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【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-


1 :2016/07/13 〜 最終レス :2017/01/06
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。


ジャンル:ダークファンタジー
コンセプト:王道的な中世ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:ご利用は計画的に
○日ルール:一週間(延長可)
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし


名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

2 :
名前:アルバート・ローレンス
年齢:26歳
性別:男
身長:180cm
体重:76kg
スリーサイズ:
種族:人間
職業:騎士
性格:クール、硬派
能力:剣術、馬術
武器:魔剣レーヴァテイン=Aダガー
防具:プレートアーマー
所持品:旅道具一式
容姿の特徴・風貌:ウルフカットの黒髪と、深い青色の瞳。体付きは筋肉質で、黒い鎧とマントを身に纏う。
簡単なキャラ解説:
帝国騎士団の中でも最強と謳われる「七人の黒騎士」に数えられる一人。「黒竜騎士」の称号を持つ男。
帝国の門閥貴族の長男として生まれ、幼い頃より騎士となるべく厳しい修練を積んで育ち、騎士団に入ってからも数々の武功を上げ、この若さで黒騎士の位を得ることとなった。
ちなみに愛用の「レーヴァテイン」は帝国に伝わる魔剣で、黒竜騎士の称号と共に皇帝陛下から賜った代物である。
現在は、復活した古竜を意のままに操ることができるという神器「竜の指輪」を捜索する極秘任務を受け、ただ一人放浪の旅を続けている。

3 :
――赤い風が、吹いていた。

荒れ果てた地面には、一輪の花も咲かず、岩肌は渇き切り、苔さえも茂らない。
火口から下る熱を帯びた風と、硫黄混じりの上昇気流。その肌触りと臭気を感じるだけで、ここが地上とは別世界なのだと思い知らされる。
人の身で足を踏み入れることなど決して許されない、灼熱の聖域――イグニス山脈。
ヴィルトリア帝国南部の国境沿いに連なる大山脈であり、その最深部には、今も蛮獣ベヒーモスが眠っていると、伝承で語り継がれている。

そして、そんな魔境とも呼べる山道を、一人の男が歩いていた。
男は漆黒の板金鎧(プレートアーマー)を身に纏い、背には身の丈ほどの長さの剣を背負いながら、この過酷な環境で顔色一つ変えることもなく、ただ前へと足を進めていた。

――男の名は、アルバート・ローレンス。
帝国が誇る騎士団の中でも、最強と謳われる七人の黒騎士≠フ一人に数えられる男であり、アルバートは黒竜騎士≠フ称号を授けられている。
生まれは帝国の門閥貴族の長男で、一族屈指の剣の才能に恵まれていたこともあり、騎士団へ入ってからこの位を手にするまでの時間も、然程長くはかからなかった。
しかし、ならば何故そのような男が、こんな辺境の地を一人で彷徨っているのか。それは、彼に与えられたとある極秘任務のためだ。

その内容は、他でもない。現在世界中を震撼させている古竜(エンシェントドラゴン)に関係する事柄である。
ただ一匹で世界を滅ぼすことさえも可能な古竜を、意のままに操ることができるという神器――竜の指輪。その捜索こそが、アルバートに下された使命であった。
そして、指輪に関する手掛かりの一つがこのイグニス山脈にあると聞き、こうして遠路遥々やって来たのだが――

「……リザードマンか。数は恐らく、七匹か八匹」

そこで不意に、アルバートの行く道を遮るかのようにして、幾つかの影が現れた。
トカゲのような頭と、長い尻尾。全身を覆う艶やかな鱗。人間ではないということは、一目で分かる。あれはこの火山に住まう魔物――リザードマンだ。
獣の俊敏さと獰猛さ、更には鋼鉄の如き硬度の鱗を持ち、おまけに武器や防具を使いこなすほどの知能も併せ持っている。
中でも、こういった火山などを生息地とする種はジオリザードマンと呼ばれ、水辺に住むタイプよりも凶暴だと言われている。

奴らにとって、こんな場所へわざわざ足を踏み入れる人間なんて、格好の獲物だということは間違いないだろう。
だが、今回ばかりは――と、アルバートは思う。

「――相手が悪かったな」

そう呟き捨てると、アルバートは無感情に、一切の恐れも迷いもなく、背の大剣を抜き放った。

4 :
アルバートが抜刀した刹那、彼の持つ魔剣――レーヴァテイン≠フ刀身が、煌々と輝く炎を纏う。
かつてラグナロクの際、巨人スルトが放ったレーヴァテインの一撃は、世界樹すらも燃やし尽くし、その上に成る全ての世界を滅ぼしたと言われている。

世界さえも焼き払う、終末の炎。
その炎を現界した瞬間、辺り一面にアルバートの研ぎ澄まされた殺意が満ち、この灼熱の大地の上でさえ、凍てつくように空気が冷え切っていく。

そんな雰囲気の変化を鋭敏に感じ取ったリザードマン達は、一斉に咆哮を上げ、こちらへと襲い来る。
最初に先頭の一匹が右手に握った槍を振り翳し、魔物の腕力を以って強烈な突きを見舞うが、黒竜騎士たるアルバートにとって、そんな一撃は児戯に等しかった。
アルバートは大剣を軽く振り払って、リザードマンの槍をパリィ(弾き飛ばす)し、構えの開いた胴体を目掛けて、裂帛の気合と共に袈裟斬りを繰り出す。
リザードマンは全身を頑強な鱗で覆っているが、そんな装甲など、レーヴァテインの前には紙切れ同然だ。
炎の刃は、リザードマンの鱗を容易く斬り裂き、その体を真っ二つに両断した。――まずは一匹。

そして後ろから迫るもう一匹に対しては、アルバートは剣を構え直すことさえもせず、そのまま振り向きながら、返す刃で一閃。
横薙ぎに振るわれた剣戟は、リザードマンが持っていた鋼鉄の盾ごと斬り捨てながら、正胴を抜くように直撃する。――二匹目。

更にアルバートは正面のリザードマンに対し、上体を前へと倒す独特な足捌きで距離を詰め、踏み込みの勢いのまま剣先を相手の胴体へと突き刺す。
するとその状態から、レーヴァテインの刀身は爆発したように炎を解き放って、リザードマンの体を内部から、木っ端微塵に吹き飛ばした。――これで三匹目だ。

瞬く間に三匹ものリザードマンを倒したアルバートの力量を見て、流石に相手も怯んだ様子だったが、どうやらまだここで退く気もないらしい。
――退き際を知らないから雑魚なんだよ。
アルバートは内心毒づきながら舌打ちを一つ鳴らし、もう一度大剣を正眼へと構え直した。


【ここまでが冒頭文となります。皆様の参加をお待ちしております】

5 :
いいね!

6 :
はい立て逃げ(笑)

7 :
俺tueeeeeだけ見せつけられても、お、おう…としかならないんだよなあ
先進めてくれよ

8 :
名前: ティターニア
年齢: 少なくとも三ケタ突入
性別: 女
身長: 170
体重: 52
スリーサイズ: 全体的に細い
種族: エルフ
職業: 考古学者/魔術師
性格: 変人 オタク
能力: 魔術
武器: 聖杖”エーテルセプター”  魔導書(角で殴ると痛い)
防具: インテリメガネ 魔術師のローブ 魔導書(盾替わりにもなる)
所持品: ペンと紙
容姿の特徴・風貌: メガネエルフ。長い金髪とエメラルドグリーンの瞳。
もしかしたら黙っていれば美人かもしれない。
簡単なキャラ解説: ハイランド連邦共和国の名門魔術学園「ユグドラシア」所属の導師(今風に言うと教授)。現在研究旅行と称して放浪中。

9 :
むかしむかし、古竜が猛威を振るい、世界を恐怖のズンドコ……じゃなかった、どん底に突き落としたそうな。
そこで都合よく運命に導かれし勇者達が立ち上がり、神から授けられたとも言われる超すごい指環の力を使って
見事古龍をうちたおし、世界に平和がもどりましたとさ。
これがかの有名な龍退治の伝説。
平和が戻ったのも束の間、今度は指環を巡って欲深き人間達の間で大戦争が巻き起こる事になった。
そこで指環は、秘密裡に召集された選ばれし使者達によって、過酷な旅の果てにここ、イグニス山脈の火口に捨てられたという。これが指環の伝説。
ああ、全くなんということをしてくれたのだ。そんな重要なものを火口に不法投棄するとは。
「まさか古龍が復活するとは思ってなかったんだもん!」という首謀者の言い訳が聞こえてきそうである。
しかし、伝説は必ずしも真実とは限らない。
表向き捨てたことにしてこっそりと隠し持っておく……なんて誰でも思いつきそうなことである。
彼女もまた、そんな誰でも思いつくような事を想像した一人であった。
しかし彼女には、その他の世の大勢の人と違うところがあった。
実際にイグニス山脈に赴き当時を知っている者に聞き込みをすることを思い立ったのである。
当時を知っている者とは誰か。もちろん、最深部に住まう幻獣ベヒーモスだ。
ちなみに肩書きは幻獣以外にも魔獣、聖獣、蛮獣、神獣など入れ替え自由である。
これまでの道中、人影ひとつ見当たらない。
当たり前だ、こんな場所に足を踏み込む酔狂な輩など彼女一人で十分だ……
と思いきや、少なくとももう一人いたようだ。酔狂な輩が。
どうやらお取込み中のようで、5匹ほどのリザードマンと対峙している。
よく見るとすでに何匹か料理済みのようで、ほんの少しの幕間といったところ。
いい感じでお互いの距離が少し開いている。そこで――

「加勢するぞ小童ぁ!」

手に持った杖を一振りし、リザードマンの群れのど真ん中に火の玉をぶちかます。
この領域に満ち溢れている元素「火」に属するシンプルにして強力な攻撃魔術、ファイアボールだ。
この世界エーテリアを形作る五つの元素――地水火風の四大元素及び第五元素エーテル。
これらの元素を操り様々な事象を起こす業のことを魔術という。
ちなみに魔族が使う魔法とは別物とか実は同じとか諸説ある。

「運が良かったなお主……我が名はティターニア!
かの有名な名門魔術学園”ユグドラシア”所属の導師級魔術師だァっ!」

いや知らんよ、というツッコミが聞こえてきそうである。

10 :
――対峙するリザードマンは、残り五匹。

それらを一気に殲滅すべく、アルバートは剣を右脇構えに握り直しつつ、前足に重心を乗せる。
そして今まさに、リザードマンの群れへと踊り掛かろうとした瞬間、不意に後方から、何者かの声が聞こえてきた。

>「加勢するぞ小童ぁ!」

アルバートは剣の構えは崩さぬまま、首だけを回して、その声の主の方へと振り返る。
すると、まず目に入ったのは、相手が身に付けたローブ。そして、金の長髪と端正な顔立ち。そして何よりも――長い耳。
その女がエルフ種であることは、アルバートにも一目で分かった。
多様な種族が共生する共和国とは違い、帝国での亜人種の扱いは奴隷階級に他ならないため、帝国貴族のアルバートとしては、エルフからこんな口の利き方をされたことを僅かばかり不快に感じるが、今はそれよりも気に掛かることがある。

「……っ……これは、火球の魔術か!」

女は直ぐ様、自らの手に握った杖を振り翳し、その先端からは火球が迸る。
敵の群れの中心へと着弾したそれは、強烈な爆風と炎を解き放ち、三匹ものリザードマンを一瞬で吹き飛ばした。
魔術に関しては門外漢のアルバートだが、ロクな詠唱もせずに、これだけの威力の技を行使するのが容易ではないということは理解できる。
一人でこんな場所を彷徨いている点といい、こいつは一体何者だ?

脳裏の片隅でそんな思案を巡らせるのも束の間、火球から逃れたリザードマンを見据え、アルバートは水平斬りを振るい、その肉体を一刀で両断する。
そこまでやってようやく最後の一匹も彼我の戦力差を理解したらしく、一目散に逃げ出してしまった。

>「運が良かったなお主……我が名はティターニア!
かの有名な名門魔術学園”ユグドラシア”所属の導師級魔術師だァっ!」

逃がした雑魚をわざわざ追うまでもないと考え、アルバートはやっと構えを解いて、再び大剣を背負い直す。
そして、エルフの女――ティターニアの名乗りを聞いて、アルバートも合点がいった。
共和国の戦力を支える一端とも呼べる魔術学園、ユグドラシア。そこに所属する導師クラスの魔術師ならば、彼女が先程見せたような魔術の腕を持っていることも納得できる。

しかし、そこで気になるのは、やはり何故ティターニアがこのイグニス山脈を歩いているのかということだ。
――順当に考えれば、その理由は恐らくアルバートと同じ竜の指輪≠ノ関する事柄だろう。
帝国騎士として、今のうちに厄介な敵国の調査員を始末するという選択肢もある。だが、もしも彼女が自分も知らないような情報を握っているとすれば――利用できるかもしれない。

「助力を求めた覚えはないが、一応礼は言っておこう。
 さて、その導師様が何故こんな辺境の地を彷徨いている? 学術調査というならば、お連れの一人もいないのは不自然に思えるが」

アルバートは敢えて名乗り返さず、不躾にそんな問いを投げ掛ける。
この問答に大した期待をしているわけではない。もしもティターニアに利用価値がないと判断すれば、その場で斬り捨てるまでだ。

11 :
>>8
3サイズ詳しく頼む

12 :
名前: ソフィア
年齢: 16
性別: 女
身長: 156
体重: 41
スリーサイズ: 81−57−80
種族: 人間
職業: 魔法銃士
性格: ノリが良い
能力: 魔法を銃で打ち出す
武器:魔法銃「サイレントノイズ」
防具: ゴスロリ調のローブ
所持品: 様々な呪術アイテム、弾薬。
容姿の特徴・風貌: 銀髪でツインテール。 目はつり目で青い。
簡単なキャラ解説: ハイランド連邦共和国の側の魔術師組合から派遣されてきた魔法銃使い。
様々な支援を行なう。

(サブ的な立ち位置での参加ですが、よろしくお願いします!)

13 :
トリップを間違えました

14 :
遠くでそれを眺めていた小柄な少女が一人。
名前はソフィア。魔術師組合からの増援で、威力偵察だ。

ソフィアは弾を込めると、逃げるリザードマン目掛けてフリーズガンを撃ち込む。
その一撃は性格にリザードマンの目を射抜き、あっという間にリザードマン一匹は凍り付いて死に絶えた。

その死体の前にすとっ、とソフィアが降り立つ。
決して身体能力は高くないので、ついつま先を打ってしまった。
「あいたた…!」

「さて、あなた達、支援に来てあげたわ。
ソフィア。増援よ」
少し噛みながらその台詞を辛うじて吐き出す。
最後は少し肺活量が足りず力んでしまった。

顔を赤らめながらも、ソフィアは銃を二人に向けた。
「えーと、そこの女はどうでもいいとして、アルバート様?
あ、あなたに、連邦共和国魔術師組合から出頭せよとの書類が出ているわ」

とりあえず、アルバートの前まで来て隣に腰掛け、書状を読み上げる。
内容は特に大きなことではない。ソフィア本人もアルバートをどうせよとは知らされていないのだから。

15 :
>「助力を求めた覚えはないが、一応礼は言っておこう。
さて、その導師様が何故こんな辺境の地を彷徨いている? 学術調査というならば、お連れの一人もいないのは不自然に思えるが」

「個人的な趣味……もとい自主的な研究で来ている故連れの者などおらぬ。
我はお主のような者とは違って随分と融通が利く身分でな
実は手下の者が隠れていて一斉におそいかかったりせぬから警戒せずとも良いぞ」

ティターニアは、アルバートの黒づくめの様相と卓越した戦闘力、そして共和国の者である自分を警戒する態度から、彼のおおかたの身分を察した。
ちなみに導師というのは研究旅行という名の観光旅行に自由に行ける上に授業を休講にすると何故か学生に感謝されるという謎の職業だったりする。

「我の専門分野は考古学でな、この地を守護する霊獣ベヒーモスに指環に関する話を聞こうと思っておる。
ここで出会ったのも何かの縁、もしよければ一緒に来るか?
……ああ、お主の身分や目的等は何も言わずともよい、守秘義務などあるのであろう?」

学問が現実世界ほど分化していないエーテリアにおける考古学とは、大昔の歴史はもちろん果ては世界の成り立ちまで解き明さんとする幅広い学問である。
魔術学園で研究対象になっていても何ら不思議はない。
警戒心を露わにするアルバートと対照的に、ティターニアは飽くまでも友好的。
学園は、共和国の多額の資金が投入されながら、学問の自由を守るために独立した地位が保障されているという特殊な立ち位置。
まあそうでなくても自由人ティターニアは国同士の関係など知ったこっちゃないのであった。
その間に、突如現れた少女が逃げようとしたリザードマンを始末していた。

>「さて、あなた達、支援に来てあげたわ。
ソフィア。増援よ」
>「えーと、そこの女はどうでもいいとして、アルバート様?
あ、あなたに、連邦共和国魔術師組合から出頭せよとの書類が出ているわ」

「お主、組合の者か。暫し待て、それは真か!?」

共和国の魔術師組合から一応敵国である帝国の騎士に出頭命令とは一体どういう経緯か。
横から見ると、確かに見たところは正規の書状のようだ。

「これは一体どういうことだ!? ……すまぬ、お主に聞いても詮無きことか。
見たところお主は何も知らされていない下っ端の使い……そんなところだな?」

少女の言葉が正しいとすれば、黒い鎧の青年はアルバートというらしかった。
帝国の黒騎士に出頭命令など出したら国際問題必至、下手すりゃ戦争勃発である。そこらの雑兵とは訳が違うのだ。
目的は不明だがとにかくよからぬことを企む何者かが魔術師ギルドに潜り込みソフィアに書状を持たせた。
しかもその何者かはおそらく極秘行動中であろうアルバートの行先を知っていた……。
いや、考えるのは後だ。とりあえずこの局面をどうにかしなければ。

「まあまあまあまあ、仕事熱心なのも良いが人生ゆとりも必要。
折角ここまで来たんだから観光ぐらいしてもバチはあたらぬではないか!
我と一緒に最深部ツアーに行こうぞ、なあに、何してたんだと怒られたら”変な女に捕まって連れ回されてました”と言えばよいわ!」

とんでもない依頼を何の疑問もなく受けてしまうあたり、ソフィアがノリと勢いで生きているタイプだと踏んだティターニアは(←他人の事は言えないが)
とりあえずアルバートが見る前に書状をしまわせ、これまた勢いで有耶無耶にする作戦に出た。

16 :
>「個人的な趣味……もとい自主的な研究で来ている故連れの者などおらぬ。
我はお主のような者とは違って随分と融通が利く身分でな
実は手下の者が隠れていて一斉におそいかかったりせぬから警戒せずとも良いぞ」

連れの者がいないという発言は、恐らく真実なのだろう。
アルバートも先程から周囲の気配を探っているが、辺りに身を隠せそうな場所も見当たらない。
そもそもこちらへ危害を加えるつもりなら、先程の戦闘時を狙うべきだったわけだし、現状でティターニアが寝首を掻こうとしている可能性は考慮しなくてもよさそうだ。

>「我の専門分野は考古学でな、この地を守護する霊獣ベヒーモスに指環に関する話を聞こうと思っておる。
ここで出会ったのも何かの縁、もしよければ一緒に来るか?
……ああ、お主の身分や目的等は何も言わずともよい、守秘義務などあるのであろう?」

などとアルバートがあれこれ思索していたら、ティターニアは何の警戒もせず、自らの目的をペラペラと喋り始めた。
アルバートが黒騎士に任命されたのは比較的最近の出来事だし、現在のメンバーの中では最も新参者だ。
同じ黒騎士でも、黒蝶騎士シェリー・ベルンハルト≠竅A黒狼騎士ランディ・ウルフマン≠ネどと比べたら、その知名度は大幅に劣ると言っていい。

――だが、魔術学園の導師ともなれば、帝国の黒騎士の顔触れくらいは把握しているだろう。
ティターニアがアルバートの正体に勘付いていることも考えられるが、それでもわざわざこんな話を聞かせたのは、どういう理由なのか。
竜の指輪に関する研究が目的などと言ってしまえば、自分の身が危うくなるかもしれないのに、こいつはそれでも問題ないというほどの自信を持っているのか、或いは余程のバカか――そのどちらかだ。

「……フン、いいだろう。貴様の話を全て信じたわけではないが、幸か不幸か俺の目的もそれ≠ノ関する内容だ。
 しかし、ベヒーモスに話を聞きに行くとは……正気の発想とは思えないな。そんな実在するかどうかも分からない伝承の存在を、一体どうやって探すつもりだ?
 もし見付けられたところで、話の通じる相手だとも考えられないが」

ここで今更竜の指輪から話を逸らすのも無理があると感じ、アルバートはティターニアと同じ目的であることをあっさりと白状し、彼女の提案に頷いてみせる。
あくまでも、互いの利害が合致する間だけの協力関係ではあるが、導師級の知識を利用できるならば、こちらにとっても悪い話ではない。

17 :
>「さて、あなた達、支援に来てあげたわ。
ソフィア。増援よ」

――と、そこで二人の会話を遮るかのように、小柄な銀髪の少女が現れた。
少女はその手に握った銃のようなもので、逃げたリザードマンの眼を撃ち抜き、一瞬で敵の体を凍り付かせてしまう。
あれは、弾丸を媒介とした魔術行使の一種なのだろうか。

「支援だと? そんな報告は聞いていないぞ。帝国軍人にも見えないが、貴様は何者だ?」

寝耳に水な自称増援の登場に、アルバートは当然食って掛かる。
今回の調査は、黒竜騎士アルバートが皇帝陛下から直々に下された極秘任務だ。
それをこんな得体の知れない小娘に支援させようなどということが、帝国の命令だとは考えにくい。

>「えーと、そこの女はどうでもいいとして、アルバート様?
あ、あなたに、連邦共和国魔術師組合から出頭せよとの書類が出ているわ」

>「まあまあまあまあ、仕事熱心なのも良いが人生ゆとりも必要。
折角ここまで来たんだから観光ぐらいしてもバチはあたらぬではないか!
我と一緒に最深部ツアーに行こうぞ、なあに、何してたんだと怒られたら”変な女に捕まって連れ回されてました”と言えばよいわ!」

更に続けてソフィアが何かを言おうとしたところ、ティターニアが慌ててその言葉を遮り、ソフィアが握っていた紙のような物を隠してしまう。
共和国≠セとか出頭≠セとか、聞き捨てならない単語が聞こえたような気がするが、一体この二人は何の話をしているのか。

「おい、ちょっと待て。そこに隠した書状を俺に見せろ。その内容次第では、そいつをタダで返すわけにもいかなくなる」

アルバートはティターニアが急いで仕舞わせた書状を奪い取ろうと、二人の間に割って入ろうとする。
――だが、そこでまた唐突に、大地が震えるかのような地響きが、辺り一面に鳴り響いた。
はっとしたアルバートは、音の聞こえた方へと振り向いて、背負った剣の柄に指を掛ける。
すると、先程の地響きがズン、ズンと続いて鳴り、どんどんこちらへと近づいて来る。そして、その発生源を視認した時、アルバートは思わず両眼を見開いた。

「……おい、導師。魔物については貴様の方が詳しいだろう。あいつは一体何だ?」

アルバートの目に入ったのは、巨大な鎧だった。
だが、巨大と言ってもそのサイズが余りにも大きすぎる。全長は5メートルほどありそうだし、横の幅などはまるで要塞のようにも感じられる。
どこからどう見ても、中に入っているのは人間じゃないだろう。

『タチサレ……ココカラ、タチサレ……』

鎧はギギギ……と歯車の軋む音を鳴らしつつ、その全身から白い煙を噴出して、口元からは不協和音のような声を吐き出す。
こいつが何なのかは分からないが、どうやらこちらに対して友好的な存在じゃないのは間違いないみたいだ。
アルバートは右手で剣を抜き放ち、鎧を睨み返しながら、右足を前に出して半身の構えを取った。

18 :
【このままいくと明日昼過ぎで7日ルールにつき我のターンということになる故
ソフィア殿はもし執筆中等であればそれまでに一報頼むぞ】

19 :
>「……フン、いいだろう。貴様の話を全て信じたわけではないが、幸か不幸か俺の目的もそれ≠ノ関する内容だ。
しかし、ベヒーモスに話を聞きに行くとは……正気の発想とは思えないな。そんな実在するかどうかも分からない伝承の存在を、一体どうやって探すつもりだ?
もし見付けられたところで、話の通じる相手だとも考えられないが」

「なあに、大体奴らみたいな輩は少々騒がしくすれば”我の眠りを妨げる者は誰じゃ”と言って出てきおる。
ただ……”真実を知りたくばその力示してみよ”等と言い出すのは必至であろうな」

この辺は人間とエルフの感覚の違いというものだろう。
まず寿命が桁違いな上に、人であらざる者との距離感が根本的に違う。
人間にとっての大昔の伝説がエルフにとってのちょっと昔の歴史だったり
人間にとっての伝承の存在がエルフにとって見つけたらラッキーな珍獣程度だったりするのはザラにある話だ。

>「おい、ちょっと待て。そこに隠した書状を俺に見せろ。その内容次第では、そいつをタダで返すわけにもいかなくなる」

着火の魔術を使えば証拠隠滅も出来なくはないがソフィアを送り込んだ者に関する手掛かりがなくなってしまう。
いっそ見せて出方を伺ってみるか?
等と思案するが、差し当たってその必要は無くなった。というよりそれどころではなくなった。
巨大な鎧の姿をしたモンスターらしきものが現れたのだ。
それはおそらく、魔力によって仮初の生命を与えられた無機物ーー魔法生物の類。
白い煙を噴き出し歯車が軋む音が聞こえることから、何らかの機械技術が使われていることが伺える。
そちらの方面の技術に現在最も秀でているのは帝国のはずだが、アルバートにも心当たりは無いようだ。
ティターニアはというと、今目の前に存在するものと特徴が合致するものが知識の中にあるにはあった。
問題はそれが現存するはずは無いということか。否、古龍が復活するご時世、もはや何が起こっても不思議はない。
ティターニアは、奇しくもこの山脈には古代都市の遺跡が存在することを思い出していた。

>「……おい、導師。魔物については貴様の方が詳しいだろう。あいつは一体何だ?」

「ふむ、帝国の最新技術というわけでもなさそうだな。となれば……
我も信じられぬのだが聞いて驚け、あやつはスチームゴーレム……古代文明都市の守護者だ!」

古代文明−−古龍が猛威を振るう以前に存在したという、蒸気機関と歯車の機械技術とあらゆる体系の魔導技術が高度に融合した文明。
古の都市の門番として配置されていたとされる魔導機械生物がまさに今自分達に襲い掛かろうとしていた。

>『タチサレ……ココカラ、タチサレ……』

その声を聞いたティターニアの瞳は、歓喜に近い興奮に彩られる。

「ほう、言葉も操るとは……! お主、悠久の時を眠っておったのか!?」

興味津々で問い掛けるティターニアだが相手は当然答えるはずもなく、巨大な拳を振り下ろしてきた。
威嚇なのか直撃ではないものの、礫がはじけ飛び爆風並の突風が巻き起こる。

「流石に素直に答えてはくれぬか……。ならば実戦で解析するまで!」

ティターニアが杖を天に振りかざすと、稲妻がゴーレムを撃つ。
雷撃《サンダーボルト》−−その名のとおり、雷撃で敵を攻撃する魔術。
場合によっては一時的に相手を麻痺させる追加効果があり、機械系の相手には特に強力な効果を発揮する。
追加効果が効いたらしく暫し硬直したゴーレムを前に次の手を思案する。

「さてどうするか……。我が学園の研究が正しければ体のどこかにemethの文字が刻まれているそうだが……
黒騎士よ、探せるか? もちろん我ができる限りの支援をさせてもらう」

古代文明の強力なゴーレムは安全装置を兼ねてemethの文字が刻まれており、その文字のeを消すとゴーレムは動きを停止するーー
これが研究者達の共通見解であり、そして当然ではあるが誰一人として立証したことのない仮説であった。
もちろん離れた場所から見えるほど分かりやすい場所に堂々と書いてあるはずはない。
知っている者にしか分からないように小さく書いてあるのだろう。
となればいつ動き出さないとも限らないゴーレムの体に上って間近で探す必要がある。
この作戦を実行するには、卓越した身体能力を持つ者ーーこの場においてはアルバートの助力が必要不可欠であった。

20 :
名前:ジャン・ジャック・ジャンソン
年齢:27歳
性別:男
身長:198
体重:99
スリーサイズ:不明
種族:ハーフオーク
職業:冒険者
性格:陽気、もしくは陰気
能力:直感・悪食
武器:良質な量産品の手斧・ナイフ
防具:鉄の胸当て
所持品:ロープ・旅道具一式
容姿の特徴・風貌:薄緑の肌にごつい顔をしていて、口からは牙が小さく覗いている
         笑うと顔が歪み、かなりの不細工に見えてしまう
簡単なキャラ解説:
暗黒大陸の小さな村で生まれ、その村に立ち寄った魔族の冒険者の
生き方に憧れ冒険者を目指し大陸を飛び出た。
それ以降、人間の異なる価値観に戸惑いつつも今ではそれなりに名が売れた冒険者として
日々、未知の風景を求めて探索している。

21 :
ジャン・ジャック・ジャンソン、通称「3つのジャン」は旅の途中に依頼を受けることが多かった。
それは日々を過ごすための金を稼ぐためでもあったが、同時に名を売るためでもあった。
今日もいつものように、ふもとの村ではぐれリザードマンに悩まされていると聞いたジャンは
群れるリザードマンがはぐれる理由と、その元凶を断つためにここ、イグニス山脈へと来たのである。
だが、彼が見たものは複数のリザードマンの死体と、喋る石像と、3人の人間だった。

「おいおいおい…はぐれリザードマンならぬ、はぐれ石像かよ」
「おまけにあの真っ黒い鎧の兄ちゃんと若い姉ちゃん二人が戦ってやがる」
「…待てよ、リザードマンからはぐれが出た元凶ってのは……」

アルバートたちが戦っている風景を、近くの高台から観察し、考える。
通常、群れて戦うリザードマンは弱そうな獲物を狙って襲い、食べる。
だが、あの石像は明らかにリザードマンでは勝てそうにないし、食べることもできそうにない。
つまり、ふもとの村にまで奴らが来ている理由は…

「あの石像に追い出された、ってことか」

そうと分かれば話は早い。ジャンは高台から飛び降り、ゴーレムと戦う彼らに協力するべく駆け寄った。

「おい!あんたら、あのゴーレムを倒したいんだろう?」
「俺はジャン・ジャック・ジャンソン、3つのジャンと呼んでくれ」
「俺もあいつに用事があるんだ、協力させてくれないか?」

22 :
空気が揺らめくほどの熱気を噴き出しつつ、鋼鉄の巨人はこちらを睥睨する。
こうして対峙しているだけでも、その巨体から放たれる威圧感は、先程仕留めたリザードマンなどとは比にもならない。

>「ふむ、帝国の最新技術というわけでもなさそうだな。となれば……
我も信じられぬのだが聞いて驚け、あやつはスチームゴーレム……古代文明都市の守護者だ!」

このイグニス山脈に、古代都市の遺跡が存在することはアルバートも知っていた。
――しかし、それが都市として機能していたのは遥か昔、現代を生きる人々からすれば、お伽話のような時代の話だ。
その守護者がこうして目の前に現れるなどと、俄には信じ難いことだが、今はティターニアの仮説以外に考えられる可能性もない。

「まさかそんな大昔のガラクタが、未だに動き続けていたとはな。古代文明の技術ってのは、そんなものまで創ることができるのか?」

アルバートも内心驚きを隠せなかったが、敵がどこの誰であろうと、我が剣の――黒竜騎士≠フ剣が錆びることはない。
眼前に立ちはだかるならば、斬り捨てるまでだ。

>「流石に素直に答えてはくれぬか……。ならば実戦で解析するまで!」

そしてティターニアが杖を振り上げると、天空に黒雲が発生し、そこから落ちる雷撃がゴーレムの体を貫く。
相変わらず碌な詠唱もせずにこれだけの魔術を行使するとは、大した腕前だ。その一撃は充分に効果があったらしく、敵は動きを止める。

>「さてどうするか……。我が学園の研究が正しければ体のどこかにemethの文字が刻まれているそうだが……
黒騎士よ、探せるか? もちろん我ができる限りの支援をさせてもらう」

「悪いがそういった細かい作業は苦手だ。ゴーレムに刻まれた真理の文字を見付けたければ、あいつを斬り伏せたあとでゆっくりと探させてやる」

ティターニアはemeth(真理)の文字を探せと助言するが、アルバートはその言葉を無視した。
先頭のeを消すことで、meth(死)に書き換える。そのような方法でゴーレムを止めることも可能らしいが、アルバートの性には合っていない。
正面から力で捩じ伏せるのが、帝国騎士の戦い方だ。

アルバートはゴーレムの元へ疾駆しつつ、レーヴァテインの柄を諸手に握り変える。
――狙いは敵の左足。その膝部分を目掛けて、横一閃に剣を振り抜くと、炎を纏った刃はゴーレムの左足を真っ二つに斬り裂いた。
ゴーレムは悲鳴のような声を発しながら崩れ落ち、そのまま倒れ伏せるかと思われたが、寸でのところで両手を地について転倒を免れ、再び足元のアルバートを睨み下ろす。
だが、その体勢では反撃も儘ならないだろう。このまま追撃を入れて叩き潰すとアルバートが切り返した直後、ゴーレムの胸部分の装甲が左右に割れた。

『ゴォォォ……アアアアアアアアアアアアアッ!!』

開いた胸元から現れたのは、二門の砲塔だった。
そして、ゴーレムは叫び声を上げながら、その砲口をアルバートとティターニアへ向ける。
あれはヤバい――と、戦士の本能で直感したアルバートは、大剣の剣身を盾のように構えて身を守る。
その直後、ゴーレムの砲塔は凄まじい爆音を伴いながら、光の熱線を解き放った。一つはアルバート、もう一つはティターニアを目掛けて、だ。
アルバートは何とかそれをレーヴァテインで防ぎ切ったが、ティターニアの方はどうだろうか。
今の一撃で発生した粉塵で、向こうの様子を確認するのも難しい。

>「おい!あんたら、あのゴーレムを倒したいんだろう?」
>「俺はジャン・ジャック・ジャンソン、3つのジャンと呼んでくれ」
>「俺もあいつに用事があるんだ、協力させてくれないか?」

すると、アルバートの背後からふと何者かが現れた。
急ぎ振り返って見れば、薄緑の肌に口元の牙。外見的特徴はオーク種のそれだった。
こんな時に新手の魔物か――と舌打ちを鳴らすが、どうやらそのオークはこちらの敵というわけでもないらしい。
理由など知る由もないが、あのゴーレムを倒す協力をしたいと言う。

「あいつと戦りたければ勝手にしろ。だが、ご覧の通りこちらも貴様を庇う余裕はない。精々死なないように気を付けることだな」

23 :
>「悪いがそういった細かい作業は苦手だ。ゴーレムに刻まれた真理の文字を見付けたければ、あいつを斬り伏せたあとでゆっくりと探させてやる」

提案を却下されるも別に気を悪くするでもなく、ティターニアはニヤリと微笑んだ。

「ほう、それもまたよし。あやつにどれほどの戦闘力があるかを見る良い機会!」

アルバートはその自信に満ちた言動に違わず、ただの一閃でゴーレムの左足を切り裂いて見せた。
腕前もさることながら、その手に持つ炎をまとった剣――あれも只者ではない。
神話に連なる魔剣に確か似たようなものがあったが、はて、なんという名前だったか。
などと考えてしまう程の鮮やかな手腕で、このまま押し切るかと思われたが、そうは問屋が卸さない。
胸の装甲ぱっくり開き、現れたるは二門の砲塔。
もしこのゴーレムが美少女型ならロマンあふれる絵面になろうが、生憎こいつはごっつい硬派なデザインであった。残念無念。

>『ゴォォォ……アアアアアアアアアアアアアッ!!』

とふざけた事を考えている場合ではなく、二つ砲塔があるということは当然二人同時に狙えるということである。
流石にそれに気付かないほどの愚か者ではなかったティターニアは
杖で目の前の宙に円のような形を描くと、目の前に淡く光る非実体の光の盾が現れる。
その一瞬の後、放たれた熱線は光の盾にぶつかって拮抗する。
プロテクション――防御魔術の基本にして真髄。その防護力は魔力の強さに比例する。
熱線の奔流の前に削られていく魔力の盾であったが、文字通りの紙一重というところで防ぎ切った。
こいつ、ガチで強いんじゃなかろうか!?――ここにきてエルフ特有の涼しげな顔に微かに焦りの色が浮かぶ。
ちなみにこいつが僅かにでも顔に出すということは相当ヤバイということである。

>「おい!あんたら、あのゴーレムを倒したいんだろう?」
>「俺はジャン・ジャック・ジャンソン、3つのジャンと呼んでくれ」
>「俺もあいつに用事があるんだ、協力させてくれないか?」

そこにタイミングよく表れた救世主、その声の主は――どう見てもオークです。本当にありがとうございました。
オークと言えば一部の特殊な趣味の方々が女騎士と共演させて一大ジャンルを築き上げているあのオークである。
先程のロマン砲塔といい何故そんなことまで知っているかというとその手のサークルの顧問だからである。
共和国最大規模の学園には多種多様なサークルが存在するので中にはそんなのがあっても不思議はない。

>「あいつと戦りたければ勝手にしろ。だが、ご覧の通りこちらも貴様を庇う余裕はない。精々死なないように気を付けることだな」

「加勢してくれれば大変助かる。かなりの強敵ゆえ用心せよ! 生憎女騎士はおらぬが男騎士ならおるぞ!」

緊迫した場にも拘わらず、いや、緊迫した場だからこその彼女なりの軽口。
ただし相手に意味が通じるはずはないし通じてもそれはそれで困る。

「あれほどの威力の砲……連射は出来ぬはず。次が充填される前に片をつけようぞ!
我が魔力受け取れい! 見たところ弱点は関節部分!」

ジャンの斧に杖を向けておまじないをすると、あら不思議、量産品の斧が炎をまといレーヴァテインとお揃いに。
ファイアウェポン――武器に炎の魔力を付与する魔術。もちろんその効果は一時的なものではあるが。
自分が直接魔法で攻撃してもいいが、相手は固い装甲に覆われているため、武器で装甲の隙間に叩き込んでもらったほうが効果的だと判断したのだった。

24 :
名前:コイン=ダート
年齢:16歳
性別:女
身長:154
体重:41
スリーサイズ:70-50-73
種族:人間
職業:犯罪奴隷
性格:胡散臭い
能力:暗器術、
武器:短剣、投げナイフ、魔導金属糸、日用雑貨
防具:灰色のローブ、革のベルト
所持品:硬貨、指輪、隷属の腕輪
容姿の特徴・風貌:大き目のローブを着込み、フードを目深に被っている。
フードの下の肌は白く、髪は白髪で肩までの長さ

簡単なキャラ解説:
幼少時、帝国において重罪を犯した罰として人権を剥奪され、奴隷の身に落ちた少女
犯罪奴隷は危険な任務や業務において、死んでも構わない道具として扱われるが、
少女は幼少期から今まで、死の危機を乗り越えことごとく生還して来た
その便利さから帝国のとある派閥の道具として徴用される様になり、
現在は、帝国の一派閥の命令でアルバートの動向と目的を調査すべく追跡している

尚、現時点で残りの刑期は残り986年

25 :
古来より、組織とはその身体が大きくなればなる程に、頭から手足への情報の通達が鈍くなるものだ。
まして、国家と呼べる規模にまで巨大化した組織であれば、その手足より異形の頭が生まれ、
更にその頭より異形の手足が生えるなど、良くある事である。
勿論それは、帝国と呼ばれる絶対君主制国家であろうとも例外ではない。

帝国が誇る「七人の黒騎士」が一角、「黒竜騎士 アルバート・ローレンス」

門閥貴族の出であり、力と名声の双方を手にする男。
そして、黒騎士であるものの、まだ名を得て日の浅い事から『絡みつく鎖が細い』……即ち、
門閥外の人間から見れば、その目的が極めて読みづらい男。

そんなアルバートが、ある時突然に辺境へと歩を進めた。

その行動は、帝国に存在する一つの派閥に懸念を抱かせた。

『アルバート程の男が動くとなれば、そこに何か大きな利が転がっているのではないか?』
『所属する門閥の威勢を更に強める為の、あるいは他の派閥の力を削ぎ落す為の何かを探しているのではないか?』

――等々。特に、その旅立ちの前に彼と皇帝との間で行われたやりとりの『痕跡の残り糟』を下手に見つけた事が、彼らの疑念を加速させた。

貴族や政治に携わる者達にとって、情報とは武器であり、糧であり、そして毒でもある。
情報の存在を知覚しているかどうかは、その手に剣を持っているかどうかに等しい。
故に、帝国に存在する一派閥である『彼ら』は、懸念材料であるアルバートへ『鈴』を付ける事を画策した。

情報を掠めとり、或いは恩を売る。それだけの能力を持ち――――最悪、殺されても構わない、駒としての『鈴』を

そして

「おっとっと、いやー困りましたー、ここ何処ですかねー……ひょっとして、自分迷子になっちゃいましたかー?」

今現在。スチームゴーレムという難敵と対峙するアルバート達の耳に、その『鈴』の声が響いた。
大根役者も甚だしい演技臭い声は、少女特有の高い音域であり……それは、発射後の砲塔から煙を放つゴーレムから響いている。
見れば――巨大な石塊の様にすら見えるゴーレムの肩の上に、灰色の薄汚れたフードを目深に被った小さな人影が一つ。

「んー? ややや、これはアルバート様じゃないですかー! いやー、これはまた奇遇ですねぇ。
 先日お会いしたのは村の雑貨屋でしたか。三日ぶりの再会とは、いつも通り世間は狭いものですねー……あははー!」

そのままゴーレムの肩で、恭しく上位の者への隷属の姿勢を取るフードの少女。
視方によれば突然現れたとしか思えないフードの少女だが、戦場においてその警戒網を張り巡らせていた人物ならば、
彼女がゴーレムの砲の衝撃で起きた落石に紛れ、風の様な速さでその肩に登った事に気付けた事だろう。

そして、アルバートの任務が始まって依頼、度々アルバートの前に姿を現している少女。
明らかに彼を付けてきている少女は、口元に笑みを浮かべながら再度口を開く

「おやー!なんと、先ほどから地面が揺れると思えば、なんと、これはゴーレムでしたかー!
 大変だ、このままだと私は『辺境地域の治安の調査』の命令を果たせずやられてしまいますねー……んんー!?」

演技臭い、胡散臭い口調で紡がれる言葉

「なんと!私、コイン=ダートは大発見しましたー!アルバート様に亜人の皆様、これはチャンスですよぉ!
 このゴーレム、右肩の関節に偶然何かが詰まって、右腕が上手く動かせなくなっているみたいですー!」

だが、その言葉の内容は嘘ではなかった。
少女……コイン=ダートの語る通り、ゴーレムの右肩の関節の隙間には、無数のナイフや金属糸が『いつの間にか』挟まり、その動きを大きく阻害していたのである。
そのナイフや金属糸は、ゴーレムが少し暴れれば力技で振り払える程度のものだ。
だが、それまでに出来る隙は……恐らく、武器を持つ者が技を当てるには丁度いい規模のものだろう。

わずらわしそうに振るわれたゴーレムの左腕を避け、羽根の様に地上に着地した少女は、張り付いた仮面の様な笑顔でその後の動きを見守る。

26 :
各キャラのイメージ画像

アルバート
http://i.imgur.com/ZOCf1Fo.jpg

ティターニア
http://i.imgur.com/qtj86oH.jpg

ジャン
http://i.imgur.com/wlfr3m4.jpg

コイン=ダート
http://i.imgur.com/kju9qg4.jpg

27 :
>「あいつと戦りたければ勝手にしろ。だが、ご覧の通りこちらも貴様を庇う余裕はない。精々死なないように気を付けることだな」

石像が放った光を受け止めた人間の男が、そう言って石像へと踵を返す。
物凄く頑丈そうな石像の足を、一瞬で切り裂いた男だ。さぞかし持っている剣も業物のようだが…
今はそんなことを考えている場合ではない。あの光の残滓を受けた周りの岩は溶けているか、消えているのだ。

「あ、ああ…あんたも気を付けなよ。といってもその剣があるなら大丈夫だろうが…」

こりゃ、とんでもない奴どうしの喧嘩に入ったかもしれない。そう思いつつ石像と六歩ほどの距離を保ち、
他にどんなからくりがあるのか観察することにした。

>「加勢してくれれば大変助かる。かなりの強敵ゆえ用心せよ! 生憎女騎士はおらぬが男騎士ならおるぞ!」

と、人間の女がこちらへ向けて一言。いや、あの長耳は人間ではなくエルフか。
ローブにメガネ、おまけに魔導書。旅の途中で見た、学者の親戚だろう。
だが…顔はあまり美人ではないとジャンは思った。もう少し背が高く、肉が付いていて顔が丸ければ
口説くぐらいは考えたのだが……。

「女だろうが男だろうが手数が欲しいなぁ!あんたら護衛の一人もいねえのか!?」

斧を腰のベルトから外し、革の鞘から抜き取る。
人間ならば両手で扱うサイズの分厚い刃を備えた斧は、柄を短くされ手斧ほどのサイズとなっていた。

「さっきの物凄く熱い光が来る前にケリを着けねえとな…なんかあるか?」

あの光を防げると言っても、同時に手足を振り回されでもしたらさすがに耐えきれないだろう。
まず開いている胸を叩くか、それとも高台にいたときから見えている装甲の隙間か…

>「あれほどの威力の砲……連射は出来ぬはず。次が充填される前に片をつけようぞ!
>我が魔力受け取れい! 見たところ弱点は関節部分!」

「うおっ!俺の斧が燃えてるじゃねえか!熱…くはねえな。」
「これなら隙間に打ち込めば中身を溶かせるかもしれねえ…ありがとよ、いっちょやってくるぜ!」

いざ、動きを止めている石像へと一撃を叩きこんでやらんとするジャンへ、凛と響く少女の声。

>「おっとっと、いやー困りましたー、ここ何処ですかねー……ひょっとして、自分迷子になっちゃいましたかー?」

いかにも胡散臭い詐欺師のような口調で少女が、石像の肩に立って喋っている。
いきなり現れた少女が朗々と喋る内容からすると、彼女はあの黒甲冑の男の知り合いのようで、だとすると
こちらの仲間ということだろう。

>「なんと!私、コイン=ダートは大発見しましたー!アルバート様に亜人の皆様、これはチャンスですよぉ!
> このゴーレム、右肩の関節に偶然何かが詰まって、右腕が上手く動かせなくなっているみたいですー!」

おまけに援護までしてくれている!どうやったかは知らないが、右肩の隙間に大量のナイフや糸が仕込まれていた。
これならば斧も当てやすいというもの、喜んでゆっくりと動く右腕を登り、右肩の隙間へと燃え盛る斧を振り上げ、
叩き切れるまで振り下ろさんとばかりにその刃を叩きつけ始めた。

28 :
>「加勢してくれれば大変助かる。かなりの強敵ゆえ用心せよ! 生憎女騎士はおらぬが男騎士ならおるぞ!」

>「あれほどの威力の砲……連射は出来ぬはず。次が充填される前に片をつけようぞ!
我が魔力受け取れい! 見たところ弱点は関節部分!」

ゴーレムの放った熱線による爆炎と粉塵が晴れ、ようやく視界が開けてみると、そこには相変わらず軽口を叩き続けるティターニアの姿があった。
どうやらあちらも何とか、先程の攻撃を防ぎ切ったらしい。そして、次いでティターニアが行使したのは、恐らく付与(エンチャント)の魔術だろう。
これであのオークが持つ何の変哲もなさそうな斧でも、魔法剣と同様の力を発揮することができる。

>「んー? ややや、これはアルバート様じゃないですかー! いやー、これはまた奇遇ですねぇ。
 先日お会いしたのは村の雑貨屋でしたか。三日ぶりの再会とは、いつも通り世間は狭いものですねー……あははー!」

しかし、そこで戦いの流れを遮るかの如く、ゴーレムの上に新たな人影が現れた。
あいつはこの旅を始めて以来、アルバートの行く先々に現れる少女だ。名は確か――コイン=ダートと言ったか。
こちらを付けて来ているのは間違いないが、隠れて尾行するわけでもなく、こうして度々姿を現すということは、あくまでもアルバートとの接触が目的なのだろう。
そして信じ難いことに、この女が先の熱線によって生じた落石の間を掻い潜り、ゴーレムの肩の上に飛び乗る姿を、アルバートは確かに目撃していた。
あの人間離れした身体能力といい、未だ真意を掴めない不気味な存在ではあるが、今はそれを言及している時間もない。

「また貴様か……コイン=ダート。いい加減何が狙いなのかを問い詰めたいところではあるが、ともかく今はこいつを始末するのが先だ」

アルバートはうんざりした様子で相手の戯れ言を聞き流しつつ、再びゴーレムへと向き直り、諸手に握ったレーヴァテインを大上段に振り被る。

>「おやー!なんと、先ほどから地面が揺れると思えば、なんと、これはゴーレムでしたかー!
 大変だ、このままだと私は『辺境地域の治安の調査』の命令を果たせずやられてしまいますねー……んんー!?」

>「なんと!私、コイン=ダートは大発見しましたー!アルバート様に亜人の皆様、これはチャンスですよぉ!
 このゴーレム、右肩の関節に偶然何かが詰まって、右腕が上手く動かせなくなっているみたいですー!」

>「これなら隙間に打ち込めば中身を溶かせるかもしれねえ…ありがとよ、いっちょやってくるぜ!」

更にコイン=ダートはいつの間にかゴーレムの右肩に何かを挟み込んでいたらしく、敵の右腕の動きが止まったところを狙って、ジャンが一気にその上へ登って斧を振り下ろす。
ティターニアの魔術によって強化された刃は、見る間にゴーレムの関節を溶解し、たったの三撃ほどで右肩を切断して、しがみついていたジャンと共に右腕が地上に落下した。
ゴーレムは再び悲鳴を上げ、その声に空気が震え上がる。そしてまた、胸元の砲塔が光を蓄え始め、その照準をこちらへと定めた。

――だが、二射目を撃たせるつもりなど、アルバートには無かった。

「もう、充分に役目は果たしただろう。古の守護者よ、そろそろ貴様を過去の呪縛から解放してやる」

その瞬間、アルバートが大上段に掲げたレーヴァテインの剣身が、天まで届くかのような炎を放って、極大の炎刃を形成する。
そして、アルバートはまさしく巨人の剣と化したレーヴァテインをただ真っ直ぐに$Uり下ろす。その余りにも単純で、頸烈な剣戟が、ゴーレムの体を脳天から縦真っ二つに両断した。
最早ゴーレムは声を発することもなく、全身から蒸気を吐き出しながら、地面へと崩れ落ちていった。

29 :
ゴーレムの体内から零れた無数の部品や歯車。それらが散乱する様に一瞥をくれてから、アルバートは先程まで共に戦っていた仲間たちの方へ振り返る。

「さて、貴様らには色々と聞かなければならないことがあるが……特にコイン=ダート。
 この後に及んでまだ白を切り通すつもりならば、容赦をするつもりはない。貴様の目的を白状して貰おうか」

アルバートは散々自分を付け回し続ける少女を睨み付け、厳しい言葉を投げ掛ける。
今回のゴーレム戦では轡を並べて戦った間柄ではあるが、それとこれとは話が別だ。
こちらにも帝国騎士としての使命がある以上、その障害になり得そうな存在があれば、全力を以て排除しなければならない。

「……ん?」

――と、そこでアルバートは、とある異常事態に気付く。
このイグニス山脈に入ってから、ずっと周囲の風景に違和感を覚えていたが、それがようやく確信に変わった。
視界に入る右と左。その両端に、形も大きさも傷も色合いも全く同じ♀竄ェ二つあったのだ。

「なるほど、そういうカラクリか……」

アルバートはレーヴァテインを携え、二つの岩を結ぶ線の中央辺りへと歩いて行く。
そしてまた剣身に炎を纏わせてから、大剣を左上段に構える。

かつて世界を滅ぼしたと言われる魔剣、レーヴァテイン。終末の炎が焼き払う対象は、何も物体に限った話ではない。
霊体などの形なきものから大気・水、果ては魔術効果に至るまで、この世界に存在する森羅万象を燃やす≠ニいうのがこの武器の本質だ。
その力を利用すれば、こういった芸当さえも可能となる。

アルバートは袈裟懸けに剣を振り抜き、その剣閃が何か≠捉える手応えを両手に感じた。
――瞬間、先程まで辺りを取り巻いていた硫黄混じりの気流が吹き飛び、大地や岩、目に見える全ての風景が掻き消え、代わりにそこへ隠されていた姿が顕になる。

眼下に連なる巨大な廃墟。
それは、スチームゴーレムが護り抜こうとした、古代都市の遺跡に他ならなかった。

「……あれが古代都市か。道理で見付からないわけだ」

恐らくはあのゴーレムと同様、この街を護るために、太古の魔術師が幻術の類を行使していたのだろう。
文献には確かに古代都市の存在が記されているのに、それを発見できなかったのは、こうして姿を隠されていたからだったというわけだ。
だが、レーヴァテインの炎によってその幻術は打ち破られた。奇しくもこの剣を所有するアルバートがここへ来たために、歴史の封印は解かれることとなったのだ。

30 :
悲報――スチームゴーレムはバラバラ解体事件。
その最中で突如として現れたコイン=ダートと名乗る少女。
不審人物の理想的なフォルムを体現した不審人物ではあるが、
暗殺や任務妨害等が目的ならターゲットの眼前にド派手に現れたりはしないだろうし、増して戦闘に力を貸したりはしないだろう。
知り合いと言う程牧歌的な関係ではないにしても、直接的に危害を加えるつもりはないようだ。――少なくとも今のところは。

>「さて、貴様らには色々と聞かなければならないことがあるが……特にコイン=ダート。
この後に及んでまだ白を切り通すつもりならば、容赦をするつもりはない。貴様の目的を白状して貰おうか」

アルバートがコインに詰め寄る。
どうも先ほどから出頭命令出されたり尾行されたり色んな勢力から目を付けられているようだ。
帝国VS反乱軍というのが物語の王道テーマであるように、帝国という国家形態は不穏分子が付き物である。
目的が情報収集だけならまだいい方だが、下手すりゃ泳がしておいてここぞという時にお宝を掠め取る算段か――

「何やら穏やかではないな。とにかくコイン殿もジャン殿も先ほどは助かった。
我が名はティターニア、ユグドラシアの導師をやっておる。以後よろしく頼むぞ。
ところでそなたはどこかの調査員の者か?」

表向きは『辺境地域の治安の調査』を間に受けた体で、コインにそれとなく所属を尋ねる。
もちろんまともな答えが返ってくるはずもないが、何等かの組織の差し金で――
少なくとも何者かの依頼もしくは命令で動いているのだろう、程度は常識的に考えると察しがつくかもしれない。
こんな場所を個人的な趣味でうろうろしているアホはティターニア一人で十分なのである。

「まあ……切り捨てるのはお勧めせぬ。トカゲの尻尾切りにしかならぬ予感がするからな」

>「……ん?」
>「なるほど、そういうカラクリか……」

アルバートが何かに気付いたようだ。
一体何事かとひとまず一行が見守る中、虚空に剣を閃かせると、終末の炎が偽りの風景を焼き払う。
通常この手の永続魔法を解除するには、条件を整えた上で儀式魔術を執り行わなければならない。
それを剣を一閃しただけで解いて見せるとは――

「まさかお主の剣は……あの伝説の魔剣レーヴァテインなのか!?」

通常ならそれだけで小一時間問い詰めかねないほどの事案だが
すぐに興味の対象はそれ以上の絶景――眼前に広がる遺跡に移ることになった。

31 :
「これは……炎の都”灼熱都市ヴォルカナ”素晴らしい……素晴らしいぞ!
帝国騎士よ、でかした!」

ティターニアは大はしゃぎであった。
今まで誰も見つけることのできなかった遺跡の発見の瞬間に立ち会ったのだから無理もない。
遥か古の世に全世界を支配していたという古代王国。
その頂点に君臨した王都セント・エーテリアの次に栄えていたという四大都市、ここはまさしくそのうちの一つであった。

『そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。ここに来られたということは門番を倒し幻術までも破ったようだね』

「それはもう考古学者冥利に尽きるというものだ。尤も幻術を解いたのはこの騎士殿であるがな……何奴!?」

普通に答えてから遅ればせながら会話の相手が誰かという基本的問題に気づくティターニア。
声といっても耳を通した音ではなく、直接頭の中に語りかける念話のようなものだった。
見れば、いつの間にか現れていた巨大な影。
二本の角とたてがみの生えた巨大なサイのような獣の上に真紅の髪の少女が腰かけている。
生きているのか残留思念のようなものか、そもそも人間なのか精霊の類なのかそれすらも分からない。

「もしやそやつはベヒモス……か?」

『よく分かったね、この子はこの都市の守護聖獣さ。付いてきて! “指環の祭壇”はこっちだ』

一人と一匹?は一行、というより主にアルバートの目的を知っているかのように案内を始める。
この時点で予測がつくのはやはり指環はこっそり隠されていたらしい、ということ。
そして彼らは来るべき時まで指環を護る任務を帯び悠久の時を待ち続けていたのかもしれない。
相手の正体が分からない以上冷静に考えると危険性も充分にあるわけだが
歓喜と興奮のあまり正常な判断力を失っているティターニアはホイホイっと付いていってしまうに違いない。

【このままでは随分あっさりと指環が手に入ってしまいそうだが自分の中では
本命:指環は実は複数ある説 対抗:指環が何等かの理由で力を失っている説等の説が浮上しておるぞ】

32 :
オーク族と思わしき男が太く隆々とした剛腕を以って振り下ろす斧。
只でさえ強大な威力を有するその攻撃は、エルフ族の女が付与した魔術で炎の属性を纏い強化され、
堅牢な鎧ゴーレムの腕を融解させながら叩き斬る事を成功させた。

更に極めつけは、アルバートが放った巨大な炎刃。
ゴーレムすらも上回る、もはや柱の様な様相と化した炎は、振り下ろすと言う動作、
ただそれだけで古の巨人を破砕させてしまった。

種族特性だけではないだろう、鍛え抜かれた筋力
叡智に裏付けされた、芸術が如き精緻な魔力の操作
黒騎士の名に恥じぬ、規格外と言うべき破壊力を持つ魔剣

遠く語り継がれる英雄一行の夢物語を現出させた様な、そんな光景を目の当たりにした、
薄汚れたローブとフードを被る少女、コイン=ダートは……

「あ、はー!凄いですねー、壮観ですねー、流石ですねー!」

ゴーレムから少し離れた危険の少ない位置で、観客の様に形だけをなぞった様な賞賛の言葉を吐き出していた。
浮かんでいる表情こそ笑顔だが、その笑顔は語っている事など欠片も思っていない事が透けて見える、薄ら笑いであった。

――と。そんな彼女の足元へ、破砕されたゴーレムから何かが転がって来る。
掌に容易く収まる程の大きさであるそれは、そのままコインの靴に当たり……そして、その動きを止めた。
己にぶつかってきた小さな何か。何とはなしにそれを拾い上げたコインは。

「……んんー?これはぁ……歯車、みたいですねー……あー、成程!
 どーりで盗み聞いたエルフ様の話にあった文字が見当たらないと思えば、『内側』に刻まれていた訳ですかー」

その歯車に刻まれていた文字は『emeth(真理)』

どうやら、このゴーレムの製作者は、ゴーレム創造において裏技をやってのける程の熟練者であり、
なおかつ、知恵で己の創造物を砕かれるのを嫌う偏屈者だった様である。
少女、コインは、歯車に刻まれた文字を一度指で撫でるとそれをこっそり懐へ仕舞い、アルバート達の元へ歩み寄る――――

33 :
――――さて。一戦終えたとはいえ、それで生温い仲良しパーティが出来上がる訳も無く。

>「さて、貴様らには色々と聞かなければならないことがあるが……特にコイン=ダート。
>この後に及んでまだ白を切り通すつもりならば、容赦をするつもりはない。貴様の目的を白状して貰おうか」

>「何やら穏やかではないな。とにかくコイン殿もジャン殿も先ほどは助かった。
>我が名はティターニア、ユグドラシアの導師をやっておる。以後よろしく頼むぞ。
>ところでそなたはどこかの調査員の者か?」

始まるのは、コイン=ダートという人物への追及であった。
当然であろう。この場において、最も不審な人物はコインなのだから。
ある意味ではオークの男も不審ではあるのだが――――彼の場合は、その人柄からか胡散臭さが少ない。
よって、安全の意味でも『警戒すべき対象』であるコインに意識が向かうのは、必然であった。
そうして、不審や警戒の意志を向けられたコインは足元へと視線を向け……

「やー、ひょっとして、私の様な下賤な者が、偉大な貴族であるアルバート様に許可も無く口を聞いたので
 怒っていらっしゃいますかー?それは申し訳ございませんでしたぁ」

――――そのまま片膝を付き、深く頭を下げた。
何のためらいも無い、貴族への隷従のポーズ……それは、傲慢な貴族であっても思わず頷く程に卑屈な姿だった。
最も、語った言葉が全て演技がかった軽いものである事を除けば、の話だが。
そして、そのままの姿勢で顔だけを上げると、その口元にへらへらとした笑みを浮かべた彼女は、再度口を開く。

「けれど皆様、私ごときをそんなに警戒しないでくださいよぅ。私に大それた目的なんてありませんー。
 其方のエルフの……導師ティターニア様の言った通り、私は帝国の指示で動く調査員で、
 『辺境地域の治安の調査』を命じられた、しがない労働者ですよぅ」

そうして、彼女は右手を肩まで上げると、無意味にひらひらと振る

「まあ、仮にここで『黒騎士様を身を挺して護れ』とか『任務を応援しろ』とー、やんごとなき身分の方から命じられて来ました!
 なんてー私が僭称しても、それはそれで皆さま信じられないでしょうー?」

なので、と言葉を置き立ち上がるコイン。

「なので、ここは私が『この場でアルバート様に危害を加える様な不敬なマネは絶対にしない』と約束する事で
 なんとか許して貰えないでしょうかー?」

34 :
>「……ん?」
>「なるほど、そういうカラクリか……」

そんなコインの態度と言葉に呆れたのか、或いは嫌気が刺したのか……彼女から視線を外したアルバートが、不意に疑問の声を発した。
次いで、その言葉と態度は何かを確信したものになり……やがて、一行が見守る中、彼はその魔剣の力を解き放った。
そして放たれるのは、何もない空間への斬撃。本来であればその行為は何も引き起こさない筈であったのだが

――――次の瞬間。この場に居る者達の眼前に存在していた『風景』が焼け落ちた。

同時に、ただの岩と土くれしか存在していなかったその場所に、一つの『街』が現出したのである。

「……? ……!」

流石にこの光景は想定外であったのか、言葉を失うコイン。
だが、それも一瞬。我に返ったコインは、ネコ科の獣の如くその場から跳躍し、
近くに立っていたオークの男の幅広い背の後ろにその身を滑り込ませた。
そして、待つ事十数秒……

「んー……あれー?おかしいですねぇ、何も起きませんねー?」

>「これは……炎の都”灼熱都市ヴォルカナ”素晴らしい……素晴らしいぞ!
>帝国騎士よ、でかした!」

罠を警戒してオークの男を盾に出来る位置に移動したコインであったが、特に何も起きなかった事に首を傾げる。
それと同時に聞こえてのは、来たティターニアの歓喜の混じった声。
その言葉を聞き、警戒しつつオークの男の脇腹の辺りからそっと顔を出し、先ほどまで石壁があった方角を再度眺め見れば

……そこには、怖気がするほどに美しい、真紅の街並が広がっていた。
所々崩れ、植物の蔦に侵されてはいるものの、未だ人が生きていた時代を感じさせる美しく壮大な建造物の数々。
街を形作る赤色は、赤煉瓦だけではない。柱や窓の一部形作っているのは、メノウ……或いはそれに類似した玉であろうか。、
その半透明の石は石畳の一部にも利用されており、街を美しく飾り立ててている。

「はー、これはまた。随分と随分ですねぇ……」

ある種の威圧感さえ感じられるその遺跡を改めて眺め見たコインは、オークの男の背から身を離し、小さく嘆息を漏らす。
そして、今回の仕事の目的について思考を巡らせる

(ひょっとして、アルバートサマが捜していた物はコレですかねー……もしそうなら、楽な仕事なんですがー)

街の景観とはしゃぐティターニア。思考を巡らせながらその情景を漫然と眺めいたコインであるが、

――直後、コインは再度オークの男の背にその小柄な体を隠した。

普通に考えれば、オークの男にとってはなんとも迷惑で不愉快な行動であろう。
だが、コインにはそれを気遣う余裕は無かった。

35 :
>『そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。ここに来られたということは門番を倒し幻術までも破ったようだね』

何故ならば、ティターニアの横へ、まるで風景から滲みだしたかの様に唐突に、巨大な獣が現れたからである。
錆色の肌と二本の角を持つ獣。それは、明らかに高危険度の魔獣か霊獣であった。
そして、獣の背に乗り、それを従える正体不明の少女……どう考えても、異常である。
何より異常なのは、

>「もしやそやつはベヒモス……か?」
>『よく分かったね、この子はこの都市の守護聖獣さ。付いてきて! “指環の祭壇”はこっちだ』

(指輪……?なんでしょうねぇ、それはー……)

ベヒモスを従えるその少女が、まるで何かを見透かしたかの様に、こちらを指輪の祭壇とやらに導こうとしている点だ。
人類から隠された遺跡に巨大な魔獣と巣食い、突然の来訪者の目的を知っているかの様に振る舞う謎の存在。
攻撃の意志こそ無いようだが、アルバートの旅の目的を知らないコインから見れば、
その異常な少女を信頼する要素は皆無であった。

そんなコインの考えを察する様子などまるでなく、ベヒモスの背に乗り先導するかの様に、
大通りの先……赤色の街には不釣り合いな白色の石で造られた神殿に歩を進めていく少女。
そして、その少女の後を追わんとするハイテンションのティターニア。
二人と一匹の背を眺めるコインは、この場で己が取るべき選択を思い悩み……

「んんー……アルバート様とー……オーク様。あの赤い髪の娘、なんだか胡散臭そうな気配がするのでー、
 着いていくなら、どうぞ気を付けてくださいねぇ。おおっとー、私ごときが余計な事を言ってすみませんー!」

最終的に、アルバートに丸投げする事にした。今回の任務の特性上、アルバートが進むのならば、
どのみちコインも一緒に進まなければならないのである。
ならば、考えるだけ無駄だという結論に思い至ったのであろう。

ちなみに、赤髪の少女が胡散臭いと、少女以上に胡散臭い二ヘラとした笑みで囁いた理由は、
帝国の黒騎士たるアルバートに警戒して貰う事で、自身の生存率を少しでも引き上げようとしているが故。
そして、オークの男に話を聞かせたのも、同じ理由であった。

36 :
無事石像は解体され、その余波としてジャンは間近で飛び散る装甲の破片や部品を浴びた。
こんなことなら耐熱マントでも買ってくるんだったと思いつつ、皮膚にできた火傷をさする。

「あの大剣は凄かったけどよお、もうちょっと考えられなかったのかよ…」
「ハーフオークなんだからよ、皮膚が鎧みたいに硬いわけじゃないんだぜ」

そう男に愚痴りつつ、売れそうな部品や破片がないか探して回るジャン。
この手の部品は大抵愛好家や学者が高値で買い取ってくれるので、ジャンは見かけたら袋に入れておくことにしている。
螺旋状の彫りがされた棒や、よく分からない光る箱などを腰の袋に詰め、街に戻ったら高値で売ろうと考えていた矢先。

「お、その歯車…」

>「……んんー?これはぁ……歯車、みたいですねー……あー、成程!
> どーりで盗み聞いたエルフ様の話にあった文字が見当たらないと思えば、『内側』に刻まれていた訳ですかー」

先ほど手助けしてくれた少女の足元へ小さな歯車が転がった。
チラッとしか見えなかったが、文字が刻まれていたように思える。
そいつも高値で売れるかもしれないと思ったジャンは、少女へと譲ってくれるよう頼もうとしたが――

(よく考えればあいつも手伝ってくれたし、山分けした報酬みたいなもんだな)
(人の世は奪い合いではなく山分けにて成り立つ……婆ちゃんの教えだ)

少女が歯車の表面を指でなぞる姿が、まるで子供が大切な宝物を見つけ、それを愛でているように思える。
だからジャンは、何も言わず他の部品を探し始めた。

>「さて、貴様らには色々と聞かなければならないことがあるが……特にコイン=ダート。
>この後に及んでまだ白を切り通すつもりならば、容赦をするつもりはない。貴様の目的を白状して貰おうか」

>「何やら穏やかではないな。とにかくコイン殿もジャン殿も先ほどは助かった。
>我が名はティターニア、ユグドラシアの導師をやっておる。以後よろしく頼むぞ。
>ところでそなたはどこかの調査員の者か?」

……めぼしいものは大体拾い終えたところで、さっきの男とエルフの女が少女を問い詰めはじめた。
どうやら二人ともかなりあの少女を怪しんでいるようだ。最後に動きを止めてくれたのは少女なのに…とジャンは思いつつ口を挟む。

「おい、せっかく一仕事終えたってのにその言い方はねえんじゃねえか」
「特にその真っ黒な兄ちゃん、街に帰ってからでもいいと思うんだがな、そういうこと聞くのは」

しかし、少女はまるで気にしていないようだ。笑みを浮かべながらさらりと理由を説明してみせる辺り
こういうことを聞かれるのは慣れているのだろう、帝国の人間というのは。

37 :
>「なので、ここは私が『この場でアルバート様に危害を加える様な不敬なマネは絶対にしない』と約束する事で
> なんとか許して貰えないでしょうかー?」

「ここまで言ってるんだしよ、まぁ帰るまではいいんじゃねえか」

そうアルバートと呼ばれた男に言うと、ジャンは少女の方を向いた。少女の態度も確かに怪しげなものではあるし、
釘を刺しておくべきと考えたようだ。

「だからよ、お前もあんまり怪しまれるような……」

直後、背後に感じた炎の気配を感じて振り向く。アルバートが再びあの技を放ち、何かを斬ろうとしているようだ。
何が起きるのかと瞬きした刹那、一瞬感じた灼熱と共に風景が吹き飛び、その姿が現れた。

「こいつぁ……たまげたな。」
「古代文明によって築かれた伝説の都市群、なんて噂話程度にしか信じてなかったんだが……」

崩れた部分すら美しく思える建造物に、それを彩る硝子や宝石の類。
学者がキャラバンを組んでやってきそうな光景に感嘆しつつ、自分の後ろにいる少女に気づいた。
どうやら罠の類を警戒したのか、ジャンを盾にやり過ごそうとしたようだ。

「……お前な、そういうことすっから怪しまれるんだぞ」
「上手く立ち回って自分だけ得をしよう、なんて考えてると後ろからボカッ!と殴られるんだからな」

もしかしたら、少女はこっちが考えているよりよほどしたたかなのかもしれない。
長いため息をつき、ティターニアの方を向く。あの高名なユグドラシアの導師なら、少しはこの都市について知っているだろう。

>「これは……炎の都”灼熱都市ヴォルカナ”素晴らしい……素晴らしいぞ!
>帝国騎士よ、でかした!」

だが、彼女はかなり冷静さを失っているようだ。これはもう引きずってでも進むべきかどうかと考えていたところで、
目の前に巨大な獣と、赤髪の少女が現れる。文字通り、何もないところにふわりと、現れたのだ。
そうして少女はティターニアと会話した。どうやら指輪の祭壇とやらに案内してくれるようだが、一つ疑問が生まれる。

「おい、そこの獣使いの姉ちゃん。そいつが守護なんたらというのは分かる。しかしお前はなんなんだ?」
「この街の住人にしちゃあ、一人で住むには広すぎないか?」

>「んんー……アルバート様とー……オーク様。あの赤い髪の娘、なんだか胡散臭そうな気配がするのでー、
> 着いていくなら、どうぞ気を付けてくださいねぇ。おおっとー、私ごときが余計な事を言ってすみませんー!」

どうにも怪しさを感じる言動に訝しんでいると、同じくらい怪しい少女が後ろから声をかけてくる。
少女も同じことを感じているのは、同類の臭いでも嗅ぎ取ったためか。

「だいぶ言い忘れていたけどな、俺の名はジャン・ジャック・ジャンソン」
「通称、3つのジャンだ。短く切ってジャンだけでもいい」

オークではなくハーフオークなのだが、それはもう今更のことだ。
一目見ただけでは、まずオークとしか思われないだろう外見に諦めつつ名乗った。

「……とりあえず、俺はあの獣使いの姉ちゃんについていくが」
「アルバート、お前はどうすんだ?」

動く石造の部品と破片が詰まった袋を担ぎつつ、古代都市へと向かうジャン。
振り向いてアルバートに問いながら、ティターニアの危なっかしい歩き方をなだめつつ、ついていった。

38 :
名前:ナウシトエ=ネリヤ=トラヤヌス
年齢:19歳
性別:女
身長:164
体重:58
スリーサイズ:118-66-103
種族:人間
職業:盗賊(元:拳闘士)
性格:ずる賢く、大雑把、我慢するのが大嫌い
能力:格闘
武器:ガントレット(仕込みボウガン付き)、あとは基本的に身体が武器
防具:ブレストプレート、腰巻き、マント
所持品:ナイフ、薬品、火薬等
容姿の特徴・風貌:胸が大きい。美人だが悟ったような目をしている。
緑色の瞳、茶色の髪で、リボンで縛ってある。

簡単なキャラ解説:
元々は要塞都市ヴェーンの貧民の出で、小さい頃に闘技場に推薦され、
拳闘士として育てられていたが、内部での虐待により仲間の多くが殺されたのを機に、
残りの仲間とともに脱走、その後は各地を転々とし、娼婦、盗賊、暗殺稼業などをしながら、
現在は冒険者として仲間数名とともに灼熱都市ヴォルカナを目指している。

39 :
「……すっご」

ナウシトエは物陰に隠れ、突然荒涼とした地に出現した紅玉の建造物群を眺め、驚嘆していた。

ヴィルトリア帝国・ヴェーンのギルドからは「遺跡の探索」と聞かされ、
僅かな前金を元に探索をすることになっていたが、まさか自分ひとりでこれだけの規模を探索するハメになってしまうとは。
それも、目の前には男女四人の、恐らく冒険者たち――少なくともその玉石混合ぶりはそう見えた――
ここまではほぼ無傷で来ることができた……しかしである。
いくら強さに自信があるからといっても、彼らを無視して遺跡を探索するのは、あまりに危険そうだ。

特にあの黒い鎧の男……! その威圧感からして只者でないことは間違いない。
引き連れているのもエルフらしき女、明らかにオークの血が混じっているだろう大男、
さらに能力一切不明の女。下手に整然とした騎士様連中よりも、余程性質が悪い。

「ありゃ良い男だ。でもアタシにゃ、味方になってもらわなきゃ困る」
黒い鎧の男――アルバートに見とれているのもつかの間、すぐに獲物を狙う肉食獣の目に戻る。

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ナウシトエは生き残った最後の男が怯んだ隙を見て、勢いよく跳躍すると、その肩に飛び乗り、股を男の顔面に押し当て、
両脚でその顔を締め付けた。ぷるん、と自分の顔ほどもある大きな乳房が揺れる。
そしてそのまま腰に力を入れ、男の首を捻ると、グギャ、という声とともに首の骨が折れ、メガネが砕けた。
静かに地面に倒れ伏す最後の死体を、着地と同時に一瞥する。
「全員殺しちゃったけど……どうしよ。前金とこいつらの財産だけ貰って、オサラバしちゃおうか」

自分がよく男に欲情されることは分かってはいたが、まさか最初の野営でこういう目に遭うとは。
それも、一番マジメそうなメガネの男までノリノリで襲って来るのは実に、心外だった。

初めは全員で五人での出発だった。地図を見るメガネの男――グリソンが、このあたりで休憩しよう、と提案したのだ。
そして休憩中に「胸が重くて疲れる」という話をしたところ、男どもが「触らせろ」と言ってきたのだった。
最初は聞き流すだけで済んだが、寝る前あたりで勝手な密談が始まったらしい。
気が付くと目の前に男ども、いや雄どもが迫っていた。そして、後ろには、それを支援するグリソンの姿も――!
ハイランド連邦、ユグドラシア=@その名前はわずかに聞いたことがあった。
そこの研究生針葉のグリソン≠ニあろう男が、何かの手違いでこうしたことに手を染めてしまうのだ。
ため息をつきながら死体を片付けると、そこからずっと離れた大きな岩陰で睡眠を取った。


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全ての男はナウシトエの拳と格闘術により死亡し、財産の主なものは全て彼女のものとなった。
グリソンが所持している書物や地図なども、彼の死骸から回収した。
臍出しのプレートに腰巻きといういでたちの彼女には、グリソンから奪ったバッグを入れても、なおそれらを持つのは大変だった。
ただでさえ重い乳房の収まり具合を確認すると、本当に邪魔なだけだな、とため息をつく。
実はこの中にも財宝の一部が仕舞ってあったりする。

――決めた。
ナウシトエは近づいてくる四人に向けて、岩陰から飛び出して駆け出していた。

「あのー! 皆さん、冒険者なんだけど、仲間を殺されちゃったの! 
アタシも一緒について行ってもいい? 分け前は5分の1以上は、取らないからさぁ〜!」

乳房とポーチを横揺れに揺らしながら駆ける。

「名前はナウシトエ。格闘士よ」

40 :
アルバートは眼前に広がる真紅の街並みを睥睨し、一考する。
赤色の煉瓦で造られた荘厳な建造物の数々や、柱や窓、更には石畳にまで散りばめられた紅玉を見るだけで、かつてこの街がどれほど豊かだったかと想像するのは難しくない。
そして、街の奥の方で朽ち果てている巨大な船は、恐らく飛空艇だろう。
その形状や機構。まるで生物の羽のように緻密な両翼。
その方面の知識には疎いアルバートでも、それが現在の帝国が持っているよりも遥かに高度な技術で設計された代物だということは分かる。

>「これは……炎の都”灼熱都市ヴォルカナ”素晴らしい……素晴らしいぞ!
帝国騎士よ、でかした!」

ユグドラシアの導師ティターニアは、まるで少女のようにはしゃぎながら、古の街を駆け回る。
そういえば学園では考古学を専攻していると話していたし、幻の古代都市の発見を目の当たりにすれば、こうして浮かれ上がってしまうのも無理はないのかもしれない。
アルバートがこの情報を持ち帰れば、帝国からも大規模な捜索隊が送られることは間違いないだろう。

>『そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。ここに来られたということは門番を倒し幻術までも破ったようだね』

>「それはもう考古学者冥利に尽きるというものだ。尤も幻術を解いたのはこの騎士殿であるがな……何奴!?」

などと考えていたのも束の間、そんなティターニアの前に、二本角を持った巨大な化物と、その上に跨る赤髪の少女が現れた。
はっとしたアルバートは思わず一歩分の距離を取り、レーヴァテインの柄に右手の指を掛ける。
こいつらは一体何者だ? いや、そもそもどこから現れたのだ?
こんな巨体で身を隠せるとも思えないし、その気配をアルバートが見逃す筈もないが、気付いた時にはそこにいた。
明らかに尋常な存在ではないだろう。少女たちを睨むアルバートの表情が自然と強張り、その眼光に力が宿る。

>「もしやそやつはベヒモス……か?」

>『よく分かったね、この子はこの都市の守護聖獣さ。付いてきて! “指環の祭壇”はこっちだ』

ティターニアの問い掛けに対し、赤髪の少女は一切隠す素振りもなく首肯する。
どうやらこいつが、伝承で語り継がれていた蛮獣――ベヒーモスだということらしい。
しかも、どういうわけかこちらの目的まで知っているようであり、有ろうことか竜の指輪≠フ在り処へ案内すると言っている。

41 :
>「んんー……アルバート様とー……オーク様。あの赤い髪の娘、なんだか胡散臭そうな気配がするのでー、
 着いていくなら、どうぞ気を付けてくださいねぇ。おおっとー、私ごときが余計な事を言ってすみませんー!」

>「……とりあえず、俺はあの獣使いの姉ちゃんについていくが」
>「アルバート、お前はどうすんだ?」

アルバートの意見を求めるコインとジャンの方へ振り返り、また少しばかり考える。
先程ジャンに宥められた時は「貴様には関係のないことだ」と一蹴しようかと思ったが、ティターニアの言った「トカゲの尻尾切りにしかならない」という指摘も一理ある。
黒幕も目的も分からない以上、仮にここでコインを斬り殺したところで、また新たなコイン=ダートがアルバートの前に現れるだけだろう。
ならばいっそのこと、自分の目の届く範囲に置き、監視しておいた方がマシなのかもしれないと、アルバートは判断を下した。

「これが罠だという可能性は重々承知しているが、あいつらはどうやら俺の求める情報を握っているらしいからな。
 鬼が出るか蛇が出るか――その誘いに乗ってやろうじゃないか。付いて来る気があるならば、好きにするといい」

――と、そこでふとアルバート達の前に、岩陰から一人の女が飛び出して来た。
大きく張り出した胸元には、申し訳程度の防具も身に着けているが、その露出度の高い格好を見ると、何やら娼婦のようにも思える。
何故そんな奴が、この魔境をたった一人で歩いているのだろうか。アルバートは当然のように、訝しげな視線を向ける。

>「あのー! 皆さん、冒険者なんだけど、仲間を殺されちゃったの! 
アタシも一緒について行ってもいい? 分け前は5分の1以上は、取らないからさぁ〜!」

>「名前はナウシトエ。格闘士よ」

自らを冒険者だと名乗った女――ナウシトエは、こちらのパーティに同行させて欲しいと話を持ち掛ける。
まったく、次から次へと……。アルバートは苛立ちを顕にして、右手で頭を掻きつつ、ナウシトエの風貌を観察する。
アルバートに与えられた任務を考えれば、同行者の存在など迷惑なだけだが、ナウシトエも単独でこのイグニス山脈を渡り歩いて来たからには、それなりの実力は持ち合わせているのだろう。
この先で何が起こるか分からないということを考えれば、少しでも戦力を増やしておくのは有益なのかもしれない。
――というより、代わる代わる出現する不審者の対処に、いい加減面倒くさくなってきたアルバートは、投げやり気味に頷いてみせた。

「チッ……どいつもこいつも。俺たちに同行したいならば勝手にしろ。だが、助力は期待するなよ。あくまでも自分の身は、自分自身の手で護ることだな」

* * *

真紅の街並みの中に、ただ一つだけ純白の石で造られた、神殿と思わしき建造物。
幾本もの太い柱が並び立ち、それでも尚、ベヒーモスの巨体が悠々と中に入れるほどの広さを持った場所へと、赤髪の少女はアルバート達を案内する。
そして、その礼拝堂の最奥部で少女が何かを呟くと、途端に左側の壁がスライドして、大きな穴が開く。
微かに差し込んだ光を頼りにして内部を覗き込んでみると、地下へと続く長大な階段が広がっているのが見えた。

『さぁ、祭壇はこっちだよ! 暗いから足元には気を付けてね』

ベヒーモスの上に乗る少女は、相変わらず胡散臭い笑顔を作ったまま、階段の方を指差してみせる。
最早怪しさしか感じないが、ここまで来てしまった以上、今更引き下がるつもりもない。アルバートは迷いのない足取りで、少女たちの後を続く。

42 :
長い階段を降りて行くと、最初の内はしっかりと舗装された道だった筈が、徐々に足場は悪くなり、左右の壁も自然のままの岩肌になっているのに気付く。
既にここは神殿の中から続いていた道だとは思えず、まるで洞窟その物のようであった。
そして、ようやく最下層まで降りると、そこには灼熱の空間が広がっていた。
奥にはぐつぐつと煮えたぎるマグマの海があり、内部は明るく照らされ、アルバートでさえも額に汗を浮かべるほどの熱気に包まれていた。

『さて……と。お目当ての祭壇はこの先なんだけど、残念ながら、タダで君たちを通すわけにはいかないんだよね』

少女は柔らかな笑みを浮かべたまま――されど、明確な敵意を放ち、こちらの方へと振り返る。
すると、フワリと一切重力を感じないような跳躍で、ベヒーモスの上から降りて、その場から離れていった。

『真実を知りたくば、その力を示してみよ=\―なんてね。というわけで、悪いけど今から君たちには、少しばかりこの子の相手をして貰うよ』

『グルルルルルルル…………ッ!!』

先程までは大人しく少女に付き従っていたベヒーモスが、喉の奥から獰猛な唸り声を上げて、アルバートの眼前に立ちはだかる。
――やはり、こういうことか。このままスムーズに案内をしてくれるとは思っていなかったし、むしろ余計な罠などもなく、真っ向からやり合ってくれるならば望むところだという話だ。

「……いいだろう。元よりこちらはそのつもりだ。力尽くでも、押し通らせて貰うぞ」

アルバートが抜刀すると同時、戦いの火蓋は切って落とされた。
煌々と輝く炎を纏ったレーヴァテインを振り、アルバートは剣身から、三発ほどの大火球を放つ。
するとベヒーモスは、その巨体には似つかわしくない俊敏さで軽々と火球を躱すが、アルバートは既に火球を追うようにして、敵の方へと跳んでいた。
レーヴァテインから噴き出す炎を推進力に使った大跳躍。大砲の弾のような加速で突進し、一気に彼我の距離を詰めていく。

しかし、ベヒーモスの反応も速い。
敵は空を舞うアルバートに向かって右手を振るい、鈍い光沢を持つ爪が直撃した――かと思われたが、その瞬間、アルバートの体がゆらりと幻のように消えてしまった。
陽炎≠ニいう気象現象がある。局所的に密度の異なる大気が折り重なり、光が屈折することによって、地上や水上の物体が浮き上がったり、逆さまに見えたりする現象だ。
アルバートはレーヴァテインの炎で自身の周囲の温度を急激に上げることで、意図的にその現象を発生させ、自らの幻を作り出したのだ。

「――――取ったぞ」

幻影を切り裂き、盛大に右手を空振ったベヒーモスの背後で、アルバートは敵の首を狙い澄ましていた。
ゴーレムを叩き斬った時と同様、レーヴァテインの剣先から炎を伸ばして巨大な炎刃を形成し、そのまま独楽のように上体を回して水平の剣戟を振るう。
完全に取った――と、手応えを感じるほどのタイミングであったが、しかしながらベヒーモスはその驚異的な反射速度を以て、アルバートの剣を掻い潜った。

(なっ、潜っただと……!? 何て反射速度だ……!)

会心の一撃を回避したベヒーモスは、直ぐ様反転し、頭部の角でアルバートを叩き落とす。
攻撃自体は何とか剣身を盾にして防いだアルバートであったが、衝撃まではRことができず、そのまま落下してしまうかという直前、再びレーヴァテインから炎を放って減速し、何とか空中で体勢を立て直して、地面との衝突を免れた。

「……チッ、流石は伝説のベヒーモスといったところか。どうやら、一筋縄ではいかないみたいだな」

人間の常識で考えれば、単騎でこれだけベヒーモスと打ち合えるだけでも異常なのだが、今の攻防で仕留め切れなかったことを不満に感じたらしい。
アルバートは舌打ちを一つ鳴らしながら、大剣の柄を握る両手に力を込め直した。

43 :
>「あのー! 皆さん、冒険者なんだけど、仲間を殺されちゃったの! 
アタシも一緒について行ってもいい? 分け前は5分の1以上は、取らないからさぁ〜!」
>「名前はナウシトエ。格闘士よ」

ティターニアは駆けてくる少女の胸部の震源地を暫しガン見する。
ちなみにそれはエルフの業界では滅多にお目にかかれない珍百景だったりする。

「そうか……それは災難であったな
しかしお主はきっと運がよいのだろう、一人生き残った上に歴史的発見の場に居合わすとは」

口ではそう言いながら脳内ではおっぱい格闘家とか破壊力高すぎィ!などと考えていた。
不謹慎極まりない上に、せめて自分と比べて落ち込むなんて可愛げのある反応ならともかく、完全にオヤジかBBAの感性である。
まあ見た目はともかく実年齢は文字通り桁違いのBBAなので仕方がない。

>「チッ……どいつもこいつも。俺たちに同行したいならば勝手にしろ。だが、助力は期待するなよ。あくまでも自分の身は、自分自身の手で護ることだな」

「ふふっ、どうやら採用のようだ。我が名はティターニア、魔術師だ。
歓迎するぞ、我に限って言えば趣味で来ておるゆえ仲間は多いに越したことはない」

そんなこんなで新たな仲間を加え神殿の奥へとすすむ、アルバートと(統一感皆無のカオスさ的な意味で)愉快な仲間達。
でもまあ頭の中身が愉快なのはティターニアだけなのでそこは安心してほしい。

>『さて……と。お目当ての祭壇はこの先なんだけど、残念ながら、タダで君たちを通すわけにはいかないんだよね』

遠足のような足取りで少女に付いてきたティターニアだったが
その言葉を聞くと、やはりそう来たか、という感じで薄く笑みを浮かべた。

「ふむ、通行料は幾ら払えばよい?」

と言いながらも杖を振り、自分以外の仲間全員に補助魔術をかける。
筋力及び動きの巧みさや素早さを極限まで引き出す”フル・ポテンシャル”。
開幕前ドーピング――戦闘が始まることがあらかじめ分かっている時の常套手段だ。

>『真実を知りたくば、その力を示してみよ=\―なんてね。というわけで、悪いけど今から君たちには、少しばかりこの子の相手をして貰うよ』
>『グルルルルルルル…………ッ!!』

「お主、王道を分かっておるではないか。よかろう受けて立つぞ……

――この騎士殿がッ!!」

そう言いながら自分は素早く後ろに下がり、ベヒーモスを迎え撃つアルバートを見送る形になる。
これは酷い――と一見思うが、アルバートの目的が指環の入手である以上真っ先に仕掛けていくだろうと思ったのと
相手の目的が飽くまでもこちらの力を試すこと、だとすれば彼ほどの力量なら場合によっては一瞬で合格するのではないか、と思ってのことだ。
ちなみに指環が帝国の手に渡ったらどうなるか、とか先の事は一切考えていない。これは酷い。

44 :
>「――――取ったぞ」

ティターニアの読み通り一瞬で片が付いた、誰もがそう思ったであろう。
しかし、しかしである。ベヒーモスはひらりと身をかわしそのままカウンター。
ちなみにもしこれが「取ったか……!?」なら高確率で取ってないフラグなので驚きはしなかったが。

「お主……会心の一撃をひらりと避けるのは反則であろう!」

ベヒーモスにしてみればそんなの知ったこっちゃないのである。

『そんなものかい? その程度じゃあ指環は渡せないなあ。ベヒーモス、お開きにしよっか』

真紅の髪の少女が煽ってみせるも、ティターニアは不敵に笑い返した。

「まあそう焦るでない。ここからが本番といったところか。
わざわざ我々をこの場まで誘い込んだのは雰囲気を出すため――だけではないのであろう?
そやつは炎の都市の守護聖獣……なれば。皆の衆、勝ちたくば少しばかり時間を稼いではくれぬか」

並大抵の魔術であれば瞬時に発動してみせるティターニアが、なんと詠唱を始めた。
それだけの高度な魔術を使おうとしているということである。

「其は碧き根源、時にたゆとい、刻に凍てつく……」

それはフィールドを支配する属性を塗り替える高位魔術のうちの一つ。
ブルーアース――領域を水の属性に塗り替える魔術だ。

『させるな!』

少女がベヒーモスに詠唱の妨害を命じるが、それはティターニアの推理が当たっているとの自白でもあった。
詠唱にかかる時間は強敵相手でなければ取るに足らない程度だが、何せ相手はベヒーモス。
発動するまで持ちこたえられるかが勝負の分かれ目になるだろう。
発動すれば周囲の気温は急激に下がり極寒の風が吹き荒れる。ベヒーモスの能力は大幅に落ちるはずだ。

【発動タイミングはお任せします】

45 :
>「だいぶ言い忘れていたけどな、俺の名はジャン・ジャック・ジャンソン」
>「通称、3つのジャンだ。短く切ってジャンだけでもいい」

「はっはー、これはこれは、大変失礼をしましたぁ。ジャン様ですねー
 改めて、私はコイン・ダートと申しますー。よろしくお願いしますねぇ?」

胡散臭い笑顔で自己紹介のやりとりをしながら、注意されたにも関わらずジャンの背後を歩むコイン。
――――迷宮最奥にこそ秘法在り。
アルバートが、ベヒモスとそれを率いる少女の策謀にあえて乗った事により、彼の調査を任務とするコインも、道を同じくする事と成った。
彼女が歩む白亜の神殿への道程は、それが朽ちた遺跡とは思えぬ程に整っており……そして、その道を歩んでいる最中

駆け寄ってくる足音、一つ

>「あのー! 皆さん、冒険者なんだけど、仲間を殺されちゃったの! 
>アタシも一緒について行ってもいい? 分け前は5分の1以上は、取らないからさぁ〜!」
>「名前はナウシトエ。格闘士よ」

やって来たのは、エメラルド色の瞳とブラウンの髪。
端正な顔立ちと……何よりも女性らしい凹凸のある体系をした人間族――――ナウシトエと名乗る女であった。

>「チッ……どいつもこいつも。俺たちに同行したいならば勝手にしろ。だが、助力は期待するなよ。あくまでも自分の身は、自分自身の手で護ることだな」
>「ふふっ、どうやら採用のようだ。我が名はティターニア、魔術師だ。
>歓迎するぞ、我に限って言えば趣味で来ておるゆえ仲間は多いに越したことはない」

更なる同行者希望者の増加。彼女の合流に際しても、一悶着あるかと思われたが……
唐突に増加した同行者達に対して半ば投げやりになっている様に見えるアルバートと、どことなく楽しげにすらみえるティターニアは、
思いのほかあっさりとナウシトエの動向を容認した様である。
対してコインは、ナウシトエがその腕に嵌めたガントレットをほんの一瞬、目を細めて眺め見て……

「ややや、それはそれは、実に大変でしたねぇ!
 あなた一人を逃がして犠牲になった仲間の方は、きっと立派な人達だったのですねー。悲劇ですねー。
 ……おおーっと、失礼しましたぁ!私はコイン・ダートと申しますー。仲良くしてくださいねー?」

相変わらずのヘラヘラとした笑顔で、人形劇を朗読するかの様に鬱陶しい自己紹介の言葉を述べるだけに留まった。
……最も、ナウシトエへ決して背中を見せようとしない辺り、コインなりに何か思う所はあるのだろう。

(んー……他はともかく、あの胸の部分にはどんな詰め物を隠してるかが判りませんねー。
 あからさまに人間族には在り得ないあの大きさ、目立つリスクと釣り合うとすれば……ボム・フィッシュの粉末か何かですかねー?)

色々と思う所はあるのだろう。


・・・・・

46 :
それから暫くの時が経過した。
神殿に存在した地下へ向かう階段は長大で、徐々に増していく熱気はただ歩むだけで体力を容赦なく奪い去る。

『さぁ、祭壇はこっちだよ! 暗いから足元には気を付けてね』

しかし彼等、彼女等は赤毛の少女に導かれるままに歩を進め……

そしてとうとう、神殿の地下。洞窟と表現するには広大すぎるその空間に辿り着いた。
開けた視界の中。遺跡の街よりも尚赤く輝くそれは――――マグマの海。
焼けた大地の姿と合わさり、それはまるで煉獄のような光景であった。

「あはー、いよいよ増して嫌な予感がしますねぇ……こういう場合は大体」
>『真実を知りたくば、その力を示してみよ=\―なんてね。というわけで、悪いけど今から君たちには、少しばかりこの子の相手をして貰うよ』

そして、その煉獄の様な場所において、コインの言葉を遮る様に赤毛の少女が告げた言葉。
それは『ベヒモスと戦え』と言う、ある種の処刑宣告に等しいものであった。

>『グルルルルルルル…………ッ!!』

少女の言葉により、まるで枷が外れたかの様に獰猛さを露わにしたベヒモス。
響く唸り声は、それだけで彼の生物がどれ程の化物であるかを感じさせる。

……実際問題、矮小な人間がこの化け物に立ち向かう事は不可能と言って良いだろう。
彼の存在は、この世界において伝説と呼ばれる域にある怪物なのである。
それでも……もしも、立ち向かえる存在があるとすれば、それは

>「――――取ったぞ」

――――ベヒモスと同じく、人外の力を持つバケモノくらいだろう

魔剣の性能と、帝国の最高戦力の一角として名高い黒騎士の剣技。
アルバートという男は、恐るべきことに、単身でベヒモスとの戦況を拮抗させていた。
一進一退の攻防は、見る者にどちらの勝利をも予感させるものである。だが……

『いやぁ、すごいね。あの騎士君は……だけど残念。【今のまま】じゃあ、まだベヒモスの方が有利だ』

柔らかな笑みを浮かべながら戦局を眺める赤髪の少女は、余裕を見せながらそう語る。
見れば、アルバートの剣により付けられたベヒモスの傷。それが、ベヒモスがマグマにその身を触れさせる度に驚異的な速度で治癒していた。
……ベヒモスは、火の獣。その身に触れる熱を己が血肉とする特殊な能力を有しているのである。
いかなアルバートと言えど、無尽蔵の再生力に対し、単なる削り合いで挑むのは分が悪いに違いない。

『だからさ――――君も早く騎士君の応援に行ったらどうだい? 頭を潰せば早いとか、そういう無駄で小さい事をしてないでさ』

そして、そこで初めて赤髪の少女は戦いから視線を逸らし……一人の少女へと視線を向ける。
その指で、『投げつけられたナイフ』をクルクルと弄びながら。

「あははー、すみませんー。どうもナイフがすっぽ抜けてしまったようです、はいー」

そして、赤髪の少女に視線を向けられたフードにローブの少女……コイン=ダート。
右腕を赤髪の少女に向けて伸ばした姿勢で立っていた彼女は、声を掛けられるとわざとらしく言い訳をしてのける。
穏やかな笑みと、ヘラヘラとした笑み。二人の少女は双方共に笑みを浮かべているが……それは、双方共にとても胡散臭いものである。

『……ま、いいや。そろそろ本当に援護に行きなよ。その『腕輪』、騎士君が死んだりしたら何かと都合が悪い事になるんだろ?』

だが、その胡散臭い笑みの応酬は、赤髪の少女が放った一言で終わりを向ける事になった。
言葉を掛けられたコインは、ピクリと一瞬反応した後に、フードを引っ張り目深にかぶり直すと……そのままアルバートの方へと駆け出していく。
その背を眺める赤髪の少女の瞳に浮かぶ感情は、果たしてどのような色か……それは当人以外に知る由はない

47 :
――――戦局は進んでいく。
アルバートとベヒモスの拮抗はまだ続き、

>「まあそう焦るでない。ここからが本番といったところか。
>わざわざ我々をこの場まで誘い込んだのは雰囲気を出すため――だけではないのであろう?
>そやつは炎の都市の守護聖獣……なれば。皆の衆、勝ちたくば少しばかり時間を稼いではくれぬか」

その間にティターニアが戦局を塗り替えんと魔術の詠唱を始めた。
赤髪の少女はその魔術の効果を想定し、訪れる結果に警戒したのだろう。ベヒモスの攻撃の矛先をティターニアへと変更する。
再生能力を加味すれば、アルバートの攻撃の直撃も一度程度なら耐えられる。そう踏んだのだろう。

ベヒモスは、大木の幹の様な前脚をティターニアの細身を砕くために伸ばし――――

「ガアアアアッツ!!?」

だが、前脚が伸び切るその直前。己が右眼の視界に違和感を感じたベヒモスは、瞬時にその巨体を仰け反らせた
その直後――ベヒモスの巌の様な皮膚の右頬、先ほどまで眼球が存在していたその場所に、投擲用のナイフが浅く刺さった。

「やや、あれで当たりませんかぁ……本当にどんな反射神経してるんでしょうねー」

声とナイフの主は、コイン=ダート。彼女は、赤髪の少女との会話の後、ずっと気配を殺しベヒモスの隙を伺っていたのであった。
そして、ベヒモスが攻撃の対象を切り替えた瞬間。満を持して比較的脆弱であろうベヒモスの眼球を投げナイフで狙い打ったのである。
だが……そこまでしても、ベヒモスの獣の反射神経により、攻撃を見切られてしまった。

しかし、攻撃を回避されたにも関わらずコインの語り口に落胆の色は無い。浮かんでいるのは相変わらずの胡散臭い笑み
何故なら、この状況はコインにとって想定内の範囲内であったからだ。

「だけど。まぁ……そうですねー……『これからずっと眼球にナイフを投げ続ける』予定ですので、いつかは当たるでしょうー」

コインの狙いは、この攻撃を行い続ける事。
常に眼球を狙い飛んでくるナイフ。再生できるとはいえ、それを受ければ視界が一瞬消えてしまう。
そうなれば、拮抗しているアルバートとの戦いの天秤が傾くのは容易に想像できる。
更に、この場に居るのはアルバートと、ティターニアと、コインだけではない。
彼らの助力があれば、天秤の傾きはより大きくなる事であろう。

48 :
>「はっはー、これはこれは、大変失礼をしましたぁ。ジャン様ですねー
> 改めて、私はコイン・ダートと申しますー。よろしくお願いしますねぇ?」

「コイン・ダート、コイン・ダートか…よし、覚えたぜ」
「しっかし、自己紹介だけは本当にしっかりしてるな。さっきの仕込みといいまるで曲芸師だ」
「おひねりでもやればよかったか?」

もはや説得することを諦めつつ、軽口を叩いてアルバートと少女の後を追う。
ただただ赤い建物が並び立ち、時には街の見張り台よりも大きな建物がそびえる風景を眺め、ジャンは考える。
(しまった…勢いで来ちまったが、これは一旦帰った方がよかったかもしれねえな)
(水筒の水はすっかり熱くなってお湯みてえになっちまってるし、食料も残り少ねえ)
(せめてもう一人いれば、とっとと終わらせて帰れそうなんだが…)

そう考えながら歩いていると、急いでこちらに走ってくるような足音が聞こえてきた。
またコインのような奴か…と少しジャンは呆れつつ、振り返って足音の主を見た。

>「あのー! 皆さん、冒険者なんだけど、仲間を殺されちゃったの! 
アタシも一緒について行ってもいい? 分け前は5分の1以上は、取らないからさぁ〜!」
>「名前はナウシトエ。格闘士よ」

そこにいたのは豊かな胸を金属のプレートで抑えつけ、ガントレットを拳に纏う一人の女だった。
どうやらあちらも困っているようだが、こちらとしても仲間が増えるのはありがたいというものだ。

「ああ、歓迎するぜ。それに最初っから分け前のことを話す辺り、金にきっちりしているようじゃねえか」
「そういう奴が一人いるとな、後々報酬を分ける時に揉めないってもんだ」

何せ自分も途中参加した身、断る理由も特になく他の3人も認めている以上まったく問題がない。
それになかなかの見た目だ。せめてもう少し太っていればもっと可愛いと思うのに……とジャンは考えながらナウシトエをじっくりと眺め、
一つため息をついて歩き出した。

49 :
――それからしばらくして、赤い建物の中にただ一つ、真っ白な神殿がそびえ立つのをジャンは見た。
赤髪の少女はこちらに一回振り向き、それから小さく微笑むと再び前を向いて歩きだした。
神殿の祭壇と思われる場所を通り過ぎ、地下へと向かう階段を下り、時折吹き抜ける熱波を浴びて汗が噴き出る。
そして、マグマが煮えたぎり、熱波がいよいよもって激しさを増したその時、少女はこちらへ向けて言葉を発した。

>『さて……と。お目当ての祭壇はこの先なんだけど、残念ながら、タダで君たちを通すわけにはいかないんだよね』
>『真実を知りたくば、その力を示してみよ=\―なんてね。というわけで、悪いけど今から君たちには、少しばかりこの子の相手をして貰うよ』
>『グルルルルルルル…………ッ!!』

「おいおい……あの石像じゃ不満なのかよ」
「久しぶりの観光客をもてなさねえとは何て住人だ」

そう愚痴りつつ、アルバートの後ろに立ち、他の3人をかばうように前に出る。
(どうせ斧は通らねえだろうな…振りかぶってる間にぶん殴られるぜ)
(だったらよ……殴るしかねえな)

アルバートが数回打ち合って体勢を立て直し、ティターニアが詠唱を始めた頃。
ジャンはティターニアに近づこうとするベヒーモスと、力と力のぶつかり合いを敢行していた。

コインが投げたナイフを起点に、避けようとしたベヒーモスを正面から掴み、地面に叩きつける。
ハーフオークのジャンは純粋なオークほどの力は出ないが、そこはティターニアの魔術によって補われ、
純粋なオークの戦士を超えるほどの力を十分に発揮している。
さらにジャンは、オークの種族としての技能の一つ、ウォークライをここで放った。

「ウウウ……ウガァアアアアアアアアアア!!!!」

叩きつけられたベヒモスが起き上がった眼前に思い切り頭突きを当て、お互いの鼻が触れ合うような距離で咆哮した。
通常はオークの戦士が突撃の際に行う咆哮であるウォークライは、生き物全ての暴力的な本能を目覚めさせ、理性を抑えさせる。
この場合のウォークライは、ベヒーモスの本能を目覚めさせ、避けるよりも殴ることを優先させるために行った牽制であった。
だが、ベヒーモスも負けじとジャンの胴体を掴み、目の前で吼え猛る。

「アアァ…アガアアァァァァァァァ!!!!!!」

そうしてお互いの叫び声が洞窟にしばらく反響したあと、ジャンはにっこりと笑ってベヒーモスに殴りかかった。
当然ベヒーモスは避けるかと思った直後、ベヒーモスは避けず同じように前脚を振り上げ、ジャンが殴ろうとした拳にぶつけた。

「ハッハァ!避けるのをやめたか?それとも俺と殴り合う方が好きかァ!?」

強化された拳と前脚がぶつかり、軽い音を立ててジャンの右手の指が折れる。だがジャンは意にも介さず、さらに顔面へと拳をぶつけてベヒーモスを
挑発する。
怒り狂ったベヒーモスはさらにジャンと殴り合うことに熱中し、ジャンは喜んでそれに付き合っている。
だが強化されたとはいえジャンの体は長くは持たない。コインのナイフによる支援があれど、
ティターニアの詠唱が完成するまでの時間稼ぎはジャン一人では難しいだろう。

50 :
ナウシトエはあっさりと自分が謎の四人パーティーの中に組み込まれ、
五人パーティーとなっていることに拍子抜けすらしていた。

端麗な黒鎧の騎士は、

>「チッ……どいつもこいつも。俺たちに同行したいならば勝手にしろ。
だが、助力は期待するなよ。あくまでも自分の身は、自分自身の手で護ることだな」

と、半ば興味無さそうに同行を許可し、細身のエルフの魔術師らしき女は、

>「そうか……それは災難であったな
しかしお主はきっと運がよいのだろう、
一人生き残った上に歴史的発見の場に居合わすとは」

と、尊大にも寛大にナウシトエを迎え、みすぼらしい格好の少女は、


>「ややや、それはそれは、実に大変でしたねぇ!
 あなた一人を逃がして犠牲になった仲間の方は、きっと立派な人達だったのですねー。悲劇ですねー。
 ……おおーっと、失礼しましたぁ!私はコイン・ダートと申しますー。仲良くしてくださいねー?」

と、警戒しながらも居合わせることを認めた。しかし、コインは後ろから付いてきている。
最後に、一番恐ろしそうなオークの男だが、じっくりとナウシトエの身体を嘗め回すように眺めた後、

>「ああ、歓迎するぜ。それに最初っから分け前のことを話す辺り、金にきっちりしているようじゃねえか」
「そういう奴が一人いるとな、後々報酬を分ける時に揉めないってもんだ」

と、皮肉にも最も歓迎するような言葉を並べてきた。
よって、黒騎士とエルフの後ろにナウシトエ、その後ろにコインとオークといった、
まるで連行されるような格好になったが、こちらも決して腕に覚えが無い訳ではない。
両手で頭を反らすような余裕のポーズで、腰布から大きく張り出した豊満な尻を揺らし、オーク男に見せつけるようにして歩いた。

灼熱都市ヴォルカナ――と先ほどエルフの女が言っていた気がする。
これほどの規模の遺跡なら、5分の1とはいえアタリが出れば相当の分け前になるだろう。
さらに、話を聞いている限りこの四人、初めから仲間だった訳ではないようだ。

よって途中で隙を見て殺害するも良し、篭絡して仲間割れを起こすのも良し、ということ。
……特に、オークの男などは身体を使えば与しやすいだろう。


――と、突如、目の前に赤髪の少女が現れた。それも、巨大な怪物ベヒーモス≠フ背に乗って。

>『真実を知りたくば、その力を示してみよ=\―なんてね。というわけで、悪いけど今から君たちには、少しばかりこの子の相手をして貰うよ』
『グルルルルルルル…………ッ!!』

予想していた展開とはいえ、このままバトルに突入するようだ。
ベヒーモスは巨大な炎の鬣を持った魔物で、そのパワー、体力、スピードは並みの魔物とは比にならない。
ナウシトエも本物を見るのは初めてだった。

51 :
コインにアルバートと呼ばれた黒騎士は大剣で跳躍して頭の角を狙い、これをかわされると、振り落とされるのを防いだ。
どうやら表情を見る限り、恐怖のようなものは感じられない。
(この男、できる……!)
その端麗で鋭い横顔に、ナウシトエはすっかり惹かれつつあった。
この男なら色々と使える≠ゥもしれない。

次に、エルフ女が補助魔法をかける。
ナウシトエもその範囲に入った。
「気持ち良いっ……!!」
身体が高ぶり、熱くなる。速度、パワーともに増幅されたのが分かる。確かな使い手だ。
そして、どうやら長い詠唱を開始した。内容はナウシトエには予想できなかった。
しかし彼女に攻撃が降りかかることは避けるべきだろう。

次に、コインが、アルバートとの攻防の隙を突き、ナイフをベヒーモスの眼めがけて投げるも、失敗する。
コインの表情はこれまた不敵なもので、その実力は底知れない。
先ほどガントレットをチラリと見られたのも、これの性能、特に仕込みボウガンについて疑われていたのだろうか。
外れたナイフは頬に刺さり、次の攻撃の構えをする。充分なけん制だ。

そこにオークの男が咆哮する。ナウシトエはその声にその重低音にすっかり酔いしれ、さらに興奮は高まった。雄の本能≠感じる。
>「アアァ…アガアアァァァァァァァ!!!!!!」

肉体と肉体のぶつかり合い。
胴体を捕まれたオーク男はそれでもベヒーモスに殴りかかり、ベヒーモスもまた、
本能的に反撃を繰り出した。

――今だ!! いや、今しかない!

ナウシトエは邪魔なポーチをとりあえず投げ、コインの横、オーク男の真後ろから横っ飛びに跳躍し、ベヒーモスの胴体をまたぎ越すと、
後ろ脚の爪の付け根にある、飾りのような部位を狙って増幅されたガントレットによる一撃を叩き込んだ。
ベヒーモスの巨体からすれば大したことはないかもしれないが、
人間でいうところの爪の付け根である。深々と入った一撃から血しぶきが上がるとベヒーモスは咆哮を上げ、ナウシトエに強烈な後ろ蹴りをかました。

「うっ……!」
宙返りで素早くかわした、――かに思えたが、やはり邪魔になっていたのは大きな乳房だった。
重力に逆らいきれなかったそれは、プレート部分に攻撃を受け、軽傷で済んだものの防具を吹き飛ばされ上半身は裸になった。
巨大な双丘がぶるん、と回転するのは勿論、その中から細かい宝石やら、
先ほどグリソンという男から奪った地図――ユグドラシアという組織のものらしい――も抜け落ちた。

「イヤあぁぁぁぁッ!」
辛うじて着地して、ボウガンで先ほど攻撃した箇所を射抜き、再び血しぶきが上がるも、
やはり巨体にとっては大きなダメージにはなっていないようだった。

――が、どうやら時間稼ぎは充分だったようだ。

エルフの女から莫大な魔力が流出したかと思うと、あたりは水に包まれた。
ベヒーモスはギェェエ……と咆哮するも、その声は水の泡沫へとなって散っていった。
炎のような鬣は萎れ、すっかり動きを鈍らせえいる。

ナウシトエが乳房を抱えるようにして隠した片手を下ろすと、双丘はまるで水中であるかのようにフワリと浮いた。
刃物を持たないナウシトエにとっては無力だが、こちらには魔法や刃物がある。こちらが有利になった。

『……くっ! ……そっちにもなかなかのやり手≠ェいるようだね。見直したよ……』
赤毛の少女は明らかに悔しそうに唇を噛んでいる。

落ちたポーチ、そして先ほど落としたプレートや宝石を拾いながら、ナウシトエは叫んだ。
どうやら水のフィールドでは溺れるということはなさそうだ。

「さぁさぁ、アルバート様ご一行! 今がチャンスだよっ!」

52 :
黒竜騎士と幻獣の剣舞は、凄烈の様相を呈して尚、果てしなく続く。

アルバートが背後に回り込めば、ベヒーモスが野生の勘を以てそれに対応し、敵が爪を振るったならば、レーヴァテインで受け流して反攻の一閃を繰り出す。
互いに尋常ならざる力を持った者同士、両者の戦いはまさしく拮抗している――と言いたいところだが、徐々にその天秤も傾きつつある。
こちらが剣で斬り付けた傷は、マグマに触れるだけで見る間に回復し、対してアルバートの方は、空間を埋め尽くす熱気でどんどん体力を奪われていく。
これまでベヒーモスの攻撃を全て見切っていたアルバートも、次第にその動きが鈍り始め、遂に相手の爪先がこちらの頭部を掠めて、鮮血が花のように咲き、顔の左側に流れ落ちる。

「……ッ……あの治癒能力は厄介だな。致命傷を与えなければ、小さい傷はすぐに塞がってしまうというわけか」

平静を装い続けてきたアルバートの額にも、ようやく一筋の冷汗が浮かぶ。
このままただ斬り合っていたのでは、こちらの敗北は必至だろう。
奴に痛打を叩き込むためには、一体どうすればいいか。

>「まあそう焦るでない。ここからが本番といったところか。
わざわざ我々をこの場まで誘い込んだのは雰囲気を出すため――だけではないのであろう?
そやつは炎の都市の守護聖獣……なれば。皆の衆、勝ちたくば少しばかり時間を稼いではくれぬか」

>「其は碧き根源、時にたゆとい、刻に凍てつく……」

アルバートが次の手を練っていた時、そこに助け舟を出したのはティターニアだった。
通常の魔術ならば杖を一振りするだけで発動してしまうティターニアが、なんと詠唱のための時間を稼いで欲しいと言う。
何をするつもりなのかは分からないが、大規模な魔術を行使しようとしていることは理解した。あちらにも考えがあるのだろう。

53 :
>「やや、あれで当たりませんかぁ……本当にどんな反射神経してるんでしょうねー」

>「ウウウ……ウガァアアアアアアアアアア!!!!」

――と、そこで気配を消していたコインが不意にナイフを投擲し、ベヒーモスは何とかそれを躱したものの、体勢を崩した隙を狙ってジャンが組み付き、敵の巨体を投げ飛ばす。
ティターニアによる補助魔術の影響を受けているとはいえ、信じ難い膂力だ。
更にジャンはウォークライ――戦士の雄叫びで野生を解放し、ベヒーモスとの殴り合いを敢行する。

>「ハッハァ!避けるのをやめたか?それとも俺と殴り合う方が好きかァ!?」

ベヒーモスもそれに応じ、敵の前脚とぶつかったジャンの指の骨が一発で折れる。
だが、尚もジャンは怯むことなく拳を繰り出し続け、ベヒーモスがカウンターを打つ度、ジャンの骨が砕ける鈍い音が鳴り響く。
滅茶苦茶な奴だ……と、アルバートは思わず息を呑む。
その戦いぶりは壮絶の一言だったが、当然長くは保たないだろう。
あの怪物と真っ向から殴り合おうなど、馬鹿げているとしか言い様がない。

>「イヤあぁぁぁぁッ!」

しかし、ボロボロにされながらも正面からベヒーモスを引き付けたジャンの活躍が功を奏した。
眼前の敵に集中しているベヒーモスの爪に、女格闘士――ナウシトエの拳が直撃し、噴水のように血飛沫が上がる。
その際のベヒーモスの反撃で、ナウシトエの鎧が弾き飛ばされ、中から宝石や地図のような物が散らばるのも目に入ったが、今はそんなことを気にしていられる余裕はない。

更に放たれたボウガンによる追撃でベヒーモスが怯み、時間稼ぎの甲斐もあって、ようやくティターニアの詠唱が完了する。
――瞬間、先程までは熱気に包まれていた空間に極寒の風が吹き荒れ、灼熱のマグマさえも凍てついていく。
急激な気温の低下によって、ベヒーモスは苦しそうに呻き声を上げ、明らかにその挙動が鈍っているのも見て取れた。

>「さぁさぁ、アルバート様ご一行! 今がチャンスだよっ!」

――言われなくても、そのつもりだ。

アルバートは再度レーヴァテインから炎を放ち、火矢の如く虚空を駆ける。
猛然とベヒーモスへ迫り、まずは敵の首を狙って一閃。ギリギリのところでベヒーモスはそれを潜って回避する。
更に、今度は胴体を狙って二つ目。ベヒーモスは後退して刃を避けるが、その退き足をアルバートの追い足は逃さなかった。

「今度こそ――――取ったぞ!!」

そして、遂に捉えた三撃目。
アルバートは唐竹に剣を打ち下ろし、業火の刃がベヒーモスの右肘から先を斬り飛ばす。
切断面は炎で焼かれ、絶大な苦痛がベヒーモスを襲い、まるで地獄のような絶叫が、洞窟の中に木霊した。

54 :
ベヒーモスが自身にターゲットを変更したにも関わらず、平然と詠唱を続けるティターニア。
仲間が必ず防いでくれるだろうとの確信があったからだ。
といっても信頼などいう美しいものではなく、単身こんな場所に乗り込んでくるほどの猛者なら
ここでどう行動するのが有利か分かるはずだとの論理的推論である。
特に冒険者のジャンやナウシトエは、パーティーに魔術師がいるといないとでは大違いであることをよく知っているはずだ。
その読みのとおり、ジャンが壁となって格闘戦を繰り広げ、コインが投げナイフで行く手を阻み、ナウシトエが強烈な一撃をお見舞いする。
なんだか別の意味でも強烈な光景が展開された気がするが、幸いアルバートはそれに気を取られることはなかったようだ。
そのクール力の高さに感謝しつつ、ティターニアは詠唱を完成させた。

「我等を汝の御元へ抱けーーブルーアース」

術が発動し、辺りに水の領域が広がっていく。
急激な気温の低下に加え、ナウシトエの胸部を見ると浮力のような力も働いているのが分かる。
ちなみにティターニアを見てもさっぱり分からないので注意しよう。

>「さぁさぁ、アルバート様ご一行! 今がチャンスだよ!」

ベヒーモスさんスーパーフルボッコタイムである。
ここまで来ればあとは時間の問題だと思ったティターニアは、あとは前衛の者達に任せておくことにした。
彼女にはその間にやることがあるのだ。

「なんというか大変な絶景ではあるのだが……男達が倒れては困るゆえ一応ディスガイズをかけておくぞ」

アルバートのクールキャラが崩壊する図も面白そうだと思いつつも、あまりの破壊力で気絶されたら大変だとの理性が勝った。
ナウシトエの上半身に初級の幻術をかけ、服を着ているように見せかける。
裸スーツが裸じゃないけどアウトなら、裏を返せば裸でも裸に見えなければセーフなのである。
続いて、ナウシトエが拾い損ねたのであろう地図らしきものを拾う。

「落とし物だぞ……む、これは……!?」

地図を見たティターニアは、それがユグドラシアのものであることが分かったようだ。

「そなた、ユグドラシアの関係者か……!?」

しかし、暫しの間その話題はお預けとなるだろう。
ベヒーモスの断末魔の絶叫が響き渡った。アルバートが見事仕留めたのだ。

「やったぞーー!」

いかにもずっと応援してました風に歓声をあげる。
実際には背景でおっぱい隠しに勤しんでいたのだが。これは酷い。
ベヒーモスは重傷にも関わらず尚も立ち上がろうとするが……

55 :
『もういい、もういいよ。時が満ちたようだーー』

少女がベヒーモスを優しく撫でながら制す。
否ーー幼さの残っていたはずの少女はいつの間にか風格さえ漂う美しい女性の姿になり、背には真紅の竜の翼のようなものが現れていた。

「竜人……? いや、そなたは一体……」

『そうだね、その昔は“焔”ーーイグニスと呼ばれていたよ。
祖龍……は知っているよね? といっても今は別の名で呼ばれているのかな。古代王国を修めていた神様のような存在だ。
いくら神様でも1人で全世界治めるのは大変だったんだろうね、
各地を治めさせるべくいくつかの傀儡を創った。そのうちの1人が妾だ。
暫くの間は全てがうまくいっていたよ。でもね……、祖龍はある日ご乱心なさった。
我々にはその真意を預かり知ること能わず……』

「そなたらは止めなかったのか?」

『もちろん止めようとしたさ、でも飽くまでも祖龍の傀儡だからね、創造主に直接危害を加えることは出来ないようになっている。
手をこまねいている間にあっという間に世界は崩壊した。我々は最後の希望として力の全てを注ぎ込み各々の属性の力を宿す指輪を作って託したーー
それが……』

「……ドラゴンズ・リング」

『そう。その作戦は辛うじて成功した。でも古の勇者達が勝ち取ったのは期限付きの平和だったんだ。彼らは祖龍を封印することしかことしか出来なかった。
いつかまた指輪の力が必要になる。でも平和な世の中にそんなものがあったら争いの元にしかならないから…我々は指輪を滅び去った都市に隠し守り続けることになった』

考古学的大発見大安売りの気がするが、彼女が全てを正しく知っているとも限らないし
長年の間にボケてうっかり勘違いもあるかもしれないのでそこは念頭に置いておこう。
ところで話している間にティターニアの魔術の持続時間が切れ、辺りは元通りの灼熱の様相に戻っていた。
イグニスが手を掲げると、地響きを轟かせながら、マグマの中から何かがせり上がって現れる。
他でもないーー指輪の祭壇だ。

『さぁ、炎の指輪を君達に託そう!』

あれ、これ大丈夫か!?と今更思うティターニア。
お互いほとんど素性を知らない以上、裏切ってでも指輪を奪い取りかねない輩がいるような気がしないこともない。
これがいわゆる普通のお友達同士のパーティーなら何の問題もないのだが、成り行きで何故かここまで来てしまった烏合の衆だとはよもやイグニスも思ってはいまい。
ここで醜い指輪争奪戦が始まって「やっぱやーめた」と引っ込められたらシャレにならない。
かく言う自分も欲しくないと言っては嘘になるが、
超絶級歴史的史料が再びマグマの底に沈んでしまうことはティターニアにとって最も避けたいことであった。

56 :
>「……ッ……あの治癒能力は厄介だな。致命傷を与えなければ、小さい傷はすぐに塞がってしまうというわけか」

無尽蔵の体力と再生能力。
理不尽を具象化のした様なその化物と対峙し、卓越した剣技と能力を以って戦線を支えるアルバート。
対峙しているのが単なる強者であればとうの昔に崩壊しているであろうこの戦線が未だ維持されているのは、
偏に彼の功績と言って良いだろう

>「ハッハァ!避けるのをやめたか?それとも俺と殴り合う方が好きかァ!?」

ティターニアの支援魔法を受けたジャンは、アルバートの戦闘とコインの支援攻撃の間を縫って、
恐るべきことにベヒーモスの巨体を地面へ叩きつけて見せた。
更にそれだけではなく、その後に彼の獣と殴り合いを演じて見せたのである。
如何に魔法による支援があるといえ、自身を遥かに上回る巨体……それも、自身を凌駕する性能をもつ怪物を相手にするとは、
胆力も含めて、純粋種のオークにすら真似できない事であろう。

>「イヤあぁぁぁぁッ!」

更に、ナウシトエ。彼女は、現時点で『目覚ましい活躍』はしていない。
力と速さも、アルバートやジャンといった人の域を外れかけている者達と比較してしまうと見栄えがしない。
だが……その戦闘のセンスに関しては、目を見張るものがある。
ジャンの攻撃の最中に見せた、ベヒーモスの後足への攻撃は、隙を見せた瞬間に脆弱な部分を的確に狙い打つもの。
さらに、傷ついた箇所に対するボウガンでの追撃。
『相手が最も嫌がるタイミングで最も嫌がる事を行う』、戦いを生業にする者の戦闘における基本――生き残る為の戦闘術を、
彼女は極めて高い練度で修めているであろう事が見て取れた。

――――そんな全員の動きをナイフを投げつつ観察していたコインは、今後の戦局について思考する。

(さてー……奇跡的に全部が噛み合っていますので、エルフさんの一押しが有れば上手くいきそう……なんですけどねー。
 なんですかねぇ、この違和感はー……まるで、踊っているつもりが躍らされているようなー……)

(あと、ナウシトエサマが宝石や地図らしきものしか胸に何も詰めてなかったのも気になりますねー、
 質量差し引いても実体でアレがあのサイズとか色んな意味で驚愕ですよ、はっはー)

……そして、激しい削り合いの果て。

>「我等を汝の御元へ抱けーーブルーアース」

長い詠唱を終えたティターニアが、その身より膨大な魔力を術式として解き放った。
放たれた魔力は、幻想的に……しかして論理的に満ち、急な温度の変化により周囲の岩を罅割れさせながら、
灼熱の世界を水と氷の世界へと塗り替えた。

己が力の源泉を削ぎ取られ、咆哮を上げるベヒーモス
だが、それでも諦めぬと、負けられぬと、黒騎士の剣戟を二撃に渡り躱して見せた
更にその上で、黒騎士へ向け右腕を振るい

>「さぁさぁ、アルバート様ご一行! 今がチャンスだよっ!」
>「今度こそ――――取ったぞ!!」


―――――そしてここに決着は訪れる

57 :
轟と音を鳴らし、地面に墜ちたのは、ベヒーモスの右腕。
鋭利な切断面から噴水の様に血を垂れ流しながら、絶叫と共に体制を崩し地に伏すベヒーモス。
……野生の獣が相手であるのなら、これで戦いは終わった事であろう。
だが、ベヒーモスは。伝説に謳われるその化物は、己が腕を切り落とされ、勝機など塵程にも無くなったにも関わらず、
再度立ち上がろうと試みた。その様子は余りにも必死で―――――

『もういい、もういいよ。時が満ちたようだーー』

だが、そのベヒーモスの奮闘を制止する声と共に、赤髪の少女……いや、いつの間にか大きく姿を成長させ、
背中に羽を生やした女性がベヒーモスの頭を撫でると、先ほどまでの狂乱が嘘の様に……まるで全身の力が抜けたかの様に
ベヒーモスはその脚を屈し、大地に横たわる事と成った。

そして、赤髪の女性……イグニスは語りだす。
この世界の過ぎ去った歴史の話を。祖龍と勇者とドラゴンズ・リングの物語を。
コインは、己が放った投げナイフを拾い集めるフリをしつつイグニスから距離を取り、その話を聞いていたが……

(……おかしい……ですねー)

表情こそ胡散臭い笑みを浮かべているが、その内心は疑心に満ちていた。

『もちろん止めようとしたさ、でも飽くまでも祖龍の傀儡だからね、創造主に直接危害を加えることは出来ないようになっている。
手をこまねいている間にあっという間に世界は崩壊した。我々は最後の希望として力の全てを注ぎ込み各々の属性の力を宿す指輪を作って託したーー
それが……』

(己に刃向う傀儡を消滅させない祖龍……幻術で隠された遺跡に配置された、意志を確認する事も無く侵入者を排除するあのゴーレム……)

『そう。その作戦は辛うじて成功した。でも古の勇者達が勝ち取ったのは期限付きの平和だったんだ。彼らは祖龍を封印することしかことしか出来なかった。
 いつかまた指輪の力が必要になる。でも平和な世の中にそんなものがあったら争いの元にしかならないから…我々は指輪を滅び去った都市に隠し守り続けることになった』

(伝説、幻獣と私如きが知っている程に有名であるにも関わらずー……知恵の無いただの獣の様に……
 ただただ、イグニスサンの言う通りに暴れ狂っていたベヒーモスと、そのベヒーモスが損壊した事で、
 急に肉体が成長した『指輪に力の全てを注ぎ込んだ』筈のイグニスサマ……)

『さぁ、炎の指輪を君達に託そう!』

(これではまるで、持ち出してはいけない何かが有る場所への侵入者を防ぐ防衛機能と、その何かを拘束し弱体化する枷の様でー……
 もしも、仮にそうだとすれば…………“『指輪』は、何かの封印の一部”……?)

コインの脳裏に浮かんだのは、突拍子も無い考えだった。憶測、推測、或いは妄想の類。
だが、コインは何故かその考えを否定する事が出来ない……コインの全身を巡る血液が、魔力が、否定を拒む。
その今まで感じた事のない感覚に困惑するコインは、衝動の赴くままにその場に居る面々に声を掛けようとしたが……

58 :
「……? ……!?」

言葉はおろか、身動きすら出来なかった。
突然の事態だが、コインはこの感覚に覚えがある――――『隷属の腕輪』の拘束呪式だ。
犯罪奴隷を制御する為の腕輪には複数の呪いが刻まれており、その中の一つである拘束呪式は、
暴れる奴隷を強制的に押さえつける事を目的として編まれている。
効果時間は数分と長くは無いが、其れゆえに強い呪詛で、奴隷はその命に対して絶対の隷属を強いられる

(……何故です、ありえません。ここに『飼イ主』はいないのに、勝手に術式が発動するなんて……そんな事は、『飼イ主』より
 上位の権限者でも設定されていない限り……!?)

そこでコインは思い出す。隷属の腕輪は、古代の遺跡より時々発掘される、古代魔道具(アーティファクト)である事を
そして……イグニスは古代文明以前から生存する、上位存在であるという事を。
コインがかろうじで動く瞳だけを動かし、イグニスの方を見れば……そこには、笑みが浮かんでいた。

スライムを嬲り殺しにする子供の様な、侮蔑と優越の混ざった笑みが、コインに向けられていた。


コインが感じたものが彼女の妄想か、そうで無いのかは判らない。
だが……コインの動きを封じた事から少なくとも、イグニスの目的が単なる指輪の受け渡しだけ、という事はなさそうだ。

59 :
ジャンが正気を取り戻したとき、ベヒーモスは右腕を斬り飛ばされ、唸り声を挙げながら地面に伏していた。
どうやら時間稼ぎが成功したらしく、辺り一面すっかり水と氷に包まれている。

「おーいてて……どうやら終わっちまったようだな」

へし折れた右腕がぶらりと垂れ下がり、かろうじて折れなかった左腕で腰に括りつけた革袋を取り出す。
やがて革袋から取り出した薬草と木の実をまとめて口の中に放り込み、咀嚼し始めた。

「さて、これで試練は終わったと思うんだが……どうなんだ?」

立ち上がろうとしては倒れ、腕を落とされてもなお戦おうとするベヒーモスをなだめる赤髪の少女へ向けてジャンは問う。
ベヒーモス自体は既に戦える状態ではないが、赤髪の少女がもしやる気ならば……と言いたげな目線を向けながら。

>『もういい、もういいよ。時が満ちたようだーー』

その言葉と共に、少女は大きな翼を背中から生やし、気がつけばそこには一人の女性が立っていた。
そうして彼女、イグニスは語り始める。かつての支配者たる祖龍と、世界のお話を。
だが、ジャンにはあまり信じられない話だった。ジャンの故郷である暗黒大陸にも古龍神話は伝わってはいたが、それらの内容は
暗黒大陸で語られる神話とは大きく異なったもので、また暗黒大陸に今も残る遺跡の碑文と大きく食い違っているからだ。

「俺が婆ちゃんから聞いた話とはだいぶ違うんだけどよ……これはどういうこった?」
「祖龍は自らの分身に世界を任せ、しかし分身が祖龍の名の下に民を虐げたことに嘆いた」
「しばらくして祖龍は分身を作り直すことにしたが、分身に騙された人間たちによって祖龍は封印された」
「こういう話じゃねえのか?」

『時間が経てば、残念なことに歪んで伝わってしまうだろう』

悲しそうに首を振って答えるイグニスには、怪しげな様子は見られない。
ジャンはしばらく考えていたが、ここまできて嘘はないだろうと思って信じることにした。

>『さぁ、炎の指輪を君達に託そう!』

周りは既に熱波が吹き荒れる元の風景となっていて、マグマの中から深紅に輝く指輪が祭壇らしきものと共に浮上してきた。
どうやらあれをこちらにくれるようだが……ジャンとしては、もっと分かりやすい、街で売れそうな財宝が欲しかった。
最も、近場の冒険者ギルドにこの遺跡のことを伝えればそれだけで報酬になるだろう。そう考えてジャンは一つ挨拶でもして帰ろうとした矢先――

>「……? ……!?」

さっきまで騒がしかったコインが、まったく動いていない。身じろぎ一つせず、黙ってイグニスを見つめている。
先ほどまでの芝居がかった仕草と、道化師のような言葉が一つも聞こえてこないことにジャンは違和感を感じ、残る三人へと警告した。

「おい……アルバートの兄ちゃんにティターニアとナウシトエよぉ」
「その指輪……俺はいらねえけど気を付けろよ。罠かもしれねえって俺は感じるぜ」

60 :
>「今度こそ――――取ったぞ!!」

アルバートが予想通り動いた。元々大物狙いな性格なのかもしれない。
魔剣による三度に渡る重い一撃一撃は、ベヒーモスを追い詰め、ついに三度目の攻撃で、
――ベヒーモスの右腕を肩ごと斬り落とした。
夥しい量の血がドクドクと溢れ出す。戦いは決したようだ。

>「なんというか大変な絶景ではあるのだが……男達が倒れては困るゆえ一応ディスガイズをかけておくぞ」

ナウシトエが落し物拾いに泡を食っている間に、ナウシトエが魔法をこちらにかけたかと思うと、
彼女は服を着ていた。
服があるとなれば安心だ。落ち着いてプレートを付け直し、胸の谷間に先ほどの宝石などを挟んでいく。
やはり、地図だけは短時間では入れ切れないのか、アーマーの間に挟む形となった。

>「そなた、ユグドラシアの関係者か……!?」

しまった、と思った。先ほどの地図をエルフ女に見られたのだ。

「いや……殺された、確かグリソン……とかいうメガネの男が持ってたモノだけど。それを預かってるだけ」
そのままソレの正体を話す。自分でも持て余していたところだ。まさか、殺したとまでは言えないが。

>『もういい、もういいよ。時が満ちたようだーー』

イグニスを名乗る赤髪の少女はいよいよ背に竜の翼を生やした女の姿になり、その正体が竜である可能性は高くなってきた。
と、なるとこいつにはどうやっても勝つことはできまい。

それどころか――

> 『さぁ、炎の指輪を君達に託そう!』

と、地響きを轟かせながら、マグマの中から指輪の祭壇を顕出させた。
エルフの女――ティターニアと呼ばれていた――はすぐには動けないようだ。
口許には皮肉ともいえるような笑みを浮かべているようにすら見えるが。

不思議なほどに訝しげな表情をしているコインを眺めながら、ナウシトエはあらゆる情報から
この遺跡に眠るドラゴンと、財宝、そしてそれにまつわる伝説を思い出していた。

――(全く、分からん! ただ、貴重なもので、貴重な機会だということだけは確か……!)

61 :
>「おーいてて……どうやら終わっちまったようだな」
>「さて、これで試練は終わったと思うんだが……どうなんだ?」

タフさ極まるオーク男も、折れた右腕を応急手当し、早くも状況確認といったところだ。

>「俺が婆ちゃんから聞いた話とはだいぶ違うんだけどよ……これはどういうこった?」
「祖龍は自らの分身に世界を任せ、しかし分身が祖龍の名の下に民を虐げたことに嘆いた」
「しばらくして祖龍は分身を作り直すことにしたが、分身に騙された人間たちによって祖龍は封印された」
>『時間が経てば、残念なことに歪んで伝わってしまうだろう』

オーク男の問いかけも、イグニスの否定の一言が物語っている。

>「おい……アルバートの兄ちゃんにティターニアとナウシトエよぉ」
「その指輪……俺はいらねえけど気を付けろよ。罠かもしれねえって俺は感じるぜ」

その警告に、ナウシトエは迷わず答えた。

「アタシが思うに、その女は本物の竜(ドラゴン)――となると、やることは一つ……」
会話の間に既に祭壇の目の前まで移動していたナウシトエは、素早く跳躍――

フワリとマグマの池を越え、宙返りして両手をつき、目標の指輪――(リング)――を口に銜え込む。熱くはない。
重力に逆らえなかった乳房がボヨンと迫り出して地面へと擦れる。
そしてもう一度脚で着地し、再び両脚をばねのようにして跳躍すると、元の位置へと戻っていった。
口に銜えたその紅玉の填められた真紅の指輪を手に取る。

「――うっ……!!」
じっくりと重い。指輪に填められた紅玉の文様がナウシトエに問い掛ける。
この指輪を嵌めよ、嵌めよ、と。

パーティーの連中がじっとナウシトエの様子を見ている。
女連中、特にコインという少女は信用がおけない。
男ではオーク男は話を聞いてくれそうで扱いやすそうだが、やはりアルバートは魅力的だ。
となると、これをとりあえず「自分のもの」にして確実に有利な状況を作る。それだけだ。

ナウシトエは最初、握ったり、乳房の上でその感触を確かめたりしていたが、
突如として、指輪を口の中に含み、勢い良く飲み込んだ――!!

ゴクリ………………

『馬鹿な! なんということをーー!!』

熱くもないその指輪はあっという間に嚥下され、ナウシトエの胃の中へと入った。
となれば、それがナウシトエの胃を過ぎて腸の中を通り、排泄されるまでの時間、それが外に出ることはない。

62 :
「大丈夫。これなら本当に必要な持ち主のもとへ、安全に運べる。ここから出るまでね……うっ!! アァァ!!!」

ナウシトエが尻を叩こうとした途端、彼女の体が熱くなり、魔力が全身を覆った。
身体が一回り大きくなり、竜を象ったような文様が、ナウシトエの肌に浮かび上がる。
プレートが破れて乳房が飛び出し、腰の布もギチギチと食い込んでいく。
肌艶も以前より赤みを増し、魔力を帯びて体が軽くなったような気さえする。この周囲の熱さもまるで感じない。
両手からは炎の力が感じられた。それどころか、口からも今すぐに炎を出せそうだ、いや、出したい……!

「凄い……これ、凄いよ、この力……!!」

恐らく、指に嵌めればこの何倍、いや、何十倍もの力が得られるのだろう。
さっさと街に帰って指輪を鑑定してもらうか、それともこの力で略奪して回るか……
――いや、それより、折角見つけた「使える男」だ。どうせなら託すという選択肢も悪くはない。

乳房を隠すようにしゃがみ、きっとアルバートの方に瞳を向ける。
この男と自分が組めば、世界でも取れるだろう、とすら思えた。

「アルバート、アタシをいまから貴方の従者にして。つまりここでのナンバー2ってこと。
それがムリなら今からアタシは逃げる。これだけの力があれば、このまま帰ってもお釣りがくるわ」

単純だが、究極の選択。それはアルバートに委ねられた。

63 :
悲痛な叫びを上げるベヒーモスを見て尚、アルバートは一切の油断もなく、敵の首元に剣先を向ける。
こいつが伝説の幻獣ならば、片腕を落とされたくらいでくたばるとも思えず、実際ベヒーモスはその深手を負ってさえ、未だ戦意を喪失した様子もなく、再び立ち上がろうと体を震わせていた。

>『もういい、もういいよ。時が満ちたようだーー』

だが、そんなベヒーモスの動きを、赤髪の少女が制した。
見れば、赤髪の少女は既に少女ではなく、背から真紅の翼を生やした美しい女性の姿へと変わり果てていた。

>「竜人……? いや、そなたは一体……」

>『そうだね、その昔は“焔”ーーイグニスと呼ばれていたよ。
祖龍……は知っているよね? といっても今は別の名で呼ばれているのかな。古代王国を修めていた神様のような存在だ。
いくら神様でも1人で全世界治めるのは大変だったんだろうね、
各地を治めさせるべくいくつかの傀儡を創った。そのうちの1人が妾だ。
暫くの間は全てがうまくいっていたよ。でもね……、祖龍はある日ご乱心なさった。
我々にはその真意を預かり知ること能わず……』

赤髪の女――いや、焔の化身イグニスは、昔を懐かしむような口調で歴史を語り始める。
かつて古代王国を治めていた祖龍の存在。彼の者から生み出されし傀儡たち。
そして、祖龍を討ち倒すために作られた――ドラゴンズリング≠フ伝説。

>『さぁ、炎の指輪を君達に託そう!』

考古学者のティターニアはイグニスの話に聞き入っていたが、一方のアルバートはというと、まだこの女の発言を全て信じる気にはなれなかった。
話の内容にも不審な点が多い上に、幾ら何でも全てが上手く行き過ぎている。
目の前に指輪の祭壇が現れても、依然として警戒心を崩さなかったアルバートの目に、不意にある光景が映った。

>「……? ……!?」

>「おい……アルバートの兄ちゃんにティターニアとナウシトエよぉ」
>「その指輪……俺はいらねえけど気を付けろよ。罠かもしれねえって俺は感じるぜ」

それは、苦悶の表情を浮かべながら体を硬直させている、コインの姿であった。
今までずっと胡散臭い笑顔を張り付かせていたコインの表情が、ここまで変わるような何か。
どうやらその異変には、ハーフオークのジャンも気付いていたらしい。

そして、コインが睨み付ける先――そこには、微笑を浮かべるイグニスが居た。
下等生物を見下し、嘲笑うような不敵な笑み。それを見た途端、アルバートの背筋にゾクリと悪寒が走り、思わず右手の指を剣に掛ける。

64 :
>「アタシが思うに、その女は本物の竜(ドラゴン)――となると、やることは一つ……」

>「大丈夫。これなら本当に必要な持ち主のもとへ、安全に運べる。ここから出るまでね……うっ!! アァァ!!!」

だが、アルバートがコインとイグニスに気を取られていた一瞬の間で、先に動いたのはナウシトエだった。
しまった――と思った時には既に遅く、ナウシトエは素早く奪い去った指輪を口の中へ放り込み、有ろうことかそのままそれを嚥下してしまった。
恐らく呑み込んだ指輪の力なのだろう。ナウシトエの体は肥大化し、その皮膚にも不気味な紋様が浮かび上がる。

「貴様……ッ!!」

>「アルバート、アタシをいまから貴方の従者にして。つまりここでのナンバー2ってこと。
それがムリなら今からアタシは逃げる。これだけの力があれば、このまま帰ってもお釣りがくるわ」

こんな火事場泥棒ごときに隙を突かれた自分自身の不甲斐なさと、更にふざけた提案をするナウシトエに苛立ち、アルバートは歯噛みしながら睨み付ける。
しかし、これで自分の任務が終わったわけではない。指輪を奪われたなら、奪い返せばいいだけの話だ。

「……貴様を俺の従者にしろだと? 戯言を抜かすな。ハラワタを引き裂いてでも、その指輪はこちらへ渡して貰う。
 そして――ここから貴様を逃がすつもりもない」

アルバートはゆらりとレーヴァテインを抜き、その剣身に再び終末の炎が灯る。
既に状況は一触即発。ナウシトエを帝国に仇なす害虫と判断したアルバートは、ここでこいつを斬りRべく、剣先を正面へと向ける。
そして、今にもアルバートが斬り掛かろうという、その瞬間の出来事であった。

「――――白銀の槍(アルゲントゥム・ランケア)」

何処ともなく、まるでハープの音のように美しい声が、この洞窟内に響き渡る。
次いで現れたのは、無数にも及ぶ氷の槍。それらが一斉に虚空を舞い、四方八方からイグニスの体を突き刺した。

『なっ……!?』

イグニスは驚愕で目を見開くが、気付いた時にはもう遅い。
槍が刺さった傷口からイグニスの体は凍り付き、一瞬のうちに全身を覆う。
氷像と化したイグニスが地面に倒れると、それだけで体はバラバラに砕けて、無残にもその残骸だけが残る。
彼女には、断末魔の悲鳴を上げる時間さえも与えられなかった。

一体何が起こったのかと全員が辺りを見回していると、今度は空間に黒い穴が開き、そこから何者かが現れる。
――それは、神話の登場人物に思えるほど美しい青年であった。
流れ落ちる白銀の髪と、湖のように透き通った瞳。
その姿を見た瞬間、ベヒーモスと対峙した時でさえ冷静さを保っていたアルバートの表情が、激昂の色へと変化する。

「何故貴様がここに居る……! ジュリアン・クロウリー……ッ!!」

ジュリアンと呼ばれた青年は、あの頃と変わらない笑みを浮かべながら、あの頃と変わらない声色で、アルバートに言葉を返した。

「五年振りだな、アルバート。俺が生涯でただ一人、友と認めた男よ」

65 :
名前:ジュリアン・クロウリー
年齢:26歳
性別:男
身長:180cm
体重:68kg
スリーサイズ:
種族:人間
職業:宮廷魔術師
性格:自尊心が強い、野心家
能力:魔術(主に氷系統)
武器:神杖ケーリュケイオン
防具:賢者のローブ
所持品:魔導書、魔術触媒など
容姿の特徴・風貌:白銀の長髪と、青く透き通った双眸。長身痩躯の美男子であり、白いローブを身に纏う。
簡単なキャラ解説:
かつては帝国の魔術協会に所属し、その美しい容貌などから「白魔卿」の異名で讃えられた青年。
協会ではこの若さで「主席魔術師(ロード)」に任命されるなど、稀代の天才とも呼べる人物であり、後に黒騎士となるアルバート・ローレンスとも親友関係にあったらしい。
しかし、五年前に起きた「とある事件」を機に帝国から亡命。現在は宮廷魔術師として、南方のダーマ魔法王国に仕えている。
その目的や行動理由、ダーマに仕官するまでの過程などは一切不明。

66 :
>「いや……殺された、確かグリソン……とかいうメガネの男が持ってたモノだけど。それを預かってるだけ」

「ふむ……そうか。殺されてしまったか……。有効活用してもらって感謝するぞ。
いや、これでも一応ユグドラシアの導師をやっておるものでな」

グリソン――その名を聞いたことが無くはなかった。
真面目な研究生だったが少し前にある日突然地図と共に謎の失踪を遂げたらしい。
地図を持ち逃げされた組織の失態をわざわざ明らかにする必要もないので、敢えてそれ以上突っ込まないことにした。

>「おい……アルバートの兄ちゃんにティターニアとナウシトエよぉ」
>「その指輪……俺はいらねえけど気を付けろよ。罠かもしれねえって俺は感じるぜ」

ジャンが皆に警告する。
それを受けたティターニアが感覚を研ぎ澄ますと、自らの魔術の持続時間はもう切れたはずなのに、微かな魔力を感じる。
指環の魔力じゃね?と言われればそれまでなのだが、そうでなくても何か違和感を感じる。

「コイン殿よ、そなたはどう思う?」

隣にいたコインに振ってみるも、返事は無い。ただのしかばねのようだ――いや冗談じゃなくマジで。
おそらく先ほどから感じていた違和感の正体はこれである。
心配になって肩を叩いてみるも、反応が無い。それどころかぴくりとも動かない。

「生きておるか!? いつものお喋りはどうした――これは……!」

脈を確認しようと慌ててローブの腕の裾を捲りあげたティターニアは、気付く事になった。
彼女を過酷な運命に縛り付ける呪いの腕輪に。
それは共和国では非人道的であるとして使用が禁止されているが、帝国では奴隷を使役するために使う事があると聞いたことがある。
もちろんそうなるのは大罪を犯した者だが、帝国で言うところの大罪が共和国の人から見るとそれ程大罪とは限らない事をティターニアは知っていた。
しかし今は少女の境遇に思いを馳せている場合ではない。

「なんということだ……今解くぞ!」

ティターニアは、コインにディスペルマジック――初級の解呪魔術をかける。
もちろん腕輪自体の解除には遠く及ばないが、今発動している拘束呪式は解除することが出来るだろう。
この場に腕輪の呪式を発動できる者がいるとすればそれは――

「その腕輪は古代文明の遺産ゆえにそなたに制御できても不思議はないかもしれぬが……何のつもりだ?」

イグニスを問い詰めると、無言でぞっとするような笑みを浮かべていた。
その笑みを見たティターニアはしかし――完全に味方ではないにしても完全に敵とも断定できなかった。
それが一瞬ならアカン、悪い奴や!と思っただろう。しかし皆が気付くほど明確にそうなのだ。
やたら賑やかなコインを黙らせることでさりげなく注目を集め、敢えて信用できない奴というのを印象付けるべく悪役笑いを見せつけた。
――それは深読みしすぎだろうか。

67 :
「……そなたの本当の狙いは一体何なのだ?」

貼りつけられたような邪悪な笑みの更に奥を覗きこもうとするように、真紅の瞳を深緑の瞳が射抜く。
するとふと、微笑に込められた意味が優越と侮蔑から、困惑と自嘲に移り変わったように見えた。

『今はまだ全てを明かすことは出来ないが――君たちに道を示すことはできる。
世界を巡り指環を集めるんだ。役に立つが分からないけど教えておこう、”アクア””ウェントゥス””テッラ”……
我が同胞の名だ、もしかしたら地名にでも残っているかもしれないね」

それが彼女の遺言となろうとは、この時誰が予測できただろうか。
一方、皆がイグニスと睨み合っている間に、あっさり指環を手に入れてしまったちゃっかり者がいた。

>「アタシが思うに、その女は本物の竜(ドラゴン)――となると、やることは一つ……」
>「大丈夫。これなら本当に必要な持ち主のもとへ、安全に運べる。ここから出るまでね……うっ!! アァァ!!!」

ナウシトエはなんと指環をごっくんしてしまったようだ。あまりにあまりの事態にティターニアは大慌てである。

「な、なななななんてことをしてくれたのだ! 全く大丈夫じゃないわ!
確かに危ない薬とかの密輸方法としては常套手段かもしれぬが……
ロマン溢れるドラゴンズリングであるぞ! 世界の真実に迫る重要な手掛かりなのだぞ!
“ただし指環は尻から出る”ではロマンもへったくれもなかろう!」

指環をどうやって救出するかとかを具体的に色々想像して「やっぱいらないです」と辞退する者が続出する事を狙っての高度な作戦なのかそうなのか!?

>「アルバート、アタシをいまから貴方の従者にして。つまりここでのナンバー2ってこと。
それがムリなら今からアタシは逃げる。これだけの力があれば、このまま帰ってもお釣りがくるわ」

更にナウシトエはツッコミどころ満載なことを言い始めた。
別にナウシトエ以前の三人もアルバートに付き従っているわけではなく
なりゆきでなんとなく一緒に来てしまっただけなのでナンバー2も何もないのだが、問題はそこではなく――

「ナウシトエ殿よ、悪い事は言わぬ、今すぐ吐くのだ!」

ジャンやコインは特に指環が目的ではなく、ティターニアも指環を追っかけてきたのは趣味だし冗談が通じるからいい。
しかしアルバートは任務に忠実で大真面目なのである。118センチのおっぱいを目の前にしてもニヤリともしない硬派なのである。
飲み込まれたなら取り出すまで、ということでずんばらり縦に真っ二つの解体ショーが始まりかねない。

>「……貴様を俺の従者にしろだと? 戯言を抜かすな。ハラワタを引き裂いてでも、その指輪はこちらへ渡して貰う。
そして――ここから貴様を逃がすつもりもない」

ティターニアが予測したとおり、アルバートが剣を抜き放つ。こやつ、本気だ――!

「ああっ、ほれ、言わんこっちゃない!
ほんの出来心ということで尻から出るまで待ってやってはくれぬか! 洗えば大丈夫だ問題ない!」

68 :
一触即発の二人の間に開戦と同時にプロテクションを貼るべく身構える。
君子危うきに近寄らず、と言うが君子じゃなくても普通誰も近寄らないこの状況。
つい血気盛んな学生同士の喧嘩の仲裁に入るノリでいってしまったのだろう。習慣とは怖いものである。
こうしてまず手始めに哀れなエルフの死体が転がるかと思われたが、そうはならなかった。

>「――――白銀の槍(アルゲントゥム・ランケア)」
>『なっ……!?』

パーティーの誰の者でもない美しい詠唱の声が響いたかと思うと、内輪のドタバタで若干存在を忘れられかけていたイグニスが氷漬けになっていた。

「待ってくれ! ならぬ! 放置して悪かった! そなたにはまだ聞きたいことが……」

イグニスの形をした氷の彫像が、ティターニアの目の前でバラバラに砕け散る。
現れたその犯人は、長身痩躯に長い髪、整った顔立ち。一瞬、自分と同じエルフの女性かと思った。
しかし耳が尖っていないし、エルフとは美しさの種類が微妙に違う気がした。
まるで魔性すらも宿すような……そう、高位の魔族のような。
では女性なのか。いや、それすらも分からない。天使のような性を感じさせぬ純粋な美しさだ。

>「何故貴様がここに居る……! ジュリアン・クロウリー……ッ!!」
>「五年振りだな、アルバート。俺が生涯でただ一人、友と認めた男よ」

アルバートが呼んだ相手の名は、男性名。そして、帝国では人間と異種族が友達になることはまず無い。
そこからティターニアは衝撃の事実に行き付いた。

「なっ、人間男子だと―――――!?」

それはティターニア以外にとっては割と実にどうでもいいことであった。
そしてあれ程恵まれた容姿をしながらボッチで、アルバート君が唯一のお友達らしい。
それに対してアルバートの方は、酷く激高している。少し前に学園内で流行った言葉で言うとげき怒ぷんぷん丸である。
その理由は重要な手掛かりであるイグニスを殺害されたから――だけではなさそうだ。
もしやナウシトエのおっぱいに全く反応するそぶりを見せなかったのは硬派だからではなく――!?
こうして元々知らなくていい知識を無駄に網羅している上に繋がらなくていい情報が繋がり
ティターニアの脳内で唯一のお友達(意味深)疑惑が浮上してしまった! これは酷い誤解!

「……我々は席を外した方がよいか?」

冗談なのか本気なのか分からないところが怖いところである。意外にも、それを止めたのはジュリアンであった。

「その必要はない。
このような場所でお目にかかるとは――ティターニア・グリム・ドリームフォレスト」

「何故その名を知っている? 故郷の者と学園上層部ぐらいしか知らぬはずだが――」

69 :
初対面のはずの相手に自らの名前――それも、普段は非公開にしているフルネームを呼ばれ、訝しげに聞き返す。
共和国の世情に詳しい者なら、それがエルフの長の娘の名であることを知っているかもしれない。
親が一介の地方自治体の長やってるところで「ああそうなんだ」程度のものだが、色々面倒くさいので非公開にしてあるのである。
ティターニアは伝説上の妖精女王の名だが、よくある女性名なので特に偽名を使う必要もないのだ。

「各国の要人の情報を網羅する立場にある――とでも言っておこうか」

「何故イグニス殿を屠った? そなた、奴の正体を知っておったのか!?」

「深い意味などない、邪魔になりそうだったから消しただけのことだ」

「アルバート殿、そやつは一体何者だ!? その様子だと今は帝国の者ではなさそうだが……」

問答してもまともな答えが返ってこないことを悟ったティターニアは、アルバートに問いかけるも――

「残念ながら指環を貴様らに渡すわけにはいかん、殺してでも奪い取る――白銀の槍」

問答無用で戦いは始まった。
イグニスを屠ったものと同じ氷の槍が、指環を取り込んだナウシトエに襲い掛かる。

「同じ手は通じぬ――”ファイアランス”!」

杖を一閃すると炎の槍が迎え撃ち、相殺して双方消える。
通常なら攻撃用の魔術だが、精緻なコントロールにより迎撃に応用しているのだ。

「真実を知るかもしれぬ者を闇に葬った罪は重い――本来なら万死に値するところだが……」

あまりの息つく間もない展開で忘れていたが、今更ながら怒りを表明する。
そしてジャンの斧と、コインの投げナイフの束に、武器に炎の魔力を付与する強化魔術”ファイアウェポン”をかける。
相手が氷属性っぽいので炎属性付与という単純明快な作戦だ。

「前衛無しの魔術師一人など丸裸同然! アルバート殿の友であることに免じて――丸裸にしてやろうぞ!」

自分は丸裸同然ではないのをいいことに、無駄に強気に意味不明の宣戦布告。
しかもアルバートにそんな奴友達じゃないよと怒られそうである。

70 :
【申し訳ない。ジュリアンの扱いは一応PCと同じなので、こいつを勝手に動かすのだけは勘弁して頂きたい】

71 :
【申し訳ありません!
幸いまだ前のレスから時間が経ってないので>68の最後の4行と>69をばっさりカットしてこれでお願いします】

「……我々は席を外した方がよいか?
と言いたいところだが真実を知るかもしれぬ者を闇に葬った罪は重い――本来なら万死に値するところだが……」

あまりの息つく間もない展開で忘れていたが、今更ながら怒りを表明する。
そしてジャンの斧と、コインの投げナイフの束に、武器に炎の魔力を付与する強化魔術”ファイアウェポン”をかける。
相手が氷属性っぽいので炎属性付与という単純明快な作戦だ。

「前衛無しの魔術師一人など丸裸同然! アルバート殿の友であることに免じて――丸裸にしてやろうぞ!」

自分は丸裸同然ではないのをいいことに、無駄に強気に意味不明の宣戦布告。
世界の真実とかにティターニアほど興味のない仲間達が乗ってくるかどうかは全く持って未知数。
しかもアルバートにそんな奴友達じゃないよと怒られそうである。

72 :
>「コイン殿よ、そなたはどう思う?」

(……何かしらの罠でしょうー、今すぐにあの女をRべきですねー……!)

イグニスと遭遇した時から感じている、身を焼く様な、根拠の無い衝動的な……けれど、直感めいたモノが混じる焦燥。
それを基にしたティターニアの問いかけに対する答えを、コインは有している。
けれど現在、それを伝える言葉を発する事も、身じろぎひとつする事すらも、彼女は行う事が出来ない。
それは、彼女の肉の一片、骨の一欠片すらも……その腕に嵌められた咎人の証。隷属の指輪に支配されているから故。

>「おい……アルバートの兄ちゃんにティターニアとナウシトエよぉ」
>「その指輪……俺はいらねえけど気を付けろよ。罠かもしれねえって俺は感じるぜ」

不幸中の幸いといえば、コインの常ならぬ寡黙さに、同行者たちの何人かが異常を感じた事であろうか。
胡散臭い言動をしない事で警戒されるとは、何とも皮肉な話である。

>「なんということだ……今解くぞ!」
「あ、りがというございま……っ!?」

やがて、同行者の中でも魔術に最も通じていると思われるティターニアが、異変に気付き、
コインの腕の部分のローブを捲り上げ、ディスペルマジックを使用する事で呪縛からの解除を成し遂げたが

……コインにとって、そのタイミングは既に手遅れであった。


>「大丈夫。これなら本当に必要な持ち主のもとへ、安全に運べる。ここから出るまでね……うっ!! アァァ!!!」

献身か、或いは策謀か。その行動の裏に秘めた感情は定かではないが、
龍の指輪は既に台座から持ち去られ、同行者の一人たるナウシトエの口腔の奥へと消え去ってしまったのだから。

「……く……っ!」

とっさにナイフを投げようと……『ナウシトエを殺してでも』その行動を止めようとするコインであったが、
先程までの呪縛の反動で指がまともに動かず、懐から取りこぼしたナイフは、カラリと音を鳴らし床を転がる。
そうしてコインがもたついている間に――――ソレは始まった。
『龍化』とでも表現するべきか。指輪を飲み込んだナウシトエの肉体は見る間に変化をし、その身体を魔術的な文様が奔っていく。

そして――――ナウシトエという人間が居た場所に鎮座するのは、竜人……いや、それ以上の『何か』

>「アルバート、アタシをいまから貴方の従者にして。つまりここでのナンバー2ってこと。
それがムリなら今からアタシは逃げる。これだけの力があれば、このまま帰ってもお釣りがくるわ」
>「……貴様を俺の従者にしろだと? 戯言を抜かすな。ハラワタを引き裂いてでも、その指輪はこちらへ渡して貰う。
そして――ここから貴様を逃がすつもりもない」

それが自身の意志か、意識を食まれているのかどうかは定かでないが、力を手にしたナウシトエはアルバートへ己を従者にするよう発言する。
そして、それに対するアルバートの返答は――――抜剣をした上での『否』。

>「ああっ、ほれ、言わんこっちゃない!
>ほんの出来心ということで尻から出るまで待ってやってはくれぬか! 洗えば大丈夫だ問題ない!」

ティターニアが必死の仲裁を試みるも、一触即発の空気は変わる事は無い。
こうして、龍の指輪を巡る三度目の死闘が起きようとし


――――だが、その騒乱は、巻き起こる直伝で叩き潰される事と成る。

73 :
>「――――白銀の槍(アルゲントゥム・ランケア)」
>『なっ……!?』

突如として紡がれた声に生み出された無数の氷の槍が、争う二人の様子を微笑みながら見守っていたイグニスの肉体を貫き、氷結させ、砕いてしまったからだ。

「……は、いー?」

当然の事ながら、コインにとっても、それは予想外の出来事であった。
イグニスが砕け散る姿を目撃したコインは、あまりの驚愕に漏れ出る様な疑問の声を残して硬直する。
その身からは、『まるで魔法が解けたかの様に』先程までの焼ける様な焦燥感は消え去ってしまっていた。

そして、呆然としながらも声の方を見れば――――そこには、白銀の髪を持つ美麗な男の姿。燐光でも放ちそうな美貌を持つその男の名は

>「何故貴様がここに居る……! ジュリアン・クロウリー……ッ!!」

「……はっはー、これはまた……『白魔卿』様をこんな所で見るとは驚きですねー、はい」

混乱の最中にいながらも、なんとか思考を立て直そうとするコイン。
彼女はアルバートの言葉を受けて、自身の記憶から眼前の男の情報を想起することに成功した。

『帝国の名高き主席魔術師(ロード)、ジュリアン・クロウリー』
コインの知っている限り、その男は5年前まで帝国において稀代の傑物と称された天才であり、魔術師としては最高戦力に位置している存在であった。
帝国の民からは黒騎士と並び称され、コイン自身は6年前……10才の頃に犯罪組織の幹部に対する暗殺命令
……実情は、敵地への潜入と魔術薬を使っての自爆の指示であったのだが……その命令を受けて動いていた時に一度、その姿を目撃している。

>「前衛無しの魔術師一人など丸裸同然! アルバート殿の友であることに免じて――丸裸にしてやろうぞ!」

イグニスが砕かれた衝撃から立ち直ったのであろうティターニアは、果敢にも宣戦布告をし、
ジャンの斧とコインの投げナイフに炎属性の付与魔術をかけている。が……

「あのー。ティターニア様、白魔卿様と正面から対峙するならー、もっと警戒した方がいいと思いますですよー、はい」

ジャンの後方へ急いで移動し、申し訳程度にナイフを構えるコインの態度は、弱気。
その顔にヘラヘラとした笑みは戻ってはいるものの、声には明らかに警戒の色が混じっている。

「いえー、実はあの白魔卿……ジュリアン・クローリー様はー、少なくとも6年前の段階で、違法な魔術薬で痛覚と理性が吹き飛んだ
 成人男性の集団をー、片手で捻るより簡単に制圧していた記憶がありますのでー……」

思い出すのは過去の情景。当時のコインには、用いたのが魔術であったのだろうという事しか判らなかったが、
理性を失い魔獣の様な膂力を得た犯罪組織の大人たちがいとも容易く封殺されていく姿は、中々に衝撃的なものであった。
そんな相手とぶつかり合うなど、コインとしては御免こうむりたい所……なのだが、

「本当でしたら一刻も早くナウシトエ様を確保してアルバート様を連れて逃げ出したい所ですがー、
 アルバート様の様子を見るにそうもいかない様ですよねー……それに、あの女を攻撃してくれた理由も知りたい所ですし、
 ……仕方ありませんねぇ、何とかお話合いまで持っていきましょうか、あははー」

アルバートとナウシトエの様子を眺め見たコインはそう言うと、手始めにとばかりに
ジュリアン・クローリーの“周囲の床”へ、火属性が付与されたナイフを複数本同時に投げつけた。
一見、見当違いの的外しに見えるが……その行為には、確かに意味があった

「崩れた魔術陣(マジック・ジャマー)……こんな小技、白魔卿様やティターニア様程の魔術師の方には効果は無いのでしょうがー、
 まあ、嫌がらせくらいにはなって欲しいところですねー、はっはー!」

属性魔術の込められた道具で、敢えて崩れて機能しない形状の魔法陣を描く。
それは、火を付けようとしている薪を湿気らせる様な行為で、陣の内部の人間の魔術発動を微妙に邪魔する小技である。
あらゆる状況に投げ込まれる職業柄、コインはこういう嫌がらせや妨害の手法を良く身に着けていた為、今回それを使用した形だ。

……最も、あくまで小技に過ぎず、これでジュリアン・クローリー程の相手の魔術発動を止める事は不可能である。
ただし、こちら側には同じく高レベルの魔術師であるティターニアがいる。
高レベルの術者の競り合いとなれば、こうした小技による妨害は、気休め程度の効果は発揮する事であろう。

74 :
ジャンは、一連の出来事が立て続けに進んでいくのを呆然と眺めていた。
コインへ行ったなんらかの呪縛に対してイグニスを警戒していたところで、まったく予期していなかったナウシトエによる指輪の奪取。
それらに対するアルバートたちの対応に、思わず声をかけようとしたところで――

>「――――白銀の槍(アルゲントゥム・ランケア)」
>『なっ……!?』

――氷の槍が、イグニスの体を貫いたかと思うと、そのまま氷像となり砕けてしまった。
おそらくは古竜の分身かそれに値するものであったイグニスを瞬時に破壊するほどの魔術、さてはティターニアがついにブチ切れて
やってしまったかとジャンは驚き、慌てて声の方を振り向くと、そこには氷を人の形に彫り込んだような美しさを持つ男が宙に浮き、微笑んでいた。

>「何故貴様がここに居る……! ジュリアン・クロウリー……ッ!!」

「おいおい…クロウリー様じゃねえか……なんで宮廷魔術師サマがこんなところに……」
「首都のパレードで一回見たっきりの大物だぜ……」

本来ならばジャンが立って話すことすら許されない身分の相手が、目の前にいる。
その現実離れした光景を前にジャンは思わず立ちすくみそうになったが、自分の頬をバチンと手で叩くと斧を構え、アルバートの隣に立つ。

>「前衛無しの魔術師一人など丸裸同然! アルバート殿の友であることに免じて――丸裸にしてやろうぞ!」

>「崩れた魔術陣(マジック・ジャマー)……こんな小技、白魔卿様やティターニア様程の魔術師の方には効果は無いのでしょうがー、
> まあ、嫌がらせくらいにはなって欲しいところですねー、はっはー!」

「……アルバートよう、あいつは話の通じる知り合いか?」
「コインとティターニアはやる気みたいだけどよ、正直俺はあの人に勝てる気がしねえぜ」

彼がダーマ魔法王国の宮廷魔術師になってから、ある噂をジャンは聞いていた。
曰く、魔族に非ずとも魔族を超えた存在。曰く、「知恵の悪魔」と称される大臣が頭を垂れた。
他にも数々の噂が、ジャンがいた故郷の田舎にすら届いてくるような人物である。
できることなら出会いたくすらない存在。それと出会い、しかも戦うかもしれないのだ。

「さっきの野獣はただの力馬鹿だったけどよ……あの人は正直、別格だ」
「ナウシトエだけかっさらってよ、とっととずらかろうや」

顔だけジュリアンの方を向きつつ、アルバートへ向けてほとんど口を動かさずに囁き、燃え盛る斧を勢いよく振り回して威嚇を始めた。

「さて、クロウリー様よお!あんたがいくら一流の魔術師だからって、斧で斬られりゃ痛えだろう!」

背後に回ったコインの仕込みに気づかせないよう、派手に斧を振り回して大声で叫ぶ。
ジャンとてかなりの恐怖を感じているが、彼はここまできて逃げる、ということもできない性分である。

「炎の前には氷は溶けるって相場は決まってんだ!一戦やらかすことはねえと思うぜ!」

75 :
指輪を飲み込んだナウシトエの提案は、いとも容易く打ち砕かれた。

>「……貴様を俺の従者にしろだと? 戯言を抜かすな。ハラワタを引き裂いてでも、その指輪はこちらへ渡して貰う。
 そして――ここから貴様を逃がすつもりもない」

そして、魔剣を抜き、容赦なくその切っ先を突きつける。

「あーらら、アルバート様に嫌われちゃったあ……
女の子にそんなぶっとい武器で斬りかかるなんて酷い」

体は軽い。口と鼻から熱い吐息を漏らしながら、ナウシトエはアルバートに向けて構えた。
――その瞬間である。

>「――――白銀の槍(アルゲントゥム・ランケア)」
『なっ……!? ァ――!!!!』

指輪の主、イグニスが突如白銀の騎士によって明らかに氷属性と思われる攻撃によって不意打ちを受けた。
完全に虚を突かれ、それも弱点を刺されたイグニスはなすすべもなく凍りつき、もがく間もなく身体をそれが包み、
そのままバラバラになり絶命した。
人智を超えた存在と思われる彼女が、人間の女の姿で、それも砕かれて最期を迎えるとは、夢にも思っていなかっただろう。

>「何故貴様がここに居る……! ジュリアン・クロウリー……ッ!!」

その男は容姿端麗、ナウシトエがすぐにでも虜にしてやりたくなるような美しい姿をしていた。
しかし、それに見蕩れるのもつかの間、イグニスの死はナウシトエの身体にも変化を催していた。

「うっ……あぁぁっ……!! ぐっ、うぅ……っ!」

主を失った指輪は、その寄りしろを求めるためか、或いはイグニスの意思が指輪を操っているのか、
ナウシトエの腹の中にある指輪はさらに魔力を増し、彼女をより人並み外れた姿にしていった。
肉体は膨張すると、頭からは角と思われるものが二本生え、さらに豊満になった尻からは長く赤い尻尾が突き出していた。
髪は茶色から灼熱のような色になり、一気に伸びて紐が解け、それは腰まで伸び、前は乳房を丁度隠すほどになっている。
腰布も何故か肉体と一緒に膨張した。以前のような窮屈さはない。
そして、肩が痛みだしたと思うと、赤い翼が生えてきた。足の爪も立派な鉤爪になっている。
何よりも凄いのはその溢れんばかりの魔力。まさにコントロールできない程の膨大なものだ。
ただし、体に隠していたものの殆どは飛び散ってしまった。
身体が軽い。肩に力を軽く込めると、あっという間に肉体は重力に逆らい、空中へと浮上する。

名前:ナウシトエ=イグニス<lリヤ=トラヤヌス(イグニス・不完全体)
年齢:19歳
性別:女
身長:250
体重:145
スリーサイズ:177-99-156
種族:竜化人間
職業:盗賊(元:拳闘士)
性格:ずる賢く、大雑把、我慢するのが大嫌い
能力:格闘、飛行、炎魔法、その他魔法、火炎ブレス等
武器:ガントレット(仕込みボウガン付き)、あとは基本的に身体が武器
防具:腰巻き
所持品:一部装飾品
容姿の特徴・風貌:全体的に今までの1.5倍の大きさに、竜の特徴を備える。胸が大きい。
緑色の瞳、緋色の長い髪が腰まで。
簡単なキャラ解説:
元々は要塞都市ヴェーンの貧民の出で、小さい頃に闘技場に推薦され、
拳闘士として育てられていたが、内部での虐待により仲間の多くが殺されたのを機に、
残りの仲間とともに脱走、その後は各地を転々とし、娼婦、盗賊、暗殺稼業などをしながら、
現在は冒険者として仲間数名とともに灼熱都市ヴォルカナを目指している。
指輪を飲み込み、イグニスが死亡した結果、その力を受けて肉体が変化している。

76 :
ナウシトエは一瞬で状況について把握した。
強い男≠ナある騎士2名とその他大勢がこの遺跡にいるが、明らかにこの遺跡はイグニスの場所なのだ。

「アタシ思うんだけど、この遺跡、イグニスのものだったって。つまり、今はイグニスを次ぐことができるヤツのモノだって…思ったの
…ってことは何? アタシがイグニスの指輪の力貰っちゃったってことは、独占?! この遺跡全部アタシの所有物。 オーライ?!」
 
>「ナウシトエ殿よ、悪い事は言わぬ、今すぐ吐くのだ!」「ああっ、ほれ、言わんこっちゃない!
ほんの出来心ということで尻から出るまで待ってやってはくれぬか! 洗えば大丈夫だ問題ない!」

翼で空中を上下し、時折アルバートの頭よりも大きな乳房を揺らしながら講釈をするナウシトエに、
ティターニアから早速非難の言葉が飛び出した。

「吐くのはやなこった。吐くとしてもまず炎のブレスが漏れなく出るね。
アンタの言う通り、少なくとも尻から出るまではコイツは渡さない。そう、洗えば問題ないね
あと、グリソン君はなかなかエッチでいやらしい子だったよ。詳しくは後で」

ティターニアはまずは氷の騎士ジュリアンに対抗するために、コインとジャンに炎のエンチャントをかける。
こちらは当然のごとく、初めから炎の能力を持っているので不要だ。とりあえずはジュリアン一人でも追い払う必要がある。
ナウシトエ自身の独占欲もあるが、指輪の意思が排除≠フ意思を彼女の精神に送り込むのだ。

>「本当でしたら一刻も早くナウシトエ様を確保してアルバート様を連れて逃げ出したい所ですがー、
 アルバート様の様子を見るにそうもいかない様ですよねー……それに、あの女を攻撃してくれた理由も知りたい所ですし、
 ……仕方ありませんねぇ、何とかお話合いまで持っていきましょうか、あははー」

と、言いつつも、コインもまずはジュリアン対策が先のようだ。

>「さて、クロウリー様よお!あんたがいくら一流の魔術師だからって、斧で斬られりゃ痛えだろう!」

と、ジャンも交戦する意思を示し、ジュリアンに炎の斧で斬りかかっていく。では、まずは一人片付けるとしようか。
始末はできなくとも、引いてもらわなくては、ここから排除しなくては。

「それじゃ……氷のイケメンさん、顔は狙わないであげるから、今は退いてもらえるかな……っ!」

ナウシトエはつい先ほどまでかつての地面を駆けていた頃の敏捷性を活かし、宙返りすると、
未だにこちらを窺うアルバートの動きを警戒しつつ、コインとジャンの攻撃する反対方向の斜め上から、
ジュリアンに対して膨大な魔力を湛える両手から二発の熱線を放った。狙いはジュリアンの首から下。
その衝撃で身体が仰け反り、緋色の髪がブワリと浮き、尻尾がピンと立った。
持て余した魔力を放ったことによる解放感から、ゾクゾクと快感が伝う。

「あぁ、ドラゴンって、気持ち良い……!」

77 :
「……友だと? ああ、そうさ。あの日までは、俺もあいつ≠煌mかにお前を友だと思っていた。
 だが、それを裏切ったのは貴様だ! ジュリアンッ!!」

アルバートはかつての友――ジュリアンに向けて、激しい怒号をぶつける。
その表情の険しさや、怒りに震える声などは、普段の冷静なアルバートからは想像もできないだろう。
しかしながら、ジュリアンの方は相変わらず口元に微笑を浮かべたまま、軽く肩を竦めてみせる。

「あいつ? ああ――セシリア≠フことか。今の俺にとってはもう、過ぎ去った遠い日の記憶だ」

ジュリアンの口からその名前を聞いた時、アルバートの怒りは頂点に達して、沸点を超える。
――気付いた時にはレーヴァテインを握り締め、奴の方へと駆け出していた。

「俺の前で、二度と――その名を口にするな!!」

アルバートは風のように疾駆し、瞬く間に一足一刀の間合いまで詰め寄って、ジュリアンの脳天に渾身の一閃を振るう。
だが、その刃がジュリアンに届くことはなく、横合いから割り込んできた何者かの剣によって受け止められてしまった。
さっとそちらに目を向けてみると、それは身長二メートルは優に越えるであろうという大男だった。
しかも、頭部に二本の角を携え、背には一対の翼。そして、全身を覆う漆黒の板金鎧。
こいつは恐らく、ダーマ王国に仕える悪魔の騎士(デーモンナイト)だ。それにアルバートの剣を容易く受けた点を見ても、凄腕なのは間違いない。

「俺はジュリアンに用があるんだ。……そこを退けッ!」

アルバートは止められた剣を強引に薙ぎ払って、悪魔の騎士を後方へと弾き飛ばす。
そして逆袈裟、切り返し、更に追い突き。一息の間に繰り出される、頸烈な三度の剣戟を、しかしながら敵はいとも簡単に捌いてみせる。
こちらの連撃をいなした悪魔の騎士は、体格の大きさを生かした唐竹の剣で反撃し、アルバートは咄嗟に身を退いて、寸でのところでその一撃を回避する。
次いで繰り出される逆風からの左右への袈裟も、どうにかレーヴァテインで打ち払って、再び鍔迫り合いに突入した。

先の戦いで疲弊してるとはいえ、黒竜騎士アルバートの剣技と、敵はまったく同等以上の実力を持っていた。
あれほど殺したいと思っていたジュリアンが、すぐ手の届く場所に居るのに――と、アルバートは歯軋りを鳴らす。
だが、その精神の焦りが、二人の勝敗を分かつこととなる。

悪魔の騎士は剣を払いながら一度距離を置き、そこから一転。
今度は轟――と風を切る音を鳴らしながら、裂帛の気合と共にこちらへと踏み込み、その気勢に釣られたアルバートは自ら剣を振らされてしまう=B
そして、それを誘っていた敵は、踏み込みの途中で一歩足を退き、火花を散らして打ち合う筈だったアルバートの剣は、無残にも虚空を斬る。

(フェイント……!?)

アルバートがそれに気付いた時、既に勝負は決まっていた。
悪魔の腕力を以て、力尽くで叩き込まれた横薙ぎは、アルバートの胴体へ直撃し、そのまま吹っ飛ばされて剥き出しの岩肌に激突する。

「かはっ……!」

アルバートは口から血を吐きながら、その強烈な痛みに悶えて膝をつく。
オリハルコンで出来た黒騎士の鎧を纏っていなければ、間違いなく骨ごと真っ二つにされていただろう。
剣を杖にしてでも立ち上がろうとするが、最早足に力を込めることさえできなかった。

78 :
アルバートが叩き伏せられた一方、仲間たちはジュリアンと対峙し、各々の策を披露していた。

>「……我々は席を外した方がよいか?
と言いたいところだが真実を知るかもしれぬ者を闇に葬った罪は重い――本来なら万死に値するところだが……」

>「前衛無しの魔術師一人など丸裸同然! アルバート殿の友であることに免じて――丸裸にしてやろうぞ!」

まずティターニアは、コインとジャンの武器に対して、炎属性の付与魔術(エンチャント)を行う。
先程イグニスを仕留めた時の技を見て、ジュリアンが氷系統の魔術を得意にしていると踏んだのだろう。
実際にそれは的を射ている部分もあり、悪くない判断ではあった。

>「崩れた魔術陣(マジック・ジャマー)……こんな小技、白魔卿様やティターニア様程の魔術師の方には効果は無いのでしょうがー、
 まあ、嫌がらせくらいにはなって欲しいところですねー、はっはー!」

次いでコインは相変わらずというべきか、直接ジュリアンに攻撃するわけでもなく、魔術師に対する嫌がらせで弱体化を狙う。
炎を付与されたナイフで、形の崩れた魔術陣を描き、その内部に居るジュリアンの魔術発動に干渉するという妨害行為だ。
彼女らしいと言えば彼女らしい策であり、もしもジュリアンが通常の魔術師≠ナあるならば、こういった小技も意味を持ったかもしれない。

>「さて、クロウリー様よお!あんたがいくら一流の魔術師だからって、斧で斬られりゃ痛えだろう!」

>「炎の前には氷は溶けるって相場は決まってんだ!一戦やらかすことはねえと思うぜ!」

暗黒大陸の出身であるジャンは、既にジュリアンの恐ろしさを噂レベルという以上に理解している。
故に、選んだのは戦闘を避けるための威嚇。
それがこの男に対して、どれほどの効果を齎すかは分からないが、そんなジャンの様子を一瞥して、ジュリアンはフッと口元から笑みを漏らした。

>「それじゃ……氷のイケメンさん、顔は狙わないであげるから、今は退いてもらえるかな……っ!」

>「あぁ、ドラゴンって、気持ち良い……!」

そして、ラストは竜人とも呼べる姿に変化したナウシトエだ。
それが指輪によって得た仮初めの力だとしても、体から溢れ出す莫大な魔力は渦を巻き、はっきりと視認できるほど禍々しいものであった。
更にナウシトエはジュリアンを狙い、その両手から、大気が震え上がるほどの熱線を放つ。
威力のほどは、恐らく見て取れる通りだろう。
幾ら優秀な魔術師だとしても、体はただの人間だ。直撃すれば無事で済まないのは間違いない。

だが、次の瞬間――仲間たちは、その度肝を抜かれることになる。

79 :
それがいつ起きたことなのかは分からない。
しかし、気付いた時には、ジュリアンの周囲へと放たれた筈のナイフは、コインの足元に突き刺さっていた。
そして、確かにジュリアンを捉えた筈の熱線は、逆にナウシトエの体を穿ち貫いていた。

魔術に精通している者ならば、或いはこの状況を理解できるかもしれない。
これはジュリアンが行使した鏡の世界(スペクルム・オルビス)≠ニいう魔術の効果であり、自身に向けられた攻撃を全て反射するという、最高峰の幻術の一つである。
ならば、ジュリアンはいつこの魔術を発動したのか? 否、戦闘が始まる前から既に、全員がジュリアンの幻術の中に居たのだ。

自らの熱線を食らって悶え苦しむナウシトエの元へ、ジュリアンはゆっくりと歩を進める。
そして、右手に持った杖を翳すと、一言だけ詠唱を紡いだ。

「――――闇の鎖(テネブラエ・カテーナ)」

ジュリアンの詠唱と同時、空間に幾つかの穴が空き、そこから飛び出した無数の黒い鎖がナウシトエの四肢を縛った。
鎖は瘴気とも形容できるような煙を纏っており、拘束したティターニアから、竜の魔力さえも吸い取っていく。

「悪いが、その指輪を渡すわけにはいかないのでね。少しばかり強引な方法で、奪い取らせて貰おうか」

するとジュリアンの左手が燐光を纏い、躊躇うこともなくナウシトエの腹部を突き刺した。
いや、正確には通り抜けた≠ニ言った方が正しいだろうか。
ジュリアンの手はナウシトエの体内に入って尚、彼女の体を一切傷付けてはいなかったのだ。
そして、しばらく体内を掻き回すように動かしていた指先が、ようやく目当ての品を見付けたらしい。
ジュリアンは指輪を抜き取ると、満足そうにそれを眺めてから、優雅に身を翻す。

「行くぞ、ここでの用はもう済んだ」

その言葉を受け、アルバートと対峙していた悪魔の騎士も、反転してジュリアンの後方に付く。
こちらも既に興味を失ったようで、アルバートに一瞥をくれることさえもなかった。

「クソッ……待て、ジュリアン!」

未だ膝をつき、剣で体を支えるアルバートは、それでもジュリアンを睨み付けながら呼び止める。
ジュリアンは一瞬だけ足を止め、肩越しにアルバートの方へと振り返った。

「何故、裏切った……!!」

「たとえ反逆者の誹りを受けようとも、俺には成さなければならないことがある。それだけだ」

ジュリアンは最早振り返ることもない。
そして、白銀の魔術師と悪魔の騎士は、再び黒い穴の中へと消えて行き、灼熱の空間には静寂だけが残された。

80 :
>>79
訂正
× 鎖は瘴気とも形容できるような煙を纏っており、拘束したティターニアから、竜の魔力さえも吸い取っていく。
○ 鎖は瘴気とも形容できるような煙を纏っており、拘束したナウシトエから、竜の魔力さえも吸い取っていく。

81 :
仲間達から続々と飛び出すジュリアンに関する物騒な情報。
しかも魔族の統治するダーマ魔法王国では帝国とは逆に、人間は短命の劣等種として虫ケラのごとき扱いを受けていると聞くが……。
俺は人間をやめたぞー!系のお方なのだろうか。
悲しいときー!自分は友達だと思っていたのに相手は自分のことを友達だと思っていなかったときー!セシリアちゃんドンマイ。
更に悪いことに、あれ程強かったアルバートがジュリアンのペットのデーモンナイトに叩き伏せられてしまった。

「――ファッ!?」

思わず奇声も出ようというものである。
気がつけばコインの周囲がナイフだらけで、ナウシトエが自分の放った熱線に貫かれていた!

「お主ら、何ボケておるのじゃあ! ……いや、全ての攻撃を跳ね返すアレか!しかし、いつの間に……」

使ったことだけでも凄いが、使うだけならティターニアも同じ類の術を使えなくもないかもしれない。
しかしそれは入念に準備をした上で敵を誘い込んで迎え撃つ、という防衛戦だったらの話だ。
ジュリアン君ときたらいきなり乱入してきてこれである。
登場以降ずっと注目を集めているのにそんな術を仕込んでいた素振りを露ほども見せていないのだ。

>「――――闇の鎖(テネブラエ・カテーナ)」
>「悪いが、その指輪を渡すわけにはいかないのでね。少しばかり強引な方法で、奪い取らせて貰おうか」

「強引な方法って・・・・・・Rのか!?」

もうずっとジュリアンのターンである。
手も足も出ず呆然と事態の行く末を見守ることしかできなかった。
一つ意外な点があったとすれば、ナウシトエから傷つけない方法で指輪を取り出したことだろうか。
意外と無益な殺生はしない派なのだろうか。
とはいってもその前段階で散々傷つけてるわけで、その方法が一番手っ取り早かったというだけかもしれない。

82 :
>「たとえ反逆者の誹りを受けようとも、俺には成さなければならないことがある。それだけだ」

「きょ、今日のところはこれぐらいにしといてやろうぞ!」

去ってゆくジュリアンを尻尾を巻いて逃げる悪役の定型句で見送りながら、ティターニアは内心ではああ良かった!と思っていた。
折角世紀の大発見をしたのにここで死んでは死んでも死にきれない。

「さて、帰るか。と言いたいところだが……」

ナウシトエは重傷、普段なら人一人ぐらいなら担いで歩けそうなジャンも負傷している。アルバートに至っては立つ事すらままならない瀕死。
普通に脱出するのは不可能だろう。
残りの精神力を使って全力で回復魔術をかけるかーー?
いや、中途半端に動けるようになられてまた喧嘩が始まったら目もあてられない。

「……ジャン殿、コイン殿、向こうに着いたら助けを呼んではくれぬか。きっとその時には我は眠っておるのでな」

そう言ってティターニアは詠唱を始めた。
リターンホーム――ダンジョン内から最寄の村や町に転移する脱出用の魔術だ。
遺跡探索をする高レベルの魔術師が習得している場合が多いが、莫大な精神力を食うためあまり使い勝手のいいものではない。
というか本当に必要なときはすでに精神力が残っていない事が多いという、なんとも微妙な魔術である。
しかしティターニアは高い魔術適性を持つ種族であるエルフということもあり、幸いまだその余力があった。

「――リターンホーム」

魔術が発動すると、一行の足元に魔方陣が浮かび上がり、眩い光に包まれてその場から姿が消える。
順当に行けば、ジャンが依頼を受けたふもとの村あたりに出るだろう。

83 :
>「……ジャン殿、コイン殿、向こうに着いたら助けを呼んではくれぬか。きっとその時には我は眠っておるのでな」

ジャンの視界が光に包まれ、一瞬暗くなる。しばらくして目を開けてみると、少し前に依頼を受けた村、カバンコウの中央広場に一行は立っていた。
カバンコウは元々イグニス山脈に存在する大鉱脈を採掘するために炭坑夫が作った拠点であったが、
今では山脈を抜けるために商人たちのキャラバンや冒険者たちが集まるちょっとした宿場町の様相を呈している。

と言っても未だ鉱脈は尽きず、冒険者への依頼も多い。ジャンも山脈を抜け、帝国に行こうとしていた途中でこの村の依頼を受けて山脈を登ってきたのだった。

「さて、とりあえずよお……コイン、ここ見張っといてくれるか?」
「今から診療所行ってベッド3つ開けてくるからよ」

既に日は落ち始め、炭坑夫たちは家に帰りつつある。炭坑夫向けの診療所も今なら空いているだろうと考えたジャンは痛む右手をさすりつつ走る。
5人がいる中央広場から、炭坑夫と冒険者でにぎわう酒場通りを抜けて診療所へと向かう。
ジャンが来たときは怪我をした炭坑夫で溢れていた診療所は、今やすっかり静まり返っている。
「大声で喋るな」と書かれた注意書きのあるプレートを横目に見ながら、ジャンは診療所にいた治療師に声をかけた。

「怪我の酷い奴が二人、魔力切れが一人。軽傷が俺を含めて二人だ!広場で待ってる!」

そうしてすぐに広場へと戻り、治療師と助手が馬車に乗って駆け付けた。
ここでは治療はできないとのことで、ジャンも手伝って3人を荷台に乗せて診療所へと運ぶ。
ゆっくりと揺れる馬車についでに乗りながらジャンは、今回の儲けについて考えていた。

(あの遺跡についてと、実在した神話の遺物……遺物の方は信用されんだろうが遺跡はかなり期待できる)
(……ただ、斧が折れちまったのは痛いな。鍛冶屋に行きてえところだが)

治療師が怪我をした3人を診断し、応急処置として塗り薬を傷口に押し付けている。
その様子を眺めながら、ジャンは再び考える。
あのジュリアンの幻術によってナイフも熱線も跳ね返り、後で気がついたがジャンの斧はエンチャントごと折られていた。

(あんなのを相手に勝つには……それこそ神様にでも祈った方が早いだろうな)
(でもそんなことより、今はこいつらが治るのを待とう)

請求されるであろう治療費を考え、果たしてこいつらは自分の分を払えるのだろうかと少し心配しながら、ジャンは星が瞬く夜空を眺めていた。

84 :
>「さて、とりあえずよお……コイン、ここ見張っといてくれるか?」

「……え?……あ、はいー」

ティターニアのリターンホームの呪文により、遺跡の外……カバンコウの村へ帰還したコイン。
ジュリアンの用いた術により踊らされた形となって以来、呆けた様に固まっていた彼女であったが、
ジャンの声を受けた事でようやくのろのろとその身を動かし始めた。

>「今から診療所行ってベッド3つ開けてくるからよ」

立ち去って行ったジャンを見送り、コインが初めに行ったのは……応急処置。
ティターニアの首筋に指を当てて脈を図り、意識不明ではなく気絶である事を確認し、
ナウシトエの受けた怪我の中で特に酷い傷口を水筒の水で洗い流すと同時に、
日用品として持ち歩いている下級回復薬(レッサーポーション)の瓶を開け、傷口に浴びせる事で簡易の血止めとする。
アルバートについては……黒騎士である彼が、犯罪奴隷の自分から施しを受ける事を良しとしないであろうと考え、
ナウシトエに使ったのと同じ下級回復薬を、何も言わずにその前に置いてそそくさとその傍を離れる。

無言で行われるその処置は、実に手馴れたもので……実際、手馴れていた。
使い潰しが前提の命令を受けるコインは、怪我をしても入院しての長期治療など望むべくも無く、
自分自身で治療するしかなかった為だ。

そうしている内に、ジャンが治療師を連れて戻り、そのまま本格的な治療行為の為の移送が始まった。
コインは三人の荷物を手で持てる限り抱えると、運ばれる三人の後を追いかけた



――――そして、現在。

コインは、夜になり明かりの消された診療所の椅子の端で、ローブで身体を包みながら膝を抱え込んで座っていた。
何故軽傷であるのにそんな所に居るのかと言えば……アルバートの動きを監視する為と、単純に宿泊する金を持ち合わせていない為である。
野宿も出来ない事はないのだが、雨風を凌げる屋内で眠れるのならばそれに越した事は無い。
その為、アルバートの知人である、彼が心配だとと治療師の情に縋り、懇願する事で、こうして屋内への滞在を許されたのである。

(……死ぬところ、でしたねぇ……何ですかあの反則はー)

そうして、診療所の隅でしゃがみ込むコインはここに来てようやく……今日の出来事を反芻する事を始めた。

(……アルバートサマをあれ程容易く倒す敵とー……警戒していた私を騙す魔術……あんなの、どうしろっていうんですかねー)

考え出せば、まるで堰を切った様にポロポロと感情は零れ落ち始める。

(それに、あのイグニスとかいう龍も……なんで私は、アレと対峙した時にあそこまで激昂したんですかねー……
 不審なのは事実ですがー、あれ程までに警戒して殺そうとする必要は無かった筈でした……なのに、
 なんで私は、頭が真っ白になるくらいに、指輪を奪われてはいけないと思い、あの龍を『殺さなくてはいけない』なんて思ったんでしょうー……)

(……ティターニアサマとジャンサマは、多分、無事でしょうねー……ナウシトエサマとアルバートサマは、命に別状は無いと思うのですがー……。
 ああ、そうでしたー、『飼い主』サマへの報告もしなければいけませんねー……それからー)

脈絡なく思いついた事を垂れ流していたコインは、そこでふと思考を止め……堪えきれないと言う様に、小さな声で言葉を漏らす

「……今日は、何とか死なずにすみましたー。明日も、死なずに生きられるといいですねー」

そしてコインは、ローブに顔を埋めると小さく震えだす。
窓から差し込む月明かりすら浴びられず、暗い部屋の隅で震えるその姿は、いつもの胡散臭さなど微塵も感じさせない程、哀れで惨めなものだった。
だが、それもこの夜の間だけ。
明日になれば、いつも通りの胡散臭い笑みを浮かべる偽名とも本名とも知れない名を名乗る、犯罪奴隷に戻っている事だろう。

85 :
ナウシトエの熱線は、ジュリアンの体に当たったに見えたが、次の瞬間、
その熱線が襲っていたのはナウシトエの肉体だった。

「あぁぁッ!!」
熱自体のダメージは大したことはないが、収束された衝撃波はナウシトエの臍の脇あたりを貫通しており、
そのまま壁まで弾き飛ばされたたきつけられると、背中と腹からおびただしい血を流しながらズルズルと崩れ落ちた。


> 「――――闇の鎖(テネブラエ・カテーナ)」

悶えるナウシトエの巨体に、なおも容赦なくジュリアンは攻撃をする。
「くっ……ああ”っ!!」

無数の鎖はナウシトエの大きな四肢を拘束し、さらに魔力を一気に奪っていく。
膨大な魔力による高揚感は、いつの間にか脱力感に変わっていった。
大股開きの格好に、ナウシトエは恥辱感を覚えた。

そのまま近づいたジュリアンの左手がナウシトエの腹を突き刺す。
「ぐっ……まさか、このまま、犯され、まさか、殺され…… っ……?」
その手はナウシトエの臓器をどかしながら進み、ついに指輪のある胃に辿り着き、それを引き抜いた。

(指輪が……力が! 失われていく……)


> 「行くぞ、ここでの用はもう済んだ」

そう言ってその場をデーモンと共に立ち去るジュリアン。
その後ろには、元の姿に戻り、一子纏わぬ姿で腹から血を流し、
あまりの恐怖と脱力感によってガクガクと体を痙攣させ、失禁しているナウシトエの姿があった。
ナウシトエは遺跡の支配者から、一気にただの裸の娘へと失墜したのだ――。

「……ジャン殿、コイン殿、向こうに着いたら助けを呼んではくれぬか。きっとその時には我は眠っておるのでな」
(まさか……リターンホーム?! この状況で?)

「もう、どうにでもして……」

意識が落ちる前にナウシトエはそう呟くと、やはりその魔法がナウシトエを包み、一行はどこかの街へと飛ばされていった。

86 :
街の名を、カバンコウといった。

目が覚めると同時に、腹に痛みが走った。
コインがどうやら傷口を洗い流しているようだ。周囲にはアルバートやティターニアの気配もある。
恐らく「一員」として受け入れてもらっている証拠だろう。不幸中の幸いだ。

薄くぼんやりした意識の中で、ナウシトエは考えた。
既にガントレットすら外された状況で、まさに生まれたままの姿。これで金がないとなれば、連中にも舐められる。
と、いうよりアルバートが起きてしまえば今までのことを問い詰められ、奴隷のような扱いにすらなりかねない。
「アルバートの奴隷」それもそれでいいとも考えたが、少しでも隙を見て金を作る必要があった。そもそも布が被されているだけで服もない。

診療所と思われるこの場所は、日が暮れると治療も落ち着いたのか、他の患者も帰ったのか、人は自分たちだけになったようだ。
ジャンが連れて来た治療師の中で、ナウシトエの担当は幸運にも若い男だった。
治療師がナウシトエに被さっている布を剥がすと、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
これだけの身体を目にして何も感じない男はおるまい。
「その……優しくして、くださいね。 まずはこのあたりから……」

治療が開始されると、心配そうに見ていたジャンも、日が暮れたということでそこから離れた。
まずは腹の傷にたっぷりと塗り薬をすり込む。まさにプロの行為だ。
それに対し痛みからもあるが、わざと切なそうな表情を作り、口許を艶やかに曲げる。
案の定、次に乳房の方へと手がいった。男の両手でも掴みきれないそれは塗り薬の影響で艶やかになっていた。
男を呼び寄せ、耳元で囁く。
「分かってるよ。溜まってんだよね?キリのいいところまで終わったら、一晩寝てあげるから。
……とりあえず、外に出るための服と下着、用意してくれないかなぁ……」

治療師がそれらを持ってきたのは、既に夜も深くなってからだった。
ナウシトエは素早く着替えた。やはり、下着の上は窮屈で、包帯を代用することになった。
布製の上着も殆ど下着のようなもので、サイズが合わないのか腹が丸見えである。下はパンパンのスカートだ。

ジャンやコインがいない方の非常口を案内され、そのまま夜の街へと出た。
カバンコウはさすが宿場町といった感じで、夜も宿は開いていた。
主人もそこらの男と売春婦が(治療師も変装していたので)来たものと思ったらしく、すんなり入れる。

ナウシトエは治療師から金貨3枚を貰うと、そのまま脱いだ衣服と一緒に置き、男のなすがままにされた。
男だらけの炭鉱の街だからなのか、男の溜め込んだ欲望は予想以上のものだった。
満足してぐったりと眠った男からさらに金貨5枚ほど奪うと、汚れを拭き着替えてそれらを乳房の中に詰め込む。
回復アイテムらしき薬もいくつか失敬しておいた。最後に、殺そうかと思って首に手を下ろしかけたが、
処理が面倒だしリスクを考えればこれで充分だと納得して宿を出た。

一旦何くわぬ顔で診療所の自分のベッドに戻り、ガントレットをはめ込む。
普通に使えそうだ。クォレルはあと1発しか残っていない。これ専用のクォレルの材料も必要だ。

再び外に出たナウシトエは、早朝のカバンコウで軽い食事をし、
朝からやっていた武器防具屋でブレストプレート(紐で前面のみを覆うもの)と、
タセット付きの腰巻き、腰用のポーチ、ついでにナイフ数本とクォレルの材料、回復アイテムも買っておいた。
色々用意してくれたお礼に、と武器防具屋の親父にキスをすると、金貨2枚にしてもらえた。
ついでに魔法店でマジックアイテムの類をいくつか揃えておく。
これで金貨5枚以上の金銭は余らせた上体で、フル装備だ。

診療所に戻るとうとうととしているジャンの隣に腰掛けた。
どうやら自分は眠らずに他のメンバーの看病をしていてくれたようだ。
「ジャン、あなたが助けてくれたのね……ありがと。これからどうしよう……」
座っていても大きな体格差のあるジャンのうとうとした頬にキスをすると、
そのままジャンに寄りかかるようにして、ナウシトエは仮眠を取った。

87 :
薄れ行く意識の中、アルバートはジュリアンと悪魔の騎士(デーモンナイト)の後ろ姿を見据える。
――あれほど憎んでいたジュリアンを前に、俺は何もできなかった。
付き人の騎士には剣で完敗し、その挙句、最優先事項である筈の指輪まで奪われてしまうという有様だ。

この屈辱を、決して忘れはしない。
気が狂いそうになるほどの悔しさを腹に溜め、そのままアルバートの意識は闇に落ちた。

* * *

深い眠りについたアルバートは、遠い日の夢を見た。

在りし日の自分は、まだ今のように漆黒の鎧を纏っておらず、鋼鉄のプレートアーマーと紅のマントを身に着けていた。
そして、馬上で身の丈ほどの長さの大剣を振り回し、単騎で敵陣の中を駆ける。
――いや、ふと隣に目を向けてみれば、そこにはジュリアンの姿もあった。
ジュリアンが一言詠唱を紡げば、氷の風が吹き乱れ、抉じ開けた突破口にはアルバートが突撃し、その一振りで周囲の敵を全て薙ぎ払う。

ジュリアンと共に駆ける戦場では、怖いものなんて何もなかった。
やがて待ち受ける運命など知る由もなく、この二人は無敵だと信じて疑う余地もなかった。

そして、多大な戦果を挙げた日の帰りは、必ずセシリアの待つ教会へと向かう。
修道女のセシリアは、素朴ながらも可憐な女性だった。
絹のように滑らかなブロンドの髪はボブカットに切り揃え、クリクリと丸い青の瞳は、まるで母が子に向けるような慈愛に満ちている。
物凄い美人というわけでもないのに、その愛嬌のある笑顔を見れば、アルバートは魅了されずにはいられなかった。

アルバートと、ジュリアンと、セシリア。
共に夢を語り合った三人の時間は、このまま永遠に続くと思っていた。
だが、そんな幸せな日々も、ある日唐突に終わりを迎えてしまうこととなる。
誰よりも信頼していたジュリアンの冷酷な眼差しと、セシリアが最期に見せた涙。

その光景が脳裏を過ぎった時――アルバートの意識は再び覚醒した。

「…………夢、か」

目覚めたアルバートが最初に見たのは、記憶にない部屋の天井だった。
上体を起こして周囲を見回してみると、どうやらここは診療所らしき場所のようだと理解する。
そして、隣のベッドの上ではティターニアが熟睡しており、椅子に腰掛けたままのジャンも眠りについている。

こいつらに助けられたのか――と、アルバートは推察する。
あの深手を負ったまま取り残されていたことを思えば、礼を言う必要があるのだろう。
今の自分にとって、仲間など邪魔な重荷でしかないと考えていたが……しかし。

「仲間=c…俺にはもう、懐かしい響きだな」

アルバートはポツリと呟き、再びベッドに体を落とす。
窓辺から見上げる夜天には、真円を描く満月が浮かび、その燐光が町並みを明るく照らしていた。

88 :
一方、アルバートたちが去ったあとのイグニス山脈。

そもそも何故、太古の昔に滅んだ筈の灼熱都市ヴォルカナがこうして原型を留め、しかもその守護者であるスチームゴーレムまで活動を続けられたのかと言えば、それは偏にドラゴンズリングの力によるものだ。
指輪の加護があったからこそ、伝説の古代都市は時間を超えることができたわけだが、その指輪が奪われてしまったのならばどうなるか。

必然、ヴォルカナに立ち並ぶ美しい真紅の建物は次々と崩壊し、紅玉の散りばめられた石畳にもヒビが入る。
そして――神殿の地下深くに位置する最奥部。
指輪の祭壇があったあの場所から、煮え立つ溶岩が吹き出して、幻のヴォルカナは無残にも一晩でマグマの海に沈んでしまった。

考古学者のティターニアなどが知れば、卒倒しかねないほどの事態だが、伝説とは得てして謎に包まれたままだからこそ伝説なのだ。
まるで大地が怒り狂ったかのように火山は噴火し続け、遥か上空では、眩い満月が素知らぬ顔でその光景を見下ろしていた。



第一話「灼熱の廃都」




【これにて第一話を終了とさせて頂きます。この後にあらすじを投下してから、次回の冒頭文を落とす予定ですので、もう少々お待ちください】

89 :
〈第一話あらすじ〉


赤い風の吹き荒ぶ、灼熱の聖域――イグニス山脈。
ヴィルトリア帝国南部に連なるその魔境に、ただ一人で歩を進める男が居た。
彼の者の名は、アルバート・ローレンス。帝国が誇りし七人の黒騎士の一角であり、黒竜騎士の称号を持つ男だ。
そんなアルバートは、世界中を震撼させている古竜(エンシェントドラゴン)をも操ることが出来ると言われている竜の指輪の捜索を命じられ、遥々このイグニス山脈にやって来たのであった。

そして、アルバートが山道を歩いていると、彼を獲物と見なしたジオリザードマンたちが現れた。
それらを魔剣レーヴァテインで蹴散らしている最中、自らをハイランド連邦共和国の名門魔術学園であるユグドラシアの導師だと名乗ったエルフ、ティターニアと邂逅する。
ティターニアとの共闘でリザードマンを全滅させたアルバートが、彼女の話を聞いてみれば、どうやら自分と同じような目的でこの場所に来たのだと分かる。
このままティターニアと共に探索を続けるべきか考えていた時、二人の前に現れたのは伝説の古代都市の守護者――スチームゴーレムだった。
古代文明の叡智の結晶である強敵と対峙し、途中で合流したハーフオークのジャンや、アルバートを付け回すコインという犯罪奴隷の協力もあり、一行はゴーレムを撃破することに成功。

一体何故、とうの昔に滅びた古代都市の護り手が、まだ活動を続けているのか。
そんな疑問は、次に取ったアルバートの行動によって、すぐに払拭されることとなる。
周囲の風景に違和感を覚えたアルバートは、魔術効果さえも燃やし尽くすことができるレーヴァテインを振り、辺り一面を覆っていた幻術を見事に焼き払う。
すると、その中から現れたのは真紅に彩られた美しい街並み。かつて栄華を誇った四大都市の一つ、灼熱都市ヴォルカナの遺跡に他ならなかった。
考古学者でもあるティターニアが、浮かれた足取りで街の中を駆け回っていると、次いで現れたのは幻の蛮獣ベヒーモスと、その上に跨った赤い髪の少女だ。
赤髪の少女は、指輪の元までアルバートたちを案内すると言い、途中で強引に割り込んできた格闘士のナウシトエも加えつつ、一行はヴォルカナの神殿へと向かう。

そして、ようやく辿り着いた遺跡の最奥部で始まったのは、ベヒーモスと対峙するという試練だった。
アルバートはその突出した力を以てベヒーモスと拮抗し、ティターニアは空間の属性を塗り替える大魔術の詠唱を開始。
ジャン、コイン、ナウシトエらの時間稼ぎの甲斐もあり、発動したティターニアの魔術によって、灼熱のマグマは一変。
突如として極寒の風が吹き荒れ始めた洞窟内で、ベヒーモスの動きは明らかに精彩を欠き、その隙を狙ってアルバートの剣が敵の右腕を断つ。辛くもこれを討ち倒すことに成功した。

彼らを試練を越えた勇者と認め、赤髪の少女――いや、焔の竜イグニスは、ドラゴンズリングに関わる伝説を語り始める。
だが、遂に差し出された指輪を前にして、暴走とも呼べる行動を取ったのはナウシトエだった。
ナウシトエは素早く奪い去った指輪を飲み込むと、その肉体が竜の魔力によって、化け物じみた姿へと変貌する。
この騒動でアルバートは彼女を帝国の敵と見なし、今にも戦いの火蓋が切って落とされようとした時、またしても事態が急変する。

虚空を斬り裂く氷の槍に貫かれ、あっけなく絶命するイグニス。
そして、空中に開いた黒い穴から現れた、神話の登場人物のように美しい男。
それはかつてのアルバートの親友であり、現在はダーマ魔法王国の宮廷魔術師を務める天才。白魔卿の異名を持つ、ジュリアン・クロウリーだった。

憎むべきジュリアンを前に激昂したアルバートは、地を駆け抜けて斬り掛かるが、しかしその剣は悪魔の騎士(デーモンナイト)によって阻まれる。
ジュリアンの護衛であるその騎士と剣戟を交え、無残にも完敗したアルバートは、胴体に強烈なダメージを負って倒れ伏す。
そして、仲間たちもジュリアンの行使する魔術の前に手も足も出ず、為す術もないまま、ナウシトエが腹に抱えた指輪を奪われてしまった。

ティターニアは最後の精神力を振り絞って転移魔術を発動し、満身創痍のアルバートらを、麓のカバンコウまで送り届ける。
傷付いた一行は体を休めながら、それぞれに思いを馳せ、その上空には町並みを照らす黄金色の満月が浮かんでいた。

90 :
――心地良い潮風に乗って、漁師たちの歌が聴こえる。

空は快晴。風向きは南西。
上空には雲一つなく、カモメが一羽、水平線に向かって飛んで行くのが見て取れた。

ここは、自由都市カルディア。
大陸に最大版図を誇るヴィルトリア帝国の中でも、自由都市の地位を確立している港湾都市であり、皇帝から船舶航行の特許状を貰い受け、関税特権や経済特権を獲得したことで、交易都市としてここまでの発展を遂げた。
周辺都市と防衛同盟を結んでから、その影響力は更に高まり、現在は大陸北部の経済圏を支配していると言っても過言ではない。

カバンコウの村で充分に傷を癒やしたアルバート一行は、イグニス山脈で起きた出来事を振り返り、今後のことを話し合った。
ティターニアとジャンの二人は、それぞれ考古学者としての興味と、冒険者としての探究心から、アルバートに付いて行くと主張した。
ナウシトエの同行については、最初はアルバートが断固拒否したものの、ティターニアらの説得と、ナウシトエ自身が反省の態度を示したことにより、渋々ながらそれを許可したという次第である。
コインはその会議に参加することはなかったが、今もどこかでアルバートの同行を見張っているのは間違いないだろう。

そして、次に決めるべきは、旅の針路である。
それを考える際には、あのイグニスが絶命する前に残した台詞がヒントとなった。

>『今はまだ全てを明かすことは出来ないが――君たちに道を示すことはできる。
世界を巡り指環を集めるんだ。役に立つが分からないけど教えておこう、”アクア””ウェントゥス””テッラ”……
我が同胞の名だ、もしかしたら地名にでも残っているかもしれないね』

アクア、ウェントゥス、テッラという、恐らくはイグニスと同種の竜が鎮座する土地。
情報が信頼できるかどうかは微妙なところだが、差し当たって他に手掛かりもないため、アルバートは取り敢えずこの中の一つ――アクア海溝≠選び、探索へと赴くことにした。
あの場所には確か、海底都市の遺跡が眠っているという噂もあった筈である。

(――もう二度と、あのような失敗はしない)

港から波の打つ様を眺めながら、アルバートは心の中で決意を固める。
当然のことながら、前回の一件は全て帝国へ報告した。
スチームゴーレムを撃破し、幻の古代都市を発見したこと。そこで対峙したベヒーモスと、イグニスと名乗る少女が語った伝説。
そして、ようやく手に入れた指輪を、再び現れた白魔卿――ジュリアン・クロウリーに奪われてしまったということ。

あの失態で、アルバートは指輪捜索の任を解かれることを覚悟していた。
いや、それどころか、黒騎士の地位を剥奪されることまで頭の中にはあった。
しかし、実際にはアルバートは処罰されず、寧ろ指輪についての重要な情報を得たことを評価され、今後も捜索を続けよとの指示を受ける。
折角繋がった首なのだ。もう、前回のような失敗を繰り返すわけにはいかない。

「さて、まずは船を手にいれたいところだが……過酷な旅に耐えられるような物を選ばなければならないな」

港に並ぶ船を物色しつつ、アルバートはそう独りごちる。
ちなみにこの旅の費用については、事前に皇帝から充分過ぎる金額を支給されているため、船を購入する代金の心配は必要ない。
アルバートは小切手一枚記せばいいだけだ。

「ふざけんじゃねえっ! メシが欲しいなら、相応の金を持って来いってんだ!!」

そこでふと、市場の方から男の怒号が聞こえてきた。
そちらの方へ目を向けてみると、何やらボロボロの身なりの少女が、店主に地面へと突き飛ばされ、その上から水まで掛けられていた。
物乞いを苛めて憂さ晴らしか……と、アルバートは眉を顰める。
この旅の目的を考えれば、あまり面倒事には関わりたくないところだが、さて他の仲間たちはどう出るのだろうか。


【第二話&寄り道イベント開始】

91 :
ティターニアは念話の水晶球(各町や村に設置されている)を使って一連の顛末を学園本部に報告し、
趣味の放蕩はめでたく正式に学園の後援を得た学術調査に昇格することと相成った。
ティターニアにとってそんな名目は別にどうでもいいのだが、予算が付かないとの付くのとでは大違いである。
今後は学園の伝書フクロウなどを使って定期的に為替が送られてくることになるだろう。
――などと思っているうちに早速一回目が送られてきた。対応の素早さ半端ない。
普通なら大規模な調査団が派遣されるところだが、そんな事をしたら一瞬で戦争勃発である。
そこでこの件は公にはせずに、このままアルバートに同行という形をとってその経緯を報告せよとのことだ。
こうして極秘任務同士だからこそ成立する奇妙な協力関係が出来上がった。
いよいよ指環が全て集まる段になったらどうするかって? そんなことはその時考えればいいのだ。人生それでいいのだ。

ナウシトエの同行については一悶着あったが、勝手に付いて来られて不意打ちで邪魔されるよりはマシということでアルバートを説得した。
コインの時もそうだったが、アルバートは堅物で情には流されないが論理的に利害を解くとなかなか話が通じるようである。
ティターニア自身も、それが7割方本心であった。
(残り3割は、反省してるし一人除け者にするのは可哀そうかな?という情だがそれは説得上無意味なので言わない)
天下無敵のワガママ娘(――性格的な意味でもボディ的な意味でも)が拒否されたからといってはいそうですかと諦めるはずがないのだ。

ジャンには「予算が付いたので自分の臨時助手として雇われてくれないか」と冒険者の仕事としての同行を持ちかけておいた。
ティターニアから見て、冒険者としての依頼中にたまたま成り行きで巻き込まれただけのジャンは、今後これ程危険な旅に同行する理由はないと思われた。
しかし、いてくれた方が戦闘時に頼りになるし、何よりアルバートとナウシトエがまた喧嘩をおっぱじめた場合自分ひとりでは止める自信が無いので、同行してもらう必要があったのだ。

そして、彼女がこの旅に同行する理由は、個人的趣味と学園からの依頼の他にもう一つある。
コイン――彼女にも、とある話を持ちかけておいた。他の三人には秘密で、だ。

92 :
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

時間軸は>87の少し前
「枕デカ過ぎィ!」などと言いながら夜中に目を覚ましたティターニアは何気なく見た窓の外にナウシトエと治療師の逢引きを目撃し
治療師ドッキリ真夏の夜の淫夢!などと思いつつ何も見なかったことにした。(今が夏かは不明)
受肉した精霊であるエルフにとって無縁の領域であるものの、人間界ではそれで商売まで成り立つことぐらいは学問的知識の一環として知っている。
(エルフにも親子にあたる関係性はあるが、肉体ではなく精神的魔力的な繋がりによる概念である――詳細は機会があれば)
この世界ハーフエルフもごくたまにいるような気もしないような気がしなくもないが、あれは何かファンタジーでミラクルな力が働いているに違いない。
何はともあれ目が冴えてしまったので、気を紛らわすために部屋の中を見回してみると――

「――!?」

ド近眼のくせに種族特性上なまじ夜目は効くため、気付いてしまった。
隅で振るえている灰色の物体――真夜中の怪異! 思いっきりビビった素振りを見せるティターニア。

>「……今日は、何とか死なずにすみましたー。明日も、死なずに生きられるといいですねー」

「なんだコイン殿か――臆病者ほど、魔術師に向いている」

ドヤ顔で格好良さげなことを言って誤魔化した。

「そんなところに丸まってどうしたのだ……いや、聞くのは野暮というものだな。
全くだ、あんな堅物偏屈小僧の監視など命がいくつあっても足りぬわ。
腕輪さえはまってなければ真っ平御免であろう?」

コインの雰囲気が昼間と違う事に気付いていないのか気付かない振りなのか、何食わぬ顔で世間話を始める。
寝ていて眼鏡を外したまま起きてきたため、本当に気づいていないのかもしれない。
初対面時こそあまりの底知れない胡散臭さに警戒していたが、今ではすっかり警戒を解いているように見える。
まさか個人的趣味でストーカーしているわけではないだろうと最初から思ってはいたが
彼女の身分をおおかた把握したのは腕輪に気付いた時であった。

93 :
「外してやりたいのは山々なのだが……極めて強力な呪いゆえに残念ながら我の力をもってしても外すことはできぬ。
ここからは飽くまでも憶測なのだが……イグニス殿がそれを操っておったであろう。
彼女は殺されてしまったが、彼女の同類ならばあるいは――」

長年奴隷生活を送ってきたコインにとっては思いもよらない発想ではあろうが、有り得ない話ではない。

「もしも上手くいったら……だ。
腕輪さえ外して姿をくらませてしまえば雇い主は死んだものとでも思って執拗に追ってくる事はあるまい。
そうだな――国外に出てしまえばまず心配ないだろう。もし嫌でなければ我と共にユグドラシアへ来るのだ」

突然の告白――じゃなくてスカウト。
ユグドラシアは今でこそ共和国最大の戦力にして紙一重な者達が集う魔境と化しているが
もともとは全ての子ども達に教育の機会を与えることを目的として創始されたという。
創始者は伝説の聖女――聖ティターニア。王国時代のエルフの国の最後の女王にして、共和国建国の英雄の一人だ。

「いや、そなたには素質があるような気がしてな。
崩れた魔術陣、見事な陣形だったぞ。今回は相手が悪かったがな。
それにあの時……我が拘束呪式を解いた後もそなたがイグニス殿に何かの魔力的干渉を受けていたような気がするのだ。
最も魔力による干渉を受けやすいタイプは高い魔力を秘めながら自分ではその事に気付いていない者とも言うが……
イグニス殿が炎の指環の持ち主として選んだのは――実はそなたではないのか?」

コインを伴い窓際へ歩く。

「見てみよ、今夜は月が綺麗だ。
こんな夜は更けるほど寒くなってくる。少し狭くてもよければ隣に来るがよい」

そのままコインをベッドに招き入れる。
特に深い意味は無く、震えているところを見つけてしまった以上放っておくのも忍びなく、他に手頃な場所も無かったためだ。
前述のとおり肉食系エルフはまず有り得ないので、入ったところで取って食われたりはしないので安心しよう。
それどころかコインに爆弾発言を投げかけるだけ投げかけたら気が済んだのか、自分は何食わぬ顔で再び眠りにつくのである。
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

94 :
そして現在。一行は自由都市カルディアに来ていた。

>「さて、まずは船を手にいれたいところだが……過酷な旅に耐えられるような物を選ばなければならないな」

道具屋でも見るようなノリで、アルバートはいつも通りのクールな顔で港に並ぶ船を見比べている。
ただの田舎の少年やらそこらの雑兵がいつの間にか世界を救っちゃう系の話なら
船手に入れるところで軽く一話使ってしまうものだが、黒騎士は財力的な意味でも最初から最強であった。

>「ふざけんじゃねえっ! メシが欲しいなら、相応の金を持って来いってんだ!!」

「――黒板摩擦地獄《ブラックボード・キイキイ》」

ティターニアが小声で呟くと、店主は耳をおさえて地面を転げまわる。
授業中に短いチョークを使っていてつい爪で黒板を引っ掻いてしまうと学生からブーイングを食らったものだが、
これはその音を対象者に何倍にも増幅して聞かせるという恐ろしい魔術である。

「情けは人のためならず――とは時々誤解している者がいるが情けは相手のためにならないという意味ではない。
廻り廻って自分に返ってくるのでどんどん人に親切にしましょうという意味だ。
逆もまた真なりで、弱い者いじめをする者には今のようにバチがあたるのだ」

店主にどことなく楽しげに講釈を垂れるティターニア。

「てめえか――――――――――ッ!!」

「ちなみにこの他にも、鼻にスカンク並の悪臭を直撃させたり舌に渋柿の渋みを直撃させたりと、いじめっ子制裁用の魔術を各種取り揃えておるぞ」

地味に強力な嫌がらせ魔術の威力に恐れおののいたのと、あまりのアホらしさに呆れたのと両方の理由で店主はおそらく戦意喪失し、これ以上食って掛かってくることは無いだろう。

「皆さん、助けて頂いてありがとうございました」
少女は一行の方に駆け寄り、礼儀正しくもお礼を言ってきたぞ! さあどうする!?

【聖ティターニアさんはエルフの感覚でも昔の人なのでもちろん別人ですw】

95 :
「っ……!」

豪奢な服を纏う男が力任せに振り抜いた拳。
加減と言う言葉など知らないその拳は、後ろ手に縛られ抵抗できない少女の腹にめり込み、そのまま彼女を背後の石壁へと叩き付けた。
激しい痛みを与えられると同時に、肺の中に在った酸素を叩きだされた少女。
彼女は前かがみの姿勢になりながら、えずく様になんとか呼吸をしようと試みるが……男は何が気に食わないのか、
その少女の髪を鷲掴みにすると、その頭を石造りの床板へと叩き付けた。
額が割れ、流れるのは濃い赤色の液体……それを見た男は、ハッとした表情で少女の髪から手を放す。
そうして、男の背後に立っていた老人に命じ、純白の染み一つ無い布を持ってこさせ――――自身の手に付着した、少女の血液を拭き取った。
己の手が汚れた事に苛立ったのであろう。男は唾を飛ばしながら罵声を少女へ浴びせかけ、今度は、
両膝を地に付け石畳に割れた額を擦り付けらせていた少女の頭を、グリグリと靴底で踏み躙った。
その後も男は、革の鞭で強かに討ち付け、水を浴びせ、刃物をその腕に突き刺し、長い間、少女に思う存分の暴力を振るった。
そして最期に……そんな暴行を受けても未だにヘラヘラと笑う少女の顔を見て、つまらなそうに舌打ちすると、

次は失敗するな。黒騎士が求めていた魔道具の指輪を手に入れろ。薄汚い役立たずの奴隷が。

そう言吐き捨て、背後に控えていた老人にいつもの様に処理をしておくように言い残し、
地上へ向かう階段を登って行った。

その背中をヘラヘラとした笑みで見送った少女は、老人から投げ渡された粗悪品の回復薬を手に取ると、
それを半分ほど胃へと流し込み、もう半分は傷口に塗付して……そのままフラフラと立ち上がり、
己の血で汚れた部屋の掃除を始めた。
老人にそれを手伝う様子はない。それどころか、老人は既に部屋の隅に置かれた椅子で気持ち良さげに眠り初めている。
少女はそんな老人にチラリと視線を向けると……懐から、何かを取り出した。

『emeth(真理)』

少女が懐から取り出したのは、真理という意味の文字が掘られた歯車であった。
それを見て思い出すのは、先日少女が携わった、とある者達の冒険譚。
龍と指輪と黒騎士の物語。そして……あるエルフの言葉。

>「もしも上手くいったら……だ。
>腕輪さえ外して姿をくらませてしまえば雇い主は死んだものとでも思って執拗に追ってくる事はあるまい。
>そうだな――国外に出てしまえばまず心配ないだろう。もし嫌でなければ我と共にユグドラシアへ来るのだ」

戸惑う自身をベッドへと連れ込んだエルフの、何の邪気も無い表情と暖かさを思い出した少女は
ヘラヘラと胡散臭い笑みを浮かべながら……突然、歯車を握りしめた右手で石壁を殴りつけた。
鈍い音が響き、少女の拳から鮮血が流れ出る。
だが、その傷は見る間に治癒していき、ほんの数分で何事もなかったかの様に再生してしまった。
それは、先ほど使用した回復薬の力であり……同時に、粗悪品の回復薬を用いたにしては異常な回復力である事に、少女は気付いている。
だが、自身の異常性に気付いていてもどうこうするつもりは無い。
苦痛を感じる時間が短くなりはするが、物心ついてから与えられ続けている暴力が無くなる訳では無いからだ。

苦痛は、無くならない。

少女は一度俯くと、再び顔を上げて掃除を再会した。
張り付いた様な笑顔の中に有るその瞳には、希望の光など欠片も浮かんでいなかった


・・・

96 :
・・・

自由都市カルディア

潮の香りと海鳥の鳴き声が混じり合うその街は、ヴィルトリア帝国に存在する街の中では異質といってもいい雰囲気を纏っている。
その纏う雰囲気とは即ち――――自由と解放感。

……自由と、解放感。君主制であり独裁制である帝国と言う国家体制において、それらは本来いち早く潰されるべきもので、
土壌としては育つべくも無いものである。にも関わらず、何故この街でそれを感じるのかと言えば……それには理由がある。

それは、このカルディアが多様な特権を持ち、莫大な利益を生む貿易都市であるからだ。

様々な都市や、一部の国家との交易というものを主軸にして栄えたカルディアには、各地域の名産品が流入してくる。
そして、その名産品を運ぶのは各地の船乗りや商人であり……故に望む望まざるに関わらず様々な思想が集まってくるのだ。
例えばそれは共和の思想で、或いは宗教政治や拝金主義、果てには精霊主義といった原始的なものまで。
この街まで辿り着いたそれらの思想は、皇帝と貴族の権威を重視する帝国の国是とぶつかり合い混ざり合い……結果として、
何もかもが緩い妥協の思想に帰結する。

要するに、様々な思想の坩堝となった結果、他人の持っている思想への興味が薄れてしまう『気風』が蔓延しているのが、この街なのだ。


さて、そんな街の中のとある店舗の前で、現在、小さな諍いが起きていた。

>「ふざけんじゃねえっ! メシが欲しいなら、相応の金を持って来いってんだ!!」

諍いの中心にいるのは、二人の人物。
少し腹の出た大人の男と、ボロボロな身なりの少女。
少女は地面へ突き飛ばされ、店主はその少女へ追い打ちとして水を掛けている。
強者が弱者を虐げるその光景は見ていて決して気持ちいいものではなく……それが故に、救いの手は差し伸べられる。

>「――黒板摩擦地獄《ブラックボード・キイキイ》」

声と共に音を操作する魔術を用いて店主を怯ませたおせっかい焼きの名は、ティターニア。
彼女は、直ぐ近くでどうするべきかを逡巡していた黒騎士、アルバートの脇から躍り出て、
即座に少女を店主から助けて見せた。

>「皆さん、助けて頂いてありがとうございました」

その結果、店主は驚きと呆れから少女への手出しを止め、少女は礼儀正しくティターニアへ礼を述べる結果となった。
勧善懲悪のハッピーエンド。めでたしめでたし。



「んー?おやおやおやー? これはこれは、アルバート様方じゃないですかー!
 なんともはや、奇遇ですねー!まさか港の漁獲量と野良猫の生息数調査の依頼を受けた街に皆様がいらっしゃるとは、
 縁は奇なものとはよく言ったものですねー!あははー!」

……そして、そんな空気をぶち壊す間延びした声。
灰色のローブと、目深に被ったフード……そして、胡散臭い笑み。
言わずもがな、帝国の貴族の指示でアルバートの後を付けて回る犯罪奴隷の少女、コイン=ダートである。

97 :
アルバート達の怪我が治るまでの期間、暫く姿をくらましていた彼女であったが、
彼らが旅を再開してからは当然の様に旅路に在ったの村々で、自称偶然の再開を繰り返していた。
そのコインは、今回もまた胡散臭い笑みを浮かべながらアルバート達の近くへと歩み寄って行き
……ふと、ボロボロの服を着た少女の前で立ち止まった。

「おやー?これはこれは、随分小さな子供なのに頑張っている様ですねぇ?」
「ひっ……!?」

視線を向けられた少女は、フードの下からコインの表情をのぞき見て……小さく悲鳴を上げた。
向けられた表情。そこには確かに笑みが浮かんでいるが、それが感情由来のものでない事に子供特有の感性で気付いたのであろう。
コインは、暫くその少女を眺め見てから……今度は、店主の方へ向けて再度口を開く

「店主様も災難でしたねー?お金も無い相手に飲み食いを要求されー、許したり甘い顔をしたら、
 次から次へと別の子供や物乞いに集られかねないのでぇ、怒らなくてはいけない立場だったのですからー。
 心中お察ししますねー、はいー」

その言葉を受けた店主は、驚いた表情を見せた後に少し複雑そうな顔を作ると、気まずそうにボリボリと髪を掻く。

「え?あ、いや……まあ、そうなんだがよ」

……そのやり取りを見聞きして、これ以上騒ぎが肥大化する事は無い事を察したのだろう。周囲の野次馬達はパラパラと散って行き、
市場は騒々しさから何時もの騒がしさへと回帰していった。
そして、それを確認するコイン……どうやら、これまでの言動は衆目を散らすのが目的であったらしい。
確認を終えると、彼女はアルバートやティターニア達へ再度振り返り、小さく口を開いた。

「さてー、注目も無くなった所なので言いますがー。ティターニア様、こういった子供には関わらない方がいいと思いますよー?
『恵まれない可哀相な子供』は一度甘やかせばどんどん付け上がりますからねー。
 それに、子供だから、犯罪行為に何のかかわりも無い善人なんて事は絶対にありえませんよー?」

「という訳でー、無銭飲食をしようとしたこの子は、さっさと衛兵にでも突き出しませんかー?」

朗らかに笑顔で言い放ったコイン。その台詞は胡散臭い笑顔の仮面に隠され、嘘とも本心とも判断できない。
だが、どことはなく焦りのようなものは感じられた。
例えば、一刻も早く次の目的地を……指輪を見つけて欲しい。その様な焦りが。

尚、コインの発言を聞いた少女は近くの人物の背に隠れてしまった。

98 :
ジャンはカバンコウにて傷を癒した後、冒険者ギルド支部に一連の報告をした。
はぐれリザードマンの件については、はぐれが来なくなったことやスチームゴーレムの残骸で信じてもらえたが
伝説の都市とそれに守られた遺物の話はジャンの予想とは裏腹にあまりにも荒唐無稽ということで信じてもらえることはなく、
おそらくはスチームゴーレムが最近目覚めたのだろう、というのがギルド側の担当者の結論。

リザードマン討伐の報酬とスチームゴーレムの残骸を売り払って得た金貨2枚が、ジャンにとっての今回の儲けだった。
さらにそこから傷んだ胸当ての修理、折れた斧の代わりの武器の購入、使ってしまった治療薬の材料の補給等々でさらに差し引かれ、
結局、ジャンの財布に入ったのは銅貨4枚という苦労に見合ったとはいえない報酬であった。

そんなわけで今後の旅を考えるとかなりの依頼をこなさねばならず、憂鬱な気分になっていたジャンにとってアルバートたちの話は渡りに船というものだった。
もちろん「金がないしここらへんの依頼は不味いのでついていく」とは言えず、「冒険者として名を売るいい機会だ!」と言っておいたが、ティターニアには見抜かれていたのか
臨時助手としての依頼を持ち掛けられた。最初は読心の術でも使われたかと焦ったが、アルバートとナウシトエが揉めているのを見てすぐに自分に求められていることに気がつき喜んで了承した。
予算もあるということで防具も胸当ての他に腕を覆う程度の篭手やすね当ても購入し、武器も大鉈に加えて槍を買った。
槍は刃の部分が長く、振り回す分にもちょうどいいサイズとなっていて、これならば護衛によいだろうということでカバンコウの鍛冶屋で打ってもらったのだ。

そこからしばらく一緒に旅を続け、今では帝国の玄関とも称される港湾都市、カルディアに一行は到着していた。
ハーフオークであるジャンにとっては、ヒト以外の種族が多く集まるこのような都市は大変好むべきもので、また喜ばしいことだった。
人の行き来が多くある場所ではあまり出自や種族は気にされず、本人の人格や実力が試される。
見た目がどう見てもオークということで、あまりいい顔をされなかったり旅の途中村から追い出されかけたジャンとしてはとても落ち着く環境であり、
カルディアを歩く間に見かけた同族と挨拶を交わすたびに顔が思わずほころんでいた。
本来オークはダーマ魔法王国軍の最前線を担う戦士部族だが、戦争後の蛮行がもっとも残虐であるとも噂されている。
それはジャンがベヒーモスとの戦闘で放ったウォークライを複数人で放つため本能がむき出しになる姿を敵味方に見せつけてしまうことが原因の一つとも言われ、
ダーマ以外ではその身体能力の高さを活かして傭兵として戦うことが多いオークは結果として噂を証明してしまっていた。

ここカルディアでは港で働くオークも多いようで、荷物を3つ4つ平気で抱えて運ぶオークの姿が時折見られる。
そういうオークを見るたびにジャンは、戦うことだけがオークではない、と示されているようで少し嬉しくなるのだった。

99 :
>「さて、まずは船を手にいれたいところだが……過酷な旅に耐えられるような物を選ばなければならないな」
「そんならよ、ちょっと話聞いてくるぜ。すぐに戻るからここで待ってくれよ」

アルバート曰く、代金はあまり気にしなくていいらしい。金に困らない旅があるのかと驚愕しつつ、ジャンは港の方に向かった。
売りに出されている船があるかどうか、同じ種族の者に聞きこみに行くことにしたのだ。
まずジャンは、荷物の横で休んでいるオークに話しかけた。

「おう!兄ちゃん元気に働いてるじゃねえか。どうだ景気は、儲かってるか?」
『まぁそこそこ、といったところだな。お前さん傭兵か?軍の雇用所ならこっから左だぞ』

そこからしばらく世間話をして、空いている船は港の外れに固まっているという情報を聞きだすと、銀貨1枚をオークに渡してアルバートたちの元へと戻った。
ところがアルバートたちのいた場所がどうも騒がしい。トラブルでもまた起きたのかと思いつつ、野次馬をかき分けて進むとそこには、ベヒーモスとの戦いで
一緒に戦ったフードを被った少女、コイン=ダートがいつものように胡散臭い笑みを浮かべ、軽快に喋っていた。

>「という訳でー、無銭飲食をしようとしたこの子は、さっさと衛兵にでも突き出しませんかー?」

話を聞いてみると、確かにこの少女が悪いようだ。金も払わずに飯を食べたいというのは仁義にも反しているし、ジャンもどうかとは思う。
だが、いつの間にか自分の後ろに隠れて震える少女を見ていると、そのまま突き出していいのかという気持ちはある。
先ほどの世間話で、この都市には貧民街があり大きな問題になっているとジャンは聞いていた。このまま衛兵に引き渡したところで、恐らくはまた同じことをするだろう。
ならばどうするか……ジャンが出した結論はこうだった。

「嬢ちゃん、この街には俺ら来たばっかりなんだけどよ。案内してくれねえか。
何せこの街は広い上にやたらと建物が並んでて複雑なもんでよ、さっき迷っちまいそうになったんだ。
金ならやるからよ、ちゃんと案内してくれるんならもっと増やすぜ?」

そう言って少女に銅貨3枚を渡した。これくらいならジャンの手持ちから出せるし、万が一そのまま逃げられても惜しくはない金額だ。
施しは趣味ではないが、取引ならばジャン・ジャック・ジャンソンは歓迎するのだ。

100 :
ナウシトエはあの朝、居眠りをしていると起きてきたアルバートに詰め寄られ、
小一時間ほど言い合いになった。

「一晩寝てあげるから」「いや、二晩」とナウシトエも徐々に妥協案を出していったが、
逆にそれが火に油を注ぐことになり、ジャンやティターニアの仲裁により辛うじてアルバートは怒りを鞘に納めた。
それにしてもジャンは人が良い。いや、お人よしが過ぎる、とナウシトエは思った。
治療費をチャラにした上で、喧嘩の仲裁までしてもらえるとは。

それからは適度にジャンからパーティーの現状について聞きつつ、カバンコウでの金儲けを進めていった。
治療師はあの後、ナウシトエを窃盗の件も含めて脅迫してきたが、逆にナウシトエは妙に手馴れており、余罪があることを追及した。
若い治療師は悔しがりながらも黙りこくった。
「きっとアンタは、すぐにまたアタシの体を求めてくる……」

予想したとおり、治療師は二日後に通りかかったナウシトエに声をかけた。
すっかり欲望に堕ちた治療師は、財産を切り崩してでもナウシトエの体を求めたのだ。
似たような感じで近くの宿を借り、炭鉱夫を相手にアルバートたちが次の街に移動するまで、
ナウシトエは体を売り金を稼ぎ続けた。

(カバンコウ最高!もうやめられないかも……)
気が付くとナウシトエはポーチに入れるにしては重い金貨を稼いでしまい、
金貨は装飾品や宝石へと変わった。
ブレストプレートはミスリル銀製の素材でナウシトエ用に特注に鍛えられ、髪飾り、首飾り、腰布に至るまで
いつでも換金できるような宝石がちりばめられた。デザインも周囲を魅了するようなものだ。
アイテムや薬品なども大量に買い込んである。ガントレットもクォレルも充分だ。

しかし、アルバートの都合により、続いて港町のカルディアへと歩みを進めることとなる。
どうやら海路を使い、水の竜の遺跡へと向かうらしい。
金の成る街カバンコウが心残りだったが、多くの客やパイプを掴んだだけ満足だ。
それにアルバートの行く先々に金の匂いがする、そんな気さえする。
お人よしのジャン、何だかんだで寛容で適当そうなティターニアもいる(少なくともそう思っている)。

ナウシトエは不機嫌そうに歩くアルバートの後ろで鼻歌を歌っていた。

101 :
かつていたヴェーンの「ヴェ」の字を出すこともなく、カルディアに着いた。

ここは海に面した港湾都市だ。水があるということは当然水商売もできるということだろう。
それはいいとして、

>「ふざけんじゃねえっ! メシが欲しいなら、相応の金を持って来いってんだ!!」

どうやら飯屋の男に、ボロボロの服装の少女が暴力を振るわれ、水をぶっかけられているようだった。
どこにでもいる物乞いの一人と見ていいだろう。
少し前まで自分も同じ立場だったのだ。それに少女とはいえ、透けたその身体は、春を売るにすれば充分な体だった。需要はある。
「ねえ、金が無いならさ、体を売ればいいじゃ……ゴッ!」

恐らくティターニアの魔法か何かだろう。喋ろうとした言葉が一瞬、口から出なくなった。
魔力でどつかれたのか、それとも口封じの魔法なのか、ティターニアは魔法で絡んでいる男を撃退し、
交渉権はジャンへと譲られた。

>「嬢ちゃん、この街には俺ら来たばっかりなんだけどよ。案内してくれねえか。」

お人よしのジャンは、助けるのみならず、金まで払って少女を助け舟を出した。銅貨3枚。
ナウシトエは自分の胸元をまさぐり、窮屈そうに中から2枚の銀貨を取り出し、少女に渡した。

「レイズだ。アタシもこの子に賭けてみる。とりあえず、だ。この御代の分はきっちりと動いてもらう。
まずは、何でもいい。物語でも聞かせてくれない?伝承みたいなヤツさ」

『物語……? 歌ぐらいしか、知りませんが……』

少女が大きく息を吸い込み、その小さな口から声を紡ぎ出す。

――空気が、震えた。

その場にいる誰もがその歌声にきっと魅了されているだろう。ティターニアも、
いや、アルバートさえも。

舟歌――カンツォーネ――≠サう呼ばれるこのカルディア地域の歌は、
漁師や輸送のため行き交う、舟の上で歌われるものだ。

♪『カルディアを守りし アクア 遥か沖の海溝に眠る
人魚の伝説とともに アクア 深く深く眠る
大潮の来たりし時 環礁は人魚を呼び
ステラマリスに アクア ああ 人魚と眠る』

少女の歌声が止むと、周囲からは歓声が沸き起こった。
突然のことにナウシトエは、躍り出そうかと思ったがそのタイミングもつかめず、
呆然と立ち尽くしていた。
どうやらここカルディアの気質はノリが良い、ということのようだ。
険悪な周囲の人々の目線はだいぶ柔らかいものに変わっていた。

「上手上手! 『ステラマリス』、って何? ティターニアは知ってる?」

少女を誉めて頭を撫でると、とりあえず博識そうなティターニアに話を振る。

「じゃあ、とりあえず酒場に行こうか! 職業斡旋ってやつ。お姉ちゃんなら色々知ってるから。すぐカネになるよ」
話も半分に、プレートをよいしょと持ち上げ、手を離すと、その部分がぶるん、と揺れる。
男たちがゴクリ、と唾を飲んだ。その時だった。

どうやら先ほどの歌に反応したのか、数名の気配が背後からする。
それらはこちらからの距離を一切詰めず、話を窺っているだけのようだ。
気配に気付いたナウシトエだったが、一度だけアルバートたちに目配せすると、再び話を続けた。

102 :
>「――黒板摩擦地獄《ブラックボード・キイキイ》」

>「てめえか――――――――――ッ!!」

できる限り面倒事は避けたかったアルバートだが、静止する間もなく、真っ先に動いたのはティターニアだった。
また妙な魔術を行使したようで、店主はしばらくの間耳を抑えて転げ回っていたが、どうやら目立った外傷などはないみたいだ。
推察するところ、対象にのみ不快な音でも聞かせるという効果の魔術なのだろうか。

>「皆さん、助けて頂いてありがとうございました」

>「んー?おやおやおやー? これはこれは、アルバート様方じゃないですかー!
 なんともはや、奇遇ですねー!まさか港の漁獲量と野良猫の生息数調査の依頼を受けた街に皆様がいらっしゃるとは、
 縁は奇なものとはよく言ったものですねー!あははー!」

――と、そこで間に割って入って来たのは、またしてもコイン=ダートだった。
カバンコウに滞在している間は姿を消していたコインだったが、旅を再開してからというもの、宿場に立ち寄る度にこうやって現れるようになった。
このカルディアに到着するまでにも、もう何回目か分からない邂逅なので、流石のアルバートもいい加減突っ込むのが面倒になり、嫌そうな表情で肩を竦めるばかりだった。

>「さてー、注目も無くなった所なので言いますがー。ティターニア様、こういった子供には関わらない方がいいと思いますよー?
『恵まれない可哀相な子供』は一度甘やかせばどんどん付け上がりますからねー。
 それに、子供だから、犯罪行為に何のかかわりも無い善人なんて事は絶対にありえませんよー?」

>「という訳でー、無銭飲食をしようとしたこの子は、さっさと衛兵にでも突き出しませんかー?」

>「嬢ちゃん、この街には俺ら来たばっかりなんだけどよ。案内してくれねえか。
何せこの街は広い上にやたらと建物が並んでて複雑なもんでよ、さっき迷っちまいそうになったんだ。
金ならやるからよ、ちゃんと案内してくれるんならもっと増やすぜ?」

アルバートも帝国騎士である以上、少女が盗みでも働いたなら見逃すわけにはいかないが、物乞いをしていた程度で衛兵に突き出すというのはあんまりだろう。
などと考えていた矢先、見ていられないとばかりにジャンが助け舟を出す。
相変わらず、お人好しが過ぎる男だ――と、アルバートは思う。
しかし、最初はハーフオークであるジャンのことを、不愉快な亜人種だとしか認識していなかったアルバートだが、こうして旅をしている内に、いつの間にかこの男のこういった部分が嫌いではなくなってきていた。

>「レイズだ。アタシもこの子に賭けてみる。とりあえず、だ。この御代の分はきっちりと動いてもらう。
まずは、何でもいい。物語でも聞かせてくれない?伝承みたいなヤツさ」

>♪『カルディアを守りし アクア 遥か沖の海溝に眠る
人魚の伝説とともに アクア 深く深く眠る
大潮の来たりし時 環礁は人魚を呼び
ステラマリスに アクア ああ 人魚と眠る』

そこでナウシトエの提案に応じ、少女がとある歌を紡ぐ。
歌詞の内容からすると、恐らくはこの地域に伝わる民謡の一種というところだろうか。
しかしながら、その見事な歌声は、思わずアルバートも目を丸くするほどだった。
ボロボロの外見からは想像もできないような歌姫っぷりに、先程までは侮蔑の視線を向けていた観客たちも、気付けば手を叩いて称賛の声を投げ掛けていた。

103 :
>「じゃあ、とりあえず酒場に行こうか! 職業斡旋ってやつ。お姉ちゃんなら色々知ってるから。すぐカネになるよ」

そんなこんなで一行が酒場へ足を運ぼうとしていた時、不意にアルバートは、こちらへ向けられている視線を感じ取る。
最初は黒騎士装備で街を闊歩している自分を訝しんでいるのかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
連中の視線は、明確にこの少女を捉えていた。

(あいつらは、衛兵か……?)

アルバートは首から上を動かさず、目だけを向けてあちらの様子を観察する。
その格好から察するに、こちらを遠巻きに窺っている相手の正体は、カルディアの衛兵のようであった。
しかし、ならば何故衛兵が、こんな少女を警戒しているのだろうか。
先程の喧嘩騒ぎで駆け付けたのならば、もうとっくに割り込んできていることだろうし、こうして距離を置いて監視しているのはあまりにも不審であった。

だが、アルバートが一考している間にも、また状況は動き出す。
唐突に巨大な爆発音が鳴り響き、見れば港の方から火の手が上がっていた。

「チィッ……またレジスタンス≠フ連中か!?」

「港の方みたいだな、急いで向かうぞ!」

衛兵たちはその音を聞いた途端、直ぐ様港に向かって駆け出していく。
何やらこういった事態にも慣れているような雰囲気だが、兎も角こうなってしまっては、アルバートも放っておくわけにはいかないだろう。

「どうやら、呑気に話をしている暇はないらしいな。俺たちも行くぞ」

アルバートは仲間たちにそう告げつつ、黒いマントを翻しながら反転する。
幸い音の聞こえた場所は近くのようだし、ここからならばあまり時間も掛からないだろう。

104 :
騒ぎに便乗してコインが突然現れたが、いつものことなのでもはや皆何も突っ込まない。
あの夜ほんの少しだけ素顔を垣間見た気がしたものだが、真意が読めない態度は相変わらず。
ちなみにティターニアが投げかけた提案については、今のところ肯定も否定もしていないようだ。

>「という訳でー、無銭飲食をしようとしたこの子は、さっさと衛兵にでも突き出しませんかー?」

「突き出す理由がどこにあろうか。そやつは単に贈与契約の申し込みを断られただけであって……」

ティターニアの脳内では僅かばかりの食べ物を乞い願う少女を不必要に虐げるおっさん――という図式が成立しており
一方コインの中では食い逃げをしようとした悪ガキとそれを阻止した店の経営に苦悩する店主、という設定になっているようだが
実はこの時点では二人とも詳しい事情を知らないまま思い込みで話をしているのであった。
少女に事情を聞いたジャンが出した結論は――

>「嬢ちゃん、この街には俺ら来たばっかりなんだけどよ。案内してくれねえか。
何せこの街は広い上にやたらと建物が並んでて複雑なもんでよ、さっき迷っちまいそうになったんだ。
金ならやるからよ、ちゃんと案内してくれるんならもっと増やすぜ?」

優秀な臨時助手は少女とwin-winの取引を成立させた。
それはいいのだが――(前金でアレは高すぎちゃうか!? 金欠になってまうで!)
と心の中でツッコミを入れるティターニアであった。
さて、こうなってくると店主一人が割を食ったように見えてくるから不思議なものである。
いつの間に買ったのか、ゆるいデザインのまねきネコのマスコットのようなものを店主に渡す。その名もカバンネコ。

「その……お主も大変だな。つまらないものだが受け取ってくれ。カバンコウのお土産品で商売繁盛のおまじないらしい。
先程の術は実際には音は発生させていないゆえに後遺症などは一切残らないのでそこは安心してもらってよい」

あの手のアホらしい魔術は飽くまでも攻撃用ではなく
動きを止めたり戦意喪失させるのを目的としており、肉体的ダメージは一切残らない。
逆に言えば証拠が残らないのを逆手にとって悪用する者もいるのだが……。
ところでカバンコウは一部の間では“金の成る街”という二つ名で呼ばれているそうだ。
表向きはその昔貴金属類が発掘されていたから、だそうだが真相やいかに!?
とにもかくにも、すっかり勢いを削がれた店主は「お、おう」という感じで招き猫を受け取って店に返っていった。

>「ねえ、金が無いならさ、体を売ればいいじゃ……ゴッ!」

\ ナウシトエ、アウト―――――! / 18歳未満は諸事情につきアカン!という神の声が聞こえた気がした。
気を取り直してTAKE2。

105 :
>「レイズだ。アタシもこの子に賭けてみる。とりあえず、だ。この御代の分はきっちりと動いてもらう。
まずは、何でもいい。物語でも聞かせてくれない?伝承みたいなヤツさ」

何か勘が働いたのか、カバンコウで荒稼ぎしていたナウシトエが、銀貨2枚を渡す。
おかげでジャンがこれ以上報酬を追加する必要はなさそうだ。
ナウシトエの要請に、少女は歌で応えた。暫し少女の歌に聞き入るティターニア。
歌の美しさもさることながら、それ以外にも興味を引くものがあった。
ステラマリス、人魚等の散りばめられたいくつかのキーワード。そして歌に宿る微かな魔力。
流石のアルバートもこの歌には感嘆しているようだ。

「素晴らしい。この堅物をも魅了するとは……まるでセイレーンのようだな」

妖艶な半人半漁の体ととても美しい魔性の歌声を持つ種セイレーン――
数百年に1度レベルのごくたまに人間の姿を取って陸に上がってくる者がいて
海辺の町の人間の中にはセイレーンの血を僅かながら引くものもいるという。

>「上手上手! 『ステラマリス』、って何? ティターニアは知ってる?」

「古の時代に栄え一夜にして沈んだなどと言われる伝説の海上都市……
“海の星”――五方星の形をしていたゆえにそう名付けられたそうな」

>「じゃあ、とりあえず酒場に行こうか! 職業斡旋ってやつ。お姉ちゃんなら色々知ってるから。すぐカネになるよ」

「……あまり妙な仕事を紹介するでないぞ」

すぐ金になって誰にでも出来る仕事がごろごろ転がっていたら貧民街などできないのだ。
それにしてもナウシトエは少女にどこか親近感を感じているのか、妙に親切である。
そういえば、”ナウシトエ”は伝説上の海の精のうちの一人の名だったか――
確かにその体と男を魅了する魔性は人間離れしているようだが……

「まさか――な」

そう一人ごち酒場の方へ向かおうとするが、ナウシトエの視線を受けてその意味を理解する。
少女が何者かに狙われている――!?
アルバートもその気配を察したようで、どうしたものかという空気が漂い始めた矢先、状況は動いた。

>「どうやら、呑気に話をしている暇はないらしいな。俺たちも行くぞ」

港の方で何らかの原因で爆発による火災が発生したようだ。
駆けつけてみると、そこらに積まれている木材や積荷等に燃え移ったのか、港はすでに火の海と化していた。

「――ウォータースプラッシュ!」

水の魔術で消火活動に勤しみながら、体術に長けた部類の仲間達に声をかける。

「ナウシトエ殿、ジャン殿、彼女から目をはなすでないぞ!
もしかするとこれ自体どさくさに紛れてそやつを連れ去るための罠かもしれぬ」

それは万が一に備えての発言であったが――
そう言った矢先、混乱の最中で何者かが少女に忍び寄りその腕を掴まんとする。
それが最初の時点で少女をつけていた勢力か、港に火を放った方の勢力かはたまたその二つは同一の勢力なのか――まだ誰も知る由もない。

106 :
少女を衛兵に突き出したらどうかという提案。
コイン=ダートがそれを行ったのは、何かを企んでの事でも、或いは少女を想って何らかの意図を張り巡らせての事でもない。ただ単純に、

ここで、この少女を助ける事には、何の意味も無い。時間の無駄だ、と。

そう思えたからだ。

コインの眼前に居る少女は、恐らくは貧しい境遇に生まれた人間で、苦労を重ねて生きているのだろう。
だが……コインにとっては、それだけの事だ。

(貧しい人間なんて、腐る程いますからねー。それに、ここで手を差し出しても何処かで野垂れ死ぬでしょうー)

貧困、或いは格差について。
掃き溜めに生まれた人間は、誰からも助けられず、どれだけ足掻いても這い上がる事は出来ず、
それでも必至に足掻かなければ更に沈んで行ってしまう。そういうものなのだと……コインという少女は思っている。

だからこそコインは、目の前の少女に――――物乞いなどという他人に縋る生き方をする少女に、何かをしようとは思わなかった。
沈み続ける生き方を続ける人間に係わる。その事の意義が見いだせなかったからだ。

……だが、当たり前のことながら周囲の人間はそうではない。
アルバートの周囲に居る人間が少女に見せた対応は――コインの無関心とは正反対の『優しさ』であった。

少女が危ないと、そう思いリスク度外視で少女を助けようとしたティターニアの行為は勿論の事。

>「嬢ちゃん、この街には俺ら来たばっかりなんだけどよ。案内してくれねえか。
>何せこの街は広い上にやたらと建物が並んでて複雑なもんでよ、さっき迷っちまいそうになったんだ。
>金ならやるからよ、ちゃんと案内してくれるんならもっと増やすぜ?」

>「レイズだ。アタシもこの子に賭けてみる。とりあえず、だ。この御代の分はきっちりと動いてもらう。
>まずは、何でもいい。物語でも聞かせてくれない?伝承みたいなヤツさ」

銅貨を差し出し、道案内という取引を試みるジャン。その提案に乗り、銀貨を差し出すナウシトエ。
二人の行為は無償の施しではない。だが……だからこそ。少女の魂を貶めないその行為も、紛れも無い『優しさ』である。

そして、彼らの善意に応える様に少女がその口から紡ぎ出したのは舟歌――カンツォーネ――=B

ああ、永き時に渡り受け継がれてきたのであろうその歌は、まるで受けた優しさを形にした様で。
透明で、美しく……そして、儚げな歌であった。
お伽噺に在るセイレーンの唄とはかくの如きであったのだろう。聞く者にそう思わせる、凄味のある歌であった。

そうして、少女の歌の終わりと共に降り注ぐ盛大な喝采。

堅物のアルバートでさえ聞き入るその歌は、先程まで薄汚れた服装の少女に嫌悪の視線を向けていた一部の観衆の悪意など
容易く吹き飛ばし、好意の視線すら向けさせてしまっていた。
そんな、少女を囲む慈愛の輪から一歩外れた場所。歌を聞こうと集まってきた観衆に弾き出されたコインは……

「………私は…誰も……………なかったのに……」

右手でフードの前を引いて表情を隠しながら、歓声に紛れてそう呟いた。

――――――

107 :
>「じゃあ、とりあえず酒場に行こうか! 職業斡旋ってやつ。お姉ちゃんなら色々知ってるから。すぐカネになるよ」

さて。少女が歌を終え、ナウシトエが少女にまともな……きっと、まともな職業斡旋の提案をする為に酒場へと誘ったその時。

(……んー、視られてますねぇ)

アルバート達とほぼ同じタイミングで、コインは向けられている視線に気付いた。
そして同時に、その視線の主がこの街の衛兵である事を確認する。

(敵意……ではありませんねー。警戒の類……でしょうかー?)

敵意を向けられている訳では無いので、判断に困ったコインはアルバートの方針を聞こうとし、
直後、響いたのは爆発音。次いで上がる黒煙。

>「チィッ……またレジスタンス≠フ連中か!?」
>「港の方みたいだな、急いで向かうぞ!」
> 「どうやら、呑気に話をしている暇はないらしいな。俺たちも行くぞ」

どうにも、あまり歓迎すべきでない事態が起きてしまった様である。
率先して関わりたくはないが、アルバートを見失う訳にもいかないコインは、いつも通りの胡散臭い笑みを浮かべ彼の後を追いかける。



現場は、酷い有様であった。
爆発によって齎された火の手が、船の積み荷や近隣の家屋に燃え広がり、
周囲は先日の神殿地下の様に酷い熱気を帯びている。

>「――ウォータースプラッシュ!」

現場付近にティターニアや水属性の魔術を行使できる魔術師が数人居た事
近くに海が有る事で水属性魔術の使用効率が跳ね上がっている事
上記二つの理由で火災事態は鎮火の傾向に有る様だが……

>「ナウシトエ殿、ジャン殿、彼女から目をはなすでないぞ!
>もしかするとこれ自体どさくさに紛れてそやつを連れ去るための罠かもしれぬ」

爆発を起こした者が居るという事は、その爆発は何らかの目的を以って起こされたという事である
そして、その事を裏付けるかの様にソレは起きた

アルバート達を追いかける形で、一緒に現場まで付いて来てしまった少女
その少女へ、人ごみの間から何者かが手を伸ばしてきたのだ。人ごみに紛れ、警戒の隙を突くそのやり方は素人の物ではない。
正体不明の人物はそのまま少女の腕を掴め――――なかった。

「アルバート様が情報取集の相手とした方ですので助けましたがー……なんというか、襲撃者の貴方様は
 ダメダメですねー。奇襲をかけるなら、その瞬間こそ一番警戒しなければなりませんよー?」

その場で膝から崩れ落ちたのは、今しがた少女の腕を掴もうとしていた右腕に海蛇の刺青を入れた細身の男。
言葉を放ったのは、魔導金属糸で口を縛った銅貨入りの皮袋を、風切り音を鳴らしながら振り回すコイン。
恐らく、銅貨入りの皮袋でしたたかに討ち付けられたのであろう。
見れば……倒れている男の顎は不自然に外れてしまっている。

「それからー、奇襲は出来れば少数精鋭で行うのがベストですねー。
 つまり……気配を完全に消せない様な人間を数だけ用意しても無駄という事です、はいー」

そのコインの言葉に反応した数人の人影。
彼らは、自分たちの隠形が見破られた事に躊躇った気配を見せたが……やがて、タイミングを計った様に同時に人ごみの中から飛び出し、
少女へと向かって行く。その数は4人……注意深く見れば、襲撃者達はそれぞれが身体の何処かに海蛇の刺青を入れている事が判るだろう。

108 :
>「レイズだ。アタシもこの子に賭けてみる。とりあえず、だ。この御代の分はきっちりと動いてもらう。
まずは、何でもいい。物語でも聞かせてくれない?伝承みたいなヤツさ」

銅貨を渡したジャンに続いて、ナウシトエは銀貨2枚を少女に渡した。カバンコウから今まで、ずいぶんと稼いできたようだった
ナウシトエにとってはおそらく大した金額ではないのだろう。ジャンもティターニアという雇い主がいるおかげである程度は気前よく
払えているが、それにしても銀貨2枚とは!いつか痛い目に遭うのではないか…とナウシトエを眺めつつ、黙って少女が歌うのを見ていた。

>♪『カルディアを守りし アクア 遥か沖の海溝に眠る
人魚の伝説とともに アクア 深く深く眠る
大潮の来たりし時 環礁は人魚を呼び
ステラマリスに アクア ああ 人魚と眠る』

見た目からは想像できない透き通った声によって紡がれる詩が終わったとき、ジャンは集まってきた観衆と同じように盛大に拍手していた。
まさか助け舟のつもりで提案した道案内より、よほど稼げるものを持っていたとは思わず驚嘆したのだ。

>「じゃあ、とりあえず酒場に行こうか! 職業斡旋ってやつ。お姉ちゃんなら色々知ってるから。すぐカネになるよ」

「おい、そいつなら歌ってるだけで稼げるんじゃねえか?立派なもんだぜ、いい服着れば野外劇場でも通じる歌だ」

貧民街どころか、この街にいるのがもったいないように思えたジャンはさらに大きなことを提案した。
ナウシトエのベットは成功したのだから、さらに大きな賭けに出てみるのも悪くはない。

「だからよ、いい服買ってどっかの吟遊詩人にでもしっかり教えてもらえば――」

そう話した瞬間、気づいた。こちらを見ている視線がある。それも複数。他の仲間も気づいているようで、どうやら衛兵たちがこちらを見ていることが分かる。
先ほどの少女の歌で群衆が集まったのを、何かしらの抗議活動と勘違いしたのだろうとジャンは考えてアルバートたちにこの場を離れようと提案した矢先、それは起こった。

爆発というより、火山の噴火のような激しい音が一瞬響く。
どうやら港で突然火災が起きたらしく、慌てて水夫や衛兵が火消しに走っていた。

109 :
> 「どうやら、呑気に話をしている暇はないらしいな。俺たちも行くぞ」

アルバートたちと共に衛兵たちを追いかけ現場に着いてみれば、港は見事に炭と灰の集合体になりつつあった。
火災自体は既に鎮火していたが、荷揚げされて積まれていた貨物や倉庫の屋根が焼け落ち、商人たちが呆然と在庫が消える様を眺めている。

(こりゃ……随分と復興にゃ時間がかかるだろうな。貨物船にまで火が移っちまってらあ)
(港にしてはやたらと火の手が早かった辺り、よっぽどの魔術師が燃やしに来たのか?)

水夫たちが慌ただしく動くのを見ているうち、鎮火に協力していたティターニアが叫ぶ。

>「ナウシトエ殿、ジャン殿、彼女から目をはなすでないぞ!
もしかするとこれ自体どさくさに紛れてそやつを連れ去るための罠かもしれぬ」

「おいおい、さっきの視線は衛兵さんのだぜ。さすがに考えすぎだろうよ」

そう言うと、現場までついてきてしまった少女に振り向く。
話半分で置いていくわけにもいかず、ジャンが最後尾について見張っていたが港に来るまでは何も起きることはなかった。
だからこそ、雇い主とはいえティターニアの提案には賛同しなかったのだが……

>「それからー、奇襲は出来れば少数精鋭で行うのがベストですねー。
 つまり……気配を完全に消せない様な人間を数だけ用意しても無駄という事です、はいー」

振り向いた直後、少女の後ろからぬるりと伸びた手。ジャンが大鉈を抜き放ったときにはすでに腕を掴もうとしていたが、
コインの強烈な一撃によってその手を伸ばした男は昏倒し、大の字で倒れていた。

「コイン……すまねえ、助かった!今度奢るぜ!」

さらに迫りくる襲撃者たちを視界に捉えたジャンは、少女を自分の後ろに置くように辺りを見回し、警戒する。
そしてジャンの背後を取るようにやってきた腕に刺青を入れた男を、大鉈の背でしたたかに打ちつけ、怯んだところを殴りつけた。
ハーフオークの腕力で殴られた男はあっさりと気絶し、ジャンの足元へ倒れこむ。

「まだいるぞ、気を付けろアルバート!」

少女の前で、血を見せるわけにはいかない。そう考えたジャンは大鉈を刃の部分ではなく背をぶつけるように構えて、辺りを再び警戒した。

110 :
ティターニアは「ステラマリス」という言葉に反応したようだ。

>「古の時代に栄え一夜にして沈んだなどと言われる伝説の海上都市……
“海の星”――五方星の形をしていたゆえにそう名付けられたそうな」

「なるほど、お宝が眠ってそうなカンジだね。さすがエルフさん。
さて……」

少女を連れ、酒場にでも向かおうとするナウシトエを阻んだのは、唐突な爆発音と、
何人もの男たちの疾走する音だった。
アルバートが既にそちらの方向に目を向けている。
飲んでいる場合ではなさそうだ。

>「チィッ……またレジスタンス≠フ連中か!?」
>「港の方みたいだな、急いで向かうぞ!」

駆けつけてみると、そこらに積まれている木材や積荷等に燃え移ったのか、港はすでに火の海と化していた。
何者かが少女の腕を掴む。
(衛兵か?!)

敵は少女の腕を掴むも、それはコインの攻撃により阻まれた。
それは「サップ」と俗に言われる。重いものを詰めた袋――今回の場合は、銅貨入りのものだ。
強烈な攻撃は手練れをいとも簡単に崩れ落ちた。

なおも4人が一斉に飛び出してくる。獲物も手にしている。
恐らくこちら側の思わぬ戦力に驚いて対応しているのだろう。それにしても気配の消し方……

「気をつけて。こいつら、殺しのプロだよ!」

4人のうち一人が、少女を庇うジャンに斬りかかる。
しかし、その攻撃は大鉈の背で峰打ちを食らい、さらに拳の一撃で倒れ伏す。

しかし敵の動きは素早かった。少女の脚目掛けて容赦なくボウガンを射掛けるが、
ナウシトエがそれを察してガントレットで寸でのところで弾き落とす。

111 :
もう一人はすぐさまそれに反応してナウシトエに斬りかかった。カトラスと呼ばれる分厚い刃の武器だったが、
これを避けながら男の腹へと蹴りを放った。
しかし攻撃が素早かったためか、ナウシトエは例によって避けきれない胸へと攻撃を受けてしまう。が、今回は特注のプレートがそれを受け流す。
それでも強烈な衝撃がナウシトエへと入る。

怯んだ敵は倒れなかった。さらに後ろからも短刀でナウシトエに飛び上がりながら突き刺す者、そして先ほどのボウガン男がこちらに二発目を放ってきた。
ナウシトエは持ち前の素早さで怯んだ男の方へ向かうと、まずは男の体を盾にし、敵の一刺しと矢は男の胸部へと深深と刺さる。
グウッ、という呻き声とともに血を噴出しながら崩れ落ちる男だが、ナウシトエはさらに男の体を支えにして両脚を短刀男に向けて伸ばし、両脚で股に男の頭を挟み込んだ。

「ふんっ!!」

男が痙攣する倒れた男から短刀を引き抜き、ナウシトエに突き刺そうとする頃には、ナウシトエの腰が捻られ、男の首は90度ほど捻じ曲げられ骨を折られていた。
さらに、止めとばかりにその高さから崩れ落ちる男と共に落ち、尻に力を入れて、
男の頭に全体重をかけて硬い地面に叩き付け、頭蓋骨を砕いた。ナウシトエの座る男の頭は瞬く間に血だまりとなる。

ヒィ、と逃げる最後の一人に対しても、容赦なく毒入りの仕込みボウガンを放った。
その攻撃は男の頚部に突き刺さり、もがきながら倒れ、やがて動かなくなった。

「これで、全部片付いたかな?」

頭を潰された男は即死、しかし、同士討ちに遭った男とボウガンを撃たれた男はしばらく痙攣してから倒れた。
(これは……毒…?)

三人の死体を確認し、より損傷が酷そうなコインが殴った顎の外れた男の首の骨を押さえつけて圧し折り、
残るジャンが倒した男の方を生かし、捕虜にしようと駆け寄る。
しかし――

「……っ!」

建物の影からボウガンと思われる飛び道具から放たれた小さな矢がナウシトエを狙い、
辛うじて急所への攻撃は免れたものの、それはナウシトエの無防備な尻へと突き刺さる。

「ううっ……まだ、敵が残っていたとは、誰か、誰か追って!」

尻から矢を引きぬく。血が溢れるが、それは大した量ではない。だが……
そこからじわじわと痺れるような痛みがナウシトエを襲った。
自分が持っている毒の耐性はある程度もっているので、それとは違う種類の毒ということになる。

「……毒矢だ! っ……解毒を、薬を早くしないと……!」

物凄い熱っぽさに、思わずプレートアーマーを脱ぐ。
ナウシトエはポーチの中から解毒薬を探し、それを水薬に薄め、自ら一口飲むと、残りを傷口に塗りたくった。
しかし、相等に強い毒のようで、まだ痛みは続いていた。脚に力が入らなくなっていく。

「いいから、まずそいつを起こして情報を聞き出しといて……! こっちは何とかするから」

ナウシトエは強がるものの、因果は容赦なく、尻を突き出し胸を強調するようなポーズは裏通りを牛耳る盗賊団の欲情を煽り、
一人、また一人と欲にまみれた男たちが群がってくる。勿論、先ほどの連中に比べればずっと隙だらけだが。
「おう、今助けてやるからなネーチャン……グヘヘヘ…… ついでにあのメスガキも攫ってやるか」
あろうことか、少女までターゲットとなった。

112 :
一行が港へ到着した時、現場は既に荒れ果て、あちらこちらから火の手が上がっていた。
先程の爆発によって発生した火災が、周囲の家屋や、積み上げられた貨物などに燃え移ってしまったようだ。

>「――ウォータースプラッシュ!」

>「ナウシトエ殿、ジャン殿、彼女から目をはなすでないぞ!
もしかするとこれ自体どさくさに紛れてそやつを連れ去るための罠かもしれぬ」

状況を見て取ったティターニアは、迅速に水魔術を行使。港での消火活動を開始した。
そして続けざま、ジャンとナウシトエに対して、傍らの少女を庇うように指示を飛ばす。
ティターニアは先程、この少女がまるでセイレーン≠フようだと言っていたが、もしも本当にそうだとするならば、連中の狙いがここにあるという推測も充分に成り立つだろう。

>「アルバート様が情報取集の相手とした方ですので助けましたがー……なんというか、襲撃者の貴方様は
 ダメダメですねー。奇襲をかけるなら、その瞬間こそ一番警戒しなければなりませんよー?」

>「それからー、奇襲は出来れば少数精鋭で行うのがベストですねー。
 つまり……気配を完全に消せない様な人間を数だけ用意しても無駄という事です、はいー」

しかしながら、襲撃者の手が回るのは、こちらの予想よりも遥かに早かった。
ジャンの隙を狙い、背後から忍び寄ってきた人物が少女の腕を掴もうとした瞬間、コインが銅貨を革袋に入れた手製のサップを用いて、その相手を殴り飛ばす。
敵の手際も悪くなかったが、隠密行動に長けたコインが、それを上回った形だ。

>「まだいるぞ、気を付けろアルバート!」

>「これで、全部片付いたかな?」

次いで現れた四人の襲撃者も、ジャンとナウシトエがそれぞれ素早く制圧した。
だが、連中が揃って身体に刻んでいた、あの海蛇の刺青……。どこかで見たような覚えがあるのだけれど、一体何の模様だっただろうか。

>「ううっ……まだ、敵が残っていたとは、誰か、誰か追って!」

>「……毒矢だ! っ……解毒を、薬を早くしないと……!」

>「おう、今助けてやるからなネーチャン……グヘヘヘ…… ついでにあのメスガキも攫ってやるか」

アルバートが記憶の片隅を辿っていた時、物陰に身を隠していた襲撃者の生き残りがボウガンを放ち、その矢がナウシトエの尻を突き刺す。
鏃には毒も塗られていたらしく、それを受けて悶絶するナウシトエの姿は、路地裏に潜んでいた盗賊たちの欲情をそそった。
今の戦いぶりを見て、まだこの一行に手を出そうとするなど、気が触れているとしか思えない所業だが、あろうことか奴らの手は少女にまで伸びようとしていたため、アルバートも放っておくわけにはいかない。

――刹那、炎の剣が虚空に閃く。

その一刀で、まずナウシトエに襲い掛かろうとしていた男の右腕が斬り飛ばされ、更に返す刃で追撃。
まるで炎の嵐が舞っているかの如き剣技で、敵が持っている武器を立て続けに弾き落とす。その剣圧に押され、思わず後方へ倒れてしまう相手までいた程だ。

「――失せろ。さもなくば斬り伏せる」

アルバートが鋭い眼光を向けながら警告すると、それだけで盗賊たちは震え、悲鳴を上げながら再び路地裏へと逃げ帰って行った。

113 :
目下のところ、周囲にいる敵は片付いたが、まだこれで一件落着というわけにはいかない。
アルバートはナウシトエを撃った襲撃者を追って、倉庫の立ち並ぶ裏街の中へと駈けて行く。
しかし、路地に入った途端、襲撃者が逃げた方向とは別の角度からボウガンが放たれ、後方よりアルバートを襲った。

「やはり、他にも潜んでいたようだな。数は四人……いや、五人か」

敵の殺気を鋭敏に感じ取っていたアルバートは、撃たれた矢を冷静に剣で払い落とし、辺りを一瞥してこちらを窺っている敵の数を探る。
そして、両膝を曲げて地を踏み締めた次の瞬間、黒竜が空を駆けた。
レーヴァテインから噴き出す炎を使って、大きく跳躍したアルバートは、まず倉庫の屋根の上に陣取っていた男に狙いを定める。
上空から降下しながらの一撃。それで敵は真っ二つに両断され、驚きに目を見開いたまま事切れた。

アルバートはそのまま屋根から屋根へ跳び移って、別の倉庫の上に潜んでいた男を斬り捨てる。
これで、残りは三人。更にこちらを狙って次々と放たれる矢を叩き落としつつ、その威力と方向から、射手の居場所に当たりをつける。
アルバートは飛び交う矢を躱し、転がるようにして屋根の上から飛び降りると、今度は対面の倉庫へと走り、その中に隠れていた敵を、建物の壁ごと粉砕した。

だが、次の一瞬、アルバートの背筋にゾクりと悪寒が走る。
急ぎ振り返って見れば、なんとこちらを目掛けて、牽引式の大砲を向けている男がいた。
幾ら黒騎士の鎧を纏っているとはいえ、あの砲弾に撃たれれば流石に無事では済まない。
砲口が火を噴く直前、アルバートはその場で身構え、大上段に剣を振り被る。
そして、爆音と共に放たれた砲弾を、縦一閃に打ち下ろした唐竹で、見事真っ二つに斬り捨ててみせた。
まさか砲弾を剣で防がれるとは思っていなかったのだろう。大砲を撃った敵は慌てて身を翻して逃げようとするものの、その直後、アルバートが投擲したダガーに後頭部を貫かれ絶命していた。

獅子奮迅とも呼べるアルバートの戦い様を見て、最後の一人もようやく怯んだらしく、脇目も振らず逃げ始める。
当然、アルバートもその後を追うが、敵の逃げる後ろ姿を見て微かな違和感を覚えた。
どうにも考えなしで逃げ回っているようには思えず、むしろ、こちらを引き付けて時間を稼いでいるかような……そんな違和感だ。

そして、アルバートの予感はまさに的中することになる。
襲撃者が逃走劇を繰り広げている中、再び港の方から、爆音が鳴り響いた。
しかも、今度は一度に留まらず、繰り返し断続的にその音が轟く。
戦場に慣れているアルバートは、それが砲撃音であることを理解した。


* * *


一方、ようやく鎮火活動も一段落した筈の港は、再び地獄絵図と化していた。

巨大な海賊船がカルディアに現れ、何発もの砲弾を撃ち込み始めたのだ。
更に船の上からは次々と武装した男たちが飛び降り、街の中へ雪崩のように駆け込んで行く。
それらは皆一様に、あの海蛇の刺青を身体に刻み込んでいた。

「野郎共、ここが一世一代の大舞台だ! 出来得る限り、派手に暴れ回れ!!」

海賊船の船首の上から、一人の男が檄を飛ばす。
彼の名は、エドガー・オールストン。
商人ギルドが絶大な権力を持つこのカルディア近海で、海賊行為を繰り返す、反体制派のレジスタンス。通称ハイドラ≠フ首魁である。

これまでにも幾つかの貿易船を襲撃したり、数多の活動を行っていた彼らではあったが、ここまで表立ってカルディアを襲うのは初めてのことだった。
既に多くの衛兵たちも駆け付けているが、このままでは街中が阿鼻叫喚の渦に飲まれることは間違いないだろう。

114 :
名前:エドガー・オールストン
年齢:33歳
性別:男
身長:185cm
体重:79kg
スリーサイズ:
種族:人間
職業:海賊(元神殿騎士)
性格:熱血、過激派
能力:斧槍術、神聖魔術
武器:ハルバード、カトラス
防具:プレートアーマー
所持品:コンパス、航海図などの海賊道具
容姿の特徴・風貌:金髪金眼で、長い髪をオールバックにかき上げている。無精髭を生やしていて人相が悪く、体格も大柄で筋肉質。
簡単なキャラ解説:
カルディア近海で海賊行為を繰り返す、反体制派のレジスタンス。通称「ハイドラ」を取り纏めるリーダー。
元々は中央教会に仕える熱き神殿騎士の一人だったが、帝国に弾圧される民草や、亜人種奴隷たちの実態を知り、騎士の位を捨てて野に下る。
少数の同士とハイドラを結成して以降、着々と組織を拡大し、ここまでの襲撃を可能とするほどの力を手に入れた。

115 :
「ご協力ありがとうございます! かなりの使い手とお見受けしましたがどちらの方ですか?」

燃え盛っていた火の手もようやく鎮火の様相を見せ始め、共に消火活動にあたっていた魔術衛兵が話しかけてきた。

「名乗るほどの者ではない。ところでこのようなことはよくあるのか?」

「はい、おそらく……レジスタンス組織ハイドラ≠フ仕業でしょう。
それにしても今回は大規模のような……」

仲間達の襲撃者との大立ち回りを気に留めつつも、彼らの実力なら自分が出る幕はないだろうと消火の方に専念していたのだが――

>「……毒矢だ! っ……解毒を、薬を早くしないと……!」
>「おう、今助けてやるからなネーチャン……グヘヘヘ…… ついでにあのメスガキも攫ってやるか」

どうやら出番が来たようだ。尤も、ここまでくれば鎮火するのは時間の問題だろう。

「すまぬ、後は任せた――ミサイルプロテクション」

ナウシトエの二の舞にならぬよう、飛び道具を防ぐ風の魔術を展開してからナウシトエらに駆け寄る。

>「――失せろ。さもなくば斬り伏せる」

直接襲い掛かろうとしていた輩は、アルバートが難なく撃退した。

「かたじけない、ここは引き受ける。追うならくれぐれも矢に用心せよ」

その言葉を言い終わらないうちに、アルバートは襲撃者を追って路地裏に消えて行った。
ティターニアはナウシトエの肩に手を置き、解毒の魔術をかける。

「――ピュリフィケーション」

正確にはあらゆる液体を純水にする――それがこの魔術の効果だが、生き物の血液等には何故か効かない。
その性質を利用して体内から毒だけを消し去る事ができ、解毒の用途にもよく使われるのだ。

「危ないところであったな、これで心配ないだろう。
どうやらハイドラ≠ニかいうレジスタンス組織の仕業のようだが……。
息のある者を起こして彼女をさらおうとした理由を聞き出すとしようか」

116 :
そんな事を言っている間に、巨大な海賊船が港に現れた。
現れたかと思うと、砲弾を街に撃ち込み始めたではないか。

「なんと……」

>「野郎共、ここが一世一代の大舞台だ! 出来得る限り、派手に暴れ回れ!!」

見るからに屈強そうな武装した男たちが船から街の中へ雪崩れ込んでくる。

「何だお主らは。マッチョの大運動会でもするつもりか――スリープクラウド」

強力な催眠作用のある霧を作り出す魔術を船上に打ち込む。
対人戦(ただし超人除く)において先手で打ち込むと無類の強さを誇るこの魔術。
――とはいえ、流石にこの人数相手では、何割か落ちればもうけものだろうか。

「それにその砲! よーいどんの合図にしてはでかいししつこいぞ!」

とか言っていると一行がいる辺りに砲弾がベストコースで迫ってきた。

「あばばばばばばば――エアリアルスラッシュ」

真空刃が舞い、砲弾はバラバラに切り刻まれて霧散した。まさに間一髪。
ティターニアは思案する。被害を最小限に抑え一刻も早く混乱をおさめるには何がベストか――

「この人数をまともに相手をしても埒があかぬ。つまるところ……あのお頭らしき者を縛り上げるしかないであろうな」

無精ひげで人相が悪いくせに謎のカリスマオーラを放っているリーダー。
あれを制圧すれば総崩れになるだろうと踏んだ。

「ただし……おそらくあやつは強いぞ。
少女を連れて一旦引くという選択肢もあるが……騎士殿はこの事態を放ってはおけないであろう?
あれ、騎士殿は?」

言ってから気付く。この非常事態だというのにアルバートの姿が見当たらない。
(一人になったところをあっさり毒矢にやられとるんちゃうんか!? シャレにならへんで!?
流石に最強やしそれはあらへんか。いや最強や思って油断しとるとうっかり豆腐の角に頭ぶつけて事故死とかあるさかい……)
脳内であらぬ想像が繰り広げられるのであった。

117 :
「ウノー、ツヴァイー、トロワーっと……んんー、落とした硬貨は無いようで良かったですねー。
 ……あ、ジャン様。奢っていただけるなら、リンゴのポーション漬けを所望しますー」

コインは、襲撃者の一人を打ち倒した銅貨を詰めた袋を、糸を繰る事で手元に戻し、中の硬貨を確認する。
この時点で未だ襲撃は続いていたが、コインに戦況の確認は行う様子は無い。
何故なら、彼女には判っているからだ。
この程度の襲撃者に、旅の同行者達が後れを取る訳が無い事が。
そして―――彼女の想像通り、襲撃者は瞬く間ににその数を減らして行った。

ジャンの膂力により振るわれた鉈で
ナウシトエの体術と、ボウガンの矢で

複数人存在した襲撃者は、各々が熟達した技能を有していたが、それはあくまで一般人として見ればの話である
辺境の洞窟を単騎で闊歩できる者達が集まった集団に、叶うべくもない。
コインが硬貨を数え終えた時には、

>「――失せろ。さもなくば斬り伏せる」

ナウシトエへ向けボウガンを放った一人を除いた全ての襲撃者が、無力化ないし絶命していた。
襲撃者と関係は無いと思われる、盗賊といって差し障りないゴロツキの集団もアルバートの手で片手間に封殺されていたが、
これは彼らの日頃の行い、因果応報という他無いだろう。

……尚、戦況が一段落付いた段階でナウシトエにボウガンが刺さったのを確認したコインが、
胡散臭い笑みを一瞬引き攣らせて、先程まで呑気に中身を確認していた銅貨の入りの袋をこっそりローブの中に隠していたのは、
少女だけが目撃していた。

そうして、状況が一段落付き、アルバートが襲撃者の残党を追って裏町に駆け、
ティターニアがナウシトエに対して魔術による治療を始めたのだが……


>「野郎共、ここが一世一代の大舞台だ! 出来得る限り、派手に暴れ回れ!!」

街を揺らす、爆轟
鎮火による安堵も束の間。まるで、それによって生まれる隙を見越していたかの様に、次の騒乱が訪れた。
崩れる複数の建造物に、慌てふためき逃げ惑う人々。
その騒乱の元凶は――――港に浮かぶ、『海賊船』。
彼の船から立ち上る複数本の煙と、断続的に響く炸裂音が、その状況を作り出しているのが舟に備え付けられた大砲であると告げている。
幸い、先程の鎮火活動により水けを帯びた事で火の手こそ上がっていないが、このままでは炎が再度燃え広がるのも時間の問題であろう。

そして、混乱極めるその現場に―――――コインは、いなかった。


―――――

118 :
裏町。襲撃者の残党が逃げ込んだ、倉庫街の中でも人目のない……警邏の眼が届かないその空間における戦闘は、
極めて短い時間で終結を迎えた。それは、彼我の圧倒的な戦力差故の事

一人に対し5人という、多勢
大砲と言う『兵器』を個人に対して使用するにはあまりに強大な武器

それらは、『黒騎士』アルバートに対して用いるには、余りに心許ない装備であったのだ

レーヴァテインを射出装置に様に用いた高速戦闘術
金属の塊である砲弾すらも両断する腕力と、切断力
帝国の最高戦力である黒騎士の名にふさわしいその絶技を受けた襲撃者達は、抵抗も空しく次々と倒れていった。
かろうじで一人が逃げ出し、路地の奥へと走っていけたのは、彼らにとって幸運と言って良いだろう。

「しかしながらー、彼らの瞳に絶望の色は有りませんでしたぁ。
 何故なら、彼らは目的の為に既に命を捨てる覚悟で、黒騎士様を誘導していたのですからー……という所ですかねー?」

だが、幸運は長くは続かない。逃げる襲撃者の残党が路地を曲がり、最後にその目で見たのは
……己の真横を通り過ぎた、灰色のローブを目深に被った小柄な人影。
そして、最後に感じたのは喉元を一直線に走った、金属特有の冷たさであった。

「はっはー。どうも、先程ぶりでございますねー、アルバート様」

頸動脈を断ち切られた事で鮮血を噴き出す襲撃者の横を、散歩の様に通り過ぎて現れたのは
へらへらと胡散臭い笑みを浮かべる少女、『コイン=ダート』
コインはアルバートに合わせる形で襲撃者の追撃を選択しており、彼が戦闘を始めた辺りで追いつき……追い抜き、
襲撃者の逃走経路であろう場所に目星をつけ、そこで待ち伏せを行っていたのであった。
崩れ落ちた襲撃者を横目に見ながらコインはアルバートへと向けて語りだす。

「あははー。その様子ですとー、先ほどの音を聞いて大体の事は察していらっしゃるのかもしれませんがー。
 先程、アルバート様を追いかける前に、港に海賊船の様な物が近づいているのを見ましてー。
 要するに、あの轟音はその海賊船の砲撃だと思われますー」

そこでコインは、倒れている襲撃者の肩の服を捲り、そこに刻まれた海蛇の刺青をアルバートへと見せつける。

「予想ですがー。この刺青の集団は、何らかの目的で襲撃をかけようとした街に、帝国最高戦力の黒騎士様が居るという
 情報を入手しー、黒騎士様に目的を邪魔をさせない為、現場から遠くの場所へ、まんまと誘導したという訳じゃないですねー。
 敵ながら随分と大胆で鼻が利くと思いますー……そこで、提案なのですがー」

襲撃者の服から手を放したコインは、数歩アルバートへと近づき、その顔を覗き込むようにして再度口を開く。

「アルバート様。暫く港には戻らずに、ここで時間を潰しませんかー?」

笑顔でコインが語るその話の内容は――――港に居る人々を、ティターニア達を助けに戻らず見捨てたらどうかという提案。
それは、ふざけているようで……しかし、海賊船を目視したにも関わらず、港の防衛を手伝わずにここに来ている事が、
その発言がある程度本気のものである事を、アルバートに伝えるであろう。

「これも私の推論ですがー。ここまで考える事の出来る集団が、帝国軍が動く規模の襲撃事件を起こしたという事はー
 それに見合うメリットが有る筈なんですー……例えば、強大な力を持つ『指輪』に係わる事ですとかー」

フードの前を引き、コインは己の瞳を隠す。

「ですからー。このままこの場で私と楽しくおしゃべりをして、海賊たちを泳がせてー。
 彼らの目的が指輪であれば、横から攫い……違えば、その時に始末する方針にしませんかー?
 その方が、『アルバート様も効率的にお仕事が出来る』と思うのですがー」

ヘラヘラとした笑み。だが、笑みであるにも関わらずそこに感情の色は見えない。

119 :
少女を狙った集団は見事撃退され、残党はアルバートが掃討に向かったようだ。
毒矢を受けたナウシトエもティターニアが治療していて、今のところ火事も鎮火しつつあり、ジャンは一息ついて少女の様子を見る。

「嬢ちゃん、大丈夫か?怪我とかしてるか?」
『……はい』

それほど血は流れなかったとはいえ、目の前で起きたことに戸惑っているのか少女は小さく震えている。
絞りだすように返ってきた回答にジャンは頷くと、とりあえずは静かになった広場を眺めた。

>「ウノー、ツヴァイー、トロワーっと……んんー、落とした硬貨は無いようで良かったですねー。
> ……あ、ジャン様。奢っていただけるなら、リンゴのポーション漬けを所望しますー」

「お前変わったもの好きだなぁ……薬臭くて俺はあんまり食えねえんだよな、アレ」

あれは確か、擦り傷や切り傷の多い怪我人が食うものではなかっただろうか?とジャンは考えた直後、砲弾が近くの建物に着弾した。
その着弾を皮切りに、港にいつの間にか来ていた巨大な船から砲撃が断続的に行われはじめた。
さらには武装した海賊たちが街へとなだれ込んでくる。

>「野郎共、ここが一世一代の大舞台だ! 出来得る限り、派手に暴れ回れ!!」

「なるほどな、あの野郎が指揮官か……っておい!」

撃ち込まれる無数の砲弾の中、一発がこちらの方へ向かってきた。
吹っ飛ばされるとジャンが自覚した瞬間、ティターニアが瞬時に魔術を唱えて砲弾は爆散する。

>「この人数をまともに相手をしても埒があかぬ。つまるところ……あのお頭らしき者を縛り上げるしかないであろうな」

「そりゃ同感だ、賊ってのは大抵頭を失えばばらけちまう」

>「ただし……おそらくあやつは強いぞ。
>少女を連れて一旦引くという選択肢もあるが……騎士殿はこの事態を放ってはおけないであろう?
>あれ、騎士殿は?」

「それならあんたと嬢ちゃんはこの場で待っておいてくれ、俺に考えが……ってあれ?」

ティターニアに言われて気がついた。残党狩りに行ったアルバートがまだ帰ってこない。
あれだけ暴れておいて、さすがにチンピラや野盗程度に負けるはずがないとジャンは考えているが、やはり一抹の不安が残る。

「……アルバートが手間取るなんてな。とりあえず、俺はあの海賊野郎の方に行ってくる」

そう言ってジャンは海賊船の方に走り出し、海賊たちが占拠しつつある港へと向かった。

既に海賊たちが貨物や倉庫の荷物を荒らしている中、ジャンは一人海賊船の方へ向け思い切り叫ぶ。
「おい!てめえら誰に喧嘩売ってるのか分かってんのか!?
 帝国とドンパチやりあうのは自覚してるのかもしれねえがな、ユグドラシアの導師までこっちにいるんだぞ!!」
「連邦の連中まで敵に回すつもりか!」

ジャンが考えたのは、ティターニアが所属している魔術学園、ユグドラシアの名を最大限利用することだった。
あれだけの船とこの戦力、間違いなくどこかの国が支援している。現在帝国を妨害したがっている国はダーマとハイランド、この二つだ。
もしハイランドが支援しているのであれば、ユグドラシアの導師に怪我をさせ、関係を悪化するのは避けたいはず。

(――けどよ。もしダーマが支援しているのならよぉ……ただの恥さらしだな)

頼むからハイランドであってくれ。そう内心で冷や汗をかきつつ、船長へ向けて訴え続けた。

120 :
>「――失せろ。さもなくば斬り伏せる」
>「やはり、他にも潜んでいたようだな。数は四人……いや、五人か」

「きゃー! さすがアルバート様! イケてるぅ! 頑張って!」

窮地を助けられたナウシトエが歓声を上げ、アルバートにエールを送る。
気がつくとアルバートが次の敵を補足し、そちらを追いかけている。
次々に敵たちが絶命していくのが分かった。

一方で、ナウシトエはティターニアの解毒を受けていた。

「……ふぁっ!」
今までの解毒にはなかった、究極の回復魔法といった感覚を受ける。
毒は瞬く間にナウシトエの肉体から消えうせた。

「ありがと、ティターニア。あんた、医者にでもなれるわ。
はっきり言って下手な名医ってやつより上手い」

そう例を言っていると、途端に爆発音が聞こえた。

「火薬――?」

――否、それは砲弾が打ち込まれる音だった。軍船が近づいているに違いない。

コインがいつの間にやら脇を走り抜けていく。恐らくはアルバートの方向だろう。

一方で、ジャンはというと、ナウシトエがうずくまっている間に少女の面倒を見ていた。
なんという優しいハーフオークだろう。

>「野郎共、ここが一世一代の大舞台だ! 出来得る限り、派手に暴れ回れ!!」

既に砲撃をしたと思われる刺青の軍勢が港から侵入し、交戦をはじめている。勢力の名は「ハイドラ」どこかで聞いたことがあった。
指揮官と思われる人物も現れたようだ。

>「この人数をまともに相手をしても埒があかぬ。つまるところ……あのお頭らしき者を縛り上げるしかないであろうな」
>「そりゃ同感だ、賊ってのは大抵頭を失えばばらけちまう」

「同感だね」

ティターニアとジャンの話に同意し、共に戦う姿勢を見せるナウシトエ。
正直なところ、このムッツリエルフとお人好しオークはかなり仲間としては頼りになるし、何より単純だ。
こちら側の方が圧倒的に戦いやすいし、スタンドプレイもしやすいというもの。

>「おい!てめえら誰に喧嘩売ってるのか分かってんのか!?
 帝国とドンパチやりあうのは自覚してるのかもしれねえがな、ユグドラシアの導師までこっちにいるんだぞ!!」
>「連邦の連中まで敵に回すつもりか!」

ジャンが叫び、大音声は周囲のハイドラ兵たちを引きつけていた。

今だ、とプレートを付けると、隙を見てナウシトエは駆け出した。
彼女には難しい外交問題は分からない。ただ、戦況を有利にする方法はある。

軍船を目指す。ハイドラ軍は散開していたが、まずは弓や剣を持っている相手を次々と跳躍しながら蹴りやガントレットの一撃で倒す。
たまにゴキリ!、やグシャァ!といった、明らかに首の骨やら頭蓋骨やらが破壊される感覚があり、ハイドラ兵の悲鳴が聞こえるがナウシトエはとまらない。
既に大きな砲弾の射程からは死角に入っていた。

121 :
軍船の脇に備え付けられた小型の砲が一斉にナウシトエに向け砲火する。

「……ぐうっ!」

宙返りをして射線をかわすも、やはり体積の大きさは誤魔化せないようで、プレートが弾け飛び、
薄い肌着に包まれた乳房がぶるん、と揺れる。

「とおっ!」

一気に勢いを付けて軍船の中へと突入する。プレートを失い自由に形を変える乳房の抵抗のせいで着艦はギリギリだったが、
海に落ちることは避け、そのまま迎撃するハイドラ兵たちにナウシトエは回し蹴りを浴びせる。

弓やボウガンによる攻撃は倒れた兵の体を盾にしてやり過ごし、さらに奥へと進む。目指すは――砲台だ。

軍船の構造は両側に二門の大砲を擁し、中央の艦橋部分には動力源と思われる大きな虹色のオーブが輝いていた。
そして階段の下はハイドラ兵たちの住居、そして側面の小さな副砲群を下にいる兵が操作しているのだろう。
動力源を破壊すれば恐らくこの軍船は沈黙するのだろうが、かなり大きく耐久力がありそうな上に、高い位置にあり守る兵も多い。

そこでナウシトエは砲台を狙った。重装備の兵のハルバードの攻撃をかわすと、そのままハルバードに飛び乗り、兜を潰した上で、それを土台に跳躍し、
砲台に座る砲撃手の頭上に飛び乗り、股で砲撃手の頭を挟む。

「ほう……どれどれ、見せてみな……あ、やっぱりこれか」

屈んでその構造を見る。砲撃手はナウシトエの乳房で視界が塞がり、やがて息も塞がる。
ナウシトエの予想通り、動力は魔力ではあるものの、それは素人でも簡単に砲撃ができてしまう構造で、
壊すのには少し惜しいシロモノだ。
ナウシトエはそのまま尻に力を込めると、飛び跳ねて回転し、砲撃手の頭を尻で潰した。
グェエ……という声とともに砲撃手が動かなくなる。

「さてと……」

敵がこちらに向かってきている間に、ナウシトエはできるだけ砲撃を行なうことにした。

まずはそこと……
一発目が着弾。屋根の上で息を潜めているハイドラ兵4、5人が後ろから砲撃を受け、肉体を四散させる。

二発目が着弾。カルディアの自警団と対峙するハイドラ兵の後方の弓兵など5名ほどが砲撃を受け、ジャムのように弾け跳ぶ。

三発目が着弾。路地裏から街の方へ長蛇の列を作っているハイドラ兵たち十数人の直情で砲弾が炸裂し、あっという間に死体の山ができる。

そこまでだった。矢がナウシトエの肩口に刺さると、敵はナウシトエを包囲し、砲撃どころではなくなった。
「うぅー…… 邪魔してくれるじゃないの」

痺れが走るが、以前も受けた毒なので前ほどの痛みはない。それでも不利を悟りながら、
ナウシトエは砲台の前でじりじりと腕を押さえながらあとずさっていた。

122 :
アルバート様まだーーー?

123 :
>「はっはー。どうも、先程ぶりでございますねー、アルバート様」

>「あははー。その様子ですとー、先ほどの音を聞いて大体の事は察していらっしゃるのかもしれませんがー。
 先程、アルバート様を追いかける前に、港に海賊船の様な物が近づいているのを見ましてー。
 要するに、あの轟音はその海賊船の砲撃だと思われますー」

港の方から爆音が轟き始めた直後、アルバートが追っていた襲撃者の首元から鮮血の花が咲き、その場に倒れ伏す。
そして、まるで何事もなかったかのように、ヘラヘラと胡散臭い笑みを携えながら、コイン=ダートが姿を現した。

「海賊船だと? あれが砲撃音だということは分かっていたが……このカルディアの港を白昼堂々と襲うなんて、気が触れているとしか思えないな」

帝国最大の港湾都市である自由都市カルディア≠ヘ、その自治権を守るため、当然ながら強大な軍事力を有している。
常駐軍は勿論のこと、街の有志たちによって結成された自警団や、財力に物を言わせて雇われた傭兵。
そんな連中が闊歩しているこの街を、海賊如きが襲撃したところで全滅するのは目に見えているが……それでも、そうせざるを得ないほどの目的があるとでもいうのだろうか。

>「予想ですがー。この刺青の集団は、何らかの目的で襲撃をかけようとした街に、帝国最高戦力の黒騎士様が居るという
 情報を入手しー、黒騎士様に目的を邪魔をさせない為、現場から遠くの場所へ、まんまと誘導したという訳じゃないですねー。
 敵ながら随分と大胆で鼻が利くと思いますー……そこで、提案なのですがー」

>「アルバート様。暫く港には戻らずに、ここで時間を潰しませんかー?」

アルバートが思案を巡らせていると、今度はコインがとんでもない提案をしてきた。
コインが推測するところ、奴らが今回の一件を起こした裏には、ただの海賊行為という以上の重大な理由が隠されているとのことらしい。
確かにそれはアルバートも考えていたし、このまま泳がせておけば、その目的も判明するかもしれないという案は一理ある。

だが――

「ふざけるな。仮に貴様の言う通り、これが指輪≠フ情報に繋がる事件だったとしても、それ以前に――俺は帝国騎士だ」

あくまでもアルバートは帝国に仕える騎士であり、帝国の民を護るのが騎士の使命だ。
コインの提案を一蹴したアルバートは、直ぐ様踵を返し、港へ向かって駆け出そうとする。
しかし、そんな彼の行く道を遮るかのように、頭上から二つの影が落ちてきた。

124 :
「おーっと、そういうわけにはいかないぜェェ――――――ッ!!」

そう雄叫びを上げながら飛び降りて来た二人の男は、対象的な姿形をしていた。
片やコインと変わらないほどに小柄で、片やジャンと同じくらいの巨漢。
あまりにも正反対な体格だけれど、二人には一つだけ共通している特徴があった。
それは、両者共に奇怪な覆面を被り、そしてその頭部分からは、獣のような耳が突き出ているということだ。

「蒼き大地を駆け抜ける、大海原の魔獣――」

「ハイドラが誇りし、最強のタッグチーム――ウミネコブラザーズ≠スぁ、俺たちのことよォォ――――ッ!!」

青い覆面のデカブツが名乗り口上を読み上げ、赤い覆面のチビが、やたらとテンションの高い様子でその後に続く。
なるほど。よくよく観察みれば、覆面の頬には髭みたいな模様が描かれていて、頭から生えた耳も猫のそれに見える。
言われてみれば、確かに猫らしく見えなくもないが――だが、しかし。

そもそもウミネコは猫じゃない=B
アルバートはそうツッコミを入れようか悩み、一秒後にその考えを棄却する。
クールモード全開で、何の感情もないままにレーヴァテインを振り抜いて、チビの方を斬り捨てようと試みた。

「なっ……!?」

しかしながら、その剣閃は敵を捉えることはなく、するりとそれを掻い潜られて、アルバートは驚きに目を見開く。
そして、チビは右手に持った刺剣と、左で逆手に握った短剣を巧みに使い、見事な双剣術を披露する。
アルバートは油断で一瞬遅れを取ったものの、何とかその剣戟を避け切ったが、そこにデカブツの方が追い打ちを掛けた。
そいつはやたらとデカいヘッドの付いたウォーハンマーを振り被り、力任せに打ち下ろす。
アルバートは既に大きくバックステップを踏んでいたので、それを食らうことはなかったけれど、そのまま地面を叩いた大槌は、恐るべき威力で地割れを引き起こした。

「チッ、こいつら……」

アルバートは剣を構え直しながら、あらためて敵の姿を見据える。
ふざけた身なりに騙されていたが、こいつらは――強い。
個々の戦闘力も然ることながら、二人の連携も非常に巧みだ。
一刻も早く、港へ戻らなければならないというのに、予想外な強敵の出現で、アルバートは思わず舌打ちを鳴らした。

125 :
船首から港の様子を睥睨しながら、されどエドガー・オールストンは、自らの心を蝕み続けていた。
逃げ惑う民。次々と殺し、また殺されていくハイドラの仲間たち。それを率いているのは、他ならぬ自分自身だ。
こんなことを望んでいるわけじゃない。しかし、それでもエドガーには、こうしなければならない理由があった。

あの少女≠ノは、絶望を見せる必要がある。
海原に住まう幻種セイレーンの中でも、数百年に一度だけ生まれる特別な個体。
彼女が奏でる滅びの歌≠アそが、帝国打倒の切り札となる。
そして、その歌を引き出すトリガーとなるために、エドガーは今回の襲撃事件を計画したのだ。

>「ただし……おそらくあやつは強いぞ。
少女を連れて一旦引くという選択肢もあるが……騎士殿はこの事態を放ってはおけないであろう?
あれ、騎士殿は?」

>「おい!てめえら誰に喧嘩売ってるのか分かってんのか!?
 帝国とドンパチやりあうのは自覚してるのかもしれねえがな、ユグドラシアの導師までこっちにいるんだぞ!!」

>「連邦の連中まで敵に回すつもりか!」

そんな戦場の中で、オーク族と思わしき男が怒鳴り声を上げているのが耳に入った。
そちらに目を向けてみると、その隣には、眼鏡を掛けたエルフの姿もあった。

「ユグドラシアの導師……? なるほどな、確かにあの顔は見覚えがあるぜ」

エドガーは記憶の中からエルフの長の名を辿り、不敵な笑みを浮かべる。
だがそんなやり取りをしている最中、何やら船の方が騒がしくなっていることに気付く。

>「うぅー…… 邪魔してくれるじゃないの」

どうやら、格闘家らしき女が単身で乗り込んできて、好き勝手暴れてくれたらしい。
こちらの大砲まで奪っての大立ち回りだったが、既に毒矢も受けてしまったようだし、あの女はここまでだろう。

「おい、その乳のでけえクソ女はてめえらで片付けとけ! 俺は他に用ができた」

エドガーはナウシトエを取り囲んで始末するよう命じて、そのまま船首から跳び、ティターニアとジャンの前に降り立つ。

「……あんた、ティターニア・グリム・ドリームフォレストだな?
 完全に計画外だったが、こりゃいい手土産ができそうだぜ。悪いがちょっとばかし、痛い目を見て貰おうか」

エドガーは背負ったハルバードを抜きつつ、物騒なことを言ってのける。
先程ジャンはユグドラシアの導師という名を利用して、ハイドラを退かせるよう威嚇したが、結果からすればそれは完全に逆効果となった。
むしろ、エドガーから見れば、これほど人質として価値のある存在もいない。

「至高なる主神ファーンよ。悪しきを滅する光よ。我が刃に宿りて、万物を斬り裂く力とならん――」

とうの昔に信仰など捨て去った神の名を唱え、エドガーは自らのハルバードに光属性の付与(エンチャント)を施す。
これは教会直属の神殿騎士たちが使う神聖魔術だ。尤も、協会では魔術ではなく奇跡≠ネどと呼ばれていたりするが、そんなことはどうでもいい。
エドガーにとって大事なのは、これが強い力であるということだ。信ずるに値しなくなった神といえど、利用できるならばとことん使ってやるまでだ。

「さぁ、始めるとしようや!!」

光を纏うハルバードの穂先を向け、エドガーは爆走した。
前脚の膝に掛かる力を抜きつつ、同時に後ろ足を踏み出す。
膝抜きと呼ばれる荷重移動を用いた踏み込みで、まずは前衛のジャンを目掛けて鋭い突きを放つ。
神聖魔術だけではない。純粋な戦士としても、エドガーは一級の能力を持っていた。

126 :
>「ありがと、ティターニア。あんた、医者にでもなれるわ。
はっきり言って下手な名医ってやつより上手い」

「高位の魔術師ともなれば大抵治癒の術も一通り習得しておる。
元素魔術は攻撃、神聖魔術は回復――というのは飽くまでも大雑把に見たときの一般的なイメージだ。
初級のうちはそれで全く間違っていないのだが。
我に言わせるとむしろ神聖魔術の方が恐ろしいぐらいだ……あれの本質は生と死を統べる業だからな」

なんか後で神聖魔術使う敵が出てくるフラグを思いっきり立てた気がする。
ちなみに神官が使う神聖魔術と区別するときは、魔術師の魔術は元素魔術と呼ばれる。

>「おい!てめえら誰に喧嘩売ってるのか分かってんのか!?
帝国とドンパチやりあうのは自覚してるのかもしれねえがな、ユグドラシアの導師までこっちにいるんだぞ!!」
>「連邦の連中まで敵に回すつもりか!」

どうやらジャンは海賊がハイランドの支援を受けていると見当を付けたようだった。
これでも一応極秘任務で敵国に潜入中の身なのだが――この賭けが吉と出るか凶と出るか。
そうしている間に一方のナウシトエは、例によって猪突猛進で突っ込んでいく。

「これ、待たんか!」

制止しようとしたが、少女の異変に気づき、そちらに気を取られることになった。
何やら頭を抱えてうめいている。

「う……あ……」

「――どうした!? ……すまぬ、暫し眠ってもらうぞ!」

少女の身から膨大な魔力が溢れ出ようとしているのを感じた。
直感的にこれはマズイと感じたティターニアは、とっさにピンポイントでスリープクラウドをかけて少女を眠らせる。
ひとまず異変はおさまったが……ある確信に近い懸念が浮かぶ。
この少女はセイレーンの遠い子孫などではなくセイレーンそのものなのではないだろうか。
何故人間の姿を取って陸にあがっているのか、自分の素性を忘れているのか、あるいは隠しているのかは定かではないが――

「またしてもご協力感謝します。その子をこちらへ――」

不意に先ほどの魔術衛兵が近くに来ていて、少女を引き渡すように促す。

「そなたら、こやつを見張っておったであろう。何か知っておるのなら教えてくれ」

「もはや隠し立てしても仕方ありませんね。
その子……いえ、そのセイレーンは滅びの歌という特殊な歌を持つ故にハイドラに狙われているのです」

「滅びの歌……だと!?」

この魔術衛兵の中では帝国を脅かすにあたっての強力な兵器、程度の認識かもしれないが(それでも充分脅威だが)
ティターニアの中ではそんなものではなかった。
遥か古、栄華を極めた海上都市ステラマリスが海の底に沈んだ原因は、古竜の襲撃に絶望した一人の人魚が滅びの歌を発動させてしまったこと――

127 :
>「おい、その乳のでけえクソ女はてめえらで片付けとけ! 俺は他に用ができた」
>「……あんた、ティターニア・グリム・ドリームフォレストだな?
完全に計画外だったが、こりゃいい手土産ができそうだぜ。悪いがちょっとばかし、痛い目を見て貰おうか」

一方、状況はなんだかよく分からないうちに最悪の事態になっていた。
ナウシトエは例によって例のごとく猪突猛進の結果ピンチに陥り
海賊のお頭はユグドラシアの導師という情報だけから何故かこちらの正体を見抜き、やる気満々になってしまった。
おまけにアルバートは帰って来ない。ということは当然アルバートのコバンザメであるコインも出てこない。
ティターニアは思わず頭を抱えた。
少女を守りながら戦う事は可能か――いや、そんなレベルの相手ではない。
それに先程少女を助けたジャンやナウシトエや自分が万が一目の前でやられるようなことがあっては
今度こそ滅びの歌が発動してしまうかもしれない。

「……分かった。その子を連れて出来るだけここから離れるのだ。
念のため言っておくが……くれぐれも滅多なことは考えぬように。街が吹っ飛ぶぞ。
なに、そやつが起きる前に片をつけてやろう!」

奇しくも、コインに言われたとおり、予期せぬ形で少女を衛兵に引き渡す事となった。
“滅多な事”とは、レジスタンス側に渡って兵器にされるぐらいなら一思いに――という事である。
不幸中の幸いと言うべきか、今のところ暫しお頭の興味は少女からティターニアへと移っている。
衛兵が少女を連れてこの場から離脱することは可能だろう。

「我が真名を見抜いた上で喧嘩を売ろうとはよい度胸をしておる。その勇気は誉めてやろうぞ!
しかしお主は勘違いをしておるな。滅びの歌は便利な革命の道具などというレベルの代物ではない。
都市一つは100年草木も生えぬ焼野原になるであろう……悪いことは言わぬ、やめておけ!」

もちろん相手が聞く耳持つなどとは思っておらず、少女を逃がすために自分に興味を引き付けるための口上だ。

>「至高なる主神ファーンよ。悪しきを滅する光よ。我が刃に宿りて、万物を斬り裂く力とならん――」

――えっ、神聖魔術って神官が使うものちゃうの!? なして海賊が使うねん!
予期せぬ神聖魔術が飛び出し内心大混乱しつつも、こちらもエンチャントをかける。

「――フル・ポテンシャル」

まずは肉体全般ドーピング魔法を自分含め全員にかける。
なんとかナウシトエを救出にいきたいところだが、直接助けにいく余裕はない。
一つだけ幸いなのは先ほど解毒魔術をかけた直後で、まだその効果の余韻が残っていると思われることだろうか。
しかしもはやお約束のごとく、ナウシトエを取り囲んだ男たちは盛りのついた犬のような雰囲気になっている。
もはや彼女が男という男(ただしアルバートとジャン除く)を惑わせる魔性を持っていることは疑うべくもない。このままでは色んな意味で危険だ。
スリープクラウドで無難に微睡ませてみるか? いや、それよりも……

128 :
「もはやその魔性は武器にするしかあるまい――チャーム・クラウド」

海賊たち目がけて炸裂させたのは、眠りではなく魅了の魔術。
これは術者に惚れさせる使い方をするのが通常だが、今は元からナウシトエにロックオンしているため、惚れる相手は必然的にナウシトエとなる。
そこらの安物の媚薬などとは違い精神に直接作用するものなので、攻撃的な肉欲はむしろ抑制される。
そこそこ効けば敵対行動はとらなくなり、ガンギマリすれば下僕のように意のままに動かすことも可能だ。

>「さぁ、始めるとしようや!!」

あとはナウシトエの手腕(何の手腕だ)を信じて、エドガーとの戦闘に入る。

「――ダークウェポン」

まずはエドガーのハルバードを迎え撃つジャンの斧に、闇属性の付与魔術。

「――シェイド」

闇が形を成したような漆黒の球体が無数に生成される。
この球体は術者の自由に操ることができ、ぶつけると相手の精神力を削るという異色の魔術だ。
革命に燃える光の使徒には、肉体的ダメージよりもこちらの方が効果的であろうと判断した。
今の相手にはこれ単体では児戯にも等しいものかもしれないが、前衛の補助として使えば妨害程度の効果はあるだろう。
そしてドーピングした動体視力でもって、致命的な攻撃が入りそうになった時はプロテクションで防ぐ。
――完璧な作戦や! ……ちょい待ち、ウチが支援と妨害にかかりっきりになったら攻撃する人おらんやん、誰が攻撃すんのコレ。
あのクソ真面目騎士がこの期に及んで出てこないということはもう――
哀れ、アルバートはティターニアの脳内で勝手に故人にされてしまった。
そういえば、ナウシトエはあの状況をうまく切り抜けただろうか。今やおっぱい娘のおっぱいパワーが頼みの綱であった。

129 :
>「ふざけるな。仮に貴様の言う通り、これが指輪≠フ情報に繋がる事件だったとしても、それ以前に――俺は帝国騎士だ」


罪のない誰かを犠牲にし、その屍を道として踏みしめ進む。

コインの提示した悪辣で醜悪な……けれども、確かに効率のいいその提案を、アルバートはにべもなく切って捨てて見せた。
常人であれば僅かなり惑うであろうその選択を一顧だにしなかったのは、アルバートという男が正しい意味で『騎士』であるからであろう。

己が国に忠義を抱き
無辜の民をその身を挺して護る。

賄賂と名誉欲に溺れる名ばかりの『騎士』も居るというのに、この黒騎士の志のなんと立派である事か。
その気高さは、或いは夜空の星の様ですらあった。

「…………そうですかー。騎士さまに失礼な提案をしてしまい申し訳ございませんでしたー」

……だが、その美しく気高い光は、コイン=ダートという少女の瞳には映らない。
泥道で頭を踏みつけられる様な生き方をする少女には、
守られるべき帝国の民と言う器から零れ落ちた少女には、
卑屈な笑みを浮かべ、便利な道具となる事で、かろうじで息をする事を許される立場のコイン=ダートには。

彼女にとっては、アルバートの語った気高き言葉は、憎々しくすらあった。
故に彼女は、拳を握りしめ、常の笑みを浮かべたまま言葉を吐く

「ですがー……何も捨てずに何かを得ようとして、大切なものを取りこぼしてしまう。
 そんな事もあるかもしれませんので、気を付けてくださいねー?」

忠告の様に聞こえるその言葉に込められている感情は、僻み、妬み……逆恨み。
声色も表情も何時のものであるが、外に出る事のない部分には、確かに呪詛の様な感情が込められていた。

そうして、アルバートから一歩距離を放し、港へ戻る道を開けるコイン。
いやに素直であるが、それは単純に彼女にアルバートの行動を引き留める権限が無いからだ。
それに……今後、指輪を巡り、ベヒモスやあの白魔卿クラスの敵と対峙する事になった場合、
アルバートの力は間違いなく必要となるので、明確に敵対する事を避けたいという思惑もある。

そのまま、アルバートの後を追い港へ歩き出し

130 :
>「おーっと、そういうわけにはいかないぜェェ――――――ッ!!」

だが、そんなコイン達の前に立ち塞がる人影が二つ。

>「蒼き大地を駆け抜ける、大海原の魔獣――」
>「ハイドラが誇りし、最強のタッグチーム――ウミネコブラザーズ≠スぁ、俺たちのことよォォ――――ッ!!」

突如として建物の上から飛び降りてきたのは、赤い覆面と青い覆面、凹凸という言葉を見事に体現した二人組。
名乗りの通り、彼らはそれぞれ頭に猫耳の様なものを生やし、覆面に猫髭の様な模様をしていた。


もう一度言う。ウミネコブラザーズ≠ニ言う名乗りの通り、彼らは猫耳の様なもの生やし、覆面に猫髭の様な模様を描いていた。



「――――えっ。その恰好でウミネコとかバカなんですか?」


その二人の姿を見て口上を聞いた瞬間、コインは真顔で反射的にそんな台詞を口に出してしまっていた。
そして直後に、ハッとした様に口元を手で押さえる。

「あ。コホン!あー……えー……あの方々は、少々独特な感性をお持ちのようですねー。はいー」

何とか言いつくろうが、浮かべるうさんくさい笑みがどうにもぎこちない。
どうやら、それ程に彼の二人組の自己紹介は衝撃的なものであった様である。
だが、所詮は有象無象(イロモノ)。
既に、コインの様に動揺を見せていないアルバートが迎撃の一撃を放っており、決着は即座に付く物と思われた……が。

>「なっ……!?」

アルバートの放った魔剣の一撃。
渾身の一撃ではないものの、並みの剣士では反応する間もなく剣ごと両断されるであろうその鋭く迅い一撃を、
赤い覆面の小男は見事に避けて見せた。どころか、小男は驚愕するアルバートの油断を突き、
その巧みな双剣術によって反撃すらして行って見せたのである。
そして更に、剣戟を回避したアルバートの動きを予測した上で放たれた、青の覆面の巨漢が手に持つ大槌の一撃。
アルバートの跳躍力が予想以上であった為に回避された一撃ではあったが、その威力は大地を揺らし地割れを引き起こす程のもの。

彼らはそのままアルバートに追撃を仕掛けようとし――――だが、その直前にピタリとその足を止めた。
そして、巨漢の男がそのまま小男に背を預ける形で背後へと振り返り、手に握る大槌を轟音と共に右に薙いだ。

その瞬間に響いたのは、無数の金属音。

「あ、ははー。死角を突いたつもりだったんですがー、16本のナイフを一撃で薙ぎ払うとか予想外も甚だしいですねー」

見れば、周囲の壁にはコインが投擲し……大槌によって薙ぎ払われたナイフが複数刺さっていた。
そう。巨漢の男は、コインが暗器として投げたナイフを察知し、その全てを迎撃して見せたのである。
それは即ち、巨漢の男が鈍重では無く、ある程度の速力を有する存在であるという事を示していた。
コインは念の為とでもいう様に更に数本、銀の軌跡を残す速度でナイフを投擲してみるも、
今度は位置を反転した小男の双剣により受け流され、再び壁のオブジェと化してしまう。

131 :
「……左提右挈。我ら二者合わされば、死角等無し」
「ヒ―ハ――――ッ!!俺らにンな姑息な攻撃は効かねぇぜ!?ネコの動体視力、舐めんじゃねぇ――――ッッ!!」

高い個々の技量と、その技量を昇華させる高度な連携術。
それらは決して我流の喧嘩殺法などでは無く、体系化された戦闘術を相当に高いレベルで習熟したものなのであろう。
この二人、見た目とは裏腹に……

(相当に強いですねー……このままアルバートサマの足止めをしてくれれば、海賊に好き勝手にさせる時間を稼げそうですがー
 下手を打てば、好き勝手にやらせすぎて、動きそのもの見失って本末転倒になりそうですー……それならー)

二人から十分に間合いを取ったコインは、ナイフでの牽制を行いつつアルバートへと駆け寄ると、
彼だけに聞こえる程の小さな声を出す。

「えー……アルバート様、大変申し訳ございませんがー。私に、時間を作ってくださいませんかー?
 5秒だけ相手の二人を引きはがしてくださればー、あの小さい方は無力化出来そうなのですがー」

コインがチラリと視線を向けた先に在るのは、男達に弾かれ、周囲の壁に刺さった無数の投げナイフ。
そして……その柄に結ばれた、細く透明な『何か』。
既に仕込みは出来ている。後はアルバートの返答次第であるが……

132 :
喉が痛くなるぐらいしばらく叫び続け、合間に近づいてくる海賊たちを適当に蹴散らしていると
どうやら海賊の頭がこちらに興味を示したようだ。部下にいくつか指示を出し、船首からこちらへと飛んでくる。

>「……あんた、ティターニア・グリム・ドリームフォレストだな?
 完全に計画外だったが、こりゃいい手土産ができそうだぜ。悪いがちょっとばかし、痛い目を見て貰おうか」

どうやらよほど自信があるのか、ただ一人でこちらに向かってきたようだ。
導師とだけ聞いてティターニアという名に一発で気づく辺り、ユグドラシアの人間というのはあまり外に出ないのかもしれない。
それともティターニアがよほど変人で有名なのか――ジャンとしてはどちらでもよかったが。

「嬢ちゃんは……衛兵の連中が連れて行ったな。なら思う存分戦えるってわけだ」

(アルバートもコインもどっか行っちまったし、ナウシトエは勝手に船に乗り込んじまったが……)
(ベテランの海賊一人ぐれえなら、ティターニアと俺で十分だ!)

>「我が真名を見抜いた上で喧嘩を売ろうとはよい度胸をしておる。その勇気は誉めてやろうぞ!
しかしお主は勘違いをしておるな。滅びの歌は便利な革命の道具などというレベルの代物ではない。
都市一つは100年草木も生えぬ焼野原になるであろう……悪いことは言わぬ、やめておけ!」

ティターニアの脅しめいた警告に、ジャンも同調してさらに煽っていく。
こちらも相手が聞くとは思っていないが、興味を誘えれば御の字だ。

「そうだ!訳の分からん魔術を変に使って滅んだ逸話なんて爺さん婆さんから散々聞かされただろう!
 革命だの抵抗なんてな、他人巻き込んでまでやるもんじゃねえよ!」

>「至高なる主神ファーンよ。悪しきを滅する光よ。我が刃に宿りて、万物を斬り裂く力とならん――」

ジャンにとっては聞き慣れない、しかしはっきりと聞こえる詠唱。
普通は神官や神殿騎士が使うような神聖魔術の口上に思わずジャンは驚いた。
昔、依頼を共にこなした神殿騎士が使っていたそれは、『確かな信仰とたゆまぬ鍛錬によってなされる奇跡』と聞いていたからだ。

「おいおいちょっと待てよ!なんだって海賊がそんなもん使ってんだ!
 信仰と鍛錬はどこにあんだよお前のどこに!」

ティターニアも驚いていたようだが、やるべきことはきっちりとやってくれるようだ。
ベヒーモス戦のときと同じように、肉体強化と武器へのエンチャントをしっかりと付与してくれた。
どす黒い色を放つ手斧と大鉈を構え、海賊の頭をジャンはきっちりと見据えた。

>「さぁ、始めるとしようや!!」

直後に放たれたあまりにも鋭い突きを、まずは右手の手斧でハルバードを受けて逸らす。
ハルバード特有の斬撃用の刃に手斧をひっかけ、強引に向きを変えたのだ。続けて左手の大鉈で頭をかち割らんとばかりに思い切り振り下ろすが、これはあっさりと横に避けられる。
ジャンとしてはティターニアが生成したあの球体に上手くぶつけたいところだが、この数秒の手合わせでよく分かった。

(こいつは……強いな。咆哮に理性を飲まれない、本当に強いって人だ。
吼えてもたぶん、あっさりといなされて終わっちまうだろう。よく考えて戦わねえと……)

いざという時の強みである、ウォークライによる暴走が効かない相手。
距離を取り、ジャンは海賊の頭を睨みつけて次の一手を待った。

133 :
>「おい、その乳のでけえクソ女はてめえらで片付けとけ! 俺は他に用ができた」

ハイドラの頭であるエドガーが、包囲されるナウシトエを置いて、そのまま船から下りてきた。
どうやらティターニアやジャンのいる方向に向かうようである。

足元に仲間の死体が転がっている以上、ハイドラの連中も余裕はないようだった。
剣や弓を構え、ジリジリとナウシトエに迫る。

――そのときだった。

>「もはやその魔性は武器にするしかあるまい――チャーム・クラウド」

ティターニアが何かを詠唱したかと思うと、こちら側に異変が起きた。

揃いも揃ってこちらを見ているが、どうにも様子がおかしい。
(これは……魅了の魔法? それにしてもどうして、ティターニアの方に向かない!?
もしかして、ティターニアよりもアタシの方が魅力的ってことか)

そんなプラス思考の元に、ナウシトエは痛む肩口の矢を抜くと、早速オーブのある艦橋側から放たれる
矢に警戒し、周囲に対して声を上げた。

「アタシを守って!」

すると、一斉に二十人近くはいるハイドラ兵たちがこちらに向かいフォーメーションを組み、ナウシトエを四方から守る。
二人ほど、矢の攻撃を受けて倒れる兵が出た。見方を射倒してうろたえる兵たち。
こうしてはいられない。こちらも反撃だ。

「じゃあ、あの上にいる奴ら、殺っちゃってよ」

射撃戦が始まる。
数ではこちらが有利だが、明らかに高い位置に陣取る「魅了」されていない兵の方が有利だった。
しかしながら、向こうは「仲間」を簡単に攻撃できるはずもなく、
あっという間に二、三人が射落とされると、「ヒィィ!」と逃亡をはじめた。

134 :
その間にナウシトエは、再び大砲に乗り、まず一発目をエドガーの背中目掛けて放つ。
ジャンとティターニアに意識を殺がれ、不意を付かれたエドガーは辛うじて直撃を避けるも転倒、
爆風でプレートアーマーの一部が砕けた。しかし、それでも獲物を離さず、肉体の方はほぼ無傷というのは流石である。
仕留められずとも、次のティターニアの攻撃に期待する他あるまい。

二発目はまさにコインが相対している二人組の男に向けて発射。
緻密な動きをするコインにとって邪魔な攻撃になる可能性もあるが、知ったことではない。
乱戦を意識してか二人の足元を妨害するように放たれたそれは炸裂するも、直撃させることはできず、
強烈な衝撃によって小柄な男は思わずジャンプ! それによって二人の連携に乱れが生じた。

「ハハ、楽しそうにやってら。そのまま制圧しちゃいなよ!終わったら下も頼むね」

こうなるともう片方の大砲も取っておきたい。
乳房を揺らしながら艦橋を抜け、反対側へと向かうと、既に動けるハイドラ兵は砲撃手含めて2名だけだった。

ナウシトエは素早く跳躍すると、アーマーを着た重戦士に飛び乗り、そのまま砲撃手目掛けて
ガントレットからクォレルを放った。それは首に的中し、ガクガクと痙攣して動かなくなった。
剣を振り回しながらもがく鎧兵の上でもう一度跳躍すると、頭の上に飛び降りて倒し、
剣を奪うとそのまま鎧の隙間に突き刺し、絶命させた。

「よーし、とりあえず船の上は片付いたかな?」

船の上の「魅了されていない」ハイドラ兵は全滅し、船上には血糊と倒れたハイドラ兵たちが残った。
殆どは絶命しているものと思われる。
生き残りたちが焦点の定まらない眼で、船室内部を駆逐しに向かっているところだ。

ナウシトエはもう片方の砲台に座る死体を「どけ」とばかりに尻で弾き飛ばし、
再び港の方に照準を合わせ構えた。

135 :
【港から倉庫街の中で戦ってる敵を撃つというのは、流石にちょっと無理があるので、その部分だけカットしてもいいですか?】

136 :
>>135
殆ど影響は無かった、的なことにしてください

137 :
【いや、なんと言えばいいかな……
アルバートとコインは既に港側のメンバーから視認できないような場所にいるんで、そこに大砲撃つこと自体がおかしいんですよね。
ナウシトエさんは他人のレスをよく読んでいないと思われる記述がチラホラあるんで、今後は少し気を付けてください】

138 :
【大砲が高い位置にあったらアングルによっては見える可能性はワンチャンあるんとちゃうの
ただ倉庫組が狭い路地だとすると
ミサイルだったらともかく大砲だと手前の建物に激突するのが関の山かな?
そうなると倉庫組としては描写を入れるか入れないかだけの違いになってくるのでここはカットでもいいと思う】

139 :
【こちらでも船は大きく、大砲は高い位置にあって港町を一望できる、的な捉え方ですので、
ナウシトエは何も考えずに敵キャラが見えたあたりにポンポン撃っているだけで特に精密な攻撃をしているつもりはないです。
と、いうことなので適当に流してもらっても結構です。
アルバートさんもレスをよく読んでいないどころか意向を無視して飛ばすところがあるので、以降は注意してくだれいね。】

140 :
>>137【こちらでも船は大きく、大砲は高い位置にあって港町を一望できる、的な捉え方ですので、
ナウシトエは何も考えずに敵キャラが見えたあたりにポンポン撃っているだけで特に精密な攻撃をしているつもりはないです。
と、いうことなので適当に流してもらっても結構です。
アルバートさんもレスをよく読んでいないどころか意向を無視して飛ばすところがあるので、以降は注意してくださいね。】

141 :
>エルフの女から莫大な魔力が流出したかと思うと、あたりは水に包まれた。
ベヒーモスはギェェエ……と咆哮するも、その声は水の泡沫へとなって散っていった。
炎のような鬣は萎れ、すっかり動きを鈍らせえいる。
ナウシトエが乳房を抱えるようにして隠した片手を下ろすと、双丘はまるで水中であるかのようにフワリと浮いた。
刃物を持たないナウシトエにとっては無力だが、こちらには魔法や刃物がある。こちらが有利になった。

←ブルーアースは周囲を極寒状態にする魔術だと明記されているのに、意味不明な描写。


>魔剣による三度に渡る重い一撃一撃は、ベヒーモスを追い詰め、ついに三度目の攻撃で、
――ベヒーモスの右腕を肩ごと斬り落とした。

←アルバートが斬り落としたのは、肩ではなくて肘。


>ティターニアはまずは氷の騎士ジュリアンに対抗するために、コインとジャンに炎のエンチャントをかける。

←ジュリアンは魔術師だって言ってんだろがぃ!



【何か他にも色々あったような気がしますが忘れました。
ナウシトエさんが他人の文をあまり読んでいないのは、結構前から気になっていて、ずっと指摘するタイミングを窺ってたんですよね。
まぁ、今までのは別に些細なことだったのですが、今回は折角コインさんがネタを振ってくれたアルバートとの連携を、横合いからブチ壊されたというのもあって、
こちらとしてはかなりイラッとしていたのですけれど……その様子を見る限り、全く私の言葉は伝わっていないようで残念です。

正直言って、私はナウシトエさんに対してだけはあまり良い印象を持っていなかったのですが、今回の件ではっきりと嫌悪の感情に変わりました。
これが仕事ならば我慢するところですけれど、ぶっちゃけ嫌いな相手と無理して続けるような遊びでもないので、私はここでリタイアさせて頂きます。

他の皆様には大変申し訳なく思っております。
今後もスレを継続する意志があるのならば、私の役割はティターニアさん辺りが引き継いで頑張ってください】

142 :
マジなん?
お前が消えたら終わりやぞアルバート

143 :
ベヒーモスの細かい部位までいったら完全に蒸し返しやん
ジュリアンは魔術師は完全に因縁つけ

てかこうなるともはやアルバートが悪いで
空気読めてないの完全にお前さんやん

144 :
ジャン「子供にあんまり血を見せないようにする」
ナウシトエ「はい他のキャラが無力化したキャラも含めて一人以外グロテスクに皆殺し」

こういう事やる協調性のない奴を擁護するとか、お前は何シトエだよ

145 :
一人ぐらいそういうキャラいるのも
TRPGの味だと思うけどね

146 :
>>141 アルバート ◆Z2xPTAHUDYさん
>折角コインさんがネタを振ってくれたアルバートとの連携を、横合いからブチ壊されたというのもあって

 →いやいや、それだけでブチ壊しになるということが、どうして言い切れるのか? 何とでもやり様がありますが?

【んー、では私はそれに敢えて待ったをかけたいと思います。
元々は私はこのスレに「盛り立て用支援キャラ」として入った経緯もあるので、むしろ私がリタイアします。

正直アルバートさんには良い印象を持っていませんし、敵意をむき出しにされて益々、そりが合わないと思いました。
あなたは神経質過ぎる部分があります。まずは思いどおりにならないと癇癪を起こす性格を直してください。

しかし是非ともその優れた場面展開力を生かして、このスレを盛り上げていただければと期待もしています。

私に対する擁護もあるようですが、支援キャラは支援キャラとしての使命がありますので、これ以上の擁護は結構です。
スレ崩壊の一端を担うことだけは避けるのが筋と考えます。

と、いう訳で私は次のレスで最後とさせていただきます。 】

147 :
虹色に光る魔力を動力源とする大砲の操縦席からカルディアの街を見下ろすナウシトエ。

ドン、ドン――と次々発射される砲弾は、やや弓なりの放物線を描きながら、あちこちに展開するハイドラ兵の背中を襲った。

「フネがやられたー! あの女だ! 取り返せ!!」

三、四発も撃ち込んだところで、ついに焦ったハイドラ兵たちが船へと引き返し、奪還を図った。
その数は30人以上はいると思われる。

「そろそろ中も片付いたかな?」

ニヤニヤとしながらナウシトエは、ついに艦橋部分への梯子を昇り、虹色のオーブ型をした動力源に触れた。
これは、かつてどこかで読み漁った本に書いてあった通りだ。

オーブの下のいくつかの舵が発動装置になっており、ナウシトエが覚えていた通りに操作すると、
ついに巨大な軍船が動き出した。

ポーーーーーーーーーーーーー!!

楽器のような騒がしい音を立てて、船がついに離岸する……!


「しまった! フネが持ってかれた……! 撃て!」

矢が放たれるが、動力源をナウシトエは体術で全力でカバーする。
数発が当たるも、オーブの耐久力を殆ど殺ぐことはできていない。

離岸する船に近づく敵は諦めるか、ナウシトエのガントレットから放たれるクォレルの犠牲になっていった。
カルディアの港はぐんぐん遠ざかり、既に大砲の射程内からも完全に外に出た。

やがて船室から魅了された15人程度のハイドラ兵たちが出てきた。
――否。ハイドラ兵たちは正気だった。武器をナウシトエに向け構える。

「……あなたたち、まさかもう攻撃はしないわよねぇ……? カルディアはもうあっちよ」

指差しながらのナウシトエの問いかけに、ハイドラ兵たちは顔を見合わせると、もう一度武器を構えた。

「ねぇ、ちょっと話し合わない? カルディアに戻ってもいいから」

そう言いながらも、ナウシトエは操舵を続け、どんどん沖へと向かっていく。

飛んで来る矢に対し、ナウシトエも応戦し、2名ほど射Rる。しかし、所詮は仕込みボウガン。弾切れになった。
ナウシトエは辛うじて避けて急所を逸らすも、脚や腕に矢を受けて痺れが回り、ついに艦橋から落ちていく。

「ああッ……!!」

落ちたナウシトエに男たちが群がり、ビリビリと服を引き裂かれていった。
巨大な乳房を露にし、男たちの目はみるみるうちに下卑たものになる。
ナウシトエの意識は次第に薄くなり、体は殆ど動かない。
そして、ハイドラ兵たちによって、船室内へと引き摺られていった。

軍船が再びカルディアに戻るか、それとも大海を彷徨うか――
そして一時はパーティーを共にしたアルバートたちの今後の行く末は――それをナウシトエは知ることはなかった。

カバンコウでは娼婦として、カルディアでは殺戮者として、
一時的に有名となった一人の女の命運が、ここで終わろうとしていた――


【以上、ナウシトエ退場です。支援楽しかったです。ありがとうございました!】

148 :
おつかれちゃん、ナウシトエ

よう頑張ったわ
あんた悪くないで

149 :
支援どころかお前は足を引っ張ってただけだろ

150 :
ナウシトエさん、お疲れ様。短い間でしたがお世話になりました。
まさかあんな些細な行き違いからこんなことになるとは思っていなかったので驚いています
確かにエロス&バイオレンスで好き嫌い分かれるキャラだったけど自分は嫌いじゃなかったよ
ジャンルがダークファンタジーであることを考えると充分アリだったのではないでしょうか
ダークファンタジーと言っても人によってイメージするものが全く違うので
アルバートさんはきっとシリアスめの王道ハイファンタジー的なのをイメージしていてコレジャナイ感を募らせてしまったんでしょう
例のシーンも要は水の領域発動してベヒモスが弱体化できりゃおkだったわけだし
自分はむしろ「なるほどこっちの方が水の領域っぽい演出やな、採用!」と思ったぐらいで全く気にしてないからね
いつかどこかでまた御一緒しましょう

今更だけど緻密にきっちりやりたい方針ならやっぱり避難所はあった方がいいんだろうね
もし避難所があって「ここから別シーンでお願いします」とか一言打ち合わせがされていればこうはならなかったのかもしれません
避難所無し形式は些細な解釈違いは流して予想外の展開を楽しんでやる、的な方針のスレじゃないと難しいんだと思います

アルバートさん、どうしても合わない人から遠ざかるのは何も間違ってないと思う
でも本当に辞めたくなって辞めるつもりなら嘘も方便で「リアル事情で……」と言えば何の騒動もなく惜しまれながら辞めれたはず
それをせずに本音ぶちまけちゃったのは本当は辞めたくないという気持ちがあるのでは?
身を引いたナウシトエさんの決断を無駄にしないためにも戻ってきてほしいところですが
こうなってしまった以上気まずいのもよく分かりますし無理に引き止めることも出来ませんので
一週間ルール適用で来週まで待ってもし来られなかったら私のターンということでとりあえず進めますね

151 :
>>150
さすがエルフさん素晴らしい!
TRPGプレイヤーの鑑

152 :
こんだけ憎悪をぶち撒けあった後に平常進行は無理があるでしょうよ

153 :
アルバートがいなくなったドラリンを無理矢理続ける意味あんのか?
だったら違うスレ作って頑張った方が有意義だと思うぞ

154 :
まぁなんつーかアルバートによるアルバートの為のスレだったからねここ
敵キャラとの因縁もアルバートばっかだし
他のキャラおらんでも話進むじゃんって読んでて思ったわ

155 :
PLが因縁付けしたNPCをサブキャラで瞬殺したあたりからそんな感じはした

156 :
独裁者みたいなもんだからな
これで鍍金が剥がれて糞や味噌がついたし、

仮にアルバート来なくなったらティターニア中心で設定出し合えばなんとかなるんじゃね

157 :
硬派でちゃんと回ってるのもここぐらいだしなあ

158 :
まぁ自分の思い通りにならないからってキレるのはおかしいわ普通に
余裕持ってやろうよ遊びなんだからさ

159 :
遊びだからこそキレるんやで
アルバートは仕事なら我慢すると言ってる
遊びでまで我慢したくないわな
でも複数人の思惑が絡むTRPGで思い通りなんて無理な話やで
思いもよらない意外性を楽しむのがTRPGの醍醐味と思うけどなあ

160 :
遊びだからこそお互いに嫌な気持ちにならんように続けるなりやめるなりすべきやろ
ゲームやってて勝てんからって癇癪起こして投げ出すのが許されるのは小学生までやで
アルバートが批判されてんのは辞めたこと自体ではなく辞める時にナウシトエ以外の他の同僚にも一様に不愉快な思いをさせたことや

161 :
>>159
仕事でも我慢できない人だと思われますがそれは

162 :
>>1
――それは、やがて伝説となる物語。


確かにある意味伝説になったなw

163 :
ほむほむ、なるほどなー

うん。私は継続参加するの無理そうです

ジャンさんとティターニアさんには申し訳ないんですが、
物語の中で、現段階でのコインが旅をする理由が無くなってしまったので、
この状態では流石に続けられません

理由を無理に作るのもアレなので、ここで私はお別れして、
別の参加できるスレを探してみるとします



最後に、私は個人的にジャンさんのレスが超好きでしたよ!
グッドラ!

164 :
マジかよコインも消えるのか…

165 :
ええと、まさかちょっと見ない間にここまでの事態になるとは思いませんでした
5人中3人が一気にいなくなってしまうとは……

個人的には久しぶりに参加できたので、続けたい気持ちがあります
避難所での打ち合わせなしでここまで上手く続いたのは初めてですし、できれば最期まで見届けたいです

名無しの方から何人か参加していただければ、大変助かるのですが……

166 :
ジャンとティターニア残ってればいけるで
二人ともさっぱりしてて分かりやすいPLでは1、2だからな

立て直しは可能と見た

167 :
>163
そうですか……。
出来れば指環の奪取とか腕輪の解除とかを目的にして続けてほしいところですがこればっかりは本人の決断ですからね。
お疲れ様、お世話になりました! 敵とも味方ともつかないトリッキーな立ち位置で面白かったです。
クライマックスでデレる未来が見えていた気がする(気のせいかな?)だけに
そこまで一緒に行けなかったのが残念ですがそこは想像で補完ということでw

>165
続けると言ったもののこれでジャンさんも降りたら流石に打ちきりかな〜と思っていたので良かったです
折角いい題材なのにここで打ち切りは勿体ないよね
私も正直どこまでやれるか分かりませんが
やってる間に新規さん来るかもしれませんし(希望的観測)とりあえず行けるところまでいってみましょう

>166
そう言ってもらえると嬉しいです

一週間待つと言ったのでこの際新規募集期間も兼ねるということで
参加してくださる奇特な方がもしいればテンプレ投下をよろしくです
(もちろんその後も常時募集します)

168 :
一週間ルールの期限はナウシトエ退場が最後のレスにあたるから、

11月2日19時頃にルール適用、再開といったところかな

169 :
妙に伸びてるから来てみたら崩壊しててワロタ
まあナウシトエが不快で見るの止めたから奴が消えるならまた見るかな

170 :
>>169
アルバート様!
さすがですな!
あなたは才能がある!

171 :
純粋にアルバート好きだったよ
ナウシトエの狙い過ぎたおっぱいレスが生理的に嫌だったけど、アルバート居たから我慢してた
ブチ切れる気持ちは解る
解るけど本音出せばこうなるのはアルバートも解っていたはず
しれっと別キャラで支援して欲しい

172 :
同僚の出したネタを一切尊重しないアルバートだけの為に創られたオナニー物語
正直アルバートのレスは気持ち悪いお人形劇にしか見えなくて読んでて不快だったけど他の連中のレスは面白かったから読み続けてた
結局自己中は自分でスレ潰すまで治らなかったみたいだね
楽しみにしてたんだけどなぁ

173 :
ぶっちゃけおっぱいの方が分かりやすくてずっと好感が持てた
アルバートは結局周囲のことを考えず他PLの意向無視してずっとやってきたツケが回ってきたんだね

>>136に対する>>137
ここにアルバートの人間性の腐り具合がにじみ出ている
仮に両方が嫌いあってたとしても先にキレた方が負け
ドヤ顔で重箱の隅つつくとかガキかよ

174 :
実際に癇癪持ちのガキなんだろうよ

175 :
お互い敵意を持っていたとしても矛を収めた相手に嬉々として追撃しに行くような奴がまともであるはずがない

176 :
このキャラ俺の物語の雰囲気に合わんしなんか気に入らんなぁ…せや!重箱の隅つついて追い出したろ!
の精神

177 :
どないするのん

178 :
2日19時まで待とう
そこからティターニア再開

179 :
このスレ続行するのか
ティターニアが新スレ立ててそこにジャンが乗っかる形でも良い気がするけど

180 :
>>1の部分の世界設定だけ生かしてティターニアが新たに舞台を指定して
そこから物語が始まる、的な感じで行けると思うが

新スレ立てるとややこしくなる

181 :
言うて容量半分以上切ってるし
アルバート不在でこれまでの積み重ねがほぼ使えなくなるのであれば
もう新スレ立てちゃった方が良いと思うよ

182 :
アルバートは黒歴史だし
タイトル変えてやり直すのはありだろうな
できれば世界観から変えてさ

183 :
きっちり今日の19時にティターニアへの委譲が解放されるってのを忘れずに

184 :
新スレ立てに賛成一票
このままだと新規絶望的だし仕切り直そうよ

185 :
だな
19時から行動開始で頼む

186 :
なんでこの名無しどもは上から目線で偉そうに仕切り出したんだ
ティターニアあたりの自演か?

187 :
どうにかして誰かに泥をなすり付けたいアルバート様受けるw

188 :
エドガーのジャンとの数秒の攻防を見て思う、やはり思ったとおり強い。
しかしその拮抗を崩すものがあった――エドガーへの背後からの砲撃だ。
ナウシトエが予想以上に期待通りやってくれたようだ。

「でかしたぞ! そのまま援護を頼む!」

そう叫び、転倒して隙ができたエドガーにここぞとばかりに一気にシェイドをぶつける。
魔術の使い手にとっては痛手のはずだが、不敵な笑みを浮かべ呟く。

「なるほど、精神を削る闇の魔術か……」

「よく分かったな、もう次の聖属性付与は使えまい」

「次など必要ない! ……な!?」

そこであまりにも予想外のことがおこり双方暫し動きを止める。
>ポーーーーーーーーーーーーー!!
なんとけたたましい音を立てながら船が離岸したのだ。

「あのクソ女……船を持っていきやがった!」

「何を考えておるのだ……戻ってこい!」

現在進行形で刃を交えている敵同士のはずだが奇しくも感想がほぼ一致した。

「というわけで船がなくなったわけだが……まだ続けるか?」

エドガーの答えは――高らかに神聖魔術の呪文を唱えることでの拒絶であった。

「至高なる主神ファーンよ。悪しきを滅する光よ。死をも恐れぬ魂を我らに与えよ――」

「お主、それは……!」

ティターニアは血相を変えた。
痛みも疲れも感じず朽ち果てるまで戦い続ける狂戦士化の魔術――
その効果は自分だけではなくあらかじめ盟約を結んでおいた仲間全員に及ぶ。
つまり、すでに上陸している隊員達にもおそらく効果が及ぶということだ。

189 :
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

「まさか、我が身の危険を省みずこの反乱を止めさせようと……!?」

少女を保護した魔術衛兵は、離岸していく船を見て驚きの声をあげる。
だというのに、ハイドラ兵達は退却するどころかますます勢いを増したようだ。

「どうしよう、どうしたら……」

「きっとそう。だってお姉ちゃんは私を助けてくれたもの――」

そんな中、いつの間にか目を覚ましていた少女が言った。その身に纏うは膨大な魔力。

「安心して。この争いは私が止める」

「駄目――――!」

「大丈夫、滅びの歌は後世の人の勘違い。
ステラマリスを海底に沈めたのは祖竜から護るため。今もセイレーン達の住まう都になっているの。
私の呼ぶ“夢幻の海”の中ではみんな争う気をなくす。水が引いたときにはきっと全部元通り――」

セイレーンが人間の姿を取るには、何かを引き換えにしなければならない。
ある者は声を、そしてこの少女――
否、古代種セイレーンにしてステラマリスの守護聖獣”クイーンネレイド”は記憶を代償とした。
そして指環を託すにふさわしい者達を見つけた今、全てを思い出したのだ。
彼女は有無を言わさず歌い始めた。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

先程までとは段違いに捨て身の攻撃を繰り出すエドガーに、ティターニア達は苦戦していた。
ディスペルマジックはすでに試みたが、やはり効かない。
万事休すかと思われたその時、幸か不幸か別の意味の危機が迫ってきた。
海の方から水の壁が迫ってきているのだ。いわゆる津波である。

「……後ろ後ろー!」

「戯言を抜かすな!」

そんなやりとりを最後に、激流に飲み込まれ、気付けば海の中であった。

「がばげばごぼ息がぁああああああああああ……できる!?」

どれぐらい時間が経ったであろうか。
海の中で少し前に助けた少女に手を引かれて進んでいた。
いや、みすぼらしい乞食のはずだった少女は今や美しい人魚の姿をしている。
そして反対側の手にはジャンが引かれている。

「そなたは……一体!?」

「後で全てをお話しします。ありがとう、あの時助けてくれて。
あなた達は私の記憶を戻してくれた……つまり、水の指環の試練を見事くぐりぬけました。
これより我が主アクア様の統べる海底都市ステラマリスへお連れします」

どれぐらい経っただろうか。青い宝石の輝きを放つ美しい海底都市がみえてきた。 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)


190 :
名前:マジャーリン・ホールズ
年齢:46歳
性別:男
身長:120cm
体重:65kg
スリーサイズ:樽体型
種族:ドワーフ
職業:戦士
性格:頑固で一徹者
能力:力まかせの攻撃、タフさ
武器:食い込みハンマー「ナイトキラー」
防具:チェインアーマー
所持品:冒険者セット一式
容姿の特徴・風貌:ボサボサの黒髪と髭、いかにもドワーフといった体型と服装。
簡単なキャラ解説:「ハイドラ」によって樽の中に閉じ込められていたドワーフ。
情報を聞き出すために閉じ込められていた。世界中の酒場を回って旅をするのが趣味。
「戦士」を名乗るが基本的に傭兵稼業では一番槍で真っ先に突っ込むタイプ。

191 :
「ゴボゴボゴボ……グェグェ……」

気がつくとマジャーリンは海水を被っていた。
樽は津波の衝撃で吹き飛ばされ、辛うじてマジャーリンを覆う胴体が樽にハマっている状態。

「起きて……あぁ、良かった。この人もまだ生きてる……」

少女の声がしたと思うと、目が覚めた。頭に感触あり。
気が付くと金髪が絡みついている。そして非常に嫌な予感、というより匂い。

エルフの女と目が合った。大嫌いなエルフだ。

「げえっ! エルフ!!」

マジャーリンはエルフの胸元に頭を当てた途端、蕁麻疹を起こすかのように飛び跳ねる。
まるで剣を刺されて飛び上がる盗賊のように、樽ごと飛び跳ねて再び海にダイブした。

「ゴボボボボボ……」

次に浮かんだ場所は、少し離れたところだった。
ムジャーリンは肩で息をしている。伝説の妖精セイレーンと思われる少女によって再び救われた。

おそるおそる横を見てみると、どうやら自分と同じように津波によって流された人物がいるらしい。
それはエルフの女とオークのような大柄な男のようだった。
そちらを横目で見ながら、とりあえず礼をし、まだハンマーが樽に挟まっているのを見てほっとする。
このハンマーは外見の割にはミスリル鉱製で軽い。

「助かった。もう少し遅かったら死んでいただろうな。で、ワシはカルディアには戻れるのか?」

セイレーンの少女に問い詰める。

「なあ、そこのオークよ、お前さんだって、帰りたいだろう?」

相変わらずエルフの女の方には目を向けず、一方的に話をする。
離れた海上には軍船のようなものが浮かんでおり、カルディアの街は既に遥か離れていた。

――そして、目の前には以前から伝説でのみ聞いていた海底遺跡が現れる。
マジャーリンは目をこすった。幻ではないようだ。

【こんな感じでティターニアさんとジャンさんの間に入ってしまいましたが、よろしくお願いします。】

192 :
名前:アルダガ・バフナグリー
年齢:21
性別:女
身長:165
体重:45
スリーサイズ:
種族:純人
職業:神官/黒鳥騎士
性格:敬虔な宗教家
能力:神術・杖術
武器:聖短剣『サクラメント』、聖銀製メイス
防具:神官服(防護魔法付与)
所持品:鋼鉄装丁の聖書
容姿の特徴・風貌:巨大なメイスを抱えた黒い修道服の女神官。金髪おさげ
簡単なキャラ解説:
大陸で最もメジャーな宗教に属する神官。
帝国と教会との政治的なあれこれにより帝国に出向しておりお飾り権限として『黒騎士』の地位を与えられている。
神官の戦闘力は個人の資質よりも神の権能をどれだけ分け与えられているかによる、つまりおエライ様のさじ加減一つの為、
政治的理由によって上位権限を与えられたアルダガの神術はとても強い。
ただし本人の戦闘技能は並の神官レベルの為、総合的に見れば黒騎士内での戦闘力は最下位となる。
竜の指輪に関する事態を重く見た帝国上層部が半ば厄介払い的にアルバートの元へ『増援』として送り込んだ。
教義に反するので基本的に亜人や妖精の類は敵だと思っている。
異教徒に死を!



<今の話が終わったら参加したいと思います。よろしく>

193 :
>>192
スリーサイズもタノムゥ!(^人^)

194 :
ジャンル:ハイファンタジー
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間(延長可)
版権・越境:なし
敵役参加:あり
避難所の有無:なし(今のところ)

【しばらく二人旅になるかと思いきや二人も来てくださるとは……!ありがとうございます!
少しだけ仕様変更。
さしあたってGM無しでNPCは全員で共有ということになりますが必要に応じて専用NPCをやって頂いても構いません。
敵役はありにしてありますが
敵役専属でやるとなるとスレの性質上スポット参戦になりがちかも……?

これは……増援に来たらすでに本人はいなかったパターン!?
アルバートさんについて聞かれたらはぐれて消息不明、と答えると思うので
そのまま次の指輪探索担当に収まる感じでいけますかね〜】

195 :
エドガーとの一進一退の攻防を繰り返す中、ジャンは徐々に自分が追いつめられているのを感じていた。
自分の斧と相手のハルバードでは斧が圧倒的に不利であり、かつ相手は一撃が凄まじく重いのだ。
背中に背負った槍を使うという選択もあったが、素人よりちょっとマシ程度でしかない槍の腕ではあっさり折られるとジャンは判断した。

>「でかしたぞ! そのまま援護を頼む!」

しかし、突然の砲撃によって体勢は一気に逆転する。
ナウシトエが船上で暴れまわり、大砲を占拠したらしくありったけの砲弾を撃ち込んでいた。

「こりゃあ助かったがな!もう少し荒っぽくねえ手段で援護してくれよ!」

そして大砲の着弾によって巻き起こる砂埃と煙にむせつつ、隙ができたエドガーへと突っ込もうと身を屈めた瞬間、それは起きた。
ナウシトエが占拠した船が港を離れ、沖へと向かっていったのだ。

>「あのクソ女……船を持っていきやがった!」

>「何を考えておるのだ……戻ってこい!」

「あんのバカ……!色ボケにも程があるぜ!」

思わず口に出した言葉は、三人とも似た意味だった。
何せ船を乗っ取るかもらうかするつもりだったのだ、これでどうやって宝玉の場所まで行くのか……
ジャンは呆然と考えていた中、エドガーが再び詠唱を始める。

>「至高なる主神ファーンよ。悪しきを滅する光よ。死をも恐れぬ魂を我らに与えよ――」

>「お主、それは……!」

もはや命は捨てたといわんばかりに、エドガーは狂戦士と化した己を突っ込ませてくる。
一撃一撃が先ほどよりもさらに重くなり、時折体術まで混ぜてくるエドガーの動きはまさしく鬼神というべきものだった。
ジャンは斧と大鉈で必死に耐えるが、もはや武器がもたないところまで来ていた。

そしてジャンの脳天を砕くべく、ハルバードが振り下ろされた瞬間。
津波が、全てを押し流した。

――ジャンが意識を取り戻したのは、ティターニアよりやや遅れてからだった。

衛兵に逃がしてもらったはずの少女が人魚の姿になって二人を助け、おまけに探していた指輪の在処まで連れて行ってくれる。
一通り事情を聞いてから、ジャンはこう考えた。

「なあ、ティターニア……俺たち、運良すぎねえか……
 命の危機に何回も遭ってから言うのはあれだけどよ……」

もしかしたら、この光景はどこかの酒場で酒を飲みすぎて見ている幻覚なのかもしれない。
そう考えながら、光がゆらめく幻想的な海の中を眺めていた。

>「なあ、そこのオークよ、お前さんだって、帰りたいだろう?」

と、この光景が夢ではない証拠が出てきた。ジャンにとって夢とは都合のいいものであり、ひげ面の男が出てくるものではないのだ。

「なんだ、あんたも津波に巻き込まれちまったのか?
 すまねえがこっちは用事があるんだ、あの遺跡によ」

そう言って、目の前に現れた海底遺跡を指さす。いかにもドワーフといった風情の男は驚いたのか、思わず目をこすってわが目を疑っているようだ。

「あんたも来るかい?上手くいけば一攫千金に名誉がついてくるぜ」

【二人もいきなり来てくれるなんて思いませんでした、ありがとうございます!】
【アルダガさんは次の帝国からの刺客って感じですね、ジャンといい感じにぶつかれそうです!】

196 :
「ご安心ください、街の人は流されたりしていませんから。
きっと今頃争うのも忘れて呆けているはずです」

どうやら津波は少女こと水の聖獣クイーンネレイド通称

197 :
「ご安心ください、街の人は流されたりしていませんから。
きっと今頃争うのも忘れて呆けているはずです」

どうやら津波は少女こと水の聖獣クイーンネレイド通称"クイーン"が歌で呼んだもので
正確には津波ではなく概念的な水だったらしい。
最初に少し衝撃と精神的な混乱があるのと浮力のようなものは発生するが流されて怪我したり窒息はしないらしい。
イメージ的には戦意喪失の魔術と以前ティターニアが使った水の領域の魔術の合体バージョンに近いか。

>「なあ、ティターニア……俺たち、運良すぎねえか……
 命の危機に何回も遭ってから言うのはあれだけどよ……」

「うむ、助けた海生生物に連れられて竜の宮にご案内、という話はどこかで聞いたことがあるが
まさか自分の身に起こるとは思わなんだ。
ところで……他の3人は見かけなかったか?」

「……全員探知をかけてみたのですが……あなた達二人だけが見つかりました」

「……そうか。そなたが気に病むことはない。
それに死体も見つからなかったということは尻尾を巻いて逃げただけかもしれぬしな。
全く、怪しからん奴らだ!」

今回ばかりはその怪しからんパターンであってほしいと思っていることは言うまでもない。

198 :
「ところで……一般人は流されてないはずではなかったか?」

「はい、そのはずですが……きゃあ、なんで!?」

思いっきり流されている人がいた。いや、正確には人間ではなくドワーフのようだ。
取り急ぎ救出にかかる一行。

「進行方向への水流を起こすことであなた達を引っ張っても軽々進めているのですが
どうやら水流に一緒に乗ってきてしまったようですね」

>「げえっ! エルフ!!」

「人の顔を見て第一声がそれか!?」

まあ指輪が出てくるファンタジーではエルフとドワーフは仲が悪いものなので仕方がない。
実際、共和国建国の際のネックの一つがエルフの国とドワーフの国の融和だったそうだ。
共和国になってからは表向きは確執は無くなったことにはなっているが−−
結局ドワーフはもう一度救出される羽目になり、クイーンが水中呼吸できるようになる術を施した。

>「助かった。もう少し遅かったら死んでいただろうな。で、ワシはカルディアには戻れるのか?」
>「なあ、そこのオークよ、お前さんだって、帰りたいだろう?」

>「なんだ、あんたも津波に巻き込まれちまったのか?
 すまねえがこっちは用事があるんだ、あの遺跡によ」
>「あんたも来るかい?上手くいけば一攫千金に名誉がついてくるぜ」

「それは良い考えだ。一言で言うと我々は遺跡の調査をやっておっての。
あと一人ぐらいなら臨時助手として雇えるぞ」

そんな会話をしている間に遺跡に到着した。セイレーン達が一行を出迎える。

「クイーンがお戻りになったわ!」
「ということは指輪の勇者を見つけたのね……!
記憶を対価にして陸に探しにいくと言ったときはどうなることかと思ったけど……」
「あの人達がそうかしら……なんか想像していたのと違うわね」

「お主ら、かしましいわ!」

普通はそういう御一行といったら一般人のイメージの中では人間の美男美女の中に一人か二人変り種がいる程度であって
異種族の展覧会みたいな一行が現れたら意外に思うのも仕方がないのかもしれない。
しかもそのうち二人はゴツい。

「うん、思った以上にすっかり記憶をなくして一時は本当にどうなることかと思ったけど……
彼らは私を見つけ出してくれた。
さあ、こちらへ――アクア様の元へご案内します」

ヴォルカナの時と同じように、宝石に彩られた街の中に一つだけ純白の神殿のような建物があり、それに向かって進んでいく。

199 :
聖獣クイーンレネイドの"概念津波"により狂気を押し流され沈静化した港町。
ハイドラ兵達は正気を取り戻し、流されてしまった船を追いかけるべく小舟で海へと乗り出す者もいる。
街の人々は豹変に豹変を重ねた海賊団の様子を、同様に沈静化された心で唖然として見ているばかりだった。

バシャリと水音がして、海から埠頭へと飛び出した人影が一つ。
元神殿騎士にして海賊団ハイドラの頭目、エドガー・オールストンである。
負傷はなくともその息は荒く、美しい金の双眸は赤く濁り、髪は濡れているのに逆だっている。
ハイドラ兵達は津波によって狂戦士化の魔術を押し流されたが、術者自身であるエドガーにかかった術だけは健在だった。

もともとそういう魔術だ。
いかなる解呪も跳ね除けて、文字通り死ぬまで戦い――殺し続ける為の魔術。
命尽きるまで、手足が千切れ腸をぶち撒けようともその眼に映る全てを破壊する魔術だった。

「うう……ぐああ……」

一方で、エドガーの意識は鮮明だった。
解呪が効かないとしても流石に聖獣クラスの沈静魔法の影響力は強く、一時的にではあるが狂気を押しとどめている。
それはいずれ掻き消えてしまう束の間の正気だが……彼を絶望させるには十分だった。

「お、おい……大丈夫かエドガーさん……?」

「がああ……まずい……逃げろ……!俺の傍に近寄るな……!!」

何事かと集まってくる街の人々を相手に、エドガーはすぐさま飛びかかってその喉を食い破りたい衝動にかられた。
狂戦士の魔術がもたらす虐殺の欲求を、僅かに残った正気で必死に抑え込んでいる。

エドガーは任侠の男だった。
無辜の人々をその手にかけることなどあってはならない。
その忌むべき事態が、他ならぬエドガー自身の魔術によって引き起こされようとしている。

「駄目だ……もう意識が保たない……誰か俺を殺してくれ……俺がヒトであるうちに……!」

視界の端が赤く染まり始めている。
破壊の衝動はもはや手を付けられないほどに膨れ上がり、エドガーの正気を食らいつくさんとしている。
もう30秒と正気は保たないだろう。
自害を試みようにも手足は既に自由が効かず、舌を噛み切ったところで虐殺は止まるまい。

「はやく……はやく殺してくれ……うううぉぉぉああああ!」

エドガーの懇願にも、町の人々は困惑を返す他なかった。
彼らは海賊であっても民衆を襲わない"義賊"のハイドラとは懇意にしていた。
昨日まで親しくしていた相手に突如殺してくれと言われて何も疑わずにその通りにできようか。
傭兵や衛兵が現場に居合わせていればまだなんとかなかったかもしれないが、彼らは沈静化され腑抜けた状態だ。
影響を受けなかった兵を呼び待っている時間はもうエドガーには残されていなかった。

「頼む……殺したくないんだ……だから俺を殺してくれ……!」

目の前の半分ほどが赤く塗りつぶされた時、集まり始めていた民衆の中から答える声がした。

「私が殺します」

人垣が割れるように開いて、その奥から背の低い人影が一つ歩み出てきた。
黒の修道服に身を包んだ女。
司祭帽から流れる金髪を二つにまとめ、分厚い装丁の聖書と巨大な銀のメイスを抱えている。
修道服に刺繍された銀の神十字は、かつてエドガーが使えた中央教会のものだ。

200 :
「私が、貴方を殺します」

「その紋章は……そうか、教会の追手か……」

既に相手の顔も判別できないほどに視界の染まったエドガーにも、女の所属は一目でわかった。
彼が離反した中央教会、裏切り者を始末する為にそこから送り込まれてきた刺客だろう。
普段であれば死なない程度に痛めつけて送り返す手合いだが、今のエドガーには福音の運び手にも思えた。

「……世話をかける」

最期に安堵の感情を抱いて、エドガーの意識は赤に喰い潰された。
そこから先は、破壊と虐殺の衝動だけを持った化物の戦いだった。

「ヴォアアアアアアアア!!」

両眼を赤く輝かせたエドガーがハルバードを振りかぶって跳躍する。
対する修道服の女はカソックの前留めを外してメイスの石突を地面に立てた。

「我が五体に女神の祝福を――エヴァレイション」

女の身体を覆うように淡い光の帯が出現する。
エドガーもよく知る教会の神聖魔法、身体強化の神術だ。
跳躍の勢いそのままにうなりをつけて振るわれたハルバードと、女の掲げたメイスとが衝突し、火花と轟音を放った。
二人の身体は運動エネルギーを交換しあい、同時に宙を舞う。

「これは上級神術だったのですが、流石です」

女が独り言のように漏らし、エドガーは答えない。
狂戦士の戦闘センスは既に次の手を選び終えていた。

「■■■■」

もはやヒトの言葉の体を為さない詠唱によって、歪められた神聖魔法が発動した。
石畳に魔法陣が描かれ、上空へ向けて稲妻が迸る。
空中で身動きのとれない女に為す術はない。

「来たる災禍を簒奪せよ――マクベシズム」

女の神術が発動、魔術攻撃をメイスに絡め取り自身の武器とする簒奪の術式だ。
絡め取った稲妻を、空中で器用に身を捻りながらエドガーへ向けて撃ち放った。
魔術を行使したばかりで無防備なエドガーに直撃する。

「がああっ……!」

渾身の魔術を己の身で受け、全身の細胞が悲鳴を挙げる。
いかに狂戦士とて稲妻による痺れに抗うことはできない。
そのごく一瞬発生した硬直を、女は見逃さなかった。

「女神の敵よ、刃腐り、鏃錆び、その牙を砕け――ナーフレクト」

紡がれる呪文は弱体化の神術。
エドガーの身体が鉛で覆われたかのように重くなる。身体を支える筋力が弱くなった。
しかしその程度だ。狂戦士化した今の肉体ならば、多少動きを鈍らされたところで小娘一人縊りRに不足はない。

201 :
「ナーフレクト」
「!!」
ズン……と一際重く不可視の力がのしかかる。
女が立て続けに弱体化の神術を行使したのだ。
「ナーフレクト。ナーフレクト。エヴァレイション。ナーフレクト」
三重、四重と弱体化と自己の強化を施しながら女が近づいてくる。
既にエドガーには後ずさる僅かな力さえも弱体化により失われていた。
こうして立っているだけでも精一杯。最初のナーフレクトを受けた時点で距離をとるべきだった。
この程度ならばそのまま戦って倒せると、そう誤認させられたのだ。
強化や弱化の神術は術者にも大きく負担のかかる上級術だ。
こうも短時間に連続して唱えられるなど、小娘程度の若さで得られる技量ではない。
何者だ、と問うことの無意味さを悟る程度には、狂戦士にも思考力が残されていた。
「アアア……!!」
手を伸ばせば届く距離にまで歩み寄った女に、最期の力を振り絞ってハルバードを振るう。
ガィンと耳障りな金属音が響いて、エドガーの手をすっぽ抜けた斧槍が宙を舞った。
弾き飛ばしたメイスを下ろしながら、女は逆の手を差し出しつつ一歩踏み込んだ。
その手には青と銀で彩られた短剣が握られていて、刃は一切の抵抗なくエドガーの胸へと埋まった。
「俺は……」
不意に理性を取り戻したエドガーは、最早痛みさえも感じない胸の短剣を見下ろしながら声を上げた。
「中央教会の至宝、聖短剣"サクラメント"。魔に堕ちた者を苦痛無く女神の元へ送る浄罪の剣です」
心臓を短剣で貫かれ、エドガーの肉体は死亡した。
こうして彼が意識を取り戻したのは、女神の慈悲による束の間の猶予だ。
「そうか……俺はヒトとしてRるのだな」
エドガーは街を、自分が傷つけずに済んだ民衆を眺めて、最期に微笑んだ。
「ありがとうよ、名も知らぬ教会の追撃者よ。お前さんの旅路に女神の祝福あらんことを――……」
それだけ呟いて、彼は事切れた。
腐敗した帝政に怒り、民草を救う為に駆け抜け続けた男の人生は、そこで幕を下ろした。
エドガーの遺体を石畳にゆっくりと横たえてから、女はぽつりと呟いた。
「"名も知らぬ"じゃありませんよ。……エドガー叔父さま」
女の名はアルダガ・オールストン・バフナグリー。
この大陸において最も信仰されている神を奉じた中央教会の神官。
そしてもう一つの顔は、帝国最強を誇る七人の黒騎士が一人――黒鳥騎士である。

【導入程度に置いておきます。立ち位置的には帝国からの刺客なので敵役として立ち回ると思います】

202 :
いや、そこは長引かせないでさっさと始末しようよ〜(カンカン)

203 :
>「なんだ、あんたも津波に巻き込まれちまったのか?
 すまねえがこっちは用事があるんだ、あの遺跡によ」

>「それは良い考えだ。一言で言うと我々は遺跡の調査をやっておっての。
あと一人ぐらいなら臨時助手として雇えるぞ」

オークの男が海底遺跡を指差しながら話しかけてくる。
それに対し、エルフの女もこちらを見ながら上から目線で話しかけてきた。
マジャーリンは状況を整理しながら計算した。

目の前には「ステラマリス」らしき遺跡が広がっている。
遺跡といやお宝、お宝といや金、金といやビヤ樽だ。

「おぉ、調度良かった。ワシの目的も、遺跡探索よ。
ワシはマジャーリン。ドワーフの戦士だ。以後よろしく頼む。
臨時助手だと? 結構だ。ワシは戦士なんでね。だが分け前は頂くぞ」

主にオークの男に目線を合わせてたまにチラチラとエルフの方を見ながら答える。
マジャーリンは正直なところ、エルフもドワーフを嫌っているものだと思っていたので、
あっさりと放しかけられるのは意外だったようだ。

ふと横を見ると、ウミネコの大群ががなにやら海面をつついているようだ。
そこには人の顔のようなもの――いや、覆面だった。青い覆面の巨漢と、
赤い覆面の小男が浮かんでいたが、マジャーリンのように運が良かった訳でもなく、
水死体としてウミネコによって啄ばまれているところだった。

「かわいそうにな。ワシも一歩間違えてりゃ、ああなっていた訳よ」

――

そうこうしているうちに、セイレーンの少女は三人を海底遺跡らしき場所に案内した。

>「うん、思った以上にすっかり記憶をなくして一時は本当にどうなることかと思ったけど……
彼らは私を見つけ出してくれた。
さあ、こちらへ――アクア様の元へご案内します

「アクア……だって? そりゃ鉱脈か何かか? このワシの自慢のハンマーはミスリル製でな。
それも敵の武器や肉によく食い込むという一品だ。こいつは鉱脈も掘るのに一役買うぞ」

と、言いながらも、案内されている無人の街は宝石に彩られており、もはやマジャーリンの採掘欲は極限状態に達しつつあった。
ハンマーをときおり小刻みに震わせながら、"アクア様"とやらはどこか、と落ち着かなく目を動かしている。


【アルダガさん、よろしくお願いします。適度なタイミングで入っちゃってください。】

204 :
>「……全員探知をかけてみたのですが……あなた達二人だけが見つかりました」

「……そうか。あいつらがそうそう死ぬとは思えねえし、はぐれちまったんだろう」

ベヒモスともやりあえるような連中だ。津波ですらなかったあれで死ぬということはないはずとジャンは思考を打ち切った。

>「おぉ、調度良かった。ワシの目的も、遺跡探索よ。
ワシはマジャーリン。ドワーフの戦士だ。以後よろしく頼む。
臨時助手だと? 結構だ。ワシは戦士なんでね。だが分け前は頂くぞ」

「よろしくな、マジャーリンのおっさん。俺はハーフオークのジャン・ジャック・ジャンソン。
 通称『3つのジャン』だ、聞いたことないか?」

チラチラとティターニアの方を見ている視線が気になるが、これはたぶん噂に聞くエルフとドワーフの不仲だろう。
ダーマにすら噂程度とはいえ流れてくるほど有名な話なのだから、おそらく偏見を通り越して常識なのだ…とジャンは考えた。
ティターニアがまったく気にしていない辺り、種族を気にしない性格なのか変人なのか気になるところだが、
今はそれより指輪だ。

(今回はなんとか戦わなくていいみたいだな……火山のときみたいに続けざまの戦闘なんてゴメンだぜ)

ふわふわと海底を歩く自分の足に一抹の不安を感じつつ、海底遺跡へと着いた。
やはりここも宝石に彩られた無人の街並みが続き、古代文明は確かにあったのだと思わせる風情だ。

>「クイーンがお戻りになったわ!」
>「ということは指輪の勇者を見つけたのね……!
>記憶を対価にして陸に探しにいくと言ったときはどうなることかと思ったけど……」
>「あの人達がそうかしら……なんか想像していたのと違うわね」

――そんな風情を台無しにしそうなひそひそ話が、ジャンの耳に届く。
確かにエルフの学者にドワーフの戦士、ハーフオークの冒険者が勇者一行と言われれば
頷く者はなかなかいないかもしれない。きっと後世に伝えられるときは人間の美男美女が
エルフやドワーフをお供に来たと改変されるのだろう。

>「お主ら、かしましいわ!」

「……あんたはきっと名が残るぜ。今のうちに名言の一つでも考えてな」

話が盛り上がるセイレーンたちを横目に、街の中にある純白の神殿へと向かう。
街中に残された宝石や食器も指輪ついでに回収していきたいところだが、この前の宮廷魔術師が出てくる前に
とっとと指輪をもらっておくのが一番だ。ジャンはどの程度持ち帰れるか、見込みをつけつつ歩いていた。

205 :
>「おぉ、調度良かった。ワシの目的も、遺跡探索よ。
ワシはマジャーリン。ドワーフの戦士だ。以後よろしく頼む。
臨時助手だと? 結構だ。ワシは戦士なんでね。だが分け前は頂くぞ」

>「よろしくな、マジャーリンのおっさん。俺はハーフオークのジャン・ジャック・ジャンソン。
通称『3つのジャン』だ、聞いたことないか?」

「ティターニア――見ての通りエルフでユグドラシアの導師だ」

最初は街に帰りたがっていたマジャーリンだったが、遺跡探索と聞いて俄然乗り気になった。
やはりドワーフだけあってお宝の採掘には目がないのかもしれない。
こちらの方を様子を伺うかのように時折見ている。
最初の反応は先入観から来る食わず嫌いのようなものであって、実際にエルフにトラウマがあるわけではないのかもしれなかった。
エルフの間でも長老世代はまだ昔の禍根を引きずっているが、若い世代ではティターニアのようにそれ程気にしない者も多くなってきているようだ。

>「かわいそうにな。ワシも一歩間違えてりゃ、ああなっていた訳よ」

マジャーリンが見つけたのは、二人の水死体。見たところ、猫系の獣人種。
ネコがウミネコに啄まれている、なんてシャレにもなりゃしない。

「ふむ……しかしおそらく死因は溺死ではないぞ。
これを見てみよ、熱した刃物で焼き切られたような傷跡……」

炎付与された武器でやられたのだろう、というところまで思い至ったが、それ以上深く考えることは無かった。

*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

206 :
>「アクア……だって? そりゃ鉱脈か何かか? このワシの自慢のハンマーはミスリル製でな。
それも敵の武器や肉によく食い込むという一品だ。こいつは鉱脈も掘るのに一役買うぞ」

「ほう、よく見ると発掘にもってこいの形状ではないか。
気になる場所があったらどんどん掘ってみてくれ。できればお宝を傷つけぬようにな。
ああ、アクア様というのは鉱脈ではなくここの主の水の竜の名だ。くれぐれも斬りかかってはいかんぞ」

>「……あんたはきっと名が残るぜ。今のうちに名言の一つでも考えてな」

「学者の我より冒険者のそなたの方が伝説に残るにはふさわしいであろう。
しかし今時下手に歴史の資料集なんぞに載ると間違いなく顔に落書きされるのは覚悟した方が良い」

やがて一行は指環の祭壇まで辿り着き、祭壇に青い髪の少年が腰かけていた。

「アクア様、お連れしました」

「ん、ああ。キミ達か、よく来たね」

「ノリ軽ッ! 炎の指環の時みたいに祭壇がゴゴゴって現れたりする演出はないのか!」

「あははっ、向こうではそんな演出があったんだ! 先にイグニスに会ったんだね。
派手好きで劇場型の彼女らしいよ。ん? でも炎の指環は持っていないようだけど……」

「実は……」

ティターニアは灼熱都市ヴォルカナでの顛末をアクアに話して聞かせた。

「そうか……氷の魔術師マジ半端ないな。ここも勘付かれているかもしれない、急がないと……」

話の中でアクアは、ティターニアが投げかけたいくつかの質問に一応の回答を提示して見せた。

Q1 イグニスが語った歴史と暗黒大陸に伝わる伝承はどっちが本当?
(普通に古竜が乱心した説VS民を虐げて古竜の怒りを買った傀儡が人間を騙して古竜を封印させた説)
「多分どっちも大体本当かな……。でも虐げたわけじゃない。
ボク達は人間に高度な文明を与えたけど祖竜様はそれを良しとしなかったんだ」

Q2 イグニスが取った思わせぶりな態度は?
「ボク達の本体は今や指環の方だ。この体を破壊されてはじめて全ての力が指環に移り指環は完成する――
だからわざと怪しい態度をとって殺させようとしたんじゃないのかな?」

Q3 ベヒモスが喋らなかったのは何故? それに試練というよりも本気で指環の入手を阻止しようとしていたようにも思えるが……。
「まああれは無口だし……は冗談として
イグニスは君達を認めてもベヒモス自身は君たちを指環を授けるにふさわしい者とは認めていなかったんじゃないかな。
きっと指環を渡したら内輪もめしかねない烏合の衆だということを勘付いていたんだと思う」

(出番待ちの方もいる気がすることだし多分次ターンぐらいでカルディアに強制送還されそうな気もするので)
追加で何か聞いてみるのもいいし、今のうちにお宝をかき集めておくのもいいだろう。

207 :
>「よろしくな、マジャーリンのおっさん。俺はハーフオークのジャン・ジャック・ジャンソン。
 通称『3つのジャン』だ、聞いたことないか?」

「おう、おっさんにおっさんと言われたくはないわい。
3つのジャンか。ジャリーン、ジャンクボフ、ジャレコネン、それもドワーフ界では屈指の英雄よ」
お前さんもドワーフに負けぬよう励めむのだぞ」

ジャンはさっぱりしていて単純そうなハーフオークだった。
それも手柄はともかく、金にうるさそうなタイプでもなさそうだ。

>「ティターニア――見ての通りエルフでユグドラシアの導師だ」
「ふむ……しかしおそらく死因は溺死ではないぞ。
これを見てみよ、熱した刃物で焼き切られたような傷跡……」

どうやらティターニアと呼ばれるエルフの女はエルフ特有の高慢な喋り方ではあるが、
それ程こちらに敵対心を持っていないようだ。
しかし、それもまたエルフというもの。油断はまだまだできないのが正直なところだ。

>「ほう、よく見ると発掘にもってこいの形状ではないか。
気になる場所があったらどんどん掘ってみてくれ。できればお宝を傷つけぬようにな。
ああ、アクア様というのは鉱脈ではなくここの主の水の竜の名だ。くれぐれも斬りかかってはいかんぞ」

遺跡に入り、ハンマーをときおり揺らしていると、ティターニアがハンマーに興味を持ったようだ。
どうやらアクアというのは竜の名前らしい。しかし、散々命令口調で言われるのはあまり面白くなかった。

「ふん、エルフなんぞに言われなくとも掘る。掘るのがドワーフの生業なんでな。
竜に何も考えずに突っ込むほど愚かな種族でもないわい。それよりワシの一族にはこういう言い伝えがある。
『ドワーフのハンマーは面白いほどエルフの肉に食い込む』とな」

その後、ステラマリス遺跡のあちこちで時折マジャーリンはハンマーを使い、めぼしい装飾を少しずつ剥がしていった。
宝石がこぼれ落ちるとそれをさっさと肩の鞄の中に仕舞う。

208 :
しばらくすると祭壇らしい場所に出た。
そしてアクアとやらが登場。祭壇に座る青い髪の少年は、人間のように見えた。
どうも竜というのは油断させる相手に化けるらしい。

マジャーリンはティターニアとアクアが会話している最中、採掘を止めた。

>「そうか……氷の魔術師マジ半端ないな。ここも勘付かれているかもしれない、急がないと……」

>「まああれは無口だし……は冗談として
イグニスは君達を認めてもベヒモス自身は君たちを指環を授けるにふさわしい者とは認めていなかったんじゃないかな。
きっと指環を渡したら内輪もめしかねない烏合の衆だということを勘付いていたんだと思う」

「指輪をくれ、とは言わん。だが、烏合の衆に過ぎん、というのは半分以上は正解だ。
ワシらはいがみ合っているんでな。恐らくエルフが指輪を取れば、ドワーフが殺してでも奪い取るだろう。
もしワシらの誰かにそいつを渡したいなら、こっちのでかいの、ジャンに預けておくんだな。ところで……」

マジャーリンは含みをつけて、こちら側の条件を先手を打って話した。

「何か困っていることはないかね? 交換条件だ。その代わりにそちらが持っている財宝を一部頂くということでな。
すまんね。ワシはドワーフのマジャーリンだ。こいつらの世話をしている。ワシらもタダでやっとる訳じゃあない。」

アクアは考え事をしたような表情をすると、渋々ながらも淡々と話した。

「ウェントゥス……緑竜の一団がここを近いうちに攻める、との報告があった。
少し前にも斥候がセイレーンたちによって捕まえられているよ。彼らは空から来る。
海に潜っていてもそれを突き破って入ってくるのさ。なんせ弱点属性だからね。
ウェントゥスが何故こうなったのかは分からない。元々は会話も通じる相手だった。何者かに操られているようだ……」

いよいよアクアの表情は悲しみをおびたものになっていった。

「良いだろう……良いな? ジャン、ティターニアよ。とりあえずその条件、飲もうではないか。
では早速少しだけ掘らせてもらろう。ワシのハンマーがもう我慢できんと言うとるでな」

マジャーリンはハンマーを肩のあたりで小刻みに震わせ、祭壇の端の方の綺麗な装飾に描かれている文字を無視して
早速採掘を開始しようとした。
――そのときだった。

ゴゴゴゴゴゴ……


急激な風が押し寄せ、ステラマリスは緑色の空気に包まれた。

「敵か!」 

マジャーリンがハンマーを構え叫ぶ。一旦、ジャンやティターニアの方へ避難した。
ドワーフは屈強な種族だが、魔法には弱い。単独行動は危険だ。
アクアも相当に焦っている様子のようだ。 

やがて、セイレーンたちが既に交戦しているかような声、悲鳴が響いた――

209 :
遺跡を歩き、祭壇まで一行は辿り着いた。そこに腰かけていた青い髪の少年とティターニアが話し合っている間、
ジャンはティターニアの後ろで黙って話を聞いていた。
>「多分どっちも大体本当かな……。でも虐げたわけじゃない。
>ボク達は人間に高度な文明を与えたけど祖竜様はそれを良しとしなかったんだ」
「たぶん、その祖竜って奴の側にいた種族がダーマに伝えたんだろうな。
 そのおかげで大陸ごとに異なった話が伝わっちまったわけだ」
もっとも、本当の歴史がどうだったのかはもはやジャンに知る術はない。
ダーマの宮廷にあると言われる地下大書庫ならば、当時のことが書かれた古書の一つぐらいはあるかもしれないが。
(今度あの宮廷魔術師に会ったら教えてくれっかな……いや、話が通じないよな)
「……あー、俺はめぼしいもんがないか漁ってくる。終わったら呼んでくれや」
しばらくジャンは考えていたがやがて思考を打ち切り、遺物集めにいそしむことにした。
ここには翡翠ではなく真珠や金が装飾に使われているようだが、海流で流されてしまったのか
装飾品は少ない。帰るときに市街地でもう少し漁ってみようと思い、ジャンは祭壇に戻った。
>ウェントゥスが何故こうなったのかは分からない。元々は会話も通じる相手だった。何者かに操られているようだ……」
>「良いだろう……良いな? ジャン、ティターニアよ。とりあえずその条件、飲もうではないか。
では早速少しだけ掘らせてもらろう。ワシのハンマーがもう我慢できんと言うとるでな」
と、戻ったところでちょうど話が終わったようだ。どうやら指環の試練はないようだが、戦うことにはなるらしい。
「結局戦うみてえだな…おっさん、荷物は持っとけよ」
竜が相手となれば、大鉈や斧より間合いをとれる槍の方が有利だろう。
一団、ということならおそらくティターニアの魔術に頼ることになるとジャンは考え、護衛に最適な位置へと向かう。
その時、遺跡を一陣の風が吹き抜けていく。こちらの身を切り裂くような旋風に思わず目を閉じ、再び開いたときには
鮮やかな緑の鱗を持つ飛竜の群れが、遺跡の上を占拠していた。
「動く石像の次は海中を飛ぶ飛竜かよ、あれも魔法だか魔術なのか?」
セイレーンたちは海中を軽やかに動き、魔術で対抗しているが飛竜の群れは意にも介さず、好き勝手に暴れているようだ。
どうやら飛竜側にも何らかの魔術がかけられているのかもしれないが……

210 :
>「おう、おっさんにおっさんと言われたくはないわい。
3つのジャンか。ジャリーン、ジャンクボフ、ジャレコネン、それもドワーフ界では屈指の英雄よ」
お前さんもドワーフに負けぬよう励めむのだぞ」
「ジャン殿は“おっさんキャラ”であって”おっさん”ではないぞ。
まあ外見で年齢が推測できる種族なんぞ人間ぐらいのものだろう」
人間以外の種族の場合、年食っても外見若いままだったり逆に若い時からおっさんに見える場合が多い。
ちなみにおっさんキャラとは実年齢に拘わらず外見性格共に頼れるアニキと認められる者だけに贈られる称号なのである。
某ドラゴンの名を冠する伝承では20代前半にして公式におっさんキャラと認められた猛者も存在するそうな。
>「ふん、エルフなんぞに言われなくとも掘る。掘るのがドワーフの生業なんでな。
竜に何も考えずに突っ込むほど愚かな種族でもないわい。それよりワシの一族にはこういう言い伝えがある。
『ドワーフのハンマーは面白いほどエルフの肉に食い込む』とな」
「それは奇遇だな。こちらには『エルフの魔術でドワーフは面白いほどよく焼ける』という諺があるぞ」
応戦しながらもどこか楽しげなティターニア。
これらはエルフは物理攻撃に弱くドワーフは魔術攻撃に弱いというそれぞれの弱点を表しているものでもある。
>「指輪をくれ、とは言わん。だが、烏合の衆に過ぎん、というのは半分以上は正解だ。
ワシらはいがみ合っているんでな。恐らくエルフが指輪を取れば、ドワーフが殺してでも奪い取るだろう。
もしワシらの誰かにそいつを渡したいなら、こっちのでかいの、ジャンに預けておくんだな。ところで……」
「うむ、我らはいがみあっているのでな。ただし殺してでも奪い取るというのは穏やかではない。
今風に表現するなら”力尽くで奪う!”になるだろう。やることは変わらぬがな」
実際問題、それぞれ物理と魔術に弱いティターニアやマジャーリンより、全般的に屈強なジャンに持たせておくのが得策かもしれない。
「そこはかとなく”俺が俺がどうぞどうぞ“みたいな空気が漂ってるのは何だろう……いやまあ奪い合いされるよりはいいけど」
>「何か困っていることはないかね? 交換条件だ。その代わりにそちらが持っている財宝を一部頂くということでな。
すまんね。ワシはドワーフのマジャーリンだ。こいつらの世話をしている。ワシらもタダでやっとる訳じゃあない。」
今回は指環はこのまま貰えるようだが、マジャーリンが財宝が欲しいということで交換条件を持ちかけ
アクアがそれに応える形で何故かアクアのお悩み相談が始まった。

211 :
「ふむ、昔の友達が豹変して嫌がらせを繰り返すと……。我の独断と偏見による統計上それは十中八九良からぬ宗教にはまっておるぞ。
大体友情が崩壊する原因というのは1に宗教2にお金、3,4がなくて5に痴話喧嘩……というのは置いといて
邪神か何かに操られている可能性は多いに有り得るであろうな」
もしかしたら昔古竜が乱心したのも何者かに操られた結果で、その魔の手がウェントゥスにまで伸びたという可能性もある。
話が終わったところで戻ってきたジャンに、指環が渡されることになった。
鎖を通して首にかけられる状態になっている。
「あ、なんかキミに渡すように言われたから……。時が来るまでは指にはめたらいけないよ。
例の魔術師はきっと発動した指環の力を感知して現れたんだろう。また同じように奪われたらいけないからね。
それと食べたり尻の穴に入れるのも駄目だ」
>「敵か!」 
「アクア様――緑竜の一団です!」
壮麗な三叉の鉾を構えたクイーンの報告。指環の取扱説明を受けたところで、噂をすれば早速来たようだ。
>「結局戦うみてえだな…おっさん、荷物は持っとけよ」
結局おっさん呼び続行なんだ、とどうでもいいことを思いつつ戦闘態勢に入る。
開けた場所に出ると、頭上を緑竜の群れが占拠していた。
「頭上の奴らは一掃しようぞ。皆はすでに入り込んだ輩の各個撃破を頼む。
――メイルシュトローム」
水面近くで、大渦巻が巻き起こる。
巻き込まれた竜達は猛スピードでぐるぐる回り、気絶して水面に浮かんでいった。
>「動く石像の次は海中を飛ぶ飛竜かよ、あれも魔法だか魔術なのか?」
「まあ……物理法則を超越した何かという意味では間違いなくそうだな……」
そんな中、戦いの悲鳴や雄叫びに交じって黄色い歓声が聞こえてきたような気がした。
嫌な予感がしたティターニアがそちらを見てみると案の定――
銀髪長髪のイケメン魔術師が飛竜の背に乗って舞い降りるところであった。

212 :
「やはり現れおったか……飛竜の背に乗って登場とか無駄に絵になって腹立つわ!」
ウェントゥスの一派と手を組んでいるのか、力尽くで適当な飛竜に便乗してどさくさに紛れて乱入してきただけなのかは分からない。
何せ彼は世の大多数を占める悪役のように無駄なお喋りをしてくれないのである。
>「――――白銀の槍(アルゲントゥム・ランケア)」
セイレーン達の黄色い歓声もティターニアの軽口も完全スルーで、澄ました顔で一言だけ呪文を紡ぐ。
ちなみに効果としては「一瞬で相手を凍結させて相手は死ぬ」という典型的過ぎるチート技だが……
アクアに向かって放たれた無数の氷の槍は、突き刺さると思われた直前に水の中に溶けて消えた。
「イグニスの時のようにはいかないよ――水は氷を包括する概念だ。
奴は四星竜の中でもは最弱……は冗談として炎と氷で相性が悪かったんだろうね。
そしてお得意の鏡の世界(スペクルム・オルビス)≠ヘ水の揺らぎのせいでここでは使えまい」
青い竜の翼を持つ青年の姿と化したアクアが迎え撃つ様子。それに対してジュリアンは……
「来い――デーモンナイト。おそらくあの3人のうちの誰かが指環を持っているはずだ。分からなければ全員のしておけ」
空間の狭間から漆黒の甲冑大男が現れる。毎度おなじみジュリアンの腰巾着、悪魔の騎士である。
流石に少々面倒だと思ったのだろう、悪魔の騎士にこちらの前衛の相手をさせる算段のようだ。
アクアが予測したとおり、指環の力を発動しなければどこにあるか感知できないらしいことをが伺える。
「ここはボクに任せて行くんだ! クイーン、彼らを地上まで転送してくれ!」
「分かりました――皆さん、私の転移の歌が発動するまでなんとか持ちこたえてください!」
そう言うと、クイーンは歌い始めた。
属性上の有利と地の利がある事を差し引いて尚勝てない相手である事を悟ったアクアは、
指環の勇者を逃がして自分は出来る限り時間稼ぎをする事を選択したのだろう。
悪魔の騎士が巨大な剣を携え向かってくる。
「――ストーンガード」
目的が相手を倒す事ではなく持ち堪えることなら――というわけで、ティターニアは防御力上昇に特化した補助魔術をジャンとマジャーリンにかける。
その直後、前衛二人を一太刀にして一掃せんと、悪魔の騎士の巨大な剣が横薙ぎにはらわれた。

213 :
>「結局戦うみてえだな…おっさん、荷物は持っとけよ」
>「動く石像の次は海中を飛ぶ飛竜かよ、あれも魔法だか魔術なのか?」
どうやらステラマリス側に攻め入ったのは緑色の鱗を持つ飛竜の群れだった。
「だからお前に言われんでも持っとるわい。ドワーフというものは死んでもリュックは放さんのでな。
どうやら風属性の敵のようだな。とはいえ、ワシにはどうしたものか」
ティターニアやジャンと、文字通り背中合わせになると、ティターニアは言った。
>「ふむ、昔の友達が豹変して嫌がらせを繰り返すと……。我の独断と偏見による統計上それは十中八九良からぬ宗教にはまっておるぞ。
大体友情が崩壊する原因というのは1に宗教2にお金、3,4がなくて5に痴話喧嘩……というのは置いといて
邪神か何かに操られている可能性は多いに有り得るであろうな」
「やはりな」
勿論適当に相槌を打っているだけだ。多くのドワーフは戦ってなんぼの種族だが、
負けを絶対に認めようとはしない。
>「アクア様――緑竜の一団です!」
セイレーンの報告に頷いたアクアは、指揮を執りはじめた。
しかし、敵の飛竜は多勢であり、マジャーリンら3人が戦力として期待されている。

214 :
>「頭上の奴らは一掃しようぞ。皆はすでに入り込んだ輩の各個撃破を頼む。
――メイルシュトローム」
ティターニアが魔術を放つと、飛竜の数体が巻き添えになり気絶した。
どうやらどっしり構えているだけで良さそうだ、とマジャーリンは思った。
しかし――
そこに現れてたのは銀髪の長髪を靡かせた美形の魔術師。
飛竜の背にいることから、こいつが親玉で間違いないだろう。
>「来い――デーモンナイト。おそらくあの3人のうちの誰かが指環を持っているはずだ。分からなければ全員のしておけ」
「ふん、指環の持ち主も分からんとは、浅知恵め……!!」
マジャーリンは悪魔騎士を操る相手――ジュリアンを罵れるだけ罵った。

セイレーンの歌声が響き、ティターニアの防護魔法がかかる。こちらに有利なフィールドだ。
マジャーリンはジャンが指環を持っていることを確認すると、
ドワーフとは思えぬスピードで悪魔騎士の横薙ぎの一撃を横っ飛びにかわす。
ザックリとステラマリスの壁が割れ、轟音を立てて一部が崩れ落ちた。
「これでも食らえ!!」
素早く振り上げられたマジャーリンのハンマーは先手を打って悪魔騎士の巨大な剣に食い込み、グググとその進撃を妨害した。
力なら悪魔騎士が優るが、武器の形状や材質ではこちらが上だ。
引き摺られながらも両手に持ったハンマーを一瞬だけ片手に持ち帰ると、ドワーフの奥の手とも言われている、
サッチェルチャージ(爆薬)を懐から取り出し、口で着火をすると、短い脚で思い切り蹴り上げて悪魔騎士の腹部で炸裂させた。
――グォォォォ……
悪魔騎士がひるむ。だいぶ時間は稼げているようだ。
「さぁジャン、なるべくその男から離れるのだ。ティターニアよ、このままで良いのか?
このドワーフのマジャーリンが一番活躍しておるのだぞ……!」
転移魔法まではすぐだろう。マジャーリンは念を入れてジャンに活を入れ、
ティターニアを煽った。

215 :
>「あ、なんかキミに渡すように言われたから……。時が来るまでは指にはめたらいけないよ。
例の魔術師はきっと発動した指環の力を感知して現れたんだろう。また同じように奪われたらいけないからね。
それと食べたり尻の穴に入れるのも駄目だ」
「うっかり食べてどえらいことになった奴を知ってる、つまり体の中に入れるなってんだろう。
 俺が欲しいのは指環の力なんてあやふやなもんじゃねえ、神話の遺物を揃えたって名誉さ」
そうアクアに語ると、ジャンは指環に通された鎖を首にかけた。
触れているだけでも指環に秘められた力が伝わってくるのが分かるが、ジャンとしては
そんな力は学者にでも任せてしまえと思っている。
――そして飛竜との戦闘が始まった今、ジャンは指環を預けられたことをかなり後悔していた。
>「来い――デーモンナイト。おそらくあの3人のうちの誰かが指環を持っているはずだ。分からなければ全員のしておけ」
>「ここはボクに任せて行くんだ! クイーン、彼らを地上まで転送してくれ!」
>「分かりました――皆さん、私の転移の歌が発動するまでなんとか持ちこたえてください!」
ただの飛竜の群れならば、ティターニアが適当な大魔術で薙ぎ払い、ジャンとマジャーリンで守って終わりだっただろう。
しかし今は、例の宮廷魔術師がどうやって嗅ぎつけたのか飛竜に乗って優雅に登場してきた。
いくらアクアとクイーンが脱出を援護してくれるとはいえ、あのアルバートを一蹴した悪魔の騎士まで出てきては分が悪いどころではない。
今はまだ指環を誰が持っているか分からないようだが、気づかれる前にとっとと指環を放り投げたい気分だった。
>「ふん、指環の持ち主も分からんとは、浅知恵め……!!」
「お、お得意の魔術でどうにかしてみろってんだ!もっと言ってやれおっさん!」
二人で煽っている間に槍から斧に持ち替え、こっそりと指環を腰の革袋にしまう。
これで戦闘中、いきなり掴まれて取られるということはないはずだ。
そして悪魔の騎士が繰り出す、横薙ぎの一撃をジャンは後ろに引いて避けた。
横に回り込んだマジャーリンはハンマーと爆薬を文字通り打ち込み、強烈な一撃を悪魔の騎士へと与える。
>「さぁジャン、なるべくその男から離れるのだ。ティターニアよ、このままで良いのか?
このドワーフのマジャーリンが一番活躍しておるのだぞ……!」
「離れろって言われてもよぉ……やっこさん、まだやる気みたいだぜ」
マジャーリンの爆薬によってできた爆風と煙、巻き上げられた海底の土砂が悪魔の騎士の大剣によって一瞬で払われる。
見れば腹部の鎧にはわずかにヒビが入っているが、悪魔の騎士はそれをかばうように、大剣を両手に持ちまっすぐに構えた。
二人をただの障害物ではなく、油断なく戦うべき敵として認識したようだ。
ジャンもそれに応えるように、斧を両手に持って構える。やがてジャンが鋭い踏み込みと同時に斧を思い切り振り下ろすと、
悪魔の騎士も合わせて振り上げる。一撃一撃が重く鈍い音を響かせながら、壮絶な立ち合いが始まった。
そしてその立ち合いの中で、ジャンは一つの事実に気がついた。
(……こいつ、アルバートと戦った時より動きが鈍い!)
あの宮廷魔術師にRなとでも言われているのか、先ほどよりは動きが早く、単純ではないとはいえ
明らかに殺意があまり感じられない動きだ。もちろんティターニアの補助魔術によって
こちらがあまり防御を考えずに動けるというのもあるが、それでもまともに打ち合えている。
(時間を稼いで困るのはあっちの方だろう…?何を考えていやがる!?)
したたかに打ち据えてくる大剣を斧で必死にさばきながら、ジャンはこの行動の意図をひたすらに考えていた。

216 :
>「ふん、指環の持ち主も分からんとは、浅知恵め……!!」
>「お、お得意の魔術でどうにかしてみろってんだ!もっと言ってやれおっさん!」
マジャーリンとジャンが揃ってジュリアンを煽るが、そこは何といっても氷の魔術師。
全く意に介さない様子で、アクアに宣戦布告する。
「さて――悪いが貴様には死んでもらわねばならない。――アブソリュートゼロ」
「うん、知ってる――ただし簡単には死んでやるものか。――ハイドロプレス」
ジュリアンのバナナで釘を打つどころではない絶対零度の冷気に対し、アクアはカエルも思わず平面になる程の超水圧で押しつぶしにかかる。
こうして、氷の魔術師と水竜の化身の地味に凶悪な大魔術合戦の火蓋が切って落とされた。
見た目に華やかなド派手な魔術を使わないのは、御一行を巻き込んではいけないからである。
一方、マジャーリンとジャンは悪魔騎士の初撃を難なくよけ、マジャーリンが爆薬を炸裂させる。
>「さぁジャン、なるべくその男から離れるのだ。ティターニアよ、このままで良いのか?
このドワーフのマジャーリンが一番活躍しておるのだぞ……!」
「おお、それはいかんな――エーテルストライク」
前線で互角に打ち合うジャンに加勢し、攻撃魔術を撃ちこむ。
濃縮されたエネルギー球が炸裂し、明らかに後ずさりひるんだ様子を見せた。
ここにきてティターニアも気付く。――なんか前より弱くね!?
理由は何であれとりあえずラッキーだ。このまま押し切ろう、そう思った時だった。
アクアとの戦いにかかりっきりだと思われていたジュリアンが突然干渉してきた。
「よくやった、もう十分だ――下がれ。――――闇の鎖(テネブラエ・カテーナ)」
悪魔騎士は空間の狭間に引っ込められ、無数の黒い鎖がジャンの四肢を縛り拘束する。
相手が巨乳娘でもごついハーフオークでもとりあえず拘束するのは一緒らしい。
いやそんな事はどうでもいいのであって……
「何故分かった――!?」
おそらく、こちらの全体的な雰囲気や微妙な視線の動きなどから見当をつけたのであろう。
それだけでも凄いが、更に凄いのはこちらを観察する余裕がある程にアクアとの戦いを片手間でこなしているというのか。
ジュリアンは音もなくジャンの眼前に転移し、道具袋に杖を持っていない方の手を伸ばす。

217 :
「――させぬ! おりゃああああああああああ!!」
ティターニアは何故かとっさに後頭部めがけて魔導書の角で殴り掛かった。
何故強敵相手に突然コントのような行為に及んだのかは、瞬時に一番マシな悪あがきを弾きだしたとも、必死すぎて意味不明な行動を取っただけとも考えられる。
ジュリアンは無言のまま道具袋に向かって伸ばしかけた手を上にあげてハエでも払うように払いのけた。
ただそれだけなのだが……一瞬だけ時間が稼げたとも言えるだろう。
「――ルーンロープ」
更にその掲げた手に、アクアが魔力のロープを巻き付け、後ろに引っ張る。
「貴様ら――ふざけるのも大概にしろ」
ジュリアンは流石に地味な悪あがきのオンパレードにうんざりした様子でルーンロープを振りほどき、今度こそ指環に手を伸ばす。
しかし伸ばしたその手は僅か数尺足りず――ジャン達は眩い光に包まれその場から掻き消えた。
間一髪でクイーンの転移の歌が発動したのだ。
「皆さん、ありがとうございました。ご恩は忘れません」
「ウェントゥスはあんな状況だからね、まずはテッラの元に急ぐんだ!
あいつはボクやイグニスと違ってとても堅実だから、必ずや力になってくれるだろう。
ああ、ボクの事は気にしなくていい。言ったろう? 指環が本体だって。
声は聞こえずともボクは君達と共にある――時が来たらまた会おう!」
転移中の空間の狭間の中で、ティターニアはジュリアンの行動について考えていた。
明らかにこちらを殺さないように手加減している。
その割には昔のお友達をサクッと殺した前科があるようだが……。
――たとえ反逆者の誹りを受けようとも、俺には成さなければならないことがある。それだけだ
「あやつ―― 一体何を知っておる? 友を手にかけてまで成さなければならぬこととは何だ……?」
現時点で考えられる仮説としては、彼はあれ程の強大な力を持っていながらも自力では遺跡の結界を突破できない(と思っている)ので
こちらに元気に泳いでおいてもらわないと困る、といったところだろう。
「ところでジャン殿、ダーマの地下大書庫がどうとか言っておったな。
あれは半端ないらしいぞ。一説によると一体地下何層まであるのか誰も知らないらしい。
誰もたどり着けないはずの最深部には世界の全てが刻まれた書があるとかないとかいう都市伝説が
魔術師の間ではまことしやかに囁かれておってな……」
そんなことを言っているうちに、気付けばカルディアの港に立っていた。

218 :
【丁度こちらが多忙になってきているので、アルダガさん、
良ければこのあたりで入ってみませんか? 待ちます。】

219 :
(了解です
この休みを使って書きます)

220 :
(すみませんもうちょいかかります)

221 :
>>220
トリップ使って発言してもらえる?
PLはこのへん容赦なく判断してね

222 :
>>221
あなたの言うとおりだ
今日中には投下します

223 :
カルディアの港町で、黒鳥騎士・アルダガは遅めの昼食を摂っていた。
大陸の玄関口でもあるこの街には様々な地方から食糧が集まる天下の台所だ。
ここカルディアの名物も、そういった各所の野菜や穀物と地元で穫れる魚を組み合わせた料理だった。
「視線が痛いです……」
山菜とタラの煮込みにスプーンを入れながらアルダガは小さく溜息をついた。
地元の英雄・エドガーをその手で誅殺したアルダガを見る民衆の目に好意の色はない。
狂戦士化ゆえに致し方ないことだとは理解していても、感情まで完全に追従できてはいないのだ。
店で注文すればちゃんと食事は出てくるが、アルダガの周囲に座る者はなく店内に彼女を中心とした空洞が生まれている。
しかし弱音など吐いてはいられないしその必要もない。
アルダガの帯びた使命は、教会を裏切ったエドガーの粛清だけではなく――もう一つ重大なものがある。
皇帝より仰せつかったのは古竜にまつわる非常に重要なアイテム、『指環』の捜索。
本来はこれはアルダガの仕事ではなく、同じ黒騎士の一人である黒竜騎士アルバートに任じられたものだった。
しかしカバンコウでの定期連絡を最後にアルバートからの音信が途絶え、消息が不明となってしまった。
業を煮やした帝国元老院は、余人の代わりに別件で近所を彷徨いていたアルダガへと任務の引き継ぎを命じたのだ。
帝国の誇る最大戦力にして武の象徴・七黒騎士と言えども一枚岩ではない。
より正確には、黒騎士の裏で糸を引いているのはそれぞれ別の政治家であり、彼らは身内同士で権力闘争の最中である。
皇帝直々に勅命を受けたアルバートの旅路は、その成否の如何で帝国上層部のパワーバランスを大きく変動させうるもの。
しからばどんな形でも一枚噛んでおこうという考えは無理のないものであった。
うまくすれば、アルバートの手柄を横からかっさらえるかもしれない……それがアルダガのパトロンの目論見だった。
「隠形院が出した支援用の使い魔が最後にアルバート殿を観測した場所がこのカルディア。
 エドガー叔父様との交戦に巻き込まれて使い魔は潰れてしまったけど、徴用船が出港した形跡もなし。
 それなら、アルバート殿はいまもこの街のどこかにいるということですよね」
アルバートの足取りは自由都市カルディアで途絶えた。
内地の人間がカルディアに立ち寄る用事など、海路をいずこかへと向かう為以外にない。
彼がどんな理由で音信を絶ったかは不明であるが、港で網を張っていれば必ず見つけられるはずだ。
生きていれば、の話だが。
「……歌?」
港に面した食事処のオープンテラスに座っていたアルダガは、微かな音律を耳にした。
目に見えない魔力の「うねり」を伴うそれは、歌を媒介にした魔術の兆候だ。
やおら席を立ち、気配を感じる方向へと顔を出す。
埠頭の方で大気がゆらぎ、おぼろげな輪郭をかたちづくり始めた。
「これは……転移魔術!」
やがて輪郭は鮮明になり、転送されてきた者の姿を詳細に造り出す。
歌と共に現れたのは三つの人影だった。
眼鏡をかけた女と、背の低い髭面の男、そして強面の大男。
うち女と大男については使い魔の送ってきた人相の情報と一致した。
アルバートに同行していた四人の男女の中の二人だ。
「これはセイレーンの歌唱魔術……ということは今まで海底に?
 しかし、アルバート殿が一緒でないのはどういうことでしょう」
疑問するまでもない。何かがあったのだ。
アルダガは机に立てかけていた長尺メイスを掴み、その握りを確かめながらテラスを飛び出した。
転移したばかりの三人へ向かって、メイスを引きずりながら歩み寄っていく。
「あのー……すみません。拙僧はアルダガ・バフナグリーと申します。帝国から派遣された騎士の一人なのですが……。
 あなたがたは、アルバート殿の御一行かとお見受けします。アルバート殿ご本人はどこへ?」
<三人に話しかける。アルバートの所在を尋ねる>

224 :
>>223
とりあえず
スリーサイズ教えてクレクレ
キャラのイメージが掴めない

225 :
アルダガ
ttp://omc.charaket.jp/upload/save_image/8160_0_7624_characterbasic.png
ttp://tappli.org/images/News/News_4dGZ5fRQ8bjMYHhjY1zAKqJgVewSfIaM8xbXHVPpEB7zSDsmF5x1VeswfZIgRkAd_2.jpg?nc=20141027213914
マジャーリン
ttp://i.gzn.jp/img/2012/09/20/hobbit-an-unexpected-journey/06.jpg
ttp://yopitore.info/wp-content/uploads/2015/06/mini070503-5.jpg

226 :
>>225
アルダガは上でいいや
マジャーリンはドワーフのドワーフ王さんじゃ背が高過ぎだろ
下でいいよ

227 :
>>225
おー実にそれっぽい

228 :
>「皆さん、ありがとうございました。ご恩は忘れません」
>「ウェントゥスはあんな状況だからね、まずはテッラの元に急ぐんだ!
あいつはボクやイグニスと違ってとても堅実だから、必ずや力になってくれるだろう。
ああ、ボクの事は気にしなくていい。言ったろう? 指環が本体だって。
声は聞こえずともボクは君達と共にある――時が来たらまた会おう!」
その間も悪魔騎士は暴れ続け、視界がぼやける中、アクアやクィーンのすぐ近くにいるセイレーンが
首を吹き飛ばされ絶命していた。今後のステラマリスも心配だが、もはや自分たちの使命を優先する他あるまい。
「すまんの。ではワシらは先に行くでな。また会えるのを楽しみにしておる」
その言葉が途中で途切れ、気が付くとマジャーリンは見慣れたカルディアの港に立っていた。
嫌になるほど密着した状態でティターニアとジャンが立っている。
すぐにその場を離れ、手足をパンパンと叩くと、あたりの様子を伺った。
――と、目の前から人間の女―アルダガが現れた。
黒いローブにブロンドのお下げに細身の体は清楚さを匂わせている。
しかし、彼女はそれに似合わぬほどの長いメイスを引きずっている。
話しかけ易い雰囲気とは裏腹に異様だ。
>「あのー……すみません。拙僧はアルダガ・バフナグリーと申します。帝国から派遣された騎士の一人なのですが……。
 あなたがたは、アルバート殿の御一行かとお見受けします。アルバート殿ご本人はどこへ?」
騎士、と聞いてマジャーリンはビクリとした。その外見からはとても騎士には見えない。
アルバートといえば、黒竜騎士のアルバートだろうか。名前なら聞いたことがある。
と、丁度視界に入る裏通りの方を見る。
先ほどの市街を巻き込んだ激しい戦闘の片付けでも行っているのだろう。
カルディアの警備隊らしき男たちがあちこちで味方の手当てや敵の捕縛、そして
街の被害状況を確認してメモを取っている。
その中で、マジャーリンの視界に入ったのは横たわる漆黒の板金鎧だった。
それは重厚な作りをしており、近くには巨大な剣も置いてある。
そして、フードのような服装と腕輪も落ちていた。
かつて人が入っていたような雰囲気だが、周囲に転がっている死体は武装しており、
明らかに彼らのものではないだろう。
警備隊の男たちはそれらを回収しようとしているが、どうやら鎧と剣が予想以上に重いらしく、
難航していると見える。
鎧と剣の双方ともに竜の装飾が入り、かなりの価値のあるものだということが分かる。
「黒竜騎士……か。 もしや、あの路地の鎧がそのアルバートという男のものではないかな?」
転がったアルバートの鎧を指し、マジャーリンがアルダガに伝える。
と、自己紹介を忘れていた。
「あぁ、ワシはドワーフの戦士マジャーリンよ。好物はビア。こいつらがワシの部下の
ジャンと、何となく付いてきた学者ぶっているエルフのティターニアだ。よろしくな。金になるのなら
雇われてやってもいい。ところで……」
まるで自分が一番偉いかのように自己紹介をし、ジャンの持っている指環について言及しようとしたところで
逡巡し、結局言うのを止めた。アルダガも路地の鎧の方に釘付けになっており、丁度都合も良い。

229 :
と、その時近くの屋根の方で人の気配がした。
飛来するナイフをマジャーリンは素早くかわし、そちらに目を向ける。
気がつくと十人くらいの敵が両側の屋根の上におり、自信満々にこちらを取り囲む。
「まだ生き残りがいたか」「女もいるようだ、こいつらも殺るのか?」 
「構わん、殺してしまえ」
そういったやり取りがなされた後、問答無用で飛び掛ってくる。
どうやら刺青は無いようで、別の勢力のようだ。アルダガの敵か、ティターニアの敵か、ジャンの敵か?
それすら分からぬまま、マジャーリンはすぐに味方から離れると、ハンマーを構え、最初の敵に突撃した。
「ぬぉりゃぁぁ!!」
その攻撃はあっさりとかわされるが、後ろからの攻撃を受けると同時に回転し、
マジャーリンのハンマーは敵の武器を粉々に砕き、さらにその肉体に獲物を食い込ませて一気に内臓ごと潰した。
グァァ、という潰れた悲鳴とともに周囲がざわつく。既に隣でも戦闘が行われているが、マジャーリンにその余裕は無かった。
「任せろ、ドワーフ無双よ。ティターニアごときにはまだ負けん!」
ティターニアの防護魔法などを受ける間もなく次の敵にかかっていく。
次の攻撃を全身で受ける。体に敵のソード・ブレイカーが食い込んでいくのが分かった。
飛来するチャクラムを口で受け、そのままハンマーを振り回して次の敵のわき腹を抉る。
恐らくどこかの組織の暗殺部隊だろう。
二人目が絶命し、怯んだところで、敵が集まった。チャンスだ。
「ドワーフの秘儀、サッチェルチャージを食らえ!!」
懐に忍ばせた強力な爆薬に火を付けると、背中に食らいつく敵と、正面から斬りかかってきた敵、そして横から回り込む敵の動きを読み、
素早く点火の動作をする。が……
(しまった、火薬が体から離れん……!)
敵が一気に間合いを詰め、マジャーリンに肉薄する。
ギュゥゥウウウウウン……!!
マジャーリンは確かに爆発音を聞いた。こんな音は初めてだった。理由は簡単だ。
――自分の視界に映ったのは、頭のないマジャーリンの肉体だった。
マジャーリンは爆発で頭を吹き飛ばされたのだ。徐々に意識が薄れていく。
サッチェルチャージの爆発に巻き込まれ、さらに三人の敵が肉片になる。合計で五人の敵を殺害した。
しかし、敵の所属や目的を聞きだすことは、彼の生涯では敵わなかった。
自分の防具や道具、リュック、敵の武器や防具も破片となり、肉片とともに宙に舞っていったが、
彼のハンマーだけはさすがミスリル製、弧を描き街中の壁へと突き刺さった。
(これがワシよ。ドワーフの戦いぶりよ。ジャン、ティターニアよ、後は頼んだ……
しかし、最後にビアを飲みたかったものだ。お前たちとな……)
マジャーリンは騎士アルダガとの出会いの直後、思いがけない形でその生涯を散らせた。

【マジャーリン死亡。敵の所属・目的については、後は任せた】
【――― Good Luck.(良い送りバントになったぜ)

230 :
【>マジャーリンェ…殿
ひとまずお疲れ様であった、一瞬ではあったが喧嘩友達みたいでなかなか楽しかったぞ。
そなたは犠牲になったのだ、古くから続く送りバントポジションの伝統、その犠牲にな・・・
とはいえリアルが忙しくなってきたのも無関係ではないと勝手に察した。
これから寒くなってくるゆえ風邪などひかぬよう気を付けるのだ。
また入りたくなった時は変換受けもアリなので「実はあれは幻影だったのさ!」と颯爽と登場してもいいし(!?
流石に無理があれば別キャラででもいいのでいつでも歓迎しようぞ】

231 :
>「よくやった、もう十分だ――下がれ。――――闇の鎖(テネブラエ・カテーナ)」
「――てめぇっ!狙いはこっちだったな!」
斧を振り上げた瞬間を狙って放たれた鎖は、ジャンを完全に拘束してしまった。
例の騎士は空間に開いた切れ目に消え、見事に策にハメられた形となる。
「くそっ!袋に触っても大したもんは入ってねえぞ!財布なら逆の袋だからな!」
動けば動くほど肉に食い込んでくる鎖をわずかに動かし、必死に指環を入れた袋に
手出しさせまいとジャンは叫ぶ。だがジュリアンはジャンの罵倒を意にも介さず、どうやって見分けたのか
指環を入れた袋に手を伸ばしかけたその瞬間、ティターニアとアクアが動いた。
>「――させぬ! おりゃああああああああああ!!」
>「――ルーンロープ」
二人の見事な無言の連携によって、稼がれる数秒の時間。
ジュリアンにとっては児戯にも等しいもののようだが、最後の詰めとしてはこれで十分だった。
>「皆さん、ありがとうございました。ご恩は忘れません」
>「ウェントゥスはあんな状況だからね、まずはテッラの元に急ぐんだ!
あいつはボクやイグニスと違ってとても堅実だから、必ずや力になってくれるだろう。
ああ、ボクの事は気にしなくていい。言ったろう? 指環が本体だって。
声は聞こえずともボクは君達と共にある――時が来たらまた会おう!」
二人の声と共に、視界が閃光で埋まる。思わず閉じた目をジャンが開いた時には、
既に転移魔法特有の空間の狭間の中に三人はいた。
>「ところでジャン殿、ダーマの地下大書庫がどうとか言っておったな。
「そんなに深いのかよ、そこまで規模が大きいなら大書庫の上に宮殿を建てたって感じだな」

232 :
そこからしばらく話していると、カルディアの港に三人は立っていた。
辺りを見回してみれば、あの襲撃からそれほど時間は経っていないようだ。
建物の残骸や怪我人が集まるテントがまだ残っていて、近くの食堂が怪我人のために配給を始めている。
どうやら無事に戻ってこられたようだが、食堂から長尺メイスを引きずって一人の女性がやってきた。
>「あのー……すみません。拙僧はアルダガ・バフナグリーと申します。帝国から派遣された騎士の一人なのですが……。
 あなたがたは、アルバート殿の御一行かとお見受けします。アルバート殿ご本人はどこへ?」
黒いローブ、見た目に似合わぬメイスの大きさ、そして自分から名乗った帝国騎士。
明らかにアルバートと同じ、帝国の象徴たるべき戦力である黒騎士の一人だとジャンは判断した。
「アルバートは少し前にはぐれちまってな…その後津波が来ちまって分からねえんだ」
>「黒竜騎士……か。 もしや、あの路地の鎧がそのアルバートという男のものではないかな?」
と、マジャーリンが路地裏に転がっていた鎧を見つけた。アルバートが装備していたあの真っ黒な鎧と、
その隣にはコインが着ていたフード付きのマントだ。
どうして服だけが残っているのかは分からないが、死体がない以上はまだ生きているかもしれない。
あの二人ならば、裸でもそこらへんの山賊には負けないだろう。
「……名乗り忘れてたな。俺はハーフオークのジャン。こっちの偉そうなおっさんがドワーフのマジャーリン、
 そっちの金払いのいいエルフがティターニアって名前だ」
そこからしばらく自己紹介と情報交換を続け、ふと妙な視線を感じた。
視線の主を探ってみれば、フードと布で目元以外を覆った奇妙な人間たちがこちらを屋根上から見ている。
いかにも表には出てこないような、どうにも怪しい連中だ。
彼らはくぐもった声や目くばせでやり取りをしたのか、各々武器を構えてこちらへといきなり飛びかかってきた。
「今度はどこの手先だよ!いい加減疲れてるって時によ!」
組み付いてきた一人を頭突きで怯ませ、顎を手斧で殴って黙らせる。
腕はそこそこだが、白昼堂々と襲ってくる辺り頭はないようだ。
「こんな奴らに首くれてやるこたあねえぜ!とっととぶちのめそうや!」
そう言ってマジャーリンの方を振り向いた瞬間、辺りを爆風が吹き抜けた。
爆薬を使う前に近づかれたのかマジャーリンの肉体が敵を巻き込んで吹き飛び、
ミスリル・ハンマーだけが原型をとどめて壁へと突き刺さった。
「――てめぇらっ!」
形見となったミスリル・ハンマーを壁から引き抜き、鬼の形相で残った数人を睨みつける。
ドワーフとほぼ変わりない膂力を持つジャンにとって、ミスリル・ハンマーを振り回すことは造作もないことだった。
【マジャーリンさんお疲れ様でした!
 こちらも軽口のやりとりを考えるのはとても面白かったです】

233 :
>「あのー……すみません。拙僧はアルダガ・バフナグリーと申します。帝国から派遣された騎士の一人なのですが……。
 あなたがたは、アルバート殿の御一行かとお見受けします。アルバート殿ご本人はどこへ?」
不意に話しかけてきたのはまだ少女の面影が残るほどの若い女性。
その真っ黒オサレファッションは修道女のように見えなくもないが、アルバートを探していること
そして大きなメイスと帝国騎士という事から鑑みても、おそらく彼女も黒騎士の一人なのだろう。
体格は華奢ではあるが、自らを神聖魔術で強化して戦うタイプの神官戦士であれば全く侮る理由にはならない。
>「アルバートは少し前にはぐれちまってな…その後津波が来ちまって分からねえんだ」
>「黒竜騎士……か。 もしや、あの路地の鎧がそのアルバートという男のものではないかな?」
見れば確かにアルバートが来ていた鎧とコインがかぶっていたマント。
本人達は忽然と姿を消し装備品だけが綺麗に残っているという不可解な事態。
それだけなら敵の目を誤魔化すため等に脱いで逃走したとも考えられるが
特筆すべきはコインの腕輪――あれはおいそれと外せるものではなかったはずだ。
「我々の知らぬ勢力が暗躍しておるのかもしれぬな……」
>「あぁ、ワシはドワーフの戦士マジャーリンよ。好物はビア。こいつらがワシの部下の
ジャンと、何となく付いてきた学者ぶっているエルフのティターニアだ。よろしくな。金になるのなら
雇われてやってもいい。ところで……」
>「……名乗り忘れてたな。俺はハーフオークのジャン。こっちの偉そうなおっさんがドワーフのマジャーリン、
 そっちの金払いのいいエルフがティターニアって名前だ」
「うむ、大体そんな感じだ」
>「まだ生き残りがいたか」「女もいるようだ、こいつらも殺るのか?」「構わん、殺してしまえ」
暗殺者集団といった体の敵が突然襲い掛かってきた。
「――エーテルストライク」
飛びかかってきた敵を難なく魔術で吹き飛ばして地面にたたきつける。
>「任せろ、ドワーフ無双よ。ティターニアごときにはまだ負けん!」
真っ先に単身突撃していくマジャーリン。
つい最近も単身猪突猛進で消息不明になった人がいたような……(それも複数)
大体孤軍奮闘の大活躍は死亡フラグだと相場が決まっている。
「マジャーリン殿、あまり無茶は……」
嫌な予感がして制止した時には遅かった。
マジャーリンは自らが巻き起こした爆発で木端微塵に吹き飛ばされた。
流石のティターニアもこれには暫し呆然とする。
いつもは温厚なジャンが鬼の形相でミスリルハンマーを引き抜いて凄んだ。

234 :
>「――てめぇらっ!」
「――ファイアウェポン。やってしまおうぞ。弔い合戦だ」
ティターニアは表面上の表情こそ大きく変えないものの、静かな怒りをにじませながら武器強化の魔術を唱える。
ジャンの手にしたハンマーが真っ赤に燃え上がる。
特殊な素材であるミスリルは魔術による強化ととても相性がよく、通常の武器にかけた時と比べて桁違いの威力を発揮する。
その強化されたミスリルハンマーをジャンが振り回すうちに、刺客達はあっという間に蹴散らされた。
ひとまず一件落着かと思われたその時――
刺客達の死体がいったん灰になったかと思うと一か所に集まり、巨大な異形を成してゆく!
それは複数の死体から成る集合体アンデッド。概ね人型ではあるが人の面影を残さない不定形。
漆黒の胴体には目や鼻はなく辛うじて鋭い歯の生えた口のようなものが確認でき、全身から出し入れ自在の無数の漆黒の触手が蠢いている。
「これは……ユニオンデッド――!
こやつら……すぐ蹴散らされる事を予定してあらかじめ死霊術をかけられていたのか!」
≪人ナラザル者ニ死ヲ――!≫
漆黒の触手を伸ばして襲い掛かってくる。
“人ならざる者”とは盛大なブーメランだが、おそらくここでは人間以外の種族のことを意味しているのだろう。
その証拠に、狙ってくるのはジャンとティターニアで、アルダガはターゲットから外れているようだ。
現時点で差し金として考えられる勢力としては、アルバートの後ろ盾の勢力だろうか。
アルバート自身は手を組む事に一応納得していたようだが
そのバックの勢力が、放置すると後々ややこしくなりそうな取り巻き達を早めに排除しておこうと考えたとしても何ら不思議はない。
(あとは何故異種族のみ狙うオーダーを出したかという疑問が残るが
ジャンとティターニアが人間ではないのは言うまでもないとして、他の二人も実は純粋な人間ではなかったという可能性も0ではない)
「――エアリアルスラッシュ!」
ティターニアはひとまず襲ってきた触手を風の魔術で切り飛ばし、アルダガに声をかける。
「お主、その出で立ちは神官であろう? もし対アンデッドの特効術を使えれば援護を頼む!」
ティターニアはまだ自分達だけが狙われていることには気付いておらず、増してアルダガがこの時点で敵に回るとは夢にも思っていないようだ。
この局面で帝国からの刺客――黒鳥騎士アルダガは果たしてどう出るだろうか。

【>アルダガさん
最初はシンプルにシナリオボスをやってもらおうかと思ってたらこんな事に……
敵役の初志貫徹で容赦なく襲い掛かってきてもいいですし
こちらが突然一人減ったのもありますし予定変更でメンバー入りでもいいですよー。
もちろん今回は共闘して次から敵というのもアリです】

235 :
>「黒竜騎士……か。 もしや、あの路地の鎧がそのアルバートという男のものではないかな?」
アルダガの問に小柄な男が親指で彼方を指した。
促されるままに見れば、地元の警備隊が何かを運び出そうとしている。
「あれは……アルバート殿の!」
アルダガが思わず駆け寄り、大人二人が動かすことも叶わなかったそれを両手で掴んで持ち上げる。
確かにアルバートの黒鎧だ。皇帝から下賜されるオリハルコン製の鎧は、黒騎士の証であり誇りの象徴。
アルダガは教会との兼ね合いもあって別途に仕立てた修道服を着ているが、黒騎士がこれを手放すなどあって良いはずがない。
やはり、アルバートの身に何かがあったのだ。
>「アルバートは少し前にはぐれちまってな…その後津波が来ちまって分からねえんだ」
大男が背後からそう補足する。
小男は無感動に自己紹介した。
>「あぁ、ワシはドワーフの戦士マジャーリンよ。好物はビア。こいつらがワシの部下の
 ジャンと、何となく付いてきた学者ぶっているエルフのティターニアだ。よろしくな。金になるのなら
 雇われてやってもいい。ところで……」
マジャーリンと名乗った男の言葉が窄んで消える。
それは会話よりも優先度の高い事柄の存在を示唆していた。
すなわち、襲撃である。
>「まだ生き残りがいたか」「女もいるようだ、こいつらも殺るのか?」「構わん、殺してしまえ」
「うわわわわ、なんですか一体!」
どこに隠れていたのか十人近い男たちが手に手に武器を持ち襲い掛かってくる。
彼らはアルダガではなく三人の方へ向かって行き、戦闘が開始された。
>「今度はどこの手先だよ!いい加減疲れてるって時によ!」
ジャンの叫ぶ通りであれば、彼らにとっても新手の襲撃者のようだ。
アルバートの消息不明にもこいつらが関わっているのか?
(でも……彼らにアルバート殿を殺せたとは思えません)
アルダガの見立てでは、襲撃者達の練度はそう高くはない。
それなりの技量があり、連携も取れているが、この程度ならば帝国の正規軍でも対応は可能だ。
何より白昼堂々、それも三人一緒にいるところを馬鹿正直に襲い掛かってくる無計画さは暗殺者としては論外だ。
まかり間違っても帝国最強集団の一人であるアルバートを殺せるような手合いではない。
>「任せろ、ドワーフ無双よ。ティターニアごときにはまだ負けん!」
>「こんな奴らに首くれてやるこたあねえぜ!とっととぶちのめそうや!」
>「――エーテルストライク」
対する三人組は油断なく襲撃に対応する。
マジャーリンがハンマーをぶん回し、ジャンが手斧を振るい、ティターニアが魔術を叩き込む。
統制が取れているというより、それぞれが多数相手の戦闘に場馴れしているという印象だ。
――こんなチンピラ達よりも、よほどアルバートに拮抗できるだろう。

236 :
>「ドワーフの秘儀、サッチェルチャージを食らえ!!」
「あっ」
マジャーリンが点火した爆薬を投げようとして、飛び掛かった襲撃者もろとも自爆した。
爆発四散する五体、ぶち撒けられる焦げた鮮血、転がっていくハンマー……。
まだ必要な情報を何も確認できていないのに、重要参考人の一人が死んでしまった。
>「――てめぇらっ!」
形見のハンマーを抜き、ジャンが吠える。
>「――ファイアウェポン。やってしまおうぞ。弔い合戦だ」
そこへティターニアがエンチャントをかけ、炎の鉄槌と化したハンマーが敵を燃やし打ち砕いた。
石畳が赤黒い血肉に染まり、やがていくつもの命が終わる静寂が場を支配した。
「……あの、もう大丈夫ですか?」
仲間を喪った痛みに耐える二人に対し、置いてきぼりをくらったアルダガはおそるおそる話しかける。
しかし戦闘は終わりではなかった。消し炭と化した死体が集まり、捏ね合わさり、死霊の魔物へと変貌したのだ。
>「これは……ユニオンデッド――!
  こやつら……すぐ蹴散らされる事を予定してあらかじめ死霊術をかけられていたのか!」
「ひどい……女神への冒涜です!」
これにはアルダガも憤る。
全ての死した魂は女神のもとへと導かれなければならない。
速やかにだ。死してなお現世に関わろうとする死霊術は女神を奉じる者にとって忌むべきものである。
>≪人ナラザル者ニ死ヲ――!≫
>「――エアリアルスラッシュ!」
ティターニアの魔術がユニオンデッドの触手を切り飛ばすが、すぐに再生してしまう為効果が薄い。
ジャンがハンマーを振るったとて結果は同じであろう。
殴り続ければいつかは再生力を枯渇させられるかもしれないが、ジリ貧には違いない。
>「お主、その出で立ちは神官であろう? もし対アンデッドの特効術を使えれば援護を頼む!」
「わかりました。この場は拙僧がお相手致します」
アルダガは引きずっていた長尺メイスを構える。
その柄の根本にあるレバーを引くと、柄が半ばで上下に折れた。
柄の中は空洞になっており、何かを差し込めそうな空間がある。
「天に氷霜、地に劫炎、石の山城、草の砦。女神の吐息、燻る篝火、最期の一灯」
聖句を詠唱しながら修道服の懐から一つ小瓶を取り出した。
中を満たしているのは中央教会が製造配布している金級(最上位)の聖水。
それをメイスの空洞にセットし、再び柄の上下を合わせて一本の長尺メイスに戻す。
装填された聖水がメイスの先端へと注入され、白い聖なる輝きを灯した。

237 :
「福音よ、迷える亡者に導きを――『ディバインカノン』!」
メイスの先端から一条の光の束が迸る。
大気を焼き焦がしながら虚空を駆け抜けた光はユニオンデッドを貫き、その肉体の全てを跡形もなく分解した。
開放された魂が無数の光の粒となって天へと登っていく。
「浄化完了しました」
メイスを折って空になった聖水瓶を吐き出しながらアルダガはジャンとティターニアへと振り返る。
振り向きざまに手遊びのように振るったメイスが、見た目からは想像もできない威力でジャンのハンマーにぶち当たった。
彼がハンマーを握る手に力を込めていたとしても、あっさりと弾き飛ばされるだろう。
そういう当て方をした。
「それはそれとして、こちらからもう一つ質問があります。
 アルバート殿の失踪についてはこの先本国から増援を呼んで詳しく調査しなければなりませんが……。
 ジャンさん、貴方の首にかかっているその指環は――アルバート殿が探していたものではありませんか?」
アルダガをもってして、ここまで近付かなければジャンの指環の存在に気付くことはできなかった。
おそらくは高度な魔力遮断の結界を張られているのだろう。
それでもなお、近づけばビシビシと頬を打つ強烈な魔力の気配を無視することはできない。
「ああ、誤解なさらないで下さい。別に拙僧は貴方がたがアルバート殿を殺害して指環を奪ったとは思っていませんし、
 ……仮にそうだったとしてもそれを咎めるのは拙僧の仕事ではありません。
 拙僧の仕事は、その指環を手に入れることだけ。だから、大人しくこちらに渡していただければ悪いようにはしません。
 ええ、女神に誓いますとも。五回は誓います」
それは暗に、断れば戦いは避けられないということを意味していた。

【マジャーリンさん、お疲れ様でした。もっと絡みたかったので残念です。また是非ご一緒したいですね。
 というわけで私は当初の予定通り敵対路線でいきたいと思います。】

238 :
>≪人ナラザル者ニ死ヲ――!≫
炎を纏ったミスリル・ハンマーを振り終え、灰と化した死体を眺めたその直後。
死ぬことを前提とし、ダーマですら外法の域と言われ忌み嫌われる死霊術が目の前で発動した。
灰となって風に散らされた死体が集まり、人の形をかろうじて保ちながら、体のそこかしこから
触手や裂け目がうごめいている死体の塊がジャンたちの目の前に形成される。
「こりゃたまげたな……あいつらみんな死なせるつもりだったのかよ」
気に入らねえな、とジャンは吐き捨て飛んできた触手を掴み、大鉈で切り落とした。
直後に切断面から新たな触手が生え、勢いよく振り回してくる。
「姉ちゃん、見たところ神官だろう?いっちょアンデッドどもをあっちに送ってくれよ」
神官というものは大抵死者を眠らせ、生者を安らかにあの世へ送る技術に長けている者だ。
ジャンも旅の途中で何回かアンデッドの掃討に携わる武装神官を見てきたせいか、自分では手に負えないと
分かった瞬間アルダガへと頼んだ。
>「福音よ、迷える亡者に導きを――『ディバインカノン』!」
>「浄化完了しました」
二人が頼んでからすぐ、アルダガは手際よく終わらせてしまった。
いくら神官がアンデッドを相手にすることに長けているとはいえ、聖水一本、詠唱一回であの化け物を浄化したのだ。
ジャンが今まで見てきた武装神官たちはアンデッドをあらかじめ魔法陣を描いた地点に誘い込み、
数十本の聖水をまき散らし、十数人による多重詠唱で浄化を可能としていたのだから、一連の動作だけで十分に上位の神官ということが分かる。
おまけに帝国騎士の称号まで持っている。まともにやりあったらあのメイスで顔が変わるぐらい殴られかねないと考えたジャンは、とりあえず友好的に接することにした。
「あー……姉ちゃん。いや違う、アルダガ・バフナグリーだったか。
 助かったよ、ありがとう。俺らじゃあ日が沈むまで殴り合って――」
ジャンの発言を遮るように、アルダガがメイスをミスリル・ハンマーに振り向きざまに当ててきた。
まったく予測できなかった一撃に、思わずミスリル・ハンマーを手放してしまう。
>「それはそれとして、こちらからもう一つ質問があります。
 アルバート殿の失踪についてはこの先本国から増援を呼んで詳しく調査しなければなりませんが……。
 ジャンさん、貴方の首にかかっているその指環は――アルバート殿が探していたものではありませんか?」
>「ああ、誤解なさらないで下さい。別に拙僧は貴方がたがアルバート殿を殺害して指環を奪ったとは思っていませんし、
 ……仮にそうだったとしてもそれを咎めるのは拙僧の仕事ではありません。
 拙僧の仕事は、その指環を手に入れることだけ。だから、大人しくこちらに渡していただければ悪いようにはしません。
 ええ、女神に誓いますとも。五回は誓います」
そこから畳みかけるように、アルダガは指環について問いただしてきた。
ちょうど傾きかけた太陽を背にして話すその姿はまさしく黒騎士であり、使命のためならば排除も辞さないと言わんばかりの態度であった。
それに対してジャンは―――
「んん……あんたは話が分かるみてえだな。ならこうしねえか。
 指環が全部見つかるまでは協力して探すってんだ、どうだ?人手が多い方が探しやすいだろう?」
「今ここでやりあっても街に迷惑がかかっちまうしよ、俺としちゃあ指環が手に入るたんびに
 あんたみたいな追手が増えるのは面倒だ。それなら指環が全部手に入った後で、まとめて話し合った方がいいだろう?」
(頼むから乗ってくれよ……俺はもう連戦続きで疲れてんだ) 

239 :
ティターニアはアルダガを見ながらどことなくアンバランスさを感じていた。
今の所低姿勢な敬語キャラだが、帝国の黒騎士である以上底が知れない。
黒騎士の鎧を軽々持ち上げる超怪力を見せたかと思うと、襲撃者に普通に驚いている辺りはドジっ娘の気配すら漂わせる。
体格から見て物理的には考えにくいその怪力は、神の加護等により常に何らかの魔術的強化が成されているのかもしれない。
>「姉ちゃん、見たところ神官だろう?いっちょアンデッドどもをあっちに送ってくれよ」
>「わかりました。この場は拙僧がお相手致します」
ティターニアとジャンの要請に応えアンデッドとアルダガはアンデッドと対峙する。
その姿は現世に縛られた哀れな魂を浄化する気高き聖者。
>「福音よ、迷える亡者に導きを――『ディバインカノン』!」
>「浄化完了しました」
「す、すごい……!」
なんと一撃で浄化してしまった。
聖術少女☆アルダガ〜女神に代わっておしおきよ〜という謎ワードを思い浮かべつつ
テンプレ驚き役のごとく只々感心するティターニア。
神聖魔術は“確かな信仰とたゆまぬ鍛錬によってなされる奇跡”だったはず。
この若さでここまで達するとは余程の天才か、もしくは……
その思考は、アルダガの思わぬ牽制で遮られた。
メイスをジャンの持つミスリルハンマーに当てて弾き飛ばしたのだ。
アンデッドの浄化に一端協力してくれたため、すっかり油断していたティターニア達は不意を突かれた形となった。
>「それはそれとして、こちらからもう一つ質問があります。
 アルバート殿の失踪についてはこの先本国から増援を呼んで詳しく調査しなければなりませんが……。
 ジャンさん、貴方の首にかかっているその指環は――アルバート殿が探していたものではありませんか?」
言葉遣いこそ相変わらず敬語ではあるが、有無を言わさぬ気迫を漂わせている。
特に隠す理由もないので正直に答える。
「まさしくそうだ。アルバート殿の同行者は何とも統一感の無い者が4人いたと聞いていたであろう?
実は烏合の衆だったのだが指環が揃うまでは結託した方が互いに有利であろうとのことで協力関係を結んでおったのだ。
しかしアルバート殿ほか2名は先刻の戦闘の混乱で消息不明になってしまった故残った我々で行って貰ってきた」
その烏合の衆の中においては唯一分かりやすい友好関係と言える二人が残って後の三人が行方不明……。
あれ? これ、二人で良からぬ事を企んだと疑われるシュチュエーションじゃね!?
と思っていたところ、その思考を見透かしたかもようにアルダガが続ける。
>「ああ、誤解なさらないで下さい。別に拙僧は貴方がたがアルバート殿を殺害して指環を奪ったとは思っていませんし、
 ……仮にそうだったとしてもそれを咎めるのは拙僧の仕事ではありません。
 拙僧の仕事は、その指環を手に入れることだけ。だから、大人しくこちらに渡していただければ悪いようにはしません。
 ええ、女神に誓いますとも。五回は誓います」

240 :
>「んん……あんたは話が分かるみてえだな。ならこうしねえか。
 指環が全部見つかるまでは協力して探すってんだ、どうだ?人手が多い方が探しやすいだろう?」
>「今ここでやりあっても街に迷惑がかかっちまうしよ、俺としちゃあ指環が手に入るたんびに
 あんたみたいな追手が増えるのは面倒だ。それなら指環が全部手に入った後で、まとめて話し合った方がいいだろう?」
言おうとしたことをジャンがそのまま言ってくれたため、頷きつつ加勢する。
「うむ、自分で言うのも何だが我々は少なくとも足手まといにはならぬと思うぞ」
手を組むメリットを示しつつ、裏を返せばそう簡単には切り捨てられない、ということも暗に示してみせる。
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
結論――交渉は決裂した。指環を渡さなければどうにも戦闘は避けられない。
アルバートはあれで黒騎士の中ではかなり融通が効く方だったことを今更ながら認識する。
そろそろ潮時だろうか、とティターニアは思う。
強大なバックが付いていそうなアルダガと敵対することは、帝国の中の少なくとも小さくはない一勢力に宣戦布告することを意味する。
お気楽な趣味人のティターニアには、アルバートのような崇高な使命感も
コインのような命が掛かった事情も、ナウシトエ程の猪突猛進なある意味の純粋さもない。
心優しい良識人のジャンもその点は似たようなものだろう。
そもそも最初の時点で古代の遺跡を見られただけでもとんでもない幸運、そのままアルバートに同行できたのは更なるラッキーだったのだ。
「ジャン殿――指環を渡すのだ。ここで抵抗すればとんでもない勢力を敵に回すことになる」
ところで――ジャンは指環を皮袋に入れていたはずだ。
連戦の最中わざわざ取り出して首にかけ直した、とは考えにくい。
では今彼の首にかかっている指環は何なのか。
その上、ジュリアンすらも暫く在り処が分からなかったはずの指環があからさまに存在を主張しているのは何故か。
それは――クイーンに選ばれし指環の勇者が、あろうことかなんとなく流れで来てしまった人達であることを察知したアクアが
背中を押して決意を固めさせるために指環の受け渡し時に仕込んでいた一度だけの仕掛け。
ジャンの首にかかっているように見えている指環は、本物の指環によって作り出された幻影のようなものだ。
受け渡しが行われアルダガが触れた瞬間、その姿は霧のように消え去り、水属性の強力な攻撃魔術となって彼女に襲いかかるだろう。
そうなればアルダガとしては抵抗の意思と受け取るのが必然、開戦は必至だ。
【本来はアルダガ殿の答えを待ってからとなるところだが
この度は本人より敵役が明言されているので次のアルダガ殿のレスで戦闘開始できるところまで持って行った。
レス順を変えるのもややこしいのでジャン殿のPLに一言(偽の)指環を渡すか渡さないかだけ宣言してもらって
それに合わせてアルダガ殿に書いてもらう感じでいいだろうか(どちらにせよ結果的には戦闘開始になると思う)
我が本当に諦めているのかそれとも仕掛けに気付いているのかは各々の想像にお任せしようぞ】

241 :
【んん……指環を渡さない方向でお願いします。
 ジャンはレスで言った通り指環が全て集まってから話し合いたいと思っているので、
 その辺りは譲らず、仕掛けに気づいていたとしても渡さないと思います】

242 :
>「まさしくそうだ。アルバート殿の同行者は何とも統一感の無い者が4人いたと聞いていたであろう?
  (中略)しかしアルバート殿ほか2名は先刻の戦闘の混乱で消息不明になってしまった故残った我々で行って貰ってきた」
「まぁ、そうだったんですか。知らないこととは言え失礼しました」
ティターニアの答えにアルダガは目を丸くした。無論、鵜呑みにしたわけではない。
あの一匹狼というか他人を信用しないアルバートが同行者をつけるなど信じがたいことではある。
しかしその一方で、『アルバートが消息を断つほどの』混乱と戦闘が彼の道中にあったとすれば、
かなりの腕利きであるジャンとティターニアと一時の共同戦線を張っていてもおかしくはないのだ。
……その混乱と戦闘が、彼ら二人によって引き起こされたのでないのならば。
「つまりあなたがたはアルバート殿の現地協力者というわけですね。
 報酬は受け取られていますか?まだであれば一度帝都へお越しください。
 旅の諸経費も含めて元老院から心付けが下りるはずですよ――もちろん、厳正な調査を経てですが」
言いながら手を差し伸べる。
握手を求めたわけではなくさっさと指環を渡して帝都へ行けという無言の催促だった。
>「んん……あんたは話が分かるみてえだな。ならこうしねえか。
 指環が全部見つかるまでは協力して探すってんだ、どうだ?人手が多い方が探しやすいだろう?」
しかしジャンは胸にある指環を渡す素振りを見せない。
>「今ここでやりあっても街に迷惑がかかっちまうしよ、俺としちゃあ指環が手に入るたんびに
 あんたみたいな追手が増えるのは面倒だ。それなら指環が全部手に入った後で、まとめて話し合った方がいいだろう?」
「……それは、『街や追手を考慮しなければやりあっても構わない』という意味ですか?」
言外の交渉決裂にアルダガは一度だけ眉を動かした。
丁寧な態度を崩すことがないのは、できれば冗談であって欲しいという願いの表れである。
>「うむ、自分で言うのも何だが我々は少なくとも足手まといにはならぬと思うぞ」
そこへティターニアがジャンの提案を補強するように言葉を繋げた。
アルダガは目頭を揉んで、そして眼光を細めた。
いつでも『実力行使』へ移れるよう魔力を五体に滾らせ始める。
「すみません、どうにも意志の疎通に齟齬が在るようなのでもう一度言いますね。
 あなたがたが指環を探す必要はありません。この件は帝国元老院と黒騎士の預かりとなります。
 これまでのアルバート殿へのご協力に感謝致します。
 ……さあ、指環をこちらへ」
>「ジャン殿――指環を渡すのだ。ここで抵抗すればとんでもない勢力を敵に回すことになる」
アルダガの"威嚇"を受けてか、ティターニアが手の平を返した。
賢明な判断だ。彼女がどれほど強大な魔術師であったとして、帝国を敵に回すのは望むところではないだろう。
しかしジャンは、それでもなお指環をこちらに渡すことを拒んだ。
「……残念です。あまりこういう月並みな言葉は言いたくはなかったのですが。
 ――力づくで指環をいただきます」

243 :
言葉の終わり際からアルダガは動き始めていた。
まるでそうすることがはじめから決まっていたかのように滑らかな動作でメイスを振るう。
右足を軸に独楽のように振るったメイスは当たれば大きく吹き飛ばされる威力を秘めている。
避けられたとしても問題はない。開けた距離は聖句詠唱の為の布石だ。
「我が五体に女神の祝福を――『エヴァレイション』」
聖なる光の帯がアルダガの四肢を覆い、身体能力を底上げする。
常時加護によりただでさえ怪力を持つアルダガの膂力が更に上昇した。
「解せませんね。その指環には確かに考古学的な価値と魔装具としての力があります。
 しかし単品で持っていてもその程度。数を揃えたとしてもお金にはなりませんよ。
 元老院はその指環に高額の値を付けるでしょうが……素直にお金で買ってくれるとも限りません」
言いながらアルダガは右足で大きく踏み込んだ。
石畳に亀裂が入り、大地を揺るがすような衝撃が埠頭に走る。
地面から返ってきた反発力でアルダガは目にも留まらぬ速さで跳んだ。
「あなたがたはその指環の価値を正しく把握していますか?
 把握していないのであれば早々に手放すことをお勧めしますし――ご存知ならば野放しにはできません」
ジャンとティターニアの右手から回り込むように走る。
二人ともを神術の射界に捉えた。
「神樹の根に住まう者。黄昏の闇に紛る者。銀の矢に射抜かれし地獄の黒犬。
 その牙を神樹の民に、その魔性を地獄の獣に、その邪智を知恵なき者に分け与えよ」
聖句を女神に捧げ、その権能を借り下ろす。
「――『ゲゼルレクト』」
アルダガの指先から放たれた光の糸が不可避の速度でまずジャンに命中し、そこからティターニアに接続する。
神術の紐によってジャンとティターニアの身体が繋げられた。
この紐は対象者に物理的には干渉しない。どれだけ離れても繋がり続け、動きを阻害せず、故に断ち切ることもできない。
唱えたのは中央式神術の第五位階、複数の敵を対象とした強化と弱化の複合術だ。
効果は……『対象者同士の能力の入れ替え』。
ジャンとティターニアのそれぞれ最も得意とする能力をお互いに交換する。
すなわち、ジャンの筋力はティターニアのものと入れ替わり、ティターニアの魔力はジャンと入れ替わる。
もとは魔力の枯渇した戦闘神官に他の者の魔力を分け与える為に編み出された支援の術だ。
しかしそれが支援足り得るのは同じ戦技を極めた者たちの間で使った場合である。
ジャンとティターニアのように、種族も戦い方もまったく異なる者同士で入れ替えればどうなるか。
ジャンは膨大すぎる魔力を使いこなすことができず、エルフの貧弱な筋力では重い武器を振るえない。
ティターニアはハーフオークの強靭な肉体を持て余し、強力な魔法は魔力不足で使えない。
待っているのは、共に自滅だ。
「あなたがたに命を賭してまで指環を求める理由があるのですか……!」

【指環の在り処について読み違えてました!ごめんなさい!
 神術でジャンとティターニアのステータスを入れ替えました】

244 :
>「すみません、どうにも意志の疎通に齟齬が在るようなのでもう一度言いますね。
 あなたがたが指環を探す必要はありません。この件は帝国元老院と黒騎士の預かりとなります。
 これまでのアルバート殿へのご協力に感謝致します。
 ……さあ、指環をこちらへ」
>「ジャン殿――指環を渡すのだ。ここで抵抗すればとんでもない勢力を敵に回すことになる」
アルダガの脅迫めいた発言から、このままでは帝国を敵にして旅をすることになりかねないと思ったのか
ティターニアが折れた。だがジャンは、最初の発言通りまったく指環を渡す気になれなかった。
「抵抗じゃなくて協力したいんだけどよ…どうにもデカい組織ってやつは単独でなんでもやりたがるみてえだな。
 一応は二つの指環の在処を突き止めた実績を認めてほしいもんだぜ」
「それにこの指環は確かにすげえ力を持ってるけどよ、それだって神様になれるってほどじゃねえ。
 物凄い魔力が手に入るって言っても使い方は分からねえし、うっかり力を手に入れちまったやつはすぐに盗まれちまった」
やめとけやめとけ、と手をひらひらと振ってアルダガに諭す。しかしアルダガはむしろ挑発と受け取ったのか、
諦めたようにつぶやき、構えた。
>「……残念です。あまりこういう月並みな言葉は言いたくはなかったのですが。
 ――力づくで指環をいただきます」
直後に振るわれたメイスを避け、ジャンは距離を取る。
華奢な見た目から想像もできない重い一撃は、ジャンと言えど打ち合いをなるべく避けておきたいほどだ。
だが、距離を取り出方を待ったことが間違いだった。
>「我が五体に女神の祝福を――『エヴァレイション』」
なんらかの強化魔術と思われる神聖魔術を唱えられ、凄まじい踏み込みでこちらへと向かってきた。
石畳を叩き割る勢いのそれは、熟練したオークの踏み込みと同じかそれ以上の脚力だ。
「――あんた、村に来たら一発で戦士の試練に合格するぜ」
目でなんとかアルダガの軌道を追いながら、そうぼやいてミスリル・ハンマーを肩に担ぐ。
あのメイスの一撃に対応するには手持ちでもっとも丈夫なこの武器しかないからだ。
今のアルダガにどれほど通用するかは分からないが、それでも戦うと決めた以上ティターニアを守らねばならない。
>「あなたがたはその指環の価値を正しく把握していますか?
 把握していないのであれば早々に手放すことをお勧めしますし――ご存知ならば野放しにはできません」
「野放しだぁ……?帝国が使えば清く正しいものになるってわけでもねえだろう!
 自分たちだけが分かってますって面してんじゃねえ!」
右手からアルダガが来た。ミスリル・ハンマーを握りしめ、振り下ろされるであろうメイスの
さらに上から叩き下ろすべくアルダガを正面に捉えたが――

245 :
>「――『ゲゼルレクト』」
飛んできたのは、聞いたことのない神聖魔術だった。アルダガから飛び出た光の糸がジャンとティターニアを繋ぎ、
瞬間、ミスリル・ハンマーを取り落とした。全身から力が抜け、なにかよく分からない力が代わりに入ってくるのを感じる。
「てめぇ!何…しやがったっ!」
腰に括っていた大鉈や槍、手斧が軒並み振るえなくなっているほど筋力が落ちていることを自覚したジャンは、
隣にいるティターニアの様子もおかしいことに気づいた。いつもなら対抗魔術の一つも撃つはずのティターニアが何もしていないのだ。
(これは……入れ替えられたのかよ!
「神聖」ってわりにはタチの悪い嫌らしい魔術だな!)
まさか補給用の魔術とは思わず、かけられた魔術に悪態をついてアルダガを睨む。
>「あなたがたに命を賭してまで指環を求める理由があるのですか……!」
さらに放たれた言葉に、ジャンの怒りは頂点に達した。
指環を揃えて名誉と共に村に帰るはずが、いつの間にか出てきた帝国の手先に殺されかけているのだ。
おまけに言われた最後の一言。冒険者が命を賭けて名誉を求めるのは当然だというのに!
もはや我慢ならなくなったジャンは、なんとか足に力を込めて、アルダガへと歩く。
「理由なんてのはよお、『神話の指環を揃えた伝説の英雄』っていう肩書がもらえるだけで十分なんだよ。
 そのロマンが分からねえ飼い犬野郎は……すっこんでろォッッ!!!」
喋り終わらない内にオーク族の技、ウォークライを放つ。理性を忘れさせ、暴力的な本能をむき出しにする
その独特の咆哮は魔術師や神官に対しても集中を揺さぶるという意味で十分に効くのだ。
「てめえの腕力は元々のもんじゃねえ、魔術とか加護ってもんだろうよ…
 だからよ、どこまで理性を保って維持できるか、見せてもらおうじゃねえかァァッ!!!」
再び喋り終わると同時に吼え、さらに自分の本能もむき出しにしてなくした力を補っていく。
ゆっくりとアルダガへの距離を詰めていく間、ジャンはひたすらに吼え続けた。

246 :
アルダガが明らかに戦意を示しもはや交渉がまとまる見込みは無いこの状況で、ジャンが出した答えは……
指輪は譲らない、かといって飽くまでもこちらからは手を出さない、というものだった。
行き着く先は必然的にーー
>「……残念です。あまりこういう月並みな言葉は言いたくはなかったのですが。
 ――力づくで指環をいただきます」
アルダガは自らに強化の魔術をかけて襲い掛かって来た。
>「あなたがたはその指環の価値を正しく把握していますか?
 把握していないのであれば早々に手放すことをお勧めしますし――ご存知ならば野放しにはできません」
>「野放しだぁ……?帝国が使えば清く正しいものになるってわけでもねえだろう!
 自分たちだけが分かってますって面してんじゃねえ!」
当然ながら双方一歩も引く様子は無い。
こうなってしまった以上戦うしか無いが、ティターニアはそこはかとないやりにくさを感じていた。
同じ指輪争奪戦でもジュリアン相手の時はなんだかんだでノリノリで応戦していたのにこの差は何か。
本人がその理由を自覚することは無いが、おそらく第一印象の「いかにもな悪い奴」と「真面目ないい子」の差であろう。
ある意味融通の効かない真面目ないい子ほど厄介なものはないのであった。
>「――『ゲゼルレクト』」
一瞬の逡巡の間にも、アルダガは二人を対象に何らかの魔術をかけてきた。
特に攻撃魔術でもなく一見何も変化は無いが……流石に攻撃に参加せねばなるまいと杖を振るってはじめて気付くこととなる。
エーテルストライクを撃ったつもりが少し強く押した程度の衝撃波しか起きない。端から見れば何もしていないように見えただろう。
一方のジャンはというと、ミスリルハンマーを取り落としている。よく見るとジャンと自分が光の糸で繋がっている。
魔術の威力が発動したうちに入らないほど落ちたものの一応は発動したことを鑑みると、使える技自体は据え置きのようだ。
「聞いたことがあるぞ……最も突出した能力同士の入れ替え……お主、神術使いか……!」
神術ーー鍛練によって習得する通常の神聖魔術とはまた違う、特殊な体系の術だ。
権力者の権限で自由に付与することができるという、なんとも羨ま怪しからん術である。
おそらくティターニアがアルダガにから感じていたアンバランスさの正体はそれであろう。権力者のさじ加減一つで与えられた恐るべき力ーー
今かけられた術の厄介なところは、最も突出した能力「だけ」を入れ替える点。
ジャンはいくら膨大な魔力を得ても魔術は習得していないし、ティターニアは怪力を得たところで前列での格闘術はからっきしなのだ。
そこに追い撃ちをかけるような、アルダガの質問。
>「あなたがたに命を賭してまで指環を求める理由があるのですか……!」
「それは……」
答えに詰まるティターニア。世界の真実を解き明かすロマン……というのは命まで賭ける理由としてはいかんせん弱い。
今のご時世では珍しい絵に書いたような善人のジャンならもしかしたら「世界を救うため!」ぐらい言ってくれるかもしれないが……。
しかし、ジャンの答えは想像の遥か斜め上を行くものだった。
>「理由なんてのはよお、『神話の指環を揃えた伝説の英雄』っていう肩書がもらえるだけで十分なんだよ。
 そのロマンが分からねえ飼い犬野郎は……すっこんでろォッッ!!!」
死んだら元も子も無いというのに、伝説の英雄の肩書だけでいいと言い切った。はっきり言って大馬鹿者である。
ティターニアは暫し絶句しーー笑い声をあげる。楽しくて仕方がないという風に。
「ふっはははははは!良いぞ、よく言った!常識人とばかり思っていたがなかなか面白いところがあるではないか!」
最初はジャンがパーティーに残るかを危惧して臨時助手にしたものだが……もしかしてうっかりとんでもない人材を雇ってしまったのかもしれない。
ひとしきり笑い終わった後ーーティターニアの瞳から迷いの色は消えていた。

247 :
「ジャン殿、これを使ってくれ。我の魔力の形質に対応しているゆえ今はそなたが適任だろう」
そう言って、いつも使っているエーテルセプターをジャンに渡す。
それは齢100、つまり成人の時に贈られる、ユグドラシルの枝で作られた杖だ。
ユグドラシルとは、エルフの森ドリームフォレストの中心にそびえ立ち地上と精霊界を繋ぐとされ、エルフが命を授かる神樹。
各々の魔力の形質に対応しているため、本来は他人に貸与することはないが、今はティターニアの魔力はジャンに入っている。
普段は魔術を強化する発動体として使っているが、当然ティターニアの筋力でも扱えるほど軽くそれでいて決して破壊されないため、
武器戦闘の心得がある者が振るえばそれなりに近接用武器としても使えるだろう。
>「てめえの腕力は元々のもんじゃねえ、魔術とか加護ってもんだろうよ…
 だからよ、どこまで理性を保って維持できるか、見せてもらおうじゃねえかァァッ!!!」
ジャンがウォークライでアルダガに迫っていく。
世の中には魔術とは全く認識されていなくても威力に魔力が関与する技も割とあり、もしこのウォークライがもそうなら儲けものというものだ。
「そう、そしてその加護も自ら得た物ではなくある日突然与えられたものだなーー我々が負けるものか」
ジャンの強さは疑うべくもなく日々の鍛練の賜物。
ティターニアは今でこそ高位魔術師となったが、ジュリアンのような天才ではなく、積み重ねた年月によるものが大きい。
相手に抵抗されたり威力が魔力に比例する魔術はほぼ意味がないこの状況で、ティターニアは何故か魔術書を取り出した。
ジュリアンの足止めに登場したアレだが、実は護身用の武器としての使用も想定して製造されているもので
持ち運びのために厚さ重さが可変となっている。そして角は地味に攻撃力が強い。
それを厚さ重さ共に最大とし、魔術のロープを巻き付けてもう片方のロープの先を持つ。
(ルーンロープーー術者の意のままに動く魔力のロープ。
習得自体は難しいのだが使える技は据え置きで、威力が関係ない便利系というのがミソだ)
ジャンの筋力を生かしつつ後方から加勢する方法で思いついたのがこれであった。
魔力は入れ替わっても魔術の制御技術は据え置き、ということは軌道は制御できるため、ジャンに誤って当たることもないだろう。
「そりゃあ!」
もはや読む鈍器通り越してただのほぼ立方体の鈍器でしかないそれを、アルダガ目掛けて叩き込む。

248 :
『ゲゼルレクト』――能力入れ替えの神術はアルダガにとって必勝の形だ。
足並み揃えた部隊に対しては効果が薄いが、主に彼女が相手をする異教徒の寄せ集めのような連中にはこれが良く効く。
戦士であれば誰だって鍛え上げた能力にこそ最も信頼をおけるもの。
殴り合いに秀でた者がいきなり魔力を手渡されたって扱いに困るし、信を置く膂力の喪失にうまく自分をアジャストできない。
どれだけ巧妙に適応しようとも、必ずどこかで歪みが生まれる。
その歪みを致命的な打撃でもって突くのが、アルダガの多数を相手にする戦い方だった。
(今の貴方たちは翼を手折られた籠の鳥……私の敵ではありません)
そして翼のない鳥は、いずれ飛ぶことを諦める。
戦意の喪失――心を折る。戦いの行方は既に決定している。……はずだった。
だがジャンは、膂力を失ってなお、その双眸に炎を絶やさなかった。
>「理由なんてのはよお、『神話の指環を揃えた伝説の英雄』っていう肩書がもらえるだけで十分なんだよ。
 そのロマンが分からねえ飼い犬野郎は……すっこんでろォッッ!!!」
「――あっがっ!?」
ジャンの叫びは咆哮となってアルダガを襲う。
ビリビリと頭を芯から揺らがすような音の暴力が波濤となって到来し、アルダガの四肢を覆う強化の術を吹き飛ばした!
(ウォークライ……こんな方法で解呪を!)
オーク族の使う特殊な咆哮には魔術師の集中力を奪う効果がある。
術の発動には集中が必要だ。術士がどれだけの数の術を並行して発動できるかは、その集中力の振り分けによる。
集中力を奪われれば、術が維持できなくなるのは道理。
残り少ない集中力をゲゼルレクトに充てた為に、強化の術が維持できなくなった。
>「てめえの腕力は元々のもんじゃねえ、魔術とか加護ってもんだろうよ…
 だからよ、どこまで理性を保って維持できるか、見せてもらおうじゃねえかァァッ!!!」
>「そう、そしてその加護も自ら得た物ではなくある日突然与えられたものだなーー我々が負けるものか」
ティターニアが指摘し、再びジャンが咆哮の為に呼気を吸い込む。
まずい。もう一度あれを受けたらゲゼルレクトは愚か常時加護まで引き剥がされてしまう。
加護のないアルダガは一般的な修道女と変わらない身体能力しか持たない。
如何に弱体化させたとはいえ、オークの筋力を得たティターニアが素手で一発殴れば容易く死ぬ。
「――『ナーフレクト』!」
咄嗟の判断で、アルダガは無詠唱の弱体化神術を放った。
詠唱による威力や射程の強化は必要ない――対象は、自分自身だ。
ジャンが再びウォークライを放つ。大気を揺らがすような音圧がアルダガを襲い……しかし何も起きなかった。
「聴覚を弱体化させました……私自身のです」
ウォークライは叫びを通して対象の理性に訴えかける技。
ならば、それを聞かなければ良い。耳をふさぐだけでは不十分だが、聴覚自体を引き下げてシャットアウトする。
「確かに拙僧の力は女神より与えられたもの。しかし拙僧はそれを使いこなす為の修練を積んできました。
 付け焼き刃と侮るならば……研ぎすませたこの刃を、貴方がたの喉元に届かせてみせます」
削られた集中力はしばらく戻りはしないだろう。
自己強化の術を再度かけ直すことはできない。それでも常時加護とゲゼルレクトは健在だ。
そしてアルダガはなにも強化と弱化の一芸だけの戦闘神官ではない。

249 :
「慈悲の聖剣、サクラメント」
抜き放った銀の短剣。
これは"鎧通し"の異名を持つ神術武装。その名の通り鎧を通り抜ける力を持つ。
この刃は如何なる防御も通り抜け、あらゆる障壁を無視して生身に届かせることができる。
女神の力による強力な貫通力補正。重武装を着込んでいたエドガーですら抗えずに心臓を一突きにされた。
大振りなメイスでの打撃に織り交ぜた致死の刺突は相手が防御を固めるほどに効果的だ。
(ジャンさんと真っ向からかつ合うのはまずいですね……あの杖が怖い)
ジャンのウォークライに対する防御はできたとは言え、それでも彼は脅威となる。
ティターニアからジャンに渡された木の杖。異教徒異分子と戦い続けてきたアルダガは知っている。
あれはエルフ族の使う聖杖だ。主に魔術の補助に用いられるが、使用者の魔力で打撃力の強化もできたはず。
エルフの魔力を持ったジャンがその格闘技術であれを振るえば、アルダガの常時加護など容易くぶち抜けるだろう。
(であれば……まずはティターニアさんから消えてもらいましょうか!)
メイスを一度ぶん回して構え、ジャンを迂回するようにしてティターニアに接近する。
武器を手放し、魔力も喪ったエルフなど恐るるに足りない。メイスで一発頭でも小突けば終わるはずだ。
猛進するアルダガの前方、ティターニアは分厚い魔術書を取り出していた。
「一つ覚えのように魔術ですか!今のあなたの魔力じゃろくな術も――」
魔術書から術式を編むかと思われたティターニアは、しかし書を開くことすらしなかった。
それどころかどこからか取り出したロープで魔術書を縛り、投石器のように振り回し始めたではないか!
遠心力を得た魔術書は、しかもどんどん分厚く形を変え、もはや立法型を為し始めている。
「え……うそでしょ……」
アルダガの弱体化した聴覚にも確かに聞こえてくる、加速した魔術書の風を切る音。
ふわりと巻き上げられて宙を舞った木の葉が、高速旋回する魔術書(だったモノ)に当たって粉々に砕けた。
>「そりゃあ!」
投げ縄の要領でティターニアが勢いづいた魔術書を放った。
タッチの差で脅威に気付いたアルダガは咄嗟にメイスを盾に構える。
遠心力を余すことなく慣性に変えた魔術書がメイスにぶち当たり……アルダガごとふっ飛ばした!
「っきゃああ!」
特殊な硬質聖銀で鍛造されたメイスは折れることすらなかったが、それ故に一切の衝撃を吸収することなくアルダガに伝える。
メイスごと胴に魔術書を食い込ませたアルダガは、身体をくの字に折り曲げて吹っ飛んだ。
石畳を何度もバウンドしながら転がっていき、30メートルほどの距離に轍を作ってようやく止まった。
もはや受け身など意味を為さない威力。これまさにオーク族の膂力である。
「ま、魔術師なのに……書物を……なんだと思って……」
咄嗟の護身に魔術書でぶん殴る魔術師というのは聞いたことがあるが、基本的に本は人を殴る為のものではない。
魔術書とは魔術師がその叡智を書き留め後世に残すための研究の結晶、術士の誇りとさえ言えるもの。
ティターニアは迷いなくそれを鈍器に変えてぶん殴ってきた。とんでもない破戒エルフだ。

250 :
「こんな形でオークの膂力を有効活用するとは……伊達に齢を重ねていないということですか」
思いついたって普通やろうとは思わない、つまりは戦闘センスの領域だ。
真に信ずるべきは書物の知識ではなく己の経験と知恵、という長命なエルフ流の皮肉かもしれない。
「『英雄の肩書が欲しい』……そう言いましたねジャンさん。なるほどそれは、命を賭けるには十分です。
 だから拙僧はその野心を否定する気にはなりません。あなたは確かに、覚悟と意志を持った"冒険者"です」
アルダガはメイスを杖にしながら立ち上がる。
呼吸が辛い。肋骨が折れている。額から一筋の血が流れ落ちて頬を伝う。膝にきているのか足元が震えて定まらない。
強化の術を解呪された状態でオークの一撃を受けたのだ。五体が満足でいるだけでも自分を褒めてやりたい。
少しでも力を抜けばそのままへたり込んで二度と起き上がれないだろう。
だから、アルダガは奥歯が折れそうなほどに歯を食いしばって前を見る。
「しかし、それでも。あなたが名誉を求めるように……帝国にも『誇り』と『威信』があります。
 それはこの国に生きる全ての人々の安寧と栄興。民を護り、その税に報いることこそが国家の存在意義です。
 その指環には国が威信を賭けるだけの価値がある。だから――あなたという『英雄』は、邪魔なんです」
懐から金級聖水の瓶を取り出し、メイスのスロットに装填する。
幸いにもふっ飛ばされたおかげで距離がある。戦闘神官の特殊な呼吸法で聖句の詠唱も問題ない。
今のアルダガが残り僅かな集中力と体力で放てる神術はこれが最後になるだろう。
決着を、つける。
「北天の星、南地の砦、燃え盛る樺の森、押し立てる雹の波濤。
 撃鉄、波紋、逆さの骸。雷槌と劫火、円環の酒坏を血の輝きで満たせ――」
聖句を捧げると共にメイスを覆う聖光が変化していく。
鳥類の嘴のように鋭利で巨大な衝角をかたち作り、構えるアルダガ自身を包み込むように光の『翼』が形成される。
「破城の神術――『フレスグレイヴ』」
アルダガの持ちうる最大最強の攻撃神術。
メイスを中心に術者そのものが強大な神鳥を模した姿となって敵を穿ち焼き尽くす第八位階神術である。
その苛烈なる破壊の形態こそが、アルダガ・バフナグリーが『黒鳥騎士』と呼ばれる所以だ。
「帝国の、黒騎士の、中央教会の……全ての誇りを以って拙僧はあなたがたを滅します」
瞬間、メイスの柄尻から後方へ向けて凄まじい光の奔流が放たれた。
その反動でアルダガは音にも迫る速さで宙を駆ける。ジャンとティターニア目掛けて一直線に爆進する。
ものの数秒とかからずに彼ら二人をその嘴の中に飲み込み掻き消してしまうだろう。
同時、アルダガは聖短剣サクラメントをジャンへと投擲する。
フレスグレイヴの一撃を躱し仰せたとしても、その躱した位置へと巧妙に届くように。
女神の力によって鎧通しの力を得たサクラメントは、如何に防御を固めたとしても容易く貫通し心臓を貫くだろう。
これが異端と戦い続けてきた戦闘神官の、二段構えの必殺手順である。

【ウォークライにより強化神術を解呪されるが自身の聴力を弱体化させることで追撃を防ぎ加護とゲゼルレクトを維持。
 極大攻撃神術フレスグレイヴによる突撃に織り交ぜて聖短剣サクラメントをジャンへ投擲】
【これをラストターンにしたいです。打ち破ってください!】

251 :
一瞬の判断を繰り返し続け、アルダガとの戦闘はなおも続いていた。
ウォークライによる解呪および集中力の低下と、ティターニアによる強烈な打撃を受けてもまだ
アルダガは血を吐き、奥歯を噛みしめて立ち上がってくる。
>「『英雄の肩書が欲しい』……そう言いましたねジャンさん。なるほどそれは、命を賭けるには十分です。
 だから拙僧はその野心を否定する気にはなりません。あなたは確かに、覚悟と意志を持った"冒険者"です」
「……まだやるのかよ。修練を積んだってのは嘘じゃねえみてえだな」
普通の魔術師や神官であれば、オークの戦士が放つウォークライに耐え切れる者は少ない。
真っ先に最前線で暴れることが多いオークの戦士にとっては、強力な魔術や神術を放つ魔術師や神官は
厄介な敵の一つであり、熟練した戦士ならばまずそれらを潰すための技術に優れているからだ。
つまり、ウォークライへの対策を持った魔術師や神官は場数を踏んできたベテランということで、最も警戒するべき相手だ。
>「しかし、それでも。あなたが名誉を求めるように……帝国にも『誇り』と『威信』があります。
 それはこの国に生きる全ての人々の安寧と栄興。民を護り、その税に報いることこそが国家の存在意義です。
 その指環には国が威信を賭けるだけの価値がある。だから――あなたという『英雄』は、邪魔なんです」
「吼えても聞いてねえ辺り、耳を塞いでんだろうけどよ……一応言わせてもらうぜ」
アルダガが聖水の瓶をメイスに入れ、構え、詠唱を始めた。
決着をつけるつもりなのだろう。そろそろジャンとしても、ウォークライを立て続けに放った反動が全身に来る頃だ。
やがてメイスから放たれた光がアルダガを包みこんで巨大な鳥の形となり、大きく吼えた。
ジャンもそれに合わせるように、ティターニアから貸してもらった杖に力を込める。
ティターニアの魔力に合わせているためか、ジャンの体から杖へと力があっさりと流れ込んでいくのが感覚で分かった。
ジャンは杖に全ての魔力を込め、大槌の形を想像した。
マジャーリンが持っていた、ミスリル・ハンマーのような全てを打ち砕く大槌だ。
「俺の名はジャン・ジャック・ジャンソン。お前を倒す二人の、もう一人の名前だ」
杖から放たれた魔力が大槌の形を取り、両手でしっかりと大上段に構える。
瞬間、投げられた短剣に気づいたが突進を避ければ当たるという位置だった。
今のジャンには、もはや策や小細工はない。ただ直感にのみ頼り、突進に合わせて思い切り振り下ろすことしか頭になかった。
だからそこから一歩も動くことなく、鳥が大きく口を開き、二人を飲み込まんとした瞬間、大槌となった杖を咆哮と共に嘴に叩きつけた。
「――やっちまえェェ!!!!ティターニアァァァァァ!!!!」

252 :
アルダガはジャンのウォークライで強化の術を解除されるも
なんと自らに弱体化の術をかけることによってそれ以上の影響を受けるのを防いだ。
ティターニアのオークの筋力による一撃をまともに受け、それでもボロボロになりながらも立ち上がる。
敵ながら天晴な凄まじい気概だ。
帝国の威信をたった一人で背負い立ちはだかる異種の敵二人に立ち向かう――
ティターニアは思う。もしも自分が逆の立場だったらすでに心折れているだろう。
>「しかし、それでも。あなたが名誉を求めるように……帝国にも『誇り』と『威信』があります。
それはこの国に生きる全ての人々の安寧と栄興。民を護り、その税に報いることこそが国家の存在意義です。
その指環には国が威信を賭けるだけの価値がある。だから――あなたという『英雄』は、邪魔なんです」
言いながら、メイスに聖水を充填するアルダガ。決着を付けるつもりだ。
「普段は非公開なのだが……そなたには教えておかねばな。
我が名はティターニア・グリム・ドリームフォレスト。そこの『英雄』をこの旅に引き込んでしまった者だ。
済まぬが引き込んでおいて今更やめろというわけにもいかぬ」
>「俺の名はジャン・ジャック・ジャンソン。お前を倒す二人の、もう一人の名前だ」
>「北天の星、南地の砦、燃え盛る樺の森、押し立てる雹の波濤。
撃鉄、波紋、逆さの骸。雷槌と劫火、円環の酒坏を血の輝きで満たせ――」
メイスを中心に光の翼が展開されていくのを見て、ティターニア達は、アルダガが国鳥騎士である所以を、否が応でも知る事となる。
>「破城の神術――『フレスグレイヴ』」
ジャンは大槌を形作り、大上段に構える。一切の小細工無しで真っ向から迎え撃つつもりだ。
「そう、そなたはそれで良い――小細工は我が引き受けよう!」
先程ぶん回した魔導書を見ると、紙が背表紙から外れかけてバラバラになる寸前になっている。
オークの筋力でぶん回して敵にぶち当てるというちょっと想定されていない使い方をしたため、当然と言えば当然である。
それがむしろ好都合だった――軽く引っ張ってやると、綺麗に背表紙から引き離された。
装丁はこのように普通の本に毛が生えたレベルだが、紙自体はとても薄いにも拘わらずとても丈夫だ。
とっさのガードに使う事も想定されているため、破れたり燃えたりしないように紙に付与魔術がかけられているのだ。
>「帝国の、黒騎士の、中央教会の……全ての誇りを以って拙僧はあなたがたを滅します」
紙の束となった魔術書の断片を、今だと思った瞬間に宙に解き放った。
そこに破壊の神鳥が突っ込んできて、何千枚もの紙が舞う。
付与魔術により強化されているとはいえ、所詮紙だ。
しかし一枚一枚は取るに足りない紙でも、何千枚にもなれば、神鳥をも鈍らせる防護障壁となる――!
理屈としてはそうだが、もちろんどこまで通用するかは分からない。
そう、まさに紙で神を迎え撃つ無謀に打って出たのだ。

253 :
紙を放った瞬間、ティターニアは地面を蹴って跳んだ。
なけなしの魔力による補助もあるのかもしれないが、エルフの体重のままでオークの筋力を得ればよく跳ぼうというものである。
神鳥の嘴にジャンの魔力の大槌が振り落とされ、一瞬、神鳥の撃進が止まる。
その瞬間、ティターニアは神鳥の中心でメイスを構えたアルダガの姿を捉えた。
>「――やっちまえェェ!!!!ティターニアァァァァァ!!!!」
パンチかキックか――とにかく当てればなんでもいい。
しかし今のオークの筋力でそんなものをぶちあてたら死んでしまう。
メイスだけを叩き落とせればいいのだが、普段挌闘戦をやっていないティターニアには、そんな器用なことは出来ない。
誇り高き帝国騎士である本人にとっては残酷なことなのかもしれないが、ティターニアはアルダガに死んでほしくはなかった。
もしも学園の生徒として出会っていたら、最高の生徒だったんじゃないだろうか――
なんて、そもそも有り得ない事を想像してしまう。
彼女ならたとえ神術の力を喪ったとて、すぐに自らの鍛錬で神聖魔術を習得するだろう。
もしも、ティターニアとジャンがアルダガに勝てるとしたら、それは何故か。
最強の神術とそれを使いこなす技量、崇高な使命感と決して挫けぬ気概を併せ持つアルダガが負けるとしら、それは何故か。
きっとそれは、あまりにも単純すぎて見落としてしまいそうなこと。
アルダガは一人、ジャンとティターニアは当然二人だ。
「アルダガ殿、そなたに足りぬもの、それは――」
一瞬のうちに上記の思考を経て行きついた構えは拳打でも蹴りでもなく――両腕を広げるポーズ。
全身全霊で飛びかかって取り押さえる算段だ。
「――仲間だあああああああああああああああ!!」
【無理にとは言わぬが味方化も敵としてレギュラー化も大歓迎だ】

254 :
アルダガの放った極大攻撃神術・『フレスグレイヴ』。
術者が術と一体となり吶喊する光の破城槌は、行く手を阻む全ての障害を塵に変えるまさに破壊の極致。
いかに頑健な肉体を備えるオークとて、強力な障壁を張れるエルフとて、この術の前には等しく塵芥である。
故に、例え二段構えの追撃が待っていようとも、フレスグレイブだけは回避すべき致死の一撃だ。
>「普段は非公開なのだが……そなたには教えておかねばな。
 我が名はティターニア・グリム・ドリームフォレスト。そこの『英雄』をこの旅に引き込んでしまった者だ。
 済まぬが引き込んでおいて今更やめろというわけにもいかぬ」
>「俺の名はジャン・ジャック・ジャンソン。お前を倒す二人の、もう一人の名前だ」
しかしジャンは聖杖を手にそこから一歩も退かなかった。
逃げることなく、回避の挙動をとることさえもせず、真っ向からぶつかり合うことを選んだ。
光の中でアルダガは小さく微笑んだ。
「……ありがとうございます。ジャンさん、ティターニアさん」
それがジャンとティターニアの出した答え。
アルダガの誇りと信念に、同じく信念で応じるという無言の回答だ。
ここから先は、ただどちらの信念がより強いかの純粋な戦いとなる。
「拙僧の……私の、アルダガ・オールストン・バフナグリーの、全てを!あなた達にぶつけます……!!」
ジャンが聖杖を上段に構える。
入れ替えられたエルフの魔力がそこに注ぎ込まれ、凝集し、輪郭を濃くひとつの形を作っていく。
『槌』だった。分厚く、重く、武器と言うには大雑把で、それゆえに深く純化された"力"の塊。
疾走するフレスグレイブのあぎとを上から叩き潰すように、巨大質量が落ちてくる。
「…………!!」
瞬間、激突。
叩きつけられた槌と神鳥の嘴がぶつかり合い、発生した力の余波が石畳を根こそぎ剥がして塵に変える。
魔力と神力のせめぎ合いが大気に波紋を彩り、拮抗した二つの力が束の間の停滞を生んだ。
このままお互いの力が消耗し切るまで版図は動かぬままか――否!
「ナーフレクト……解除!」
自身にかけていた弱体化の神術を解く。
そちらに分配されていた集中力をフレスグレイヴに充て、神鳥の威光を更に強化する。
じりじりと、ゆっくりではあるが……ジャンの槌を神鳥の嘴が押し返し始めた。
次の瞬間、アルダガの眼の前が白く染まり、神鳥の前進が再び止まった。
「これは……魔導書の紙片!」
前方、ティターニアの投じた魔導書から無数のページが分離し、神鳥を覆い尽くす。
ただの紙ではない。魔術師がその知慧を注ぎ込んだ書物の一片だ。
術式ではなく純粋な魔法物の塊となったページ達はフレスグレイヴに反発し、その力を少しずつ削っていく。
一枚一枚はほんの僅かな減衰でも、千を数えるページによる隔壁は確かに神術を抑え続けている。
どこまでも定石外れの、奇想天外な使い方。
魔術戦の想定を根底から覆すような奇策を前に、それでもアルダガは敗北を受け入れはしない。
言ったはずだ……己の全てをぶつけると!!
「常時加護、発動停止――!」
アルダガの纏う光が一際に強くなる。
怪力の源、最低限の保険として常に肉体を強化し続けている常時加護を切り、その集中力をフレスグレイヴに注ぎ込んだ。
僅かな、ごく僅かな力の上乗せ。しかし紙一枚ほどの数の利が、確実に神鳥の矛先を前進させる。
魔術書の紙片をことごとく蒸発させ、ついにジャンの魔力槌を、穿ち始める……!

255 :
(いける――!)
もはやただの修道女に等しい肉体のアルダガは、神鳥の槍に身を委ねるように一歩踏み込んだ。
あと一歩、その一歩分の距離で槌を貫ける。向かい風のように吹き荒れる力の余波が彼女の四肢に無数の裂傷を刻む。
痛みがある。出血もある。だが……どれだけ風が吹こうとも……胸にある気概の炎だけは吹き消せない!
「私の……勝ちです……!」
油断や慢心ではなく、誇るつもりもなく、ただ己を鼓舞する為だけに勝鬨を上げる。
それはすなわちアルダガなりのウォークライだ。
しかしジャンから返ってきたのは否定の応声ではなく――
>「――やっちまえェェ!!!!ティターニアァァァァァ!!!!」
――仲間を呼ぶ声だった。
応じるように飛び出したティターニア。
エルフの痩身にオークの膂力を漲らせてアルダガを打擲せんと跳躍する。
ことここに至り、ティターニアのこの動きは完全に想定外だった。
オークの力を持ったとは言え、ティターニアは純粋な魔術師型。もともと前線で戦うような術者ではない。
まして、魔力と神力のぶつかり合うこの領域に、何の術的防御もなく飛び込んでくるなど誰が予想できようか。
>「アルダガ殿、そなたに足りぬもの、それは――」
オークの脚力で高く飛び上がったティターニアが言葉を放つ。
能力入れ替えの神術を解除――間に合わない。出来たとしてもティターニアに強力な攻撃手段を返すだけだ。
ぶつかり合う力の波濤を逆行に宙を舞うエルフの姿は、アルダガの目に未知の神秘を煌めかせた。
ああ、あの拳か蹴り足か、いずれが直撃してもアルダガは耐えられないだろう。
首が飛ぶか、内臓を破壊されるか、出血多量で必ず死ぬ。敗北は必定だ。
死力を尽くした。それでも届かなかった。
何故負けるのか、自分に何が足りないのか、もはや無意味と化した問いだけが走馬灯のように脳裏を回る。
答えは、ティターニアが持っていた。
>「――仲間だあああああああああああああああ!!」
飛んできたのは拳でも蹴りでもなく、翼の如く広げた両腕だった。
ティターニアは跳躍の勢いそのままにアルダガを抱きすくめる。
メイスを握り続ける握力は既に失われていた。あっけなく神鳥が手を離れ、ティターニアもろとも地面を転がる。
二人分の慣性を使い切るまでに、エルフと修道女はひび割れた石畳を三回転とひとひねりした。
都合三回頭をぶつけ、朦朧とする意識の中で思考する。
(そうですか……これが私に足りないもの。ティターニアさんが持っていたもの)
仲間。それは言葉そのままの、単なる数の利によるものではない。
ティターニアが無防備のまま術のぶつかり合いの中に飛び込んでいけた理由。
ほんの少しでも術の軸がぶれればオークの頑強さであっても消し飛ばされそうな力の嵐の中で――
彼女はただジャンを信頼し、命を任せたのだ。彼ならば、必ずティターニアを護ってくれると。
仲間への――絶対的なる『信頼』。
一人で戦い続けてきたアルダガには到底望めない、彼らだけが持つ力。
それが、それこそがアルダガと二人の勝敗を分かつ分水嶺だった。

256 :
「………………」
アルダガはティターニアに抑えられたまま、しばらく無言で空を見上げていた。
もうすぐ日が暮れる。夜がやってくる。炎のように赤い陽光が雲を遠く染めている。
「……拙僧の負けです」
能力入れ替えの神術・ゲゼルレクトが解かれてジャンとティターニアを繋いでいた光の紐が消える。
ジャンは膂力を、ティターニアは魔力を取り戻すだろう。
それはアルダガの意図したことではなく、単純に全ての集中力を使い果たして術が維持出来なくなったのだ。
彼女に抗う力は残されていなかった。
殺し合いに敗北したのだ、殺されても文句は言えない。
己の死を受け入れたアルダガだったが、彼女の意志とは関係なしに身体が光に包まれ、ゆっくりと輪郭を溶かし始めた。
ジャンのもとに取り残された銀のメイスもだ。ある種の諦念にも似た表情を浮かべ彼女は言った。
「中央教会の上位神官には肉体強化の常時加護とは別に、女神から一つの加護が授けられています。
 拙僧達戦闘神官は女神の尖兵。その肉体もまた、女神の所有物です。
 これは神官が戦闘不能に陥った際に強制的に身柄を保護し帰還させる、緊急脱出の転移神術『聖母の掌』」
"聖母の掌"は発動した瞬間から対象者を女神の次元へ隔離し、如何なる物理的魔術的攻撃を阻む最上位転移術だ。
同様に対象者自身もまた、外側に対して如何なる物理干渉も不可能になる。
例外は、今アルダガがそうしているように、『声』のみである。
「ジャンさん、ティターニアさん。あなた達は帝国黒騎士である拙僧を見事に退けました。完敗です。
 しかし帝国は一枚岩ではありません。拙僧以外にもその指環を狙う勢力は帝国内外に無数に存在します。
 逃げ隠れることは恐らく不可能です。指環は集まれば集まるほどに魔力を高め、術による隠蔽では追いつかなくなります。
 指環は覚醒し、大陸全土にその存在が知られてしまいました。日をおかず、今日のように襲撃に見舞われるでしょう」
港でのユニオンデッドによる襲撃はアルダガや帝国とは無関係の組織だ。
つまり、既に指環の存在を捕捉している者たちはそこかしこに隠れていることになる。
ジャンとティターニアは――指環を求める冒険者達は、周りの全てを敵として旅を続けなければならない。
「そして何より――拙僧もまた、指環を諦めるつもりはありません。
 いまは力及ばず敗北を喫しましたが、いつの日か必ず、再びその指環をいただきに伺います。
 修練のし直しです。次お会いする時には、あなた達に負けない力をつけてみせます。だから――」
アルダガは一度だけ逡巡し、そして真っ直ぐ二人を見て言った。
「――その時まで、他の誰にも指環を奪われないでください。あなた達を倒すのは、私です」
その言葉を最後に、アルダガの姿は光の粒となって消失した。
メイスも同様にかき消え、あとに残ったのは砕けた石畳と、海風と、地面に突き刺さった聖短剣サクラメントだけ。
中央教会戦闘神官、黒鳥騎士アルダガ・バフナグリーがこの場に存在した証は、それだけとなった。

【アルダガ:ジャンとティターニアに敗北し、聖短剣と指環を狙う勢力に関する情報を残して撤退】
【アルダガとしての参加はここで一時終了とさせていただきます。
 味方化のお誘いはとても嬉しいのですが、もともと敵役での短期参加のつもりでしたので、次に繋がる形での脱退になります。
 またシナリオが進んだときに敵役(アルダガor他)としてお邪魔させてもらうかもしれません。
 想定外の驚きの連続で、とても戦いがいのあるバトルが楽しかったです!ありがとうございました!!】

257 :
(推奨BGM:Pray 水樹奈々)

258 :
【>256
そうか、ひとまずお疲れ様であった、素晴らしいシナリオボスをありがとうございました!
こちらこそなかなかトリッキーな技が多くて面白かったぞ。
小ネタ程度に書いていた魔術書をまさかガチで使う事になろうとは……w
普段はスレの形式上敵がNPCの場合が多いがやはりPC同士の戦闘はいいものだな
またいつでもお待ちしておるぞノシ】

259 :
ティターニアを信じて叫び、魔力の大槌をさらに勢いを増した神鳥へと押し付ける。
全ての加護を捨て去り勝利を叫んだアルダガに対し、ジャンは未だ勝つ気でいた。
それはオークの若者にありがちな、自分の有り余る膂力への自信ではなかった。
ただ激戦を生き抜き、短いとはいえ一緒に旅をしてきた仲間への信頼だった。
>「アルダガ殿、そなたに足りぬもの、それは――」
傾いた太陽に照らされ、黄金色に輝いたティターニア。
ジャンと力が入れ替わった結果、オークの膂力を手に入れた彼女はジャンの声に応えてただ飛び出していた。
>「――仲間だあああああああああああああああ!!」
広げた両腕でアルダガに飛びつき、そのまま二人は石畳を転がった。
術者が手を離したメイスはあっけなく石畳へ乾いた音を立てて落下し、鳥もまた光の粒子となって消え去った。
ぶつかり続けていた魔力の大槌は勢い余ってめくれ上がった地面へとぶつかり、砂埃を巻き上げる。
「――ようやっと、おしまいだな。まだやるか?」
もうもうと立ち込める砂埃の中、ジャンはようやく勢いの止まった二人に気づくと、腰を下ろす。
はたして街にいくら払えば弁償できるだろうかと考えながら、ただ沈む夕日をジャンは見ていた。
>「……拙僧の負けです」
夕日がほとんど見えなくなって、空が最も赤く染まるときになり、アルダガはそうぽつりと呟いた。
例の能力入れ替えは解かれ、元通りの力がジャンに帰ってきた。とどめを刺そうと思えば、近くに落ちている短剣で一瞬で終わるのだが、
ジャンも疲弊しており、まだ何か隠し玉があるかもしれないと思うととてもそうする気にはなれなかった。
「……とどめは刺さねえよ。俺は疲れたし、帝国じゃ神官と墓守はRと罰が当たるんだろう?」
だからとっとと帰ってくれ。そう続けて言おうとした瞬間、アルダガの体が光に包まれた。

260 :
>「中央教会の上位神官には肉体強化の常時加護とは別に、女神から一つの加護が授けられています。
 拙僧達戦闘神官は女神の尖兵。その肉体もまた、女神の所有物です。
 これは神官が戦闘不能に陥った際に強制的に身柄を保護し帰還させる、緊急脱出の転移神術『聖母の掌』」
「使い捨てたりしねえんだな、いい神様みてえだ。時間がかかる辺り意地が悪そうだがね」
>「ジャンさん、ティターニアさん。あなた達は帝国黒騎士である拙僧を見事に退けました。完敗です。
 しかし帝国は一枚岩ではありません。拙僧以外にもその指環を狙う勢力は帝国内外に無数に存在します。
 逃げ隠れることは恐らく不可能です。指環は集まれば集まるほどに魔力を高め、術による隠蔽では追いつかなくなります。
 指環は覚醒し、大陸全土にその存在が知られてしまいました。日をおかず、今日のように襲撃に見舞われるでしょう」
「……運がよかっただけだよ。ちょっとでもあのぶつかり合いで負けてりゃ、今頃俺たちは冥界送りだ。
 それに、指環を求める連中なんてあんた並かそれ以上の奴はなかなかいないだろうさ」
(噂を聞いた野盗や素行の悪い冒険者程度なら、よほど数がいない限りなんとかできる。
その手の連中ってのは、大抵独り占めするために少人数で来るもんだし、黒騎士もそうそう来ないだろうよ)
>「――その時まで、他の誰にも指環を奪われないでください。あなた達を倒すのは、私です」
「……おう。じゃあな」
軽く手を振って光に消えていくアルダガを見送ると、ジャンはすっかり暗くなった空を眺めてため息を一つついた。
そして夜の中でもなお輝く聖短剣サクラメントを拾うと、ティターニアの方を向いてこう言った。
「――今日は、せめて藁の敷物じゃなくて毛布のついたベッドで寝てえな」
あまりにも多くのことが起き、過ぎ去っていった一日。
残った指環よりも、ジャンは今日の晩飯と寝床について考えていた。
>>256
ジャンの特技を活かせたり、仲間との連携で技を打ち破ったりと、とても燃える戦闘をありがとうございました!
 途中、力と魔力を入れ替えられた時はどう返すか本気で悩んだもので、また会える日を楽しみにしています!】

261 :
アルダガを取り押さえることに成功し、勝負が決してから、ティターニアは自分は何と無謀なことをやったのかと今更思う。
疑う事もせずに気が付けば飛び出していた。そうか、これが――
「信頼、か――」
抱きすくめたアルダガの体は力を入れれば折れてしまいそうなほど思った以上に華奢で――
おそらく、魔力による加護がなければ身体能力自体は普通の修道女と大差ないのだろう。
そんな彼女がどういう経緯でこれ程の力を授かり過酷な戦いに身を投じることになったのだろう、と思いをはせる。
>「――ようやっと、おしまいだな。まだやるか?」
>「……拙僧の負けです」
ゲゼルレクトが解除され、怪力はジャンの元に戻り代わりに魔力が戻ってくる。
>「……とどめは刺さねえよ。俺は疲れたし、帝国じゃ神官と墓守はRと罰が当たるんだろう?」
「アルダガ殿――」
我々と共に来ぬか? そう言おうとした時だった。アルダガの体が光に包まれる。
>「中央教会の上位神官には肉体強化の常時加護とは別に、女神から一つの加護が授けられています。
 拙僧達戦闘神官は女神の尖兵。その肉体もまた、女神の所有物です。
 これは神官が戦闘不能に陥った際に強制的に身柄を保護し帰還させる、緊急脱出の転移神術『聖母の掌』」
「女神の所有物……か」
ティターニアはその光景を見て自分の浅はかさを思い直す。
女神の尖兵である彼女には裏切る事など許されぬし、裏切ろうなどと思うはずもないのだ。
アルダガは指環を狙う勢力が複数存在することを示唆し、注意を促す。
>「――その時まで、他の誰にも指環を奪われないでください。あなた達を倒すのは、私です」
一瞬の躊躇いの後の再戦宣言を最後に、アルダガは光の中に消えていく。
それを微笑みながら手を振って見送るティターニア。
「ふふっ、安心せい、詰まらぬ者に奪われたりはせぬわ。またな、何度でもお相手しよう!」

262 :
メイスも共に消え、彼女がそこにいた痕跡は跡形もなく消え去り――否、夜の闇の中でも光るものが残されていた。
地面に突き立った聖短剣サクラメントをジャンが引き抜く。
メイスもアルダガと共に消えて行ったようだが、何故これだけ残ったのだろうか。
「彼女なりの餞別……なのかもしれぬな」
足元を見ると、焼け残った魔術書のほんの断片。自分にしか解読不可能な書き込みの痕跡。
もう随分長く開いてなかったが昔は世話になったものだ――などと思い束の間だけしみじみとした表情をして。
「もう版も古くなっておったし良い機会だ、次のフクロウ便で新しいのを届けてもらうか――」
そう一人ごちた。
>「――今日は、せめて藁の敷物じゃなくて毛布のついたベッドで寝てえな」
向き直ったジャンがぽつりと言ったときだった。
「ん? 噂をすれば……だな」
不意に鳥の翼がはためくような音がして……白いフクロウが飛んできてティターニアの腕に留まる。
フクロウの頭を撫で、それの持ってきた袋を検めるティターニア。
いつもより重いそれには、前回より増額された旅賃と、ご丁寧に最新版の魔術書が入っていた。
「随分気が利くではないか……。では今日は少し良い宿に泊まるとするかの――
あれやこれやは明日考えればよいわ」
そう言ってジャンと共に宿がある市街地の方へと歩いていく。
彼は気付いているだろうか、いつの間にか首の指環(の幻影)が消えている事に。
アクアの心配は杞憂に終わった――もとより仕掛けなど必要なかったのだ。
激しく存在を主張していたその魔力も影をひそめ、今のところ隠蔽できている。
今後指環が増えてくればどうなるか分からないが、まだ一つ。今すぐどうこうと言うことは無いだろう。
いつの間にか日はすっかり暮れていて――沈んだ夕日と入れ替わりに、東の空から月が登り始めているのであった。
【第二部あらすじは追って投稿する。
第二部完みたいな雰囲気になっておるがジャン殿も何かあれば書いてもらって全く問題ないぞ!】

263 :
と、いうことでジャンからも何もないから
そろそろ次章のキャラ募集してみたら?

264 :
2ch内TRPG系スレ用(創作発表板・なな板)総合ヲチスレ [無断転載禁止]©2ch.sc
http://mint.2ch.sc/test/read.cgi/net/1478705490/

265 :
名前:ジャン・ジャック・ジャンソン
年齢:27歳
性別:男
身長:198
体重:101
スリーサイズ:不明
種族:ハーフオーク
職業:冒険者
性格:陽気、もしくは陰気
能力:直感・悪食
武器:ミスリル・ハンマー 聖短剣サクラメント
防具:鉄の胸当て
所持品:ロープ・旅道具一式
容姿の特徴・風貌:薄緑の肌にごつい顔をしていて、口からは牙が小さく覗いている
         笑うと顔が歪み、かなりの不細工に見えてしまう
簡単なキャラ解説:
暗黒大陸の小さな村で生まれ、その村に立ち寄った魔族の冒険者の
生き方に憧れ冒険者を目指し大陸を飛び出た。
現在はティターニアの護衛として、四つの指環を手に入れて歴史に名を刻むために旅を続けている。
なお、これまでに持っていた武器は黒鳥騎士アルダガとの戦闘の余波で壊れたため
当分はドワーフのマジャーリンの遺品であるミスリル・ハンマーと
アルダガが残していった聖短剣サクラメントを代わりに使うつもりらしい。
【二章も終わったので、プロフィールをちょっと変えておきました】

266 :
ここはどうやら世界のどの時間軸からも空間軸からも隔絶された場所――いわゆる時空の狭間というやつらしい。
ジャン殿も自己紹介していることだしまずは自己紹介からはじめるとしよう。
名前: ティターニア・グリム・ドリームフォレスト(普段は名字は非公開)
年齢: 少なくとも三ケタ突入
性別: 女
身長: 170
体重: 52
スリーサイズ: 全体的に細い
種族: エルフ
職業: 考古学者/魔術師
性格: 変人でオタクだがなんだかんだで穏健派で情に流されやすい一面も
能力: 元素魔術(魔術師が使う魔術。魔術(狭義)といったらこれのこと)
武器: 聖杖”エーテルセプター” 魔術書(角で殴ると痛い)
防具: インテリメガネ 魔術師のローブ 魔術書(盾替わりにもなる)
所持品: ペンと紙
容姿の特徴・風貌: メガネエルフ。長い金髪とエメラルドグリーンの瞳。
もしかしたら黙っていれば美人かもしれない。
簡単なキャラ解説:
ハイランド連邦共和国の名門魔術学園「ユグドラシア」所属の導師で、実はエルフの長の娘。
研究旅行と称して放浪していたところ偶然にも古代の遺跡の発見の現場に立ち会い
紆余曲折を経てジャンと共に竜の指環を集めるべく旅をしている。
聖杖『エーテルセプター』
エルフが成人(100歳)のときに贈られる、神樹ユグドラシルの枝で出来た杖。
各々の魔力の形質に合わせて作られており、魔術の強化の他
使用者の魔力を注ぎ込んで魔力の武器を形作る事もできる。
魔術書
本来の用途以外に護身用武器防具としての仕様も想定して作られており、紙には強化の付与魔術がかけられている。
持ち運びのために厚さ重さが可変になっており、最大にすると立方体の鈍器と化す。
最初に持っていたものはアルダガ戦にて大破したため、現在のものは最新版である。

267 :
さて……このスレ”ドラゴンズリング”は我、名門魔術学園ユグドラシアの導師ティターニアとその臨時助手のジャン殿が超凄い4つの指環を集めるべく旅をするという冒険物語だ。以上。
こんな感じでいいか? ――えっ、雑すぎる? 間違っては無いけど微妙にニュアンスが違う?
……仕方があるまい、もう少し詳しく説明するとしようか。
☆基本ルール
ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(ただしスレの形式上敵役で継続参加するには工夫が必要)
避難所の有無:なし(規制等の関係で必要な方は言ってもらえれば検討します)
※>1と少しだけ仕様変更しておる。特定のGMは無しで皆で話を作っていく仕様だ。
スレの雰囲気が参加者の毛色によって多少変動するのは必ずしも悪い事ではないと思う故
ダークファンタジーの“ダーク”は取っ払っておるぞ。
もちろん当初のダーク仕様のキャラでもいいし多少ライト寄りのキャラでも構わない。
我は出来る限り皆に合わせよう。
☆世界設定(>1より引用)
――それは、やがて伝説となる物語。
「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。
大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。
竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

268 :
☆第一話 『灼熱の廃都』 (>89より引用)
赤い風の吹き荒ぶ、灼熱の聖域――イグニス山脈。
ヴィルトリア帝国南部に連なるその魔境に、ただ一人で歩を進める男が居た。
彼の者の名は、アルバート・ローレンス。帝国が誇りし七人の黒騎士の一角であり、黒竜騎士の称号を持つ男だ。
そんなアルバートは、世界中を震撼させている古竜(エンシェントドラゴン)をも操ることが出来ると言われている竜の指輪の捜索を命じられ、遥々このイグニス山脈にやって来たのであった。
そして、アルバートが山道を歩いていると、彼を獲物と見なしたジオリザードマンたちが現れた。
それらを魔剣レーヴァテインで蹴散らしている最中、自らをハイランド連邦共和国の名門魔術学園であるユグドラシアの導師だと名乗ったエルフ、ティターニアと邂逅する。
ティターニアとの共闘でリザードマンを全滅させたアルバートが、彼女の話を聞いてみれば、どうやら自分と同じような目的でこの場所に来たのだと分かる。
このままティターニアと共に探索を続けるべきか考えていた時、二人の前に現れたのは伝説の古代都市の守護者――スチームゴーレムだった。
古代文明の叡智の結晶である強敵と対峙し、途中で合流したハーフオークのジャンや、アルバートを付け回すコインという犯罪奴隷の協力もあり、一行はゴーレムを撃破することに成功。
一体何故、とうの昔に滅びた古代都市の護り手が、まだ活動を続けているのか。
そんな疑問は、次に取ったアルバートの行動によって、すぐに払拭されることとなる。
周囲の風景に違和感を覚えたアルバートは、魔術効果さえも燃やし尽くすことができるレーヴァテインを振り、辺り一面を覆っていた幻術を見事に焼き払う。
すると、その中から現れたのは真紅に彩られた美しい街並み。かつて栄華を誇った四大都市の一つ、灼熱都市ヴォルカナの遺跡に他ならなかった。
考古学者でもあるティターニアが、浮かれた足取りで街の中を駆け回っていると、次いで現れたのは幻の蛮獣ベヒーモスと、その上に跨った赤い髪の少女だ。
赤髪の少女は、指輪の元までアルバートたちを案内すると言い、途中で強引に割り込んできた格闘士のナウシトエも加えつつ、一行はヴォルカナの神殿へと向かう。
そして、ようやく辿り着いた遺跡の最奥部で始まったのは、ベヒーモスと対峙するという試練だった。
アルバートはその突出した力を以てベヒーモスと拮抗し、ティターニアは空間の属性を塗り替える大魔術の詠唱を開始。
ジャン、コイン、ナウシトエらの時間稼ぎの甲斐もあり、発動したティターニアの魔術によって、灼熱のマグマは一変。
突如として極寒の風が吹き荒れ始めた洞窟内で、ベヒーモスの動きは明らかに精彩を欠き、その隙を狙ってアルバートの剣が敵の右腕を断つ。辛くもこれを討ち倒すことに成功した。
彼らを試練を越えた勇者と認め、赤髪の少女――いや、焔の竜イグニスは、ドラゴンズリングに関わる伝説を語り始める。
だが、遂に差し出された指輪を前にして、暴走とも呼べる行動を取ったのはナウシトエだった。
ナウシトエは素早く奪い去った指輪を飲み込むと、その肉体が竜の魔力によって、化け物じみた姿へと変貌する。
この騒動でアルバートは彼女を帝国の敵と見なし、今にも戦いの火蓋が切って落とされようとした時、またしても事態が急変する。
虚空を斬り裂く氷の槍に貫かれ、あっけなく絶命するイグニス。
そして、空中に開いた黒い穴から現れた、神話の登場人物のように美しい男。
それはかつてのアルバートの親友であり、現在はダーマ魔法王国の宮廷魔術師を務める天才。白魔卿の異名を持つ、ジュリアン・クロウリーだった。
憎むべきジュリアンを前に激昂したアルバートは、地を駆け抜けて斬り掛かるが、しかしその剣は悪魔の騎士(デーモンナイト)によって阻まれる。
ジュリアンの護衛であるその騎士と剣戟を交え、無残にも完敗したアルバートは、胴体に強烈なダメージを負って倒れ伏す。
そして、仲間たちもジュリアンの行使する魔術の前に手も足も出ず、為す術もないまま、ナウシトエが腹に抱えた指輪を奪われてしまった。
ティターニアは最後の精神力を振り絞って転移魔術を発動し、満身創痍のアルバートらを、麓のカバンコウまで送り届ける。
傷付いた一行は体を休めながら、それぞれに思いを馳せ、その上空には町並みを照らす黄金色の満月が浮かんでいた。

269 :
☆第二話『海精の歌姫』
イグニスが遺した言葉を手掛かりに水の指環があると思われるアクア海溝を目指すことにした一行は、海溝に向かう船を手に入れるために港町カルディアを訪れた。
街の中を歩いていたところ、物乞いらしき少女が店主に痛めつけられている現場に遭遇。
なんだかんだで少女を助けた一行は、少女から遺跡や指環に関する情報収集を試みる。
情報提供として少女が歌った歌は素晴らしく美しく、歌詞には「ステラマリス」「人魚」という言葉がちりばめられているのであった。
そんな中、街の衛兵が少女を監視していることに気付き警戒していたところ、港で爆発火災が発生。
駆けつけてみると、反帝国レジスタンスの海賊「ハイドラ」による襲撃であった。
帝国騎士であるアルバートを中心とする一行は、必然的に消火・鎮圧に協力することとなる。
火災がほぼ鎮火しひと段落と思ったのも束の間、港に突如巨大な船が現れ、街に砲撃を開始した。
その船を指揮するのは、ハイドラの首領エドガー・オールストン。
エドガーの狙いは、帝国打倒のために、実は特殊なセイレーンである少女の「滅びの歌」を発動させることであった。
ジャン・ティターニア・ナウシトエは港にてエドガーと戦闘を開始。
一方、敵に路地裏に誘導されたアルバートとそれを追いかけていったコインは、路地裏にてハイドラ団員と戦闘を開始する。
エドガーは予想以上に強く、苦戦するジャン達。
追い詰められて絶体絶命のピンチに陥ったところ、津波のようなものが来て、ジャンとティターニアは暫し気を失うのであった。
気が付いてみると、ジャンとティターニアは美しい人魚の姿になった少女に手を引かれて海の中を進んでいた。
(尚、アルバート・コイン・ナウシトエの三人は戦闘の混乱で消息不明になってしまった)
少女の正体は、セイレーンの女王にして海底都市ステラマリスの守護聖獣クイーンネレイド(通称クイーン)であった。
実は津波のようなものは、彼女による戦意喪失効果をもつ歌の大魔術であった。
彼女は、指環の勇者として認めたジャン達を海底都市ステラマリスの水竜アクアのもとへ連れていくという。
記憶を対価に人間に扮して指環の勇者を探しに地上に来ていた彼女は、指環の勇者と出会ったことで全てを思い出したとのことだ。
道中で流されていたドワーフのマジャーリンを仲間に加え、ステラマリスに到着した一行は
指環の祭壇へと導かれ、青髪の少年の姿をした水の竜アクアと相見える。
アクアは一行に水の指環を渡し、近頃何故か風の竜ウェントゥスが襲撃をしかけてくると告白。
噂をすれば早速、ウェントゥス配下と思われる翼竜の一団が攻め込んできた。
迎え撃つ一行だったが、襲撃に便乗して何故かジュリアンまで現れ、一行から指環を奪おうとする。
アクアがジュリアンの足止めをし、クイーンの転移の歌によって危うくカルディアに逃がされた一行。
別れ際にアクアは、次は大地の竜テッラの元へ向かえと言い残した。
カルディアに転送された一行のもとに、黒騎士の一人であり、指環を集める命を受けている黒鳥騎士アルダガが現れる。
アルダガと会話をしていたところ謎の襲撃者達が襲い掛かってきて戦闘となり、マジャーリンが死亡。
怒りのままに襲撃者達を蹴散らすジャンとティターニアだったが、襲撃者達の死体が巨大なアンデッドとなって襲い掛かってきた。
アルダガはそのアンデッドを一撃で倒した後、ジャンが持つ指環の存在に気づき、指環を渡すよう一行に迫る。
ジャン達は協力して指環を集めないかと交渉するも決裂、戦闘となった。
ジャンとティターニアは激しい戦闘の末に辛くもアルダガを撃破。
戦闘不能となったアルダガは、先々での再戦を予告しつつ強制帰還の転移術によって二人の前から消えて行ったのであった。

270 :
もう予想はついているかもしれないが次章はおそらく大地の指環を巡る冒険になるだろう。
参加希望者はこの紙に書いて自己紹介をしてほしい。
名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

大体こんなところかな。
では、本編で出会えるのを楽しみに待っておるぞ――!

271 :
参加を希望します。
名前:ミライユ・ヴィ・エルジュ
年齢:23
性別:女
身長:167
体重:54
スリーサイズ:90/57/87
種族:人間
職業:ギルドマネージャー
性格:明るいが、冷酷で無慈悲
能力:空間を操作する魔法、格闘術
武器:なし(あらゆるものを武器にする)
防具:シンプルな紋様のローブ、プリーツスカート
所持品:事務用品や連絡用のマジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:茶色のふんわりショートボブで、明るく笑顔で声も大きく快活そうに見える。
簡単なキャラ解説:ハイランド連邦共和国首府・ソルタレクのギルドマスターの直轄のギルド員。
ギルドマスターに絶対的な忠誠を近い、その感情は常軌を逸しており、完全に耽溺している。むしろ連邦の総領への忠誠心は無いに等しい。
逆に言えばマスター以外は心の中では虫ケラのように扱っている。
密命でギルド員として、他国のほか、国内の元老院、ユグドラシアの動向を調査しており、今回はティターニアの監視を主とする。
また、指名手配中のギルド員の始末、新ギルド員の勧誘など、様々な任務に対応。指環についても調査している。
ミライユ以外にもギルド員はマネージャークラスを含め数人が行動を開始している。
一見快活そうに見え、敬語調で明るく喋る裏で計算する性格のため、相手の警戒を解きやすい。

272 :
【ティターニアさん、ジャンさんよろしくお願いします。
特にことわりが無ければ、次の章の最初の部分でいきなり絡みにいきます。】

273 :
【ようこそ!参加希望嬉しく思うぞ!ではそんな感じでよろしく頼む。 
もう数日間募集してみてから次章とするとしよう】

274 :
とても簡単なキャラ解説:
どこからか指環の情報を聞きつけ入手を狙う二人組の冒険者。
魔法を使えない中年筋肉エルフのノーキンと荒野もゴスロリで旅する謎の少女ケイジィ。
冒険者ギルドに所属しないいわゆるモグリの二人だが、独自の情報網で指環の在り処を追跡している。
豪快かつ後のことを全く考えない戦い方の為、彼らの通った後は台風一過のように滅茶苦茶。

名前:ノーキン・ソードマン
年齢:143  性別:男
身長:195  体重:100
スリーサイズ:筋骨隆々マッチョマン
種族:エルフ
職業:冒険者/元ハイランド連邦宮廷武官
性格:豪放磊落ハイテンションおじさん
能力:魔力と拳法を組み合わせた全く新しい格闘術『能筋拳(マジックマッチョアーツ)』
武器:エーテルメリケンサック
防具:世界樹の植物繊維で織ったフンドシ
所持品:上記フンドシと同じ材質の意志によって形を変えるマント
容姿の特徴・風貌:フンドシ一丁にマント、ドミノマスクとかなりヤバげな見た目の大男
簡単なキャラ解説:
エルフに生まれながら魔法を一切使えず代わりに己の肉体を極限まで鍛え込んでいる筋肉エルフ。
元はハイランド連邦の高官だったがある事件を境に出奔、富と名声を求めて冒険者に転身する。
細かいことを気にしないガハハタイプの豪快な男に見えて、名家の生まれで教養もあるそれなりのエリート。
人間の妻と一人娘がいたが、娘とは死別しておりその件で妻とも別居中。娘は生きていれば18歳になる。
魔法は使えないもののエルフの魔力は健在で、鍛え上げた身体を更に強化し老いを防ぎ傷を癒やすことに特化している。
独自に編み上げた『能筋拳』は通常の拳打や関節技に加え、拳に纏った魔力の塊を常軌を逸した拳速で打ち出すことにより、
大砲並の威力と射程を持つ強烈な必殺技と化している。
その戦闘能力は高官時代に敵国から送り込まれた暗殺者を後詰めの部隊ごと叩き潰すほど。
古竜の復活に際し、指環の強大な力を我が物とせんと相棒の魔導人形ケイジィと共に旅をしている。
好物は猪の肉だが野菜ばっか食ってるエルフの貧弱な消化器官ではお腹を壊すので整腸のポーションを愛飲。

名前:ケイジィ
年齢:起動から3年  性別:女性型
身長:145  体重:65
スリーサイズ:細身の少女(15歳相当)
種族:骸装式魔導人形
職業:冒険者/元ダーマ王属特務"SOR"所属暗殺者
性格:純粋無垢かつ残虐非道
能力:身体の各所に仕込まれた魔術武装、ステルス魔術
武器:仕込み短砲、仕込み毒ナイフ、火炎放射器、ワイヤー他
防具:防御魔術の施された瀟洒な衣服、肌も特別製なので頑丈
所持品:魔術によって巨大化したり自律駆動するウサギの人形
容姿の特徴・風貌:銀髪に白いゴスロリ衣装の少女。耳がヒトより少しだけ長い
簡単なキャラ解説:
ダーマ魔法王国の外法によって死体から造られた『骸装式』の魔導人形。
同国の暗部で汚れ仕事を請け負う特務機関"SOR(太陽の聖典)"が敵国要人の暗殺用に製造した。
容姿及び人格は元となった死体に準拠するが、記憶の殆どは封印され文字通りダーマの傀儡人形である。
機関におけるコードネームは『KG-03(キラーガイスト三号)』。
華奢で可憐な容姿と純粋な性格で油断させ相手の懐に潜り込み、対象を殺害した後はステルス魔術で身を隠し脱出する設計。
特にステルス魔術は強力で、魔力の気配さえも隠蔽できる為に普通に戦ってもそこそこ強い。
ハイランド連邦の政府高官を暗Rべくノーキンの元に送り込まれたが返り討ちに遭い、その際の戦闘でSORも壊滅している。
拠り所を喪ったKG-03はノーキンによって"ケイジィ"の名前を与えられ、その後は彼と行動を共にする。
自分の出自は理解しているが生前の記憶がないため割りとあっけらかんと第二の人生を歩んでいる。
好物はハイランドの元気な魔鋼蟲を澄んだ機械油でカリカリになるまで揚げたもの。

【短期の敵役希望でテンプレ置いておきます。シナリオ後半くらいに状況見て投入したいと思います。よろしくお願いします】

275 :
【参加希望感謝! マッチョエルフに草不可避w
一見ただのイロモノと見せかけて実は強敵っぽいのがまた良いな!
登場は後半ぐらいということで少し先になると思うが本編で戦うのを楽しみにしておるぞ!】

276 :
新章始まるなら参加しよっかな
おうち帰ったらキャラつくるよ

277 :
数日か、1週間か……一行がカルディアに転送されてからどれぐらいの時間が経っただろうか――
目的のうちの一つを達成すると、ジュリアンはあっけなくステラマリスから去っていった。
アクアにとどめを刺したのだ。灼熱都市にてイグニスにそうしたのと同じように。
一つイグニスの時と違うとすれば、今回は最後の言葉を交わす僅かながらの猶予があった。
倒れたアクアに追いすがるクイーン。その瞳から涙が零れ海に溶けた。
「アクア様……」
「……どうしてそんな顔をする? もっと喜べ。君はセイレーンの女王だろう?
ボクがいなくなればもう海の底に隠れておく必要もない。
やっと竜の支配から取り戻す時が来たんじゃないか――君達のこの島を」
アクアはクイーンの頬に手を当て、微笑みながら言い聞かせるように語る。
「そうでしたね……そうでした。あまりにも永すぎて忘れていました」
ヴォルカナの守護聖獣ベヒモス、ステラマリスの守護聖獣クイーンネレイド――
竜の傍らに仕えながら、彼らは明らかに竜の眷属ではない。
そこには遥か古に交わされた契約のようなものがあるのかもしれなかった。
「今までありがとう。ボクの魂は指環の勇者と共にある――」
その言葉を最後に、アクアの姿は青い光の粒となって消えた。
それを見届けたクイーンは、静かに歌い始めた。
幾星霜の時仕えた主への鎮魂歌のようでもあり、仲間達へ新たな始まりを告げる歌のようでもあり。
その歌声は静かな響きにも拘わらず、遺跡中に荘厳に響き渡り――
カルディアの遥か沖合――突如として海が隆起し、轟音と共に浮上してくるのは……島であった。
もしも上空から見れば星の形をしているのが分かるだろう。
美しい遺跡群は、幾星霜もの時の流れが一気に押し寄せたかのように苔や蔦に覆われ、緑の島と化している。
その島ではセイレーン達が戯れ歌い、空を舞う。
美しい女性の姿の上半身は人魚の時と変わらず、しかし下半身は鳥、両腕の代わりに翼――
ステラマリスが海の底に沈んで以来忘れ去られていた、セイレーンのもう一つの姿だ。
島一つが浮上する地形変動が起これば、遅かれ早かれ発見される。
この面からも、指環を巡って極秘に動いている者達の存在が認知されるのは時間の問題となるだろう。
奇しくもアルダガが予言した通り、ジャン達は今後様々な勢力に狙われる羽目になっていくのだ。
例えば――マッチョエルフとゴスロリ人形とか。
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。.第三章開始 .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

278 :
通りを行き交う人、人、人。尤も、厳密にはその表現は正確ではない。
当然人間も含まれてはいるが、帝国の中では比較的異種族の多かったカルディアと比べても
桁違いに様々な種族が行き交っている。
その中でも特に、エルフを中心とする魔術適性の高い長寿種族の姿が目立つ。
人々の会話に注意を向けてみると、共通語である中央大陸語に混ざって「もうかりまっか」「なんでやねん!」等の西方大陸語も聞こえてくる。
また、服装も実に様々である。
中には帝国なら衛兵に職質を受けかねない服装をしたイロモノ・キワモノも闊歩しているが、特に誰も気にすることも無い。
それでも(ハーフ)オークのジャンは珍しくはあるが、この雰囲気の中では特別浮くこともないだろう。
それもそのはず、ここは魔術都市アスガルド――
ハイランド連邦共和国の名門魔術学園にして最大の研究機関ユグドラシアを中心に発展した学園研究都市である。
『まずはテッラの元に急ぐんだ!
あいつはボクやイグニスと違ってとても堅実だから、必ずや力になってくれるだろう』
目的地はアクアが別れ際に言った言葉のとおり――特に各地の地名を調べるまでもなく
ティターニアはテッラの名がつく場所が意外にも身近にあったことを思い出した。
そこでカルディアから運良く出ていた共和国行きの定期船に乗り、遠路はるばるここまでやってきたというわけである。
(一応敵国とはいえ、帝国の警戒は主にダーマに向いており共和国とは表立っての直接戦争はしていないのであろう)
例によって地名だけを手掛かりに選定した目的地はテッラ洞窟。
初級の魔術学生達が軽い気持ちで探検に行くような何のことは無い、学園の近所の洞窟であった。
地底都市への入り口がある等という根も葉もない噂があるが、当然今までにそんな物は見つかってはいない。

279 :
「きゃあっ!」「うわあ!」
突如として街の一角から悲鳴があがる。
水路かどこかから上がってきたらしいオオネズミの一団が道行く人に襲い掛かっているようだ。
オオネズミとは、その名の通り、巨大なネズミ型のモンスターである。
洞窟などによく住んでおり、駆け出し冒険者にとってもそれ程脅威ではない。
しかし、魔術の心得がある者も少なくないであろうこの街の住民が逃げ惑っているのを見るに
このオオネズミ達は魔力か何かの影響によって凶暴化・強化されてしまったようだ。
ティターニアはイグニス山脈にて戦ったリザードマンの群れを思い出す。あれもおそらく通常のリザードマンではなかった。
ジャンがそもそもあの場に行った理由がリザードマンがふもとの村に現れるようになったことによるリザードマン討伐であったが
今回もそれと同じような現象が起こっているのかもしれなかった。
「今行く……ちょ! お主ら、少し落ち着かんか!」
駆けつけようとするも、逃げ惑う人々に逆行して進むのは難しく、人混みにまみれてもみくちゃになる。
「いやああああああああああ!!」
ティターニア達がもみくちゃになっている間にも
今まさに、人々に押され転んだ少女が、オオネズミの鋭い歯に噛みつかれんとしていた。
【>276殿 是非是非!】
【あけおめ!
一応開始しておいたが次の三連休ぐらいまでは募集期間兼ねて年始進行ということで
新規さん達にはそれ位までに登場して頂ければと思っている
自己紹介戦闘用の雑魚を用意しておいた。何匹いるかは適宜調整可能だ。
参加者は常時募集中なのでミライユ殿と>276殿以外もどんどん乱入歓迎】

280 :
次スレを作っておいた
【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

281 :
>>276はおうちに帰れたのかな…

282 :
名前:ラテ・ハムステル
年齢:18
性別:女
身長:153cm
体重:54kg
スリーサイズ:わりと健康的
種族:人間
職業:トレジャーハンター兼行商人
性格:リアリストになりたいなぁと常日頃から思ってるお人好し
能力:レンジャーの心得スニーク編&サバイバル編・アイテム作成&合成・数奇な運勢
武器:大量の低レア武器・お手製魔力爆弾・未鑑定投射武器【不銘】
防具:帷子・大量の低レア防具・大量の加護アクセサリー・呪われた予言の石版
所持品:冒険者セット・エルダーミミックの死骸・お手製ポーション各種・お手製ドーピング薬・お手製、濃縮!ドーピング薬
容姿の特徴・風貌:赤毛のポニーテール・完全武装した子リスのような少女
簡単なキャラ解説:
共和国のレンジャーズギルドに所属する冒険者です
冒険者ってなんかカッコいい!なりたい!なノリで家を飛び出して早三年
ろくに弓も引けなかった小娘でしたが、やる気だけはあったので去年ついにトレジャーハンターとしての活動を許可されました!
でもお宝なんてそうそう見つからないので
副業として、数だけは集まる低レア武器や手作りアイテムを売り歩く行商人ごっこも最近始めました
ダンジョン内でしんどそうな人を見つけたら色々ちょっとお高めに売りつけては後で心を痛めています
素質的には正直ただの村娘Aと言われへこんだ事もありましたが
幸運にも見つけた幾つかのレア装備やお手製アイテムなどでがんばります
ちなみにトレジャーハンターって要はただの遺跡荒らし、盗掘家ですが
収穫物の何割かをギルドに献上する事でちゃんと社会に貢献しています
シーフとかアサシンとか、レンジャーズギルドにはその手の人材が結構いるようで、私は一応それらの講習も受けています
私掠船みたいなもんですね。低レア武器は献上の対象外なのでちょっと助かっています
テッラ洞窟には最近やたら強くなった魔物が出て来るって噂を聞いてやってきました
ギルドからの依頼じゃないので何か見つけても献上しなくていい!がんばろう!
『未鑑定投射武器【不銘】』
町に持ち帰って色々調べても未鑑定なままの武器。弓のような銃のようなパチンコのような?
間近で見ても輪郭がはっきり捉えられない。少なくとも私にはわかんない
でも未鑑定って事はつまり色んな可能性を秘めてるって事で、この武器はなんでも投射出来る
ちょっとお高い鑑定士に頼めばハッキリしそうだけど、鑑定が難しいって事は最悪とんでもなく呪われてるって事
呪われてるかどうかも未確定のままにしときたいからこのままでいーや
『呪われた予言の石版』
宝箱に『此処に古の預言者ナビィの遺した滅びを封じる。無知である事は、未知である事。その未来決して知るべからず』
とか書かれてた。知るべからずなら残さなきゃいいじゃんと思ったんだけど、この石版割れないの。なんで知ってるって?落っことしたから
ともあれこの石版は凄く頑丈なので、私は刻まれた文字に留め具を合成して盾にリメイクしました
ちなみに枕詞の呪われた、は予言ではなく石版の方にかかってるみたいで、実際文字を目にすると胸がモヤモヤする
多分だけど読んだら死んじゃう呪いとか施されてる。知るべからずだし
ちなみに私はなんて書いてあるか解読出来なかったから平気!
トレジャーハンターとして古代言語の勉強もした私が読めないから、多分まだ未発見の文字とかじゃないのこれ
『エルダーミミックの死骸』
幾人もの冒険者を喰らったミミックの死骸。私が倒したんじゃなくて、見つけた時には既に死んでた
すぐ近くに上半身のない骸骨があったから……うぅ、つまりそういう事だったんだろうなぁ
なんとも言えないけど、あの人より先に私が見つけてたら100%死んでただろうから、せめて両手を合わせて、遺骨は持ち帰ってギルドに弔ってもらった
ともあれこの宝箱、死してなお強い魔力を秘めている。具体的には中が超広い。詰め込んだ物の重さも感じない
低レア武器を沢山持ち帰って売るのって、人一人が持ち運べる重量を考えると効率悪いんだけど
私がそれで行商人の真似事が出来てるのはこの箱のおかげ。自分が箱の中に入るのはちょっと怖すぎてした事がない

283 :
遅くなりました!
こんな感じで行きたいんですけど大丈夫でしょうか!

284 :
>283
うむ、元気娘実に良い!
テッラ洞窟に行くなら今の街を拠点にすると思うゆえ(ワールドマップに出て5〜10秒ぐらい歩いたら着くイメージw)
よろしければ登場してやってくれ
そのまま成り行きで同行でも顔見せしておいて洞窟で本格加入でもそなたの望むままに

285 :
魔術都市アスガルドって聞けば、皆少なからず華やいだイメージを抱くと思う。
なんたってあのユグドラシアのお膝元、つまりは魔法の最先端だ。
私がギルドに徴収されたお宝の内の半分くらいは多分ここに流れ着いてバラバラにされてる。
もう半分は多分軍とか競りとか。
沢山のマジックアイテムが集まる事で生まれる益は、魔法技術の発展だけじゃない。
一つ一つのアイテムの価値が下がるって事だ。物の価値はしばしば希少度によって決まる。
つまり……安く仕入れてよそで高く売れば大きな儲けが出るって事だ!
……ってのは冗談で、そこに住む人々の生活が豊かになるのだ。
例えばサンプルとして大量に集められた同種のマジックアイテムが不要になって市場に流れるってな形でね。
それを何度も何度も繰り返せば、街はどんどん豊かになる。
豊かになるから人がよく働き、よく集まる。その結果、もっと豊かになる。
何気ない人の暮らしも掘り返せば歴史がある。感慨深いなぁ。
随分と前置きが長くなったけど……つまり、アスガルドが私がイメージしてたよりも三倍くらい華やかで、賑やかな都だった。
高い魔法技術と溢れんばかりのマジックアイテム(の成れの果て)で彩られた街並みは勿論圧巻の一言だし、
なんかピカピカ光るハンマー背負ったでっかいおじさんとか、すごく美人なエルフ?さんとか歩いてる。
獣人種やエルフって人間じゃないから関わりにくいって感じで浮きがちなんだけど、
ここではまったくそんな事はないみたい。
あのおじさんが獣人種じゃなかったら失礼極まりないけど。
「ん……」
と、目線が道端の露店に跳ねる。私のトレジャーハンターとしての感性が何かを捉えた。
古物商……溢れに溢れたマジックアイテムはこういう所にも流れ着く。
目線を自分の両手に落とす。十本の指全部に小さな指輪が嵌めてある。
お洒落目的って訳じゃない……いやまぁそういう面もあるけど、本命は違う。
アンチ・エレメントだ。
トレジャーハンターって職業はどこかのパーティに雇われでもしない限り、孤独な事が多い。
ただでさえギルドに半分以上持って行かれるお宝を、更に山分けしたくないからだ。
つまり、毒にかかったり体が麻痺したり眠らされたりしたら間違いなく死ぬ。
だからトレジャーハンターって結構アクセサリーを多めに装備しているんだよね。
自分の実力の証明って側面もあるけど、とにかく耐性を上げまくらないと仕事にならない。
だってあの世にお宝は持ってけないし。
私も指輪の他に銀のネックレスにカチューシャにリボンにイヤーカフにと色々装備してる。
ピアスは狭いとこ通る時引っ掛けたら悲惨だからいいのがあっても装備しないけど。

286 :
さておき……私はまだ両手首が空いている。
ここらで何か、良さげな物を見つけておきたい。
周りには他の冒険者もいるし、可及的速やかに!
そしてトレジャーハンターである私が他に遅れを取る事はない!
目を凝らす事数秒……見えた!と手を伸ばす。
>「きゃあっ!」「うわあ!」
悲鳴が……悲鳴だけじゃなく、獣の鳴き声が一緒に聞こえて、思わず手が止まった。
そのまま反射的にそちらへ振り返り、伸ばした右手が、肩掛けカバンならぬ肩掛け宝箱に潜り込む。
その隙に、誰か別の冒険者の手が、私が掴むはずだったブレスレットを掴んで、
そのまま小銭を投げて人混みの中へ消えていくのが、視界の端に映った。
「……あー!」
思わず叫び声を上げる。冒険者は振り返りもしなかった。
私の叫び声だけじゃなくて、もっと大勢の悲鳴が聞こえてるのに。
周りにいる他の冒険者達もそう。皆、厄介事に巻き込まれない内にと離れていく。
彼らの取った行動は、冒険者としては正解だ。
恩を売る為に素早く立ち回るか、そうでなければ余計な消耗を避ける為にさっさと逃げる。
無駄骨になるリスクを背負うより、損をしない方がより模範解答に近いだろう。
だけど、それは確かに正解だけど。
私もさっさとここを離れて、マジックアイテムの仕入れに力を入れるべきなんだろうけど……
「カッコ悪いなぁ……!」
私にはどうも、それが出来ない。
地面を強く蹴り、跳躍。露店の屋根に指を掛ける。
そのまま力いっぱい自分の体を持ち上げ、屋根の上へ。
人混みを上から見下ろせば、騒ぎの発端がどこにあるのかはすぐに分かった。
屋根から屋根へ飛び移り、暴れ回るオオネズミの真上にまで迫る。
>「いやああああああああああ!!」
宝箱に両手を突っ込み武器を取る。
右手には何の変哲もないショートスピアを。
そして左手には……【不銘】を。
弓にも銃にもパチンコのようにも見えるこの未鑑定武器は、なんだって投射する事が出来る。
鋭い閃きと化したショートスピアが、女の子に襲いかかるオオネズミの上顎と下顎を、まとめて地面に縫い付けた。

287 :
「危なかった……いや、まだ危ない!」
ネズミはまだまだ沢山いる。女の子は、腰が抜けて立てずにいる。
つまり……
「っ、ええい!やってやる!」
不銘を仕舞い、盾とダガーを取り出すと、私は露店の屋根から飛び降りた。
そのまま落下の勢いを切っ先に乗せてオオネズミをもう一匹仕留める。
「よし……!けど、こっからどうしよう……」
オオネズミはまだまだ沢山いる。
そして真っ向勝負はレンジャーのやり方じゃない。
……私は左手を宝箱に潜らせて、ポーション用の小瓶を取り出す。
中に入っているのは、本来アイテム合成に使う為の魔物の血液だ。
親指で栓を抜いて、それを足元に撒く。
凶暴化していても、元は動物と殆ど変わらないような下級モンスターだ。
より上位の魔物の臭いを嗅げば、少しは怯むはず……。
ていうか怯んで。ほら!食べられちゃうぞ!さっさと散って!お願い!
うぅ、ダンジョンに着く前から怪我したくもないしアイテムも浪費したくない。
したくないけど、この数とオオネズミの小回り、そして逃げ回りながら戦えない周囲の状況が厄介だ。
町の人達が戦う素振りも見せず逃げ出したって事は、多分襲撃は初めてって訳じゃない。
だったら……自警団とかが来てくれる、はず!
それまでなんとかやり過ごすか……最悪、「吹っ飛ばしちゃう」か……。
でもそんな事したら絶対露店とか色々巻き込むよなぁ。最悪損害賠償ものだよなぁ。
いやだー誰か助けてー。

【とりあえず顔見せだけ】

288 :
>>283
スリーサイズの詳細も頼む

289 :
名前:ミライユ・ヴィ・エルジュ
年齢:23
性別:女
身長:167
体重:54
スリーサイズ:90/57/87
種族:人間
職業:ギルドマネージャー
性格:明るいが、冷酷で無慈悲
能力:空間を操作する魔法、格闘術
武器:なし(あらゆるものを武器にする)
防具:シンプルな紋様のローブ、プリーツスカート
所持品:事務用品や連絡用マジックアイテム、護身用のナイフ等
容姿の特徴・風貌:茶色の外ハネショートボブで、明るく笑顔で声も大きく快活そうに見える。
簡単なキャラ解説:ハイランド連邦共和国首府・ソルタレクのギルドマスターの直轄のギルドマネージャー。
ギルドマスターに絶対的な忠誠を近い、その感情は常軌を逸しており、完全に耽溺している。むしろ連邦の総領への忠誠心は無いに等しい。
逆に言えばマスター以外は心の中では虫ケラのように扱っている。
密命でギルドの一員として、他国のほか、国内の元老院、ユグドラシアの動向を調査しており、今回はティターニアの監視を主とする。
また、指名手配中のギルド員の始末、新ギルド員の勧誘など、様々な任務に対応。指環についても調査している。
ミライユ以外にもギルド員はマネージャークラスを含め数人が行動を開始している。
一見快活そうに見え、敬語調で明るく喋る裏で計算する性格のため、相手の警戒を解きやすい。

290 :
失礼しました、こっちでしたね。

291 :
ハイランド連邦共和国首府、ソルタレク。
そこからかなり南に離れた国境付近のアスガルドの街にミライユはいた。
「ええと……あの方で、間違いないですよね?」
"ギルド正会員・1188番、ラテ・ハムステル"。18歳で小柄な女性etc、との話をマスターから聞いていた。
何やら急いで飛び出していった様子で、会員証を持たずに行ってしまったので、仕事が一つ増えたという訳だ。
「チッ…」
充分な資金を持たされてはいるものの、自分より若く、それも女の冒険者一人に振り回されていることに、
ミライユは思わず舌打ちをする。それも一瞬のことだった。
正面から大勢のオオネズミの群れが、街中を暴れ回り、道行く人に襲い掛かる。
どうやらラテと思われる女が、ネズミたちと交戦を開始し、早速一体を槍で仕留めたところだった。
「仕方ない……私も、参戦します! たあっ!」
オオネズミの動きを魔法で止め、怯んで一瞬動けなくなり、二本足で立ち往生したところに、ミライユの蹴りが入る。
人でいうところの心臓のあたりを狙ったつもりだったが、どうやら外れたらしい。
スカートをフワリと翻すと、そのままもう一撃をお見舞いした。
「グェェ……」
どうやら心臓を直撃し潰したようで、オオネズミの一体が口から血を吐きながら倒れ伏す。
「ふぅ……ようやく一体。でも、一体ずつ倒していたら、キリがないですね。よい、しょっと」
先ほどラテから放たれたショート・スピアをネズミの死骸から引き抜き、一斉にミライユを狙うネズミたちに向け魔法を放つ。
オオネズミたちは一直線に行儀よく並び、そこに衝撃を加えられたミライユのショートスピアが投擲された。
槍は貫通し、雑ながらおおよそ心臓部分を串刺しにされ、そのまま露天のあたりに数珠繋ぎになって吹き飛ばされた。
おおよそ心臓を貫かれているが、急所をはずされたネズミはまだビク、ビクと動いている。
残ったオオネズミたちはその様子を見て逃亡、駆けつけた自警団たちによって追われる側になった。
「ふぅ……さて、ラテ・ハムステルさん。お怪我はありませんか?」
少し自分よりも背の低いラテの肩を軽く叩き、ニッコリと微笑んで見せる。
「私、ソルタレクのギルドからギルドマスターの命にて忘れ物を届けに参りました、
ギルドマネージャーのミライユ・ヴィ・エルジュと申します!」

292 :
ラテの手のひらを取り、大声で自己紹介すると、そこに銀塗りの小さな札を手渡す。
元気いっぱいなのはキャラ作りでもあるが、癖でもある。
そこには「No.1188 ラテ・ハムステル」と刻まれていた。ギルド正会員証である。
「私からの通達事項は以上です! 他に、何か、ありますかっ!?」
やや大きなつり目で微笑みながら、親切そうに尋ねる。ラテが答えるや否や、
次の言葉を続けた。
「特になければこれで。もし必要であれば、私は他の用事の関係でアスガルドで一泊しますので、ご一緒しますが……
ギルドについて何か知りたいこと……あ、マスターのこと以外でしたら、って……!?」
話を続けようとしていると以前からずっとさがしていた人物が、まさに目の前を通り過ぎていくところだったのだ。
その名はユグドラシアの導師・ティターニア。ソルタレクの一部ではちょっとした有名人だ。
肖像画を何度か見たことがあったが、若々しいが貫禄のあるエルフの女。彼女で間違いなさそうだ。
傍には男を連れている。亜人種の血の入った大柄な男だ。
何も知らない人間にはそれがそこらの亜人のカップルにしか見えないだろう。
しかし、ミライユにとっては今回の要注意人物の一人の居場所を突き止めたのだ。目付きが一瞬変わる。
今回のミライユの目的は、
・ラテの捜索(優先順位的には低い・達成済み)
・ハイランド各地の元老院議員の監視(優先順位高い)
・ユグドラシアのティターニアの監視(優先順位高い)
・指名手配中のギルド員の始末(大抵は正会員証を持ったままである。危険人物もあり)
・新ギルド員の勧誘(優秀なら誰でも。優先順位は低いが随時)
・指環についての調査(別のギルド員の仕事なので、優先順位的にはそこそこ)
なので、これは大きなチャンス。マスターの好感度を上げ、急接近する機会だ。
「あぁ〜 どうしようっ! とりあえず、用事ができましたので、お好きにどうぞ!」
会員証を渡したラテを放置して、そのままティターニアたちのもとへダッシュ。
すぐに後ろから声をかけ、話しかける。
「あの、ティターニア様、でよろしいですね!? 私、ソルタレクの冒険者ギルドのミライユ、と申します!
実はこのたび、マスターより支援をして、その、インタビューのようなことをできれば、という企画が上がってまして……」
勿論出鱈目だ。しかし、密着するにはこれぐらいしか思いつかなかった。
ミライユは機転は利くが頭はあまり宜しくはない。
「お会い、できて、嬉しいです! よろしければ、動向しても、よろしいでしょうか!?」
相変わらずの笑顔と、癖のある大きな声で、ティターニアとジャンへと話しかけた。

【急発車ですが、こんな感じで絡ませていただきました。
ちなみに増援の冒険者がアスガルドに既に数名潜んでいます。
状況によってはそれが既に雇われたノーキンさんになるかもしれませんが、
流れ次第で、ということでまだ未定です】

293 :
露天× 露店○
動向× 同行○
【色々と間違えてましたね】

294 :
【二人とも登場乙であった!
大体出揃ったのでこれより1週間ルールで通常運行ということで
こちらは以後ジャン殿→我→ミライユ殿 でローテーション
ラテ殿は顔見せということなので再合流までは好きなタイミングで投下、という感じでよいかな
もちろん以後も参加はいつでも可能】

295 :
アルダガとの激戦を終え、長かった一日を柔らかなベッドの上で終わらせたジャン。
襲撃の被害を受けていなかった宿屋で二人部屋を確保し、部屋に着いたとたんに防具と武器を
部屋の隅に投げてベッドへと倒れこんだのだ。
その深い眠りの中、ジャンは夢を見た。
火の粉と煙が吹き荒れる戦場に、立派な鎧を着た自分が立っている。
手にはこれまた立派な斧と、嵌められた4つの指環。指環の力とオークの力が合わさり、
最前線で敵の群れをものともせず暴れまわっていた。その姿に味方は歓声を上げ、敵は恐怖する。
やがて指揮官の元へたどり着き、指揮官がゆっくりと杖を構え、こちらを見た。指揮官はエルフの魔術師だった。
ジャンは動じることなく敵兵にそうしたように、斧と4つの指環を使い指揮官を追いつめた。
指揮官を殴りつけて地面に叩きつけ、首を取らんと斧を振り下ろした瞬間、ジャンは気づいた。
―――指揮官は、ティターニアだった。
「……クソみたいな夢だ。村に来た大道芸人並につまらねえ」
次の日の朝、いつものように日が昇るころに目を覚ましたジャンは、まだ体に残る疲れと共に起き上がる。
そして部屋の隅に投げてあった武器と防具を身につけ、ティターニアと今後について話すことにしたのだった。

そして今、ジャンとティターニアはハイランドのみならずダーマにすらその名が伝わっている魔術都市アスガルドへと来ていた。
カルディアと大きく異なる点は種族人口の比率というのもあるが、市場が極めて自由という点もある。
自由都市カルディアは確かに活発な貿易からなる経済の流れは大きいが、帝国に管理されている面が多々ある。
だがアスガルドの市場は管理された自由ではなく、相互利益による自由だ。
冒険者が持ち込み、商人が売りさばき、学者がさらに発展させる市場サイクルはまさしく理想的な循環と言えるかもしれない。

296 :
そんな活気あふれる市場を歩いていく二人。
テッラの名がつく場所があるというのでこの都市を拠点にすることにした二人は、
学園近くの洞窟、テッラ洞窟にまで行くことになったのだ。
「しっかし……もうちょっとあの装飾品拾っておくんだったなぁ」
途中、ジャンはギルドの買い取り所へと寄り、担当商人へ海底都市で拾った装飾品を売っていた。
浮上した海底都市はすでに噂となって駆け巡っており、海藻や苔が生えた装飾品は海底都市産として高く買い取られたのだ。
手に入れた金でサクラメントを収める鞘も買っておいたが、できることならジャンはこの短剣を使いたくはなかった。
売れば間違いなく噂となり、かといって振り回せば神官辺りにどういうことかと聞かれかねない。
結局、地味な鉄製の鞘にしまっておくことにしたのだ。これならばパッと見ただけではただの短剣にしか見えず、盗もうと考える不届き者もいない。
>「きゃあっ!」「うわあ!」
市場の人の流れに沿ってゆるやかに歩いていたとき、悲鳴が聞こえた。
聞こえた方向に振り向いてみれば、大量のオオネズミが群れをなして暴れている。
ジャンが駆け出しの頃によくドブさらいのついでに駆除していた程度の強さだが、何しろ今は数が多い。
既に駆除を始めている冒険者たちに助力すべく、ジャンもミスリル・ハンマーの柄を掴み、駆けだそうとしたが――
>「いやああああああああああ!!」
転んだ女の子に襲い掛かろうとしたオオネズミは飛来した短槍によって頭部を貫かれ、
>「ふぅ……ようやく一体。でも、一体ずつ倒していたら、キリがないですね。よい、しょっと」
群れをなしていたオオネズミもまとめて駆除されてしまった。
自警団の本隊も到着したようで市場のそこかしこから、オオネズミが死に際に叫ぶ独特の鳴き声が聞こえてくる。
どうやら騒ぎは収まったらしく、ならば片付けでも手伝うかと後ろを振り向いた瞬間、先ほどオオネズミを処理していた冒険者が声をかけてきた。
>「あの、ティターニア様、でよろしいですね!? 私、ソルタレクの冒険者ギルドのミライユ、と申します!
実はこのたび、マスターより支援をして、その、インタビューのようなことをできれば、という企画が上がってまして……」
>「お会い、できて、嬉しいです! よろしければ、動向しても、よろしいでしょうか!?」
シンプルなローブに貧相な体、魔術学園の生徒かギルドの事務員と見紛う外見だったが、ジャンは噂で聞いたことがあった。
ソルタレクの冒険者ギルドには、面倒な奴がいると。一見何も考えていない底抜けの明るい奴に見えて、中身はギルドマスターの狂信者。
目をつけられた者は所属を問わず厄介事に巻き込まれる……目の前の彼女がそうかもしれなかった。
「どうするよ、オイ。明らかに刺客か見張りじゃねえのかアイツ」
隣のティターニアに小声で話しかけ、ジャンは雇い主であるティターニアの返答を待つことにした。

297 :
>「仕方ない……私も、参戦します! たあっ!」
……来た!援軍来た!
服装的に都の自警団ではなさそうだけど関係ないね!助けてくれれば誰でもいい!
ん?なんで自警団じゃないか分かったのかって?
だってあのローブ、模様がシンプルだもん。
自警団や憲兵がなんで装備を統一するかって、自分が組織の一員だと明確に示す為。
制服や正式装備を揃える事で相手に「仮にコイツに勝てても次は組織ぐるみでしばかれるだけだ」
って思わせれば、自治に際して余計な争いを避けられるんだよね。組織の力ってすごいのです。
>よい、しょっと」
とかぼんやり考えてる内にオオネズミはまとめて串刺しにされてました。
うーん、この人出来る。
私よりも細身なのにあのキック力、そしてオオネズミをまとめて拘束した魔法。
さらっとやってのけたけど、わりととんでもない魔力の持ち主に違いない。
と、上の文を読んでキック力と魔力に何の関係が?と思った人もいるかもしれない。
そんなあなたにラナちゃんの冒険者講座。
まずはちょっとズレたところから話が始まるけど、炎ってさ、すごいよね。
かつて神より与えられた火をきっかけに、
食料の長期保存や強固な建材、外敵や環境への対抗手段が確保され、人類の文明と科学は始まった。
炎は全ての始まりなのだ。属性的な意味でもそう。
炎は風を起こし、温度差は水を生み、灰は土になり、熱は金属を純化させる。
つまり炎ってのは、大したエネルギーなのだ。
だけど、その炎も、万能性においては魔力には叶わない。
魔力ってさ、使いこなせばすごい色んな事が出来るじゃん?
炎や雷を起こすのは勿論、土やら水やら、物質を生み出して更にそこに威力を付与出来る。
この世には魔法学以外の、色んなジャンルのお勉強があるけど
少しでもそれらを齧ってれば魔力、魔法がどれだけ凄い代物なのかが改めて分かる。
長くなったけど、つまり魔力はもっと大したエネルギーなのだ。
それこそ、人体をより効率的に運用する動力としても使えちゃうくらいに。
私も多少そういう技術を齧ってるけど、齧ってるからこそこの人の凄さが分かる。
>「ふぅ……さて、ラテ・ハムステルさん。お怪我はありませんか?」
「え?あれ?私の名前?」
名乗った覚えもない名前を呼ばれて、私の盗賊の勘が働き出す。
なんか嫌な予感がする。
>「私、ソルタレクのギルドからギルドマスターの命にて忘れ物を届けに参りました、
  ギルドマネージャーのミライユ・ヴィ・エルジュと申します!」
ほらぁ。
違うんですよ、私別にその会員証いらないんです。
いや、あの、やめて押し付けないで。くっ、この、力強いこの人!

298 :
>「私からの通達事項は以上です! 他に、何か、ありますかっ!?」
「……いえ、特には」
>「特になければこれで。もし必要であれば、私は他の用事の関係でアスガルドで一泊しますので、ご一緒しますが……
  ギルドについて何か知りたいこと……あ、マスターのこと以外でしたら、って……!?」
>「あぁ〜 どうしようっ! とりあえず、用事ができましたので、お好きにどうぞ!」
「……行っちゃったよ」
げぇー、『冒険者ギルドの正会員証』かぁ。
厄介な物を受け取ってしまった……。
と、この冒険の書を読んでるだけじゃ何が厄介なのか分からないよね。
という訳でラナちゃんの冒険者講座その2です。
まず『ギルド』ってのは「組合」って意味で、ようは同じ職業の者同士で作る互助組織みたいなもの。
互助組織とは言っても、この日記を読んでれば分かると思うけど、ギルドに所属するには対価がいる。
私だったら発掘したお宝の何割か。ひどい時は五割を超える。鬼か。
だけどその代わりに弓も引けない小娘でも、まじめに頑張れば一人前にしてもらえる。
それにダンジョンの情報も教えてもらえるしね。
もし私がギルドに頼らず冒険者やろうと思ったら、多分とっくの昔に死んでたし、
仮になれても冒険の度に情報収集で何ヶ月も使うはめになる。
だから徴収されるお宝も、昔の教育費やその他諸々を返済してると思えばそんなに苦にならない。
おっ、我ながら分かりやすい説明が出来そう。
まぁ要するに、デメリットを分散し、メリットを収束させる。
これがギルドに所属する事、そしてギルドが存在する事による最大のメリットだ。
じゃあ今度は『冒険者ギルド』のお話。
『ギルド』はその性質上、普通は「同業者組合」になる。
だから私はレンジャーズギルドに所属してるし、剣士や魔法使いならそっちのギルドに所属する。
でもはそういうのお構いなし。
冒険者なら誰でもウチのギルド員だとばかりに勧誘する。
相手が既にどこかのギルドに所属しててもお構いなし。
私とか一体どこで目を付けられたの……。
まぁ、これは魔術師だけど冒険者じゃない、みたいな人もいるし納得出来ない事もない。
それに冒険者同士の衝突って結構よくあるしね。前衛職と後衛職の衝突とか。
前衛は俺達が守ってやってんだぞって思ってるし、
後衛は俺達は敵を倒してお前らの回復までしてんだぞとか思ってる、的な。
そういうのが膨れ上がって組織規模の厄介事にならないよう
「冒険者」って括りでまとめ上げちゃうのは確かに画期的だ。
けど、冒険者ギルドは冒険者以外にも色んなところに顔を突っ込んでる。
噂じゃ他国や元老院にまでちょっかいだしてるとか。ヤバくない?
さっきも言ったけど『ギルド』ってのは「職業人の組合」。
例えるなら兵士が王様の私生活を監視したり提言してるようなもんよ?
普通なら即打ち首じゃん?
でもそうなってないって事は……何かよく分からないけど、ヤバイんだよ。

299 :
より正確にはヤバいかもしれない。
もしかしたら冒険者達が面白がって広めた噂が独り歩きしてるだけなのかも。
実は公表されていないだけで国営の機関なのかもしれない。
私も別にそんな気合い入れて調べた訳じゃないしね。
……でもヤバイかもしれないなら私は出来る事なら関わりたくありませんでした。
はー、捨てたら何故か気づかれて新しいのが渡されるんだろうな、有料で。
>「あの、ティターニア様、でよろしいですね!? 私、ソルタレクの冒険者ギルドのミライユ、と申します!
  実はこのたび、マスターより支援をして、その、インタビューのようなことをできれば、という企画が上がってまして……」
「げっ……あの人達、私の三倍くらい強めに絡まれてる」
あのギルドマネージャー……ミライユさんだっけ?の声が聞こえて、思わずそちらを振り返る。
呼ばれた名前は私のじゃないけど、狼が吠えてたら自分の名前を読んでなくてもそっちを見るよね。
と、さっき見かけたおじさんとエルフさんが絡まれてた。
ミライユさんはめちゃくちゃ明るい感じの人だったけど、とんでもない手練だった。
冒険者ギルドからの、手練の来客……お察し。
「……まぁ、流石に私が首を突っ込む事でもないよね。まだ何も起こってないんだし」
……うん、私も冒険者にしてはかなりお人好しな方だなって思うけど、流石にこれはね。
ミライユさんが冒険者ギルドの命令で来ているなら、私には何も出来ない。
これは別に心情的な問題だけじゃなくて。
あの人は冒険者ギルドの一員。
そして私は(冒険者ギルドの正会員証のは目をつむるとして)レンジャーズギルドの一員。
下手に邪魔をすれば、それはそのままこっちのギルドの瑕疵となってしまう。
うーん……気にならない訳じゃないけど、ギルドを首になるのは流石に……。
まぁあの人達もなんか凄そうな杖とかハンマー持ってるし……後なんかお宝の臭いも、じゅるる。
……じゃなくて、とにかく、自分達でなんとかするだろう。
ていうか私もホントは他人の事を気にしていられるような立場じゃないし。
こういうのは次のダンジョンでお宝を見つけて、財布がほくほくになってから考えよう。
えーと、確か……テッラ洞窟だっけ?
特にお宝の情報はなかったけど、付近の魔物が強化されてるって事は、強い魔力がそこにあるって事。
強い魔力があるって事は……すごいマジックアイテムか、すごいモンスターがいるって事。
どっちにしてもお金になるぞ!がんばろう!後者だったら命がけ度がめちゃくちゃ跳ね上がるけど!



【合流はまだだけど、なんか雰囲気作りにこういうのいいかなって】

300 :
いい感じだぁ

301 :
オオネズミはティターニア達が駆けつけるまでもなく、二人の女性によって手際よく駆除された。
どこか小動物を思わせる小柄な少女が、屋根の上からショートスピアを投射してオオネズミを一匹串刺しにしてみせる。
至近距離ならともかく、あの距離からのショートスピアの投射は至難の業のはずだが……。
ローブを着た方の女性は空間魔術の使い手であろう。
オオネズミを一直線に並べてからの串刺しの一撃必殺は圧巻である。
「ほう、見事なものだ……」
自警団も駆けつけ、もはや出る幕無しということで感心していたその時。
ローブの女性が突然駆け寄ってきた。
>「あの、ティターニア様、でよろしいですね!? 私、ソルタレクの冒険者ギルドのミライユ、と申します!
実はこのたび、マスターより支援をして、その、インタビューのようなことをできれば、という企画が上がってまして……」
>「お会い、できて、嬉しいです! よろしければ、動向しても、よろしいでしょうか!?」
風貌、口調共に明朗快活そのもの、といった感じの女性である。
一般的に言うところの胡散臭さや怪しさとは正反対。
敢えて怪しいところをあげるとすれば、行き過ぎてあまりにも絵に描いたような明朗快活すぎる――というところか。
つまり……この態度は何か意図があっての作り物ではないか、ということ。
ジャンも似たようなことを思ったようで。
>「どうするよ、オイ。明らかに刺客か見張りじゃねえのかアイツ」
「ソルタレクの冒険者ギルド……か。まあ適当に話を合わせてくれ」
あまり長く話すわけにもいかないので、手身近に伝える。
こうして堂々と話しかけてきた時点で刺客の可能性は限りなく低いが、見張り、というのはほぼ正解であろう。
ソルタレクは連邦共和国の主府――そこの冒険者ギルドとなればそんじょそこらの冒険者ギルドとは訳が違う。
共和国中の冒険者を牛耳りたい冒険者ギルドと、独立した地位を保障されているユグドラシア。
ティターニアは政治的な事には疎いとはいえ、その二つの組織の間に多かれ少なかれなんやかんやがありそうなのは想像に難くない。

302 :
「いかにも、我がティターニアだ。しかしよく分かったな。
ソルタレクまで名が知れ渡っているとは光栄というべきか恐れ多いというべきか。
このようなところまで遠路来てもらってかたじけない」
ミライユと名乗った女性に、敵意がない様子で応える。
実際に、警戒こそすれど今のところ敵意はない。それもそのはず。
忘れられがちだが、帝国の黒騎士相手でも何の深い意図もなく加勢に入って運よく切り捨てられなかったので
そのまま同行してしまったというある意味大物である。
増してや今回は一応同じ国の人相手なのだから猶更だ。
とんでもない大物なのか、はたまた単なる馬鹿なのか――それは神のみぞ知る、といったところ。
「しかしそなた運が良かったな。
実はこのところ研究のために放浪しておったのだが
最近洞窟から強いモンスターが出てくるようになって被害が出ているということで舞い戻ってきたところなのだ。
同行はやぶさかではないのだが洞窟探索には危険が伴うと思うが……それでも良いのであれば共に行こう」
核心には触れていないが満更嘘でもないレベルの情報を伝え、承諾の意思を伝える。
本当に目的が言葉通りの支援なら何の問題も無し。
見張りなら、断ったところでいいと言うまで付きまとってくるだろうし
仮に切り捨てたところでまた新たな見張りが派遣されてくるだけの話である。
それに……いくらジャンが頼りになる前衛だとはいえ、この先何が起こるか分からない以上二人だけでは心基ない、というのもあった。
なんといっても炎の指環の試練なんて5人がかりでギリギリだったのである。
アルダガ戦では運良く勇気と機転と友情パワーで何とかなったが、常にそれで何とかなるほど甘い世界ではないのだ。
「ジャン殿もよいな? さっきの戦いぶりを見ておっただろう、きっと頼りになるぞ」
向こうがこちらを見張るなら、こちらは戦力を利用させてもらうとしようではないか――
意訳すれば、そういう意味だ。

303 :2017/01/06
>>294【了解です!】
>「……行っちゃったよ」
ラテがギルドの会員証を持ったまま、ブツブツと何やらつぶやきながら何かを考えている。
それをティターニアたちの方に向かいながらミライユは気にしていた。
ラテは確か受け取る際に少し抵抗したはずだ。
もしかしたら、何か勘違いしているのかもしれない。
ミライユとて鬼ではない。素早く戻ると、軽く声をかけた。
「あのう、一つ。ラテさんが所属しているレンジャーズギルド、実は冒険者ギルドの一部なんです!
そういうことですから、もしソレを"失くす"などということがあれば、「組織を抜けた、裏切った」ということになりますので、
くれぐれもご注意を。勿論、持っていて犯罪を犯しても同じです。私、仲間割れって、嫌い、なんですよ〜」
軽い感じで話しかけるも、ミライユのウィンクされたもう片方の目は細くテラの目を見据え、笑ってはいなかった。
あぁ、とふと自分の服装を見ながら思った。ミライユはローブの下にチェイン・メイルを着込んでおり、腹部は特に分厚く防護されている。
これはポイントガードの効果もあるが、身体の線を出さないようにするためでもあった。胸や尻を見せつけるのは目立つだけで不利でしかない。
一方で先ほどのラテという女は元々だろうが、なんと健康的で肉感的か。
あれを女好きの紳士であるマスターが見れば、興味を持たないとも限らない。
ここがアスガルドではなく、そこらの無人の荒野だったのなら……
(私は、女に会員証を渡した後、騙して殺害し、事故に巻き込まれた扱いにしてしまっていたかもしれません……)

大男、ジャンはミライユの全身の装備などを見ると妙に冷静な顔になってティターニアに耳打ちをした。
どうやら、怪しい者だと思われているらしい。やはり彼氏か、部下の線が正しいのだろう。
>「いかにも、我がティターニアだ。しかしよく分かったな。
ソルタレクまで名が知れ渡っているとは光栄というべきか恐れ多いというべきか。
このようなところまで遠路来てもらってかたじけない」
「いえいえ、こちら側が勝手に視察を行っただけですから、私についてはお構いなく。
ギルドでは有名ですよっ! 特にマスターの部屋なんかにはティターニア様の……あっ」
うっかりマスターの部屋の様子を伝えそうになるところだった。

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