TOP カテ一覧 スレ一覧 100〜終まで 2ch元 削除依頼
ハーメルンについて語るスレ499
【リビルドワールド】非公開/ナフセ 試行41回目
【小説家になろう】底辺作者が集うスレ502
【擁護】小説家になろう総合アンチスレ39【厳禁】
【とんスキ】江口 連(旧 妖精壱号)総合スレ27【ビュッ、ビュッ、ビュッ】
【新紀元社】モーニングスター大賞7
ハーメルンについて語るスレ594
【小説家になろう】女性読者視点雑談スレ8【話題無制限】
【ライブダンジョン!】dy冷凍総合スレ 7鯖目
【投稿サイト】小説家になろう2936【PC・携帯対応】

安価・お題で短編小説を書こう!8


1 :2020/03/29 〜 最終レス :2020/05/19
安価お題で短編を書くスレです。

■お題について
現在、毎週日曜日の午後22時に前回のお題を締め切り、新しいお題を安価で決める方式を取っています。現時点での募集お題はスレ主によるレスを確認してください。

■投稿方法
使用お題と【】でタイトルを明記してください。決めていなければ【無題】でも可。
作品は3レス+予備1レス以内で。レスが2つ以上に別れる場合は分かりやすいよう番号を振ってください。
※R18は板ルールで禁止です。

■「小説家になろう」等への投稿について
同一内容を別サイトへと投稿する行為は認めています。
その際、権利者以外が2ch上から無断で転載したものと区別するため、出来る限り【当スレへ投稿する前に】投稿してください。
当スレへ投稿せず、別サイトへ投稿してリンクを貼るのも可。
リンク先のタグに『お題スレ投稿作品』を入れ、使用お題、タイトル、URLを書き込んでください。
※なろうのURLは規制されていますので、KASASAGIか俺Tueee.Net!のURLで代替してください。

■前スレ
安価・お題で短編小説を書こう!
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1508249417/
安価・お題で短編小説を書こう!2
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1511408862/
安価・お題で短編小説を書こう!3
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1522770910/
安価・お題で短編小説を書こう!4
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1529860332/
安価・お題で短編小説を書こう!5
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1541947897/
安価・お題で短編小説を書こう!6
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1557234006/
安価・お題で短編小説を書こう!7
https://mevius.2ch.sc/test/read.cgi/bookall/1572191206/

2 :
☆お題→『トライアル』『レビュー』『クリスタル』『マシマシ』『午前零時』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約2000字、60行が上限。

☆締め切り→4/5の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

3 :
>>1
乙です
何だかんだで8スレめですね
参加してくださっているスレ民に感謝を

4 :
>>1
乙です!
これからも楽しく小説を書きまくっていきたいです!

5 :
それでは早速
>>2
使用するお題→『トライアル』『クリスタル』『午前零時』
【洞窟の中の冒険】(1/3)
今日も女ガンマン・シンディは愛馬のサンセットに跨って、自由気ままにさすらいの旅を続けていた。
緑の木々に囲まれた山道を歩いていると、目の前に大きな洞窟が見えてきた。
「どうやらこの洞窟を抜けないと、次の町には行けないみたいね」
少し不安ではあったが、他に遠回りしていく手段を思いつかなかったため、その洞窟の中を通っていくことに決めた。
「サンセット、なるべくゆっくり行くわよ」
サンセットはシンディの言う通りに無闇に走ったりせずに、ランプの灯りを頼りに慎重にゆっくりと進む。
洞窟の中であるため、音を立てて走ったりしてその衝撃で落盤を起こして生き埋めになったりしたらお終いだ。
洞窟に入って10キロほど歩いただろうか。一旦止まって休憩することにした。
「この洞窟、それにしても長いわね。ちゃんと出られるといいんだけど…」
食糧の入った袋からビーフジャーキーを一枚取り出して齧る。
やけに心配しているシンディの姿を見て落ち着かせようとしているのか、サンセットは彼女の顔を優しくペロッと舐める。
「ありがとうサンセット、大丈夫よ」
少しお腹が膨れると、再び歩き始める。洞窟の中というのは冒険心をくすぐられる。
しかし、シンディは父のバイロンを落石事故で失ったことが、今でも忘れられないトラウマとなっている。
いざ落盤でも起こったら逃げ場などどこにも無い。その岩石で覆われ、閉鎖された空間に恐怖心を抱いてしまったようだ。
「(何を恐れてるのよ、私のバカ!洞窟なんて怖くない、怖くない!)」
必死に自分に言い聞かせて落ち着こうとする。しばらく歩いていると、青く綺麗な光が微かに見えてくる。
「もしかして出口?サンセット、こうなったら一気に突っ切るわよ!」
その光のする方に向かって走る…しかし、残念ながらそこは出口ではなかった。
「そ、そんなあ。って、あれ?」
よく辺りを見回すと、そこは青く美しく輝くクリスタルに包まれた空間だった。
その綺麗なクリスタルにシンディはつい心を奪われてしまう。
「すっごく綺麗ね、こんな場所があったなんて信じられない…」
サンセットから降りると、クリスタルに手を触れる。
「こんなにいっぱいあるんだから、ちょっとくらい削って持ち帰ってもいいよね?あ、それに高く売れるかも!」
一瞬、お金のことに目が眩んでしまうシンディ。彼女の金へのがめつさにサンセットは呆れてしまう。
「おい、ここだ!クリスタルルームはここだぞ!」
突然、後ろの方から男らの声が響いてきた。

6 :
【洞窟の中の冒険】(2/3)
「おお、これが伝説と言われる神秘のクリスタルルームか!」
華奢で痩せ細った長身の男と小柄で小太りな男の2人組が現れた。
「やったぞ、これでガッポガッポ儲けられるぞ。億万長者間違いなしだ!」
急いでクリスタルの陰に身を潜めるシンディとサンセット。シンディはその2人組に見覚えがあるようで、すぐに手配書リストを確認する。
「(あいつら、ジェフとダレルね…)」
ジェフとダレル、彼らは銀行や罪の無い一般市民を無差別に襲撃して奪った金品で金儲けをしている強盗コンビだった。
「(飛んで火に入る夏の虫とはこのことね。捕まえて金にする絶好のチャンスだわ)」
背後から気付かれないよう接近していくその時、うっかり手を滑らせて持っている銃を落としてしまった。その銃の落ちた音で、ジェフとダレルはシンディの存在に気付く。
「し、しまった!」
「あっ、こいつ確かシンディだぜダレル!無法者狩りの賞金稼ぎ、まさに俺達の敵だ!」
「そうだなジェフ!こうなったら仕方がないから殺してしまおう!」
ヤバい!シンディは急いで落とした銃を拾おうとするが、ジェフがそうはさせまい!と素早い動きで彼女の腹を勢いよく蹴り上げる。
「グヘッ!!」
怯んだシンディの頭を後ろからダレルが乱暴に踏みつける。
「大人しくしろ!生意気な女ガンマンめ」
ジェフとダレルはある物と一緒にロープでシンディの体を強く縛って、身動きが取れないようにした。
それはなんと小型の時限爆弾だった。
「これは超高性能の時限爆弾だ。爆発時間は午前0時に設定してある」
「爆発してグチャグチャになった女ガンマンとか想像しただけで笑えるぜ!」
「(サ、サンセット、あなただけでもいいから早く逃げて…!)」
シンディは陰で隠れているサンセットに向かって、彼らに気付かれないように首を振って合図する。
サンセットまでもが存在を気付かれたら終わりだ。シンディの合図を察し、サンセットはそこからゆっくりと去る。
シンディが動けないのをいいことに、ジェフとダレルは彼女の髪を引っ張ったり、飲んでいた酒を顔に吹きかけたりして楽しんだ。
その後、周りにあるクリスタルを全てドリルで削り取り、時限爆弾と共にロープで縛られたシンディを置き去りにする。
「じゃあな、無様で哀れな女ガンマン!アッハッハ!」
時限爆弾がピッピッピッと音を立て始める。もうタイムリミットの午前0時まであと数分だ。
そして午前0時に到達、もう一巻の終わりで死を覚悟したシンディだったが一向に爆発する気配がない。
「あれ?」
すると、シンディはあることに気付いた。それと同時に逃げたはずのサンセットが突如現れ、ロープを噛みちぎって彼女を解放する。
ジェフとダレルも爆発音が聞こえてこないので不思議に思った。
「おい爆発音がしないぞ、どうなってるんだ!」
「おかしいな」
すると一つの銃弾がジェフの腕を貫通した。
「痛っ!な、何だ!」

7 :
【洞窟の中の冒険】(3/3)
「ま、まさか!」
後ろを振り返ると、そこにはサンセットに跨ったシンディの姿があった。
「い、一体なぜ爆発しないんだ!」
「マヌケな強盗さん、こんなのが付いていたわよ」
シンディはその時限爆弾を投げてダレルに渡す。
ビックリして受け取ってみると、そこには白い紙が付いてあり、「試作品のため失敗する場合も有り。ご了承を」と小さな文字で書かれていた。
「ふ、ふざけんな!あの店主、俺達を騙しやがったな!」
「騙されたあんた達がバカなだけでしょ?」
そう言うと、シンディは容赦なくダレルの胸に目がけて銃を放つ。ダレルが倒れるや否や、保安官とその部下らしき男達数人が現れた。
「やっと見つけたぞ!散々迷惑をかけやがって!」
実はサンセットはあの場から逃げ出した時、なんとか出口を見つけて洞窟を飛び出し、近くの町の保安官に救助を求めたのだ。
ジェフとダレルはお縄となり、同時に削って奪ったクリスタルも回収された。
「クリスタルルームのクリスタルは天然記念物。お前ら禁固30年だ、覚悟するんだな」
保安官曰く、クリスタルルームのクリスタルを奪うなどの犯行を働いた者には、禁固10〜30年の処罰を下しているとのことだ。
それを聞いたシンディは、クリスタルを少し削って持ち帰ろうと考えた時のことを思い出す。
もし魔が差してでもやっていたら…と想像すると、冷や汗をタラタラと流すのだった。
「あなた達のおかげで、こいつらを逮捕することができた。感謝する」
とりあえず懸賞金をゲットでき、シンディは満足するのだった。
「サンセット、本当にどうもありがとうね」
シンディに頭を優しく撫でられ、サンセットは嬉しそうに好物のリンゴを頬張る。
そんな愛馬の姿に心が癒されるシンディなのであった。

8 :
>>1
立て乙です

9 :
8スレも続くなんてすごいですよね・・

>>5
そしてやっぱりこの人w
『トライアル』? ある種の試練、それに裁判、『クリスタル』ルーム、『午前零時』の爆弾
うっかりガンマンと間抜けな強盗w、あっさり逮捕ですが、もしかしたら再登場もありでしょうか

10 :
>>9
感想ありがとうございます!
シンディ、一見クールそうに見えて結構うっかりやさんですw
強盗コンビのことをマヌケと罵ってましたが、君もあまり人のこと言えないでしょと内心ついツッコんじゃいましたw
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

11 :
>>2
使用するお題→『レビュー』『クリスタル』『午前零時』

【変態ストーカー、その名はノーマン】(1/3)
※スレ6>>776【一つ目の悪魔】を最初に読んでおくことをオススメします

ある深夜のこと、とある高級アパートの一室に住む一人の男がパソコンで何かをニヤニヤと閲覧していた。
それはレストランの口コミサイトで、その男が見ているのはライアンとレイチェルのレストランだった。
「料理がすっごく美味しい!」「女ガンマンの余興が愉快で楽しくてサイコー!」と、高評価のレビューでたくさんだ。

「ほぉ、このガンマン姿の姉ちゃんがレイチェルっていうのか。可愛いじゃねえか」

彼の名はノーマン。亡くなった両親の莫大な遺産で高級アパートに住み、ろくに働かずに怠惰な生活を送っているニートだ。

「レイチェルは俺の妻にピッタリな女だ。必ず俺のものにしてやるぞ…」

そう言うと彼はパソコンの電源を切るのだった。

・・・・・・・・・・・

ある朝の8時、ライアンとレイチェルはレストランの準備で大忙しだった。

「それじゃあ材料買いに行ってくるね、ライアン!」
「事故には気をつけるんだよ、レイチェル!」

レイチェルがドアを開けて外に飛び出したその時、何かに足を躓いて転んでしまう。

「痛たたた…!もう何なの?」

足下に落ちていたのは、ピンクのリボンで飾り付けがされた白い箱だった。

「何かしら?」

不審に思いつつも、とりあえずリボンを解いて箱を開けてみるとそこには綺麗なクリスタルのアクセサリーが入っていた。

「綺麗!で、でも何でこんな所に置いてあるのかしら?誰かさんの忘れ物?」

そのクリスタルのアクセサリーの入った箱をライアンにも見せる。するとライアンは箱の隅の小さな隙間に、一枚の紙切れが入っているのに気付く。
取り出して見てみると、そこには「レイチェルへ、大ファンである俺からのプレゼントだ」と書かれていた。

「レイチェル、どうやら君へのプレゼントのようだね」
「で、でもいきなりこんな高級品受け取ってって言われても何だか気味が悪いわ。どこに名前も書かれていないし」
「ということは誰かのイタズラかな?でも一応こっちで預かることにしよう」

近くの草木の茂みに隠れていたノーマンが、レイチェルの姿を双眼鏡で窺っていた。

「誰からのプレゼントか分からなくて動揺してやがる、可愛い奴だなレイチェル…」

それ以降、ノーマンは毎日のようにレストランの扉やキッチン近くのドアの前にレイチェルへのプレゼントとして、
ネックレスや帽子、可愛いぬいぐるみ等の入った箱を置きに置きまくったのだった。

「(レイチェル、俺からのプレゼントだから大事にしてくれよな…)」

一方のレイチェルは、知らない誰かからのプレゼントの数々に底知れぬ不安と恐怖を抱いていた。

「ライアン、私なんだか怖いよ…!」
「もうこうなったら警察に言うしかない」

ライアンの通報により、すぐに警察が駆けつける。彼から大まかに事情を聞くと、それらの
プレゼントを回収してくれることとなった。

12 :
【変態ストーカー、その名はノーマン】(2/3)

「最初は単なるお客の忘れ物かと思ったんですけど、それにしてはあからさますぎて…」
「分かりました。また何かございましたらすぐに一報を入れてください」

せっかくのプレゼントを警察に回収されたと知り、ノーマンは自分の好意と善意を踏みにじられたように感じ、取り乱すがすぐに冷静さを取り戻す。

「まあいい、俺は寛大で優しい男だからな。あっそうだ、良い事思いついたぞ…!」

午前0時の深夜のこと、レイチェルはライアンより先に寝室のベッドでスヤスヤと眠りについていた。
カーテンが開いたままの窓から、こっそりと誰かが覗いている。他でもないノーマンだ。

「ゲヘヘ、レイチェルの可愛い寝顔いただき!」

手に持っているスマホで彼女の寝顔を撮影する。その次にノーマンが狙ったのは毎週火曜日だった。
次の日が水曜日で定休日のため、レイチェルが夜更かししてリビングのソファーでテレビを見ている確率が高いからだ。

「ソファーにもたれてテレビを見るレイチェル、こいつも最高だなあ!」

少し開いたカーテンの隙間から、そんなレイチェルの姿もスマホで撮っていく。
おかげでスマホのアルバムはレイチェルの写真でいっぱいになっていた。

「うひょー!近くにレイチェルがいる気分だぜ!だがなあ…」

嬉しくて興奮するノーマンであったが、レイチェルの夫であるライアンの存在が憎くてたまらなかった。

「このライアンがマジで邪魔でウザくてムカつくぜ、吐き気がする!そうだ!」

ノーマンはつい最近、趣味で購入したばかりの新品の銃でライアンを殺害しようと考えたのだ。
1週間後の早朝、ノーマンは銃を片手にレストランへと歩み寄る。しかし、彼は近くで居眠りをしている野良犬の存在に気付かず、尻尾を踏みつけて起こしてしまう。
怒った野良犬はノーマンのお尻や脚にガブガブと噛みついた。

「お、おいやめろ!痛えじゃねえか!あっち行け!」

野良犬をなんとか追い払えたものの、鋭い牙で噛みつかれた尻や脚は血だらけだった。持っていた銃は、野良犬と格闘している間にどこかに落として紛失してしまう有様だ。

「犬に噛まれてケガするし銃は無くすし…もう勘弁してくれ!」

仕方なくそのまま病院に行って治療してもらうのだった。包帯で巻かれた尻や脚がヒリヒリと痛み、
ソファーに寝転がってしばらく安静にすることに決めたノーマンだったが、別の手段は既に考えてあった。

「よーし、こうなったら強硬策だ」

そう、彼はお客となってレストランに入ることに決めたのだ。
レストランの客を装い、ノーマンはライアンの料理を食べながら余興の時間が来るのを待つ。

「(ライアンの料理結構うめえじゃねえか。本人はウザくてムカつくけどな)」

余興の時間となり、ガンマン衣装に着替えたレイチェルがギターを手に持って現れた。

「みなさーん!今日も楽しく元気にやってるかしら?それじゃあ行くわよぅ!」

ニコニコ笑顔で楽しくギターを演奏するレイチェルの姿にノーマンの瞳はハートの形になり、口からヨダレがダラダラと流れ落ちていた。
そして一旦レストランを出ると、閉店時間の夜9時になるまで忍耐強く待つ。

13 :
【変態ストーカー、その名はノーマン】(3/3)

夜の9時になり、レストランは閉店。レイチェルが外に出てきたのを確認すると、勢いよく茂みから飛び出して彼女に突進する。

「わっ!な、何!?」

ノーマンはレイチェルを両腕で強く抱き締めるように捕まえる。

「捕まえたぞレイチェル!もう放さないぞ!」
「い、一体誰なのよ!」
「俺はノーマンだ!」

ノーマンはお構いなしにレイチェルの頭から帽子を脱がすと、彼女の髪を思いきりワシャワシャして乱れさせる。

「放して!放してってば!」
「こんな可愛い女ガンマンを放して逃がすようなことするバカがいると思うか?」

一瞬の隙を突いてレイチェルはノーマンの腕に噛みつく。
痛ッ!と声を上げてノーマンが腕を放した瞬間、レイチェルは急いでライアンのところへ走って逃げようとする。

「そうはいくか!」

ノーマンはレイチェルのコートを掴み、今にもビリッと破けそうな勢いで強く引っ張ってきた。

「ライアン助けて!助けてー!!」

レイチェルの叫び声を聞いたライアンが、咄嗟にキッチンのドアから飛び出してきた。

「お前、レイチェルに何やってるんだ!」

怒ったライアンに脇腹を勢いよく蹴られ、グヘエッとノーマンは倒れる。

「ライアン!」
「レイチェル大丈夫かい?お前、よくもレイチェルを攫おうとしたな!」

急いでポケットからスマホを取り出して警察に連絡するも、ノーマンはいつの間にか姿を消していた。
駆けつけた警察に逃亡したノーマンの容姿、レイチェル誘拐未遂の件などを全て詳しく説明するのであった。
事情聴取が終わって警察が帰った後、ライアンはレイチェルをギュッと抱き締め、彼女の頭を優しく撫でる。

「大丈夫だよ、レイチェル。また来たら容赦なくブッ飛ばしてやるよ」
「う、うん…」
「さあ今日はもう遅いから寝よう」

一方、ノーマンはアパートに戻り、また別の計画を練っている最中だった。

「ライアンがあんなに強いとは思わなかった、大誤算だった。まあ、レイチェルは必ず俺のものになるから覚えておけよ…」

その1ヶ月後、ノーマンの恐ろしい魔の手が迫ることをライアンとレイチェルはまだ知る由もないのだった…。

14 :
>>11
久しぶりの本編、スレ6エピソードの前日譚w
『レビュー』を閲覧する男、『クリスタル』のアクセサリー、『午前零時』の不審者・・・
とんでもないやつだったw、しかし憎めないところもある悪役ですねぇ

15 :
>>14
感想ありがとうございます!
はい、今回はノーマンがどんな人物かをじっくりと書いた回でした
初登場回はいきなり誰?と困惑した人もきっと多かったと思いましたのでその前日譚です
もはやノーマンはナタリーと並んでレイチェルシリーズの代表的な悪役的存在ですねw
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

16 :
>>2
使用するお題→『レビュー』『マシマシ』『午前零時』

【レンタルお姉ちゃん】(1/3)

夕方、学校から帰ってきたカナミが自分の部屋で宿題をしている時だった。
コンコン!と誰かがドアをノックする音が聞こえてきた。

「だーれ?」
「僕だよー!」

ドアを開けて入ってきたのはケンスケだった。

「ケンスケ、今は宿題で忙しいから一緒に遊べないわよ」
「ううん、そういう事じゃないんだ。ちょっとお姉ちゃんに相談があるんだ…」
「相談?」

とりあえず宿題を早めに終わらせ、夕飯を済ませた後、リビングのソファーに座ってカナミはケンスケからの相談を聞く。

「相談って何かしら?」
「あの、お姉ちゃん、来週の土日って暇かな?特に用事ない?」
「うーん、特にないけどそれがどうかしたの?」
「それがね…」

ケンスケは早速話し始めた。ケンスケには西口ヒロトというクラスメートの友達がいるのだが、
そのヒロトが来週の土日だけでいいからカナミに自分のお姉ちゃんになってほしいとのことだ。
一人っ子で姉がいるケンスケが羨ましくてたまらないから、という彼からのお願いだった。

「お姉ちゃん、お願いだよ。来週の土日だけでいいからヒロトのお姉ちゃんになってくれないかな」
「そうなの。分かったわ、この私に任せなさい!」
「本当!?ありがとう!」

翌日、ケンスケはヒロトに姉からのOKが出た事を伝えると、ヒロトはとても喜んだ。
そして土曜日、カナミは弟にヒロトの家に案内してもらう。ヒロトの家に来ると、既に彼が嬉しそうに玄関の前で前っていた。

「わあ、ケンスケのお姉ちゃんだね!えっと、確かカナミさんでしたっけ?今日から2日間だけだけど、よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくね、ヒロト君」
「早速だけどお姉ちゃんって呼んでいいですか?」
「ウフフ、いいわよ」

ヒロトは顔を少し赤らめ、照れながらカナミをお姉ちゃんと呼ぶ。ケンスケはそれを見て安心すると、家に帰っていった。

「それじゃあお姉ちゃん、ゲームでもして遊ぼうよ!」

家の中に入ると早速ゲームで勝負開始。ゲームで楽しく遊んでいると、いつの間にかお昼の時間になっていた。

「お姉ちゃん、お腹が空いたね。近くにいいラーメン屋があるからそこで食べない?」
「ラーメン?いいわね、行きましょ!」

ヒロトの知っているという近くのラーメン屋に向かう。

17 :
【レンタルお姉ちゃん】(2/3)

「僕ね、この近所にある飲食店はちゃんとレビューとかで調べて、良い店をきちんと把握してるんだ!」
「へえ、なかなか几帳面で偉いわね」
「でしょ?もっと褒めてほしいな」

そのラーメン屋に入るとヒロトは豚骨、カナミは醤油ラーメンを選ぶ。

「おっちゃん、どっちもネギとメンマをマシマシでお願い!」
「はいよっ!」

そこのラーメンはとても美味しく、カナミもとても満足気な様子だった。
一方その頃、ケンスケは家に帰る途中で公園に立ち寄り、キーコーと音を立てながらブランコに座っていた。

「おっ、ケンじゃねえか!」
「ハヤト兄!」

近くを通っていたハヤトがケンスケに気付き、駆け寄ってきた。

「あれ、今日は大好きなお姉ちゃんと一緒じゃないのか?珍しいな、いつもセットなのによ」
「お姉ちゃんはちょっと友達の頼みで明日まで家にいないんだ…」
「ん、どういうことだ?」

・・・・・・・・・・・・・・

お昼を食べ終えた後、カナミとヒロトは近くの繁華街をのんびりと散歩していた。

「お姉ちゃんと一緒に散歩はすっごく楽しいな!」
「そう言われると嬉しいわ」
「僕、両親が共働きであまり家にいないし、一人っ子だから余計に寂しいんだ…」
「それは辛いわね…でも明日までは私がそばにいるんだから安心して」
「うん!」

のんびり楽しくおしゃべりしながら散歩していると、いつの間にか夕方になっていた。
夕飯もヒロトが知っている行き先の美味しいレストランで済ませる。家に戻ると、ヒロトはカナミをリビングに案内する。

「お姉ちゃん、何か見たいアニメの映画とかある?」

見たいDVDを選ぶとディスクを入れ、リビングのソファーにもたれて楽しむ。

「とっても面白いわね!」
「まるで映画会みたいだよねアハハ!」

映画を楽しんだ後、風呂に入って歯を磨き、カナミは持ってきたパジャマに着替える。

「今日はとっても楽しい一日になったね、明日も良い日になるといいな」
「そうね!それじゃあもう寝ましょうか」

ヒロトが敷いてくれた布団に入り、カナミはスヤスヤと眠りにつく。
午前0時の深夜、カナミは突如ただならぬ気配と殺気を感じて目を覚ます。
目を開けると、自分が寝ている布団のすぐ隣に包丁を持った少女が立っているのに気付き、カナミは一瞬心臓が止まりそうになる。

「あら、目を覚ましたようね」
「あ、あんたは6年の西口トモエ!と、ということはまさか!」
「そのまさかだよ!」

そのヒロトは、なんとあの意地悪で傍若無人な6年女子の一人である西口トモエの弟だったのだ。

18 :
【レンタルお姉ちゃん】(3/3)

「ひ、一人っ子というのは全くの嘘だったのね…!」
「そうだよ。僕の大好きなお姉ちゃんがどうしても君を完膚無きまでに叩きのめしたがってるんだ、協力しないわけがないだろ?」
「そうよ。七尾、あんたはまんまと私達の罠にはまったというわけ」
「ケンスケも僕に姉がいるってこと全く知らずに、お願いを聞き入れるんだから本当バカだよね」
「さあ観念しな!」

包丁を片手にトモエがカナミに迫ってくる。逃げる場所などどこにもなく風前の灯火、まさに絶体絶命!と思った次の瞬間だった。

「七尾ー!」
「お姉ちゃーん!」

家のドアを力合わせて蹴り飛ばし、ハヤトとケンスケが中に突入してきた。

「ケンスケ!それに宮坂君!」

「ヒロト、まさかあの西口トモエの弟だったとは全然知らなかったよ…!友達だと思ってたのに裏切ったんだね!」
「そんなのお前に教える義理なんてあるはずないだろ、ケンスケ。でも何で急にそれが分かったんだよ」
「俺がお前らが陰でこそこそと話し合ってるのを見たんだよ」

つい先日、ハヤトが休み時間に体育館の近くを通った時、その陰でヒロトとトモエが何やらこそこそと作戦を練っているのを見て、とても怪しんでいたのだ。

「絶対何かとんでもないことをしでかすと思ってたけどやっぱりだったな!」
「まあ今更気付いても遅いわ、七尾はここで最期を迎えるのよ!」
「そうはさせるか!」

ハヤトは勢いよくジャンプすると、トモエの脳天に目がけて踵落としを食らわせる。
ギャー!の悲鳴と共にトモエはそのまま倒れてしまい、それにヒロトが動揺する一瞬の隙を狙ってケンスケが飛びかかり、彼を取り押さえる。
ハヤトは急いで警察に連絡し、駆けつけた警察によってトモエとヒロトは逮捕されたのであった。

「七尾、ケガはないか!?」
「大丈夫よ、本当にどうもありがとう!」
「友達だと思っていたのに、お姉ちゃんの命を狙っていただなんて…。お姉ちゃん、僕が騙されたせいで危険な目に遭って本当にごめんね…」
「ケンスケはちっとも悪くないわ、気にしないで」

気付くと既に太陽が顔を出し、朝が来ていた。

「じゃあ気をつけて帰れよ、また月曜に学校で会おうな」
「うん!本当に色々どうもありがとうね宮坂君!」
「なんか悪い予感がしてたんだ、第六感というやつさ」

そう言うとハヤトは去っていき、カナミとケンスケは家路につくのだった。

「お姉ちゃん、早く帰ろう。お母さんもお父さんも心配しているだろうし」
「そうね!」

19 :
>>16
今回は狂気との対決!
『レビュー』で調べたラーメン屋で『マシマシ』、『午前零時』の危機一髪
昼間はただデートしてただけw、からの斬新な手口、最後は安心の救出劇でした

20 :
>>19
感想ありがとうございます!
話が進むに連れて狂気度がどんどん上がってきているなあ、と確かに書いてて思いましたw
それでもどんなお話も最後はなるべくハッピーエンドで締め括る、それが私の小説を書く上での信条です
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

21 :
>>2
お題:『トライアル』『レビュー』『クリスタル』『マシマシ』『午前零時』

【トライアルセクション】(1/2)


 埠頭は、午前零時を過ぎたと言うのに、煌々と灯りがともり、疎らであるが人影も出ている。
 都内へと運ばれる物資が、次々と運び込まれ、湾岸用リフトが絶え間なく動いていた。

「大忙しだな、仕方がないが……」

 その、復興の為の支援物資の積み降ろしを尻目に、男は、寂れた倉庫街へと歩みを進める。
 待ち合わせ場所である倉庫へと赴いた天津 恒は、その廃墟然とした佇まいに眉根を寄せた。

「本当に、ここで合ってるのか?」

 待ち合わせは午前零時三十分、場所は湾岸倉庫17番。記憶と照らし合わせた場所は、確かにここだ。

「待っていましたよ? 天津さん」

 やけに耳に残る老人の声に、恒は、ビクリと肩を震わせ振り返る。
 いつの間にそこに居たのか、老人は杖をついた姿勢で佇んでいた。

「あんたが……あー」
「はい、依頼人の山田 太郎です」

 あからさまな偽名に恒が溜め息を吐く。
 しかし恒は、ここに仕事をしに来たのだ。特に彼の場合、依頼人が訳ありと言うのも良くある事だった為、その事はスルーする事にした。
 山田に連れられ、倉庫へと入る。と、途端に地面か揺れ、倉庫中央にポッカリと穴が開いた。
 山田は躊躇うことなくその穴に入って行く。
 恒も、渋面を作りながらも、その後に続いた。

22 :
【トライアルセクション】(2/3)


 ******

 クリスタルガラスで広く視界を取られたエレベーターで降りた先に有った物に、恒は驚きのあまり息を飲んだ。

 20m近い人形のそれは、彼の認識に間違いがないのならば、“ロボット”と呼ばれる物だろう。

「……何だ? 映画の撮影でもやろうってのか?」
「それも楽しそうですがね、貴方にお願いしたいのは、アレのパイロットですよ」
「!! ……冗談だろ?」
「本気です」

 天津 恒と言う男は運び屋だった。今まで、有りとあらゆる手段、乗り物を使って、頼まれたモノを運んできた。
 その為、今回も、その類いだろうと思って来たのだが……

「いや、流石に筋違いだろう? 俺は、単なる運び屋で……」
「謙遜しないでください、我々とて、色々と調べましたよ? バイク、自動車、航空機から船舶、果ては重機まで自在に操り、有りとあらゆる場所へ荷を運ぶ」
「買い被りすぎだ」

 確かに恒は、あらゆる乗り物を乗りこなし、その、依頼達成率は100%に近い。
 だからと言って、ロボットの操縦など、あまりに毛色が違うだろう。それに……

「コイツに乗せようって事は、つまり、アレと戦えって事だろう?」
「はい、その通りです」

 この所、日本にはエイリアンが襲来していた。
 全長20m近い、その来訪者は、日本全国に降り立っては、何かを探すかの様に荒らし回っていた。
 各国は、当初こそ、このエイリアンに対処すべく動いていたが、彼等の目的が日本であると分かった途端に、軍を引き上げ、全ての対処を日本に任せる事にしたのだ。
 それでも一応、支援物資を日本に送る程度の援助はしているのだが……

 日本政府は、このエイリアンに対抗する為、国防相だけでなく、民間にも広く対応策の依頼をし、各企業がそれに応えた。

 この、山田からの依頼も、そう言った物の1つだろう。

「無茶を言う。第一、ここまで作ったんだ、テストパイロットだって居たはずだろう?」
「いや〜、お恥ずかしい話ですが、先任は寿退職致しまして……」
「えっと、おめでとう?」
「授かり婚だそうです、ウチの整備員と……」

 居たたまれない空気に、恒が視線を逸らす。

「お願いします!! 国防相のトライアルまで、1ヶ月を切ってしまったんです!!」
「いや、同情はするが、さすがの俺も、ロボットの操縦なんか自信ないって!」
「大丈夫です! 調査の結果、貴方か一番適正があったのです!!」

 そう言えば、恒の事を調べたのだと山田は言っていたか。
 確かに今までも、命ギリギリの仕事はしてきた。しかし、ロボットに乗ってエイリアンと戦うと言うのは、勝手が違い過ぎる。

「悪いが、他を……」
「料金はマシマシ! 特別手当てと、危険手当ても付けますので!! お金が必要なのでしょう? 妹さんの……」

 その言葉に、恒の動きが止まる。

「当然、もしもの時の、保険も付けます」
「そこまで調べたのか?」
「…………」

23 :
【トライアルセクション】(3/3)


 渋面を作る恒とは対照的に、山田が笑っていない笑みを作る。
 恒は、舌打ちを1つすると、降参だとばかりに両手を上げた。

「分かったよ、アレに乗って、宇宙人をブッ飛ばせば良いんだな?」
「あくまで、実践テストです。テストの結果いかんでは、そのまま正規パイロットと成っていただいても構いませんよ?」

 ******

 ブスッとした顔で、パイロットスーツの恒がロボットに乗り込む。
 一週間の訓練で、恒は、このロボットの特性は掴んでいた。
 そして今日、初の実戦である。
 エイリアンが襲来したからだ。
 コクピットが密封され、シリコンリキッドが充填される。

(何度体験しても慣れんな、これは)

 それでも、衝撃を吸収するこのリキッドがなければ、恒の命に関わるだろう為、我慢するしかない。
 コクピット内がシリコンリキッドで満たされ、水中にも拘らず呼吸が出来るようになると、恒は、操縦用の水晶を握った。
 網膜に直接映像が投射され、恒の視界がロボットのソレとリンクする。

『では、発進シーケンス開始します。良いですか? 天津さん』
(オッケーだ、何時でも良いぜ!)
『あ、後、帰還後は、直ぐにレビューを提出してくださいね?』
(発進直前に、気を削ぐ様な事、言うんじゃねぇよ!!)

 管制室で、クスリと笑う山田を恒は感じた。

『では、ご無事にお戻り下さる事を願っています』
(了解だ!! 天津 恒、ゲイル・バインダー、出る!!)

 もしかしたら、初出動で緊張する自分の力を抜かせる為の、彼なりのジョークだったのかもしれないな、等と考えながら、射出された恒は、まだ視界に捉えられぬエイリアンを睨み付けたのだった。

24 :
お題→『トライアル』『レビュー』『クリスタル』『マシマシ』『午前零時』締切

【参加作品一覧】
>>5【洞窟の中の冒険】
>>11【変態ストーカー、その名はノーマン】
>>16【レンタルお姉ちゃん】
>>21【トライアルセクション】

25 :
自作は間に合わず!

26 :
ではでは、今回も通常お題5つでお願いします

お題安価>>27-31

27 :
『恐竜』

28 :
コネクト

29 :
満月

30 :
カブ

31 :
新生活

32 :
☆お題→『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約2000字、60行が上限。
☆締め切り→4/12の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

33 :
なんかよく分からない組み合わせw
あと様子を見て、次回か、その次は、企画お題をやりたい・・
作品もお題もありがとうございます
8スレ目もどうぞよろしく〜

34 :
>>11
本当に怖いストーカー被害ですね
相手の心情をおもんばかる訳でもなく
身勝手な想いを一方的に押し付けるのは愛情でも何でもないですよね

>>16
例え、どれ程憎いと思っていたところで
実際に手を出してしまったらアウトですね
ソレをした時、その後どんな事に成るか、想像できないのは痛ましい事です

35 :
>>2、一発目から供養枠で申し訳ないです

使用お題→『トライアル』『レビュー』『クリスタル』『マシマシ』『午前零時』

【コートの向こう側に】(1/4)

 最後のカードは『バーサーク・ブレイズ・ライオン』だった。めくられると同時に立ち上る霊気。
「これでダメージマシマシだぜ!」
 百獣の王。その姿を借りた召喚獣が、その場に出現する。一度だけ大きく咆哮(ほうこう)すると、それは瞬く間に形を失い、光を放つ粒子となって、対戦相手のアバターに吸い込まれる。
「今度こそ、俺が勝つ!」
 カードの力を取り込んだアバター。そのたてがみを震わせ、闘志もあらわに拳を構えると、全身から炎が吹き上がった。
「さあ、どうする。残りのカードを使うよな! なあ!」
 もちろんそのつもりだけど、もう少しだけ引っ張ってもいいだろう。
「使わないなら遠慮なく行くぜ! オラァ!」
 その拳は、速くて、重い。だけど。
「オラ! オラ! うらあ! うぉああああ!! なぜ! 俺の! 届かない! パンチが!」
 まだまだ、だね。私のアバターは攻撃をすべて回避する。一発でも食らえば、たちまちノックアウト。かすっただけでも炎に焼かれてしまうだろう。
「ああああ!!」
 ラッシュに続けてキックも飛んでくる。不意打ちのつもりだろうけど、全部見えてるよ。落ち着いてよける。
 相手の動きが止まる。こちらは相手から少し距離を取る。
「じゃあ、そろそろ、今度は私から行くよー!」
 伏せられたカードは残り二枚。私はその両方を同時にめくる。
「ララ、レレ、出番だよっ!」
『あいよ、ポン!』
『よしきた、コン!』
「またそいつらかよ!」
 コートの反対側から文句が飛んでくるけど。
「いいでしょー、これが強いんだから! 対策してないそっちが悪いのよー」
 かわいくデフォルメされた、タヌキとキツネの召喚獣。『スウィフト・ファントム・ラクーンドッグ』と『ソニック・ブレード・フォックス』だ。二匹は一瞬で分解され、その光の粒は一つに混ざって、私のアバターへと流れ込む。
「さあー、覚悟しな!」
「くっそー! 俺は負けねえ!」
 相手の攻撃が再開される。いよいよ勢いを増した炎と、それをまとって繰り出される神速のパンチは、しかし、今やちっとも怖くない。
 拳が追い付いた、それは残像。私のアバターは駆け回る。火炎を吹き消す音速の剣(つるぎ)、カードで強化された短剣を相手のリーチぎりぎり範囲外からたたき込めば、面白いようにダメージが入る。
「これで……終わり!!」
 カードのアクティブスキルを発動する。残像は分身となり、迷子の猛獣を閉じ込める。切っ先を一斉に振りかざすと、それを無慈悲に突き立てた。

『対戦終了、りこぢゃよの勝利です』

「あああー!! また負けた!」

『お疲れ様でした』

 *

「ちくしょー、なんで勝てねえんだ……」
 そのままコートに座り込んで、対戦相手、四十万(しじま)レオンが愚痴をこぼす。
「だからさー、パワータイプにこだわり過ぎなんだって。いくら強い攻撃だって、当たらなきゃ意味ないんだから」
「うるせー。俺が腕力を捨てたら、それは俺じゃねえよ」
 腕力……つまりは筋肉馬鹿だ。そのこだわりも、嫌いじゃないけどね。
「じゃあ、もっとうまくなろ。それで次こそは、あたしを倒してね」
「おいレオン、莉子(りこ)、終わったんなら早く場所空けろー。次だ、次」
「おーう、悪い」
 せっつかれて、のろのろと立ち上がるレオン。そこで私はふと、彼の向こう側、コートの外からの視線を感じる。
 目が合った……と、思う。
 レオンの肩が持ち上がってきて、視界が遮られる。
「お前さ、トライアルには出るよな?」
「……うん。多分ね。そのつもりだけど」
 黒髪ショート。女。捕食者の目。見掛けない顔だけど……どこかで、見たような。
「俺、応援してるから。お前ならきっとプロになれるって」
「だといいけどね。ありがと」

36 :
【コートの向こう側に】(2/4)

 部活を終えて帰宅する。家の中は薄暗い。
「ただいまー。って言っても、誰もいなけど」
 父も母も忙しく、遅くまで帰ってこない。兄は大学進学と同時に一人暮らしを始めたので、家では私一人の時間が多い。
「あっ、お母さんだ」
 視界の隅っこで通知が点滅する。視線で操作して、メッセージを開く。
『今日も遅くなります。晩ご飯は適当に食べてください』
 作り置きがあったはずだ。冷蔵庫を確認しようとして、次のメッセージがポップアップする。
『部活もいいですが、勉強も頑張ってください。お父さんはああ言ってますが、あなたも大学に行った方がいいと思います』
「……返信。『分かりました。なるべく早く帰ってきてね』」

 *

 兄の影響で始めたAR対戦ゲーム。『AURA CARD MONSTERZ(オーラカードモンスターズ)』。
 実用的なARグラス(現実世界にCG映像をかぶせて表示する、眼鏡型の透明なディスプレイ)が登場して間もなく、専用アプリの一つとして発表された。
 その完成度とゲーム性の高さから、ゲーム情報サイトのレビューでは軒並み最高評価を獲得。一大ブームを巻き起こし、ARグラスの普及を大きく後押しすることとなった。
 ゲームの公開直後から遊び始めた兄は、対戦相手を必要としていた。それで私を引き入れた。
 私は最初、動物のカードを集めるゲームだと思っていた。対戦は『おまけ』。勝っても負けても楽しかった。
 やがて兄はこのゲームで遊ばなくなり。私はと言うと、才能があったのだろうか、近所に並ぶ者なし。そのままやめ時を逸してしまい、高校に上がっても、eスポーツ部で、競技として続けている。

 *

 午前零時。母は帰宅して、今は寝ているようだ。父は、今日は帰れないと連絡があった。
 なんだか寝付けなくて、近所の公園まで散歩することにした。公園には対戦用のコートがある。このゲームの面倒なところ。ARグラスだけでは遊べないのだ。
 公園の片隅、街灯に照らされたその場所。テニスコートよりも少しだけ狭い。
 真ん中に『対戦ステーション』が埋め込まれている。半球状の小さな機械。筐体(きょうたい)の中には、無線の親機と、モーションキャプチャのセンサーが入っている。
「接続、アバターをロード」
『接続が確立されました。りこぢゃよのアバターをロードします』
 コートの端に立って、対戦の準備をする。私と対戦ステーションとの間にアバターが立ち現れる。私よりも一回り、頭一つ分くらい小さな人形。デッサン人形を思わせる、曲面と無機質さ。色は淡い黄色。
「オンライン……じゃなくて、トレーニングモード」
『トレーニングモードを開始します』
 アバターの見た目は、もっと飾り付けることも可能だ。ただ、カードのエフェクトが派手なので、こちらはシンプルな方がバランス良く見える。
 軽くトレーニングメニューをこなす。私の動きに合わせて、アバターも、歩いたり、走ったり、ジャンプしたり。私とアバターの動きは一対一では対応しておらず、私の動きは小さく、アバターの動きは大きくなる。
 このプレイヤー側の動き。無関係な人の目には、ちょこちょこと中途半端に映る。そんなこともあって、運動部の人や、場合によっては文化部の人からも、ちょっと下に見られたり。

「……あっ」
「こんばんは」

 昼間、学校のコートで私を見ていた人だ。彼女のARグラスが、街灯の光を反射して、クリスタルのようにきらめく。
「この辺りは詳しくないの。引っ越してきたから。地図を見て、家から近いコートを探してきたの」
「……そうなんだ。髪、切ったの?」
「ええ。邪魔してごめんなさい。私のことは気にしないで、どうぞ続けて」
 やっぱり。私はこの人を知っている。もちろん初対面だけど。
「あのー、もし良かったら、対戦してくれませんか? 駄目ならいいけど」
 そんな言葉が口をついて出た。
「駄目じゃないわ。ただこんな時間だから、一戦だけね」

 *

 彼女のアバターは真っ白だった。始めたばかりで何も設定していない、初心者のような。
「お待たせ。準備できたわ」
 だけどその身のこなしは、一般プレイヤーとは一線を画している。もちろん、私の不格好な動きとも。
「……じゃあ、対戦開始」
「対戦開始」
『対戦を開始します』

37 :
【コートの向こう側に】(3/4)

 彼女が最初に出してきたのは『スウィフト・フリーイング・ラビット』だった。同時に三連射。一発目、二発目は回避したけど、最後の一発は受けてしまう。
 私のカードは『ディフューズ・ミラー・トータス』。最大で二秒に一度、受けた攻撃を無効化する。だからダメージはない。ここまでは想定通り。
 今回の相手は、距離を取って小銃で狙撃してくるタイプだ。このゲームの銃は、現実の銃とは違って、射線が全員の画面に表示される。だから、ちゃんと見ていれば、よけること自体は難しくない。
 私のアバターは、相手のアバターに突進する。銃撃の直後は、いわゆる技後硬直が発生するためだ。動けないところを狙う。
 相手は当然対策をしている。それが最初のカードで、硬直時間を短縮する効果と、任意の方向への逃走スキルを持っている。
「どうかしら」
「えっ!」
 二枚目のカード。『トゥイステッド・トラップ・スネーク』! めくるのと同時に、発動エフェクトもキャンセルして、私のアバターを足止めする。
「くっ、このっ!」
 私はとにかく短剣を振るう。形だけでも反撃しておかないと、相手は硬直明けに撃ってくる。私の必死の攻撃は、銃身でガードされる。相手はまだ固まってるはずなのに。
 逃走スキルは使わずに、相手は悠々と後退する。足止めも解除されるが、突進するには距離がある。
「それじゃあ三枚目」

 *

 相手のカードは残り一枚。こっちは残り二枚だ。ここまでよく持ったと思う。
「学校で見たときも思ったけど、あなた、なかなかやるね。プロでも通用しそう」
 向こうには落ち着いて話すだけの余裕がある。こっちは、ごめん、息が切れている。呼吸を整えてから、ゆっくりと返事をする。
「……やっぱり見てたんだ。って言うか、こんな状態で褒められても、うれしくないな」
 ははっ、と、息を吐き出して笑うと、相手も薄く笑みを浮かべた。
「最後。これで勝負」
 黒く揺れるエフェクトの中から、ゆっくりと立ち上がる影。『ソニック・リープ・ウルフ』は、彼女の代名詞とも言えるカードだ。
「じゃあ、こっちはこれ!」
『大丈夫かい、ポン!』
『楽しそうだな、コン!』
「いいね! それっ!」
 オオカミの牙が迫る。同時に相手は射撃動作に移る。飛ばしたオオカミで相手を押さえて、遠くから一方的に狙撃するつもりだ。こっちはとにかく逃げ回る! 捕まったら終わりだ。蜂の巣だ。
 一発。外れ。二発。外れ。三――――
「やあああ!!」
 本体に突っ込む! オオカミは残像の方に飛んでいる。分身スキルを発動して、ハンターを取り囲む。
「ふんっ!」
 小銃が振るわれて、分身の一体が殴り倒される。返す刀でもう一体。オオカミが戻ってくる、その前に。
 分身二体で、前後から斬り掛かる。正面はするりと、背後の方は銃床で受け止められる。駄目だ、次!
「はあああ!!」
 残り四体で同時に斬り付ける。相手は銃身を振り回し――――

「…………とどめを刺して」

 彼女の体が、突然、がくんと傾いた。アバターの動きが止まる。私も、反射的に動きを止める。
 一年前、突然の引退を余儀なくされた、当時のトッププロプレイヤー、黒沢千浪(くろさわちなみ)。その完璧なルックスも相まって、カリスマ的な人気を誇っていた。
 引退の原因は、病気とも事故とも言われた。結局それは明かされることなく、彼女は表舞台から姿を消した。

「あなたの勝ちよ。とどめを刺して」
 彼女は淡々と要求する。私は動けない。
「なんで――」
「とどめを刺せ!!」
 私はびくりと震えた。体が動くようになる。そして短剣を。

『対戦終了、りこぢゃよの勝利です』

 なんで。

『お疲れ様でした』

 なんで――――

38 :
【コートの向こう側に】(4/4)

「なんで、あなたが泣いてるの?」
 気が付くと、目の前には彼女が立っていた。ハンカチが差し出される。
「涙を拭いて。今夜はありがと。楽しかったわ。じゃあね」

 *

 翌朝、遅刻しそうになりながらも、教室に滑り込む。結局あの後は一睡もできなかった。
 すぐに先生が入ってくる。先生が何かを言う。それから、見知らぬ女子生徒が――――

「ええっ!」
「川崎、うるさいぞ」
「……初めまして。黒沢千浪と言います。よろしくお願いします」

 眼鏡を外して、二度見した。
 中途半端な現実に、鮮やかな黒が加わった。

39 :
いいとこ取りしつつバトルも書きたいなぁ → 説明説明説明長文

なぜなのか

40 :
>>39
やりたい事、表現したい事が溢れているからですよw

41 :
>>40
そうなのかも、、とりあえずなんか一生懸命書いたよ感は伝わったかもですねw

>>21
なんか趣味性が発揮されてる感じw
『午前零時』の埠頭、『クリスタル』ガラスなど、国の『トライアル』、料金『マシマシ』、機体の『レビュー』
結果として独特と言うか、ある種の大人主人公で、世界観と雰囲気にも魅力がありますよね

42 :
>>32
使用するお題→『満月』『カブ』『新生活』
【シチリアでの新しいスタート】(1/2)
レイチェルはライアンと結婚、彼と共にイタリアにあるシチリアへと旅立った。
そのシチリアでレストランを開業するのがライアンの夢である。そんな彼のためにレイチェルはとことん尽くそうと強く決意していた。
そこで始まる新生活は、レイチェルとライアンにとってまさに夢と希望に溢れているものだった。
「ねえ、ライアン。レストランはどこに建てるか決めてあるの?」
「もちろんだよ、レイチェル」
タクシーに乗り、レストランが建設される土地へと向かう。そこに着くと、既にクレーンやダンプカーなどの重機が集まって建設が始まっていた。
「わあ、もう始まってたんだ!ビックリ!」
「ちゃんと予め下見もしたからね。もう準備は整っているよ」
ライアンはこの時のためにハリウッドで立派な俳優になる修行を積む中、たくさんのバイトを兼業して貯金していたのだ。
「ここで君と一緒にレストランを営業していくと考えると、もうそれだけでワクワクして楽しくてたまらないよ」
「うん!私もライアンとずっと一緒にいられると思うと、それだけですっごく幸せ!」
「レイチェル…!」
レストラン兼マイホームが完成するまでの間、2人は近くにあるアパートを借りてそこで住むこととなった。
「お待たせレイチェル!今日はニシンのフライとカブのピクルスだよ!」
「待ってましたー!!」
ライアン手作りの美味しい料理にレイチェルはもう夢中だ。
「私、小さい時からカブが苦手なんだけど、ライアンがこうピクルスにしてくれると大丈夫なのよね」
「ありがとう、それで君の好き嫌いが直ると思うとなんだか嬉しいな」
「ライアンがちゃんと栄養のバランス考えてくれるから助かるわ。私、料理が下手で一人だった時は冷凍食品中心で栄養が偏りがちだったから」
料理を作るのが下手なレイチェルにとっては、まさにライアンは心強くて頼もしい存在である。
彼には秘密にしているが、4キロほど太ってしまって必死にダイエットしていた時期があった。
「もうライアンの料理最高!」
「でも食べ過ぎちゃダメだよ、アハハ」

43 :
【シチリアでの新しいスタート】(2/2)
夕食を食べた後は、軽く近くまでのんびりと散歩を楽しむ。今夜は大きな満月だ。
「綺麗な満月ね」
「大学生で一緒にキャンプに行った時も、確か満月の夜空で美しかったよね」
「うん!またあの時みたいに一緒にアウトドアに行こうね、ライアン」
「もちろんさ!」
アパートに住んでいる間、レイチェルは近所のスーパーマーケットでパートとして働く一方、余興でのギター演奏の練習に励んでいた。
「いいね!それにしてもレイチェルって楽器を扱うの本当に上手だよね」
「私のお爺ちゃんが若い頃ピアニストで、それで興味持ってピアノを弾き始めたのがきっかけなの」
数ヶ月後、注文していたウエイターとウエイトレスの制服が届き、ライアンとレイチェルは早速試着する。
「わあレイチェル、すっごく似合ってる!」
「そ、そう?何だか照れちゃうな…」
そして遂に念願のレストラン兼マイホームが完成した。
「遂にできたよレイチェル!これから一緒にレストランを盛り上げて楽しく過ごしていこう!」
「もっちろん!この私がいつもそばにいるから心配しないでね、ライアン」
「ありがとう、僕の可愛いガンマンちゃん。まだ夢の第一歩は始まったばかりだけど、こうやって君と過ごせる日々をずっと待ち望んでいたんだ」
そう言うとライアンはレイチェルをギュッと抱き締め、頭を優しく撫でるのだった。
念願のレストラン生活がスタートした。徐々にではあるが口コミなどで話題を集め、ライアンの美味しくてバリエーション豊富な創作料理だけでなく、
そんな彼が考案したレイチェルによる楽しい余興も好評を博し、今ではすっかり地元で人気のレストランとなった。
「大好きだよレイチェル」
「私もよライアン」
シチリアでスタートしたライアンとレイチェルの新しい生活。
そんな2人に待ち受けるワクワクドキドキのハプニングの数々を一緒に楽しんでいこうではないか。

44 :
>>42
シチリアビギニングですね
これから、あの数々の事件を経て、さらに絆が深まっていくのですね
>>41
感想ありがとうございます
ロボットは大好きです
小説を書く前に、フルスクラッチで主役機を作り始めるくらいに(本末転倒)w

45 :
>>42
正に希望溢れる
シチリアでの『新生活』、『カブ』のピクルス、今夜は『満月』
楽しいなぁ・・、キャラがしっかりしてるので、こういう振り返り的な話にも違和感がないですよね

46 :
>>44
>>45
感想ありがとうございます!
レイチェルがライアンと結婚してシチリアに旅立ってまだ間もない頃の小話です
ここからあの忘れられない楽しい思い出、トラブルやハプニングの数々が始まると同時に
レイチェルとライアンの絆が強く結ばれていき、最高の夫婦になっていくのです
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

47 :
>>34
少し遅れてしまいましたが、こちらも感想ありがとうございます!
あのレイチェルへのただならぬ執念が大変な事件へと繋がっていくというわけです
もしノーマンがナタリーと手を組んだら…というIFを想像したことがあるのですが、あまりに怖くて身震いしてしまいましたw
そして意地悪で傍若無人な小6女子軍団の暴走はまだまだ止まりません
姉弟とハヤトはそんな彼女らの暴虐の数々を完全に止められる日は果たして来るのか、乞うご期待!
どちらのシリーズも楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

48 :
ところで次回ですが、先日ご提案のあった、2つ固定+1つ選択をやろうかと
固定の2つは互いに組み合わせやすいものを、選択のは固定用とは離れたものを3つ取ります

先に3つ取って、固定用2つを後に、合計5つ
特に最後の人は自由度が低いと思いますが、とりあえずやってみたい

49 :
☆お題→『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』
「ダイジョーブッ!」
コーヒーメーカーのスイッチを入れる。
カーテンを開け、朝の暖かい日差しに一分間当たる。
洗濯機を回し、掃除機を手に取る。
掃除を終えると、コーヒーをカップに注ぎ、テレビのスイッチを入れる。
後は午前九時頃までテレビを眺め、コーヒーを啜る。
そんな朝木道代の朝は夫の死後も変わることはなかった。
昨年、道代の夫である寿貴が亡くなった。
車で川に転落するという単独の交通事故、即死だった。
警察からの聴取を受けた。
恐らくは自殺や他人の関与という線を考慮していたからだろうと道代は思った。
結局、疑いはなく寿貴の死は事故として処理されて今日、つまり一年後の命日に至る。
インターフォンが鳴った。
珍しいこともあるものだと、道代はインターフォン血備え付けてあるカメラをのぞいた。
「あ、おはようございます。朝早くに申し訳ありません」
そこに映し出されたのは、気弱そうにスーツを着た若い男だった。
「どなた?」
道代の問いに男は刈り上げた頭をかきながら気まずそうに笑う。
「保険調査員の木場、と言います。保険金の関係で本日はお伺いさせていただきました」
道代は短く息を吸い込んだ。

50 :
「ダイジョーブッ!」ニ

「どうぞ」
声は震えていなかったはずだ。
道代はそう思いながら、玄関のドアを開いた。
「お時間を取らせて申し訳ありません。少しだけ、お時間を頂けますか?」
「ええ」
拒否感は顔に出ていなかっただろうか。
不安が次から次へとやってくる。
椅子を勧め、木場にコーヒーを渡す。
「ブラックですが」
「ありがとうございます。頂きます」
口をつけた木場は目を見開いた。
「……おいしいですね!」
これに関しては道代に悪気はなかった。
元から濃いブラックしか飲まないのだから。
「しかし、ご立派なお宅ですねぇ。そういえば旦那様は銀行員だったとか」
どきりとした。
「お話、初めていただけますか?」
話を断ち切った道代に木場はキョトンとしたがすぐ様柔和な表情に切り替わる。
若いのか、慣れているのか。
道代には見極めきれなかった。

「そうですね。では、始めましょうか」
木場は鞄から出した書類の束をテーブルに並べると手を組んだ。
「率直に申し上げますと」
木場は指を伸ばした。
細く、骨張っていた。
「今回の保険金に関しまして少しばかり疑問がございますのでそれについて確認させていただきたく本日はお伺いした次第なのです」
「事故のはずですが」
「その割にあなたは新生活を満喫してらっしゃるようですね」
道代は強くテーブルを叩いた。
「私を疑ってらっしゃるんですか!?」
「まさか。むしろ私はその事故の点を疑っているんですよ」
木場の丸い目が細まるのを見て、道代は血が引いていくのを感じた。

51 :
「ダイジョーブッ!」三
木場は頭を下げた。
「気を悪くされた点につきましては謝罪いたします」
しかし、すぐに顔を上げる。
「話を戻しましょう。これは旦那様が生前親しくされていたご友人から聞いたお話なんですが、旦那様は博物館、それも恐竜の展示がお好きだったようですね」
「何が関係あるんですか?」
事実だった。
道代は寿貴に付き合って博物館に何度も足を運んだものだった。
「あるんですねぇ、これが。このご友人が言うには博物館にご一緒した際、旦那様は自分はティラノサウルスのようだ、と言っていたと。聞き覚えはありますか?」
「……いいえ」
嘘ではない。道代は聞いたことがなかった。
「左様ですか。ちなみにですがティラノサウルスはこれまでのイメージと違って屍肉を貪るハイエナのような生態だと言われているようです」
「何を言っているんですか?」
道代の声は震えていた。
木場は構わず話を続ける。
「貴方にその言葉を言わなかったのはきっと、これまで培っていたご自分のイメージを崩したくなかったのかもしれませんね。なんせこのご友人、消費者金融の方なんです。ご主人は多額の借金を抱えていたようですね。プライベートで株(カブ)式の運用を失敗した結果で」
借金のことは道代も知っていた。そして、寿貴はプライドが高い人間だったから、木場の言うことも正しいだろう。
「さて、この事実をコネクト、つなげて行きますと私は一つの推察に行き着いたんですね。もしかしたら、と言う話なんですけどね」
道代はポケットの中にあるスマホを握りしめた。
「奥様あなた、遺書、またはその意を記したメッセージをご主人から受け取っていませんか?」

52 :
「ダイジョーブッ!」
誰もいない公園に木場はいた。
ベンチに腰掛け、カップ酒を開ける。
ベンチの空いているところに同じカップ酒を置いた。
「心配しすぎなんですよ、あなたは」
彼は言った。
そばには誰もいない。
「大体見せるわけないでしょ。自殺と事故じゃ話が変わってくるんですから」
置いたカップ酒の表面が揺れる。
「と言っても、あんだけ分かりやすい顔しときながら最後まで抵抗してきたのは正直驚きましたけどねぇ。心配するのもわからなくはない」
木場はカップ酒を煽る。
頭上に見えた満月を散りゆく桜がなぞる。
「もう逝きますか?」
木場の前で旋風が舞う。
桜の花弁を巻き込んだそれは一瞬、人形を模したように見えた。
「ダイジョーブッ! いらん心配せずにさっさと成仏してくださいな。あの人ならあんたがいなくとも生きていけますよ。それに保険金が出れば差し押さえられたお宅も帰ってくるでしょうしね」
吹く風が穏やかになった。
木場は微笑んだ。
「嫌な性分だわ。ホント」
満月の夜、深夜二時。
彼の耳は死者の言葉を運ぶ。
「あのおっさん……」
置いていたカップ酒に手を伸ばすと、それはすでに空だった。

53 :
>>32.49.50.51.52
安価忘れておりました。
申し訳ありません。
そして挑戦したはいいけどこのネタは無理がありました
orz

54 :
>>32
お題:『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』

【士官学校の問題生】(1/3)
 朝日が窓から差し込み、微睡んでいた意識を覚醒へと誘う。
 見慣れぬ天井を眺め、ここが実家ではない事を思い出した。

「あぁ、俺、士官学校に入ったんだっけ」

 新生活も始まり、既に数日が過ぎたが、それでも未だに寮生活に慣れたとは言えない。
 四人一組で生活するという事で、同年代の友人が増える事を期待していた俺だったが、それは叶わぬ夢と成っていた。
 たった1つの事故によって、何故か今、上級士官候補生の寮に連れ込まれていたからだ。

「何をやっているの? 早く起きなさい!! それでも、栄え有るバーケスタ公爵家の従僕なの!!」
「ハイハイ、分かりましたよ!! リンゼお嬢様!!」

 朝っぱらからかしましいのが、俺、トウヤ・イチジョウジが仕えているって事に成っているリンゼ・フォン・バーケスタお嬢様だ。

 なぜ、“仕えている事に成っている”なんて言い回しをしたのかと言えば、それが全くの嘘だからだ。

 ******

 深紅の髪を靡かせながら、気の強そうな美貌をさらに不機嫌さで染め上げたリンゼお嬢様は、俺の前をカツカツと歩いて行く。
 俺は従僕らしく、彼女の鞄も持ち、アクビをしながら後に続いた。

「チッ」
「……公爵家令嬢として、そう言う舌打ちとかどうなんすかね?」
「わ、わたくしは、貴方の事なんて認めてないわ!! お父様が従僕としなさいと仰らなければ、とっとと無礼打ちにしているところよ!! あ、貴方が、ああんな……」

 そう言いながら、耳まで真っ赤にするお嬢様。
 あぁ、あの時の事を思い出したんだな。
 そう、それは俺とお嬢様が始めて出会った時の事だ。
 田舎から出てきたばかりの俺は、士官学校の入学式に向かう途中、ちょっとした事故に巻き込まれて、学校への到着が遅れていたんだ。
 だから、ショートカットの意味も含めて、学校の周囲に広がる大森林を昼夜を問わず突っ切っていた。

「おっし、これで大分時間短縮できたかな?」

 そうやって、もう少しで学校に着くと言う時だった。

55 :
【士官学校の問題生】(2/3)



「……魔竜の死骸か?」

 俺の目の前に現れたのは5mを越す魔竜の死骸。魔竜は、リュウとは付くが、古代龍とは全く別の系譜で、大昔に居た恐竜の子孫らしい。
 要は大型爬虫類だな。
 その魔竜の所々焦げ痕の付いた死骸を目にし、なぜ、こんな所にと言う疑問を持つのは当たり前の話だろう。

 その時だった。

 チャポン。

 水の跳ねる音。
 俺は警戒を強めながら、水音のした方に歩みを進めた。
 魔竜の仲間か、それとも、あの死骸を作り出した方か……
 木々の間に出来た、小さな泉。真円の月光に映し出されたそれは……

 炎の様な燃える赤髪が真っ白な肢体にまとわりつき、滑らかな曲線を描く身体の表面を弾かれたかの様に水滴が滑り落ちる。
 満月の下に描かれたそれは、どんな絵画よりも完成された一枚絵の様に見えた。

 だからこそだろう、その絵画に一点の染みを認め、思わず飛び込んでしまったのは。

「危ない!!」
「え? キャアァ!!」

 彼女の背後に見えた、魔竜の濁った黄色い目。俺は、飛びかかって来る中型の魔竜と、その少女との間に割って入ると『ワード』を叫んだ。

「コネクト!!」

 それは、異次元に干渉し、その次元から力を引き出す能力。そのほとんどは『アームズ』と呼ばれる武器の形で顕現する。
 コネクトし、俺は、自分の武器である刀型アームズ「虎徹」を抜き放つ。

 水面の満月が割れ、魔竜が両断される。

 水月華斬。俺の奥義の1つ。

 バシャリと水音が鳴り、魔竜は泉に沈んだ。

「ふう、危なかった」
「コネクト……」
「え?」

 既に魔竜は倒したにも関わらず、攻撃態勢をとる少女に思わず俺が振り返ると、そこには全身をアームズで包んだ彼女の姿があった。

「ウソ、だろ?」

 アームズの大きさは、そのままコネクト能力の大きさに比例する。

「わ、わた、わた、わたくしの肌をぉ!! 死になさい!! 死んで懺悔をなさい!! この、不埒者ぉ!!」

 そう言えば、大型犬魔竜を倒したかもしれない相手を探していたんだったと思い出したのは、彼女のメガブラスターから逃げている最中だった。

56 :
【士官学校の問題生】(3/3)



 ******

 “夫と成るもの以外に、肌を晒しては成らず”そんなしきたりが公爵家には有ったらしい。
 彼女が激昂したのも、そんな理由があるからだろう。
 さて、俺がこうして五体満足でいられるのには訳がある。
 彼女は公爵家令嬢で、俺は庶民だ、この、高飛車お嬢様との結婚なんてゴメンだが、そもそも身分が違いすぎる。
 だからと言って、公爵様も、俺を無礼打ちにする積もりはないらしい。
 そもそも、あんな所で肌を晒していたお嬢様にも非は有るのだ。
 そこで公爵様が提案したのが従僕と成る事だった。
 詰まりは“下僕は人間の範疇じゃないから見られてもオッケー”って事らしい。
 死ぬか、従僕に成るかの二択なら、従僕に成るしかない。
 そんな理由で、俺は、リンゼお嬢様仕える羽目に成ったのだ。

 ******

「何か文句でも?」
「いいえ、何も〜」

 そんな会話をしていると、不意にサイレンが鳴り始める。

『魔竜が確認されました。警護官、準警護官は、迎撃の準備をしてください』

 士官学校と言えど、軍の下部組織に過ぎない。
 その為、こうして魔竜が出た場合には、俺達学生も引っ張り出されるのだ。
 もっとも、本来なら入学したばかりの俺は免除されるハズなんだけどね。
 まぁ、俺、従僕だし、「お嬢様が戦っているのだからお前か戦わぬとは何事だ!!」って訳。

「行きますわよ!!」
「ハイハイ、了解です、お嬢様!!」

 俺の士官学校生活、最初っから問題だらけだ。

57 :
間に合わなかったorz

58 :
>>32

使用お題→『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』

【森の向こう側の私たち】(1/4)

 森の奥には空き地があって、その周囲は柵で囲まれていた。柵の材料は人骨で、柱の上からどくろが見下ろしている。
 空き地の中に目をやると、大きな足、恐竜のように大きな、ニワトリの足が見えた。その足の上に、三角屋根の小屋が建っている。
「すみませーん!」
 大きな声で呼び掛けるが、反応はない。恐らく聞こえていないのだろう。
 空き地を横切って、小屋に近付く。するとニワトリの足が動き出し、小屋はぐるぐると回転し、こちらに背を向けるようにして止まる。
「すみませーん! アカデミーの方から、来ましたー!!」
 再び大声で叫ぶが、返事はない。さてこれはどうしたことだろう。
 小屋の正面に回ろうと思い、私が移動を始めると、足が直ちに反応する。私が幾ら歩いても、見えるのは小屋の背中だけ。私が止まると、足も止まり。私が走ると、足も素早く動いた。
 歩いて、走って、歩いて。歩き疲れて立ち止まり。そこでようやく、私は教えられた呪文を思い出した。
「小屋よ、小屋よ! 森には背をもって、私には表(おもて)をもって立て」
 すると足が動きだし、そしてなんとも都合良く、小屋がこちらを向いて止まる。それで大人しく待っていると、正面の戸が左右に開かれて、そこから老婆が顔を出した。
「誰だい! さっきからうるさいやつだ! あたしになんの用だ!」
「こんにちは、おばあさん! 私、アカデミーの方から来ました!」
 老婆が身を乗り出す。
「あー!? どこから来たってー?」
「アカデミーですー!」
「あー、あんたが、そうかー! とりあえず上がってきな! だけど、うそだったら容赦しないからねー!」
 正面の戸から中に入る。ごちゃごちゃと物が置かれた室内。薄暗く狭苦しい空間で、老婆の目が光る。
「身分証を出しな」
 私は荷物の中から言われた物を取り出す。
「はい……これです」
「ほーう、どうやら本当のようだね。訪問販売かと思ったが。最近多いんだよ、老人を食い物にしようってやからがね」
 本当なのか冗談なのか分からないが、だけど、もし本当だとしたら。
「もちろん、そいつら全員、あれさ」
 老婆の鼻が、広場の周囲を指し示す。不思議と恐怖は感じない。
「ともかく、怠けず、しっかり、働いておくれ。もしちょっとでも怠けようものなら――――」
 こうして私の新生活が始まった。

 *

 私はケシの実をすり潰す。ごりごり、ごりごり。手作業でやるには面倒な作業だ。
 ごりごり。
「――世界――――」
「おい」
 ごりごり。
「――――走り出した――――」
「おい」
 ごりごりごり。
「――――怖く――」
「おい!」
「はい! ……なんでしょう?」
 私は、作業をしながら、ぼうっとしていたようだった。振り返れば老婆が立っている。
「鼻歌をやめな。許諾契約を結んでないんだから」
「えー、平気ですよー。こんなの引用にもなりませんって。お題なんですから、勘弁してくださいよー」
 私がそう言うと、老婆は苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
 私は作業を続ける。
「それが終わったら、次は畑に行くぞ。カブの収穫だ」

59 :
【森の向こう側の私たち】(2/4)

「……けーき、けーき、まぁるい――」
「だから! やめろと言ってるだろ」
「まぁるいしんがたこ――」
「替え歌も駄目だ!」
 私は徒歩で、老婆は臼に乗って、畑まで移動する途中だ。
「シンガータコ? 何にタコ?」
「なんの話だ。タコはお前だ!」
 今のところ、老婆には、私を殺したり、追い出したりするような気配はない。
 言われた仕事はこなせている。ここまで問題はないはずだ。
「大体、リフレ政策が駄目なんですよー。やる前から分かってたじゃないですか。緊急事態に打つ手なし!」
「知るか」
「そう言えば、こないだスカウトされたんですよねー。JKのコスプレで稼ぐやつです」
「なんだそりゃ。うちは副業禁止だ。ちょっと顔がいいからって、調子に乗るんじゃない!」
 恐ろしげな顔の――実際に恐ろしいのだが――老婆に怒られてしまった。
 仕方がない。テレビもネットもスマホもない。ソシャゲアニメなど見れるはずもない。
「短期取引で――」
「やめとけやめとけ。素人がアルゴリズムにかなうもんか」

 *

 畑に着いた。森を切り開いたのだろう、小さな畑には、大きなカブが植わっていた。
 老婆は、カブをちょっと引っ張ってから、こちらを向いて言った。
「これを抜くのは、少しばかり骨が折れそうだ。あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを引っ張るんだ」
 私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
 老婆が叫ぶと、しばらくして、誰かが森の中から顔を出した。それはおじいさんだった。
「お呼びですか、おばあさん」
「ああ呼んだよ、おじいさん」
「おばあさん、こちらの方はどなたですか?」
 私がそう質問すると、その時初めて、おじいさんは私に気が付いたようだった。
「なんだ君は!?」
 老人の頭の中で、何かが切り替わったのだろう。猫背気味だった背筋を真っすぐ伸ばし、仁王立ちした老人が、私に向かって一喝した。
「えっと、アカデミーの方から来ました」
「アカ……なんだって? よう聞こえん! もっと大きな声で話せ!」
 なるほど、私の声が小さかったのかと思い、私は腹に力を込めて言い直す。
「アカデミーです!」
「あ!? なんだって?」
 そんなに聞こえないものだろうか。私は、不審に思いながらも、声を張り上げた。
「ア、カ、デ、ミー、の、者、です!!」
「あー!? 何を言ってるのか、全然聞こえん!」
 そんな馬鹿な。そりゃないだろう。その時、老婆が口を開く。
「アカデミーから派遣されてきたんだよ。あたしの手伝いをしてるんだ」
 老婆がそう告げると、老人の様子が再び変化した。私に気が付く前のぼんやりとした表情に戻ると、優しげな口調でこう言った。
「そうか、アカデミーか。それは、ご苦労さん」

60 :
【森の向こう側の私たち】(3/4)

「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、それぞれ引っ張るんだ」
 老人が私を――――

「変なとこ触りました?」
「触ってないよ」

 ――――私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
 そう老婆が叫んだ。
「それで、このおじいさんはどなたなんでしょう?」
 誰かが出てくるまで、雑談をして待つことにしよう。私はそう考えた。
「当ててみな」
「……ドロッセルマイヤーさん?」
「違う」
「結核で亡くなられた方ですか?」
「違う」
「ヒント下さい、ヒント」
 すると老人が口を挟んできた。
「どうも最近、故国では、私を街中に放ったらしいよ」
「……文豪か」
「そうです、私が肺炎で死んだおじさんです」
「お呼びですか、おばあさん」
 その時、また誰かが森の中から顔を出した。それはワニだった。
「ああ呼んだよ。遅かったじゃないか」
「おばあさん、こちらの方はどなたですか?」
 そのワニは、二足歩行で、手にはアコーディオンのような楽器を持っていた。
「ワニさ。見りゃ分かるだろ」
「本物ですか? 死んでるんですか?」
 私が畳み掛けると、ワニが返事をした。
「本物かどうかは分かりませんが、私はまだ死んでいませんよ、多分」
「そのアコーディオンはなんですか?」
「……残念だけど、命日は、年に一度だけなんですよ」

61 :
【森の向こう側の私たち】(4/4)

「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、ワニはこの老人を、それぞれ引っ張るんだ」
 ワニが老人を、老人が私を――――

「変なとこ触ってませんよね?」
「もちろん、触ってないよ」

 ――――私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
 老婆が叫ぶと、またしばらくして、誰かが森の中から顔を出した。それは娘と若者だった。
「ここは……どこだ。ヘーケの隠れ家か?」
「違うと思いますが……」
「あれっ、ハクアたん……ではないな。あれー?」
「何をごちゃごちゃと言ってるんだ。こっちへ来て手伝いな」
 二人は少なからず混乱した様子だったが、老婆に言われるまま、ワニの後ろに付いた。
「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、ワニはこの老人を、あんたはワニを、あんたはそっちの若いのを、それぞれ引っ張るんだ」
 娘が若者を――――

「変な所を触らないでくれ」
「触ってないでございますよ」

 ――――若者がワニを、ワニが老人を、老人が私を、私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「誰か! 誰かいるかい。手伝う者はいるかい!」
 老婆が叫ぶと、すぐに誰かが森の中から顔を出した。その人の頭には猫耳が生え、顔は仮面で隠れ、はんてんのような上着の袖に小麦色の肌が見えた。
「お呼びですかにゃー」
「ああ呼んだよ。早いね」
「おばあさん、こちらの方はどなたですか?」
 私がそう質問すると、猫耳の人が答えてくれた。
「にゃーの名前はニャンダモですにゃー。本人ですにゃー。ちなみに、この仮面は、感染症対策とは全然関係ないですにゃー」
 猫耳の人が、さっきの娘の後ろに付いた。
「それじゃ、あたしがカブを引っ張るから、あんたはあたしを、あんたはこの娘を、ワニはこの老人を、あんたはワニを、あんたはそっちの若いのを、猫はその娘を、それぞれ引っ張るんだ」
 猫耳の人が娘を――――

「もし変な所を触ったら、たたっ切るでございますよ」
「分かりましたにゃー。触らないですにゃー」

 ――――娘が若者を、若者がワニを、ワニが老人を、老人が私を、私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、カブは抜けなかった。
「これじゃ切りがない。……我がしもべよ、親愛なる友よ、カブを抜くのを手伝っておくれ!」
 すると足が三本と、老婆の小屋まで、その場に現れた。
 小屋の足が足の一本を、その足が別の足を、別の足が残りの足を、残りの足が猫耳の人を、猫耳の人が娘を、娘が若者を、若者がワニを、ワニが老人を、老人が私を、私が老婆を、老婆がカブを、引っ張って、引っ張って、とうとうカブが抜けた。
 抜けたカブは、勢い余って飛んでいき――――

「満月ですにゃー! ムーンライズですにゃー! ……新月ですにゃー!」

 ――――太陽に張り付いた。

 昼と、太陽と、夜が、同時に訪れた。黒い太陽が頂く黄金の冠は、より一層激しく燃え上がった。
「脱獄の物語ですにゃー! ねこのゆめですにゃー!」
 こうして大きなカブはすっかり焼き上がった。私たちは全員でカブを食べた。それでみんな丸々と太ってしまい、今でも森の中で、ごろごろと転がっている。

62 :
順番待ちがあったとは言え、また完全遅刻・・・
しかも意味不明過ぎる超長文
すみません

作中では伏せてますが、老婆はバーバ・ヤガーです

63 :
お題→『恐竜』『コネクト』『満月』『カブ』『新生活』締切

【参加作品一覧】
>>42【シチリアでの新しいスタート】
>>49【ダイジョーブッ!】
>>54【士官学校の問題生】
>>58【森の向こう側の私たち】

64 :
えーと、では
予告通り、2つ固定+1つ選択の企画をやります

先に3つ、通常お題
先の3つとはなるべく関係『ない』ものを固定用に1つ
固定用の1つとなるべく関係『ある』ものをもう1つ、です

いつものお題安価>>65-67
固定用の1つ目>>68
固定用の2つ目>>69

65 :
刺繍

66 :
厳選

67 :
プリンセス

68 :
絹のドレス

69 :
『白いスーツ』

70 :
☆お題→『絹のドレス』『白いスーツ』+『刺繍』『厳選』『プリンセス』から1つ選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約2000字、60行が上限。

☆締め切り→4/19の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

71 :
今回は全選択できないルールです
『絹のドレス』『白いスーツ』は必ず使い、『刺繍』『厳選』『プリンセス』からは1つだけ
つまり3つ選択

企画の意図としてはアンチシナジーが欲しくて、説明にも書いたつもりだったんですが、伝わってねぇ
シナジーしかねぇ
逆に書きやすそうではあります

ともかく、お題、作品、感想、ありがとうございます
引き続きお題スレをよろしくですー

72 :
>>49
男は心配し然れど女は逞しく生きるですね
読み終わって、往年の名作漫画『死○くん』を思い出しました
>>58
オールスターな『大きなかぶ』と言った所でしょうか?
スラブのトリックスターは邪悪と言われながらも、何だかんだで主人公を助けてくれる存在ですよねw

73 :
>>49
これはー、お久しぶりですね(人違いだったらすみません!
奥様の『新生活』、『恐竜』の例え、『カブ』で失敗、事実を『コネクト』、『満月』と桜
やっぱりセンスある、やっぱり『コネクト』は難しかったw
無理があるって感じでもなく、読みやすく面白く仕上がってるのではないかと
>>54
なんやこの現地人主人公ラブコメw
士官学校での『新生活』、『恐竜』の子孫、『満月』の下の彼女、呪文『コネクト』、『カブ』どこwメ『ガブ』ラスター
なんか、、アンラッキースケベ、主人公悪くないのに問題だらけw
難しい『コネクト』も、『カブ』は分かんないですけどw、うまく処理した感じー
>>72
感想ありがとうございます
今回は大甘ですw

74 :
>>70
使用するお題→『絹のドレス』『白いスーツ』『プリンセス』
【可愛いプリンセスは危険の香り?】(1/2)
今日もさすらいの女ガンマン・シンディは愛馬のサンセットに跨り、広大な荒野の中を颯爽と駆け抜けていた。
次の町へと向かう途中、微かにだが遠くに何かがあるのが見えてきた。
「サンセット、ちょっと止まって!」
シンディは走るサンセットを止まらせる。背中から降りて近づいてみると、白い絹のドレスを身につけた少女が倒れていた。
「こんな所でどうしたの?大丈夫なの?」
ちゃんと息をしている、生きているのは確かだ。体を少し揺すると、その少女は目を覚ました。
「お嬢ちゃん、こんな荒野のど真ん中で何やってるの?」
「私、パパとはぐれて迷子になっちゃったの。必死に探している途中で空腹になっちゃって意識を失ってたみたい…」
「迷子?それは大変ね、もしよかったらパパを探すの手伝ってあげるわよ?」
「ほ、本当!?それは嬉しいわ!」
シンディは携帯している食糧を少し少女に食べさせると、彼女をサンセットの背中に乗せて走り出す。
「自己紹介がまだだったわね。私はシンディ、それからこの子が愛馬のサンセットよ。一緒にさすらいの旅を続けているの」
「へえ、そうなんだあ。私はメアリー、ここから遠く離れた場所にお城があってね、そこに住んでいるプリンセスよ」
「プリンセス?綺麗な白いドレス着ているから貴族の出身かなとは思ったけど、まさかそうだったとはね…」
「うん、パパと楽しく散歩していたら砂嵐に巻き込まれて飛ばされちゃったの。ここ、砂漠が近くて砂嵐が発生しやすくて危険なんだ」
メアリーの言う通り、今走っている地域はサボテンでさえもほとんど生えておらず、荒野というよりは砂漠に近い場所だった。
「少しルートを変えた方がいいわね」
砂漠に入って砂嵐に巻き込まれては大変だ、と思いシンディは南東の方に向きを変えて走ることにした。
途中、休憩しながらも走り続けて4時間ほどが経過した。すると遠くに白い服を着た痩せた男の姿が見えてきた。
「シンディさん、ちょっと止まって!」
メアリーにそう言われて、シンディはサンセットを止める。メアリーは咄嗟に降りると、その男の方に向かって走り出す。
「パパなの?ねえ、パパなの!?」
「も、もしかしてメアリーなのか!?」
その白いスーツを着た、痩せて髭を生やしメガネをかけた男がどうやらパパのようだ。
無事に娘が見つかり、男は嬉しそうにギュッと抱き締める。
「会えて本当によかった!」
「あのシンディさんって人が迷子の私を見つけて助けてくれたんだ!」
「おお、ありがとうございます。私はメアリーの父のマークと申します。どうお礼をすれば良いのやら…」
「お礼なんて別にいらないわ(もしお金をくれるなら、ありがたく受け取るけど)」
その時だった。近くの岩陰から誰かが現れて銃を放ち、その銃弾がシンディの左脚に命中した。
「ウグッ!い、一体何なの!?」
「まんまと引っかかったな、マヌケな女ガンマンめ」
突然、マークが歯を剥き出しにして意地悪く笑い始める。メアリーもニヤリと不気味な笑みを浮かべている。

75 :
【可愛いプリンセスは危険の香り?】(2/2)
近くの岩陰に隠れてシンディに発砲したのは、かつて無法者集団のリーダーで腕利きの殺し屋と恐れられたゴールドタンクという男だった。
「ここでシンディを殺せる日が来るとはな!」
「あ、あんた達、私を罠に嵌めたということ?」
「ああ、その通りだ。全ては金のためだからな!」
マークとメアリーは没落貴族で住む場所を追いやられ、いつか必ず這い上がるため
ゴールドタンクと手を組んで、賞金首を片っ端から捕まえては懸賞金を荒稼ぎしていた。
「今、お前を捕まえれば大金を得ることができるのさ!」
「わ、私、賞金首じゃないんだから捕まえても賞金が出るわけないじゃない…!」
「それがさ違うんだよ、これを見な!」
マークが出したのはシンディの顔が描かれた手配書で、なんと100億ドルもの懸賞金がかけられていた。
「だ、誰よ、こんなデタラメな手配書を作ったのは!」
「まあ、それはお前を捕まえた後に教えてやる!やれゴールドタンク!」
ウッス!の返事と共にゴールドタンクは今度は右腕を撃つ。左脚と右腕を撃たれ、血をダラダラと流しながら、シンディは地面に膝をついて倒れてしまう。
メアリーはアハハと笑いながら、倒れたシンディのお腹を勢いよく蹴り上げる。
「グヘッ!!」
「情けない女ガンマンね!哀れすぎて笑っちゃうわ!」
「サ、サンセット、あなただけでもいいから、に、逃げて!」
「そうはさせるか!」
サンセットに向かってある物を放つ。麻酔銃だ。サンセットの意識は朦朧とし気絶、バタッと倒れてしまった。
「サンセット!」
「これでお前の愛馬もどうすることもできない!さあ、お前にもだ!」
シンディも同じく麻酔銃を撃たれ、そのまま気絶してしまう。
「よーし!これでシンディの捕縛は成功だ!」
「やったねパパ!これで私達はまた栄光を手に入れられるのね!」
「もちろんだメアリー!」
シンディをロープ、サンセットを鎖で全身を縛ると大きな荷馬車に乗せる。
彼女達は一体どこに連れて行かれるのだろうか、そして運命や如何に!!

76 :
>>73
進行様、ご無沙汰しております
過去に十代目未だ休めず等を投稿した者です
そのように言っていただけるとありがたいです
確かにコネクトは難しかったですが、そこはこのスレの醍醐味と言いますか、楽しみがあるというものです
また一休の続編も投稿していきたいと思います

77 :
>>74
絶体絶命の大ピンチですね
つまりはあの方の出番でしょうか?
>>73
感想有り難うございます
一時期、こんな感じのラノベが流行ってたよなぁと思いながら書いていましたw
かぶは、士官学校が軍の下部(かぶ)組織と言う事でw

78 :
>>77
感想ありがとうございます!
シンディ、まさに絶体絶命!まさか破格の懸賞金がかけられていたとは…!
「あの方」は果たして出てくるのか?次回をどうぞお楽しみに!
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

79 :
>>74
早速wと思ったら新しい挑戦が
『絹のドレス』の『プリンセス』、『白いスーツ』の男
一体誰が懸賞金を、本当に100億ドル払う気があるのかw
続きが気になります!
>>76
良かった人違いじゃなかったw、続編も待ってますー
>>77
そこか!! なんで見落としたんでしょう・・

80 :
>>79
感想ありがとうございます!
今回は一話で決着せず次回へと続くまさかの展開でした
幼い子供までもが金のために狂気に走るというまさに世紀末です。次回をどうぞお楽しみに!
今回も楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

81 :
>>70
使用するお題→『絹のドレス』『白いスーツ』『厳選』
【思い出は走馬灯のように駆け巡っていく】(1/2)
レイチェルはとてもワクワクしていた。今日は3ヶ月ぶりにライアンがハリウッドから帰ってくる日なのだ。
大好きなライアンに会えない日々が続き、寂しくて泣きそうになる時もあったが、
そんな時は夢のハリウッドで俳優として活躍する彼の姿を思い浮かべる。
そうすると寂しい気持ちは自然と収まっていき、ニッコリと笑顔になっていくのだ。
それに今はジュディも近くにいる。幽霊であるため姿は見えないものの、ライアンとレイチェルはそんな彼女の気配をしっかり感じ取ることができるし、声も聞こえられる。
「ねえレイチェルさん、今日は久々にライアンさんが帰ってくるんでしょ?嬉しい?」
「もちろん嬉しいに決まってるじゃない!ジュディ、大人をあまりからかっちゃダメよ」
「ごめんなさーい!」
ライアンは今夜の7時頃に帰宅する予定だ。それまでの間、レイチェルは寝室のクローゼットにある色々な衣類の整理をすることにした。
ほとんど着なくなったジャケットやコート等を、近くの小学校で行われるヤードセールに出すために箱に入れていく。
きっちりと整理していく中、レイチェルはたまたま純白の絹のドレス、そして白いスーツを
見つける。
「こ、これは…!」
「レイチェルさん、どうしたの?」
「懐かしいわ、このドレスにスーツ!ライアン、ずっと保管してくれていたのね」
そもドレスとスーツはシチリアへと旅立つ前の大切な結婚式のために、ライアンが厳選して用意してくれたものだ。
「レイチェル、そのドレスすっごく似合ってるよ!可愛い!」
「ライアンもその白いスーツとてもイカしてるわ、まるで王子様みたい!」
お互いに試着した時の会話を思い出す。それを思うと懐かしくて、気付かないうちに目からポロリと涙がこぼれてきた。
あの結婚式はとても盛大で最高のものとなった。
「う、うぅ。ライアン…!」
「ライアンさんとレイチェルさんの結婚式、私も見たかったなあ」
「確かちゃんと録画されたDVDがあるから、また後で見せてあげるわ」
「本当!?やったあ!!」
ジュディが出してくれたハンカチで涙を拭くと、レイチェルはまた荷物の整理を続ける。
するとまた懐かしい服が出てきた。
「あーっ!レイチェルさんがすごく愛用してた黒猫の衣装だー!」
「あ、愛用だなんて…!」
そう、シチリアでレストランを開いていた時に余興でよく身につけていた黒猫のコスチュームだ。
これもライアンが余興をもっと盛り上げるために、厳選して買ってきた物だ。
「ど、どう?ライアン…」
「す、すっごく似合ってるよレイチェル!その猫耳に尻尾可愛いよ!」
「そ、そう?ニャ、ニャーン!」
「レイチェル、最高だよ…!」
また試着した時の会話やその場面を思い出す。
あくまで余興オンリー、自分の本来の姿は女ガンマンだとレイチェルはずっとそう思っていた。
しかし、あるハロウィンの夜、攫われたライアンと奪われたガンマン衣装を取り戻すべく、黒猫の衣装に身を包んで、犯人である市長の女秘書と闘ったのだ。
それ以来、余興だけでなくハロウィンの季節になると着ることもあったが、いつの間にか全く着なくなり、クローゼットに放置したままだった。

82 :
【思い出は走馬灯のように駆け巡っていく】(2/2)
「すっかり忘れてたわ…。ライアン、これもちゃんと大事に保管してくれてたのね…」
「私、黒猫姿のレイチェルさん大好き!もしかしたらガンマンのよりも好きかも」
「こ、こらジュディ!あ、あんまりからかうと怒るわよ!」
「えへへ、ゴメンゴメン!でも黒猫姿のレイチェルさんもカッコいいのは本当だもん!」
「あ、ありがとう。そう言われると、何だか、て、照れちゃうわ…」
いつの間にかトマトのように顔が赤くなっているのが自分でもよく分かった。
余興の時以外着るのはあまり好きじゃなくて、身につける度に恥ずかしがっていた。
その時の自分を思い出すとますます顔が赤くなり、湯気が出てきそうな勢いだ。
するとレイチェルは今着ているガンマン衣装を脱ぐと、その黒猫の衣装に身を包んだ。
「ニャーン!私は黒猫のレイチェル、闇夜の戦士よ!」
「レイチェルさん、やっぱり似合ってるよ!」
「ジュディ、今回だけのスペシャルサービスよ!ライアンには秘密にしてね」
「もう見てるよ」
「「へっ!?」」
レイチェルとジュディが後ろを振り返ると、なんとまだお昼だというのにライアンが家に帰ってきていたのだ。
「えっ、確か7時ぐらいに帰ってくるはず…」
「予定より早く終わってさ、帰りの飛行機のチケットも早いのが取れたんだ。レイチェル、またその黒猫衣装を着るなんてビックリだよ」
「えっと、そ、その・・・・ニャ、ニャーン!!」
「アハハ、やっぱり可愛いね!ただいまレイチェル、それからジュディ!」
「おかえりライアン!」
「ライアンさん、すっごく寂しかったよ!」
「ジュディ、ライアンがいないから寂しくて泣いてたのよ」
「それはレイチェルさんでしょ?」
互いに体を強く抱き締めて笑い合う3人なのであった。
豪華なディナーを済ませた後、レイチェルとライアンは互いに結婚式の時に着たドレスとスーツを身につける。
その姿にジュディはパチパチと拍手しながら、嬉しそうにはしゃいでいる。
「2人ともすっごくお似合い!本当にラブラブカップルって感じ!」
「本当に最高の結婚式だったよね、ライアン」
「ああ。君に出会えて、そして人生のパートナーになれて本当に幸せで嬉しい」
「私も今、全く同じこと考えていたわ。ありがとうライアン!」
「アハハ、ありがとうレイチェル!」
そしてあの結婚式の時と同じように、互いにキスをするのだった。
それを見たジュディは太陽のように明るい笑顔で、そのままレイチェルとライアンに飛びついた。
「私もこの2人と同じ家族になれて本当に幸せ!ありがとうライアンさん、そしてレイチェルさん!」

83 :
>>81
品物を整理していると、それにまつわる思い出で、ついてが止まってしまう事、良く有りますよね
レイチェルさんは、特に楽しかった事も多いので、手を止める回数が多そうです

84 :
>>81
本編の後日談で、衣類にまつわる思い出
ライアンが『厳選』した『絹のドレス』と『白いスーツ』・・・など
ガンマン衣装は普通に着てた、黒猫衣装も捨てるわけがなかったw
忙しくても they lived happily ever after なら、、、ですね

85 :
>>83
>>84
感想ありがとうございます!
今回は懐かしの衣類を通して、これまでの楽しくて素敵な思い出を振り返るといったお話でした
黒猫のコスチュームも何だかんだでレイチェルにとっては、楽しい思い出がたくさん詰まった大切な衣装なんです
それから現在はアメリカに帰ってきた後の誕生日に、ライアンがプレゼントとして買ってくれた新しいガンマンの衣装を着ているという設定ですw
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

86 :
そんな設定がw

87 :
ところで、回ってきたのがちょっと面白かったので貼っておきます
https://asobo-design.com/nex/blog-1025-33686.html

88 :
>>86
はいw
最終回(スレ7>>284【夢は決してあなたを裏切らない】)の最初辺りを読めば分かるのですが、
10年以上も長いこと愛用してきたガンマン衣装はすっかりボロボロになっているんですよね
レイチェルにはいつまでもガンマンの姿でいてほしいという、ライアンの彼女への強い想いです
でもたまにでも良いから黒猫になってくれたらもっと嬉しい、というのが彼の本音でもありますw

89 :
>>70
お題:『絹のドレス』『白いスーツ』+『厳選』
【週末の黄昏】

 家に帰ると、即座にPCを立ち上げる。
 起動している間に冷蔵庫から落花生を取り出し、バターと塩で軽く炒めた。
 サイドボードからはウィスキーのシングルモルトを引っ張り足すと、PCのフォルダから『厳選』とタイトルされたソレを選択する。
 グラスにウィスキーを注ぐ。
 常温で良い。常温が良い。
 ピートのフレーバーを嗅ぎながら、ソルトピーナッツを一摘まみ口に放り込む。
 画面では白いスーツのロックスターが情感たっぷりに、名曲『絹のドレス』を歌い上げていた。
 ストレートをノーチェイサーで飲み干す。
 少しはかりの酒気の混じった息で、フラりと立ち上がると、本格的に腹を膨らまそうと、キッチンに立った。
 パスタを茹でながら鼻唄を歌う。当然曲名は『絹のドレス』だ。
 高潔な女と口ずさみながらホールトマトを潰し、使い古されたフライパンで混ぜながら炒める。
 PCフォルダの『厳選』を選択し、白いスーツのロックスターを再生する。
「我が青春に」
 そう言いながら、パスタを肴にウィスキーを呷った。

90 :
>>70
前スレ578の続編です

使用お題→『絹のドレス』『白いスーツ』+『刺繍』

【向こうで立ち話をされているのは聖女様と神官長様ですね】

「聖女様、神官長様、いかがされたのですか?」
 深刻な表情のお二人は、一瞬、虚をつかれたお顔になって、けれども、すぐに笑顔を向けてくださいます。
「明日の朝ご飯のご相談ですか? そう言えば、騎士団の新人の方は、やっぱりすご……はっ!? もしや! 新人さんのせいで朝ご飯の予算が不足しているのでは!? 私の朝ご飯!」
 お二人の笑顔に安心した私は、分かっています、悪い癖なのです、つい自制心を失って、まくし立ててしまうのです。
「いえ、そうではなく……」
 こんな私に対してさえ穏やかに接してくださる、神官長様。白い祭服が貧相……失礼、とてもスマートに見える、しわしわでひょろひょろのおじいちゃんです。
「……いえ、そうですね、予算の問題ではありますが」
 このおじいちゃん、神殿で一番偉いお方です。信仰に関して一番偉いのは聖女様ですが、お財布を握っているのは神官長様なのです。
 そのお方が、にこやかな表情で、しかし冷静に、恐ろしいことをおっしゃいます。
「予算の問題なんですか! 私の朝ご飯……」
 愕然(がくぜん)とする私ですが、そんな私を安心させるように、聖女様の口からお言葉が紡がれます。
「朝ご飯の予算は大丈夫ですよー。予算は予算でもー、結婚式の予算なのでー」
「けっ、結婚式ですか!」
 どなたの結婚式なのでしょう。まさか聖女様と神官長様ではないと思いますが!
 今日も聖女様はお美しい……ピッカピカです、人体発光現象です!
 そんな聖女様と、失礼ですが今日ぽっくりでもおかしくない神官長様です。それはいくらなんでもないなー……ないといいなー……。
「王子様とー、貴族のご令嬢ですよー」
「……へっ? 何がですか?」
「結婚式ですよー」
「そうなのですか! 良かった……」
 聖女様の未来は救われました。
「それが良くないのですー。今の王家にはお金がないらしくー、結婚式を神殿で執り行うこととー、その費用を神殿持ちとするよう言われているのですー」
 全然救われていませんでした。ビンチだったのは聖女様ではなく神殿でした。つまり。
「今ご説明頂いた通りですね。この費用をどうやって工面するか、二人で頭を悩ませていたところです」
 それはつまり、朝ご飯の予算が削られる可能性……。
「ああ、ひょっとして、何か良いお考えがおありなのでは。あなたと聖女様、いつもお二人で、楽しそうにお話しされていますよね」
 私の朝ご飯が減らされる! そうなっては大変です。
「そうですね、いい考えがないかと聞かれたら、ありますとお答えする、私はそう心に決めております!」
 だから私の朝ご飯を減らさないでください!
「ですので、そうですね……。結婚式に来られた方々から、なんらかの名目で、お金、ご祝儀を徴収するというのはいかがでしょう?」
「なるほど、それはいいかも知れませんね」
「ですが、ただお金を集めるだけでは、けちんぼな神殿、金欠神殿だと、皆様に思われてしまうでしょう」
 事実ではありますが。金欠なのは否定できません。
「ごもっともです」
「そこで……何か……そう、何か記念になるような品物……記念品を渡すのです」
「素晴らしい。その記念品は、どんな物を渡したら良いでしょうか」
「それは……」
 私は、聖女様のお顔を見て、神官長様のお顔も見て、それから、しばし黙考します。
 聖女様、結婚式、ドレス……ではなく……聖女様、予算、手作り……。
「……聖女様。聖女様は確か、刺繍(ししゅう)がお得意でいらっしゃいますね」
 実は、聖女様は、さる大貴族のご令嬢なのです。……まさか王子とやらの結婚相手は聖女様なのでは。気になりますが、考えないようにします。
「ええ、得意ですよー」
 そして貴族のご令嬢であるからには、刺繍の一つや二つお手の物なのです。
「神殿の皆に、刺繍のやり方をお教えください。素敵な刺繍入りの記念品を作るのです。ハンカチなんていいかも知れません」

 *

「なんで俺までこんなことを……」
「聖女の前でー、ぶらぶらしてるのが悪いんですよー」
「仲間外れにしたら悪いかなと! そう思いまして!」
 後日、聖女様と私と騎士団長様で、試作品を作ることになりました。絹のドレスの花嫁と白いスーツの花婿をイメージした絵柄です。ところが。
 王家の金欠が相手方に伝わってしまったようなのです。
 結果、婚約はうやむや、結婚式は中止。私たちの手元には、試作品の素敵なハンカチだけが残されたのでした。

91 :
お題→『絹のドレス』『白いスーツ』+『刺繍』『厳選』『プリンセス』締切

【参加作品一覧】
>>74【可愛いプリンセスは危険の香り?】
>>81【思い出は走馬灯のように駆け巡っていく】
>>89【週末の黄昏】
>>90【向こうで立ち話をされているのは聖女様と神官長様ですね】

92 :
ではでは、今回は通常お題5つです

お題安価>>93-97

93 :
ハンマー

94 :
乙女ゲーム

95 :
ポテトチップス

96 :
邪神

97 :
『アマビエ』

98 :
☆お題→『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→4/26の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

99 :
これはw
なかなかユニークな組み合わせでは

お題、作品、感想、ありがとうございます
まぁやっぱり過疎ですが、引き続きお題スレをよろしくー、皆様のご参加もー

100 :
>>89
これはストレートw
『厳選』フォルダ、『白いスーツ』のあの人w、名曲『絹のドレス』
簡潔に、雰囲気が出てるお話でしたー

101 :
>>90
相変わらずの直感行動ですね
それでも良い方向に行くのが凄い
そして巻き込まれるのがお約束の騎士団長
お疲れ様ですw

102 :
>>100
感想有り難うございます
絹のドレスと言われたら、もうこれしかorz

103 :
>>101
感想ありがとうございます!
勢いだけの主人公に、頼れる騎士団長ですw
・・・今見直したら誤字発見・・・誤字探しクイズを開催します><

104 :
>>98
使用するお題→『ハンマー』『ポテトチップス』『邪神』

【姉弟の仁義なきドタバタバトル】(1/3)

ある日のこと、カナミの背後にケンスケがニヤニヤしながら歩み寄ってくる。彼の手にはおもちゃのマジックハンドがあった。
姉は弟が背後にすぐ近くまで迫っているのに気付いていない。まさにその瞬間だった。

「それっ!」

ケンスケはマジックハンドでカナミのポニーテールを掴むと、少し強めにグイッと引っ張った。

「わ、ワワワワッ!!い、一体何なの!?」
「アハハ!」
「ケンスケ!また…!」

ケンスケは時々、マジックハンドを使って姉のポニーテールを掴んで引っ張ったりとイタズラをすることがあるのだ。

「それで髪を掴んで引っ張るのはやめてって、前に何回も言ったでしょ?」
「だ、だってお姉ちゃんのポニーテールって見てたら掴んで引っ張りたくなっちゃうんだ」
「どういう理由よ。まあ今度やったら許さないわよ、分かった?」
「う、うん…」

弟の返事を聞くと、カナミは自分の部屋に戻り、宿題を始める。

「ケンスケったら全くしょうがないんだから。あの頼りない返事からすると、またやるに違いないわね…」

宿題をしながらブツブツと呟いていると、突然いいことを思いついた。

「そうだ!確かあれがあったはず!」

クローゼットを開けて、ある箱を取り出す。その中には幼稚園の頃によく遊んでいたが、今はほとんど使わなくなったおもちゃや小道具が入っていた。

「あった!あった!」

カナミが手にしたのはピコピコハンマーだった。幼稚園の頃、夏祭りに行った時に輪投げの景品で貰った物だ。

「ウフフ、またケンスケが何かしたらこれで…」

ある土曜の午後、カナミはリビングのソファーに寝転んでスヤスヤと気持ち良さそうに昼寝をしていた。
そんな姉にケンスケがニヤニヤしながら音を立てずにゆっくりと近づいてくる。彼の手にはもちろんマジックハンドがあった。

「お姉ちゃんったら本当に無防備だね」

そう言ってマジックハンドで姉のポニーテールを掴もうとしたその時だった。

「引っかかったわね!」
「へっ!?」

カナミはいきなり目を覚ますや否や、背中に隠し持っていたピコピコハンマーでケンスケの頭をポコっと叩く。
突然のハプニングに弟は動揺し、一瞬怯んでしまった。

「ね、寝てたのは演技!?」
「そうよ、まんまと引っかかっちゃって笑えるわね。今度はこっちのターンよ!」

カナミはピコピコハンマーで逃げる弟の頭をポコポコ叩きながら追いかける。

105 :
【姉弟の仁義なきドタバタバトル】(2/3)

「わっやめて!やめてよー」
「アハハ、まだまだよ!」

カナミは逃げるケンスケを食卓の隅っこにまで追い詰めた。

「ケンスケ、もう逃げられないわよ。観念しなさい」
「お願いだから頭をポコポコ叩くのやめてよ」
「ううん、なんか楽しいからやめない」
「ぼ、僕の心の中に潜む小さな邪神が僕を唆したんだ。お姉ちゃんのポニーテールを引っ張れって。最初は必死にそんなことできないって拒否したんだけど、邪神が全然離れなくて…」
「要するに魔が差した、ってことでしょ?」
「うん、そういうこと。降参するからさ、もうバトルは終わりにしようよ」

するとケンスケは近くの棚に置いてあったポテトチップスの袋を手に取る。

「終戦したということで一緒にポテチでも食べよう、お姉ちゃん」
「それはいいわね」

袋を開けると、姉弟は仲良くポテチを食べ始める。

「ポテチはコンソメパンチが一番だよねー」
「うんうん、分かるわ」

袋の中のポテトチップスを全部食べ終えたその瞬間だった。

「ふー、美味しかったわね」
「スキあり!」

ケンスケは素早い動きで、マジックハンドでカナミの左足の方のハイソックスの爪先の部分をガシッと掴んだ。

「な、何!?」
「お姉ちゃんこそ、まんまと引っかかったね。僕が潔く降参したことにすっかり気が緩んじゃってさ」

マジックハンドで爪先を掴んだまま、弟は姉のハイソックスを勢いよくズルッと脱がした。
その拍子にカナミはドテッと尻餅をついて倒れてしまう。

「お姉ちゃんのハイソックス、ゲットだー!」
「まんまと私を騙すとは、良い度胸してるわね。こうなったら超本気モードでいくわよ!」

姉弟の凄まじいバトルがまた始まった。それはとても強烈なものだった。

「私を怒らせたことを後悔するがいいわ!」
「僕は怒ったお姉ちゃんにビビるほど弱くないよ!」
「生意気なこと言っていられるのも今のうちよ」

カナミのピコピコハンマーとケンスケのマジックハンドが互いにぶつかり合い、バチバチと火花が散っている。
弟がマジックハンドで、ピコピコハンマーを持つ姉の右手首をガシッと掴む。
しかし、姉は咄嗟に左手にハンマーを持ち替え、弟のお尻をポコっと叩く。

「ウ"ッ!!」
「腕はなかなかだけど詰めが甘い。あんたのことよケンスケ!」
「そ、そんなぁ!」

106 :
【姉弟の仁義なきドタバタバトル】(3/3)

ケンスケの手からマジックハンドが落ちる。これで決着か、と思いきやカナミは手からピコピコハンマーを放して床に置く。

「ケンスケ、ここまで来たら互いに武器を捨てて戦いましょ」
「望むところだよ、お姉ちゃん!」

お互いに武器を捨て、素手だけでのバトルとなった。

「行くよ、お姉ちゃん!」
「どこからでもかかってきなさい!」

その時、カナミが膝をついて倒れてしまう。彼女は思い出した。終戦の意としてポテチを食べた後、一瞬の隙を突かれて弟にハイソックスを脱がされたことを。
そう、ハイソックスを片方でも脱がされてしまうと、カナミはパワーダウンしてしまうという弱点があるのだ。

「す、すっかり忘れてたわ…」
「僕はお姉ちゃんの弱点をちゃーんと分かってたんだ」

ケンスケは姉に近づくと、コチョコチョとくすぐり攻撃を始めた。

「アハハ、くすぐったい!や、やめてワハハ!」
「ううん、楽しいからやめない!さっきポコポコ頭を叩かれた時のお返しだよー!」

しかし、さっきまで素早かったケンスケの動きが次第に鈍くなっていき、攻撃の手が弱まってきた。
そう、ケンスケは体力が少なくて実は長期戦が苦手という弱点があった。姉とのバトルは開始から既に4時間を超えており、スタミナ切れを起こしていた。

「ち、力がこれ以上出ない…」
「私はケンスケの弱点をちゃーんと分かってる」
「だ、だから、わざと長期戦に持ち込んだということだね」
「その通りよ!」

パワーダウンとスタミナ切れでは、まだ僅かにではあるがパワーダウンの方に分がある。

「ケンスケ、残念だけど私の勝ちね」
「そ、そんなぁ…!」

まさに決着の瞬間、と思ったその時だった。

「あんた達、いつまで激しくじゃれ合ってるのよ。猫じゃあるまいし…」

買い物と銀行に出かけていた母が、ちょうど家に帰ってきたところだった。

「「あ、お母さん!おかえりなさい!」」
「大雨で外で遊べないのは分かるけど、家の中で暴れるのはやめてちょうだい。分かった?」
「「ハ、ハイ!」」

母の介入?により、4時間にも渡った姉弟のバトルは互いに引き分けという形で幕を閉じた。
夕食を終えると、2人はリビングのソファーに座って今日のバトルを振り返った。

「お姉ちゃんのピコピコハンマーには、どう足掻いても勝てなかったな。強すぎるよ」
「ケンスケのマジックハンドも大したものだったわよ。でも油断しすぎなところと、詰めが甘いところは克服した方がいいわね」
「油断しすぎなのはお姉ちゃんも一緒じゃん」

顔を合わせてアハハと笑うと、互いに背中に隠し持っていたピコピコハンマーとマジックハンドを出す。

「次のバトルはいつにする、お姉ちゃん?」
「私はいつでもいいわよ」
「今度は負けないからね」

107 :
>>104
今回は平和な世界w
ピコピコ『ハンマー』、小さな『邪神』w、『ポテトチップス』で・・・
これは結構な力作だったw、形勢が二転三転して面白かったです

108 :
>>107
感想ありがとうございます!
姉と弟の壮絶なバトル(というよりじゃれ合い?)でしたw
終戦としてポテトチップスを食べてからの再戦の流れが一番書いてて楽しかったです
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

109 :
>>104
姉弟のじゃれあいですね
お互いの弱点を把握しつつの攻防
仲良くケンカをして欲しいものです

110 :
>>109
感想ありがとうございます!
姉弟は仲良くケンカすることでお互いに絆を深めていってほしいなあ、とよく考えていますw
今回も楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

111 :
>>98
お題:『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』

【楽しいお仕事】(1/2)
 わたしの名前は天宮 洋子! どこにでも居る、ちょっとおっちょこちょいな女の子。
 今日から新学期だっていうのに、わたしは寝坊して遅刻ギリギリに成っちゃった!

「あ〜ん、遅刻遅刻ぅ!!」

 朝食のパンを咥えながら走るわたし! あの角を曲がれば学校だわ! よ〜しラストスパート!!

 ドッシーン!!

「きゃあ!!」
「うわ!!」

 尻もちをついたわたしの前には、カッコイイ男の子が。

「おい! 気を付けろよ!!」

 カッチーン。

 確かに急いでて確認しなかったわたしも悪いけど、そっちだって同じでしょ!!
 確かにカッコイイけど、だからって、何を言ってもいいって事には成らないんだからね!
 そう思っていると、ソイツが急に顔を赤らめて視線を逸らした。

 え? 何?

 わたしは今の自分の姿をよく見てみた。ぶつかった衝撃で尻もちをつき、その事でスカートがめくり……

 ******

「没」
「ええ! 何でですか栗山さん!!」

 企画書を途中まで読んでた企画リーダーの栗山 環は、「なぜ」と食い下がるシナリオ担当の小山 修一に呆れた様な目を向けた。

「おい、シュウ、お前、この企画が何なのか分かってんのか?」
「え? はい、ブラウザ乙女ゲーム『らぶ☆レボリューション(仮)』ですよね?」
「分かってて、これか?」
「いや、でも、対象年齢の事を考えて、感情移入しやすい何処にでもいる女の子を主人公に……」

 環が頭を押さえ、溜息を吐く。

「古い!! 古すぎるんだよお前の頭の中!! こんなもん、今時、乳児ですらソッポ向くわ!!」
「いや、乳児はそもそもブラウザゲーム何て……」
「そう言う、いらん所拾わなくていいんだよ!!」

 スパーン! と、修一の書いた企画書を丸め、彼の頭を叩く。

「今の子はな、オンリーワンを求めてんだよ!! 『誰にもまねできない特別な自分』を求めてんだ!
 お前は、そこが分かってない! いいか! 次、同じシナリオ書いたらシナリオライターから外すからな!!」
「いや、栗さん、さすがにまんま同じ事書く様な奴はいないんじゃ……」
「だから、そう言う、いらん所拾わなくていいんだよ!!」

112 :
【楽しいお仕事】(2/2)


 ******

「オンリーワンの主人公って、ったく、そんなもん簡単に思いつくなら、マンガの編集なんていらないってぇの」

 修一はブツブツ言いながらもアイデアを探してネットを漁っていた。

「はやり、流行り、Hayari〜っと……へぇ、最近ってこんなの流行ってるんだな……え? マジ? これOKなの?」

 「ふーん」と腕を組む修一。そのすぐ後に、何かを思い付いたらしくニンマリと笑みを浮かべると、猛然とキーボードを叩き始めたのだった。

 ******

  わたしの名前は亜 麻美恵! どこにでも居る、ちょっとおっちょこちょいなアマビエ。
 今日は浦和の方に預言を持って行かなくちゃいけないんだって言うのに、わたしは寝坊して遅刻ギリギリに成っちゃった!

「あ〜ん、遅刻遅刻ぅ!!」

 朝食のポテトチップスを咥えながら走るわたし! あの角を曲がれば浦和だわ! よ〜しラストスパート!!

 ドッシーン!!

「きゃあ!!」
「うわ!!」

 尻もちをついたわたしの前には、カッコイイ邪神が。

「おい、大丈夫か?」

 カッコイイ邪神は触手をウネウネさせながら、前足を伸ばして来る。
 やだ、イケメン!

 助け起こされたわたしがちょっとボーッとしていると、邪神の触腕がわたしの顔に……
 ああ、ここでわたし、大人に成っちゃうのね。そう覚悟を決めたんだけど、その触腕はするりとわたしの髪に伸びる。

「こんな所にハンマーが付いてるよ?」
「え?」

 きゃー恥ずかしい!! そう言えば昨日ベッドで日曜大工をしてたんだったわ!
 顔を赤らめるわたしにカッコイイ邪神が……

 ******

「どうです? 流行りを取り入れながらもオンリーワンな展開!! これならイケるでしょう?」
「……か」
「はい? 何です?」
「あ・ほ・かあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 スッパアアアアァァァァァーーーーーーーン!!!!!!

113 :
今ってアマビエブームだったのね
Nhk見てて初めて知ったわ

114 :
アマビエチャレンジってハッシュタグが有るくらいですからw

115 :
なるほどこれはw

116 :
お題→『ハンマー』『乙女ゲーム』『ポテトチップス』『邪神』『アマビエ』締切

【参加作品一覧】
>>104【姉弟の仁義なきドタバタバトル】
>>111【楽しいお仕事】

117 :
ではー、今回も通常お題5つです

お題安価>>118-122

118 :
ピンクの悪魔

119 :
恋愛頭脳戦

120 :
最終兵器

121 :
レモネード

122 :
銀河最強

123 :
☆お題→『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→5/3の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

124 :
『ミサ』

125 :
出遅れましたorz

126 :
すげー速度で集まった・・・絶対書きにくいお題w
てか今更だけど、出題だけじゃなくて作品を書いてくれてもいいのよ
誰が書いてもいいスレなので!

次回は企画を・・・ご意見ご要望も受け付けております
引き続きお題スレをよろしくー

127 :
>>111
これはひどいww
『乙女ゲーム』の企画、主人公『アマビエ』、朝食の『ポテトチップス』、イケメン『邪神』、い・・『ハンマー』!
シュウくん、あなた憑かれ、、疲れてるのよ・・・とりあえず全消化の抱腹絶倒でした!w

128 :
>>127
感想有り難うございます
奇をてらってりゃ良いと言うもんじゃないと言う見本ですねw

129 :
>>123
使用するお題→『ピンクの悪魔』『レモネード』

【伯母の陰謀】(1/3)
>>74【可愛いプリンセスは危険の香り?】の続きです

「…こ、ここは、一体どこなの…?」

麻酔銃を撃たれて気絶していたシンディが少しずつ意識を取り戻す。目を開けてみると、そこは薄暗く、周囲には何もない部屋の中だった。
全身を鎖でキツく縛られているため、身動きが取ることができない。
すると目の前の扉がギイッと音を立てて開き、火の灯ったランプを持ったピンクのドレス姿の老婆が入ってきた。

「どうやら目を覚ましたようね、シンディ」
「あ、あんたは一体誰なの?」
「私はフローラ。今は亡きあなたの母ジェーンの妹よ」
「マ、ママの妹?ということは私の伯母!?」
「そういうことね。まあ色々と話してあげるから聞きなさい」

そのフローラと名乗る老婆は、シンディの母親であるジェーンの妹だった。彼女は大富豪でお金こそ全てだという考えの持ち主で、何不自由ない生活を送っていた。
ジェーンがシンディを産んだと聞いた時、彼女からシンディを奪おうと企んでいた。しかし父親であるバイロンは、そんな強欲なフローラにシンディを渡そうとしなかった。
一旦は退くものの、シンディを諦めきれなかったフローラはバイロンが乗ったトラックを狙って、崖から大量の石を落としたのだ。
そう、あのバイロンが巻き込まれて死亡した落石事故は自然で起きたことではなく、全て彼女が装ったものだったのだ。

「あの憎きバイロンが死んで、あなたが私の物となると思いきや、あなたはいつの間にか姿を消していた。私は様々な手を使って消息を追った、そしてやっと見つけた」
「ま、まさか、あんたが大好きなパパを殺しただなんて!絶対に許さない!」

これ以上ない怒りに溢れるシンディだったが、体は鎖で縛られており身動き一つできない。

「無駄な抵抗はやめなさい、シンディ。この私が何と呼ばれているか分かる?そう、ピンクの悪魔よ!」

開いたままの扉から、あの没落貴族の親子であるマークとメアリーが入ってきた。2人は、フローラから懸賞金である100億ドルを貰って大喜びだった。

「これで私達はまた貴族の仲間入りね、パパ!」
「もちろんだメアリー!それじゃあな、哀れな女ガンマン!」
「あ、あいつら…!!」
「シンディ、あなたはもう私の娘となるの。お金は山のようにあるから好きなだけ贅沢できるのよ、幸せだと思わない?」
「お金があるから幸せ?バッカみたい!」
シンディは悪あがきするかのように、フローラの顔に向かってプッと唾を吐きかける。

「どうやら教育が必要なようね。とりあえずその汚い帽子とかコートを脱ぎなさい」
「ちょ、ちょっと帽子取らないでよ!」
「こんな薄汚れたカウボーイハット被っちゃって。後でゴミとして捨てておかないとね」
「や、やめて!」

突然、暗い密室の中であるにも関わらず風が吹いてくる。

「か、風!?一体どこから!?」

どこからともなく強く吹いてくる風にフローラは驚く。その風と共に、タヌキのお面を被った着物姿の女が姿を現した。

「あ、あなたは…!!」
「鎖で縛られちゃって…。無様な姿ね、まったく…」

130 :
【伯母の陰謀】(2/3)
「シ、シグレ!!」
そう、あの遥か遠くの日本という国から来た女のサムライ・シグレだ。
「情けない姿ね、シンディ。あなた、それでもアメリカのガンマンなのかしら?」
「シ、シグレ?サ、サムライ?」
「何、この禍々しい桃色の暑苦しいドレス姿の婆さんは?なんか見てて腹が立ってくるわね」
シグレは鞘から刀を取り出し、大きく振り被る。それで発生した深い霧がフローラを包み込む。
深い霧で視界が遮られ、フローラはどうすることもできない。すると真っ赤に光る瞳が見えてくる。
「必殺、霧狐斬(キッコザン)!!」
牙を剥き出しにした赤い瞳の白いキツネが、フローラの首にガブッと噛みついた。しかし、それはシグレが見せた幻想だ。
凶暴なキツネの幻想に動揺したフローラの背中をそのままスパアッと刀で斬りつけた。
「グ、グハッ!!」
吐血し、背中から血をダラダラと流しながらフローラは倒れ、そのまま息絶えてしまった。
シンディの体を縛っている鎖も切り裂き、彼女は自由になった。
「シグレ、あ、ありがとう!」
「か、勘違いしないでね。何も助けに来たわけじゃない。ライバルが苦しんでいるのを見てるのが嫌だっただけよ」
シンディは嬉しかったのか、シグレに思いきり抱きついてきた。
「や、やめてシンディ。とりあえずこんな暗い場所から早く出ましょ」
「そうね!」
シンディとシグレは走り出す。
「そういえばサンセットは!」
「あなたの馬なら既に解放してある」
階段を駆け上がっていき、大きなダンスホールに飛び出す。目の前にフローラの屈強な部下達が立ち塞がってくるが、
シンディとシグレの敵ではなく、スピーディーな銃撃と華麗な剣術で次々に無双していく。
「相手に一切隙を見せない銃さばき、さすがガンマンね」
「エヘッ!そうでしょ、これがアメリカってものよ!」
思う存分大暴れするガンマンとサムライのコンビに太刀打ちできるわけがなく、大きな屋敷はあっさりと崩壊してしまった。
フローラは崩れ落ちた屋敷のガレキの下敷きとなってしまった。すると、ヒヒーン!の元気な泣き声と共にサンセットが姿を現した。
「サンセット!」
サンセットに特に大きなケガはなく無事のようで、シンディはとても安心した。
「シンディ、まだやることがあるんじゃないの?」
「あっ、そうだった!乗ってシグレ!」
シンディとシグレを背中に乗せると、サンセットは勢いよく走り出した。
「あの没落貴族親子と殺し屋も許さないわ!」
一方、マークとメアリー、そして2人に雇われた殺し屋のゴールドタンクは、近くの農夫を殺して奪ったトラックに乗って逃げているところだった。

131 :
【伯母の陰謀】(3/3)
「100億ドルは俺達の物だー!ウヒョー金って本当にサイコー!!」
「本当にサイコーなのかしら?」
「ヘッ?」
すぐ近くまで追いかけてきたシンディの姿に彼らはビックリした。
「な、何でこんな所にいるんだ!?」
「あんた達も地獄に送ってやるから覚悟しなさい!」
シグレはサンセットの背中から勢いよくジャンプすると、トラックのタイヤを全て刀で切り裂く。
「ゴ、ゴールドタンク!こうなったらシンディとあの変な女を殺してしまえ!」
ゴールドタンクは銃を構えるが、シグレの電光石火による斬撃で銃はバラバラになり、使い物にならなくなってしまう。
動揺するゴールドタンクとマークの心臓を目がけてシンディは発砲する。それに続くかのように、シグレが2人の首元をズバッと斬りつけてトドメを刺した。
父と頼りにしていた殺し屋が一方的にやられてしまい、メアリーは狼狽える。急いで100億ドルの入ったトランクケースを持って逃げようとするが、目の前は断崖絶壁だった。
「その100億ドルと一緒に死にな!」
シンディは勢いよく彼女を蹴り飛ばし、崖から突き落とした。キャーッ!の悲鳴と共に、メアリーは100億ドルと共に真っ逆さまに数百メートル下に落ちていった。
「これで一件落着、といったところかしらシンディ?」
「そうね。これで死んだパパが帰ってくるわけじゃないけど、私はパパの分まで生きるって決めたんだから!」
その後、近くの街まで向かい、そこでレモネードを買う。もちろん自分とシグレの2人分だ。
姿を見られると怪しまれるに違いないため、シグレは馬小屋の裏に隠れていた。
「これがレモネードよ。どう、美味しいでしょ?」
「レモネード?初めて飲むけど、なかなかイケるわね」
レモネードを飲んで、激しい戦いで疲れた体を癒す。
「今日は本当にどうもありがとう、シグレ。あなたが来なきゃ、私は伯母の奴隷にされてたかもしれない」
「シンディ、あなたは私の大切なライバル。いずれ決闘する時が必ず来る。それまで誰にも負けないで」
レモネードをグイッと飲み干し、そう言い残すとシグレは風を起こしてそのまま姿を消してしまった。
「そういうシグレも誰にも負けないでよね!負けたらこの私が許さないんだから!」
その町の宿で一夜を明かすと、次の朝早くシンディはサンセットに跨り、再び広大な荒野に飛び出すのであった。

132 :
>>129
急転直下からの反撃ですね
やはり、ライバルとは、真の敵を前にした時には助け合わないといけません(個人的見解)

133 :
>>129
来た来た待ってた、待望の続き
『ピンクの悪魔』の陰謀・・・『レモネード』を飲む
黒幕が謎でしたけど、すごい話になってしまった・・・
でもしっかり助けに来ましたねw

134 :
>>132
>>133
感想ありがとうございます!
もしかするとシグレは本当はシンディをライバルというより、友達として見ているかもしれません
あ、最後辺りでシグレが普通にレモネードを飲んでいましたが、お面をつけていても飲食は可能ですw
今回も楽しんでいただけて本当に嬉しいです!

135 :
>>123
使用するお題→『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』
【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】(1/3)
※スレ5>>880【せっかちなんて百害あって一利なし】の続編かつ完結編です
私の名は白石ホノカ、どこにでもいる普通の高校生。ある朝、私は寝坊して遅刻しかけていた。
昨夜きちんとセットしてあった目覚まし時計が、いつの間にか電池切れを起こしてアラームが鳴らなかったのだ。
「ウワーッ!遅刻だー!」
急いでパジャマから制服に着替え、1階の食卓に向かう。テーブルに置かれたトーストとホットミルクを一気に口に入れる。
「ホノカ、朝食はちゃんとゆっくり食べなさい」
「寝坊したのにゆっくり食べる暇なんてないわよ!お母さんってホントおっとりというか呑気なんだから!」
歯磨きも済ませてバッグを手に取ると、勢いよく外を飛び出して学校へと向かう。
「急がなきゃ!今日は中間テストの日だっていうのに!」
なんとか死に物狂いで走ったため、学校には何とか間に合った。「おはよう!」の挨拶と共に教室に入ったその時、クラスメート達が自分の方を見て笑い始めた。
「な、何?私の顔になんかついてる?」
「白石、足を見てみろよ」
「へっ?」
足下に目を向けてみると、なんとローファーではなく、お母さんのサンダルを履いてきているではないか。
そう、あまりに急いで家を出た為、ちゃんと確認していなかったのだ。ホノカは恥ずかしくなり、顔はトマトのように真っ赤になった。
クラスメートに笑われながら自分の席に着くと、近くにいた一人の男子がからかってきた。
「よう、白石!サンダルを履いて登校とはたまげたぜ」
「う、上田…!」
彼の名は上田ミノル。自分によくちょっかいを出したり、からかってくる変な奴だ。
「お前ってさ、本当にせっかちなところあるよな。人生、もう少しのんびりに行くべきだと俺は思うぜ」
「べ、別にせっかちというわけじゃないわよ!ただ、寝坊して必死だったから…」
「ふーん。まあ、でもお前って面白いよな!」
9時になってチャイムが鳴り、テストが始まった。テストをする中、ホノカはふとミノルのことが頭に浮かんできた。
「(あいつ、やたらと私にちょっかい出してきて…。私のことが好きなのかな・・・ってダメダメ!ホノカ、今はテストに集中しなきゃ!)」
3日間の中間テストが無事に終わり、昼過ぎの下校時間となった。校門を出たその時、ミノルが駆け寄ってきた。
「おーい白石!」
「な、何よ上田。私になんか用?」
「なんか用ってお前、教室出た時に財布落としてったぞ。ほら」
よく見るとバッグが開いているままだ。今日は試験が終わったということで早く家に帰って、
撮り溜めていたドラマを見るため急いで帰宅しようとして急いでいたのだ。その拍子に財布を落としたというわけだ。
「あ、ありがとう上田。そ、その、キツい態度取ってゴメン…」
「別に気にしてねえよ。でも、そのせっかち治した方がいいぜ。それじゃ、気をつけて帰れよ!」
家に帰る途中、ホノカの頭の中にはとにかくミノルのことでいっぱいだった。
「(上田が私のことを好きかもしれない。それに私も上田のことが好きなのかもしれない…)」

136 :
【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】(2/3)
一方のミノルは家でベッドに寝転び、楽しそうに漫画を読んでいた。そんな中、ふとホノカのことを思い出す。
「(白石って本当に面白いというか可愛いよなぁ…。あのせっかちなところがやっぱりチャームポイントなんだろうなぁ)」
翌日、ホノカが学校に向かっていると途中、偶然にもミノルと出くわした。
「おっ白石!おはよう!あれ、今日はゆっくり歩いているんだな、いつも必死に走ってそうなイメージなのに。珍しいこともあるんだな、雪が降るかもな」
「あ、あんたは余計な一言が多いのよ上田!それ以上からかうとケツ蹴り飛ばすわよ!」
そして特に会話もせず、黙り込んだまま教室に入る。互いに顔を合わせなかったものの、2人とも顔が赤くなっていた。
「「ま、まさかこれが恋!?こうなったら徹底的に勝負するしか他にない!!」」
それ以降、ホノカとミノルの密かな恋のバトルが始まった。どちらが先に屈して(?)告白するかだ。
「おい白石、お前の靴下に糸屑いっぱいついてるぞ」
「あ、ありがとう」
まずはミノルの番のようだ。ミノルはホノカのハイソックスについた細かい糸屑を丁寧に取っていく。
次はホノカの番だった。休み時間、ミノルがジュースを飲んでいる時に後ろから話しかける。
いきなり話しかけられビックリしたミノルは思わずジュースを吹いてしまい、ブレザーがジュースで濡れてしまう。
「あっ大丈夫!?すぐに拭いてあげるから待って!」
急いで近くの水道でハンカチを濡らし、ジュースでビショビショになったミノルのブレザーを拭く。
「急に話しかけてきたからビックリさせちゃった?ごめんね!」
このような些細でしょうもない恋愛頭脳戦(というべきなのか)が、1週間も続いたある日のことだ。
「急がなきゃ!急がなきゃ!」
全ての授業が終わって下校時間となった。今日は予約していたDVDの発売日で、ホノカは行きつけの書店へとにかく急いで向かおうとしていた。
「早く急いで家に帰って見なくちゃ!」
とにかくせっかちで急いでいる時のホノカは周りが見えなくなることがよくある。必死に走る中、左足の方のローファーが脱げ落ちてしまうが彼女は気がつかない。
今度は居眠りしている野良犬の尻尾を気付かず踏んでしまう。眠りを邪魔されて怒った犬がホノカを追いかける。
ワンワン!とうるさく吠える声に気付き、後ろを振り返った時にはもう遅かった。
犬は彼女のスカートに勢いよく噛みつき、グイグイと乱暴に引っ張り始めた。
「ウ、ウワワッ!や、やめて!スカート引っ張らないで!あっち行って!」
しかし犬は怒り狂っており、頑なにスカートを放そうとしない。スカートがビリッと音を立てて破け始める。
「いい加減放してよー!」
涙目になるホノカ。その時、何かが犬の頭にゴン!と直撃し、犬はキャンキャンと鳴きながら逃げて去っていった。
怖くて目を瞑っていたホノカが目を開けると、足下には自分のローファーが落ちていた。
「お前のせっかち、もはや病気だな。笑えてくるレベルだぜ」
「う、上田!」
ようやく、ローファーがいつの間にか脱げ落ちていたことに気付く。ミノルが自分のローファーを野良犬に投げてぶつけて助けてくれたのだ。

137 :
【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】(3/3)
「ほ、本当にありがとう上田。な、何というか、その、私って本当にせっかちでバカよね…」
「まあ、そのせっかちなところが可愛いんだけどな。でも、お前のローファー役に立ったぜ、まさに最終兵器だ。これしかお前を助ける手段無かったからな」
「さ、最終兵器って…。ね、ねえ今可愛いって言わなかった?」
「べ、別に。お前の空耳じゃねえのか?」
しかし、2人は互いに顔を合わせてアハハと笑い合う。ミノルはホノカを自分の家に連れて行き、
犬に引っ張られて破れてしまった彼女のスカートのプリーツを綺麗に縫って直してくれた。
「これでよしっと!」
「ありがとう!ってか上田、あんた裁縫得意なのね。すっごく意外!」
「小学生の時から母さんがよく教えてくれたんだ」
その後、ミノルはレモネードとチョコの詰め合わせを持ってきてくれた。
「レモネード美味しい!上田、本当に色々とどうもありがとう。もう感謝しきれなくらいだわ」
「そこまで感謝されるほどでもないさ。お前のことが放っておけなかっただけだ」
「カッコつけちゃって!上田って本当に面白いよね!」
「面白いのはお前の方だ、白石」
レモネードとチョコを楽しみながら、ミノルはふと口に出す。
「あのさ、俺、白石のこと、めっちゃ好きなんだ!なんというかスッゲー可愛い!せっかちなところもだけど、特に横顔が!」
「ウフッ!私も上田のこと大好き!ひょうきんなところがイイ!というか、横顔フェチだったのね」
「べ、別にフェチじゃねえよ!」
それ以降、ホノカとミノルは恋仲となった。高校卒業後、同じ大学に行き、そして遂に結婚した。
「それじゃあ行ってくるぜ、ホノカ!」
「行ってらっしゃい!あと、それから事故にはくれぐれも気をつけてね」
「お前もせっかちでトラブル起こすんじゃないぞ」
「失礼ね!それくらい分かってるわよ!」
仕事に向かうミノルを嬉しそうに手を振って見送るホノカなのであった。

THE END

138 :
>>135
まさかの続編w
密かな『恋愛頭脳戦』、ローファー『最終兵器』、『レモネード』とチョコ
相変わらずのせっかちから、過程を経て、ハッピーエンド・・・
でもせっかちは治した方がいいと思うw

139 :
>>135
中々フェチな頭脳戦ですねw
どうでも良い事ですが、"惚れた方の負け”みたいな風潮って、何なんでしょうね?

140 :
>>138
>>139
感想ありがとうございます!
はい、まさかの続編ですw お気に入りの作品でしたので続きを書きたくなっちゃいました
そうですよね、恋愛は惚れた方も惚れられた方も最終的に結ばれて、幸せになればそれで十分ですよね
勝敗とかそんなの気にしてちゃ、恋愛というものは一切成り立たないと私は思います
こちらも楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

141 :
ところで次回の企画ですが、ジャンル指定か、リレー企画か、どちらかと考えています
どうしよう

142 :
ジャンル指定がいいな

143 :
うーん、それでは、他の意見がなければ、ジャンル指定にしましょう

144 :
>>123

使用お題→『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』

【今回は痛い作文でお茶を濁します】(1/2)

 筆者は居直った。必ず、かの難攻不落のお題を消化しなければならぬと決意した…………こんな駄文を投稿したのが、一年と少し前である。
 長いことスレに居座って、好き放題書き散らしてきた。それなりの作品を、まずまずの頻度で……と言いたいところだが、筆者の実感としては、実力以上のものを、継続的に、という方が近い。
 筆者は、同じネタを使い回さないようにしている。半分は読者のため、もう半分は自分のために、そうしている。
 意図して繰り返す場合でも、例えばパロディなら一度きり、連作ならヘビロテに注意する。もちろん例外はあるし、それとは別に、同じ人間が書く話なので、似通ってしまうことはある。
 要するに何が言いたいか。今回は例外の方に近い。今回はお題が難しいので、あからさまなやり口でもって、筆者の弱みを見せるいい機会だと思ったのである。

 最初に、お題の話をする。
 日曜深夜、筆者はお題を見て、よく分からないものはリサーチする。今回特に問題なのは『ピンクの悪魔』と『恋愛頭脳戦』である。
 まず『ピンクの悪魔』でググる。実際にググれば分かるが、カー○○さんである。あとGG○である。なるほどね。
 筆者は○○ビーさんで遊んだ記憶がない。筆者はゲーム機を持っておらず、筆者の竹馬の友も同様であった。
 ならばGG○だが、筆者はS△○に関心がなく、つまりは、シリーズの作品を、どれも読んだことがないのである。そりゃねーだろ、という話だが、筆者の読書経験は割合貧弱な方で、こういう穴は結構多いのだ。
 次に『恋愛頭脳戦』である。こちらはググるまでもないが、一応は調べてみる。とりあえずテンプレっぽいラブコメなのね、というのが筆者の理解である。

 なぜこんな話をするか。
 別に筆者の無知を自慢したいわけではない。そりゃ誰にだって知らないことはある。そうではなく、筆者の狙いは緊張の緩和である。
 『同じネタを使い回さないように』書くことは、ともすると、読者を作品で殴り続けることにもなる。そこまで力のあるものを書いた覚えはないが、筆者は、読者が疲れてしまうことを恐れている。
 筆者は、種明かしが必要だと、考えている。なんであれ、仕組みが分かれば、大したことがないと思えてくるものだ。

 お題の話を続ける。
 『最終兵器』は、ほぼ自明だろう。少し調べるだけだ。『レモネード』はシンディ専用。『銀河最強』は、またカ○○ーさんのようだが、筆者としては、オラわくわくする方だ。
 オラわくわくしてきたぞ。

 ここまで、お題を一つ一つ検討してきた。次に、この成果を実作に取り入れることを考える。
 まずは、単純に足し合わせてみる。『ピンクの悪魔』は、主人公か敵対者のどちらかだろう。物語の内容は『恋愛頭脳戦』である。途中で『最終兵器』が登場する。『レモネード』は分からない。そして誰かが『銀河最強』だと判明する。
 一見して問題なさそうだ。だが、筆者に言わせれば、これでは文字通り話にならない。前述の『成果』が、ちっとも反映されていないからだ。

145 :
【今回は痛い作文でお茶を濁します】(2/2)

 ここで「構造」について話すことにする。これは、構造主義の『構造』ではなく、大江健三郎の著作『小説の方法』の用語である。
 例えば「文学表現の言葉」には「構造」がある。『文学表現の言葉』とは、これも同書の用語だが、要するに、詩や小説に見られる印象的な表現のことだ。その目的は読者の注意を引くことにある。
 それで肝心の『構造』だが、これは単に、少しふわっとした、広い意味の用語だと思っておけば良い。
 この「構造」の中身は、小説家が勝手気ままに考えるものではない。これは現代文学の理論なので、前述の例だと、その言葉の同時代における意味や使われ方が中心となる。

 小説に関するあらゆる概念に「構造」はある。
 もちろん、お題にも「構造」がある。言葉としての意味、係る文脈、出題の意図は、お題の「構造」ということになる。
 この「構造」を取り込んだ作品は、実利的な言い方をすると、含蓄のある、つまりは読んで面白いものとなる。
 また、こうした「構造」のあれこれは、先述の通り、『小説家が勝手気ままに考えるものではない』ので、読者の理解を助け、作品を読みやすくする効果がある。あとネタを自力で考えずに済む、というのもある。
 以上が、お題を検討し、その『成果』を用いる理由である。

 手始めに、『恋愛頭脳戦』に戻って考えることにする。これが話の本筋となるからだ。
 元ネタに倣えば、ラブコメを書くことになる。だが、ここで筆者のブライドが邪魔をする。元ネタと同じことをやっても意味がない。
 ならばシリアスな恋愛ものはどうか。『ピンクの悪魔』に『最終兵器』なんて、いかにもな題材である。ただ前者の構造は使いにくいので、『ピンク』と『悪魔』に分けて考えることにする。
 ヒロインは『ピンクの悪魔』、すなわちサキュバスである。彼女は元は人間だったが、なんらかの理由で『悪魔』に改造されてしまったのである。
 ヒーローは、ヒロインがまだ人間だった頃の恋人である。二人は互いに未練がある。同時に、ヒロインは悪魔なので、同族のために働かなくてはならない。そして、実はヒーローは、悪魔をやっつける勇者様である。
 つまり、ヒロインは、対勇者の『最終兵器』というわけだ。『恋愛頭脳戦』でノクタ池を回避しつつ、バッドエンドからは逃れられない、という趣向である。

 正直なところ、ここまで書いて筆者は力尽きた。つーか話が重いな。筆者は、愛の戦士にはなれそうもない。その割に、あらすじから漂うラブコメ臭である。

 男女逆ではどうだろうか。ヒロインは、聖女様か女エクソシストである。ヒーローは悪魔だ。
 少し考えると、この設定は駄目っぽいことが分かる。
 ヒーローがフツメンだとする。フツメンの悪魔など許されない。気持ちよく除霊して終わりである。
 ヒーローがイケメンだとする。ノクタかムーンライトか、どちらか行きである。悠長に頭脳戦をしている場合ではない。それに、イケメンの悪魔なんて、想像するだに腹立たしいコンセプトである。まったくひどい。

 目先を変えて、TSヒロインならどうだろうか。ヒーローは元親友である。
 筆者は少し考える。駄目ではなさそうだ。ただしラブコメ一直線である。しかもTSだ。
 『銀河最強』にかわいいヒロインと、『レモネード』を飲むデートである。オラわくわくしてきたぞ。
 ……率直に言って誰得である。

 そう言えば、『恋愛頭脳戦』の元ネタには、ピンク頭のキャラもいるのだった。この路線なら……とも思うのだが……。

 そんなこんなで時間切れである。あーあ。
 おちもあとがきもなし。

146 :
おちもあとがきもなし・・・

147 :
>>123
お題:『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』

【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(1/3)
「あっの、ピンクの悪魔(女神)め!!」

 坂口 醍醐の口から、思わずそんな愚痴が零れる。
 周囲は見渡す限りの荒野であり、醍醐はそんな荒野を既に5時間近く彷徨っていたからだ。
 醍醐にした所で、好きこのんでこんな所に来た訳では無い。彼は日本から、このレネスティ―の世界に転移させられたのだ。ピンク髪の女神を名乗る者によって。

 ******

「最近、地球ってさ、人口増え過ぎなのよね、他の世界との兼ね合いもあるしさ、バランス管理がピーキーに成っちゃって、面倒くさいのよ」
「は?」

 醍醐の眼前にある、階段の数段上に設えてある板間の敷物の上に“それ”は寝転んで、ストローを咥えていた。
 ピンク色の髪をした、目も覚める様な美人ではあるが、面倒臭そうな表情で透明なカップの飲み物を啜っている様子は、あたかも休日の姉を思わせる姿で、何とも残念この上ない。

「聞いてる? だからさ、ちょっと減らそうと思ってたのにさ、他の女神がうるさいのよ、あのブリッコ、ちょっと男神の受けが良いからって、チョーシに乗り過ぎ」
「いや、ちょっと待って、何の話? ってか君は誰?」
「は? 女神よ、女神。見て分かるでしょう? ひれ伏しなさい、頭が高いわよ」

 不機嫌そうに身を起こした女神は、胡坐をかきながら、どこからともなく取り出したポテトチップスをバリバリと食べる。
 一方の醍醐はと言えば、気が付くとこんな場所にいて、目の前にそんな女性が居たのだ。混乱するし、訳が分からない。

「そもそも、リソースだって有限なの、この間までは植物がバリバリ減ってたからバランスとれてたんだけどさ、エコとかって植林したり、動物の保護とかって言って管理し始めてるじゃない? 流石に他の世界分のリソースが足りなくなってきちゃった訳なのよ」
「いや、だから、何の話?」
「は? 魂よ、魂の数。頭の回転悪くない? さっきっからそう言ってるでしょ?」
「いや、そんな事、ひとっことも言って無いよ!?」
「は? アタシが言ってんだから、即座に理解しなさいよ! 鈍いわねぇ」

 イライラした様子で女神が言う。醍醐は、どうにかこうにか女神の話をすべて聞き、それをまとめると、こう言いう事らしい。

 彼女は複数の世界を管理する女神なのだが、最近の地球は、人口が増えるだけではなく、エコロジーやらなんやらで、動植物の数も増えているのだと言う。
 それだけなら、むしろ良い事なんじゃと、醍醐は思うのだが、しかし、管理している側からすると都合が悪いらしい。
 彼女の管理している全ての世界の合計の魂の量は決まっており、一つの世界だけで生物……動植物や精霊、妖精全てを含めて……が増え過ぎると、他の世界に割り当てるリソースが足りなくなるのである。
 それでも最初は、精霊や妖精やらに割り振っていた魂を人間の方に使っていたので、何とかなっていたらしいのだが、今はそれでも足りなくなっていると言う。

 ただ、それだけなら、世界の発展度を考えて、一時的に他の世界の生き物の総数を減らすだけでも良い、しかし、あまりにも減らしすぎると、次元の狭間から‟良くない物”が入り込んで来るのだとか。
 俗にモンスターとか邪神だとか言われる物がそうらしい。

148 :
【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(2/3)
 なので、大災害を起こして地球の人口を減らそうとしたら、他の世界を管理する女神に止められてしまったそうなのだ。
 他の世界の湧き出るモンスターを減らさせつつ、リソースを増やす努力をしなさいと。

 このピンクの女神(自称)は、最初リソースは一定量しかないと言っていたが、醍醐が根掘り葉掘り聞くと、実は増やせる物であると白状した。
 生物に自らの魂を鍛えさせ、その量を増やさせる事で、分割に耐えうる量を確保できる様に成るからだ。
 その為、他の世界の神達は、これはと言う人材を見つけては試練を課し、魂を鍛えさせるのである。

 たが、このピンクの女神(悪魔)は面倒くさがってそれをサボっていたのだ。

 それを聞いて、醍醐は他の世界の女神に感謝した。が、同時に思い至る事があった。

「え? つまりそれって……」
「邪神とか倒せば、魂の練磨になるでしょ? モンスターが湧き出してるとこ(世界)に送ったげるから、精々がんばって倒しなさいよ。アタシの為に」
「ちょ、ま!!」
「このアタシが見込んであげたんだから、結果残さなかったら、アンタ来世はミジンコね、これ、決定事項だから。あー、たった一人の人間(下等生物)の為に力を使ってあげる、アタシってマジ女神!!」
「いや、こら! 待てよ、おい!!」
「あ、そう言や、あのブリッコ女神、試練を課す時は神器か加護を与えなさいとか言ってたわね…… じゃ、これでいっか、はい」

 そう言ってピンクの悪魔(女神)が放り投げて来たのは、さっき彼女が飲んでいた透明カップだった。
 慌てて醍醐がそれを受け取ると、あっという間に視界がホワイトアウトする。

『じゃ、ヨロ〜』

 こうして、醍醐は異世界に放り出されたのであった。

 ******

 女神に投げ渡された、神器のカップから沸き出す飲み物で、渇きを癒す。いくらでも飲み物が湧き出すこのカップは、さすが神器と言う性能だった。
 湧き出す飲み物は、おそらくあの時女神が飲んでいた物なのだろう。レモネードであり、悔しい事に、疲れを癒すには最適だった。
 ただし、あくまで“飲み物”としては最適なだけで、それ以外には使い様が無いのだが。

 ジリジリと肌を焼く太陽の光に、少しでも休息を取りたくはあるが、しかし、周囲に身を隠す様な場所は無い。
 神器のレモネードのお陰で、疲労感は軽減されるが、しかし、足を動かし続けるしかないと言う現状に、精神的に疲弊していた。

「?」

 その時、醍醐の耳に、風のうねりとは違う音が確かに聞こえる。

「人か? いや、人じゃなくても何か別の何かでも……」

 代り映えしない現状に辟易していた為だろう。醍醐は警戒心も無く音のする方へと走り出し、足場が無くなった。

 ******

 少女の眼前に居る魔獣は、そのドロリとした闇色の複眼で獲物を見つめていた。
 ハアハアと肩で息をし、体中に幾つもの傷。手に持ったナイフも既にひびが入っている。
 しかし、その目には未だ力を宿し、この絶望的な状況の中でも希望を捨てていない事がうかがえた。

149 :
【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】(3/3)
「……そろそろ、いい加減諦めなんし。往生際が悪すぎるでありんすよ?」
「うるさいにゃ! 僕の限界は、僕が決めるにゃ!! 僕は諦めないにゃ!! ぜったい、銀河最強になってやゃるにゃ!!」
「ふう、威勢の良い台詞も聞き飽きたでありんす、そろそろ、わっちの経験値になりなんし」

 魔虫使いの女がその下僕に「やれ」と合図を送る。
 横にいた魔虫が、その外骨格の前肢を振り上げた。 振り下ろされるそれを、少女が必死にガードする。だが、彼女に出来たのはそれだけだった。踏ん張りの効かない足では、その威力に勝てず容易く吹き飛ばされ、岩に激突する。
 ろっ骨が折れたのか、激しい痛みで呼吸すらできない。
 しかし、彼女は諦める事は出来なかった。
 銀河最強になる。
 その夢を諦められない……いや、それは少し誤謬があるか。正確には、銀河最強になる事で叶えたい夢があるからだ。
 数年前、丁度モンスターと呼ばれる怪物が出始めた頃だろう。この世界に、一つの“神託”が下った。

『この銀河で最も強くなりなさい。そうすれば、あらゆる願いをかなえてあげるわ』

 銀河……と言う言葉が何を指すのかわからない者も多かった。しかし、最強と言う言葉が何を指すのかは分かる。
 あらゆる者達が、自身の望みを叶える為、最強を目指したのである。

(アタシは最強になるにゃ!! 最強になって、ご主人様の所へ!!)

 彼女にはある記憶があった。この世界に生まれる前の、大切な……
 気力はある。だが、悲しいかな体は付いて来ない。
 ギリリと、奥歯を噛み締める。

「上手く受け止めた様でありんすが、どうやら、ここまでの様ですわねぇ……では、本当に、これでさよならでありんす」

 思わず少女が目を瞑る。その直後、ドゴオオオオォォォォォォォン!!!!!! と言う地響きが轟いた。
 恐る恐る彼女が目を見開くと、そこには潰れて緑の体液をまき散らした魔虫と、それを見て呆然とする魔虫使いの女。
 そして、その魔虫の上でキョロキョロと周囲を見回す黒髪黒目の少年がいた。

「……ご、ご主人様にゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 体の痛みも忘れ、思わず飛びつく少女。しかし、その後少年の口から出た言葉に、思わず凍り付いた。

「は? 君誰?」

 ******

 醍醐の眼前には白髪の美少女が頬を膨らませてながら歩いていた。少女の名はエミュウ・バステト。その整った容姿もさることながら、目を引くのは、頭部に生えた猫耳と腰から伸びるしなやかな尻尾。そして、金と銀のテヘロクロミアの瞳。

 醍醐を「ご主人様」と言った事も謎だが、今、こうして膨れているのも謎だった。
 恐らく、彼女の機嫌が悪いのは自分の事を覚えていない事であろう。しかし、醍醐にしてみれば、あのピンクの悪魔(女神)に、今日突然送り込まれた世界であり、当然、知り合いなど居るはずも無い。
 だがエミュウの方は、自分の事を知って居る事は当然と言う様子だった。

(でも確かに、何か、既視感が……)
「あら、そんな小娘を熱心に見つめるなら、わっちを見ておくんなまし」
「ちょ、アドニアさん!!」

 ふっと、醍醐の耳に息を吹きかけるのはプテューゲル・アドニア。魔虫使いの女。
 醍醐が落ちて来た当初こそ、自らの最終兵器とも言うべき大型魔虫を潰された事に憤ってた彼女だが、エミュウの彼に対する態度を見た途端、こうして醍醐に絡む様に成って居た。

「わっちの大事な物を奪ったでありんすんから、そんな小娘を相手にしないで欲しいんでありんす」
「ちょ、言い方!! 確かにアドニアさんの魔虫を潰したのは悪かったですが!!」
「プテューゲル……と呼んでくれなんしぃ」
「フーーーーーーー!!!!」

 銀線が走り、エミュウの右手が醍醐の頬を掠める。プテューゲルは、それを読んで居たかの様に後ろに身を翻えす。
 醍醐を挟んで二人の攻防が始まる。
 彼の旅は始まったばかりだった。

150 :
エラーで進めなかったORZ
分割を間違えたようです

151 :
お題→『ピンクの悪魔』『恋愛頭脳戦』『最終兵器』『レモネード』『銀河最強』締切

【参加作品一覧】
>>129【伯母の陰謀】
>>135【私のせっかちは治らない、でもそれでいい】
>>144【今回は痛い作文でお茶を濁します】
>>147【ぐーたら女神にやらされる異世界生活】

152 :
ではー、ひさしぶりにジャンル指定です
ジャンルは引き続き、なろう準拠ではなく、進行が独自に調整したものを使います

153 :
ジャンルは次の中から1つ選択→
『恋愛』『ファンタジー』『歴史』『推理』『ホラー』『コメディー』『SF』『童話』
『冒険』『幻想』『日常』『人生』『家族』『戦争』『動物』『スポーツ』

お題安価>>154-157
ジャンル安価>>158

154 :
悪夢

155 :
『絶対領域』

156 :
円満破局

157 :
釣り

158 :
『ファンタジー』

159 :
☆お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』から1つ以上選択
☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。
☆締め切り→5/10の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。
【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

160 :
>>144
メタ小説ですね
江口寿史のマンガを思い出しましたw

161 :
今回も無事にお題が集まった・・・ありがとうございます
引き続きお題スレをよろしくです
>>147
また大作が・・・3レス目は60行制限ですね・・・
姉を思わせる『ピンクの悪魔』、神器の『レモネード』、『銀河最強』になる、『最終兵器』の魔虫、『恋愛』、、ってほどでもない『頭脳戦』w
いい加減な神託だにゃ、、姉、、女神に対する憎しみがw
>>160
感想ありがとうございますw
もう全然締切を守る気がないやつですねぇ><

162 :
>>161
感想、有り難うございます
書いて居た時は、合計170行だったので3スレで間に合うと思ったのですが……
ゴッソリ削る事に成りましたorz
おかげで、エミュウの前世が醍醐の飼い猫だったとかの情報が抜けて、良く分からないオチに

163 :
>>159
使用するお題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『円満破局』『釣り』
【女騎士と謎の剣士】(1/3)
ここは、ありとあらゆる多種多様な種族が住む、魔法と想像で創り出された魔法の世界。そんな世界に一人の女騎士が旅をしていた。
彼女の名はシャロン。美しい藍色に輝く鎧を身に纏い、銀色の長髪をポニーテールにして束ねている。
華麗な剣さばきで敵をバッサバッサと討ち取る腕利きの騎士として知られ、彼女を尊敬する者もいれば、同時に畏怖する者も少なくなかった。
ある日、シャロンが深い森の中を歩いている時だった。
「ねえシャロンさん待ってよー!」
「もう、しつこいわね。いい加減ついてくるのはやめて」
フクロウの姿をした少年が空中からシャロンについてくる。その少年の名はクルック。
人間とフクロウのハーフである種族「ナイトウィング」の一人で、フクロウの如く暗闇の中でも正確に獲物を捕らえる能力、そして高い飛行能力を兼ね備えている。
彼は以前、敵に襲われ翼を負傷し息絶えそうになっていたところを、偶然通りかかったシャロンに手当てされて救われたのだ。
それ以来シャロンを命の恩人として好きになり、旅のパートナーになろうと後ろから必死に飛んでついて来ている。
「私はパートナーなんていらないの。あの時はただケガをして何だか可哀想だったから助けてあげただけ。そもそも人助けなんて大嫌いなの、誤解しないで」
「シャロンさんがそう言っても僕はついて行くよ!」
「ったく、生意気なフクロウ小僧ね。焼いて食ってやろうかしら」
しばらく歩いていると、大きな湖を見つける。シャロンは湖の近くに腰を下ろすと、どこからともなく釣竿を取り出して釣りを始めた。
「シャロンさん、お腹空いたの?僕が何か美味しそうな獲物捕まえてきてあげるよ」
「うるさい。私は今、焼き魚でも食べたい気分なのよ」
釣りを始めて10分頃が経過した時、釣竿の糸がグイッと引っ張られる。魚がエサにかかったようだ。
よし来た!とシャロンが釣竿を強く掴んで、勢いよく引っ張り上げてみると巨大な魚が姿を現した。
体は真っ赤で全身に鋭いトゲが無数に生えている。ビックリしたシャロンは急いで剣で一刀両断にしようとするが、
魚は一瞬の隙を突いて彼女の足に食らいつき、そのまま湖の中に引きずり込んでいった。
「シャロンさん!」
「おい何をする!放せッ!!」
クルックは急いでシャロンを助けようとするも、水中に潜られてしまうとどうすることもできない。
水中では重い鎧のせいで上手く動くことができず、抵抗することさえもできない。
「ま、まずい!このままでは溺れ死んで魚のエサになってしまう・・・」
まさに絶体絶命、死を覚悟したその時だった。何者かが素早い動きで魚を微塵切りにし、意識を失ったシャロンを抱えてそのまま湖の中から引き上げた。
「ゲ、ゲホッ!」
「大丈夫かい?」
意識を取り戻し、目をゆっくりと開けてみると、紫色の髪をした好青年が立っていた。どうやら彼が助けてくれたようだ。
「あ、あなたが助けてくれたのね。本当にどうもありがとう。名は・・・」
「俺はシェイン、自由気ままに旅をしている剣士だ。って、あれ?その藍色の鎧に銀色の髪、もしかしてシャロン?あの腕利きの女騎士の!」
「わ、私のこと知っているの?」
「知ってるも何も有名じゃないか!俺、あなたの憧れなんだ!」
そのシェインと名乗る剣士はシャロンにもう夢中だった。
「ねえ、家族にならないか!幸せで楽しい生活を一緒に送ろう!」
「はあ?」
突然のプロポーズ?にシャロンは開いた口が塞がらなかった。

164 :
【女騎士と謎の剣士】(2/3)
唐突ではあるがシャロンとシェイン、そしてその場にいたクルックはその勢いで家族となった。
彼らは森の外れにある小さな滝の近くに、家を建てて暮らすことになった。
「ねえ。家族になったのはいいけど、どうしてフクロウ小僧も一緒なのよ!」
「いいじゃないか、家族は多い方が楽しくていい」
「シャロンさんと一緒だなんて、僕すっごく嬉しいよ!」
しかし、シャロンは不思議な気持ちになっていた。彼女は盗賊の両親の間に生まれたのだが、ろくに相手もされず、
愛情を持って育てられたことがほとんどなくて、ずっと寂しい思いをしてきたのだ。
それがその日偶然出会った剣士に、突然プロポーズされて家族になったのだ。
「(家族ってのもいいかもしれない・・・)」
シャロンは今までずっと見に纏っていた鎧を捨てると同時に、長い髪をバッサリと切った。
もう騎士としての自分は終わった、これからは平凡でも楽しい毎日を過ごしていこう、そう決意したのだ。
シェインとの生活は本当に楽しかった。明るくて優しく、そしてユーモラスな彼の存在は彼女の荒んでいた心を癒してくれた。
そんな楽しい生活が始まって、早くも一年が経過したある日のことだった。
「グ、グ、グアッ!!」
「どうしたのシェイン!」
妙なドス黒いオーラに包まれ、シェインがひどく苦しんでいる。突然、どこからともなく声が聞こえてきた。
「シェイン、お前は暗黒魔族であるフィアースの一員で、邪悪な魔術師になってこの世を暗闇と悪夢で覆い尽くすのが使命なのに何を遊んでいる!」
「お父さん、僕はフィアースの名を捨てたんだ。邪悪な魔術師になんてハナからなりたくなかった、立派な剣士になるのが夢なんだ!」
「そう言うのなら強硬手段に出るしかないな」
「アッ、アグッ、ウガッッアアアー!!!」
「シェ、シェイン!!」
黒い煙に包まれ、シェインの目は赤く光り、頭からは悪魔のようなツノが生え、牙は猛獣のように鋭くなった。
フィアース、それは異次元の暗黒世界に住む邪悪な魔族で、世界を暗闇と悪夢で包み込んで乗っ取るのが目的だ。
「シェイン、目を覚まして!落ち着いて!」
しかし、理性を失ったシェインにはシャロンの声は全然届かない。シェインは自分を止めようとする彼女を殴り飛ばすと、目から黒いビームを発射し、青い空を黒く染めていった。
空は完全に真っ暗になり、まさに闇の世界と化してしまった。こうなったら、力ずくでもシェインを止めるしか他に方法はない。
しかし、自分には鎧や剣はもうない。成す術なし、もはや諦めるしかなかった。
「シャロンさん、泣かないで。ここは僕に任せて」
「ク、クルック…!」
シェインを救うことができず、絶望に打ちひしがれるシャロンの前に立ったのはクルックだった。
「僕はフクロウ。フクロウには暗闇なんてちっとも怖くない」
クルックは瞳を金色に輝かせると、翼を大きく広げて空中に舞う。
「荒療治かもしれないけど、こうするしかないね!」
勢いよく急降下し、鋭い嘴や足の鉤爪でシェインに攻撃していく。
「暗闇なんてフクロウにとっては遊園地みたいなもんさ!」
「ガッ、グワッ!!小賢しいフクロウめ!やめろ!」
「アハハ!まだまだだよ!」

165 :
【女騎士と謎の剣士】(3/3)
音も一切立てずに、暗闇の中でも確実に獲物を捕まえる。まさにフクロウの真髄、ここにありだ。
さすがの暗黒魔族フィアースの一人であるシェインでさえも反撃することができない。
全身が傷だらけになり、シェインはとうとう膝をついてしまう。
「シャロンさん、今だよ!」
シャロンは立ち上がって走り出す。しかし、今の彼女には鎧も武器となる剣もない。
「シェイン、お願い!目を覚まして!」
シャロンはシェインを思いきりギュッと抱き締める。シェインの全身に彼女の温かさが伝わってくる。
「(こ、これが愛というものなのか・・・は、初めて身に染みて感じる・・・!!)」
シェインの身を包む黒いオーラは自然と消えていき、黒く染まった空も綺麗な青色に戻っていく。
悪魔のような姿に変貌した彼の姿はついに元に戻った。
「お、俺、なんてことを!シャロン、迷惑をかけて悪かった!」
「気にしないでシェイン。あなたはちっとも悪くない」
「本当に、本当にありがとうシャロン!」
シャロンとシェインはそのまま互いに強く抱き締め合うのだった。
・・・・・・・・・・・・・・
「シャロン、それからクルック。暴走した俺を止めてくれて本当にありがとう」
「シェイン、これからどうするの?」
「俺はフィアースの野望を阻止するため、そしてフィアースそのものを滅ぼすために異次元の世界に戻って戦うよ」
シェインはハアァァッ!と大きな叫び声を出して空間を歪ませ、異次元の世界へと結ぶ穴、そう入り口を作り出す。
「異次元の世界に飛び込めば、俺はもう二度とこの世界に戻ることはできない。でも、それでみんなが平和に幸せに暮らせるなら十分さ」
「シェイン、あなたのことは絶対に忘れない。僅か一年暮らしただけだったけど本当に楽しかった」
「ありがとう、シャロン。俺はもう行かなきゃ。楽しく、幸せに暮らせよ」
そう言うとシェインは異次元の世界に飛び込み、入り口である穴は閉じて無くなってしまった。
騎士としての自分を捨てた今、シャロンは違う人生を歩もうと決心した。でも、一人ではなんだか心細い。
「シャロンさん、僕がいるじゃないか!」
「クルック!今まで邪険に扱って、本当にごめんなさい・・・」
「全然気にしてないよ。僕がシャロンさんを守るから安心して」
「ウフフ、ありがとう」
「シャロンさんは鎧ない方が優しい感じがして、僕は好きだなあ」
「えっ、そ、そうなの?」
シャロンの顔がポッと赤くなる。この世界、一体何が起こるか分からない。
しかし、そばに頼れるパートナーがいればそんなのちっとも怖くない。
今こそ新たな人生スタートへの第一歩を踏み出した、歴史的瞬間なのである。

166 :
>>163
数奇な出会いと別れですね
一途な愛と、自らの運命に準ずる覚悟
どちらも確かな愛だと思います

167 :
>>163
なるほど、、これは考えたな、という感じですね・・・!
『ファンタジー』世界、『釣り』を始める、暗闇と『悪夢』・・・『円満破局』!
ちょっと神話的な感じもする、お題に忠実な話でした!

168 :
>>166
>>167
レイチェルシリーズの者です、感想ありがとうございます!
かなり久々の新作です。『円満破局』をどんな風に書けばいいか結構頭を悩ませました
それに至るまでのシャロンとシェインの恋愛をもっとじっくり書きたかったなと思いました
バトルでは脇役のクルックがめっちゃ活躍してましたね、真の主人公は彼かもw
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

169 :
>>159
使用するお題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』
【私のニーソに憑依する悪魔】(1/3)
※スレ6 417【登校中の悲劇】の続編かつ完結編です
ある日の正午、一人の女子高生が暗い気持ちで家路に着いていた。彼女の名は稲村エリナ。
今朝、エリナは寝坊して学校へと必死に走る中、水たまりに足を突っ込んでしまったり、野良犬にニーソを噛みつかれたりと色々と散々な目に遭ったのだ。
特に野良犬に噛みつかれて引っ張られた左足のニーソは、縫い目から思いきり破けてしまっていて酷い状態だ。
家に帰ると破けてしまった左足の方のニーソを母に渡すと、今朝のアクシデントを母に全て話す。
母は苦笑いしながら、破けてしまった縫い目を綺麗に丁寧に縫って補修してくれた。
しかし、そのニーソは部屋着のみとして使用することになり、登校かつ外出用に別の新しいニーソを買ってくれたのだが、エリナの気持ちは晴れなかった。
寝坊したのはもちろん自分の責任で、あんなアクシデントに見舞われてしまった運の悪さを恨むしか他にない。
しかし、登校だけでなく外出でも愛用していた、とてもお気に入り黒ニーソだったため、エリナはとても落胆していた。
それ以降、新しいニーソを履いていくことになったわけだが、缶ジュースを持って走っていた男の子が目の前で転んでしまったために、
ジュースがニーソにかかってビショビショになったりと、ニーソに関して何かとアクシデントに見舞われることが多くなった。
「私のニーソ、なんか呪われてるのかしら?」
そう考えると、エリナはだんだん怖くなってきた。
・・・・・・・・・・・・・
「あ、あれ?何で私、ベッドでなくて床で寝ているの?」
ふと目を覚ますと、エリナは自分が床の上にいることに気付く。寝ている間にベッドから転げ落ちてしまったのだろうか。
違和感はそれだけに留まらなかった。やけに周囲の物が非常に高く、大きく見えるのだ。体が縮んでしまったのか。それに体を上手く動かすことができない。
近くに鏡が置いてあったので、それで自分の姿を見た途端、彼女は絶句した。
なんといつの間にかニーソに変わっていたのだ。
「な、何よこれ。私、ニーソになっちゃったの!?」
すると部屋のドアが開き、誰かが中に入ってきた。母だった。
「お母さん、私よ!何故か分からないけどニーソになっちゃったの!助けて!」
しかし母にエリナの声は全然伝わらない。母は彼女を掴んで拾い上げる。
「このニーソ、もう捨てなくちゃね」
「す、捨てる!?や、やめて!!」
母は手に持っていたゴミ袋にそのままエリナをポイっと入れる。そのまま袋をキュッ!と強く締めると、他のゴミと共に捨ててしまう。
「だ、誰かここから出して!助けて!」
・・・・・・・・・・・・・
「ウワアアアッッ!!!」
大きな叫び声と共にエリナは目を覚ます。どうやらさっきのは全部夢だったようだ。
夢であったことに安堵するものの、同時に心臓がバクバクしていた。
「悪夢だったわ、本当に・・・」
すると突然、窓の方から青く眩い光がガラスをすり抜けて部屋の中に入ってきた。

170 :
【私のニーソに憑依する悪魔】(2/3)
「な、何?まさか幽霊?」
「幽霊ではありません。私は精霊です、エリナさん」
「せ、精霊?というか喋った!?それに何で私の名前知ってるの?」
その精霊と名乗る青い光がエリナに話しかけてくる。
「私は靴下の楽園であるソックストピアからやって来た精霊、ソックーと申します。エリナさん、あなたを救うためにここに来たのです」
エリナは今の状況をイマイチ掴みきれなかった。そんな彼女のためにソックーは説明する。
エリナが最近やたらとニーソに関してアクシデントに見舞われるのは、そのニーソに悪魔が憑依しているからだという。
その悪魔はデビックスと呼ばれ、さっき見た悪夢もそのデビックスの仕業ということだ。
「エリナさん、デビックスを倒すため私と一緒にソックストピアに向かいましょう!タンスの一番下の引き出しを開けるのです!」
「う、うん!」
ソックーに言われるがままに、エリナはタンスの一番下の引き出しを開ける。すると眩い光に包まれ、彼女は中に吸い込まれていった。
しばらくして目を開けると、そこはソックストピアと呼ばれる靴下の楽園で、様々な靴下が生きており楽しく生活していた。
「く、靴下が喋ってる。不思議な世界ね」
「そうでしょ?それより今はデビックスのアジトへ向かうのです」
ソックーに導かれ向かった先には、大きくて黒く禍々しい建物があった。そこがデビックスのアジトだった。
「イッヒッヒヒヒヒ!この稲村エリナって奴の絶対領域はなかなかだな。こいつのニーソはイジメがいがある」
デビックスは自分の分身にして部下である子分達をエリナのニーソに憑依させていく。
「そこまでだデビックス!」
「何だ!ソックー、それにあのエリナだと!?何故この世界にいるんだ!」
「お前の野望を阻止するために私が連れてきたんだ」
「デビックス、お願いだから私のニーソから離れて!」
「うるさい!誰がやめるものか!」
エリナはデビックスを捕まえようとするが、デビックスはヘビのように体をくねらせて逃げていく。
するとエリナはあることに気がつく。よく見てみるとデビックスの体には、大きく破けた跡があったのだ。
「その破れ穴、一体どうしたの?」
「ん?何だ、これか?本当は話したくないけど特別に話してやろう、せっかくだからな」
デビックスは元々、一人の女子高生に愛用されていた綺麗な白ニーソだった。ある日、うっかり茂みの枝に引っかけてしまい、それで破けてしまったのだ。
破れはしたが、すぐに補修できてまだ履ける程度なのにゴミとして捨てられてしまったのだ。
それ以来、彼は人間を心の底から憎むようになり、それ以来愛用されている靴下、特にニーソを狙うようになった。
「デビックス、あなた・・・!」
「ふん、同情なんていらないぞ!俺の靴下としての人生はとっくに終わったんだ!」
「ううん、まだ終わってない!私があなたの新しい持ち主になる!」
「えっ!?」
エリナの突然の言葉にデビックスは一瞬動揺し、心の整理がつかなくなってしまう。

171 :
【私のニーソに憑依する悪魔】(3/3)
「お、俺は一体、どうしたらいいんだ?な、何だこの不思議な感情は!」
赤や青、緑や黄色など様々な色が混ざり合って汚れたデビックスの姿は自然と綺麗になっていき、元の雪のように綺麗な白ニーソに戻っていった。
「エリナさん。あなた、デビックスの汚れた心を浄化させたのです。その優しいお言葉で!」
「彼が寂しくて心を病んでいたのにすぐに気付いたの。でも、もう大丈夫」
デビックスの野望を無事阻止することができたエリナは、ソックーの力で元の世界に戻った。
既に朝が来ており、小鳥が元気よく鳴いている。彼女の手には、デビックスの全身である白ニーソがあった。
「さてっと始めようかしら!」
裁縫箱を持ってくると針に糸を通し、破け穴を丁寧に縫って補修していく。
「これでよしっと!これからは私があなたの新しい持ち主よ!」
それ以来、エリナはニーソのことでアクシデントに見舞われることは一切無くなった。
そして登校する時やどこかに出かける時は、いつもその白ニーソを履いていく。
「エリナ、白のニーソを履くなんて珍しいわね。いつもは黒なのに」
「そう?ちょっとした気分転換かな」
また廊下を歩く度に、近くから男子の声が聞こえてくる。
「なあ、あのC組の稲村って子の絶対領域サイコーだよな!」
「そうそう、白のニーソもかなり似合ってるよな!」
その会話を聞くと、エリナはとても嬉しくてついニヤニヤしてしまう。
朝が来て着替える度に、エリナは白ニーソにこう優しく話しかけるように言う。
「今日もよろしくね。明日は楽しいお出かけよ」

THE END

172 :
>>169
おお、またも続編ですが・・・なんだこれ!w
ニーソの『悪夢』、『ファンタジー』靴下世界w、主人公の『絶対領域』
作者様の持ちネタをやってるだけなのに、不思議で独特で突き抜けた話になってますね
なんかすごかった

173 :
>>169
ニーソの精霊の国w
自分が不幸な目に遭ったからと言って、お気に入りの娘を不幸にして良いはずがないですよね
そして、そんな理不尽な心を救うのはアガペーですね

174 :
>>172
>>173
感想ありがとうございます!
こちらもまさかの続編ですw 以前書いた【マイライフ・アズ・ブーツ】のニーソ版、といった感じですね
単純に成敗するのではなく、主人公が辛い気持ちをしっかりと受け止めることで悪が浄化するという展開は
今まであまり書いたことがなかったので結構新鮮でした
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

175 :
>>159
お題:ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』

【宮廷闘争の間違った治め方】(1/3)
「さて、クライマックスだ」

 俺、クライクン・フォン・ベネガルドはそう呟きながら襟元を正す。ここ数か月余り奔走して来たのは今日この日の為だ。
 俺の隣にはベネティクト・フォン・シェザール。シェザール公爵家令嬢で、俺の共犯者の女性でもある。
 艶やかな赤毛とやや吊り目がちながら整った顔。そしておみ足が素敵な御令嬢だ。前方から見ると太ももまでしかないデザインのスカートに合わせた、膝上までのストッキング。白い絶対領域が眩しいぜ! ありがとうございます。

「……クライクン?」
「っと、悪りぃ、でも、ちょっとばっかし足癖が悪うございませんかね? お嬢様」

 つい、しゃがみ込んでガン見してしまったらしい。ベネティクトの膝蹴りを躱しながら俺は謝る。
 彼女がこう言った変則的なドレスを好むのは、蹴り技が得意だからと言うもっぱらの噂だが、それは真実だったらしい。

 再び、横並びとなり、彼女の手を取る。こう言ったパーティーでエスコートして入って来る女性は、家族か恋人に限定される。

 だからこそ噂を流したし、その為の偽装工作もして来た。

 パーティー会場までもう少し。そんな俺達の前に、立ち塞がる者が居た。

 ******

 親父に呼び出された俺は、酷く面倒臭そうな顔をしていただろう。
 苦笑した親父は「まぁ、座れ」と、席を勧めた。

「クライクン、お前に頼みがある」
「断って良い?」
「ダメだ。お前が適任だからな」

 なら頼みとか言わないで欲しい。それ、命令だから。

「お前にはシェザール公爵家のご息女と婚約をして貰いたい」
「シェザール公爵……ベネティクト様と!?」
「もちろん、欺瞞工作だが」
「何だウソかよ」

 うん知ってた、知ってた。兄貴ならともかく、俺だと釣り合いが取れない才女だ。

 さて、何故そんな話に成っているかと言えば、まぁ、宮廷に良く有る派閥抗争の為だ。親父、ベネガルド侯爵は、第一王子派な訳だが、昨今のお国のパワーバランス的な事も有り、軍部に支持基盤を持つ第二王子派の連中が幅を利かせている。
 俺なんかは、平和主義者の第一王子がトップに立ってくれた方が良いと思うんだが、戦争で手柄を立てたい人達は、隣国との戦争がご希望らしい。

 その派閥のトップがグレゴリー辺境伯。隣国との戦争が起きて最も利するからってのも当然だが、小競り合いを続けている辺境伯としては、感情的にも戦争肯定な訳だ。

 シェザール公爵は第二王子派ではあるが、今は積極的戦争を避けたいと思っている。中央付近の飢饉の影響で、国力が弱まっているからだ。
 このタイミングで戦争を強行すれば、例え勝ったとしても土地の意地が難しいと言う判断らしい。
 それ故に、グレゴリー辺境伯の発言力を少しばかりそぎ落としておこうって訳だ。

 その為の偽装婚約。つまりは本当には婚約などしないが、そう、匂わせる事で相手にアクションを行わせようって事だ。
 何せ、第一王子派トップの子息と第二王子派トップの御息女の婚約だ、上手く行ってしまえば、第一王子派、第二王子派の和解なんて事にもなりかねない。
 それも、こっちは次男坊。実質的に第一王子派に下るって言う宣言に等しい訳だ。

「……なぁ、親父」
「ベネガルド候と呼べ」
「ベネガルド候、それって、俺が狙われる事に成りませんかねぇ」
「そうだな」
「おい」
「大丈夫、お前ならやれる!!」
「黙れ!! クソ親父!!」

176 :
【宮廷闘争の間違った治め方】(2/3)


 ******

 と言う会話がされたのが3ヶ月ほど前の話。ベネティクトの方にも話は行っていたらしく、顔合わせはすんなり行った。うん、顔合わせだけは……

「お話はお父様から聞いていますので仕方ありません。ですが、私の3m以内に近付く事、許しませんので」
「そうです! ベネティクト様の言う通りです!!」

 うん、想像以上に御令嬢様だったわ。そんな状態で、どう親密さをアピールしろと?
 だが、俺は頑張った。
 声を掛けても無視され、近付こうものなら攻撃されながらも、周囲には仲が良いですよアピールをし、時にはわざわざ王立学園にまで迎えに行き、手紙を送り花束を贈り、と頑張った。

 その間には嫌がらせを受けたり暗殺者を送り込まれたり……悪夢の様な数ヶ月だったね。

 さて、そんなこんなで過ごした数ヶ月、最初こそ非協力的だったベネティクトも何とか隣に侍る事を許してくれる程度には態度を軟化してくれた訳だ。

 そんな俺達二人の前には、貴公子然とした男が取り巻きと共に立ち塞がっている。
 メルメール・フォン・グレゴリー。グレゴリー辺境伯の息子だ。
 この男が、俺に嫌がらせを続け、暗殺者を送り込んだ張本人。で、この男、有体に言えばベネティクトに恋慕してる。
 そんな彼等には、このパーティーで、俺とベネティクト嬢が婚約発表をすると言う偽情報を流してある訳だ。

「……クライクン、ベネティクト嬢から手を引きたまえ」
「何の事です?」
「君とベネティクト嬢では釣り合いが取れない」
「……それは、親が決める事で、自分が意見できる事ではありませんよ」

 男心を弄んでいる様で気分は良くないが、バカ息子が釣れた事に、俺は内心ニヤリと笑った。

「あくまで、手を引かないと言うのなら仕方が無い。身の程を知るがいい」

 メルメールがそう言うと、取り巻き達が俺を取り囲むべく動き出した。
 マジか、コイツ等、ベネティクトまで巻き込もうってのか?
 俺は咄嗟に、彼女を巻き込まない様に中庭に飛び出した。

「フッベネティクト嬢の前で、恥をかきたまえ! 今後、彼女の前に現れようと思わなく成るようにな!!」

 多対一、それも、取り巻きを嗾けるだけで、自分の手を汚さないとか……

「やれ!!」

 メルメールの号令で、俺に襲い掛かる取り巻き達。でもさ、遅いよ?
 俺は、取り巻きの1人に詰め寄ると、その足を払い転がす。呆気に取られるその横の男を蹴り飛ばし、続いて手を取るとクルリと向きを入れ替えて関節を極めつつ、盾にしてもう1人にぶつけた。

「な!!」

 ベネガルドの無能な次男坊。そう思っていたんだろうけど、別に格闘技が苦手な訳じゃない。兵の上下関係が苦手なだけだ。

 あっと、言う間に取り巻きを伸した俺をメルメールは蒼い顔で見ると、何を考えてるんだか、ベネティクトの方へ駆け寄って行く。

「べ、ベネティクト嬢! あ、あいつはこんな野蛮な男なんですよ!! あ、貴方にはふさわしく……ぷぎぇ!!」

 駆け寄って行ったメルメールに、ベネティクトは綺麗なハイキックを喰らわせていた。

「あら、私、結構野蛮なんですのよ?」

 うん、知ってる。

177 :
【宮廷闘争の間違った治め方】(3/3)



178 :
【宮廷闘争の間違った治め方】(3/3)


 ******

 こうして、闇討ちなんて言う不名誉な事をやらかした息子の失態を隠してもらうと言うカードで、グレゴリー辺境伯は引き下がるしかなくなった。
 あの後、改めてベネティクトは、弟のクローズくんとパーティー会場に入って行った。
 俺はと言えば、御独り様で会場入りして、紳士淑女の皆様に眉を顰められた訳だ。

「クライクン、お前に頼みがある」
「断って良い?」
「ダメだ。お前が適任だからな」

 この件、既視感が有るんだが?

「お前にはシェザール公爵家のご息女と婚約をして貰いたい」
「おい、それは終わったんじゃなかったか?」

 円満に破局となった筈だ。

「先方からの強い要望だ」
「マジか……」

 え? 俺、また嫌がらせと暗殺者を送られる日々が始まるの?

 悪夢だ。

179 :
間に合いませんでしたorz

180 :
>>159

使用お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』

【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(1/3)

 遠く中世ヨーロッパ風ファンタジー世界に一人の竜騎士がいた。
 彼は三度の飯よりも仕事が好きで、起きている間は訓練を欠かさず、戦場に出れば多くの敵を討ち滅ぼした。そのために敵の魔法使いたちの呪いを受け、寝床に入れば悪夢にうなされ、食事は喉を通らず、最後にはすっかり体を壊してしまった。
 戦う力を失った彼は、多額の退職金を手に国を去ることとなった。乗っていたドラゴン『イマナンテ』の払い下げを受け。敬愛する主君『ハクア姫』のグッズを集められるだけ集め。かつての英雄は、今しも放浪の旅に出んとするところである。

 *

 ここは町外れ、早朝の街道だ。遮るもののない陽光に照らされて、二つの人影が揺れている。
「行ってしまわれるのでございますね」
「うむ。これが今生の別れである」
 そう告げる我らが竜騎士の前に立つのは、彼の従者であった『<赤い凶星>ハチベー・ヤギュー』である。
 幾多の戦場を共にした二人の、血湧き肉躍る冒険の日々。いつまでも続くと思われたそれは、今この時をもって幕を閉じるのだ。
「……いやその、ハチベーよ、もしお前が――」
「タローテ様、今までありがとうございました。おさらばでございます!」
 そう言ってにっこりとする彼女である。
 ドン・タローテは、続く言葉を飲み込んだ。腹に力を込めると、大音声で呼ばわる。
「ヘイ、イマナンテ! 出立だ!!」
 そう呼ばわったものの、何も起こらない。
 少しばかり間抜けな空気が漂うも、我らが竜騎士は動じない。
 やがて。
「…………イマ……ナンテー!」
 ドラゴンにしては珍しい叫び声。青空に出現したゴマ粒が、たちまちの内に大きな影となる。
 二つの小さな影を塗り潰し、あわや地面にぶつかるか、というところで、それは速度を落とすと、街道の真ん中に下り立った。
 ドン・タローテは、このドラゴン、イマナンテの背中に乗ると、努めて厳かな声色で、次のように言った。
「さらばだハチベー! 達者で暮らせ」

 *

 飛んでは休み、休んでは飛び、竜騎士とドラゴンは、とある海岸までやってきた。
 相変わらずの快晴であるが、ドン・タローテの目には、なぜだか周囲の景色がかすんで見えた。それと、心なしか気温が高いようにも感じられる。
「どれ、イマナンテの昼飯でも釣れるかな」
 細かいことは気にしない。ドン・タローテは岩場で釣り糸を垂れた。
 実に気持ちのいい天気である。イマナンテは大人しくしている。と言うか眠りこけている。
 かつて竜騎士と共に暴れ回った怪物は、今や年老いて、少し動いただけで疲れてしまう。
 ドン・タローテは、釣り糸の先を見詰める。
 ただ黙って見詰める。
 いつの間にか目を覚ましたイマナンテも、ドン・タローテと一緒に当たりを待つ。
「釣れんな……」
「イマ……ナンテ……」

 *

 突如。すさまじい力で釣りざおが引っ張られた。
「ああっ! 俺の釣りざおが……!」
「イマナンテー……!」
 釣りざおはドン・タローテの手を離れ、海中に引き込まれてしまった。
 立ち尽くす一人と一匹であったが、次の瞬間には、辺りの様子が一変する。
 海面がぶくぶくと沸騰するように泡立ち、立ち上る水蒸気で視界が白く染まる。
 その真っ白い中に、何やら強い光を放つものが現れる。
「ううむ、これは……これは△.□.フィールドか……!? イマナンテ、中和だ! 中和せよ!!」
「イマナンテー!!」
 ドン・タローテの指示で、イマナンテが鼻息を噴射した。
 視界を遮る水蒸気は吹き飛ばされ、光るものの正体が……。
「……あっ、あなた様はハクア……ではなく…………ア○ビ○様ですか?」

181 :
【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(2/3)

 その人物は海面に浮かぶようにして立っていた。全身が光り輝いており、顔も服装も判然としない。ただその輪郭から女性であるように思われた。
「いいえー、私は○マ○エではないですー。私は泉の仙女ですー」
「そっ、そうなのですか。しかし、泉など見当たりませんが……」
「実はー、この海岸にはー、温泉が湧いているのですー」
「なるほど……かすんで見えた風景と、妙に温かい空気は、それが原因だったのですね」
 ドン・タローテがそう言うと、仙女はうなずくような動きをしつつ、ある物を取り出した。
「そうなんですー。それでー、この釣りざおなんですけどー、これはあなたが落とした釣りざおですかー?」
「はっ、はい! それは私が落とした釣りざおです」
 それは間違いなく、ドン・タローテがたった今なくした釣りざおだった。
「そうですかー」
「はい」
「それでー」
 仙女は釣りざおを隠してしまった。ドン・タローテは困惑するも、次に彼女が取り出すものを見て、ひどく動揺することとなる。
「これなんですけどー」
「そっ、そいつは……!」
「この妖魔なんですけどー、これはあなたが落とした妖魔ですかー?」
「モリモリ」
「……い……いえ……」
「モリー!」
 それはドン・タローテが以前討伐した妖魔だった。全身を覆う緑色の毛が、今は水を吸って垂れ下がっている。
「……いや、はい、確かに、そいつには見覚えがあります。かつてそいつと決闘をして、最後は川に突き落としたと記憶しておりますが……」
「そうですかー」
「まさか生きていたとは……」
 仙女は醜悪な妖魔を海に沈めた。緑色がすっかり見えなくなると、次に彼女は、どこからか一冊の本を取り出した。
「それでー、これなんですけどー」
「はて……見覚えも心当たりもありませんが……」
「これはー、いにしえの魔法使い『ケン・ザブロー』によって著されたSAN値直葬の魔導書『ロゴスノミコン』――」
「あの仙女様! 魔法使いどもは私の天敵です。どうかその忌まわしい紙の束は、どうかお願いですから、千切ってちり紙にでもするか、とにかく私の前から消し去ってください」
「そうですかー」
 仙女は本を仕舞った。
「それでー、これなんですけどー」
 そうして次に彼女が取り出したのは、またもドン・タローテが見知ったものだった。
「はっ、ハチベー!」
「これはあなたの従者ですかー?」
「はい! いえ、確かに先日まで私の従者を務めておりましたが」
 目にも鮮やかな赤、黒、白の装束に、小柄な彼女の絶対領域が映える。
「ハチベーよ、一体全体どうしたことだ。国に残してきたはずのお前が、どんな魔法を使ったら、こんな遠くの海岸に現れるのだ」
 ドン・タローテの問い掛けに、ハチベーは次のように答えた。
「タローテ様、申し開きの仕様もございません。わたくし、タローテ様の退職き……いえその……大食漢! そう、大食漢のイマナンテの食費が気になってしまい、タローテ様の跡を追うこととしたのです」
 ここまで聞いたドン・タローテは、ハチベーの説明に口を挟む。
「大丈夫だハチベー。イマナンテは年老いて、昔ほどは食べなくなった。お前も知っておろう」
「そっ、そうでございますね」
 ハチベーは説明を続ける。
「それで出立いたしまして、道を歩いていたところ、川がございまして」
「うむ」
「橋のない川で、慎重に渡っていたのでございますが」
「うむ」
「うっかり足を滑らせてしまい、川を流され、気付いた時にはこちらの仙女様のお宅で……」
「そうか……」
 ハチベーの話を最後まで聞くと、ドン・タローテは仙女に話し掛ける。
「仙女様! まずはハチベーをお助けくださり、ありがとうございました。その者は私の従者で間違いございません。他の何も要りませんから、どうかハチベーをお返しください」
「そうなんですかー。うーん、どうしましょう」
「あのタローテ様」

182 :
【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】(3/3)

 ハチベーが、その小さな両手をドン・タローテに向けて差し出した。
「わたくし、手土産にハクア様と握手してまいりました」
「仙女様!! なんだったら私の優秀で勇敢なドラゴン、イマナンテを差し上げますから、どうかハチベーをお返しください!」
「イマナンテー!?」
「大食漢は間に合っておりますー」
「そうですか……」
 ドン・タローテは落胆した。
「ですがー、あなたは正直者ですねー。そんなあなたに免じてー、釣りざお、妖魔、従者、すべてお返ししますー」
「ありがとうございます! ですが妖魔は要らないです!」
「モリー!!」
「それとー、この魔導書をー、特別価格でご提供しますー」
「いえ仙女様――」
「妖魔を取るかー、魔導書を取るかですー」

 *

 ドン・タローテは少なくない金額を支払って、妖魔を除くすべてを取り戻した。
「タローテ様、申し訳ございませんでした。わたくしのために貴重な退職金が目減りしてしまいました」
「言うな。竜騎士には従者が必要なのだ。イマナンテも機嫌を直してくれ」
「イマナンテー?」
「それにしても……」
 ドン・タローテは、売り付けられた魔導書に視線を落とす。
「これはどうしたものやら」
「誰か必要とする者に売れば良いのではございませんか?」
「駄目だ、それは危険だ。しかし、折角買ったものでもある……」
 ドン・タローテは好奇心にあらがえず、魔導書の表紙をめくってしまった。
「ううむ、これは……分からん……」
「タローテ様?」
「これは……コレハ……ワカラン……」
「タローテ様? タローテ様!?」

 *

 その後。
「これは英雄の物語……」
 ドン・タローテは、魔導書のせいで正気を失ってしまった。
「竜騎士の物語でございますよー」
「イマナンテー」
 しかし、それと引き換えに、類いまれなる詩作の才能を授かったのである。
 吟遊詩人となった彼の作品は、後の世の研究者によってまとめられた。
 それこそが、現代にまで伝わる『超能力竜騎士ドン・タローテム物語』なのである。

183 :
同じく遅刻すみません!

ナーロッパと騎士道物語の世界の、中間くらいのイメージで・・・

184 :
お題→ジャンル『ファンタジー』+『悪夢』『絶対領域』『円満破局』『釣り』締切

【参加作品一覧】
>>163【女騎士と謎の剣士】
>>169【私のニーソに憑依する悪魔】
>>175【宮廷闘争の間違った治め方】
>>180【機知に富んだ竜騎士ドン・タローテ】

185 :
では通常お題5つです

お題安価>>186-190

186 :
マインドコントロール

187 :
百人組み手

188 :
媚薬

189 :
理科室の実験

190 :
レモン

191 :
☆お題→『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→5/17の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

192 :
ちょっと懐かしい気がするお題ですね
今週もお題スレをよろしくです・・・

そして次回の企画をどうするか・・・
ご意見ご要望はいつでもどうぞですー

193 :
>>175
これは面白い!、と言うか個人的には好きな話!
『ファンタジー』世界の貴族、『絶対領域』ドレス、『釣り』合いで釣る、『円満破局』なのに『悪夢』が終わらない!
設定はテンプレを踏襲しつつ、見せ場もあるし、お題も完璧に消化してて、これはさすがです

194 :
>>180
急転直下の引退劇からの転職物語w
あくまでもビジネスライクな元従者と主人公の一途な恋心(?)がw
>>193
感想有り難うございます
PCの前で、リアルに転げ回りながら書いた甲斐がありましたw
最も悩んだのは絶対領域ドレスですが、『天空の城をもらったので〜』のお姫様のドレスを見て、吹っ切れました

195 :
>>194
感想ありがとうございますw
一体何の話だったのかw

196 :
>>191
使用するお題→『マインドコントロール』『百人組手』『理科室の実験』『レモン』

【懲りない親友】(1/3)
スレ7 710【親友は大食い】を先に読んでおくことをオススメします

ランドセルを背負い、カナミが元気よく学校へと向かっている中、途中で親友のリナと会った。

「あっリーちゃん、おはよう!」
「おはようカナちゃん!」

リナは食べるのが大好きだ。以前、意地悪な小6女子の一人である赤沼ミチエの罠にハマり、
彼女が経営する焼肉店の超濃厚なサムギョプサルに夢中になって激太りしたことがあった。
カナミやクラスメート達の助けもあって何とか元の体型に戻り、それ以来食べる量を少しではあるが減らしているようだ。
ぽっちゃり体型ではあるが、前よりも少し痩せているように見えた。

「リーちゃん、少し痩せた?」
「そう見える?だったら嬉しいな。私ね、最近お母さんとお父さんと一緒によくセミナーに通っているの」
「セミナーって?」
「スタイリッシュな体型を目指すあなたへ!というものなの」

リナ曰く、華奢で美しい体型になりたい人がよく通うセミナーだという。彼女の両親も肥満体型でとにかく痩せようと頑張っているのだが、
基本出不精であまり動きたがらない性格のせいで、なかなかダイエットが上手くいかないのに悩んだ結果、そのセミナーに一緒に通い始めたのだ。

「講師の人がね、すっごくイケメンで優しくてホント素晴らしいことを言うの!それが最高でね!」
「う、うん(単にその講師がイケメンでそれ目当てに行ってるだけじゃ・・・)」

カナミは内心呆れつつも、リナの話に相槌を打つ。

「ジョギングとか腕立て伏せみたいな面倒な運動無しで、食生活を変えれば普通に痩せていくって本当に楽でいいわー」
「(い、いやそれなりの運動も必要でしょ。普通に考えてさ)」

学校に着き、1時間目の授業は早速体育だった。体操服に着替えて運動場に出るが、リナの姿が見当たらない。

「あれ、リーちゃんがいない・・・」

よく見てみると、彼女はブランコに座ってのんびりと寛いでいた。

「おい森野、体操服に着替えないで何をしているんだ。忘れたわけじゃないんだろう?」
「うん、別に忘れてはないけど、これから体育の授業はお休みさせていただきます」
「何を言っているんだ?」
「ダイエットに無駄な運動は禁物だってセミナーで言われたんです」
「バカなことを言うな!」

体育の先生に怒られても一切動じず、リナは体育の授業に出ようとしなかった。そんな傲慢な親友の姿に、カナミは呆れかえっていた。
放課後のこと、公園にトラックの焼き芋屋さんが止まっているのを見て、リナが嬉しそうに駆け寄る。

「おじさーん!焼き芋4個ちょうだい!」
「リ、リーちゃん、確か今まで2個までだったでしょ?」
「焼き芋はね、栄養満点だからいくら食べてもエネルギーになるから大丈夫!」
「・・・・・」

197 :
【懲りない親友】(2/3)

家に帰ると、ケンスケが楽しそうに格闘ゲームの百人組手に挑戦していた。

「あと3人倒せばクリアだ!」
「ねぇケンスケ!」

急に声をかけられてビックリした弟はうっかりミスをしてしまい、98人目の敵に倒されてしまいクリア失敗となってしまった。

「お姉ちゃん、急に話しかけないでよ。あと少しだったのにさあ」
「ご、ごめん。あのね、協力してほしいことがあるの」

ケンスケに説明すると長めの黒いコートを羽織り、父のサングラスと母の帽子を借りて身につける。

「また探偵ごっこだね!」
「うん。まぁ、ごっこと言うほどでもないんだけど」

その日の夕方6時、カナミとケンスケは9時までには帰ると両親に告げると家を出て、リナの家の近くまで向かう。
電柱の陰に隠れて20分ほど経った時、リナが両親と一緒に家から出て行くのを確認し、気付かれないように尾行する。
リナ達が着いたのは町の公民館だった。ここでセミナーが開かれるようで、他に10数人ほど集まっている。
しばらく待っていると講師であろう若い青年が現れ、セミナーが開始する。

「いいですか。健康でスタイリッシュな体型を目指すには、栄養バランスの整った食事と適度な運動が重要なのです」

窓から覗いて講師の説明を聞いてみると、リナから聞いているのと全く違っていた。適度な運動が大事であるときっちり主張している。
よく見てみると、リナの瞳はハートになっており講師の話をちっとも聞いていない様子だ。

「リーちゃん、全然聞いていない。こりゃ講師がイケメンってだけで通っているようなもんね」
「かなりの面食いなんだね」

講師がイケメンなのに夢中になって、彼が言う事全てを違う方向に理解してしまっているという、何ともおかしなマインドコントロールに陥ってしまったようだ。

「またとんでもないことになりそうな予感・・・」

カナミの悪い予感は的中した。それ以来、リナはとにかく食べる一方で、ろくに体育の授業に出たりせずに運動を怠るため、また激太りしてしまった。

「リーちゃん、また・・・」
「あれ、私また太っちゃったかな。テヘッ!でもバランスの良い食生活を心掛けているから大丈夫」

特に酷いのが給食の時間だった。カレーの残りを独り占めしたり、余ったデザートをジャンケンで決めたりせずに勝手に奪う始末だ。

「森野のやつ、また変なものにハマってしまったのか?」
「うん、あのね・・・」

カナミはハヤトにセミナーのことを全て説明する。ハヤトも思わず呆れて、開いた口が塞がらなくなりそうだった。

「正直もう見てられないわ」
「でも、まあこの際何とかして助けようぜ」

198 :
【懲りない親友】(3/3)

放課後、カナミとハヤトは先生の許可を得て、理科室を利用してある物を作ることにした。
自宅の花壇に咲いてあるチューリップと、近くの店で買ってきたレモンを用意する。
図書室で借りた図鑑を見ながら、早速実験を始める。

「チューリップのエキスとレモンの果汁を混ぜれば・・・!」

持っていたフラスコからボンッと音を立てて煙が出てくる。香水の完成だ。

「完成!この香水を使えばリーちゃんの食欲を極力抑えられるはず!」
「これで森野を止められるといいんだけどな」

翌日、チューリップのエキスとレモンの果汁が混ざってできた香水をリナに渡す。

「リーちゃん、お腹が空いた時はこの香水の匂いを嗅いで!」
「うっレモンの香りがする!私、レモンとか梅干しとか酸っぱいもの嫌いなの!」
「いいから使って!」

リナが酸っぱい食べ物が苦手なことはカナミは知っていた。その匂いを嗅ぐことで食欲を抑えられる、と判断したのだ。
リナは言われた通り、食事の時間になるとその香水を嗅ぐ。最初は何が何だかよく分からなかったが、その匂いのおかげで自然と彼女の食欲は抑えられていった。
そのおかげで少しずつではあるが、リナの体型は元に戻っていった。

「あれ、体が前より軽くなった気がする」
「リーちゃん、食べるのもいいけど運動もちゃんとやらなきゃね」

しかし、終わり良ければ全て良し、というわけではなかった。その後、リナはワガママな理由で体育の授業をサボってきたため、
体育の先生に思いきり怒られてしまい、罰として校庭100周を毎日やらされるはめになってしまった。

「ヒィ、ヒィ!もう勘弁してー!」
「うるさい!今まで体育をサボった分を取り戻すまで許さないぞ!」
「そ、そんなぁ!」

必死に校庭を走るリナを見て、カナミとハヤトは思わずアハハと笑うのだった。

199 :
>>196
懲りないあの子が帰ってきたー
『百人組み手』の途中、おかしな『マインドコントロール』講師悪くないw、『理科室の実験』で『レモン』の香水
今回は平和な話w、しっかりオチまで付いて、めでたしめでたしでしたw

200 :
>>199
感想ありがとうございます!
はい、あの懲りない子がまたトラブルを起こしちゃいましたw
あの食欲ぶりじゃまた何かやらかしてしまいそうですね、しっかり見張っておかないと(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

201 :
それにしても過疎ですね・・・スレ8になって悪化しておる

枠が埋まるか分かりませんが、次はリレー企画をやっておこうと思ってます・・・

202 :
>>191
お題:『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』

【乙女心と春の空】
 ゴロゴロと雷が鳴り、一瞬の稲光がその部屋の惨状を映し出す。一人の少女がゼイゼイと息を荒げ、手に持ったスチール椅子をガタリと落とした。
 疲労感に膝をつく。かつて彼女が部活で行った、百人組手を終わらせた時さえ、ここまで疲れ切ってはいなかっただろう。
 やや虚ろな瞳で部屋の中で倒れている男女を見る。

(やってしまった)

 少女は、そう思った。

 ******

 鼻唄を歌いながら、白衣の少女が人参を刻みレモンを絞る。ジューサーに牛乳を入れてそれらを混ぜ合わせると、小鍋に入れて火にかけた。
 傍から見ている限りは料理でもしている様に映るだろう。ここが、理科室で無ければだが。

「ちょと、ミーナ!! 解いて!! ほ〜ど〜い〜て〜!!」
「……」
「ちょと、高梨、アンタもなんとか言ってよ!!」
「桧山先輩、仲代先輩が本気なら抵抗しても無駄ですから」

 理科室の端には一組の男女の生徒が縄で縛られていた。女生徒の名は桧山 詠美。女子空手部ではあるが、白衣の少女、仲代 美奈代の幼馴染と言う事で、ちょくちょく彼女の“実験”に巻き込まれている薄幸の美少女である。

「ふっふぅ〜。エイミー、大丈夫だよぉ〜、ちょぉっとした実験に付き合って貰うだけなんだからぁ〜」
「それが嫌だって言ってんのよ!! てか、高梨、何でお前は平然と縛られてんのよ!!」
「いや、下手に抵抗するより、大人しく従った方が色々と良い目も見られますんで」

 美奈代の後輩で同じ科学部の高梨 陽太は、縛られたまま諦観の籠った目でそう言う。

「だよねぇ、高梨君は良い子良い子!」

 そう言って美奈代が陽太の頭を抱きしめながら良い子良い子する。意外に豊満な胸に抱きしめられた陽太は、鼻を膨らませ、濁った瞳でニヤケていた。

「ダメだ、こいつ、洗脳されてやがる」
「ぶ〜、誰も高梨君にマインドコントロールなんてしてないよぉ?」

 確かに彼女にそんな気は無い。だが陽太は、実際“堕ちて”いるのではあるが。そこが天然ぽよんぽよん系女子である美奈代の恐ろしい所だろう。
 その事実に、詠美は頬を引き攣らせる。

「って、言うか、無理矢理アタシを連れて来て、何しようって言うのよ!!」
「ぶ〜、わたしは無理矢理になんて連れてきてないもん!」
「あ、ホルマリンを嗅がせて、椅子に縛り付けたのはオレです」
「ちょ、犯罪!! てか、じゃぁ、何でアンタも縛られてるの!?」
「趣味です」

 (ダメだ、コイツ何とかしないと)……詠美はそう思った。

「ふっふぅ〜。今日は媚薬の実験をします」
「は?」
「!!」

 ガタッ!

「は〜い、高梨君は落ち着いてねぇ」
「え? いや、ホントに?」
「本当にぃ〜」
「え? 何で?」
「ふっふぅ〜、昨日、クッ〇パッ〇で、『自宅で簡単、媚薬レシピ』(注、有りません)って言うレシピ紹介を見付けたからぁ〜、やってみたくなっちゃってぇ」

203 :
【乙女心と春の空】 (2/3)


 隣で鼻息を荒くする陽太からガタガタと距離を取りながら、詠美が顔を顰める。

「い、いやよ、そんな物の実験なんて、むしろ、自分で試しなさいよ!」
「う〜ん、それでも良いんだけどぉ、外から観察できないとねぇ」
「!!」

 ガタタッ!!

「は〜い、高梨君は落ち着いてねぇ」

 そう言いながら美奈代は、3種類の試験管を持って来た。一つは先程彼女が作っていた媚薬である。

「男の子用と女の子用があってねぇ? 男の子用はぁ、蜂蜜とワインを混ぜたものだから、味も良いんだけどぉ、女の子用は、ちょっと味はあんまりなんでぇ、自主的に飲んでくれると嬉しいかなぁ」
「絶っ対っ嫌!!」
「……桧山先輩、所詮は科学的根拠の無い代物です。ここはさっさと飲んで済ませてしまいましょう」
「ぶ〜、βカロチンとビタミンcの同時摂取で、女性ホルモンの分泌を増加させるんだよぉ! 科学的根拠は有りますぅ〜!!」
「……科学的根拠の無い代物です! さっさと飲んでしまいましょう!!」
「後ろでミーナが何か言ってるけど?」
「……科学的根拠の無い代物ですから!!」

 キリリとした表情で繰り返す陽太だったが、しかし、彼の下半身を見る限り説得力は無かった。

「ムチャクチャ期待してんじゃないのぉ!!」
「ふう、我儘ばかり言って、しょうがない人だ」
「当然の主張だと思うけどぉ!!」
「ふっふぅ〜、大丈夫だよぉエイミー。別に危険な事なんて無いんだしぃ」
「アタシの貞操の危機なんですけど!?」

 詠美がそんな事を言っていると、いつの間にか縄を解いていた陽太が、試験管の中のドロリとした液体を飲み干し、フシューと息を吐く。

「みなぎるるるるるぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ビキビキと体中の筋肉が膨張し、パンプアップを完了した陽太が、もう一本の試験管を手に縛られたままの詠美にニジリ寄って来た。

「ちょ、ミーナ! あれ、本当に蜂蜜とワインなの? なんか変な物混ざってない!?」
「う〜ん、プラシーボ効果かなぁ?」
「ふうぅ……桧山先輩、だあぁい、じょおおぉぉぶですよおおおおぉぉぉぉ、科学的根拠なんてありませんからああああぁぁぁぁぁぁ。もしあったとしてもおぉぉ……天井の染みの数を数え終わる前にいいいぃぃぃ、終わりますからあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 目を血走らせ、襲い掛かって来る陽太。

「何も大丈夫じゃないぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
「エイミー! ファイトぉ!!」
「だまれぇ!!!! アンタって娘はああぁぁ!!」

 さすがの美奈も一歩後退り、しかし、スマホを録画モードで起動していた。
 陽太は詠美に媚薬を飲ませようと手を伸ばす。詠美は咄嗟に……

204 :
【乙女心と春の空】 (3/3)


「!!」
「うっわぁ……」

 足を延ばすと、陽太のウイークポイントを捻りを加えて蹴り飛ばしていた。
 股間を押さえ、崩れ落ちる陽太。

「……縄、解きなさい」
「あ、はいぃ」

 大人しく詠美の縄を解く美奈。

「…………」
「あ、あのね? エイミー、わたしもこんな事に成るなんて……」
「……い」
「え?」
「アンタはもうちょっと後先考えなさいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ご、ごめんんなさいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

 容赦なく詠美が美奈にチョップをかます。さすがに悪いと思ったのか、涙目で謝る美奈を前に、多少なりともスッキリとした詠美がため息を吐いた。そんな時だった。

 ゴクッゴクッゴクッ……

 三本目の試験管の中身を飲み干した陽太が、制服の上からでも分かるほど発達させた胸筋をピクピクとさせながら立ち上がる。

「ちょ、ミーナ、あれも媚薬なの?」
「え? うん、クミン、シナモン、コリアンダーなんかを混ぜたぁ、本命中の本命だったんだけどぉ」
「ふうううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
「な、何か変なオーラ出してるんだけど?」
「そ、そうだねぇ〜……」
「ちょ、マズくない?」
「プラシーボ効果かなぁ……」

 二人が一歩後退ったその瞬間、陽太の制服が爆ぜた。
 「ふしゅう」と言う呼吸音と共に、虚空に七つの星の形を描き出す陽太。
 上半身は世紀末救世主、イヤ、性紀末吸精主の様に漲り、下半身は羅王、イヤ、裸王の如く漲っていた。

「絶対!! 媚薬じゃないでしょ!? あれぇぇぇ!!!!」
「……エイミー、ファイトぉ!!」
「アンタって娘はあああぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 襲い掛かる猛獣。詠美の決死の抵抗が、今始まったのだった!

 ******

 放課後になったばかりの時は晴天だったハズの空は、いつの間にか掻き曇り、稲光りがその部屋の惨状を映し出した。
 一人の少女がゼイゼイと息を荒げ、手に持ったスチール椅子をガタリと落とす。
 疲労感に膝をつき、やや虚ろな瞳で部屋の中で倒れている男女を見る。

「ひゃ、百人組手でだってこんなに疲れなかったのに」

 少女は、そう呟いた。
 こうして、詠美の乙女の怒りが炸裂し、悪は滅んだ。
 詠美は、やってしまったと思いながらも、その心は晴れやかだった。

205 :
>>196

206 :
>>205
すみません、誤爆しましたorz

>>196
思い込みの激しい娘さんですね
思い込んだら一直線と言うか、視野が狭いと言うか
周りの言葉もちゃんと聞かないといけませんよねw

207 :
そして美奈代の代の字を忘れていると言う事実orz

208 :
>>191
使用お題→『マインドコントロール』『百人組み手』
【機知に富んだ達人ドン・タローツ】(1/2)
 遠く東洋の神秘薫る地に一人のカラトマスターがいた。
「ではー、次の相手でー、九十七人目ですー」
「残り三……ではないな、四人か……」
 広いドージョーの中。観客や関係者がコートを取り囲んでいる。その中心で対戦相手を待つ、この男。
「だが……残り何人であっても……俺に取っては同じことである……」
 今は百人組み手と呼ばれる荒行の最終盤である。ここまで九十六人と対戦した男は、とっても疲れて、立っているのもやっとの様子である。
「相手が誰であれ……俺は勝つ……。全員に勝利した暁には……『<マスター東洋>ドン・タローツ』改め『<マスター世界>ドン・タロート』を名乗ろうぞ……!」
 *
「モリー! 次はこのモリ、『<ネオヘーケ総統>ドンキー・モリージ』が相手だモリ!」
 全身毛むくじゃらの怪人が現れた。顔も体も緑色の、異様な姿である。
「ふっ、モリよ……お前はもう負けている……」
「モリモリ。疲労で頭がおかしくなってるモリ。その回らない頭で、モリの前にひれ伏すモリー」
 酔拳もかくや、ふらふらのドン・タローツに対して、元気一杯の怪人だ。これだけを見れば、ドン・タローツに勝ち目などないように思える。
「皇帝はマインドコントロールでモリの言い成りだモリ。モリは『<六波羅大要塞>グリーンヒルコ』も復活させたモリ。これで世界はモリに服従するモリー。世界征服だモリー♪」
 普通に聞けば意味の分からない妄想だが、見るからにおかしな風体の人物が自信満々に言い切ると、そこには言い知れぬ説得力があった。
「ふっ、世界征服だと……? ふふふふ……ふははっ……ふははははっ!」
「モリモリ。いよいよ本当に頭がおかしくなったモリ」
 観客の中には、モリージ勝利の雰囲気が広がりつつあった。だが、ドン・タローツは動じない。
「モリよ……<マスター東洋>をなめるでない……。タローツ拳法最終奥義『俺の両手から放たれる幻想破壊拳』で、お前のドリームは粉みじんだ……」
「モッ、モリモリ」
「おごれるモリも久しからず……。見よ……大要塞は……緑のジャングルに沈んでいる…………」
「モリモリ……」
「…………爆発ッ!!」
「モリーッ!?」
 *
 モリージを撃破したドン・タローツ。次なる対戦相手は。
「『<前回世界大会チャンピオン>イマナント』選手ですー」
 馬っぽい顔の男である。過去には無敵を誇った大物だが、最近は音沙汰がない。
「これが諸行無常か……イマナントよ……お前はもう負けている……」
「今なんと?」
 イマナントの『絶対恐怖反射』。相手は精神崩壊する。
「あらー? イマナント選手、反則負け、一発退場ですー」
 最近のルール変更で、イマナントの必殺技、絶対恐怖反射は禁止されてしまったのだ。
「恐ろしい相手であった……」

209 :
【機知に富んだ達人ドン・タローツ】(2/2)

「次は……そろそろ……あいつか……」
「九十九人目はー、『<赤い主人公>スーパーハチベヱ』選手ですー」
 全身が赤っぽい女である。
「タローツ様、次はわたくしがお相手いたします!」
「うむ……だがハチベヱよ……お前はもう負けている……」
「何を言っているでござ……おおっと、危ないところでございました」
 二人は同じドージョーで修行する者同士であり、互いの手の内を知り尽くしていた。
「タローツ様。わたくし、昔のままのわたくしではございません。ここ数日間の修行で超進化を遂げた、華麗なる頭突きの技、とくとご覧あれでございます!」
 言うとハチベヱは、目にも留まらぬ速さでジャンプし始めた。
「ここここれれれれがががが! わわわわたたたたくくくくししししのののの」
「ハチベヱよ、何を言っているのか分か……おおっと、危ないところであった」
「これが流派野牛究極奥義『頭突きでコインがっぽがっぽ』でございます。相手は粉みじんです」
 ハチベヱは、勝利を確信した表情で仁王立ちした。
「さすがだ……さすがハチベヱ……だが……」
 ドン・タローツは、懐から何かを取り出した。
「この現金が目に入らぬか……」
「それは……その紙幣の束は……!」
 ハチベヱは降参した。

 *

 長かった闘いは、とうとう最後の一人となった。
「それでは百人目ですー」
「ふっ。このドン・タローツ、誰であろうと負ける気が…………っ! まさか……」
 全身白っぽい女が入場してきた。
「まさか……まさかあなたは……」
 もはやドン・タローツには何も聞こえなかった。言葉もなく立ち尽くし、その女の他には何も見えなくなった。
「あなたは……」
 女は、ドン・タローツの前まで歩いてくると、そこで立ち止まった。
「あなたは…………!」

 ドン・タローツは握手してもらった。

「ハクアたん……!」

 試合には負けた。

210 :
こんなのしか出てこないw

作者的には書きやすい登場人物たちです・・・

211 :
>>208
惚れた弱みと言う奴ですね
他には果たしてどんな相手が居たのか? 気になりますw

212 :
お題→『マインドコントロール』『百人組み手』『媚薬』『理科室の実験』『レモン』締切

【参加作品一覧】
>>196【懲りない親友】
>>202【乙女心と春の空】
>>208【機知に富んだ達人ドン・タローツ】

213 :
では一応リレー企画ですが、お題は普通に5つです

お題安価>>214-218

214 :
難民

215 :
女言葉

216 :
金物屋

217 :
変形

218 :
転校生

219 :
☆お題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』『転校生』から1つ以上選択

☆文字数→3レス+予備1レス以内に収めれば何字でも可。
1レス約1900字、60行が上限。

☆締め切り→5/24の22時まで。
締め切りを過ぎても作品の投稿は可。

【見逃し防止のため、作品投稿の際はこのレスに安価してください】

220 :
【リレー企画の参加者を募集します】

・定員は3名で、早い者勝ちです
・今回お題から各自1つ以上選択します
・企画参加作品の締め切りは、企画の成否にかかわらず、2週間後とします

参加希望の方は、ポジション【1/2/3】のいずれかを明記の上、このレスに安価してください

・ポジションが取れ次第【1】の方は書き始めて頂いて結構です
・作品のタイトルは【1】の方が決めてください
・投稿の際【リレー企画:作品のタイトル(1)】のように、企画作品であることを明記してください
・【1】【2】の方は、次の方のために、自分の担当レスの提出予定日を宣言してください

221 :
今回のお題も、結構調子良く集まりましたね・・・ありがとうございます
作品も感想もありがとうございます

リレー企画もよろしくですー

222 :
>>202
勢いと内容・・・w
『理科室の実験』で『レモン』を絞って作った『媚薬』、『マインドコントロール』された後輩、『百人組み手』よりも疲れた・・・
面白かったけどコメントしづらいw、一応、普通にお題を足し合わせれば出てくる話・・・のはず?w

>>211
感想ありがとうございます
きっと訳の分からないやつらですw

223 :
>>222
感想、有り難うございます
最初に書いたのは、もっとノクターン寄りなお話でしたのでw

224 :
>>206
感想ありがとうございます!
今回はまた傍若無人な小6女子の仕業か、と思いきや本人がただ暴走しただけでしたw
またトラブルを起こした時、ちゃんと止められるのか正直不安でございます(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

225 :
>>219
使用するお題→『難民』『女言葉』『金物屋』『変形』
【金物屋の美女】(1/3)
さすらいの女ガンマン・シンディは今日も愛馬のサンセットに跨り、広大な荒野の中を颯爽と駆け抜けていた。
途中、川辺を見つけ、そこで休憩することにする。土埃や泥で汚れたサンセットの体を綺麗に洗った後、シンディは草の上に寝そべる。
すると、ふとブーツの拍車を目にやる。その銀色の拍車は、旅に出始めてから長いこと使い込んでいたため所々錆や傷が目立ち、歪に変形していた。
「そろそろ新しいのに変えた方がいいわね。次の町に金物屋はあるかしら?」
とりあえず少し居眠りして体を休ませると、再びサンセットに跨って走り出す。
2時間ほど走っていると、ようやく町に辿り着いた。しかし、その町には人らしい人がおらず、ゴーストタウンと化しているようだ。
「なんか気味が悪いわね。本当に幽霊でも出そう」
しばらく探索していると、金物屋らしき店を見つける。
ラッキー!とシンディは思いつつも、一応扉をノックして確認する。しかし返事は来ない。
扉を開けて、こっそりと金物屋の中に入ってみると、たくさんの金具や器具がビッシリと揃えられていた。
「やけに品揃いの良い店ね」
新品の拍車は無いかと探していると、突然女の声が聞こえてきた。
「誰かいるのかしら?」
その声にビクッとしてシンディは一瞬立ち止まる。するとカウンターの奥から、一人の黒い長髪の美女が姿を現した。
「ゆ、幽霊!?」
「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」
「か、勝手に入って悪かったわ。ノックしても返事が無かったらつい・・・」
「別に気にしなくていいわ。私はこの金物屋の支配人をやってるエリィよ」
「私はシンディ、さすらいの旅を続けるガンマンよ。どうぞよろしく」
エリィと名乗るその女は、8年ほど前にこの町に来て金物屋の営業をスタートしたのだ。
その時は人が多くて賑やかだったのだが、次第に他の町との交流が少なくなると同時に去る者も多くなって廃れていった。
今、この町に住んでいるのは彼女だけなのだ。
「今、まともにあるのはこの店だけね。でも久々に客が来てくれて嬉しいわ、何か欲しい物があったらどれも安くするわ。大サービスよ」
「新しい拍車が欲しいの。長いこと酷使させちゃって、もうボロボロなの」
「それなら良いのがあるわ」
そう言ってエリィが持ってきてくれたのは、金色に美しく光る拍車だった。
「これは天然の黄金を加工して作られた、世界にたった一つしかない特別な純金製の拍車よ」
「こんなに美しい拍車、今までずっと見たことない・・・」
「非常に丈夫で、ちょっとやそっとでは絶対に折れたり傷ついたりしないわ」
「その拍車欲しい!いくらするの?」
「本当は3000ドルはするんだけど、1000ドルにまけるわ」
「よし買った!」

226 :
【金物屋の美女】(2/3)
シンディはその黄金の拍車を早速購入し、ブーツの踵に装着する。しっかりと丁寧に加工された純金製で軽く、足にあまり負担がかかることがなかった。
「これすっごくいい!ありがとうエリィ!」
エリィに感謝し、1000ドルを払って店から出たその時、雷がゴロゴロと鳴って雨がザーザーと降り出してきた。
「これじゃあ今夜は嵐ね。今日はここで泊まっていくといいわ」
シンディは今夜はこの金物屋で一夜を明かすことにした。エリィの作ってくれた美味しい料理を楽しんだ後、
今は使われなくなった寝室のベッドを使わせてくれることになり、そこで寝ることになった。
ベッドに寝転んだその時、床に一枚の紙が落ちているのに気付き、拾い上げて見てみると、それは手配書で、エメット・コッパーという名前の男の写真があった。
そのエメットという男はとても中性的な容姿をしており、女と見間違えるほど美しかった。
「なんかこの男、エリィと結構似てる。もしかして・・・」
翌朝、シンディは店を出る前に思いきってエリィに話しかけてみた。
「あ、あのエリィ、昨日の夜にこんな手配書を見つけたんだけど」
「そ、それは!!」
「何か心当たりはある?」
エリィは全てを話すことに決めた。
「その手配書にあるエメットって男は私のことなの。エリィというのは偽名なの」
エメットはまさにエリィ本人だった。
エメットはアメリカの遥か南部に位置する、ある国で家族と一緒に平和に暮らしていたのだが、
突如現れた数百人にも及ぶ無法者集団の手によって無残に国を滅ぼされてしまったのだ。
家族どころか住人は全員虐殺されてしまい、命からがら逃げたエメットが唯一の生き残りとなったのだ。
難民となったエメットは髪を伸ばし、女言葉を使ったりして女を装い、名前も変えて追っ手に狙われないように逃げてきたのだ。
そしてこの町に辿り着き、金物屋としてなるべく目立たないように生きてきた、というわけだった。
「・・・ということなんだ。お願いだからこれは誰にも言わないで!」
「心配しないでエリィ、いやエメット。絶対に誰にも言わない。そもそも、あなたは何も悪いことをしていないのよ」
突然、一人の大男が扉をバンッ!と乱暴に蹴り開けて中に押しかけてきた。
「おぅエメットじゃねえか!やっと見つけたぞ!」
「ち、違う!私はエメットじゃない!エリィよ!」
「うるせえ!バレバレなんだよ!」
男は乱暴にエメットの胸ぐらを掴んで持ち上げる。

227 :
【金物屋の美女】(3/3)
「ちょっと!彼に手を出さないで!」
「ん?てめえはシンディじゃねえか!よくも俺の仲間や傘下を潰してくれやがって!」
その男の名はジャーヴィス。かつて一大勢力を築いていた無法者集団の一角を担っていた「ロッテンクロウズ」のボスだったが
しかしシンディによって壊滅してしまい、今は賞金首として狙われる日々を送っているというわけだ。
「この際だからエメットも一緒にてめえも地獄に送ってやるぜ!」
ジャーヴィスはどこからともなく導火線に火のついたダイナマイトを取り出し、店の中に放り投げた。
ドカン!と凄まじい爆発音と共に、エメットの金物屋は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「よくもこんなことを!」
怒り狂うシンディが銃を取り出した瞬間、ジャーヴィスはナイフを取り出してエメットの心臓を勢いよく刺した。
グハッ!とエメットは吐血し、そのまま倒れてしまった。
「今度はてめえの番だ!シンディ!」
シンディは突進してくるジャーヴィスに向かい発砲しようとしたが、弾切れを起こしており、撃つことができない。
「しまった!弾の補充をすっかり忘れてた!」
「銃のないガンマンなんて、ガンマンと呼んでもいいのか?フハハハハ!!」
すると昨日、エメットから買った黄金の拍車の存在に気付く。
「これがあった!」
「Rえ!シンディ!」
シンディはジャンプしてジャーヴィスの攻撃を回避すると、そのまま踵落としするかのように彼の脳天に勢いよく拍車を当てる。
「ぐ、ぐわあ!!」
ジャーヴィスが頭から血を流して倒れた瞬間、持っていたナイフを奪って彼の首をグサッと突き刺す。
「エメットが味わった痛み、あんたも味わいなさい!このクズ!」
そのままジャーヴィスは大量出血して息絶えてしまった。彼が死んだことを確認すると、シンディは急いでエメットの方に駆け寄る。
「エメット、しっかりして!」
「シ、シンディ、そ、その拍車大事にしてね。あ、あなたを、す、救う強い味方となるわ・・・」
エメットはそのまま力尽きて死んでしまった。シンディは吹き飛んでしまった金物店の近くに、エメットの墓を立てた。
「エメット、あなたの分まで私は強く生きる。この拍車も大切にするわ」
シンディはそう強く誓うとサンセットに跨り、再び旅に出るのだった。

228 :
>>225
理不尽さを己が力で捻じ伏せるのが荒野の掟
強きを挫き、弱きを踏み付ける西部では、ただ儘に生きる事も難しいのですね

229 :
>>225
相変わらず絶好調ですねぇ
『変形』した拍車、『金物屋』の美女、『難民』で『女言葉』
このシリーズらしい無常の世界、、って言うかほんと行く先々で潰した悪党と出会いますよねw

230 :2020/05/19
>>228
>>229
感想ありがとうございます!
そうですね、悲しいですがこの弱肉強食といえる西部で力無き者は容赦なく潰される一方です
確かにシンディに壊滅されたにも関わらず運良く?生き残っているボスがやたらと多いですねw
今までのを改めて読み返してみると、あまりにも無法者が多すぎて「あ、こんな奴いたな」状態です(笑)
楽しんでいただけてすっごく嬉しいです!

【叩き】エブリスタ☆まったり☆Part.3【禁止】
【小説家になろう】底辺作者が集うスレ510
【Infinite Dendrogram】海道 左近 49
小説家になろうの女性向け作品を語るスレ126
【小説家になろう】感想欄の迷惑読者について語るスレ Part.4
アニメ化しそうななろう小説について語るスレPart7
【オーバーロード】丸山くがね448
【内藤騎之介】異世界のんびり農家 十二村目
【ラピスの心臓】おぽっさむ/羽二重銀太郎5
【盾】アネコユサギ総合スレ【槍】
--------------------
【南極】宇宙よりも遠い場所【よりもい】 第108次隊
まんが喫茶ゲラゲラ 総合スレ【9時間パック】
マロリー専用スレ ブルベ
【韓国】 日本のさつまいも密輸が横行、特殊禁止害虫流入の恐れ〜国産高品質さつまいもの普及が最善[04/29]
韓国「ラオスのダム決壊?ああ、あれは設計図は日本のもので、決壊した部分は日本が工事した」 [414137851]
アマでもプロでもミニ旋盤 part2
【DOAX】DEAD OR ALIVE Xtreme Venus Vacation 89日目【DMM】
【TV東京】モーニングサテライト Part.9
ーーー2020東福岡バレー部ーーー
豊田真由子様の口調で罵るスレですよ 第1回戦
野球大嫌い
冤罪被害者を破産、生活保護にし、保護費減額で封印
安い食器バンザイ
【インド首相】 13億人国民に外出控えるよう呼び掛け
三重で有名な詐欺師
☆【画像】5328
☆ TPPで郵政をユダヤ資本に渡すな! ★
【晒せ】リーシュ付けてない奴3本目【人間失格】
アイスホッケー 男子実況
【躑躅】静岡の奥様79人目【藤】
TOP カテ一覧 スレ一覧 100〜終まで 2ch元 削除依頼