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ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+2匹目


1 :2010/09/04 〜 最終レス :2018/10/17
時代はうなぎよりウーパールーパー!ミ(゜θ゜)彡
モバイラーもあるよ!(εё)
前スレ:ウーパールーパーで創作するスレ+(・─・)+
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1249981120/
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/864.html
前々スレ:俺スーパーモバイラー
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1239426090/
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/149.html
関連レス:これから書いていこう
http://namidame.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1239915589/1-51
+(・─・)+ +(・◇・)+ +(×o×)+ ……。

2 :
ちなみに、ウーパールーパー 変態 で検索してトップに出てる
サイトに行けば最終形態のウーパールーパーが見れるよ!

3 :
 別に楽しみにしてくれる人はいなくていい。
俺が楽しく週間連載ごっこが出来ればそれでいいのだ。
創発万歳!独りよがりサイコー!あははははははーっ!!!
「いくつになっても投下をすれば胸がドキドキするの」
というわけで、身悶えながら「 グレートサラマンダーZ 再開 」

前スレ投下済み「 グレートサラマンダーZ 」
※レス番はすべて前スレのものです。
:プロローグ
>39
プロローグとエピローグを間違える。
 
:第1章 「 グレートサラマンダーZ、出動する。」
>45>47>50-52>59-61
うぱるぱ王国秘密警察によって強制的に秘密基地に連行されたうぱ太郎は
うぱ松と出会い、無理矢理グレートサラマンダーZのパイロットに任命される。
そこでいきなりグレートサラマンダーZに乗り込みパトロールに出動する。
:第2章 「 うぱ松、苦悩する。」
>64-66>69-72>78-81>88-90>94-96>98-100>102-103>107-112
うぱるぱ救出に励むも、週刊誌に載ったり警察に捕まりそうになるなど、にわかに
グレートサラマンダーZの周囲が騒がしくなる。そしてまさかのテレビ出演。
うぱ松はうぱ太郎達を援護する為グレートサラマンダーZ2号機の開発に着手しようかと迷う。

このスレからの「 グレートサラマンダーZ 」
 :第3章 「 うぱ太郎、絶叫する。」
テレビ出演をきっかけにグレートサラマンダーZは一躍人気者になる。
また、うぱ太郎の涙の主張が功を奏したのかウーパールーパーを食べる人は激減する。
そんなある日うぱ太郎はパトロール中、久しぶりにうぱるぱSOS信号を受信する。
グレートサラマンダーZと共に駆けつけたうぱ太郎は廃墟の中の地獄絵図に愕然とする。
そしてうぱ太郎とグレートサラマンダーZは最悪の状況に追い込まれていく……
 :第4章 ちょーてきとーゆるゆるトンデモ展開。
幼稚園レベルの思い付きを成立させるため、思いっきり引っ張る。
 :第5章 後出し後付け満載で収束へ。
 :最終章 蛇足かもしれない。
 と、まぁこんな感じでちんたら進めていきます。
 下記、前スレ投下2レスを見て許せるwようなら
http://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/864.html
で専ブラ、●無しでも前スレが見ることが出来ますので興味のある方はどうぞ。
 また、投下時必ず名前欄に「 グレートサラマンダーZ 」と入れますので
見るのが嫌な方はすいませんが、NG設定もしくは手動にてスルーお願いします。
 
投下スレ数は安定しないかもしれませんが毎週水曜日夜投下予定。

4 :
47 名前:「 グレートサラマンダーZ 」 :2009/10/14(水) 22:13:33 ID:BDhnE7iV
「…………何、……これ」
奇怪な現象を前に、うぱ太郎は立ち尽くしている。
「……これは君の力だ。君はグレートサラマンダーZのパイロットなんだ。うぱ太郎、
君は選ばれた者の宿命として、危機に瀕したうぱるぱを救わなければならない義務がある。
そこの机に座ってくれ。これから詳しくグレートサラマンダーZについて説明する」
「ちょっと待ってください!」
「いいから早く座れ!」
(なんで僕なんだ…… そんなこと急に言われたって僕に出来るわけがない……)
虚ろな表情のまま、うぱ太郎は古ぼけた木製の椅子に座った。
(なんで僕なんだ……)
「滅多にいない1メーター級の山椒魚から細胞を勝手に拝借しバイオテクノロジーとDNA
操作で、細胞組織の根本から見直し、伸縮性に富み自然治癒力を大幅に向上させた本体を作った。
グレートサラマンダーZの動力源は半永久機関の特殊モーター。その力を駆動系と電力発電系に
分配している。充電用バッテリーは5年間メーカー保証付きのメンテナンスフリータイプを――」
(なんで…………)
混乱していた。うぱ松の説明は、うぱ太郎には届かなかった。
「グレートサラマンダーZの動力モーターには幻の金属と呼ばれるオリハルコンを使用している。
ただ、オリハルコンだけでは動力にならないからそこに、うぱるぱ王国特産の希少金属、
オリアキコンを組み合わせる。簡単に言えば両者は反発しあう磁石だ。それをもとに一旦
廻り始めたら無限に廻り続けるモーターができた。ただしそれだけではモーターのトルクが足り
ない。そこでさらに反発しあう王国名物の希少金属、オリフユコンとオリナツコンをペアで
使用してリピートリングとパワーリングというリングモーターを作った。
 そのリングをメインモーターの回転軸に組み込み摩擦抵抗を完璧に抑え、反発力を極限まで
高めた。そのおかげで一気にトルクが跳ね上がった。が、それを制御出来なければ意味は無い。
 ここで王国幻の逸品の希少金属、オルシーズンの登場だ。純度100%オルシーズンを使用し、
職人が精魂つめて作ったスピードバルブ。このスピードバルブがこのモーターの要になる。
 リピートリングとパワーリングの相乗効果で、回転エネルギーは倍々ゲームで加速していく。
ただ、そのままでは、行き着く先は暴走だ。そうならないための制御バルブがスピードバルブだ。
通常スピードバルブは自動制御だが、手動操作に切り替え可能だ。ただ、それはあくまでも
緊急用だ。短時間で遠くに逃げるための手段と思って欲しい。計算上ではスピードバルブを
手動制御で全開にし、10秒以上アクセル全開にすれば動力モーターは異常回転をきたしグレート
サラマンダーZは暴走する。基本的にスピードバルブ制御を手動にする必要は無いが、もし
その必要があった場合はくれぐれも注意して欲しい。
万が一グレートサラマンダーZが暴走した場合うぱ太郎、君の生命の保証は出来ない……。
 ……おい、聞いてるのかうぱ太郎! 重要な事だぞ!」
「…………」 
 うぱ太郎は机に突っ伏して寝ていた。
うぱ松の講義はうぱ太郎にとってあまりにも退屈で長かった。
「おい!ちゃんと話を聞け、うぱ太郎!」
「…………」
うぱ太郎は目覚めたばかりでぼーっとしている。うぱ松は怒った。
「コラ!うぱ太郎!しゃきっとしろ!しゃきっと!」
「うるさいっ!」
うぱ太郎は逆ギレした。勢いあまってエラが輝いた。その刹那グレートサラマンダーZの目が光った。
「う”る”さ”い”っ”!!!!!!!!」
グレートサラマンダーZの咆哮が、またもやパドックの窓ガラスを割った。
「うるせーボケっ!」
うぱ太郎はマジギレした。グレートサラマンダーZはしゅんとした。うぱ松は頭をかかえた。

5 :
81 名前:「 グレートサラマンダーZ 」 :2009/11/05(木) 19:44:15 ID:BtMptZUS
 5匹のウーパールーパーを収容し終え、グレートサラマンダーZを窓枠だけに
なった自動ドアの出入り口に向かわせた時だった。
「待て」
呼び止める真田の声に、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせ振り返る。
左足を負傷しながらも愚直なまで基本に忠実に、両腕で銃を構える真田。
「…………」
「…………」
 張り詰めた静寂が、いる者すべてを無言にさせる。
ふぅ、と息を吐き出す。もうエラは輝いていない。うぱ太郎が沈黙を破る。
「……僕には拳銃の弾も効かないみたいです。さっき撃たれたけどなんとも
なかったです。それでも、撃って気が済むなら撃ってください。
 あなた方を怪我させたことは申し訳ないと思うけど、僕はあなた方に従うつもりは
ありません」
 ぱんっ!
 ぼよん。
 グレートサラマンダーZを真っ直ぐに見据え、真田は撃った。
グレートサラマンダーZの体の中心を弾丸が射抜いたはずだった。
しかし僅かに皮膚に突き刺さっただけでそれは役目を終えた。 
「……僕はウーパールーパーを助けることを悪いことだと思っていません。
だけど、警察まで出てきて、拳銃で撃たれた……」
 うぱ太郎の声が震える。
「……あなた方の正義ってなんですか?」
「…………」
うぱ太郎は涙声になっている。真田は静かに銃を下ろした。
「僕に教えてください!仲間を助けちゃダメなんですか!」
「…………」
 うぱ太郎の涙の問いに、応えられる者はだれもいなかった。
沈黙の後、真田が口を開く。
「……君には君の想いがあるだろう。……だが、私には私の立場と責任がある。
答えにならず申し訳ないが、私に言えるのはそれだけだ」
うぱ太郎のうせび泣く声が響く。真田の表情から険しさが消える。
「……さぁ、もう行ってくれ。我々4人は病院直行だ。救護班に見つかればまた君は
厄介な状況に追い込まれる」
「……すいません」
うぱ太郎はグレートサラマンダーZの姿勢を戻し、真田達を残しコンビニを後にした。
 
――そして秘密基地に戻る移動中、うぱ太郎はずっとコックピットで泣きつづけた。

6 :
 前スレでは、頭の中では完結しているし断片的だけど書き溜めもあるし大丈夫。と余裕を
かましていたが結局は放置にてスレdat落ち(サーバー移転が一番の原因だがw)
しかし今回は俺がスレを立てたという重責wがあるので意地でも完結させるぜ!!!!!
(レス代行スレ立て代行ウィキ編集の職人さん、ありがとうございます)
というわけで次の水曜日から本編再開しますのでどうぞよろしくおねがいします。

7 :
>>2-6代理投下

8 :
投下乙
完結できるよう頑張れ

9 :
>>2
ひいいいいいいいいい!!!!!?????

10 :
      , -'- 、
      (《《.||》)        r‐‐、
     _,;ト - イ、       l) (|    良い子の諸君!
   (⌒`    ⌒ヽ     ,,ト.-イ
    ヽ  ~~⌒γ⌒)  r'⌒ `!´ `⌒)  ウーパールーパーもまた変態だった
     ヽー―'^ー-'  ( ⌒γ⌒~~ /
      〉    |    `ー^ー― r'    とか言って、私たちと共演させたりしてはいけないぞ!
     /───|      |  l  l
     irー-、 ー ,}     /     i
    /   `X´ ヽ   /   入  |

11 :
わかったからおまえは何か穿けw

12 :
やったーモロだー!

13 :
第3章「 うぱ太郎、絶叫する。」

 
 季節が巡り、グレートサラマンダーZのテレビ出演から半年の月日が流れようとしていた。
 絵になる、話題になると睨んだテレビクルーの思惑どおり、涙を流すグレートサラマンダーZの
姿は、緊急放送された翌日から多々あるワイドショー番組のトップを飾り、目撃情報や怪情報が飛び
乱れた。
 思いもよらぬ形で担ぎ出されたグレートサラマンダーZは、その風貌とうぱ太郎の謳った演説から
人間社会の人々に「涙の大山椒魚」と呼ばれるようになり一躍『時の人』となる。反面その涙の
大山椒魚を直接見たいが為にウーパールーパーを脅す人が後を絶たず、うぱ松やうぱ太郎、グレート
サラマンダーZの関係者を悩ませ、うぱるぱ王国住民を不安に陥れた。
 放送で流された映像は著名な動画サイトにアップされ、日本におけるウーパールーパーの惨状が
全世界の人々に知れ渡るはめになった。
 本場メキシコの天然物ウーパールーパーが減少の一途をたどり、両生類愛好家を嘆かせている最中、
ギネスブック申請モノの世界最大と思われる両生類が発した主張は世界中の多くの者の注目を浴びる
ことになる。その主張は生物学者、宗教家、自然環境保護団体、いかがわしい輩たちを巻き込んで
喧々囂々の大論争に発展した。
 しかしその騒動も時とともに終焉を迎える。
人の噂も七十五日……。過去に幾度とあった珍獣ブームと同じく「涙の大山椒魚」も2ヶ月も持たずに
世間の興味の対象から外れていくことになる。
 見ない日のなかったテレビ特集番組も別の話題に移り変わり、ノイローゼになりそうなくらいに
鳴り続けていたうぱるぱSOS信号の受信音もさもすれば、グレートサラマンダーZがテレビに出る
以前よりも少なくなっていた。
 道を行けば記念撮影を求められ人だかりができ、もみくちゃになって蹴られたりしていたのが
遠い日の幻だったかのように、うぱ太郎とグレートサラマンダーZは静かな日々を取り戻した。

14 :
「結局、何がしたかったんですかね? 老人Xって……」
パトロール巡回を終え、秘密基地に帰還したうぱ太郎は基地スタッフに淹れてもらったコーヒーの
紙コップをいじりながらうぱ松に問いかける。前回出動と同様に今日もうぱるぱSOS信号はキャッチ
しなかった。平和な日々が続いている。
「……さあな。金持ちの考えてることはよくわからん」
図面を睨んでいたうぱ松も手を休め、煙草を燻らせはじめる。

 放送のあった翌日からSOS信号は激増した。そして秘密基地の予想どおり、そのほとんどが
ウーパールーパーを食べるわけではなく「涙の大山椒魚」見たさのイタズラだった。
 しかし、悪いことばかりでもなかった。ウーパールーパーを食べるということを嗜好として
許容出来ない人たちがこぞって拒絶反応を示し始めたのである。
「ウーパールーパーを食べるなんてキモい」「普通に無理。神経を疑う」
難しいことを考えているわけではない。単に個々の趣味の問題である。だが若い世代、特に女性から発せら
れたその言葉は、専門家や博識者が力説するよりもはるかに世情を動かす力があった。
 一部スーパー、食料品店に並んでいた食材としてのウーパールーパーは徐々に姿を消し始め、飲食店の
メニューからはウーパールーパーの文字が消えた。ペットショップには「食用としてのウーパー
ルーパーの販売はしておりません」と張り紙がなされるようになった。

「おまえが警察ぶっとばしたからそれを利用してグレートサラマンダーZを悪者に仕立てようと企んだ
とは思うが、結果的に逆効果になったな。……まぁ、我々からすれば過程や経過はどうあれうぱるぱを食べる
人間が激減してくれたんだ、願ったり叶ったりだな。ある意味老人Xに感謝しなければいけない」
緩くなった口元をごまかすようにうぱ松は煙草の煙を吸い込む。
「そうですね。一時はひどい目にあったけど終わってみればなんとやらで何とかなっちゃいましたから
結果オーライってやつですね」
昔日を懐かしむかのようにうぱ太郎も苦笑いを浮かべる。

 逃げたくはなかった。負けたくはなかった。
渦中の人となりパトロールを遂行するには厳しい状況の中、あえてうぱ松はグレートサラマンダーZ
を出動させた。
 うぱ太郎も乱発するSOS信号に苦慮しながらも日々パトロールに励んだ。
間違いなくイタズラと思われる場所へも自ら出向きウーパールーパーを食べないでと訴え続けた。
 記念撮影を求められれば喜んでポーズをとり、背中に乗せろと言われれば嫌な顔ひとつせずリクエスト
に応え、東に横断歩道を渡れずに困っている老婆がいれば身を挺して車を止め、西に泣き止まぬ赤子が
いれば笑顔見せるまであやし続けた。
 以前から進められていたグレートサラマンダーZ視聴覚データーリモート確認システムは急ピッチで
作製され、秘密基地には大型の3D対応液晶テレビがモニター用として設置された。
そしてうぱ松は自身が搭乗するモビルスーツ「グレートサラマンダーR」の開発に着手していた。

15 :
「……平和ですね」
 ぽつりと呟く。そしてうぱ松の吐き出した煙を目で追う。
「あぁ。だが老人Xがまた我々にちょっかいを出してこないとは限らない。まだまだ油断は
できないぞ、うぱ太郎」
「……はい」
 ためらいがちにうなずく。
そして意を決したかのようにうぱ松を正面に見据え、うぱ太郎は繰り出した。
「……うぱ松さん。僕、落ち着いたら警察に出頭したいんですけど」
「出頭……?」
「えぇ。怪我させちゃった警察の人に謝りたいと思って……。それにテレビに出たときウーパー
ルーパー食べる人がいなくなったら警察に出頭するって約束してますので……」
 不安な色を滲ませながらも、よどみのない意志を放つ瞳。
――真面目な奴だ……。
 心の中で静かに思う。そしてひとつ息をつき、うぱ松は話し始める。
「……そうか、わかった。……ただ、まだその時ではない。もう半年は様子を見たほうがいい」
「……はい」
「それと、そのときは俺も一緒に行こう」
「えっ!?」
思いがけないうぱ松の返事にうぱ太郎は動揺する。
 警察に出頭。
社会経験の少ないうぱ太郎にとって、それは理由はどうあれ犯罪者として烙印を押されるための
通過儀礼という負のイメージしか浮かばない一大事である。
「でも、うぱ松さんには関係ないことだし……」
「うぱ太郎。確かにお前は救出活動の最前線で戦ってきた。だからといってその結果の責任全てを
しょい込む必要はどこにもない。警察を負傷させたことだって我々には正当な理由がある。
それに偉そうに言えば俺はうぱるぱ救出活動の最高責任者で、うぱ太郎は組織の中では一番の下っ端だ。
下のものがやらかしたことを上のものがフォローしたり責任を取るのは至極当たり前のこと、うぱ太郎が
気にすることではない。というかそれくらいしか俺の仕事はないからな。
 いずれにしても俺はいままでうぱ太郎が救出活動で失敗したことがあるとは一度たりとも思っていない。
だから警察に行くときも堂々と正面から入っていけばいい。俺も一緒に行くから心配するな」
「…………」
困惑気味のうぱ太郎を諭すかのように、そう言ってうぱ松はニヤリと笑う。

 グレートサラマンダーZ涙の主張。その後のうぱ太郎の献身的な姿勢。ウーパールーパーを
食べない人から湧き上がったウーパールーパーを食べるなんてキモい、という声。そしてブームに
対して熱しやすく冷めやすい世間。それらが一体となりうぱるぱ王国に神風が通り抜けた。
 あれから半年が過ぎた。直近10日間のパトロール出動でSOS信号受信件数は1件。
それはグレートサラマンダーZとうぱ太郎がうぱるぱ救出活動を遂行するようになってから最良の数字だった。

「うぱ太郎。グレートサラマンダーRが完成したらシェイクダウンもかねて
景色のいいところにロングツーリングにでも出るか」
 遠い約束である。グレートサラマンダーRの完成は半年以上先の予定だ。
それでもうぱ太郎は笑みを浮かべてうぱ松の誘いにこたえる。
「あ、いいですね。すごい楽しみだな」
そして目がかゆいふりをして、こぼれそうになった涙をそっと拭った――

16 :
 すべてが終結したわけではない。
しかしグレートサラマンダーZの完成から手探りの状態で始まったうぱるぱ救出活動は、山あり谷ありの
多難を乗り越えて予想外の展開ではあるが着実に実を結びつつあった。
 うぱ松のまとめあげた救出活動記録の数字に秘密基地スタッフは喜びを讃えあい、うぱるぱ王国住民は
安堵のため息を漏らした。
『この争いも終わりが近づいている』
住民の誰もがそう思った。
うぱ太郎やうぱ松、秘密基地のスタッフさえもそう信じて疑わなかった――


「え……? 3匹……!?」 
 老人Xの手によるテレビ出演から7ヶ月が過ぎた。
ウーパールーパーを食べる人間が激減した今でも、うぱ太郎は週2、3回グレートサラマンダーZ
を繰り出しパトロールを続けている。
 SOS信号を受信することはほとんどない。
それでものんびりと街を流しては困っていそうな人に何か手伝えることはありますか?と声をかけ、
逆に呼び止められたら周囲の迷惑にならない限り近寄って愛想を振りまいた。
 パトロールにかこつけたドライブといってもいいくらいに穏やかな午後。
だから鋭い発信音とともにナビに表示されたSOS信号受信にうぱ太郎は驚きを隠せなかった。
最後にSOS信号を受信したのは1ヶ月前、それも子供のイタズラによるものである。
「……3匹か。……またイタズラかな?」
グレートサラマンダーZを路側帯に停めナビの到着予定時間を確認する。
「よし、久々だからファステストモードで行こう!」
緊張で少しだけ体が震える。そしてそれはすぐに消えていく。
 風を切り裂いて駆け始めるグレートサラマンダーZ。
しかしその先に待ち構える悪夢を、うぱ太郎が知るすべはどこにもなかった――

17 :
今日はここまで。
※規制中の身(8/22永久規制発動)なのですいませんが「グレートサラマンダーZ」に対する
レスは全レス返さないw方針で行きます。めんどくさがりでごめんなさい。
このスレにレスがつくとパソコンの前で、ありがたや〜と拝んでますので
(初めて自分でスレを立てたのでマジで思ってるw)それで勘弁してくだしい。

18 :
ここまで代理レス

19 :
投下乙乙
平和だっただけに続きが怖いなぁ
頑張れうぱ太郎

20 :

 工業団地と呼ばれる地域の区画の片隅にぽつんと立つ3階建ての小さな貸事務所風のビル。
プレート痕が残る看板にテナントが入居していた名残は感じさせるものの、もう出入りする者は
誰もいないのか、正面玄関には空き缶やペットボトル、菓子の空き袋、枯れ葉などのゴミが手も
つけられず散乱している。
ベージュの外壁にはいくつもの黒い筋が走り、土ほこりや水垢で汚れた窓ガラスに輝きはない。
「怪しいなぁ」
うぱ太郎はぽつりとつぶやく。
ナビに導かれた現場はお世辞にもいい雰囲気の場所とは言えなかった。
「……嫌な予感がする。うぱ松さん忙しいかな」
テレビ出演騒動後、コックピットに新設された秘密基地通信ボタンを押す。むき出しの外部
スピーカーから数回の呼び出し音のあと秘密基地スタッフの声が流れる。指定番号間通話無料の
携帯電話をうぱ松が改造を施したシステムである。
『うぱ太郎君お疲れ。どうかした?』
「あ、お疲れ様です。久々にSOS信号拾ったんで現場来たんですけど、なんか怪しいんで
うぱ松さんに指示もらおうかと思って。いますか?」
『あー、うぱ松さんスポーツ新聞と煙草持ってトイレ行っちゃったから多分しばらく無理』
「あちゃー」
うぱ太郎は苦笑する。うぱ松の長トイレは有名で、煙草を持ってトイレに向かったら20分は
出てこないというのが秘密基地内の定説になっている。
『ちょっと待って。いま映像モニター切り替えるから』
映像データーは通話とは別に、うぱ太郎がグレートサラマンダーZ越しに見ている映像にグレート
サラマンダーZのステータスデーターが付加されて秘密基地に転送されている。パソコンを通じ
大型液晶テレビにて常時確認できるのだが、危険な状況に陥ることがなくなったいま、
新設されたモニターは純粋にテレビとして活躍している。
『今見てるビルだよね? うーん、そんな古いわけじゃないけど……無人ビルっぽいね』
「ですよね」
『うぱ太郎君、周囲確認しててくれないかな。うぱ松さん戻ってきたら追っかけ再生で見せるから。
電話はこのままでいいな。うぱ松さん戻ったら呼びかけるよ』
「了解しました」
 基地スタッフに言われるままにうぱ太郎は周囲を見渡す。
ビル脇には車を10台ほど停められる駐車場がある。風化が進んでいるようでスペースを区切る
白線はだいぶ色が薄くなっている。そして車は1台も停まっていない。
大企業の配送センターでもあるのか、少し離れた大きな通りにはよく見るロゴの入ったトラック達が
それなりに走っている。
 そっとアクセルを入れてビル周辺を歩く。
もし、SOS信号を受信していなかったら気にも留めない日常の風景だろう。寂れていく様も
「不況」という言葉でまかなえる範疇にある。
しかしSOS信号を受信したという事実が、ありふれた景色に不穏な空気を流す。
「イタズラか罠か……。でも最盛期の時のように人でごった返すことはなさそうだな」
わざとらしく独り言を口にして心を落ち着かせる。そして再びグレートサラマンダーZを
ビル正面に移動させる。


21 :

『お疲れさん』
「うあ! お、お疲れ様です」
突然のうぱ松の呼びかけにうぱ太郎は肝を冷やす。入れっぱなしの通信システムのことを
完全に忘れていた。
『どうした? 何ビビってる?』
「あ、いえ通信繋ぎっぱなしなことすっかり忘れてボーっとしてたらいきなりうぱ松さんの
声がしたんで……」
『あぁ、すまん。ちょっとトイレにこもってたからな。……しかしひと通り映像確認したが、
いい感じに怪しさ醸し出してる現場だな』
「そうなんですよ。なんか久々に嫌な予感がして……」
多少びびりは入っていた。ただ、怪しい場所という認識をうぱ松や秘密基地スタッフと共有
することで、うぱ太郎の不安は少しではあるが解消されている。
ハンドルを握り直し、うぱ松の指示を待つ。
『相当手の込んだイタズラ、もしくは老人Xの手によるものかは判らないが何かしらの罠と
思って違いないだろう。ただ閑散とした無人ビルとはいえ、近くには商業施設もあるし交通量の
多い道路もある。いくらなんでも建物爆破とか銃撃戦とかそんな派手なことはできないはずだ。
こちらから指示は出す。だが、もしうぱ太郎がヤバいと思うならいつでもダッシュで逃げて来い』
「了解しました!」
 うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせて、あらためて周囲を見渡した。
不審者、不審車、不審物。危険につながりそうな気配を感じさせるものはなにもない。
――よし、行くぞ!
 己を奮い立たせるように心の中で気合を入れる。
グレートサラマンダーZの姿勢を戻す。そして両開きと思われる玄関扉を押す。
 案の定、鍵はかけられていない。
 
 ビルの中に踏み込む。
午後の日差しと窓ガラスのおかげで中はそれほど暗くない。
灯ってもいないのに天井の両端の煤けている蛍光灯がやけに目に付く。
 廊下の奥に見えるのは階段とエレベーター、ありきたりなマークの付いたトイレのドア。
1フロア1テナントの造りなのか、事務所への入り口はセロテープの貼り跡が残る自動ドア
1ヶ所しかない。
 自動ドアの前に移動する。
 建物内に通電されている様子はない。
グレートサラマンダーZのパドルシフトを操作し、うぱ太郎はドアに手をかける。
 …ぐごッ
 わずかに開いた後、反発する。
それは電源の入っていない施錠された自動ドアの動きだった。
――ここじゃない……。
 緊張を紛らすようにうぱ太郎は大きく息を吐いた。
視線を移す。そしてグレートサラマンダーZを階段に向かわせた。


22 :

 階段の踊り場の小さな窓から日が差し込んでいる。
区切られた光の中を夜光虫のように埃が宙を舞い、陰の中に消えていく。
 一歩一歩、階段を上がる。
処刑台に向かっているわけでもないのに足取りは重い。
狭い空間から抜け出す。視界が広がる。
「!!っ」
 不自然なのは明らかだった。
 2階フロア。
造りは1階とほぼ同じ。事務所入り口の自動ドアも1ヶ所。
しかし事務所入り口の自動ドアはすでに開ききっていた。
「ここか……」
 開いたドアの前に行き、室内を見る。
仕切り板と思われる壁に赤いペンキで矢印が記されている。
 あからさまである。
オフホワイトの壁に赤いペンキ。毒々しい色で描かれた印は鮮烈な憎悪を発している。
もはや挑発してるとしか思えない状況に、うぱ太郎は思わず身を硬くする。
『うぱ太郎、聴こえるか』
「はい」
スピーカー越しにうぱ松の声がする。
『ずいぶん丁重なお出迎えだな。油断するな、慎重にいけ』
「はい!」
――大丈夫、みんな見ててくれる。
 両手で頬を叩き、うぱ太郎はもう何度したか分からない心の準備をする。
ゆっくりと踏み出す。いつもの挨拶はしない。そして僅かに暗い室内に入る。
「…………」
壁に記された矢印はホラー映画のタイトルのように赤いペンキがたれ落ちている。
そして矢印が指す先の床には、ことさら大きく乱暴に矢印が描かれている。
「…………」
空気が重い。目に見えない悪意が室内に充満している。
 のし のし のし
一歩二歩とグレートサラマンダーZを進める。
 どくん。どくん。
 心臓が脈打つ。
床の矢印の上に立つ。そして矢印のその先を見上げる。


23 :

「!?っ」
『!!!』
『えっ……?』
 
 奇妙な光景が映し出された。
巨大なてるてる坊主のようなものが5体、首に結び目をつけて天井から吊るされていた。
手足はだらりと投げ出され、頭は前下がりになっている。
「…なに、これ…」
『くそっ、なんてことしやがる!』
『ひどい……』
 グレートサラマンダーZの視聴覚モニターに補正が入り色調が鮮明になる。
黒褐色3体、赤褐色2体、体長いずれも1メートル前後。
そこにはぴくりとも動かない5体の大山椒魚が首吊り死体のように天井からぶら下がっていた。
「な…………………」
 目を覆いたくなるような惨状にうぱ太郎は言葉を失う。

『……うぱ太郎、聴こえるか』
すかさずうぱ松がフォローをいれる。
「…………」
しかしうぱ太郎の返事はない。
『うぱ太郎!答えろ!』
「…………」
『うぱ太郎、しっかりしろっ!!!』
 スピーカーの向こうでうぱ松が怒鳴る。
「…………えぇ」
あまりにも壮絶で異常すぎる光景に、うぱ太郎はそう答えるのがやっとだった。
『うぱ太郎、おまえは一旦その場から離れろ!』
『うぱ太郎君、こっちでうぱるぱ王国協力隊の人たち手配するから無理しないで』
「…………」

 うぱ松やスタッフの声は届いていなかった。無意識のうちにグレートサラマンダーZを立ち
上がらせ、うぱ太郎は吸い寄せられるようにふらふらと不自然な大山椒魚の群れに近づいていく。

「……ごめんなさい、ごめんなさい…………」
微動だにしない大山椒魚の前でうぱ太郎はうなだれる。
『話を聞け!うぱ太郎!』
『うぱ太郎君!!!!!』
スピーカーの声を錯乱する精神が断ち切る。


24 :

 惨劇の絵が脳裏に焼きついて離れない。
自らが騙っていた生物の死がうぱ太郎の魂を苛む。
――僕がもっとしっかりしてればこんなことにはならなかった……
 パイロットとしての自責。
 悔しさ。そして悲しみ。
うぱ太郎の頬を一筋の涙が伝う。
――許せない……
 あざ笑う虚像。影のままの老人X。 
 怒り。そして憎しみ。
体の中から何かが激しく湧き上がる。
『落ち着けっ!!!うぱ太郎!!!!!』
うぱ松の怒声。しかしうぱ太郎には響かない。
立ち尽くしたままのグレートサラマンダーZ。
「……許さない」
 コックピットの中でうぱ太郎のエラが虹色に輝く。
「……僕は、僕は!」
 頭の中で何かが弾けた。
「僕 は 絶 対 許 さ な い っ ! ! ! 」
「僕”は”絶”対”許”さ”な”い”っ”!”!”!”」
 怒りのままに衝動のままにうぱ太郎は叫んだ。
 グレートサラマンダーZ共鳴。空気が震える。
 その刹那。



25 :

ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「う、うわああぁあああぁああああぁぁぁぁぁあああああああああああー!!!!!!!!!!!!!!」
『!?っ』
『うぱ太郎君っ!!!』
うぱ太郎絶叫する。死んだはずの大山椒魚5体が突然激しく暴れだした。
 
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「ひぃいいぃー!!!ごめんなさいごめんなさい!僕が悪いんじゃないっ!悪いのは老人Xです!!!」
『うぱ太郎っ、落ち着けっ!!!』
『うぱ太郎君!!! …………あれ?』
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「許して許して!呪わないで祟らないで!南無阿弥陀仏っ南無阿弥陀仏っ!どうか成仏してくださいっ!」
『よかった!うぱ松さん大山椒魚みんな生きてますね!』
『あぁ。どうやら殺してから吊ったんじゃなくて生きた状態で天井から吊られたんだろうな。
どのくらいの時間かは分からないが、死んだふりして体力を温存してたんだろう。大山椒魚の
生命力は半端ないしそれに皮膚呼吸もできるしな。……それより問題はうぱ太郎のほうだ』
『えぇ、完全に自分を見失ってますね。て言うか、うぱ太郎君びびりすぎ』
ぐねぐねぐねぐね、びちびちびちびち、ばぐばぐばぐばぐ、びよーんびよーんびよーんびよーん
「ひぃいいっ!噛まないでくださいっ!僕はまだゾンビになりたくないっ!!!」
『落ち着け!この馬鹿!!!』
「ゾンビに襲われてるのに落ち着いてられませんっ!!!」
『ボケがっ!いい加減気づけ!!!
 ……うぱ太郎、間に合ってよかったな。大山椒魚はみんな生きている』
「は…………?」
 
うぱ松の罵声でやっとうぱ太郎は気づく。 
「…………あっ!」
『そういうことだ。まったく臆病な奴だな。というか今までこれ以上の修羅場何度もあったろうに』
「……………………」
うぱ太郎、恥ずかしさのあまり固まる。
「うぅ、すいません。てっきり死んだものかと……。それにお化けとか幽霊って苦手なんです。僕」
『うぱ太郎君。お化け屋敷とかホラーハウスいったら心臓麻痺でショック死しそうだね』
基地スタッフがクスクスと笑いながら話す。
「ううぅ。……すいません。他の人には内緒でお願いします」
うぱ太郎、乾かぬ涙もそのままに身悶える。
あきれ声でうぱ松が続ける。
『まぁ、そんなことは気にしなくていい。それよりうぱ太郎、お前は一旦その場から離れろ。
グレートサラマンダーZの腕じゃ首の縄を解くのは無理だ。下手したら止めを刺しかねん。
うぱるぱ王国協力隊の人達にあとは任せてお前は撤収だ』
「え……? でも」
指示に納得できないのかうぱ太郎は渋る。


26 :

『でもじゃない。グレートサラマンダーZとお前がいてもできる事は何もない。邪魔になるだけだ』
『うぱ太郎君、大丈夫だよ。そこアクセスいいから協力隊の人15分ほどで到着すると思う。
大山椒魚もうぱ太郎君びびらせるくらい元気なんだから心配ないよ』
「……分かりました。じゃあ僕はこれで撤収「ちょっとちょっと!!!ロボットかモビルスーツか知らないけど
そこにいるんでしょ!そんな死にぞこないの生きた化石なんてどうでもいいから早く私達助けなさいよっ!!!」 
「!!!」
『!!!』
『!!!』
その声はグレートサラマンダーZ外部音集積マイクを通じてコックピットに響き渡った。
それは通信システム越しに聞いても頭が痛くなるようなキンキン声だった。
――やばっ、すっかり忘れてた……
うぱ太郎動揺。
「……うぱ松さんすいません。すっかり忘れてました」
『……いや、気にするな。俺もだ。大山椒魚を刺激しないしないように慎重にうぱるぱを探してくれ』
「了解しました」
 うぱ松の声に機嫌の悪そうな色はない。
うぱ松の指示をもとに、うぱ太郎はグレートサラマンダーZの姿勢を戻し部屋の奥へ進んだ。
――……あれだ。
 生ゴミが入るような巨大なポリバケツ。
蓋の代わりに目の粗い網棚が乗っている。そしてその上に置かれた出刃包丁3本。
――あれならグレートサラマンダーZの腕でよせられる。よし!
 うぱ太郎はグレートサラマンダーZをポリバケツに近づける。そして立ちあがらせる。
「!?」
 網棚、そして出刃包丁。しかしバケツの中を確認する邪魔にはならない。
SOS受信信号どおりの3匹のうぱるぱがいる。
 白、黄色。
そしていつかうぱ太郎が見たショッピングピンクのうぱるぱが、じっと
バケツの底からグレートサラマンダーZを見上げていた。


27 :
今日はここまで。
永久規制、かわいそうなアタクシ。っと騒いでいたが
密かに9/10に解除されていたw
規制時はまた代行スレにご厄介になるのでよろしくお願いします。


28 :
投下乙

29 :
ウーパールーパーは80年代半ばの珍獣ブーム時に
層化系企画会社が創作・登録した商標であり、日本だけで使われてる名称。
原産地及び動物学会では一切使用されていない。
企画会社は借金だらけで倒産夜逃げしたらしいが
ウーパー名義だけはペットショップに残ってしまった。
できうれば、このような恥ずかしい捏造偽名は使わない方が望ましい。

30 :

   ̄ヽ、   _ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     `'ー '´
       ○
        O
 :::::::`.............、
 ;;;;;;;::ッ..、  ミ:、ー――x.... シ:::|      と思うウーパールーパーであった
 .: : : : シ;:::..、ミ:::> ´  ̄ ̄ `::ト、i ,r::ツ
 .i i : : : シ,;::::Y . : : :   : : .  ヾ/
  j j.:ミ,;::::::::;イ : ::0;:. : : : : ..;0:: i::::::::シ
  : : : :..:´゙゙´゙|i 、_        _, ;!`゙´
 `ー=、.._ >x,.`ニニニニニニ´イ
       / /
     〈 :<
        \ :\
        >,.;.`ト、
       ´´´

31 :

「君は…………?」
――蛍光ピンクのうぱるぱ……
 記憶が鮮明に蘇る。
週刊誌にグレートサラマンダーZの記事を載せるためにSOS信号を発したピンクのうぱるぱ。
グレートサラマンダーZが大山椒魚型ロボットではないか。という噂を流したと思われるうぱるぱ……
「はいはい、その節はどーも。でも昔話をしてる暇はないの。早くここから出して頂戴」
「でも…………」
「あなたの使命はウーパールーパー助けることなんでしょ!うだうだしてないで早く助けなさいよ!
ご老人から目つけられてるのよ!こんなとこで長居してちゃ命がいくらあったって足りないのよっ!!!」
コックピットの中でためらううぱ太郎をよそに、ピンクのウーパールーパーは語気を荒げて
グレートサラマンダーZを睨めつけた。
「…………」
『うぱ太郎、聴こえるか?』
「はい」
戸惑ううぱ太郎にスピーカー越しのうぱ松から指示がでる。
『お前が躊躇する気持ちも分かるが今は救出が先だ、早急に保護しろ。その娘には聞きたいことが
山ほどある、救出完了したら速攻で基地に戻って来い』
――敵かもしれないのに……
「……了解しました」
理不尽な思いは消せなかった。
うぱ太郎は気乗りしないままグレートサラマンダーZを動かし、バケツの蓋になっている
網棚と出刃包丁をよせた。そしてゆっくりとバケツを倒し3匹のウーパールーパーを救出する。
「早く逃げて頂戴!」
コックピットに乗り込んだとたんだった。2列の3人掛けシート前列にふんぞり返り、ピンクの
ウーパールーパーは開口一番そう言い放った。後列シートに座った白と黄色のウーパールーパーは
借りてきた猫よりもおとなしく、一点を見据えたままなにも喋らない。
「うぱ松さん、うぱるぱ3匹救出完了しました。これより帰還します」
ピンクのウーパールーパーを無視し、苦々しい気持ちのままうぱ太郎はうぱ松に報告する。
『了解。しかしその前にひとつだけ確認したいことがある。ピンクの娘さん聴こえるか?』
「あたし? 聴こえてるわよ。あなたは?」
外付けされたスピーカーからうぱ松の声がコックピットに響く。
全方向型集音マイクがうぱ太郎の直後に座るウーパールーパーの声を拾う。
『俺は、うぱるぱ王国科学技術省特殊銃器開発課特殊車両部第二班メカニック担当うぱ松というものだ』
「無駄に長いわよ。あたしはうぱ華子、ハナは華麗の華。あと白がうぱ倫子。倫理のリンよ。
黄色がうぱ民子。民衆の民でタミ。それで聞きたいことって?」
『単刀直入に聞く。お前は我々が老人Xと呼んでいる者の手先か?』
「!?っ…………」
核心をつくうぱ松の問いに、うぱ太郎、基地スタッフの面々が息を飲んだ。


32 :

「失礼ね、人をスパイみたいに言わないで頂戴。確かにご老人はあたしの飼い主だけどそんなんじゃないわ。
ある意味あたしも被害者なんだから」
『被害者……?』
「……そう。倫ちゃんと民ちゃんは養殖モノだけどあたしは天然モノ。ソチミル湖出身の生粋の
メキシコサラマンダーよ。自然種のメキシコサラマンダーはワシントン条約で保護対象になって
久しいのに密漁、密売で何の因果かこんなところにいるわけ。それがご老人の手によるものか
密売者の手によるものかは、あたしが小さかった時のことだから判断つかないけどね。
ようはさらわれて無理矢理連れてこられたってこと。誘拐事件の被害者よ、ニュースにもならないけど」
『…………判った。詳しい話は基地に戻ってから聞こう。うぱ太郎、大至急帰還しろ』
「…………了解しました」
――被害者……
 うぱ華子をどこまで信用していいか判らなかった。
わだかまりを残したままうぱ太郎はハンドルを握り直す。
「あたしからひとついいかしら?」
『あぁ、答えられる範囲でだが』
グレートサラマンダーZを発進させようとした矢先、うぱ華子がマイクに向かって話しかけた。
「このロボット造ったのうぱ松さんだっけ、あなた?」
『あぁ、そうだが……』
「そう。他の人は信じてなかったけどご老人は褒めていたわよ、面白いもの造るな。って」
『ほう、そりゃ光栄だ』
「馬鹿ね、こんなもの造って。あなたご老人に目をつけられたのよ。それがどういう意味か分かる?
もう生きちゃ行けないのよ、このロボットに関わった者すべてが。あたしを含めてね」
――どういうこと?
『ずいぶん悲観的だな』
うぱ太郎が口に出そうとした瞬間、すでにうぱ松の声がスピーカーから流れていた。
「あなた達だって分かってるんでしょ、ご老人がどんな怪物かって……
死ぬ前に外から地球を見たいって自家用スペースシャトルを発注するような大馬鹿者なのよ。
天文学的な桁の資金を持っているのよ!ほとんどのことはお金で解決できる人なのよっ!
それがたかだか1匹の大山椒魚のロボット全力で潰しに来るのよ!無事でいられるわけないじゃない!!!」
『……その手はずをお前は知っているのか?』
「知るわけないじゃないっ!!!変なクスリで眠らされて気づいたらこの有様よっ!!!」
うぱ松の問いかけに身を捩じらせてうぱ華子は怒り声で答える。


33 :

『……分かった、ありがとう』
「…………」
慣れない女の激情を目の当たりにしてうぱ太郎は言葉を失う。
それを知ってか知らずか、うぱ華子は冷静さを取り戻したかのように静かに続けた。
「こうなった以上あたしはあなた達に命を預けるしかないの。生半可な気持ちでいたら為すすべもなく
秒殺されるわ。ウーパールーパーを守るのが使命なら命を張ってでもあたしを助けて頂戴」
『あぁ、努力する。……うぱ太郎、聴こえるか?』
「……はい」
激昂にあてられて萎縮しているのか、うぱ太郎の返事に覇気はない。
それを諭すかのように、うぱ松は穏やかな口調になる。
『予定変更だ。相手の出方を見る。うぱ太郎はとりあえず川に入って隠れていてくれ』
「川……ですか?」
『そうだ。それでゆっくりでいいから1ヶ所に留まらず絶えず移動してくれ』
「ちょっと、なによ川って。そんなところいて安全なわけ?」
指示に不安を覚えたのかうぱ華子は聞き返す。
『絶対安全とは言えないがとりあえず身を隠すには絶好の場所だ。基地に戻ってきてもらいたいのは
やまやまなんだがもし老人Xが実力行使でグレートサラマンダーZや俺達を排除しようというなら
基地の場所を知られるのは困る。尾行されたりGPSの発信機でもつけられて位置情報を把握
されている可能性も否定できないからな。いずれにしてもグレートサラマンダーZの中でおとなしく
している限りは安全だ。それは保障する』
「……あ、あの、うぱ華子さん達はグレートサラマンダーZの中に居るより協力隊の人達に
匿ってもらったほうが安全じゃないですか?」
思いついたままにうぱ太郎は提案する。しかしうぱ松は聞き入れない。
『うぱるぱ王国協力隊はあくまで協力者であって我々の戦いに巻き込むことは出来ない。
最悪のことを想定すれば、彼女達の体に発信機が埋め込まれていてそれを辿って老人Xの手の者が
彼女達を襲いに行く可能性もある。そんな争いに無関係の人間を巻き添えにするわけにはいかない』
「ちょっと待ってよ。なによ発信機って。そんなもの埋め込まれている訳ないじゃん」
疑惑の目で見られていると思ったのかうぱ華子はうぱ松に食い下がる。
『最悪の場合を想定してのことだ、君を疑っているわけじゃない。ただ最新の技術なら豆粒大の
大きさで電波を発するものを作ることは容易だ。それにさっき君が言っただろう。変なクスリで
眠らされたって。その間、君が気づかないうちにその手のモノを君の体に取り付けられている可能性も
ある。取り越し苦労で済めばそれにこしたことはない。しかし老人Xに対しての君の言葉を信じるならば
このくらいの用心はしておいたほうがいい』
「……分かったわ。まぁ用心にこしたことはないからね。あなた達の思うままにして」
『他になにかあるか?うぱ倫子さんうぱ民子さんは?』
「彼女達は気にしないで。あまり喋らないから」
『……了解』
うぱ松は一呼吸置いた。
――被害者……。
うぱ太郎はうぱ華子のことを考えながらじっとハンドルを見つめ指示を待った。


34 :

『うぱ太郎、聴こえるか?』
「はい!」
うぱ松の声にうぱ太郎は思わず身を硬くした。
『さっき言ったとおり、まずは川を目指して移動してくれ。川に入ったらなるべく深いところに
潜って水面にはでないように。あとは遊泳していてかまわない』
「了解しました!」
『こちらから指示はだすがうぱ太郎も最悪の事態を想定して行動するように。まずはそこのビルを
出るときだ。充分周囲を確認してからビルから脱出してくれ。だが、もし万が一襲撃されることが
あってもグレートサラマンダーZにちゃちな鉄砲や刃物は通用しないから安心しろ。それは警察との
一戦でお前も分かっている筈だ。それでも人海戦術で次から次へと敵が現れるようなら相手にしないで
速攻で逃げろ。川に入ってしまえばこちらの勝ちだ。なんなら海まで行ってしまってもいい。
水中に入ったらこちらからの指示がでるまで陸には上がらないでくれ。老人Xがどんな武力装備で
来るかはなんともいえないが水中に居る限りはたとえ居場所が知られていても武器の殺傷能力は水の力で
半減する。それと通信は切らないでそのままにしていてくれ。約30分後にこちらから呼びかけるから
そのつもりで』
「了解しました!」
『頼んだぞうぱ太郎!』
「はい!」
 心を落ち着かせるために大きく息を吐いた。
――僕がしっかりしないと駄目なんだ。
 強く自分に言い聞かせた。
――大丈夫、うぱ松さんもスタッフのみんなも見守ってくれる。
 シートベルトのバックルを確認し滲んだ手の汗を拭った。
「あの、僕、運転荒いんでシートベルト必着でお願いします。それと結構揺れるんでいつでも踏ん張れる
ように体をしっかり支えていてください。あと舌噛んじゃいけないんで川に入るまでの間はなるべく喋らない
でください。それじゃこのビルから離れます」
「……了解」
うぱ倫子とうぱ民子の返事はなかった。うぱ華子の声だけが緊迫するコックピットに小さく響いた。
――大山椒魚さん、もう少しで協力隊の人が助けに来ますのでそれまで頑張ってください。
 心の中で縄を解けなかった大山椒魚にお詫びを入れた。
 窓の外を見る。まだ日が沈むには早い時間で午後の日差しが目に眩しい。
――よし、行くぞ!!!
 どんな戦いが待ち受けているかは分からない。それでもうぱ太郎は救出した3匹のウーパールーパーを
乗せて力強くグレートサラマンダーZを発進させた。


35 :
今日はここまで。

36 :

「協力隊メンバーより大山椒魚5体無事救出したと連絡がありました。5体とも元気にしてるそうです。
2体に生態調査用と思われるタグが付いているので、それをもとに捕獲された場所を調べているそうです」
「グレートサラマンダーZ、川に入水、遊泳を始める。と、うぱ太郎君から連絡はいりました」
「了解」
 スタッフに確認の言葉を返し、険しい表情のままうぱ松は煙草に火を点けた。
――先制パンチは無し。……老人Xとの初顔合わせになるのか、それとも何事もなく終わるのか?
 緊迫感がスタッフの動きを機敏にする。しかし余裕があるのか焦燥感を表情に出している者はいない。
深く煙を吐き出したあと、己の迷いをかき消すかのように大きな声でうぱ松は指示を出した。
「コックピットのうぱ太郎とうぱ華子の会話、ここでも聞こえるようにモニタースピーカー繋げ。
こちらの音は伝わらないようにマイクレベル下げろ。通信、映像データーはすべて記録。映像は拡大表示
出来るようにモニター増設。今のうちに予備レコーダーも準備しておけ。それとうぱるぱ王国協力隊
全メンバーの所在を確認してくれ。医療班はいつでも出動できるように待機だ」
「了解!」
うぱ松の号令にスタッフが我先にと行動を始めた。そんな中、一人のスタッフがうぱ松に声を掛けた。
「うぱ松さん、ちょっと気になることが……」
「なんだ?」
咥え煙草のままうぱ松は振り返った。
「偶然かもしれませんが、うぱ太郎君のいる周辺の高速道路が一部通行止めになっています」
うぱ松の表情が変わる。
「……怪しいな」
「えぇ。偶然にしては出来すぎかと……」
スタッフの表情も曇る。
「しかし、通行止めの高速に誘い込もうとしてるならグレートサラマンダーZには有利に働くかもしれん」
「え……?」
困惑気味なスタッフの前で、うぱ松は一転、不敵な笑みを浮かべる。
「グレートサラマンダーZは現代のスーパースポーツと呼ばれる車と同等の動力性能を持っている。
今はスピードバルブ制御を最高時速150キロで制限しているが、制御を切り替えればメーター読みで
きっちり300キロは出る。リスクは伴うがスピードバルブ制御をカットし、モーター出力全開に
すれば400キロに届くはずだ。俺の試験運転ではメーター読み350キロまで出た。まだアクセルに
余裕がある状態でだ。メーター誤差5パーセントとしても約330キロ。普通のクルマに出せるスピード
ではない。
うぱ太郎はまだスピードバルブ制御オートの状態しか知らない。しかし操縦に慣れた今なら未知のスピード
領域にもすぐに順応出来るだろう。もし老人XがグレートサラマンダーZの動力性能を甘く見積もっている
ようなら影を踏ませることもなく楽勝でぶっちぎりだ。
もし高速に乗せないための措置だとしてもファステストモードでアクセルを踏めばグレートサラマンダーZは
街を縦横無尽に駆け抜ける。敵に追いつかれることはないと言っていい」
力説するうぱ松。しかしスタッフは懐疑的な表情を見せる。
「……罠と知ってて相手の懐に飛び込むつもりですか?」
真剣な面持ちのスタッフ。しかしそれを茶化すようにうぱ松は答える。
「まさか。逃げるが勝ちって言うだろう。危ない場所からはさっさとオサラバする。交戦するつもりは
さらさらない。……詳しい通行止め区間、経緯、解除予定時間を確認してくれ。あと交通情報に限らず
どんな些細なことでもいい、何か気になることがあったらその都度伝えてくれ」
「了解しました」
 スタッフが背を向けたことを確認し灰皿に煙草を強く押しつけた。
口ではそう言うものの、うぱ松の中では烈火の如く闘志がメラメラと燃え上がっていた。
爆音を轟かせていた青春時代の思い出が、うぱ松の血を激しくたぎらせる。
――高速で勝負……か。上等だ老人X。ポルシェでもRーリでも持ってきやがれ!!!
 基地スタッフが忙しそうに動き回る。その中でうぱ松の右手は、人知れず硬く握り締められていた。

37 :
今日はここまで。


38 :

 川幅約30メートル。濁った緑の水流に乗って泳いでいけば1時間ほどで海に出る、地域の
主流となる川。
 以前、海に向かった際に入水した川に入ったうぱ太郎は、うぱ松の指示通り、グレートサラマンダーZ
を川底で静かに前進させていた。
「……あの、うぱ華子さんは本当に老人Xの手下じゃないんですか?」
澱んだ川の色は、うぱ松が言ったように身を隠すには絶好の場所に思えた。安全と思われる
場所に移動したことで心に余裕が出来たうぱ太郎は改めてうぱ華子に確認した。
「さっきも言ったじゃない、そんなんじゃないって。ご老人はあたしの飼い主なだけ」
うぱ太郎の直後の席をぶん取ったうぱ華子はぶっきらぼうに答える。
「そうですか……」
先ほどのヒステリックな様を思い出し、うぱ太郎はそこからさらに問うことをためらった。
「それとよそよそしいから敬語は無しでお願い。あたし達のことは華ちゃん、倫ちゃん、民ちゃんって
呼んで。あなたのことは太郎ちゃんって呼ぶから」
ぶっきらぼうな口調のままうぱ華子が提案する。
「……わかりました」
頭では分かったつもりでも、今までの慣習がうぱ太郎の口を離れない。
「……あ、あの。……みんな、なんていうか古風な名前ですよね?」
沈黙の中、間を持たせようと、やっとの思いでうぱ太郎は話題を振る。
しかし口を開いたのはうぱ華子だけで、うぱ倫子とうぱ民子は終始無言だった。
「まぁね。老人の趣味だからしょうがないんじゃない? それに名前って言うより記号だから」
「……記号?」
想定していない返答にうぱ太郎は思わず聞き返す。
「そう、体の色で名前が決まってるの。ピンクに近い色は花子、白に近いのは倫子、黄色は民子、黒に
近い単色は藍子。太郎ちゃんマーブルでしょ? うちらの感覚だったら太郎ちゃんは鮎子だね」
――なんで僕が鮎子……?
「……あの、意味が分からないんですけど」
あいかわらずの敬語で、うぱ華子に素朴な疑問をぶつける。
「だから言ってるでしょ記号だって。色の種類と同じことで個々に名前なんて無いの。あたしはみんなと
同じは嫌だから自分で華麗の華に代えたけど、ご老人にしたら別にたいした問題じゃないのよ。
ご老人はね、ウーパールーパーのカラーバリエーションを増やすことを趣味にしてるの。わざわざ工場
建てて研究所作って専門家雇っていろいろ研究させてるわ。倫ちゃん民ちゃんはそこで生まれた実験体よ」
「実験体って……?」
違和感ある言葉に思わずうぱ太郎は振り返り、うぱ倫子とうぱ民子を凝視する。
――!?
 白と黄色。
混乱と動転で救出する際には気づけなかったが、2匹のウーパールーパーはエラの毛細血管の隅々までもが
体と同じ色だった。
――普通じゃない……。
 白の碁石で作られたようなうぱ倫子とレモン石鹸で作られたようなうぱ民子。
その人為的な特殊さは綺麗さを通り越して不気味ささえ漂わせている。
驚き、言葉を失ううぱ太郎を横目に、うぱ華子は話し続けた。

39 :

「染色体とか遺伝子とかDNAとかDOHCとか、とにかく訳分からないことを施されて生まれてきた
養殖モノってこと。
ご老人の最終目標は7匹でレインボーカラーを揃えることと、錦鯉みたいなツートンカラーのウーパー
ルーパーを造ることなの。まぁ実際は専門家の人達にやらせてるだけなんだけどね。予算は使い放題で
給料もいい、さらにご老人が気に入った色のウーパールーパーを繁殖できたなら莫大な臨時ボーナスが
手に入る。専門家達は目の色変えて日々研究に取り組んでいるわ……。
 そうして年間何千匹ものウーパールーパーがご老人の工場から生まれてくるわけ。だけどご老人が
おきに召すのはほんの一握りの綺麗なもしくは特殊な色を持ったウーパールーパーだけ。たぶん生まれて
くる総数の1パーセントにも満たないでしょうね。それで平凡な色で生まれたほとんどのウーパールーパー
は無償で各方面に譲られていくの。その先どうなるかはわたしも知らない。……ドナドナの世界かもね」
 ドナドナと言われても歌を知らないうぱ太郎にはぴんと来なかった。ただ老人Xに関する情報は
否応無しに耳に入っている。
「……人間に食べられるんですか?」
「……さぁ。それは工場に出入りしている業者に聞かないと分からない」
苦悶の表情で問ううぱ太郎に、うぱ華子は静かに答えの無い返事をした。
「……老人Xはたくさんウーパールーパー食べるんですか?」
ウーパールーパーが好き、食べるのも好き。ブームを起こした仕掛け人。
基地スタッフから教えられた老人Xに対する情報がうぱ太郎の頭の中に湧き上がる。
「ご老人はウーパールーパーなんて食べないわよ。食べる必要なんてまったくないもの。
珍味とかゲテモノは好まない普通の料理好きよ。超絶な美食家だけどね」
――えっ……?
 植えつけられた情報との相違にうぱ太郎は戸惑う。
度が過ぎているけどウーパールーパーが好きなのは間違いない。……でも。
交錯する思考を整理し、うぱ太郎はうぱ華子に尋ねた。
「……じゃあ、どうして食べられそうになっているウーパールーパーを助けているだけなのに、老人Xは
僕達を…… グレートサラマンダーZを敵対視するんですか!?」
 うぱ華子は困った笑みを浮かべる。
「うーん……。……たぶん、寂しいというか悔しかったんだと思うよ」
「悔しい? ……どうしてですか?」
「……ご老人にとってウーパールーパーは愛玩動物なわけ。ある意味溺愛しているわ。
そんな可愛いはずのウーパールーパーがある日、とんでもないテクノロジーを駆使して造られたロボットで
人間に反抗したんだからたまったもんじゃないわ。まだ大山椒魚型ロボットだったからよかったものの
巨大ウーパールーパー型ロボットだったら速攻で逆上したでしょうね。ウーパールーパーを冒涜してるって。
うぱるぱ王国出身のウーパールーパーが造ったロボットだからそんなこと別に気にしなければいいんだけど、
それでも愛するウーパールーパーが人間に歯向かった。ってとらえちゃったんでしょうね。
……飼い犬に手を噛まれた。って言うか、純情可憐なウーパールーパーのはずが実はとんでもないやり手で
一杯食わされた。って感じかな。可愛さあまって憎さ100倍ってこと。
まぁ、よく分からないけど、このロボットを敵対視してこの世から抹消しようとしてるのは間違いないわ」
――ウーパールーパーを食べるブームを作ったのは老人Xじゃないかもしれない。でもあまりにも身勝手だ……。
ハンドルを握るうぱ太郎の手がわななく。しかし怒りの納めどころは何処にもなかった。


40 :
今日はここまで。


41 :
投下乙
設定が出てくるとぐっと引きつけられるねー

42 :

「……僕達は老人Xの単なるわがままに振り回されているだけなんですか?」
重い口どりでうぱ太郎は質問する。
「まぁそうね。些細なことを我慢できない人だからね。ほとんどのことはお金積めば何とかなるし、
それが出来る人だし……。あたし達も運悪くそれに巻き込まれてしまったってこと」
無表情のまま、うぱ華子は答えた。
ふと疑問がよぎる。巻き込まれてしまった……って……。
「……華子さんや倫子さん、民子さんは老人Xに気にいられてるんでしょう? どうしてこんな危ない
目にさらされてるんですか?」
「それは簡単。もうあたし達は賞味期限が切れたから」
「……賞味期限?」
「そう。ピンク、白、黄色、よりご老人の好みに近い色のウーパールーパーが造られたの。世代交代よ。
さっき言ったように花子、倫子、民子の名前を引き継いでね。そうなれば私達は用済みのお払い箱。
ご老人にしたらあたし達はもう鑑賞価値の無い平凡なウーパールーパーなのよ。
本来ならそこでどこかに引き取られるんだけど、今回こんな計画があったから太郎ちゃん達をおびき寄せる
エサにちょうどいいと思ったんでしょうね。
それとあたし、太郎ちゃんの出てたテレビ大笑いしながら見てたから、きっとそれも面白くなかったんだ
と思う」
「……ウーパールーパーを何だと思ってるんだ」
「カードを集める子供と同じよ。気に入ったもの、レアなものは手元に残す。価値のないものは処分。
ご老人の趣味の対象。それだけのことよ」
「………………」
 理不尽な思いは幾度とした。納得できないことも多々あった。
しかし、その経験をも凌駕し、己の理念からは想像できない怪物が存在することを、うぱ太郎は改めて認識した。

――神にでもなったつもりか……?
 うぱ太郎、うぱ華子の会話をモニターで聞いていたうぱ松は苦虫を噛み潰していた。
うぱ松だけではない。スタッフ誰もがそう思い、激情を胸に抱いた。しかしそれを口にする者はいない。
「……すいません。老人Xがウーパールーパーを食べるというのはガセネタのようでした」
過去に老人Xについて調査したスタッフがうぱ松に話しかける。
「気にするな。老人Xがとんでもない金持ちで悪趣味なことに変わりはない」
素っ気なくうぱ松は答える。
情報に誤りはあった。ウーパールーパーを寵愛しているブリーダーと言えなくもない。だがグレート
サラマンダーZを敵対視していると分かったいま、もはやそんなことは問題になりえなかった。
「それよりうぱ華子の話し振りからすると老人Xはいよいよ本気になったようだな」
他のスタッフにも聞こえるようにうぱ松は声を張り上げた。
「そのようですね」
うぱ松の声に全スタッフが作業しながら耳を傾ける。
「相手の出方を伺ってみるか」
「どうするんですか?」
「遊泳をやめてグレートサラマンダーZを川岸の広い場所で待機させる。もしそこに敵が集まるなら
誰かしらに発信機が取り付けられていると考えて間違いないだろう。敵が来ないなら再び川に入ってもらい
俺と技術班が出向いてなにか仕掛けられていないか徹底的に調べる」
「大丈夫ですか?」
「無為に時間を過ごすよりはいいだろう。いまのままでは何もできないからな」
「わかりました」
「これからグレートサラマンダーZを上陸させる。データー処理係は逐一映像を確認しろ。あと
気づいたことがあったら遠慮はいらない。どんな些細なことでもいい。その都度報告してくれ!」
ひときわ大きく、うぱ松の声が基地内に響く。
「「「了解っ!」」」
その時を待っていたかのように、うぱ松の号令に全スタッフが大声で応えた。

43 :

 グレートサラマンダーZが遊泳を始めて30分が過ぎた。
うぱ華子の老人Xに関する話を引きずり、うぱ太郎は終始無言だった。
助けを求めるようにナビの時計表示を見つめ、そろそろ指示がくると自分に言い聞かせる。
――とりあえずなんか喋ろう。雰囲気悪いし……。
「……あの。倫ちゃん民ちゃんって、さっきから一言も喋らないけどいつものことなんですか?」
突然のうぱ太郎の質問にうぱ華子は苦笑する。
「はい、まず敬語は禁止ね。……彼女らのことはあまり気にしないで。不思議ちゃんコンビだから。
実験体どうのこうのはあまり言いたくないけどなんか変なのよね。覇気が無いって言うか自我が無いって
いうか。そのくせなんか見えてるみたいで突然意味不明なこと言うし……」
「……そうですか。じゃあ僕もあまり気にしなくていいのかな」
「うん。気楽に構えてればいいよ」
うぱ太郎の問いにうぱ華子はフレンドリーに答える。そしてすぐに真顔に戻る。
「その話は置いといて、あたし達ちゃんと助かるんでしょうね? うぱ松さんだっけ、頼りになるの?」
「うぱ松さんはいろんな意味で凄い人だから大丈夫だと思う。……そろそろ指示はいると思うけど」
通信用スピーカーとナビ時計表示を繰り返し見つめ直す。その直後、スピーカーからわずかなノイズが漏れた。
――きたっ!!!
『うぱ太郎聴こえるか』
「はい!」
口調は素っ気なく、優しくもなんともない。それでもうぱ松の声が聴こえるだけでうぱ太郎は安心できた。
一言一句聞き漏らさないようにうぱ太郎はスピーカを凝視する。
『今いる場所から2キロほど下流にキャンプができそうな岸辺がある。そこに上陸してくれ。
川から上がったら周囲に不審者不審物がないか充分見回して確認するように。何事もなくても
その場所で10分ほど待機してくれ。こちらで映像は確認するが気づいたことがあったらすぐに
報告。あと外部集音マイクと通話マイクのレベルも上げておいてくれ』
「了解しました!」
――よし、行くぞ!!!
 戸惑っていた気持ちの隅々にまで気合が注入される。
うぱ松にいわれたまま音量ボリュームを操作し、うぱ太郎はハンドルを握り直した。
「太郎ちゃんって、うぱ松さんのこと好きなんだんね。いきなり声変わるんだもの」
「えっ……?」
不意を突かれた言葉にうぱ太郎は振り返ったまま固まってしまう。
「別に変な意味じゃないけどね。でもすごい嬉しそうにしてるし」
「くさいと言うか恥ずかしいけど、好きっていうか信頼してるからだと思う。グレートサラマンダーZ
造ったのはうぱ松さんだし、うぱるぱ救出活動の責任者だし。ヤンキーっていうか暴走族上がりだけど
いじめっ子タイプでもないし……」
「じゃあ、あたしも太郎ちゃん信頼するから、必ず守ってよね」
 うぱ太郎を鋭く見据えたまま、真剣な表情でうぱ華子が言い放った。
――……そうだ。うぱ松さんを頼ってばかりじゃダメだ。操縦するのは僕なんだ!
 うぱ太郎はうぱ華子を強く見つめ返した。そして唇に力を込めた。
「うん。大丈夫だよ。グレートサラマンダーZはちょっとやそっとじゃやられないから」
「命預けるんだからね!しっかり頼むわよっ!!!」
「了解っ!」
吐いた言葉と同様にアクセルに力を込め、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを水流に乗せた。

44 :

 グレートサラマンダーZを水面から出し、うぱ太郎は岸辺を確認した。
両岸ともにそれなりの広さはあるが、より広いと思われる岸辺にグレートサラマンダーZを近づけた。
「こちらうぱ太郎。グレートサラマンダーZをこれから岸辺に上げます」
『了解!』
 うぱ松の返事を確認し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かした。
車で乗り入れ可能な平地。河川敷広場というほど立派でもないがそれなりに管理されているようで、
未舗装の道路部分と芝生部分は明確に分かれている。周囲に住宅はないが、天気のいい週末なら家族
連れがピクニックをしててもおかしくないような場所だった。
 グレートサラマンダーZを立ち上がらせて周囲を見回す。
遠くを車が走っているだけで不審と思われるものは何もなかった。対岸を眺める。こちらも
平穏そのものだった。
――何もなさそうだな。
 心の中でつぶやいた瞬間、かすかにスピーカーからスタッフとうぱ松の声が流れた。
『うぱ松さん、パトカー先導にピックアップトラックが3台続いています』
『パトカー?』
――凄いな。僕は良く見えないのに基地じゃそこまで分かるんだ。
 うぱ太郎は目を凝らし、遠くを走る車の群れを見た。
独自の配色とパトライトでパトカーは認識できるものの、後続の車はかろうじて台数が分かるくらいだった。
『ピックアップにビデオカメラらしきものが積まれてますが……』
『何?』
スピーカーから訝しそうなうぱ松の声が流れる。
――ビデオカメラ……。
 うぱ太郎に過去の記憶が蘇る。
老人Xの仕業と思われるテレビ出演。半年以上経つのにレポーターの一挙一動がいまだに忘れられない。
 ビィイイイン、ビ、ビィイイイイイイイイン、ビィイイイイイイイイイイイン
 そのうぱ太郎の思考を遮るように軽い音質の排気音が響いた。
『2ストエンジン?単車か?映像は?』
『画面ではまだ確認出来ません!』
うぱ松の口調が徐々に荒くなる。
 ビィイイイン、ビ、ビィイイイイイイイイン、ビィイイイイイイイイイイイン
――バイク?何処だろう?

45 :

『うぱ太郎、周囲確認!』
「はいっ!!!」
うぱ松の声に反応し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを素早く動かす。
――えっ……?
 排気音に気をとられた僅かな隙に、パトカーと後続車はすぐそこまで近づいていた。
「うぱ松さんバイク分からないけど、なんかパトカー近くまで来てます!」
『やはりピックアップにテレビカメラ積まれてます。カメラマンも乗ってるようです!』
『何がしたい?警察もグルか?』
 ビビィン、ビ、ビィイイイイイイイイィイイイイイイイイイイイン
――なっ!
 黒い2つの影が視界を切り裂いた。
突然、宙を舞った2台のバイクにうぱ太郎は反応できない。
『うぱ太郎!逃げろっ!!!』
――2ストモトクロッサーだと?いいセンスしてやがるっ!!! 
秘密基地の映像モニターの前でうぱ松が叫ぶ。
 ズザザザザザッ!!!
 立ち上がったグレートサラマンダーZの前、2台のバイクはブレーキングターンを決めた。
――!?
 舞い上がる土埃。
まるでアクション映画のように、黒一色のライダーが手にするマシンガンが火を噴いた。

46 :
今日はここまで。
来週こそはちゃんと水曜日に投下しよう。

47 :
投下乙

48 :

 土埃、白煙、連続する乾いた銃声。
非現実的な瞬間が鎮魂歌のようにグレートサラマンダーZの視聴覚モニターから流れた。
急転直下の出来事に、うぱ太郎はただ呆然とそれを眺めることしかできなかった。
「ちょっとちょっと!!!何よこれっ!!!」
目の前で繰り広げられる殺戮ゲームのような世界にうぱ華子、鬼の形相で
金切り声を上げる。
その声でうぱ太郎、目覚める。
――ふ、ふざけるなっ!!!
「みんなっ!つかまってて!!!」
咄嗟に対応できなかったことを悔やみながらもうぱ太郎、動く。
『マシンガンだと?殺傷能力は!!!』
スピーカーの向こう側、うぱ松が怒鳴る。
『サブマシンガンです。威力は拳銃とさほど変わりませんっ!グレートサラマンダーZ
なら大丈夫なはずです!』
『うぱ松さん!やはり撮影されてます!!!』
『いま警察に電話して状況確認してます!』
次々と声を上げるスタッフ。
 アクセル全開。すかさず跳ねる+しっぽを振るボタン。ハンドルを目一杯左へ。
グレートサラマンダーZ、ローリングしっぽソバット炸裂!!!
 ぐわしゃーん!!!!!!!
マガジン装填中だった黒ライダー二人、バイクごとなぎ倒す。
勢い余ってグレートサラマンダーZ、地べたを転がる。
「きゃー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!っ」
響くうぱ華子の悲鳴を無視してうぱ太郎、体勢を立て直す。
グレートサラマンダーZ、立ち上がりファイティングポーズ。
「後ろ」
「えっ!?」
 ずっと無言だったうぱ倫子、ぽつりとつぶやく。
270度視野の視聴覚モニター、真後ろはほぼ死角。
 即座にうぱ太郎、ハンドルを切り振り返る。
何処から沸いたのか3人目の黒ライダー、迫る。
妖しい光、最上段から振り下ろされる。
――日本刀!?
「うわっ!!!」
うぱ太郎、焦りでハンドル滑らす。
日本刀、グレートサラマンダーZ後頭部直撃。
 ぎんッ!
鈍い金属音を残し日本刀、折れる。
切っ先が絵に描いたように、くるくると宙を舞う。
黒ライダー、お手上げポーズのあと折れた刀を放り出して逃げ出す。
「待て!!!」
グレートサラマンダーZ、大ジャンプ。黒ライダーを押しつぶす。
――残りは!!!
うぱ太郎、素早くグレートサラマンダーZを立たせ周囲を確認。
よれよれの黒ライダー2人、バイクを押して逃げていく。
少し離れた場所でパトカー脇に立つ警官。その隣にはビデオカメラを覗き込む男達。
――テレビ?マシンガン撃ってるのに誰も止めない??まさか警察も老人Xの手下???
 ビデオカメラ、警官を前に展開された銃撃戦。
しかしそれが黙認された事実にうぱ太郎、愕然とする。

49 :

『うぱ太郎、一旦川に戻れ!』
スピーカーからうぱ松の声。
「了解っ!!!」
怒鳴りに近い声でうぱ太郎即答。
グレートサラマンダーZ、ダッシュで川に飛び込む。
「ふーっ!ふーっ!」
――みんな敵だ。警察もテレビの人も!!!
川の中、爆発したアドレナリンを抑えるかのようにうぱ太郎は繰り返し息を吐く。
「……ねぇ、太郎ちゃん。……いつもこんなハードな目に遭ってるわけ? ……おぇ」
激しい動きに酔ったのか顔を真っ青にしたうぱ華子が話しかける。
充分に息を整えたあと、うぱ太郎は振り返る。
「いつもじゃないけど。……それより大丈夫?」
「……何とかね。……うぶっ!!!」
「わーっ!吐かないで!!!」
シートベルトを外し、うぱ華子を介抱するうぱ太郎。
その後ろでうぱ民子がうぱ倫子相手にグレートサラマンダーZの中で初めて言葉を口にした。
「ジェットコースターみたいで面白かったね!」
「うん」
「5回転ぐらいしたよね」
「うん」
「…………」
 緊張感のかけらもないうぱ民子とうぱ倫子の会話にうぱ太郎は脱力する。
――怖くないんだ……。て言うか、華ちゃんの心配しないんだ……?
「……さっき言ったでしょ、この2人は変だって。表情乏しいし、いまいち会話噛み合わないし。
それにこんなデタラメな動きしてるのにけろっとしてるしさ。嫌になるね、まったく」
うぱ太郎の心情を察したのか、へろへろの状態ながらもうぱ華子が解説する。
――そういえばさっき、なんで敵が後ろにいるって分かったんだろう。モニター映ってたのかな……?
疑問がよぎる。あまり関わりたくないような気もしたが、うぱ太郎はうぱ倫子に尋ねる。
「……あの、倫ちゃん。さっきどうして後ろに敵がいるって分かったの? モニターに敵は
映ってなかったと思うんだけど……」
「なんとなく」
ぽつりとそうつぶやいただけでうぱ倫子は口を閉ざす。
「予知っていうか、殺気を感じとるアンテナが変な実験のせいで過敏になったんだと思うよ。
でも惜しいことに凄い能力なんだけど10秒前ならまだしも直前に言われたって手の施しようが
ないんだよね」
またもやうぱ華子の解説がはいる。
「……うーん、確かに。さっきももうちょっと早ければ避けれたと思うけど」
 うぱ華子につられてうぱ太郎も素直に思ったことを口にする。
しかしそう言ったあと、ちょっとだけ後悔する。褒めていれば場の雰囲気が良くなったのではと。
ちらりとうぱ倫子の様子を伺う。無表情で何を考えているのか分からない。話を聞いていたかさえも疑問だった。
――だめだ。あまり気にしてちゃこっちが持たない。楽に行こう。
再び静寂に包まれたコックピット。その中で自分にそう言い聞かせ、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを
川の最深部に移動させた。

50 :

「……うぱ松さん。どこまで本気か分かりませんが、映画ロケが行われるということで
高速道路に限らず至る所で交通規制が敷かれています。いまうぱ太郎君がいる場所もその
対象地区です。
協力隊の人に銃撃戦が行われてると警察に通報してもらったんですが、映画ロケだから気に
するなと言われたそうです。老人Xは警察と協力関係にあるか、もしくは老人Xが警察を買収
したとのではと思われます」
「……映画ロケにカモフラージュするためのパトカーとビデオカメラか。ここまできたらもう
本物の警察かどうかも怪しいものだな。まぁいい。こっちはひたすら逃げるのみだ。せいぜい
グレートサラマンダーZの実力を侮るがいい」
 緊迫する秘密基地。
情報を収集するスタッフ、映像を解析するスタッフ、ひたすら電話を掛けるスタッフ。誰もが
せわしなく動く。
 そんな中、目頭を押さえて一息ついていた映像解析中のスタッフがうぱ松に声を掛けた。
「うぱ松さん。映像と音声シンクロさせて確認したんですが、やはりうぱ倫子が後ろと言ったとき
敵の姿は画面に映っていませんでした。霊感ヤマカン第6感ってやつですね」
「そうか。……確かにうぱ華子が言うように惜しい才能だな。10秒前とは言わないがせめて5秒
あれば危険予知装置としていい武器になったかもしれないが……」
「予知と言うより、自分のテリトリーに踏み込まれるのに敏感。と考えるのが妥当かもしれません。
うぱ倫子の言葉にうぱ太郎君が反応してグレートサラマンダーZが振り返るのに約1秒掛かってます。
そのときにはもう敵が目の前にいました。私感ですが半径10メートル以内に外敵と思われる
モノが侵入したらセンサーが感知するような仕組みかと」
「そうか。……なら、せっかくうぱ太郎と同乗してるんだ。この際、使えそうなものはなんでも
使わせてもらおう」
スタッフの話を聞いたうぱ松は早速、通信マイクを握り締めた。
「うぱ太郎聴こえるか?」
『はいっ!!』
――いい返事だ。まだ心は折れてない。
うぱ太郎の歯切れのいい応答にうぱ松は安堵する。
「再度敵の動きを探る。2キロほど下流に車では入れない場所がある。川の流れに乗るくらいの
スピードでそこに移動してくれ。現場に着いたら今度は上陸しないで川底で待機するように」
スタッフから提示された地図をもとにうぱ太郎に指示を出す。
『了解しました!』
――うぱ太郎はOK。……さてニュータイプのご機嫌は?
マイクを握り直し、うぱ松はうぱ倫子に呼びかけた。
「それとうぱ倫子さん聴こえるか?」
『…………』
『……たぶん、聴こえていると思います』
 返事はなかった。代わりに聴こえたうぱ太郎の不安げな声にうぱ松は苦笑する。
「君は勘がいいな。さっきは間に合わなかったがなかなかどうして大したものだ。ありがとう。
もしまた君が危ないと感じたら遠慮なく言ってくれ。君の一言で救われる場面がきっとくる」
『…………』
 うぱ倫子の無言の返事に作業しながら密かに耳を傾けていた周囲のスタッフの顔が青くなる。
うぱ松が族上がりで上下関係や言葉遣いに厳しいのは有名だった。舐めた口調の新入りは速攻で
うぱ松にシメられる。それが秘密基地での定説であり、新人スタッフの通過儀礼でもあった。
悟られないように、スタッフ達はうぱ松の顔色を伺う。案の定、うぱ松は引きつった笑顔を浮かべていた。
「聴こえてない……か?」
冷静を装ううぱ松。
『た、たぶん、聴こえているとは思いますが……』
うろたえているのがはっきりと分かるうぱ太郎の返事。

51 :

『……わたし、知らない人とは話さない』
―― …………。
 唐突に吐かれたうぱ倫子の言葉に基地スタッフの面々は凍りついた。
『きゃはは、うぱ松さん振られちゃった!って冗談だけどホントあまり気にしないで。
ちょっと世間知らずで空気読めなくて変なの見えてるけど別にそんな悪い子じゃないから!』
スピーカー越しにうぱ華子がけらけらと笑う。
『……華ちゃん。それ褒めてない』
うぱ倫子、不服そうな声。
『倫ちゃん。それたぶん嫌味』
さとすうぱ民子。
『……イヤミ? ……ざます?』
うぱ倫子、つぶやく。
「だめだこりゃ」
モニタースピーカーの前でがっくりと肩を落とすうぱ松。
そんなうぱ松に笑いたいのを堪えながらスタッフが話しかけた。
「不思議ちゃんパワー炸裂っすね。うぱ太郎君も大変だ」
「仲がいいのか悪いのか、なんだかよく分からない連中だな。まあ、あの状況を目の当たりに
してもまだパニックになっていない。とりあえずは良しとしよう。引き続き情報収集を頼む」
「了解!」
返事を残しスタッフは作業に戻る。
――さてと。
気を取り直し煙草を火を点ける。そして今後を占うかのようにうぱ松は吐いた煙の行方を追った。
――2ストロークのオフロードバイク。250ccならオンロードでもそれなりに速い。
  機動性という意味ならグレートサラマンダーZと同等かそれ以上だろう。
  しかし勝算はある。敵の足がオフロードバイクとカメラを載せたピックアップだけなら
  通行止めの高速に乗れば一気にぶっちぎることが出来る。
  ……しかし、それが敵の罠である確率もめっぽう高い。
  
 答えを見出せるわけもなく煙は宙に消えていく。うぱ松はまた深く煙を吸い込む。
――まだ一か八かの勝負をするときではないが……
 思い出したようにうぱ松は携帯電話のメモリーを呼び出した。
グレートサラマンダーZの映像を確認する。透明なくすんだ緑の世界が映し出されている。
「すまん、私用の電話をする。廊下にいるから緊急な用件があるなら叫んでくれ。すぐに戻る」
「了解!」
 スタッフに声をかけうぱ松は廊下に出る。
メモリーを呼び出す指が止まる。懐かしき名前がそこにある。
――この際、使えそうなものはなんでも使わせてもらう!
 自分自身に強く言い聞かせ、うぱ松は親指に力を込めた。

52 :
今日はここまで。

53 :
y

54 :

――ここら辺でいいかな……?
 うぱ松に従い2キロほど水中を移動したうぱ太郎は、次の指示を待つべく
グレートサラマンダーZを川底で待機させていた。
 15分ほどの道中、居心地の悪かった沈黙も時とともにコックピットになじみ、
うぱ太郎はうぱ華子の容態を確認したくらいで無理に話題を振ることをやめた。
うぱ倫子うぱ民子は再び無言になり、うぱ華子も静かになった。
ナビでおおよその移動距離を確認しうぱ太郎は基地に連絡する。
「うぱ松さん聴こえますか?」
『おう、どうした?』
「川岸の様子確認出来ないんで判断できないんですけど、今いる場所で大丈夫ですか?」
『あぁ、問題ない。そこで10分ほど待機していてくれ。こっちもモニターで確認はしているが
気づいたことがあったらすぐ報告すること』
「了解しました!」
――とりあえずは落ち着ける。……でもマシンガンで襲ってくるなんて。……老人Xは本気だ。
 気持ちに余裕ができたうぱ太郎は今日の出来事を振り返った。
中3日、間隔を空けてグレートサラマンダーZ出動。死んでいると思った5匹の大山椒魚が生きていた事。
クスリかなにかで眠らされたといううぱ華子たち。周到に準備された罠……
うぱ太郎の心に不安がよぎる。うぱ太郎は振り向きざまにうぱ華子に問いかけた。
「華ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど、クスリで眠らされたって昨日今日?何時頃か覚えてる?」
「今日のお昼頃かな」
――グレートサラマンダーZの出動時刻とほぼ同じ頃……。いくらなんでもタイミングが良すぎる……
「気づいたときはバケツの中にいた?」
「ちがうわ。気づいたら知らない部屋で男4人が生きたままの大山椒魚を天井から吊るしてた。
その後であたし達はバケツに入れられて包丁つきの蓋で閉じ込められたのよ。気を失ってたのは
実質1時間くらいだと思う」
「……自分の体に発信機とか付けられたと思う?」
「発信機がどれくらいの大きさか分からないけどそれはないと思うけどね。体に変な違和感もないし」
「…………」
――映像はよく分からないけど、通信と位置情報は携帯電話の機能をうぱ松さんが魔改造して
  グレートサラマンダーZに載せているはず。もし老人XがグレートサラマンダーZに載っている
  携帯電話の番号やGPS端末情報を認識できてるとしたら……

55 :

「あ……」
うぱ太郎が考えこんでいる時だった。うぱ倫子が何かを思い出したように声を出す。
「ちょっとなに? 何か言いたいの?」
うぱ華子が問いかけ、うぱ太郎が視線を移した瞬間、
 ぐらっ。
「わっ!」
「きゃっ!!」
大波にでも打たれたかのようにグレートサラマンダーZが激しく揺れた。
「……また来た」
「ちょっとなによ!? あんた何見えてるのよ!!!」
「地震??」
つぶやくうぱ倫子をうぱ華子が怒鳴る。うぱ太郎も揺れの正体をつかめない。
「光った、爆発」
うぱ民子の声。視聴覚モニターを背にしたうぱ太郎とうぱ華子は為すすべがない。
 ぐら、ぐらっ。
「!!!っ」
「ああ、もうっ!!!」
再びの揺れにうぱ太郎うぱ華子は体勢を崩す。
『うぱ松さん、手榴弾です!』
『ちっ、次から次と獲物出しやがって!』
通信スピーカーから基地内の怒声が流れてくる。
『うぱ太郎、その場から離れて全力で泳げ!とにかく1ヶ所に留まるな!』
「了解っ!」
うぱ太郎、うぱ松に従いシートベルトにかまわず乱暴にグレートサラマンダーZを発信させる。
「何よもう!川の中だって全然安全じゃないじゃないっ!!!」
のたうちながらうぱ華子は誰に向けたか分からない責め言葉を吐く。
――だいたいの位置はばれてるけどグレートサラマンダーZが見えてるわけじゃない。ただ闇雲に
  手榴弾を投げてるだけだ。整備されてるとこもあるけど川辺のほとんどは草木が生え放題で
  敵は移動に手間取るはず。全速で逃げればなんともない。
 うぱ太郎アクセル全開。グレートサラマンダーZ、激しく身をくねらせながら川の流れに乗る。
うぱ太郎の予想通り、出始めこそ幾度かの衝撃波を受けたものの待機していたところから離れるにつれ
それはなくなった。

56 :

「うぱ松さん、聴こえますか?」
アクセルを緩めずうぱ太郎は基地のうぱ松に呼びかけた。
『なんだ?』
「あの、僕思うんですけど、華ちゃん達に発信機が付けられてるんじゃなくて、グレートサラマンダーZ
の携帯の番号っていうか位置情報確認するGPS端末の番号みたいなのばれてて秘密基地と同じように
老人Xの部隊にもグレートサラマンダーZの居場所把握されてるんじゃないでしょうか?」
『……おまえもそう思うか?』
うぱ松も同じ疑問を抱いていると分かり、うぱ太郎は少しだけ自信を持って話を続ける。
「ええ。華ちゃんに聞いたら、眠らされたの僕が基地を出たときとほぼ同じ時間なんです。
警察の罠のときは人質が3日間拘束されてたけど、あの時はまだ通信システムなかったから時間を
かけておびき寄せたんだと思うですけど、いまはグレートサラマンダーZの動きが手に取るように
わかるから入念に準備してグレートサラマンダーZが動いたときに罠を発動させたんじゃないかと」
『そのようだな。何故いまになって老人Xが我々に牙をむいたかもそう考えれば辻褄が合う。
マシンガンに手榴弾、傭兵の手配。グレートサラマンダーZの位置情報システムの解析。それが
整うまで老人Xは密かに爪を磨いていたんだろう……。
 経費削減で自社開発は断念した。それでも念のため飛ばしの携帯電話を使って通信、位置情報
確認システムを作ったが老人Xに対しては無意味だったようだ……』
ある程度想定していたのだろう、うぱ太郎の考えをうぱ松はあっさりと受け入れた。
『ところで話は変わるが、うぱ華子さんたち。君達は泳げるか?』
「バカなこと聞かないでよ。ウーパールーパーなら当たり前でしょ」
「泳げるよ」「……泳げる」
スピーカー越しのうぱ松の問いかけにうぱ華子達はそれぞれおもいおもいに答えた。
『そうか。なら話は早い』
「……ちょっと待ってよ。なんか物凄く嫌な予感がするんだけど」
突然の意味不明な問いにうぱ華子が訝しげな顔をする。
『察しがいいな、その通りだ。君達にはグレートサラマンダーZを降りてもらう』
「こんな所で?冗談でしょ?」
うぱ松の返事にうぱ華子の眉がつり上がる。
『いや冗談じゃない。コックピットの中は確かに安全だ。しかしグレートサラマンダーZに乗って
いる限り君達も攻撃の対象になる。多少の危険は伴うが橋の袂で君達を降ろす。降りたら君達は橋脚付近の
水中に隠れていてくれ。グレートサラマンダーZが遠く離れた頃を見計らって、俺の知人を迎えに出す』
「ふざけないでよ。もし降ろされた近くに手榴弾投げられたらあたし達なんて一発であの世行きよ。
あまりにもリスクが高すぎるわ」
うぱ松の提案をうぱ華子は断固拒否する。しかし後ろでうぱ民子が目を輝かせていた。
「凄い。九死に一生を得るスペシャルだ。こんなこと滅多に経験できないよね」
「……民ちゃんバカな事言わないで。このロボットでさえあんなに激しく揺れたのよ。九死に一生
どころの話じゃない。確実にRるわ」
うぱ民子がうぱ華子を苛立たせる。しかし、さらにうぱ倫子が追い打ちをかける。
「華ちゃん、潔く散るのが男の華」

57 :

「あァ?この期に及んで誰がうまいこと言えっていった? それにあたしは女よっ!!!」
激怒し、うぱ華子は激しくうぱ民子達に噛み付いた。
「ったく、どいつもこいつも揃いも揃ってバカばっかりで嫌になるわねっ!何よ潔く散るって!
あんた達そんなに死にたいの?ならさっさと降りれば?あたしは絶対降りないからね!!!」
「華ちゃん、死ぬの怖いの?いつかは死ぬんだよ?だったらドラマチックに死にたいじゃない」
逆上するうぱ華子を気にせず、マイペースで答えるうぱ民子。
その声に、うぱ華子ついにキレる。
「あんた達なんかと一緒にしないでよっ!死ぬのが怖いなんて当たり前のことでしょ!!!
逆にあんたらに聞きたいわよ!死ぬのが怖くないのかって!!!
……でもね、そんなのが理由なんかじゃない。
確かに死ぬのは怖い。痛いのだって大嫌い。
……でもそれ以上にあたしは嫌なの。
もう自分の人生を他人に弄ばれたくないのッ!!!!!!!
他人に人生を決められるなんてもう真っ平なのよっ!!!!!!!」

「…………」
『…………』
 うぱ華子の怒声にコックピットは静まりかえる。
通信用スピーカからも、慰みの言葉一つ出てこない。

――さらわれて無理矢理連れてこられたのがやっぱり悔しかったのかな……。
 うぱ華子の心情を思う。
しかしうぱ太郎は同情や憐憫の言葉を掛けることは出来なかった。

58 :

 重苦しい沈黙がコックピットに蔓延する。
「……ごめん、言い過ぎた。それでもあたしはこのロボットから降りるつもりはないわ。
現状ではこの中が一番安全だと思うから。もし民ちゃんや倫ちゃんが降りてもあたしは絶対降りない。
生死にかかわる問題よ。あたし自信で決めさせてもらうわ」
自ら作り上げてしまった静寂をごまかすかのように、うぱ華子は静かに話した。
その時を待っていたかのようにスピーカーからうぱ松の声がする。
『……うぱ太郎、お前はどう思う?』
「…………」
 うぱ松の問いにうぱ太郎は黙り込む。
少し前にうぱ華子と交わした言葉が胸を貫く。
――華ちゃんのことはよく知らないし、気持ちも分からない……。だけど……
「……僕は、もしコックピットに残りたいというならそれで構いません。華ちゃんの言うとおり、もし
降りる瞬間を狙われたら華ちゃん達どころかグレートサラマンダーZでさえも危ないですし、それ以外にも
川には大きな魚とか鳥とかウーパールーパーを捕食する外敵がいて降りるには危険だと思います。
それに…………」
『それに、なんだ?』
渋るうぱ太郎にうぱ松は容赦なく続きを促した。
――僕は…… 僕は、約束したんだ!
「それに理由はどうであれ、こんな危険極まりない場所に女の子を置き去りにするような真似は
僕には出来ませんっ!!! 僕がみんなを守りますっ!!!!!!!!!!」

59 :

 秘めたる胸の想いを爆発させたせいか、うぱ太郎の息は上がり、目にはうっすらと涙を溜めていた。
うぱ太郎の傍から見れば恥ずかしくなるような宣言にうぱ華子達は何も言えずただ黙っている。
通信スピーカーから基地内のどよめきやはやしたてるような歓声が次々と流れてくる。
 くくく。という含み笑いに続いてうぱ松の声がする。
『……うぱ太郎、ずいぶん言うようになったな。……それでいい。男はそうじゃなくちゃな』
「…………」
自分の吐いたセリフに恥ずかしくなったのか、うぱ太郎はうぱ松に言葉を返すことが出来なかった。
『うぱ華子さん、さっきのは無しだ。忘れてくれ。我々は必ず君達を安全で老人Xの手の掛からない
場所に連れて行く。それまでまだ怖い思いをするとは思うが頑張って乗り越えてくれ。
うぱ民子さんうぱ倫子さん。九死に一生とは言わないがこれから先どんどんハードな状況に陥るはずだ。
スリルとアクション満載の逃走劇になるからケガしない程度に楽しんでくれ』
響き渡ったうぱ太郎の叫び声の余韻からか、うぱ松の声にうぱ華子達は無言で小さく頷くだけだった。
『うぱ太郎、この通信が終わったら一旦通信用携帯をボックスから出してバッテリーを外せ。
そのあと全力で5キロほど移動して川から上がれ。15分ほど待機して追っ手が来るかどうか確認しろ。
もし15分経過しても敵が見えないようなら携帯のバッテリーは外したままで川を使って基地に戻ってこい。
もし追っ手が来たならまた川に入って携帯のバッテリーを入れろ。そして今度はこっちから動く。
敵を引き連れて市街地の大通りを流せ。最終的な行き先は追って指示する』
――うぱ松さんはまだ華ちゃん達に発信機が仕組まれている可能性を捨てていない。
  でも、もし華ちゃん達に発信機が仕掛けられてなかったら僕達の勝ち……
 早速うぱ太郎はグローブボックスを開け、配線まみれになっている携帯電話のロックを外した。
「……うぱ松さん、通信出来なくなるし基地でも居場所見失いますが構いませんか?」
『ああ、構わない。上陸する場所はうぱ太郎の好きにしていい』
「了解しました!」
 携帯電話を手にし背面を見る。電源を切るだけじゃダメなのかと思いつつもうぱ太郎は
慎重にバッテリーカバーを外す。
「うぱ松さん、バッテリー外す準備できました」
『了解。……うぱ太郎、まだ発信機の件は解決したわけじゃない、油断するなよ。
これからが本番だ。覚悟決めろよ!』
「了解。じゃあバッテリー外します!」
バッテリーがロックされている爪を指で煽る。小さな雑音とともに通信スピーカーが静まり返る。
コックピットに再び沈黙が訪れた中で、うぱ太郎はうぱ華子達を前に緊張気味に話し始めた。

60 :

「運がよければすんなり基地に戻れるけど、そう簡単にはいかないと思う。
敵がいたらまた激しく揺れたり転がったりするから、みんな舌噛まないように気をつけて」
「お水飲みたい」
うぱ太郎が呼吸を置いた瞬間、突然そう言って後部座席のうぱ民子が手を揚げた。
「…………」
人の話をまるで聞いてないうぱ民子を見てうぱ太郎は途方にくれる。
「あんたねぇ、太郎ちゃん話してるんだから少しは空気読みなさいよ」
「だって、喉乾いたもん」
――緊張感のきの字も無い……。
 諦めに似たため息をついた後、うぱ太郎は自然に苦笑いを浮かべていた。
咎めるうぱ華子とうぱ民子の子供じみた返答で、張り詰めていた肩の力がゆるりと抜けた。
「別に気にしなくていいよ華ちゃん。なんか僕も喉渇いたからみんなで飲もう。民ちゃん、
シートの後ろのボックスに未開封のペットボトルあるから取ってくれないかな」
うぱ太郎の返事に嬉々としてうぱ民子はペットボトルの入ったボックスをあさり始めた。
「あっ、赤虫グミだ! 太郎ちゃん食べていい?」
「うん、いいよ。長丁場になるかもしれないからお腹減った人は食べて」
やった。と小さく叫び、うぱ倫子はペットボトルと赤虫グミを取り出す。
そして1本と1粒をそれぞれに配り、すぐに座席に戻りペットボトルのキャップを開けた。

61 :

「まるで子供の遠足ね」
川の中、グレートサラマンダーZはすいすいと泳いでいく。
後部シートではしゃぐうぱ民子とうぱ倫子を横目で見ながらうぱ華子がつぶやく。
「まぁ、はしゃげるって言うか休めるのは今のうちだけだから」
ペットボトルを口にしながらハンドルを握るうぱ太郎が答える。
 ある程度の速度で移動していれば敵に襲われることはない。それはコックピットにいる
全員が短時間の経験で気づいたことだった。
「このまま海にでも行って、のんびり波にでも揺れてればいいじゃない?
沖合いに出たらさすがに敵も追ってこないよね」
うぱ民子うぱ倫子が遠足気分なら、うぱ華子とうぱ太郎はドライブ気分だった。
「うーん、海で泳がせたことあるけどグレートサラマンダーZは海ではいまいち性能発揮
できないんだ。大もとの大山椒魚が川育ちのせいか分からないけど……」
以前、海で泳がせたときのことを思い出す。波と相性が悪いのかグレートサラマンダーZの
動きはスムーズと言えるものではなかった。
「……造ったのうぱ松さんでしょ? 変なところで律儀よね」
「よく分からないけど妙なこだわり持っている人だから」
そして会話がとぎれる。
残された時間、うぱ華子は瞳を深く閉じ、うぱ太郎はモニター群に目を凝らした。

「……じゃあ、そろそろ」
うぱ太郎の声で、うぱ華子達は手にしたペットボトルのキャップを硬く絞りボックスに戻した。
 うぱ太郎は改めてナビを確認する。午後3時50分、携帯のバッテリーを外して15分経過。
現在地は大きな橋の近く。両岸とも営業車やトラックなどが昼食を取ったりサボったりする広い場所。
――もし敵が襲って来たら速攻で川に戻って携帯のバッテリー入れて電源オン。
  すぐに対岸に渡ってそこから大通りを目指す!
  敵が来ないようなら、いろいろあったけど今日のパトロールは終わりだ。
 振り返り深呼吸をする。そしてうぱ太郎は話し始める。
「さっきも言ったけど、川から上がったらかなり派手に動くと思うからみんなシートベルト
はしっかりお願いします。それとマシンガンくらいじゃグレートサラマンダーZはびくとも
しないんで撃たれても心配しなくていいです。それじゃ川から上がります」
無言で頷くうぱ華子達を確認し、うぱ太郎は岸辺に上陸するべくアクセルをそっと踏み込んだ。

62 :
今日はここまで

63 :
うぱ太郎がかっこよすぎてこまる

64 :

 秘密基地。
煙草を手にグレートサラマンダーZの動向を見守るうぱ松は、話しかけられたスタッフと
問答を続けていた。
「うぱ松さん、やはりうぱ華子達にも発信機が取り付けられていると……」
「あぁ。見せしめに大山椒魚吊るして、有無を言わせずマシンガンに手榴弾だ。餌に発信機が付いて
ないなんてぬるい考えは捨てたほうがいい」
「……それを承知でうぱ華子達を降ろそうとしたんですか?」
「まぁな。しかし彼女達を生かしておけない理由があるならわざわざこんな面倒なことはしない。
そしてグレートサラマンダーZの位置情報を認識しているならこの基地の位置も把握している筈だ。
基地の防衛設備など皆無に等しいから急襲されれば我々はいちころでダウンする。だがそれもしない。
 要は老人Xの目当てはあくまでグレートサラマンダーZであってウーパールーパーではないということだ。
だからグレートサラマンダーZの位置情報さえ発信しておけば、獲物を吊り上げた彼女達はお役御免で
コックピットから降りても攻撃対象から外れると踏んだわけだ。まぁ彼女達は降りなかったわけだが」
「……でも、どれも推測の域を出ていないのでは」
「あぁ。どれもこれもあくまで俺の推測で、確証されていることは何一つ無い」
 そう言ってうぱ松はちらりと映像モニターを眺めた。
――ただじっとしていたって何も変わらない。
 心の中でうぱ松は強く念じる。
直後、グレートサラマンダーZの映像データーが激しく乱れた。
うぱ松は煙草をもみ消し、話し込んでいたスタッフは慌てて席に戻る。
「聞いてくれ。これから先グレートサラマンダーZを市街地経由で高速に乗せる」
「!?」
うぱ松は立ち上がり、大きな声で言い放った。
一気に基地内が緊迫する。
罠に飛び込むのか……? 口には出さない。しかしスタッフ誰もがそう思い表情を硬くした。
「今までの川辺の戦い、老人Xはマシンガン手榴弾にオフロードバイクで兵を整えてきた。
旧世代の2ストバイクだが機動力も高いしそれなり速い。敵ながらいい選択だと思う。
そして当然のごとく高速に乗ったら適材適所で新たな兵が出てくるだろう。1リッター超スポーツ
バイクもしくはポルシェRーリ、GT−Rかもしれない。皆が思うように罠である確立は極めて高い。
 しかしグレートサラマンダーZにはそれらに対抗する、いやそれらを上回るスピードがある。
幸いなことに、俺がはるか昔に最高速テストをしただけだから老人Xにその性能はばれていない。
大山椒魚のロボットが高速を時速400キロで駆け抜けるなんて敵は夢にも思わないだろう。
通行止めの高速道路。それはグレートサラマンダーZにとって唯一にして最大の味方になる。
 作戦は至って単純。高速に乗ったら敵を1ヶ所に引き付けてタイミングを見計らって全速で逃げる。
それだけだ。その後でうぱ華子達を俺の知人に保護してもらう。その知人というのは……まぁ、あれだ。
ぶっちゃければ俺の族時代の知り合いだ。
 しかしながら単車での無謀運転や修羅場には慣れているがさすがにマシンガンや手榴弾には勝てない。
なので敵を充分に引き離したのを確認したあとでグレートサラマンダーZからうぱ華子達を降ろし、
そいつに受け渡す。その後この地区の管轄から遠く離れた警察署にうぱ華子達を連れて行ってもらい
そこで保護してもらう。最後にグレートサラマンダーZの通信用携帯の電源を切って川でも使って
基地に帰還すれば一件落着だ。どうだ、簡単だろ」

65 :

 静かな川辺の風景が流れるだけで、グレートサラマンダーZから送られてくる映像に敵の姿はない。
モニターを確認しながらスタッフの一人がうぱ松に話しかける。
「……確かに簡単そうですが、性急すぎませんか? もう少し川の中で敵の動きを見るのも手かと」
「川の中を移動していれば確かに安全だし時間は稼げる。しかし我々はグレートサラマンダーZの視聴覚
データーでしか敵の動きを探ることが出来ない。悠長に構えすぎて敵に体勢を整えられるのは危険だ」
「高速道路上にバリケードを張られるとか、遠距離からの狙撃なども考えられますが……」
「この地区の高速は見通しがいいしトンネルも少ない。それに多少の障害物ならグレートサラマンダーZ
のオートパイロットシステムで回避できる。遠距離の狙撃でもライフル弾くらいならどうってことはない」
 スタッフの質問にうぱ松は迷うことなく即答する。
他のスタッフは固唾を呑んでやり取りの行方を追っている。
「……了解しました。……再度グレートサラマンダーZのいる周辺の道路状況を確認します」
「よろしく頼む」
 うぱ松さん迷わなかった…… 楽勝だろ、たぶん…… 罠を承知で突っ込むのか…… 
さっさとけりつけて帰りたい…… 吉と出るか凶と出るか…… うぱ太郎君大丈夫かな……
 基地スタッフそれぞれが思いを胸に宿す。
そんな困惑した空気を薙ぎ払うかのようにうぱ松は基地内に響き渡る声で激を飛ばした。
「敵は1人や2人じゃない、これからうじゃうじゃ湧いてくるはずだ。映像の確認を怠るな!」
その声にスタッフ全員がびくりと肩を揺らした。すぐに誰もが映像モニターを凝視する。
「了か…!? ちッ早速かよ!うぱ松さん、来ました!またオフロードバイクです!!!」
返事もままならないうちにスタッフの1人がモニターに敵の姿を見出す。
瞬時の差で映像が激しく動く。揺れる地面、光る水面、一瞬宙を向いた後、水中へ。
乱れ暴れる映像がスタッフを否が応でも緊張させる。
「ご苦労なこった。俺は知り合いに連絡を入れる。その間うぱ太郎から通信入ったら目的地は
高速インター、まずは幹線道路で逃げ回って敵の状況を確認と伝えろ」
「了解!」
 刻一刻と状況の変わる中、突破口を開くべく、うぱ松は携帯を握り締め廊下に向かった。

66 :

――やっぱり誰かに発信機が付けられてる。僕が甘かった……
 敵を見るなり川に飛び込んだうぱ太郎は、水中で自分の考えの浅はかさを悔やんでいた。
しかし皆が静かにしているだけでコックピット内の空気は悪くない。
さっきの休憩でみんな落ち着いたのかと思いながら、うぱ太郎は通信用携帯のバッテリーを
セットし電源を入れる。そしてグローブボックスに動かないようにロックし通信ボタンを押した。
「うぱ松さん、聴こえますか?」
『……うぱ太郎君、お疲れ。いまうぱ松さん席外してるんだ』
 少しだけ間をおいてスタッフの声が返ってくる。
「そうですか。……えーと、やっぱりって言うか残念ながらって言うか、敵が追ってきたんで
これから反対側の岸に上がって大通り向かいます」
『了解。それでうぱ松さんからなんだけど、いま通行止めになってるけど高速のインターに
向かえって。で、とりあえず幹線道路走って敵の出方を確認。て伝言あった』
「……高速ですか?」
『そう。うぱ太郎君、いよいよグレートサラマンダーZの力を解放する時がきたよ!』
「え……?」
緊張と期待を一緒にしたようなスタッフの声に、うぱ太郎の瞳はプラスチックで囲われている
スピードバルブ制御ダイヤルに釘付けとなった。
『スピードバルブ制御をカットしてアクセル全開で高速道路を使って逃げるんだって。うぱ松さんの
話だとメーター読みで時速350キロは確実に出るし400キロに届くらしいよ』
「400キロ!?」
非現実的なスピードにうぱ太郎はごくりと喉を鳴らす。
『そう。それで敵を置き去りにするんだって。敵ぶっちぎったらうぱ松さんの族時代の
知り合いにうぱ華子さん達を託してこの地区から遠く離れた警察に保護してもらう予定なんだ。
その知り合いにいま連絡してるんで席外してるけど、うぱ松さんじきに戻るから安心してていいよ』
――……凄い。時速400キロも出るんだ!
いよいよ持ってうぱ太郎はスピードバルブ制御ダイヤルから視線を離せなくなった。
 通行量の少ない直線道路でアクセル全開のフル加速や最高速チャレンジを幾度も繰り返した。
時速150キロで制限された動力性能。すぐに乗りこなせたわけではない。しかしそれを容易に
操れるようになるのはたいして時間は掛からなかった。
 うぱ太郎の体が震える。
それは不安ではなく、未知の領域に踏み込む歓喜の武者震いだった。
『それで厳しいとは思うけど街中走っているときに敵の編成とかどういった攻撃をしてくるか確認して
欲しいんだ。それ参考にうぱ松さんも作戦組み立てると思うから………… うぱ太郎君、聞いてる?』
「え? あ……。聞いてますです。敵の確認ですよね?」
スタッフの問いかけでうぱ太郎は我に返った。しかし依然、瞳は制御ダイヤルに捕らわれている。
『そう。敵が高速道路専用のバイクとか車準備してるかもしれないから追われる身で苦しいとは
思うけどたまに後ろ見てみて。ちょっとでも映像取れたらこっちで解析するから』
「了解です!」
――スピードバルブ制御カットしたらどんな相手にだって負けない!!!
  ……いや、落ち着こう。いまは逃げながら敵を確認することに集中だ!!!
 ようやくうぱ太郎は気持ちを切り替える。そしてうぱ華子たちに街に出ると伝え、対岸に向かい
グレートサラマンダーZを発進させた。

67 :

「派手なアクションないなぁ」
「いやいやいや、民ちゃん。いまでさえ怪しいバイクに詰め寄られてるのに滅多なこと言わないでよ」
 交通規制の敷かれた幹線道路。
至る所にパトカーが停まり赤色のパイロンが置かれている。その中をグレートサラマンダーZが数台の
バイクとピックアップトラックを引き連れて駆け抜けていく。
 うぱ民子の言葉通り、後続の敵集団は川から市街に向かう幹線道路を走るグレートサラマンダーZ
を付かず離れず追い回すだけで銃器を使って仕掛けてくることはなかった。
うぱ太郎はグレートサラマンダーZを時々立ち止まらせては敵の様子を伺った。その度、敵集団も
その場に留まりグレートサラマンダーZが再び動くのを待った。
 たまに見かける警官はグレートサラマンダーZとマシンガンを携えたライダーが乗るバイクを見ても
まったく意に介さず、知らない振りを決めこんでいる。通行人や建物から顔を出す者はただ唖然とグレート
サラマンダーZを見送っていた。
「うぱ松さん聴こえますか?」
『おう、膠着状態だな』
 うぱ太郎は秘密基地に呼びかける。
席に戻ったうぱ松から、高速に乗ったらスピードバルブ制御をカットし、通行止めが解除になる約100キロ先
のインターを目指し走る。そこで手配済みのうぱ松の知人と合流、うぱ華子達を渡す。と、指示を受けた。
 カワサキ製逆輸入車を駆るうぱ松の知人が合流場所に到着するのが約30分後。
その30分間、前半を市街地で敵の情報収集。そして後半で高速道路に乗り込む段取りである。
「相変わらず敵はオフロードバイク7台、ピックアップ3台で変わらないですね。川を出てから
攻撃はまったく受けてないです。市街地での銃撃戦はさすがにまずいですもんね」
『そうだな。いくら老人Xでも一般市民を巻き添えにするようなことは出来ないだろう。
敵にグレートサラマンダーZを無理矢理高速に追い込むような動きもないか?』
「ないですね。本当にただグレートサラマンダーZの後を付いてくるだけです」
『高速に乗せたいのか乗せたくないのか判断のしようがないな……。よし、ちょっと早いが
高速のインターに向かえ。付近まで行ったらまた敵の状況を確認だ』
「了解しました!」
 うぱ松の指示のままにうぱ太郎はグレートサラマンダーZを走らせた。
脇道裏道を使うなどの小細工はせず、ひたすら大きな通りを使ってインターを目指す。
敵の数は一向に変わらず攻撃してくる気配もない。
 老人Xの手によると思われる交通規制とうぱ太郎のスピードバルブ制御カットに掛ける期待の先走り
によりグレートサラマンダーZは瞬く間にインター入り口の案内板前に到着した。
 グレートサラマンダーZを停めてうぱ太郎は緩い左カーブの先にあるインター入り口を確認する。
――通行止めになっているけどパイロンが立ってるだけで入り口は完璧には封鎖されてない。
  グレートサラマンダーZなら余裕で通り抜けられる……。
  やはり、高速道路に誘い込むのが目的なのかな……?
 少しだけうぱ太郎は考え込む。
本線入り口ゲートのスペースは広いからそこで仕掛けてくる、もしくは特別な武器や車が待機している。
高速の本線に敵の主力部隊が待ち構えていて総攻撃を仕掛けてくる。……あるいは取り越し苦労。
 しかし自分で考えても埒が明かない気がしてうぱ太郎はすぐに考えることをやめた。
入り口ゲート直前で再度基地に報告することだけを決めてうぱ太郎はグレートサラマンダーZを
ゆっくりと動かした。

68 :

「うぱ松さん、ゲート直前まで来ましたけど敵に変わった動きはないです。数も増えてないですし
こっちに向かってくることもありません。特別な車や武器もなさそうです」
ゲートの直前でグレートサラマンダーZを止め、うぱ太郎は基地に報告する。
『了解。なら早速乗り込むことにしよう。うぱ太郎、まず最初はスピードバルブ制御はそのままで
時速100キロ前後で移動しろ。6分、約10キロの距離だ。そこで敵にグレートサラマンダーZの
速度はそんなもんだと思い込ませろ。いま追われている敵のバイク、車もその速度なら余裕で出せる。 
 もし車が幅寄せしたり突っ込んできそうな気配を見せたらそのときはスピードを出して構わない。
まぁ100キロ出して事故ったらエアバッグ付いたでかいピックアップでも無傷では済まない。
そんな無茶はしないだろう。
 進行方向前方に投げたら自爆の可能性もあるから敵は手榴弾を使えない。マシンガンで撃たれても
たいして気にすることはない、そのまま進め。
 10キロほど走っても特殊な車やバイクが来ない場合、そのタイミングでスピードバルブ制御を変える。
オートマシフトはそのままで構わないがアクセルオフの状態じゃないと制御は切り替わらない。
アクセルを抜いた状態でまずはダイヤルをM300に合わせろ。それでじんわりアクセルを踏み込め。それで
メーター読みで時速300キロに到着する。そのあとまたアクセルを抜いてM∞に合わせろ。
その後もじんわりとアクセル操作すればグレートサラマンダーZはさらに加速する。
 前にも言ったがスピードバルブ制御完全カットのM∞モードはモーターの持てる力をフルに発揮する。
しかし、ラフなアクセル操作をすればモーターが異常回転をきたし暴走する恐れがある。
全神経をアクセルワークに集中させろ。くれぐれもアクセルをベタ踏みするような馬鹿な真似はよせ。
高速に乗ってすぐに速そうで強力そうなのが出てきたらその時点で制御を切り替えて逃げろ。
 最後に最悪の場合、高速から川に飛び込んで敵を撒くことも視野に入れている。その場合、気合と根性の
フルブレーキングが必要になる。念の為それも頭に入れておけ。以上だ』
「了解!」
うぱ松さん相変わらず話長いなと心の中で思いつつも、うぱ太郎は威勢良く返事を返す。
そしてはやる気持ちを抑えられずスピードバルブ制御を封印しているプラスチックカバーに手を伸ばした。
『うぱ太郎!』
「はいっ!」
まるで見透かしたようなうぱ松の声に、うぱ太郎はカバーに伸ばした手を思わず引っ込める。
『スピードバルブ制御を切り替えればグレートサラマンダーZは別次元の走りを魅せる。
しかし操作に慣れた今のお前なら充分に乗りこなせると俺は信じている。びびらずに自分の力を信じろ。
 だからといって油断はするなよ。まだまだ何があるか誰にも分からない。慎重かつ大胆にだ。
今の内にカバーを外しておけ。走行中に切り替えられるようポジションも決めとけよ』
「了解!」
――……驕るな。……操縦には慣れたつもりだ。でも過信してちゃだめだ。 
 うぱ松の言葉を噛み締め、うぱ太郎は改めてカバーに手を伸ばした。
両側をマジックテープで固定された透明なプラスチックカバーを外す。ダイヤル式の制御スイッチが
あらわになる。
ダイヤルに手を添える。今までと同じシートポジションで問題ないことを確かめる。
振り向く。そしてもう何度目かわからない状況説明をうぱ華子たちに伝える。

69 :

「話し聞いてたと思うけど、これからとんでもないスピードで走ることになるからいままで以上に
シートベルトしっかりして何かあったら踏ん張れるようにしていて欲しい。
150キロ以上で走るのは僕も初めてで戸惑うかもしれないけど、なるべくみんなに負担掛けない
ように頑張るから」
「太郎ちゃん、ここってファイナルステージ?」
「……ファイナルステージって」
うぱ民子に話の腰を折られうぱ太郎は苦笑する。
「まぁみんなを目的地まで連れていってそこで別れることになるからファイナルステージでいいかな」
――変な子だと思ってたけど、場を和らげてもらってだいぶ救われたな。
  休憩のときも民ちゃんに喉渇いたって言われなければ僕はそんなこと考えもしなかったはずだ。
 相変わらず深刻さのかけらも無い表情のうぱ民子を見て、うぱ太郎は心の中で静かに感謝する。
「じゃあ、どっかでラスボス出て来るのかな?」
「うーん、僕的には出て来てほしくないけどね。……でも油断禁物だから注意は怠らないよ」
「倫ちゃん、なんか来る?わかる?」
「……わからない」
「はァー、あんたら平和だね。死ぬかもしれないっていうのに……」
「華ちゃん、あんまりプリプリしてたらラスボス来る前に高血圧で倒れちゃうよ。
ケセラセラ。なるようになるだよ」
「はいはい、もう怒る気力もないわよ。運命共同体の舵取りなんだから太郎ちゃんしっかり頼むね」
「じゃあ、そろそろ出発だね。太郎ちゃん」
「え…? あ… うん。なんか調子狂うな。それじゃあ、出発します」
 取り止めのない話しを終えてうぱ太郎はグレートサラマンダーZを発進させた。
行き先が2つに分かれている。うぱ松の指示があった方面を表示板にて確認する。
どちらの道路も敵が陣取ったり封鎖されている様子はない。
――もし高速道路本線で敵が待ち構えているならどちらか一方に追い込みたいはず。
  それもしないということは最悪上下線ともに敵が待機してるのかもしれない……。慎重に行こう。
 一旦グレートサラマンダーZを停めて後ろを見る。
付かず離れずの位置で敵集団も停まる。ことさらゆっくりとグレートサラマンダーZを発進させて
本線に向かう緩いカーブの上り坂を進む。視聴覚モニターの片隅に敵の姿が離れて映る。
近寄られている気配はない。むしろ遠ざかっているように思える。
 
 高速道路、本線合流地点。うぱ太郎はまたグレートサラマンダーZを停める。
後方の敵、変化なし。右見て左見て不審者、不審車無し。
 夕暮れに近い通行止めの高速道路。
まるで閉鎖された空港跡地の滑走路のように、片側2車線の道路が悲しいくらい真っ直ぐに
彼方を目指している。

70 :

「うぱ松さん、聴こえますか?」
『おう、いよいよ本線だな』
「はい、状況は依然変わらず。新たな敵の姿も今のところ見えません」
『了解。俺の知り合いもスタンバイ出来てる。いつ出てもいいぞ』
「了解しました!」
 基地との応答。
うぱ太郎、うぱ松ともに気負いもなく落ち着いている。
 ナビの時計表示を確認しうぱ太郎、ゆっくりとアクセルを踏む。
グレートサラマンダーZ、約100キロ先をインターを目指し進み始める。
「なんか拍子抜けだ」
うぱ民子がつぶやく。
「いやいや、まだ3分も走ってないよ。敵が来るとしたらこれからかな。僕は来てもらいたくないけど」
ハンドルを握りながらうぱ太郎が答える。
後続を確認するため、時速100キロで左右に蛇行しながら敵の集団をモニターの片隅に映す。
――敵がこの調子ならスピードバルブ制御カットで一気に引き離せる。
 ナビの時計表示がカウントアップする。
3分経過。いまだ敵の様子は変わらない。
うぱ太郎、そっとスピードバルブ制御ダイヤルに手を掛ける。

 その時だった。
視聴覚モニターに、前方上空に浮かぶ妙な物体が映し出された。
思わずうぱ太郎はアクセルから足を離し、ゆっくりとグレートサラマンダーZを止めた。
「……何だあれ?」
「……鳥。じゃないわね?」
「UFOかな?」
「…………」
 浮遊する黒い存在。
あまりにも違和感を発するその佇まいに、うぱ太郎含め誰一人答えを見出すことは出来なかった。

71 :

「……ヘリコプター……だと?」
 映像モニターに映る小さな影を藪睨みにしてうぱ松はつぶやいた。
そして新たな敵の出現に騒然とする中で、プリントアウトされた画像を見たまま1人のスタッフがうめく。
「……狂ってる。……正気の沙汰じゃない」
「どうした?」
尋常でない言葉を耳にし、うぱ松は青ざめたスタッフに聞き返す。
「……AH‐64D。……通称ロングボウアパッチ。自衛隊機かどうか分かりませんが
日本には10機しかないはずの対戦車攻撃ヘリコプターです。……いくらなんでも相手が悪すぎる」
「対戦車攻撃ヘリ……? 火力の装備は!?」
スタッフの返事にうぱ松の声色が変わる。
「……30ミリ機関砲、誘導ミサイル16発、ロケット砲も積んでるかもしれません」
震える声でスタッフが答える。
「威力が判らない!具体的に言え!!!」
うぱ松の怒気のあふれる声が基地内に響く。
「30ミリ機関砲。工事現場によくある重機が乗る分厚い鉄板2枚重ねたって楽勝でぶち抜きます!
サブマシンガンとは次元が違います。いくらグレートサラマンダーZが頑丈でも蜂の巣にされますよっ!!!」
 泣きそうな顔でスタッフが叫ぶ。
蜂の巣にされるという衝撃的な声にスタッフ誰もが言葉を失う。

―― これが……本命か……
 映像モニター上で次第に攻撃ヘリはその姿をあらわにする。
―― 考えろ! いままでの状況を! 探せ! 突破口はどこにあるっ!!!
 しかし思考とは裏腹にうぱ松もまた、ただ呆然とモニターの前で立ち尽くすだけだった。

72 :
今日はここまで。

73 :

「……凄い。……戦闘ヘリコプターだ」
目前に迫る現実感のない世界に、うぱ太郎はまるで人ごとのようにつぶやいた。
「……太郎ちゃん。……さすがにやばいんじゃないの?」
挟み撃ちにされた状況に、うぱ華子は弱音を吐く。
「後ろからは狼の群れ、前に現れるは孤高の虎。絶体絶命大ピンチ!」
緊迫した事態に、うぱ民子の声は心なしか弾んでいた。
「…………」
相変わらず、うぱ倫子無言。
「……たぶん大丈夫だよ。マシンガンとかで撃たれてもグレートサラマンダーZにはあまり
効かないからヘリコプターの機関銃みたいのも問題ない思う。
それにこの状況でミサイル撃ったら敵味方関係なく吹っ飛んじゃうから撃てないと思うし」
うぱ太郎、その場しのぎで適当に答える。
「……そうね。そうであってほしいけどね。……それにしてもたかだが大山椒魚型ロボット1匹に
ミサイル積んだヘリコプターまで出すなんてさすがご老人。やることがえげつないわね」
うぱ華子、余裕のない笑みを浮かべる。
「太郎ちゃん、どうするの? 悪者軍団みんなじりじりして固まっちゃったよ?」
うぱ民子、ハードアクションの世界に身を投じたいのかうぱ太郎を急かす。
「…………」
うぱ倫子、案の定無言。
「うーん、ちょっと予想外の展開なんでうぱ松さんに確認してみる」
 前方から独自の風切り音を響かせながら攻撃ヘリがじわじわと距離を詰めてくる。
後方のバイク集団は逃げ道を遮るかのように道路幅いっぱいに陣を取りはじめた。
 攻撃ヘリ搭載機関砲の破壊力など知る由もないうぱ太郎は、迫りくる危機にたいして構えもせず
呑気に秘密基地のうぱ松へ呼びかけた。

74 :

――本命は攻撃ヘリ機関砲。バイクからのマシンガンや手榴弾は逃げまわせるための手段。
  攻撃ヘリはまだ撃ってこない。出会い頭に機関砲ぶっ放せばすぐに勝負は決着していたはず。
  攻撃対象の延長線上に味方がいるので避けたのか……?
  しかしいくら戦闘ヘリとはいえ構造上、戦闘機のようなスピードは出せる筈もない。
  余裕かましてなぶり殺しにするつもりなのか……?

「くくくっ、あはははははっ!」
沈痛な空気が漂う基地内で、突如うぱ松が笑い出した。
 
「どうやら侮っていたのは俺のようだな、老人X。まさか攻撃ヘリまで持ち出すとはな、恐れ入ったぜ。
上等だ。売られたケンカ、喜んで買ってやろうじゃないか!」
映像モニターを睨めながらうぱ松は吼える。
「無茶な!」
「うぱ松さんっ!」
すぐにスタッフから悲鳴に似た声があがる。
しかしうぱ松はまったく耳を貸さなかった。
「そのアパッチとやらの最高速度は!?」
攻撃ヘリの性能を語ったスタッフにうぱ松は詰め寄る。
「……実測は不明ですが自衛隊機のロングボウアパッチは最高速度266キロと発表されています。
しかし簡易装備のアパッチは296キロ出るとも言われています。念のため300キロ強のスピードは
あると思ってたほうが無難かと思いますが……」
 不安げに答えるスタッフをよそに、うぱ松は高らかに宣言する。
「それで充分だ。……奴らはグレートサラマンダZがヘリコプターを凌ぐ速度で移動できるなど
夢にも思っていない。その僅かな隙をつく!」
「しかし!」
「しかしもお菓子もない。やるしかないんだ。
大丈夫だ、我々には運もある。もし川に潜んでいた時にヘリで襲われてたら為すすべもなくグレート
サラマンダーZはやられていた。逃げ場を海にしていても同じことだろう。
 人目をはばかっていた為ともいえるし単なる偶然のめぐり合わせかもしれない。
だが老人Xはそうしなかった。要はグレートサラマンダーZのスピードを舐めているってことだ。
障害物のない無人の高速道路なら、ゼロヨン10秒台の脚が炸裂する。30秒あればはるか1キロ先だ。
その時に気づいたってもう遅い。いくら戦闘ヘリとはいえグレートサラマンダーZには追いつけない。
あとはパイロットの度胸しだいだ」
「……狂ってる」
 スタッフの1人が小さくつぶやいた。
老人X、マシンガン、対戦車攻撃ヘリ。そしてそれに真っ向から立ち向かおうとするうぱ松。
誰にむけられた言葉なのか。
しかし誰もそれを問いただすことは出来なかった。
「…………」
 スタッフは皆、口をつぐむ。
『うぱ松さん、聴こえますか?』
 直後、モニタースピーカーから場違いな程に気の抜けたうぱ太郎の声が流れた。
静まり返った基地内に、更なる静寂が訪れた。


75 :
今日はここまで。

76 :
来てた!乙ー!

77 :

『 ……? うぱ松さん、聴こえますか?』
 スピーカーを通して、再びうぱ太郎の声が基地内に響く。
攻撃ヘリに狙われている筈なのに、その声に焦りや怯えの気配はない。
 目の前の脅威を分かっていないだけ…… 知らぬが仏……なのか?
焦燥の沈黙の中でスタッフ面々は声も出せず苦悩する。
「……あぁ、すまん。聴こえている。……いかにもラスボスくさい奴が出てきたな、うぱ太郎」
2度目の呼びかけにうぱ松が口を開いた。
『……えぇ。さすがにやばいかなって思ってグレートサラマンダーZ停めちゃいました』
「あぁ、それでいい。まさか攻撃ヘリまで出してくるとはな。さすがに俺もここまでは想定して
なかった。もはや完全に常人の域を逸脱した狂った世界だな」
嘆かわしい言葉を出すも、うぱ松の口ぶりはいたって穏やかだった。
「うぱ太郎、よく聞け。この攻撃ヘリの機関砲はバイク野郎に撃たれまくったマシンガンとは比較に
ならないほどの破壊力がある。いままでのように撃たれても平気。って訳にはいかない代物だ。
2〜3発、いや1発でも貰えばグレートサラマンダーZの走行に支障をきたす恐れがある。
そのぐらいヤバイものだと肝に銘じてくれ」
『…………』
真剣な面持ちでうぱ松が語る。しかしうぱ太郎の返事はない。
「だがまだ手はある。基本はさっき伝えたことと同じだが、これから言う事を頭に刻み込め。
まず、敵はグレートサラマンダーZが時速400キロで走れるなど夢にも思っていない。
味方同士の相撃ちを考慮しているのもあるが、もしグレートサラマンダーZの性能を熟知しているなら
逃げられないうちに躊躇せず撃っていたはずだ」
『…………』
「逆に考えれば老人X軍はいつでもグレートサラマンダーZを倒せると思い込んでることになる。
そこで相手が余裕かまして油断しているところを突いて一気に逃げ切る。
 手始めに後続のバイク軍団に突っ込んで暴れろ。別に倒さなくてもいい、敵の輪の中に入っていれば
攻撃ヘリは機関砲を撃つことが出来ないってことだ。
 次にひと暴れしたらなるべくバイク野郎の近くで動きを止めてスピードバルブ制御をM300に切り替えろ。
おそらくバイク軍団は攻撃ヘリが撃ちやすいようにグレートサラマンダーZから距離をとるはずだ。
その瞬間、アクセルを全開にしろ。矢よりも早くグレートサラマンダーZは駆け抜ける。
 ベストのタイミングは攻撃ヘリと正面切って向き合ったときだ。いくら空中とはいえ1秒2秒で
ヘリが方向転換するのは難しい。それに攻撃オペレーターがいるとは思うが猛スピードで走るグレート
サラマンダーZに瞬時照準を合わせられるとは思えない。その敵が体勢を整える僅かな時間でケリをつける。
 とにかく初動のタイミングとその後の全開走行が鍵だ。
M300でアクセル全開。300キロになったらすぐに制御をM∞に切り替えてアクセルワークに注意して
400キロで逃げろ。相手が油断してもたつく様なら速攻で勝負ありだ。たとえ攻撃ヘリだろうとグレート
サラマンダーZに追いつくことは出来ない。通行止め解除区間に到着すればもう敵は機関砲を撃つ
こともままならないはずだ」
『…………』
「空中を自由に舞えるという利点がヘリにはある。しかしいま乗っている高速道路は目的地まで比較的
カーブも少なく、たとえ直線的に迫られてもそう易々と尻尾をつかまれることはない。
最高速はグレートサラマンダーZの時速約400キロに対してヘリは約300キロ、加速力も乏しい。
 約100キロ先がゴールの20分間全開全速かけっこ競争だ。難しいことは何もない。
ただ制御を切り替えたグレートサラマンダーZの加速力はオート制御とはまったくの別物だ。
初動からの加速重力と、M∞に切り替えてからのアクセルワークには充分気をつけろ。以上だ」
『…………』
 うぱ松の長い演説が終わる。
たしかに機関砲の威力の説明はあった……。しかし……。
誰も口に出せなかった。基地内のスタッフ達はただうつむいてうぱ松の話しを聞いているだけだった。

78 :

――やばいな。嘘ついちゃった……。
 戦闘ヘリの機関砲をマシンガンと同等と思っていたうぱ太郎は、うぱ松の話しはそっちのけで
つい今しがたうぱ華子達に軽々しく大丈夫と言ってしまったことを心の中で気にしていた。
『何か質問はあるか?』
「あ…? えーと……」
 コックピットに響くうぱ松の問いかけにうぱ太郎は言葉を詰まらせた。
――バイク軍団に突っ込んで暴れて、戦闘ヘリと向き合ったらM300にして、アクセル全開で300キロ
  なったらM∞に切り替えて注意してアクセル踏んで400キロ近く出す。よし、大丈夫! 
「えーと、戦闘ヘリの機関銃ってそんなに凄いんですか?」
言われた事を頭の中で整理できたうぱ太郎は、いま自分が気になっていることをうぱ松に尋ねた。
『 ……。……グレートサラマンダーZにとって、今までの拳銃やマシンガンがゴム鉄砲なら、
攻撃ヘリの機関砲は立派なエアガンぐらいの威力になる。当たり所が悪ければ相当まずい。
 だが、主要駆動部分とコックピットはそれなりに強化しているから、もし撃たれたとしてもいきなり
手足がもげたり爆発するようなことはない。ただ万が一当てられて走行不能になったら
すぐに口を開けてコックピットから脱出しろ。口の開閉モーターはメインモーターとは別回路で
バッテリー直だから閉じ込められることはないと思うが、脱出経路は早めに確保したほうがいい』
「……了解です」
――やっぱり、マシンガンみたいに受け流すことは出来ないんだ……。
  グレートサラマンダーZから脱出なんていままで一度も言われたことがないのに……。
  やはり僕の考えが甘かった。相当気合いれないとまずいな……。
 気を引き締めたあと、うぱ太郎は視聴覚モニターを見つめた。
ローターの上には鏡餅みたいなモノが乗っかっている。蜂の巣のようなもしくは輪切りにされた
レンコンのようなものが両翼下についている。翼先端にはよくある戦闘機のように、ミサイルらしき
ものが装備されている。着陸用のタイヤも3つ、むき出しになっている
 そこまで明確に見えるほど攻撃ヘリはグレートサラマンダーZに近づいていた。
ハンドルを少し切り後方も確認する。バイク軍団は通せんぼをするかのように道幅一杯に陣を広げている。
「うぱ松さん、聴こえますか?」
『おう』
「僕がタイミングとって突っ込んでいっていいんですか?」
『あぁ、任せる。向こうさんは多分こちらの出方を伺ってるんだろう。さっきも言ったように
バイク軍団に紛れていればヘリは機関砲を撃てない。うぱ太郎の間合いで一気呵成に飛び込め』
「了解しました!」
 ごくりと息を呑んでうぱ太郎はハンドルを握り直した。
そして視聴覚モニターを睨んだまま話し始めた。

79 :

「ごめん。さっき何も考えないで大丈夫って言っちゃった」
「……いいわ別に。……ずっとこんなもんだから感覚マヒしてきちゃったし」
「気にしない気にしない。それよりいよいよ盛り上がってまいりました!」
「…………」
うぱ太郎の言葉にうぱ華子達は三者三様に答える。
「……何回言ったか分からないけど、また暴れることになるんでみんなしっかり身体支えてて。
あと話し聞いてたと思うけど、急発進でフル加速するんだけど、かなりGかかって気持ち悪くなる
かもしれないから注意して。正直、僕も150キロ以上の加速はどんなものか経験ないんだけど」
「……了解」
「いつでもOKだよ!」
「…………」
うぱ華子は少しだけ不安と苛立ちを見せる。
一方、うぱ民子は無邪気を通り越して能天気にはしゃいでるようにしか見えなかった。
『うぱ太郎、聴こえるか?』
そして、うぱ倫子の無言の返事に重なるようにスピーカーからうぱ松の声が流れた。
「はい!」
『もう一度言うが、この作戦は初動が全てだ。攻撃ヘリと正面切って対峙しても怯むな。
躊躇すればそれだけ相手に時間を与えることになる。心に決めたら一気にアクセルを踏め。
敵に背中を見せることになるがびびるな。けして後ろは振り返るな!』
「了解っ!!!」
 うぱ松の声が引き金になった。
「うぉおおおお!!!!!」
 ハンドルを目一杯左に切り、雄叫びとともにうぱ太郎はアクセルを踏み付けた。
路面を激しく掻きむしり、グレートサラマンダーZ、バイク軍団に向かって突っ走る。
――跳べ!
 迷いもせず真正面から突っ込み、跳ねるボタン押下。
横並びのバイク軍団1人に頭からぶち当たり、左右2人を道連れに、バイクごと薙ぎ倒す。
着地時流れた後ろ足を逆ハンドルで踏ん張り再アタック。4人目を沈める。
 目で敵を追う。
「待て!!!」
 うぱ松の言った通り、無傷のバイク3人は既にアクセルターンで向きを換えていた。
――間に合わないっ!
 すぐに目標を代え、うぱ太郎は倒れたライダー1人に襲い掛かる。
ライダーの腕が奇異な方向に折れる。そしてのたうち回る。
――僕は謝らない! 恨むなら老人Xを恨め!!!
 即座にグレートサラマンダーZを立たせ、すぐ戻す。
もんどりうっているライダーを押さえ込み、攻撃ヘリを探す。
――撃てるものなら撃ってみろ!
 攻撃ヘリコプター、進行方向前方正面。距離は変わっていない。
足蹴にしたライダーは力なくもがいている。

80 :

――大丈夫、今日は乗れている。
 
 周囲を確認した後、スピードバルブ制御ダイヤルへ視線を送る。
過信でも驕りでもない、余裕はある。と胸にこめ、うぱ太郎は制御ダイヤルに手を伸ばす。
アクセルオフ、オートマシフトをニュートラル、ダイヤルをAUTOからM300へ切り替える。
一呼吸置いてアクセルを煽る。

―― や ば い !?

 本能的な直感だった。
ありえない音圧がコックピットを震わせた。
猛獣の咆哮。近づいてはいけない領域。
 グレートサラマンダーZのモーター音が著しく変化した。
それはうぱ太郎が知るグレートサラマンダーZの音ではなかった。

『うぱ太郎っ! びびるなっ!!!』
 通信スピーカーからうぱ松の檄が飛ぶ。
――暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走暴走……
 うぱ太郎の中で再三聞かされたうぱ松の言葉が繰り返された。
体感一発で、それが脅しでないことをうぱ太郎は理解する。
気持ちを落ち着かせ、空ぶかし1回2回3回。さらにアクセルを強く踏み込む。
――これが本当のグレートサラマンダーZの音……
 怯みながらも暴圧的な音質に身を委ねる。
そして、びびるな。けど驕るな。と、心の中で何度も唱え続けた。
『うぱ太郎、聴いてるのか!!!』
うぱ松の怒鳴り声。
「うぱ松さん!!!」
『おう!』
負けじとうぱ太郎も声を張り上げた。
「これちょっとうるさ過ぎですよ! ったく、これだから族上がりって言われるんですよ!!!」

81 :

 一瞬の沈黙のあと、通信スピーカーの向こうが大いに沸き上がった。
『言うねぇ、うぱ太郎君』『この際だからグレートサラマンダーZにゴットファーザーホーン付けようぜ』
『うぱ太郎君、うぱ松さんヒクヒクしてるよ……』『致命傷ぐらいで済めばいいね。うぱ松さんのヤキ』
スタッフの冷やかしの声が次々とあがる。その後にひと際大きな声でうぱ松が笑った。
『うるせーだと? このこだわりの音が分からないなんてうぱ太郎もまだまだだな。
……まぁいい。ともかくその意気で頼む。ビビッてんじゃねーぞ!気合入れろや!!!』
「了解!!!」
 うぱ太郎の返事とともにスピーカー越しの喧騒は納まった。
すぐに気持ちを切り替えて視聴覚モニターを睨む。依然として攻撃ヘリとの距離は変わらない。
倒れた仲間を救おうとしているのかピックアップ1台が様子伺っている。それ以外のバイク軍団は姿を
消していた。

――真下を通れば死角になって戦闘ヘリは一瞬だけどグレートサラマンダーZを見失うはず……
  すぐに機関砲は撃てない。迷うな。ためらうな!
「これから出るから!!!」
うぱ太郎、叫ぶ。
うぱ華子達の返事を待たずに強引にアクセルを踏み込む。
 秘められた力が開放する。
爆音を置き去りにしてグレートサラマンダーZ発射。
「ぐぉ…!!!!!」
「…ん…あっ……」
「凄っ!?」
「?……!!っ」
 瞬きする間もなくスピードメーターは時速100キロを越えた。
はらわたが押しつぶされそうな圧力と奇妙な浮遊感にうぱ太郎は思わず体のありかを探す。
急速に視界が狭まり、景色が糸になって流れていく。
それでもうぱ太郎は歯を食いしばりながらアクセルを踏み続けた。
―― まだだ。まだアクセルに余裕はある……
 スピードメーターは時速200キロを越えた。
グレートサラマンダーZ専用となった通行止めの高速道路。比較対象は何処にもいない。
 だが、時速150キロの速度しか経験のなかったうぱ太郎にとって200キロ超の
スピードはすでに狂気の世界だった。
―― びびるな! 踏み抜け!!!
「うぉおおおおぉおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 うぱ太郎、絶叫する。
エラが虹色に輝く。うぱ華子の小さな悲鳴を残しグレートサラマンダーZはさらに加速する。
そしてスピードメーターは時速270キロを越えた。

82 :
今日はここまで。

83 :

              プカァ
        __
  ((   /  +( ゜д゜)+  ))
      |   ∪∪
     / /∪∪
     V

84 :
ちょうど腹が減っていたんだ。

85 :

――1分1キロで時速60キロ、6秒で100メートル、1秒で16.6メートル
  時速300キロだから5倍にすれば1秒で約80と3メートル
  時速400キロだと6.6倍の16.6メートル…… 暗算無理!
 視線をずらすのはもちろん瞬きさえためらう状況下、うぱ太郎はただ一点を見つめて
意味不明な秒速の計算をしていた。
 接地感に乏しく、アクセルを踏む右足はもとより床で踏ん張る左足でさえも捉えようのない
不安が付きまとう。目を離したら先のない世界にハンドルを握るうぱ太郎の手がこわばる。
ビュィビュィビュィビュィビュィビュィビュィビュィ……
「うわっ!」
「な、何っ!!!」
うぱ太郎、うぱ華子が同時に叫ぶ。
「太郎ちゃん、300キロ出てる!」
密かにモニターを凝視していたうぱ民子が指を指す。
 突然モーターが小刻みに唸った。それに連動しコックピットに細かな衝撃が続く。
グレートサラマンダーZ、時速300キロを越える。その瞬間、リミッター作動。
――やばい!ダイヤル切り替えなきゃ!!!
  アクセルオフ!ダイヤルM∞!
 うぱ太郎、いきなりアクセルオフ。
その瞬間、がくんと全員が大きく前につんのめった。
――なっ……!?
 150キロ制限でリミッターを作動させたことは幾度もあった。
操縦には慣れたつもりだった。うぱ松の話もちゃんと聞いていたつもりだった。
自分は上手くやれると信じて疑わなかった。
 うぱ民子の声、グレートサラマンダーZの挙動でうぱ太郎は痛感する。
グレートサラマンダーZの真の性能に自分が追いついていないことを。
そして自ら吐いた言葉とは裏腹に自分がいかに驕り、思い上がっていたかを。
―― …………。
 うぱ太郎に呼応するかのようにグレートサラマンダーZ失速。
――僕は……
 いまだ200キロを大きく超えるスピードでグレートサラマンダーZは迷走する。
何度も何度も打ちのめされた。しかしその度に成長してると信じていた。
 胸をよぎる。もう無意味かもしれないと。
それでもうぱ太郎は秘めたる想いを心の中で叫んだ。
――認めろ。僕はまだまだだ。……でも落ち込んでる暇は無い! 僕は約束したんだ!!!
 視聴覚モニターを見つめながらこわばる左手をハンドルから離した。
そして指を2〜3度曲げ伸ばし、うぱ太郎はスピードバルブ制御ダイヤルに手を添えた。

86 :

「あはは、みんなごめん。焦っちゃった!」
「……!?」
 気まずさを笑ってごまかすうぱ太郎。
コックピットに一瞬ビミョーな空気が流れる。
「どんまい。バッチこーいッ!!!」
うぱ民子はケラケラと笑いだす。
「あんたら……」
シートでずっこけたまま、うぱ華子は愛想を尽かしたようにあきれ顔を作る。
「…………」
密かに腹を立てているのか無言のままうぱ倫子は口を尖らせた。
 急激なアクセルオフでグレートサラマンダーZのスピードは一気に230キロまで落ちこんだ。
しかしそれが幸いする。途切れた加速感から解放されたうぱ太郎は慎重かつ大胆にダイヤルをM∞に切り替える。
そしてつま先を意識してじんわりとアクセルを踏み直した。
【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】
【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】
 視聴覚モニター下部に赤文字で注意を促すメッセージが点滅し始める。
充分に表示を確認し、うぱ太郎はハーフスロットルから徐々にアクセルに力を込めた。
 240、250、260、270、280……
グレートサラマンダーZが再び加速を始める。
 290、300、310、315、320……
途切れることなくスピードメーターの数値は上昇する。
――落ち着いてれば大丈夫。300キロ超えてても怖くない。
  
 開き直ったのか根拠の無い悟りを開いたのかうぱ太郎の身体からはすっかりと力が抜けていた。
空気抵抗によるものかGTオートスポイラー作動によるものなのか310キロから鈍った加速力が、
グレートサラマンダーZの挙動とうぱ太郎の心に安定をもたらした。
  
 323、326、330、333、336……
アクセルにまだ余力はある。しかしうぱ太郎は焦ることなく、優しくつま先に力を加える
だけだった。
 340、342、344、346、348…… そして350キロを超えた。
――どのくらい走ったんだろう? パニクってたから全然わからないや。
  でもヘリコプターに撃たれてる気配は感じないから大丈夫。
  ここからさらにスピード上げて400キロ目指す!
 田舎の山間を縫うように走る高速道路。だが、なだらかなカーブや坂はグレートサラマンダーZの
走りになんら支障をきたさなかった。
 うぱ太郎は視聴覚モニターを睨んでいる。が、機体の安定がコックピット内にも伝わったのか
いつのまにかピリピリとした緊張感は消えていた。
 加速感は途絶えたがグレートサラマンダーZはじりじりとスピードを上げ、メーターは
時速380キロに達しようとしている。

87 :

「ねー、なんで太郎ちゃんのエラ光るの?」
「え…? えーと…」
 常識を超えたスピードに身を投じ、その世界にうぱ太郎は順応しつつある。
「えーと僕とグレートサラマンダーZって遺伝子とかDNAとかそんなので引かれ合って
いるみたいで、僕の感情が爆発したとき共鳴っていうことで光るみたい」
うぱ民子の質問に視線をぴくりとも動かさず、だが余裕を持ってうぱ太郎は答えた。
「シンクロしてるんだ」
「よく分からないけど、僕が怒鳴ったりするとグレートサラマンダーZもたまに重低音で
超音波出したりするからそういうことだと思う。それが理由でパイロットにも選ばれたし。
それにうぱ松さんは別だけど基本的に他の人が乗ろうとしても乗れないようになってるし」
「太郎ちゃん専用?」
「そう。コックピットの鍵は僕自身なんだ。僕が近づけば口が開いて中に入れるし、外に
出て距離をとれば勝手に閉まる」
「凄いなー」
「僕が作った訳じゃないけど本当に凄いと思う」
 ハンドルアクセルに気をつかいながらもスムーズに会話は出来た。
パニクってるとき話しかけられたらキレてたかもしれないとうぱ太郎は心の中で苦笑する。
 おおよその時間経過を判断し、目標地点への到着時刻が気になり始めた頃、通信スピーカーから
うぱ松の呼び声が流れた。
『うぱ太郎、聴こえるか?』
「あ、はい!」
モーター音を考慮し、うぱ太郎は大きめの声で返答する。
『余裕だな。だいぶ話も弾んで楽しそうじゃないか』
「いえいえ。結構って言うかかなりいっぱいいっぱいです」
素直に答えた。やっと今になって言えることだった。
 通信が入ったなら目標地点到着もそろそろかとうぱ太郎は思案する。
『……時速390キロか。だいぶ頑張ってるな。メーター誤差マイナス5パーぐらいだから
実際のところは約370キロってとこだ。目標地点まであと10分もあればお釣りがくる。
インター駐車場で緑の単車が待ってる。調子に乗りすぎて降りるインター通り過ぎたりするなよ』
「了解です。……えーと、うぱ松さん?」
少しだけヘリコプターのその後が気になる。しかし、そのことを口にもせず堂々と喋るうぱ松に
うぱ太郎は話を出しそびれた。
『なんだ?』
「えーと、さっきはうるさいとかって生意気言ってすいませんでした」
『気にするな。小僧は生意気ぐらいで調度いい。それより合流地点はもうすぐだが最後まで気を抜くなよ』
「了解です!」

88 :

――時速350キロ以上のスピードで逃げたんだ、もう大丈夫。
  それに確認しようにもこのスピードで後ろ向いてたら間違いなく事故る。
 結局ヘリコプターのことは聞かずじまいで終わる。でもそれはもうどうでもいいことだった。
 切り替えてうぱ太郎は頭の中で段取りを確認する。
到着予定は約10分後。料金所を出たすぐ脇で緑色のバイクが待っているのでその人にうぱ華子達を
保護してもらう。その後、通信用携帯のバッテリーを外して川を使って基地に戻る。
 
――結局、戦闘ヘリからは1度も攻撃を受けなかった。作戦が綺麗にはまったのかな?
  ……戦闘ヘリとの戦いというか、グレートサラマンダーZと僕との戦いだったな。
  あるいは僕が僕自身と戦うような……。
  乗りこなせた思ってたけどまだまだグレートサラマンダーZの奥は深い。
  うぱ松さんに怒鳴られないようもっと頑張ろう。
 うぱ太郎の中で長かったパトロールが終わろうとしていた。
目的地のインターでうぱ華子達を降ろせば大役は終わる。そのあと、携帯のバッテリーを外して
ナビ頼りに川にでも飛び込めばもう攻撃を受けることもない。造作もないことに思えた。
「ねぇ、もうすぐ到着地?」
「……あ、うん。あと10分もかからないと思う」
今日の出来事を振り返っていたうぱ太郎にうぱ華子が呼びかける。
「一時はどうなることか思ったけど何とかなりそうね」
「……うん。ここまでくれば大丈夫かな。もし戦闘ヘリに追いつかれても通行止め解除に
なってるはずだから最悪一般車に紛れ込めば機関銃も撃てないだろうし」
「人目につく場所じゃマシンガン撃たなかったからね」
「そう。さすがに老人Xでも一般人を巻き添えには出来ないと思うしね」
 会話が途切れ、うぱ華子は大きくため息をついた。
相当疲れただろうとモニターを見つめたままうぱ太郎はうぱ華子の身を案じた。
無口なはずなのに危機に直面するごとに盛り上がるうぱ民子。終始無言のうぱ倫子。
アクティブな不思議ちゃんとちょっと不気味な不思議ちゃんに比べれば、うぱ華子はまともな感覚の
持ち主に思えた。それゆえこの異常な状況では気苦労が絶えなかっただろうと今更ながら気遣う。
――あともう少しで僕の役目は終わる。でも最後まで気を抜くな!
  ナビはあるけど降り口通り過ぎないように念のため基地から指示出してもらおう。
 もう逃走劇も最終段階に突入していた。
最後の最後で失敗しないようにうぱ太郎は減速指示をもらうよう基地のうぱ松に呼びかけた。


89 :

 秘密基地。
うぱ太郎の決死の逃走が見事にはまり、攻撃ヘリ出現で一気にはびこった悲壮感あふれる空気は
だいぶ払拭されていた。
 猛スピードで驀進するグレートサラマンダーZから送られる映像データーをスタッフ達は逐一チェックし、
事ある毎に映像を分析した。死角はあるが後続を映す映像には攻撃ヘリの姿はおろか影すらも見当たらない。
いけるかも……。誰もがそう思い、成功を信じた。そしてそれは確信に変わり始めていた。
『うぱ松さん、聴こえますか?』
「おう」
 うぱ太郎とうぱ松との会話も、グレートサラマンダーZのコックピットでの会話もすべて基地内で
筒抜けである。
 コックピットと同じように基地内のスタッフもうぱ太郎が落ち着きを取り戻すに連れ、明るい
表情を取り戻しつつあった。
『すいません、ナビあるんですけど念のため降り口の前で指示もらえますか。スピード出すぎて
るんで減速の加減が分からなくて』
「了解。とりあえずいきなりアクセル抜くなよ。がっつり衝撃来るからな」
『……すいません、それさっきやっちゃいました』
さっきのあれか。とスタッフが口にする。そういえば急にスピード落ちたなと誰かが答える。
急激に失速したあとにスピードバルブ制御が切り替わったことをうぱ松も思い出し苦笑する。
「了解。……降りるインターの5キロ程前から減速を始めろ。最初はじんわりとアクセルを抜け。
200キロ前半まで落ちたらブレーキ使い始めろ。150キロまで落ちたら制御をまたAUTOにもどせ。
そのくらいだ。指示は出すが気は抜くなよ。位置情報の正確さはグレートサラマンダーZの積んでる
ナビのほうが上だ。基地からの指示はあくまで目安だと思え。あとはうぱ太郎次第だ」
『了解です!』
――……素直な奴だ。攻撃ヘリの機関銃の威力を少なく見積もって伝えたのは正解だったな。
  それでもあの状況下を無事に切り抜けた。大したもんだ。
 安堵の笑みがこぼれる。
しかしスタッフに気づかれないようにすぐさまうぱ松はマイクを握り直した。
「うぱ太郎!」
『はい』
「……今日は頑張ったな」
 ねぎらいの言葉。
スタッフ誰もが驚いた顔でうぱ松を見つめた。
『……はい』
「……これからスピードバルブ制御はお前の好きなときに変えていい。好きなだけ走りこんでいつか
俺をぎゃふんと言わせて見ろ。まぁ10年早いと思うがな」
『はい!』
 スピーカー越しのうぱ太郎の声が弾んでいた。
良き師弟関係……。スタッフ誰もが目を細めた。

90 :

「インターで待ってる男は俺がいた族の頭だ。いい奴だが口の利き方には滅法うるさいからな。
失礼のないようにしろよ」
『はいっ!』
「久々のうぱるぱ救出活動だ。最後まで気合入れろよ!」
『了解で うわっ!!!』
 うぱ太郎の小さな叫び声。 
 一瞬で基地内の空気が暗転する。
「……? どうした。うぱ太郎?」
すぐさまうぱ松は映像モニターに目を移した。
『わかりません。なんかいきなり横風に煽られたみたいになって……』
「横風……?」
モニターに映る景色に何ら異常は見当たらない。
しかし、スタッフの声で状況は一変する。
「馬鹿なっ!うぱ松さん、爆発です! 攻撃ヘリのミサイルかもしれません!!!」
「なんだと!」
「ミサイルです! グレートサラマンダーZ後方左側に着弾しています!!!」
 もうすぐ終わると誰もが信じていた。
叶わなかった。描いていたシナリオがたったいま音を立てて崩れた。
「馬鹿な!グレートサラマンダーZは外温と同化するから温度差識別や赤外線では追尾できない!
それに敵に姿は見えないはずだ、誘導ミサイルなど当たるはずがない!!!」
怒鳴るうぱ松に青ざめたスタッフが呪文を唱えるように返した。
「ヘルファイアミサイル。最新式は射程10キロメートル、ハイテクノロジー化により誘導追尾方式
は多種多様。もしミサイル誘導チップが誰かに組み込まれたとしたら……」
「何?」
『うわぁああああぁああああああああああぁあああああああああぁあああああああああぁぁぁあああああああ!』
『きゃぁあぁあああぁぁああああああぁぁあぁぁああああああああああぁああああああああああああああああ!』
『ひゃあああああああぁああああああああぁぁぁぁぁああああぁあああああああああぁぁぁああああああああ!』
『っ!!!!!!?!!!?!!!!??!??????!!!!!!!!!?!!!!!!!????!!!』
 その刹那、通信スピーカーから絶叫が響いた
「どうした!うぱ太郎っ!」
 応答。そして映像モニターを見たうぱ松、目を疑う。
―― 空…だと…?
 青。一面大写しの空が映像モニターを支配。
 対戦車戦闘ヘリ、誘導ミサイル、射程10キロメートル。時速370キロ。
――まさか2発目? 爆風で吹き飛んだ???
『ああぁああああああぁああああああああぁあああああああああぁあああああああああぁぁぁあああああああ!』
『ぁあぁぁああああああぁぁあぁぁああああああああああぁあああああぁぁぁあああああああああああああぁ!』
『あああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁああああああああぁあああ!』
『!!!!!!!!!!????????!!!!!!!!!?????!!!!!!!???????!!!』

91 :

「うぱ太郎っ!!!」
映像モニターから瞬時に把握。
――きりもみじゃない! 姿勢は安定している!!! 平地に着地出来れば何とかなる!!!!! 
「うぱ太郎っ!落ち着け!!!前を見ろっ!!!!!」
 うぱ松、叫ぶ。
しかし新たな危機が迫る。
【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】
【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】
【 !!!メインモーター異常(オーバーレブ)!!! 暴走危険!!! 】
―― 何っ!!!
 モニター下部、緊急メッセージ激しく点滅。
「オーバーレブだと? ……!?っ まずい!うぱ太郎アクセルを抜けっ!!!!!」
 無負荷、空転。限界まで回ろうとするメインモーター。
『うわぁああああああああああああああぁあああああああああぁああああああああああぁぁぁあああああああ!』
『きゃぁあぁあああああああああぁぁあぁぁああああああああああぁあぁああああああああああああああああ!』
『ひゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁああああぁあああああああああぁぁぁあああああああああ!』
『っ!!!!!!!!!!!!!????????!!!!!!!!!!!!!!!!???????!!!?』
【 !!!メインモーター異常(オーバーレブ)!!! 暴走危険!!! 】
「落ち着けっ!アクセルを抜け!!!!!うぱ太郎っアクセルを抜けっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 あらん限りの声でうぱ松、叫ぶ。
『うわぁああああああああああああああぁあああああああああぁあああああああああぁぁぁあああああああ!?』
『きゃぁあぁあああああああああぁぁあぁぁああああああああああぁあああああああああああああああああ!?』
『ひゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁあああああああああ!?』
『っ!!!!!!!!!!!!!????????!!!!!!!!!!!!!!!!???????!!!?』
【 !!!メインモーター異常(オーバーレブ)!!! 暴走モード突入!!! 】
「馬鹿野郎!アクセルを抜け!うぱ太郎っ!!! おわっ!」
 突然、映像モニター、増設モニターから閃光が飛び散った。

92 :

「 ――――っ …………?」
 モニター群。ホワイトアウト、砂嵐、そしてブラックアウト。
「 ……何が ……何が起こった??? 」
 
 光の残像に眼が泳ぐ。
 数回の話中音ののち、余韻を残したまま通信スピーカーは無音になる。
「……うぱ太郎?」
 呆然。
「…………」
 誰一人声を出せないスタッフ。
「うぱ太郎っ!」
 通信マイクを握り締め叫ぶ。
 位置情報システムからグレートサラマンダーZのマーカーが消えた。
「うぱ太郎っ!!!」
 握り拳で通信ボタンを力任せに殴りつけた。
『……おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。おかけになった……』
 無常なアナウンスが基地内に響く。
「うぱ太郎、ふざけるなっ! うぱ太郎っ!!!」
 握り締めたマイクを床に叩きつける。叫ぶ。
「うぱ太郎おおおっ!!!!!!!

 映像データー受信遮断。位置情報システム所在地確認不可。通信システム圏外により通話不能。
 うぱ松の声は届かない。
 2発のミサイル攻撃を受けたグレートサラマンダーZ、消息不明――――



第3章「 うぱ太郎、絶叫する。」 完

93 :
今日はここまで。
次回から第4章「 グレートサラマンダーZ、たいむとらべる。」へ突入。
忙しい&ある程度書き溜めたい。ので1週飛ばして15日から新章スタート予定。
146KB ……容量大丈夫かな?(ただダラダラと長いだけだがw)

94 :
乙、容量ならまだまだ心配要らないよ
350KB一気投下とかしないかぎり大丈夫

95 :

第4章「 グレートサラマンダーZ、たいむとらべる。」

 霞ひとつない無垢な空。
冬のなごりなのか、遠くの山肌に見える雪がやけに目に沁みる。

「……?」
まったく見覚えの無い場所で気がついた。
「……何処だ? ……ここ?」
視聴覚モニターに映る残雪に違和感を覚え、発せられる強い反射光に眼が眩んだ。
「……痛てててて」
身体の節々から鈍痛が湧き上がる。
何が起こったのか理解できず、もやが掛かったような曖昧な記憶を探る。
「 …………。」
 高速道路。
今、そこにいるはずだった。
――……戦闘ヘリ出現。アクセル全開で逃げる。
  あと5分で目的地到着。緑の単車の人に華ちゃん達を託して…………
「やばっ!戦闘ヘリっ!!!  ――――?」
 眼を見開き視聴覚モニターを睨む。敵の姿はない。
即座に振り返る。後部座席にうぱ華子、さらにその後ろでうぱ民子うぱ倫子がシートで気を失っている。
 混乱。
次第に鮮明になる記憶から、重要な何かがすっぽりと抜け落ちている。
――訳わからない……。 ここ何処だ……?
  風に煽られた気がして、その後…… 
  
 高速道路から一転、まったく理解不能な場所にいる。
まず状況を確認するのが先決と思い、うぱ華子を揺り起こそうとした手を止めた。
そして今ひとつ釈然としないまま、うぱ太郎は再び視聴覚モニターを眺めた。

96 :

「……?」
 モニター下部で点滅する赤文字に気づく。
見覚えはある。しかし何かが微妙に違っていた。
【 危険! スピードバルブ制御カット 暴走注意! 】
【 GTオートスポイラー作動 アクションボタン機能キャンセル中 】
【 下記エラーメッセージをお控えのうえ、至急サービスマンにお知らせください 】
【 自己診断モード:リピートリングモーター動作停止 】
【 障害発生(モーター部)の為、走行機能停止中。至急サービスマンにお知らせください 】

「なっ!!!」
 衝撃的なメッセージが飛び込んできた。
反射的にアクセルを吹かし、大きくハンドルを切った。
 ぴくりとも動かない。
 シフトレバーをガチャガチャと忙しく、そして優しく丁寧に動かした。
しかしうぱ太郎の願いむなしく、グレートサラマンダーZは何の反応も示さなかった。
――……やばい、動かない。
 点滅する赤が鼓動を煽る。
 しかしそれだけでは留まらない。うぱ太郎の受難はさらに続く。
 
【 0000−00−00 02:36 】
【 位置情報を取得できません。GPSアンテナの接続を確認してください 】

 眼を移した先のナビモニター。
自動で更新されていく地図画面が消えている。
代わりにオールゼロの日付とアンテナ故障を思わせるメッセージが異常事態を主張していた。
 
 うぱ太郎の額から汗が噴出す。
――まずい、ナビも壊れてる。
  うぱ松さんに怒られる……。って言うかナビないと帰り道わからない。
  いや、グレートサラマンダーZも動かないし、とにかく基地に連絡しないと……。
 壊してしまったという負い目はある。
しかし1人で悩んでも解決できる問題でないことは容易く想像できた。
それに報告連絡相談の徹底は、うぱ松から耳にタコが出来るほど聞かされている基地の方針である。
深呼吸のあと、少しだけ震える指でうぱ太郎は基地通信ボタンを押した。
「……?」
 おかしかった。
いつもなら通信ボタンを押した直後に呼び出し音がする。
そして呼び出し音5回以内に必ず誰かが応答していた。
しかし、それが今は通信ボタンを押してもしばらく無音の後、スピーカーから通話中音が
虚しく響くだけだった。

97 :

「 …………。」
 何度も通信ボタンを押す。しかし結果は変わらない。
通信システムが不通に陥るなど経験もないし、考えたこともなかった。
 うぱ太郎の汗が冷や汗に変わる。
携帯電話が繋がるか否かは現代社会における生命線のひとつでもある。
頭の中がぐるぐるになるまで考える、考える。
「あっ! もしかして!?」
 うぱ太郎は小さく叫んだ。
流れる汗を拭う。そしてグローブボックスを開け、携帯電話のクリアボタンを押した。
 画面が立ち上がる。ここでも表示される日付時刻は狂っている。
しかしそれは眼中に無い。確認したいのはただ一点だけだった。
「よし!」
 笑みがこぼれた。
うぱ太郎の予想通り、携帯電話のアンテナ表示が「圏外」になっていた。
――あはは、圏外ってなんて田舎なんだ! もしかしてGPSも圏外?
  
 何ひとつ問題は解決していない。
それでも小さなことだが、自力で答を見つけだせたことにうぱ太郎は喜びを感じた。
 コックピット内部に被害は無い。
自分の置かれた状況を理解した上で、うぱ太郎は何故こうなったか考え始めた。
――ミサイルって通信スピーカーから聴こえた気がした。
  姿かたちは見えなかったけど戦闘ヘリにミサイル攻撃されてその爆発の勢いで
  圏外の山奥に吹き飛ばされた。そう考えるのが一番妥当か……。
  実際、走ってた高速、田舎だったし……。
 モニターを見回してうぱ太郎は仮説を立てる。
映るのは戦闘ヘリはおろか人の気配さえまったく感じられない野原の絵である。 
――携帯が壊れた可能性もあるけど、ミサイル爆発の衝撃で圏外の山まで吹っ飛ばされた。
  その際、グレートサラマンダーZのモーターが壊れた。ついでにナビのアンテナも壊れた。
  ナビや携帯の日付時刻もリセットされた。
  気を失ってから2時間半経過ってところかな……。
  
 仮説からぽんぽんと予想が連なる。
グレートサラマンダーZ動作せず、ナビ故障現在地不明、通信手段断絶という状況を再認識する
ことになったが、我ながら冴えているなとうぱ太郎は内心、自画自賛する。
「参ったな……。まぁ、とりあえず水でも飲んで落ち着こう」
 口にした弱音の割に、うぱ太郎は落ち着いている。
爆風で吹き飛ばされたのなら今いる場所はそれほど高速道路から離れていないはず、という
推測も心の拠り所にもなっている。
 水を取ろうとシートベルトを外し後方へ移る。うぱ華子達は依然気を失ったままだ。
そっとボックスを開け、飲みかけのペットボトルを手にする。

98 :

――そうだ。マニュアル!!!
 ひらめく。
以前うぱ松に言われたことが鮮やかに蘇る。
 困ったときのQ&A集。
まだ一度も見たことはない。が、ボックス内にマニュアルがあるのは間違いないはずだった。
 手当たり次第にボックスを漁る。
封筒に入ったコピー用紙の束がすぐ見つかりペットボトル、赤虫グミと一緒に取り出す。
マニュアルがあったからといって直せるかは分らない。されど期待感に胸が高鳴る。
シートに戻り、ペットボトル片手に早速うぱ太郎は困ったときのQ&A集を捲りはじめた。
――あった!
 必要とする項目を見つけ、うぱ太郎は記載内容を一心不乱に目で追った。

《 モーター障害時(自己診断モードによるエラー表示)の対応について。
  故障回路をバイパス(切り離し)することにより一時的に走行可能になる。
  ただしあくまでも応急処置なので走行不能に陥る前に早急に修理すること。
  リピートモーター切り離し可能:走行にさほど影響なし。ただし最高速度は時速80キロに制限。
  パワーモーター 切り離し可能:走行に影響あり。早急に修理が必要。最高速度、時速30キロに制限。
  スピードバルブ 切り離し可能:走行に影響大。走行不能に陥る可能性大。最高速度、時速10キロに制限。
  メインモーター 切り離し不可:走行不能。速やかに機体から降りること。
  切り離し手順。
  オートマシフト位置、パーキング。ブレーキベタ踏み+ハンドルめいっぱい左に切る。
  その状態でしっぽ振るボタン5秒以上長押し。
  視聴覚モニターに『故障部切り離しますか?』と表示が出たら追加で跳ねるボタン5秒以上長押し。
  『XX(故障部分)切り離し中』と表示が変わったら切り離し完了。
  『切り離し出来ません。早急に修理手配をお願いします』と出た場合、切り離し不可。
  状況にもよるが、速やかにコックピットから退避すること。 
  うぱ太郎へ。壊したら罰金100万円! byうぱ松 》

「げっ!!! こんなとこまで……」
 記されたうぱ松の脅し文句にうぱ太郎は大げさに驚き笑う。
されど逆に励ましの言葉のように思えて、逆境に立ち向かう意志に大きく火がついた。
――走行にさほど影響ないなら……。よし、やるぞっ!
 マニュアルを横目に、手順に従い操作する。
無理な姿勢で攣りそうになりながらも、心の中でゆっくりと数を数えながら反応を待つ。

【 リピートモーター切り離し中。至急サービスマンにお知らせください 】
―― 来たっ!
 マニュアル通り表示が変わった。期待感が最高潮に達する。
―― 動けっ!!!
 全身全霊を込めて願う。
オートマシフトはパーキングのままで、うぱ太郎はアクセルを煽った。

99 :

 ヒュイン、ヒュイン、ヒュイイイィイイイィーン!!!
――よし!よし!よしっ!!!
 眠っていたグレートサラマンダーZのモーターが眼を覚ました。
 歓喜で胸が熱くなる。
すがさずシフトをドライブに入れる。指先が覚えている出動前の動作チェック。
立つボタン。グレートサラマンダーZ立ち上がる。
しっぽ振るボタン。グレートサラマンダーZ左右に尻尾を振る。
跳ねるボタン。グレートサラマンダーZ垂直跳び。
 
「よっしゃーっ!!!」
 うぱ太郎、叫ぶ。
若干のパワーダウン感は否めなかったが気にしなければさほど問題にはならなかった。
暗雲から差し込む光を見たかのように、うぱ太郎の心に希望の青空が見る見る広がっていく。
「うるさいなー、もー!」
「…………」
「……ねぇ。ここ何処?」
 動き始めたグレートサラマンダーZの振動とうぱ太郎の雄叫びで気を失っていたうぱ華子達
が眼を覚ました。
 気持ちよく寝入っていたのか棘のある声と、モニターに映る見慣れない景色に不安を覚えたのか
どこか怯えがかった声が響く。だがグレートサラマンダーZの再始動で気を良くしているうぱ太郎は
そんな声を気にもせず、振り向き上機嫌に話し始めた。
「ごめん。ちょっといろいろ壊れちゃったみたいで直してたんだ。
えーと、もう戦闘ヘリもバイク軍団もいないから大丈夫、安心してていいよ。
でもいろいろ問題があって、まずナビと携帯が壊れたっていうか圏外になってて基地のうぱ松さんと
連絡取れないんだ。それとナビの地図が出なくなっちゃったんで今何処にいるかも分らない。
たぶんだけど戦闘ヘリにミサイル攻撃受けて、高速道路から山の中に吹っ飛ばされた時に
壊れちゃったんだと思う。
 でも、ちょっと壊れたけどグレートサラマンダーZは今までどおり動くから高速道路
見つかればすぐに帰れると思う。最悪、携帯繋がらなくても道路さえあれば何とかなると思うし」
「……迷子っていうか、……ぶっちゃけ遭難してる訳?」
「そーなんですか山本さん?」
 遭難という言葉にうぱ華子の動揺ぶりがうかがえた。
グレートサラマンダーZは動くようになったものの、現在地が不明なことは確かな事だった。
少し浮かれすぎたかとうぱ太郎は自分を戒める。それでも遭難というには大げさな気がした。
とりあえずどう突っ込めばいいか分らないうぱ民子は無視してうぱ華子に話し掛ける。
「うーん、まぁ遭難といえば遭難かな。でもミサイルで吹き飛ばされたからってそんなに
遠くまでは来てない筈だから大丈夫。戦闘ヘリもいないし。ちょっと歩き回るかもしれないけど
道路があれば標識もあるだろうし、人がいれば道も聞けるからそんなに心配しなくていいよ」
「そーなんそーなん!」
「……命を狙われる最悪の状況からは脱出できたって訳ね。……っていうか民ちゃん、
遭難してるのにあんた何でそんなにはしゃげる訳?」
 
 嬉々とし、幼稚園児のごとく騒ぐうぱ民子に、うぱ華子はあきれ顔を通り越し、あきらめ顔で聞く。

100 :

「エンジョイアンドエキサイティング! 人生七転び八起きより七転八倒が楽しいのだ!」
「……何それ。……あんた性格変わった? ご老人の屋敷にいるときはそんなんじゃなかったわよね?」
「あんな静かなところで騒いでたら単なるバカじゃん。それにそういう空気の場所じゃなかったし。
華ちゃんには怒られるかもしれないけど、わたしドラマティックな人生に憧れてるんだ。
凄いよね、意図しないのに遭難するなんて滅多に経験出来ないよ。しかも場所は分らないし電話も通じない。
漂流教室だね。くはー、痺れますぜ旦那さん! さぁ太郎ちゃん、どうするよどうするよ!!!」
―― うざい……。
 うぱ民子のテンションについていけなかった。
正直に言えば、次第にうるさくなってきて煩わしく思い始めている。
しかし苛立ちは心の奥にしまい込み、何気ない素振りでうぱ太郎は問いに答える。
「……とりあえず水飲んで赤虫グミ食べて落ち着こうよ。みんなしばらく気絶してたから水分とって
身体ほぐしたほうがいいと思う。それからグレートサラマンダーZ出すよ」
「はーい。赤虫、赤虫」
「……やたらめったら疲れるのはこのロボットに乗ってるせいじゃなくて、どうやらあんたと一緒に
いるからみたいね、民ちゃん」
 ため息の後、うぱ華子が蔑んだ表情で言い放った。
まずいかなと思うも、気持ちを代弁してくれたうぱ華子にうぱ太郎は心の中で拍手を贈る。
しかしうぱ民子はいたってマイペースでボックスの蓋を開けた。そしてうぱ華子、うぱ倫子に
取り出した赤虫グミとペットボトルを手渡す。
「さりげなくひどいなー。別にわたしは気にしないけどね。そうだ、太郎ちゃん、あとでちょっとだけ
外に出ていい? わたし探検したい」
「探検って……」
 苦笑いを浮かべながらうぱ太郎はナビの時計を見た。
オールゼロの日付。午前3時頃を示す時刻。
すぐに壊れていることを思い出し視線を視聴覚モニターに移す。
雲ひとつ無い晴天である。少しぐらい外に出ても問題はなさそうだった。
「ちょっとだけならいいよ。天気もいい…し… ――あれ? 」
 何かがずれていた。
「いいの?」
「あ? うん、ちょっとだけなら。 ……でも危ないから僕も一緒が条件だけど」
「やった!」
 うぱ太郎の返事にうぱ民子は嬉しげに声をあげる。
うぱ華子、うぱ倫子は静かにペットボトルを口にしている。
 静寂が訪れたコックピットでうぱ太郎はひとり困惑する。
――高速走ってたのは夕方5時頃。衝撃で時計リセットされて約3時間経過。
  暗くていいはずなのに何でこんなに明るいんだ……?
  それにいくら山奥とはいえ雪国でもないし今の時期あんなに雪があるはずない……。
  一体ここは何処なんだ……?
 グレートサラマンダーZが動くようになってすっかり忘れてしまった違和感が、
強いうねりとなってうぱ太郎に押し迫る。
 ヒントはないかと頭の中を探す。
何も思い浮かばない。しかし気づかない振りをして誤魔化すことは、もう出来なかった。

101 :

「じゃあ民ちゃん、外、行こうか?」
「はーい。探検、探検!」
気の焦りからか、うぱ太郎は急かすようにうぱ民子を誘った。
話しが出て5分も経っていないが、気にする者はいない。
「華ちゃんと倫ちゃんにお願いがあるんだけど」
「……何かしら」
「…………」
うぱ華子にはコックピットに残って確認してもらいたことがあった。
うぱ倫子は、はなから誘う気にならなかった。
「僕達が外に出たらナビになんかメッセージが出るか見ててほしいんだ。別に出なければそれで
いいんで戻ってきたら教えてくれるかな?」
「どんなの出る訳?」
「SOS信号受信とかうぱるぱ信号受信とかそんなの。このナビ特別製でウーパールーパーが出してる
微弱な超音波拾えるんだ。壊れてるかもしれないけど、もし反応あったらそこ目指して行けば仲間に
会えるからここがどこなのか聞けると思うし、電話借りて秘密基地に連絡も取ることが出来るんで。
まぁ、こんな田舎にウーパールーパーいるとは思えないけど動くかどうかの確認ってことで」
「……了解」
「…………」
ナビの地図画面は消えているが、うぱるぱ検索機能はいつものように「緊急」の文字が表示されている。
いままで一度も使ったことがないのでどうなるかは判らないが、うぱ太郎はナビのサーチモードを
「通常」に切り替えた。
「それと僕が外に出たら勝手に口閉じるけど気にしないで。僕が近づいたらまた勝手に開くから。
その時ちょっと揺れるんでそれだけ気をつけてくれるかな」
「……了解」
「…………」
「それじゃあ行ってきます。すぐ戻るんで」
「行ってきまーす!」
 うぱ華子と無言のうぱ倫子を残し、うぱ民子を連れてコックピットから降りる。
太陽の高さでおおよその時刻の確認。見える範囲で道路や建造物があるか確認。
探検は程々にしてグレートサラマンダーZに戻り、開けていそうな場所へ移動……
 特別なことは何も思いつかなかった。
もしナビのサーチモードを切り替えて正常に機能したとしても、こんな山奥にウーパールーパーが
住んでいるとは思えなかった。単なる思い付きレベルのことである。
それでもまず出来ることをやろうと思いながら、うぱ太郎は目の前に広がる野原へ踏み出した。
「清々しいなー。マイナスイオンでリフレッシュって感じ」
「コックピットにしばらく居たから余計にそう感じるね」
 時期が来れば「爽やかな高原」と表現できそうな場所だった。
2人揃って大きく身体を伸ばす。狭い空間から解放されたせいか、新鮮な空気が身体の隅々まで
行き渡った感じがする。いい空気だなと思いながらうぱ太郎はぐるりと周囲を見渡す。
 天の高い位置から光を放つ太陽。
高速道路はおろかと獣道と呼べそうな道筋さえ無い土地。緑の混じった枯れ野原の先はいずれも山。
「 …………。」
 近い山、遠い山、彼方の山。
 それだけの違いだった。
うぱ太郎が望んだものは見渡す限り何ひとつなかった。

102 :

「天気いいなー」
「……うん」
 日差しに暖かさは感じるものの、凛とする冷たい空気が幅を利かせている。
季節相応の気候と言えなくもない。しかし山肌に残る雪がにわかにそれを否定する。
 うぱ民子は奇妙なステップを踏みながら歩く。
うぱ民子に構わず、上の空でうぱ太郎は隣を歩く。
「やっと自由になれたって感じ」
「うん、コックピットそんなに広くないし」
「あー、違うけど……。まぁ別にいいか」
「うん」
 うぱ民子のステップが止まった。
 うぱ太郎は気づかなかった。
 
「太郎ちゃん、あのロボットの口、閉まっちゃったけどホントに自動で開くの?」
「……えっ? あー、大丈夫だよ。近づけば開くから。……戻る?」
「うん。自動ドア見たい」
「自動ドアって……」
 ほんの数分。うぱ民子が言い出した探検は散歩にも満たない距離で終わる。
体長30センチにも満たないウーパールーパーである。水中ならまだしも、陸上での移動距離は
たかが知れている。グレートサラマンダーZから10メートルほど離れたところで先に進むのをやめ、
うぱ太郎達はコックピットに戻り始めた。
「そろそろ……かな?」
「あ、光った!」
 グレートサラマンダーZのそばでうぱ太郎は立ち止まる。
うぱ太郎の言葉とともにグレートサラマンダーZの眼が一瞬赤く光り、口が大きく開いた。
同じように口をあんぐりと開け、うぱ民子はその様子を眺めていた。
「……冷静になって見るとかなり怖いなー」
「そういう意見が多いんだ。全長3メートルだからかなり大きしいし、自分の胴回りより
大きく口開いちゃうからエイリアンっていうか怪物系に見られるんだよね。
……民ちゃん、コックピット戻っていいかな?」
「うん。早く出発したほうがいいみたいだね」
「……うん、暗くならないうちに何とかしたいから」
 うぱ民子も違和感に気づいたかとうぱ太郎は思う。
しかしまだ心に根付いている責任感からか、それを言葉にして同意を求めたり、意見を聞くのは抵抗があった。
そしてそれっきり会話もせずコックピットに戻る。

103 :

「……太郎ちゃん、早速で悪いけどこのロボット動かしてくれないかしら」
コックピットに戻るや否やうぱ太郎はうぱ華子に呼びかけられた。
「え、あ、うん。すぐ出るけど……どうかした?」
操縦席に戻りシートベルトを着けながらうぱ太郎は答える。
「まずさっきの結果はナビに出てるから。それよりも、倫ちゃんがなんか電波拾っちゃったみたいなのよ。
不思議ちゃん炸裂してるけど近くに人がいるみたい。あたしには分らないけど」
 ナビを見た。
うぱ華子の言うようにSOS信号受信のメッセージが点滅していた。
しかし到着予定時間はGPS機能の故障のせいか「?分」となっている。
時間表示は無理だけど検索機能は生きている、ひとつ前進。とうぱ太郎が思ってたところで、席に戻った
うぱ民子がうぱ倫子に問いかけた。
「ねー、倫ちゃん。全然見えないけど人いるの?」
「……うん。もののけ姫みたい」
「マジでー!!!」
「は?」
 突拍子もないうぱ倫子の返事にうぱ太郎は一声出すのが精一杯だった。
うぱ華子は呆れ顔で肩をすくめている。
「やばい、ドキドキしてきた!? ねー、どこどこ?何処にいるの?」
「……あっち」
 テンションの上がるうぱ民子に、うぱ倫子はあさっての方向を見て指を指す。
すぐにうぱ太郎は指差す先にグレートサラマンダーZを向けた。
「わかんないなー」
「倫ちゃん、それっぽいの全然見えないんだけど……」
「……さっき高くなったときに見えた」
 視聴覚モニターにそれらしきものは映っていない。
うぱ倫子の返事を口が開いて視点が高くなったときに見えたと捉え、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを
立ち上げた。
――あ。……あれかな?
 モニターの遠くを位置する場所に何かが映る。
人かどうかは判断できないが、風景にそぐわないものがあるのは確かだった。
助け舟になるなら何でもいいと、うぱ太郎はすぐに行動に出る。
 
「よし、倫ちゃんありがとう。じゃあ、あっち行ってみる」
「もののけ、もののけ!」
「…………」
「…………」
 すぐさまグレートサラマンダーZの姿勢を戻し、うぱ太郎は500メートルほど先と思われる
その場所に向けてアクセルを踏みこむ。

104 :

「 …………。」
 うぱ倫子が指した先に近づくにつれ、人の集団であることが明らかになってくる。
しかしモニターに映る影に違和感を覚え、うぱ太郎は何も言葉に出来なかった。
「あ、馬だ!」
うぱ民子が第一声をあげた。
――……なんで馬?
 馬に乗る者、馬を従えている者。向かい合うように数人。
競馬や乗馬、馬が珍しいわけではない。しかしイベント以外で実際に人が乗っているところを見た
のは初めてだった。
「……コスプレ?」
うぱ民子が続けた。
――時代劇とか映画のロケ? テレビカメラ関わるとろくなことならないからやだな。
  
 2頭の馬。1頭に乗るのは女、1頭を従えてるのは男2人。向かい合うのは4人。
次第に明確になる輪郭。背を向けている4人の衣服はおよそ現代的なものとはかけ離れていた。
「何だろ、山賊のコスプレかな?」
「ごめん民ちゃん。ちょっと静かにしててくれないかな」
「はーい」
少しだけ苛つく。
察したのかうぱ民子は返事の後、無言になる。
 4人の毛皮の男。
上品なコートとはまったく無縁な、純粋に衣服、防寒着としての野性味あふれる毛皮。
そして手にする凶暴そうな武器。
――なんで石斧? やっぱりなんかの撮影? 善良な村人と山賊っていうか悪者の対立かな?
  って、そんなこと気にしてる場合じゃない。ここが何処か聞かないと……。
 謎の集団はもうすぐそこだった。
 馬に乗る少女と眼が合う。
豆鉄砲を喰らったような表情から、一転して笑顔が弾けた。
 もののけ姫。
黄色がかった白い布をまとい、腰をベルト代わりの赤いたすきで絞っている。
民族的なアクセサリーで身を飾る姿はインディアンやアイヌの衣装を思わせる。
ビジュアル的に合致しているかは判らないが、うぱ倫子の言い表しは間違いではないと思えた。
 善良な村人チームの男2人も存在に気がついたのか大きく眼を見開いた。
グレートサラマンダーZに背を向けている悪者チームの4人はいっこうに気づく気配がない。
声を掛けなきゃと思う反面、善良な村人チームが身に着けている衣装が妙に気になった。
――あの服なんて言ったっけ?
 
 日常的に眼にするものではない。しかしどこかで見たことのある服装だった。
ああそうだ。と、うぱ太郎は思い出す。
――あれは確か、古代服……?

105 :
今日はここまで。


106 :
すっげー来てた!
投下乙す

107 :
 枯れ野原に空と山。
周囲にテレビカメラや撮影クルーの姿は見えないが、見渡す限り電信柱はおろか人造物の一切無い
風景は古代劇の撮影にはもってこいの場所に思えた。
――撮影の邪魔してるかもしれないけどここ何処なのか聞かないと。
  あの女の人グレートサラマンダーZ見て笑ったからたぶん大丈夫。とりあえず声掛けよう……
 毛皮姿の4人の背中はもう5メートルほどに迫っている。
地面から見上げる格好で思い切ってうぱ太郎は謎の集団に声を掛けた。
「すいません。僕、通りすがりの大山椒魚なんですけど……。ちょっと道教えてくれませんか?」
 馬に乗る少女、善良な村人チーム男2人が目を丸くした。
 背後からの声に、4人の毛皮男が一斉に振り返った。
「うわっ、なんだこいつ!」
「ば、化け物!」
いきなり現れたグレートサラマンダーZに、下っ端顔の毛皮男2人が悲鳴に近い声をあげる。
「……いまなんか喋ったか?」
「……いや、なにも」
唖然としながらリーダー格と思われる毛皮男が隣の毛皮男に聞く。
目を疑いながらも問われた男は返事を返す。
「じゃあなにか? このイモリの化け物が喋ったっていうのか?」
「……さぁ?」
――イモリの化け物って……
 予想外の反応にうぱ太郎は戸惑う。
モニターに映る毛皮男4人はだらしなく口を開けて固まっていた。
その奥の馬に乗る少女と善良な村人チーム2人も目を丸くしたままだった。
再び話しかける。しかし動揺のせいか思わずどもる。
「あ、あの、通りすがりの大山椒魚なんですけど……。て、テレビに出てましたけど見たことないですか?」
「……喋った!?」
うぱ太郎が話し終わるやいなや、毛皮男達が揃ってつぶやいた。
「えっ? あ、あの、涙の大山椒魚って一時テレビで流行りましたよね? あれ僕なんですけど……」
昔テレビに出ていた有名人。それで自己紹介は終わるはずだった。
だがうぱ太郎の思い通りにはまったく事が進まなかった。
「お、おいコラ、おめぇ何者だ? さっきからなに訳わかんねぇこと言いやがる!?」
うぱ太郎の言葉を無視してリーダー格の毛皮男がグレートサラマンダーZに怒鳴りつける。
しかし荒い口調のわりには表情に余裕が無い。

108 :
「タ、タカオまずいよ、こいつオロチ様だ。変なことするとばちがあたる!」
下っ端顔の1人がリーダー格の男に青い顔で捲くし立てた。
とたんに謎の集団にどよめきが起こる。
「お、オロチ様だとぉ!? 嘘こけ。そんなのいるわけねー!!!」
「じゃあどっかの神様だ。まずいって、祟られるって!!!」
下っ端顔はおどおどしながら涙声で訴えた。
「う、うるせー! 神様なんているわけねー!!!」
リーダー格の男が焦り声で言い返す。
「じゃあ何なんだよこいつっ!絶対まずいって! 俺、祟られたくないから帰る!!!」
「待て、コラ!!!」
呼び止める声を振り切って、下っ端顔の男はグレートサラマンダーZと目を合わせないようにしながら
一目散に逃げ出した。
「……おろちって聞いたことあるけど何だっけ?」
4人の毛皮男が揉めはじめた隙にうぱ太郎は誰に向けるわけでもなくおろちの意味を尋ねた。
すぐにうぱ華子が答える。
「……大蛇(だいじゃ)って書いておろち。あたしも詳しくないけど確か蛇の化け物だったはず」 
「なんでおろち……。大山椒魚知らないのかな……?」
コックピットで首をかしげているうぱ太郎の前で、毛皮男達はさらに揉めはじめた。
その脇で善良な村人チームは目を丸くしたまま、ただの傍観者になっている。
「オオシカとか、このオロチとか、これだからチィミコにちょっかい出すのいやなんだよ。
食い物獲りに来て逆に化け物に喰われたくねーから俺も帰る。タカオ、祟られたら村に帰ってくんなよ!」
「なんだとコラ! 待て、逃げんな!!!」
オロチと言い出した男に続き、2人目の下っ端顔もグレートサラマンダーZから顔をそむけ走り出した。
「……オロチかどうか知らんが、俺らも逃げたほうがいいんじゃないか? かなりでかいぞ、こいつ」
「う、うるせー。ここまで来て何も獲らずに帰れるか!」
「……そうか。付き合ってられん。俺も化け物には関わりたくねーから帰る。せいぜい喰われねーようにしろ」
「おめぇもか!!!」
恐怖は顔に出さないものの、3人目の毛皮男もタカオと呼ばれた男に背を向け、先に逃げた男達を追った。
 いまいち状況を理解できないうぱ太郎の前に、善良な村人チーム3人と1人の毛皮男が残る。
善良な村人チームの男2人はいまだに狐につままれたような顔をしている。
「まったく、どいつもこいつも根性なしが! やいコラ、チィミコ! この化け物はお前の知り合いか?
お前が呼んだのか?オロチなのか?神様なのか?はっきりしやがれこの野郎!!!」
逃げ去った男を目で追った後、1人残った毛皮男は向きを替え馬に乗る少女に向かってがなりたてた。
「うーん、知り合いだったら楽しそうだけど違うな。っていうかタカオがいっつも悪さするから
懲らしめに来たんじゃないのか? 私の村ではオロチ様に祟られるようなことしてないし」
チィミコと呼ばれた少女はちらちらとグレートサラマンダーZを見ながら答えた。
「な、なんだとコラ! 人を悪人みたいに言うな、この野郎!!!」
気に障ることを言われたのか毛皮男の声がひと際大きくなる。

109 :
「あはははは、悪人そのものだろ。私たちが死ぬおもいで北の国から運んできたお米様の種を
力ずくで持ってこうとしてるんだからな」
「だから、何度も言ってるだろうちょびっとでいいから分けてくれって!!!」
「はんっ!何がちょびっとだ。いきなり半分持って行こうとしたくせして!」
「だーかーらー、困ったときはお互い様だろ。お前の村と俺の村の付き合いもあるし」
「だーかーらー分けないとは言ってないだろ。だけど私も何度も言っただろう。種のまま持ってったら
お前ら全部食べちゃうからお米様の芽が出て苗に育ったら分けるって。それにさらした木の実なら
だいぶあるから持っていっていいよって」
「けっ! いまさら木の実なんて喰えるかよ!!!」
「しるかっ! だいたいお前ら後先考えずにお米ばっか食べるからそうなるんだよ。それにどう考えても
お米の出来はお前の村のほうが良かっただろうに。なんで植える種もほとんど無い私の村がお前んとこに
お米やらなきゃならないんだよ!!!」
「ぬおー……」
「……なんかよくわからないけど、揉めてるみたいだね」
モニターに映る毛皮男と馬に乗る少女のやり取りをうぱ太郎は呆け顔で眺めていた。
「……よくわからないけど話を聞く限り馬の女の子に分がありそうね」
答えたうぱ華子もやはり呆け顔である。
突如湧き上がった謎の集団のオロチ騒動米騒動に、うぱ太郎は当初の目的を完全に見失っていた。
「……わかった。もういい」
「……わかるのが遅すぎだ。まぁ心配するな、お米様の苗はちゃんと分けるから。北の国のお米様だ、
私の村のお米よりちょっとは寒さには強いだろ。お日様の機嫌次第だけどな」
「わかった、助かる。……ところでチィミコ。あの化け物、お前の知り合いでも何でもないんだよな?」
諍いが収まったのか、馬の上の少女といがみ合っていた毛皮男がグレートサラマンダーZに視線を戻した。
「……? 知り合いではないが…… 何だ?」
「じゃあ、俺の好きにしていいんだな?」
「……好きにって、何する気だ?」
馬に乗る少女は訝しげに毛皮男に問い直した。
右手に持つ石斧を左手に持ち替え、毛皮男は背中にしょっていた別の石斧の柄に手をかけた。
「……こいつはオロチじゃねぇ。なんかの間違いでたまたま陸に上がってしまった魚だ。ちょっとでかいがな。
だから俺がぶっ殺して村に持って帰る。あんだけでかけりゃしばらく魚には困らんだろ」
――!?っ
 耳を疑った。
いきなりの展開にうぱ太郎はコックピットで身を硬くした。
「なっ、なに言ってる! やめろ、ばちがあたるぞ!!!」
愕然とし、馬に乗る少女が叫ぶ。
「うるせー!」
しかし毛皮男は聞く耳を持たなかった。
「おい、魚。悪いがおめーには俺の村の食い物になってもらう。おめーも運が悪いな、
俺様と出会わなきゃ長生きできたのによ!!!」
啖呵を切り、毛皮男は両腕の石斧を振り上げた。
「タカオやめろっ!!!」
悲痛な声が枯野に響き渡る。
しかし、すでに石斧はグレートサラマンダーZを捉えていた。

110 :
――どうしてこうなるんだ……? 僕はなにもしていないのに……?
 コックピットの中でうぱ太郎のエラが虹色に輝く。
 思考よりも早く身体が動いていた。
 猛然と踏み込み振り下ろされた毛皮男の石斧を、左にハンドルを切ってわずかな差でかわす。
 躊躇わずアクセル全開、瞬時、跳ねるボタン。
 グレートサラマンダーZ、ケンカ中の猫さながらに横っ飛び。
「……と、跳んだァ???」
石斧を地面に打ちつけたまま呆然と毛皮男がつぶやいた。
――此処は何処だ? なんで石斧なんだ? テレビの撮影じゃないのかっ!?
 グレートサラマンダーZ着地。うぱ太郎、逆ハンドルをあてて姿勢を正す。
 条件反射。
 すぐさま立つボタン。そして。

「「「 ――!? 」」」
 
 恐れしものが地に立った。
 恐ろし口が天を仰いだ。

 謎の集団4人が言葉を失った。
もはやグレートサラマンダーZの一挙一動が畏怖そのものだった。
「……オロチ様か。……まさか本当にいるとはな」
「……鬼だ」
馬の手綱を引きグレートサラマンダーZの様子を伺っていた善良な村人2人が、悪夢を
見たかのようにつぶやく。
「……ツギ。チィミコちゃんを守るぞ」
相方の男に声をかけ、善良な村人の1人が馬にくくり付けていた弓を手にした。
「……テン。……俺たちだけでやれるのか?」
不安を隠そうともせず、もう1人の善良な村人も弓を取った。
「やらなきゃ喰われるだけだ。見ろあれを。……俺達は神様の怒りに触れちまったんだ」
 それは異形だった。
ある者はナマズの化け物と言い、ある者はワニの突然変異と言った。
全てのものを飲み込まんとする大きく開いた巨大な口は、禍々しい蝿取り草を想わせ、ぬめり
がかった黒に近い赤茶色の身体と、巨大な頭部に比べあまりにも貧弱な手足は、おたまじゃくしの
でき損ないを想わせた。
 まったく見当のつかない場所で、自分の常識が通用しない相手に石斧を振り下ろされる。
無意識にうぱ太郎はグレートサラマンダーZ立ち上がらせ、大きく口を開いた。
それはうぱ太郎に出来る唯一の自衛手段だった。
 毛皮男、善良な村人2人、馬に乗った少女。
初めて目にしたグレートサラマンダーZの威嚇ポーズは、激しく荒ぶり怒り狂う邪神の姿にしか見えなかった。

111 :
今日はここまで。

112 :
ここまで代理レス

113 :
     
   +( ・Д・)+
    /С  つ
 |\/   ノ
 \__し つ

114 :
   __
 /:::::::::::::\  ガショーン
 ェェェェ ::::::::\    ガショーン
 "-‐一''::::::::::::\
   Σ:::::::::::::::::::\_/ヽ
    ヽ、:::::::::::::::::::::::::/
    ∠:::::);;;;;;;;;;;;;;/

115 :
おいついたー
うぱ太郎かっけえ
どうやって帰るのかとか今後の展開にwktk

116 :
ものすごい展開になってきた

117 :

――弓矢!?
 うぱ太郎、咄嗟に跳ねるボタン連打。
――善良な村人役じゃないのか!?
 石斧に続き、視聴覚モニターにいにしえの武器が映る。
素早く距離を取りグレートサラマンダーZ、威嚇ポーズを続け謎の集団を牽制する。

「お、おめぇら何してる。あいつは俺がぶっRんだよ!!!」
弓を手にする善良な村人2人に気づき、斧をかわされ呆然としていた毛皮男が怒鳴り散らした。
「……お前もさっさと自分の村に帰れ。邪魔だ」
だが毛皮男には目もくれず、そう言って善良な村人は矢じりのつき具合を確認する。
「……邪魔だと? ……テン、随分偉くなったもんだな。てめえ何様のつもりだ!!!」
思いもよらぬ屈辱的な返事に毛皮男の斧が震える。
しかし、テンと呼ばれた男は手を止めなかった。
「……お前の斧じゃ無理だと言ってるんだ。あの大きさあの動き、下手すりゃあいつはクマより強い。
だから俺とツギで弓で弱らせてから仕留める。お前の出番は無い。もう一度言う。邪魔だ、帰れ」
「けっ、偉そうにっ! 頭かち割ればいいだけだろうがっ!弓なんていらねーよっ!!!」
男に激怒し、毛皮男が凄む。
だが待っていたのは温厚そうな顔立ちに似合わない村人の蔑むような眼差しだった。
「タカオ、いい加減にしろ。お前の斧をオロチ様は難なくよけた。お前の斧はオロチ様に通用しない。
……だいたいお前がオロチ様に手をだすからこんなことになった。食い物を持って帰りたいのはわかるが
少しは周りのことも考えろ」
善良な村人が冷たく言い放つ。だが毛皮男も退かなかった。
「うるせーっ!次は必ずぶっR!!!」
「お前ら、もうやめろ」
「「 ――!?」」
 一触即発な雰囲気の中、馬に乗る少女が割ってはいる。
「……テン、ツギ。オロチ様を倒そうなんて考えるな、弓を置け。タカオ、お前も斧を捨てろ」
穏やかな口調ながらも、険しい表情で少女は男たちに語りかけた。
「しかし!!!」
「はぁ?ふざけんなっ!!!」
テンと呼ばれた男と毛皮男がこぞって反発する。
そんな2人をことさらなだめるように少女は続けた。
「しかしじゃない。これ以上オロチ様を怒らせてどうする? テン、お前も言っただろう、クマより
強いって。私たちのかなう相手じゃないのは私が見たってわかる。
 それとタカオ。お前はすぐに自分の村に帰れ。お前がいると話がややこしくなる。オロチ様には私が
謝っておくから心配するな」
「…………」
少女の声に、テンと呼ばれた男は口をつぐむ。
「はぁ?チィミコ、お前何言ってんだ!? あんな化け物に話し通じるわけねーだろうがっ!!!」
だが、毛皮男はここぞとばかりに少女に激しく噛み付いた。

118 :

「……それはお前が聞く耳を持ってないだけだ」
荒れる毛皮男を見て、馬の上で寂しそうに少女は笑う。
「もう忘れたか? 話をしてきたのはオロチ様からだぞ。それをお前が何も聞きもしないでいきなり
斧振り上げたんだ。誰だってびっくりする。オロチ様が怒るのも当たり前のことだ。
……タカオ。すぐ帰らないなら悪いがお前の村にお米はやらん。木の実もだ」
笑顔から一転、瞬きもせず無慈悲な瞳で少女は毛皮男を見つめ続けた。
「……ちっ、わかったよ。……ま、せいぜい喰われないようにがんばれや」
 観念したかのように毛皮男は少女から目を逸らす。
そして捨て台詞を残し、馬の上の少女に背を向けた。
「……チィミコちゃん。……本当に大丈夫なのか?」
走り去る毛皮男を目で追いながら、ツギと呼ばれた男が少女に問いかける。
「大丈夫だ。ちゃんと話せばわかってもらえるさ」
 少女の表情から険が消えた。
手入れのなされてない太眉、ちょっと大きめの桃色の唇。
まだ随所にあどけなさの残る顔に笑みが戻る。
「……しかし」
いまだにいつでも飛びかからんばかりに牙を剥き構えているグレートサラマンダーZを
遠巻きにしながら、男は不安げにつぶやく。
「……テン、ツギ。確かにお前らから見れば私は若造だ、頼りないだろう。
それでも私は村を治める巫女だ。ものを見る目はお前らより持っているつもりでいる。私を信じろ。
それにあれだ、このオオシカの時と同じだよ。あはははは、あんときはひどい目に遭ったな」
不安視する善良な村人2人をよそに、馬に乗る少女は笑いながら馬の首筋をぽんぽんと叩いた。
「近寄れば蹴ろうとする、だけど離れれば寂しそうにする。誰かに構ってもらいたかったんだよ。
あの後、運んでも運んでもきりが無いくらい水はがぶがぶ飲むわ草はもしゃもしゃ食べるわで私らが
疲れて死にそうになったけどオオシカたちもいまじゃ村一番の働き者だ。
 ……あのオロチ様も誰かに構ってもらいたいんだ。もし人を喰うだけの化け物だったら私たちは
とっくの昔に喰われてたはずだ。たぶん何か困ったことがあって私たちと話がしたかったんだろう。
大丈夫だ、心配するな。だからお願いだ、弓を置いてくれ。オロチ様と争う必要はどこにもない」
そう言って少女は目を閉じ、小さく頭を下げる。
「……わかった」
「……チィミコちゃんがそう言うなら」
しばしの沈黙の後、少女に従い善良な村人2人は腰をおろし静かに弓を地に置いた。
「ありがとう」
手短に礼を言う。そして馬に乗る少女はグレートサラマンダーZを見つめ、手綱を握り直した。

119 :

――訳がわからない? なんでこんなことに
「にあっ……!?」
グレートサラマンダーZのコックピットに間抜けな声が漏れる。
「……太郎ちゃん、ちょっと頭冷やしたら? エラ光りっぱなしよ?」
硬い表情で視聴覚モニターを凝視していたうぱ太郎をうぱ華子が指で突付いた。
「えっ? あ。……でも」
小馬鹿にされたようなうぱ華子の言動にむっとして振り返る。
そして拗ねた子供のようにうぱ太郎は口をどもらせる。
「……でもじゃないわよ。まぁ今までひどい目に遭ってそうなる気持ちはわかるけど、
無理に戦う必要あるの?もっと大きく構えなさいよ。それにあの人たちに聞きたいこと
あるんでしょ、いま逃したらこんな山奥で次いつ人に会えるか分らないわよ?」
「…………」
「別に媚を売れとは言わないけど、こっちから歩みよるぐらいはしてもいいんじゃない?」
「…………」
 うぱ華子が言うことは充分理解できた。
しかしまったく知らない場所で、いきなり浴びせられた殺意がうぱ太郎を頑なにさせた。
「オロチさまーっ。私は近くの村に住むチィミコという者だー。私の話していることがわかるなら
さっきのことを謝りたいんだー。そっちにいってもいいかー?」
 突然、コックピットに少女の叫び声が響く。
視聴覚モニターには馬の上で両手を口にそえた少女と、弓を置いた善良な村人2人が映されていた。
「ほら、あの人たち武器捨てたわよ。斧振り回した馬鹿もとっくの昔にいなくなったし……」
諭すようにうぱ華子が話しかける。
「…………うん」
 いまひとつ納得しきれていない。
それでもうぱ華子に促されるまま、うぱ太郎は渋々とグレートサラマンダーZの口を閉じ姿勢に戻した。

120 :

 閉じた口を了解の合図と見たのか、馬に乗る少女と、馬を連れた善良な村人2人はゆっくりと
グレートサラマンダーZに近づいた。そして5メートルほど手前で歩みを止めた。
「オロチ様、さっきはすまなかった。私たちはオロチ様と争う気はまったくないんだ。
もし良かったら私と話をしてくれないか?」
馬に乗ったまま、臆することのない笑顔で少女はグレートサラマンダーZに話しかける。
隣にいる馬を連れた男2人はどことなく表情が硬い。
――なんでさっきからオロチなんだ? 涙の大山椒魚知らないのか?
 此処は何処なのか?
それが今一番必要とする情報だった。
しかしオロチという言葉が気にかかり、うぱ太郎は自らが演じた涙の大山椒魚を前に出した。
「……あの、さっきから僕のことオロチオロチ言ってるけど違います。僕は大山椒魚です。
それにチイミコさんでしたっけ? さっき僕のこと見て笑いましたよね。テレビで見て涙の大山椒魚
のこと知ってたんじゃないんですか? っていうかこれテレビの撮影ですよね?」
うぱ太郎の質問に、馬の上の少女は額に手をあてて考え込む。そして口を開く。
「……すまない。ちょっと聞いていいか?」
「……何ですか?」
「私の名前はチィミコという。私は自分のことを話すとき私という。オロチ様は自分のことをぼくと
言うのか?」
「……えぇ」
自身を僕と呼ぶ者に抵抗がある人が多少いるのは理解している。
しかし少女の口ぶりにうぱ太郎は何か違和を覚えた。
「それでオロチ様はオーサンショーウオという名前なのか?」
「…………まぁ、そうです」
違和感がさらに募る。
「わかった、ありがとう。えーと、さっき笑ったのは私の癖なんだ」
「癖?」
「すまない。いままで見たことのない不思議なものや変わったものを見つけると楽しくなって
つい笑っちゃうんだ。なんと言えばいいかな、知らないことを憶えて嬉しくなるっていうか。
それで一番分らないことを聞きたいんだが、あの、さっきから何回か言ってるけどてれびって何かな?」
「は?」
 ありえない返答にうぱ太郎は耳を疑った。
「いや、あの、すまない。……私、てれびって知らないんだ。何だろう?」
「……嘘でしょ?」
「いや本当に。……てれびって何だ?」
申し訳なさそうに少女はグレートサラマンダーZに尋ねる。
――ふざけてるのか……?
「いまどき馬乗って馬連れて、石斧振り回して弓矢出して、テレビの撮影以外考えられないじゃないですかっ!」
 キレ気味のうぱ太郎の声に善良な村人2人が一斉に身構える。
しかしそれを右手で制し馬に乗る少女は静かにグレートサラマンダーZに語りかけた。
「オロチ様。オロチ様が怒るのもしょうがない、私たちはまだ知らないことが多すぎるんだ」

121 :

――なんなんだ? 話はできるけど話がまるで通じない……
「それでオロチ様すまない。また少し聞きたいんだが?」
「…………何ですか?」
言葉を見出せないうぱ太郎をよそに、馬の上の少女はさらにグレートサラマンダーZに問いかけた。
「オロチ様、見たことあるかな? 山の奥に住んでて黒くて大きくて強い奴なんだ。
普段は4つ足で歩くんだけど、人を襲うときなんかは立ち上がって、がおーぐおーって手で殴る奴が
いるんだけど。……オロチ様わかるかな?」
ジェスチャーゲームのように少女は馬の上でがおーがおーと言いながら両手を動かした。
「…………熊ですか?」
意味不明な質問に怪訝そうな顔でうぱ太郎は答える。
「そうクマクマっ! 私たちもあいつをクマと呼んでるんだ。それで私が乗っているこいつだけど……」
そう言って少女は情けない笑顔で自らが乗る馬を指差した。
「……馬じゃないんですか?」
「ウマ?」
「……どっからどう見ても馬ですよね?」
あまりのくだらなさに、うぱ太郎は投げ遣り気味に答えた。
「大きいシカ……」
「は?」
「大きいシカかなって……」
「いや、だから鹿なわけないじゃないですか? 馬じゃないんですかっ!」
うぱ太郎の声に苛立ちが混じる。
「……そうか。……ウマか」
「……?」
うぱ太郎の返事に、手綱を震わせて馬に乗る少女が小さく笑った。
「そうか!ウマって言うんだっ!!!」
「うわっ、危なっ!?」
 いきなり少女の乗る馬が大きく跳ねた。
そして少女の笑い声とともに駆け出した。
――なんなんだ…………?
 突飛な少女の行動に、うぱ太郎はただただその後ろ姿を見送るしか出来なかった。
残された善良な村人2人は渋い表情で互いに顔を見合わせていた。
「あはははは、ごめんオオシカ! 私、間違ってた。いまからお前はウマだっ!!!
さすが神様、オロチ様は物知りだ。凄い、凄いぞ! あはははははははははーっ!!!」
疾走する馬の上で長い髪をなびかせながら、大声で少女は笑い続ける。
「大鹿って……。馬知らないとかテレビ知らないなんてありえない。一体いつの時代だ?」
狂ったように馬を操る少女を遠目に、うぱ太郎はつぶやいた。
 そして、はっとする。
  
「……いつの ……時代?」
 自ら口にした言葉を繰り返す。
刹那、うぱ太郎の胸が、とくんと高鳴った。

122 :
今日はここまで。

123 :
投下乙
ついに気付いたかうぱ太郎…

124 :

――ありえない……
 感じ続けた違和感のひとつひとつが、組み合わせパズルのピースのように次々と型にはまっていく。
――タイムスリップなんて……
そして自ら導き出した答えに、コックピットの中でうぱ太郎は愕然とする。
「オロチ様、さっきはすまなかった。俺はチィミコと同じ村に住むテンという者だ。隣はツギという。
弓は取ったがうちの巫女様が言うとおりオロチ様と争う気はない。どうか怒りを静めてほしい。
 それとうちの巫女様さっきから笑いっぱなしだが、けしてオロチ様をからかってるわけじゃない。
すまない。まだまだ子供で楽しいことがあるとすぐ笑ってしまうんだ。許してやってほしい」
 硬い表情のまま馬を連れた片割れの男が、ぴくりとも動かないグレートサラマンダーZに話しかけた。
しかし混乱まっ最中のうぱ太郎に話を返せる余裕はどこにもなかった。
「……オロチ様?」
「……え? ……あ。 ……あ、あの、すいません。……ここ何処ですか?」
 期待していた返事を得られなかったのか男は困惑気味に笑顔を浮かべる。
そして気を取り直すかのように咳払いをし、うぱ太郎の質問に答え始めた。
「俺たちの住む村のすぐ近くだ。山に囲まれた小さな村だが」
「あの、そういうことじゃなくて、東京とか埼玉とか横浜とか…………」
――テレビどころか馬さえ知らない時代の人に地名とか通じるのか?
 話しの途中で疑問が湧き、うぱ太郎の口が止まる。
「すまない。ちょっとわからないな」
しばし考え込んでいた男の口からうぱ太郎の想像通りの返事が漏れた。
「あ、いや、すいません。あまり気にしないでください……」
――何処っていうか、いつだ? 石斧に弓。馬も知らない。石器時代なのか……?
「オロチさまーっ!!!」
「うわっ、危なっ!?」
唐突に、少女の乗る馬が地響きとともにグレートサラマンダーZの前に立ち止まった。

125 :

「オロチ様はどこの神様なんだ?どこに宿るんだ?川?沼?ここの近く?遊びに行っていいか?」
「?????」 
 目前を馬に踏み込まれコックピットで肝を冷やしてるうぱ太郎に構わず、馬の上から少女は目を輝かせ
ながら捲くし立てた。
「チィミコちゃん、いい加減にしてくれ!」
グレートサラマンダーZの様子を察してか、会話を遮られた男が厳しい声を少女に向ける。
「さっきタカオにあれだけ言いながらチィミコちゃんもタカオと同じことをやってる。ちょっと間違えば
オロチ様を蹴ってたかもしれないんだぞ。チィミコちゃん。オオシカから降りてくれ。話はそれからだ」
しかし男の声を気にもせず、少女は馬の上で笑う。
「あはははは、テン。オオシカじゃなくてこれはウマだ」
「そういうことを言ってるんじゃないっ!!!」
 怒声が響いた。
「……ごめんなさい」
 思わぬ怒りに呆気にとられ、少女は小さな声で男に詫びた。
軽い身のこなしで馬から降り手綱を脇に挟み込む。作務衣のような白い衣服の乱れを整え、
腰の巻いた赤いたすきと首飾りをたしかめ、そして頬にかかった髪を両手で後ろに流した。
「……これでいいか?」
姿勢を正し、少女は男に確認する。
「あぁ。……チィミコちゃん。神様に会えて嬉しいのはわかるが、もう少し巫女らしくしてくれ」
「……うん、すまない。これから気をつける」
男の返事に、幼さを残す凛々しい顔に少しだけ笑みが戻る。
「……あの。僕は……、僕は神様じゃないです」
成り行きを眺め頃合を見計らっていたうぱ太郎が少女達に話しかける。
 混乱はいまだ続いている。
しかしやたらと神様と呼ばれることにうぱ太郎は抵抗と不安があった。
「え、そうなのか? 人と話せるから神様だと思ったけど。あ、じゃあどっかの主かな?
それでオロチ様はどこから来たんだ?」
そう言って少女は手綱をツギと呼ばれた者に託し、子犬の相手でもするかのようにグレートサラマンダーZ
の前でしゃがみこんだ。
「え? ……あ、あの。 ……み、未来の国から」
視聴覚モニターに少女の姿がアップで映る。あまりの顔の近さにうぱ太郎は思わずしりぞく。
「ミライ? ミライって国から来たのか?」
しゃがみこんだまま不思議そうな表情で、少女はグレートサラマンダーZを見つめ続けた。
――未来も通じないのか…………?
「…………まぁ、あの。……そんなところです」
 どぎまぎしながら答える。
思考や言葉とは裏腹に、カメラ目線のアイドルを見てるような気恥ずかしさから、
無意識にうぱ太郎はブレーキを踏みオートマシフトをバックに入れていた。

126 :

「それでオロチ様これからどこに行くんだ?」
「……未来に帰りつもりだけど、…………ここが何処かわからなくて」
心配そうに見つめる少女の顔から逃れるように、じりじりとうぱ太郎はグレートサラマンダーZを後退させた。
しかし連動してるかのように少女もしゃがんだままずいずいと距離を詰め、うぱ太郎の小さな努力はまるで
意味をなさなかった。
「道がわからなくなったのか?」
少女に問われる。
だが未来という言葉が通じない時点でうぱ太郎は説明する気力を完全に失っていた。
「…………まぁ、そんなところです」
真っ直ぐな瞳から目を逸らし、うぱ太郎は力なく答えた。
 すっと少女が立ち上がる。
「だったら私の村に来ないか?」
「「「 えっ!? 」」」
予想だにしない少女の発言に、うぱ太郎と男2人が同時に声をあげた。
「チィミコちゃん!!!」
「だめだ。村長(むらおさ)に怒られる!」
馬を連れた男2人が一斉に少女に詰め寄る。
「あはは、大丈夫。村長には私が話すから」
真剣な表情の男2人を、いたって能天気な笑顔で少女は諭した。
しかし間髪いれずツギと呼ばれた男が反論する。
「だめだ、許しが出るわけない。 ……オロチ様の前で言うのもなんだが、……オロチ様は怖すぎる」
「「「 !? 」」」
 場を静めるには、たった一言で充分だった。
少女と男2人の会話が途切れた。それが答えだった。
――結局ここでも化け物あつかいか……。
 うぱ太郎の口からため息が漏れる。
 化け物。
うぱるぱ救出活動初期からずっと言われ続けていた。充分慣れていたはずだった。
 優しい言葉が欲しい訳じゃない。ちょっとでいいから判ってもらいたかっただけ……。
想いをめぐらせ、うぱ太郎は静かに笑う。
「……オロチ様」
立ち尽くす少女から笑みが消えていた。いつものことだとコックピットでうぱ太郎は眼を伏せる。
 少女の口が開く。
しかし聴こえてきたのは耐え難い、より残酷な言葉だった。
「オロチ様は人を喰ったりするのか?」
―― !!!っ
 うぱ太郎のエラが虹色に輝く。
「僕は人を食べたりしないっ!!!」
「僕”は”人”を”食”べ”た”り”し”な”い”っ”!”!”!”」
 グレートサラマンダーZ共鳴、空気が震える。
 狼の遠吠えのように、悲しげに風が吹き抜けた。

127 :

「ぐおっ!」
「鎮まれっ!」
突然の風に2頭の馬が怯えだす。必死の形相で2人の男は手綱を押さえる。
地を蹴りつける蹄の音に、いななきが連鎖する。
 しかしそんな中、少女はひとり高笑いをあげた。
「あはははは、なーんだ、じゃあ大丈夫だよ。別にオロチ様そんな怖くないし」
「は……?」
 あっけらかんと話す少女にうぱ太郎は返す言葉を忘れる。
「テン、ツギ。オロチ様は大事なお米の種を悪者から守ってくれた恩のある人だ。ちゃんと
お礼しないとそれこそばちがあたるぞ。大丈夫。きちんとわけを話せば村長もわかってくれるさ」
笑いながら少女は男2人に叫びかける。
「「!!!っ」」
だが馬をなだめるのに手一杯で、男達は返事さえままならなかった。
暴れる馬に悪戦苦闘する男達を横目で見てケラケラと笑う。そしてグレートサラマンダーZに向き直り
少女は微笑んだ。
「ということでオロチ様。お礼もしたいし良かったら私の村に来てくれないか?」
――ダメだ。もうなにがなんだか……。
 混沌と混乱。
いくら冷静になったつもりでも目の前の現実が許さなかった。
 リーダーシップ、責任感。
もはやそんなのはどうでもよかった。一刻も早くこちら側の者と対話したかった。
「…………あの、ちょっと待っててください。すぐ戻ります」
そう言ってうぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かし、少女から離れた。

「あの、みんなモニター見てわかってると思うんだけど、いまとんでもない状況になってて、
それでみんなの意見を聞きたいっていうか、どうしようかなって思って……」
 少女から20メートルほど距離を取ったところでうぱ太郎はグレートサラマンダーZを停めた。
そして振り向き、後部座席のうぱ華子たちに話しかけた。
「そうね。あたしもまるでSF映画のヒロインになった気分よ」
何のためらいもなくうぱ華子は即答する。
「太郎ちゃん、わたし喋っていいの?」
うぱ民子が手を挙げてうぱ太郎に尋ねる。
「は? 何それ……?」
意味がわからずうぱ太郎はうぱ民子に聞き返す。
「何それって、ひどいなー。さっき、静かにしろボケ!ってキレてたじゃん」
「そんなこと言って…… 言いました、ごめんなさい」
「ま、そんなことどうでもいいわ。……まず、そうね、みんな気づいてると思うけど、今あたしたちが
陥っている状況を一般的にどういうか揃って言ってみましょうか?」
動揺から立ち直れないうぱ太郎を差し置いて、うぱ華子がコックピット内を仕切り始めた。

128 :

「……うん」
「はーい」
「…………」
 返事を確認し、うぱ華子が続ける。
「それじゃあ、あたしのせーの、に合わせて頂戴。いい? ……せーの!」
「タイムスリップ」
「タイムトラベル」
「ワープ!」
「……ワームホール通過」
「……民ちゃん、ワープって微妙に違う気がする。……倫ちゃん、ワームホールって何かな?」
「みんな似たようなものだから言葉の違いはこの際どうでもいいわ」
解説をはじめようとしたうぱ倫子を遮り、うぱ華子が言い切る。
「……それで、これからどうしようかと思って」
うぱ倫子を不憫に思いながらも、うぱ太郎はそのまま話を続けた。
「どうするもこうするも、あの人たちについて行くしか選択肢はないんじゃないの?
とりあえず生活の基盤を築かないとみんな野垂れ死によ。……それにうまく立ち回れば
あたしたちは神になれるわ」
「は?」
「華ちゃん、神様になってなんかいいことあるの?」
うぱ太郎の声を押しのけて、すぐさまうぱ民子がうぱ華子に聞いた。
「ご老人の屋敷にいたときみたいな贅沢はできないけど、その代わり誰からも命令されることは
なくなるわ。逆にあたしたちが人間に命令できる立場になるのよ」
そう言いながらうぱ華子は不敵に笑った。
「うわー、華ちゃん悪人顔だー」
「おほほ、なんとでもおっしゃいなさい。まぁご老人の屋敷に比べれば生活水準はガタ落ちになるけど
上手くいけば人間をアゴで使えるわ」
得意げな顔でうぱ華子は力説する。
「マジでー? もしかしてウハウハのハーレム状態?」
「ちょっと違うけど、まぁそんなところね」
うぱ華子に同調するように、返事を聞いたうぱ民子もにやりといかがわしい笑みを浮かべた。
「……華ちゃん。もう嫌なことしなくていいの?」
 会話に入れなかったうぱ倫子がぽつりとつぶやく。
一瞬の沈黙の後、うぱ民子は真顔に戻り、うぱ華子は小さく息を吐いた。
「……倫ちゃん。倫ちゃんが好きなCDもDVDもこの世界には無いわ。でも、もう誰からも命令
されたり嫌なことを強要されることはないの。ここにご老人はいない。自由な世界よ」
ふざけた口調をやめ、うぱ倫子に向けてうぱ華子は静かに答える。
 返事はない。

129 :

「…………あの。何で華ちゃんはこの世界に住むことが前提なの? 普通帰りたいって思わないかな?」
沈黙に耐えかねて、うぱ太郎が口を開いた。
「……太郎ちゃんは元の世界に戻りたいの?」
「基地のみんなも心配してると思うし当然僕は戻るつもりでいる。ていうか普通そう思わないかな?」
 あたり前のこと。別に間違っていない。
話しながらうぱ太郎は胸の中で思う。そんなうぱ太郎にうぱ華子は儚げな笑顔を見せた。
「……太郎ちゃんは王国出身で帰る場所があるからね。でもね、あたしたちにはもう帰る場所なんて無いの。
もし元の世界に戻れたとしても、あたしたちを待ってる人なんて誰もいない。ペットショップに送られて
新しい飼い主に飼われるだけよ。そこから新しく人間関係を構築する労力を考えたら、この世界でおもしろ
おかしく暮らしていくほうが気が楽だわ。
 それに残酷だけど、事実を言うならあたしたちはもう戻れないわ。それは太郎ちゃんも判ってるはずよ。
あたしたちが乗っていたタイムマシンはもう壊れてしまったんだから」
――壊れた……?
 うぱ華子の言葉に、うぱ太郎の鼓動が大きく波打つ。
 
【 リピートモーター切り離し中。至急サービスマンにお知らせください 】
 視聴覚モニター下部に表示されたエラーメッセージが、分裂増殖を繰り返すアメーバーのように
うぱ太郎の視界を赤く侵していく。
――壊れた……。
「…………でも」
 赤の残像に眩暈を覚えながら、消え入りそうな声で、それでもうぱ太郎は食い下がる。
しかしすがるものが何ひとつないそれは、うぱ華子にとって無抵抗な相槌に過ぎなかった。
「映画とかの受け売りだけど、もし元の世界に戻るとしたらタイムスリップしたその時と同じ
条件下でこのロボットを動かす必要があるわ。それでも成功するかどうかはやってみなきゃ分らない。
 高速道路ぶっ飛ばして吹っ飛んだ弾みでタイムスリップしたと思うんだけど、モーターが壊れて
高速道路も無い状態でそれを再現するのは事実上不可能よ」
「…………」
うぱ太郎は押し黙る。構わずうぱ華子は続ける。
「考える時間はたっぷりあるわ。嫌になるくらいにね。でもとりあえずねぐらと食糧ぐらい確保
しなきゃ先には進めないの。太郎ちゃん。あたしはなにも独裁者になって人類を支配したいわけじゃないわ。
静かに暮らせてたまに人から崇められるくらいの立場がほしいだけ。要は誰にも邪魔されずあたしの
好きなようにのんびり生きていけたらそれでいいの。
 太郎ちゃんが戻りたい気持ちは分るし戻れたらいいなと思う。戻る方法を模索するのも反対はしない。
ただ此処がいつの時代か分らないけど、この世界でも帰れる場所を作っておいて損はないと思うわ」
「……随分口が回るようだけど、華ちゃんはタイムスリップだって最初から気づいてたの?」
重たげに、恨めしげに、うぱ太郎の口が開いた。
しかしさして気にもせず、うぱ華子はうなだれるうぱ太郎の問いに答える。
「太郎ちゃんよりちょっと早いくらいじゃない? 目覚めたときからなんか変だなって思ってはいたけど
それは太郎ちゃんも同じでしょ。それに太郎ちゃんが矢面に立ってくれたからね。ワンクッション置いて
傍から見てればそれなりに考えることは出来るわ。全然意味合いは違うけど過去に似たような経験もしてるし」

130 :

「……わかった」
 力なくうぱ太郎はそう言って頷く。
憐れみも同情の色も見せずにうぱ華子は話を進める。
「早速だけど、あたしたちは未来という名の国から海を越えてやってきた旅人ってことでよろしく」
「……旅人?」
「そう。テレビも馬も知らない時代よ。いちいちあたしたちのこと説明しても埒が明かないのは確実だわ。
設定って訳じゃないけど海を時に替えればそのまんまあたしたちのことだからそんなに違和感ないでしょ」
「なんかカッコいい!」
「……旅人って、意味通じるかな?」
うぱ華子の提案にうぱ民子は楽しげに食いつき、うぱ太郎は疑問を返した。
「北の国とか言ってたから大丈夫だと思うけどね。
太郎ちゃん、そろそろ戻ったほうがいいわね、こっち見てるし。それであの女の子の村に着くまで
しばらく話しかけないでもらって頂戴。その間いろいろみんなで作戦立てましょう」
 うぱ華子に言われうぱ太郎はモニターを確認する。
落ち着いたのか2頭の馬は男達に手綱を引かれおとなしくしていた。隣でチィミコと呼ばれた少女が
難しい顔で立っている。
――どっちにしろとりあえず先に進まなきゃ。悩んでてもしょうがない。
 強い意志があるわけでもなく、流されるままの決断だった。
「……わかった。そうする」
心に言い聞かせ、滲んだ手の汗を拭い、うぱ太郎はゆっくりとグレートサラマンダーZを前進させた。

「すいません、お待たせしました。……あの、僕、ほんとにあなた方の村に行ってもいいんですか?」
少女の前に出る。馬はおとなしく頭を垂れている。3人とも神妙な顔つきでグレートサラマンダーZを待っていた。
うぱ太郎が話しかけた途端、少女の顔は笑みで溢れかえった。
「うん、来てくれ。私いろいろ話聞きたいんだ。好きなだけいてくれて構わない」
少し前進と胸の中で唱える。そしてうぱ太郎は少女にずっと気になっていることを聞く。


131 :

「そうですか。じゃあ、あの、よろしくお願いします。それでちょっと聞きたいんですけど、いま
何年ですか?」
「何年?」
うぱ太郎の問いに少女は少しだけ首をかしげた。
「えぇ。西暦とか和暦とか……」
「うーん、ちょっとわからないな。……ちなみに私は生まれて15年になる。そこにいるテンは25年、
ツギは20年だ」
――さすがに無理か……。カレンダーなんかありそうにないし。
 期待はしていなかった。気を取り直してうぱ太郎はすぐに次の質問に移る。
「ああ、わかりました。あとひとつ。ここはこれから暖かくなりますか?それとも寒くなりますか?」
「これからどんどん暖かくなるよ。オロチ様はなんといってるかわからないけど、私の村では
分かれの日って言ってるんだ」
「わかれの日?」
聞きなれない言葉にうぱ太郎は問い返す。
「そう、明日のことなんだけどちょうど昼と夜が半分になるんだ。それで明日からどんどん昼の時が
長くなる。春の分かれの日でお米作りの始まりなんだ。忙しくなるけどやっぱり春は嬉しい。
それで明日なんだけど、分かれの日の祭りやるからオロチ様も入ってくれないかな。きっと楽しいよ」
――春分の日!?
「うん、ありがとう。……それで僕、馬の後ろ付いて行きますけど、考えないといけない事あって話
できないんでしばらく話しかけないでくれますか」
「うーん、そうなんだ。……あ。オロチ様は走れるのか? オオシカ…じゃなくてウマ走るの速いぞ?」
「あ、大丈夫。馬ぐらいには走れます。はぐれたり逃げたりはしないですから心配しないでください」
「そうかわかった。まぁもうすぐだから私たちもゆっくり行くよ」
 
 男2人に目配せをし、少女は出発する準備を始めた。
「オロチ様、私はチィミコと言う。まだ小さいがこれでも村の中では巫女をやってて偉いんだ。
なんかあったら気にせず私に話してくれ。それと大きい男がツギで髭もじゃがテンだ。
私といつも一緒に祭り旅に出てるから道をよく知ってるしウマの扱いにも慣れている。なんか聞きたい
ことがあったらいつでも言ってくれ」
――明日が春分の日なら今日は3月の19日か20日。時間も夕暮れになれば大体合わせられる。
 よし。と心の中で叫ぶ。
日付が分かったところで元の時代に戻れることはない。それでもうぱ太郎は素早くナビの日付を
3月20日に修正した。
「じゃあ、行こうか」
颯爽とチィミコは馬の背を跨ぐ。
荷物を積んだ馬の手綱を取り、早足でテンとツギが歩き始めた。
「えぇ、よろしく」
馬の上で振り向いたチィミコにそう声をかけ、うぱ太郎はゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

132 :
今日はここまで。


133 :
心強いな華子

134 :

「グレートサラマンダーZ。……グレサラ様。グレマン様。サラマン様。こんなところかしら」
「わたしグレマン様がいい」
「いや民ちゃんに聞いてないから。太郎ちゃんはどれがいい?」
「……どれがって、どういうこと?」
「グレートサラマンダーって、いちいち長ったらしいからね。呼びやすいように愛称決めておいたほう
楽でしょ。別にオロチ様でもいいならいいけど」
「……だったら、僕もグレマン様でいいよ」
「了解。じゃあグレマン様っていうことでよろしく」
 春の息吹を感じる枯野をテンとツギが先導し、馬に乗ったチィミコが後に続く。
うぱ太郎は離れ過ぎないようにアクセルワークに気をつけながら追走していく。
 時折チィミコは振り返り、グレートサラマンダーZが無事に付いてきているか確認する。
その度に、意中の物を手に家路を急ぐ趣味人のように、チィミコはにまにまと頬を緩ませていた。
「うぱ太郎はグレマン様に乗って世界中を旅をしていた。その道中、家を追い出されたうぱ華子たちと出会う。
どこか静かに暮らせるところで降ろしてと願ううぱ華子たち。わかったとうぱ太郎は快く承諾した。
しかし思わぬ事態に遭遇する。突然の嵐がグレマン様を襲い、傷つき見知らぬ場所へ吹き飛ばされてしまったのだ。
 ごめんとうぱ太郎はうぱ華子たちに謝罪する。しかしうぱ華子たちはうぱ太郎を責めもせず大丈夫、
ここで暮らせるからと笑って見せた。しばし悔いていたうぱ太郎だがすぐに前へ進もうと意を固める。
小さな村の巫女にお世話になりながらグレマン様の傷の手当てを行い、旅を続けるべく準備をはじめた。
そして……。
……完璧だわ」
 モニターに映るチィミコたちの姿を気にもせず、うぱ華子はうぱ太郎たちを相手に熱弁を振るう。
「よくもまぁぽんぽんぽんぽん口から出まかせ出せるもんだね」
モニターを見ながら皮肉混じりにうぱ太郎は言い放つ。
「出まかせとは失礼ね。もし太郎ちゃんが元の時代に戻ることになっても不自然ならないように考えたつもりよ。
それに西暦とか和暦とかの年号どころか未来さえ通じない時代の人にあたしたちのこときちんと説明したって
わかるわけないじゃない。それとも太郎ちゃん何かいい考えある?」
「それは……。ないけど……」
しかし、いとも簡単にうぱ華子に言いくるまれる。
「それで最終的にあたしたち姿晒さないとダメなんだけど、人がいっぱいいるとこでいきなりあたしたち
出ても収拾つかなくなるのは目に見えてるから、最初はあの女の子の前だけにしましょう。
か弱い存在だけどいろんなことを知ってるって思い知らせればもうこっちのものよ。チィミコちゃんだっけ?
自分で偉いって言うほどだから彼女を取り込めば後は貰ったようなものね」
「……そんなにうまく事が進むかな?」
「大丈夫でしょ。オロチ様でもう神様扱いだからあたしたちもそれに便乗すればいいだけのことよ」
懐疑的なうぱ太郎に対し、自らの案を疑いもせずうぱ華子は余裕の表情で答えた。
「太郎ちゃん、ここって何年前?江戸時代?」
会話が途切れると同時にうぱ民子がうぱ太郎に尋ねた。
「江戸時代って……」
「だってわたし昔のことよくわからないもん」

135 :

「僕もあまり詳しくないけど、……紀元前の世界だと思う」
「紀元前?」
ぴんと来なかったのかうぱ民子はうぱ太郎に聞き返す。
「大雑把に言えば2000年以上前の時代ってことね」
「……うん」
すぐにうぱ華子のフォローが入り、モニターを見つめたままうぱ太郎がうなずく。
「どうしてそう思うの?」
「マンガ読んだだけのいい加減な知識で申し訳ないんだけど、中国の紀元前の人で始皇帝って
人がいて、それでそのマンガではその時代もう馬もいたし剣もあって立派な服も着てるんだ。
それに比べてここの人は馬は知らないしみすぼらしいし格好だし石斧というか石器使ってるくらい
だから古代っていうか原始時代じゃないかなって思ってる」
 年号や未来という概念が通用しない時代。
正確な年代を確かめる術などどこにもあるはずがなかった。
 
「ふーん。そういえば中国4000年の歴史って聞いたことあるなー」
「……うん。そのぐらい昔かもっと前かもしれない」
うぱ民子の返事にうなずく。
 古代、原始時代と口にした。
しかし紀元前の世界と予想しただけで、それが何千年何万年前の時代なのか具体的な年代はうぱ太郎も
まったく見当がついていなかった。
「……太郎ちゃん。あまり詳しく知らないけどワームホールって時空と時空とか、次元と次元を
結ぶトンネルみたいなものなの。だからその出口っていうか入り口見つければ元の時代に戻れると思う」
「は?」
 唐突にうぱ倫子が話し始める。
――ワームホール? さっき言いかけたこと?
 突然話をふられうぱ太郎とうぱ民子は無言になる。
 しかしコックピットに訪れかけた静寂はうぱ華子のひと言で打破される。
「……絵空事ね」
――!?
「ワームホール入り口って親切丁寧に看板が出ていればいいけどね。でも当然看板なんて出てるわけ
ないしそういうスポットがあるかどうかも定かじゃない。下手すれば死ぬまで幻を追いかけてそれで
終わってしまうかもしれないのよ。……ワームホールの入り口を探すなんて雲をつかむより難しい話よ」
「…………でも」
「うん、倫ちゃん、ありがとう。なんとなくワームホールって分かった。でもいまはチィミコちゃん
の村に行って居場所を確保しようと思う。明日にでも僕たちが最初に気がついた場所に行ってみるよ。
もしかしたらなんか帰れるヒントがあるかもしれないし」
 努めて明るくうぱ太郎はうぱ倫子に語りかけた。
うぱ倫子が元の時代に戻りたいのかどうかは判らない。それでも先刻の自分を見ているかのように
うぱ倫子の気持ちは理解できた。そして過去の体験からか極度に現実を直視するうぱ華子の姿勢も
否定は出来なかった。

136 :

「あたしもそれに賛成ね。時間はあるし焦る必要はないわ。居場所キープできれば余裕持って動けるしね。
ところで太郎ちゃん、このロボット延々と動いてるけど燃料補給はしなくていいの?何で動いてるわけ?」
うぱ太郎の提案に賛同し、うぱ華子は話を進めていく。
うぱ倫子も懐疑や苦渋の色は見せず何事もなかったように静かになった。
「えーと、恒久回転モーターとか言ってた。なんか一度回り始めたら半永久的に回り続けるんだって。
それでそれだけだと力が足りないんで補助モーター付けてパワーを引き出してるみたい。補助モーター
2基ついててそのうちの片方が壊れて切り離しになってるけど、いまのところそんなに影響はないよ。
自給自足って言うか常時モーター回ってるんでそれでバッテリー充電してまたモーター回すって感じ」
うぱ松から聞いた話を思い出し、あやふやながらもうぱ太郎は質問に答える。
「……つくづく太郎ちゃんのとこのボスは凄いわね。恒久回転なんてノーベル賞ものよ」
「そうなの? なんかオリハルコンとかオリアキコンとか怪しい金属使ってるみたいだけど」
「幻の金属って訳ね……。吹っ飛んだはずみで不思議パワーが炸裂して、結果タイムスリップ発動かしら?」
頬に手をあてうぱ華子は考え込む。つられてかうぱ倫子とうぱ民子も難しい顔になった。
「……うん。暴走させたつもりはないけど結果こうなってしまった訳だし。……ごめん、僕が悪いんだ」
 タイムスリップという予期せぬ事態に巻き込んでしまったという事実。
その心苦しさからうぱ太郎はモニターを見ながらも小さな声で、されど確かな声で謝った。
 どうしてこうなってしまったのか。
誰かのせいにして糾弾すれば楽になれるのだろうか。
 口にする者は誰もいない。
 ふたつの時代の狭間で、沈黙が切なく流れ続けた。
そして静かにうぱ華子が話し始める。
「……別に太郎ちゃんを責めるつもりはないわよ。逆にグレマン様と一緒に全員あの世行きが
確定だったのにご老人の魔の手から逃れてみんな無事に生きてるんだから太郎ちゃんは
ミッションクリアでいいんじゃない? ……後はこれからどうするかだけよ、何も問題はないわ」
「……華ちゃんは切り替えが早いっていうか逞しいよね。全然動じていないみたいだし」
モニターから目を離すつもりはなかった。しかし振り返る勇気もなかった。
運命共同体の慰みあいに過ぎなかった。それでもうぱ華子のひと言がうぱ太郎の心を救った。
「単に諦めるのが早いだけで別に逞しくなんかないわ。それにチィミコちゃんの村の乗っ取り失敗したと
しても適当な沼でも見つけてそこでミミズとかメダカでも食べて暮らせばいいだけのことよ。難しく
考える必要はないわ。ということでこの話はおしまいね」
「……うん、ありがとう」
 少しだけうぱ太郎に笑みが戻る。
そして気を取り直し、先に進むべくすぐに話を続けた。

137 :

「それで話し変わるんだけど、グレマン様乗っていきなりチィミコちゃんの村に行ったらまたさっき
みたいにオロチオロチって大騒ぎになると思うんだ。だから一旦間をおいて誰かに説明して貰ってから
村に入ったほうがいいと思ってて、それをチィミコちゃんにお願いしようと思ってるんだけど」
「そうね。無意味な衝突は避けたいからそれで行きましょう」
「あと余計な心配かもしれないけどタイムパドラックスとかってあるよね?」
「確か過去を改ざんして矛盾が生じたらどうなるのかって感じのやつね」
「うん。そういうの気にするレベルじゃないほどの大昔だとは思うけど念のため対策は必要かなと」
「何千年単位の昔の時代だしあまり深刻に考える必要はないんじゃないかしら。むやみやたらと未来の
ことを話したり通じない言葉をいちいち無駄に説明したりしなければそれでいいと思うけどね。
ただこのロボットに乗ってるときは極力争いごとに関わらないほうがいいわ。その気はなくても
純粋に人を傷つけることになるから」
「うん、そうだね。気をつける」
 うぱ太郎、うぱ華子とで会話が連なる。
うぱ民子うぱ倫子は話に加わろうともせずぼんやりと視聴覚モニターを眺めている。
「倫ちゃん、民ちゃん聞いてる?」
ひと段落着いたところでうぱ華子はそ知らぬ顔のうぱ民子たちに話を聞いているか確認した。
「聞いてるよー。わたしたちは未来という名前の国から来た旅人で、グレマン様が壊れちゃってここに
不時着して、グレマン様直ったら未来という名前の国に帰るつもりで、難しい言葉はあまり使わないで
余計なことはあまり喋らないようにってことでしょ?」
心外そうなそぶりも見せずうぱ民子はうぱ華子の呼びかけに答えた。
「まぁ大体そんなところね。倫ちゃんは?」
「……大丈夫。……地動説唱えたりはしない」
「……地動説って」
理解を得た言い回しではあるが、意表をつくうぱ倫子の返事にうぱ華子は苦笑いを浮かべる。
そしてコックピットのメンバーに更に理解を促すよう話を続けた。
「文化や文明に関してはノータッチでお願いね。聞かれてもなるべく適当にお茶を濁して。
それと生活習慣は村のルールに従いましょう。あと太郎ちゃん、村の人にも敬語禁止ね。チィミコちゃんの
口ぶりからすればたぶん敬語なんて使ってないわ」
「うん、そうする」
 電柱も高圧線の鉄塔もない山々。道なき道を馬を連れて走る男たち、馬を駆る少女。
視聴覚モニターにはほんの数時間前には考えられなかった異質な太古の光景が映されている。
その一方で現代という時間軸に取り残されたコックピットの中、うぱ華子を中心に対応策がまとまっていく。
「基本方針はこんなとこかしら。あとは村にあたしたちを食おうとする馬鹿がいないことを願うわ」
「うん。……あと、ひとつだけいいかな?」
ナビの時計を見ながらうぱ太郎がうぱ華子に問いかけた。
「何かしら?」
「さっき僕たちの姿晒すって言ってたけど、どのタイミングでコックピットから出る?」
「そうね、村に行ってチィミコちゃんと二人きりの状態で出るのが望ましいからそういう状況を
作り出せるか探りいれてくれないかしら」
「了解。……じゃあこれからチィミコちゃんに声かけてみるよ」
――ちょっと緊張するな。……詐欺師になった気分だ。
 チィミコの村に移動を始めて20分ほど経過していた。
 深呼吸をひとつ。
そして意を決めてうぱ太郎は前を走るチィミコに向けて大きく叫んだ。

138 :

「あのーっ、チィミコちゃん。ちょっといいかな?」
 グレートサラマンダーZを通し山間にうぱ太郎の声が響いた。
どうどうとなだめる声とともに勢いを落としながら2頭の馬が止まる。
呼びかけられたチィミコはすぐに馬から降りる。
「オロチ様、もう話していいのか?」
嬉々とし、チィミコはグレートサラマンダーZの前に駆け寄りしゃがみこんだ。
「えぇ、どうも。……それで、あと村までどのくらいかな?」
相変わらずの顔の近さに苦笑いしながらうぱ太郎は村への距離を聞く。
「もうすぐだ。オロチ様見えるかな、あの山のふもとだ」
そう言ってチィミコは後方の山を指差す。近いとは言えないが途方に暮れるほどの距離でもない。
「あ、うん、わかった。そんな遠くなさそうだね。……それでちょっとお願いがあるんだ」
「何だろう?」
 うぱ華子との会話を頭の中で整理しながらうぱ太郎は話し出す。
「チィミコちゃんの村に呼んでくれたのはすごく嬉しいし助かるんだけど、あの、さっきのことも
あるしいきなり僕が行ったら村の人たち驚いて怖がると思うんだ。それで出来れば誰か先に行って
僕のこと話しておいて貰いたいんだ、怖くないよって。
 それと僕、大山椒魚なんだけどオロチじゃなくてグレマンって名前なんだ。だからこれからは
オロチ様じゃなくてグレマン様って呼んでほしくて」
うぱ太郎の声にチィミコはしゃがんだまま両手で顔を覆い考え込む。そして理解したのか
軽く両手を叩いて答えた。
「わかった。オロチ様でもオーサンショーウオでもなくてグレマン様な。
あとグレマン様のことはテンとツギを先に行かせて村の者に話してもらうよ。それでいいか?」
「うん、それでお願いしたいな」
 うぱ太郎の返事とともにチィミコは立ち上がった。そして振り向きテンとツギに声をかける。
「ということでテン、ツギ。お前たち先に帰ってグレマン様のこと村の衆に話しておいてくれないか?」
「……あぁ。……だけどチィミコちゃん、俺はうまく伝えられないかもしれないぞ?」
チィミコの指示に荷馬の手綱を持ったテンが答えた。
しかし不満や不安があるのか返事は今ひとつ煮え切らない。
「大丈夫。タカオにお米横取りされそうになったところを助けてもらったって言えばみんなわかって
くれるさ。これは間違いのないことだ。それにグレマン様はオロチじゃない。怖くないよ」
屈託のない笑顔でチィミコはテンを諭す。しかしテンとツギの表情はまだ硬いままだった。
「わかった。よし、村までもう少しだ、急ぐぞツギ」
「……あぁ」
特に反論もせずチィミコに背を向け、テンはツギを従えてすぐに発とうとした。
「あのっ!」
「「!?」」
 荷馬とともに駆け出そうとした2人にグレートサラマンダーZから声がかかる。
足を止め、手綱を引いたままゆっくりとテンとツギは振り返った。

139 :

「テン、ツギ。あの、さっきはすいませんでした。僕もみんなと争う気はなかったんだ。でもいきなり
石斧で殴られそうになってつい立ち上がったけど、いつもはおとなしいから怖くないから大丈夫です」
 スムーズに村に受け入れてもらおうとうぱ太郎はテンとツギに怖くないとアピールする。
しかし呼び捨てに慣れてないせいかその口調はぎこちない。
 相容れないものがあるのかうぱ太郎の声にテンとツギは振り返っただけでその場から動こうとはしなかった。
グレートサラマンダーZに呼び止められたテンの口が開く。
「……こっちこそすまなかった。村の衆にはちゃんと話すからどうか村に寄ってくれ。先に行ってる」
照れ隠しなのかテンの口元に少しだけ微笑が浮かぶ。うつむき加減のツギはグレートサラマンダーZと
目を合わせようともしなかった。
そしてうぱ太郎の返事を待つこともなく2人はすぐさま振り返り荷馬とともに駆け出した。
 走り去る馬の後姿を見送りながらうぱ太郎は改めて頭の中を整理し始める。
残されたチィミコは馬を撫でながらグレートサラマンダーZの様子を伺っていた。
「……チィミコちゃん、ちょっといいかな?」
「何だ?」
まるで恋人の声を待っていたかのようにチィミコの表情が明るくなる。
「チィミコちゃんの村に行ったらちょっと大切なこと話さないとダメなんだ。それでチィミコちゃんと
2人きりで話したいんだけどそういうところはあるかな?」
「私1人で住んでるけど、私の家の中でいいか?」
躊躇いもせずチィミコはうぱ太郎の質問に答えた。
「……うん。……ごめん」
あまりにも真っ直ぐな純朴さにあてられ、うぱ太郎は思わず謝罪の言葉を口にする。
「大切なことって何かな。なんかドキドキするな。いま誰もいないけどここじゃ話せないことなのか?」
「……うん。出来れば落ち着いて話したくて」
騙しているつもりはなかった。
しかし罪の意識をあらわすかのようにうぱ太郎の胸の鼓動は早まっていた。
「わかった、話は家に帰ってから聞こう。じゃあ私たちもそろそろ行こうか?」
「……うん」
 よいしょとひと声かけ、しかし苦もせず馬の背にまたがりチィミコは手綱をさばく。
散歩でもするかのようなゆったりとした脚でチィミコの馬が歩み始めた。
――とりあえず第一段階突破……。
 僅かに心苦しさを覚えながらも順調に話が進みうぱ太郎は胸をなでおろした。
そしてアクセルをゆっくりと踏み込み、チィミコの馬の隣を歩いた。

140 :
今日はここまで。

141 :
以上代行です。

142 :

 チィミコの乗る馬。うぱ太郎が操るグレートサラマンダーZ。
西日になりつつある穏やかな光を受けながら、互いの距離に足を踏み入れることもなく
山に囲まれた平地を並んで進んでいく。
「ところでグレマン様の国は何処にあるんだ?」
馬の上からチィミコがグレートサラマンダーZに問いかける。
好奇心か未知なる者への憧憬か、チィミコの瞳は期待の色で溢れかえっている。
早速きたかと思いながら、うぱ太郎はうぱ華子の提案した設定を暗唱し質問に答えた。
「……海の向こうにあるよ」
「えっ、ホントに!?」
 グレートサラマンダーZの返答にチィミコは目を丸くする。
乗り主の意を理解したのか、チィミコを乗せた馬は静かに立ち止まる。
「え? ……う、うん」
驚きの声と突然立ち止まった馬にうぱ太郎は戸惑う。しかし戸惑いを隠せないうちにさらに
チィミコから怒涛の質問が繰り出された。
「凄い凄い凄いっ!!! あーん、グレマン様わかるかな?お日様が昇る海?それともお日様が
沈む海?どっちの海越えて来たの?どっちどっち?どうやって来たの?」
「えっ? ……あ、あの」
思いもよらぬチィミコの反応と早口に捲くし立てられ、うぱ太郎は言葉の意味を見失う。
「お日様の昇る海は太平洋、沈むのは日本海よ!」
動揺するうぱ太郎を見かねてか、すぐに後ろの席でうぱ華子が小声でつぶやいた。
「!?」
――太平洋越えてアメリカは無理。日本海越えて中国なら行けそう。
「……えーと、ここから見たらお日様が沈むほうかな?」
うぱ華子の助言を基にうぱ太郎はどうにかチィミコの質問に答えた。
「凄ーいっ!!!もしかして大陸から来たの?海どうやって渡ったの?泳いで?飛んで?」
うぱ太郎の一言一句にチィミコは激しく興奮する。
だがチィミコの驚きぶりに怯みつつも、うぱ太郎は落ち着きを取り戻しはじめた。
「……泳いだり飛んだりしてたんだけど、嵐に遭っちゃって」
「嵐?」
「……うん。凄い風がいきなり吹いてそれで吹き飛ばされちゃって、気がついたらここにいたんだ」
――大丈夫、設定通り言えている。
「……そうか」
 チィミコの笑顔に少しだけ憂いが滲んだ。
「……確かにそよぐ風はいい風だけど、強い風が吹くといろいろ大変になるからな。私の村でも強い
雨と風で稲が倒れて酷い目に遭うことがあるよ」
「……あの、そういえばさっき北の国のお米がなんとかって言ってたけど?」
チィミコの変化を見逃さずに、うぱ太郎は話題を切り替える。
「ああ、あれな。よそはどうか知らないけど私の村のあたりは前の夏凄く寒くて、いつもの年の
半分ぐらいしかお米が取れなくてな。それでいつも祭り旅に行っている北の国の村々から種になる
お米を少しずつわけてもらったんだ。いまはその帰り道だ。とんだ邪魔者がはいったけど」
うぱ太郎の予想通りチィミコは話に食いついてくる。
暗い話題にもかかわらず、喋り好きなのかチィミコの舌は滑らかに回り続けた。

143 :

「じゃあ、いま食べるお米無いの?」
「いや、ちゃんと数えてるし少ないけどあるよ。でも前はお米に木の実が混じってるって
感じだったけど、今は木の実にお米がちょっと混じってるって感じであまり美味しくないんだ。
種になるお米もあるんだけど育ちが悪かった稲の種だし、またお米が取れないとそれこそ大変な
ことになるから仲良くしてもらってる村から種わけてもらったんだ。それに北の国のお米だから
少しは寒さにも強いかなって思ってな」
「……大変だね」
馬の上で諦めたかのように笑うチィミコに、うぱ太郎は同情の声をかける。
「しょうがないよ。どんなに祈ったってお日様には逆らえないし……。
でも、もう春だしこれからいっぱい食べ物とれるようになるからお米の残りが少なくても何とかなるさ。
大丈夫だよ、そんな困ってはないから」
――逞しいというか楽観的というかポジティブというか……。なんか考え方が華ちゃんに似てる。
 さして悲壮感も見せずさばさばと語るチィミコを見て、うぱ太郎は後席のうぱ華子を気にかける。
「あ、グレマン様は何食べるんだ? なんかいっぱい食べそうだな」
言葉の止まったグレートサラマンダーZに今度はチィミコが問いかけた。
「……えーと、僕は何も食べなくていいんだ」
一瞬考えた後、うぱ太郎はそう答える。
「ん……? 何も食べなくていいって何も食べないのか?お腹すかないのか?」
「……うん。ちょっと分りにくいからチィミコちゃんの家に行ってから話すよ。さっき言った大切な
ことでもあるし」
頭の中に準備していた返事でうぱ太郎はチィミコの質問をうやむやにする。
「……そうか、わかった」
曖昧な返事を問い詰めることもなく、チィミコは小さくうなずいた。
そしてすでに友達同士であるかのようにグレートサラマンダーZを顎で促し、軽く手綱を振った。
「でも驚いたなぁ。人のほかにも人の言葉喋る奴がいるなんてびっくりだ。グレマン様の国じゃ
人の言葉喋る生き物いっぱいいるのか?」
再び歩み始めた馬の上で楽しそうに笑みを浮かべチィミコが尋ねる。
うぱ太郎もグレートサラマンダーZを動かしながら答える。
「いや、ほとんどいないよ。人の言葉を喋れるのは限られてるから」
「やっぱりそうか。あ、もしかしてグレマン様ウマの喋ってることわかる?」
「いや、僕も馬とは喋れない」
「そうか、神様っていうかどっかの主ぽいからわかるかなって思ったけど、やっぱり無理か」
「……チィミコちゃん、馬のこと知らなかったみたいだけどこの馬はどうしたの?」
チィミコを取り込む。
うぱ華子の言葉は確かに頭にあった。しかし特にそれを意識することもなくうぱ太郎は自然に
チィミコとの会話を進めていた。
「祭り旅の途中で見つけたんだ」
「さっきも言ってたけど祭り旅ってなに?」
「私の村の巫女は夏に北の国の村をまわって踊りを舞うのが慣わしでさ、それを祭り旅って言ってる。
このウマは前の前の夏だけど北の国に向かう砂浜でぐったりしてるところを見つけたんだ。
それで水やったり草やったり世話したらその後私たちについて来てな。それで可愛いから北の国一緒に
まわって村に連れて帰ってきたんだ。
6匹倒れてたんだけどそのうち2匹は助けてやることが出来なかった。かわいそうなことしたなって
思うけど残った4匹はなついてくれたから、たぶん私たちのことを許してくれてると思う。
祭り旅はひたすら歩くことになるから凄くきつかったんだ。でも今はウマが私たちを運んでくれるから
歩くのも半分になって楽になったし北の国に着くのも早くなった。ちゃんと水と食べ物と休みやってれば
ウマは何も言わないで動いてくれるんだ。もうウマのいない暮らしには戻れないよ」
そう言ってチィミコはぽんぽんと馬の肩口を叩く。
チィミコの話が分っているかのように、馬はぶるると小さく鼻息を鳴らし応えた。

144 :

――野生の馬って簡単に人になつくのか? それとも、もともと人に飼われてた馬だったのかな?
「グレマン様、ちょっとだけ急いでいいか?」
「あ、うん」
会話が途切れた後チィミコは空を仰ぎ、あたりをぐるりと見渡した。
「すまない。今の速さでも暗くなる前に着くけど村の衆やテンとツギを待たせるのは悪いから」
「チィミコちゃんに任せるよ。僕はついていくだけだし」
ありのままにうぱ太郎は答えた。その返事にチィミコの手が動く。
ゆったりとした歩調から一転、軽快に馬の脚が回り始めた。
 淡い色合いの空、眩しさを失った太陽。
チィミコの言葉と視聴覚モニターの映像から午後4時頃と見当をつけナビの時計を合わせた。
そして馬に遅れないように、うぱ太郎は少しだけ強くアクセルを踏み込んだ。

――凄いとこ来ちゃったな……。
 薄暗い森を走り、小さな峠を越えた。
そこで突如眼下に広がった光景に、うぱ太郎は軽い眩暈を覚えた。
 奥深い山間の村。
案内がなければ間違いなく素通りするだろうと思われる山道を抜けた場所にその村はあった。
 きのこのかさのような屋根をもつ住居と思われしきものと、高床式の建物が連なり、
神社の鳥居のような、不思議な形で組み合わされた背の高い柱が数箇所に立っている。
そして田畑と思われる平地が山の隙間を縫うように奥へ奥へと続いている。
「おっ、やってるやってる」 
見晴らしのいい高台の上、チィミコは両手をぶんぶんと大きく振り始めた。
広場らしき場所に多数の人が集まっている。その者たちを相手にしているのか、馬を連れたテンと
ツギと思われる人影が集団と少し距離を取って立っている。
「グレマン様。すぐに私の家にいってもいいし、村人を見たいならあそこにいってもいい。
どうしようか?」
傍らのグレートサラマンダーZにそう話しかけチィミコは群衆を指差した。
「うん、村の人に声かけておきたいな。そのあとでチィミコちゃんの家にいきたいと思う」
第一印象は大切だからと、うぱ太郎はうぱ華子に相談せずに即答する。
同じ考えだったのかうぱ華子も後ろの席でその判断に小さく頷いた。
「わかった。じゃあ私の後ろに付いてきてくれ。私がちょっとグレマン様のこと話すからそのあと
なんか喋ってもらえるかな。みんなびっくりするぞ。えへへ、どんな顔するか楽しみだ」
いたずらっ子のように無邪気な笑みでチィミコは馬を繰り出した。
そして、馬の上でただいまーと大きな声で叫びながら右手を振り続けた。

145 :

「もう笑っちゃうくらい凄いとこだね」
チィミコが先に行ったことを確かめ、うぱ太郎は振り返りうぱ華子たちの反応を見る。
「風情があっていいんじゃない? スローライフとかロハスな生活を満喫できるわよ」
「……そういう問題じゃない気がする」
あまりにも想像とかけ離れた世界だったのか、うぱ華子の返事に珍しくうぱ倫子が口を挟んだ。
「倫ちゃんはいままで不健康な生活だったからここで静養すればいいよ。わたしはそうだな、
とりあえず冒険する!」
――なんていうか……
 呑気だね。と出掛かった声をうぱ太郎は飲み込んだ。
脱力しそうなうぱ民子の提案。しかしそんなうぱ民子の声に何度か助けられたのも事実だった。
途方に暮れる時期は過ぎた。あとはこれからどうするか。と胸に秘め、話を進める。
「えっと、とりあえず村の人の前で手短に挨拶するんで、何か思うことがあったら教えてくれないかな」
「任せるわ。なんだかんだで太郎ちゃん対応できてるから問題ないでしょ」
「はーい、リーダーにお任せしまーす」
「…………」
三者三様の答えが返ってくる。
「……うん。じゃあ、行きます」
視聴覚モニターを見つめ距離を確認する。そしてハンドルを握り直しうぱ太郎はチィミコの馬を追った。

「ただいまー。いやー疲れた疲れた」
「チィミコちゃん、また変なの拾ったきたの?」
 4、50人ほど集まった村人の前でチィミコは馬から降りた。
馬の世話係なのかテンが駆け寄り、チィミコから手綱を受け取る。
 幼児から青年壮年、年寄りまで。
男女問わず集まった村人の服装はいずれも薄汚れた白い布が基本だった。季節に合わせた重ね着や毛皮、
中には藁で編み込んだマントのようなもので身を包んだ者もいる。
 チィミコに話しかけたのは5、6歳と思われる幼い少女だった。
少女の声にチィミコは苦笑いを浮かべながらも、しかしすぐに鼻高々に話し始めた。
「変なの言うな。聞いてびっくり見てびっくり。オオシカも凄かったけど今度はもっと凄いぞ!」
そしてくるりと振り返る。
 得体の知れない何か。
近づくにつれ、住民のどよめきが強くなる。しかし構わずチィミコはグレートサラマンダーZを
手招きする。
「聞いたと思うけど、さっきタカオたちといざこざがあってそのとき助けてもらったんだ。
それでそのお礼もかねてうちの村にしばらく居てもらおうと思ってる。
名前はグレマン様。みんなもそう呼んでくれ。怖そうに見えるけど実は全然怖くなくて優しいから
心配しなくていいよ。それではグレマン様どうぞー!」
「おおー!?」
 高まるどよめき。
その中をうぱ太郎はゆっくりとグレートサラマンダーZを前進させ、チィミコの隣に構えた。

146 :

 自慢の友達でも紹介するようにチィミコは得意げな顔で村人達を見渡した。
歓迎の拍手なんて期待はしていない、ほんの少しでいいから受け入れてもらえれば。とうぱ太郎は
願いを込め、ゆっくりと口を開いた。
「あの、こんにちは。僕、グレマンって言います。どうぞよろしく」
 人とはかけ離れた何かが言葉を口にした。
一瞬の沈黙のあと、集まった村人からより一掃のどよめきが沸き起こる。
「喋った。本当に喋った……」
「こんにちは」
「嘘だろ……」
「でっかいなぁ……」
 未知なるものとの対峙。
確かに極端に怯える者はいない。しかし歓迎の笑みを浮かべる者もほとんどいなかった。
僅かに聞こえた好意的な声は恐れを知らない子供たちだけである。
――ちょっと甘かったか……
 奇異なものを指差すような視線とひそひそ話が横行する。
事前に説明されていた筈だが、予想を上回ったのか村人のざわめきが止む気配はない。
コックピットの中で、この場をどう乗り越えようかとうぱ太郎は考える。
「チィミコちゃん、グレマン様っていっしょに遊んでくれるの?」
「ごめん。実はまだそこまで仲良くないんだ。だからこれからグレマン様と話しして聞いてみる。
でも今日はもう遅いからどっちにしろだめだよ」
コックピットでうぱ太郎が思案する最中、少女がチィミコに近寄り話しかけた。
グレートサラマンダーZの挨拶にこんにちはと返した唯一の者である。
――前に似たことがあったな。……その子ちゃん。嬉しかったからまだ覚えてる。
「チィミコ」
 うぱ太郎が明日にでも一緒に遊ぼうかと言おうとした寸前、男の声が広場に響いた。
けして大声でがなりたてた訳でもない。しかしその一声で広場のざわめきは瞬く間に消え去った。
 少し腰の曲がった老齢な男が、杖を片手に群集を割りチィミコの前に立つ。
そしてグレートサラマンダーZを見下ろしたあと難ありげな表情で口を開いた。
「……おまえ、本当にその者を村に置くつもりなのか?」
 男の声に、一瞬、眉間にしわがよる。
だが、すぐに笑顔を作りチィミコはさらりと男に言いのけた。
「ああ。グレマン様は恩のある人だし、それにちょっと困ってるみたいだからしばらく村に
居てもらうつもりでいる。明日の祭りも一緒に出てもらうつもりだ」
「テンとツギにそのグレマン様は強い風を起こしたと聞いた。その者は村に災いをもたらす
のではないか?」
返事を良しとせず、男は厳しい表情でチィミコに問い続ける。
しかし、何の問題も無いようにチィミコはひょうひょうと答えた。
「大丈夫だよ村長。グレマン様が風を起こしたのは私が怒らせるようなことを聞いたからで
グレマン様のせいじゃない。私が悪いんだ」
「怒らせるようなこと?」
そう言ったチィミコに、眉をひそめ村長は聞き返す。

147 :

「ああ。グレマン様の前で申し訳ないけど、さすがに人喰いを連れて帰る訳にはいかないから
聞いたんだ、人を喰うのかって。そしたら本気で怒られた。凄いよ、びりびりきた。
でもそれでグレマン様は嘘をついてないって分ったんだ。悪い奴ならそこで嘘ついて入り
込もうとする。でもグレマン様にそれはない。正直な人だよ。だから心配しなくていい」
 テンとツギを含め村人たちは村長とチィミコのやり取りを固唾を呑んで見守っていた。
その中で険しい表情の村長に動じることなく、チィミコは己の主張を言いきった。

―― …………。
 罪悪感のあらわれか、うぱ太郎は視聴覚モニターに映るチィミコを直視できず下を向く。
「……どうやらお飾りの巫女って訳でもなさそうね」
小さな舌打ちのあと、誰に聞かせるわけでもなくうぱ華子は小声でつぶやく。

「……しかしだな」
グレートサラマンダーZの前、それでもチィミコの返事に村長は不安を隠そうとしなかった。
「いや、村長は心配しすぎだよ。オオシカの時もそうだったけど、そうやって新しいことを
受け入れようとしないのはもったいないよ。大丈夫、私に任せてくれ。グレマン様が来たせいで
村に災いが起こるなんてことはないから」
 村長とチィミコの視線がぶつかる。
見守る村人に、その間に割って入れる者はいない。チィミコに素直だが頑固なところがあるのは
村の誰もが知っている事実だった。
 我慢比べの沈黙の後、村長の口から大きくため息が漏れる。
「……いつもいつもしょうがない奴だな。わかった、チィミコに任せよう。その代わり少しでも
怪しいことが起きたらグレマン様には悪いがすぐに出て行ってもらうぞ」
「うん、ありがとう」
 硬い表情が解け、チィミコはにっこりと微笑む。
笑顔に誤魔化されているのは承知しているかのように村長もしぶしぶと苦笑いを浮かべる。
「あの、お世話になります。どうぞよろしく」
2人の会話が終わるやいなや、うぱ太郎は間髪いれず少し見上げる姿勢で村長に話しかけた。
ばつの悪そうな顔をしながらも、村長は言葉を貰ったグレートサラマンダーZに答えた。
「……グレマン様といったか。テンとツギから話は聞いたが、タカオのことはすまなかった。
いまはよその村に住むがもともとはこの村の生まれでな。村分れで新しい村に行ったが
あいつのことはよく知っておる。しかしいくらなんでもいきなり斧を向けたのは許されないことだ。
今度あったらわしも一言言っておこう。
この村にはタカオのようにいきなり暴れたりする者はいない。どうぞゆっくり休んでいってくれ」
「どうもありがとう。あの僕も余程のことがないかぎり暴れたりしないので、あまり
心配しないでいいですから」
――ちょっと胸が痛いけど、ここまでくれば……
 深く息を吐き、うぱ太郎は視聴覚モニターを見つめ直した。
不意に突付かれて後ろを振り返ると、うぱ華子が無言で親指を立てていた。

148 :

「よし、話は決まりだ。村長ありがとう!」
 話を打ち切るようにチィミコは大袈裟に声を張り上げた。
そしてまだざわつきの残る広場の中、隣に村長とグレートサラマンダーZを置いたまま、続けて
村人たちに向けて話し始めた。
「まずみんなにひとつ謝らないといけないんだ。グレマン様から聞いたんだけど、オオシカだけど
本当はウマって言うらしいんだ。でももうみんなオオシカって呼び慣れてるからそれでいいと思う。
ただ、本当はウマって言うことはちゃんと憶えててほしいんだ。ごめん、私が間違ったこと教え
ちゃったせいだけどそのほうがオオシカも喜ぶと思うから」
「ウ……マ?」
「変な名前」
チィミコの発表に先程までとは違った和やかなざわめきがおこった。
振られた話を種に大人たちは笑顔で談笑し、子供たちは声を揃えてはやしたて始めた。
 場の雰囲気が変わりチィミコは満足そうに頷く。
「グレマン様は私たちの知らないこといっぱい知ってるんだ。だから私はしばらくグレマン様と
一緒にいて話を聞きたいと思っている。なので今日は私とグレマン様2人きりにしてもらいたい。
それと明日の祭りはいつも通りやるから男衆も女衆もお備えをよろしく頼む。お米が少ないから
焼き米は食べられないけど、お神酒はいっぱい作って寝かせてある。ちょっと薄めたけどね。
だから楽しくやれるはずだ。
もうすぐ田植えも始まるから元気に乗り切れるようにみんなで一緒に祈ろう!」
「おおー!」
チィミコの声に、一斉に歓声が沸きあがった。
「チィミコちゃんたち間に合ってよかった」
「やっぱり祭りがねえと田植えは始まらないからな」
「飲みすぎんなよ」
「お米の代わりに豆か栗でも焼こうかしら」
「うーん俺の家の藁、濡れてて燃えないかもしれん」
グレートサラマンダーZの存在も忘れ、集まった村人たちはおもいおもいに話し始めた。
村長とチィミコはその光景を穏やかな表情で眺めていた。そして思い出したようにチィミコは
手綱を引いたテンとツギに声をかけた。
「テン、ツギ。私はこれからグレマン様と話をするから、悪いけどオオシカから荷物降ろして
休ませてやってくれないか。それと北のお米は蔵に入れておいてくれ。明日の祭りの時にうちの
お米と一緒に祓うから。
それが終わったらゆっくり休んでくれ。もしお神酒ほしいならやるぞ。私たちがんばったからな、
前祝だ、罰も当たるまい」
 チィミコの声にテンは一仕事を終えた安堵の表情を見せた。
一方のツギは充実感よりも疲労感を色濃く匂わせていた。
「ああ、わかった。俺はお神酒はいい。久々の家だ、みんなとゆっくり過ごすさ。ツギはどうだ?」
「俺もいいな。それよりいまはすぐにでも横になりたいよ」
2人の返事にチィミコは少しだけ残念そうな顔をする。
「……そうだな、雪道はつらかったもんな。テン、ツギ、オオシカのおかげだよ、ありがとう。
最後に仕事言いつけて悪いけどあとちょっと頼む」
「ああ、大丈夫だ。なんてことはない」
「テン、さっさとやっつけてしまおうぜ」
「ああ」
そう言って男2人は小さく手を振り、馬を連れチィミコに背をむけた。

149 :

「……そいつがグレマン様かい? ずいぶんおっかなそうだな」
テンとツギが去った後、入れ替わり鹿の毛皮を纏った男がチィミコに声をかけてきた。
「あっ、火起こし。ただいま」
チィミコとさほど背丈はかわらない。だが、ぶ厚い胸板に丸太のような太い腕とただならぬ
体躯を持つ男だった。怖そうと言った割にはまたっく物怖じしている気配はなく、温厚そうな
丸顔ながらも、どこか攻撃的な雰囲気を漂わせていた。
グレートサラマンダーZをちらりと見て、男はチィミコに用件を伝えた。
「チィミコ。家の前に火皿置いてあるからな。炭多くしたからしばらく明るいと思うぜ」
「おおっ、ありがとう。あとお神酒のほうはどうだ?ちゃんと仕上がったか?」
火起こしの声にチィミコの表情がぱっと華やぐ。
そんなチィミコを見て火起こしはにやりと笑う。
「ああ。まぁ前の巫女様に比べればまだまだだがチィミコの割には美味く仕上がってたぜ。
毎日味見して気持ちよく酔えたからな、上出来だ」
「……お前毎日酔っ払うまで味見してたのか?」
驚いた顔でチィミコは火起こしに聞き返した。さもありんと火起こしは堂々と答える。
「あたりまえだ。任されたんだからな、きっちり仕事はしたぜ。ちょっと飲みすぎたかもしれんが」
「……おまえは本当にがっつり飲むからな。まぁしょうがないか、他に任せられる人もいないし」
「はは、大丈夫だぜ、祭りの分はちゃんと残してある。まぁ俺もちょっと水で薄めたが」
そう言って火起こしは笑う。最後の一言にがっくりと肩を落とし、チィミコは深くため息をつく。
「ところで、グレマン様はだいぶ強そうだな。タカオの斧当たらなかったって聞いたけど本当か?」
火起こしの話が切り替わった。話題をふられるかもしれないとコックピットの中で
うぱ太郎はごくりとつばを飲み、2人の会話に集中する。
「ああ、本当だ。……火起こし。お前も変なちょっかい出すなよ」
何か思うところがあるのかチィミコは表情に少しだけ不安の色を滲ませていた。
「俺をタカオと一緒にするなよ、そんなことするか」
「あの、グレマンって言います。どうぞよろしく」
チィミコの隣から機嫌を伺うように、うぱ太郎は火起こしに話しかけた。
「おお、本当に喋れるんだな。こいつは凄い。俺は火起こしだ。そのまんま火を起こすのが
俺の仕事でだから火起こし。簡単だろ? あと前は村の守人(もりびと)もやっていた」
難しいそぶりも見せず、火起こしは普通の人同様にグレートサラマンダーZに接してきた。
 マッチもライターも無い時代、火起こしの名前の由来は理解できた。そのまま話の弾みで
うぱ太郎は守人の意味合いについて尋ねてみる。
「あの、守人って」
「あ、グレマン様。あとで私が教えるよ」
会話にチィミコが割ってはいる。
話を遮られたことを別段気にもせず、火起こしはグレートサラマンダーZに話しかける。
「グレマン様、明日祭り出るんだろ? 俺と力比べしようぜ」
そう言って火起こしは己の力を誇示するように右腕を曲げ力こぶを作った。
「火起こし。お前ほんと力比べ好きだな。でもグレマン様とは無しだ。大事なお客様だからな」
笑みを浮かべたまま、チィミコは火起こしを軽く睨めつけた。
「そうか、それは残念だな。グレマン様、気が向いたらでいいんでいつかやろうぜ。この村で俺が
負けるわけにはいかないからな」
「……はいはい。力自慢はいいから行った行った」
邪魔者を払いのけるような仕草でチィミコは手を振る。
「はいはい、わかったよ。じゃあグレマン様、明日な」
チィミコの邪険な扱いにも慣れているのか火起こしは陽気に、しかしどこか挑戦的な口調でグレート
サラマンダーZに話しかけ去っていった。
「まったく、そんなに力自慢したいのかね男は……」
火起こしの後ろ姿を呆れ顔で眺めながらチィミコは呟く。

150 :

――ガラが悪いって訳じゃないけど、明らかに挑発されてる……
「……えーと、力比べってどうやるんだろう?」
火起こしを見送りながら、うぱ太郎は力比べの方法をチィミコに聞く。
「綱引きだよ。祭りのとき男たちはそれで遊ぶんだ。お神酒飲んで酔っ払ってからやるから
滅茶苦茶でな。まぁほとんど笑って終わりなんだけど、たまにもめることがあるんだ。
村で一番強いのが火起こしでな。ツギがその次に強い。あとは似たりよったり。
 守人というのは村を守る者のことなんだ。滅多にないことだけど、たまによそ者が村に
入り込むことがある。そのときは頭になって村を守る。それが守人の仕事だ。いまはテンが
守人の長(おさ)なんだけどその前は火起こしが長だったんだ。いまでも争いごとは自分が
一番強いって思ってるよ。そういう気持ちがないと勤まらない仕事だったから……」
しんみりとチィミコは語る。どことなく寂しさを思わせる遠い目をしていた。
「相手になるか分らないけどやってみてもいいかな。村の人と仲良くしたいし」
 あまり思い出したくないことだが、うぱ太郎は警察と一戦交えた時を頭に浮かべていた。
立ち上がったグレートサラマンダーZにロープが巻かれ、動けなくされそうになった。
しかしパワーにものを言わせ力技で振り切った。
相手がどんなに力がありそうでも一対一ならたぶん負けないと心の中で思い浮かべる。
「グレマン様は優しいっていうか、いい人だな」
言葉の止まったグレートサラマンダーZをまじまじと見つめながらチィミコが答えた。
「え……? まぁ、その、……嫌われたくないから」
コックピットの中でうぱ太郎の心が揺るぐ。
「あはは、グレマン様は本当に正直だな。知らない場所で知らない人と仲良くするのって
意外と大変だし疲れるよな、私もそうだ。だから無理しなくてもいいよ、気が向いたらでいい」
―― ……チィミコちゃんの方がよっぽど優しいよ。
 チィミコの笑顔が眩しくてうぱ太郎は返事が出来なかった。
嫌われたくない、仲良くしたい。確かにそう思っている。しかしそれは純粋なものではない。
「……うん。……じゃあその時にどうするか決めるよ」
間をおいたあと、歯切れの悪い返事がグレートサラマンダーZからなされた。
気にも留めずチィミコは答える。
「ああ、それでいいよ。……じゃあそろそろ私の家に行こうか」
「……うん」
うぱ太郎の声にチィミコはあっちだと家の方向を指差し歩き始めた。
半歩遅れてチィミコの背中を追うようにうぱ太郎はゆっくりとアクセルに力を入れた。
「……太郎ちゃん、先手必勝よ。彼女の家に入ったらすぐにここから降りてあたしたちの
姿を見せるわよ」
チィミコの後ろを歩き始めた矢先、うぱ華子が小声でうぱ太郎に話しかける。
だが、うぱ太郎は振り返らず無言で頷くだけだった。
「……チィミコちゃんっていい人だね」
「……うん」
うぱ華子にならってうぱ民子とうぱ倫子も小声で会話を交わし始める。
しかしその時間も僅かなものだった。5分と歩かないうちに地面からかやぶき屋根が生えている
ような家の前でチィミコは立ち止まった。

151 :

「ここが私の家だ。いま家に火入れるからグレマン様ちょっと待っててな」
――竪穴式住宅……?
 遠目で見て理解はしたつもりだった。
だが実物を目の前にして、その異様さとある種の迫力にうぱ太郎は困惑を隠せなかった。
 7、8メーター四方の葦やススキの束で造られた小山のような、屋根だけで窓はおろか
壁といえる部位も見あたらない家だった。
少し離れた場所には木造の壁を持ち、宙に浮いたような高床式の建物が並んでいる。
「……太郎ちゃん、さっきも言ったけど家に入ったらすぐにグレマン様から降りるわよ」
チィミコが家に入った隙を見て、うぱ華子はうぱ太郎に話しかける。
「……うん。わかってる。……大事な話しって事で降りたら改めて自己紹介するよ」
上の空でぼんやりとうぱ太郎は答える。
「太郎ちゃんは人と一緒に暮らしたことは無いわよね?」
もやもやしているうぱ太郎に、小声ながらもいつになく険しい声でうぱ華子は確認する。
「……うん」
「あたしたちを見てチィミコちゃんは間違いなく笑うわ。でもキレたりしちゃ駄目よ。
それとこのロボット越しだと感じないかもしれないけど、人はあたしたちより遥かに大きいわ。
むこうに悪気が無くてもちょっとしたことで致命傷になる程のダメージ受けることも起こりえる。
だからきちんと距離をとってやたらと触られることがないようにしなさいよ」
「……了解」
 気がつけば西の空に太陽の姿はなく、東の空は夜の始まりを告げていた。
コックピットでうぱ華子が口やかましくうぱ太郎に話している最中、チィミコは大好きな友人でも
迎えるような笑顔で家の前に置かれた炭の乗った大きめな皿3枚を家の中に運び入れていた。
そしてしばらく後、招き入れる準備が整ったのか入り口から離れた場所で待機していた
グレートサラマンダーZに叫びかけた。
「グレマン様、どうぞ入ってくれ」
「……うん、じゃあお邪魔します」
 すぐには向かわず、うぱ太郎は振り返り小声でうぱ華子たちに話しかけた。
「じゃあ、これから行くんでみんなよろしく」
「つかみがOKならあとは貰ったようなものよ。あんまり緊張しないようにしなさいよ」
「ヤバイ、わたしがドキドキしてきた」
「……民ちゃんはあんまり関係ないと思う」
「ひどいなー。わたしだって当事者のひとりじゃん」
 相変わらずのうぱ民子とうぱ倫子は無視し、うぱ太郎は姿勢を戻し視聴覚モニターを見た。
チィミコがドア代わりの藁で編まれたすだれのようなものを手で押さえ、笑顔で待っている。
――疲れたな……。でもここでしくじれば元も子もないから慎重に。
 チィミコの脇、家の中を覗き込む。
暗くてよくわからないが極端な段差は無く、入り口の横幅も含め、中に入るのに苦労はなさそうだった。
 ため息混じりの深呼吸をひとつ。
そしてうぱ太郎は何も言わずじわりとアクセルを踏み込んだ。

152 :
今日はここまで。
規制のせいもあるが、久しぶりにそれこそ一年ぶりに他所へ投下したらそれで満足
してしまい、すっかりここが停滞してしまった。

153 :


154 :
うーむ乙。とりあえず一安心、というには早いか

155 :
http://loda.jp/mitemite/?id=2216.jpg

156 :
ウラトさんなにしてんすかw

157 :
なんかかわいいと思ってしまったww

158 :
http://loda.jp/mitemite/?id=2360.png

159 :
ウパまでw

160 :

――ちょっと暗いな……。
 入り口対面。かまどや暖炉と呼ぶには少し大雑把な作りの炉の中で薪が燃されていた。
火皿と呼ばれた皿の上でも赤く焼けた炭と木片が控えめ灯りを揺らめかせている。
 視聴覚モニターの補正機能が働き、屋内の様子が明らかになってくる。
部屋の中央と四隅に太い柱。縄で縛り組み上げられたはりと垂木。
かまど付近を除き壁や床は藁で覆われ、単純な作りの棚には土器と思われる雑貨物が整然と並んでいる。
室内は楕円状で12、3畳ほどの広さがある。しかし低い屋根のせいで壁際の天井には余裕がなく、
キャンプテントの中にいるような狭苦しさをうぱ太郎は覚えた。
「グレマン様は火、大丈夫か?」
少し居心地の悪そうなグレートサラマンダーZにチィミコは笑顔で尋ねる。
「あ……うん、大丈夫」
「じゃあこの上で休んでくれ。長さ全然足りないけど」
そう言ってチィミコはかまどの前で広げられた毛皮の敷物をぱんぱんとはたいた。
「……うん。ありがとう」
全長3メートル強のグレートサラマンダーZ。迂闊に動かせば酷いことになるのは目に見えていた。
しっぽに細心の注意を払い、うぱ太郎はそっとアクセルを踏み込む。
「グレマン様はホントに食べるものいらないのか?」
かまどの前で落ち着いたグレートサラマンダーZに問いかけながらもチィミコの視線は、床に並んだ
いくつかの器を追っていた。
「うん。大丈夫」
チィミコの素振りなど気にもせずうぱ太郎は即答する。
グレートサラマンダーZの返事に、チィミコは少し困ったように小さく笑う。
「……えーと、私お腹すいちゃってさ。それで私のぶん火起こしが気を利かせてここにあるんだけど、
私、食べてもいいかな?」
 もう外はとっくに日が暮れている。
だが、コックピットから降りることで頭の中がいっぱいなうぱ太郎には、チィミコの食事のことを
気にする余裕などどこにも無かった。
「チィミコちゃん。その前にちょっと大事なこと話していいかな?」
「……えーと、食べる用意だけはしていいか? 火にかけるだけだからすぐ終わる」
家主と言う立場も忘れたかのように、チィミコは遠慮がちにグレートサラマンダーZに聞き返す。
―― ……落ち着け、はやるな。……先手必勝だけど焦っちゃ駄目だ。
「……ごめん、どうぞ。……僕、気がきかなくて」
小声のチィミコにうぱ太郎は思わず心の中で猛省する。
グレートサラマンダーZの返事を受け、チィミコは土鍋を火にかけ串の入った魚を炙るように炭のそばに置いた。
言葉通り手短に準備を終わらせ、改めてグレートサラマンダーZの正面に座り直す。
「これでよしと。グレマン様、私はもういいぞ」
「あ。ありがとう。……じゃあ、ちょっとややこしいけどこれから大事なこと話します」
――なるべく分りやすいように……。
 心の中で何度もつぶやく。
手持ちの限られた設定の中、理論整然と上手に説明できるとは思っていない。
しかしいまだ釈然としない世界でも、自分の役割を務めようとうぱ太郎は必死に言葉を探した。
そしてモニターに映る少女に向けて、うぱ太郎はゆっくりと話し始めた。

161 :

「……チィミコちゃんは遠くに出かけるとき、たぶん馬に乗って行くよね?」
「ああ、そうだな。遠くに出るときはほとんどウマに乗って行くな」
 グレートサラマンダーZの質問に、火の具合を見ながらチィミコは明朗に答える。
返事を確認し少し頼りない灯りの中、うぱ太郎は淡々と話しを続けた。
「チィミコちゃんがあっちに行きたいと思って馬に合図すれば馬はチィミコちゃんの思ったほうに
動いてくれるよね?」
「ああ。でもそうなるまでだいぶ苦労したけどな。嫌がって落とされたときは死ぬかと思った」
しかしそれもいい思い出なのか、チィミコは目を細め笑う。
「だけど馬に乗ってどっかに行ってもチィミコちゃんはチィミコちゃんで馬は馬だよね?」
「……ああ。ウマはウマだし私は私だ。……それでいいのか?」
当たり前のことをいかにもらしく問うグレートサラマンダーZを、チィミコは僅かに首をかしげ
少し訝しげに見つめ返した。
「うん。馬は馬だしチィミコちゃんはチィミコちゃんだよね。それでちょっとややこしくなるんで
今まで黙ってたけど、チィミコちゃんが馬に乗るように僕もグレマン様に乗ってるんだ。
いまチィミコちゃんの前にいるグレマン様はグレマン様なんだけど、いまチィミコちゃんと話しを
しているのはグレマン様じゃなくて、グレマン様に乗っている中の人なんだ。グレマン様は自分では
全然喋らなくて代わりに僕が喋ってるんだ」
――ちょっと唐突だったかも……。
「グレマン様に……乗ってる……?」
 チィミコの顔つきが明らかに変わった。
理解を得ているかは分らない。だが、うぱ太郎はそのまま話を続けることしかできなかった。
「うん。チィミコちゃんは馬に乗ってあちこち行ったり、旅に出て遠くまで行ったりする。
それと同じように、僕、うぱ太郎って名前だけど、僕もグレマン様に乗って旅をしてるんだ」
「……うぱたろう?」
「うん。それが僕の名前なんだ。チィミコちゃんが馬に乗るように、僕、うぱ太郎も
グレマン様に乗ってるんだ。あと僕のほかにも3人グレマン様に乗ってるんだ」
「わからないな。……グレマン様に乗ってるって?」
 笑顔はすでに消えていた。
 困惑。
チィミコの表情が疑念が混じる。
「うん、ごめん。僕が降りないとよく分らないと思う。だからこれからグレマン様から降りるよ」
「……降りる?」
「うん。……ごめん、いまグレマン様の口開けるからちょっと離れてくれるかな。これから降りるから」
「…………」
 理解不能、意味不明。
そう言いたげなチィミコが視聴覚モニターに映っていた。
――話しがきちんと着地できなかったけどしょうがない。あとは野となれ山となれ!
 コックピットの中、うぱ太郎は振り返り目配せする。
うぱ華子、うぱ民子、うぱ倫子それぞれが無言でうなずく。
モニターでチィミコの位置を確認する。近すぎず遠すぎず程々の場所であぐらをかいて座っている。
 おもむろにうぱ太郎はグレートサラマンダーZの口開閉スイッチを押した。
 目の前の怪物が大きく口を開いた。
その姿は一度見た。それでもその禍々しさにチィミコは大きく後ろにのけぞった。

162 :

――大丈夫、なんとかなる!
 胸の奥で、強く自分を奮い立たせる。
そしてうぱ華子たちを確認しうぱ太郎は勢いに任せ、半ばやけ気味にグレートサラマンダーZの
コックピットから降りた。ぞろぞろとよたよたと、うぱ華子たちが小亀の行列のように続く。
「?????」
 足の生えたナマズ。
それが想像の限界だった。
だが、1匹を除きあまりにも華やかでありえない奇異な体色が自ら引き出した答えを否定する。
 怪物の口の中から突如現れた小さな、そして珍妙な客。
謎の笑顔を浮かべるその4匹を、ただぽかんと口を開け眺めることしかチィミコには出来なかった。
――思ったより大きいな……
 あぐらをかいたまま瞬きもせず愕然とするチィミコを見上げる。
 15歳の少女。
しかしその姿は、人間と共に暮らしたことのないうぱ太郎を圧倒させるには充分だった。
 いつのまにかうぱ華子たちはうぱ太郎の隣に並び、ピンク、黄色、白とグレートサラマンダーZの前で
隊列を組んでいる。
「こんにちはっ!」
「……こんにちは」
「――!?」
 なんの前触れも無くうぱ民子から威勢のいい挨拶が飛び出した。うぱ倫子もそれに続く。
しかし突然の女声にチィミコはびくりと体を震わせ座ったまま口をぱくぱくとさせるだけだった。
「……あの、……こんにちは。僕、うぱ太郎っていいます」
うぱ民子たちに遅れをとりながらも自己紹介の一声を発した。
 視聴覚モニター越しに何度も人と話し、渡り合い、やりあってきた。
だがグレートサラマンダーZという鎧を外したうぱ太郎のその声は、か弱く力ないものだった。
 凛とした太い眉。印象的な黒い瞳。桃色の少し大きめな唇。
しかし一向に驚き顔のままで、チィミコに笑顔が戻ってきそうな気配はない。
うぱ太郎もある種の気まずさを感じ無言になる。しかしすぐに顔をあげ、再びチィミコに話しかけた。
「……チィミコちゃん、こんにちは。僕、うぱ太郎っていいます」
名を呼び、改めて名乗る。
「――!?」
相変わらずチィミコは問われるたびに体を震わせるだけだった。
「………………」
うぱ華子たちのフォローは無い。名案も思い浮かばない。
仕方なくうぱ太郎はチィミコを見上げ、ひたすら一方的に喋り始めた。
「チィミコちゃん。僕のことは太郎ちゃんって呼んでください。グレマン様に乗ってあちこち
行ったり旅したりしてます。あと僕の隣のピン…赤っぽいのが華ちゃん。黄色の子が民ちゃ……?」
「……喋った。……ナマズ。……足はえてる」
放心状態のチィミコからやっと言葉が出る。しかし会話はまったく噛み合わない。
「…………」
うぱ太郎は押し黙る。
しかしその返事に困った僅かな時間、瞬く間にチィミコの頬は紅潮し大きく膨らんだ。
「……ダメだこりゃ」
無言のうぱ太郎の隣でうぱ華子が言い捨てる。それと同時だった。

163 :

「ぶふっ! あはっ、あーははははっ!」
薄暗い室内には不釣合いな大きな笑い声が響いた。
「あははははっ、何、何っ? 神様??? うははははっ!」
 指をさされ笑われる。
――まぁ案の定と言うか、予想通りって言うか、想定内っていうか。
 そう思いながら、うぱ太郎から諦めに似た大きなため息が漏れた。
「へっ変な顔、うははははっ!」
 腹をかかえてチィミコは笑う。しかしたいして怒りや憤りは感じなかった。
いいか悪いかは別として、とりあえず事は進展したと苦笑しながらもうぱ太郎は胸を撫で下ろす。
ただ、そう思ううぱ太郎とは対照的にうぱ華子とうぱ民子は怒りをあらわにしていた。
「……別に慣れてるからいいけどね。でもチィミコちゃんてちょっと馬鹿っぽいよね?」
言葉とは裏腹に、憮然とした表情でうぱ民子はチィミコを激しく睨めつけていた。
「うふふ、太郎ちゃん。キレちゃ駄目よ、キレちゃ……」
冷静を装っているが、うぱ華子の頬も明らかに引きつっている。
――みんな沸点低すぎ……。
 華ちゃんさっきの注意はなんだったんだよと、うぱ太郎は心の中で笑う。
「……可愛い」
「「「 は? 」」」
突然、うぱ倫子がぽつりとつぶやいた。
「……箸が転がってもおかしい年頃だから」
チィミコをかばうように、うぱ華子、うぱ民子をなだめるかのようにうぱ倫子が続ける。
「……これだから、不思議ちゃんは」
少し間をおいた後、そう言ってうぱ華子はくすりと笑い、うぱ民子からは諦めたようにため息が漏れた。
依然チィミコはひたすら笑い続けている。しかしうぱ倫子の一言で場にはびこっていた怒気が薄れた。
「……まぁいいわ。珍しいものを見たら笑ってしまうって言ってたからね。ちょっとのあいだ辛抱よ」
冷静さを取り戻し、周りに言い聞かせるようにうぱ華子は声に出す。
「いやー、なんか止まりそうな気しないけどなー」
「そのうち止まるんじゃないかな?」
うぱ民子、うぱ太郎が思ったままに答える。
「あーははははっ! うひゃひゃひゃひゃっ!」
「……チィミコちゃん?」
「へっ変な顔、神様!うははははっ!」
 うぱ華子たちが呆れる中、まるで唯一の理解者でもあるかのように、うぱ倫子は笑い転げるチィミコに
そっと声を掛ける。
「……あの、……チィミコちゃん?」
「あははは、はひっ? えぶふっッ!!!」
「「「 ――!? 」」」
 突然、チィミコが派手に噴出した。

164 :

「げへっ、げほっ、げほっ」
 呼びかけに答えようとして息継ぎが狂ったのか、うぱ太郎たちの前でチィミコが激しく
咳き込み始めた。
「ごふっ! げほっ、げほっ、げほっ」
「あはは、やっぱ馬鹿だ」
咳き込むチィミコの前で、いい気味だと言わんばかりにうぱ民子は冷笑する。
 しかし悠長に構えてる暇はない。
幼子のように手で口を覆うことも知らず、つばを飛ばし激しく咳き込むチィミコはうぱ太郎たちに
とってもはや災いをもたらす狂った巨人でしかなかった。
 
「ごほっごほっ!!!……ぶへっ! げほっ、げほっ」
「退避よ退避っ!」
飛び交うつばと衝撃波にうぱ華子が血相を変えて叫ぶ。
「ぶふっ! ごほっ、ごほっ」
「うわー……」
「汚いなー、もー」
雨宿りでもするかのように、そそくさとうぱ太郎たちは開いたままのグレートサラマンダーZの
口の中に逃げ込んだ。そして手の施しようのない巨人の行く末を見守った。
「えぶ、ふ、ぶはっ!!!」
「……チィミコちゃん大丈夫?」
グレートサラマンダーZの中からうぱ倫子が咳の止まらないチィミコに話しかける。
「ひっ、……げほっ、げほっ、げほっ!」
「……チィミコちゃん?」
むせる原因になってしまったことを気にしてか、うぱ倫子は心配顔で呼びかける。
「げんげんっ! ……げへっ、ごほん。……げんっ!!!」
聞くに堪えない酷い声が少女の口から発せられる。
「……おほん、ううん、あはん。 げんげんっ!!!  ……ふー。死ぬかと思った」
だがそれで喉の具合を取り戻したのか、チィミコは薄く滲んだ涙を拭いグレートサラマンダーZの前に
座り直した。
「……チィミコちゃん?」
幾度とうぱ倫子は呼びかける。
「もう大丈夫だ。えーと白の子は……」
頭をかがめ、チィミコはグレートサラマンダーZの口の中を覗き込む。
「……うぱ倫子。……倫ちゃんて呼んでもらえれば」
もじもじと、少しはみかみながらうぱ倫子は答える。
「リンちゃんな、わかった。それにしても凄いな。グレマン様どうなってんだ?
やっぱりオロチ様か? 丸呑みした魚戻したのか? って言うかなんでナマズが喋るんだ?」

165 :

「……チィミコちゃん、もう喉は大丈夫かな? つばとかせき飛んでくるとちょっと
僕たち辛いんだけど……」
巨大な顔を目の前にして若干動揺しながらも、うぱ太郎はチィミコに話しかける。
「もう心配ない。それよりタロウちゃんでいいのかな?」
「……うん」
 会話がまわり始める。
うぱ倫子は咳が止まったのよほどが嬉しかったのか、瞳をキラキラと輝かせチィミコを見つめていた。
人との直接対話に慣れてないせいか、うぱ太郎は怯えた子猫のようにチィミコの挙動を伺っていた。
 謎の笑顔を浮かべるウーパールーパー。
しかしその表情から心情を察することは不可能に近い。
困惑気味なうぱ太郎には気づきもせず、チィミコは興奮を隠し切れず盛大に喋り始めた。
「グレマン様も凄いけどタロウちゃんたちも凄いな。なんか足生えてるし、角みたいなのも生えてるし、
なんて言っても人の言葉話せるし。やっぱりタロウちゃんたちは神様じゃないのか!?」
――古代の日本にウーパールーパーなんているわけないし。僕以外派手な色だし。でも……
「……僕は、……僕たちは神様でもナマズでもないよ」
「分りやすく言えば、そうね、あたし達は蛙の仲間よ。赤い腹のイモリでもいいわ」
歯切れの悪いうぱ太郎にとって代わり、すぐさま隣のうぱ華子が話し始めた。
「凄い色だな。えーと、なんて呼べばいい?」
うろたえ、そして笑い転げていたのが嘘のようにチィミコは笑顔でうぱ華子に尋ねた。
「褒め言葉として受け取っておくわ。あたしはうぱ華子。華ちゃんて呼んでちょうだい」
うぱ太郎を押しのけただけあって、うぱ華子の会話運びには余裕がある。
「わかった。でもハナちゃん、カエルってけろけろ鳴くカエルだよな? 全然似てないけど?」
「チィミコちゃん、大人になる前の蛙の姿見たことない?」
「大人になる前……?」
うぱ華子の問いかけにチィミコはよりいっそう顔を近づけて聞き返した。
うぱ太郎は少したじろぐ。だがうぱ華子は会話の主導権を握るかのように堂々と振舞う。
「そう。春に田んぼとか水たまりで泳いでるわよね、頭にしっぽがついたような変なの。
それが次第に手足が生えてきて、その代わりしっぽがどんどん縮んでいく。そして最後にはしっぽも消えて、
大人の蛙として生きていく。小さいから気にもしてないかもしれないけどチィミコちゃんは手足が
生え始めた頃の蛙って見たことない?」
「あーあるある。あはは、そう言われればおたまじゃくしってとぼけた顔してるもんな」
幼生期の蛙の様子を思い出し納得したのか、チィミコは笑顔でぱちりと手を合わせた。
「とぼけた顔ってひどいなー」
「あはは、ごめんごめん。菜の花みたいだな、名前は?」
チィミコの返事に不満を覚えたのかうぱ民子が口を挟む。
「わたしはうぱ民子。民ちゃんでいいよ。て言うか、チィミコちゃん、あんた笑いすぎ。
わたし達のこと変な顔とか凄い色って言うけど、それはチィミコちゃんが世の中のことを知らないだけで
変な顔の生き物なんて他に数え切れないくらいうようよいるよ。
まぁ笑われるのは慣れてるけどチィミコちゃん、珍しいもの見たら笑うって癖は直したほうがいいね。
わたし達は別にいいけど相手が違ったら取り返しのつかないことに成りかねないよ?」
いつになく真剣な表情でうぱ民子はチィミコに忠告する。
「あはは、ごめんなさい。ところで、もしかしてみんなは南の海の生まれなのか?」
しかしチィミコはあっさり受け流し話題を変えた。
「…………」
グレートサラマンダーZの中、一瞬、顔を見合わせる。
そしてチィミコの質問にうぱ太郎が返した。

166 :

「……どうしてそう思うのかな?」
「いや、私も見たことはないんだけど、南の海に行くと凄い色した魚がうようよ泳いでいるって
聞いたことがあるんだ。タロウちゃんは魚っぽいけどハナちゃん達みたいな色の魚は私の村の近くじゃ
見ることないからもしかしたらって思ってさ」
――熱帯魚のことかな? テレビどころか本だってあるわけないからそう思われても仕方ないか……
「たしかにもともとの生まれは海の向こうのここよりはずっと南のところよ。
ただ、さっき言ったようにあたし達は蛙の仲間で魚じゃないわ。海じゃなくて沼で生まれたのよ」
思案中で言葉が出ないうぱ太郎に代わり、うぱ華子が答えた。
チィミコからすぐさま次の質問が飛んでくる。
「沼か。じゃあ、海にかかわらず南の国には凄い色した生き物がいっぱいいるってことなのか?」
「いっぱいってことでもないけどここの村よりは確かに多くいるでしょうね。
でもそれはさっき民ちゃんも言ったけどチィミコちゃんが知らないだけであたし達にとっては別に
珍しいことでも何でもないの。それに何も凄い色をしてるのはあたし達だけじゃないわ。
……でも、その話しを始めると物凄く長くなるから今は駄目ね。
ところでチィミコちゃん、喉はもう大丈夫かしら? あたし達グレマン様から出ても大丈夫?」
何か思惑があるのかそう答えてうぱ華子は会話の流れを断ち切った。
「ああ、すまない、もう大丈夫だ。さっきはごめんなさい」
うぱ華子の声にチィミコは真顔に戻り詫びを入れる。そしてうぱ太郎たちが出やすいようにと
後ずさりして場所をあけた。
「大丈夫そうね。なら、みんな出ましょうか?」
うぱ華子の呼びかけに応え、うぱ太郎たちはまたよたよたとチィミコの前に出た。
「みんな面白いって言うか、なんか可愛いな」
あらためて出揃ったうぱ太郎たちをチィミコはまじまじと見つめる。
「えへへ」
「……ありがとう」
「…………」
――社交辞令……? 民ちゃんと倫ちゃんは分りやすいな。
 チィミコの言葉にうぱ民子とうぱ倫子は照れたような仕草を見せる。
しかし、和気あいあいと成りつつある場でうぱ華子はその言葉にふれもせず真剣な表情で話し始めた。
「チィミコちゃん。大事な話しまだ終わってないんだけど続けていいかしら?」

167 :
今日はここまで

168 :
投下乙
和解できたようで良かった

169 :
投下乙!

170 :
http://loda.jp/mitemite/?id=2525.jpg

171 :
ちょwww

172 :
怪物じゃねーかw

173 :
「ウーパー(以下略)」という名称は、創価学会員が珍獣ブーム当時に銭儲けを企んで
日本で商標登録した、根拠も何も無い「偽名」である。しかも当人は借金踏み倒して夜逃げしたらしい。
学校や家庭でも、この動物を飼う際には、教育上カルト信者の付けた偽名を常用するのはいかがなものか?
アホロートルが嫌なら、メキシコサラマンダーと呼べばいい。

174 :
メキシコサラマンダー、つまりウーパールーパーは流通名。
メキシコ語で「愛の使者」。商標でもなんでもねーよバーカバーカ

175 :
upage

176 :
t

177 :

「ああ、すまない。続けてくれ」
「さっきグレマン様、海を渡ってる途中で嵐に遭って風で吹き飛ばされてしまって気がついたら
ここにいた。って言ったわよね?」
「ああ。それで帰り道がわからなくなったんだろう?」
 藁で覆われた床や壁。暖房と照明をかねた、暖炉やかまどと呼ぶには少し抵抗のある薪の燃やし場。
部屋の片隅に置かれたつやの無いさまざまな形の土器や木器。
 しかし現代社会とはおよそかけ離れた異質な住居の中にあってもうぱ華子はまるで意に介さず、
チィミコの返事を聞き朗々と話を続けた。その隣でうぱ太郎は心もとなげに二人のやり取りに耳を傾けている。
「そう。でもそれもそうなんだけど実はもっと困ったことになってしまっててね。グレマン様、
風に吹き飛ばされたはずみで怪我しちゃったのよ」
「怪我……?」
 疑問を感じたのか、チィミコはうぱ華子からグレートサラマンダーZに視線を移した。
「……そう。グレマン様ぴんぴんしてるからそう見えないかもしれないけどね。
海を渡るってすごい大変なことなのよ。どんなに大きな船でも大波とか強い風を受けてひっくり
返ったり、そのまま海の底に沈んじゃうことがいっぱいあるわ。だからもし帰り道が分っても怪我したままの
グレマン様に乗って海を渡るなんてそれこそ死にに行くようなものなのよ」
 グレートサラマンダーZに怪我らしき外傷は見当たらない。
それでも会話の流れに従い、チィミコはグレートサラマンダーZを眺めながら同情を思わせる静かな声で答えた。
「……海を渡るのは命がけっていうからな。聞いた話だけど」
「そう、命懸けよ。それで大事な話というかお願いなんだけど、あたし達グレマン様の怪我が
治るまでこの村にいていいかしら?」
―― それにうまく立ち回ればあたしたちは神になれるわ。
 うぱ華子の声が蘇る。とくんと鼓動が波打つ。
騙そうとしているわけではない。ただ通じない言葉を分り易くして、過去の人間に助けを求めてるだけ。
そう強く、うぱ太郎は心の中で唱えた。
「ああ、別にいいよ。始めからそのつもりだったし」
揺れ動くうぱ太郎のことなど眼中にないように、チィミコは二つ返事で快く承諾した。
 了解は得た。
しかしそれで良しとせず、うぱ華子は伏し目がちに話を重ねた。
「ありがとう。……でもね、ここが一番大事なとこなんだけど、もしかしたらグレマン様の怪我
治らないかもしれないのよ」
「……治らない?」
「そう。むしろ一生治らないって思ってたほうがいいくらいだわ」
 まだ幼さを匂わせる顔から笑みが消える。
ぱちりぱちりと焼けた炭の砕ける音だけ薄暗い部屋に響いた。
 交渉。もしくはぎりぎりのやりとり。
自分の踏み込めない沈黙に堪えきれず、うぱ太郎は思わずごくりとつばを飲む。
 少し陰のあるうぱ華子の返事にチィミコはなにか重大な会議でもしているかのように、
腕を組み眉間にしわを寄せ、そして答えた。
「……グレマン様に効くか分らないけど私の村には痛くなくなる薬あるぞ、私作ってるんだけど。
どっか痛いんなら飲ませてみるか?」

178 :

――こんな時代に薬なんてあるのか? 薬草とか……?
 グレートサラマンダーZに薬が効くことはない。
ただ薬を作ってると言う意外な返事に、うぱ太郎は腕を組んだままのチィミコを食い入るように見つめ直した。
「……ありがたいけど薬は効かないと思うの。そうね、人に例えるなら歯が1本欠けたような感じなのよ。
ちょっと喋りづらかったり食べ物食べづらいけど、そのうち慣れてくる。でも欠けた歯はもう元に戻る
ことはない」
「……歯か。確かに欠けたり抜いたりしたら歯は元通りにはならないな。……じゃあ、もしかしたら
グレマン様の歯が治らない限りハナちゃんたちは大陸に帰れないってことか?」
「実際怪我してるのは歯じゃないけど、そうなるかもしれないわね。まだ決まったわけじゃないけど」
腕組みをほどき両手で顔を覆った。そしてチィミコは手を離し姿勢を正した。
「……そうか。……まぁそうだな、田植えが始まるまでは暇だしこの村でゆっくり休んでればいいよ。
それからのあとのことはおいおい考えていこう。いずれにしてもハナちゃんやタロウちゃん達は
大事なお客様だから村のことは気にしないでいい」
 僅かに静寂があった。
しかしそう言った後、何事も無かったようにチィミコに笑顔が戻った。
――華ちゃんもチィミコちゃんも話が早いな。……だけど信用してもらえるのは嬉しいけど
  こんなに簡単に決めちゃっていいのかな?
「太郎ちゃん、田植えってゴールデンウィークの頃よね?」
 不意にうぱ華子から小声が飛んでくる。
「……えーと、たぶんその頃だと思う。準備とかあるからもっと前のこと言ってるかもしれないけど」
「明日が春分の日ということだから余裕で半月以上はあるわね。とりあえずはOKとしましょうか?」
「……うん」
何か得体の知れないわだかまりを感じながらも、うぱ華子の呼びかけにうぱ太郎は小さくうなずいた。
 だがその一方で、うぱ倫子は憧れの人を見るような眼差しをチィミコに向けたままで、うぱ民子は
つまらなそうにエラをいじっている。
「……じゃあチィミコちゃん、先のことはどうなるか分らないけどしばらくお世話になるわ。よろしくね」
うぱ倫子とうぱ民子の態度に少し顔をしかめながらも、うぱ華子はチィミコに礼をつくした。
手のひらで軽く胸元を叩きチィミコもそれに応える。
「ああ。小さいことは気にしないでゆっくりしてってくれ。私も大陸の話とか聞きたいし」
「ねーねー、チィミコちゃん。お水ある? わたし喉乾いた」
――うわー、またかよ……。
 唐突にうぱ民子がうぱ華子とチィミコの会話に割り込んできた。
小さな舌打ちが出る。それを悟られないようにうぱ太郎は黙って下を向く。
「あー、ごめんごめん。気がつかなかったな、今出すよ」
だがうぱ太郎のそんな小さな悪態など気づく訳もなく、チィミコはいかにもすまなさそうに立ち上がり、
棚から小さめの洗面器のような皿を持ち出しうぱ太郎たちの前に置いた。そして壁沿いに置かれた取っ手の
付いた壷に手を掛ける。
「かなり冷たいと思うけどいいか……?」
そう言いながら、チィミコは壷に入った水を両手で皿に注ぎ始めた。
 水を注がれたのを見届け、うぱ民子は皿に近づき縁に両手をかける。
そして心配顔のチィミコが見守る前で、身を乗り出しそっと水に口をつけた。

179 :

「おー! いい水だ」
「おっ、そうか? いい水か!?」
うぱ民子の一言に、チィミコの声が弾む。
「うん。すがすがしい山の水だね。みんなも飲めば?」
なぜか得意顔でうぱ民子はうぱ太郎たちに水を勧めた。
一通り顔を見合わせたあと、うぱ太郎たちも皿に近寄り四方からそれぞれ水を飲み始めた。
「当然といえば当然だけど薬臭さは全然ないわね。確かにいい水だわ」
「……おいしい」
「うん、いい水だと思う」
「チィミコちゃん、あとその焼いてる魚食べていい? ちょっとでいいんだけど」
 先に水を飲み終え一息ついたうぱ民子が客人としての立場を利用してか、それとも単に
遠慮を知らないだけなのか、魚を食べたいと何の気兼ねもなくチィミコに無心する。
――結局、民ちゃんはいつでも誰とでもあの調子なんだ。
「いいよ。うちの村で獲れた魚じゃなくて海の魚だけどいいか?」
うぱ民子の注文に特に嫌な顔もせず、チィミコは焼き上げ中の開いた魚の串を手にした。
――僕もあんな風にふてぶてしくしてた方がいいのかな? ……出来そうにないけど。
 遠慮という言葉を知らなさそうなうぱ民子を横目で見る。
浅ましい図々しいと思う反面、場の空気を読まないで好き勝手に発言するうぱ民子を
うぱ太郎はどこか羨ましくも思う。
「うん、いいよ。それで太郎ちゃん、ちょっと味見してみて」
「え……? ……僕?」
いきなりうぱ民子に問いかけられ、言葉が詰まる。
「うん。脂多そうだから合うかどうかってことで」
「……うん。まぁ、いいけど」
焼いていた魚は小ぶりな鯵の開きのようなもので問題はなにも感じなかった。
少し空腹を感じていたこともあり、流れのままにうぱ太郎は味見役を引き受けた。
 大切な話。
それが済んだことを理解しているように、チィミコはうぱ太郎とうぱ民子の話をにこやかな顔で
やり過ごし、楽しそうに焼いた魚の身を素手でほぐし、息を吹きかけて冷ました。
そして一切れを指でつまみ、瞳を輝かせながらそっとうぱ太郎の前に差し出した。
「このくらいでいいか?」
「あー、あの、……もうちょっと小さくしてもらえるかな、口に入らないから」
少し高い位置で出された魚の身はとても一口で食べられる大きさではなかった。
うぱ太郎の注文を聞きチィミコはふんふんと鼻歌を歌いながら、つまんでいた魚の身を更にほぐした。
「このくらいか?」
「……うん、それで」
満面の笑みでチィミコはあぐらをかいたままぺたりと身体を折り曲げた。
そしてゆっくりとうぱ太郎の前に魚を出した。
「じゃあ、どうぞ」
「……ありがとう。いただきます」
 まだ悠然と構えられるほど人との直接対話には慣れていない。
ただチィミコに悪意や危害を加えられるような気配はまったく感じられなかった。
 恐る恐るではあるがうぱ太郎は両手をあげ、木の実を大事そうにかかえるリスのようにチィミコの
指から魚の身を受け取った。

180 :

「ん?」
「……?」
 無事に魚は受け取れたはずだった。
しかし魚の身を持つうぱ太郎の上空で、笑顔から一変、チィミコの瞳に険しさが混じった。
「んんっ?」
疑問符を残し、今度は身を乗り出してうぱ太郎の足のあたりを注目する。
「……な、何かな?」
大きな瞳にじろじろと見られ、うぱ太郎は不安げにチィミコに尋ねた。
「ぶふっ!」
「な、何っ!?」
思わず貰った魚の身を落としそうになる。うぱ太郎の前でなぜか突然チィミコが噴き出した。
「うはははは、足の指5本あるのに手の指4本しかないっ!何で何で!?」
―― …………。
 魚を手にして固まっているうぱ太郎の前でチィミコが豪快に笑い始めた。
 初めて見るウーパールーパー。
単純でありきたりな疑問。笑われてはいるが貶されている訳ではないと理解はしている。
しかし蓄積した疲労からか、ふてくされたような小声がうぱ太郎の口から漏れた。
「……何でって言われても。……生まれつきこうだから」
「じゃあ聞くけどチィミコちゃんの手の指はどうして5本あるのかしら? その気になれば別に
4本でも生きていくうえではそんなに困らないんじゃない?」
疲れや苛立ちが見え隠れするうぱ太郎の返答にうぱ華子がすかさず助け舟を出した。
「……何でだろ? ……そう聞かれれば答えられないな」
笑うのを止め、そう言ってチィミコは顔の前で両手を大きく開いた。そして5本あるのを確認する
かのように両手の指を1本1本折り始めた。
「チィミコちゃんが答えられないのと同じことよ。太郎ちゃんが言った通り生まれつきこうだから。
それにあたしたちは蛙の仲間って言ったわよね。たいていの蛙も手の指は4本、足の指は5本だわ」
「……そうなのか? 蛙の足の指も5本あるんだ、知らなかった」
「ねーねー。指の話はもういいからさぁ、魚食べようよ。せっかくばらしてくれたんだから」
食べ物を目の前にしながら話が脱線していくのを嫌ったのか、うぱ民子がこれ見よがしにうんざりした
声で言い放った。
「あはは、ごめんごめん。タロウちゃん食べてみてくれ。海の魚だ、美味いぞ!」
うぱ民子の声にばつが悪そうに謝り、チィミコはまた笑顔でうぱ太郎に魚を勧めなおした。
「……うん。……じゃあ、いただきます」
手にした魚の身からは僅かな熱と焼いた脂の匂いが漂っている。
言われるがままにうぱ太郎は口の中に放り込んだ。
「……あ、美味しいや」
「ホント?」
「うん。脂もそんなきつくないし、焼いてあるから噛みごたえもあるし」
「じゃー、わたしも食べる」

181 :

 うぱ太郎の感想を聞き、うぱ民子は皿の脇に寄せられた魚の身を取った。
すぐにうぱ華子うぱ倫子も集まり、皿に手を伸ばした。
「なかなかいけるわね」
「……おいしい」
そんなうぱ太郎たちをチィミコは何も言わずにこやかに眺めている。
「ご馳走様でした」
「えっ、もういいのか?」
しかし二切れほどで食べるのを終えたうぱ民子に驚きの声をあげる。
「うん。わたしそんなに食べなくても大丈夫だから。美味しかったよ」
「そうか……」
皿に盛られた魚の身は半分も減っていない。
うぱ太郎は三口目をほおばっているが、うぱ華子たちはそれぞれ二切れ食べて終わりだった。
「……タロウちゃん達は魚の他になに食べるんだ? 好きなものとかあるのか?」
魚を気に入らなかったと思ったのかチィミコはうぱ太郎に食べ物の嗜好を確認する。
口に含んでいた魚をごくりと飲み込む。そしてしばらくうぱ太郎は考え込む。
「……えーと、ミミズとか小さい魚とか、あとはあまり固くない虫とかかな?」
「ミミズをきれいに洗って、叩いて動かなくしてくれればそれでいいわ。あと魚はいま食べた
みたいに身のところ小さくほぐしてくれれば海の魚でも川の魚でもどっちでも構わない。
でもさっき民ちゃんが言ったけど、あたしたち体も小さいしそんなに多くはいらないのよ。
1日1回、今ぐらいのものが食べられたらそれでお腹いっぱいよ。2、3日食べなくても
なんてことないから」
うぱ太郎の声に続き、うぱ華子が解説をつけ加えた。
「ミミズってにょろにょろするミミズだよな? そんなんでいいんだ」
「ええ、それで構わないわ。ただ細くて短いミミズよ。大きいのは食べきれないから」
「そうか。それなら私一人でも出来るな」
うぱ華子の声にチィミコはふむふむとうなずく。
そしてうぱ太郎たちを見つめ返したあと、グレートサラマンダーZに視線を移した。
「……あとはグレマン様だな」
――……あれだけじゃ納得してくれないよな。
 グレマン様は何も食べなくていい。
少し困ったようなチィミコのつぶやきを聞き、うぱ太郎はまだ自分の姿を晒す前にチィミコに
向けて言ったことを思い出していた。
そして少し間を置き頭の中を整理して、頬に手をあて考え込んでいるチィミコに話しかけた。
「グレマン様は僕の言うことしか聞かないから、グレマン様のことは気にしなくていいよ。
チィミコちゃん。あとで大きい川があるところ教えてくれないかな。そしたら僕がグレマン様に乗って
水やったり食べ物やったりするから」
 多くは語らなかった。
チィミコに説明しても理解してもらえるとは思えなかった。

182 :

「……それでいいのか?」
少し不思議そうにチィミコは真顔でうぱ太郎に問い返す。
尻尾を含めれば大人の倍近くありそうな体とそれこそ化け物じみた巨大な口。
グレートサラマンダーZが肉、魚、なんでも食い尽くす大食漢に見えるのは仕方のないことだろう。
「うん。それでいいよ」
しかし疑問を受け流すように、うぱ太郎はさらりと答えた。
「そういえばさっきからグレマン様、口開けたまま動かないけど怪我してるせいか?」
うぱ太郎の返事を素直に受け入れたのか、チィミコの口から新たなる疑問が湧き出る。
 にわかに信じがたいことではあるが何千年も前の時代にいる。
素性を隠す必要はない。しかしロボットという言葉を説明する気力もなく、うぱ太郎は単刀直入に
ありのまま答えた。
「……えーと、グレマン様は僕の言うことしか聞かないって言うか、僕が乗らないと動かないんだ」
「またまたー。オオシカって言うかウマなんてほったらかしにしたらどこにでも遊びに行くぞ?
やっと最近になってちゃんと帰ってくるようになったけど」
うぱ太郎の返事にチィミコは大袈裟に疑うような声をあげた。
軽く笑いながらすぐにうぱ太郎はチィミコの疑問に答えた。
「あ、ホントに。今だったらグレマン様にさわってもうんともすんとも言わないよ」
「……ホントに? ……さわってみてもいいか?」
「うん、どうぞ」
うぱ太郎の声にチィミコは口を開けたままのグレートサラマンダーZに近づき、恐る恐る
右手で頭を撫でた。
 グレートサラマンダーZはぴくりとも動かない。
怪訝な顔つきのまま、更に無理矢理押さえつけるようにチィミコはグレートサラマンダーZ
の頭を撫でた。しかしうぱ太郎の言うとおりグレートサラマンダーZは微動だにしなかった。
「……凄いな。……どうやってしつけたんだ?」
 種明かし。しかしそんな言葉も通じるか不明な時代。
グレートサラマンダーZの前でぽかんと口を開けているチィミコが急に滑稽に思え、うぱ太郎は声を出して笑った。
「ぷっ、あはははは」
「ん? なんか私変なこと言ったか?」
「あー、ごめんごめん。なんでもないんだ」 
――ロボットって言ったところで通じるわけないし。操り人形って言ったって分らないだろうし……
「さっきも言ったけどグレマン様は僕が乗らないと動かないんだ。だからグレマン様の世話は
僕にしか出来ないんだ。僕がやるからグレマン様のことは気にしなくていいよ」
「グレマン様はオオシカみたいに機嫌悪かったら勝手にどっか走って逃げたり暴れたりしないのか?」
不思議そうな顔でチィミコはうぱ太郎に問いかけた。
「うん、それは大丈夫。いきなり暴れたりはしないよ」
――僕しだいだけど……。
「……本当か?」
素性の知れないものを村におくことになるためか、チィミコはうぱ太郎に念を押すように確認する。

183 :

「チィミコちゃん。信じられないかもしれないけどグレマン様は太郎ちゃんの言うことしか聞かないよ。
だからわたし達とかチィミコちゃんが動けって言っても、動かそうとして叩いたりしても絶対動かないよ。
馬だったらチィミコちゃんの言うこと聞くかもしれないけどグレマン様はチィミコちゃんに動かすことは
出来ないね。なんだったら叩いてみてもいいよ」
 なぜかうぱ太郎の隣でうぱ民子が自慢げに喋りだした。
そしてチィミコに気づかれないように、下がれとでも言いたげに手のひらをくいくいと動かした。
 うぱ民子の仕草の意図はすぐ理解できた。
グレートサラマンダーZから距離をとれば自動で口は閉まる。その瞬間、閉まれと言えば、いかにも
言うことをきいたように見える。
 距離感覚は身体が憶えている。
しかし1メートルも後ずさるのは骨が折れるし、どうみても不自然極まりないことでもある。
――まったく人使い荒いな、こっちの身にもなってよ。
 心の中で愚痴りながらも、うぱ太郎は人知れず後ずさりを始めた。
案の定チィミコは軽く拳を握り、遠慮がちにグレートサラマンダーZを叩き始めた。
「チィミコちゃん、グレマン様って硬いから程々にしないと怪我するよ?」
適当に見えて実は結構観察しているんだなと、チィミコに注意を促すうぱ民子をうぱ太郎は
ちょっとだけ見直した。そしてじわじわと後退し、あとわずかという位置で待機する。
「……チィミコちゃん。叩きすぎ」
「手痛くしても知らないわよ」
反応の無いグレートサラマンダーZを意地でも動かすつもりなのかチィミコは無言で拳を振り続けている。
双方を心配してかうぱ倫子とうぱ華子が声を掛けた。しかし返事は無い。
「チィミコちゃん。いくらなんでもそんなに叩いたらグレマン様痛いから」
貸したおもちゃが無下に扱われているような怒りを感じ、うぱ太郎は語気を強めた。
注意にはっとし、行き場の失った拳をごまかすようにチィミコはその手で頭をかいた。
「チィミコちゃん、危ないから気をつけて。グレマン様、口閉じて」
反省は見える。大人げないとも思う。
だがうぱ太郎は意地悪を意地悪で返すように、そう言って一気に後退した。
「うわっ!?」
 うぱ太郎の声と共にグレートサラマンダーZの巨大な口が威勢よく閉じた。
驚き飛びのく。はずみでチィミコは派手にしりもちをついた。
「あはは、だから言ったじゃーん。グレマン様は太郎ちゃんの言うことしか聞かないよって」
「……チィミコちゃん。グレマン様が口開いているときはなるべく近づかないようにしてちょうだい。
グレマン様は人を食べたりしない。だけどグレマン様にイタズラしようとして口に手とか入れたら
簡単に食いちぎるからね。村の人たちにもあとで話さないといけないわね」
したり顔でうぱ民子は笑い、冷めた口調でうぱ華子は話しかける。
だがチィミコは足をだらしなく広げ、ただ呆然とグレートサラマンダーZを見てるだけだった。

184 :

「……チィミコちゃん、そのまま離れてて。……グレマン様、口開けて」
 続けざまにそう言って、うぱ太郎は一歩前に出た。
 声と同時にグレートサラマンダーZが大きく口を開いた。
「――!?」
 怪物。そうとしか呼べないものが激しく動いた。
のけぞりしりぞく。そして命令を下した奇妙な生き物に目を向ける。
「……本当にタロウちゃんの言うことしか聞かないんだな」
いまだ半信半疑な表情でぼんやりとチィミコはつぶやいた。
「 …………。」
――ちょっとやりすぎたかな……
 チィミコと目が合う。
前いた場所から明らかに離れた場所にいる。しかしチィミコはまるで気づいていない。
そしてついさっきまで見せていたあどけない笑顔も、戻って来そうな気配はなかった。
「ねーねー、太郎ちゃん、まだ水飲む?」
「えっ? ……僕はもういいけど」
不自然に映らないようにじわじわと前進しているうぱ太郎に、うぱ民子からまったく脈略のない
話が振られた。
「そう?じゃあ、水浴びしていい?」
うぱ民子は水の入った器をちらりと見る。
「あ、うん。僕は別にいいけど」
「……わたしも水入りたい」
「僕は構わないよ。華ちゃんは?」
「どうぞ。あたしも飲み水はもう要らないわ」
うぱ太郎とうぱ華子の返事にうぱ民子とうぱ倫子はそそくさと水を飲んだ皿に向かう。
そして少し窮屈そうに、それでも嬉しそうに並んで半身を水に沈めた。
「うはー、生き返るー」
「……気持ちいい」
「……タロウちゃんたちはいつもは水の中で暮らしてるのか?」
気の抜けたうぱ民子の声に険しい表情が緩み、チィミコに笑顔が戻った。
「うーん……。元々は水の中だったんだけどいろいろあって、今は水の外でも大丈夫。
まぁ、蛙と同じだと思ってもらえればいいかな」
派手にグレートサラマンダーZを動かし、脅かせたことを少し悔いている。
ここぞとばかりにうぱ太郎はチィミコへの気遣いの言葉を探しだす。
「……ところでチィミコちゃん。チィミコちゃんはご飯食べなくていいのかな? なんか火に
かけっぱなしだけど。もう充分煮えてるんじゃないかな」
「あーっ、忘れてた!」
うぱ太郎の声にチィミコは勢い良く立ち上がり、藁で編まれた鍋つかみのような手袋をはめ、
急いで火に掛けていた鍋を下ろした。
「タロウちゃん、ホントに魚もういらないのか?」
そして今度は身がほぐされた魚の乗る皿を手に取り、チィミコはうぱ太郎に尋ねた。
「うん、僕はもういいけど」
食べろと言われれば食べられるが、胃袋はもう充分満たされている。
遠慮しているわけでもなくうぱ太郎は素直に答えた。

185 :

「じゃあ私残り食べていいか?」
「うん」
うぱ太郎の返事にあからさまにチィミコの顔つきが変わる。
「じゃあ、こんだけ明日の分ということで」
手袋を外しチィミコは素手で魚の身を少しとりわけ皿の隅に寄せた。
そして皮や頭のついた焼き魚をそのまま鍋に入れ、近くにあった木製の大きなへらの
ようなもので鍋をかき回し始めた。
「うはは、あったかいの久しぶりだな。いただきます」
 左手に再び藁の手袋をはめ鍋を押さえる。
すぐに右手でへらを持ち、チィミコは鍋から中身をすくった。
――おかゆ……?
 鍋の中身は見える位置にない。
ただスプーン状のへらにはわずかに乳白色の汁がついているのが分る。
ふうふうと息を吹きかけ、チィミコは嬉しそうに口元にへらを運んだ。
「うわちちちっ!」
まだ熱さが取れていなかったのか、一口すすって慌ててチィミコはへらから顔を離した。
繰り返し息をかけ、そしてまた口を近づける。
「うん、フキだ。やっぱ春はこれだな」
――春でフキと言えば、ふきのとう……?
「海の魚も久しぶりだな」
二三口すすったあとチィミコは左手の手袋を外した。そして鍋からすでに原型をとどめていない
焼き魚をすくい上げ、空いている皿に寄せた。
――えっ……?
 うぱ太郎たちを気にすることもなく、チィミコは魚の頭を片手で取り、わずかについた皮や肉を
そぎ落とすようにしゃぶり始めた。
「……チィミコちゃんは魚の頭まで食べるんだ?」
小ぶりな魚で、それほど大きいものではない。
手にした魚の頭をチィミコは猫のように犬歯のあたりでがしがしと噛んでいる。
そしてうぱ太郎の質問に食べかけの骨を置き、チィミコは右手の指を軽く舐めた。
「食べるよ。っていうか村の者全員食べるぞ。歯が少なくなった年寄りは無理だけど。何か変か?」
――ふきのとうに魚の骨。昔の人って何でも食べるんだ……
「……いや、別に変じゃないけど。……美味しいのかな?」
 野蛮。
ふとそんな言葉が脳裏をよぎる。
そして米の作が悪かったとチィミコが言ってたことも思い出す。
「美味しいぞ。そんな大きくなくて骨もそんな硬くないしな。それに硬いところはあとで炙って
食べるんだ。これがまたカリカリして香ばしくて旨いんだ」
「……ふーん。僕には無理だな」
「チィミコちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかしら?」
うぱ太郎が気のない返事をした直後、うぱ華子がチィミコに問いかける。

186 :

「何だろう。食べながらでもいいか?」
「いいわよ、そのままでいいから聞いててちょうだい」
うぱ華子の声に再びチィミコはへらを手にした。そして鍋をかき回してはへらを口に運んだ。
頃合を見計らい、うぱ華子は問いかける。
「さっきはご馳走様、美味しかったわ。ところでこの魚、海の魚って言ってたわよね。ここに来るまで
海はなかったと思うんだけど、この村の近くに海があるのかしら?」
「近くはないけどオオシカで行けば1日はかからない。夏だったらその気になれば行って帰ってこれるくらいだ」
ずるずるとお粥のようなものをすすりながらチィミコは答える。
そういえば海はなかったなと、二人の会話を何の気なしにうぱ太郎はやり過ごす。
「その海はお日様が昇る海? それとも沈む海?」
―― !?
 うぱ華子の問いかけにはっとする。
そしてチィミコの返事を聞き漏らさないようにうぱ太郎は耳に意識を集中させる。
「昇る海だ。沈む海はずっと遠い。オオシカで行っても6日いや7日は見たほうがいいな。……ウマだった」
「そう、ありがとう。あとこの村は冬、雪は降るのかしら?」
「いや、うちの村は山に囲まれてるけどそんなに降らないな。北の国みたいにずっと真っ白って
ことは滅多にないよ。降ってもお日様が出たら2、3日ですぐ消える」
――季節感は高速を走ってたところとほぼ一緒……。
  何千年何万年前か分らないけど場所的にはタイムスリップする前とほぼ同じか……?
「ありがとう。ごめんね、ご飯食べてるところなのに。って、あら?」
唐突にうぱ華子の声が止まった。
少しでもこの世界の情報が欲しかった。すぐうぱ太郎は聞き返す。
「どうしたの?」
「まったくお気楽極楽なご身分だこと。やけに静かだと思ったら寝てるわ、こいつら」
そう言ってうぱ華子はくいと後方を指差した。
「あちゃー」
指の先では皿の上で何事も無かったような寝顔を浮かべ、うぱ民子とうぱ倫子が重なりあって眠っていた。
 ふう。とうぱ華子からため息が漏れる。
「まあ、しょうがないわね、長い1日だったし。確かに疲れたわ。チィミコちゃん、お皿まだある?
あたしも疲れたから民ちゃんたちみたいに休みたいんだけど」
「あるよ。水、注げばいいか?」
鍋を置き、すぐにチィミコは立ち上がる。
「えぇ、お願いするわ。太郎ちゃんも疲れたんじゃない?」
「……うん、……まぁ」
少しうんざりした表情でうぱ華子がつぶやく。
この世界のことを探る腹づもりが水を差され、うぱ太郎の返事は曖昧になる
「はい、どうぞ」
ベッド代わりの水の張られた皿がチィミコによって手際よく用意された。
すぐにでも眠りに入りたいのか、うぱ華子はありがとうとチィミコに礼を言い、うぱ太郎を横目に
水の張られた皿に乗り上げた。そして取り残されたうぱ太郎に一声掛ける。

187 :

「なんだったら太郎ちゃん、一緒に寝る?」
 思いもよらぬ言葉がうぱ太郎を直撃する。
「は……? な、な、何言ってんのさ?」
予期せぬ誘いにうぱ太郎はうろたえる。だがうぱ華子は意地悪げに笑いながら、更に追い討ちを掛ける。
「あら、恥ずかしがらなくていいのよ、太郎ちゃん?」
「そっ、そ、そんなんじゃないし。い、いいよ僕グレマン様の中で寝るし考えたいことあるし」
あきらかに動揺し早口で捲くし立てるうぱ太郎を見て、うぱ華子はぷっと小さく吹き出した。
「そう。まあそれもいいかもね。チィミコちゃん、明日チィミコちゃんが起きたらあたしたちも
起こしてくれないかしら。それで明日、村の人たちにあたしたちのこと教えてくれない?」
「……ああ、分った。明るくなる前に起きるけど大丈夫か?」
どこか心残りがあるような残念そうな顔でチィミコはうぱ華子に確認する。
「大丈夫よ。ところで太郎ちゃん、邪魔になるからグレマン様、外に出したほういいんじゃない?」
そう言ってうぱ華子は部屋の真ん中に堂々と鎮座するグレートサラマンダーZに顔を向けた。
「え? ……あ、うん。……そうするよ」
「タロウちゃん、大丈夫だぞ。私一人だし寝る場所あるし別にグレマン様邪魔じゃないぞ?」
 確かにうぱ華子の言うとおりだった。
チィミコからすぐに問題ないと声が入る。しかし、からかわれた気恥ずかしさも手伝って
うぱ太郎は少し意固地になって答えた。
「あ、大丈夫。本当にちょっと一人で考えたいことあるからグレマン様外に出してその中で寝るよ」
「そうか。外暗いけど大丈夫か?」
少し心配そうにチィミコはうぱ太郎に尋ねる。ことなげにうぱ太郎は答える。
「うん、大丈夫。じゃあチィミコちゃん、明日みんな起こしたら僕のところにも来てくれないかな。
この家の周りの邪魔にならなさそうなとこで寝てるから」
「ああ分った。でも本当に大丈夫か?」
「大丈夫だよ。グレマン様の中だったら怖いことないし」
頑なさに気づいたのか、チィミコはうぱ太郎をとどめようと言葉を繰り返す。
しかしうぱ太郎は、その声を振り切るようにグレートサラマンダーZに乗り込み、口を閉じた。
「……分った。別に家の周りそんな邪魔になるものないけど気をつけてな。いま入り口開ける」
「うん、ありがとう」
押し切られるようにチィミコは立ち上がり、家の入り口に進んだ。
うぱ華子たちに注意を払いながらゆっくりとうぱ太郎はグレートサラマンダーZを動かした。
「じゃあタロウちゃん、気をつけてな」
「うん、ありがとう。みんなおやすみなさい」
入り口の藁編みのすだれのようなものを手で押さえ、チィミコはグレートサラマンダーZを見送りに出た。
 入り口から漏れた光が地面を照らした。しかし、数メートルほどの状況が分るぐらいで行く先は
見事なまでの暗闇だった。
「太郎ちゃん、道草しないでちゃんと寝なさいよ?」
 踏み出そうとした瞬間、コックピットのモニタースピーカーからうぱ華子から声が流れた。
疲れのせいか、すぐにでも眠りにつける安堵感からか、何もかもが急にわずらわしく感じて
うぱ太郎の口から思わず本音が飛び出した。

188 :

「……うるさいなー」
「なんか言った?」
「何でもないよ。おやすみ」
苦笑いを浮かべ立っているチィミコにおやすみと一声掛けて、うぱ太郎はゆっくりと
グレートサラマンダーZを前進させた。
 視聴覚モニターにはかすかに星影が映っているだけだった。それでもうぱ太郎はただ闇雲に
アクセルを踏み続けた。
「ちぇっ、なんだよみんな好き勝手にやりたい放題でさ。大体僕なんて人間と一緒に暮らしたこと
ないし急に人前で寝ろたって寝れないよ。それに何だよあれ。ふざけるのも大概にしろってんだ」
 ほとんど無言のうぱ倫子。空気を読まずに好き勝手に発言行動するうぱ民子。
そしてまともだと思ってたのに最後の最後でからかうようなこと平然と言ううぱ華子。
腹立たしさのままにうぱ太郎の独り言は荒くなる。
「だいたい何なんだよここ。街灯のひとつも無いなんて何て田舎だよ!」
 補正が入り視聴覚モニターがかろうじて明るくなる。
しかし、わずかに星の数が増え、空と地面の境界が分るくらいで真っ暗と言っていい状態だった。
そしてコックピットにただ1人となり溜まった毒を吐き出せたおかげか、うぱ太郎は冷静さを取り戻した。
「……まいったな。……本当に真っ暗だ」
――本当に電気どころか火を起こすことさえままならない時代なんだ……
 無意識に、踏んでいたアクセルを戻した。
安全運転を常に心がけている。煽るようなまねもしたことはない。危ないと思ったらすぐに止まる。
 腹の虫が治まらないままにグレートサラマンダーZを進ませた。
しかしそれでも身体に染み込んだ安全意識がアクセルをコントロールしていた。
独り言でぼやいたのも十数秒なはずだった。
――30メートルも進んでないはずだけど……。ここで大丈夫か?
 視聴覚モニターを凝視する。
空と地面との区別はついている。しかし見渡す限り地上から光を出すものは一切無く、一寸先さえ闇だった。
「たぶん大丈夫と思うけど一応コックピットから出て確認したほうがいいな。星が出てるから
肉眼だったらもうちょっと見えると思うし」
 誰に聞かせるでもなく独り言を言う。
ナビの時計表示を見る。午後8時をわずかに過ぎている。
 チィミコの家は、他の家から少し離れたところにあった。間違いは無いはずだった。
しかし、もし他所の家の前にグレートサラマンダーZを停めていたらと思うと確認せずにはいられない。
「大丈夫だと思うけど念のため……」
そうつぶやき、うぱ太郎はグレートサラマンダーZの口を開け、コックピットから降りはじめた。

189 :

「――!?」
 その神々しさに息が止まった。
「…………凄い。……本当に星が落ちてきそうだ」
 未知の色彩がうぱ太郎を貫く。
果てしなく深い紺碧の瑠璃の中で、うぱ太郎の存在をあざ笑うかのように幾千もの星が瞬いていた。
 力を抜けばそのまま宙に吸い込まれ、小さな星屑に変えられてしまいそうな感覚に見舞われ、
うぱ太郎は思わず身体を硬くして身構えた。
 神話の時代。
 見上げた先の星空は、あまりにも美しく、あまりにも荘厳で、
そしてまるで終焉の時を迎えたかのように、あまりにも絶望的だった。

「ははっ。あははははっ!」
 暗闇に空虚な笑い声が響く。
「くくくっ、どおりで携帯もナビも動かないわけだ。そりゃそうだ、石器時代に携帯の基地局とか
GPS衛星とかある訳ないし」
 充分理解したつもりでいた。
しかし心のどこかで、まだ覚めない夢の中にいると思っていた。
リセットスイッチを押せばテレビの電源を切るように虚構は消えると信じていた。
 全ては繋がり、世界は完結する。
もう突きつけられた現実から目をそらすには、ただ、笑うしかなかった。

「あはは、あはははは。タイムスリップってありえない。いったい何の罰ゲームですか?うぱ松さん!」
―― 僕はもう……
「くくくっ、参ったな、星座図鑑持ってくればよかった。北斗七星くらいしか分らな……い」
 
 空に向け強がりを吐く。
しかし成すすべもなく、いにしえの静寂に紛れ消えていった。

 かすかな光がひとすじとなって低い空を流れた。
 星に願いは届かない。
季節外れのホタルのように儚く消えたその光は、うぱ太郎の頬を伝う涙だった。


190 :
今日はここまで。

191 :
お帰りー

192 :

「あたーらしい朝がきた きぼーおのあさーだ!」
―― …………。
「よろこーびに胸をひーらけ 大空あおげー!」
―― ……うるさいなー。
「ラジオーの声にー 健やーかな胸をー!」
―― ……まったく、ラジオ体操の歌なんてどこの小学生だよ!
「このかおーるかぜーにひらーけよ それ、いち、にぃ、さんっ! 太郎ちゃんおはよー!!!」
―― っ!?
「……太郎ちゃん、お早う」
「グレマン様、タロウちゃん、起きてるか?」
―― …………。
 著しく理解不能。
「はいはいはいっ!寝ぼけてんじゃないわよ。ちゃっちゃと起きなさい、ちゃっちゃと!」
「うえっ! お、おはよう……?」
 両手で大きな皿を持つ少女が、淡い薄闇の中で微笑んでいた。
皿の上には、白、黄色、ピンクのウーパールーパーが並んでいる。
 それが映し出されるのは、
グレートサラマンダーZコックピットの視聴覚モニター。
―― ……そうか。……そうなんだ。
 混乱が解け、それは諦めに代わる。
 タイムスリップというあまりにも馬鹿げた現実に打ちひしがれた。
ただ星空を見続けた。そして逆境に立ち向かう冒険者のようにもなれずに、逃げるようにコックピットへ
退いた。もうその後のことはよく憶えていない。

「……ゴメンゴメン、ちょっと寝ぼけてた。って随分早いな、みんな眠くないの?」
目をこすりながら見るナビの時計表示は00年3月21日午前5時10分。
白み始めた空からすれば時間に大きな狂いはなさそうだった。
「水が合うのかなー、目覚めバッチリ絶好調!って感じ」
「……気持ちよく眠れた」
「早寝早起きは健康への第一歩よ。それより太郎ちゃん、チィミコちゃんが話したいことあるんだって。
チィミコちゃんちに戻るわよ。大丈夫?寝ぼけてない?」
三者三様の返事が返ってくる。
身体をほぐし、シート位置を確認しながらうぱ太郎は答えた。
「うん、大丈夫だけど。……話って何かな?」
「それは全員揃ってからのお楽しみみたいだよ、チィミコちゃん教えてくれないもん」
「ふーん」
モニターに映るチィミコを見る。
昨日と同じ白い服を着て穏やかな笑顔を浮かべている。しかし会話に入ろうとはしない。

193 :

 グレートサラマンダーZを少し動かし周囲を確認する。見るかぎりチィミコの家まで20メーターほど。
少し離れて村人のものと思われる住居が点在しているが、今のところ人の姿は無い。
「えーと。じゃあ行こうか?」
「行こう行こう。うおー、なんか燃えてきた!」
「……民ちゃん、意味わかんない」
「はいはい、ちゃっちゃとぱっぱと。無駄口叩かない」
皿の上のうぱ華子たちのやり取りに苦笑いを浮かべながら、チィミコはうぱ太郎の声にうなずき、歩き始めた。
後を追うように、うぱ太郎もゆっくりとアクセルを踏み込んだ。

「太郎ちゃん、魚の残りあるよ、食べれば?」
「うん、ありがとう。……とりあえず水が欲しいかな」
 グレートサラマンダーZから降りた直後にうぱ民子から声を掛けられる。
すでにうぱ民子たちは朝の身支度が済んでいたのか、チィミコの前に並び話が始まるのを待っている。
 用意されていた水に入った後、一番小さな魚の身を選んで口に放り込んだ。
そしてうぱ太郎は身を整え、うぱ華子の隣についた。
「じゃあ、みんないいか?」
うぱ太郎が列に加わったところでチィミコは確認する。
小さな返事があがる。一呼吸置き、うぱ太郎たちの前でチィミコは笑顔を振りまく。
「昨日なんで指5本あるのかって話なっただろ? それで私考えたんだ。そしたら肝心なこと
忘れてたことに気づいてさ。それでその話、したいと思うんだ」
――話があるって、それ……?
 別にどうでもいいように思えた。
うぱ太郎同様に拍子抜けしたのか、チィミコの語り掛けにうぱ華子たちも無言でうなずくだけだった。
しかしそんな心中など知るはずもなくチィミコは意気揚々と話し始めた。
「私の指は5本ある。両手で10本だ。でも、なぜ指5本なのかは解らない。昨日タロウちゃんや
ハナちゃんがはじめから4本だったからって言ったけど、その通りで私の指も始めから4本だったら
気にしないし、たぶんそんな困ってないと思う。……だけど、やっぱりそれじゃいろいろと困るんだ」
 まるで答えになっていなかった。
しかし誰も口に出すことはなく、沈黙を相づちに代えた。
変わらずチィミコは楽しそうに喋り続けた。
「話は変わるけど、タロウちゃんとこでも分かれの日ってあるのか?」
「……言い方は違うけど、……あるよ」
昨日の説明で今日が春分の日ということは承知している。全員で顔を見合わせた後、うぱ太郎が代表で答えた。
「じゃあ今日が分かれの日だよって誰が教えてくれるんだ?」
「えーと、カレン……。いや、あの、……教えてくれる人がいるんだ。今日は何の日だよって」
 カレンダー、新聞、テレビラジオ、時計、何もない時代。そう答えるのが精一杯だった。
すぐにそうそうと、うぱ太郎に同意するつぶやきがうぱ民子から聴こえた。その声にチィミコの
瞳がよりいっそう輝きを増した。
「そうだろ? お日様の加減で何となく今日かなって思うけど、やっぱり教えてくれる人いないと
分らないよな?」
「……うん、そうだね。……気にしてないときは教えてもらわないと分らないと思う」
「そうだろ? それでな、その今日は何の日だよって村人に教えるのが私の仕事なんだ。
話戻るけど、なぜ指が5本なのかは解らない。だけど日にちを数えるには指が5本じゃないと困るんだ」

194 :

「日にちを数える……?」
イベントを心待ちに、カレンダーを見つめあと何日と数えることはある。
だがそれはチィミコの意図することとは明らかに意味合いが異なるだろう。
「そう。ホントのところ指だけじゃすぐ忘れるから木とか石も使うんだけど、元となるのは両手なんだ」
「……チィミコちゃん、今日が春の分かれの日なんでしょ? 次に来るのは夏の分かれの日よね?
その日まで指でどうやって数えるのかしら?」
うぱ太郎の隣で静かに耳を傾けていたうぱ華子がチィミコに問う。
うぱ華子の質問に、チィミコは得意気な笑顔を浮かべ、胸の前で大きく両手の指を開いた。
「うはは、ハナちゃんたち指4本だから数えづらいかもしれないけど、数え方教えるから指5本の
つもりで一緒にやってみてもらいたいんだ。分かれの日の次の日から数えるってことで。
 うちの村は4日働いて1日休むのが決まりなんだ。田植えと米の刈り取りのときは忙しくて
そうならないときもあるけど、4日働き1日休む4日働いて1日休むを繰り返すんだ」
そう言ってチィミコはうぱ太郎たちに見せるように手を突き出し、数を数えながら右手の親指から
順番に折り始めた。
――10日で2日休みか。
「それで、両手の指が全部折れたら、一区切りになるんだ。それで今度はそれを9回数えるんだ」
「1、2、3、4、休み、1、2、3、4、休み。で一区切り。それを9回数える。と」
うぱ民子とうぱ倫子が口にしながら指を折り数えはじめた。
「そう。それで右手でも左手でも、親指でも小指でもどっちでもいいんだけど最後に残った指が
分かれの日になるんだ」
「……なるほどね。分ったわ」
――10日で一区切り。それを9回で90日。それに1日足して91日。
  だいたい3ヶ月、期間的には問題無い。
「それでな、今度は分かれの日が何回来たかを数えるんだ。うちの村は春の分かれの日が
一番目で冬の分かれの日が最後になるんだ。それをまた指で数えるんだ。春、夏、秋、冬。
そしたらまた指が1本余るだろ? その日が、一年の分かれの日だ」
春、夏、秋、冬と声に出しチィミコは指を折った。そして最後に小指を見せびらかすようにして、
ゆっくりと折り曲げた。
――91の4倍、364。プラス1。 ……凄いな、365日であってる。
「凄いわね……。あたしたちのとことは数え方違うけど数は合ってるわ」
「うはは。でもな、まだ続きあるんだ。なんか知らないけどこの数え方で行くと何十年もすると
ちょっとずつお日様の位置がずれちゃうんだ。なんか大昔の人が気づいたらしいんだ。
村長が言うにはやぐらで見る限り1年じゃあまり差はないけど20年もすればはっきり差が出るらしいんだ。
それを直すために」
「一年の分かれの日を指で数えて、4年目に小指の分を1日足すのね?」
――うるう年のことも知っているのか……?
「そう、当たり」
そう言ってチィミコはうぱ華子に向けてぱちぱちと拍手を贈った。
「凄いよな、昔の人ってそこまで解ってたんだ。私なんかたぶん巫女になって数え方聞かなかったら
一生気づいてないと思う。っていうか人任せにするしな。
ということで、答えにはなってないけどやっぱり指は5本ないと困るんだ」
「ありがとう、面白かったわ」
「……逆算?」
「凄いな、僕も教えてもらわないと気づかなかったと思う」
単純な指遊びの計算だが確かに辻褄は合っていた。素直にうぱ太郎は感服する。
感心の声に気を良くしたのか、チィミコはうぱ太郎たちの前で得意げに腕を組み、うんうんとうなずいた。

195 :

「ねーねー、チィミコちゃん。太郎ちゃんは何故4本か分らないって言ったけど実は理由があるんだ。
……聞きたい?」
 そんな自慢げな笑顔のチィミコに、少し意地悪そうにうぱ民子が話し掛けた。
――実は負けず嫌い……?
 探るようにうぱ太郎はうぱ民子を眺めた。
何をどう力説するのか期待する半面、どこか不安もある。
「聞きたい聞きたい。何で何で?」
うぱ太郎の心配をよそに、チィミコはうぱ民子の前に手をつき身を乗り出した。
えへんと咳払いをひとつ。早速うぱ民子が語り始めた。
「チィミコちゃん、龍って知ってる?」
「リュウ?」
「そう。わたし達からすれば神様みたいな生き物なんだけどね。聞いたことあるかな?」
「あー、なんか聞いたことあるな。おっきい蛇みたい奴で空も飛べるんだろ?」
「そうそう。でも大きい蛇なんてもんじゃないね、それこそグレマン様の何倍も何十倍もあるんだ。
それで、格好は蛇っぽいんだけどちゃんと手足もついてるんだ」
「凄いな。大陸にはそんなのいっぱいいるのか?」
「まあね。でも、さっき言ったように神様みたいなものだから滅多に見ることは出来ないよ」
「……そうか。……大陸の神様もやっぱり人前には出てこないんだな」
――いきなり龍か。ドラゴンじゃないだけましだけど大丈夫かな……?
 神妙な顔つきでチィミコはうぱ民子の話を聞いている。
話の展開が読めず、うぱ太郎は不安げにちらりとうぱ民子を見た。同様に感じたのか横目で覗く
うぱ華子と目が合い、思わず揃って苦笑する。
そしてうぱ太郎たちを気にすることもなく、うぱ民子はチィミコ相手に淡々と話を続けた。
「そう。まず見ることは出来ないね。でさー、その神様だけど五爪の龍って呼ばれてるんだ」
「ごそうのりゅう?」
「そう。それでねー、五爪って爪が五つあるってことで、わたし達と違って手の指が5本あるんだ。
……チィミコちゃん、もし6本指の人がいたらどう思う?」
「えっ?」
突然の問いかけにチィミコは押し黙る。
そして手のひらを開き、何度も5本の指の動きを確認した。
「……そうだな、びっくりって言うかちょっと怖いと思うかもしれない」
「でしょー? わたし達も同じで、指が4本なのが普通なわけ。だから指5本の五爪の龍は怖いって
言うか特別な神様なんだ。
 それでね、わたし達は神様でもなくて特別でもないから指が4本しかないんだ。それにみんながみんな
5本指だったら誰が五爪の龍かわかんなくなっちゃうでしょ? だからわたし達の指は4本なんだ」
「……なるほど。……じゃあタミちゃんたちとか、そこら辺うろちょろしてるトカゲやイモリで
指5本な奴いたら神様なのか?」
「違うよ。わたし達の手の指はもう4本って決まってるんだ。あと手の指5本のイモリとかトカゲ
いるかもしれないけど人の言葉話せないはずだから神様じゃないね。
でも指5本の奴は珍しいから見つけてもそっとしてあげたほうがいいよ。神様の友達だったりするから」
――五爪の龍って中国の言い伝えだっけ?
 うぱ華子の話が無事に着地できそうで、とりあえずうぱ太郎は胸を撫で下ろす。
チィミコも納得できたのか、話を結びに入ろうとしていた。
「なるほどな。やっぱりよその国の話って面白いな。ゴソウノリュウか。私も見てみたいな」
「チィミコちゃんは会わないほうがいいね」
「ん? 何でだ?」
しかしうぱ民子の即答に、少し不服そうに聞き返した。

196 :

「五爪の龍はあくまでわたし達の神様だからね。わたし達が見れば神様だ!って思うけど、
チィミコちゃんが見たら化け物だ!って思うかもしれないでしょ? そうやって五爪の龍を怒らせた人が
いたみたいで、ばちがあたって目が潰れちゃったって話も聞いたことあるしね」
「……そうか。……神様の世界もおっかないな」
うぱ民子の説明に不機嫌そうな表情が消え、チィミコに神妙さが戻った。
だがうぱ民子はとどめを刺すように言葉を続けた。
「そう、怖いよ。……チィミコちゃん、わたし達グレマン様から降りたとき思いっきり笑ったじゃん?
別にね、わたし達神様じゃないし、笑われるのも慣れてるから別にいいんだけどね。
 でも、もしグレマン様に乗ってたのが怒りっぽい神様だったら今頃間違いなくチィミコちゃんの目は
潰されてるよ、笑った罰だってね。
だから神様に会いたい気持ちはわかるけど無理に会おうとはしないほうがいいよ。怖いこともあるから。
……ってことで、この話はおしまい」
――さわらぬ神に祟り無しか。上手いことまとめたな。
  っていうか笑われたこと絶対根に持ってるし。なんかチィミコちゃん落ち込んでるし。 
 胸の中で苦笑しながら、横目で隣のうぱ華子を様子を確認する。
特に不満そうな顔もせず黙って話を聞いていた。さらに隣では、うわの空でうぱ倫子がぼーっとしている。
そう言えばと昨日の夜のことを思い出し、うぱ太郎はチィミコに話を切り出した。
「ごめん。ちょっと話変わるんだけど、チィミコちゃん。あとで大きい川があるところ教えてくれないかな?
それと、僕たちとチィミコちゃんが会った場所にも行っておきたいんだ。ちょっと僕、道憶えてなくて。
グレマン様乗ってついていくから出来れば馬に乗って連れてってくれないかな?」
うぱ太郎の問いかけで、チィミコに笑顔が戻る。すぐ、気を取り直したように声が返ってきた。
「いいよ。でも私祭りの準備あるからテンでもいいか?」
――テンか。昨日あまりうまく話せなかったけど……
「あ、うん。テンが大丈夫なら」
案内人がチィミコでないことに不安を覚えた。
ただ何事も一筋縄ではいかないことは分っている。人見知りな性格を隠すようにうぱ太郎は明るく答えた。
「わかった。あとで話しておくよ。それでな、タロウちゃんたちさ、もうちょっとで石置きが始まるんだ。
そのときタロウちゃんたちのこと村のみんなに教えたいと思うんだけど、いいか?」
「チィミコちゃん、石置きってなーに?」
「あ、さっき話しただろ、日にち数えるの指だけじゃすぐ忘れるって。それで今日は分かれの日で
祭りの日だから村のみんなで今年も春を迎えたよって、やぐらの広場に分れの日のしるしの石を置くんだ。
 村長と男衆の仕事だから私なにもしなくていいんだけど、夜の祭りの準備で私ちょっと忙しくなるから
いまのうちに教えたいと思ってな。村人みんな集まるし」
人に説明するのが好きなのか、うぱ民子の質問にチィミコは楽しそうに答えた。
すぐさま今度はうぱ華子から要望が出る。
「ええ、それでいいわ。ただお願いっていうか気をつけてもらいたいことがあるんだけどいいかしら?」
「なんだ?」
「チィミコちゃんがあたし達見て笑ったように、あたし達面白い顔してて珍しい色してるでしょ?
そうすると寄ってくるのよ、子供がね。それで大抵の子供はあたし達にさわろうとするわ。
 まぁ、さわるだけならいいんだけど、中には無理矢理引っ張って遊ぼうとする子も出てくるの。
もしそんなことされたら、小さいしあたし達なんかすぐに怪我して死んじゃうのよ。
だからこう言っちゃなんだけど、小さい子供はなるべくあたし達に近づけないで頂戴。
お互い気をつけていれば嫌な思いはしないで済むはずだから」

197 :

 思い当たるふしがあるのかしばらくチィミコは黙り込んだ。
そして姿勢をただし、あらたまった口調で答えた。
「わかった。うん、確かに小さい頃はヘビ捕まえて振り回して遊んでたな。あとでちゃんと食べたけど。
石置きの時みんなにちゃんと言うよ。そうだな、私と一緒じゃないと近づけさせないようにする。
それにこの家は巫女の家で余程のことがない限り誰もはいらないから大丈夫だ。心配しなくていい」
―― 蛇を、ちゃんと食べた……?
 真面目な顔でチィミコは大丈夫と言い切った。
しかし、何気ない一言が小さな棘となってうぱ太郎の胸に突き刺さる。
思わず隣を見る。しかしうぱ華子たちに動揺の色は無い。
――いや、魚の頭も食べてるんだ。……気にするな。
 その時だった。
遠雷のような響きが、かすかに空気を振るわせた。
「お、始まったな。そうだな、とりあえずみんな昨日みたいにグレマン様に乗ってついてきてくれないか?
石置きが終わったら村人に話するから」
 チィミコが立ち上がる。
軽く衣服をはたく。髪の毛を少し気にする。そしてうぱ太郎たちに向けて微笑む。
 どんどん、どんどん。と、太鼓と思われる音が次第に大きくなっていく。
その響きに煽られるように、うぱ太郎の心臓が脈打つ。
――もう何回繰り返したろう? ……僕に足りないのは勇気と覚悟だ。腹をくくれっ!
「うん、分った。じゃあみんなグレマン様に乗ろうか?」
さりげなくうぱ華子たちに声を掛けた。
「はーい、出発シンコー!」
「……民ちゃん。いちいちうるさい」
「はいはいはいっ、無駄口叩かない。ちゃっちゃっと、ぱっぱと」
 まるで遠足気分だなと心の中で笑う。
そして不安と緊張をひた隠し、うぱ太郎はグレートサラマンダーZに乗り込んだ。

198 :
今日はここまで。

199 :
http://fsm.vip2ch.com/-/sukima/sukima093315.jpg

200 :
オオサンショウウオにしか見えないw

201 :
                      
                           
 < ̄ ̄ ̄ヽ, '  ̄ ̄ ̄ヽ / ̄ ̄ ̄>
.<ニニニニニV            Vニニニニニニ>
. <____{ ●      ● }、___>
       八  、___,  八        < うぱと契約して
        ヽ、 _  _ .ノ           モバイル適正者になるうぱ
          ,'    '. 

202 :
うーうーうぱうぱ

203 :

―― ストーンサークル……? 時計、いや……
 視聴覚モニターには、時計の文字盤に似た直径5メートルほどの円状に並べられた石と、その周りを
取り囲むように座っている子供達。そしてその子供を見守る大勢の人々の姿が映っていた。
 12時3時6時9時の場所にはそれぞれひと目で大きいと分る石が陣取っている。そしてその延長線上
には鳥居ように組み合わされた背の高い柱が立っていた。
 グレートサラマンダーZに乗り込んだうぱ太郎たちが案内されたのは、石置きという行事が行なわれる
場所から少し離れた土手のような、先の広場を見下ろすには都合のいい場所だった。
 チィミコと共にその場に着いたが村人達はグレートサラマンダーZに特に興味を示すこともなく、
おのおの談笑に夢中だった。当のチィミコは村長に話をしてくるとすぐにその場から離れ、広場へ駆けていった。
 ナビの時計表示は午前6時を廻ってしばらく経つ。
かすかに混じる薄い蜜柑色の光もやがては消えゆき、抜けるような空色に変わるだろう。
「ねーねー、あれって日時計?」
「……たぶんカレンダー。10日ごとに石置いて春分の日用に大きい石置くと思う。
あとあの柱は太陽の位置見るためだと思う。チィミコちゃんそんなこと言ってたから。
……ピラミッドなんかもそんな役割果たしているから昔の人の知恵で太陽の位置測ってるんだと思う」
 すでに完成している石の円12時から3時までの外周を、更になぞるように石が置かれている。
区切りの日となる今日、内側の円と同様3時の位置に大きな石を置くことになるだろうと容易に推測できた。
「倫ちゃん詳しいね。古代文明とか好きなの?」
コックピットの中、モニターを見つめたまま、それでも機嫌を伺うようにうぱ太郎はうぱ倫子に話しかける。
「……知ってることしか解らない」
「あはは。そりゃそうだよね……」
しかしながら、いまだうぱ倫子との会話の距離感は掴めていない。
気を取り直し今度はうぱ華子に話題を振ってみる。
「華ちゃんはストーンサークルとか古代文明とかそういうの興味ある?」
「残念ながら興味はないわね。それに忘れてるかも知れないけどあたしはメキシコ生まれよ。
地元の古代の話だってろくに解らないのに日本の古代のことなんか知ったこっちゃないわ」
さばさばとうぱ華子は答えた。
しまったと苦笑いを浮かべながらもうぱ太郎は続ける。
「あ、そう言えばそうだったね。……メキシコってなんだろ? サボテンとかアステカとか
しか思いつかないな」
「普通そんなもんでしょ? あえて言えばマヤ文明が有名だけど、あたしもB級雑誌の人類滅亡
とかのゴシップ記事読んでそんなのあったなってレベルだからたいそうなことは言えないわ」
「マヤ文明か……。僕も何かで読んだ気がするな。なんで人類滅亡するんだっけ?」
「……長期暦。マヤ文明でもいろんなこよみの計算があって、その中で一番長い何千年単位で
計算される長期暦の終わる時が2012年の冬至の頃。
 長期暦の終わりが来たら新しいこよみを迎えるために全てのものが終わって新しく生まれ変わる。
って、輪廻転生みたいな思想もマヤ文明の一部にあって、それで人類滅亡に繋がってるんだと思う。
……わたしは大丈夫だと思うけど」

204 :

―― ワームホールとか言ってたしやっぱ好きなんだ。でも、それ言ったらまた止まるから……
 不自然にならないように少し考えてうぱ太郎は口を開く。
「なるほど。でもさっきのチィミコちゃんの1年の数え方もそうだけど、星とか月とか太陽見て
こよみ計算するなんて凄いよね、古代の人って。そう言えば三蔵法師だっけ? 日食の日わかってて
それ利用して妖怪退治するの」
「……そう。でも三蔵法師は実在したみたいだけど西遊記はフィクションだから、その時代の人が
日食や月食の正確な日にち理解してたかどうかはわからない」
ほんのちょっとだがうぱ倫子の声が弾んだように思えた。
「ふーん、なるほど。……ちなみに倫ちゃんは日食の日とか計算できるの?」
「……季節ごとの星座の位置とかは知ってるけど、日食月食の日までは解らない」
「さすがにそこまでは無理だよね」
「……うん」
 少し近づけたかなと、心の中でガッツポーズをとる。
そしてさらに盛り上げようと、うぱ太郎は昨日の夜のことを話し始めた。
「昨日倫ちゃんたちすぐ寝ちゃったけど、僕あのあと外に出てみたんだ。
なんて言うか、なんかびびっちゃうぐらいに星が凄かった。ちょっと怖いって思うほどだったもん。
僕は北斗七星とオリオン座ぐらいしか分らないけど下手なプラネタリウムより凄いんじゃないかな。
倫ちゃんも夜になったら見てみればいいと思うよ。大袈裟じゃなくてびっくりすると思うから」
「あはははは。朝っぱらからチィミコちゃん元気だなー」
 唐突にうぱ民子が笑い出した。
―― 朝っぱらからジャイアンリサイタル開いてる民ちゃんほうがよっぽど元気だよ。
   って言うか空気読めよ。
 何事かとモニターを見れば、村長との話が終わったのかこちらに向け走ってくるチィミコの姿が
小さく映し出されていた。
 そしてうぱ太郎が苦々しく思うことも束の間、無邪気な子鹿のようにあっという間に土手の
斜面を駆け上り、チィミコはグレートサラマンダーZの隣に立った。
「……お待たせ。……えーと、タロウちゃん以外にも聴こえているんだよな?」
吐く息はまだ白い。はぁはぁと少しあがった息をチィミコは身だしなみと共に整える。
「えーと、うん。大丈夫。みんな声も聴こえるし石置きの広場も見えてるよ」
「つくづく凄いな。一体どうなってんだグレマン様って?」
「……まぁ、いろいろと。持って生まれた力というか」
「あはは、そうなんだ」
 返事を深く追求しようともせずチィミコは明るく笑う。
そして合図を送るように大きく両手を振った後、通常姿勢のグレートサラマンダーZの隣に膝を
かかえ座り込んだ。
 しばらく止んでいた太鼓の音がひとつ響き、ざわついていた村人達が静まりかえる。
間もなく村長と思われる男が石の円の中央に立ち、話を始めた。しかしそれほど長い話でもなく、
連打される太鼓の音と一緒に円から外れていく。
「さあ、石置きの始まりだ。面白いと思うからみんなで見ててくれ」
身体をひねり覗き込むようにしてチィミコはグレートサラマンダーZに話しかけた。
「うん」
平然と返事はするが、モニターいっぱいに映るチィミコの笑顔に戸惑いうぱ太郎は思わずのけぞる。
「チィミコちゃんっていちいち顔近いよねー」
「……可愛い」
「眉毛の手入れぐらいしないのかしら?」
マイクが音を拾わないことをいいことに、うぱ太郎の後ろでは好き勝手に言い放っている。

205 :

 どどどど、どんっ。
 広場に太鼓の音が響き渡る。
神聖な儀式なのだろう、太鼓の音に合わせ膝を折りチィミコは広場に向け襟を正した。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
太鼓のリズムに合わせ、村人達から掛け声が沸き起こる。
―― お御輿……?
 モニターの片隅に、木製のはしごのようなものを担ぐ4人の男が映る。
中央の台座には大玉なスイカほどの黒っぽい石が乗っている。太鼓と村人の掛け声に合わせ、
その神輿のようなものは4人の担ぎ手によってゆっくりと広場の石の円に向かっていく。
 
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
ひときわ大きい掛け声とともに、神輿は円から10歩ほど離れた場所に下ろされた。
 村長の声が響く。
同時に4人の男に入れ替わり、遠目でも幼稚園児ほどと分る4人の子供が神輿の四隅についた。
―― 子供だけで担ぐつもりなのか……? 何キロあるか分らないけど無理だ。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
また掛け声が始まる。しかしうぱ太郎の予想通り神輿は子供の力ではびくともしなかった。
 どんどん、よいしょ、どんどん、よいしょ。
それでも掛け声は続く。徐々に笑い声や励ます声が混じりはじめる。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょーっ。
まったく動かせないまま4人の子供は神輿から手を離した。それでも広場には労をねぎらう声が上がった。
そして少し恥ずかしそうにしている4人に、出番を待っていたかのようにさらに4人の子供が加わった。
―― 子供でも8人ならいけるかな?
 一呼吸置いて太鼓が鳴り始めた。
掛け声もあがる。だが次第に頑張れ踏ん張れと応援の声が増してくる。
 神輿が少し持ち上がったのが分る。その都度広場は歓声で盛り上がる。
だがやはり担ぎ上げられることはなく、最後の掛け声も虚しく神輿はその場から動けずにいた。
―― 今度の4人は中学生くらいか……
 動かない神輿の前にさらに4人が加わった。
大人とは言い切れないが最初の子供に比べ明らかに身体は大きく、2度目に加わった子供と違い、
事前の8人になにやら指示を出し場所を確認しながら神輿に全員揃って手を掛けた。
そして神輿の先頭をになう一人が大きく片手を揚げる。
 どんどん、よいしょ。どんどん、よいしょ。
みたび、掛け声が沸き起こる。しかし今までとは違いどこか確信めいた力強さがあった。
 声援も笑いも無い。ただひたすらに太鼓と掛け声だけが広場に響く。
そして最後に加わった4人が8人の子供を促すようにひときわ威勢よく叫んだ。
 よいしょー!!!
 神輿が担ぎ上げられた。
 怒号に似た歓声が響いた。
太鼓と掛け声が小気味よく続く中、神輿は12人の手により円の3時の位置にじわじわと向かっていった。

206 :

「意味のないことやってると思うだろ?」
「え……? あ、うん」
 突然、チィミコに話を振られ、うぱ太郎は言葉に詰まる。
「はじめから終わりまで大人が担げばいいだけのことなんだけど。……でも、そうじゃないんだ」
「…………」
どう答えればいいのか分らずうぱ太郎はコックピットの中で黙り込んだ。
かまわずチィミコは話を続ける。
「私の村はな、生まれて6年たったら村の仕事にたずさわるんだ。それで一番最初の仕事が
この石置きなんだ」
―― 1年の数え方は教わった。でも何月何日なんて数え方じゃない。
   6年目とか言うけどそもそも村の人誕生日なんてわかってるのか?
  
「えーと、チィミコちゃん。ここの村の人は自分がいつごろ生まれたってみんな知ってるのかな?」
少し気になりうぱ太郎は尋ねる。
「みんな知ってるよ」
「どうやって?」
うぱ太郎の問いにチィミコは胸元に手を入れ、衣服の下、紐で首にかけられていた文庫本ほどの
大きさの木片をグレートサラマンダーZの顔の前に差し出した。
「あ……」
 その木片上部には、眼下の石の円に似た円状の模様が刻まれていた。
そして下部の上の位置に手の形に似た5本の放射状の線の塊が3組。
「よその村のことはよく分らないけど、うちの村では生まれたときにこの札をつけてもらうんだ。
あの石置きの丸と同じなんだけど、私は春の分かれの日の前に生まれたからここに印がついている。
それで生きた年は手の指の印で数えてて、ひとつ5年でそれがみっつで15年だ」
そう言いながらチィミコは木片の印に指をさした。
「当然小さいときは生きた年数の印自分じゃつけられないからその家の人につけてもらうんだけど、
6年目から自分でつけれるように、それまでみんなで教えるんだ。それで生きた年、6年になったら
その次の分かれの日の石置きのときから石を担ぐんだ」
「それ村の人全員持ってるの?」
「ああ、全員持ってるよ。みんな少なくても分かれの日ごとに必ず見てるから忘れることはない。
あと間違って燃やしたり割ったりする人いるけど、そのときは作り直す。怒られるけどな」
―― 昔の人の知恵か……。
 カレンダー代わりの石の円を眺めながらうぱ太郎は想う。
そしてあらためて現代社会とはかけ離れた場所に来てしまったことを痛感する。
木片を胸元に戻し、チィミコはどこか懐かしむような優しげな微笑を浮かべ広場を向いた。
「小さな子供だけじゃ石置きの石担げないことはみんなわかってる。それでも最初は子供4人に
担がせるんだ。初めて担ぐ子はその重さに驚く。そしていかに大人に力があるかを思い知る。
でも、子供だけでも力を合わせれば何とかなることに気づく。そこが一番大事なことなんだ」
「…………」
「ただ、石を動かせばいいってことではない。石が落ちたりしたら危ないからな。
それでそうならないように面倒を見るのが何回も石置きをやってきた年上の者だ。
小さい子が怪我しないように注意しながらみんなをまとめ、力をあわせ石を担ぐんだ。
 でも何も初めてやる子だけが教わるんじゃないんだ。何回も石置きをやった上の子もそうやって
自分が教わってきたことを下の子へ伝えることをちょっとずつ学んでいくんだ。
この村の者はみんな石置きをやって大きくなってきた。石置きはこの村の大事なならわしなんだ」
「…………」

207 :

―― 蛇食べるって聞いたときどうなることかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだな……。
 カレンダーはおろか紙さえも無いと思われる時代。だが少なからず秩序や道徳的な教えはある。
自ら作りあげてしまった幻想を恥ずかしく思い、うぱ太郎は胸の中で小さく反省する。
 モニターには神輿から石を降ろし、収まる穴に向け石を転がす男の姿が映っている。
占いの要素でもあるのか、石が動くたびに広場は歓声やため息で埋まった。
そして石が穴に収まったところでひときわ大きい拍手と歓声が沸き、続いて村長の話が始まった。
ところどころで横やりな声が掛かる。どっと笑い声があがる。だがたいして長い話でもない。
長く続く拍手が終わりを告げていた。
「よし。じゃあみんなそろそろ行こうか」
儀式を見届け、チィミコは立ち上がり軽く衣服をはたいた。
「……うん」
少しどきりとする。そしていよいよかと心の中でため息をつく。
 大勢の人の前に出る。
人の姿の無いうぱるぱ王国で過ごしてきたうぱ太郎にとって未知の経験である。
 うぱるぱ救出活動で何度も人とやりあって来た。何度も理不尽な目にも遭った。
しかしその体験どれもがグレートサラマンダーZという鎧に守られての事である。
「うおー、盛り上がってきましたよー!」
「……民ちゃん、いちいちうるさい」
「あんたら余計なこと言わないでよ」
人の気も知らないで。と、後ろの席で遠足気分ではしゃぐうぱ民子を少し恨めしく思う。
 
「それでさ、私が村のみんなに話すから悪いんだけどタロウちゃん、私の言うとおりグレマン様
動かしてもらっていいかな?」
屈託のない笑顔でチィミコはグレートサラマンダーZに話しかける。
「いいけど……。どんなことするのかな?」
少し自信なさげな声でうぱ太郎は聞き返した。
「うん。私やテンやツギは見たからいいけど、グレマン様いきなり立ったり口開けたりしたら村の
みんなびっくりすると思うからあらかじめ見せておきたいんだ。それにそうなったときは危ないから
近寄るなって小さい子にも言っておきたいし。その後タロウちゃんたち出てきてもらえればさっき
ハナちゃんが言ったみたいにさわろうとする子もいなくなると思うから」
「あー、うん、わかった。じゃあチィミコちゃんに任せるよ」
「うん。悪いようにはしないから安心しててくれ」
―― 大丈夫。チィミコちゃんがフォローしてくれる。
 気づかれないように大きく息を吐き、ハンドルの位置を確かめた。
そして坂を下るチィミコに続き、うぱ太郎はゆっくりとアクセル踏み込んだ。

208 :

「昨日も話したけど、しばらく村にいてもらうグレマン様だ。
でな、昨日私の家でいろいろグレマン様と話したんだけど、とにかく凄いんだ。
ウマ。まぁオオシカでいいんだけど、オオシカも凄かった。でもそんなもんじゃない。
とにかく凄い。みんなびっくりすると思う。ホントにびっくりするはず。
って言うことでグレマン様よろしく」
「……どうも。……よろしくおねがいします」
「よろしくおねがいします!」
「「「 ……………。」」」
 チィミコに連れられて、いよいようぱ太郎たちを乗せたグレートサラマンダーZは
村人達の前に出た。だが案内された場所はよりにもよって石置きが行なわれた石の円の内側で、
ばちがあたるのではと、うぱ太郎の不安と緊張をさらに増幅させた。
 乳飲み子を抱く女から杖を持つ老人まで100人近くと思われる村の人々が、チィミコの
指示に従い半円を取り囲むように立ち並んだ。
 円の内側に入らなければどれだけ近づいてもいい。というチィミコの声に、小さな女の子が
いの一番で最前列に立った。そして怖いもの見たさか数人の若い男女が少女の隣に並んだ。
―― たしかあの子昨日も返事くれたよな。蛇とかトカゲとか好きなのかな?
 ほとんどの村人は無言で、不安げにグレートサラマンダーZを見つめている。
その中での少女の元気な返事は、ほんのわずかだがうぱ太郎の心の支えになった。
「えー、昨日私とテンとツギは見たんだけど、実はグレマン様って2本足で立てるんだ。
それでまずはみんなにグレマン様立ったところ見てもらいたいんだ。いきなり暴れたりは
しないから大丈夫。怖がらなくていい。じゃあグレマン様よろしく」
「え、えーと。じゃあこれから立ちます。……いきなり暴れたりしないから大丈夫です」
簡単な打ち合わせどおりにチィミコは話を進めた。声に従い、モニターで人が危険な位置にいないことを
確かめ、うぱ太郎はグレートサラマンダーZを立ち上がらせた。
「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、でかっ!」
「そりゃ反則でねーすか?」
 グレートサラマンダーZの動きに村人からどよめきが沸いた。
かまわずチィミコは場慣れした司会者のように話を続けた。
「はい、次はちょっと怖い。小さい子は泣いちゃうかもしれないからお母さん方よろしく。
当然と言えば当然だけど、グレマン様も口開けるときがある。でも何も知らないでその姿見ると
喰われちゃうかもって心配になってしまう。だから前もってその姿を見ておいてほしいんだ。
じゃあグレマン様、口開けてくれないか? できればなるべくゆっくりでお願いします」
「はい。えー、これから口開けます。いきなり暴れたりしないから大丈夫です」
 ぱかっ!
「「「 ――っ!? 」」」
「おいおいおいおい!」
「待て待て待て待て!」
「うわ、怖っ!」
「や、やんのかコノヤロー!!!」
「びゃー、えーんえーん」
「そりゃ反則ですって……」

209 :

―― やっちゃった……。
 緊張のせいか、うぱ太郎は無造作に口開閉スイッチを操作してしまう。
案の定、少女やもの好き連中含め、村人がいっせいに身を引いた。
慌ててチィミコがフォローを入れる。
「暴れたりしないから大丈夫。ホントに大丈夫だから心配しないでくれ。
……泣いちゃった子はさがってもらったほうがいかな。ごめんな。
それでな、グレマン様立ったり口開けてるときは近づかないで欲しいんだ。危ないから。
て言っても、あはは。これじゃ誰も近づきたいなんて思わないよな」
「「「 …………。」」」
「えー、グレマン様、口閉じていつもの格好に戻ってもらえるかな?」
「じゃあ、これからいつもの格好に戻りますです」
気まずさを隠すようにチィミコは笑顔を振りまいた。
うぱ太郎もそそくさとグレートサラマンダーZの口を閉め、通常状態に姿勢を戻した。
 安堵のため息が広場を埋め尽くす。
「うわー、グレマン様、凄い!面白い!」
「まぁ今日はこのぐらいで勘弁してください」
「こいつ本当におとなしくしてるのか? オオシカみたいに機嫌悪かったら蹴ったりしないのか?」
「たまげたなぁ。ほんとに化け物っているんだ」
 ひと通り村人の反応を見回した後、チィミコはごほんと咳を打った。
そして最前列はしゃがみ後ろの人は前に詰めるようにと村人をまとめ、本題を切り出した。
「えー、世の中には私たちの知らない、信じられないことやびっくりすることがたくさんある。
オオシカの時もそうだし、隣で言うのもなんだけどグレマン様にもびっくりだ」
 チィミコの声に最前列の少女が興味深げにこくこくとうなずいた。
釣られるように、周りからもうんうんと声が漏れた。
「でも本当に凄いのはこれからだ。またグレマン様に口を開けてもらう。暴れはしないから
怖がらずにみんなよく見ててくれ。
 たぶんみんな信じられないと思う。けど信じてもらうしかない。
これからグレマン様から降りてもらう。みんなびっくりする準備してくれ。
まぁ、簡単に言えば人の言葉を喋る手の生えたナマズだ。神様じゃないけどとにかく凄いぞ。
じゃあタロウちゃんたち。グレマン様から降りてくれないかな?」
―― いよいよか……。
 覚悟を胸に秘め、うぱ太郎はゆっくりと口開閉スイッチを操作する。
 振り返る。
昨日チィミコの前に出たこともあり、無表情だがうぱ華子、うぱ倫子も準備は出来ている。
「 …………。」
だが何故かうぱ民子はへらへらと笑っている。
「……民ちゃん。もうちょっと真面目に出来ないのかな?」
深刻になれとは言わない。しかしうぱ民子の態度はうぱ太郎にはあまりにも不謹慎に思えた。
「あはは。太郎ちゃん緊張しすぎ。表情硬いよ?」
だが、うぱ民子はあいかわらずの調子だった。
「はいはいはい。太郎ちゃんいちいちイラつかない。サクっとやっつけるわよ。サクっと」
「……太郎ちゃん。いつもあんな感じだから右から左へ受け流せば大丈夫」
「あれれ? わたし悪者?」
「いいよ、もう。じゃあ行こうか?」
何もかもが馬鹿らしく思えた。爆発させたい怒りを押し殺し、うぱ太郎は後ろを振り返らずに
グレートサラマンダーZから降りはじめた。

210 :
今日はここまで。

211 :
以上、避難所より代行でした

212 :
投下乙、代行の人も乙

213 :
ウーパールーパーといえばミズゴロウかな

214 :


215 :
うおー、いい所で止まってた
wktk
>>213
どう考えてもウパー

216 :
うーぱーまーけっと

217 :
「誰だよタロウちゃんて?」
「チィミコちゃん。グレマン様のほかに誰かいるの?」
「なに始まるんだ?」
「…………」
 口は開いたが、一向に変化のないグレートサラマンダーZ。
無言のチィミコとグレートサラマンダーZにじらされ、次第に村人がざわめきたつ。
「「「 ????? 」」」
 だが、一瞬にしてそのざわめきは消え去った。
 うぱ太郎、うぱ華子、うぱ民子、そしてうぱ倫子。
怪物の口から這い出た、一匹を除けば神々しささえ感じる鮮烈な体色の見慣れぬ生き物。
石置きの円最前列を陣取った者たちは、ただ無言で事の顛末を見守ることしかできなかった。
「おはようございます!うぱ太郎といいます! タロウちゃんって呼んでくださいっ!!!!!」
「「「 !!!!!っ 」」」
 半ばやけくそ。
グレートサラマンダーZの前で横並びになったうぱ太郎は、呆然と立ち尽くす村人たちを見上げ、
開口一番あらん限りの声で叫んだ。
「「「 …………。」」」
 続く沈黙。
そして、ぽつりぽつりと困惑の声。
「あれ? この子グレマン様と同じ声だ」
「私、寝ぼけてるのかな?なんか魚が喋った気がする」
「……気のせいじゃね?」 
「なんか気色悪い色の魚だな」
「誰か叫んだやついる?」
「えーと。……どうなってんだ?」
「あたしはうぱ華子。華ちゃんて呼んで頂戴」
「「「 !!!!!っ 」」」
 どんなに目をこらしてもチィミコの隣に立つ者はいない。
 その声は間違いなく、怪物の中から突然現れた不可思議な生き物が発していた。
何ひとつ変わらない朝日の中で、受け入れきれない事実が現実に混じり始めた。
「おいおいおいおい!」
「ちょ、ちょっと待てコラ!」
「ふざけんな!」
「……嘘でしょ?」
「ありえねー」
「ナマズが喋っただと?」
「すげー色だな。神様か?」
「神様? イモリじゃねーのか?」
「長生きするもんじゃのう」
「世の中まちがってる……」
 広場がどよめきで溢れかえる。
事を確かめようと一斉に石の円に詰め寄ってくる村人たちを、にたにたと満足げに眺める。
うぱ太郎たちとの距離を確かめ、グレートサラマンダーZの隣に座り込む。そしてチィミコは
腕を伸ばし指を指しながらうぱ太郎たちの紹介を始めた。

218 :
「黒っぽいていうか一番魚っぽいのがタロウちゃんだ。赤っぽいのがハナちゃん。それで白の子が」
「……うぱ倫子。……倫ちゃん」
「わたし、うぱ民子。民ちゃんって呼んでねー。チィミコちゃん、つば飛んでくるからあっち向いて喋って」
 気後れしたのか、消え入るような声のうぱ倫子。
そして村人の反応などまったく意に介さないうぱ民子。
「あーっ!」
「――!?」
交差するざわめきに混じり、最前列の少女が大きく声を上げた。
びくりと、うぱ太郎含む4匹が一斉に身を引いた。
「朝、変な歌うたってた声だー!!!」
まるで探していた宝物を見つけたかのように弾む声。
そして少女はしゃがみ込み、物怖じすることなくうぱ民子に向けて身を乗り出した。
「あの歌、教えて教えて!」
「えーと……」
少女の勢いにたじろぎ、少し気まずそうな表情でうぱ民子はうぱ太郎やチィミコを見やる。
「トリノちゃん。タミちゃんの歌聴いてたのか?」
「だって私んちからグレマン様見えてて、すぐそばだから聴こえてきたもん!!!」
 少女は口を尖らせる。
負けん気の強い返答に苦笑いを浮かべ、なだめるようにチィミコは話しかけた。
「そうか。……でも今すぐはだめだな。そうだな、あとでタミちゃんたちと相談するから、
今日は我慢してくれないか?」
「うん、わかった」
返事に納得したのか、トリノと呼ばれた少女は期待に満ちた笑顔でぺたりと地べたに座り込んだ。
「またまたわけ分んねー奴連れてきたな、おい。 ……チィミコ。そいつら村におくって言うけどな、
いまうちの村にそんな余裕なんかねーだろ。おまえ本気か?」
 収まる気配のないざわめきの中、今度は少し気難しい表情をした男がチィミコに言い寄ってきた。
わずかな沈黙が広場の中に生まれる。そしてそうだそうだと男に同調する声がぽつぽつと上がる。
 男にむやみやたらと手を出してきそうな粗暴な印象は無い。ただ、トリノの突然の大声に懲りたのか
うぱ太郎たちはいつでもグレートサラマンダーZに乗り込める位置まで下がっていた。
「ナギタ。どういう意味だ?何を言いたい?」
 笑顔は崩れない。
立ち上がり膝をはたく。そしてチィミコは余裕の表情で注目の的となった男に問い返した。
だがその態度が面白くないのか、これ見よがしにナギタと呼ばれた男から舌打ちが漏れる。
「テンから聞いたけど、タカオとのいざこざ鎮めてくれたのはありがたいと思うし、確かに礼も
必要だろ。でもな、今うちの村にそんな余裕あんのか? グレマン様のそのなりじゃ肉でも魚でも
ばりばりかなりの量食うんだろ? 自分の食う米さえ無くてひーひー言ってんのに、いくら助けて
もらったからってそんな化け物に村の食べ物何日も恵んでる場合かって話だ」
―― 食べ物のせいにしてるけど、ようは村に居てもらいたくないってことだよね。たぶん……。
 心の中で溜息をつくうぱ太郎。無表情のうぱ華子うぱ倫子。相変わらずへらへらしているうぱ民子。
しかし、そんなうぱ太郎たちのことに気づくわけもなく、チィミコは大袈裟に頭を掻きながら話を進めた。

219 :
「あー、ごめんごめん。うん。言いたいことは分った。でも大丈夫だ。グレマン様の食べる分は
グレマン様が川に行って自分で魚獲って食べるから心配しなくていい。
あとタロウちゃんたちの分は私たちが一口で食べる魚の身があればそれで一日過ごせるらしいんだ。
それに魚がなければミミズでもいいみたいなんだ。だからグレマン様に村の食べ物が食べつくされる
とかそんな心配はまったくしなくていいよ。私が食べる分ちょっとタロウちゃんたちに分けてやれば
いいだけのことだから大丈夫だよ。ごめんな、村の食べ物のことまで心配してくれてありがとう」
 そう言ってチィミコはぺこりと頭を下げた。
それでも気がすまないのか、腕を組みナギタは執拗にチィミコに食い下がる。
「……分った。じゃあ食べ物のことはいい。……だけどな、本当にそいつら暴れないのか?
オオシカの時も酷かったよな。機嫌悪けりゃ暴れるわ蹴られるわで相当痛い目にあったよな?」
「大丈夫大丈夫。確かにオオシカも最初は酷かったけど今じゃ村一番の働き者だ。
簡単なことだよ。グレマン様に嫌がることを言ったりやらせたりしなければいい。それだけだ。
なんてったってグレマン様は人の言葉が分るんだ。私たちが変なことを言わない限り暴れたりする
ことはない。さっき見てただろ? ちゃんと話せばちゃんと通じるんだ。みんなと同じだよ。
怒る怒られるようなことしなければおとなしくしてるよ。それだけだ」
「……分った。……でももう一回聞く。まぁ、変な言い方だけど、俺たちはオオシカのときみたいに
やたらと気を遣わなくてもいいってことだよな?無理してなだめたりしなくてもいいってことだよな?」
「……ナギタ。おまえまだオオシカに蹴られたこと根に持ってんのか?」
「おわっ!?」
 いつのまにか火起こしがナギタの隣でにやついていた。
その火起こしのひと言で、少し不穏がかった重苦しい空気が払拭される。
「う、うるせーよ火起こし。おまえだってオオシカ乗れるようになったのつい最近だろ」
「ふんっ。俺はおまえと違って一回二回蹴られたくらいじゃ懲りないんだよ。それにな、
うちの巫女とか若い奴らはオオシカ乗れるのに大の男が乗れないなんて格好悪いだろ」
 火起こしの返事に今度は俺も乗れる私も乗れると、得意気な幼い声が盛んに混じる。
 顔つきから30歳前後で火起こしと同じ年代だろう。
しかし場に飛び交うオオシカに乗れるという声につまみ出され、次第にナギタは立つ瀬がなくなる。
「ちっ、どいつもこいつもオオシカ乗れるぐらいでいい気になってよ。そんなにオオシカに
乗れんのが偉いのかよ」
「おいおいナギタ。そんなことでいちいち拗ねんなよ」
「拗ねてねーよ!!!」
 火起こしとナギタ。
2人がやりあうたびに笑いや冷やかしの声で広場が盛り上がる。
―― ちょっとうわーって思ったけど、なんだかんだでみんな仲いいみたいだな。
 心の中で安堵の声が漏れる。
そしてうぱ太郎の思ったことを裏付けるように、トリノがくるりと振り返り2人に向かって叫ぶ。
「ナギタも火起こしも頭悪いなあ。もう忘れたの? オオシカじゃなくてウーマっ!!!」
「「……いいだろ別にオオシカで」」
「ウマっ!!!」
「「……はいはい。わかったわかった」」
 幼い子供には敵わないとでも言いたげに、火起こしとナギタ2人揃って肩をすくめた。
―― この村でうまくやっていけるのかな? ……僕。
 まるで奇妙な者たちの姿など目に入らないかのように、何も変わらない朝日の中、朗らかな数々の
笑い声が、いつまでも広場に響いた。

220 :
今日はここまで。

221 :
以上、代理でした

222 :
過疎ってるみたいなので
「アホロートルのあほチャン」のAAを
置き逃げしよう。
つ ∋(*=_=*)∈

223 :
http://vippic.mine.nu/up/img/vp111582.jpg

224 :
やめてw

225 :
うぱーぱうぱ うぱぱ

226 :
>>225
うぱぱーうぱうぱ

227 :
+(・―・)+

228 :
+(・ー・)+

229 :
ぬーぽーるーぽー

230 :
うぱっが

231 :
うpってうぱって

232 :
>>56
 r──────────┐
 | l王三王三王三王三l o==ニヽ
 | |王三王三王三王三|  .| //
 ゝ 乂━━━━━━━乂_| `-=
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    
      ==========================
      |||||||||━━━━━━━━┫┏━━━━━━━━━|||||||||
      | |┃|||             .┃┃              | |┃|||
     | | | ||              .┃┃    /\___/ヽ   || | ||
      |||| .|               ┃┃ /ノヽ       ヽ、  |||| |
       || | | |               ┃┃ / ⌒''ヽ,,,)ii(,,,r'''''' :::ヘ  .|| | ||
        | ||| |                ┃┃ | ン(○),ン <、(○)<::|  | ||| |
       [__|                『[| ┃ |  `⌒,,ノ(、_, )ヽ⌒´ ::l  [__|
        | ||| |             .┃┃.ヽ ヽ il´トェェェイ`li r ;/  | ||| |
     || || |               .┃┃/ヽ  !l |,r-r-| l!   /ヽ .|| || |
     || |||                .┃┃  |^|ヽ、 `ニニ´一/|^|`|| |||
      ||| || |━━━━━━━━┫┗━━━━━━━━━ ||| || |
    .  | | | || | ━━━━━━━━┻━━━━━━━━━━|| | |||
          /) /)
      o  .,/ノ,/ ノフ/)-..
     °。 /_  _  フフフ `~`'ヽ、
  ZZZzzz... ( . ._,,.ノ >__(_ )  )
         ̄ ̄ ^^^   ^^^ノ ノ
                 `"''"

233 :
うぱぱー

234 :
天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。
天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。
天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。
天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。
天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。
天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。天然パーマ男R。バケモン。気色悪すぎ。

235 :
うぺぱ

236 :
ウパトロン

237 :
.

238 :
あげ

239 :
あげ

240 :
あげ

241 :
あげ

242 :
あげ

243 :
あげ

244 :
あげ

245 :
あげ

246 :
あげ

247 :
あげ

248 :
あげ

249 :
あげ

250 :
家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。

グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"

O5LP09JVKV

251 :
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』

G3D1A

252 :
1Z3

253 :2018/10/17
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね

VU7

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