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【ファンタジー】ドラゴンズリング7【TRPG】


1 :2018/07/24 〜 最終レス :2020/05/09
――それは、やがて伝説となる物語。
「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。
大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。
竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/1.html
       
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(単章のみなどの短期参加も可能)

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所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】
ttps://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1501508333/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング5【TRPG】
ttps://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1516638784/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング6【TRPG】
ttps://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1525867121/l50

2 :
http://sij9dm4k7w.cmjhk95j.work/eycjpzh/iuasf98/cvjil

3 :
ラテは荒らし

4 :
カスレイブは公害

5 :
二匹ともウンコという名の同じ穴から出てるからな

6 :
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

光は爆発的に膨らみ、収束し……すぐに、一つの形を得た。
眩い輝きを放つ……巨大な竜の姿を。

「そんな……光竜は、虚無に飲まれていたはずでは……」

ぱらぱらと、礼拝堂の外に砕けた甲冑の破片が降り注ぐ。
それらは急速に、虚無特有の、無であるが故の黒色に侵食され……消滅していく。

……馬鹿な。そんな馬鹿な。
だとしたらあの甲冑は……エルピスが、虚無に飲まれる事から逃れる為に纏っていた?
何故、どうして。何が……一体、何がどうなっているんです……。

「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」

エルピスが呻く。
光り輝くその巨体には、しかし所々に黒が、虚無の黒が滲んでいる。
特に、頭部には……顔の右半分を覆うほどの虚無が。

「この期に及んで、そんな手緩い攻撃があるか……」

エルピスは牙を食い縛りながら、苦しげな、しかし怒りの宿った声で、そう言いました。

「……それとも、あれがお前の全力だったのか?指環の勇者よ。
 だとしたら……やはりヒトとは、我らが支配し、導いてやらねばならないんじゃないか?
 なあ……イグニス。アクア。テッラ。ウェントゥス」

ふと、フィリアさんの背後に陽炎が揺れる。
彼女の両肩に手を置くようにして現れるのは……炎竜イグニスの幻体。

『またその話か、エルピス。何度言われようと妾達が考えを変える事はない。
 此奴らは、ヒトは、妾達の力などなくとも無事にやっていける』

「……本当か?」

『くどいな。時間稼ぎのつもりなら……』

「本当に、そいつらは……ヒトは、ヒトだけで大丈夫なのか?何故そんな事が言い切れる?」

『……エルピス?』

……再び問いを発するエルピス。
その声音は……どこか、奇妙な響きを含んでいました。
ヒト達を信じる四竜を嘲り、否定していると言うよりかは……まるで……。

7 :
「いいや、誰にもそんな事は分からない。だから私は、この世界を滅ぼす……違う!」

「……っ!」

突然、エルピスが叫び声と、苦悶の呻きを上げました。

「違う!違う違う違う!私は!私は……!」

そして両手で頭の右半分を抑え……光が爆ぜる。
続くのは、焼け付くような音……。

「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」

再び私達を見下ろしたエルピスの顔面からは……虚無の黒が消えていました。
光の魔力で、強引に虚無を祓い退けた……?
……駄目です。理解出来ない事ばかりで、思考が追いつかない。

『……お前が何を考えているのかは、正直分からん。だが……やるだけ無駄だ。
 我ら四竜の指環を前に、お前がたった一頭で何が出来る?』

「……知りたいか?」

エルピスがそう呟いた瞬間……その両翼に、膨大な光の魔力が宿る。
翼が一度ばさりと羽ばたくと、閃光が五回、周辺の地面を走る。
そしてその跡から、天へと続く光の壁が立ち現れる。

これは……結界?
……ただ、通過を遮るだけの障壁ではないはず。
恐らく、何か特殊な式が……

8 :
「イグニス様?……イグニス様!?一体どうしたんですの!?」

不意に、フィリアさんが声を上げた。
焦りと、驚きに支配された声……。

「アルマクリスさん?アドルフさん?……これは、まさか」
「……メアリさんも、駄目みたい」

……指環と、意思疎通が出来ていない?
まさか、この結界は……。

「単純な力量を比べるだけならば、私がお前達に勝てる道理などない。
 だが……お前達は、竜。そして、死者だ。ヒトより隔てられるべき魔の者だ。
 であれば……このような事が可能という訳だ」

……やられた。
光の持つ……魔を退ける力。そして七色に分離するという性質。
その力を以って……指環に宿る者達と、私達を、分離させられたんだ。
彼らは今、結界の外か。いえ……この結界の中にだけ二つの位相が創り出されているのか……。

……駄目だ。複雑過ぎる。
光を司る竜が創り出した、起死回生の結界。
いくら私でも、簡単には解析出来ない……。
それに、そんな暇を、エルピスが与えてくれる訳がない。

「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

つまり……

「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」

言うや否や、私は魔導拳銃を抜き、その銃身に刻み込まれた術式を行使。
『スプリンクル・ミスト』……周囲に魔法の霧が散布される。
エルピスの光魔法、予見能力を、これで少しでも妨害出来ればいいんですが……。

「……すみませんが、気安く大魔法をぶっ放すような真似は出来ません。
 魔法の発動を予知されて、狙い撃ちされたら……庇う側が大変でしょう?」

なんて、冗談を言っていられる余裕も、そろそろ無くなりそうです。
……エルピスの翼に、再び光の魔力が集っていく。

「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

そして、無数の閃光が降り注ぐ。



【指環は輝きを失って沈黙している……。
 黒狼騎士サイドまでは書いてる余裕がなかったよう……】

9 :
要塞城内で発生したクーデター。
皇帝は聖女と共に教皇庁へと軟禁され、教皇庁は元老院急進派によって占拠されている。
しかもその一件には、帝国最強戦力の中でもさらに最強を誇る黒狼騎士が絡んでいると来た。
矢継ぎ早に降りかかる雪崩の如き火の粉に、スレイブは目眩を覚えた。

しかし一方で、少なくとも勇者達にとって状況はそこまで致命的ではないと感じる。
帝国内の内ゲバも、黒狼騎士とやらの凱旋も、極端なことを言ってしまえば。
――指環の勇者とは何ら関係のない、対岸の火事に過ぎないからだ。

無論、渦中に立たされたアルダガは最早他人ではないし、その窮状に同情もある。
ティターニアにとっては帝国の皇帝も、見捨てておけるような仲ではないだろう。
しかしそれだけだ。世界の存亡を賭けた戦いよりも優先する理由は見当たらない。

「馬鹿馬鹿しい。そんなに足の引っ張り合いが好きならお互いを滅ぼすまで続ければ良い」

目下スレイブ達が救うべきは帝国ではなく世界。
倒すべきは堕ちた光竜エルピスであって、帝国最強の黒狼騎士などではないのだ。
クーデターにエルピスが絡んでいるにせよ、元老院の戦力と真正面からぶつかり合う必要はあるまい。

現段階で要塞城からの脱出が可能であるなら、すぐにそうすべきだ。
スレイブは至極まっとうな結論を帰結して、アルダガの差し出す指環を受け取ろうとした。
伸ばしかけた手は、しかし振り返ったシャルムの声によって止まる。

>「ディクショナルさん……これは、あなたが預かっていて下さい。
 もしこの指環に特別な力があるなら……あなた達が持っていくべきです。
 ……いえ、訂正します。あなたが、その力に守られて欲しい」

まるで形見分けのように手渡される無色の指環に、スレイブは泡を食った。

「待て、待て!まさか、あんたも教皇庁の奪還に出向くつもりなのか……?
 クーデターへの対処は神殿と黒騎士の領分だ、"俺たち"の出る幕じゃない」

シャルムの大本の目的が『指環の勇者への同行』である以上、彼女は勇者達と行動を共にすると思っていた。
想定していなかった彼女の反応に、焦りが本音を口から滑らせる。

「それに……危険過ぎる。星都で黒蝶騎士や黒鳥騎士の戦いを見ただろう!?
 教皇庁で待ち構える黒狼騎士は、連中以上の実力者……例えあんたの適正拡張術式でも……!」

人越者達の争いの渦中に飛び込めば、生きて戻れる保証はない。
むしろ、黒騎士同士の戦いに巻き込まれて討ち死にする公算の方が高い。
スレイブの言葉を選ばない説得は、しかし虚しく空を切る。
分かりきった彼我の戦力分析など、とうの昔にシャルムは覚悟の上だった。

10 :
>「もし、その指環が本当にただのアクセサリーだったなら……戦いが終わった後で、返して下さい」
>「あなたが、私の指に。……お願い出来ますか?」

再び踵を返した彼女の背中に、それ以上スレイブは何も言葉を次げない。
例え死地に赴くのと何も変わらなくても、それでも彼女にとって、帝国は命に代えても護るべきものなのだ。

スレイブが喉を詰まらせていると、アルダガから指環を受け取ったジャンがそれを彼女の手に戻す。
そして何をするかと思えば、アルダガの額を指で弾いた。金属をぶん殴ったような音がした。

「ふぎゃんっ」

手加減はあるとはいえ、ハーフオークの膂力だ。アルダガは短い悲鳴を上げて仰け反った。
おそらくアルダガでなかったら首から上が吹っ飛んでいる。

「ジャ、ジャンさん!なにを――」

>「帝都一つ救えない奴に世界が救えるかよ。
 エルピスの野郎が関わっている以上、俺たち指環の勇者の出番だ」

ジャンの言葉に、ティターニアも同調する。

>「別に帝国のためというわけではない。 エルピスは行方知れず、慌てて帝都を脱出したところで手掛かりはないのだ――
 これだけ分かりやすいとっかかりがあるのだから行くしかなかろう。 それに……皇帝殿とは先代同士が共に旅した仲だしな」

アルダガはしばし目を白黒させたあと、なにが可笑しいのか小さく吹き出した。

「……頭部を打撃されるのは、これで二度目です。ふふっ。
 カルディアで初めて会ったあのときから、本当に色々ありましたけれど……人の良さだけは、何も変わっていませんね」

スレイブはなにも言えなかった。頭を抱えたい思いだった。
そうだ。それこそ分かりきっていたことじゃないか。彼や彼女が、仲間の窮地を尻目にイモを引くわけがないと。
スレイブは目頭を揉み、確認しておくべきことを端的に口にした。

「……水を差すわけじゃないが、分かっているんだろうな?
 エルピスがこの件に噛んでいるとすれば、これは十中八九"誘い"だ。
 わざわざ指環を揃えて持っていくなど、それこそ奴の思う壺だぞ」

その問いに、答えなど必要ない。
如何なる深謀遠慮が巡らされていようとも、万人を救うというその姿勢に変容はないと。
これまでの旅で十分すぎるほど理解していた。
なんだか全身の力が抜けていくような感覚にうつむくと、膝を折っていたシャルムと目が合った。

11 :
>「……何してるんですか。早く立たせて下さいよ。どうせあなたも、やめようって言ったって聞かないんでしょう?」

「俺は止める側の人間だと思っていたんだがな……まあ良い。
 へたり込むあんたを立ち上がらせるのも、もう慣れたものだ」

ばつの悪さをごまかすように皮肉を垂れて、スレイブはシャルムに手を伸ばす。
そこで、先程シャルムから手渡された指環がまだ手の中にあることに気がついた。

>「それと……さっきの指環、やっぱり今返して下さい。ほら、ここですよ」

「ん。ああ、それは構わないが……」

差し出されたシャルムの手。その指先に、スレイブは無色の指環を嵌める。
そして彼女の手を握り、立ち上がらせた。

「誤解のないように言っておく。ダーマ人の俺にとって、帝国のお家騒動なんてどうだって良い。
 皇帝陛下や聖女猊下に恩を受けた覚えもなければ、取り立てて助けに行くような大義だってない」

ダーマの軍人としては、むしろ帝国が揺れている現状の方が都合が良いとさえ言える。
大陸が帝国によって支配されていないのは、ひとえにかの国の政情不安定によるところが大きいからだ。
だから、スレイブにとって皇帝を救うことは利敵行為、ダーマの寿命を縮めることに他ならない。

「だが……あんたが大切にしているものなら、俺もそれを大切にしよう。
 あんたの護りたいものを、俺もまた護るために死力を尽くす。大義は、それで十分だ」

シャルムの手を放し、空いた手に拳を握って、彼は言った。

「帝都を救おう。エルピスの描いたこの下らない絵図を、今度こそ終わらせるんだ」

不意に脇腹を突く感触を得て視線を下げると、ウェントゥスがニヤニヤしながら肘打ちをしていた。

「お主さぁ……素でやっとるのそれ?マジ対応なの?儂ドン引きなんじゃけど」

「何がだ」

「いや指環、指環。儂ドラゴンだけど人間の風習くらいは知っとるぞ。
 ふつーはな、何も思っとらん相手の指に直接指環嵌めたりはせんからな」

ウェントゥスの持って回ったような言葉にスレイブはナチュラルに首をひねった。

「………………あっ」

そうしてしばらく黙考して、ついに致命的な己のやらかしに思い至った。

「うっぐ、ぐああぁぁぁぁぁぁ……!!」

耳の先まで真っ赤にして、スレイブはしばらくその辺の壁に頭を打ち付け続けた。
どれだけ衝撃を与えても、脳から記憶は飛んでいかなかった。

・・・・・・――――――

12 :
教皇庁への道中、急進派の手駒と思しき兵士達の迎撃を受けた。
しかし飛来する矢も、空を奔る雷撃も、アルダガや指環の勇者一行を打ち据えることはなかった。
まるで引力でも発生しているかのように、黒亀騎士ヘイトリィの黒甲冑にすべてが吸い込まれていく。

「"流矢の呪い"……と、言うらしいです」

ヘイトリィを文字通りの矢面に立たせながら、アルダガは勇者達へ向けて簡潔に伝えた。

「司法局の捜査官だった黒亀殿は、数年前に帝都であった大規模な呪詛師の摘発の際に、試作段階の新型呪詛を受けたそうです。
 以来、彼の立つ戦場ではあらゆる矢や魔法が因果を捻じ曲げ、彼をR軌道を取るようになったと。
 彼はその呪いを鎧で身を固めることによって克服し、全ての攻撃から仲間を護る盾として己を完成させました」

飛んでくる攻撃はもはや波濤を越えて嵐の様相を呈しているが、ヘイトリィに堪える様子はない。
大陸最高硬度を誇るブラックオリハルコンの鎧と、彼自身の防御術式によって、完全に威力を殺しているのだ。

「呪いは味方側から放つ飛び道具にもはたらきます。投射系の魔法を使う際は注意してください」

やがて一行は教皇庁へとたどり着く。
庁内をさまよう影は、赤黒く乾いた血に塗れた死体。アンデッドだ。
血生臭さい風が頬を叩いて、アルダガは小さなうめき声を漏らした。

「セルビス殿、シスター・アレッサ、アトル……」

侵入者に気づいたアンデッド達は、もはや意志の光を失った相貌でアルダガ達を射すくめる。
捻じ切れる寸前の首から上、その顔のひとつひとつを、アルダガは良く知っていた。
急進派率いる黒狼騎士によって蹂躙され、奮戦虚しく命を落とした教皇庁の戦闘修道士達。
彼らは、アルダガと同じ食堂で糧を得てきた掛け替えのない同僚達だ。

彼らの亡骸に、五体の形を保っているものは一つとして存在しない。
黒狼騎士の内包する暴力のおぞましさを、死体の損傷が物語っていた。
アルダガは静かに両手を組み、彼らの冥福を聖句に祈った。

「女神の子よ。その魂を縫い止めし縛鎖を砕き、天界の導きを与えん――『アレフマイル』」

アルダガから放たれた光に照らされたアンデッド達が、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
聖教式の魂魄浄化神術だ。アルダガは祈りと共に瞑目していた双眸を開く。
仲間を救えなかった悔恨。亡骸を弄ばれた怒り。それらないまぜになった感情を、吐息に変えて冷静さを保つ。

「戦う理由が一つ、増えました」

阻む者のいなくなった教皇庁を進めば、最奥の礼拝堂が見えてくる。
そこで待っていたのは、黒狼騎士ランディ・ウルフマンと――ぼろぼろの鎧に身を包んだ巨大な騎士。
ティターニア達の反応を見るに、あれが光龍エルピスなのだろう。

>「何故そいつに協力する!? 皇帝殿と聖女様をどうする気だ!?」

ティターニアの問いに、黒狼騎士は何も答えない。
そして再び邂逅した者たちにそれ以上の言葉は要らず、戦いは感慨を介さずに始まった。

>「君達はあの者を!」

疾走する黒狼騎士を、ヘイトリィが迎え撃つ。
そこへ畳み掛けるようにシェリーとジュリアンが矢と氷柱を射掛け、エルピスから黒狼を切り離すことに成功した。

>「……ところでそなた、その鎧の下はどうなっておるのだ? そりゃあああ!!」

すかさずティターニアが跳躍し、杖先に作り上げた魔力塊でエルピスを打擲する。
エルピスは激昂の叫びを上げ、大剣を振りかざしてティターニアを両断せんと迫った。

13 :
規制解除

14 :
「ティターニアさん、身を低く屈めてください!」

ティターニアの背後から飛び出したアルダガは、身体強化の聖句を刻みながらメイスを軋むほど握りしめる。

「まずは一発……ぶん殴ります!!」

身に滾る怒りを膂力に変えて、力任せのフルスイング。
うなりをつけて弧を描いたメイスは、エルピスが防御に構えた大剣を半ばから叩き折って、その奥の兜を真芯に捉えた。

常人であればたとえ甲冑に護られていようが兜ごと頭部を粉砕する一撃だ。
頑健な光竜と言えども少なからぬダメージを負ったのか、エルピスは大きくのけぞった。
宙を舞った大剣が礼拝堂の床に突き刺さると同時、シャルムの魔法によって床から萌え出た石柱がエルピスの胴を強かに打撃した。

渾身のメイスと死角からの石柱。
二段構えの連携攻撃は二撃ともがクリーンヒットし、エルピスの巨体が放物線を描く。
耳障りな轟音を立てて、礼拝堂の壁にエルピスが埋まった。

身体ごと持っていかれそうなメイスの慣性を、アルダガは床に足が刺さるほど強く踏みしめてR。
エルピスは這々の体で壁の穴から出てきた。

>「馬鹿な……あまりに、呆気なさ過ぎる」

初撃はこれ以上ないほどに決まり、エルピスを瀕死にまで追い込んだ。
しかしシャルムの懸念の通り、事態はまるで楽観視などできはしない。
指環の勇者を二度欺き、帝都を存亡の危機へ陥れた邪竜にしては、あまりにも手応えが不足していた。

「気配が膨れ上がっています……次が来ますよ!」

>「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

咆哮に伴って、エルピスの四肢に亀裂が入り、甲虫の脱皮のように内容物が膨張していく。
仄暗い光と共に鎧の中から生まれ出たのは、一匹の竜の姿だった。

>「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」

本来の形態を取り戻したエルピスの声には、海溝よりも深い怨嗟が満ちている。
光竜、と言うにはあまりにも黒く、暗い体躯は、ところどころに虚無の侵食が見て取れた。

>「違う!違う違う違う!私は!私は……!」

エルピスは自問自答のような、会話の体を為さないつぶやきを漏らす。
やがて己の頭に爪を突き立てたかと思うと、頭部を覆っていた虚無が光に追い立てられて消し飛んだ。

>「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」

あまりにも要領を得ない問答の末に、冷静さを取り戻したエルピスが吠える。
翼が幾度かはためいたかと思うと、アルダガ達とエルピスとを囲うように結界が展開した。

「これは……!?」

アルダガが困惑を声に出すと同時、スレイブが指環を掲げて叫んだ。

「このまま奴に主導権を握らせるのはまずい……!ウェントゥス、防御術式を――ウェントゥス?」

指環からの応答がないことにスレイブが戸惑うと同時、ラテやシノノメからも同様の声が上がった。
アルダガも己の手にある指環を見る。本来あるはずの淡い輝きが失われ、指環は沈黙していた。

15 :
>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

「指環との契約を……断絶させられた……!?」

>「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」

シャルムは諦念したように言ってみせるが、それが如何に無理難題であるか、彼女自身がよく知っているはずだ。
魔物と戦うのとはわけが違う。相手は世界を司る四竜三魔、指環の竜だ。
同じ指環の力なしに、エルピスと戦うことなどできるのか。

光竜の翼に魔力が収束していく。
全竜がそうしたように、あの魔法はたやすくアルダガ達を打ち据えることだろう。

>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

絶望への前途に時を数える余裕などあるわけもなく。
覚悟を決めるより早く、破壊の雨が降り注いだ。
シャルムの展開した防護障壁は瞬く間に削れ、そして爆ぜ割れた。

「十分だ。一瞬でも攻撃魔法を遅滞させられるなら、あとは俺がどうにかする」

慄然と立ち尽くすアルダガの脇を抜けるようにして、スレイブが前に出た。
彼は左手に臙脂色の短剣を構え、その切っ先は障壁を穿つ光の雨に向いていた。

「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』」

障壁を突破したエルピスの攻撃魔法は、スレイブの掲げた短剣の刀身へと残らず吸い込まれていった。

「指環なんてチャチな玩具がなくたって、俺たちは貴様を倒すぞ光竜エルピスッ!
 竜の力に頼らなくても、人間の可能性の先へ辿り着いた者を、俺は知っている!」

瞬間、スレイブが右手で振るった長剣から放たれた閃光が、エルピスの翼を灼いた。

「証明してやる。指環の勇者とは、指環の力を振るう者達のことなどではない。
 その力で、指環を手に入れてきた者たちのことを勇者と呼ぶのだとな――!」

スレイブが啖呵を切る一方で、アルダガもようやく自分のやるべきことを理解した。
指環の力を使わずとも、ヒトは竜に勝てる。それを証明し、エルピスに敗北を認めさせる。

『ティターニアさん、聞いてください』

アルダガは神術の糸をティターニアへと接続し、彼女に声を送った。

『もう一度、ディクショナル殿が光竜の魔法を吸収したら……拙僧が中継し、エルピスの魔力を貴女へ届けます。
 貴女の魔法で、この因縁に決着を付けてください』

それだけ言うとアルダガは念信の糸を切り、メイスを構え直す。

「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」

先んじて飛びかかったスレイブをはたき落とさんとするエルピスの巨腕。
それをさらに叩き潰すべく、アルダガはメイスを振るった。


【指環無効バフ付いたまま戦闘開始】

16 :
エルピスはヒトの姿から本来の姿へと戻り、虚無に取り込まれつつあった自分の権能を振り絞る。
そこから生み出されるのは、指環の力を持ち主から引き剥がす驚異の結界。

>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

虚無にほとんどを飲み込まれてもなお、光竜は光り輝く。
翼から放たれた破壊の閃光はシャルムの防護障壁を打ち砕き、しかしジャンたちには届かない。
スレイブが持つ魔剣バアルフォラスが全てを飲み尽くしたのだ。

>「証明してやる。指環の勇者とは、指環の力を振るう者達のことなどではない。
 その力で、指環を手に入れてきた者たちのことを勇者と呼ぶのだとな――!」

「……そうだな!俺たちは指環に頼りっぱなしで来たわけじゃねえ!
 いつだって力を合わせてやってきた!」

>「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」

「アルダガ!俺は下からいくぜ!」

アルダガがメイスを振るうのに合わせ、ジャンはエルピスの真下へ突進し、ミスリルハンマーを振り上げる。
二人の凄まじい膂力から振るわれる一撃はエルピスの腕、その骨を鱗の上から砕くには十分な威力だ。

通常、成体となった竜の鱗は強靭であり、斬、打、突といったあらゆる物理的な攻撃を受け付けないものだが、
ヒトの平均をはるかに上回る二人の腕力と、魔力によって自らを維持していたエルピスがその枯渇によって
身体そのものが脆くなっていたことが合わさり、エルピスの右腕は骨が折れ砕ける音を立てて無残に曲がる。

17 :
「グゥオアアアアア!!!」

エルピスは痛みと屈辱に耐えきれず叫び、まだ無事な左腕を振り上げ、ジャンたちに叩きつけんと振り下ろした。
通常ならば魔力を纏い、ブラックオリハルコンすら粉砕するその一撃。
だが今は鱗がところどころ剥げ、爪は半分欠けてしまっている。それを見たジャンはミスリルハンマーを
素早く腰に戻し、両手でその一撃を受け止めんとした。

「オークごときがァァァァ!!!」

「うぉりゃああああ!!!」

両足は石床を踏み抜かんばかりの勢いで身体を支え、両手はエルピスの丸太よりも大きな巨腕をがっちりと押し止めている。
気合のこもった叫びから生み出されるウォークライはジャンの身体に隅々まで活力を漲らせ、指環がなくとも竜に立ち向かう勇気と力をくれる。

だがエルピスの攻撃はそれだけにとどまらない。
左腕はジャンに向けて押し潰す勢いで力を込めたまま、その口を開き、顎を限界まで下げる。
そして口内を中心に四重の円形魔法陣が展開された。竜の咆哮そのものを純粋な攻撃として叩きつけるそれは、一行を消し飛ばすには十分な破壊力だ。

『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』

エルピスはさらに攻撃を止めない。両翼に魔力を蓄え、辺り一帯に無差別に破壊の閃光を放つ。
狙いが定まらないそれは逆に一行の動きを制限し、追い詰めるものだ。


【エルピス発狂モード突入!】

18 :
アルダガの一撃と死角からのシャルムの魔法をまともに受け、吹っ飛ばされるエルピス。
悠久の昔から世界を危機に陥れ続けてきた堕ちた光竜にしては、あまりにもあっけない。
運よく何らかの理由により余程消耗していたのかと期待したが、そう都合よくはいかなかった。
甲冑が砕け散り、その場所に巨大な光り輝く竜が現れる。

19 :
>「そんな……光竜は、虚無に飲まれていたはずでは……」

「虚無に飲まれた振りをして逆に虚無の竜を利用していたということか……!? でも何故!?」

>「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」
>「この期に及んで、そんな手緩い攻撃があるか……」

虚無に飲まれていないのだとしたら何故世界を滅ぼそうとしているのか。
何をこれほどまでに憎んでいるのか。分からないことだらけだ。

>「……それとも、あれがお前の全力だったのか?指環の勇者よ。
 だとしたら……やはりヒトとは、我らが支配し、導いてやらねばならないんじゃないか?
 なあ……イグニス。アクア。テッラ。ウェントゥス」

暫し問答するエルピスとイグニス。しかしその途中、エルピスの様子がおかしくなる。

>「いいや、誰にもそんな事は分からない。だから私は、この世界を滅ぼす……違う!」
>「違う!違う違う違う!私は!私は……!」

気合で正気を取り戻したらしいエルピスが一行に宣戦布告する。

>「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」

どちらにしろ戦う気は満々らしい。
これでは虚無に飲まれようが飲まれまいがやっている事は一緒ではないのか。
正直何がしたいのかよく分からない。
そんなティターニア達の気持ちを代弁するかのように、イグニスが言う。

>『……お前が何を考えているのかは、正直分からん。だが……やるだけ無駄だ。
 我ら四竜の指環を前に、お前がたった一頭で何が出来る?』

>「……知りたいか?」

エルピスが翼をはためかせると、辺り一帯に特殊な結界らしきものが展開される。
それは指輪の力を封じる結界。

>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」

>「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」

「そのようだな。どうやら複雑な事情がありそうだが……
コイツもまたコテンパンにやられてからじゃないと話し合いが始まらない系の輩らしい。
全てはそれからだ」

20 :
>「……すみませんが、気安く大魔法をぶっ放すような真似は出来ません。
 魔法の発動を予知されて、狙い撃ちされたら……庇う側が大変でしょう?」
>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」

エルピスが放った無数の閃光が降り注ぐのを皮切りに、戦闘が始まる。

>「十分だ。一瞬でも攻撃魔法を遅滞させられるなら、あとは俺がどうにかする」
>「――呑み尽くせ、『バアルフォラス』」

エルピスの放った魔法を、スレイブがバアルフォラスで吸収する。
そしてアルダガがティターニアに念信で声を送る。

>『ティターニアさん、聞いてください』
>『もう一度、ディクショナル殿が光竜の魔法を吸収したら……拙僧が中継し、エルピスの魔力を貴女へ届けます。
 貴女の魔法で、この因縁に決着を付けてください』

>「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」
>「アルダガ!俺は下からいくぜ!」

>「グゥオアアアアア!!!」

アルダガとジャンの猛攻を受け、エルピスが苦悶の叫びをあげその腕が無残に曲がる。
エルピス本来の力ならいかなる物理攻撃も受け付けないはずだが、
相当消耗しているのではないかという最初の見立ては間違いではなかったのだ。

「もう良いだろう……! 教えてはくれぬか? そなたは一体何に絶望した? どんな未来を見たのだ!?」

「私に勝てると思っているとは……どこまでも愚かな奴らだ。
だが……死にゆく貴様らへのせめてもの手向けに教えてやろう」

そう言ってエルピスは、光の力で空間に情景を投影する。
それは、遥か昔、旧世界で繰り広げられていた、泥沼の戦争。
その果てに開発された至上最悪の兵器がついに使われてしまい、世界が不毛の地と化すというものだった。

「酷い……」

「絶大な威力だけではなく使用後半永久的に一帯の生物を殺し続けるという恐るべき制御不能の呪い――そんな兵器だ」

「これは……旧世界にもしも虚無の竜が来なければ起こっていたかもしれない可能性か?」

「違う。私が虚無の竜を呼ばなければ確実に起こっていた現実だ」

「そなたが虚無の竜を呼んだ……だと!? そなたはそのころからすでに滅びを望んでいたのか?」

「貴様らは本当に何も分かっていないのだな……。人間こそが世界を食い尽くし滅びを齎す存在だというのに。
各属性の魔素とは星の生命エネルギー。竜とはその具現化。
旧世界の文明は繁栄を極め――裏を返せば回復が追い付かない程に世界の属性を食い尽くしつつあった。
そして虚無の竜とは世界を食い尽くす存在から属性を保護するための最終手段……
世界をいったんリセットしてやり直す再生のための機構だ」

21 :
ティターニアは少し考える素振りを見せてから、呟いた。

「なるほどな――」

「ようやく分かったか? 人間がいかに愚かかということが」

「そなたが融通が利かぬ愚か者だということがよく分かった。
よくない方向に行きそうだからって全部リセットしたりヒト”だけ”でうまくいかないから完全支配するって完璧主義か?
そなたらとて竜同士内輪で方針の違いで対立している時点で”ヒト”のこと言えぬ。
何も完全支配かヒト”だけ”かの二者択一にこだわらなくても……
例えばお互い少し手助けして上手くいくならそれはそれでいいのではないか?
足りないところがあるなら補い合えばいい」

22 :
「ふん、負け惜しみの屁理屈を……! 無駄話は終わりだ!!」

そこで会話は打ち切られ、エルピスが全力の攻撃を開始する。
大きく開かれた口内に魔法陣が描かれ、竜の咆哮そのものが攻撃として叩きつけられる。

>『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』

辺りに無差別の閃光が放たれる。
ティターニアは敢えて防御は他の者に任せ、機を伺っていた。
――アルダガに決め手を託されているからだ。そして、その時は訪れた。
スレイブがバアルフォラスでエルピスの魔力を吸収することに成功し、アルダガによってその魔力が届けられる。
その絶大さに、ティターニアは驚愕した。
今ならどんなに無茶な魔法の拡大だって出来る、それだけの魔力だ。
あれ程ボロボロになっていて魔力が枯渇しているように見えるにも拘わらず。

>『単純な力量を比べるだけならば、私がお前達に勝てる道理などない。
 だが……お前達は、竜。そして、死者だ。ヒトより隔てられるべき魔の者だ。
 であれば……このような事が可能という訳だ』

エルピスが言うには、これは死者や魔に属する者を隔てる結界らしい。
しかし言葉通りに取ればある意味魔の者そのものであるはずの魔族であるシノノメも弾かれるはずだが、普通にこちら側にいる。
つまり、現在の世界で一般的に種族として存在している存在は弾かれないということだろう。
それを逆手に取る。

「エルピス殿……そなたは一人じゃない――“繋がる世界《イッツアスモールワールド》”」

これは本来、効果範囲内に存在するあらゆる種族や生物の力をほんの少しずつ借りることが出来るという魔法だ。
今回はエルピスの魔力を用い、その範囲を全世界にまで拡大した。
そして力を借りる対象の種族を敢えて指定――それは竜だ。

23 :
「竜装――”アルカンシエル”」

ティターニアは全ての属性を併せ持つ七色に輝く竜装を纏い、エルピスに対峙する。

「何故だ……何故この結界の中で竜の力を使える!?」

「何を驚いておる。竜の眷属達なら世界にたくさんいるだろう。
それに使わせてもらったのはそなたの魔力だぞ。協力が得られるのも当然というものだ」

ウェントゥス上空に翼竜がたくさん飛んでいたように、一般の種族としての竜は、
伝説の彼方の存在ではなく現在普通に生息しているのだ。

「我が眷属達だと!? おのれ、何故……ヒトなどに力を貸す!?」

「眷属達もそなたが解放されるのを望んでいるからではないのか?
そなたの眷属達と共に……そなたに巣食う絶望を浄化してやる。もう一人で苦しむのはやめろ」

そう言って杖を掲げ、魔力を集め始める。

「黙れ! 未来が見える者の孤独が、絶望が、苦しみが……! 貴様なんかに分かってたまるか!!」

「――嘘だな。そなた、今は未来が見えていないのだろう?」

「――!!」

エルピスは明らかに動揺したように見え、それはティターニアの言葉が図星だったことを如実に示していた。
本当に未来が見えるなら、もっと攻撃を避けられるはず。
それを糸口に確信できたのは、自らに呪いをかけ魔法を封じてしまったシャルムの例があったからだ。
エルピスは未来が見える力に絶望するあまり、その力を自ら封じてしまったのだった。

「その呪い、解いてやろう。前とは違うものが見えるかもしれぬぞ――」

「い、嫌だ……やめろ……!」

「センスオブワンダー!!」

エルピスが怯えるのもお構いなしに、ティターニアは杖を振り下ろす。
それは攻撃魔法ではないものの、今のエルピスにとっては何より恐ろしいものだった。
その効果は――癒しと浄化。
ティターニアは、エルピスがこうなったのはエルピス自身が自らにかけた呪縛こそが元凶だと踏んだのだった。
解き放たれた虹色の閃光の束が、容赦なくエルピスを貫いた。

24 :
指環の勇者達の力は、光竜エルピスの力を上回っていた。
例え指環の加護が失われていたとしても。
エルピスの右腕は叩き折られ、残る左腕もジャンソンさんとの力比べで押さえつけられている。

このまま力比べを続けても隙を晒すだけ。
そう判断したのか、エルピスは左腕を引いて体勢を立て直す。
と、そこでティターニアさんが前に出た。

>「もう良いだろう……! 教えてはくれぬか? そなたは一体何に絶望した? どんな未来を見たのだ!?」

……確かに、これ以上続けてもエルピスに勝ち目はないように見えます。
ですが、だとすればなおさら会話なんて、奴を戦闘不能にしてからにすればいい。
すればいいんですが……まぁ、ティターニアさんですからね……。
仕方ありません。一旦、様子を見る事にしましょう。

>「私に勝てると思っているとは……どこまでも愚かな奴らだ。
  だが……死にゆく貴様らへのせめてもの手向けに教えてやろう」

エルピスの魔力が宙空に魔法陣を描く。
そして周囲の空間に、蜃気楼のように幻影が映し出される。
人間同士の殺し合い、戦争と……その結末が。

>「酷い……」
>「絶大な威力だけではなく使用後半永久的に一帯の生物を殺し続けるという恐るべき制御不能の呪い――そんな兵器だ」

……耳が痛いですね。
私の『ドラゴンサイト』も、突き詰めれば世界中を焼き払う事の出来る兵器ですし。
もっとも、そんな事を言っていたら私達は今でも魔法を使わずに、石を削って作った道具で生活をする羽目になります。
技術の進歩と、使用者のモラルは別の問題です。

>「これは……旧世界にもしも虚無の竜が来なければ起こっていたかもしれない可能性か?」

だとすれば、そんな可能性があった……
それだけの事を根拠に世界を滅ぼそうだなんて馬鹿馬鹿しい事です。

>「違う。私が虚無の竜を呼ばなければ確実に起こっていた現実だ」
>「そなたが虚無の竜を呼んだ……だと!? そなたはそのころからすでに滅びを望んでいたのか?」
>「貴様らは本当に何も分かっていないのだな……。人間こそが世界を食い尽くし滅びを齎す存在だというのに。

「……馬鹿馬鹿しい。やはり、聞くだけ無駄ですよ、ティターニアさん。
 正直、私にはこの竜が、虚無に飲まれて正気を失っているようにしか思えない」

旧世界で起きていたはずだとかいう戦争は、虚無の竜によって実現されなかった。
よって、例え光竜が予見したものであっても、未来とは可変である。
そして、であれば虚無の竜などに頼らずとも、未来を変える術なんていくらでもあったはず。
各地の王として君臨する四竜を頼るとか。
せめてご自慢の未来視で戦争のきっかけとなる人物を見つけ出すとか。

……やはりどう考えても、導き出される結論は、この話は虚無に侵された者の妄想です。
あるいはエルピスは旧世界の四竜から物凄く嫌われていて信用がなかった、とか。

>「なるほどな――」
>「ようやく分かったか? 人間がいかに愚かかということが」
>「そなたが融通が利かぬ愚か者だということがよく分かった。
>「ふん、負け惜しみの屁理屈を……! 無駄話は終わりだ!!」

「ええ、無駄話は終わりです。つまり、あなたが滅びる時が来たという事ですよ」

25 :
>『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』

エルピスの両翼に魔法陣が浮かび上がり、周囲にギロチンのように閃光の刃が降り注ぐ。
出の早い光属性の魔法をこうも乱れ打ちされるのは……くっ、確かにキツいですね。
ですが……こちらもただ身を守っているだけではありません。
ディクショナルさんが襲い来る閃光を魔剣で吸収。
そしてその魔力をバフナグリーさんが、ティターニアさんへと転送する。

26 :
>「センスオブワンダー!!」

そうして発動された魔法は……ああ、もう。
よりにもよって、なんて魔法を……。
センスオブワンダー。不可思議なものを感じ取る感覚を、精神に付与する魔法。
誰が命名した魔法だか知りませんが、なんというか、まぁ、言葉遊びですよね。
不可思議なものを感じ取る感覚……それはつまり、正常な精神が元々持っているものです。

つまりあの魔法は、乱れた精神を正常に戻す為の魔法。
もっとも、本来は虚無による心神喪失を治療出来るほどの効力はないはずですが……
光竜とその眷属の魔力を利用しているのなら、或いは……ってところでしょうか。

「お……おぉ……」

光竜は、虚空を見つめて呻き声を漏らしている。

「……今の内にトドメを刺すとか、せめてもう少し深手を負わせるとか、しちゃ駄目ですかね」

……ラテさんやフィリアさんが、信じられないと言いたげな目で私を見る。
いやいやいや、考えてみて下さいよ。

「だって、未来を改めて予知したところで、エルピス自身の性格の悪さが治らなければ無意味ですよ」

私は噛んで含めるような口調で続ける。

「いいですか。未来を変える術はいくらでもあったはずです。
 自らの意志で修正可能な以上、未来は如何様にでも変えられたはず。
 ですがエルピスは最も多くの犠牲を払う方法で未来を変えた」

もし私が同じ未来を見ていたなら、きっと原因となる一人だけを始末して未来を変えていたでしょう。
ティターニアさんなら、今度はそれすらしなくても済む方法を予知しようとしたでしょう。

「未来予知の能力は、ただの魔法。その一つに過ぎません。
 その魔法を使って……エルピスは、あの世界の全てを滅ぼす事を決めた。
 それは、奴自身の気質、思考回路、性分……総合的に言って、性格の悪さが故です」

その部分が変わらなければ、何度未来を見ても同じ事。
厄介な能力を取り戻される前に、戦闘不能にしておかないと……。
私は魔導拳銃をエルピスへと向ける。

ですがすぐに、私の射線は遮られました。
右手を銃口に被せるように伸ばしてきたのは……

「ラテさん?一体何のつもりですか」

27 :
「やめとこうよ、シャルムさん。このまま様子を見よ?
 もしかしたらエルピスも、ティターニアさんのお人好しぶりに感化されちゃったりするかもしれないよ」」

「……そういう可能性も、あると思いますよ。だけど、とても低い可能性でしかない」

私は一歩前に出て、ラテさんの制止を躱して魔導拳銃を構え直す。

「……未来を変える術はいくらでもあった。だけど、それでも一番多くの犠牲を払う方法を選んだ」

不意に、ラテさんの声音が変わった。
幼い、童女のような語り口が……まるで年相応の、喋り方に。
思わず、私は振り返る。

「そういうのは、性格が悪いって言うんでしょ?よくないよ、そういうの」

続いて聞こえた彼女の声は、またいつも通りのものに戻っていました。
気のせい……だったんでしょうか。
……ただ一つ言える事は、どうやら私はこのとぼけた様子の彼女に、一本取られたようだという事だけです。

「……分かりましたよ」

私は魔導拳銃をホルスターに戻して、後衛の立ち位置に戻る。
エルピスはまだ虚空を見つめている。
私達はその様子をただ見守っていた。

そして…………程なくして、エルピスは、ふと……微笑みを浮かべた。

28 :
「ほら!やっぱり言った通りだったでしょ!」

わたしは思わずシャルムさんを振り返って、彼女の手を握ってそう言った。
エルピスがどんな未来を見たのかは分からないけど……あの表情!
きっと悪いものじゃなかったに違いないよ!

「ちょ、ちょっと!まだ戦闘中ですよ!前を見て下さい!」

「もー、往生際が悪いなぁ。戦いなんて、もう必要ないに決まって……」

……不意に、轟音が響いた。私達の頭上から。
見上げてみると……わたしの目に映ったのは、砕け散るプロテクションの欠片。
私達を覆うように広がった百足の王様。
そして……その甲殻に弾かれ飛散する、閃光の魔法。

「……なんで?」

わたしは、思わずそう呟いた。
慌ててエルピスに向き直って、その顔を見上げる。

「私は、未来を見た……以前と何も変わらぬ、滅びの未来をな。
 例えお前達が虚無の竜に勝利した未来であっても……世界の滅びは避けられなかった。
 共通の敵を失った三大国は一年もしない内に戦争を始めていた」

「う……嘘でしょ?」

「いいや、それが私の見た未来だ」

「……嘘だ!そんなのあり得ないよ!だって……だって、あなたは、笑ってたもん!
 そんな未来を見たなら……あんな風に、笑える訳がないよ!」

「……もう、話す事は何もない。そして……下がれ、我が眷属達よ。
 この光竜エルピスの戦いに、影を差す事は許さぬ」

エルピスはそう言うと……まだ無事な左腕を、大きく振り上げた。
上体を捻り、力を溜めている。渾身の力で振り下ろす為に。

一体、どうして……わたしには、分からない。
私になら、分かるのかな……ううん、やっぱり分からない。

未来を見る力を取り戻したエルピスは、さっきまでよりかは強くなっているかもしれない。
だけどそれでも、私達が負けるかと言えば……そうは、思えない。
エルピスに勝ち目があるとは、思えない。

エルピスの左腕が唸りを上げて、私達へと降ってくる。
だけど……ジャンさんなら、それも受け止められる。
さっきも出来たんだ。今度も出来ない訳がない。
アルダガさんと力を合わせれば、その腕を壊すのだって一瞬で出来ちゃう。

それでもエルピスは怯まない。
腕が駄目なら、今度は全身を回転させて尻尾を振り回す。
鞭のような攻撃は、ジャンさん達が受け止めようとしても重さと勢いに物を言わせて弾き飛ばせるかもしれない。

だけど、それならばとフィリアちゃんが前に出た。
巨大な百足の王が尻尾を真正面から受け止めて、絡みつく。
そして一度動きを止めたら、今度は蟻の大顎が……エルピスの尻尾を噛み切った。

29 :
……苦悶の悲鳴を上げて、なのにまだ、エルピスは戦いをやめようとしない。
不意に私達の死角から現れる、エルピスの分身……七体の甲冑。
これは……光が持つ、分離の性質によって作り出したもの。

七振りの大剣が私達に襲いかかる。
……でも、遅い。
私は一歩も動かなかった。
動こうと思った時には、シノノメさんの剣が甲冑をまとめて数体、叩き斬っていたから。
わたしの分は、取られちゃった……残りも、皆がすぐに倒しちゃうよね。

両腕が壊され、不意を突いても仕留められず……エルピスにはもう、打つ手はない。
そうとしか思えない。
なのに……なんでまだ、折れた腕を回復魔法で修復して、また折られて、それでも戦おうとするんだろう。
なんでエルピスはまた、笑ってるんだろう。
敗北が近づく度に……なんであの微笑みは、より穏やかになっていくんだろう。

……不意に、上空に魔法陣が浮かび上がった。
結界の中全てを覆うほどの大きな魔法陣。
させません、と張り詰めた声を上げて、シャルムさんが右手を天にかざした。
魔法陣を構築する紋様が、絶え間なく変化していく。
多分、術式の主導権をお互いに奪い合っているんだ。
数秒の沈黙の後……シャルムさんが右手を強く握り締めた。

瞬間、魔法陣は砕け散って……エルピスは、全ての力を使い果たしたかのように、倒れ込んだ。
私達を囲んでいた結界が砕け散る。
……指環に、光が戻った。

30 :
『ラテさん!皆さんは!怪我はありませんか?結界の外から見てはいましたが……』

「……ううん、大丈夫だよ。戦いが長引いて疲れちゃったし、少し傷も負ったけど……。
 深手は、一つもないよ。心配してくれてありがとね、メアリさん」

私は慌てた様子のメアリさんにそう答える。
……それから、エルピスの方を見た。
勝ち目がない戦いを貫き通して……ぼろぼろになったエルピスを。
傷だらけになって、出血も酷い。いくら竜でも……この傷は、致命傷のはず。

滅びの未来なんて……見えたはずがないのに。
ティターニアさんなら、あなたを許してくれたはずなのに。

「……なんで」

気付けば、私はそう呟いていた。

『……何故だ、エルピス。お前に勝ち目はなかったはずだ』

炎の指環からイグニスが姿を表して、エルピスに問いかけた。

「……なあ、イグニス。人間は……ヒトは……彼らだけで、この世界を守っていけると思うか……?」

『この期に及んで、何を……』

「私には……分からなかった。本当に分からなかったんだ。
 彼らが自分達だけで、生きていけるのか……」

『……エルピス?』

31 :
「信じたかった。私も、お前達みたいに……だがどうしても出来なかった。
 無限に見えてくる未来の、悪い方にばかり、私は目が行った」

エルピスは血を吐きながら、うわ言のように言葉を紡ぐ。

「ずっと不安だった。だから……確かめたかったんだ。
 確かめずにはいられなかかった。どんな手を……使ってでも……。
 ……見てたか、アクア。こんな小さな人間とオークごときが、私と力比べをして、勝ったんだ」

エルピスはもう、首を動かす事すら辛そうにしていた。
それでもジャンさんとアルダガさんを視界に捉えて……また、微笑んだ。

「私の尻尾が、この小さな虫けらに食いちぎられたんだ。凄いだろう、イグニス。
 それに、そのエルフは……私が心の底から絶望して生み出した呪いを、解いたんだ。
 信じられるか?テッラ。竜である私の呪いを、たかがヒトが消し去ったんだ」

……メアリさん達は、結界によって戦場から追い出されていた。
だけど……私達の戦いは見えていたって言っていた。

「見ろよ、ウェントゥス……私の美しい鱗が、台無しだ。人間風情の剣によってな。
 テネブラエ……お前が、正しかったんだな。
 ヒトには、私の目を以ってしても見通せない可能性が……あったんだ」

それでもエルピスは、皆に私達の戦いの様子を教えている。
……とても、嬉しそうに。誇らしげに。

「……私が、私が間違って……いたんだ……お前達が……正しかったんだ……」

……今なら、分かる。
エルピスがした事は、決して許される事じゃない。
許される事じゃないけど……この竜はきっと、誰よりも人間を信じようとしていたんだ。
人間の、ヒトの可能性に、狂おしいほどの関心があったから……。

だから……どんな手を使ってでも、世界を滅ぼそうとし続けてきた。
いつか、誰かが……自分の事を打ち負かしてくれる事を望んで。
そうする事でしか人々を信じ切る事が出来なかった……なんて、哀れな竜。

「ああ……良かった。良かったなあ……間違っていたのが、私で……。
 人間は……ヒトは……強かったんだ……私よりも……ずっと……」

……エルピスの鱗に宿った光が、徐々に薄れていく。

32 :
「……虚無の竜には、私が封印を施していた。
 だが……奴はそれを既に食い破り、動き出している……」

周囲には濃い、あまりにも濃い、血の臭い。
エルピスの命が……失われようとしているんだ。

33 :
「聞け……!私は虚無の竜を、世界をやり直す為の装置だと言った……。
 だが、それは正確ではない……。
 結果として、虚無の竜は世界の再生に利用出来た……だが本質は、違う……」

それでもエルピスは牙を食い縛って、私達をしかと見つめた。

「奴は……生ける屍だ。この世界と、かつての世界との距離。
 それよりもずっと遠く、私の目でも見通せないほど遠くにあった、世界の死骸なのだ」

「世界の、死骸?なに、それ……」

「言葉通りの意味だ。なんらかの原因によって滅びた……消費され尽くした世界の、言わばアンデッドだ。
 アンデッドが生者を食らい、命を取り戻そうとするかのように。
 奴は属性を食らう事で……かつての姿を取り戻そうとしているのだろう」

世界そのものの、アンデッド……そんな存在が、生まれ得るものなの?
今更エルピスが嘘をついているとは思わないけど……
スケールが大きすぎて、私のちっぽけな頭脳と器ではすぐには受け止めきれない……。

「そして……虚無の竜の肉体は、既に属性を取り戻している。分かるか?
 既に肉体は生き返っているんだ。
 そこに、クリスタルに封印されていた奴の魂が戻れば、どうなるか……」

だけど混乱気味の私を、エルピスは待ってくれない。

「私には、その未来が見えなかった。たった数年後の未来すら。
 何故か……虚無の竜が蘇れば、この世界はもう、この世界ではなくなるからだ。
 奴が滅ぶ前の……お前達も、この世界の誰も彼もが存在しない世界が、蘇るのだからな」

……そして私も、別にこの話の全てを理解出来なくたっていい。
少なくとも、虚無の竜を止めなきゃどうなるのかは大体分かった。
だったら、後は知るべき事はたった一つ。

「……どうすればいいの?」

「イグニス山脈へ行け……奴はこの世界の、己の肉体の中心を目指している。
 地中深くまで続く溶岩……そこから、奴は肉体へと戻るつもりだ」

ふと、エルピスが、ジャンさんと、ティターニアさんだけをじっと見つめた。

「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」

そう言うとエルピスは……急に激しく咳き込んで、大量の血を吐き出した。

「……メアリ。すまなかった」

最後の力を振り絞るように、私を見つめて、エルピスはそう言った。
そして……糸が切れた人形のように、どさりと、地面に首が落ちる。
もう、顔を上げて私達を見つめる……その力すら残っていない。

「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
 指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
 それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」

34 :
「……休んでいる暇はありませんよ、皆さん。
 まだ……黒狼騎士が残っていますからね」

今はまだ、黒蝶騎士と黒亀騎士、それにクロウリー卿が戦ってくれているはずですが……

「先に言っておきますよ。私は、今でもジャンソンさん達は虚無の竜を追うべきだと思っています。
 黒狼騎士はありとあらゆる戦闘手段に精通した、人の形をした怪物です。
 戦いを長引かせる事も、逃げようとする相手を逃さず釘付けにする事も、お手の物でしょう」

それはつまり一度挑めばもう、やはり時間がかかりすぎる、虚無の竜を倒しに行かなければ……
なんて考えで逃げ出す事はさせてもらえないだろう、という事。

35 :
「それでもやると言うのなら……覚悟を決めて下さい。
 これより先はもう、後戻りは出来ないと……」

「いいや、その必要はないぜ」

「……は?」

背後から聞こえた声。
振り返ると……そこには、黒狼騎士がいました。
なんで?あの三人は?まさか、もうやられてしまった?
いや違う。そうじゃない。今考えるべきはそうじゃなくて……
この状況から私が助かるには、どうするべきなのか。

咄嗟に魔導拳銃を抜く。
右手を顔の高さにまで上げた時には、突きつけるべき銃口がなくなっていた。
細切れにされた銃身が、私の足元に落ちて小さな金属音を奏でた。

「焦んなって……俺も、もう戦る気はないよ。つーか三人かがりでボコられて既に結構しんどいし」

……この言葉は、恐らくは嘘ではない。
もし嘘なら、私は既に殺されているだろうから。
ですが……

「何故……」

……私には、理解が出来ない。

「あん?何が?」

「何もかもが分からない。何故、あなたがクーデターに加担したのかも。
 何故……こんな、中途半端な形で、それを投げ出すのかも」

「あー……それね。いいぜ、教えてやるよ」

そう言うと黒狼騎士は……エルピスを、顎で指した。

「俺も、そいつと同じだよ」

「……どういう意味ですか」

「ずっと前から気になってたんだ。帝国はさ、俺が死んじまった後も大丈夫なのかよって。
 ほら、ちょっと前にあったろ。ジュリアンの奴がダーマに亡命した時。
 あの時は、昔併合された国の連中がいきり立って内乱起こしたりしたよな」

……そんな事もありましたね。
結局、一ヶ月もかからずに鎮圧は終わりましたけど。
……いえ、鎮圧するのに一ヶ月もかかった、と言うべきでしょうか。
黒騎士による国防は、内部に入り込んだ敵、ゲリラ戦術に対して相性が悪い。
そのせいで、戦いが長引いたのは知っています。

「もし俺が死んじまったらさー。起こる騒動はあの時の比じゃねーと思うんだよなー。
 そうなった時に、帝国は俺抜きで帝国を守れるのか……一度、どうしても確かめておきたかったんだ」

そこまで言うと……不意に、黒狼騎士が五体を地面に擲つように倒れ込んだ。
……い、一体何が?

「……駄目だ。もー立ってらんねえわ。やっぱもっと早くエルピスの封印ぶっ千切っとくべきだったか?
 いや……それも含めて、俺がアイツらを見誤っただけか」

「……びっくりさせないで下さいよ、もう」

36 :
「ははは、悪い悪い。でも、安心したぜ。お前らも指環なしでそいつを倒したんだろ。
 世界は……案外俺がいなくても、平気なのかもな。
 黒騎士なんてやめて、またみんなと旅にでも出ちまおうかなぁ」

黒狼騎士は呑気にそう言いながら、両手を頭の下に潜らせて、足を組む。

「行けよ。こっちの後始末は、少し休んだら俺がやっとくよ」

そのまま私達を見もせずに、彼はそう言った。

「後始末……と言うと」

「この大事な時にクーデターなんざ起こしたど阿呆共だよ。
 お前らが世界を救う頃には、全員この世からいなくなってるぜ」

「……出来ればRのは、控えませんか?
 洗脳の痕跡を確認したり……少なくとも、正式な裁判を通して罪を裁くべきですよ」

「えー?必要か?それ。洗脳だって心にセコい考えがあったから食らうんじゃねーの?」

「元老院の誰もが、対魔術の心得があるとは限らないでしょう……」

「あ、そっか。オッケーオッケー。任しといてくれよ」

「……不安です、すごく」

……ですが、黒狼騎士との戦いを避けられたのは僥倖でした。
これで後は……虚無の竜を、倒すのみ。
イグニス山脈……指輪の勇者の物語の、始まりの地、ですか。



【黒狼騎士はスルーしちゃったけど、まぁこの章自体、新規さんが来るならって感じだったしいいですよね】

37 :
アルダガとジャンが叩き込んだ一撃がエルピスの右腕をへし折り、残る左腕もジャンが抑える。
両腕を封じられてなお抗わんとする竜の、咆哮を呼び水として純粋な力の波濤。
スレイブがそれを魔剣で呑み尽くし、アルダガを通してティターニアに莫大な魔力が注がれた。
七星竜の力を遮断されているはずの結界内で、竜装の輝きが灯る――

>「竜装――”アルカンシエル”」

ティターニアは、他ならぬエルピス自身の力を転用して竜装を纏うことに成功したのだ。
エルピスは絶句する。超然とした態度を崩すことのなかった光竜が、動揺を隠せないでいる。
ティターニアは杖を掲げ、そして告げた。

>「その呪い、解いてやろう。前とは違うものが見えるかもしれぬぞ――」
>「センスオブワンダー!!」

傷つき澱んだ心を澄まし、浄化する解呪の光が奔る。
世界開闢の時から少しずつねじ曲がり、歪んみ続けた竜の呪縛が、消え去っていく。

>「……私が、私が間違って……いたんだ……お前達が……正しかったんだ……」

誰よりも世界を想っていたが為に、何もかもを抱え込んだエルピスの末路。
それは、彼の所業を雪ぐかのように穏やかで満ち足りたものだった。

>「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
 指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
 それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」

エルピスが消える。
『イグニス山脈へ行け』と、最期にそう言葉を遺して。
アルダガはその一部始終を、唇に歯の跡を刻みながら見ていた。

「ティターニアさん……貴女は、エルピスのことさえも、赦してしまえるのですね」

アルダガには、エルピスに静かな最期を迎えさせるつもりなどなかった。
沢山の仲間が犠牲になった。エルピスによって殺された修道士達は、アルダガにとってかけがえのない同胞だった。
彼が指環の魔女を使って重ねてきた殺戮は、多くの絶望をこの世界にもたらしたはずだ。

然るべき報いを受けさせて、絶望にのたうち回るその姿で、溜飲を下したかった。
神に祝詞を捧げる神官でありながら、怒りに腹の裡を支配されていたことを恥じる。

エルピスが殺した帝国の者たちのことは、所詮他国の者にとっては他人事に過ぎないと、そう言ってしまうことは簡単だろう。
しかし、確信めいた予感があった。
ティターニアは、たとえ死んだのがユグドラシアの身内であったとしても、きっと同じようにエルピスを呪縛から解き放っただろう。
千年の時を経てかつての指環の勇者の記憶を引き継いだ彼女には、エルピスの絶望に共感できるものがあったのかもしれない。

「……拙僧も、まだまだ修養が足りないようです」

教皇庁最高位の修道士は、そうつぶやいて瞑目した。
最期の最期にヒトを信じることを理解し、そして消えゆく命へ向けて、ようやく祈りを捧げることができた。

38 :
エルピスをついに打ち倒すことが出来たが、また帝国の動乱のすべてが終わったわけではない。
光竜によって洗脳されていた元老院急進派と、何より人類最強の男、黒狼騎士が控えている。
しかし、当の黒狼騎士は抗戦の意志なしとばかりに諸手を挙げた。

>「焦んなって……俺も、もう戦る気はないよ。つーか三人かがりでボコられて既に結構しんどいし」

「皮肉の下手な男だ。ボコボコになっているのもベコベコになっているのも私の鎧なのだが」

隣に普通にヘイトリィが立っているあたり、最悪の形で決着がついたわけではないのだろう。
攻城砲の直撃にも傷一つつかない彼の自慢の黒鎧は、ところどころがひしゃげて歪んでいる。
背中のあたりに何本も黒い矢が刺さっているのは、黒蝶騎士の流矢に晒されたためだろう。

「いやいや、俺ほとんど殴ってねえよ!?完全に人選ミスってただろあんた等」

魔術師のジュリアンと弓使いのシェリー。いずれの技も、流矢の呪いの対象だ。
二人とも近接戦闘の心得はあるとはいえ、真価が発揮できていたとは言い難い。
それでも黒狼騎士相手に一人も欠けていないのは、やはり腐っても黒騎士ということだろう。

>「行けよ。こっちの後始末は、少し休んだら俺がやっとくよ」

エルピスの呪縛を解くのに力の大半を費やしたらしい黒狼騎士は、そのまま五体を床に投げ出した。
戦後処理のことは考えず、先へ進めと、そう言っている。
そして、アルダガもまた同じ考えだった。

「ティターニアさん。ジャンさん。ディクショナル殿。……シャルム殿。
 拙僧が同行できるのはここまでです。ここから先へ、共に行くことはできません」

アルダガは右手に嵌めていたエーテルの指環を抜き取る。
束の間の共同戦線、仮初めの仲間としての立場から降りる、それは決別の証。

「拙僧は帝国の黒騎士として、現在の帝都を離れることができません。
 最大戦力である黒狼騎士が降りた後も、反旗を翻した急進派の勢力は未だ残っています。
 皇帝陛下と聖女様を救出し、玉座を取り戻すには、黒騎士をこれ以上欠けさせるわけにはいきません」

もともとアルダガが指環の勇者に帯同したのは、星都でエーテルの指環奪還する勅命を受けたからだ。
成り行きでパンドラや全竜、エルピスとの戦いにまで付いてきてしまったが、本来は越権行為も良いところである。

「それに……この一件で教皇庁は、あまりにも多くの人員を失ってしまいました。
 たくさんの仲間がクーデターに巻き込まれて命を落とし、今や女神の使徒は基盤から揺らいだ状態です。
 黒騎士としてではなく、女神を奉ずる神官として、聖女様を護らなければなりません」

そう言ってアルダガは、シャルムの手をとった。
スレイブがしたのと同じように、彼女の指へエーテルの指環を嵌める。

「指環は……シャルム殿、貴女が持っていてください。
 そしてどうか、帝国代表の指環の勇者として……わたしの友人として、勇者たちを助けてください。
 身勝手なお願いというのは重々承知です。それでもわたしは、貴女にこれを託したい」

しばらくシャルムへ深く頭を下げ続けていたアルダガは、うなりを付けて上体を起こした。
ティターニアとジャンへ向き直り、二人を真っ直ぐに見据えて宣言する。

「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

指環を賭けた立ち合いの約束を違えるつもりはない。
指環の勇者にそれを履行する義務などどこにもなかったが、やはり確信めいた予感があった。
彼らは、必ず帰ってくる。すべての因縁に決着を付けて、再びアルダガに会いに来てくれる。

いまはそれが、それだけが、アルダガと勇者達をつなぐ絆だ。

39 :
【もともと星都探索の間のスポット参戦のつもりだったので、アルダガはこれにて離脱します。
 延びに延びてしまった決闘パートですが、全部終わってから後日談的な位置づけでやりたいなと思ってます。
 スレイブは今後も同行しますのでよろしくです】

40 :
>「センスオブワンダー!!」

ティターニアが竜装を纏い、どんな大魔法を放ったのか。
それは今までの魔法よりもはるかに容易に使える、精神治療の初歩的な魔法だ。
落ち込んでいる友達を励ましたいというあるエルフの気持ちから生まれたとされる、ただただ真摯な思い。
それをあの膨大な魔力で光竜に叩きつければ、どんな呪いでも吹き飛んでしまうだろう。

そして正気に戻ったエルピスはわずかな抵抗をするものの、
すぐに他の指環の勇者に防がれてしまう。だが、その表情はどこか満足気だ。

そして語り始めるのは、虚無の竜に関する情報。
力尽きるまでのわずかな時間では断片的なことしか分からなかったが、ジャンには一つだけ理解できたことがある。

>「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」

「……ああ。お前があの世に行けるかどうかは知らないけどよ、祈っといてやるぜ」

ジャンは拳を胸当てに当てて目を閉じ、エルピスが消えるまでの間、オークなりの冥福を祈っていた。
そして目を開ければ、ジャンは気持ちを切り替える。やることは分かったのだから、後はそこに向けて一直線。いつものことだ。

>「……拙僧も、まだまだ修養が足りないようです」

「ありがとな。一戦やれるのはまだ先になりそうだけどよ」

そして結界が消滅し、元の場所へと一行は戻る。そこにいたのは敵対していたはずの黒狼騎士と、
ジュリアンにシェリー。そして黒亀騎士のヘイトリィだ。お互いに防具こそ傷ついているものの、顔には傷一つない。
お互いに致命傷を避け続けた結果だろう、周囲の壁や柱は斬撃や打撃の痕が色濃く残っている。

>「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

エーテルの指環はシャルムに渡され、アルダガとの約束はさらに後になってしまう。
黒騎士である以上アルダガは帝都の動乱を鎮めるのが最優先となるのは仕方ないことだが、
ジャンはそれでも一時とはいえ共闘した仲間と共にいられないのは名残惜しいものがあった。
その思いを振り払うように、つとめて明るくアルダガに答える。

「こっちに行くときにはおじさんとか他のみんなも連れてくるぜ。
 力自慢の知り合いならたくさんいるからよ、一つ稽古といこうじゃねえか!」

そして一行は飛空艇に戻り、荷物をまとめると大部屋に一旦集まった。
全ての元凶である虚無の竜。その肉体と魂が共にイグニス山脈にあり、融合を果たせば世界が滅ぶ。
重苦しい雰囲気に包まれる中、ジャンがまず最初に口を開いた。

「……こっからイグニス山脈までは近い。地図で見たけどたぶん三日も飛んでりゃいける。
 ふもとのカバンコウでいったん補給して、そこからは……」

『我ら指環の竜が虚無の竜へと導こう……なんてね。
 僕は最後まで付き合うよ、ここにいても虚無の竜がどこにいるのかよく分かる。
 たぶんエルピスの土産だと思うけど』

そう言ってアクアの幻体がテーブルに広げたイグニス山脈の地図の一点を指さす。
そこに書かれた名前は、イグニス山脈最大級の山。

『オディウム活火山。肉体はそこのはるか地下深くにあり、魂は未だ見つけられずに火口近くを彷徨っている』

41 :
――オディウム活火山は繰り返される世界の中にあって、いかなる存在にも制御できず、旧世界よりそこに存在し続けたものの一つだ。
大陸中のマントルがそこを通り、溜め込まれ、大地の怒りとも称される大噴火を数百年周期で繰り返してきた。
このエネルギーの流れを支配しようと試みた者は数多くいたが、旧世界新世界問わず全て溶岩に飲まれ、皆等しくその一部となった。

だが、今この場所は虚無の竜の魂が彷徨うことで虚無が蔓延し、わずかながらも生きていた植物や魔物たちは
等しく異常な凶暴化や巨大化、変色などで暴れまわるようになっていた。

そしてそれはイグニス山脈全体に広がり、ふもとのカバンコウもまた虚無に飲まれ、
自我を無くした人々が次々と魔物に襲われていく。

そうして増え続ける異常な魔物たちは、やがて奇妙な儀式を行うようになった。
生物の骨と自らの血肉を捧げて行うそれは、虚無の竜の魂が彼らに命じた、眷属を呼び寄せる儀式。
異なる次元、かつて滅んだ世界の残滓が、この世界の道理をこじ開けてやってくるのだ。

生物と機械が入り混じったヒトのような何か、顔が大小問わずあらゆる生物の目で構成されたワイバーンなど、
見る者の正気を吹き飛ばす狂気の産物が群れを成してイグニス山脈に蔓延っていく。

『死にたくない。生き残りたい。生物の本能を我は叶える。我は竜にあらず。窮極の願いを叶える、唯一絶対の神なり』

そう叫び続ける虚無の竜はかつてどこかで歪んだ成長の果てに滅んだ世界が作り上げた、対世界兵器ともいうべきものだった。
自己進化、自己学習、自己複製。生物が持つ3要素を兼ね備えたこの兵器は最後にインプットされた命令を実行し続け、
次元を渡り歩き、あらゆる世界を滅ぼし続けた。

『この存在……世界を適度な負担をかけるにはちょうどいいかもしれない。
 光竜に制御機構を支配させ、最上位権限を私にしておけば歯向かうことはないだろう。
 肉体はオディウム活火山に閉じ込めれば私への万が一の反逆や暴走を防げる』

だがあるとき、安定した世界に飽きかけていた全竜が入り込んできたそれを見つけた。
世界を食らおうとするそれに立ち向かい、必死に抗い続けたヒトたち。全竜はそれにとても喜び、
光竜に命じてヒトの精神とよく似た制御機構を操り、記録を書き換えて全竜の手駒となり、
『虚無』と名付けられた精神破壊兵器を一定の間隔を置いて、最低出力で放つように設定された。

最上位権限を持った全竜の消滅と、第二権限を持った光竜が虚無によって権限を放棄し制御を失った虚無の竜は
命令権限を持った者がいなくなったとして、自己判断で活動を始める。

『制御機構と外装パーツの融合を最優先。その後第一命令「世界掌握」を実行。
 融合の障害を排除するため自己複製・自己召喚を実行。現地生物との融合を実行』

ただ眼前の世界を自らの眷属で埋め尽くすという最初の命令を実行するために、
虚無の竜は一切の感情なく、虚無と眷属をばらまいていく。


【ラスボスだし設定盛ってもいいかなと思いました
 最後の章になると今度こそ信じて!】

42 :
ティターニアの魔法を受けたエルピスは確かに正気に戻ったように見えた。
しかしまるで倒されるのが目的であるかのように戦いを続行し、ついに倒される。
正気に戻ったエルピスは虚無の竜に関する情報を語り、世界の命運を一行に託した。
先程まではやはり虚無の竜の影響で混乱していたようで、
もしかしたら戦いの最中にエルピスが見せた映像は、本当は遥か昔の虚無の竜の記憶なのかもしれない。

43 :
>「イグニス山脈へ行け……奴はこの世界の、己の肉体の中心を目指している。
 地中深くまで続く溶岩……そこから、奴は肉体へと戻るつもりだ」
>「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」
>「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
 指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
 それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」

「やれやれ、そこはせめてもの罪滅ぼしに指輪にでもなって力を貸すのが筋だろう。
今まで散々振り回しておいて正気に戻った途端にちゃっかり離脱とは。
なーにが完全な敗北だ、この勝ち逃げ野郎め! きっちり世界救ってやるゆえ指くわえて見とくがよい!」

からかうような口調でエルピスの敗北を否定するティターニア。
取るに足りない戯言だが、消え際のエルピスは“しまった!”と思っただろうか。

>「ティターニアさん……貴女は、エルピスのことさえも、赦してしまえるのですね」

「さあどうだか。あやつ、悔しさのあまり消滅できぬかもしれぬぞ?」

>「……拙僧も、まだまだ修養が足りないようです」

ティターニアの冗談だか本気だか分からない言葉を受けほんの少し溜飲が下りたのかは分からないが、
アルダガは静かにエルピスの冥福を祈るのであった。
結界が解けてみると、黒狼騎士と戦っていた者は皆生きており、幸いなことに黒狼騎士はすでに戦う気はなくしていた。
シャルムと黒狼騎士の会話を危機ながら、戦意喪失してくれて心底良かったと思う。
そしてアルダガが、帝国を守るために虚無の竜との戦いには行けないと告げる。

>「ティターニアさん。ジャンさん。ディクショナル殿。……シャルム殿。
 拙僧が同行できるのはここまでです。ここから先へ、共に行くことはできません」
>「拙僧は帝国の黒騎士として、現在の帝都を離れることができません。
 最大戦力である黒狼騎士が降りた後も、反旗を翻した急進派の勢力は未だ残っています。
 皇帝陛下と聖女様を救出し、玉座を取り戻すには、黒騎士をこれ以上欠けさせるわけにはいきません」

44 :
「分かった――どうか皇帝殿をよろしく頼むぞ」

>「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

>「こっちに行くときにはおじさんとか他のみんなも連れてくるぜ。
 力自慢の知り合いならたくさんいるからよ、一つ稽古といこうじゃねえか!」

「では我はユグドラシアの面々を連れて行こう。パック殿、そなたも一緒に来るであろう?」

「なんだか嫌な予感が……。
指輪の勇者を称える記念式典の目玉イベントにされてしまいそうな予感がするぞ……」

「それはそれで面白いではないか」

最初は単なる決闘の約束だったものが、今や互いに生き残って必ず再会するという誓いになっていた。

>「……こっからイグニス山脈までは近い。地図で見たけどたぶん三日も飛んでりゃいける。
 ふもとのカバンコウでいったん補給して、そこからは……」
>『我ら指環の竜が虚無の竜へと導こう……なんてね。
 僕は最後まで付き合うよ、ここにいても虚無の竜がどこにいるのかよく分かる。
 たぶんエルピスの土産だと思うけど』
>『オディウム活火山。肉体はそこのはるか地下深くにあり、魂は未だ見つけられずに火口近くを彷徨っている』

「奴が肉体を見つける前に肉体まで辿り着き破壊してしまえば――全てが終わるということか」

逆に言えばそれより早く虚無の竜が肉体を探し当てて復活してしまえば、違う意味でリアルに全てが終わるということだ。
もはや一刻の猶予もない。

「パック殿、全速力でカバンコウへ!」

「ラジャー!」

45 :
第9話『試練の光竜』
一行の元に駆け付けた黒亀騎士ヘイトリィによって、
クーデターが起き皇帝と聖女が教皇庁で軟禁されているという情報がもたらされる。
それには黒狼騎士がかかわっているとのことだが、
人心を操る力を持つエルピスが裏で糸を引いている可能性が高いと踏んだ一行は教皇庁へと向かう。
辿り着いてみると案の定黒狼騎士がエルピスと手を組んでおり、彼らとの戦闘が始まった。
エルピスは虚無の竜の影響によって半ば錯乱しつつ、一行を指輪の力が使えない結界内へと隔離するが、
戦いの最中に正気を取り戻した後に倒されることとなった。
人間の可能性を信じたいがために世界を滅ぼそうとしたと語ったエルピスは
世界の命運を一行に託し、満足げに消えていくのであった。
一行はエルピスが残した言葉に従い、虚無の竜との決戦のため、虚無の竜の肉体が眠るというイグニス山脈へと向かう。

46 :
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. 第10話開始.。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

イグニス山脈に近づくにつれ、地上が異様な状況になっていることに否応なく気付くことになった。
見たこともないような奇怪なモンスターが闊歩しているのだ。
この調子では、拠点としてあてにしていたカバンコウもあてにならないかもしれない。
そう思いつつも町の様子を見るために着陸してみると、案の定魔物に取り囲まれていた。
しかし一行が臨戦態勢に入るよりも早く、炸裂する魔法の爆炎や閃く剣劇が、一瞬にして魔物たちを蹴散らした。

「遅かったな――どこで道草食ってた」

「よくぞご無事で……!」

世界の再建のために旧世界に残ったはずのアルバートや
虚無の竜の居場所を突き止めるためにいったん別行動していた守護聖獣達、
そしてハイランドダーマ連合軍の一部っぽい面々が一行を出迎える。

「そなた、旧世界に残ったはずでは……」

「何を呆けている、虚無の竜が復活しては旧世界もろとも滅びてしまうだろう」

「それはそうだがどうやってここまで……まあ良いか」

旧世界からの転生者に物理的な時間と距離の話を持ち出すのは野暮というものだろう。

「話は後じゃ、こちらへ!」

ダグラスに先導されてついていくと、少し大きめの集会所のような建物が一同の拠点となって使われていた。
一行が帝都へ出発した直後ぐらいにこの近辺で異様なモンスターが沸いてきたという情報が入り、
すぐに駆け付けて住民の避難誘導兼周辺の調査にあたっていたらしい。
事の経緯を伝えると、彼らは一行を万全な状態で虚無の竜の肉体の元へたどり着かせるため、
道中のモンスターの掃討を引き受けてくれることとなった。
こうして心強い援軍を得て、ついに最後の戦いが幕を開ける。

【最終章オールスター的なノリで集結させてしまった。
今までに出た味方系NPCはほぼいそうな感じなのでスポット参戦してみたい方は是非
これでメインストーリーとしては最終話になりそうだが決闘後日談編は是非やろう!】

47 :
>「ティターニアさん。ジャンさん。ディクショナル殿。……シャルム殿。

不意に、バフナグリーさんが私達の名前を呼んだ。
……少し張り詰めた声。彼女が何を言おうとしているのかは……分かります。

> 拙僧が同行できるのはここまでです。ここから先へ、共に行くことはできません」

「……ええ、分かっていますよ」

>「拙僧は帝国の黒騎士として、現在の帝都を離れることができません。
 最大戦力である黒狼騎士が降りた後も、反旗を翻した急進派の勢力は未だ残っています。
 皇帝陛下と聖女様を救出し、玉座を取り戻すには、黒騎士をこれ以上欠けさせるわけにはいきません」

クーデターの首謀者達は自分が片付けておく。
黒狼騎士はそう約束してくれましたが……それが成されるのは、彼の体力が回復した後。
いえ、気が向いた時と言うべきかもしれませんが。
とにかく……それが成されるまで、反逆者共を放置する訳にはいきません。

「それに……この一件で教皇庁は、あまりにも多くの人員を失ってしまいました。
 たくさんの仲間がクーデターに巻き込まれて命を落とし、今や女神の使徒は基盤から揺らいだ状態です。
 黒騎士としてではなく、女神を奉ずる神官として、聖女様を護らなければなりません」

つまり……私とバフナグリーさんは、ここで指環の勇者とはお別れだという事です。
名残惜しいですが……彼らが事を仕損じる事はないでしょう。
私達はさっさとこちらの問題を片付けて……祝勝会の準備でもしますか?なんて……。

>「指環は……シャルム殿、貴女が持っていてください。

「……なんですって?」

……バフナグリーさん。私だって帝国人なんですよ?
自分で言うのもなんですが、私ほどの愛国者は、そうそういません。
私は大きな声や過剰な比喩ではなく、技術開発によってそれを表現するというだけで。

その頼みは聞けません。
私は彼女の手を拒むように、右手を握りしめる。

「駄目ですよ、バフナグリーさん。反逆者共との戦いは対ゲリラ戦になります。
 エリアの掃討、確保、人心掌握。優れた魔術師が必要に……」

>そしてどうか、帝国代表の指環の勇者として……わたしの友人として、勇者たちを助けてください。
 身勝手なお願いというのは重々承知です。それでもわたしは、貴女にこれを託したい」

……随分と断りにくい頼み方をしてくれますね。
確かに私は、あなたとの間に友情を感じていますよ。
ですが、だからと言ってどんなお願いでも聞いてあげられるほど、私は甘い人間では……

「……仕方ありませんね。確かに、虚無の竜の討伐隊に帝国人が一人もいないのは、
 後々の政治的な弱点になりかねません。引き受けてあげますよ、まったくもう」

……甘い人間ではないつもり、だったんですけどね。
どうしてこうなってしまったのやら……まぁ、こんな自分も、嫌ではありませんけど。
私は指を開いて、バフナグリーさんが差し出した指環を受け入れる。

48 :
>「イグニス山脈で、指環を巡る最後の旅が終わったら、帝都に立ち寄ってください。
 かなりの遠回りになってしまいましたけれど、約束を果たしましょう」

「決闘の際には、私にあなたの立会人を務めさせて下さいね。必ずですよ。約束です」

例え皇帝陛下、聖女様であっても、その役目は譲れません。
……その為にも絶対に勝って、生きて帰ってこなくては。
私はジャンソンさん達を振り返る。

「……世界を救う英雄だなんて、私の柄じゃないんですけどね。
 それでも、委ねられたからには最大限の仕事をしますよ。必ず、世界を救いましょう」

49 :
 
 
 
それから三日後……私達はカバンコウの町へと到着しました。
イグニス山脈の入り口として知られるその町は、今では期せずして、虚無の竜討伐の為の軍事キャンプと化していました。
ローレンス卿に、四聖獣に……ムーアテーメン学長まで。
彼らは私達の為に、虚無の竜までの道を開いてくれるそうです。

そして私達はカバンコウを発ちました。
異形の怪物達を退けながら山道を進んでいくと……私達を待ち受けていたのは、更に奇妙な光景でした。

岩と土で構成されていた山道が突然、白く艷やかな……石材か、金属か……何かで舗装された道路のように。
建ち並ぶのはまるで無銘の墓石のような……やはり真っ白な、直方体の塔。
それが、ずっと、ずっと先まで。見渡す限り……。

「これは……一体……」

あちこちに徘徊しているのは、ヒトと同じ……二足歩行の生物。
ですが……あんな姿をした種族は、見た事も、聞いた事もありません……。

灰色の肌。異様に釣り上がった、黒曜石のような眼球。
体毛は一切なく……私達とは比べ物にならないほど細い顎。

不意に、一体の……なんと呼んだものでしょうか。
謎の生物が私達にふらふらと、歩み寄ってきました。
私は咄嗟に魔導拳銃を抜きましたが……どうも、敵意を感じません。

謎の生物……とりあえず、アンノウンとでも仮称しますか。
アンノウンは、口元が裂けたかのような笑みを浮かべて、両腕を左右に広げる。

「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

そして次に、明朗な声音でそう言いました。

「……私達の言葉が、分かるのですか?でしたら……一応、きちんとした段取りを踏みましょうか」

私は一度魔導拳銃を降ろして、一歩前に出ました。

50 :
「我々はこの世界の住人です。あなた達がしている事は看過し難い侵略行為です。
 今すぐ中断して下さい。拒むのであれば……」

「システムのリブートはあと72分で完了します。もう暫くお待ち下さい。
 また、再構築における処理の高速化の為、知的生命体は可能な限り、
 現在の組成に近い存在へと変換されます。ご安心下さい」

「……聞いて下さい。拒むのであれば、我々はあなた達に宣戦布告せざるを得なく」

「あなたはシャルル・フォルシアン。そちらの方はファン・ジェンナー。
 あなたはタイターン・グッドフェロウ。あなたはアレックス・トーレティアとして。
 ご安心下さい。あなた達は既に新世界での席を獲得しています」

「何を、言って……」

「いずれも存在構築律の一致度は70%を超えています。再構築の前後において、あなた達はほぼ同一人物のままです」

「再構築の完了後には一等記憶処置薬がドローンによって全世界へ散布されます」

「あなた達は最初からそこにいた事になります。私達も最初からここにいたことになります」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

「世界は何事もなく再起動されます。世界は何事もなく再起動されます」

一体、また一体と、周囲にいたアンノウン達がこちらを向いて、歩み寄ってくる。
そのあまりにも不気味な光景に……私は、気づけば一歩引き下がっていました。

心臓が早鐘のように暴れている。
彼らが言っている事が、まるで理解出来なかったなら、こうはならなかったでしょうに。
でも……私には、理解出来た。理解出来てしまった。

彼らは……この世界は、まさかずっと、こうやって……
何度も『再起動』を繰り返してきたのでしょうか。
その所業は……言葉では言い表せない。
だけど、一番近い言葉を当てはめるなら……なんて、冒涜的な事を……。

アンノウンの一体が、私が下がった分だけ、前に出た。

「っ……!」

私は思わず、魔導拳銃を抜いて、その銃身に魔力を流していました。
銃声が響き……目の前の、アンノウンの頭部が弾け飛ぶ。
……その瞬間、全てのアンノウン達が私達へと飛びかかってきました。

「……ご、ごめんなさい!余計な事をしました!」

一体一体は、なんて事のない力と速さ……だけど、数が多い。あまりにも。
それこそ一つの都市の住民が、全て私達に迫ってきているかのように。

51 :
『再構築の妨害行為を確認。迎撃用ドローンを展開』

更に、目の前に広がる白い街路。
そのあちこちが、まるで上げ下げ窓のように開いていく。
そして中から姿を現したのは……様々な形状の……ゴーレム?
馬鹿な。魔力反応が一切ないゴーレムだなんて……一体、どうやって動いて……。
……こんな状況でなければ、好奇心をくすぐられる現象なんですけどね。
ですが、この数は……いちいち掃討しながら前進出来る規模ではありません。

「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」

背後から聞こえたのは、ローレンス卿の声。
直後、前方のアンノウン達を爆発的な炎が飲み込んだ。

「悪いが、援護はこれまでだ。この連中に山を下らせる訳にもいかないだろう?」

「……ありがとうございます!急ぎましょう!
 アレの言っていた事が全て真実なら、思っていたより時間は残っていないかもしれません!」



【山道がリフォームされていつか滅んだ世界の一部が再現。
 最終章、よろしくお願いします】

52 :
なんつーか
面白い展開だと思って書いてる?
真面目にやる気無くすわ

53 :
スレイブ来なくなったら普通にラテのせいだな

54 :
黒騎士として帝都に残ることを選んだアルダガと別れ、一行は次の目的地へと向かう。
最終決戦の至る場所にして、全ての始まりの地――イグニス山脈。
最後の補給の為に寄港した麓の街カバンコウでは、懐かしい顔ぶれと再会することとなった。

「連合軍やユグドラシアの導師陣……それに、守護聖獣たちか」

『げぇっ、パイセン!』

寄合所を改造した拠点で何やら作業をしていたケツァクウァトルがこちらの姿を認め、駆け寄ってくる。
スレイブは軽く手を挙げてそれに応えるが、ウェントゥスはバツの悪そうな顔をしてスレイブの指環に引っ込んだ。
ケツァクウァトルの手がズイっと伸びて、指環の中からウェントゥスを引きずり出した。

『何故私を避けるのです?ウェントゥス。シェバトに居た頃はあんなに私を顎で使っていたではないですか』

『その、当時は儂も虚無に呑まれておったからさぁ……。
 そう!虚無のせいなんじゃ!虚無の竜とかいう腐れドラゴンがみーんな悪い!!
 まったく許せん悪徳じゃな!みんなで一緒に倒そうね!!』

『あの頃はまだ正気を保っていましたよね?虚無に呑まれないためにあれこれ画策していたのですから』

『いや!多分虚無に呑まれとったと思いますよ儂は!なんか肌に黒い斑点みたいなのが浮いとったもん』

『それは……普通に加齢によるシミでは?もういい年でしょう貴女。今年で何千歳ですか』

『お主マジで口悪くなったな!!』

積年の恨みつらみをジワジワと晴らすケツァクウァトルは、なんというかとても良い顔をしていた。
よほどシェバトに居た頃に胃痛の種を溜め込んでいたらしい。
ウェントゥスを引きずってどこかへと去っていくケツァクウァトルを、スレイブは黙祷しながら見送った。


補給を終え、連合軍が切り開いた道を進んで一行はオディウム活火山へとたどり着く。
ごつごつとした殺風景の岩肌が、あるときを境に一変し、視界が真っ白に塗りつぶされた。

「なんだこれは……何が起こっている?」

スレイブはイグニス山脈の地理について、ダーマ軍の諜報局が入手した情報の又聞きでしか知らない。
しかし、目の前の光景は、既存のいかなる資料の内容にも該当しなかった。
隣で帝国人のシャルムもまた驚いているあたり、これは本来の活火山の姿ではないのだろう。

艶のない、白磁の舗装。地面と同じ色で構成された無数の建造物。
ここは都市なのか。それとも異教の祭壇なのか。スレイブの知識につながるものが何もなく、見当がつかない。
そして、白磁の往来を徘徊する生物の姿を認めた。

55 :
「ゴブリン……?いや、違う」

体毛がなくつるつるとした皮膚、大きく見開かれた両眼には瞳孔が確認できない。
痩せこけた体躯はゴブリンに似ているが、肉や木の根を咀嚼するための頑健な顎をこの生物は持っていなかった。
まるで花の蜜でも飲んで生きているかのように、異様に口が小さい。
見れば、往来の隅に腰掛けている一体が、銀色の革袋のようなものを口につけて中味を啜っていた。

>「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

ゴブリンもどきの一体がこちらへ近寄ってきて、笑顔とともに一行を出迎える。
喋りかけてくる内容は言語こそ大陸共通語だが、言っている意味のほとんどはわからなかった。
言葉は通じる。しかし、会話をするという意志が欠落していた。

>「我々はこの世界の住人です。あなた達がしている事は看過し難い侵略行為です。
 今すぐ中断して下さい。拒むのであれば……」

シャルムが魔導拳銃を構えて尋問する。
武器を突きつけられてなお、ゴブリンもどきの姿勢には怯えも怒りもない。

>「システムのリブートはあと72分で完了します。もう暫くお待ち下さい。
 また、再構築における処理の高速化の為、知的生命体は可能な限り、
 現在の組成に近い存在へと変換されます。ご安心下さい」

「何だ……?何を言っている?」

リブート?再構築?存在の変換?
要領を得ないまま矢継ぎ早に投げかけられる情報の洪水に、スレイブは混乱していた。
だが、技術畑のシャルムには、彼らの言葉の意味が理解できているようだった。

「シアンス、翻訳してくれ。彼らは一体なにを――」

>「っ……!」

その時、突如シャルムが発砲した。
『賢者の弾丸』がゴブリンもどきの額にめり込んで、頭蓋を内部から破裂させる。
絶命したゴブリンもどきが崩れ落ちると同時、いつの間にか周囲に集まっていた他の連中が一斉に飛びかかってきた。

>「……ご、ごめんなさい!余計な事をしました!」

「問題ない。どのみち穏便にここを進めるとは思っていなかった」

跳躍してきたゴブリンもどきを空中で斬り飛ばす。
胴を半ばで断たれた異生物、その血は赤色ではなかった。青と緑を混ぜたような、異形の血潮。
漏れ出した血液は空気に反応して泡立ち、亡骸を瞬く間に溶かしていった。

56 :
『個体番号11496の活動停止を確認。防疫の為自己消化体液による構成体の消却を実施します』

『現住生物による攻撃行動を検知。大型の刃物を所持。緊急対応プロトコル:ベータを展開します』

建築物の中から現れたゴブリンもどきの一体が、こちらへ向けて長銃のようなものを構える。
その引き金が引き絞られる前に、スレイブも腰から銃を抜き放って射撃した。
ザイドリッツから預けられた長銃をシャルムに改修してもらった、ソードオフライフルだ。

風魔法によって加速した鉛玉は銃手のゴブリンもどきの胴に風穴を開けて、やはり死骸はすぐに崩壊した。
取り落とされた長銃が地面に落下すると同時に暴発する。
大気を劈く雷鳴じみた音と共に、紫電を帯びた光条が空を駆け上っていった。
数秒のち、空を覆っていた雲が大きく抉れ、吹き散るのが見えた。

『電磁弾体加速装置の暴発により高度5600mの大気層に軽度の損傷。補修完了まで5秒――コンプリート』

「馬鹿な……天上の雲を穿っただと……?あんな小さな長銃に、それほどの威力が!」

>『再構築の妨害行為を確認。迎撃用ドローンを展開』

スレイブの驚愕をよそに、拡声魔法を通したような越えが響き渡る。
白磁の建物が左右に開き、中から無数のゴーレムが地響きを立てながら這い出てきた。
帝国のものでも、ハイランドのものでもない。どの国家の機影にも該当しないゴーレムだ。

>「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」

行く手をゴーレムに阻まれ立ち往生した一行に、アルバートの援護が飛ぶ。
魔剣の炎がゴーレムを呑み尽くし、焦げ付いた道が拓けた。

>「……ありがとうございます!急ぎましょう!
 アレの言っていた事が全て真実なら、思っていたより時間は残っていないかもしれません!」

「72分……と言っていたな。世界の命運を分けるには、随分と中途半端な時間だ!」

驚愕することばかりで皮肉にも切れがない。
とまれかくまれ、アルバートの稼いだ時間を使って、指環の勇者一行は活火山の火口を目指す。

「クソ、方向感覚がまるで利かないな……俺たちは今山道をちゃんと登れているのか?」

白磁の建築物は進むごとに密度を増し、視界を著しく狭めていく。
真っ白な林を最早掻き分けんばかりに進んでいくと、やがて視界が拓けた。

57 :
「これは……街、なのか……?」

眼の前に広がる光景は、おそらく定義の上では『都市』と呼ばれるものなのだろう。
しかし、スレイブの知るダーマの王都やシェバト、帝都とはまるで異なる様相を呈していた。

足元の真っ黒な石畳は、石の一つ一つが非常に細かく、平坦で僅かに柔軟性がある。
見上げれば首が痛くなるほどに高くそびえ立つ尖塔は、何故か外壁が全て透明な硝子製だ。
広々とした往来の端には、色とりどりの金属と硝子で構成され、車輪の4つ付いた荷車のようなものが置かれている。
見たことのない言語で書かれた看板と思しき板は、きらびやかに輝く燭灯で覆われていた。

舗装路があり、建物が密集しているという都市の条件を満たしてはいるが、到底スレイブには理解ができない。
既存の知識と眼の前の光景があまりにもかけ離れていて、脳が認識を拒否していた。

『居住区画αに現住生物の侵入を確認。排除プロセスを実行します。
 該当区域の構成員は40秒以内にポーターを起動し、区域から退去して下さい。
 これは管理当局による指示です。従わない場合に発生した損害については、免責事項に含まれます』

そのとき、頭上から鳴り響く声と共に、大気を叩く羽ばたきの音がした。
鳥や飛竜の羽ばたきにしてはあまりにも高速で連続した羽音の主は、林立した尖塔の影から姿を現す。
鮫に似たずんぐりとした胴体。その側面に翼はなく、代わりに上部で何かが高速で回転している。
おそらく風車の原理を逆に利用して、羽根を回転させることで風を生み出し、その風で巨体を宙に浮かせているのだ。

「飛竜……?」

『区画αにて現住生物を発見。無人戦闘ヘリによる迎撃を開始します』

飛竜もどきの"頭部"と思わしき部分から、束ねた筒のようなものがせり出てきた。
軍人としての直感がスレイブに防御を選択させる。

『機載ガトリング砲、斉射』

風魔法による障壁を展開したと同時、飛竜もどきが"ブレス"を吐き出した。
無数の鉛礫。一発一発なら風竜の障壁を貫けるものではないが、その数が余りにも多かった。
1秒に20発を数えるペースで撃ち出される鉛の弾丸に、多重展開した障壁が一枚また一枚と割られていく。

「馬鹿な……この物量は……!」

指環の無尽蔵とも言える魔力を全て障壁に回しているにも関わらず、スレイブは押し込まれつつあった。
斉射開始から10秒経過してなお、飛竜もどきのブレスに衰える気配はない。

58 :
【旧々世界?の兵器と遭遇】

59 :
世界観を壊すのマジやめて

60 :
ドラリン終わったのかな?

61 :
◆ロールプレイング・ノベル入門【1】◆
https://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1537503921/

【VRP=バーチャル・ロールプレイング】
コテハンで架空のバーチャル・キャラクターを作って、ロールプレイをする遊びです。
応用すればTRPGや、個人あるいは共同での小説執筆のようなことも可能です。
スレッドを都市や建物に見立てて、大規模RPGのような事も出来るかもしれません。
まだ未完成ですが、みんなでその遊び方やシステムを完成して行きましょう。

【RPN=ロールプレイング・ノベル】
RPNとはVRPを基礎とし多人数で小説創作のようなことを行う遊びと演習を兼ねた究極のメソッドです。

62 :
カバンコウは以前ジャンが訪れたときとは違ってすっかり様変わりしており、簡易的な要塞となっていた。
異形化した魔物たちの死体や残骸が街の入り口近くに転がり、連合軍や帝国軍の兵士たちが
交代で周囲の見張りをくまなく続けていた。

そして一行はオディウム活火山へと向かうために、連合軍に突破口をこじ開けてもらうことになった。
おそらく最後の武器の手入れと薬の補充を終え、ジャンはオディウム活火山を見上げる。

「……前に見たときは、あんな気味の悪いもんじゃなかったな」

暗雲に包まれ、隙間から雪が降ったかのように真っ白に染められたその山は、
まるで何かの祭壇のようだ。変異した魔物や動物も全てあそこを中心に発生しているという偵察隊の情報から、
ほぼ間違いなく、虚無の竜が本体と融合する時間稼ぎに環境を変化させているのだろう。

一時期とはいえ共に戦った仲間の大槌と、守るべき者のために戦った戦士の槍。
そして再戦を誓った黒鳥騎士の短剣をそれぞれの鞘に収納し、新調した鋼の胸当てと脛当てを身に着ける。
凪いだ海のように蒼く輝く指環をひとしきり布で磨いて付け直せば、準備は整った。
そして一行は連合軍がこじ開けた突破口を進むべく、オディウム活火山への道を歩き始める。

>「なんだこれは……何が起こっている?」

>「これは……一体……」

岩と砂、わずかの草木が生える山肌が突如として白一色に塗りつぶされる。
そこにあるのは塵一つない舗装された道と、継ぎ目がまったく分からない数々の建造物。
さらにその奇妙な街を闊歩する、生物というより人形と呼んだ方が正しい生き物たち。

>「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

その一体がこちらに近づき、笑顔のような表情を浮かべてこちらへと話しかけてくる。
言語こそジャンも話せる共通語だが、どこか発音が奇妙だ。まるで台本をそのまま読み上げているような、感情の籠らない声。
シャルムが魔導拳銃を突きつけて事情を問い質せば、返ってきた答えはまったく訳の分からないものだった。
ジャンにはそれが理解できず、だが徐々にこちらを取り囲むように現れる生き物に微妙な違和感を感じていた。

>「何だ……?何を言っている?」

「こいつらヒト……なのか?なんだか集まってきてるけどよ、正直不気味だぜ」

背中の鞘からミスリルハンマーをいつでも取り出せるよう柄に手を添えて、辺りを警戒する。
周囲の音をよく聞いてみれば、普通の街のような賑わいや生活音といったものが一切しないのだ。
虚無の竜は何を考えてこんなものを作り上げたのか、ティターニアに聞いてみるかとジャンが口を開いた瞬間だ。

>「……ご、ごめんなさい!余計な事をしました!」

「こんな不気味な街に長居するこたあねえ!とっとと進むぞ!」

こちらに近づいてきた生物の頭をシャルムが撃ち抜き、それと同時に一斉に周りの生物が飛び掛かってくる。
その内の一体がジャンの振り下ろしたミスリルハンマーに黒光りする刃物をぶつけ、そのまま押し潰された。
力はジャンよりはるかに劣るが、使っている武器は異常なほど切れ味がいい。

ぶつけられた部分に欠けが生じていることに気づいたとき、ジャンはそのことに気づいて鳥肌が立った。
生物をRための、純粋な威力を徹底して追及した武器なのだ。ドワーフが鍛えたミスリルハンマーのように、
技術や武勇を誇る目的があるものではなく、ただ効率的にRことだけを追求した、凄まじい切れ味の短剣。

63 :
>「馬鹿な……天上の雲を穿っただと……?あんな小さな長銃に、それほどの威力が!」

「こりゃまともに相手できねえぞ!胸当てや鎧なんて意味がねえ!」

どこかの路地や建物に潜り込み、いったんやり過ごさなければそこら中から撃ち抜かれるか、切り裂かれるか。
飛び掛かってきた生物の死体が握っていた刃物をとりあえず一本拝借し、ジャンは途方に暮れながらも応戦する。

>「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」

さらには、ジャンがかつて戦ったスチームゴーレムをより洗練されたデザインにしたようなゴーレムまで
無数に現れるが、それらを薙ぎ払うようにアルバートが魔剣の炎を解き放ち、無理矢理道をこじ開ける。
シャルムが解読したことが正しければ、あと1時間と少しでこの世界がこの不気味な世界に塗り替えられてしまう。
一行は時折現れる人形めいた生物たちを排除し、純白の建造物が立ち並ぶ通路を駆け抜けていく。

>『居住区画αに現住生物の侵入を確認。排除プロセスを実行します。
 該当区域の構成員は40秒以内にポーターを起動し、区域から退去して下さい。
 これは管理当局による指示です。従わない場合に発生した損害については、免責事項に含まれます』

そうして白一色から、少しだけ色のついた風景へと周囲が移り変わった直後。
翼のない飛竜のような何かが、轟くような低音を響かせて空中に静止していた。
その何かは無機質な音声と共に鋼鉄の筒を束ねたものを先端から突き出すように展開し、こちらへと向ける。

>『機載ガトリング砲、斉射』

あまりの発射間隔の短さに、一つの音として連なって聞こえるほどの銃声が辺りに響き渡る。
スレイブが指輪の魔力を使って障壁を展開するが、魔力を全く感じさせないにも関わらず凄まじい速度で展開する内から砕かれていく。

>「馬鹿な……この物量は……!」

「こいつは逃げきれねえな、前に出るぜ!」

障壁の裏からジャンは飛び出し、拳を飛竜もどきに向けて振りかぶったかと思うと、
指環から放たれた水流がジャンの構えを真似るように巨大な拳を形作り、ジャンが振り上げた瞬間、
水流の拳が飛竜もどきを下から思い切り突き上げ、その衝撃で一時ではあるが銃声が止み、飛竜もどきは大きく体勢を崩す。
そしてその上部で回転を続けていた何かが周囲の建物にぶつかり、身体を歪ませて高度を下げていき、やがて墜落した。

64 :
「ハッ、時間かけてらんねえんだよ!
 出し惜しみはしねえぞ、とっとと行こうぜ!」

これまでの旅で鍛えた実力を誇るように、ジャンは威勢よく走り出す。
この飛竜もどきは他にもいるのか、遠くから同じような低音が徐々に大きく聞こえて近づいてくるのがはっきりと分かる。
いくら防御が薄いとはいえ、周囲からあれを一斉に撃たれればあっという間にひき肉にされるだろう。

路地から路地へ、開けた場所で戦わないよう気を付けつつ一行は進む。
狭い場所ならばこちらと同程度の大きさの敵しか遭遇せず、それならば恐れることはなかった。

『……みんな、気づいてるかい?
 虚無の竜が僕たちに注意を向けた、ヒリヒリするような圧力を前から感じるよ』

「アクア!そいつは吉報ってもんだ、わざわざこの道が正しいって教えてくれてるんだからな!」

火口だった場所に作り上げられた硝子の塔は、先程よりずいぶんと大きく見える。
上空を飛び回る飛竜もどきはより数を増し、時折遭遇する人型生物も甲冑を纏ったものや大型の武器を持ったものが増えてきた。
先頭を走るジャンはそれに怯むことなく突き進み、アクアの助言にも前向きに返してみせる。
だが、かすかな不安がジャンの頭をよぎる。他の仲間と違ってジャンは指環なしでは魔術を使えず、
現れる敵は指環の加護なしで殴り合えばこちらの身体がもたないほど強力な武器を持つ。

(指環の魔力はすぐに補充できるもんじゃねえ……俺はそれを補えるほど武術を極めたわけじゃねえ。
みんなと違って魔術も使えねえ、なら……)

いざというときには自らが囮となり、他の仲間を先に行かせなければならない。
ジャンは覚悟を決め、より早く突き進み、道を塞ぐもの全てを殴り倒していった。

65 :
「何だこれは……」

山道を登っていると突然、見たこともないような街の風景が目の前にひらけた。
もしかしたら、遥か昔に虚無の竜が統べていた、今は滅び去った世界なのだろうか。
二足歩行の奇妙な生物が歩み寄ってくる。

>「ようこそ、ニモニックの世界へ。ここは只今、再構築の最中です。
 この先への進入はシステムが完全にリブートされるまでお待ち下さい」

「にもにっく……?」

>「我々はこの世界の住人です。あなた達がしている事は看過し難い侵略行為です。
 今すぐ中断して下さい。拒むのであれば……」
>「システムのリブートはあと72分で完了します。もう暫くお待ち下さい。
 また、再構築における処理の高速化の為、知的生命体は可能な限り、
 現在の組成に近い存在へと変換されます。ご安心下さい」
>「あなたはシャルル・フォルシアン。そちらの方はファン・ジェンナー。
 あなたはタイターン・グッドフェロウ。あなたはアレックス・トーレティアとして。
 ご安心下さい。あなた達は既に新世界での席を獲得しています」
>「いずれも存在構築律の一致度は70%を超えています。再構築の前後において、あなた達はほぼ同一人物のままです」

「いやいやいや、何一つご安心できないぞ! そもそも名前からして全然違うやん! ってか誰が誰だ!」

シャルムが思わず一体のアンノウンを撃ち抜くと、明確に敵と認識されたらしく
全てのアンノウン達が一斉に襲い掛かってきた。

>『再構築の妨害行為を確認。迎撃用ドローンを展開』

「今度は何だ!?」

奇妙な街のあちこちから、魔力が一切感じられないゴーレムのようなものが出現。
これはこの世界とは全く別の力によって発展し、そしてその力によって滅び去った世界なのだろうか。

>「ジャン、ティターニア。一旦どけ。前を吹き飛ばす」
>「悪いが、援護はこれまでだ。この連中に山を下らせる訳にもいかないだろう?」
>「……ありがとうございます!急ぎましょう!
 アレの言っていた事が全て真実なら、思っていたより時間は残っていないかもしれません!」

アルバートをはじめとする援軍たちはここに留まり、奇妙な生物達の侵攻を食い止めることになった。

66 :
>「72分……と言っていたな。世界の命運を分けるには、随分と中途半端な時間だ!」

「再構築とは一体……。虚無の竜とは全てを虚無に帰す存在ではないのか……?」

虚無の竜とは本当は、滅び去った自らの世界を再現しようとする存在なのかもしれない。
尤も、滅びるべくして滅んだ世界をそのまま再現したところでそれも遠からず滅びるのだから、結果は一緒だが。
訳が分からないながらもとにかく前身していくと、都市のような場所に出た。

>「これは……街、なのか……?」

>『居住区画αに現住生物の侵入を確認。排除プロセスを実行します。
 該当区域の構成員は40秒以内にポーターを起動し、区域から退去して下さい。
 これは管理当局による指示です。従わない場合に発生した損害については、免責事項に含まれます』

頭上から謎の声が鳴り響くとともに、巨大な飛行物体が出現。

>「飛竜……?」
>『区画αにて現住生物を発見。無人戦闘ヘリによる迎撃を開始します』

「いや、生物ではなさそうだ。どうやら”無人戦闘ヘリ”というものらしいな!」

>『機載ガトリング砲、斉射』

打ち出されたブレスのようなものの正体は無数の鉛礫だった。
スレイブが魔法障壁で防ぐも、その連射速度は常軌を逸しており、見る見るうちに削られていく。

>「ハッ、時間かけてらんねえんだよ!
 出し惜しみはしねえぞ、とっとと行こうぜ!」

指輪の力を使ったジャンが”無人戦闘ヘリ”を撃墜。

「囲まれたらひとたまりもないな。あれが狙ってこられないような狭い道を進もう」

上空からの攻撃を避けるように、路地から路地へと進む。

>『……みんな、気づいてるかい?
 虚無の竜が僕たちに注意を向けた、ヒリヒリするような圧力を前から感じるよ』
>「アクア!そいつは吉報ってもんだ、わざわざこの道が正しいって教えてくれてるんだからな!」

67 :
前を見据えると、一際大きな硝子の塔が見える。

「……あれか?」

『ええ、どうやら火口があった場所に建っているようです。
あの塔こそが虚無の竜の肉体の元へ――世界の中心へ至る道かもしれない』

やがて一行は硝子の塔へたどり着いた。
透明な横開きの扉の前に立つと、どういった原理なのか、一行を歓迎するかのように自動的に扉が開く。

「入れ、ということか……」

入ってみると、空間の中心に円形の小部屋のようなものがあり、扉の横にこのような形のボタンが付いている。



「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

68 :
異様な様相の街並み。
飛行能力を持つ、巨大な……鯰のような、飛竜のような、何か。
魔力を伴わず、しかし風竜の防壁すら削り取るブレスの雨。

……ブレスの轟音に紛れて響く金属音。周囲に散らばる小さな金属の礫。
似ている。私の『竜の天眼』に。
先ほどの長銃と言い、この異界の技術は……。
いえ、やめておきましょう。それは今考えるべき事ではありません。

私達は火口を目指して更に前へと進みました。
シノノメさんの闇の指環を用いて路地に身を隠し、
ラテさんの光の指環によって作り出された彷徨う幻影の中を紛れるように。

>『……みんな、気づいてるかい?
 虚無の竜が僕たちに注意を向けた、ヒリヒリするような圧力を前から感じるよ』
>「アクア!そいつは吉報ってもんだ、わざわざこの道が正しいって教えてくれてるんだからな!」

私達の進む先に見えるのは……巨大な硝子の塔。
なおも身を隠しながら前進し、その目の前にまで辿り着くと……
何の前触れもなく、扉が左右に滑り、開きました。

>「入れ、ということか……」

「怪物がただ、獲物を前に口を開いただけ、とも受け取れますよ」

結界魔法を何重にも重ねがけして、私達は塔内へと踏み込む。
この異界における特異的な技術。
それらは私の目には、まだ、現実離れした現象の羅列にしか見えません。
ですが……それらは全て魔力を伴わずに発生する。
もしも罠があれば、それは恐らく私やティターニアでは探知出来ない。

幸いにも私達が塔に侵入し一歩二歩と進んでも、何か異変が起こる事はありませんでした。
塔の広間には、ただその中心に小さな硝子張りの、扉のない円形の小部屋があるだけ。

>「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

「昇降機?これがですか?」

昇降機と言ったら……城壁の上に素早く登る為に用いられる設備の事ですよね?
転移魔法よりもローコストで、大抵は滑車と縄と重りを利用して作られるような……。
……いえ、やめましょう。
今は私の知らない技術体系について考察するべき時間ではありません。

「虚無の竜の魂は、火口から肉体に戻ろうとしている。
 であれば……下に向かうべき、ですよね」

……とは言ったものの。

「……火口に潜っていくんですよね?こんな硝子張りの部屋で?
 不可能ですよ。こんなの、罠に決まっています」

「でも……虚無の竜は確かにこの真下にいるみたいだよ?
 ここに来てからメアリさんの予知も殆ど利かなくなってるけど……それは、間違いないよ」

「……か、仮にそうだとしても、火口ですよ?火口。
 適切な準備なしに潜ろうものなら、虚無の竜に辿り着く前に焼け死んで……」

「指環の勇者が七人揃ってる。準備は万端、でしょ?
 急がないと。あと一時間とちょっとで、再構築?が終わっちゃうんでしょ。
 私にはよく分からなかったけど……それが良くない事だって事くらいは、分かるよ」

69 :
……確かに、ラテさんの言う通りです。
それでも……火口、溶岩……大地の、この星の力そのもの。
いくら指環の力があるとは言え……そう簡単に不安を拭い去る事は出来ません。

「……いざとなったら、頼みますからね」

私は両手の指に光る指環を見下ろして、思わずそう呟きました。
バフナグリーさんに託された、全の指環。
その輝きが、ほんの刹那の事でしたが、一際強く瞬きました。

全竜のくれた指環は……何の反応も示しません。
……本当に、頼みますよ。
あなたの戯れの後始末をしているようなものなんですからね。

70 :
「では……」

一度大きく深呼吸をしてから、私は昇降機の側面にあった三角形の模様に触れる。
場違いに明るい、鉄琴を叩くような音が響きました。
と同時、硝子張りの部屋が床に沈んでいく。

……言え、違います。
沈んでいるのは部屋ではなくその外壁だけ。
扉がどこにもないと思ったら、こんな形で開閉を……。
こんな状況でなければ非常に興味深い建築様式だったのですが。

ともあれ私達は、昇降機の床に足を踏み入れます。
……一度沈んだ外壁が、再び競り上がってくる。
そして完全に密閉されました。
まるで昆虫標本の気分……とは、口に出さないでおきましょう。

そして……硝子張りの部屋が、僅かに揺れました。
それから訪れる僅かな浮遊感……下降によって発生する慣性。
……確かに、この部屋は昇降機だったみたいです。

という事は……。

不意に、硝子の壁の外が眩く光りました。
目が眩むような、強烈な赤い輝き……本当に、私達は今、溶岩の中を通過している……。

「ひ、ひえぇ……み、皆さん。防御魔法の備えだけは抜かりのないように……!」

71 :
そう呼びかける私の声は……ひどく上ずっていました。
思わずディクショナルさんの左腕を掴んで、身を縮こめてしまいます。
ですが……私の不安とは裏腹に、昇降機は何事もなく溶岩の中を下へ、更に下へと潜っていきました。

それから数十秒が経過して……不意に部屋の外が暗くなりました。
溶岩の海を抜け……どこか、薄暗い空間へ。
……また、ぽーん、と気の抜けるような明るい音が響きました。

昇降機が停止して、硝子の壁が床に沈んでいく。
ここは……一体……?

……白く艷やかな床、壁、天井。
部屋の壁際には……金属と硝子で造られた、何かの装置めいた物があります。
錬金術に用いられる、培養器のようにも見えますが……。
駄目ですね……薄暗くて、よく分かりません。
照明は……機能していないのでしょうか。

72 :
『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』  

『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。 
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』

『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。 
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』

この、どこからともなく聞こえてくる声も……一体、何を言っているのか……。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b)


73 :
ラテさんが指環に光を灯して、室内を照らします。
部屋の奥には……扉がありました。
あの装置がなんなのかは気になりますが、今は……

「……先に進みましょう」

私達が近づくと扉は塔の入り口の時同様、独りでに開きました。
瞬間、隣の部屋から流れ込む生暖かい空気。それに異臭。
この臭いは……知っている。
一度嗅いだら、二度と忘れられない……死臭です。

ラテさんが隣の部屋を指環をかざす。
照らし出されたのは……床に転がる、大量の……死体。
白衣を身に纏った、金髪の、背の低い……女性の死体。

服装も、背格好も、髪の色も……私にそっくり。
ですが……そんな事よりも、もっと恐ろしいのは……
この死体の山は、一つとしてまともな形状をしていないという事。
力加減を誤った粘土細工のように手足や頭がなかったり……捻れていたり。
逆にそれらが一つ二つ、余計に生えていたり……。

「うっ……」

思わず左手で口元を抑える。
……吐きそうです。気持ち悪い……。

『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。  
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』
『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。  
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』
『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』   

……この声が何を言っているのか。
少しずつ分かってきてしまった気がします。
だけど……それをわざわざ、口にしたいとは、思えません……。

「……行きましょう」

部屋の奥には、更に扉が一枚あります。
その先に何が待ち受けているとしても……この光景よりは、マシなはずです。

扉を潜ると……その先に待っていたのは、明るい照明の光。
それに……またも散らばる、大量の死体。

ただ一つだけ、さっきの部屋と違うのは……
その大量の死体の中心に、一人、五体満足な状態の男が座っているという事です。
長身痩躯、長い金髪に、宝石のように鮮やかな緑の瞳。
……ティターニアさんに少し似ているようにも思えます。

74 :
「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

男は私達を見上げると、そう尋ねました。

「……何を言っているのか、理解出来ませんが……理解するつもりもありません」

……私は、彼に魔導拳銃を突きつけました。
ティターニアさんに銃口を向けているようで、あまり気分はよくありませんが。

「ここがどこで、どうすれば虚無の竜を止められるか。今すぐ答えて下さい」

「なるほど、まだ一回目か。であれば……嫌だね」

男は不敵な笑みを浮かべて、そう言いました。
……魔導拳銃に魔力を流す。
発射された弾丸は男の耳を掠め、痛みを与える……はずでした。
ですがそうはならなかった。
弾丸は耳をすり抜け……男の姿が一瞬、陽炎のように揺れました。

75 :
「幻影魔法……」

「惜しいな。魔法ではない。これはホログラムというものだ。
 ……そう怖い顔をするな。案ずる事はない。
 諸君らが虚無の竜を止めてくれると言うのなら、私がそれを阻む理由はない」

……だったら何故、さっきは嫌だなどと。

「だが……少しばかり、我らに弁明の時間を与えて欲しい」

「……弁明?」

「ああ……異世界への侵略など、我らの望む所ではなかった。
 どうせ滅ぶのなら、悪逆非道の侵略者ではなく……
 せめてただの愚かな道化として消えてゆきたい」

……これがただの時間稼ぎである可能性は、否定出来ない。
全の竜やあのアンノウン共の言動から推察するに、虚無の竜の機能とは
世界から別世界へと飛び渡り、そしてそこを彼らにとっての元の世界へと変化させる事。
しかしその工程は、まだあと一時間近くかかるはず。
彼もそれを知っていて、少しでも時間を稼ごうとしているのかもしれない。

……ですが。

「手短に。そして私達にとって有益に。それを忘れないように」

私は、再び男に魔導拳銃を突きつけます。
……可能性の話をするなら、虚無の竜に対抗する有益な情報が得られる可能性だってある。
賭けになりますが……そう望みは薄くない、はずです。
この男が容姿と語り口だけではなく、気質もティターニアさんに似ているといいんですが。

「……ありがとう。では……まずは何から話そうか。
 そうだな……我らの世界が、異世界からの侵略を受けた時の事からにしよう」

「異世界への侵略……?全の竜はそんな事にまで手を出して……?」

「いや。あれが君達の世界によるものかは分からない。
 それに、我らは復讐者でもない。異世界による侵略は成功しなかったからだ。
 八人の仲間達と共に、科学の力と勇気をもって敵を撃退した。あの頃は楽しかったなぁ」

「……あまり長くなるようなら、あなたを無視して先に進みますよ」

「つれないな。まぁ、我らは侵略者共を追い返した訳だが……しかし考えてしまったのだ。
 確かに一度は撃退した。だが奴らがいつ、また我らの世界を攻めてくるか分からないと。
 明日や明後日ならいい。だが十年後は?百年後、我らが死んだ後に再び奴らが攻めてきたら?」

男は私達を指差して、双眸を細めました。

「どうだ?これは諸君らもそろそろ直面する問題ではないか?」

「ふん、そんな事。この戦いが終わったらゆっくりと魔法の研究をさせてもらいますよ。
 百年後に再び虚無の竜が蘇っても、問題ないようにね」

「そう。いつ訪れるか分からない次に備える……我らも同じ事を考えた。
 異世界から持ち込まれ、接収した魔法技術。
 その中には、物事が本来持つ性質を奪い去る力と、その制御法もあった」

76 :
「……虚無」

「ああ、奴らもその力を、そう呼んでいたな。ともあれ……我らはこう考えたのだ。
 それら魔法の力を上手く使えば、世界が再び危機に陥った時……
 我らもまた再び蘇り、世界を護る事が出来るのではないかと」

……女王パンドラは、星都でかつて命を落とした英雄達を蘇らせていた。
理屈の上では……確かに不可能ではないのでしょう。
彼らは、それを実現させた……?いえ、それどころか……

77 :
「更には、我らがもしも世界を護り損ねても、世界そのものをそうなる前に戻す事すら出来るはずだと。
 我らはその仕組みを、最も手強かった敵の名を借りて、虚無の竜と名付けた」

「……それがどうして、こんな事に?」

男は私の問いを受けると少し俯き、目を閉じ、苦い表情を浮かべる。
ですがそれはほんの数秒の事……彼はすぐに再び目を開き、私達を見上げました。

「……虚無の竜は、機械だ。絡繰り人形、ゴーレム、ロボット……その手の類だ。
 手入れをしなければ壊れてしまう。
 だが、世界を護る為の最終兵器の存在を誰かに知らせておく訳にもいかない」

……それは、そうでしょうね。
侵略者にその存在が知られてしまえば、虚無の竜はその使命を果たし得ない。

「故に虚無の竜には、自己再生機能を与えた。
 自分自身を虚無の力によって定期的に、あるいは損傷を受けた際に再構築するように。
 ……それが失敗だった」」

男の顔に再び、苦々しい……後悔の表情が浮かぶ。

「自己再生するという事は、コピーエラーが起こり得るという事だ。
 ある時、我らの世界で戦争が起きた。地殻の奥底に隠した虚無の竜にさえ被害が及ぶほどの戦争だった。
 虚無の竜は自分を再構築した。しかしそれは不完全だった」

……自己の複製の失敗。それ自体は別に、珍しい事ではありません。
自然界においても、頻繁にとは言えませんが、発生している事です。
新種や亜種の魔物が発見されるのは、大抵それが原因です。
……つまり、虚無の竜にもまた……彼ら達にとっても予想外の進化が起きた」

「そうだ。機体の半分以上が損壊した虚無の竜は、自己複製の為に新たな機能を自ら構築した。
 再構築の為のエネルギーを、周囲の環境から回収する機能を。
 だがそんな事を何度も繰り返していれば……どうなるかは分かるだろう?」

……聞かれるまでもありません。
彼らの世界がどうなったのか、私達はもう知っているのですから。
進化した虚無の竜は世界を消費する事で、世界の再生を繰り返した。
そして彼らの世界を完全に消費してしまった後は……更なる進化を遂げ、恐ろしい侵略者へと変貌した。
……といったところでしょうか。

「……なぁ、教えてくれないか。我らはどうするべきだったのだ?
 虚無の竜は記録上、少なくとも三度は、崩壊した世界を再生させていた。
 だが……最後にはこんな事になってしまった。我らはどうすればよかったのだ」

……その問いに、私は答える事が出来ませんでした。
彼らは世界を救い、自分達が死んだ後の備えさえも整えた。
それ以上何をするべきだったのか……。
ジャンソンさんやティターニアさん、ディクショナルさん、バフナグリーさんなら、分かるのでしょうか。

男は一度深く溜息を吐いて項垂れ……それから程なくして、再び顔を上げました。

「……つまらない言い訳に付き合ってくれてありがとう。約束は、守ろう。
 虚無の竜は、今言った通り、外部の環境からエネルギーを回収する。
 だが、それは本来あるべき核融合炉……エネルギー源を失っているからだ」

「……そのエネルギー源そのものの再構築は、されないんですか?」

「ああ。奴にとって核融合炉は、不慮の事故によって一度破壊された機能だからな。
 不確実性の高い機関と認識されているのだろう」

78 :
……なるほど。つまり総合すると、

「虚無の竜はエネルギー効率において万全ではなく、
 また一度破壊された機能を再生すべきか正しい判断が出来ない。
 間違いないですか?」

「……ああ、その通りだ。こう言ってはなんだが……虚無の竜は我らの最高傑作だ。
 ユリウス・クラウレイ、シャルル・フォルシアン。そしてこの我、タイターン・グッドフェロウの。
 まともに戦えば、たった7人で勝てる相手ではない」

「……他に、私達にとって有益な情報は?」

「ああ、もう一つある。さっきも言ったが、虚無の竜は機械だ。
 戦闘行動を開始するまでには一定のプロセスを踏むよう設計してある。
 侵入者に対する警告と、セキュリティクリアランスの確認だ」

「セキュ……なんですって?」

「招かれざる客かどうかを、まずは尋ねるという事だ。
 その間、虚無の竜は臨戦態勢を取るものの、先手を取ってくる事はない。
 いいな。最初の一撃で、可能な限り奴の武装を破壊するのだ」

男はそう言うと……突然、時が止まったかのように静止しました。

79 :
「……どうしたんですか?もしもし?」

私が呼びかけても、目の前に手をかざしても、何の反応も示さない……。
かと思いきや、数秒後、彼は再び私達を見上げます。

「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

……この発言は。
なるほど……ここにあるのは、まさしくただの残響でしかないんですね。

「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」

「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。
 願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」

……そうして私達は、先に進みました。
五つの、壊れた培養装置の設置された部屋を通り抜けて。
その先にあった、今までよりも一回り大きな扉の前に立つ。
扉は独りでに開き……その先には、村一つ分ほどの、開けた空間がありました。
そしてその奥に見えるのは……金属の光沢を帯びた、巨大な竜。

「あれが……虚無の竜」

左右の翼には、あの飛竜もどき……無人戦闘ヘリと同様の兵装が見えます。
他にも……恐らくは砲門、銃口と思しき機関が幾つも。
むしろ兵器によって構築されていない部位を探す方が難しい……。
帝都の要塞城に設置された兵器を全て掻き集めても、あれほどの物々しさを発揮出来るかどうか……。

「……あの兵装を全て使用されたらと考えると、背筋が凍りますね。
 最初の一撃で、どれだけ破壊出来るのやら……」

……バフナグリーさんから託されたこの全の指環。
使用するのは、出たとこ勝負になってしまいましたが……仕方がありません。
あなたが信じたバフナグリーさんが、信じてくれた私です。
どうか力を貸して下さいよ、女神様……

『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』

「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」

まさか、騙された?……いや、違う。
あの幻影は、私達との会話の内容を覚えていなかった。
ただ決められたメッセージを伝える為だけに残された残響。
であれば……私達よりも更に前に、誰かと会話を行っていたとしても、彼はそれを覚えていられない。

虚無の竜がこの世界に来るよりも前。
私達と同じように世界を守ろうとしてここに辿り着いて、
しかしそれを成し遂げられなかった者達がいたとしたら……。

「……これは、不味い!」

『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

80 :
「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」

防壁を張ってもジリ貧になる事は既に経験済み……。
ならば私がすべき事は!
 
「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」

そして……虚無の竜の姿が、無数の兵器の発射炎によって覆い隠された。
金属礫、砲弾、閃光、紫電、爆炎……最早判別不能な、殺傷力の嵐が私達へと迫ってくる。

「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

竜の天眼による砲撃と、天眼本体による斜線妨害。
未だかつてないほどに、私は集中しています。
魔力制御は完璧。全の指環による魔力によって星都の時以上の弾幕も張れている。
しかし……それでも、あまりにも虚無の竜の物量が圧倒的すぎる。防ぎ切れない。
早く、少しでもあの武装を削り取ってくれないと……このまま、薙ぎ払われる可能性すら……



【長々と色々書きましたけど9割趣味なので気にしないで下さい】

81 :
>>80
長いし勝手な部分が多すぎる
削るかお前が抜けろ

82 :
ラスボス終わったあとのアルダガ戦は黒騎士オールスター相手にすればいいんじゃないかな?
そうすりゃ消化不良の黒狼も活躍させられるし、裏ボスとして申し分ない迫力になるかと

83 :
『機載ガトリング砲』なる名称の"ブレス"は、スレイブの張った障壁を着実に削っていた。
飛び道具に対してことさらに相性の良い風魔法でさえ、威力を完全に逸しきることができない。
指環の力をもってしても障壁の修復に回す魔力の供給が追いつかず、破られるのは時間の問題だった。

(『呑み尽くし』は……駄目だ、魔力が捉えられない……!)

恐るべきことにこの超威力のブレスには魔力の気配が一切感じられなかった。
魔法ではない。性質としては弓や弩に近い、純粋な質量の投射攻撃なのだ。
間断なく着弾する暴威にスレイブが苦痛を覚悟した刹那、ジャンの迎撃準備が完了した。

>「こいつは逃げきれねえな、前に出るぜ!」

地表からかち上がるように隆起した水流の拳が、超質量のアッパーカットを飛竜もどきに叩き込む。
空中で大きく体勢を崩した飛竜もどきは、そのまま側の尖塔に激突し、墜落していった。

>「ハッ、時間かけてらんねえんだよ!出し惜しみはしねえぞ、とっとと行こうぜ!」

「あの"回転する翼"は胴体よりも遥かに脆いようだ!勝ち筋が見えたぞ!」

ジャンが短く挙げた勝鬨にスレイブも応じ、障壁を解いて前に出た。
後詰とでも言うように現れる第二第三の飛竜もどきを、翼を狙って的確に撃墜する。
倒し方が分かったとはいえこのままではキリがない。一行は大通りを避けて都市内を進行した。

アクアの導きに従って進んでいくと、やがて一際大きな硝子の尖塔にたどり着く。
塔の出入り口と思しき硝子製の扉は、一行が前に立つとひとりでに開いた。

>「入れ、ということか……」
>「怪物がただ、獲物を前に口を開いただけ、とも受け取れますよ」

「目につく物を無警戒に口に入れるというなら好都合だ。拾い食いは腹を壊すという教訓を、身体の中から教えてやろう」

尖塔の内部は拓けた空間だった。大理石に似た無機質な床は、不気味なほどに磨き上げられて平坦だ。
そして、空間の中央にはこれも硝子製の小部屋がある。

>「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

「こいつはどうやって使うんだ?俺には分からん。塔に登るのに昇降機など使ったことがないからな」

シェバトの尖塔群には確かに、この手の昇降機が備え付けられている。
ダーマの王都には、どれだけ高い建物にもおおよそ階段や昇降機と呼べるものはない。
魔族のほとんどは自前の翼や転移魔法で外から直接上階へ入れるからだ。
跳躍術式を持つスレイブもまた、上下の行き来に設備を利用する習慣がなかった。

84 :
>「虚無の竜の魂は、火口から肉体に戻ろうとしている。であれば……下に向かうべき、ですよね」
>「……火口に潜っていくんですよね?こんな硝子張りの部屋で?不可能ですよ。こんなの、罠に決まっています」

「だとすれば、随分と手の込んだ罠だ。それこそ、俺たちがこの塔に入った段階で如何ようにも料理はできる。
 虚無の竜の性格が、エルピスや全竜ほど捻じ曲がっていないことを祈るしかあるまい」

しばらく躊躇していたシャルムだったが、ようやく覚悟を決めたようだ。
彼女が操作盤と思しき三角形の記号に触れると、既存の知識では形容し難い明るい音が響いた。
小部屋の外壁が降りて中に入れるようになり、一行が足を踏み入れると再びせり上がる。

「外壁自体が開閉する仕組みなのか……大型物資を搬入するためなのか?」

スレイブの場違いな考察をよそに、小部屋はやがてゆっくりと下り始めた。
重力に惹かれるように、下降の速度はどんどん上がっていく。
小部屋のすぐ下は筒状の空洞になっているらしく、砲身を駆け抜ける砲弾のように部屋自体を下方向へ滑らせているのだ。
胃袋を掴み上げられるような浮遊感に目眩がした。

>「ひ、ひえぇ……み、皆さん。防御魔法の備えだけは抜かりのないように……!」

しばらくすると、硝子一枚隔てた向こうが赤く染まる。
火口の中身……すなわち熱く溶解した地殻の内部を、昇降機はくぐり抜けている。
シャルムが怯えたように声を挙げ、スレイブの左腕を掴んだ。

「大丈夫だ、地熱はこちらまで届いていない。この硝子は温度を遮る機能を持っているようだ。
 ……それに、いざとなればこの部屋の天井をぶち抜いて、地上まで飛んで戻ればいい。
 指環の力をフルに使えば十分可能だ。俺たちにはそれができる。魔力の供給も十分だ。何も心配はない。」

やけに早口で、自分に言い聞かせるようにスレイブは言った。
カバンコウを出てからこっち、これまでの常識を覆されるような光景に直面してばかりだ。
シャルムの動揺は痛いほど理解できるし、スレイブもまた無意識のうちに彼女に寄り添う。
いつでも抱えて逃げられるように、シャルムの細い肩を浅く抱き寄せた。

時間にすれば1分にも満たない、されど悠久にも思える溶岩遊泳を経て、小部屋の下降が止まった。
外壁が再び降り、身構えたスレイブの警戒とは裏腹に、冷ややかな空気だけが流れ込んでくる。
どうやら昇降機は、目的の階層に到達したようだった。
辿り着いた空間は、多少の光源はあるものの、細部まで光が届いておらず、薄暗い。

「この明かりは……溶岩や燭灯とは違う。稲光を弱く、安定させたような……不思議な光だ」

白と緑の弱々しい光を放つ板。
どうやら緑の下地に白抜きで文様を描いてあるらしく、しかし意味は判然としない。
なんとなく、『出口へ向けて走っている人間』を想起させるような構図だ。

85 :
シャルムは光源よりも部屋の中の設備に興味を惹かれたらしく、しきりにあたりを見回している。
やがてラテが光の指環で明かりを灯すと、部屋の奥に扉があるのが見てとれた。

>「……先に進みましょう」

扉の前に立つと、尖塔の入り口と同じように、ひとりでに戸板が開いた。
向こう側の空気とこちらの空気が混ざり合い、匂いが鼻孔に漂ってくる。
スレイブは一度鼻を鳴らすと、弾かれたように剣を抜いて構えた。

「……死臭!」

腐敗した肉と空気に触れた血液が放つ、『死』の臭い。
戦場で幾度となく嗅ぎ慣れたその臭気が、スレイブに戦闘者としての感覚を取り戻した。
だが、想定される危機は一向に襲ってこない。
警戒しながら先へ進むと、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

「馬鹿な……これは……シアンス……?」

部屋の中央に山のごとくうず高く積まれた、無数の死体。
その全てが、ことごとく、同じ人間の顔をもっていた。
――スレイブの側で驚愕に震える、シャルム・シアンスに、瓜二つだ。
そして、死体たちには顔の他に共通する点がある。捏ね潰された粘土細工のように、奇形だ。
損壊した死体、ではない。死体に外傷はなく、異質な形状をもって生まれた"何か"が、生まれ落ちた瞬間に死んだかのよう。

「なんだこれは……なんなんだ!!」

スレイブはたまらず叫び声を挙げた。
本当に叫び出したいのは、自分と同じ顔の、それも奇形の死体を目にしたシャルムだろう。
しかし、スレイブもまた、視界を埋め尽くすシャルムの死に顔に耐えられなかった。

>『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。  
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』

無機質な声が、同じ内容を何度も読み上げる。
専門家ではないスレイブにも、目の前の現状と照らし合わせて、おぼろげに理解ができた。

シャルル・フォルシアン。
あのゴブリンもどきの口にした、再構築後のシャルムの名前。
ここへ来た時点で、すでに再構築は始まっていたのだ。しかし、それはうまくいかなかった。
エラー。正しく構築されなかった『シャルム』は破棄され、システムは再び構築を繰り返す。

何度も。何度も何度も何度も。
その結果が、目の前に積み上げられた、"不正な"シャルムの遺骸たちなのだ。

86 :
>「うっ……」

シャルムが青い顔でえずいた。
スレイブは胃袋からせり上がってくる何かをどうにか堪えて、シャルムの肩を引き寄せた。

「もう見るな。こんなもの、研究も分析も必要ない。これから俺たちが跡形もなく破壊するんだ。
 一片たりとも残すものか。こんな狂ったシステム、目の前から全て消してやる」

シャルムが落ち着くまで、スレイブは彼女の肩を抱き続けた。
何かの支えになるとも思えないが、何もせずにはいられなかった。

>「……行きましょう」

やがて冷静さを取り戻したシャルムの先導で、一行は次の扉を抜ける。
そこにはやはり積まれた大量の死体と……一人の男が立っていた。
どことなくティターニアに似ている。耳は短く、眼鏡もかけてはいなかったが。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

――シャルムの問いに応じて男の語った内容。
かつて、世界には現在とまったく異なる文明と技術があった。
『虚無の竜』は異世界からの侵略者ではなく……逆だ。
その時代の人類が創出した、世界を保護し、繁栄の時代に回帰させるための装置だった。

しかし、地殻の奥底に封印されていた虚無の竜は、戦争の影響で大きなダメージを負うことになる。
自己修復に失敗し、その有り様を捻じ曲げ、それでもなお本来の機能を発揮しようとした。
結果は、これまでの旅で目にしてきた通りだ。
不完全な形で再構築された世界と、周囲から属性を無制限にしぼり取り、枯渇させる虚無の竜。

そして、虚無の竜はもう一度、歪んだ姿に世界を作り直そうとしている。
――背後の部屋に積み上げられた、シャルム達の死体のように。
それだけは、なんとしても、止めなければならない。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

必要な情報を話し終えると、男は最初と同じ言葉を問いかけてきた。
ホログラムという技術はよくわからないが、つまりこの男は今、生きているわけではない。
対話が可能な過去の映像……まるで想像もつかない話ではあるが、そういうことだと納得するしかないのだ。

87 :
>「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」
>「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」

「進もう。俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない。これ以上、神の真似事をされてたまるか」

さらに扉をくぐる。
その先には、これが建物の内部だということを忘れてしまうような広大な空間が拓けていた。
そして、空間の中央に丸まっている、金属で構成された……竜。

>「あれが……虚無の竜」

「……眠っている、のか?」

虚無の竜は沈黙していた。
男のホログラムとやらが言うには、あの装置は自ら敵性存在を排撃するようにはなっていないらしい。
少なくとも、こちらから攻撃を加えるまでは、中立の状態を保つ……
つまり、必ず先制攻撃が可能ということだ。

>「……あの兵装を全て使用されたらと考えると、背筋が凍りますね。
 最初の一撃で、どれだけ破壊出来るのやら……」

「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」

スレイブはそう言い残して、バアルフォラスの切っ先を自分に向けて構えた。
竜装『愚者の甲冑』は、指環からの魔力供給のタガを外すことで短時間に莫大な威力の魔法を放つことができる。
最初の一撃に全てを賭けなければならないこの状況なら、魔力を全部吐き出した後の無力も問題にはなるまい。
知性を自ら手放すことに対する僅かな躊躇いをねじ伏せて、切っ先を己の胸に埋める――その直前。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』
>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」

「なんだと……!?最初に一撃入れるまで、奴は無防備なんじゃなかったのか!?」

何か……致命的な計算違いがあった。
それを推し量ることはスレイブにはできないが、当初の計画が全て無に帰したことだけはわかる。
先制攻撃は不可能。指環の勇者たちは、初めから敵対した状態の虚無の竜を相手にしなければならない。

>『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』
>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」

驚愕からいち早く立ち直ったシャルムが適性拡張術式を行使し、ドラゴンサイトを展開する。
一瞬遅れて、スレイブも剣を抜き放った。

88 :
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」

「了解。防御は全部あんたに任せる。俺は全魔力を攻撃に回すぞ。
 ――ウェントゥス、状況はわかってるな?」

『またぞろ儂の風で突撃するとか言うんじゃろ?ああもう、とっくに準備できとる儂の甘さに腹が立つ!
 心配せんでもちゃんと運んでやるわい。そろそろお主とは、短い付き合いでもないしの』

「……全部終わったら、千年分の飴を買ってやる」

『ほしたら是が非でも生き残ってもらわんとな。……約束は守れよ、儂の契約者』

それ以上の会話は不要とばかりに、スレイブは弾丸の如く己が身を飛ばした。
雨霰とばかりに降り注ぐ虚無の竜の砲撃に対し、一切の防御行動を取らない。
避ければその分、走る速度が落ちる。盾などとうの昔に置き去りだ。
それでも迫りくる威力の嵐に、恐怖心はない。

>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

スレイブの元に攻撃が届く前に、その尽くを、シャルムの魔法が迎撃していくからだ。
だから彼は、ただ真っ直ぐに、最短の距離を進むだけで良い。

「……届いた!」

跳躍。逃げ場のない空中で、針山のごとく生えた無数の砲門がスレイブに集中する。
ドラゴンサイトの弾幕が目の前をなぎ払い、嘘のように凪いだ虚空をその身で貫く。

「一伐の槍・二王の弓・三寅の斧。四方世界を結ぶ氷獄の刃。
 その命を切り、神の名を冠す杖を無窮の原野に立てよ――」

凝縮した魔力を纏わせ、巨大な氷柱と化した長剣を、投槍のごとく投擲する。
氷柱は虚無の竜の体表に突き立った瞬間、内包する魔力を全て解き放った。

「――『クアドラプルフロスト』!!」

氷柱から四方に向けて波濤の如く冷気が奔り、砲門を尽く凍てつかせていく。
氷波は砲門を芯まで凍てつかせ、内側から食い破るようにして破裂させた。
魔力を解き放ち終えた剣の柄を握り、しかしスレイブはそれを抜かない。
間髪入れずに、新たな魔力を注ぎ込んだ。

「爆ぜろ、『炸轟』」

突き立った剣を通して莫大な魔力が虚無の竜の体内へ流れ込む。
瞬間、爆裂。内部からの爆発は竜の装甲を無視して巨大な穴を穿つ。
『スレイブ極太ビーム』と双璧を為す近接技、『剣の先っちょから爆発出る奴』。
かつて知慧の魔神バアルフォラスを討滅した際の決め手となった技だ。

「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

89 :
【武装解除(物理)】

90 :
一行が辿り着いた硝子の塔は、見た目からは想像もできないほど頑丈に組み上げられていた。
内部は広く、生き物めいた骨格が長大な建造物を支えている。
天井は入り口からは見えないほど高く、奇妙な振動音が時折鳴り響く。

>「上に行くか下に行くかということか? シェバトにあった昇降機のようなものなのかもしれないな」

「こりゃちょうどいいぜ、敵が自分から招待してくれるんだからよ!
 ……それに、迷ってる時間はねえ」

他の仲間は親切すぎる案内に怪しんでいるようだが、ジャンは違った。
罠があれば踏み抜き、伏兵が出てくれば殴り倒す。その思考は今でも変わることはない。
むしろそういったものを仕掛けているということは、敵にとって大事なもの……虚無の竜の肉体があるという証明でもある。

>「ひ、ひえぇ……み、皆さん。防御魔法の備えだけは抜かりのないように……!」

小部屋が目的地を目指してまっすぐに下降を始め、やがて小部屋の向こう、硝子の外壁一つ挟んだ外が溶岩に覆われる。
あらゆる者の制御を拒んだ莫大なエネルギーが、今も荒れ狂い続けているのだ。

>「大丈夫だ、地熱はこちらまで届いていない。この硝子は温度を遮る機能を持っているようだ。

「こんな硝子一枚で溶岩に耐えたり、変なもん作ったり……どんな魔法使ってんだろうな?
 塔の壁だって軽く小突いてもヒビ一つ入らねえしよ」

『……これは魔法というより技術、だね。
 魔力が一切感じられない、一体どうやって……』

やがて小部屋全体の振動が止まり、下降が終わったことを示すように外壁の一部が音もなく開く。
淡く光る白と緑の光源に導かれるようにして通路を歩き、触ることなくドアが開いた。

>「……死臭!」

スレイブと同じく、ジャンもその臭いを感じれば即座に長矛を構える。
アンデッドの類かそれともスケルトンか、と思ってゆっくりと前に進めば、そこにあるのはおぞましい光景だった。

>「うっ……」

>「馬鹿な……これは……シアンス……?」

「……死霊術で作られたゾンビ共の群れの方がまだマシな光景だな。
 何の目的で作ったのかまったくわかりゃしねえ」

もしこれが自分だったなら、すぐさま滅茶苦茶に叩き潰してしまうだろう。
こんなものを見せつけられて正常でいられるヒトなどいないはず。ジャンはそう考えて、
できるだけ早くこの部屋から離れることを促した。

91 :
>「……行きましょう」

なんとか落ち着いてきたシャルムの様子を見ながら、次の扉が音もなく開く。
またも大量の死体と、今度はその傍らに立つ一人の男。
エルフとは思えない容姿をしているのに、不思議とティターニアに似ていると感じてしまう。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

そして彼が話し出すのは虚無の竜が作られた兵器であるという事実。
そしてその構造と、目的。ジャンにはほとんど理解できない内容だったが、アクアがかみ砕いて説明してくれる。

『つまり虚無の竜は世界を守るゴーレムだった。
 それをヒトどうしの戦争のせいで壊れてしまって、自分で直そうとしてさらに壊れた。
 誰かに直してもらうこともできず、壊れ続けた結果……世界を滅ぼすゴーレムになってしまった』

「やることは変わんねえわけだな、説明ありがとよ。
 最初の一撃で殴り倒してやるぜ」

いかなる事情であれ、この世界が丸ごと作り直されるという事実は変わらない。
長槍を持った手を握りしめて、ジャンは最後の扉を通った。

>「あれが……虚無の竜」

広く大きな空間は、全てが透明だった。
あらゆる色を吸収し、光沢というものが一切ない不思議な素材で作り上げられた空間。

そこに鎮座するのは、虚無の竜と呼ぶには相応しくないように思える、金属を纏った竜。
しかし身体の各所に取り付けられた武装らしきものは空飛ぶ鮫よりもはるかに多く、あれが一斉に放たれれば
こちらは一瞬で血煙となるだろう。

>「……あの兵装を全て使用されたらと考えると、背筋が凍りますね。
 最初の一撃で、どれだけ破壊出来るのやら……」

>「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」

「おうよ、手加減なしで顔面吹っ飛ばすぜ」

ジャンもスレイブの横に立ち、竜装を纏っていつでも飛び込めるよう準備する。
実際のところ、開幕の一瞬で倒せる相手ではないことは確かだ。ならば自分ができるだけ近くで、引きつけ続ける必要があるだろう。

「ティターニア、ありったけ支援頼む。
 ……全員で、生きて帰るぞ!」

しかし、直後に聞こえてきた無機質な声が事態の急変を告げる。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』

>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」

>『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

92 :
そして戦闘開始を告げるように、虚無の竜がその瞳を見開いた。
全身から放たれる暴力の嵐が勇者たちを襲えば、指環を発動したシャルムがそのほとんどを押し留める。
元々の魔力制御の技術と指環の魔力が合わされば、まるで一つの軍隊のようにあの球体たちを制御し、弾幕を形成してみせた。

>「――『クアドラプルフロスト』!!」

スレイブがそれに合わせて突撃し、砲門の一つを粉砕する。
さらには虚無の竜内部へ魔力を撃ち込み、内部からの爆発で装甲に穴をこじ開けた。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」

翼を生やし、鱗を纏い。アルマクリスの長矛を両手に持ち、はるか上へと飛んでいく。
そして長矛に水流を纏わせ、巨大な水流槍を作り上げた。

「まずは前足っ!」

ブン、と鈍い風切り音を立てて水流槍が虚無の竜の前足を貫いて砕き、破壊する。
バランスを崩し、動きを止めたところで薄くなった弾幕に構うことなく接近し、装甲に空いた穴から見える構造物に向かって
両手を組んで思い切り叩きつければ、何か甲高い音と共に内部が破壊されていく。

「ははっ!虚無の竜も肉体は脆いもんじゃねえか!
 これなら全の竜の方がよほど手ごわかったぜ!」

ジャンを引き剥がそうとする抵抗もなく、ジャンは次々と穴を開けては内部構造を両手で粉砕する。
やがて虚無の竜が動きを止めたとき、その身体のほとんどは粉々に砕かれていた。

「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
 再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
 作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』

再生を防ぐために、頭と心臓らしき部分を念入りに破片の塊になるまで砕いたところであの無機質な声が再び聞こえる。
それと同時に周囲の壁の一部が駆動音と共に開き、中から異形の街で遭遇した、鋼鉄の鎧を纏い長銃や短剣を持った戦士たちが現れた。
さらにその後ろには、武装は少なく一回り小さいものの、あの虚無の竜とほとんど同じ外見をした鋼の竜が8体、
一行を取り囲むようにゆっくりと姿を見せる。

【肉体(一つだけとは言っていない)】

93 :
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
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TUD

94 :
下に向かえばいいことは分かりつつも躊躇する一行を、ラテが鼓舞する。

>「指環の勇者が七人揃ってる。準備は万端、でしょ?
 急がないと。あと一時間とちょっとで、再構築?が終わっちゃうんでしょ。
 私にはよく分からなかったけど……それが良くない事だって事くらいは、分かるよ」

>「……いざとなったら、頼みますからね」

意を決して下へと向かう一行。

>『再構築エラー、デバイスが正しくセットされていません。
 ユリウス・クラウレイを再構築出来ません。 
 デバイスを正しくセットしてから再試行して下さい』

不可思議な声が響く中、白い部屋へ到着。
そこで目に飛び込んできたものは、大量の奇形の女性の死体だった。
その上、シャルムにそっくりだ。

>「馬鹿な……これは……シアンス……?

>『再構築エラー、存在構築律を正しく読み込む事が出来ません。
 シャルル・フォルシアンを再構築出来ません。
 記憶媒体の状態を確認してから再試行して下さい』   

>「……行きましょう」

次の部屋も、またも大量の死体。
しかしその中心に一人、ティターニアに似た男性が座っていた。

「そなたは一体……」

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」

シャルムとの問答の中で、虚無の竜の誕生と、それが恐ろしい侵略者へと変貌した経緯が語られる。
その終盤。

>「虚無の竜はエネルギー効率において万全ではなく、
 また一度破壊された機能を再生すべきか正しい判断が出来ない。
 間違いないですか?」
>「……ああ、その通りだ。こう言ってはなんだが……虚無の竜は我らの最高傑作だ。
 ユリウス・クラウレイ、シャルル・フォルシアン。そしてこの我、タイターン・グッドフェロウの。
 まともに戦えば、たった7人で勝てる相手ではない」

シャルル・フォルシアンはシャルム・シアンスの再構築後の名ということが先程分かってしまった。
同じように考えるとタイターン・グッドフェロウはティターニア・ドリームフォレスト。
(再構築前と再構築後で必ずしも種族や性別が同じとは限らないのだろう)
ユリウス・クラウレイは名前の響きからジュリアン・クロウリーと推測できる。

「もしやとは思うが……そなたらの世界には三つの大国がありはしなかったか?
そなたら三人はそれぞれの国を代表する魔術師……いや、技術者だったのではあるまいか?」

「そうだが――よく分かったな」

95 :
パラレルワールド仮説――先日明らかになった旧世界の存在も驚きだったがそれどころではく、
この世界以外に無数の平行世界が存在するというトンデモ仮説がある。
隣り合わせの世界はとてもよく似ていて、離れるほど全く違う世界になるとか。
もしかしたら彼らの世界は、その中の一つなのかもしれない。
この世界とどこか似ていながら、されど魔法とは全く違う技術体系で発展した世界。
世界を食らいつつ隣接する世界へと移動してきたとしたら、ここに至るまでに一体どれだけの世界が食らわれたのだろう。
タイターンは最後に、戦闘開始時にありったけの先制攻撃をしろとのアドバイスを授け、会話は終了する。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」
>「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」
>「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」
>「進もう。俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない。これ以上、神の真似事をされてたまるか」

「ああ。もしかしたら……この世界だけではなく無数の世界の命運がかかっているのかもしれないな」

この世界には偶然か必然か、全の竜というある種の保険があったため、長い時間足止めを食らうことになった。
しかしその保険はもうない。もしも負ければ、虚無の竜はこの世界を食らいつくした後、次なる世界に解き放たれるということだ。
ついに最後の扉を潜り、虚無の竜と対面する。そこにいたのは、全身機械仕掛けの巨大な竜だった。

>「あれが……虚無の竜」
>「……眠っている、のか?」
>「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」
>「おうよ、手加減なしで顔面吹っ飛ばすぜ」
>「ティターニア、ありったけ支援頼む。
 ……全員で、生きて帰るぞ!」
「よし、重ね掛け出来る限りの補助魔術をかけるから少し待ってくれ。まずは……」

こちらから仕掛けるタイミングが計れる場合に使える、いわゆる戦闘開始前のドーピングである。
しかし、定番のフルポテンシャルを全員になんとかかけおわったところで、事態は急変。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』
>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」
>「なんだと……!?最初に一撃入れるまで、奴は無防備なんじゃなかったのか!?」

先代勇者の時は、虚無の竜を完全に滅ぼすことは諦め魂の側を封印という形でひとまずの平和を取り戻した。
つまりここで虚無の竜の肉体との対決はしていない。
しかし、その更に前のいつかの代の勇者か、あるいは虚無の竜が以前経由してきた世界のどこかの時点で、これに立ち向かった者達がいたのかもしれない。
ここで、虚無の竜が機械仕掛けの竜だとしたら、その”魂”とは一体何だったのだろうか――
という疑問が浮かぶが、今は考えている場合ではない。
今やるべきことは一刻も早く目の前の竜を破壊することだ。

96 :
パラレルワールド仮説――先日明らかになった旧世界の存在も驚きだったがそれどころではく、
この世界以外に無数の平行世界が存在するというトンデモ仮説がある。
隣り合わせの世界はとてもよく似ていて、離れるほど全く違う世界になるとか。
もしかしたら彼らの世界は、その中の一つなのかもしれない。
この世界とどこか似ていながら、されど魔法とは全く違う技術体系で発展した世界。
世界を食らいつつ隣接する世界へと移動してきたとしたら、ここに至るまでに一体どれだけの世界が食らわれたのだろう。
タイターンは最後に、戦闘開始時にありったけの先制攻撃をしろとのアドバイスを授け、会話は終了する。

>「諸君らは……これが二回目か?それとも、まだ一回目か?」
>「……二回目ですよ。聞くべき事はもう聞きました」
>「そうか……尻拭いをさせてしまって悪いが、健闘を祈るぞ。願わくば、このホログラムが二度と起動されない事もな」
>「進もう。俺たちの世界は、失敗作なんかじゃない。これ以上、神の真似事をされてたまるか」

「ああ。もしかしたら……この世界だけではなく無数の世界の命運がかかっているのかもしれないな」

この世界には偶然か必然か、全の竜というある種の保険があったため、長い時間足止めを食らうことになった。
しかしその保険はもうない。もしも負ければ、虚無の竜はこの世界を食らいつくした後、次なる世界に解き放たれるということだ。
ついに最後の扉を潜り、虚無の竜と対面する。そこにいたのは、全身機械仕掛けの巨大な竜だった。

>「あれが……虚無の竜」
>「……眠っている、のか?」
>「出し惜しみはなしだ。俺も竜装を纏う。ジャン、もしものときはもう一度頼んだ」
>「おうよ、手加減なしで顔面吹っ飛ばすぜ」
>「ティターニア、ありったけ支援頼む。
 ……全員で、生きて帰るぞ!」
「よし、重ね掛け出来る限りの補助魔術をかけるから少し待ってくれ。まずは……」

こちらから仕掛けるタイミングが計れる場合に使える、いわゆる戦闘開始前のドーピングである。
しかし、定番のフルポテンシャルを全員になんとかかけおわったところで、事態は急変。

>『――侵入者を発見。前回の戦闘発生経緯から、事前の警告は無用と判断します。
 全武装を解禁中。セキュリティクリアランスの申告は武装解禁が完了するまでに行って下さい』
>「……なんですって?そんな……馬鹿な。話が違う……」
>「なんだと……!?最初に一撃入れるまで、奴は無防備なんじゃなかったのか!?」

先代勇者の時は、虚無の竜を完全に滅ぼすことは諦め魂の側を封印という形でひとまずの平和を取り戻した。
つまりここで虚無の竜の肉体との対決はしていない。
しかし、その更に前のいつかの代の勇者か、あるいは虚無の竜が以前経由してきた世界のどこかの時点で、これに立ち向かった者達がいたのかもしれない。
ここで、虚無の竜が機械仕掛けの竜だとしたら、その”魂”とは一体何だったのだろうか――
という疑問が浮かぶが、今は考えている場合ではない。
今やるべきことは一刻も早く目の前の竜を破壊することだ。

97 :
『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

シャルムがいち早く驚愕から立ち直り迎撃態勢に入る。

>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」
>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

98 :
『全武装解禁。リビルドデバイスと虚無の竜の接続を解除。
 プロトコル・ホロウの進行を一時停止。戦闘行動を開始します』

シャルムがいち早く驚愕から立ち直り迎撃態勢に入る。

>「っ、『フォーカス・マイディア』!!そして……全の指環よ!!」
>「投射物を可能な限り迎撃します!なんとか前へ出て下さい!」
>「『竜の天眼(ドラゴンサイト)』……!撃ち落とせ!!」

99 :
シャルムが投射物を遮って道を作り、スレイブが最短距離で突撃する。
相変わらず見事なコンビネーションだ。

>「一伐の槍・二王の弓・三寅の斧。四方世界を結ぶ氷獄の刃。
 その命を切り、神の名を冠す杖を無窮の原野に立てよ――」
>「――『クアドラプルフロスト』!!」

スレイブが長剣を突き立て、凍てつく冷気の魔法を炸裂させる。しかしそれだけでは終わらない。

>「爆ぜろ、『炸轟』」

内部から魔力が爆発し、装甲に巨大な穴が開いた。

>「細かい武装は俺が削ぎ落とす!ジャン、ティターニア、大物を頼む!」

>「任されたぁ!いつも通りに行くぜ、あのゴーレムをぶん殴る!」

「合わせるぞジャン殿。竜装――”ダイナスト・ペタル”! 吸い尽くせ――”ミスルトゥ”」

植物属性の竜装を纏い唱えるは、内部からエネルギーを吸い尽くしながら崩壊させる凶悪無比な寄生樹の魔法。
穴が開いた部分から植物の根のようなものが周囲を破壊しつつ広がっていく。

>「まずは前足っ!」

一方のジャンは、単純明快且つ強力無比な外部からの攻撃で粉砕していく。

>「ははっ!虚無の竜も肉体は脆いもんじゃねえか!
 これなら全の竜の方がよほど手ごわかったぜ!」

内と外、両方から破壊され、虚無の竜はすぐに半壊状態となった。

>「……これで終わりか?後は降りてきた本体ぶちのめせば――」

>『虚無の竜の肉体ユニット破壊を確認しました。全肉体ユニット候補および警備ユニットを起動。
 再構築システムをパターン14に移行。工程35から321を省略。全隔壁を閉鎖し精神ユニット到着まで一切の操作を拒否します。
 作業員の皆様は対異常存在スーツの着用をお願いします。地熱エネルギーの充填完了と共にパターン14は終了されます』

100 :
どうやらここにあるのが“肉体ユニット”、そして魂が”精神ユニット”ということらしい。
それはいいのだが、武装した兵隊達と、一回り小さいとはいえ今しがたボロボロにした虚無の竜とほぼ同じようなものが8体登場する。

「これが警備ユニットか……少々警備が厳重すぎるだろう!」

間髪入れずに、八方向からの一斉砲撃が始まった。
プロテクションでは防ぎきれない。シャルムの竜の天眼でも打ち落としきるのは不可能だろう。

>「鏡の世界(スペクルム・オルビス)――」
>「ストームソーサリー!」

とっさに旧世界攻略の時に編み出されたジュリアンとの連携魔法でなんとか防ぐが、どこまで持つか分からない。
その上、脅威は八体の機械の竜達による砲撃だけではない。

「ティターニア様、ヤバイってこれ!」

「言われなくても分かっておるわ!」

鎧を纏った戦士達の猛攻により、前衛勢は防戦で手一杯となり、基本アイテム持ち係のパックまで参戦を余儀なくされている。
流石移動式壁とも呼ばれる種族だけあって今のところ何とか持ちこたえているが……。
防戦一方となっているのは誰の目にも明らかだった。このままでは押し切られるのは時間の問題だ。

【どうも接続状況が良くないようで途中二重になってすまぬ。
1ターン目ということでとりあえず圧されてみた】


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