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特殊学級という名のパチスロ機 Part.2


1 :2020/01/18 〜 最終レス :2020/01/31
★公式
http://www.gaijigiken.com/contents/product/slot/gaiji
★スペック
メーカー:障害児童育成会
リリース:2019/3/4
タイプ:AT機 AT「みんなちがってみんないい」搭載
純増:約8.0枚
天井:最大777G
恩恵:CZ以上当選
★確率・機械割
    AT   機械割
設定1 1/523.8   97.4%
設定2 1/486.8   99.0%
設定3 1/491.4  101.0%
設定4 1/402.5  103.9%
設定5 1/379.8  108.0%
設定6 1/333.8  113.3%
※前スレ
特殊学級という名のパチスロ機〜三学期〜
https://egg.2ch.sc/test/read.cgi/slotk/1578040417/

2 :
知障だってなあ
身障だってなあ
手帳持ってりゃ年金出るでな
チガイジだってなあ
ダウンだってなあ
パンをこねたら工賃出るでな
日頃はうーあー言ってる知障ども
大盤振る舞いじゃ
グループホーム見上げりゃ青い空
明日も晴れるでな

3 :
AT「みんなちがってみんないい」詳細

4 :
おっ
ジャグラースレ立ったか

5 :
知障AT
「うー」とか「あー」とかの知障ボイスで小役をナビ
何言ってるか解らないので実質ナビ無しと一緒
純増-3枚/1G

6 :
身障AT
正確にナビはしてくれるが身体が不自由な為、止めたいリールが止まらない
実質ナビ無しと一緒
純増-3枚/1G

7 :
・告知モード
多動性自閉症モード
自閉症のヒロキ君のお部屋
ヒロキ君の絶叫でボーナス確定!?
・ヒロキ君が観ているテレビ画面に注目!大好きな仮面ライダーが始まるとチャンス到来……?
・「いじわるマコちゃん」登場でチャンス!?ヒロキ君からオモチャを取り上げる!絶叫するかな!?

8 :
・ステージ移行の秘密
ニコニコ体育館

ひまわり学園

パン工場
下にいくほどモードアップの期待が……!?

9 :
レバー音「知恵!」が遅れると……?

10 :
ガイジ

11 :
なんや君ガイジやなあ

12 :
保守希望

13 :
ガイジ?

14 :
ガイジボーナス

15 :
ガイジボーナス(スカトロ)

16 :
ガイジボーナス確定だよ!

17 :
GG(ガイジゲーム)

18 :
ガイジゲーム高確率

19 :
みんなちがってみんないい

20 :
手帳ゲット!

21 :
障害者手帳バス半額

22 :
手帳割引

23 :
え!?
まだ手帳、持ってないの……?

24 :
授産施設

25 :
養護施設

26 :
特殊学級

27 :
ガイジ

28 :
キチガイ児

29 :
キチガイジ

30 :
うーあ

31 :
半額弁当

32 :
この子はガイジです

33 :
私は、知的障害者ではありません

34 :
キチガイジ

35 :
ガイ

36 :
ガイジ

37 :
今作も愛の手帳(精神)外しまくりで身体1級待ちのゲーム性?

38 :
ガイジ

39 :
「早く食べないと、いつまでも片付きませんわよ」
傍らに立つ姉が、組んだ右腕の指で顎を撫でながら、冷たい視線と冷たい言葉を投げ下ろしてくる
「……もう許して欲しいのだ……」
あやかは涙を浮かべながらも、必死に媚びた笑みを彼女に向け、慈悲を求める
長い髪を緩く結んだこの長姉"まどか"は、二人いるあやかの姉の中では、まだ慈悲深い方ではある
少なくとも荒々しい暴力に拠ったお仕置きがされないだけ、あやかはそう思っている
だか、今日のまどかの怒りは相当なものであった
「それを平らげないなら、明日から貴女のご飯はありません事よ」
「……でもまどか姉… 脱臭剤はご飯じゃないのだ…… 食べられないのだ……」
方々が欠けたあやかの茶碗
小学生の頃… まだ母親が存命だった頃、買って貰ったパンダ柄のお茶碗
今のあやかには些か小さいそれに山と盛られているのは、透明なゼリーの粒
それが冷蔵庫の脱臭剤である事は、流石のあやかにも理解できていた
「ふぅ……」
まどかは小さくため息をつくと、食卓の隅から煙草とライターを拐い、それに火を着ける
「……何処がいいかしら? おでこ? ほっぺ? それとも鼻頭?」
あやかは思わずヒッと身を強ばらせる
荒々しい暴力は振るわないまどか姉だが、この煙草の火を使ったお仕置きだけは頻繁に施されてきた
まどかの身体を注意深く観察すれば、あちこちに残るその痕跡
その一つ一つに纏わるおぞましい記憶が、あやかの脳裏にフラッシュバックする
「はぁっ…!」
あやかは覚悟を決めて箸を取る
嘗ての懐かしい日、母の作ってくれた大好物の回鍋肉を、炊きたてのご飯と共に乗せたパンダのお茶碗
今はそこに盛られた化学物質の塊を、あやかは目を瞑って掻き込んだ
(オエッ!?)
表現し難い苦味と酸味が口の中に広がる
吐き出しそうになる衝動を必死に押さえて、それを喉の奥に通した
手を止めてはダメなのだ… 苦しくなるだけなのだ…
悲しい経験録から無意識に呼び起こした教訓を元に、あやかは手を休めず、無理矢理脱臭剤の透明なイクラ粒を頬張っていく
(グフッ… モグッ… ゴクン… ウプッ……)
気が付くと箸先がカチャカチャと茶碗の底を突いた
ゆっくりと目を開け、ほぼ空になったお茶碗と、卑屈な笑みをまどか姉に向ける

40 :
「ふぅぅ〜……」
まどかは肺に溜まった煙をあやかの顔面に向かって吐き出す
安い香水の様な、甘ったるく下品な外国煙草のその香り
極限状態に張り詰めたあやかの交感神経は、その悪臭に堪える事が出来なかった
「おべべべぇぇぇぇっ……!!」
箸と茶碗に両手を塞がれたあやかにそのリバースを押し止める事は不可能だった
黄色い胃液と透明の粒々が、食卓とあやかの胸元から床の上にポタポタと垂れた
「………………」
まどかは身動ぎもせず、ゴミを見る様な更に冷たい視線で、あやかの全身を舐める
「うぇ… うぇ…… ぐすっ… うぇぇ……」
あやかの涙腺は遂に決壊した
泣く事だけはどうして避けたかった
二人の姉はあやかの泣き声を嫌っていた
もしかしたら隣近所に聞かれれるのを嫌がっていたのかも知れない
泣けばその時点で最大級のお仕置きが施されるのだ
『ドス… ドス… ドス……』
案の定、あやかの泣き声を聞き付けたもう一人の姉、"さやか"の階段を下る足音が聞こえて来た
あやかにとっては、まさに恐怖の象徴
この次姉に比べれば、目の前のまどかでさえ慈母に見える
足音が近付く度にあやかの身体が緊張に強ばる
嘔吐の悪心と次姉の恐怖に、意識が白み始めるのを感じた
いっそこのまま意識を失ってしまいたい…
あやかは箸と茶碗を握りしめながらそう願った
「……またあやかがやらかしたの、まどか姉……って! 何コレ汚な〜い!!」
ダイニングのドアを開けたさやかが絶叫する
「ごめぇんなのだ…! ごめぇんなのだ!」
その声にあやかの身を拘束していた緊張が逆の意味で弾け、漸く食卓の上のティッシュに手を伸ばし、慌てて事後処理を開始する

41 :
「今日は一体何をやらかしたのよ〜?」
さやかは眉間に皺を寄せながら、吐瀉物まみれの妹を避ける様に、弧を描きながら長姉の元に近付く
「私が作って差し上げたお昼のお弁当が、お気に召さなかったみたいですわ〜」
再び煙草の煙を長く吐きながらまどかは答えた
「へぇ〜 随分偉くなったわね〜あやか〜 お姉ちゃん、コワイナ〜w」
さやかは 口角をこれでもかと吊り上げながら、床を這う妹を睨み付ける
「ち、違うのだ… 違うのだ…!」
吐瀉物を擦りながら、あやかはこの日何度目かの釈明の機会を求めた
「何がどう違うのかしら…?」
能面の様に無表情のまどかの呟きには、苛つきをも越えた疲労感が滲んでいた
それはつまり、この妹に対する一連のおぞましい加虐が、彼女の中では高い正当性を持って行われている事を物語っていた
決して知恵故障の妹を面白半分になぶっている訳ではないのだ
母代わりの躾でり、教育であるのだ
「違うの… だ……」
床の上にポツリと透明な滴が垂れた それを利用して、吐瀉物の後をもう一度磨く
(あやかはただ……)
きっかけとなったのは今日のお昼休みだった
あやかは心の中で姉に釈明するかの様に、今日の出来事を反芻した

42 :
>>41
もうこれテンプレ入りでいいだろ

43 :
小高い丘の上に立つ、織平市立雀品中学校 あやかの通う中学校であり、二人の姉の母校でもある
登校時間と言うには些か位置の高い太陽の日差しを浴びながら、一つの影がその丘を巻く坂道をいそいそと登って行く

「またやってしまったのだ… どうしてあやかばかりこんな目に会うのだ…?」

影は己の不憫を嘆いていた
今日こそはと、何時もより体感的に三分早く家を出たあやかであったが、今日も今日とて黒揚羽があやかを菜の花畑に誘うのである
一頻り黄色の漣に身を泳がせ、花粉の白粉と天然アロマのコロンでとびきりのお洒落を堪能した所で漸く我に帰った
昨日、あれ程もう遅刻はしないと先生と約束したのに…!
流石のあやかも今日ばかりは腹に据えかね、空気の読めないイジワルな黒揚羽にさよならの挨拶もしなかった

(暫く絶交なのだ!)

被害者としての正当な報復処置を心の中で宣言しながら、あやかは誰もいない昇降口に辿り着いた
一番奥の更に隅、八口ばかりのそれだけが独立した小さな下駄箱の際下段
あやかはそこから踵の潰れたシューズを取り出すと裸足になり、代わりにやはり踵が潰れ色褪せたパンダのスニーカー無造作に放って戸を閉めた
十歳の誕生日に母に買って貰ったお気に入りのスニーカー
育ち盛りのあやかの足には、もう随分と寸足らずだが、あやかはそれを手放すつもりはなかった
そろりそろりとシューズの底を滑らせ、あやかは己の教室へと進む
教科書を読み上げる教師の声や、ノートを削る鉛筆群の音が、廊下沿いのクラスの中から聞こえて来る
その何とも言えない強烈な圧迫感に、あやかは思わず身震いした
あやかにはどうしても"普通の中学生"の生活が馴染めなかった 恐怖すら感じていた
壁の向こうの"普通の中学生"達が、違う星から来たスーパーエリートの様に思えていた
きっと住む世界の違う彼らと、出来る限りの接触を絶とうと努力した
理由は上手く言えないが、彼らと触れ合う事は、己にとって悲劇しかもたらさない気がしたのだ
実際に幾度となく悲劇をもたらされたりもした
彼らとの間に壁を作る事
それがあやかの処世術とも呼べない、防衛本能に根差した何かだった
胃から飛び出そうとする何かを必死に宥めながら、あやかは長い廊下の突き当たり、『仲良し学級』と書かれた札の下の引戸を、スルスルと開いて行く

44 :
「ごめんなさい… なのだ……」

開口一番、謝罪の言葉を紡ぐ
例え"普通"でなくとも、遅刻が悪い事、約束を違えるのが悪い事であるという事は、ちゃんと理解できるのだ

「ウェヒヒ! 風上のあやかちゃん、また遅刻!」
「遅刻ばかりじゃ、いけないんだよ〜!」
「プラチナ常習!」

クラスメイトの六つの目があやかに注がれる

「風上さん、昨日よりは三分だけ早く来れましたね 明日こそは遅刻しない様にね!」

長い髪を揺らして笑顔をくれたのは、大好きな雫先生だった

「雫先生、ホントにごめんなさいなのだ… あやか、一生懸命急いだのだ…」
「ふふ… もういいわ さぁ 席に着いて 授業を再開するわよ!」

広い教室に四組だけの机と椅子
その中の主を持たない唯一つ、窓際の前列、そこがあやかの席だ
雫先生の声に弾かれる様に教室を横切り、そこへ腰を下ろす

「ウェヒヒ… 風上のあやかちゃん、いい匂い!」
「ホントだ〜 お花の匂いだね〜」
「プラチナ嫉妬!」

あやかの通り香に級友達が声をあげる "普通"ではない子達が集うこのクラスでも、やはりそこは年頃の女の子ばかり
あやかの漂わせる菜の花コロンを敏感に感じとった

「へへっ 黒揚羽さんの秘密のおしゃれショップに寄ってきたのだ!」

級友達の羨望に鼻孔を広げてドヤ顔を見せるあやか
彼女にはプリンセス願望がある
人見知り気味な性格ではあるが、本来、人にちやほやされるのが大好きなのだ
この瞬間、キャパの乏しい彼女の脳内からは、遅刻の後ろめたさと黒揚羽さんとの絶交宣言が共に消え去った

「さぁ それでは教科書四十二ページ… アルミ缶とスチール缶の違い、見分け方について……」

雫先生の澄んだ声で授業は再開された
あやかは決して学校が嫌いな訳ではなかった
寧ろ好きな方だった
いや、彼女の人生のウエイトの中では、大好きの部類に入ると言ってもよかった
正確に言えば、この『仲良し学級』が… 雫先生とクラスメイト達が大好きだった
いや、それも正確ではないかも知れない
もっと的確に言えば、ここ以外に居場所がなかったのだ
この知恵故障の集まる養護教室以外に居場所が… 話相手が…
笑顔を向けてくれる存在が、なかったのだ

45 :
『キ〜ンコ〜ン カ〜ンコ〜ン』

あやかにとって細やか成らざる事件が起きたのは、そんな安らげる居場所の、更に安らげる筈の昼食時であった

「みんなで食べると美味しいんだよ〜」

のんびり屋さんだがクラスのムードメーカーである麦波ちゃんの一言で、仲良し学級のお昼はいつも始まる
机を四つ中央で合わせて給食を食べるのが習わしなのだ
ただこの日が何時もと違うのは、この日から給食室の工事に伴い数日間、給食の代わりに持参したお弁当を食べる事になっていたのだ

「ウェヒヒ… おかず交換したら楽しいかも……」

独特の含み笑いが特徴の鹿目ちゃんの提案で、おかず交換会が催される事になった
何時もみんなで同じ物を食べる給食とは異なり、ちょっとした遠足気分に満たされる
お昼休み よくある発想、よくある光景
気を利かせた鹿目ちゃんのお母さんが、クラスのみんなで分ける様にと、大量の唐揚げを持参させたのもそのきっかけだった
母の意とは異なるが、自分の物をタダではあげたく無いという、知恵故障独特の感性が働いてしまったのは致し方あるまい

「プラチナ承諾!」

言語野の障害の由縁か、おかしな口癖が抜けない月火ちゃんが一番乗りとばかりにお弁当箱を開帳して、厚焼き玉子とのトレードを申し出る

「ウェヒヒ〜! 交渉成立〜」

鹿目ちゃんはお目当ての品だったのか、月火ちゃんのトレード申請を快諾し、彼女のお弁当箱に箸を伸ばした

「私は〜… ウサちゃん林檎でかしこまり〜!」

麦波ちゃんはデザート枠の林檎の放出を決意した様だ
貴重な締めくくり役だが、それだけ鹿目ママの唐揚げは魅力的だったのだ

「ウェヒヒ〜! これは二つと交換してもいいかも〜」

麦波ちゃんの熱意を感じたのか、鹿目ちゃんは一対二の破格トレードで応じた
次々と思い通りのトレードが成立する鹿目ちゃんは上機嫌である
そしてあやかの番になった
だがあやかは、お弁当箱の中身を蓋で隠す様な格好で固まり、トレードの要請を出さない

「あやかちゃんも交換して貰ういいんだよ〜」
「プラチナ美味しい!」

先にトレードを終えた二人は、唐揚げを頬張りながらあやかを促す

「ケ…… ケチャップソーセージでも… いいのだ?」

46 :
二人言葉に意を決したあやかは、お弁当箱を開帳する
流石の知恵故障娘達も、その中身の光景に思わず動きを止めた
そこにはケチャップまみれになった真っ赤な魚肉ソーセージだけが、軽くさらりと詰められていた
他のおかずは元より、白米の姿も無かった

「………あやかちゃん、ダイエット中なのかな〜?」
「プラチナ淡白! …否、濃赤!」

血の様なケチャップソーセージの赤に紛れていたが、あやかの頬も恥ずかしさの余り真っ赤に火照っていた
ケチャップソーセージが嫌いな訳では無かった
ただ級友達の、お店で売っている様な綺麗で可愛らしいお弁当を見た後では、自分のお弁当が余りにみすぼらしく見えたし、実際みすぼらしかった

「ウェヒヒ〜! ケチャップソーセージは欲しく無い!」

知恵故障故、配慮や気遣いといった思考が全く存在しない鹿目ちゃんは、本能に根差してピシャリとトレードを拒否した
それがあやかに更なる恥辱を味わわせる事になった

"菜の花のプリンセス…"

朝の他愛もないやり取りで心の中で生まれた、そんな自分への形容詞
みんなの憧れであった可愛くお洒落な朝の自分と、おかず交換を拒否される惨めなお昼の自分…
理想と現実の余りの解離が、あやかの肩を震わせる
思わず俯き、目頭を熱くするあやか
知恵故障でも恥ずかしさと悔しさを感じる知性は持ち合わせているのだ

「………………」
「プラチナ…………」
「ウェヒヒ〜!(モグモグ)」
「うぅ……………」

鹿目ちゃん以外に流れる、何とも言えない気まずい空気

47 :
(どうしてまどか姉はあやかに卵焼き作ってくれなかったのだ……? どうして唐揚げを作ってくれないのだ……? あやかばかり…… いつもいつも…… ぐすっ……)

こみ上げてくる何かが何処かの堰を切りそうになった直前、そんな重たい空気を取り除いたのは、やはり雫先生だった

「……鹿目さん、そんなにいっぱい唐揚げがあるなら、風上さんにも分けてあげて」

所用で少し遅れて教室にやって来た雫先生は、ほんの少し四人の様子を見るだけで事の全てを理解し、助け船を出したのだ

「先生もみんなにサンドイッチを分けてあげるわ」

そう言うと教卓に自身の弁当箱を広げて、四切れしかないサンドイッチを皆の前に差し出した

「ウェヒヒ〜 先生がそう言うなら、あげてもいいかも〜 風上のあやかちゃん、はいどうぞ!」

残酷なまでに本能に実直と言うだけで、本来はあやかとも大の仲良しの鹿目ちゃん
やはり大好きな雫先生の言葉もあり、あやかの顔前に己のお弁当箱を差し出す

「うぇ…? 鹿目のまどかちゃん… 雫先生……」

あやかは涙に潤んだ視線をもたげ、目の前の唐揚げの山と二人の顔を交互に見渡す

「お米が美味しいんだよ〜」

麦波ちゃんはお弁当箱の蓋に白米を乗せて差し出した

「プラチナよく合う!」

月火ちゃんは明太子を箸で摘まんで更にその上に乗せた

「うぅ〜 みんな大好きなのだ〜! 明日はきっとお返しするのだ〜! まどか姉に美味しいの、お願いするのだ〜!」

感謝の言葉を述べながら皆のカンパを掻き込むあやか
何故か塩味が良く効いたそれは、大好きな給食のカレーよりもずっと美味しく感じられた

48 :
池沼から始める特殊学級

49 :
続きはないのですか?

50 :
「まどか姉、今日はどうするつもり?」
さやか姉の声には張りと艶があった
張りと艶…
それがどんな物なのか、実はあやかは良く分からない
分からないが、何となくそんな物がある気がしたのだ
楽しい事を目の当たりにした、頗る機嫌の良い次姉の声
さやか姉がご機嫌な時はあやかも嬉しかった
理由がよく分からない、自分にとっては理不尽なお仕置きを下される可能性が著しく減るからだ
ただ今のさやか姉のご機嫌が、自分に対するお仕置きへの期待から産み出されている事はあやかにも理解できた
嬉しくは無い、次姉のご機嫌だ
考えたくはない… 考えたくはないが……
時々、姉達は楽しむ為に自分にお仕置きをしているのではないか…
その様な事を夢想する事がある
勿論、お仕置きされるのは絶対に自分が悪い筈なのだ
あやかは姉達が大好きだ
お母さんが亡くなった後、母代わりに自分を育ててくれた姉達だ
姉達が居なければ、到底一人では生きて行けない
そんな姉達を嫌いになる訳が無い
……無いのだが………
時々… 本当に時々……
あやかは天国のお母さんの所に行きたくなる……

51 :
あやかは自分が足りない子である事を理解している
"普通"ではないのだ
だから姉達に叱られるし、叱られる理由も良く分からないのだ…
全部自分が悪いのだ……
それでも… 時々…… どうしてもお母さんに会いたくなって……
「どうするって…… 反省の色もありませんし… 流石に私も疲れましたわ……」
長姉は組んだ腕を漸く解いて、緩く結んだ長髪をゆっくりと撫でた
心底うんざりというオーラが滲み溢れていた
床に正座し、吐瀉物をしごき取ったティッシュを膝の上で抱えるあやかは、只々自分が情けなかった
妹達を養う為に雀荘で夜遅くまで働くまどか姉
そんな長姉が忙しい最中作ってくれたお弁当を恥ずかしがった自分が…
だけどあやかの気持ちも分かって欲しかったのだ
明日は… 明日は…… みんなと交換できる様なおかずを入れて欲しかったのだ……
「それじゃ、今日もここから先は私に任せてくれる?」
ここまでは何時もの光景、予定調和だ
今の風上家では長姉まどかの意向が絶対なのだ
さやか姉でさえ口答えなどあり得ない
何時もそう まどか姉が決定し、さやか姉が実行するのだ
あやかはもう覚悟している
何度も経験したシーン
この後まどか姉がお仕置きの執行を許可し、直後にさやか姉の膝が顔面に飛んでくるのだ
いや、今日は床を汚したから、床に頭を叩き突けられるかも…
その上から何度も後頭部を踏み潰されるのかも…
やはり泣いてしまったのは痛かった
泣かなければ晩御飯抜きと、おでこでの煙草消しで済んだのかも知れない…
出来れば顔面への痛撃は避けたい
明日クラスのみんなに無様な顔は見せたくない
そうクラスのみんなに…
早くみんなに会いたいのだ……
雫先生………

52 :
「……良いですわよ…… でも夜も遅いですから、近所迷惑にならない様にね……」
執行が許可された
「ふふっ もう、まどか姉ったら〜 私を暴力女みたいに言わないでよ〜」
だが執行官が見せたのは予想外の反応だった
まどか姉、そしてあやかは思わずさやか姉の顔に視線を向ける
「あやかだって、大事なお友達が居るものね〜 今回ばかりはさやか姉も悪いわ だ・か・ら……」
あり得ない筈の"口答え"
さやか姉は二人の視線を意識しながら、長い髪を大袈裟に撫で上げた
風上家は近所で知らぬ者の居ない美人一家である
取り分け母亡き後、成長と共に容姿に磨きのかかる二人の姉の噂は、近隣の町々まで響いていた
その一人、さやかの白磁の様な染み一つない美顔に、女神の様に歪みの無い真円の笑みが浮かんだ
もしもこの場に男が居れば、その者が男色の趣味でもない限り、間違いなく心奪われた事だろう
「私、さやかが明日のお弁当を作ってあげるわっ!」
言い終わると共に見せた可憐なウインクに、実の妹であるあやかでさえ心が瞬時に温まり、肉体を支配していた恐怖が一瞬で溶け去った
あやかの目には、大好きな雫先生の笑顔と、さやか姉の笑顔が被って見えた
本当に大好きだった、あの遠い日のさやか姉…
幼い日の帰り道、あやかの手を引きながら振り向いて見せた、あの笑顔…
夕焼けの中のあの優しい笑顔…
本当のさやか姉が… 帰ってきたのだ……?
そんな事はきっと無いと、心の何処かで警戒していながらも、あやかはどうしても儚い期待を抱かずには居られなかった
そして、まどか姉だけが長妹の腹の内を読み取り、彼女を霞ませる程の妖艶な笑みを浮かべて瞳の奥に光を漂わせた

53 :
続きが気になる!!

54 :
でも、これの売上の一部が特殊学級の維持向上に使われるなら頑張って打つね

55 :
お願い 続きをください 何でもしますから

56 :
昨日スロ言ったらマジガイジ打っていたよ。
メダルは3枚手入れしてマイゲーム何かを狙ってるのか、なかなかリールを止めない
ジャグラーだけど、光ったのよ
その光を一瞬気にはしたみたいけど、何かを狙って手入れ3枚は変わらず笑
光ってから千円追加全て無くなり帰ろうとリュック背負って立ち上がったから、教えてやろうかと声掛けたんだ
そしたらガイジどうしたと思う?
金もないかもだから一枚入れ回してやり当たりだからまちなよ、言い切る前になぜか頭たたかれたわ
で、走って帰って行ったよ
仕方ないから0辞めしてもらうかと揃えたらバケ
バケ揃えたまま放置していたらガイジ、まともな人と戻ってきたしね
でなぜかそいつに、障害あるからといってなんちゃらとか怒られたしな
だいぶイラついていたから暴言吐いたら消えたよふたりで
世の中かなり腐ってるなって感じましたよ
ガイジのくせにスロなんか打つなて言いたい
パワー系ガイジ恐るべし

57 :
>>56
たたかれたなら猟友会よばな
人に手を出した獣は銃殺だぞ

58 :
>>57
あ、母親の下着履いてウンコするスカトロマニアの超絶キチガイ野郎じゃん
自分が特殊学級卒のキチガイだからって嬉々として出てくんなよ汚らわしい

59 :
「今日は絶対に遅れないのだ! 絶対に遅刻しないのだ!」

学校へ向かう坂道を猛烈ダッシュでかけ上がるあやか
黒揚羽の誘惑を断ち切り、壁の向こうの怖い生徒達の間を縫って、あやかは全力疾走で昇降口に踊り込む

「あやかちゃん、今日は早いんだよ〜」 「お先なのだ〜!」

下駄箱の前で麦波ちゃんを抜き去る

「おはようなのだ〜!」
「プラチナびっくり!」

廊下を行く月火ちゃんを追い越す

「一番乗りなのだ〜!」
「ウェヒヒ! 二番になっちゃった!」

仲良し学級の引戸に手を掛けた鹿目ちゃんの脇をすり抜けて、あやかはとうとう一番乗りを果たす

「やったのだ〜! 連続遅刻記録はだいたい三ヶ月で終了となったのだ〜!」

あやかの顔は晴々としていた
それは遅刻を回避できたという事だけが理由では無い

「風上さん、鹿目さんおはよう! …風上さん、今日はよく遅刻しませんでしたね! 先生は信じてましたよ!」

二人の後を追って雫先生がやって来た

「雫先生、あやかやったのだ〜!」

何時にも増してたおやかな笑顔をくれる雫先生に、あやかも満面の笑顔で挨拶を返す

「あやかちゃん、凄いんだよ〜」
「プラチナおはよう!」

麦波ちゃんと月火ちゃんが少し遅れて教室の引戸を潜り、挨拶もそこそこに相次いであやかを祝福する

「ふふんっ! あやか、嬉しいのだ〜! 幸せなのだ〜!」

60 :
あやかの目に、今日の世界は輝いて見えた
今日は間違い無く自分にとって特別な一日になるであろう
遅刻をしなかった事、朝の教室に一番乗りを果たした事…
そして、母との死別からこの方、ずっと心の底に横たわっていた蟠り…
姉達に対する微かな微かな疑念が、どこまでも愚かな己の杞憂に過ぎなかった事…
それが分かった事の喜び
やはり悪いのはひたすら自分だったのだ
それに気付かない愚かな自分だったのだ
でも今日からは、もうそんな愚かな風上あやかではないのだ
ちゃ〜んと、きちんと、しっかり理解できたのだ
極めて簡単な事 悪い事をすれば怒られる
それを理解せずに謝ってばかりいても更に怒られるだけ
大事なのは、きちんと理解して謝る事
自分の悪かった所を理解して謝る事
それが分かった今は、もう何も怖くなかった
初めはさやか姉の笑顔の奥を無意識に覗こうと苦心していた
それは悲し事だったが、恐怖はそれを凌駕していた
きっと最期に裏切られる
上げて上げて落とされる
最大級のお仕置き
それだけさやか姉は怒っているのだ
そう思っていた
だから、さやか姉が何時もより五分早く起こしに来た時も、思わずベッドから飛び降りて土下座してしまった
余りにバカな自分

「お弁当のおかず、作り過ぎちゃたから朝ごはんに回しても良いでしょ?」

さやか姉の言葉をどうして疑ったりしていたのだろう
香り立つお味噌汁と湯気の立つ卵焼き
揚げたての海老フライと色鮮やかなアスパラの牛肉巻き

61 :
「これ… 本当にあやかが食べて良い… のだ…?」

昨夜、透明ビーズをリバースした食卓の上に並べられた、美味しそうな料理の数々
母の死後、あやかは決して食べる事を許されなかった、彼女にはご馳走と呼べる料理の数々
昨日の朝ごはんは冷や飯にふりかけだった
一昨日の朝ごはんは鮭の皮とじゃがりこ一箱
その前の朝ごはんはお仕置きで抜きで、その前は多分、魚肉ソーセージだった

「片付かないから早くして! お弁当も同じおかずよ! 残したら… 分かるわね!?」

キッチンで自分とあやかの物と思われるお弁当箱を、それぞれ綺麗なハンカチで包むさやかの顔は、それまで頻繁に見せてきた鬼の形相だった
だか不思議とあやかは恐怖を覚え無かった
寧ろ安堵した さやか姉は何時ものさやか姉だった

つまりそれは…

この朝の一幕が… やり取りが… 嘘偽りでは無い、真実の光景である事を物語っていたからだ
さやか姉が作ってくれた朝ごはんやお弁当を残せば、またあの激しいお仕置きを施されるのだ
それはそうだろう
腕に撚りを掛けて作ってくれたのだ 残せば怒られて当然だ
何故こんな当たり前の事が分からなかったのか…?
姉達は昔からちっとも変わっていなかったのだ
厳しくも優しい姉達、そのものだったのだ
粗相をして勘気を被ったのは自分が全て悪かったからなのだ
それに気付かずに、姉達をほんの僅かでも逆恨みしようとした自分が恥ずかしかった

「いただきま〜すのだ!」

何年ぶりだろう、朝の我が家で食する、暖かい白米の舌触り、歯応え…
せっかくのご馳走だったが、正直あやかは味を感じ無かった
不味くは無い きっと美味しかった筈だ
しかし、味覚を麻痺させる程の熱い何かが、氾流となって体内を隅々まで駆け巡り、あやかの心を掻きむしっていたのだ
食事に集中出来なかった
こんな日を… こんな朝が再び来る事を、果たして幾日待った事だろうか……

(お母さんに会いたい…)

あやかは天国の母との再会を、その時も強く望んだ
だかそれは、あの膝を抱えて涙を堪えていた時とは違う理由からだった

(幸せな自分の姿をお母さんに見せて、安心させてあげたい…)

あやかは心の中でそう呟いた

62 :
「今日のお昼は期待して良いのだ〜! スゴイご馳走を持って来たのだ〜! 驚くのだ〜!」
「ウェヒヒ〜 風上のあやかちゃん、もうお昼のお話してる」

あやかを中心に笑顔の華が咲いた
みんなが自分を祝福してくれている様な気がした
幸せの時間は何時もより、ゆっくり、ゆっくりと流れて行った



『キ〜ンコ〜ン カ〜ンコ〜ン』

「今日もみんなで食べると美味しい「のだっ!」」

麦波ちゃんの十八番を奪ってあやかが早々とお昼の始まりを宣言をする

「ウェヒヒ… 今日もおかず交換したら楽しい「のだ!」」

次いで鹿目ちゃんの言葉を遮り、おかず交換会の開幕を宣言する

「今日もプラチナ「のだ!」」

最後に月火ちゃんの定型句を素早く流用して、皆の代わりに承諾も宣言する

『トンッ』

机の脇に掛けたリュックの中から、薄桜色のハンカチに包まれた大きめのお弁当箱を取り出し、それを皆の前に勢い良く置く
ぎっしり詰まった中身を想像させる、重量感ある接地音が響く
本能に忠実で、今は食欲によって感情を支配される知恵故障娘達は、その箱の中身を透視して口内に唾液を溜め込んでいく
視線を集める行為は、あやかのプリンセス願望を大いに満足させる
鼻孔を広げ、花占いに興ずるが如く、ゆっくりとハンカチの結び目を解いていく

「お待たせされたんだよ〜 ミートボールでどうかな〜?」

麦波ちゃんが早くも茶色い肉団子を箸に刺して、一位逆指名をアピールする

「ウェヒヒ… 甘い物なら… チャンスかも…?」

鹿目ちゃんは半カットのキウイフルーツを摘まんで差し出す
昨日のウサちゃん林檎のインパクトが残るのか、デザートを高価値があると踏んであやかの気を引こうとする

「プラチナハムカツ!」

月火ちゃんは特に付加価値は見出だせない、ごく普通のハムカツを勢いだけで高級品に見せかけ、十分過ぎる印象を場に残した

「ふふふふ〜ん♪」

ご機嫌絶頂のあやかはハンカチ包みの下から現れた、重厚な黒塗りの玉手箱の様なお重の蓋に手を掛け、みんなを焦らすかの様に無駄な間を取ってから……

「どやっ、なのだっ!」

更に無駄なオーバーアクションを添えて、勢い良く取り払った

63 :
「……………………?」
「ウェヒヒ……?」
「…………………??」

だが、クラスメイト達の反応があやかの期待にそぐわない

「………………?」

その理由はあやかにも直ぐ分かった
目で感じる違和感
本来ならもっとこう… この瞬間、海老フライさんの尻尾の鮮やかな朱色や、卵焼きさんの映える黄色が… 視界に飛び込んで来なければならない… 筈……
だがそこには… あやかのお弁当の中身は…
一面の淡い灰色で満たされていた……



「ウェヒヒ… お砂は欲しく無い!」

鹿目ちゃんの突っ込みに拠らずとも、それが何処にもありふれた、砂粒… そう、それこそお家の庭先にもありふれた砂粒である事はあやかにも分かった
その砂粒が、何故かあやかのお弁当箱の中にぎっしり…

「!!……む、蒸し焼きかな〜?」

知恵故障娘達の中では博識の麦波ちゃんが、何処かで得た知識を元に、懸命に目の前の光景の謎を解きに懸かった
尤も、健常者には及びもつかないその発想ではあるが…

「!?」

ただ、同じ知恵故障のあやかには、その言葉に一定の説得力があったらしい
釣られる様に、空かした右手の指でお弁当箱の中の砂場をまさぐる

「!!」

果たして直ぐ様、硬い何かに指先に当たった
そのまま力を込めて、埋没物を掘り起こす

「プラチナ意味不…」

あやかの指に摘ままれて皆の前に姿を現した物
それはアルミホイルに包まれた美味しそうな何か…
では無く、透明な粒々を内包した冷蔵庫用脱臭剤だった

「………………」
「……ウェヒヒ……」
「…………」

あやかは漸く状況が飲み込めた

「……………………」

あやかの胃の奥で、何かが重い脈動を始めた



「今日はちゃんと仲良く食べてるかな〜?」

戸が引かれ、今日も少し遅れて雫先生が教室に姿を現した
固まる四人の様子に少し怪訝な顔を見せたが、あやかと目が合うと、何時もの優しい笑みを此方にくれた
大好きな筈のその笑顔
だが何故かあやかにはその笑顔が、今朝のさやか姉の鬼の形相と被って見えた

64 :
(残したら… 分かるわね……)



その声が、確かに雫先生の口から聞こえた気がした

「ウ… ウベロロロォォォォォェッ……」

半開きだったあやかの口を突いて、黄白色の胃液が噴水の様に吹き出した

「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「ウェ!? ウェヒヒ!?」
「いやぁぁぁぁん!!」

パニックが巻き起こる
予備動作を全く伴わなかったあやかの唐突なリバース
唯でさえ健常者よりレスポンスの鈍いクラスメイト達は、当然満足な回避行動は取れず、ほぼ真正面からそれを受け止める形となった

「風上さん!? 風上さん大丈夫!? しっかり!!」

雫先生だけが異変に慄き、慌てまどかの元に駆け寄る
高まる期待に比例して大量に分泌されていたあやかの胃液は、緊縮する胃壁に尚も絞り出され、彼女の周りの全てを浸食して行く
頭が熱くなり、意識が白み始める
何かを叫ぶグラスメイトと雫先生の声が徐々に遠くなる



(お母さん… あやかは… 早くお母さんに会いたいのだ……)

65 :
本日はここまで。
続きをお楽しみに

66 :
生き甲斐

67 :
《あやかとごろーまる》



まどか姉が遅番でない限り、原則風上家の夕食は18時半に始まり、19時には終わる

「ご馳走さま〜!」

茶碗を皿に重ねて、さやかは満足気な声をあげる

「食べて直ぐに横になったら、お豚さん一直線ですわよ〜」

茶箪笥の上のスナック菓子を掻っ攫い、カウチソファーにダイブする長妹の姿を目を細めて見送るまどか
言葉とは裏腹に、その表情には慈愛に満ち、充足感に溢れていた
愛しい妹の幸せそうな姿に、己もまた幸せを噛み締める
楽しい夕べ…
正にこの一時にまどかの労は全て報われる
嘗てあの様に無邪気だった頃の自分を、きっと母も今の自分と同じ様な気持ちで眺めていた事だろう
目頭がほんのり熱くなる
何があろうとも、この子だけは必ず幸せにして見せる
まどかは、胸の奥で朧気な輪郭を浮かび上がらせる母の面影に、そう誓うのだった

「ま… まどか姉! き、今日はあやかがお茶碗を洗ってあげるのだ…!」
「駄目よ…」

タイミングを見計らい、意を決したあやかの申し出は即座に却下された
ほんの一瞬向けられた冷たい流し目に、あやかは軽く失禁する所だった
普段ならここでシュンとする所…
否、そもそも普段なら、まどか姉に対して差し出がましい意見など主張する事は絶対無かった
だが今日のあやかは違った
どうしても茶碗洗いをさせて欲しかったのだ

68 :
「ま…… まどか姉はお疲れ… なのだ… あ… あやかに任せる… のだ…?」

慎重に言葉を選びながら、流し台に立つ長姉の背中に声を掛ける

「ダ〜メ、汚れるでしょ?」

勿論、まどか姉の言う"汚れる"は、あやかの事ではない 食器類の方だ
そんな事はあやかの低い知能指数でも分かる
足りない子のあやかが触ると、バイキンで汚れるのだ 当たり前なのだ

「せ… せめて自分のお茶碗は… 自分で洗うのだ… へへっ… あやかも、お嫁さんの練習… なのだ…!」

今日のあやかは粘りに粘った

「チッ!!」

だが次の瞬間、まどか姉が見せた鬼の形相と大きな舌打ちに、あやかが振り絞った渾身の闘志もあっさり駆逐された

「ご、ゴメンなのだ! あぁ… ゴメンなさいなのだ!」

数歩後退りした後、踵を返してダイニングから飛び出した
背後でガシャンと大きな音がなる
振り向けば、あやかの大事なパンダ茶碗が流し台の中で踊っていた
まどか姉が怒りに任せて叩き突けたのだ

(あやかの大切なパンダさん!? 割っちゃダメなのだ…!)

当然口には出せないその台詞を心の中で噛み締めて、あやかは天国のお母さんに、どうかパンダお茶碗が割れない様に守ってね、と必死にお願いするのだった

69 :
「ごろーまるさん、遅くなってゴメンなのだ…」

庭の物干し台の側、名も知らない低木群の植え込みを仕切る煉瓦ブロックの垣
カーテンから溢れる淡い光りに、ぼんやりと浮かび上がるその一角に屈み、あやかは足下にある大きめな石ころの一つをゆっくりと取り除く

「約束のハンバーグは手には入らなかったのだ… これで我慢して欲しいのだ…」

あやかはポケットから取り出した何かを、その石のあった場所に静かに置いた
残念な報告はどうしたって声の張りが無くなる
既に宵闇に深く包まれた庭先では良く分からないが、あやかの顔も寂しい笑顔を浮かべていた
もしその姿を認める者が在らば、さぞや困惑した事だろう
暗い庭の片隅で、ぶつぶつと寂しい独り言を呟く少女…
そう、あやかは独り言を呟いていた
否、あやかにとっては独り言ではない
彼女が話掛けた相手は、今手にした石の下に居るのだ

「ゴメンなのだ… ふふっ… ごろーまるさんは優しいのだ……」

あやかが設置したのは、硬くなった白米の塊だった
本当はここにハンバーグのデミソースを付けてあげたかったのだ
もしかしたら肉片も付けてあげられたかもしれなかった
だからあやかはまどか姉に茶碗洗いを志願したのだった
あやかも久しく口にしていない大好物の一つ、ハンバーグの風味を、少しだけでもごろーまるさんに味わって欲しかったのだ
自分の大切な友達が、自分の大好きな食べ物を、同じ様に好きになってくれたら…
そんな純粋な彼女の願いは残念ながら、今回は果たされる事はなかった
せめて付け合わせにするつもりで敢えて残した、あやかの晩のおかずである玉ねぎ炒めの一部だけでも回収したかったが、結局それも叶わなかった
大事な友達のディナーとして提供できたのは、こっそりシャツの胸元に付けて隠したご飯粒だけだった
それが申し訳なくてあやかは仕方なかった

「今度はきっと美味しい物を持ってくるのだ 今度こそ約束たのだ …それじゃまた明日、お休みなさいなのだ……」

あやかは地面に向かって小さく手を振ると、取り除いた石ころを静かに元の場所へと戻した

70 :
まどかて、ガイジぽい見た目よな
パチスロキャラで一番のガイジて坂本龍馬よな
坂本が狙われてますでなぜか自分を助けに新撰組殴り込んで今のわしらに敵はおらんとか自信満々で殴りこんだら
刀捨てちゃったって殺される
まじあのデコいらつく
なにがちゃっちゃっちゃじゃ
おもちゃのマーチかクソが

71 :
>>70
たかだか演出と賑やかしのキャラクターにそこまで感情移入出来るお前が圧倒的に断トツの
ガイジだよ
良く周りの人に言われるだろ?池沼とか気狂いとか

72 :
男はな〜!!
わーい!!

73 :
>>70
ガイジっぽさはドンチャンが一番だと思ってる

74 :
「あやかちゃん! 今日こそ燕の巣を見に行こうよ〜!」
終業のホームルームが終わり、麦波ちゃんがあやかを寄り道に誘う
「ゴメンなのだ〜! あやか、今日も先約があるのだ〜!」
だがあやかはつれない返事を返すと、鞄を背負い一目散に教室を駆け出て行く
「こっちが先約なんだよ〜!」
「ウェヒヒ! 風上のあやかちゃん、最近付き合い悪い! ひょっとして… 彼氏が出来たのかも!? ウェヒ!!」
「ぷ、プラチナ嫉妬!!」
クラスメイト達はそんな雑談を交わしながら、あやかの消えて行った扉を所在無げに見詰めていた


「ただいまなのだ!!」
門柱の陰から勢い良く飛び込んで来たあやかの、大きく明るい声が庭先に響く
二人の姉は未だ雀荘に高校での、それぞれの業の最中
その帰宅の挨拶は、あの石ころの下に向けられているのだ
あやかは庭の砂利上で、フィギュアスケートの選手の様な連続回転を決めると、背負った鞄を縁側に投げ出し、昨晩と同じ植え込みの側に滑り込む
知恵故障のあやかは感情が高まると、己の肉体を上手く制御出来なくなる
大声や多動と言った発作的症状を発症し、それが原因で度々姉達にお仕置きされるのだ
だが、ここにはまだその姉達はいない
彼女らの帰宅する迄の間が、あやかとごろーまるの倖時間なのだ
馴れ初めはもうよく覚えていない
きっと運命の導き… とでも言うべき物なのだろう
ある日の庭先で、あやかはごろーまるさんと目が合ったのだ
クラスメイト達とは学校で何時でも遊ぶ事ができる
だが、ごろーまるさんと戯れられるのは、この限られた時間しかないのだ

75 :
「ごろーまるさん、今日はじゃんけんをして遊ぶのだ!」
昨日と同じ石ころをそっとどかし、何事か今日の学校での出来事を楽しげに話掛ける
「じゃんけんぽんっ!」
「じゃんけんぽんっ!」
グー、チョキ、パーと指を折り、広げながら、あやかは一心不乱にじゃんけんに興じる
額に汗を浮かべながらも、その表情は嬉々として輝く
ちょうど前を通り掛かった近所の主婦が、哀れみの視線をあやかに投げて通り過ぎて行った
(あんなに可愛いいのに… 残念ね……)
二人の姉に負けず劣らず、あやかのその容姿も平均のそれを大きく凌駕していた
透き通る様な白い肌、小さな顔の大きな瞳にショートカットが良く似合う
そんなアイドルクラスの見て呉れが、逆に彼女の知恵故障っぷりを強烈なコントラストで浮かび上がらせており、それは見る者によっては恐怖に近い感情すら覚えさせた
母の亡き後、力を合わせて生きる美しき三姉妹
その中の残念な妹さん… 夜中に奇声や泣き声をあげる迷惑な妹さん…
それに恭しく寄り添い、介護する心優しいお姉さん達… 可哀想なお姉さん達…
それが近所に於けるあやかと姉達の評判であった

「あやかちゃん、今日も一人なんだw」 「!?」
最近やたらとあやかに構ってくる"イジワルなオジサン"
その声に我に帰れば、既に太陽は西の山嶺に掛かり始め、夜の気配が近付いていた
(いけないのだ! そろそろ"良い子"にしなくちゃダメなのだ…!)

76 :
あやかは何時も通り、"イジワルなオジサン"を無視すると、足下の石ころを元の位置に戻す

「ごろーまるさん、夕御飯までバイバイなのだ!」

そう語り掛けると立ち上がり、縁側の鞄を拐って玄関を潜った
勝手にお庭で遊んでた事が知られれば、姉達からこっぴどいお仕置きをされるのだ
"良い子"にして、呼ばれるまで決して自室から出ない…
それがまどか姉と交わした約束なのだ

「うぅ………?」

原因は分からないが、あやかは何時もこの時間になると体調が少し悪くなる
呼吸が荒くなり、胃が押し潰された様にキリキリ痛むのだ

(少し横になって休むのだ…)

長姉は年頃のあやかにも一切の家事手伝いをさせなかった
姉想いなあやかは度々家の手伝いを申し出たが、悉く却下去れた
あやかには生まれつき"バイキン"が居るのだそうだ
"バイキン"が居るのなら仕方がない 己の星を恨むしかない
あやかは呼ばれるまで、ただ部屋の中に居れば良いのだ
静かにさえしていれば、何をやっても自由なのだ
それさえきちんと守れば、ちゃんと夕御飯を食べさせて貰えるのだ





「あやか… ご飯ですわよ……」

その声を聞き漏らさない様に耳をそばだてていたあやかは、直ぐ様部屋を飛び出して階段を降りる
大きな音を立て無い様に、且つ遅れる事無く… 身に染み込んだ芸当

「まどか姉、さやか姉、お帰りなさいなのだ!」

姉達の帰宅から凡そ一時間、漸く挨拶の機会を得る
あやかは姉達が大好きである
姉達への挨拶には自ずと情が籠り、ボリュームが高くなる

「うるさいなぁ…」
「早くお食べなさい…」

77 :
今日もお疲れの姉達の機嫌を些か損ねさせた気がして、あやかは畏まりながらテーブルに着く
今夜の姉達のメニューはまどか姉の特製海老シューマイ
あやかのメニューは生卵一個である
まどか姉はあやかの知恵故障を治す為、何時も特別メニューを拵えてくれるのだ

「いっただきま〜すのだ!」
「うるさい!」

お腹ペコペコのあやかはまたしてもテンションコントロールに失敗し、既に食事を開始していたさやか姉に睨まれる
あやかは恐縮し、そろそろと生卵に手を伸ばした

(今日は海老シューマイなのだ… あれも美味しいのだ〜… ごろーまるさんに……)

視線の隅で姉達の膳を伺いながら、なんとか石の下のお友達にも味合わせてあげたいと夢想する

「卑しいなぁ… こっち覗かないでよ…」

さやか姉にその視線を気付かれ、毒づかれる

「ち、違うのだ… あやか、そんなんじゃ……」

まどか姉が少し遅れて席に着いた
あやかはハッとなる
もしかしたら今のやり取りは、まどか姉の特別メニューに対する不満として捉えられるのではないか?
あやかは小さく震え出した身体をなんとか宥めて、まどか姉の顔色を伺う

「!?」

だが、そこで見せたまどかの行動はあやかの予想を大きくかけ離れていた
席に着いたまどかは、無言で自分の皿の海老シューマイを一つ、あやかの生卵用の器に入れた
あやかはその行動の意味が暫く理解できなかった

78 :
「………い… いいのだ!?」

本音を言えば、あやかだって姉達と同じ物を食べたかった
だが知恵故障を治す為だと言われ、治りたいあやかはずっと我慢していたのだ
知恵故障故にバイキンが涌く
早く姉達の様に綺麗で清潔に成りたかったのだ
まどか姉はあやかの問いには特に反応せず、静かに味噌汁に口を付けた
さやか姉は口を少し尖らせて、不満そうな表情を見せた
きっとあやかの知恵故障が治らなくなる事を憂いているのだろう
そんなさやか姉もまどか姉に何事か話を掛けられて、にこやかに談笑を始めた

「………………」

あやかは箸に刺したシューマイを目の前に掲げる

(ゴクリ……)

口内に溢れる大量の唾液を無意識に飲み込む
最後にシューマイを食べたのは何時だろう?
給食に出た気もするが、それとは全く物が違う

「あ〜〜ん……」

大きく口を広げてそれを一口に頬張る…… 寸前で慌てて所で箸を止める

(そうだったのだ! ごろーまるさんの晩御飯…!)

危うく理性を失う所だった
これはごろーまるさんにも味合わせてあげられる絶好のチャンスなのだ
あやかは一口に頬張る代わりに、がぶりとかじり付く
海老の風味と甘い肉汁、其がバリバリに黒焦げた皮の苦味に因って引き立たされ、口の中に広がる

「美味しいのだ〜!」

思わず感嘆の声を上げる

「うるさい!」

さやか姉に再び叱責される だがあやかの頭の中は既に、喜ぶごろーまるさんの姿で満たされていた

79 :
本日も有難うございます

80 :
ありがとう

81 :
『お祭り男、ドンちゃん! アマゾンの奥地で仕掛け花火対決に挑む! ……世界の果てまでユニバG!』
「バリ… ボリ………?」
夕食後、何時もの様にソファーに寝そべり、テレビを見ながら駄菓子を摘まんでいたさやかは、視線の隅、レースのカーテンの向こうに動く影を認める
「………………」
美人三姉妹だけが住まう風上家は、時として招かれざる客を呼び込む
あやかはゆっくりと身を起こすと、カーテンの向こう、庭先へと意識を向ける
別に恐怖は感じない
少林寺拳法を嗜むさやかの戦闘能力は、そこらの男のそれを遥かに凌駕する
まどか姉に至っては、そのさやかでさえ軽く往なされる程である
いつぞや覗き目的で侵入した不逞な輩は、さやかとまどか姉で両手足の骨を粉砕骨折させた上で、警察へと突き出した
明らかな過剰防衛であるが、この絶世の美人姉妹がそれを行うなど、誰一人信じる者は居なかった
夕食時のキモウトの言動に、些か鬱憤の溜まっていたさやかは、指の関節を鳴らしながらカーテンに近付く
確かに最近身体が重い… 気がする
少しダイエットするか…
さやかはカーテンの向こうの変質者を挑発するかの様に身体をくねさせると、頃合いを見て勢い良くカーテンを開けた

82 :
「ごろーまるさん、ごろーまるさん! 今日はやったのだ! ご馳走なのだ!」
シューマイの欠片を溢した振りをして膝頭に挟み、隙を見てそれをパンツのゴムの下に隠す
身体のあちこちを油まみれにしながら、なんとかあやかは友達のディナーを用意する事が出来たのだ
昨日がっかりさせた分、今日はお腹いっぱい食べて欲しい
例の石ころの側に屈み、ゆっくりとそれを除いていく
「さぁ! 召し上がれ、なのだ!」
あやかは掌の中の海老シューマイの成れの果てを、ごろーまるさんの眼前へと据えた
「ふふふっ… 美味しいのだ? あやかも美味しかったのだ!」
その時である
あやかの鼻先を、嗅ぎ馴染みのあるシトラスの香りが仄かに通り過ぎた
その瞬間、あやかの全身の血管が萎縮する
そのシトラスの香りに条件反射を起こしたのである
その香りはあやかの副交感神経にとって、恐怖と緊張を連想させる物だったのだ
「!?」
背後から視界に飛び込んできた、その白く長い腕を認めても、知恵故障のあやかは状況を瞬時に飲み込む事が出来なかった
『シュュュュュュッ!!』
その腕の先で何かが音を立てて白煙を吐き出す
不快な刺激臭が立ち込め、あやかとごろーまるさんを包み込む
「だっ!? ダメェェェェェェッッッ!!」
漸く状況を飲み込んだあやかが、絶叫と共にその腕を払い退ける
「ごろーまるさぁぁぁぁぁんっ!!?」
あやかは悲鳴に近い叫びを上げて、ごろーまるさんの側に顔を寄せる
ごろーまるさんは苦悶を全身で表す様にのたうち回る
「し、しっかり!? あぁ、しっかりなのだぁぁぁっ!!」
あやかは四つん這いになって、フゥフゥとごろーまるさんに息を掛ける
彼女の中では人工呼吸をしているつもりなのだ
「……キモッ」
その様を冷めきった目で眺めながら、さやかはぼそりと呟いた

83 :
「あぁ…… ごろーまる… さん………」
あやかの懸命の人工呼吸にも拘わらず、ごろーまるさんはゆっくりとその動きを止め、そしてひっくり返ったまま動かなくなった
「近所から白い目で見られる事は止めて欲しいんだけど…?」
殺虫スプレーを手持ちぶさたに片手お手玉しながら、さやかは妹を嗜めた
「ど…… どうして…? どうしてこんな事を… するのだ……?」
あやかは四つん這いのまま、顔だけをゆっくりと次姉の方へ向けた
リビングから届く弱い光りに照らされたその表情は、怒りとも悲しみともつかない、決壊寸前の感情に紅潮していた
「……それはこっちの台詞なんだけど…? 一体何やってんの、アンタ? ……え? 何やってんのよ…!?」
さやかの言葉も徐々に怒りの感情で染められていく
「……いくらさやか姉でも… やって良い事と悪い事がある… のだ…!」
あやかはゆっくりと立ち上がる
「はぁ!? 何? 説教!? ダンゴ虫とお喋りしてるアンタに言われる筋合い無いわw」
「ダンゴ虫じゃないのだ! ごろーまるさんなのだ!!」
「キモッ! キモ過ぎるんだけどw!!」
さやかは若干動揺していた
あのあやかが、ここまで自分に楯突く事など今まで無かった
その動揺を掻き消す様に、怒りにボルテージを自ら上げて行く
「アンタも虫並みの知能なんだから、これで死んじゃいなさいよっ!」
『プシュュュュュュ!!』
あやかの顔面目掛けて殺虫スプレーを噴射する
「!? ケホッ!! ゲホッ!?」
あやかは顔面を押さえて身を捩る
「ハハッ バ〜〜カ! 何がごろーまるよっ! ゴミ、カス、ムシケラ!!」

84 :
さやかの中で積もりに積もった物が、一気に噴出した
完璧な美貌を備えて生まれた自分
その輝かしい筈の人生に於いて、汚点で足手まとい以外の何物でもない、知恵故障のキモい妹
やがて愛する者が現れた時、このクリーチャーを妹として紹介せねばならないのか…
そんな無念と口惜しさに枕を濡らしたのは、一晩二晩では無かった
いっそ死んでくれたらいいのに…
稀にこいつの帰りが遅い時は、どこかの路上で肉片になっているか、どこかの堤に浮いていてくれないかと、神に祈ったりもした
そして、呆けた笑顔でこいつが玄関先に現れる度に、この世には神も仏もないのかと落涙した
殺虫スプレーで死ぬ事はないとは、当然分かっている
でも死んで欲しいと心から願ってボタンを押したのだ
実の妹の死を願う、下衆極まる鬼畜姉!
私がこんな風になったのはあやか、アンタのせいなのよっ!!
「……ふんっ!」
殺虫スプレーの噴霧が終わると同時に、あやかは拳を振り上げた
生まれて初めて…
未だ嘗て、誰一人にも暴力など振るった事の無いあやかが、初めて人に…
それも実の姉に危害を加える為に、拳を振り上げた
彼女の心の中でも、何かが音を立てて崩れ様としていた
実の姉に拳を振り上げる、下衆極まる鬼畜妹
あやかはこんな事したくないのだ… でも… さやか姉が… さやか姉が悪いのだ…!
「…………何よ? ぶつなら早くぶちなさいよ!」
さやかはズンと身を乗り出し、顔をあやかの眼前に差し出す
最早双方、感情に因ってのみ行動を制御されていた
そこに健常者と知恵故障の境は無かった

85 :
「ホラやれっ! 早くぶちなさいよっ! 意気地無し!」
さやかは更に顔を突き出し、あやかを全身で圧迫する
あやかの振り上げた腕が震える
さやか姉の報復を予見してではない
それはこの腕を振り下ろした後に訪れるであろう、未曾有の世界への恐怖によってであった
この腕を振り下ろしたらもう、元の場所には戻れない
あやかはそれでも、さやか姉が大好きなのだ
さやか姉をぶちたくなど無いのだ
幼い日、二人で遠くまで遊びに出掛け、揃って迷子になってしまったあの日…
さやか姉はずっとあやかの手を引き、歌を歌って励ましてくれた
もう疲れて歩けないと言うあやかを、小さな身体で背負ってくるた あの歌声、あの温もり…
この腕を振り下ろした時、その全てを失う事だろう
あやかはそれを恐怖した
「苦しみながらRて良かったね、ごろーまる… ザマ〜ミロ!!」
『ペシッ』
「………………イタ……」
あやかはさやか姉の側頭部を軽く叩いた
もうどうしても我慢が出来なかった
「い… 痛い…? で、でも…… ごろーまるさんは… ごろーまるさんは、もっと痛かったんだよ…? 苦しかったんだよ…? ごろーまるさんに… ごめんなさい… してね…!」
痛い程の打撃では無い
だがあやかの声は完全に裏返っていた
「…………あたし… 妹にぶたれちゃった…… 何やってんだろ… あたし…… ダンゴ虫に負けちゃった……」
さやかの見せた反応は、あやかの予想した物とは全く異なっていた
否、正確に言えば、予想可能な物の中で最悪だった
ポリポリと叩かれた側頭部を掻きながら、さやかは玄関の中に消えて行った
「さ… さやか姉……!」
思わずその後を追うあやか
玄関を上がるさやか姉の寂しげな後ろ姿が、あやかの胸の中を滅茶苦茶に掻きむしった
「まどか姉ぇ……!」
廊下の突き当たりで奥に消えたさやか姉
その彼女の、今まで一度も聞かせた事の無い号泣が、玄関先まで響いて来た

86 :
あやかの全身がガタガタと震え始め、口の中で歯を鳴らした
自分の仕出かした事の大きさを、徐々に徐々に理解し始めた
「あぁ… さやか姉……」
そこで漸く自分が泣いている事に気が着いた
いつから泣いていたのかは分からない
ただ、あやかの顔は涙でぐじょぐじょだった
大きな足音が、さやか姉の消えた先から聞こえて、今度はそこにまどか姉の姿が現れた
遠すぎてその表情ははっきりとは分からない… 筈だった
だが何故か、これまた今まで見た事も無いような、般若の如き怒りの表情である事が読み取れた
そういうオーラを漂わせていた
超能力者で無くとも感じ取れる程の強烈なオーラ…
はっきりと特定は出来ないが、その手に何かが握られていた
多分それは包丁だと、あやかは根拠も無く思った
そのまどか姉が大股で此方に向かって来る
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
恐怖と後悔と絶望の織り混ざった、湿っぽい絶叫を上げて、あやかは庭から飛び出した
暗いアスファルトの地面を蹴り付けて、ネオンと車のヘッドライトが彩る夜の街へ、宛も無く駆け出して行った

87 :
これ見て笑ってるけど、自分のガキがあうあうあーで産まれてきたら最悪だ

88 :
普通に続きを読みたくなる。欲を言えばもう少しバイオレンスが欲しい

89 :
>>87
最近は腹の中でわかるのもあって流産させるらしいね

90 :
あやかとか言う常にガイジ扱いされてるキャラ

91 :
まどまぎてこんな話やったんやな
ちょいと見たくなったわ

92 :
>>9毎ゲーム「知恵」はうぜえw

93 :
>>89
お前も相当キチガイだから生まれてくる前に殺されといたらよかったのにね
スカトロガイジ

94 :
緊急ミッション!ガイジを堕胎せよ!

95 :
甲虫が街路灯に身体を打ち付ける音が、異常な迄に大きく響く
何時の間にか忙しい車の往来も無くなり、そこが繁華街の片隅であった事を忘れさせる程の静寂が、辺りを包んでいた
どの位の時間が経った事だろう?
宛も無く走り回って辿り着いた小さな公園
その生垣の隙間に腰を降ろし、あやかはずっと膝に顔を伏せていた
藤棚の下の小さなベンチと水飲み場、小さな花壇と躑躅の低い生垣、そして小さなあやかの背中と影…
小さな小さなその世界…
「!?」
不意に肩を叩かれた気がして、思わず顔を上げる
何かを期待する微かな笑顔がそこに貼り付いていた
だが、あやかの肩を叩いたのは、白く優しい手では無く、闇の空から舞い降りた水滴だった
「………………」
程無く、ピタピタと雨粒が辺りに跳ね始めた
あやかはじっと暗い空を眺めたまま動かなかった
あやかが最初に縋ろうとしたのは、大好きな雫先生だった
だが知恵故障の彼女には、雫先生に連絡を取る術が思いつかなかった
それにもし連絡がとれても、雫先生はあやかの味方にはなってくれないのではないか、との思いもあった
何せ姉をぶつ様なとんでもない不良である
多分きっと間違いなく、雫先生はあやかを嫌いになるだろう
同じ理由でクラスメイト達を頼る事にも尻込みした
この世にあやかの味方など居る筈は無いのだ…
この広い世界で、独りぼっちなのだ…
何時しか雨は勢いを増し、本降りの様相となっていった
雨粒の刺激が心地良かった
雨があやかの涙とバイキンを、綺麗に洗い流してくれる様な気がした
濡れた身体が寒さにブルッと震える
このままで良いのだ
きっと明日の朝には、自分は冷たくなって息絶えている事だろう
きっとその身体は、少しは綺麗な物になっている事だろう
やっとお母さんに会える… 早くお母さんに会いたい…
でも… きっとお母さんも……

96 :
「!?」
何者かの気配を唐突に側に感じ、そしてそれがあやかの頭上に傘を差した
「風邪、引いちゃうよ」
その声の方に顔を向ければ、あやかと同じ位の年頃の女の子が、優しい笑顔を湛えていた
どこかのお嬢様の様な桃色のドレスを纏い、長く伸ばした髪が街路灯の明かりを受けて、まるで天使の様に神々しく輝いていた
あやかは嬉しかった
この世にまだ自分に優しさを向けてくれる人がいた事が…
こんな美しい世界に生まれた事が…
だから踏ん切りがついた
もう未練は無い
この美しい世界に自分は不要なのだ
「いいのだ… エヘッ… あやかは風邪を引きたいのだ……」
再び駆け出そうと立ち上がるあやか
その眼前に女の子は純白のハンカチを差し出す
微かに香る甘い何かの香り
「面白いね、あやかちゃん ねぇ、今から私のお家に来ない?」
「えっ!?」
あやかが憧れたプリンセスのイメージ
こんな時間にこんな場所に等とは、知恵故障の彼女には思いもよらぬ発想である
只々優しい彼女の笑顔に魅了されていた
急に優しさに甘えたくなってきた
「う… うん…… でも……」
あやかはずぶ濡れの己の姿を見詰める
「やった! じゃあこっちだよ!」
女の子はそんな事は気にも止めなかった
あやかの手を引くと、二人の間に傘を差しながら、公園の裏手から奥路地へと向かって歩き始めた
彼女の手の温もりが、冷え切ったあやかの身体と心をぽかぽかと温めた
「あ… あの…… あやかはあやかなのだ…!」
良く分からない自己紹介をする
「あやかちゃん、宜しくね!」
女の子は更に丸い笑顔をくれた
触角の様な前髪が踊る様に揺れる

97 :
「あの… お名前……?」
知恵故障とは言え、初対面の挨拶は自己紹介を含む物だとは承知していた
相手が気付かないなら、教えてあげるのもマナーなのだ
「あぁ、私? 私は…… ご…… で…… ば…… ぱ… ぱーれんだよっ!」
人気の途絶えた裏道を相合い傘は進む
「ふふっ ぱーれん? 変わったお名前なのだ! ぱーれんちゃん、宜しくなのだ!」
あやかの顔に笑顔が戻った
「もう雨上がったね」
「ほんとなのだ」
その笑顔が雨雲を払拭したかの様に、何時の間にか暗い夜空にお月様が浮かんでいた
「あやかちゃん、こっちだよ」
傘を畳んだぱーれんが再びあやかの手を取り、細い路地裏の更に脇道に導いて行く
「!?」
雑居ビルや草臥れた商店が、覆い被さる様に建ち並ぶその奥は、ぼんやりとした光によって満たされていた
「うわぁ! なんて綺麗な所なのだぁ!」
二人の行く先で路地は急に開けた
そこは、赤、青、黄、緑… 色とりどりのぼんぼりや提灯が辺り一面、頭上は空が見えなくなる程覆い尽くす、眩い光の世界だった
その光の中、真紅の柱ときらびやかな装飾を施された屋根を持つ荘厳な建物が、幾つも建ち並ぶ
「まるでお祭りなのだ!」
確かに何処からか賑やかな祭囃しも聞こえてきた気もする
あやかの興奮のボルテージは最高潮に膨れ上がる
「ふふっ 気に入って貰えて良かった」 「ここが全部ぱーれんちゃんのお家なのだ!?」
「ふふふっ」
ぱーれんはあやかの質問に答える代わりに彼女の手を引き、その中の一際大きな一軒にあやかを誘った
細かな銀の装飾が一面に施された大きな扉をぱーれんゆっくり押すと、音もなくそれは開いていった
「お… お邪魔しますなのだ!」
そこはまた、お伽噺の様な空間だった
緻密な風景画が描かれた天井から吊るされた橙色の大きな提灯が、それを支える青く塗られた太い木の柱と、隙間無く敷き詰められた真っ赤な絨毯を、色鮮やかに浮かび上がらせる
その提灯の真下に、白いテーブルと白い二脚の椅子が備えられていた

98 :
「凄いのだ… こんな所に住んでるなんて… ぱーれんちゃんはお姫様なのだ…」
「ふふっ 直ぐに温かい飲み物を用意するね あと着替えも…」
そう言うとぱーれんはあやかを白いテーブルに着かせ、自身は部屋の片隅に掛かる紫色の幕の奥に消えて行った
「凄いのだぁ……」
あやかは改めて周囲を見遣る
あやかの憧れる"西洋のプリンセス"とは趣が違うが、これはこれで十分にお洒落で素敵な世界だった
「!?」
暫く辺りに見入っていたあやかは、絨毯の上に落ちている何かを見つけた
真っ赤な絨毯の上で目立つ、白い塊…
(なんなのだ…?)
ゆっくりと近付き手を伸ばす
(…………?)
それはバリバリに乾いて固まった白米の塊だった
「あやかちゃん!」
「!?」
背後からのぱーれんの声に慌て振り返る
「私とおんなじ服でも良いかな?」
その手にはぱーれんと色違いの、菜の花色のドレスが掲げられていた
「うわぁ! ドレスなのだ! 菜の花のプリンセスなのだ!」
あやかは鼻孔を膨らませる
「ふふふっ …はいタオル、後ろ向いてるから着替えてね」
その言葉も終わらぬうちに、あやかはびしょびしょになったTシャツを脱ぎ捨て、身体を拭くのもそこそこに、ドレスの裾から頭を通す
「ドヤッなのだ! 似合うのだ!?」
サイズはあやかにピッタリだった
スカートを摘まんで持ち上げ、くるりくるりとその場で回って見せる
「似合うよ、あやかちゃん! …今、お茶も入れて来るね」
あやかの脱ぎ捨てたTシャツとタオルを拾い上げ、ぱーれんは再び幕の奥に消える
あやかはそんな事は気にせずに、念願のプリンセスに変身できた喜びを全身で表すかの様に、絨毯の上で小躍りしていた

99 :
「……そんなに嬉しい? あやかちゃん」
銀のトレイの上から、ティーカップをあやかの前に置く
「嬉しいのだ! ありがとうなのだ! 明日、学校に着て行きた……」
そこまで言ってあやかの顔は急に曇った
辛い現実に呼び戻された
家を飛び出して来たのだ
学校へなどどうやって行けるのか…
「……レモンティー、冷めないうちにどうぞ」
ぱーれんの勧めに、ティーカップを手に取り、口元へと運ぶ
芳しいレモンと紅茶の香りが鼻腔に広がる
またほんの少し、夢の世界に戻って来れた
「……美味しいのだ! あやか、こんな美味しい飲み物、飲んだ事ないのだ!」
決してお世辞ではなかった
温かい紅茶など飲んだのは何年前だろうか?
喉を通って胃に落ちる温かなうねりに、己の身体が冷えていた事を認識させられた
「……そ、そだっ あやか、ぱーれんちゃんの事、何も知らないのだ! 色々教えて欲しいのだ!」
それは本心だったが、あやかは現実逃避をしたかったのだ
自分の夢を現実にした様な、ぱーれんちゃんの世界に浸り、無惨な現実から逃れたかったのだ
「ぱーれんちゃんは… お家の人は…? 他の建物に居るのだ?」
お茶請けとして出されたクッキーをじっと眺めながら、あやかは切り出した
「ふふっ 安い物だけど、遠慮なくどうぞ」
ぱーれんはあやかの視線を察して、改めてお茶菓子を勧めた
「ほ… 本当にいいのだ? ぱーれんちゃんは優しいのだ!」
あやかにとってクッキーなどというものは、クラスメイトの家に遊びに行くか、お仕置きで大怪我を負った時にしか食べられない物だった
それが目の前の皿の上にどっさり…
あやかは自分のした質問の事など忘れて、その一枚に手を伸ばした
「お、美味しいのだぁ! 高級なお味なのだぁ!」
興奮気味に幸せを噛み締めるあやか
そんな彼女の姿を、ぱーれんはまた、優しい笑顔で見詰めた

100 :
「私は独りぼっちなんだ……」
ぱーれんはポツリと呟いた
「!? …ぱーれんちゃん、お父さんもお母さんも居ないのだ?」
「…うん」
小さく頷いて、ぱーれんもティーカップに口を付けた
「そーなのだ… あやかとおんなじなのだ」
今度はあやかが優しい笑顔を見せた
ぱーれんちゃんが己と同じ境遇にあった事が嬉しいのではない
彼女を励ましたかったのだ
「でもあやかちゃんには、優しいお姉さん達が居るでしょ?」
「!? ……ど、どうしてぱーれんちゃん…?」
若干目を丸くしてぱーれんの顔を見詰めるあやか
彼女の言葉を遮ってぱーれんは続けた
「私にも、昔は沢山の兄弟姉妹が居たんだ… だけど、みんな居なくなっちゃった…」
悲しい筈のその言葉とは裏腹に、ぱーれんの顔はより一層慈愛に満ちて輝いた
「……ぱーれんちゃん… 可哀想なのだ……」
あやかはその彼女の顔を見続ける事が出来なくなり、俯いて目を閉ざした
現実を逃避した先で、自分と同じ様な辛い現実を見てしまった
「でも、あやかちゃんと出会えたから…」
その言葉にあやかは顔を上げた
「あやかも! あやかも、ぱーれんちゃんと出会えて良かったのだ!」
互いの笑顔を見詰め会う二人
そう、辛い現実の果てに出会った二人
あやかはこの出会いが、きっと二人の現実を良い方向に変えて行ってくれると確信していた
「ぱーれんちゃん、改めてお願いするのだ! あやかのお友達になって欲しいのだ!」
その言葉にぱーれんは大きく頷いた
「あやかちゃん、約束だよ ずっとずっとお友達でいてね」
その言葉に今度はあやかが大きく頷いた


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