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郷田ほづみはアンパンマンに殴られ死亡した
- 1 :2016/08/08 〜 最終レス :2018/06/22
- 郷田ほづみは世界一下手な役者
- 2 :
- cigaret:たばこ[重要削除]
http://qb5.2ch.sc/test/read.cgi/saku2ch/1283005481/27-
- 3 :
- 栗梅の小さな紋附を着た太郎は、突然こう言い出した。
- 4 :
- 考えようとする努力と、笑いたいのをこらえようとする努力とで、靨が何度も消えたり出来たりする。――
- 5 :
- それが馬琴には、おのずから微笑を誘うような気がした。
- 6 :
- 馬琴はとうとうふき出した。
- 7 :
- が、笑いの中ですぐまた語をつぎながら、
- 8 :
- 癇癪を起しちゃいけませんって。」
- 9 :
- 「おやおや、それっきりかい。」
- 10 :
- 栗梅の小さな紋附を着た太郎は、突然こう言い出した。
- 11 :
- 考えようとする努力と、笑いたいのをこらえようとする努力とで、靨が何度も消えたり出来たりする。――
- 12 :
- それが馬琴には、おのずから微笑を誘うような気がした。
- 13 :
- 馬琴はとうとうふき出した。
- 14 :
- が、笑いの中ですぐまた語をつぎながら、
- 15 :
- 癇癪を起しちゃいけませんって。」
- 16 :
- 「おやおや、それっきりかい。」
- 17 :
- 太郎はこう言って、糸鬢奴の頭を仰向けながら自分もまた笑い出した。
- 18 :
- 独りで寂しい昼飯をすませた彼は、ようやく書斎へひきとると、なんとなく落ち着きがない、不快な心もちを鎮めるために、久しぶりで水滸伝を開いて見た。
- 19 :
- 偶然開いたところは豹子頭林冲が、風雪の夜に山神廟で、草秣場の焼けるのを望見する件である。
- 20 :
- 彼はその戯曲的な場景に、いつもの感興を催すことが出来た。
- 21 :
- が、それがあるところまで続くとかえって妙に不安になった。
- 22 :
- 仏参に行った家族のものは、まだ帰って来ない。
- 23 :
- うちの中は森としている。
- 24 :
- 彼は陰気な顔を片づけて、水滸伝を前にしながら、うまくもない煙草を吸った。
- 25 :
- そうしてその煙の中に、ふだんから頭の中に持っている、ある疑問を髣髴した。
- 26 :
- それは、道徳家としての彼と芸術家としての彼との間に、いつも纏綿する疑問である。
- 27 :
- 彼は昔から「先王の道」
- 28 :
- 彼の小説は彼自身公言したごとく、まさに「先王の道」
- 29 :
- だから、そこに矛盾はない。
- 30 :
- が芸術に与える価値と、彼の心情が芸術に与えようとする価値との間には、存外大きな懸隔がある。
- 31 :
- 従って彼のうちにある、道徳家が前者を肯定するとともに、彼の中にある芸術家は当然また後者を肯定した。
- 32 :
- もちろんこの矛盾を切り抜ける安価な妥協的思想もないことはない。
- 33 :
- 実際彼は公衆に向ってこの煮え切らない調和説の背後に、彼の芸術に対する曖昧な態度を隠そうとしたこともある。
- 34 :
- しかし公衆は欺かれても、彼自身は欺かれない。
- 35 :
- 彼は戯作の価値を否定して「勧懲の具」
- 36 :
- と称しながら、常に彼のうちに磅する芸術的感興に遭遇すると、たちまち不安を感じ出した。――
- 37 :
- 水滸伝の一節が、たまたま彼の気分の上に、予想外の結果を及ぼしたのにも、実はこんな理由があったのである。
- 38 :
- この点において、思想的に臆病だった馬琴は、黙然として煙草をふかしながら、強いて思量を、留守にしている家族の方へ押し流そうとした。
- 39 :
- が、彼の前には水滸伝がある。
- 40 :
- 不安はそれを中心にして、容易に念頭を離れない。
- 41 :
- そこへ折よく久しぶりで、崋山渡辺登が尋ねて来た。
- 42 :
- 袴羽織に紫の風呂敷包みを小脇にしているところでは、これはおおかた借りていた書物でも返しに来たのであろう。
- 43 :
- 馬琴は喜んで、この親友をわざわざ玄関まで、迎えに出た。
- 44 :
- 「今日は拝借した書物を御返却かたがた、お目にかけたいものがあって、参上しました。」
- 45 :
- 崋山は書斎に通ると、はたしてこう言った。
- 46 :
- 見れば風呂敷包みのほかにも紙に巻いた絵絹らしいものを持っている。
- 47 :
- 「お暇なら一つ御覧を願いましょうかな。」
- 48 :
- 「おお、さっそく、拝見しましょう。」
- 49 :
- 崋山はある興奮に似た感情を隠すように、ややわざとらしく微笑しながら、紙の中の絵絹をひらいて見せた。
- 50 :
- 絵は蕭索とした裸の樹を、遠近と疎に描いて、その中に掌をうって談笑する二人の男を立たせている。
- 51 :
- 林間に散っている黄葉と、林梢に群がっている乱鴉と、――
- 52 :
- 画面のどこを眺めても、うそ寒い秋の気が動いていないところはない。
- 53 :
- 馬琴の眼は、この淡彩の寒山拾得に落ちると、次第にやさしい潤いを帯びて輝き出した。
- 54 :
- 「いつもながら、結構なお出来ですな。
- 55 :
- 私は王摩詰を思い出します。
- 56 :
- 食随二鳴磬一巣烏下、行踏二空林一落葉声というところでしょう。」
- 57 :
- 「これは昨日描き上げたのですが、私には気に入ったから、御老人さえよければ差し上げようと思って持って来ました。」
- 58 :
- 「とにかく、それよりほかはないようですな。」
- 59 :
- 「そこでまた、御同様に討死ですか。」
- 60 :
- 今度は二人とも笑わなかった。
- 61 :
- 笑わなかったばかりではない。
- 62 :
- 馬琴はちょいと顔をかたくして、崋山を見た。
- 63 :
- それほど崋山のこの冗談のような語には、妙な鋭さがあったのである。
- 64 :
- 「しかしまず若い者は、生きのこる分別をすることです。
- 65 :
- 討死はいつでも出来ますからな。」
- 66 :
- ほどを経て、馬琴がこう言った。
- 67 :
- 崋山の政治上の意見を知っている彼には、この時ふと一種の不安が感ぜられたからであろう。
- 68 :
- が、崋山は微笑したぎり、それには答えようともしなかった。
- 69 :
- 崋山が帰ったあとで、馬琴はまだ残っている興奮を力に、八犬伝の稿をつぐべく、いつものように机へ向った。
- 70 :
- 先を書きつづける前に、昨日書いたところを一通り読み返すのが、彼の昔からの習慣である。
- 71 :
- そこで彼は今日も、細い行の間へべた一面に朱を入れた、何枚かの原稿を、気をつけてゆっくり読み返した。
- 72 :
- すると、なぜか書いてあることが、自分の心もちとぴったり来ない。
- 73 :
- 字と字との間に、不純な雑音が潜んでいて、それが全体の調和を至るところで破っている。
- 74 :
- 彼は最初それを、彼の癇がたかぶっているからだと解釈した。
- 75 :
- 「今の己の心もちが悪いのだ。
- 76 :
- 書いてあることは、どうにか書き切れるところまで、書き切っているはずだから。」
- 77 :
- そう思って、彼はもう一度読み返した。
- 78 :
- が、調子の狂っていることは前と一向変りはない。
- 79 :
- 彼は老人とは思われないほど、心の中で狼狽し出した。
- 80 :
- 「このもう一つ前はどうだろう。」
- 81 :
- 彼はその前に書いたところへ眼を通した。
- 82 :
- すると、これもまたいたずらに粗雑な文句ばかりが、糅然としてちらかっている。
- 83 :
- 彼はさらにその前を読んだ。
- 84 :
- そうしてまたその前の前を読んだ。
- 85 :
- しかし読むに従って拙劣な布置と乱脈な文章とは、次第に眼の前に展開して来る。
- 86 :
- そこには何らの映像をも与えない叙景があった。
- 87 :
- 何らの感激をも含まない詠歎があった。
- 88 :
- そうしてまた、何らの理路をたどらない論弁があった。
- 89 :
- 彼が数日を費やして書き上げた何回分かの原稿は、今の彼の眼から見ると、ことごとく無用の饒舌としか思われない。
- 90 :
- 彼は急に、心を刺されるような苦痛を感じた。
- 91 :
- 「これは始めから、書き直すよりほかはない。」
- 92 :
- 彼は心の中でこう叫びながら、いまいましそうに原稿を向うへつきやると、片肘ついてごろりと横になった。
- 93 :
- が、それでもまだ気になるのか、眼は机の上を離れない。
- 94 :
- 彼はこの机の上で、弓張月を書き、南柯夢を書き、そうして今は八犬伝を書いた。
- 95 :
- この上にある端渓の硯、蹲の文鎮、蟇の形をした銅の水差し、獅子と牡丹とを浮かせた青磁の硯屏、それから蘭を刻んだ孟宗の根竹の筆立て――
- 96 :
- そういう一切の文房具は、皆彼の創作の苦しみに、久しい以前から親んでいる。
- 97 :
- それらの物を見るにつけても、彼はおのずから今の失敗が、彼の一生の労作に、暗い影を投げるような――
- 98 :
- 彼自身の実力が根本的に怪しいような、いまわしい不安を禁じることが出来ない。
- 99 :
- 「自分はさっきまで、本朝に比倫を絶した大作を書くつもりでいた。
- 100 :
- が、それもやはり事によると、人なみに己惚れの一つだったかも知れない。」
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