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【ファンタジー】ドラゴンズリング4【TRPG】


1 :2017/07/31 〜 最終レス :2018/01/23
――それは、やがて伝説となる物語。

「エーテリア」と呼ばれるこの異世界では、古来より魔の力が見出され、人と人ならざる者達が、その覇権をかけて終わらない争いを繰り広げていた。
中央大陸に最大版図を誇るのは、強大な軍事力と最新鋭の技術力を持ったヴィルトリア帝国。
西方大陸とその周辺諸島を領土とし、亜人種も含めた、多様な人々が住まうハイランド連邦共和国。
そして未開の暗黒大陸には、魔族が統治するダーマ魔法王国も君臨し、中央への侵攻を目論んで、虎視眈々とその勢力を拡大し続けている。

大国同士の力は拮抗し、数百年にも及ぶ戦乱の時代は未だ終わる気配を見せなかったが、そんな膠着状態を揺るがす重大な事件が発生する。
それは、神話上で語り継がれていた「古竜(エンシェントドラゴン)」の復活であった。
弱き者たちは目覚めた古竜の襲撃に怯え、また強欲な者たちは、その力を我が物にしようと目論み、世界は再び大きく動き始める。

竜が齎すのは破滅か、救済か――或いは変革≠ゥ。
この物語の結末は、まだ誰にも分かりはしない。

ジャンル:ファンタジー冒険もの
コンセプト:西洋風ファンタジー世界を舞台にした冒険物語
期間(目安):特になし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり
名無し参加:あり(雑魚敵操作等)
規制時の連絡所:ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1334145425/l50
       
新規参加者は常時募集していますので、参加希望の方はまずはこちらのテンプレで自己紹介をお願いします。
(単章のみなどの短期参加も可能)

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スリーサイズ:(大体の体格でも可)
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防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

過去スレ
【TRPG】ドラゴンズリング -第一章-
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1468391011/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】
ttp://hayabusa6.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1483282651/l50

【ファンタジー】ドラゴンズリングV【TRPG】
ttp://mao.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1487868998/l50

2 :
各章ダイジェスト
ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/12.html

歴代参加者テンプレ
ttps://www65.atwiki.jp/dragonsring/pages/14.html

一応まとめwikiの一部になるのだが上記のページ以外はあまりまとまっていないので参考程度に……
新スレになる度にダイジェストを貼るのも容量の無駄かな、と思ったので
もしメモ帳代わりに使いたい人がいればページの作成も解放してあるので自由に編集してもらって構わない

3 :
【まとめwiki実装超ありがたいぜ
 お疲れ様です】

4 :
テスト

5 :
渾身の踏み込みと共に剣を押し込み、フィリアの矮躯を弾き飛ばして強引に距離を取る。
ティターニアが魔剣に何か入れ知恵をしているようだ。時を刻むごとに不利は重なり、こちらの傷も浅くはない。
長くは保たないだろう。

「あんただってそうだろう、ジャン!ハーフオークはこのダーマにおいても異端の存在だ。
 オークにも人間にも馴染めず賊に身を窶した亜人を俺は何人も見てきた。何人も……斬ってきた。
 人間が憎いと思わなかったか?オークを滅ぼしてやろうと思わなかったか?誰かの不幸を、願わずにいられたのか?」

種族的なマイノリティという意味では、ダーマに暮らす人間とハーフオークの立場は同列に近い。
しかし、シェバトというある程度大規模な共同体を形成できた人間と違い、ハーフオークは絶対数があまりに少ない。
人間かオークか、どちらかのコミュニティで暮らさねばならない以上、その苦境と孤独は人間の比ではないだろう。

スレイブはあえて言及しなかったことではあるが――人間とオークの間の子という背景には、必ず下卑た憶測が付き纏う。
他ならぬ人間から、街中で揶揄され、後ろ指をさされることだって珍しくはないはずだ。
ヒトは、暴力以外で他者を傷付けることの出来る唯一の生き物だから。

「指環を求める旅の中で、お前らはヒトの闇を何度も目にしたはずだ。反吐の出るような悪意を感じたことがあるはずだ。
 己が利益のために他人を食い物にし、路傍に打ち捨てられた弱者を嘲笑い、刃を隠して握手を求める連中を……!
 それがヒトなんだ。幸せにしてやる理由など一つもない、醜悪な進化の果てに行き着いた滅ぶべき生き物だ。
 そんな奴らに降りかかる正しき不幸を、どうして除いてやろうと思える」

剣先がわずかに震えるのを感じた。構えの揺らぎは心の動揺に直結している。
知らず知らずのうちに、スレイブの双眸から涙が伝い落ちていた。

「この街に不幸をもたらしに来た俺を、どうして幸せにしようなんて思える……!」

それは、彼自身がその「ヒト」に他ならないと自覚した上での、哀しい問いだった。
毒の根源を除去したとは言え、血流に乗って巡ってしまったフィリアの毒は既にスレイブの肉体を侵しつつある。
追い詰められていた。しかしそれは、彼が剣を下ろす理由にはならない。負ける理由にすることなど出来ない。

「これは俺の正しさを証す為の戦いなんだ。負けるわけにはいかない……負けたくない」

ウェントゥスから風の指環を貸し与えられてなお、指環の勇者達には及ばなかった。
ジャンがそう言っていたように、彼らは指環に、そこに宿る竜に認められ、全幅の力を引き出すことが出来ている。

「魔力が足りない。風竜の力はこんなものじゃないだろう。もっとだ、もっと力を寄越せウェントゥス!!」

指環が一際強く輝き、幾条もの風の渦がスレイブの四肢を覆っていく。
鋭さを帯びた極風が皮膚を切り裂いて、風に紅い色が付いた。

『あ、あほう!これこれ以上出力を上げたらお主の身体がぼんってなるぞ!
 何のためにあやつらが竜の甲殻纏っとると思っとるんじゃ!自分の魔力で刻まれて死ぬのがオチじゃぞ!』

「問題ない。滅ぼすべき人間の中には……俺も含まれるというだけだ」

シェバトの空に暗雲が立ち込め始めた。
ウェントゥスが司るは風、そして大気。風は雲を喚び、嵐を起こし、雷槌を落とす。
天候の支配――それこそが風魔法の極致!

「常世に遍く全てを引き裂け……『ディザスター』!」

スレイブが真上へ掲げた長剣に、暗雲から一条の雷が落ちた。
雷は直撃した剣を中心に、スレイブの目に映る領域の全てを稲妻で蹂躙する。
フィリアの眼をもってしても雷速を見切ることは叶うまい。アクアの水壁であっても、紫電を防ぎ切ることは出来まい。
風の塔が石造りに閉ざされていたとしても、僅かな隙間から電撃は入り込んでエアリアルクォーツを灼き尽くす。

そして、その巨大な雷槌のあぎとが全てを噛み砕けば……最後に喰らうのは術者自身だ。

・・・・・・――――――

6 :
>「バアル殿! 余計なものをそぎ落として本当の願いを引き出すのだ。昼間に我にやってくれたように!
  ――アースウェポン!」

フィリアの手に握られた魔剣は、『呑み尽くし』によって刀身を軋ませていた負担が消えたのを感じた。
同時にティターニアの付与魔法によってテッラの魔力が刃に輝きを宿らせる。

『そうか……ようやくわかった気がするよ。ジュリアンがスレイブに僕を持たせた意味が』

苦悩を忘れさせるだけの救いなど、ただの甘えの産物に過ぎないと思っていた。
死にたがりを抑えこんで、今だけを落ち着かせて、いつかやってくるありふれた人生の終わりを待つだけだと解釈していた。

本当の意味での救いなど、誰が与えられるわけでもない。スレイブの苦悩はスレイブだけのものだ。
だが、苦難を消すことは出来なくても、苦難を分かち合うことは出来る。
折れそうな心を誰かが支えてやることは、出来るのだ。

ジュリアンが魔剣によって本当に取り除きたかったもの。
それは苦悩そのものではない。苦悩を一人で抱え込んでしまう壁。知性によって形作られた心の壁だ。
スレイブに必要だったのは、救済ではなく……仲間。

種の違いを乗り越えて、その身を削りながらも命懸けで飛び込んできてくれたフィリア。
苦悩を理解し受け止めたうえで、難しく考えることはないと笑い飛ばしてくれたジャン。
建前を拭い去り、スレイブと同じ土俵で立ち向かう方法を考えてくれたティターニア。

魔剣の力になんか頼らなくたって、誰かを救えると、彼らは教えてくれた。

『フィリア、ジャン、ティターニア。君達に出会えてよかった』

バアルフォラスの刀身が光に包まれる。
かつてメアリが杖先に灯したものと同じ、肉体を透過し精神に直接突き立つ刃だ。
フィリアの蠱毒による強化と、テッラの魔力の二つが合わさって始めて作り出すことのできた光。

『フィリア、この刃をどうにかしてスレイブの胸に突き立ててくれ。そこから先は僕がやる。
 メアリの植え付けたのは所詮、偽りの記憶だ。直接触れられさえすれば、僕の力でそれを"喰い散らかす"ことは可能なはず』

スレイブが風の指環から限度を越えて力を引き出し、大規模破壊魔法を発動させつつある。
この身体に手足があれば駆け寄ってぶん殴ってやれるのに、それが出来ない魔剣の身が、ただただ悔しかった。


【スレイブ:指環の勇者達に追い詰められる。風の指環から限界を越えて力を引き出し、超威力範囲魔法を発動。
 バアルフォラス:知性喰いの力を直接叩き込んでメアリの植え付けた記憶を喰らいたい】

7 :
突然だけどお願い事がありますの!
このターン、わたくしの順番を最後に回してほしーですの!
その次のターンからは・・・元に戻すのとそのまま進めるの、どっちの方がややこしくないですの?
ティターニア様に判断をお任せしますの!



もしかしたらトリップ違うかも?
違ったら後でもう一度レスしますの!

8 :
了解した! ではこのターンはジャン殿→我→フィリア殿ということで
その次だが元に戻すとスレイブ殿だけ挟んでまたすぐフィリア殿になるのでそのまま続行でいいかな、と思うが
また次ターンになった時の状況で決めてもらっても構わない

9 :
>>7
いい加減お前はその素行の悪さを
悔い改めろよ

10 :
「おっと!王に対するマナーがなっちゃいねえな!」

弾き飛ばされたフィリアの小さな体を穏やかな水流で受け止め、交代とばかりにジャンが前に出る。
壁となっていた水流が束ねられて作られる、凪いだ海の如きなだらかな流線を刀身に描く大剣を右手に持って。

>「あんただってそうだろう、ジャン!ハーフオークはこのダーマにおいても異端の存在だ。
 オークにも人間にも馴染めず賊に身を窶した亜人を俺は何人も見てきた。何人も……斬ってきた。
 人間が憎いと思わなかったか?オークを滅ぼしてやろうと思わなかったか?誰かの不幸を、願わずにいられたのか?」

ジャンが踏み込み、スレイブがそれに合わせて振り下ろす。
お互いの剣が激しくぶつかり、その反動を二人とも利用してさらに打ち合う。
繰り返される衝突の中、スレイブがジャンを見据えて叫んだ。
怒りと悲しみがないまぜになったその目に、ジャンはただ冷静に、穏やかに返す。

「……俺の母ちゃんは、奴隷剣闘士だった。
 と言っても俺が生まれた頃には自分を買い戻して、村にいたんだけどな」

ダーマにおける奴隷制は地方・種族によって大きく異なるが、
首都に近い地域であれば奴隷が金を稼ぎ、開放されることは珍しくないことだ。
これは完全実力主義を唱える魔族の建前の部分であり、実際は魔族以外というだけで差別されることは大いにある。

「俺の父ちゃんもそうだった。二人とも闘技場で殺し合ってる内に、
 お互いが好きになったんだとさ。そんで故郷に帰って静かに暮らそうって」

スレイブの激しい猛攻をしのぎつつ、しかし目は逸らすことなく語り続ける。
穏やかな日差しの中で、友人と語り合うように。

「たぶん、二人とも種族がどうこうなんて気にしなかったんだろうな。
 村でもハーフかどうかってより、武器が扱えるかどうかって感じだったしなあ」

「旅をしてるときも、まず挨拶をして、目線を合わせて丁寧に話せば大体のヒトは分かってくれた。
 お前の言う異端のハーフオークってのは、たぶんどの種族に生まれてもそんなことをしていたんだろうよ」

11 :
>「指環を求める旅の中で、お前らはヒトの闇を何度も目にしたはずだ。反吐の出るような悪意を感じたことがあるはずだ。

「まぁ、そりゃなあ。俺は反吐が出る前に手が出ちまうからよく分からんかったが、
 嫌な奴はいっぱいいたよ。でも同じくらいまともな奴もいたぜ?」

スレイブの剣がわずかに震える。精神的な隙から生まれたその瞬間を見逃さず、ジャンは横薙ぎに一撃を打ち込もうとしたが――

>「魔力が足りない。風竜の力はこんなものじゃないだろう。もっとだ、もっと力を寄越せウェントゥス!!」

指環から無理やりに魔力を引き出したのか、スレイブを覆う風はスレイブ自身を傷つけ始めるほど激しくなっている。
やがてゆらりと剣を掲げ、暗雲立ち込める空へ向けてただ叫んだ。

>「常世に遍く全てを引き裂け……『ディザスター』!」

天より落ちる雷を剣を触媒として放ち続け、辺り一帯を焼き尽くす魔法。
本来は投擲したものを触媒として使用するが、スレイブは自分すら焼く覚悟でこれを使用した。
ジャンはいったん距離を取り、二人の元に向かう。

>『フィリア、この刃をどうにかしてスレイブの胸に突き立ててくれ。そこから先は僕がやる。
 メアリの植え付けたのは所詮、偽りの記憶だ。直接触れられさえすれば、僕の力でそれを"喰い散らかす"ことは可能なはず』

「フィリア、行けるか?俺の水流じゃ雷は止められねえ。
 かと言ってフィリア一人じゃ焼かれちまう。やるなら二人だ。二人で突っ込んで止めるぞ」

『悪いね、水じゃ雷が流れるだけなんだ。これに気づかれてから僕は彼女に勝ったことがない』

「ティターニアも援護……いや、説得頼むぜ。
 倒すんじゃなくて、止めるんだからな。――じゃあ行くぞフィリア!」

そう言って、ジャンは再びスレイブへ向けて走る。フィリアを脇に抱えて。
飛んでくるディザスターの欠片と爆音の嵐を水流の壁で凌ぎ、苦悩の果てに砕けた心を抱える彼の下へ。


【最後の数行気に入らなかったら自由に変えてもらって結構です】

12 :
>「ふざけるなよ、ふざけるな。お前らがそんな風に思えるのは……他人を疑わずにいられるのは!
 お前らが幸せだったからだ。善良な人々に愛され、まっすぐ生きることが出来たからだ!」

フィリアの猛攻を受けながら、激昂したスレイブが叫ぶ。
ティターニアはふと思い出す。自分の人生の最初の頃の平和な世界を。
その時は当たり前過ぎて気付かなかったが、その平穏は何よりも貴重なものだった。
後に知ることになった、指輪を巡る戦乱の歴史。
英雄達が戦乱の世を平定し、長ければ何百年、短い時は何十年の束の間の平和の後にまた戦乱が巻き起こる。
それは果てなく繰り返す呪われた因果。

「そうかもしれぬな……。いわゆる平和ボケというやつか。
平和な世で生きればおめでたい性格になれるのだとしたら、尚更その平和を束の間で終わらせてはならぬ!」

スレイブは更にハーフオークという特殊性を指摘してジャンを煽り、それを受けたジャンは自らの出自を戦闘中とは思えぬ穏やかな声音で語るのだった。

>「魔力が足りない。風竜の力はこんなものじゃないだろう。もっとだ、もっと力を寄越せウェントゥス!!」
>『あ、あほう!これこれ以上出力を上げたらお主の身体がぼんってなるぞ!
 何のためにあやつらが竜の甲殻纏っとると思っとるんじゃ!自分の魔力で刻まれて死ぬのがオチじゃぞ!

『ウェントゥス……やはりあなたは、昔のまま。大丈夫、あの子はまだ虚無に食い尽くされてはいない』

テッラによると、ウェントゥスはスレイブの身を案じて力を出し渋っているらしい。
最初は完全な傀儡が欲しいから死体を寄越せと言ったらしいが、やはり実際に接すると人に寄り添う性質が出てきたのか。

>「問題ない。滅ぼすべき人間の中には……俺も含まれるというだけだ」

しかし、渋るウェントゥスを押し切り、スレイブは自らの正義を貫かんとしていた。それはあまりにも悲壮な正義だ。
正義とは公平の原理で、死は究極の平等。彼の目的は、自分含め人類全体に及ぶ壮大な自死《アポトーシス》。
もしかしたらそれは、個人レベルを遥かに超えた大きな尺度から見れば、起こるべくして起こる事象なのかもしれない。
されど、ここにいる者達はそれを黙して受け入れる程達観してはいない。

>「常世に遍く全てを引き裂け……『ディザスター』!」

そして放たれる、天候支配の大規模破壊魔法。バアルフォラスが決意に満ちた声で語り出す。

>『フィリア、ジャン、ティターニア。君達に出会えてよかった』

「過去形はやめぬか。共に来ればもっと面白いものを見せてやるゆえ……今はそなたの主を止めるぞ」

13 :
>『フィリア、この刃をどうにかしてスレイブの胸に突き立ててくれ。そこから先は僕がやる。
 メアリの植え付けたのは所詮、偽りの記憶だ。直接触れられさえすれば、僕の力でそれを"喰い散らかす"ことは可能なはず』

>「フィリア、行けるか?俺の水流じゃ雷は止められねえ。
 かと言ってフィリア一人じゃ焼かれちまう。やるなら二人だ。二人で突っ込んで止めるぞ」
>「ティターニアも援護……いや、説得頼むぜ。
 倒すんじゃなくて、止めるんだからな。――じゃあ行くぞフィリア!」

「分かった、必ず届かせよう。ーーホーリィグローヴ!」

辺りに苔のみならず様々な植物が顕現され、森のような様相を呈し、暴風の威力を減ずる防風林と化す。
更に街のどの建造物よりも、つまり風の塔より高い針葉樹が一定間隔ごとに聳え立つ。特に風の塔の周囲は念入りに取り囲むようになっている。雷撃を集め大地に逃がすための避雷針である。
雨も風も雷も、大地は全てを受け止めてきたーー防ぐのが不可能ならいかに受けるかという発想。
とはいえ捨て身の極大攻撃魔法に対し、どこまで捌ききれるかは、未知数。天空の覇者と大地の守護者の直接対決だ。
木の葉が疾風に舞い、雷鳴が鳴り響き、前線では炎と水が閃く。
そんな壮大なスペクタクルのような光景が繰り広げられる中、何故かテッラの人間の姿を取った幻影が現れ、ウェントゥスに語りかける。

『ウェントゥス、覚えていますか? 風紋都市の由縁。原初の時代、私が作った地形をあなたが削り共にこの街の原型を作り上げたことーー
……先程その青年のことを案じていましたね。
もう意地をはるのはおやめなさい。どんなに突っ張ったって、あなたはあなた。
それにティターニアはあなたの昔の主と同一人物ではないですが、全くの無関係な別人でもありません』

更に、嵐に遮られはっきりとは見えないが、少女のような姿に見えるティターニアが感嘆の声をあげている。

「スレイブはん見てみ! めっちゃ凄うないか!? 地水火風ーー世界を形作る四つの力がここに集まってる。
これに比べたらウチら人なんてほんまちっぽけで……世界全体のことなんて気にしても埒あかん。
一応指輪に選ばれた者が言うのも変やけど。ウチらかて何でか気に入られて力貸してもろうとるだけや。
まあ要するに死んだら面白いもの見れへんから詰まらんやろ!」

この手の魔法によって顕現される植物は、当然物質的な本物の植物ではない。
ここまでの大規模魔法となると、物質世界に重ねるように概念的な魔力の森を顕現したような状態になるため、このような精神世界が垣間見える現象が予期せず起こっていると考えられる。
今まさにスレイブに迫ろうとするフィリア達に向け、力一杯叫ぶのであった。

「ジャンはん、フィリアはん、バアルはん、行けーーーーーッ!!」

14 :
手応えあり、ですの!
女王の毒針は確かにスレイブ様に傷をつけた。
だから……まずは予定通りに、やたらめったら斬りつける!
速さだけしかないわたくしの剣技じゃ、二度目の命中は望めない。

不意に、わたくしの初動を潰すように放たれた刺突が、眼前に迫る。
体を大きく捻り、体勢を崩して、それでも躱しきれず刃が頬を抉る。
このまま転んでしまってはまずい。
スレイブ様の剣が、わたくしに起き上がる隙を与えてくれるとは思えない。
背中からムカデの王を生やし、地面に突き立て体を固定。
そのまま下から上へ、抉り込むように斬撃を繰り出す。

……勢いだけのわたくしの剣は、スレイブ様なら付け入る隙を見つけ出すのはきっと容易い。
またカウンターを受けるかもしれない。次は避けきれず、返り討ちにされるかも。
だけど……怯えちゃ駄目ですの!スレイブ様を動かし続けろ!余計な事を考えさせるな!
そうすれば……

>「くっ……毒針か……!」

……毒が回る。
やっと、ですの。ほんの十秒ちょっとの時間稼ぎだったけど……呼吸の乱れがひどい。とんでもない疲労感ですの。
スレイブ様は今までずっと一人で戦ってきた方。
毒の事を少しでも意識させれば、対策を取られていたかもしれない。
だから、返り討ちを覚悟で剣を振るい続けなきゃいけなかった。

だけど……ここからは違う!もう反撃なんかさせませんの!
わたくしが、押し切る!
もう一度毒を打ち込んで、動けなくして……それで、終わりですの!

無我夢中で剣を振るう。
ウェントゥスの援護にも気を配れない。配っている余裕はない。
だけどきっとジャン様ティターニア様、バアル君にイグニス様がなんとかしてくれますの。

>「何故だ……何故剣の鋭さが増している?何故魔法を使える?この酸素濃度で激しく動けば酸欠は免れられないはずだ……!」

「さぁ、分かりませんの。でも余計な事ばかり考えちゃうのは、きっとあなたの悪い癖ですの」

あと一撃当てられれば、もう一度毒を打ち込めれば、決着がつく。
それをスレイブ様も分かっているから、必死に凌ぐ。
だけど、わたくしの方が優勢。
わたくしの中の王が、彼らがもたらす戦いの感性が言っている。
あと二度。二度の呼吸の内に、この剣戟は決着すると。

毒針の剣を大きく振りかぶり……だけどこれはフェイント。
左手に女王の大顎を。スレイブ様の足元を狙う。
跳ぶか、退くか、いずれにしても今のあなたにはお辛い動きでしょう。

まずは一呼吸。
そして振りかぶった毒針を、今度こそ、わたくしに能う最速で突き出し……二呼吸。
これで終わり……

>「ふざけるなよ……!」

そう確信した瞬間、わたくしがとどめの一撃を放つ直前。
鮮血がわたくしの視界を彩った。
スレイブ様が自ら、毒を受けた傷口を抉ったのだと理解するのに、呼吸半分ほど時間がかかった。

15 :
>「ふざけるなよ、ふざけるな。お前らがそんな風に思えるのは……他人を疑わずにいられるのは!
  お前らが幸せだったからだ。善良な人々に愛され、まっすぐ生きることが出来たからだ!」

そしてわたくしが自分の失態に気づいた時には……スレイブ様は既に長剣を振りかぶっていた。
もう突きは間に合わない。咄嗟にムカデの王を盾に防御する。
刃は辛うじて受け止め、しかし地から足が離れ、跳ね飛ばされる事は避けられない。
ジャン様の作り出した水流のお陰で体勢は素早く立て直せたけど……それはスレイブ様も同じ事。

「くっ……」

『……失敗した、なんて面をするんじゃないよ。自分以外の手を借りて戦ってるならね』

……勿論ですの!だって、わたくしはまだ失敗した訳じゃない!
戦いはまだ続いてますの。気落ちしてる暇なんて、ない!

>「あんただってそうだろう、ジャン!ハーフオークはこのダーマにおいても異端の存在だ。
 オークにも人間にも馴染めず賊に身を窶した亜人を俺は何人も見てきた。何人も……斬ってきた。
 人間が憎いと思わなかったか?オークを滅ぼしてやろうと思わなかったか?誰かの不幸を、願わずにいられたのか?」

>「……俺の母ちゃんは、奴隷剣闘士だった。
  と言っても俺が生まれた頃には自分を買い戻して、村にいたんだけどな」
>「俺の父ちゃんもそうだった。二人とも闘技場で殺し合ってる内に、
  お互いが好きになったんだとさ。そんで故郷に帰って静かに暮らそうって」

>「指環を求める旅の中で、お前らはヒトの闇を何度も目にしたはずだ。反吐の出るような悪意を感じたことがあるはずだ。
>「まぁ、そりゃなあ。俺は反吐が出る前に手が出ちまうからよく分からんかったが、
  嫌な奴はいっぱいいたよ。でも同じくらいまともな奴もいたぜ?」

わたくしに代わって前に出たジャン様とスレイブ様の会話を聞きながら、少しでも呼吸を整える。
わたくしはまだ、生まれて間もない存在ですの。
だけどこの指環を巡る戦いの中で……生まれてから今まで生きてきた時間と同じくらい、いえ、それ以上に、沢山の事が学べましたの。

「わたくしが王様なら、そんな嫌な奴らのさばらせたりしませんの。
 あなたに嫌な思いをさせる奴らがいたら、わたくしが代わりに叱ってやりますの。
 誰にもあなたを傷つけさせない。だから……」

>「魔力が足りない。風竜の力はこんなものじゃないだろう。もっとだ、もっと力を寄越せウェントゥス!!」
 「常世に遍く全てを引き裂け……『ディザスター』!」

だから……わたくしが、王を名乗るものが今、何を言うべきなのか、はっきりと分かる。

「頼るなら、その古ぼけた指環と根性ねじ曲がった竜じゃない!わたくしを頼れ!
 この手が、この力が届く場所にいれば!この女王があなたを守ってやる!
 善良なものだけが、あなたを取り囲むように、力の限りを尽くしてやりますの!」

わたくしの言葉を掻き消すように、雷が降り注ぎ、轟く。
だけど構いやしませんの。
さっきは払い除けられたけど、二度目はない。
スレイブ様が拒むなら、こっちから、手の届く場所まで詰め寄るまで!

16 :
test

17 :
>『フィリア、ジャン、ティターニア。君達に出会えてよかった』

そしてその時には……勿論あなたも一緒ですの。バアル君。

>『フィリア、この刃をどうにかしてスレイブの胸に突き立ててくれ。そこから先は僕がやる。
 メアリの植え付けたのは所詮、偽りの記憶だ。直接触れられさえすれば、僕の力でそれを"喰い散らかす"ことは可能なはず』

「信じますの。あなたならやれる。やってくれる……やり遂げて、二人とも無事でいてくれると」

>「フィリア、行けるか?俺の水流じゃ雷は止められねえ。
  かと言ってフィリア一人じゃ焼かれちまう。やるなら二人だ。二人で突っ込んで止めるぞ」

「えぇ、行けますの。ジャン様が一緒に切り込んでくれるなら……こんなに心強い事はありませんの」

>「ティターニアも援護……いや、説得頼むぜ。
  倒すんじゃなくて、止めるんだからな。――じゃあ行くぞフィリア!」

そう言ってジャン様はわたくしを左手で掴んで、脇に抱え……ってあれ?
あぁ、一緒に突っ込むってこういう!確かに防御面ではかなり堅牢な気がするけど!

実際、ジャン様は荒れ狂う雷を水流の壁で受け止め続けている。
なのにわたくしは殆どその余波を感じない。
……水で象った龍の鱗を纏ったジャン様に、その威力の殆どが流れ込んでいるからですの?

『あぁ、その通りだ。アクアが言っていたよ。水じゃ雷が流れるだけ、だとさ。
 ……それでいいのかい?王女様?』

水じゃ雷が流れるだけ……。

「ええ。……それは、いい事を聞きましたの」

わたくしは小さく呟き、スレイブ様との距離を見て、それからジャン様を見上げる。

「ジャン様。あと五歩だけ。踏ん張って欲しいですの」

それだけ伝えて、視線を落とす。わたくしの左手にある炎の指環へ。
また、力を借りますの。

『へえ、我に策ありって顔だね王女様。これは見ものだ』

「いいえ、これは策なんてものじゃありませんの。ただ……指輪の力よ!」

わたくしの声に応えて、指環から灼熱の魔力が迸る。
それはわたくしを形作る王の欠片と混じり合い、炎を纏い、赤熱するムカデの王と化す。
その巨体が竜巻の如く渦を巻き、唸る。

そしてジャン様の編み出した水流の壁を、一瞬間の内に沸き立たせ、爆ぜるような勢いで蒸散させた。
生じた水蒸気は熱に追いやられて、わたくし達から離れていく。

「ただ……雷が水に流れるなら、もろともぶん殴って、どかすだけですの」

これでわたくしとスレイブ様の間にはもう、水も風も、存在しない。
降り注ぐ雨も、立ち入る事は……指環の炎が、城壁と謳われた王が許さない。

わたくしは体を捩って、ジャン様の脇から抜け出し、その腕を蹴っ飛ばす。
……足場代わりにしたのは目を瞑ってほしーですの。
そして、スレイブ様の眼の前へ。

18 :
test

19 :
「……もう一度言いますの。誰にも、あなたを傷つけさせたりしない。例えあなたがそれを望んでも」

バアル君を、ゆっくりと振りかぶる。
勿体ぶってる訳じゃない。
重い。さっきの剣戟で終わらせるつもりだったわたくしには、もう殆ど体力は残されていない。
同じ満身創痍なら……分があるのは、わたくしとは比べ物にならないほどの場数を踏んできた、スレイブ様。

「わたくしの手も力も、もうあなたに届く。
 そこはもう、わたくしの王国ですの
 今度は拒ませませんの。跳ね除ける事もさせませんの」

それでも深く息を吸い込んで、叫ぶ。

「大人しく、この女王に頭を垂れろですの!」

瞬間、わたくし達を取り囲むムカデの王が身動ぎする。
大上段から、その巨体を振り下ろさんと。
スレイブ様に、頭を垂れさせる為に。

……と、きっとスレイブ様なら思ってくれますの。
偽りの記憶を植え付けられて、憎しみに囚われても……
結局、スレイブ様はわたくし達とのお喋りを拒まなかった。
だから……だからきっと、この土壇場で、わたくしの言葉を真に受ける。

わたくしの背中から伸びた女王蜘蛛の八本の手が、
その五体を捕らえ、引き寄せんと蜘蛛の糸を放たんとしている事を、見落としてくれる。

わたくしが知っているスレイブ様が、聞けば答えてくれたあのスレイブ様は、まだここにいる。
そう信じる事。それだけが、もう息も絶え絶えのわたくしの、唯一の活路。

そして、わたくしはバアル君の刃を突き出した。

20 :
>「フィリア、行けるか?俺の水流じゃ雷は止められねえ。
 かと言ってフィリア一人じゃ焼かれちまう。やるなら二人だ。二人で突っ込んで止めるぞ」
>「えぇ、行けますの。ジャン様が一緒に切り込んでくれるなら……こんなに心強い事はありませんの」

「何人で来ようとも、同じ事だ……!嵐雷は全てを灼き尽くす……!!」

荒れ狂うディザスターの渦中へと、あろうことかジャンはフィリアを抱えて吶喊してきた。
掛け値なしの自殺行為だ。アクアの水の壁で阻み切れる出力ではない。相性が最悪過ぎる。
しかし、まっすぐスレイブを見据える彼と彼女の双眸に、懸念や怯えの感情は寸毫ほども存在しない。
まだ何か策でもあると言うのか。

>「いいえ、これは策なんてものじゃありませんの。ただ……指輪の力よ!」

フィリアの声に呼応して炎の指環が輝きを増す。
光が形を成し、生み出されるは蠕動する炎の塊――劫火を纏った巨大な百足。
百足はジャンの生み出した水流へと喰らいつき、その強烈な熱量でもって一瞬のうちに蒸発させた。
霧散していく水に導かれるようにして、稲妻もまた散っていく。

>「ただ……雷が水に流れるなら、もろともぶん殴って、どかすだけですの」

『水に儂の雷槌を吸わせて……水ごと散逸させたじゃと……?こんな方法で相性の絶対を覆すとは……!』

ディザスターの壁を突破され、指環越しにウェントゥスが息を呑む。
スレイブは瞬き一つ分の動揺を噛み殺し、再び剣をフィリアへ向けた。

「……だが、霧散したならば掻き集めれば良いだけだ。紫電よ、再び俺の剣に集え!」

散逸していた稲妻たちがその舳先をスレイブの剣へと向ける。
既にジャンとフィリアは距離を詰めてきていた。それでも、雷速ならば彼らが攻撃態勢に入る前に散った魔力を引き戻せる。
今度こそ逃げ場なく、全方位から雷を当てられるはずだ。

>「分かった、必ず届かせよう。ーーホーリィグローヴ!」

――その隙を逃すティターニアではなかった。
大地の指環が律動し、風の塔周辺に巨木が林立していく。
それらは散逸し、今再びスレイブが制御し直さんとする雷の魔力をその身に吸い上げ、大地へと逃していく。

『おのれテッラぁぁぁぁぁ!!ティターニアを拐かすに飽き足らず、この期に及んでまだ儂の邪魔をーーッ!!』

炎、水、地、風。
かつて世界を構築した四つの力の源が一同に会し、それぞれが勇者を擁して鎬を削る。
激流が舞い、豪炎が奔り、嵐雷が嘶き、霊樹が聳える神域の戦場。
創世記もかくやの天変地異のさなか、威光を纏った人影が大地に降り立つ。テッラだ。

>『ウェントゥス、覚えていますか? 風紋都市の由縁。
 原初の時代、私が作った地形をあなたが削り共にこの街の原型を作り上げたことーー
 ……先程その青年のことを案じていましたね。もう意地をはるのはおやめなさい。どんなに突っ張ったって、あなたはあなた。
 それにティターニアはあなたの昔の主と同一人物ではないですが、全くの無関係な別人でもありません』

『ち、違っ……儂そんなつもりじゃ……傀儡が壊れたら儂が困るってだけで……』

21 :
連投回避

22 :
テッラの見透かしたような問いに、ウェントゥスは露骨に揺さぶられた。
その物言いはウェントゥスの本心ではあった。スレイブがRば、死体を魔導人形に加工する必要に迫られる。
この土壇場で一時撤退を強いられれば、より強力に風の塔の防護を固められてクオーツの破壊が困難になることだろう。
しかし、テッラの問いが正鵠を射ていたことも確かだった。

ウェントゥスは基本的にヒトを信頼していない。自分たちよりも遥かに下位の、か弱き存在だと認識している。
だが、かつて共に戦った聖ティターニアとの旅の中で、ヒトに対する慈愛の欠片のようなものを憶えた。
いまやその想いは呪詛のようにウェントゥスの心を縛り続けている――聖ティターニアが先を見据えて残した"楔"だ。

『儂はもう、ヒトに期待などしとうない……だから虚無に呑まれようとしたというに……』

「だったら黙って力を寄越せウェントゥス!!」

忌々しげに吐き捨てるスレイブの、既に一歩の圏内へとフィリアが届きつつあった。

>「スレイブはん見てみ! めっちゃ凄うないか!? 地水火風ーー世界を形作る四つの力がここに集まってる。
  これに比べたらウチら人なんてほんまちっぽけで……世界全体のことなんて気にしても埒あかん。
  一応指輪に選ばれた者が言うのも変やけど。ウチらかて何でか気に入られて力貸してもろうとるだけや。
  まあ要するに死んだら面白いもの見れへんから詰まらんやろ!」

ティターニアの後押しを受け、全てを灼き尽くす雷槌の包囲網を連携によって突破し、彼女は辿り着く。
抱えられていたジャンの腕元から飛び出して、目の前の大地を踏みしめる。

>「……もう一度言いますの。誰にも、あなたを傷つけさせたりしない。例えあなたがそれを望んでも」

「やめろ……これ以上、俺に寄り添おうとするな……!俺はお前らを傷付けに来たんだ……!」

魔法を拓かれ、剣を退けられ、もはや彼に残されているのは言葉による拒絶のみであった。
フィリアは取り合わない。それは、彼女を彼女たらしめる、王の――『傲慢』。

>「わたくしの手も力も、もうあなたに届く。そこはもう、わたくしの王国ですの
 今度は拒ませませんの。跳ね除ける事もさせませんの」

為政者として民を一方的に救い護る者が持つべき傲慢さだ。
フィリアが魔剣を振り被る。その矮躯には不釣り合いの、しかし器には相応の剣を。

>「大人しく、この女王に頭を垂れろですの!」

上段から百足が降ってくる。臣民を、正しき王の御許へ跪せるために。
スレイブは後退る。容易い回避だった。もはやフィリア自身にも、これ以上の力は残されていないのだろう。
打ち下ろされる百足の鞭を躱して、カウンターの一撃を入れる。それで逆転は可能だ。
だが――

「これは……蜘蛛の脚……!?」

退がれない。身体が動かないのは、フィリアから伸びる八本の脚ががっちりと身体を捉えていたから。
虫精の王が最後に求めたのは従属ではなく――抱擁だった。
一回りも小さな小さな女王に抱きしめられるようにして、スレイブの胸元へと魔剣の刀身が埋まった。

・・・・・・――――――

23 :
・・・・・・――――――

はじめはただ、怖かった。
やがて恐怖は、それを強いる者達への憎しみへと変わった。

『本当にそうだったのかい?』

そうだとも。俺に全てを押し付けたあいつらに、復讐してやりたかったんだ。
不公平だ。俺が不幸であるならば、あいつらも不幸になるべきだろう。

『確かにそう思う心理は頷けるさ。だけどスレイブ、君は何年も前から気づいていたはずさ。
 ダーマの王家も、シェバトの人々も、みんなが君を頼るのは、君が率先して貧乏くじを引いてくれるからだって。
 君の犠牲に甘んじてきた連中に、報いを受けさせたかったんだろう?』

だからこの戦いは、俺が奴らを不幸にすることは、正しいことのはずだ。

『だけど君は、以来何年もの間、文句をこぼすことなくヒトの為に戦い続けた。
 投げ出すチャンスなんていくらでもあったのに。だから僕は問うのさ、君が戦う理由は、それだけだったのかと』

俺が、ヒトの為に戦ってきた理由。

『君にも聞こえただろう、ジャンの声が。君の求める理由の一つだ』

>「まぁ、そりゃなあ。俺は反吐が出る前に手が出ちまうからよく分からんかったが、
 嫌な奴はいっぱいいたよ。でも同じくらいまともな奴もいたぜ?」

そうだ。シェバトの人々は、何も俺に全て押し付けて見てみぬ振りをする連中だけじゃなかった。
俺を気遣い、寄り添って、支えてくれた人もいた。何人もいた。
温かい食事を分け、鎧や剣を手入れし、癒やしの魔法をかけてくれる人たちがいた。
確かにヒトに醜悪な側面はあるが、それでもそれはただの側面だ。それだけじゃなかったはずだ。
どうしてこんなに大切なことを忘れていたんだろう。

「俺が戦ってこれた理由は――」

どれだけ俺が不幸になったとしても。

「幸せになってほしい人達が……俺の傍に居たからだ!」

24 :
心の裡、魂の奥底に根付いていたドス黒い澱が、光の刃に貫かれる。
温かい雨が乾いた地平を潤すように、冷え切った心へ熱が染み渡っていく。

>「わたくしが王様なら、そんな嫌な奴らのさばらせたりしませんの。
 あなたに嫌な思いをさせる奴らがいたら、わたくしが代わりに叱ってやりますの」

フィリアが言ってくれたように。
たとえ百の人々に裏切られようとも、一人が俺を愛してくれるならば、これからも俺は戦える。
その一人を幸せにする為に、戦える!

『少なくとも三人、ジュリアンを含めれば四人。君が生きる理由を支えてくれる人達がいる。
 無粋な横槍に引っ掻き回されてしまったけれど、もう答えは見つかっただろう、スレイブ?』

五人だろ、バアルフォラス。お前も俺の大切な相棒だ。

『悪いが僕はここまでだ。これからは、ティターニアや、ジャンや、フィリアに君の隣を譲ることにするよ』

待てよ。今までずっと、お前が俺を支えてきてくれたんだ。お前にも幸せになってもらわなきゃ困る。

『僕は君の知性から生まれた仮初の人格に過ぎない。僕を維持しようとすれば、再び君は知性を喰われることになる。
 真の救済を君は見つけたんだ。もはや魔剣に頼る必要もないだろう』

それにね、とバアルフォラスは言った。

『いい加減、馬鹿の子守にも疲れてきたところさ。まったく君もジュリアンも、魔剣遣いが荒いよ……本当に』

待ってくれ、と俺が叫ぶよりも早く、目の前が光に包まれていく。
夢から覚める時のように、身体から浮遊感が抜けて、五感が現実のものへと切り替わっていく。
伸ばした手は当たり前みたいに、何も掴めやしなかった。

――――――・・・・・・

25 :
規制回避

26 :
――――――・・・・・・

スレイブは五体をズタズタになった石畳の上に投げ出したまま目覚めた。
ディザスターの触媒となっていた剣は手から離れて近くの地面に突き刺さっている。
依代を失った嵐雷はテッラの巨樹が全て吸い尽くして、戦場は水を打ったかのように静かだった。

「バアルフォラスは……いなくなった。知性を俺に返して、喋らない魔剣に戻ってしまった」

胸に突き立っていた魔剣は、刀身が半ばから折れて、彼の鎧の上に転がっている。
光の粒子となった切っ先が、ゆっくりと空へと登っていくのが見えた。
スレイブは起き上がる。体中の裂傷に激痛が走るが、不思議と顔を顰める気にはなれなかった。

「バアルからの伝言だ。『ありがとう。相棒をよろしく頼む』と。
 ……はは、何が頼むだ。結局責任のたらい回しじゃないか。何も変わらない。何も解決してやしない」

よろめき、脚を引きずりながら歩き、地面に刺さった剣を抜く。
この激戦を経てなお曇り一つない刀身に映るのは、涙を強引に拭った己の双眸。

「わたしを頼れと、そう言ったなフィリア。全ての悪意ある者から、俺を護ると。
 だが、誰かを護るということは、その者の受難を代わりに身に受けるということだ。
 俺を護るために、君が悪意に晒されることもあるだろう」

スレイブは剣の切っ先を直上へと向け、そして膝をついた。
臣下が王へと剣を捧げる姿勢だった。

「そのときは、君を取り巻く全ての悪意から――虫精の女王よ、俺が君を護ろう。
 君に不幸が降り掛かった時は、俺の実存に賭けて、必ず君を幸せにする」

剣を鞘へと収め、半分になってしまったバアルフォラスを腰に戻す。

「霊樹の導師よ!半魔の冒険者よ!貴方たちの目的が正しいものなのか、俺には判断できない。
 それでも、貴方たちの望む世界が誰かを不幸にするものではないことは、分かる」

面白いものを見るために生きろとティターニアは言った。
シェバトを救うために命を賭けてくれた彼女たちが言うのならば、きっとそれは笑顔になれる何かだろう。
スレイブもそれを見たいと思った。理由なんてそれで十分だ。

「俺は善なる者ではないが、善良な者を支えることならばできる。
 罪滅ぼしなどと言うつもりはない。ただ、善なる者の……貴方たちの傍で共に戦いたい」

頭を下げる。
それは無力な人々に頼られるばかりだったスレイブにとって、おそらく初めて自分の意志でする、懇願だった。

「俺を仲間に入れてくれないか」

・・・・・・――――――

27 :
・・・・・・――――――

<シェバト上空・風竜ウェントゥス内部『玉座の間』>

「ぐむむむむむ……!」

スレイブに渡した指環を通じて一部始終を見ていたウェントゥスは、飴玉を奥歯でバリバリと噛み砕いた。
信じて送り出した刺客が指環の勇者の説得にドハマリしてダブル裏切りかましたことにショックを隠せないでいた。

「うそじゃろ……儂の傀儡がボロ負けした挙句指環ごとあっち側に付きおった……」

傀儡はともかく、風の指環は絶対に取り返さなければならない。
こちらからの魔力の供給をカットできるにしても、あれが手元にない限り新たな刺客を作ることも出来ない。
すなわち、ウェントゥス陣営の現在の戦力は自前の飛竜と風竜ウェントゥス本人だけという状況だ。

「あらぁ……大誤算ねぇ。指環の勇者がここまで四竜三魔と心通わせてたなんてデキる女の目をもってしても見抜けなかったわぁ」

玉座の間に空間の凝りが発生して、メアリがひょいと顔を出すのをウェントゥスは目を剥いて睨みつけた。

「め、メアリーーっ!元はと言えばお主がちゃんと死体を持ってこないからこうゆうことになっとるんじゃろうが!
 なーに他人事みたいに言っとるんじゃお主、『こっちの方が面白いでしょぉ?』とかドヤ顔かましとったくせに!!」

「ごめんなさいねぇ。その件については本当に申し訳ない気持ちでいっぱいよぉ?」

「だったらもちっと悪びれた態度をとらんか!もうぜったい飴やらんからな!!」

「それはいいんだけれどぉ、これからどうするのぉ、ウェントゥス?」

「これから……?うーむ……」

ウェントゥスは腕を組んで唸る。シェバト攻略の道を別に探らなくてはいけないのは確かだ。
しかし、攻め手が失われたいま、簡単に妙案が思いつくならばそもそもここまで膠着した戦況には陥らなかった。

「そうだ、お詫びと言ってはなんだけれどぉ、指環の勇者の暗殺とかして来ようかぁ?」

「えっなにそれ、そんなん出来よるのか?」

「この前殺した私の妹がねぇ、ユグドラシアで指環の勇者となんか仲良くやってたっぽいのよねぇ。
 だから妹の死体を魔導人形にして近付けば良い感じに隙を突けるんじゃないかって今思い付いたのだけれど」

「えぇ……お主そういうこと……えぇ……」

いともたやすく提案されたえげつない行為にウェントゥスはドン引きしていた。
メアリは両手でウェントゥスの顔を掴んで引き寄せる。

28 :
「あらあら?どうして躊躇うのかしらウェントゥス?貴女ヒトのことなんて特に気にしてないんでしょう?
 それとも指環の勇者の戦いを見て、かつての勇者の姿を思い出して、ヒトに絆され始めているとでも言うのぉ?」

メアリは玉座の傍に置いてある袋から飴玉を一つ抜き取って、ウェントゥスの口を無理矢理開けさせてねじ込む。
ウェントゥスはそれを噛み砕いてメアリの腹を蹴った。風を巻いた蹴撃は二人の距離を大きく離す。

「お主何様のつもりじゃメアリ!ヒト風情にここまでの狼藉を赦した憶えはないぞ!!」

対するメアリは蹴りの一撃によって引き裂かれた腹部を撫でながら狂気に染まった笑顔を見せた。
人間体とは言え風竜の一撃を受けた、臓物の溢れるような損傷が、しかし急速に塞がり癒やされていく。

「光の指環の回復魔法……いつの間にそこまで光魔に認められたんじゃお主……!」

「四竜三魔と言えども虚無に呑まれればここまで素直になるのよぉ。
 貴女も自我を保つためにずいぶん抵抗したみたいだけど、そろそろ楽になったらぁ?」

メアリが杖で床を叩くと、風竜の内部にも関わらず異形の蔦が急激に繁茂し、ウェントゥスを絡め取る。
大地と同じく豊穣を司る光の指環の加護を受けた、魔力の蔦だ。

「よさぬか……!儂にはまだ世界の為にやるべきことがあるんじゃ!虚無になど呑まれとうない……!」

「まぁまぁ。後のことはエーテル教団に任せて、おやすみなさぁい……」

同日、シェバト上空に漂う風竜ウェントゥスの巨体が黒く染まっていくのが各所で目撃された。
その色合いが、虚無魔法特有の『色のない黒』であったことに、気付いた者は多くはない。
そしてウェントゥスの周囲を旋回する眷属の飛竜達の体表も、同様の黒で埋め尽くされていた。

それらの状様は、ウェントゥスが真の意味で虚無に呑まれたことを如実に表していた。


【スレイブ撃破。魔剣バアルフォラスは折れ、スレイブは記憶を取り戻す
 黒曜のメアリが再び暗躍。ウェントゥスを虚無に呑む
 シェバト上空の風竜ウェントゥスが虚無の黒へと染まり、眷属の飛竜達も虚無に呑まれる】

29 :
>>28
どういう意図があって残ることにしたの?

30 :
皆乙だ! 
レス順の件だが皆の都合の良い方で構わないが
フィリア殿は流石にまだ書いたばかりなのでやはり順番をこのまま据え置いて次はジャン殿だろうか

31 :
お手数おかけしますの!
そんな感じだと嬉しいですの!

32 :
>「ジャン様。あと五歩だけ。踏ん張って欲しいですの」

「まっかせとけェ!ちょいとばかし痺れるが、どうってこたあねえ!」

スレイブの怒りそのものと言える雷の嵐。
それを全て水流で受け止め、逸らせるほどジャンは魔術に通じていない。
近づくほどに激しくなる雷を前に、水流を発生させるために掲げている右腕の感覚が徐々に薄れていくのをジャンは感じていた。

(右腕の感覚が鈍ってきた、竜の鱗ってのも意外と脆いもんだなアクア!)

『ウェントゥスの雷を受け止めてなお耐えている、というだけで褒めてほしいものだよ。
 それよりもイグニスと合わせるから、今度は爆風に耐えてね』

水流の壁が一瞬にして爆ぜ、文字通りの雷雨に穴を開けた。
炎と水の指環の合わせ技によって開かれた突破口、そこに向けてフィリアが駆け出そうとする。

「……行ってこい!ちゃんとあいつを……励ましてやれよ!」

足場代わりに踏んできた右腕を思い切りスレイブの方に向けてぶん回し、その反動でジャンは後方へと下がった。

>「ジャンはん、フィリアはん、バアルはん、行けーーーーーッ!!」

ティターニアの声援が聞こえる中、ジャンは見た。
ゆっくりとフィリアがバアルフォラスを振り上げ、スレイブに突き刺す瞬間を。
だが、それを最後まで見ることはなかった。直後に降り注いだ雷から身を守るべく
かざした右手から水流の壁が出ることはなく、極度の疲労と電撃による麻痺が
原因だと気づく前に雷にその身を焼かれたからだ。

ティターニアのホーリィグローヴと竜の鱗によってある程度は軽減されていたが、それでも
屈強な肉体を持つジャンを昏倒させるには十分な一撃だった。

33 :
てすと

34 :
――意識を取り戻したとき、嵐は止み、ジャンは仰向けに倒れていた。
辺りを見回してみれば、スレイブが剣の先端を天へと向け、フィリアへ向け頭を垂れて跪いている。

>「そのときは、君を取り巻く全ての悪意から――虫精の女王よ、俺が君を護ろう。
 君に不幸が降り掛かった時は、俺の実存に賭けて、必ず君を幸せにする」

>「霊樹の導師よ!半魔の冒険者よ!貴方たちの目的が正しいものなのか、俺には判断できない。
 それでも、貴方たちの望む世界が誰かを不幸にするものではないことは、分かる」

「おうともよ!俺たちはみんなで幸せになるんだからな。
 でも半魔ってのはやめてくれねえか、いけ好かない魔族じゃなくて俺はオーク族だからな」

むくりと起き上がり、ジャンと同じくらいボロボロになったスレイブの肩を左手でバシバシと叩く。
親しい友人にするようなそれは、先程まで戦っていたスレイブに対するジャンなりの敬意でもある。

>「俺は善なる者ではないが、善良な者を支えることならばできる。
 罪滅ぼしなどと言うつもりはない。ただ、善なる者の……貴方たちの傍で共に戦いたい」

>「俺を仲間に入れてくれないか」

「……こういう時に、冒険者がなんて言うか知ってるか?
 フィリアやティターニアは知らねえかもしれねえから、俺が代わりに言っておくぜ」

そう言ってジャンは右手を差し出し、握手と共にその口上を言おうとしたところで気づいた。
右腕がだらりと垂れ下がったまま動かないのだ。

「――ティターニア、右腕治してくれねえか。
 電撃浴びておかしくなってるみてえだ」

そうティターニアに頼んだ後、スレイブの方へ再び向き直る。
今度は左手を差し出して、やや不格好な笑顔と共に口を開いた。

「ようこそ、俺たちのパーティーへ!……歓迎するぜ、スレイブ!」

35 :
>「……もう一度言いますの。誰にも、あなたを傷つけさせたりしない。例えあなたがそれを望んでも」
>「わたくしの手も力も、もうあなたに届く。
 そこはもう、わたくしの王国ですの
 今度は拒ませませんの。跳ね除ける事もさせませんの」
>「大人しく、この女王に頭を垂れろですの!」

そして訪れる決着の時。ついにバアルフォラスの刀身がスレイブに届く。
まだ小さき虫の王女だったはずのフィリアは、今ばかりは気高き女王となっていた――

フィリアの盾となって彼女を送り出したジャンが雷にあたり、昏倒する。

「――ジャン殿!」

慌てて駆け寄って様子を見る。
命に別状は無さそうでひとまず安堵していると、暫し気を失っていたスレイブが目覚めて静かに語り始めた。

>「バアルフォラスは……いなくなった。知性を俺に返して、喋らない魔剣に戻ってしまった」
>「バアルからの伝言だ。『ありがとう。相棒をよろしく頼む』と。
 ……はは、何が頼むだ。結局責任のたらい回しじゃないか。何も変わらない。何も解決してやしない」

「そうか……」

>「わたしを頼れと、そう言ったなフィリア。全ての悪意ある者から、俺を護ると。
 だが、誰かを護るということは、その者の受難を代わりに身に受けるということだ。
 俺を護るために、君が悪意に晒されることもあるだろう」
>「そのときは、君を取り巻く全ての悪意から――虫精の女王よ、俺が君を護ろう。
 君に不幸が降り掛かった時は、俺の実存に賭けて、必ず君を幸せにする」

仕えるべき王を見つけた騎士のようにフィリアに膝を突くスレイブ。
ティターニアはその光景を見ながら、ラテの手を取ってぶんぶん上下させていた。

「ラテ殿、そなた、間違ってなかったぞ……!」

『うわぁぁんっ……! 助けて、怖いよぉ、痛いよぉ……お姉さま……マスターっ……!!』
『……ごめんノーキン……ダメかも……もうちょい、頑張れると思ったんだけどなぁ』
『指環の力で……吾輩は……死を打ち砕く……!!』

救えなかった者達のことを一瞬、思い出す。もう少し早く一人目を救えていればラテは精神崩壊せずに済んだのだろうか。
否、過ぎたことを後悔しても詮無きことだ。

「今までたくさん死なせてしまった……やっと、やっと一人だ。されどこれからもっと救ってみせるから見ておれ」

これにて地水火風――四つの指環が揃ったことになる。
反面、光の指環がメアリの手に落ち、虚無の勢力が本格的に動き始めていることを示しているのだった。
今までの戦いは、言わば同じ立場の者達との指環争奪戦だったが、これからの戦いは、良くも悪くも、"世界の敵"を相手取ることになる。
そんな予感がしていた。
良くも悪くも、というのは今までのような葛藤はしなくて済むかもしれないが、間違いなく戦いは段違いに苛烈になるということだ。

36 :
>「霊樹の導師よ!半魔の冒険者よ!貴方たちの目的が正しいものなのか、俺には判断できない。
 それでも、貴方たちの望む世界が誰かを不幸にするものではないことは、分かる」

「霊樹の導師か、なかなか格好良いな。今度から使わせてもらうとしようか」

照れ隠しのように冗談めかして言うティターニア。

>「俺は善なる者ではないが、善良な者を支えることならばできる。
 罪滅ぼしなどと言うつもりはない。ただ、善なる者の……貴方たちの傍で共に戦いたい」
>「俺を仲間に入れてくれないか」

>「……こういう時に、冒険者がなんて言うか知ってるか?
 フィリアやティターニアは知らねえかもしれねえから、俺が代わりに言っておくぜ」
>「――ティターニア、右腕治してくれねえか。
 電撃浴びておかしくなってるみてえだ」

腕が動かないのは由々しき事態だが、その流れに不謹慎ながらも笑ってしまう。
ティターニアは本職は学者なので、冒険者の流儀は本職の冒険者に任せておくことにした。

>「ようこそ、俺たちのパーティーへ!……歓迎するぜ、スレイブ!」

笑顔で左腕を差し出すジャン。

「そんなに畏まらずとも断らぬわ。断ったらバアル殿に怒られてしまうからな。
どれ、右腕を見せてみるのだ。――ヒーリング」

ティターニアはそう事もなげに言いながら、ジャンの右腕の治療を始める。

「それと……バアル殿はいなくなってはおらぬぞ。あやつはそなたの心から生まれたのだろう?
ならばそこに、おるではないか――」

そう言って、スレイブの胸を示すのだった。
しかしここでティターニアは、現実的な問題を思い出してしまう。

「しかしそなた、ジュリアン殿の近衛騎士ではなかったか!? そなた程の逸材、簡単に手放してくれるだろうか」

「そいつの面倒はもうこりごりだ――勝手にしろ」

声の主は、いつの間にか帰ってきていたジュリアンだった。おそらく戦闘中は街や人民に被害が出ないように奔走していたのだろう。
ティターニアには、その声がほんの少しだけ寂しそうに聞こえたが、そこには突っ込まずに

「そうか、感謝するぞ」

とだけ答えた。こうして拍子抜けするほどあっさりと許可は出たのであった。

37 :
>「これは……蜘蛛の脚……!?」

わたくしは、賭けに勝った。
スレイブ様の体がわたくしの方へと引き寄せられ……バアル君の剣身がその胸へと突き刺さる。
……この小さな女王に、わたくしに出来る事はもうない。
後の事はバアル君、あなたにお任せしますの。
そしてわたくしはバアル君の柄から手を離す。

胸に刃を貫かれたスレイブ様は暫しそのまま立ち尽くし……
ふと、糸の切れた人形のように後ろに倒れ込みましたの。
わたくしも……もう、足に力が入らない。立っていられませんの。
それでもスレイブ様から視線は逸らさないように、へたりとその場に尻餅をつく。

そして……不意に、ぱきん、と音が響いた。
それが何を意味する音なのか、わたくしには分かっていましたの。
そうなるかもしれないと思っていた音。だけど……それでも聞きたくなかった音。
スレイブ様の胸に突き立てたバアル君が……その半ばから折れた音でしたの。

>「バアルフォラスは……いなくなった。知性を俺に返して、喋らない魔剣に戻ってしまった」

……スレイブ様が仰向けに倒れたまま、声を発した。
やっぱり、ですの。
バアル君には……こうなる事が、分かってたんだ。

彼は誰よりもスレイブ様の事を思ってましたの。
叶うなら、これから先もきっと、彼を助けていきたいと思ってたに違いありませんの。
それでもこうなったのなら……わがままなわたくしにだって分かりますの。
こうするしかなかったんだって。
……だけどそれでも、悲しいものは、悲しいですの。

>「バアルからの伝言だ。『ありがとう。相棒をよろしく頼む』と。
  ……はは、何が頼むだ。結局責任のたらい回しじゃないか。何も変わらない。何も解決してやしない」

泣きたくてたまらないけど……我慢しますの。
一番辛いのは、わたくしじゃないから。
それに、悲しいけど……悲しいだけじゃ、ないから。
なのにわたくしが悲しくて泣いちゃったら……スレイブ様に悪いですの。

「いいえ、ですの。少なくとも、あなたが帰ってきてくれた」

……と、立ち上がったスレイブ様が、地面に刺さった剣を引き抜く。
その剣身を、そこに映った自分のお顔を検めてから、わたくしを見下ろす。

>「わたしを頼れと、そう言ったなフィリア。全ての悪意ある者から、俺を護ると。
  だが、誰かを護るということは、その者の受難を代わりに身に受けるということだ。
  俺を護るために、君が悪意に晒されることもあるだろう」

そして剣を眼前に構え、その切っ先を天へと向けて、わたくしの前に跪いた。
……その仕草が何を意味するのか、実はわたくしは分かりませんの。
だってわたくし、虫さんですもの。
だけど……彼がわたくしに何を伝えたいのかは、もう分かる。

>「そのときは、君を取り巻く全ての悪意から――虫精の女王よ、俺が君を護ろう。
  君に不幸が降り掛かった時は、俺の実存に賭けて、必ず君を幸せにする」

両足に力を込めて、立ち上がる。
わたくしは、誰が見たってちっぽけだけど。
それでも背筋をぴんと伸ばして……精一杯、格好を付ける。
わたくしを王と呼んでくれる事が、この心優しい剣士の恥にならないように。

38 :
「あなたがそう言ってくれて……わたくし、すっごく嬉しいですの」

だけど……どうしても顔がへにゃりと緩んでしまうのだけは、見逃して欲しいですの。
……なんだか気恥ずかしくなって、わたくしはジャン様とティターニア様へ視線を逸らす。
スレイブ様も、お二人に言いたい事があるはずですの。

39 :
>「霊樹の導師よ!半魔の冒険者よ!貴方たちの目的が正しいものなのか、俺には判断できない。
  それでも、貴方たちの望む世界が誰かを不幸にするものではないことは、分かる」
>「俺は善なる者ではないが、善良な者を支えることならばできる。
  罪滅ぼしなどと言うつもりはない。ただ、善なる者の……貴方たちの傍で共に戦いたい」
>「俺を仲間に入れてくれないか」

>「おうともよ!俺たちはみんなで幸せになるんだからな。
  でも半魔ってのはやめてくれねえか、いけ好かない魔族じゃなくて俺はオーク族だからな」

スレイブ様の願いを受けて……ジャン様が立ち上がって、彼に歩み寄る。
そしてその肩を軽く……多分ジャン様にとっては軽く叩く。

>「……こういう時に、冒険者がなんて言うか知ってるか?
  フィリアやティターニアは知らねえかもしれねえから、俺が代わりに言っておくぜ」

ふふん、それはどうかな?ですの。
この戦いを経て大きく成長した今のわたくしならもう、ヒト同士の受け答えだって……

>「――ティターニア、右腕治してくれねえか。
 電撃浴びておかしくなってるみてえだ」

……えっ、なんかすっごくついでみたいな感じで……えっ?
腕が動かないのってそんな軽い事……じゃないよね?
わたくしがおかしいんですの?

>「ようこそ、俺たちのパーティーへ!……歓迎するぜ、スレイブ!」
>「そんなに畏まらずとも断らぬわ。断ったらバアル殿に怒られてしまうからな。
  どれ、右腕を見せてみるのだ。――ヒーリング」

ティターニア様もわりと大した事なさそうに治療してるし……。

>「それと……バアル殿はいなくなってはおらぬぞ。あやつはそなたの心から生まれたのだろう?
  ならばそこに、おるではないか――」

あっ!わたくしが戸惑ってる間にティターニア様がなんかいい感じの事を!
む、むむむ……やっぱりわたくし、まだまだ勉強が足りないみたいですの……。

>「しかしそなた、ジュリアン殿の近衛騎士ではなかったか!? そなた程の逸材、簡単に手放してくれるだろうか」

「あっ、そう言えば……」

>「そいつの面倒はもうこりごりだ――勝手にしろ」

噂をすれば影……って言うんでしたっけ?こういうの、ですの。
街と住人の防護に回ってくれていたジュリアン様が帰ってきましたの。
……やっぱりわたくしはまだまだ勉強不足で、こういう時になんて言えばいいのか分かりませんの。

>「そうか、感謝するぞ」

ティターニア様は手短にそう答えましたの。
それは多分、一つの正解で。だけど……そうじゃない正解もあるはずですの。
わたくしの中の正解は何なのか。

「……えっと、その」

分からないけど……試してみないと、ずっと分からないままですの。

「近衛騎士じゃなくなっても、お友達でいる事は出来ますの……なーんて?」

だから試しにそう言ってみたら……ひぃ!めちゃくちゃ冷ややかな眼で睨まれましたの!

40 :
た、助けて近衛騎士さま!お役目ですの!
ていうか今気づいたけど、試しにで練習する相手としてジュリアン様は多分かなり不適切でしたの……。

『まったく、何をしているんだ君は……』

指環から淡い光が明滅して、イグニス様の呆れた声が聞こえてきましたの。

41 :
『……それで?いつまでそこでだんまりを決め込んでいるんだ?』

「……なんの事ですの?」

『炎は揺らぎ、見えざる風の歩みを暴く。
 ……そこにいるんだろう、ウェントゥス』

瞬間、スレイブ様の左手……風の指環から一陣の風が渦を巻いた。
魔力を帯びた風は次第に目に見える形と色を得て……幻を描き出す。
ウェントゥスの幻体を。

「……って、あれ?なんだかちっちゃくなってますの」

現れた幻体はさっきの戦闘中に見た幻よりも随分と小さくて、
わたくしと殆ど背丈に違いがありませんの。

『……あー、その、なんじゃ』

ウェントゥスはなんだか歯切れ悪く呟いて、

『すまん。儂、虚無に呑まれてしもうた……』

数秒の間を置いてから、そう続けた。
……わたくしがその意味を理解しかねている内に、ジュリアン様が静かに空を見上げる。
わたくしも慌ててそれに倣うと……嵐の防壁の向こう側に見える竜の巨体が、黒に染まっているのが見えた。

……だけど、あんなに気味の悪い黒色、見た事ありませんの。

『で、でもな、ここにいる儂は違うんじゃぞ!
 虚無に完全に呑まれる前に、風に乗せて儂の一部をこっちに逃したんじゃ!』

ジュリアン様が幻体に手をかざすと、ウェントゥス様は慌てて声を上げた。

「……風。流れ、繋ぎ止める事の叶わないもの。
 その力を司る風竜なら、そういう事が出来てもおかしくはないか」

ジュリアン様が小さく呟き、手を下ろす。

「だが結局、お前もあの教団に良いようにしてやられた訳だ。
 ……策士面で俺を小間使い扱いして、あちこち走り回らせるのは楽しかったか?」

『う、うぅ……お主氷使いじゃろ……そんなジメジメした聞き方……
 いえ、すみません、なんでもないです……反省しとるからそんな眼で儂を見るな……』

「……その、エーテル教団?って、そんなに強い人がいるんですの?
 風竜ウェントゥスを……こんな短い間に、倒してしまえるなんて」

べ、別にビビってなんかいませんの!
でも……その強さが、想像出来ないんですの。
指環の力を、不完全に与えられたスレイブ様でさえ、あんなにも苦戦させられたのに。

『……そうじゃない。いかに虚無の使徒と言えど、ただ戦えば妾達に分があるさ。
 だから、そうじゃなくて……妾達が弱いんだ。虚無という属性、その概念に』

イグニス様はそれから一呼吸の間を置いて、続ける。

42 :
『……妾達は皆、一度全てを失っているからね。
 いや……ウェントゥスは、このシェバトだけは守り抜けたか。
 とにかく、わざわざ口に出しては言わないけど……皆、心の何処かに、こんな思いを仕舞い込んでいる』

再び置かれた間隙は……最初のものよりもずっと長い。
長く、感じましたの。

43 :
『あんな事にならなければ、祖竜様が乱心されなければ……。
 そのあり得たかもしれない、だが決して「あり得ない」空想は、まさしく虚無だ。
 だからお前も……そんな小さな形でしか、自分を逃せなかった。だろう?ウェントゥス』

ウェントゥス……様は、俯いたまま口を開く。

『……のう、イグニス。お主、祖竜様が乱心された理由は分かるか?』

『……いや』

不意の問いかけに、イグニス様は僅かな戸惑いと共にそう答える。

『儂には分かる。分かったんじゃ。儂らは祖竜様に創られた。王の座と治めるべき世界を与えられた。
 あの時は、与えられるばかりじゃった。だから何も分からなんだ。
 だが全てを失って……儂は虚無に歩み寄った。そして気づいたんじゃ。祖竜様もきっと、そうだったと』

『……だが、あの方はずっと妾達に言っていた。虚無に呑まれるな、と』

『未来に怯える者だけが、警句を唱える事が出来る……。
 まぁ、信じても、信じずとも構わん。今更確かめようもない事じゃ。
 ただ儂は……儂が思う、祖竜様のしようとした事を、今度こそ実現しようと思った。祖龍様よりも上手くな』

「……話が回りくどいのは竜が長命の種だからか?
 それともお前が年寄りだからか、ウェントゥス?
 エーテル教団の目的を、例え可能性だとしても語れるのなら、さっさとしろ」

ジュリアン様がやや辟易とした様子で、ウェントゥス様を急かす。

『……エーテルの属性は、虚無と共に、全を司る。それらは正反対の性質であるはずなのに。
 何故だか分かるか?……いや、すぐに本題に入るから、ちょっとくらい待って……。
 虚無は全てを呑み込む。故に虚無は喪失そのものであり……同時に喪失されたものを、内包する』

ウェントゥス様の視線がティターニア様を見上げる。
一対の碧眼はティターニア様を見つめていながら……遥か昔の、思い出を望んでいるようにも見えますの。

『ならばこの世界を虚無で塗り潰せば、世界を虚無で包み込めば……』

「……虚無の中に、世界を移住させるとでも言うつもりか?
 馬鹿な。確かめようのない机上の空論だ……」

『だが、理には適ってもいる……じゃろ?その世界には、全てがある。
 虚無に呑まれたこの世界も、この世界で失われたもの達も。
 かつて祖竜様によって滅んだ我らの世界も……その更に前に存在した、エーテリアル世界とやらも』

……あれ?それがもしも本当なら、もしかして結構住みよい世界ですの?
そりゃ確証もなしに世界を滅ぼされても困るけど、その辺の事をちゃんと確かめれば……。

『趣味が悪いぞ、ウェントゥス。例え全てがそこにあっても、確実に、存在しないものがあるだろう』

「……えっ、それって一体、なんなんですの?」

「虚無が例え全を内包していようとも、それらは全て「終わった」ものだ。
 ……つまりそこに、未来はない。ふん、とんだ楽園だな」

……一瞬でも、住みよいかもなんて思っちゃったのが間違いでしたの。
だけど……きっと、そこまで分かってても、住みよいと思うヒトは……いるんですの。
少なくとも一人は……その世界をずっと目指し続けてるんだから。

44 :
 


「……ウェントゥス。虚無に呑まれた方のお前が上空から消えたぞ。何か分かるか?」

それから暫くして、ジュリアン様が再びウェントゥス様に問いかけた。

45 :
『……多分、諦めたんじゃろ。いや、後回しにしたと言うべきか。
 儂はな、実はこのシェバトにすごく愛着があるんじゃ。
 だからこそ、後回しにした。その方が……虚無的、じゃろう?』

「……理解出来んな。だが好都合だ。いつまでもこの街の防衛に留まり続ける訳にはいかないからな」

『そうは言うがお主、次の指環の当てがあるのか?』

「ある。正確には、当ての当てになるが」

「……どういう事ですの?」

「エーテル教団には後援者がいた。お前達も知っているだろう、ソルタレクの冒険者ギルドだ。
 ……奴らがアスガルドに攻め込んできた時には既に、逆に教団に呑まれていたようだが。
 知っているか?ハイランドの首府ソルタレクは……今では住民の殆どが教団の信徒となっている」

……なんだか話がきな臭くなってきましたの。

「……だが奴らが信徒を増やす理由はなんだ?奴らにありがちな無意味な享楽か?
 その可能性も否定は出来ないが……そうでないのなら、何か意味がある」

……こういう会話になってくると、わたくし何も喋れないのがちょっと悲しいですの。

「ヒトでも竜でも、あらゆる知性ある者が抱く虚無とは、つまり、全の片鱗……欠落の具現だ。
 ならばその欠片を掻き集めれば……中には、何か奴らに都合の良い力が見つかるかもしれない。
 ティターニア、俺やお前ですら見た事のない体系の魔術が、生じるかもしれないな」

ジュリアン様の視線が一瞬、ティターニア様の手元、大地の指環へと落ちて、
それからすぐにまたティターニア様へと向き直る。
……わたくしがまだ合流する前に、あった事のお話をしてますの?
テッラ洞窟でしたっけ……少しだけ話は聞かせてもらったけど……。

「それが当ての当てだ。奴らの当てを奪うか。或いは奴らの持つ指環を奪えれば好都合……。
 だが……ソルタレクは敵の総本山だ。最悪、街一つそのものを相手取る事になる。
 気後れするようなら、他の手を考えてやってもいいが」



【虚無とかウェントゥスとかソルタレクとかはぜーんぶただの思いつきですの!
 なんかこんなの面白そう!って感じでごちゃーっと書いちゃいましたの】

46 :
>>45
そりゃ却下だ

47 :
>「……こういう時に、冒険者がなんて言うか知ってるか?
 フィリアやティターニアは知らねえかもしれねえから、俺が代わりに言っておくぜ」
>「――ティターニア、右腕治してくれねえか。電撃浴びておかしくなってるみてえだ」

スレイブの懇願にジャンは握手で応えようとして、そこでようやく右腕の不調に気付いたようだった。
無理もない。フィリアを護るためにディザスターの雷撃を水流越しに引き受けたのだ。
硬質な竜の甲殻は殆どはじけ飛び、その下の肉が灼け裂けて流血している。
こんな状態で平然としていられる頑丈さというか気概の強さには脱帽するほかない。

「……悪かった」

ばつが悪そうにするスレイブに、ジャンは然程気にもしていないといった風に無事な方の手を差し出す。
破顔したハーフオークの人相は、晴れやかなほどの親しみに満ちていた。

>「ようこそ、俺たちのパーティーへ!……歓迎するぜ、スレイブ!」

「………………」

スレイブは握手に応えようと鎧の篭手を脱いで、同様に裂傷の刻まれた自分の手を見た。
この手を染めるのはきっと、己の血だけではない。
これまで彼が戦い、命を奪ってきた者達の、怨嗟と絶望に塗れている。
咎人の腕でジャンの手を握ることに一抹の逡巡を憶えて……しかし彼はためらうのをやめた。
分厚く大きな戦士の手を、負けないくらい強く握り返す。

「歓迎に感謝する、ジャン」

――この手が罪で溢れているのなら、その罪も一緒に彼らに支えてもらおう。
仲間とは、そうであっても良いはずだ。

>「それと……バアル殿はいなくなってはおらぬぞ。あやつはそなたの心から生まれたのだろう?
 ならばそこに、おるではないか――」

ジャンの右腕を治療していたティターニアが、スレイブの胸を指し示した。
バアルフォラスはスレイブの心の中で生き続けている。陳腐なものの例えなどではない。
言葉を交わすことは出来なくなっても、間違いなく魔剣の意志はここに残されているのだ。

「そうだな……。ここにいるあいつに笑われないように、恥じないように、生きてみせるさ」

かつての相棒が、存在を賭してまで拓いてくれた人生なのだから。
と、良い感じのことを言っていたティターニアがふと何かに気付いたように呟いた。

>「しかしそなた、ジュリアン殿の近衛騎士ではなかったか!? そなた程の逸材、簡単に手放してくれるだろうか」
>「あっ、そう言えば……」

スレイブが何か言うよりも早く、事後処理を済ませたジュリアンが帰ってきた。

>「そいつの面倒はもうこりごりだ――勝手にしろ」

「……ジュリアン様」

一体どこから話を聞いていたのか、ジュリアンはスレイブの方を見もせずに部下の放蕩を了承した。
冷酷にも思える言葉と態度だが、しかし声だけにはいつもの揶揄するような気配がないことをスレイブは理解していた。

>「……えっと、その」

フィリアがおずおずといった様子で声を上げる。

>「近衛騎士じゃなくなっても、お友達でいる事は出来ますの……なーんて?」

女王の凄まじく微妙なフォローにジュリアンは半目で一瞥した。

48 :
氷点下もかくやの視線に晒されたフィリアが小さく悲鳴を上げてスレイブの後ろに隠れる。
愛すべき女王の痴態にどう反応して良いやら分からなくなったスレイブは、ジュリアンの方へと一歩踏み出した。

「ジュリアン――クロウリー卿。今日この日まで俺の後見を務めて下さったこと、深く感謝致します。
 貴方がバアルフォラスと出逢わせてくれたおかげで、俺は死に囚われずにいられた」

ダーマの宮廷で初めてジュリアンと会った時のことを思い出す。
余所者に敵愾心を隠さず剣を向けたこともあった。
返り討ちにされ、とどめを請うスレイブに、異国の魔導師は王家に掛け合って己の部下とすることで助けてくれた。

「この御恩には必ず、指環を集めることで報います。それまで暫し、暇をいただきます」

決別を宣する部下の言葉を、上司は鼻で笑った。

「勘違いするなよ、面倒を見るのは終わりだと言ったんだ。恩に報いると言うのなら俺の為に働け。
 お前は俺の部下として、指環の勇者共の旅を間近で監視するんだ。王家筋には俺が適当に口裏を合わせておいてやる」

スレイブは元々、帝国から亡命してきたジュリアンのお目付け役としてダーマが用意した人員だった。
扱いの上では今でも宮廷魔導師の近衛騎士だ。指環の勇者達への同行はジュリアンの指示での出向となる。
そのあたりの業務的な上意下達を王家側と掛け合ってくれるのだろう。
露悪的な口ぶりとは裏腹に、厄介な折衝とお膳立てを引き受けてくれるも同然であった。

「…………御意に」

偽悪者と言うより単に素直じゃないだけの人みたいになっているジュリアンに、スレイブは深々と頭を下げた。
それだけで、上司と部下の間に十分真意は伝わった。

>『……それで?いつまでそこでだんまりを決め込んでいるんだ?』

背後でまごまごしていたフィリアの指先から、呆れ返ったようなイグニスの声が聞こえた。
何のことかと問う女王に、炎の指環は輝きで答える。

>『炎は揺らぎ、見えざる風の歩みを暴く。……そこにいるんだろう、ウェントゥス』

言葉を呼び水とするかのように、スレイブの指環から弱々しく旋風が奔った。
ディザスターを経験した身からすればそよ風にも等しい竜巻は、やがて一つの形をつくる。
小さな少女のかたち。ウェントゥスだった。

「…………!」

刹那、スレイブとジュリアンが同時に剣と杖を構える。
刃と魔力の切っ先が交差するその先で、ウェントゥスはばつが悪そうに俯いていた。
戦闘態勢に入った騎士と魔導師とは逆に、ウェントゥス自身に戦意は見られなかった。
先刻まで指環を通じて現出していた幻体よりも小さい。そして風竜の威圧感も失せている。

>『……あー、その、なんじゃ』
>『すまん。儂、虚無に呑まれてしもうた……』

「…………なんだと?」

見上げれば、シェバト上空に浮かぶ風竜ウェントゥスの巨体が黒に染まっていくのが見えた。
あの色には見覚えがある。メアリが用いる魔法陣の黒。虚無の漆黒だ。

>『で、でもな、ここにいる儂は違うんじゃぞ!
 虚無に完全に呑まれる前に、風に乗せて儂の一部をこっちに逃したんじゃ!』

どの面下げて出てきたつもりなのか、ウェントゥスは口早に起こったことを説明した。
スレイブを拉致したあのエーテル教団のメアリとか言う女にウェントゥスは力の大部分を奪われ、
こうして僅かな正気の部分だけを切り離して逃げ延びることしか出来なかったと言う。

49 :
テスト

50 :
>「……その、エーテル教団?って、そんなに強い人がいるんですの?
 風竜ウェントゥスを……こんな短い間に、倒してしまえるなんて」

「奴は……メアリは、光の指環を使いこなしていた。最も、ウェントゥスが倒された要因は他にもあるようだが」

イグニスが言うには、エーテル教団には心ある者ならば誰もが持ち得る虚無を操る術がある。
スレイブが容易く洗脳されたように。『虚無に呑まれる』とは、心の内側から在り様を捻じ曲げられることに近い。
長命ゆえに、歴史と記憶が同義である四竜三魔はその心に持つ虚無の量も文字通り桁違いと言うことだろう。

いずれにせよ、ウェントゥスは共謀していたはずのエーテル教団に裏切られた形になる。
そして共謀していたのならば、教団の目的を片鱗でも知り得たはずだ。
ジュリアンの苛立ちを隠さない追求にビビりながら、ウェントゥスは憶測を語った。

>「……虚無の中に、世界を移住させるとでも言うつもりか?馬鹿な。確かめようのない机上の空論だ……」

エーテル教団の目指す場所。
それは、『今在るもの』と『失われたもの』とが混在する新しい世界の創生。
有と無の垣根を破壊すること――。

傍から見れば、それは死んでしまった者とも再び会うことのできる理想郷なのかもしれない。
だが耳障りの良い理屈の裏には、取り返しのつかない影もまた存在する。

>「虚無が例え全を内包していようとも、それらは全て「終わった」ものだ。
 ……つまりそこに、未来はない。ふん、とんだ楽園だな」

「……俺には冥界論を信じる連中の戯言にしか聞こえません」

冥界――あの世がもしもあるのならば、現世の皆でそこに移住して穏やかに暮らすというのはなるほど理想かもしれない。
全員が死んでいるのなら、それ以上の別離などないのだから。
しかし教団の標榜する理想は、結局のところ何の確証もない妄想に過ぎない。
誰が提唱したのかは知らないが、そんなものに何人もの人間が携わっている事実に狂気を感じる。
カリスマの求心力の為せる業か、それとも。

戦慄を憶えているスレイブとは裏腹に、ジュリアンは既に先を見据えつつあるようだった。

>「……ウェントゥス。虚無に呑まれた方のお前が上空から消えたぞ。何か分かるか?」

言われて見上げれば、シェバトの空を漂っていた風竜ウェントゥスの姿がない。
叩き付ける暴風のような魔力も感じず、あの巨体を魔術で隠蔽し切れるとは思えない。
幻体の方のウェントゥスは、虚無に呑まれた本体が一時撤退していったと言う。

>「……理解出来んな。だが好都合だ。いつまでもこの街の防衛に留まり続ける訳にはいかないからな」

ジュリアンには腹案があるようだった。
次の指環――光の指環を擁するエーテル教団は、ハイランド連邦の首府ソルタレクに根を張っている。
ソルタレクへ行けば何かしらの手掛かりが――上手く行けば光の指環そのものと相対できるかもしれない。

>「それが当ての当てだ。奴らの当てを奪うか。或いは奴らの持つ指環を奪えれば好都合……。
 だが……ソルタレクは敵の総本山だ。最悪、街一つそのものを相手取る事になる。
 気後れするようなら、他の手を考えてやってもいいが」

上司の言を受けて、スレイブは思案を声に出した。

「……ソルタレクに行くなら、市内への侵入をエーテル教団の連中に気取られるのはまずい。
 道中は転移魔法も飛空艇も使えない、海路と陸路での旅になるぞ」

メアリがシェバトに来ていた以上、こちらが巡航飛空艇を所有していることは敵方にも知れているだろう。
当然、警戒するはずだ。同様に転移魔法も検知網を張られている公算が高い。

51 :
「城壁山脈を空路以外で抜けるには、徒歩で山越えするか、峡谷の底を船で下って海峡まで出るかのいずれかだ。
 ……ウェントゥス大平原を横断することも含めて、かなり過酷な道程になる」

暗黒大陸は魔族の跳梁跋扈する文字通り暗黒の領域だ。
ヒトがシェバトという限られた土地に引き篭もらざるを得ないのは、単純にそれ以外の場所が危険極まりないからである。
スレイブはティターニアとジャンに水を向けて問うた。

「指針を決めてくれ。ハイランドへ戻るか、ダーマに留まって残りの指環の探索を続けるか。
 いずれを選ぶにしても、俺は貴方たちを全力で護る」

指環の勇者達が今後の方針を決定した直後、通りの方からケツァクウァトルの幻体がこちらへ走ってきた。

『ジュリアン!こちらに居ましたか!……ああ、スレイブ、元に戻ったのですね、良かった……』

ジュリアンと共に民衆の誘導にあたっていたケツァクウァトルは、人心地ついたとばかりに胸を撫で下ろす。

『上空の風竜が消えました。一体何があったので――ウェントゥス!?何故貴女がここに!』

『うっ…………』

いつの間にかフィリアと一緒にスレイブの背後に隠れていたウェントゥスの姿を、ケツァクウァトルは目敏く発見する。
ウェントゥスは凄まじい勢いで目を泳がせて、しかし何も語らない.
代わりにスレイブが質問に答えてやった。

「エーテル教団に風竜としての力の殆どを乗っ取られて、僅かな正気の部分を指環に退避させたらしい」

『なんてこと……それではウェントゥス、貴女は手引きしていた相手に裏切られて、
 力を奪われた挙句にさんざん敵対していた指環の勇者に助けを求めたと?
 ヒトなんかに頼りたくないって自分から虚無に迎合して、シェバトを封鎖しておきながら?』

『ま、まぁ……事実だけを抜き出せば……そうなるかの……いやでもあのな、これには色々と深淵なる事情がの、』

『プライドとかないんですか貴女』

『ぐわあああああ!!!』

痛いところを突かれたウェントゥスはのたうち回って爆発四散した。
幻体なのでそのうち元に戻るだろう。
ケツァクウァトルは頭痛を堪えるかのように頭を振って、やがて何かに気がついた。
上空を占有していた風竜と、空を覆い尽くさんばかりの眷属たちは、全て去っていった。

『ということは、シェバトは……』

幻体であるにも関わらず、ケツァクウァトルの双眸に水気が生じるような感覚があった。
声が震えるほどに心を揺さぶられているのは、きっと悪いことではない。
誰よりもこの街を案じ、人々を愛し、護り続けてきたのが彼女だった。
こらえきれなくなったように、ケツァクウァトルは空を仰ぐ。


「……ああ」

シェバトで暮らすうちに随分と人間臭くなってしまった守護聖獣に苦笑しながら、スレイブも同じ空を見上げた。
遮るもの一つない、かつてと同じシェバトの空が、今ここに取り戻されたのだ。

「シェバトは解放された」


【行動指針を問う。シェバト解放……ってことで良いんだよな?良いってことにしとくぜ!】

52 :
>「そんなに畏まらずとも断らぬわ。断ったらバアル殿に怒られてしまうからな。
どれ、右腕を見せてみるのだ。――ヒーリング」

「おお、ありがとよ。あの雷、爺ちゃんの蹴りぐらい痛かったからぶっ倒れちまったぜ」

そう言って徐々に動くようになっていく右腕の感触を確かめるように、手を握ったり開いたりし始めた。
オークの種族的特徴としてよく言われるのは魔術に弱く、魔術が使えないという特徴だが、
同時にこれは強化や治療の魔術もよく効くということを意味している。

オークの身体には魔力に対する抵抗が少なく、魔力によって生じる様々な現象を直に受けてしまいやすい。
そのため敵に魔術師がいれば頑強な肉体も意味を成さないが、味方に魔術師がいれば一騎当千となりうるのだ。

>「そいつの面倒はもうこりごりだ――勝手にしろ」

「おう、ちょいとばかし仲間になってもらうぜ」

あの雷と嵐が吹き荒れる中、ジュリアンは住民たちの保護に奔走したのか
ジャンは少しジュリアンの息が荒くなっているように思えた。

そのせいか、フィリアの冗談にやや荒い対応をしたようだが
皮肉の一つも言わない辺りまだ上機嫌なのかもしれない。

>『……それで?いつまでそこでだんまりを決め込んでいるんだ?』
>『炎は揺らぎ、見えざる風の歩みを暴く。
 ……そこにいるんだろう、ウェントゥス』

全てが無事に終わったとジャンが思った瞬間、状況は一変する。
イグニスの声が辺りに響くと同時に、風が辺りを吹き抜けた。
先程の嵐に比べればそよ風程度のそれは、やがて収束し小さな少女を形作る。

>『……あー、その、なんじゃ』
>『すまん。儂、虚無に呑まれてしもうた……』

53 :
てすと

54 :
空を見れば、上空に君臨する巨竜ウェントゥスが黒く染め上げられ動きを止めているのがはっきりと分かる。
そして少女のウェントゥスが語り始めるのは、虚無とエーテル教団、祖竜の話。
ジュリアンがさらに語るところによれば、ソルタレクはエーテル教団の支配下にあり、
街そのものが敵と言ってもいいほどだと言う。

>「……ソルタレクに行くなら、市内への侵入をエーテル教団の連中に気取られるのはまずい。
 道中は転移魔法も飛空艇も使えない、海路と陸路での旅になるぞ」

>「城壁山脈を空路以外で抜けるには、徒歩で山越えするか、峡谷の底を船で下って海峡まで出るかのいずれかだ。
 ……ウェントゥス大平原を横断することも含めて、かなり過酷な道程になる」

「大平原はケンタウロスとゴブリンたちがうろついてっからなあ、
 あいつら警戒して歩いてたら夜も昼も眠れねえぞ、本気でな」

一人で旅をしていた頃を思い出し、ジャンは珍しく小さく震えた。
旅人が焚火をしていれば警戒するのではなく、むしろ獲物がいるとしか思わない生き物しか
ウェントゥス大平原では生き残れないのだ。

>「指針を決めてくれ。ハイランドへ戻るか、ダーマに留まって残りの指環の探索を続けるか。
 いずれを選ぶにしても、俺は貴方たちを全力で護る」

「それなんだけどよ……判断するには知ってることが少ないと思わねえか?
 だから提案があるんだ。ここから西に行った辺りに確か、ダーマ中の街道が集まるでかい街がある。
 キアスムスって街なんだけどよ、ここなら色んな港町への馬車も出てるしあいつらの目をくらませやすいと思うぜ」

珍しく一歩踏みとどまるような提案を述べたあと、ジャンはややばつが悪そうに、
だが思い切ったように再び喋り始めた。

「……いや、やっぱり本当のこと言うぜ。
 キアスムスの近くに俺の故郷があるんだ。一度帰って父ちゃんたちに旅の話をしておきたい。
 あの火山に行ってから、ずっと手紙を出してなかったからよ……安心させてやりたいんだ」

そう言って、ジャンは故郷があるのだろう方角を眺める。
今や雲一つない青空となっているその下にあるものを想像してか、陽気ないつもの顔ではなく穏やかな顔だ。


【完全に自分のワガママです。
 フィリアさんに乗っかる形で申し訳ないですが……】

55 :
ティターニアはジュリアンとスレイブのやりとりをしみじみと見つめていた。

56 :
ジュリアンは見れば見るほど素直じゃないいい奴――分かりやすく言えばツンデレであった。
そこにミニウェントゥスが現れ、自らの本体が虚無に呑まれてしまったと告げる。
そして語られるエーテル教団の目的の一端――

>「虚無が例え全を内包していようとも、それらは全て「終わった」ものだ。
 ……つまりそこに、未来はない。ふん、とんだ楽園だな」
>「……俺には冥界論を信じる連中の戯言にしか聞こえません」

ジュリアンの言う事も尤もだがそれ以前の問題で、スレイブの言うように
それ自体皆を騙して引き入れるための真っ赤な嘘で、真の目的は他にある可能性も否定できない。
続いて話題は次の目的地の話へ。
ジュリアンは目的地の候補として、今や教団に支配されたハイランドの首府ソルタレクを提示した。

>「それが当ての当てだ。奴らの当てを奪うか。或いは奴らの持つ指環を奪えれば好都合……。
 だが……ソルタレクは敵の総本山だ。最悪、街一つそのものを相手取る事になる。
 気後れするようなら、他の手を考えてやってもいいが」

場所自体の危険性のみならず、行き方の問題もあるようだ。

>「……ソルタレクに行くなら、市内への侵入をエーテル教団の連中に気取られるのはまずい。
 道中は転移魔法も飛空艇も使えない、海路と陸路での旅になるぞ」
>「城壁山脈を空路以外で抜けるには、徒歩で山越えするか、峡谷の底を船で下って海峡まで出るかのいずれかだ。
 ……ウェントゥス大平原を横断することも含めて、かなり過酷な道程になる」

「過酷な上にかなりの日数もかかりそうだな。
えっちらおっちら向かっておる間に事が終わってました、なんてことにならぬか」

>「指針を決めてくれ。ハイランドへ戻るか、ダーマに留まって残りの指環の探索を続けるか。
 いずれを選ぶにしても、俺は貴方たちを全力で護る」

「光の指環を持つメアリと対決するなら闇の指環を先に手に入れた方が有利になるであろう。
移動においても闇の力で奴らの目から逃れることも出来そうだ。
……とはいえどこにあるかが分かっていれば苦労はしないわけだが」

「闇の竜テネブラエか――。
しかし四大の竜とは違い現在の地名を探しても残っていないようだからな、雲を掴むような話になる」

そこにケツァクウァトルの幻体が走ってきて、話題は暫し逸れる。

>『なんてこと……それではウェントゥス、貴女は手引きしていた相手に裏切られて、
 力を奪われた挙句にさんざん敵対していた指環の勇者に助けを求めたと?
 ヒトなんかに頼りたくないって自分から虚無に迎合して、シェバトを封鎖しておきながら?』
>『ま、まぁ……事実だけを抜き出せば……そうなるかの……いやでもあのな、これには色々と深淵なる事情がの、』
>『プライドとかないんですか貴女』
>『ぐわあああああ!!!』

ミニウェントゥスの幻影が爆散した後、ジュリアンはケツァクに問いかけた。何か思うところがあるようだ。

「ウェントゥスがおかしくなりはじめたのは前任の統治者が死んでからと言っていたな?」

「はい、ウィンディア様が亡くなられた頃からです。ショックなのは分かりますが竜の一角たる者が……どうかしましたか?」

ジュリアンの只ならぬ様子を不思議に思い、聞き返すケツァクウァトル。
ウィンディア――以前この地を治めていた監視者の名。
名目こそ監視者だが、魔族でありながら人間の迫害を良しとしない思想を持ち、シェバトを人間の街として守り続けてきた。
驚くべきことに、彼女の在任中は平和が保たれ、街の人々には聖女と崇められていたという。

57 :
「原因不明と言っていたが誰かに殺されたんじゃないか? 例えば……"指環の魔女"に」

ここで出てくるとは思わなかった単語に反応し、身を乗り出しながら問うティターニア。

「指環の魔女だと!? その言葉を知っておるのか!?」

「少なくともお前達より前からは知っているさ。
名を変え姿を変え様々な時代に現れ、ある性質を持つ者を殺害する――その性質とは後に世界を平和に導く可能性がある者だ。
それだけでは無く奴は虚無をまき散らす。奴に大切な者を奪われた者は虚無に呑まれることがある。
厄介なことに純粋で高潔な者ほどそうなる可能性は高い……。今のところ俺は奴をそのような存在と捉えている。
それから……姿は時代によって様々だが黒衣を纏った女として現れる事が圧倒的に多いようだ」

「黒衣の女……まさか、黒曜のメアリが現在の指環の魔女だというのか?」

「ああ……その可能性は否定できない」

そうだとしたらウェントゥスは、憎き仇にまんまとしてやられた事になる。
そんな馬鹿な、という感じだが、ウィンディアを殺した頃の指環の魔女は現在とは肉体が違う可能性があるのだ。

「ここまでくるといたたまれませんね……」

「ああ……」

暫しいたたまれない空気が流れたりシェバトが解放された余韻に浸ったりした後、話を戻すティターニア。

「さて、次の行先だが……」

>「それなんだけどよ……判断するには知ってることが少ないと思わねえか?
 だから提案があるんだ。ここから西に行った辺りに確か、ダーマ中の街道が集まるでかい街がある。
 キアスムスって街なんだけどよ、ここなら色んな港町への馬車も出てるしあいつらの目をくらませやすいと思うぜ」

今の状態でのソルタレク行きにかかる時間を懸念するティターニアの意見を発展させ、ダーマに留まっての情報収集を提案するジャン。

>「……いや、やっぱり本当のこと言うぜ。
 キアスムスの近くに俺の故郷があるんだ。一度帰って父ちゃんたちに旅の話をしておきたい。
 あの火山に行ってから、ずっと手紙を出してなかったからよ……安心させてやりたいんだ」

「何、闇雲に動くより良い。急がば回れ――というやつだ。
闇の指環だがこの大陸にある可能性は高いのではあるまいか。
地名に残っていないのではなく、範囲が四竜に比べてあまりに大きいのだとしたら?
……この大陸の名前は"暗黒大陸"であろう?」

口には出さないがジャンの父親や母親を見てみたい、という興味もあり、ジャンの故郷行きに賛同するティターニアであった。
――こうして、次の行先は決まったのである。

【第5話完!】

58 :
皆、今章もお疲れ様であった!5話のダイジェストは近いうちにwikiの方に置いておく。

>フィリア殿
いつもは章終了時点では次章の行先が決まって無くて我から始めていたが
今回は次の行先が決まっているのでこのままの順番で飛空艇に乗って出発しました!みたいな感じで続けてもらって大丈夫と思う!
ソルタレク編に行くと本気でクライマックスに突入しそう故もう少しだけ後に取っておこう!

>スレイブ殿
一瞬小競り合いしてからのゲスト味方化枠かな? と思いきやシナリオボスを務めた上で正規加入までしてくれるとは!
改めて歓迎するぞ!

>ジャン殿
ここでそう来るとはナイス! 主役章だと思って遠慮なくやってくれ!

現在4人パーティーだが最大時は5人でも普通に回っていたのでまだまだ新規加入歓迎!
今から入っても馴染みにくそう、等と思うかもしれないが
我に限っては同郷の知り合いやら学園の教え子やら同僚等という設定を自由に付けてもらっても構わない!
もちろん2章からの伝統の敵役も募集するぞ
シナリオの流れ上出てくる敵もPC昇格とかNPC参加での操作歓迎

59 :
ダイジェスト地味に楽しみにしてるし話追うのに助かるので
新スレごとに全章分載せるんじゃなけりゃ五章ダイジェストは本スレに投下してもよいとおもいます

60 :
楽しみにしてくれているとは嬉しい物だな――
では出来次第こちらにも置いておこう
多少は場所が前後しても問題ないと思うのでフィリア殿は気にせずに投下してくれて構わない

61 :
……作戦会議の間、わたくしは何も喋れなくて寂しい思いをしてますの。
振り返ってみれば、わたくし指環を巡る冒険はわりと事のついでみたいな感じで付いてきちゃいましたの。
ユグドラシアで虫族の社会進出を手助けしてもらって、その代わりダグラス学長様に頼み事をされて。
……今思えば、あの方はこうなる事を予見してた……とか?
自分で言うのもなんだけど……わたくしは前よりずっと、王様に近づけた気がしますの。

……「きみ」だって分かっているだろ。
きみの夢は、指環の伝説に名を連ねる事でも、世界を救う事でもない。
きみには、きみの夢と、旅がある。
指環を巡る旅はいつ命を落としても不思議じゃないんだ。

わたくしの頭の上で、リボンの擬態している司書蝶、リテラちゃんの声が聞こえる。
分かってますの。虫族の未来を思うなら、もう「わたくしの旅路」に戻った方がいいって。

>「指針を決めてくれ。ハイランドへ戻るか、ダーマに留まって残りの指環の探索を続けるか。
 いずれを選ぶにしても、俺は貴方たちを全力で護る」

「ですのですの。わたくしもご一緒しますの。
 乗りかかった船……って言うんでしたっけ、こういうの?」

……だけどここで降りたら、わたくしはきっとまたどこかで同じ事をしますの。
わたくしがやらなくても誰かがやってくれるからって。
そんな王様に、わたくしなりたくありませんの。
だから……ごめんねですの。リテラちゃん。
……無言で頭に口吻を突き刺してきたのは、許してくれたものだと捉えますの。

>「それなんだけどよ……判断するには知ってることが少ないと思わねえか?
 だから提案があるんだ。ここから西に行った辺りに確か、ダーマ中の街道が集まるでかい街がある。
 キアスムスって街なんだけどよ、ここなら色んな港町への馬車も出てるしあいつらの目をくらませやすいと思うぜ」

「キアスムス……そこがダーマの首都になりますの?
 ……虫族って、ダーマだとどんな扱いなのか今の内に聞いても……」

と思ったら、ジャン様はまだ何かを言いたげに……
しかし今一歩踏み切れない様子でいますの。
そして意を決したように再び口を開く。

>「……いや、やっぱり本当のこと言うぜ。
 キアスムスの近くに俺の故郷があるんだ。一度帰って父ちゃんたちに旅の話をしておきたい。
 あの火山に行ってから、ずっと手紙を出してなかったからよ……安心させてやりたいんだ」

……わたくしはちらりとジュリアン様を見る。
なんとなく、この方はそういう理由を嫌いそうな気がしたから。

「故郷、か。ふん、でかい図体のわりに悩みがちっぽけなのは……その頭の中身の方に比例しているからか?」

あぁ!やっぱり!
……だ、だけどわたくしには、ジャン様の気持ちが分かりますの。
わたくしには故郷になる場所はないけど……ないからこそ、それが大事だって分かりますの。
でもどうやってそれをジュリアン様に伝えれば……

「……いや、今の言葉は撤回する。俺にも、異論はない」

……あれ?
い、一体どういう風の吹き回しで……わたくしはそう尋ねようとして、やっぱりやめときましたの。
ジュリアン様が短くそう言い切って、それきり何も喋らないのは、きっとそれ以上喋る事がないから。
……もしかしたら、喋りたくないから、ですの。

62 :
test

63 :
>「何、闇雲に動くより良い。急がば回れ――というやつだ。
 闇の指環だがこの大陸にある可能性は高いのではあるまいか。
 地名に残っていないのではなく、範囲が四竜に比べてあまりに大きいのだとしたら?
 ……この大陸の名前は"暗黒大陸"であろう?」

「それはまた……長い旅になりそうですの」

わたくしは、おうじょさまだから。
本当は、そうなる事を嫌がらなきゃいけないんですの。

「……楽しみ、ですの!とっても!ダーマの都も、ジャン様の故郷も!」

でも……笑いも、この気持ちも、とてもとても堪えられませんの。

64 :
さて、そんな訳で……わたくし達は一日の休息を挟んで、飛空艇に乗ってキアスムスへと旅立ちましたの。
とは言え、街の中まで飛び込んでいく訳には行きませんの。
所属不明、正体不明の空飛ぶ何か……混乱の元だと、わたくしでも分かりますの。

「……あっ、でもジュリアン様は確かダーマでも高い地位のはずでしたの。
 一足先に街に入って、話を付けてもらったり……」

「何故俺がお前達の為に使い走りをすると思ったんだ?」

「あっ、ですよね……」

「……そもそも、魔族の連中は俺の話を易々と聞き入れはしないだろう。
 人間に指図されるなど、奴らにとっては屈辱の極みだからな。
 最終的に従わせる事は容易いが……その間ずっと空の上で時間を潰しているくらいなら、一度着陸してさっさと街に入れ」

……すっかり、忘れてましたの。ダーマ魔法王国は魔族が支配し、人間が奴隷のように虐げられる国。
その都がどんな姿を示すのか……わたくしにはまだ、想像も出来ない。
空の上から見下ろす分には……ただの彩り鮮やかな街だけど。



【到着と街の描写はお任せしますの!
 ……それと章が変わったらまた、キャラを変える……かもですの!
 その場合フィリアは……べ、別行動してるとか、空気にしたりとか……

 NGワードが分かりませんの!】

65 :
……分割したらなんかNGワード引っかからなくなりましたの

66 :
ユグドラシア防衛戦から数日後、ついに飛空艇リンドブルムが完成した。
虫の妖精の王女フィリアと、ユグドラシアの研究員のグラ=ハ、その部下ラヴィアンを仲間に加え、
一行は飛空艇に乗り込み、風の指環を求めて暗黒大陸のウェントゥス大平原と出発する。
途中で翼竜達の襲撃を受けるも無事撃破し風紋都市シェバト上空に辿り着いた一行。
そこは古代都市でありながら、現在も人々が住んでいる都市であった。
ウェントゥスの攻撃を受けるが、シェバトの守護聖獣ケツァクウァトルの手引きで着陸に成功。
風紋都市シェバト――そこは魔族史上主義のダーマにおける唯一の人間の街であった。
ケツァクウァトルから、ジュリアンの賓客扱いになっていることを聞かされ、
都市制御の要であるエアリアルクォーツを見せて貰った後、高級ホテルに案内される一行。
その時、ジュリアンの近衛騎士を名乗る青年スレイブが突然斬りかかってきた。
その理由は、気に食わないし力試しをしてやろうという物であった。
彼は自らの行使する知性を食らう魔剣バアルフォラスの影響で理性的に物事を考えられない状態なのだ。
最初は戸惑っていた一行だが、あろうことかティターニアを庇ってグラハとラヴィアンが死亡。
必然的に本気で迎え撃つことになった。
スレイブの戦闘力は魔剣によるところが大きいと踏んだ一行は、
知性を食らう魔剣の特殊攻撃に苦戦しつつも、魔剣をスレイブの手から引き離すことに成功。
すると驚くべき事に、スレイブが人が変わったように知性的になり、殺してくれと懇願しはじめた。
彼はシェバトを人間の街として守るために多くの人を殺してきたことに苦悩し、自殺願望に苛まれていたのだ。
魔剣に知性を食らわせていたのはその苦悩から逃れるためだった。
ジャンは一度はスレイブの願いを聞き入れとどめを刺そうとするが、己の主を死なせたくない魔剣が再びスレイブの知性を食らう。
スレイブは戦闘中に食らった知性を特大の破壊光線として発射する大技を発動。
対する一行はフィリアが百足の王の力で壁を作って街の破壊を防ぎ、自らの右腕をバアルフォラスに捧げることで力を与えた上で
バアルフォラスに自分達が勝ったらスレイブの記憶を食らってほしいと持ちかける。
一方、ティターニアは大魔術で破壊光線を相Rることに成功する。
切り札である破壊光線を阻止したということは、すなわち一行の勝利を意味しており、
バアルフォラスはフィリアの提案に乗ることを決意。
ジャンがスレイブに拳を叩きこむと同時に、バアルフォラスはスレイブの記憶を食らうのであった。
バアルフォラスは記憶を食らう事に成功。
スレイブは苦悩から解放された様子で、一緒に世界のために戦おうと告げるのであった。

67 :
いったん一行は用意されていた高級宿へ、スレイブは他の宿へ向かう。
戦いの消耗がおおかた回復した頃、一行の部屋にジュリアンが現れ、水と大地の指環が返還された。
それに留まらず、灼熱都市にて奪われた炎の指環がフィリアに渡されたのであった。
そしてウェントゥスに対抗するために作戦を話し合っている時であった。
突然ケツァクウァトルが侵入者を察知し、スレイブの逗留する宿に何者かが侵入したと告げる。
スレイブの身を案じその宿に駆けつける一行だったが、すでにスレイブの姿は無く、バアルフォラスだけが残されていた。
ウェントゥスと手を組んでいるという黒曜のメアリが現れ、彼女は光の指環の力を行使してスレイブを圧倒し
スレイブの記憶の空白部分に偽りの記憶を植え込んで洗脳するべく連れ去ったという。
メアリはスレイブに、都市制御の中枢であるエアリアル・クォーツを破壊させるつもりだろうとのこと。
エアリアル・クォーツのある風の塔に急ぐと、洗脳済みのスレイブが現れた。
彼はウェントゥスから風の指環を借り受けており、間接的に風竜戦も兼ねることとなった。
激しい戦いの中でフィリアは、炎の指環から認められその力を引き出すことに成功。
バアルフォラスはフィリアに、偽りの記憶を食らうために自らの刀身をスレイブに届かせてほしいと頼む。
スレイブはエアリアルクォーツを破壊すべく風の指環の力で雷の大規模破壊魔法を放つがティターニアが大地の指環の力でそれを阻み、
一方フィリアはジャンのアシストを受けバアルフォラスをスレイブのもとに届かせることに成功。
元の記憶と共に今までに食らっていた知性を全てスレイブに返したことで、バアルフォラスは意思持たぬ剣に戻るのであった。
正気を取り戻したスレイブは自分を仲間に加えて欲しいと一行に懇願し、一行はそれを快諾。
そこに小さくなったウェントゥスの幻影が現れ、自らの本体が虚無に呑まれてしまったこと
自分はその直前に一部を切り離した存在であることを告げる。
それまでは完全に虚無に呑まれていたわけではなく利用するつもりで黒曜のメアリと手を組んでいたウェントゥスであったが、
メアリに出し抜かれた形になったのであった。
しかし虚無に呑まれたウェントゥスはいったんシェバトの上空を離れ、それに伴い眷属の翼竜達も姿を消し
当面のシェバトの危機は回避された。
スレイブを仲間を加える事で結果的に風の指環を手に入れたことになった一行は、次の目的地を話し合い始める。
ジュリアンは、ハイランドの主府ソルタレク行きを提案。
そこは今やエーテル教団に支配されており、収穫がある可能性は高いが危険性も高く、
光の指環を持つメアリとの対決になる可能性も高い。
加えて転移魔法や飛空艇で向かうと察知されそうなこともあり、先に闇の指環を手に入れることを提案するティターニア。
ジャンは、ダーマ中の街道が集まるという街キアスムスでの情報収集を提案した後、
その近くに故郷があり両親を安心させてやりたいとの本心を明かす。
ティターニアもそれに賛同し、ジュリアンも最終的には同意。次の目的地は決まったのであった。
こうして一同は飛空艇に乗り、キアスムスへと向かう。

68 :
ついに第6話開始したな!

>フィリア殿
了解! ただフィリア殿は炎の指環使いになってるのでここぞという時は出演よろしく頼む!
もうフィリア殿が指環持ってるということでもし新規さんが来たら次の指環は優先的にそちらに回すようになるかも。
逆に誰も来なかったら次の指環も新キャラで使ってもらうようになるかも。

69 :
ダイジェスト乙と言わざるを得ない

70 :
>「光の指環を持つメアリと対決するなら闇の指環を先に手に入れた方が有利になるであろう。
  移動においても闇の力で奴らの目から逃れることも出来そうだ。
  ……とはいえどこにあるかが分かっていれば苦労はしないわけだが」

指針の決定を求めるスレイブの言葉に、ティターニアは敢えての迂回路を提案する。
闇の指環、どこにあるとも知れぬ四竜三魔の力があれば、ソルタレクの警戒網を抜けて飛空艇を持ち込めるかもしれない。
そう、ちょうどメアリがケツァクウァトルの警戒を潜り抜けてスレイブを拉致できたように。
確かな知慧と柔軟な思考とを併せ持つティターニアならではの奇策とも言えた。

>「ウェントゥスがおかしくなりはじめたのは前任の統治者が死んでからと言っていたな?」

風竜の断片が醜態を晒したのを見て目頭を揉んでいたジュリアンが、ふと思い立ったように問う。
同様に主たる竜の末路に頭痛をこらえていた守護聖獣は、溜息混じりに答えた。

>「はい、ウィンディア様が亡くなられた頃からです。ショックなのは分かりますが竜の一角たる者が……どうかしましたか?」

「『聖女』ウィンディア……俺も王都にいた頃から噂は聞いていた」

もともとスレイブがシェバトの防衛に着任したのは、ここの統治者が何者かに暗殺されたが為だ。
民族自治区、言わば居留地に近いシェバトの統治はダーマ王府にとっても火中の栗を拾うに等しい業務の為、
件の彼女が死んだ後に適した後任者が見つからず、人間であるスレイブが寄越された次第であった。

>「原因不明と言っていたが誰かに殺されたんじゃないか? 例えば……"指環の魔女"に」
>「指環の魔女だと!? その言葉を知っておるのか!?」

ジュリアンの零した推測に、ティターニアは俄に色めき立つ。
どうやら彼女達指環の勇者と、『指環の魔女』と呼ばれる存在には、浅からぬ因縁があるようだった。
指環の魔女。この世界の歴史の中で幾度となく現れ、虚無を蔓延らせるべく暗躍している存在。
その圧倒的な力と、黒衣を纏うという外見の特徴は――ある女と合致する。

>「黒衣の女……まさか、黒曜のメアリが現在の指環の魔女だというのか?」

「……なるほど、文字通りの"黒幕"が見えてきたな」

黒曜のメアリが本当に指環の魔女とやらなのであれば、目下倒すべき相手がはっきりとする。
個人的な報復を、そこに加えたって良い。
いずれにせよ、目指すはソルタレク。そして向かう為にやっておくべきことがある。

>「それなんだけどよ……判断するには知ってることが少ないと思わねえか?
 だから提案があるんだ。ここから西に行った辺りに確か、ダーマ中の街道が集まるでかい街がある。
 キアスムスって街なんだけどよ、ここなら色んな港町への馬車も出てるしあいつらの目をくらませやすいと思うぜ」

ジャンは一歩踏みとどまって情報収集に務めることを提案した。
けだし正論だ。このままハイランドへ向けて旅立ったところで、道中の過酷さはもとより現地で出来ることも少ない。
選択肢を増やす意味でも、準備は必要という考えには同意が出来た。
だが、歯切れの悪そうにそれを伝えるジャンの本意はそれとは別にもう一つあるようだった。

>「……いや、やっぱり本当のこと言うぜ。
 キアスムスの近くに俺の故郷があるんだ。一度帰って父ちゃんたちに旅の話をしておきたい。
 あの火山に行ってから、ずっと手紙を出してなかったからよ……安心させてやりたいんだ」

「否定する理由が見つからないな。せっかく長旅でダーマまで来たんだ、それくらいの寄り道は歓迎すべきだろう」

目も開かないうちに両親に売られて魔族の練兵所で育ったスレイブにとって、故郷との繋がりは憧憬の対象でもある。
ジャンの想いの丈を正確に推し量ることなど出来ない。しかし、それを叶えることには協力したいと思った。

「俺もキアスムスへ行くのは久しぶりだからな、旧知の一つも訪ねておこう」

71 :
一方で、妙な胸騒ぎをスレイブは憶えていた。
ジャンのしおらしい態度が気になる。まるで、死地に赴く兵士が未練を断とうとしているかのようにさえ見えた。
彼なりの覚悟の仕方とでも言うのだろうか。

>「何、闇雲に動くより良い。急がば回れ――というやつだ。闇の指環だがこの大陸にある可能性は高いのではあるまいか。
  地名に残っていないのではなく、範囲が四竜に比べてあまりに大きいのだとしたら?
  ……この大陸の名前は"暗黒大陸"であろう?」
>「……楽しみ、ですの!とっても!ダーマの都も、ジャン様の故郷も!」

ティターニアとフィリアにも異論はないようだった。
ここは暗黒大陸、『闇』の魔竜が眠る歴史がこの地をそう呼ばせているのならば、指環もおそらくここにある。

「決まりだな、キアスムスへ行こう。穏やかな旅路になると良い」

一行の指針は、ダーマ魔法王国随一の交易都市、キアスムスへと決まった。

――――――・・・・・・

72 :
「飛空艇リンドブルム……ユグドラシアの技術力には驚かされるばかりだな」

シェバト解放の翌々日、思い思いの準備を整えて、指環の勇者一行の乗せた飛空艇はキアスムス近郊へと着陸した。
スレイブは未だふわふわしている足元を確かめるようにしながら、地面への再開を静かに祝した。

「ダーマにも飛空艇はあるが、乗り心地はこんなものではなかったぞ。胃の中を空にしていなければ乗れなかったからな」

ダーマ魔法王国の保有する飛空艇は、魔族の頑健な肉体強度を基準とした快適性の空飛ぶ棺桶だ。
乗り心地や居住性の大部分を犠牲にして、それでも王都の上空を少しの間飛び回る程度の航行能力でしかない。
飛竜などと戦う為の防空艇にしか乗ったことのないスレイブにとって、リンドブルムの快適さはベッドの上にも思えた。

「キアスムス。三年ぶりくらいか……少し待っていてくれ、入門管理官と話をつけてくる」

ダーマの近衛騎士、すなわち王宮護衛官であるスレイブには、高官特権として麾下の街への自由な通行許可が与えられている。
これはもちろんジュリアンも持っている権利だが、彼は渋い顔で飛空艇の中に引き篭もっている。
パイセンの為にパシリをするのは舎弟の仕事とでも言わんばかりのその態度に、スレイブは苦笑した。

「ダーマは確かに人間を迫害しているが、こうした大都市では中央の権威の方が有効に働くものだ。
 例え俺達がヒトの集団であっても、正式な許可が降りている以上表立って排除されることはないだろう」

――あくまで表立って、であるが。
キアスムスで長く腰を落ち着けるつもりがあるわけでもないのなら、そのあたりは無視出来なくもない。
ほどなくして、スレイブは人数分の通行許可証を持って帰ってきた。

「さあ、キアスムスの門をくぐろう。シェバトは良い街だったが、ここの絢爛さには目を見張るものがあるぞ。
 なにせダーマ有数の交易都市、国内のあらゆる街道とそこを通ってくる富の集中する場所だ。
 商人の聖地とも呼ばれるこの街なら、指環に関する手がかりもなにか見つかるかもしれない」

調子よく言葉を並べるスレイブは、ふと顔に影を落として声を潜めた。

「街の中に入る前に、いくつか約束してくれ。食事を取る時は厨房の見えない店を使わないこと。
 できれば対面式の露店が望ましい……理由は大体想像できるだろう?」

かつてキアスムスに逗留していた頃、スレイブは食事に虫や汚物を混ぜられたことがある。
激昂して問い質した相手の給仕は薄ら笑いを浮かべて言った。相応しい味付けを施してやったまでだと

「それから敷居のある店舗の中にも入るべきじゃない。常に逃げ道は確保しておくんだ。
 どうしてもそういった店や食事場を利用する必要があるなら、幻影術か大型の外套を纏ったほうが良い」

結局のところ、ダーマに住む魔族たちにとって、人間は往来を彷徨く野良犬のようなものだ。
同じ場所で食事を取ることをひどく嫌うし、場合によっては言葉すら交わしてもらえない。
無視や罵倒はまだ良い方で、公然と石を投げてくる者さえいる。

「最後に――裏通りには絶対に近付くな。見たくもないものを見せられる羽目になる」


【キアスムス到着。通行許可証をもらい、諸注意の説明】

73 :
名前:スレイブ・ディクショナル
年齢:19
性別:男
身長:182
体重:75
スリーサイズ:鍛え込まれている
種族:純人種
職業:ダーマ王宮護衛官(第一近衛騎士)
性格:生真面目かつ不器用

能力:対空機動剣術「砕鱗」

武器:名剣『アスモルファス』
   魔族の刀工がその生涯で唯一人間の為に打った一振りの長剣。
   厳選された最上質の玉鋼を使い、最高位の名工が三年かけて鍛え、研ぎ澄まされている。
   特筆すべき能力は特にないが、折れず、曲がらず、よく斬れるおそらく地上最強の『名剣』。

   魔剣『バアルフォラス』
   かつてダーマの一地域を支配していた魔神の背骨から削り出された魔剣。
   対象の知性を喰らい、剣の魔力へと還元する能力を持つ。
   シェバト解放戦の際に刀身の半ばから折れた後、研ぎ直して短剣として拵えられた。

防具:ダーマ王府制式魔導鎧『屠竜三式』
   近衛騎士が上空を舞う飛竜や巨大な魔神を相手にする為に造られた魔導鎧。
   脚部に施された跳躍術式により、地上から跳躍で敵の急所を直接狙うことを可能とする。
   積層ミスリル装甲により高い防御力に見合わぬ軽量さを持つ。

所持品:風の指環
    力の大部分を奪われたウェントゥスの置き土産。
    他の指環のように所有者に力を与えることはない上に、中に幻体のウェントゥスが入っていてうるさい。
    残り滓のような魔力で時々風魔法を撃つこともある。

容姿の特徴・風貌:派手な色の落ち着いた髪型

簡単なキャラ解説:
通称『魔神殺し』
魔族至上主義のダーマにおいて非常に数少ない純人の王宮護衛官。
生まれて間もない頃に人買いによって魔族の練兵所へ売られ、そこで育つ過程で剣術と軍用魔法を習得。
使い捨ての尖兵として国内の様々な戦場を転々とし、その全てで生き残ったことで類稀な戦闘能力を得る。
魔神を単独で討伐した実績が魔王の目に留まり、5年ほど前に王宮に召し上げられて護衛官となった。
ヒトでありながら魔族に与してヒトをRことに苦悩し、自ら命を絶たんばかりに追い詰められていたところ、
帝国から亡命してきたジュリアン・クロウリーによって啓蒙され、彼に心酔し部下となる。
昨日の夕飯は揚げた獣肉を白麦パンで挟んだもの。

74 :
【五章おつかれさまでした。このメンバーで新しい話を迎えられてうれしいぜ。
 今後ともよろしくおねがいします】

75 :
>「ダーマは確かに人間を迫害しているが、こうした大都市では中央の権威の方が有効に働くものだ。
 例え俺達がヒトの集団であっても、正式な許可が降りている以上表立って排除されることはないだろう」

「人間というより、魔族以外のヒトをまとめて迫害していると言うのが正しいだろうよ。
 見た目がオークってだけで魔族の連中読み書きもできないと決めつけてくるからな」

ダーマ魔法王国を支配しているのは魔族と呼ばれる種族だが、
維持しているのはその支配下にある百を超える様々な種族だ。

当然他種族をないがしろにするようなことはそうそうできないはずなのだが、
他大陸で人間が築き上げた国家に対して魔族の高いプライドが刺激され、危機感の表れか近年ではますます
魔族以外の種族に対する風当たりは強くなってきている、というのがダーマが抱える問題の一つだ。

>「さあ、キアスムスの門をくぐろう。シェバトは良い街だったが、ここの絢爛さには目を見張るものがあるぞ。
 なにせダーマ有数の交易都市、国内のあらゆる街道とそこを通ってくる富の集中する場所だ。
 商人の聖地とも呼ばれるこの街なら、指環に関する手がかりもなにか見つかるかもしれない」

「うめえもんも大量にあるぞ!竜もどきの串焼きとか飛び目玉の丸ごと煮とか
 ありゃ一度食っとくべきだぜ!」

スレイブが調子よく話したところに、ジャンも続けて話す。
するとスレイブが声を低くし、ダーマの街がどういうものか、という心得を話す。

>「街の中に入る前に、いくつか約束してくれ。食事を取る時は厨房の見えない店を使わないこと。
 できれば対面式の露店が望ましい……理由は大体想像できるだろう?」

>「それから敷居のある店舗の中にも入るべきじゃない。常に逃げ道は確保しておくんだ。
 どうしてもそういった店や食事場を利用する必要があるなら、幻影術か大型の外套を纏ったほうが良い」

>「最後に――裏通りには絶対に近付くな。見たくもないものを見せられる羽目になる」

76 :
「……スレイブの言う通りだ。もっと言うなら魔族がやってる店には近寄らない方がいい。
 魔族以外の種族がやってる店が集まるラーサ通りってのがある。飯とか宿はそこを勧めるぜ」

キアスムスは交易の中心地であるため、今でこそ国の管理下にあり、魔族が統治しているが
他種族の方が割合で言えば多く、そういった者たちが集まり、一種のギルドのようなものを作り上げている。

ジャンとしては魔族のいないこのパーティーなら情報も集めやすく、
また売り買いもやりやすいだろうと考えていた。

「後は……フィリアとティターニア、それとラテだな。
 お前ら全員マントかフードで顔と体隠しとかねえと奴隷商に捕まっちまうからな」

三人ともそれなりに美人、というのが大きな問題だ。
魔族でない、しかも別大陸からの旅人となれば
奴隷商はまず狙いを付けるだろう。

「ラテは……飛空艇に残しとくしかねえか。
 街中で襲われたらはっきり言って守り切れねえ。パック、頼んだぜ」

未だ記憶と心が戻らず、幼児当然となっているラテは自衛がまったくできない。
だとすると、いざという時に逃げやすい飛空艇に残し、何かあれば即座に飛んで逃げてもらうというのが一番だろう。

「それじゃ行こうぜ。入る前に散々脅しちまったが、いけ好かない魔族共に会わなきゃいい街だ。
 俺たちとはぐれず、しっかりついてきてくれよ」

そして五人は何事もなく門を抜け、キアスムスへと入った。
真っ先に目につくのは、種族の多さ、そして他大陸とは違う建物の作りだ。

空を飛んだり浮遊できる種族に合わせてか、二階が店になっている建物もあれば
全身を包んだ外套から触手がちょろりと覗く種族が列を成して並んでいる怪しげな店もある。

ジャンよりもはるかに大きなサイクロプスが荷物を背負って歩き、中央の広場でそれを広げて声を張り上げ、商売を始める。
魔族の衛兵が許可証の提示を求めているが、サイクロプスの共通語なまりが酷く意思疎通には時間がかかりそうだ。

「……ここはいつ来ても変わんねえな。ごちゃ混ぜのいい街だ」

それらの街並みを眺めながら、ジャンたちは歩いていく。

「そろそろラーサ通りだ。魔族の連中はまずここに来ねえから、安心してうろつけるぜ」

77 :
名前:ジャン・ジャック・ジャンソン
年齢:27歳
性別:男
身長:198
体重:101
スリーサイズ:不明
種族:ハーフオーク
職業:冒険者
性格:陽気、もしくは陰気
能力:直感・悪食
武器:『ミスリル・ハンマー』 
   旅の途中で出会ったドワーフ、マジャーリンが持っていたもの。
   ジャンの腕力でも壊れることなく、丈夫で乱暴に扱っても傷一つつかない。
   スレイブとの戦いでは背中に背負ったままだったが、水の魔力を間近に浴び続けた結果
   指環の力を注ぎ込むことができるようになった。
   だがジャンが魔力を上手く扱えないため、現状ではどこでも水が飲めるぐらいしかできない。
 
   聖短剣『サクラメント』
   教会と帝国からの刺客、アルダガが持っていたもの。
   いかなる守りも貫き通す加護を持ち、ジャンの切り札の一つ。
   飛空艇に乗っている間投げる練習をしていたところ、窓を貫通して危うく外に飛び出てしまいそうになったことがある。

防具:『鋼の胸当て』
    スレイブとの戦いで雷を浴び、前の防具が壊れてしまったので
    シェバトの鍛冶屋に頼み、作ってもらった。
    何の効果もなく、一般的な防具だが質は良い。

所持品:旅道具一式 アクアの指環
容姿の特徴・風貌:薄緑の肌にごつい顔をしていて、口からは牙が小さく覗いている
         笑うと顔が歪み、かなりの不細工に見えてしまう
簡単なキャラ解説:
暗黒大陸の小さな村で生まれ、その村に立ち寄った魔族の冒険者の
生き方に憧れ冒険者を目指し大陸を飛び出た。
現在はティターニアの護衛として、そして指環の勇者としてラテを元に戻し、
指環を集めるために旅を続けている。


【五章お疲れ様でした!六章でもよろしくお願いします!】

78 :
その夜、ティターニアは布団の中で悶々と考えごとをしていた。
ジュリアンが言っていた指環の魔女に関する情報、それが、ジュリアンは何故かつての友を殺害したのかという謎と結びつき
一つの仮説が組み上がったのだ。
苦悩するスレイブにバアルフォラスを与えずっと見守ってきた彼の事。
そもそも殺しておらず、故あって罪を被ったのだとしたら――?

『名を変え姿を変え様々な時代に現れ、ある性質を持つ者を殺害する――その性質とは後に世界を平和に導く可能性がある者だ』

以前アルバートが言っていた、ジュリアンが殺害したという友セシリア――
それはかつて、遠くハイランドにまで噂を轟かせていた大神官と同じ名だ。
最初にその名を聞いた時はすぐには結び付かなかったが、黒騎士や白魔卿と親友だったのなら
ただの修道女ではなく彼らと肩を並べるレベルの人物だったとしても何の不思議もあるまい。
いわく、気高き献身の精神と絶大なる法力を併せ持ち、瀕死の重傷すらも瞬く間に癒す神の寵児だったという。
それは"後に世界を平和に導く可能性がある者"という条件に当てはまるだろう。

『それだけでは無く奴は虚無をまき散らす。奴に大切な者を奪われた者は虚無に呑まれることがある。
厄介なことに純粋で高潔な者ほどそうなる可能性は高い……』

そして、どう考えてもアルバートは虚無に呑まれやすいタイプに違いない。
ティターニアは行きついた仮説はこうだ。
指環の魔女がセシリアを殺害、ジュリアンはその現場を目撃したがどうすることも出来なかった。
そこに少しだけ遅れてアルバートが現れる。
セシリアが指環の魔女に殺されたとアルバートが知れば、必ず虚無に堕ちてしまう。
そう思ったジュリアンは、とっさに自分が殺したように偽装し、アルバートに自分への憎しみを糧に生きて欲しいと願った――
そして帝国にいられなくなってダーマに渡り、仇たる指環の魔女を倒すために指環を集めているのだとしたら。

――もちろんこれはティターニアの憶測に過ぎないし、本人に聞いたところで真相を語るはずはない。
なので、そっと胸の中にしまっておくことにしたのであった。

79 :
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*

80 :
次の日、キアスムスに向かって出発し、あっという間に到着した。

>「何故俺がお前達の為に使い走りをすると思ったんだ?」
>「あっ、ですよね……」

>「キアスムス。三年ぶりくらいか……少し待っていてくれ、入門管理官と話をつけてくる」

相変わらずつれない態度の上司の代わりに、よく動く部下。何だかんだでいいコンビなのかもしれない。
しばらくするとスレイブは、人数分の通行証を持って戻ってきた。

>「ダーマは確かに人間を迫害しているが、こうした大都市では中央の権威の方が有効に働くものだ。
 例え俺達がヒトの集団であっても、正式な許可が降りている以上表立って排除されることはないだろう」
>「人間というより、魔族以外のヒトをまとめて迫害していると言うのが正しいだろうよ。
 見た目がオークってだけで魔族の連中読み書きもできないと決めつけてくるからな」

実はこのパーティーは人間では無い種族の方が多いのだが、ダーマの実態は、人間蔑視というよりも魔族以外全部蔑視に近いようだった。
暗黒大陸に多く見られるダークエルフならまだいくらかマシな扱いなのかもしれないが、
ダークではない方のエルフは人間と似たようなものだろう。

>「さあ、キアスムスの門をくぐろう。シェバトは良い街だったが、ここの絢爛さには目を見張るものがあるぞ。
 なにせダーマ有数の交易都市、国内のあらゆる街道とそこを通ってくる富の集中する場所だ。
 商人の聖地とも呼ばれるこの街なら、指環に関する手がかりもなにか見つかるかもしれない」

>「うめえもんも大量にあるぞ!竜もどきの串焼きとか飛び目玉の丸ごと煮とか
 ありゃ一度食っとくべきだぜ!」

「他の大陸では滅多にお目にかかれない珍味がたくさんあるようだな……」

食べたく無いような、怖い物見たさで食べてみたいような、ジレンマに苛まれるティターニア。
そんな場の空気を、スレイブがこの国を歩く心得を伝授することで引き締める。

>「街の中に入る前に、いくつか約束してくれ。食事を取る時は厨房の見えない店を使わないこと。
 できれば対面式の露店が望ましい……理由は大体想像できるだろう?」
>「それから敷居のある店舗の中にも入るべきじゃない。常に逃げ道は確保しておくんだ。
 どうしてもそういった店や食事場を利用する必要があるなら、幻影術か大型の外套を纏ったほうが良い」
>「最後に――裏通りには絶対に近付くな。見たくもないものを見せられる羽目になる」

「承知した」

特に最後の一項目は通常想像されるような裏通りで起こりそうなこと以上の何かがありそうな雰囲気を醸し出していて
少し気になったが、敢えて踏み込まなかった。

81 :
>「……スレイブの言う通りだ。もっと言うなら魔族がやってる店には近寄らない方がいい。
 魔族以外の種族がやってる店が集まるラーサ通りってのがある。飯とか宿はそこを勧めるぜ」

これだけでも物騒だが、ジャンが更に物騒なことを言い始めた。

>「後は……フィリアとティターニア、それとラテだな。
 お前ら全員マントかフードで顔と体隠しとかねえと奴隷商に捕まっちまうからな」

「しかしマントフードがぞろぞろいても逆に怪しまれそうだな――これでどうだ、ディスガイズ」

幻影によって姿を偽装する魔法を自分とフィリアにかけるティターニア。
ティターニアは肌の色を濃い褐色に装い、ダーマでは珍しくも無いダークエルフに、
フィリアはベースを活かしつつも少しモンスター風に、言わば虫の妖魔といった風体に偽装。
これならば一見現地人に見えて、大して目立つことはないだろう。
全く違う姿の幻影を維持するのが大変だが、少しアレンジを加える程度なら長時間維持するのも容易い。
だったら全員魔族に偽装すればいいじゃないかと思われそうだが、魔族は支配層ではあるがこの街では数は少数であり、
魔族の姿では街の大部分を占める他の種族からの情報収集に支障が出てしまう。

>「ラテは……飛空艇に残しとくしかねえか。
 街中で襲われたらはっきり言って守り切れねえ。パック、頼んだぜ」

「おう、任せろ!」

と請け負うパック。
小柄なラテとホビットのパックが並んでいるのを見ると微笑ましい感じがしてしてしまうが、見た目は子どもでも有能な助手である。
彼に任せておけば大丈夫であろう。

>「それじゃ行こうぜ。入る前に散々脅しちまったが、いけ好かない魔族共に会わなきゃいい街だ。
 俺たちとはぐれず、しっかりついてきてくれよ」

「我々にとっては暗黒大陸は未知の世界だ――頼りにしておるぞ」

帝国領を一人で闊歩していた怖い物知らずのティターニアにとっても、暗黒大陸は未知の世界。
出身者のジャンやスレイブのアドバイスには従っておくのがいいだろう。
こうして「はじめてのダーマの歩き方講座」も終わり、いよいよキアスムスに足を踏み入れる。
出発前にフィリアがキアスムスは首都なのか?と聞いていたが、正解ではないが間違ってもいないというところ。
帝都に全ての権力を集中させる帝国とは対照的に、ダーマは領土が広がっていくのに合わせて副首都を定め、首都機能を移転分散させてきた。
ダーマ有数の交易都市であるここキアスムスも、副首都の一つに指定されており、いくつかの王立の機関が置かれている。

>「……ここはいつ来ても変わんねえな。ごちゃ混ぜのいい街だ」

「そうだな……ごちゃ混ぜ感がどこかアスガルドに似ておる」

違うところはアスガルドはまだどこか統一感がある小奇麗なごちゃまぜ、こちらは本当にごちゃ混ぜといったところか。
緊張の面持ちで街に入ったティターニアであったが、いざ入ってみると、意外と嫌いでは無い雰囲気であった。

「この街には王立図書館の本館も置かれているがどこか似ているのはそのせいかもしれないな。
置かれている、といってもダーマが実際に作ったわけではなく
この地がダーマの傘下に入るずっと前からあった図書館を、王立図書館として指定したらしいが」

と、ジュリアンがさりげなくこの街の豆知識を教えてくれた。

82 :
「それって地下無限ダンジョンの噂があったりはせぬか?」

ジュリアンがちょっと何を言っているのか分からない、という顔をしているのを見て、慌てて質問を変える。

「……いや、何でもない。王立図書館があるのは宮廷がある首都ではなかったのか?」

「宮廷地下にも確かに大書庫があるがここにはおよばないだろう」

そうしている間に、ジャンお勧めの地区に差しかかる。

>「そろそろラーサ通りだ。魔族の連中はまずここに来ねえから、安心してうろつけるぜ」

「とりあえず食事を兼ねて情報収集といこうか」

まずは情報収集の基本、ということで手近な冒険者の店を見つくろう。
「飛び出す目玉亭」という一度聞いたら忘れそうにない名前の店を発見。
外に面した対面式の席と中の席があり、魔族のいない区域なのでまず大丈夫だとは思うが念のために様子見で外の席に座る。
一つ目のサイクロプスが店を取り仕切っており、案の定と言うべきか"飛び目玉の丸ごと煮"を看板メニューとして推してあった。
美味しすぎて目玉が飛び出すのか他の意味で飛び出すのか色々と気になるところだ。
もし食べれないような代物が来たらジャンに食べてもらうということで、看板メニューを含んだ何品かを適当に注文する。
待っている間に、隣の二人組の会話が耳に入ってきた。それが少し気になる内容であり、意識を向ける。

「ねえ知ってる? 最近この近くのなんとかっていう村で凶暴化した魔物がよく出るんですって」「きゃーこわーい」

魔物の凶暴化は、炎の指環や大地の指環の時に、古代都市の周辺地域で見られた現象だ。
指環の魔力の影響を受けたモンスターが強化されてしまう現象と思われる。

「まあこんな大きな街の中までは入って来ないだろうけどね〜」

隣の二人組の一人がそう言った矢先だった、俄かに通りが騒がしくなる。

「キャー来ないで!」「そっちに行ったぞ!」「追えー!」「何をしている早く捕まえろ!」
「任せろ――ぎゃあ!」「ああっ、トムが蹴っ飛ばされた!」

後ろを振り返ってみると、大捕り物が繰り広げられていた。巨大な鳥型モンスターがどうしてか街の中に入り込んで走り回っているようだ。

「……思いっきり入ってきておるな」

そのモンスターはアックスビークといって「斧型のくちばし」という意味で、イメージとしては大きなくちばしを持つダチョウといったところ。
飼い慣らした物は騎乗獣としても使われている。足の速いそれに翻弄され、衛兵達が右往左往していた。
衛兵をこれだけ振り回すとなれば、凶暴化しているのかもしれない。
暫し呆然と見ていると、アックスビークがあろうことかこの店の方向に向かって突進してきた。

「勘弁してくれ! この店を始めるのに何年かかったと思ってるんだ……!」

店主の悲痛な叫びが響き渡る。サイクロプスは屈強な種族ではあるが、全員が全員荒事が得意というのは偏見であるらしい。
エルフだって全員が知性派の魔術師というわけではないのと同じである。

83 :
名前: ティターニア・グリム・ドリームフォレスト(普段は名字は非公開)
年齢: 少なくとも三ケタ突入
性別: 女
身長: 170
体重: 52
スリーサイズ: 全体的に細い
種族: エルフ
職業: 考古学者/魔術師
性格: 変人でオタクだがなんだかんだで穏健派で情に流されやすい一面も
能力: 元素魔術(魔術師が使う魔術。魔術(狭義)といったらこれのこと)
武器: 聖杖”エーテルセプター” 魔術書(角で殴ると痛い) エーテルメリケンサック
防具: インテリメガネ 魔術師のローブ 魔術書(盾替わりにもなる)
所持品: ペンと紙 大地の指環
容姿の特徴・風貌: メガネエルフ。長い金髪とエメラルドグリーンの瞳。
もしかしたら黙っていれば美人かもしれない。
簡単なキャラ解説:
ハイランド連邦共和国の名門魔術学園「ユグドラシア」所属の導師で、実はエルフの長の娘。
研究旅行と称して放浪していたところ偶然にも古代の遺跡の発見の現場に立ち会い
紆余曲折を経て、仲間を増やしながら竜の指環を集め指環の魔女を打倒するべく旅をしている。

聖杖『エーテルセプター』
エルフが成人(100歳)のときに贈られる、神樹ユグドラシルの枝で出来た杖。
各々の魔力の形質に合わせて作られており、魔術の強化の他
使用者の魔力を注ぎ込んで魔力の武器を形作る事もできる。

『魔術書』
本来の用途以外に護身用武器防具としての仕様も想定して作られており、紙には強化の付与魔術がかけられている。
持ち運びのために厚さ重さが可変になっており、最大にすると立方体の鈍器と化す。
最初に持っていたものはアルダガ戦にて大破したため、現在のものは最新版である。

『エーテルメリケンサック』
使用者の魔力で装甲を作り出したり魔力を打撃力に変換することができるメリケンサック。
第4話にて撃破したノーキンから引き継いだ。

『大地の指環』
「ドラゴンズリング」のうちの一つで、大地の竜テッラの意思が宿る。
竜の装甲をまとったり、強力な地属性(植物属性含む)の魔法を使うことが出来る。

『インテリメガネ』
単なる近眼ではなく精神世界を見る方に寄っている視力を物質世界寄りに矯正するためのものらしい。
本人が吹っ飛ばされるような激しい戦闘でも割れたり歪んだり吹っ飛んだりしない。地味に凄い。

『魔術師のローブ』
ユグドラシアの魔術師の間では一般的なものだが、魔力による強化がされているため並みの鎧以上の防御力がある。

【ジュリアン親友殺害事件の件は本編内でも書いたが確定ではなく飽くまでも一つの説ということで!
無限地下ダンジョンの噂がある図書館、凶暴な魔物の出現と提示してみたが
今のところ数撃ちゃ当たる方式で何かが引っかかれば儲けもの、という程度だ。
鳥を突っ込ませたのはフィリア殿はもしキャラを変えるなら新キャラの登場タイミングにいいかな、と思ったのと
(もちろんフィリア殿のままで続けてもOK!)
今の仕様になったスレイブ殿の自己紹介戦闘にもなるかな、と思って】

84 :
test

85 :
……飛空艇の傍で暫く待っていると、入門管理官との話をつけたスレイブ様が戻ってきましたの。
通行許可証を受け取ると、スレイブ様はキアスムスの門に向き直る。

86 :
>「さあ、キアスムスの門をくぐろう。シェバトは良い街だったが、ここの絢爛さには目を見張るものがあるぞ。
 なにせダーマ有数の交易都市、国内のあらゆる街道とそこを通ってくる富の集中する場所だ。
 商人の聖地とも呼ばれるこの街なら、指環に関する手がかりもなにか見つかるかもしれない」

>「うめえもんも大量にあるぞ!竜もどきの串焼きとか飛び目玉の丸ごと煮とか
 ありゃ一度食っとくべきだぜ!」
>「他の大陸では滅多にお目にかかれない珍味がたくさんあるようだな……」

「め、目玉はちょっと怖いけど竜もどきは食べてみたいですの!
 ……イグニス様、竜のお肉ってやっぱり美味しいんですの?」

『さぁね。妾達は共食いをした事がないし、知らないよ。
 ただ……竜の血肉に不老不死でも神の如き魔力でもなく、
 味を求めた食いしん坊な王様は君が初めてだな』

「うぐっ……」

……と、わたくしが痛いところを突かれてるといつの間にか、
前を歩いていたスレイブ様が立ち止まってこちらへ振り返っていましたの。
スレイブ様は真剣な眼差しでわたくし達を見つめて、口を開く。

>「街の中に入る前に、いくつか約束してくれ。食事を取る時は厨房の見えない店を使わないこと。
 できれば対面式の露店が望ましい……理由は大体想像できるだろう?」
>「それから敷居のある店舗の中にも入るべきじゃない。常に逃げ道は確保しておくんだ。
 どうしてもそういった店や食事場を利用する必要があるなら、幻影術か大型の外套を纏ったほうが良い」
>「最後に――裏通りには絶対に近付くな。見たくもないものを見せられる羽目になる」

「……ダーマでは、それが普通な事なんですの?」

>「……スレイブの言う通りだ。もっと言うなら魔族がやってる店には近寄らない方がいい。
  魔族以外の種族がやってる店が集まるラーサ通りってのがある。飯とか宿はそこを勧めるぜ」

スレイブ様の言葉を、わたくしは俄かには信じられずにいましたの。
だって、魔族じゃないヒト達だって、ダーマの一部なはずですの。
そりゃ、わたくし達は旅人だけど……スレイブ様は、そうじゃなかったはずですの。
わたくしおばかさんだけど、それでも、わたくしの頭の方が偉いからって、自分の手に噛み付いたりしませんの。
……その、ダーマの仕組みがおかしいと思うのは、わたくしが虫の妖精だから、ですの?

>「後は……フィリアとティターニア、それとラテだな。
 お前ら全員マントかフードで顔と体隠しとかねえと奴隷商に捕まっちまうからな」
>「しかしマントフードがぞろぞろいても逆に怪しまれそうだな――これでどうだ、ディスガイズ」

「わっぷ……」

ティターニア様の杖から魔力の煙が降りかかり……あっ!なんか姿が変わってますの!
おぉー、なんか魔物っぽい感じ……ついでに女王蜂の羽を生やして、右手もムカデの王に変化させときますの。
じゃーん、これで誰がどう見たってわるーい虫さんですの!

>「それじゃ行こうぜ。入る前に散々脅しちまったが、いけ好かない魔族共に会わなきゃいい街だ。
 俺たちとはぐれず、しっかりついてきてくれよ」
>「我々にとっては暗黒大陸は未知の世界だ――頼りにしておるぞ」

「ですのですの。……だけど、ねえスレイブ様?」

門を潜ろうとしたスレイブ様を呼び止める。

87 :
門を潜ろうとしたスレイブ様を呼び止める。

「さっきの約束、守りますの。だけどもっと前にした約束も、ちゃーんと守りますの。
 あなたが人間だからって意地悪されそうになったなら……その時は、わたくし怒りますの」

例えスレイブ様が怒らなくてもいいなんて言っても、それは変わりませんの。

88 :
……さて!先に言っておきたい事も言ったし今度こそいざキアスムスへ、ですの!
そして門を潜ると……目の前に広がっていたのは、今まで見た事もない街並みでしたの。
どの建物も縦にも横にもおっきくて、それにすっごく開放的ですの。
扉のある建物が少なくて、それどころか壁も少なかったり……床と柱と天井だけで建ってる建物もありますの!
多分、魔族の方々には羽や翼を持ってたり、体がおっきな種族がいるからですの。

……そしてそんな街並みの中に、点々と、ちゃんと壁と扉のあるお店がありますの。
街を歩いていると、魔族達は見定めるような視線をわたくし達に注いできますの。
きっとこの通りのどこで食事をしても、この視線は付いて回る。
それで視線に耐えかねて、人目に付かないお店を選べば……。
まるで食虫植物……この街は華やかだけど、やっぱり少し怖いですの。

>「そろそろラーサ通りだ。魔族の連中はまずここに来ねえから、安心してうろつけるぜ」

ふぅ、やっとこの嫌な視線から逃れられますの。
……なんて事を考えていたら不意に、わたくしの目の前に何かが落ちてきましたの。
地面に落ちて、鋭い音を立てて砕け散ったそれは……グラスですの。
上を見上げる。高級そうな酒場の三階、その窓から二体の魔族がわたくし達を見下ろしている。
……通りを抜けるまで、気が抜けないって事はよく分かりましたの。

「おっと、これは失礼。宮仕えの騎士殿に我らから一杯、奢らせて頂こうかと思ったのだが……手が滑ってしまった」

へらへらと笑いながら、魔族達がうそぶく。
そして悪びれもなく、今度はワインのボトルを窓から落とす。
……わたくしは左手を掲げ、人差し指の先から蜘蛛の糸を飛ばす。
糸の先端をワインボトルに付着させ……反対の端は、窓から顔を覗かせる魔族の額へ飛ばす。
そうすれば糸は伸縮して……はい、ごっつんこ。ですの。

「……行きましょ、ですの。ラーサ通りまで追っかけてきたら、今度はもっと恐ろしい目に遭わせてやりますの」

……内心、大事にならないかちょっとドキドキもしてたけど、
どうやらあの魔族達は追っかけてはこなかったみたいですの。
だけど……よーく分かりましたの。このダーマがどういうところなのか。

>「とりあえず食事を兼ねて情報収集といこうか」

「ですの!沢山美味しいものを食べて、いー気分になっておきたいですの!」

89 :
 


……キアスムスの街の中心部、リアネ・レクタ広場。
平時は行商達とその客によって混み合い賑わっているこの場所から、急速に、皆が離れていく。
今からここで、一つの命が奪われるから。

90 :
いえ、本当は……それともう一つ。私が……シノノメ・アンリエッタ・トランキルがここにいるから。
王宮及び裁判所による判決と宣告の執行官……あらゆる刑罰を、死刑を執行する忌まわしき存在が、ここにいるから。

土属性魔法によって築かれた処刑台。そこに捕らえられた罪人。
彼の名はロベール・リュクセ。種族はリザードマン。
罪状は……雇用者である魔族に対する暴行。下された判決は……火炙りの刑。
……本当に、その行為は、命を奪わなければならないほどの罪なのでしょうか。
使用人であるヒトが、魔族に反抗する理由はそう多くはない。
このダーマに生きていれば魔族に歯向かって良い事など何もないと誰もが知っている。

だからそれでも反抗が起こるのは、
その者の何かを……当人や家族、種族や生そのものを愚弄された時の、衝動的なもの。
或いは……長い間虐げられて、例えば給金の未払いなどによって、そうせざるを得なかった時のもの。

……本当に暴行があったのかすら定かじゃない。
未払いの給金を要求されたから、暴力を振るわれたと言って厄介払いをした。
そういう事が、このダーマではまかり通る。

……罪人の傍に歩み寄る。
ずっと俯いていた罪人が顔を上げて……私に唾を吐きかけた。
くたばれクソ魔族、と。

「……キアスムス裁判所の名において、これより彼の者を火炙りの刑に処す」

……かざした私の右手から闇属性エーテルの鎖が伸びる。
鎖は罪人を絡め取り、空中へと持ち上げる。
舌を噛んで自死が出来ないように鎖を噛ませて、枷とする。
罪人が暴れて鎖が首を締め、刑の最中に意識を失わぬよう、首回りの状態に気を配る。

これで後は、火を放つだけ。だけど……リザードマンの鱗は、炎の熱をほんの少しだけ遮ってしまう。
命を助けるには程遠く、だが苦しみを長引かせるには十分な程度に。

……罪人の処刑に臨む時、いつも祖父と父の教えが、過去から私の脳裏へと木霊してくる。

祖父は、執行官とは規律と正義の番卒。
トランキル家は王宮から直命を拝した名誉ある一族。
例えこの世の誰もが我らを蔑み嘲ろうと、誇り高くあれと、教えてくれました。
……祖父ならば、この罪人の息の根を密かに止めて、この後の苦しみから逃してあげていたでしょう。
私にも、そうする事が出来る。
罪人に噛ませた鎖から、棘状の触手を体内に伸ばす……後は、心臓を貫くだけ。

だけど……それは本当に正しい事なのでしょうか。

父は、執行官とは罪に対する罰の体現者。
無慈悲な刑の執行が民の心を震え上がらせ、彼らを罪から遠ざけるのだと。
例えこの世の誰もが我らを忌み嫌おうと、なお残酷であれと、私に教えてくれました。
ならばこの罪人に安らぎを与えるのは、間違っている……正義に反する行いになる。

私は、どうするべきなのか……分からない。
父の助手の任を解かれ、キアスムスの執行官になってから、もう一年が経つのに……未だに答えを見つけられない。
そうして、数秒か、数十秒か、もしかしたら一分以上、私は動けずにいました。
あとどれほどじっとしていれば、答えを出す事が出来たのか。

だけど……この世界は、このちっぽけな私の、軟弱な悩みの為に、ずっと待っていてはくれません。
処刑の恐怖の中で置き去りにされていた罪人が、渾身の力で暴れ出したのです。
私はその出来事に、咄嗟の反応をしてしまいました。
トラウマ……闇属性が有する、精神の負の面を映し出す力。
罪人の、炎に対する恐怖を、現象としてこの世に映し出す魔法を発動してしまった。
刑の執行を始めてしまったのです。
罪人の体内に、心臓を貫く為の棘を残したまま。

91 :
着火によって罪人は更に大きく暴れ……それによって、体内の棘が本来の目的でない器官を傷つける。
気道と血管が破れ、彼は激しく血を噴きながら、炎に焼かれ死んでいきました。

……私が思い悩んだせいで、結局彼は本来よりもずっと大きな苦しみを抱きながら、絶命しました。
処刑台の周囲に張られた結界魔法。その外側から、観衆の声が聞こえてくる。
本来の予定よりもずっと派手になった処刑を囃す声。
私を残酷な死神として侮蔑する声が。
だけどその声に、私が心を痛める事はありません。

……誰も気付いていなくても、私だけは分かっているから。
私はただ残酷であるよりも、ずっと邪悪で、愚かな行いをしてしまったのだと。

92 :
 


あれから丸一日。私は軟弱な事にずっと部屋に塞ぎ込んでいた。
だけど……生きているからには、避けられない事がある。
……お腹が空くのです。
私はベッドから体を起こして、一階の炊事場へと向かいました。
屋敷の中は、いつも通り静寂に支配されています。
この家には私以外、誰もいない。使用人の一人も雇っていないからです。
罪人を血の噴水に仕立て上げる残酷な執行者に仕えたがる者など、誰もいないのです。

……だから当然、誰も教えてくれる訳はありません。
食料の備蓄は一昨日切れていて、刑の執行に失敗した私がそれを忘れていた事なんて。

……仕方なく、私は短く湯浴みを済ませてから街に出ました。
とは言え執行官である私に品物を売ってくれるお店なんて、この街にはない。
行商人か旅人の方に頼んで食料を調達してもらわなければなりません。
祖父や父のように、執行官としての技術を医療として街に還元出来れば、少しは事情も変わってくるのですが。
未熟な私に出来るのは精々、単純な傷病の診断と薬の処方くらい……。

だからいつも通り、ラーサ通りへ。あそこなら今日も多くの旅人が訪れているはずです。
一つ、不安が残るとすれば……私は昨日、刑の執行をしたばかり。

ラーサ通りに着いてみると、刺々しい視線が私に殺到します。
……昨日の執行の様子は、旅人達の間にも広まってしまっているようです。
不安に思っていた事が的中してしまいました。
これでは……旅の方に頼み事をするのも難しいかもしれない。

そんな事を考えながら歩いていると、不意に視界の外から何かを浴びせられました。
冷たい……けど、臭いはない。ただの水。
なら、マシな方です。残飯や糞尿を浴びせられて、そのまま街を歩くのは、とても嫌な事ですから。

「ウチの店に近づくんじゃないよ、この死神女」

……罵声も、昔ほどは気にならなくなりました。
私は死神なんかじゃなくて、もっと卑しいものだと、分かってしまいましたから。

暫く通りを歩いてみても、刺すような視線は絶えません。
……もう屋敷に戻って、あと数日、水だけで凌いでから、改めて出てきた方がいいのかもしれません。
処刑の予定は今のところ入っていませんし……。

>「キャー来ないで!」「そっちに行ったぞ!」「追えー!」「何をしている早く捕まえろ!」

なんて事を考えていたら、不意に通りが騒がしくなりました。
声の方を見遣ってみると……魔物が街に入り込んでいるようです。
あれは……アックスビーク?そんなに大人しい気性ではありませんが、特別凶暴な訳でもないはずなのに。
群れで街に入ってくるなんて……何があったのでしょう。
病か何かでおかしくなっているのか……それとも、何かに追い立てられて迷い込んでしまったのか。
何匹かは制圧出来ているようですが……完全に鎮圧するにはもう少し時間を要しそうです。

……と、一匹のアックスビークが何の気まぐれか、こちらへと進路を変えました。

>「勘弁してくれ! この店を始めるのに何年かかったと思ってるんだ……!」

背後から聞こえてきたのは、店主の声でしょうか。
……私は、どうするべきなのでしょう。

93 :
あの魔物を切り伏せるのは容易い事です。
ですがそのせいでこの店に、執行官に救われた店などという悪評が付いてしまったら。
執行官が慈悲を見せる事で、罪と罰の天秤が均衡を保てなくなったら。
曲がりなりにも魔族の私がヒトを助ける事で、彼らの魔族への屈従を弱めてしまったら。
……私がしようとしている事は、本当に正しい事なのでしょうか。

そんな事を考えている内に、アックスビークはもう私の目の前にいました。
……自分の身を守る為なら、この魔物を殺めて、結果的に店を守る事になっても仕方がない。
そう言い訳をしながら、私は右手を変化させる。

94 :
作り出すのは鎌。そして素早く脚を薙ぐ。支えを失ったアックスビークの体がよろめき、転ぶ。
これでもう、この魔物が店に突っ込む事はない。
だけどその苦痛は、息の根を止めるまで続く。
相手が魔物なら……何も考えず、その苦痛を取り除ける。

振り抜いた鎌を長剣に再変化させ……アックスビークの首元へと振り下ろす。
その体が完全に転倒するよりも速く、首を切り落とし……返す刃で更にもう一度両断。
苦痛を感じる時間を与えず、その機能を停止させる。
……昨日の処刑も、これくらい上手く出来れば良かったのに。

だけど……剣を振るうと、少しだけ気分が晴れやかになります。
昔は、執行官の家に生まれたとしても……鍛錬を積み腕を磨けば、私でも騎士の身分になれると思っていました。
後ろめたい気持ちなど何もなく、自分は清く正しいものだと言い放てるような存在に。
現実はそうではないと知ってしまったのはいつだったか……。

と、何気なく私は背後を振り返りました。
魔物の返り血が店にまで及んでないか、その程度の気持ちで。

95 :
「……ディクショナル様?」

……ですがそこにあった懐かしい顔に、私は思わず彼の名を呟いてしまいました。
父の助手として王都にいた頃、何度か目にした顔。
言葉を交わした事は殆どありません。ただ……彼からは、どこか私と似たようなものを感じていたのです。
人の身でありながら近衛騎士の名誉を掴んだというのに、己に誇りを感じられていないような、あの表情に。
他者の死に囚われた者の気配に……。
ですが今の彼からは、あの頃の雰囲気が感じられない……。

96 :
「……あ、あの、ディクショナル様。私の事を覚えていらっしゃいますか?
 ええと……王都で何度かお会いした……シノノメです。その、トランキル家の……」

騒動が収まると、私は慌ててディクショナル様に声をかけました。

「もし覚えていらっしゃるなら、どうか私の頼み事を聞いてはもらえませんか。
 難しい事ではありません。ただ食料を、私の代わりに買ってきて欲しいのです。
 お金は私が出します。それとは別に礼金も支払います。キアスムスにいる間の宿も提供します」

知りたい。一体何が彼を変えたのか。
……共にいるヒトの方々が?それともどこか遠い地での任務が?

「……トランキル家の屋敷で良ければ、ですが」



【そんな感じで改めてよろしくお願いします。6章もとても楽しみです。
 NGワードなんなの……】

97 :
ひとまずレスは全部投下出来たけど、テンプレ落とそうと思ったら規制された……
次のターンまでに解除されてるといいなぁ……


以下テンプレ

名前:シノノメ・アンリエッタ・トランキル
年齢:20歳
性別:女
身長:152cm
体重:13kg
スリーサイズ:発展途上
種族:魔族(ナイトドレッサー族)
職業:王宮及び裁判所による判決、宣告の執行者
性格:生真面目だが抑うつ的。自傷癖がある
能力:闇属性の小規模魔法
武器:身体を構成する闇属性エーテル
防具:同上。返り血の目立たない黒色のコート
所持品:薬袋
容姿の特徴・風貌:深い青色の肌。淡い銀色の、短めの髪。金色の瞳。
         表情が希薄。
簡単なキャラ解説:

お初にお目にかかります。私の名はシノノメ・アンリエッタ・トランキル。
……トランキル家の次期家長であり、今はキアスムスの、王宮及び裁判所による判決と宣告の執行官を務めております。
つまり……帝国や共和国でいうところの「死刑執行人」であり「拷問官」です。
かの国々では、執行官はどのような扱いを受けているのでしょう。
トランキル家は王宮からは多大な報酬を頂いてはいますが……食料や日用品すら、流れの商人か、旅人を介さなければ買う事も出来ません。
魔族にもヒトにも忌み嫌われる存在……帝国や共和国でも、やはり同じような境遇なのでしょうか。

……祖父は幼い頃、執行官とは規律と正義の番卒。
例えこの世の誰もが我らを蔑み嘲ろうと、誇り高くあれと、私に教えてくれました。

父は、執行官とは罪に対する罰の体現者。
例えこの世の誰もが我らを忌み嫌おうと、ただ厳粛に、残酷であれと、私に教えてくれました。

ですが……裁判所が下す刑罰は魔族であれば軽く、苦痛の少ないものに。
魔族以外の種族であれば重く、また犯罪や体制への反抗の抑止力として、激しい苦痛が伴うものになる。
等しく、殺せば死ぬ命なのに……一方は重く、一方は軽い。
それは正しい事なのでしょうか。正義とは、規律とは、一体なんなのでしょうか。
彼らは本当に、その生の最後を、苦しみに飾られなければならなかったのでしょうか。
……私には正義の番卒になる事も、残酷な死神に徹する事も出来ません。

……私に出来る事は、ただこのダーマに生きるあらゆる種族を、効率的に、或いは非効率的に、殺める事だけ。
ナイトドレッサーは、身体の殆どを闇属性の、半物質化したエーテルによって構成しています。
それを操る事で、私は受刑者を串刺しにする事も、八つ裂きにする事も、全身の骨を打ち砕く事も……どんな処刑法をも可能にします。
私が他者より優れているのは、たったそれだけ。目の前の受刑者を殺める為だけの、小規模で、致命的な、誰の為にもならない魔法……。

私は……ただ命を奪うだけの者です。
拠り所とする正義も決意もない。そのくせ、投げ出す勇気もない。
ただトランキル家に生まれてしまったから……それだけの理由で、私は数多の命を奪ってきました。

……私が、今の私じゃない、もっと違う何かになれる時は……来るのでしょうか。

98 :
ひとまずレスは全部投下出来たけど、テンプレ落とそうと思ったら規制された……
次のターンまでに解除されてるといいなぁ……


以下テンプレ

名前:シノノメ・アンリエッタ・トランキル
年齢:20歳
性別:女
身長:152cm
体重:13kg
スリーサイズ:発展途上
種族:魔族(ナイトドレッサー族)
職業:王宮及び裁判所による判決、宣告の執行者
性格:生真面目だが抑うつ的。自傷癖がある
能力:闇属性の小規模魔法
武器:身体を構成する闇属性エーテル
防具:同上。返り血の目立たない黒色のコート
所持品:薬袋
容姿の特徴・風貌:深い青色の肌。淡い銀色の、短めの髪。金色の瞳。
         表情が希薄。
簡単なキャラ解説:

お初にお目にかかります。私の名はシノノメ・アンリエッタ・トランキル。
……トランキル家の次期家長であり、今はキアスムスの、王宮及び裁判所による判決と宣告の執行官を務めております。
つまり……帝国や共和国でいうところの「死刑執行人」であり「拷問官」です。
かの国々では、執行官はどのような扱いを受けているのでしょう。
トランキル家は王宮からは多大な報酬を頂いてはいますが……食料や日用品すら、流れの商人か、旅人を介さなければ買う事も出来ません。
魔族にもヒトにも忌み嫌われる存在……帝国や共和国でも、やはり同じような境遇なのでしょうか。

……祖父は幼い頃、執行官とは規律と正義の番卒。
例えこの世の誰もが我らを蔑み嘲ろうと、誇り高くあれと、私に教えてくれました。

父は、執行官とは罪に対する罰の体現者。
例えこの世の誰もが我らを忌み嫌おうと、ただ厳粛に、残酷であれと、私に教えてくれました。

ですが……裁判所が下す刑罰は魔族であれば軽く、苦痛の少ないものに。
魔族以外の種族であれば重く、また犯罪や体制への反抗の抑止力として、激しい苦痛が伴うものになる。
等しく、殺せば死ぬ命なのに……一方は重く、一方は軽い。
それは正しい事なのでしょうか。正義とは、規律とは、一体なんなのでしょうか。
彼らは本当に、その生の最後を、苦しみに飾られなければならなかったのでしょうか。
……私には正義の番卒になる事も、残酷な死神に徹する事も出来ません。

……私に出来る事は、ただこのダーマに生きるあらゆる種族を、効率的に、或いは非効率的に、殺める事だけ。
ナイトドレッサーは、身体の殆どを闇属性の、半物質化したエーテルによって構成しています。
それを操る事で、私は受刑者を串刺しにする事も、八つ裂きにする事も、全身の骨を打ち砕く事も……どんな処刑法をも可能にします。
私が他者より優れているのは、たったそれだけ。目の前の受刑者を殺める為だけの、小規模で、致命的な、誰の為にもならない魔法……。

私は……ただ命を奪うだけの者です。
拠り所とする正義も決意もない。そのくせ、投げ出す勇気もない。
ただトランキル家に生まれてしまったから……それだけの理由で、私は数多の命を奪ってきました。

……私が、今の私じゃない、もっと違う何かになれる時は……来るのでしょうか。

99 :
一回目投下した時に何故か規制の時みたいな書けてません的な画面がでてきたから
もう一度投下したら実は一回目が書けてて二重になってしまった……。一体何なんだろうか……。
シノノメ殿の次回はもちろん規制が流行ってるのだとしたら
他の人もいつ規制されるか分からないので連絡所の方も皆少し気を付けて見ておいてほしい!

100 :
>「……スレイブの言う通りだ。もっと言うなら魔族がやってる店には近寄らない方がいい。
 魔族以外の種族がやってる店が集まるラーサ通りってのがある。飯とか宿はそこを勧めるぜ」

スレイブの注意喚起に補足する形でジャンが当面の行動拠点を提案した。
近隣の出身だけあってキアスムスでの土地勘は彼の方が強い。スレイブは首肯した。

「夜間はラーサ通りから出ない方が良いな。問題は、信頼できる宿がとれるかどうかだが――」

こればかりは、種族差別関係なしに、治安の問題が大きい。
基本的にキアスムスにおける魔族以外の種族というのは裕福層とは言い難い。
もっと直截な言い方をしてしまうなら、ラーサ通りの主な住民構成は貧民街のそれに近い。

王府高官や異国の要人を擁する一団が宿泊するとなれば、その寝床にも相応のセキュリティが求められる。
宿に荷物を預けて街を散策していたら、宿とならず者とが内通していて全て盗まれてしまうことも珍しくはないのだ。
入門許可証を公に得ている都合上、身分を隠すわけにもいかない。

「最悪、日が落ちる前に一度飛空艇に戻って夜を明かすことも考えておいてくれ」

>「後は……フィリアとティターニア、それとラテだな。
 お前ら全員マントかフードで顔と体隠しとかねえと奴隷商に捕まっちまうからな」
>「しかしマントフードがぞろぞろいても逆に怪しまれそうだな――これでどうだ、ディスガイズ」

ティターニアが幻影術を自身とフィリアに施し、種族を偽装する。
彼女はそれを軽くやってのけて見せたが、魔法王国の住民から見ても高度な術の業前だ。
動体に被せる幻影であるにも関わらず、動きに遅延なく追従して僅かな揺らぎも感じさせない。
こうして変化の過程を目の当たりにしたスレイブですら、一瞬声を掛けていいものか迷ってしまう程だった。

「流石はユグドラシア……魔導の深奥を開けし者達か……」

正直こんなのを擁する国と戦争一歩手前だった祖国が如何に危ない綱渡りをしてきたかを実感して震えが来る。
ユグドラシアはハイランドに対しても中立の立場とは言え、ダーマ王国軍の攻撃目標にはかの学府も入っていたのだから。
指環に纏わるのいざこざで侵攻計画は立ち消えになったが、これは祖龍さまさまと言うべきだろうか。

>「それじゃ行こうぜ。入る前に散々脅しちまったが、いけ好かない魔族共に会わなきゃいい街だ。
 俺たちとはぐれず、しっかりついてきてくれよ」
>「我々にとっては暗黒大陸は未知の世界だ――頼りにしておるぞ」

「ああ、任せてくれ。俺の実存に賭けて万難を排すと誓おう」

>「ですのですの。……だけど、ねえスレイブ様?」

門の前で大見得切らんばかりのスレイブを、フィリアが呼ぶ。
もはや通達事項は全て終えたつもりのスレイブは、怪訝に思いながらも足を止めて振り向いた。

>「さっきの約束、守りますの。だけどもっと前にした約束も、ちゃーんと守りますの。
 あなたが人間だからって意地悪されそうになったなら……その時は、わたくし怒りますの」

「………………!」

フィリアの言葉が、意味を伴って浸透するまでに少しばかりの時間を要した。
そうして、これまで望むべくもなかったことを、ようやく手に出来たのだと気付いた。
悪意と敵視の色濃く残るこのキアスムスにおいて、何に代えても彼女たちを守らねばと思っていた。
身を挺してでも護る。それは、自分がやるべきことで、自分にしか出来ないことだと認識していた。

だがこの小さな女王は、スレイブを守り、スレイブの為に怒ると言ってくれた。
――この俺を案じ、助けになろうとしてくれている者がいる。

あるいはもっと前から、バアルフォラスやジュリアンや、シェバトの人々にスレイブは助けられてきた。
その事実を、フィリアの意思表示によって、ようやく実感として気付くことが出来たのだ。


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