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ロボット物SS総合スレ 72号機
13 :
とりあえず書いてみました
土曜の夜に友人の家で酒盛りするのが習慣になってしまったのは、いつからだったか。そんなことを考えながら、本田光孝はローテーブルの上の発泡酒を手に取り呷った。
エアコンの効いた室内。腰を下ろしているフローリングの床は、ひんやりとしている。少し硬いが、ここで横になったらさぞ気持ちの良いことだろう。
「ちょっと本田、寝てんの?」
「寝てるわけないだろ。こうして酒を飲んでる」
中身の半分ほどになった缶を顔の高さまで掲げたが、ソファの上で大の字になっているこのプレハブの主、白石圭子は納得しない。
彼女とは中学一年の時に同じクラスになって以来、腐れ縁が続いている。
受験勉強の為にと彼女の親が敷地内に建てたらしいこの四畳半の空間も、今では堕落しきった大学生たちの溜まり場になってしまっている。
裏庭に建つこの部屋には、建造された当初――高校二年の時だから、もう三年近く前になる――から出入りしていたが、室内で参考書の類や筆記用具を見たことは一度もない。
市街地から離れた田園の中とは言え、広い庭付きの一軒家にこんな物まで建てるあたり、存外彼女の家は金銭的に恵まれているのではないかと、本田は常々思っている。
「何でもいいから面白い話しなさいよ。退屈」
さらさらと音を立てそうな、ストレートの長い黒髪を揺らしながら、白石が言った。メイクや服装に気を使うタイプの女子大生で、あの髪形は珍しい。
塾の講師のバイトをしている為、髪を染めることも出来ないと白石がたまに嘆いているのは知っている。それでも続けているところを見ると、今の仕事が気に入っているらしい。
そういえば彼女は教育学部だった。漫然と経済学部に入った自分とは違い、将来設計や希望職業など、既に固まっているのかもしれない。
「また黙り込んで」
「楽しい話を探してただけだよ。何もないな」
「つまんないわねー。ちゃんと大学でネタを仕入れてきなさいよ」
毎週毎週そんな物を用意できるか、と言い返したがったが、口を開くのも億劫になってきていた。この調子では睡魔が襲ってくるのも時間の問題だろう。
「私の高校に面白い人がいたのって、話したっけ。同級生の長野っていうの」
向こうが話をしてくれるのか、ラッキーだ。
「初めて聞くな。忘れてるだけかもしれないけど、とりあえず話してくれ」
「彼、高校時代はゴッドって呼ばれてたんだけど――」
「プロレスラーみたいなニックネームだな」
「それくらい破天荒なエピソードがあるのよ。夏場はブーメラン水着一丁で授業を受けるような人だったんだから」
「別に珍しくは――」
言いかけて白石は止めた。自分の通っていた男子高では当たり前のことでも、共学に通っている人々にとっては奇異な話なのだろう。

14 :
発泡酒を傾けながら、無言で続きを促す。
「それでそのゴッドの隣の席には、結構可愛い女子が座ってたらしいんだけど、授業中ゴッドが、何回もその女子に向けて『欲しいんだろう?』って囁き続けてたらしいの」
「段々紙一重の奴になってきたな……一部の男子に異様に人気があって、ほとんどの女子に嫌われるタイプか、その人。俺はそういうの好きだけど」
「どうかな。顔はかなり良かったから、女子にもそこまで嫌われてなかったと思う」
「羨ましい話だ」
顔で得をした経験など、二十年近い人生の中で皆無だ。
「しかもそのゴッドったら、学校に大量のエロ本を持ち込んでたの。バッグの中には凌辱系の十八禁漫画が詰め込まれてて、男子たちも引くような内容ばっかりだったって」
「そこまでやられると、ちょっと理解できないな……」
「でしょでしょ。で、これが極め付きなんだけど――」
間を置いて、彼女は続ける。
「彼、修学旅行で強姦疑惑が掛けられたの」
――大丈夫。
手鏡に映っているのは、わざとらしくない程度にメイクを施した自分の顔だ。人並みよりは可愛い……はずだ。男子に付き合ってくれと言われたことも、これまでに四回ある。
強気で押しかけてしまえばいい。悪い顔はされないはずだ。
既に室内には誰もいない。既に入浴も終えた。消灯までの少ない自由時間、みんなジャージ姿で気の合う友人や気になる異性を探して、ホテルを彷徨っているのだろう。
そして白石圭子もまた、部屋を後にする。男子たちの部屋があるのは、一つ上の六階だ。
カーペットの敷かれた廊下を進み、階段を上り、事前にチェックしておいた部屋の前に辿り着く。部屋番号の下に貼られている宿泊者名簿。その中に、長野晶の名前もある。
ドアノブを回し、恐る恐る開ける。靴置きにはごちゃごちゃと履き物が置かれていたが、人の気配はない。
「おじゃましまーす……」
返事はない。スリッパを脱いで部屋に上がった。和室には布団が敷かれているが、およそ綺麗とは言い難い敷き方である。ふざけて暴れでもしたのだろう。
誰もいないだろうと安心しかけていただけに、壁に背を預けて座ったまま静かな寝息を立てている長野を見つけた時には、声を上げそうになった。
足音を忍ばせて、長野のすぐ前でしゃがみ込む。隣の席にいる中性的な容姿をした男子の寝顔は、贔屓目抜きにしても綺麗だった。
癖のない黒髪が額に掛かっており、眉は細く整っている。瞼はしっかり閉じていて、通った鼻筋が静かな呼吸音を出していた。口が少しだけ開いているのが可愛い。

15 :
ぐっすり眠っている。まだ修学旅行の初日だというのに、相当疲れているようだ。
声を掛けるのが躊躇われた。彼が起きてしまったら、この距離を維持できなくなってしまう。
白石は奇妙な感覚に襲われていた。呼吸が苦しい。自分の心臓の鼓動も、ひどく大きく聞こえる。
このまま顔を近づけて、彼の唇を奪ってしまおうか。そんな馬鹿げた案は理性に粉砕される。
が、規則的に上下する長野の胸を見て、そんな行儀の良い人格は消し飛んでしまった。下着が濡れていることを、否応なく自覚する。
そっと長野の胸に手を置いた。暖かい。この頃になると、自分が何をしているのか、全く把握できなくなっていた。
胸に置いた手が、身体のラインに沿って徐々に下へと落ちていく。腹部の下、ジャージのズボンに手がかかる。下着と一緒にそれを下ろすと、彼の性器が露わになる。
白石は顔を近づける。実物を見たのは初めてで、奇妙な匂いがした。硬い毛に覆われた肉棒を手に取ると、彼女は皮を剥ぎ、無意識的に口に含んだ。
私は何をやっているんだろう。それにしても彼、良く眠っているな。そういえば明日の自由行動、どこに行くんだっけ。
まとまりを欠いた思考を弄びながら彼女が長野の身体を貪っていると、乱暴なドアの開け閉めの音がした。
慌てて顔を離す。長野の衣服を元通りにして、大きく後退する。
何事か言いながら室内に姿を現したのは、同じクラスの男子だった。自分と長野を見比べて、きょとんとしている。
何故そこで俯き、泣き出してしまったのかは、今でも判らない。ただ、止まることのない大粒の涙を見た男子の表情がみるみる硬くなっていくのは気配で感じた。
やがて長野が目を覚ます。
そして目覚めた彼は、こう言うのだ。
「テンポがヌルヌルする……?」
空になった発泡酒の缶をテーブルの上に戻した本田が、顔をしかめて繰り返していた。
「なんだそりゃ……頭おかしいのかそいつは」
「信じられないでしょ。でも本当らしいの」
「もはや刑事事件だろ。その後どうなったんだよ」
どうもしなかった。被害者と目された女子が完全黙秘を貫いたからだ。何があったのかは当人同士、というか女子しか知らない。
「とりあえず、その女子と男子は疎遠になってたわね」
「まあそれは当然だろうな。真実は藪の中とは言え、お互い気まずいだろ」

16 :
にしても、と悪友がこちらに尋ねる。
「そんな騒動が起きたんなら、その後相当遠巻きにされたんじゃないか、その男子」
「まあ……それなりにね」
「可哀想に」
「……誰が?」
「ゴッドだよ。女に押し倒された可能性だって、無きにも非ずだろ」
沈黙が意外だったのか、本田が声を上げる。
「何黙り込んでるんだよ。変なこと言ったか、俺」
「え? いや、何も」
まさかこの男がそんなことを言い出すとは思わなかった。長野の日頃の行いを実際に見ていないから、公平な意見を述べられたのかもしれない。
「周りは誰もそうは見なかったけどね」
「予断だろ。奇行が多いにしても、男のテンポがヌルヌルしてて女が泣いてればそれ即ち男による強姦、なんて決めつけるのは短気すぎる」
「あんたがうちの高校にいたら、あの騒動の結末も変わってたかもね」
「成人式で会えたら、真相を訊いてみろよ。今年だろ、確か」
そうか。冬にはまた、彼に会えるかもしれない。
「そんな勇気ないわよ」
その時は、素直に謝ろう。ついでに、あの日を境にうやむやになってしまっていた想いも、ちゃんと伝えよう。
いつの間にか、本田が不敵な笑みを浮かべていた。
「どうする。そいつが茶髪ロン毛の鼻ピアスみたいな恰好で来たら」
「絶対やだ。っていうか不吉なこと言わないでよ!」
「判んねえぞ。久々に昔の友達に会ったらとんでもなくチャラくなってた、なんて良くある話だぜ」
そこで本田が笑い、白石もまた大いに笑った。友人との楽しい夜は更けていく。
おわりです

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