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リリカルなのはクロスSSその124


1 :2013/03/06 〜 最終レス :2016/05/01
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
本スレが雑談OKになりました。ただし投稿中などはNG。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。
前スレ
リリカルなのはクロスSSその122(実際は123)
http://engawa.2ch.sc/test/read.cgi/anichara/1332255503/l50
規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
リリカルなのはクロスSS木枯らしスレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1257083825/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/
避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/
NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/
R&Rの【リリカルなのはデータwiki】
ttp://www31.atwiki.jp/nanoha_data/

2 :
【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認して二重予約などの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・鬱展開、グロテスク、政治ネタ等と言った要素が含まれる場合、一声だけでも良いので
 軽く注意を呼びかけをすると望ましいです(強制ではありません)
・長編で一部のみに上記の要素が含まれる場合、その話の時にネタバレにならない程度に
 注意書きをすると良いでしょう。(上記と同様に推奨ではありません)
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。
(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
 →参考URL>ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3168.html
【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は、まとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
 不満があっても本スレで叩かない事。スレが荒れる上に他の人の迷惑になります。
・不満を言いたい場合は、「本音で語るスレ」でお願いします(まとめWikiから行けます)
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。

3 :
>>1乙です

4 :
snipped (too many anchors)

5 :
snipped (too many anchors)

6 :
舞台は近未来・地球。
世界は「示現エンジン」と云うオーバーテクノロジーなエネルギーリアクターに依って
エネルギー諸問題を解決したが、極秘の真実の一端として此の示現エンジンには
管理世界から地球に流出したロストロギアを解析した技術が転用されている事を突き止めた時空管理局は
初手は第97管理外世界たる地球も巡航ルートに含んでいる巡回部隊の次元航行艦を派遣したが、
運悪く或る日を境に示現エンジン破壊を目的とした
「アローン」なる未確認敵性存在が現れ襲撃を開始したのと鉢合わせしてしまい、
最初の派遣部隊は状況報告を管理局に通達したのを最期に消息を絶つ。
事態を重く観た時空管理局は、選定の末に新任官のクロノ・ハラオウン提督を現場司令に任命し、
地球で言う中学生の年代に成り立ての八神はやてを隊長としてはやて貴下のヴォルケンリッターに、
クロノの下で執務官補佐を務めていたフェイト・T・ハラオウン、
戦技教導隊の教官に成り立ての高町なのは、
更に現場での不可思議を解析させる為のオブザーバー研究者としてユーノ・スクライアも同行させた
特務チームを編成させて地球に派遣する。
しかし、特務隊が地球に到着する頃には事態は混迷を極めており、
アローンの他にも示現エンジンを狙う存在として
「示現エンジンの核炉に使われている魔女」を狩る為に「魔法少女」なる存在も現れ、
更にアローンとは別の次元から「ノイズ」なる存在も現れて示現エンジンへの襲撃を開始していた。
地球側は「ビビッドスーツ」と云う強化変身装甲服を纏った女子中学生達と
中央から派遣された「シンフォギア」なる科学で再現した神秘の強化変身装甲服を纏う女子高校生達、
更に自分達以外の存在の手で示現エンジンに囚らわれている魔女を狩られる事を嫌う魔法少女達が
成り行きで共闘し、一刻も早い状況解決が望まれていた。
こんな状況に放り込まれたなのは達は、其処で何を見てどんな戦いを繰り広げどんな結論を出すのか……?
魔法少女リリカル☆なのはクロスSS 『リリカル☆エマージェンシー』
〈クロス作品〉
●魔法少女リリカル☆なのは(空白の中学生期)
●ビビッドレッド・オペレーション
●戦姫絶唱シンフォギア
●魔法少女まどか☆マギカ(おりこ、かずみもクロス?)

7 :
妄想してるクロスを嘘予告で1レスか2レスしてみるのも面白いかも…
個人的に百合とかBLはありえんが

8 :
snipped (too many anchors)

9 :
     ヽ ,,,,,,,,  ;;,;;;;;;;;;;;;;,,,/            ヽ       /|
     フヽ_ ∪"'=,,,,;;;;;;;;;;/ 丿 |  !-,,,,,____,,,,--;;;フ=|\_WW/ |WWWWWWWWWWWWW/
     彡>;,,,,__..│   / 丿 |;;;;;;;;;;;;;;ン-彡彡=|≫     極地法など       ≪
              ノ     「,二,,"""   彡|≫    登山家の恥だっ!    ≪
          __,,,-‐`゛      V、 '''ひ`=-,,,_ノ_ ≫                   ≪
                     ヽ\,,,_  .丿 |/MMMMMMMMMMMMMMMMM、\
                    .│  ゛゛゛~  ノ
            -‐-ヽ    . | ヽ    丿/   中国山岳部隊の燐隊長が>>9に単独登頂したぞっ
 \         ,,___       |      / /    >>1ようこそ、白龍の地獄へ!
  //      /r′     /  │       /  :  >>2共産党は仏より上にあるのさ。
 /        ( t;;--;;,,_.  ..、 .|      ./   :   >>3チョモランマをお前の白い墓標にしてやるっ!!
            ~ ""` ^''''_.丿     ./  :   >>4アルパインスタイルなら七日まで生存できる
               ,r'′ ̄ ''ヽ   ,,,,ノ/  :   |>>5いいか、水分は一日四リットル必要だ
   ,, ,__,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,,、  ‘        / ./  ;    |.>>6七千超えたら意識が弱まる。気を引き締めろ!
   ‖ (       `゛‐-‐'、,,_     / ./  /   / >>7…眠れぬ絶望の夜を過ごしたか…
   '  ゛゛`=─--.,,,,,,_   ./    ./ ./  /   / .>>8未熟者めっ
             ゛''''  ''       '   .'    /

10 :
どうも。本当にお久しぶりです。
思った以上に手間取りましたが、本日23時半より『リリカル星矢StrikerS』第五話投下します。

11 :
それでは、時間になりましたので投下開始します。
  第五話 蠢く影
 留置場で、アギトは一人うずくまっていた。こうしていると、ゼストの死に様がまざまざとよみがえってくる。
 かすかな羽音に耳を澄ますと、画鋲に羽が生えたような虫が空を舞っていた。ルーテシアの召喚虫インゼクトだ。
「よお、ルール―。もう知ってると思うけど、旦那が殺されたよ。あの変態医師の一味に」
 アギトは力なくインゼクトに話しかける。
「私は旦那の敵を討つよ」
 インゼクトが動揺するように揺れた。
「別にルールーに手伝って欲しいなんて言わないよ。私らと違って、あいつらと仲良かったしな。ただ邪魔はしないで欲しい。約束するよ。仇を討ったら、絶対にルールーのところに帰る。ルールーのお母さんについても、助けてもらえるよう交渉するから」
 インゼクトは逡巡するように天井をさまよっていたが、やがて留置場の外へ出て行こうとする。
「待った」
 それをアギトは呼び止めた。
「ルールーのデバイス、アスクレピオスもしばらく使わないで欲しい。変態医師の作品だからな。どんな仕掛けが施されてるかわかったもんじゃない」
 インゼクトは頷くように一度上下すると、留置場から去っていった。後にはうずくまったままのアギトが一人残された。
 六課隊舎の広めの部屋で、フォワード隊員と聖闘士たちが、一緒に朝食を取っていた。スバルとエリオが見た目に似合わず大食感なので、食卓には料理が山盛りに盛られている。ちなみに今回も出前だ。
 賑やかに食事が進む中、氷河は一人黙々と食事を終えると、早々に席を立ってしまう。
 そんな氷河の背を、キャロは視線で追った。
「どうかしたか?」
 口いっぱいに料理を頬張った星矢が訊いてきた。
「いえ、氷河さんってクールって言うか、ちょっととっつきづらい人だなと思って」
 明るい星矢に、誠実な紫龍、優しい瞬と比べると、氷河は不愛想だった。時折、険呑な気配を漂わせているので、話しかけることもままならない。
「それはしょうがないな。氷河の師匠は、アクエリアスの黄金聖闘士だったんだ」
 十二宮の戦いで、氷河に凍技の極意を教えて、アクエリアスのカミュは散っていった。その心の傷も癒えぬうちに、師匠の聖衣が盗まれ、悪事に利用されている。氷河としては、一刻も早く取り戻しに行きたいのだろう。
「その気持ちは俺も同じだ。老師のライブラの聖衣が悪人に使われているなど、我慢ならん」
 紫龍の発言に、星矢と瞬が同意するように頷く。命を賭して戦った黄金聖闘士たちを汚されているようで腹立たしい。青銅聖闘士の気持ちは多少の差こそあれ、皆同じだった。
 氷河が扉を開けて出ていこうとすると、飛び込んできた小さな影とぶつかった。
 氷河が見下ろすと、赤と緑のオッドアイの少女が、泣きそうな顔で尻もちをついていた。
「ふえ……」
 転んだからではなく、氷河に怯えているようだった。そこまで怖い顔をしていたかと、氷河は反省した。
「ヴィヴィオ!」
 フェイトが血相を変えてやってきて、ヴィヴィオを抱き上げる。襲撃事件からこっち、病院で昏睡状態が続いていると聞いて心配していたのだ。
「よかった。元気になったんだね」
「フェイトママ〜」
 ヴィヴィオは泣きながら、フェイトの首筋にしがみつく。
「……氷河」
「すまない。少し気が立っていたようだ」
 フェイトの咎めるような視線に、氷河は素直に謝る。
「心配しなくていい。別に君に怒っていたわけじゃない」
 氷河はしゃがみ、目線の高さをヴィヴィオと合わせる。
「ホント?」
 フェイトの後ろに隠れながら、ヴィヴィオがおずおずと氷河の顔色をうかがう。
「ああ」
 氷河が優しく笑いかけると、ヴィヴィオはわずかに警戒を解く。これでもシベリアの修行時代、近くの村の子どもには慕われていた。子供の扱いには慣れている。
「ヴィヴィオ、どうかしたの?」
「なのはママ!」
 ヴィヴィオは、とてとてとなのはの元へ走り寄っていく。

12 :
「マーマ? 君には、マーマが二人いるのか?」
 氷河は、フェイトとなのはを交互に見た。
「ヴィヴィオは、私となのはで預かっているんです」
 氷河はそれだけでおおよその事情を察した。
「ヴィヴィオは、マーマたちのことは好きか?」
「うん。なのはママもフェイトママも大好き」
「そうか。君は幸せだな」
「お兄さんのママは?」
「遠い所に行ってしまって、もう会えないんだ」
 極寒の海に沈んだ船の中で、花に囲まれて眠る美しい母の姿を、氷河は思い出す。今では船は更に海底深くに沈んでしまい、もう会うことはできない。
「そんな……」
 涙ぐむヴィヴィオを、氷河がなでてやる。
「優しい子だな。悲しむことはない。マーマとの思い出は、いつも俺の中にある」
 ヴィヴィオが首を傾げる。難しくて、よくわからなかったらしい。
「ヴィヴィオ。もしもの時は、君が二人のマーマを守ってやるんだぞ」
「うん。がんばる」
「……あまり変なこと吹き込まないでくれますか?」
 フェイトとなのはが微妙に引きつった顔で、ヴィヴィオを氷河から遠ざけた。
「そろそろどいてもらえるかな。中に入れないんだが」
「シグナム」
 フェイトと氷河が扉の前から離れると、シグナムとシャーリーが室内に入ってくる。ヴィヴィオを病院から連れてきたのはシグナムだった。
 入院している間もヴィヴィオは厳重に警護されていたが、手元に置いておいた方が守りやすい。単純に、目覚めたヴィヴィオが母親を恋しがったからでもあるが。
 その頃には、皆、食事を終え、シグナムたちの周りに集まっていた。
「私の名はシグナム。ライトニング分隊の副隊長をしている」
 シグナムは室内に入ると、聖闘士たちに挨拶をする。
「……そうだな。ヴィータと同じ存在と言えば、わかってもらえるかな?」
 聖闘士たちの間に、妙に納得したような空気が流れる。シグナムも魔法で若返っているのだと、彼らは誤解した。
「…………今、何か失礼なことを考えなかったか?」
「気のせいじゃないか?」
 誤解させた張本人であるヴィータが、しらばっくれる。
 シグナムは腑に落ちない表情をしたが、気持ちを切り替えて聖闘士たちに向き直る。
「できれば、一度手合わせ願いたいな」
「それはお勧めしないな。こいつら、女相手だと本気出さねぇんだ」
 ヴィータが不満げに言った。
 聖闘士たちは女が相手だと、明かに攻撃が手緩くなる。最初は魔導師相手に手加減しているのかと思ったが、エリオを相手にした時はしっかり戦っていたので、間違いないだろう。真剣勝負を望むシグナムの期待には、応えられない。
 こんな具合でナンバーズと戦えるのかと、ヴィータは一抹の不安を感じていた。
「ほう」
「なんだ。てっきり怒るかと思ったのに」
 意外にも、シグナムは好意的な眼差しを聖闘士たちに向けている。
「もし部下や、力のない者が、そんなことを言おうものなら殴っていたがな」
 シグナムは古風な人間だ。時空管理局に所属してからというもの、実力や正義感はあっても、誇りや信念を持つ魔導師が少ないことに、内心で嘆いていたのだ。
 他人からは無意味なこだわりに思えても、それが力になる時があるのを、シグナムは知っている。
「そして、私がリインフォースUです」
「うおっ!?」
 シグナムの背後から顔を出した手の平サイズの少女に、星矢たちは一様に驚きの声を上げた。
「へぇ〜。こっちは竜だけじゃなく、妖精までいるのか。何でもありだな」
 訓練中に見せられたフリードとヴォルテールの映像を思い出し、星矢が感心する。妖精というのも誤解なのだが、星矢の呟きが聞こえた者はおらず、訂正されることはなかった。
「シャーリーは、もう怪我はいいの?」
 フェイトが額に包帯を巻いたままのシャーリーを気遣う。
「皆さんのことを考えらたら、寝てなんていられません。少しでもお役に立てればと、こんな物を用意しました」
 シャーリーは持っていたトランクの中身を開けて見せる。中には人数分の腕時計が入っていた。
「これって、ストラーダですよね?」
 腕時計を手に取ったエリオが首を傾げた。エリオのデバイス、ストラーダの待機フォルムと同じ形をしている。

13 :
「はい。簡易量産型ストラーダです。形態変化機能と、人格をオミット。単一魔法の使用のみに特化した形態になっています」
「ソニックムーブや。ただし、安全装置のついとらん旧式やけどな」
 はやてが人差指を立てて説明を引き継ぐ。
「安全装置? 旧式?」
「これは一応秘密なんやけど、ほとんどの魔法には、安全装置がついとる」
 ソニックムーブは瞬間的に高速移動を可能にする魔法だが、安全装置を解除することで、使用時間と速度が大幅に向上させることができる。
「簡単に言えば、誰でも使えるリミットブレイクみたいなもんや」
「光速には遠く及びませんが、ないよりはましだと思います。ただし、なのはさんのリミットブレイク同様、負荷は比較にならないほど強烈です」
 シャーリーは深刻な様子で言った。
 おそらく使用は、合計で一時間が限度。それでも負荷が完全に癒えるには、一切の魔法を使用禁止にして数カ月は療養しないとならないだろう。
 魔法文明黎明期、魔導師たちは魔法の性能向上に邁進していた。肉体や魔力の源リンカーコアにどれだけの負担がかかるかも知らずに。
 己の限界も顧みず、無思慮に強力な魔法を使い続けた結果、重篤な後遺症を残す者、再起不能になる者が続出した。当時の時空管理局が規制をかけ、肉体に負担がかからないよう安全装置が設けられてからは、自然と消えて行った原始の魔法だ。
「技術者として、本当はこんな危険な物を使わせたくないんですが……」
 肉体にかかる負担が大きすぎて、試運転もできず、各人用の調整も行えない。ぶっつけ本番で行くしかないのだ。
「私たちも、できれば使って欲しくないかな」
 なのはとフェイトも表情が暗い。しかし、使わねばただでさえ低い勝率が、引いては生存確率が低くなる。
「聖闘士の皆さんは、こちらをどうぞ。余剰部品で作った、ただの通信機兼腕時計ですけど」
 星矢たちは、興味深そうにストラーダと同型の腕時計をはめた。聖衣と干渉するので、戦闘中は外すしかないが。
「な、なんか同じ腕時計してると、チームって感じがするね」
「そ、そうですね。テレビのヒーローみたいです」
 重たい空気を何とかしようと、スバルとエリオが無理やり明るい声を出す。
「あれ、数が足りなくないですか?」
 フェイトとなのはの分がない。
「あ、私たちは自前で加速できるから……」
 元々スピードアップの魔法が使えるフェイトたちは、それぞれのデバイスを改良すればいい。エリオも同様だ。
 フェイトの発言に、エリオは暗いオーラをまとい部屋の隅でうずくまってしまう。
「ち、違うよ、エリオ。別にエリオとお揃いが嫌ってわけじゃなくてね」
 フェイトとなのはが励ますが、エリオはしばらくへこんだままだった。
 地上本部襲撃事件から三日が経過した。
 時刻は夜の十時。なのはとフェイトは部屋で二人して机に突っ伏していた。別の隊員が利用していた二人部屋なのだが、なのはたちの部屋が壊れてしまった為、仮の宿として使わせてもらっている。
 もう一つの椅子の上では、ヴィヴィオがうたた寝をしていた。さっきまで起きていたのだが、限界が来てしまったようだ。
「疲れたね、フェイトちゃん」
「そうだね」
 明日の早朝には、アースラが到着する予定だし、アギトにも協力してもらう方向では話が進んでいる。着替えてとっとと寝た方がいいのだろうが、部屋に戻り、上着を脱いでネクタイを緩めたところで、二人は力尽きていた。
 聖闘士たちとの合同訓練は、成果が上がっているとは言い難い状況だった
 ゾディアック・ナンバーズが集団で襲ってきた場合に備え、チーム戦の練習をしたのだが、基本一対一で戦う聖闘士たちに、チーム戦という概念は存在しなかった。
 聖闘士同士で組めばできないことはないが、各自が勝手に動いているだけで、互いの長所を生かすような動きはできていない。
 聖闘士が前衛で、魔導師が後衛という戦法も試してみたが、聖闘士たちが好き勝手に動くので、誤射が頻発した。
 聖闘士たちの力量が、正確に推し量れないのも問題だった。
 彼らは十二宮の戦いで、コスモの真髄セブンセンシズに目覚め、黄金聖闘士の域までコスモを高めたが、極限状態にならないと使えないらしく、訓練ではマッハ五が限界だった。
 これでは光速で動く相手の練習台にはならない。
「さすがのなのはも、お手上げみたいだね」
「あのタイプの子たちは、相手にしたことないから」

14 :
 なのははやや自信喪失気味で言った。顧みれば、なのはの友人たちは、アリサ、すずかを筆頭に、ことごとく真面目な優等生だった。
 ヴィータとて口は悪いが、言われたことをきちんとやるし、規則の類は決して破らない。ティアナがかつてやった無茶だって、行きすぎたやる気が原因だった。
 ふとティアナとの一件を思い出し、なのはは表情に影が落ちる。あれはなのはにとっても苦い思い出だった。
 時空管理局はしっかりとした組織だ。上に行くのも、優等生タイプが多い。
 優秀な者の中には、天狗になっている者や、教官を馬鹿にしている者も混じっているが、そこは一回叩きのめしてあげると、驚くほど従順になる。教官を見返してやろうと、さらに奮起してくれる場合も多い。
 なまじ優秀なだけに、力の差には敏感なのだ。
 優秀な魔導師は、例えるなら温室栽培だった。別に否定的な意味で使っているのではない。最高の環境で最適な育て方をされて、可能性の種を大きく伸ばしていく。
 対して、聖闘士は野の草花だった。どんな劣悪な環境だろうと、命の輝きでしぶとく生き延びる荒々しい植物。
 正直、なのははどう接すればいいのかわからない。
「エリオも少し影響を受けてるんだよね」
 エリオは仲間に一気に男性が増えたことで、喜んでいるようだった。聖闘士たちも弟ができたかのように可愛がってくれている。
 しかし、聖闘士たちは、男は女を守るものと思っているようだ。この調子で行くと、いつかエリオが「六課のみんなは僕が守る」とか言い出しそうで、ちょっと怖い。
 エリオのはしゃぎようを見るに、フェイトはこれまでの育て方が正しかったかどうか不安になる。
 自分が女系で育ったために疑問を持たなかったが、やはり子供には男親と女親が必要なのではないだろうか。少しでいいから、クロノかユーノに手伝ってもらうべきだったかもしれない。
「やっぱり、星矢君たちには各自で戦ってもらうしかないね」
 なのははそう結論づけた。せめて半月の猶予があれば、聖闘士たちにチーム戦を教えられたと思うが、そんな時間はない。
 残る課題は、いかに一対一の状況に持ち込むかだが、そこはどうにかなるだろう。
 聖闘士たちから、黄金聖闘士に関する情報ももらった。これまでのナンバーズのデータと照らし合わせれば、おおよその戦闘力は概算できる。ただ一人、乙女座の詳しいデータだけはない。バルゴのシャカと戦ったのは、瞬の兄だった。
 なのはとフェイトが気力を振り絞り、のろのろと立ち上る。ヴィヴィオを抱きかかえてベッドに向かうフェイトに対して、なのははネクタイを締め直し外の扉へと歩いていく。
「なのは?」
「最後の仕事をしてくるね」
 なのはは小さくため息をつくと、部屋の外へと出ていった。
 世界は夜の闇に包まれていた。月と星の光では、闇をかすかに和らげるのみで、街灯の光が照らす場所だけが、まるで切り取られたように明るい。
 そんな闇の中を、物音を立てないよう注意しつつ、移動する影があった。人影は二つ。どちらも巨大な箱を背負っている。
「ねえ、星矢。本当にいいの?」
「仕方ないだろう。沙織さんたちが待っているんだ。これ以上、時間をかけられるか」
 植え込みに隠れながら、聖衣ボックスを背負った星矢と瞬は、紫龍たちの部屋を目指していた。紫龍と氷河を誘って、スカリエッティのアジトを探すつもりだった。
 星矢が次の植え込みに移動しようとすると、足に何かがひっかかった。
「おい、引っ張るなよ」
「え? 僕は何もしてないけど」
「じゃあ、いったい何が……」
 振り返ると、星矢の足首を光の輪が拘束していた。星矢の顔から血の気が引いていく。光の輪はよく知る桜色をしていた。
「……私もいつかやるだろうと思ってたけどさ。よく今日だってわかったな?」
「う〜ん。顔を見たら、なんとなくピンと来たんだ」
「なるほど。無茶な奴は無茶する奴を知ると」
「私、ここまで無茶かな?」
 街灯の光の中に、デバイスを持ったなのはとヴィータが進み出てくる。星矢の行動をあらかじめ予測して待機していたらしい。
「な、なのはさん」
「ねえ、星矢君」
 なのはは星矢の瞳をまっすぐ正面から見つめる。
「こんなに時間がかかってしまって悪いと思ってる。でも、もう少しだけ私たちを信じてくれないかな?」
 スカリエッティがこれだけ沈黙を保っているのは完全に想定外だった。捜査員の安全を重視している為、アジトの捜査もあまり進展はない。

15 :
「星矢君たちはあくまでも協力者。どうしても行くっていうなら、止める権利はない。だから、私はお願いすることしかできないんだけど」
 なのはは怒るでもなく、むしろ真摯に語りかける。
 なのはと星矢の視線が正面からぶつかり合う。緊迫した空気が辺りに張りつめた。
「……わかったよ、なのはさん」
 ややあって、先に視線をそらせたのは星矢の方だった。
「大人しく部屋に戻る。それであんたらがアジトを見つけるまで待つ」
「ありがとう。星矢君」
 なのはににっこり笑いかけられ、星矢は照れたようにそっぽを向いた。
「なんか、なのはさんって、姉さんみたいだな」
 星矢の姉、星華は気が強くて、星矢が悪戯をするたびに叩かれたり耳を引っ張られたりした。けれど、本当に星矢が悪いことをした時は、悲しそうな顔をされた。それが百万の怒声やげんこつよりも、星矢には堪えた。
「お姉さんがいるんだ」 
「ああ。もう何年も会ってないけどな」
「どうして?」
「行方がわからないんだ」
 孤児だった星矢にとって、姉は唯一の肉親だった。
 星矢はアテナの養父、城戸光政によって姉と引き離され、聖闘士になるべく修行の地ギリシャへと送り込まれた。
 星矢が聖闘士になったのは、姉にもう一度会いたいと言う強い願いがあったからだ。しかし、いざ聖闘士になって日本に帰ってみれば、姉は行方不明になっていた。
 グラード財団が総力を上げて捜してくれているが、姉の消息は一向につかめない。
「そっか。いつかお姉さんに会えるといいね」
「ありがとうよ。俺たちの世界がもっと平和だったら、とっとと捜しに行くんだけどなぁ」
 星矢は寂しげに笑い、瞬と連れ立って部屋へと戻っていった。
「それで、お前たちはどうする?」
 ヴィータが背後に向かって声をかけた。
「お見通しでしたか」
「よく言うぜ。本気で隠れる気なんかなかったくせに」
 建物の影から、聖衣ボックスを背負った紫龍と氷河が現れる。どうやら星矢たちと同じことを考えていたらしい。
「星矢たちが信じたならば、我々もあなた方を信じます」
「そうだな」
 一悶着あるかと思いきや、紫龍と氷河も大人しく部屋へと戻っていく。聖闘士たちの信頼は、ヴィータの想像以上に厚いようだった。
 調整を終えたチンクは、アジトの中を歩いていた。
 通路の壁には、大量のガジェットが待機している、ただし、この機械たちが再び日の光を浴びることがあるかどうかは、はなはだ疑問だ。
 通路の途中で、黄金の箱に寄りかかるようにしてセインが座っていた。普段は明るい彼女が、浮かない顔をしている。
「どうした?」
 声をかけると、セインがチンクを振りかえる。そして、チンクが右腕に抱えている兜を見て、苦笑する。
「また、かぶってないんだ」
「ああ、これか。どうにも違和感があってな」
 チンクは兜を顔の前に持ってきて、微妙な表情を浮かべる。
 ピスケスの聖衣は、体の一部のようにフィットしているのだが、兜だけは少し違和感があり、外れやすいのだ。髪の毛一筋ほどの差なのだが、他がフィットしている分、どうしても気になる。
「そっちはまだましみたいだよ。オットーとディエチ、セッテなんか、任務以外ではまずかぶらないしね」
 件の三名が、無言で兜とにらめっこしていたのを思い出す。
「そういうセインこそ、また胸元を緩めているのか?」
「どうも窮屈でね」
 聖衣の隙間から覗くセインの胸を、チンクが妬ましげに見ていたが、セインは気がつかない振りをした。チンクの幼児体型では、窮屈になりようがない。
「セインは、ここで何をしていたのだ?」
「ちょっとこの子たちが可哀想だなって」
 セインは通路の壁で待機しているガジェットT型を撫でた。うっすらと積もった埃が、セインの手を汚す。

16 :
 スカリエッティの興味は、もはやゾディアック・ナンバーズにしかない。ガジェットの性能では、足手まといにしかならないからだ。
「ところでさ、最近のドクター、ちょっと変じゃない?」
「ドクターはいつも変だろう」
 あっけらかんと返されて、セインは呆気に取られた。優等生然としているチンクが、まさか同じ印象を抱いているとは夢にも思わなかった。
「いや、それはそうなんだけど、なんか無理やりいつも通りに振舞ってる気がしない?」
「考えすぎではないか? おかしいとしても、ドクターは黄金聖衣の制御の為に、徹夜続きだからな。そのせいだろう」
 チンクはドクターの態度に不信は抱いていないようだった。
「他にもさ、なんかみんなの様子が変なんだよね」
 トーレは地上本部襲撃の日以来、訓練室にこもりきりになっている。必殺のタイミングで、フェイトが倒せなかったのが悔しいのだろうが、あまりトーレらしくない。彼女はもっと堂々として、姉妹たちの模範となるような存在だったはずだ。
「それ、わかるよ」
「ディエチ」
 通路の影から。ジェミニの兜を抱えたディエチがやってくる。
「最近、クアットロが少し変なんだ。ちょっと怖いっていうか」
 ディエチの言葉に、セインとチンクも押し黙る。元々ふざけた喋り方をする奴だったし、時には任務で破壊工作を行うのを楽しんでいるような素振りもあった。しかし、一部の姉妹たちを、まるでゴミのように見ることはなかったはずだ。
 最近では、ほとんどの時間を、ドゥーエと共に過ごしている。
 セインは、水がめの文様が描かれた黄金の箱を指差す。
「これの名前、二人は知ってる?」
「聖衣ボックスだろう?」
「うん。でも、もう一つ別の名前があるんだ。パンドラボックスって」
 ギリシャ神話で、開けてはならないとされている禁断の箱。そこにはあらゆる災厄が封じ込まれている。
 聖衣も、アテナの許可か、自衛の為以外では装着してはならないと掟で定められている。あまりにも強い聖闘士の力を私利私欲に使わせないためだ。その戒めを込めて、パンドラボックスと呼ばれる。
「私たちは、本当にパンドラの箱を開けたのかもしれない」
 黄金聖衣を入手してから、少しずつ運命の歯車が歯車が狂いだしている気がする。
 感傷的なセインの物言いに、チンクは少し呆れたようだった。
「考え過ぎだ。お前だって、アクエリアスの聖衣をもらった時は喜んでいたじゃないか。私たちはこの力で、ドクターの夢を叶えるんだ」
「……そうだね」
 迷いのないチンクに、セインは心が少し軽くなるのを感じた。
 最終調整はもうじき終わる。
 スカリエッティの夢を叶える為の、最後の舞台の幕が、今上がろうとしていた。

17 :
以上で投下終了です。
次の投下は一カ月もかからないと思いますので。
それでは、また。

18 :
投下乙〜

19 :
お久しぶりです。本日23時半より『リリカル星矢StrikerS』第六話投下します。

20 :
それでは時間になりましたので、投下開始します。
 第六話 羽ばたけ、ペガサス! 貫け、雷光
 新たに機動六課本部となったアースラが、大空を飛行していた。
 雲間を漂う優雅なその姿とは裏腹に、中では乗組員一同が慌ただしく動いていた。聖闘士たちがミッドチルダに来てから、四日目の正午、ついに敵が動き出したのだ。
 アースラブリッジに一同集結する。
「待ちくたびれたぜ」
 聖衣を身につけた星矢が、両の拳を打ち鳴らす。さっきまでアースラで空の旅を満喫していたが、今は真剣そのものだ。
 ついでに、昨日の内に六課を出ていかなくてよかったと胸を撫で下ろしていた。
「まったくタイミングがいいような、悪いような」
 はやては、シグナムの隣に浮遊しているアギトを見た。こちらの命令を遵守することを条件に、アギトは一時的に釈放された。
 これまでの捜査情報とアギトから得られた情報を総合し、ようやくスカリエッティのアジトの場所が判明した。午前中は、どのようにしてアジトに攻め込むかの計画立案に費やされていたが、無駄になってしまったようだ。
 ブリッジ中央の大画面に投影された地図に、アジトの場所と敵の位置情報が光点で示される。
 ゾディアック・ナンバーズ十名が、それぞれ時空管理局の施設へと襲撃をかけていた。ウーノとドゥーエの姿は確認されていない。どうやらスカリエッティは時空管理局の地上の戦力を削ぎ落としてから、ヴィヴィオを奪いに来るつもりらしい。
 襲撃された施設の局員たちは徹底的に抗戦を避け、市民の避難誘導に尽力していた。
「やっぱり、ばらけて来たな」
 はやてが言った。被害を抑えるには、こちらも分散して対処するしかない。
 魔法と機械とコスモの力を兼ね備えたゾディアック・ナンバーズは、総合性能ではこちらを上回る。堅実な戦力の集中ではなく、効率的な同時攻撃で来たのは、スカリエッティの絶対的な自信の表れだろう。
「八神部隊長。襲撃されている施設から、通信が入りました。おそらく敵からです」
 はやてが頷くと、シャーリーが通信をつなぐ。
『やっほー、聞こえてる?』
 大画面が切り替わり、セインの顔が映し出される。
『そこに氷河って聖闘士がいるよね?』
 氷河が一歩前に出て、セインを画面越しに睨みつける。
『ねえ、アクエリアスの聖衣って、あんたの師匠の物なんでしょ? あれ? 師匠の師匠だっけ? ……まあ、どっちでもいいや。私と勝負しようよ。この聖衣を賭けてさ』
「望むところだ」
「じゃあ、待ってるよ」
 セインからの通信が切れる。
 名指しで挑戦してくるあたり、確実に罠だろう。だが、どんな罠が待ち受けていようと関係ない。氷河は自らの手でアクエリアスの黄金聖衣を取り戻すと決めていた。
 氷河の心情は皆理解しているので、誰も止めようとはしない。
 はやては一同を前に、声を張り上げた。
「作戦目標は、スカリエッティとゾディアック・ナンバーズの捕縛。それぞれの敵を倒した者からアジトへと向かって欲しい。最優先目標はジェイル・スカリエッティ」
 六課フォワード陣が、一斉にバリアジャケットを装着する。魔導師たちには、一時間の戦闘時間制限がある。おそらく魔導師たちの生涯でも、もっとも長く過酷な一時間になるだろう。
 これまで、できるだけの準備をし、対策を立ててきた。それは敵も同じだろう。どちらの力と知恵と覚悟が勝るか、試される時が来たのだ。
 はやては傍らにいるロッサと副官のグリフィスを振り返る。
「それじゃあ、後のことはよろしくな」
「ああ、後のことは任せてくれ」
 ロッサが“後のこと”の部分をことさら強調する。ロッサはもしもの場合には、ヴィヴィオを連れて逃げる役割を担っていた。
 はやては六課隊長陣と共に、ハッチへと向かう。
「シャマルさん、お願いします」
 氷河に頼まれ、シャマルがアースラの転送ポートを起動させる。ヘリでは敵に撃墜される恐れがある為、聖闘士とスバルたち四名は転送ポートで送り込む手はずになっていた。
「それじゃあ、作戦開始と行こうか」 
 はやての合図で、聖闘士たちが転送ポートの中へ、アースラのハッチから六課隊長たちが空へと出撃していく。それぞれの戦場へと向かって。
 オットーは、放棄された基地を上空から無感動に眺めていた。
 敵はほとんど戦わず、あっさり撤退した。無駄な戦闘を避けられるに越したことはないが、やや拍子抜けだ。

21 :
 基地の周囲には草原が広がっており、遮られることのない風が、アリエスの聖衣をまとったオットーに吹きつけている。
「見つけたぜ、オットーとやら」
 投げかけられた声に振り向くと、ペガサス星矢が転送用の魔法陣の中から現れる。
「まずはアリエスの黄金聖衣を返してもらうぜ!」
 オットーは問答無用で左腕をかざした。
「スターダストレボリューション」
 星屑の光が幾百、幾千もの弾丸となって、星矢に降り注ぐ。
「これがムウの技か!」
「そう言えば、この技を見せるのは初めてだったね」
 驚く星矢に、オットーが淡々と告げる。
「だが、この程度なら。ペガサス流星拳!」
 スターダストレボリューションを、流星拳が打ち落としていく。星屑の光は数こそ多いが、狙いは甘い。一度見た後なら、余裕で防げる……はずだった。
「がっ!」
 星矢が草の上にうつ伏せに倒れる。スターダストレボリューションとは別に、背後から光線が襲いかかったのだ。
「今のは?」
「僕のISレイストームだ」
 オットーの右手から、無数の誘導光線が撃たれたのだ。前回の六課襲撃時には、これが猛威を振るった。
「聖闘士に同じ技は通じないらしいね。でも、二つ同時に撃たれた技は避けられない」
 オットーは左手にコスモを、右手にISの光を宿した。使用するエネルギーが違うから、こういう芸当ができる。
「この技からは誰も逃れられない。スターダスト・レイストーム」
 星屑と光線が嵐となって、星矢に襲いかかった。
 タウラスの聖衣をまとったトーレは、高層ビル群の間に無言で浮いていた。
 オットーが戦闘開始したとの連絡を受けた。そろそろここにも敵が現れるだろう。
 突如、雲を切り裂き、黄金の光が降ってくる。
 トーレは頭上から落ちてくる刃を、両腕に持った魔力刃インパルスブレードで受け止める。刃がぶつかり合い激しく火花を散らす。
 真・ソニックフォームのフェイトが二振りの剣、ライオットザンバーを構えていた。
「あなたを待っていました」
 運命の巡り合わせに、トーレは感謝した。
「ここであなたを倒すことで、前回の雪辱を果たさせてもらいます!」
「それはこっちの台詞だ!」
 安全装置を外すことで、フェイトは体の軋むような負荷と引き換えに、トーレに匹敵する速度を得ていた。ビル群を光速で抜けながら、フェイトとトーレが互いに斬撃を繰り出しあう。
 フェイトはトーレから決して離れず、踊るように両手の剣を振るう。得物の長さはこちらが上だ。剣技だけならばフェイトに分がある。
 奇襲から一気に斬り合いに持ち込み、両腕を組む暇を与えない。グレートホーンを使わせない作戦だった。
 星矢が草原に倒れる。これでもう十回目だ。
 星矢は、星屑と光線の嵐をどうにかしようとあがき続けているが、ただいたずらに傷を増やしているだけだった。防御も回避も迎撃も意味はなく、この開けた草原では遮蔽物に身を隠すこともできない。
 オットーのいる高さまで数十メートル。たったそれだけの距離が、星矢とオットーを絶望的に隔てていた。
 オットーはいつでも技を撃てるよう、両腕を掲げている。黄金の闘士が操る星屑の海と、そこを流れる光線の川。幻想的で美しい光景だった。
 武骨な星矢も、もしかしたら見とれていたかもしれない。物理的な破壊力を伴って襲い掛かってこなければ。
「……わからないな」
 オットーがぽつりと言った。
「何がだ?」
「どうして君が、僕を相手に選んだかだ」
 ウーノから、他のナンバーズも交戦を開始したと連絡があった。しかし、星矢はオットーに対して「見つけた」と言った。彼は最初からオットーを相手に見定めていたのだ。

22 :
 オットーが空戦可能で射撃主体なのは、六課襲撃時に判明していたことだ。聖闘士をぶつけるにしても、ネビュラチェーンで遠距離攻撃可能なアンドロメダならともかく、完全近接型の星矢では、勝負にならないことはわかりきっていたはずだ。
「どうしてお前を相手に選んだかは、この勝負が終わったら教えてやるぜ」
 星矢は立ち上って、口元の血を拭う。その目はまだ勝利を諦めてはいなかった。
「無駄だよ。奇跡でも起こらない限り、君に勝ち目はない」
 数多の星屑によって相手の動きを制限し、複数の誘導光線で狙い撃つ。この合わせ技を回避するのは不可能だ。
「奇跡か……それなら、何度も起こしてきたさ」
 でなければ、最下級の青銅聖闘士が、十二宮を突破などできるはずがない。
「そして、これからも何度だって起こしてみせる、アテナの為に! 俺のコスモよ、究極まで高まれ!」
 星矢が跳躍した。
「スターダスト・レイストーム」
 星屑の光の中を、星矢は両腕で頭部を守りながら一直線に突っ込んでくる。ただの無謀な特攻のようだが、案外理に適っていると、オットーは分析した。
 広範囲に誘導弾をばらまくスターダスト・レイストームの被弾を最小限に抑えるには、その軌道が最善だ。星矢は多少のダメージを覚悟でオットーの懐に飛び込み、渾身の一撃を放つつもりなのだ。
 発想は悪くないし、そんな作戦を躊躇いなく実行する度胸も評価できる。しかし、星矢の速度も作戦も、奇跡には程遠く迎撃は容易だ。
「さよなら、ペガサス」
 空中では星矢は軌道変更できない。オットーに操られた全ての星屑と光線が星矢に殺到する。
 これだけの攻撃が命中しては、さすがのペガサスも無事ではすまない。オットーは勝利の高揚もなく、淡々と光が収まるのを待った。
 その時、羽ばたきの音が、オットーの耳を打った。
「なっ!」
 これまで泰然としていたオットーが、初めて驚愕の表情を浮かべる。
 星屑の光を越えて、星矢が飛翔していた。その背には、白く輝く翼。
「ペガサスの翼!?」
 星矢のコスモに、聖衣が応えたのだ。翼が羽ばたき、オットーへと急降下をかける。
「まだだ、クリスタルウォール!」
 オットーの前に透明な壁が発生する。あらゆる攻撃を反射するアリエスの技だ。
「これで終わりだ、オットー! ペガサス彗星拳!」
 無数の流星拳が一つとなった彗星が、クリスタルウォールと激突する。
 一瞬、クリスタルウォールは耐えたかに見えた。しかし、次の瞬間、澄んだ音を立てて、クリスタルウォールが砕け散る。
 ペガサス彗星拳が、オットーに炸裂した。
 フェイトとトーレは、激しく剣戟の音を響かせながら戦い続けていた。
「なるほど、グレートホーンを使わせない作戦ですか」
 フェイトの意図を呼んだトーレが嘲りの笑みを浮かべる。
「ですが、甘い!」
 トーレの力のこもった斬撃が、フェイトの体をわずかに押し戻す。それだけで充分だった。インパルスブレードを持ったトーレの両腕が組まれる。
「見せてあげましょう。私が新たに編み出した技を」
 フェイトはすぐさまその場から飛び退く。
「グレートホーン・インパルス!」
 武器によって強化された衝撃波が放たれ、フェイトの背後にあった高層ビルを半ばからへし折る。
 フェイトの背筋を戦慄が駆け抜ける。腕を組んだ瞬間に回避機動を取ったからどうにかなったが、グレートホーンより威力が数段上がっている。防御は不可能だ。
「もはや、あなたに勝ち目はない!」

23 :
 トーレは腕組みをしたまま勝ち誇る。光速機動を実現できる魔導師など、六課ではせいぜいフェイトくらいだろう。ここでフェイトを倒し制空権を支配すれば、ナンバーズの勝利はより確実なものとなる。
 フェイトは距離を取りながら、思案を巡らせる。
 トーレの腕組みを解く術は、フェイトにはない。一応、射撃、砲撃系の魔法も速度向上の改造を施してあるが、黄金聖衣の防御力を抜ける威力の魔法となると、チャージ中に距離を詰められて終わりだろう。
 ならば、残された手段はたった一つ。グレートホーンよりも速く敵を貫くだけ。
 フェイトは二つの剣を一つに合わせたライオットザンバー・カラミティを水平に持つ。それはエリオの突撃時の構えと瓜二つだった。
 刹那、フェイトは感慨深い思いに浸る。教えているつもりが、いつの間にかこちらも教えられている。人と人との関係は決して一方通行ではないのだ。
 フェイトは静かに息を吐き、緊張に強張っていた筋肉をほぐす。次の攻撃に一切の遅滞は許されない。精神を研ぎ澄まし、己を一振りの剣と化す。
 フェイトの魔力が黄金の光を放つ。リミットブレイク、真・ソニックフォーム。限界を超えた、さらにその先に行く。
「はああああああああああああっ!」
 光の尾を引きながら、フェイトが突き進む。
「グレートホーン・インパルス!」
 インパルスブレードが、フェイトの両の脇腹を切り裂き、ライオットザンバー・カラミティがトーレの腹部に突き刺さる。
 トーレの刃は、フェイトの脇腹の皮を一枚切り裂いただけだった。フェイトは痛みに構わず、カラミティを握る手にさらなる力を込める。
「馬鹿な! グレートホーンの発生速度を超えた!?」
「やっぱり気づいてなかったんだね」
 フェイトが鋭い眼差しが、トーレを射抜く。
 グレートホーンは居合いと同じ。しっかりと両腕を組むことで、黄金聖闘士でも一、二を争う技の発生速度を誇る。
 しかし、インパルスブレードを握ることで腕組みが浅くなり、トーレ自身も気がつかない程の、わずかな遅延を発生させていたのだ。
 もしトーレが普通にグレートホーンを使っていたならば、よくて相打ちだっただろう。いや、防御力の差から、フェイトは一太刀浴びせただけで、無様に地に伏していた。
 グレートホーンは完成された技。アレンジなど必要なかったのだ。
 黄金の光がもつれ合うようにして、大地に激突する。その様はまさに雷光だった。
 オットーから分離した黄金聖衣が、牡羊のオブジェとなって鎮座している。
 オットーは草原に寝そべりながら、ぼんやりとそれを眺めていた。聖衣に取りつけられた機械は彗星拳の衝撃で粉々に粉砕された。もうオットーがあの聖衣を着ることはできない。
 常人ならば死んでいてもおかしくない一撃だった。しかし、そこは戦闘機人。動けはしないが、どうにか一命を取り留めていた。
「……なるほど。ペガサスの翼に、クリスタルウォールの弱点。これが君が僕を相手に選んだ理由か」
 彗星拳はクリスタルウォールの一点を狙っていた。そこは六課襲撃時、ヴォルテールの業火によってあぶり出された、もっとも脆い場所だった。聖闘士に同じ技は通用しないのだ。
「クリスタルウォールの弱点はあってるんだが……」
 ペガサス聖衣の翼が展開したことに、一番驚いていたのは星矢だった。元々ペガサスの聖衣に翼があるのは知っていたが、まさか展開できるとは思わなかった。役目を終えた翼は収納され、もう展開することはできない。
「? じゃあ、君が僕を選んだ理由は……」
「女相手じゃ戦いにくいからな。ナンバーズに男がいてくれて助かったぜ」
 オットーの性別は不明であり、男というのは星矢の思い込みだ。
 星矢はストラーダ型通信機を取り出し、オットーの捕縛とアリエス聖衣の回収をアースラに頼むと、そのまま走り去っていく。
「僕は……」
 オットーの最後の呟きは風に紛れて、誰の耳にも届かない。星矢に呆れたのか、あるいは、本当の性別を言ったのかもしれない。
 もうもうと土煙と上げながら、トーレは陥没した路面にめり込むように倒れていた。
「……まさか、そんな」

24 :
 トーレが呻き声を上げる。技をアレンジし新たに弱点を発生させるなど、本末転倒もいいところだ。どうしてそんな初歩的なミスを犯したのか。
「あなたは何を焦っていたの?」
 脇腹の傷を押さえながら、フェイトが静かに問いかける。トーレの斬撃からは、わずかだが焦りが感じられた。
「焦り? ……なるほどな」
 トーレは自分の中でくすぶっていた感情の正体に、ようやく思い至る。
 トーレのISライドインパルスは、高速機動を可能にする。かつては強力な能力だったライドインパルスだが、コスモの台頭によって無用の長物と化した。
 ISでは物理法則の壁を越えられない。コスモとライドインパルスを併用しても、光速を超えることはできなかったのだ。
 他の姉妹たちがISとコスモを高いレベルで併用しているのに対し、トーレだけがタウラスの技に頼るしかなかった。
「私の矜持が邪魔をしたか」
 トーレはナンバーズの実戦リーダーだ。他の姉妹たちの模範となれないことが怖かった。前回、フェイトを仕留めきれなかったことが、その恐怖にさらに拍車をかけた。だから、必要もないアレンジ技など開発し、精神の安息を得ようとした。
「あなたを逮捕します」
 フェイトは慎重な足取りで、トーレに近づく。
「しかし、私にも意地がある!」
 トーレの手からを光弾が発射される。
 光弾はフェイトの足元に着弾し、土砂を巻き上げ視界を塞ぐ。
 その隙に、トーレは空へと逃げのびる。失神寸前のダメージを負いながら、意地だけで飛んでいた。
「待て!」
 フェイトは追いかけようとしたが、膝から突然力が抜ける。バルディッシュを杖代わりにして、どうにか転倒を免れた。
 フェイトは手で口元を押さえる。口から溢れた鮮血がフェイトの手を赤く染める。
 フェイトの脇腹の皮を一枚切り裂いただけの腕の振り。不発だったはずのグレートホーンから発生した衝撃波が、フェイトの内臓を傷つけていた。
「これが……グレートホーン!」
 いかに真・ソニックフォームの防御力が薄くても、たったあれだけの腕の振りで、威力を発揮するタウラスの技に、フェイトは戦慄する。
 かつて星矢たちと戦った時、タウラスの黄金聖闘士アルデバランは本気ではなかったという。本気のタウラスに正面から挑んで勝てる者など存在するのかと、フェイトは思った。
 激痛とめまいにフェイトがよろめく。今すぐ倒れて気を失ってしまいたいが、戦いはまだ終わっていない。フェイトは痛む体を引きずって、トーレを追いかけた。

25 :
以上で投下終了です。
ペガサスの翼が展開するのは、聖衣がアテナの血を浴びた原作でも終盤の方なのですが、
ペガサスの聖闘士は過去にハーデスの肉体に傷をつけたと言っているので、おそらくもっと前に浴びていただろうという解釈です。
それでは、また。

26 :
0時半より、『リリカル星矢StrikerS』第七話投下します

27 :
それでは、時間になりましたので投下開始します。
 第七話 燃え上がれ命! まやかしの黄金を討て
 時空管理局の施設が爆炎に包まれる。木々がまばらに生えた山の中腹から、ディエチはその様を観察していた。
 たったの一撃で施設を完全に破壊すると、ディエチはイノーメスカノンの調子を確かめる。不具合はない。改良は成功したようだ。
 最初の任務を終えたディエチがジェミニの兜を脱ごうとすると、望遠機能が搭載された目が、遠くに敵影を捉える。
 エリオとキャロが、木々の隙間を縫うようにして山を登ってくる。いつもと違う点はただ一つ、エリオが白いコートの前をしっかりと合わせていることだけだった。少しでも防御力を上げようという涙ぐましい努力だろう。
 六課と聖闘士が迎撃に来るのはわかっていたが、よりによってあの二人かと、ディエチは思った。
 竜のいない召喚士に、スピード重視の少年。はっきり言って、ゾディアック・ナンバーズの脅威足りえない。勝ち目のない戦いに子どもを送り込むなんてと、ディエチは柄にもなく六課の隊長たちに憤る。
「弱い者いじめは好きじゃないんだけどな」
 まして相手は最年少の二人だ。ディエチはますます気が重くなる。
 彼我の距離は、約三百メートル。とっと無力化して先に進もうと、ディエチはISでイノーメスカノンに麻痺性のガス弾を装填する。
 ディエチは照準をエリオたちに合わせる。次の瞬間、ディエチの両目に、エリオの顔がアップで映っていた。
「なっ!?」
 一瞬にして、距離を詰めたエリオのストラーダの斬撃が、イノーメスカノンを真っ二つに切り裂く。
 ディエチは混乱したまま後ろに跳躍するが、エリオはぴったりとついてくる。多少のスピードアップは計算に入れていたが、いくらなんでも速過ぎる。
 エリオの斬撃が、ディエチの脇腹に命中する。その速さはまさに光速。
(この短期間でコスモに、しかもセブンセンシズに目覚めた!?)
 ディエチはまさかと思いながらも意識を凝らすが、エリオからコスモは感じられなかった。
 ストラーダが左肩に叩き込まれ、続けて三段突きが繰り出される。攻撃系の魔法は掛かっていないのか、斬撃は速いだけで軽く、刃が黄金聖衣を傷つけることもない。もっとも、光速で叩かれれば、衝撃だけでそこそこ痛いが。
 ストラーダがカートリッジを排出する。ディエチははっとしてエリオのデバイスに注目した。
『Sonic Move』
 ディエチの耳が、ストラーダの発する音声を拾う。
『Sonic Move, Sonic Move, Sonic Move……』
 ストラーダは壊れた録音機のように同じ言葉を繰り返していた。
 カートリッジを使用して、安全装置を解除した加速魔法の重ねがけを行っている。だが、それだけではまだ光速には及ばないはずだった。
 ディエチはエリオの背後に視線を移した。
 エリオよりだいぶ遅れて距離を詰めてきたキャロが、胸の前で両腕を交差させていた。
「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を。我が乞うは……」
 量産型ストラーダによって加速されたキャロの口が、凄まじい速度で機動力強化の詠唱を繰り返していた。
 エリオはソニックムーブだけでなく、キャロのブースト魔法の同時重ねがけを行っていた。乗算で加速したエリオは、ディエチに匹敵する速度を得ていた。
 ストラーダから次のカートリッジが排出される。この勢いで消費していては、エリオのカートリッジはすぐに尽きてしまうはずだった。
 エリオがコートを脱ぎ捨てる。赤いシャツの上にベルトが巻きつけられ、動きを妨げないぎりぎりまで予備のカートリッジが取り付けられている。
「僕たちは魔法の力を信じてる!」
 エリオがまっすぐな瞳で叫ぶ。
「フェイトさんが、なのはさんが教えてくれた魔法の力は、どんな相手にも通用する。僕たちがそれを証明してみせる!」
 エリオは攻撃を継続しながら、流れるような動作で新しいカートリッジを装填する。
 一時間どころか三十分も持たないであろう、限界をはるかに超えた魔法の使用。
 たかだか十歳の少年が、信じられないくらいの負荷にさらされていた。こうしている今も、エリオの骨も筋肉も神経までもが軋みを上げている。体が燃えるように熱い。まるで全身の血液が沸騰してしまったかのようだ。

28 :
「なんて無茶を! 君たちの隊長は、こんなことを命じたのか!」
 劣勢に立たされた自分の立場も忘れ、ディエチは義憤に駆られる。
「違う!」
 強い否定の言葉が返ってくる。
「これは僕たちの意思だ!」
 詠唱を止めることなく、キャロもエリオの言葉に頷く。
 六課のみんなを、大切な人たちをも守る為に、エリオとキャロは二人でこの方法を考えた。
 最初に作戦を相談した時は、フェイトに泣きそうな顔で叱られた。
 どうやら、フェイトは今回の作戦にエリオとキャロを参加させないつもりだったらしい。熱心に除隊を勧められたが、エリオとキャロは頑として譲らなかった。フェイトを悲しませたことにエリオとキャロの心は痛んだが、仲間の役に立ちたいという思いが勝った。
 フェイトは最後まで渋っていたが、最後には出撃を許可してくれた。一人前だと認められたようで、それがどれだけ誇らしかったか。
「僕たちは勝つ。勝って、みんなのところへ帰るんだ!」
 大上段からの一撃がジェミニの兜を叩く。強度で劣るストラーダの刃先がわずかに欠けた。
(ごめん、ストラーダ)
 エリオは胸中で謝る。スピードアップに全魔力を注ぎ込んでいるエリオに、攻撃魔法を展開する余裕はない。
 真・ソニックフォームとバルディッシュの攻撃力を両立させるフェイトは、やはりまだ手の届かない存在だ。
 だが、キャロと二人なら、いつか届くかもしれない。力が足りないなら、知恵を使え。それでも足りないなら、誰かと力を合わせれいい。それがなのはから教えられたことだった。
 なのはとフェイトが予測した通り、ディエチの専門は狙撃、砲撃であり、クロスレンジの技術はたいしたことない。エリオは果敢に攻めていく。
 しかし、追い詰められているのはエリオたちの方だ。
 黄金聖衣に斬りつけるたびに、反動でエリオの両腕に痛みが走る。このままではいつか腕が壊れるだろう。ブースト魔法の重ねがけをしているキャロの顔色も、蒼白となっている。
 エリオの肉体に、キャロの体力に、ストラーダ。どれか一つでもなくなれば、この均衡は瓦解する。それまでにディエチの隙を作りだし、決定打を与えなければならない。
 広いドーム状の施設で、キャンサーの聖衣をまとったクアットロが、退屈そうにコンソールをいじっていた。聖衣に取りつけた白いマントが空中ではためく。
 敵はろくに戦う素振りも見せず撤退してしまった。施設のコンピュータ制圧も、じきに終わる。
「せっかく思う存分楽しめると思ったのに、残念ですわ」
 甘ったるい口調で呟く。しかし、それは猛毒の甘さだ。
 クアットロはずっと不満に思っていた。もし自分に戦闘能力があれば、もっと完璧に作戦を遂行してみせるのにと。
 その願いは、キャンサーの黄金聖衣が叶えてくれた。もう馬鹿な姉妹たちのご機嫌伺いする必要ない。望むとおりに行動し、ドクターの夢を実現させることができる。
 クアットロは人差し指の先を眺める。人の魂を冥界に送る技というが、クアットロはただの比喩表現だろうと思っていた。守護騎士の一人シャマルが、相手のリンカーコアを直接抜き出すことができる技を持つが、おそらく同じような原理で敵をRのだろう。
 実際は、本当に魂を冥界へと送り込んでいるのだが、所詮機械の力を借りて技を再現しているクアットロにそこまでの理解はできなかった。
 転送用の魔法陣がドームの中央に出現し、濃緑の聖衣をまとった少年が現れる。
「あら。私の相手はあなたですの? ドラゴン紫龍」
「俺のことを知っているのか?」
「ええ、ほんの一部だけですけど、あの十二宮の戦いは見せてもらいましたから。では、こちらも名乗らせていただきます。私はクアットロ。あなたを冥府にお連れする者です」
 クアットロはマントを翻し、いきなり人差し指を突きつける。
「積尸気冥界波!」
 紫龍がその場から飛び退く。
 クアットロは勝利を確信した。積尸気冥界波の効果範囲の広い技だ。その程度移動したところで、意味はない。

29 :
「やはり劣化コピーだな」
 しかし、紫龍は積尸気冥界波を回避していた。
「そんな、どうしてですの!?」
「どうやら巨蟹宮の戦いは見ていなかったようだな。知らないなら、教えてやる。デスマスクを倒したのは、この俺だ」
 キャンサーの黄金聖闘士デスマスクは、力こそ正義という信念を持ち、己の正義の為なら無関係な人々の命を平然と犠牲にする外道だった。デスマスクの非道な行いは紫龍の逆鱗に触れ、冥府の底へと叩き落された。積尸気冥界波はとうの昔に見切っている。
「そう……では、これならどうかしら」
 クアットロの姿が幾重にも分身する。クアットロのISシルバーカーテンだ
「幻影か」
 紫龍は目を閉じ、コスモを探った。だが、全てのクアットロからコスモが感じられた。
「まさか!」
「この度、私の銀幕芝居に、コスモという新たな演者が加わりました。では、お客様、私の舞台で存分に踊って下さいまし!」
 数十体にも分身したクアットロたちが、芝居がかったしぐさで一礼する。
 紫龍は集中して本体を見極めようとするが、音も気配も、完全に再現している。
 シルバーカーテンの情報は事前に知らされていたが、まさかこの短期間でコスモすら惑わすとは、恐ろしい技術力だった。
 クアットロたちが一斉に技を放つ。
 紫龍は勘だけを頼りに走る。
「ぐっ!」
 引き裂かれるような痛みに、紫龍は聖衣の上から胸を押さえる。
「また外してしまいました。でも、まったくの無駄というわけでもなさそうですわね」
 積尸気冥界波は魂を直接攻撃する技。冥府に送ることができなくとも、魂を傷つける効果はあるようだ。
「では、徹底的に痛めつけてあげましょう、積尸気冥界波!」
 追い立てられるように、紫龍は走る。走りながら、クアットロたちに攻撃を仕掛けるが、拳はむなしく空を切るばかりだった。
「ああ、もう、あんまり動かないでくださる?」
 焦れたように言うと、クアットロたちが一斉に動き出し、あらゆる角度から拳を繰り出す。三人目までを回避し、四人目の攻撃が盾をすり抜ける。
「外れですわよ」
 クアットロのハイキックが紫龍のこめかみに当たる。
 すぐさま反撃するが、その時には本体は幻影に紛れていた。
「いつもなら幻影とだけ踊っていただくのですけど、今日は出血大サービス。本物の私も一緒に踊って差し上げますわ!」
 紫龍のこめかみから一筋の血が流れるのを見て、クアットロは艶然と微笑む。
「あら、ごめんなさい。出血するのはあなたの方でしたわね」
 紫龍の周囲ではクアットロたちが踊るように跳ねまわり、実体の位置を悟らせないようにしている。
「フフフフ、まるで殿方の夢、ハーレムのよう。素敵!」
 最後だけ、やけにハイテンションでクアットロたちが叫ぶ。
 クアットロたちの高笑いがドーム内に反響している。夢は夢でも、まさに悪夢のような光景だった。
 紫龍は滝のような汗を流しながら、クアットロの集団に包囲されていた。
 本体と幻影の見極めがつかないのでは、実際に何人ものクアットロと相手にしているのと変わらない。紫龍の疲労は深刻だった。
「まったく聖闘士というのも愚かなものですわね」
 クアットロが嘲るように言った。
「なんだと?」
「基本一対一? アテナが武器を嫌うので、己の肉体のみを武器として戦う? くだらない。武器なんて使えるだけ使えばいい。敵は多人数でなぶればいい。これが最も効率の良い戦法ですわ」
 ライブラの武器の威力は、セッテが証明してくれた。例外的に武器の使用が認められている聖闘士もいるが、聖闘士全員が武器を持てば大幅に戦闘力を向上させられる。地上の平和ももっと守りやすくなるはずだ。
「あなただってそうですわ。コスモの真髄、セブンセンシズに一度ならず目覚めながら、まだ満足に使いこなすことができない」

30 :
「…………」
「もしドクターに忠誠を誓うのなら、この機械を分けてあげてもいいわよ」
 クアットロは胸部装甲の裏側の結晶型の機械を指差す。聖闘士のサンプルも一人くらいいた方が、ドクターの研究がはかどるだろうと考えてのことだった。
「あなたは最下級の青銅聖闘士から、一気に黄金聖闘士にだって昇格できる。このチャンスを逃す手はなくてよ?」
「哀れだな」
 紫龍が目を細めた。
「哀れ? この私が? 今最高に幸せですのに?」
「貴様ではない。キャンサーの黄金聖衣だが」
 クアットロは人をなぶることに、明かに愉悦を感じている。正義を守る為の聖衣でありながら、何故キャンサーはかくも外道と縁ができてしまうのか。
 これまで積尸気冥界波によって葬られた人々の怨念か。あるいは、指先一つで魂を弄ぶ超常の技が、人を外道に堕としてしまうのか。
「効率が良いか。確かに貴様の言うことにも一理ある。だがしかし!」
 ドラゴンの聖衣が離れ、紫龍の鋼のように鍛え上げられた上半身が露わになる。
「ちょっと! レディの前でいきなり脱がないでくださる!?」
「す、すまない」
 思いがけないクアットロの初心な反応に、紫龍は思わず謝ってしまう。
 クアットロは深呼吸し紅潮した頬を静める。
「で、聖衣を脱いだってことは、降伏の証と思ってよろしいのかしら?」
「貴様に教えてやろう。道具に頼り、努力を怠った力に何の価値もないのだと!」
 紫龍の黒髪が波打ち、背中に龍の姿が浮かびあがる。
 強力な聖衣を装着していれば、心に油断が生じる。あえて背水の陣に身を置くことで、紫龍はコスモを最大限まで燃え上がらせる。
 クアットロには理解できない、不効率の戦い方の極みだ。
「本当にアナクロですのね。根性論で勝てるなら、誰も苦労しません。一撃で葬って差し上げますわ!」
 コスモは肉体強度を上げてくれるわけではない。聖衣なしで光速拳など命中したら即死だ。
 クアットロたちの拳が迫るが、紫龍は目をつぶり微動だにしない。
 幻のクアットロたちが次々と紫龍をすり抜けていき、十二番目に本物が紫龍の心臓めがけてストレートを放つ。
 紫龍はその拳を、わずかに体をそらすことでかわした。
「ふん、まぐれですわ」
 クアットロが後退して、幻影にまぎれる。だが、どんなに巧妙に幻影に紛れようと、紫龍の目はしっかりと本体を捉えていた。
「そんな、どうして!?」
 クアットロがうろたえる。
「貴様のシルバーカーテンは、よくできている。だが、生物に特有の揺らぎまでは再現できていない」
 攻撃に移る時、コスモにわずかに殺気が混じる。今は本体を見破られた動揺で、コスモが揺らめいている。ほんのささやかな揺らぎだが、コスモを高めた紫龍にはそれがはっきりと感じ取れる。
 クアットロが及び腰になる。不利を悟り、撤退しようと必死に考えを巡らせていた。
「女に手を上げるは本意ではないが、貴様のような外道にこれ以上、黄金聖衣を弄ばせるわけにはいかん。くらえ、廬山昇龍覇!」
 廬山の大瀑布をも逆流させる紫龍の右拳が、クアットロの胴体に炸裂する。クアットロは天井を突き破り、空高く打ち上げられる。
 しかし、勝利したはずの紫龍の顔は、苦渋に満ちていた。
 クアットロの姿が、青空に溶けるように消失してしまう。
「詰めを誤ったか」
 紫龍は悔しげに右拳を握りしめる。手応えと視覚情報にずれがある。おそらく紫龍が殴ったのは、肩のあたりだろう。
 最後の瞬間、クアットロは己の姿を透明にし、その上にわずかにずらして幻影をかぶせたのだ。おかげで廬山昇龍覇のダメージが浅くなってしまった。
「逃げ足だけは一流だな」
 紫龍は身を翻し、急ぎクアットロの後を追った。
 ストラーダが黄金聖衣の表面を叩き続ける。

31 :
(聖衣が動かない! どうして!?)
 山の中を必死に逃げ回りながら、ディエチは心の中で叫ぶ。
 最大級の破壊力を実現したイノーメスカノンの調整に手間取り、ディエチはほとんど格闘戦の訓練を行っていない。
 もし接近されたとしても、聖衣から戦闘データを引き出せば、離脱くらいはできるだろうと安易に考えていた。
 だが、機械は作動しているのに、聖衣は戦ってくれない。ディエチは、露出した顔や首、二の腕を守るので精一杯だった。
(まさか、機械の故障?)
 それはあり得ないと、ディエチもわかっている。もし機械が故障すれば、聖衣の意思は正常に戻り、偽りの主であるディエチから離れていくはずだ。
(だったら、どうして?)
 ディエチは知らない。
 ジェミニの黄金聖闘士サガは、類稀なる頑健さを持った男だった。敵の攻撃をもろともせず、圧倒的破壊力で敵を蹴散らす、まるで重戦車の如き戦い方。
 その頑健さは、サガの天性の素質と、たゆまぬ修練によって得たものだ。サガほどの頑健さを持たぬディエチが、その戦い方を真似たところで、ただ防御と回避ができなくなるだけだった。
 満足に戦えず、エリオはどこまでも喰らいついてくる。ストラーダの刃こぼれはさらに増え、まるでのこぎりのようになってしまっている。
 ディエチが、キャロから離れブースト魔法の範囲外に出ようとすると、エリオが進行方向を塞ぐ。逆にキャロを先に倒そうとすると、キャロがエリオの背後に回るように動く。
 これまでの訓練で培われた二人の連携に、ディエチは反撃の機会をつかむことができない。
 ディエチは己の思い違いにようやく気がついた。目の前の二人は、無力な子どもなんかじゃない。一人前の魔導師なのだ。
 エリオの気迫、覚悟、想いの強さに、ディエチはさらされる。それは極限状態に置いて発揮される命の輝きそのものだった。
 ディエチはこれまで遠くから敵を狙い撃つばかりで、接近戦をしたことがない。命懸けの戦いがどれほど怖いか、ディエチは今初めて知った。
「う、うわぁあああああああああああっ!」
 恐慌状態に陥ったディエチが、闇雲に腕を振りまわした。偶然、ディエチの腕がエリオに当たり弾き飛ばす。
 ディエチは恐怖に突き動かされるまま、両腕を頭上で交差させた。
「銀河の星々と共に砕け散れ!」
 ジェミニ最大の奥義が炸裂しようとする。
「ギャラクシアン――」
 エリオは残っていたカートリッジをベルトごと破棄する。どんなにわずかでも、軽くなれば最高速に達する時間は短縮できる。
「はあああああああっ!」
 ストラーダのノズルが火を噴き、エリオが飛翔する。全身全霊のエリオの突きが、ジェミニの胸部装甲に直撃した。
「かはっ!」
 衝撃で、ディエチの肺の中の空気が全て押し出され、息が詰まる。
(ありがとう、ストラーダ)
 澄んだ音を立てて、ストラーダの刃が粉々に砕け散る。
 砕けたのはストラーダの刃だけではなかった。酷使され続けたエリオの右腕の骨も折れていた。握力のなくなった手から、ストラーダが滑り落ちていく。
 ソニックムーブが解除されるが、ディエチの動きも止まっている。エリオは残った魔力を電気に変換し、左腕にまとわせる。
「猛きその身に、力を与える祈りの光を!」
 視線すら交わしていないのに、キャロはエリオの意思を汲み取ってくれていた。打撃力強化の魔法が、エリオの左腕に宿る。
 敵わないなとエリオは思う。大切な人を守れる男になりたいのに、自分の周りには強い人ばっかりで、支えられてばかりいる。
(でも、いつかきっとそんな男になってみせる!)
 エリオは誓いを込めて左拳を握りしめる。
「紫電一閃!」
 電撃をまとった左拳で、ディエチを殴りつける。左腕の骨も折れるが、構いはしない。どうせ体中激痛だらけだ。エリオはさらに踏み込み、折れた左腕を体ごと押し付ける。

32 :
 電撃が黄金聖衣を貫き、取りつけられた機械がひび割れる。
 昏倒したディエチからジェミニの黄金聖衣が離れ、善と悪の人間が背中合わせになったオブジェへと戻っていく。
 エリオとキャロの勝利だった。実際の戦闘時間は二十分にも満たないが、エリオにとっては永遠にも等しい死闘だった。
 エリオはゆっくりとキャロを振りかえった。
「帰ろう、キャロ。フェイトさんのところへ」
「うん」
 エリオはにっこりと笑いかけ、そのまま意識を失い前のめりに倒れていく。キャロが駆け寄ってエリオを抱きとめた。
「お休みなさい、エリオ君」
 キャロの膝の上で、エリオはあどけない顔で眠る。疲れ果て、酷使された肉体はぼろぼろでも、その顔は使命を果たした喜びに満たされていた。

33 :
以上で投下終了です。
それではまた。

34 :
18時半頃に羽生蛇調査報告書
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン 刈割/切通 初日/8時34分52秒
を投下します

35 :
時間になったので投下します
※注意
このSSには鬱要素が含まれており、登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。
そのことを踏まえて、よろしくお願いします。
では投下します

36 :
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン
刈割/切通
初日/8時34分52秒

―――ひっ ひぃ ひ ひぃ ひひっ ひ ぃ―――
乱れた耳障りな呼吸。無意味に振り回される錆び付いた鍬。血のような赤に染まった水、それに満たされた棚田。
フェイトは目を開けた。頭痛の余韻がまだ頭に残っている。自然と眉間に皺が寄り、思わず手で額を押さえた。
取り敢えずのところ、近くに屍人はいないようだ。
しばらく頭を休めてから、再び濃霧に包まれた山道の中をさまよい始める。
雨に濡れた砂利と泥を踏む度に、ぐじゅりと嫌な感触が足に伝わった。湿気で満ちた質量のある空気で、息が詰まりそうだ。
実際はそんなことないだろうが、これが夢なら今すぐ醒めてほしい。
疲労でいささか働かない思考回路の中、フェイトはそう思った。
目覚めてから夜が明けて現在に至るまでの数時間、フェイトは取り敢えず人がいる場所を目指して歩き続けた。
真夜中に起きた地震はかなり大きかった上に、爆音で流れたあのサイレン、赤い雨。現地でも必ず騒ぎになっているはずだろう。
そう考えて辿り着いた人里で、フェイトは予測の範疇を大きく超えた光景を見ることになった。
村には、屍のような姿に変異した現地の人々が、なんの疑問も抱いてないかのような振る舞いで『生活』していた。更に雨だけではなく、村の水という水が、血のような赤に染まっていた。
人間のフェイトからすると、その光景はさながら『地獄』に例えられるものに見えた。そしてそのどこにもフェイトの、人間の居場所などは無かった。

37 :
なぜ彼等がそうなって、なぜ全ての水が赤く染まったのか原因は分からない。
だが彼等はフェイトを見つけるやいなや攻撃を始め、その命を奪おうと追い回してきた。
現地人に対する攻撃を認められていない現状を考慮した上、ショックと恐怖の中で逃げることしかできず、フェイトは与えられた能力を頼りに人気の無い場所へ逃げてきたのだ。
それからは多発している不可解かつ厄介な現象を前に、原因の手掛かりに成り得るものを求めて歩き回った。
しかしここ数時間、そういったものはまるで見つかっていないし、その上正常な人間と思しき生存者達も見当たらなかった。
(ティアナとキャロも見あたらないし……二人ともどこにいるんだろう、無事ならいいんだけど)
無事だとしたらティアナもキャロも、既に村の外に行ってしまった場合もある。いないようなら、その時は村から出て行き、都市部まで様子を見に行くしかない。
考えたくは無いが、この赤い水で満たされ、人々が異常な状態になる事象が、この地帯だけでなく、他の地域でも多発的に起きているという可能性もある。
(これが大規模に起きてないことを祈る……けど、私が無力であるうちは、あること無いこと考えてても仕方ない、か)
由緒ある局の執務官として、ライトニング隊長として情け無いが、魔法も使えないこの状況で、頼りになるのは仲間の、管理局からの救援だ。
現時点ではそれに望みを託すしかないだろう。
その中で自分のやるべきことと言えば、やはりキャロとティアナと合流して、無事にこの状況を切り抜けること。それと出来ればこの異変の原因を探ること。
いずれにせよ、異変の発端となった地震や、数時間前にも鳴り響いたサイレン、それに赤い雨や水、突然授かった超能力、変異した村人達は何かしらの関係があると考えていいだろう。
もしかしたら、管理局もまだ見ぬ地球に眠っていたロストロギアが発動したのか。その可能性もある。
(それで赤い水が現地人の変異の原因だとしたら、私も危ないのかな)
絶対にあってほしくないが考えられる中では一番有り得る可能性だ。
思わず頭の隅で、村人達と同じように目から血を流し、意味不明な言葉を呟きながら徘徊する自分を想像して、嫌悪感と静かな恐怖に気持ちが揺らぐ。
だがフェイトはあくまで自分がライトニングの隊長であることを思い返し、冷静を取り繕って手のひらを見た。

38 :
(私の身体にはまだ何も異変が無いみたいだけど……ん?)
ふと、手のひらの向こう、深い霧に包まれた切通に目が行く。
そこに仰向けに倒れている誰かの姿が見えた。
変異した村人かと思いフェイトは警戒心を強めた。目を瞑り、意識を倒れている誰かに向けた。
しかし視界は真っ暗なまま、何も映らない。気絶でもしているのだろうか。目を開けて、能力を切る。
それから相手が人間であるという場合も考え、フェイトは身構えながら、倒れている人物近付いた。
近付いてみて、フェイトは思わず息を呑んだ。
倒れていたのは、肌が死体のように青白いわけではなく、目から血も流れていない、人間の若い男だった。
歳はフェイトと同じぐらいだろうか。
現代の日本では余り着られないような古風な服装、レースの編み込まれた白い長袖のシャツと、脚のラインが目立つ黒い長ズボン。
真ん中で綺麗に分けられた髪型に、割合整った顔立ちが特徴的だ。
しかしその目は固く閉じられており、微動だにしない。
「大丈夫ですか!?」
人間だと分かると、フェイトはすぐさま駆け寄って男に呼び掛けた。だが反応は無い。誰かに襲われたのだろうか、男は気絶しているようだ。
目立った外傷も無いことを確認して、フェイトは男の肩を掴んで軽く揺らした。
「聞こえてますか!?しっかりして下さい!」
揺らしながら呼び掛けていると、やがて男の眉間がピクリと動いた。眉を潜め、「うぅ……」と呻く。
(よかった、生きてる)とフェイトは安堵して、男の目覚めを待った。少ししてから男は薄目を開け、ゆっくりと瞳をフェイトに向けた。
「ん……誰、だ?」
切れ長の目を瞬かせて呟く男。それからフェイトの返答を待たずに、やや苦しげに表情を歪めながら、男は上体を起こした。
「大丈夫ですか?」とフェイトが恐る恐る聞くと、男は何も言わず軽く手を挙げて、フェイトを黙らせた。
「余所者……外国人か。日本語が分かるのか?」
男は後頭部を手で抑えながら立ち上がって、フェイトに振り返ると、怪訝そうに眉を潜めた。
「はい。もしかして、あの村の人達に襲われたんですか?」
男に聞き返しながらフェイトも立ち上がり、膝についた泥をはたき落とす。
男はフェイトの質問に「いや……」と否定して、呆然と間を空けてから、突然気付いたようにフェイトを見た。
「そうだ、髪が長くて黒い服を着た少女と緑の服を着た余所者の男を見なかったか!?」

39 :
いきなり慌て始めた男にフェイトは驚き、やや言葉に詰まりながらも「見てません」と答えた。
すると男は舌打ちをして、怒りを堪えるかのように右往左往し始めた。うろつきながら「あいつ絶対に許さないからな」などとも呟いている。
余程我慢ならないことがあったのか、男は歯を噛みしめ、悔しさを隠そうともせず態度の全面に表している。
「秘祭には美耶子が必要なのに……誑かして連れて行きやがって」
ひさい?みやこ?
フェイトは男の様子と言動に引っかかりを覚え戸惑う。
みやこ、というのが黒い服を着た少女のことなのだろうか。幸運なことに、この男は少なからずなにか情報を持っているようだ。
しかしながら話そうにも、男は右往左往したまま完全に自分の世界に入り込んでしまっている。
とりあえずフェイトは、無理矢理にでも話の糸口を掴むために自分から名乗ることにした。
「私、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンって言います。日本に留学している大学生です」
留学で来た大学生というのは、勿論その場をやり切るための嘘だ。
男は苛立ちを表情に孕ませたまま、フェイトに向き直る。
「ん、フェイト……なんだって?」
海外の名前に聞き覚えが無いのだろう。男は変なものを見るような顔でフェイトに聞き返す。
「フェイトでいいです。あなたは?」
「……神代淳。この村を束ねる神代家の、次期党首だ」
(村を束ねる……)
淳の話が本当かどうかは分からない。しかし党首ならこの村について、それに伴いなにかこの異常について知っているかもしれない。
疲れているからか、そんな安直な望みが頭に浮かぶ。そもそも現地人という立場から何かを知っている可能性もある。
だが、まずは有力者の次期党首を自称する淳が、どうしてこんなところにいるのかという疑問から聞かなければ。
「神代さんはどうしてあそこに倒れていたんですか?村の人に襲われたわけじゃないんですよね?」
自分は査察官ではなく、執務官だ。対人交渉に長けているわけではないが、せめて管理局の法を違反した者を取り調べる時のように、なるべく語調を柔らかくして話を探る。
しかし淳は眉を潜めて、鬱陶しそうに睨み返してきた。
「助けてもらったことは事実だし、それには礼を言うが、お前の質問に答えなければならない義理はないね」

40 :
威圧的に言葉を返す淳。気絶のダメージと疲労で気が立っているのだろうか、とフェイトは思いながら、対話を続けようと試みる。
「答える義理はなくとも、あんなところで一人で倒れているなんて危ないじゃないですか」
「ここは人間のいるべき場所じゃないのに危ないも糞もあるか」
だが淳の高圧的な態度は変わらない。
しかし、まるで何かを知っているかのような口振りだ。やはり現状の異変に関して、情報を持っているのだろうか。
このまま顔色を窺って聞き出すこともできるが、状況が状況なので、フェイトは早速聞きたい話を切り出した。
「人間のいるべき場所じゃないって……何か知ってるんですか?」
「なにがだ?」
「この状況について、です」
問いただすフェイトに、淳は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて「さあな」とだけ言い放つ。
この時点で、先程からの上から目線な態度は淳の素なのだろう、とフェイトは理解した。
しかし同時に、淳の醸し出す『裕福で傲慢なお坊っちゃん』といった雰囲気の裏に、何かを隠していることをフェイトは確信していた。
「この村の有力者なんですよね?それにさっきも『ひさい』がどうとかって」
「そんなの、お前が知ったことじゃないだろ」
淳は話を強制的に切るように冷たく言い放つと、しびれを切らしたのか、フェイトを残しておもむろに歩き出した。
だがここで彼を逃すわけにはいかない。この事態を招いた何かについて、淳が何らかの情報を持っているだろうから。
立ち去る淳をフェイトは咄嗟に追いかけた。
「必要あります!」
「知るか、とにかく僕に答える義理は無い」
あくまで冷たくあしらうだけで、こちらに振り向きもしない。フェイトは思い切って足を踏み出し、淳の目の前に回り込んだ。
さすがに淳も、一瞬驚いた表情を見せて、足を止める。淳の切れ長の目を、フェイトは真正面から見つめた。
「私の、大事な仲間が巻き込まれてるんです……お願いします、なにか知っているなら教えて下さい」
突然のフェイトの挙動に、淳は言葉を詰まらせ、視線を泳がせる。これは行ける、そう思ってフェイトはもう一度「お願いします」と静かな声で頼んだ。
すると淳はフェイトの身体と顔の間で、何度か視線を往復させてから不適な笑みを浮かべた。
「ふん……仕方ないな。まぁ既に災厄は起こってしまったんだし、少しくらいは教えてやるよ」
「あ、ありがとうございます!」

41 :
さる食らったので一部は木枯らしスレに投下しました

42 :
規制食らったので続きはこちらに投下します
淳に頭を下げ、やった、とフェイトは内心で喜んだ。どうやら探りは上手くいったようだ。
「来い」と言い、つかつかと先を行く淳の足取りに合わせて、フェイトもその後をついて行く。
実のところ淳はフェイトの美貌、そして育った胸や体つきに目を付けただけなのだが、フェイトにそれに気づく感性は無かった。

―――――――――――――――――

やがて林を歩いていると、前方の道が横たわる大量の土砂と倒れた樹木によって途切れていた。あの地震によって地面が崩れたのだろう。
しかし偶然にも途切れた道の左手に、フェイトの目線生け垣を下りると、二人の目の前には棚田が広がっていた。棚田は石を積み上げて作られており、見たところ先の生け垣も棚田の一部だったようだ。
その棚田を飲み込んでいる崩れた土砂に、街灯を押し曲げられ、倒れかかっている。
田のいずれもが赤い水に満たされており、それらはまるで山伝いに上へと伸びる、無数の血の溜め池のようだった。
そんな異様な光景に、フェイトは恐れおののきつつも、その中を先導して歩く淳から話を聞いていた。
聞くところによると、淳はこの村の教会に向かっているようだ。そこは比較的安全らしく、避難して来ている人も少なからずいるらしい。
もしかしたらキャロやティアナもそこにいるかもしれない。日本奥地のこんな閉鎖的な村に、西洋宗教の教会があることに疑問を感じつつも、フェイトは望みを掛けてその教会を目指してついて行くことにした。
棚田を囲むように通っている広い道をゆっくりとしたペースで歩く二人。変異した村人の確かな気配を近くに感じたが、とりあえず今のところは自分達が気付かれるような位置にはいないようだ。
相変わらず深い靄に包まれた景色の中で、周囲を壁のように囲む山の稜線が巨大な影となって見える。
妙に閉鎖的な雰囲気が漂う場所だな。かつて日本に住んでいた経験があるにも関わらず、まるで知らない場所にいるかのような気分だ。
そうフェイトは思いながら周りを見渡していると、ふと棚田の中に立つ、木材を奇妙な形に組んだ案山子のようなものを見つけた。
しかし手袋や農夫の格好をしているわけでもなく、そもそも人の形をしていない。
更によく見て、フェイトは息を呑んだ。
犬だろうか、剥がされた獣の皮らしきものが無造作に縫い合わされ、組木の天辺にかぶせてある。

43 :
なぜ閑散とした棚田の中にそんな禍々しいものが立っているのか。そんな、組木を凝視するフェイトの様子に、淳が気付いた。
「あぁ、あれは眞魚字架だな」
組木を一瞥しながら、なんともないように淳は言った。
「マナ字架?」
「この羽生蛇村に古くからある眞魚教の象徴だ」
「マナ教……」
その名前を確かめるように、フェイトは呟いた。聞いたこともない宗教だ。教会と聞いたからにはキリスト教やそれに似た宗教かと思っていたが。
一応、マナ教という名前に注意をしつつも、フェイトは一番聞きたい情報を得るために、話を切り出した。
「……ところで、神代さんはどうしてあそこで倒れていたんですか?」
すると淳は恥じているのか、しばしの沈黙の後、やや言いにくそうにしてから答えた。
「妹と、緑色の服を着た男にやられたのさ」
「妹?それが、みやこっていう?」
「ああ」
誑かしやがって、という先程の言葉を思うに、その男に妹が教唆されて淳を襲ったということなのだろう。
「それでその……緑色の服を着た人というのは?」
「さあな。ただ、あの出で立ちは外部から、都市部から来た奴に違いないだろう。
秘祭を盗み見ていた上に美耶子を誑かしやがって」
淳の口から、また『ひさい』という言葉が飛び出した。フェイトはそれを糸口に、淳の知っている秘密を聞き出そうとした。
「その『ひさい』ってなんなんですか?」
すると淳は振り向き、フェイトを睨み付けて、即座に答えた。
「その名の通りだろ。一部の者以外に知られてはいけない祭、儀式だ。
だからもちろん、お前にその内容を教えることはできない」
その言葉から『ひさい』が『秘祭』と表記するだろうことは予想がついた。淳の様子や言動からしてそれは、村の中でもタブーな存在なのかもしれない。
みやこ、という淳の妹も何かしらの役割としてその儀式に必要な人物に違いない。
そう考えると淳が、秘祭を盗み見てみやこを連れて行った『緑色の服を着た男』に怒りを覚えるのも仕方がないと思える。
しかし、ふと推理して思った。
それがこの異変となんの関係があると言うのだろうか?あるとして、そこに一体どんな秘密があるのだろう。
疑問に思い、フェイトは即座に淳に質問を投げかけた。
「その秘祭、というのはなにかこの異変と関わりが?」
「あるさ。儀式が失敗したから、俺達は神である堕辰子の怒りに触れて、この異界に放り込まれたんだ」

44 :
「はい?」
思わず聞き返したフェイトに、淳は鬱陶しそうにため息を吐きながらも、同じことを繰り返した。
「だから儀式が失敗したから、俺達は異界に放り込まれたんだよ」
思わず足取りが止まりかけた。なんとか歩みを続けながらも、フェイトは口を開けたまま絶句した。
とりあえず、その儀式とやらとこの状況が直接的に関わりがあると淳が言っていることは分かった。しかし、神に『だたつし』、異界……話が突飛過ぎるが、淳に嘘を言っているような態度は無い。
混乱して口を噤んだフェイトの方に、淳は怪訝そうに目を細めて振り向いた。
「どうした?今度はだんまりか」
「いや……その」
色々聞きたいことはある、が、ありすぎて逆になにから聞けばいいのか分からないというのが、フェイトの心境だった。
「驚いたにしても、お前は表情が分かりやすいな。流石は外国人だ」
冷ややかに笑う淳を前に、フェイトのこんがらがった思考回路は徐々に解けていった。だたつしとは?ここが異界なのか?異界とはどういう意味なのか?
質問は多々あるが、先程の言葉をそのまま受け取るなら、淳は自分から、自分がこの状況の原因と関わっていると自ら白状したようなものだ。
本当にそれが原因なんだとしたら、その秘祭とやらは管理局で言う重犯罪に判定されかねない危険なことなのかもしれない。
それに原因が分かれば、この状況への打開策が見つかるかもしれない。なんとしても、その秘祭とやらの全容を知っておかなければ。
「……その儀式はなんのための儀式なんですか?」
「お前は俺の話を聞いていなかったのか?秘祭の内容は一切教えられない」
やはりそう簡単には教えてくれないだろう。歯がゆくて、苛立たしく拳を握り締める。もし魔法が使えたなら、局員を名乗って少々強引だとしても話を聞き出せるのに。
「じゃあ、だたつしってなんなんですか?なんて書くんですか?」
「ふん、それを知ってどうする?」
更に小馬鹿するように鼻で笑う淳に、流石のフェイトも語調が強くなる。
「知りたいから聞いているんです!」
「それが人に物を聞く態度か?」
フェイトの大声に反応し、淳も表情に冷たい怒りを見え隠れさせる。しかしフェイトも、この期に及んで傲慢な態度をとり続ける淳に対し呆れにも近い苛立ちを覚えた。
「物を聞く態度って……こんな状況なのにどうしてそんなことを言えるんですか?」

45 :
幾分か感情を表情に出しながら、フェイトは言った。すると淳はあからさまに不快な顔をしながら「ちっ」と大きな舌打ちをして、何も言わずにフェイトから顔を背けて歩き始めた。
「ちょ、ちょっと!まだ話は……」
フェイトがその腕に掴みかかると、淳はその手を引き離そうと激しく抵抗した。
「うるさい!離せ外国人!」
「あなたこそ!どうして話してくれないんですか!?」
「何度も言ってるだろ!痴呆なのかお前は!?」
「痴呆って……」
雨に濡れた泥道の真ん中で堂々と掴み合い、大声で怒鳴る淳と、それに比べれば静かな声で言い返すフェイト。
淳に掴みかかりながら、こんな姿を局の仲間達に見られたらきっと呆れられ窘められるだろう、とフェイトは不意に思った。
だがそれも全ては、仲間達の元に戻ってからの話である。そのために、この男の持つ情報は必要不可欠なのだ。
「とにかく話を!」
「うるさい!」
淳が叫んだ、その直後だ。
ぱぁん
どこからともなく甲高い、乾いた破裂音が聞こえてきた。ほぼ同時に、淳を掴んでいたフェイトの腕に何かが掠る。
即座に鋭い痛みが腕に走り、見ると服が切れ、裂けた皮膚から血が溢れ出していた。
淳とフェイトは途端に黙り、血相を変えて離れた。辺りを見渡すが人影は見当たらない。
あの音、服の切れ目から焦げたような臭いがする。
(は、発砲……!?)
間違いない、誰かに銃器で狙われている。フェイトが腕を押さえていると、すぐ近くの茂みからがさがさと音がした。
即座に振り向く二人に、鉄の塊が向けられる。
「了 解…… 射 殺 し ます」
そう言って二人に拳銃を向けていたのは、目から血を流した蒼白の警官だった。
息を呑む二人に向けて、警官は容赦なく引き金を引いた。再び鳴り響く発砲音に二人は身を竦める。
放たれた弾丸は地面に着弾したらしく、足元から甲高い音が聞こえてきた。
「くそっ!!」
淳はそう言い捨てると、即座にその場から元来た道に向かって走り出した。
フェイトは、淳を追おうと駆け出しそうになった衝動を抑え、逆方向の道に目をやった。
(……仕方ない!)
淳から聞き出したいことは多々あったが、同方向に言ったらあの警官に追撃され兼ねない。
まずは命だ。二人とも安全に退避するため、警官を攪乱するためと、フェイトは淳とは逆方向へと駆け出した。

46 :
「待ち なさ あ ぁあ い」
警官は制止を呼び掛けながら、フェイトの背中に向かって発砲した。
飛んできた弾丸は、揺れ動くフェイトの金髪を結ぶリボンに当たり、それを引き裂いた。
広がる髪の毛も意に介さず、フェイトは全速力で走り続ける。
今の騒ぎで他の村人達にも気付かれた可能性がある。一刻も早くこの地から去りたかった。
途中、橋が崩落した堀があったが、勢いでそれを飛び越える。着地してからも走り続け、傷付いた腕を庇いながらフェイトは思考した。
まだ淳の言ったこと全てが信用に足るかも分からないが、先の話を信じるとなると、今起きている異変は、この村に根付く土着信仰と何か深い関係にあるらしい。
近頃管理局を騒がせているレリックや戦闘機人が絡んでいるという可能性も無きにしも非ずだ。
だが、淳に会ったことでフェイトの行動方針は固まった。
一つは、淳の零したマナ教とやらの概要、秘祭や『だたつし』についての調査。また一つは緑色の服を着た男と『みやこ』との接触。
キャロとティアナや、他の生存者との合流は引き続き目指すとして、まずは淳の連れて行こうとした『教会』に向かいたい。
(でも、その教会って一体どこに……)
問題はそこだ。淳からは教会とやらの場所を聞いていないためにどうやって行けばいいのか全く分からない。
ただ漠然と、『ここの近くにある』とは言っていた気がする。それに淳が先導していた道はこの方向だったし、なんとかなるかもしれない。
(……でも取りあえずは、ここを離れなきゃ)
こちらへと向けられる無数の意識達を、例の能力で確かに感じながら、フェイトは泥を蹴散らして道を駆け抜けて行った。

47 :
以上です

48 :
代理投下ありがとうございました

49 :
投下乙です

50 :
お久しぶりです。本日23時より、『リリカル星矢StrikerS』第八話投下します

51 :
それでは時間になりましたので、投下開始します。
 第八話 氷の心! 静かなる闇に眠れ
 氷河が指定された建物に入ると、通路はところどころ凍りついていた。
 漂う冷気を辿っていくと、訓練場と思しき体育館くらいの広さの部屋に辿り着く。
 殺風景な白い空間の奥で、セインが床に座って待ち構えていた。
「あ、やっと来たんだ。もう、待ちくたびれちゃったよ」
 セインは腰の埃を払いながら立ち上る。
「最初に忠告しておく。大人しくアクエリアスの黄金聖衣を渡せ」
「ふ〜ん。もう勝った気でいるんだ。私を甘く見たこと、後悔させてあげるよ」
 口調こそふざけていたが、セインは真剣だった。この一戦には、ナンバーズの命運がかかっているのだ。
「「ダイヤモンドダスト!」」
 セインと氷河の凍技がぶつかりあう。
 氷河は連続で技を放つ。だが、セインはディープダイバーを使い、すでに地中に潜っていた。
 氷河はセインが消えた床に駆け寄り、拳を振りかぶる。
「遅いよ。オーロラエクスキューション!」
 氷河の背後から絶対零度の凍気が襲いかかる。
 氷河が振り向きざまにダイヤモンドダストを放つが、セインは再び地中へと戻っていた。
「残念だったね」
 セインが天井から頭だけを出す。
「私を捉えるのは無理だよ」
 セインは頭を引っ込めると、今度は壁から姿を現す。光速の動きを会得したセインにとって、地面や壁に潜ることなど瞬きよりも速くできる。
 相手のフェイントに騙されることも、回避の方法を考える必要もない。敵が攻撃モーションに入ったら、即座に地下に潜ればいい。セインに攻撃を当てられる者など、この世に存在しないのだ。
「ダイヤモンドダスト!」
 氷河は怒りに燃えた眼差しで、狂ったように繰り返し技を放つ。
 素早く地面に潜って逃げ回るセインに、氷河の攻撃は一発も当たらない。まるでモグラ叩きだ。
「おーおー。熱くなっちゃって。冷やしてあげるよ。オーロラエクスキューション!」
 咄嗟に飛び退くが、セインの放つ凍気が氷河の左腕を掠め、キグナスの聖衣が凍っていく。床に潜った後、氷河の死角から放たれる技を避けるのは至難の業だ。
 セインがここを決戦の場に選んだ理由は明白だった。この広さなら、上下左右あらゆる場所に一瞬で移動できる。
 訓練施設だけあって床や壁も強固だ。氷河の拳でも、穿てるのはせいぜい数メートル。たったそれだけの距離を潜るだけで、セインは安全圏に退避できる。
 氷河がよろめき膝をついた。体を動かす度に、氷河の表面に薄く張った氷の膜がパキパキと音を立てて割れていく。
 もし常人がこの空間に踏み込めば、即座に氷の彫像と化すだろう。凍技の応酬により、ここは氷河の修行の地シベリアをも超える極寒の世界へと変貌していた。
「そろそろ限界みたいだね」
 セインが氷河をわざわざ指名したのには、大事な理由がある。
 地上本部襲撃時、聖王の器の確保をせずに何故ナンバーズは撤退をしたか。ウーノが警戒したのは、氷河だったのだ。
 コスモが魔法より優れている点は、速度の他にもう一つある。凍技だ。
 氷の魔法はミッドチルダにも存在するが、最大威力の魔法でもせいぜいダイヤモンドダスト程度の冷気でしかない。
 効果範囲こそ狭いが、氷河はそれを連続で放ち、挙句に絶対零度まで両の腕で再現する。
 セインは無意識に胸元に手を当てた。
 聖衣に取りつけられた機械は、多機能かつ急ごしらえゆえに脆弱だ。耐熱、耐衝撃は問題ないが、耐冷だけはやや心もとない。
 地上本部襲撃時の性能では、ダイヤモンドダスト数発で不具合が出る危険性があった。この数日でだいぶ克服したが、さすがに絶対零度には耐えられない。
 回避能力に最も優れたセインが、一発も攻撃を受けずに倒す。でなければ、他の姉妹が危ないのだ。
 セインは氷河を冷静に観察する。キグナスの聖衣は凍結し機能を停止している。体力的にも限界が近いはずだ。

52 :
 セインは慎重に地上に姿を現す。氷河は動かない。ようやく諦めてくれたのだろうか。
 その時、氷河が顔を上げた。セインの期待に反して、その眼差しは強い輝きを放っていた。
「セインと言ったな。モグラ叩きはもう終わりだ!」
 氷河が両腕を地面に叩きつけた。床が、壁が、天井が、一瞬にして分厚い氷に覆われる。
「なっ!」
 セインの両足も氷の魔手がしっかりとつかんでいた。ディープダイバーは、魔力障壁を通り抜けることができない。魔力に似た性質を持つコスモでできた氷も、通り抜けることができなかった。
 相手の足を凍らせて動きを封じる技、凍結拳の応用だ。氷河が技を乱発していたのは、室内を一瞬で凍らせられる気温に下がるまで待っていたからだ。
「まさか最初からこれが狙いで……怒ってたのは演技だったって言うの!?」
「いや。最初は俺も怒りに我を忘れかけた。だが、アクエリアスの聖衣が、お前の使うその技が、俺に大事なことを思い出させてくれた」
 “常にクールであれ”それが氷河の師カミュが命と引き換えに、教えてくれたことだった。
「もはや逃げ場はないぞ」
 氷河のコスモが極限まで高まり、周囲を氷の結晶が乱舞する。
「我が師カミュよ。あなたが教えてくれたこの技で、今あなたの聖衣を取り戻します!」
 氷河の両腕が頭上で組み合わされる。氷河の構えに、アクエリアスの黄金聖闘士カミュの幻影が重なる。
「こ、こっちだって同じ技が使えるんだ。負けるはずがない!」
 氷を砕いて潜行する暇はない。セインも頭上で両腕を組み合わせる。
「「オーロラエクスキューションッ!!」」
 拳から絶対零度の凍気が放たれる。
 氷河の凍気が、セインの凍気を切り裂いて進む。技の完成度があまりにも違い過ぎる。劣化コピーと正当な継承者の差だった。
「これがオーロラエクスキューションだ」
 氷河の言葉を最後まで聞くことなく、セインは凍りついていた。
 空で次々と巨大な爆発が巻き起こる。
 次の目標に向かって飛行していたセッテは、突如遠距離からの砲撃にさらされていた。
 セッテは爆発を避けながら、射線を辿っていく。やがて騎士甲冑をまとったはやてが、渓谷に身を潜めているのを発見する。
 セッテは絶え間ない砲撃をかいくぐりながら、距離を詰めていく。はやてが右手に持った杖、シュベルトクロイツを構えるが明かに遅い。
 セッテが渓谷に踏み込むと、迎え撃つように岩壁から無数の棘が出現した。
 急制動を掛けたセッテの頭上に影が落ちる。
「リイン、ソニックムーブの制御は任せた!」
『はいです!』
「ラケーテンハンマー!」
 コマのように回転しながら、リインとユニゾンしたヴィータが、鉄槌を振り下ろす。
(速い!)
 セッテはライブラのシールドで防御するが、勢いまでは殺しきれず谷底に叩き落とされる。
 使用者に多大な負担を強いる旧式のソニックムーブ。ヴィータはリインと負担を分かち合うことで、セッテには及ばないもののかなりの速度を獲得していた。
「クラウソラス!」
 セッテの位置をあらかじめ計算していたかのように、直射型の砲撃が発射される。ライブラのシールドとバリアを併用し、セッテは砲撃を防ぐ。いくらかダメージが抜けたが、戦闘行動に支障が出るほどではない。
 その瞬間、世界が変容した。
「結界ですか」
 色彩の変化した空間の中で、セッテが唸る。
 谷底には浅い川が流れている。両側には岩壁がそそり立ち、空は結界によって封鎖された。完全に閉じ込められたらしい。
「撃墜できんかったか。やっぱり手強いな」
 黒い六枚の翼を羽ばたかせ、はやてが言った。
 狼の耳と尻尾を生やした褐色の肌の男ザフィーラが、岩陰から姿を現す。渓谷に乱立する無数の棘は、ザフィーラの鋼の軛だった。

53 :
「随分と手厚い歓迎ですね」
 感情表現の乏しいセッテもさすがに眉を潜めた。夜天の書に携わる者のほとんどが、この場に集中している。どうやらまんまと誘き出されたようだ。
「ライブラの武器を使わせるわけにはいかんからな」
 あまりにも強力すぎるライブラの武器は、アテナの許可か、善悪を判断するライブラの黄金聖闘士の許可がなければ使用してはならないとされている。
 しかし、ナンバーズに聖闘士の掟は関係ない。ライブラの武器を他のナンバーズに渡される前に確実に倒すと、はやては決意していた。
 鋼の軛によってセッテの動きを制限し、ヴィータが前衛で守りを固め、はやての広域魔法でとどめを刺す作戦だった。この狭い空間なら、鋼の軛を十分に活用できるし、上下左右を広域魔法の射程範囲に収められる。
「読みが外れましたね。私はこの武器を他の誰にも使わせるつもりはありません」
 セッテが憐れみを込めて言った。
 十二のライブラの武器がひとりでに宙に浮き、セッテの周囲を旋回し出す。まるで太陽の周りを公転する惑星のように。
「IS発動スローターアームズ」
 セッテは、ライブラの武器をISでコントロールできるのだ。
 自在に動きまわる星をも砕く十二の武器と、黄金聖闘士の力を手に入れたセッテ。その力はたった一人で軍団規模に相当する。
「一体多数は、私の得意分野です。あなた方を殲滅させてもらいます」
 セッテを追い詰めたはずが、むしろ追い詰められたのははやてたちの方だった。
「これはまずいな」
 はやては引きつった顔で呟いた。
 最初に動いたのは、ザフィーラだった。
「うおおおおおおおおっ!」
 新たな鋼の軛が出現し、セッテに迫る。
「廬山百龍覇!」
 百龍の牙が鋼の軛を噛み砕き、ライブラの武器が矢のように射出される。
 ヴィータは左側から飛来したライブラのシールドをアイゼンで弾き飛ばすが、反対側から飛んできたトンファーが、スカートの端を千切っていく。
「ヴィータ!」
 スピアーがはやての顔面めがけて飛んでくる。展開したバリアはすぐに貫かれ、はやての鼻先を黄金の刃が掠めていく。
「どこぞの英雄王みたいな真似を!」
 はやてが忌々しげに叫ぶ。
 こんな状況では、広域魔法の詠唱などできようはずもない。本当ならセッテを速攻で片付けて、他の隊員の援護に行く手はずだったが、それも阻まれていた。
 幸いにもセッテが操るライブラの武器の速度は、光速には達していない。量産型ストラーダで加速されたはやてたちならば、数はともかく、どうにか対処できる速度だ。
「ヴィータ、ザフィーラ、シールドを斜めに。側面を狙うんや!」
 はやての指示を、二人はすぐさま理解する。
 セッテは十二の武器を精密にコントロールしているわけではなく、敵に向かってひたすら突撃させているだけだ。
 シールドを斜めにして受け流すようにすれば、わずかに軌道をそらせるし、側面を叩けば簡単に弾き飛ばせる。
「それなら!」
 ヴィータの撃ち出す鉄球シュワルベフリーゲンが四つの武器を弾き飛ばし、ザフィーラの鋼の軛が更に三つの動きを封じる。
「さすが六課の部隊長ですね。もう見抜かれましたか」
 セッテは素直に称賛する。
 ライブラの武器を捌いているヴィータとザフィーラの後方では、はやてが呪文の詠唱を開始していた。
 ヴィータとザフィーラの一斉攻撃によって、ライブラの武器が一カ所に集められ、格子状に展開した鋼の軛が武器をからめ取る。
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ、フレースヴェルグ!」
 はやての前面に五つの魔法陣から展開した。連続で発射された砲撃が炸裂し、閃光が渓谷を白く染め上げる。
 ヴィータとザフィーラが二人がかりで展開したバリアが、砲撃の余波からはやてを守る。
 セッテは後方に逃れたようだが、ライブラの武器には直撃した。いくらなんでもこの威力に耐えられるはずがない。

54 :
「後少し……」
「主! ヴィータ!」
 血相を変えたザフィーラが、二人を乱暴に突き飛ばし障壁を展開する。次の瞬間、障壁を貫き、ザフィーラの腹にツインロッドが、左腕にトンファーが、右の腿にソードが突き刺さる。
 はやての脇腹をもう一本のソードが掠め、黒い六枚羽の一枚が切断される。
「ザフィーラ!」
 はやての目の前で、ザフィーラが川へと墜落していく。
「惜しかったですね。もし今の威力を一点に集中できていたら、さすがのライブラの武器も壊れていたかもしれません」
 セッテが悠々とした様子で、十二の武器を手元に引き戻す。
 ライブラの武器には傷一つついていない。神話の時代から一度も砕けたことがないと伝えられる黄金聖衣の強度は、はやての予想をはるかに超えていた。
 ザフィーラが倒れたことで、渓谷に展開していた鋼の軛が消滅していく。
「こうなったら、しゃあないな」
 はやては唇を噛みしめた。
「プランSS行くで!」
 はやての号令に、ヴィータは苦悩の表情を浮かべ頷いた
 ヴィータがはやてを守るように飛び出していく。
 セッテの撃ち出す十二の武器を、ヴィータの鉄槌が、リインのフリーズダガーが迎え撃つ。
 その間に、はやては呪文の詠唱を始める。
 ヴィータは獅子奮迅の戦いぶりで武器を捌いているが、ザフィーラを欠いた穴は大きい。直撃はなくとも、武器が掠め、細かい傷が増えていく。
「これで終わりです」
 ヴィータの横をすり抜け、セッテがはやてへと肉薄する。
 はやてがシールドを展開する。
「廬山昇竜覇!」
 セッテの渾身の右拳が、シールドを破り、シュベルトクロイツをへし折りながら迫ってくる。騎士甲冑の上着をパージしてまで威力を相Rるが、セッテの拳は止まらず、はやての胸へと吸い込まれていく。
 肋骨が砕ける激痛がはやてを襲う。しかし、はやては苦痛に顔を歪めながらも勝利の笑みを浮かべていた。
 プランSS。その内容は、はやて自身を囮とした相打ち覚悟の作戦。SSは最低最悪の頭文字だった。
 呪文の詠唱は間に合うのか、攻撃を受けた場合、はやてが耐えられるのか、様々な問題があったがすべてクリアした。
 後は発動トリガーだけだ。
「――――ッ!!」
 込み上げてきた血がはやての喉を塞ぎ、魔法の発動を阻害する。廬山昇竜覇のダメージが深刻すぎたのだ。
(やば)
 セッテの左腕が伸びてくるのを、加速されたはやての目がかろうじて捉える。魔法の発動は間に合わないし、ヴィータも武器に包囲されて身動きが取れない。
 はやては死を覚悟した。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
 絶叫が谷底に響き渡り、はやての眼前のセッテがかき消える。
 傷だらけのザフィーラが、セッテを羽交い絞めにしていた。目の焦点は定まっておらず、意識は混濁したままだが、“主を守る”という信念だけが、ザフィーラを衝き動かしていた。
「放しなさい!」
 傷ついたザフィーラでは、セッテを完全に抑え込むことができない。セッテは、ザフィーラを振りほどこうと岩壁に叩きつける。
 不意に飛来した細い紐が、セッテとザフィーラの体を絡め取った。
「シャマル!?」
 はやての横に転移してきたシャマルが、デバイスのクラールヴィントを伸ばしていた。
「この!」
 セッテが力を込めると、拘束の紐がちぎれていく。拘束がほどけ切る前に、シャマルがセッテの胴体にしがみつく。

55 :
 ザフィーラのぼんやりとした眼差しに、シャマルは微笑み返す。
「ザフィーラ、私も一緒だよ」
「……すまない」
 二人が鋼の軛を展開する。
 腕力とクラールヴィントに鋼の軛を加えた三重の拘束が、セッテの動きを今度こそ完全に封じ込める。
 シャマルとザフィーラは、優しい眼差しではやてを見守ってくれている。我が身を犠牲にしてでも主を守ろうとする二人の姿に、はやては亡き両親の面影を重ねる。
 はやては夜天の書を掲げた。
「遠き地にて闇に沈め」
 毅然とした態度に、迷いはない。
「デアボリックエミッション」
 漆黒の球体が、全てを飲み込んだ。
 さらさらと水の流れる音がする。
 青いボディスーツというナンバーズ本来の姿に戻ったセッテが、川に身を浸すようにして倒れていた。川岸に寄りかかるようにしてシャマルとザフィーラも意識を失っていた。
 ライブラの聖衣は天秤のオブジェへと変形し、川原に鎮座している。
「どうして仲間ごと撃てたのですか?」
 セッテはどうにか上体を起こすと、正面に立つはやてに問いかける。
 夜天の書の主と守護騎士たちの関係は、家族同然だと聞かされていた。愛する家族をどうやったら、ためらいもなく全力で撃てるのか。
 黄金聖衣をまとっていたセッテでさえ、ぎりぎりで意識を保っていられる状態だ。いかに非殺傷設定だったとはいえ、直撃を受けたザフィーラとシャマルが、どれだけのダメージを被ったか想像するに余りある。そんな仲間を助けようとする素振りすら、はやては見せない。
「家族を守るためや」
 はやては冷酷ともとれる声音で答えた。
 その答えに、不可解そうに瞬きをし、セッテはその場で意識を失った。
「おい、しっかりしろ!」
 ライブラの武器の包囲網から解放されたヴィータが、ザフィーラとシャマルを川から引き上げようとする。
「なあ、ヴィータ、リイン」
 はやてはゆっくりとヴィータに顔を向けた。
 もし、あの状況ではやてが撃たなければ、セッテは拘束を解除し、はやてたちは敗北していただろう。家族を守る為に、愛する家族を撃たなければならなかった。
「待ってろ、はやて。今すぐ救護班を……」
「他に方法はなかった。どうしようもなかった。けど……」
 はやての顔がくしゃりと歪んだ。
「こんなに胸が痛いんは……もういややな」
 これまでの態度と打って変わって、はやては子供の様な顔で泣いていた。
 肉体の痛みと心の痛みがないまぜになり、はやての胸は張り裂けそうだった。二人を助けたくても、指一本動かす体力すらはやてには残されていない。
 力を使い果たしたはやての変身が解除される。黒い羽を舞い散らせながらはやては仰向けに倒れていく。
 まるで流れる川そのものがはやての悲しみの涙のようだった。

56 :
以上で投下終了です。
今気がついたのですが、リインの魔法が間違ってますね。フリーズダガーではなくフリジットダガーでした。
すいません。直そうと思っててすっかり忘れてました。
それではまた。

57 :
乙〜

58 :
お久しぶりです。本日一時より『リリカル星矢StrikerS』第九話投下します。

59 :
それでは時間になりましたので、投下開始します。
   第九話 星輝く時! 滅びの雨を吹き飛ばせ
 人影の絶えた町に、レオの聖衣をまとったノーヴェが立っていた。
 見上げる先には、虹のようにアーチを描く光の道。ウイングロードの上でスバルとティアナが戦闘態勢を取っていた。
「前回あれだけ手酷くやられたのに、お前も懲りないな。タイプゼロセカンド」
「私もいるんだけど?」
 ティアナが不快感をあらわにする。
「一人も二人も違いはねぇ。前回同様、とっとと終わらせてやる!」
 ノーヴェはエアライナーを伸ばした。
「スバル、行って!」
「了解」
 スバルはティアナを肩に担ぎ上げると、ノーヴェに背を向けて走り出す。
「おい!」
 いきなり逃げ出した相手を、ノーヴェは慌てて追いかける。しかし、スバルの速度は量産型ストラーダによって格段に向上している。
 スバルに担がれたままのティアナがクロスミラージュを連射する。追いかけているノーヴェに道を選ぶ自由はなく、避けきれなかった魔力弾が黄金聖衣の表面で火花を上げる。
「追いつけねぇ!」
 スバルとノーヴェの差は一向に縮まらない。
 弱点を見抜かれていることに、ノーヴェは気がついた。エアライナーの展開速度は、コスモの力を借りてもそれほど速くなっているわけではない。せいぜい音速の十倍程度。どうやらこれがエアライナーの限界らしい。
 道の展開速度が変わらないのに、銃撃まで受けては追いつくのは難しかった。
「ああもう、本当にかっこ悪い!」
「この作戦考えたの、ティアじゃん!」 
 荷物のように運ばれるティアナが毒づき、スバルが言い返す。
 スバルがウインドロードで移動を、ティアナがクロスミラージュで攻撃を担当する。
 いかに黄金聖衣でも、魔力ダメージを無効化できるわけではない。どんなにわずかでも、このままノーヴェの体力を削っていけば、いずれ勝機をつかめるはずだ。
 決め手に欠ける作戦だったので不安だったが、どうにかなりそうだと、ティアナは胸を撫で下ろした。
「なんてな」
 ノーヴェが獰猛に犬歯をむき出し、光の道を蹴って跳んだ。
 ノーヴェは足元に一瞬だけエアライナーを展開し、そこを足場に次の一歩を踏み出していく。
 光の波紋を残しながら、黄金の獅子が天を駆ける。
 エアライナーよりもノーヴェの走る速度の方が速いのだ。律儀に道の展開を待つ必要はない。エアライナーではなく、エアランナーとでも呼ぶべきか。
「弱点なんて、とっくに克服済みだ!」
 道という枷から解き放たれたノーヴェが、銃撃を華麗にかわし、みるみるスバルに追いついていく。
 ティアナが咄嗟に自分たちの幻影を発生させた。
「無駄だぜ、ライトニングプラズマ!」
 閃光と化した無数の蹴りが、幻影ごとスバルとティアナを吹き飛ばした。
 一仕事終えたウェンディは、のんびりと空中遊泳を楽しんでいた。
「いやー。いい天気っスねぇ」
 仰向けになって太陽の光を全身に浴びる。まるで雲のベッドに寝そべっているようだった。
 ウェンディはサジタリアスの聖衣を心底気に入っていた。
 ライディングボードで飛行するのも、あれはあれで趣があるが、やはり一度はトーレたちのように自由に空を飛んでみたかったのだ。飛行できない他の姉妹たちには悪いが、なまじ空を飛べるだけに、余計に憧れは強かった。
 できれば、いつまでもこうしていたい気分だったが、敵が徐々に接近してきている。
「まったく無粋な奴っス」
 雲の隙間から姿を現したのは、足から光の翼を生やしたなのはだった。すでにリミットブレイクを発動し、限界を超えた強化がなされている。
 大物の出現に、ウェンディは少しだけやる気を出した。
「それじゃとっとと片づけさせてもらうっス」
 ウェンディが光速の拳を繰り出す。
『Round Shield』
 強固なシールドが、ウェンディの拳を受け止めた。

60 :
「へえ、やるじゃないっスか」
 ウェンディの賛辞に、なのはは無言だった。両腕を軽く横に開き、直立姿勢でウェンディを見つめ返している。
「でも、まぐれは続かないっスよ」
 ウェンディは素早く上方に回ると、後頭部めがけてかかとを落とす。
なのはは微動だにしない。しかし、再びシールドがウェンディのかかとを受け止める。
 攻撃からワンテンポ遅れて、なのはがウェンディを見上げる。その瞳は、まるで湖面のように静かに凪いでいた。
 ウェンディは攻撃を続けるが、ことごとくシールドによって防がれる。
「そんな、なんでっスか!?」
 ウェンディは動揺を抑えられずに叫ぶ。
 どうして光速の動きについてこられるのか。なのははシールドから一拍遅れてウェンディを見る。予測して防いでいるなら、先に視線が動くはずだ。
 ウェンディはなのはが左手に持つレイジングハートに目をやった。なのはが直立不動で攻められるままにしていた理由にようやく気付く。
「まさか、オートガード!?」
 デバイスに搭載されている術者を守る為の自動防御機能。しかし、それは本来そこまで高性能な物ではない。なのははレイジングハートに魔力を集中させ、オートガード機能を極限まで高めていた。
「滅茶苦茶っスよ、こんな戦い方」
 攻撃も速さも捨て、なのはは己のデバイスに命運を託していた。もしレイジングハートが防御に失敗すれば、光速拳は容赦なくなのはを貫く。そんな極限状態にあって微塵も揺るがないなのはの瞳が、ウェンディには恐ろしかった。
「あんたは空中要塞っスか!」
 口に出してから、ウェンディは比喩が間違っていることに気がついた。
 堅固な要塞には威圧感はあっても、こんな不気味さはない。これは生物特有の底知れなさ、奥深さだ。
 無感情にウェンディを見つめるその姿は、白いバリアジャケットと光の翼が合わさって、まるで罪人を裁く無慈悲な天使のようだった。
 ウェンディは不吉な想像を頭から締め出し、黄金の弓を取りだした。
「なら、シールドごと貫くのみっス!」
 ありったけのコスモを集中させた黄金の矢をつがえ、弦を引き絞る。神をも射抜く黄金の矢が、なのはめがけて放たれる。
「…………えっ?」
 一瞬、ウェンディは何が起きたのかわからなかった。
 光をまとったなのはが、ウェンディにぶつかっていた。
 なのはとて全魔力を推力に傾ければ、ウェンディと同等のスピードは出せる。ただし適正の問題で、細かい機動は行えない。ウェンディが最大の攻撃を放つ際にできる一瞬の隙を見越して放たれたA.C.Sドライバーだった。
 なのはの右腕には、黄金の矢が深々と突き刺さっていた。負傷は最初から覚悟の上だったのだろう。こんな戦法を顔色一つ変えずやり遂げたなのはに向かって、ウェンディは素直な感想を送った。
「あんた、いかれてるっスよ」
 サジタリアスの聖衣がウェンディから離れていく。翼を失ったウェンディは大地へと落下して行った。
 
 空中で半人半馬のオブジェとなった聖衣に、ウェンディは手を伸ばした。しかし、ウェンディがどれほど求めても、偽りの主に黄金聖衣は振り向いてくれない。
 凄まじい勢いで地面が迫ってくる。調子に乗って、高度を上げ過ぎたようだ。この高さから落ちては、さしもの戦闘機人も助からない。
 唯一ウェンディを助けられる可能性のあるなのはは、黄金の矢によって体勢を大きく崩している。すぐには動けないだろう。
 風が耳元でごうごうと唸るのを聞きながら、ウェンディは己の死を悟った。
 脳裏をよぎる走馬灯は、すぐに終わってしまった。人生を振り返れるほど稼働時間が長いわけではない。
 代わりに思い出したのは、星座の伝説と一緒に読んだある物語だった。
 イカロスという青年が、孤島の迷宮から脱出する話だった。イカロスは父親と共にろうで固めた鳥の羽で、島の外へと飛び立った。しかし、イカロスは父親の警告を忘れ、高度を上げ過ぎた。太陽に近づきすぎたイカロスの翼は熱で溶け、墜落して死んでしまった。
 最初に読んだ時は、別にどうとも思わなかった。せいぜいが間抜けな男という感想くらいだ。
 しかし、今なら理解できる。空がどれだけ人を魅せるか。鳥ならぬ人間が飛ぶことが、どれだけ楽しいか。ウェンディは死ぬことは怖くない。ただ、もう飛べなくなることだけが、無性に悲しかった。きっとイカロスも同じ気持ちだったのだろう。

61 :
 こぼれた涙が空へと舞い上がっていく。右腕を高く掲げ、ウェンディはぽつりと呟いた。
「……また飛びたかったスね」
 もう贅沢は言わない。ライディングボードでも、他の何でもいい。もう一度、風を感じて空を飛べるなら、それはどんなに素敵なことだろうとウェンディは思った。
 地表まで残り数メートル。ウェンディはそっと目を閉じた。
 その時、強い衝撃がウェンディの右腕に走った。
「飛べるよ」
 お日様のように温かい声だった。顔を上げると、太陽を背になのはが微笑んでいた。杖を持ちかえる暇もなかったのだろう。なのはは矢が刺さったままの右腕で、ウェンディの全体重を支えていた。
「あなたが望むなら、きっとやり直せる。また飛べるよ」
 矢傷から溢れた鮮血が、バリアジャケットの袖を赤く染め、ウェンディの顔に滴り落ちてくる。
 ウェンディでさえ腕がちぎれると思ったほどの衝撃だ。想像を絶する激痛が、なのはを襲っているだろう。
 その痛みを覚悟でなのははウェンディを助け、あまつさえ笑顔を向けてくれているのだ。たくさんの人と仲間を傷つけた犯罪者を。
 優しいなのはの微笑みを見つめ返し、ウェンディは素直な感想を口にした。
「あんた……やっぱりいかれてるっスよ」
 草むらに横たわったウェンディが、穏やかな寝息を立てている。助かって気が抜けたのと、魔力ダメージの影響だろう。
 なのはは念の為、ウェンディをバインドで拘束すると、アースラに戦闘終了の連絡を入れ、身柄の確保を頼む。
 落ちていくウェンディを見た時、なのはは間に合わないと思った。
 だが、ウェンディが空に向かって手を伸ばすのを見て知ってしまった。この子はなのはと同じで空に魅せられているんだと。
 気がつくと、後のことなど何も考えず、なのははウェンディを助けていた。
 どうにかウェンディを助けられはしたものの、代償は大きかった。矢傷がさらに広がり大量の血が溢れだしている。
 なのはは右腕に刺さった矢をつかむと、一息に引き抜く。矢尻についた返しが傷口を抉り、焼けつくような痛みが襲ってくる。喉まで出かかった悲鳴を、歯を食いしばって押しR。
 なのはは呼吸を落ち着けると、軽く右手の指を動かした。傷は深くとも、幸い神経に傷はつかなかったようだ。ただしこの腕では、大威力砲撃は使えない。得意技が封じられ、なのはの戦闘力は半減している。
 包帯代わりにバインドで傷口を絞め上げ、止血を行う。
「いかれてるか」
 ウェンディの最後の言葉を思い出し、なのははため息をついた。
「知ってるよ」
 サジタリアスのオブジェに矢を戻すと、なのはは右腕をだらりと下げたまま歩きだした。
「ライトニングプラズマ!」
 吹き飛ばされたスバルとティアナが壁をぶち破り、床の上を激しく転がる。
 空から叩き落されてからも、スバルたちの戦いは続いていた。しかし、連携と幻術を駆使しても、速度の差を埋めることはできなかった。
 スバルはぼんやりとした頭で、周囲の状況を確認する。
 埃っぽい空気と薄暗い空間。どうやら廃ビルの中のようだ。吹き抜け構造で広さも高さもそれなりにある。
 満身創痍のスバルが、壁に手をついて立ち上がる。しかし、ティアナは動かない。
 仲間の様子を窺うと、完全に気を失っていた。無理もないと思う。戦闘機人のスバルでさえ、ようやく意識を保っていられる損傷だ。生身のティアナでは、むしろ死んでいないのが不思議なくらいだ。
「さすがだな、タイプゼロセカンド。まだ動けたか」
 黄金の輝きが薄闇を照らしながら近づいてくる。
 仮にスバルが五体満足だったとしても、勝ち目はないし、逃げることもできない。
(私が投降すれば、ティアだけでも助かるかな?)
 弱った心が諦めて楽になれと囁きかける。しかし、スバルは頭を振って甘い誘惑を断ち切る。そんな不確実な願望にすがるわけにはいかない。
 小さい頃のスバルは、臆病で泣いてばかりいた。姉が格闘技の練習しているのを見つめながら、戦いで人を傷つけるのが怖くて、嫌でしょうがなかった。
 でも、災害現場からなのはによって助けだされ、人を守れる力もあるのだと知った。それからは、誰かを守れる存在になるために一生懸命走り続けてきた。
 スバルの後ろにはティアナがいる。大切な友人一人守れずして、夢を叶えるなんてできるはずがない。例え無駄なあがきだとしても、最後の最後まで戦い抜いてみせる。

62 :
 マッハキャリバーのタイヤが回転し、スバルが走り出す。ソニックムーブによって加速された拳を繰り出す。
「遅いんだよ!」
 ノーヴェの回し蹴りが、スバルのこめかみに炸裂する。
 やはり速度が足りない。カートリッジシステムが搭載されていない量産型ストラーダでは、エリオのように魔法の重ねがけをすることもできない。
 スバルはそれでも果敢に向かっていくが、攻撃がことごとく空を切る。
「お前……?」
 ノーヴェが避けたわけではない。そもそも狙っている方向が見当違いなのだ。スバルのぼやけた眼差しに、ノーヴェは気がついた。
「目が見えてないのか。だったら、大人しく寝てろ!」
 スバルはティアナの隣まで殴り飛ばされる。ライトニングプラズマはスバルの内部機構にもかなりのダメージを与えていた。
 目は霞み、耳もろくに音を拾ってくれない。口の中を派手に切ったらしく、溢れた血の味とにおいのせいで、味覚も嗅覚もあまり機能していない。ダメージを受け過ぎた体は、痺れたようになってほとんど感覚がなくなっている。
 マッハキャリバーが動作をサポートしてくれるが、外界から刺激を受け取れないスバルでは対応しきれない。
 見えない目でスバルは、ティアナの顔を探す。
(ティアは本当にすごいね)
 スバルがティアナを尊敬しているところは、諦めない心だ。どんな逆境でも負けん気の強さで立ち上ってくる。例え今日負けたとしても、明日勝つために頑張れる。
 ただ強いだけだったら、スバルもそこまで憧れはしなかっただろう。ティアナの心はとても繊細で、ともすればあっさり折れそうに思える時もある。鋼の様な心ではない。しなやかで強靭、繊細、と相反する要素を兼ね備えている。
 そんな強さに憧れて、スバルはティアナと一緒にいる。いつか自分も同じくらい心が強くなれるんじゃないかと信じて。
(お願い、ティア。私に勇気を分けて)
 大切な友人を守りたい。その一心でスバルは限界を超えた体で立ち上がる。
 不意にスバルの視界に満天の星空が映った。過去の記憶でも再現されているのかと思ったが、星空はスバルの体内から感じられた。
(違う。これは宇宙だ)
 訓練中に聖闘士たちから教えられたことがある。コスモの正体は、人間の持つ六感を超えた先にある第七感だと。故に他の感覚を封じれば一時的にコスモを増大させることができる。
(これがコスモ!)
 五感を封じられたことで、スバルのコスモが一時的に高まり覚醒したのだ。覚醒さえできれば、コスモも魔法も基本的な使い方は変わらない。
「燃え上がれ、私のコスモ!」
 スバルの闘志に呼応して、体の奥底から新たな力が湧き出してくる。
 スバルの前に巨大なコスモが君臨している。ノーヴェのコスモだ。弱った視覚を、コスモが補ってくれている。
「リボルバーキャノン!」
「何!?」
 スバルの右腕が、ノーヴェを捉える。コスモで加速された肉体を、魔法でさらに加速する。スバルはさらなる速さを手に入れていた。
 スバルとノーヴェの腕と足が激しくぶつかり合う。
 ノーヴェは最初の混乱から立ち直ると、口の端を歪めた。
「やっぱり遅ぇ!」
 スバルの拳が軽々と受け止められる。
(まだ届かない。もうちょっとなのに)
 いくら魔法で底上げしても、目覚めたばかりのコスモで、セブンセンシズに敵うわけがないのだ。
 
 激しい激突音の連続に、ティアナの意識は、まどろみの中から引き上げられる。
 足をひねったらしく、動くことはできそうにない。どうにか上体を起こすと、スバルとノーヴェが格闘戦を繰り広げていた。
 スバルの動きはノーヴェにこそ及ばないが、前より格段に速くなっている。この状況では、コスモに目覚めたとしか考えられない。
(まったく、あんたは……)
 いつもは頼りないくせに、ここ一番では才能を開花させる。妬ましいと感じたことも一度や二度ではない。
「でも、負けるつもりはないんだからね」
 ティアナは自分が凡人だと理解している。ならば、凡人にしかできない戦い方をすればいい。スバルが前衛を務めてくれるならば、ティアナはまだ戦える。
 ティアナはクロスミラージュを構える。弾丸の種類は弾速のもっとも速いものを選択する。威力は二の次だ。
 目ではスバルとノーヴェの動きは追えないにも関わらず、ティアナは躊躇わず弾丸を発射する。

63 :
 ノーヴェの足首にティアナの弾丸が命中する。
「なっ!?」
 ノーヴェが回避行動を取るが、腕に足に次々と弾丸が命中していく。
「凡人舐めんじゃないわよ。あんたの動き、単調すぎるのよ!」
 クロスミラージュを連射しながら、ティアナが叫ぶ。
 ノーヴェは光速戦闘に対応すべく、レオの黄金聖闘士アイオリアの戦闘パターンを取り入れている。
 性別、体格、戦い方、あらゆる要素が異なる戦闘パターンを無理やり融合させた結果、ノーヴェの動きはバリエーションを欠いている。
 これまでの戦闘でデータは充分取れた。ならば、どんなに速く動いても、ティアナには先が読める。
「光速見切る凡人がいるかっ!」
 ノーヴェは思わず言い返していた。
「スバル、クロスシフトB」
「さっすが、ティア!」
 スバルが俄然勢いづき、ティアナの射撃で動きの鈍ったノーヴェに突撃していく。
 ティアナはノーヴェだけでなく、スバルの動きまで完全に予測して射撃を行っていた。訓練校からの長い付き合いだ。どう動くかなんて、熟知している。
(ティア、今ちょっとかすったよ!?)
 やや泣きの入った声でスバルが訴える。
(うっさい! こっちはあんたのトップスピードに合わせてんだから、ちょっとでもスピード落としたら当たるからね!)
 スバルの耳の不調を察し、ティアナが念話を送る。
(そんな〜!)
 友を信じているが、さすがに体のすぐそばを、時には脇の下やら足の間やらを弾丸が通り抜けていくのは心臓に悪い。
 言い合いながら、スバルたちは戦闘を続行する。
 二人は知らない。互いの背中を追いかけていることを。立ち位置は違っても、二人は最高のパートナーだった。
 スバルとティアナの二人がかりの攻めに、ノーヴェは追い詰められていく。ノーヴェが殴りかかろうとするが、ティアナに軸足を銃撃され、大きくつんのめる。
 空振りしたノーヴェの右腕をスバルが抱え込み、そのまま関節を極めようとする。
 ノーヴェの右腕の先にスフィアが生成される。スフィアから放たれた弾丸が命中し、最後の気力を刈り取られたティアナの腕が地面に落ちる。
「しまった!」
 まさかこの局面で射撃を使うとは思っていなかった。
 スバルの動揺を見逃さず、ノーヴェが右腕を戻し後方に跳び退る。
 最初から狙っていたのか、あるいは偶然を利用したか。どちらにせよ形勢はスバルたちに一気に不利に傾いていく。
「ライトニングプラズマ!」
 迫りくるレオの技に、スバルの両腕が咄嗟に十三の星の軌跡を描く。訓練の合間に、戯れで教えてもらった技。あの時はできなかったが、今ならできるはずだ。
「ペガサス流星拳!」
 スバルの拳が流星となって、ノーヴェの蹴りと激突する。
「前にペガサスに言われた言葉を返すぜ。劣化コピーが通用するか!」
 流星拳が打ち砕かれ、ライトニングプラズマがスバルを滅多打ちにする。
 暗転しかける意識をスバルは根性でつなぎとめる。だが、次に必殺技を使われたらもう耐えられない。
 付け焼刃の流星拳では役に立たない。最後に頼れるのは、これまでの努力と身につけてきた技能だけ。
 一撃必倒、それこそがスバルの戦い方だ。
(相手が一億発の蹴りを放つなら、こっちは一億発分の威力を込めた一撃を放つ!)
 リボルバーナックルが唸りを上げて回転し、残っていたカートリッジを全てロードする。さらにありたっけのコスモを右腕に集中する。
 集められた力の大きさに、右腕が一回り膨れ上がる。この一撃を放てば、おそらくスバルの右腕は粉々に吹き飛ぶだろう。それでも構わない。自分と仲間を守れるなら、腕の一本くらい安いものだ。
 ノーヴェがライトニングプラズマの態勢に入る。スバルはそれより刹那早く踏み込んだ。

64 :
「一撃必倒」
「ライトニング――」
 スバルの強烈な踏み込みに耐えられず、マッハキャリバーの車輪がはじけ飛ぶ。
『Go buddy!』
 最後の力を振り絞り、マッハキャリバーがスバルの姿勢を支えてくれていた。
「プラズマ!」
 黄金の蹴りが放たれる。正面から迫る無数の光は、まるで横薙ぎの豪雨のようだった。
「ディバインバスターッ!!」
 滅びの雨を吹き飛ばし、空色の光が建物内を満たした。
 光が晴れた後、床の上には倒れたノーヴェと、黄金の獅子のオブジェが鎮座していた。
 勝利を収めたものの、スバルに高揚感はない。
「……やっちゃったなぁ」
 右肘から先の感覚が完全に消失している。怖くて直視できないが、さぞかし酷いことになっているだろう。
 すぐに襲ってくるだろう激痛に備えて、スバルは目を閉じて歯を食いしばった。
 しかし、何時まで経っても激痛はやってこない。スバルは恐る恐る目を開けた。
 右肘の先は、多少出血しているものの、ちゃんと腕がついていた。
「あれ?」
 感覚がなかったのは、麻痺していただけらしい。痺れと共に徐々に感覚が戻ってくる。
 スバルは足元を見た。無事な腕とは対照的に、粉々になったリボルバーナックルの破片が散らばっていた。
 ディバインバスターの反動を、ほとんど肩代わりしてくれたのだろう。でなければ、腕が無事な理由の説明がつかないし、頑丈なリボルバーナックルがここまで壊れるはずがない。
「マッハキャリバー……あなたがやったの?」
『No』
 マッハキャリバーもスバルの姿勢制御に手いっぱいで、スバルの腕の保護にまで気を配る余裕はなかった。
 かと言って、知恵を持たぬアームドデバイスが独自の判断を下したはずもない。
 スバルはそっとリボルバーナックルの破片に触れる。不意に脳裏に懐かしい人の面影が蘇った。
「母さん?」
 リボルバーナックルは亡き母の形見だ。
「もしかして、母さんが守ってくれたの?」
 スバルの問いに答えるように、ビル内を一陣の風が吹いた。
 リボルバーナックルの破片を抱きしめ、スバルは静かに嗚咽を漏らした。

65 :
以上で投下終了です。
それでは、また。

66 :
お久しぶりです
20時辺りに羽生蛇村調査報告書を投下します

67 :
予告時間より遅れてしまい、すいませんでした

※注意
このSSには鬱要素が含まれており、登場キャラクター達が酷い目に遭う展開も有り得ます。
そのことを踏まえて、よろしくお願いします。

では投下します

68 :
ウェンディ
合石岳/羽生蛇鉱山
初日/7時47分42秒

穴に落ちてからどれくらい経っただろう。
真っ暗闇の中、明かりになるデバイスを見つけた上、トンネルを発見して自分はツいていると大喜びしたことが昔のことのように感じられる。
「………ここ、さっきも通ったっスね」
『第六通洞』という文字がトンネルの壁に大きく書かれていた。ウェンディには読めないが、何回も見たものだから形だけでも覚えてしまった。
それを誰のものかも分からないデバイスの放つ光で照らしながら、ウェンディは疲弊仕切った様子で溜め息を吐いた。
デバイスを持っていない手には、血で汚れたネイルハンマーを握っている。
穴に落ちてからどれくらい経っただろうか。あれからウェンディは、一向に外に出れず、闇に包まれたかび臭い地下を延々と歩き続けていた。
なんでこんな目に、と嘆いた時もあったが仮に、もしあの穴の中にデバイスが無ければ、ウェンディは穴からも出れず闇の中で正気を失っていたかもしれない。
それだけでも考えてみればかなり幸運なことと言えるかもしれないが、ウェンディにとってそんなものは今はもうどうでもよかった。
歩き続けてわかったが、ここはどうやら廃棄された炭鉱施設らしい。
ここまでトロッコや採掘場、事務所らしき部屋などがあり、レールが敷かれた坑道は蟻の巣のように地下に広がっている。
初めは、いずれ外に出られるだろうと意気揚々とその中を歩き回っていたのだが、その考えは非常に甘かったことを思い知らされた。
迷路のように広がっている上に完全な闇に閉ざされているトンネルの中では方向感覚が曖昧になり、同じような場所を何度も何度も回ってしまうのだ。

69 :
―――げら―げら―げら―げら―――
不意に闇の向こうから笑い声が聞こえてきた。不気味な笑い声はトンネル内を反響する。
あいつらだ。
滅入った顔をして、ウェンディは踵を返してトンネルを後戻りした。
「………なんなんスか、もぉー」
歩きながら、思わず愚痴が漏れる。
「ISも通信も使えないし身体は思うように動かないし変なヤツらはうろついてるし」
『変なヤツら』とは、現地人と見られる人々……いや人では無かった。血や土に汚れた衣服に、蒼白の顔、目から血の涙を流しているその姿は、化け物と呼ぶに相応しい外見をしている。
満面の笑みを浮かべて暗闇から現れたそれに初めて出会った時、ウェンディは絶叫してその場から逃げ出した。
しかしそれも、迷う中で何度も何度も出くわしている内に、今ではすっかり慣れてしまったが。
奴等はこの炭鉱の中に複数人いた。そして懐中電灯と各々の凶器を手に、飽きずに坑道を徘徊し続けている。
そして奴等はウェンディと出会う度、ウェンディを見つける度に凶器を振りかざして襲いかかってきた。
鈍器を持つ者がほとんどだが、中には銃器、管理局により禁止されている質量兵器を手にしている者もいる。
(質量兵器だなんて、管理外世界って言ってもやりにくいったらありゃしないっスね……)
しかし、ウェンディも襲われるだけでは済ますわけにもいかない。通洞に落ちていたネイルハンマーを拾い、それで奴等に抵抗して何度も殴り殺した。
間近で、しかも原始的な方法で生物を殺めたのは初めてだ。エリアルボードによる爆撃とは全く違う、骨を砕いて肉にめり込む金槌の感覚が気色悪かった。
しかし、奴等は幾ら打撃を加えようが執拗にとどめを刺そうが、暫くすると何事も無かったかのように再び動き出して、また徘徊を始めるのだ。
信じられないことに、奴等は不死だった。これでは終わりがない。

70 :
今では体力の浪費を防ぐため、奴等と出くわしても戦闘になることは避けて、ひたすら逃げて隠れることに徹している。
「ほんと、気が滅入るっスよ……おまけに便利スけど幻覚は見るし!!」
ISが使えなくなった代わりに突如授けられた、頭痛と共に奴等の視界を盗み見る能力。
実際それは奴等との戦闘回避等で大いに役立ってはいる。
だが同時にそれは、既に自分もどうにかなってしまったのではないかという不安を、ウェンディに抱かせた。
魔力も何も作用していないのに他人と感覚器を共有する能力を授けられるなんて、オカルトそのものだ。とにかく普通じゃない。
もしかしたら、自分も奴等のようになりつつあるんじゃないか……そういう考えがふと脳裏をよぎる。
(いやいやいやいや、アタシは血の涙なんか流してないし、あんな頭がトんでるわけでもないっスよ!)
心の中で不安を必死に打ち消しながら、坑道内に放棄されたトロッコの影に隠れた。座り込んで、背中を錆びきったトロッコに預ける。
実際のところ、いつまでもこの廃炭鉱から出れずにこんなことを繰り返していれば、いずれどうなるか分かったものではない。そう思うと、ウェンディの胸の内には更に重い不安が生まれるのであった。
(……外に続く道はあるみたいなんスけどね)
目をつぶり、意識を集中すると、それに伴って鋭い頭痛が脳をいたく刺激する。
しかし、それにもだいぶ慣れたもので、ほとばしる頭痛に対するウェンディの反応は、眉間に皺を寄せる程度になっていた。
―――てぇ んにぃ いおぉわ ぁす ぅ―――
トンネル内を懐中電灯を片手に錆びたつるはしを持ち歩きながら何やら呟いている視界。
恐らく先程の笑い声の主だろう。無闇に笑って何が楽しいのか、化け物達は愉快そうにこの暗黒に包まれた炭鉱内を徘徊し続けている。
ウェンディは息を押し殺して、そいつが自分のいるトロッコを通り過ぎてくれるのを待った。

71 :
「……………………」
待ちながら、何となしに意識の方向を変えて、別の『奴等』の視界を盗み見る。
―――ひ はぁは ぁ ひぃ は ぁ―――
不規則な呼吸を繰り返している誰かの視界。見えているのは白濁色の霧に包まれた廃炭鉱……即ち、地上の景色だった。
しかし地上に於いても、あの化け物達がうろついていることに変わりは無いようだ。『そいつ』の視界から、霧の向こうで覚束無い足取りで徘徊している人影が何体か確認できる。
(外に出ても同じっスか……。一体なんなんスか?この世界は)
改めてそう確認し、やや落胆する。だが諦めてこのカビ臭い地下空間で大人しく朽ち果てる気など毛頭無い。
それにノーヴェやクアットロ、ゼストにルーテシアにアギトもどこかにいるに違いない。いち早く合流して、早くこの地から去りたい。
視界を切り替えて、どこかに脱出口が無いか探していく。
(ノーヴェやクア姉はもちろん、ルーお嬢様とかゼストさんも、アイツらに殺されるとは思えないし、大丈夫っスよね)
今のところ、この能力が他の仲間達を捉えたことは無く、それどころか現地の人間にすら引っかかったことは無い。
要するに現時点では、少なくともこの辺りは自分以外に化け物達しかいないということになる。
(そう考えると余計に落ち込むだけっスね…………ん?)
頭を巡らせながら視界を切り替えていると、気になるものが映り込んだ。
―――ぜ はぁ ぜぇは あぁ ぜぇ はぁ―――
猟銃を手に、切らしたような呼吸をしている、奴等と思わしき誰かの視界。自分のいる場所とそんなに離れていないところにいるようだ。
やはりこの坑内のどこかだろう、行き止まりとなっている薄暗いトンネルの奥が、鉄柵で仕切られていた。

72 :
その先が唐突に途切れて、鉄柵はそこに設けられている。
ウェンディの目を引いたのは、鉄柵の向こう。そこに地面は無く四角い穴が開いており、天井には滑車と太いワイヤーが垂らされ、壁に鉄骨が組まれていた。
(……エレベーターかなんかスかね?)
見たところ、エレベーターのようだ。
そう認識してからすぐに、もしかしたらそこから外に出られるかもしれない、という考えが頭をよぎる。
(……なんとなく、あっちの方だったっスかね?)
意識を向けた方向、能力で捉えた化け物がいるであろう位置を感覚的に察知した。
もちろん超感覚的なものだから、確かな方向ではないかもしれないし頼れる情報では無い。
だがそこに僅かでも希望が転がっているなら、行くしかないだろう。
能力を解いて、トロッコから顔を覗かせる。あの男はもうとっくにウェンディの隠れているトロッコを通り過ぎていたようだ。坑道の闇の向こうに懐中電灯の灯りと、僅かに男の背中が見えた。
ウェンディはもう一度、能力を使ってエレベーターの位置を確認した。そして静かに立ち上がり、そのエレベーターがあるらしき方向を目指し、歩き始めた。

――――――――――――――――――――――――――

曲がり角や梯子、分岐点がある度に能力を使って位置を確認しながら歩き続け、しばらく経った。
そして今、ウェンディの目の前には、能力で盗み見た例のエレベーターがあった。あの視界の主はここにいない。どうやらエレベーターで上がった上の階層にいるらしい。
(……意外と信用できるもんなんスね、この能力)
予想よりも簡単にたどり着くことが出来て、やや拍子抜けしながらエレベーターに歩み寄る。鉄柵で仕切られたエレベーターはすすけており、長らく使われていないように見えた。
鉄柵を除けて、中に入り、デバイスの放つ光で照らした。エレベーターは鉄骨が組み合わさっただけのような簡単な作りで、その鉄骨の柱にスイッチが取り付けてあった。
正直、どう見ても稼働しているようには見えないが、一応そのスイッチを押してみた。
かちっ
案の定、スイッチが小気味よい音が鳴らしただけで、エレベーターの方は待ってみてもうんともすんとも言わない。
「ちっ……そこまで甘くないっスか」
苦々しい表情で思わず舌打ち、エレベーターから出る。
落胆しながら踵を返してその場から離れようとした、その時。

73 :
ダァ……ァ……ン
何かが聞こえた。
(なんスか今の……銃声?)
ダ……ァァ……ン
銃声のような音は、坑道内を微かに反響しながら飛んできた。それからも数回、音は連続してウェンディの耳に届いた。
耳を澄ますと、音はエレベーターより上から聞こえてきた。どうやら地上から響いているらしい。
(どうしたんスかね)
不審に思いながら地上の様子を探ろうと、目をつぶって意識を集中、銃声を響かせている主の視界を探る。
―――へは ぁ はぁ は ぁ はぁ あはぁ―――
どこかの小屋に乗っているのだろうか。廃炭鉱を見渡せる見晴らしのいい場所で、化け物の男が猟銃を撃ち続けている。
―――ダン、ダン、ダン―――
男は何者かを狙い撃っていた。
男がいる場所と対岸にある、窓枠や扉すらない穴だらけで二階建ての荒廃した鉄筋コンクリートの建物。
男はそこに向かってひたすら猟銃を撃ち続けていた。
―――ダァン―――
その時、建物の二階のぽっかりと空いた窓から、発砲音が鳴り響いた。
銃声の直後、男の視界が大きく揺らいだ。首に被弾したようで、視界の真下からは大量の血が爆発したように飛び散る。
男は呻き声も上げられずにそのまま倒れ伏して、やがてその視界は暗転していった。やはり何者かが奴等と戦闘をしているようだ。
(一体誰が………)
男を撃った誰かがいる方向に意識を集中させる。頭痛と共に視界は切り替わった。
―――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ―――
あの二階建ての建物の中にいるらしく、視界の主は息を切らしながら、長い間打ち捨てられてボロボロになった階段を駆け下りていた。
足取りはしっかりとしており、その手には猟銃が握られている。整った呼吸に、機敏な動き、血の通った浅黒い腕からして、奴等とは違う。
恐らく、人間だ。
(ちゃんと……ちゃんといたんスね、普通の人間が)
化け物達以外に、ちゃんと人間がいる。
その事実だけでも、長時間地下空間で化け物と共に閉じ込められていたウェンディを安堵させた。
――んは あ ぁぁ――
とその時、ふと背後から気配を感じ、ウェンディは思わず目を開けて後ろを振り返った。

74 :
支援

75 :
すいません。いつも投稿している携帯が規制かけられたので、PCから投下を続行します

76 :
PCからも上手くいかないのでやっぱり避難所に投下します。
レス無駄に消費して申し訳ありませんでした

77 :
「か ぁがや ぁけ ぇ ぇた もぅ うぅ」
そこには化け物がいた。その手に握られた懐中電灯とつるはしに、呟いている口振りからすると、先程トロッコに隠れてやり過ごしたあの男のようだ。
ウェンディと目が合った途端、血涙に濡れた蒼白な顔を愉快そうに歪め、錆び付いたつるはしを持ち上げてみせた。
「……ネチっこいスね、ホントに」
溜め息を吐いてから、ウェンディは笑う男と対照的に恨めしそうな目で睨み付け、持っている金槌を構える。
「ひい゛ ぃと ぉつ ぅ や゛ぁ !!」
男は叫びながらつるはしを振り上げて躍り掛かってきた。ウェンディは振り下ろされるつるはしを避けるとその勢いで身体を回転させる。
そしてつるはしを振り下ろしてよろめきながら通り過ぎていく男の後頭部を目掛けて、裏拳のような形で金槌を叩き込んだ。
ごきっという鈍い音と共に、手に頭蓋骨が砕かれる感触が伝わる。
(やっぱ気持ち悪いっスね、この感触!)
ウェンディが未だ馴れない感覚に気分を悪くしている一方で、男はそのまま前のめりになって地面に倒れる。
しかしまだ余力があるようで、うつ伏せから仰向けになると、再び立ち上がろうとする。
ウェンディは倒れた男にすかさず馬乗りになり、とどめの一撃を振り上げる。その時、男は血に濡れた目をウェンディに向けて、余裕からか悦からか、歯茎を剥き出しにして笑って見せた。
「ッ……キモいんスよっ!!!」
男の気持ち悪い笑顔を見て、ウェンディは苛立ちを爆発させながら、その顔面に渾身の一撃を叩き込む。
べきょっ、という音と共に金槌の先が男の額にめり込み、呼応するように男の両目が飛び出かけた。男は手足を痙攣させて、そのまま動かなくなった。
ウェンディは息を切らしながら金槌を持ち直して黙って立ち上がり、男から離れた。
程なくして男は脊髄反射のような感情の無い動作でうつ伏せになり、土下座をしているような体勢に入った。
……まただ。
絶命してからするこの動作にどんな意味があるのかは分からないが、奴等化け物は一度Rと、決まってこの体勢になり、
暫くすると何事も無かったかのようにまた復活をするのだ。
しかもこの体勢に入った奴等は鉄塊のように異常に硬くなり、その場からびくともしなくなる。
その姿はまるでさながらサナギのようだった。

78 :
ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ
『硬化』した男を呆然と見ていると突然、今度はどこからともなく、けたたましい音が響き渡った。
「な、なんスか!?」
驚いて思わず声をあげる。
何かの警告音のようだ。取り敢えず目をつむり意識を集中して、音の原因を探る。そしてそれはすぐに分かった。
先程上で奴等と撃ち合っていた、あの人間だ。
どこかの施設にいるらしく、目の前には赤いボタンがあった。どうやらそれを押したことでこのサイレンを鳴らしたようだ。
その行動の意図は分からないが、能力を通して見たところサイレンは坑内中に鳴り響いているようだ。
他の化け物達に意識を向けると、どの化け物達もサイレンの音に反応して今までの行動から外れた行動を取り始めている。
もしかしたら脱出の糸口が掴めるかもしれない、そう思ってウェンディは一人一人の視界を注意深く観察した。
―――なあ ぁ あ ぁぁ に ぃ い―――
音を辿るように、坑内を歩いている者。
―――ひっ はぁ あ はっはぁ ああは ぁ―――
音に反応してただ周りを見回すだけで、その場から動かない者。奴等のサイレンに対する動きは様々だが、その動向は大まかに動く者と動かない者で分けられていた。
(…………!)
―――えぇ ひっえひぃっ ひひ ぃひ ひひ ひ ひぃっ ひ ぃひ―――
奴等の視界の中に、大量のスイッチやランプが並んでいる機械が映っているものがあった。
ウェンディはその視界に集中し、見えるものを観察する。暗闇の中、化け物の照らす懐中電灯に浮き上がっているそれは、何かの制御盤のようなものだろうか。
もしかしたらエレベーターを稼働する電源があるかもしれない。
(もしかして、また当たりっスか?)
先程のエレベーターと同じく、視界から得た情報に確証は無い。
しかし暗黒に包まれた穴の中で明かりとなるデバイスを見つけて、何時間もさまよったと言えど運良くエレベーターを見つけ、
さらには偶然にも他の生存者が鳴らしたサイレンによって電源の制御盤らしきものを見つけたのだ。
まるで何かに導かれているかのように。
(……やっぱツイてるっスよ、あたし)
一連の出来事からウェンディは、その制御盤がこの錆び付いたエレベーターを動かしてくれると確証していた。
なにより能力で見た機械に付属しているランプは、赤や緑色に光っている。それは少なくとも電源は生きているという証拠だった。
「……行くっスかね」
そう呟き、ウェンディは一抹の確かな希望を胸に、制御盤を目指して、再び行動を開始した。

79 :
以上です

80 :
仕事早いですね……
代理投下本当にありがとうございます

81 :
投下乙
トライガンの人も来てたし
ブラスレイターの人も来ないかな

82 :
R-TYPEΛ氏とEXECUTOR氏最近来てないですね

83 :
何か避難所に書き込みあったけどここって余所の投稿サイトに晒しても良いんだっけ?
何かクラナガンとか別サイトで見覚えあるんだけど

84 :
そいつもしかして理想郷追い出された奴なんじゃないか?

85 :
なのはもしくはなのはキャラが他作品世界でTUEEEするクロスって何かありませんか?
長編で

86 :
ロクゼロとR-TYPEΛが撤退だってよ

87 :
ロクゼロはどうでもいいが、r-typeは残念だな

88 :
お久しぶりです。本日23時半より『リリカル星矢StrikerS』第十話投下します。

89 :
それでは時間になりましたので、投下開始します。
   第十話 聖剣対魔剣! 燃え上がる業火
 研究室の中で、スカリエッティは複数のモニターを前に座っていた。
 映し出されている映像は、彼の最高傑作ゾディアック・ナンバーズが次々と敗北していく姿。しかし、スカリエッティは動揺を感じさせない冷徹な眼差しで、モニターをじっと観察していた。
「トーレとクアットロの様子は?」
 スカリエッティは通信画面越しにウーノに話しかける。
『現在、敵の追跡を受け、帰還がままならない状況です。通信をつなぎますか?』
 スカリエッティが頷くと、画面に新たにトーレが映し出される。姿を消して逃走しているクアットロは音声のみだ。
「二人とも、問題は?」
『機械に損傷はありません。正常に作動しています』
 トーレが掠れた声で答えた。
 自制心の強いトーレが疲労を隠し切れないのだから、フェイトの一撃が相当に堪えたのだろう。
 トーレがタウラスの聖衣を失わずに済んだのは、偶然によるところが大きい。グレートホーン・インパルスで突進の勢いを削いだのは確かだが、もしフェイトが腹部ではなく機械のある胸部を狙っていたら、あるいはトーレの体格がもっと小柄だったら機械は砕かれていた。
『申し訳ありません、ドクター。こっちは積尸気冥界波が使えなくなってしまいました。戻り次第、修理をお願いします』
 廬山昇龍覇にやられてからというもの、機械が不具合を起こしていた。直撃を避けてもこれだけの影響を及ぼすのだから、ドラゴンの奥義がいかに恐ろしいかよくわかる。
「積尸気冥界波は扱いの難しい特殊な技だからね。聖衣が無事だっただけでも、よしとしよう」
『乙女の柔肌に痣をつけるなんて、あの男、次の機会には八つ裂きにして差し上げますわ!』
 敗北したのが余程屈辱だったのだろう。クアットロは憤懣やるかたない様子だ。
 スカリエッティは二人との通信を終えると、ウーノに指示を出す。
「ガジェットの発進用意をしてくれ」
『妹たちの撤退支援ですね?』
「そうだ。ここの防衛に一部残して、残りは支援ついでに適当な町でも襲わせてくれ」
『わかりました』
 アジトの地下で、ずっと眠っていた兵器群に光が灯っていく。
 対時空管理局用に数だけは揃えている。AMFの意味がない聖闘士たちが相手でも、時間稼ぎくらいなら出来るだろう。
 それでも修理の時間まで確保できるかどうかは怪しい。この場所にも徐々に敵が接近してきているのだから。
 スカリエッティの顔に歪な笑みが浮かんだ。
「ああ、後少しだ。もうじき私の夢が叶う」
 事ここに至っても、スカリエッティは自らの夢の達成を微塵も疑っていなかった。
 広い湖の上で、シグナムは敵を迎え撃つべく待機していた。
「すまないな、アギト。不満はあるだろうが、まずはこちらの任務に付き合ってくれ」
 シグナムは隣のアギトに話しかける。
 本来ならドゥーエの対処をするはずだったのだが、今のところ所在が確認されていない。
「いないもんはしょうがねぇ。こいつを倒してあぶり出してやるぜ」
 シグナムとアギトがユニゾンする。シグナムの騎士服の上着が消失し、背中に四枚の炎の羽が出現する。
「あなたが、わたしの相手ですか」
 カプリコーンの聖衣をまとったディードが、湖の端に到達する。ディードの両手には、赤い光の刀身を持つ双剣が握られていた。前回の戦闘では使われなかったディードの固有武装ツインブレイズだ。
「そうだ」
 頷き、シグナムが左手を開く。掌の上には、ゼストの形見の指輪が乗せられていた。
『旦那』
「騎士ゼスト、あなたの魂をお借りする」
 指輪が輝き、形を変える。柄を縮め、まるで短刀のような姿になったゼストの槍を、シグナムは逆手に構える。
「エクスカリバー!」
 ディードがツインブレイズを使い聖剣を放つ。

90 :
 それよりわずかに早く、ゼストの槍がフルドライブを発動させる。急加速したシグナムの真横を走り抜けた斬撃が、湖を割り大量の水しぶきを上げる。
 エクスカリバーの威力を目の当たりにしながら、シグナムは不可解そうに眉を潜めた。
「一つ尋ねるが、エクスカリバーは手刀を使って放つ技ではなかったか?」
 カプリコーンの黄金聖闘士は四肢を刃のように研ぎ澄ませる。中でも手刀は、聖剣の名にふさわしい切れ味を誇る。
「ドラゴンに手刀の切れ味が悪いと指摘されましたので、武器で補わせていただきました」
「…………剣を使ったのは、それだけの理由か?」
「はい。どのような形であれ、技が使えるなら問題ないでしょう」
「ほう」
 口調こそ穏やかだが、シグナムの瞳が獲物を見つけた猛禽のように鋭くなる。
『シ、シグナム?』
 ユニゾンしているアギトが、シグナムの変化を感じ取り、やや怯えた声を出す。
「実はな、私はお前の相手はドラゴンに譲るべきかと思っていたんだ」
 カプリコーンの黄金聖闘士シュラは、強大な敵として青銅聖闘士たちの前に立ちはだかった。しかし、紫龍の覚悟に打たれたシュラは最後に改心し、諸共に死ぬはずだった紫龍を助け、たった一人で死んでいった。紫龍にとって恩義のある相手だ。
「だが、私にもお前と戦う理由ができた。お前は聖闘士でも騎士でもない。お前に聖剣を扱う資格はない」
「私の技に不満がおありですか?」
「大ありだ!」
 レヴァンティンがカートリッジをロードし、刀身が炎に包まれる。あたかもシグナムの怒りを体現するかのように。
 シュラがエクスカリバーをいかに誇りに思っていたか、紫龍の話だけで察するに余りある。
 武器も技もただの道具としか考えられない輩に、その誇りが弄ばれている。聖闘士と騎士の違いはあれど、同じく剣に誇りを持つ者として、シグナムに見過ごすことなどできない。
「貴様のまとう黄金聖衣、早々に聖闘士たちに返してもらおう」
 犯罪者の手に落ちた聖剣と、正義の騎士が振るう炎の魔剣が激突する。
 安全装置を解除したゼストの槍の性能と、ユニゾンによる負担の分担によって、シグナムは光速に限りなく近い速度をだせるようになっていた。
 最高速度はフェイト、なのは、キャロの支援を受けたエリオにわずかに劣る。だが、機動力では、なのはを抜いて三番手に位置し、攻撃と防御、速度のバランスはもっとも取れている。
 常人には視認できない速度で、二人は斬り結ぶ。レヴァンティンの炎とツインブレイズの光だけが長い尾を残し、まるで湖の上で炎と光の竜が暴れ狂っているかのようだった。
 シグナムはツインブレイズを的確に捌いていく。時折、刃が掠め肌を浅く切り裂くが、戦闘の趨勢に影響するようなものではない。
 通常の斬撃だけで勝てるだろうと高をくくっていたディードだが、シグナムの技の冴えに思わず目を見張る。
「私の方が速いはず…………なのに、どうしてついてこられるのですか!?」
 ツインブレイズを左右から挟み込むように振るう。シグナムは両腕の武器で受け止めると、すかさずディードを蹴り飛ばす。
「生憎と、自分より速い敵を相手にするのは慣れていてな」
 長年フェイトと競い合ってきたおかげで、スピードで勝る相手にどう対処すればいいかは、頭と体に叩き込まれている。
 まして、ディードがツインブレイズを実戦で使うのはこれが初めてだ。ナンバーズは戦闘データの共有ができるらしいが、長剣を装備している者は他にいない。ただでさえ習熟の難しい二刀流だ。ディードの剣技は拙さこそないが、動きが素直で読みやすい。
 剣の騎士の二つ名を持つシグナムの技量があれば、速度の差は埋められる。いっそでたらめに振りまわしていた方が、シグナムは苦戦しただろう。
「それなら――」
 ディードが双剣を大上段に振りかぶる。最大威力でデバイスごと両断するつもりだ。
「エクスカリバー!」
「レヴァンティン!」
 シグナムの剣がツインブレイズの横腹を叩き、強引に軌道を変える。
 紛い物でも、エクスカリバーの切れ味は侮れない。シグナムに防御の手段はなく、斬撃の軌道をそらすか、かわすしか選択肢はない。
 ディードがエクスカリバーを織り交ぜながら攻め立ててくる。
 シグナムにしてみれば、防具もなしに真剣で斬り結んでいるようなものだ。一手でも読み違えれば、即命取りとなる。それをこれまで経験したことのない光速の領域で実践せねばならない。
 シグナムは激しい怒りを感じる一方で、ぎりぎりの緊張感に心が躍るのを抑えられなかった。

91 :
「エクスカリバー!」
 横一文字に振るわれた聖剣を、今度は急上昇してやり過ごす。
「言ったはずだ。お前に聖剣を扱う資格はない」
 シグナムがディードを見下ろしながら厳しく言い放つ。
 人が武器を持つのは、素手以上のリーチと殺傷力を得られるからだ。しかし、その代償に動きは多少なりとも制限されてしまう。
 素手でありながら武器以上の切れ味を持ち、拳圧によって離れた敵を攻撃できるエクスカリバーは、究極の一つの形だ。
 ディードは武器によって威力は補えたが、斬撃が大振りとなり、聖剣本来の使いやすさを捨て去ってしまったのだ。
「お前の剣には魂がこもっていない。そんなもので、私を倒すことはできん」
「おかしなことを言いますね。ツインブレイズはデバイスではありません。魂がなくて当然ではないですか」
「そういう意味ではない!」
 ディードがツインブレイズを強く握りこむ。それがエクスカリバーの前兆であると、シグナムはすでに看破していた。
 シグナムは最大速度で敵の懐へと飛び込み、今まさに振り下ろされようとしていたディードの両腕をゼストの槍ではね上げる。
「これで終わりだ」
 レヴァンティンの炎が唸りを上げて逆巻く。
「紫電一閃!」
 袈裟がけの一閃が炸裂し、ディードを炎が呑みこむ。
 剣に乗せられた魔力が黄金聖衣を突き抜け、内側に取り付けられた機械を砕く。
 勝利の手応えを感じた瞬間、炎を突き破りディードのつま先がシグナムの両脇を引っかけた。
「これは――」
 シグナムの体が減速せずに、ディードに引っ張られるように加速していく。単純な拘束に見えるが、どうやっても外すことができない。
 シュラの使うもう一つの技、ジャンピングストーン。相手の勢いを利用して吹き飛ばすカウンター技だ。
 ディードから次々と黄金聖衣が離れていく。ディードは聖衣が完全に失われる前に、最後の執念で技を発動させたのだ。
「なるほど」
 シグナムは相手の顔を見上げるが、すでに昏倒した後だった。 
 騎士であるシグナムの盲点だった。まさか最後に頼るのが、剣ではなく足技だとは。
「お前は聖闘士でも騎士でもない…………だが、戦士ではあったのだな」
 シグナムのように己の武器や技に誇りを持つ者がいる一方で、武器も技も、己自身すら道具と割り切る者がいる。両者が相容れることは決してない。ただ強さで、己の正しさを証明するのみだ。
「見事だ。次はお互い、借り物なしで手合わせ願いたいものだな」
 シグナムは不思議と穏やかな心境で、敵の勝利への執念を称賛する。
「シグナム!?」
 シグナムからアギトが分離する。ゼストの指輪を抱え、アギトは戸惑いの声を上げる。
「行け。お前の使命を果たせ!」
 アギトの眼前で、シグナムの体が光速で蹴り上げられ、岸壁へと叩きつけられた。
 
 現場にヴィータとリインが到着した時、戦闘はとっくに終わった後だった。
 湖の岸辺に倒れたディードと、傍らに鎮座する黄金の山羊のオブジェ。そして、岸壁に深く穿たれた穴の底で、土に半ば埋もれるようにしてシグナムが横たわっていた。
 アギトの姿はどこにもない。
「……シグナム?」
 ヴィータがシグナムの隣に立ち、顔にかかっていた土を払ってやる。
「おい、起きろよ」
 シグナムの表情は穏やかで眠っているようにしか見えない。しかし、よほど深く傷ついているのか、呼びかけても反応はない。
 すでにこの結果は、アースラから伝えられていた。それでも実際にこの目で見るまでは信じたくはなかった。

92 :
 傍らのリインは口元を押さえて瞳を潤ませている。
「……またかよ」
 ヴィータの足元に滴が落ちる。
 脳裏に、ザフィーラとシャマルが闇に呑まれた姿が、子供の様に泣きながら倒れたはやての姿が、蘇ってくる。
「どうして……」
 ヴィータは己の手を見つめた。記憶はさらに過去にさかのぼる。八年前、ヴィータの目の前でなのはが撃墜された。なのはの血で赤く染まった掌を、ヴィータは一日たりとて忘れたことはない。
 ヴィータはあの日のなのはようにシグナムを抱き上げた。
「どうして私は、誰一人助けることができないんだよ!」
 ヴィータの嘆きの声が、湖畔に響き渡った。
「ピラニアンローズ!」
「サンダーウェーブ!」
 黒バラを貫き、瞬のネビュラチェーンが稲妻の軌跡を描いて飛ぶ。
「IS発動、ランブルデトネイター」
 チンクが指を弾くと、貫かれた黒バラが爆発し、ネビュラチェーンの勢いを削ぐ。
「くっ!」
 瞬はやむなく鎖を手元に引き戻す。
 チンクが同時に四つの黒バラを投擲する。
「ローリングディフェンス!」
 瞬の鎖がまるで竜巻のように回転し、黒バラも、続いて起きた爆風も全て吹き散らす。
 都心から離れた場所に存在する研究施設。資材搬入用の大きな通路の中で、瞬とチンクは戦っていた。
「まさか、たった数日でランブルデトネイターを防げるようになるとはな」
「なのはさんたちのおかげだよ」
 訓練の間、なのはやフェイトたちの砲撃魔法を受け続けたのだ。ネビュラチェーンが過剰反応しないよう闘志を抑えて攻撃できるのだから、六課隊長たちの実力はさすがだ。
 瞬は呼吸を整えながら、チンクの攻略法を模索する。
 ランブルデトネイターが強力な武器であることはわかっていたが、まさか強固な盾にもなるとは思わなかった。爆発で鎖を防ぐ様は、まるで炎でできた大輪のバラの盾だ。ネビュラチェーンは、バラの盾によってことごとく無効化されていた。
 互いに攻防一体、否、防御の比重の方が大きい。ゆえに、戦いはどちらも決め手に欠けるまま、三十分が経過した。

93 :
 六課のみんなには一時間という時間制限がある。もしもの場合に援護に行けるよう、これ以上ここで時間をかけるわけにはいかない。
 瞬はコスモを燃やし、鎖を構えた。
 
 死力を尽くして戦う二人の様子を、物陰からひっそりと窺う者がいた。兜についたサソリの尾が音もなく揺れる。
 瞬が攻撃に意識を傾けた瞬間、ドゥーエは地面を滑るように動き出した。真紅に塗られたピアッシングネイルが、瞬の脇腹を狙って突き出される。
「なっ!」
 突然の乱入者に、瞬だけでなくチンクまでもが驚く。
 瞬のサークルチェーンが防御しようとするが、刹那の差で間に合わない。ドゥーエの爪が瞬に迫り――
 ヒュッ。
 風を切り飛来した金属片が、ドゥーエの爪にぶつかり動きを止めた。
「誰!?」
 ドゥーエは手首を押さえて、誰何の声を上げる。金属片は鳥の尾羽のような形をしていた。
「盗人だけでは飽き足らず、一対一の真剣勝負に横槍を入れるとは、どこまでも見下げ果てた奴よ」
 驚くほど攻撃的なコスモが顕現する。全てを焼き尽くす業火の様なコスモが、不死鳥の姿を形作る。
 通路の奥から、眉間に傷を持つ精悍な顔立ちの男が歩いてくる。身にまとうのは、不死鳥の尾羽がついた白と濃紺の聖衣。
 男を見て、瞬は喜びに顔を輝かせる。
「兄さん、やっぱり来てくれたんだね」
 男は瞬にほのかに笑いかけると、一転して強烈な殺気をドゥーエに向けて放つ。
「貴様には、このフェニックス一輝が天誅を下してくれる!」
 瞬の兄にして、青銅聖闘士最強の男、一輝がミッドチルダの大地に降り立った。

94 :
以上で投下終了です。
それでは、また。

95 :
お久しぶりです。本日23時半より『リリカル星矢StrikerS』第十一話投下します。

96 :
それでは、時間になりましたので投下開始します。
   第十一話 絆の為に! バラは炎と共に散る
 暖かな空気が、泥沼の底に沈んでいたセインの意識を覚醒させた。
 白く清潔に保たれた室内に、かすかに漂う消毒液の臭い。セインは医務室のベッドに寝かされていた。
 セインが上体を起こすと、三枚重ねて乗せられていた毛布がずり落ちる。
「来たか、一輝」
 小さな呟きに振り向くと、室内の色に溶け込むように、キグナスの聖衣をまとった氷河が窓辺にたたずんでいた。
 氷河は遠い眼差しを窓の外へと注いでいた。まるでよく知る誰かがそこにいるかのように。
 その瞬間、セインは絶対零度の凍気によって自分が倒されたことを思い出した。
 蘇ってきた寒気と恐怖に、セインは震えながら毛布を抱き寄せる。もしやと思って指先を調べるが、凍傷にかかった様子はなかった。
 セインはひとまず胸を撫で下ろす。
「気がついたようだな」
 氷河が視線だけをこちらに向けてきた。キグナスの聖衣の氷はまだほとんど解けていない。セインが敗北してから、さほど時間は経っていないようだ。隣には、水瓶を抱えた乙女のオブジェとなった黄金聖衣が置かれている。
「黄金聖衣とコスモに感謝するんだな」
 氷河が突き放すように言う。その二つのどちらが欠けても、セインは凍死していたはずだった。
 しかし、セインは毛布に包まりながら、にっこりと氷河に笑いかける。
「優しいんだね」
「何のことだ?」
 氷河はとぼけるが、セインにはお見通しだった。
 セインが意識を失っていた時間はごくわずかだ。なのに、アクエリアスの聖衣は表面に結露こそ生じているが、どこも凍結していない。
 黄金聖衣を凍結させるには、絶対零度が必要となる。つまり最後のオーロラエクスキューションは、絶対零度にわずかに足りていなかったのだ。氷河が手加減してくれたのだろう。
 仮にセインを倒すのにそこまで必要ないと判断していたとしても、同じことだ。凍傷にすらかかっていないということは、氷河はセインをあの極寒の室内からすぐさま連れ出し介抱してくれたのだ。
 三枚重ねの毛布に、室内の気温はエアコンによりやや高めに保たれている。セインが寒くないようにという配慮だろう。敵である自分にここまでしてくれるのだ。どんなにクールを気取ろうと、氷河が人情家であることは疑いようがない。
(そして、甘いんだね)
 セインは心の中で舌を出し、ディープダイバーの準備をする。
 助けてくれたことには感謝しているが、それはそれ、これはこれだ。連行される前にとっとと逃げ出すに限る。
 セインはにこにこと愛想笑いを浮かべつつ、慎重に氷河の隙を窺う。
 氷河はしばらくセインを見ていたが、やがて興味を失ったように窓の外に視線を戻した。
 セインは即座にディープダイバーを起動させた。ベッドを突き抜け、一息に床下まで潜行しようとする。
 ピタリと氷河の人差し指が、セインの額に突きつけられた。
 セインの体は、わずかにベッドに沈んだだけだ。いつの間に隣まで移動したのか、セインにはわからなかった。聖闘士のスピードの凄さを改めて実感する。
「逃げるつもりなら、動きを封じさせてもらうが?」
 氷河の指先に凍気が集中する。カリツォー、またの名を氷結リング。氷の輪で相手の動きを封じる技だ。
「……あ、あははは、冷たいのはもう勘弁」
 セインは両手を上げて降参の意を示す。どうやら逃亡は無理のようだ。
 凍結の恐怖はセインにしっかりと植え付けられていた。セインが冬を好きになることはもうないだろう。
 その頃、通路の中で、聖闘士の兄弟とナンバーズの姉妹が互いに牽制しあっていた。
「兄さん、気をつけて。彼女たちは黄金聖闘士の技の他に、魔法を使うんだ」
 チンクから視線をそらさず、瞬が一輝に警告する。
「魔法か。どうりで面妖な術を使うわけだ」

97 :
「ピスケスは僕に任せて。兄さんはスコーピオンをお願い」
 一輝の問いかけるような眼差しに、瞬は笑顔で応える。
「僕もアテナの聖闘士だ。一人でも大丈夫だよ」
「そうか」
 一輝がドゥーエに拳を向ける。
 チンクとドゥーエは素早く通信を交わすと、ドゥーエはその場から身を翻した。
「逃がさん!」
 一輝がドゥーエを追いかけ、二人は建物の外へと走り去っていく。
 瞬とチンクが通路に取り残された形になる。瞬が鎖を構えると、
「すまない。私の姉が無礼をした」
 いきなりチンクが頭を下げてきた。
「えっ?」
 まさか謝られるとは思っておらず、瞬は意表を突かれた。
「信じてもらえないだろうが、私はこの戦いを誰にも邪魔させるつもりはなかった」
 チンクは瞬の目をまっすぐに見据えて言った。
 これまでチンクは戦いに信念など持っていなかった。そもそもナンバーズは闇討ちや破壊工作など、聖闘士からすれば卑劣と罵られる行為を、平然と行ってきた。
 もしドゥーエの行動が最初からの計画通りならば、それは知略の勝利だろう。しかし、ドゥーエはチンクに何の説明もなしに潜んでいた。別にチンクが劣勢になっていたわけでもない。これではチンクの力量を信じていないようではないか。
 チンクは戦う為に生み出された戦闘機人だ。己の性能を限界まで引き出せるアンドロメダとの戦いは、存在意義を認められたような気分にさせてくれる。この上で、勝利を得られるならば、それは最高の栄誉となるだろう。
 もしかしたら、知らず知らずのうちに聖衣や聖闘士に感化されているのかもしれないと、チンクは自嘲する。
「さあ、仕切り直しと行こう」
 ドゥーエにこの場から去ってもらったのは、チンクの意思だ。邪魔をされたくなかったのも理由だが、これでランブルデトネイターを思う存分使うことができる。
 黒バラを両手に構えるチンクに対し、瞬は両腕をだらりと下げたままだった。
「どうした? 決着はまだついていないぞ」
「……わからない」
 瞬のコスモが急速に勢いを失っていく。
「やっぱり君からは邪悪な気配が感じられない。なのに、どうしてスカリエッティに協力しているんだい?」
 ネビュラチェーンを地面に垂らしたまま、瞬は尋ねる。
「我らはドクターの夢を叶えるために生み出された。それ以外の理由など必要ない」
「そうか…………君たちと僕らは似てるんだね」
 瞬たちは、アテナの養父、城戸光政によって聖闘士の候補生として集められた孤児たちだった。兄弟からも無理やり引き離され、この世の地獄と呼ばれる修行の地へと送り込まれた。生きて日本に帰るには、聖闘士になるしかなかった。
 子供は無力だ。大人の言いなりになるしかない。
 それでも、瞬は自分をまだ恵まれている方だと思っていた。修業はつらく苦しかったが、師にも修行仲間にも恵まれ、兄とも再会できた。そして、今はアテナの聖闘士。戦いは嫌いだが、地上の愛と平和を守る礎となれる。
「知った風な口を。もういい。戦わないと言うならば、この場で倒す!」
 チンクが右腕を振りかぶる。
 瞬は悲しげに目を伏せ、ネビュラチェーンを地面に落した。
 チンクの視界が激しい怒りで真っ赤に染まる。最高の戦いになるはずが、相手の戦意喪失によって幕引きとなる。こんな結末、物語なら三流以下だ。
「ピラニアンローズ!」
 激情に任せ、黒バラを投擲しようとする。その時、瞬のコスモが爆発的に膨れ上がった。
「なっ!」
 チンクが黒バラを振りかぶった不自然な体勢で停止する。どれだけあがいても、指先を動かすことすらままならない。
「これは…………風!?」
 瞬の掌から発せられる風が渦を巻き、見えない鎖となってチンクを縛り上げていた。
「ネビュラストリーム」
 憂いを帯びた声で瞬が呟いた。
 アンドロメダ最大の奥義だ。瞬の生身の拳は威力があり過ぎる。ゆえに、普段はネビュラチェーンを使い、拳を封印してきた。

98 :
「この技だけは使いたくなかった。でも、これ以外に君を傷つけずに捕まえる方法がない」
 ネビュラストリームは、拳から気流を生み出し相手の動きを封じる。気流は、瞬のコスモの高まりに応じて激しくなり、最後は嵐となってあらゆる敵を粉砕する。ピスケスの命を奪った忌まわしき技だ。
「この程度……」
 気流を遮ろうとバリアを展開するが、間髪いれずに気流の圧力によって砕かれる。
「無駄だよ。本物のピスケスならばともかく、君はもう動くことはできない」
 ピスケスの黄金聖闘士アフロディーテは、瞬の気流に捕らわれながらも必殺のブラッディローズを放ってみせた。だが、ナンバーズの機械頼みのコスモでは、ネビュラストリームを破る域にまで達しない。
「スカリエッティは犯罪者だ。いくら親だからって、そんなものに従う必要はないんだ」
「ドクターを侮辱するか!」
「もっと君にふさわしい居場所が、きっとある。それを見つける為にも、罪を償う為にも、今は降伏してくれ!」
 瞬が必死にチンクに降伏を呼びかける。
 ネビュラストリームから抜け出す方法を見つけられず、チンクは唇を噛みしめる。
 その時、ウーノから戦況報告が送られてきた。
「何だと?」
 チンクが表情を一変させる。
「ノーヴェとウェンディが……ディエチとセインもか?」
 それはチンクの妹たちがことごとく捕縛されたという知らせだった。
「お願いだから、降伏してくれ!」
「………………」
 重ねて呼びかける瞬に対して、チンクは怒りの消えた静かな眼差しを返した。
 瞬は猛烈に嫌な予感に襲われた。チンクの眼差しは静かでいながら、奥底にはこれまでより強い覚悟が潜んでいる。瞬はあの目を知っている。あれは死を覚悟した戦士の目だ。
「残念だが、それはできない」
 チンクの周囲に二本の黒バラが出現する。気流で体の動きは封じられても、武器の転送だけはできる。しかし、その手で投げなければ、聖闘士に通用する速度はとても出せない。
「IS発動ランブルデトネイター」
 チンクの声に合わせ、黒バラが爆発する。しかし、距離が遠すぎるのと、ネビュラストリームの気流に邪魔されて、爆風は瞬の元へは届かない。
 何の意味もない行動を、瞬はいぶかる。
 次の瞬間、爆炎を突き破り、チンクが飛び出してくる。
「まさか!?」
 瞬は我が目を疑った。
 チンクはランブルデトネイターの爆発で気流を乱し、拘束を弱めたのだ。
 いかに黄金聖衣をまとっていたとはいえ、至近距離での爆発はチンクに深いダメージを与えていた。
 瞬が再びネビュラストリームを放つと同時に、チンクは両腕に持っていた黒バラを放り投げる。
 再び起こった爆発が、ネビュラストリームを霧散させる。
「まだだ!」
 爆風でピスケスの兜が吹き飛び、地面に落ちる。眉間から血を流しながら、チンクは隻眼で瞬を睨む。
「もうやめるんだ。これ以上やったら、君が死んでしまう!」
 瞬が気流を強めると、チンクはより多くのバラを爆発させ対抗する。熱風と衝撃波に命を削られながらも、チンクは決して歩みを止めない。
「どうして、そこまで……君はそこまでスカリエッティを……」
「違う」
 チンクは首を横に振った。
「アンドロメダ。白状するが、お前の指摘は正しい。私はドクターの夢に共感できているわけではない」
 チンクは生みの親であるドクターに感謝しているし、願いを成就させる手伝いもしたいと思っている。だが、それは強い動機になりえなかった。
 チンクは生まれてからというもの、命じられるまま粛々と任務を遂行してきた。
 しかし、妹たちが次々と誕生し情を移していくにつれ、研究と発展のためとはいえ、同じように家族がいて平穏に暮らしている者たちを犠牲していいのかという迷いが発生した。
 迷いが生まれるまでに、チンクは随分手を汚してきた。今さら生き方を変えることはできないから、他に生きる方法を知らないからと思考を停止させ、迷いから目をそらし続けてきた。

99 :
「だが、先ほど連絡があった。私の妹たちはほとんど捕まったらしい。お前たちに兄弟の絆があるように、私たちにも姉妹の絆がある。妹たちを助けられるのなら、この命など惜しくはない!」
 今のチンクにはもう迷いはない。ドクターの夢の為ではなく、捕らわれた妹たちを助けたいという強く純粋な願いが、チンクを修羅と化した。
「アンドロメダ、貴様の命もらい受ける!」
 チンクが血を吐くように宣言する。爆発にさらされ続けたチンクの両腕は、もうほとんど力が入らない。残された攻撃方法は、ランブルデトネイターによる自爆しかない。
 ネビュラストリームは黄金聖闘士すら縛り上げる恐るべき技。ナンバーズで瞬の気流を破れるのはチンクだけだろう。
 六課のメンバーは勝利こそすれ、ほとんどが戦闘不能で事実上相打ちに近い。残ったメンバーや聖闘士たちも、かなりのダメージを負っている。敗走中のトーレとクアットロが回復すれば、まだ勝機はある。
 チンクはここで諸共にアンドロメダを排除し、残った姉たちに後を託そうとしていた。
「君にも守りたいものがあったんだね」
 チンクの覚悟を知った瞬の頬を、一筋の涙が伝う。
 傷つけずに降伏させるはずの拳が、かえってチンクを追い詰め、死を覚悟させてしまった。やはりネビュラストリームは封印しておくべき技だったのだ。
 瞬は後悔の念に苛まれながらも、こちらも覚悟を決めるしかなかった。
 もしも瞬一人が命を差し出すことで、チンクが救われるならばそうしたかもしれない。しかし、チンクは瞬を道連れに死ぬつもりだ。
 瞬たちの世界は、常に神々の脅威にさらされている。黄金聖衣はアテナと世界を守る最後の砦だ。瞬たちの世界とミッドチルダ、二つの世界の愛と平和を守る為に、瞬はここで死ぬわけにはいかない。
「ごめん」
 瞬のコスモが高まり、気流がさらに激しく荒れ狂う。
「すまない、妹たちよ」
 愛する者たちの姿を思い浮かべながら、チンクは最後の力で跳躍する。アンドロメダはもうすぐそこだ。
「姉は先に逝く!」
 チンクはありったけの黒バラを召喚する。
「オーバーデトネイション!!」
 黒バラが一斉に起爆し、通路を爆炎が満たす。この瞬間、炎のバラが回廊を埋め尽くした。
「ネビュラストーム!!」
 瞬の拳から放たれた嵐が、炎のバラを吹き飛ばした。
 ピスケスの聖衣がチンクから離れ、魚のオブジェへと姿を変える。
 ネビュラストームによって天井に叩きつけられたチンクが、地面に横たわっていた。まるで手向けの花のように、周囲を炎の残滓が舞っている。

100 :
 美しくも悲しいその光景に、瞬は再び涙した。
「僕の拳は……また人を殺したのか」
 オーバーデトネイションは、瞬の体も激しく傷つけていた。瞬は足を引きずりながら、チンクの元へと歩いていく。
 瞬を倒したと確信したのか、チンクは安らかな表情をしている。
 せめて手厚く葬ってあげようと、瞬はチンクに向かって手を伸ばした。
「……」
 その時、かすかに、ほんのかすかにだが、チンクが身じろぎした。
 瞬はすぐさまチンクの口元に耳を近づけ、首筋に指を当てた。
 微弱だが、呼吸も脈も確かにある。
「……生きてる」
 瞬の体が歓喜に打ち震える。
 全力で放った互いの技が相殺しあったのだろう。もしも瞬が少しでも手心を加えていれば、どちらも助からなかった。
 奇しくも、相手をRはずの技が、相手を救ったのだ。
「僕の拳が……命を救ったのか?」
 瞬はわななきながら、己の手を見つめる。
 ただの結果論でしかないことはわかっている。チンクをR覚悟で拳を放った事実も消えるものではない。
 それでも、瞬は祈るようにチンクの前に跪いた。
「……ありがとう……生きててくれて、ありがとう」
 瞬は感謝の言葉を繰り返す。今度は悲しみではなく、喜びの涙が溢れてくる。
 ずっと、相手の命を奪うことしかできない呪われた拳だと思っていた。たった一つでも命を助けられたことで、どれだけ救われただろう。
 瞬は震える手で、量産型ストラーダを取り出した。爆発の余波であちこち破損していたが、まだかろうじて動いている。
 瞬はアースラにチンクの救助を要請すると、力を使い果たし、その場に倒れ伏した。


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