塵改にも搭載されている装備。牽引と拘束を兼ねるワイヤーアンカーだ。
空中に浮かぶキューブにアンカーをひっかけ、巻き取ることで攻撃を回避した。

「ワイヤーエスケープ!この瞬間を待ってたわ!」

アンカーのフックを緩めて外し、地面へ落下――鋏の射程圏だ。
苦し紛れに四節しかない多節棍で突いたが、容易にいなした。
落下しながら頭目掛けて腕を振りかぶり、上空から鋏を叩きつけた。
カメラアイがひしゃげ、内蔵している高感度センサーが完全に死んだ。

34 :
「邪魔な追加装甲を引っぺがす、この瞬間を!!」

着地するやマクシミリアンがつけた傷跡を起点に右腕の鋏を挟み込み、出力任せに鎧を引っ張る。
追加装甲のつなぎ目に出来た隙間に左の鋏を差し込んで強引に分解。ばらばらと胸部の装甲を剥がした。
ベンケイの耐久バーはマクシミリアンと微塵改によって半分以上削らている。邪魔な追加装甲も外した。
高打点のDPSを叩きだすことを得意とするエクスフォードなら、削り切れる。

「これで終わらせる――!」

必殺の攻撃を放つべく、操縦桿を可能な限り後ろへ引き、一気に前へ。
エクスフォードは深く腰を落とし、両腕を抜刀術さながらに腰だめで構える。
裂帛の気合を込めて必殺攻撃名にしてメイン武器の名を叫んだ。

「フォールディング・シザーズ!!!!」

満身の力を込めて放たれた両腕の鋏はやや水平に袈裟切りを二撃浴びせたかと思うと、
独楽のように回転してもう二撃。続いて機械の巨躯を捻らせて更に回転。
単分子ブレード二枚で構成された必殺の鋏が幕引きの二撃を叩き込む。

「ば、馬鹿なあぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

オーバーキルの六連撃を食らったベンケイは有無を言わさず爆散した。
微塵改の背後で爆炎をあげながら残骸をあちこちへ飛び散らせる。
周子エクスフォードと共に微塵改に近付き、エモートを入力。

「晶ちゃん、お待たせ!」

エクスフォードと周子が同時に親指を立てた。
残るのはコープスブライドの射撃機と万能機の二機のみ。
ベンケイを撃墜した今、その二機が驚くほど弱い敵に映った。

ベンケイの撃墜に味方モータル達は特に反応することもなく弾幕を張り続けている。
まるで何かを待っているかのようだ。もしや、と周子はレーダーを見た。

エクスフォードのレーダーはミサイルを使う都合上、割合広域なものを採用している。
50メートル以内なら索敵の範囲内。これはコロシアムフィールドの約半分程度の広さにあたる。
確認すると赤い光点がひとつこちらへ猛接近してくる。凄いスピードだ。
恐らくベンケイが撃墜したのと同時に敵側が呼んだのだろう。

「救援要請……!トラフィックゴーストの援軍が一機接近してきます!」

レーダーに移動する赤い光点の速さからして速度重視の高機動型。
向こうの余裕から今しがた倒したベンケイの高機動バージョンだろうか?
今はチームの損耗も激しい。ここで強い敵が増えるのは嬉しくないニュースだ。

「君達がチームつつじヶ丘か。ベンケイを倒すとは……賞賛に値する!」

ARデバイスに響いたのは聞き覚えのある、低く研ぎ澄まされた声だった。
間違いない。彼は受付を担当していた青年であるゴーストだ。
設定上はチーム『トラフィックゴースト』のリーダーにあたる。

「まずはおめでとうと言っておこう。ベンケイを一番最初に下したのは君達だ!
 素晴らしい戦果だと私は思う。楽しんで頂けたらこちらも趣向を凝らした甲斐があった」

ゴーストの語り口とともに、やがて黒いマシンナリーが空より現れた。
鋭角的な装甲に機体各部に配されたスラスター。赤いツインアイがこちらを一瞥する。

手には細身のエナジーライフルを持ち、バックパックにエナジーキャノンが備えてある。
腰にマウントしているH型の握り手をした独特の剣はジャマダハルのようだ。
黒いマシンナリーはゆるやかに飛行しながら味方機二機やや後方のキューブに着地した。

35 :
テスト

36 :
周子は黒いマシンナリーと似た機体を月刊マシンナリー・ファイト四月号で見たことがある。
その号では学生ながら全国大会に出場したあるファイターについて特集が組まれていた。
その人は奇しくも同じつつじヶ丘高校出身で、浦和零士(うらわれいじ)選手という。

常に真っ黒なカラーリングを好み、オリジナル機体で勝つことを信条とした選手だ。
その特集で選手と共にやはり真っ黒な愛機の紹介がされていた。
雑誌に載っていたあの機体とゴーストの機体は酷似している。

「もしかして……『オリオンスペクター』……!」

「私の愛機の名を知っているとは……随分有名になったものだ」

マシンナリーに次いで現れたのはゴースト本人だ。
特徴的な白髪、黒いマント。顔を覆うほど大きいARバイザー。
誰がどうみてもそれは『ゴースト』――そして全国大会で出場した選手だった。

37 :
「ゴーストってもしかして浦和選手……」

「しぃっ!今本名で呼ぶのは……すみません」

「えっ……はい」

周子は意味もわからずに黙らされた。なりきりの最中に中の人は存在し得ない。
例え参加者がどのような情報を握ってようが彼は冷静沈着な悪の組織のリーダー『ゴースト』だ。

「リーダー役の人って一番強いけど中身よく変わるんすよねぇ……」

「これより先は機密情報だ。おいそれと口にするな」

悪の組織のリーダー、無敵のゴーストが後ろから撃たれた。
万能機の操縦者は想像より軽い人物なのかさらっとスタッフ事情を暴露してきた。
ゴーストは極めて冷静に言葉で制してみせたがARバイザーの内の眼光は刺すように鋭い。

「……戦いは既に佳境を迎えている。君達ほどの大人数のチームは今回はいなくてね。
 チームつつじヶ丘の生存如何で戦況は大きく揺れる。そこで……私の出番というわけだ」

気を取り直して悪役演技に戻った。これで準備は万端だ。
ゴーストに大した思惑はない。ただイベントのスタッフらしい事を実行するだけだ。
参加者を楽しませる。実力は周囲の評判以上のようだが、チームつつじヶ丘はどの機体も消耗が見える。
楽しませるといっても、ファイターとして全力でぶつかり参加者を楽しませろという指示だ。

「君達の健闘を讃え――実験台達よ、私が直々に相手をしよう」

ゴーストはさりげない動きで特殊エモートを入力した。
すると自機と自分の周囲に毒々しいオーラっぽいのが発生し静かに燃え上がる。
彼はちょっと満足した様子でエモートを長押しした。これがリーダーの風格だ。

38 :
「何するにしても一筋縄じゃいかないみたい……!
 リーダーのゴーストはたぶん全国大会の選手。強さは少なくともベンケイ並みかも……!」

足の遅いこのチームが高機動型を相手に一時撤退するのも難しい。
ならばスタンドアンドファイト。答えは明白だ。戦って勝つしかない。
ゴーストは強者ゆえの余裕で油断しまくっている。
周子は相手がぺらぺらと御託を並べている内に武装の展開を終えた。

「オリオンスペクターは高機動型万能機です!
 油断してる今が好機、最初から畳みかける!!」

黒い機体めがけて散弾とミサイルの波状攻撃が放たれた。
次いでハーミットアーマリーから球形の爆弾を取り出して起動させる。
重力爆弾"ブラストボム"だ。ひとたび爆裂すれば広範囲を重力で圧し潰す。
エクスフォードはそれを敵全体めがけて投げ込んだ。

「ほう。いきなり私を狙ってくるのか。キューブに隠れるまでもないな」

いくら撃ち込もうとオリオンスペクターには全く意味を為さなかった。
ショットガンで狙い撃ってもその機動性をもって高速で射線を切って躱してくる。
ミサイルは歯牙にもかけずフレアを射出して完璧に迎撃された。

「さて。これで最後か?」

オリオンスペクターは細身のエナジーライフルを引き抜くと、爆弾めがけて発射する。
青白い光弾が寸分なく爆弾を撃ち落として空中で爆ぜた。大気が圧し潰され、空間が鳴動する。

「今のは挨拶だと受け取っておく。いい勝負にしよう、チームつつじヶ丘!」

39 :
周子は雑誌に記載されていたオリオンスペクターの考察を思い出す。
オリオンスペクターは主に機動性、運動性、旋回性能に出力を回している。
武器の大半がエナジー系武器なのも相まって武器全体の威力は平均以下だったはず。
彼が簡単にDPSを稼ごうとするならやる事はひとつしかない。

「まずはお返しだ。洗礼の一撃、とくと味わいたまえ!」

ゴーストが指を鳴らすと、前に控えているコープスブライド射撃機からミサイルが飛んだ。
合計12発のミサイルがチームつつじヶ丘をロックオンして迫ってくる。

続けてオリオンスペクターのバックパックが可動し、両肩にビームキャノンが展開する。
キャノンにしてはやや細身の、漆黒に染まった砲身がチームつつじヶ丘を狙う。
そこに突撃銃を構えた万能機が加わった。

「唸りを上げよ、可変速エナジーキャノン『アーレス』!
 破壊の驟雨を撒き散らせ、エナジーライフル『フラッド』!」

操縦桿を操ってビームキャノンを高速で連射するスプレッドモードに選択。
さらにエナジーライフルを構え、チームつつじヶ丘目掛けて光の雨を降らせた。
ミサイルと実弾とビームの弾幕が降り注ぐ――!


【格闘戦でベンケイを撃破。救援要請で敵リーダーが到着。
 チームつつじヶ丘全体にミサイル実弾ビームの一斉攻撃】

40 :
【すみません、構想を形にしたら思ったより長くなったので実験室に捨てます。
 進行中の企画とは関係ありそうでないので気にしないでください。】

41 :
<水鳥周子の入部初日>

水鳥周子がゲーム部員になった理由は単純だ。
ロボットアニメが好きでロボットバトルをやった事があったから。それだけだ。
その日は新入部員歓迎会ならぬ部活存続おめでとう会で、記念に顧問と戦いボロ負けした。
周子は友達と遊びでやるのとは訳が違う本気の世界を見せつけられ、愕然とした。

もうゲーム起動時に貰える初期機体じゃやっていけない、ということだ。
マシンナリーファイターズにもポケモンにおける御三家のようなものが存在している。
それが万能のレギンレイブ、機動力重視のエンフォーサー、火力重視のハーミットクラブだ。
周子のハーミットクラブカスタムは端的に言ってゴミだった。あれなら無改造で使う方がマシだ。

「えぇー。なんで?なんで手も足も出なかったの?」

「……水鳥さん、改造が趣味丸出しなのよね……」

ARデバイスを外しながら顧問の茅原先生は答えた。
スナイパーライフル二丁と日本刀二本背中に抱えてる奴はじめて見た。
ハーミットクラブは武器の積載量が多いから武器選択はよりどりみどり。
でも知恵熱出るくらい熟考して武器を選んだ方がいいかも。先生の口調は優しかった。

「あぁん!くやしい!くやしい!やっとモデリング覚えたのにぃ〜!」

フィールドが体育館なのを良い事に周子はその場に寝転がってばたばた暴れた。
入部して間もない頃は弱さに見合わないくらい、かなり悔しがりだった。
だが幼児退行はともかくとして初日は悔しがっても許されただろう。
何せ攻撃を一発も当てられず、ビームの弾幕の前に成す術なく撃墜されてしまったのだから。

「なっ……んでそんなに強いんですかっ。先生!」

うつ伏せで死ーんとしていた周子だったがやにわに顔をガバッと向ける。

「それはね。敗北の味を知ってるからよ」

「真面目に答えてくださいっ」

「水鳥さんが何も知らないから強く感じるだけ……かな。
 私は成績で例えるなら中の中くらいよ。顧問だから生徒に負ける気はないけど」

かつては先生に勝てるぐらい強い部員が何人もいたらしい。
それが今や雛鳥のような雑魚新入部員しかいない。
負ける気すらしないので廃部寸前の苦境にも負ける気はないらしい。
だから部活の勧誘も手伝ってね。巧みに話を繋げて一同は部室に戻った。

42 :
部活存続おめでとう会は寂しいものだった。飾ってある輝かしいトロフィーも色褪せた遠い過去。
その時周子は七、八人ほど居たのを記憶しているが、そのうち数名は一ヶ月と経たずに辞めた。
去年部員が大量に辞めていったことも踏まえて現ゲーム部員は「生き残り組ね」と茅原先生に言われた。

「じゃぁ、先生が戦った中で一番強いファイターは誰だったんですか?」

「いるにはいるけどファイターでなくて機体ね。五強って知ってるかしら」

五強。現在のマシンナリーファイターズにおいて最も強いとされる機体のことだ。
同時に最も入手難易度が高く、どれもゲームを崩壊させかねないバランスブレイカー。
そのため公式戦のレギュレーションで禁止機体に指定されており、見かけることも少ない幻の機体だ。

「速攻で禁止にぶち込まれてパーツ単位でしか使えないからほとんどお目にかかれないわ。
 手に入れるには当時の公式大会に出るしかないもの。時間を遡らない限り入手は至難の技よ。
 あー、パーツ単位でなら使っていいからネットオークションを漁れば見つかるかもね」

五強は公式戦で禁止に指定されている機体だが、パーツ単位でなら使用が許可がされている。
といっても、そのパーツも1パーツに限るという厳しいものだ。
N社はこれでも妥協した方だと苦々しい表情で語っている。

他校には戦績を上げるため躍起になってパーツを探す部もあるらしい。
この部にはかつて制作術に長けた人がいたので、パーツ集めに奔走する事はないようだが。

茅原先生がバトルした事があるのは『ヘカトンケイル』という火力の怪物のような機体だ。
百の腕という名前に相応しく二つのサブアームと九十八のビーム砲塔を併せ持つ。
戦闘になるやそのイソギンチャクのような砲塔で馬鹿みたいな集中砲火を浴びせるのだ。

「当時フリー潜ってたらなぜか五強のヘカトンケイルを使う人と戦うことが多くって。
 何度辛酸を味わったか分からないけど、その経験が私というファイターを強くしたの」

「先生、その機体ってもしかして……」

「ええ。水鳥さんをこてんぱんにした私の機体がヘカトンケイルよ」

「…………」

周子のケーキを食べる手が止まった。
ロボットバトルは友達と遊ぶためだけのツールじゃない。
真の姿は戦場さながらの容赦ない厳しい世界なのだ。

43 :
「この際だから本気の世界も知っておきなさい。その上で楽しむか選んだ方がいいと思う。
 でないと貴女が傷つくだけよ。楽しいはずのゲームで辛い思いをしてほしくないもの」

先生はどこか遠い目だった。周子も遠い目をしていた。
折角新入部員の初顔合わせにも関わらず、ボコられた余波で周子は地蔵だった。
やがて武器を熟考しろと言われた事を思い出しケーキを食べながらARデバイスをいじり始めた。

「失礼します。茅原先生、ちょっと……」

がらがらと部室の扉を開けて三年担任の狭山先生が現れた。
茅原先生は教師特有の自然な動きで立ち上がり廊下へフェードアウトする。
かたい表情で茅原を見つめると落ち着き払った風の声を出した。

44 :
「先生、今しがた職員会議で廃部の件が上がりまして……」

「話が違います。今年部員が集まったら続ける約束だったじゃないですか」

「特例です」

狭山先生はきっぱり言い切った。
二人の会話は二人が想定しているものより大きく、部室に筒抜けだった。
――ほら、ずっと続けたいと言っていた三年生も卒業してしまったし……
――茅原先生も今まで放任主義だったでしょう。だから空中分解したんじゃないんですか?
――泥船になった途端それらしい事されてもね。今更遅いんですよ。

「待ってください。入部して初日で廃部なんて酷い!」

勢いよく部室の扉を開け放ち、周子は抗議の声をあげた。
狭山先生は鼻白んで「生徒は関係ないから部室に戻りなさい」と言った。

「あります!あるに決まってる!」

狭山先生は面倒くさそうに右手で眼鏡を押し上げる。

「いいかい。今までは全国大会で優勝するんだって息巻いてた生徒達が頑張ってたから良かったんだ。
 新入部員の君達がそうとは限らない。適当にダラダラ時間を潰すくらいなら勉強でもやりなさい」

45 :
この時、周子は自分がとてつもない負けず嫌いを発揮できることを知った。
そのために必要な勢いを持っているということも。

「だったら私は世界大会だ!!!!!」

「はいい?」

「私達『生き残り組』は世界を目指しています!前の部員の目標はよく知りません!
 けど目標に向かうだけの意思はあります!そのために今から頑張ろうって話をしようと――考えていました!」

両先生はちょっと驚いた顔をしていた。それもそうだ。
うつろな目をしながらデバイスをいじる周子がそんな大それた事を考えていたとは。
無論、今考えた。いつ考えたかは言ってない。ゲーム部を守るためついて出た方便だ。

「信じられないなら、ロボットバトルで決着をつけましょう!」

周子は鋭い勢いで眼鏡型のマイARデバイスを取り出して狭山に突きつける!

「私が勝ったら廃部の話はナシにしてください!お願いです!」

狭山先生の眼鏡が廊下に差し込む陽光の反射して二つの眼を隠す。
無言で長方形のケースを取り出すと、中のARデバイスを見せつけた。

「分かりました。ただし負けたら廃部ですよ。いいですね、茅原先生?」

茅原先生は頷くしかなかった。
フィールドは体育館。ルールは公式戦に則ったフリーマッチ。
狭山の使用機体は無料で配布されている射撃機のガンドッグだ。

「ARデバイスセット!スタンバイ、ハーミットクラブカスタム!」

ARデバイスを起動し、周子の眼前にモニター一式と仮想操縦桿が出現する。
そして機体のいたるところに武器を備え付けた自機が姿を現す。
青いを双眸を湛え、灰色で彩られた巨躯の機体だ。

46 :
ゲーム部の存亡を賭けた戦いが今始まった。レフェリーの茅原がゴングを鳴らす。

「ロボットバトル開始よ!」

開始早々狭山先生のガンドッグが弾幕を張りながら声高に叫んだ。

「僕は壮大な夢を語る生徒は嫌いじゃない。でもやる気を感じない人は嫌いだな!
 せめてそれらしい戦いをしてみせてください、水鳥さん!!」

ハーミットクラブカスタムはスラスターを全速で吹かした。
横異動で射線を切りながら、背中から散弾銃を取り出し撃ち返す。
散弾銃を連射するが全然当たらない。周子は歯噛みした。

「いい調子よ水鳥さん!ちゃんと武器を変えたのね!」

周子は今までノリ以上の戦い方をしたことがない。
スマブラで例えるとなんか適当に弱攻撃連打したりたまにスマッシュ技使う感じだ。
無論戦術など分かろうはずもなく、狭山先生に勝つには短い時間で行った改造に懸っている。

ハーミットクラブカスタムは武器の積載量が多いのは利点だけども、機体重量があり足が遅い。
対してガンドッグは武器が銃のみだが、そこそこの足と大量の弾幕を張れるのが特徴。
このままでは蜂の巣にされて終わる。

ハーミットクラブカスタムは横移動を続けながら露骨に距離を詰めた。
弾幕が更に激しくなる。徐々に機体にあたり始め、装甲が削れ、耐久バーが急速に減少する。
耐久バーがゼロになったら周子の敗北。すなわち廃部の決定だ。

「弾幕が止まないなら……!」

ハーミットクラブカスタムは両腕に内蔵している鋏を展開した。
機体名称のヤドカリにちなんだ武器で、パンチの要領で敵を突いたり切ったりできる。
灰色の機体がその場で二、三度素振りをする。
周子は操縦桿を固く握り、琥珀色の瞳できっとガンドッグを見据えた。

47 :
するとハーミットクラブカスタムの動きがにわかに変わった。
逃げ回るのを止め、ガンドッグ向かって真正面から突っ込んだ。
ガンドッグは迎撃すべく両腕の機銃の轟音を響かせ、大量の弾丸エフェクトが猛進する。

「これでどうだぁぁぁぁ!!」

なんと、周子は迫りくる弾丸を見切って鋏で弾き飛ばした!
機銃斉射をガンガン鋏で切り飛ばしながら、少しずつ前進する。
ない知恵を振り絞って考え出した唯一の戦術がこれだ。

「そんな馬鹿な。それはごり押しであって戦術とは言わないぞ!」

「仕様上は出来ますね。機銃の斉射もエフェクトとして視認できるでしょう。
 動体視力のいい人なら弾丸エフェクトを弾き飛ばすことは不可能じゃありません」

事もなげに言い放つレフェリー。
額に一筋の冷や汗を垂らし、今度は狭山先生が歯噛みした。
周子の機体が紅海を渡ったモーセの如く弾丸を左右にはじいて接近してくる。

「ずっと考えてました、茅原先生のヘカトンケイルの倒し方を!」

「え、私?」

「弾幕で近づけない、攻撃も躱される……だったらこうだ!」

ハーミットクラブカスタムの両肩から二本のワイヤーアンカーが飛んだ。
動揺して隙が出来た狭山はそれを避け切れず、装甲にアンカーが刺さる。
逃げようと抵抗するガンドッグをワイヤーで巻き取り、鋏の射程圏まで接近する。

「これで終わらせる!!」

展開した鋏を振りかぶり、ガンドッグの頭をかち割った。
狭山の眼前に展開していたモニターがぷつっと消失する。
次いでボディに鋏の突きをお見舞いした。装甲をぶち抜き、鋏を引き抜く。
バチバチという電気のようなダメージ音を響かせて狭山先生の機体は爆裂した。

「……フォールディング・シザーズ!」

両腕の鋏に名付けられた武器名を呟き、水鳥周子は闘いの勝利を感じ取った。

48 :
狭山先生は頭をぽりぽりと掻きつつ、諦念を込めて話し始めた。

「わかりました、わかりました。僕の負けです。とりあえずゲーム部は存続という事にします。
 ですが、今後の活動次第でまた廃部の話になるかもしれません。その時は覚悟してください」

敗北を噛みしめながら狭山先生は去っていった。
世界大会の目標だけは捨てないでください。そう言い残して。

「はぁ〜……よ、よかったぁ〜」

周子はへなへなと脱力すると、茅原先生は両肩を揉んだ。
よくやった、と無言で言っているらしい。

「ナイスファイトよ。けどあの戦法を採るならもっと装甲を厚くしていいわね。
 今は足も遅いし装甲も薄いしで良いことないわ。それと――」

「先生、凄い!私、勝ちました!こんなにスッキリ勝てたのはじめて!
 いつもはボロ負けか粘り勝ちばっかりなのに!」

「ええ、そうね。あれでヘカトンケイルに勝つのは難しいと思うけれど……。
 狭山先生に勝てたのは少ない時間でレベルアップした水鳥さんの力よ」

その時、周子の頭の中にはひとつのビジョンがあった。
荒唐無稽かも知れないけれども、自分だけの専用機のビジョンが。
敢えてその夢の新機体に名を授けるなら――ハーミットクラブ・エクストリームモデル。
茅原先生はペットネームは[フォード]ね。と空気を読まずに設定を足してきた。

その後の周子達の努力はつつじヶ丘高校の教員が知っている通りだ。
日々女子会を繰り広げ、真剣に(ついでと読む)ロボットバトルを繰り広げるハードな日々。

「フリーマッチなら望むところよ!
 ARデバイスセット!スタンバイ、エクスフォード!」

季節が春を過ぎ、部員が公式戦で戦える程に成長した頃――。
周子はナンパを兼ねた野試合で無敗を誇る程度には成長していた。
そして自分の実力を試すため、つつじヶ丘のアリーナへ赴いたのだった。

<おわり>


【個人的なSSなので企画とは無関係ということで……失礼しました。】

49 :
【ナンパを兼ねた野試合を跳ね除けられる程度には成長していた、ですね。すみません】

50 :
ええやん

51 :
近接型であるベンケイの機体出力はすさまじいものだ。
腰を据えての一対一で殴り合うならカリブルヌスを抜いたマクシミリアンでも逆転の余地は一切なく、仮想空間に転がる鉄屑と化しただろう。
だがこれはチーム戦だ。カリブルヌスへの対処に躍起になってしまえば、必ず隙が生まれる。

>「あら、足元がお留守でしてよ」

「ナイスだよ紫水君!」

強引に突き飛ばされたマクシミリアンへ突進するベンケイに、微塵改の一撃が突き刺さる。
二度の打撃と至近距離での爆発ダメージが重なれば、いかに衝撃と物理ダメージの軽減に優れた重装甲でも
骨格にダメージが入るのは防ぎきれない。さらには随伴機からの迎撃も大盾とその巨体で防ぎ切り、多対一の状況に持ち込んでいく。

>「……『タスク』か」

「トーチカへのメタ戦術……やるのは初めてだよ。
 まさか紫水君が先鋒を務めるとは思わなかったけど」

スラスターすら展開できない今のマクシミリアンでは、手足を使って起き上がるしかない。
それもカリブルヌスにほとんど出力を回している状況では、ひどくゆっくりとしたものだ。
ベンケイに殴られた衝撃は装甲の薄いマクシミリアンに大きなダメージを与え、それが駆動系にまで響いているせいでもある。

>「爆弾先輩。私はエンジョイ勢だから、別に負けても大して悔しくなんてないわ。
 適当にガチャガチャ操作して、適当にぶん殴るだけでも、そこそこ楽しめるもの。
 約束された勝利より、死闘の果てにたどり着く敗北のほうが、価値があると思ってる」

紫水がふと、八木に向かって語り始める。
それは勝利への願いであり、この試合をここで終わらせたくないという希望だ。

>「だけど……エンジョイ勢だからこそ、もっと楽しめる方法を知りたいわ。
 勝つことでよりバトルを楽しめるのなら……爆弾先輩、私たちを勝たせて」

「……マクシミリアンは損傷が酷い。
 存分に暴れるといい、君は強いんだから」

>「……桐山君、水鳥ちゃん。迂闊に仕掛けない方がいい。
 ソイツはまだ何か……逆転を狙ってるよ」

>「八木先輩!」

三人の言葉に応えるように、八木は自機を動かし、ベンケイへ近づく。
モータルとの短い会話を終え、そこから始まったのは――死闘だ。

52 :
クラウンシリーズは扱いの難しい機体とよく言われる。
それはノイジーならばバルーン・ボム。サイコならばチェーンソーやマチェットなど、
他の機体とは根本的に異なる独特の武装が扱われているためだ。
尖りに尖ったその性能だけならば五強と呼ばれる公式禁止機体にも匹敵するが、欠点を突かれれば脆く、他の機体が使う汎用武器では強みを活かしきれない。

>「六手で十分だった」

だが八木はそれを見事に使いこなし、今こうしてまったく未知の相手を前に、その武装をほとんど破壊してみせた。
その戦闘の間に、マクシミリアンはカリブルヌスを背中に収納し、再び小銃と大剣を手に持つ。
味方の体勢を立て直す時間と、敵の無力化。ゲーム部のエースだった彼は、今でもその実力があることを証明したのだ。

>「僕の勝ちは、これでもらった。次は……僕らの勝ちを貰おうよ、さあ」

「ありがとう八木!やっぱり君はエースだ!」

八木に向かって桐山は拳を突き上げて喜びを示し、マクシミリアンも小銃を持った手を天に高く上げる。
そうしてベンケイへと向き直り、再び突撃しようとしたときだ。

>「八木先輩、桐山先輩。私に任せてください。ここは私がやる!」

「なるほど、今回は君がリーダーだ。
 それなら……僕は援護するとしよう!水鳥君、君にならできる!」

あれだけの激戦を見せられて、心が熱くならないわけがない。
ベンケイの支援に回られないよう、また微塵改一体に火力を集中させないように、マクシミリアンは随伴機の二機を引き付けるように射撃戦を開始する。
小銃で弾幕を張り、隙を見ては大剣を叩きつけ、クイックステップでキューブからキューブへ隠れては
時折散弾砲で水鳥に向かうミサイルを撃ち落とす。だがその間、桐山は何か奇妙なものを感じていた。

(おかしいな……あのモータルたち、こちらに撃ち返してはくるけど積極性がない。
時間稼ぎのつもりで仕掛けているけど、これはこちらが時間を稼がれている……?)

相手を警戒したその思考も、ベンケイの爆発音とそのモータルの悲鳴が聞こえてくれば
気が緩み、親指を立てるエクスフォードと水鳥に思わず桐山も同じ行動で返す。
そして残ったモータルを片付けようとした瞬間だった。

>「救援要請……!トラフィックゴーストの援軍が一機接近してきます!」

現れたのは一目で高機動型と分かる戦闘機のような装甲と、光を反射して艶めく黒いカラーリング。
そして手に持ったエナジーライフルと腰にマウントされた近接武器、背中に備えられたエナジーキャノン。

>「もしかして……『オリオンスペクター』……!」

「高機動機体の新星、浦和零士選手だ。
 戦闘距離を選ばない戦闘スタイルと、いかなる距離でも敵の弱点を突く正確さ。
 僕のマクシミリアンはあの人を参考に組み上げたものだけど……雲泥の差を感じるよ」

マクシミリアンはいわゆる機体全てが同じシリーズのパーツで構成された『一式』と呼ばれるタイプではなく、
複数のシリーズから様々なパーツを抜き取って制作したものだ。スラスターやフレームはオリオンスペクターと同じパーツを使ってはいるが、
性能は同じでありながらあちらの機動力はすさまじいものがある。マクシミリアンの汎用レーダーでは、ほぼ一瞬であのキューブに現れたように表示されたのだから。

53 :
>「君達の健闘を讃え――実験台達よ、私が直々に相手をしよう」

内輪の事情がうかがい知れる会話を夢を持ちたい年頃である桐山は聞かなかったことにして、
特殊エモートでオーラを纏うオリオンスペクターを仰ぎ見る。

>「何するにしても一筋縄じゃいかないみたい……!
 リーダーのゴーストはたぶん全国大会の選手。強さは少なくともベンケイ並みかも……!」

「試合は配信で何度も見たけど……正直弱点が見当たらない。
 装甲の薄さと決定打のなさが弱点とは言われてるけど、機動力が全てを補っている!」

エクスフォードの一斉射撃がモータルたちの機体に襲い掛かり、バーチャルとはいえ爆風が辺りを包み込む。
だがそれはオリオンスペクターにはまったくの無意味。高機動型に有効な面制圧武器も、一発残らず撃ち落とす射撃技術の前には歯が立たない。

>「唸りを上げよ、可変速エナジーキャノン『アーレス』!
 破壊の驟雨を撒き散らせ、エナジーライフル『フラッド』!」

反撃に放たれた弾幕はすさまじいものだ。オリオンスペクターの攻撃力こそ低いものの、
常に高速で発射され続けるビーム兵器は目くらましにもなり、同時にミサイルや爆弾への牽制にもなる。
耐久を削られ、装甲も一部剥がれているマクシミリアンにはその一発が重く、クイックステップでは捌き切れずに
脚部に被弾してしまう。そして桐山の視界にミサイル接近の警告が表示されれば、機動力の落ちたマクシミリアンでは避けきれないのは道理だ。

「相手は全国……だけど、それでもっ!
 ここで終わりたくはないっ!」

膝を突いて小銃を構え、迫りくるミサイルに向けて仮想操縦桿のトリガーを何度も引く。
だが破損した腕と足では反動を支えきれず、撃つたびに照準がずれて明後日の方向へ飛んで行ってしまう。
撃墜を覚悟し、桐山は思わず目をつぶった。

【SS投下ありがとうございます、こういう過去話もいいもんですね】

54 :
世界観が崩壊しちゃってる
いいのこれ?

55 :
ピンチの時にはウンコを呼びな

心の中で三回唱えろ


ウンコ見参

ウンコ見参

ウンコ見参


そうすりゃウンコがやってくる

ウンコ星からやってくる

56 :
「出て来い、俺の最終兵器よ!!」

「ブリィィィィィィイイイイイイイイ……!!!!」

そこに現れたのは……

「なんだ、あれは……!?」「そんな、ウコン……ッ!!?」

右近の変わり果てた姿だった。既に死体は完全にウンコ化されており、
顔だけは当時の面影を残しつつ。両腕に糞、そして胸には肛門、そして自慢の男根は
チャージ式のUNKO砲になっていた。


「うぉっ、UNKO砲!!」


「ハイパーウンコ斬りだぁぁぁ!!」


そしてハイパーウンコと右近の一撃がぶつかり合い、世界に糞が爆散する――

57 :
>「……ああ、分かったよ。少なくとも……この戦いの勝利は、僕らが貰おう」

晶の求めに、八木が応じる声が聞こえる。
これまでの、どこか遠慮がちな、一歩引いた視点からの物言いではない、力強く断言する言葉。
晶のような大言壮語ではない。彼は、それを現実に変えるだけの実力を持っていた。

>「七手だ。七手で決めてやる」

ジャグリングによって所持数以上の爆弾を手元にプールしてからの、間断ない波状攻撃。
爆弾生成という"溜め"に時間のかかる、爆撃特価型の速射性の低さを、プレイヤースキルで強引に補っているのだ。
そして先刻強く印象付けた閃光弾をブラフに使った爆撃は的確にベンケイの姿勢を崩す。
一方的な攻勢。一歩踏み出せば肉弾戦に持ち込めるこの距離で、前衛型のベンケイが後衛型のクラウンに防戦を強いられていた。

「すご……これがガチ勢の本気……?」

八木とベンケイのオペレーター、ともに上級者の二人が展開する目まぐるしい技術の応酬に、晶は眼が追いつかない。
あっけにとられているうちに、ベンケイはついに、「七つ道具」のうち六つを引きずり出された。
しかし敵もさる者、爆撃の合間を縫って投擲された虎爪がクラウンを捉え、次いで振るった薙刀が右腕を切り飛ばす。
八木は、その窮地さえも逆転の布石とした。

>「六手で十分だった」

切断されたクラウンの右腕は、爆薬生成機構を備えたいわば火薬庫。
ベンケイの制空圏を突破して、右腕が懐へと飛び込む。
決まった――その場に居る全員がそう感じたことだろう。
八木と、ベンケイのオペレーターを除いて。

>「……そういうの、なんて言うんでしたっけ。確か……ああ、一、二、三……八節棍でいいのかな」

ベンケイは最後の七つ道具……電磁接合式の多節棍を抜き、クラウンの右腕による奇襲を防いだ。
これで7つ目。おそるべきことに八木は、ほとんどタイマンの状況から、ベンケイの手札を全て暴き出したのだ。
ゴースト達もこれは想定外だったらしく、素で事態に驚愕している。

>「僕の勝ちは、これでもらった。次は……僕らの勝ちを貰おうよ、さあ」

>「八木先輩、桐山先輩。私に任せてください。ここは私がやる!」

ベンケイの武装は全て開示された。随伴機からの援護射撃は晶の微塵改が全て防ぐ。
不確定要素は取り除かれ、あとに残るのは、チームつつじヶ丘とトラフィックゴーストの純粋な技量のぶつかり合いだ。

58 :
>「……ずっと後ろから見てたよ。みんな凄いファイターだって思った。
 自分もあんな風に戦えるのか不安になっちゃうくらいに。
 けど私、すごくわくわくしてる。みんなの戦いを見て熱くなったから!」

「そうね、先輩方は強いわ。きっと、あとのことを全部任せちゃっても順当に勝ってくれると思う。
 でも……私や先輩方、このチームをここまで引っ張ってきたのは貴女よ周ちゃん。
 リーダーだとか先輩後輩だとか、しち面倒なことは全部忘れて、楽しんできて」

かつてゲーム部に入ったばかりの頃、晶は誰とも関わることなく一人用ARゲームの世界に閉じこもっていた。
そんな彼女に対戦の、マシンナリーファイトの楽しさを教えてくれたのが周子だ。
一人でも遊べるのがゲームの良いところだが、多人数で遊べばもっと楽しい。楽しくできる。
引きこもりの晶の手を引いて、ときには強引に引っ張って、新しい世界へ連れ出してくれた周子には、今も感謝している。

勝とうが負けようが、ゲームを楽しめれば晶はそれで良い。
だけど、周子も一緒に楽しめなければ、そんな楽しさに意味などない。
そして、楽しめているのなら……それをいつまでも、終わらせたくない。

>「私も全力で楽しみたい!この一瞬、この戦い、このイベントを!
 お楽しみはまだまだこれから!こんなところで負ける訳にはいかない!」

(そっか……負けたら、それで終わりなのよね)

楽しい時間をずっと続けるには、勝ち続けなければならない。
そんな当たり前のことに、晶はたった今ようやく気付いた。
それなら、周子にかける言葉はただ一つだ。

「勝って、周ちゃん!」

>「よし、絶対勝つぞ!!」

そしてエクスフォードとベンケイが激突した。
ベンケイの得物は電磁接合式の多節棍。間合いと軌道を変幻自在に操る武器は、まさに白兵型の切り札と言えよう。
対するエクスフォードは、敵の懐に飛び込み間合いの利を潰す戦術を採択した。

愚直な吶喊。しかし取り回しの長雑な多節棍相手ならば最適解に近い。
敵の得手を封じ、己の得手を押し付けるのが、全ての戦いに通ずる戦術の基本概念だ。
うなりをつけて振るわれた多節棍を、エクスフォードは手首に生やした鋏で掴み取った。

「上手い!白刃取りね!」

白刃で取ることを白刃取りとは言わないが、晶は雰囲気で喋った。
得物の制御を奪われて、しかしベンケイは動揺しない。冷静に多節棍の節を切り離し、掴まれた部分を捨てた。
多節棍は一節分短くなったが、これで状況は振り出しだ。

59 :
七節になった多節棍を唐竹割りに打ち込まれ、エクスフォードは大きくノックバックする。
強化骨格のパワーに得物の長さが乗っておそろしい威力だ。
エクスフォードの装甲ではあと二発と耐えられないだろう。

しかし逆に言えば、一発までなら耐え抜いて肉迫できるということでもある。
つまり、考えるべきは『攻撃をどう躱すか』ではなく、『どうやって一発までの被弾に抑えるか』だ。
臆せば足は止まり、引けば攻撃のチャンスを致命的に逸する。
そして周子にその心配は無用だった。エクスフォードは既に疾走を開始している。

ベンケイが多節棍を半ばで分割し、ふたつの三節棍へと変じて迎撃。
倍に増えた手数で嵐のごとき乱打を降らせるが、エクスフォードは両腕の鋏でそれを掴み取る。
さらに肉迫。ベンケイは三節棍の先端を捨て、再び一本の四節棍を作り出した。
両の鋏を残った節に塞がれたエクスフォードに打擲を防ぐすべはない――

>「ワイヤーエスケープ!この瞬間を待ってたわ!」

瞬間、エクスフォードは『飛んだ』。
上空に漂うキューブにワイヤーアンカーを引っ掛け、巻き取ったのだ。
キューブの配置を読み切り、土壇場で立体機動を成功させる、末恐るべき操縦センス。
水鳥周子のポテンシャルはたった今完全に開花し、彼女を一つ上の段階へと押し上げた。

>「これで終わらせる――!」
>「フォールディング・シザーズ!!!!」

そして――決着。
絶大なDPSを誇る必殺の六連斬撃が耐久バーを一瞬で削りきり、ベンケイはしめやかに爆発四散した。
爆炎を背に受けながら着地したエクスフォードは、微塵改に向けてサムズアップのエモート。

>「晶ちゃん、お待たせ!」

「カッコ良かったわよ、周ちゃん」

マシンナリーと同じように突き出される周子の拳に、晶もまた自分の拳を重ねた。
エモートのコマンドは結局見つからなかったので、微塵改も直剣を掲げて応える。

勝利を称え合うチームつつじヶ丘だったが、周子は不意に臨戦の緊張を取り戻した。
広範囲のセンサーを備えた彼女には"視えて"いる。戦いがまだ終わっていない、その証左が。

>「救援要請……!トラフィックゴーストの援軍が一機接近してきます!」

「ベンケイの仇討ちにでも来たのかしら……休む暇も貰えないのね……!」

やがて現れたのは、漆黒のカラーリングが特徴的なマシンナリー。
周子が毎月買ってきて晶にも読ませてくれる月間マシンナリーファイトの特集で見た覚えのある機体だ。

60 :
「あれはまさか……『黒の幽星』?」

アマチュア最高峰のファイター、浦和零士。
全国大会での活躍と、その尖りきったビルドから、一部でカルト的な人気を誇る選手だ。
ARバイザーで顔こそ隠れているが、写真で見た浦和の面影は確かに残っている。

>「君達の健闘を讃え――実験台達よ、私が直々に相手をしよう」
>「何するにしても一筋縄じゃいかないみたい……!
 リーダーのゴーストはたぶん全国大会の選手。強さは少なくともベンケイ並みかも……!」
>「試合は配信で何度も見たけど……正直弱点が見当たらない。
 装甲の薄さと決定打のなさが弱点とは言われてるけど、機動力が全てを補っている!」

「お、大人げない……アマチュアの大会でしょうこれ……?」

しかしこれもファンサービスと言えばそうなのかもしれない。
圧倒的な戦力差を覆し、策を弄してベンケイを打ち破ったファイター達への、運営からの粋な報酬。
現状最もプロに近いと称されるファイターと戦える、マニア垂涎の機会だ。

>「オリオンスペクターは高機動型万能機です!油断してる今が好機、最初から畳みかける!!」

先んじて攻撃を仕掛けたのは周子だった。
リロードを終えたエクスフォードの全武装を展開し、弾丸の雨をオリオンスペクターめがけて叩き込む。
半端な万能機なら二回は耐久を全損する必殺の嵐は、しかし浦和の機体を捉えられない。
回避と迎撃を織り交ぜた目にも留まらぬ機動によって、一発さえ被弾することなく凌ぎ切る。

>「唸りを上げよ、可変速エナジーキャノン『アーレス』!
 破壊の驟雨を撒き散らせ、エナジーライフル『フラッド』!」

返礼とでも言うかのように、オリオンスペクターもまた射撃武装を解放した。
一瞬にして形成される弾幕が、視界の全てを光輝で埋め尽くす。
一発一発はそれほど痛くない。しかし、それこそ桁違いの弾数が致死の威力を弾き出す。

「絨毯爆撃のように見えて……狙いは正確だわ!しかも多分、これが本命じゃない……!」

間断なく降り注ぐ弾幕に足を止めれば、あの高機動によって急所を刺される。
畳み掛けるような波状攻撃は、いわば「篩」だ。
全体攻撃で装甲と機動力を奪い、もろくなったところから穴を開ける、対多数特化の戦術。
はじめから単機でチームを相手にすることを想定ているのだ。

>「相手は全国……だけど、それでもっ!ここで終わりたくはないっ!」

61 :
桐山の悲鳴じみた声に振り向けば、マクシミリアンが最初の餌食になりかけていた。
四肢のパーツを破損し、まともに銃撃を放つこともできずに、迫り来るミサイルは直撃コース。
あと数秒もすれば、そこに転がっているベンケイと同じ末路をたどることだろう。
しかし、数秒あれば十分だ。

「私が居るわ、桐山先輩」

微塵改の腰部からワイヤーアンカーが射出され、動けないマクシミリアンを絡め取る。
そのまま自分の方へ引きずり込み、三式白兵防盾の下にマクシミリアンを収めた。
代わりに無防備になった微塵改は、ミサイルの直撃を受けた。
左腕のパーツが弾け飛び、耐久バーが大きく削れる。装甲特化型の微塵改ですら、このダメージだ。
マクシミリアンやノイジークラウンが受ければひとたまりもあるまい。

「桐山先輩。私ね、今とっても楽しいの。
 死力を尽くしてベンケイを打ち倒し、次の相手は全国区の選手。しかも全力のぶつかり合いよ。
 次はなにをしてくるのかしら。どうやって、それを攻略しようかしら」

微塵改は残った片腕をマクシミリアンの胴体に回し、抱き締める。
脚部を破損しまともに立てなくなったマクシミリアンを、微塵改の巨体で固定した格好だ。
機動力はゼロに等しいが、これで照準は安定するはずだ。

「あっけなくやられて、あとはずっと観戦席で指を咥えながら見ているなんて、御免だわ。
 こんな楽しい戦い、簡単に終わらせたくない。……もう一度、みんなで勝ちたい」

実弾系や爆撃は届く前に撃墜される。ビーム系は当たったとしても威力が足りない。
オリオンスペクターに対して決定打となり得るとしたら、それはマクシミリアンのレーザー刃だ。

「足が壊れたなら私が背負うわ。攻撃は全部私が受ける。桐山先輩は攻撃に集中して。
 まだ実装されていないけれど……マシンナリー同士の『合体』を、運営に見せつけてやりましょう」


【ギリギリですみません、過去編乙かれです。マクシミリアンと合体して、土台兼壁になる】

62 :
それ、ダメじゃね?

63 :
>>61
投下お疲れ様です!
自分は結果的に早く投下できてるだけなので遠慮なく期限目いっぱい使ってください!
時間的に都合がつかないときは一言書き込んでくだされば延長しても大丈夫ですので!
この企画もいよいよラスト目前。未熟なPLですがもうしばらくお付き合いください。失礼しました】

64 :
>「八木先輩、桐山先輩。私に任せてください。ここは私がやる!」

「……うん。やってみるといいよ」

水鳥がベンケイとの一騎打ちに名乗り出ると、優樹はそれを即座に承諾した。

>「なるほど、今回は君がリーダーだ。
 それなら……僕は援護するとしよう!水鳥君、君にならできる!」

桐山の言う通り、このチームのリーダーは彼女だ。
だがそれだけではない。

優樹は良い奴になりたかった。
水鳥が身を置くはずだった強豪のゲーム部を壊してしまった、罪滅ぼしがしたかった。
故に、彼女の望みを否定する事など出来る訳がない。

これで良かったのかは分からない。
こんな事はただの、飢えた犬にたった一食分の餌をやるような、
その場限りの自己満足に過ぎないのかもしれない。

>「……ずっと後ろから見てたよ。みんな凄いファイターだって思った。
  自分もあんな風に戦えるのか不安になっちゃうくらいに。
  けど私、すごくわくわくしてる。みんなの戦いを見て熱くなったから!」

それでも――少なくとも彼女は今、このゲームを楽しんでいる。
戦いに熱中して、高揚している。

>「私も全力で楽しみたい!この一瞬、この戦い、このイベントを!
  お楽しみはまだまだこれから!こんなところで負ける訳にはいかない!」

これで良かったはずだと優樹は自分に言い聞かせる。
それから操縦桿を握る手を一度開き、すぐにまた握り直して、意識を切り替えた。
これからエクスフォードとベンケイの一騎打ちが始まる。
ならば自分は桐山と共に、邪魔が入らないよう援護をしなければ、と。
もっとも――運営スタッフであるモータルが、そんな会場が盛り下がるような茶々を入れる事はないだろう。
他の参加者にしても、大勢に顔が見られるリアルイベントでそのようなプレイをする者は殆どいない。
正直なところ、心配は無用だと優樹は感じていたが――だとしても今は試合中だ。
目の前に敵がいれば、すべき事は決まっている。

「……僕も、縛りプレイついでにもう少し楽しませてもらおうかな」

優樹はそう言ってにやりと笑うと、随伴機の片割れに視線を向けた。
彼は幼少期からARデバイスに触れてきた、生粋のゲーマーだ。
水鳥への負い目から解放された今、次に自身の楽しみを考えるのは当然の事だった。
自機の右腕が切断されているにもかかわらず、その視線には勝利の確信。
コープスブライド射撃型の操縦者はバイザーの奥で目を細め、眉根を寄せた。

「その損傷で……言ってくれる。あまり強気な発言は控えた方が身の為だぞ。
 ベンケイを相手に白兵戦を制したあの活躍に、泥を塗る事になる」

「心配いりませんよ。負けませんから」

なおも強気な言動。
それを聞いた瞬間に、コープスブライドの操縦者は動いていた。
主兵装であるビームライフルを構え、クラウンへと銃口を向ける。
しかしその動作が完了した時には、クラウンは既に近くのキューブに身を隠していた。
そして左手から爆弾を生成。
キューブから一切姿を晒さないまま爆弾を遠投。

65 :
とは言えモータルも優樹の遠投技術は確認済み。
閃光弾を警戒して撃ち落とす事はせず、冷静に回避する。
位置を変えてしまえばノールックの遠投はもう叶わない。
一度、敵機の居場所を確認する必要がある。

量産機を使用しているとは言え、モータルは誰もが操縦技術に優れたプレイヤーだ。
クラウンが自機の位置を確認する為に顔を出せば、すぐさまビームライフルで撃ち抜く。
それが彼には可能だった。

だが――クラウンが次に取った行動は、彼の予想とは異なっていた。
クラウンは――再び爆弾を投擲した。
水風船が描く軌道は、コープスブライドへの直撃コース。

66 :
「なっ……」

想定外の攻撃に動揺しつつもモータルはそれを回避。
しかし爆弾は更に二発、三発と、やはり的確な狙いによって降ってくる。
センサー頼りの爆撃ではない。ベンケイに搭載されている高精度センサーでもなければこんな芸当はなし得ない。
では何故、どうやって――爆弾に追い立てられながらどれだけ思考を回転させても、答えは分からなかった。

「……やっぱり、ノイジーモデルのカラーリングはこれに限るな」

メタリックグレーの機体。その指先を見つめながら優樹は呟いた。
キューブの陰から指先だけを出して、鏡のようにして敵機の位置を確認しているのだ。
ガチ勢である優樹が汎用迷彩色ではなく、あえて機体をメタリックカラーにする理由がこれだった。

この状況、最早コープスブライドにベンケイの援護をする余裕はない。
一方で優樹は、数秒爆撃を止めたところで反撃をもらう可能性はほぼゼロだ。
水鳥が上手く戦えているか、ちらりと彼女へ視線を向けた。

エクスフォードは――ベンケイの一撃をまともに食らっていた。
胸部装甲がひび割れ、陥没。
更に一定量以上のダメージを受けた際に発生するスパークエフェクトが散る。

援護に入るべきか――優樹は瞬時にその選択肢を意識した。
ベンケイとエクスフォードとの一騎打ち。そこに随伴機達に水を差させる訳にはいかない。
だが――水鳥が負けてしまうようであれば話は別だ。
その時は自分が水を差す。優樹は最初からそう決めていた。

>「油断した……!でもまだまだ!」

しかし、水鳥の戦意はまだ失われていない。
それも破れかぶれの蛮勇ではなく、明確な勝利へのビジョンを持っている。
優樹にはそのように見えた。

>「射程距離まであと三節ぶん!」

エクスフォードは縦横無尽に振るわれる多節棍を見切りつつあった。
遠心力を帯びている為に高速かつ強力。
更に接着と分離による軌道変化も加えられた連撃を。

(紫水さんと言い、水鳥さんと言い……白兵戦の勘が良いんだな。
 センスがある……ゲーム部が元のままだったら、期待のルーキーになれたかもしれないな)

今更そんな事を考えても詮無い事だが――優樹は思わず目を細めた。
そんな事を考えている間にも、エクスフォードとベンケイの戦いは加速していく。
ベンケイは残り六節になった棍を二つに分離し、更なる高速連撃を繰り出す。

だが――それすらも次なる一撃への布石。
二本の棍による連撃が防げず相手が倒れればそれでよし。
防がれたならばその棍を捨て、四節棍を再構築し――渾身の一撃を見舞う。
まだ開発されて間もない新型機だと言うのに、高度に練り上げられた戦術だった。

67 :
>「"とった"ぞ――――!!!!」

ベンケイが勝利を確信し、叫ぶ。
その時既に優樹はクラウンを操作していた。
あらかじめ形成していた爆弾を振りかぶると、ベンケイへと狙いを定め――

68 :
>「こ、これは!?」

直後、モータルが驚愕を帯びた声を上げた。
エクスフォードが跳んだのだ。ベンケイの頭上を超えるほどに高く。
装甲と火力を重視した彼女の機体では本来なし得ぬはずの挙動。
優樹にすら予想していない事だった。

>「私の攻撃を読んでいたとでも言うのか!?」
「ワイヤーエスケープ!この瞬間を待ってたわ!」

それを可能としたのは――エクスフォードの兵装の一つ、ワイヤーアンカーだ。
水鳥はアンカーを頭上のキューブへと射出し、エクスフォードを釣り上げたのだ。

そしてアンカーを解除すると、そのままベンケイの頭部目掛けて鋏を振り下ろす。
これで頭部――つまりカメラアイとセンサーが破壊された。
次に何をされようと、ベンケイにはそれを感知する事は叶わない。

>「邪魔な追加装甲を引っぺがす、この瞬間を!!」

ベンケイの追加装甲が、鋏を用いた梃子の原理によって強引に、引き剥がされていく。
これで完全に、まな板の上の鯉だ。

「これで終わらせる――!」

「……余計なお世話だったみたいだな」

そう小さく呟くと、優樹は援護に用いるはずだった爆弾を投げ捨てた。
コープスブライドの位置もろくに確認せず、てきとうに。
それでも問題はなかった。最早随伴機への牽制などしなくても勝負は決まっている。

>「フォールディング・シザーズ!!!!」

一対の大鋏による六連撃。
ベンケイに刻み込まれた傷跡から、青白い光が漏れる。
斬撃属性の武器によって耐久値を削り切られた際の、特殊エフェクト。

>「ば、馬鹿なあぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

そして――操縦者の断末魔を掻き消すように、ベンケイは爆散した。

>「晶ちゃん、お待たせ!」

「お見事。格闘戦が得意なんだね。正直……驚いたよ」

これで残る敵はベンケイの随伴機、コープスブライドの万能型と射撃特化型。
彼らの戦力では、最早チームつつじヶ丘高校を倒す事は叶わない。
だが――彼らはなおも弾幕を張り続けている。
それは明らかな時間稼ぎだった。

(そりゃ……この状況で一小隊でも増援が来れば、僕らは堪えられない。
 だけど、それはショーの結末としてどうなんだ?)

新型機であるベンケイを撃破したチームが、ただの量産機に数で押されて敗北。
今ひとつ盛り上がりに欠ける展開だ。
そんな事をモータル達が狙っているとは思えない。
だが、では何を狙っているのか。

69 :
>「救援要請……!トラフィックゴーストの援軍が一機接近してきます!」

不意に水鳥が張り詰めた声を上げた。
優樹のクラウンはより高い火力を出す為、センサー類へのエネルギー供給をカットしてある。
それ故、援軍機の接近を確認出来たのは彼女よりも後。
戦闘機めいた流線型の、漆黒のマシンナリーが皆のやや前方に着地を果たしてからだった。

70 :
>「もしかして……『オリオンスペクター』……!」
>「私の愛機の名を知っているとは……随分有名になったものだ」

「確かにオリオンスペクターだ……ベンケイに右腕をあげちゃったのは、失敗だったな」

ネット対戦におけるランクマッチで、優樹は何度かオリオンスペクターと遭遇している。
時には味方として、時には敵として。
故にその強さは伝聞などではなく、もっと明確な経験として知っていた。

>「高機動機体の新星、浦和零士選手だ。
  戦闘距離を選ばない戦闘スタイルと、いかなる距離でも敵の弱点を突く正確さ。
  僕のマクシミリアンはあの人を参考に組み上げたものだけど……雲泥の差を感じるよ」

桐山が言う通り、オリオンスペクターはあらゆる状況において戦闘可能な機体だ。
現行メタの象徴とすら言えるだろう。
機動力があるという事は、戦闘を行う距離と場所、そして相手を常に自分で選べるという事。
敵を撹乱する事も、火力を一点に集中させる事も単機で行えるという事。
つまりスキルキャップが高い――技術を磨けばどこまででも強くなれるのだ。

オリオンスペクターはそれに加え、武器も残弾が自然回復するエナジー系のみで固めている。
徹頭徹尾、一人で全てをやってのける為に造られた機体なのだ。

実際、ランクマッチでも浦和零士は一人で戦局を決めるほどの強さを発揮していた。
全国ランキング一桁、二桁が入り交じるほどの上位帯においてもだ。

>「……戦いは既に佳境を迎えている。君達ほどの大人数のチームは今回はいなくてね。
  チームつつじヶ丘の生存如何で戦況は大きく揺れる。そこで……私の出番というわけだ」
>「君達の健闘を讃え――実験台達よ、私が直々に相手をしよう」

優樹は何も言葉を返さなかった。
ただ操縦桿を動かしてクラウンに爆弾を生成させる。
左手だけでは爆弾は二つしか保持出来ない。ジャグリングも使えない。
それでも――何も出来ずに負けるつもりはなかった。

>「オリオンスペクターは高機動型万能機です!
 油断してる今が好機、最初から畳みかける!!」

そうして真っ先に動いたのは水鳥だった。
機先を制するべくエクスフォードの全武装を展開。
散弾とミサイルを嵐のごとく解き放つ。
更にその弾幕の中に紛れるように投擲されたブラストボム。

だが――オリオンスペクターはその全てを回避、迎撃してみせた。
エクスフォードの全武装を一度に投入しても、飽和攻撃になり得ない。
優樹は思わず舌打ちをしていた。

>「今のは挨拶だと受け取っておく。いい勝負にしよう、チームつつじヶ丘!」
>「まずはお返しだ。洗礼の一撃、とくと味わいたまえ!」

反撃に放たれたのは、随伴機によるミサイルの雨。

>「唸りを上げよ、可変速エナジーキャノン『アーレス』!
  破壊の驟雨を撒き散らせ、エナジーライフル『フラッド』!」

更にオリオンスペクターのビームキャノンによる目が眩むほどの爆撃。
エナジーライフルから絶え間なく発射される閃光の雨。

71 :
優樹は咄嗟に、クラウンに爆弾を投擲させていた。
オリオンスペクター目掛けて放たれた爆弾は、しかし即座に弾幕によって撃ち落とされる。
そして――大量の爆煙を発生させた。
威力の代わりに発煙量の数値を増加させたスモークグレネードだ。

射線が煙で遮られると、即座にクラウンはその場に伏せた。
そのまま床を転がり、位置を変える。
それでもオリオンスペクターによる弾幕は煙越しにも避け得ない。
だがミサイルの直撃をもらう可能性は激減した。
これで暫くは粘る事が出来る。

72 :
(だけど……粘って、その後どうするかだよな。
 僕一人がこの場を離脱する事は出来る。でもそれじゃ意味がない……)

しかしこの状況で、優樹がチームの為に出来る事がないのもまた事実だった。
クラウン・ノイジーモデルの性能では自分が生き残る事は出来ても、味方を助ける事は叶わない。

73 :
(一人で……やるしかないか)

チームとしての勝ちはもう拾えない。
ならばせめて自分が一矢報いに行こう。優樹はそう判断した。
片腕を失った機体でオリオンスペクターに勝つのはまず不可能だが、策がない訳ではない。

(正直、こんなの負けて当然。一発でも当たれば大金星……。
 最初から負けるつもり……って訳じゃないけど。
 上手くやれば、うちのゲーム部の評判は間違いなく伸びる)

そうすれば水鳥が今後イベントに参加した際に陰口を叩かれる事もなくなる。
新入部員だって来るかもしれない。
そんな事を考えつつ、優樹はクラウンに爆弾を生成させ――

>「相手は全国……だけど、それでもっ!ここで終わりたくはないっ!」

不意に聞こえた、桐山の悲鳴じみた叫び声。
どうにかして助けよう――とは思わなかった。
威力を抑えた爆弾をぶつけて、吹き飛ばしてやる事は出来たはずだった。
だがそんな事をしても後が続かない。
ほんの数秒、撃破までの時間が伸びるだけ。

そしてミサイルの炸裂音が響く。
マクシミリアンには決して耐えられるはずのない強烈な爆発。
だが――クラウンのセンサーに表示される友軍機の光点は、一つも減っていなかった。

>「私が居るわ、桐山先輩」

何が起こったのかは見なくても分かった。
センサー上で隣接する二つの青い光点。
微塵改が、マクシミリアンを庇ったのだ。

>「桐山先輩。私ね、今とっても楽しいの。
  死力を尽くしてベンケイを打ち倒し、次の相手は全国区の選手。しかも全力のぶつかり合いよ。
  次はなにをしてくるのかしら。どうやって、それを攻略しようかしら」

その場を凌いだところで、どうせ次はない。
とは、紫水は考えなかったのだろう。

>「足が壊れたなら私が背負うわ。攻撃は全部私が受ける。桐山先輩は攻撃に集中して。
 まだ実装されていないけれど……マシンナリー同士の『合体』を、運営に見せつけてやりましょう」

マクシミリアンを担いで足の代わりになったとしても、やはりそれだけでは足りない。
オリオンスペクターの機動力は、微塵改ではどう足掻いても追いつけない。
そんな事も――やはり紫水は、考えなかっただろう。
ただがむしゃらに目の前の味方を助けて、味方と一緒に勝とうとしたのだろう。

(やっぱり……僕はまだまだ、嫌な奴をやめられてないみたいだ。
 ……だからもう一度、罪滅ぼしをしないと)

優樹は、前方に広がる煙幕を鋭く睨んだ。
煙越しに見える発射光からオリオンスペクターの位置を推察しているのだ。
そうしておおよその位置を読み取ると――伏していたクラウンを起き上がらせる。
左膝を突き、跪く体勢。

74 :
伏せている間に形成した爆弾は三つ。
二つは左手で保持。もう一つは――右足の踵の下に、軽く踏みつけられていた。
クラウンは自爆ダメージへの耐性を持っている。
だが爆風による影響さえもが無効化される訳ではない。
つまり――自分の爆弾で、自分を吹き飛ばす事が出来る。

75 :
威力を抑え、代わりにノックバック性能を増強した爆弾。
それを、クラウンの踵が――踏み抜いた。

瞬間、クラウンの機体が宙を舞った。
そのまま煙幕を飛び越えて、殆ど一瞬の内にオリオンスペクターの頭上へ。

機体が急速に回転する中で、優樹の目は正確に敵機を捉えていた。
ベンケイとの一騎打ちの時よりも更に、優樹は集中していた。

クラウン・ノイジーモデルは、弾切れという概念の存在しない機体だ。
バルーン・ボムは直撃すれば重装型の機体ですら大ダメージを与えられる。
自身を追跡する者も、自分から逃げていく者も、罠に嵌めて仕留める事が出来る。
自爆を利用したノックバックを利用すれば、瞬間的にだが高い機動力も発揮出来る。

つまり――オリオンスペクターと、同じコンセプトを持つ機体なのだ。
浦和零士は、自分と同じプレイスタイルのプレイヤーなのだ。
自分が全てやってのける。一年前、ゲーム部をやめてから磨き始めたスタイル。

その完成形が目の前にいる。
ゲーマーとしての闘争心が、優樹を深く深く集中させていた。

(もらった……!)

自機の回転による遠心力を乗せて、クラウンは爆弾を投擲した。
オリオンスペクターの頭部目掛けて。
これ以上ない角度、速度、タイミングによって放たれた爆弾が――

「――甘いな!」

オリオンスペクターの振り向きざまの銃撃に撃ち落とされた。
完璧な投擲だった。完璧であったが故に――その軌道は読まれていた。

「クラウン・ノイジーモデルなら私も持っている。その戦法は知っていたさ」

そのまま着地点へと銃口が向けられる。
クラウンが左手に残ったもう一つの爆弾を投擲。
撃ち落とさせる事で着地狩りを回避し――だが、これでもうクラウンに手持ちの爆弾はない。
しかし――にもかかわらず、優樹は笑っていた。不敵な笑みだった。

「でしょうね。でも、これは?」

クラウンが切断された右腕の根本を揺らす。
その断面から、ぼたぼたと液体が滴り落ちた。

爆薬である。
機体内部で形成された爆薬を、優樹はわざと零しているのだ。
クラウンが宙へと飛び上がってから、今に至るまで、ずっと。
その為、周囲のあちこちに爆薬は散布されている。

衝撃感度を低く設定し直した爆薬は、床に落ちただけでは爆発しなかった。
けれども――例えば付近でスラスターが焚かれ、その熱を浴びれば、その瞬間に爆薬は炸裂する。

そうなればオリオンスペクターは、自慢の超高速移動の最中に、横合いから爆風を受ける事になる。
機体の制御を保つ事はいくら浦和零士でも不可能。
優樹はそう踏んだ。そしてこの作戦を実行したのだ。

これでオリオンスペクターは、距離を取って仕切り直す事が出来ない。
銃撃によって爆薬溜まりを処理している時間は――与えなければいい。

76 :
「……なるほど。どうやら一本取られたようだな!
 見事だ!実に見事だ!素晴らしい戦術と献身に、褒美を与えなくてはな!」

オリオンスペクターがクラウンへと銃口を向けた。
優樹にはもう防御も回避も、手段は残されていなかった。
閃光が迸り――クラウンの胸部が撃ち抜かれる。

倒れゆくクラウンの全壊エフェクトを見届けず、オリオンスペクターは背後を振り返った。
残る敵機、エクスフォードと、マクシミリアン、微塵改へと。
スラスターによる高速離脱は封じられた。
だがオリオンスペクターは通常時の身のこなしも十二分に素早い。
例え三対一であっても捌き切る自信が浦和零士にはあった。

そして実際に捌き切られるだろうと、優樹も思っていた。
しかし心の何処かで――皆なら、もしかしたら、とも思っていた。

「……後は任せたよ」

クラウンが爆散するまでの僅かな時間。
作戦も警告も伝える暇はない。
故に優樹はたった一言だけ、そう呟いた。

77 :
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暇な人は見てみるといいかもしれません
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2IL

78 :
集中砲火が驟雨のように迫ってくる。
咄嗟にクロスアームブロックで防御姿勢をとったが長くは持たない。
重装甲マシンナリーのエクスフォードといえど、この弾幕を浴び続ければ撃墜必至だ。

>「絨毯爆撃のように見えて……狙いは正確だわ!しかも多分、これが本命じゃない……!」

この集中砲火で足と装甲を削り、自慢の機動力で相手を殺るという戦術。
モータルが斉射に加わっているものの、これは"一人で全てやる"ための戦い方だ。

(この集中砲火だとエクスフォードでも耐えきれない。何か遮蔽物は――)

運良く視界の端の床からキューブがせり上がってくるのが見えた。
慌ててエクスフォードと共にその後ろへ飛び込む。
落ち着いたところで前方を確認するといつの間にか大量の煙が敵機を覆っていた。
恐らくクラウンが投擲した爆弾によるものだろう。それでも集中砲火が止む気配はない。

微塵改は盾で、クラウンはその場に伏せることでそれぞれ対処しているようだ。
だがマクシミリアンは集中砲火の暴威に対処しきれず遂に足に被弾してしまう。
この横殴りの破壊の雨の中で機動力を鈍らせることは死に等しい。

>「相手は全国……だけど、それでもっ!
> ここで終わりたくはないっ!」

敵機を覆う煙を裂いてミサイルが迫ってくる。狙いは膝をついた赤い騎士。
構えた小銃で迎撃するが破損した腕と足では照準が定まらずミサイルには当たらない。
エクスフォードがミサイルを打ち落とすべく慌てて照準を合わせるが、タイミングが遅れた。
間に合わない。追尾式の誘導弾が命中するまであと数秒――。

>「私が居るわ、桐山先輩」

誰もが撃墜を覚悟したその時、マクシミリアンがワイヤーアンカーに絡めとられた。
アンカーは動けないマクシミリアンを巻き取り微塵改まで引き寄せる。
そして構えた盾ですっぽりと赤い機体を収めた。

追尾式のミサイルはロックした標的を逃さない。
軌道を大きく修正して尚も標的を追った。
ミサイルは吸い込まれるようにマクシミリアンをガードする微塵改へ命中する。
爆裂の衝撃で微塵改の左腕が吹き飛び耐久バーが削れていく。

>「桐山先輩。私ね、今とっても楽しいの。
> 死力を尽くしてベンケイを打ち倒し、次の相手は全国区の選手。しかも全力のぶつかり合いよ。
> 次はなにをしてくるのかしら。どうやって、それを攻略しようかしら」

「晶ちゃん……」

勝っても負けても楽しいと言い切れる晶を時に羨ましいとさえ周子は思う。
周子は基本的に負けず嫌いだからだ。純粋にゲームを楽しめる晶の姿が眩しく見える事すらある。
その晶が今、勝利という新たな楽しさを知り始めているのだ。
このゲームに誘った友達としてこれ以上嬉しいことはない。

79 :
>「あっけなくやられて、あとはずっと観戦席で指を咥えながら見ているなんて、御免だわ。
> こんな楽しい戦い、簡単に終わらせたくない。……もう一度、みんなで勝ちたい」

微塵改が片腕をマクシミリアンの胴に回して固定した。
あれなら確かに脚部を損傷したマクシミリアンでも照準が安定する。
ベンケイを追い詰めたあのカリブルヌスMk-2も使用可能だ。

>「足が壊れたなら私が背負うわ。攻撃は全部私が受ける。桐山先輩は攻撃に集中して。
> まだ実装されていないけれど……マシンナリー同士の『合体』を、運営に見せつけてやりましょう」

確かにカリブルヌスMk-2なら装甲の薄いオリオンスペクターを一発で撃墜する事が可能だ。
だが黙って当たる敵ではない。大人しくワイヤーアンカーに拘束されるほど甘い操縦者でもない。
だが燃えてくるではないか、と周子は思った。勝利の条件も非常に明確だ。当たれば勝ち、外せば負ける。

「うん、私も二人の合体攻撃に賭ける。桐山先輩と晶ちゃんなら大丈夫。
 私と八木先輩でどれだけサポートできるか分からないけれど……」

言い終わらぬ内に沈黙を保っていた八木のクラウンが動いた。
正確には宙を跳んだ。生成した爆弾を踏み抜くことで跳躍したのだろう。
現実は機体重量的に不可能な芸当だがこれはゲーム。
クラウンのバルーン・ボムの爆薬を調整する事によって行う操作技術のひとつだ。

高く跳躍した銀色の道化が煙幕の向こう側へ消えていく――。
その先の光景を見る事ができるのは八木のARデバイスだけだった。

「八木先輩、何でこんな無茶を――!」

単機で射撃型のクラウンが敵陣に踏み込むなど血迷ったとしか思えない。
冷静に戦況を見極め立ち回る八木らしくない行動だ。
思わず声を出した周子だったが、コロシアムの地面を見て気付いた。
何かの液体がフィールドに飛散している。

「もしかして爆薬……?」

>「……後は任せたよ」

八木の言葉の直後、煙幕の向こうで大きな爆発が起きた。
同時にレーダーの青い光点がひとつ消失する。
その光点は間違いなくクラウン・ノイジーモデルのものだ。

この時、周子の心情は仲間の撃墜を悔やむ気持ちより意図を汲む気持ちが勝った。
勝利を願うのはファイターとして誰もが同じだ。その上で八木は敢えて単機で挑んだ。
つまり犠牲になる事を覚悟して挑まねば敵わないほどの相手、と判断したという事だ。

80 :
周囲に撒かれた爆薬の中、スラスターを吹かそうものなら爆発必至。
機動力のために装甲を削っているオリオンスペクターなら尚更の事だ。
今、ゴーストの機体は自慢の機動力を削がれたに等しい。

「この機会は逃せない……次は私の番だね。
 一か八か、なんとかオリオンスペクターの隙を作ってみる。大丈夫、皆で勝とう」

周子達はあくまでチームで戦っている。
たとえ撃墜されても他のメンバーが生き残ればそれは全員の勝利だ。
肝心なのはこの逆転のチャンスを潰してはならないという事だ。

今、八木の強襲によって弾幕は一時的に弱まっている。
エクスフォードはショットガンを収納して素早くワイヤーアンカーを射出。空中のキューブに引っ掛けた。
同時に巻き取りを開始。機体は巨体を持ち上げて緩やかに宙を飛ぶ。
そしてアンカーを回収して再び別のキューブにアンカーを引っ掛ける。またアンカーを巻き取る。

これを何度も繰り返すことでエクスフォードはカタログスペック以上の機動力でオリオンスペクター達へ接近した。
もっともこの立体機動は空中にキューブが幾つも配置されていなければ出来ない偶然の芸当である。
エクスフォードが煙幕に消えると、周子が開いていたモニターの一面が煙に染まった。

レーダーでおおよその位置を確認しながら、周子はまたワイヤーアンカーを射出。
目標はオリオンスペクターに随伴するコープスブライド万能機、および射撃機。
アンカーが刺さった手応えを感じると、モニターの視界が開けた。

「スピン・ダブルアンカーソルトぉぉぉぉっ!!」

煙幕を裂いて現れた敵陣にエクスフォードが空中で独楽のように回転を始める。
当然、アンカーで繋がった二機も高速で回転する。ワイヤーを両手で掴み、二機を激突させた。
ダウンしたところにすかさず両腕の鋏を展開して機体ボディを滅多刺した。
コープスブライド二機が爆裂する様を見届けずに、エクスフォードの双眸はオリオンスペクターを捉える。

「――とりあえず二機撃墜……問題はこの後なんだけど……」

隙を作ると言っても適当に散弾を撃ち込んで隙ができる相手でもない。
機動力があり、射撃武装の豊富なオリオンスペクターを射撃戦で仕留めるのは難しい。
周子の頭で考えられる手段はひとつだった。接近戦に持ち込むしかない。
少なくとも遠距離から集中砲火を浴びるよりましだと判断した。

「ふ……魂胆は見えているよ。撃ち合いで敵わない以上、接近戦を仕掛ける他ない。
 誤っていないが正解でもないな。私は心意気を買っても有利まで捨てる性分ではない」

「全国クラスのなにがしさんって随分ケチですね……!」

「私の名はゴーストだと言ったはずだ」

81 :
ARバイザー越しに傷ついた黄色い巨体を見据える。
この機体も、盾を持った機体も、赤い機体も、良いビルドのマシンナリーだ。
他のファイターが生み出した機体を見るのは楽しい。それだけに戦い甲斐があるというもの。

「さあ、今度は君の力を見せてもらうとしよう……!」

「私だけじゃない。晶ちゃん、桐山先輩、八木先輩も。全員の力で……ゴースト、貴方に勝つ!」

「いいだろう……君もクラウンのファイターの後を追うがいい!」

オリオンスペクターはエナジーライフルを構え、迷う事無くエクスフォードに連射した。
重量級のこの機体に躱す手立てはない。エクスフォードはピーカブースタイルで構えてビームを防いだ。
一発一発の威力は低いが光線の熱で少しずつ前腕の重装甲が溶けていく。
周子は構わずエクスフォードを突進させた。重装甲に任せて一気に自身の戦闘距離へと持ち込むつもりだ。

「残念だよ。クラウンを操縦していた彼のような戦いを期待しただけにな」

バックステップで距離を空けようとするゴーストの機体をエクスフォードが追う。
断続的に飛来するビームを受け続けながら尚も周子の機体は突進を止めない。

「――『アーレス』よ、再び唸りを上げろ!」

バックパックに装備されている二門のエナジーキャノンがエクスフォードを捉える。
筒先から放たれた光弾は過たず前方の敵へ横殴りに降り注いだ。
被弾した両腕が耐久を失い爆裂する。それでも尚エクスフォードは前進を止めない。

「このポジションならいける!」

上空を移動するキューブにワイヤーアンカーを射出し、エクスフォードは宙を舞った。
追いかける速度が一気に増すとオリオンスペクターへと急接近する。
ゴーストは操縦桿のトリガーを引いて武器をライフルからジャマダハルに切り替えた。

「ようやく捉えた!これがエクスフォードの最後の武器よっ!」

両腕を失った周子の機体に本来攻撃手段は残されていない。
だが殻型武装コンテナ『ハーミットアーマリー』にはまだ使用していない装備がひとつある。
コンテナ下部からサブアームが伸びると、エクスフォードの背後に一対の巨大な鋏が展開した。

「ギガンティック・シザーズッ!!」

巨大鋏はマシンナリーの胴を挟めるほどあり、黒の幽星を両断せんと襲い掛かった。
オリオンスペクターは身を捻って一撃目を躱すと振り下ろされた二撃目を横に跳躍して避ける。
周子は続けざまにギガンティック・シザーズによる拘束を試みるも当たらない。
ひらひらと舞う蝶のように掴み所がなく、隙が無い。遊ばれている気すらする。

82 :
「悪くない隠し武器だ。私はそういう発想が嫌いではない」

巨大鋏の猛撃をジャマダハルで受け流して、黄色い巨体に蹴りを叩き込む。
エクスフォードが僅かにノックバックすると耐久バーが僅かに減少した。

オリオンスペクターが一歩、更に踏み込もうとする。
懐に潜り込まれたら最後、エクスフォードに抵抗の手段はない。
周子は操縦桿を後ろに引いて二歩後退させた。
桐山と晶には隙を作ると宣言したが、これではむしろ追い込まれている。

「っ……攻撃がひとつも当たらないなんて……!」

「接近戦の腕は中々だと褒めておこう。距離を取る余裕もない。
 ゆえに見せてあげよう。オリオンスペクターの秘められた力を!」

一対の巨大鋏が両側から挟み込むように突いてきた。
避けようともせずジャマダハルを捨て去り、両手で防ぎにかかった。
瞬間、ギガンティック・シザーズの鋏は発泡スチロールのように吹き飛んだ。
耳を聾する爆裂音を上げながら巨大鋏の破片が辺りに散っていく。

「――『リコイルバスター』。まさかここで披露することになるとは。誇りに思っていい」

オリオンスペクターは一般に装甲の薄さと決定打が不足している事が弱点だと評されている。
特に決定打に欠けるという弱点は重装甲機と戦う時、ゴーストの頭を悩ませる問題だった。
それを補うため作られたのがオリジナル武器、掌部零距離ビーム砲『リコイルバスター』である。

オリオンスペクターが装備しているライフルやキャノンと同じく一発あたりの威力は低い。
だがビームの速射性を極限まで向上させることで秒間ダメージ量を跳ね上げることに成功させている。
その連射速度は実に秒間100連射。総合的な火力でいえばカリブルヌスMK-2にも勝る隠し武器だ。

審査によって射程距離がゼロという事、他の武器を同時使用出来ないというデメリットが課せられているが、
そのデメリットを補って余りある威力を有した決め技だとゴーストは考えている。

「これで勝敗は決した……!」

「まだ……まだ終わってない!」

周子はその闘志を燃やしたまま組みつかんばかりにエクスフォードを接近させた。
両腕も隠し腕も失い、最早攻撃の手段は残されていないにも関わらずだ。
その思惑に気づいたゴーストは咄嗟に後方へ跳躍して距離を取った。

83 :
エクスフォードは真下にスラスターを吹かすと、クラウンが大量に溢した爆薬が爆発して二機を包み込む。
装甲の薄いオリオンスペクターが高威力の爆弾を生成をするクラウンの爆薬をモロに浴びた。
結果は想像するまでもない。ゴーストは自機の急速に耐久バーが減っていく様を眺めるしかなかった。

「私としたことが油断したよ。これを狙っていたとはね……」

オリオンスペクターの耐久はゼロになる事なく減少を止めた。
あと一瞬気付くのに遅れていればもっと危ういところだっただろう。
銃身が溶けたエナジーライフルを放り捨て、両肩にエナジーキャノンを展開する。
地面に転がっている達磨のマシンナリー目掛けてビームを連射すると、それは爆散した。

周子のARデバイスに撃墜された事を示す画面が表示される。
結局のところ、全国クラスを相手に手も足も出なかった。それ自体は悔しいものがある。
ベンケイ相手に縛りプレイで挑んで一歩も退かなかった八木が撃墜されてしまったのだから、当然とも言えた。

「晶ちゃん、桐山先輩、オリオンスペクターの接近戦には気をつけて。
 あいつ掌に強力なビーム砲を隠し持ってる……当たったら重装甲機でもただじゃ済まない」

クラウンが張った煙幕の中から"黒の幽星"が姿を現した。
ARバイザーを装着した全国クラスの腕前を持つ男、ゴースト。
そして隙を見せない高機動型万能機のオリオンスペクター。

オリオンスペクターは機体各所に爆発のダメージが散見された。
漆黒の塗装が剥がれ落ち、頭部は半壊している。
足の動きもどことなく不自然だった。

「チームつつじヶ丘……とんだダークホースだな。ここまで追い詰められたのは久しぶりだ」

両肩に展開している可変速エナジーキャノンをマクシミリアン達目掛け発射する。
夥しい光弾が恐ろしいほどの正確性でマクシミリアンとそれを支える微塵改へ迫った。
無論、一発毎の威力は然程恐ろしいものではない。

土台兼壁になっている微塵改ならしばらくは耐えられる威力だ。
埒が明かないと判断したゴーストはややぎこちない足取りで接近を開始する。
リコイルバスターを使って一気に決着に持ち込む算段だ。
しかしその機動力は爆発で足首を損傷した影響であまりに落ちていた。

だが、オリオンスペクターにはまだ隠された機能が残されている。
この機体のスラスターは主に他の高機動機体から抜き取ったパーツで構成されているため、
全く同じパーツを使えばオリオンスペクターと同等の機動力を得られるように感じるが、実は違う。
背中の飛行ユニットや一部のパーツはゴーストが制作したオリジナル・パーツが使用されているからだ。

このオリジナルパーツがオリオンスペクターの飛躍的な機動力向上に一役買っているという訳だ。
また、このオリジナルパーツ――E-WFSパーツはオリオンスペクターに更なる機能を追加していた。

ぎこちない挙動の黒い機影が横によれたかと思うと、五つに増えた。
分身したのだ。これがオリオンスペクター最後の隠し機能『ファントムシフト』。
高速機動中に立体映像を投影して相手を惑わせるためのものだが、機動力が削がれた今効果は薄い。

「あらゆる武器、あらゆる戦術を尽くして戦うのがロボットバトルというもの……。
 その『合体』が君達の出した結論だというのなら、全霊をもって応えよう。
 さっきの二機のように……私とオリオンスペクターに牙を突き立ててみせろ!!」

棚引く黒いマントを翻して、ゴーストは自身の胸に親指で突いた。


【ぎりぎりまでお待たせしました。エクスフォードが撃墜される。
 クラウンの撒いた爆薬をモロに食らいダメージを負うオリオンスペクター。
 その影響でライフルが使用不能になる。脚部を損傷して機動力減。
 最後の機能「分身」を使ってマクシミリアン達へ突っ込む】

84 :
腰に搭載された散弾砲も弾幕の前には効果が薄く、すり抜けたミサイルがマクシミリアンへと届こうとした瞬間。

>「私が居るわ、桐山先輩」

ボロボロになったマクシミリアンを引きずるように、微塵改のワイヤーアンカーが射出される。
間一髪で機体はミサイルの軌道から外れて、巨大な三式白兵防盾にすっぽりと埋もれるように隠れた。

>「桐山先輩。私ね、今とっても楽しいの。
 死力を尽くしてベンケイを打ち倒し、次の相手は全国区の選手。しかも全力のぶつかり合いよ。
 次はなにをしてくるのかしら。どうやって、それを攻略しようかしら」

彼女の言葉はこの絶望的な状況でも、前向きで明るい。
それは一瞬でも諦めかけた桐山には眩しく、その熱意に応えてやりたいと思わせるには十分だ。

「……紫水君、ありがとう。正直ここまでやれるとは思っていなかった」

微塵改も左腕を破壊され、決して無事とは言えない。
しかし残った片腕でマクシミリアンを固定し、最後の切り札であるカリブルヌスMk-2が発動できるようにしてくれた。
おそらく現行パーツのカタログスペックが全て頭に入っているであろうゴーストへの対抗策は、この自作兵装のみだ。

>「足が壊れたなら私が背負うわ。攻撃は全部私が受ける。桐山先輩は攻撃に集中して。
 まだ実装されていないけれど……マシンナリー同士の『合体』を、運営に見せつけてやりましょう」

「ああ!カリブルヌスにはもう一つ、最後の切り札もある……!
 微塵改の重装甲、頼らせてもらうよ!」

カリブルヌスの巨大なビーム発振器は通常、ビームの刃を形成するために使われる。
その形成するためのエネルギーすら発振器に注ぎ込めば、簡易的なビーム砲になるのだ。
もちろん市販されているパーツのように機体の火器管制システムと連動して照準を合わせてはくれず、
機体がエネルギー不足で動けなくなることを防ぐ出力の自動調整機能もない。
バイザーのHUDに表示されるレティクルなしに、目視で狙いを定めなければならないのだ。

「君が盾ならば僕は矛になる。
 ……正直、この一年で一番楽しい試合だよ!」

エネルギー供給を頭部と胴体のみに残してカットし、背中にマウントしたまま
カリブルヌスMk-2を変形させる。完成したビーム発振器はもはやマクシミリアン一機では支えきれず、
微塵改の右肩に乗せてようやく正面を向かせることができた。

85 :
解除

86 :
>「……後は任せたよ」

そしてエネルギーのチャージを始めれば、オリオンスペクターを一人で食い止め続けていたクラウンがついに撃ち抜かれ、
視界の隅に表示されていたレーダーから味方を示すマークがフッと消えた。
彼も経験が決して浅いわけではない、ベテランの実力者だった。だからこそ、自分でなければ時間を稼げないと知っていたのだろう。
昔の彼のままなら決してしなかったであろう、わずかな勝利の可能性への賭け。
それはつまり、仲間を信じているということだ。

「ありがとう、八木。……大会が終わったら奢るよ」

液体爆薬の海がフィールドとなれば、スラスターを活かした高速機動は行えない。
そういった特殊環境でのバトルはあのゴーストもおそらく経験済みのはずだが、それでも
強みの一つを潰すことができたのは大きなメリットだ。
さらには随伴機の射撃による援護も誤爆を恐れて撃つことができず、こうなれば接近戦、格闘戦が主体となる。

>「この機会は逃せない……次は私の番だね。
 一か八か、なんとかオリオンスペクターの隙を作ってみる。大丈夫、皆で勝とう」

「カリブルヌスのチャージを気づかれたくない、頼んだ。
 君の機体なら、格闘戦で押し込める!」

エクスフォードのワイヤーアクションは見事なものだ。
空中のキューブへ射出しては慣性を活かして巨体を動かし、その勢いを殺さず次のキューブへ素早くアンカーを射出する。
そうして相手の意表を突く形で煙幕に飛び込み、見事に二機の随伴機を刺し潰す。

>「――とりあえず二機撃墜……問題はこの後なんだけど……」

だが、最も強大な敵はまだ生き残っている。
エクスフォードと水鳥が怯むことなく飛び掛かったところで、オリオンスペクターとそれを乗りこなすゴーストは
最後まで優位を保ったまま迎撃した。しかし、オリオンスペクターが最後まで隠そうとしていた武装――リコイルバスター。
もしそれに気づかないままであれば、カリブルヌスを避けられた直後に撃ち込まれていたかもしれない。
さらには液体爆薬の海によって撃破ほどではないにせよかなりの耐久を削り、武装も一つ破壊した。

>「晶ちゃん、桐山先輩、オリオンスペクターの接近戦には気をつけて。
 あいつ掌に強力なビーム砲を隠し持ってる……当たったら重装甲機でもただじゃ済まない」

「相手の手の内は全て分かった、体力も削った……水鳥君、後は任せてくれ。
 紫水君、もう少しでチャージが終わる。奴を引き付けて盾の後ろからぶち抜いて、終わらせよう!」

87 :
>「チームつつじヶ丘……とんだダークホースだな。ここまで追い詰められたのは久しぶりだ」

両肩のエナジーキャノンが凄まじい連射力を一点に集中させて微塵改へと叩きつけられるが、
エネルギー武器の低威力と微塵改のセオリーを超えた重装甲がそれを防いでみせる。
その巨体に隠れるようにして、ボロボロの赤い騎士は背中の聖剣に光を蓄える。

>「あらゆる武器、あらゆる戦術を尽くして戦うのがロボットバトルというもの……。
 その『合体』が君達の出した結論だというのなら、全霊をもって応えよう。
 さっきの二機のように……私とオリオンスペクターに牙を突き立ててみせろ!!」

傷つき、塗装が剥げ落ち、頭部のカメラアイは一部が剥き出しになっている。
それでもオリオンスペクターはその威厳を保ち、最後に生き残った二機へと突撃してきた。
スラスターを吹かして二機へと向かう姿が一瞬桐山の視界内でブレて、直後に五つへと分身する。
おそらくあの隠し武器と同じく、これも最後までとっておくつもりだったのだろう。

「……紫水君。最後に言っておくよ。
 実はカリブルヌスの名前、元は別の名前だったんだ。
 恥ずかしさがあったから変えたけど……今ならはっきり言える。これで勝つんだ。
 さあ……エクスカリバー!その光刃で敵を断つときだ!」

仮想操縦桿のトリガーを握りしめ、視界に広がる五つのオリオンスペクターを見据える。
思考が澄み渡り、限界までエネルギーが溜め込まれた発振器が咆哮した。

「どれかを狙う必要はない!何故なら――全てを薙ぎ払えばいい!」

微塵改の防盾の背後から、全てを焼き尽くす光が放たれる。
それは前方に広がり、発振器がやがて反動に耐えきれず爆発するまで続いた。
時間にしてみればわずか数秒、しかし当事者たちにとっては一時間にも感じられるその光景は、
マクシミリアンが微塵改から零れ落ちるようにして機能を停止したことで終わりを告げた。
カリブルヌスMk-2を機体制御用のエネルギーすら注ぎこんで使用した結果、強烈な反動ダメージがマクシミリアンを襲ったのだ。

「……これで……いや!オリオンスペクターはまだ、健在だ……!」

機能停止する寸前、ARデバイスの視界に表示されていたレーダーにはただ一つだけ、オリオンスペクターを示す光点が輝いていた。
それが現実であると示すように、微塵改の真上からオリオンスペクターが急降下してくる。

「まったく、オリジナル武器というものは常に驚かせてくれる……!
 しかし、その牙ももはや折れた!その機体で何秒耐えられるか、見せてもらおう!」

オリオンスペクターはとっさにカリブルヌスMk-2のビームをリコイルバスターによって相殺し、
即座に上空へと向かっていたのだ。しかし、機動力の落ちた機体では逃げ切れず右足が吹き飛び、
武装ももはやリコイルバスターのみ。それでも彼は自らの勝利を確信して、装甲が薄いと判断した頭部から
リコイルバスターで一気に吹き飛ばそうと画策したのだ。


【ダメージは与えたものの撃破には至らず。一瞬で決着をつけようと微塵改へ急降下突撃】

88 :
>「ああ!カリブルヌスにはもう一つ、最後の切り札もある……!微塵改の重装甲、頼らせてもらうよ!」

半壊状態でありながら、微塵改を支えとしてマクシミリアンは再び立ち上がる。
挫けぬ心、折れざる意志は、他ならぬ桐山の胸にこそ宿っている。

>「君が盾ならば僕は矛になる。……正直、この一年で一番楽しい試合だよ!」

「ふふっ、結論を出すのはまだ早いわよ桐山先輩。これからも、明日からも、楽しい日々はきっと続くもの……!」

桐山と八木をチームに混ぜると周子が言ったとき、晶は何の感慨もなくそれに同意した。
どうせ一日限りの即席チームだから、どう転ぼうと明日以降に影響はないと考えていたからだ。
だが……今は違うと、自信をもって言える。
明日も、来週も、来月も。ずっとこのチームで試合がしたいと、心から思った。

一線引いた姿勢をとりながらも、晶達を勝たせるために死力を尽くしてくれた八木。
過去に抱えた確執を乗り越えて、劣勢になお抗う意志を捨てなかった桐山。
そして――二人を再び結びつけて、在りし日のゲーム部を僅かにでも取り戻した周子。

みんなで……勝ちたい。
相手がアマチュア最高峰でも、参加者が文字通りの『実験台』に過ぎなくても、関係ない。
全力で、思い付く限りの策を弄して、勝ちを掴み取りたい。

>「うん、私も二人の合体攻撃に賭ける。桐山先輩と晶ちゃんなら大丈夫。
 私と八木先輩でどれだけサポートできるか分からないけれど……」

「気負わないで、なんて予防線を張るつもりはないわ、周ちゃん。
 貴女と爆弾先輩なら、勝利への道程を完璧に舗装してくれるって、信じてる」

瞬間、ノイジークラウンが高く高く跳躍した。
足元でノックバック値に振った爆弾を爆発させて、砲弾の如く自身を射出したのだ。
機動力が低いはずのクラウンによる、完全に意表を着いた上空からの強襲。
しかし敵もさる者、オリオンスペクターの主は深い実戦経験からクラウンの挙動を読んでいた。

>「クラウン・ノイジーモデルなら私も持っている。その戦法は知っていたさ」

奇襲は防がれ、クラウンは敵の射線真正面へとまろび出る。
だがこれで終わりではあるまい。いま、晶達の前で矢面に立っているのは……"あの"八木なのだ。

>「でしょうね。でも、これは?」

抜け目のない爆弾使いは、爆風による奇襲さえもブラインドに、もう一つの策を弄していた。
切断された右腕から漏れ出す、液体爆薬。それはフィールドの各所に爆薬の水溜りを生み出している。
スラスターを蒸そうものなら火達磨だ。オリオンスペクターの機動力は、これで封印された。

89 :
test

90 :
オリオンスペクターの兵装が瞬き、クラウンの機体が爆散する。
レーダーの光が一つ潰えて、八木がバトルから退場した通知が視界の端に映った。
チームで真っ先に撃墜されてなお、彼の表情に険はない。

>「……後は任せたよ」

――仕事は果たしたと、その顔が物語っていた。
スペクターの出鱈目な速度を封じるのと引き換えなら、一機の犠牲は安すぎる買い物だ。
射撃戦を強いられていたエクスフォードが、その格闘性能を十全に発揮できる。

「任せられたわ……"八木"先輩」

>「この機会は逃せない……次は私の番だね。
 一か八か、なんとかオリオンスペクターの隙を作ってみる。大丈夫、皆で勝とう」

追い風を受けたかのようにエクスフィードは機敏に跳ぶ。
ワイヤー・アンカーを巧みに操作し、キューブを渡りながら立体機動する様はまるで、飛行機能を備えた特化機体だ。
煙幕によって閉ざされた視界の中、意志をもった蛇の如く二本のワンカーが奔る。

91 :
>「スピン・ダブルアンカーソルトぉぉぉぉっ!!」

煙幕越しに捉えた二つの敵機は、エクスフォードによって振り回されてお互いに激突。
そこへ暗器を一閃、スペクターの援護に回っていた二機のコープスブライドが爆散した。

>「――とりあえず二機撃墜……問題はこの後なんだけど……」

(これで随伴機は全滅……オリオンスペクターは丸裸ね……!)

晶はもはや快哉を叫ぶことさえ忘れて、戦況の成り行きを見守る。
彼女の役割は、マクシミリアンがカリブルヌスのチャージを終えるまで固定の砲座となること。
身じろぎひとつすれば射角は大きく乱れ、必殺の一撃が敵のど真ん中を捉えることはかなわない。

一方エクスフォードとオリオンスペクターの決闘は、耐久を削りきられる前に肉迫できるかどうかの勝負へと移行していた。
エクスフォードは両腕を眼前へと構え、メインセンサーを守りながら吶喊する。
対するオリオンスペクターは正面からエナジーライフルを連射。同時にバックステップで詰められた彼我の距離を広げ直す。
エクスフォードの両腕が耐久限界を迎えて弾け飛ぶのも構わず、周子はワイヤーで最後の立体機動。

距離は詰めたが、両腕を失ったエクスフォードに、もはや攻撃手段は残されていない。
少なくともオリオンスペクターの主は、そう感じているだろう。

(だけど……周ちゃんのマシンナリーには、もうひとつ奥の手があったはず!)

92 :
>「ようやく捉えた!これがエクスフォードの最後の武器よっ!」
>「ギガンティック・シザーズッ!!」

コンテナからついに顔を出した、エクスフォードの最終武装。
それは、マシンナリーを軽く挟み込めるほど長大な鋼のあぎと。
巨大な鋏だ。

両サイドから迫りくるニッパーじみた刃の強襲に、オリオンスペクターは反撃の暇もない。
ジャマダハル型のブレードが火花を上げ、純粋な質量差が形勢を少しずつエクスフォードへと傾けていく。
だが、周子が奥の手を解放しても、オリオンスペクターを捉えきるところまで行けない。
アマチュア最高峰の実力を誇る浦和零士の卓越した機体コントロールが、致命打を躱し続けている。

>「接近戦の腕は中々だと褒めておこう。距離を取る余裕もない。
 ゆえに見せてあげよう。オリオンスペクターの秘められた力を!」

間断なく開閉を繰り返す巨大鋏が、ついにスペクターの胴に食らいついた、その刹那。
爆裂と破砕の轟音を立てて、ギガンティックシザーズが硝子細工のように弾け飛んだ。
ブレードを捨てたスペクター、その両の掌に灯るには、赫々と熱を帯びるビームの砲口。

>「――『リコイルバスター』。まさかここで披露することになるとは。誇りに思っていい」

「超至近距離ビーム砲……!?オリオンスペクター、こんな武器を隠していたの――!」

>「まだ……まだ終わってない!」

勝敗は決した――誰もがそう感じたその瞬間にあってなお、周子の眼から戦意は消えていなかった。
彼女は全ての武装を使い切ったエクスフォードで、最後のあがきとばかりに体当たりを敢行する。
――爆薬が床を濡らすフィールドで、スラスターを蒸かして、だ。

単なるゲーム演出上のエフェクトにも関わらず、晶は灼熱の爆風が頬を叩いたような錯覚を得た。
スラスターの火はクラウンの撒き散らした爆薬に引火し、エクスフォードだけでなくスペクターも爆炎に飲み込まれる。
いち早く周子の意図に気付いてスペクターを退かせていたゴーストは大ダメージを負いつつも軽装甲で爆発に耐え、
一方で爆心地で為す術もなく爆圧を受けたエクスフォードは装甲を全損。
次いで放たれたエナジーキャノンがエクスフォードにトドメを刺し、これで被撃墜2。

>「晶ちゃん、桐山先輩、オリオンスペクターの接近戦には気をつけて。
 あいつ掌に強力なビーム砲を隠し持ってる……当たったら重装甲機でもただじゃ済まない」

「見ていたわ、周ちゃん。隠し玉を引きずり出せただけでも大金星よ、お疲れさま。
 あとは……私と桐山先輩に任せて。ここまで繋いでもらったバトン、無駄にはしないわ」

>「相手の手の内は全て分かった、体力も削った……水鳥君、後は任せてくれ。
 紫水君、もう少しでチャージが終わる。奴を引き付けて盾の後ろからぶち抜いて、終わらせよう!」

93 :
未だフィールドを照らし続ける炎の向こうから、オリオンスペクターが姿を現す。
装甲のほとんどは砕け、脚部パーツに異常を来たしながらも、爆圧に耐えきり、立ち続けている。
クラウンとエクスフォード、二つの機体が持てる全てを出し切ってなお、全損までには届かない。

これが『黒の幽星』。
これが全国大会経験者、プロに最も近い男。

>「チームつつじヶ丘……とんだダークホースだな。ここまで追い詰められたのは久しぶりだ」

「あら……過去形で語って良いの?『追い詰められた』が『負けた』に変わるかもしれないわよ」

「是非そうあって欲しいものだな。国内に有望なファイターが増えるのは、いち競技者として望むところだ」

スペクターは微塵改から距離をとりつつ、エナジーキャノンを連射する。
着弾する度に少なくない量のゲージが持っていかれるが、装甲で防ぎきれるダメージだ。
遠距離からチクチク削ってくれるなら好都合。カリブルヌスのチャージにかかる時間が稼げる。
おそらくそれはスペクター側も理解しているのだろう。スペクターは弾幕を張るのをやめた。

近づいてくる。
リコイルバスター――至近距離からのビーム砲で、一気に勝負を決めようとしているのだ。
微塵改もまた呼応するように、携行式擲弾砲を構える。

皮肉なことに、エクスフォードが前線に立っていたときと構図が逆だ。
スペクターが距離を詰めようとし、微塵改はそれを阻むために火線を張る。
お互いにボロボロで、足取りもおぼつかないが、決着の時は着実に近づきつつあった。

(あの出鱈目な機動力はもうない……ビーム砲は怖いけど、至近距離で本領を発揮できるのはこっちも同じ。
 桐山先輩、頼んだわよ……!)

カリブルヌスのチャージが完了しているか、確かめる術はない。
この距離で声を出して確認し合えば、スペクター側にこちらの戦略が筒抜けになるからだ。
晶には、桐山を信じて機を待つ以外にできることがなかった。

94 :
>「あらゆる武器、あらゆる戦術を尽くして戦うのがロボットバトルというもの……。
 その『合体』が君達の出した結論だというのなら、全霊をもって応えよう。
 さっきの二機のように……私とオリオンスペクターに牙を突き立ててみせろ!!」

「な……分身……!?」

眼の前でオリオンスペクターの姿が5つに分かれる。
ホログラムによる撹乱――5つの幻影のうち、どれかは本物で、残りは全て外れだ。

「なるほどね、連星の幽霊(オリオンスペクター)……まさに冠した名前の通りの奥の手というわけ」

高速機動戦でこれを使われれば、この上なく厄介な効果をもたらしただろう。
そして、低速でぶつかり合う現状においても、幻影は晶たちにとって致命的な劣勢を生む。
カリブルヌスによる攻撃は、おそらく一発限り。
幻影に惑わされて攻撃を外してしまえば、次はない。

(チャンスは一度だけ……5分の1を外せば、私たちは負ける……)

負けたくない。ようやくここまで追い詰めたのだ。
八木が、周子が、機体を賭してまで作ってくれた好機を、無駄にしたくない。

動揺を気取られてはいけないと理解しつつも、晶は操縦桿を握る手が震えるのを抑えられなかった。
だが、その背後でデバイスをたぐる桐山の双眸に、迷いや恐れの感情はない。

>「……紫水君。最後に言っておくよ。実はカリブルヌスの名前、元は別の名前だったんだ。
 恥ずかしさがあったから変えたけど……今ならはっきり言える。これで勝つんだ」

「桐山先輩――」

言葉は短く、しかし肩を支えられているかのように、心強い。
それだけで、不思議と手の震えは止まった。

>「さあ……エクスカリバー!その光刃で敵を断つときだ!」

95 :
心の引き金を引き絞るようにして、彼は己の武装の名を呼んだ。
カリブルヌス改め、光輝の剣『エクスカリバー』。発振器が轟き、光が奔る!
マクシミリアンの全エネルギーを費やして形成された威力の塊は、微塵改の防盾を紙の如く貫いた。
そのまま一条の極光と化して、オリオンスペクターの群れを飲み込んでいく。

>「どれかを狙う必要はない!何故なら――全てを薙ぎ払えばいい!」

言葉の通り、極太の光の刃はそのまま水平にフィールドを舐め、スペクターを分身ごと薙ぎ払った。
晶の知っている『カリブルヌス』のそれよりも、遥かに出力が高い。
ベンケイ戦では威力を抑えていた?――違う!

ARデバイスの端に表示された友軍の機体情報、そこにあるマクシミリアンの耐久ゲージがどんどん減少していく。
機体の維持に費やすはずのエネルギーすらエクスカリバーに充当して、文字通り命を削って刃を作り出しているのだ!
レーザー発振器が爆発し、マクシミリアンが機能を停止するまで、眼を灼かんばかりの閃光がフィールドを満たしていた。

光が晴れたあと、フィールド上には微塵改とマクシミリアンの亡骸を除いて他に何もない。
エクスカリバーの超威力がスペクターを欠片も残さず蒸発させたのだと、晶は疑いなくそう思った。

>「……これで……いや!オリオンスペクターはまだ、健在だ……!」

「え……?」

>「まったく、オリジナル武器というものは常に驚かせてくれる……!
 しかし、その牙ももはや折れた!その機体で何秒耐えられるか、見せてもらおう!」

驚くべきことに、オリオンスペクターはエクスカリバーの一撃を凌ぎ、上空へと逃れていたのだ。
脚部パーツは膝から先が欠損していて、武装のほとんどは消失しているが、まだあのリコイルバスターが残っている。
直上からの急降下による至近距離の一撃で、今度こそ勝負を決めようとしているのだ。

桐山の警告で全てを理解した晶は、もう戸惑わなかった。
勝つために、みんなで勝つために、自分が何をすべきか、はっきりと分かった。

96 :
「いいえ。牙はまだ折れてなどいないわ。これ以上、耐えるつもりもない」

微塵改は残った片腕で擲弾砲を構え、安全装置を外す。信管の起爆にはタイムラグがある。
この距離で撃っても爆発は間に合うまい。――だから晶は擲弾砲を、スペクターへそのまま投げつけた。
リコイルバスターが閃き、擲弾砲が"暴発"する。爆風がスペクターを煽り、落下速度がわずかに遅滞した。
擲弾砲はいわば『爆弾入りの筒』だ。八木のクラウンが右腕そのものを爆弾としたのを、見よう見まねで模倣した。

「アーサー王の伝説、その元ネタに則るなら、エクスカリバーはひとつだけじゃないわ。
 泉の乙女から下賜された聖剣とは別に、もう一振りのエクスカリバーが伝承の中には存在する!」

擲弾砲の爆風が稼いだコンマ1秒に満たない時間で、晶は武装切り替えのトリガーを引いた。
他の武装で隙を作って、切り替えた剣でトドメを刺す――この動きだけは、何度も練習してきた。
最後の最後、土壇場でものを言うのはやはり日頃の練習だ。淀みなく、滑らかな動きで微塵改は腰から剣を引き抜く。

一式徹甲剣『岩貫(いわぬき)』。岩をも貫く装甲貫徹力に優れた直剣。
武装の名前は雰囲気だけで付けた意味のない言葉であるが、偶然にしては出来すぎた取り合わせだと自分でも思う。
アーサー王の振るった二本のエクスカリバー。その片割れは、『岩に刺さっていた剣』だからだ。
選ばれし者にしか抜けない聖剣をその手に取った日から、かの英雄の伝説は始まった。

「さあ、私の声に応えなさい!岩貫改め――『エクスカリバー・コールブランド』!!」

擲弾砲をリコイルバスターで処理し、自由落下してくるスペクター。
それを迎え撃つかのように、直剣を真上へ突き上げる微塵改。

交錯二つの機影は、同時に互いの中枢を穿つクロスカウンター。
砲口と剣、どちらが先に相手の耐久ゲージを削り切るか――小数点以下のダメージレースだ。

97 :
【上から降ってくるスペクターにグレランをそのまま投げつけ、直剣でクロスカウンター】

98 :
今回は先に水鳥さんに書いてもらって、その後で投下させてもらえないかな
戦いの結末を決めるべきは僕じゃないだろうしね

99 :
【分かりました!それでは先に書かせて頂きます!】

100 :
オリオンスペクター最後の切り札――『ファントムシフト』。
推進ユニットExtra-Wing Flight Systemを構成するオリジナルパーツの機能。
ホログラムを投影することで機体を五つに分身させ、撹乱させる幽星に相応しき能力だ。
高速機動中に絶大な効果を発揮する機能だが今やその脚部は損傷し十二分に使用できない。

>「……紫水君。最後に言っておくよ。
> 実はカリブルヌスの名前、元は別の名前だったんだ。
> 恥ずかしさがあったから変えたけど……今ならはっきり言える。これで勝つんだ。
> さあ……エクスカリバー!その光刃で敵を断つときだ!」

「良くぞ言った!だが損傷したとはいえ、甘く見積もってもらっては困るな!
 私のファントムシフトはそうヤワな機能では――……」

ゴーストは眼前のファイターに漲る自信を前にして言葉を失った。
たとえ機能が半減していようと、技量で補ってみせるという、驕りに近い余裕がゴーストには常にある。
しかし、桐山の言葉には「プロに最も近い男」とまで評されたゴーストを黙らせる力があった。

自棄でも冗談交じりでもない。彼が覚悟を決めた時は、必ずそうなのだろう。
ベンケイ戦でも――そして今でも逆転の嚆矢となって値千金の活躍をしてみせる。
彼の制作能力が十二分に発揮できるエクスカリバーなら、勝利を導く事ができるはずだ。

>「どれかを狙う必要はない!何故なら――全てを薙ぎ払えばいい!」

それはARバイザーの視界を埋め尽くさんばかりの光の奔流。
ホログラムによる幻影を一瞬で焼き払い、逃げる隙間もない光輝が襲いかかる。
光に飲み込まれたかに見えたオリオンスペクター本体は、しかし、空中に逃げ去っていた。

>「……これで……いや!オリオンスペクターはまだ、健在だ……!」

>「え……?」

紅の騎士が微塵改から零れ落ち、機能を停止させる。
呟いた桐山の声は勝利を確信した晶を驚かせるものだった。

>「まったく、オリジナル武器というものは常に驚かせてくれる……!
> しかし、その牙ももはや折れた!その機体で何秒耐えられるか、見せてもらおう!」

黒の幽星はまだ生きていた。全国出場者というのは概して執念深く勝利を狙い続けるものだ。
武器の大半を消失し、膝から下を失ってなお、自由落下しつつリコイルバスターを構える。
現に彼の愛機は耐久バーも残っていれば、操縦桿で動かす事も出来る。まだ戦いは終わっていない。


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