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【能力ものシェア】チェンジリング・デイ 6【厨二】
- 1 :2011/06/23 〜 最終レス :2018/10/17
- ここは、人類が特殊な能力を持った世界での物語を描くシェアードワールドスレです
(シェアードワールドとは世界観を共有して作品を作ること)
【重要事項】
・隕石が衝突して生き残った人類とその子孫は特殊な能力を得た
(隕石衝突の日を「チェンジリング・デイ」と呼ぶ)
・能力は昼と夜で変わる
(能力の名称は地域や時代によって様々)
・細かい設定や出来事が食い違っても気にしない
まとめ:http://www31.atwiki.jp/shareyari/
うpろだ:http://loda.jp/mitemite/
避難所:http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1267446350/
前スレ:http://yuzuru.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1293009392/
以下テンプレ
- 2 :
- テンプレ 2/3
キャラテンプレ
使わなくてもおk
・(人物名)
(人物説明)
《昼の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
《夜の能力》
名称 … (能力名)
(分類)
(能力説明)
(分類)について
【意識性】…使おうと思って使うタイプ
【無意識性】…自動的に発動するタイプ
【変身型】…身体能力の向上や変身能力など、自分に変化をもたらすタイプ
【操作型】…サイコキネシスなど、主に指定した対象に影響を与えるタイプ
【具現型】…物質や現象を無から生み出すタイプ
【力場型】…【結界型】とも呼ばれる。周囲の空間の法則を書きかえるタイプ
- 3 :
- テンプレ 3/3
【イントロダクション】
あれはそう、西暦2000年2月21日の昼のことだった。
ふと空を見上げると一筋の光が流れている。
最初は飛行機か何かと思ったんだ。
けれどもそれはだんだんと地面の方へ向かっているようだった。
しばらくすると光は数を増し、そのうちのひとつがこちらに向かってきた。
隕石だ。今でもうちの近所に大きなクレーターがあるよ。
とにかく、あの日は地獄だった。人がたくさん死んだ。
だが、隕石が運んできたものは死だけではなかった。
今、あの日は「チェンジリング・デイ」と呼ばれている。
それは、隕石が私たち人類ひとりひとりに特殊能力を授けたからだ。
物質を操る、他人の精神を捻じ曲げる、世界の理の一部から解放される……。
様々な特殊能力を私たちはひとりにふたつ使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。
隕石衝突後に新しく生まれた子供もこの能力を持っている。
能力の覚醒時期は人によってバラバラらしいがな。
この能力の総称は、「ペフェ」、「バッフ」、「エグザ」、単に「能力」など、
コミュニティによっていろいろな呼び名があるそうだ。
強大な力を得たものは暴走する。歴史の掟だ。
世界の各地に、強力な能力者によって作られた政府の支配の及ばぬ無法地帯が造られた。
だがそれ以外の土地では以前からの生活が続いている。
そうそう、あとひとつ。
これは単なる都市伝説なんだが、世界には「パラレルワールドを作り出す能力」を持つ者がいて、
俺たちの世界とほとんど同じ世界がいくつもできているって話だぜ。
- 4 :
- テンプレ以上
スレタイちょっと変えてみた
【昼夜別】入れとくべきだったかな? まー次は戻すってことで
- 5 :
- >>1乙!
しかし前スレ400行かずに512KB埋まるとは…
長編作品が多いのは良いことだ
- 6 :
- >>1スレ建て乙。
前スレ笑かしてもらいましたw
- 7 :
- いつの間にか埋まってたか
いちおつ
>前スレ鑑定士
桜花さん苦労人ですねぇw
- 8 :
- >>1おつです
さて新スレ投下一番乗りいただきます!
前スレ316-319の続きです。何かというと『臆病者〜』です
間隔が広くなっておりすいません
- 9 :
- 『終わりにするよ、美希。お前の弟、なんとかしてくる(キリッ)』
とかいう言葉でかっこよく締めてみた私だったが、その直後に睡魔の激しい猛攻にさらされ、あえなく敗北してしまっ
た。そして今。目を覚ましてみればアナログ時計はなんともきれいなLの字型。夜中の3時、良い子はねんねする時間……
ではない。良い子にしてればお母さんの手作りホットケーキにありつけるほうの3時だ。
さて昨夜寝付いたのが何時なのかはこの際置いておくとして、だ。基本的に私は規則正しい朝型の生活を送っていると
自負している。休みの日でも遅くとも午前10時までには起きておかないとその日一日中鬱になるタイプに属する人間だ。
そんな折り目正しい私があろうことか昼、むしろ夕方にさしかかろうかというような時間まで惰眠を貪ってしまったのだ。
ああ、鬱だ。もう今日一日なんにもしたくない。もういっそ死んでしまうか……と平時の私ならきっとこうぼやいて
ベッドの上で体育座りでもするのだろうが、流石に今はそんな悠長な時間の無駄遣いをしていられる時ではない。それ
くらいの空気は読める男だ。その昔、『神宮寺秀祐は有言実行が服を着て歩いているような男』とさえ言われたこの私だ。
『終わりにするよ、美希。お前の弟、なんとかしてくる(キリッ)』
などとキメキメで言ったそばから、昼過ぎまで寝ちゃったので今日はお店お休み♪(テヘッ)では道理に合わない。
名がすたるというものだ。やると言ったからには必ずやり遂げる。有言実行とはそういうことなのだ。
だがしかしである。よくよく考えてみればだ。これまでにおいて発生した牧島との遭遇は、まったくの偶然(を装った
牧島の故意もあり得るが)か、牧島のほうからの接近によって起きたものであって、私のほうから彼に接触を持つという
ことはなかった。理由は説明するまでもなく単純で、接触しようにも方法がないからだ。連絡先を知っているわけでなく、
まして住所などもっての他。彼は私を監視でもしているかのように私の行き先に現れるが、もちろん私には彼の行き先や
居場所を探知できるような能力もない。
……手詰まりじゃないか。『終わりにす(以下略)』などとかっこつけてみた結果がこの体たらく。もう少し状況を把
握してからかっこつけるべきだったかもしれない。牧島の本来の狙いが私なのだから適当に外をブラブラしていれば
襲撃されるだろう、という推測も、今となっては望み薄な気がした。昨日一日で状況は大きく変化している。比留間博士
があの場に現れるという奇天烈な事態は、私だけでなく牧島にとっても衝撃だったことは想像に難くない。
完全に推測の域を出ないが、牧島のバックに誰かいるという前提自体、牧島に刷り込まれたブラフだったのではないだ
ろうか。あるいはブラフでなかったとしたら、それは牧島の一種の思いこみ、なのかもしれない。
まあなんでもいいが、とにかくこちらから何かしかける手段がないことはどうにもしがたい。だがどうにもしがたい
ことをただ座って考えていても結局どうにもならないしできない。考えてみれば朝も昼も飯を食べていないのだ。なんだ
道理で腹が空いてるわけだ。なにか簡単なものでも、そう思って腰を浮かせたのとほぼ同時だった。
- 10 :
- 「うん? メールか? ああでもこの着信音は確か……」
どこぞから電子音が響いた。もちろんすぐに自分の携帯だとわかったが、なぜか耳慣れない着信音。そのちょっとした
違和感の理由は、メールを開いてみてからわかった。
『夜見坂の付属施設に襲撃あり。襲撃者は戦闘用改造生物が多数、その他は現在不明。
特務部門の支援見込めず。施設深部への侵入が確認された場合、秘密保持のため施設を爆破する』
ERDOに関連してなにか緊急の連絡がある場合に発信されるメールの着信音は、それとわかるように普通のメールと
違う着信音に設定していた。このメールの内容はまさしくそれに分類されるもので間違いない。ちなみにこのメールは
研究部門内の情報処理課から、各研究チームのチームリーダークラスに送信されることになっている。研究部門内だけ
というところがミソであり、ERDOのダメなところだと思うのだが、これについて語ると一日が終わってしまうので控える
としよう。
いずれにせよだ。牧島という男は実は本当に素直でわかりやすい人間なのかもしれない。こちらから接触する手段が
ないと嘆いてみれば、こうして目立つ行動を起こしてくれる。
……どうしてか私は襲撃者が牧島だとあっさり断言してしまっている。もちろん根拠なんてものはない。ただメールの
文面を見た瞬間から、間違いなく彼だとそう確信してしまったのだからしかたがない。
私はわかっている。終わりが近いことを。終わらせるべきなのだということを。そのつもりでいる。
だから彼もわかっている。それを望んでいる。私の描く終わりと、彼の望む終わりの形はきっと異なるのだろうけど。
だから彼は呼んでいる。必ず私がわかるように、決して私が逃げられないように、ERDOという組織を媒介にして。
だから私も応えなければならない。チェンジリング・デイという災禍の日に縛られ続ける自分に、そして彼に、引導を
渡すために。
……よし。出陣の掛け声といこう。今度こそかっこよく決まりそうだ。
「終わりにするよ、美希。お前の弟、なんとかしてくる」
眼鏡をくいっと押し上げながらキメてみたものの、朝昼の仕事を取り上げられてご立腹の胃袋がブー垂れる音が同時に
響いたせいで、なんとも締まらない出陣声明となった。とりあえず、腹ごしらえはしっかりしておくとしよう。
つづく
- 11 :
- 今回は短いですが、投下終わりです
- 12 :
- 一番投下乙です、続きを待ちます!
前スレついに落ちたみたい
- 13 :
- 相変わらず台詞回しが上手い
- 14 :
- 連続になりますが、>>9-10の続き投下します
終わり終わりと言いつつ、まだ終わりません
また今回はかなり長いです
- 15 :
- 『夜見坂の付属施設』という表現はやや曖昧な印象を受けるかもしれないが、ERDO研究部門の人間にとっては問題なく
通用する共通語だ。ERDOが影の運営母体となっている私立夜見坂高校、その傍らに併設されている付属中学校。
『夜見坂の付属施設』とERDO研究部門の人間が発言した場合、それはもっぱらこの付属中学のことを指しているのだ
と判断して間違いはない。
ERDO研究部門が擁する最大の実験用箱庭とも言うべき場所だが、私はあまり積極的に関与はしていない。だから「夜見坂」
がどこにあり、どうすればたどり着けるのかといった基本的なことも恥ずかしながら失念していた。腹ごしらえを済ませた
後で資料を引っ張り出し、地図を確認し、どうにかこうにか所在地を確認することができた。
そんな些細なつまづきも経つつ、私は今ようやくそこにたどり着いたのだった。すでに街は薄闇に沈み始めているような
時間になっていた。
一見すれば一般の中学校とさして変わることのない、夜見坂高校付属中学の校門。その外側でただつっ立っている分には、
中に悪意ある襲撃者が侵入し、醜悪な改造生物が闊歩しているらしいという雰囲気は特段感じられない。その印象が正しい
にこしたことはないのだろうが、残念ながら今の私はそれを否定せざるを得ない。
3時ごろに届いたメールの後、自宅からの移動中にさらなる連絡が届いていた。
『戦闘用改造生物の総数、正確には測れず。しかしかなりの数に上る模様。
また、現地に対能力犯罪専門組織の進入も確認。襲撃者同様、施設深部への侵入確認時は
より一層の秘密保持のため、施設を爆破する』
とのことだった。さて、ここで言われる『対能力犯罪専門組織』とは、おそらく以前に遭遇した『バフ課』なる存在
のことだろう。つまり、あのワイヤーアクションヒーローがここに来ている可能性があるわけだ。あのガーゴイルを一
人で締めあげた彼のことだ。きっとキメラやケルベロスたちも華麗に葬り去っていることだろう。次代を担う少年少女が
学び育つ学び舎の壁やら廊下やら天井が血しぶきに染まる光景が思い浮かんで、軽くめまいがした。
率直に言って、彼らを味方と考えるべきではない。牧島を追うという目的は一緒かもしれないが、その理由はどう考えて
も一緒なはずがないのだ。だから、利害が一致する保証もない。最悪の場合、見つけた時点で牧島をRことだってあり得
るだろう。私としてはそれは困る。
彼を10年の間縛り続ける、私への復讐心という枷。そんな枷に繋がれたままで死なせることだけはしたくない。
そしてもちろん、その枷の鍵を開けられるのは私しかいないのだ。だから私は、あの常人離れした男が率いる手練れたち
より早く、彼を見つけなければならないのだ。
「運が悪ければ……私も敵とみなされるかもしれないけどな」
それは大きな不安だった。下手を打てば私自身が中途半端なままで命を落とすという危険。だから思わず声になっていた。
だがそれはあくまでも、ただの独り言のはずだった。
- 16 :
- 「そうねぇ、バフ課は見境ないものねぇ。さ〜てじゃあそんな怖がりなオジさまに素敵なボディガードはいかが?」
中年男の独り言にまさかの返答がきた。背中越しに聞こえたその声には、確かな聞き覚えがある。いや、きっと忘れよ
うにも忘れることはできないだろうあの出会い。命の恩人であり、その直後に命を奪われそうになった女性。
「さぎり、アヤメ……?」
この時の私を隠し撮りした写真がもしあったとしたら、私は多少法に外れる手段を用いてでもそれを地球上から抹消
しにかかるだろう。振り向いた私の顔を見た途端、腹を抱えて笑い転げた狭霧アヤメを見て心底そう思った。
「はあ、お腹苦しいわぁ。まったく神宮寺のオジさまったらいきなり顔芸するんだもの。そんな不意打ちはズルいわよ」
腹筋をさすりつつ、いまだこみあげる笑いを噛み殺して言う彼女。なかなかに失礼な女性だ。そんな酷い顔してたのか?
とまあ今はそれはどうでもよくてだな。
「狭霧さん、どうして君がこんなところに」
「どうしてって、さっき言ったわよ? 怖がりな神宮寺オジさまの素敵なボディガードになりに来たの」
そう言って、ブロンドのポニーテールをふわりと揺らして微笑む。相変わらず可憐な外見にそぐわない浮世離れした言
動。やはり彼女は根っからそういった得体の知れない部類の人間なのだろう。
「よく意味がわかりかねるが……君は私がここにいる理由を知ってるのか?」
「そんなの知るわけないわ。でもねぇ、ここの中学校でなにか変なことが起きているのは知ってるわ。バフ課が介入してるっ
ぽいこともねぇ。なんか久しぶりに楽しそうだと思って来てみたら……ねぇ」
意味ありげにクスリと微笑んで一拍置き、彼女は続けた。
「あの時のオジさまがなんだか悲壮な空気漂わせて立ちすくんでるんだもの。これはもうますます楽しそうだと思ってねぇ」
悲壮な空気、か。無理もないだろうが。味方のいない敵地に戦闘のプロでもない私が一人っきりで乗り込まなければな
らないのだ。悲壮感のひとつやふたつはタダでくれてやれるくらい発生するだろう。
だがもし彼女がその言葉通りに協力してくれるならば、「一人っきりで」という一番の不安点が解消されることになろう。
また彼女は言動の端々に危険人物の香りがプンプン漂っているし、前回の出会いで本格的な軍用ナイフを惜しみなく披露
もされていた。頼りになる気はする。一点だけどうしても引っ掛かる点がある以外は。
「狭霧さん。君が助けてくれるのはありがたい。私自身、一人ではどうしたものかと思っていたところだからね。でも、
君は以前私を殺そうとした。そしてその時、こうなったはずだ。『次に私が死のうとしていると君が感じた時、君は私をR』
とね。あれはもちろん、今でも有効なんだろう?」
「それはもちろん」
即答だった。だから私もすぐさま返す。
- 17 :
- 「ならどうして今殺さない? 悲壮感漂う私を見て、一思いにRことはできただろうに」
今度はすぐには答えが返ってこなかった。むしろ彼女は意外そうに目を丸くして、数秒の間固まっていた。張り付いた
その表情を解いた彼女は、沈黙のまま中学校の門へと、私を追い越して歩んでいく。不意に立ち止まり、背中ごしに声。
「人間って時々、信じられないくらいにバカよねぇ。誰だってそう」
……なんだかよくわからないが、唐突に馬鹿にされているらしい。脈絡がなさすぎてむしろ腹も立たないが。そんなこと
を思ったところ、さらに声が飛んできた。
「ま、いいわ。要するに、別にR気になればいつだって殺せるのよってことよ。女性にこんなこと言わせないで恥ずかしい」
何を恥じらっているのかさっぱりわからんが、つまり「今はR気がない」ということだろうか。なるほど、女性の心
は移ろいやすいものだしな……ということにしていいのだろうか。いやもうそういうことにしておこう。
「わかった。後ろから刺されないように気をつけるよ。狭霧さん、協力ありがとう」
「……ねぇ。その『狭霧さん』て呼び方やめましょうよ。ここから先私たちは相棒、バディなんだから。ねぇ?」
「バディて……あーでは、アヤメさん。よろしく頼む。ついでに『神宮寺のオジさま』もなんとかしてくれ」
「えー、何が気に入らないのかしら。ましゃーないか。じゃなんて呼び方をお望み?」
ここで少し考える。『狭霧さん』をやめた手前、『神宮寺さん』はまず受け入れられない。かといって下の名前を用い
るのは、一回り若い女性に無理矢理名前で呼ばせて悦に入るヒヒオヤジっぽくてなんか嫌だ。そこまで考えて、私の中にひと
つの単語が浮かんだ。
それを己の呼称として使われることに、私はずっと抵抗していた。だいぶ慣れてしまったとは言え、こっ恥ずかしさは
やはり完全には拭いきれないそれ。
だが、どうか。今の私は、つい先日までの私とはどこか違っているのではなかろうか。いや、違っていなければならない。
変わらせるだけの出来事が、出会いが、この短期間の中にあったのだ。
今の私は強くなければならないのだ。目の前の困難を覆す力を持った強い人間だということにしなければいけないのだ。
程度や性質の差こそあれ、多くの人が罹患するあの病。例に漏れず私も、それを患ったことがあった。その時、私が創り
出した呼称。とある厨二少女にほじくり返されてしまった、その恥ずかしい記憶。弱い自分に力を与える、痛々しい真の名。
「『ドクトルJ』。ここから先、私のことはそう呼んでくれ」
- 18 :
- 開きっぱなしの校門を踏み越え、いかにも私立な感じのするどこかお洒落っぽい校舎の入り口までたどり着いて、私は再
びめまいを感じた。校門前で自分が思い浮かべた凄惨な光景は、あながち行きすぎたものでもなかったらしい。
「バフ課ったらずいぶんと派手にやってるわねぇ。どう処理する気なのかしら」
さして驚いたふうでもないのんきな口調で言いながら、狭霧、もといアヤメさんが地面にしゃがみこむ。その前には一体
の黒く巨大な犬、だった何か。そしてその周りに大きく広がる赤黒い血だまり。いくつも転がっている不気味な生物のまだ
新鮮な死体と、それらが未だ垂れ流し続ける生臭い血の匂い。こんなものが子ども達の学び舎の中にあってはならない。
「全部ナイフで一撃、か。どうりで何の音もしないわけよねぇ」
そんな異常な光景の前で、アヤメさんはあくまでものんきだった。本来なら決して関わらない、関わるべきでない社会の
人間なのかもしれないが、彼女の平静さは今の私にはむしろありがたい。
「ま、わんちゃんの死体眺めてたってしょうがないわ。行きましょうドクトルJ」
そう言い残して、大して警戒もなくスタスタと校舎内に消えていく。肝が据わっているのか、単に何も考えていないのか。
いや、きっと両方なのだろう。彼女の場合はそんな気がする。
そして彼女が呼んだ通り、今の私はいつもの『神宮寺秀祐』ではない。『ドクトルJ』なるマッドサイエンティストっぽ
い男なのだ。『神宮寺秀祐』にとっての非現実は、『ドクトルJ』にとってはなんら驚くに値しない見慣れた現実でしかない。
それは結局弱さをくじくための詭弁妄想の類でしかないが、その妄想を補強してくれる存在がいれば、本当にそう思えてく
るから不思議なものだ。今の私にとって、狭霧アヤメがその役割を果たしていることはもはや言うまでも――
ふと、視線を感じた。ここで『視線を感じる』ことのメカニズムについて小一時間ほど語りたいところだが、小一時間
ではすまなくなることが目に見えているのでやめにする。
右、左、後ろと確認するが、誰もいない。だが確かに感じる。よほど強い視線なのだろう。もう一度、今度は左、右、後
ろと確認し、最後に上を見上げた。そこでようやく、一方通行だった視線は交差した。
「牧島……」
四階建ての校舎の屋上に、その男は立っていた。遠いゆえあまり表情などは読み取れないが、いつものサングラスをして
いない。だからこそ、この強烈な眼光を発しているのだろうか。
手招きするでもなく。何を言うわけでもなく。それでいて彼は、明らかに私を呼んでいる。すべてに決着をつけるために。
「待っててくれ。すぐに着くからな」
あくまで独り言の声で呼びかけて、私はアヤメさんに続いて校舎に足を踏み入れた。
- 19 :
- 遅れて入ってきた私にブーブー言っているアヤメさんを横目に見つつ、私は上を目指すためにまずは階段を探すことに
した。実は入ってすぐのところにエレベーターがあった(最近の中学校はほんとに贅沢だ)のだが、危険な香りしか感じない
ので利用は避けた。
校舎の中も酷い有様だった。廊下、壁はもちろんのこと、天井まで血が飛んでいる。そしてまた当然にその血の発生源
がごろごろ転がっている。もう少し残虐表現控えめにできないのだろうか。
「鋭利な刃物で首を一撃。彼らはプロなんだから、それが一番手っとり早いってわかってるのよ」
心の声が普通に声になっていたらしく、アヤメさんが解説してくれる。
「しかし、結構な数がすでに退治されているようだ。バフ課っていうのは相当だな」
「うーん、そうでもないんじゃないかしら。あ、ほら」
そう言って彼女は、廊下の一角を指さした。そこにはもはやすっかり見慣れた赤黒い液体の水たまり……の他、見慣れ
ていない、だがある意味では改造犬以上に見慣れたものが横たわっていた。
「バフ課の人間、か……?」
「たぶん、ていうか百パーそうねぇ。たぶん私たちが思っている以上にわんちゃんの数が多いのよ。一匹ずつなら難なく
相手できても、囲まれたら……ねぇ」
言いながらもなぜか微笑むアヤメさん。さすがに私は笑えない。
俊敏で強靭なあの改造犬をさらりと始末できるバフ課という集団も脅威だが、そのバフ課の人間の死体も転がっていると
いうこの状況。一歩一歩を慎重に進まなければ、命がいくつあっても足りないといったところだ……と言っているそばから
鋼の心臓を持つ女は相変わらず注意散漫な感じでのこのこ歩いて行く。泰然としすぎていて逆に不安だ。
「アヤメさん。ふと気になったんだが。武器は持たないのか」
「え? やだ持ってないわけないでしょ。ちゃんとここに、前にあなたの頸動脈を切断しようとしたナイフがあるわ。他
にもいろいろあるけど、全部は教えてあげない」
「あ、そう。ならいいんだが」
なんでこれだけ死体が転がっている状況で手に持たないんだと聞きたかったのだが、もういい。とにかく階段を探そう。
階段を見つければあとは上まで一気に上ればいいだけだ。
「にしても広い学校ねぇ。移動教室とか大変そう」
「君の口から『移動教室』なんていかにも青春な言葉が飛び出ると、それはそれでまた怖いな」
「む。失礼しちゃうわねぇ。私だって……」
そこまで言いかけて、彼女の顔色が変わった。いや、顔色というよりは、全身の雰囲気が変わったというべきかもしれない。
いつの間に抜いたのか、手にはしっかりとナイフが握られていた。
「戻りましょう」
学校の廊下というのはひたすら細長く、遮蔽するものはあまりない。私はアヤメさんに指示されるまま少し来た道を戻り、
トイレに隠れることになった。言う必要はないと思うが、女子トイレである。
- 20 :
- 「アヤメさん、あの先何かあるのか」
「……教室の中に人がいたわ。たぶんわんちゃんも。音聞こえなかった?」
「いや、すまない。私にはさっぱりだ」
「まったくもう。あなたはサバンナに放り込まれたら一日ともたずに食べられちゃうタイプねぇ」
大きなお世話と言いたいところだが、地味に悔しい。言い返せずにいると、再びアヤメさんが口を開く。
「でもこれ、使えるかも」
「は? 使える?」
「行くわよドクトルJ」
と言うが早いか彼女は音もなく飛び出し、これまた音もなく全力で駆け抜けていく。すっかりおいてけぼりを食ってし
まった。とにかくここは彼女に従ってみよう。
全力でドタドタと廊下を駆ける。すぐに息切れを感じる。年だ。やっとこさたどり着いた教室では、緊張しきった空気で
三者が対峙していた。
一人はもちろん狭霧アヤメ。もう一人、というか一体はおかしな姿形の犬。頭が3つあるやつだ。そしてもう一人。
まだ青年といった顔立ちの男。しかしその服装は間違いなく以前私が出会ったあのヒーローと同じもの。バフ課の一人だ
と思われるその人物は、ナイフよりやや大きめの刃物(マチェットとかいうやつだ)を手に、アヤメさんとケルベロス、
そして新しくこの場に現れた私へと順番に視線を送っている。
「びっくりッスよ。狭霧アヤメに友達がいたなんて」
「あら、失礼ねぇ。友達じゃなくて相棒よラヴィくん」
「……俺、あんたに自己紹介した記憶はないッスが。気安く呼ばないでほしいッス」
「あらあらラヴィくんはツンキャラだったのねぇ。そんなツンキャラで現在ちょっとピンチのラヴィくんを、今ならこの
私が助けてあげてもよくってよ。条件付きで」
これが彼女なりの考えなのだろうか。今のところ私にはよく読めないが、任せておくことにした。少し離れた位置で待
機を決め込む。
「ケッ、寝言は寝てから言うもんッスよ。敵の施しなんて受けねッス」
「ツンも時と場所をわきまえたほうがよくってよ。すでに結構傷だらけじゃないの。今私を味方にしておかないと、この
三つ首君の次は私に襲われちゃうかもしれないわよ? 勝てるの?」
「ケッ、そんときゃもう諦めて死ぬだけッス」
少し投げやり気味に吐き捨てられたその言葉が、不思議と胸にひっかかった。
「若い奴が、そうそう簡単に死ぬなんて言うもんじゃないぞ」
アヤメさんに任せたつもりが、口を挟んでしまった。アヤメさんに怒られそうな気もするが、こうなってしまった以上
とことん口を挟むしかない。どっちにしろ、今のままでは彼女の思惑通りにいっていないことは事実だろうしな。
- 21 :
- 「君の協力が必要なんだ。私はどうしても上に行きたい。だが階段が見つからないし、いつキメラに襲われるかわかった
もんじゃない。危険がいっぱいだ。その上君たちバフ課もいる。狭霧アヤメという人物と一緒にいる以上、見つかり次第
敵とみなされる恐れありだ。まわりが敵だらけという状況をなんとかしたい。だからはっきりしておきたい。私はバフ課
と敵対するためにここに来たわけではない。今に限っては彼女も同様だ。私はただ、牧島という男に用があるだけなんだ」
最後にチラつかせた「牧島」という単語に、青年はしっかり反応してくれた。それは同時に、やはり彼らも牧島を標的
としてここにいることの証明だった。
「アイツの関係者ッスか? あー……うー、わかったッス。正直に言やあそりゃ俺だってまだ死にたかないッス」
「はい、決まりっと」
そんな声が聞こえるや否や、同時に響いた銃声。1発目の後やや遅れて2発目が聞こえ、間もなく3発目が響く。我に
返って見回すと、青年とアヤメさん、そしてついでに私を威嚇していたケルベロスが、3つの頭から血を流してピクピク
していた。誰の仕業かなど言うのも馬鹿らしいが――
「ふう〜。ハンドガン握るの久しぶりすぎて緊張しちゃったわ」
などとまるで緊張してなさそうな顔と声で言っている危険人物だ。さっきまでナイフを握っていたはずの手には、黒光り
する拳銃がしっかりと握られていた。見事な速撃ちぶりに、青年も呆気に取られている様子だ。
この青年や死亡したバフ課隊員の名誉のために言っておくが、本来拳銃を使ったからといって簡単に倒せる程度の代物で
はないのがこの改造生物たちだ。今は単にこのケルベロスが3人の人間に注意を向けていたために反応しきれなかっただけ
のことだろう。とは言っても、正確に3発の銃弾で3つの頭を撃ち抜いた彼女が凄腕なことも間違いはない。
「さてと。じゃあラヴィくん。約束は守ってもらうわよ?」
私の思案など露も知らず、アヤメさんはしてやったりの顔で青年に語りかける。乱入した形になってしまったが、一応
彼女の思惑に沿った結果にはなったようだ。ラヴィ君と呼ばれている青年は少し苦い顔になりつつも、目下の脅威が去った
こともあってか、緊張は緩んでいる。
「約束なんてした覚えはないけど、まあしかたないッスね。んで、俺はどうすりゃいいんスか」
彼に決定打を与えたのが私だったせいか、彼は私に向かって喋っていた。だが残念ながら私は狭霧アヤメの金魚のフン。
どうするつもりかは彼女の頭の中にしかないのだ。なのになぜか彼女はにこにこと私を眺めるばかりで何も言ってくれない。
しかたないので私はいかにもなんでも了解している雰囲気で彼女に発言を促すことにした。
「ふむ。それについてはアヤメさん。君の口から説明を」
「はいはい。ラヴィくん、隊長さんの居場所、教えてくれないかしら」
- 22 :
- 半ば無理矢理に助けて協力させたラヴィ君の情報をもとに、アヤメさんとともに校内の探索に戻る。階段の場所も教え
てもらい、2階へ。ラヴィ君の部隊を率いる隊長はこの階にいるはずらしい。
実はすでに深手を負っていたらしいラヴィ君はあの場に置いてきた。彼は隊長の居場所や校内の構造のほかにも、いく
つか情報をくれた。
彼らの標的はやはり牧島勇希であること。改造生物の数は正確には把握できておらず、キリなく湧いてきているように
感じること。見たことがないタイプのものもいること。バフ課側の損害もすでに大きく、隊長から撤収命令が出ていること。
幸い、この中学校が何か怪しい、というようなことまでは言っていなかった。施設を爆破などされたらたまったものでは
ない。それはさておき彼の情報からは、バフ課の人間とニアミスする危険はほぼないらしいという事実がわかった。
そこでひとつ疑問なのだが。よし聞いてみよう。
「アヤメさん。どうしてわざわざ隊長に会いに行く必要が?」
どのみち撤収するのなら、無視した方がいい気がするのだが。その問いに、アヤメさんは意外そうな顔をした。
「もちろん協力してもらうためよ。私ねぇ、わんちゃんの相手は対人戦ほど自信ないのよ。複数でいっぺんに来られたりし
たらテンパっちゃうわ。それにラヴィくん言ってたでしょ、新型っぽいのもいたって」
「いやでもね。君、明らかにバフ課と因縁がありそうなんだが。協力してもらえるのか?」
「そこはほら、さっきみたいにあなたが説き伏せればいいんじゃないかしら?」
……私任せか。これから会う男が、さっきの青年のように単純でまっすぐな性格ならいいのだが。
その男の名前を、私は知っていた。バフ課が来ていると知った時から、一抹の予感はあった。世界というものは人が思っ
ている以上に狭く、予期できる程度の偶然に満ちているのだと実感する。
「ドクトルJ! こっち!」
思案を打ち破る叫び。同時に体が左に引っ張られる感覚。少し遅れて、視界の右側に光が散った。アヤメさんに引っ張
られて倒れ込んだ先で首をめぐらせると、廊下の窓ガラスが割れ、そこから見るも奇妙な生物が侵入していた。
「ちょっと油断してたわねぇ。外からも来るなんて」
言うなり彼女は左手に拳銃、右手にナイフの装備ですっくと立ち上がる。ためらいなく拳銃を1発2発と撃ちながら、
少しずつ接近していく。はたと立ち止まり、言った。
「うーん、ちょっと面倒かも。ドクトルJ、先に行ってくれる? この階をうろついてれば、たぶん会えると思うわ」
軽く死亡フラグが立ってしまっている気もしたが、私がいてはより戦いにくいのかもしれない。人を守りながらの戦い
は難しいものなのだろう。今回のような奇襲がある以上私一人になるのはそれこそ死亡フラグだが、この際しかたない。
「わかった。後で必ずまた会おう」
アヤメさんが小さく頷くのを見届けて、私は一人、2階の探索に戻った。
- 23 :
- アヤメさんにあの場を任せて2分ほど歩きまわってみたが、死体はごろごろしているものの、生きているキメラにはま
だ出会っていない。アヤメさんがさっさと始末したケルベロスをのぞけば、さっきの見たことのない姿形のものが初だ。
とここで少しタイムだ。こういうことを考えると、大抵逆のことが起きるのだ。私の安堵を踏みにじるようにここぞと
ばかりにキメラが現れ――
「ああ、やっぱり。現れなくてもいいのに」
とうとう出てしまった。形はオーソドックスなキメラだが、私一人には十分な脅威。血走った白目に丸見えの牙。だら
だら垂れ流すよだれ。元が犬とは思えないほど肥大した筋肉と、それによって巨大化した体。
そんなものを前にしても、今の私は逃げるわけにはいかない。後ろにひくわけにはいかない。前進あるのみなのだ。
それでいて、能力を使って倒すわけにもいかない。使えば私はあっという間に昏倒してしまう。
「うおっと」
私の心中など察してくれないキメラは問答無用で飛びかかってくる。たびたびキメラと戯れる機会があった私は、その
行動パターンをある程度わかっていた。でなければ私のごときただの中年男に回避できるレベルの素早さではない。
だが避けるので精いっぱいだ。一応右手にはさっきのラヴィ君から譲ってもらったマチェットを握りしめてはいるが、
こんなもので反撃できるだけの隙は見いだせない。
だからとにかく避ける。アヤメさんもすぐに来てくれるかもしれない。それまで凌げばいいのだ。
形ばかりだが、マチェットを牽制するように構える。それを見てか、キメラの姿勢は一層低くなった。さてキメラがこ
の構えになった時、次の攻撃は……
「脚狙いだ」
キメラの飛びかかり、もとい突進に合わせて、私は思いきってそれを飛び越すように跳躍した。読みはぴったりだ。
だが詰めは甘かった。キメラの方に振り返った瞬間には、それの醜悪な牙が迫っていた。まともな生物には為し得ない
反転をしたのだろう。無理だ。間に合わない。やられる。死ぬ。…………死ぬ?
「こんのクソが!」
足掻け。最後まで諦めるな。喉元を食いちぎられるまで、いや食いちぎられてもだ。腕がもげてもだ。腹が破れてもだ。
まだ五体満足なこの状況で、何を諦めると言うんだ。
私は足掻く。最後まで諦めない。固い廊下に組み伏せられて背中が痛かろうと、のしかかるキメラの刃物のような爪が
体に食い込もうと、鋭利な光を放つ牙に恐れを感じようと。もはや決まりきった勝負の結果に必死に抵抗するこの姿がどれ
だけ無様でも。がむしゃらに右手の得物を振り回す姿がどれほど滑稽でも。報われても、報われなくても。
世界が神の振ったサイコロ遊びで決められると言うのなら、人は自分が納得できる目が出るまで神にサイコロを振らせ
続ければいいだけだ。
そうして自分の限界をとうに超えた格闘の果てに、私は”生”の目を掴んだ。
「まったくよぉ。扱い方もわからんような武器なんて持ってる意味ねえだろうが」
アヤメさんのものではない。男性の声がした。わずかだがはっきりと聞き覚えのある声。それはまさに二重の意味で、待
ち人来るの思いだった。
などと考えている間に、のしかかっていたキメラの体重から解放される。その額からは、ナイフの柄らしきものが突如と
して生えていた。致命の一撃を受けたキメラはそれでもまだ踏ん張っていたが、グルルと呻いたかと思うと、間もなくがく
んと崩れた。
- 24 :
- よく似た体験を前にもしていたのだった。目の前で息絶えている敗者は異なれど、今私のほうへと悠然と歩んでくるのは、
やはりあの時と同じあの男。
「や、やあ。また会ったね、シルスクさん」
「ああ。それもどうにもおかしな状況でな。あの時なら巻き込まれたってだけで済む話だが、今回ばかりはそうもいかない」
言葉より早く彼は動いていた。首元に冷気を感じる。前にアヤメさんと会った時にもなった状況の再現だった。
「あんたなんでこんなとこにいる? ここで何してる? まさか中学校の校舎を散歩してたなんて言うんじゃないだろ?」
刺し貫くような眼光。答えによっては、彼は躊躇いなく右手を一閃するだろう。人を助けはするものの、Rこともな
んとも思っていない。そんな本質が見えた気がした。
「フン、だんまりか? 答えられないようなことか? 竦んで声が出ないってわけでもないだろうが」
いや、実際はかなり竦んでいる。彼のこの買いかぶりの理由はよくわからないが、声が出ないとはいかないまでも竦ん
でいる。迫力がありすぎる。それでも、今の雰囲気だとこのまま黙っているのもNGだ。なんとかしなければ。
「きょ、協力を――」
「その人、放してもらえる? シルスクさん」
振り絞った言葉は言い切れず。私の前方、シルスクの後方から聞こえた声にかき消された。それは当然というか聞き慣れ
た声ではあったが、それがなぜ”シルスクの後方”から発せられたのか。彼の背後に人の気配などまったく感じなかったのに。
不思議を抱えつつも、とりあえず形勢は逆転していた。相変わらず私の首にはダガーが押し当てられていたが、そのダガー
所持者の首元には、湧き出るように出現した狭霧アヤメのナイフがつきつけられている。それでも、彼は眉ひとつ動かさない。
「狭霧アヤメか。貴様までなんでこんなとこに」
「聞こえなかったかしら。彼を放して」
数秒、二人はそのままにらみ合った。ややあって、首元の冷感が消える。どうやら解放されたらしい。まったく、アヤメ
様様だ。
「ありがとシルスクさん。さて、とー。ドクトルJ、後はあなたの仕事だから」
シルスクがナイフを鞘に納めるのを見届けて、アヤメさんもつきつけていたナイフを引いた。そしてそのままどこかの教
室から持ってきたらしい生徒用の椅子に腰かけ、お休みの体勢になる。さっきの襲撃を彼女は一人で切り抜けてきたのだ。
疲れもあるのだろう。無事再会の喜びに浸れない状況なのが寂しいところだ。
「さてそれじゃあ改めて質問に答えてもらおうか」
少しだけ眼光を緩めて再度の質問。私はさっき彼の部下のラヴィ君にしたものとほぼ同じ説明を彼にした。シルスクはし
ばらくどこか遠くを見つめて唸っていたが、
「牧島との関係は?」
と、別の質問を投げてきた。答えにくいことではあったが、協力してほしい手前だ。嘘をつくことは好ましくないし、そ
もそも隠すべきことでもなかった。
- 25 :
- 「牧島は私の妻の弟だ。手っ取り早く言えば義弟だ」
これにはさすがにシルスクも、そしてアヤメさんも驚いたようだ。揃って目を丸くしている。
そうなのだ。私自身改めて思ったが、彼は私の義弟なんだな。ずっと嫌われている気がしていたから、そう思ったことも
なかったが。
「事情は……正直わからん。相当に込み入った事情がありそうだしな。それには興味もないし、立ち入る気もない」
気だるげに髪をわしゃわしゃしながらそう言って、さらに続けた。
「牧島は屋上だったな。そこまでついて行ってやる。あんたの用事が済み次第、今度は俺の用事を済ませる。それでいいな
ら協力するさ」
彼の言う「用事」。それは、最悪の場合牧島をRということもあり得るのだろうか。
「その用事とは、彼を殺害するということか?」
包み隠さずはっきりと問う。少しだけ眉をひそめつつも、シルスクはすぐに答えをよこした。
「Rことはしない。あいつは生け捕りにする。まあ正確に言えば、殺せないからそうするしかない、ってだけだが」
奇妙なことを言っている。「殺せないから生け捕りにするしかない」らしい。どういうことだろうか? あいつは不死能
力でも持っていたか? しかしあいつの夜間能力はワームホール能力だし、昼間能力は知らないが今はもう日が暮れているし……
「ほら、条件は出したぞ。あとはあんた次第なんだからな。どうするんだ?」
せっつかれた。せっかちな人だ。とりあえず彼の思惑はわかった。出自からして、狭霧アヤメより信頼できそうな気も
する(ごめんねアヤメさん)。
「わかった。それでいい。わがままに付き合わせてすまないな」
「フン。まあ気にするな。たまにはまともに人助けらしいこともやっときたいところだったんだ。まあ……」
そこでいったん言葉を切って、私の後方に視線を送りながら続けた。そこにいるのが誰か……ま言うまでもないか。
「都合アイツとも協力することになるのは虫酸が走る思いだけどな」
「あらあら、シルスクさんてば失礼ねぇ。以前あれだけ熱く激しくやり合った仲じゃないの」
「熱く、激しく……やり合う……?」
「おいこらゲスい想像やめろRぞ」
さっきよりさらに怖い顔で怒られてしまった。失禁しそうだ。ゲスいも何も、私はアヤメさんの言葉を復唱しただけなの
だが。まあつまり、アヤメさんとバフ課は相当仲が良くないということでいいだろう。
「ま、まあシルスクさん。今は堪えてくれないか。二人とも私の協力者ということで」
「フン、わかっているさ。ガキじゃないんだ。ああそうだ。ところであんた、名前はなんて言うんだ?」
そう言えば彼には名前を名乗る機会がなかったのだった。もちろん私には本当に名乗るべき誇るべき名前がある。それ
でもやはり今この時名乗るのは、それとは別の名前なのだ。「強い自分」という役割を演じるための、もうひとつの名前だ。
「『ドクトルJ』。私のことはそう呼んでくれればいい」
つづく
- 26 :
- ひゃっほうアヤメさんだ!あと隊長だ!
なんかすごい組み合わせができたなー。大人の世界だぜ。
いよいよ大詰め、楽しみにしてます。
- 27 :
- ttp://loda.jp/mitemite/?id=2265.jpg
同居人がお風呂上りに全裸で徘徊し、目のやり場に困っています。
いくら注意してもぱんつ1枚、タオル1枚さえ局部を隠そうと
しません。どうすれば改善できるでしょうか?
(相談者/女子高生/ふぁいやーさん/16歳)
>1乙ですー。
あああ読み進めてないSSが…!
- 28 :
- >>15
乙です、今回もまとめて読みました
いやー……たいちょにアヤメさんですか!
クライマックスの舞台にふさわしい役者が揃いましたな
たいちょもラヴィくんも、性格把握した(たぶんw)描写が素晴らしい!
ま、とりあえずドクトルはその呼び名を全面降伏の上受け入れたらいいと思うよ☆
>>27
相談内容から、笑えるネタ絵を期待して開いたのに……
謝罪と賠償(=つづき)を要求する!w
- 29 :
- >>25
わーアヤメさんだー
最後どうなるのかwktk
>>27
お、久しぶりの投下かな。乙
ふぁいやーさんには「人のふり見て我がふり治せ」ということわざを伝授しようふひひ
- 30 :
- >人のふり見て我がふり治せ
彼女は別に治すとこなくね?www
- 31 :
- それからの道のりは、いたく平坦ですこぶる順調だった。正確には階段を上がっているわけで平坦ではないのだが、
それは言葉のアヤというもので、ツッコまずにスルーするのが大人の対応というものだろう。
2階から3階へ上がったところで複数のキメラの待ち伏せを受けたが、私の心強いバディ達(少し気に入ってしまった)
が早業で葬ってしまい、そのまま4階へ。
そして現在は、屋上へ続く階段を探して4階をさ迷っているところである。そう、学校の屋上というのは概してレアな
場所なのだ。建物に階段はいくつもあるというのに、屋上へ繋がる階段は1、2か所しかないなんてのはよくある話だ。
私の通った中学高校も例に漏れずそんな構造になっていた。
とまあこんなどうでもいいことをつらつらと解説しつつ歩けるほど、二人の仲間が脇を固めてくれている安心感は
大きいわけである。こんなことを言っている間にも、窓を割って侵入してきたキメラ(猿のような姿だが)が3匹、あっと
言う間に血祭りに上がっていた。
「ねぇシルスクさん? 私こんな姿のキメラって初めて見たんだけど」
「あ? ああ、このゴリ猿な。こいつらはキメラとは別物だ。造られ方からして違うはずだ」
「あらそうなの? どう違うのかしら」
「フン、知ってどうする。説明するのもめんどくさい。適当に想像するなりしてろ」
「ドクトルJ〜、シルスクさんが冷たーい」
と乙女の声で言いながらアヤメさんがトタトタと駆けよってくる。もとのキャラがキャラなので逆に恐怖だ。いい感じに
あしらっておこう。
「ああ、ほら。シルスクさんはツンデレなんだよきっと」
「ということは、そのうちデレるのかしら?」
「たぶん、ね」
少し先を歩いているシルスクの背中が微妙に殺気立った気もするが、気付かないふりでいるのがお互いの幸せのためか
もしれない。と思ったのだが。
「おい、ドクトルJ」
怖い顔で振り向かれてしまった。殴られるのだろうか。グーで殴られるのだろうか。いやしかしツンデレと言われたくら
いでそこまでカチンとく――
「階段だ。屋上に出られるぞ」
- 32 :
- シルスクの指さした先には、確かに階段があった。その階段の突きあたりには、少し重そうな金属製のドア。間違いなく
屋上へ続く扉だろう。
この扉の向こうに、彼はいる。私を待っている。10年間の苦しみに終わりをもたらすそのために。
私もまた、そのために今日ここまでやって来た。辛い道のり……というほど辛い道のりではなかったが、それは隣の二人
の力があったからこそ。私一人では、命をいくつ失ってもここにはたどり着けなかったことだろう。
ここにたどり着いて、今更思う。私はどんな決着を思い描いて、ここにいるのだろうか。私の望む理想の終わり方とは
どんな形なのだろうか。なんたる無思慮と罵られるかもしれないが、そんなものには考えも至らなかった。ただ彼をどうに
かしなければ。私への復讐心のみで生きているようなあの男をなんとかしてやらなければ。その思いだけでここに来たのだ。
わからない。どんな終わりが理想なのか。求められる決着の着け方とは。わからない。
それでも今、確実にひとつだけ言えることがある。今の私は、どうしようもなく死ぬのが怖い。死にたくない。惜しげも
なく危険な能力を濫用していた頃の自分が、遠い過去のことのように。
どうしてこんな気持ちになるのか、それもよくわからない。ただ本当に、私は死ぬわけにはいかないのだと、それだけが
はっきりこの心にうぐえへっ!?
「ボケッとしてんなドクトルJ! とんでもないのが来やがった!」
背中、そして直後に体前面まんべんなく鈍い痛みが走り、同時に怒声が聞こえた。どうやらシルスクが私の背中を思いっ
きり蹴飛ばしたようだ。倒れ込んだまま振り返って確認すると、それは危機回避のやむを得ない手段であり、シルスクなり
の優しさだったことを悟った。
それは一見して黒豹のようだった。だがご多分に漏れず体中の筋肉は異常に発達。バイソンのような体格になっているが、
それでいてしなやかさも失われていない。並のキメラやケルベロスですら赤ん坊に見えるレベルの危険さを全身から発散
させる異形の怪物がそこにいた。
「ドクトルJ! こいつはさすがにめんどそうだ! 俺とこの殺人鬼でどうにかする! あんたはさっさと上がれ!」
「あらららシルスクさんと私死亡フラグ全開。巻き込まないでもらえます?」
「黙れ殺人鬼俺だってほんとならこっちから願い下げだ! だがこいつは一人じゃ無理だ! 元が黒豹だぞってよっと!」
まるで協力関係を築けていない中、黒豹の俊敏な飛びかかりをこれまた俊敏な身のこなしで回避するシルスク。黒豹の
飛びかかりを回避できる人間が知り合いにいることに驚きを隠せないよ私は。
「驚きの表情を隠せない人がギャラリーにいるのはテンション上がるけど……ドクトルJ、ここは素直に上がった方がよくっ
てよ」
「ほら、殺人鬼もこう言ってる! さっさと行け! どうせ俺の用事はあんたの後なんだ! 一緒に行ったって暇するんだよ!」
黒豹を射R眼光で見据えたまま、シルスクは促してくる。目で会話はできなかった。
アヤメさんを見ると。こちらを見返して、軽くウィンクをよこしてくれた。それが余裕を演出し、私を安心して先に向かわ
せるためのポーズとしての行為だとすれば。
まるで母親か姉のようで、なんとも素敵な女性じゃないか。
- 33 :
- 黒豹の黒豹らしからぬ野太い咆哮を背中に聞きながら、最後の階段を駆け昇る。重たそうな金属製の扉に手をかける。
まさか鍵がかかっているとかいうオチはないかと内心ヒヤヒヤしていたがそんなこともなく、また見た目ほどの重量感も
なく、意外にあっさりとその扉は開いた。
実際には大した時間でもなかったはずだが、随分久しぶりに外に出られたような感覚だった。
濃紫の夜空が広がっていた。少なめの明かりのおかげで、星も綺麗に輝いていた。
少し暑くなりはじめた季節とは言え、この時間になれば涼しさも戻る。風もそよそよと吹いて、心地よい空気。
そんな穏やかな大気の中に、男の背中があった。
1歩、2歩、3歩と。少しずつ彼の元へと向かう。相変わらず何かを錯誤したような黒ずくめのその背中は、残念ながら
私へと何一つ語りかけてはこなかった。だから私から、その背中へと声をかける。
「約束通り来たぞ。牧島」
「ああ。思ったよりは早かったな」
「仲間がいたからな。でもここにたどり着いて思ったよ」
彼は振り返らない。背を向けたまま、だがしっかりと会話にはなっている。だから私はそのままで続けることにした。
「君はもともと私がちゃんとここにたどり着けるようにするつもりだったんだろう? 途中でわけのわからん死に方は
しないように。私の死にざまを見届ける、あるいはその手で私に止めを刺す。それが君の望む終わりの形だろうからね」
そうなのだ。冷静に考えればそのはずなのだ。私への復讐心で動いている彼が、その復讐を最初から最後まで使いっ走り
のキメラたちにやらせるはずはないだろう。私の負傷具合には幅があったかもしれないが、少なくとも彼は私の命が欲しい
わけで、死体が欲しいわけではないのだ。
それが的を射ているのかどうかは定かではない。彼の背中からはなんの言葉も返ってこなかった。代わりに別の問いが
飛んできた。
「比留間の研究所で、あれを視たんだろ?」
核心だ。だがそうだ。今日この日のことなんてどうだっていい。彼の思惑いかんにかかわらず、私はこうしてここまで
来られたのだ。重要なのは今日なんていう一日のことではない。その一日を幾度も繰り返した、10年という長い歳月が
育んだ束縛と復讐心の清算こそが目的なのだ。今日という一日は、その10年の中の単なる一日に過ぎない。
ここからの問答は、その清算の仕方を決定づける極めて重要なやり取りになるのだろう。どんな終わりを望み、理想と
するか。それすらもあやふやなままで、私は待ったも失敗も許されない背水に立つのだ。
今もまだわからない。どんな結末が。どうして私は死を恐れ出したのか。きっと喉元まで出かかっている答えは、どうし
ても喉元から先へと出てこようとはしない。
だから今の私にできることをするだけだ。神宮寺秀祐という人間として、誰にも恥じることのない姿を見せてやるだけだ。
- 34 :
- 「ああ、視たよ」
「何か感じたことはあるか?」
あの時私が感じたこと。いくつもある。
「たくさんあるとも」
そう。いくつもあるんだ。たくさんあるんだよ。
「言ってみろ」
「ひとつめ。美希はとても賢いのに、肝心なところでおバカだ」
なまじ飲み込みがよくて頭の回転も速いばかりに、自分の身に起きた能力という異変をあっさり受け入れて。あろうこと
か私のためにそれを使ったりなんて。そんなことしなければ、今も生きていただろうに。
「……そうだな。姉さんはバカだよ。……まだあるんだろ?」
「ふたつめ。美希はほんとにわがままだ。まあ知ってはいたが」
私を助ける代わりに私の前からいなくなるなんて。それでいてご丁寧に3つも願い事をして私を縛りつけようなんて。
ずるい。本当にずるい。
「……次で最後にしよう」
「わかった。その代わり長くなるぞ」
「好きにしろ。お前の最期の言葉として聞き届けてやるさ」
あくまで背中を向けたまま。それでも牧島は、私のこのもはや誰に話すこともできない亡き妻への思いを、感情を揺る
がせることもなく静かに聞いていた。いや、聞いてくれていた。
「みっつめ。美希はバカだし、わがままだ。そうは思っても、愛した女が命を落としてまで自分を助けてくれた。そのこと
が嬉しいのも確かだ。あの日消えかけた私の命は、美希の命とひとつになることで蘇った。だからね」
息が詰まった。呼吸することも忘れていた。喉元につっかえていた答えが、見えたような気がした。
「だから私の命の価値は、あの過去を視た時から私の中で大きく変化したんだよ。私は今、死ぬのが恐ろしく怖いんだ。
生物は本能的に死を恐れるというそれ以上に死が怖い。死にたくない。いや、死んではいけないとさえ思う」
牧島の背中が少しだけ、揺らいだように見えた。
「10年前のあの日以来、私は自分の生に価値が見出せなかった。大切なものは全て失ってしまった。正直さっさと死んで
しまいたかった。早く妻と娘のところに行きたいとそう思っていた。でもそんな願いは間違っていた」
ああ、そうだ。これが答え。こんなにも簡単で、明確な唯一の答えだ。
「矛盾した願いだった。行けるはずもない。行ったって会えるわけがない。10年前のあの日から、美希の命はずっと
私とともにあるのだから。命に形があるのならば、私の命の半分以上は美希の分で構成されているに違いないさ。非科学だ
オカルトだ電波だと笑いたければ笑ってくれて構わない。でも愛する妻が命を以って繋いでくれたこの命だ。無下に捨てる
ような真似はもうしない。長くなったが要約すると」
要約するとなんだろうか。私は結局――
「美希がいない。それだけで私の10年間は本当にからっぽだった。でも真実を知った今は……少しだけ幸せだ。生きていて
よかった」
- 35 :
- 本当に。生きていてよかった。生きている限り、これからもずっとそう思える。生きている限り、美希と一緒なんだと。
「死ぬ間際になって、『生きていてよかった』か。うらやましいことだな」
感傷には浸れない。今度は彼のターンなのだろう。満を持してと言うべきタイミングで、黒い背中が翻った。
「死ぬのが怖くなったか。それはちょうどいい。さぞかし死に物狂いで抵抗してくれるんだろうな」
校舎の下から見上げた時と同様、やはり今日はサングラスをしていない。目元が露わになっていた。暗く沈みこんだような
その瞳からは、もう光を感じられなかった。
「お前の言うとおりだ。姉さんは本当にバカだよ。お前なんかを助けて自分はコロリと逝っちまって。そんなバカでもな、
僕にとっては大切な大切なたったひとりの家族だったんだよ! 大好きな大好きな姉さんだったんだよ!」
感情が迸る。姉への想いと私への復讐心と憎悪で煮えたぎる血走った瞳を私に向けて。
彼はこの10年間、こんな目をして過ごしてきたのだろうか。あの黒いサングラスの下に、こんな負の感情で溢れかえる
目をひた隠して生きてきたのだろうか。ここで私への復讐を果たさなければ、彼の10年間は無意味なものになってしまう
のだろうか。
「お前のせいで姉さんは死んだよ! お前のせいで! だから僕はお前が憎くて仕方ないんだよ」
言いながら胸元から取り出したのは。まずい。拳銃だ。距離10メートルほど。素人なら外す距離か……?
「さあ神宮寺。死ぬのが怖いんだろ? だったら命乞いでもしてみせろ」
命乞い、か。そうだな。たとえ彼の10年間が意味のないものになったとしても。彼の復讐心を打ち砕いてやる。復讐を
果たさせないまま、その復讐心を叩き潰す。
「牧島。君の復讐は絶対に遂げられない。遂げられるわけがない」
「なんだと」
「さっきも言ったが。美希は命を以って私の命を助けてくれた。今の私の命は美希の命でもある」
「ハッハッ! 非科学だオカルトだ電波だ! 本気で言ってるのか神宮寺」
割と本気だが、ばっさり言われるとそうでしかないのが辛いところだ。だが怯んでもいられない。
「結構本気だけどな。まあいい。あの日美希は私を助けてくれること、自分の命を捨ててでも私の命を繋ぐことを自分で
選んだ。あの日の美希の選択、想い。その結果として今ここにいる私の命を、君は簡単に奪えるのか?」
牧島は無言。たたみかける。
「美希の選択と想いを無下にできるのか? そんな権利が君にあるのか? 君からすれば私はクズなのかもしれないが、美希
にとっては大切な存在だったのかもしれない。そうであれば嬉しいね。あの日の美希の死を、銃弾一発で無駄死ににする気か?」
答えはない。でもその表情にはかすかな揺らぎが見えた。
「もう一度、何度でも言う。君の復讐は絶対に叶わない。君に私は殺せない。君の復讐心が美希への想いに起因するもの
である限り、君は絶対に、私を殺せない。ああ、そうだよ。私がずっと矛盾した願いを抱き続けていたように」
君の私に対する復讐心は、その心に芽生えた瞬間から矛盾を孕んでいたんだよ。最後にそう告げた時、銃声が一発響いた。
それは私にかすることもなく、背後の虚空へと吸い込まれていったようだった。
- 36 :
- 「神宮寺、秀祐……お前は本当に嫌な、憎い男だ。ずるい奴だ」
「ああ、知ってるよ。すまないな。でもそんな男でも、美希は愛してくれたらしい」
きっかり4秒の間の後、牧島は拳銃を静かに、ためらいながらも降ろした。
「僕は、自分が間違っていたとは思わない。姉さんはお前に殺されたも同然だ。だけど……だけどお前の言うこともわか
らなくない。オカルト的とは言え、今のお前の命は姉さんが繋いだものだってのは100%疑いようもない」
復讐を遂げさせることなく、復讐心を消す。それで彼の10年間が無意味なものになるかどうかは後ほど考えるとして、
ひとまず無事に終えられた。そう思った。
「僕はこの10年間、いろいろなものを犠牲にした。人間として持っているべきものの多くを捨てた。道徳観念、倫理観
なんてのはもう真っ先にだ。ガーゴイルってのは、その賜物のひとつだよ」
彼の色と光を失った瞳は相変わらずのままだった。それはブラックホールのように、どこまでも落ち沈む黒い穴のようだった。
「それでも結局、このザマだ。感情に訴えかけられてほだされ、理性で制御されちまう。それでもお前が憎いという気持
ちが消えるわけじゃない。殺してやりたいという衝動がおさまるわけじゃない」
言いながら牧島は拳銃を持った右手を――彼のこめかみに押し当てた。途端、心臓の鼓動がバクンと跳ねあがる。
想像しなかったわけじゃない。それでも、こんな光景は見たくなかった。
「やめろ」
それしか言えない。何も浮かばない。語彙のなさが情けない。もっと気の利いたことを言えれば。
「牧島勇希! 銃を降ろせ! 降ろさないとRぞ!」
そう、こんな風に……え?
「修羅場を抜けたらまた修羅場っと。お待たせドクトルJ。なんか大変そうねぇ」
「アヤメさん? シルスクさん?」
このタイミングで。グッドなんだかバッドなんだかわからないが。あの黒豹をくぐり抜けてきたのだ。無事再会の喜び
に浸りたいが。
「牧島勇希! さっさと銃を捨てろ!」
シルスクが全開すぎて声もかけられない。牧島は牧島で、来訪者には目もくれずずっと私を見つめている。それはそうだ
ろう。彼は私の言葉を待っているのだろう。
「牧島。君が死んでどうなる。何か意味があるか?」
ニヤリと。あのいつもの陰湿な笑みを浮かべた。
「いろいろなものを捨ててきたよ。でも結局、このどうしようもなく邪魔な理性を捨てなきゃ、僕の望みは叶わない」
彼の意図が読めない。拳銃で頭を撃ち抜けば死ぬだけだ。理性ではなく物理的に脳みそが吹き飛ぶだけだと――
甲高く耳をつんざく火薬の音。夜の闇の中に明るく散る火花。噴き出る真っ赤な液体。がくんと膝から崩れ落ちる、その体。
あっさりと。あまりにあっさりと。なんのためらいもなく引き金を引いてしまった。
あまりにあっけなく、彼は死んでしまった。まるで、最初からこうするつもりだったかのように。その覚悟をしてい
たかのように。
- 37 :
- 「チッ、くっそ……やっちまった……まずいなこいつは」
隣で誰かがそんな悪態を吐いていた。ああ、本当に。やってしまったよ。彼が死ぬことを考えなかったわけではなかった。
それでもこうして目の前で死なれてしまっては。だが待て。死んだと決まってはいない。いやほぼ即死だろうが、まだ息が
あるかもしれない。そう思って牧島に近づこうした。
「近づくな! というよりさっさとここから離れろ!」
シルスクがそう叫んで静止してきた。それこそまた鬼の形相だ。しかし、一体どういうことだろうか。と、同じ疑問を
持った女性がいたらしい。
「どういうことかしら? シルスクさん」
「説明しなきゃダメなのか!? とにかく早く……ってヤバい!」
鬼の形相から、阿修羅のような形相になるシルスク。その視線の先にあるのは牧島の死体……のはずだったが。
それは動いていた。というよりは蠢いていた、という表現が最適な、気味の悪いぜん動運動を繰り返していた。頭、胴体、
腕、脚。それぞれが別の芋虫のように激しくうねり、原型をとどめないほど変形、肥大が始まっていた。
「なんなんだ、これ……」
「牧島勇希の昼間能力だ。ガーゴイル、強化型キメラ、ケルベロス、さっきのゴリ猿はやつのこの能力で造られたもんだ」
「昼間能力? 今は夜よねぇ」
「うちでつけた能力名は『血中ウィルス』っつってな。血の中に特殊なウィルスを作ってんだ。ウィルスだからしばらく
は潜伏期間みたいな感じで残る。だから夜でも有効なんじゃないかというのがうちの専門家の見解だが、よくはわからん」
シルスク、解説ありがとう。わかったようでわからないことも多いが、とりあえず牧島の昼間能力は相当にエグいもの
のようだ。そしてそうこうしてる間にも牧島の死体の変異はますます進行、むしろ峠を越えたような雰囲気だった。
「あーあ。もう完成しちまったって感じだな」
シルスクも同じ印象を持ったらしい。全体のグロテスクな蠢動は終わっていた。全身は赤黒く巨大になり、背中にはコウ
モリを3倍ぐらい立派で凶悪にしたような翼。それは以前に見たあれよりも数倍は凶悪な、正真正銘の悪魔だった。前回のが
デーモンなら、これはアークデーモンとでもいったところか。
強靭に膨れ上がった四肢がのそりと動く。牧島勇希という死者の体を借りて顕現した悪魔が、ゆらりとその脚を大地に
つける。つり上がった目。鋭くとがった鼻。大きく裂けた口と、鋭い牙。面影など感じようもなかった。
「どーすんのこれ」
「逃げるが勝ちと行きたいがな。ほっといてもロクなことにならんだろ」
そう言ってシルスクはダガーを両手に構える。アヤメさんも左手に拳銃、右手にナイフの構え。倒すつもりなのだ、あれを。
ただの人間が敵うとは到底思えないあれを。もはや見る影もないが、もとは牧島だったあれを。
『グギャアアァァァアァァァアアァァアアアァァァ!』
と、周囲の音が一切聞こえなくなるほどの悪魔の咆哮。それを合図に、二つの影が動く。悪魔の左右から。腕ではなく
剣へと変型した両腕を、二人ともするりするりと危なげなくかわしながら。かたや銃弾を何発も撃ちこみ、かたやどこから
取り出すのかナイフを目にもとまらぬ早業で次々と投げ込む。
- 38 :
- それが以前と同様の出来の悪魔だったならば、あっという間に勝負がついていたのかもしれない。だが今回のが以前より
明らかに手強いだろうことは、見た目の凶悪さの桁違いぶりからもはっきりしていた。こうして手強くなることがわかって
いたから、シルスクも牧島が死ぬことを避けようとしていたのだろう。
「表皮が硬すぎる! ナイフが刺さりもしない。俺が武器の手入れ怠ってるみたいじゃねえか」
「銃弾もまるで通らないわねぇ。ロケットランチャーで吹き飛ばすくらいしかなさそうよ」
「んなもん今あるか!」
「じゃお手上げねぇ」
いったん退いた二人のそんなやり取りが聞こえてくる。やはり厳しいようだ。確かに銃弾もナイフも悪魔の足元に転がっ
ている。全部弾かれたのだろう。
さまざまなフィクションで、装甲が硬くて容易にダメージが与えられない敵というのは往々にして現れる。そういう敵
が出現した時、取られる対処はどういうものがあるか。
アヤメさんが言ったように、圧倒的な破壊力で装甲もろとも吹き飛ばすのも手段のひとつだ。あるいは何らかの方法で装甲
を弱体化させるのも考えられる。また、さらに別の手としては……
「中から攻めよう」
二人が私に振り向く気配。意味を測りかねているのだろう。
「私の能力を使って倒す。だがあまりに動かれると使えない。さっきみたいに一定位置から動かないようにさせてくれないか」
シルスクは相変わらずピンと来てなさそうな顔をする中、アヤメさんは理解してくれた。
「あ、そっかぁ。確かにあなたの能力なら外皮の硬さなんて関係ないわねぇ」
「……確実に仕留められるんだろうな?」
「確実とは言いたくないね。8割がた、と思ってほしい」
「……フン。ま、賭けとしちゃ十分だな。とりあえずあいつをあまり動き回らないようにすりゃいいんだなっておいおいおい!」
焦ったような声と同時に、シルスクは駆けだしていた。見れば、悪魔がはばたき、今にも飛び立とうとしている。羽根が
あるんだからそりゃ飛ぶのだろうが、動き回らせるなという条件を考えれば最悪の状態だ。
少し遅れて追うアヤメさんが、途中で何かを拾っていた。シルスクが落としたもののようだが、それが何かまでは判別
できない。
十分に揚力を溜めた悪魔が、大地を蹴る。その体が夜空に舞いあがる。まったく同時に、一直線に駆ける弾丸もまた、それ
目がけて大きく跳躍する。どんな攻撃も通さない硬質の皮膚に、臆することなく飛び付き絡みつく。悪魔の上昇は止まらず。
それでも彼は決して離れない。鋭い剣となった両腕の攻撃が届かない安地に潜り込み、悪魔とともに空に昇る。
だかそこからどうするつもりか。もしかして考えなしか。それならそれでまたむしろ男前だが。そう思った矢先。
「そいつを撃ってこい! 狭霧アヤメ!」
指示が飛んだ。見れば、アヤメさんは悪魔に向かって銃らしきものを構えている。さっき拾っていたあれだ。改めて見れば、
それには見覚えがあった。
- 39 :
- パシュンと空気漏れのような軽い発砲音。飛びだすのは弾丸ではなく、一本のワイヤー。それは過たず夜空の悪魔へと
伸びていく。そのワイヤーの先端が悪魔の表皮に刺さ……らない。どういう作戦かわからないが、失敗したのか。そう思った。
「よし! もう一度トリガーを引け! さっさと!」
弾かれたワイヤーを、悪魔と空中戦を演じる男がしっかりと掴んでいた。左脚で悪魔の首、右脚で右脇の下をしっかりと
ロックし、上半身はフリーという曲芸みたいな格好で。まったく、どういう目と筋力と反射神経をもってすればあんな芸当が
できるのかまるでわからない。人体の神秘があそこに極まっている気がする。
そしてさらに状況は動く。シルスクの指示通りに引き金を引いたのだろうアヤメさんもまた、オートで巻き取られるワイヤー
に引っ張られる格好で上空に昇る。2人の人並み外れた人間と、1体の元人間だった異形が、星明かりが散らばる夜空で
交差していた。
しかしだ。あそこからどうするつもりか。悪魔は2人を振り落とそうと体を揺らす。あれでは私の能力は使えない。だが
あれを地上にひきずり下ろすのはあの2人がかりでも無理だろう。やはり考えなしか。
いや、信じよう。なにせ彼らは2人とも、私の命を助けてくれた恩人なのだ。今日もまた、彼らのおかげで私は無傷でこ
こまで来られたのだ。必ず何かやってくれる。
だから私も、遠くで眺めてなんていられない。彼らは余裕そうに見えて、命を落とすかどうかギリギリの死闘を繰り広げ
ているのだ。言いだしっぺの私が、止めを刺すはずの私が、安全地帯でボーッとしているのは道理が通らない。
1歩踏み出す。同時に、上空から屋上の床へとワイヤーが伸びてきた。約10秒の間があって2本目が、さらに約10秒
間隔でさらに2本、合計4本のワイヤーが、上空から床へと伸びた。そして声が響いた。
「注文通り、固定してやったからな! あとはあんた次第だ! できるだけ早くケリをつけてくれよ!」
その言葉に上空を見上げれば。4本のワイヤーでがんじがらめになった悪魔は、確かに固定されていた。おそらく2人を
振り落とそうと身を回転させたせいで、むしろ自分でワイヤーを巻き付けた格好になったのだろう。
しかしまさか、空中で固定してしまうとは。シルスクもアヤメさんも、上空にいる間にこの方法を思いついたのだろうか。
上空で悪魔とともにワイヤーに絡め取られて苦しそうな彼らだが、その姿のなんとかっこいいことか。ヒーローとはああいう
存在のことを言うのだと思う。
さあ、後は私の仕事だ。感慨にふける時間はない。これからR相手が元は愛した女性の弟だったことなんて、今考える
ことではない。そもそも、もうそんな姿は見る影もないのだし。
満天の星空を背景に磔になった哀れな悪魔へと、この右手をかざす。無言で行こうかと思ったが、やっぱりやめよう。締ま
らない。
「心音玩弄【フェイタル・スクリーマー】、発動」
詠唱。同時に、視界はモノクロに反転する。その中に、強靭な悪魔の胸元の、規則的に拍動する心臓だけが赤々と輝いていた。
それがある限り、どれだけ強靭な体を持とうと。どれだけ硬い骨格を持とうと。この能力には抗えない。
BPM:1。そう設定して、集中を解く。即死には至らない。だが長くももたない。
抵抗がゆるんだことを感じたのだろう。シルスクとアヤメさんは固定していたワイヤーを解放し、脱力した悪魔とともに
落っこちてきた。
「ふひゅー。ほんとにやってくれたな」
「空の上超怖いわぁ」
疲れも感じさせず、2人とも生き生きしている。つくづく凄くて怖い人たち。
- 40 :
- 悪魔はまだ動いていた。もはや満足に立つこともできないのだろうが、死に切ってもいない。
さすがにここまで姿が変貌してしまっては、罪悪感は湧かなかった。これはすでに牧島勇希ではない。牧島勇希だった何
かだ。
だが。彼は理性という制御を外すため、この姿になることを選んだのだ。こうなることがわかっていたのだ。こんな姿に
なってまで、私への復讐を成し遂げようとしたのだ。10年間蓄積してきた憎悪と怒りを、こんな形で昇華させたのだ。
凄まじい、凄まじい執念だ。
目の前で、悪魔は最後の力で立ち上がる。それが動物的本能か、それとももっと別の何かか、知る由もない。ゆらりと、
また倒れそうな足取りで、私に近づいてくる。断末魔の「致命の絶叫」がこだまする。直後。腹部から背中へと、感じたこと
のない鋭い痛み。目の前には、再び倒れ込みもう動かない悪魔。その右腕が。私の腹に。深々と。突き刺さって。
◆ ◆ ◆
「……尖崎くん。君まだ入院してたんだね。しかも相部屋とか」
「いやいやいやいやお恥ずかしい限りですようふふう。ドクトルJ主任も随分派手にお怪我されたようじゃありませんかあ」
「うん、まあね。あれ、尖崎くんだいぶ痩せたね」
「いやいやいやいやお恥ずかしい限りですようふふう。入院ついでに痩せなさいなんて言われてロクなもん食べてないもんで
すからああはあは。大きなのっぽのお世話ってもんですう」
随分肉分が落ちて普通体型になりつつある尖崎くん(誰かわからない? まあそれならそれでいいや)のかなり解読不能
な台詞を左耳で聞きつつ、病室の白い天井を見上げた。まあ寝ているのだから見上げるまでもなく自然とそこに目が行く。
なぜ当然のように生き延びているばかりか、のっけからくだらない無駄話なんかして登場しているのか、という声が聞こえ
てきそうだが、それは的外れだと言わせてもらいたい。なぜなら私にも今のところさっぱりわからないからだ。目を覚まし
た時には、この病院のこの病室のこのベッドの上だった。
あの日から5日が経っているらしい。全て終わった、のだろう。終わりの記憶が曖昧すぎて、その実感さえあやふやだ。
「痛つ!」
それでも、腹部に残るこの痛みこそが、何よりの証拠なのだ。私は確かにあの場にいて。牧島という男は死んで。私たち
の因縁は、そこで断ち切られた。この痛みは、あの男が最後まで持ち続けた執念。その恨みのこもった一撃だった。傷が治っ
てもこの痛みは生涯忘れることはないだろう。
本当は彼には言わなければいけないことがあった。彼が執拗に私を追わなければ、私は10年前の真実をきっと永遠に
知ることはなかっただろう。逃げ続け、避け続けていたのだから。
妻の死の真相を知り、今自分の命を大事に思うこんな気持ちになれたのは、彼のおかげと言ってもいいのかもしれない。
私の願いが実はとうの昔から叶っていたことに気付けたのもそうだ。
だから、ありがとう。そう言いたい。身勝手なのはわかっている。それでも言わせてもらう。
そしてもう一人。全て終わった今だからこそ、言わなければならない人がいる。
ずっと勘違いをしていた。遠くに行ってしまったと思っていた。いつも誰よりもそばにいたのにな。知らなくてごめんな。
「美希、ありがとう。俺は今、少しだけ幸せだ」
おわり
- 41 :
- …ふう。終わったー
一年以上やってたんですねー。最後まで飽きずに読んでくださった方ほんとにありがとう
話の終わらせ方だけ決めて書いてたので、途中でいろいろ変えたりとかもしてました
捨てた伏線とかもあったり。大して伏線自体張ってないけどw
さてひとまずドクトルJ主役の話は終わりです。ですが僕にはすでに忘れ去られてると思われる
もうひとつの作品があるので、変わらずこちらで書かせてもらうと思います
後は気楽に小ネタとか絵とか描きたいなと思ってます
今回隊長とアヤメさんには頑張ってもらいました。大好きな二人です。アヤメさんまるっきりいい人っぽく
なっちゃいましたがw
- 42 :
- 完結お疲れ様です
悲しい終わり方でしたがドクトルカッコ良かった
砂にも期待
あとアヤメさん可愛い
- 43 :
- うおお!隊長すげー!アヤメさんかわいい!
少し悲しい終わり方でしたがドクトルが健在で良かったです。
随分と長い期間楽しませてもらいました。この大作を完結までお疲れさまでした。
- 44 :
- おおー完結乙でした! 面白かったです!
ドクトル最後まで味のあるオヤジだった。こういうオヤジ大好きですw
隊長やアヤメさんも全然違和感なかったしでいい見せ場だったなー
見つめ合うとの方も続き期待です。
- 45 :
- 投下します。SS書くの自体が久しぶりになってるや……。
- 46 :
-
――トンッ
何かが走り抜ける音が流れていく。
夜の闇を纏うかのように人の形をした者が4つ、森を走り抜けた。
身のこなしが全員特殊な訓練を受けたそれだった。
やがて先頭を走る男が止まる。
男が見上げるその正面には、分厚い玄関が遮るかの様にそびえたっている。
しばらく付近の様子を眺め、黒髪を適当に切っただけのざんばら髪を掻き、面倒くさそうに男は口を開く。
その声はまだ、中学生位の声変りもしていない高音だった。
「リーリン、どうだ?」
声を掛けられた、リーリンと呼ばれた恐らく男と同様中学生位の少女は一つ頷き、耳を澄ます。
ツインテールにした黒髪が揺れ、括りつけられた音のならない鈴が揺れる。
「……人は一人だけ。情報通りね。でも今回の殺害対象は気が乗らないわね?
普通の女子中学生でしょ。どう思う? ロック」
リリーは顔を体の大きな男に向ける。その巨体は2mを超えるが、
その顔つき自体は普通の少年のものだった。
ロックと呼ばれた少年はゆっくりと口を開く。
「僕たちは“機関”の任務を忠実に守るだけだよ」
その答えにリリーはため息を吐き、ロックと呼ばれた少年から別の少女へ視線を移す。
そこには栗色のショートカットにした髪の少女がポツンと立っている。
「ロックの言う通り。私達は“機関”の子供達。機関の任務に意見は挟まない」
「……はあ、ウインドもか。しょうがないわね。じゃ、お願いね。ブレイクエンド」
「ああ、分かった。少し下がってろ」
先ほどまで先頭で走っていた、ブレイクエンドと呼ばれた少年は軽く右手を扉に触れる。
たったそれだけの事。それだけで右手が触れた部分が、扉の一部が“消滅した”
いかに頑丈な鍵がついていようと関係ない。彼の両手が触れた部分が消滅する。
それが、ブレイクエンドと呼ばれた少年の夜の能力だった。
「さ、終わったぞ。入るか」
ブレイクエンドはそう声を掛け、扉を開ける。
音もなく開けた扉の奥に4人は順番に入っていく。
夜の闇は建物の中に入ることでさらに増す。
電気の一つもつけていない廊下を4人は音もたてず進む。
目標の位置はすでに把握済、その位置を知るリーリンが先頭に立つ。
やがて、何も変哲のない木の扉の前に立ち、リーリンは足を止める。
後ろを振り向き、ブレイクエンドに目だけで合図を送り、
ゆっくりと扉のノブに手を掛ける。
再び音もなく扉が開き、同時に色が写り込む。
その部屋には明かりがともされていた。
「……起きてたか」
ブレイクエンドは口の中だけで一人ごちりながら、リーリンを押しのけ
任務を遂行するため突入した。対象を殺害するのは自分の役目だと思いながら。
- 47 :
-
部屋の中は電球の淡い光が周囲を照らし、視覚だけで容易に部屋の中が観察できた。
ごく普通の部屋――本棚には漫画や小説のような本が並び、机にはぬいぐるみが置かれている。
そんな普通の部屋の角にシングルベッドが一つ、置かれていた。
当然、そこには一人の人間――恐らくブレイクエンドと同年齢程度の少女が身を起こし、
突然入ってきた不審者を見ている。
その視線にブレイクエンドは一瞬止まる。
――その少女は、流れるような黒髪を肩口まで伸ばし、白い肌は陶器を思わせた。
ほっそりとした体つきに、どこか視点の定まらないはっきりした目。
十人見れば十人可愛いと答えるような容姿の少女――これが、今回の殺害対象だった。
“機関”の命令書には、このごく普通の家庭で育った少女を殺害する事が書かれていた。
彼女の能力は未発現。ただし、将来発現したときには世界を破滅させる程の能力であること。
また、機関でも利用できる能力ではないこと。
以上のことが殺害処分対象の理由。まだ起こっていない未来の事象を理由にした殺害命令だった。
ブレイクエンドはそこまで思い返し、しかし特別な感傷を抱かず任務を遂行するため、
さらに一歩部屋に踏み込む。後ろではリーリン達も踏み込んでいるのが気配で分る。
いままで任務でも同じ事はあった。せめて苦しませず一撃でR。
その想いの下、ブレイクエンドはさらに一歩踏み込もうとした時、目の前の少女は始めて口を開いた。
その言葉は今殺されようとしている人の言葉としては場違いな内容だった。
「あなたの名前は……?」
その声は細く、しかしはっきりと聞こえ、今、この場では余りに無意味な問い。
故に、ブレイクエンドはその言葉に答える。
「俺は宿木 壊。……おまえの名は?」
「一華、牡丹 一華。そう、あなたも私を壊しにきたのでしょう?」
一華と名乗った少女にブレイクエンドは頷きを持って返し、腰にさしていたナイフを抜く。
同時に後ろで待機していたリーリンの小声で叱る声が聴こえた。
「ちょっと、ブレイクエンド。任務中は本名出すの厳禁よ」
「分かってる。だが、これから死ぬ少女相手だ。
せめて、恨む相手の名前くらい教えても構わないだろう?」
「……そう言う所甘いわよね。そう言うのが任務失敗につながっても知らないわよ」
リーリンの言葉を無視し、ブレイクエンドは一歩、また一歩近づいていく。
一華はそれを見ても反応しない。いや、静かにブレイクエンドの正面に向き直り、
ただ、座って彼を待っている。まるで殺してくれるのを待っているかの様に。
――ただの平凡な家庭で育った少女が、今殺されようとしているのを受け入れている。
その事実にブレイクエンドは何かがおかしいと思う。
この少女は本当に“平凡な家庭に生まれた少女”なのか、と。
一瞬の逡巡がブレイクエンドの心に宿る。
何かがおかしい、と。
――答えは音として帰ってくる。
「殺されたら困るんだけど。その子は僕の大事な荷物なんだけどな。今回の依頼のね」
- 48 :
-
その声に最初に反応したのはリーリンだった。
瞬間的に両手にハンドガンを持ち、発砲。
その銃弾は声がした方向へ吸い込まれるように向かい、壁にぶつかり火花を散らす。
いや、それは壁ではなく、そこに埋め込まれたスピーカーだった。
「っな!! これは……罠!?」
「あぶないなあ。子供がそんな危ないおもちゃをもってるんじゃない……ぞっ!」
全く別の方向から声が聞こえ、同時にリーリンの体が浮き上がる。
――いや、正確には見えない相手に投げ飛ばされていた。
不意の出来事にリーリンは対応をとることが全くできなかった。
先ほど銃弾がめりこんだ壁に背中を強打し頭から落ちる。
そのまま崩れるように倒れ、そこから動く気配がない。
「……敵だ! ロック!」
だが、倒れた仲間を無視するかのようにブレイクエンドは声を上げる。
同時、ブレイクエンドの号令に応じるかのようにロックは能力を行使する。
瞬間、壁が崩れ、その素材が拳大の礫となる。
空中に展開された無数のつぶてがマシンガンのように一華へと降り注ぐ。
任務を優先し対象をR。もしくは見えない敵が護衛者ならば一華を守る行動を行うだろう。
そう見こんだ結果の行動だった。
――だが、殺到したはずの礫は“見えない壁に跳ね返されるかのように”はじけ飛ぶ。
「……最近の子供は危ないね。容赦なく人の荷物を狙うとか、強盗罪じゃないのかい?」
同時にロックの真後ろから声が聞こえ、ロックの胸部が“割れた”。
まるで透明な刃物が通っているかのように赤黒い心臓が見え、ロックの膝が折れた。
致命の一撃――それを認識し、ブレイクエンドはしかし動かない。
ただ、口だけが動いている。敵の情報を得なければならない。
不意の戦闘は完全に相手が上手だった。やみくもに動いては一方的にやられる。
そう悟ったがゆえの行動。
「よう、謎の敵。そんなに子供が怖いのかい? 姿くらい見せたらどうだ?」
「やだね。最近の子供は凶暴で怖いんだよ。チンピラな僕じゃ正面からやりあったら殺されるさ。
だからわざわざこうやって仕込みやって卑怯な手で攻撃してるんだよ」
意外なことに返事が返ってきた。そう思うと同時、今度は知っている声が耳元に届く。
――声は囮、敵は能力を使用している。少なくても自身を透明化させる能力。
いえ、ロックの攻撃を防いだことから、自身や物の透明化を行う……
いえ、気配や声以外の音もなかったことから考えて、それ以上の物を隠匿する能力。
これが敵の有する能力。
突然囁かれた声にブレイクエンドは頷く。
それはウインドの能力、声を所定の位置にのみ届かせる能力によるものだった。
- 49 :
-
敵の能力は厄介極まりなかった。こちらから迂闊に動くこともできなければ、
敵の位置を把握することもできない。この手の敵を手っとり早く倒すのは本来ロックの役目だった。
礫による広範囲攻撃。敵がどこにいようと関係ない面による制圧能力を持っていた。
だが、すでにロックは死んでいる。
当り前だ。この敵は俺達に能力を知られる前に、自身にとって一番戦いにくい相手を優先して殺したのだ。
つまり、俺たちは完全に嵌められたと言うわけだ。
そこまで考え、ブレイクエンドは指示を出す。出した結論は単純明快だった。
「ウィンド。任務は失敗。撤退だ。この敵は俺達では勝てない」
「……分かった」
それだけでウィンドはあっさりこの部屋から離脱する。
「おやおや、いいのかな? 任務失敗で。それに僕が入り口に罠を仕掛けてるとか考えないのかい?」
見えない敵の言葉にブレイクエンドは笑う。
「ははっ。どうせ勝てないなら逃げる方を選ぶさ。
それにその質問をする時点で罠がないのがばればれだ。
これで安心してウィンドを離脱させられる」
「なるほどなあ。それはそうだ。一杯食わされたな。
この荷物を殺そうとする人間の殺害も依頼に入ってたが、そっちは半分失敗かな。うーん残念だ」
それこそ全く残念に思ってなさそうに呟く見えない敵にブレイクエンドは苛立ちを感じる。
明らかに見下している口調だった。
「はっ、全然残念そうに聞こえないな」
「チンピラってのは、いつも詰めが甘いもの。失敗が当り前なのさ」
「意味が分かんねえ。自分でチンピラって言ってるってのはどこの馬鹿だよ」
「僕の事だよ、分かってる事を言わなくていいさ。
それに、残念ながらお前達はそのチンピラ以下なんだよね」
せせら笑いを含みながらの敵の言葉。
明らかな挑発を含んだ言葉。その言葉にブレイクエンドはあえて乗る。
「あーそうかい。それより俺の任務はまだ終わってない。リーリンの回収もしないといけないからな」
「おや、そうなのか。でも僕はそろそろ失礼したいところなんだけどね」
「あれだけの挑発を行いながら戦う気はないって、どんな冗談だ?」
相手の言葉自体は判断材料にならない。それだけは良く分かった。
ただ、ウィンドが逃げる時間を稼げた事を確認すると行動を開始する。
ブレイクエンドは吠えるように言葉を吐きだすと、一華をRために走り始める。
距離にして8歩の距離。一華の顔もはっきり見える。
その薄いピンク色の唇が動く。
「コ ロ シ テ」
それを知覚した時、一瞬だけ、ほんの一瞬だけブレイクエンドの動きが鈍る。
すでに何人も殺しているはずの心に動揺が走る。
何故、そこまで死を熱望するのか、と。
「うん、君のような男は厄介だ。下手に追い詰めるとかまれかねない。
万が一があると困るから、僕はここで退散するよ」
敵の男の声が聞こえ、その瞬間閃光と爆発が辺りを包みこんだ――
- 50 :
-
「……うっ!!」
体が激しい痛みを訴えるがそれを無視し、ブレイクエンドは起き上がる。
そこにあったはずの家はなくなっていた。そこに残るのはがれきの山のみ。
ブレイクエンドは爆発の瞬間、自身の能力を発動し、
致命傷になりそうな自身に向かってくる全ての物を打ち消した。
それでも発動範囲が両手であるため、打ち消せない部分が体に当たり、さらに床が抜け落下。
衝撃で気を失ってしまい今に至る。
「完全にがれきとなってるか……あの敵は……きっと標的を連れて逃げ出したな」
ポツリと呟き、体を起こす。
「……任務失敗か。こりゃ“機関”に戻ったら消されるかもな」
呟き、立ち上がる。きしむ体を無理矢理動かす。
そこに、先に脱出したウィンドが彼に気付いたのかすぐに近づいてきた。
「ウィンド……奴は?」
「車でいなくなった。目だし帽を被った男だった。
多分気絶した標的の少女を担ぎあげてトランクに入れた。だから少女も男と一緒」
「……そうか」
それだけを言葉に出しブレイクエンドは歩き出す。
――ロックは目の前で死に、リーリンも恐らく生きてはいないだろう。
半分、仲間を失った……か……
すでに周囲一帯は明るくなっていた。恐らく異変に気付いた機関が“回収”にくるだろう。
それだけを考え、近くの木の根元まで歩くとそこに寄りかかるように座り込む。
ウィンドも同じように座り込み、ただ、機関がやってくるのを待っていた――
- 51 :
-
その後の事は全て流れるように過ぎていった。
俺とウィンドは消されこそしなかったが、任務失敗の罰として“機関”を追放された。
着の身着のまま追い出され、俺たちは鍛えた体一つで普通の人間達に混ざり、
普通のバイトをしなから何とか生活だけはできるようになっていた。
あの作戦の失敗、その結果がどうなったか、知ることはできなかったし、
知りたいとも思わなかった。
その時の仲間を失った虚無感すらも、時と共に薄らいでいくのが分かるのがただ悲しかった。
――そして、普通の人間としての日常と共に数年が過ぎることになる。
続く
以下設定
宿木 壊(コードネーム:ブレイクエンド)
元機関の能力者。とある作戦の失敗により、機関を追放される。
一話目では14歳、2話目以降開始時17歳予定である。
昼の能力
不明
夜の能力
ブレイクエンド(意識性、力場型)
両手に触れた物全てを消滅させる能力。
代償は肉体の疲労のみ。
コードネーム:リーリン
元機関の能力者。黒髪をツインテールにした少女である。
とある作戦の失敗により、消息不明になっている。
ブレイクエンドは死んだと思っているが、機関は彼女の死を確認できていない。
昼の能力
不明
夜の能力
チャージショット(意識性、操作型)
銃弾の威力を上げる、誘導弾にする等の能力を付加させる能力。
実際は飛び道具全般に使用可能だが、彼女は銃弾にしか使用していない。
- 52 :
-
コードネーム:ロック
元機関の能力者。中学生にして身長2mを超える巨漢。
しかし顔はどこにでもいる中学生である。
とある作戦の失敗により、死亡した。
昼の能力
不明
夜の能力
ロックレイン(意識性、操作型)
セラミックでできた物を自在に操作する能力
コードネーム:ウィンド
元機関の能力者。栗色の髪をショートカットにした少女。
とある作戦の失敗により、機関を追放される。
一話目では14歳、2話目以降開始時17歳予定である。
昼の能力
不明
夜の能力
ボイステレポート(意識性、操作型)
音声を距離に関係なくピンポイントに届ける能力。
効果範囲は視界内
- 53 :
- 投下終了です。予告だけして全然書けてなかったので、
リハビリがてら久しぶりに書きました。
次は……やっぱり遅くなると思います。
- 54 :
- 投下乙です
しょっぱなから急展開にビックリ
続き待ってます
- 55 :
- 作品おもしろかったっすよ。
投下乙です。
謎の女の子が気になります。
- 56 :
- 久しぶりの投下乙です!
予告以来ずっと気になってましたよw
いきなり急展開ですね。続きも期待してます
さて、ちょっとした小ネタを投下しようと思います
- 57 :
- 白夜「ついに、ついにこの時が来たのね(うきうき)」
楓「? なになに?」
白夜「永かった……本当に永かったわ……。何度も諦めそうになったけれど……たまには我慢ってしてみるものね(うきうき)」
楓「ねーねーどしたの?」
白夜「さてタイトルは何がいいかしらね……」
楓「むむ〜ガン無視。こら! 邪気眼厨二! 人の話聞きなさい!」
白夜「ひ! ……な、何よ。フロイライン楓じゃない。いきなり大きな声で驚かせないでちょうだい」
楓「最初っからいましたけど。ところで白夜、何をうきうきしてるの?」
白夜「え? あら……わ、わかるの? 今日の私の上機嫌ぶりが。表に出しているつもりはないのだけど」
楓「丸出しですやん! ウチの存在が目に入ってないほどきゃぴるんで独り言言ってましたやん!」
白夜「きゃ、きゃぴるん!? この白夜がきゃぴるんしていたですって!?」
楓「それはもう。「ついにこの時がきたのね(キラッ)」って目から星を散らすかの如く」
白夜「……」
楓「さらには「たまには我慢ってしてみるものね。神様ありがとう♪ 大好きです///」的な。そんな痛乙女的なノリで」
白夜「一部に凄まじい捏造がまぎれている気がするわ」
楓「気のせいだし。ほんとに言ってたし。まそれはウチ的にはどうでもよくてさ。真面目な話どうしてそんなうきうきしてるの?」
白夜「やっぱりふざけてたんじゃない。ま、いいわ。そうね、楓にも関わりのある話かもしれないし、説明してあげましょう」
楓「ウチにも関係ある? なんだろー」
白夜「実はね……ドクトルJ主役の話がようやくめでたく終わりを迎えたのよ」
楓「……? ふ、ふーんそうなの(ドクトルJ……って誰? なんか聞いたことある気もするけど……不審な名前ね)」
白夜「そう、そうなのよ。さて、そこで、よ!」
楓「わ! いきなり大きい声出さないでよね! さっき自分で言ってたくせに」
白夜「こほん。柄にもなく興奮してしまったわ。ごめんなさい。さて、そこで、よ」
楓「ふむ」
白夜「ドクトルJ亡き後、当然次なる物語が紡がれるはず。そしてその主役にこの白夜が選ばれるのは創造主の定めし絶対不変の真理」
楓「ほう(……え? ドクトルJは死んじゃったの? さっき白夜「めでたく」って言ったよね? そっか、やっぱり悪い人だったのね……!)」
白夜「そもそも、最初からドクトルJよりこの白夜のほうが主役向きの設定のはずなのよ」
楓「へー(主役向きじゃない……確かに悪い人ってあんまり主役向きじゃないよね。白夜が主役でもロクな話にならなそうだけど)」
白夜「創造主もようやく気付いたのでしょうね。さて、どんな話になるのかしら。楽しみだわ」
- 58 :
- 楓「なるほどー。そりゃ確かにうきうきもするねー。あそうだ。さっき白夜もやってたけど、タイトルの予想でもしよっか」
白夜「いいわね。胸が躍るわ」
楓「白夜らしさで考えると……『じゃきがん!』とか。『じゃき☆がん』あるいは『じゃきがんっ』でも可」
白夜「不可」
楓「これしかないってくらいぴったりなのに。じゃーね……『朝宮遥のゆううt』」
白夜「仮の名前な上に別の何かに似すぎている気がするから却下」
楓「せめて最後まで言わせてよ……じゃーね……『厨二女と叛逆男』。お、これイイ感じ」
白夜「どこがよ。またパクリだしそもそもそれ主人公叛逆男のほうじゃない。却下よ」
楓「厳しいよー。じゃーねもうこれで最後ね……『白夜は友達が少ない』! これで決まり(ドヤッ)!」
白夜「貴女がアニメ好きだということだけはよくわかったわ。とりあえずその虚しさが募るだけのドヤ顔を早く引っ込めなさい」
楓「事実友達少ないよね? 事実を元にして書いたほうがやっぱり面白いでしょ。『この物語は全て事実です』の注意書き付きww」
白夜「…………(グスン)」
楓「あ……ご、ごめん。調子に乗っちゃって」
白夜「い、いいのよ。どうせ事実なんだから。友達と呼べる友達なんて10人くらいしかいないわよ」
楓「10人いるんだ……普通にいるじゃん」
白夜「そんなのはどうだっていいのよ! もう、タイトルなんてこの際なんでもいいわ。私が主人公の話が紡がれるというだけd」
??「あのさ、白夜ちゃん?」
白夜「ひ! こ、この声は……まさか……!」
??「ひ! な、なんでそんな驚いてるの!? こっちがびっくりしちゃったよ」
楓「いきなりなんかでっかいオジさん現る! 白夜、この人誰?」
白夜「ど、ドクトルJ貴方……至福と安息の園へと還ったのではなかったの!?」
楓「ひ! これがドクトルJ!? 悪い人!? のお化け!? ってことは怨霊!? きゅ〜(パタリ)」
ドクトルJ「あ、え? あれ? ちょ君、大丈夫? 失神しちゃった。なんでだろ白夜ちゃん」
白夜「亡者が何の前触れも挨拶もなく突然現れたのだから失神くらいするでしょう」
ドクトルJ「いや私亡者じゃないし。ちゃんと足あるでしょ。それに亡者はわざわざ挨拶しないと思うよ」
白夜「で、何用かしらドクトルJ。いえ、違ったわね。”前”主人公さん? ”次期”主人公たるこの白夜に何用かしら」
ドクトルJ「切り替え早いねさすが。そうそう、そのことなんだけどね」
白夜「”次期”主人公のことかしら? あ、まさかドクトルJ、懲りずにまだ主人公の座に居座ろうとでも企んで、この白夜を……」
ドクトルJ「いやいや、私はもう引退だよ。そうじゃなくて、次の話の主人公さんだけど……」
白夜「ええ。この私ね」
- 59 :
- ドクトルJ「ああ、それがね……もんのすごーく言いづらいんだけどね」
白夜「?」
ドクトルJ「白夜ちゃんは知らないかもしれないけど、『見つめ合うと砂になるからお喋りできない』って話が既にあってね」
白夜「……」
ドクトルJ「私の話が終わったから、今度はそっちに注力するらしいんだ」
白夜「…………」
ドクトルJ「まあさらに言うと、助手くんが主人公の話なんてのもあるらしいんだけどね。生意気なことに」
白夜「………………」
ドクトルJ「だからまあその……ほら、なんだ」
白夜「私が主役の話はなかったこと。宵闇の彼方に葬り去られたってわけね」
ドクトルJ「う、うんまあ……なかったことって言うかもともとそんな予定もなかったんだろうって言うか……」
白夜「そう。ありがとうドクトルJ。わざわざそれを教えるために、負傷をおしてまで来てくれたのね」
ドクトルJ「あ、いやまあ、その……元気出しなよ(遥ちゃんがしおらしい……逆に怖い)」
白夜「いいのよ、気を使わないで。余計に虚しくなってしまうわ。ねぇ、ドクトルJ……」
ドクトルJ「う、うん。どうしたの?」
白夜「……なんだか急にお腹が空いたわ。ハンバーグが食べたいわね」
ドクトルJ「はは。わかったよ(なんだかんだでかわいいとこあるよね。幸薄いし。ギャグキャラ化してきてるし)」
白夜「お腹下すまでヤケ食いしたい気分だわ」
ドクトルJ「あのぅ……私の甚だ厳しい財政事情も考えつつヤケ食いしてね? 頼むよ? ほんっと頼むよ?」
楓「ウチもついて行くわよ! 一緒にお腹下すまでヤケ食いしてあげるわよ!」
ドクトルJ「蘇生してる! しかも厚かましいな! さすが白夜ちゃんのお友達。じゃ私もヤケ食いするか。お腹下さない程度に」
楓「それにいいじゃない白夜! こうしてウチとコンビで小ネタやってるんだし」
白夜「……確かに、小ネタだって立派に作品だものね」
楓「そうよ! この小ネタではウチらが主役よ! だから元気出して! 顔を上げて! 前を向くのよ!」
ドクトルJ「あっつ。修造みたいだ。いい友達だね白夜ちゃん。彼女と一緒に小ネタの女王を目指してみたらいいんじゃないかな」
白夜(小ネタの女王って……響きが負け組っぽく感じるのは私だけかしら……)
というわけで、ちょっとした宣伝も兼ねた小ネタでした。実際白夜はもう小ネタで頑張ってもらおうと思いますw
楓ちゃんかなり勝手に使ってて、すっかりキャラ変わってるかも…小ネタなので勘弁してもらえると助かります
- 60 :
- 『俺の白夜がこんなに可愛いわけがない』っ!
…どっちかというと黒猫役がピッタリすぎるけど
- 61 :
- それは真っ先に考えたけどあえて避けたというのにw
- 62 :
- >>41
完結お疲れ様です。ハッピーエンドで良かったw
アヤメさん&シルスクが流石に強いですね。
見詰め合うと…の続きも期待していますが、白夜主人公の小説も是非読んでみたいですねw
>>27
ちょwwひどいww
流石akutaさんww
>>53
ゴーストが圧倒ですか。
題名からして、この少女がただならぬ力を持っていそうですが……
続き期待してます。
それと個人的な事なのですが、諸事情により大分留守にしてしまってすみませんでした。
私は旧◆IulaH19/JYで新◆zKOIEX229Eです。
リリィ編の方を書け次第投下させていただこうと思っているので、よろしくお願いします。
- 63 :
- どうも、ハイパーお久しぶりです。ファイア&スモーク書いた人ですはい。
顔を出すのは1スレ目以来なので、現在浦島太郎の気分を味わいまくってますw イラストもSSもかなり増えましたねー。小春と幸助を使っていただいて、非常に嬉しいですw
……と、前置きはこのへんにしといて。
最近創発トナメや創発の野望を見てて、久々にこっちで何か書きたくなったので、できれば近いうちに投下しようと思ってます。
一応wikiに目を通して設定などを確認していますが、設定ミスを犯さない自信がないので、あまりにもひどいミスがあったらつっついてください、喘ぎます。
それでは、今回はこのへんでー。
- 64 :
- おおーwktk
- 65 :
- あ、ちょいと質問があるんですが。
バ課連中のコードのネーミングって、規則とかってあります?
- 66 :
- 無いよ
ただ同じ人が作った所は同じ付け方をしてる…かも?
- 67 :
- 特に規則はなかったと思った。
一応傾向をみると、能力にもとづいたコードネームが多いかな?
- 68 :
- 返答ありがとうございますw
よしゃー、これで色々書けるぞぉー。
- 69 :
- おお、人が帰ってきてくれる…こんなに嬉しいことはない
これからまたよろしくお願いします
さて投下します
二本立て?です
- 70 :
- 白夜「まったく、何故この白夜がこんな役回りを……とんだ道化じゃない」
白夜「なんて愚痴を言い募っても虚しいだけね。今日は楓もいないし……」
白夜「……一人ぼっち」
白夜「べ、別にどうということもないわ。夜の闇を祓うという特別にして崇高な使命を背負ったこの身には、本来孤独こそ相応しいのよ」
白夜「相応しいのよ」
白夜「…………」
白夜「もう! さっさと終わらせるわ!」
白夜「この白夜が主役の物語を押しのけて侵攻、じゃなく進行している物語『見つめ合うと砂になるからお喋りできない』」
白夜「あまりに久しぶりすぎて、前回までの話を忘れている人もいるのではないか……ほらそこの貴方とか!(ビシィ)」
白夜「安心なさい。そんな貴方のために、この白夜が前回までのあらすじを語りつくしてあげるわ」
白夜「まるまる2レスほど使う予定よ……え? 長過ぎる? もっとコンパクトにまとめろ? 我がままね。虫酸が走るわ」
白夜「まあ2レスは言いすぎたわね。さて前フリなのになんだかすでに疲れてきたから、そろそろ始めるわ」
主人公、伊達豪輝(だてごうき)はそれはそれは人相の悪い高校2年生。その人相の悪さから肩身の狭い思いをしながらも、
彼は日々慎ましく懸命に生きていたわ。彼はチェンジリング・デイから10年が経った今でも能力の発現がない無能力者だった。
2年生に上がってしばらくしたある日、中学校からの付き合いで数少ない友人の一人、寿々代夏海(すずしろなつみ)と一緒に
下校することに。この寿々代夏海さん、なかなかの美少女だそうよ。そんな美少女に汚らわしく浅ましい妄想を抱きつつ伊達豪
輝は、学校の最寄り駅まで……え? 何? 事実と違うことは言うな? はいはいごめんなさい。「汚らわしく浅ましい妄想を抱
きつつ」の部分は白夜なりの脚色ということで流してちょうだい。
えっと、どこまでいったかしら……あ、学校の最寄り駅まで一緒に帰ったの。夏海さんと別れた後、伊達豪輝は少し寄り道。
そこで彼は不良に絡まれる子羊を見つけ、悪人ヅラのくせして正義漢ぶって助けに入ってしまうの。よせばいいのに。案の定窮
地に陥った伊達豪輝だったけれど、その窮地の中でついに彼の昼の能力が覚醒。彼の昼の能力は『人を砂に変える力』。またの
名を『砂塵の邪眼【ゴルゴン・アイ】』。後者はもちろん、この白夜命名よ。
思ってるより長くなってきたから、一気にはしょるわ。その日迷える子羊伊達豪輝は一睡もせずに夜を明かし、翌日。ご両親
に能力のことを打ち明け、賢明なお父様のおかげで能力の発動条件を絞ることができ、遅刻しながらものこのこと学校へ。能力
専門の病院にでも行けばいいと思うのだけど、それはきっとこの後の展開次第ね。
人気のない学校の下足室で、彼は見るも麗しい巾着袋を拾ってしまうの。寿々代夏海さんの協力で落し物預かり所へと出向い
た彼は、そこでこの世のものとは思えない天女のような美少女と、恐れ多くも正面から衝突し、あろうことか尻もちをつかせて
しまう! ほんとこの悪人ヅラはどこに目をつけて何を考えて歩いていたのかしら。破滅と救済の音色を気がふれるまで聞かせ
てあげたいわ。物腰柔らかくいかにも高貴なお嬢様といった雰囲気のその少女。浅ましくもその少女の匂いをクンカクンカして
いるところで、前回の話は終わっているわ。
何よこの男。変態じゃないの。なんでこんなのが主人公なのよ。それよりこの白夜のほうがよっぽど――――
- 71 :
- 四時間目の現国をいつもより6割増しくらいの真面目さを演出しながらこなし、お待ちかね……ってほどでも
ない昼休みとなった。ちなみになぜいつもより真面目に授業を受けたかと言えば、あくまでやむを得ない事情で
遅刻しただけであり、決してダルいからフケていたとかいうヤンキーじみた理由ではないってことをことさらにクラスメ
イトたちにアピールしておくためだ、ということをここであえて強調しておく。
さて本当なら昼休みに入るやいなや夏海をとっ捕まえて、俺のこの危険な能力についての話でも聞かせてやろうと
思っていたんだが……あやつめもう教室からいなくなってやがんの。まああいつのことだ。きっと学食の数量限定ラ
ンチメニューをゲットするために廊下を全力で駆け回り、運悪く先生に見つかって説教をかっ喰らい、数量限定ラン
チメニューにはありつけずにしょっぱい飯でも食うことになるんだろう。
まあそもそも普段から一緒に昼飯を食ってる間柄でもないんだった。仮に追っかけて「夏海、ちょっと用があるん
だ。昼飯、一緒に食べないか(キリッ)」なんて爽やかに言ってみたところで、「いやあたし美香と一緒に食べるし(ツン)」
とかすげなく返されてパァになるだけな気がする。……自分で言っといて切ないなこれ。絶対やだなこれ。
できればあいつには早いうちに話をしておきたいと思う。中学の時から、あいつとはいつだって目を見て話せた。
ころころと変わる感情豊かでわかりやすいその表情を楽しみながらお喋りしてきた。それはもう、過去の話になって
しまうのかもしれない。それは寂しいし辛いことだけど、それを隠したままでいられるわけもない。不自然に目を逸らす
俺を見れば、いくら夏海だっておかしいと思うだろう。
ただでさえ、俺と目を合わせて話をしてくれる人間は少ない。もともと少ないんだから、それがさらに減ってしまった
ところで大したことでもないんじゃないかと、さっきの授業中にこっそり考えたりもした。
そんなわけなかった。少ないからこそ、今いる人たちは貴重なんだ。大切なんだ。そんなことはわかりきってるって……
それなのに本当に、本当になんなんだよ能力って……
「おい豪輝。どうしたんだそんな芸人みたいな顔してボーッとして。ほら、さっさと弁当食べようぜ」
俺自慢の坊主頭が無造作に撫でまわされる微妙に気持ちいい感覚と同時に、正面から声がした。断りもなく人の頭を撫でる
この無礼者が言うとおり、相当ボーッとしてたんだろう。こんな近くに野郎が立ってたことに声をかけられるまで全っ然気付
かなかった。
「おい、マジで大丈夫か? 遅刻してきてたし、どっか具合悪いのか?」
まだボーッとしてる俺にさらに声。さていいタイミングなんで、この気遣いに溢れた、最近の男子高校生としてはよく
できた部類に入るイケメンを紹介しておこう。といっても所詮野郎なんで、かなりはしょることにする。
名前、島津龍一(しまづりゅういち)。一年の時からのクラスメイトで、数少ない俺の友達の一人。外見性格ともに
イケメン、だがとある事情によりまるでモテない。そう、まるでモテない。イケメンのくせしてプッ。宝の持ち腐れププッ。
以上紹介終わり。
「…………なあ豪輝。なんか今お前の表情にものすごい悪意が見えたんだけど。気のせいかな」
「おいおい気のせいだよ何言ってんだかこのイケメンは。ほら飯食おうぜ。俺もう腹ぺこぺこだし」
島津を横目に、弁当を持って歩きだす。天気もいいし、屋上にでも行きたい。そんな気分だ。
今日こいつで4人目だ。母さん、父さん、夏海、そしてこの島津。俺が目を見て話せる存在だった人たち。話ができる
ことに変わりはない。それでも、相手の目を見られない。表情がわからない。たったそれだけのことなのに、たったそれ
だけのことで、なんだか遠くに感じてしまう。そんな風に感じるのは、結局俺のほうだけなのかな。相手も同じように感
じてるのかな。もしそうならなんか安心できる……ような気もするけど、やっぱり嫌かな……
まあとにかく、いい機会だ。夏海は捕まらなかったけど、いずれはこいつにも説明しておくつもりだったわけだし。昼飯
を囲みながら、俺のこのはた迷惑な能力について語ってやることにしよう。
- 72 :
- で、屋上。昼飯を食いながら、俺は恐る恐るといった体で昨日の話を切り出し、一部始終を話して聞かせた。その間
も俺は島津の顔を見られなかったから、こいつがどんな顔で聞いていたかはわからないけど、なんとなくこいつの視線が
俺の顔に向けられていることはずっと感じていた。飯を食う手も止めていたみたいだった。しっかりと、真面目に聞いてく
れてるんだと思えた。
「へっへぇ。そんなことがあったのか。豪輝もようやく能力開眼ってわけだ」
「さっぱり嬉しくないけどな。もう誰とも目合わせられないんだぜ俺」
「まいいんじゃないか? 豪輝と3秒間目を合わせられる人間ってそうそういないだろ」
「お前もそういうことを言うか……」
で結局こういう流れになる。朝母さんにも言われてきたんだよそれは。もう少しヒネるかオブラートに包みなさいって。
しかしまるで反論なんてできないのが悲しいところ。
「まあでも、そういうことだったのな。なんか今日のお前いつになく挙動不審だと思ってたけどさ」
「挙動不審にもなるって。お前とか夏海なんかはちゃんと俺の目見てくれるだろ。俺が気抜いてそんなお前らと目合わせ
ちゃったら、お前ら砂になっちゃうんだぞ? 俺のせいでさ」
「つっても、別にあっという間に全身砂になっちゃうわけでもないんだろ?」
「そりゃそうなんだけどな。やっぱりやだよ。怖いだろうが」
怖い。何が怖いかって言えばそれはいろいろだ。目の前で人が砂になる。まして親しい友達が、数少ない友達が砂になる。
そしてそんなことになったら、もうその友達も他の連中のように俺を避けるようになるかもしれない。本当に一人になって
しまうかもしれない。そういう怖さだ。どこまでいっても自己中でしかない、内向きで情けない怖さだ。
「んなあ、豪輝」
俺の中で渦巻く恐れと不安を知るわけもない非モテイケメン島津は、鼻につくかつかないかギリギリラインの爽やかボイス
でそう短く呼んできた。視線をこいつの学ランの第2ボタンあたりに落ち着ける。
「ちょっと僕の目を見てくれ。こいつをどう思う」
「すごく、パッチリです……じゃなくて。お前俺の話聞いてた?」
「もちろん話は聞いた。でもさ、僕は自分の目で見ないと信用しない面倒な性格だから。お前の能力、ちゃんと見せてくれよ」
どんなツラしてこんなこと言ってんだこいつは。自分でも言ってるがほんと面倒な奴だな。俺ができる限り発動させまいと
必死に避けてきたことを、今自ら進んでやれとぬかしてる。ふざけて言ってるんだとしたら正直、無神経すぎる。ぶん殴りた
いくらいに他人への配慮が足りない子だ。もう少し道徳の授業を真面目に受けろと言いたい。
でもだ。視界の隅にチラつくこいつの顔にあるのは、悪ふざけをしている時の表情じゃない。テスト勉強を一緒にした時
みたいな、真面目で隙のない顔だ。こいつはこいつなりに真剣に、俺のこの危険な能力を自分に味わわせろと言ってるんだ。
意味はわかりかねた。でも、やらなきゃいけない気がした。
- 73 :
- 「……3秒目合わせたら、手足が変な感じになると思う。それ感じたらすぐに目逸らせよ」
「うん、わかった」
大きく頷いた。顔を見ていない俺にもはっきりわかるよう、そうしてくれたんだと思う。少し呼吸を整えてから、ゆっくり
と、島津の学ランの第2ボタンから上へと視線を上げていく。口、そしてむかっ腹が立つほどシュッとした高い鼻を通過して、
目的地へ。パッチリ二重なイケメン仕様の目元で、きっかり3秒間留まる。3秒なんて何を考える暇もない。あっという間に、
予定調和の異変は訪れた。
「うわっ! うわっ! 手が! 足が!」
と島津が騒ぎ始めた頃には、もう手足は元通りに再生していた。再生できるってところは、この能力の唯一と言っていい
救いだと思う。再生できる原理はさっぱりわからんけど、それを言ったらそもそも砂になる原理からしてわからんし。投げや
りすぎるって? 投げやりにもなるだろ頼みもしないのに突然こんな迷惑な能力与えられたらさ。考える気にもなれない。
「ふうー、再生した。よかったよかった。でも、確かに砂になったな」
「信じるか?」
「そりゃもちろん! なっかなか面倒な能力だよなぁ」
手を握ったり開いたり、肩をぐるんぐるんと回したりしながら、なぜか弾んだ声でのたまう島津。なんか今日はこいつ、
いまいち掴めないな。こんなわかりにくい奴だったっけかな。
「なあ島津。お前、怖くないのかよこの能力」
「怖い? なんで?」
「いやだって砂になるんだぞ? 実際今なっただろうが」
露骨に首をかしげる島津。これもまた、顔を見られない俺にはっきりわかるようにそうしてくれているんだと思う。改め
て言っとくけど、こいつは普通にいい奴だ。このタイミングで首をかしげるという行為に及ぶ理由はまるで不明ではあるけど。
「僕はむしろ安心したんだけど。豪輝の話は全部本当だってわかったからさ。3秒目を合わせたって全身砂になるわけじゃ
ないし、砂になったって元に戻れる。何も怖がる要素ないよ」
のんきな口調でそう言って、爽やかに笑った。
こいつにとってはなんでもない言葉だったかもしれない。でもそれは俺にとっては、今何よりも言ってもらいたい言葉だっ
たのかもしれない。怖くなんてない。避けることもない。女々しいとは思うけど、誰かにそう言って欲しかった。
軽く泣きそうになったので、ちょっと予防線を張っておくことにした。
「ふん。少しは怖がれっての。とにかく、万一ってこともあるから、今日からは基本ノールックトークな。なんならもう話
しかけてくんな」
……ちょっとのつもりが、俺ったらどうしてこう必要以上に分厚い予防線張っちゃうんだろう。最後の一言は明らかにいら
なかっただろうが。
この露骨で強烈な予防線を前に、島津はクスリと苦笑してから、
「わかったよ」
とそっけなく答えて俺の不安と絶望ゲージを振り切れるほどマキシマムまで高めた後、
「面倒で迷惑な能力を持つ奴同士、改めて仲良くやってこう」
と続けてくれたもんだから、俺は本当にいい友達を持ったんだなと、感激の大波が北斎の浮世絵のように豪快に押し寄せてきた。
と同時に、できればそういうことは「わかったよ」で妙な間を取らなくていいから一気に言い切って欲しかった、と軽くイラッ
としたことは一生の秘密にしておこうと思った。
つづく
- 74 :
- 投下終わりです
忘れてるだろうということであらすじでも書こうと思ったけど普通に書いても
つまらんかと思ってこんなのにしました
というわけで今度はこの物語にお付き合いください
- 75 :
- 投下乙
白夜ちゃんかわいいのう
そしてイケメンはマジイケメン
- 76 :
- >>74
投下乙ですよー。
白夜かわいいよ白夜。描きたいけどゴスロリ描けないよゴスロリ。
砂になっても、戻れるならまだちょっと安心ですねw
- 77 :
- 真面目な能力考えるのって、意外と難しいですねー。
- 78 :
- 某スレのロリコン筆頭が久々にこっちで書くと聞いて飛んできました
- 79 :
- ※ただしセクハラするのは合法ロリに限る。
- 80 :
- 時雨さんにセクハラですねわかります
- 81 :
- 無茶しやがって…
- 82 :
- 外見年令12歳+三つ編みとかもう凶器だね! これはもうぬわーっ!
- 83 :
- 死んだか……
時雨さんはまだ絵になってないから描けばいいじゃない
- 84 :
- これ以上私に仕事を増やせというのか全然いいけど!
作者さんに無断で勝手に描いちゃっていいんですかぬ?
- 85 :
- そのへんは作者さんに聞いてくださいとしか言えない
- 86 :
- デスヨネー。
- 87 :
- >>84
私はいっこうに構わん!
って言うか描いてもらえるならめっちゃ喜びますw
- 88 :
- >>87
構わないんですか! やったー!
あ、でも一応本人確認のために酉出していただけねーでしょうか?
- 89 :
- 本人確認てのもおかしなようなww
無断でも何でも、よっぽど悪意のある作品でもない限り
描いてもらって嬉しくない作者なんていないと思うけど。
- 90 :
- >>88
酉出しー。最近あまり書いてないから微妙に出しづらかったりw
89さんもいってるように、好きに描いてもらえればいいんじゃないかと思います。
少なくとも自分は喜びますw
- 91 :
- いやぁ、とりあえず念には念をってことでw
>>90
ありがとうございます!
SSが一段落したら描きますね!
フフフ……三つ編みロリババァ……素晴らしい……。
- 92 :
- いやっほー! 時雨さんじゅうにさい、楽しみだなぁ……
- 93 :
- どっちで区切っても割と正しいから困るw
- 94 :
- そんな上手くないから、期待しないで待っててね!
>>93
言われてみれば、確かにそうですねw
- 95 :
- つか創発はロリババァ好きが多すぎるw
- 96 :
- ロリババァはロマンですしおすしw
- 97 :
- 創発で洗脳されました
- 98 :
- ロリババァと聞いて
- 99 :
- ロリババァもいいけど、ババァと言う程でもないくらいの年令の合法ロリもいいものよ!
19とか23とか!
- 100 :
- …………なるほど。一理ある。
- 101 :
- そっちの合法ロリ、誰かいたようないなかったような…
- 102 :
- >>99
ロリお姉さんとな
個人的にバ課が気のいいにーちゃんおっちゃんだらけで好きだw
- 103 :
- 見た目ロリなのにスーツ着てるギャップとかそそられるよね! ね!
>>101
マジで!?(AA略)
- 104 :
- 鉄っちゃんとシルスクが好きです。
でも、月野はもっと好きですw
- 105 :
- ラヴィヨンは俺がもらっていきますね
- 106 :
- シルスクと鉄っちゃんは私も特に好きですw
あとヤッチーは絶対に渡さない、絶対にだ。
- 107 :
- 白夜ペロペロ
- 108 :
- おいなんだよこのヤッチー競争率
俺も参戦したい
>>103
うーん、いなかったかもしんない
なにせ記憶が曖昧だから
あ、これは自信を持ってはっきり言えるけど
正真正銘のロリだけど社会人な子ならいるよ!
- 109 :
- せいちょうしないことはいいことです
- 110 :
- ヒャッハー! SS進まないから時雨さん描くぜヒャッハー!
とりあえずヤッチーも白夜たんも競争率高そうでこわい。
>>108
マジで!?(AA略)
- 111 :
- よし、服は脱いだぞ
- 112 :
- イ`ヘ
/: :| ヽ
/ : :/ ヽ ___ _,,,:. .-: :´彡フ
_ノ\_∠: : : : : : : : :`: :-: :,:_:/彡 /
( : : : : : : : : : : : : : : `ゝ /
マ r::/: /: : | : : : : : : : : ::\ /
//: /: : : |: : | |: : |: _: : : :ヽ
ジ {/ 7|`\/i: /|:|/|´: : : : :|ヽ
〉 ,‐-‐、`|7 || |_::|,_|: : :|:::|: |
で / r:oヽ` /.:oヽヽ: :|: | :|
{ {o:::::::} {:::::0 }/: :|N
っ | ヾ:::ソ ヾ:::ソ /|: : |
!? ヽ::::ー-.. /ヽ ..ー-::: ヽ::| r--ッ
-tヽ/´|`::::::::::;/ `、 ::::::::::: /: i } >
::∧: : :|: |J \ / /::i: | /_ゝ
. \ヾ: |::|` - ,, ___`-´_ ,, - ´|: : :|:::|
ヽ: |::|\  ̄/ /| |: : :|: |
>>110
待ってますw
- 113 :
- 全裸待機なう
- 114 :
- >>110
wktk
マジで。
そっちの方は自分で書いたから確実だw
- 115 :
- なるたけ早く描くつもりだけど、遅くなったらごめんね!
- 116 :
- >>114
よし探す!
- 117 :
- せっかく描けたのに、さっきからPCがウンともスンとも言わない……。
- 118 :
- 先に謝っておこう。正直すまんかった。
時間がかかった割にこのありさまだよ!
※服装は趣味です。
http://download1.getuploader.com/g/6%7Csousaku/435/%E3%81%97%E3%81%90%E3%82%8C%E3%81%95%E3%82%93.jpg
- 119 :
- ウッヒョー!
時雨さんペロペロペロペロ
- 120 :
- 趣味全開ワロタ
- 121 :
- >>118
これはいいふともも
- 122 :
- 神は言っている……着せる服に迷ったら体操服かスク水かセーラー服を着せろと……。
- 123 :
- なぜに体操服w
まあいいやペロペロ
- 124 :
- 季節的にスク水でもよかったんじゃないかペロペロ
- 125 :
- いやっほー! 時雨さんペロペロ。
かわいいなあ。描いてくれてありがとー!
思わずネタが浮かんじゃったじゃないかペロペロ。
- 126 :
- >>125
ほう…
- 127 :
-
「で、時雨師匠。今日はどんな特訓をするか聞く前に聞きたい事がある」
時雨に弟子入りして以来続くようになった特訓という名の運動。
いつものように準備体操をしつつ、陽太は目の前で同じように準備体操をしている時雨に疑問をぶつける。
「なにかしら。陽太君」
いつものように肉体年齢12才の小さな体を前後に振りつつ、
ついでに二本の三つ編みお下げも合わせて揺らして準備運動をしつつ答える時雨。
その時雨に、陽太は若干半目になった視線を向け続きを言う。
「なんで今日は体操着なんだ?」
「気分」
そう、時雨は何故か白の体操服に紺のブルマと言う、
なおさら小学生にしか見えない格好をしていたのだ。
しかもブルマの中に体操服をいれていないので、
時折体の動きに合わせてへそまで見えている始末である。
もし、彼女を見ているのがロリコンなら大歓喜状態なのだろうが、
あいにく見ている男は陽太だけなので、何も問題がなかったりした。
ついでにもう一人、樹下楓も二人を座って見ているが、こちらも半目になりつつあったりした。
「しかもブルマって古いですよね。今はどこ行っても短パンですよ」
横から楓も呆れたような口調で声を出すが、時雨は意にも返さない。
「いや、私が小学生の頃はブルマだったしね。今着てるの当時の物よ」
「年代物過ぎるだろ! それ!?」
「物持ちはいい方なのよね」
思わず陽太をして突っ込みを入れてしまうが、やはりどこ吹く風だったり。
準備体操を続ける時雨の動作は幼い少女特有のやわらかい物で
これで時雨の実年齢さえ知らなければ微笑ましい光景だったはずである。
――あくまで実年齢さえ知らなければであるが。
「……まあ、その格好に突っ込みを入れるのはもういいか。それで今回はどうする?」
やっと準備体操が終わり、陽太は本題に入ることにする。
その問いにお下げをいじりながら考えるように一瞬沈黙する。
そして、視線を陽太に向けつつ、問いに答える。
「そうね。今日は実践っぽく私に打ち込んでみなさい。
陽太君の攻撃に私が反撃するからそれを一回でも避けられればいいわよ。ただし能力の使用は禁止」
「やっと本番っぽい事ができるのか! 今まで基礎訓練ばっかだったからなぁ。
俺の実力を見せてやるぜ!」
「ああ、それで動きやすい体操服なんだ……」
ようやく本番っぽい練習と言うことでがぜん燃える陽太に、二人を見ながらぽつりと呟く楓。
悠々と立っている時雨は一拍の間を置き、頷くと宣言した。
「さ、いつでもいいわよ。どこからでも掛かってきなさい」
- 128 :
-
「せあ!!」
瞬間、陽太は走り込み、まずは小手調べとばかりに真正面から拳を突き出す。
その単純な陽太の動きに合わせるかのように時雨も同時に拳を出し――
結果、カウンターのように小さな時雨の拳が陽太の鳩尾に突き刺さる。
「ぐぇ!!!」
小さな悲鳴の後、悶絶する陽太に時雨は余裕の笑みを浮かべ、悠然と立っている。
「体格差があるからってカウンターを警戒しないのはまずいわよ。
ちゃんと相手の動きを見てなさい」
その声をちゃんと聞いたのか、しばらく悶絶していた陽太はやがて立ち上がると、
今度はじりじりと間合いを測るかのように動く。
しばし静かな時間が流れると、時雨の瞼が閉じた瞬間を狙って陽太は掴みにかかる。
その動きに対し、時雨は逆に腕を絡め捕ると、一瞬にして陽太の態勢を崩す。
そして陽太は尻餅をつくかのように転がり――
「!?―――いててててえええええ!!!!」
「あー、完全に決まってるよね。これって」
楓の呟き通り、時雨は一瞬にして両足で相手の右腕を挟み、伸ばしながら後方に転がる。
最後に一気に時雨に右腕を伸ばされ終了した。
俗にいう腕ひしぎ十字固めである。
「こ、こんどこそ――」
しばらくして解放された陽太はその声と共に攻勢を掛け――
「いててててえええええ!!!!」
――悲鳴と共に終了した。
今度の決まり手は横四方固めだったそうな。
- 129 :
- >>125
そのネタ、是非とも読みたいですねペロペロ。
- 130 :
-
「ま、こんな所よね。今日はお終いにするわ」
「……結局一本も取れなかったな」
「いえ、一回、避けることができたじゃない。十分合格点よ」
「でもなあ。攻撃当てられなかったしなぁ」
すでに夕暮れが近づいていた。かなりの時間実践っぽい訓練が行われた。
その結果、疲れ果てた様に座りこむ陽太に仁王立ちするかのよな時雨。
その時雨は諭すかのように右腕を上げ、人差し指を軽く振った。
「まだまだこれからよ。今、私に勝てないのは当たり前よ。何せ年季が違うわよ。20年位」
「そりゃそうだけどなー」
「でも、陽太ならもっと強くなれる……気がするわよ」
「気がするは余計だ!」
思わず突っ込む陽太に苦笑を浮かべ、しかし時雨の表情は微笑みになる。
「ま、少しは力もついたみたいだし、今度からもう少し内容変えるわよ。ついて来れるかしら?」
「……当然だ。俺は岬月下だからな!」
「うん。その調子よ。頑張りなさい」
ようやく元気になった陽太に頷くと家の方を向く。
一階が喫茶店になっているその家の裏口から、楓が顔を出し、二人を呼んだ。
「そろそろ夜ごはんだってー」
「はい。今行きますよ」
「腹減ったー。今日はお代わりするからな!」
二人とも元気よく返事を返し、そして二人は家の中に入っていく。
なんとも普通の日常がそこにはあった――
終わり。
- 131 :
- 投下終了です。
一発書きでやらかした気がする。
ごめんなさい陽太君。こんな役で……今度は格好よく活躍させるからねー。
- 132 :
- あ、やらかしたー!
ちゃんと投下するっていって無かったー!
ごめんなさいです。
- 133 :
- や、やらかした……なんてマヌケなミスを! 私は!
>>131-132
投下乙です!
それでは、ゆっくり読ませていただきますね!
- 134 :
- 20年物ブルマペロペロ
>両足で相手の右腕を挟み
裏山
- 135 :
- >>131
投下乙ペロペロ
創発のロリは全体的に戦闘力たけーなw
とりあえず陽太がんばれ、マジがんばれ
- 136 :
- >>131
改めて投下乙でsイィヤッホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォゥ!!
三つ編みの描写があるとテンションあがるね! あがるね!
20年モノのブルマくんかくんかしたいですぐへへへへhぬわーっ!
- 137 :
- 気持ちはわかるが落ち着けw
- 138 :
- ひっさしぶりに投下します。長いこと間を空けてすみません
あらすじは…………http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/436.htmlこれみてくれると助かります
↓投下します
外気の凍えるような寒さから完全に遮断された地下施設。
チェンジリングデイ以降に廃棄された、各主要政府施設を結ぶ地下迷路。
都市伝説の舞台の地にドグマの本部はあった。
見上げても天井が見えないほど大きな黒い扉。
その扉の外。暗い闇の中、更に暗い闇を瞳に灯した少女が立つ。黒を基調とした服装の上から白衣を着ていた。
生温い風が吹き抜けた。
「リンドウ」
突然の後ろからの声に、彼女は振り向く。
「……ルロー」
茶色のフードで顔を隠した人影は、柔らかな仕草で彼女に近づく。
「ホーローが心配かにゃ?」
彼女はそれには応じず、外の闇を見据える。
ルローも答えを求めていないのか、その暗いフードを闇に向ける。
「もし、この作戦が成功したら。もし、ホーローがエデンに勝ったら。私は」
シンと静かな空間に、言葉が落ちる。
「私は彼と共にこの闇から抜け出す。争いも殺し合いも無い世界に住む」
闇の中で穏やかな微苦笑。
しかしそれも、暗闇の静けさにゆっくりと消えた。
「……リンドウ。ホーローがエデンに勝てる可能性は、万に一つも無いにゃ」
「……」
「リンドウ。ホーローは……死ぬために出された駒にゃ。もし生きて帰ってきたにゃら、きっとフォグがホーローをRはずにゃ」
「……わかってる。……わかってるってば」
耐えるように。何かを振り払うように。
固くキツく目を閉じた少女は、数瞬の後、再び目を開けた。
そこには冷徹な眼。本来のドグマ幹部としての目がそこにあった。
迫る靴音。
まるで軍隊のように、数百人の白を基調とした防刃の戦闘服の集団がこちらに向かってくる。
全員が強力な戦闘能力を持った戦士。公共の敵の抹殺を主な任務とするイレイザー。
その後ろに控えるのは、口角を吊り上げて笑っているエデン。
リンドウの周囲を風が吹き抜ける。
いつのまにか、黒いフード姿の人影がリンドウの周囲に立っていた。
ルローの近衛兵。人殺しを享楽とする13人の犯罪者達だった。
前方から近づいてきた騒々しい靴音が、一斉に止まる。
戦闘服の集団が二列に別れ、その間を歩いて来るドレッド頭のエデン。包帯男のジュセル。翼の生えたイザナミ。
その後ろに控えるように、服装を赤で統一した和服の女が居た。
にやにやしながらエデンが喋る。
「やっと糞モグラのネグラを掘り当てられた訳だ。気分はどうだ?モグラ共」
リンドウも笑顔を浮かべて言い返す。
「こんばんわ、お間抜けさん。……エデン。悪いけど、あなたの能力、頂くわよ」
「テメェら如きにできるならな……」
エデンがリンドウを指差す。
「あれがテメェらがRべき羊だ。進みやがれ騎士共!」
“機関”の騎士達が一斉に面頬や仮面を付け、武器を掲げ突進する。
「……行くにゃ」
ルローの命令と共に、隠し持っていたナイフや鋼糸を袖口から出し、迎え撃つ殺人鬼達。
機関の戦闘員と、フードの戦闘狂達が交錯しあう。
戦いが始まった。
- 139 :
- >>138
あらすじとか言いながらあらすじではありませんでした。申し訳ないッ
例えば、永遠の夏がそこにあったとして。
俺らの時間がそこで止まっていればと、願う。
海辺ではしゃぐ君の笑顔。
足裏から伝わる、焼け付くような白い砂の感触。
どこまでも続くように、透明に透きとおるように、輝く海と空。
いつまでもそのままで在って欲しかった。
「……時間だ」
口にすると同時に手首に内蔵された隠し剣を抜刀。
リンドウに向かって瞬時に跳躍。腕を振るう。
鮮血が舞った。
リンドウの首筋の横。そこに急に現れた逞しい腕は、防錆仕様のナイフを握っていた。
一瞬でその腕を切り裂き、勢いでナイフまでも破壊する。
「!?」
襲撃者が驚くよりも先に、茂みに隠れている本体に一気に近づき、押し倒してマウントポジションを取る。
「……マック=D=ザイモン。お前が来る事は運命に記載されている」
倒れ込んだブロンド頭に後ろから告げる。筋肉隆々とした体躯を押さえつけるのには、俺の今の躯では苦労する事ではない。
「某国のエージェント。体の一部を転送できる能力者。ただし転送範囲に限界がある」
瓶底眼鏡を外してリンドウが“鑑定”した。
無理矢理動こうとする敵の、関節を全て砕く。
「私たちの目的に気付いて、仲間を巻き込まず一人で行動し、暗殺計画を立てた貴方はとても優秀」
男の横に立つリンドウの手には注射器。その切っ先が、太陽に反射して光る。
痛みに呻く敵を前にして、『可哀相だ、止めろ』と思う心と、『殺さなくては』と思う二つの思考が俺の中で揺れていた。
「だから、さようなら」
敵の首筋に注射器が突き刺さる。筋肉の無い部分を貫いて、奥の血管に薬剤が注入される。
男の深緑の瞳孔が散乱。そして、ゆっくりと項垂れた。
まるで眠るように、敵は死んだ。
ドクン、と心臓が跳ねる。殺しに、いや、殺しを見ることに慣れる事は無い。
「……すまない、リンドウ。俺がRべきだったのに……」
まだ温かい死体から手を離す。彼女は俺の方を見らず、海を見ていた。
鉄のような血の匂いが周囲に漂う。場違いのように綺麗な海に、一本の腕が鮮血を流しながら波に揺れていた。
「これじゃ、もう泳げないわね」
水から上がったリンドウは、髪を拭きながら、黒い携帯で連絡していた。
俺は足元を見る。そこに転がる死体を見る。
死んでしまったら何もかもが終わりだ。
俺は、殺しも殺されもしたくない。
だけど何故――俺はここに居るのか。
悪の巣窟である、“ドグマ”に。
「誰も、過去の過ちを償う事はできない。人は侵した罪を背負い続ける事しかできない」
振り返ると、いつの間にか着替え終わっていたリンドウの姿があった。
「ヨシユキ。貴方はまだ償って戻れる場所がある。選択は貴方次第よ」
「俺……次第……」
「二つは選べないわ、ヨシユキ。そろそろ覚悟を決める事ね」
リンドウからの言葉を受け取った俺は空を見上げる。
憎憎しいまでに、澄み渡った青い空だった。
そして今、目の前に広がるのは戦場。
“機関”率いる『騎士』と呼ばれる能力者の戦闘員共と、ルローの部隊が戦っていた。
勝負は明らかにこちらの劣勢。
リンドウの姿を確認すると、ルローに守られながら、次第に壁へと追い詰められていくのが見えた。
「リンドウッ!!!」
叫び声を上げながら、目の前に居た三人の騎士をナイフで感電させ、気絶させる。
真っ直ぐにリンドウの元へと走り抜けていく。
なぜ俺は、あの夏の日の事を思い出したのだろうかと、疑問に思いながら。
- 140 :
- 群がる“機関”の騎士たちが、俺に気づき、武器の穂先を俺にも向けてくる。
放たれる火炎や冷気。肉食蟲の群れを回避しながら、ナイフを振り回す。
グチャリ、と泥が落ちるような音がした。
見たくなかったが、見た。自身の右腕が強酸で融け落ち、腐った肉の間から機械の腕が覗いていた。
不気味な白い仮面の騎士の眼が、仮面の奥で笑った。
「テメっ……!!!寝てろ!!!」
投げナイフで関節を狙う、と見せかけて、瞬時に仮面の騎士の右隣へと跳躍。
当たり前のようにナイフを回避した騎士の、首をおもいっきり蹴り付ける。
真っ直ぐに群れの中へ飛んでいき、ニ、三人巻き込みながら倒れていく。
ナイフで牽制しながら、リンドウの元へと急ぐ。
ズキズキ痛む右腕の、痛覚を遮断する。
やはり、と思ったが、俺の能力無効能力はこいつらには通用しない。
「ぁれ、ぉにぃさん?」
背筋に強烈な悪寒を感じた。振り返ると同時にナイフを掲げ、振り下ろされた斧の軌道を逸らす。
「こんばんゎ〜って、何でここにぃるんですかぁ?」
「逃げて来たからに決まってるだろ」
少女から繰り出される黒斧の横旋を両手に掲げたナイフで防ぐ。
「にげ出したらけんきゅぅじょの人からぁたしにれんらくが入るはずなんですけど〜?」
「知るか」
答えながらも冷や汗が流れ落ちる。斧は強力で、距離を取らなければすぐにやられる。
首に巻いた藍色のマフラーを振るう。
「目くらましなんてききま……っうう」
長い針が数本、イザナミの白く長い脚に刺さっていた。
針に塗ってあるのは強力な睡眠剤。
マフラーに隠して仕込んでいた針が、見事に当たった。
「って、これぐらい避けろよ」
避けるだろうと思っていたのに。
「ゅだんしましたぁ〜うう……」
そのままがっくりと項垂れるイザナミを尻目に俺は黒い巨大な扉の下へと急ぐ。
女王のように、リンドウの周りに配置された黒いフードの殺人鬼たちは、圧倒的な数の騎士達と互角の勝負をしていた。
リンドウを守る輪に加わるために、騎士の合間を縫って近づく。
鉄線が首筋を狙って飛んできた。
「なっ」
寸前のところで身体を逸らして回避。その隙を狙って、騎士達が鑓や剣で突いてくるのも何とか回避。
鋼糸を握っていたのはフードの人間。その口元が歪んで冷笑していた。
「お前っ……俺は仲間だろ!」
再度近づこうとするも、鉄線が大きく振られ、俺は高く跳んで回避。
避けそこなった騎士達数人を肉切れに変えた。
他のフードの人間からも、俺に対して殺気を向けてきやがる。
くそっ。どうしても俺を入れない気か。
「リンドウ!!!ルロー!!!」
黒い扉の最上部に飛び移り、二人に呼びかける。
二人がピクリと反応する。俺を見つめるように、顔を上げた。目が合った。
それが最大の隙となった。
ルローの隙を狙って、超高速で放たれた炎の鑓が、リンドウへと向かう。
「あ……危ないっ!!!」
リンドウの前に現れる闇を纏った黒い影。その手が鑓へと手を伸ばす。
鑓が一瞬で消失した。
「なに……」
闇を纏った影が俺を見つけ、嗤った。
確かアイツ。カオル……
「余所見かよ。ホーローちゃんよぉ」
真後ろからエデンの声に、凍りつく。これだけ近づかれるまで、気配が全く無かった。
恐怖で動かない身体を理性で何とか動かす。避けるのを諦め、致命傷だけは回避しようと身体を捻った。
悠々と振られたエデンの軍用ナイフは、俺の機械の右腕を切断した。
騎士達の真上に落ちていく。全ての騎士は俺に対し剣や鑓を向けていた。
落ちながら俺は、さっきのリンドウやルローの視線を思い出していた。
あれは、全く知らない他者を見る目だった。
- 141 :
- 落ち行く躯は、しかし、鑓に貫かれる事は無かった。
ふわりと抱きかかえられて、騎士やリンドウ達のから少し離れた場所へと着地する。
柔らかな感触に抱きしめられ、顔を上げる。
銀の長い髪。赤い眼をした女が俺を抱きかかえていた。
「誰……だ……?」
「……喋るな。……気が散る」
乱暴に俺を地面に落とし、彼女は自身の体ほどある銀の大剣を騎士達に向けて牽制していた。
「ああ?何で銀ウサギがここにいるわけ?」
エデンが怪訝そうな顔で尋ねてくる。
騎士もルロー達も、第三者の介入で戦闘を中断していた。
「……無論。……お前の企みを妨害しに来た」
「ウッゼェッ。さっさと消えろや。“固有磁場”起動!」
エデンが背中から大量の黒い短剣を飛ばしてくる。
しかし、銀髪の女は落ち着いたままで、傍らに居る少女を呼んだ。
「……マトイ」
「はい」
銀紙の女の前に、ショートカットの青い髪の少女が出てくる。
服装も青。そして、手には金で装飾された青色の本を握っていた。
凛とした横顔は、和風美人を思わせた。
「ヤベッ」
「『反射せよハイドラ』」
本の中から、水の魚人が現れ、その手には水の鏡を握っていた。
そこに黒い短剣が吸い込まれ、同じ軌道で返っていく。
「ちぃっ!」
慌ててエデンが右腕を下へと向け、全ての短剣を床へと落とした。
前列に居た騎士の数人の盾にもナイフが突き刺さる。
焦りの色を浮かべながら、エデンが青色の少女に問う。
「……てめぇは死んだはずだろ。マトイ」
「はい。貴方に殺されまして」
にっこりと笑う彼女の周りで、騎士達が動揺する。
思い出した。蒼乃マトイ。確か“機関”の腕利きで、以前はリンドウ達も彼女の能力に苦しめられたと聞く。
“機関”の第七支部を以前指揮していたのは彼女だが、戦死したと聞いた。
「動揺するな。死者の言うことなど信じるな」
エデンが一喝し、部下の士気を保つ。
蒼乃マトイはバタンと本を畳み、エデンをスッと睨み付ける。
「一度は殺されましたが、これ以上……貴方の思惑通りにはさせません」
二人の間に圧力が高まっていく。騎士や俺にしても、体を僅かに動かすことさえ躊躇われた。
「はいソコまデですョ」
強烈な殺気の波動。
エデンとマトイの表情に緊張の色が広がり、瞬時に声の方向へと向く。
俺でさえ、今のあいつらが俺を味方だと思っているのか敵だと思っているのか分からないから多少は警戒する。
後者なら最悪だ。
「フォグ……」
長いコートを着た、史上最悪の殺人鬼。政府から、“世界の敵”の一人として、一般人にすら殺害の許可が降りている存在。
フェイブ・オブ・グールがそこにいた。
- 142 :
-
「フォグ!!!」
右肩の痛みも無視して、俺は叫んだ。
フォグは何処か面白そうな顔をして俺を見た。
「あァ、アナタですか。ソーリーホーロー。やっパりアナタには無理でシたネ。もうアナタは要りまセん」
「なっ……」
「リンドウちゃん。完成シテいマしたョ」
そう言ってフォグはリンドウに何か手渡す。大きさからして、何らかの錠剤。
何かの覚悟を決めるように逡巡した後、リンドウはそれを飲み干した。
「何かは知らないが、させるかよ。突撃しろ騎士共!」
前列の十名程度の騎士が、リンドウへと突撃する。
しかし、フードの殺人鬼達が撃退するまでも無く、その体は四散した。
「なに!?」
流石に動揺の色を隠しきれないエデンが、騎士達に停止を命じる。
虹色のモザイク模様の線が空中に浮かんでおり、それに触れた騎士の体が二つに分かれた。
「『切断する能力』?いや、これは……」
「私の能力。『転送する』能力よ。貴方の部下は、その境界に触れて裂けた」
リンドウが鼻を押さえて言った。鼻血が出ている様子だったが、隣にいたカオルがハンカチを差し出す。
「『転送する』能力だと?報告ではテメェの能力は『物を置き換える』能力……じゃないのかよ」
「エクザはね、エデン。貴方が思ってるほど単純な物じゃないのよ」
まるで子供をあやすような口調でリンドウは告げる。
「相手してあげたいけど、残念ながらあと5分で夜明けだわ。だから、さようなら」
リンドウが左手を大きく動かす。幾筋ものモザイクの線が、アジトごと全員を包み込む。
「リンドウ!!!」
銀髪の女の制止を振り切って、俺は前に出る。
「ホーロー……あなたは強い」
フードの殺人鬼が一人、また一人と転送され消えていく。
しかし、リンドウは俺を連れて行く様子は無い。
「その強さこそが、あなたの弱さでもあるのよ」
「何……だって?何を……」
ルローが消え、フォグも転送された。残っているのはリンドウと、隣に立つ黒い影を纏ったカオル。
フォグの脅威が消え、圧迫から開放された騎士が、リンドウの能力を避けながら近づいていく。
「あなたはそのまま自由に生きればいい。だから、さようなら。ヨシユキ」
彼女が最後に見せた微笑みを。その笑顔を。俺は失いたくなかった。
彼女に向かって手を伸ばす。能力を発動させる。この『能力を否定する』能力なら……
しかし、頼みの能力は発動することは無かった。
「行くなっ……リンドウ!」
叫ぶ。呼びかけることしか、今の俺には出来ない。
間合いを詰めた騎士たちが飛び掛るも、カオルが振ったナイフで惨殺されていく。
やがて、ナイフを振るうカオルが消え、リンドウの笑顔が消え、アジトごと消失した。
唸るような地響きが聞こえた。
「ちっ。支えとなるネグラが消失した。お前ら引け!撤退だ!」
エデンが叫ぶ。どうやらこの地下空間が崩れるらしいが、俺にはどうでも良かった。
心が無くなってしまったかのように、何も考えることが出来ない。
「ああ……俺は……」
俺は――
俺は――
俺は――
「……行くぞ」
残った左腕を抱きかかえられて、空中へと浮かぶ感覚がした。
風に舞う銀色の長い髪が見えた。
轟音と崩れ落ちる岩の間を擦り抜けていく。
いくつかの岩が俺の体に直撃したが、痛みを感じなかった。
引っ張られるように闇の中を進んでいくうちに、俺の瞼も落ち、意識も闇へと沈んでいく。
そこから先は何も覚えていない。
- 143 :
- ここまで投下です。
- 144 :
- 投下きてたー!
>>143
投下乙です!
それでは、ゆっくり読ませていただきますね!
そしてヤッチーは渡さないよ!
- 145 :
- リンドウ…辛いのう
>>144
つ 時雨さん
- 146 :
- >>145
イィヤッホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォゥ!!
- 147 :
- 落ち着けw
>>143
投下乙!
- 148 :
- 投下します
- 149 :
- 隕石の残りだろうか。燃える彗星が空を流れていく。
俺の頬にも冷や汗が流れ落ちた。
「……え?」
「捨てろと言ったのだ、ヨシユキ」
父さんは、何を言っているんだ?
幼馴染は弱い喘鳴を繰り返す。
早く病院に連れて行かなければ、助からないと小さな俺でもわかる。
業を煮やしたのか、俺の肩から彼女を乱暴に落とす。
彼女は小さく呻いてアスファルトに落ちる。
そのまま父さんは俺の腕を掴み、無理やり車に乗せようとした。
「嫌……だ……」
「……何?」
「放せよ!」
手を振って、父親の手の甲に爪を立て腕を振り払う。
「……っ、この、馬鹿モノが!」
おもいっきり殴られ、幼馴染と同じ場所に倒れる。舌でなぞると、奥歯が折れていたのが分かった。
「ちっ……お前の代わりなどいくらでもいるわ。この業火の中でのたれ死ぬがいい」
怒ったまま父さんは車に乗り、母さんもこちらを一瞥もせず車に乗り込む。
俺達に排気ガスを噴きかけながら、黒い車は去っていった。
「……大丈、夫?」
俺は幼馴染に問うが、返事が無い。
周りの家々から火の手が上がっていく。
煙と熱気を吸い込んで、意識がクラクラする。
この場所にいては俺たちも危ない。
逃げなければ。だが何処へ?
「大丈夫ッスか?」
顔を上げると、マネキンの白い顔があった。
「!?」
「おっと、こっちッスよ」
驚きつつ白いマネキンの隣に立つ青年を見た。身長から俺よりやや年上だと感じた。
頭に包帯を巻いていたが、快活そうな笑顔で俺を見た。
「シェルターまで案内するッス」
「わっ」
マネキンに担ぎ上げられて、体が中に浮かぶ。こいつら、近くのスーパーに置いてあったやつだ。
見ると、幼馴染も担ぎ上げられていた。他のマネキンが応急処置をしながら歩いていく。
青年をみると、携帯で何かぶつぶつ言っていた。
「やっぱり逃げられたッスね。ええ、それで…………」
助かった安堵感で、急に意識が遠くなっていく。
瞼を閉じ、マネキンの肩で揺られながら彼の挨拶を聞いた。
「ちなみに自分の名前はラヴィヨンっスよ。偽名だけどよろしくッス」
- 150 :
- 目を覚ましたのは、真っ白な部屋の中。病院ではなく、外国の雰囲気のする部屋だった。
右腕の痛みに呻いて体を横に動かすと、ベットの隣に座っている少女と目が合った。
真っ白でひらひらとした服装。純白の真っ直ぐに伸ばされた長い髪。
「これこれ男よ、死んでしまうとは情けないのです」
ジト目でそう言われた。
「ていうか、その場所はリリィの場所なのです。早く退くのです」
「……無茶……言うな」
無理やり半身を起こすが、痛覚を遮断し切れなかった右肩の激痛が全身を巡る。
視線を動かすと、右肩には包帯が巻かれ、腕は付いていなかった。
無くなったはずの腕の感覚だけが残っていて、妙な気分だった。
「……機械の体というのは、便利なものだな」
部屋の後ろ側。木製の扉に銀髪の女が居た。
手には銀の盆と水の入ったグラス。そして鎮痛剤らしき錠剤。
「……応急処置するまでも無く、損傷した血管が閉じられ、折れた骨格が金属で矯正される。……だが、全身が金属で無いというのはどういう理由だ?」
俺にコップと薬を手渡しながら、純粋な疑問を聞いてきた。
「エクザは魂に宿る……魂は肉体に宿る……だとか。よく分からないが、能力を効率よく使うためにわざとこういう体にしているらしい」
同じ疑問をこの体を創ったルジにも聞いてみたが、よく分からない答えが返ってきた。
実験結果なんだそうだ。
「……そうか」
納得したのか分からないが、彼女は立ち上がって窓を開けた。
風。
いや、これは潮風か。
見ると、夕陽か海の向こう。水平線に沈んで行くところだった。
「……しばらく換気していなかったからな。……冷気が堪えるか?」
「いや……平気だ」
薄く雲がかかった洛陽。冬の夕陽は、どこか物悲しい。
「どうして俺を助けた」
疑問だった。今はいつだとか、ここはどこだという疑問よりも聞かなければならない問題だった。
それに対し彼女は少し笑みを浮かべた。
「……お前を守ることが、私の贖罪だ」
「贖罪……」
「……お腹空いただろう。……何か食べるものを持ってくる」
そう言って彼女は部屋を出て行った。
横の白い少女を見ると、椅子の上でウトウトとしていた。
窓を閉めた後、彼女をベットまで運び羽根布団をかけてやる。
「まだ、方法は残っている」
ポケットの中から取り出したタロットカードを握り締めた。
パンとかぼちゃのスープを持ってきたが、ホーローは居なかった。
寝ていたリリィに問う。
「ホーローは何処だ」
「うぅ……むにゃ」
「シルバーレイン。外だ。出て行ったぞ。駅の方へと向かった」
部屋の奥から男の声が聞こえた。
眠っているリリィを放置し、外へと向かう。
- 151 :
- 「こんばんわ、ホーロー。待っていましたよ」
「フール……」
凍て付きそうな夜の駅前。ベンチに座っていた男に呼びかける。
相変わらず何処にでも居そうなチャラチャラした格好をしている癖に、醸し出す雰囲気の不気味さは異常だ。
黒い中折れのツマミハットの縁には、白い雪が溜まっていた。
フールはいくつもの指輪やチェーンが嵌った手で、雪を取り除く。
「ほら。このカード」
“The Hanged Man”吊るされた男が描かれたカード。
俺が出したカードを恭しく受け取るフール。
「では、これでもう貴方に用はありませんね?」
「お、おい。ちょっと待てよ」
ジャリ、と革靴が音を立てて止まる。
「やれやれ。あなたはもう少し利口な方だと思っていたのですが」
銃口が俺に向けられていた。
「なっ……」
「全く。あなたのせいで僕は一人こっちの世界に取り残されました」
殺意は感じない。まるで、玩具のように本物の銃を俺に向けていた。
だが、その銃が何百人もの人を殺してきたことを俺は知っている。
「組織とは音信不通。まぁ。作戦を聞かなかった僕に対してのペナルティという事かもしれませんねぇ」
ファッションの一部と化していたその銃を、揺ら揺らと俺に向ける。
「あなたの弱さのせいで、僕らは僅かとはいえ危機に瀕した」
「……っ」
唇を噛み締め、責めるような視線から目を逸らす。
ふっ、と薄く笑い、フールは銃を仕舞った。
「まぁ、我々が負けるなど万に一つも無いことですが……ホーロー。あなたには覚悟が足りない」
「覚悟……」
「他者をR覚悟。嘘をつき、純粋な人間を騙す覚悟。善人を背後から突き刺す覚悟。そして――自らも犠牲にする覚悟。それらを持たない人が、彼女を守れるとお思いですか?」
リンドウ……
「俺は……」
何も言い返せなかった。
覚悟は決めたはずだった。だが、あの日から俺は、自らに嘘をつき続けているような気がする。
俺は彼女も、さらには見知らぬ他者でも守ろうとしていた。
「もう僕らに関わらないでください。あなたが居ると組織がブれる。弱いあなたのお守りは心底迷惑でした。さよなら、ホーロー」
黒い帽子をひらひらと振って、背を向けるフール。
フールの姿が消え、俺はその場に立ち尽くした。
「俺……は……」
体中の力が抜け、倒れこむようにベンチに座った。
雪が降り積もり、辺りは一段と寒くなっていく。
- 152 :
- 駅前を探していた私は、すぐにホーローを見つけた。
ベンチに座り、頭から肩まで雪が積もっている。
周囲を歩く人は、奴の姿に気づくと気味悪そうに避けて通っていた。
「……おい、死ぬぞ」
呼びかけても、反応はしない。
仕方なく私は、奴の隣に座る。
白い吐息が見えることから、生きている事は分かる。
「……何があった?」
「……何も……無い」
嘆息しながら、立ち上がる。
近くの自販機であたたかいの缶コーヒーを二つ買い、一本を手渡す。
弱弱しく、俯いたままホーローが受け取る。
「……そんなわけが無いだろう」
プルトップを開け飲もうとしたとき、声が聞こえた。
「俺には、今、何も……無い。戦う理由も、生きる、意味すら……無い」
飲むのを中断し、隣を見る。
そこには弱弱しい少年のような男の姿があった。
「エクザすら、失った」
ホーローが左手の平を突き出す。奴が発生させていた青い霧は、微かに蛍のように光るだけで、やがてそれも消えた。
エクザを失うことなどありえるのか、と疑問に思いながら奴を注視した。
しかし、そこまでエクザについて詳しくない私では、断定は出来ない。
「俺には、何も、無い」
今にも消え入りそうなか細い声。
壊れてしまいそうな、弱い姿。
その消えてしまいそうな彼を、私はしっかりと抱きしめた。
「なっ」
ホーローが驚く声を上げるも、私は更に力を込める。
「……すまない、ホーロー。……私のせいだ。……私が、お前から彼女を奪ってしまった」
「彼、女?誰だ?」
「……『ツバキ』。……お前は覚えていないだろうが、彼女さえ居れば、お前は……」
そうして、そっとホーローを放しその目を見て誓う。
「……私がお前を強くしてやる。……誰にも頼らず生きていけるように……今度は私が、お前を守る」
- 153 :
- その日、夢を見た。
シェルターに運ばれて一週間。ここの生活にも随分なれた。
幼馴染の体調も徐々に回復してきて、かなり機嫌が良かった俺は鼻歌を歌いながら歩く。
周囲の大人たちも、状況に対応してきたのか、施設の再建などを進めていた。
俺は配給されたパンを持ってテントへと歩く。
ベットで寝ていた彼女は、看護師に介護されていた。
「どう?調子は」
俺に気づいた彼女がにっこりと笑う。そしてコクンと頷いた。
血色も良くなっていた。看護師に聞くと、来週には簡易ベットから出られるらしい。
それを聞いて、嬉しくなった俺は彼女に言った。
「良かったな!ツバキ!」
目を覚ます。
自然に流れていた涙を、俺は拭いた。
「ツバキ……?」
半身を起こして、周囲を確認する。白い部屋だが、前の部屋よりは質素でシンプルな部屋だった。
暗い部屋の中で、月の光だけが窓から差し込んでいた。
そのまま、再び倒れこむ。
胸に手を当てる。
「まるで……心に穴が開いたみたいだ……」
遠くでサイレンの音が響く。犬が吼える声も遠く聞こえた。
左手から伝わる心臓の音は、いたって正常。
だが、心の中は、壊れかけていた。
心の正常に残った部分が壊れないように、両膝で抱え込むように、守る。
守れなかった約束から。
失っている記憶から。
目を閉じ、安息の闇に身を任せた。
やがて訪れる夜明けを願いながら、俺は眠った。
- 154 :
- ここまで投下です。
次の投下は、しばらく空くかもしれません。
- 155 :
- 夏なので水着を描きました!
ttp://loda.jp/mitemite/?id=2348.jpg
- 156 :
- うっひょう!
チ○ビちょっと見えちゃってサービスショットじゃないですか!!!
- 157 :
- >>154
投下乙!
>>155
オウ……これはこれは……
- 158 :
- >>154
投下乙
過去に何があったんだろう
続き待ってます
ところで浮気症ねっ!
>>155
おいぃ!後ろの可愛い女の子をだなぁ…
- 159 :
- どなたか前スレの魚拓などは持っていらっしゃいませんか?
- 160 :
- 5スレ目の過去ログをまとめwikiの過去ログのところに入れておいたけど、
それでよければ見てみてね
- 161 :
- おお乙
- 162 :
- ありがとうございます!
- 163 :
- まとめwikiにあるリリィ編/13の内容ってスレで投下されてないよね…?
- 164 :
- すみません。
hotmailの調子が悪かったので、一時的にwikiをwordpadの代わりに使わせてもらいましたッ
- 165 :
- ↓投下します
俺が“ドグマ”から離れて、半年が経った。
「ぁ。これ、かゎぃぃっ!」
港近くのプラザの一角。輸入雑貨店でイザナミは、熊のステッカーを見て声をあげた。
美しく流れるような黒髪は、肩口から三つ編みに変わり、その先を銀色のリボンで留めていた。
真面目そうな赤ぶち眼鏡をかけた、かわいらしい女子高生。
だが、その雰囲気を両隣に立つ二人の黒服の男達がぶち壊していた。
彼らはサングラスを掛け、重苦しい威圧感を放つ。イザナミの言葉にも反応せず、ただじっと無表情に顔をしかめていた。
周囲の客は彼らの姿を見て、そそくさと出て行き、ショップの店員も冷や汗をかきながら見守っていた。
「じゃぁ、これとこれとこれにしょっと」
黒服の男達の反応も気にせず、自分に話しかけるように喋る。
イザナミがステッカーを持ったまま、カウンターを素通りして、外に出ようとした。
「あ、あの。お客様。お会計は……?」
女性店員が思わず喋りかける。
イザナミの長く白い脚が、ピタッと止まる。そのまま可愛らしい笑顔で、店員を見た。
「ん〜?」
その瞬間、女性店員はイザナミに喋りかけたことを後悔した。
イザナミから放たれる威圧感に、店員が凍りつく。
お前の生殺与奪の権は私が握っているんだぞ、という事を彼女は笑顔だけで主張していた。
「なにか言った?」
「な、な、何でもありません!すみません!」
深々と頭を下げる。
全身の震えが止まらず、カチカチと歯が鳴る。
自動扉が開き、外に出て行く鼻歌の音。
女性店員が顔を上げると、黒服の男の一人がカウンターの前に立っていた。
男は財布から一万円札を三枚取り出しカウンターの上に置き、店員に向け賞賛の意を込め小さく笑った。
昔から、彼女の殺意が分からず取り返しのつかない所まで踏み込む人間は大勢いたが、誰もが等しく消されていた。
- 166 :
-
「ぇっへへ〜。かっゎぃぃなぁ〜。かゎぃぃょね〜?」
真昼の太陽が差す、石畳が綺麗な、商店の前の広場。
イザナミは広場のベンチに彼女お気に入りの黒鞄を置き、その側面にステッカーを貼っていく。
黒鞄には悪趣味な頭蓋骨のアクセサリーがぶら下がっていた。
遠目から見れば、精巧に造られた偽物に見えるが、分かる人が見れば、それは本物の頭蓋骨だと分かる。
「さってと、ぃきますかぁ」
立ち上がって、振り返った時、一人の男が広場の中央に立っていたのに気づいた。
茶髪の少年。黒を基調としたポケットの多い服を着て、軍靴を履いていた。
季節はまだ暑さの残る晩夏だが、長袖。だが、右の袖は肩口で切れていた。
「ぁれ……ぉにぃさん、ぃきてたんだ……」
何かを考え込むように、ヨシユキは目を閉じていた。
幾つかの点が、彼女が依然見た姿と違っていた。
まず、右腕。エデンが切り落としたと聞いた腕は、鈍色に光る機械の腕に代わっていた。
その先に続くのは人の手ではなく、白く光る巨大な爪。
そして、左手に持っている得物はナイフではなく、先端に十字になるように刀剣が設置された十字鎗と呼ばれる鎗。
顔には眼帯。左目だけ隠れるように黒い帯が巻かれていた。
ヨシユキが目を開ける。
その瞬間、イザナミは鞄の取っ手を握って黒斧を出し、構える。後ろの黒服二人も銃を構えて臨戦態勢を取っていた。
ヨシユキから放たれる、強烈な威圧感。イザナミが以前感じたヨシユキの雰囲気とは全く異なっていた。
「エデンは何処だ」
低く問う声。片目からの視線がイザナミを差していた。
「……ぁたしがこたぇるとぉもぃます?」
「そうだな」
ヨシユキが十字鎗を構える。それだけで威圧感が倍増する。
「無理やり吐かせる」
鎗を構えたまま、ヨシユキが高速でイザナミに近づいていく。
それに対し黒服の男達が銃を応射する、事は出来なかった。
銃の刀身が二つに裂かれ、薬莢や火薬が宙に舞う。
銀髪の女が2メートル程ある巨大な剣で、一瞬のうちに二人の銃を切り裂いていた。
返す刃で黒服の男の胴に峰討ちを叩き込む。
仲間が悶絶して倒れている間に、黒服の男のもう一人が能力を発動。手の甲から爪が突き出し、シルバーレインの剣を受け止めていた。
その合間にヨシユキがイザナミを捉える。繰り出された鎗を受け止めず、射線の横に逃げるイザナミ。
イザナミの頬に、小さな赤い線が入る。十字鎗であるため、間合いを計りきれず鎗が掠めていた。
続く鎗の追撃を、イザナミは転がることで回避。バサッと制服を破り、翼を広げ店舗の上へと逃げた。
ヨシユキからの追撃が無いことを確認し、頬に手を当て、出血している事に気づく。
「ぉんなのこのかぉに、けがをぉゎせるなんて……ゅるせませんっ!!!」
イザナミが左手を上げて、能力を発動させる。
ヨシユキは冷静に鎗を構え直し、その様子を見ていた。
- 167 :
- 以上です。
wikiの方はとりあえずSSだけ見よう見まねで纏めてみました。
イラストの方はやり方が分からなかったのでwiki編集スレ見て質問などしてみたいと思います。
- 168 :
- まとめ乙です!
ちょこちょこ抜けてる気もするけど、まあ自分のは自分でやればいい話だからいいや
- 169 :
- しまった。
だいぶズレてるっていうか、臆病者〜が無い時点で気づけよ俺。
修正しますッ
- 170 :
- なんか嫌味っぽくてすまない
そしてありがとう
- 171 :
- いえいえ。
言われるまで抜けてるのに気がつきませんでしたからよかったです。
自分の編集なんで、間違えてる場合があると思いますが、その時は御了承くださいませッ
- 172 :
- 復活
- 173 :
- 復活
- 174 :
- 投下します
- 175 :
- 東堂衛のキャンパスライフ 番外編
〜三と山って同じ音読みだね!の巻〜
ナオミ「去年(メタ的な意味で)は海だったから今年は山に来たわ。」
輪「山の中って涼しいですね。」
ナオミ「そうね。木の葉が蒸発させた水分が周りの熱を奪ってるの。いわば天然のクーラーね。」
幸広「ガキの頃はばあちゃん家の近くの森でよく親戚の奴らと虫捕りしたな。」
かれん「へぇー。」
幸広「おっ、カブト虫発見! そーっと……おりゃ!」
衛「捕まえるの上手いね。」
かれん「ちょっと見せてください!」
衛(へぇ、怖がると思ってたんだけどな。)
かれん「先生! ほら! 可愛いですよ!」
ナオミ「え、ええ、そうね……。」
輪「私の後ろに隠れないでくださいよ先生。」
廻(かれんちゃんグッジョブ!)
- 176 :
- かれん「あっ、小川がありますよ。」
輪「凄く澄んでる。綺麗……。」
幸広「よし、今度は魚捕り勝負しようぜ、衛!」
衛「ふっふっふ、望むところだ!」
輪「まったく、こいつらったら。」
衛「おっ、あいつにしよう。」
幸広「ちょっと待て、お前水に入っても波が立ってない……って、能力使ったな!」
衛「禁止とは一言も聞いてなかったからね。それっ、捕まえる瞬間に解除だ!」
かれん「衛さんすごいですっ!」
幸広「ぐぬぬ。」
衛「おいこらっ、暴れるな……って、あっ!」
幸・輪・か「「「あっ!」」」
ナオミ「ん? って、きゃあっ!」
バッシャーン!!
ナオミ「いたたた……、いきなり魚投げ出さないでちょうだい。って、ん……?」
衛(透けてる……。)
幸広(意外と子供っぽい……って、忘れがちだけど実際子供なんだよな。)
廻(平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心平常心……。)
ナオミ「な……な……いやああああああああああああああああ!!!!」
おわり
- 177 :
- 投下終了!
…ちょっと頭冷やしてくる
- 178 :
- >>177
投下乙です!
私も今日中に投下できるといいんですが……。
- 179 :
- >>177
投下乙でーす!
衛とかれん久しぶりだなw
涼しげで良いね!
- 180 :
- ちょっと投下します。
ちょっとグロいので、見るの注意してください。
いいか?絶対に見るなよ?絶対だぞ?
- 181 :
- 血。
血。
血。
現場の惨状に、ゼンは顔をしかめていた。
ゼンは生粋の傭兵であり、戦場などは見慣れたものだが、それでもこの場の醸し出す雰囲気はおかしいと感じた。
近場にある死体を注意深く嗅ぎ、ブービートラップの類が無い事を確認した後、死体を持ち上げる。
絶叫した男の顎。その頭部は何かに喰い千切られたかのように消失していた。
「能力か……?」
疑問に思う。バフ課に連絡して、そのような能力者がいないか確認を取るように命じた。
そして、破壊され尽くされたカウンターの奥に縮こまっている女に尋問する。
それは、銀行員だった。奇妙な事に、銀行員たちは全員無傷だった。
死んでいるのは、強盗団。犯罪を犯そうとしていた方が、惨殺されているという奇妙な現実。
「女。何があった」
有無を言わせぬ詰問口調。女はビクッと体を震わせた後、こう言った。
「女の子……女の子が……」
「どんな女だ」
「白い……ドレスの……強盗の後に入ってきて……」
ゼンはそれだけ聞くと崩壊しかけた建物から出て行った。
「止まれ」
暗い歩道を歩いていた女を呼び止める。
少女は白いドレスを揺らし振り返ると、きょとんとした顔をゼンに向けた。
「バフ課5班諜報部だ。バフ課の権限より、お前を拘束する」
「……あっは☆」
少女は嬉しそうに口元を歪めて笑った。
ゼンは少女を鑑定する。
「なるほど、厄介な能力を持っている」
少女は口元に腕を持っていった。彼女の腕ではない。先ほどの強盗から奪い取った腕だ。
無理やり引き剥がされた断面から、白い脂肪質と筋繊維が垂れていた。
少女はソレを少しかじった後、歩道に投げ捨てた。
「あなた、美味しそう☆」
「女。名前を何と言う」
ゼンは銃を構え、戦闘体勢を取る。強敵であることは間違い無い。
「リリィ。リリィ=ハーゲンダルクよ」
少女が駆け出す。
歩道裏でかつてない激戦が始まるかも知れなかった。
続かない。
リリィ「!?(混乱・半泣き)」
ヨシユキ「どうしてこうなった……」
銀雨「……初期設定……作者ェ……」
- 182 :
- 皆さん投下乙ですー!
間に合わなかったけど、投下しても大丈夫ですかー?
- 183 :
- こいっ!
- 184 :
- じゃあ次のレスから投下しますね!
- 185 :
- 西暦2000年2月21日。
決死の破砕作戦も虚しく落下した隕石群によって、地球は壊滅的な被害を受けた。
地震、津波、衝撃波によって蹂躙された後、舞い上がった粉塵が、人々から、月を、星を、太陽を奪う。
あの日はまさに地獄だった。
――――いや、違う。
無間の地獄は、今も、なお――――
真(チェンジ!)リング・デイ
〜地球変革の日〜
序章
西暦2000年、3月。本来ならば暖かくなってくるはずの気温はむしろ下がる一方で、空気は淀み、空は暗い。
それもこれもみんな、数週間前に落下した隕石のせいだ――――窓の外の闇を見ながら、裏白 ななこは怨めしそうに心中でひとりごちた。
ななかはひとりぼっちだ。
家族も友人もみんな、隕石衝突とそれに伴う天災・人災で失ってしまった。
誰かに助けを求めようにも、ただでさえ災害の影響で混乱しているのだ。頼れる人なんて誰もいなかった。
たかだか12歳の子供に、こんな未曾有の災害の中、ひとりっきりでどう生きていけというのか――――やるせない気持ちと、あきらめの気持ちを抱きつつも、点けていた部屋の電気を消す。発電施設は何とか生き残っていたようで、厳しい制限はあれど電気の使用は可能だった。
……もう、寝よう。
♪ ♪ ♪
妙な違和感を感じて、目が開いた。
外は暗い。塵芥のせいで朝かどうかもわからない、忌々しい。
不機嫌な目で時計を見る。午前5時、早朝だ。
- 186 :
- 真っ白な溜め息をひとつ吐くと、ふたたび布団を被った。
その時、だった。
――――誰!?
不意に扉が開いたのは。
施錠はしていたはずだが、思い違いだったんだろうか。それともピッキングか何かか――――様々な憶測が頭の中を流れるが、とりあえず息を殺して布団の中に隠れる。
鬼が出るか、蛇が出るか。すっかり暗闇に慣れた目で、ちらりと外の様子を伺う。
そこにいたのは、鬼でも蛇でもなく――――
「あ……まだここ、人いたんだ」
ウェーブがかった黒髪の、柔和な顔した優男だった。
「――――ッ!」
気づかれた。
「ああ、ごめん、鍵が掛かってなかったから……それより、ここにいるのは君ひとりだけ?」
「……そうだよ」
いきなり人の家に上がり込んできて、なんなんだよ突然――――苛立ちがこもった声で、ななこ。
「僕もひとりなんだ。だから生存者を捜してたんだけど……」
「なんで」
「なんでって……ひとりじゃ寂しいからだよ。情けない話だけどね」
そう言って彼は苦笑した。まったく邪気の感じられないそれに、ななこの警戒心がほぐれる。
「名前、なんていうの?」
「僕の名前? 僕の名前は……ゲンヤ。ホウヅキ ゲンヤだ。君は?」
「ななこ。裏白 ななこ」
「ななこちゃんか、かわいい名前だね」
ゲンヤがあまりに屈託のない笑顔で言うものだから、ななこは恥ずかしくなって、頬を赤らめた。
「は、恥ずかしい事言わないで」
「ははは、ごめんごめん。そうだななこちゃん、いま何時?」
時計を見る。いつの間にか一時間近く経っていたようだ。
「もうすぐ6時だけど」
「そっか。じゃあ、そろそろ僕は行かなきゃ」
おもむろにゲンヤが立ち上がり、ななこに背を向けた。
- 187 :
- 「もう行っちゃうの?」
そんなななこを見て、ゲンヤは微笑を浮かべながら言う。
「夜になったらまた来るよ」
「絶対に?」
「絶対に」
玄関の扉を開ける。
「絶対だよ」
「わかってるわかってる……じゃあ、また後で」
静かな部屋に、扉の閉まる音だけが響いた。
♪ ♪ ♪
「断罪の。“ムゲン”の能力者はまだ見つからないのか?」
周囲の闇に溶け込むような、黒いスーツを着た男が、宙に浮くソファーを見上げて問いかける。そのソファーには蒼い髪の女が足を組んで座っていた。
「落ち着きなさい、旭影の。まだ時間はあるわ」
「しかしな、目障りな政府の狗どもに先を越されると面倒だぞ」
「その時はその時でしっかり考えてあるわ、心配しないで」
不敵な笑みを浮かべ、女は扇を取りだし、開く。
「すべては、我らG3団の意のままに」
♪ ♪ ♪
薄暗い事務所の中で、男はブラインドの隙間から外を見た。電気の明かりがぽつぽつと灯っている以外は真っ暗だ。もう、日ノ出の時間だというのに。
「珍しく浮かない顔をしとるの、ブリーゼ」
声に反応し、振り返る。そこには軍服を身に纏った中年の巨漢。
「ラツィームか」
“ブリーゼ”と呼ばれた男は頭を掻きながらごまかし笑いを浮かべる。
「“レインボーローズ”の件でちょっと、な」
顎を撫でる。数日間剃ってない髭がジョリジョリと音を立てた。
「一応ウチのかわいい副隊長を向かわせたが……あいつらがどう出てくるかわからん以上どうにも不安で仕方ねーのよ」
「G3団か。あれとは間違いなく戦闘になるの」
ブリーゼが苦虫を噛み潰したような表情をする。
「あいつらとは今まで後手に回ってばかりだったからな。今回くらいは先手を打ちたいんだが……」
「今は目の前の事件の対応に忙しいからの」
ラツィームも肩を解しながら溜め息をひとつ。
隕石が落ちてからというものの、治安の悪化が著しい。それは災害に伴う混乱によるものがほとんどだが、それ意外の“特殊な事件”も――――ごく少数ではあるが――――あった。ブリーゼやラツィームらは、その“特殊な事件”のために集められたチームだ。
しかし、最初は少なかった“特殊な事件”は日を追うごとに増加していき、今では隊員を総動員してもいっぱいいっぱいになる程に膨れ上がっている。
「まったく、面倒な世の中になっちまったもんだ」
「本当にの」
二人は自嘲気味に笑うと、事務所を出た。
- 188 :
- 投下終了ですー。
急いで書いたんで色々アレな部分があるかもしれません。
- 189 :
- ヒャッハー!投下乙だぜぇ!
怪しい奴らがでてきたなぁ。
ブリーゼは隊長かな?続きが気になるぜ!
- 190 :
- 乙ー
>>181
採用稿とギャップありすぎるwww
>>188
ななこちゃんに期待
- 191 :
- 投下乙です!
新しいのが始まってる!続き期待します
さてリリィ編の作者さんにちょっと質問があるんですが、シルバーレインとリリィちゃんの絵を
描きたいなと思ったんですけど、シルバーレインの「戦闘服」ってどんな感じのものをイメージ
されてるんですかね?すでにちょっと描いてみたんですけど、なんか自分の趣味と妄想全開のトンデモ
なものになってましてw
お答えもらえるととても助かります
- 192 :
- マジすかw
イメージとしては動きやすそうな格好を想像してましたけど、
特に固まってなかったんでお好きなように描いてください!
むしろお願いしますw
- 193 :
- 返答ありがとうございます!
「動きやすいといえば薄着!」くらい単純なノリで描いてしまうと思いますが、
描きあがったのを見て「これはないわ」と思ったらがつんと言ってやってくださいw
- 194 :
- wktkして待ってますw
- 195 :
- チラシの裏に投下あり
- 196 :
- あれは破壊力すごい
抱きしめたくなる
- 197 :
- 少し留守にしてる間にすげー投下きてるー!?
皆乙!
- 198 :
- お好きなように描いてしまいました。シルバーレインのつもりです
ttp://loda.jp/mitemite/?id=2407
- 199 :
- セクシー
- 200 :
- >>198
ウオオおおおお!イメージピッタリですよ!
ニヤニヤして見てましたw
灰色と黒のコンビネーションがいい!ヾ(≧∇≦)ありがとうございます。投下乙ですよ!
- 201 :
- >>198
うわぁえろい! えろいよ!
- 202 :
- wikiのほうにイラストファイル収録しておきました!
不備があったらごめんなさい。投下した方はご確認よろしくです
あと、あっちのコメ欄にも書きましたが
コメントフォームが消えてたので(無効なコマンド? #commentavs となっていた)
復活させました。何か意図があってこうした、ということであれば勝手なことしてごめんなさい・・・
>>195-196の物件については、避難所にて問い合わせ中でございますww
- 203 :
- wiki編集ありがとうです! 俺もたまにはやらなきゃ…
さて好き勝手描いたシルバーレインに続き、また好き勝手に描いたリリィちゃんです
ttp://loda.jp/mitemite/?id=2425
絵描くのって楽しいんだよね、出来がどうかは別として
- 204 :
- これはロリかわいい
- 205 :
- >>202
wiki編集お疲れ様です!
>>203
リリィかわいいぜ!
描いてもらってありがとうございます!
絵を描けない人にとっては描いてもらうと凄い嬉しいのぜw
- 206 :
- 投下しまーす
- 207 :
- 【幻の能力者】 慎也編前編
─ Riddle of the Time Traveller ─
かつて世界に強大な災厄をもたらしたチェンジリング・デイの流星群。
それらはまた、人類に今までの科学を凌駕する超能力──Extra Abilities──をももたらした。
チェンジリング・デイの影響で減ったとはいえ、現在の地球の人口は約50億人。
「10万人に1人の才能」が、世界には5万個も存在する計算だ。
世界には驚くべき“能力”を持つ人間が、山のようにいるのだ。
中には世界の有り様そのものを変えてしまうような、とても信じ難い“能力”を持った人物も存在する。
今回は、世界中の“能力”を研究している僕が特別に、
そうした珍しい能力者の一人に出会った時のエピソードを紹介しよう。
-主人公
>比留間慎也 (ひるま しんや)
>
>チェンジリング・デイ以降に人類が発現した“能力”(EXA)を研究している科学者。
>EXAの発見当初から研究を続けてきたお蔭で、今では世界的な有名人である。
- 208 :
- 201X年3月10日、午前2時。
長引いていた余寒も1週間ほど前から薄れ、北半球はようやく本格的な春への移行を始めたようだ。
廊下に掛けてある温度計は12.8度を指し示している。
「ふぅ…すっかり遅くなってしまったな。」
ビジネスホテルの廊下を、チェックインした自分の部屋に向かって歩きながら、僕は一人事を呟いた。
EXAそのものの基本的な研究は一段落したとはいえ、EXAは研究対象の個人差が極めて大きな学問分野である。
研究するべき事柄はまだまだ尽きない。
能力研究の第一人者である僕は、今日も東京から遠く離れたこの町まで来て、夜遅くまで仕事をしていたのだ。
窓の外の煌びやかな夜景とは対照的に、建物の中は静まり返っている。
廊下の片隅に置かれている自動販売機が、低い唸り声を上げている。
家一軒と同じ量の電力を対価に人間が得た、文明の恩恵の1つだ。
僕は自動販売機を前にして、どの商品を買おうか少し考えた。
僕は残念ながら、炭酸飲料と清涼飲料は好まない。従ってこれらに該当する商品は最初から選択肢にはない。
頭の切れる人なら、毒殺を恐れて無色の飲み物(ミネラルウォーター)を買うだろう。しかし生憎と僕はそういう人ではないので、普通の飲み物を買う事にする。
特にこれから夜更かしをする予定はないし、酒盛りをする気分でも無いので、コーヒーとビールは選択肢から外れる。
むしろ僕はこれから部屋でゆっくりくつろぐ所なのだ。となると、選択肢はこれしかない。
ガコンと無機質な音がして、ホットココアの缶が取り出し口に現れた。
「ココアには気持ちを落ち着ける成分が入っているんですよ」と、研究室の職員が以前教えてくれたからだ。
そして春になったとはいえ、今の気温では“つめた〜い”を選ぶ事には抵抗がある。故に、この場合はホットココアが正解の選択肢だろう。
- 209 :
-
「にゃ〜」
ココアの缶を手にしたとき、不意に猫の鳴き声がした。
この時間帯にビジネスホテルの廊下にいるのは普通の猫ではない。恐らく、彼女だろう。
「なんだ、アレフじゃないか」
検討をつけながら振り向くと、予想通り、そこには見慣れた姿の黒猫が座っていた。
銀色の髭とエメラルドグリーンの眼が、自動販売機の光に照らされて光っている。
アレフは、僕の知り合いの特別な猫である。
といっても、どう特別なのかを話し出すと少し面倒な話になってしまうので、ここでは語らない。
アレフは音も無く僕に近寄ってきて、顔を上げた。そして鳴いた。
「みゃ〜〜ぉ」
残念ながら、僕には猫語は分からない。
しかし、よく見るとアレフの視線は僕の手に握られたアイスココアに注がれているのが分かった。
「ん、欲しいのか?」
アレフはちょうど人間が頷くのと同じ様にして頭を少し下げた。これはこの猫が肯定の意を表す時の仕草だ。
こいつは僕が買った飲み物を時々欲しがるのだ。
「少し待ってくれ」
僕は屈んで、缶から手のひらの上にココアを少量零し、アレフの前にその手を差し出した。
アレフは首を下げると、ピチャピチャと舌鼓を打つような音を立てて、甘い茶色い液体を美味しそうに飲み干した。
- 210 :
-
余談だが、猫にココアやチョコレートを与えるのはあまり好ましい事ではない。
与えすぎるとチョコレート中毒という病気になってしまうからだ。
しかし、前述した通り、アレフは特別な猫なので、問題はなかった。
「にゃー」
ココアを飲み終わったアレフは、再び鳴いた。
状況と声調から判断するとどうやら「ありがとう」のつもりらしい。
リラックスしたのか、髭の角度がさっきよりも少し下がっている。
ココアを口につけながら、僕は少し考えた。
アレフが現れるのは必ず夜の間で、しばしば僕の身に危険が迫っている時だ。
しかし、特に何も目立った行動をしないという事は、今夜はただ飲み物をねだりに来ただけらしい。
僕がココアを飲んでいる間に、アレフはどこかへ去ってしまった。
ココアの缶を自動販売機の近くのゴミ箱に捨てると、僕は再び自分の部屋に向かって歩き出した。
これから起こる出来事をまったく予想もしないまま──
今思えばやはり、アレフの出現は、あの事件の前兆だったのかもしれない。
- 211 :
-
ドアに書かれている数字は496号室で間違いない。僕がチェックインした部屋の番号だ。鍵を開けて中に入る。
中に入ってドアを閉めると、オートロック装置が作動して自動的に鍵が閉まった。
さすがいいホテルだけあって、セキュリティがしっかりしている。
しかし、部屋の中に足を踏み入れた瞬間、僕はその感想を180度覆さざるを得ない羽目になった。
部屋の中、玄関部分からは死角になる位置に、右手に銃を持った人物が立っていたのだ。
ヒ ル マ シンヤ
「比留間慎也博士ですね」
硬直する僕を尻目に、彼女は話を続けた。
クロノ
「始めまして、私は黒野あゆみと申します」
「実は──博士にどうしても協力して欲しいことがあるのです」
こういう時に一番大事なのは、冷静になる事だ。
まず相手を観察する。背格好は一見したところ、私服の高校生か大学生に見える。
ただ、先程も述べたように、右手には銃が握られている。
また、その態度は、これまでに同じような事を何度も経験してきたかのように、平静だ。
その状況を踏まえて、最適の会話パターンを頭の中で構築する。
「どうしても──とは、その銃を使ってでも、という事かい?」
「これは護身用です。できれば使いたくはありません」
チェンジリング・デイ以降、世界中の治安は劇的に悪くなった。自分の“能力”に溺れて悪事に走る人間が多くなったためだろう。
その超能力の研究者として名を馳せている僕は、こういう「銃を持った人間と話さなければならない」状況には何度か陥った事がある。犯罪組織に手を貸せだとか、そういった類の話だ。
ただ、今回の相手は、身構えからして少し違う。戦闘慣れしていない。
僕は今までに人を平気で殺せるタイプの人間には何人も会ってきた。
しかし、彼女の瞳からは、そういう人達に特有の雰囲気がまったく感じられない。
態度を見る限りでも、殺意はないし、取り乱しているわけでもないようだ。
どうやら、僕は死ぬかどうかの瀬戸際にはいないらしい。
「そうか──とにかく話を聞こう。銃はしまってくれないか」
- 212 :
- 午前2時30分。
黒野あゆみと名乗る侵入者は、テーブルの上に銃を置いて話し始めた。
「私は、未来からやってきました。」
「“能力”で?」
「ええ、私の“昼の能力”は『時間を遡る能力』です。私はこの力を使って過去への旅を続けています。」
時間旅行の能力──世界でもほとんど例が報告されていない珍しい能力だ。──純粋な好奇心が僕の科学者精神をくすぐる。
「それは驚くべき能力だ。……何年後から来たんだい?」
「それはお答えできません。」
黒野あゆみはそっけなく答える。
「過去に戻って何をするつもりだい?」
「慎也博士、質問は最後に纏めてお願いします」
「そうか、すまない、話を続けてくれ。」
彼女の言葉に、僕は苦笑いした。
ついつい会話の主導権を握りたがるのは僕の悪い癖だ。同僚からも何回か指摘された事がある。
もっとも、そういう癖は往々にして中々直す事のできないものなのだが……
- 213 :
- 黒野あゆみは話を続けた。
「私の能力では半日前、つまり前日の夜までしか遡る事ができません。
そして、この能力は昼の間にしか使う事ができません。そこで、博士にご協力いただきたいのです。」
成程、大体の話は掴めてきた。
「博士の“能力”──《白夜》は、『昼夜を逆転させる能力』だと聞きました。」
タイムトラベルを行うため、僕に《白夜》を使ってくれ、という訳か。
「その《白夜》を使って、私の能力を使えるようにしていただきたいのです。
もちろん、博士にはタイムトラベルにつきあっていただく必要はありません。
私はそこまで迷惑をかけたくはありませんし、そもそも他人を連れ出すことまではできない力のようですから。」
しかし、夜中に人の部屋に押し掛けてまでする事だろうか。いや、逆に考えれば、
それほど、この子にとっては切迫した事態なのかもしれない。
「なるほど、話は理解した。
けれども、僕の質問にも少しは答えてくれないか。そうでなければ、君を信用できない。」
懲りずに会話の主導権を握ろうとする。
分かっていても止められないのだから、我ながら可笑しい。
「分かりました。」
聞きたい事は山ほどある。まずは何から聞くべきか──
- 214 :
-
「まず──僕の“能力”は身の安全を考慮して、一般には公表されていない。
僕の“能力”の情報は何処で手に入れたんだい?」
「その程度ならお答えできます。
未来の慎也博士から教えていただいたのです」
そうか、この子は未来の僕に会っているのか。合点がいった。
そうでなければ、そもそも、彼女が時を遡り始めた日からこの日まで、辿りつく事は出来ないはずだ。
彼女の平静な態度の理由が解けた。彼女は今夜のような出来事を、何度も繰り返してここまで来たに違いない。
すなわちそれは、僕の行動は全て先読みされてしまう可能性が高いという事だ。
「過去に戻って何をするつもりだい?」
まあ、普通の人間が過去に戻ってする事と言えば、1つしか思い当らないが。
「過去をやり直したいのです」
「それはそうだろう。僕が聞いているのは、何をやり直したいかだ。
もし国家レベルの犯罪に関わる事なら、君に協力することはできない」
「いいえ、私的な事です」
「それなら良いのだが……」
「──博士、私はこの“能力”のために、世界中の犯罪組織や心ない研究者たちから狙われてきました。
そして、そのたびに“能力”を使って窮地を脱出してきたのです。」
この時、「心ない研究者」という言葉が、地味に僕の心に突き刺さった。
科学者には、倫理観よりも知識欲を重視するタイプの人間が多い。
そして僕も、その例外ではない。
その証拠に、僕が彼女の“能力”を聞いた時、真っ先に思い浮かべた事は何だったのかを思い出してみるがいい。
純粋な好奇心だ。──彼女を研究対象にしたい、という類の。
- 215 :
-
僕は自覚している。
マッドサイエンティスト
自分が、俗に「狂った科学者」と呼ばれる人間と紙一重の存在である事を。
「私は“能力”を憎んでいます。
この力のせいで、私の人生は滅茶苦茶に狂わされました。
“能力”を悪用して自分の欲望を満たそうとする心の汚れた人間に、私は何度も襲われました。
だから、私はやり直したい。私が“能力”を鑑定する前の日まで戻って、普通の人生をあゆみたいのです。」
僕は返す言葉もなく押し黙った。
深夜の部屋に重い沈黙が流れる。
……一般的には「罪悪感」と呼ばれていたかな、この感覚は。
彼女を苦しめてきたのはつまるところ、僕と同類の人間に他ならない。その事を思うと──
いや、余計な感傷に浸っている場合ではなかった。
結論を出す。
「分かった」
パチン、と指を鳴らす。
窓の外が瞬時に明るくなる。
《白夜》が人の認識に干渉して起こる錯覚だ。
「これで君は、昼の“能力”を使う事が出来るようになった。
君の願いは真摯であり、正当だ。僕はそれを止める権利も、道理も持ち合わせていない。」
「……ありがとうございます、博士」
奇妙な夜が、偽りの夜明けと共に終わりを告げようとしている。
- 216 :
-
「だけど、少し待ってくれ」
やはり、この話は何処かがおかしい。僕の頭脳の一部はそう叫んでいた。
まだ腑に落ちない事があった。その違和感を元に、僕の科学者としての頭脳が急速に理論を組み立ててゆく。
「昨夜に戻った君は、また僕を見つけて同じ事を繰り返すつもりなのか?」
「ええ、お嫌ですか?」
「いや、別に僕は構わないが、しかし、昨日の僕は君に会っていない。
つまりこれは、君がこれ以上時間を遡っても、過去の僕には会えないことを意味するんじゃないか?」
彼女は僕と接触しなければ、夜の間に時間を遡る事は出来ない。
つまり、彼女がこれから1日以上時間を遡る事ができないという事実は、既に成立しているのだ。
それとも、彼女の“能力”はこの因果の制約を打ち破ることができるのだろうか。
だとすれば、彼女の“能力”は予想以上にとんでもない力なのかもしれない……
「それについては御心配には及びません。なぜなら、
明日の比留間博士も、まったく同じ事を言っていましたから」
「──!?」
「しかし、現に私は時間を遡り続けることが出来ているのです」
これは意外な返答だった。
つまり、彼女が今までに会ってきた僕は、現在の僕とは異なる記憶を持っているということか?
「だとすると……」
しかし、僕の言葉は彼女に遮られた。
「少し長く喋りすぎたようです。博士、貴方は頭が回る分、私にとって危険な人間です。
悪いですが、貴方の気が変わらないうちに、失礼します」
ああ、その方がいいだろう。僕は頷いた。
早く行った方がいい。僕の気が変わらぬ内に。比留間慎也が知的好奇心を抑えていられる間に。
- 217 :
- 「比留間博士、ご協力ありがとうございました。
今日の博士にはもうお会いすることはないでしょう。さようなら」
黒野あゆみは私に背を向けると、部屋の隅の暗がりに向かって歩き出した。
歩みを進めるに従って、その後ろ姿が徐々にぼやけてゆく。
これが、時間旅行の“能力”か……
僕の専門分野は物理学ではないため、時間に関する理論には疎い。
こんな事になるのなら、詳しい友人に聞いておけばよかったか。
たとえば、ILS(国際学会)の──
- 218 :
- そこまで考えた時、僕の頭に突如閃いた事があった。
「時間を遡る能力」「半日前にしか遡る事ができません」「世界中の犯罪組織や心ない研究者たちから狙われてきました」
「未来の慎也博士から教えていただいたのです」「心ない科学者」「今日の博士にはもうお会いすることはないでしょう」
──そして記憶の片隅に浮かんだ研究ファイルの1ページ。
何故今まで思い出せなかったのだろう。
パズルのピースが組み合わさるように、いや、難解なプラモデルが組み立てられるように、
頭の中ですべての手掛かりが繋がった。
僕の推理が正しければ、彼女は、
「待ってくれ、君は……」
しかし、僕の声は恐らく彼女には届かなかっただろう。
彼女の姿は既に時空の彼方へと消え去っていた。
パラレルワールド
もう二度と出会う事のない並行世界へと。
- 219 :
- (慎也編後編に続く)
- 220 :
- 登場人物
《名前》
黒野あゆみ (くろの あゆみ)
自分の過去をやり直すために、時空を超えた旅を続けている女性。
その希有な“能力”のため、(未来において)世界中の犯罪組織や科学者から目を付けられていた。
過去(おそらく“能力”を鑑定される前の日)に戻って、誰にも狙われることのない人生を歩むことを望んでいる。
彼女の能力だけでは半日(12時間)以上過去には戻れないため、比留間博士に協力を依頼した。
《昼の能力》
名称 … イベントリープ
【意識性】【??型】
半日前にタイムトラベルする能力。
移動先で過去の改変(タイムパラドックス的なこと)が可能。
ただし、タイムトラベル先で過去の自分自身と出会う事はない。理由は後編を参照。
《夜の能力》
不明。
- 221 :
- 以上です。
まだ詳しい事は言えませんが、鍵はパラレルワールドです。
- 222 :
- 避難所とダブル投下乙です
色々と謎が浮かんで、上手く言えないけどかなりwktk
- 223 :
- 表を書きながら読んでしまったw
お久しぶりの投下お疲れ様ですw
これは避難所の投下と絡まってるのかな?
続き待ってますw
- 224 :
- ageついでに避難所次スレ立てたよー
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1317903170/
そしてついでにもうすぐ体育の日なので時雨さんのブルマを今一度ペロペロ
- 225 :
- 新スレ立て乙乙
だが、時雨さんペロペロは許さん
▽書き込めたら投下します。
- 226 :
- 書き込めたので。
風。
吹き荒れる暴風が、まるで意志をもつ竜のように縦横無尽に吹き荒れる。
俺の服の袖が激しくはためき、強い圧力で風に体を取られそうになる。
「風の能力か」
顔にかかる砂埃を右手の巨大な爪で防ぎながらイザナミに問う。
俺が以前出会ったどの能力者よりも、強い力を感じる。
「ちがぃます。“嵐を操る能力”。かぜょりもきょぅぼうですょ?」
にこっと可愛らしい笑顔で笑う。暴風の中、長い三つ編みの髪が激しく揺れていた。
彼女を中心として風の渦が発生。強烈な内向きの風で体が流れそうになるのを、十字槍の石突を地面に突き立てることで耐える。
竜巻は、周囲の街路樹をへし折りながら巻き込み、増幅していく。
「ぉにぃさんもこれでぉゎりです!!!」
風の渦の軌道から、折れた樹の先端が俺に向かって放たれる。
速度は高速。質量と速度の攻撃は、家の壁を易々と貫通する破壊力を生む。
俺がどう避けるか軌道を観ていると、俺の前に銀髪の女が現れた。
「……“対抗者”起動」
そう小さく呟くと、シルバーレインは自らの能力を発動させる。
「……『トール=ギア』展開」
銀の大剣の先端に、量子化された光が収束。そして剣の形が一瞬で変わり、巨大な銀の鉄鎚が現れる。
彼女はその鉄槌を易々と振り回し、飛んでくる街路樹に叩きつける。
飛翔していた木が爆散。細かな欠片が俺の体に降ってきたが、支障はない。
舞うように次々と飛んでくる木々を破壊していく。
「ちっ。さすがですね、銀ゥサギさん!」
焦るようにイザナミが言った。彼女は逃げる様に翼を広げて、上空へと逃げる。
近づいてきたシルバーレインも、強風のせいでイザナミにそれ以上接近できずにいた。
動けずにいる俺たちを見て、イザナミがにやりと笑う。
「ぁなたたちはちかづけなぃ!ぁたしのかちです!」
さらに勢いを増した風の渦の中に、車やバスが吹き飛ばされ、風の渦の中に混じる。
早めに片付けないと厄介だな。
バキン、と音がして俺は白い爪をさらに巨大化させた。後ろに足を踏ん張り、狙いを定める。
以前の俺なら、叩きつけられる暴風に耐えることで精一杯だっただろう。
巨大な白い爪が、イザナミの細い体を掴んでいた。
「…………ぇ」
イザナミの表情に、疑問の色が浮かんだ。
- 227 :
- 「こっちッスよ」
機関の事務員である斑目は、バフ課第二班副隊長と名乗るラヴィヨンに連れられて、現場に赴いた。
もともとは商店が並んでいたであろう港前のプラザは、能力者同士の戦いのせいで惨状となっていた。
修理費の支払いなどを考えていた斑目が、悩むように頭を抑えた。
斑目はその一角に連れられていく。そこには三本の巨大な爪跡。その傷跡の奥。建物に埋まるように俯いた姿で女の子がいた。
翼の生えた、制服姿の女子。爪跡は彼女の体も引き裂いており、明らかに絶命していた。
斑目が引き出そうと手を伸ばすが、建物の木材が引っ掛かって外れない。
ちらりとラヴィヨンの方に視線を配ると少し渋い顔をしていた。協力関係にあるとは言え、バフ課の管轄にはあまり長居してほしくないのだろう。
「これでは回収に手間が掛かる。そちらの方で処分していて下さい」
「助かるッス」
斑目がそういうと、ほっとした様子でラヴィヨンが言う。
ハンカチで汗を拭きながら帰ろうとした斑目に副隊長が声を掛ける。
「部外者が言うのもなんスけど、一つ良いッスか?」
「はい?何でしょうか」
「機関は我々と同様の組織だと聞きますが、犯罪者を捕まえる一方で、こういった破壊活動を伴う報告も多い。それは何故でしょう?」
雰囲気が一変する。鋭い眼光を見て、やはりバフ課二班の副隊長なのだなと、斑目は思った。
「機密なので内密に。我々は実は、全ての機関の内部を把握している訳ではないのです」
「と言いますと?」
「機関の各部隊はそれぞれ秘密主義をもっており、さらに本部への報告義務がありません。なので、現在の第七支部などは悪い噂を聞きますが、我々には手の出しようがなく、つまり」
斑目はそこで両手を上げる。お手上げ状態だと。
「なるほど」
最後に一礼すると、斑目は去っていった。
姿がしっかりと消えるまで確認後。ラヴィヨンは爪跡の前に行き、黒髪の女の髪を掴む。
ラヴィヨンは力づくでその体を引き抜く。肩や腕の骨を折りながら彼女の体は抜け、だらりとラヴィヨンの腕にぶら下がる。
それをカラカラと引きずりながら、レンガ造りの歩道に止めてあった黒いヴァンに近づいていく。
後ろにソレを放りこみ、自分は運転席に乗り込む。
助手席にうるさいやつが乗っていた。
「ぉかぇり〜ぉにぃさん!……って!これぁたしですかぁ!?」
後ろの席に乗っている壊れた人形を見て、頬に白いガーゼを当てたイザナミが甲高い声を上げる。
「あんたの人形っスよ。って、あんまりジタバタしないでくれないッスか?」
後ろに手錠に嵌めた状態で座っているとはいえ、伸びた翼がラヴィヨンの頭を打って痛そうに顔をしかめる。
「ぉにぃさん。こんな事して大丈夫なんですかぁ〜?」
「大丈夫じゃないっスよ〜」
クリップで留められた書類を何枚も確認しながら、ラヴィヨンが答える。
機関の戦闘員の拘束。死体の偽装。そして、今回の件はバフ課どころかシルスクにも報告していない。
「……昔の約束の続きッスから。仕方ないところッスねぇ」
答えになっていないラヴィヨンの呟きに、イザナミは怪訝な顔をした。
ここまで投下です。途中寝ちまったw
- 228 :
- 乙ですw
きっと催眠能力者の仕業
おおっ!
ラヴィヨン登場して早速能力活躍してる!
- 229 :
- 乙ー!
機関とバフ課が交わったかー。
イザナミちゃんの口調が癖になるなw
- 230 :
- 避難所(1スレ目)に投下あり
- 231 :
- /: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ::!
/: : : : : : : : : : : : : : : : r、: : : : : : : : : : l\!ヽ、: : : : i: : : : : : : : : : : ::i
∠_,.-/: : : : : : : : : : : : : : !ヽ: : : : : !ヽ: : ::| ヽ; : : ト、; : : : : : : : : : :l
∠,/: : : : : : : : : : : :/\| \: : : :', \! ヽ: ::! レ'ヽ; : : : : : : : |
/: : : : : : : : : : : : :‖ .\: : ヽ ヽ! !: : : : : : : : |
/: : : : : : : : : : : : : ::| \::ヽ ,,,,,-‐'' |: :.,ィ: : ,、: :|_
/ /!: : : : : : : : :、、| `` /,'" レ'!:.:.:.ハ:.:!  ̄`゙''ー‐--
// |: : : : : : : : :レレ 〆''~,,x======ュ |::::/,ノ !/_,ノ/
.|:.:.: : : : : : :.| ~ ̄``==x ,〃´じ::::::::| ,i! |‖ ,ノ::::::/
|:.:.:.:.、: : : : :| ,,x====ュ、 ヽ、;;;;ノ レレ'´/::<
.|::::::::ヽ:.:.:.:.:.! 《 じ::::::|` ヽ  ̄ /,ノ:::::::\
!:::、:::::ト、:::::::ト、 ヾ、 ゞ;;;;ノ ` ∧ノヽ―-!
レ'ヽ::| \:::ヾ\ ./ "‖
ヾ .>、ヽ..ヽ 、 ./ /
У´ >∧-.\ _,ノ ./ /
/ レ'"`ヽ ` ‐‐‐ ./ ./ ヽ_,.-‐''"
/. > 、  ̄ /ヽ/ _,.-‐''"´
,/ `゙''ー-、___,ィ< `! _,.-''" ,'
/ ヽ ヽ !._,.-‐''" ヽ
./ ! !レ'
〈 \.|,.-''" `ヽ
ト、 _,.-''" ヽ、
- 232 :
- KAKKEE
- 233 :
- 過疎だしちょっとした小ネタでも
時雨「突入の準備はいい?」
陽太「ああ、この試練を乗り越えたとき、俺の万物創造も新たな力を手にするかもしれない……」
楓「変装もバッチリです、総統!」
時雨「よし、行くわよ。せーのっ」
「「「Trick or Treat!!」」」
- 234 :
- 陽太はあげる方じゃないのかww
- 235 :
- 時雨さん! アメちゃんあげるからいたずらさせtぐぼっ!
- 236 :
- 懲りない人だw
- 237 :
- >>233
緊張感あるシーンかと思ったら、ほのぼの系いいねw
>>235
コラw
- 238 :
- しかし私は反省もしないし後悔もしていない!
むしろとても清々しい気分だ!
- 239 :
- >>238
反省しろw
▽投下しま
- 240 :
- 「エデンは何処だ?」
喉元に十字槍を突き付けながら、俺はイザナミに聞いた。
「……しらなぃ」
グシャっと音が鳴り、イザナミが身を震わせる。傍のベンチを、シルバーレインが巨大な鉄槌で叩き潰していた。
「もう一度聞く。エデンは何処だ?」
冷たく繰り返す俺に対し、イザナミは答えず、自らの状況を確認していた。
イザナミの体は巨大な爪で握られていた。
右腕から射出された爪が空を飛ぶイザナミを補足し、右腕と繋がるワイヤーを引っ張る事で地面へと引きずり落とした。
しばらくイザナミは俺たちの様子を見ていた後、ニヤリと笑った。
「……ぉにぃさんたち、ずいぶんとょゅぅがなさそぅですね。リリィちゃんをぅばゎれたので焦ってるんですか?」
ピクッとシルバーレインの手が揺れた。
生じたほんの僅かな隙。
その隙をイザナミは逃さない。
「『大気の激流・天空の束縛』!スフィアネット接続!カオスエクザ起動!」
イザナミが叫ぶ。
周囲の空気が重苦しく変わった気がした。
「……複雑系エグザか」
シルバーレインが舌打ちする。
詳しくは教えて貰えなかったが、カオスエグザとは発動者の能力を最高出力まで高める技術だそうだ。
数十メートル離れた場所で強力な突風が発生。その勢いで車が吹き飛んでくる。
同時に複数の竜巻も発生。ありとあらゆる建造物を破壊し、飛翔する弾丸となる。
周囲を破壊し、それらを全て武器にする。
「これが、イザナミのカオスエグザか。厄介そうだな」
「……『イカロス=ギア』展開」
シルバーレインの銀の鉄槌が消失。瞬時に彼女の背中に銀の翼が生成され、風を捉えて飛ぶ。
俺の方は、竜巻で転がりながら飛んできた廃材を避ける。
右手に掴んだままのイザナミは驚く程軽かった。
右手から飛んできたポールを、体を後ろに逸らす事で回避。
上空から落ちてくる街路樹を避けつつ、通りを走り抜けていく。
「ょく見ぇてますね……これならどうですか!?」
地面を蹴った瞬間、周囲を飛翔物で埋められていた。
心臓がドクンと鳴り、冷や汗が頬を伝う。
恐怖は一瞬。すぐに全てを睨みつける。
眼帯を巻いた、この左眼で。
「そこだっ!」
地面と飛翔物との、僅かな隙間。
右腕に抱えたイザナミが怪我を負わないように注意しながら、そこに体を滑り込ませる。
間一髪で逃れた。背後から、飛翔物がぶつかり合う凄まじい音がする。
目の前に、大型バスが迫っていた。
「『バーストモード』!」
左腕から、小型のジェットエンジンが出現する。それと機械が空気を吸い込み始める。
同時に右脚から4本の金属棒が地面に突き刺さる。
「らあああああああ!」
空気の破裂音が響いた。
腕に伝わる、自らの拳の速度の、凄まじい衝撃。
超々速の拳で大型バスを弾き返した。
- 241 :
- 「……ぁたしを解放してくださぃ、ぉにぃさん。そしたら止めてぁげますよ?」
右手の爪に掴まれたまま、圧倒的有利なイザナミが言った。
イザナミをRことでこの状況から逃れる事はできるが、俺らの狙いはリリィの場所を吐かせる事。イザナミを殺せない。
それならば俺らが出来るのは、一つだけ。
この風の能力を破るしかない。
ふてぶてしく笑うイザナミを見て、俺も笑いかけた。
「お前には無理だよ」
「?……何がですか……?」
俺は指先を空に向けた。
「まぁ、見てろよ。お前じゃ俺らに……いや、あいつに勝てない」
俺が指したその先を怪訝そうにイザナミが見る。
そこにはすでに空高く飛んでいたシルバーレインがいた。
小さな姿をよく観察すると、何かを呟いていた。
そして剣を真下へと向ける。
「見ろ。あれが、銀雨たる由縁だ」
その剣を真下に突き下ろす。
無限の槍が、天空から降り注いだ。
彼女の持つ剣先が幾千にも分かれ、壮麗な装飾を持つ槍が、全てを貫いていく。
全ての飛翔物を刺し貫いて、強制的に停止。地面に固定させた。
何もかもを刺し貫く、銀の奔流。
この圧倒的な天の槍が、彼女のコードネームの由来だった。
衝撃で土埃が舞い、地響きが発生。
圧倒的な光景に、イザナミは声を失っていた。
「さて、どうする?」
イザナミは驚愕した顔のまま、俺を見た。
「ぁ……ぁはは……」
周囲の竜巻が消失。風が止み、空に青空が戻る。
今度こそイザナミは降参した。
以上です。 また寝ちまった……だと……
- 242 :
- 投下乙ーだけどあれ?前と状況が違うような…
- 243 :
- マジで?
どこらへん?
- 244 :
- >>226-227で戦闘終わってません?
- 245 :
- >>244
そうですよー。
でも、筆者がどうしてもイザナミとの戦闘シーン入れたいゆうて補足的に入れ込みました。
時系列的には
戦闘開始>>226
戦闘シーン>>240>>241
戦闘終了後>>227
と、なってます(ドヤッ
いや、わかりにくうてスンマセン(>_<)
- 246 :
- なるほど把握
- 247 :
- どもっ
- 248 :
- チェンジリングスレのみなさまこんにちわ
創作発表板避難所にて、創発シェアードワールドクロス企画(仮)を立ち上げました!
と言ってもほぼ何も考えてない状態で勢いだけで立ち上げたので、具体的な内容は
まだ何も決まっていません!
「じゃあ俺が一緒に考えてやろうじゃん」というアグレッシブな書き手さんはもちろん、
「お前が決めろ。そしたら俺も書いてやる」といった書き手さんもぜひご参加ください!
「書かないけどこんなの面白そうじゃね?」といった読み手さんも大歓迎です!
また「こういうお祭り騒ぎはちょっと…」という書き手さんもいらっしゃると思いますが、
企画が進む中で貴方が書かれたキャラをぜひ使わせてほしいとお願いすることがあると思います。
今は企画の中身がまるで決まっていない段階なのでその内容次第だとも思うのですが、「こんな
企画にうちの子を出せるか!」という場合は気兼ねなくスレにて意思表示をしていただければと
思います。
では、何も決まっていませんが下記スレにて
創発シェアワスレクロス企画(仮)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1320313119/
- 249 :
- >>241
シルバーレインやべぇ…圧倒的じゃないか。今まで全然本気出してなかったのね。
つーかリリィに何があったのか気になるな。
- 250 :
- 仁科では報告してるみたいなんで
>>248
表明してきたよー
- 251 :
-
,.r''"´ ̄ ̄ ̄`゙''x、
./ \
./ , , 、 、 ヽ
/.γ / ./ ! ! ヽ .、ト、
,! .! l. ,イ .! l ヽ、 !、ヽ
/ィ ! -‐ナ‐- !-‐十‐-\! ト`ゝ
ノ´! .ヽ、|,,r==x、 !,,r==x、ゝ、_ヽ.|
‖! ! .《o:iiii::! \ | io:iiii::!》 !`ヽゝ
ハ l i l.弋;;;タ `弋;;;;タ ! ! !
.ハ.∧.| | ,,, , ,,,, | | /.|
.ハ .ハ レヽ o ,ノ! /./ .|
ハ / ∨!ヽ!>.、 ,..<! レレ! |
./ ./ /"i''"!〈 .≧‐≦、 〉!"'!,ハ .|、
/ ̄'''/ / 《i l 〉〃>--<ヾ 〈i .!. ', | ̄"ヽ
! // ./ 、、.l k''フ ∧ ヾ、/ |' , !! !,, |
! / / ./、 ,rl У_r、 ! .! .ハ' ト、 || | ./、
/У / /_,ノ´ | ´《 》 《レ》ヽ`、 .|ii\|| | / \
,,r''´ /./‖/´ / /| 《 《 》 》 《 |ii l | | |'' 、. ` 、
_,.-''" ///´| || / //| 《 《 》 《 》 .|.ii | | | | `ヽ、. `゙' 、
r、ヾヽ / _,.-''// | ||| ‖./,ノ .| 《.《 .》 .《 》 | || |.| || | `゙'' .、 ヽ、 r//r,
\ゞ``、,r''" _,. ''´ ‖ | ||レレレ /./ ト、_.《.《..》..《..》 ,イ !! ! レ'レ' `゙'' 、_ `丶_/" '´/
⊂‐ _,. ''" ! !! // 〈  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 〉" / `゙'' 、_ ‐⊃
` ̄ ̄ |/ /  ̄ ―  ̄ ヽ,/  ̄ ̄
/\―_―_―/\
_,ノ  ̄ ヽ、
ゝ,/ / i ヽ ヽ`つ
ヾ ̄ヽ /__ ! __,,,ヾヽ,イ
/ ! !! ヽ 〃 ヽ__j \
/ ゝ-' ゝ'' `゙''--、
/ / / ヽ ヽヽ \/
- 252 :
- うおっ、マジすげぇ!
- 253 :
- うわぁすごい!
- 254 :
- 名称:イザナミ
本名:草薙 ぁゃ
性格:機関では第八十七席次を持っていたが、死亡したとされたため、機関の登録を抹消されている。
現在はバフ課2班のラヴィヨンの監視下にある。
第一人称は「ぁたし」。小学校を4年までしか通っていないため、手帳やメールにはひらがなが多い。喋り方にクセがある。
赤い下ブチの四角い眼鏡は伊達メガネ。制服をいつも着ている。ふんわりとした長い黒髪の先を三つ編みにして、銀のリボンで止めている。
黒かばんの中には仕込み斧が入っている。どこかで見かけた女の子の格好が気に入り、真似ているらしい。
性格は天真爛漫。彼氏のトヲル君に殺されそうになった経験が、命の価値観を歪ませている。
ちなみにトヲル君は殺されそうになったイザナミが能力を発現し、死亡した。現在は頭蓋骨のみ鞄についている。
彼女はときどき独り言を言っているようにも見えるが、徹君とおしゃべりをしているだけである。大丈夫だ、問題ない。
殺されかけて死にそうな彼女を機関が改造した。体は強化骨格で、自由に背中から翼が生える。体重は軽いらしい。
機関が助けたのは『何も考えてなさそう』な性格と『何でも信じる』性格を買われたため。
つまり(省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
 ̄ ̄
昼の能力:“嵐を操る能力”
竜巻を引き起こし、周囲の家屋等を破壊した後、それを敵に飛ばす。
狙ったおおよその場所に飛翔物を叩きつけることができる。
また、突風や、熱々のラーメンを冷ます程度のそよ風を起こすことができる。
大気の力を使うため、屋外では強力だが室内ではほとんど風を起こせない。
夜の能力:“触れた無機物の重さを変える能力”
能力の名前の通り、無機物の重さを変えることができる。
彼女が触れた重さは範囲の限定があるものの、鉄骨程度なら野球ボールまでの重さに軽くしたり、
逆に彼女が持つ最軽量の斧を攻撃が当たる瞬間だけ重くしたりできる。
彼女の体に触れたものなら、触れた後、数秒間のみ重さの変動が可能。
- 255 :
- 投下します。
また時系列が前後して申し訳ない。
ヨシユキがドグマを解雇された数ヶ月後。
リリィが奪われ、イザナミと戦闘する数ヶ月前の話になります。
朝。風に揺れるカーテンの弾けるような白い光をぼんやりと眺めていた。
小さな白い部屋。付けっぱなしのラジオからは今日も最高気温を超すという予測が流れていた。
曇天の梅雨が明け、例年のように暑い夏が始まる。
俺の体はとある事情により半分が機械だ。熱が通りにくい金属の体だが、熱が冷えにくいという厄介な躯だ。
突然、目覚ましの音が鳴り響く。
起き上がろうとするが、呻いてベットに倒れる。
聴覚はそれを認知出来ているのに、体は痛みで動く事が出来ない。
……ひどい筋肉痛だ。起き上がれない程とは。
「んも〜。うるさいですねぇ〜。はやく消して下さい」
真っ白なパジャマ姿のリリィが部屋に入ってきて、勝手に消した。歩く度に三角の帽子が歩調にあわせて揺れる。
リリィは部屋のカーテンをシャッと開けた、眩しく暖かい日光が俺の顔を照らす。
「ほら、起きるのです。ヨシユキ」
眩しさに呻く俺の頬を小さな手のひらでペタペタと叩かれる。
うっとおしいので、体中の痛みを無視して起き上がる。
「今日も……ふわぁ〜……訓練が〜あるんでしょ〜?」
リリィが欠伸をしながら言った。
「ああ」
外を見る。朝日が眩しく、新緑の木々を照らす。
セミの鳴き声が聞こえた。
今から三ヶ月前。
太陽が照りつける夏だった。
掴もうとして伸ばした腕は、銀の残影を掠めただけ。
まるで踊るように左右にバックステップしながら、シルバーレインは俺と距離をとる。
朝露のついた草に足を取られそうになるが、踏ん張り、伸ばした無防備な腕を引きもどす。
湿気を帯びた森の空気は、まるで俺の服に染みこんで躯を重くしているかのようだった。
嫌、違う。俺の体が遅いのは
目の前に突如現れる銀影。
嫌な浮遊感を数瞬感じ、彼女に近づかれた恐怖を感じた瞬間には、すでに地面に叩きつけられていた。
「がっ!」
雑草の生える地面に叩きつけられ、一瞬目眩がしたが、追撃を恐れすぐに目を開け状況を確認する。
振り下ろされる拳。体を捻って回避すると同時に、回転を利用して立ち上がる。
距離を取って、彼女を見る。シルバーレインの燃えるような赤い眼が、俺の眼を見ていた。
「……初動。……それからの流れは悪くないが、気になる点が一つ。……相手を見るときは体全体だけでなく目も見ろ」
真っ直ぐに俺の眼を見ているシルバーレインに、俺も習うように見返す。
「ああ。わかったよ」
「……続きだ」
彼女の銀の髪が揺れる。灰色と黒の戦闘服が動き始めたと同時に、それは疾風に変わる。
それを迎え撃つために、俺は構えた。
俺の昼のエクザ。“時間操作”能力。
自分の周囲の時間と、他の時間の流れを変える能力。
その消失によって超高速戦闘能力も失われ、自身の戦闘力低下に多大な影響を与えていた。
- 256 :
- 仰向けに倒れ、片手で直射日光を遮りながら、青く高すぎる夏の空をただじっと見つめていた。
体力が尽き、もう指の一本も動かせる気がしない。
太陽の熱は容赦なく、周囲の草木や俺の体を灼いた。
視線を横に向ける。木陰で着替え終わった彼女は、青いジーンズと無地の白いシャツを着ていた。
悔しさに、思わず歯をかみしめる。
この数時間の訓練で、シルバーレインの体に攻撃を当てるどころか、触れる事すらできなかった。
「……最初か出来なくて当たり前だ。……それを教えるために私がいるのだから」
俺の内心を見抜いた彼女が、慰めに似た言葉をつぶやく。
彼女は汗一つかいていない。美しい穏やかな表情で、俺を見ていた。
「……今日はここまでだ。……あとはお前の好きなように行動しろ」
そういうと森の外へ向かって歩き出した。茶色のブーツを履いた脚が去っていくのが見える。
強いやつだ。純粋にそう思った。
視線をまた、晴れ渡る青空に向ける。山裾付近に白い雲が浮かんでいた。
なぜあいつが俺を強くしてくれるのかは分からない。
数ヶ月前に言われたことを思い出す。
『……『ツバキ』。……お前は覚えていないだろうが、彼女さえ居れば、お前は……』
『……私がお前を強くしてやる。……誰にも頼らず生きていけるように……今度は私が、お前を守る』
「ツバキ……か」
あれから、ツバキなる人物についてシルバーレインに何度か問い合わせたが、何も答えてくれなかった。
俺がドグマに入ってから見続けている、悪夢の登場人物。
俺には、高校に入る前の記憶があやふやだ。
中学校も何回も転校を繰り返し、学校の思い出などはほとんどない。
記憶の欠落が、俺を不安にさせる。
俺の過去に何があったのか、全く思い出せない。
ズキリと胸のあたりが痛んで、目を閉じる。
守るべきリンドウから拒絶された為、こういった訓練などに全く興味は無いのだが、こうして体をへとへとになるまで動かせることは感謝している。
何も考えないように。何も考えなくてすむように。
胸を押さえて、目をしっかりと閉じる。先ほどより痛みが和らいだ、気がした。
瞼の間から洩れる太陽のちらつきが、眩しかった。
- 257 :
- 彼女が去ってから、しばらくした後だった。
パキっ、と森の枝を踏み分ける音。足音は俺の真横まできて止まった。
シルバーレインが戻ってきたのだろうか。
仰向けに倒れたまま、その音に呼応して俺は目を開けた。
足音の主は、俺を見下ろしていた。太陽と逆光になって顔が見えづらい。
シルバーレインでもリリィでもなかった。
「……誰だ?」
流れるような黒髪が、緩くカールして肩口にかかる。
顔や肌の色は雪のように白い。
「さて、誰でしょう?」
面白げに俺を見て、笑いかけてきた。気さくな印象を受けた。
首から季節違いな絹の白いマフラーが揺れていた。
服装は黒のインナーの上から英字新聞がプリントされた白のタンクトップ。
赤と黒のチェックのスカートには、違う種類のベルトが三本巻かれていた。
スカートから健康的な足が太もも近くまで覗いて、俺は視線を泳がせ、すぐに起き上がる。
その様子を彼女が見て、意味ありげな視線を俺に送ってくる。
「ふふふ。見た?見たでしょ?」
「見てねぇよ!」
見えそうだったけど。
彼女はずいと俺に近づいてきた。近い近い。
「ねぇ、ヨシユキ。海に行きたいから連れて行ってよ」
「はぁ?……って何で俺の名前を……シルバーレインの知り合いか?」
「知り合いといえば、知り合いかもね」
考え込むように人差し指をアゴにあて、上目遣いで俺を見ていた。
「私の自転車はあそこにあるから。後ろに乗せていって」
言うが早いが、そのままスタスタと、何故か楽しげに森の外へと歩いていく。
「……変なやつだ」
しかし、俺も暇なので、この面白そうな女について行く事にした。
森の外へと歩いていくと、赤い自転車の荷台に彼女が座って俺を待っていた。
彼女の耳には赤い花を模した宝石のピアスが、小さな太陽のように揺れていた。
- 258 :
- やはりパソコンの方が長く書けますのう。
ここまで投下です。
- 259 :
- すみません。
しばらく就職活動に専念するので、投下できません。
申し訳ありません。
- 260 :
- >>259
乙でーす!
戦闘開始>>226
戦闘シーン>>240>>241
戦闘終了後>>227
↑4レス分まとめて、保留していた【リリィ編/14】としました
※編集画面開いた時、見てはいけないものを見た気がしたww
◆zKOIEX229E 氏、手直しどもです。就活もがんばってくだせー
SSはリリィ編/15まで収録
将軍さんの手によるスゴイAA2つも収録しました(便宜上、イラスト一覧に入れています)
- 261 :
- 今年の最終投下に滑り込んでみる
シェアクロスにも出てるあの娘のテーマ作りました
ハリネズミの恋
http://loda.jp/mitemite/?id=2713
- 262 :
- ちょっと聞き取りにくいw でもいい感じの曲だ
- 263 :
- >ちょっと聞き取りにくいw
ですよねー
UTAU調整できるようになりたい
歌詞置いときます
望んだわけじゃない なのに 背中のハリはいつも 誰もかも構わず傷つけて
守られていたのは 確かに分かっていたけど 私 ハリの無いネズミが羨ましかった
そこへ一匹のモグラが土の中から 突然私の目の前に現れた
きっと変わってゆけるの私 あなたのそばで
恐い体も 弱い心も 全部受け入れてくれた
誰かに罵られても もう泣かないわ
ハリネズミにも寄り添えるあなたがいたから
望んだわけじゃないけれど 見えない壁を張って 誰もかも構わず遠ざけていた
そこへあなたというモグラが土の中から 壁を潜り抜けこっちにやってきた
きっと変わってゆけるの私 あなたのそばで
昼の私も 夜の私も 全部受け入れてくれた
二人で暮らせて私 幸せですよ
ハリネズミにも寄り添えるあなたがいたから
変わってゆけるの私 あなたのそばで
恐い体も 弱い心も 全部受け入れてくれた
誰かに罵られても もう泣かないわ
ハリネズミにも寄り添えるあなたがいたから
- 264 :
- おお、歌詞きてたw
- 265 :
- 悔しい事に、聞けないんだよなぁ…
- 266 :
- バ課の隊長と副隊長は休日になにしてるのか気になるな
- 267 :
- 三班は毛糸パンツでも盗んでるんじゃ無いでしょうかね……
おっと、誰だこんな夜更けに。
以下コピペ
シルスク(2班隊長)
ラヴィヨン(2班副長)
川芝鉄哉(3班隊長)
峰村瑞貴(3班副長)
ザイヤ(4班隊長)
エンツァ(4班)
ラツィーム(5班隊長)
マドンナ(5班副長)
- 268 :
- 人稲
- 269 :
- ksks
- 270 :
- 大根ちょっぷ
- 271 :
- 基本的にどんな能力でも作り出せるから、妄想は広がる
が、いかんせん文才が無い
- 272 :
- それならば設定だけでも書くんだ。
さあ。
- 273 :
- 避難所に投下あり、なんだぜ
>>272
思いついても、どっかで見たことあるよなーってのになっちゃって
結局ボツるハメにw
例えば・・・
【フェア・ウォーニング】
ある特定の物事について、人に伝えることができなくなる性質を付加する(意識性・操作型)
→ジョジョ5部「トーキング・ヘッズ」
【ワード・オブ・マウス】
ある特定の物事を他人に無意識に伝えてしまう性質を付加する(意識性・操作型)
→ドラえもん「CMキャンデー発射機(虹のビオレッタ)」
- 274 :
- 他にない能力出そうと思ったらどうしてもややこしくなりがちだから
話を被らないように構成すればいいんじゃね
と思ったけどこの流れじゃ適切なアドバイスじゃなかった
- 275 :
- そうねー
問題は能力じゃなくて、お話つくるウデなんよね
能力は「シンプルな奴ほど強いッ!」だしw
能力平凡でもお話が魅力的ならそれでOKだもん
はあ・・・筆力ないわぁ
- 276 :
- 【View:3rd】(昼)
自らを視界に含む範囲の第三者視点で空間を「見る」(意識性・結界型)
【View:2nd】(夜)
自らを視界に含む他者の視覚情報を「見る」(無意識性・結界型)
先生、こんな能力浮かんでも使いどころがないです……
- 277 :
- 【幻の能力者】 成世編 前編
─ Abilities are not Benefits ─
西暦2000年、2月21日。
あの日地球に降り注いだ隕石によって、私たちは不思議な力を授かった。
物理法則を超越した様々な特殊能力を、私たちはひとりにふたつ、使うことができる。
ひとつは夜明けから日没までの昼に使うことができる能力、
もうひとつは日没から夜明けまでの夜に使うことができる能力だ。
能力の内容も覚醒時期も人によってまちまちだけれど、
人間なら誰でも潜在的に超能力──“EXA(エグザ)”──を持っているという。
でも、新しい力は必ずしも幸福をもたらしてくれるとは限らない。
中には“能力”によって人生をどうしようもなく狂わされた者もいる──
-主人公
>成世美歩 (なるせ みほ)
>
>S大学に通う“普通の”女子大生。
>ただ1つ、普通の女子大生が違う所があるとすれば、
>それは……『自らが死んでしまう能力』に苦しみながら生活している事だろう。
────
- 278 :
-
胸が苦しい。
布団の中で、私は呻いた。
息が続かない。
全身の筋肉は、まるで金縛りにあったように動かない。
怖い、助けて。
胸の中で自分の肺が腐り落ちてゆく感触が分かる。
助けて、衛一君……
──遠くでケータイのアラームが鳴っている。
その音に導かれて、私の意識は現実へと引き戻されていった。
- 279 :
- ────
201X年、6月10日、朝。
「朝…?」
枕元に手を伸ばして、アラームを止める。
夢と現の狭間で、私の意識は少しずつ働き始めた。
夢の内容はまだはっきりと覚えていた。
私の“能力”が発現する夢。
「いつあなたの命を奪ってもおかしくない」と、医師に宣告された忌まわしい“能力”が。
それを止めるために、私は薬を飲み続けなければならない。多分、一生。
そうだ、今朝も飲まなければ……
小物入れから薬を取り出し、重たい足取りで洗面所へと向かう。
それにしても、どうして今さら、彼の名前が出てきたのだろう。
もう一年以上も会っていないのに……
洗面所へと向かう途中で、私はふと衛一(えいいち)の事を思い出す。
一年前から、彼との連絡は途絶えたままだった。何故かはわからない。
警察の捜索でも結局彼は見つからずじまいだった。
──警察の話では、“能力”がこの世に現れてから、こういう事件はよく起こるようになった、という事だった。
「諦めなさい」遠回しにそう言われたのだと私は理解したし。自分でも諦めたつもりだった。
でも、心の奥底ではずっと気になっていたのだろう。
だからこそ、何かの拍子に夢の中に現れた。──そう考えれるのが一番納得がいく。
ちょうど洗面所に辿りついたところで、私は今朝の夢について考えるのを止めた。
- 280 :
- “ 頓服薬
─ 能力鎮静剤 ─
成世美歩(ナルセ ミホ) 様
6時間毎に2粒、または3時間毎に1粒
水と共に服用してください。 ”
薬の袋にはそう書かれていた。
この薬は普通の薬局では売っていない。
私の“能力”を抑えるために、特別に処方してもらったものだった。
中からカプセル状の薬を2粒取り出して、水とともに飲み込む。
カルキ臭い水道水と一緒に胃の中に錠剤が落ちていくのが分かった。
これで、10時半までは安心。
私はケータイを取り出して時間を確認した。
- 281 :
- 私の“能力”が明らかになったのは2年前のことだった。
海外旅行に行くためのパスポートを申請する際に、能力鑑定を受ける必要があったのだ。
窓口の下から出てきたレポート用紙を見たとき、私は愕然とする他なかった。
──昼の能力
体組織が壊死する能力。
──夜の能力
(未覚醒)
「どういう事? “能力”って──」
声を出さずにはいられなかった。
私の身の周りの人が持っている“能力”は、みんな当人にとって「いいこと」を起こしてくれる能力だった。
空を飛ぶ能力、ご飯を1秒で作る能力、嘘を見抜く能力……
それなのに、私の能力は……
壊死とは、細胞がに血が通わなくなって腐り落ちる事らしい。
これでは、先天性の病気と一緒だ。
すぐに精密検査を受ける事になったのは、言うまでもない。
さらに詳しい検査の結果、私が自分の能力で“死ぬ”確率は、概算で12時間に0.1%程度ということが分かった。
専門家によれば「12時間にたった0.1%の確率でも、毎日それが重なると、2年後に生きている確率は50%を切る」という。
- 282 :
- 能力研究の世界的権威である比留間(ひるま)博士が私の家を訪れてきたのは、検査の翌日の事だった。
「僕が開発中の新薬を飲めば、能力を抑える事が出来るかもしれない。ただし、効果のほどは保証できない」
比留間博士は私に、当時まだ開発中だった能力鎮静剤を試してみないかと提案してきた。
試す、と言えば聞こえはいいが、要は「実験台になってくれ」という意味である事は、高校生の私にも理解できた。
もちろん、私は提案を受け入れるよりも他に方法は無かった。
このまま何もしなかったら、2年以内に50%の確率で死んでしまうのだから。
「ありがとう。君の協力のお蔭で、薬の実用化も早まりそうだ。僕も君を救うために、全力を尽くそう」
比留間博士はそう言うと、契約書を私たちに書かせ、
自分の仕事に戻るために私たちの家を去っていった。
それ以来、私は日が昇る前に起きて、ずっとこの薬を飲み続けている。
博士の言った通り、初期の方の薬はかなり不安定だった。
気分が悪くて倒れた事もあったし、生理にも支障をきたすようだった。
言いかえれば、この二年間、私は薬の副作用と闘い続けてきた事になる。
比留間博士は時々私の様子を見に来て、そのついでに“能力”研究の最先端の話を少しずつ私と両親に教えてくれた。
『能力と魂』、『抑制薬の効かない能力』、『能力の進化と変化』、『世界への干渉』、『能力の遺伝性』、『Exミトコンドリア』…
…そして今、その比留間博士が客員教授を務めるS大学に、私は通っている。
- 283 :
- 午前10時。
私は授業を聞きながら、ノートを取っていた。私の友達は、隣の席で机に突っ伏して寝ている。
この授業を担当しているのは、鞍屋峰子(くらや みねこ)という助教授だ。
「量子力学的な視点では、何か新しい出来事が起こるたび、世界にほんの一瞬、“ブレ”が生じます。
こうしたブレを『量子揺らぎ』と呼びます。このブレの中には、その出来事に対して起こりうる、あらゆる結果が内包されています。
『シューレディンガーの猫』の話になぞらえて言えば、ブレのこっち側では猫は生きていて、あっち側では死んでいる、という事になります」
鞍屋先生は黒板に図を書きながら説明していた。印象的な銀色の髪の下で、緑色の目が時折ぱちぱちと瞬く。
幾何学的な“ブレ”の図とは対照的に、脇に描かれた“シュレーディンガーの猫”の絵がやけに可愛い。
「ブレの中の各状態は同時に存在していて、ミクロレベルで干渉し合っています。
通常、ブレはすぐに収束するため、1つの出来事に対しては1つの結果だけが残ります。
世界には沢山の出来事が絶えず起こっているので、宇宙内には無数の泡のようなブレが絶えず生成と消滅を繰り返しています」
彼女は20歳の時に量子力学の分野で大きな活躍をして、ノーベル物理学賞を受賞したらしい。
そして今、S大学で授業を受け持っている。
「通常、量子ゆらぎのスケールは非常に小さいので、私達の宇宙が歩む歴史は、全体として見ると1本の糸のように見えます。
そしてこの1本の糸を、私たちは唯一の世界、一つの歴史として認識しています。
ちょうど、紙の表面のデコボコを無視して、平面と見做すようなものです」
入門講座と言う事もあって、鞍屋先生は分かりやすく説明してくれているけれど、
20世紀のとある科学者の言葉によれば「量子力学は人間に理解できるモノではない」そうだ。
その最先端を研究している、彼女の頭の中身は一体どうなっているのだろう。
- 284 :
- 「と、ここまでは20世紀の科学で分かっていた範囲の事です、
ここからは、21世紀になってから新たに分かった事になりますが……」
良く通る声で解説を続けながら、鞍屋先生は黒板に新たな図を描き足した。
「ごく稀に、世界がブレたまま戻らず、ブレの範囲が宇宙全体に拡大してしまい、
宇宙が2本の歴史に分岐してしまうことがあります。
この分岐してしまった世界を、いわゆる『並行世界(パラレルワールド)』と呼びます。
資料によっては『世界線(ワールドライン)』と書かれている場合もありますが、あまり専門的な呼称ではありませんね。
また、この分岐点は、『ジョンバール分岐点(ジョンバールヒンジ)』と呼ばれます」
矢継ぎ早に繰り出される専門用語をノートに書き取り続けながら、私は思った。
彼女と私の歳の差は、10歳もない。私も数年後には、鞍屋助教授のようになれているだろうか。
それとも、あれが天才と凡人の差なのだろうか。
「『並行世界』になってしまった場合、もはや2つの世界同士が干渉することはありません。
私達は今、こうした『並行世界』のうちの、どこかの世界にいることになります。
もちろん、他の『並行世界』にも、別の私達がいる事になります……」
- 285 :
- 「むにゃ…」
と、私の横で寝ていた友達が起きた。
「ミホちゃん、ノート見せて……」
小さな声で囁く友達に、私は呆れ顔でルーズリーフの前のページを手渡す。
「さて、授業時間も終わりに近づいて来ましたので。今日はここまでにしましょう。
いつも通り、疑問点や感想を出席カードに書いて提出してくださいね」
原理はよく分からなかったけれど、並行世界のくだりはなんとなく理解できたと思う。
別の世界の私は、どんな風に暮らしているのだろうか。
能力が発現せずに安全に暮らしているかもしれない。それとも……
考えが悪い方向に行く前に、私は出席カードに書く文章を考え始めた。
隣の友達は「並行世界が分岐する事があるという話でしたが、逆に収束する事はありますか?」なんて書いている。
ずっと寝ていたのだから、私のノートを急いで読んで、適当に思いついたことを書いたに違いない。
私は、少し考えて、こんな事を書いた。
「並行世界があると21世紀になって新たに分かったということは、
並行世界の存在を知る方法が21世紀になって発見されたということでしょうか?」
普通、質問の答えが返ってくるのは、次の授業の初めだ。
しかし、この質問に対する答えは、私の予想よりもずっと早く返ってくる事となる。
- 286 :
- 授業の合間。
私は大学のトイレで薬の袋を開けていた。
薬は一度に二粒までしか飲めない。そして大学の授業は1コマ90分と長い。
下手をすれば、授業中に薬の効果が切れてしまう。
なので、私はうまく授業の合間を縫って薬を飲まなければならなかった。
──と、後ろからいきなりドンと押された。
袋から薬がこぼれ落ちる。
「んにゃっ!?」
どこかで、というよりついさっきも聞いたような声質。
振り向くと、鞍屋助教授がばつの悪そうな顔でこちらを向いていた。
駆け込んできた拍子に体がぶつかってしまったようだ。
「あ、先生」
「ごめんなさ……あ、成世さん、丁度良かった」
鞍屋先生は床に転がったカプセルを拾って私に手渡しながら言った。
「貴方に話したい事があったのだけれど、授業後すぐに教室を出ていかれちゃったから、追いかけられなかったわ」
「そうですか…すみません」
私はさりげなく、薬の袋を手で隠した。一般には流通していない薬なので、なるべく隠しておくように比留間博士から言われていた。
しかし、鞍屋助教授の目は私の動作よりも早く、書かれていた文字を読み取っていた。
「“能力鎮静剤”……ああ、比留間博士のアレね?」
「ご存じなのですか?」
「ええ、実は私もその薬、使っているのよ」
- 287 :
-
「先生も?」
私以外にこの薬を飲んでいる人がいたなんて知らなかった。
でも、考えてみれば、新薬の効果を一人だけで試す、というのは、科学者からしたらありえない話だ。
私以外に飲んでいる人がいても、全然おかしくはない。
「ええ、私の“夜の能力”は少し厄介で、自分の力ではコントロールできないから……」
「そうなのですか……あの、どんな“能力”なのですか?」
「『夜の間は猫になる能力』よ。貴方は?」
鞍屋先生がそんな“能力”を持っていた事も、私は知らなかった。
猫になるというのはどんな感覚なのだろう。
「私は……」
私は言うのをためらった。
私の“能力”を、いや、能力とすら呼べないそれを、他人に知られるのは、正直、嫌だった。
私の能力は、ごく親しい友人と両親、それに比留間博士だけしか知らない。
「話したくなければいいのよ。
それより、貴方の薬、汚れちゃったわね……私のと取り替えてあげましょう」
「いえ、そんな」
「いいの、今日は使わないから。たまには猫になってみるのもいいものだわ」
先生は腰につけたポーチから薬を取り出して、私に手渡した。
「“能力”のことで何か相談したい事があったら、気軽に言ってね。力になってあげられるかもしれないから…」
「ありがとうございます」
私は先生に頭を下げた。先生はそれを見てにこりと笑う。
- 288 :
-
「…そうそう、本題だけど、さっき比留間博士が貴方を探していたわ」
「比留間博士が?」
私は思わず聞き返した。
「ええ、比留間博士よ。貴方、博士の授業を何か取ってたかしら?」
「ええ、まあ…」
「まあいいわ……
それで、『成世君に会ったら授業の空き時間にでも研究室まで来てくれるように伝えて欲しい』って言われたの。
ということで、後で行ってあげてね」
「分かりました」
「それじゃ」
そう言って、先生は洗面所の奥へと消えていった。
洗面所を出た後で、私は先生との会話を思い返す。
『夜の間は猫になる能力』……先生の“猫好き”は有名だったけれど、どうりで猫好きなわけだ。
いや、そんな事はどうでもいい。
私と同じく、自分の能力に苦しんでいる人がこの大学にいた。
思えば、私の事を理解してくれる友達はそれなりにいるけれど、私と同じ境遇の人を見つけたのは初めてかもしれない……
- 289 :
- 4時半すぎ。
今日の授業が終わった。
私は比留間博士の元へ向かう。
比留間博士のいる超能力学部棟は、大学の裏門に近い場所に位置していた。
チェンジリング・デイ以降、 “能力”は私達の生活の一部となった。
それに伴い、20世紀までは鼻で笑われていた「超能力」という現象も、科学者達から真面目に注目されるようになった。
当初は超能力を研究分野として受け入れるべきかどうか、学会のほうで一悶着あったようだけれども、
結局、今では大学に専門の学部が作られるほどに学問として定着しているのだ。
そして、その超能力研究のパイオニアが、比留間博士だった。
「超能力だろうと幽霊だろうとUFOだろうとオカルトだろうと、この宇宙内に現象として顕れさえすれば、科学はそれを探究する事ができる」
という比留間博士の格言がある。
彼は生物学の分野から“能力”の存在を立証するとともに、超能力研究に“統計”“実験”“観測”の三本柱を徹底して導入し、
科学的事実としての超能力を「噂話」や「詐欺」などのでたらめから区別した。
これによって、ようやく国際科学会議も「超能力学」をまともな科学の一分野として認めるようになったのだった。
とりあえず、私の“超能力学”についての認識は、こんな感じだ。
それとは別に、私自身、個人的に比留間博士とはつながりがある。(もちろん薬の事で)
学会の見解がどうとか、そんな話は私にとっては正直、どうでもいい。
私としては、早く博士の能力鎮静剤が完成してほしいと思う。
科学は、人を幸せにしてこその科学なのだから。
- 290 :
-
比留間博士が私を探していたのは一体なぜだろう。
私は夕日に照らされた超能力学部棟の階段を登りながら考えていた。
時期的にはたぶん、期末レポートに関することだとは思うけれど…
今朝の夢の事が気がかりだった。
階段を登って廊下を少し歩くと、目的の部屋についた。
超能力学部研究室。
私はここの研究室で授業を受けたことはない。
でも比留間博士とは大学に入る前から個人的につき合いがあったため、この研究室にも何度か来た事があった。
壁に掛かったホワイトボードに「比留間慎也 - 在籍中」の文字を確認すると、私は部屋をノックした。
「どうぞ」
という比留間博士の返事が聞こえたのを確認して、私は中に入った。
研究室は、中学校の理科室を思わせる造りをしている。
非人間的なほど清潔感の溢れた白い壁に、フラスコや蒸留装置や試験管などのガラス製品が並べられた棚。
白い薬品や結晶がこぼれてもすぐに気づくよう作られた黒い机は、ずれたり傾いたりしないように床に固定されている。
中学校の理科室と違うのは、人体模型の代わりに大きな装置が置かれている事だった。
博士の話によると遠心分離機や攪拌装置や分析器といった研究器具だそうだ。
私が部屋に入ると、比留間博士は何か顕微鏡のような装置の前で試験管やシャーレを片づけていたところだった。
「ああ、成世君。わざわざ呼び出して済まないね」
と、博士は相変わらずのフランクな喋り方をする。
- 291 :
-
「鞍屋先生に言われて来ました。何の用でしょうか?」
「ちょっと込み入った話なんだ。ここで話すのも何だし、教員室に移動してから話そう。
……ちょっと待ってくれ、今片づけるから」
「手伝いましょうか?」
「ああ、さすが成世君、気が効くな。
じゃあ空の試験管を分けて棚に戻しといてくれ」
言われた通りに私は空っぽの試験管を選んで棚に戻した。
その一方で、博士は良く分からない透明な液体の入ったものを冷蔵庫にしまう。私にはよく分からないけれど、たぶん中身は何かの薬品だろう。
博士は今でこそ“超能力学”を研究しているけれど、元は生理学者なので、そういう方面から能力を研究しているらしい。
- 292 :
-
片づけを終えて、私達は研究室の隣の教員室に移動する。
比留間博士の研究の“三本柱”のうち「観測」を行うのが野外で、「実験」を行うのがさっきの研究室だとすれば、そして「統計」を行っているのがこの教員室という事になる。
パソコン机と事務机が交互に並び、壁の棚は本やファイルで埋まっている。
机の上には棚に入りきらない資料やマグカップなどが乱雑に置かれている。
ちょうど今の時間は誰もいないらしく(もしかしたら比留間博士が人払いをしておいたのかもしれない)、
パソコンの画面はみな真っ黒かスクリーンセーバーだった。
「まあ取り敢えず、そこに腰かけてくれ。今飲み物を入れてくるから」
と、博士は回転椅子を指差した。
博士は私の好みを知っているので、研究室に定番のコーヒーではなく、紅茶を淹れてくれた。
紙コップにポットからお湯を注ぎ、ティーバッグを落とす。
「お待たせ」
と、博士は私の所まで戻ってくると、机に紙コップを置いた。
熱くないように紙コップを二重にしているあたり芸が細かい。
私が紅茶に口をつけている間に、博士は机の鍵つきの引き出しから封筒を取り出して、私の隣の椅子に腰かけた。
封筒には「Classified」(機密事項)と書かれている。
「さて、本題に入ろうか」
博士の口調はいつも通り……のはずなのに、
私には何故だか、場の雰囲気そのものが重くなったように感じられた。
- 293 :
- 「まず、基本的な確認をしておこう。
成世君の“能力”は《アポトーシス》。【無意識性】【変身型】。12時間に0.1%程度の確率で体細胞が大規模に壊死する。
だったね」
私は黙って頷く。
奇妙なまでに静まりかえった教員室に、空調の音のみが響く。
「それで、今までその発動を抑えるために、私の能力鎮静剤を服用し続けていた」
「はい」
「ところが、違うんだ」
「違うって?」
まさか──
「これを見てくれ」
博士は封筒の中から紙を取り出した。政府の押印と透かしが入っている、どう見ても正式な文書だった。
“ 成世 美歩 (Naruse Miho)
Ex Ability
Day … ■■■■■
EXA name: "Event-Leap"
Sort: Conscious, Creative
Details
Time-space traveling for creating another worldline whose time is delaied about 12 hours,
maybe confuse the history. So we should watch her and seal this ability.
Night … Unawaken ”
一ヶ所だけ上から黒く塗りつぶされていたけれど、私に関する資料である事は分かった。
私が英語の文章を解読するよりも先に、博士がその内容を読み上げていた。
- 294 :
-
「成世 美歩。昼の“能力”、《イベントリープ》。【意識性】【具現型】。
12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時空間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。
なお、夜の能力は未覚醒」
淡々と読み上げられる文章。
私はその意味は理解できたが、それの意味する事はすぐには把握できなかった。
「……どういう事ですか? 博士」
「つまり、《アポトーシス》はまったくのでたらめだったという事だよ。
今まで君が自分の“能力”だと思っていたものは、真の“能力”を隠すためにでっちあげられた偽りの“能力”だったということだ」
「まさか、博士」
そんな事があっていいの?
「そう、政府が騙していた。それだけ、君の真の能力が恐ろしいものだから」
「でも、私の能力は一度だけ発症しかけた事が……」
「能力移植だ。特殊な薬を飲まされると、一時的に他人の“能力”を会得する現象がある」
それじゃ、私のこの2年間は?
薬の副作用に耐え続けて、不自由と恐怖に悩まされてきたこの2年間は?
全部、仕組まれたものだったと言うの?
- 295 :
-
心臓の鼓動が早まり呼吸が荒くなるのが、自分でも分かった。
「博士、この事にはいつ……?」
「僕が気づいたのは、つい半年ほど前だ。
済まないな、君に言うべきかどうか迷っていた。結果的に私も騙す側に回ってしまった」
「そんな……」
「とにかく、落ちつこう。
これからどうするべきか、相談しようか」
私の様子を見て、博士は言った。
博士の言うとおりだ。
自分でも気が動転しているのは分かっている。
でも、落ちつけるわけがない。
私の心臓はバクバクと暴れ続けている。
「物事を良い方に考えるんだ。もう意味の無い能力に怯える事はないんだ。
これからは鎮静剤の代わりに偽薬を処方する。政府の目を騙すために飲み続けなさい」
「それから……言いにくい事だけど、もし良かったら僕にこの能力を少し研究させてくれ。
もしかしたら危険性がない事を政府に示せるかもしれない」
「研究?」
私は声を荒げた。
この期に及んで研究? この博士は何を考えているの?
- 296 :
-
「……私、過去へ戻ります」
私は椅子から立ち上がった。
政府も、この人も同じだ。私の事を危険因子としてしか、あるいは実験や観察の対象としてしか見ていない。
「落ちつきなさい、そんな事をしても意味がない」
「落ちついているわ。博士だって、私を騙そうとしている」
「済まなかった。君に言うべきかどうか迷ったんだ」
「嘘よ。半年も黙っていたのは、私の能力を研究する準備を進めていたから、そうよね?」
「……」
博士は言葉を詰まらせた。
──やっぱりそうだ。
誰もが自分勝手な都合で私を振りまわす。
歴史や研究のためなら、人を不幸にしていいの?
「いいえ、半年かどうかだって疑わしい。
この文章だって、博士が書いたものでしょ? 2年前に」
「それは違う……と言っても信じてくれそうにないな」
「私は、こんな世界に居たくありません。
私をモルモット扱いしかしてくれない、こんな世の中に」
「待ってくれないか」
踵を返して部屋の出口へと向かおうとする私の袖を、博士が引っ張る。
「離して下さい」
「薬が効いているんだろう。“能力”は使えないぞ」
──あ、
- 297 :
-
うっかりしていた。
そういえば、昼過ぎも鎮静剤を飲んだばかりだった。
明日の朝になってから“能力”を使っても、また「この時」に戻されるだけだ。
どうしよう……
と、その時──
「その娘は薬を飲んでいないわ、博士」
部屋の入り口から澄んだ声が響いた。
その声は、何故だか私には救世主のように聞こえた。
「峰子君、いつの間に?」
本当にいつの間にか、鞍屋先生がドアを開けて部屋の入口に立っていた。
「さて、いつの間でしょう? それより、聞こえました?」
「ああ、薬を飲んでいないって?」
突然の展開に、私は思考停止した。
「彼女の薬は“何者か”によって入れ替えられていました。見てください」
鞍屋先生は少し早足でこちらに近づくと、薬を机の上に投げ出した。
博士と私はそれに目を落とす。
“─ 能力鎮静剤 ─
成世美歩(ナルセ ミホ) 様”
- 298 :
-
理解が状況に追いつかない。
私が驚いているうちに、比留間博士は次の手を打っていた。
「峰子君、失礼」
パチン、と指を鳴らす音が聞こえた。
窓越しの夕日が、一瞬で暗闇へと変わった。
それと同時に、鞍屋先生の姿が視界から消えた。
「僕の“能力”を使わせてもらった。もう君に力は使わせない」
聞いていなかった、そして迂闊だった──慎也博士が“能力”を持っていたなんて。
考えれば分かること。能力研究の第一人者だ。
自分の能力を覚醒させようとしないはずがない。
と、博士の近くの机の上に一匹の猫が姿を表した。
緑色の瞳、銀色の髭。昼間の授業で黒板に描いてあった、あの猫とそっくりだ。
「仕方ないわね。緊急事態だもの」
猫が喋った。
鞍屋先生の声で。
「鞍屋先生……?」
「昼間も説明したでしょう? この姿は私の“夜の能力”──《グレマルキン》よ」
夜の能力……?
すると、慎也博士の“能力”は──
- 299 :
-
「さて、もう一度落ち着いて話し合おうか」
私は博士の瞳に、狂気に満ちた科学者の邪悪な輝きを見た。
「落ち着けるか!!」
わたしは思わず、手元にあったマグカップを博士に投げつけた。
博士はそれを片手で受け止める。
その隙に私は出入り口のドアへと全速力で走った。
「峰子君、取り押さえろ」
「どう考えても“任務外”ですけれど、仕方ないわね」
走る私を黒猫──鞍屋助教授がもの凄い速度で追い抜いた。
彼女は体当たりでドアを閉めると、音も無くその前に浮かんだ。
「どいて! 先生!」
しかし先生は私を無視して、私の後ろから迫ってくる人物に対して話しかけた
「退路は阻んだわ──これでいいかしら? 博士」
「ああ、ご苦労」
後ろを振り向くと慎也博士が目の前に立っていた。
- 300 :
-
「こうなっては仕方ないな。私も君を野放しにしてはおけなくなった。私の研究所まで来てもらおう」
博士は私の腕をしっかりと掴んでいた。
何か方法はないの? どうすれば?
せめて、もう少し考える時間が欲しい。時間が……
──その思いは、私のなかで一つの形になった。
「これは……!?」
目の前を覆う銀色の霧に、慎也博士は目を見開いて後ずさった。
「どうやら覚醒したようね。彼女の“夜の能力”が」
鞍屋先生は澄ました顔で喋るのが聞こえる。
「まさか……このタイミングで覚醒するとは」
「貴方は彼女を窮地に追いやったことで、彼女のもう1つの能力を覚醒させてしまった」
私の意志が込められた銀色の霧。
これがどういう効果をもたらすのか、私にははっきり分かっていた。
銀色の霧は薄いヴェールとなり、慎也博士をゆっくりと包み込んでゆく。
「昼夜を逆転させた時点で、この展開は予想して然るべきだった
──博士、貴方の負けよ」
『時間を凍らせる能力』。
銀色のヴェールに覆われた博士の体は、微動だにしなくなった。
- 301 :
-
「行きなさい。
私には貴方を止める気はないわ。止めようと思っても無理でしょうし。
──あなたは真の自由を手に入れた。自分の力で道を切り開いたのよ」
博士が凍りついた様子を見て、鞍屋教授は私に語りかけた。
「先生、ありがとうございます」
「と、行く前に部屋の戸締りはちゃんとしておくのよ」
鞍屋先生の声で喋る猫はそう言うと、優雅な足取りで部屋から出ていった。
- 302 :
- 数分後、私は研究室棟の階段を下っていた。
周囲はいつの間にか、夕方に戻っていた。
こんな騒ぎを起こしてしまったのでは、どのみち、このままではいられない。
私の“能力”を知っている人がいるかぎり、私は誰かにつけ狙われるだろう。
それを止めさせるためには──
私の力で、過去をやり直すしかない。
この間違った2年間を。
私は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした。
意識が、そして体が、今までに感じた事の無い方向に落ち込んでいくのが分かった。
- 303 :
- (成世編後編に続く)
- 304 :
- ・設定
《名前》
成世 美歩
S大学に通う“普通の”女子大生。
ただ1つ、普通の女子大生と違う所があるとすれば、
それは……その“能力”のために不幸な人生を送ってきた事。
《昼の能力》
名称 … アポトーシス
【無意識性】【変身型】
体が突発的に壊死する能力。
12時間に0.1%程度の確率で発動するといわれている。
成世美歩の真の“能力”を隠すために「でっちあげられた」能力。
尚、夜の能力は未覚醒
↓
《昼の能力》
名称 … イベントリープ
【意識性】【具現型】
半日前にタイムトラベルする能力。
政府の機密文書では
「12時間程度時間軸のずれた別の世界線を創り出す事による時間移動能力。
歴史を混乱させる恐れがある。彼女を監視しこの能力を封印する事を推奨する。」
と解説されている。
《夜の能力》
名称 … タイムホライゾン
【意識性】【操作型】
対象の時間を停止させる。
時間を止められた対象は鏡のようなヴェールで覆われ、一切の事象の干渉を受けなくなる。
夜が明ける(ヴェールの外側が「昼」になる)と解除される。
ベール自体に重力が働いているらしく、地球の遠心力で対象が飛んで行ってしまうようなことはない。
- 305 :
- 以上代行です
- 306 :
- 乙と代理続きサンクス
なるほどそう繋がっていたのか
次で完結かなwktk
- 307 :
- >>277
乙です! 待ってましたのCパート。
A・Bパートとからみ合って、テンション上がりまくりっすw
なるほどーとニヤニヤしながら続きを待ちます!
代行リレーも乙でしたw
- 308 :
- 話が繋がったなぁ
続き期待してますです
- 309 :
- 話作りの参考に知りたいんですが、バフ課って7班まである設定で、
その中で1、6、7班は現状特に詳細な設定はないんでしょうか?
- 310 :
- a
- 311 :
- 保守
- 312 :
- 投下しまふ。
>>309
私もそのあたりの設定を把握してないんですが、適当に書いちゃっていいと思いますw
矛盾が生じたら“パラレルワールド”ってことでw
- 313 :
- 【幻の能力者】 成世編 後編
─ Schr?dings; Fate ─
The fault, dear Brutus, is not in our stars, but in ourselves, that we are underlings.
「違うよ、ブルータス。不幸の星などではない。我々自身のせいなのだ、我々が負け犬の境遇でいるのは」
──ウィリアム・シェイクスピア『ジュリアス・シーザー』
----------------------------------------
- 314 :
- 私はその時、自分の部屋にいた。
朝食と洗濯物、洗い物などの用事を済ませ、家を出ようとする所だったのだ。
でも、今日は学校へ行く気はない。
今から12時間後に起こるはずの事を考えてみれば、当然だ。
カバンを放りだして、私はベッドの上に腰かけた。
体がとても疲れている。
無理もない。
今の私は朝目覚めたばかりの私ではなく、
一日中授業を受けた後、あんな事があって、やっと逃げ出してきた後の私なのだから。
でも……これからどうすればいいんだろう。
勢いで飛び出したものの、具体的な計画なんてまったくない。
間違いの始まりである“能力鑑定”を回避するために2年前まで遡る、といっても私の能力は12時間前にしか戻れないし、昼の間は使えない。
どうやって、2年も遡ればいいんだろう。
- 315 :
- >>313
文字化けしました。
副題の?部分はo(オー)ウムラウトです。
シュレーディングズ・フェイトと読みます。
- 316 :
-
コンコン
窓の方で、ガラスを叩く音がした。
「誰……!?」
背筋が凍る。
まだ早朝のこの時間帯に人が来るなんてありえない。
でも、あの叩き方は、風でも動物でもなく、明らかに人間のものだ。
反射的に身構えながら窓の方を見る。
カーテンに遮られて相手の姿は見えない。
でも、代わりに聞こえてきた声を聞いて、私は少し安堵した。
「成世さん、いる?」
鞍屋先生の声。
でも、どうして?
先生は今日、大学で授業をして、それから洗面所で私に─
「鞍屋先生……ですか?」
「そうよ。“今日は”大変だったわね」
─あ、
私は気づいてしまった。
- 317 :
-
勇気を出して、私はカーテンを開ける。
窓の外にいたのは、正真正銘の鞍屋先生だった。
長い銀髪、猫を思わせる緑色の目、両腕の長い手袋。
そして、柔らかく透き通る黒曜石のような声。
「これからの事を相談するから、私を部屋に入れて頂戴?」
鞍屋先生は再びコンコン、と音を立てて、窓の錠の部分をつついた。
「なぜ……私を助けたのですか?」
先生を部屋に招き入れて、私は真っ先に訊ねた。
「流石に気づいたのね。薬をすり替えた犯人が私だって事」
なぜだか知らないけれど、先生は比留間博士が私を狙っている事を最初から知っていて、阻止しようとしたのだ。
洗面所でぶつかったのも、偶然じゃない。
きっと、あのどさくさにまぎれて私の能力鎮静剤を偽物とすり替えたのだ。
その後、私が博士に気圧されそうになった時を見計らって、部屋に入ってきた。
あれは、私を助けるためだったのだ。そうでなければ、あのタイミングで薬が偽物だとばらすはずがない。
先生は、私を追い詰める振りをして、私の本来の能力が覚醒するのを手伝ってくれた。
そして、いま私を訪ねてきたということは──この時点の先生も事情を知っているに違いない。
「そうでしょう、先生?」
それを訊くと、先生は私のベッドに腰掛けながら答えた。
「その通りよ。正解。
- 318 :
- それで、さっきの質問の答えだけれど、それは簡単な事。
さらに過去の貴方から事情を聞いたからよ」
と、鞍屋先生は言う。
「さらに過去?」
そうか、私にとっての未来は、鞍屋先生にとっての過去なんだ。
それで、先生は私を助けに来てくれた。
謎がだんだんと解けてゆく。
「そう。2年前に戻るつもりなんでしょう? 覚悟は出来てる?」
覚悟ができているかどうかなんて、自分でも分からない。
でも、もう歩み出すしかない。
「それで、今日は貴方にこれからの貴方が取るべき行動を伝えに来たの。
大丈夫、その予定を実行した貴方自身から聞いた話だから、間違いはないわ」
そう言うと、先生は持ってきた鞄の中から1冊のノートを取り出した。
「大体の方針はここに書いてある通りよ」
先生はノートを適当にめくりながら説明する。
「夏の間は、日の出直後と日の入りの直前にタイムトラベルをすれば、12時間遡ってもまで日が出ている計算になる。
大変なのは、夜の時間が12時間以上になる、春分の日から前年の秋分の日までの間ね。
この間は、比留間博士を利用するの」
「比留間博士を?」
過去の私(私にとっては未来の私だけど)が考えたにしては、大胆な話だ。
- 319 :
-
「彼の“能力”を貴方も見たでしょう?」
「『昼を夜にする能力』……」
「そう。そして、夜の間はその逆で、『夜を昼にする能力』なの。
このノートの○印のついていない日には、私が博士を言いくるめてその“能力”を使わせるから、
その隙に影に隠れていたあなたはタイムトラベルができるようになる」
「○のついた日は?」
「その日は、貴方自身が博士を騙すのよ」
「でも……」
「博士が貴方の“能力”に気づいたのは、今年の春になってからなの。
だから、別人のふりをして、うまく説得する。
ノートには……『黒野あゆみ』という名前が書いてあるわね」
「でも……そんなに上手くいくでしょうか?」
私はおそるおそる訊ねる。
「私達にとっては何回も繰り返す事だけれども、それぞれの博士にとっては1回きりの出来事。
それに、万が一気づかれても、一旦逃げてからまたやり直せばいい。
第一、私はこの方法で2年間を乗り越えた貴方から、この計画を聞いてきたのよ」
と、鞍屋先生は優しく答える。
「……わかりました、やってみます」
先生に励まされて、私の気持ちもだんだん上向いてきた。
「頑張ってね」
- 320 :
- 「最後に1つ、聞いてもいいですか?」
まだ確かめたい事が、私にはあった。
「ふにゃ?」
先生は気の抜けたような相槌を打つ。
先生にはこういうとぼけた一面があることにも、大学での三ヶ月間の間に私はすっかり慣れ切ってしまっていた。
「なぜ、先生は私を助けようと思ったのですか?」
「あら、それはさっきも訊いたじゃない」
先生はちょっと目を丸くして驚いた素振りを見せる。
でも、私はまだ先生から納得できる答えを聞いてはいない。
「いえ、そうじゃなくて……
私が聞きたいのは、過去の先生がなぜ私を助けようと思ったのかです」
先生がなぜ過去で私の話に乗ってくれたのか。
「…そうね、貴方は私と似ているから、じゃ駄目かしら?」
「似ている?」
「人生を大きく狂わせてしまう力」
「でも、私のは……嘘の“能力”だったんでしょう?」
「いいえ、あなたの本当の“能力”もよ。
貴方は、自分では気づいていないかもしれないけれども、貴方の能力は既に貴方の人生を大きく変え始めている。
それに、博士が狙っていたのも、貴方の本物の方の能力よ」
それもそうかもしれない。
あの瞬間から、どのみち私は普通の人生は歩めないだろうと悟った。
生きているかぎり、誰かが私の“能力”を狙いに来ると、直感的に分かった。
- 321 :
-
「それで、先生は……」
「洗面所では、私の“夜の能力”の話をしたわね」
『猫になる能力』……「猫になれる」ではなく、「猫になる」。
もし自分の意志に反して変身してしまうのだとしたら……それはとても不便な事だろう。
「でも、それよりも重大なのは私の“昼の能力”の方よ
《テイルズ・オブ・マルチヴァース》と呼ばれているけれど、簡単に言えば『並行世界の自分と1つになる能力』よ」
「並行世界……」
だから、この先生は量子力学の研究をしているんだ。
話の中で、先生の秘密が少しずつ解けてきた気がした。
「この“能力”は、例えば『運命を操る能力』にすら対抗できるほど強大な能力なの。
でも、その代償として、私は私の運命を自分の力で変える事ができない。
それは──全ての並行世界と繋がっている事は、あらゆる運命を拾ってしまう事を意味するから」
分かる? と、鞍屋先生は話を続けた。
彼女の授業を聞いていたおかげで、私には先生の言っていることがなんとなく理解できた。
つまり──
今、この瞬間も、どこかの並行世界で死んでいる彼女がいるのだ。
病気によって、あるいは、事故や事件に巻き込まれることによって。
でも、彼女達を救うことは出来ない。救おうとすれば、この世界の鞍屋峰子が代わりに死ぬことになる。
「まあ、そんな話は貴方には関係ないわね。
とにかく、私の“能力”は、運命をどう受け入れるかを決める能力ではあっても、運命を変える能力ではない。
でも、貴方は違う。
貴方は、自分の運命を自分で作る事ができる」
「自分の運命を、自分で?」
鞍屋先生の言う、運命という言葉の響きは、なんだか重々しいものに聞こえた。
- 322 :
-
「比留間博士は隠していたと思うけど、貴方の“能力”はただのタイムトラベルではないのよ。
貴方の“能力”の本質は、過去に遡って新たな並行世界を作り出す事。
それは、新しい運命を切り開く事に等しい─」
先生の話が正しいとしたら、きっと私のこの力は、運命を変えるためにあるのだろう。
そして、私は今からこの力を、運命を変えるために使う。
先生の話は筋が通っているように思えた。
鞍屋先生は話を続ける。
「─私は自分の運命に逆らう事が出来ない。
その分、貴方の可能性がとても愛おしく思えるの。
だから、私は貴方の味方になってあげたかった。
こういう答えじゃ、駄目かしら?」
「それが……私を逃した理由なのですか?」
「貴方はこの先の人生で、あなたの“能力”を欲しがる大勢の人に狙われる事になる。
だから、昼間も話した通り、困った事があったら、私を尋ねなさい。
貴方が過去を変えても、私は貴方のことを覚えていられるから」
並行世界を作る私と、並行世界を繋ぐ先生。
その出会いはたぶん、偶然ではなかったのだろう。
「ありがとうございます、先生」
「じゃあ、気をつけてね」
そう言うと、先生は立ちあがった。
次の瞬間──
- 323 :
-
部屋の窓ガラスが飛び散った。
ガラスの割れる音に私は思わず身を竦ませる。
ほとんど同時に、鞍屋先生が私をかばう様に床へと押し倒す。
カーテンに遮られていた事もあって、私達には何が起こったのかが分からなかった。
カーテンと床の隙間から、ガラスに紛れて何かが転がり落ちる。
「石……」
先生が私の耳元で呟くのが聞こえた。
窓枠に残ったガラスを取り除くような、ガシャンガシャンと乱暴な音が聞こえた。
その間に、先生は素早い動作で立ち上がって、部屋の窓の方を見た。
先生の視線の先で、ガラガラジャリジャリと窓を開ける音がし、カーテンがめくれた。
カーテンの向こう側に立っていたのは、鞍屋先生よりも頭2つぶんほど身長の高い男だった。
オールバックの金髪にサングラスをかけ、灰色のスーツを着ている白人男性。
男は日本語で先生に話しかける。
「なるほど、そういうコトか、“Aleph(アレフ)”」
相手の言葉に、先生はピク、と反応する。
- 324 :
-
「貴方は……聞いていたのね、“バシレウス”」
鞍屋先生の声は普段と同じで透き通った声だけれども、普段と違ってどこか恐ろしい響きをもっていた。
そんな先生に対して、男は片言気味の日本語で話を続ける。
「なに、オマエの様子に不審な点があったから追ってみただけだ。
『くのいちには見張りをつけるべし』……やはり日本古来のニンジャの言い伝えは本当だったな」
「そんな出所の良く分からない知識、どこで仕入れたのよ」
と、鞍屋先生は突っ込みを入れる。しかし、男は真面目なつもりだったらしい。
「ああ、仕事がら、spyについての文献は一通り読む事にしている」
と、無愛想に言った。
「誰…? この人」
私は先生に尋ねる。
外国人らしい訛った日本語で、外来語の部分だけはやたらと流暢に話すこの男に、
もちろん私は見覚えがない。
「私の“仕事”仲間よ。ただ、貴方を狙っているようだから気をつけなさい」
と、鞍屋先生は真剣な声で答える。
仕事……? 先生は大学で仕事をしているはずじゃ……?
- 325 :
-
私の疑問を余所に、二人は会話を続ける。
「その子の“能力”はtop secretのはずだ。ナゼ余計なコトを教えた?」
「愚問ね。
この子の“能力”の価値は貴方達には分からない。
どうせ持て余しているなら、解き放ってあげるべき」
「それがお前の選択か? もしそう思うのならば、他のmemberにそう訴えるべきだった。
お前の行為は明らかに反逆だ」
「あらそうですか」
「正気か?」
「本気よ」
「先生!」
私は思わず口を挟んだ。
「逃げて。彼は私がなんとかするから」
鞍屋先生は私のほうを振り返って小声で話す。
「でも、先生……」
- 326 :
-
状況はよく分からないけれど、
「巻き込んで、ごめんね、成世さん」
これだけは分かる。
鞍屋先生は、死ぬ気だ。
「そうか、覚悟があるなら別に構わない。
だが、犬死にするだけだぞ」
男は、そう言いながらサングラスを外し…
…そこまで見た所で、目の前を先生の手が覆う。
「見ては駄目。目を瞑ったまま逃げなさい。過去の世界でまた会いましょう」
先生は早口で説明する。
私は小さくうなずくと、“昼の能力”を使った。
再び、体が奇妙な方向へと引き込まれる。
私はまた新たな並行世界へと旅立った。
この世界の先生の無事を祈りながら……
- 327 :
-
こうして、私の“旅”は始まった。
- 328 :
- ----------------------------------------
北アメリカ大陸、「元」アメリカ合衆国ミシガン州、デトロイト。
元々治安の悪い事で知られるこの町は、約10年前にとある“天災”をきっかけとして荒廃が進み、
現在では市全体が“人口ゼロ人のゴーストタウン”と化していた。
無人と化した廃屋、放置された車、アスファルトの亀裂から生えている草木、壁に穿たれた銃弾の痕。
その生産の光景を目の当たりにした者は間違いなく、あたかも人類が滅亡した跡の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る事だろう。
そんな街の片隅で、人知れず煙草を吸う男がいた。
シャツの上から灰色のジャケットを羽織り、迷彩柄のズボンを穿いた日系の顔立ちの男。
齢20歳そこそこといった所か。濃い赤色に染め上げられた髪。鋭い光を帯びた瞳。
腰に帯びた漆塗りの鞘の中には一振りの日本刀が身を潜め、手にした真鍮の煙管(キセル)からは香ばしい煙が燻っている。
その男の背後に、一つの影が近づく。
「箱田衛一(はこだ えいいち)さんですね?」
背後から日本語で声をかけられて、男は振り返った。
男の振り向いた先には、コートに身を包んだ銀髪の女性が立っていた。
「始めまして」
女性は透き通るような甘い声で挨拶をする。
風に吹かれて僅かに揺れる銀髪の下で、明るい緑色の瞳が輝く。
男は訝しんだ。
普通の女性がこの廃墟の中に入ってくるのはいかにも不自然だ。
迷い込んだにしても、全域が廃墟のデトロイトの、しかもこんな奥地まで入ってくるとは考えづらい。
- 329 :
-
「あー、誰ですか?」
とりあえず、男は煙管を口から離し、質問をする。
女性はその動きを注意深く見守りながら答える。
「私は国際連合から派遣されたエージェント、“アレフ”と申します。
ちなみに、日本人ですからご安心を」
「国際連合?」
国際連合とはまた大層な所から使者が来たな、と男は思った。
相手の狙いが分からない以上何とも言えないが、神経は研ぎ澄ませていた方が良さそうだった。
そんな男の心配を余所に、アレフと名乗る女性は話を続ける。
「ええ、国際連合です。
随分と探しましたよ、箱田さん。
いえ、それとも世界を救った勇者様とでも呼んだ方がいいかしら?」
「……世界を救った、か。昔の話だな」
男は煙をふかしながら、どこか淋しげな目で宙を見つめる。
その話はあまりしたくない。といった調子だ。
「国際連合は世界を救った貴方の力を、非常に高く評価しています。
このため、非常に残念ですが…」
と、女性は声のトーンを微妙に落とす。
「…貴方の存在は危険と見做され、貴方を抹Rる決定が安全保障理事会から下され…」
その言葉が耳に届くや否や、男の手には抜き放たれた刀が太陽の光を受けて燦然と煌めいていた。
- 330 :
-
「命を粗末にするのはやめときな、お嬢さん」
男は刀の切っ先を女性に向け、余裕たっぷりの表情で警告する。
女性は男の反応の素早さに目を丸くしていていたが、すぐに笑いながら。
「…お見事です。さすが、最強の能力者と言われるだけの事はありますね」
と、その技を褒め称える。
瞬時に煙管の火を消し、ジャケットの内ポケットに仕舞い、左腰から抜刀。
その全ての行動が文字通りの「目にも止まらぬ速さ」で行われていた。
「ここまでに達するには、相当の努力を有したんだけどな」
「努力も才能のうちですよ。
貴方の《ホープ》は、事実上全能とも言われる『確率操作』能力。
今の居合抜きも、『偶然』生じた時空の歪みやトンネル効果を利用したもの。そうですね?」
自分の技の正体が見破られていると知り、男は警戒心を強める。
「そこまで分かっていながら、なぜ挑もうとする?」
男は訊ねる。
敵の手の内が分からないうちは、無闇に動きたくはなかった。
「それは、私にも勝算があるからです」
「ほう?」
その言葉に、男は興味をそそられる。
- 331 :
-
彼は自分の“能力”に目覚めてから今まで、あらゆる事を試し、あらゆる状況を想定してみたが、
結局、この力を極めれば誰も太刀打ちできなくなるという結論に達していた。
そして事実、この“能力”を極めた彼には、誰一人として敵わなかったのだ。
にも関わらず、女性は自信満々に言う。
「もし、私の“能力”が『勝算を見つける能力』だったら?」
自身が確率を操る能力を持っているからこそ、自信を持って言える。
世の中に『絶対』はない。自分の結論が間違っていないとも、この女が自分を打ち倒す術を持っていないとも限らないではないか。
そう男は考えていた。
「なるほど、それなら勝負になるかもしれない。
でも、それなら何故不意打ちをしなかった?」
不意打ちをしなかったのは、男の方も同じであるので人の事は言えない。
暗Rるのに不意打ちをしない理由は2つに1つ。
単に相手が愚かか、それとも──
「貴方とお話してみたかったからよ。
それに、正々堂々と勝負したほうが、盛り上がるでしょう?」
盛り上がる、という言葉に男の心は躍った。
なるほど、この女は根本的に、自分と同じタイプの人間らしい。
- 332 :
-
「乗ってやるよ。どうせ、この世界には飽き飽きしていた所なんだ」
「飽き飽き?」
女性は鞄から取り出した銃を手で撫でながら訊ねる。
手袋を嵌めているため、指紋はつかない。
「強すぎる力を持つってのは、意外とつまらないモノだ。
想像してみろよ、ラスボスも倒して隠し要素もコンプしたレベルMAXの勇者に、どんな存在意義がある?」
「そうね……あとは次回作のラスボスになるぐらいしか」
男は苦笑した。
この女、自分と気が合いそうなだけでなく、機知とユーモアも併せ持ってやがる。
「あーそれはアリかもな。だがラスボスにしても、宇宙をも滅ぼせるまでになった
この“能力”に、新しい勇者がどう立ち向かうかは、見物だがな」
こんな有望な子と殺し合いをする羽目になるなんて、全く残念だ。
- 333 :
- 「ところで、箱田さん。
国際連合は、貴方を“フォルトゥナ”というコードネームで呼んでいました」
女性は銃をコートの内側に仕舞いながら話題を切り替えた。
それ仕舞う意味あるのかよ、と思いつつ、男は適当に相槌をうつ。
「フォルトゥナ? ああ、運命の女神か」
と、“フォルトゥナ”は頷く。
Fortuna、ギリシャ神話の運命の神。
そして、運命を意味する英単語、Fortuneの語源でもある。
「貴方は、運命を信じますか?」
その問いに、フォルトゥナは満を持して答える。
「信じるも何も、俺は『確率操作』の能力者だ。
──俺の運命は、俺が決める」
それを聞いて、“アレフ”も不敵な笑みを浮かべながら応じた。
「それでは──貴方は、私の運命を決められるかしら?」
その言葉と同時に、アレフの姿が「ブレ」た。
- 334 :
-
錯覚ではない。
フォルトゥナの眼前で、アレフの両腕が一瞬ぼやけて消え、次の瞬間、
短機関銃(サブマシンガン)を構えた状態で再び出現した。
「“UZI(ウージー)”か。やるね」
IMI社製“マイクロUZI”。銃身を切り詰め極限まで小型化を図った携行性重視の短機関銃。
毎秒20発以上のペースで発射されるその亜音速の9mmパラベラム弾は、
特に対人近接戦闘において絶大な制圧力を発揮する。
「……」
フォルトゥナのコメントを無視して、アレフはトリガーを引いた。
銃内部のラウンドアップ・ボルトが駆動し、弾丸を薬室内に送りこむ、
続いて装填された弾丸後部の雷管を撃針が叩き……
次の瞬間、マイクロUZIの銃身自体が破裂して吹き飛んだ。
弾け飛ぶ無数の破片が弾丸並みの速度で“アレフ”の身体に突き刺さる。
「ファンブル(失敗)だな─」
フォルトゥナは『運良く』破片が飛んでこない位置に立ちながら言葉を続けた。
「─分かってるとは思うが、この宇宙で起こる物理現象は全て『確率』に支配されている。
ってことは、お前の武器に『偶然』亀裂が入って破損しても、不思議ではないよな?」
射撃と共に蹴り込まれていたMK3A2手榴弾も『運悪く』火が消えて不発し、空しく地面に転がる。
「そして、お前の周りの空間に『たまたま』数億ジュールのエネルギーが発生しようが、文句は言えないよな?」
言葉と同時に、アレフの周囲の大気が『折良く』膨大な熱を帯びて急激に膨れ上がり、
次の瞬間、廃墟街に、大地を揺るがさんばかりの巨大な爆発音が轟いた。
- 335 :
- この宇宙は一見、安定しているように思えても、
量子レベルでは時空の歪み、粒子の生成消滅、エネルギーの増減などが絶えず『偶発的に』繰り返されている『不確定』な世界である。
分子レベルでさえ、水や空気は『ランダムに』運動しているのだ。
そして、フォルトゥナの“能力”を以ってすれば、それらの『確率』を自在に操作する事ができる。
万象を支配する『神のサイコロ』をも操る能力。
故に、“最強の能力者”であり“事実上全能”。
勝負は一瞬でついた。
元より、性質的に長引くはずの無い勝負。
極端な話、抜刀の必要すらなかった。
わざわざ銃を構えているようでは話にならないのだ。
「クリティカル。終わったな……」
目の前に荒れ狂う巨大な火柱を前に、フォルトゥナはどこか悲しそうに呟いた。
- 336 :
- ----------------------------------------
「なぜ……殺さなかったのですか」
デトロイトの路上に焼け焦げた肢体を晒し、アレフはその喉から苦しげに言葉を漏らした。
体は皮下組織まで炭化し、所々には骨が露出している様子すらもくっきりと見て取れる。
その命は誰がどう見ても、風前の灯だった。
「お前の企みが分かったからだ」
分かった、というよりも、彼には思い当る事があった。
以前、思いついて、そしてその時は無視しても良いと判断した『可能性』が……
「そう……」
「お前は『並行世界』の能力者だな」
と、フォルトゥナは推理する。
もしこれが正しいとしたら、というよりも、少なくとも彼にはこれしか考え付かないのだが……
「ええ、その通り。私は貴方の唯一の弱点を見つけたのよ。
貴方の言う通り、この宇宙は全て確率次第。だからこそ、貴方は全能でいられる。
けれども、だからこそ、貴方にも支配できない確率が、たった1つだけ存在する─
- 337 :
-
─それは『貴方の能力が不発する確率』。
この世が全て確率次第なら、貴方の能力が『不運にも』上手く発動できなくても、理不尽ではないでしょう?」
北アメリカ大陸、「元」アメリカ合衆国ミシガン州、デトロイト、31番地。
アレフの足元には、頭を撃ち抜かれ脳に重大な損傷を追ったフォルトゥナが転がっていた。
「あーそれは考えてた」
(……ただ、本当にそれに賭ける奴がいるとは思わなかったけどな)
完全な敗北。
残った脳の断片でそこまで思考し、フォルトゥナはこと切れた。
相手の“能力”が不発するという、想像だに恐ろしい天文学的な確率。
“アレフ”はその確率に賭けた──天文学的な数の並行世界で同時に“フォルトゥナ”に挑みかかったのだ。
それこそが「生体量子コンピューター」と呼ばれる彼女の頭脳が導いた勝算だった。
意識性の“能力”は、使用者の脳が重大な損傷を負えば発動できなくなる。
アレフはその事を知っていたため、真っ先に脳を狙ったのだった。
MK3A2手榴弾が炸裂し、1秒前までは世界最強の能力者だった亡骸を消し飛ばす。
勝負は一瞬でついた。
元より、性質的に長引く筈の無い勝負。
しかし、その結果は蓋を開けてみるまで分からない。
まるで、箱の中に入れられた猫の生死のように。
「……終わったわね。
貴方が死んで、私が生きているこの世界、大切に使わせて戴くわ」
貴(あで)やかさを纏う黒曜石のような透き通る声でそう言い残し、アレフはその場を後にした。
“シュレーディンガーの猫”は、生き残った。
- 338 :
- ----------------------------------------
「あーそれは考えてた。
……ただ、本当にそれに賭ける奴がいるとは思わなかった」
瀕死の重傷を負って倒れ伏している相手を目の前にして、フォルトゥナはその相手の勝利を悟った。
否、自分と相手では、そもそも勝負のスケールが違っていたのだ。
「私の“能力”は貴方の運命操作とは対極に位置する、『あらゆる運命を肯定する能力』とでも言うべきものよ……
だからこそ、その可能性を探り当てる事ができた。
──私の勝ちね」
たとえ「自身が能力の発動に成功する確率」を操作したとしても、その操作自体に失敗する確率が常に残ってしまう。
それこそが、フォルトゥナを倒す唯一の攻略法だった。
「だが、大多数の世界ではお前のほうが負けているんだろ?」
「でも、私が勝った世界があるのも、また事実」
「負けず嫌いだな」
「いいえ、私の“能力”はどんな運命も受け入れる。敗北の運命をも受けいれた結果の勝利よ」
しかし、それは多大な犠牲の上に成り立つ勝利。
ならば何の為に戦うのか──束の間、フォルトゥナは疑問に思う。
- 339 :
-
「……で、この世界の君はどうするつもり?」
フォルトゥナは煙草に火をつけながら、全く素朴な疑問を口にする。
「そうね、貴方の好きにすれば……?」
「投げやりだな」
もっとも、圧倒的な相手を前に致命的なダメージを受けた絶望的なこの状況、
いつ投げやりになっても無理はない。
「貴方の危険性は、既に世界に知れ渡っている……
間もなく国連の精鋭達が動き出すでしょう。
貴方は世界を敵に回す事になる。
……さっきも言ったでしょう? 今度は、貴方が…」
呼吸器官に重大な損傷を負っているためか、アレフの言葉が段々と切れ切れになってきている。
むしろ気丈に会話を続けようとするその精神力こそ、驚嘆に値する。
「…『次回作のラスボス』か」
フォルトゥナは戦う前に交わしたやり取りを思い出す。
「仮にそれを潰滅させたとしても……国連は今の世界平和の半分を担っている組織……世界は混乱の渦に沈む事になる。
その混乱の中で……いずれ貴方に匹敵する能力を持つ者が……貴方を倒しに来るかも知れない。
良かったわね……退屈しのぎが出来て……」
自分が敗北した時の事まで考えているとは。
と、フォルトゥナは感心する。
本当に、このまま終わらせてしまうのは勿体無いか──
- 340 :
-
不意に、フォルトゥナはアレフに2、3歩ほど近づく。
そして屈みこむ。
「そいつはありがたいな。
だが、その前にお前を治療させてもらう」
微かな煙草の香りがアレフを包み込んだ。
「……何故?」
アレフは、掠れた声で、ただ呟く。
折角倒した敵、それも自分の命を狙いに来た相手をわざわざ蘇生させるなど、
アレフには理解できない行動だった。
しかし、フォルトゥナはそれがさも当たり前の事であるかのように、
こう答えた。
「何故って、目の前で倒れている女の子を放っておけない性格だからさ」
- 341 :
-
フォルトゥナは空中に手をかざした。
大気中に飛び散っていた原子が『幸運にも』アレフの周囲に再び集まり、傷口に癒着し、体組織を形作ってゆく。
「優しいのね」
と、アレフは微笑みながら答える。
微笑む事ができるほどに、顔の筋組織が再生したからだった。
その言葉を聞いて、フォルトゥナは照れくさそうに、
そしてどこか寂しげに言った。
「優しい、か……俺はその言葉が嫌いなんだ」
「何故?」
と、アレフは訊ねる。
優しいと評価されて、嬉しがらない人間は特別な人間だと、彼女は知っていた。
「何故って、他人(ひと)の心なんて、誰にも分からないだろ?」
と、フォルトゥナは答える。
それは、確かに、正しい。
と、アレフは思った。
むしろ、予想の範囲内の答えだった。
でも……、
「問題ないわ。
私が評価しているのは、貴方の『心』ではなく貴方の『行動』だから」
と、アレフは弁解する。
その内心では……いや、ここに記すのは止めておこう。
他人(ひと)の心なんて、誰にも分からないのだから。
- 342 :
-
戦いが終わり、
廃墟の片隅に停めてあった自分の車に乗り込もうとするフォルトゥナを、
「待ってください」
と、アレフは呼びとめた。
「私も連れて行って下さいませんか?」
「何故?」
今度は、フォルトゥナが訊ねる番だった。
「このまま帰っても、国連に私の居場所はないわ。
貴方に負けて帰ってくる事は許されていないから」
「また闘う気か?」
「残念ながら、私にはもうその余力も残されていないの。
さっきの戦いで、貴方を倒すための並行世界(リソース)は使い尽くしてしまいました。
だからいっその事……」
「国連を抜けて俺の側につく、とか?」
「ええ、正解」
非常に大胆な申し出をしておきながら、
アレフは子猫のような瞳でフォルトゥナを見つめる。
- 343 :
-
「なるほどね。じゃ、乗れよ」
一秒後、フォルトゥナは、あっさりと許諾した。
「いいの?」
「これから戦いになるんだったら、国連の内状に詳しい味方がいないとな」
それに……困っている女の子を放っておいたら男が廃るだろ」
フォルトゥナは冗談めかして言いながら、助手席のドアを開けた。
かくしてデトロイトから、一台の「所持者不明」の車が出発した。
アレフからの連絡が途絶えた事で、国連は一時フォルトゥナを見失い、
これにより、国連の対要警戒能力者戦略は、次のフェイズに突入する事となる。
運命破壊の能力者をめぐる運命の行く先は、まだ誰にも分からない。
- 344 :
- (【幻の能力者】成世編 〜終〜)
- 345 :
- ・設定紹介
鞍屋峰子
《昼の能力》
名称 … テイルズ・オブ・マルチヴァース
【無意識性】【変身型】
『並行世界の自分と繋がる能力』。
昼の間、彼女の存在は常に並行世界(パラレルワールド)の自分自身と繋がっており、精神を共有したり肉体を交換することができる。
これによって本来ならミクロレベルでしか起こらない量子力学的現象をマクロレベルで実現する事ができる。
並行世界の自分と並行して思考することによって超人的な思考能力や情報収集能力を発揮したり、
情報や道具を並行世界から持ち込んだり、並行世界の自分と交代して休憩や治療を行ったり、
状況に合わせて異なる状態の自分を呼び出すなど、応用性に優れる能力。
代償として『自分の運命を自分の力で変えることができない(=自分の行動で並行世界が分岐することがない)』、
反面、運命操作や確率操作の能力に対しては劇中(幻の能力者 成世編後編)に示されるような耐性を持っている。
“並行世界の自分”は精神性の類似度によって判定している。
そのため、洗脳や精神攻撃などを受けた状態では正常な状態の自分と繋がる事が困難になる。
また、《テイルズ・オブ・マルチヴァース》を無効化されても、並行世界の鞍屋峰子は影響を受けない。
劇中(幻の能力者 成世編前編)に登場する理論によれば、全ての量子揺らぎが並行世界に1対1対応しているわけではない。
これに従えば彼女が利用できるのはあくまでもマクロレベルの「並行世界」であり、ミクロレベルの「量子揺らぎ」までを完璧に制御することはできない。
(もし出来るとすれば確率操作能力と同等の力を持っている事になるが、そういう活用の仕方をしている様子はないので恐らく出来ないだろうと推測できる。)
※メタ的には、チェンジリング・デイ内で、他の作品と矛盾した出来事(=異なる歴史)が書かれる事で生じた並行世界を利用するのが彼女の能力です。
その性質から、劇中では『あらゆる運命を肯定する能力』『生存特化』などと形容されている。
- 346 :
- ・人物紹介
【箱田衛一(はこだ えいいち)】
コードネーム:フォルトゥナ
“アレフ”こと鞍屋峰子が「世界最強の能力者」と評する人物。
煙草と剣術を嗜む軟派な日本人。
“アレフ”の話によれば、以前「世界を救った」事がある模様。
しかし、その過程で自身の“能力”を極めた結果、「あまりにも強くなりすぎた」ために人生に退屈しており、
201X年現在は世界各地を飛び回り傭兵稼業や道場破り的な事をして暇を潰しているらしい。
世界のあらゆる事象に干渉することができる事実上全能の確率操作能力の持ち主だったが、
鞍屋峰子と対峙した際、“彼が能力の発動に失敗する可能性”を突いた彼女に敗北し、死亡した。
(ただし、作中で語られていない多くの並行世界では、鞍屋峰子の方が死亡あるいは投降している)
※下記の“能力”は「複雑性エグザ」発現後の性能です。発現してないと効果が小さく使用に伴い疲労するため少し弱くなります。
《昼の能力》
名称 … ホープ
【意識性】【操作型】
昼の間に実現しうるあらゆる現象を、100%までの任意の確率で引き起こすことができる。
「事実上全能」と称される確率操作能力。
使用方法は、『偶然』敵の攻撃を失敗させる、『偶然』空間中にエネルギーを発生させる、
『偶然』疲労や怪我を回復する、『偶然』時空を歪めるなど多岐にわたる。
基本的にどんな事象にも干渉することができるが、本人は熱エネルギーによる攻撃を好む。
理由は「火はイメージするのが簡単だから」。(反面「相手に勝つ」などの抽象的な運命を直接操作することはできない。)
《夜の能力》
名称 … ブラックデビル
【意識性】【力場型】
夜の間に実現しうるあらゆる出来事について、効果範囲内で起こる可能性を0%まで引き下げることができる。
「事実上無敵」と称される運命支配能力。
昼の能力とは逆に、具体的な物理現象の操作は難しく、抽象的な運命の操作に長ける。
極端な話「絶対に負けない」等の運命を設定すれば夜の間は絶対に負けない。
どこまでの範囲に効力を及ぼすのかは明かされていないが、恐らく本人は把握していると思われる。
- 347 :
- つ、疲れたぁ〜〜!!
(シリーズ最初の投下から9ヶ月ぐらいでしょうか?)
期間が思いっきり延びてしまいましたが、【幻の能力者】シリーズは
新たなシナリオフックを幾つか残しつつも、ひとまず完結です。
最初のほうの話を覚えてないよ! という方のために、以下に
シリーズ全体の構成とまとめへのリンクを書いておきます。
このシリーズは「慎也編(Aパート)」「ドグマ編(Bパート)」「成世編(Cパート)」の
それぞれに前編と後編があり計6部構成になっていて、全体を把握するためには全パートを読む必要があります。
物語の理解のためにはどのパートから読み進めていただいても構いません。
(全パートを並行して読むのも面白いですが、混乱しても保障はいたしかねます!)
ちなみに、スレへの投下順はこんな感じでした。
本スレ 避難所
慎也編前編 ドグマ編前編
成世編前編 ドグマ編後編
成世編後編 慎也編後編
また、チェンジリング・デイwikiには本シリーズの投下済みの作品が
まとめて収録されているため、読み返すのにお薦めです。
作者一覧の所から私のトリップを探せば作品をまとめて見る事ができます。
http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/69.html
- 348 :
- 乙ん
構成大変だったかと
鞍屋さんすげえです
- 349 :
- ものすごく壮大で複雑な構成のお話でしたね!
当方の頭では理解するのにもう少しかかりそうですw
さて、こちらで少し書かせてもらおうと思ってやってきました
ほんのイントロ部分ですが、これから頑張って書こうと思いますので
どうぞよろしくお願いします
- 350 :
- 西暦2000年2月21日。青い星に降り注いだ大小様々な無数の隕石群は、古代から連綿と受け継がれてきた
美しい自然を、そこに住む多様な生命たちを根こそぎ蹂躙しつくした。
人間が築き上げ、延々と語り継いできた文明もまた一瞬で瓦礫の山と化した、史上最悪、空前絶後の
大災害。あらゆるものが崩れ去り、ゼロへと還らざるを得なかった。
そんな状態だったからだろうか。人々の多くは「スポーツ」への関心を失っていた。サッカー場、野球場……
そういったスポーツ施設の多くは隕石で崩壊し、またプロのスポーツ選手たちもその多くが隕石の犠牲となって
いたから、それらの施設の復興を望む者も多くはなく、またいたところでそんな資金さえなかったのだ。
何より多くのスポーツを「荒らした」のが、隕石が人類へともたらした未知の「能力」だった。災害から
5年あまりたって後、各スポーツがようやく活動を再開しはじめた矢先、そのどれもがこの「能力」によって混乱を
極めることになった。
選手たちは獲得した能力を好き放題に使い始め、試合がメチャクチャになるなんてことはざらで、相手選手に危害
を加えるような能力が使われることも珍しくない、そんな状況。ただでさえ今を生きることに必死な人々が、そんな
荒んだスポーツ界から遠ざかってしまうのは、もはや当然の理と見えた。
だがそんな中。あの大災害から10年がたった今日、人々の耳目を集めるスポーツも確かに存在する。
それは、絶望漂う大災害の中でも希望を忘れなかった少年たちが考案した、新時代のスポーツと呼ぶべきもの。
自分たちに訪れた巨大な変化を受け入れ、ルールに明確に取り入れたそのスポーツは今、日本のほとんどの中学高校
で主流のスポーツとなりつつある。
これは、そんなチェンジリング・デイ以降に生まれた新興スポーツ「エクスドッジ」に青春をかける若者たちの物語である。
続く
- 351 :
- 今回の投下はこれだけです
それではこれからよろしくお願いします!
- 352 :
- とうとうスポーツ来たか
wktk
- 353 :
- >>349
ありがとうございます。
別所にネタバレを投下しておきましたので、正解が気になったらどうぞ。
スポーツとは面白そうな切り口ですねー
単純な戦闘ではできない独特な駆け引きが生まれそうです。期待!
- 354 :
- >>309
ざっとwiki内検索かけたところ、1班については以下の作者さんがSSで書かれているようです。(隊長は未登場?)
また7班は「医療チーム」とされてるようです。6班は脇役で出てきた程度。
http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/392.html
- 355 :
- よみがえれー!
- 356 :
- 復活したついでに避難所に投下あったよ報告
- 357 :
- >>347
うおおwお疲れ様でした〜
Cパートまで無事に終わりましたね。
フォルトゥナさんかっこいいw設定だけ後で借りさせていただきますw
しかし自分を犠牲にしまくるあたり、アレフさんの強さは異質だな〜と思いますね〜。
その辺が個人的に一番面白かったですよw
あ〜、こんな精密なプロット書けねぇなぁと思いつつ私も後で投下させてもらいますね。
>>350
面白そうなスポーツ系来ましたね、コレ。
イントロ部分だけみたいなので、本編のほうもお願いしますね〜。
さて、長らく空けてしまった「リリィ編」の続き投下させていただきます。
就活は終わっていたのですが、研究の発表とかをだらだらしてたせいで遅れてしまいました。
申し訳ないッ。
それでは↓
- 358 :
- 機関第七研究所のメンバーたちがドグマ本部襲撃に失敗したあと、崩壊する地下通路の中からシルバーレインに連れられ、俺は彼女のアジトに匿われていた。
郊外にある緑に囲まれた住宅街。海沿いに面したこの土地は、海からの涼やかな風を何処でも感じる事ができる。
この土地の中でも、一番高い丘の上に広大な庭と土地を持つ豪邸があった。白を基調としたシンプルな家屋の裏には、この家の主人が有する大きな森が広がる。その森の中には戦闘訓練用の広場や射撃訓練所、爆薬などの倉庫までを隠し持っていた。
つまり、ここがシルバーレインたちのアジト。大富豪ハーゲンダルク家の別荘だった。
俺は赤いピアスの女を後部座席に乗せ、海を目指し長い下り坂を自転車で駆ける。
エデンに斬られた右腕の義手はまだ用意できておらず、左腕だけで慎重にハンドルを操作する。
「私?私は昧耶って言うの」
「マヤ……か」
名前を聞くと、彼女は笑いながら答えた。
ちらりと後ろを振り返ると、青空を背景に自転車のハブに足をのせ立ち乗りしていた。
こんなに暑いのに首にはマフラーをつけ、俺の肩に乗せる手には白い手袋をしている。
暑さを感じない能力なのかもしれない。実際に、彼女から熱というものを感じなかった。
彼女が信用に足る人物かどうかは、ハーゲンダルク家の森に来た事から分かる。
見た目より警備が厳重な私有地だ。この家に関わる人でしか出入りできない。
ついでに言えば、この街全体がハーゲンダルク家の監視下にある。住人の身元は精査されており、そして街なかに機関の連中や怪しい人物がいれば、すぐに俺に連絡が入るようになっている。
そして情報制御されたこの街中では、俺は一般人として振る舞う事ができる。
安全な箱庭だと思う。弱い自分にはお似合いだとも、自虐的に思う。
「曲がるぞ。しっかりつかまってろよ?」
崖の上。海沿いの街並みが眼下に広がる緩いカーブの坂道を自転車で駆け下りる。
あれからドグマの活動は一切報道されていない。
フールに安くない金を払って調べてもらったが、まるで存在自体が消えてしまったかのように世界中での活動を停止させていた。
一部の報道ではドグマが壊滅したかといわれていたが、バフ課を含め多くの組織は一時的にどこかへ潜ったと考えており、警戒を解いていない。
ドグマに所属していた残党を探すことに血眼になっている。
俺とフールが危険だなと思いながらも、心は別の方を向いていた。
これからどうするか。その方針がまったく立っていない。
シルバーレインに戦闘訓練を付けてもらっているが、稽古を行う理由が己の中で不鮮明であるため、いまいち内心が乗り気でないことは自覚しているし、彼女も分かっていながら俺に合わせてくれているのだろう。
原因は、リンドウか。
俺があの時もっと強くて、機関・第七研究所の全員を倒せる力があれば彼女は俺を連れて行ってくれたかもしれないが、それを補うために今更戦闘力を付けたところでどうなるというのだろうか。
もう二度と会えないかもしれないのに。
心の奥がズキリと痛んだ。
「大丈夫だよ」
「え?」
驚いて聞き返す。
内心を聞かれていたかと思えば
「なに?しっかり掴まっているから大丈夫だよって言ったんだけど」
「あ、ああ。そういうことか」
カーブでキッと小気味よいブレーキ音を立てながら自転車が曲がっていく。
色々な問題はあるが、今考えていても明確な答えは出ない。
足りないものが多すぎる。力も、答えを出すための経験も。
それを得るために、これからどうすべきか。
進行方向の先。広がる空を見上げた。
レンガ造りの町の向こう、雲ひとつ無い青天が夏の空に広がっていた。
- 359 :
- マヤの要望で、海辺沿いにある巨大なタワーへと向かう。
高さ150mほどある鈍く光る黒い建造物で、展望台へはエレベーターで向かうほか、非常階段で向かうこともできた。
マヤは非常階段で行きたがったが、戦闘訓練で疲れていた俺はエレベーターに乗り込む。
音を立てず、しかし、高速で上昇していく。軽い浮遊感に気分が悪くなるが、顔には出さない。
エレベーターの中は俺とマヤ、そしてエレベーターを動かすお姉さんしかいなかったが、さりげなくマヤが俺の右側に立ち、欠損した右腕を隠してくれていた。
しかし、そのせいで俺のすぐそばに彼女が立つことになった。彼女の整った顔をじろじろ見るのも悪いと思われ、視線を泳がし、最終的に昇っていく窓の外を眺めるに落ち着く。
海岸通りの遠くに、同じような白いタワーが見えた。
「あれは?」
「双子タワーと呼ばれていて、この塔と同じ高さと造りになっています。こちらは観光用に造られたものですが、あちらは公共電波の配信など、企業向けの設備が揃った電波塔となっているんですよ。……ところで、お二人はコレ?」
かわいらしい帽子を被ったエレベーターガールのお姉さんが、小指を立てて見せたので、苦笑しつつ左手を振る。
エレベーターが最上階に到着すると同時に、マヤが左腕を掴んで窓の方へと俺を引っ張る。
360度見回せる展望室には、見物客は少なかった。
隣で袖を引っ張るマヤも、風景には興味を抱かず、けれども、俺を引っ張って東の一角へ連れて行く。
「ヨシユキ?こっち」
「……っ」
思わず変な声が出そうになったのを抑えた。
東側の部屋。その一角だけ異質だった。
“縁結び教会”。簡易の聖壇の上には黒い十字架が立っていた。
あー。これはいわゆる、そういう系か。
彼女のほうをちらりと見ると、マヤはなぜか二拍手し拝んで言った。
「ヨシユキとシルバーレインの仲が良くなりますように」
「おいおい」
ふと気がつくと、先ほどのエレベーターのお姉さんがカメラを持って傍に立っていた。
カメラを掲げ、口には出さずに一枚どう?と聞いてくる。
俺とマヤは視線を合わせ、俺が頷いた。
「ほら、もっと近づいて」
茶化されているのだろうなと思いながら、言葉通りに近づく。
ポージングは二人とも無し。ただ二人で傍に立っていた。
ふと、何か随分と懐かしい気がした。
何が、だろうか。
見回せば、この空の青さも、海もいつも傍にあるのに。
「ヨシユキ?前」
左横に立っているマヤが、俺の注意を引くように袖をぎゅっと引っ張る。
ああ、そうか。
ひさしぶりだ。
常に誰かが傍にいてくれているという状況は。
「はい撮ります。チーズ」
写真は後日、配送してくれるそうだ。
うまく笑えたかどうかは、わからない。
- 360 :
- 夕刻。
恋人たちや初老の夫婦が砂浜をゆったりと歩いていた。
「そろそろ帰りますか、お嬢様」
あれから、海辺の街を散策したりアイスを食べたりで、いい気分転換になった。
腰を落としていた防波堤の上で、立ち上がる。
夕陽が落ちようとしていた。
その光を受け、海面が道のように輝いて見えた。
砂浜に向かう階段を下り、途中で彼女がついてきていないのに気づく。
「おーい……」
彼女はまるで俺を無視するかのように、防波堤に座り込んだまま俯いて、何か考え事をしているようだった。
しばらく逡巡したのち、その辺を見てこようかなと再び海岸へと階段を降り始めると、不意に声がした。
「ヨシユキ……私はっ……私はね」
泣き声に似た声が聞こえ、思わず振り返る。
見上げると、夕暮れに沈む橙の空を背景に、陰になった彼女の輪郭が太陽の残滓を受けて淡く光る。
「ずっと……逢いたかったんだよ。ヨシユキ……」
マヤは俯いたまま、一言一言呟いた。
俺は何も答えられず、小さく見える彼女を凝視した。
沈黙の空白を埋める様に、一陣の風が吹いた。
「お前は……」
とまどいながらも、俺は言葉を紡ぎ出す。
「いったい……誰だ?」
マヤが顔を上げる。
彼女の目はしっかりと、俺を捉えていた。
この目は……
その感覚に、郷愁のようなものを感じて軽い身震いが生じる。
「私は、風魔=昧耶。コードネームは『ツバキ』」
「は!?」
悪夢の中の登場人物が目の前にいた。
陸風の吹く潮騒の中、泣き出しそうな顔で彼女は首をかしげ、俺に笑った。
「久しぶり、ヨシユキ。私のこと覚えてる?」
- 361 :
- 以上です。またトリ間違えた。一字違いなんですよねぇ。
- 362 :
- 同刻。
部屋中に設置された大量のモニターの前で、ホットドックを頬張る男がいた。
「……マスタードがあれば良かったな」
指は夕食を取りつつ、しかし視線は何十もあるモニターから目を離さない。
それは市内に仕掛けられた無数の監視カメラの映像であったり、出入りする車のナンバーから所有者を即座に割り出し表示する画面もあった。
「君も食べるか?シルバーレイン」
シルバーレインは首を振った。真後ろの無機質な壁に寄りかかり、両手をスカートのポケットに入れていた。
男は差し出したホットドックをそのまま口の中へ放り込む。
モニターを操作すると、通りの人々が演算処理によって名前や所属が判明していく。
それと同時に防波堤に佇む二人の姿を捉える。
「風魔=マヤ……いや、『ツバキ』がヨシユキと接触したか。会話が波の音で拾えず残念だ」
シルバーレインはどこか力なさそうな視線で画面を見つめていた。
その唇が動く。
「……正木。……お前は彼らに危害を加えないだろうな」
「ああ。今回はする必要が無い。エデンに取られたものを取り返すだけだ」
男のパンを握っていた手が細かく揺れた。
シルバーレインの方からは正木と呼ばれた男の顔が判別できない。
正木正義(マサキマサヨシ)。研究者で、分野は機械電子関連だ。
かつてはルジ博士の共同研究者で、ルジが生体分野を担当していたのとは別に機械類などの金属骨格部位を担当し、人体改造などを行っていた。
ふいに正木が一つのモニターを拡大して見せた。
「お客さんだ、シルバーレイン」
拡大した所には、電車から降りてきた二人の男女の姿が映る。
高校生らしき男と、黒い服装をした顔面に十字の傷がある特徴的な女。
遠藤直輝とクロスだった。
- 363 :
- 夏休みが終わってしまう・・・
人物まとめなど
能力などはストーリーネタバレがあるので幕を降りた人から書きます
銀ウサギ組
○ シルバーレイン(銀大刀持ち銀髪赤眼)ヨシユキを保護、訓練。エデンの計画を妨害。
○ リリィ(真っ白ドレス金持ち幼女枠)眠いです〜。
○ 蒼乃マトイ(青服青本女)旧機関・第七研究所総長。ハイドラ。死亡?
○ 風魔ヨシユキ(捨てられ男)エデンにやられ、組織に捨てられ、自分探し中。右腕欠損。
○ 風魔マヤ(ツバキ)黒髪ピアス女。夏でもマフラー手袋の耐寒装備。
○ 正木正義(謎男枠)科学者。女だらけのため、バランスを取るために登場。
機関第七研究所
○ エデン(軍服髑髏ドレッド)短剣を空中操作する。ボス。口が悪い。
○ 参の目(赤和服下駄女)額に目がある。夜は心が読めるよ。
○ ジュセル(包帯男)マミー。でも服は着る。心臓貫かれても死なない高い耐久度。
○ イザナミ(女学生黒鞄斧仕込み翼)ぁたし。日本語がおかしい。後に保護される。
○ 九龍(チャイナ女)アルアル。ホイコーロー食べるアルか?
○ ベルベット(黒いローブ女子)カラス女子。夕方には家に帰る予定。
○ アッシュ(田舎短パン少年)狼少年。嘘はつかない。
※クロスは第七研究所所属ではありません
以上。
- 364 :
- >>358
おお、お久しぶりです&乙です!
また謎を呼ぶ新キャラが……
続きが気になります。
※避難所でヨシユキと猫娘お借りしました!
- 365 :
- 乙
マヤさん同姓ですと!
関係が気になる
- 366 :
- 小ネタ1レス投下すんよ
- 367 :
- かれんです。
私は今、高校に通う傍ら、主婦をやっています。
あっ、衛さんに迫られてってわけじゃないんですよっ!
むしろ……私が説得したんです。えへっ。
だってですよ、今までもずっと一緒に暮らしてきたじゃないですか。
私も16歳になりましたし、衛さんも働きはじめました。
結婚した方が役所の手続きなんかも楽ですよ――って感じで。
……なんだか全然結婚する理由になってませんね。
本当は堂々と恋人面したかったからなんです。
衛さんには言いませんでしたけど、気付いてくれていますよね?
変身体質は相変わらずですが、今では夜でも思い通りに動けます。
私の方が大きいので衛さんを襲いやすいんですよ。なーんて。
たまに機嫌が悪いときに、コントロールが効かないことにして八つ当たりしてるのは、衛さんには内緒です。
……やっぱり今でも夜は性格も変わってるんでしょうかね。
あ、もうすぐ衛さんが帰ってくる頃です。
今日はこれから二人で――
「……ん。」
西日が差してきて私は目を覚ましました。
どうやら昼から眠っていたようです。
さっきの夢――4年後の夢のことが頭を巡ります。
なんだか顔が熱くなってきました。あれって、私の願望なんでしょうか。
ずいぶん積極的だったなぁ、私。
部屋に誰もいないのが分かってても、やっぱり恥ずかしいです。
そうだ! 掃除しましょう! 衛さんが帰ってくるまで!
そうやって、変な夢のことはさっさと忘れるんです!
「でも、いつかあんな風に、きっと……。」
おわり
- 368 :
- おお、カズさん小ネタ投下乙です〜
積極的なかれんちゃんもかわいいですねっw
以上、避難所より
- 369 :
- かれんちゃんきゅわきゅわ!
正夢になるといいな
- 370 :
- ◆zKOIEX22Eさんに聞きたいんだけど、ヨシユキの短刀って普段は鞘に入ってるん?
- 371 :
- 返信おそくなりまして、申し訳ない。
普段使いの短刀は鞘に入れています。腕には隠し剣を装着しています。
でも、彼の気分によって変えたりするので、そこはお好きなようになさってください。
- 372 :
- ありがと!
- 373 :
- (TK都:P.N. エージェント・ジョッシュ)
「ちょ、ドクトルJ! なに勝手にヒトのP.N.つけてるんですか!」
「おっと失礼。ラジオネームだったね。R.N.・・・と」
「いやそうじゃなくて・・・」
→http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1307723856/495
- 374 :
- 夕暮れの坂道を登る、二つの影がある。
遠藤直樹とクロスがその道を並んで歩いていた。
「クロスの友人って、どんなんなんだ?」
坂道を歩いている遠藤直樹に聞かれ、クロスは思い出す。
彼女は目が赤い。長い銀髪で、銀の長剣……グレートソードと言うのだろうか。巨大な剣を持っていた。よく思い出してみれば剣の形状をしていない事もあったが。
灰色の戦闘服を着ていて、武具防具ともどもネズミ色だ。戦闘の時は眼だけ赤く光って少し怖い。
「目立つ、戦闘服を着た変な格好の奴だ」
「人の事言えるか?」
直樹はクロスを半目で見ながら言った。
クロスは自分の黒い戦闘服の姿を見降ろした。夏バージョンの、袖のない涼しい服装だ。生地は最高級品だし、何よりかっこいいと自負している。しばらくして、「そうか」と言った。
「言い間違えた。戦闘服は変ではないな。つまり戦闘服を着ていないナオキが変だ」
「どういう理屈だ!?」
「今度、ナオキ用に調達してきてやろう。何色がいい?」
「いらねー!」
「……クロス、私に何か用か?」
クロスが振り返る。
そこには白のシャツに青色の長いスカートを履いたラフな格好のシルバーレインがいた。
背中には黒革のギターケースを抱えている。
「えーと、クロス。この人は」
「友人の、シルバーレインだ」
「つーか、普通の格好じゃないか……」
「久しぶりだなシルバーレイン、変わりないか?」
直樹の言葉を無視しつつクロスは言った。
久しぶりにあう彼女は、どこか疲れた雰囲気が出ていたが、つとめて気にしていない振りをした。
「……変わりないと言えば、嘘になるだろうな」
「シルバーレイン。奴はどこだ?」
「……」
「機関本部には、お前を重要参考人として捕らえる責任がある」
クロスは低い声で言った。
遠藤直樹が場の雰囲気が冷えたのに気付き、身を固くする。
良い兆候だとクロスは思った。ナオキも戦闘に多く関わってきて、戦闘が始まる空気というのを感じ取れるようになってきている。
もともとナオキが持っている戦闘のセンスが磨かれつつあるという事だ。
「……何が目的だ?」
「ホーローを引き渡してもらう」
瞬時にシルバーレインが右手をギターケースへと伸ばした。
ギターケースから銀刀が大剣の形に変形しつつ抜刀される。コンマ一秒もかからない早技にクロスは感嘆の吐息を吐いた。
彼女は2mほどあるその剣を片手でクロスにゆらりと向けた。
「……奴は渡せない」
「誰かに強要されているのか」
「……」
その沈黙は肯定か否定か。
どちらにせよ、とクロスは片手のみ短剣を持つ。
ここからは実力行使だろう。
「シルバーレイン。お前を機関の一員として制圧する」
クロスが戦いの始まりを静かに口にした。
- 375 :
- 夕暮れの残滓が水平線上に残っている。
シルバーレインは目視で昼のエクザの残留時間を計測。
残り、3分30秒といったところか。
目の前の敵を見る。
機関の精鋭、クロス。昼の能力はslowか。
空中に体があるのならば、1000倍の時間浮遊される遅滞能力に捕まって終わりだろう。
隣にいる遠藤直樹はドグマが過去に襲った記録があったが、特殊な能力を有しているのだろうか。
だが、銀の大剣をクロスへと向ける。遠藤直樹の脅威性は低いと判断し、無視する。
「……“対抗者”起動」
私の昼の能力を起動させた。
大剣が二つに割れ、瞬時に長剣と短剣が具現する。
短剣は刃に無数の溝がある厚い剣で、相手の刃物を折る事に特化したソードブレーカーというものだった。
私の身体能力がクロスに合わせ、向上する。
「……私の能力は、以前のフェイブ・オブ・グール討伐の時に話したか」
「ああ。『対抗者』。厄介な能力だ。相手の実力や状況に応じて、『身体能力と銀の武器が相手と拮抗するようになる』能力」
「……私の夢の、最後に残った燃え滓だ」
一歩進む。
指先で地面を掴み、一歩、二歩、三歩、そして全力で間合いを詰める。
クロスはその両手にナイフを持ち、私に向けていた。
右手のロングソードを振り下ろす。
威嚇ではなく、R気で振り下ろす。
これくらいの気概で行かなければ、機関の精鋭は退かせられない。
ロングソードを両の短剣で受けとめ、衝撃を殺しつつゆっくりと右へ逸らされる。
クロスの左からの返しの一撃は、そのナイフを私の左手のソードブレイカーが噛み、捻りと共に折って防御した。
好機。
クロスが地面を蹴り、下がるのに合わせ、ソードブレイカーを突き出しながら右肩を狙う。
切っ先がクロスの右肩に触れるか触れないかという時、彼女が笑った。
彼女は両の手に握っていたナイフとナイフの柄を手放した。
その一瞬で、私のソードブレイカーが消失した。
『ナイフを持たない相手には、ソードブレイカーは必要ではない』という能力の判断だ。
前傾姿勢の空になった私の左手を、クロスの両手が掴む。
彼女の体が回転し、引っ張られた。
背負い投げと気付いた瞬間、私の体は彼女の上を舞っていた。
「slow!!!」
クロスの声が響いた。
- 376 :
- クロスは戦闘の終わりだと感じた。
私の手から能力の波動を受け、シルバーレインは宙に固定される。
その後は、瞬時に縄で縛ってしまえば問題ない。
しかし、とクロスは疑問を感じた。
こんなにあっさりと終着するものなのか。
以前は彼女をライバルと視ていたのだが、こんなにもあっさりと?
否。
本能がそう告げていた。
これで終わりではない。
終わるはずが無い。
だから、能力を発動した後も、警戒を解くことなくその結末を見ていた。
そして見た。
先に発動したはずのクロスの能力が、後に発動したシルバーレインの能力に破られるのを。
背中から四本の銀の鞭が噴出する。鞭の先端は鋭い刃となっており、それらが地面や街路樹に突き刺さる。
能力がシルバーレインの体に触れるが、体が地面と繋がっているため効果が発動しない。
彼女の姿は蜘蛛を思わせた。
「『アラクネ=ギア』展開」
まるで四肢のようにその鞭はシルバーレインの後ろに付随していた。
真一文字に結ばれた唇と、深淵を見据えるような赤い瞳。
銀の戦鬼。
「流石だ」
クロスは威圧と高位の闘争への歓喜とで、体を軽く震わせた。
彼女が歩くたびに蜘蛛のように背中から伸びた四本の鞭が交互にアスファルトを抉る。
「クロス……」
遠藤直樹が声をかけた。
心配しているのかと思えば、その声にはそのような色は無かった。
むしろ、その声には信頼を宿したような響きがあり、彼は指を海岸線に向けていた。
太陽がその残滓も、海の向こうへと引き連れ消えていくところだった。
はぁ、と嘆息をする。
これから面白くなりそうだったのに。
クロスは両手を軽く挙げ、こう言った。
「休戦だ」
- 377 :
- 日が暮れた海岸通りを、ツバキと歩いていた。
お互いに交わす言葉は無く、ただ、さざ波だけが響く。
月がうっすらと浮かぶ水色の空が、海岸線の向こうに広がる。
何か言おうと口を開くも、言葉が出ず、歩行を続行する。
ツバキは相変わらず俯いたまま、ときどき鼻をすする音が聞こえた。
……コード:ツバキ。風魔マヤ。
同姓ということは俺の姉か妹なのか。それとも親戚か。
……夢の中の俺は、幼馴染と認識していたが。
混乱してきた。
なにせ、俺は一切ツバキとの記憶を覚えていないのだから。
「ツバキ」
覚悟を決めた。
「最初に言っておく事がある。俺は……君の事を何も覚えていない」
彼女の方を見ず、ただ、海岸通りを歩く先を見つめて言った。
ヘッドライトをつけた白い車が一台、俺たちの横を通り過ぎていった。
はぁ、と溜め息のような、安堵のような音が聞こえてきた。
ようやく顔をあげる。鼻をやや赤くして、潤った瞳で俺をみていた。
「それなら……それでいいわ」
「……それでも、どこかで会ったという覚えはある」
「どっちよ」
フフ、とツバキがようやく笑った。
俺も軽く笑みを返しておく。
泣いている女は、正直、苦手だ。
「風魔マヤ?お前は俺の妹なのか?」
「違うわ。お姉ちゃんよ」
「姉か」
「……ふふっ。嘘よ。そもそも私はあなたと血のつながりは一切ないから……待って。止まって。そう、そこに」
ツバキが片耳、赤いピアスに手を当てて言う。
「敵が来るわ」
山道の階段から三人が歩いてくるのが見え、ツバキを後ろに下がらせた。
戦闘を歩く女はもう見慣れてしまったシルバーレインで、背負っている黒革のギターケースの中にはおそらく銀刀が入っているのだろう。
あちこちにかすり傷のようなものを負った跡があるのが気になるが。
その後ろを歩いているのは書類で顔を確認した事がある遠藤直樹と言う少年で、その横には最悪な事に『機関』のクロスだ。
「いつもなら『カーニバルだぜぇ!』って突っ込むファングがいるんだがなぁ……」
呼び出せばすぐに来そうな気がするが、所在不明な現在では無理な相談だろう。
三メートルほどの距離をおいて、クロスと遠藤直樹と対峙する。
シルバーレインはそのまま歩き、俺の横に立つ。
「シルバーレインが裏切って機関に通報した、という事ではなさそうだな。さて、機関の精鋭が俺に何の用だ?」
落ち着いた声を出す事に努めながら、左手はすぐに隠し剣を抜ける様に準備していた。
片腕だけで強敵と相手する状態は危険すぎると、改めて理解した。
「機関本部に第七研究所から寄せられた情報から、昔の友人の元にお前がいる可能性が高いということだったのでな。こうして寄らせてもらったわけだ」
「それで?」
「そうだな。機関にはお前を引きいれる準備ができていると言おう」
「……は?」
腕組みをしたまま、クロスがうんと頷いた。
「仲間になれ、ホーロー。そうすれば我々が安全を保障しよう」
- 378 :
- 海沿いの白いレストランの、テラス席。
夜の暗闇が支配する海を、銀の満月が道のように一直線に照らして切り裂いていた。
丸いテーブルには俺の隣にシルバーレイン、クロス、直樹、ツバキの順に座っていた。
急に戦闘になっても、俺とシルバーレインは遠藤直樹を人質に取れないし、逆にクロスもツバキと俺を人質に取れない席順だ。
店内から店員が料理を運んできた。
ムール貝とエビのドリア。イカスミパスタ。鯛の活き作りの刺身など、充実した料理が並ぶ。
腹が減っていたので早速食う事にする。左手のみで行儀が悪いが、こればかりは仕方ない。
「それで、どうだ?仲間にするという話だが」
「まず、断わっておく。仲間にはならない。そちらの機関の一部、第七研究所とは現在、ドグマに関係なく敵対関係だ。身の安全が保障されるとは信じられない。
だが……情報交換なら受けようか。俺の知っている情報と、そちらが持つ情報で取引だ……そもそも情報交換の為に来たことが本筋で、仲間にするなんて事は建前だろ?ドグマと機関の遺恨は深過ぎる」
犬歯でパスタを食いちぎりながらクロスに答える。
対してクロスは何も口にしない。あたりまえだろうな。俺だって敵地に居たならそうする。
「取り引きを受けよう。ドグマの情報はことさら貴重だ。その情報を持っていれば他の組織より有利になるし、何よりフェイブ・オブ・グールの対抗策があれば尚更だ」
「フォグか……あいつに対しては何もしらない。能力が何であるか、なぜ死なないのかも」
ムール貝の身をナイフでそぎ落とし、ナイフを突き刺して食う。
「ただ、幹部なら知っているかもな。リンドウやフール。ファング……は知らないって言ってたか……」
「彼らは今、何処だ?」
「知らないし、知っていても答えない。次は俺からの質問だ。機関第七支部、第七研究所とは何だ」
情報交換で気をつけなければならないのは、手の内を晒し過ぎる事だ。
互いに互いのカードを多く出させようと画策しなければならない。
俺が欲しいのはエデン率いる第七支部の情報だ。
この数ヶ月、やつらは俺を探している節があった。
この場所が見つかるのはそうたやすくは無いが、再び遭遇する危険性を考え、奴らの能力の秘密などを知っておきたい。
「まず、機関の構造から説明しなければならないな。機関には本部と、七つの支部が存在する。主な業務が本部で精査され、適切な仕事が本部、あるいは支部に振り分けられ、実行される。七つの支部のうちの一つが、第七研究所だ」
「第七研究所の主な役割は?」
「発足当初は戦闘員の戦闘力増強の為の武器、装甲、義腕または義足の開発研究、製造にあった。所長は私の知る限り、若かったが才能のある蒼乃マトイが担当していたはずだ」
「蒼乃マトイは戦死したと聞いたが?」
「ああ。戦死だ。現在はその部下だったエデンという男が所長を務めている」
さて、とクロスが腕を組んで俺を見る。
「交代だ。冬。イタリアの某国を壊滅させたのはドグマの仕業か?」
虚空に視線をさまよわせ、あの件かと思考を巡らす。
答えても大丈夫だろう。
「そうだ。正確にはフールの仕業だ。奴は単独でイタリアに乗り込んだ後、わずか三日で全てを終わらせた」
「目的は?」
「あるものの強奪。最重要機密で、俺にも知らされていない」
「フールの能力は?」
「不明だ。さらに、どんな技を使っているのか知らないが、鑑定士ですらやつの能力が見抜けないという。いつでもあいつは非協力的で、何を考えているのかわからない」
っと、これは私的な意見だな。
左腕を上げて、店員に飲み物を頼む。
そこで遠藤直樹が俺の顔を注意深く見ていた事に気付いたが、よくわからないので視線を横に移すと、ツバキは携帯を弄っていた。
シルバーレインはというと目を軽く閉じて話を聞いていた。
彼女には以前こういった話を聞いたことがあったのだが、何も答えてくれなかった。
機関の事。エデンの事。それらに何一つ踏み込んでほしくないように見えた。
今日のような情報収集はしかたないと思っているのだろうか。
彼女のやや疲れた雰囲気が気がかりだが、今はクロスとの対話を優先としよう。
「ただ、俺の元の部隊。つまり、リンドウの部隊が昼間にイタリアのサンタンジェロ城からフールが襲撃する場面を監視した所では、フィニッツ兄弟が互いに争っているように見えた、とか」
「服従の能力か?」
「そこまではわからない。しかし、ハッキリしているのは奴の能力は、夜はタロットカードに関係する能力だ。やつは部隊は持たず、常に単独で行動している。おそらく、現在も単独でこの世界に残っているはずだ」
話きった後、冷水で唇を湿らした。
- 379 :
- 「次はそちらだ。エデンの能力は何だ」
「こちらも初めに断わっておく。私は本部に属しているが、支部の情報は基本的に共有されない。本部も支部に情報を共有しない。それぞれが情報を守秘することで、占領された時に連鎖的に情報が漏洩することを防いでいる」
「内部腐敗があっても気付けない構造だな」
「確かに。本部さえ守れればいいと、上の役員は思っているようだが……ハッキリ言って、エデンの能力は不明だ。本部との合同任務でも奴が能力を使った事は無い。しかし、能力とは別に短剣を操作する技術を持っている」
「“固有磁場”か。特殊な配列の金属と己の間にだけ磁場を発生させ、動かす技術だ」
「お前の方が詳しいようだな」
「まあな。俺は右腕を斬られたせいで“固有磁場”は使えないが。おそらく奴は金属を弾き飛ばす強力な技である“逆磁場”も使えるはずだ。奴と戦うときは死角に注意しろ」
「情報を与えるつもりが、貰ってしまったようだ」
「では、俺から質問だ。“複雑系エクザ”と“スフィアネット”とは何だ?」
「カオスエクザ?」
クロスが疑問符を浮かべた顔で俺を見る。という事は機関全体で使える技術では無いのか。
「……私が答えてやる。……“複雑系エクザ”とは、能力の上位を決める数式のようなものだ」
急に声が聞こえ、俺とクロスがそちらを見る。
間に座っていたシルバーレインが赤い眼を開け、話し始めた。
「……仮に能力者Aが最強の矛の能力、能力者Bが最強の盾の能力だとする。……この場合、どうなると思う?」
「何も起きないんじゃないか?」
「……違う。……この場合、能力の強いものが勝つ。……互いに噛みあう能力が対峙するとき、その優劣を決めるのが能力本来の強さだ」
「本来の強さ?」
「……そう。……例えば、ホーロー。……お前の能力は“能力を否定する”能力だが、これは全ての能力と噛みあう。……だが、基本的に“相手の能力を潰す”だけに特化したお前の能力の方が強い。
……しかし、能力には出力がある。……精神状態や体調に依存するが、“複雑系エクザ”では最高出力を超えた能力を出すことができるようになる。……つまり、“複雑系エクザ”を使う相手には、“能力を否定する”能力の効果内でも能力が打ち消されず、発動できる」
イザナミやジュセル、第七研究所の戦闘員“騎士”が俺の能力内でも能力を発動できたのは、そういう理由か。
しかし、疑問点が残る。
「しかし、そんな技術があるのならバフ課や機関本部、もしくはドグマが使っていてもいいんじゃないのか」
「……この技術には前提がいる。……“スフィアネット”に接続する事だ」
「スフィアネット?」
「……機関で第七研究所が所有するマザーコンピューターだ。……スフィアネットに接続するためには『改造人間』である事が前提だ。
……まぁ、一部の最上位に位置する能力者の中には、自身の能力のみで“複雑系エクザ”と同じ状態まで自身を持っていけるものも存在するらしいが」
「第七研究所の戦闘員“騎士”や“不死男”ジュセルは確か、全員が改造人間だったな。本来は義腕、義足を用いて本部をサポートする支部だったはずだが。マトイが死んでから全て狂ってしまったな」
「……いや…………そう、だな」
シルバーレインが何か言おうとしていたが、急に口を閉じてしまった。
俺には一瞬、マヤが鋭い視線を彼女に向けた気がしたのだが、気のせいだろうか。
「エデンの目的は分かるか?」
俺が問うと、シルバーレインは再び目を閉じ、しかし、力強い口調で言った。
「……かつて一度聞いただけだが、奴は奴の理想の世界を創ろうとしている。……つまり“楽園”を創造することだ」
“楽園”。つまりエデンか。
その内容はシルバーレインにも分からないが、相当数の戦力を有して行われると考えられる。
クロスによれば第七研究所は現在、戦力を集中させつつあるという。
「……心配するな。……エデンの計画は私が必ず潰す」
シルバーレインは両手に力を込め、射抜くような視線で虚空を睨んでいた。
- 380 :
- まぁ、なにはともあれ彼女の力は本物なので、俺は手伝えることだけ手伝うとしよう。
「第七支部は中国大陸の主力である『クーロン』と、ロシアの『ベルベット』、『アッシュ』を日本に呼びこんでいる。やつの計画が近いのかもしれないな。シルバーレイン。エデンや第七支部の件は私に任せてくれないか?特派の派遣を本部に進呈してみるとしよう」
クロスが言った。
機関本部には何か手があるのだろう。
これでエデンもろともその計画が潰れてくれれば大助かりだ。
俺を狙う第七支部がいなくなれば、ある程度自由にドグマを探すことができる。
俺は見返りの情報として、第七研究所で行われていた“流星の欠片”の謎の実験を伝えた。
「だいたいの話はわかった。昔の友人が保護しているお前を尋問するのは気が進まないし、どうやら機関本部はお前よりもフールを優先して探したほうが良いみたいだな。それでは、最後の質問にするが」
クロスが立ち上がりつつ聞いた。
「ドグマの目的とは何だ」
……やはりそれを聞くか。
俺がドグマに入り、最初にフォグに聞いた言葉と同一だ。
だから俺はフォグが返した言葉をそのまま返す。
「これは、幹部にしか知られていない情報だが、俺は特別に教えてもらった。今となってはお前たちにも教えていいのだろうな。ドグマの目的、それは世界の再起動だ」
「何だと?」
「理解できなくていい。ただ、言い表すにはこれが一番的確な表現だ」
クロスが怪訝な顔をするが、俺はすぐに立ち上がり情報交換は終わりだということを態度で示す。
クロスは最後の質問には不満げだったが、シルバーレインが隣でナイフの装備を点検し始めたのを見て、肩をすくめた。
夜は十分に更けた。これで終わりだろう。
ツバキはというと、話に飽きたのか柔らかな寝息を立てていた。
苦笑しつつ、揺らして起こそうとするが、それよりもはやく声が飛んだ。
「ヨシユキ?風魔ヨシユキなのか?」
シルバーレインでも、ツバキでも無かった。
声の持ち主は男で、つまり俺の視線の前に座っている。
「ヨシユキだろ?うわっ、久しぶりだな!おいおい!」
目の前ではしゃぐ男を前に、俺は困惑していた。
また、覚えてない。
いや、思い出そうとすると何かが邪魔をする。
思わず左手で、額を抑えた。そのせいで、
その光景をツバキが薄目で見ている事に、俺は全く気付かなかった。
- 381 :
- 遠藤直樹の言う事によれば、俺は彼の中学生時代の転校生で3ヶ月ほど同じ学校で過ごしていたそうだ。
しばらくしてまた親の都合とかで転校したらしいが、その間、俺と遠藤直樹は親しく遊ぶ仲だったらしい。
「しかし、本当に覚えてないか?俺の事。けっこー世話したんだけど」
「悪いな。マジだ」
「ヨシユキが転校するときは大変だったんだぜ。フード被った通り魔とかが出てよ〜。特に俺の学校の生徒ばかり狙われて、3人くらい怪我した」
ルローみたいなやつだろうか。それともドグマの手先が俺を追って何かしていたのだろうか。ともかく記憶がない。
「つーか、何で忘れてんだ?」
「何でって……」
何で、だろうな。
能力の記憶による消去なら、バフ課の7班が有名だが。
断片的な記憶はある。ということは何度も記憶を消されていたという事になる。
そんな事をされる理由は……ドグマが俺を探していた事と関係があるのだろうか。
わからない。
だが、調べてみるべきなのだろう。
俺の失われた記憶を調査する事。手が回しやすい行動のはずだ。失った記憶を取り戻すことで、何か得られる事があるかもしれない。
おまけに夜、変な夢をみることも無くなるかもしれない。
エデンの計画は気になるが、きっとクロスや機関の本部が対処してくれることだろう。
「すまない、遠藤直樹。とりあえず、記憶を取り戻してから再び挨拶に行く」
「おいおい。ナオキでいーぜ。そう呼んでたろ、ヨシユキ」
「わかった。ナオキ」
白銀の月が照らす中、俺たちは互いの手を固く握った。
「必ずまた会いに行くよ、ナオキ」
- 382 :
- とりあえず、と言うべきか。
クロスとナオキと別れを告げた後、ハーゲンダルク家に戻った俺とシルバーレインは今後の計画を話し合った。
俺の記憶を取り戻す事。
俺が過去を調査する旨を言い出したらシルバーレインの表情がひどく曇った気がしたが、彼女は承諾してくれた。ただし、顔を隠すのは絶対条件で、機関本部とハーゲンダルク家に保護された地域のみを限定とすること。
機関本部がそこまで協力してくれるのかわからないが、シルバーレインとクロスの間で何らかの取引があったのだろう。感謝しておく。
「……お前の答えが見つかるのなら、それでいいのだろうな」
互いの寝室に戻るとき、彼女が呟いた。
俺は深く考えることもせず、ただ疲れていたのですぐさまベットに潜り込んだ。
今日は色々なことが起こり過ぎた。
そう言えばツバキの名字が俺と同じ理由は何だったのだろうかと思ったが、明日でも聞けばいいかと布団をかぶりながら考えていた。
シルバーレインが以前、彼女を奪ってしまったとはどういう意味なのだろうか。
ツバキはここにいるのに。
疑問点をいくつも持ちながら、それでも睡魔は等しく俺の上にも降りて来た。
- 383 :
- その日、夢を見た。
幼い頃の俺とツバキが一緒に避難所を歩いていた。
その頃、能力はあらゆる人に力を与えていた。
家を修復する能力者や、重力を操作する能力者が活躍していた。
能力に恐れを持ちながらも、いつかは俺も人の役に立つ能力を得たいと考えていた。
多分、隣にいるツバキも同じ考えだったと思う。
その日も少し遠くまで遠出した。
避難所のフェンスは高かったが、一部、下の方が捲れるようになっていて、よくそこから抜け出した。
立ち入り禁止の崩れかけた建物の中にはお菓子が残っていることがある。
避難所の子供たちの中でも年長だった俺たちはそれを取ってきて、小さな子供たちに配るのが日課だった。
だから、その日も同じように行動していた。
道端で子供が倒れていた。
ツバキが抱き寄せて、怪我や異常がないかと探したが、見当たらず、疲れて眠っているのだと気づいて安堵した。
その子は避難所の病院でしばらく眠り、意識を取り戻したあと、こう言った。
自分は『機関』の人間だと。
時間が経つにつれ、そいつと俺たちは仲の良い友達になった。
いつも三人、並んで遊んでいた。
そいつは大事な親友で、大切な仲間で、かけがえの無いやつだった。
そして唐突に。
そいつはツバキを殺した。
- 384 :
- ひっさしぶりの投下です。
カズさんラジオお疲れ様でした。
新年がみなさんにとって幸多き年になりますように。
- 385 :
- 投下乙っす
- 386 :
- 意外な所でつながりが
- 387 :
- ご無沙汰しています。
一応新シリーズの構想はあるのですがなかなか書き出す所まで詰められない日々。
アンセッドには一応設定だけはあるけど上手くストーリーに仕上がらないキャラが多数おります……
>>357
フォルトゥナさんは設定パット見だとどう考えてもチートキャラなので取り扱いにはご注意くださいw
鞍屋と戦った時のように熟練度がMAXでなければカオスエグザの能力強度で押し負けて苦戦する事は有り得そうです。
(熟練度MAXだと相性が完全に上回っていなければまず太刀打ちできない能力が設定してありますし)
>リリィ編
ツバキ、フール、カオスエグザ、イタリアの潰滅……
ますます謎は多く深く……先の展開が楽しみです。
対立組織との取引シーンって緊張感溢れていいですよね!
そしてシルバーレインの能力が厄介w
色んなキャラと戦わせてみた所を想像したくなる能力です。
----
・業務連絡
wiki編集してる時にページ名を間違えて作成してしまいました。
ログインできる人でないと削除もページ名変更もできないのでwiki管理人の方いらっしゃいましたらページ削除をお願いします。
http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/575.html
http://www31.atwiki.jp/shareyari/pages/561.html
- 388 :
- あと、クロスとシルバーレインのお互いの能力特性を利用した攻防もドーパミン出まくりでした。
そういえばニコニコ動画に創発の野望って動画ありますよね。
このスレからは陽太とかアヤメとかが参戦して活躍してます。
そして後半から登場する比留間慎也博士。まさかこんな重要ポジションにくるとは……!
ありがとうございます。この場にてお礼兼宣伝をさせて戴きます。
- 389 :
- 編集乙
読み返してみたら「自分をR能力」って微妙に正しいよな…
- 390 :
- ネタが増えたよ!
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/mitemite/1365246320/203
- 391 :
- http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org4369293.jpg
- 392 :
- どういう状況なのw
- 393 :
- ーー勝てない。
体中が軋む。体中の痛みが無い部分を探すほうが難しい。
熱い痛みと共に、エデンの腕の一振りで体に刺さった黒い短剣が何本も引き抜かれていく。
「弱ぇ弱ぇ弱ぇ弱ぇ」
黒い短剣はエデンの周囲を規則的に周回し、手に触れている訳でもないのに勝手に宙を舞い、エデンのカーゴパンツに取り付けられた無数の鞘に収められていく。
体中が痛い。
いっそのこと死んでしまったほうが楽だと思えるが、躯は勝手に俺を生かし続けていた。
中央科学ドーム。
屋根など激闘の末に全て剥がれ落ちて、鉄骨の骨組みだけになってしまった。
屋上に居る、二人に夏の終わりの風が吹く。
一人は勝者で、一人は敗者で。
涼しい風は、傷口を嬲るように素知らぬ顔で吹き過ぎて行く。
冷たくて痛くて、それでも生きて生かされていて。もう俺自身が壊れてしまいそうだ。
「ホーロー、いや、ヨシユキ。一つ、良い事を教えてやるよ」
俺に背を向け、エデンは両手を広げた。
天空には黒い闇と、銀色の満月。
「ツバキを殺したのは、この俺だ」
暗い夜が更けていく。
- 394 :
- ーー勝てない。
体中が軋む。体中の痛みが無い部分を探すほうが難しい。
熱い痛みと共に、エデンの腕の一振りで体に刺さった黒い短剣が何本も引き抜かれていく。
「弱ぇ弱ぇ弱ぇ弱ぇ」
黒い短剣はエデンの周囲を規則的に周回し、手に触れている訳でもないのに勝手に宙を舞い、エデンのカーゴパンツに取り付けられた無数の鞘に収められていく。
体中が痛い。
いっそのこと死んでしまったほうが楽だと思えるが、躯は勝手に俺を生かし続けていた。
中央科学ドーム。
屋根など激闘の末に全て剥がれ落ちて、鉄骨の骨組みだけになってしまった。
屋上に居る、二人に夏の終わりの風が吹く。
一人は勝者で、一人は敗者で。
涼しい風は、傷口を嬲るように素知らぬ顔で吹き過ぎて行く。
冷たくて痛くて、それでも生きて生かされていて。もう俺自身が壊れてしまいそうだ。
「ホーロー、いや、ヨシユキ。一つ、良い事を教えてやるよ」
俺に背を向け、エデンは両手を広げた。
天空には黒い闇と、銀色の満月。
「ツバキを殺したのは、この俺だ」
暗い夜が更けていく。
- 395 :
- 揺れる電車の中。
対面に座るツバキがうっすらと目を開けるのが見えた。
「起きたか?ツバキ」
夏の雨にしてはやや肌寒さを感じる空気の中、彼女はぼんやりと外の世界を眺める。
透明な雨が、冷たい窓に斜線を描くように降っている。
彼女が、突然俺に流し眼を向け、笑った。
「……ふふっ」
「どうした?」
「小さい頃のね?夢を、見ていたんだ」
「へぇ……」
俺は外を眺める。明るいが、大きな雲が空を覆っていて、晴れるのはしばらく後になりそうだ。
電車での旅はゆったりとしていた。
「お前から、俺の過去を教えてもらう事はできないのか」
ふと、思いついたことを俺は彼女に聞く。
うーん、とツバキは腕組をして、しばらく悩むような様子を見せた後言った。
「ダメ……って言うか、どうして過去にこだわるの?遠藤ナオキ君の事は無しにして。今が楽しければ、それで良くなくない?」
そうだな、と俺は逡巡する。
「迷うのは、弱さだと思う」
「迷う?」
「俺にはどこに進むべきかわからない。未来が見えない。だから今を迷う。迷って迷って、前に進めない。霧の中を進んでるみたいだ」
自嘲しながら告白する。俺の弱さを誰かに吐露して、楽になろうとする行動も俺の弱さだろう。
「だから過去に縋ろうとしている。きっと、過去と現在の延長線上が、俺の望む未来だと思うから。そうすれば、再び進める……気がする」
言いきったあと、これが本心だと再確認した。
きっと俺は前へと進みたいのだろう。
「……過去が全て人を幸せにするとは限らないよ」
珍しく、ツバキが表情を暗くして言った。
「わかっている。過去を知って、どんなに俺が傷ついても構わない。それでも俺は、前に進む力を得たい」
「誰の為に?」
ツバキの突然の質問に、俺は言葉に詰まる。
誰の為。
一体、誰の為だろう。
以前の俺なら、きっとリンドウの為だと答えていただろう。
彼女が居なくなった今、俺は誰の為に行動しているのだろうか。
「わからない」
「そっか……まだまだ私を心配にさせるなぁ、君は」
ツバキは、よしっ、と気合を入れるように言って立ち上がった。
同時に車掌のアナウンスが響き、目的地に到着することがわかる。
「君が答えを見つけるまで、今回は、シルバーレインに代わって私が守ってあげるよ。ヨシユキ」
彼女が俺に向けて片手を伸ばし、差し出してくる。
ひんやりとしたその手を、左手で俺はしっかりと掴んだ。
窓の向こうでは雨に濡れた街が、ぼんやりと灰色に光っていた。
- 396 :
- 雨に濡れるビルの屋上から、二人の子供が双眼鏡で覗いていた。
奇妙な二人組だった。
男の子はコードネーム『アッシュ』。第七支部に所属している機関の人間だった。
短パンと無地の白いシャツ。灰色の短髪が、滴る雨水に濡れていた。
少女と見間違えるほどの美姫な風貌を持つ美少年。だが、その表情は暗く、眼の下には泣き跡のような隈が浮かんでいた。
「あ、あ、あああれ、あれが、ほ、ほほほほ『ホーロー』?」
双眼鏡に顔をくっつけたまま、彼は隣にいる少女におそるおそる話しかける。
瞬間、少年の頭は踏みつけられ、地面に叩きつけられた。
「あれが『ホーロー』よ、豚。――じゃなくてアッシュ。それよりその話し方、どうしてどうにか矯正できないかしら。仮にも“第九十九席次”を受け持つ相方として、大変とても恥ずかしいの。」
小麦のように金色のカールした髪を揺らしながら、もう一人の子供が答えた。真っ黒なドレスに身を包んだ彼女の名は『ベルベット』。彼女もまた、第七支部に所属している人間だった。
ぐりぐりと頭を黒のヒールの踵で押さえられながら、アッシュが答える。
「あ、ああああああ。ご、ごめ、ごめんなさいいいいい」
今にも泣きそうなアッシュの顔を見て、少女は紫色の口紅をつけた下唇を人差し指で押さえながら、恍惚とした表情を浮かべた。
「ああ。いいわ、いいわよ、その顔。……エデン様からの依頼はあの男を捕まえる事よ。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。わか、わか、わかりましたから」
とうとう泣きだしたアッシュに、ベルベットはその顔を片手でつかんで自分の方へ向かせ、無理やりキスをしようとしたが、必死に拒絶されたので頬を叩いておいた。
「あなた最高ね。最高よ。さぁ、エデン様の夢の実現のために、素早く手早く行きましょう。」
双眼鏡をアッシュのリュックに詰め込み、金色の髪を黒ゴムで一纏めにしながら彼女は能力を発動させる。
「スフィアネットによれば、本部が特派の派遣を検討しているみたいだわ。そして、本部の監視下では行動は断然絶対に起こせない。彼らが本部の監視を離れるこの機会しかないわ。」
彼女の姿は無く、金網のフェンスの上にいる小型のカラスが喋っていた。理性を宿した金色の瞳が光る。
「あら?『九龍』は……?」
「ま、まままままたまま迷子。き、きき気がつかなくてごごごごごめんなさいいい」
答えたのは少年の姿ではなく、灰色の毛並みをした小型の狼だった。
その背にリュックを背負い、逃げるように飛び跳ねて、ビルを垂直に駆け降りていく。
「……あとで罰とお仕置きが必要ね。アッシュに。」
黒い天鵞絨の翼を広げ、雨空へと飛び立っていった。
二匹の獣がホーローの後を追跡する。
- 397 :
- 「がはぁっ!」
鳩尾に強烈な一撃を受け、第七支部の騎士が大きく飛んだ後、倒れる。
ただの拳による一撃だが、たった一撃で改造人間である騎士を戦闘不能にする威力があった。
数十名の騎士が呻きながら道路に倒れていた。
倒れ伏した彼らを、銀色の髪の少女と正装をした男が越えていく。
シルバーレインと正木正義だった。
ヨシユキ達が電車から降りた頃、シルバーレイン達は調査の為、機関・第七研究所の跡地に来ていた。
一つは陽動。機関・第七支部の目をこちらに引きつけて、ヨシユキ達の行動を自由にするため。もう一つはエデンの『楽園計画』について探るためだった。
高層ビルの一角。ヨシユキが監禁され、何らかの実験を受けていた場所は、今は雑多に機械が散乱するだけで、廃墟の様になっていた。
「……あたりまえ、か」
ビルの壁は壊れ、書類は雑多に散らばり、コンピューターの中身は破壊されている。
壁際の電灯の電源をつけてみるが、点灯しない。
第七研究所は完全に放棄されていた。
そもそも、この場所はたまたま第七研究所であったにすぎない。全ての実験がスフィアネットを介して行われるため、スフィアネットに繋がる環境さえ整えられていれば、どんな場所であろうと新しい研究所となりうる。
……わかっていたが、このように易々と本部を移動されると厄介だな。
他に手がかりとなるものは……私ではわからないか。
「……正木、任せる」
「リリィといい、私といい、人使いが荒いな」
細身のスーツ姿の男が、そう言いつつも、手のひらを壁に向ける。
すると、乱雑な配線が整理され絡み合い、巨大な装置が分解されていく。
数秒のうちに配線が繋ぎ合わされ、ディスプレイや記録メディアが修復し、装置に接続されていく。
『あらゆる機械を構成する能力』
これが正木正義の昼の能力だった。
「さて、映像を再生するか」
正木が指を鳴らすだけで、画面が起動し、システムが再生される。
映像素子は多くが破壊されていた。しかし、その断片を組み合わせ、いくつかの映像を修復させる。
一つ目の映像は、ジュセルという男の実験を行っている場面だった。
ジュセルの胸元で黒い宝石が輝いていた。
「……何をしている?……あれは何だ?」
シルバーレインが映像を見ながら疑問を言う。
「隕石の欠片を使った実験みたいだ。あの石には、何の力も無いはずだ」
正木が顎に手を当て、深く考え込む。
「一説では隕石は、能力を与えると考えられていた。そのため、かつて研究者は飛散した隕石の欠片を調査したが、能力を持たない者に能力を与える力は無かった。
調べて分かった事は一つ。能力を与える原因となったものの『殻』のようなモノであるという曖昧な結論だけ。
そのため、多くの研究者からの興味は薄れていった。未だにあんなものを調べる奴らがいたとはな」
正木が嘲笑めいた笑みをみせる。
「次だ」
再び指を鳴らす。ヨシユキが映っていた。
“逆磁場”の能力で部屋の中が吹き飛んだあと、崩れた瓦礫の中からヨシユキが立ち上がる。
「……あの晩の映像か」
あまり得るものは無いだろう。シルバーレインが飛ばすように指示しようとした口が止まる。
「……なんだ、あの影は」
ヨシユキが囚われていた部屋の隅に立つ人影があった。
真っ黒な闇に包まれていて、顔が判別できない。
「あの影、こっちの映像にもいるぞ」
正木が左手を動かすと、別のモニターが彼らの前に移動する。
映像の中で黒い影が、長いナイフを使って研究員を惨殺していく。
一人ひとり、ナイフを抉り刺して致命傷を与えていることから、明確な殺意を感じる。
まるで鬱憤を晴らすような殺人術。
顔は分からないが、シルバーレインにはこの影が愉快に笑っているようにみえた。
最後の一人が倒された後、黒い影が装置を破壊した瞬間に映像がノイズへと変わった。
シルバーレインと正木正義が無言で向き合う。
「……おそらくドグマの人間だ。……こいつには気を付けるとしよう」
- 398 :
- その他の映像には『楽園計画』に繋がるような記録は無く、二人は実験室を捜索し始めた。
実験に使われたと思われる隕石の欠片は無かったが、多くの機材が残されたままだった。
「ん、これは」
正木正義が何かを拾い上げる。
それは黒いHDDだった。半分に割れて使い物にならなかったが、正木の能力で修復される。
手持ちのパソコンで中身を確認した正木は薄く笑った。
「ふん。奴ら、相当焦っていたようだな。スフィアネットのコードだ。これでスフィアネットにハッキングできるはずだ」
「……だが、改造人間でないと接続できない。……まさかお前」
「『ホーロー』に接続させればいい。幸い、プロトタイプだ。スフィアネットを掌握しているエデンの支配を受けることは無い」
「……賛同しかねる。……私は奴を危険に晒させたくは無い」
シルバーレインが俯いたまま憂いた顔をのぞかせたが、正木に気が付いた様子は無い。
「しかし、他に誰が居る?君では無理だ。改造人間ではないからな。それに、その『剣』は近くに接続しているデバイスがいないと、割り込んで接続することができない」
どこか楽しげに顎に手を当てて、考えに没頭する正木。
「やはりホーローしかいない。このコードを使って、あいつに相応しい『眼』を造ってやろう。レギオンシステムの本来の力を使えば、例え力の一端でも、ホーローの戦闘力を格段に上昇させる事ができる」
「……ヴァルハラの眼か」
「ああ。ヴァルハラ=システムあってこその、私の最高傑作だ。本当なら散逸したコードをもっと集めたい所だが、欲は言うまい……さて、シルバーレイン。陽動は終了だ。これ以上、長居する必要もあるまい。我々も中央科学ドームへと向かおう」
「……ああ」
シルバーレインは不安の色を残しながらも、正木と共に旧第七研究所を後にした。
- 399 :
- 「あら?」
異国の少女は迷っていた。
茶髪のロングに、黒いチャイナ服には金色の装飾が誇っていた。
「あらららら」
標識を見て、そちらに歩いて行ってもいつの間にか迷っていてしまう。
“機関・第四十席次”という有数の力を持つ九龍だが、昼はさっぱり駄目だった。
迷子になる能力。誰かに案内されないと、目的地には辿りつけない。
アッシュ君の手を繋いでいたはずなのに。
信号待ちの間、ふと商店街の商品を眺めている隙に、お互いの手が離れてしまった。
はっと気付けば時すでに遅く、すっかり迷子だ。
「このままじゃ、エデン君に怒られちゃうなぁ」
それは困る。
エデン君は頑張って“楽園計画”を成功させようとしているのに。
私たちがその足を引っ張ってちゃいけないよね。
こっちかな、と路地裏に足を向けると、背後から声を掛けられた。
「姉ちゃん、そっちの道やないで」
「はい?」
九龍が視線を向けると、金髪にサングラスの男が立っていた。
いかにもチャラそうな男だが、雰囲気は優しそうだ。
「姉ちゃんも、その大会に行くンやろ」
男が指を指した先には、九龍が握っているチラシがあった。
『 EXA BULLET SUMMER FESTIVAL 』
要するに、エクザ使用可能なサバゲーの大会である。
男たちも参加者のようで、本物の兵士のような物々しい装備をしている。
しかし、全てエアガンやガスガンで実際に殺傷能力はないだろう。
「こっちやで。一緒に行こか?」
「あっ、お願いします!」
男たちが歩いていく方についていく。
しかし誰かに触れていないと、また勝手に迷子になってしまう。
九龍は離れないように男のフードを掴んだ。
- 400 :
- 「ぐえっ」
「あっ、すみません」
慌てて手を離す。
男が喉を擦りながら、怪訝な視線で見て来たので、自身の能力を説明した。
「ふぅん、迷子になる能力なんて聞いた事もないのう」
「なので……あの〜、どなたか手を繋いでいてもらえませんか?」
男たちを見まわす。
彼らは男性二人に女性一人だったので、おずおずと女の人に近づいた。
銀色のヘッドフォンをした、目もとまで黒髪を降ろした女性だ。
近づいて分かったことだが、非常に目付きが悪い。
カラコンだろうか。赤い眼をしていた。
「私に近づくな」
銃が突き付けられていた。
動作が速すぎて見えない。
風圧が後から発生した。
「やめい」
サングラスの男が銃を手で押して、制する。
すごくドキドキした。
本物の銃だったら戦闘に移行して殺しちゃっていたかもしれない。
「じゃあ僕が手を繋いであげるよ〜」
もう一人が近づいてきた。
長身で、白い髪をしていた。全体的に白っぽい服装で、不思議な事に銃を持っていない。
「そいつにも近づくな」
制されていない逆の手で、先程の女性が銃を私に構えていた。
「え〜。じゃあどうするの〜」
白い男が笑いながら言った。彼女とは好対照で、全く緊張感や危機感を感じない。
「黙れ。そして下がれ。私の後ろだ」
私は笑いながら、両手を上げて降伏の意を示す。
女性は戦闘に慣れているのか、的確な指示を出す。
「すごいですね、まるで本物の兵士みたいです」
「そうやろ?まったくコイツはゲームのしすぎやで」
聞くところ、女性はFPSのゲームにハマっているらしい。
「しゃあないな」
無造作にサングラスの男が九龍の手を握った。
「じゃあ行こか」
男の優しい手の感触に、どこか懐かしさを感じていた。
それはきっと、私には二度と手に入らないもの。
思いを振り払うように頭を振って、私はこれからの任務の事に集中した。
- 401 :
- 「……あそこね」
金色の眼をしたカラスが、中央科学ドームの天井で喋っていた。
六番ゲートの巨大な柱の影。黒いフードを目深にかぶった男と、赤いフードの女が柱に寄りかかっていた。
黒いフードがホーローだろう。
その横で、親しげに話している黒い中折れのツマミハットの男は誰だろうか。
誰だっていいわ。どうせRのだし。
カラスはその腕だけを人間の腕に戻した。
手に握っているのは拳銃。天井から地上まではかなりの距離があったが、改造人間であるベルベットには関係がない。
必ず当たるだろう。
まずは邪魔な黒い帽子の男を排除する。次は女。
最後にホーローを致命傷を避けて撃って、死ぬ寸前まで痛めつけてあげるわ。
嗜虐的な視線を、その金色の瞳に映し出し、ベルベットは狙いを定め、引き金を絞る。
と、黒い帽子の男が、急に小さく動いた。
アンダースローのモーションで、何かを投げた。
それは、銀色の小さなアーミーナイフで。
それは、遥か高い天井にいたベルベットの元まで一直線に届いた。
「はっ?」
ベルベットの左目は貫かれ、天井から落下した黒いカラスは、誰にも気づかれること無く倉庫に墜ちた。
今日はここまで。
- 402 :
- .
- 403 :
- にゃん!! にゃにゃん!!!!! にゃああああん!!!!! にゃんにゃああう!!!!!
- 404 :
- .
- 405 :
- 家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。
グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"
V9X1F5DBUP
- 406 :
- 知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』
V6VK7
- 407 :
- CK2
- 408 :
- すごく久しぶりに覗いたけど、幻の能力者といいレベル高い作品が来てるなぁ
リリィ編も主要人物がどうなっていくか仮と気になるという
止まったのは寂しいけど、いつかは止まるものだし仕方ないか
- 409 :
- そして、人が居なかろうが、趣味で投げる
――声が、聞こえた
201X年、春と本格的な夏の節目となる季節。
夜間に限り、過去に類を見ない怪現象――大規模な能力の異変が頻発する。
異変は太平洋の一点を中心として、じわりと浸食するように世界全体を飲み込もうとしていた。
「ようこそ鑑定所へ、水野昌さん。記載では近頃はやりの"異変"であるとの事でしたが……」
発症者は未成人の少年少女、それも一部の感知系能力者に限られ、実害らしきものは確認できない。
そのため異様な規模にも関わらず、深刻視される事はなかった。
しかし、それは人類の存亡にも関わる奇禍への入り口だった。
「能力特区『アトロポリス』かぁ。うん、最近は話題だね」
「不吉な響きね。残虐の言霊か、運命の糸を断ち切る死の女神か――」
一方、表社会では一つのニュースが連日の報道を独占していた。
太平洋上にある人工島に築かれた、能力特区都市アトロポリス。
そこではチェンジリング・デイ以降、最大の規模の国際会議が行われようしているのだという。
「それは僕の考える事ではない。学会の運営者に任せる事にするさ」
「……むしろ、『こっち』の問題に巻き込まれないように、私が注意しないとね」
「場違いだろうが、仕事は仕事だ――と、いい加減、まとめ役をやって欲しいもんだがな、総隊長どの?」
秩序を担う者は黙々と備え、混沌を弄ぶものは嘲笑うかのように食指を伸ばす。
「敵ながら挑発的で面白ィですネェ。こォノ時世に、最大規模の国際会議トハ……」
「あなたなら聞くことができるはずだ。"彼女"の声を」
「救いたければ、押し通れ――その覚悟がなければ、この世界では永遠に奪われる側だ」
表裏問わず、様々な思惑が行き交うなかで、ひときわ濃く深い闇がその鎌首をもたげようとしていた。
『――いま、ここで全ての終わりが始まる。世界に流星の降り注いだ"あの日"のように』
運命に呑まれながらも、宿命に抗う能力者たち。はたして、彼らは闇を払う光となれるのか――
『劇場版Changeling・DAY 〜 星界の交錯点』 第一部
避難所にて公開予定
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/3274/1317903170/
- 410 :2018/10/17
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YUB
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