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水泳の試合の入場


1 :2016/11/19 〜 最終レス :2018/02/27
一人づつ紹介して入場するのをテレビで見かけるが
あれは本当に必要?試合前に無駄な演出しなくても格闘技の選手
入場じゃあるまいし。

2 :
あれ大きな大会の決勝だけだから

地方の予選でやってたら、時間が足らなくなるよ。

3 :
問EX「で、あるからして天才は[x]の夢にうなされる」

 夜、皺の寄ったシーツの上でうるかちゃん(以下敬称略)がおへそも露に足を広げていた。褐色の立ち膝2つすっかり割
り開かれているのは再三にわたる唯我くん(以下敬称略)の最終確認を嚥下と共に受諾した結果である。
 暗夜の、秘事である。照明が落とされた黝(あおぐろ)い部屋に観月の淡い金光が幾筋も差込むさまは一種幻燈の趣が
ある。
 2人はいま、全裸だった。
 少女らしい丸みを水流によってシャープに攻(みが)き抜いた褐色の裸身の足の間に、細身だが、触れれば意外とがっし
りしている少年の姿が膝行している。
 両名ともひどく緊張した面持ちだった。
 うるかはチョコレート色の頬にひりひりした赤熱を乗せたまま、しかしどこか陶然と唇を結び瞳を潤ませ、唯我は眼鏡がうっ
すら曇るほど顔中に大粒の汗をかき、細い、細い、弾けそうな興奮を孕んだ乱調子の息をひゅるひゅると震わせている。さも
あらん、少年は生涯最大の昂揚の中にいる。原因は眼下に横たわる少女。姿は”人魚姫”の二つ名どおりしっとりだ。光が
透けるとどこか珊瑚の細工物のように赤み掛かる艶々としたショートボブはプール上がりのように前髪も襟足もじっとりと肌
に吸い付いている。原因は主に汗だが、うるかを湿らせているのはそればかりではない。例えばよく焦(や)けた肌のそこか
しこで煌めく水光の幾つかを観察すると、うっすらとだが何かに吸い付かれたような痕があるのが分かる。唯我の、所業だ。
頬、肩、脇、太もも……少年の衝動を散々に受け止めた肌はそのたび悲喜いずれかの嬌声をうるかに上げさせた。

 唇の端や乳房に点在する白濁が何か言うまでもない。流布する類の奉仕は概ね実行されてきた。健気さと従順さに基づ
く甘美なる炸裂がこれまで幾度となく発生した。

 りっちゃんこと理珠に比べれば流石に見劣りするが決して小さくはない乳房は日焼け跡によって相対的な白さを手に
入れており、それは枕頭の、初体験のドタバタによって期せずして開いたカーテンから差し込む月光によっていっそう幻想
的な色合いを与えている。

 しかしはてな、この両名、到底ふかい仲には成り得なかったのではないか。「うるかに好きな人がいるという唯我の誤解」
はどうクリアされたのか。
「成幸の受験が終わるまで負担になりたくないといううるかの思い」に関しては「どうせ受験が終わっても今度は新生活に慣
れるまではと理由をつけて延長するだろ的な、『犬』にも分かる理屈」が突破の原動力になったのかも知れないが、その辺り
はまあ、割愛する。

 唯我は、動いた。

「あっ」。うるかの鼻を甘い声が抜ける。膝と膝の間に居る少年の猛々しいシンボルがいよいよ濡れ光る秘裂に触れたのだ。
 ヘアは水泳選手だから当然よく刈り込まれている。丸坊主な三歳男児の毛髪のようにまばらで短く、柔らかい。
 諸々の葛藤とお伺いの雑多な積み重ねで結局2時間近くに及んだ前戯は、うるかの秘所をすっかりトロトロに潤ませてお
り受け入れる準備は万端だ。少年の粘膜と奏でたヌチャリという音に少女は猫のような大きな瞳をいっそう大きくし息を呑
む。
 ゆらい唯我に対しては良くいえば夢見がち、悪くいえば幻を見るほど異様な妄想癖を有する少女だ。挿入なる一大事の
場面だって何度も想像してきたし、そういう時の唯我を更に盛り上げる魅惑的なセリフだって何度も何度もベッドの中で
練習済みだ。だがいざとなると、いつものことだが、出てこない。停電した唯我家で、理珠みたくはすり寄れなかったチャンス
×の少女なのだ。しかも生殖器の粘膜を、長年焦がれた想い人のそれと触れ合わせている異常な状況、心臓バクバク、
顔面真赤の動揺極地だから、セリフなど、端的にいうと、トンだ。無数の思案の末に完成した美辞麗句が吹っ飛んだ。それ
でも何か言わなきゃと両目を一瞬、対立する不等号にしたうるかは愁いを帯びた顔つきで、か細く告げる。

「は、初めて…………だから、優しく……シて……」

 ひどいしおらしさは確かに唯我の鼓動をトクンとさせたが、させた方は内心大泣きである。

(バカー!! なにベタなこと言ってんのあたし!? てか今ので初めてってバレたー! ここまで一生懸命いろいろやって
きてそれなりに経験のあるオトナのオンナって演出してきたのに、く、口とかバナナで練習した成果を頑張って出したのに、
絶対初めてな成幸をスマホとかの知識でリードしてきたのに! 今のでぜーんぶ台無しになったーーー!! 結ばれてか
ら、実は初めてだって、驚かそうとしてたのにーー!)

4 :
 初めての子は重いと思われがち……そんなネットの情報を典拠としたうるかの対唯我の戦略はこの少女らしく恐ろしく
シンプルだった。(1)途中まで経験豊富と思わせておいて、(2)最後の最後で純潔でしたとバラす大逆転。優位は取りた
いが誰とでも関係するふしだらな女とは思われたくないといううるかの葛藤が良く出た他愛もない策謀だったが……

(自分で崩すとかどーなん!?)

 失態に少女は口をほぼほぼ水平にまで開ききったV字にしてふるふる、ふるふる。そんな彼女に、唯我。

「い、いやまあ、何となくお前が初めてなんだろうなって気づいてはいたが」
「気付いてた!? なんで! あっ」
 粘膜にかかる力が増した。「説明は……後な」。唯我の、切羽詰って底光りするあどけない眼に少女はちょっと竦んだが、
同時に(求められてる、ガマンできないぐらい求められてるよぅ)と嬉しくなる。美辞麗句はやっぱり思い出せないが、もはや
それはどうでもいい。

「う、うん。いいよ」

 少女はなけなしの勇気を振り絞って示す。
 長年の想いが報われることを、やっと結ばれることを、自分はとても嬉しく思っているのだと、表情に乗せて、

「来て」

 ずっと表現できなかった想いすべてを笑顔に変えて、両手を広げ歓待を示す。打算も何もない、仄かに含羞(はにか)みを
孕んだ透き通るような微笑に唯我は

(可愛い…………)

 理性も忘れ、前進する。

 ラビアを二度三度上下に擦った亀頭がとうとう裂け目に埋没した。「んくっ」。敏感な部分を侵食しつつある異物感に小さ
な肩が震えた。
 唯我は進む。
 痛いぐらいに剛直するペニスは標準よりやや長く、やや太め。受け入れる少女は少年より頭半分ほど小柄。必然秘所も
狭隘で、しかもこなれていない為なかなか肉竿、入らない。入念に準備した愛液の潤滑の援(たす)けがあってやっと砲身
が3分の1ほど入るという有様だ。
(太い……)
 やや早まる呼吸の中うるかは紅い顔を軽く横向ける。他方、少年は
(やべえ。先の方だけフロ入ってるみてえだ)
 手では味わえない未知の快美にただ奮(ふる)える。
 異物を押し戻そうとする「ナカ」の動きも、抵抗も、オスにとっては気持ちいい摩擦にすぎない。何よりうるかの表情。快活
で動的だとしか思っていなかった『女友達』が、恥じらいも可憐に身を任せ切っているという事実が弾けそうな気持ちを呼ぶ。
ここまで口と手と胸で合計5回出していなければ、挿入半ばでの射精なる男としてあるまじき醜態を演じていただろう。

 硬い手応えに、行き当たる。


 それが純潔の証であると同時に理解したふたりはどちらかともなく目を合わす。言葉は、出なかった。どちらも喋れば自分
が何らかの葛藤で止まりそうだから、無言の諒解だけを瞳に灯す。唯我はうるかのカッと血潮染まる代赭(たいしゃ。赤褐色)
の膝頭2つを立てたまま、少女の腰方向めがけなるたけググっと曲げる。そこは橋頭堡、手をあて支えとする。支点と結合
部の距離は、脇腹やM字開脚中の太ももを支えにした時より心持ち遠いから、ペニスを頂点に鈍角を描くような突き込みに
なる。初体験で選ぶにはやや奇妙な体勢だが、(武元の足、どんだけ柔らかいか……感じてぇ)、唯我はうるかがストレッ
チによって獲得した柔軟性をも行為の中で味わいたかった。じっさい膝は──厳密に言えば太もも付け根など足全体の柔
軟性に基づく両足の蛇腹的な畳まれ具合は──驚くほどグニャリとしていて、だから膝は、唯我が想定していたよりだいぶ
結合部に近い位置となった。

5 :
 そこを支えに、突き込む。破瓜は両名が想定していたよりずっと早く訪れずっと速く決着した。不意の衝撃に「ひぐっ!?」
とうるかが軽く歯噛みしながら仰け反ったのは、膝小僧を拠り所とする力の突き入れが、それまでの停滞がウソのようなスム
ーズさで関を破ったからである。「くっ、か……!?」。構造躯体を引き裂くような鮮烈な衝撃に少女はわななく。大きな瞳が
戛然と見開いた。黒目の”しぼり”はここまで拡がるのかとうるかが驚くほど大きくまろくなり、焦点を失った。尾を踏まれた
猫のような牟(な)き声が喉奥から迸った瞬間、無意識に頭が仰け反り頤(おとがい)が空を切った。よく陽に焦(や)けた
喉首にぶわっと噴出した脂汗は梅雨の外窓の水滴ほど多い。

「あ、ああああ……」

 頭だけでブリッジするような仕草で悶える人魚姫。脳髄ほぼ全てを占めるは熱くとろけそうな異物感。かすかにした血の匂
いは現実の物、秘部から溢れ出した幾つもの細い滝がシーツに点々とわだかまる。
 配慮と遅疑とで2時間近くに及んだ前戯の潤滑は、角度と力攻さえ確かなら容易く決壊を促すのだ。施した唯我ですら突如
局部を襲ったぬめりに殆ど崩落する思いで前進した。見下ろせば結合部、ほとんど根元まで体毛淡き谷間の中にある。うる
かが血の匂いをかぎつけた頃、彼は純潔の証が流れ出てくる様を目撃した。
(入った?! こんな呆気なく!?)
 大人しいゆえに自分はもっと初体験で苦労するのだと思っていた少年は驚いたが、それにかかずるヒマはない。体験した
こともない生暖かさが砲身全体に纏わりつき、妖しい気分が込み上げてくる。うるかはと見ればほぼ唯我と同じ気分らしく
これまた見たこともない艶かしい顔つきでもどかしげに喘いでいる。

 心持ち視線を左にやっている少女は熱にうかされるような表情だ。桜色の果肉を控えめに左官したように”ふっくら”盛り
上がる唇は軽く開き、微かに覗くエナメル質は枕頭の段差のやや先にある窓から差し込む月光の反射で、てらてら皓(しろ)
く濡れ光っている。熱く潤む大きな瞳はまだ快美より戸惑いが大きい。前(さき)の衝撃と、股間同士が密着している視覚情
報から何が起こったかキャッチしているが、認識の方がついていかない。

 臍下で渦巻き始める裂くような痛みの本質は結局強姦と変わらない。

 数年来の覚悟と念願に基づく合意は確かにあり、唯我もまた入念な、水準以上の潤滑をもたらしていたが、しかし他律さ
れる異物が生誕以来ずっと閉ざされていた渓谷を無残に引き裂いたという極めて客観的な事実は、女性視点の主観的な
観念に裁定を任せた場合どうも強姦めいており、で、あるが故にうるかもまた陵辱された時の一種絶望的な放心に見舞わ
れた。
 唯我を拒んでいる訳ではなくむしろ逆だが、しかし恋という極めて理性的な情緒の作業の落着が、破瓜と言う、生殖の、
あまりに生々しい原生的な痛みを孕んだ被害に帰結した。帰結せざるを得ない生物ゆえの落差は数年来の恋慕を以って
しても俄かには埋められない。

 宿業であろう、処女の。

 一方的に痛みを与えられる女性なればうるかの当惑は多かれ少なかれ味わう。或いは豊麗極まる媚態で跨り騎(の)れ
ば話は違うかも知れないが、羞恥がそれを阻むから処女性は難しい。

 不意に、泣いた。うるかが、である。痛みに対しては気丈を浮かべていた彼女であったが、現状を認識するにつれ真珠の
ような涙が数粒ぽろりと零れてきた。痛みは強姦と根を同じくするが、枝葉はまるで違うのだ。蕾は優しく披(ひら)かれた。
確かな愛の交流で契り……うるか自身が受け入れると決めて、受け入れた。やっと。ようやく。彼女は。
 想い人と、1つになれた。
 そういう思いによって促される流涕(りゅうてい)を一体だれが責められよう。
(ば、ばか、なに泣いてんのよあたし)
 こんなの重い女って思われるだけでしょと掌で目元を拭うが、涙はいっこう止まる気配がない。鼻先で熱い水気がツーンと
迸った瞬間、(あ、これヤバイ奴だ)と顔を横向けたが隠す方の余裕はもう無くて。
「だ、大丈夫か!? 辛かったら、引き抜く……けど」
 あ、動きたい衝動すっかり忘れてるなと分かるほど心配そうな唯我の声を聞いた瞬間、それだけ想われているのが実感
できた瞬間、涙はもうどっと堰を切った。苦衷と憂悶が報われたが故の涙は確かにあり、量は悲哀を凌駕する。片思いは
余りに長すぎた。報われるかどうかも分からないのに、うるかは、人気のない夜道をずっと避けてきた。

6 :
「あんた水泳ファンの間じゃアイドル並みの人気者なんだから、警戒しないとヤバいわよ」とは川瀬隊員の忠告らしい。ぽ
やーとしたうるかは何がヤバいか最初よく分からなかったと、いつだったか文乃に言ったが、「だから、キズモノになった
ら唯我の前に二度と出れなくなるよね性格上」なる海原隊員のフォローでやっと(いやいやあたしなんか襲っても得すんの?)
と思いつつも──…

 昼間でさえ人相の悪い男や不審な車には近づかぬようしてきた……という。

 捧げられるか定かでなかった純潔をうるかは彼女なりに懸命に守ろうとしてきたのだ。
 守ってきたものは今ぶじに捧げられた。安堵はしかしどこかで張り詰めていた糸を切った。豪雨の降り始めを思わせる大
きく熱い水滴はもう止められない。止められようがない。
(だから)
 気丈な少女らしく必死に口を結ぶ。湿った布を詰めた様な感触はもう扁桃腺の傍にある。いっそ弾ければどれほど楽か。
泣いて、しゃくりあげて、ここまで抱え続けてきた不安と貞淑の数々を唯我に曝け出すこと叶うなら、どれほど楽か。
(でもそんなんやったらヒかれるよ。だって成幸も初めて……なんだよ。動いて、気持ちよくなりたい時に、あたしが泣きなが
らあれこれ言ったら……萎えるよ絶対。この女、ナダメスカシがいるとか面倒くさとか思われたらあたし生きてけ──…)
 うるかの時間が凍結したのは唯我の顔を見たからだ。現実は想像よりずっと残酷だった。あれこれ怖がって、怖がりなが
らも覚悟する、そういう癖を持っているうるかですら、この時の想い人が投げかけてきた顔には、ひどく、傷つけられた。

 唯我は。

 泣いていた。

 鼻の頭を紅くして大輪の涙を、文乃でいう泣きぼくろの辺りに溜めていた。意図的に浮かべたものであればうるかはまだ
傷つかずに済んだだろう。だが唯我は「っっ!」と自分のそういう表情の変化が想定外だったらしく、慌てて眼鏡を持ち上げ
涙を拭った。拭うまで視線が自分に集中していたのをうるかは確かに視たから、だから彼女は傷ついた。好きな人が泣いた
原因が自分にあると分かってしまったから、申し訳なくて、傷ついた。その事実を表情筋に反映しながら、(嬉しい……)とい
う顔をもした。

「大会の、帰り道」

 かすかな痛苦と溢れそうな嗚咽にぶよぶよと輪郭を歪められながら紡がれたその言葉は閨とはかけ離れた物だった。
少女本人でさえ、言ってから「あ」という顔をした。不明瞭だが、唯我が先んじて泣いたうるかの悲事が何事かあったらしい。
 言葉はそこで途切れる。大会の帰り道で何があったかまでは語らず、

(……分かってくれたんだ。あたしの、本当に色んなことを)

 褐色の頬はただ微笑(わら)う。

 満足気に細まる瞑目の端に真珠のようなきらめきを宿したきり、不安定な潮が引くのを微かな震えと共に待ち始めた人
魚姫。
 彼女を瞻(み)る唯我の少し赤い瞳にはさまざまな申し訳なさが宿っていた。教育係としての鋭さはここまで男女の機微に
対しては一切発生してこなかったが、少女を抱くという極めて大きな変化のなか1つ上の階梯へ行ったらしく、それがため先
ほど、涙ぐむうるかから背景の様々を察したらしい。察した瞬間、
(こんな冴えない俺を……そんなに深く思ってくれてたのか…………。中学から、ずっと……)
 という感傷が少年の心を刺激した。男とは巨大な思慕を寄せられることを望みながらも、どこかで諦め決め付ける生物だ。
自己が評価する規模の自己であるなら、深く想われることなどないのだろう……と。安全、なのだ。そうやって欠点を、言わ
れる前に是認しておけば。であれば心ない女性からの指摘を受けても深くは傷つかずに済む……などといった世知辛い処
世を編み出すばかりだったと回顧する思春期だったのに──…
(武元は)
 密かに、ずっと、想い続けていた。風采が上がらず、家も貧しく、人生を、熱意を傾ける対象さえ見つけられずに居ると、
自分を卑下してきた少年(じぶん)に、
(武元だけは)
 価値を見出してくれた、今日び奇(めずら)しいまでの一途さで、必要な存在と思い続けてきてくれた……ということを涙ぐ
むうるかからつくづくと実感した瞬間、唯我は、気付けば涙を零していた。零した瞬間、(なのにそんな武元に、俺は)気付い
てやれなかったのだという申し訳なさが込み上げてきて、鼻が痛み、喉が詰まった。

7 :
 涙をぬぐっても、洟を啜る水音は止まらない。瞳の色から察するに、『苦学の中、うるかの水泳の頑張りから勇気を貰って
いた』気配が強い。救いをくれた少女が自分への思慕を匿(かく)し続けてくれていたのを知ったからこそ、唯我の歔欷(きょき)
は、止まない。

 交合はどうも男女の哀切をも昂ぶらせるらしい。唯我の涙を見たうるかは一瞬であるが本当に決壊したくなった。「泣かなく
てもいいじゃん成幸」と言いながらギャン泣きして一頻(ひとしき)り泣きあえば確実に両名ともすっきりできるだろう。唯我の
涙とはつまる所うるか積年の想いへの無言の感謝なのだ。ならば少女が、報われて嬉しいと泣きじゃくるのは自然だし、報
われなかったぶん今ぐらいは涙なる醜態も許されてはいいではないか。

(でもあたしまで泣いたら収拾つかないしなー)

 うるかのどこかが戯画的な顔でのほほんと思ったのは結局つまるところ”女”だからだ。普通に育った女性は、男に泣かれ
るとどこか冷静になる。薄情、という訳ではなく母性の問題だ。幼少期の本当に悲しい時の涙を母親に、ちゃんと受け止めら
れ共有された少女が男の涙を目撃した場合まず「助けなきゃ」という情誼を沸かす。(逆に涙を碌でもない怒りで抑圧された
場合、哀泣に対しひどくヒステリックになる)。
 うるかは標準的な母性愛を受けて育った。少女としては泣きたい気分は未だある、確かにある。伝えたいのに、遠慮のせ
いで伝えられない諸々が熱く湿った空気を瞳の前線に送り続けているのは確かである。

(けど)

 母性はそっと唯我の顔に手を伸ばす。眼鏡と皮膚の隙間に潜り込んだ指は自分でも驚くほど優しい手つきで涙を拭った。
 その思わぬ挙措に驚く唯我。。
 人魚姫は目元に涙を讃えたまま、静かに笑う。

「ありがとね、泣いてくれて。あれだけでホラ、あたし満足だから。ね?」

 自分にあるかどうか分からない女の子らしさを必死に瞳孔へかき集めて、甘くて優しい雰囲気でろ雰囲気でろと頑張って
訴える。泣いてでも欲しかった共感は唯我の涙によってきっと大半が補われたのだ。貞淑を守るための精一杯の努力や、
想いが報われるかどうか分からずただ怖かった日といった存在に、唯我は気付き、謝意と謝罪で涙した。

「泣いてくれたんだね。あたしなんかの、為に」

 まだ溢れてくる唯我の涙をうるかは拭う。夏の日差しの面影の濃い掌は、いかにもインドアでちょっと青白い頬を愛しげ
に撫でる。
 人魚姫は人魚姫でぽろぽろと涙が零れてくるのを止められないが、それでも微笑は懸命に保つ。笑ったまま「よしよし」と
唯我の涙を拭い続ける。「泣くな」とは言わない。心が楽になるまで泣いていいよ、付き合うよと構えるのが泣かせてしまった
原因である自分が当然果たすべき責務だと人魚姫は考える。

「気持ち、隠してたあたしの方がずっと悪いし」
「違う。俺だって、俺だって、プールの時のアレで気付けた筈で」
 ううん。うるかは首を振って静かに笑う。
「アレで気付けないほどこんがらがっちゃったのは、ラーメンの後、あたしが、はぐらかしちゃったせいじゃん」

 唯我は悪くないよという囁き。掌には熱が昇る。少年の頬はすっかり紅い。

(なんで俺の方を……気遣うんだよ)

 いっそう強く押し出される涙を丹念に拭う指が、唯我には辛い。思いやりを享(う)けることに罪悪感を覚えるのは支えあっ
て生きてきたからだ。家庭が、貧しい。身を切って配られる物がどれほど重いか知り尽くしている唯我だから、今のうるかの
献身が、やるせない。ようやく言葉を、発した。

「一番泣きたいのはお前だろうが。なのにどうして原因な俺を優先すんだよ」

 うるかはちょっと困った風に肩を竦めて笑ってから、「えへへ」と頬を緩めた。

「しょーがないじゃん。好き……なんだからさ」

 眼鏡が、ズレた。不覚にも見蕩れた唯我は(クッソ! 過去の俺殴りてえ! こんな可愛い子を「あの武元」とか呼んでた俺、
ブン殴りてえ! どんだけ節穴だったんだ俺の目、どんだけ!)という感情を全面的に押し出した。

8 :
 愁嘆場を覆す動きは更に起きる。
「成幸」
「なんd」少年の言葉は途中で遮られる。んむっという柔らかな音が塞いだのだ。持ち前のフィジカルで仰向けから跳ね上がっ
たうるかの唇によって封じられたのだ。接触は数秒にも満たないし、この時が初めてでもない。既に何度か経験した舌同士
を絡めあうディープなものでもない。そっと重ねてそっと放す挨拶程度のものである。だが挿入という最大の出来事にばかり
目を奪われていた唯我の不意を突くには充分だった。
「お、お前、いきなり何を……」
「にへへ。何となく」
 してやったりと白い歯も露に笑ううるか。一方の唯我は少女のようにドギマギとしている。
(きゅ、急に戻んなよ、いつもの……武元に)
 匂い立つように瑞々しい少年の照れに誘引されたのだろう、ニカリと笑っていた褐色少女の頬が切なさに彩られ、再びの
キスへと移行する。
 今度は舌を吸わせる為の艶かしい行為だが何を思ったのか唯我は顔を引き、あろうことか……排出、『拒まれた……?』
と不安に彩られるうるか。そこに少年はほぼ激突する勢いで猛烈なキスを見舞い、舌を絡める。
「んーっ、んーっ」
 突然のことにもがくうるか。反射的に逃げようとする肢体をしかし少年は逃がさない。
 背中に手を回し、強く、ぎゅうっと抱きしめる。「〜〜〜〜っ!?」 思わぬ奇襲攻撃に、うるかの、ねこねこした瞳が驚愕
に見開く。細身が砕けるほどの熱烈なハグに少女は混乱しながらも歓喜するが、しかしキスによって息ができないのも事実。
鼻梁すら押しつぶすほどの強い愛情表現だから窒息寸前なのである。

 とんとんと遠慮がちに叩かれる胸の響きを感じつつ、唯我、思う。

(武元。お前は常に突き放されやしないか不安がってるようだからな。敢えてキスを拒み、ショックを受けた所で想定以上の
をすれば絶対にマヒする。そして!)
 息をできなくしていたのも策略の1つ! もうそろそろ限界だろうなというタイミングで顔を離す。果たして呼吸を再開する
うるか。へあへあと舌を出し、酸素を取り込む。
(それを、待っていた!)
 きゅぴーんと──いい教師であるが、秀才どまりの器らしい、しょうもない策士気取りが我々に出会ったころ、あったのだ
──きゅぴーんと唯我は内心で恰好つけたポーズをしつつ、剥き出されたうるかの舌に己のそれを絡める。
「っ!? は、はぁ、はぁ……」
 びくりとしたうるかだが、誘うような絡み付き方に情欲の炎がついたと見えて舌使いをヒートアップさせる。少年のうるかの舌
への執拗さときたら、桃の”たね”からなおも果肉をそぎ落とさんとする時のネチっこさ。うるかはうるかで、舌使いを拒むど
ころか嘗(な)めに嘗めて熱烈迎賓。愛撫の錯雑。くちゅくちゅとした水音がしばらく響く。
 この間、両名は繋がったままであるが、動き始める気配はない。
(本当は突きたいさ、てか武元の中すんげえ気持ちいいから、今すぐめちゃくちゃに動きてえ!! けど!)
 ゆらい誠実な男である、結合直後の心の交差が軽挙を許さない。作法というか儀式というか、とにかく愛情を確かめ合える
何事かを挟んでから動かないと、なんというかただの欲望でうるかを抱いたようで、嫌なのだ。

 長めの、納得を得るには充分なほど長めの、たっぷりとしたキスが終わる。

 二度目の酸素確保のインターバルを与えられた少女──水泳選手だから辛うじて耐えられた長い無呼吸期間だった──
の両肩に唯我はすっと手を当てる。
「こ、今度は、なに……?」
 怯えながらも期待に潤む上目遣いはサドッ気を存分に刺激する。ちょっと見とれながらも唯我は、
「お前が悪ぃんだよ」
 理性的だが弱気な少年がいよいよ衝動を炸裂させるとき特有の、やや上ずり甲走った声音で、
「お前らしい、ガキ大将みたいな笑顔から、お前らしくない色っぽい顔になって舌吸えとばかり迫ってくるとかなんだよ」
 倒していく、うるかを。ベッドめがけ、沈めていく。
「くそ。可愛いから悪いんだよ。どっちも可愛くて、落差もすげぇから、俺はもう、俺は…………」
「…………っ」
 褐色の頬が艶かしく波打ち、大きな瞳が泳いだのは内部で存在感を増す唯我を感じたからであろう。根が気弱な少女らし
く、いよいよ次なる事態が迫っていることに一瞬恐怖を覚えたが、先ほど母性優先になっていたのがここで効いた。

「うん。あたしが泣いちゃったせいで随分待たせちゃったもんね。動いて。たくさん……動いて……」

9 :
 微笑は先のガキ大将のものではない。総てを抱擁する優しさの笑みだ。
 これによって唯我は免罪符を得たが、すぐさま直ちにガッつくのは何だか情けないという見栄もまたあり、

「う! 動きはするけどな! 痛くなってきたらちゃんと言えよな! 傷は傷だし、洗いはしたが、入れてるモノがその、モノ
だし! 俺の無茶のせいでお前が破傷風めいたもんなって受験に差し支えが出るとか、嫌だからな! ちゃんと言えよ、
ちゃんと!」

 捲くし立て、ツンと赤面を背けた。
(はうう、ツンツンデレデレな成幸カッコ可愛いよぅ)などとうるかは両頬に手を当て瞳孔2つをでっかい一等星に置き換えたが、
気遣うあまり想い人が動けなくなってはたまらぬと、叫ぶ。

「ちがっ、違うよ! 痛いから泣いてたんじゃなくて、嬉しいからで、でもなんてゆーか、中学からずっと好きだった成幸と1つ
になれて嬉しいとかそんなの言ったら、『この女さっきからベタなことしか言えてないな、つまらない』とか呆れられそうで、だ
からそんなん言えるわけないでしょ成幸のばかーーーっ!」
「……言ってるじゃねえか。てかその辺の話引っ張るなって言葉の外で訴えておいて自分の方ではまだ言うか」
 少年のもっともな指摘に「はっ」と褐色少女、顔をコタツの照明より紅くした。黒焦げた煙さえ頬から立ち上るようだった。
「てかやっと結ばれたときのセリフがこんなんでいいのーーーー!? 色気もへったくれもないじゃんバカはあたしだーー!
ああもうやっぱ泣きじゃくってた方が色っぽかったかなあ!! って! 今さら気付いても手遅れじゃん! もう別のイミで
しか泣けないーーーー! もうイヤー!!」
 頭を抱えてぎゃーぎゃー騒ぐ少女に(確かにもうちょっとお淑やかにはして欲しい。あと武元さん? あまり動かれると刺
激で下の方がですね)と眼鏡少年は引き攣る。繋がった状態でこれである、どうも両名、艶聞一色には染まりきれぬ間柄
らしい。

10 :
(……でも)

 少年は「すげえよ武本は」と少女を見た。様々な感泣を結局のところ耐えた少女を。彼女は耐えて、いつもの明るい調子
を当たり前のように取り戻している。

 くすん。うるかは鼻を鳴らした。むっくりとした柴犬の子供が途方にくれているような大仰な眉の下げっぷりだった。(こんな
あたしじゃ幻滅されちゃうよね……)という不安が大いに滲んでいる。

「大丈夫だって。心配すんな」
 少年は柔らかな苦笑と共に少女の側頭部を右手で撫でる。子供をあやすような仕草であり閨にはとんと不向きだが、しか
し唯我は女性を安心させる術などほとんど知らぬ。やれることといえば妹2人で培った「あやし」ぐらいだ。撫でながら優しく
呼びかけることしかできないから、幻滅を恐れる少女へは
「俺はお前のそういうとこが……好き、だし。ぶっちゃけ、そのままの可愛い所が見たい」
 と、照れくささに詰まりながらも自分なりの懸命さで好意を込めるほか、唯我は応える術を持たぬ。

11 :
 少女には曲解の癖(へき)がある。唯我の言葉を何かと拡大解釈してしまうのだ。
 それがこの、聞きたてのセリフにも作用した。
 うるかはデフォルメの効いた、悪意で修辞するなれば愚鈍の体現者のような顔つきでほわほわと変換した。
(お前がこの先どんな痴態を演じても、俺は愛し抜いて見せるぜ?)
 なる地上のどこにも存在しない唯我の言葉を捏造し、あろうことか、
「もー! どんな痴態でも愛するとかドンヨクだなあ成幸は!!」
 とペンギンの前肢のように簡略化された両手をブンブン振って照れ混じりに叫ぶ。この少女、性分明朗なれど臆病という
特質に生まれついてなければ、ストーカーになっていたであろう。

「痴態? ドンヨク……?」
                    おか
 唯我は唖然としたが、うるかが風狂しなことを口走るのは毎度なので受け流す。
「てかお前、結局のところ大丈夫なのか?」
「んー? どしたん?」

「どしたんじゃねえよ。だから、その、俺のを、お前、今……」
 唯我の視線を追って自分の下腹部へと視界を移したうるかはハっとする。肉壺はいまだ剛直を納めている。実感すると
面頬からは快活さが消え、代わりに切なげな震えが走る。
「ど、どうしよう。改めて認識したらちょっと……変な気分に……」
「痛みは」
「ふぇ? あ、ええと、あるっちゃああるカンジ? ジンジンするっていうか、おっきな座薬が入ってるっていうか、あ、今の
ナシ、忘れて! 座薬挿したことあるのとか考えたでしょ成幸のばか、あわよくば挿したいとか……えっち!」

12 :
 振りかざされた枕を頭にてポフリと受け止めるのは贖罪だ。少年らしい勘繰りは確かにあったのだ。
「すまん武元。前半だけは事実だ」
「えええ!? あれ? 呼びかt……あ! というか成幸のが座薬みたいに細いとかじゃないよ! ホントだから!」
 枕をてやりと元の位置に戻すうるかに、少年はちょっと吐血もののショックを受けた。少女たちから低い扱いを受けるの
は慣れているつもりだが、それでも”そこ”のサイズについて貶められると男としてかなり悲しい。
「てゆーか、成幸の………………太い…………」
 そっとシーツで口を隠したうるかが上目遣いで恥ずかしそうに告げた瞬間、男としての自信、復活。
「ふわっ、な、なんかまたちょっとカタくなってない……?」
「男ってのはシチュで変わるもんなんだよ。悪いか」
「悪くないよ。というか…………カタくて太い成幸も………………イイ、し………………」
 後半はほとんど消え入りそうな声のうるか、耐え切れなかったのかシーツで顔一面を覆う。静寂の深夜のしかも間近で
漏らされた声を聞き逃すほど難聴ではない少年は、燃えて、萌える。
(可愛すぎんだろ武元!)
 少年、やや暴走。うるかの顔からシーツを強引に剥ぎ取る。「ひゃああ!?」 思わぬ侵攻に少女は面食らったが、「えへ
へ、なんか楽しい」と能天気な不等号目つきで笑ったりもする。もっとも、
「さてそろそろ」
 と唯我が何事か告げた瞬間、さすがの能天気もサっと緊張に強張った。
「大丈夫だったらもういいだろ、動くぞ」
「う、うん。好きにして……いいよ。って、またベタだあたしもうイヤー!」
 涙ぐむうるかの絶叫。だがそれは半ばで止まる。触れたのだ。髪に、手が。
「いいんだよベタで」
「え」
 手。それは唯我の物。撫でていた。彼はうるかを撫でていた。
(お。おおお)
 状況を把握するや少女は歓喜した。
(頭なでなでだーー! ときどき理珠りんに影でこそっとやってる頭なでなでだーー! やって欲しいって思ってたけど、言うと
ちっちゃくもない筋肉付きまくりの女がナニ言ってんだってヒかれそうで求められなかった、頭なでなでだーー! しあわせー)
 とろっとした垂れ目の三本線でほわほわする少女はちょろいが、忠実だ。次の唯我の言葉も確かに聞いた。

13 :
「何だって基本を疎かにする奴は伸びねえよ。水泳だって英語だって、お前は一番地味で面倒臭い基本こそ大切にしてる
だろ。馬鹿になんてしてねえだろ。一見軽そうなのに着実なことできるお前のそーいうトコ、立派だって思ってる。あ、あと、
料理もだな。あれも基本を踏まえてる。立派だよ」

(え、料理まで!? 何コレ幸せすぎるんですけど! まさかユメ!? ユメなの!? あ、でも、あそこは……まだ痛いし……
じゃあユメじゃない! ヤッター!)
 褒められながら頭を撫でられる喜び。うるかは気付いていないが、脳内麻薬うんぬんで秘部の痛みは集中してようやく知
覚できるほど小さくなっている。唯我がこれを打算でやっているなら寧ろ可愛気があるが、この男の始末の悪いところは、
斯様な”たらし”をまったくの自然体でやれるところだ。文乃のポニテくるくるの真意はカケラも気付きもしなかった癖に、う
るかの喜びそうな言動は当たり前のようにするから、まったく憎々しい。

 ふつう初陣の男子は征服した領地の甘美さに心奪われ遮二無二に動くものであり、うるか自身そうされるのを(期待と共に)
覚悟していたのだが、唯我はすぐには蹂躙的な動きは見せず、ただただ少女の平生のみを褒めた。事ここに到る前にそ
れをやれば「繋がりたいがため、拝み倒している」とうるかですら──女性としての疑い深さではなく、己に自身のない少女
としての不安から──疑念を抱いていただろうが、破瓜直後という一番貪りたくなるタイミングで平素への感服や、「なでなで」
の方を優先されると、
(しあわせ)
 心まで1つになれた気がして、うるかは心底からの充足に頬を緩ます。

 唯我は、言う。

「だからいいんだよ。こういう場面でベタでも」
「そりゃそうだけど、で、でも、恋愛だよ!?」
 もっと聞いたことない言葉とかのが嬉しいんじゃ……そう言い掛けるうるかの内部で槍が引かれて、押し出された。ズンと
いう衝撃に彼女は一瞬息すら忘れた。むず痒いような、痛気持ちいいような感覚の炸裂に、「あ……が……?」と両目を白
黒させるうるかは、眼前小岩の如くそびえる唯我が二度目の律動に移っているのに気付き、青くなる。
「動い……ちょ、え、褒めてるさいちうに、いきなっ、……あっ!」
 再度の突き入れに、仰向けるうるかのココア色の顎が跳ね上がる。
「ベタってのは、基本ってのは、人の心を捉えるもんなんだよ」
 三度、四度。引いては突く繰り返しは徐々に加速を帯びてくる。最低限の脂肪しかない、それでいてストレッチで存分な柔
軟性を得たチョコレート餅のような質感の脇腹に指をめり込ませた唯我は何度も何度も腰を叩きつける。最初こそ破瓜の傷
を擦(す)られる微妙な苦悶を浮かべていたうるかも、徐々に徐々に女芯を燃やし始める。
「よく分からないけど、熱い、お腹の中が段々、熱く……」
「ベタだな」
 けどそこがイイんだよ。とろけ始めた顔つきの少女にひどく興奮した様子の唯我は突き入れる角度を僅かに変える。
「っは! はううん。そこ、そこもなんか、イイ、良く分からないけど、いいよぉ……」
 軽く甘え泣きして更に物欲しそうに唯我を見るうるか。
「言動には心ってのがあんだよ、軸の通った基本こそ一番の武器なんだよ」
 と平素教師をやっている唯我はやや説教じみたことをいいながら更に突く。
 時に浅く、時に深く。
 力いっぱいの全速で、現状考えられうる限りの最奥を打撃したかと見れば、うるかの膣の圧迫を楽しむように緩やかに。
 少女が少しでも未知の反応を示せばその地点を重点的にイジめ抜く。

「ベタでも心がかよってりゃ」
 水音の中、前後しながら、言いつけるように、
「燃えちまうんだよ、男は……」
 と灼熱の突き入れで教導する。
 説教強盗じみた愚にもつかぬ『教育』だが、受験勉強を通して形成された一個の、「教える立場なのだ」という優位性を
動員し、動員することによって名誉にかけての保全を企図せぬ限り唯我は、ともすればすぐにでも漏れ出でそうになる衝
撃に到底耐えられそうになかった。そういった戒厳を施して初めて粛然となれる様態は桐須先生にも似ているが、意図し
たか、どうか。

14 :
 とまれこの教育の本質は結局、”躾”なる行為であるから結局唯我自身「ベタ」の轍は踏んでいる。もっともやられる方はい
い意味でも悪い意味でも反駁の素養を有さない。うるかはただ、唯我から発される肉体的な揺さぶりに、獰猛な愛情が存
分に篭っているというただ一点に対し、(はうう、ドSちっくな成幸もカッコいいよぅ)と惚れ惚れするのみである。
「むしろ下手に恰好つけた内実の伴わん方法とか言動とか、いつか絶対メッキが剥がれるもんなんだよ」
 という唯我本人こそちょっとそっち方面な”攻め”をやりつつあるが、濡れ場の男など客観視すれば概ね滑稽な物なのだ。
むしろ「勉強」という学生最大の本分に通じる言動である分だけ、常人の痴態よりはマシであろう。
「お前は今のままでいいんだよ。軽薄なこと一切すんな。いいな」
 と上ずった声で言い渡す。半ばは教師として出来上がった態度だが、半ばは可愛い少女を自分色に染めようとする他愛
もない独占欲だ。
「う、うん。しな、しないから……約束するから、もっと……してぇ」
 少女は綿になることを欲す。大好きな少年の独占欲を吸う一個の真綿になりたいと願う。
 ベッドのスプリングはいつからかか軋み始めている。最初こそ遠慮がちだった唯我はもう欲望の赴くままだ。若い獣の貪り
で揺らされる日焼け痕の裸身は、当然ながら双丘をも、ぷるん、ぷるん、と瑞々しく上下に左右に揺らしたくる。巨乳、とい
うには些か厳しいサイズだが、しかし大きさのみが重要なのではない。「デカけりゃイイってもんじゃねーんだよコラ! だよ!」
と言ってこその『師匠』であるだろう。大事なのは持ち主が可愛いか否かだしだいたい頑張れば点数と同じように伸びr(以下
592行削除)、掌にほぼほぼ収まるサイズの膨らみは、能動的ながらに慎ましいうるかを体現するに相応しい可憐さだ。
正常位の突き入れによって先ほどから可愛らしく動盪していたふくらみに少年の我慢は、弾けた。
「きゃう!?」
 脇腹を握り締めていた両手が艶かしい乳房たちを揉み始めた。7
(ちょっ?!! 確かにもっととは言ったけど、胸まで!? こ、ここ、だけなら)
 何度か触られてはいる。前戯のさなかちょっとした騒ぎのすえに。
 左の、やや小さめな乳輪の周りにいまだ付着している白濁を見れば何が行われたか想像に固くない。挟みもしたし、乳首
で先端をも刺激した。だから決して未知の刺激ではないが、秘部に突きこまれながらとなると快美の色合いは変貌する。色
つき透明セロハンを重ね合わせたような加法混色によって……激変する。或いは爆薬調合。腰と胸、まったく違う箇所から
上ってくる快感が脳内で遭遇するや交じり合い、此処の爆発力以上の爆発を惹起。
「ふああああああああああん!?」
 これまでどこかで堪えていたうるかの声が甲高い叫びとなった。武元家にうるか1人という好機を見計らって唯我を招き
入れていなければ、この声1つで秘事は露見していただろう。それほどの大声だった。中学以来の知り合いの聞いたことも
ない声音に、淫らながらに愛らしい叫びに、少年の背筋はゾクゾクした。

 困ったのはうるかである。勝気な表情を赧(あから)めながら透き通った瞳を泳がせる。
(バカなに大きな声あげてんのあたし!? 近所の人に聞かれたら成幸の推薦パーになるのよ!? 確かに気持ちよかっ
たけどでも何度もは駄目、バレちゃう! でもあまり強く拒んで成幸にヒかれるのもイヤ! この女たいしたサイズでもない
のにケチりやがってとか思われたらあたし生きていけない。じ、実際、リズりんに比べたら……だし。これっぽちだし……)
 おぅこらテメー贅沢って言葉知ってっか、塾じゃDつってたよな、ア゛ァ!? だよ! ととある少女が知れば間違いなくガン
を飛ばすであろう事柄をありありと表情に浮かべるうるかの思案、続く。
(ととととにかくやんわりとした断りのセリフ入れなきゃ保(も)たないよ! 凄く気持ちいいけど、今はだめ、下からの刺激に
慣れる前に胸刺激されたらえっちな声がいっぱい出ちゃう、バレちゃう! ご近所さんからママにバレて推薦パーで、あああ
どうしたら、どうしたら成幸おこらさずに断れるかなあ! 柔らかい言葉、柔らかい言葉、なんでもイイから出てきてよーー!!)

15 :
 両目をグルグルさせながら必死に考える人魚姫であったが薄桜色の唇はやがて動く。「の」。の? 何を言わんとしているの
かとばかり唯我の視線が武元うるかに集中した。果たして言葉は緩やかに紡がれた。

「の、のーさんきう…………」

 言葉と共に少女は右腕一文字で2つの丘を隠した。顔は羞恥でいまだ紅いが手応えも感じている。
(英語なら柔らかいよね! しかもこれなら『咄嗟に英語で断れるぐらい勉強してるのか偉いぞうるか』とか褒められつつ中止に)
 右腕が剥がされ鷲づかみの一撃が炸裂する。「きゃん!」 びっくりするうるかの乳房は以前より猛々しい力でぐにゃぐにゃ
揉まれ込んでいく。
(うわーんダメだったー!! てかあたしのーさんきうって言ったじゃん、なんで逆にコーフンしてんの成幸のバカー!!!)
 自分の言動の何が少年を燃え立たせたのかちっとも分からぬうるかである。こうなったら事情を洗いざらい話すしかないと、
テンパった涙目で叫ぶ。
「駄目だからおっぱい駄目だから! なぜならノーブラだった球技大会のとき成幸に擦られたのが気持ちよくて、それから時どき
成幸のこと考えながら触ったり抓ったりするようになってますます敏感になっちゃってるからーー!! だからダメー!!」
 背筋をゾクゾクさせた少年、触ったり抓ったりをやりだした。事態はもう、めちゃくちゃだ。
「うぎゃーしまった! これ言わなきゃ絶対バレなかったやつじゃん! どーして自分でバラすかなあたしーー!! あっ、だめ、
そこ特に触ってたとこで敏感だから、やめっ、あ、だめ、だめ、うわあん……また自分でバラし、あン!」
(ああもう)

 唯我は眉尻さげ、ほっこりした。叫ぶうるかに、である。
(す……っげぇ可愛い)
 声を出さないための対策を悉くしくじり大声を上げている滑稽さが少年は楽しい。性行為という、甘美ながらもふと冷静に
なれば不安な未来しか浮かばぬ『作業』の中で、そういった暗さを一切見せず普段の明るさを保っているうるかを「凄いな」
とさえ思った。破瓜を成した行為いまだ終わらぬ中で、「これ」なのだ。彼女にしてみれば痛みなど、唯我にどう思われるか
に比すれば鴻毛程の重さもないらしい。
「武元」
 じたばたする少女の顎を唯我は持った。
「あ……」
 くいっと少年に”向かされた”うるかは驚きながらもどこか観念したように瞳を細め視線を逸らす。感じたのだ。かれの声音
に籠もる獰猛さを。普段なら「つーん」と顔を背けていたろうが、せめてもの可憐な抗弁が精一杯。
「その武元ってのやめて……。名前で呼ぶって、言ったじゃん。プールで約束したこと守ってくれなきゃ……いや……」
「6年近くこっちだったしすぐにゃ無理」
 答える少年の声は切羽詰っている。ベルトをがちゃがちゃとほどく時のような、刺激に飛びかかりたくても飛びかかれない
もどかしさが滲んでいる。だからこそ手つきは速い。空いている方の左手はもう鮮やかな乳輪をなぞっており、その刺激に、
甘美なる泡粒の洶(さわ)ぎに、「んくっ」と少女は目を瞑りかけたが、
「い、今はだめ……だからっ」
 鋭い叫びと手つきでぴしゃりと撥ねる。うるかの手刀は、鋭い。水中において早回しの櫂のごとく運動できるよう様々な訓
練を重ねているからだろうか。とにかく少年の手を胸から追放するや少女は抗禦の構え。隠したのだ、乳房を。今度は両腕
を胸骨の前で交差させ「今だけは……」と赤らんだ瞳で懇望する。
「慣れてきたら、腰の方のちゅくちゅくに慣れてきてからなら幾らでもイイから、だめなの、今だけは、胸……やめっ、あ!!」
 新たな刺激に声が跳ねる。
 唯我の手がうるかの手と胸の間に潜り込んだ。聞く耳もたず、という訳である。腕と胸の間で圧殺されたヘビの如く這い回
る唯我の腕をどうしていいか分からずうるかは「…………っ」と両目を潤ませた。

 根本は恐ろしく従順な少女だった。「…………」。もう逃れられないと覚悟を決めつつも、気恥ずかしさと不安が多いに乗った
切なげな顔をシーツの上できゅっと逸らした。唯我の手がまた乳房へ。今度は、抵抗しない。「んんっ」。甘やかな果肉の弾
力が恋人の掌の中を跳ね回る。ゴムボールの圧搾だった。柔軟不壊の弾力と戦わされる握力だった。強く握ればするりと
逃げる柔らかさは唯我の握りこぶしの中をくにゃくにゃと逃げ回った挙句、人差し指の輪とも隙間とも取れる隙間から、ぷ
くりと盛り上がり棠(こりんご)を作る。(恥ずかしい……)。全てを見ていた少女の頬に血潮が上る。

16 :
 筋力で「もやし」の猥褻を拒みきるのは容易い。だが口で「だめ」と言いながらも瞳にはどこか期待の光が灯っている。
 従順な乙女は本心の深いところで蹂躙を望んでいるのだ。だがそれを述べるのは貞淑さ故にどうしてもできず、また、初
めての行為で極度に乱れ狂った場合、「インラン」とドン引きされるんじゃないかという不安もある。
 唯我は一切合切を見透かした。才、である。教え子の得意分野と苦手分野を分析できる観察力がそのまま女衒の手練
に転嫁しつつある。

 不幸なのは俎上の人魚姫だ。また乳房を揉まれ身悶えた。胸部において四本の腕が入り乱れる攻防戦を繰り返してい
る間も少年の突きこみは継続されている。砲身に纏わりつく薄桃色の液体は破瓜の印と愛液との混合物。茂みが薄めの
秘裂から滴る蜜は唯我に内応しつつあるらしく、透明から、泡めだつ白の度合いがそろそろ強い。潤滑が往還を助ける。
胸をいじられながら突かれるうるかは額に左前腕部を乗せ艶かしく喘ぐ。

「あっあっあっあン」

 穿たれたりといえど脳医学的にはまだ童女である、うるかは。膣からの刺激はまだ受容器官の中では、「快美」とさえ認識
されていない。ただ漠然とした、宇宙全体を思うような巨大な概念だけが唯我の蠕動によって伝わってくる。痛みがあり、異
物感があり、それらに対しうるかの童女的な思考体系は限りない恐怖と恐慌を抱いているのに、他方、少女としての観念は、
「成幸と、1つになれた」という事実を的確に認識し、認識することによって限りない多幸感を覚えている。
 今の彼女の性感帯はどうも、条件付けによってのみ成立しているらしい。
 少なくても現時点の生殖器に於いては、気持ちいい場所というのは具体的には存在せず、唯我の動きに付帯する加圧や
摩擦といった極めて現実的な刺激の種々を、「成幸にそうされちゃってる」から、気持ちいいとのだと解釈しているように見て
とれた。
 男にとってこれほど都合のいい体もないだろう。侵襲すべて、是である。なのに是であることはまったくの悪事であるように
うるかは恥じらい、ブレーキをかけんとする。
(その慎ましいところが)
 唯我の攻め手に愛情ゆえの緩急を与え、

(ほ、本当に成幸初めてなん……? 上手で優しくて、気持ちいい、気持ちいいよぉ)

 とうるかの顔をますます水気でくしゃくしゃにする。唯我。初めてゆえ技巧1つ1つは拙いが、全体的な波に整合的な諧調
がある。優しく、理詰めで、何より女性に対して誠実だから、いきおい房事の手並みも相手の反応に合わせたものとなって
いる。それが、
(いい、とても、いい……)
 胸に生(な)る林檎が弾け飛びそうな力に悶えた瞬間さっと力を緩め休憩を与えてくる手管。
 源泉濃密なる快美の醴(れい)から解き放たれ息つく間にもちゃっかりと乳輪を撫で微細な刺激を送り続けてくる周到さ。
 うるかが強きに耐えられなくなれば弱め、弱きに陥らば強さが物欲しくなるよう誘導する手つきは、
(優しく、されてる)
 と実感させるに充分だ。
 安心し、充足する。安心と充足を得た瞬間まるで真逆の獰猛な刺激を欲し始めるから女性の機微は難しい。が、唯我は
察す。察するからこそうるかの恋慕が出発し今という波止場に行き着いた。
「ひゃううン!!」
 乳首が、抓られた。潜り込んだ唯我の手は数式で難問を解くようなあざやかさで最も効率的な戦術を披露した。
 うるかの木苺は、敏感だ。神速の神経伝令がうるかの運動野をマヒさせた。軽く涙を浮かべるほどに瞠目したうるかは痺
れる余韻にしばらく声もなく震える。もはや、総崩れ。両腕をシーツの上に投げ出したうるかは無防備になった乳房をこねら
れる。時には乱暴に、時には付け根をくすぐるように。甘美な刺激は下腹部からの、乱数的な、深さも角度もまちまちが刺
激の連打と重なって、万華鏡的な快美をうるかにもたらす。
「やめ、やめてえ、だから、いまは、いまだけはおっぱい……触らないで…………ひゃううう」
 健気にも再び手を伸ばし胸を覆ううるかだが、
「あっ」
 再び潜り込まれ、抓られ「〜〜〜ッ!?」と瞳孔見開き、腕緩む。日焼け痕も艶かしい乳房はプルンとまろび出た瞬間、羊
肉に群がる餓虎もかくやと勢いづく唯我に掴まれ揉みくちゃだ。

17 :
「ば、ばかぁ!」
 涙ぐむ少女は耳たぶまでも真赤にしつつ、それでも残り少ない勝気さと羞恥心で懸命に胸を隠しなおそうとするが、後は
もうイタチごっこ、唯我の手管に反応しては曝け出す悪循環だ。
「お願いなのぉ、だから、あっ、おっぱい、後でなら好きにしていいからあ、今は、今は、だめ、だめなのぉ……」
 童女のように泣きじゃくり首を振るうるかであるが、閨閤における哀訴など焚き火の前の薪でしかない。相手に快美ありと
知った唯我、薄紅色の乳首をジョイスティックでも微調整するが如くゆるゆると根元から時計回りに回転させる。すっかり
尖りきった”しこり”はコリコリと廻る。
(やだっ、強いのがくるのとばかり思ってたのに、ソフトなんが来て……)
 目を閉じたうるかはぴくぴく震えながら刺激を甘受する。
(ヤバい武元……。すごくエロい)
 Sっ気こそあるが、根は純情な唯我である。乳首を摘まれるだけで面白いように抵抗をやめ涙目になる少女にひたすら
ドキドキする。うるかへの英語指導が決まった時のプールのようなフハハ感で「逆らえば今よりもっと強い刺激が来んだよ、
諦めて今のままを受け入れろ」と厳しく宣告したくもあるが、あまり強くいじめすぎると性行為に対する恐怖が芽生えるかも
知れないと理性で辛うじて抑える。
 しかしやることは変わらない。変えようがない。うるかが儚い抵抗を試みるたび乳首を刺激し無力化するのはどうしても
やめられない。可憐に悶えて、よだれすら垂らし、艶っぽい薄目で涙ぐみながら中止を希(こいねが)う少女が可愛くて、だか
らどうしてもやってしまう。
「ばかぁ、成幸の……ばかぁ」
 興奮と運動でうるかはすっかり汗まみれだ。水分が体表に移ったぶん、口中の湿気はずいぶん下がったらしい。開いた
口の中で涎が何本もの粘っこい柱になっている。薄い紫の瞳は充血し、鼻梁周りはぐしゃぐしゃだ。涙どころか鼻水すら
混じっているかも知れない。そんな形相で唯我の乳房愛撫を咎めながらも、反応自体はますます可愛く、淫らになり、しか
も腰すら心持ちうねらせ始めているのが……少年にはたまらない。
「やっ、やあああんん」
 うるかはいやいやと首を振る。
 繋がったまま上体を前へと畳んだ唯我が、勃(お)こりっ放しの可愛い突起を口に含んだのだ。ぴちゃぴちゃという音は
勿論うるかに聞かせるためで、聴覚からのいやらしい情報は目論見どおり官能の炎をひときわ熱い蒼とする。
(吸われてる……吸われちゃってる……)
 ヒルのように真空を作る唇の感触は指とはまた違うものだ。そのくせ唯我はもう片方の手で乳首をいじる。一辺倒な力任せ
ならまだ怒りを以って拒めたが、うるかが程よく感じられる力加減でまさぐってくるから逆に彼女は困るのだ。
「いや、いやあ、ちくび、気持ちいい、気持ちいい、よぉ……」
「触っちゃ駄目なんじゃなかったのか?」
 嘲るようなセリフは唯我自身、言ってから(しまったもうちょっと後にすべきだったか)と後悔したが、しかし効いた。
「だってぇ、成幸がぁ、成幸がぁ、急にあたしのツボ掴んできてるから……気持ちよくて……怖いのに……気持ち、よくてぇ」
 ぐずりながら、しかも顎に拳を当てながらする白状の破壊力は、高い。少年の獣性、いよいよ制動の効かぬ領域へ。
「んんっ!?」
 唯我にキスされたうるかはギョっとしたがすぐさまうっとりと目を蕩かせる。舌が絡み合った。ねっとりと、絡み合った。正常
位で組み伏せられている少女はいつしか少年の首の後ろへと褐色の細腕を回した。
「んっ、んっ、ん……ぷは、あっ、ああン」
 唇をついばまれながら乳房をいじられ、うるかの頭はもう日焼け跡より真っ白だ。覆いかぶさった唯我はもう獣である。
はあはあと息を荒げながら前後に動く。いよいよ露骨に大きくなる「くちゅくちゅ」という水音が、うるかの芯をいっそう炬(も)
やす。
「だめ、えっちな気分が、えっちな気分が、すごくて……あっあっあっ、速い、だめっ、乳首、2つともぎゅうってするの駄目、
あっ、駄目ッ! だめええええええええええええええ!!」
 尖りきった木苺からの感悦に大きく高啼きした少女は霞んだ目で背中を弓逸らし、そのままどたりとシーツに沈む。手は
とっくに唯我の首筋から離れている。イッた訳ではないが、未成熟な感応はひとまず現状の限界を超えた。
「っっー! はーっ! はーーっ!」
 全力疾走した直後のような紅潮に顔色の支配権を明け渡しぐったりとする少女だが
「悪い、武元」
「え……」
 細い脇腹が掴まれた。

18 :
 身を起こす少年。伏せ目で軽く身を持ち上げたうるかはどこかで始まりの終わりを直感し、直感は確かに的中した。
 腰が浮いた。浮かされた。腹部の側面ごと持ち上げられた。

「あっ」、成幸に向かってずるっと引かれた褐色の体が勁(つよ)い突き込みで押し返される。突き込みは一度で終わらない。
脇腹を持ち上げたことで結合部を自分本位な高度に変更した唯我は「やりやすい」とばかりうるかを揺さぶる。乳首からの刺激
で軽いオーガズムを感じたばかりの少女はこの乱行に文句を言っていい立場だが、
「お、男の子だもね、いい、動いて、いっぱい動いて……! 最後まで……行って……」
 虚脱した笑みでうわ言のように寧ろ促す。突き込みはますます激しくなった。いつしかうるかの体は、シーツに皺を寄せつつ
唯我とは反対方向の向きへ確実に確実に、押しやられつつある。
「武元……っ! だ、出すぞ、いいな、中だけど……いいな」
「う、うん、あたし女の子の日いっぺんも来たことないから、大丈夫、だから……」

19 :
 ざらっとした息を盛大に吐きながら唯我はなるたけ深く突き入れ突き入れる。掴まれた脇場を支点に軽く仰け反るうるか。
仰向けだったころと違い、今は両肩と臀部のみが支え、いわば軽いブリッジの体勢だ。上体やや浮き気味のため首もまた
ベッドに向かってかくりと曲がる。突きこみを受けるたび仰け反った頭が揺れ艶やかな髪が乱舞した。
 それは時間にすれば5〜6秒だった。後は理性を放出の受容によって消し飛ばされるのみだったうるかが、何を思ったか、
首をベッドと逆方向、つまりは上へ曲げ、両肘も支えに軽く上体を起こすや、少年を、見た。
「最後は、[ずがっ] 成幸の、成幸の、[ずがずがっ] 顔見ながらが…… [ずがが] いい、成幸が……出すとこ……[ががん!] 
出すときの……カオが……みたいの……」
 恐ろしく艶っぽいセリフに唯我は(俺だってお前の、初めて出される時のカオを……)と獣性丸出しの心境になりかけたが、
しかし待て、何かがおかしいと気付く。
(ずがずが鳴ってんの、ありゃなんだ?)
 射精衝動すら緩める、謎で、もっともな疑問はうるかを、厳密にはうるかが居る彼女の部屋の構造を把握した瞬間解けた。
 彼女は、突かれる度、後頭部を、ぶつけていた。
 ぶつける? 何に?
 ……。

20 :
 彼女のベッドは窓際にある。枕のある方を窓側につけている。
 ベッドからすぐ窓という訳ではなく、窓までは目覚まし時計がおける程度の「幅」がある。
 ずがずがの元凶はその幅とベッドの柵が作る「段差」らしい。
 突き入れでいつしか少女の体はそちらに寄っており、唯我の顔を見るべく上体を起こしたがため前後運動の”あおり”を
受ける頭が後ろの段差に「ずがずが」ぶつかって、いたのだ。柵に衝突するという生易しいものではない、段差の角張った
部分に少年の律動の激しさそのままに後頭部をぶつけている。当該事象、長引けば命さえ危ぶまれるであろう。
 少年、取り敢えず止まり、言う。
「……武元、今のセリフはすっげぇグっときたけど、でもお前、頭、頑張って持ち上げたせいで打ちまくってるぞ」
「え!? あ゛ーーーーーー!!!」
 やっと気付いたらしい。後ろを見たうるかは凄まじい声を上げた。そしてさっきの艶っぽい、少女渾身のおねだりがどれ
ほどの滑稽に彩られていたか気付くやトマトジュースを吸ったスポイトの如く下から上へ朱を上らせる。
(もーやだー!! なんで最後の最後で変な失敗すんのあたしーー!)
 頭を抱える。双眸が深刻な蒼白ぶりに塗りつぶされて見えなくなるほどだった。舟形の小さな汗が冗談のような早回しでひっ
きりなしに沸いてきくるほどの焦燥と、自責があった。

21 :
(文乃っちとかリズりんならああいうおねだり、スゴい破壊力で言えたのに何やってんのあたし! 頭ずがずがって何!? 
なんなの!? 最後の最後でグダグダ、グダグダだよぉ!!)
 一般人がよくやらかすかといえば、ちょっと妖しい。「外れた」行為だから、うるかはほろっと涙を讃える。
(うう。やっぱあたし、こーいうの向いてないんかなあ!! 成幸ぜったい萎えたよね!? 初めてでもう少しって時に女の
方が頭打ちつけまくってるとかそんなん誰だって萎えるよね!??! ほほほ、ほら実際成幸の、おち、だ、大事なとこ、
しおれ始m──…」
 怒張は、硬度を増した。(えっ!!!) 予想外の感触に漆黒の人魚姫は思わず瞳を戯画的な三本線にした。

22 :
「ちょっ、え! なんで、なんでむしろコーフンしてんの!? う、嬉しいけど、さっきのあたしのどこにそんな要素が!?」
 少年は答えない。ひどく切羽詰ったギラギラした光を細い瞳に宿している。明らかに欲情に染まっているが、うるかは何故
かれがそうなるに到ったか分からない。(ずがずがの変っぷりにとうとう怒った!?)と結果からいえば見当違いなことを思っ
ている間にも事態は急速な進行を見せる。少年は少女の細い肢体を山賊のような手つきで自分めがけ引き寄せた。
「きゃっ!?」 成幸らしからぬ荒っぽい所業にびっくりするうるかは更に見る。彼の手が轟然と迫ってくるのを。また乳房で
もいじめられるのかと首を竦めたが、どういう訳か手はうるかの頭の後ろに着弾。何をしているのか、衣擦れに似た、しかし
衣服の着脱にしてはいささか冷たい音が人魚姫の視界及ばぬ後頭部やや斜め下で運行されやがて止んだ。
(え? え? なに、なにをして)るのと振り返る余裕はなかった。「武元」、腕を少女の脇腹に戻した唯我が腰を引き、そして
ここまでで最大の力を持って突き込んだ。
(いぐっ!!?)
 破瓜並みの衝撃に歯を食い縛って目を見開くうるか。少年の灼熱の鉄塊は交合中最大の深度に達している。
「あ、あああ…………? ぉ、おく? いちばん、おく、おく、にぃ…………?」
 脇腹を持ち上げたせいで角度をつけやすくなったのは確かにある。だがもっと決定的なのは少年の攻勢の変化だった。
さきほど少女の機微に合わせ緩急をつけていた教育係の手管は最早ない。思うさま引き、ただただ力尽くで突き入れる獰
猛な少年だけがそこに居た。面頬やや暗く狷介(けんかい)の気配さえある。和合を棄てているのに宿業的な何事かを耐え
んと覚悟している顔つきは暗殺者によくある。要するに、危険な一刺しを狙っているのがバレバレだったが、(ダークな成幸
も素敵だよぉ)と頬染めるうるかは逃げるなど全く考えない。或いは、剣呑の裏に潜む一種の限界を、フィジカルの権威らし
く直感したのか。
 とかくこの当時の唯我はフクザツであった。「頭ずがずが」によっていかなる心気的変転をきたしたのか、唯我はただただ
鞴(ふいご)のような息を漏らし褐色の肉体をいじめ抜く。
「あっ、だめ、おく、おくばっか、集中するの、だめっ、ヘンなの、気持ちが、えっちになってくるから、だめ、だめええ」
 懇願はやはり無視される。少年の淫棒は最奥の同じ箇所だけひたすら打つ。
 びくびくと震えるうるかの体もまた新たな感覚に開眼しつつあるがしかしまだ精神的で形而上な興奮が勝る。長らく懸想
してきた相手の亀頭が、硬く張り詰めた尿道海綿体が、少女当人ですら触れたことのない深奥を舐(ねぶ)るように叩く
のだ。「犯され抜いている」。ぞっとすべき実感なのに、それほどの大事を許しきる、純潔供出の本尊ともいえる現象を確か
に行えているという想いが狂おしいまでの喜びと多幸を呼び起こす。
「気持ちいい、おく、おくに、成幸が当たってる、すごくすごく恥ずかしいのに、気持ちいい、気持ちいいよぉ」
 耐えられない。耐えられる訳がない。甘え泣くうるかのどこかで慎ましさのヒューズが飛んだ。
「おっぱい、おっぱいもいじめてぇ……。あっ、あっ!!」
 速攻の承諾に少女は嬉しげな嬌声を上げる。唯我の右手がふっくらした膨らみを鷲づかみした。強烈な刺激に涙の喜悦
を浮かべるうるかは気付かない。少年の左手が脇腹から背に回り、いまの姿勢を単騎孤軍ささえているのを。
 ヒートアップする腰使い。「ゆるして、これ以上、これ以上、感じちゃったら、ひかれるから、同じとこもう、あっ、すご、あ!」
がくがくと揺さぶられる少女に唯一残っている理性は唯我のカオを見るただ一点である。どれほど善(よ)がっても大好きな
少年の顔からは目を離さない。或いは自分の表情(カオ)を見せるのが義務だとでも思っているのか。確かなのは先ほど
なら打ち付けていた筈の頭が先ほど以上の激しい活動の中で一度たりとも「ずがずが」を奏でていないという……事実。
なぜ起こらなくなったかうるかにはわからない。彼女はただ己の現実を……叫ぶ。
「もうだめ、もうホント、限界、限界、だからっ……! ちょっとだけ……休ませてぇ……!」
 泣きじゃくってシーツすら握るほど身悶える美少女の痴態に、応える代わり少年は、正に渾身の力で突き込んだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!」

23 :
 滑走路に墜落してきた飛行機をうるかは脳裏のどこかで見た。舗装を削り飛ばすような恐るべき驀進が初々しい粘膜の
洞(ほら)を「ぬるんっ」と、猛然と、擦過した。子宮口で爆ぜた衝撃はうるかの意識を一瞬だが桃源郷の彼方へ追放し、
「あ!! あああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
 無意識に凄まじい大声を上げさせた。同時に少年の槍は全てが埋没した。したが
「武元っ」
「あ、がッ……!?」                                 
 ぎちぎちとした圧迫感が既に最奥と密着していた尖端から迸り、うるかはたまぎるように叫ぶ。大きな瞳の中で混沌が渦
を巻いた。構造上、極めて入れづらいのが子壺である。初体験でしかも勢い任せの唯我もまた挿入までは果たせない。だが
独特の刺激だけはもたらした。腰から前進し続ける力は決して捻じ込めない肉の壁を前にとうとう逸れた。先走りをたっぷり
浸した肉の筆が凄まじい筆圧で子壺を撫でて行き過ぎた。「っ、ーーっ!」 形容できぬ感覚に口をぱくぱくとする少女の甘美
なる地獄はまだ続く。
「武元!!」
 更に数度。凄まじいグラインドを唯我はかけた。成す術なく揺すられる細身のうるかの、揺れるふくらみの雀舌が如き柔ら
かき左の芽をきゅうきゅうと抓っていたのも束の間、激しく唇を重ねる。
(キス、この状況で、キス……!)
 気持ちよさに目が蕩けるうるかは侵入(はい)りこんでくる舌を迎え入れ、自分のそれを絡める。顔の角度を微妙に変えな
がら啄ばみあう情熱的なキスを続けていると。

 とろっ

 と口の中に見知らぬ生暖かいものが流れ込んできた。

(唾液!? 成幸の!?)

 つばという、キスの残り香程度にしか思っていなかった体液なのに、

(なんつーことしてんの成幸! つばって、つばって……!)

 「ぼふっ」。つむじから両耳から蒸気が漏れた。瞳が見開く。「んー! んー!!」。驚きを訴えもがく可愛らしさが……
最後の放出を、呼ぶ。
「そ、そろそろ……!」
 と切りつけるよう叫びつつ褐色の肢体を衝動的に抱き起こしそして抱きしめる。人魚姫、瞠目。
(ぎゅううって、ぎゅううって!!)
 或いは、最も効いた。夢見がちで恥ずかしがりなうるかは数々の性戯の果てに訪れた極めてロマンチックなハグに、
「ふ、ふあああああああああ!!」
 と甘ったるく啼きじゃくる。神経系において如何なる伝達経路が開拓されたのか。膣がきゅうっと収縮し肉棒を締め上げる。
「でッ、出る、出ちまう……!」
 迸る灼熱。尿道から砲弾の如く飛び出た「どろっ」が膣壁に掛かった瞬間、うるかは第ニ階梯的な巨大な快美を味わった。
「あぁッ! ああああああああああん!!」
 唯我を好きになってから今までに至る一連の出来事が走馬灯の如く脳髄を駆け巡り、それは第二波第三波と吹きつけられ
る精液によって万感の法悦へ締め括られる。
「なりゆき、凄い、まだ、出てる。まだいっぱい、出てるのぉ……。あっ、また、また……」
 陽快な顔を今だけはうっとりと蕩けさせ、ぴくぴく悶える少女の胸に少年は顔を埋め、そのまま一緒に前方へと倒れこむ。
運動は苦手なのだ。息が切れる。
「お前の中、すげえ気持ちいい……やべえ。出る、まだ出る」
 ぶるっと身震いする少年。割れ目から白い粘液がとぷりと溢れ出た。

 放出が収まったあと、2人は繋がったままどちらからともなく唇を重ねあった。穏やかだが幸福な時間だった。

 ややあって。

「で、なんでその……頭ずがずがの後…………急に、コーフン、したの……?」
 うるかは気まずげに聞いた。失敗の発掘というのもあるが、初体験直後だから唯我と目が合わせられない。少年も同じで
ある。なのに繋がったままであるのは奇妙だった。先ほど倒れこんだ姿勢のまま、肌を密着させ、睦言を交わしている。
 とまれ一体どうして先ほど唯我は突如として獣のような攻め口を見せたのか。本人はややまごつきながら、語る。
「か、可愛すぎたからだよ!」
「え、可愛、ええ!? 初体験のいよいよって時にベッドの柵とかで頭打ちまくってたんだよあたし、その、それのどこが……」
「だからだよ」。成幸の頬に血潮が上ると彼は急に乙女じみる。

24 :
「大事なこと告げてる時に、頭打ちまくってることに気付きもしないとか……可愛すぎだろ!」
(そーなん!? 男の子ってみんな同じこと考えるの!? それとも成幸だけが異じょ……特別!?)
「しおらしい癖にドジ踏んでるのが、お前らしすぎだろって、頭の件教えたあと急に思えてきて……お前にゃ悪いと思ってる
けど、たまらなくなってきて、だからあんな激しく動いちまったんだよ」

 それに。「それに?」。うるかは効き返す。

「頭打ちまくっても気付かなかったってことは、それだけ俺の顔に集中してたってことだろ。勉強始めたころは何かとすぐ
遊びに行きたがってたお前が、ムラっ気のあるお前が、大好きな水泳と同じぐらい俺に……集中してくれてたってことだろ。
そこが俺は嬉しくて…………だからお前のこと、ますます可愛いって………………」
 ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、細面へたっぷり羞恥を乗せて瞳を泳がせる唯我に偽りないことをうるかは察したが、
だからといって「そうでしょ、可愛いでしょ」と言える厚かましさは良い意味で、ない。褒められようが恥部は恥部だ、主眼が
そこにある限り、簡単には喜べぬのが……乙女、なのだ。
「成幸に集中するって、そそ、そんなの、当たり前でしょ……」
 おずおずと先鞭をつけた反論に唯我が微かに首を傾げたのも当然であろう。「当たり前」? 何がどう、当たり前なのか。
「す! 好きな人のカオ見たいって思うのは当然じゃん……。好きな人があたしの中に初めて、その、出して……くれる時に、
表情(カオ)が見れなかったら……後で絶対…………後悔、する、から、ずっと足踏みしてた時みたく、「また」、だから、だか
ら……」
 放出間近だった頃の唯我を、凝視した。
 水泳選手にとって「時間」は大事だ。1秒の油断が取り返しのつかないことを招く。唯我の「初出」も同じだ。うるかは目を
離せなかった。決定的瞬間は、短い。とある星好きの少女であれば千年に一度、三秒しか夜空すべれぬ流星を以ってうる
かの心を語るだろう。しかも先ほど『集中していた』人魚姫は突き入れによって惑乱状態にあった。トバされそうな理性を保
ち唯我を見る手段は結局すべての神経を想い人の顔に注ぎこむ他しかなかった。
 と、いう機微を口に上らせたうるかは一瞬、(これはこれで相当えっちだよう。出してる時のカオが見たかったとか、今度
こそヒかれても仕方ないよう)といつもの調子で強張りそうになったが、もはや状況は土壇場、ヤケクソになって叫ぶ。
「あたしはっ! あたしは! 中学時代からずっと成幸のこと好きだったの!! 何年もじもじしてたと思うの!!! いったい
何年気付いてもらえなかったと思ってるの! ずっとずっと好きで、でも勇気がなくて告れなくて! キスとかの小さなウワサ
聞くだけで終わった失恋したってぐすぐす泣いて、褒められること妄想する度そうじゃない現実に泣かされて、ちょっと報われ
るだけでも泣きを見て、成幸への気持ちがぐっしゃぐっしゃになった夜は自分でもヒくほど泣きまくって、ああもう泣いてばっか
じゃんあたし!! でもそんなあたしでもどうにか勇気出せた結果、付き合えるようになって、やっと! やっと結ばれたんだ
よ!! だだ、だったら、そーいうとき最後の成幸のカオが見たいって思うのは当然で……! 他のことなんて考えられなく
て……! えっちなことが好きなんじゃなくて、成幸が好きなだけで…………!」
 唯我の表情はさまざまだ。突然の叫びにまず驚き、次に長らく気持ちに気付けなかった鈍感さを詫びるような顔つきにな
り、いつも明るく元気に振舞っていた少女が影でどれほど泣いていたかにまた驚き、愛の深さに、嬉しさと、申し訳なさを
浮かべ、”であるからこそ”、一見滑稽でしかなかった『頭ずがずが』が一体どれほどの意味を有していたか……知る。

 うるかは。
「うー」
 言い尽くしてなお均衡を取り戻せぬらしい。やや恨めしさに瞳尖らせつつも淳良な赤面で唸る。そんな少女に、少年は。

「だったらやっぱり頭打ちつけまくってたのは変なことじゃねえよ。お前の、一番いい部分が集まった、凄えことだよ」

 笑って声をかける。心から感服して心から褒めるための笑顔で、少女の頭をぽふぽふ撫でる。

「卑怯だよ、成幸は」

 うるかはちょっと拗ねたような表情をした。

(とてもたくさん気持ちよくした後に、優しく笑ってくるなんて…………ズルいよ。いっそ頭ずがずがを馬鹿にしてくれたら……
こんな、こんな…………切ない気持ちになんか、ならなかったのに…………)

25 :
 やっとうるかはベッドの柵を見れた。先ほど唯我が何かをしていたその場所に立て掛けられていたのは「枕」である。

(クッション代わりにしてくれたんだ……。あたしが頭ずがずがしないよう、敷いて、くれたんだ)

 そうしてくれたときの唯我はうるかの中で果てる寸前だった。そんな初体験の限界ほぼギリギリ、催迫の状況で楽で甘美な
放出よりうるかの頭の保護を……選んだ。

(あたしは成幸のこと見るだけで精一杯だったのに……気遣うことまで出来なかったのに……成幸はあたしのこと、守ろうと
してくれてた……)

 夢見がちな少女はやや大袈裟な修辞を枕に贈ったが、そうせざるを得ないほど嬉しくて、幸せだった。少年は少女を貪って
いるようで気遣ってもいたのだ。相手をただ性欲解消用の粘膜装置としか見ていないのであれば到底できぬ芸当だ。

「ラ、ラストスパートの時あたしの体を成幸の体めがけて引っ張ったのも……ブツけないように……だよね……?」

 熱く潤んだ上目遣いでうるかは問う。彼女はいま、捧げたもの以上の物を得ていた。

「まあそりゃ、な。ケガしないようにってのもあるけど」

 少年は照れくさいらしく、鼻をかいた。

「頭1回ブツけるたび脳細胞が数百は死ぬっていうからな。せっかく覚えた英単語がああいう形で消えんの、お前だって嫌だろ?」
「そっち!? あんな時まで勉強のこと考えてたの!?」
 あんな時だからこそだよ、照れ隠しか、唯我はやや人相悪めで目を細めそして逸らした。
「だってスッゲェ気持ちよかったし……。複雑な公式とか難しい英訳とか頭に浮かべでもしなきゃ出すの耐えられんぐらい、そ
の……お前の、なk」
「いい! 死ぬほど恥ずかしいから言わないで頼むから!!」
 うるかは両目不等号でうわーんと泣いて叩くマネ。(無粋だったかなあ)とちょっと困り顔しながらも唯我は教育係らしい
厳しめの顔をした。」
「頭ずがずが打ってるのはすごい可愛かったけど、いくら可愛くたって受験に影響が及びそうなこと、癖にすんのはダメだ、
お互い自重な。ただでさえこーいうこと、してんだし……」
(まあそうだけど) うるかは嘆息した。これ、なのだ。これが初めて結ばれた後の会話なのだ。いったいどこの世界に「英単
語忘れるといけないからあのプレイ禁止な」と告げる男が居よう。うるかが空想してきた無数の唯我は誰も彼もが本人とは
乖離した王子のような顔つきで歯の浮くような事後のセリフを告げていた。「とっても良かったぜ、うるか」とか何とかキザった
らしく囁いていたのに……
(英単語かー)
 風船に書かれたうるかの簡略図のような腑抜けた表情でうるかはぼへーっとした。ぼへーっとするほどに想定外のセリフ
だった。艶っぽさがまるでない。そんな現実が馬鹿馬鹿しくて、うるかはくしゃっと微苦笑した。
「なーんか、いつもとあまり変わんないね」
 言い方しだいでは「退屈な情事だった」となりかねぬセリフだが、日によく焦(や)け、陽の匂いが漂う少女の底抜けにカラっ
とした物言いにかかっては最大の賛辞となる。
「まあ、な」
 唯我もまた同じ気持ちであることを確認したうるかは、(ホント……いつもと、同じだった)と安堵する。唯我は優しくて、英
単語を気にするほど教育係で、うるかは可愛く務めようとするたびどこかでドジ踏んで落ち込んで、まったくいつもと同じな
関係だけがそこにあった。

(いつだったかなー。『告白してダメだったら今の関係には戻れない』って思ったの)

 同質の不安は結局、付き合うようになってからも消えなかった。「フラれたら」「飽きられたら」とどこかで怖がっていて、だか
ら『結ばれる』ことにだって恐怖はあった。男友達と女友達だからこそ保たれていた居心地のいい関係が、彼氏と彼女になって
からもお互いのウブさで保護されていた親愛が、行為によって、男と女の、生々しくてささくれやすい間柄に変質するのでは
ないか……とうるかは心のどこかで怯えていた。互いのどちらかの醜い部分が性の獰猛さの中で露になり、それをして愛が
『泡』にされるのではないかと人魚姫はずっとずっと怖がっていた。

26 :
(なのに実際は……頭ずがずがで…………英単語で…………)

 2人は、いい意味で変わっていない。うるかはそれが嬉しかった。

(あー、力抜けたわー。いい意味で力抜けたわー)
 心の中のうるかはユルっとした瞑目で湯気を吐く。見栄を張らなくて良くなったという思いが生来の明るさを取り戻す。


(ホントは最後のとき名字じゃなくて名前呼んでほしかったけど、でもそこまで細かい要求したらこの女重いって思われ
そうで出来ないよぅ)

”うるか”呼びをして欲しいのに踏み込めない奥ゆかしさに揺れながらも(でも幸せ……)と半ば虚脱しながらもネコ口で
目を細める少女。少年の方は、

27 :
(ああくそ、いつもの調子で名字呼んじまったのはマイナスじゃねえのかコレ。でも仕方ねえだろ中1から高3までずっと
武元呼びだったんだぞ、プールの後でも気ぃ抜いたらこっちだったし、脳内でも武元は『武元』だったし)

 まさに風聞だが、とある風の都で高名な赤い刑事も妻を婚前の役職名で呼んでいるらしい。結ばれる前の二人称には
そういう容易には変更を許さぬ呪いめいた強制力があるらしい。


 長々とこの話を述べた。進行度はむろん、文章量相応である。走れメロスで言うならメロスが激怒したあたりである。

28 :
 ……。

 …………。

 ………………。

「そーいやさ、挿れ……る前に成幸あたしが初めてだって分かったのはどーしt…………って!」

 褐色の、ツネられても柔らかく伸びるもちっとした頬が戸惑いに波打つ。

「なんでまたおっきくするんのよ! ばか! 成幸のえっち! えっちなとこまでいつも通りって信じられない!!」

 少女が突然叫んだのは、いまだ少年を受け入れている秘所の中で膨張の気配がしたからだ。射精によって幾分やわら
かくなっていた唯我の分身が突如として勢力を取り戻した。

「すまん。嬉しそうなお前が可愛くて、つい」
「うーー。可愛いっていいさえすれば余韻ブチ壊していいって訳じゃないんだかんね! いや別に成幸がゼンブ悪いって訳
じゃなくて、なんだか名残惜しくて入れっぱなしにしてたあたしも悪くてそこはゴメンなんだけれども……あああ何いってんだ
あたし、入れっぱなしとか言ったの忘れて!!」
 でも余韻……女の子らしい機微で涙ぐむうるかに、唯我は「……悪ぃ。一回離れてみるか? お前だって色々、一息つき
たいだろうし……」と申し出る。
「そ、それもヤダ」
「どうしろと?」
 2人の背後をアカトンボが通り過ぎた。ような気がした。古いアニメーション演出のような奇妙な「間(ま)」があった。

29 :
 仰向けのまま想い人を受け入れているうるかは結合部の方へとしばし視線を落としていたが、顔を上げ、問うた。
「その……成幸はまだ……シたいの……? さっきので、くち……とかで出した時と合わせて6回、もう6回も出してんじゃん。
な、なのに、まさかまだ……足りない、とか……言うの? 体力とか、大丈夫……なん?」
「ええと」。質問攻めを捌けぬようでは教育係は務まらない。唯我はうるかの疑問を1つ1つ、ほどき始めた。
「まず最初の質問だが、悪い、お前さえいいなら……したい」
 男ってのはそういうモンだし、何よりお前が可愛いから、欲望が、欲望が…………と唯我、「くっ」と双眸から涙流しコブシ
さえ固める。自分の情けない浅ましさを悔いているが、かといって諦めきれないという葛藤は、巨大だった。女性たるうるか
にも充分伝わるほどに巨(おお)きかった。
「ま、まー、あたしの許可を待ってる分、マシだから? 別にイイけど」
『勝気な女友達』の顔つきで若干ツンツンと片目瞑って指立てるうるか。恩着せがましく言うのは照れ隠しであろう。本当は
唯我との営みを沢山したい。どれほど彼が無許可で動いたとしても受け入れて悦(よろこ)べる。だがただただ「させている」
だけではフシダラな女と思われそうで恥ずかしいから、「許可を待ってる分、マシだから」などと勿体つけた言い方で、いかに
も特別に許可していると、そう思わせたいのだ、うるかは。
「でも7回以上いけそうってどうなん……」
 少女は頼もしさ半分呆れ半分で少年を見た。「スマン」。縮こまった唯我は返事すら震えている。先ほどの獰猛な虎はもう
いない。
「俺あんま発散できないんだよ……!」 泣きそうな声で教育係は両拳を固め力説する。「ウチいつも葉月いるし和樹いるし!
いや見られても今は何やってるか理解できないだろうけどさあ! それでも恥ずかしいし、何より教育に悪いだろ絶対! い
ない時もあるけど下手にゴミ箱使うと水希に感づかれそうだし! かといってトイレに捨てんならティッシュはダメだし! なのに
トイレットペーパーはボロボロ崩れるし!」
「……妹ちゃん、年ごろだもんね。てか何その最後の生活感………………」
「だいたい俺はエロいハプニングに見舞われても見ないよう見ないよう気を使ってんだぞ! 生殺し! そりゃ本当は見たい
さ! 男子高校生なんだから、見たいさ! でも見たらみんなに悪いし、いろいろ、我慢を、我慢を……」
 最後の方はヒヨコのような表情で訴える唯我である。
(リズりんのおっぱいとかチラ見してるもんね……。本当これだから男ってヤツは)
 それでも見ないようにしている以上、「使う」ことはもっとないだろうとうるかは思う。信じてる。
(あ、あたしでだったら、その、別に、いい、けど……)
 とにかく唯我は色々「溜まって」いるらしい。絶倫かどうかについてはこの時点ではまだ不明だが、貯蔵量じたいは相当
らしい。
(相当……)。うるかはちょっとドキドキした。疼くような期待は否めない。だいたい子沢山の家庭に生まれた唯我なのだ、
遺伝的に繁殖の素養がある。好色、といっていい。
「最後の体力だが」。眼鏡少年はトレードマークをスチャリと触り、得意気に。「多分俺のは……お前より先に、尽きる!」
「……うんまあ、そう言うだろうと思ってた。成幸、神社の階段昇るだけでバテてたもんねえ。あたし肩貸したし」
 そんなガリ勉少年と、そんな水泳部のエースではどちらに軍配が上がるやらだ。
(え、ちょっと待って! じゃあ、あたしがずっと成幸を攻め続けるってことも可能だったりするん……!?)
 騎乗位ぐらいうるかだって知っている。『予習』したからだ。スマホがあって知りえぬ方がおかしい。
 想像力豊かな人魚姫の脳裏に、上位の自分が淫らな海棲種の如く唯我を搾取する甘美な曼荼羅が浮かぶ。彼女は悶え
る想い人の顔に(はうう手も足も出ない成幸も可愛いよぅ)とか何とかときめいたが、
(いやいやいやムリムリ無理だから! あんなえっちなカッコ成幸にするとか恥ずかしすぎて死んじゃうから!)
 根が貞淑なので両目不等号でふるふるする。活発な癖にゆらい攻勢にはとんと不向きな奇妙な”たち”である。
(特に、成幸のカオに跨って……舐めて、もらうとか……)
 ぼっ。泣きそうなほど目を見開いた少女は急いで話を変える。
「ととっ、ともかく、成幸の体力が尽きたら終わりってことでイイのかなあ!?」
「お、おう……。でもお前が止まらないっていうならその時は、その、時で……」

30 :
 奇妙といえばこの2人の関係で、繋がったままシーツの上で顔面突き合わせている癖に「手さえ繋げぬカップル」のような
初々しさを漂わせている。お互いあどけない赤面をぷいと背けつつも(限界超えてなお向こうが求めてきたら……)などと、
不安なのか期待なのかよく分からぬ混沌とした思惑をも秘めている。
 だが混沌程度が薄めるにはうるかの懸想は長すぎた。再動へ続く火縄を燃やしたのは慕情である。彼女は自分の余韻ガ
ン無視で「おっきくなった」ほど溜め込んでいる少年の不遇ぶりを改めて思いホロリときた。苦労続きの人生なのだ、彼は。
(ならこーゆうことで位いいことあったって……いいじゃん。あたしで……初めての女の子で、気持ちよくなれるようしてあげ
なきゃ……)
 この男のため身を削ってやろうと強く決めたうるかだから、促す。
「じゃ、じゃあ、また……動きなよ」
「お、おう」
 身を起こし、次なる攻勢に移りかけた唯我。
 悲劇は、そのとき起きた。
 すっぽ抜けたのである。唯我の分身が。ねっとりとした愛液を引きながらうるかの体外へと脱落した。
(なっ!)
(あー)
 抜ける、というのは熟練者でもちょっと加減を誤るだけでやらかしてしまうイージーミスだ。いわんや初めての唯我である。
滑落はむしろ当然といえた。
(待て、だが俺はだからこそ気をつけていた! どうすれば抜けずに続けられるか色々調べて実践してきた! 現にさっき
までは大丈夫だったのにどうして今に限って……待て!)
 唯我は、気付いた。抜け落ちる直前の”そこ”の感触を反復して気付いた。恐ろしく、ぬめっていたのだ。
(精液! そうか出したせいで滑りやすく……! だからさっきまで抜け落ちなかった動きでも……抜けた! くそ、摩擦係数
を忘れるとかイージーミスにも程があるぞ!)
 唯我はえも言われぬ戯画的な表情でひたすらに、固まった。
 いざ再動というときすっぽ抜けたのは男として恥ずべきことだ。
(ととと、とにかく立て直すぞ、落ち着け、一度は入ってるんだ、こーいうとき焦るとドツボだからな、落ち着け俺)
 初体験で「滑落」という失態を演じた場合かえってくる反応は概ね2つである。
 叱責の嘲笑か、或いは……慰め。
 後者は優しく思えるが、「初めてだから仕方ないよ」的な言い草は、謝りながら斬りつけるような物なのだ。唯我と知り合っ
て間もない頃の文乃がやっていたような言動といえば概ね分かるだろう。自尊心の高い者には”こたえる”。男性としての晴
れ舞台をしくった挙句、組み伏せるべき女性にすら同情され──潜在的に──低く見られるのがどれほど辛いか。
 悪いことに唯我は「秀才」、耐えられない。
(武元はどっちだ、どっちで攻撃を……!? いや、気付かれる前にさっきの手順でもう一度やった方が安全……)
「あはは、抜けちゃったねー」
 焦っていた唯我は見た。暖かな笑みを。うるかは笑っていたのだ。正に総てを海容する南国の大海原のようなゆったりとし
た海闊さを浮かべてニッコリと笑っていた。母性が、溢れている。
「…………っ」
 それは有り得ない対応だった。軽く汗をまぶしながら、うるかはただ楽しそうに笑っている。男性の失態がすぐそこにあるのに、
何をするわけでもなくヒマワリのような満面の笑みだけを保持している。
 理屈では、ない。唯我は焦りやパニックがうるかの笑顔によって消えていくのを実感した。

「? ??」
 驚いたように自分を見てくる唯我がどれほど感動しているのか少女はよく分かってないらしい。口元を綻ばせたまま可愛らし
く小首をかしげていたが、やがて
(……そっか)と何事か察すると、わざとらしく声をあげた。
「もー。成幸ってば意外にニクショクだなあ! ほとんど初めてのあたしにあんなん要求するなんて!」
(あんなん……?)
 唯我は当惑した。うるかが突然わけのわからぬことを言うのはいつものことだが──唯我視点ではそうだ。文乃看病の
時の「デザート」など──いつものことだが、今回はちょっとだけ様子が違う。うるかは口元こそ笑っているが、両目が見え
ない。前髪の影に覆われている。さほど長くない珊瑚色のそれが双眸を隠すのは汗で心持ちバラけているせいでもあった
が、或いはもっと大きな『陰(かげ)』が脳髄のどこかから沸いてきて感情を蔵匿しているよう唯我には思われた。

31 :
 とにかく笑った口元しか見えないうるかは唯我の両肩に手を当てた。「あっ」、脱落や不可解のせいで無防備だった少年
は正に「あっ」と言う間に座った姿勢へさせられた。それだけならまだ彼は再挿入リトライなる失地回復の戦略を冷然と描け
ていただろうが、現実はそれを許さない。
「あむっ。あむっ……」
 うるかの頭は唯我の股座にあった。小さな頭が熱心に上下している。くぐもった吐息に混じって湿った音が響く。少年の肉
棒は少女の口中にあった。優れた、フィジカル。うるかは唯我を座らせるや否や、電撃の速度で口唇愛撫を始めていた。
(おおおお掃除ぃーーーー!?! 初めてのあと速攻でこれってどんだけサービスいいんすか武元さん!?)
 と評されるうるかであったが、流石に恥ずかしいのだろう、褐色の目元が明らかに赤らんでいる。しかし恥ずかしがりながら
も少女は、自らの破瓜の血と愛液と、それから唯我の先走り液や精液でベトベトの肉棒を口の中で健気にも清める。やや
あって喉が鳴る。(は、初めての血を……) 飲んだ、と知ったとき唯我はひどい背徳感を覚えたが、たまらなく愛おしくもなっ
た。

32 :
 少女は。
(うーーーっ! うーーーっ! 恥ずかしい、恥ずかしすぎるよぉ! 初夜でこれだよ!? これ、だよ!?? フツーもっと
慣れてからすることを初夜でするとか、するとか……ヒ、ヒかれないよね!? 男の人はこーいうの好きっていうけど、ああ
けど成幸堅物だからあまりフシダラだと喜ば……で、でも、成幸がすっぽ抜けちゃったことを隠すにはこれしか、これしか…
…!)
 少女は、『すっぽ抜け』が唯我の失敗であることを──…

 知っていた。

 だからこそ、である。「ニクショクだなあ!」といかにも勘違いしている風を装い、お掃除を始めたのだ。そう。自分が

『すっぽ抜けを失敗だとは知らず、あくまで、”成幸”が、お掃除をさせたいがため”わざと抜いた”……と、勘違いしている』

状態であると、偽ったのだ。

33 :
(ややこしいけど、こーでもしないとフォローできないのあたしは!! 成幸がミスったことそのまま指摘したら、笑うか、
慰めるかしかできなくて、どっちにしろ傷つけるよ絶対! 文乃っちならきっとステキな言葉で勇気づけられるし、リズりん
は……何かのムズカシー実験がちょっと失敗した程度の顔で再チャレンジしそうだけど、ほらあたしバカだから! そのま
んま指摘したら絶対さ、ロクな言葉かけてあげれそうにないから!)
 ふだん唯我が目にしている「突然暴走し、勘違いでおかしなことをいう」自分を利用したのだ。失敗にすら気付けず、妙な
受け取り方をしている「バカ」であると、振舞ったのだ。
(だって……)
 不慣れながら自分なりに一生懸命、首を上下して愛撫するうるかは思う。
(成幸はあたしの失敗を……頭ずがずがを笑わなかった。それどころか……あたしらしいって、……可愛い…………って、
言ってくれたんだよ…………?)
 そんな風に、いつだって、中学の頃から、ちゃんと自分を見続けてくれている少年の「すっぽ抜け」を、失敗を、うるかは。
(…………からかえる訳……ないじゃん)

34 :
 眦(まなじり)の涙、息苦しさばかりではない。愛おしさの赴くまま、口中脈打つ剛腹な質量に粘膜をねっとり擦りつける。
髪をかきあげる姿に少年は見とれた。うるかはそれにさえ気付かない。(成幸……) 子犬が大好きな飼い主に濡れた鼻を
押し付けるような衝動がある。(成幸) ひたむきに口から出し入れする。掃除すれどいまだ破瓜の血と精液と愛液と先走
りでドロドロの肉棒だ。一般的な少女であれば忌避して当然のそれをうるかは躊躇いなく含み、愛する。半ばまで口に入れ
た状態で啜り、或いは裏筋を力いっぱいの舌で舐めとり、考えつくまま奉仕する。
(これが……成幸の……)
 息をつくため口からすべて引き抜いた肉棒を見る。少年らしくまだ全体的に赤らんでいるそれは、年相応の緊張を湛えて
いる。仮性、なのであろう。今は剥け返って引き伸ばされている部分に透ける赤紫の血管はなかなかにおぞましいが……
(これが……さっきまであたしの中にあった…………、成幸の……)
 少女は頬を赤らめ、亀頭にちゅっちゅとキスをする。鼻をつく淫らな匂いもまた興奮を促す。たまらなくなったうるかは、一瞬
だけ戸惑いの吐息を漏らしたが、「もう耐えられない」とばかり双眸を潤ませ、
「はむん。んっ、んっ」

35 :
 白濁のぬめり残す亀頭を優しく咥え込む。ぷりっとした艶やかな唇で、未だ僅かに山頂へ唇越しにかぷかぷと噛み付いて
刺激をもたらす。口唇愛撫はきょう初めて実践したうるかであるが、唯我への愛情ゆえか、歯を(直接)立てぬという基本を
マスターしつつある。潮風が鼻腔を抜ける中、
「────」
 濡れた瞳が少年を瞻(み)あげる。可憐な口にグロテスクな肉棒を咥えたまま、しかし拾われたての子犬のような無垢無
心の眼差しを向けてくる少女はそれだけで出てしまいそうな光景だと唯我は呻く。そんな顔がますますうるかを掻き立てる。
(好き。好きなのぉ)
 とうとう鈴口を舐め始める濃(こま)やかなご奉仕。いつだったかの縁日でドキリとさせた「まっひンク」がいま自分の不浄
な肉茎を這い回っている光景に少年は生娘のように「かああっ」となる。鱈の卵巣よりも強く明るい桃色した淫靡な棘皮生
物がペニスの先端でチロチロと蠕(うご)いている様はそれだけでも衝撃的なのに、感触よ、生暖かい味蕾(みらい)のザラ
つきが敏感な亀頭を否が応にも刺激する。
(き、気持ちいいけど、すっげえ悪いことしてる気分……)
 数時間までキスさえまだだった清らかな少女の口を排尿気管の愛撫に使っている背徳感に、目を逸らしたくなる奥手な
唯我であったが、局部をねっとりと這い回る感触の前では叶わない。舌。金なる鱗さえ獲得していた。窓から差し込む月光
は唾液へ洸(ほの)に照り映えて幻妖なる魚燐と変じている。黝(あおぐろ)き暗室に神話のような器官が現出したことに
唯我はただただ息詰まり見蕩れる他ないのに、よりにもよって、美しきそれは醜怪なる亀頭を”れろん”と慰撫するのだ。
少年はもう怺(こら)えられない。
「いい、武元、それ、気持ちいい、す……っげえ、気持ち、いい……!」
 光の加減でケラチンが珊瑚色を透かす艶やかな黒髪をくしゃりと撫でる。
 少女の無心だった筈の瞳が俄かに媚態を帯びる。ツリ目はトロトロの上目遣いだが下品さはない。生殖器を咥えるとい
う婬(みだ)ら極まりない状況下で、うっとりと恋慕の情に浸りながらも決定的なところでは純朴さを保っている。
 男は、顔に惹かれ、抱く。抱く以上、惹かれた顔がどのように甘く歪むか見届けたくなるのは当然だ。
 だから、である。少年が少女の表情の劇的な変化に「やられた」のは。
「うっ」
 射精と心臓の痛みは同時にきた。後者がズキっとしのは初の伽で淫靡極まる奉仕をさせている心痛ゆえではない。少し
前まで中学以来の女友達に過ぎなかったうるかが、自分の股座の中で「女」の顔をしている異常さに興奮したせいである。
興奮した瞬間、心臓の血液拍出量が冠動脈のキャパを一瞬だが大きく上回り胸部を軋ませた。異様な軋みに動揺した
分だけ唯我の自制はほどけ、ほどけたが故に彼は放出した。
「んんっ!?」とうるかは軽く瞠目したが、状況を悟るや静かに目を閉じ、熱い奔流のすべてを口の中へ受け止める。
「あ、ああああ」
 期せぬタイミングでの噴出に唯我は赤面し、悶える。だが射精は止まらない。一晩に7度も発射するなどむろん初めての
経験だ。生命基幹の何事かが削られている絶望的な虚脱を感じながらも、それと、「少女の顔だけで達した」背徳感に唯我
は軽く弓反り身震いする。かつてない快感だった。
「んっ……。んっ……」
 鼻にかかった艶かしい声を漏らしたのはうるか。髪を抑える色っぽい顔つきで”うなじ”も露に、びゅるりびゅるりと際限な
く放たれる子種を嚥(の)んでいく。
(凄い。全然、……薄くなって、ない)
 若い味は挿入前実行された初めてのRの時と遜色ない。むしろ新鮮さを増しているような趣さえあった。もちろん
それはうるかの主観であり実際はどうか分からない。ただ彼女は皮膚を想像した。新陳代謝とは古いものほど表層に近づけ
新しいものほど深遠に残す活動だ。家族構成ゆえに発散に恵まれなかった濃縮もまたそうではないかと、うるかのみは、
考えた。
 舌痺れる苦味有する「おかゆ」のような味の最後の一滴が少女の喉を滑り落ちた。だが搾り出されてなお、若い壁立は
いっこう萎む気配がない。
(コーフン、してる。あたしなんかに、一生懸命になって、くれてる……)

36 :
 深く咥えなおした少女はエヘヘと目を細める。むしろ唯我の方が首まで紅くなった。手を握ることさえ未だ照れがある少
年の、やわっこくて敏感な心の粘膜はもう、こそばゆくて仕方ない。こういう時の定法に「咥えさせたままグラインド」がある
のは少年も知っているが、うるかの笑顔を前にするとどうしても無理だ。欲情はある。あるが、『壊したくない』といった少年
特有の、青臭い感傷が衝動を留めた。係留された瞬間から彼のやわっこい部分は、こそばゆい快楽の隷下となった。
(ヤバい……。気持ちいい……。Rはさっきもして貰ったけど、出した直後で敏感だから凄く……いい)
 うるかの技巧じたいはまだ拙い。だが唯我を少しでも気持ちよくしたいという健気さが1つ、また1つと的確な快美を生んで
いる。下から上へ唇を這わすという何気ない挙措にしても、たっぷりとした愛情が乗っており、なのにその満点回答にさえ
どこか不安げで、気恥ずかしげな表情を浮かべ唯我を伺う。

(めっちゃエロいことしてんのに反応は清楚とか、すげえ、武元、すげえ……)

 もはや疑念などとっくに吹っ飛んでいる。「これ、俺のすっぽ抜けをごまかすためなんじゃ」と当初こそ疑っていた唯我で
あったが、もはやそんな思考は、立ち上る快楽と、うるかの清純なる反応で、甘く甘く溶かされ……失せている。
 うるかはそこまで計算していた訳ではない。彼女は自分があの失敗に気付いていると気付かれなければそれでよかった。
よもや唯我の観察力という、彼女がもっとも惹かれた魅力の1つが恐ろしいほどのあっけなさで失陥しているとは思いもよ
らなかった。それほど彼がうるかの奉仕へ『夢中になっている』とは……気付かない。
「武元……ッ」
 珊瑚色の髪が再びくしゃりと撫でられた。たったそれだけで少女は「ふへへ」と照れくさく笑う。途轍もなく淫靡な行為に見
合わぬ純良な笑みだ。
(お、俺のを咥えたまま、そのカオって……)
 唯我は照れに照れた。夢のようなご奉仕だからこそ、甘美すぎて直視できない。
 反応に気をよくしたようだ。うるかは深く咥え込んだ。相変わらず髪をかき上げている。褐色の顔に汗を滲ませながら「ずず」
と口を鳴らすと少年は何か想起したらしく──のちの話によれば2人で訪れたラーメン屋におけるうるかの食事風景らしい──
硬度はもはや、ガチガチだ。
「あむ、ふむっ、あむ、あむっ」
 ぶじゅるとい唾液の音を時おり混ぜながらうるかは忙しく首を上下する。模様も、表情(カオ)も、すべて唯我は一望できる。
一望できるよううるかが顔面の角度を調整しているのだ。男が表情を見たがるものだと直感し、恥ずかしさに耐えつつ見せ
ている。見せるたび秘所はきゅうっと奇妙な蠕動を見せ……愛液を滴らせる。
 唯我の顔にやや苦悶混じりの快美が広がったのは精巣がころころと玩弄され始めたからである。
「痛かったら……言ってね…………。あ、あたしさ、筋肉あるけど……加減、頑張って、加減、するから…………」
 少年はぎょっとし、
(こ、ここも刺激の対象!? そんな! 図書館の官能小説とかハウツーサイトとかにゃちっとも!)
 精巣に意識を飛ばす。
 男の自慰は「竿」の上下動こそ基本である。「袋」については強打した時の激痛を知っているものほど手が伸ばせない。
小学校時代、人並み程度には悶絶を味わってきた唯我ゆえ、精巣への愛撫はまったくの想定外だった。
 だからこそ少年は、拒めない。Rであれほど清純さと淫靡さ、相反する2つの要素を見事に兼備していたうるかが、
唯我の乏しい性知識では決して知りえなかった領域を愛撫するという予想外の事態にひどい誘惑を感じた。旺盛な男子が
いったいどうして逆らえよう。
「じゃ、じゃあ頼むわ武元。お前ほら、料理とかじゃ、すごく繊細なトコあるからな、信じる、からな」
 優しくしてとまでは流石に男の矜持が邪魔していえないが、恐怖は確かにあった。急所、なのだ。だがそれだけにフグを
食べたがるような異様な期待もまたあった。
 果たしてうるかは「そこ」への愛撫を開始した。最初はクルミ2つを弄ぶように掌で包んでころころとしていたが、自分の握
力が怖くなったらしく、片方だけに狙いを定める。親指と、それ以外の指とのチーム分けが右の睾丸をコリコリとほぐし始めた。
「…………ッ」
 少年はすっかり受身である。後に彼が少女に語ったところによると、どこか鈍痛の籠もった独特な刺激があったという。う
るかは皮の中の紡錘形──少女がまずこの形に驚いたというのも後の話である。「玉」ないしは「丸」と呼称されているのに、
唯我のそれはややラグビーボール型をしていた──を恐々と触る。

37 :
(ぶどうみたいに、ぶよぶよ、してる……)
 筋肉がコンプレックスの少女は極力ちからが籠もらぬよう気をつけつつ精巣を揉む。

 加減に加減を重ねた愛撫ゆえ、触り初めてすぐ唯我に射精ものの快楽が加わるということはなかった。だが5回も揉む
と彼の様子は少しずつ変わり始めた。(これは、筋肉痛の部分を揉まれてるような)、独特な痛気持ちよさが俄かに巡って
きたのだ。8度目の射精を期待し、低く研ぎ澄まされた息を漏らす唯我。しかし、事態は、やがて。
 ……。
 嚢(ふくろ)に包まれているという意味では睾丸もまた臓腑である。”そこ”への刺激は解剖学上、前提ではない。体内を
愛撫されるという点では女性器にも似ているがしかし先の理由でまた異なる。
 睾丸を愛撫され始めて3分後。うるかは相変わらず唯我の股座の近くに顔を置き、褐色の指先でくりくりと睾丸を揉んで
いる。仰向けになった唯我が息も絶え絶えといった様子でもがいていた。
(これ、やばい……ッ!)
 刺激が決して強い訳ではない。竿でいえば亀頭どころか根元への摩擦より弱々しい。だが臓腑であり……急所。痛気持
ちよさは或いは竿より直通で脳髄を苛む。興奮は募る、確かに募る。されど独断で撃つ貯蔵施設はない。切羽詰った竿か
らの急信があって初めて放てる原則が、慣例が、睾丸愛撫に対する射精を一切許諾しないのだ。むろん数さえこなせば脳
髄との連絡回線が開通し、女性がイき方を覚えるよう射精できるだろうが、その”数”が唯我にはまだない。考えてもみよ、
普通の自慰ですら初めてのそれは達するまでかなりの時間を要すると言うではないか。睾丸も然り。故に唯我は。
「っっーーっ。っっーっ」
 激しい怒りを抑えている時にも似た独特の、細い息をついて刺激に悶える。射精という明確な行き場のない快美はやが
て屹立それ自体へ集中した。増したのだ、仰角が。それまでですら仰角約10度という若々しい”そそり立ち”をしていた肉
棒が、驚くべきことに鋭角マイナス5度を切るまでに勃(お)こった。マイナス、である。恐るべき話だが、肉竿は腹についても
まだ止まらず、ミチミチと肌に埋没するような勢いで勃起運動を続けている。何という怪異、端倪すべからざる魔人のわざ。
斯様な現象はもちろん唯我自身まったく経験したことがない。うるかの睾丸愛撫はそれほどの刺激だった。
(マジか)
 と瞠目したのは少年のみではない。なかなか訪れぬ射精に(あたしココへの刺激ヘタなんかなあ)としょげかけていたうる
かですら瞠目し、「……なりゆきの、えっち」と、含羞(はにか)んだ。
 少女は愛撫に自信を持ったらしく、指から完全に力を抜いた。揉む、というより、精巣に皮越しで触れたまま、五指に極め
て緩く捕らえたまま、手首をゆらりゆらりと動かす程度……である。

 たったそれだけなのに唯我の脳髄にえも言われぬ快美が広がった。

 波が、あった。鈍い緊張感を孕んだ痛気持ちよさが何十秒か続いた後ふと刺激はただの触感に代わる。快感が去り、睾
丸をまさぐられているという客観的な認識にすり替わる。これなら耐えれそうと油断しかけた所で再び気持ちよさが再来し、
少年は息を荒げる。
 竿では決して味わえぬ独特の法悦だった。玄妙きわまる不可思議に少年はただもがく。
 放出したくもできないのが甘い地獄だった。苦しい訳ではない。鈍痛はむしろ1時間でも2時間でも続けていられそうな心地
よさに変じつつある。経験ほぼ皆無の少年が本気でこれを、射精のための刺激ではなく、貯蔵施設そのものへの慰労では
ないかと考えるほどに痛気持ちいい按摩だった。
 錯覚かも知れないが、心なしか睾丸周りが軽く爽やかになりつつある。下腹にめり込むほどの勃起は、知らず知らず停滞
していた陰嚢周りの血液がうるかのマッサージによって急速に流れるようになったせいではないか、解き放たれた鬱血が
生殖器へ集中しているせいではないか……などと秀才なる少年は勘繰ったが実情は分からない。とにかく恐るべき刺激が
あるのに先遣の液が溢れていないのは奇妙だった。
「りょうほう、いい……?」
 少女の濡れ光る瞳が甘えるように問うてきた。少年は一瞬恐怖に囚われたが結局は快美への好奇に……負けた。

 そこから刺激が、12分続いた。

 両(ふた)つの睾丸を摘んだうるかは極めて柔らかい指使いでころころと愛撫している。倍加してなお射精にまでは至らな
い寸止めの快美に唯我はただ悶えた。波の高い時は寒空の下にあるように細く鋭い息をすすり泣くが如く漏らし、低い時は
刺激からの開放感と、行為の疲労ゆえウトウトまどろみ、又(ふたた)びやって来た法悦に叩き起こされる繰り返しを演じた。

38 :
 偶然だが、それが少年の回復を促した。体力のなさゆえ初体験で疲労困憊だった唯我は、端々で訪れる瞬間睡眠によっ
て少しずつ血色を取り戻しつつある。

(なんか……こーいうのもいいなあ)

 うるかはしみじみと思う。性行為といえばどちらかがどちらかを絶頂させるものだとばかり思っていたが、「癒す」行為もあ
るのだと知ると、根が気弱で温和なせいか、つい安心してしまう。

(でも……)

 疼くような衝動もまた体の芯にある。飛び込める場所でいつまでも飛び込めない辛さを耐え切れる少女であればココには
いない。

 いつしか少年の睡眠と興奮の境界はドロドロに溶け去った。夢と現が曖昧になった幻想的な世界の中で細面の、どこか
女性的な顔立ちの少年は、悶え泣いてのた打ち回りたい衝動を必死に耐えていた。女性であれば快美に啼くことは許さ
れる。だが少年は少年ゆえの矜持ゆえにどうしてもできない。ただひたすら

(すげえ気持ちいいのに……何で出ねえの……。やべえ、擦り……たい。いっそガーっとやって、1回、1回でイイから……
出して……区切りを…………)

 といった攻撃的な願望に摩り替えることで辛うじて耐えていた。
 少年の顔をずっと見ていた少女は、臆病さゆえの躊躇をわずかに浮かべた。だが悶える唯我の顔を見ていると、切なさ
が心を締め付ける。愛撫で高まるのは男だけではない。少し前までの『男友達』の切羽詰った吐息を聞くたび秘所がきゅうっ
と蠕動していた。『体』に対しては活発で能動的な少女が、である。稚(いとけな)い割れ目から搾り出された白濁が太もも
を濡らすのを感じてどうして大人しくできよう。むしろうるかは、よく耐えた。
「成幸……」
 褐色の裸身に覆い被さられた少年はぎょっとした。本能的に跳ね除ける選択肢もあるにはあったが、哀憐を滲ませ見つ
める少女の顔にそれも麻痺した。
「辛いなら、擦るから」
 もう耐えられないばかり奮(ふる)える声だが母性的な優しさも多分に混じっている。肉棒は太ももに挟まれた。
「たけ、もとっ……」
 と唯我が油粘土を杵で搗(つ)くような声を漏らしたのもむべなるかな。ずっと直接的な刺激を欲していたペニスがよく引き締
まった足と足とでぎゅうっと圧迫されたのだ。だけではない。唯我の両腕の更に外側に手をつき身を起こしたうるかは、紅さす
艶かしい顔を軽く後ろに曲げ唯我の”それ”が太もものどの辺りにあるか確認すると、つま先を支点とする足全体の上下運動
を開始した。
(す、素股だっけ、いや足だから違、やば、気持ちいい)
 無駄な脂肪はないがゴチゴチの筋肉一色でもないのがうるかの足だ。水泳という速度の競技に従事するが故、肥大化は
NGなのだろう。むしろ日ごろのストレッチにより柔らかい弾力に富んでいる。それがピッタリと屹立を挟んだまま上へ下へと
動く。
 刺激たるや掌の比ではない。掌であれば握力は指同士の隙間から逃げていくし、そもそも手淫とは掌の”圧”ではなく、
指を動かすための筋肉の醸し出す微妙な蠕動を楽しむ行為だ。
 うるかの太ももは、違う。両側からビッタリとペニスを圧迫する。肉棒が肉剣の形になるほど海綿体が歪むといえばどれほ
どの力が掛かっているか分かるだろう。掌の肉のうねりとはまったく違う、原始的なパワーのプレスがある。パイズリならまだ
柔らかさで緩衝されるが、
(すげえ、締め付けが……すげえ)
 がっちりと、むっちりと両側から圧迫される感じに唯我は悶える。特に感じるのはやはり亀頭だ。褐色の太ももの隙間で
顔を出し入れする瞬間、手淫では味わえぬ雄渾な”圧”がもっとも敏感な先端を刺激する。後日唯我は太ももの再現性を
求め己が両掌でペニスを挟み込み圧迫し上下してみたが全く及ばなかった。

 なにしろ人魚姫の足ときたら、凄まじい泳力を産む一種の原動機である。
 そんなものから緩慢なるエンジンピストンのようなストロークを受けた唯我のペニスだからたまらない、あっという間に海老
くさい先走りをびちゃびちゃと泌(にじ)ませ始めた。

39 :
 ただの力任せなら痛いだけだが、すべすべした褐色の肌の質感の奥にプリプリした太ももの肉の弾力があるため刺激は
極上の部類である。しかも太ももは先ほどの交合や、睾丸愛撫への興奮で伝い落ちた愛液でぬめっている。
(しかも……武元、汗、かいてる)
 少年が一番背徳感を覚えたのはそこだ。一連の流れと、今の上下動でしっとり潤ってきている「汗」に自分のシンボルが
触れるのが何よりいやらしく思えてドキドキした。愛液とか、先走りが太ももを濡らしているのは秘事限定の現象と割り切れ
るが、「汗」という、スポーツ少女ならごくごく日常的にかいている物が、己の陰部をひた濡らし潤滑の快楽をもたらしている
という事実が……心(しん)を穿つ。
同じ感想に到ったのか。うるかの表情がとろけ始める。胸の上で、裸の「元・女友達」が切なげに息を荒げているさまは
唯我ならずとも興奮するであろう。日焼け跡の、生白い鎖骨を何となく撫でる。「んっ」、軽く目を瞑ったうるかはペニスを
咥え込んだ太ももにいっそう力を込める。ただでさえ代謝の高い少女の全身が熱くなっているのを唯我は感じた。肉剣を
を圧迫する足はもう夏場の車体外装ほどの熱がある。火照っているのはうるかだけではない。
「熱いの、成幸のが熱いの。あたしの足の間でコチコチで、ヒリヒリで、……ぴくぴくしてる……」
「お前の足も……気持ちいい。すべすべしてて弾力があって、締め付けも、いい」
 ほんと? 嬉しい……。褒められた少女は咲(わら)い、献身の度合いを深めていく。健康的な足の上下動が速くなった。
腕立て伏せと似た姿勢で太ももに埋没したペニスを速く的確に摩擦できるのは体を鍛えているうるかならではの愛撫であ
ろう。汗と愛液と先走りですっかり滑った太ももがヌルヌルと肉棒を擦りあげる。睾丸愛撫でずっと刺激を求めていた少年
のシンボルは30秒と持たなかった。
「で、出るッ、出る…………!」
「うん。出して、楽に、なって……!」
 耐えただけあり量は初夜最大だった。翌朝事後処理に当たっていたうるかはベッドから2mは離れた場所に白濁が落
ちているのを見つけ真っ赤になる。それほどの噴出だった。びゅるびゅるっと勢いよく吹き出した精液が褐色の太ももに
どろどろと蟠った。「あ、あああ」。8度目の射精なのがウソのような軽やかな感触に唯我は呻く。愛撫によってすっきりと
した睾丸は放出にかけてむしろ最盛期に到りつつある。
(足に……あたしの足に、びゅーって、びゅーって……)
 うるかが昂ぶった理由はそこだけではない。少年の屹立はいまだ衰える気配がない。太ももを離せばバネ仕掛けのように
腹へ戻りそして再びめり込むだろう。
(すごい、成幸、すごい……)
 少女の雌の本能が疼き始めたのはこの頃だ。褐色の細い肢体は何の許諾を得ないまま動いた。唯我に覆いかぶさった
まま、彼の踵方面へ全身を少しだけ後退させ──…

 足と足の付け根の間に、ペニスを、挟んだ。

「ちょ、武元! 俺いま出したばっかで敏感……」

 うろたえる少年の顔もトロけ始めた人魚姫にとっては(可愛い……)と思わせるスパイスでしかない。彼へ「騎(の)っている」
という実感も、フィジカルに於いては攻勢的な少女の側面を膨らませる。
「うるかって……呼んで?」

 少年の顎に手をかけるのは先ほどの乳首いじりへの他愛ない仕返しだ。甘ったるい水気でライトパープルにまで希釈さ
れた瞳を、窓からの月光できらきらと瞬かせながら、嫣然たる笑みの形に軽く細め、『下の名前』という唯我の困りそうな話
題を押し付ける。奥ゆかしい少女だから寧ろコレが改元にも匹敵する二人称変更の決め手となることを恐れているが、
しかし同時に、結ばれてなお反射的に名字を呼ぶ朴念仁を困らせたくもあった。男は刺激で女を支配するが、女は機微で、
だ。果たして少年は蠱惑の少女に射すくめられ、停止した。ちょっと右にローリングするだけで容易く組み伏せられるはずの
腹上のうるかに愛撫1つできぬまま固まった。
 好機とばかり人魚姫、更に追撃。

「8回で……満足…………?」

 太ももの間のペニスの感触にぴくぴくと反応しながらも、うっとりと笑いかける少女は面頬の客観的な破壊力に気付かない。
唯我の瞳に映る彼女は艶やかな黒髪を汗でべっとりと張りつけ、息を荒げ、『誘惑的な女友達』の眼光を妖しく灯らせている。
少年の心の臓はまたズキっときた。

40 :
「お、お願い、します……」

 眼鏡の下をぽっと染めて俯く唯我。
「うん。いっぱい気持ちよく……するかんね」
 人魚姫は優しく微笑み艶やかに跳ねた。少年の言葉が終わらぬうちに生殖器付近へ咥え込んだペニスをくねくねと愛撫
した。今度は腕立て伏せの要領ではない。上半身を少年の体と密着させた状態で、腰だけをくねらせる。上下だけではない。
左右にもだ。明らかに雰囲気の変わったグラインドに「もっと、ゆっくり……」と唯我は歯を食い縛るが「だーめ」と甘く囁くう
るかはむしろ動きを速めていく。日焼け跡が生々しいヒップがくねる。
「んっ」

41 :
 クレバスにペニスが触れると少女は眉をひそめたが、スジに沿って肉棒が摩擦されるよう腰の角度を変えるや水音も
露骨にくちゃくちゃと愛撫する。(エロい……)。息を荒げ、半笑いで生殖器同士を摩擦させる少女に唯我も止まれなくなっ
た。
「すまん。武元」
「えっ? きゃ!」
 突然ペニスを持ち角度を変えんとした少年にうるかは正気を取り戻す。(入れる!? このカッコで!?) 騎乗位への
変更を察した少女の中で今度は貞淑さが大きくなった。少年の、手を、持つ。「凶器」を急勾配から直上の淫裂めがけ直角
に無理やり変えている手を。
(熱い……。入り口に成幸の熱いのが……)
 実感すると淫蕩な硝子体が眼球の中に満ちてくるようだった。眉を顰め、目を半開きにしてか細く震える。誘惑の波が
あった。体はとっくの昔から、唯我であれば何でも受け入れる準備ができている。だが心は違う。割れ目に触れる亀頭の
熱く湿った感触に昂ぶりながらも、口ではそれ以上の進入を、拒むのだ。

42 :
「だ、だめ……! 挿れるの、まだ2回目で……2回目からもう上とか、上とか……恥ずかしい、から、恥ずかしすぎるから」
(2回目で……上……)
 自分のセリフで唯我が認識し生唾を飲み込んだとも知らず、うるかは必死な拒否を続ける。
「今度なら、慣れてきたあとなら、シて……シて欲しいけど……、だめ、今夜は初夜で、挿れるのは2回目だから、上、2回
目から上なんて、だめぇえ」
 既視感。言い募るうるかは先ほどこんな出来事があったとハっとする。この流れはまさか。まさかである。
「駄目だ」
 唯我の先端がうるかの入り口に軽くだが埋まりこむ。「や、やあああ」。恥ずかしさで顔を背け逃げようとする少女だが、
動きは声音同様いきおいを失くした。分け入りつつある質量への淫らな期待が理性に愚劣な鈍麻を与えているのをうるか
は是認したが、やはり清純な少女、羞恥心という最後の砦に縋って抵抗する。

43 :
「逆、なら、あたしが、下、あたしが下なら、いいから、このまま、このままひっくり返って、シて、シて欲しくて……、上はだめ、
恥ずかしい……あたし動き始めると止まれない、から……成幸にやらしい女ってヒかれたくないから……だめ、だめなの。
慣れて、自制できるようになってからじゃないと、恥ずかしい、恥ずかしいよぉ」
 どんどん存在感を増してくる異物感の中、赤面かつ潰れがちな不等号の目で懇願するうるかだが、唯我はその顎をくいっ
と掴み、
「慣れてなくて、戸惑って、驚いたり叫んだりするお前が、見たい。きっとスッゲェ可愛いから……見たい」
 初々しさこそ目当てだと言ってのける。息を荒げながらも鋭い眼光は衰えない彼の言葉に、うるかは(……っ)と混乱し、
例の癖で妙な翻案を施した。
「だ、だめえ、俺は熟れきらぬ青い果実をもぐのが好きなのさとか怖いこといっちゃだめえ!」
 と歌舞伎の見得のような珍妙な制止で涙ながらに訴えるが、果たせるかな、そういうズレた愛らしさが膣口に宛がわれた
亀頭を上向きに貫くための原動力となった。
 ペニスは、埋没した。唯我に跨った姿勢のうるかの中へ杭(わた)った。
「かっ!?」
 奇妙な声をあげ目を白黒させるうるか。メリメリと産道を押し拡げてやってくる灼熱に甲走った声を止められない。
「あ!! あーーー! だめ、入ってきちゃう、あたしが上の状態で、太いの、入れちゃ、だめなのに、だめなのに…………!」

44 :
 攻勢はここに明確な逆転を遂げた。少女の引き締まった臀部に痕がつくほど強引に指を立てた唯我は素股の仕返しとば
かり腰を突き上げる。四つん這いだった人魚姫の細い肢体がガクンと跳ね上がり、一瞬だが膝立ちになった。ベーシックな
騎乗位の姿勢になったのに気付いた彼女は「や、いや、恥ずかしい、恥ずかしいい」と戦慄き腰を浮かして逃げようとするが、
しかし掴まれる肩。がしりと伸びてきた唯我の腕はモンスター映画における画面外からの襲撃のような勢いでうるかを元の
四つん這いの姿勢へ引き戻す。結合は依然として、継続中。状況を知ったうるかは巨大な恥じらいにただ悶える。
「やっ、やあああン。やめてこのカッコ、恥ずかしい、恥ずかしい、からぁ……」
 意外にがっしりしている少年の胸板に頬を擦り付けるようしつつ懇願するが、すっかり騰(あ)がった少年はややサディス
ティックに切り返す。

45 :
「さっきとそう変わらないだろ?」
「ちち、違うの、擦ってるだけのと、入れられてるのとじゃ、全然、全然、違う、違うからあ」
 うるかは泣いて首を振り許しを乞うが、痛みや苦しさを訴えていないのなら大丈夫だろうと唯我は速度を速める。腰の
上の少女をひたすらに揺さぶる。うるかは逃げようと腰を浮かすが、そのたび尻ごとぐいっと引き寄せられ喘ぐ。それでも
よほど恥ずかしいのだろう。唯我が腰を引くたび健気にも逃げようとする。その仕草じたい男の欲情を駆り立てるものだが、
うるかの災難は、更に劣情を誘う体の持ち主であったことだ。
 鎖骨から胸に到る日焼け跡がますます紅潮の度合いを強めているのが唯我のより深い獣性をそそって仕方ない。
「あっ」
 離脱の余波で唯我の上体との密着を解いた乳房が揉まれる。「やだ、ただでさえ恥ずかしいのに、おっぱい、おっぱいまで
いじめないでえ」。先ほどの好色そうな女友達はどこへやら。無力な子猫のように甘え泣くうるかがますます愛しくなった唯我は
両手で乳首を愛撫する。強く抓るのではなく、触れるか触れないかの繊細なタッチでピンピンと撥ねる。

46 :
「んっv んっv
 ぎゅっと目を瞑るうるかの声はくぐもっているが、末尾にハートマークをつけてもいいほどに甘く甘くとろけている。
 結合部が重力で補強されているぶん両腕の自由が効くのが騎乗位だ。浮き気味の四つん這いで覆いかぶさっている少
女の胸にいたずらしながら、腰の力だけで彼女を突く唯我。
「だめ、恥ずかしいのに、このカッコ恥ずかしいのに、気持ちいい、気持ちいいよぉ」
 うるかの腰はいつしか動いている。ぎこちないが唯我をより深く迎え入れられるよう動いている。切なげな形相で瞳を歪め、
戸惑いながら、しかし大きな快楽に対する貪婪さもうっすら滲ませながら、腰を動かしている。
 唯我は(こ、こーいうときの鉄板って確か)と何事か脳裏で検索する。大人しいが、少女を胸の上で揺さぶっている状況と
あってはやや言動も攻撃的にならざるを得ない。
「こ、腰を動かすとか、は、は、恥ずかしがってる割には積極的、ダナ!」
 後半ややぎこちないのは、(やっぱあまり責めすぎるとダメか、武元泣かせたくは……)と思い直したからである。
「だめ、だめえ、そんな優しいこと言うのだめえ」
(優しいか!? あ、いや、語調全体で真情バレバレ!?)

47 :
 などという突っ込みは、双眸から涙を流し大口開けて喘ぐ淫らな少女の顔つきに流される。
(それ、に……!)
 中途半端な言葉攻めをした瞬間、うるかの中の肉ヒレが露骨にきゅうきゅうと反応したのが初夜真っ最中の少年には
大変刺激的だった。恐ろしく気持ちのいい締め付けだった。一瞬だけの反応だったが、明らかに少女は目覚め始めている。
 肉体を変質させるのはいつだってひどい情欲だ。それが、熾(おこ)った。
「だめっ、だめなのぉ、あたし成幸、好き、好き、だからあ、上になると、好きにしてよくなると、腰、腰が、動いて、動かしたく
ないのに、恥ずかしいのに、勝手に、勝手に、動いてぇ……」
(……エロすぎです、武元さん)
 くっちゃくっちゃと露骨な水音を立てながら腰を上下させ、日焼け跡も艶かしい乳房を隠すところなく揺らしているうるかに
唯我は呆れながらも……生唾を呑む。
「そ、そんなに俺のこと、好き……か?」
 本当はもっと強い調子で言って躾けたかったのに、予想外の相手の淫猥さに遠慮がちな問いになる。
「好きなの、好きぃ、成幸の、成幸の、おちんちん、自分で、色んな角度から、味わい、味わいたいのぉ」
(だ か ら)

48 :
 もはやうるかに羞恥はない。いや、羞恥がなくなると本能的に察知していたからこそあれほど騎乗位を拒んでいたのだろう。
芯こそ楚々としているが、もともと活発な少女なのだ、リミッターが外れると性欲一色になるらしい。
 唯我の枷も、外れた。このまま行けば体力で勝るうるかの攻勢一方になるという打算もまた働いた。
「もうそろそろ行くぞ、行くぞ……」
「あっあっあっ!! いい、凄い、逞しい、逞しっいい」
 激しく突き始めた唯我にうるかの姿勢が崩れる。胸から離脱した手は再び尻をむんずと掴む。荒ぶる律動に成す術なく
黒髪を揺らすうるかは唯我の胸に顔を突っ伏したが、すぐさま従順な使命感で彼を見上げる。表情(カオ)は見せたいし、
見たいのだ。
「出して、9回目、出してぇえ、好きなの、成幸のねちゃちゃしたの、好kんぶっ!?」
 嬌声はキスで遮られた。もはやどっちから舌を絡めたか分からない。よく噛み切らなかったなというぐらいの激しい上下動が
10秒ほど続いたあと、「んん゛ーーーー!!」熱い脈動が体内で炸裂したのを感じたうるかは瞳孔を見開いた。唇を塞がれて
いるため声が潰されるのが却って淫猥だった。零距離におけるその息遣いはまだ挿入2回目の半童貞には些か刺激が強
すぎる。「出るッ、まだ出る……ッ」ぶるっと震えギュっと目を閉じた少年の眼前でうるかのくぐもった絶叫がまた上がる。
 ややあって。
 唯我の唇から剥がれた人魚姫はそのままぐったりうな垂れ、
「熱い、熱いよ成幸。すごい、まだ全然、全然、衰えてない……」
 どこか正気うすい法悦の笑顔で息せきながらそう告げた。

 ここでやっと初夜が終わった。

 のであれば良かったが、そうでないから高校生の性欲は恐ろしい。

49 :
 褐色の膝小僧が胸の傍までいくほどに足を曲げられている。少女は更に、膝の後ろに両手を回した。
「えと、こっちのが、入れやすい……かな……?」
 褐色の頬を紅くして視線を逸らしながら、おずおずと聞くうるかの格好は──…

 M字開脚、である。秘部がいっそうむき出しになる体勢を、少女は自分で選択した。正常位ラウンド2がスッポ抜けで中座
したので、再発防止という訳である。

(こ れ は)

 唯我の精神の眼鏡にヒビが入る。少し前までは御しがたいお転婆だと思っていた少女があまりに従順な痴態を曝け出した
のが、彼ならずとも驚くだろう。

「も、もー! 早くしてよね成幸! こ、このカッコ、実は結構恥ずかしいんだかんね!」

 瞳をツンツンと尖らせながら赤面で、あわあわと抗議してくる様も少年にとっては高ポイントである。

 唯我はしばし少女のむくれ面に見惚れていたが、

50 :
「武元ぉ!」
 殆ど強姦魔のような勢いで貫くや、「あっ」と舌ッ足らずな声漏らすうるかの両足首をむんずと掴み……正常位で狂ったよう
に腰を動かす。ペニスが抜けたことそれ自体は失敗だったが、結果からいえば睾丸愛撫や騎乗位といった、より興奮をかき
たてるシチューエーションの増える役には立った。射精9回という未曾有を得てなお少年の剛直は猛々しい。
「はっ、はうう、やん、凄っ、速い、成幸の逞しいのが、逞しいのが、速っ、あぅぅぅン」
 足をまっすぐ伸ばしていた先ほどの正常位と違い、唯我はうるかの足の角度をも変更する権利を得た。視覚的にもM字開
脚は淫靡である。足首を強引に外側へ引く。いっそう恥辱的な恰好になったうるかがひどい恥じらいを浮かべるが古今相手
の羞恥で鎮静した男などいない。むしろ彼女の足首は持ち上げられた。同時に膝立ちになった少年は、無理やり浮かしたうる
かの腰へ「上から」激しく突きこみ始める。
「やあああん。成幸の体重があ、体重があ」
 ばじゅばじゅという凄まじい水音を奏でながら抜き差しされ少女の胎内を掻き乱す。
 かと思えば今度は彼女を降ろし、両太ももを無造作に持つと、内側に内側にググっと密着させる。のみならずつま先が
天井を指すほど両足を高く掲げる。
「ぁっ、だめ、だめなのそれ、足ッ、揃えられると成幸の太いのが、気持ち、いいっ」
 骨盤の動きのせいでいっそう強く感じられる、そう哀訴する少女はいっそうの嗜虐心を駆り立てるものだ。太ももが、交差
した。させられた。「あああっ、やめっ、それ強い、太い、太いよぉ」。体が柔らかいが故の災難めいた快美──少年がそうい
う要素に欲情した以上、災難というより人災だが──に涙ぐみながら頭(かぶり)を振るうるかはいよいよもって艶かしい。
 人魚姫の体はとうとうくの字に折りたたまれた。
「すげ。さすが武元。膝小僧がシーツに付くとか」
 肩付近の、である。仰向けの体勢でそれはなかなか凄かろう。

51 :
「んーっ、んーっ」
 足を目いっぱい畳まれたうるか。唯我の追撃は止まらない。彼は上体を少女めがけ曲げた。乳房が潰されるほどに2人は
密着した。手が、どちらからともなく相手のそれに絡まった。唯我の右手がうるかの左手と繋がれば次はもう片方と瞬く間に
恋人繋ぎが完成し(はぅわ。憧れてたけど今の状況じゃ何だかえっちだよう)とうるかは驚く。
 実際、両手は攻城の支点となった。ぎゅっと握る少女の両手を支えに少年は突く、衝く、撞く。
「おくっ、おくにまた、あ! あーーっ!! あーーーっ!」
 力強いストロークに喘ぐ唇が塞がれる。「ん゛んー!」。驚いて大きな瞳をまろくするうるかだが騎乗位の時の復習とばかり
すぐ順応。自分から舌を熱烈に差し込んで唯我の口中を愛撫する。下にありながら唾液を送り込んでくる媚態に燃えた少
年に、
「やっ……」
 更に前髪を強引にかきあげられ、額の髪の生え際に何度も何度もキスされる。結合部からの激しい揺さぶりはやまぬ。
「ふぁうンン、ふっ、ふっ、あうううう」
 額を、熱い息で蹂躙され、唯我の唾液でべちゃべちゃにされる刺激は想定外だが、それ単体ならうるかは何とか耐えら
れた。だがいつの間にやら恋人繋ぎを解除した手によって頭をひっきりなしに撫でられているのだけは耐えられない。足を
くの字にされる淫靡な蹂躙の中で、慈しむように愛おしむように、優しい手つきで撫でられているのが
(こんなの、こんなの、嬉しすぎて死んじゃうよぉ)
 いつしかうるかの双眸からは涙の筋がいくつも溢れ、多幸感はあらゆる刺激を快美として受け止める。
 足が、放された。ほっと一息ついた少女は新たな刺激に背筋を粟立たせる。
「だから、おっぱい、だめなの、だめええええ」

52 :
 忘れた頃に揉みしだかれる双丘の懐かしい快楽に子猫のような声が上がる。
 唯我は半分しか受諾しない。右手だけでヒョイヒョイと肉付きのいい太ももをM字開脚へ直すと、向かって右のそれ
に指をめりこませ支点とした。左手の方は相変わらず乳房を揉んでいる。激しさは、ない、むしろもどかしさで身もだえさ
せるため、じれったいほどゆっくり、ゆっくりと揉みこむ。
「あっ。また、乳首が」
「触られるたび下の方がきゅうっとなるよなお前」
 え!? という形相をうるかはし、
「そ、そんなことまで観察しちゃ……イヤ…………。恥ずかしい……」
 とだけ困りきった様子で告げた。不随意の領域まであげつらわれると、色々どうしようもないと言いたいらしい。
(組み伏せられると大和撫子だよなお前)
 唯我は呆れたが、些細な言葉攻めにすら心から恥らう少女が、うるかが、いっそう愛おしくなった。
 もう打算は「最後の1つ」以外何も無い。唯我は可愛い少女をいじめたい一心の全速全力で腰を使う。肉と肉のぶつかり
合う凄まじい音がする。揺れ動く乳房は頂点が桜色の残影を描くほど揺れに揺れた。
「いい、いい、凄い、あっ、だめ、なんかヘン、ヘンっ、あ!? あああああああああああ!!」
 包皮がまくられた。真珠からの強い刺激はさすがに初夜ゆえ絶頂までは導かなかったが、うるかの感受性をそちらめが
け一段押し上げるには充分だ。
「あ、あああ、あああああ」

53 :
 反射的に背中をバウンドさせた少女。双眸の焦点は合っていない。舌を突き出し、おとがいを仰け反らせた人魚姫は、
半ば喪神状態でぐったりと横たわり息をつく。それほどの刺激だ、しばしば目覚めの兆しを見せていた少女の秘所はここに
本格的な活性を帯びる。蠢動に過ぎなかった淫らなヒレの締め上げが唯我の分身を恣意的ないやらしさでニュルニュルと
歓待する。刺激。うるかの痴態。多方面から調剤された爆薬は男性さえも快美の彼方へ吹き飛ばす。
「た、たけもと、そろそろ、外に……!」
「え!? なんで、あたしまだ、あっ、女の子の日、まだ、一度も、なのにぃ……」
(だからってずっと来ないって訳が……! 今日の刺激が「できる」きっかけにだって……!)
 騎乗位における放出ですっきりしたせいか、やや慎重な構えに移った唯我であったが、もくろみは。
 褐色のすらりとした両足の絡みつきによって阻まれる。動きこそ艶かしいが、いかにも肉食で攻囲的な蟹挟みではない。
綿あめの糸が一重二重と丁寧に掛かっていくようないじらしさがあった。
(あああ、当たるんだ、こういう時、当たるんだ)
 くるぶし。少女のくるぶしが自分の腰骨にコツリと当たったという些細な事実に、少年は驚き、興奮する。
 てか足ちっちゃ! 少年は両目を戯画的なナルト渦にしてうろたえる。
 粘膜ばかりに集中していた所へのくるぶしは、ヤバい。『教本』にない出来事にゃ秀才は、弱い。
(だが乳首! さっきみたいにいじれば足だって緩むはz──…)
 唯我は直後実感する! 結局最後に勝つのは『天才』であると! 秀才は負けるのだと!
「なりゆき」
 淫核への衝撃でぽーっとしたうるかに戦略はない。あるのは少年への愛だけだ。

54 :
「ほしいの……。なりゆきの……せーえき…………初夜だからこそ……ほしいの……。全部ほしいの、ちょうだぁい……」
(破 壊 力 !)
 うっとりとした、白痴めいたうわ言だが、心から欲しいとせがむ美少女の姿は、唯我の愛への天才は、まったく以ってトドメ
だった。
「あああもうどうとでもなれー!! 後は後、今は今だーー!!」
 後先考えなくなった若い雄は寝そべるうるかの両肩の傍に手を置くと、正に獣が犯すような勢いで腰を振りたくる。放出
の為だけにいたいけな少女の肉襞を使うのは途轍もなく快楽で、だから限界も訪れる。火照りに火照った運動不足の体
から汗の飛沫を舞い散らしながら少年は告げる。顎から一滴しずくが落ち、日焼け跡の乳房で砕け散った。
「出る、武元、出るッ…………」
「凄い、またおっきく……あっあっあっ、凄いの、このまま、びゅーっとして、沢山、出してぇ」
「出る、出る出る出る、あッ、あああああ」
 10度目でも依然おとろえを見せぬ量と勢いが少女の体内を吹き荒れた。虚脱の呻きを漏らしたきり何度か震えた少年は
またも崩れ、うるかの胸へ。

「あー。俺、なんかお前に受け止められてばっかだな……」
「いいのぉ。おっこちてくる成幸の重さも、好きぃ」

 うるかはまだ別乾坤の桃源郷にあるらしい。焦点の合わぬ目で舌ッ足らずの声を上げている。(エロいけど……可愛い)。
少年は見とれたが放出後のどこまでも冷然とした部分は(もし朝になっても戻らなかったら……)と青くもなる。

55 :
 ここからしばらく実用性のない著述が続く。

『次』をすぐ求められる場合、「脈絡はないが」でページ内検索するとすぐ飛べる。

56 :
 2人が付き合う事になった詳細はもちろんあるが、この手の物語においてバックボーンは概ね読み飛ばされる傾向にある
ため多くは述べない。
 とにかく付き合う以上、性的な一線に目は向いた、向かざるを得ない。唯我とうるかが他の生徒達と違ったのは「行為」を
受験と同じ次元に設定した所である。期日を、定めた。普通ならそれは「安全日」となるが、どういう訳かうるか、高三にも
なって未だ生理が来ていないという。”できない”子が多い界隈において、新たな”できない”が発生した。
(なんでまた? 水泳でよく体冷やすから……か?)
 とは、気恥ずかしげなうるかに秘密を打ち明けられたさい唯我が抱いた感想であるが医学的には、どうか。
 とにかく不可解だった。そうであろう、うるかのスタイルで初潮すらまだと言われて誰が納得できよう。

 もちろん唯我も男だから、そういう件を打ち明けられた瞬間、妊娠の可能性のなさにホッとした部分はある。が、根は誠実
だから、首をもたげかけた男の勝手を恥ずべき思いで蹴散らした。

「その、病院とかで……診てもらったりは」

 彼ほど検診の重要性を痛感している男はいない。5年前に父を病気で亡くした少年だ、検診と早期発見は信奉している。

 といった感傷は迂愚なむきのあるうるかとて、会話さえ重ねれば付き合いの長さで分かってくる。
「あー、体質? イデンがどうとかって。血とか色々調べたけど、ビョーキとかじゃないから」
 と、いつものサバサバした様子で後頭部かきつつ答えた。「ビョーキ」にやや力を込めたのは、いまひとつのニュアンスが
あるからだ。当時の2人は行為を控えていた。交接による感染を警戒するのは受験生としても当然だ。何よりクリーンな体
であることをうるかの乙女心は叫びたいほど訴えたかった。

57 :
((早い方が、いい))

 初体験の期日である。なるほど男にしてみれば生理の件は都合がいいが、まごついていれば「来かねない」。うるかは
それで唯我が幻滅するのではないかとひたすら肝を冷やした。唯我は唯我で少年だ。
 初陣最後はやはり陣中、深くでという思いは確かにある。
 だが惜しむらくは城は平城、背後にいつ氾濫するとも知れぬ河川すら負っている。討ち入りは急務だろう。

 ともかく付き合うことにした2人は、10日後を期限と定めた。期限に必ず『成せる』よう、受験生らしい計画性で準備を進め
た。初夜、武元家にうるか1人だけだったのも数々の根回しあらばこそだ。

 ……。この辺りもやはり読み飛ばされる傾向であり、述べる意義はないのかも知れない。

58 :
 だがここを省くと『あの2人の、そういうこと』には成り得ないのだ。彼らの行為を、俯瞰的で映像的な淡々たる描写の連な
りで述べることはもちろん可能ではあるが、しかし情緒はない。著述を行うものは、フィクションであろうとノンフィクションであ
ろうと、その脳を強く占めた情景を気に召す文型へ整えるまで決して止まれぬ、一種執拗的な性格を有している。盗聴器も
高かったし、少なくてもこの著述における主眼は「情緒」なのだ。著述する者が愛してやまぬ唯我と武元うるかという少
年少女の情緒を紡ぐため、この著述は開始されたのだ。それがフィクションであるかノンフィクションであるかは、もうお気づ
きであろうから言及しない。

 ともかく。2人。

「受験生なら行為は後にしろ、合格してからにしろ」。正論だ。だが繰り返しになるが「生理」という期日の定めなき期限を
控えていた以上、たたでさえ甘い衝動へ傾きがちな少年少女は性急に動かざるを得なかった。

59 :
 彼らが特殊だったのは、行為を、疑いもなく受験と行為を同列に考えていた点である。

 彼らは、課した。自らに課した。『期日』までに設定した成績を出せないのであればこの話はお流れ、と。

 色事が受験に影響を及ばさぬよう死力を尽くして勉強した結果。

 唯我は師匠と理珠の『得意分野』において、あと4〜5点で勝てる点数を一度叩きだした。
 うるかは唯我謹製の模試で60点台後半から70点台前半を安定してキープできるようになった。最初一桁台だったこと
を思えば躍進といえよう。

 しかし初心な2人であるから、条件を達成しても、期日までは色々と悶々していた。堅実な者は、好きな相手とのまぐわい
にすら悩むものだ。「このタイミングでいいのか」「妊娠は……」「社会に出てからのがいいのではないか」などなど悩みに
悩む。もちろん生物としては「したい」。したいが、したくないというジレンマをずっと彼らは持ち続けた。
 余談だがその当時、2人の間に流れる微妙な空気を察し、「ああまた唯我君とうるかちゃん何か問題抱えているなあ」と
三本線目V字口で胃をキリキリさせていた少女がいた。
 黝(あおぐろ)い髪の古橋文乃である。彼女に対し唯我とうるか、意外きわまる償いをする羽目になるが……詳細は後段に
譲られるであろう。

60 :
「したいが、したくない」。インド哲学のようなややこしい男女の機微はマリッジブルーどころか殺人計画のような様相を帯びて
いた。
 激しさを叩きつけねば昇華できぬ強い感情を抱きながら、叩きつければ現状の一切合財が破壊されると直感し、踏み出
せずにいる複雑な状態。

 たかが交合というなかれ、高校生にとっての初体験とは巨大なのだ。
 真剣に愛し合えば愛し合うほど、一線の超距が関係を根底から崩すのではないかと……常に悩む、
 両名の付き合いが些か長すぎたのもマズい。中学以来の知己という立場が本格的な男女の関係への発展を迷わせた
のだ。

 唯我にとってうるかは、つい最近までただの女友達だった。
 恋愛対象ではなかった者を、高三から発生したうるか怒涛のアプローチで恋愛対象にした速成振りが、なんとなく無理して
「身内」をそういう目で見ているような感じがして、だから戸惑う。

 うるかにとって唯我は中学時代からずっと恋焦がれた存在だ。
 付き合えるようになったのは幸福だが、されど交合とは1つのピークである。ピークを迎えたものは衰えていくのが世の
常だ。そういう瓦解を、うるかは、怖れた。付き合いが長い分、自分の欠点など知られ尽くしているのだと心から思った。
そういう存在が、「ピーク」ですら成果を出せなかった場合、フラれるよねと自虐的なうるかは勝手に思った。

61 :
 しかも唯我の周りには魅力的な女性が沢山いる。自分が飽きられた時、悪夢のようなタイミングで理珠たちの誰かが致
命的なアプローチを働くのではないかと、端的にいえば、ビビり倒した。

 なのにそうやって葛藤すれば葛藤するほど、相手がそれに足る、大事な、とても魅力的な人物に思えてくるから若さは
困る。

 結局、期日は「頑張ったんだし、キスぐらいなら」という及び腰な両名のファーストキス(様子からするとどうやら唯我の方
は『偶発事象や緊急避難ではない、真に自ら進んで』するという意味での、ファーストキスらしかった)からあれよあれよと
火がついて、前章がごとき顛末となった。
「あはは、おいしいお菓子を前につまみ食いだけで止まる訳ありませんー」とは体重計を怖がる文系少女であるなら当然求
められるせせら笑い。

 初夜に視点を戻す。
 最初の交合を終えた後。ひとしきりのキスの、後。
 引き抜いた後でもある。2人は同じシーツの上に並んで寝転がっていた。
 間には30cmほどの距離。密着してイチャイチャしたくもあるが、放出10度の後である、休憩したいし、照れもある。

62 :
(えらいこと、言っちゃった)

 うるか。正気を取り戻した彼女はズーンと固まっていた。やらかした、としか言えぬ笑いを凍りつかせていた。法悦の極み
のなか叫ぶように子種をせがんだ記憶は確かにある。忘我ゆえ完全には覚えていないが、少年への愛を残余なく呻き散ら
してしまったという感覚だけは残っている。恥ずかしさのあまり少女はぎゅっと目を瞑る。慣例で、仕草は自然と乙女じみる。
この時はいまだ火照る頬に両手を当てた。

(見れない。成幸のカオが見れない。あんなことばっか口走りすぎちゃうとか、えっちな娘(こ)通り越してインランだよう。ヒ、
ヒいてないよね成幸!? だいたい初めてであんな乱れちゃうとかどーなん? いや違う、きっと成幸が……上手、だったか
らだ。あ、あたしはそんな、インランとかないんだかんね。そ、そーだそーだ。ちゅ、中学高校とあんなウダウダやって告白で
きなかったあたしがインランなわけ……)
「武元」
「だからあたしはインランじゃないってばーー! 凄く気持ちよかったけど、成幸がうまいってだけなんだからーーー!!」
 怒ったのか、褒めているのか。とにかく呼びかけに過剰反応した少女は><でポカポカと少年を叩く。
「落ち着けって武元! あ、ああいう場面じゃ誰だってああなるんだから、気にすんな!」
「で、でもでも! 成幸のこと考えてシてた時はああならなかったもん!」
 あー。とんでもない言葉に唯我は固まった。聞かなかったことにするが、少女の方は、

「むむむっ、胸の方だかんね! し、下の方は、なんか怖くて……あまりさわれなかったし……」

 といわなくてもいいことをいった。後はいつものパターンだ。数分後うるかは後悔して頭抱えてぶるぶる悶えていた。

「……自爆すんのは勝手だが、人が気ぃ使って流してる時ぐらい流せよ」
 少年はやや不機嫌そうに瞳を細めた。ゆらい初めての相手にすべきではない言葉の荒さだが、うるかには中学以来ずっと
こういう口ぶりなのだ、今さら治しようもない。
「な、成幸は、どーなん」
 いつの間にか頭巾の如くシーツを被っていたうるかは、片目だけをちらりと覗かせ「あたしで……シたの?」と問うた。
「お前なあ」。唯我はちょっと頬を赤らめながら気まずそうに答える。「それ、俺が同じことしてたって白状しない限り、絶対
納得しねぇパターンだろ。つうかここで強めに「ねえよ」って言っちまったらお前ぜったい傷つくけどいいのか?」
(そーでしたぁ)
 少女は頭巾(シーツ)を投げ出しズズンと落ち込む。青紫の縦線が10本ばかり褐色の顔の右半分を覆った。
 オカズにされてなかったという事実があれば「あたし魅力ないんかなあ」と落ち込むのが自分だと気付いた少女は、
「あ、あはは、今のナシ! さっきのでちょっとヘンになってるんかなあ、忘れて!」
 空笑いを打って誤魔化す。直視したくないことをこうやって回避してきたのは自分の悪い癖だなあと人魚姫は思うが、染み
付いた習慣は、そうやすやすと直せない。
「……したよ」
「え?」
 ぽつりと呟く唯我に大きな瞳をぱしぱしさせるうるか。
「だから、お前で、したことあんだよ。悪いか。あ! つ、付き合うようになってからだぞ、本当だぞ!」
「な、なんでまたそーいうことを……?」
「なんで!? お前がそれ言う!? ボタン開けて胸元見せたりとか、目の前で足丸出しで寝たりとか、スマホの操作ミスって裸
見せるとか、そーいうことばっかお前してきただろ!」
(あー。最後のだけだなあ、事故なの。他は完全に故意だ、ごめん成幸……)
「あとラーメン!」
「ラララ、ラーメン!? 倒れた後の奢りの!? 何でアレで!? あたし普通に食べてただけじゃん!? 」
「……色々艶かしかったんだよ! そりゃすまないとは思ったけど、ウチ貧乏なんだよ! 本とか買えない環境であんなスッゲェ
刺激きたら、そのっ、仕方ないだろ!」

63 :
 ぱああ。うるかは輝く笑みを浮かべた。

「いや、ズリネタにされてその顔はねえだろ」
「えへへ。そうだねー。えへへ」
 少女はまた咲(わら)った。余談だが「咲」、中国ではもっぱら「わらう」の意で使われている。故に『武井咲(えみ)』)。開花
の意で使われるのは「茹でる」同様、日本独自の用法だが神代記のような古い書物では「咲(わら)う」で使われている。文学
作品における有名な使用者は、司馬遼太郎先生の『城塞』は冬ノ陣の項冒頭の淀君であろうか。
 余談が過ぎた。

 うるかはちょっと甘えモードになった。30cmの距離をずずいっと詰めて唯我にすり寄る。
(あたしで……するとか、変な形だし、恥ずかしいけど……でもその時だけは、あたしに、一番一生懸命になってくれてたって
こと、だよね)
 あまり細かいことは考えられないうるかだから、そう思う。
「てかー、なんでスマホ活用せんだんー? 時代はいまデジタルだよー?」
 嬉しくなるといかにもギャルっぽい演技で唯我をからかいたくなる。
「俺が電子機器ダメって知った上で聞いてるだろお前。だいたいアレ、家族共用だし……「使える」のもフロん時ぐらいだし。
でもあれ電話がかかってくんだぜ、家族共用だから。ヒヤっとしたなあ。おっぱじめようかって時、母さんの勤務先にコール
鳴らされたときは……」
 家には唯我のアドレス帳を勝手に覗き見る悪魔もいる。いかなデジタル音痴の唯我でも履歴バレぐらいは警戒する。
「だからその、あたし、で……?」
 どきどきと期待を込めて唯我を見つめるうるかに「あんだけアプローチされりゃあな」と少年はバツ悪げにそっぽ向いた。

「あ、ところであたしが初めてって分かったのなんで?」
 それは挿入直前、唯我が放った言葉である。仔細が明かされるまえに怒涛の動乱へ突入したためうるかはずっと理由を
聞きそびれていた。
「あたし隠してたつもりだよ? だから、く、口とか、胸とかで、オトナらしさのエンシュツっていうの? 慣れてる感じを出した
つもりなのに、けっこう……練習したのに、もしかしてその……気持ちよく、なかった?」
「……スッゲエ良かったけど」。両名の視線は期せずして少女の体のあちこちに付着する白濁に行く。栗の花の匂いが鼻腔
をくすぐり、2人は決まり悪げに頬を染め、黙る。
「お前いろいろぎこちなかっただろ]
「ぎこちなさめー」
 少女は無心で呟いた。怒りを表明したらしいがどうも脈絡がない。
 とにかく、唯我がなぜうるかの経験の無さに気付いたのか。
「お前……告白、の時、俺のこと中学時代から好きだったって言って……くれたろ」
「うん、言った。言ったね。えへへ」
「だったらぎこちなかったのは久々なせいじゃない。まさか小学校のころ既にってのはお前の性格上ないだろ絶対」
「確かにそうだけど……たったそれだけで見抜くなんて……」
 探偵みたいな唯我カッコいいようとポワポワする少女であった。

(うー、でも)

 シーツに目を落としたうるかは困ったという顔をした。汚れが、ひどい。破瓜の血や愛液、白濁や汗、涎に涙といったシミ
が到るところ点々とこびりついている。

(どーしよコレ。流石にママに任せるわけには……)




 そっから更に2回したのが金曜日の夜。

64 :
 翌日。土曜。昼。武元家、洗濯機前。

「珍しいわねあんたがシーツ洗濯するなんて」
「そ! そりゃもう高三だし!? 一人ぐらしに向かってぼちぼちヨコウエンシューしてく時期だし!?」

 ゆうべ家に居なかった母の問いにギクリとしたうるかは上ずった声を漏らす。追求は覚悟していたがどういう訳か何もこ
ない。(やりすごせた……)と安堵したうるかは洗濯槽の中のシーツに手を伸ばす。脱水さえも完了したそれは濯(すす)が
れきった洗剤特有の爽やかな匂いを漂わせている。淫らな匂いはない、バレない。安心と共に、湿り気でやや青白く透き通
った布団の布を持ったうるかは、せっせかせっせか。手を動かす。

 彼女の母はぼんやりと様子を見る。ゆうべ家に居た唯一の──そしてここ1週間、ママは金曜夜に外泊するよね絶対す
るよねと何かと聞いてきた──家族の、普段ならば、絶対ありえない挙措を母はしばらく眺めるともなく眺め続け

「うるか。生理きたらちゃんと言うのよ。色々買うから」

 ちょっとからかうように、告げた。少女はつんのめり、露骨に四肢を踊らせた。
「色々」に避妊具が含まれているのを直感するに到った訳だが、この辺のなまぐさい機微は母娘でないとちょっと分からない。

「なななっ、なんでそっちに話がトぶかなー!?」
「変? 自立が近いならそろそろかなーって思うのは普通でしょ?」
「そ! そりゃ、来たらちゃんと言うし、報告するけど! じゅ、準備ぐらいしてるから! い、いざって時すぐ対応できるよう
準備してるから、あまりこの話題ひっぱらないで頼むから!」

 はいはい。うるかの母は立ち去った。


 火曜日。更衣室。

「水泳バカが3日も練習休むとか」
「土日はともかく月曜放課後に法事って……。ねー?」
 久しぶりの部活で、川瀬隊員と海原隊員にニヤつかれた。余りに女性的な傷ゆえに休んだのを知ってるぞと言わんばかり
のニヤつきだった。

 水曜日。図書室。

(ううう。どうしてあちこちにバレるかなー。そんでタンコブまだ痛いし。どんだけあたし全力で頭ずがずがしてたんだ)
 三人娘合同の勉強会でうるかは頭を抱え俯いていた。どんより紫した顔で「うぅ、ズキズキする」と呻いた。
「大丈夫? 保健室で氷貰って冷やす?」
 親友の優しげな申し出だけが救いだなあと人魚姫は思いつつ「うん頼むよ文乃っち」と快諾。眠り姫は任せてと席を立ち
廊下へと出ていく。「……?」、彼女に反応したのは親指姫。
(…………)
 理珠はシャーペンを顎に当てたままじっと考える。「なぜこの登場人物はこういう言動をしたのだろう」が分からない時の
もどかしい感情があった。が、感情について未分化な理珠だからクッキリとした明文化が出来ない。

(えっと、えっと)

65 :
 牧歌的なまでに瞳と輪郭を円くして、理珠はいっしょうけんめい、考える。


 数分後。

「どうしたの武元うるか頭なんて抱えて。もしかして頭痛? 良かったら頭痛薬貰ってきてあげるけど。え、違う? タンコブ?
それプールで打ったせいなら精密検査した方がいいんじゃないの? した? ちなみに原因はプールじゃなくベッド……? 
……。珍しいわね、あなた寝相いいのに」

 ぶらっとやって来た関城紗和子その人以下敬称略がふと疑念に染まった瞬間、うるかは顔いちめん真赤にした。

(さわちんはさわちんで無自覚にガンガン来るのが怖いよう)

 関城さんならぬ責譲さん……などという諧謔は文乃でもなければギャグにさえならぬであろう。「譲」の一般的な字義は
「列に切れ目を入れ、自分より前の位置に相手を招く」であるが、同時に「敢えて割り込ませ、挟撃する」という意もあり、
それがゆえ常用表外では「譲(せ)める」と読む。
 うるかは、挟撃の渦中に陥る。理珠が不意に発言したのだ。

「あの。武も……うるかさん。関城さんの方が正しいのでは」
「(ギャー! リズりんまで追撃してきたよー! やめてあたしのタンコブの原因これ以上さぐるのやめてーー!)
 胸中、画鋲2つ踏んだドーモ君のような形相で慄くうるかであったが、次の言葉にはちょっと目を丸くした。
「どうして文乃は気付けたのですか? なぜ何も聞かず氷という正解を導けたのですか?」
 理珠はただ、無表情を純粋な疑問に染めて問う。タンコブについて言っているらしい。
「なぜってそりゃ……文乃っちのカンサツリョクは鋭いし? あたしの微妙な動きとかから気付いたんでしょ多分」
 唯我以外にはまったく無頓着な人魚姫はあまり気にしないが、「いやいや待ちなさいよ」と紗和子が待ったをかける。
「え? なに? まさか古橋文乃は何も聞かず一発であなたのタンコブに気付いたってこと? 後頭部の、しかも髪に隠れ
ているコブに? 普段なら必ずやってる問いかけなしで……? パっと見、普通の頭痛にしか見えなかったのに、最初から
氷を? 血行不良に基づく頭痛ならむしろ悪化しかねないのに、頭痛薬じゃなく、氷……?」

 そーだけど。それがどうしたのと非常に戯画的な表情でのほほんとするうるかに紗和子は少し考える。

 最近のうるかと唯我が相手を見る度ひどく緊張していたのは知っている。「ぎくしゃく」ではない。緊張だ。そして今のうるか
は何だか肌がツヤツヤしている。紗和子はそれに気付いた瞬間、有名な騙し絵が壺から横顔になった時のような切り替わり
をもうるかに感じた。

(なんかやたら綺麗になってないこのコ)

 理珠一本の紗和子ですら「どきっ」とする色香があった。唯我との緊張のあと色っぽくなった少女……1つではないか、
答えなど。その解は寝相しとやかなる少女がベッドでタンコブを作るかという疑問すら紐とく。

(つつっ、つまり行為の最中で……!?)

 冷めているようで男女の機微に年相応の関心アリなのが紗和子だ。衝撃の推測にやや下卑た赤面──断っておくが
中傷ではない。げへげへと臆面も崩れること出来るのが彼女最大の魅力なのだ──でニヤケながらも困惑する白衣の
少女。もっとも根は怜悧だから(いやいや事故よね事故のはず、唯我成幸の性格的に暴力はないし)と考えるが──…

 問題は。
                                           いま
(古橋文乃。彼女が武元うるかのタンコブに気づいたのって……本当に今日なの?)

 ガチの観察力で気付いただけと紗和子は思いたいが

66 :
(まさか何かの拍子で現場目撃してたりしないでしょうね……? たたっ例えば初めての夜、どっちかの家に向かう途中の
どっちかを雑踏で目撃して、ただならぬ様子が気になって尾行したら……的な)

 紗和子は知らないが、幕末、そういう事例があった。片貝某という長州藩士が、仲間の幕府方への内通を顛末上記が如く
で知ってしまい、消されたという。

 果たして、文乃は、どうか。

67 :
 さて唯我。初夜かれは武元家に宿泊した恰好になるが、家族に対してはどう繕ったか?

「今週も金曜は小林の家に泊まるから。勉強で合宿すっから」

 男友達を使ったアリバイという、秀才が聞いて呆れるほど陳腐な事前策をこの男は敢行していた。

(1ヶ月前から毎週金曜は本当に小林ん家泊まるようにしてたから怪しまれない筈!)

 初夜当日に関しては小林少年に「頼む! 何も言わず今日もお前の家泊まってるってことにしてくれ!」と手を合わせ頭
をさげた。察しのいい親友はそれだけで「電話きたら今は寝てるって言っとけばいいんだね」と快諾してくれた。

 ところが水曜日──うるかのタンコブについて紗和子が不安を覚え始めた日の夜──、花枝は息子たる唯我にちょっと
ニヤついた表情で

「今週土曜ちょっとみんなで親戚の家泊まらなきゃならなくなったけど、あんた受験生だもんね、『留守番』……するわよね!
頑張るわよね! 頑張りたいわよね!」

 と聞いた。少年の顔からちょっと血の気が引いた。このあたりの生ぐさい機微も母子でなければちょっと分からない。

68 :
「そ、そりゃ、1人の方が捗るし」

 声音が堅くなった。まさかバレているのかでも母さん大らかだから無言の許可なのか、いやいや待てアリバイ工作は完璧
だった筈1ヶ月前から仕込んでいたんだぞ大森ならともかく小林がトチる筈がでも完璧なつもりな計画ほどつまらないミスで
露見するのが世の常な訳でエトセトラエトセトラとうろたえる少年は気付かない。

(なんか、怪しい)

 妹が、自分と母とのやり取りを襖の隙間から覗いているのを。水希ちゃん(以下敬称略)。唯我を愛すること甚だしい黒髪
ぱっつんの少女も何となくだがキナ臭い雰囲気を感じている。

 朝帰りの記憶じたいは消されている。先週土曜、初夜を終えて帰ってきた唯我にもちろん食って掛かりかけた水希であった
が葉月ちゃん和樹くん(以下両名とも敬称略)がパっと出てくるや。

「お兄ちゃんは朝帰りなんてしてない」

 尋問の険に彩られていた水希、みるみると凡矢理もとい惆(ぼんやり)した顔つきへ蕩け果てた。
 その後ろには、紐付きの五円玉をポケットに手際よく仕舞う和樹がいて、葉月と花江は無言でサムズアップしていた。

 どうも、朝帰りの記憶は消される慣例らしい。文乃との外泊の時も恐らく同じ処理が行われたのだろう。

 が、水希。

「今度の土曜、兄以外全員が外泊」「兄だけを、残す」といった母の提言に、脳の、記憶の欠落した黒いクレバスを刺激された
らしかった。「っ」。右側頭部を微かな苦悶の顔つきで抑える水希。尖った槍の砕片が貫通したような衝撃と頭痛に当惑する。

(私は……何か、大事なことを忘れている……!)

 謎めいた苦衷はずっとあった。

(先週の金曜、お兄ちゃんはいつ帰ってきたの……? 祭りの日は? 夜、突然飛び出していった日は…………?)

 不安は、記憶を消されてもずっとあった。何が不安かを考え、眠れない日々が続いていた。

(そのせいで最近……不眠症気味だよ…………)

 目の下のクマ。兄を取り巻く見目うるわしい少女たちにはないそれを兄に気味悪がられているのではないかと怯える。

「やっとく?」
「やっとこうか」

 背後で幼い弟妹が紐と五円玉の化合物を持ち出した。にじり寄る二豎(にじゅ)と忘却病。熟慮の水希は気付かない。

(しかもお兄ちゃん、先週金曜以来、ヘンだし。思いつめた表情すると、ランニングとか筋トレを、いきなり……)

 それは、うるかの女体を想像して悶々とした時の適応機制である。弟妹のせいで容易に自己処理できぬ彼にとって、あ
けっぴろげに出来るただ唯一の発散であった。
 この奇行は、唯我の母堂の確証を強める材料であったのは想像に難くない。初体験を疑わせたのは何か別な案件であ
ったかも知れないが、ランニングや筋トレは補綴足りえたろう。

 人生経験の浅い水希はそういった生臭い男の摂理までは理解できない。が、「おかしい」ことは仮令(たとえ)予備知識の
ない子供だったとしても分かるものだ。

(とにかく! お兄ちゃんを一人きりにさせちゃいけない!! 理由は分からないけどさせちゃいけない!)

 外泊の記憶こそ失っているが外泊の結果行われたであう行為への根源的な恐怖が決意を生む。

(決めた! 土曜日、私はゼッタイ家開けない! 親戚ゆき賛成のフリしてお迎えの車きたときバックれて! 家戻る!!)

69 :
                                        かた
 可愛らしい怒りの表情で眦(まなじり)に涙溜める水希の決意は、鞏固い。

「これはムリだよ」
「50円玉がないとムリだねー」



 そして決戦の土曜昼! 水希は!

「すぴー」

 縁側の板に寝そべり! 涎を垂らし! 眠っていた!

 ああ! 決意を固めていた筈の彼女が、いったい誰のせいでこんな目に!!

「え、母さん、この状態で水希連れてくのかよ、せめて起こした方が……」
「いいのよ。ここしばらく何か不安らしく寝れてなかったし、起こす方が可哀想よ」
 唯我の傍で花枝はあらあらまあまあと笑っていた。
「んもーてっきりゴネると思ってたのに寝ちゃうなんてドジなんだから! でも大人しく親戚の家いく方が成幸に好かれるの!
無理やり残ってお邪魔したら嫌われるわよ〜。お兄ちゃんは大事な用事があるんだから」
 娘に肩を貸す母のポケットから何か落ちた。青と白が半々のカプセルがたくさん規則正しくパッケージされたシートであり、
その一隅では拉げたブリスターから遥か下の地面が見えている。つまり一錠が……使われている! 
(あコレ睡眠薬だ、睡眠薬だよ絶対、母さん水希に一服盛りやがったな睡眠薬を!)
 視線に気付いた母は「バッ」と無言で座り込んだ。水希に肩を貸しているにも関わらず恐ろしく機敏で、獰猛ですらあるその
速度が唯我には怖かった。
 小声だったが、唯我は聞いた。確かに聞いた。「まずい疑われちゃう疑われちゃう」と早口で紡がれた母の言葉を。
(オイ)
 唖然とする息子の前でうずくまっていた母はしばらくゼーハーゼーハー息せききっていたが、立ち上がると、
「た・だ・の、お母さん用ビタミン剤よぉ」
 と、てへぺろ顔でサムズアップし楽しげに笑った。
(ウソだよなそれ絶対ウソだよな!? あんた俺の妹に何してくれてんだ! ああいやでも不眠症気味だったから処方とし
ちゃ正しいのかいや正しくねえよ!! 医者のちゃんとした処方なしの投薬とかダメだろ絶対!)
「う、うう。全身まっくろなラバースーツが私のみぞおちに鋭い貫手を…………」
(ほら水希ヘンなユメ見てるし! 母さんあんた何してくれてんの!?)
 依然として白目を剥きぐったり呻いている妹にまったく唯我は同情を禁じえないが、

(けどすまん水希)

 水希を押し込まれた親戚の車のドアがバタムと閉じた。それがブロロロと去っていくのを唯我は涙ながらに見送った。

(今日ばかりは、今日ばかりはお前が居ない方が……。すまない……)

 口に横手を当てた少年。不等号に細まった双眸からボロボロっと溢れるは水球。


 連行っ……! 唯我水希、連行っ……!


 ここに最大の障害が、消えた。

70 :
※ 『次』をすぐ求められる場合、「脈絡はないが」でページ内検索するとすぐ飛べる。


 うるかが唯我以外だれもいない唯我家に到着したのはこの日の午後5時。
 服装は文乃を見舞いに来た時のアレといえば早い。唯一ちがうのは髪型で、ポニーテールだった。

 着くなり玄関先で「んっはあ!」とか何とかベロチューの1つでもかまし、そのまま朝まで貪りあってくれれば述べる方とし
ても楽だったが、

「よいしょ」

 うるかは、靴のつま先を玄関めがけ揃えそして置いた。

71 :
「しばらく俺の部屋で勉強な」

 唯我は玄関の扉をかちゃりと施錠した程度に収まった

 事もあろうにそれから2名は午後10時を過ぎてなお普通に受験勉強をしていたから始末が悪い。
 節度というか縛りというか、ともかくこの数日前から「やることはやるが、英語の強化合宿を5時間ぐらいしてからでもないと」
といった約定(うごき)がどちらからともなく芽生え、かかる協契と相成った。

 設定された刻限は午後10時。

 むろん若い2人だ、机に参考書やらノートやら広げた当初はすぐ隣で自分にとって心地いい匂いを漂わせている相手に、
(これホントにガマンできるんだろうか)とドキドキ悶々としていたが、30分も経つとすっかりふだんの授業風景になった。

「ええーっ、アルファベット1文字だけじゃん抜けてるの。オマケしてよー」
「お前なあ、受験でそーいう物言い絶対通じんぞ。いま間違えた単語10回練習な。あとでテストして暗記できてるか確かめる」

 1時間14分目で小休止。20分の休憩と雑談を挟んで模擬テスト。
 2時間49分の時点で先の模試の採点完了。プラス4点は微増の範疇とはいえ、うるか、最高記録更新。唯我、褒める。

72 :
 二度目の休憩が終わったのが午後8時15分。順番は前後したが唯我もうるかもこの辺りで「もう少しで……」と行為を
ちょっと意識したが、あと僅かだからこそ妙な色気を勉強に持ち込むのが憚られ、むしろ一層集中した。時おり訪れる
一茶頃(いっさけい)のズズリという音はあたかも”ししおどし”の如く。

「つーん」
「悪かったって。中学からずっと名字で呼んでるせいで、つい」
「……やだ。2人きりの時ぐらい「うるか」って呼んでくんないと、やだ」
「すまん武もt……あ!!」
「だから! ああもう成幸も練習しようよ、あたしみたいに……」

 刻限たる10時までの活動は静謐なるがゆえに起伏はなかった。
 質問と返答、指示と練習が交差するいつもの勉強風景であり、傍目からはとても性行為を控えた若い男女には見えなかっ
た。
 いや、当人達ですら滑稽な話ではあるが失念しているようだった。
 失念する瞬間の方が多くなり始めていた。甘美への興奮を誤魔化すため眼前の勉強を徹底した結果、セックスという、
質量のない砂糖菓子よりも魅惑的なイベントが、最近ちょっと巷を沸かせている程度のゴシップネタ程度の頻度でしか脳
髄を過ぎらなくなった。

73 :
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 5時間。大作と呼称される映画ですらほぼ2本見れるほど長い時間。寝れば一瞬だが、爆ぜそうな生理現象を耐えるには
余りに長い。若く、旺盛な性欲もまた爆ぜそうな生理現象であろう。2人は、よく耐えた。勉強風景からすれば忍耐という言葉
はやや遠いが、質実を以って軽燥を押し込め抜ける高校生などそうはおらぬであろう。

 うるかの茶量はいつもより多い。間を持たせるためとか鎮静のためとか、色んな理由でコクコク飲んだ。
 
 これがのちに、どうしようもなく彼女を恥ずかしがらせる原因になるとも知らず……。

「あ、その菓子もらっていいか。葉月と和樹の好きな奴なんだ」
「いいよー。袋ごといっとく?」

 暗記カードの束から目を離さない少女に「すまん、感謝する」と手を立て頭を垂れる少年といった退屈な情景が続き──…

 ようやく刻限たる午後10時が、来た。
 その瞬間、2人は!

74 :
「えー。じゃあここの文法こうなるんじゃないのー?」
「だから違うって! お前のここへの騙されっぷりはなんなの!? そりゃ日本語じゃこーいう順番だけど、英語は違うの!!」

 まったく気付いていなかった。せっかく机の上の目覚まし時計さんが、待望していたはずの午後10時を差してくれていた
のに、ほんとう、全然、完膚なきまでに! 気付かなかった。

 目を縦棒いっぽんの無心にした表情で、かりかりとノートに書き留めるうるか。
 ぼやきながらも、彼女用に分かりやすい例題を考える仕草の唯我。
 時計の針がカチリと動き午後10時01分になったが、勉強に没頭する2人は気付かない。

 ぽたぽた。急須の口から鮮やかな翠の雫が垂れる。「湯淹れんの3度目だぞ。やかんのが良かったかなあ」、唯我がぼやきなが
ら台所に行った間もうるかは休まず練習を続ける。

 10時32分。「あ! なるほど!! これなら分かりやすい!」「ホントか? じゃあ応用問題出すからやってみろ」

 10時45分。「……。2問目より捻ったのに正解とか」「えへへ、分かってきてるっしょ?」

 10時57分。「じゃあさ成幸、あれもこれと根っこは同じだったりするん?」「よく気付いたなお前! そうなんだ実は……」

75 :
 …………。


 こいつら、いつヤるんだ。

 と、述べる方すらヤキモキするほど両名は勉強漬けであった。


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 まったく唯我という男はよほど教育者気質らしい。確実に成果を出しつつあるうるかが嬉しく、つい指導に熱がこもる。
 少女は少女で一生懸命かんがえた結果が上達に結びつく水泳のような構図が楽しくて、何より大好きな少年に褒められ
るのが嬉しくて、頑張ってしまう。
 その頑張りが指導の熱になる無限の循環はもちろん平素であれば好ましいものである。
 性の機運を、輝度の高いソーダ・アイス色のエネルギーを、対受験の高純度燃料に転化しうる節制じたいは見事である。

 が、エロを述べる方や述べられる方にしてみればこれほど馬鹿馬鹿しい構図もないだろう。

 しかしまだ抜粋であるだけマシと容赦していただきたい。唯我と武元うるかの情事であることを示すという名分のもと、
そのじつ同じ苦痛を味わえとばかり、金甌無欠でノーカットな5時間以上の『勉強風景』総てを述べるのも当然可能である
が、1秒でも1字でも早く「本番」へ行けるものが是とされる情報化社会の成人指定に則り、最低限の抜粋に留めた。(その
ため勉強の用語的なものは意図的に省いた)。

76 :
 11時22分。運命の転機が。訪れた。

「ほんとだ予備校のテキストに解説あった」

 先に気付いたのはうるかである。何気なく時計を見た瞬間、勉強のキャッチボールは終わり──…

(もうほぼほぼ11時半なんですけど!? 予定から1時間半、過ぎちゃってるんですけど!!?)

 温和で優しい少女だから、勉強に夢中で、唯我に「そういうこと」をさせてあげれていなかった事実にまず申し訳なくなった。

(ううう。家族の人だれもいない夜に1人でお泊りしにくるって「そういうこと」なのに……! と、途中まではちゃんと覚えてたっ
ていうか、覚えてるからこそ勉強に集中したのに気付いたら90分ぐらい過ぎてるとか本末転倒もいいとこだよーー!!)

 艶っぽいお姉さんキャラなら、「あらもうこんな時間。ここからは夜のお勉強ね」とでも上手く誤魔化して突入できるが、うる
かの経験値は乏しい。わずか1週間ほどまえ初夜を迎えたばかりなのだ。とてもフェロモンむんむんで誘惑などできない。

 が、じーっとしててもどうにもならないとは中学以来さんざ味わいつくした実感でもある。

(落ち着かなきゃ。とと、とりあえずお茶飲んで、落ち着いて、そっからゆっくり考えないと)

 すっかりぬるめの緑茶をズングリした白い湯のみからコクコク飲むうるか。好材料はある。初夜。かすかだが度胸付けに
なっている。

(そうよ武元うるかあたしだっていつまでも昔のあたしじゃないの! こーいうときはウジウジしてないでバっと伝えるのが一番!
ふ、ふしだらな女の子って思われるのかもで恥ずかしいけど、な、成幸だってえっちなこと好きだし? 予定だって過ぎてるん
だし? あたしから誘っても問題ない! 筈!)

 意を決したうるか、ついに喋る。

「なりy「でだな、ここはこういう覚え方をするとだな」

 熱の入った唯我の解説に流された。流されながらも教え子の悲しい性で、ついつい反射的にノートをとってしまう。ノートを
とる作業が、告解という莫大なエネルギーに割くべきリソースを喰ってしまう。眼鏡少年のレクチャー、続く。

(ううう。言い出し辛いよぅ。成幸の解説、ギア入っててめっちゃ分かりやすいから、遮るの勿体なくて、言えないよぅ)

 双眸を不等号にして、ミニマムな雪だるま型の涙を溜める褐色少女。明らかな変調だが、解説に没頭する唯我は気付かない。
この男のよくない点である。文乃のポニテくるくるから何1つ察せなかった時の、唾棄すべき、とても腹立たしいアレが出た。

 11時47分。

「すまん武元。茶葉がなかったんでほとんど湯だが良いか」

 と急須抱えつつ台所から戻ってきた唯我、時計に気付く!

(……!! ……!!)

 彼の滑稽さたるやなかった。危うく落としかけた急須を辛うじてキャッチすると、眼鏡の奥の瞳をくわっと見開き、口を数度
パクパクさせた。動揺は着座しても続いた。

(やべえ。すっげえやらかしちまってるぞ俺! 2時間近く、その、武元と、する……ことを忘れちまってたとかどうなんだ!? 
いや受験生としちゃ寧ろこっちこそ正しいんだけどね、しかし男としてはどうなんだ!?)

77 :
 客観的に言えば、唯我はさっさと刻限が過ぎている旨だけ告げればいい。もしこれが

”唯我が下心を隠し、勉強すると偽って、うるかを招いた”

 であるなら、勉強からの急転直下で襲うのは到底歓迎できない行為だが

(武元からの了解は、既に……)


──「べ、勉強も頑張るから、終わったら、ご褒美を……」


 といった約定は先日確かに引き出している。(あん時の武元、可愛かったなあ)と唯我がホワホワするほどのうるかだった。
その時の彼女は俯き、前髪に両目を隠したまま、唯我の袖を「ちょいっ」と摘んで、気恥ずかしそうにおねだりしていたのだ。

(だ、だから時間過ぎてるってちゃんと告げさえすればガーっと行ったっていいわけで)

 ガマンしていたぶん、思い出すと、ひどい。おねだりうるかを思い出したのも惹起となった。
 いまや唯我最重要の橋頭堡には戦力が結集しつつある。7時間、である。下世話な言い方をすれば、精力が全盛で、発
散すべき機会に驚くほど恵まれぬ男子高校生が、つい先日モノにした魅力的な少女と、7時間2人きりで、『何も』なのだ。
 彼らは。
 受験生として、やるべき勉強を、やった。予定より2時間も長く……。
 そしてもう深夜であり、疲労はピークだ。人間の頭脳的な構造からいってここからの継戦ほど能率の見込めぬ作業もない。
 で、あるなら。

((べ、別に、いいよねっ!?))

 と唯我とうるかはほぼ同時に両名から視線逸らしつつ、蒸気漂う情けなき泣き笑いをした。

 が、唯我の口をつくのは英語の解説ばかりである。うるかもまた、質問しかできない。

(だって……)
(切り換えのタイミングがわからん……! ど、どーやってるんだ他のヤツは! いつも通りな雰囲気から、ああいうことへの
切り換えってどうすりゃいいんだ!?)

 間が持たないのか、そわそわした様子でお茶を喉へ流し込むうるか。両目をグルグルさせテンパる唯我。

(いやほんと、切り換えってどうやりゃいいの!? エロいこと書いてるサイトにゃなかったぞそんな知識!!)

 刻限を設定していた理由の1つは正にそこだった。女性の経験に乏しい唯我だから『刻限』に頼ろうとしていたのだが、
……忘れていた。

(あああ、ヤバい、武元が、俺との、ああいうことずっと待っててくれてるんだったら、いつまでも勉強してんのは何つーか、
失礼だろ! 約束すっぽかしてる形なんだから、怒ってるかもで、だから謝って、武元がどうしたいか聞かないと……!)

 とここまでは理性的な判断だったが、”そうではない”部分に気付いた成幸、首から油の切れたブリキ人形のような音立て
つつ下を見た。

 どことは言わないが視線をやった部分はもうギンッギンである。

(聞き辛いよぅ。こんな状態で武元お前はどうしたいって聞くの、俺がシたいだけって思われそうで怖いよぅ)

 情けない戯画的な表情で涙ぐむ。シたいのは事実だが、そんな状態全開で相手の意思を問うのは軽蔑されそうで、怖い
のだ。

78 :
(てかギンギンな状態で英語の方は解説してるこの状況なんなの! 武元に見られたらヒカれますよね絶対!)

「先生」と呼ばれる存在は性的で陰湿な部分をひた隠すべきなのだ。露悪すれば以降けっして上流に置かれることはない……
といった教育の基本的な部分は何となく分かっている唯我だから、生理反応と教育勅語の乖離に苦しみ出す。

 幸いうるかは気付かない。気付かぬまま、出涸らしもいい所の一杯を服(の)み干し、何度目かの質問をした。

「で! あの、ここっ、ここの単語はどういうイミかなーなんて」
「はいっ!? あ、そ、それ!? それはだな」

 辞書の、小さな項目だったのがマズかった。覗き込もうとした唯我の二の腕に、うるかの肘がこつんと当たった。

「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」」

 真赤になった2人はめいめいとは逆の方へ飛びのいた。色々緊張しているところでの肉体的接触は、気まずい。あと中途
半端でもあった。普通こういう場合は「ギンギン」の方こそ当たるべきではないか。衝突から少女の奉仕へとなし崩しに行く
べきであるのに、やんぬるかな、唯我はうるかの肘に二の腕を当てるという気の利かなさだ。

「ちちっ、違うからな武元!! 催促とかじゃなくて! 本当に偶然、当たっただけで!!」
「わわわ分かってるから成幸! 分かってるからーーー!」

 額から蒸気吹く2人はもうパペット人形状態だ。差し向かって手をアワアワあわあわ振り合って初々しく大慌て。メトロン星
人じみた両手を意味もなく上下する様はモンキーダンスにも似ていた。求愛でも威嚇でも滑稽すぎる踊りだった。

「あ……」
 少女の視線は少年の、テント状態な股間に吸い付いた。
「! み、見ちゃだめーー!」
 などという唯我は真赤だ。スカートでも抑えるような手つきでズボンを抑え(あああ、俺、俺、見られてるーー!)両目を不
等号にして涙ぐんだ。

(乙女か。……でも可愛い)

 うるかが呆れるほどのグダグダぶりであるが──…

 膠着とはそれが長引けば長引くほどつまらぬきっかけで崩れるものだ。というより、膠着を倦む者ほど『つまらぬきっかけ』
を力尽くで状況打開に結びつける。僅かな潮目の変化に、降り積もった鬱憤をここぞとばかり叩きつけ……事態を動かす。

(駄目ようるか、ここはいい子で流しちゃ駄目ーー!!)

 変転に手をかけたのは以外にも武元うるか。

(ここで普通に流したらまたヘンな雰囲気に逆戻りじゃん!! ここ、ここはあたしから仕掛けるべき! でもどうやって!?
あたしオトナなユーワクの仕方知らないよ!!?)

 が、天啓ッ! 脳裏を過ぎったのは意外にも『小美浪先輩』ッ!

(そうだ! 時々あすみ先輩、成幸からかってるじゃん! あれが多分ユーワク! えっと、先輩ならこーいうとき、多分!)


『催促って、いったい何の催促なんだ後輩』


 とでもニヤニヤからかうであろう。

(それよーーーーーーー!!! それだったら成幸の本心が引き出せるし、あたしもオーケーだよって伝えられる!!!)

 心の中の人魚姫はグっと拳を固める。両目は当然、不等号。

(しかもあたしはああいう感じのこと実はやってるじゃん!)

79 :
 例のスマホの一件のお風呂中、電話を取ったであろううるかが如何なる反応をしたか想像に難くない。

 遊んでそうな女友達の顔で、『あしゅみぃ先輩』の蠱惑的な言動はできる、できるのだ!

(とりあえず練習。『あれー? 催促ってなんの催促なん?』、『あれー? 催促ってなんの催促なん?』。よーし! 言うぞ!!!)

 腕まくりして意気込んだうるか、言う。

「さ、催促って……どーゆーことの…………催促……なん……?」

 くっと俯いたまま、たどたどしく、呟く、自分を、認識した心の中のうるかは、ふっと笑った。すべてを海容する優しい笑いを
浮かべて、

(バカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!)

 盛大に突っ込んだ、自分に。

(ああああ駄目ださっきの成幸のテントが、テントが、目に焼き付いて、目に焼き付いて……!

 ちょっと冷静でいられない。褐色の頬から蒸気がもうもうと立ち込めた。

(って! なに今さら恥ずかしがってんの!! えっちなら既にしたでしょ先週したでしょ! なのになんでいかにも遊んでる
女友達のカオができないの! いっ、いつもならすっと出てくるでしょ何でサボってんのあたしの顔!! うわーーーん!!
失敗だーー!!!)

 涙が出てくる。自分が情けなかった。刻限を忘れ、誘惑1つ満足にできない自分が悲しく、ちょっとむくれた。

(もー! こんなの全然進歩してないじゃん。ようやく成幸と結ばれたってのにちっとも成長してないじゃん)

 が、人の心を動かす最低条件は「うまくやること」ではない。「ひたむきであるか、否か」である。
 ひたむきな様子で涙を溜める褐色少女の横顔が唯我をついに、動かした。

(武元が泣いている……。すまん。俺が煮え切らないから。いつまで経っても俺がどうするか伝えないから……)

 旗幟(きし)不鮮明な自分が責められているというのは唯我の誤解だが、事態を正答に導く思わぬきっかけにもなった。

(武元は言った。確かに言った。『どういうことの催促』と。俺の意思を知りたいんだ。だったらまずはそれを伝えるべきだろ。
そっからは武元の判断に任しゃいい。勉強が長引いたせいで心身ともにその気じゃなくなってたとしても……任せる)

 問題は何を催促しているかの、伝え方。

(予定のこと……だと、無理強いしてるみたいでアレだ。「ヤる」とか「シたい」とかはねえし。セック……は論外な論外すぎる)

 唯我にだってムードを求める心はあるのだ。初夜は、綺麗だった。紫冥の空に、きらめく星々が斡(めぐ)る時刻に
黄金の月光だけを頼りに愛する少女の肢体を見た記憶は今だって背中に慄えがくる。大いなる星空は素晴らしいのだ。
 今日はいかにも貧乏な己の家だが、だからこそ、初夜の如きロマンを何か1つ、うるかへ与えねばならんのだ。名前呼び
はそこから。少女が心から歓(よろこ)べるシチュでやってこそ、唯我の美質たる誠実さは納得できる。

(そのためにも武元が出題した『何の催促』って問題、間違う訳にゃいかねえよ。どうすりゃいい? どうすりゃ初夜なみの
ロマンをあいつに……あ)

 初夜、という言葉に閃いた。唯我は腐っても秀才である。難問から正解をもぎ取る粘り強さはあるし、文乃と理珠の不得意
分野を彼女らが分かりやすく咀嚼できる思考力だってある。それが、うるかとの、男女的な機微に、向いた。

「どーいうことって、そりゃ、な」

 怖がらせないよう、なるべくゆっくり寄る。膝立ち歩きで。この状態でギンギンなら最悪だが、先の思考で頭に血が行った
せいか収まっている。だからうるかは微かにびくっとするだけで済んだ。近づいてくる唯我を不安半分期待半分の濡れた
眼差しで見ながら再び同じ問いを投げかける。

80 :
「……成幸。さっき、どーゆうことを誘ったの…………?」
「こーいうこと」

 唯我の手が、動いた。きっと胸とか大事なトコとか触られるんだとドキドキしていたうるかだったが、思わぬ部位への感触
に目を見張る。
 彼の手があったのは……

 うるかの、頬。

 しかも涙を、拭っている。

(あ…………)

 ニュアンスを理解したうるかは「かああぁっ」と紅くなり、それから静かに含羞(はに)かんだ。

(あたしが、したことだ……。初めての、一番最初のえっちの時……やっと1つになれた時……あたしが、したことだ……)

 繋がるまでの様々が募って泣いたうるかにもらい泣きした唯我を、彼女は今のような仕草で慰めた。「あたしのせいだし、
泣いていいよ」とか「大好き」とか、さまざまな気持ちを込めて、少年の涙を、拭った。

 秘め事に乗り気なうるかは、だから察した。

 唯我の言う、『こーいうこと』が、『1つになること』だと。
 うるかの肘に二の腕が当たったハプニングは、こーいうことの催促ではなかった……と。
 誘うなら、これ位のちゃんとした「想い」を込めて触れるのだと。

 ある意味では、暗喩であろう。結ばれた時の仕草を再現するなど、暗喩でしかないし、事実唯我自身”そういった行為”を
言外に匂わせている。だからこれは極論すればRにおける唇のすぼまりを擬するに等しい。
 が、洒落てもいる。胸を触る訳でもなく秘部を弄(まさぐ)る訳でもなく、そっと涙を拭うだけといった挙措は、乙女なうるか
に……効いた。優しいし、何より。

(あたしが……初めてだったときを…………覚えてて……くれたんだ)

 とさえ思い、頬を染めた。良くも悪くも暗喩を考えられない少女なのだ。何より自分の何気ない挙措を『覚えて』くれる唯我の
部分が大好きだから──女性は記念日などを覚えてもらいたがる──、初夜の再現による誘い方にはロマンしか感じられ
ない。

(……なりゆき)


 赤い実が、はじけた。

 

 頬に手を当てる。

 キスや愛撫といった男性本意なアプローチに比べれば遥かにマシというかちゃんとしたムードがある。むしろ万が一うる
かが”今日はもうそんな気分じゃなくなって”いた場合ですら修正が効く妙手である。涙を拭き、謝りながら慰めるというフォ
ローに繋げられる以上、童貞を捨ててまだ1週間な朴念仁ぎみな少年の打つ手としてはまずまずの合格点であろう。

81 :
 だが。うるかの頬に絶賛接触中の唯我は。


(クッソ恥ずかしいなコレ!!?)

 心の中で両目をグルグルさせていた。

(涙を拭うとかもっと顔が良くてスポーツ得意で家が貧乏じゃない奴がすべきことなんじゃないのか!? 何やってんの俺
何キザったらしいマネしてんの!? 恥ずかしいいいい!! す……っげえ恥ずかしいいいいい!! ああああ、これ武
元が誰かにバラしたら俺そいつと一生話せない!!そんぐらい恥ずかしい、恥ずかしいよぉおおお!!)

82 :
 今すぐ布団にくるまってのたうちまわりたい、そんな顔だった。

(だって頬に手ぇ当てるとか、ハリウッド俳優とかがやって初めて成立するあれで……! あああ、やっぱ普通にキスとか
にしときゃ良かった!!! キキっ、キスもそりゃ俺なんかにゃ似合わないけど!? キザったらしさだけはない訳で……!)

「なりゆき……」

 うるかが口を開いた。両目はもう堰を切ったようなありさまだ。カツカツとした水分が親指の腹を湿らせた瞬間、唯我
少年の心は心筋の攻撃的な収縮にズキっと痛んだ。

83 :
「なりゆき。なりゆきぃ」

 唯我の手を取る人魚姫は童女のようなしゃくり上げですっかり上気している。顔が涙でぐしゃぐしゃで、開いた口も中で唾
液がどろどろと糸を引いているのが見えた。両手で頬から口の前へと導いた少年の繊手へと今にもむしゃぶりつきそうな
濃厚な恋情がたっぷりと漂っており、

(キスするより……エロい…………)

 やっと唯我の、火がついた。

 唇を塞ぎ、横たえて──…

84 :
 脈絡はないが二度目の交合は唯我家において行われた。

 場所は少年の起居する部屋。時は夜。斯様な仕儀に及ぶ以上むろん母と妹たちは外泊中で、不在。
 初夜と違い、蛍光灯がつけっ放しなのは庶民的な性の生臭さに満ちている。机の上にはノートや参考書、筆記用具が残さ
れたまま。
                                                                      ・ ・
 半ズボン。SWIMと染め抜かれた黒いシャツ、チェック柄のパーカー、ブラジャー。それらが乱雑に放り捨てられた『掛け布団』
さえも押入れから興奮の赴くまま叩きつけられたという歪みっぷりだ。
 その掛け布団上でM字開脚のうるかが激しく突かれている。足首には純白のショーツが巻きついたままだった。脱衣すらそこそこに2人
が突入した行為は、褐色の細い両腕を掴んだ正常位によって最初のラウンドを終える。

「あっあっあっ、あーーーーっ」

 注ぎ込まれる灼熱に法悦を浮かべぐったりするうるか。深夜0時半を回っているが、夜はまだ始まったばかりである。

85 :
 数分後。

「きょ、今日は、このカッコ、で……」

 四つん這いになった少女が秘部も露にお尻を突き出した瞬間、唯我は眼鏡に亀裂が入るほど仰天した。

(や、やべっ、いまお尻の穴見えたチラっとだが見えた。綺麗なピンクってすまん武元そこまで見るつもりは……!!)

 初夜は上にしろ下にしろうるかを背後から見る余裕はなかった。故に初めて目撃する少女のアナルに唯我は硬直した。

(それ抜きにしてこのカッコ、すっげえエロい)

 小柄の体型の割には大きめなプリっとした尻たぶはそれだけでも魅惑的なのに、あろうことか日焼け痕に彩られている
のだ。渓谷の終焉にある土手は先ほどの交合の余波でひくついており、白い密すらとろとろと垂らしている。それだけなら
ポルノだが、お尻の向こうで口を波線にしたうるかが気恥ずかしそうに瞳を潤ませているのが何とも純愛の構図めいていて
少年の心を刺激する。

(両手を、包丁とか使うときの『猫の手』にしてんのがポイント高いなあ)

 何気ない仕草だが、そういう部分にこそ男は愛らしさを感じるのだ。唯我は背景に花が飛ぶほどホワホワした。

「可愛いよ、武元」
「また名字……?」
 甘えを込めて軽くムスっとしてみせるうるかに、
「な、なんつーかその、咄嗟に名字しか出てこないぐらい、だな」
 唯我はしどろもどろである。女体に狎(な)れた男ならスっと出せるおべんちゃらが、ウブな心には恥ずかしすぎるらしく、
それでも本当に心から、反射的に、呼びなれた方を使ってしまうほどだったと伝えたくて、彼は、紅くなりながらそっと囁き、

「可愛いよ。スゲェ可愛い」

 頭を撫でる。少女の小さな鼓動はそれだけで25mプールを無呼吸で三往復半したぐらいドキドキする。訥々としたいかに
も草食な賛辞だからこそ本当だと分かってしまう。
「い、いや、今えっちなポーズしてるし? 可愛くなんか……」と抗弁しかけた少女だが、髪を均すひんやりとした掌の往復が
重なるにつれ「あ……」と戸惑いがちに目を細める。ふだん陽快な大きな瞳は切なげな嬉しさと、募ってくる激しい情動です
っかり大人びた陶然の色。

(……やだ)

 後ろを向いたまま顔色を変えて首を前後するのは、秘部から甘やかな汁(つゆ)が溢れてきたからだ。

「み、見ないで挿れて……。恥ずかしい、から……」

 頭を撫でられただけで濡れてしまう自分の機能を死ぬほど恥ずかしがるうるかがいじらしくて、唯我はちょっといじめたくなっ
たが、(序盤ぐらいは優しく……)と律儀にも視線を”そこ”から外す。様子を見たうるかの瞳の中で恋慕の色が深まった。

「手探りになっちまうぶん、ちょっと時間かかるかもだけど……いいか?」
「うん。いい。成幸の先っぽで入り口くちゃくちゃされるの好k……じゃなくて! えと、そんな、そんな嫌じゃないし? 大丈夫、
だから……」
 素直になれない勝気ぶりがまた男心をくすぐる。わざと焦らして昂ぶらせる基本の手管ぐらい唯我も知っているが、若さは
迂遠を嫌うのだ。可愛いうるかと初めてのバックを早くしたいという興奮の赴くまま少年は淫裂に吸い付いた亀頭に体重を
預けるようにして膝立ちで進む。ヌルっ、というぬめりは愛液と精液の潤滑ゆえだろう。(あ、来る、後ろから、来ちゃう……)
既に一度の挿入で熱くほぐれた秘所はあっさりとペニスを受け入れた。

「はっ、はぅうううん」

 背筋をピンと張りピクピクと悶えるうるか。

(征服してる感が……凄い…………。そんで武元の背中の日焼け跡、×印なのがエロい……)

86 :
 相対的な雪肌(せっき)である、そこは。うるかの焦(や)けてない肌は小麦色であり、絶対的なマシュマロ地とは言いがた
いが、焼きチョコのような外郭とのコントラストで相対的に、白く見える。
 そこに興奮した唯我だから指でなぞる。「んっ」。今もって首を後ろに向けている人魚姫が艶かしい声を上げる。清純に目
を閉じる感応。桜色の唇のプルっとしたテカリに少年は「硬くなる」。中で察知した少女は「……えっち」と悪戯っぽく笑う。
「動くぞ」
「…………うん」
 律動が、始まった。最初のうち少年は不慣れな体位ゆえ、少し慎重に動いた。腰をどれだけ引くと肉棒が抜けるのかと
いう見極めに神経を集中する。(この前みたく抜けるのは嫌なんだよ)と確認しつつ行っていた腰のグラインドが、少しずつ
早まる。可愛らしい舌ッ足らずな声があがった。初夜さんざん荒らしまわった秘所はすっかりこなれており、狭いながらも
唯我の猛りを滑らかに受け入れる。
 20回は突いただろうか。そろそろ少女に違う刺激を与えたくなった唯我は突き入れの角度を変える。初夜、正常位でも
見せた創意工夫はバックになっても健在という訳である。
(ここまでの、で、当たっていなそうな場所は……)
 少ない人体構造の知識から自分なりに考えて角度を変える。
 最初の三度はうるかの反応はさほど変わらなかった。
 が、四度目。
「…………っ?」
 ピクっと少女の顔が波打った。何か違う刺激を感じたが、まだよく分かっていないという様子である。
(一応……試してみるか)
 バックだからこそ届く、青く未成熟な処女地を肉ゴテでゴツゴツ叩く。「??」と不思議そうにしていたうるかはしかし見る間
に反応を変えていく。「っっ?!」と戸惑った瞬間、パルスは淫靡な方へ舵を切り、「そこ……なんか、ヘン……」と切羽詰った
声を迷いつつも遂に上げた。
 膣内も熱く潤み始めた。涎を垂らした襞ヒレがグネグネと肉棒に纏わりつくいやらしい感触に興奮した少年はちょっと激
しめに突き入れる。ぴしゃりという乾いた音は彼の大腿部が斑(ぶち)の尻たぶにぶつかったせいである。
「あんっ」
 清(す)んだ声が跳ね上がる。やや媚びた諧調は(あたしっぽくなくて……恥ずかしいけど)唯我の愛撫が確かなものであ
ると示す一番の手段である。羞恥で戸惑う声を、優しい唯我は苦鳴と捉えがちで、逐一大丈夫なのかと問うてくる。
(それは大切にされてるって感じがして……嬉しいけど…………でも成幸にはもっと……)
 遠慮なく、テンポよく動いて欲しいのだ。
(あたしの体を……味わって…………欲しい……)
 バックでそう思うのは犯される尽くすことへの覚悟である。「……」。汗で上気し前髪が張り付き気味な顔でじっと唯我を
見る。子犬のような無垢な瞳に、被虐的な欲情と、快美への喘ぎを織り交ぜて無言で見る。

(んなカオされたら、俺……)                       のぼ
 面頬に数学界の緋色のスラッシュを何本も刻み込まれた少年は上気せの仰せのままに「はあぁ」っと息を吐き、うるかの
脇腹を掴んだ。引き締まっているが少女らしくプニプニとした感触を唯我の両手が味わうとき、それはスパート。少年の腰使
いがやや乱暴になる。パンパンガクガクと発情期の雄犬のような速度で腰を叩きつける。唯我の全身に汗が滲み始めた。
 体位が変われば抉られる場所も変わる。さんざほぐされた初夜においてさえ未開の肉襞、青く、こなれていない粘膜に荒々
しい肉ゴテが衝突した。
「あっv」
 思わず出てしまった舌ッ足らずな可愛い声をうるかは恥じた。ちょっと媚びた声なら良いが、語尾にハートマークのついて
るような「いかにも」な嬌声は流石に恥ずかしい。
 だのに。
「ここ、感じるのか?」
「えっ? あっ!? あんv いやっ、ああん、あんっv」
 先ほど反応した部分を唯我が責め始めた。背後からの揺さぶりに戸惑って目が白黒なうるかは悶え鳴いて制止を乞うが、
本能に火がついた唯我は止まれない。
「ダメだ。俺だってガマンしたんだ。7時間も……!」
「はぅんっ、あっv、声、だm……あ!」
 うるかは未開の媚肉を肉槍で打突されるたび「びくっ」と露骨に背中を逸らし顔を上げる。
 そんな少女の初々しさが唯我は可愛くて仕方ない。

87 :
 ただの甘ったるい嬌声なら過剰な演技かと萎えもするが、跳ね上がる高い声をつくづくと羞じ、ギュっと目を閉じ抑えよう
とする人魚姫には真実がある。慎みの有る無しどちらかを好むかは男によるが、少なくても秀才で鳴らしている唯我は理
性ある真実を好むのだ。律動で揺れるポニーテールなどいかにも素朴で彼ごのみだ。しかも従順の証でもある、唯我に
可愛いと言われてから勝負どころでは必ず、長くもない髪を纏めてくるのだ。
(ふだんのテンションとの差が、ヤバい…………)
 勝気で明るいうるかが性行為においては人変わりにしたような清楚を見せるのは初夜すでに知っていた唯我だが、喘ぎ声
ひとつにさえ恥らう少女が「後ろから」攻め立てている結果だと再認識すると、初めての時とはまた別種の興奮が漲ってくる。
 何しろ彼女は生理すらまだなのだ。生物学的見地から言うと、童女を攻めているに等しい。背徳は少年を燃やす。
「いやああ、速っ、声、どんどん変にっv、あっ、だめえ」
 自分の速度でますます激しく前後し始めた背中を唯我は見下ろす。引き締まっているが華奢な体つきだ。小さな肩が艶か
しくくねりながら律動に耐えているのを見た瞬間、そこから飛ぶ澄んだ飛沫が唇に付いた瞬間、唯我の射精の気分が高まった。
「すまん、さっき出しといて情けないが、もう……ッ」
「いい、いいの、ふぁぅん、げんかい、だもんね、ずっとべんきょで、がまんしてたから、いい、なりゆき、きて……!」
 色々あって予定より2時間多く「お預け」された事情と初めてのバックの興奮に唯我は自分でも驚く早く達す。短い呻き
と共に突っ張った中腰の奥底で熱い衝動が弾け飛んだ。
「あっ! あああああああああん!」
 どくどくと注ぎ込まれる愛情に仰け反った少女であったがすぐさま唯我めがけ首を捻じ曲げ、「すごい、このカッコだと、せ
なか……せなかの内側に、熱いのが、唯我の熱いのが……かかって……」と嵐(もや)かかった瞳で息せき切なげに笑う。
(背中の内側ってのは大袈裟……)
 唯我の放出で蘇る冷静さはそんなことを一瞬考えさせたが、快美にとろけきった少女の顔が全てを打ち消す。ドキっとしな
がらも獣欲を微かに滲ませた緊張の面持ちで生唾を飲んだ唯我は──…

 2つの華奢な肩甲骨が描くハの字。脊椎の窪みはハの字を両断するよう走っている。しなやかな肉の畝だった。再動した
バックの刺激に首を上げていたうるかが唯我に表情を見せるべく振り返ると、上記の背すじ周りに褐色の皺が寄る。
(筋肉の連動がエロいです武元さん)
『肉』を感じさせる質朴な現象に少年はドキドキする。しかもうるかは初めてのバックにも関わらず表情を見せてきている。
責め苦のなか後ろを向き続けるという不自然な体制を、水泳で鍛えた筋肉を突っ支(か)えにして──…

 長い睫をしっとりと濡らしたまま唯我を見つめている。

 いつも真直ぐな光を湛えている紫水晶も今ばかりは病中のように妖(なまめ)かしい。半開きの愛らしい口から喘ぎを
漏らしながらもただじっと「何をされても……大好き、だから」と言わんばかりに少年を見ているうるかに、
(可愛い……)
 刺激の強さでやや虚脱しつつある少女に、ときめいた唯我。指を、桃色の沼にも似たうるかの口に滑り込ませる。声を抑
えさせるための救済措置でもあったらしい。「噛め」といった顔を少年は一瞬した。
「んぷっ!?」
 人魚姫は不意に進入してきた指に一瞬戸惑ったが思惑を理解するや優しさへの嬉しさで陶然と目を細め、
「んっ、んっ」
 お礼とばかり健気に、ご奉仕し、
「ん……」
 指が口の中をかき回せば切なげな上目遣いで身を委ねる。
「んむぅぅっ! んーっ!! あんっv」
 脱力の隙をついて深く突き込まれたうるかは指を甘噛みして声を忍ぼうとするが、甘噛みゆえにすぐ指は口を外れ、律動
の中しゅぽんと出ていく。声も溢れる。唯我は再び指を、口に。「んむぅ」、やや強引な手つきだったがそこにワイルドさを
感じたらしく人魚姫は喜悦を浮かべる。
 また突かれた。いやらしい声が白い歯の隙間を抜けた。
 指さえ強く噛めばもっと小さくもできようが、(だめ、力入れて噛んだら、成幸がシャーペン、シャーペン持てなくなって、勉
強できなくなるかも知れないから、強く噛むの、だめ……)と必死に力を抑えている。なのに声を出すのも恥ずかしくて、瞳
に葛藤のクリオネが泳ぐ。
 金時計を売ったのに断髪で鎖を買ってくるような健気さだ。それが唯我の猛りを強くする。片手はうるかの口だから、グラ
インドは腰のバネに依存する。

88 :
 露骨に局部を突き出すやり方には秀才らしい羞恥と葛藤も一瞬うかんだが、結局は誘惑が勝った。乾いた音を立て少女
を揺する。控えめな乳房をぷるんぷるんと前後に揺らす。そろそろ全身を霑(うるお)し始めている雫がきらきらと散った。
「んんーっv んっ、んっ、んううう!」
 ちゅぱちゅぱと指に吸い付き喘ぎを耐えるうるか。だがくぐもった声はむしろ感悦の韻を際立たせている。興奮する唯我。
肉筒が熱く滑る媚肉を”ぐにん”と滑る。「……んっ!」 叩き込まれた衝撃を噛み締めるよう目を閉じて味わううるか。
「あっ! ふああぅ!?」
 ペニスが抜け落ちないようマージンを取って動いていた唯我がいよいよ本能的なガムシャラに突入。はあはあと息せく
少年は最高速のグラインドで少女を突き、衝き、撞く。成す術なく揺すられる四つん這いの少女は吊るした水風船のように
重力に引かれやや楕円形になっている乳房をぷるぷると揺らす。小ぶりだが形のいいそれが揉みこまれた。「きゃううっ」、
悲鳴とも喜悦ともつかぬ声が上がったのは木苺が抓られたからだ。いつしか覆いかぶさっている唯我は、淡い突起を二つ
とも同時に摘みあげている。
「いいっ、おっぱい、気持ちいい、さわりかた、優しくて、いいっ……v」
 切羽詰っているが余りある幸福にも彩られている薄目でうるかは鳴く。乳首はあっという間に尖った。それまでも秘部から
の刺激でぷっくりと充血していたが、比ではない。唯我の手が触れただけで速乾性の瞬間強力接着剤をザバリと振りかけら
れたように硬くしこった。(反応えっろ)。たかが接触ひとつで可愛らしく張り詰めた淡い授乳器官に唯我がドキドキするその
下で、うるかは耳まで真赤にした。自分でも予想外な唯我への敏感さを愧(は)じているらしい。
「だって、成幸の、成幸のひんやりした手が、火照ってる……ちく……ちく……びに、気持ちよくて、あそこからの刺激で、
もやもやした熱の溜まってる……ち、くびに…………成幸の手が、ちょうど良くて、だから……だから……」
 自分は触られただけで乳首が勃起する淫乱ではないのだと訥々たる調子で訴える少女だが、しかしはて、「誰でもいい」
ではなく「あなたじゃないと感じれない」と言われ興奮しない男が居るだろうか。
「武元」
「あっv、んっ、ふぁへ、こへ、だふぇ」
 だめ、声、ダメと唯我の指にうるかが慌てて吸い付いたのは、乳首をちょっと強めの力で押しつぶされたからだ。球技
大会ノーブラ事件に端を発する自社開発で敏感になっている胸だから、少女の感応、とみに鋭い。脳を灼く過大なパルス
に悶えて大変なのに、「い、今のできゅっと締まったぞ」とか唯我が耳打ちしてくるからたまらない。
「///」
 うるかはぽっと赤面した。紅くなりながらも満更でもなさそうに浮かべる含羞(はにか)み笑いは心から体を許している男
にだけ見せるいわば究極の媚態である。見蕩れた瞬間、前回の射精直後から7分56秒ずっと耐えて突いていた少年はた
まらなくなり、催迫の調子で、告げる。
「武元っ、そろそろ……!」
「うん、いい、出して、たっぷり……出して……」
 数度ネチャネチャと出し入れを繰り返した少年は荒々しく息を吐きながら深く突き入れ虚脱の呻きを上げた。打ち震える
彼の胸板を背で受け止めたうるかの膣内へ、びゅっ、びゅるっと白濁が噴きかかる。ゼラチンをスポイトで排出するような
独特の気配に、「ああ、出てる、なりゆきの、いっぱい、いっぱい、出てる……」と嬉しげに頬をゆがめる。



 饗宴、続く。


 ステークが排莢されるたびサーモンピンクのラビアが捲れ上がるのが淫猥だ。

「あっ、だめこの恰好、直すまで、直すまで、待っ、あっv」

 お尻だけを高く突き上げる恰好でうるかが突かれていたのはバックにおける最初の射精から7分後。獣の体位にすっかり
興奮した唯我はあれからしつこく突き続けている。更に一度、精を放ったのに

「凄いの分かったから、硬くて、逞しいからぁ、四つん這い、普通の四つん這いに戻すまで休ませ、やっ、そこダメぇ、変なビリ
ビリきちゃうから、だめぇ、あんっ、あんっ!」

 シーツにびったりと上半身をつけたまま顔だけは唯我に向け懇願するうるか。左手は少年に押さえつけられており、右手は
ほぼ土下座のような直角を描いたまま頼りなげに揺れている。

89 :
 責めの激しさに堪りかね上半身を崩したのが悪かった。最初はただのアクシデントだったのに、安産型のお尻のみを掲げ
ている少女の恰好に生唾を呑んだ唯我は体勢の持続を求めた。「あ、あはっ。崩れちゃったね、今から戻すから……」と
言いかけていたうるかに、爆ぜそうな獰猛を孕んだ無表情を向けると、「えっ、きゃっ」と戸惑う声を無視して激しく突き入れ
始め……今に至る。

「ひどい、このカッコ、恥ずかしい、恥ずかしいって言ってるのに、バックに慣れてからならじゃないとダメって言ってるのにぃ」
「さ、最初からレベル高い問題に挑んだ方が、その、伸びるし……!」
「うーーー」

 うるかは憾(うら)みがましい目をした。勉強ならさもありなんだが、性行為なのだ、恥ずかしいのだ。

90 :
(なのに……)

 褐色の面頬は「ぶるっ」と震える。閉じた瞳の両端に透明な雫が浮かぶほど恥ずかしいのに、恥辱の体位が唯我によって
もたられされているのを実感すると気持ちよくなってしまううるかがいる。

(変、気分が、ヘン、だよぉ。初夜よりもっとビンカンで、頭の中、ぴりぴり、してくるよぉ)

 性感は少しずつだが開発されつつある。肉体的な感受の無さを唯我への思慕でカバーし一定の悦楽を得ていた初夜と違い、
そこから目覚め、更に何回か記憶を頼りに弄られた秘部は、この1週間、感触を快楽に変換しうる発達を少しずつではあるが
遂げている。平たく言うと唯我の肉棒が肉体的にも「善く」なっている。

 が、感覚の方は一週間前を基本としているから、うるかは自分の感応の違いに驚き、戸惑っている。

 といった様子を見て興奮しない男はいない。

91 :
 ただでさえヒップだけを揚げさせる背徳的な姿勢に昂ぶっているのに、可愛らしい人魚姫ときたら川端康成先生の「禽獣」
に出てくる分娩途中の未成熟な犬のように「自分の体には今いったい、なにごとが起っているのだろう。なんだか知らない
が、困ったことのようだ。どうしたらいいのだろう」と言った表情で困惑しているのだ。
「武元っ」
 唯我は、手をついた。初めて立った赤ちゃん鹿のような広げ方は形容とは裏腹に荒々しい。いたいけな少女に臀部だけ
突き上げさせたまま、本格的に犯しぬく四足の獣だった。「あっあっあっ」、シーツの上で目を閉じ喘ぐうるかはもう相手の
表情を見れない、見る余裕がない。腰は深く突き入れられるたび前へ撓(たわ)む。腰椎から胸椎へと到る骨の蛇腹に緩衝
されグニャンと背筋に向かって前進する。少年は、骨と肉に、弱い。女体が見せる予想外の可動を、武元うるかの柔軟性
を、もっと沢山しゃぶりつくしたいと燃え立った少年は歪なグラインドをただ見舞う。

92 :
 組み伏せられているうるかは啼くしかできない。

「だめ、激しい、そこいい、気持ちいい、あっあっあっ、だめっ、頭の中しろくなるっ、あっ、ヘン、今日、ヘン!」
「お前の、気持ちいい。締め付けが強くなってきてて、凄く、いい……!」
 初夜より明らかに活発な愛撫と摩擦に眼鏡少年は「っ」と切羽詰った赤面をし、寒気を吐く。
震えるそれは矛盾の吐息、放出を望みながらも勝(た)えている。手淫では決して味わえぬ甘い魔窟の吸い付きに耐えて
いる。裂け目より蜜が再び漏れ出でた。

(初夜より、ねっとりしてる……)

 いよいよ粘っこくなってきた愛液に唯我の昂揚も高まる。見るなといわれた秘部さえ盗み見てしまう。よくお菓子を食べる
うるかだからか、結合部から漂ってくる匂いは心なしか甘い。膣内にグリコーゲンが行き渡り、かつ、デーデルライン菌の質
または量が不活発な場合、同様の現象が起こるというが、うるかがそうであるか、どうか。

 鼻を、ねっっっとりと突く香りはしかし牝の匂いというにはまだまだ余りにあどけない。あどけないからこそ唯我の情動は
却って強まる。マカロンよりコアラのマーチが似合いそうないたいけな少女を、動物の恰好で犯しているのだという実感、
今にも傾きそうなボロい自宅の、染みのういた布団の上で脱ぎ散らかした衣服に囲まれながら、バックで、うるかを攻めて
いるのは、月明かりが幻想的だった初夜に比べるとあまりに生々しい。が、生々しさは倒錯である。
(すげえ悪いことしてるのに……気持ちいい)
(襲われてる。あたし今、成幸に襲われてるんだ……)
 行為の前に7時間も勉強をする羽目になったのが”タメ”となり、倒錯を強く熱く燃え上がらせる。
 強まるグラインド。ゴム製の水枕を揺らした時の水音にも似た調べが膣内(なか)で幾度となく響き渡る。入り混じる吐息。
腰の撓みの間隔は瞬く間に短くなり切れ切れの悲鳴が上がる。浮かしきった小ぶりのヒップの尻たぶの隙間に生々しい
桜色の淫棒をぬちゃぬちゃと叩き込む唯我。法悦に結ぶうるかからはもう姿勢の回復は吹き飛んでいる。蹂躙にヨがり
甘え泣くばかりだ。尻たぶの揺れが徐々に激しくなる。巨大生物の足音が近づく水溜りのごとく振幅の波が大きくなる。

「出して、そろそろ、またっ、あんっv、出して、出してぇ、成幸の熱いの、欲しいよぅ」
「俺まだガマンできるぞ。もっと気持ちよくしてやれるから……」
「いや。今欲しいの、せーえき、今、ちょうだい。出してから、ねちゃねちゃの状態で動いていいから、今、欲しいのぉ……」

 恐ろしく淫らな要望を聞いた瞬間、少年はもう達していた。

93 :
 バックは終わらぬ。

「あっあっあン、いいっ、いい」

 両名とも膝立ちのまま繋がり、貪りあう。唯我の手はうるかの胸を弄んでいた。
 あるときは乳肉を上へ上へと追いやるよう揉みこみ、またある時は双丘をまったく別の方向へこねくり回す。乳輪をなぞ
り乳首を弾き、そちらの刺激にうるかがトロンとした所で耳たぶをそっと噛む。
「んっ……」
 激しさの連続の中で訪れた変則的な刺激にうっとりとする少女の、生白く見えるふくらみを唯我は強調するように鷲づかみ。
力任せに握られた水風船は表面張力を別方向へ逃がす。小ぶりだが弾力に溢れた瑞々しい乳房もまた少年の掌から零れる
ような動きを見せる。

(やらけ……。スッゲ、やらけ……)

 魅惑の感触を眼鏡少年はただ揉み込むほかない。ふにふに、ぷよぷよと。
 執拗な突き込みも続いており、だから少女は放心の笑みで涙を流し、叫ぶ。

「好き、成幸におっぱい触られるの、好きぃ!」

 そこまでのうるかは胸を離された後背位の状態で可愛らしいバストをぷるぷるぷるんと揺らし続けていた。このぷるん
ぷるんはセブンイレブンで発売中の「ふわっとろ」な京風きなこわらびもちに匹敵する。
 後ろから唯我の顔が近づいてきた。すぐさま察し、彼と唇を合わせる。

「んはぁ、んぶ、んんうう」

 舌を絡める間にも律動はやまず、釣鐘型の乳房は跳ね上がっては落ちる。落ちた瞬間、衝撃でまた軽くバウンドするの
が淫らだった。

94 :
 四つん這いに戻った。

 続く激しい律動すら従順な少女は受け止める。光に透けると珊瑚色帯びるメラニン薄い黒髪がふるふる揺れた。
 女性の動く余地がほとんどない獣の体位は温和で草食な少女の好みに合う。「猫の手」をシーツに置いたままゆっさゆっ
さとゆさぶられる。
 唯我は、うるかの肩の、褐色と日焼け痕の境目に唇を当てた。
「ーーっ♪」
 思わぬ愛撫だが愛情表現なら喜んで受容できるのがうるかだ。目を細め嬉しげにのどを鳴らす気配が伝わったのだろう。
ちゅっ、ちゅっと音を立てて唯我は吸いつつ、乳房をもコネコネする。そしてまた肩越しにキスをして、感じあう。

 香竄(こうざん)とは匂い篭もる孔を指す。蜜があふれ、ヒレうごめく香竄は車軸のように硬く太くなった唯我をヌメヌメぐ
ねぐねと包み込んで蠕動する。

 午前2時。行為開始から2時間近く。かなりの長時間だが、若く、ここに到るまでお預けを食っていた2人にとってはまだ
折り返し地点に過ぎなかった。

 四つん這いのとき、何かの睦言がきっかけだった。唯我がちょっと言葉攻めめいたことを言った後だ。

 表情を逓(たが)いに見せっこするため上げていた顔をうるかは伏せた。が、羞恥一色でもないらしい。明るい少女らしい
能動的な照れ隠しという奴だ。それが証拠に伏せ方もどこかお茶目だった。というのも唯我の何か言葉攻め的な発言が、
野卑な男の揶揄ではなく、不慣れな言葉攻めをぎこちなく演じている感満載だったからだ。それを聴かされた瞬間うるかは
(相ッ変わらず言葉で攻めるのヘタだなあ)
 と呆れたが、同時にそういう部分がとても可愛く思えて、だから「///」とふざけた様子で顔を伏せてみたのだ。分かり辛い
機微だが、一種の睦言であろう。平易な言い方をすれば、「こらあ」と殴るマネをしてきた恋人に「きゃー」と怯えてみせるよ
うな、他愛ないイチャつきである。
 快美とは程遠いやり取りだが、しかし営みとはむしろこのテの潤滑油があった方が数も増え、質も上がる。
(馬鹿にしやがって)
 唯我は軽く苦笑する。うるかときたら伏せた顔をちょっと横向け、前髪の間から少年の反応を伺っている。そういう露骨な
盗み見が楽しくて仕方ないらしく、口元はすっかり綻んでいる。初夜今夜とかなりの回数苛んでいる筈の唯我をちょっとおちょ
くっているような態度だから、(馬鹿にしやがって)と少年も笑えてくる。深夜のテンションも手伝っていたのだろう。
(ちょっとイタズラしてやる)
 まっさきに浮かんだのはアナルである。体位の都合上もっとも近くにある。が、却下する。場所が場所だけに無許可は
気まずいし、何よりどこか陽気さを帯びてきたイチャつきに相応しくない。
(ならココだ!)
「きゃうっ」
 うるかが甘く鳴いた。触られたのは太ももだ。正確には、揉まれた。
「もー。成幸! マッサージとか反則ー!」
「だーめ。俺を馬鹿にしてきた罰」
 心臓マッサージのような手つきで、大腿部の筋肉の一番太い筋を揉み解す唯我。「っっ」。笑っていた人魚姫も神妙な反
応を示し始める。ただのマッサージなら足がだるい時よく自分でしている。女性にしては筋量があるため、コリはよくほぐれる。
場所によっては5分揉むだけで気持ちよくて眠くなる。
 唯我は男性でこそあるが、ひょろっとした苦学生だからうるか以上の力はない。全力を出してやっと少女の平生に互角か、
互角に一歩及ばないぐらいだろう。
(な、なのに……)
 四つん這いで張り詰めた太ももを揉み解す唯我の手がひどく気持ちいい。1つには角度の恩恵がある。人が自分の足を
揉むとき、どうしても人体構造上、力の伝達がうまく行かない恰好になる。うるかに覆いかぶさる唯我の手は、力を込めやす
い角度を選べる。だから元の膂力で劣る唯我でも伝導率では勝るため、結果として、うるか以上の力で彼女の大腿部を揉め
るのだ。うるか本人では構造上、刺激できない箇所すら難なく揉み込める。

95 :
(でも、何より)
 揉んでいるのが唯我の手であるという認識が、快感、という、主観によっては無限大にさえ到達しうる概念を極上のものに
仕上げている。ぶるるっと快感に震えたうるかだが、こういう方面で開発されてはならないとウソをつく。
「あ、足なんて別に感じないし? 他のとこ触った方が得かなーなんて……ひゃうう!」
「両方ならどうだ!」
「も、もー!! ちくびといい何で同時攻撃すんの! そんなん気持ちいいに決まってんじゃん! 卑怯! 成幸のばかっ!」
「じゃあ禁止するか?」
「……それもヤダ」
 しょーもない奴だなお前は。唯我は笑いながら頭を撫でる。拗ねて唇を尖らせていたうるかに喜色が差した。怒りたいが
謝りたい微妙な心境で、うまく伝えられなかったので、側頭部を唯我の頬にすりすり擦りつけた。

(…………可愛い)

 数分後、両腕を持たれたバックの体勢でうるかはさんざっぱら揺らされ、

「だめ、激しい、あ、またヘンに、あ、だめだめっ、だめぇ! あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 大きな瞳を見開く惑乱の表情は無慈悲にも考慮されないまま、当晩何度目かの灼熱を注ぎこまれた。


「はぁっ、はぁ……」

 繋がった四つん這いのまま息せくうるかが「えっ」と目を見開いたのは視界が突然あがり始めたからだ。浮遊感。小柄な
体の周囲の景色がどんどんと下がっていく。ガラス張りのエレベーターに乗った時のようだった。
(待って! これってまさか……)
 褐色と小麦色が混在するしなやかな背中に熱っぽい胸板が押し付けられているが、しかしもう唯我はX軸概念で覆いかぶ
さっていない。真直ぐ、だった。真直ぐと、垂直になった唯我の胸が、Y軸観点でうるかの背と密着している。
 だけではない。彼の両手は虚脱ゆえ無抵抗だったうるかの太ももをM字に割り開いて、持っている。
 すっくと両の足で立ち上がった唯我が、うるかに、女児の小用のようなポーズで持ち上げているこの恰好、言うまでもなく、

 駅弁、である。

 気付いたうるかは狼狽した。双眸に巴(うずまき)を浮かべ、もがく。切羽詰った喚きすら散らした。
「ちょ、このカッコ、だめ! このカッコだけはそのっ、一番キラいな奴で、幾ら慣れても絶対ダメなアレだから、やめて、降
ろして……!」
 恥ずかしさはあるがしかし淫靡への羞恥ではない。もっと根源的な、乙女としての宿業だ。
(体重……! あたし筋肉ばっかで重いから! 重さにドン引きされたら、重さにドン引きされたら、あたし、あたし…………!!)
 涙ぐみ、フィジカルの全てを動員して逃げようとするうるかなのに、唯我ときたら耳元で囁くのだ。
「でも俺お姫様抱っこしたことあるよな、お前を」
 そのときは他の誰よりも長く抱えてたぞ……といった言葉に打たれたうるかのもがきが止まる。うまい。『お姫様抱っこが
どういう出来事かは知らないが』、このテの競争原理の決算損益は水泳選手である所のうるかに驚くほど効く。ルールの
中で生きている彼女だから、お前はルールの中、最後まで勝ち残ったのだ、トップなのだという宣告は、ただ単純に「軽い
と思う」などといった主観をぶつけるより遥かに効果的なのだ。
 果たして、
(確かにあの時は最後まで……)
 重さへの羞恥に揺れていたうるかの双眸が葛藤を帯び始める。自分はもしかすると自分が思っているより重くないのでは
ないかという淡い期待が駅弁への抵抗を燮(やわら)げる。

 これも手管である、唯我の。教育係としての力量を女体方面で悪用している。アスリートゆえに筋量(おもさ)を気にし、駅
弁を拒むうるかを、お姫様抱っこなる過去の絶対的な事実でいとも容易く調略しつつある。

96 :
 が、

(ちゃ、ちゃんと武元を納得させてからこの体位やらねえと、嫌がって暴れた武元がケガするかもだからな。この高さから、
ヘンな落ち方して頭打ったら初夜の『ずがずが』なんぞ比じゃねえ。つうか足だろうが肩だろうが良くねえよ。まだ国体とか
あんだから)

 受験や水泳のため、少女にケガをさせたくないという善意を隠すところなく浮かべているのが逆に小憎らしい。何度も言う
が文乃のポニテくるくるには何も察せなかった癖に(ry。あと説得は持ち上げる前にやれ、説得前に落ちたらどうするつも
りだった。

 という負い目、若さゆえの衝動ゆえ承諾なしで駅弁に移行した気まずさがやっと襲ってきたのだろう、唯我は「動かして……
いいか?」と遠慮がちに聞いた。

 うるかの熱く潤んだ双眸が左右に泳ぐ。重さへの不安は和らいだし、未知の体位への甘やかな関心だってある。何より
唯我第一な彼女だから(え、えきべん……で、違った気持ちよさを感じて欲しいけど……)、やはり初めての恰好への恐れ
はある。第一うるかほど『質量と疲労の連関性』を知っている者もない。軽く思えるプールの水でさえ疲れてくると鉄のカーテ
ンかと言うぐらい掻き分け辛くなる。
 1.5リットル入りペットボトルは持つだけなら容易だが、ダンベルよろしく5分10分と上げ下げすれば疲労が募り重くなる。

 ましていかにも鍛えてなさそうな唯我が人(うるか)を『抱え続けたら』……。駅弁に必要な運動を繰り返したら……。

(だ、大丈夫なん? たとえあたしが軽かったとしても成幸疲れたりしない? こ、腰とかやっちゃったら受験に支障が……!
抱え続けたせいで疲れて、「重い」みたいな反応されるのも大概かなしいけど、成幸がギックリ腰になるのはもっとイヤ。
自分の勉強できなくなるし、同じぐらい辛いのは、文乃っちやリズりんが苦手科目聞けなくなっちゃうことで…………!)
 優しさゆえに戸惑う少女の肩を押すのはやはりというか、唯我の言葉。
「一応だけど少しは鍛えてるぞ。この1週間、お前を思い出してモヤモヤするたび、ランニングとか、筋トレとかで。うち簡単
に発散できない環境だから。何も考えずガーっとやったせいで昨日まで筋肉痛ひどかったけど、今は何とか」
 うるかはちょっと嘆息した。俯いた拍子にその両目は唯我から見て前髪に遮られる角度になった。声は水泳部の厳しい先
輩になった。
「も、もー。成幸、筋肉痛のチョーカイフクに夢見すぎ。一週間やそこらでいきなり頑丈になる訳ないでしょ。ただでさえ他の人
より体力少ないんだから、ちょっと鍛えたぐらいでいきなりあたし抱えてずっと動けるレベルになんて、そんな、無理っしょ」
(……ご説ごもっともです武元さん)
 唯我はこれが名うての教育係かというぐらい情けない引きつり笑いを浮かべた。何しろ筋肉のことだ、フィジカルのエキス
パートに駄目だしされては頷くほかない。
(俺だって武元がちょっと一夜漬けしたぐらいで英語上達したって自慢してきたら……するだろ、同じ反応)
 彼女を降ろす……つまり今回は駅弁を諦めた方が賢明ではないかとさえ思い始めた。
 じっさい、もやし少年が水泳国体級の少女に僅かな鍛錬を誇るなど、愚かな話でしかない。
「だから」
 顔を上げたうるかは唯我めがけ向けるツンと尖った流し目の下を薄紅に染めながら、告げた。
「ど、どんだけ鍛えられてないか確認したいし? とりあえずこのカッコで動けば……?」
「え、それって」
「うー!! だから言葉通りの意味だってば!! 恥ずかしいんだかんねこのカッコ!! てか一番キラいだし!! だだっ
だから! 早くヘバって終わらせてよーーーー!!」
 怒ってみせるうるかだが体位そのものを拒んでいないのは甘々である。
 なぜ寛恕が芽生えたか? 簡単である。先ほど俯いたとき、彼女は、下記が喜悦を浮かべていた、密かに。
(成幸この一週間ずっと、あたしのこと思い出してくれてたんだ。苦手な運動すらやっちゃうほど、たまらないって、あたしと
の記憶に、一生懸命に……なって、くれたんだ…………)
 実に、ちょろい。唯我は別にこういった篭絡を目的にランニングと筋トレを明かした訳ではない。駅弁で腰は”やらぬ”だろ
うという物理的証左を供出しただけに過ぎないのに、うるかときたら多分に拡大解釈を交えて自分への思慕に矯正した。まっ
たくの曲解ではないが、ヨーグルト風味のチョコをヨーグルトと断じる程度の無理はある。
 この辺の、唯我に対する夢見がちはもちろん本人も理解しているから、だから「どんだけ鍛えられてないか確認したいし?」
と言った片意地に置き換えた。

97 :
(可愛いなあもう)
 基本的に温和で従順なうるかだからこそ、たまに出てくる意地っ張りな部分は唯我の心をきゅんきゅんさせる。機微に気
付いた少女は(〜〜〜)と頬を代赭(たいしゃ。赤褐色)にして照れるが、
「い、いい! 疲れてきたらすぐやめる! 腰悪くしたら成幸だけじゃなく文乃っちやリズりんにまでメーワクかかるんだから!
何度も言うけどこのカッコ、ほんっと一番キラいだから、あまりシて欲しくないから!!」
 と声をあげる。真意は概ね言葉の通りだが、(こ、これなら、あたしが重く思えてくる前に終わるし……!)と言った乙女ちっ
くな打算も確かにある。妥協点だ。両者が被害を受けることなく未知かつ快美の体位を味わうための。
「分かった。じゃあその、そろそろ……」
 動くぞと告げた唯我。うるかは両膝を折りたたまれたまま浮かび上がる恰好である。重なり合う褐色の、ふくらはぎと太も
もの間に割り行った唯我の両手が支えだ。その恰好で、少年は腰を、突き上げた。

98 :
「んっ」
 潤滑に支障はない。度重なる交合と放出で、秘所の中は愛と精の和合液でかつてないほどヌメっている。二度、三度。
下からの衝撃に可憐な乳房がぷるるっと揺れた。ポニーテールもまたフルフル揺れる。
(これ……体重が、かかって……)
 深く突き入れられると、唯我の肉棒に体の芯を乗せているような錯覚が起こる。じっさい、最奥に達するたび子宮口は
バックの時すら比較にならぬ荷重を受ける。生々しい媚臓腑がグニグニと弾力に飛んだ肉穂先にグニャっと歪まされて
いるのが分かり、(…………っ)とうるかは震える。
(だめ、体の芯が、ヘン、ジンジン、ジンジンしてくるよぅ)
 嬌声を激しい吐息で必死に誤魔化す。駅弁が一番キラいと言った体面上、易々と喘ぐのはできない。誰が決めた訳でも
ない、勝手な自縄自縛の禁忌の中にうるかは自分を追い詰めつつある。だがそれこそが滅びへの道、姫騎士族の限界、
最も激しい「堕ち」に繋がる抗いだ。突かれるたび、ぐニュん、ぐニュんとハートマークをつけていいほど甘く撓む子壺の外壁
にいつしかうるかは口を押さえ、懸命に、声をこらえ始めている。

99 :
 まだ、二夜目である。交合の数自体は若さゆえ多いが、いわゆる「絶頂」は当然まだである。普通それは月単位の慣熟
で到れるものだ。
 だから青くこなれていない秘所は、体重の乗った駅弁の突き上げをしても戸惑いの方がまだ大きい。水気の少ないゼリー
同士を擦り合わせるようなネットリとした水音が結合部から響く。すっぽ抜けない挿れ方を概ね把握した唯我は腰使いを
早める。
(さ、さきっぽに、武元の体重が、体重が……! てかこのカッコじたい、エロいし!)
 いたいけな少女に両足を割り開かせたまま、持ち上げる……そんな恥辱を強いているのだという事実に優しい唯我は申
し訳なさを感じるが、イケナイことほど脳内の倫理をくるくる空転させるものもない。とっちゃ駄目といわれたお菓子に
手を伸ばす幼児のような興奮が行動のエネルギーとなって唯我の機関を上下させる。細い足を抱えたまま腰をぶつける
だけではない。どうすれば強く突けるか考える秀才は、時おりつま先で伸び上がる工夫を加える。駅弁のハウツーにそれ
があるかどうか少年は知らないが、よく知らぬ女犯(こと)をよく知るためには結局みずから色々工夫する他ないという経
験則のもと敢行するのみだ。果たして試験官はつま先立ちに対し、「んっ……、んんっ……」と恥ずかしげに眉を寄せた。
 秘所の方も露骨にきゅうっと締まる。人一人かかえた運動に性行為以上の汗を滲ませ一献含んだように赤ら顔な唯我
は快美にぼうっとしながらも、思う。

100 :
(コレ……武元、気持ちいいのかな……)
(だめ、気持ちいい、気持ちいいよぉ。油断したら声、声が……! だからなんでこんな成幸じょうずな訳!? しかもまだ
このカッコじゃ出してないし! あたしばっかがやられてて、気持ちよくて、悔しくて、泣いちゃうよぅ)
 気持ちよさげな瞑目にほんのちょっぴりの屈辱を交えて薄く泣く少女にひどく興奮した瞬間、教育係は、次の手を。

「あっ、あぅんっ」
 吐息で声を誤魔化していたうるかが啼き、口を強めに押さ直した。子宮口に、より体重が掛かるよう施した小さな細工は
確かに効果を及ぼした。ただ腰のストロークを早めただけではない。秀才を是認する唯我の工夫パート2は、『突き込みの
瞬間、うるかのふくらはぎと太ももに潜り込んで支えとなっている両腕を……”一瞬外す”』。


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