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【王道ファンタジー】ホワイトクロス騎士団【TRPG】


1 :2017/04/16 〜 最終レス :2018/10/17
ジャンル:王道ファンタジー・組織もの
コンセプト:宗教色の強い西洋風ファンタジー世界のとある騎士団の物語
期間(目安):定めなし
GM:なし(NPCは基本的に全員で共有とする。必要に応じて専用NPCの作成も可)
決定リール・変換受け:あり
○日ルール:一週間
版権・越境:なし
敵役参加:あり(基本的にGMが出すが、必要に応じて)
名無し参加:なし
避難所の有無:なし


名前:
年齢:
性別:
身長:
体重:
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:
職業:
性格:
能力:
武器:
防具:
所持品:
容姿の特徴・風貌:
簡単なキャラ解説:

2 :
世界は荒れていた。
――「帝国か、北方か」――当時どこでも囁かれていたこの言葉は、
この大陸が二つの勢力によってほぼ牛耳られていたことを意味する。

1000年以上も保たれていた各国間の均衡は、魔術と錬金術の発展によって、
瞬く間に崩壊し、二つの大勢力を南北に生み出した。
それらは魔術師や魔族、果てには魔物まで利用し、各地を征服した。

南からはジャイプール帝国。爆薬や大型の魔物を利用した軍団、不死と言われる「狂帝」の存在によって
瞬く間に周辺諸国を滅ぼし、または従属させる。
北からは北方、通称「ニュンガロイム」が有力部族である東西ヒルホトを統一して一気に南下、
鉄騎兵や妖術兵などの活躍により、南の諸国を蹂躙し、荒らし回っていた。

丁度帝国と北方の中間に位置する「千年王国」と言われたアースラント王国の国王フィリッポ4世は、
かつて散々「庇護」の名目で散々コケにしてきたヴィクサス神聖国を頼り、「神聖連合」を結成。
周辺諸国に北方勢力と帝国への対抗を呼びかけた。
「正しき教えこそが世界を救う」として――

そしてアースラント王国とヴィクサス神聖国の丁度中間あたりの湖畔に位置する中立都市ジェノアを中心とするジェノア共和国。
ここに「ホワイトクロス騎士団」が結成される。
騎士団とは名ばかりで、ジェノアのヴィクサス神聖国教会の支部司教が立てた戦闘集団である。

物語は、こうして幕をあける…!

3 :
名前:フィッチャー・ザ・グレート
年齢:24
性別:男
身長:180
体重:84
スリーサイズ:(大体の体格でも可)
種族:人間
職業:元海賊/騎士
性格:豪快で先のことは考えないタイプ
能力:とにかく大剣を振り回す能力
武器:グレートソード(かなり鍛えられた鋼鉄製のやつ)
防具:プレートメイル(結構無骨な感じの板金鎧)、ヘルム
所持品:殆どなし! 食い物中心
容姿の特徴・風貌:金髪で短く、眉なしで赤ら顔のマッチョマン。顔は整っているがイケメンとは言い難い。
簡単なキャラ解説:無骨なプレートメイル兵。本名はフィッチャー・レーガン。
宗教にはまるで感心がなく、ジェノア付近で海賊をやっていたが帝国軍によって迫害されて止む無く教会の傘下に入る。
ホワイトクロス騎士団の第三分隊長に抜擢されてしまっており、今作の主人公の一人。

4 :
ジェノアの海岸通りの外れに酒場が一つ。

鉄錆と海産物の腐ったような臭いがするこの場所に、今日も一人の男がタムロする。
名はフィッチャー・レーガン。またの名をフィッチャー・ザ・グレート。

巨大な剣を引きずるようにしてあまりデザインとしては宜しくない、板金鎧をギチギチと鳴らしながら
いつもの席へと腰掛ける。

「景気悪そうな顔してんな、フィッチャーよう」

もう何度目か分からないが、浮浪者のおっさんに声を掛けられる。
マスターはこちらすら振り向かない。ウェイトレスの姉ちゃんが無愛想な顔で応対する。
と、いうのもこの男の羽振りの悪さは評判だからだ。
おっさんは浮浪者と決まった訳ではないが、いつもここに居ることから、そう思っている。
名前すらも知らない。興味も持てない。

「いつもの一杯でいい」

それだけ言うと、兜をテーブルに置き、椅子へと腰掛ける。
ガララ、ズザザ…ガシャン…とゆっくりと鞘の無い大剣が立て掛けられたまま崩れ落ちるも、それを戻す気力すらない。
エールが置かれると、それを一口すすり、ため息をつく。

「なぁ、今日も海には出ねえのかい? 海賊王さんよ」

その名前を出されると苦笑いをする他無い。
無造作に借り上げられた金髪をボリボリと掻くと、テーブルをドンと叩く。

「海賊王ってヤツはな、帝国に取られちまったんだよ、海賊王はよ。今は教会の人間だ」

「教会の祈りの言葉って何だっけ?オナシャス、そんな感じだったよな?」

「いや、それを言うなら『プレシャス』だ。お偉い連中はいつも何かあるとプレシャスプレシャス言いやがる」

フィッチャーがため息をつく度に、おっさんが合いの手のように質問責めにしてくる。

「んでよぉ、あんたがいつも言ってた海賊王十戒っての、何だっけ? 忘れちまった」

おっさんが煽るように聞いてくる。勿論馬鹿にしているだけだ。覚えていないはずがない。
フィッチャーはもう一度ため息をつくと、深呼吸をして、搾り出すように、言う。

「「その一、『海、最高。陸なんてナンセンス』!」」

おっさんが勝手にハモり、それを知っていたかのようにフィッチャーがおっさんと一緒に笑い出す。
いつもは馬鹿笑いしていたが、いつまでも全開で爆笑するおっさんを放置し、フィッチャーは額に手を当てて苦笑いした。

「海、か。出てえなぁ…」

今日も訓練と見張りの仕事。そして、明日も、明後日もずっとそうだ。
カネはいい。自分のようなならず者上がりが分隊長にまでなれるのだから、それだけには感謝している。
それにここは自由がある。ヴィクサスの本国ならば、聖騎士が酒場で飲もうもんなら即クビだ。

「あんた、宿舎に住んでるんだってなぁ? どうよぉ、良いモン食えんのか?」

「昼メシだけはな。朝と夜は殆ど何も食ってねえ。俺はカネを貯めてるんだ」

と、その時、新たな来客があったことを扉の鈴の音が告げた。

【導入部分はこんな感じで、どなたでも大歓迎です。
できれば三人以上、二人、最悪一人でもスタートします。
敵役は今のところは出番は無いと思いますが、やりたい方はドゾ。】

5 :
名前:セレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール
年齢:27
性別:女
身長:189
体重:69
スリーサイズ:女性らしい体格に引き締まった筋肉が付いている
種族:人間
職業:教会騎士
性格:高慢かつ挑戦的
能力:貴族としての作法・宗教学・歴史学など
武器:祝福槍「シャルジュ」祝福剣「ルクレール」
防具:ミスリル製の全身鎧・フルフェイスのミスリル製兜
所持品:家の紋章が織られたハンカチ
容姿の特徴・風貌:金髪碧眼、かつ美人と称される顔立ち。宿舎以外ではミスリル製の全身鎧を常に身につけている。
簡単なキャラ解説:
ヴィクサス神聖国における名門シュヴィヤール公爵家の一人娘。
幼い頃教会騎士に憧れ、初の女性神聖教会騎士として実家の妨害すら気にすることなく就任。
教会幹部の護衛や野盗討伐などで名を挙げ、美貌と実力を兼ね備えた結果現在に至るまで
婿候補が一人もいなくなってしまった。
ホワイトクロス騎士団にはヴィクサス神聖国からの出向組の一人として着任しており、
第二分隊長として日々教会の意志に従い、戦っている。

6 :
新たな来客、それは一人の女性だった。
美人ではあるが、ミスリル製の全身鎧と腰に提げた長剣を身につけて平然と動く様からは
歴戦の戦士めいた雰囲気が感じ取れる。

「フィッチャー!フィッチャー・レーガンはここにいるか!」

騒々しい酒場の中でもよく通る声が、女性の口から発せられた。
女性は答えを待つことなく狭い店内を歩き、途中一人の酔客にぶつかってしまった。

「あ〜?なんだ姉ちゃん、痛いじゃねえか。
 酒場でそんな物騒なもんぶら下げてんじゃねえよ、ハハハ」

そう言って酔客は彼女の腰にぶら下げた長剣に触ると見せかけ、尻を触ろうとするが――
直後、彼の視界は真っ暗になった。

「……あまり女性の身体に触らない方がいいぞ、酔っ払い」

酔客が尻を触ろうと手を伸ばした瞬間、女性は頭を掴み海水と汚れで腐りかけた木の床に叩きつけたのだ。
まったく容赦のない一撃に、思わず他の客は女性から遠ざかり、自然と道ができる。

「やはりここにいたな、フィッチャー。貴様のような者がホワイトクロス騎士団に
 いると思うと先程の無礼者のようにしてやりたくなるが、貴様は貴重な戦力だ。
 本部に戻るぞ!野盗共が近くの山に砦を築いたのだ」

フィッチャーと同じテーブルに座り、拳を強く握りしめてフィッチャーを睨む。
教会の正義と教義を純粋に信じているセレスティーヌにとって、
金目的で戦うような人間は信用できる者ではなかった。特に物騒なことを生業にしている傭兵は、
セレスティーヌからしてみれば即座に切り捨てたい存在だが、教会の司教からの指示とあらば従うほかない。

(フィッチャーめ、私が見張らなくては何をするか分からん!)


【貴族系脳筋娘の登場です!よろしくお願いしますね!】

7 :
【参加者キター! 良い感じのお嬢様キャラですね。よろしくお願いします!
理想は三人以上からなので、一応明日の午前いっぱいぐらいまで待ってからスタートしたいと思います。
参加しようか迷っている方、四人以上になっても全く問題ないので、途中抜けの脇役でもいいのでドンドン参加歓迎します!】

8 :
あげ

9 :
>「フィッチャー!フィッチャー・レーガンはここにいるか!」

その良く響く声を聴いただけでフィッチャーは頭を抱えた。
セレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール。
シュヴィヤール家といえば、あの薔薇の紋章で有名なシュヴィヤール公爵領。
現在はヴィクサス神聖国の一領土ではあるが、国境を越えて地元では名の知れた名家だ。
もっとも、ジェノアの人間の多くは訛りで「シュビャール」などと呼ばれてはいるが。

その一人娘が、このセレスティーヌだ。
すらりとした長身で、美人なのは間違いない。
この近辺では発音がしにくい為か、或いは名前が長すぎる為か、
「セレス」「セレス様」などと呼ばれている。
ホワイトクロス騎士団では女性の騎士は少なく、分隊長としては唯一なので、
隊員や司祭らに彼女のファンは多い。
ヴィクサス直属の出向組なのでウマが合わず、逆に敵も多くいるとのこと。

「あぁ、俺なら…」

と、だらしなく座ったまま返事をしようとするや否や、目の前でセレスティーヌに絡んだ男が一人、
朽ちかけたテーブルに顔をしたたかぶつけて倒れこんだ。相変わらずの剣幕だ。
店内がざわめき、彼女の行動を称えるような視線や、非難するような視線の両方が混じるが、
誰一人関わろうとする者はいない。皆が皆、自分たちの明日のことで精一杯なのだ。

10 :
>「やはりここにいたな、フィッチャー。貴様のような者がホワイトクロス騎士団に
 いると思うと先程の無礼者のようにしてやりたくなるが、貴様は貴重な戦力だ。
 本部に戻るぞ!野盗共が近くの山に砦を築いたのだ」

同じテーブルに座るセレスティーヌ。
一見フィッチャーよりも若く見える程だが、実は彼女は自分よりいくつか年上であることを、彼は知っていた。
フィッチャーはいかつい外見に反して、特に大剣使いとして「巨漢というほど大柄ではない」ことに
コンプレックスを持っていたが、だらしなく椅子に寄りかかるフィッチャーから見て、詰め寄るセレスティーヌは
頭一つ分ほど大きく見えた。凛々しい瞳で見据えられると、ついおどおどとしてしまう。要は彼女は苦手なタイプなのだ。

それを隠すかのように、フィッチャーは肩を上げるようにして彼女に対抗した。
要はまずは「昼間から何故酒を飲んでここに居るのか」を弁解すればいい。


「…まぁ、落ち着いて聞いてくれセレス。俺とあんたにゃ、家ガラの違いがあるってのは知ってんだけどよ。
同じ分隊長の立場だ。でだ、これはな、俺なりの「布教活動」ってやつだ。要はな…」

ドン、とテーブルを叩かれ、再び見据えられると、いよいよ良い訳も苦しくなってきた。
そういえば――

本部に戻るぞ、ということは、「教会の犬」と陰口を叩かれる彼女のことだ。恐らくは司教、つまり騎士団長から命令が出たと見て間違いないだろう。
シュタイン司教、または騎士団長。普段は司祭帽を被る中年の男で、物腰は穏やかだが、とてつもない棍棒術と神聖魔法の使い手だとの話だ。
長い線のような目は優しそうにも見え、逆に考えれば何を考えているか分からないようにも見える。

(野盗が…砦だって…!?)

野盗と聞いて再びフィッチャーは視線を下に落とし、泳がせた。
ここ最近のフィッチャーの手柄は、主に治安の悪化するジェノアの街とその周辺の治安維持だ。

野盗をこれまでに何人も斬った。特に何も考えていなかった。
自分は教会に所属する騎士団の一員で、犯罪をしたならず者はただの弱者で、容赦する必要はないと。

しかし、その考えも昨日には変わった。
昨日、ハワードを斬った。かつての十人以上いた海賊仲間の一人で、当時は良く酒を酌み交わした仲だ。
(くそっ、どうしてこんなことに…!)

――「そんなにカネと権力が欲しいのか、卑怯者!」

ハワードの最期の言葉と、山の方へと逃げていった同じく海賊仲間だったオスカー、彼らを追う隊員の聖騎士たちの姿を思い浮かべた。
そう、フィッチャーは、やり切れなくなって、あの場を脱走したのだ。

はっとなると目の前でセレスティーヌが怪訝そうな表情をしていた。
正直なところこの女には話したくはない。簡単には理解されないだろう。
だが、かつての友人だったオスカー達を助ける方法は、もはや無いように思えた。

「分かった。それより、なぁ…聞いてくれないか?」

いつもお高くとまっていたあれほど嫌っていたセレスティーヌが、幼い頃草原で、自分の話をよく聞いてくれた、
歳の離れた姉のように見えてきた。

「…昨日、俺はダチを一人斬った。俺が昔海賊やってたってのは、知ってるよな?
昨日逃げたのは、敵が怖かったからじゃねえ。あの野盗どもの中に、まだ俺の仲間がいるんだ。
なぁ、あんただって、ダチとか、いるんだろ? まずはオスカーっていう、背が小せえ、右頬に傷のあるロンゲの奴だ。
他にもいたら、そいつらを、助けてやってほしい… 
団長、いや…シュタイン司教は急げってことか? 一緒に、考えてはくれねえか?」

エールを一杯ずつ注文する。
フィッチャーとセレスティーヌにエールが運ばれてくる頃には、既にフィッチャーの目から涙が溢れていた。
先ほどまでに話し込んでいたおっさんが肩にポンと手をやり、酒場を後にしていった。
赤ら顔がますます赤くなり、水滴が板金鎧の上で弾ける。

11 :
>「分かった。それより、なぁ…聞いてくれないか?」

任務の話をした直後から黙っていたフィッチャーが顔を上げ、一気に話し始める。
セレスティーヌはあまり長居はしたくなかったが、普段からこちらを嫌っている
人間が真面目な顔で話し始めるのだ。騎士たる者こういう態度には
向き合ってやらねばなるまいと、セレスティーヌもまたテーブルに叩きつけた拳を崩して両手を組んだ。

>「…昨日、俺はダチを一人斬った。俺が昔海賊やってたってのは、知ってるよな?

昨日の任務から始まるその話は、彼のかつての仲間たちの助命を願うものだった。
セレスティーヌもあの野盗狩りには参加していたが、思い返してみれば
フィッチャー率いる第三分隊は妙に士気が低かったような気がする。

> 団長、いや…シュタイン司教は急げってことか? 一緒に、考えてはくれねえか?」

「……シュタイン司教は心の広い方だ、少々の手間は認めてくださるだろう」

運ばれてきたエールを一息に飲み干し、代金をカウンターに置く。
明らかに粗悪な、混ざりものが多いエールだがセレスティーヌは
訓練の賜物か神のご加護か、酒や薬の類にはめっぽう強かった。

「大の男がそう泣くんじゃない。それにヴィクサスの教えは無駄な殺人を禁じている。
 砦を築くような野盗だ、明らかに指揮を執っている者がいるはず。
 そいつと取り巻き、四,五人ほど処刑して後は牢に放り込むか奴隷兵に送れば済む話だろう」

ヴィクサスの神聖教会によれば、建国の父である聖ヴィクサスが人間に伝えた使命は三つ。

一つ、みだりにRことなかれ
一つ、欲に溺れることなかれ
一つ、己の心に逆らうことなかれ

最後の使命は解釈が人によって異なるが、セレスティーヌは「善を成す」ことだと信じている。
すなわち、己の良心に従うこと。フィッチャーはいけ好かない男だが、昔の友を斬らせるようなことはさせたくはない。
それに野盗をいちいち皆殺しにしては、兵がいくらあっても足りない。大抵はリーダー格の首を獲れば皆大人しくなるものだ。

「十分泣いたか?行くぞフィッチャー!」

話が終わればやることは一つ。セレスティーヌとフィッチャーは本部に戻り、待機させておいた第二、第三分隊を動かす。
傭兵たちを並べ、聖騎士たちが整然と整列する。修道士やシスターたちが聖水を撒いて祈りを捧げ、騎士団長でもあるシュタイン司教から祝福を受ける。

「汝らの行く道に聖ヴィクサスの加護があらんことを、心に従い欲に溺れることなきよう」

「「「プレシャス!」」」

傭兵は気だるげに、聖騎士は大きく声を張り上げ、修道士は静かに祈りの言葉を唱和した。
第二分隊、第三分隊はこうして野盗たちの潜む山へと向かう。


【すいません、一気に話進めましたがもし予定があるなら

 >「十分泣いたか?行くぞフィッチャー!」

 ここから下はなかったことにしてください!】

12 :
>「……シュタイン司教は心の広い方だ、少々の手間は認めてくださるだろう」

セレスティーヌがフィッチャーに向き合い、 真摯な顔で話を聞き、そう答える。
両手を組んでいるのがフィッチャーには心強く見えた。

> 「大の男がそう泣くんじゃない。それにヴィクサスの教えは無駄な殺人を禁じている。
 砦を築くような野盗だ、明らかに指揮を執っている者がいるはず。
 そいつと取り巻き、四,五人ほど処刑して後は牢に放り込むか奴隷兵に送れば済む話だろう」

セレスティーヌはフィッチャーの心境を理解せんとばかりにプラスになる話ばかりを口にする。
それを聞いたフィッチャーは単純な部分もあるのか、涙を止めると、妙に張り切った。

「あぁ、全くだぜ…俺らのバックにゃ神の力があるんだったな。俺のダチどもを引き抜いた
クズ野郎を晒し首にして、連中を赦すことだって、自由自在だよな。
そうだ。適当に降伏させて俺らでヴィクサスの神のもとに裁かせてもらおうじゃねえか」

一つ、みだりにRことなかれ
一つ、欲に溺れることなかれ
一つ、己の心に逆らうことなかれ

聖ヴィクサスの「使命」を思い出した。
勿論、フィッチャーは欲に溺れると己の心に逆らうことなかれを都合よく解釈して、
「欲に溺れるのもまた己の心」と思っている部分があるが、殺しを善しとしない宗教だというのは
重々理解していた。

>「十分泣いたか?行くぞフィッチャー!」

「あぁ、今あんたが飲んだエールは俺の驕りだ。これで海賊王一味の仲間入りよ」

きしむ椅子から腰を上げて立ち上がると、セレスティーヌの高く鉄で覆われた肩をバンバンと叩き、歯を見せて笑う。

「おうマスター、これからならず者どもを叩きのめしに行ってきてやるぜ!」

そう言い放ち、セレスティーヌと共に酒場を去った。

――

速やかに本部へと戻ると、第二・第三分隊は既に準備を済ませていた。

「おや、隊長殿、ズラこいて不貞腐れてたんじゃなかったんですかな?
それに第二隊長のセレス様と随分仲良くされているご様子。まさかぁ、
俺らが訓練をしている間に、遊んでいらっしゃったのでは?」

フィッチャーを見かけると嫌味臭い言い回しで声を掛ける第三分隊の細身の男。ラムスといい、かつて山賊の頭をやっていたという。
元海賊と元山賊という、妙な縁から仲良くなったつもりではあるが、年上の部下ということもあり、何かと意見を言ってくることがあった。

「…作戦会議をしていた。二度とそういう事を言うな」

酒の臭いのするフィッチャーを、ラムスのみならず他の隊員まで怪訝そうに見ていた。
一方で第二分隊の方はというと士気は高く、殆どがセレスティーヌの話を聞いているように見える。

「ふん、夕方を待って、油断したところを攻め込む、大方そんな作戦だろ?
俺だってそうしてるぜ。海賊のカンがそういってる」

「私が考案したのです。何か異論でもあるのですか? フィッチャー分隊長殿」

振り向くとそこに居たのはシュタイン司教だった。相変わらずその眼からは何の感情も無いように見える。
―と同時に酔いが一気に冷めていくような恐怖感を覚えた。

「こ、これは団長殿! 申し訳ありません。すぐに準備をしますゆえ…」

13 :
慌てて舞台を整列させる。ラムスや他数名が舌打ちをしながらその場に並んだ。
第二分隊・第三分隊、総勢で20名ほどいる。
神官上がりで神聖魔法の使い手もいることもあり、「敵がこちらよりも明らかに大勢の場合は、状況を見て引き返せ」とのことだ。
つまり、余程のことが無い限り、降伏させるか制圧しろということ。

少なくともフィッチャーが聞く限り、神官連中が攻城戦などの明らかに前線に出る場面で用いられることはそう無い。
大抵は後方で待機しているものだ。
第二分隊の方は神官上がりらしき装備の者が比較的いるのに対し、第三分隊はほぼ傭兵といった雰囲気だ。
とどのつまり「ホワイトクロス騎士団」とは、ほぼ傭兵扱いの、名ばかりの騎士団と言っても過言ではなかった。
それでも「騎士」を名乗れることで、一人ひとりがそれなりの士気を保っていられる。

(全く、こんなシステムを考えたヤロウの頭が恐ろしいぜ…)

>「汝らの行く道に聖ヴィクサスの加護があらんことを、心に従い欲に溺れることなきよう」

>「「「プレシャス!」」」

気がつくと祈りの言葉を口にしている。
「ご加護」と「騎士」が併さりそれは絶大な効力となるのだ。



――


山賊たちの砦は予想以上に深い位置にあった。

「敵が見えましたぜ! これからご案内しやす」

ラムスら二名が斥候となり、砦としている建物を発見して報告する。
どうやら敵に見つかることなく、位置を特定することができたらしい。

「ふん、まるで俺たちが隊商を襲う盗賊だな」

セレスティーヌに小声でそうぼやきながら、フィッチャーは後方の味方を制し、
ゆっくりと砦に近づける。なるべく細く、列を作りながらの移動。

ヒュン――。

やがて、敵の矢が近くを掠める。発見されたようだ。

「敵襲ー!!」

14 :
敵の大声と打楽器の音が響く。随分とまとまりが良いようだ。
視界が開けると、そこには弓やボウガンを構える敵、剣を構える敵など、計10名ほどが見えた。
奥には巨大なウォーハンマーを持った大きな板金鎧が見える。本格的な重戦士のようで、
この風景には些か場違いにすら見える。

「ぐぁっ!」

「スレイマン! くそっ、首をやられてやがる…!」

第三分隊の一人が首を射抜かれて致命傷を受ける。

(降伏勧告をしなくては…
しかし、何なんだ、敵の手際が良すぎる…!?)

辛うじて坂を登り切ったフィッチャーが、セレスティーヌよりも早くと、
啖呵を切る。

「ここはジェノアのホワイトクロス騎士団が包囲したぁー!第三分団長フィッチャーが告げるぅ!
大人しく武器を捨てて降伏するならよーし!抵抗する場合は…おぉっ!」

カン、とフィッチャーの板金鎧がそれを弾く。

「どうした? フィッチャー、裏切り者め、ビビってんじゃねぇぞ…」

若干震えるような声で先ほど放った矢の主、オスカーが叫ぶ。長い髪を靡かせながら。

「ここまで、来れたらなァ…」

鎧の大男がその兜の僅かな隙間から重い声を出す。

「ぐあっ!」

後ろで悲鳴が上がる。後ろにいた味方の一人が背中を突き刺されていた。

「伏兵だと!?」

第二、第三分隊が浮き足立った。

「公爵領のセレスティーヌお嬢様もいるそうだな。大人しく武器を捨てろや。命だけは勘弁してやる」

(馬鹿な、どこでそんな情報が…!)

剣を持った山賊が数名降りてくる。弓を持った敵はまだ構えたままだ。


【大丈夫です! 徐々に進めながらいきましょう。
分隊員として参加する方もこれから歓迎しますっ!!】

15 :
周りを湖に囲まれた都市ジェノア。
その近くにある山は街道が通っていて、ヴィクサスとアースラントの行商人たちがよく使う重要な街道である。
それを狙って潜む野盗は多いが、最近ではホワイトクロス騎士団の定期的な野盗狩りによって
大規模な集団になる前に潰れてしまうことがほとんどだ。

(まったく、こういう事態を引き起こさないための巡回警備だったのだがな……)

セレスティーヌ率いる第二分隊は士気が高く、また装備も統一されている。
神官・聖騎士・聖騎士に仕える従士といったヴィクサス軍の一般的な構成を模しているためだが、
そのほとんどはここジェノアで志願してきた者たちだ。
やる気こそあるが、経験と実力はそれに伴わず野盗の罠や待ち伏せに一杯食わされることも少なくなかった。

>「敵が見えましたぜ! これからご案内しやす」

「ご苦労。総員、下馬したからといって油断するなよ。
 ここは既に野盗どもの庭だ」

砦は深い森林の奥にあり、狭い獣道が一本あるのみだ。
このような状況では騎乗しての戦闘は明らかに不利であり、普段は馬に乗る
聖騎士たちやセレスティーヌは山のふもと辺りで馬を帰らせていた。

>「ふん、まるで俺たちが隊商を襲う盗賊だな」

「海賊のくせに盗賊は嫌いなのか?同じ賊には変わりないと思うのだがな」

ぼやきに皮肉で返しつつ、偵察に送り出した従士たちからの報告を聞く。
それによれば、砦は昔に建設された石造りの見張り塔に木造のあばら家を繋げただけのようだ。
火矢を放てば簡単に一掃できるだろうが、この辺りはジェノア共和国の領土。山を丸ごと焼き払いかねない事態には
シュタイン司教は首を縦に振ることはないだろう。
素直に降伏勧告からの適当な野盗狩り、これで十分なはずとセレスティーヌは考え、
声を張り上げんと思い切り息を吸い込んだ瞬間だった。

>「敵襲ー!!」

矢が放つ風切り音。その甲高い音をきっかけに戦闘が始まる。
森の奥から放たれる矢を聖騎士たちの大盾で守りつつ、従士たちが死角を長槍で支える。
その後ろでは神官たちが援護のため、聖歌の合唱を始めた。
聖ヴィクサスとそれに連なる十二の聖人の人生を歌った聖歌は、魔力を込めて歌うことで
味方の身体と精神を強化し、敵を威嚇する有名な神聖魔法だ。

「第二分隊、前へ!我らには聖ヴィクサスの加護がある!」

その第二分隊の前に、セレスティーヌは盾も持たず、悠々と戦場を闊歩する。
もちろん彼女を狙って矢が飛来するが、手に持った長剣をひとたび振るえばそれらは真っ二つに裂け、地面へと叩き落とされる。

16 :
「さあどうした?私とて限界はある、矢を撃ち続ければ刺さるかもしれんぞ!」

彼女の持つ祝福剣ルクレールは元はただのバスタードソードだったが、
神官たちによって日々強力な加護が重ね掛けされており、その見事な剣術と合わさることによって矢を叩き斬る程度は造作もないことだ。

>「ここはジェノアのホワイトクロス騎士団が包囲したぁー!第三分団長フィッチャーが告げるぅ!
大人しく武器を捨てて降伏するならよーし!抵抗する場合は…おぉっ!」

「――下がれフィッチャー!あの大男は囮だ!」

後ろを見れば聖歌が止み、神官たちが背後からやってきた山賊に襲われている。
聖騎士と従士が慌てて後ろに回ろうとするが、狭く暗い森の中では急な方向転換は混乱を招く。

(練度の低さが仇になったか!本国の重装聖騎士部隊を一分隊でも連れてこられれば……!)

木の陰から剣を構えて突っ込んでくる山賊をいなし、祝福剣によって切り裂く。
剣と鎧に付いた返り血は加護によって浄化され、光となる。

敵を次々と切り捨てていく内、セレスティーヌは光を纏っているようにも見えた。

>「公爵領のセレスティーヌお嬢様もいるそうだな。大人しく武器を捨てろや。命だけは勘弁してやる」

そんな光景を見てか、大男がこちらに要求してきた。
『お嬢様』なんて呼ばれたのは十五歳の舞踏会が最後だったなと思いつつ、ニヤリと笑って
セレスティーヌは言い返した。

「私をお嬢様と呼ぶ人間はな、等しく私を誤解している。
 本当に理解している人間はこう言うんだ……『聖騎士』とな!!」

足を踏み込み、坂を一気に駆け上がる。迫りくる矢を払い、叩き落とし、顔を掠めるのも気にせず大男へと突進する。

「アレク!第二分隊の指揮は貴様に任せる。私はこいつを裁いてやるとしよう」

アレクと呼ばれた聖騎士が頷き、慌てる従士と聖騎士たちを一喝した。
そして負傷した神官たちを囲むように円陣を組み、第三分隊の援護を待つ。

「大男!お前がこいつらを指揮しているな?生まれはどこだ、ガントリアか?デーニアか?」

光輝く祝福剣を大男に突きつけ、周りを囲み始める山賊たちを見回す。
装備は傭兵や兵士崩れといった風情だが、この大男だけ明らかに装備の質がいい。

「……我が名はセレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール。
 お前の名は?見た目から察するにどこかの貴族崩れとお見受けするが?」

口調こそ荒いが、ウォーハンマーに全身を覆う板金鎧はかなりの金がかかる。
そういった装備を用意できるのは本人が貴族か、もしくは後ろに貴族がいるか。
どちらにせよ、ただの野盗狩りにはならなさそうだとセレスティーヌは考えていた。

17 :
名前:アレクサンドラ=トリバネアゲハ(通称アレク)
年齢:30(外見10代後半)
性別:―(外見は中性的な少女)
身長:161
体重:45
スリーサイズ:華奢だがしなやか
種族:デイドリーム
職業:聖騎士
性格:破天荒 能天気 不思議系、飄々としている
能力:卓越した神聖魔法とそれによる加護を土台とした細剣術
武器:ミスリル銀のレイピア
防具:加護付きのコート、加護付きのサークレット
所持品:十字架のペンダント
容姿の特徴・風貌:
白い肌に金髪、全体的に軽装、宗教家というより光系魔法剣士のような印象。
ぱっと見お世辞にも強そうには見えないがどこか不思議で底知れない雰囲気も纏う。

簡単なキャラ解説:
ホワイトクロス騎士団第2分隊副隊長。(性格的にふさわしいか等完全無視で種族上の理由だけで抜擢)
幼いころに教会に引き取られ聖騎士としての道を歩んできたが、驚くほど聖騎士っぽくない。
それでも種族特性のお蔭でそれなりに優秀な教会聖騎士だったが、やはり規律を重んじる教会では問題児過ぎて
出向と言う名目でホワイトクロス騎士団に左遷された。

デイドリーム
人間の両親から極稀に突然変異によって生まれる一代限りの種。
両側の耳の後ろのあたりに白い羽のようなものが付いており、一見髪飾りのように見える。
生殖能力は無く、不老で寿命は不詳。
神聖魔法に高い適性を持ち、厳しい修行をせずとも自然と神聖魔法を習得していく。
ヴィクサス神聖国においては、神の祝福を受けて生まれた存在と見なされ、
多くの場合幼少期に神殿や教会にひきとられて神官や聖騎士の道を歩む。
本気を出すと背に魔力で出来た天使のような光の翼が顕現する。

18 :
>「私をお嬢様と呼ぶ人間はな、等しく私を誤解している。
 本当に理解している人間はこう言うんだ……『聖騎士』とな!!」

大男に躊躇なく突進していくセレスティーヌに、応援ともからかいともつかない声援を送る不届き者が一人。

「いよっ! お嬢聖騎士様、かっこいい!」

彼の名はアレクサンドラ=トリバネアゲハ。通称アレク。
その姿は一見子どものようであり、屈強な男達が多い隊の中ではいささか浮いているが、一応第二分隊副隊長である。
アレクのふざけた軽口を気にもとめず、セレスティーヌは毅然と指示を出す。

>「アレク!第二分隊の指揮は貴様に任せる。私はこいつを裁いてやるとしよう」

「ほい了解! ずんばらり三枚おろしだぁ!
みんな落ち着いてー!お・は・し! 押さない走らない死なない――非常時の座右の銘!
ワタシがみんなを治療するからその間囲んでくれるかな?」

裁くと捌く、似ているようで大違いである。
そんなボケをかましながらも慌てふためく味方達に声をかけ、負傷した神官達に手をかざし治癒の神聖魔術をかけはじめる。

「《キュア・ウーンズ》」

淡い光が負傷者を包み、傷が塞がっていく。
セレスティーヌが大男を一瞬でのして終わると踏んでいたアレクだったが、そこまで事態は簡単ではないようだ。
装備の高級さはもとより、セレスティーヌと対峙して一瞬で事が終わらない時点で少なくともただの荒くれではない。
そこにフィッチャー率いる第三小隊がかけつける。

「おっ、いいところに来た海賊王!
第三分隊の面々もワタシがぱぱっと指揮して後ろから来る雑魚食い止めとくからセレス隊長に加勢したげて!
《ホーリィ・ウェポン》!」

近くに来たフィッチャーのとにかくでかい大剣を純白の光が包み込む。神聖魔法による強化の加護だ。
いかに相手が大男といえど二人がかりならすぐに終わるだろう。
一つだけ気がかりなことがあるとすれば……"あの大男は囮だ"――セレスティーヌはそう言った。

「まさかこっちに真打がいる……なんてことはないよね?」

味方に神聖魔術による強化をしつつ指揮し後方から攻めてくる雑魚を蹴散らしながら呟くのであった。

【呼ばれてる人がいたからなんとなく乗ってみた。
短期の支援になるかもしれませんがオナシャス、じゃなくてプレシャス!
種族設定はファンタジー世界の香り付け程度だと思って頂ければ】

19 :
>「私をお嬢様と呼ぶ人間はな、等しく私を誤解している。
 本当に理解している人間はこう言うんだ……『聖騎士』とな!!」

セレスティーヌが負けじと啖呵を切る。そこに第二分隊員であり、
尤も信頼しているというアレクが合いの手を入れる。

>「いよっ! お嬢聖騎士様、かっこいい!」

「ぬおぉぉぉぉぉぉぉッ!」

そんな第二分隊に、セレスティーヌに遅れないように、フィッチャーが続いた。
フィッチャーは鋼鉄のグレートソードを半ば引きずるようにして駆け、時折飛んでくる矢やクォレルを受けながら、
廃墟を木材で覆っただけの簡素な砦に踏み込んだ。

「ギャァー!」「ひぃぃっ!」

その鉄塊は敵の剣や斧を分断し、そのまま皮鎧ごと叩き斬る。
三人があっという間に六つの肉塊へと変わる。
剣にこびりついた敵の顎から上の頭蓋骨を梁へと叩きつけると、
それが拉げて潰れ、同時に上の階層が揺れた。敵に動揺が走る。

しかし動揺していたのは味方も同じだった。
後方を突いた敵の伏兵は第三分隊の弓兵を二人不意打ちで斬り倒すと、
第二分隊に所属する女性隊員で、補助魔法を詠唱中のユニスにも斬りかかった。
聖歌隊にも所属する、「ホワイトクロスのアイドル」である。

「きゃあっ!」

ユニスが袈裟斬りにされ、その場に倒れると、神官兵たちは慌てて後方支援どころではなくなり、
剣を抜くか棍棒を構えるなどして、そちらへと注視する。

しかしフィッチャーはそれどころではない。ユニスの悲鳴を聞くと、一瞬だけ舌打ちをし、
そのまま鎧の大男に向かった。改めて見ると自分がどれだけ小さいかが分かる。恐らく身長だけでもセレスティーヌと同等かそれ以上だ。
重装兵役(タンク)というのが自分では役不足だとそれだけで分かるぐらいだ。

>「アレク!第二分隊の指揮は貴様に任せる。私はこいつを裁いてやるとしよう」

さすがは「指揮能力ではジェノア諸将にも引けを取らない」と言われているだけのことはある。
セレスティーヌが指揮を執ると、すぐに副官のアレクが代わりに下で喝を入れだした。

しかし、優れているのは指揮能力とカリスマ性までであり、若干無鉄砲なところがあるのが珠に傷なのだ。

>「大男!お前がこいつらを指揮しているな?生まれはどこだ、ガントリアか?デーニアか?」
>「……我が名はセレスティーヌ・ジゼル・ド・ラ・シュヴィヤール。
 お前の名は?見た目から察するにどこかの貴族崩れとお見受けするが?」

その声に返答とばかりにウォーハンマーが振り回される。一撃目は寸でのところで外れた。

20 :
「俺はバルカス・ブライトだァ! 親父が元老院議員のハミルカルって言や分かるかァ? お嬢さんよォ。
ちなみにこの鎧は俺の家となーんも関係ねぇよォ… 盗品ってやつさァ」

ハミルカルは帝国と通じたという疑いで捕縛命令まで出ていたが、未だに捕まってはいない。
外見からして「カタギではない」と言われていたが、良い噂と悪い噂の両方を持つ地元の富豪だ。
一方で息子のバルカスはというと、評判は頗る悪い。少年時代から身体が大きく、裏の仕事に憧れており、
周囲に触れ回っていたほとだ。
セレスティーヌの「祝福剣ルクレール」が煌き、機先を制するように素早い連撃が入る。

「まだまだァ! お前ら、こいつらを取り囲め。女の方も殺しちまっても構わねェ!」

カンカンと、バルカスのず太いウォーハンマーと分厚いガントレットによりそれは弾かれ、
反撃が見舞われるとセレスティーヌはそれを往なし、再び鋭い一撃を放つ。

(くそっ、俺もいるってのにこれじゃ手が出せねぇ…!)

一方、下では既に第三分隊の傭兵上がり二名と第二分隊の従士一名が致命傷を負って犠牲になったものの、
次第に調子を取り戻していった。

>「ほい了解! ずんばらり三枚おろしだぁ!
みんな落ち着いてー!お・は・し! 押さない走らない死なない――非常時の座右の銘!
ワタシがみんなを治療するからその間囲んでくれるかな?」

そう、第二分隊員、アレクの存在が大きかった。
アレクは一般的に「デイドリーム」と呼ばれ、人間の突然変異で教会からは「聖天使」とも言われていた。
この世界では歴史の折々で「奇跡」が度々起こっている。その多くの場面に、彼らデイドリームの存在があったという。
通常ならば玉石混合のホワイトクロスのような集団には居ない筈だが、やはりシュタイン司教の意向なのだろう。
彼の存在もまた、ホワイトクロス騎士団の士気の高さの源なのだ。

>「《キュア・ウーンズ》」
>「おっ、いいところに来た海賊王!
第三分隊の面々もワタシがぱぱっと指揮して後ろから来る雑魚食い止めとくからセレス隊長に加勢したげて!
《ホーリィ・ウェポン》!」

見る見るうちに負傷した兵たちは立ち上がり、持ち直すと
後ろから迫る山賊たちを蹴散らしていった。

21 :
――


二階部分での戦いはフィッチャーとセレスティーヌと大男でほぼ二対一に見えていたが、
気がつくと剣を持った敵二名が回りこみ、砦の要所からは弓が引かれている。その中にはオスカーもいる。
表情は相変わらずだ。余程フィッチャーに恨みがあるのか、砦側に肩入れしているのか。

当のフィッチャーはというと、獲物が大きい分、下手に振り回せばセレスティーヌを巻き添えにしかねない。
敵の矢を防ぐので精一杯だった。既に矢の一本が鎧の隙間に刺さり、そこから痛みが広がっていく。

「へへへ、バルカス様! 俺らも援護しますぜ…!」

敵の下っ端が下卑ていながらも戦慄した震え声で、セレスティーヌの脇腹から斬りかかった。
そちらの防御をしている一瞬の隙を突いて、それは起こった。

バルカスが不意にハンマーを振り回し、セレスティーヌを狙った。
(チッ、こいつ、味方ごと…!)

セレスティーヌは驚いたことだろう。一人分の臓腑と血液が突然降りかかったのだ。
それらはビチビチと音を立て、フィッチャーの足元にも落ちてきた。

オオオオオオオオオオオ――

慄く周囲に飲まれそうになったが、アレクの「加護」を受けてフィッチャーは辛うじて勇気を振り絞って
光を纏ったグレートソードを振り回し、バルカスの脇腹へと一撃を見舞った。

「ギャァァァ!!」
「ぐぉっ!」

それはバルカスにとっては脇にかすり傷を負わせるに留まったが、
結果としてはもう一人の雑魚を絶命させて再びこちら側が優位に立った。

「武器を置けやこら! そしたら命までは取らねえぞてめえ!
俺を誰だと思ってやがる……海賊王でホワイトクロス騎士団隊長、フィッチャー様よ!」

叫びながら回り込み、剣を持ち上げると二撃目の構えを取る。
そこでバルカスが、待ったの合図を出しながら凄い勢いで後ずさった。フィッチャーの攻撃は空振りに終わり、
怪訝そうな顔をする。動きがおかしいのだ。それは別の合図だったのだ。

「動くなよ、お前らァ、人質を殺されたくなかったら、大人しく武器を置け」

待ちかねていたかのように、奥から男二人が剣を突きつけながら、ロープで繋いだ人質を引っ張り出してきた。
オスカーがそちらに向かって弓を向ける。
(あれは…アンドリュー!)

22 :
奥にいた男たちの一人もまた、彼の海賊時代の友人だった。
フィッチャー、ハワード、オスカー、アンドリュー。仲良し四人組。
特にこの四人は親友といってもいい間柄だった。四人の名前が出てくる歌まで作ったほどだ。

人質は五人。女性と子供ばかりだった。
そういえばジェノアでは近頃女子供の行方不明事件が相次いでいたのを思い出した。無論、被害者はまだまだこの限りではない。

その時だった。一瞬だけ奥の方に黒いフードを被った人物が見え、バルカスたちに合図を送り魔法のようなものをかけると、その場を
立ち去っていくのが見えた。その時、瞬時に見知った顔が脳裏を過ぎった。雰囲気だけでだ。

刃物が人質に突きつけられる。フィッチャーにはフードの人物のことなどを考えている余裕はなさそうだ。
再びグレートソードを構え、セレスティーヌの表情を伺う。


――


一方、下でも異変があった。

>「まさかこっちに真打がいる……なんてことはないよね?」

意外にそうかもしれない。
徐々に後退する敵に意識が殺がれていく中、第二分隊の後ろを思わぬ敵が襲う。
「ぐぁぁ!!」

騎士の一人が首を一撃でやられ瞬く間にそれは命を奪っていった。
隙の無い鍛えられた戦士が一撃で、その理由はひとつだ。
攻撃してきたのが味方だからだった。

ラムスが最も重装備と思われる第二分隊の騎士を殺害した後、数人を切りつけながら
後ろにいた「味方」と合流した。そしてその剣は負傷したユニスへと突きつけられていた。
立ち上がるのがやっとな彼女にとってその切っ先は脅威のようで、涙がこぼれる。
他の生き残りもこぞってまだ生存している隊員を人質に取った。

「騙されたなお前ら。俺は「こっち」の人間だ。お前らは包囲されてんだよ、ホワイトクロス騎士団だあ? そんなのクソッタレよ。
盗賊は所詮、盗賊ってモンだぜ。分かったらお前ら、こっちに付けや」

ラムスと目が合った第三分断の一部は、ゆっくりとアレクたちから離れていった。
ラムスはフィッチャーの次に人望があったことも勿論ある。どちらかというと金と快楽を求めて騎士団に入った者たちだ。
思えば最初の妙にそわそわした動き、敵の察知の早さもラムスが通じていたと考えれば納得がいく。

と、ホワイトクロス騎士団は最初の戦から苦難に追い詰められることとなった。


【二階でセレスティーヌ、フィッチャーが人質を取るバルカスらと対峙、
階下ではセレスたち隊員が砦を背にしてラムスと他数名の盗賊が隊員の負傷者を人質に
降伏・寝返りを要求】
>>18【参加アリシャース! 隊員キタコレ! 世界観がだいぶファンタジーになって
良い味付けになりました! 他にもアイデアや思いついた設定があったら、、
遠慮なくキャラ参加してみてください!】

23 :
>「俺はバルカス・ブライトだァ! 親父が元老院議員のハミルカルって言や分かるかァ? お嬢さんよォ。
ちなみにこの鎧は俺の家となーんも関係ねぇよォ… 盗品ってやつさァ」

「元老院のハミルカルか、どうやら頭の良さまでは親から受け継がなかったようだな?」

ウォーハンマーを振り回すバルカスは力任せで単純だが、当たれば骨が砕けて肉が潰れるだろう。
セレスティーヌはギリギリまで引きつけて、足を躍らせてステップで避けていく。
それなりに荒事をやってきたようだが、隙は大きい。セレスティーヌは懐に飛び込み、
効き手を狙ってルクレールによる連撃を叩きこむ。

>「まだまだァ! お前ら、こいつらを取り囲め。女の方も殺しちまっても構わねェ!」

「……チッ。無駄に硬いせいで手間取るな」

逃げ道である階段を塞ぐように、山賊たちが集まりだす。
弓の狙いも分隊からこちらに移ったのか、時折鋭い音と共に矢が放たれる。

>「おっ、いいところに来た海賊王!
第三分隊の面々もワタシがぱぱっと指揮して後ろから来る雑魚食い止めとくからセレス隊長に加勢したげて!
《ホーリィ・ウェポン》!」

「アレク!援護を絶やすなよ、まだ未熟な者も多い!」

聖ヴィクサスが遣わした神聖にして不滅なる存在、デイドリーム。
セレスティーヌはアレクに出会うまでそう信じていたが、
彼ないし彼女の飄々とした性格がその想像を打ち砕くのに時間はかからなかった。
最初に教会でアレクに出会ったとき、その見た目に思わずセレスティーヌが跪いて手の甲にキスをしたのは
セレスティーヌが抱える秘密の一つだ。

だが共に任務をこなすにつれ、やはり聖騎士になるだけの実力はある、とセレスティーヌは認め、
熱くなりがちな自分を諫めてもらうために第二分隊副隊長とした。

>「へへへ、バルカス様! 俺らも援護しますぜ…!」

数で囲めば勝てると思ったのか、山賊の一人がついに斬りかかってくる。
単純な曲刀の振り下ろしを難なくルクレールでいなし、蹴り飛ばした瞬間だった。
バルカスが味方ごとセレスティーヌを叩き潰すべく、その得物を思い切り振り回す。
セレスティーヌは危うく頭を潰されるところだったが、ハンマーの軌道とすれ違うように体を動かしていく。

不幸な山賊の血と肉がセレスティーヌに降りかかるが、加護によって光となって消えていった。
だがその感触までは消えず、苦虫を噛み潰したような表情でセレスティーヌはバルカスへと向き直る。

「所詮賊か!仲間すら平気で潰すとはな!
 もはや容赦はしない、このルクレールの力を以て貴様らを――

24 :
最後まで言い終わらないうちに、奥から二人の山賊が現れる。
剣を持ち、もう片手にはロープを持っていた。そしてそのロープの行き着く先は……

>「動くなよ、お前らァ、人質を殺されたくなかったら、大人しく武器を置け」

「――屑どもがッ!」

セレスティーヌの一喝にも怯むことなく、剣を人質の喉笛に突きつける山賊たち。
女性と子供ばかりということもあり、セレスティーヌの怒りは頂点に達していた。

こちらの様子を伺うフィッチャーに、セレスティーヌは分隊特有のハンドサインでこう示す。

『加護を使う』

直後にセレスティーヌはルクレールを大きく振りかぶり、剣に宿った祝福を放つ。

「貫け、ルクレール!!」

山賊たちが剣を人質たちに突き刺すより早く、ルクレールから放たれた光が山賊を貫く。
ルクレールに宿った教会の祝福でできたそれは、セレスティーヌが認識している敵を全て打ち倒すものだ。
山賊を貫いた光は弾け、セレスティーヌとフィッチャーを取り囲む山賊たちを的確に貫いていく。

分厚く質のいい板金鎧を着ていたバルカスは焼け焦げた跡が鎧に付く程度だったが、
せいぜい鎖帷子程度しか着ていない山賊たちを倒すには十分な威力だ。

「……フィッチャー!私は第二分隊の援護に向かう、ここは頼んだぞ!」

人質たちの縄も解いてやりたいが、今は負傷者も多いうえ、様子がおかしい第三分隊と揉めている第二分隊の援護に行かなくてはならない。
ルクレールを鞘に戻し、二階の見張り場から分隊のいる広場へと飛び降りた。

>「騙されたなお前ら。俺は「こっち」の人間だ。お前らは包囲されてんだよ、ホワイトクロス騎士団だあ? そんなのクソッタレよ。
盗賊は所詮、盗賊ってモンだぜ。分かったらお前ら、こっちに付けや」

「傭兵とはいえそれなりの報酬を与えてやった上、宿舎まで貸してやったが……
 山賊どもといい、貴様らといい、人は堕ちるところまで堕ちるものだな。
 アレク、こいつらのような生き物をなんと言うか知っているか?」

第三分隊の裏切り、それはセレスティーヌが予感していたが、そこまで愚かではないと考えていたことの一つだ。
高くはないがそれなりの報酬、戦争とは違い安定した待遇、ここまで与えれば恩も感じるだろうと思っていた。
もはやセレスティーヌは呆れるしかなかった。

25 :
ラムスの突然の凶行――
最も重装備の第二分隊員を殺害した後、それだけでは飽き足らずユニスに刃を突きつける。

>「騙されたなお前ら。俺は「こっち」の人間だ。お前らは包囲されてんだよ、ホワイトクロス騎士団だあ? そんなのクソッタレよ。
盗賊は所詮、盗賊ってモンだぜ。分かったらお前ら、こっちに付けや」

ラムスと"目が合った"第三分隊の一部が、どこかふらふらとした足取りで敵方に歩みを進める。
対するアレクは動じず――両手を降参、とでもいう風にバンザイしてみせる。

「さっすが副隊長様、賢明なこった」

「おいっ!? 正気か!?」

満足げににやつくラムス。あまりの事態にざわめくのは残った第三分隊員。
それに対して第二分隊員達は、その右手に掲げられたハンドサインを見逃さなかった。
それは第二分隊員だけが知っているサイン。そして寝返ったのは全員が第三分隊だ。

「《フラッシュ》!」

アレクが聖句を叫ぶと一瞬眩い光が明滅し、暫し敵の目がくらむ。
その瞬間、ハンドサインを見て事前に目を瞑るか伏せるなりしていた第二分隊の者達が突撃し、人質を救出する。
あまりに単純な戦法だが、割と第二分隊の形勢逆転の常套手段だったりする。
通常の人間が魔法を使う場合には詠唱が必要になる。
しかし余程の高位の術師、そしてその魔法に高い適性を持つ種族の場合、詠唱無しでの発動が可能なのだ。
山賊たちはそこまで念頭に置いていなかったのだろう。

>「傭兵とはいえそれなりの報酬を与えてやった上、宿舎まで貸してやったが……
 山賊どもといい、貴様らといい、人は堕ちるところまで堕ちるものだな。
 アレク、こいつらのような生き物をなんと言うか知っているか?」

援護に駆けつけたセレスティーヌが半ば呆れた様子で問う。

「自らすすんで過酷な境遇に身を投じる求道者――そうでなければガチのドM」

ホワイトクロス騎士団に入った者には、その出自に拘わらずそれなりの報酬と宿舎の貸与等の安定した待遇が与えられている。
どう控えめに見ても山賊の待遇よりはマシなはずだ。
恩義等の道義的理由を持ち出すまでもなく、単純に損得計算で考えても寝返る理由は無い。
そうなれば、おのずと答えは見えてくる。
わざわざ無意味な苦労を買って出るのは修行僧か求道者かはたまたガチのドMか、もしくは――

「……と言いたいところだけどどっちも違うな。自らすすんでじゃない。操られてるんだ。
ラムス、さっきそいつらに魔法をかけたんだろう?」

先程、例外なくラムスと目が合った瞬間に寝返りは起こっていた。
視線を介した精神操作の魔法――
信仰心が高い第二分隊はその誘惑を退ける事が出来ても、元々賊上がりの第三分隊員はそうではない。

「……ただの山賊にそんな魔法が使えるとも思えない。さては闇に魂を売ったね?」

ここでアレクの言う闇とは悪の魔術師か、はたまた魔族等の人類と敵対する種族か――
何にせよホワイトクロス騎士団と敵対する存在であることは間違いない。
次の瞬間、アレクは一気に間合いを詰めラムスにレイピアを突きつけていた。
はたから見ると瞬間移動したように見えただろう。
《ブリンク》――神の加護を受けたごく短距離の超速移動。
間合いを詰めたり逆に接敵状態から離脱する時に使われる、上級聖騎士の技能だ。

「問おう、貴様らの後ろ盾は何者だ?」

もしアレクのこの予想が当たっていて大人しく答えれば捉えてじっくり話を聞き出す。
予想が当たっていても的外れであったにしても抵抗すれば応戦するのみである。

26 :
【すみません、今日の書き込み予定でしたが、予想以上に時間が取れないようなので断念し、
次の私の書き込みを6日にします。やはり手抜きで速く書くよりは次で場面を動かすのでしっかりとやりたいと思ったので。
参加者の方、申し訳ないです。それでもお付き合いくだされば幸いです。
また、新規の方、どんどん参加お待ちしています。】

27 :
【分かりました!そういうことならお待ちしてますね!】

28 :
>「貫け、ルクレール!!」

「馬鹿なっ!ぐぉぉ…」「ぎゃあああ!!」

セレスティーヌがルクレールから放った祝福は、光の魔力を帯び、それらは
彼女が認識する敵を次々と貫いていった。

バルカスはもとより、その周囲を取り囲んでいたオスカーやアンドリューといった下っ端たちがあっという間に
体を焦がして倒れる。

>「……フィッチャー!私は第二分隊の援護に向かう、ここは頼んだぞ!」

倒れたかつての仲間たちを見て尻ごみしたが、フィッチャーはそれ以上に
後ろでラムスが高らかに裏切りを宣言していることに狼狽した。

「ま、待て…!」

先ほどの光で傷を負い、よろめくバルカスを見ると、黙ってフィッチャーはグレートソードを構えた。
そしてそれを勢い良く振り上げると、バルカスの首が兜ごと宙を舞い、木の幹に叩きつけられて血の線を引きながらその醜く苦痛に歪んだ顔面を曝け出した。

「反対側に逃げるんだぞ。早く!」

縄でつながれた女や子供にはジェノアで見知った顔もいた。確か酒場でウェイトレスをしていた女だ。
しかしフィッチャーは礼を言おうとする彼女に先に行くよう促し、
そのままオスカーとアンドリューの方に向かう。

アンドリューは白眼を剥いており、既に息絶えていた。オスカーを掴んで起こす。

「おい、大丈夫か!?」

彼からは思い掛けない一言があった。

「何度裏切られても懲りねぇ奴だなお前はよぉ…」

「なんだって?」

欠けた歯から血を流しながらも、オスカーは蔑むように笑った。

「フィッチャー、お前のオママゴトに付き合ってる奴ぁいねえってこった。
俺らは盗賊、カネのある方につくのが当然だろうが。敗残兵狩りに隊商狙い、
人身売買…お前、まさかこいつらが人質の全員だと思ってねぇよな?」

「てめぇ、まさか…」

29 :
フハハハと笑い出そうとする「元」友人の首を、フィッチャーは掻き切った。
もはやこの男は「救いを求めてはいない」教義などはクソクラエだったが、
どうやらこの連中が本能のままに悪事を働いていたことは確かなようだ。

(ってことは、この砦の存在自体が…そして、あの男は…!)

セレスティーヌが向かったラムスたちの方に駆け出しながら、
先ほど反対側の森の方に向かった男のことを思い出していた。そういえば向こう側には…


――


フィッチャーがセレスティーヌやアレクに合流した頃には、既に第二分隊の多くはアレク側に寄って武器を構えており、
状況は再びこちらが有利になったようだ。

ラムス、さっきそいつらに魔法をかけたんだろう?」

先程、例外なくラムスと目が合った瞬間に寝返りは起こっていた。
視線を介した精神操作の魔法――
信仰心が高い第二分隊はその誘惑を退ける事が出来ても、元々賊上がりの第三分隊員はそうではない。
ラムスはというと、焦点の定まらない目で血の付着した剣を構えていた。

>「……ただの山賊にそんな魔法が使えるとも思えない。
さては闇に魂を売ったね?」
「問おう、貴様らの後ろ盾は何者だ?」

アレクのその言葉は、自分の置かれた状況に彼の姿も相まってさぞ威圧感のあるものに聞こえただろう。
ラムスは尻込みしながら口をおそるおそる開いた。

「あ…あぁ…」

ラムスの脇には第三分隊員が二人。三名はセレスティーヌ、アレクと対峙し、
第二分隊員たちに弓を引かれ、完全に孤立していた。
砦から降りてきたフィッチャーははっとなった。

そういえば。
言われてみれば敵の首領と思われるバルカスは「武器を捨てて降伏」とだけ言っており、
特にこれといった要求は出さなかった。
オスカーに至っては「敗残兵狙い」とも言っている。さらった女子供はもっと大勢いることも仄めかしていた。

バックにいるのはアースラントの軍部か、あるいは…


「待て、命だけは助けてくれ! 話すから、その弓を下ろしてくれ、たの…ぐぁぁぁっ!」
「プレシャス…一つ、欲に溺れることなかれ… 
一度裏切った者に口を開く権限などないのですよ…」

団長・シュタインの声と同時にクォレルによって蜂の巣になったラムスが絶命し、倒れ伏す。
残る二人が何かを喚こうとしているところにシュタインの魔法が襲い、彼らが眩暈を起こしふらつくと同時に
精強な第一分隊員たちが素早い手際によって猿轡を噛まさせ、木の幹へと縄で縛り付けた。

「し、司教様…! どうか、そいつらは…」

30 :
バン、という聖書を叩く音とともにシュタインが一喝する。

「黙らっしゃい! フィッチャー、あなたの素行の悪さが隊員のモラルを低下させたのです…」

彼はどや顔でフィッチャーを指差し、次には恨みがましい視線で睨むようにセレスティーヌを指差し、言葉を放った。
今までに無い表情に、隊員の誰もが戸惑う。

「セレスティーヌ、貴女もです! デイドリームを擁しながら、何という手際の悪さ、何という体たらく!
お父上が泣いておられる。賊どもと交わっているうちに、こやつらの悪意をも感じぬ様になったのですか?!」

賊の「ぞ」の音に恨みの篭ったような強いアクセントを付け、ラムスの死体を踏みつけながら、今度はフィッチャーの方へと迫る。
これも魔術の効果か、フィッチャーには自分よりも小柄なシュタインが、物凄く大きな男に見えた。

「フィッチャー、その剣でこの者たちの首を刎ねなさい」

シュタインが剣を握るフィッチャーの手に力を込める。

「俺は、どうして俺が…! 司教、俺にはできません…」

「やらなければ、貴方が神の名の下に天誅を受けるのみ、そうでしょう…?」
耳元で囁くシュタインに、彼は戦慄を覚え、涙を流しながらも剣を構えた。

「うおぉぉぉぉ…!!」

――


アースラント王国軍は徐々に迫る北方軍に連敗を重ねていた。
属国・自治州が次々と寝返り、もはや勢いは止められないと思われた。
将軍の中には戦闘を拒否するものも現れ、大臣たちの会議の中でついに、
「北方もしくは帝国の属国となる」という案が出るほどになった。

国王フィリッポはある日、腹心でヴィクサスに篤いと言われる若き将軍、カリスト・ケンディウスに問いかけた。
「帝国か、北方か、どちらに属すればよいか」
それを聞いたカリストの答はこうだった。
「帝国にも北方にも属する必要はありません。どちらかに一度勝てば、道は拓けるでしょう」

カリストに軍を預けたアースラントは、北方の属国となったかつてのワン族自治州の同胞と内通して反乱を起こさせ、
北方が鎮圧軍を差し出したところを、用意していた軍勢で反乱軍と協力して北方軍を打ち破った。
この直後、焦った北方は古くからワン族と敵対するモン族の軍勢に本国の軍を加えた大軍である連合軍を派遣するも、
要衝に集結したアースラント王国軍の総勢によって破られ、初めて勢いがアースラント側に回った。
これによってアースラントと北方との間には講和条約が結ばれ、アースラントは帝国との戦いに集中できるようになる。
カリストは、護衛としてデイドリーム族を多数要していた事から、人々に「白羽将軍」と呼ばれ畏れられ、同時に崇められた。

そして今後、アースラント王国は、凄まじい戦火に巻き込まれていくこととなる…

31 :
――


「ぐっ…ぐっ…」

一度枯れてしまった涙はただの痛みのために出ることはなかった。
フィッチャーは「洗礼」として、「第二分隊員」から暴力を受けていた。
鎧を脱がされ、肉体に一撃、一撃と棒や鞭による容赦のない攻撃が浴びせられている。
両腕を縛られ、ただ「洗礼」が終わるのを待つだけだ。
その間、フィッチャーは昨日あった出来事を思い返していた。
隊長として第三分隊の二人を斬ってしまったことは大きなショックだったが、
それ以上に引っかかるもの、腑に落ちないものがあったのだ。

(第一分隊は、何のために後から現れやがったのか… それに、思い出したぞ。
あの後ろにいた男は、酒場にいた浮浪者のおっさんにそっくり、いや、あいつだ…)

あれから第二・第三分隊は(とはいっても第三分隊の生き残りはフィッチャーのみだが)懲罰を受け、
セレスティーヌは第二分隊長を罷免され、第三分隊長となった。アレクも第三分隊所属となり、
フィッチャーは聖書の同じ箇所を何度も読まされることで、ようやく第三分隊「員」として残ることを赦された。
そして、第二分隊にはなんと、王国から派遣された部隊がそのまま駐留する形となった。
隊長はマーゲンというバルカスを老けさせただけのような目つきの悪い大男だ。厄介払いにすら見える。

第三分隊員(元第二分隊)は、一列に並んで暴行を受けていた。
勿論、その中にはユニスなどの女性隊員もいる。
多くの悲鳴と叫び、あざ笑う声が共鳴し、まるで地獄の光景のようだ。
セレスティーヌだけは特別扱いとして、剣を取られただけでその光景を見せつけられていた。

マーゲンとシュタインがその様子を見ていたが、やがてシュタインが、セレスティーヌに囁きかける。

「隊長なら、することがあるでしょう。私の部屋に来て、許しを乞いなさい。
第一分隊一同、お待ちしてますよ」

シュタインがコツコツと音を立てて自室へと立ち去って行く中、悲鳴が響いていた。

32 :
――

一方アレクは、別室に閉じ込められていた。懺悔室ともいえる小さな部屋だ。
ここには魔力を封じ込める仕掛けが施されている。
眩しい光が差している。朝になったのだ。

「ごきげんよう、第三分隊、アレクサンドラ・トリバネアゲハどの」

女性のようなよく響く声。身長は2メートル近くあり、顔は細い切れ長の眼で端麗、
両耳からは黄色・赤・橙の鮮やかな線が伸びている。
そしてローブからは同色の翼が見え隠れしている。紛れも無くデイドリームだ。
ヴィクサスの紋章を付けてはいるが、信心深そうにも見えず、どこか他人行儀にすら見える。

「わたくし、本日からこちらに入団させていただきました、ホワイトクロス騎士団、
第一分隊副官、アトラスムスと申します。シュタイン様の直属の部下、とでも言っておきましょうか。
ところで、あなたは世界情勢には詳しいですか? 世界は乱れているようです。
今後は神聖連合の皆さんで団結する必要がありましょう。この意味がわかりますか?」

アトラスムスの表情からは真意は読めない。差し出す手のひらの柔らかさから友好の意が取れる。
その細い眼に、アレクは見据えられていた。


【お待たせしました! 一気に進めちゃいました。
若干選択肢の幅がありますが、どのように拾ってもらっても結構です。】

33 :
>「隊長なら、することがあるでしょう。私の部屋に来て、許しを乞いなさい。
第一分隊一同、お待ちしてますよ」

「……分かりました、司教様」

山賊討伐は第三分隊が殲滅、第二分隊にも負傷者、死傷者が多数という極めて異例の結果となった。
はっきり言ってこの結果だけをセレスティーヌが見たなら、指揮官をクビにしろと怒鳴っているところだろう。
だが、現実は違う。山賊とは思えない高度な魔法、明らかな待ち伏せ、裏切り。
それに来るはずではなかった第一分隊の到着。セレスティーヌはもはやホワイトクロス騎士団を信じていなかった。

「セレスティーヌ、とか言ったか?噂ほど戦が上手くはないようだな。
 使えるのはその見た目だげっ!」

本国から派遣されてきた第二分隊員の一人が挑発してきたが、
セレスティーヌは迷うことなく彼の顔面に拳を叩きつけた。
そして、一つの宣言をする。

「――もううんざりだ!シュタイン司教があのような人間だったとはな!町娘たちの噂通りか、あの男は!
 第三分隊、いや第二分隊、立て!私たちはここを抜けるぞ!
 このような腐った屑共にコケにされるのは我慢ならん!」

そう叫び、女性隊員を殴っていた第二分隊員を蹴り飛ばす。
もちろん周りにいた第二分隊員が止めようとするが、先程まで殴られていた第三分隊員たちは
セレスティーヌに檄を飛ばされたおかげか、立ち上がって第二分隊員たちへと向かっていく。

マーゲンがなんとか場を収めようと叫ぼうとした瞬間、セレスティーヌが後ろから大剣の柄で殴りつけた。
時には鈍器の代わりとなりうる大剣の柄、その一撃は力を加減したとはいえ大の男をすら昏倒させる威力だ。

「フィッチャー、貴様も立て!武器庫と馬、それと金庫だ!」

隠し持っていたナイフでフィッチャーの両腕を縛り付けていた縄を切り、
セレスティーヌは単身シュタイン司教の部屋へと向かう。

34 :
「おやおやセレスティーヌ、乱暴にドアを開けてはいけませんよ。
 それに、反省の意志が見られないようですが?」

部屋にはシュタイン本人と護衛が数名。
セレスティーヌはドアを蹴り開け、ずかずかと踏み入った。

「私はここを抜ける、あとフィッチャーと部下もだ。
 武器と金と馬は餞別としてもらっていくぞ」

「言っている意味がよく分かりませんね……正気ですか?」

「貴様らよりはよほど正気だよ、色狂いのシュタイン!
 あの山賊どもと手を結んで奴隷を飼っていたな、それも女子供ばかりを狙って!」

「……あのような下賤な輩と手を組む必要などありません、やはり傭兵たちに
 妙な知恵を付けられてしまったようですね」

シュタイン司教がサッと手を上げると、武装した第一分隊員が廊下から入ってくる。
この状況を予期していたと言わんばかりだ。

「彼女にはまだ信仰心というものが足りないようです、教育してあげなさい」

「教育されるのはどちらの方かな…?やれ、アレス!」

セレスティーヌがニヤリと笑って叫んだ瞬間にそれは起こった。
部屋にある備え付けの窓が突然割れ、アレスと呼ばれた第二分隊員が突入してくる。

「お嬢!槍です!」

そして抱え持った槍をセレスティーヌに投げ渡し、アレス自らは短めの大剣を鞘から抜き放つ。

「さらばだシュタイン!放て閃光!」

槍からまばゆい閃光が辺りに広がり、部屋全体を包む。
数秒の出来事だったが、二人が逃げるには十分な時間だ。

「……皆大丈夫だな!?アレクのことなら心配するな、あいつならば後からでもついてくるだろう!」

そしてセレスティーヌの宣言から数時間、彼女たちは複数の馬車で街道を走っている。
行先はジャイプール帝国と神聖連合の勢力圏がちょうど衝突する地域、ゾロアニア。
複数の種族、部族が豊かな土壌の上で小競り合いを続ける紛争地帯だ。

「まずは冒険者とやらの真似事でもしてみるか!この人数なら傭兵もできるかもしれないがな!」

【こっちも一気に進めましたが、展開的に変えたいところがあれば行ってください!】

35 :
>「待て、命だけは助けてくれ! 話すから、その弓を下ろしてくれ、たの・・・ぐぁぁぁっ!」
>「プレシャス・・一つ、欲に溺れることなかれ・・・
一度裏切った者に口を開く権限などないのですよ・・・」

ラムスが口を開こうとしたときだった。今この場にはいないはずのシュタインの指示が飛ぶ。
突如現れていた第一分隊の手により、ラムスは蜂の巣になって倒れ伏した。

「司教! 何故!?」

なぜここにいるのか、むやみにRことなかれという教義もあるにも拘わらずなぜ殺したのか。
百歩譲って、裏切り者には一切の慈悲は与えない方針だとしても、何故このタイミングで。
最終的にRにしても、今後の被害の拡大を防ぐには黒幕の情報はなんとしてでも聞き出しておきたかったはずだ。
シュタインはアレクの問いには答えず、フィッチャーとセレスティーヌを叱責し、
フィッチャーにかつての仲間の首をはねるように命じる。
神に仕える敬虔な司教であるはずの彼の姿はさながら、悪魔そのものだーー
その様子をみて、アレクは自ら一つの答えを導き出した。
シュタインこそが、黒幕だと。先刻ラムスは口封じのために殺されたのだ。

>「俺は、どうして俺が・・・! 司教、俺にはできません・・・」
>「やらなければ、貴方が神の名の下に天誅を受けるのみ、そうでしょう・・・?」

「やめなよ! そんな奴の言うことなんて聞くことない!」

剣を構えるフィッチャーを見てアレクは止めるために駆け寄ろうとするが
屈強な第一分隊員複数に取り押さえられた。

「君は海賊王だろう! テンチューもアル中もあるもんか!」

>「うおぉぉぉぉ・・・!!」

最終的に、フィッチャーはシュタインの醜悪な脅迫に屈したーー
フィッチャーが元々敬虔な信徒だったならともかく、海賊上がりの彼には天誅の脅しは通じないはずだ。
シュタインが魔術的な力を行使した可能性も否定できなかった。

「シュタイン司教、いやシュタイン! 必ずや正体暴いてやるからなあぁああああ!」

第一分隊員達に取り押さえられたまま引きずられていくアレク。
こうして真っ黒な疑惑にまみれた山賊討伐戦線は、第一分隊が力技で押し切る形でひとまず撤収と相成った。

36 :
++++++++++++++++++++

あれから第二分隊はフィッチャー以外いなくなった第三分隊にほぼ丸ごと移籍、
空白となった第二分隊には何故か王国から派遣された部隊が居座った。
そして第三分隊員達は懲罰という名の理不尽な暴力を受けることとなった。
そんな中、アレクはデイドリームなので特別扱いなのだろう、別室に放り込まれていた。
分厚い扉越しにも、外からは仲間達の悲鳴が微かに響いてくる。

「狂ってやがる・・・・・・シュタインめ、どこまで手を回してる?」

アレクは腕を枕に寝っ転がっていた。
見た感じなんとものんきそうだが、脱出するための努力は全て徒労に終わった故の諦めの境地である。
壁の全面を押したり一通り色々試してみたものの、都合よく抜け道があるわけはない。
首尾よく脱出できたとしてその後どうしよう。派遣元の教会に帰ってチクるか?
いや、そこまで根回し済みの可能性の方が高い。そんな中、状況は動いた。

>「ごきげんよう、第三分隊、アレクサンドラ、トリバネアゲハどの」

入ってきた者の種族はアレクと同じデイドリーム、
ただし身軽な少年か少女といった印象のアレクに対して、こちらはセレスティーヌと同じかそれ以上に長身だ。
その人物は、シュタインの直属の部下アトラスムスと名乗った。

>「今後は神聖連合の皆さんで団結する必要がありましょう。この意味がわかりますか?」

「もちろんですーー」

アレクは恭順を装って差し出された手を取りーーそれによって生まれた一瞬の隙をついてスライディングで部屋の外にでた。
飛び抜けた長身の者というのはとかく足下が死角になりやすい。

「偉大なるシュタイン様の元に力尽くで団結させる! そういうことでしょ?」

そのまま第三分隊の詰め所に駆け込む。

「みんなー! 一緒に逃げ・・・・・・あれ?」

そこはすでにもぬけの殻だった。辺りには争った形跡がある。アレクが促すまでもなくすでに見限って脱走したのだ。
そこまでの音頭が取れるだけの行動力と求心力があるのはアレクが知る限り一人しかいない。

「お嬢おおおおおおおおおお! 置いていくってひどくない!?」

「逃げたぞぉおおお!」「捕まえろ!」

そうこうしている間に第一分隊員が集まってきた。囲まれたアレクは身構える様子はない。
隊員達をギリギリまで引きつけ、飛びかかってきた瞬間。腕を掲げ一言だけ聖句を唱える。

「《フォース・エクスプロージョン》!」

大爆発が巻き起こり隊員達が四方八方に吹っ飛ぶ。術者を中心に大爆発を起こす単純明快な上級神聖魔術だ。
味方を巻き込んだり建造物を破壊してしまうため普段の戦闘では使えないが、
このような単独離脱時の置き土産にはまさにぴったりの術と言えよう。

「おんぎょおおおおおおおお!?」「がはげほごほ!」「奴は!? 奴はどこだ!」

「困ったときはとりあえず爆発だ!って昔ばっちゃが言ってた。それじゃ!」

混乱さめやらぬ中、背に光の翼を顕現させたアレクは、爆発によって天井に開いた穴から飛び去った。
第一分隊の一人は天井に開いた穴を暫し呆然と見つめながら呟いたのであった。

「それ、どんなばっちゃだーー」

37 :
++++++++++++++++++++

さて、爆発したら場面転換というお約束に違わず場面は移り変わり、
馬車で街道をひた走るセレスティーヌご一行。

>「まずは冒険者とやらの真似事でもしてみるか!この人数なら傭兵もできるかもしれないがな!」

そう言うセレスティーヌに、いつの間にか着地していたアレクがさりげなく続く。

「登録するパーティー名は聖十字《ホワイトクロス》氣志團といったところか。夜露死苦ゥ!
ところで海賊王はどこに? ・・・・・・何!? そんなところにいたのか!」

アレクが立っているのはフィッチャーの肩の上だった。
別に変な手違いか何かで映像が乱れているわけではなくナチュラルに肩の上に着地したらしい。

38 :
(何でだ? 俺の人生、教会の騎士になることで変わったんじゃなかったのか…!?
俺の海賊時代の連中もみんな殺されちまった。だからといってここから出る訳にもいかねぇ。
クソ、シュタインのヤロウ、俺は…!)

鞭を打つ音とともに痛みが身にしみる。肩の矢傷は相変わらずズキズキと痛む。
と、同時に罵声が浴びさせられる。

「アースラントから遥々来たと思えば、賊どもの始末か。ケッ、ジェノアって街は田舎だって聞いてたが、
兵士どもと賊が一緒だとはな。治安も知れるぜ」

「くそっ」

フィッチャーが地面に血の混じった唾を吐きかけると、剥こうでは
セレスティーヌが罵倒を受けているところだった。


>「セレスティーヌ、とか言ったか?噂ほど戦が上手くはないようだな。
 使えるのはその見た目だげっ!」

彼女の拳が顔面に入り、「第二」分隊員の男はたちまち壁に突き飛ばされよろめく。
男が立ち上がり、周囲に檄を飛ばそうとしたときだった。

>「――もううんざりだ!シュタイン司教があのような人間だったとはな!町娘たちの噂通りか、あの男は!
 第三分隊、いや第二分隊、立て!私たちはここを抜けるぞ!
 このような腐った屑共にコケにされるのは我慢ならん!」

オォォォォォ…
周囲がざわめく。一方的だった気の流れが確かに今、変わった。

「おう、そうだ、そうだ、セレス隊長の言う通りだ。ありゃ教会のやることじゃねえぜ。
ってことで俺も抜けさせてもらう!」

手際の良い従士はいつの間にか抜けた縄をくぐり、鞭を打つ兵士の鞘から剣を抜いてその首に突きつけた。
ヒィ、という声とともに鞭を持ったまま腰を抜かす第二分隊兵士。
そこからは流れは速かった。

「貴様ら、待て、まさか我々に逆らおうってんじゃあるまいな?」
マーゲンがガントレットをガチリと鳴らしながら、蜂起した「第三」分隊へと向かおうとしたところを、
セレスティーヌの一撃が襲う。

39 :
「ぐぇっ!」

マーゲンはフラフラとよろめいた。

>「フィッチャー、貴様も立て!武器庫と馬、それと金庫だ!」

「あ、あぁ…」

気がつくと彼を打っていた隊員は突き飛ばされており、手足が自由になると同時に、
剣が置かれていた。鞘のない、グレート・ソードだ。

フィッチャーがそれを一振りすると、剣を抜こうとした拷問者を、一瞬で両断した。
薄着だったことが災いしたのだろう。真っ二つになった肉体からは臓腑が溢れ、天井にまで血液が飛び散った。

「悪いセレス、俺も続く。元第三隊長たるものが、悪かった!」

その後はまだ縄で繋がれているユニスたちを次々解放していった。皆酷い傷だ。
フィッチャーがハルバードを手に取ったマーゲンと対峙している頃には、
周囲では第三分隊が第二分隊を圧倒しており、マーゲンの裏側にある武器庫を接取すると、
勢いは完全にこちらへと傾いた。

「ギャぁぁ!」「おい、リック!」

マーゲンはハルバードをふりかざし、こちらを威圧してくる。
下手に肉薄した一人がその餌食となり潰れるようにしてその場に倒れる。恐らく助かるまい。
セレスティーヌの姿は既にここにはない。おそらくは奥にいるシュタインの下へと向かったのだ。

>「お嬢!槍です!」
>「さらばだシュタイン!放て閃光!」

どうやら決着はついたようだ。
元・第二分隊でも特に頭脳派と言われていた騎士、アレスの声が響くと、
セレスティーヌの槍から光が放たれ、瞬く間にその場を包んだ。

いつの間に、とフィッチャーは思ったが、元々曲芸師のように器用な彼のことだ。
どさくさに紛れてセレスティーヌの槍とともに隠れていたのだろう。

騎士団の詰所を何とか脱出し、今度は自警団を入れた神官兵たちが追ってくる。

40 :
市街からは強行突破により一番手薄な関門から街の外へ。

逃走途中で教会詰所側で大きな爆発もあった。
火薬のものではない。白い光の爆発だ。

(まさかあれは、アレクが…?)

お陰で追っ手の数は知れたものだった。
こちらの位置すら完全に掴めておらず、敵はこちら側の弓やフィッチャーの剣によって次々命を落としていった。
気がつくと追っ手の数も少なくなり、彼らは勝手にジェノアの街方面へと退散していった。

>「……皆大丈夫だな!?アレクのことなら心配するな、あいつならば後からでもついてくるだろう!」

「あぁ、さっきのは全員殺っちまった。追ってを一人ぐらい生かしておけば良かったか…
あんな思い出もヘッタクレもねぇ、クソッタレな街、こっちから別れてやるよ。
それより速く服を着てえもんだな。何人か殺られちまった…ところで、これからどうすんだ?」

夕暮れになるジェノアの街の明かりが遠くに見える。
かつて「騎士団」だったとは思えない半裸の格好で、フィッチャーがタオルで体を拭きながら
ゆったりと馬車の中から着替えになりそうなものを探す。

>「まずは冒険者とやらの真似事でもしてみるか!この人数なら傭兵もできるかもしれないがな!」

それを聞いたフィッチャーは少しばかりか、心躍るものがあったらしい。
少し欠けた白い歯を見せながら、短い金髪を掻き、高らかに言った。

「冒険者か! そいつぁいい。 俺は昔、海賊のリーダーやってたんだ。ジェノアの湖でな。
セレス、お前さんも身分を隠してえ気分だろ? 助けてもらった恩もあるし、俺が団長をやる。どうよ?」

>「登録するパーティー名は聖十字《ホワイトクロス》氣志團といったところか。夜露死苦ゥ!
ところで海賊王はどこに? ・・・・・・何!? そんなところにいたのか!」

「うぉぉ! お前、無事だったのか!? 
そうだな。連中はどうせホワイトクロスという名前は使わねえだろう。
だったら俺たちが白十字を下げなくても名乗ってもバチは当たらねえだろうよ。
じゃあ回復、回復、すぐ回復だ。あぁ、とりあえず俺から頼むよ。団長だからな。
いや、ユニスあたりからでいいや、その次が俺で…」

と、ボロボロになったホワイトクロス騎士団は、満身創痍ながらもジェノアの脱出に成功し、
南に位置するヴィクサス神聖国、ゾロアニア侯領へと足を踏み入れた。
ここは神聖連合ではほぼ最南端に位置し、ジャイプールとの国境も近い。
日が暮れるにつれて、砂煙が立ち上ってきた。

41 :
――

「始末しろ」

マーゲンの命令で矢やナイフが一斉に飛ばされ、逃げ残ったかつての第二分団の兵士二名が射殺された。
彼らは眼に涙を浮かべていたが、セレスティーヌらを逃がすことができてどこか満足げにすら見えた。

「では俺はこれより幹部会議に行く。貴様らは手当てを済ませてさっさと詰所を立ち去り宿舎に戻れ。
死体の始末は明日でもかまわん」

「自分側の」兵の始末すらも放置し、マーゲンが向かった先は、この教会の「特別室」と言われる
礼拝堂だった。
そこではシュタイン、第一分隊副長のステッセル、そして何と、元老院議員であるハミルカル・ブライトが
女たちと戯れていた。
彼女たちは色とりどりの透けたベールのみを着用し、ほぼ全裸で食料、飲み物の準備や、身の回りの世話をしていた。
その中の一人は以前フィッチャーの行きつけの店で知り合ったという先の戦いの人質なのだが、
今それをフィッチャーたちが知る由はない。

「マーゲンどのも、まぁ、ご一緒に」

シュタインが品の無い表情で手招きする。彼はすぐさま分厚い鎧を脱ぎ捨てる。
女が飲み物を持ってくると、疲れたとばかりに椅子へとふんぞり返った。

「ジェノアとは辺鄙な街かと思っていたが、なかなか悪くないな」

上機嫌なマーゲンとは裏腹に、ハミルカルは機嫌が悪そうだ。

「我が息子、バルカスが殺されたそうだ。先ほど暴れたシュヴィヤールの女と賊どもに。
シュタイン「大司教どの」、この失態の埋め合わせは、してくれるのだろうな? そこの女、来い。

人質「役」をしていた女がハミルカルに飲みものを持って近づくと、その場で首を絞めて、喉笛を潰した。
パリィィン、という音とともに飲み物が床へ落ち、女は白眼を剥いて絶命する。

「街中の女を寄越せ、シュタイン。ワシの言う意味が判っておるな?」

「はい、ハミルカル「枢機卿どの」、既に我が「使徒」どもに準備をさせております。
この度はマーゲンどのの援護もあります故、速くカタが付くかと」

「して、どういった方法でそのようなことを?」

マーゲンの驚いたような表情に、シュタインは顔色一つ変えず。

「簡単なことですよ。夜が来るまでに「使徒」どもに元老院に仕掛けをさせておきました。
あとは元老院を外界から完全に孤立させ、皆殺しにするまで。
自警団に紛れ込ませたアースラント兵も使います。そして自警団本部も同じように
包囲して彼らには犠牲になっていただきましょう。
あとは、門を閉鎖すれば、ジェノアは我らの楽園です。

いかがですか、マーゲン「騎士団長どの」?」

与えられている役目を聞いているとはいえ、まさかこの地方の一司祭のシュタインがこれほどまでに
手際が良いとは、想像だにしていなかった。
マーゲンはこの男の眼に何か異常なものを見ていた。いや、実際に異常なのだ。
自分の強靭な意志でさえも、操られるような。
自分が邪悪であると意識していてさえ、それをも凌駕するような何かを、彼は持っているのだ…!

42 :
「さぁ、来なさい。我が「使徒」、聖<サン>ヨナクニ」

虹色の輝きとともに現れたのは、デイトリームのアトラスムス、教会での洗礼名「聖ヨナクニ」だった。
先ほどアレクと話をしていた時とはうってかわって、自分の周囲に幻影をいくつか出している。
まるでそこに五人ものデイドリームがいるように。

卑猥な空間に突如現れたこの人物に、ハミルカルとマーゲンは驚愕していた。

「教皇猊下が遣わされた、正真正銘の聖人ですよ。聖書には存在しませんがね
猊下が仰るには「聖書は時代が創る物」だとのこと」

勿論、そのようなことがヴィクサス教会で大々的に行われてきた歴史はない。
そもそも教皇は近年になって長年の間、人々の間に姿を現していないのだ。
二人の男は驚愕の表情を隠せなかった。

「わたくし、シュタイン大司教様の下で奉職させていただきます、アトラスムスと申します。
どうやらお取り込み中だったようで失礼いたしました。
アレクサンドラは逃がしました。予想以上に「手懐け」られていますね。
しかし、あの者は既に私によってリンクされています。
つまるところ、どこに彼が居ようがわたしには判るということ。
それより、今夜の作戦はわたくしが僭越ながら協力させていただきます。お見知りおきを」

そして、礼拝堂の中で光と闇の演舞が行われ、シュタインらはその舞にしばらく見とれていた。
すると気がついたときには、アトラスムスの他にも四人のデイドリームが現れていた。
イリュージョンだ。今夜、彼らが作戦を決行する。

――

かくして、一夜にしてジェノアの元老院議員が皆殺しとなり、自警団員もアースラントを中心とする特殊兵団によって駆逐され、
一瞬で歴史あるジェノアは、シュタインらが支配する掠奪と犯罪の街となった。


燃え盛る元老院の建物を見ながら、ハミルカルとシュタインが話していた。


「ワシは奴らの位置をおおよそ把握している。なに、ワシが帝国と内通したのは事実だ。
そして、帝国のあるルートから我が息子バルガスを討ったフィッチャーどもを根絶やしにするよう、
暗殺部隊を送り込む。殺しのプロよ。それと…いずれは我が娘にもこのことは話さねばならぬな」

ハミルカルの話を聞きながら、シュタインは今まで見せたこともないような表情で、
青筋を立てながら言った。

「私も同感ですな…シュヴィヤール家。忘れもしない。かつて教皇猊下の前で奉職していた際に、私が知り合ったアンネという女性。
それは可憐な女性でした。彼女と私は付き合っていたのですよ。そのアンネを妻帯者でありながら、私から奪った憎き男、シャルル・シュヴィヤール公。
あぁ、喉から腸を引きずり出してそれで眼を潰してやりたいほど憎い。だから「こうなった」今、少しずつ潰してやるのですよ。
まずは手始めにゾロアニアでの煽動部隊を送り込んでおきました。いずれ奴は震え上がることでしょう。
ハミルカル枢機卿どのには、とりあえず生かしたまま小娘、セレスティーヌを捕らえていただきたい。
娘をまずは、生かさず殺さず、徹底的に壊して見せ付けてやるのです。そして、シュヴィヤール領も近いうちに…
アンネを奪って殺したシャルル、貴様だけは…!」

炎の断続的な黒い煙を上げる爆発音とともに、ギリリリと不気味なシュタインの歯軋りの音が続いていた。


【反逆ルートと来ましたか! 面白いb
と、こちらもダークサイドの描写を多少進めてみました。
「ホワイトクロス」の名はこのまま主人公サイドで使うノリでいきますw】

43 :
>「登録するパーティー名は聖十字《ホワイトクロス》氣志團といったところか。夜露死苦ゥ!
ところで海賊王はどこに? ・・・・・・何!? そんなところにいたのか!」

>「うぉぉ! お前、無事だったのか!? 

「だから言っただろう、アレクは一人でもなんとかなるとな!
 それとフィッチャー!残念ながら私は身分を隠すつもりなどない、団長は私のままだ!」

えへん、と胸を張って自信たっぷりに話すセレスティーヌ。
団員だちは顔を見合わせたが、やがていつものことと言わんばかりに肩をすくめた。

「だが、これからは少々面倒だ。とりあえずホワイトクロス騎士団の名は我々が受け継ぐが、
 金銭や武器防具、宿は私たち自身が稼ぐ必要がある」

「そして今日の宿だが……見ろ。このゾロアニアにおける唯一の宿場町だ。
 少々治安が悪いが、あそこを今後の拠点とする」

街道を進むうち、夕日に染まりつつあった景色も姿を変えている。
緑が豊かで河川が多いジェノア共和国の風景から、
ところどころが荒野となり、かつての都市の残骸や砦の跡が残る大きな草原へと。

そして街道が続く先には、夜でも絶えることのない光を放つ街が見える。
あらゆる勢力の小競り合いが絶えないこの周辺において、唯一城壁を持たない街。
宿場町レクトゥスが、そこにあった。

レクトゥスは元々行商人たちが一時の宿としていた大きな木だったが、
やがて引退したある大商人がそこで宿屋を始めた。
そして宿を目当てに来る者、その者を目当てに宿を開く者両方が集まり、
やがて大きな宿場町となった。
そのため町長は存在しないが、宿屋の主人で構成された宿屋ギルドが
実質的な統治を行っているとされている。

「私の父が若い頃、ここを拠点に武者修行をしていたという話をしてくれてな…
 年長者の話は覚えておくものだ」

そう言いつつ、中規模な傭兵団向けの宿に馬車を向かわせる。
セレスティーヌは高価なミスリルの全身鎧を脱ぎ、質素な布の服と銀の胸当てを身につけ、
腰にルクレールを鞘に納めていた。

「ここは傭兵や冒険者向けの宿が多い。我々のような大人数でも泊まれるだろう」

そうして街の大きな通りを進んでいくと、裏道や横道、通りの端にところどころ娼婦らしき女性が立っているのが分かる。
どうやら宿泊客目当てのようだが、セレスティーヌは何か見てはいけないものを見た気持ちになった。

「……フィッチャー、それと男性団員。行くなとは言わん。
 私とて深窓の令嬢というわけではない。理解はできないが否定はしない。
 だが私の目の前であまりそういう話をしないでくれよ?」

戦う男には付き物なのかな……とセレスティーヌは一人ぼやきながら、セレスティーヌたちは宿へと向かう。

44 :
>「うぉぉ! お前、無事だったのか!? 
そうだな。連中はどうせホワイトクロスという名前は使わねえだろう。
だったら俺たちが白十字を下げなくても名乗ってもバチは当たらねえだろうよ。
じゃあ回復、回復、すぐ回復だ。あぁ、とりあえず俺から頼むよ。団長だからな。
いや、ユニスあたりからでいいや、その次が俺で…」
>「だから言っただろう、アレクは一人でもなんとかなるとな!
 それとフィッチャー!残念ながら私は身分を隠すつもりなどない、団長は私のままだ!」

「この通り、超無事だよー! よっと」

無事をアピールしつつとりあえずフィッチャーの肩から降りる。
むしろどちらかというと置き土産に爆発かまされた向こうさんの方が無事ではない。

>「だが、これからは少々面倒だ。とりあえずホワイトクロス騎士団の名は我々が受け継ぐが、
 金銭や武器防具、宿は私たち自身が稼ぐ必要がある」

見回してみると、一行は満身創痍の裸一貫でとても騎士団とは思えない有様。
装備を奪われた状態からとるものもとりあえず飛び出してきたことが伺える。

「はいみんないったん座って。怪我が酷い人から順番に回復するからね」

我先にと押しかける比較的元気な負傷者を制し、その元気もない重症者から治療にあたる。
聖騎士団といえども寄せ集め、初級の止血程度の術ならともかく本格的な回復術が使える者は希少なのだ。
そうこうしているうちに、一行は宿場町レクトゥスへと到着した。

>「そして今日の宿だが……見ろ。このゾロアニアにおける唯一の宿場町だ。
>「ここは傭兵や冒険者向けの宿が多い。我々のような大人数でも泊まれるだろう」

通りのところどころに接客業(意味深)らしき女性が立っているのを見て、セレスティーヌが言う。

>「……フィッチャー、それと男性団員。行くなとは言わん。
 私とて深窓の令嬢というわけではない。理解はできないが否定はしない。
 だが私の目の前であまりそういう話をしないでくれよ?」

ユニスと顔を見合わせて「ほんとにねー」という感じの視線を交わしつつ苦笑する。
男女どちらでもないアレクだが、これにおいては女性陣側の立場のようだ。
とにかく、一行はひとまず今晩の宿「大樹の洞(うろ)亭」に入っていく。
もともとは行商人達が一時の宿としていた大樹から始まったというこの街の起源に由来する名前らしい。

45 :
「いらっしゃいませ、あれまあこれはこれは大人数で!」

冒険者としてはかなりの大所帯に、宿屋の主人はホクホク顔。
装備品もほとんど失ってしまった一行は、一旦部屋に案内された後、
消耗が激しい者はそのまま休み、比較的元気な者は各自買い出し等に向かう。
宿屋と一言に言っても例に漏れず、一階は宿泊客一般客入り混じった食事場兼冒険者向けの仕事あっせん所といった様相を呈している。
増してこの街は宿屋ギルドが実質的な統治を行っているため、猶更広い情報網を持っているだろう。
幸い装備品を殆ど失わなかったアレクは、早速一階に降りて情報収集に取り掛かる。

「最近魔物が凶暴化してるんですって」「また街道を通行中の商人が襲われたとか」
「北の砦跡にゴブリン共が住みついたらしいぞ」「あらやだ」

等と客達が世間話を繰り広げている。

「マスター、大人数向けの依頼って何かない?」

「大人数向けねぇ……。お前さん達元傭兵団か何かだろう?
そんな分かりやすい強モンスターの討伐依頼なんてありそうでなかなかあるもんじゃないからなあ。
最近妙に行方不明者探しの依頼が多いんだけど生憎斥候とか頭脳派パーティー向けだよなぁ。
ああそうだ、荒事というよりはほとんど交通整理に近くて大した報酬じゃないけど
近いうちにここゾロアニアの候がこの街に視察に来るらしいんだけどその時の街の警備なら一応募集してるよ。
なかなか人数が集まらないんだよなあ」

「へー、視察って具体的には何しに?」

「さぁ、詳しいことまでは知らないがね」

「ありがと、もし他に何も無かったら考えてみるよ」

こうしてなんとも地味な求人依頼の情報を入手したアレクは
再び皆が集まって今後の方針を話し合う際等に今聞いた情報をかくかくしかじかと話すことだろう。
とはいうもののフィッチャーやセレスティーヌが他のメンバーが
華々しい冒険者っぽい依頼を仕入れて来ていれば、そちらを受けるに違いない。

【適当にネタをばらまいたけど今のところ何も考えてなくて深い意味は無いので流して貰っても全然大丈夫です!】

46 :
>「だから言っただろう、アレクは一人でもなんとかなるとな!
 それとフィッチャー!残念ながら私は身分を隠すつもりなどない、団長は私のままだ!」

「ハハッ、聞くまでも無かったな。あんたがあっさり長の身分を譲るなんてことがあってみろ、
それこそ北方も帝国も滅ぶ。じゃあ俺は副でも構わねえ」

>「はいみんないったん座って。怪我が酷い人から順番に回復するからね」


夕陽の落ちる中、ヴィクサス神聖国南端に位置するゾロアニア侯領の宿場町、レクトゥスの明かりが見えた。
フィッチャーは先ほどの傷をアレクによる治療で癒されながら、今後起こるだろう事について色々と無い頭を使って考えていた。

(この街には防御機能はない。確かゾロアニア侯の城は南の外れ、帝国との最前線にあったはずだ。
つまりそこを破られれば、この街は危ない)

そして後方を振り返りつつぼやく。

「俺たちは前にはこれ以上進めねぇ、オマケにシュタインのあのツラ、あれだけで赦してもらえるとは思えねぇ…
きっと何らかの嫌がらせをしてくるか、殺しに来るはずだ」

>「私の父が若い頃、ここを拠点に武者修行をしていたという話をしてくれてな…
 年長者の話は覚えておくものだ。ここは傭兵や冒険者向けの宿が多い。我々のような大人数でも泊まれるだろう」

「大人数、ねぇ…」

ふと、セレスティーヌの横顔を見る。鎧兜を外し、金髪を靡かせる姿は、「美人だ」と一瞬だけでも思わせた。
ましてや細身の鎧を身に付けているのがより一層細身に見え、女性らしさも強調されている。

ところで、現在の「ホワイトクロス騎士団」の構成員は8名。再編成で10名+1名になった後、
シュタインたちジェノア司教区との戦いで1人が命を落とし、2人が合流していない。恐らく無事ではすんでおるまい。

こうなればようやく名前と顔も一致するものだ。
まず女性団員は団長のセレスティーヌ、気の弱い元、ジェノア司教区の神官戦士ユニス、これでも補助魔法と棍棒の使い手だ。
そして同じくジェノア司教区からの司祭マーテル。こちらは神聖魔法による後方支援が主だが気が強く、ボウガンの扱いに長けている。以上三人。
間にどちらでもないアレクを挟み、男は自称副団長のフィッチャー、シュヴィヤール家からの世話役でセレスティーヌからの信頼厚いアレス、
王国から派遣されたという頭の回りそうな剣士ヴィクトル、そしてマーテルの後輩になる最年少の司祭デルタの四人だ。

>「私の父が若い頃、ここを拠点に武者修行をしていたという話をしてくれてな…
 年長者の話は覚えておくものだ」

8人がレクトゥスへと向かう中、セレスティーヌが身の上話をする。

そういえば、だ。ここゾロアニアは街道を伝って北東のシュヴィヤール公領と隣接する。
つまり有事の場合はセレスティーヌの父も参陣する可能性があるのだろう。

47 :
>「……フィッチャー、それと男性団員。行くなとは言わん。
 私とて深窓の令嬢というわけではない。理解はできないが否定はしない。
 だが私の目の前であまりそういう話をしないでくれよ?」

「あぁ…分かった。…そうか、懐かしいもんだな」

大樹の洞亭と書かれた大きめの宿の近くは広場がありちょっとした繁華街との境となっており、
付近にはそこらの街娘より丈の短いスカート、身体の線を見せやるい服装、フードの女などが並んでいた。
生真面目なアレスは流石だが、フィッチャーやヴィクトル、デルタはチラチラとそちらを見ながら宿へと入った。
そういえば、女を買うということは、「海賊」を辞めてからは一度も無かったのだ。
尤も、今はバックボーンすらなく、貴重な「軍資金」を使う余裕はますます無いが。

宿の主人は快く一団を迎えてくれた。

セレスティーヌは早々と部屋割を決め、ユニスは我先にと部屋に入り、アレスは廊下を検分しながら有事の場合のルートを確保し、納得したような顔で
さっさと部屋に入ってしまった。ヴィクトルもアレスの話を聞くと安心したのか部屋に入った。
一方で付き合いの良い(?)アレクは馴れ馴れしくも、一階に併設された酒場へと足を運び、マスターに話を聞いているようだ。

(さて、どうしたもんか…)
フィッチャーは情報収集を請け負ってある程度の資金を団から拝借している。飲み物を注文すると、アレクらの話を横目で聞いていた。

>「ああそうだ、荒事というよりはほとんど交通整理に近くて大した報酬じゃないけど
近いうちにここゾロアニアの候がこの街に視察に来るらしいんだけどその時の街の警備なら一応募集してるよ。
なかなか人数が集まらないんだよなあ」
「へー、視察って具体的には何しに?」
「さぁ、詳しいことまでは知らないがね」


――


「閣下、東の動きはおおよそ順調です。シュタイン様が手はず通りにやっています」

アトラスムスが現れたのは、アースラント王国「白羽将軍」カリストの元である。

「ご苦労、アトラ。元老院の会議中に奇襲、というのはお前の案だったな。見事だ。
ジェノアが『我が方』に落ちた、という話は聞いている。ところで、「おおよそ」とは
どういう事だ? 我々に落ち度があったのか?」

アトラスムスは若干声を落とし、しかし狼狽することなく主人に告げる。

「ジェノアの都市機能は完全に乗っ取りました。あの街は表面上は「何事も無かった」ことになるはず。
しかし… 、セレスティーヌ、アレクサンドラとその、「あの男」を取り逃しました…」

冷静沈着なカリストの目が見開き、若干語気が荒くなる。

「で、どう対処することになった?「教会」との関係を悪化させることにはなるまいな?」

「セレスティーヌらについては、シュタイン様とハミルカル様が既に手を回してあります。
彼らはRつもりはないようですが、こちらに引き渡せば口封じをする機会もあるはず、しかし、「あの男」は…」

ニヤリと笑い、カリストが手の甲をボキボキと鳴らす。

48 :
「その件については問題ない。位置は把握しているのだろう?「パピヨン隊」が何とかしてくれよう。
アレクサンドラについては今後も泳がせておけ」

「は…」

ドンドン、と彼らの会話の間に扉が叩かれ、開け放たれる。カリストがアトラスムスに合図を出す。

「カリスト将軍、今後の出陣予定について会議がある。すぐに西の塔に来るように。
ま、恐らく出陣は形だけになるだろう。貴様のお陰で我らも犠牲を出さずに済んでいる。感謝しているぞ」

堂々と話すこの人物は白狼将軍と呼ばれた古参にして老将、ハウザーだ。
既にその場にはアトラスムスの姿は見えていない。


――


宿から慌しく二人の人物が降りてくる。マーテルとデルタだ。
彼らはヴィクサスの教団でも先輩後輩にあたり、姉弟のような空気もある。

「ねぇ、フィッチャーだっけ? あたしらちょっと外に情報収集に行くんだけど、
一緒に来ない? 外出るの、好きなんでしょ?」
「フィッチャーさんなら色々知ってると思うんで、俺たち頼りにしてるんですよ」

いきなり慣れ慣れしく話しかけられたフィッチャーは面食らったが、それにしても
教会の服装から随分とラフな格好になったものだ。二人とも盗賊を自称しても違和感はないだろう。

「副団長、だ。まぁいい。お前らみたいなのを待ってたんだよ」

正直なところはそうだ。アレスやユニスのような堅苦しく真面目なメンバーばかりだと思っていたので、
こういう外に出る機会、仕事の緊張から解き放たれ酒を飲むチャンスをうかがっていたのは事実だ。

49 :
――

「地底の泉亭」と呼ばれたその酒場は、「いかにも」といった感じで、
宿と相反する名称に相応しく荒々しい雰囲気の場所だった。

「で、あたしら仕事が欲しいんだけど、ゾロアニアの侯爵様が自ら出てくるってのは
ホントなの? あんたらの嗅覚なら大体分かるでしょ」

マーテルという女はその名前の淑やかな響きに似合わず、酒好きでそれを元にコミュニケーションを取るタイプのようだ。
どうしてこういうのが教会にいるのかが不思議なものだが、世の中全てが適材適所ではないらしい。
今の話し相手はケン族のカボス、このあたりでは「コボルト」と呼ばれている北方系の亜人の一族だ。
嗅覚に優れ、勇猛で忠義に篤いと一般的に言われている。

「あぁ、そうみてぇだな。理由はシュヴィヤールの軍が一気に南下してドクラ要塞に入るらしいから、
そのハナムケつーか、後詰めみてぇなもんだな。ルドルー隊長の話ではここまでしか分からねぇが」

フィッチャーは思わず食らい付いた。

「シュヴィヤール、思い出した。ありゃセレスの実家じゃねえのか!?
ルドルーってのは今どこにいる? あとだ、良かったら俺らの仲間に入らねぇか?
『ホワイトクロス騎士団』だ。今人数を募集している」

「ちょ、ちょっと待ってください、それは団長には話したんですか?」

デルタを手で制し、フィッチャーは金貨をチラつかせる。マーテルも乗り気だ。
どこで買ったのか、鹿の骨付き燻製を取り出した。そして話が勝手に進んでいった。

「分かった。じゃあ、俺らからは10人ほど出せるってことで話が付いた。
その代わりさっき受けたゾロアニア侯警備の仕事が終わってからな。一緒にやれて嬉しいぜ。
ルドルー隊長は強いんだぜ。今前線に行ってるドーベル将軍の次ぐれぇだな」

「前線というのは、どこだ?」

「勿論、ドグラ要塞よ」


――


ケン族たちとの話を終えても、マーテルとデルタはフィッチャーと一緒になって飲んでいた。
この三人にとってはさっきのが「ノルマ達成」のようなもので、あとは食い放題という訳だ。
すっかりグデグデになったマーテルがデルタをどつき始める。

「お前ら、随分仲良いんだな」

フィッチャーがデルタに話を振ると、デルタが元々赤くなった顔を真っ赤にして手を振る。

「いやいやいや、マーテルとは「腐れ縁」みたいなもんですから。フィッチャーさんこそ、
セレス団長には興味は無いんですか?」

思わぬ反撃を食って、フィッチャーはポカーンと口を開けてから反撃した。

「ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ。ああいうお嬢様みてえなのとは、気が合わねえんだよそもそも!
ま…兜を取ればそれなりに可愛いってか、黙ってりゃそれなりだとは、思うけどな」

「ったく…ウェ、そろそろ二日酔いになりそうだし、宿に戻るわ。あんたら、
男同士で二人で楽しんでたら? それともそこらの女と楽しんじゃう?」

50 :
からかうマーテルがフラつきながら立つのを見て、デルタもすくっと立ち上がった。

「お、俺もマーテルが心配なんで、一緒に宿に戻りますね、じゃあ、気をつけて、副団長」
「楽しんで〜」

お、おう、と言いながらそのまま残った食べ物や飲み物を勿体無いとばかりに飲みながら、
周囲の話に耳を傾ける。

分かったことは以上だ。

・帝国軍が国境付近まで来ている。既に斥候が侵入している可能性も。
・ドクラ要塞に神聖連合が集結しつつあり、その中心はシュヴィヤール公爵。
・ケン族の将軍らしき人物、ドーベルも参加している。
・よって近いうちに帝国と一戦を交える可能性もある。
・ゾロアニア侯が出てくるのは、シュヴィヤール公の援護のため。
・レクトゥス含め、ゾロアニア領内では治安が悪化しつつある。

さぁて、俺も帰るかな…
少々高くついた金額を払い、宿へとゆっくりと向かう。

既に日が落ちてから結構な時間が経つが、ジェノアよりもこの街はよるが長いようだ。
恐らく売春婦なのだろう。あちこちで男たちとの会話が繰り広げられており、次々と連れ立っていく。

「ちょっとそこのお兄さん、一晩、金貨5枚でどう?サービスしとくよ」
「いや…ちょっと明日は仕事があるから」

胸元を大きくはだけた女を適当にあしらって宿に向かおうとするフィッチャーに、
今度はスカート丈が異常に短い女が声をかける。

「お兄さん、良い筋肉してるね。あたし気に入っちゃったわ。
特別に4枚のところ、3枚でもいいよ。行こ」

ちょっとドキリ、として立ち止まってしまったが、もう少しでこの繁華街を抜ける。
手であしらい、そのまま奥へと立ち去ろうとする。すると、フード付きローブの女が正面に回りこむようにして立ちはだかった。
フィッチャーより少し背が低く、女としては高い方だろう。

「あの…お兄さん、私、こんなに地味だから、どうしても余っちゃって…
金貨1枚で、いかがですか? 宿も決まってますから」

ドキリ、と心臓が高鳴り、シチュエーションに飲まれ、フィッチャーは承諾した。
こういう不幸な女を助けるというのが個人的にはたまらなかったらしい。
(良いのか…? 俺は、何をしにここに来ているのか…)


女がフードを外すと、南方系のやや色黒な肌が見えた。髪形はおかっぱを少し長くした感じだろうか。
エキゾチックな香りがフワリと漂う。フィッチャーは雰囲気に呑まれて脱いでいった。
女は色黒とはいえ、裸体のスタイルは非常によく、唾を飲ませるには十分だった。
フィッチャーが金貨を1枚渡すと、女へと覆いかぶさる。香りがフィッチャーの神経をより昂ぶらせる。
それと同時だった。

51 :
「動かないで、動いたら死ぬよ。爆発してこの家ごと」

女の裸体の両脇、ローブの中にはびっしりと袋が並んでいた。
そして、手には小さな炎が灯る。
思わず飛び退こうとするも、フィッチャーは逆に女に覆いかぶされた。

「フィッチャーだね。私はペトラ。バルカス・ブライトの元カノとでも言っておきましょうか。
彼を殺されたから今すぐあんたを殺したいんだけど、それだけじゃダメなの。
私の「お客様」の話ではあんたとセレスティーヌお嬢様ご一同を皆殺しに、って話なんでね。
逃げられたら困るもの。まずは有り金全部出しなさい」

フィッチャーはおそるおそる鞄に手を伸ばし、金貨10枚ほど入った財布をそのまま渡した。

「今日はそれでいい。「仲間」が後で合流するんでね。どうする? 折角だから私を抱いてく? 
勿論、ヘタなマネしたら私ごとドカン、だけど」

クスクスと笑う女が迫ってくる。一度は考えたが、ここは一度冷静になって報告するべきだ、と考えた。
ペトラという女の話では、少なくとも今夜は「仲間」とやらは来なさそうだ。
さっさと女から離れると、素早く着替えて後ずさりしながら奥に立てかけた大剣に手を伸ばした。

「じゃあ、また会いましょう」

女はこちらから視線を離し、服装を肌蹴たまま部屋から動こうとしない。
フィッチャーが部屋を出たその時だった。

カン!

「チッ!」「くっ!」

女が何かを飛ばした。恐らく吹き矢か何かだろう。それも猛毒の。
大剣で弾かれると舌打ちが聞こえたが、女が追って来ないのを確かめると、そのまま死角を通って宿「大樹の洞(うろ)亭」へと戻った。


――


「セレス、いるか?」

セレスティーヌの部屋のドアを叩くと、フィッチャーはその中へと入った。
もう遅く、来客は居ないようだ。マーテルたちからの報告は終わった後だろうか。
恐らく気配はアレクやアレスには気付かれているのだろう、と思いながらも、ベッドの端へと腰かけた。

「報告する。今日の情報収集を終えた」

それから今日、繁華街の酒場であったことを事細かに話した。
そして自分の推理の部分なども。

最後に一言だけ添えて。

「カネは全部使った。報告は以上だ。さて、明日は早いから寝るぞ、団長様。
…すまなかった」

最後に一言だけ謝罪すると、そっと立ち上がり、自分の部屋へと向かった。

【こちらも適当に進めて適当にというか結構動かしちゃいましたが、
自分のペースで進めていただいて決行です。
あと、途中参加や今回出した脇役キャラへの立候補も大大大歓迎です!】

52 :
>「いらっしゃいませ、あれまあこれはこれは大人数で!」

「八人、とりあえず十日分の代金だ。食事と仕事はここでやらせてもらうぞ」

金庫から強奪……もとい今までの報酬として頂いてきた金貨袋から、数枚取り出す。
ジェノアの旗をモチーフにしたジェノア金貨だ。国境に近いとはいえ
ヴィクサス神聖国と関係の深いジェノア共和国の通貨はここでも十分な価値を持つ。

「ええありがとうございます、お部屋はご案内しますのでしばしお待ちを」

一日分をちまちまと支払うような冒険者ばかりの中で、まとめて数日分の代金を支払う
セレスティーヌの姿はかなり目立った。

「騎士にしちゃあ身なりが軽いな。かといって傭兵団というほど数が多いわけではない……」

「いいとこのお嬢様の趣味だろうよ、お付きの者が後ろに控えてるぜ!」

セレスティーヌの斜め後ろに控えるアレスを揶揄したのか、食堂兼酒場の方から野次が飛んでくる。
使い古された剣に槍、汚れた胸当て。いかにも冒険者と言った風情の二人組が酒に酔っているようだ。

「……一仕事終えたばかりの時間だ、あれくらいはいいだろう」

そう自分に言い聞かせるようにセレスティーヌは呟き、団員へと指示を出す。

「部屋は全員決まったな?動ける者はこの地域の情報を集めてくれ。後で私の部屋に報告に来てほしい。
 傷がまだ治っていない者や疲労が激しい者はなるべく早く休むように、では解散!」

そう言って団員たちがそれぞれ動く中、セレスティーヌは部屋へと戻る。
セレスティーヌ自身が情報収集に動いてもいいが、団員たちが集めた情報を
まとめて考えるには、静かな場所が一番だ。

53 :
しばらく部屋で待っていると、やってきた団員たちから様々な情報が得られた。
ゾロアニア侯がこの街に視察に訪れ、その時の警備を募集していること。
シュヴィヤール公爵自らが軍を率いて、ドクラ要塞に集まっていること。
小競り合いばかりだったゾロアニア領が、最近さらに過激なものになりつつあるということ。

さらに行商人たちの護衛や、廃墟を占拠した魔物の群れの排除など冒険者らしい依頼の情報も得られた。

「―――分かった。それで全部だな?ありがとうアレス、よい夢を」

アレスが一礼して部屋を出て、隣の部屋へと向かった。
ほとんど脱走のようなものなのに、アレスは咎めることなく幼い頃のように
世話役として身の回りのことを色々とやってくれている。

(……私は一人ではない。だが……)

備え付けのベッドに座り、一人物思いにふけっていると、ノックの音がした。

>「セレス、いるか?」

「フィッチャーか?入れ」

やや暗い表情だが、真剣な目。明らかに何か厄介事が起きたことを示している。
セレスティーヌも相応の表情で話を聞いていた。

>「カネは全部使った。報告は以上だ。さて、明日は早いから寝るぞ、団長様。
…すまなかった」

「……そうか。賭博や女で使うよりはマシな使い方だ。
 よく生きて帰ってきてくれた、フィッチャー。相手の出方が分かっただけでも収穫だ」

落ち込んでいるフィッチャーの背中に声をかけ、ドアが閉まったところでセレスティーヌも
ベッドに入り、そこからすぐに寝息を立て始めた。

そして翌朝。セレスティーヌは団員たちを酒場兼食堂の大きなテーブルに集め、
朝食の黒パンと焼きたてのベーコンを食べ終えた後、今後の方針について話すことにした。

「私は当面の資金稼ぎとして、ゾロアニア侯爵の視察に伴う警備巡回の依頼を受注したいと考えている。
 どうやら視察はかなり長期のものになるようだ。よって報酬もその間払われ続けるし、
 この街での情報収集もやりやすくなる」

「だがこのままの装備ではやらん。まずはこの街に溶け込めるよう、
 冒険者や傭兵らしい装備にする必要がある」

そう言って口を閉じ、しっかりと聞いている団員たちを見回す。
すっかり少なくなってしまったが、それでも精鋭だとセレスティーヌは信じている七人を。

「意見を聞きたい。我々は今後どうするべきだろうか?」

【期限ぎりぎりですみません!とりあえずルートは提示しましたが、
 ほかに何かあればお願いします!】

54 :
各々が情報収集に向かい、セレスティーヌがまとめ役となる。
散った団員達が一人また一人と帰ってきてセレスティーヌに報告を済ませるが、フィッチャーがまだ帰ってこないようだ。

「フィッチャーさん大丈夫かな……変な事件に巻き込まれてないといいけど」

「まあ大丈夫っしょ、海賊王だし」

心配そうに呟く同室のユニスに、アレクは事もなげに答える。
騎士団の一般的な意味でのアイドル的ポジションであるユニスと
方向性は違えど種族特性上アイドル(偶像)的立ち位置でもあるアレクは
なんとなく仲良くなってつるんでいる事が多いのであった。
結局フィッチャーが帰ってきたのは、かなり夜が更けてからだったようだ。

次の朝、酒場兼食堂の大テーブルで皆で朝食をとった後、そのまま今後の方針についての話し合いが始まった。
セレスティーヌが昨日皆が集めてきた情報を一通り話す。
その中にはバルカスの元カノを名乗る刺客が一同を狙っている、なんていう物騒なものもあった。
あれの元カノなんて奇特な趣味の人もいたもんだなあ!と思うアレク。
尤も、便宜上そう名乗っているだけで実際は違う関係性なのかもしれないが。
とはいえもとより主に反逆して脱走してきた身。そんなのにビビっていちいち拠点を移していたらキリがない。
攻めてきたら返り討ちにするまで、ということになった。
そしてセレスティーヌは今後の方針としてこう切り出した。

>「私は当面の資金稼ぎとして、ゾロアニア侯爵の視察に伴う警備巡回の依頼を受注したいと考えている。
 どうやら視察はかなり長期のものになるようだ。よって報酬もその間払われ続けるし、
 この街での情報収集もやりやすくなる」

「うん、悪くない話だと思う」

>「だがこのままの装備ではやらん。まずはこの街に溶け込めるよう、
 冒険者や傭兵らしい装備にする必要がある」

そこまで言って団員達を見回すセレスティーヌ。
そう言われてみれば確かに今のままでは装備が心許ない。
実際には交通整理のようなものなので実際の強さはあまり関係ないのだが、この依頼の場合、問題は見た目だ。
侯爵を迎える任務、見た目があまりにもみすぼらしいと採用を断られかねない。

>「意見を聞きたい。我々は今後どうするべきだろうか?」

「うーん……廃墟の掃除でもやる?」

この街から北にほど近い砦跡を占拠したらしいのは、ゴブリン――
駆け出し冒険者にとってもさほど脅威ではない部類の魔物。
この精鋭部隊なら今の装備でもどうにかなりそうであるし
殲滅を達成すればそこそこの装備が買い揃えられる程度の報酬は得られるだろう。

【単純明快な魔物退治イベントなんか挟むのも新規募集するには悪くないかなーっと。
一緒に依頼を受けるという形で自然に加入もできますし】

55 :
フィッチャーはベッドに入ってからも暫くは寝付けなかった。
勿論、自分から女の香水がしていたのをセレスティーヌに気付かれていたかなどを気にしていたのではない。
ペトラという女の話によれば、いずれは騎士団員もまとめて襲うとのこと。
そして彼女らの覚悟の程度がわからない。

思うままに抱いていれば、爆薬が偽者であるにせよ、無事では済まなかったに違いない。
汗が一通り収まると、ようやく気だるい睡魔が襲い、眠りについた。

>「意見を聞きたい。我々は今後どうするべきだろうか?」

セレスティーヌが翌朝、大樹の洞亭1階の大きなテーブルにメンバーを集め、周囲に意見を伺っている。
質素な装備を見ると、貴族のお嬢様、もしくは神聖国の騎士団などだとは誰もが思うまい。
彼らの顔色はおもいおもいの、と言った方がいいかもしれない。もっと簡単に言えば士気が低めだ。
護衛目的のアレスはともかく、マーテルあたりはもう解散でも良いんじゃないと言わんばかりの表情すらしていた。

>「うーん……廃墟の掃除でもやる?」

アレクが相変わらずの高めのテンションと朗らかな表情で提案する。

どうやら酒場で聞き出した情報によれば、レクトゥスから北に向かったあたりの
砦跡を、ゴブリンが占拠したとのこと。
南に位置するドクラ要塞から見れば正反対の方向だ。おかしな話だ、とフィッチャーは何となく思う。

「しかしよ、この時期に廃墟たあいえゴブリンに取られるのかよ。ましてや戦となりゃ、ゾロアニア侯領には兵士がわんさかいるはずだ」

「甘いな。俺が軍師やら副官だったらこう考える。『一箇所に人目が集中するからこそ、そこを狙う』とな。
アースラントじゃみんなそう考える。そんなんじゃ神聖連合、やっていけんぜ」

ヴィクトルが我が物顔で語る。知ったことかといった顔でフィッチャーは続ける。

「説得力がねえ。あんたの実力も見てないんでね。たかが廃墟だ。とりあえず無理そうなら逃げりゃいい。
その前にお偉いさんの護衛に行こうや」


――

面会は領主の館ではなく、街の門のところで行われた。
ワン族の一派が集まっている。ざっと100人はいるだろう。犬をそのまま二足歩行の人型にしたような種族だ。臭いもそれなりにする。
どうも騒がしい連中のようで、無駄話が多い。体格も大人の男の頭一つ以上小さいのが多く、
まるで子供が騒いでいるようにすら見える。
その中で一際体格の良いワン族の戦士がいた。フィッチャーよりも頭一つほど大きいだろう。
装備はチュニックにサーベルと、まるで人間のような豪奢な格好だ。

56 :
「ルドルーだ。カボスから話は聞いている。私としても承諾したい。なにしろこんな連中だ。
ケン族というのは上下関係が厳しく統率がものを言うのだ。既に前線にいらっしゃるドーベル将軍の援護に向かわなくてはならぬ。
カボス以下10名を貴公らのもとに派遣する。一人も死者を出すなと約束しろ」

「分かった。俺はフィッチャー、そこにいる女の騎士様が俺らのボスのセレスだ。何かあったらそっちに頼む。ところで…」

ルドルーは話も聞かずにさっさと殆どの軍勢を連れてレクトゥスの外へと立ち去っていった。

「あぁ、すまねえな、隊長も隊長で大変なのさ。ところで俺らの侯爵様っていうのは…お?」

小柄なカボスが遠目を利かせ、鼻を利かせる。遠くを見ると、何やら大勢の軍隊が南の方向に向かって行っているようだ。
鉄騎兵隊やらが結構な進軍速度で移動している。その中には一段と煌びやかな装飾を纏った一騎が目立った。
(あれが、シュヴィヤール公爵か…!?)

周囲の護衛する歩兵も入れれば2000人はくだらないだろう。その人数が結構な勢いで南下を続ける。
と、その中から20人ほどの一団がこちらへと向かってきた。金属音や少々の楽器の音とともに。
中には執事や侍女、聖職者、僧侶、医者なども含まれている。背の低い老人や子供もいる。
一人の男が馬を下り、挨拶する。セレスティーヌと然程歳も変わらないぐらいの男だった。
立派な鎧を覗けばそこらにいる傭兵や町人と変わらないだろう。

「フランツ・ゾロアニアと申す。レクトゥスの皆に感謝する。先ほどシュビャールの公爵様とその軍勢と面会してきた。
私は前線に出ることはないが、この街は今後ジャイプール帝国軍との戦闘での負傷兵の治療などに使わせることとなった。
多少の補助は教会から出ているゆえ、決して貧しい生活はさせないと約束しよう。プレシャス!」

「「プレシャスぁァ!」」

ワン族の兵たちの声や街の人々の声も重なり、すっかりその場は素朴な雰囲気に包まれる。
そのまま侯爵は配下たちとともに文官たちの見守る領主の館へと入っていく。
フィッチャーは周囲を見回した。特に夜に娼婦たちが立っている方向を警戒したが、これといった異状はない。
配下の周囲をホワイトクロス騎士団とワン族で囲みつつ、館への護衛任務は無事に終了した。

「おーい、酒場のマスターから、仕事終わりご苦労さん、だとよ」

カボスが口をポカーンと開けている騎士団員たちに告げた。勿論、フィッチャーもその一人だ。

「随分割の良い仕事だな。お前らが今までやった仕事もこんなもんだったのか?」

「んにゃ。んなこたぁねえ。やっぱドーベル将軍の名前出したのが効いたんじゃねえかな。
ってことで、飲もうやあ。あんたらも来んだろ? 残念だけど人間の女は買ったりしねえからな。
ちなみにこれでも嫁サンとガキ持ちよ。チビたちのためにも、故郷に帰るまでにカネは溜めておかねえとな」

「プレシャス!!」

祝杯が挙がる。カボスら一行は一人の犠牲どころか一つの傷もなく、無事に護衛を済ませた。
宿の下層の酒場で飲み食いをしつつ、デルタが提案してみせる。

57 :
「これでしばらくは暇になりましたね。夜はゆっくり寝て、明日にでも例の砦跡ってのを見に行きますか」

「おう、そうだな。ところでセレス団長よう、やっぱお父上の出陣ともなれば、
少しぐらいは心配にならねえか? それにこれで終わりとはどうも思えねえんだよな」

「ぉいぉい、ハクナ・マタタだぜ。細けぇこたぁ、気にすんなってことよォ」

カボスらワン族たちはすっかり出来上がっているようで、周囲の団員たちと意気投合して
すっかり盛り上がっている。
フィッチャーはそっとその場を離れると、すっかり夜になった街へと繰り出した。


――


「ちょっと…海賊王さん、どんだけ溜め込んでたのよ。この部屋掃除すんの、あたしなんだからね。
あぁ、腰痛い。ったく、息は荒いし、乱暴で困っちゃうわ。普段も追剥とかやってんでしょ」

フィッチャーは金貨3枚で買った娼婦に案内された部屋で夜を過ごしていた。
すぐに女に尋ねる。

「海賊王に女を抱く理由はねえんだよ。ところで、…俺は、他所ものだからな。一つ、聞きたいことがある。今日来た侯爵様についてだが、
最近変わったことはあったか?」

女は逡巡したような顔をしながら、言葉を搾り出した。フィッチャーがこの胸元を大きく開いた女を選んだのは、
好みだからというだけではない。最も地元に通じてそうな、この街に馴染んでそうなのを狙ったのだ。

「あぁ、そうさねぇ…今の侯爵様はお兄さんが亡くなった後の弟さんだって聞いてるわ。
それもつい最近の話でね…」

「…本当か!? それで、領主の顔を見たのは、今回が初めてか?」

「うん、多分、殆どの街の人がそうだと思うよ。ところで海賊王さん、筋肉といい全身の傷といい、
ワイルドなところ、あたし気に入っちゃった。次来たときは、2枚…いや、1枚で良いかな」

顔のことは褒めないのかよ、と思いつつもフィッチャーは女から目を離すと、もう1枚金貨を取り出し、握らせる。

「取っておけ。それと、今俺が話したこと、ここに来たことは忘れてくれや。
もしバラしたら、今度はそこにある剣で、お前を突いてやる。死ぬまでな」

再び腰を抜かす女を尻目に、さっさと着替えたフィッチャーは、宿へと戻った。


――


ヴィクサス神聖国、聖都アトス。
古来ここに教皇庁ができて以来、背後の山には古びた塔が立っていた。
「アトスの塔」――地上と天界を繋ぐと、聖書には記載されている。聖書では。
しかしこの記載が、現実となろうとしていた。

58 :
――ある男が、今まさに『神』として光臨するために、天上の楽園を創り上げていた。
その名は『アトラスフィア』――ありとあらゆる悦楽と至福だけが存在する、理想郷である。
それを可能にしたのは全デイドリームの歴史の中で少しずつ積み上げられたきた技術を研ぎ澄ました張本人。
名前の由来になったアトラスムス。聖ヨナクニその人。

アトラスムスはアトスの塔の向こうで、天界を作っていた。今は無骨な大小のゴーレムたちが、「彼ら」の指示のもと、
次々と石を切り出し、細やかな装飾でその土台となる部分を作っている。

――『神』。『預言者』。『使徒たち』。『教皇』。『枢機卿』。『大司教たち』。『騎士団長たち』――

すべては新たにこれから創られていたもの。

「私は預言者。神は今日もお忙しいご様子。しかし、一つだけ『予言』しておきましょう。『明日、ドクラ要塞は陥落する』―。」

ジェノアの街は何事も無く回っているようには見えたが、少しずつ救いを求めて教会に行く者たちから不明者が現れはじめた。
そして、その事を街の人々はやがて、不自然ではないと思うようになっていく。ジェノアの街自体に結界が張られているのだ。

シュタインの治める大聖堂は酒池肉林の場となっていた。
裸の美女たちが飼い馴らされ、ハミルカルやマーゲン、王国から派遣されたごく一部の将兵たちの欲望の捌け口となっていた。

59 :
大聖堂に列を作り、新たに若い女たちがシュタインたちの前に突き出される。
それを我先にとマーゲンが攫って行こうとするのをシュタインが制した。

「駄目ですよ、マーゲン騎士団長どの。器として使える女どもは皆、『教皇』様のもとへ連れていかねば。
それが後々、北方や帝国の軍勢を蹴散らす「兵」を産み出すのです…ステッセル」

最高級の葡萄酒を飲みながら、シュタインが脚を組んだ。
ステッセルが何やら導具のようなものを使い、シュタインにそれを放つ。
情報が短時間で事細かにもたらされるのだ。

「どうやらシャルルどもが我らの計略にかかったようですね…アンネも無事に捕らえた。
となると、次は娘ですか…『彼ら』が潰してくれるのでしょうが、策は二重に打ってあります…
早く見たい! 見たいぞシャルルの苦しむ顔が!! いずれは娘も同じ場所に引きずり出して差し上げましょう…ヒヒヒ…」

葡萄酒を涎のように垂らしながら、誰に語るでもなく、シュタインは不気味に笑った。


――


フィッチャーは夜のうちにセレスティーヌの部屋を訪れ、情報を得たことを伝えた。
…表向きは酒場で巧みな交渉をして得た情報、ということにして。

「と、いうことだ。あの侯爵自体が偽者の可能性が高い。あとは、あんたらの掴んだ情報だな。
周りの連中で異様に隙の無い動き奴が居たような気がしたが…どうだった? 
明日には領主の屋敷を見るか、それともゴブリンの廃墟を回るか、だな。
他の連中もすぐ集まるだろう。酒は買い込んでおいた。ここでも良いし、また1階でも使わせてもらうか」

この日の夜は遅かった。ワン族も含めて様々な情報交換が飛び交い、議論が重ねられる。
そして酒が入ったまま、少なくともフィッチャーは未明に眠りについた。

フィッチャーが目を覚ました昼過ぎ頃、丁度神聖連合が敗北、ドクラ要塞が陥落し、
多数の死傷者を出して王国の白狼将軍ハウザー、ワン族の将軍ドーベルが戦死、
さらにシャルル公爵が捕らえられ、身代金と引き換えに生還した。
ただし、装備を全て奪われ、局部と右腕を斬り取られ、右眼を潰されての、絶望的な帰還だった。

この悲報がレクトゥスにもたらされるのは、その日の夜になって、敗残兵の一騎がボロボロの飛竜に乗って現れるのを待つこととなる。


【新規の方、募集してます!
だいぶ進みましたが、ゴブリン退治でも潜伏でもお好きな方をどうぞ】

60 :
これにてセレスティーヌはFOが確定、次アレクの番になりますよ
17日18時までレスがなければスレは潰れます
もしくはフィッチャー一人でやってくださいね

61 :
長期にわたって行われる警備に先立ち、ひとまず侯爵が館へ移動する際の護衛任務を無事に終わらせた一同。
その後フィッチャーが情報収集(意味深)をし、セレスティーヌに報告する。

>「と、いうことだ。あの侯爵自体が偽者の可能性が高い。あとは、あんたらの掴んだ情報だな。
周りの連中で異様に隙の無い動き奴が居たような気がしたが…どうだった? 
明日には領主の屋敷を見るか、それともゴブリンの廃墟を回るか、だな。
他の連中もすぐ集まるだろう。酒は買い込んでおいた。ここでも良いし、また1階でも使わせてもらうか」

その言葉のとおり、アレク含むメンバー達が続々と集まってきた。
以前から街道の通行人が魔物に襲われたりしていたがそれがさらに激化してきたこと
その行動に魔物とは思えない統制が見られ、ゴブリンが占拠したという砦跡を拠点としているらしきことなどの情報が集まった。
そしてそれを受け、報酬はプレミア謝礼が付いて値上がりしているとの情報も。

「バックに魔物使いか何かがいるのかねぇ。とりあえず行ってみますか」

そういうことになった。

+++++++++++++++++++++++++++++++

その砦跡は朽ち果てており、かなり前に使われなくなったことが伺える。
そこはもはやゴブリンのみならず様々な低級モンスターが闊歩し、雑魚敵のデパート的な様相を呈していた。

「ゴブリン、ワーウルフ、ニワトリス、スカイフィッシュ……これはすごいや!」

その時カサカサ…と音を立てつつ黒光りする巨大な甲虫のようなモンスターが現れた。

「キャーーーー!! 嫌ぁああああああああ!!」

――平たく言えば巨大なゴ○ブリであった。ユニスが絶叫しながらメイスで完膚無きまでに粉砕する。

「うん、お見事」

「ねぇちょっと! ここ、人間の足跡があるんだけど」

辺りを調べていたマーテルが人間の足跡らしきものを発見する。それは、ここに割と最近人が入ったということを示していた。

「モンスターを集めて統制している何者かがいる……その可能性が高いね」

「そうなると単なるモンスター退治では済まないな。いったん引いた方がいいんじゃないか?」

そうヴィクトルが言った時だった。砦の扉が重々しい音を立ててひとりでに閉まった。

「なっ!?」

驚愕して開けようとする一同だが、こういう時のお約束通り、全員ががかりで押しても引いても開かない。

「仕方がない……ここの黒幕を倒すしかないってことだね。最奥部を目指そう」

一同は、黒幕がいると思しき砦の最奥部を目指して歩み始めた。

++++++++++++++++++++++++++++++

一方その頃――砦の最深部にて――

「フフフ、わざわざ自分から飛び込んでくるなんて。飛んで火にいる夏の虫……とはこのことね」

只の人とは思えぬ妖艶な女が、不敵な笑みを浮かべていた。

【一応この人はペトラさんを想定していますが別人にしても構いません!
セレスさんはとりあえず一週間ルールで今ターン飛ばしましたが落ち着いたらいつでも復帰を!】

62 :
>「バックに魔物使いか何かがいるのかねぇ。とりあえず行ってみますか」

長い話し合いを終えてもなお元気があるのはアレクぐらいなもので、とりあえず夜中をもって
1階での議論は解散となった。
セレスティーヌはただ浮かない顔をしているのを、フィッチャーは見逃さなかった。

「セレス、随分元気がなさそうじゃねえか。カネも入ったってのに、不満なのか? それとも…」

部屋のベッドに腰掛け、残りの酒を飲みながら会話を続ける。一つだけ点った灯りが二人を照らす。

「私は、何をしにここに来たのだろうな…? 教義のため、あるいはシュヴィヤール家のため。だが…」

「親父さんが前線に出ていて、オマケに教会は信用できない奴らだ。だったらどうするかってことか?」

「…おおよそ、その通りだ。はっきり言って私は自分の今やっていることが、分からぬ。多くの仲間を…殺してきた!」

「それは違う…!」「っ…!」

フィッチャーが不意にセレスティーヌの肩を抱き、その唇を奪った。
初めは驚き、恥ずかしがりながらフィッチャーを拒んでいたが、やがてセレスティーヌの腕がだらりと垂れる。

「そういうことだ。みんな、いや、少なくとも俺はお前を愛している。明日は早い、眠れるか?」

セレスティーヌは顔を下に伏せながら、そっと呟いた。

「灯りを、灯りを消してくれ…」

「それは…つまりそういうことか…よ…!」

フィッチャーが灯りを消すと、辺りは闇に包まれ、月明かりだけがそこを照らす。
そっと肩鎧を外し、頭を抱くと、セレスティーヌもフィッチャーの腰へと手を回す。

「穢されるなら、誰にでも、という訳ではない。とりあえずは私は渇望しているものは、お前という穢れなのだ」

未明、フィッチャーはセレスティーヌを全力で愛し、彼女もまた、彼を全力で欲した。

63 :
日が明けて集まる八人。皆が皆、寝不足そうな表情をしていた。
特に腰を押さえて辛そうな表情をしているマーテルとデルタを見ると、彼らもお楽しみだったのかもしれない。
朝食をさっさと終わらせ、コボルトたちと偶然合流した。
話をするとカボスら5名が加わるということで、総勢は13名となった。


――

「こりゃ、まるで魔物の巣、だな」

>「ゴブリン、ワーウルフ、ニワトリス、スカイフィッシュ……これはすごいや!」

絶叫が響いたと思えば、ユニスが棍棒でジャイアント・コックローチを撃退したところだった。

>「ねぇちょっと! ここ、人間の足跡があるんだけど」

マーテルの声に、フィッチャーが様子を見てみると、自分よりもいくらか小柄な人物の足跡が見つかった。

「こりゃ人間の靴で間違いねぇや、てか…あそこにいんの、ゴブリンとワーウルフじゃねえか?」

カボスがそう話した。そういえば、コボルトはゴブリンやワーウルフと親交のある者もいると、カボスらから聞いたことがあった。

ギギギ…ガチン…!

「なっ、閉じ込められた、だと…!?」

隊の後ろの方にいたセレスティーヌが異状に気付き、こじ開けようとするも、開かない。
デルタやユニスの開閉魔法でも駄目なようだ。

>「仕方がない……ここの黒幕を倒すしかないってことだね。最奥部を目指そう」

「そうだな。お前ら、決して死ぬんじゃねえ。奥に行けば必ず道は開けるはずだ。
一気に叩き潰すぞ!」

フィッチャーが声をかけ、一斉に攻め込む。
前面にいるニワトリスの石化攻撃や飛び出すスカイフィッシュの素早い攻撃も、加護によって(主にアレクの)
次々と撃破していった。
フィッチャーも最前線で剣を振るい、マッドドッグやニワトリスを次々と両断していった。
あっという間に肉片と臓腑があたりに飛び散る。

「あ、ちょっとまってくれやアニキ、ゴブリンやワーウルフとはオイラたちがカタをつけらぁ」

64 :
五人のコボルトたちが前に出て、なにやら交渉を始める。

「ゴブ、ゴブゴブ、ウ、ァァ、オォーン、ん、ぐぎゃぁ!」

交渉決裂――あっという間にワーウルフの挟撃によって一人のコボルトが命を落とす。

「駄目だ、こいつらよく見てみ、魔法かかってやがるぜ。洗脳てやつよ!

「って、何だあいつ…うわぁ、まさか…」

カボスが指差す向こうから現れたのはコボルト、自分たちの同胞であった。
まさかおるまいと思った彼らは突然浮き脚たつ。

「くそっ、俺らの同胞までやられてやがる…!」

コボルトたちが後退をはじめる。その動きにフィッチャーは動揺を隠せない。
容赦なくその敏捷さで斬りかかってくる彼らを、そのまま剣で吹き飛ばすにも気が引けるというものだ。

「フィッチャー! 良いから奥に進め! 奥に人の影が見えたぞ!」

セレスティーヌも剣で次々と襲い掛かるワーウルフやコボルトたちの武器を弾きながら応戦する。
他のメンバーたちも一様に傷つけないように注意を払っているようだ。しかし、
このコボルトたちは、”倒れても倒れても襲い掛かってくる”のだ。

「馬鹿な、狂気のようだ…」

フィッチャーらが奥へと進む中、セレスティーヌは後方のカボスたちに気を使い、留まっている。
その時、鋭い一撃がセレスティーヌを襲った。
ガキィン!

が、その攻撃は寸でのところで止められる。世話役のアレスだった。

「セレスティーヌ様、お先にお進みください。ここは私が…ぐっ…」

通常のコボルトやワーウルフよりも数倍増しの攻撃が次々繰り出される。
それをアレスは槍をもって容赦なく叩き斬った。血液と臓腑が飛び散る。

「ここは私が「業」を背負いましょう。さぁ、先にッ!」

「分かった。アレス、っ…!!?」

踵を返す刹那セレスティーヌが見たのは、奥にいるカボスたちの眼が、狂気によって汚染されていく姿だった。
そして、先ほどフィッチャーが話していた小柄な人物。
僅かなジェノアでの記憶を辿れば、フィッチャーが「酒場のおっさん」と呼んでいた人物が、閉ざされた門をすり抜けるようにして
城砦から出ていくところだった。


――

65 :
「奥は暗いね…待って、誰かいる、敵だ!」

マーテルが気配を察して叫ぶと同時に、フィッチャーが組み付かれているワーウルフとの間あたりで爆発が起こった。
ワーウルフは頭を潰され、フィッチャーも防護を受けていたとはいえ、脚のあたりに火傷を負った。

「こんな馬鹿みたいに全員で突っ込んで来るなんて…拍子抜けだわ。さぁ、そこのお嬢様は殺さず、後は皆殺しでお願い」

「おう!」

やがて気配を現した三人の男が一斉に襲い掛かる。コボルトやワーウルフたちの生き残りたちと同時に。
そして、声が城砦全体に響いた。

≪さぁ「三日月の使徒」の皆さん、この”研究所”に侵入した全員を始末しなさい。できれば
シュヴィヤールの娘は生きていると、嬉しいですね。これは『教皇』命令だ。
こちら側は順調に進行中だ。ドクラは陥ち、邪魔者どもは一掃された頃だろうな≫

「「はっ!」」

「教皇…だと!!? 馬鹿な…」

三日月はシャープール帝国の国旗の一部。そちら側の組織の名前である可能性が高いだろう、とフィッチャーは思った。
最も驚いていたのはセレスティーヌだったが、次の瞬間、セレスティーヌの足元を何かが掠め、同時に
ゴロリとアレスの首が転がってきた。それは白眼を剥いていた。

「あぁぁ…!」

後ろの敵がチャクラムを飛ばしたのだった。人型の敵は4人。
正面からペトラ(火薬使いの女)、天井のあたりに二人の男、後方から一人の男。
そして、同時に洗脳されたワーウルフとコボルトの生き残り数人、そしてさらに後ろからはカボスたち四人。
この人数の敵が、フィッチャーら6名に襲い掛かる――!

「降伏するつもりは、ないみたいね…」

「っ足り前だろうが、どうせ殺されるなら死ぬまで暴れてやる…!
絶対お前を守ってやる、セレス!」

【と、一気に進めました。
セレスティーヌさんには申し訳ないですが、NPCとさせていただきました。
この調子でガンガン薦めましょう! 新規の方も大募集中です!】

66 :
こうして始まったダンジョン踏破。

「《ホーリィウェポン》!」

アレクは味方の武器に加護をかけつつ、自らも細剣を振るい戦う。
と、何故か心ここにあらずといった様子のユニスにニワトリスの石化光線が飛ぶ!

「ユニちゃん危ないッ! 《プロテクション》!」

すんでのところで防御魔法を発動し、石化光線を防ぐ。

「ハッ、ごめんなさい! 今『海賊王、アウト―――――ッ!!』って神の啓示を受けたような気がして……
そういえば昨日団長の部屋が団長と副団長が騒いでたみたいですけど何だったんでしょう。
電気は消えてたみたいですけど……」

「そりゃいつ夜道で襲撃を受けるか分からないからね。暗闇での体術の練習でもしてたんでしょ」

「なるほど――それなら何も問題ありませんね!」

少なくともこの二人の間ではそういうことになった。
何はともあれ、ボス戦である。

>≪さぁ「三日月の使徒」の皆さん、この”研究所”に侵入した全員を始末しなさい。できれば
シュヴィヤールの娘は生きていると、嬉しいですね。これは『教皇』命令だ。
こちら側は順調に進行中だ。ドクラは陥ち、邪魔者どもは一掃された頃だろうな≫
>「「はっ!」」
>「教皇…だと!!? 馬鹿な…」

普通は権威ある奴が悪い事をする時は裏でこっそりするものだが、臆面も無く堂々ったる悪役っぷりである。
つまり、一人も生きて逃がさない絶対の自信があるということ。
何故かセレスティーヌだけは生け捕りにしたいようだが、殺されずとも捕まれば碌なことにならないのは確実だろう。

「始末されるのはお前達の方だ! 大通りのど真ん中で手作りの号外ばら撒いて触れ回ってやるわあ! 覚悟しとけ!
もちろん記事の見出しは――"教皇凶行大恐慌"!」

としょうもない事を言っている間に、なんとアレスが瞬殺された。
もしかしたら誰かさんと名前が似ていて紛らわしいというメタ的な事情もあるのかもしれない。大変ご愁傷様である。

>「あぁぁ…!」

いつも気丈に振る舞うセレスティーヌが、この時ばかりは動揺しきった声をあげる。
騎士団に来る前からずっと付き従っていた従者らしいので、無理もない。

>「降伏するつもりは、ないみたいね…」
>「っ足り前だろうが、どうせ殺されるなら死ぬまで暴れてやる…!
絶対お前を守ってやる、セレス!」

さて、戦闘開始するにあたって現在のパーティーメンバーをまとめておこう。

前衛戦士系
・フィッチャー(重戦士)
・セレスティーヌ(剣士技能メインの聖騎士)
・剣士ヴィクトル

接近戦魔法両用
・アレク(聖騎士)
・神官戦士ユニス(補助魔法と棍棒の使い手)

67 :
後衛魔法使い系
・司祭マーテル(神聖魔法による後方支援が主だが気が強く、ボウガンの扱いに長けている)
・司祭デルタ

――ん? 7人いる! まあいいか。

対する敵はペトラ率いる4人組が真打っぽいが操られたカボス達や戦闘されたコボルトがいて囲まれた構図になっている。
このままでは接近戦技能を持たない司祭の二人あたりからやられて総崩れになりそうだ。

「まずは取り巻きから片付けるか……! ユニちゃん、マーちゃん、デルたん、あれいくよ!」

アレクの号令を受け、神聖魔法を使える三人がそれぞれ素早さ上昇の魔法をアレクに重ね掛けする。

「《クイックネス》!」「《ヘイスト》!」「《ピオリム》!」

更にアレク自信も自らに《ブリンク》を使って加速し――

「いくぞ! ――ホ(ワイト)クロ(ス)百烈剣!」

なんとも微妙な技名を叫びつつ、目にもとまらぬ速さのレイピアの突きを繰り出した。

「あたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた おぅわったぁ!!」

次の瞬間には、取り巻き達がまるで四方八方に吹っ飛ばされるような無駄なオーバーリアクションで倒れ伏す。

「動きを止める秘孔経絡を突いた――安心しろ、死んではいない。ただ暫く動けないだけだ」

「ねえ、その技名改名しない?」

「えーやだ。結構気に入ってるし」

そうしている間にも、真打っぽい4人組との戦いをフィッチャー達が始めていた。
フィッチャー・セレスティーヌ・ヴィクトルの剣士勢が男3人と激しい戦いを繰り広げ、ペトラは余裕の笑みを浮かべ様子を見ているという感じであったが。
取り巻き達が無力化されたのを見て、ペトラも動き出す。

「はァん、少しはやるようだね! くれてやるよ!」

こちらの陣営の後衛目がけて掌サイズの何かを投げてきた。攻撃範囲は狭いが威力は侮れない対人用の爆弾である。
地面に着弾した瞬間にはじけ飛ぶが、マーテルとデルタは慌てて左右に飛びのき事なきを得た。
しかしそれで終わりではなく、次から次へと投げてくる。
阿鼻叫喚しながら逃げ惑う後衛二人とユニス。
接近戦に持ち込み爆弾投擲を封じようと、ペトラに接敵を試みるアレクだったが――そこにチャクラムの男がインターセプト。
二輪のチャクラムを両手でジャグリングのように華麗に操り、踊るように斬りかかってくる。
投擲でもアレスの首をスパッと切断した切れ味であることを考えると、物凄い脅威だ。

「ロマン溢れる二刀流遠近両用武器、だと――!?」

そのまま二刀流で斬りかかってくるかと思われたが、片手をさりげなく一閃。
二つのチャクラムのうちの一つがフィッチャーの方に飛んでいく。

「そっちかーい!」

68 :
>「いくぞ! ――ホ(ワイト)クロ(ス)百烈剣!」

後方のアレクら四名がまず、加護魔法を受けながら物凄い速さで
ワーウルフなどの取り巻きを片付けていく。

しかし、おおよそ静かになったところで始まったのが「三日月」の暗殺者たちだ。
再び姿を消し、その場を離れた男に、彼らの動きがついていくのはそれまでとなった。
カボスたちがついに到着し、後衛を襲う。そこを急所に当たらぬよう気を使って戦っているうちに、
デルタの首筋をナイフが掠めた。

「まだいる! 奴ら、気配を消しながら攻撃してる!」

一瞬見えるも、再び姿を消し、カボスらの相手をしている彼らを狙ってくる。
次の瞬間、カボスの仲間のコボルトの一人が首の動脈を切断され、その刃物がマーテルへと向かった。

「きゃああ!!」

チャクラムだった。深々と肩口に刺さり、そこからは血が染み出してくる。
その痛みは痺れともいえ、毒がどれほど塗られているかは分からない。
純粋にこれだけの打撃を受けた経験が無いから、ともいえるが。

「助けて…」

マーテルは先ほどの一撃で戦意を喪失したらしく、デルタへと抱きついている。
デルタはマーテルを庇うも脚を引っ張られる形になり、同時にユニスへの怯えにも繋がった。
カボスらの攻撃も続き、防戦一方になる。

一方で、フィッチャーは飛んできたチャクラムを大剣で受け、そこを後方から挟撃されていた。
セレスティーヌが庇う形になるが、そこにペトラの投げた爆薬が着火し、辛うじて直撃は避けるも二人は地面へと倒れ伏す。
二人の鎧の一部が割れる。フィッチャーは全身に飛んだ金属の破片を受け、血を流す。
迫る男に不意をついて放った大剣の一撃も、曲刀で弾かれ、それを破壊するも僅かなダメージにしかならない。

「むっ、この香りは…!」

瞬間、むわっとした香りが立ち込めた。
そう、それはフィッチャーが情報収集をした際にペトラが使っていた香水そのものだった。
ジャイプール系の艶美な匂いは、二度と忘れることはない。
フィッチャーはあの日のことが終わってからセレスティーヌに会っていたことを思い出し、
セレスティーヌはフィッチャーからあの日した匂いだと思わせるには充分だった。

「それはその男が私を一晩買ったときの香り、で有っているわね。つまり、そういうこと。
この男、フィッチャーが私との戦いで本気を出せない理由。お分かり?お嬢様」

「フィッチャー…やはりそういう事だったのか…!?」「誤解だ! 俺は…」

セレスティーヌも立ち上がり、魔力を開放しながらペトラたちの方を一挙に巻き込もうとするも、
その攻撃は精紳を乱され、精細を欠いている。――瞬間、先ほど出来た鎧の隙間に針が刺さる。
よろよろとへたりこむセレスティーヌ。その正体へペトラから放たれた毒矢だった。

69 :
「セレス、くそっ!」

再び剣を持って立ち上がろうとするセレスティーヌの剣を、男が叩き落す。
つまりそれだけの力を奪われてしまっているということ。
そして反対側からもう一人の男が突然姿を現してフィッチャーに斬りかかり、僅かに弾くのがずれてかすり傷を負わせる。

「くそっ、囲まれたか…!」

ペトラが複数の火薬をばら撒き、つかつかと前に出てくる。
ローブの前を肌蹴ると、艶かしい裸身の周囲には爆発物や毒物らしき袋がわんさかとローブに括り付けられていた。
そして手を掲げ、宣言する。

「降伏しなさい。そこのお嬢様には魔法でも消せない猛毒が入った… 解毒薬はこちらにある。
『教皇』様は皆殺しと言ったが、我々は命だけは助ける…武器を置いて、ハダカになったら許してあげる。
お嬢様はこちらで預かるから、解毒もしてあげるわ」

フィッチャーは舌打ちをすると、反射的にしゃがんで大剣を地面に置いた。
後方のメンバーもようやくカボスをほぼ戦闘不能にしたところで、武器を置く。
その間もデルタとユニスは僅かだがマーテルに回復魔法をかけることを忘れない。

不意に、先ほどから戦闘に消極的だったヴィクトルがお手上げのポーズを取ると、剣を持ったままペトラの方に向かった。
それをペトラは横目で見て「随分と遅かったのね」と呟く。

「悪いな。俺は『こっち側』の人間で、お前らの監視役だったんだ。ってことで、
情報は貰えるだけ貰っておいた。これからシュタイン様のところまでよろしく頼むぜ」
「ヴィクトル、てめぇ…」「おのれ…」

ヴィクトルに罵声が浴びさせられるが、王国から派遣された経緯など、これまでの動きを見ればそれは不自然ではなかった。
むしろ一つ分かったことがある。本当に『敵側』の人間だとしたら、それは余程臆病で、怠惰な性格だったのだろう。
自分たちを包囲、攻撃する機会はいくらでもあったのだから。

後ろのメンバーにも絶望が走る。
そこまでいったところで四人の動きが緩やかになった。姿を現し、表情も殺しのプロの眼から
下卑た盗賊のような眼に変わっている。

「なあペトラ、俺たちがこの砦を出る方法は知ってるんだろうな?」

「勿論。私が知っている合言葉一つで、この砦の『加護』は全て解けると聞いているわ」

「安い報酬でこれだけの危険じゃ割に合わねえ。折角敵に女が三人いる訳だし、
脱ぎ終わったら俺らに一人ずつ女と遊ぶ権利をくれ。『勝者には掠奪の権利を』、それジャイプールの教えだから」
「「ハハハ!!」」
「じゃあこの男女みてえな天使っ子はどうする?」「それはそこのヴィクトルって奴にくれてやれ」
「「ハハハ!!」」

70 :
男たちの下卑た笑いが響く。さすがの風紀の低さにペトラも呆れ顔のようだ。
ユニスは既に状況を理解し、目に涙を浮かべている。
その隙を突いてフィッチャーがアレクにこっそり耳打ちする。

「…隙を見て俺ら全員に一番早く動ける加護をくれ。前の二人は俺がやる。
後ろはお前ら四人に任せる」

アレクの加護を受けたフィッチャーは大剣を持つと素早くヴィクトルの横を通りぬけ、
鋭角を描きながら一気に「ヴィクトルごと」男に一撃を浴びせた。
「グ…」「ギャァァァ!!」

ドッ、という潰れるような音を立て、ヴィクトルは瞬く間に剣を持ったまま両断され、その背骨を貫通しながら、男へと威力を維持して
脇腹を切り裂いた。
セレスティーヌが強化魔法をさりげなくかけていたのが利いたのだろう。
男は脇腹からドボドボと臓腑を垂らしながら果てた。

「カシム! そんな…」

カシムと言われた男の腹に食い込んだままの大剣を放置し、素早くセレスティーヌの前を通過すると、
彼女の剣を手に取り、ペトラの脇腹を抉る。

「きゃああ!!」

血を脇腹からドバドバと流しながらふらつくペトラを羽交い絞めにし、
腕に力を込めて思い切り脅す。お陰でペトラは下着一枚の上半身裸の格好だ。

「ぐっ…馬鹿じゃないの! 状況が見えてる訳? 私の手から火の魔法が発動されれば、
私とあんたは木っ端微塵、そこの連中も地面の爆薬に巻き込まれるのよ…?」

「止血だ…」

「なっ!?」

「セレスの毒と、てめぇが失血死するのと、どっちが早いだろうな? ウチには回復薬はゴロゴロいる。
だがてめぇはこのままいけばすぐ死ぬ。俺は女は殺したくねぇ。海賊王ってのはそういうもんだ。
一度しか言わねぇ。解毒剤を出せ。そうすればお前を止血してやる」

「くっ…」

手を緩めるとペトラが懐から小瓶の一つを出す。その周辺にもいくつかの瓶が見える。
フィッチャーはペトラから貰った瓶と周囲の瓶を全て奪うと、ローブを全ての火薬ごと脱がせ、
そのまま何も装備していないであろうペトラの腹を蹴って火薬から離れたところへ突き飛ばした。

同時にローブを素早く遠くへと投げ捨て、付近に落ちている火薬も全て除去する。
ああは言ったが、ペトラの止血などよりはセレスティーヌの容態が心配だ。
剣をセレスティーヌの前に置き、右手に持った一つの小瓶と、左手に持った複数の小瓶を見比べる。

「くそっ、分からん…!」

「そのような事は…こいつらを片付けてからで良い…」
セレスティーヌが剣に触れながらフィッチャーをの腕を掴み、力なく言った。

【以上、ヴィクトル死亡。「敵」はペトラが離れた位置で倒れ、残りは二人の男です。
セレスティーヌ猛毒、フィッチャー負傷、マーテル負傷
アレクさんついてきてくれて改めて感謝します。さらに新規の方も募集します】

71 :
後衛・中衛陣が到着したカボス達の相手をしている間にも
ペトラが、従者が殺されたばかりで動揺しているセレスティーヌに容赦なく精神攻撃をしかけていた。

>「それはその男が私を一晩買ったときの香り、で有っているわね。つまり、そういうこと。
この男、フィッチャーが私との戦いで本気を出せない理由。お分かり?お嬢様」
>「フィッチャー…やはりそういう事だったのか…!?」「誤解だ! 俺は…」

アレクはカボスと立ち回りつつ、ツッコみながら喝を入れる。、

「五階も六階もないわッ! セレスティーヌ、あなたはお嬢様じゃなくて聖騎士だろう!?」

アレクのレイピアが急所に入り、ふぎゃん、と犬っぽい悲鳴をあげてようやくカボスが倒れこむ。
加勢に行こうとするも、すでにセレスティーヌは毒矢の餌食になってしまった後であった。

>「降伏しなさい。そこのお嬢様には魔法でも消せない猛毒が入った… 解毒薬はこちらにある。
『教皇』様は皆殺しと言ったが、我々は命だけは助ける…武器を置いて、ハダカになったら許してあげる。
お嬢様はこちらで預かるから、解毒もしてあげるわ」

セレスティーヌを人質にとられている状況、仕方なく武器を置く一同。
更に悪い事は重なり、ヴィクトルの裏切り――否、最初から敵方だった事が発覚する。
思い返してみれば、彼はメンバーの中で唯一王国から派遣されたとかで、誰とも特に親しくしている様子も無かった。

>「悪いな。俺は『こっち側』の人間で、お前らの監視役だったんだ。ってことで、
情報は貰えるだけ貰っておいた。これからシュタイン様のところまでよろしく頼むぜ」

こうしてヴィクトルがペトラ側に行ったところで、敵の男達の態度が突然代わる。

>「安い報酬でこれだけの危険じゃ割に合わねえ。折角敵に女が三人いる訳だし、
脱ぎ終わったら俺らに一人ずつ女と遊ぶ権利をくれ。『勝者には掠奪の権利を』、それジャイプールの教えだから」
>「「ハハハ!!」」
>「じゃあこの男女みてえな天使っ子はどうする?」「それはそこのヴィクトルって奴にくれてやれ」
>「「ハハハ!!」」

目に涙を浮かべるユニスの肩をぽんと叩いてニヤリと笑うアレク。
気の弱いユニスは言葉をまともに受け止め怯えているが、これは逆にチャンスだ。
つい先ほどまで隙のない底知れぬ暗殺者だったのが、何故か一瞬にして下衆い雑魚のような雰囲気になってしまい隙だらけだ。
これにはペトラすらも呆れ顔。
畳み掛けるなら今――フィッチャーもアレクと同じような事を思ったようであった。

72 :
>「…隙を見て俺ら全員に一番早く動ける加護をくれ。前の二人は俺がやる。
後ろはお前ら四人に任せる」

アレクは背に光の翼を顕現させ、上級神聖魔法を発動する。

「――《自由の翼》! 一気にたたみかけるぞ!」

パーティー全員を白い燐光が包み込む。これは味方全員の動きの巧みさ・素早さ・回避力の類を飛躍的に向上させる高位の全体加護だ。
それを合図に、一斉に飛び出す。
フィッチャーがヴィクトルとカシムという男を引き受け、アレク達が残りの二人の相手をする流れとなる。
相手はチャクラム使いと曲刀使いだ。
チャクラム使いが腕を一閃し、風切り音が響く。
アレクは飛んできたチャクラムをエビ反りになって避け、更にレイピアをチャクラムの穴に通して受け止めてくるくる回す。

「チャクラムはイケメン専用! お前のような下衆いチンピラに使いこなせる武器ではないわッ!! ……おっと手が滑った!」

チャクラムを曲刀使いの男に向かって弾き飛ばす。
男は慌てて曲刀で弾き飛ばすも、衝撃で曲刀ごとすっ飛んで行った。
男が曲刀を拾う間もなく半ばヤケクソのユニスが武器を無くした男に突撃し、叫びながらメイスで殴りまくる。

「変態! ケダモノ! 女の敵!」

素早く繰り出される鈍器の連撃に、今や丸腰の曲刀使いの男は成す術もない。
弱そうだと思ってノーマークだったユニスの予想外の火事場の馬鹿力に、チャクラムの男は狼狽える。
そもそもユニスは気が弱いだけで、神官戦士としての能力は決して低くは無いのだ。
追い詰められたチャクラムの男が、雄叫びを上げながら接近戦技能の無いデルタに突撃してくる。

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

しかし――

「《イグニートジャベリン》!」

アレクの聖句が響くと、チャクラムの男を光の刃が貫いた。
チャクラムの男は呻いて倒れ、曲刀使いの方はもうすっかり伸びている。
――勝負は決した。
その頃にはフィッチャーの方も片付いていて、ペトラと交渉に入っていた。
解毒剤を出せば止血してやると言って瓶を出させ、しかし本当にそれが本物の解毒剤なのか計り兼ねているようだ。
もちろんペトラの止血は放置のままだ。
アレクはペトラに歩み寄り、言った。

「本当の解毒剤を教えるんだ――そうすれば回復魔法をかけてやる。
もちろん隊長の回復の兆しを見届けてからね。今すぐ教えないと出血多量になって死ぬよ?」

ペトラが本物の解毒剤を告げれば、アレクは言葉のとおり彼女に回復魔法をかけるだろう。
ペトラからは、敵勢力に関する重要な手掛かりを得られるかもしれない。

73 :
>「《イグニートジャベリン》!」

アレクの聖魔法が後方の男を貫通し、そのまま命を奪った。
もう一人の男も武器を落とされ、ユニスに棍棒によって倒されたようだ。

「良いぞアレク…思ったより早く片付いたな。あとは…」

アレクが白い光を纏ったまま素早く奥で倒れるペトラへと駆け寄り、詰め寄る。

>「本当の解毒剤を教えるんだ――そうすれば回復魔法をかけてやる。
もちろん隊長の回復の兆しを見届けてからね。今すぐ教えないと出血多量になって死ぬよ?」

ペトラは傷の痛みと失血によりぐったりとしており、僅かに開いた眼で何かを思案しているようだ。
解毒剤についてはともかく、『祝福解除』の合言葉を知っているのは四人では彼女だけなのだ。

フィッチャーは慌て、肩で息をしているセレスティーヌの上体を起こした状態で、
アレクとペトラの方を向いて、次の言葉を待っている。すぐにでもセレスティーヌを解毒できるように。

ヒューヒューと喉から音を漏らしながら、意を決したようにペトラが呟いた。

「…殺されない方に、賭けるわ…星型の蓋が付いているのが解毒剤…よ…」
「…!」

フィッチャーは一瞬、目を疑った。星型の蓋の瓶は、フィッチャーが後から奪ったものの一つだったのだ。
蓋を開け、ゆっくりとセレスティーヌの口に含ませ、頭を抱えて飲ませる。
喉が上下し、確かに嚥下したのを確認し、暫く待った。

後ろではデルタがナイフを取り出して生き残った方の男の頚動脈を掻き切り、
ユニスは既にフィッチャーたちの元に駆けつけており、渡された薬が違っていることを確認した。
素早くフィッチャーがペトラから受け取った方の瓶を彼から奪い、ペトラの元へ駆けつける。

「止めろ!」

フィッチャーが叫ぶ。
瓶の蓋を開け、それをペトラの口に流し込もうとするところで、ユニスの手が止まる。
割って入ったデルタとマーテルによって彼女は辛うじて取り押さえられた。

「落ち着いて、ユニス。まだ殺しちゃダメ!」
「だって、こいつは、わたしたちを…!」

そういったやり取りがされている間に、セレスティーヌの容態が落ち着いてきた。
僅かにだが、呼吸の詰まりが取れ、以前のような呻くような苦痛の声は出していない。

「アレク、大丈夫だ」

手振りを含め、フィッチャーがアレクにペトラの回復を促す。
予想以上にタフだったらしく、ペトラはまだ意識を保っている。局地的な傷の回復が行われている。
当然先ほどまでは敵だったのだから、致命傷さえ治ればいいのだ。

74 :
と、その時、割って入った人物がいた。ボウガンを構え、ペトラにクォレルを向ける。

「さて、これだけあたしらを散々な目に遭わせてくれた訳だけど、もう一つあるでしょ。
『合言葉』、言いなさいよ。3秒内に言わないと口にもれなくぶち込む。さぁ、3…」

フィッチャーは直感にビクリと全身を震わせた。
咄嗟の判断で素早くそこに割り込むと、マーテルのボウガンを叩き落とす。

「何邪魔すんの、馬鹿! ゴミ!」
「悪口は後で好きなだけ聞くから、とりあえず俺に任せてくれ」

フィッチャーは全員に合図すると、全員で最初に見た重々しい扉のところまで引き揚げた。
フィッチャーがセレスティーヌを、アレクがペトラを、残りの三人がカボスらコボルトの生き残り三人を抱えている。

「よし、ペトラ、これが終わればお前の首は本当に保証する。合言葉を教えてくれ」
「…『アンチ・プレシャス』」

刹那、ゴゴゴゴゴという轟音とともに扉が音を立てて崩れていく。

「アレク、飛行系の加護を頼む」

一同は扉や塀の崩れ落ちる破片で多少はダメージを負いながらも、強引に砦跡から脱出した。
そこから暫く離れると、敷地全体が禍々しい光に包まれて、崩れていくところだった。

「何となくこういう事だと思った…連中はこいつらも使い捨てにするつもりだったんだろうな」

崩落が終わった後、地下から湧き出すような音が聞こえたと思うと、次の瞬間――
城砦は大爆発によって、跡形もなく吹き飛んでいた。
まるで何かを隠滅するかのような物凄い奔流だ。

「あぁ、オイラたち、何やってたんだ…」

街に向かおうとするや否や、カボスたちが正気の目を覚ました。

「よし、これで全員無事だな。デルタ、とりあえずこいつにマントを貸してやってくれ。
目のやり場に困るんでね」

戦いでボロボロとはいえ、殆ど全裸のペトラの上下にマントを破って作った布地が巻きつけられた。

「ってことで、まずはお前を開放する前に聞くことがある。早い方がいいだろ?
全部洗いざらい喋ってくれや」

75 :
フィッチャーは特に武器を構えたりすることはないが、後ろではマーテルがボウガンを構えていた。
ペトラの話を要約するとこうだ。

・自分たちは元々ジャイプールの貴族・アルージャに仕えていた傭兵たちの一部
・そこを神聖連合側の「枢機卿」と呼ばれるハミルカルによって引き抜かれた
・ハミルカルとアルージャとの間で(恐らく国家間の交渉ではなく)ゾロアニアは
ジャイプール領として割譲するという交渉が行われていた
・ハミルカルに息子のバルカスを紹介され、彼と共にジェノアでの人攫いを手伝ったことがある
・バルカスは父親に汚れの片棒を担がされており、彼に同情し、愛していたのは事実
・ゾロアニア侯爵を殺害したのは自分たちである。よって今いる侯爵は偽者
・既にこのあたり(ゾロアニア)一帯がジャイプール帝国領になっている可能性が高い
・元々はレクトゥスでフィッチャーらを殺害し、セレスティーヌを奪う予定だったが、
突然現れた「教皇」によって護衛の任務につかされた
・「教皇」は人や亜人で何らかの実験を行っているが、詳しくは見せてもらえなかった
・今回の戦争は最初からドクラ要塞が落ち、帝国が勝つように仕組まれているらしい

「父上…」
意識をはっきりさせたセレスティーヌが、駆り出されたシャルルを心配している。
フィッチャーはそれを肩を抱いてなだめた。

「よし、大体分かった。約束通りお前はさっさとここから消えろ。もう日が暮れるぞ」
「はぁ?」「いやいや、そいつは俺らの敵ですよ…これだけ被害受けてんですから。始末しましょう」

ボウガンやナイフを構えるマーテルやデルタ、さらにコボルトたちを制し、フィッチャーが立ちはだかった。

「約束は約束だ。海賊王、嘘つかねえ」

その様子を不思議そうに見ていたが、やがてペトラはクスクスと笑った。

「フフッ、じゃあその間を取って、私があんたらの仲間に加わるってのはどう?」
「「え!?」」

一同は目を見合わせた。


――


「我慢はできなかったのか」
「ん…あんたこそ『我慢』できなかったの?」
「お、俺はただ、時間がねえと思っただけだ。連中が攻めてくるかもしれねぇ。それに屋敷だって」
「どうやら私、あんたに惚れちゃったみたいなのよ。それだけが理由」

以前にペトラが拠点としていた部屋で、フィッチャーとペトラが絡み合っていた。

「お前は服も武器も手に入ったことだし、さっさと宿に戻っておけ。俺はさっさとコボルトどもに謝ってくる。
マーテルにまた撃たれそうになるぞ。仲良くしとけよ」
「そう言って、そのマーテルも食っちゃうんでしょ?」

相手にしてられん、とばかりに首を振り、大剣を担ぐとフィッチャーは出ていった。
日が沈む。恐らくはそろそろ「ドクラ要塞陥落」が終わっている頃だろう。奴らのシナリオ通りなら。

76 :
「地底の泉亭」はひっそりとしていた。
カボスたちは既に傷の手当を受け、色々と話し合っている。
フィッチャーたち人間に対する不信感が強く出ているようだ。
良く見ると他の亜人たちも一様に人間を警戒するような位置取りをしている。

「悪かった。二人ほど犠牲者を出しちまった。ルドルー、無事だといいな」

カボスはフィッチャーが腰掛けると席を一つ離し、搾り出すように語った。

「ルドルー隊長が死ぬわきゃねぇだろ…お前ら、オイラたちを実験台か何かだと
思ってるだろ? 顔に出てんだよ。なぁ、みんな」
「そうだ、そうだ。ルドルー隊長が来たらお前らぶっ殺されんぜ」

もはや酒が入り過ぎてまともな思考が出来ていないような風でもなくもないが、
ホワイトクロス騎士団のみならず、人間全体への不信が強いようだ。

フィッチャーがそこに居たのは僅かな時間だが、黙ってエール一杯を飲み干すと、そっと彼らに伝えた。

「必ずだ。必ずお前らの仲間の仇を取ってやる。じゃあな」

酒場の出口へ着いたあたりで、カボスがようやくこちらを見ずに口を開いた。
「…ありがとよ。関わりたくねぇけど、命助けられたこたぁ忘れねぇ…」

宿のある方の酒場もすっかり静まっていた。フィッチャーはセレスティーヌが心配になって上へと向かう。
ちなみに今はペトラが亡きアレスの部屋を使っている。

セレスティーヌの部屋に入ると、真っ先に彼女が抱きついてきた。どうやら元気になったようだ。
「傷は? 傷はもう大丈夫なのか!?」

真っ先に自分のことを心配されたフィッチャーは、その少し高い頭を撫でると、腰に手を回しながら言う。

「俺のことは大丈夫だ。元々はお前に助けられた命だ。少しは手荒に扱って貰ってかまわない。
それより時間がない。「団長」、侯爵屋敷をどうするか、作戦会議を開くぞ… アレク! みんなを呼んでくれ」

7人が集まり、これからの方針について話し合いの場が持たれる。
しかし――その時横で大きな音が聞こえ、多くの人々の騒ぎや悲鳴が聞こえる。

窓を開けると、そこにはボロボロの飛竜に乗った兵がボロボロになったゾロアニアの旗を背負いながら倒れこんでいた。

「我々の負けだ…要塞は陥ちた…近いうちに敵がここを攻めてくるぞ…!」

彼はそれ以上は話せずにそのまま倒れる。レクトゥスの人間だったらしく、多くの知り合いたちによって担がれていった。
状況は一変した。
話が全て本当だとすれば、内側と外側の両方に敵がいるということいなるだろう。

【と、いった感じでコボルトら離脱、ペトラが加わり再び騎士団員は7人に戻ります。】

77 :
後先考えずにペトラを始末しようとするユニスを、マーテルとデルタが間一髪で止める。
気丈な性格とは言えないユニスは、理性的な判断が出来なくなりやすい一面もあるのだ。

>「アレク、大丈夫だ」

フィッチャーの言葉を受け、ペトラに《キュア・ウーンズ》をかける。
ボウガンを突きつけ恐怖で合言葉を吐かせようとするマーテルを制し、
フィッチャーが命の保証を条件に合言葉を聞き出すことの成功した。

>「アレク、飛行系の加護を頼む」

「分かった! みんな、勢い余って交通事故しないようにね!――《フライト》!」

ペトラを抱えて脱出しつつ、こっそり話しかける。

「安心するといい、海賊王がああ約束した以上命は助かるよ。
あとこれにこりたら……駄目男に惚れるのはやめておくことだな」

多少の擦り傷や打ち身はありつつも、大方無事に脱出した一同。
脱出した瞬間、タイミングを見計らったかのように、話の節目にはお約束の爆発である。

>「何となくこういう事だと思った…連中はこいつらも使い捨てにするつもりだったんだろうな」

フィッチャーはペトラから洗いざらい情報を聞き出すと、彼女を解放しようとする。

>「よし、大体分かった。約束通りお前はさっさとここから消えろ。もう日が暮れるぞ」
>「はぁ?」「いやいや、そいつは俺らの敵ですよ…これだけ被害受けてんですから。始末しましょう」
>「約束は約束だ。海賊王、嘘つかねえ」

ペトラを逃がそうとするフィッチャーに、始末しておくことを提言するメンバー達。
アレクはフィッチャーの言葉に頷き、彼の側に立った。
アレクも解毒剤を教えたら回復してやると言った手前、フィッチャーと同じ立場である。
流石にここで「回復してやるとは言ったけど殺さないとは言ってない」等と言い出す程世紀末なキャラではない。
確かにメンバー達の言う事も一理ある。
元々敵だったヴィクトルを除いても、こちらは一人殺されている。仲間想いな彼らが仇討ちを考えるのも当然のことだ。
ここで逃がしたら、またもやリベンジマッチとばかりに危害を加えに来ないとも限らない。
しかし、元々はペトラの個人的な動機は恋人のバルカスを殺された復讐だ。
あんなこちらから見る限りではどーしょーもない男でも、ペトラにとっては大事な恋人だったのだろう。
ここでペトラを殺したら、また彼女を大切に思う誰かが復讐に来る可能性もある。
つまり今後の危険性は、彼女を殺しても殺さずとも同じようなものだ。
端的に言うと、妖艶な暗殺者だったはずが何時の間にやら駄目男に惚れてしまったオバカ娘という印象になってしまい、
いまいち憎み切れないのだった。それに――

「みんな落ち着くんだ。彼女も使い捨ての駒として利用されているにすぎなかった。真の敵は他にいる」

ここでやりあったところで、黒幕が腹を抱えて笑い転げるだけ。そんなことは皆頭では分かっているだろう。
それを敢えて言うのが、種族特性上ドライな側面のある自分の役目だとアレクは思っている。
そんな時、ペトラが予想外の提案をしたのだった。

>「フフッ、じゃあその間を取って、私があんたらの仲間に加わるってのはどう?」
>「「え!?」」

信頼できるか、隙を見て危害を加えるつもりだろう、等という声があがる。
それを受け、アレクは嘘判別の神聖魔法をペトラにかける。

「ちょっと失礼するよ。《センス・ライ》――嘘ではないみたいだ。
つまり逃がすより仲間に加える方が余程安全ってこと。
それでも納得できないなら……ここでただ単にRよりいざという時に盾になってもらった方がお得、そう考えればいいさ」

78 :
そう言ってペトラの肩をぽんと叩き目配せする。無論仲間を説得するための方便だ、本気ではない。
ある者はそれもそうだ、ある者は渋々、という感じで、とにかくペトラを一行に加える方向で意見が一致した。
しかしここで一つ疑問が残る。何故彼女は仲間になることを希望したのだろうか。
そこまでせずともフィッチャーのゴリ押しで逃がして貰えただろうし、そもそもこちらは恋人の仇の一団である。
何気なくフィッチャーの顔を見る。イケメンとは言い難い。(※なんとも失礼だが公式設定なので仕方がない)
しかしそこで衝撃の事実に気付く。
バルカスよりはイケメンだ――性格は言うまでも無く、外見もまああれに比べれば。
それによく見ると顔立ちは整っている。もしかしたら眉毛を書いたらイケメンになるのかもしれない――!

そうか――まあ頑張れ!

明後日の方向を向いて爽やかな笑みを浮かべつつ心の中でペトラにエールを送るアレクであった。

++++++++++++++++++++++++++++++

場面は移り、一同が拠点としている宿。

>「俺のことは大丈夫だ。元々はお前に助けられた命だ。少しは手荒に扱って貰ってかまわない。
それより時間がない。「団長」、侯爵屋敷をどうするか、作戦会議を開くぞ… アレク! みんなを呼んでくれ」

フィッチャーの要請を受け、皆を招集するアレク。
元々侯爵の視察のために長期間に渡って行われる警備の依頼を受けるための装備を整えるための砦跡アタックだったのだが
ペトラによるとその侯爵が偽物だという。
しかし偽物ということは分かっていても、その偽物が何者なのかということまでは分からない。

「張り込んで正体突き止めるかねぇ……」

しかし、話し合いの議題はすぐに他に移ることになった。より優先度の高い緊急案件が飛び込んできたのである。

>「我々の負けだ…要塞は陥ちた…近いうちに敵がここを攻めてくるぞ…!」

ボロボロの兵が息も絶え絶えに辿り着き、敵襲を告げて力尽きて倒れる。まさに王道ファンタジー。
この局面においてホワイトクロス騎士団はどう動くべきか。
表向きは今起こっている戦争は、神聖連合と帝国の戦い。
しかしそれは、最初から帝国が勝つように仕組まれた、何者かの掌の上の人形劇。
黒幕を直接叩ければ文句なしだが、舞台上に出てこないのが黒幕の黒幕たる所以である。
黒幕を舞台上に引っ張り出すには、まずは奴らの思い描いたシナリオをぶち壊してやるしかない。
それにどちらにしろ、シャルルの娘であるセレスティーヌが団長を務めるこの一団は、問答無用で神聖連合側と見なされるだろう。
それならばいっそのこと――

「団長を錦の御旗として全面に押し出して戦力を結集させるのはどうだろう」

ただしその方向性事態の良し悪しの他にも、今のセレスティーヌがそれを出来るかどうかという問題がある。
普段ならそういった類のことは得意な彼女だが、何せ長年仕えた従者を失い父親が酷い状態になった直後だ。
それと、大きな懸念事項はあからさまに怪しい偽侯爵だが……

「正体を突き止める時間は……無さそうだね。戦いの中で見極めるしかないか」

アレクはマスターのいるカウンターに歩み寄り、ばんっと両手をカウンターに付き。

「これよりここをレクトゥス防衛戦本部とするッ! 各宿屋の主人に参加者募集の依頼をかけてくるのだッ!」

「あ、はい!」

と思わずパシリながら、はて、なんで自分アイツの言う事聞いてるんだろう、と思う宿屋の主人であった。

79 :
第一節(野盗討伐〜騎士団出奔)ダイジェスト
ホワイトクロス騎士団、その第三分隊長で元海賊のフィッチャーは、今日も酒場で飲んだくれていた。
そこに、第二分隊長のセレスティーヌが現れ、近くの山に砦を築いたという野盗の討伐任務を告げる。
しかしフィッチャーは気が進まない様子。その野盗の中には、フィッチャーの昔の仲間がいるのだった。
そんなフィッチャーを、セレスティーヌはトップを叩けば皆殺しにせずとも済むと説得し、
二人は第二・第三分隊を伴って討伐に赴くのだった。
第三分隊員ラムスらの手引きにより、一行な難なく野盗の本拠地に到着し、戦闘が始まった。
表向きのリーダーらしき大男バルカスとセレスティーヌが激しい戦いを繰り広げる。
一方フィッチャーは、昔の仲間が敵として目の前に現れ動揺しつつも、黒いローブの謎の人物が
バルカス達に魔法のようなものをかけて逃げ去るのを目撃するのだった。
下っ端の野党の相手は、第二分隊副長のアレクがセレスティーヌの代わりに指揮を取って行っていたが
最初から野盗の側に取り込まれていたラムスが本性を現して寝返ったことで、状況は一変する。
が、そこから苦戦の末に持ち直し、ラムスを追い詰めることに成功する一同。
しかしラムスの口から黒幕の名が語られる寸前、彼は矢の集中攻撃を受け絶命する。
矢を放ったのは、なんとシュタイン司教指揮下の第一分隊だ。
裏がありそうながらも表向きは穏やかだったはずのシュタイン司教が、
ここで悪魔のような本性を現しフィッチャーに昔の仲間を葬るように命令する。
シュタインはそれに逆らえず、涙ながらに命令に従うのだった。
それに留まらずシュタインは裏切り者が出たのをフィッチャーやセレスティーヌの責任とし、
撤収後、「洗礼」と称して一同に理不尽な暴力を受けさせる。
これにより、完全にシュタイン司教を見限ったセレスティーヌは、フィッチャーらを鼓舞し、
騎士団からの出奔を敢行したのだった。
一方、別室に閉じ込められていたアレクの元には、シュタイン直属の部下と名乗るアトラスムスというデイドリームが現れ
アレクを仲間に引き入れようとするが、アレクは隙を突いて部屋から逃走。
すでにセレスティーヌ達が脱出済みであることに気付き、自らもその場から離脱して後を追う。
程なくして無事に追いついて合流し、新生ホワイトクロス騎士団は宿場町レクトゥスに到着したのであった。

第二節(レクトゥス到着〜砦跡攻略)ダイジェスト
着の身着のままで逃げてきた一同は、まずはレクトゥスに滞在し、冒険者向けの依頼等を受けて装備を整えることとする。
割の良い仕事を探し、各々情報収集を行う一同。
そんな折、フィッチャーはバルカスの元カノを名乗る女暗殺者ペトラに、危うく殺されかけるのであった。
ゾロアニア侯爵が近々視察に来るにあたって長期間に渡って行われるという街の警備の依頼を受ける事とするが
侯爵を迎えるという任務の性質上、みすぼらしい装備のままでは断られかねない。
そこで、まずは体裁を整えるためにモンスターの住処となったという砦跡のモンスター討伐の依頼を受けることとする。
砦跡には様々な種類のモンスターが闊歩しており、背後に何者かの思惑があることが伺えた。
いったん引こうか思案する一同だったが、突然魔術的な力によって砦の扉が閉まり、閉じ込められてしまう。
それならばボスを倒して脱出するまでと、奥を目指す一行。
最深部には、奇しくもペトラ率いる暗殺者集団「三日月の使徒」が待ち構えていた。
また、彼らの裏で手を引いているのは《教皇》である事が伺えるのだった。
アレスの犠牲や、ヴィクトルが敵側だった事の発覚した上での死亡がありつつも
一行は激戦の末に勝利し、フィッチャーは命の保証を条件にペトラから脱出の合言葉を聞き出すことに成功する。
一同は脱出した瞬間に、砦跡は爆発。ペトラ達も使い捨ての駒に過ぎなかったのだ。
ペトラから情報を聞き出した後、約束だからとペトラを逃がそうとするフィッチャーやアレクに対し
他のメンバー達はここで始末しておこうと反対する。
それを見ていたペトラは、自分が仲間に加わることを提案する。
騒然とする一同だったが、なんだかんだでペトラを仲間に加える事となったのであった。

80 :
☆国・地域等
・ジャイプール帝国
 南の大勢力。
 爆薬や大型の魔物を利用した軍団、不死と言われる「狂帝」の存在によって
 瞬く間に周辺諸国を滅ぼし、または従属させる。

・北方、通称「ニュンガロイム」
 北の大勢力
 有力部族である東西ヒルホトを統一して一気に南下、
 鉄騎兵や妖術兵などの活躍により、南の諸国を蹂躙し、荒らし回っていた

・アースラント王国
 帝国と北方の中間に位置し、「千年王国」と言われた
 国王フィリッポ4世は、 かつて散々「庇護」の名目で散々コケにしてきたヴィクサス神聖国を頼り、「神聖連合」を結成。
 周辺諸国に北方勢力と帝国への対抗を呼びかけた。

・ヴィクサス神聖国
 薔薇の紋章で有名なシュヴィヤール公爵領がある。建国の父は聖ヴィクサス。

・聖都アトス
 ヴィクサス神聖国の、教皇庁がある都市。
 古来ここに教皇庁ができて以来、背後の山には古びた塔が立っていた。
「アトスの塔」――地上と天界を繋ぐと、聖書には記載されている。

・ジェノア共和国
 アースラント王国とヴィクサス神聖国の丁度中間あたりの湖畔に位置する中立都市ジェノアを中心とする国。
 ここに「ホワイトクロス騎士団」が結成される。
 騎士団とは名ばかりで、ジェノアのヴィクサス神聖国教会の支部司教が立てた戦闘集団である。
 今ではシュタインらが支配する掠奪と犯罪の街となった。

・ゾロアニア
 ジャイプール帝国と神聖連合の勢力圏がちょうど衝突する地域
 複数の種族、部族が豊かな土壌の上で小競り合いを続ける紛争地帯

・宿場町レクトゥス
 ゾロアニアにおける唯一の宿場町。現在一行はここに滞在している。
 宿屋の主人で構成された宿屋ギルドが実質的な統治を行っている。

☆NPC
○パーティーメンバー
・ユニス
ジェノア司教区からの神官戦士。補助魔法と棍棒(メイス)の使い手。
一行のアイドル的立ち位置。気が弱いが、戦闘能力は弱くは無い。

・マーテル
ジェノア司教区からの司祭。ボウガンの扱いにも長けている。気が強い。

・デルタ
マーテルの後輩の司祭。一行の中で最年少。

・ペトラ
元々バルカスの彼女で、フィッチャー達を突け狙う暗殺者だったが、一同に敗北した後、仲間に加わった。
火薬や毒薬、吹き矢といった暗器の使い手。

○元パーティーメンバー(故人)
・アレス
セレスティーヌに長年仕えた従者だったが、砦跡の戦いにてあっけなく死亡。

・ヴィクトル
王国から派遣された剣士だったが、砦跡の戦いにて敵側のスパイだった事が発覚し、その場で始末された。

81 :
○敵or立ち位置不明
・シュタイン司教
 「ホワイトクロス騎士団」を結成した、ジェノアのヴィクサス神聖国教会の支部司教。
 普段は司祭帽を被る中年の男で、物腰は穏やかだが、とてつもない棍棒術と神聖魔法の使い手だとの話
 長い線のような目は優しそうにも見え、逆に考えれば何を考えているか分からないようにも見える
 本性は分かりやすい悪い奴。
 かつて付き合っていたアンネを奪ったシャルルに恨みを燃やしている。

・ハミルカル・ブライト
 帝国と通じたという疑いで捕縛命令まで出ていたが、未だに捕まってはいない。
 外見からして「カタギではない」と言われていたが、良い噂と悪い噂の両方を持つ地元の富豪。
 息子バルカスを討ったフィッチャー達を討たんと付け狙う。

・マーゲン
 「ホワイトクロス騎士団」の現第二分隊の隊長。バルカスを老けさせただけのような目つきの悪い大男

・アトラスムス
 「ホワイトクロス騎士団」の現第一分隊副官。デイドリーム。洗礼名「聖ヨナクニ」。
 「教皇猊下が遣わされた、正真正銘の聖人」らしい。

・ステッセル
 「ホワイトクロス騎士団」の第一分隊副長。

・「教皇」
 現時点で一番黒幕っぽい人物。
 近年になって長年の間、人々の間に姿を現していない。

○その他
・シャルル・シュヴィヤール公
 セレスティーヌの父親。ドクラ要塞に神聖連合を結集させ帝国と戦うも、敢無く敗北。
 捕らえられ、身代金と引き換えに散々な状態で何とか生還した。

・アンネ
 シュタインの元カノで、シャルルの妻。

・ゾロアニア侯爵
 現在レクトゥスを訪れているが、本物はペトラ達によって暗殺済みで、現在の彼は偽物らしい。

・バルカス・ブライト(故人)
 元老院議員のハミルカルの息子
 評判は頗る悪い。少年時代から身体が大きく、裏の仕事に憧れており、 周囲に触れ回っていたほど。
 冒頭の山賊討伐の時にフィッチャー達に討たれる。

82 :
・カリスト・ケンディウス
「白羽将軍」と呼ばれるアースラント王国の若き将軍。
先の戦では国王から軍師のような扱いを受け信任を得ている。
「パピヨン隊」を持ち、アトラスムスとも何らかの関係がある模様。


また、アトスの塔の「ある人物」が次のような称号があることを発言している。
――『神』。『預言者』。『使徒たち』。『教皇』。『枢機卿』。『大司教たち』。『騎士団長たち』――
これまでにマーゲンが『騎士団長』と呼ばれ、ハミルカルが『枢機卿』と呼ばれ、
シュタインは騎士団長だったにも関わらず、『大司教』と呼ばれていることが分かる。
(これは主人公たちは知らない)


【ありがとうございます。上手にまとまっています!
あと一人、重要そうな人物が抜けていましたので付け足しておきました。】

83 :
レクトゥスの民たちは浮き足立っているのが宿からでも分かる。
「俺たちのカボチャはどうなるんだ?!!」「明日から襲撃があるのか!?」

時折、アォォォン、と野犬のほえるような声が聞こえたが、それはコボルトの叫び声だった。
ルドルーたちの様子が遠くから嗅覚で分かったのだろうか。

>「団長を錦の御旗として全面に押し出して戦力を結集させるのはどうだろう」

「ううむ…」
アレクの話を聞き、フィッチャーは考えていた。仮にこの敗北が仕組まれているものだとすれば。
そして侯爵が偽者だということが分かれば。
最善の手は騎士団員だけでもこの街を脱出することだろう。
しかし、酒場に押しかけた街の住民に加えてアレクまでが熱気を帯びて提案する。

>「正体を突き止める時間は……無さそうだね。戦いの中で見極めるしかないか」
「これよりここをレクトゥス防衛戦本部とするッ! 各宿屋の主人に参加者募集の依頼をかけてくるのだッ!」

>「あ、はい!」

背中の羽根が白く光り、それは眩しく輝く。セレスティーヌも「うむ」と頷く。

「そうと決まれば旗を立て、我ら一同立ち上がるぞ。まずは軍旗を即席で作ろう。
そして団員たちには真っ白な十字のマントを着用してもらう。夜でも目立つような、な。
奮い立たせよ。さぁそうと決まれば動け! まずは布を用意すること。それから拠点であるここを要塞化する!
知識のある者は率先して動け。費用はシュヴィヤール家が持つ。 それからだ、侯爵屋敷への交渉を頼む。
向こうの動きが無い以上、敵であると決まった訳ではあるまい! さぁ、敵を撃退するぞ! この
セレスティーヌ・ド・ラ・シュヴィヤールが全責任を負う!」

オォォォォ…

一同は沸き立った。

セレスティーヌは酒場で陣頭指揮に入り、アレクの影響もあり、早くも多くの志願兵をかき集めている。
彼女のもとでペトラも加わって要塞化も始まった。
マーテル、デルタは布の他に戦闘必需品をかき集め、戦支度は着々と整っている。

――

「予定通りいったそうじゃないか」

王都・王城の一角でカリストが満足そうに微笑む。その顔からは表情は殆ど伺えない。

「はい。『パピヨン隊』と『テイン』の力があれば大体の策は上手くいくでしょうね。
この前のジェノアも確か、そうでした…ただ、今回は王国の将兵の犠牲も大きいでしょう」

「目的はたったの二つだけだ。『天界』を創り、そしてそのための『基盤』を整理する。
でも人の心は読みにくい。私自身、まだまだ完全に把握できていない。特に『教皇』の動向についてはね」

機嫌が良いのがようやく分かるような、和やかで流暢な口調で地図を指差しながら続ける。

「シュヴィヤール領も落ちたことで、北方の勢力とジャイプールの勢力が初めて、シュヴィヤールの北で隣接する。
つまり、モン族(エイプマン)どもを煽動してあの地域の掠奪を図ったことで、ワン族(コボルト)は怒るだろう。
元々「犬猿の仲」というやつなんだ。ここからは代理戦闘、つまり北方と帝国の激突がいずれは見ることができる…」

84 :
つまり神聖連合の現状はほぼ領土を侵略されていないアースラント王国領が領土の殆どを占め、その隣にジェノア共和国、
そしてその隣に教皇領等僅かな領土を持つヴィクサス、という状態で、
かつて神聖国領内にあったシュヴィヤール、ゾロアニア、ガントリア、デーニア等は全て侵略されたことになる。

「北方勢が今回の件で腹を立てているようで、既に北辺に軍勢が集結しているようですが…」

「その件は心配ない。「彼女」が今回の迎撃舞台に加わることになっている。そう、ハミルカル殿のお嬢様が、ね」

アトラスムスが城の外を眺める。そこにいるのはマノン・ブライト。
バルカスの妹で、生真面目な性格。今回のバルカスの死で憤り、報復のために神聖連合にジェノアの民として総力を挙げて加担した。
恵まれた武術の才覚に合わせて、特注の兜、身体の線に合わせた流線型の鎧、腰には両側に剣を差している。
これまでにも多くの反乱を鎮圧してきた。兜から僅かにヒュー、ヒューと音を立てて息をしているのだろうが、当然窓からそこまでは確認できない。
周囲にいるのは兵ではない。翼を持った“デイドリームではない”天使たちだ。

「そろそろ、あの子たちを使う時期と考えますか」

「うむ。その代わり、正規軍からは目立たない位置から、ひっそりと、ね」


――


一方、レクトゥスの領主の館では…

「い・い・か・ら、ここからどうやったら無事に僕が帰れるのか、それだけ考えろよ。
お前らさぁ…いくらカネ貰ってると思ってんの。お前もだよ。逃げるのか、投降するのか、一緒に考えろっつってんの。
全くこのザトーラップ様のお陰で今まで食っていけたんだろ? ええ?」

「申し訳ありません、ザトー様」

男――侯爵から差し出されたグラスを叩き割り、侍女の格好をした女を短剣の柄で殴りつけているこの男こそ、
南方ホビットの皇子、ザトーラップ・マドゥレであった。
外見は8歳ぐらいの子供にしか見えないが、これでも50歳ぐらいになるらしい。
ここに来る際は、「侯爵」の息子の一人かもしくは侍従の一人の子供という役柄でひっそりと入居した彼が、ボスだったのだ。
ジャイプール帝国と臣従に近い同盟関係を持つホビット族の代表として、人質としてこの「役」の代表を皇帝たちより任されていた。結構な多額の報酬と信頼を引き換えに。

他に老人役は部下のドワーフが、三人の侍女役は部下の人間がやっている。総勢十数名。
その中でも侯爵役に至っては「ただ顔が元侯爵に似ているから」という理由だけで雇われた下っ端傭兵だ。
屋敷の中に入ってからはザトーラップから部下・傭兵、部下から傭兵という三段カーストによるバワハラが続いている。
精霊魔法使いのザトーラップの戦闘能力は結構なもので、彼に逆らうことができないのが現状だ。実際一人の傭兵が既に死体となって床に埋められている。

「お前ら本当に無能だな! じゃあ僕が決める。僕らは捨て駒にされたのさ。とりあえず傭兵連中、帰りたい奴は帰れ。命は助けてやる。
そのかわり僕と一緒にホビット庄まで付き合ってくれたら、報酬はたんまりやるよ。お前らは大昇進だ。さぁ、出る準備をするぞ。
あ、そうだ。僕良いこと考えちゃった。トビー君には影武者になってもらおう。じゃあちょっと外に出てみてよ」

ザトーラップや他の部下たちに武器を突きつけられ、殆ど戦闘能力を持たない侯爵姿のおっさん、トビーは恐る恐る正面玄関から顔を出した。

85 :
――


「これはこれは…お目覚めですか、シャルル・ド・ラ・シュヴィヤール公爵殿。私の声、聞こえておられますかぁ…?」

慇懃無礼極まりないアクセントで語るのは、シュタイン『大司教』。

「きさ…ま…!」

「おやおや、それだけの苦痛を与えられてなお口を開けるとは、さすが私の憎きライバル。
いや、搾取される者とでも言っておきましょうか。これが何かお分かりですか?」

『転送導具』で「特注」で運ばれてきたシャルルは、右眼を潰され、右腕と局部を付け根から切断されていた。
それでも尚、必死の形相で左目を見開く。丁度そこにあったのは、磔にされ、悲惨な姿となった妻・アンネの遺体だった。

「貴様…自分のやっていることが何か分かっておるのか…教会とは、こういう事をする場所であったのか…
あのような手で神聖連合を敗北させ、名だたる将軍たちを殺し…何が目的だ…
…娘! セレスティーヌはどこへやった…シュタイン!」

既に殆ど麻痺している両足は鎖で繋ぎ合わされており、そこにバチリと電流が走る。

「言葉を慎みなさい、シャルル。既にシュヴィヤール家は滅びた。神の思し召しで、家は教会に奉職することが決まったのですよ…
娘は必死なようです。私の部下も何人か殺されました。野蛮人と手を組んでね。いずれここに連れてきて差し上げますよ…その頃には
もう「壊れて」いると思いますけどねぇ…それを見せたらお前の左目も潰して差し上げますよ。それまでせいぜい反省していなさい。
愛し合っていた私たちから、アンネを奪い去ったことをね…」

「シュタイン、お前はアンネに一方的に想いを寄せていただけでは…ぐぁぁっ!」
「黙らっしゃい!」

シャルルの両脚に痺れが走ると同時に、シュタインの棍棒での一撃がシャルルを襲い、再び彼は昏倒した。
薄れゆく意識の中、シャルルは思った。
これだけの、まるで何かで読んだ錬金術士の研究施設のような部屋がよもや教会にあるとは…と。

86 :
――
「わ、わたしに…できるんでしょうか…?」
「いいから、お前しか居ないと思ったんだ。油断させるような適任者がな。
大丈夫だ。乱暴されるようなことがあれば、俺が必ず守る」

ユニスは街娘のような格好で、片手に布袋に入った棒状のもの(棍棒)、もう片方の手に小さなワインのボトルを持って侯爵屋敷を訪れた。
フィッチャーは鎧の上に簡単なジャケットやマントを身に付け、大剣は持っているものの、それなりの身分に見えるようにした。
と、その時扉が開き、突如現れたのは、あの「侯爵」を名乗った男だった。

「あの…何か、御用かな?」
後ろに何人もの従者が気構えているのを見ると、フィッチャーは剣を下げ、ユニスを前に出した。

「あの…ホワイトクロス騎士団の皆様からの差し入れをお持ちしましたので、
侯爵様に挨拶をしたくこの街を代表して上がりました」

「と、いうことなんです。侯爵様。ちょっと中良いでしょうか」

フィッチャーが有無を言わさず、という感じで入ろうとする。ユニスは後ろに侍女が控えているのを見て、
暴行を受けることはないと思い安心したようだ。
つかつかと案内されて入る二人に、思わぬ声が浴びせられる。

「ちょーっと待った! そこのお二人さん。まさか僕の目を誤魔化せると思っちゃいなかっただろうね?
僕には分かる。そこのお嬢さんは結構な魔力の持ち主。そしてその棒状のものは武器…メイスあたりだろう。
で、そこの男。隙が有るようで実は無い。攻撃性・敵意がむき出しだ。ってことだ。お前ら。騙すつもりだったんだろ?
不法侵入だ、捕まえろ!」

「待ってください、わたしたちは偽者だと知って、協力するための話を…!」「問答無用かよ」

斬りかかってくる敵を獲物で弾く。ユニスも同じくワインを置くと、棍棒を素早く取り出して加護魔法を二人にかけながら受けた。
しかし多勢に無勢。囲まれてしまった。

矢を受けながら、飛び掛ってくる傭兵を剣の平の部分で受け、そのまま撲り倒す。
ユニスの方も敵に応戦した。敵は一旦引くと、次に侍女たちが素早い身のこなしで短剣などで飛び掛ってくる。
先ほどよりもずっと速い。「後退するぞ」とユニスに告げるも、そちらは敵への応戦が一杯で、なかなか隙がない。
ユニス側の侍女は太い箒から仕込み杖のように曲刀を取り出し、不意をついて斬りかかってきた。ユニスが腕を斬られ。
棍棒を落としたのがフィッチャーにも伝わる。
「くそっ」

もはや加減はしていられない。フィッチャーは剣を構え直すと、防御能力をほぼ失ったユニスの前に出るように剣を横薙ぎにした。
侍女は曲刀でそれを受けるも、剣の分厚さまでは予測できなかったに違いない。曲刀が飛ぶと同時に侍女の胸から腹にかけてを切り裂いた。
「グァ…あぁぁ…」

溢れ出す臓腑はもはや彼女が助からないことを意味した。その隙にユニスは棍棒を拾い後退しながら次の攻撃を受ける。

「殺した…のか? 僕の可愛い部下を一人やってくれたな、もう構わん、このホビットの長、ザトーラップも参加する。
Rぞ。お前ら、容赦なくやれ。お前もだよ、トビー」

どうやら偽領主はトビーというらしい。しかし大変なことになった、とフィッチャーは思った。
やはり屋敷になど行かなければ良かったのだ。
敵は動揺させたが豪奢な床は血の海となっており、ザトーラップからは激しい魔力の奔流が見えるようだ。

「今のは自衛行動だ。俺はお前らと交渉に来た。街は帝国だか何だか分からん連中に蹂躙される。
一緒に街を守らねえか!!?」

あぁ、先に言っておくんだったな、と後悔した。全く周囲の殺気が止む気配はない。
と、その時、見知った声と魔力が近づいているのが分かり、二人は振り向いた。
そこに現れたのは、アレクたちだった。

【とりあえず舞台は侯爵屋敷での説得シーンに移ります。
リーダーのホビット・ザトーラップが激怒、ドワーフ、侍女、傭兵など10人程度がフィッチャー、ユニスを襲撃中】

87 :
セレスティーヌの士気が心配なところだったが、
色々あった直後だということを露ほども感じさせぬ堂々たる振る舞いで見事に民衆を鼓舞して見せた。

>「それからだ、侯爵屋敷への交渉を頼む。
向こうの動きが無い以上、敵であると決まった訳ではあるまい! さぁ、敵を撃退するぞ! この
セレスティーヌ・ド・ラ・シュヴィヤールが全責任を負う!」

そして一行は取り急ぎ、侯爵屋敷への交渉へ赴く事となる。
敵の軍団が到着するまであまり時間は無いため、スピード勝負だ。
大勢で突入して警戒されてもいけないということで、まずはフィッチャーとユニスが町民に扮して入り、様子を見ることとなった。
アレクはマーテル・デルタ・ペトラを引き連れ、様子が伺える場所に待機する。
時間が経っても二人が出てこなかったり、屋敷内で騒ぎが起こった様子の時は突入する算段だ。

「大丈夫かねえ、あの二人……」

「ユニちゃんはいいとして海賊王はただの町民にしては……ごっついかもしれない……」

程なくして、屋敷内から喧噪が聞こえてきて、突入することとなった。

>「殺した…のか? 僕の可愛い部下を一人やってくれたな、もう構わん、このホビットの長、ザトーラップも参加する。
Rぞ。お前ら、容赦なくやれ。お前もだよ、トビー」

>「今のは自衛行動だ。俺はお前らと交渉に来た。街は帝国だか何だか分からん連中に蹂躙される。
一緒に街を守らねえか!!?」

突入してみると二人は囲まれていて、よく見ると相手方の侍女らしき者が一人絶命している。
偽侯爵側が二人を曲者として問答無用に攻撃を仕掛け、防戦したところ侍女が死んでしまい、泥沼の戦いに突入したというところか。
しかしそれは大事な部下を殺されて激昂した、というものではなく、体のいい口実が出来たといったところだろう。

「"可愛い"部下……本当にそう思ってたのかねぇ」

ザトーラップと名乗ったホビットの長こそが実はこの集団のリーダーであったらしい。
トビーというらしき偽侯爵への態度を見れば分かる、下の地位の者を虫けらのように扱う姿勢。
本当に部下を可愛がっていたとは思えなかった。
恐怖によって統制されている集団は――硬くて、脆い。
その危うい均衡が保たれている間はボスの命令通りに一糸乱れぬ動きをするが、崩れる時は一瞬だ。

88 :
「う、うわあああああああああああああ!!」

自暴自棄になって先陣切って突っ込んできたトビーという侯爵姿のおっさんの腕を軽く掴んで動きを拘束する。
どうやらこのおっさん、戦闘能力がほぼ皆無のようだ。それを分かっていて行かなきゃRとかいうザトーラップ、マジ鬼畜。

「散々な目にあっているようだね……。こちら側に来れば少なくとも役に立たないなんていう理由で殺したりはしない」

そのままおっさんをドアから屋敷の外に放り出し、声をかける。

「大樹の洞亭に行けばワタシ達の仲間がいる――屋敷が野蛮なホビットに占拠されたとでも言えばいいさ。
一生そいつに怯えて捨て駒にされてのたれ死ぬか、ここで勇気を出すか、よく考えることだね」

暗に増援を呼んで来いと言っている。
ザトーラップのあの人間性では、部下たちにこちらの方が優勢だと思わせてやれば、寝返りが続出し一気に攻勢に転じる事が出来ると踏んだ。
しかし人間性は終わっていても、戦闘能力は侮れなさそうだ。
ザトーラップが纏うのは激しい魔力の奔流。
草原を駆ける妖精ホビット、子どものような姿をしている彼らは、妖精族の例に漏れず卓越した精霊魔法の使い手だ。
何らかの精霊魔法の発動の予兆か――

「《フラッシュ》!」

目くらましの魔法で精神集中を乱し、発動を遅らせる。

「アイツの精霊魔法を封じないとまずいね……」

とペトラ。
その時、侍女風の部下の一人がチェーンウィップのようなものを振るい、こちらを一網打尽にしようと襲い掛かってきた。
首尾よくチェーン部分をデルタがとっさに杖でからめとり、マーテルがボウガンで応戦。
女は思わず武器から手を離し、ペトラがその隙に暗殺者らしい動きで掠め取った。

「アレク! 任せたよ! 精霊は金属を嫌う――!」

「分かってる!」

チェーンウィップを渡されたアレクは、それをザトーラップに接敵して振るい、彼にをチェーンを巻きつけようと試みる。
精霊は銀以外の金属を嫌うため、精霊魔法使いは金属製の鎧を着ないと聞いた事があるのだ。

89 :
>「散々な目にあっているようだね……。こちら側に来れば少なくとも役に立たないなんていう理由で殺したりはしない。
大樹の洞亭に行けばワタシ達の仲間がいる――屋敷が野蛮なホビットに占拠されたとでも言えばいいさ。
一生そいつに怯えて捨て駒にされてのたれ死ぬか、ここで勇気を出すか、よく考えることだね」

アレクはセレスティーヌ以外の全員を連れて屋敷の逆に包囲してしまっている。
さすがデイドリームの知覚、といったところだろうか。

「助かった…お前は、あの時の「三日月の」…!」
「さっさと逃げるこったね」

ペトラとかつて共謀していたらしきトビーはさっさと屋敷より退散。
これにより屋敷のメンバーに動揺が走る。

しかし、ザトーラップの放つ魔力は彼らの逃亡意欲を損ねていた。
以前より植えつけられていた恐怖はそう簡単に解けない。

>「"可愛い"部下……本当にそう思ってたのかねぇ」

「あぁ、みんな忠実で熱心な部下たちだったよ…彼らはカネと富さえあれば何でもやってくれる。それが南の常識。
使える奴、強いやつは上にいける…彼女は弱かったから死んだんじゃないかな?」

と、言いながらブワブワと緑色のオーラを纏う。素早い精霊力の展開は彼らの得意技だ。
全員の動きが素早くなり、フィッチャーやユニスへの攻撃も激しくなる。
敵も洗脳されている訳ではない。仲間の死を目の当りにして動きは慎重になっている。
それでもユニスの棍棒を再び叩き落すまで時間はかからなかった。

「くそっ、秘密兵器とか持ってないのか?!」

フィッチャーがそう後ろに呼びかけたところ…

>「アレク! 任せたよ! 精霊は金属を嫌う――!」

いつの間にか侍女の一人の武器であるチェインウィップをデルタが絡め取り、
ペトラ、さらにアレクへとパスされた。

「おのれ…!」

90 :
チェーンを巻きつけられたザトーラップは次に恐らく味方ごと巻き込もうとしたのだろう
風の精霊魔法を止められ、慌てふためいた。その一瞬をフィッチャーは見逃さなかった。
ガィィン…!

バタリ、とザトーラップが地面に倒れ伏す。そこを他の三人が周囲をけん制しつつ封じた。
フィッチャーもジャケットを脱ぎ捨てて徹の鎧を脱ぎ、ザトーラップ封じに動く。
そして、アレクが合図をすると、それに同調して尚も攻撃を続けようとする敵の前で、土下座した。

「頼む、この通りだ。今は殺し合っている場合じゃねえ。もう領主ごっこは終わりだ。
これからはシュヴィヤール家庇護下にあるホワイトクロス騎士団の下で、理不尽な敵に抗戦しよう。
そして、無理だと思ったら一緒に逃げよう。そこのチビにはとりあえずしばらく大人しくしてもらう。
何かあれば交渉役ぐらいにはなるだろうよ」

屋敷のメンバーは顔を見合わせていたが、止む無しといった感じで受け入れた。
最初にドワーフが口を開いた。

「ワシらの身分を保証するなら、協力してやらなくもないぞ」

「あ、とりあえずトビーを捕まえておいてくれ」
フィッチャーが慌てて後ろを見ると、丁度マーテルとデルタがトビーを連れてきたところだった。

「とりあえずお前らにはそいつを運んで、こっちの拠点に移ってもらう。
トビーには一応、ホワイトクロス騎士団を公認した侯爵として振舞ってもらわないとな」

「アイラ、良い子だったのに…きっとそこのチビッコのつまらない愚痴や話を一番良く聞いてくれたの、この子よ。
多分、チビッコは本気で悔しいと思ったんじゃないかな…」
「すまなかった」

フィッチャーが踵を返すと、先ほど殺した侍女が腸を戻され、包帯で巻かれて箱のようなものに安置されているところだった。
そして戦闘のあった形跡も綺麗に拭われようとしている。それだけの装備がこの館にはあった。

ザトーラップの護送が行われている頃、最後尾にいたフィッチャーはコボルトたちの動きに気付いた。
その中でも最も大柄な男。それはルドルーに違いなかった。

「あいつらには悪いことをした。団長の代わりに俺が謝っておく」
「いや、そのようなことは良いのだ。私がドクラで受けた屈辱はな…」

カボスらと合わせても20人程度しかいないと思われるコボルトたちは一様に悲しげな表情をしていた。
明るく陽気な彼らがこれほどまでに落ち込むとは。

どうやら、ルドルーの話によると、後詰めとして入ったルドルーはコボルトの指揮官であるドーベル将軍の支援をしている間に、
「信じられないもの」を見たらしい。
特に問題なく防戦している彼らが突然「消えた」というのだ。それも、デイドリームの一団が現れた途端に。
そして気がつけば彼らは敗走し、陥落した要塞とドーベルやハウザーを含む大勢の死体が取り残されていたという。
内通者がいて、その何らかの魔術が原因で大敗したのだ。

「そういうことか…ところで、俺らの団に入って一緒にここで抵抗しないか?
もしかしたらその将軍の仇を討てるかもしれないぜ」
「何を馬鹿なことを…む、その旗はもしや…!」

驚くルドルーの声に振り向くと、外装を大きく変えた大樹の洞亭に大きな白十字の旗が翻っていた。
戦いの準備はだいぶ順調のようだ。

91 :
――

その後、フィッチャーらは布屋から繁華街の娼婦にまで声をかけ、
あちこちで支援できる人物、物資を募った。
その結果、要塞は騎士団員と館の住人で約20名、コボルト約20名、
街の自警団員約20名、それと有志を合わせると100人程度が戦力となった。
一部はザトーラップの名を借りて雇った冒険者もいる。

既に塞がった、先ほどの戦闘の傷にキスをされると、フィッチャーはセレスティーヌにキスを返した。
薄着になったセレスティーヌを横たえると、自らは鎧を完全に着込み、部屋の外へと出かける。
これからまだまだ打ち合わせや準備がある。皆が皆、交代しながら寝ているのだ。

「セレス、これだけは聞いてくれ。危なくなったらお前一人でも逃げろ。良いか?
今回の迎撃は負けるのが前提なんだ。その場合の人員はこっちで用意してある。
俺はただの兵だ。だが必ず生き残ってお前の元に戻る。だから振り返らないでくれ」

セレスティーヌともう一度抱擁をかわすと、その場を離れた。

――

「来たぞー!」
「了解、作戦通りに頼む」

敵の第一波はコボルトの見張り、カボスによって発見された。
まだ夜明けの時間帯、ガーゴイルやワイバーンが数十頭、恐らくは空中からの爆撃や魔法などが目的だろう。
こちらの威力偵察といったところだ。
要塞はこの時点では一見すると宿にしか見えない。

半鐘の音が響き、住民たちが目を覚まし避難する。しかし、その数は決して多くはない。
あくまで通常通りやられているのを見せるのが目的だ。

飛竜たちが脚に括り付けたものを落とすと、それは爆発する。
同時に飛竜のブレスやガーゴイルのビームでも容赦なく攻撃は続き、
館は易々と炎上していった。
さらに回るようにして議会、教会、冒険者斡旋所、自警団詰所などに容赦ない重爆撃を行っている。
アーアーと大声をあげながら逃げ惑う住民。

窓の隙間から良く見ると、ガーゴイルや飛竜たちの多くは無人だ。
中央に一際大きな飛竜が二頭おり、その下に櫓のようなものがある。
そこが指揮官の居場所のようだ。高い位置にいる上、魔法でバリアが張られている。

92 :
「もういい?」
「いや、もっと引き付けろ、引きつけてぇー、よしっ、やれ!」
「今ベタベタ触ったの、後で仕返ししてやるから…みんな、今だよ!」

マーテルの合図によって一斉にボウガンや矢によって要塞化した宿から矢が放たれていく。

「さんざんコケにしやがって、帝国め…僕の実力ってのものを見せてやるよ!」

そしてザトーラップの精霊魔法によって緑色の風が飛竜に大ダメージを与え、櫓が高度を落としてグラリと傾いた。

「怯むな! 敵はわずかで、地上だ。さっさと爆薬とレーザーでカタをつけろ!」

敵の司令官が怒鳴ったその時だった。

「ホワイトクロス騎士団、続けぇ!」

セレスティーヌが屋根の上に乗り出し、白い十字の旗を掲げる。
すると、宿の各所、町の各所に白い旗が翻る。

「全員、総力をもって撃ち落とせぇ!」

先ほどよりも多くの弓兵、コボルトたちが現れ、全力で空の爆薬をほぼ使いきった爆撃隊を襲う。
ギャァ、という飛竜の声と同時に、騎乗兵が呻きながら落ちていくのも聞こえる。
しかし、それでも残った爆薬やレーザーがレクトゥスの民たちを襲った。宿はアレクら数人の防壁によって護られるも無事ではない。

「俺の出番か…」

絶大攻撃力の加護をかけている張本人、アレクと目を合わせ、コクリと頷く。これを外せば終わりだ。
「うおぉぉおおおおお!!!」

櫓を支えているもう一頭の飛竜に向けて飛んでいったのは愛用の大剣。
それは飛竜を空中で無残な肉片へと変えた。

「馬鹿な、落ちるぞ!」
「やれぇ!」

落ちた櫓は大きく頑丈で、将と何人かの兵たちが乗っていたが、
そこにはペトラとドワーフが火薬を持って既に構えていた。

「ギャアアア!!」

ドォォン、という爆発音の後、壮絶な爆発が起こり、噴煙が空へと舞う。
中にある爆薬に引火して誘爆したようだ。

「くそっ、こんな馬鹿なことが…逃げろォ!」

飛竜に乗った帝国兵が指揮を引き継ぎ、追撃を受けながらも辛うじて退散していった。

「オォォォォオオオオオ!!!」

爆撃を乗り切ったという、勝鬨の声が上がった。ルドルーは櫓の中を確かめるも、全て即しといった猛烈に臭い赤い血の塊が沢山残っているだけだった。
「くそっ、勢いよくやりすぎたか」
「いや、向こうで一人捕まってるよ。もう手遅れかもしれないけど」

捕虜を捕まえたかったフィッチャーだったが、勢いに乗った住民によって既に息の根を止められており、
数時間後の第二波を待つこととなった。

「人間の憎しみというのはこうも深いものか…」
ルドルーが呟いた。

93 :
――

「どうするんだよ、これ」

カボスがあまりの人数に怯える。
複数ある見張り台と宿の屋上からの見た感じによると、どうやら敵は
トロールを前面に押し出した帝国軍およそ2000。それもその後ろにも敵が控えているらしい。

「ありゃトロールが率いられてるんじゃなくて、トロールが率いてるんだよ。お前ら良く聴いとけよ」

偉そうに語るザトーラップによれば、仇敵であるトロールの将軍の一人、アウルス・モルサスを確認したらしい。

「くんくん、ちょっと待て、あれ、敵じゃねぇか…囲まれてるぞ!」

ふと、コボルトたちが吼えはじめる。どうやら帝国軍が接近している南側とは反対の北側から、
エイプマンの軍勢が200人以上いるらしい。

「こりゃ、勝てねぇだろうな。生き残る策を考えよう。非難経路について街の連中にも聞いておけ」

そう言うと、傭兵の一人が駆け出していった。
先ほどの爆撃の際は、殆どの住民はこの街の地下に潜んでいたのだ。

敵の中で隊長クラスと思われる帝国兵が魔法を使い、こちらに脅迫をかけてくる。

「先ほどの不意打ちに対する報復である! 速やかにレクトゥス市民は武器を置いて投降せよ。
命だけは保障してやる! まずは首謀者、セレスティーヌの身柄を引き渡してもらおう」

「断る!! 貴様らはドクラ要塞で行った虐殺について説明する義務がある!!」

ルドルーが魔法の導具を仲間から借り、大声で勝手に怒鳴る。怒りがまさに心頭に達しているかのようだ。


「俺は敵が接近したら一部の屈強な奴らと先駆けをしてくる。
その間にお前ら逃亡かゲリラ戦の準備しとけよ」

用意された騎馬は50頭程度。
フィッチャーをはじめ、ルドルー、マーテル、デルタ、他に館や自警団、冒険者から数人が
駆け出していった。

朝日は既に昇っている。

【レクトゥスへの一次侵攻を撃退、その後、帝国軍らはレクトゥスに二次侵攻を開始。】
【フィッチャー、マーテル、デルタが前線へ。その他は避難やその他作戦の準備に】

94 :
チェーンを巻きつけて精霊魔法を封じたところから一気に押しきり、ザトーラップの無力化に成功。
こちらの優勢がはっきりしてきた絶妙のタイミングで、フィッチャーが頭を下げる。

>「頼む、この通りだ。今は殺し合っている場合じゃねえ。もう領主ごっこは終わりだ。
これからはシュヴィヤール家庇護下にあるホワイトクロス騎士団の下で、理不尽な敵に抗戦しよう。
そして、無理だと思ったら一緒に逃げよう。そこのチビにはとりあえずしばらく大人しくしてもらう。
何かあれば交渉役ぐらいにはなるだろうよ」

>「ワシらの身分を保証するなら、協力してやらなくもないぞ」

思った通り、なかなか話が分かる者が多いようだ。

>「あ、とりあえずトビーを捕まえておいてくれ」
>「とりあえずお前らにはそいつを運んで、こっちの拠点に移ってもらう。
トビーには一応、ホワイトクロス騎士団を公認した侯爵として振舞ってもらわないとな」

戦闘に巻き込まれないようにいったん外に逃がしておいたトビーをマーテルとデルタが難なく連れ戻し
表向き侯爵として振る舞ってもらうことに同意を取り付ける。

>「アイラ、良い子だったのに…きっとそこのチビッコのつまらない愚痴や話を一番良く聞いてくれたの、この子よ。
多分、チビッコは本気で悔しいと思ったんじゃないかな…」
>「すまなかった」

先程はいかにも部下を見下す最悪な支配者といった態度だったので、意外に思うが、嘘を言っているようにも見えない。
ザトーラップは良くも悪くも狡猾な支配者などではなく、見た目相応のわがまま放題のお子様なのだとしたら辻褄が合う。
ただしそのわがまま放題の程度がとてつもなく過激、ということだろう。
こうして、何とか偽侯爵の一団を仲間に引き入れることに成功したのであった。

++++++++++++++++++++++++++++++

その後、主にフィッチャーの求心力、一部ザトーラップの名によって、瞬く間に100人ほどの戦力が集まった。
そしていよいよ敵の第一波のご到着だ。

>「来たぞー!」
>「了解、作戦通りに頼む」

指揮官の居場所らしき櫓をひっつけた飛竜を狙い撃ちにする。

>「ホワイトクロス騎士団、続けぇ!」
>「全員、総力をもって撃ち落とせぇ!」

こちらの怒涛の攻撃に、敵も負けじと爆薬やレーザーで反撃してくる。

95 :
「《ホーリィ・シールド》!」

アレクは他数人の術者と連携して魔法障壁を展開し、本部の宿を最小限の被害に抑える。

>「俺の出番か…」

「――《フル・ポテンシャル》!」

攻撃力を極限まで強化する加護をフィッチャーにかけ、目配せする。
それを受けたフィッチャーは、全力で愛用の大剣を投げつけたのだった。

>「うおぉぉおおおおお!!!」

大剣は見事に飛竜に直撃し、それを肉片に変えた。
哀れ、落下した櫓は、ペトラとドワーフの手によって爆発オチと相成った。

>「ギャアアア!!」

>「くそっ、こんな馬鹿なことが…逃げろォ!」

――こうして無事に(?)第一波を退けたのであった。

++++++++++++++++++++++++++++++

続く第二派も第一派の勢いに乗って――といければ良かったのだが、始まる前から絶望に包まれていた。
単純な敵の数だけでも絶望的な上に、どうやら囲まれているらしい。

>「どうするんだよ、これ」
>「こりゃ、勝てねぇだろうな。生き残る策を考えよう。避難経路について街の連中にも聞いておけ」

傭兵の一人が完全に戦意喪失して駆け出して行った。

>「俺は敵が接近したら一部の屈強な奴らと先駆けをしてくる。
その間にお前ら逃亡かゲリラ戦の準備しとけよ」

逃亡かゲリラ戦――もはや負け戦前提である。
もう全員で逃げればいいんじゃないかとも思うが、こちらが言いだしっぺである以上今更引っ込みがつかない。
戦争とは往々にしてそういうものである。
フィッチャーは、騎士団からはマーテルとデルタを引き連れて行った。
アレクも一緒に行こうかと申し出たところ、ここに残って後方を頼むとのこと。
普通に考えて高位の神聖魔法が使えるアレクは前線に連れて行きそうなものだが、敢えて後方に残したのは
この状況を打開する何かをやってくれるのではないかという一縷の望みを託しているようにも見えた。

「……といってもねぇ……」

フィッチャー達を見送り暫し途方に暮れていたところ。
大樹の洞亭の主人が、口を開いた。

「この街の起原が、旅人が一夜の宿にしていた大樹っていうのは知ってるよな?」

「ああ、あの中央広場にある柱みたいなのがそうでしょ?」

今は枯れ果てた巨大な幹だけ残っていて、単なる茶色い極太の柱のように見えるが、
その昔は無数の枝を持ち艶やかな葉が生い茂る巨大樹で、遠くから見ても分かる街のシンボルだったそうだ。

96 :
「言い伝えによるとただの大樹じゃない。
精霊樹エント――大樹の姿をした大精霊で、その昔永きに渡ってこの街の守り神を務めた」

"精霊"なのに守り"神"とはこれいかに。別におかしな話ではない。
今のように特定の神を崇め奉る宗教が一般的になる以前の時代は、神と精霊の区別は曖昧なもので、本質的には両者は同じものだった。
その昔は神格級の精霊もたくさんいたそうだが、今ではその殆どが下級精霊に失墜してしまったそうだ。

「丁度一神教が台頭してきた頃の時代。エントは"この街はもう我無しでも大丈夫だろう"と言い長い眠りについた。
ただし"もしも遠い未来、街に危機が迫った時は起こせ、必ずや力を貸そう"と言い残して――
……っていってもなあ。こんなお伽噺みたいな話しかできなくてすまないな」

暫し場に沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、アレクだった。

「――よし、起こそう」

「えっ」

コイツ正気か、といった視線が注がれる。

「聞いただろう? "逃亡"か"ゲリラ戦"って。常識の範疇ではもう負け確定ってこと。
万が一勝てる可能性があるとすれば……奇跡を起こして一発逆転しかないんだ。
どうせ他に有力な手段も無い、駄目でもともとで賭けてみるしかないだろう。
大樹の幹の洞は地下に続いているんだろう? 手掛かりがあるとしたらそこしかない」

「……それもそうだな。しかし洞は魔物が沸いて今や地下ダンジョンのようになっているだろう。くれぐれも気を付けて行って来い」

「ユニス、ペトラ、それから……ザトーラップ、付いてきてくれるかな? 相手が精霊なら精霊使いの力は役に立つだろう。
セレス団長は引き続き皆の指揮を。いざとなったら……避難の誘導を。もちろん団長もちゃんと逃げるんだよ!」

そうして一行は、一縷の望みをかけて地下ダンジョンと化した大樹の洞に足を踏み入れるのであった。

【戦記物風になってるところにいきなりファンタジー全振りのネタをぶっこんでみる。
多分日曜日の夜ぐらいまで投下できないのでいったんここで投下しておきます。
今はシーンが分かれているのでそちらはそちらで前線のシーンを進めて貰えばと思います。
もちろん気が向けばこちらのシーンをNPC等を使って進めて頂いても構いません。
特に支障が無ければダンジョン攻略後にエント起こしちゃう予定】

97 :
騎馬隊に志願したのはおよそ30名、残りの馬はセレスティーヌらが脱出を図る際にために
残しておいた。そもそも、一戦目で膨れ上がって100名強になったとはいえ、その中の30人。
全てが馬を使いこなせるかというとそんな訳はない。マーテルやデルタでさえオドオドする様子だ。
それも馬そのものも騎馬隊用としてはたまに自警団員が訓練を施すのみで、実戦には殆ど慣れていない。
フィッチャーはともかく、ルドルーに関しては大分重量オーバーなようで、馬も全力を出し切れるかどうかは怪しいところだ。

「くそっ、アレクをこっちにも用意しておくんだったな、これじゃまるで…」
「『決死隊』といったところか?」

ルドルーが周囲の一部体格の良いコボルトを見ながら言う。
「そうかも、それねえな…」

と、帝国軍から喇叭の音が聞こえ、一斉にトロールと本隊が動き出した。
あくまでトロールの役割は破壊兵器のようなもの。
トロールは光に弱いが、故に黒い鎧のようなもので全身を覆っている。これを剥がさなければ話になるまい。
同時に帝国歩兵、騎兵などが続々と出撃していった。
後方に居る異常に体色の黒い豪奢な鎧を着たトロール、あれが「アウルス・モルサス」なのだろう。

レクトゥス側は只でさえ少ない兵を訳たために、全体で戦闘員は100名程度、
防壁どころかまばらに敷かれた柵のようなものの裏に自警団弓兵や傭兵魔術士が隠れ、その隙を前衛が埋めるような形だ。
何らかのプラス効果が無ければあっという間に数で押し切られるだろう。

「行くぞおおお!!」

フィッチャーは馬で早駆けをすると、敵の軍勢の脇腹を付いた。
フィッチャーが剣を一振りする度に帝国兵たちの胸から上が吹き飛ばされていく。
騎馬の速度と加護の力にフィッチャーの打力が加速されて物凄い勢いを出している。
それは精鋭をも甲冑や武器ごとたたき斬るに充分足りえた。

脇ではコボルト隊が同じように敵を蹴散らしていた。
特にルドルーの攻撃は凄まじく、一駆けする度に両手に持った剣により敵が二列になって倒れていくようだった。
「怯むな、魔法兵迎え討て! 敵の騎馬隊を追え、少数だ! 一気に潰せ!」

モルサスの声が轟音のように響き、それだけで馬が怯んだ。
予定通りそのまま敵の脇をすり抜けて森沿いに帝国軍の奥へと向かっていく。
大将の首を狙うというのもあるが、純粋に攪乱のためだ。

傭兵や自警団含む半数近くが、この後の迎撃で落馬を喫した。
後ろで悲鳴が上がるが、もはやフィッチャーはそれどころではない。気がつくとデルタとマーテルまで見失っていた。
馬がボロボロだ。それは近くにいるルドルーにも見られた。

敵の騎馬隊が迫る。ずっと頑丈な帝国の騎馬兵は、まるで巨人のように見える。
フィッチャーが取って返すようにして叫びながら突っ込む。
ドッ、という音とともに敵の騎兵の上半身が吹き飛び、同時に臓腑を垂らしながら下半身も落馬する。
フィッチャーは鐙を外すと、さっさと敵の馬に乗り換え、再び駆け出した。
ずっと大きく強靭でアーマーまで付いている帝国の馬は強靭だ。

98 :
「その手があったか!」

ルドルーは同じようにして信じられないような勢いで他のコボルト隊とともに取り囲み、
騎兵たちを次々と撃破、馬を奪っていった。既に肉体は矢や剣傷でボロボロだ。
フィッチャーも同じようなものだった。

フィッチャーたち十数人は、さらに迫る帝国の大軍、さらにモルサスによって追い詰められ、敵中に完全に孤立していた。

「私はここに残る! コボルトの誇り高き兵たちよ、最後まで戦いたい者は私に続け。逃げたい者はそこの男、
フィッチャーに続いてレクトゥス方面に撤退せよ。…決死隊をこれより編成する…!」

コクリと頷いたルドルーはフィッチャーを逃がすつもりなのだろう。
「「決死隊」ってのは死ぬための部隊じゃねぇ。「死ぬ覚悟がある」軍隊だ。また、会おうや…!」

そう言うとフィッチャーは踵を返し駆け出した。ルドルーらコボルトたちは扇形に広がり、敵を受けた。その間に後ろから回りこむ。
目の前にはマーテルの姿があった。既に落馬し、脚を引きずって敵の方に向かっている。
「マーテル、そっちは敵だ、デルタは…?」「デルタが…」

既に壊滅した騎馬隊は敵に囲まれ、どのような状態になっているかは分からない。しかし、
あの中にデルタがいるのは確かだ。フィッチャーはマーテルを持ち上げ、強引に自分の前に乗せた。
「死ぬのだけは勘弁してくれ。俺がどれだけ時間をかけても助けてやる。だから今は…」「デルターー!」
フィッチャーはマーテルに腕を噛まれた。腕から血が滲み出した。それでもフィッチャーは痛みに耐え、レクトゥスめざし駆け出した。

その時だった。

――ボロボロになった柵、味方と敵の死体が並ぶその場所から轟音とともに現れた者がいた。
トロールたちは既に前衛の兵たちを蹂躙し、街人たちを次々持ち上げ、潰そうとしている。

そこに地中から現れたのは、紛れもなくエントであった。
『森の巨人』と呼ばれるこの種族は、この地域ではないが、神話や歴史書によれば
古くからトロール種族との因縁があり、時には虐げられ、大樹に扮して各地に潜んで生活していたという。
彼らがまさに今、宿敵トロールとの対決をしている。
その巨躯はトロールより大きい者もおり、力だけでも互角といったところか。

トロールたちはエントたちの登場にすっかり興奮し、同時に狼狽している。既にそちらにしか目が行っていない。
恐らく後方のモルサスもこの状況には気付いているだろう。
既に一部のトロールは鎧を剥がされ、真昼の太陽を浴びて弱体化されている。
これが悪化すれば彼らはたちまち石になって死亡してしまうだろう。
エントの一人の上には輿に乗って指揮を執るザトーラップの姿がある。彼の存在は森との親和性を高めており、
少なくとも彼の気性を彼らに悟られなければ、心強い同盟者となってくれるだろう。

しかし、これらの攻撃は帝国軍とレクトゥスとの間に壁を作ったに過ぎなかった。
帝国の人間の将兵たちはなおもレクトゥス攻撃を続け、どうやら街の奥では火の手が挙がっている。
爆発が何度か起こった。どうやら挟み撃ちに遭ったらしい。

――

レクトゥスの手薄な北部ではエイプマンたちの襲撃が行われていた。

旗を振るセレスティーヌは騎馬に乗ったまま、ユニスとともにレクトゥス脱出の手筈を整えていた。
勿論、レクトゥスに住まう全ての民たちを逃がすために。
アレクも既に前線でのエントの指揮をザトーラップに任せ、こちらに移動してきている。

99 :
「ウホォ! まずは糞犬どもがいるぞ、こいつらから皆殺しだ。パトロン様は皆殺しにしろ、との仰せだ。
街がボロボロならボロボロなほど報酬もバナナも大量だとよ! 男は殺せ、女は犯せ、そして犬は根絶やしにせよ!!」

エイプマンの中でも特に巨大な、身の丈3mほどある大猿が巨大な棍棒を振り回しながら叫ぶ。

「セレス、あんたらは上手くみんなを逃がすんだ。おいら達ぁこいつらにだけは負けねぇ…
最後の一兵まで戦ってこいつらの死体をルドルー様たちに見せびらかしてやるぜ」

アレクの加護を受けたコボルト十数名が異常な士気の高さでエイプマンたちに対抗していく。しかし、多勢に無勢。
そこに自警団員や傭兵を加えた50人弱程度では、100以上の猛烈なエイプマンの攻撃にはかなわない。

辛うじて街の外へと抜けたセレスティーヌらが横腹を突かれ、ついに数名のあぶれたエイプマンが民間人に危害を加えはじめた。
男たちが頭を潰され、女たちは街の方へと引きずられていく。
「離しなさい!」「無茶な・・・」

ユニスが前に出るも、あっという間に棍棒やナイフの一撃に倒され、そのまま服を剥かれ、街のほうへと引きずられていく。
「くっ、これを使うしかないか…!」

ドォォォォン…!! 

その爆発を起こしたのはペトラだった。いずれはわが身、と考えたのもあるが、
これだけの人数を一気に安全圏に出すためにはこれしかない。
エイプマンたちのいる方向へと爆発と毒と煙幕の三重奏をぶちかました。

辛うじて彼らは逃げていったものの、今度は矢が彼らを襲った。
「くっ、そんな…!」

レクトゥス側の屋根や森の樹に潜んでいたエイプマンが飛び道具で応戦している。

――「逃げなさい!」

その時現れたのは、なんと、あの「侯爵」トビーだった。
「ト…」「侯爵様!」「危ないです、領主様は早くお逃げになってください!」

セレスティーヌらはトビーの正体に気付きつつ、口を押さえた。
随伴している自警団員も勢いで、潜んでいるエイプマンを次々に討っている。
「仕方ない…ト、いや、侯爵様、私たちも加勢します!」

侍女二名もそこに援護に入る。
コボルトたちとトビーらによって、多くの市民たちは北の包囲を破り、
森を避けるようにしてアースラント王国方面へと抜けていった。

100 :
辛うじて受けている彼らだったが、強敵の存在を忘れていたことに気付く。
ドスッ、とトビーへとず太い棍棒の一撃が入ると、その瞬間に受けた剣、肋骨や内臓が全て砕け、致命傷となった。
「ぐぉぉっ、俺は…これで良かったんだ… 俺のやりたかったことは、こういう事だったのかもしれないな…」

息を引き取ったトビーは、攻撃の主、エイプマンの隊長・ユングにそう呟いた。

「悪ぃけど、逃がさねーから。そこのネーチャン、犯して壊して任務完了、そー言われてるから」

ズシン、という男を立て、エイプマンのボスがセレスティーヌを指差す。
周囲からも彼とともに侍女二名を数で押し切ったエイプマン五名ほどが姿を現す。
「俺らもお前ら絶対Rウホ」

万事休すという、そのときだった。

――ドッ…

グッ、という声すら漏らさずにバラバラとその姿を散らしていくエイプマンたち。
その一撃はユングの肉体にすら掠めていた。
騎馬に乗ったフィッチャーが現れ、大剣を持って下りた。

「セレスティーヌ、こいつを連れてさっさと逃げろ。この馬は頑丈だ。街の連中はマーテルに任せる。
お前だけは助かれ。後で兵を挙げるためにもな。そのままアースラントのどこかに行くんだ。
とにかく生きてくれ。俺はこいつらを片付ける。行くぞ、アレク!」

怪我をした侍女二名を乗せてもらうと、セレスティーヌは旗を捨てて一気に駆け出していった。
マーテルは馬から降りてペトラとともにレクトゥスの民たちを生き残った自警団とともに案内していく。
離れたレクトゥスの街ではまだコボルトたちが抵抗していた。しかし、徐々に帝国兵たちの喧騒の声も大きくなっていく。

「アレク。俺はこいつだけはぶっ潰す。セレスへの暴言と、『侯爵様』を殺した弔い合戦のためだ。
お前は俺の援護をしながら、エントたちとあのチビをこっちに合流させてくれ。
そうすればきっと一番犠牲が少なくて済む」

「おい人間、オレさまにかなうと思ってんのかよ、その天使と一緒に手足と羽をもぎ取ってやるぜ!」

勢い良く振り下ろされた棍棒に、フィッチャーは素早く大剣を構えて睨みつけていた。


【街の南側、北側が破られレクトゥスはほぼ陥落。
現在、前線では内部に侵入した帝国軍の一部及びトロールとザトーラップ率いるエント勢が戦っている。
街の中心部は帝国軍によってほぼ占拠。偽侯爵死亡。
街から南に離れた地点ではルドルー隊がトロールの将軍と対峙したきり消息不明。またデルタらも行方不明。
街から離れた北ではエイプマンの包囲を辛うじて破りマーテル、ペトラら数人がレクトゥス民たちを脱出非難させている。さらに先にセレスが逃亡。
街の北側付近でエイプマンのボス、ユングとフィッチャー、アレクが対峙。カボスらが抵抗中。】

【起こしちゃいました。一気に進めちゃってすみません(汗】


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